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DTBの銀ちゃんと恋愛できるゲームを作ろう -
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1 :
まとめ?
◆jBn0wb7Ovg
:2009/03/11(水) 21:11:46.37 ID:MSngpeUo
DTBの銀ちゃんと恋愛ができるゲームを作るスレです。
ゲームシステムについては以下をプレイして確認してください。
http://www.uploader.jp/dl/indtb/indtb_uljp00027.zip.html
【うpろだ】
http://www.uploader.jp/home/indtb/
【現行のゲームシステム】
プレイ期間1ヶ月、朝・昼の1日2回行動
条件を満たしているとイベント発生。
お金あり。お金はバイトで増える。
タバコを買う&1日の経過でお金減少
イベントでの増減もあり
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
[
Twitter
]: ID:???
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/
渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/
二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/
佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/
全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/
君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/
笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/
【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/
2 :
まとめ?
◆jBn0wb7Ovg
:2009/03/11(水) 21:13:02.87 ID:MSngpeUo
【メンバー】
まとめ? ◆jBn0wb7Ovg:まとめ・シナリオ・スクリプト担当、死にそう
絵描き ◆TaEbGtasrE:絵全般担当
【方針】
(随時)イベント案の募集と背景・BGM・SEをフリー素材集め
全体の話の流れの決定
メインライターの決定 ←今ここら辺?
イラストの発注
↓
イベントの配置・条件の設定
↓
難易度の見直し・演出の追加
↓
完成
3 :
まとめ?
◆jBn0wb7Ovg
:2009/03/11(水) 21:14:04.78 ID:MSngpeUo
【おまけ】
http://www.uploader.jp/dl/indtb/indtb_uljp00026.zip.html
とりあえず立て直した
4 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/11(水) 21:20:09.51 ID:w/ddwGs0
乙!
5 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
:2009/03/11(水) 21:52:44.95 ID:nawp9UAO
前スレのアレは何だったんだ?
6 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/11(水) 21:57:37.19 ID:/VjSwRMo
前スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1236247413/l50
7 :
まとめ?
◆jBn0wb7Ovg
:2009/03/11(水) 22:01:08.87 ID:MSngpeUo
とりあえず全スレのアレは運営に言っといた。規制されたはず。
多分沙耶の歌のデータ吸い出してツールで書き込んだっぽい
8 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/12(木) 03:30:35.03 ID:PzoLdmso
_ー 、 }V _
`ー--≧ V レ´{
_,フ' __`ヽ.
_ -‐≦==、、_, -、 \`ヽ
、__-'´ `丶. `ヽ.、 } `フ
/ ,イ ./{ Y `| | `ヽ
フ /ン/__`ト、,i l }人{ヽ. \ヾ
 ̄乂,タ |_シゝリ| / リ:| ノ ヽ._
,' ノ/~).ィ.|:| {´ ̄ ・・・・・・・
ハ. 丶 、,.ィ.1:レ'/ ,イ 人 .........
ヽ.__ ..、 {ミ::|ィ|:|´ /.ノ' ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;
YYYYY乂 L!从 ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:
/ヽ-シ´::::`ヽ. ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:
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l:::y/== V::::::::ヽ::::::::::::l ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:
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「 ̄r―'´/Vヽ/L\: : : : : : : | :::::;>‐t__: : : : : : : : : :}
rし:/!/Y´ i r‐/}: : : : :,:__;:<_っ、ヽ〉〉>_ _,.......l
レヽ/`{. ', Vハ>ヤヾ/ヽ≦={/'"´======
', Vlililil;l.i i
ハ 、 ',lilili;i.i : :|
ハ ', |lililili;i.i.. . . : : .! . . . .
: : : : ハ .|lilililil:i : : : i : : :
:.:.:.:.:.:.:.:.:.ハ 、 |lililil;l:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.|.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.ヘ ', {ilililili;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;
 ̄ ー―-ヘ .i--==;.;.;.__;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;.;
ヘ_ _ V  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
- _ ー.',- ̄ '-_−
 ̄ T  ̄ヽ、
} } リ
/ ! /
V / {
} ./ /
>{_,.='
9 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
:2009/03/12(木) 08:19:01.53 ID:MpPkz6AO
>>8
かわいい
10 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
:2009/03/12(木) 11:43:02.73 ID:8bO.xwAO
とりあえずシナリオ考えないと進まないよなぁ
どうしよう
11 :
nanashi
[sage]:2009/03/13(金) 01:09:40.30 ID:SG/Y4nY0
tesu
12 :
nanashi
[sage]:2009/03/13(金) 01:10:26.99 ID:SG/Y4nY0
tesuthesu
13 :
nanashi
[sage]:2009/03/13(金) 01:55:00.92 ID:SG/Y4nY0
てす
14 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/13(金) 01:55:36.67 ID:SG/Y4nYo
てすてす
15 :
nanashi
[sage]:2009/03/13(金) 02:08:05.95 ID:SG/Y4nY0
てすてすてす
16 :
ななし
[さが]:2009/03/13(金) 02:10:29.12 ID:SG/Y4nY0
ddてすてすてす
17 :
ななし
[さが]:2009/03/13(金) 02:11:38.83 ID:SG/Y4nY0
ddてすてすてすf
18 :
ななし
[さが]:2009/03/13(金) 08:26:37.80 ID:6h7Zhlo0
ddてすてすてすfdsafda
19 :
まとめ?
◆jBn0wb7Ovg
:2009/03/13(金) 14:07:06.15 ID:BQ16K3co
今度は何なんだいったい
20 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/13(金) 14:48:02.92 ID:CzBG/A20
うーん
21 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
:2009/03/13(金) 14:52:42.13 ID:1ZlKOgAo
こ
22 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
:2009/03/14(土) 18:58:25.44 ID:PFZ4N0.0
言いだしっぺ
>>1
だけど
荒らしてるのオレじゃないからな
23 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/14(土) 21:59:32.12 ID:AtHRWkAo
とりあえずしばらくはゆっくり進めるか
つかVipへスレ立てて質疑応答・保守するのがしんどい
24 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/15(日) 17:14:55.90 ID:7vixKHUo
>>1
だ久しぶりに見た
25 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/15(日) 17:56:56.17 ID:IhKbzbEo
てす
26 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/15(日) 22:13:58.07 ID:5.leFCE0
>>24
ノシ
またまた言いだしっぺ
>>1
でございます
まとめさん全部押し付けてごめんね
ライターなんだが、とりあえず良い人が来るまでオレに任せてみない?
とりあえず文を書かなくては、まとめの作業も絵描きの作業も進まないんだろ?
オレは普段文章とか書かないし、(´・ω・`)な文章になるかもしれないけど
最終的にはその文を使わないで、あくまで作業を進めるためのテキストとして使えばよいし
27 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/16(月) 17:24:45.61 ID:qzQFUw6o
とりあえず
>>1
の銀ちゃん愛をみせてみるんだ
28 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/16(月) 18:47:03.03 ID:rHSDNAc0
>>27
ほいよ。
http://www15.atwiki.jp/dtbyin/
とりあえずwikiをじっくり見てきたが、ちょっと質問。
登場キャラクターはwikiに載っているので全員?
主人公のアパートは海月荘ではない?
プレイ期間は○月○日〜○月○日のように厳密には決まってない?
29 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/16(月) 19:19:49.59 ID:qzQFUw6o
プレイ期間は知らんが他は
登場キャラクターはwikiに載っているので全員? → ○
主人公のアパートは海月荘ではない? → 違う
だった気がする
30 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/16(月) 19:36:09.09 ID:rHSDNAc0
>>30
ありがと!
31 :
まとめ?
◆jBn0wb7Ovg
[sage]:2009/03/16(月) 19:43:38.23 ID:NBEfL.Uo
えっと、登場キャラについては今のところアレだけで、(立ち絵等の関係で削る可能性あり)
何かネタが有る&余力がある場合増えるかも
アパートはパラレルなんだから何でもいいよって感じ
プレイ期間は決めてないが、水着イベントが欲しいのでそういう時期がいいなぁとか思ったりする
32 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/16(月) 20:00:25.30 ID:rHSDNAc0
立ち絵が増えるから海月荘はやめておいた方がいいのか
まぁそんな感じで書いてみる
あ、そだ、銀と黒の孤児院出身って
主人公に説明できないからそういうことにしてるんだよね
33 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/16(月) 20:14:00.56 ID:NBEfL.Uo
>>32
ちげーよ、契約者とか有る設定だと話がまとまらなさそうだから
純粋にキャラクターだけを使って作るだけ。
孤児院に関してはハボック出したい→子供関係のイベント
→契約者連中まとめて孤児院設定でいいんじゃね?ッて言う感じの思考
34 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/16(月) 20:28:36.78 ID:rHSDNAc0
むっさパラレルなのね。
原作の世界観とか、わかりやすいように
テキストにまとめようとしてたけど、それなら楽だ
35 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/16(月) 21:25:57.28 ID:rHSDNAc0
まとめさん、一行に何文字入るの?
36 :
まとめ?
◆jBn0wb7Ovg
[sage]:2009/03/16(月) 21:30:38.53 ID:NBEfL.Uo
今のところ27×4だけどいじれるんで適当に
37 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/16(月) 21:38:56.64 ID:rHSDNAc0
ほい
38 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/16(月) 22:28:38.03 ID:cwbcUu2o
ちなみにそのうち一行はキャラ名な
銀
[
ピーーー
]
[
ピーーー
]
[
ピーーー
]
みたいな
39 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/16(月) 22:51:43.89 ID:cwbcUu2o
>>26
(´・ω・) スルーカワイソス
40 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/16(月) 23:03:22.66 ID:NBEfL.Uo
>>39
ID:5.leFCE0=ID:rHSDNAc0
41 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[saga]:2009/03/16(月) 23:15:56.81 ID:cwbcUu2o
>>40
死ね
42 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/17(火) 11:32:41.57 ID:C5Y0Bggo
なにこのキチガイ
43 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/17(火) 20:10:02.28 ID:tIKg68Uo
違ったのか?
でも
>>27-28
をみたらそう思うよな
44 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
:2009/03/17(火) 23:44:06.17 ID:fZux0Z2o
[
ピーーー
]
45 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/19(木) 21:25:28.17 ID:057HDtco
[ピーーー]
46 :
まとめ?
◆jBn0wb7Ovg
[sage]:2009/03/19(木) 21:27:09.82 ID:wRJxl3ko
なんか一人でゆっくり作ろうかなという気になってくるよな
47 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/19(木) 21:53:27.39 ID:X2rzSNYo
どんな形でもいいから完成を待ってるよ
48 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/20(金) 06:19:44.61 ID:26YZXEUo
>>46
[
ピーーー
]
49 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/20(金) 18:08:10.11 ID:26YZXEUo
>>46
それがいいよ
50 :
まとめ?
