3: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 08:47:13.68 ID:iX/HvtXE0
本州北端は青森の外れ、なだらかな山並みを遠景に背負った平凡な町中に、ひときわ目立つ建物がある。
それが私の家だった。
建築当時はハイカラだったという西洋風のお屋敷は、私が生まれた頃はもう、現代的な町の風景にのまれて時代に置き去りにされていた。
五百坪あまりの敷地や、二十もあるお部屋は、それこそ昔は多くの兄弟姉妹や二世帯家族を住まわすために必要だったかもしれないけれど、私と、私の両親、そして父方の祖父母の五人程度で暮らすには明らかに不釣合いな広さだった。
実際、水本家はかつて県下有数の大地主だったと、お父さまはよくおっしゃっていた。
そんな封建的権威主義の名残のようなお屋敷は、現代においてはむしろ滑稽な印象ばかりが目立っていたように思われる。
派手で見栄っ張りなアーチ状の門、手入れするだけでお金のかかりそうな広大な庭、何年も使われていない形だけの噴水、威圧感のある白塗りの外壁に規則的に並んだロココ調の窓枠、その三階にひょっこりひらけたバルコニー……そうした無神経な華やかさは、どこかみじめな虚しさがあった。
けれど、それは同時に、女性的な可愛らしいわがままや、優しさ、気品さに置き換えることもできた。
とりわけ冬、町のすべてが雪に覆い尽くされる季節、その日暮れ時の静寂の中で、こんもりした雪を頼もしく支えながら、窓の明かりを優しく庭に投げかけているお屋敷のシルエットが、私には無性に切なく映って、そしてたまらなく好きなのだった。
192Res/249.13 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20