【グラスリップ】透子「かけるくん?」
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68:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/09(火) 12:56:40.24 ID:W+HAaMa50
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 家の扉を開けると、玄関に女性物のパンプスが置かれていた

 それに、リビングからうっすらと聞こえてくる、華やいだ声。

「母だ……」

 俺が日乃出浜にやってきてから、母さんが家に立ち寄るのはこれが初めてだった。

 俺の声色に驚き以外の感情を読み取ったのだろう、透子は優しく微笑む。

「私、今日は帰るね」

 ほとんど反射的に、俺はその腕を掴んでいた。

「っ……?」

 咄嗟のことで、言葉が出てこない。

 透子をむりやりに引き止めて、俺は――一体、何を言うつもりだった……?

「透子――」

 リビングから漏れ聞こえる、母さんの生演奏。

 振り向いた透子の、驚きに大きくなった瞳に、吸い込まれそうになる。

 そして、次の瞬間――。



《――俺は見つけたのか――》



 俺の《声》――透子が息を飲む。彼女にも聞こえたのだ。

 俺はそのまま透子をつれて家を飛び出した。

「どこ行くの……?」

 どこか、どこでもいい、とにかく母さんの演奏が聞こえないところまで。

 《未来の欠片》が聞こえないところまで。

 おかしな話だ。俺は《未来の欠片》が聞きたくて透子を求めたはずなのに。

 今、この瞬間は、透子に未来の俺の《声》を聞かれたくない。

 未来の俺が透子に何を伝えるにしろ、それは今の俺が透子に伝えなきゃいけないことだから。

 今はまだ、何を伝えたらいいのかさえわかってない今は、未来なんて知りたくもない。

 俺は透子をどう思っていて、透子とどうなりたいのか――?

《――やっと見つけた――》

《――俺はずっとここにいた――》

《――俺は見つけたのか――》

 今までに聞こえた俺の《声》が、耳の奥に反響する。

 思考の断片や感情の破片が、頭の中に次々に湧いては散らばって、何一つ纏まった形になりやしない。

 わからないことだらけだ。

 でも、一つだけ、はっきりしていることがある。

 なんであるにせよ、答えはきっと、今の俺自身で見つけなければいけないんだ。


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