天空橋朋花「子作り逆レ●プのお供と言えば葡萄酒ですよ〜」
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9: ◆FreegeF7ndth[saga]
2020/05/11(月) 23:22:27.76 ID:i9qakCF1o

※07

「――デューサー、プロデューサー?」

 FitEarのBluetoothイヤホンを、いきなり耳から引っこ抜かれた。
 ここは劇場内、関係者以外は立入禁止な部屋、そんな狼藉を働くのは誰だ……? と思ったら、

「朋花ですか。いま、良いところなんです。あとにしてください」
「聖母の問いより優先すべきことがおありですか?」

 俺は仕方なく、ノートパソコンとKORGのnanoKEY2から、声のほうへ顔を向けた。
 左手にイヤホンをつまんだままの朋花と、その後ろに半分隠れたジュリアがいた。

「ジュリアも――公演の打ち上げ、もう終わったんですかね」
「打ち上げは……たぶん、まだあっちの部屋でやってるだろ。でも、プロデューサーがいないから……」
「何かトラブルでもありましたか」
「そういうワケじゃない、が……その、あたしと朋花はね。もう少し、担当プロデューサーとして……
 その、今回の反省点とか? もっとコメント、聞きたかったんだけど……」

 ジュリアは気まずそうに、朋花は当然のような顔をして、椅子に座ったままの俺を見下ろしていた。

「今回の公演は、ファンの反応も上々。担当プロデューサーからしても、大いに刺激となりました。
 おかげさまで……その答えは、うまくすれば、もうすぐ形になります」
「カタチに……とは?」
「デモ音源なら明日にでも聞かせて差し上げましょう、ということです。朋花」

 二人は、開きっぱなしだった俺のノートのモニターへ目をやった。

「……プロデューサー、あんたがDTMerとは知ってたけど、作業を見るのは初めてだ」
「ふだんはノートで作業しないです。これだって、前にTraks BoysのCrystalが、
 『東京から長野に帰る間の新幹線で作業すると、なぜかすごくはかどる』って言ってたの聞いて、
 真似できたら面白いと思って持ち歩いてただけです」
「……DTMer、ってなんです?」

 ジュリアは自分も作曲をやるせいか、朋花と違って、
 俺がDTM(デスク・トップ・ミュージック)の作業中だということを察していたようだ。

 そういえば、ラップトップで作業をしててもデスクトップって言うのだろうか?
 今じゃLogicもタブレットで動かせるご時世なのに。

「要はパソコン上で、作曲や編曲やミックスやらをしているということです」
「……譜面が見えないので、私が見ても、どんな曲か想像もつきませんね。
 それに、そういう機材は、ものすごく大掛かりなものだと思っていましたが」
「私も画面だけではわかりません。いじるのは、音波ですから、五線譜も鳥籠も映っていないです。
 ハイレゾで細かい場合、トラックごとの音量を0.05デシベル刻みぐらいで……デモは、そこまでしませんが。
 機材は……昔は、そういう大きなのが必須でした。今でも愛用者はいます」

 朋花は作曲というと、楽器を鳴らしたり、楽譜に鉛筆を走らせたりのイメージだったようだが、
 DTMでは楽器ができなくてもスコアが読めなくてもコード名がわからなくても、一人で音が作れる。

 作れてしまうので、必要になるまで勉強しないまま……なんてことも。
 自分で作った曲について『このコードの名前なんですか?』と聞かれ、耳でしか覚えていないので、
 名前がわからず慌ててネットで調べる人が、プロにもぼちぼちいる。

「作業スタイルは人によりけりですが、私は思いついたらその瞬間にiPhoneにボイスメモで録りためて、
 作る必要が出てきたときに取り出して、機材の前で弄り回して……というのがいつもの手順です。
 今は、あんたがたの公演のおかげで気分ができたから、手持ちの道具で勢いでやってます」
「もしかして、あなたが時々、電話が来たふりをしながら鼻歌を歌っていたのは……」

 朋花はようやく合点した顔つき……合点する前、俺は何をやってたと思われてたんだろうか。

「デモ音源なら明日にでも……ってプロデューサーさっきアッサリ言ったけど……新曲か?」
「朋花のソロですが」
「私の……ですか」

 朋花は、指で摘みっぱなしのイヤホンと、ミニキーと、モニターに何度か目線を行き来させた、
 もっとも、モニターはスクリーンセーバーが立ち上がっていたが。

「DTM、面白いですよ。俺なんて、学生時代からこのかたコレより面白いことが見つからず、この有様です。
 興味があるなら、機材を譲ります。ちょうど、あんたがたの稼ぎのおかげで、買い足すつもりでしたし」
「そりゃ気前のいい話だけど……あたしは、いいや。スコアとギターが、あたしのやり方だから」


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