73: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:26:25.25 ID:iX/HvtXE0
「……やっぱり、その……少し、恥ずかしいですね」
「ふふ、いまさら照れんでもええのに」
「紗枝ちゃん、ずるい。私ばっかり……」
「恥じらうゆかりはんもかいらしどすえ」
「あ、次。紗枝ちゃんの出番ですよ」
「…………」
「ちょっと。どうして止めるんですか」
「あー、なんや喉渇いてきたなぁ。うち、ちょっと飲み物買うてきますわ」
「だめ。逃しません。しっかり見てください」
椅子から立ち上がろうとする彼女を押さえつけ、私はリモコンの再生ボタンを押した。
ドラマの第一話、宿舎の空き教室でレコードに聞き入っている少女ハルのところへ、授業を抜け出した主人公ノラが偶然通りかかる。
それが紗枝ちゃんの最初のシーンだった。
病気がちで、性格は控えめだけれど芯の強い少女ハルの役を、そのわずかな表情の変化だけで見事に演じきっている。
儚げで上品な彼女にぴったりの役だった。
一方、私の隣に座っている紗枝ちゃんときたら、赤くなった顔を両手で覆って、柄にもなく慌てているようだった。
何もそんなに恥ずかしがらなくても、と思ったけれど、私もあんまり人のことは言えない。
実際、撮影本番の時にはなんでもなかったのに、こうやって編集された映像を見ると、自分の演技の細かい部分がはっきり見えてしまって、つい目を逸らしたくなってしまう。
しかも、それを他の人と一緒に見るとなれば尚更である。
私たちがテレビの前できゃあきゃあ言い合っているのを見て、プロデューサーさんは笑っていた。
この日、検品で送られたビデオは二話までだった。
三話以降については、言えば放送前に見せてくれるらしい。
けれど、それだけのためにわざわざプロデューサーさんに時間を取らせるのも申し訳なかったので、三話以降は放送された際に各自で確認する、という運びになった。
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