172: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:13:28.34 ID:iX/HvtXE0
彼女はひどく弱っていた。
その長い黒髪は単に雨に濡れただけではない奇妙なべたつきがあった。
落ち窪んだような目元、よく見れば青ざめている唇、そしてこの高熱……羽織っているジャンパーを脱がすと、その下はシャツ一枚という薄着だった。
173: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:14:11.51 ID:iX/HvtXE0
紗枝ちゃんがふと目を覚ました。
まだ少し朦朧としているらしい濁った視線を宙に向けて、それからようやく、横にいる私を認識したようだった。
174: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:14:53.03 ID:iX/HvtXE0
しばらく経つと、彼女の顔色も少し良くなった。
私は体温計を彼女の腋に差しながら、このあと近くのコンビニまで買出しに行って来ようかしらなどと考えていた。
175: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:15:26.07 ID:iX/HvtXE0
熱を計ると、三十八度あった。
この時期だと、インフルエンザという可能性もある。
病院に行こう、そう言うと、彼女はふるふると首を振って、「保険証、持ってへん」と答えた。
176: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:16:03.09 ID:iX/HvtXE0
翌朝、ソファの上で目覚めた。
起き上がり、ベッドの方を見ると、紗枝ちゃんがすやすやと眠っていた。
177: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:17:01.24 ID:iX/HvtXE0
「七度三分……微熱だね」
おそらくただの風邪だろう。
とはいえ一応、病院には行った方がいいかもしれない。
178: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:17:46.81 ID:iX/HvtXE0
私は最初、この不快感の正体が何なのか分からなかった。
そこで、怒りという攻撃的な衝動にまだ十分慣れていなかった私の心は、その昂ぶる感情を分かりやすい別な欲求として解消することにした。
179: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:18:56.69 ID:iX/HvtXE0
彼女は抵抗しなかった。
あるいは、抵抗する力もなかったのかもしれない。
私は彼女をバスチェアに座らせると、まず汚れた髪をシャンプーで二、三度洗った。
180: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:19:57.05 ID:iX/HvtXE0
しかし六度目はなかなか訪れなかった。
私は諦めて彼女の口元に臭う汚水をシャワーで洗い流すと、息も絶え絶えに震えている彼女を立ち上がらせ、一緒に湯船に入った。
181: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:20:43.48 ID:iX/HvtXE0
やがて彼女はぐったりと私に抱かれたまま動かなくなった。
もうどこを触っても刺激しても、ほんのり筋肉を痙攣させるだけで反応らしい反応が見られなくなった。
182: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:21:22.83 ID:iX/HvtXE0
紗枝ちゃんの身体が奇妙な痙攣に震えた。
そして、うっ、という声がして、彼女が咄嗟に口元を押さえるのを見た。
183: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:21:51.72 ID:iX/HvtXE0
――窓の外を閃光が走った。
土砂降りの雨音に混じって雷鳴が轟く。
私は、このクリスマスらしくない悪天候を憂いて溜め息をつき、そして言った。
184: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:22:31.88 ID:iX/HvtXE0
しかし結局、彼女は過去を乗り越えられなかった。
十月、私たちの十九歳の誕生日に、彼女はついに孤独に耐えられなくなった。
185: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:23:17.02 ID:iX/HvtXE0
そして私は気付いたのだった。
私にはやはり紗枝ちゃんの存在が必要なのだと。
私たちは出会った時からすでに運命を共にしていた。
186: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:24:33.85 ID:iX/HvtXE0
私はその後も質問を続けた。
彼女がここの住所を知った経緯は簡単なことだった。
彼女の元プロデューサーに連絡し、過去の肉体関係を盾に脅して私の情報を聞き出したのだという。
187: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:25:13.44 ID:iX/HvtXE0
「携帯には連絡とか来てないの?」
「電源切れたままやから、分からへん……」
188: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:25:44.55 ID:iX/HvtXE0
「私ね。紗枝のこと、もっとちゃんと知りたいの……そして紗枝にも、もっと私のことを知ってほしい。だから、もう一度、最初からやり直そう? それでゆっくり話し合って、今度こそ二人で生きていくの。たぶん、時間はかかると思うけど……でも、私たちならきっとうまくやれるよ」
私はそう言って、ベッドに横たわる彼女の、その青ざめた表情に覆いかぶさるように顔を近づけた。
189: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:26:28.39 ID:iX/HvtXE0
私は一息つき、軽く伸びをした。
明日から紗枝の身の回りのお世話もがんばらなくては、そう意気込んで、気持ちも新たに深呼吸した。
190: ◆wsnmryEd4g[sage]
2020/10/18(日) 17:40:33.65 ID:iX/HvtXE0
このSSは去年のゆかさえ誕の時にpixivに投稿した『飼育』というSSを少し書き直したものです
191:名無しNIPPER[sage]
2020/10/18(日) 17:50:14.41 ID:xEmdF3xDO
乙
わーい、ヤンデレ四天王の名目、保ちましたですな
192:名無しNIPPER[sage]
2020/10/25(日) 17:08:13.57 ID:lZXNrZw40
ワオ…
192Res/249.13 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20