63: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:25:21.55 ID:zJUkddjZ0
「……クキ、キカカカカッ」
最初は呆気にとられていたア―ソンだが、やがて例の甲高いのにくぐもった耳障りな嗤いを立てる。
「サ、流石“何モ無イ”ロレンシア……ッ! ダガ、終ワリダ! 私ノ蛇ハ……優シサモ甘サモ無イ! ホンノ少シノ毒デモ、十分ダ! オマエハ即死ジャナイダケ……ダ!!」
64: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:25:53.30 ID:zJUkddjZ0
馬鹿げた行いに目を剥く。毒の中に身をさらしての奇襲など、完全に想定外だった。既にその体は毒に侵されていたが、あくまでそれは少量。助かる可能性はわずかだがあった。その可能性を奇襲の機会を見つけるや否や投げ捨てるなど、人間の発想ではない。
フィアンマは槍で近づいてくる蛇を処理しながら、投てきはガントレットで弾く算段していた。完全に意表を突かれたフィアンマには、毒の霧を隠れ蓑に接近したロレンシアへの打つ手が無かった。何をしでかすかわからない相手だと、わかっていたにも関わらず。
ロレンシアは猫科の獣のようにその身を宙に躍らせながら、ナイフをフィアンマの喉元へと奔らせる。ナイフは兜とプレートメイルの隙間をかいくぐり、下に着けていたクロスアーマーを貫いた。
65: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:26:42.48 ID:zJUkddjZ0
身をひねりながら着地したロレンシアは、血を振りまきながらア―ソンへと駆ける。その左腕の傷口が変色し始めていることを筆頭に、どこをどう見ても限界間近だった。ここを乗り切れば、驚異的な再生能力を持つア―ソンの勝ちとなる。
逃げるという選択肢が一瞬ア―ソンの頭をよぎった。ここを耐え切れさえすれば勝てるのだから、無様でも両腕を盾に身を丸め、攻撃に耐えながらフィアンマに吹き飛ばされた蛇たちを呼び寄せる。蛇たちがロレンシアに群がり攻撃の手が緩んだところで、槍を引きずりながらでも逃げればいい。
だが逃げるという選択肢を選ぶには、あまりにロレンシアはボロボロだった。手に持つのはナイフだけだった。たとえ胸に大穴が開いている状態でも、今のロレンシアが自分を殺し切れるとは思えなかった。村の中で嫌われ続けてプライドなどたいして持っていなかったが、自分より不利な相手から逃げ出す経験は一度も無かった。ほんの少し残っていたプライドが逃げるという選択肢を除外する。それよりも、最後のチャンスにかけるロレンシアを真っ向から捩じりふせ、貪ってみたかった。
66: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:27:25.98 ID:zJUkddjZ0
「こんなところにこんな姿で隠れ潜む。そんなに母が恋しかったか。そんなに安全で暖かな母の中で好き勝手したかったのか。そんな幼稚な考えだから、村八分にあっただろうに」
ロレンシアの指摘は的を得ていたのだろう。ア―ソンは耳にするだけで呪われそうなおぞましき奇声を街中に響き渡らせる。だが至近距離でその絶叫を受けているロレンシアは、気にも留めなかった。
「オマエの正体がわかった理由か? それは勝手にわかってしまうことなんだ。これまでもそうだった。オマエたち魔に心を呑まれてしまったモノたちの正体と弱点は、少し戦えば自然とわかってしまうんだ」
67: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:28:03.41 ID:zJUkddjZ0
※ ※ ※
雨が降る中で、街の衛兵はその顔を大きくしかめていた。
68: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:28:36.78 ID:zJUkddjZ0
深い知性と憂いがたゆたう藍色の瞳。その髪もまた黒に近い藍色で緩いウェーブがかかっており、落ち着きとともに悲しみを感じさせる妖しい色香がある。外套をつけていてはっきりとはわからないが、その髪は肩より下まであるようだ。
一八〇を超える背丈は均整がとれていて、その足運びも隙が無いというより、美しいという印象を抱かせる。腰に差した剣が男が戦いを嗜んでいることを示すが、この男が血と泥にまみれて戦っている姿が衛兵にはどうにも想像できなかった。どこかの貴族様だろうか。年齢は二十代後半のように見える。
「三人……か」
69: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:29:11.91 ID:zJUkddjZ0
疑問は代わりに青年が口にしてくれた。まるでそこで何か起きたかを読み取るように、彼はそっと腰ほどの高さがある宿の残がいを指でなぞる。
「力、速さ、そして技。どれをとっても大したものはない。それなのに、この二人を相手に真っ向から戦い、そして――勝利? そう、勝利した」
自分の考えをまとめながら言葉にするその姿は、まるで詩人が歌を唄うように見えた。
70: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:29:45.04 ID:zJUkddjZ0
※ ※ ※
冷たい水が頬をうつ。左目はつぶれ右目はかすみ、何が起きているか視界で捉えることはできない。耳朶を打つ振動と独特の匂いが、雨が本降りになったことを教えてくれた。
71: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:30:19.52 ID:zJUkddjZ0
本当は覚えているはずがない光景だった。俺は当時まだ乳飲み子だったはず。その時の記憶が残っているはずがない。だからこれは、この時から数年ほどして少しは物を考えられるようになった頃に、知っていた情報を組み合わせた妄想の産物を、本当にあった出来事だと思い込んでいただけ。そのことに気づけるようになるのは、さらにもう数年ほどしてからだったが。
死がかつてないほど近づいているせいか、妄想を本当だと信じていた頃よりも鮮明に偽りの記憶が想起される。
ああ、父であった人。そして母であった人。なぜ私を産み落とした。必要で無かったのなら、なぜ――
72: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:30:58.79 ID:zJUkddjZ0
口にしながら自分でも助からないことに気づいたのか。言葉から力が抜けていくが、それでも彼女は手当を止めようとはしなかった。そして俺ももう止めようとはしなかった。きっと何を言っても彼女は止まらないだろう。なら、残された時間で伝えなければならないことは別にある。
そう、残された時間。俺はもう死ぬ。結局何のために生まれてきたわからぬまま、誰に愛されることもないままに、見るも無残な姿で死ぬ。
せめてもの救いは、ひょっとしたらという儚い可能性ではあったが、俺にとって何か大切な存在かもしれないマリアと出会えたこと。そしてこの想いが錯覚であったと気づく前に[ピーーー]ることか。
73: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:31:29.76 ID:zJUkddjZ0
「俺は……オマエが不思議な力があるから……それを利用しようとして、それに……邪魔だったから、アイツ等を始末した……だけ!」
血と熱を失い、毒がまわりきったこの体。これがつむげる最期の言葉だと、静かに確信する。一文字一文字口から出こぼれるたびに、水にゆっくりとつかっていくかのような冷たい奇妙な感覚。
「オマエを助けるのは……俺が死んだのに、俺ができなかったオマエの利用を……他の奴らにされるのが、気に食わないから――」
74: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:32:36.14 ID:zJUkddjZ0
「……?」
何があったのか。目はもう使い物にならないのに、反射的に目を凝らそうとする。すると少しずつ色を認識できるようになってきた。
「これは……いったい」
75: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:33:25.38 ID:zJUkddjZ0
何百何千という魔に心を呑まれたモノが跋扈し、その中から異界侵食を行うモノたちが次々と現れた。
侵食された場所は人が住める場所ではなく、日に日に人類の生存圏が削られていった。だがそれはしょせん、悪夢の始まりにすぎなかった。
異界侵食は基本的に、魔に心を呑まれたモノが住処と定めた地域で発生する。侵食を終えたら広がらないのが基本なのだ。
76: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:34:14.89 ID:zJUkddjZ0
※ ※ ※
「アハハハハハヒャヒャヒャヒャヒャハヒハヒャヒャヒャヒャッヒャッ!!!」
77: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:34:53.62 ID:zJUkddjZ0
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――――――――
78: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:36:34.11 ID:zJUkddjZ0
ここまで読んでいただきありがとうございました。
普段はデレステ、たまにシンフォギアのSSを書いています。
ここまでの話が全体の六分の一ほどで、書きだめた話の全てです。
本当は半分ぐらいできてから少しずつ投稿しようと考えていたのですが、一次創作は初めてなのでちゃんと書けているのか不安になり、感想が欲しくて投稿しました。
79: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:37:58.84 ID:zJUkddjZ0
キャラクター紹介
名前 ロレンシア
80: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:39:03.12 ID:zJUkddjZ0
名前 シャルケ・ブルート
年齢 46歳
性別 男
81: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:39:51.78 ID:zJUkddjZ0
名前 ア―ソン
年齢 23歳
性別 男
82: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:41:04.81 ID:zJUkddjZ0
名前 マリア・アッシュベリー
年齢 20歳
性別 女
83:名無しNIPPER[sage]
2019/06/22(土) 02:06:44.45 ID:9bFppDo2o
ほう…
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