◆jBn0wb7Ovg
[sage]:2009/03/20(金) 19:33:42.94 ID:aux6FHIo
>>48
>>49
こういうの見てるとやる気なくなってくるよな。
とりあえず夏目標にゆっくりやるわ
51 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/20(金) 19:37:56.75 ID:VciNoRYo
>>50
がんばれ
52 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/20(金) 22:49:32.57 ID:08p2PvAo
>>50
[
ネ申
]
53 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 00:35:33.08 ID:.M0UXVUo
>>50
がんばれ
54 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:20.68 ID:K2IPlNY0
午前4時。
55 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:21.85 ID:K2IPlNY0
左手ではスプレー缶をカラカラと振って攪拌(かくはん)し、右手には電源を入れたカメラを構え、横に開いた液晶画面を見つめながら、凉子は部屋の奥へと踏み込んでいく。
56 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:22.90 ID:K2IPlNY0
瑶が床から、縋(すが)りつくような眼差しで僕を見る。助けを求めているのかもしれない。だが今の彼女はそれを声に出して求めることも、いや、僕の名を呼ぶことさえもできない。
57 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:24.22 ID:K2IPlNY0
「いや……でも、うん。そうだな。やっぱり奥涯教授には会ってみたい」
58 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:25.01 ID:K2IPlNY0
暴れる力すら使い果たした洋佑は、床にくずおれて啜り泣いた。祈ったこともない神に祈った。
59 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:25.58 ID:K2IPlNY0
僕は見る影もなくバラバラになった怪物の骸を見て、沙耶に訊いた。
60 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:26.28 ID:K2IPlNY0
青海かもしれない。郁紀かもしれない。二人で瑶をからかって楽しんでいるに違いない。もしかしたら耕司もその場にいるかもしれない。
61 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:27.56 ID:K2IPlNY0
偏執的なほどに丹念な刷毛使いによる、ただ一筋の塗り残しもなく分厚い重ね塗り。この部屋を塗り潰した人間の憎しみと悪意と狂気の程を、余すところなく物語る色合いだった。
62 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:28.15 ID:K2IPlNY0
――『彼』の知識欲はきわめて貪欲である。学習効率は驚くほど高い。反面で、『彼』自身の自己顕示の欲求は皆無である。
63 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:29.58 ID:K2IPlNY0
64 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:31.72 ID:K2IPlNY0
総じてアンティークの類、と見えなくもないが、いずれにも共通するのは、どこか見る者の生理的嫌悪を掻き立てるような悪趣味な意匠である。
65 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:33.14 ID:K2IPlNY0
想いを告げた瑶が郁紀と再会したのは、その一週間後――集中治療室の窓ガラス越しに見る、重体の郁紀の痛々しい姿だった。
66 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:34.55 ID:K2IPlNY0
「ただいま、沙耶」
67 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:35.34 ID:K2IPlNY0
何やら訳のわからない約定を言い含めてから、沙耶は目を閉じた僕の手を引いて二階への階段を上がっていく。
68 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:36.00 ID:K2IPlNY0
術後の障害としてこれほど奇異な症例を示した患者に、医師たちがどういう興味を示すか――僕自身、医大に籍を置いている身だからこそ、彼ら研究者が僕にどれだけ因業な視線を向けてくるか、容易に想像できた。僕は自らの尊厳に賭けて、断じて哀れなモルモットに成り果てる気などなかった。
69 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:36.68 ID:K2IPlNY0
70 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:37.49 ID:K2IPlNY0
71 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:38.08 ID:K2IPlNY0
やがて僕の視覚異常は、徐々に触覚や味覚、嗅覚にも伝播していった。人間の知覚において視覚の占めるウェイトは、他の感覚器のそれらと比較にならないほどに大きい。
72 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:38.79 ID:K2IPlNY0
「ぅわぁぁぁっ!」
73 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:40.02 ID:K2IPlNY0
変わり果てた居間に立ちつくす耕司の中で、いま怒りの矛先はすべて己の無力さに向いていた。できることなら在りし日の郁紀に、独り孤独に内なる苦痛と戦っていた友に詫びたかった。
74 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:40.78 ID:K2IPlNY0
駄目でもともと――そう覚悟を決めてT大付属病院を訪れ、郁紀の主治医に面会を申し入れた耕司と瑶だったが、まさかこんなにも簡単に診察室に通されるとは思ってもみなかった。
75 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:41.39 ID:K2IPlNY0
それで決着にできないのは、相手があの郁紀だからだ。親友と信じていた男に全てを覆されてしまったからだ。
76 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:41.96 ID:K2IPlNY0
喜色満面でそう嘯(うそぶ)いてから、洋佑は少女のワンピースの襟元に手をかけると、一気に引き裂いた。
77 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:42.60 ID:K2IPlNY0
沙耶の細い指が、慈しむように僕の頬をまさぐるのを、僕は安らかな至福の中で感じる。
78 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:43.23 ID:K2IPlNY0
沙耶は困惑しきった顔で、しばらく考え込んだ後、
79 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:43.91 ID:K2IPlNY0
80 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:45.73 ID:K2IPlNY0
決然とした語調。だがそれでも耕司は、このパラノイアを患った女医を信じ切ることができない。
81 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:46.96 ID:K2IPlNY0
「ああ」
82 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:47.69 ID:K2IPlNY0
「……」
83 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:48.27 ID:K2IPlNY0
郁紀と対決する前に凉子と接触したことが、はたして正解だったのかどうか、すでに耕司は半信半疑だった。
84 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:49.23 ID:K2IPlNY0
“……え? な、なに……?”
85 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:51.26 ID:K2IPlNY0
86 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:52.93 ID:K2IPlNY0
耕司もすでに手は尽きた。あとはこの若い女医を信用して任せるしか他にない。歯がゆくはあったが、ただの友人でしかない彼には出来ることにも限度があった。
87 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:54.75 ID:K2IPlNY0
88 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:55.57 ID:K2IPlNY0
さしたる妙案も浮かばないまま家の前まで来てしまい、けっきょく僕は降参した。
89 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:56.20 ID:K2IPlNY0
思わず身構えそうになるのを抑えて、何食わぬ顔で振り向くと――うじゃうじゃと沸き立つ肉の山が、剥き出しの眼球でじっと僕を睨んでいる。
90 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:57.60 ID:K2IPlNY0
「そう……けっこう折り合いをつけてるんだ」
91 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:58.53 ID:K2IPlNY0
「心配しないで。次に目が覚めるときには、何もかもが終わっているから」
92 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:03:59.35 ID:K2IPlNY0
「この季節でも、山の寒さは尋常じゃないね。薄着で行ったのはつくづく失敗だった。夜中あたりは凍死するんじゃないかってヒヤヒヤしたよ」
93 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:00.44 ID:K2IPlNY0
“どんなに世界が底抜けに滅茶苦茶になっていこうと――”
94 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:01.30 ID:K2IPlNY0
覗き込んだ居間の光景に、はじめ僕は戸惑った。
95 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:01.92 ID:K2IPlNY0
言いさして耕司が振り向くと、そこには無人のダイニングテーブルが、深夜の静謐に沈んでいた。
96 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:02.60 ID:K2IPlNY0
「えぇ〜? そんなぁ……アレは沙耶に頂戴よぉ」
97 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:03.13 ID:K2IPlNY0
凉子は生前と同じ、冷たく躁的に歪んだ含み笑いで身体を揺する。胸元まで引き裂かれた左肩の先で、余り物のようにぶら下がっている腕がグラグラと揺れた。
98 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:03.71 ID:K2IPlNY0
私が沙耶と名付けた、あの生物――彼女が我々の宇宙へと現れた理由は、偶然ではなく、はたまた私の召喚によるものでもなく、彼女に生物としてプログラミングされた本能の結果であろう。
99 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:04.27 ID:K2IPlNY0
自分は今から、この生き物に犯されるのだ。死ぬよりなお残酷な運命を、拒むこともできず……
100 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:05.31 ID:K2IPlNY0
「それは――いったい――どうやって?」
101 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:05.91 ID:K2IPlNY0
「郁紀のは、一滴だって残さずに欲しい。沙耶の中に出してほしいの」
102 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:06.49 ID:K2IPlNY0
やがて、何か得心が行ったかのように手元のルーズリーフを並べ替えると、凉子は束にしたばかりのそれを脇に置き、ようやく身体ごと耕司の方に向き直る。
103 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:07.06 ID:K2IPlNY0
「だから、今日も診療なんだ。もう時間だから」
104 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:07.70 ID:K2IPlNY0
105 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:08.38 ID:K2IPlNY0
こうして戸尾耕司にとって最後の、心安らぐ夜が終わりを告げた。
106 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:09.00 ID:K2IPlNY0
節々は痛むし、末端はかじかんで感覚が失せている。だがまったく動かせないような場所はない。憔悴してはいるものの、たしかに自分は五体満足で生きている。
107 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:09.67 ID:K2IPlNY0
「いや、別に」
108 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:10.18 ID:K2IPlNY0
109 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:10.99 ID:K2IPlNY0
僕は――
110 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:11.74 ID:K2IPlNY0
僕は人を殺した。誰にも見つからない場所で、誰に知られることもなく。
111 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:12.32 ID:K2IPlNY0
「嫌なんかじゃ――ないさ。沙耶さえそれでいいのなら、僕だって」
112 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:13.24 ID:K2IPlNY0
これから先、沙耶はどこまで行くのだろうか。
113 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:13.84 ID:K2IPlNY0
今度こそ瑶は、今すぐ後も振り返らずに走って逃げ出したいという強烈な願望にとらわれた。
