72: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:25:31.71 ID:iX/HvtXE0
「ゆかりはん、肩が……ちょっと、こっち向いて」
エントランスで立ち止まり、紗枝ちゃんが鞄からハンドタオルを取り出して拭いてくれた。
「ありがとう」
すると彼女は私の濡れた髪の毛を撫で付けながら、
「こうしてると一段とせくしーに見えるわぁ」
などと言うので、私は照れ隠しに彼女の腕にかかったタオルをさっと奪い取り、顔を拭くフリをしてごまかした。
あーあ、と彼女が残念そうに呟いた。
「紗枝ちゃんも、そのままだと風邪ひくよ」
私もまた同じように彼女の髪を拭いてやり、ついでにそのすべすべした頬や汗ばんだ首筋にさりげなく触れてみた。
その間、彼女は行儀の良い犬のようにあごを私の方へ突き出し、目を細めてじっとしていた。
不意に、胸の奥で血が騒いだ。
私は思わず息を呑み、彼女のくちびるがグロスに濡れて輝いているのに気付いた。
「おおきに」
彼女はタオルを仕舞いながら薄く笑みを浮かべ、それから小さく目配せした。
私は辺りをキョロキョロと見渡して、――まだ、プロデューサーさんとの待ち合わせまで時間がある――そんなことを頭の中で計算していた。
そうして私たちは事務所に行く前に別のフロアへ寄ることにした。
単に、そう、髪が乱れたから直さなければ……それだけなのだ。
何も、やましいことなんてない……私はそうやって自分に言い聞かせながら、彼女に手を引かれて一緒に人気のない御手洗いに入って行った。
192Res/249.13 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20