ゲス勇者「ほぅほぅ」聖女「よろしくお願いします」
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271:名無しNIPPER[saga]
2026/03/25(水) 21:59:31.14 ID:cV7Eo6KKO
女は何度も男に妻を娶れと進言した。
その都度、男は生涯で君だけだ、と真面目な顔で言い放つ。
貴族社会で妻を娶ることは当たり前だった。
妾がいくら居ようと、妻がいないだけで独身と貴族は見なされる。独身の貴族には悪い噂がたち、苦労は数倍かかるのだ。
案の定、男は普通の貴族の何倍も苦労することとなる。
わたくしへの誓いなら不能な女や知恵の足らない女をとればいい、それだけでも十分だ、女はそういったが、男は決して妻を取らなかった。
男が妻を取らないのに苦労しているが、なら、強制的に取らせよう、その選定にどんな令嬢がいいか、調べて女は気づいた。
女は、男が別の女性と名目上でも結ばれるのが心底嫌なのだ。
公の場所で、男の隣にいるのが自分でありたいことを、女は望んでいると自覚した。
ーーーー女は男を本気で愛していた。
甘ったれで、愚鈍で、コミュニケーションが下手でーーーーそういったところが大好きで、男のそばにいられるだけで幸せだと気づいた。
でも、今はそれ以上に、世間からも女が男の妻であると認知されたいと望んでいる。
決して叶わない願いと知っているのに。
女は生まれが卑しすぎた。
女が身につけた教養やマナー、礼儀作法は完璧で、一度はどの貴族も養子にしたいと口にするが、屋敷のメイドたちは女の生まれが卑しい、と告げ口をして、誰もが手を引いた。
女を養子にする貴族はいなかった。
貴族の正妻には、貴族でなければならないーーそういう時代であった。
貴族の妻になるには、戦場で功績を上げて貴族階級になるか、貴族の養子になるか、特別な芸術の才覚を持っているか、だった。
女には教養も、作法も全てがあったが、凡人の域、特別な才覚はない。
女が貴族にーー男の妻となれることは決してない。
実際、女の産んだ子供たちは別の貴族の養子にされてから、男の養子となっているほどだ。
女の血は、否定されるものであった。
どう足掻いても貴族にはなれない、男の正妻にはなれない現実、そして、自分が腹を痛めて産んだ我が子からも下賎な女と蔑まれる日常に、それまで耐えてきた境遇が、望んでいない全てと理解した途端、女は疲弊した。
酒と食に溺れた。
周りはもっと蔑んだが、女にはどうでも良かった。
男はそんな女を守るため、敷地に別宅を建て二人で移り住んだ。
女を甲斐甲斐しく世話したが、常にいられるわけではない。
使用人も女は拒み、一人の時間はより一層女を狂わせる悪循環があった。
そして、女は疲れ果て、狂気に駆られた。
子供たちは女の血を否定したが、逆に、彼らが誇ったのは、男の両親ーー辺境伯の養子になった祖母の血であった。
辺境伯の血が入ったことを誇っていた。
女はそれを聞き、ある日、絵を描いた。
ーーーそんなにあの祖母が、あなたたちの祖母が尊き血であるなら、祖母も獣であることを証明してやる!
女が幼少期にみた、男の両親が従者の服で盛りあっていた光景を、絵に描いた。
もう、男の両親は亡くなっていたが、配慮など、何もない。
来る日も来る日も時間が許す限り、女は記憶の二人を、獣のように盛り合う二人を描いた。
男は知っていたが、何も言わず、止めることはできなかった。
そんなある日、商売に訪れた画商が間違えて別宅に入ってしまう。
そこで、女の絵を見て、画商は鼻息を荒くして是非売ってくれ、と頼み込む。
女しか別宅におらず、止める者がいなかった。女は蔑むために描いた絵を二束三文で画商に売った。
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