【ミリマスR-18】初体験同士のPと莉緒が一夜を共にする話
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17:夢の半ば 16/17[sage]
2020/10/23(金) 18:28:50.17 ID:W50xWqsD0
「――きて、ねえ……もう朝よ。そろそろ起きないと」

 声が聞こえて、目を覚ました。自分の部屋でも、劇場でも、起きる時はいつも無音なのに。
 目を開いて、同じ空間に人間がいることと、慣れない匂いがしたことで、自分がどんな朝を迎えたのかに気が付いた。

「おはよう、プロデューサーくん。意外と、朝弱いの?」

 まだ仰向けになっている俺の顔を、莉緒が覗き込んできた。メイクもしておらず、まだ目が眠たそうだ。

「私はオフだけど、今日もお仕事なんでしょ? 簡単なので良ければ、朝ごはん食べてく?」
「あ……うん。御馳走になるよ」

 俺の記憶が確かならば、昨日の夜は、酔い潰れたふりをした莉緒を家まで送ってきて、それから――そうだ。キッチンに立ってフライパンでバターを溶かしているあそこの女性と、想いを伝え合い、甘ったるくて濃密な一晩を過ごした。肌を重ねながら、何度も名前を呼ばれた。そのはずなのに、莉緒はそんなことがあったそぶりなんて欠片も見せない。もしかして、俺が一人で酔い潰れていただけだったのか?

「どうしたの? まだ寝ぼけてるのかしら?」
「いや……だいぶ目は覚めてきた。スクランブルエッグ、ふわふわしてて美味しいな」

 こんがり焼けたトーストと、マグに注がれたインスタントのコーンポタージュの香りも混じって、鼻腔を通り抜ける。自分の生活習慣ではまずありえない朝食だった。それに、同じ部屋で目を覚まして、同じテーブルを囲みながら食事をとって、同じ朝のニュースを聞きながら、外向けの恰好をする前の姿を互いの視界に入れている。

「……結婚したら、こんな風に朝を迎えるのかな」

 ぽつりと、そんな一言が口をついて出てきた。莉緒の目が大きく見開かれた。
 本日の東京の天候は曇りのち晴れ、という気象予報士の声が、一瞬硬直した部屋の中へ反響する。

「あっ……や、やだ、プロデューサーくんったら、ちょっと気が早過ぎない? 付き合ってもいないのに」
「そ、そうだよな。悪い、やっぱりちょっと寝ぼけてるのかも」

 テーブルの向かいで顔を赤らめた莉緒のどこかピュアな恥ずかしがり方を見て、昨晩のアレは幻だったのではないか、という思いが少しずつ形を持ったものになりつつあった。コンドームを箱で買ったはずなのだが、それも見当たらない。ゴミ箱にも、何も入っていない。
 今日は出勤時間帯を後ろにずらしていたおかげで、今からなら一度帰宅して着替え直してから劇場に向かっても十分に間に合う。昨日一日着ていたシャツを仕方なく羽織って上からスーツで覆い隠したが、早めに着替えたかった。
 一度家に戻る旨を伝えて、玄関で革靴を履き、靴ベラを引き抜いた時、莉緒に呼び止められた。

「あの、ね」

 一歩、二歩と距離を詰めてきて、広げた腕が背中に回ってきた。ふわっと漂ってきた莉緒の体の匂いを感じた時、つい数時間前の記憶がくっきりと蘇った。
 やっぱりあれは、夢なんかでは……。

「覚えておいてね。私がラブソングを歌う時はいつも……キミを想ってるって」
「莉緒……俺――」

 何を言おうとしたのか自分でも分からないまま発しようとした言葉は、つるんとした唇で塞がれてしまった。言葉を返す代わりに、腕を回して意思表示した。
 衝動が込み上げる。きっと、ここで契りを交わせば、この先もずっと、もう一歩踏み込んだ関係でいられる。
 だがそれは、俺も莉緒も、今は望んでいないはずだった。

「……幸せな夢だったわ」
「そうだな……いつになるか分からないけど、いつか……また夢の続きを見よう」
「うん……約束よ」

 そこまで言うと、莉緒はするりと腕を抜いて、玄関の段差を上った。

「じゃあ、また劇場で」
「行ってらっしゃい」
「あ……ああ、行ってきます」

 自分でも分かるぐらいの照れ笑いを返しながら、莉緒に手を振った。俺を見送ってくれた笑顔は、夢の中で見せてくれた、あの柔らかな微笑みだった。



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