160: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:02:46.07 ID:iX/HvtXE0
十六
春、大学生になった。
新居は、大学と会社の両方にアクセスの良いマンションを選んだ。
大学生活は、最初こそ何もかも新鮮で戸惑ってばかりいたけれど、一ヵ月も経てば少しずつ慣れてきて、学科では一緒に遊びに行くような友達も何人かできた。
また、そのうちの一人に誘われて演劇サークルに入ったりもした。
私がアイドルをしているという事実は、自分からはことさらに主張しなかったけれど、会話の流れなどからぽつぽつ打ち明けていたら、気が付けば口伝てに広まって、初対面の人に一方的に認知されているなんてことも珍しくなくなった。
そのアイドルのお仕事も、春から新しいプロジェクトがスタートして、ようやく活動が本格化してきたところだった。
私は新人を含む数人のアイドルと一緒にグループを組むことになった。
そのデビューイベントが六月に予定されていたものだから、大学も始まったばかりの時期に、講義の合間を縫ってレッスンやミーティングに参加するのは想像以上に忙しく、大変だった。
おかげで、せっかく入った演劇サークルも、最初のうちはほとんど顔を出せずにいた。
フルートのレッスンだけはかろうじて月に一度、申し込んでいたけれど、定期演奏会に参加できるほどの余裕はなく、どちらかと言えば気分転換のために通っているようなものだった。
それでも、もう一度アイドルのお仕事ができると思うと、嬉しかった。
メンバーの中では私が最年長で、キャリアも一番長かったから、先輩として新人の子たちと接するのも初めての体験だった。
彼女たちとは正式にグループを組む前から何度か顔を合わせていて、その時に私がお仕事や業界について教えたりしたのだけれど、そんな風に面倒を見ていたらいつしかプロデューサーさんからもリーダーとして扱われるようになってしまった。
しかし結局、正式なリーダーは最終的に別の子に決定した。
一応、私も勧められてはいたけれど、そもそもリーダーなんて柄ではないし、自分でも向いていないと分かっていたので、断わったのである。
そんなわけで、入学からしばらくの間、私は学業とアイドルの両立に悲鳴をあげながらもそれなりに充実した日々を送っていた。
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