114 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:14.47 ID:K2IPlNY0
耕司の意図などお見通しだと言わんばかりの、悪意を剥き出しにした声で郁紀が嗤う。
115 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:15.35 ID:K2IPlNY0
「いや、それは……」
116 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:16.05 ID:K2IPlNY0
「もういい! 無茶しないでくれ! 何をするつもりか知らないが、沙耶が苦しむ姿なんて見たくない……」
117 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:16.83 ID:K2IPlNY0
声をかけようとしたが無駄と悟り、耕司はかぶりを振ってからその後を追った。アコードのダッシュボードを開け、フラッシュライトを取り出して、雪の積もる別荘の前庭へと踏み込んでいく。
118 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:17.45 ID:K2IPlNY0
119 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:18.31 ID:K2IPlNY0
ほほえむ郁紀の眼差しの奥底に、ねっとりと絡みつくような悪意の色を見いだしてしまうのは。
120 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:19.16 ID:K2IPlNY0
試しに値のうち幾つかを選出して私のノートPCに入力し、ルーカステストを行ったところ、そのすべてが正解だった。おそらく残りは確認するまでもないだろう。
121 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:19.70 ID:K2IPlNY0
凉子はかぶりを振って、冷然と続けた。
122 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:20.27 ID:K2IPlNY0
1時間が経ち、2時間が経った。奥涯家には誰も出入りする気配がない。夕暮れがゆっくりと家々の景観を変えていった。
123 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:21.41 ID:K2IPlNY0
「おああああぁぁッ!!」
124 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:24.64 ID:K2IPlNY0
津久葉瑶。耕司ほど積極的に行動を起こしそうな人間ではないが、だからといって油断はできない。戸尾耕司と高畠青海が消えたことを結びつけて考える程度の知恵は、あの女にもあるだろう。
125 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:25.24 ID:K2IPlNY0
「身勝手でいいよ。沙耶のワガママなら聞くよ、僕は」
126 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:26.20 ID:K2IPlNY0
「平気なわけないだろ! 今まで避妊もしてないってのに」
127 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:27.18 ID:K2IPlNY0
「……うん」
128 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:28.07 ID:K2IPlNY0
洋佑の足首を掴んだ手は――果たしてそれが手と呼べるモノかどうかは別として――居間のソファの下から伸びていた。
129 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:29.00 ID:K2IPlNY0
「先生、もしかしたら匂坂郁紀は――刑事事件に関わっているかもしれないんです」
130 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:29.96 ID:K2IPlNY0
131 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:31.15 ID:K2IPlNY0
僕の意図を察した沙耶が、たっぷりとした左右の脂肪で僕の竿を挟み、圧迫する。たまらない感触だった。
132 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:32.05 ID:K2IPlNY0
それに触れるだけの勇気を奮い起こせるまでの間、ただ棒立ちのまま眺め続けていた。
133 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:33.82 ID:K2IPlNY0
「明日にでも行ってみようかな。ここ」
134 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:34.58 ID:K2IPlNY0
135 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:35.79 ID:K2IPlNY0
「ねぇ郁紀、おとといも言ったでしょ? わたしには他の生き物の身体に細工ができるんだって」
136 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:40.86 ID:K2IPlNY0
『コンバB&ワ、匂坂サン。今オ帰リャIスカ?』
137 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:41.96 ID:K2IPlNY0
「お隣のって、フミノリお兄ちゃん?」
138 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:43.04 ID:K2IPlNY0
それに、瑶――ああも他愛なく耕司の手にかかるとは思わなかった。沙耶と違って彼女は、新しい身体を使って戦う術に疎かったのかもしれない。
139 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:43.79 ID:K2IPlNY0
うちの病院がある大学のキャンパスってね、けっこう野良猫が居着いたりしてたんですよ。学生がエサあげたりするから、近所の野良猫が集まってきて。
140 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:44.44 ID:K2IPlNY0
苦しげに呻きながらも、沙耶は僕の腰を放すまいと腕を巡らして抱きかかえ、喉の奥で逆流する精子を、噎(む)せることなく上手に飲み下す。
141 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:45.07 ID:K2IPlNY0
彼は、何処まで行ってしまったんだろうか。
142 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:45.63 ID:K2IPlNY0
そのときポケットで鳴り響いた携帯電話の着信音は、むしろ瑶にとっては救いの手だった。
143 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:46.20 ID:K2IPlNY0
果たして『魂』とは、あらゆる知性が獲得しうるものなのだろうか。
144 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:46.86 ID:K2IPlNY0
145 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:47.81 ID:K2IPlNY0
「心配しないで。次に目が覚めるときには、何もかもが終わっているから」
146 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:48.42 ID:K2IPlNY0
たしかに耕司は瑶を救うつもりだった。郁紀にも生きたまま罪を償わせるつもりだった。
147 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:50.26 ID:K2IPlNY0
郁紀の返事は、取りつく島もないほどにそっけない否定だった。なぜ青海が彼の家に行ったなどと推測されるのか、それさえも釈然としない様子だった。当然といえば当然だ。あの日、郁紀が瑶を泣かせる様を青海たちが見ていたことは知られていない。
148 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:51.56 ID:K2IPlNY0
嬉しくないわけがない。そう思う一方で、ここで喜んでいいわけがないという理性の声もまた、無視できない。
149 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:53.41 ID:K2IPlNY0
「いいえ」
150 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:56.03 ID:K2IPlNY0
凉子はライティングテーブルの上の書類に目を通しながら、さもどうでもいいことのように、部屋の片隅にある支那(しな)風の衝立(ついたて)を指さした。
151 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:57.41 ID:K2IPlNY0
「……ああ」
152 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:58.41 ID:K2IPlNY0
153 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:04:58.92 ID:K2IPlNY0
彼女の痙攣にあわせて漣(さざなみ)のように震える腿の肉。荒波に揉まれるように上下に翻弄され振り乱されるふたつの乳房。それらを眺め、肌に感じているだけでも、充分に僕の劣情を刺激する。
154 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:00.20 ID:K2IPlNY0
「前にも話したと思うが、僕は今、奥涯っていう人について色々と調べなきゃならない」
155 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:01.58 ID:K2IPlNY0
そんな耕司を前にして、凉子は恐れげもなく平然と肩を竦(すく)める。
156 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:02.42 ID:K2IPlNY0
157 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:03.25 ID:K2IPlNY0
想いを告げた瑶が郁紀と再会したのは、その一週間後――集中治療室の窓ガラス越しに見る、重体の郁紀の痛々しい姿だった。
158 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:03.85 ID:K2IPlNY0
159 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:04.47 ID:K2IPlNY0
「プレゼントって、おいおい……子犬か何かじゃあるまいし」
160 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:05.13 ID:K2IPlNY0
目が慣れるまでしばらくかかったが、がらんどうの窓から差し込んでくる月光だけが頼みだ。あらゆる輪郭が、薄ぼんやりと滲んだ濃淡でしか判らない。
161 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:05.74 ID:K2IPlNY0
患者の胸に確かな希望があるかないかで、予後の経過は大きく変わる。僕もまた沙耶という秘密の介護人に支えられ、医師たちが目を見張るほどのペースで様態を回復させていった。
162 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:06.30 ID:K2IPlNY0
我知らず声に出していた。それほどの驚きだった。
163 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:07.39 ID:K2IPlNY0
郁紀は耕司を避けなくなった。面と向かって話すようになった。それなのに何故か今の郁紀は、かつて耕司たちを遠ざけようとしていた頃の彼よりも、余計に遠くへ行ってしまったような気がしてならない。
164 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:08.53 ID:K2IPlNY0
「前にも……来た?」
165 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:09.46 ID:K2IPlNY0
あ――
166 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:10.85 ID:K2IPlNY0
『……』
167 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:11.56 ID:K2IPlNY0
もしかしたら、この三枚は購入する別荘の候補として撮影されたものなのかもしれない。隠れ家としていちばん妥当な物件がどれか検討するために。
168 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:12.21 ID:K2IPlNY0
果たして2階は書斎だった。天井まである書架に詰め込まれた、おびただしい本の密度には、床の強度を心配したくなる。耕司も医大生だけあって、この部屋の主が医学関係者なのは一目で判った。それもかなり高度な。
169 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:13.42 ID:K2IPlNY0
瑶には、なぜが理解できた。――それが嘲り笑うそいつの声だと。
170 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:15.05 ID:K2IPlNY0
血まみれの床さえ見なければ、あとは幼い頃から見慣れてきた我が家の台所。それに引き替え、昨日まであれほど心安らぐ色合いに見えた居間の彩色を今になって改めて見ると、僕には今まで遠ざかっていた世界との距離が痛感できた。
171 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:15.94 ID:K2IPlNY0
「だからわたし、この子の躯を造り替えてあげたの。ちゃんと郁紀にも可愛がってもらえるような姿に」
172 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:17.66 ID:K2IPlNY0
いま耳にした音の正体について、なかなか意味をなす思考を形にできないまま、青海は呆然と空っぽの玄関を眺めていた。何もない、空っぽの……そう、郁紀が脱いだはずの靴もない。まだこの家の主は靴を履いたまま、外をうろついているということだ。
173 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:20.22 ID:K2IPlNY0
「先生――」
174 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:20.82 ID:K2IPlNY0
なぜか沙耶は僕の唇に指を当てて、その先の言葉を遮った。
175 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:21.54 ID:K2IPlNY0
たしかに彼は余計な詮索を望んでいなかった。だがそれは、命を奪うほどの動機になるのか?
