【ミリマスR-18】舞浜歩の抱えたトラウマを上書きする話
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6:オーバーライト 5/19[sage saga]
2021/03/14(日) 00:23:14.56 ID:Xw+hWuzl0
 一人目の師匠よりも若く、言葉の壁も無く、何かと世話を焼いてくれる二人目の師匠に、歩はプライベートな信頼も寄せていた。次第にそれは好意となっていき、彼女にとって初めてのボーイフレンドにもなった。

 十七歳の誕生日を迎えてしばらくした、ある日のことだった。その日も歩は、ハイスクールの授業を終えてすぐに地下鉄に飛び乗り、「いつもの場所」に向かった。ダンスに打ち込める幸福、新たな成長への期待、そして、恋人との一時を過ごせるときめき――色とりどりの興奮が内心で泡立っていた。

 その日のストリートから引き上げる頃になって、歩は師匠から「今日は泊まっていかないか」と誘われた。歩は了承した。そういった体験は耳にしたことはあっても、実体験は無かった。不安もあったが、彼とならば大丈夫だろう、という漠然とした安心感に、歩は身を任せきっていた。

 ベッドルームに案内されたとき、歩は突然、埃っぽいベッドに力づくで押し倒された。心を許していた彼と同じ顔があるのに、そこに彼はいなかった。口を押さえて覆いかぶさろうとしてくる恋人のギラついた眼光に、歩は身の毛がよだつ覚えがした。ショートパンツの中へゴツゴツした手が押し入ってきた。そのまま体内に、指のようなものが突き入れられた。鋭い痛みが脳天を貫いた。彼の背後にはもう一人の男がいた。Tシャツが裂かれる音が、遠雷のように歩の鼓膜を打った。その刹那、右脚が唸りをあげた。目の前のシャツの中央にあった三日月を、思い切り蹴り飛ばし、体が命じるままに歩は飛び起きた。

 恋人から強姦魔へ成り下がった彼がひるんだのを尻目に、跳ね起きた歩はもう一人の男も突き飛ばし、内開きのドアを抜け出して一心不乱に走り出した。タンクトップの上に重ね着していたTシャツはもう使い物にならなくなっており、疾走しながら破って放り投げた。

 歩は無我夢中で走った。サウスブロンクスの街中を、沈みゆく太陽に追い縋るように。脚の間がズキズキする。後ろを振り向くのが怖くて、必死に自らへ鞭を入れた。道端に停車していたイエローキャブが、薄暗さの中できらきら輝いていた。警察署に駆け込む選択肢を思いつかなかったことに歩が気付いたのは、タクシーが動き出して十分以上経ってからだった。

 自宅のあるブルックリンに戻るまでの間、歩は、夏なのに尋常ではない寒気を覚えた。タクシーの運転手に冷房を止めてもらうよう頼まなければならないほどだった。牙を剥いたオスへの本能的恐怖と、身を浸していた世界が音を立てて壊れたことへのショックが、全身をどろどろと対流していた。それなのに、涙は出なかった。あらゆる感情の出口が塞がってしまったようだった。

 ステイ先の自宅へ戻ってからも歩はひどく錯乱しており、「何も無かったことにしよう」「あれは自分では無かった」「悪い夢だった」と、念仏のように頭の中で唱えていた。傷を負った股からは血が流れていた。すぐに洗い流して見なかったことにしたが、じくじくとお湯がしみて痛かった。

 その日一日に蓋をしなければ、自分のあまりの無警戒を責め続けて、後悔で頭がどうにかなってしまいそうだった。サウスブロンクスが危険地域であることを知っていながら、歩は目を背けていたのだ。

 震えながら眠った翌朝、不思議なぐらいに歩の頭はスッキリしていた。本当は大変な目に遭っていたはずなのに、地球の反対側で大雨が降った程度に思えてならなかった(それが「解離」と呼ばれる精神の無意識的防衛機制であったのを歩が知るのは、半年以上経ってからのことである)。



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