1:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:04:45.26 ID:8Bqh101l0
一次創作のオリジナル長編小説です。
不定期投稿です。
何か反応をいただけると元気になるので、積極的に構ってください。
お仕事や勉強等の合間にお楽しみいただけると嬉しいです。
※残虐表現を多く含みます。
2:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:08:09.79 ID:8Bqh101l0
【1】
また、この夢だ。
無数に並ぶ三角フラスコ。
3:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:09:26.39 ID:8Bqh101l0
「次はこれか……」
頭の上から声がする。
首筋を捕まれ、持ち上げられる。
4:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:10:38.17 ID:8Bqh101l0
◇
悲鳴を上げて飛び起きる。
目の玉は飛び出しそうに見開かれ、心臓は破裂しかねないほどの勢いで激しく脈動を繰り返していた。
頭を押さえる。
5:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:11:35.43 ID:8Bqh101l0
霞む視界の焦点を無理矢理に正面に合わせ、少女は着ていた真新しい病院服の胸を掴んだ。
ハァハァと荒く息をつく。
汗が鼻を伝って下に流れ落ちる。
ひどい夢だ。
何十回見たか分からない夢。
6:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:12:30.62 ID:8Bqh101l0
「…………」
数分して呼吸が整い、少女は顔の汗を手の平で拭ってから大きく息をついた。
軽く頭を振って、横になっていたベッドの縁に腰掛ける。
カラカラと換気扇が回る無機質な音が、部屋にただ反響していた。
7:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:13:15.74 ID:8Bqh101l0
「何……ここ……」
小さく呟く。
そこは、四方が白い壁に囲まれた、独房のような部屋だった。
窓はない。
8:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:14:32.34 ID:8Bqh101l0
しばらく周りの異様な光景に唖然としていた少女だったが、やがて恐る恐る裸足の足を踏み出した。
そして、部屋の片隅に設置されていた手洗いと便器に近づいた。
便器の中には砂が詰まっている。
水道の蛇口をひねっても、水も何も出なかった。
9:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:15:27.59 ID:8Bqh101l0
おどおどしながら、彼女は扉のノブを掴んで回そうとした。
途端、ボロリとノブが腐食部から折れた。
取り落として後ずさった目に、ギィ……とドアが少し開いたのが見えた。
少女はドアを力を入れてこじ開け、その隙間から外に出た。
10:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:16:25.33 ID:8Bqh101l0
◇
泥の不快な感触が足の裏にまとわりつく。
黒い粘性のそれを踏みながら、彼女は肩を抱いて小さく震えた。
11:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:17:42.54 ID:8Bqh101l0
そこは、無数に鉄格子がついたドアが並ぶ、細長い通路だった。
開いているドアもあるが、閉まっているのが大半だ。
生き物の気配はない。
かろうじてトンネルのような通路の天井に、等間隔に取り付けられた電球たちが、時折
12:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:18:44.57 ID:8Bqh101l0
どこだ、ここは。
私はどうしてここにいるの?
考えた瞬間、ズキィ、と側頭部に抉りこむような痛みが走った。
悲鳴を上げて頭を抑え、泥の中に崩れ落ちる。
13:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:19:47.00 ID:8Bqh101l0
痛い、痛い、痛い。
絶叫して泣きわめく。
気づいた時には、彼女は泥にうつ伏せに倒れていた。
体が氷のように冷え切っていた。
14:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:20:59.56 ID:8Bqh101l0
頭痛は消えていたが、震えが止まらなかった。
薄暗がりの中で体を起こした彼女の耳に、そこで甲高い、耳障りな……少年のものとも、少女のものともつかない声が飛び込んできた。
「おはようアリス。今日は十七回目の『何でもない日』だね。何でもない日、おめでとう!」
15:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:21:55.90 ID:8Bqh101l0
耳元でケタケタとやかましく笑われ、アリスと呼ばれた少女は慌てて飛び起きた。
そして尻餅をついてあとずさる。
「おめでとう、おめでとう、腐った世界にようこそ! 血肉になりにようこそ!」
16:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:22:51.58 ID:8Bqh101l0
短く悲鳴を上げ、彼女はその場に頭を抑えて崩れ落ちた。
凄まじい金属音がして、石造りなのだろうか……背後の硬い壁に、「何か」がめり込んだ。
それを見上げて彼女は唖然とした。
口元が震えだし、体が萎縮する。
今まで少女の頭があった場所に、草刈り鎌……にしてはかなり巨大な黒光りし、湾曲した鎌の刃が刺さっていたのだ。
17:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:23:44.95 ID:8Bqh101l0
「んんんんん……?」
怪訝そうな声がした。
少女の前には、人間大のぬいぐるみのような物体が立っていた。
ボロボロになって、ところどころ綿が飛び出している。
18:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:24:42.37 ID:8Bqh101l0
「避けたね? 避けた! 避けた!」
けたたましい声で笑い、兎のぬいぐるみは手を伸ばし、鎌を壁から抜き取った。
石が削れる耳障りな高音。
そのギラつく刃と、兎の体が何かで汚れているのを見て少女は硬直した。
19:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:25:31.79 ID:8Bqh101l0
それを認識する前に、兎のぬいぐるみが、パカッと口を開けた。
「おめでとうアリス! 今日も君の命日だ!」
意味不明なことを叫んだその口の中から、機械じかけの回転ノコが飛び出してきた。
20:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:26:17.75 ID:8Bqh101l0
彼女の肩を浅く回転ノコが薙ぐ。
痛みと熱さを感じる前に、少女は全速力で薄暗い通路を駆け出していた。
「逃げるのかいアリス! いいよ! 久しぶりに遊ぼう! 鬼ごっこだ!」
21:1 ◆58jPV91aG.[saga]
2021/07/19(月) 19:27:31.10 ID:8Bqh101l0
◇
斬られた肩が激しく痛む。
血が止まらない。
104Res/39.95 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20