176 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:22.29 ID:K2IPlNY0
あまりの毒気に当てられて、青海は脚の力が抜けた。たまらず崩れるように座り込んだ途端、床を濡らしていた粘液が彼女のジーンズに染み入ってくる。冷たい感触に犯されるふくらはぎ、股、尻……
177 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:23.30 ID:K2IPlNY0
廃墟の中のこもった空気は噎(む)せるほどの血臭が立ちこめ、霜の降りた床にじわじわと広がっていく血糊は途絶えることなく流れ続けていたが、それでもなおその光景は、一枚の絵画のように静謐だった。
178 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:24.06 ID:K2IPlNY0
「あ、ああ……」
179 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:24.65 ID:K2IPlNY0
「気にしないで。明日はまた別のものを作ってあげるから」
180 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:25.23 ID:K2IPlNY0
青海ではない。悪戯にしたって度が過ぎている。青海は瑶を怖がらせて楽しんだりはしない。
181 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:25.92 ID:K2IPlNY0
182 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:26.52 ID:K2IPlNY0
ザイルが揺れ、光が遮られる。点灯したままの大型ライトをベルトで肩に吊った人物が、慎重にザイルを伝い降りてきた。
183 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:27.30 ID:K2IPlNY0
ようやく戻ってきた携帯電話の文字は、妙に心許ないものに見えた。
184 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:27.92 ID:K2IPlNY0
185 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:28.50 ID:K2IPlNY0
僕は不安や焦りといった感情を自分の中から追い出し、さも何でもない風を装って肩をすくめる。
186 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:29.09 ID:K2IPlNY0
T大付属病院の脳神経外科医、丹保凉子医師。それは耕司が予想だにしなかった人物だった。
187 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:29.75 ID:K2IPlNY0
むろん今の僕の指使いは、『ほんの少し』なんていう程度のものではない。左右とも両手の人差し指と親指の二本で乳首をつまみ上げ、捻り潰すようにして転がしてやると、瑶の悲鳴はますます甲高く、息づかいも激しくなっていく。
188 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:30.36 ID:K2IPlNY0
189 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:31.08 ID:K2IPlNY0
「ええ。わかりました」
190 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:31.69 ID:K2IPlNY0
そして、銃声の残響に痺れかかった耕司の耳に――ふたたび闇の底から届くか細い声。
191 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:32.30 ID:K2IPlNY0
脳裏に蘇る凉子の声。今ならば耕司は、彼女の慈悲深い配慮を理解できた。彼女と同じ醒めた視点で、かつての自分の愚かしさを嘲笑うことができた。
192 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:32.87 ID:K2IPlNY0
途方に暮れて、そう訊き返すのが精一杯の僕に、沙耶はようやく感情をおちつけて、沈んだ声で語り始めた。
193 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:33.43 ID:K2IPlNY0
「ちょっと待ってろ。すぐに助ける」
194 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:34.22 ID:K2IPlNY0
195 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:38.04 ID:K2IPlNY0
「いいや」
196 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:38.65 ID:K2IPlNY0
「じゃあさ、この子を可愛がるときは、沙耶も一緒にまぜてよ。沙耶の躯だけじゃできないような遊び方、みんなで楽しもうよ。ね?」
197 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:05:39.34 ID:K2IPlNY0
一歩ずつ階段を上がりながら、瑶は涙声で呼びかけた。すでに彼女はしゃくり上げながら泣いていた。
198 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:39.96 ID:K2IPlNY0
「……」
199 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:40.55 ID:K2IPlNY0
この家に来て以来、沙耶はもう新妻気取りだ。
200 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:41.13 ID:K2IPlNY0
201 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:42.06 ID:K2IPlNY0
一本目の煙草に火を点け、深々と紫煙を吸って吐き出しながら、耕司は独り居間にくつろぎ、手の中の拳銃に見入った。
202 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:05:42.65 ID:K2IPlNY0
声をかけられて首を巡らすと、凉子が壁際に寄せた椅子とテーブルに着いて何かを読んでいた。
203 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:43.25 ID:K2IPlNY0
204 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:44.13 ID:K2IPlNY0
205 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:44.93 ID:K2IPlNY0
欲を出さずに悠々自適。洋佑の理想そのままの生活だ。
206 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:05:45.58 ID:K2IPlNY0
孤立した環境のせいか、山地の気候のせいか、それとも変異に対する抵抗力に個体差でもあるのか……いずれにせよ凉子はまだ、あの街に蠢くモノたちほど人の形を離れてはいない。
207 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:05:46.64 ID:K2IPlNY0
ようやく僕の存在に気がついたのか、瑶は顔を上げてこちらを向いた。
208 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:05:47.86 ID:K2IPlNY0
だがこいつらに銃弾が決め手にならないのは耕司も経験済みである。チャンスは、今しかない。
209 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:05:48.84 ID:K2IPlNY0
「は、放して! そんな……どうして? どうしてなの!?」
210 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:49.45 ID:K2IPlNY0
211 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:50.32 ID:K2IPlNY0
「忘れろ……と?」
212 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:05:51.12 ID:K2IPlNY0
今日になっていきなり豹変した郁紀。どうしても悪意の印象を拭いきれなかった笑顔。あの笑顔は耕司に向けたものでなく、親友の死相を思い描いてのものだったのだ。
213 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:05:52.06 ID:K2IPlNY0
214 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:53.11 ID:K2IPlNY0
「なぁ、沙耶、僕は……」
215 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:53.76 ID:K2IPlNY0
216 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:54.32 ID:K2IPlNY0
「アハハ、まだ何もしてないじゃないか」
217 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:55.16 ID:K2IPlNY0
218 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:55.79 ID:K2IPlNY0
219 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:56.38 ID:K2IPlNY0
「『沙耶』っていう名前には、露骨なほど反応してました」
220 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:56.92 ID:K2IPlNY0
「嬉しいよ。嬉しいんだけど――素直に喜んでいいのかどうか、沙耶のこと思うと、さ……」
221 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:57.87 ID:K2IPlNY0
人間の骨ではないと判った時点で安堵しかかったのも束の間、耕司はこの家にまつわる不可解な謎がなおいっそう不気味なものに思えてきた。
222 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:58.83 ID:K2IPlNY0
もちろん、否定したいのは山々だが――僕はもう、とうに抵抗を諦めていた。
223 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:05:59.40 ID:K2IPlNY0
224 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:00.52 ID:K2IPlNY0
この先、運命がどれだけ残酷になろうとも、何よりも僕が怖いのは――沙耶、君を見失ってしまうこと。
225 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:03.78 ID:K2IPlNY0
何を言い出すかと思えば……僕は少し呆れて笑いながら、沙耶の頭をなでた。
226 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:04.84 ID:K2IPlNY0
まるで親しい故人の遺影を穢(けが)されたような怒りと哀しみが、耕司の胸を締めつける。
227 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:06:05.46 ID:K2IPlNY0
――生物とのコミュニケーションに成功。きわめて貪欲な好奇心。あきらかな知性体であることを確認。確認された発声パターンと反応動作については別途資料を参照のこと。
228 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:06.24 ID:K2IPlNY0
「畜生!」
229 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:07.85 ID:K2IPlNY0
230 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:08.49 ID:K2IPlNY0
「でもさぁ……スケートはスケートリンクに行けばできるじゃない。わざわざスキー場に行ってまで、やる?」
231 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:09.16 ID:K2IPlNY0
郁紀が、耕司たちを日常から閉め出していた三ヶ月間の生活……彼がこの家で営んでいた暮らしとは、いったいどういうものだったのか?
232 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:09.77 ID:K2IPlNY0
混濁の中から、洋佑はごくわずかずつ思考を取り戻していった。
233 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:10.77 ID:K2IPlNY0
234 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:11.73 ID:K2IPlNY0
絶叫する耕司の喉が、粘液の圧迫に屈して沈黙する。首に巻きついたもっとも致命的な緊縛が、呼吸や血流のみならず頸椎ごと耕司を断絶しようと、じわじわと圧力を増していく……
235 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:12.96 ID:K2IPlNY0
「あなたって面白い。明日の夜も、また来ていい?」
236 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:13.70 ID:K2IPlNY0
237 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:14.37 ID:K2IPlNY0
拍子抜けするほど簡単に凉子は否定する。
238 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:15.15 ID:K2IPlNY0
そう言って凉子は、ダッフルバッグの内容物が硬い輪郭を浮き立たせている箇所をコツコツと叩いた。
239 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:16.56 ID:K2IPlNY0
「いいの。わたしにはもう郁紀がいるし」
240 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:17.59 ID:K2IPlNY0
その痙攣と、乳房の圧力を通して伝わる沙耶の手の感触と――僕は二人分の奉仕を一身に受けて、一気に快楽の絶頂まで押し上げられる。
241 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:19.33 ID:K2IPlNY0
酸素は5倍の窒素で包まれてはじめて、大気として許容される。同じことだ。戯れ言で希釈された片鱗だけの真実を呼吸することで、人は健やかなる心を維持できるのだ。
242 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:21.32 ID:K2IPlNY0
「お前も僕の後から、奥涯教授の家を色々と探し回ってたじゃないか。僕とお前とでバラバラに探すなんて二度手間だよ。どうせなら協力して、もっと効率的にやろう」
243 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:22.48 ID:K2IPlNY0
244 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:23.17 ID:K2IPlNY0
245 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:23.98 ID:K2IPlNY0
結局、ついに実物と対面することはなかった。今となっては一度ぐらい会ってみたかったものだと思う。
246 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:25.36 ID:K2IPlNY0
247 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:26.22 ID:K2IPlNY0
イメージが、悪夢の中の妄想でしか成し得ない連想で、耕司に直感と理解をもたらした。
248 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:27.15 ID:K2IPlNY0
249 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:28.10 ID:K2IPlNY0
「入院してる患者さんたちのうち、ちょっと精神的に参ってそうな人を事前にチェックしといてね、ときどき部屋に真夜中に忍び込んで、脅かしたりするの。その人が大騒ぎしても、そういう患者さんの言うことはみんな真に受けたりしないから。結局は悪い夢ってことで片づけられちゃうし」
250 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:29.00 ID:K2IPlNY0
251 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:29.61 ID:K2IPlNY0
「本当に、それだけなんですか?」
252 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:30.19 ID:K2IPlNY0
祈るような想いで彼女の身体をかき抱いたまま、小走りに廃墟の外まで出る。
253 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:30.90 ID:K2IPlNY0
ひたひたと湿った足音を立てながら、何かが階段を上ってくる。洋佑は脅え、竦(すく)み上がりながらも、震える手で床を探り――さっき壊したイーゼルの骨を手に取った。
254 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:31.67 ID:K2IPlNY0
心臓の鼓動がガンガンと耳の中で鳴り渡る。この音を聞きつけられたらそれまでだ。今度こそ喰い殺されるかもしれない。泣き声を堪えるだけでも必死だった。
255 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:32.72 ID:K2IPlNY0
いったい何が起こっているのか?
