天空橋朋花「子作り逆レ●プのお供と言えば葡萄酒ですよ〜」
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10: ◆FreegeF7ndth[saga]
2020/05/11(月) 23:23:00.65 ID:i9qakCF1o

※08

 ジュリアがもごつくところから視線をずらすと、朋花がモニターをじっと見ていた。
 いつの間にか、スクリーンセーバーが解除されている。

「――し、失礼しました〜。その、私の曲と聞いて、つい……」

 ジュリアと対照的に、朋花の視線はいつになく心惹かれている風だった。

「朋花の家には、マシン……パソコンは、ありましたか」
「い……いいえ〜、私個人のものは」
「では明日、デモを仕上げるついでに、Mac Bookと、ミニキーで余っているのを掃除して持っていきます」

 朋花は、俺の言葉の意味を飲み込みかねるように首をかしげたが、
 ジュリアに何やら耳打ちされて、いよいよ困惑をあらわにする。

「……もしかして、私が、その、それで、作曲……を? からかわないでください。
 私、音楽は……歌う以外は、さっぱりなのですよ」

 たいていは『聖母』に相応しき泰然自若の面持ちを維持している朋花が、
 俺に対して初めて、15歳らしい狼狽(うろた)え気味の気色を見せていた。

「DTMでは、最初はそんな人がよくいます。
 例えばsugar meなんか、オーディションでレコード会社のディレクターから『曲も書いてみたら?』
 って言われたのがキッカケで、今のジュリアや朋花より年上のときにはじめたんです」

 作曲と聞くと、小学校中学校でやられている音楽の授業のせいか、
 モーツァルトやベートーヴェンの仕事と同じだと思われているフシもある。
 ただ、あの人たちは18世紀生まれ。現代と同じ扱いはいささか強引じゃないか?
 現代の料理人だって皆が皆、木炭で煮炊きして王様へ料理を出してるわけじゃないだろう。

「いいですか。楽器ムリ、理論からきし、機材おんぼろ、仲間ゼロ。
 それでも時たまウケる曲が作れてしまうのが、今のDTMです。
 朋花なんて歌ができる時点で初心者通り越して半分ぐらい中級者です」
「は、はぁ」

 ……半分ぐらい中級者、というのだけは、ちょっと大げさかもしれない。

「……まぁ、朋花にハンデがないわけではありません」
「ハンデ、ですか?」
「DTMはトライ・アンド・エラーを重ねて良くしていくものです。どうしたって時間がかかる」

 いつか『DTMは積み木を積み上げるようにクオリティを上げる』という言葉を、
 誰か――確かtofubeatsだったはず――が語っていて、それが腑に落ちて、今も腹の底に残っている。

「朋花は、学業とアイドルで二足のわらじだから……」

 アイドルのようなパフォーマーに比べ、クリエイターは経験重視の傾向がある。
 天才歌手や演奏家は、探せば毎年どこかしらに十代のイキの良い人間が生えてくる。
 作曲家だとそういう人は十年に一人出てくるかどうかじゃないか?

「ただ、アイドル活動の糧にはなります。歌は確実に深くモノになります。
 さらに腕を磨いて、例えば『完パケ納品できる』ぐらいになれたら、真似できない強みになるでしょう」
「……それが『子豚ちゃん』たちのためになりうるのであれば。
 あなたが、そこまで言うのであれば、やらずには、いられませんね」

 朋花がうなずいた。

 誰かにDTMを勧めて、それで『やる』と言わせたのは初めてだった。
 俺は765プロと関わりはじめてから一番興奮していた。

「私のプロデュースをしているあなたが、そのお仕事より『面白い』と言ったんです。
 くだらないものであったら、承知しませんから」
「もし『くだらない』と思ったら、朋花が俺のプロデュースから卒業するときです」

 俺は、765プロが公演の打ち上げに酔いしれている隣の隣ぐらいの部屋で、朋花に向かって、
 DTMの基本的な概念、譲ることにした機材、参考になるサイトなどについて話したり質問に答えたりした。

「……プロデューサー。ふだんの仕事で、今の半分ぐらいの熱さでも出してくれていいのに」

 ジュリアの苦言は聞き流した。

 アイドルのプロデューサー業を、俺がDTMの半分以上の熱意を持って取り組む機会は、
 その夜以前も、その夜よりあとも、ついぞ無かった。



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