天空橋朋花「子作り逆レ●プのお供と言えば葡萄酒ですよ〜」
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26: ◆FreegeF7ndth[saga]
2020/05/11(月) 23:33:09.74 ID:i9qakCF1o
※24

 朋花が我が物顔でうちの台所やら食卓やらを占拠するようになるまでには、
 俺の多少の時間と、秋月さんの多大な苦労を要した。

 朋花が押しかけてきた日、俺が秋月さんに連絡を入れると、彼女は、

『いや〜、美希ならともかく、朋花がそうするとは思いませんでしたね〜。
 え? 引き抜きじゃない? あ、そうですか。早とちりしてすみませんっ。前に似たようなことがあって』

 と軽々とした調子で、この件の処理の大部分を引き受けてくれた。
 しかし『天空橋朋花』が一夜にして消えた事件は、マスコミにもそれなりに騒がれたし、
 おそらく天空橋家も大騒ぎになった。秋月さんの口調を鵜呑みにはできなかった。

『まぁ、こっちはお任せください。ただ……そっちは、くれぐれもお願いしますよ?
 あの子、私の担当アイドルでもあったんですから』

 しかし電話やビデオで会話していた秋月さんは、ずっとこの調子だった。
 高木社長たちがサポートしていたんだ、と信じたい。とりあえず朋花には謝らせた。

 朋花は『聖母』の過去を完全に隠し『Nicola Copernicus』の仕事を探しているようだった。
 有名人だとおちおちバイトもできなくて苦労するとか昔の平沢さんみたいだった。

 ただ朋花の場合、彼の時代よりコンペやスポットの仕事を探しやすくなっていたのが幸いして、
 食費と光熱費ぐらいはすぐ入れてくれるようになり、それにつれて振る舞いも我が物顔となった。

「はぁ〜い、では、私の生誕を祝して……À ta santé♪」
「ハッピーバースデー朋花、おめでとう。あ・た・さんてっ」

 À ta santé(キミの健やかさに乾杯)か。朋花はだいぶその台詞が似つかわしい顔つきになっていて、しんみりしてしまう。

 対して朋花は、一瓶目の栓を開ける前からふわふわとしたテンションだった。アイドル時代からは想像もつかない浮かれようだ。
 ちりりとグラスを合わせ、赤ワインでくちびるを濡らす。ノドが鳴るのも見える近さ。

「あらら〜、もしかして、見惚れてしまいました〜?」

 朋花はワイングラスを離さないまま、寒サワラや鶏ムネやエリンギやタマネギやジャガイモや、
 マリアージュもへったくれもないホイル焼きに舌鼓を打っている。食レポよりずっと美味そうに食う。

「朋花は、赤ワイン好きなのか?」
「いただくのは、きょうがはじめてなんですけど〜?」
「……朋花は、赤ワインが好きになれそう?」
「ええ、とってもっ」

 朋花はアイドルにも曲を提供し始めたらしい。アイドル、といってもいろいろあるが、さて……。

 自分がアイドルとして祀り上げられるのは、逃げ出すぐらい嫌がったのに、
 曲を通してアイドルを祀り上げさせる側になるのは、楽しんでいるらしい。都合のいい女だ。

「真っ赤な液体をそんなに美味そうに飲んでると、ヴァンパイアみたいだ」
「うふふ〜、そんなコトを言うあなたは、ガッとやってチュッと吸って、眷属にしてしまいますよ〜♪」

 あるいは、朋花は単に『聖母』の孤高さに倦んでいたのか。

 もしも朋花が、恒常的に、ユニットの一員として活動してたら、今頃、こんな地方の狭い安普請で庶民的な赤をかっ食らっては……。

「あら〜。あなたは、ゆっくりなペースですね」
「……弱いんだ、酒」

 そういう朋花も、頻繁にグラスを口に運ぶ割には、ペースが遅い。
 朋花のペースも控えめだとしたら、あの赤ワインの群れを飲み干すのなんて、いつになるのやら。

「そう、ですか〜?」

 朋花は、いきなり俺の肩口をつかんで、酔眼でぐいと俺の目を覗き込んできた。
 一気に、近く……まさか、本当に『ガッとやってチュッと吸って』なんて……

「私の酒が、飲めないっていうんですか〜?」

 朋花……昔の音無さんや馬場さんだってそんな大学生みたいな煽りはしなかったぞ。
 が、朋花はきょう二十歳になったんだった……むしろ歳相応か。

「もっと美味しそうに飲んでくださいっ。私の最初のお酒なのですから」

 朋花はいつになく上機嫌で、いつになく甲斐甲斐しくグラスに注いでくれて、
 俺は注いでくれるがままにつるつる飲んで気持ちよく酔った。


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