256 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:06:34.51 ID:K2IPlNY0
耕司はポケットから奥涯の拳銃を取り出し、その銃握を両手で、祈るようにして包み込んだ。
257 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:35.13 ID:K2IPlNY0
「今度はどのぐらい、のんびりできるかなぁ」
258 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:38.63 ID:K2IPlNY0
259 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:39.36 ID:K2IPlNY0
青海は中庭での光景を見たのかもしれない。立ち聞きしたのかもしれない。有り得ない話ではない。
260 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:41.05 ID:K2IPlNY0
よほど耕司からの連絡を待ちわびていたのだろう。郁紀の声は何の抑揚もなくなるほどに乾ききり、固まっていた。
261 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:41.71 ID:K2IPlNY0
頭に白く霧が湧くような性感への刺激は明らかに思考の邪魔だったし、そもそも興奮は、すでに僕の中から失せていた。
262 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:42.29 ID:K2IPlNY0
喩えるなら耕司とは、用水池に投げ込まれた毒瓶のようなものだった。今さら水から毒だけを濾(こ)し取るわけにはいかない。そういう事態になったらどうするか――
263 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:42.85 ID:K2IPlNY0
264 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:43.64 ID:K2IPlNY0
「君、怪我はないか? 自力でロープを登れるか?」
265 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:06:44.22 ID:K2IPlNY0
266 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:06:44.78 ID:K2IPlNY0
「津久葉なのか? なぁおい……まさか、津久葉なのか?」
267 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:45.51 ID:K2IPlNY0
「そうでもないですよ。薬を飲めば、わりと何とかなります。まだ」
268 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:06:46.45 ID:K2IPlNY0
269 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:06:47.21 ID:K2IPlNY0
危ない――耕司は郁紀に駆け寄ろうと一歩を踏みだしかかったところで、動くこともできずに再びバランスを崩してつんのめった。
270 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:06:48.18 ID:K2IPlNY0
「そう思えるならまだ君の傷は浅いってことさ」
271 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:49.07 ID:K2IPlNY0
ふいに思いついた新しい作戦を、僕は沙耶に話して聞かせた。すると沙耶はそれまでの暗い表情を一転させて破顔した。
272 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:50.13 ID:K2IPlNY0
273 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:50.75 ID:K2IPlNY0
274 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:54.53 ID:K2IPlNY0
耕司は思い出したかのように、致命傷を負っていた怪物を見た。
275 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:55.24 ID:K2IPlNY0
「続けろ、瑶」
276 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:55.85 ID:K2IPlNY0
それ故に、沙耶たちの略奪は文化と精神にも及ぶ。あの驚異的なまでの学習能力と知的好奇心は、標的とする種族の培ってきた知的財産をそっくりそのまま継承するための本能であり能力だろう』
277 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:56.45 ID:K2IPlNY0
278 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:57.26 ID:K2IPlNY0
279 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:57.81 ID:K2IPlNY0
280 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:58.43 ID:K2IPlNY0
「もちろん!」
281 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:06:59.25 ID:K2IPlNY0
「嫌なんかじゃ――ないさ。沙耶さえそれでいいのなら、僕だって」
282 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:00.08 ID:K2IPlNY0
283 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:00.71 ID:K2IPlNY0
284 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:01.28 ID:K2IPlNY0
さて、それでは作業をどの辺で切り上げて買い物に行ったものか……そんなことを漫然と考えながら、洋佑は階下に下りて台所に向かう。
285 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:01.82 ID:K2IPlNY0
「昔……なのか?」
286 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:02.72 ID:K2IPlNY0
殺される――そんな思考を最後に途絶えかかった耕司の意識が、ふいの轟音によって引き戻された。
287 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:03.31 ID:K2IPlNY0
288 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:04.03 ID:K2IPlNY0
「その頃にはもう、奥涯のことは一件落着していた。――少なくとも私はそう思っていた。奴は姿を消したきり、もう二度と私の前には現れないだろうと安心してた。この銃で何かを撃とうとか、殺そうとか、そういう必要があったわけじゃない」
289 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:04.66 ID:K2IPlNY0
言わんとするところは理解できたが、だからといって彼女の行動の真意がまるで掴めないことに変わりはない。
290 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:07.53 ID:K2IPlNY0
限りなくおぞましい悪夢を眺める心地で、耕司はすぐ脇にある冷蔵庫を眺めた。
291 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:08.20 ID:K2IPlNY0
292 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:09.03 ID:K2IPlNY0
なぜなら秘密とは連鎖するからだ。おぞましい世界の真相をほんの片鱗でも垣間見てしまったら最後、あとはゆっくりと捲(めく)れていくヴェールの裏側を、目を逸らすことも叶わず、ただ凝視し続けるしかない。
293 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:10.28 ID:K2IPlNY0
294 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:10.88 ID:K2IPlNY0
295 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:11.68 ID:K2IPlNY0
こんな場所には浮浪者でも近寄らないだろう。およそ人が居着くような場所ではない。雨風だけを凌ごうというのでも、他にいくらでも快適な場所を見つけられるだろう。
296 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:12.61 ID:K2IPlNY0
再び鉄パイプを手に、今度こそ背後から郁紀を一撃しようとしていた耕司だったが、忌むべきその殺人鬼のあまりにも透明な表情に、彼はしばし毒気を抜かれて立ちすくんだ。
297 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:13.40 ID:K2IPlNY0
音の正体はレンジの上で煮立っている鍋だった。俎板の上には包丁と、途中まで刻まれた人参が転がっている。何の変哲もない夕飯前の家庭の景色。それらすべてを窓からの夕陽が、熟れすぎて腐乱した果実の色に染め上げている。
298 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:14.09 ID:K2IPlNY0
299 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:14.80 ID:K2IPlNY0
「不法侵入だぞ。耕司」
300 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:16.48 ID:K2IPlNY0
断罪のためでなく――
301 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:17.55 ID:K2IPlNY0
「君は――いったい、何者なんだい?」
302 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:18.14 ID:K2IPlNY0
一歩ずつ階段を上がりながら、瑶は涙声で呼びかけた。すでに彼女はしゃくり上げながら泣いていた。
303 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:19.13 ID:K2IPlNY0
「ひぐッ、ううぅぅッ!」
304 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:19.89 ID:K2IPlNY0
305 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:20.68 ID:K2IPlNY0
「匂坂さん……」
306 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:21.30 ID:K2IPlNY0
307 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:22.04 ID:K2IPlNY0
もしこの廃屋の中から郁紀が見張っていたとしても、トランクルームから這い出す凉子の姿は見咎められまい。彼女は望んでいた通りの奇襲のチャンスを得られるだろう。
308 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:22.62 ID:K2IPlNY0
瑶の内側の感触は、沙耶のそれとはまるきり違っていた。
309 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:23.16 ID:K2IPlNY0
「不条理な物事について、きちんと条理に沿った体裁を整える――これが警察っていう役所の仕事だ。彼らの思考はいつだって、より理解しやすい方、より説明しやすい方に傾いていく。それこそ水が低い方へ低い方へと流れていくように。
310 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:23.74 ID:K2IPlNY0
「そうだな――夜までには目処をつけて、夜半には東京に戻ろう。それまで君は余計なことをせず、大人しくしていろ。いいね?」
311 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:24.39 ID:K2IPlNY0
312 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:25.09 ID:K2IPlNY0
拳銃を再びポケットに仕舞うと、耕司は携帯電話を手に取った。
313 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:25.66 ID:K2IPlNY0
郁紀と再会したとき、いったい自分はどうするつもりなのだろう? 口汚く罵るだけか? 自首でも促すのか? それとも――
314 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:26.23 ID:K2IPlNY0
「……」
315 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:27.22 ID:K2IPlNY0
「たぶん、表に積み上げてあるゴミのせい。あれ、普通の人間にはちょっと耐えられないんじゃないかな?」
316 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:28.16 ID:K2IPlNY0
――沙耶が自ら発見した『能力』は、日々驚くべき成果を上げている。
317 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:28.75 ID:K2IPlNY0
「ペンキの匂い、平気?」
318 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:29.44 ID:K2IPlNY0
319 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:30.04 ID:K2IPlNY0
320 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:30.96 ID:K2IPlNY0
生えるがままに放置された雑草と、厚く積み上がった枯れ葉の層。手入れしていないどころか、一歩も足を踏み入れていないのではなかろうか。一見したら廃屋かと思うほどだ。
321 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:31.86 ID:K2IPlNY0
今日のトラブルは耕司や青海の耳にも入るに違いない。匂坂郁紀は性格が一変したと、皆がそう確信するだろう。それはそれで、もう構わない。――少なくとも、それだけの理由で精神病院に送られたりはしないだろう。今日より輪をかけて奇異に思われるような行動をしなければ。
322 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:33.17 ID:K2IPlNY0
そうやって逃げた先で、何もかもが手遅れになった後で、どれだけの自己嫌悪が自分を苛(さいな)むことになるか……自分がそういう後ろ向きな後悔にどれだけ囚われる性格なのか、瑶はちゃんと弁(わきま)えていた。
323 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:34.37 ID:K2IPlNY0
涙を見せてしまった後でも、声を上げて泣くのは、絶対に彼の前でだけは嫌だった。もうどんなに自分が無様に見えようと構わない。今この場で泣き崩れるのに比べれば。
324 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:35.08 ID:K2IPlNY0
「――ああ、先生。いたんですか」
325 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:35.95 ID:K2IPlNY0
私を介して人類の情報を収集しつくした沙耶は、いよいよ最終的な侵略に乗り出すだけの準備が、すでに整っていたはずなのだ。にもかかわらず、最後まで彼女は行動に移らなかった。何故か?』
326 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:37.30 ID:K2IPlNY0
327 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:38.01 ID:K2IPlNY0
「そこまで言うかね。まったく」
328 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:38.94 ID:K2IPlNY0
固く重苦しい沈黙の中、凉子がファイルの頁を捲(めく)る紙の囁きだけが、淡々と時を刻んでいく。
329 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:39.51 ID:K2IPlNY0
沙耶――
330 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:40.27 ID:K2IPlNY0
その痙攣と、乳房の圧力を通して伝わる沙耶の手の感触と――僕は二人分の奉仕を一身に受けて、一気に快楽の絶頂まで押し上げられる。
331 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:41.16 ID:K2IPlNY0
332 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:41.68 ID:K2IPlNY0
「今まではどうであれ、これからの君の人生に、その二人は一切関わりを持たないだろう。断言してもいい」
333 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:42.48 ID:K2IPlNY0
こんな場所には浮浪者でも近寄らないだろう。およそ人が居着くような場所ではない。雨風だけを凌ごうというのでも、他にいくらでも快適な場所を見つけられるだろう。
334 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:43.12 ID:K2IPlNY0
335 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:43.77 ID:K2IPlNY0
「それは……噂話に」
336 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:44.36 ID:K2IPlNY0
「……それは?」
337 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:44.95 ID:K2IPlNY0
いつしか僕は、沙耶からの贈り物を諸手をあげて歓迎する気持ちになっていた。
338 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:45.52 ID:K2IPlNY0
339 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:46.42 ID:K2IPlNY0
340 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:47.11 ID:K2IPlNY0
<<以下、凉子に電話したルートのみ>>
341 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:47.70 ID:K2IPlNY0
「――ヤツは僕には人間に見えないから。斬ろうが潰そうが平気なもんさ」
342 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:48.34 ID:K2IPlNY0
「ふむ? そうか。一貫してるんだな」
343 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:48.94 ID:K2IPlNY0
青海は耕司の恋人なのだ。気が気でないほどに心配なのだ。それをこんなにも薄情に受け流されて黙っていられるわけがない。赤の他人ならまだしも、郁紀は耕司の親友だった男だ。郁紀は――
344 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:07:49.81 ID:K2IPlNY0
