宮本フレデリカは如何にしてこの世を去ったのか
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60: ◆xa8Vk0v4PY[saga]
2020/05/04(月) 18:12:56.71 ID:p0TmPlc30
俺は、通勤路の駅前で彼女と出会った。
あの日、彼女は路上で唄っていた。
彼女の歌声は特別な技術があるようには思えない。
どこか力が抜けるような、独特な歌声が特徴的だった。
だが、その場所で彼女の歌声から感じたものはそんな単純なものではなかった。

彼女の声は、『世界』から祝福されているようだった。
それは結婚式のカリヨンよりも、何者か・・・大いなる者に、祝福されていた。
彼女の歌声に引き留められた人々が重なり、フラッシュモブのようで、
それがまた『世界』から祝福されているように思わせた。

歌声と周囲の状況に圧倒されながら、ふらりと人混みの中に入っていった。
この声の主はどんな人なんだろう。こんな声を出せる人は一体どんな人だろう。
それだけを考え、人の波を掻き分ける。
押して、押されて、ようやく前列までたどり着く。
人混みの中心に一人の女性が後ろを向いて立っていた。

女性の周囲を取り巻く人間は一定の距離をとっていて、
台風の目のように彼女の周りだけは歌声だけが響いていた。
美しい金髪がふわりと揺れる。細く長い指がしなやかに伸びる。
彼女の後ろ姿を呆然と眺めていると、ゆっくりとこちらへ振り返った。

風が吹いたようだった。周囲の喧噪が消え、彼女以外が視界から消え去った。
後光が差し、金髪が一層輝いて見えた。
その顔を見て、俺のこれからの人生が決まったんだと思う。
顔、と言っても造形ではない。
人形のように整った顔立ちをしていたが、それはもはや気にならなかった。
彼女の表情。
普段から気の抜けた顔をしている彼女だが、歌を唄っている時の表情は・・・
特に、その時の彼女の表情は・・・・・・
笑っているようで、泣いているようで、怒っているようで、楽しんでいるようで・・・・・・

唯一無二の親友と遊んでいるような、はぐれた母親を探しているような、
大好きな人に嘘をつかれたような、
それでも、生きていこうと決めたような・・・・・・
その表情を見て、脳裏に彼女の過去が浮かんだ。
言うまでもなく俺の妄想だ。彼女の事はそれまで知りもしなかった。
しかしただの妄想と言うにはあまりにも、あまりにも鮮明に映り・・・・・・

不意に涙が溢れ出した。

我に返り、慌てて涙を拭いながら周囲を見渡した。
辺りの人々も、平静を保っている者は誰一人いなかった。
口元を押さえ、嗚咽を堪えている者。
うずくまって慟哭する者。

まるで地獄のような光景だっただろう。
だが、あの場所は天国だった。彼女が作った楽園だった。
濡れた瞳を彼女に真っ直ぐ向ける。
こちらに顔を向けた彼女と目が合った。
彼女は唄うのを止め、優しく微笑んだ。
時間が止まったようだった。


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