69: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:29:11.91 ID:zJUkddjZ0
疑問は代わりに青年が口にしてくれた。まるでそこで何か起きたかを読み取るように、彼はそっと腰ほどの高さがある宿の残がいを指でなぞる。
「力、速さ、そして技。どれをとっても大したものはない。それなのに、この二人を相手に真っ向から戦い、そして――勝利? そう、勝利した」
自分の考えをまとめながら言葉にするその姿は、まるで詩人が歌を唄うように見えた。
「そう、勝利だと言っていい。彼はきっと、目的を達した。ならばそれは勝利だろう。例え――」
青年はそっと、細く暗い道へと目を向ける。ここからその先へと、雨で洗い流されてしまったが尋常でない血が流れていたことを察する。
「――今ごろ朽ち果てていても、勝利には違いない」
「……で、では。この事件を起こした三人とも死んでいる……ということ、ですか?」
青年の思索が終わったようなので、衛兵は恐る恐る疑問を口にする。それに彼はそっと目を伏せながら頷いた。
「残念ながら、そうだ」
「残念……ですか?」
「ああ、残念だとも」
青年は天を仰ぐ。そして神のあまりの仕打ちに嘆いてみせた。
「三人がまだ、生きていれば。そして協力して、私に立ち向かってくれたら――」
もし青年が、あと少し早く街に着いていたら。そしてもし、三人が戦いを始める直前に宿屋に姿を現していればどうなったか。
“何も無い”ロレンシア。
“深緑”のア―ソン。
“血まみれの暴虐”フィアンマ。
顔を合わせただけで一触即発となる三人だが、ほんの一瞬の逡巡の後に矛先を全て青年に向けていたことだろう。
そしてここで起きた戦いよりも短く、だがより濃厚な攻防を経て――青年にかろうじてかすり傷を一つほど付けて、皆殺しにされただろう。
何故なら青年は――
「――最強の、糧になれたものを」
――“最強を許された者”なのだから。
83Res/189.22 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20