【ミリマスR-18要注意】中谷家次期当主の育様が二人の従者から女を教えてもらう話
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4:僕が当主になったら 3/19[sage saga]
2021/03/28(日) 23:54:41.40 ID:fAK5h5KF0
 育の瞳は揺らいでいた。自らに課せられた運命に対する反抗か、それとも、いつか訪れることが分かっているのに未知のままである男女の関係への恐れか。そのどちらかだと歩は考えたが、どちらであるかを判断することはできなかった。

「ご安心下さい、育様。本当は大きな声では申し上げられないのですが、学校へ通われた折、先輩達から、そういった女遊びも教わり――」
「遊び……遊びなのか?」

 育が真を睨んだ。

「……失礼。適切な知識や経験、といいましょうか。無垢のままでいることが良しとされる貴族階級の令嬢へ夜伽の手ほどきをできるよう、レールを密かに外れて学ぶ……そういった裏の伝統があるのでございます」
「……かつて屋敷には旦那様の『指南役』がいたそうです。育様がそういった者から手ほどきを受ける道もございましょう」
「……」

 もう湯気の立たなくなった紅茶を、育が口に含んだ。皿に乗った好物のチョコレートケーキは、まだ綺麗なままの姿を保っている。救いを求める視線が歩を見つめた。

「……お前達から教わるんじゃ、ダメなのか?」
「い、育様!」
「滅相も無い! 私達も確かに女ではありますが、私達のような使用人が指南役を務めては、育様の名誉に関わります!」
「よく知らない者を相手に女を教わるなんて、僕は嫌だ。かといって、女を知らないままで何年も過ごすのだって嫌だ」

 憤った頬が紅潮している。育が我儘を言うのは今に始まったことではなかったが、歩は言葉に詰まった。真へ目配せしたら、真の方が歩へ目で何かを訴えていた。

「しかし育様、私達はあくまでも育様にお仕えする身なのです。明確な身分の差が――」
「生意気だぞ歩! 使用人の分際で僕に逆らうのか!」

 ばん。両の掌がテーブルを叩いた。波打った紅茶がソーサーに零れ落ちる。だが、その直後、自らの激昂を恥じるように、小さな声で「ごめん」と育が眉根を寄せた。

「寄宿舎に入ったら毎日会えなくなっちゃうって思ったら、すごく寂しくなってきたんだ……。なんでだよ。僕が小さい時から、傍にいたじゃないか……。なんでずっと一緒にいられないんだ……!」
「……育様」

 テーブルクロスにぱたぱたと水滴が落ちる。絞り出すような声を聴いた真が、目元を擦りだした。

「僕の言うこと、何でも聞いてくれるだろ? 僕のことをよく知ってる、お前達じゃなきゃ嫌なんだ……教えてくれよぉ……」

 泣きじゃくって不器用に甘える育に、歩は何も言えなかった。育の下した命令へ忠実に従うことが禁忌であることが、分かっていながら――。


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