先週もこれとまったく同じような問答をした。苛立ちを笑顔で覆い隠して凉子は頷く。
345 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:50.46 ID:K2IPlNY0
「……ん?」
346 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:51.14 ID:K2IPlNY0
今ならば、言える。
347 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:51.95 ID:K2IPlNY0
その日から、毎夜の逢瀬が始まった。
348 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:52.54 ID:K2IPlNY0
瑶には気付かなかったのだろうか? いや、あり得ない。だいたい真面目に講義を受ける気であれば、好きこのんであんな不便な席に着くわけがない。
349 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:54.29 ID:K2IPlNY0
350 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:55.56 ID:K2IPlNY0
「うん。あいにく精神(こころ)の方は壊れちゃったみたい」
351 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:57.05 ID:K2IPlNY0
恐々として監視者の姿を探すうち、瑶は視界の隅で見咎めた。匂坂邸の2階……固く閉ざされたカーテンの布地が、ほんのわずかだけ揺れるのを。
352 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:58.79 ID:K2IPlNY0
これで発見のプロセスさえ公開できるなら、賞金だけで私は億万長者になれるんだが。……むろん彼についての研究の秘匿性は、つまらぬ金銭などよりも遙かに重要なことだ。
353 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:59.34 ID:K2IPlNY0
こんな事なら奥涯家の捜索をもっと早めに切り上げて帰宅していれば良かった。耕司などにかかずらって無駄にした時間が惜しくてならない。
354 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:07:59.89 ID:K2IPlNY0
凉子は眼鏡を外し、文字との格闘に疲れた目頭を揉んでほぐす。
355 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:00.49 ID:K2IPlNY0
言いながら、瑶はそれと気取られないようにそっと“彼”の横顔を伺い見る。
356 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:01.05 ID:K2IPlNY0
「君がそういう乱痴気騒ぎに手こずっている隙に、匂坂郁紀を追いつめるチャンスを逃すことだよ。身辺で火の手が上がれば、彼は手遅れになる前にさっさと姿をくらますだろう。そうやってまた万事が振り出しに戻る」
357 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:01.96 ID:K2IPlNY0
もぞり、と、沙耶の背中が蠢いた。そして膨らんだ。
358 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:03.12 ID:K2IPlNY0
359 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:03.89 ID:K2IPlNY0
沙耶の『作品』によって変身を遂げたラットたちの――いや、かつてラットだったものたちの――なんと美しく愛くるしいことか。
360 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:08:05.09 ID:K2IPlNY0
だが当の沙耶が嫌がるのなら仕方ない。女の子のそういう心理は、僕だって解らないこともない。ちゃんと酌んであげるべきだろう。
361 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:05.77 ID:K2IPlNY0
362 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:06.40 ID:K2IPlNY0
そして沙耶は、反応しはじめた僕の股間に顔を寄せると、愛らしいその唇を窄めてカリ首の辺りに吸い付いた。
363 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:07.46 ID:K2IPlNY0
「あの草叢の中に死んだ猫でもいるんじゃないかしら? でも、住んでいて気付かないのかしらね? あの匂いに」
364 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:08.15 ID:K2IPlNY0
365 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:08.94 ID:K2IPlNY0
366 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:09.83 ID:K2IPlNY0
驚愕に身を凍らせた隙に、掴まれた脚を引っ張られ、洋佑は受け身も取れないままに転倒する。引き戸のレールに激しく頭を打ちつけて、目の奥で星が散った。
367 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:08:10.74 ID:K2IPlNY0
ぐじっ、ぐじっ、と――泥を捏(こ)ねるような奇妙な異音。近付くにつれてさらに、今度はひゅうひゅうと、獣めいた苦しげな息遣いが聞こえてくる。
368 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:08:11.51 ID:K2IPlNY0
「なにを食べてるんだい?」
369 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:12.36 ID:K2IPlNY0
凉子はかぶりを振って、冷然と続けた。
370 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:13.00 ID:K2IPlNY0
「匂坂さん、それでは来週の診察ですが、今日と同じ四時でも――」
371 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:13.63 ID:K2IPlNY0
まず指先で髪に触れる。沙耶のそれと同じ、さらさらと流れるような滑らかな手触り。その感触を堪能しながら、僕は慰撫するように瑶の頭をそっと撫でてやる。
372 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:14.24 ID:K2IPlNY0
それでも、最後まで沙耶は姿を見せなかった。
373 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:15.07 ID:K2IPlNY0
374 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:15.67 ID:K2IPlNY0
「端的な感想ありがとう。でもね、君だって他人事じゃなくなるよ。これ以上先に進むんならね」
375 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:16.24 ID:K2IPlNY0
「ずっと、郁紀と一緒に暮らすの?」
376 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:17.08 ID:K2IPlNY0
その隙を狙って耕司はローキックを繰り出し、郁紀の外腿を強烈に蹴りつける。
377 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:17.70 ID:K2IPlNY0
378 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:18.45 ID:K2IPlNY0
「遅かったね。ちょっと心配しちゃったぞ」
379 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:19.05 ID:K2IPlNY0
た、ち、つ、て――
380 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:20.08 ID:K2IPlNY0
381 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:20.66 ID:K2IPlNY0
ゴッ……と、鈍く湿った音を立てて額が割れる。飛沫は耕司の顔にまで飛んだ。
382 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:21.37 ID:K2IPlNY0
383 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:22.40 ID:K2IPlNY0
「それじゃ」
384 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:23.23 ID:K2IPlNY0
吐き捨てるようにそう言う郁紀の口調には、気まずくなった空気を和ませようなどという配慮は欠片ほどもなかった。
385 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:23.79 ID:K2IPlNY0
そこでいったん言葉を切って、凉子はまた攻撃的なほどに躁(そう)めいた自嘲の笑みを浮かべる。
386 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:24.70 ID:K2IPlNY0
なにせ今の僕には、道が道に、車が車に見えていない。今朝になって必要に迫られるまで、正直なところ公道での運転は危険すぎると諦めていたのだ。
387 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:25.40 ID:K2IPlNY0
388 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:27.15 ID:K2IPlNY0
どのみち彼を否定するだけの理由は、凉子にも、この世界にも残されていないのだから。
389 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:27.88 ID:K2IPlNY0
瑶はふたたび、瑶らしからぬ闊達(かったつ)な表情で、耕司の当惑を笑い飛ばす。
390 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:28.48 ID:K2IPlNY0
「ほかに出口がないとしたら――ヤツはまだ、あの扉の向こう側にいるわけだ」
391 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:29.46 ID:K2IPlNY0
慰めるようにやさしく指で竿をさすり上げながら、上目遣いに訊いてくる沙耶。
392 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:30.13 ID:K2IPlNY0
――本当にあったコワ〜イ話:病院編――
393 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:30.70 ID:K2IPlNY0
その夜、沙耶と出会うまでは。
394 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:32.65 ID:K2IPlNY0
「うん。――ごめんね。怒った?」
395 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:33.28 ID:K2IPlNY0
そして、そこかしこの空いた壁には、びっしりとチョークか何かで描かれた意味不明な図形の数々。二枚ほど並べられた移動式の黒板にも、所狭しと奇怪な落書きめいた文様が描き込まれている。どれもこれも、眺めているだけで目眩がしてくるような――
396 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:34.19 ID:K2IPlNY0
料理の味も、シーツの触り心地も、見舞いの花から薫る匂いも、すべてが目に見えた外観から想像した通りのものに――生理的嫌悪をかき立てるばかりの不快で耐え難いものに――変化していった。
397 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:35.45 ID:K2IPlNY0
「郁紀……わたしを愛してくれた、あなたに……この惑星(ほし)を、あげます……」
398 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:36.06 ID:K2IPlNY0
「……郁紀は、嫌?」
399 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:36.71 ID:K2IPlNY0
僕は髪を撫でる手を止めると、おもむろに両手で左右の乳房を鷲掴みにした。
400 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:37.31 ID:K2IPlNY0
「行ってみよう」
401 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:37.88 ID:K2IPlNY0
402 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:41.03 ID:K2IPlNY0
沙耶の可憐な容姿には似つかわしくない、血腥(ちなまぐさ)く残虐な行為ではあったが、血に染まる彼女の頬は、まるで勝利者として君臨する肉食動物の王に似て、その荒々しさにはどこか気高く崇高なものを窺わせる、侵しがたい神聖さがあった。
403 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:41.91 ID:K2IPlNY0
嘲り声とともに、郁紀が井戸の中に耕司の携帯を投げよこす。あわや顔に当たりかかったところで耕司は受け止めたが、掴み取ったそれはバッテリーを抜き取られ、何の用も成さなくなっていた。
404 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:43.05 ID:K2IPlNY0
彼女の想いは宙吊りにされたまま、もう冬を迎えようとしていた。
405 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:43.66 ID:K2IPlNY0
「あなたが警察を差し置いてまで処刑しようなんて思うほど、そこまで許し難いことって何なんです? 奥涯って人はあの地下室で何をやってたんですか?」
406 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:44.34 ID:K2IPlNY0
返答の代わりに、凉子はもう一方の手に持っていた銀色の筒を、床に倒れた耕司へと投げよこした。
407 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:45.14 ID:K2IPlNY0
408 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:45.75 ID:K2IPlNY0
「お、おい、だから、もう、出ちゃうって――」
409 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:46.45 ID:K2IPlNY0
410 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:47.05 ID:K2IPlNY0
ここに奥涯氏がいるかもしれないという郁紀の情報は、まったくの誤りか……それとも、最初から嘘なのか。
411 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:47.63 ID:K2IPlNY0
『……はい』
412 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:49.05 ID:K2IPlNY0
413 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:51.47 ID:K2IPlNY0
沙耶は見ていて気の毒になるほどに狼狽していた。そういえば沙耶は食事の場面を決して僕に見せたことがない。よほど恥ずかしがっていたんだろうか。何だか僕はとんでもなく卑劣な覗き見をしてしまったような気分になり、途端に沙耶に申し訳なくなった。
414 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:52.30 ID:K2IPlNY0
415 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:55.76 ID:K2IPlNY0
「ふぅん、大変だったんだぁ……」
416 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:56.75 ID:K2IPlNY0
417 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:57.32 ID:K2IPlNY0
かつてこの家には何度も来た。何度この敷居を跨いだか知れない。血の通った想い出はいくらでもある。
418 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:58.23 ID:K2IPlNY0
書架の内容は、一介の学生では見たことも聞いたこともないような専門書のオンパレードである。臨床医学より研究者寄り、という程度の判断しかつかない。
419 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:58.88 ID:K2IPlNY0
「今から出発すれば、夕方ごろには着くだろう?」
420 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:08:59.54 ID:K2IPlNY0
凉子は昏い眼差しで、まだ未整理のままのレポートの山を見遣った。おそらくこの紙束が遠心分離された暁には、この日記で言及されている数々の『別途資料』が姿を現すのだろう。
421 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:00.12 ID:K2IPlNY0
もう一度、あ、い――
422 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:00.76 ID:K2IPlNY0
423 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:01.31 ID:K2IPlNY0
「沙耶は何も悪くない。沙耶のせいじゃない」
424 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:02.23 ID:K2IPlNY0
携帯を握る手が震えているのが、自分でも分かった。
425 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:02.92 ID:K2IPlNY0
「ぁぁぁ……熱ぃょ……郁紀」
426 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:03.46 ID:K2IPlNY0
耕司は、ついに自分が何も取り戻せなかったことを知った。
427 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:04.14 ID:K2IPlNY0
靴を脱ごうと屈んだ僕の首根に、彼女はいつものように腕を廻し、その小さな胸で優しく抱きしめてくれる。
428 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:05.19 ID:K2IPlNY0
僕が戻る直前に沙耶が出ていったのだとしても、もう半日近い時間が経っている。
429 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:05.77 ID:K2IPlNY0
「くぅ……うううぅ……」
430 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:09:06.39 ID:K2IPlNY0
……隣は、おそらく居間だろう。外から見たとおり雨戸を閉め切っているらしく、真っ暗い闇の中は何も見透かせない。
431 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:07.13 ID:K2IPlNY0
たしかに暗い井戸の底で、一燈のライトが作り出す不気味な陰影に彩られた顔を見ているのだから、表情の違いはそのせいだと無理に納得することもできる。だとしても、この口調の豹変ぶりは何なのか?
