天空橋朋花「子作り逆レ●プのお供と言えば葡萄酒ですよ〜」
1- 20
22: ◆FreegeF7ndth[saga]
2020/05/11(月) 23:30:37.36 ID:i9qakCF1o

※20

「嬉野、八女、知覧。お好みをどうぞ」
「日本茶、お好きなんですか?」
「もらったんですが、なかなか飲みきれないんです。こちらから選んでください」
「では……あなたと同じものを」

 俺はヤカンから吹きこぼれる寸前まで湯を沸かし、茶匙にたっぷりと茶葉を乗せた。

 額がくっつくほど……というと大げさだが、狭い部屋に小さい座卓。
 濃く淹れすぎた茶を吹いて波打たせる朋花は、今までになく近かった。

 いちばん広い機材部屋ならもっとゆとりがある……が、そこに朋花を招くのは嫌だった。

「茶請け、ヨックモックでいいですか?」
「あなたのおうち、よほどお客さんが来ないんですね〜」
「ええ、来ません」

 念のため賞味期限を確認する。これも誰かにおみやげで貰ったきり放置していた品だった。
 門前市をなす天空橋家のお嬢様にとっては、カルチャーショックだったらしい。

「お茶は茶葉の限り飲んで構いませんが、お話はお早めにお願いします。
 仕事にかかると、このとおり、耳が塞がるんで」

 朋花は黙って湯気の立つ茶を冷ましていた。
 『鳥籠スクリプチュア』の作業中だった俺からイヤホンをいきなり引っこ抜いた時と比べて、
 ずいぶんしおらしくなったものだった。

「……そういう軽い扱いが、今はありがたいですよ〜」

 俺がいなくなったあとも、朋花は『天空騎士団』たちの扱いに気苦労したらしかった。
 連中は『聖母』を高々と掲げるくせに重々しく仕える。
 祭り上げられる側からしたら、バランスとりがたいへんだ。

 朋花は、これまでまったく異なるボソボソと歯切れの悪い口振りで、
 きのうのきょう、わざわざ飛行機まで使って俺を訪ねてきた理由をこぼしはじめた。
 つっかえつっかえだったので正確な言い回しは失念したが、朋花の周りの誰かがやらかしたらしかった。

「……私が、『聖母』で……ステージに、立って……立って、いた、せい、でっ」

 朋花は、俺が担当していた時期にライブのステージで転落事故を起こしたあと、
 秋月さんに担当が変わってライブに復帰し、以前にもまして力を注いでいた。
 
 それを見ていた『子豚ちゃん』だか『天空騎士団』の一部が、『聖母』のように苦難を乗り越える――!
 と『聖母』に事寄せて、弱ってるところにムチャやって、何人かへし折れ、
 それを朋花は自分の責任だと思っている、とか。

 お気の毒だった。
 秋月さんのサポートもなく俺のような退路もなし、プレッシャーだけかかってる、では……。
 確認しなかったが、首かどこかへし折って文字通り死んだのかもしれない。

「つまり、朋花は『聖母』が懲り懲りなんですね」

 俺が乱暴に要約する。
 これで朋花が怒ってくれれば、その勢いでもっとスルスル言葉が出てくるんじゃないかと期待した。
 期待は外れた。朋花の弁舌は錆びついたまま、ギシギシと軋みながら回る。

「……祖父が、私たちに、規律を重んじるよう言い残した、その趣旨は……
 地の塩になれ、という心だったと、私は解いています」

 地の塩は世の規範。
 俺が朋花と同じ年だった時、そんな言葉は知らなかった。

「私みたいな子供でも……例えばジャンヌ・ダルクみたいに、思い一つで、世の中を良くできる……と、
 本気で……そう思っていなければ……聖母とは自称できませんし、他人に呼ばせるなんてなおさら」

 そう、朋花の年。子供、と言われて久しぶりに思い出した。朋花はまだ酒も飲めない歳だ。

「それだって、最初は……おままごと、お姫様ごっこみたいなものだったんです。
 ジャンヌが、最初のお告げからフランス軍に投じるまで、3年以上かかったみたいな。それが、だんだん……」
「朋花、火炙りは真似しないでください。こっちの寝覚めが悪くなるので」


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
57Res/135.34 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice