89: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:02:18.77 ID:iX/HvtXE0
十
見上げれば吸い込まれそうな青い空だった。
二ヶ月前、ドラマの撮影でここへ来た時とはうって変わって気持ちのいい秋晴れが広がっている。
日差しもとても暖かくて、駅を出てすぐ、私たちは羽織っていた上着を脱いでしまった。
避暑地だから、きっと昼間でも寒いだろうと思って着込んできたのだけれど、少なくとも日中は必要なさそうだね、と二人で話して、それからタクシーを拾った。
結局、私たちは学校を休んでまで、誕生日を一泊二日の旅行をして過ごすことにしたのだった。
この町には夏休みの撮影で何度も訪れていたけれど、観光する余裕なんてほとんどなかったし、私たちにとっても思い出の場所だったので、今回改めて二人で遊びに行くことにしたのである。
「見て見て、紅葉がほら。あんなに綺麗に……あっ、今のなんだろう? 不思議な家……」
「ゆかりはん、てんしょん高すぎどすえ」
紗枝ちゃんに笑われてしまった。
タクシーの運転手さんにまで、山の方へ行けばもっと綺麗な紅葉が見られますよ、と言われたので、私は恥ずかしくなってつい、身を縮こまらせてひそひそ喋った。
「思ったより人、多いね」
「そらまあ、この辺は年中観光客が来はるからなぁ。……あ、でもほら。林ん中入ったらだんだん静かに……」
私たちを乗せたタクシーが曲がりくねった細い坂道をのぼっていく。
すると明るい林の奥に、木立に囲まれた小さな旅館がひっそりと姿を現した。
二人で調べて見つけた宿で、このあたりでは比較的穴場の温泉旅館だった。
タクシーの料金を払って降りると、緑に囲まれた自然の空気が瑞々しかった。
私は思わず深呼吸して、きもちいい、とひとりごちた。
後ろで紗枝ちゃんが、ほな、行きまひょ、と言って、荷物を預けに旅館に入って行った。
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