【ミリマスR-18】桜守歌織「お友達から始めませんか?」なお話
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2:My god(dess) 1/18[sage saga]
2020/12/11(金) 23:58:49.90 ID:qeiWDl9S0

 あれほどうるさかったセミの鳴き声も、ここ一、二週間ですっかり聞かれなくなった。そんな九月の下旬に差し掛かろうかという土曜日の昼下がり。閑静な住宅街には人通りがほとんど無かった。

 どういう巡り合わせなのか、俺は桜守家の昼食に招かれていた。ロケの撮影をした場所が近くだったから、なんてついでのような理由だったものだから、挨拶をする準備もろくすっぽできていない。

 歌織さんのご両親と対面するのはこれで三度目だった。一度目は、仕事を終えて帰っていく歌織さんを出迎えるのを、ちらりと見ただけ。二度目は、六月、結婚情報誌「ハピマリ」に関わる仕事を終えた後、ご挨拶に伺った時。歌織さんへの見合いを全て断っている、と話に聞いていたし、いい顔はされないだろうとは考えていた。歌織さんの父親も、母親を通して事の次第を知っていた。ウエディングを意識させる雑誌の特集やCMはこちらの予想を上回って気に障るものであったらしい。険悪な雰囲気になってしまい、非常に苦い思いでその場を後にしたのが、まだ記憶に新しかった。

 桜守、と表札の添えられた門をくぐり、住宅全体を囲む塀の内側へ進めば、緑色の地面。芝生を踏まないよう置石の上をしばらく歩いてようやく玄関だ。

 都内に土地を持ち、手入れのされた庭のついた広い一軒家で暮らしている。育ちの良さそうな人だと思ってはいたが、歌織さんの備える整った気品は、やはりこういうご実家から来ているのかもしれない。以前にも感じたそんなことを、靴を脱ぎながら考えていた。

「か、歌織さん」
「大丈夫ですよ、プロデューサーさん。もう、父もそこまで敵対的ではありませんから」
「しかし――」

 尻込みする俺の前を、歌織さんは足を止めずに進んでいく。玄関からリビングルームまで一直線だった。

 歌織さんと同じ遺伝子を持つことを証明する顔つきの、柔和そうなお母さんに、ただ座っているだけでも威厳をビシビシと放っているお父さん。航空自衛隊の責任ある立場で長年過ごしてきた貫禄が皺となり、彫の深い顔に刻まれている。人の生き様は顔に出る、という言葉は真実かもしれない。そのたたずまいは、以前お目にかかった時と全く変わらなかった。俺の生き様は、どんな風に顔に出ているのだろうか。

「いつも娘が世話になっております」
「ご無沙汰しております。こちらこそ、歌織さんの活躍には日々助けられております」

 背骨を折り曲げて一礼した。脇の下が汗で湿っている。テレビ局や取引先のお偉いさんと話すモードにスイッチを入れ、精神を切り替える。よし。

「連絡先に一部変更が生じましたので、今後は何かありましたらこちらへご連絡下さい」

 スーツの内側から名刺入れを取り出して、いつもと同じ所作で、名刺を差し出す。彼は撥ねつけることなくそれを受け取り、張り詰めていた気分をほんの僅かにだけ落ち着かせることができた。

「昼食ができるまで、少しお話できませんか」

 睨まれる覚悟を固めていたが、そう言った彼の表情は穏やかだった。


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