【可愛そうにね、元気くん】「進まない」【SS】
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12:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:27:41.14 ID:JzXNw/sm0
その時だった。
胸の中で膨らむ俺の不安を、全て掻っ攫って上書きするみたいに――聞き覚えのある透き通った声が、俺を呼び止めた。
「――元気くん」
13:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:28:42.49 ID:JzXNw/sm0
――どれだけ時が過ぎても、忘れる事はないだろう。
ぞっとする程に恐ろしく、底抜けに美しい、その満面の笑みを。
14:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:29:57.82 ID:JzXNw/sm0
「久しぶりだね。元気くん」
少し短くなった、夜帳のような漆黒の髪。
15:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:30:54.09 ID:JzXNw/sm0
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『えっ誰!? 元気くんの知り合い!? 嘘!? こんな美人さんが!?!?』とか何とか喚く同僚に鷺沢は、
16:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:34:27.97 ID:JzXNw/sm0
「いや、偶然って……てか、離して……」
指同士をがっつり絡められて逃げ出すに逃げ出せない。心臓が暴れるせいで顔が熱い。思いっきり振り払えばなんとかなるかもしれないけれど……それが出来た試しは、無い。
弱々しく引きずられていると、不意に、鷺沢が立ち止ってこっちを見た。
17:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:35:55.52 ID:JzXNw/sm0
不意を突くように、鷺沢が俺をすぐ傍へと引き寄せる。繋いだ手を、手綱のように強くたぐって。そのわずかな痛みが、脳の奥の方に閉じ込めていた感覚を引きずり出した。
「……〜〜っ」
18:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:36:57.40 ID:JzXNw/sm0
「……っ、ぁ、離せっ、よ……頼む、からっ――」
「――ふうん?」
19:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:38:05.92 ID:JzXNw/sm0
道行く人々が怪訝そうに俺たちを見ては通り過ぎる。耳も顔も焼けただれるように熱い。だけど鷺沢の指は止まることなく俺をくすぐり続ける。
「……っ!! ……さぎ、さわっ……や、めっ……」
20:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:39:27.84 ID:JzXNw/sm0
「――っ! あ、っ、はあ、はあっ……!」
「ふふっ。手を繋いだだけでそんなになっちゃうなんて、元気くん――本当に変わってないね」
21:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:39:55.30 ID:JzXNw/sm0
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22:名無しNIPPER
2021/08/14(土) 02:41:16.76 ID:JzXNw/sm0
別にぼったくりバーだとか疑っているわけじゃない――鷺沢がそういう方向の悪ふざけをするハズもない――けれど、一般論としてバーでの飲食が割高なのは知っている。
そんな俺を見た鷺沢は、半ば本気で呆れたように眉を下げた。
「甲斐性ないなあ。大丈夫だって。レストランも兼ねてる、庶民派のバーだからさ」
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