天空橋朋花「子作り逆レ●プのお供と言えば葡萄酒ですよ〜」
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12: ◆FreegeF7ndth[saga]
2020/05/11(月) 23:24:13.06 ID:i9qakCF1o

※10

「空は、飛びます」

 朋花が順調に売上を伸ばし、39プロジェクトの劇場を飛び出し、
 大きなハコでのライブを入れてやれそうだった。
 それで、セトリに『Maria Trap』をどう配置しようか……という話題になったとき、これだった。

「ダメです。飛びません」

 プロデュース業をやっているうちに、どうもあっちの人と俺の間で、
 『飛ぶ』という単語への解釈に致命的なズレがあるのでは? と思わざるを得なくなった。

 飛ぶ――鳥や虫が羽ばたいて自律的に空中を移動する行為のこと。
 けっして、糸に吊られて空中を引き回される行為ではない、と思っていたんだが。

 しかしアーティストのライブ演出としての宙吊りは、珍しくない。代々木だの幕張だのでもやっている。
 まるで当然のことのよう。それを否定する俺が誤っているのか? 俺自身でさえ、そう思わなくもない。

「……あなたは『Maria Trap』のお披露目のときも、最後まで反対しておられましたね」

 当時の朋花とプロデューサーとは違い、今の朋花は聞く耳があるようだ。

「砂を噛むんですよ。空は遠いんですよ。月に見下されているんですよ。囚われのマリア様は」

 だから飛ぶんじゃないって。
 演出だけを考えるなら、『空を飛ぶ』ほうが良いのは確かだ。
 とはいえ、あの曲と詞をこね回しているとき、歌い手が宙吊りになるとは想定してなかった。

「……『聖母』は平等なんです〜。
 あの時に飛んで、今は飛ばないというのであれば、埋め合わせの代案が必要です。
 しかし、それは簡単なことではありません」

 俺は俺にできる代案を今までやってきた。『鳥籠スクリプチュア』だけじゃない。
 ソロライブ数時間か持たせるぐらいに曲を作ったり作らせたりし、
 青葉さんたちに衣装もあつらえてもらった。ねぇ、『聖母』様。不足でしょうか。

「あなたには、詳しく話したことがないかもしれませんが……『聖母』は、飛ぶのです」
「高いところが好きだから、とか言わないでしょうね」

 俺のけんか腰に、朋花は一瞬目を丸くしたが、すぐに微笑へ戻った。

「マリアは青き天の女王ゆえ。由来からして、ミリアム(高められたもの)ですからね〜」

 『本当か……?』と疑って、後でネットで調べたら、確かに通説はそうだった。
 ほかに「マラ(=苦い、苦しい)」が語源との説もあるらしかった。知らなかった。
 素人の俺には、どちらも同じくらいロクなもんじゃない、としか思えなかった。

 そうして朋花は、衣装――ナイツ・オブ・テンペランスをまとい、空を『飛』んで、それから落っこちた。
 比喩ではなく、物理的に、落ちた。その瞬間と事後処理は、未だに思い出したくない。

 作詞だの作曲だのをやってきたなかで、これほど消し去りたいと思った曲は、未だにない。




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