432 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:07.84 ID:K2IPlNY0
沙耶――
433 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:08.58 ID:K2IPlNY0
434 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:09.23 ID:K2IPlNY0
凉子は腕時計の針を確認する。午前七時。戸尾耕司がどこにも寄り道せずに車を駆ったのだとしたら、そろそろ東京に着く頃合いだろう。
435 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:10.19 ID:K2IPlNY0
「――長い旅だと、思えばいいさ」
436 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:10.76 ID:K2IPlNY0
沙耶がとめどない涙を手で拭う。だがその表情にはもう、さっきの怯えの色はない。
437 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:11.34 ID:K2IPlNY0
「津久葉! 警察を呼べ! 助けを呼ぶんだ!」
438 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:12.20 ID:K2IPlNY0
偏執的なほどに丹念な刷毛使いによる、ただ一筋の塗り残しもなく分厚い重ね塗り。この部屋を塗り潰した人間の憎しみと悪意と狂気の程を、余すところなく物語る色合いだった。
439 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:12.76 ID:K2IPlNY0
判らない。まるで判らない……ただ恐怖だけが嵩(かさ)を増していく。
440 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:13.41 ID:K2IPlNY0
「沙耶はね、郁紀が想像もつかないような方法を知ってるよ。もう解決したも同然なんだから」
441 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:13.97 ID:K2IPlNY0
「ねぇ――郁紀――イキそうに、なったら――」
442 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:15.43 ID:K2IPlNY0
沙耶を心配しようにも、もう僕の身体はとうに限界を超えていた。
443 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:16.16 ID:K2IPlNY0
「な――何なんだ? どうしたんだ!? 沙耶ッ、しっかりしろ!」
444 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:16.80 ID:K2IPlNY0
「がふッ……」
445 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:17.41 ID:K2IPlNY0
「――軽く何か口に入れて、それから風呂に入りたいな。暖まるまでゆっくり」
446 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:18.11 ID:K2IPlNY0
ぞっとするような浮翌遊感と、暗転する視界。
447 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:18.78 ID:K2IPlNY0
448 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:19.39 ID:K2IPlNY0
「じゃあさ、沙耶、こういうのはどうだろうか――」
449 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:19.98 ID:K2IPlNY0
門から玄関に至るまでの庭と植木。幼い頃からの想い出はいくらでもあった。そのすべてが穢(けが)され蹂躙された気がする。それほどに家の景観は歪み、爛れた形で僕の目に映った。
450 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:20.53 ID:K2IPlNY0
そういう心情は分からないでもない。耕司の理由だって似たようなものだ。
451 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:21.18 ID:K2IPlNY0
「うん。やらせてやらせて」
452 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:21.97 ID:K2IPlNY0
――彼の部屋に書物を運び込むだけで一日を費やす。
453 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:22.99 ID:K2IPlNY0
今さらそんなことを言ったって、何の慰めにもならないかもしれない。
454 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:24.42 ID:K2IPlNY0
なぜだろう。
455 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:25.60 ID:K2IPlNY0
456 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:27.17 ID:K2IPlNY0
「――やめようよ、沙耶」
457 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:30.71 ID:K2IPlNY0
458 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:31.72 ID:K2IPlNY0
459 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:32.33 ID:K2IPlNY0
インターホンの呼び鈴を押して待つ間、青海は門の外から見渡せる範囲で匂坂家の庭を見渡した。
460 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:32.90 ID:K2IPlNY0
もし変死体でもあるようなら即座に警察を呼ばなければならない。すでに屋内には耕司の指紋がいたるところについている。いま第一発見者になって通報すれば不法侵入を咎められるだけだが、それが後日になってからでは申し開きが立たなくなる。
461 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:33.52 ID:K2IPlNY0
無様に泣き崩れた顔を見られて、きっと笑われるんだろう。からかわれるんだろう。それでいい。この上もなく幸せだ。だから一刻も早くこの仕打ちを終わらせてほしい。
462 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:34.80 ID:K2IPlNY0
463 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:35.66 ID:K2IPlNY0
「さっきも言ったけど、私には、私にしかできない方法で生き物の身体に干渉できる。人間の脳をいじる方法も、これでちゃんと確認が取れたわ。だから――」
464 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:36.25 ID:K2IPlNY0
465 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:36.94 ID:K2IPlNY0
ただ一発の弾丸は、いつでも洗面所の鏡の裏で、耕司に救済を保証してくれている。
466 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:37.70 ID:K2IPlNY0
郁紀の返事は、取りつく島もないほどにそっけない否定だった。なぜ青海が彼の家に行ったなどと推測されるのか、それさえも釈然としない様子だった。当然といえば当然だ。あの日、郁紀が瑶を泣かせる様を青海たちが見ていたことは知られていない。
467 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:09:38.28 ID:K2IPlNY0
沙耶は瑶の上体を背中から抱きかかえると、後ろから廻した両手で瑶の乳房を掴み上げた。
468 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:38.94 ID:K2IPlNY0
「ただいま、沙耶」
469 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:39.63 ID:K2IPlNY0
もともと彼女は郊外の一軒家に、この病院に勤める医学教授の父と二人きりで暮らしていたのだが、ある日を境に父親が家に帰らなくなり、以来ずっと独りぼっちだったという。
470 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:40.57 ID:K2IPlNY0
「そう……けっこう折り合いをつけてるんだ」
471 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:41.20 ID:K2IPlNY0
凉子に負けず劣らず硬い口調で、耕司は短く返答した。
472 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:41.80 ID:K2IPlNY0
473 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:42.95 ID:K2IPlNY0
『オイ、フミノリ――』
474 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:43.99 ID:K2IPlNY0
「これは、あの、その――」
475 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:44.56 ID:K2IPlNY0
いた。いつの間に入ってきたのか、最後列の片隅の席に一人だけ孤立して、郁紀が座っている。
476 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:45.61 ID:K2IPlNY0
やはり、家の中にはもういないのか……安堵に似た脱力が、洋佑の緊張を緩ませる。
477 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:46.28 ID:K2IPlNY0
478 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:47.98 ID:K2IPlNY0
479 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:48.75 ID:K2IPlNY0
僕は別の塊を手にとってみた。今度は硬そうな芯のまわりに厚い果肉がついている。囓り取るとこれも、味は似たようなものだった。
480 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:49.44 ID:K2IPlNY0
481 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:50.31 ID:K2IPlNY0
この先、運命がどれだけ残酷になろうとも、何よりも僕が怖いのは――沙耶、君を見失ってしまうこと。
482 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:52.58 ID:K2IPlNY0
可憐な花を敢えて散らす、そういう黒い情熱はどんな男の胸にもある。夜毎に僕を狂わせる沙耶の肉体は、まさにそういう獣じみた欲望を狙い撃つかのように刺激する妖花だった。
483 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:53.93 ID:K2IPlNY0
「あうっ……」
484 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:55.37 ID:K2IPlNY0
「……おじさん?」
485 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:56.39 ID:K2IPlNY0
「もちろん!」
486 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:57.10 ID:K2IPlNY0
487 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:57.82 ID:K2IPlNY0
「『沙耶』っていう名前には、露骨なほど反応してました」
488 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:58.40 ID:K2IPlNY0
そして夜の静寂の中に、独り、僕は取り残された。
489 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:58.97 ID:K2IPlNY0
490 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:09:59.55 ID:K2IPlNY0
「本当に、僕だけでもいいのか?」
491 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:00.35 ID:K2IPlNY0
492 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:01.14 ID:K2IPlNY0
「ヒト科ヒト目の生体構造についてはね、沙耶はもう、この星でいちばんのエキスパートなの。いっぱい勉強したからね」
493 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:01.73 ID:K2IPlNY0
不思議な食感だった。
494 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:02.33 ID:K2IPlNY0
「匂坂さん……」
495 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:02.90 ID:K2IPlNY0
注意を促したつもりの僕を、沙耶はよりいっそうの激しい奉仕で責め立てる。
496 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:03.53 ID:K2IPlNY0
個人的な交流はなかったと、さっきそう言ったばかりだった。
497 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:04.25 ID:K2IPlNY0
危機感――我ながら意外なほどに、僕はごく冷静に状況を受け止めていた。
498 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:04.98 ID:K2IPlNY0
闇の中に蠢くモノが、ブクブクと泡立つような音をたてた。
499 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:05.56 ID:K2IPlNY0
「でもさぁ、痛くされたときの瑶の声って、それはそれで可愛いよね?」
500 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:06.83 ID:K2IPlNY0
いずれにせよ、どれも医術とは縁もゆかりもない本である。この奥涯氏を医者だとする推察には、にわかに自信がなくなってきた。
501 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:07.69 ID:K2IPlNY0
別れの時だった。彼女は道を決め、僕はそれを祝福した。その先に言葉は必要ない。
502 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:08.33 ID:K2IPlNY0
503 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:08.92 ID:K2IPlNY0
504 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:09.51 ID:K2IPlNY0
「ねぇ先生、いい加減ファミレスのコーヒーは止めましょうよ。何なら新しいのを淹れますから――」
505 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:10.15 ID:K2IPlNY0
瑶の腰骨で自らを慰め、切なく吐息を上気させながら、沙耶は肩越しに振り向いて僕に訴えかけてきた。皆まで言わせずとも彼女の望みは理解できた。
506 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:10.87 ID:K2IPlNY0
記憶の間隙が補間され、ようやく耕司は日付の感覚を取り戻す。すでに土曜日が終わり、今は日曜の早朝、ということか。たしかに瑶と電話口で話してからかなりの時間が経ってしまった。
507 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:11.43 ID:K2IPlNY0
「おやすみなさい、郁紀」
508 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:12.20 ID:K2IPlNY0
