ゲス勇者「ほぅほぅ」聖女「よろしくお願いします」
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270:名無しNIPPER[saga]
2026/03/25(水) 21:58:33.93 ID:cV7Eo6KKO





 ーーとある女の話をしよう。

 どこまでも幸運で、とてつもない後悔を抱える不幸な女の話を。

 女の生まれは卑しく、誰にも祝福されなかった。
 とある小さな農村で、体を売る女の娘として生まれ落ちる。
 村人の男たち、全員が彼女の父親にして、誰も父とは名乗らない、卑しい産まれの娘。

 娘は何もせずともその生誕が罪と言わんばかりに村人から蔑まれ、差別されていた。

 そのまま成長しても、母のように体を売るか、それとも村を出て知らぬ街で野垂れ死ぬか、それが娘の運命であったはずだ。

 しかし、娘の村は、ある晩山賊の襲撃を受け、男は殺され、女子供は商品として連れ攫われた。

 山賊たちは頭が悪く、商品の女子供を一通り味見したが、その娘は売女の子だからどんな病を持っているかわからず、馬鹿な男たちでも、馬鹿だからこそ、その恐ろしさを知っているから、手を出さなかった。代わりに、駒使いとして娘をそばに置いた。

 過去に同じ境遇の者もいたが山賊たちの癇癪で殺され、長くはなかった。ただ、娘は、聡明かつ頭が回った。
 山賊たちの機嫌が悪い時は軽傷で済むように怪我を負い、山賊たちが機嫌よく過ごせるようにもてなした。

 結果、数ヶ月も生き延び、それまでの者たちでは最長だった。

 そんな折、山賊たちは村々を荒らしすぎて、ついに隣の領地の村まで荒らし、隣の領主から討伐される。
 山賊たちは殺されるか、生き延びても処刑された。

 山賊たちの財宝は拠点の領地に支払われる。ただ、人の商品であった者はすぐに殺されるか、売られるかのどちらかで、生き延びたのは売女の娘だけだった。

 村に戻されるが村は壊滅し、襲撃の晩に母も死んでいる。本来、身寄りがない子供は良くて放逐、悪ければ領主が人買いに売るだけだ。

 しかし、領主はその娘を引き取った。そして、我が子のように教育を施した。
 破格の待遇どころではない、ありえない奇跡だった。


 無論、慈善事業ではなく、領主にはある考えがあったからだ。
 領主には息子がいた。頭がいいのに回転が遅く、機転が効かない、よって人と付き合いが下手で、貴族の学校からも孤立して、結局実家に戻って教育を受けいている息子が。
 娘が息子と同い年だと知ると息子の友人となれるように、うまくいけば、息子の力を引き出せるライバルとなることを、娘に求めた。

 娘はその意図を理解して、息子の良い友人であり、張り合え、競い合えるライバルとなった。

 息子に人との接し方や、どういった考えが人にはあるのかを教えた。
 息子にとって、娘は救世主のようであった。

 もちろん、娘の笑顔の裏には思惑があった。

 娘は、息子を心の中では軽蔑していた。

 甘ったれで、世間知らずで、何事にも本気になれず、頭の考えが遅いノロマな暗愚ーーだからこそ、とことんまでその財産を搾り取ってやろう、自分に依存させ、操り人形にしてやろう、そんな野望を持っていた。
 ただし、ただの暗愚ではダメだ、自分以外も息子の財産を狙ってやってくる奴らはきっと出てくる。そいつらも息子が信用すれば、取り分が減るどころか、財産を根こそぎ奪われることを娘は望んでいなかった。
 だから、息子に教育を施した。
 時に厳しく、時に甘やかし、息子が名君となれるように、ただ、自分にだけは依存し、暗愚となるように。
 できるなら、息子の妾になりたい、子供を産んで、奥方に嫉妬で殺されることのない立場になれば最高だ。
 例え、妾ゆえに本当の家族とは認められずに死ぬ時は一人きりの孤独でも、例え、使用人からも見下されて蔑まれても、例え、息子と滅多に会えなくなっても、飢えることもなく、凍えることもなく、何もせずとも悠々自適な生活を送れるなら、何でもする決意が娘にはあった。


 息子は娘の指導を受けて成長し、父の仕事である領主を引き継いだ。周りの誰もが一目置く傑物となって。

 そして、娘も年頃の女に成長、メイドとして息子に、男に仕えていたが、男の仕事を補佐する秘書のように働いていた。他のメイドたちーー彼女たちは最下級とはいえ貴族の子女であり、自分よりも卑しく、自分たち以上に重用されている女に嫉妬し、嫌がらせを行ったが、女は気にするそぶりもない。

 そして、男は女の思い通りに、女を妾にした。

 女はほくそ笑み、それを受け入れる。

 ただ一つ、女の誤算は、男は女を妾にしても、正妻を取らなかったことだ。




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