509 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:14.02 ID:K2IPlNY0
「前にお会いしたときと、ずいぶん雰囲気が違いますね」
510 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:15.41 ID:K2IPlNY0
冗談事では済まされない。いま耕司が何の怪我もしていないのは奇跡に等しかった。打ち所が悪ければ命を落としていただろう。
511 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:16.10 ID:K2IPlNY0
512 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:16.67 ID:K2IPlNY0
思わず耕司が立ちすくむほどに、その眼差しは冷ややかで感情を欠いていた。
513 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:17.49 ID:K2IPlNY0
“彼はもう引き返せない所まで踏み込んでいる”
514 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:18.27 ID:K2IPlNY0
靴を脱ごうと屈んだ僕の首根に、彼女はいつものように腕を廻し、その小さな胸で優しく抱きしめてくれる。
515 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:19.13 ID:K2IPlNY0
516 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:19.73 ID:K2IPlNY0
呼ばれたとたん、郁紀はまるで怒鳴りつけられでもしたかのようにビクリと総身を硬直させ、それから億劫そうに振り向いて瑶を見た。
517 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:20.58 ID:K2IPlNY0
重く冷たい腐肉の塊が、津波のように耕司の上にのしかかってきた。
518 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:21.20 ID:K2IPlNY0
2ブロックほど離れたところに小さな児童公園があり、奥涯家の表玄関を見張るだけならそこからでも事足りた。幸い裏口があるような家屋には見えない。
519 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:21.77 ID:K2IPlNY0
「あれ、要は人間っていう生き物の設計図みたいなものだから。わたしにはそれを読み解くことができるの。好きなように弄ることもね」
520 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:22.43 ID:K2IPlNY0
「ありがとう、郁紀。私のために色々と」
521 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:23.16 ID:K2IPlNY0
「郁紀のカルテとか、手術の記録。今日は古巣の病院に行って来たの」
522 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:24.10 ID:K2IPlNY0
もっと落胆するかと思ったが、沙耶の反応は意外に醒めていた。
523 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:24.76 ID:K2IPlNY0
最初に耕司の耳に届いたのは、奇妙なノイズだった。電子的なものではない。もっと生々しく湿った雑音――そう、たとえば誰かが遠くで呻くような、啜り泣くような、そんな声にならない肉声に似た――
524 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:25.35 ID:K2IPlNY0
僕はさらに腰を密着させ、ペニスの切っ先を瑶の顔に突きつけた。
525 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:25.95 ID:K2IPlNY0
郁紀はまだ帰宅していない。ならこの家は無人、ということになる。
526 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:26.84 ID:K2IPlNY0
527 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:27.57 ID:K2IPlNY0
耕司は眉をひそめた。3冊の本はどれも歳経た重厚な革表紙の洋書で、学術書というよりはむしろ、ガラスケースに収まっていそうな稀覯書(きこうしょ)の類にしか見えない。
528 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:28.15 ID:K2IPlNY0
「私が奥涯を取り逃がしたように、ね」
529 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:29.01 ID:K2IPlNY0
今度の悲鳴は散弾銃の一撃さえも比較にならない、文字通り断末魔の絶叫だった。
530 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:29.81 ID:K2IPlNY0
どう考えても、郁紀は事故を境に人が変わってしまったとしか思えない。
531 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:30.54 ID:K2IPlNY0
耕司が単独なのを確認するという郁紀の口上を、次第に耕司は疑いはじめていた。郁紀は指示した場所に耕司が到着するのを時間だけで見計らって連絡をよこしているのではないか。
532 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:31.58 ID:K2IPlNY0
「――え?」
533 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:34.02 ID:K2IPlNY0
かつてこの家で過ごした人間は、食って寝る以外の活動を何一つしなかったのだろうか。
534 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:35.46 ID:K2IPlNY0
「うん!」
535 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:36.07 ID:K2IPlNY0
「ああ。君や匂坂くんだけじゃない。私も以前、奥涯を追ってこの別荘に来た」
536 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:36.90 ID:K2IPlNY0
537 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:37.44 ID:K2IPlNY0
538 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:37.99 ID:K2IPlNY0
539 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:38.52 ID:K2IPlNY0
540 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:39.37 ID:K2IPlNY0
郁紀の微笑が気にかかる。まるで仮面のように顔に貼りついた無機質な笑みが。
541 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:40.26 ID:K2IPlNY0
助手席に座っている郁紀は、たしかにリラックスしている。だが、じっと虚空の一点に据えられたまま動かない視線は……他人の思惑などいっさい関係ない次元で、すでに決定づけられた、たったひとつの結論だけを見据えているような……
542 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:41.12 ID:K2IPlNY0
ぞっとするような浮翌遊感と、暗転する視界。
543 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:41.73 ID:K2IPlNY0
「あなたのこと、大好き」
544 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:42.29 ID:K2IPlNY0
「なぁ、どうして声を聞かせてくれないんだ?」
545 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:43.14 ID:K2IPlNY0
546 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:44.04 ID:K2IPlNY0
「……」
547 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:44.80 ID:K2IPlNY0
548 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:45.46 ID:K2IPlNY0
「今から出発すれば、夕方ごろには着くだろう?」
549 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:45.99 ID:K2IPlNY0
体表の半ば近くを引き剥がされたその身体から、中身が――およそ生物の組成とは思えないような毒々しい色の液体や粘液や脂が、逆流するようにして噴き出した。
550 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:46.54 ID:K2IPlNY0
瑶の喘ぎは次第にリズミカルに、とろけるように熱くなっていく。
551 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:47.26 ID:K2IPlNY0
骸として喩えるのなら、白骨だ。往年の面影など見る影もないほどに風化した、死そのものしかない場所だ。
552 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:47.86 ID:K2IPlNY0
それが気がついたら、だんだんと数が減ってるんです。それも、猫たちが大学に来なくなったっていうより、その近辺で猫を見かけなくなったんです。
553 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:48.42 ID:K2IPlNY0
この、そこはかとない違和感は何だろう? 何かがおかしい。それと指摘はできないが――
554 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:48.99 ID:K2IPlNY0
まるで手負いのように、息をするだけでも苦しげな、どこか啜り泣きにも似た――
555 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:50.63 ID:K2IPlNY0
「いいの。勉強はぜんぶパパに教えてもらったから。沙耶はとっても頭がいいんだよ」
556 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:10:51.40 ID:K2IPlNY0
郁紀宅の電話機がベルを鳴らしながら着信ランプを点滅させている。
557 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:51.95 ID:K2IPlNY0
丹保凉子(たんぼりょうこ)医師にとって、その青年はもっとも厄介な患者だった。
558 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:52.55 ID:K2IPlNY0
答えの見えていた質問だったが、そう問わずにはいられなかった。そんな耕司の張りつめた口調が、また凉子の乾いた笑みを誘う。
559 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:53.43 ID:K2IPlNY0
560 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:54.08 ID:K2IPlNY0
恐怖のあまり裏声になった怒声とともに、洋佑は扉を開けたモノに襲いかかった。
561 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:55.49 ID:K2IPlNY0
耕司は乾きの治まらない喉にもう一口、薄いコーヒーを流し込んで、沈黙の時をやり過ごす。
562 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:56.38 ID:K2IPlNY0
「それはね、その砂漠に――たった一人だけでも――花を愛してくれる人がいるって知ったとき。
563 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:57.03 ID:K2IPlNY0
564 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:57.57 ID:K2IPlNY0
565 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:58.19 ID:K2IPlNY0
この手の倒錯した奉仕は、サディスティックな男が女性に強要してやらせるものだと、僕はそういう先入観で認識していたのだが、それを沙耶は――
566 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:59.07 ID:K2IPlNY0
「そうか。じゃあ今日からは沙耶が一家の大黒柱だな」
567 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:10:59.82 ID:K2IPlNY0
「もうやらない方がいい。その代わり、夜は僕の話し相手になってくれないか?」
568 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:00.52 ID:K2IPlNY0
「ううん、そういうわけじゃないの」
569 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:01.09 ID:K2IPlNY0
知覚異常になった当初、僕はもっぱら距離感に頼って景色を把握していた。手前の家屋と彼方の山との区別、山並みとその上の雲との区別……そういうものは距離とスケールから推し量るしかなかった。
570 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:02.05 ID:K2IPlNY0
手遅れになる前に、取り返しがつかなくなる前に、左手のライトを点けるべきだと耕司の理性は叱咤していた。さもなければ踵を返して逃げるべきだと。
571 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:02.63 ID:K2IPlNY0
靴を脱ぐ暇さえ惜しかった。僕はとてつもなく嫌な予感に囚われたまま家の中に駆け込んだ。
572 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:03.40 ID:K2IPlNY0
かつて同じ忠告に怒りを向けた耕司は、今度は冷ややかな失笑で返答した。
573 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:03.94 ID:K2IPlNY0
吐き捨てるようにそう言う郁紀の口調には、気まずくなった空気を和ませようなどという配慮は欠片ほどもなかった。
574 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:04.50 ID:K2IPlNY0
「僕の後をつけて来たんだね? 耕司」
575 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:05.11 ID:K2IPlNY0
受け取った途端、ずっしりと重い質量が耕司の手にかかる。
576 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:06.23 ID:K2IPlNY0
衝撃に凝然と目を見開いた顔のまま、凉子の唇から間歇泉(かんけつせん)のように血の筋がほとばしる。
577 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:06.99 ID:K2IPlNY0
「ごめんね。いちばん美味しいところは、さっき沙耶がぜんぶ食べちゃった」
578 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:07.60 ID:K2IPlNY0
沙耶は僕を励ますように、やや弾んだ口調で付け加える。
579 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:08.54 ID:K2IPlNY0
だがそれは同時に、最後に瑶の声を聞いたときのあの苦悶ぶりが、郁紀と無関係ではないことも意味していた。
580 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:09.20 ID:K2IPlNY0
581 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:09.78 ID:K2IPlNY0
582 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:10.39 ID:K2IPlNY0
583 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:11.01 ID:K2IPlNY0
その日から、毎夜の逢瀬が始まった。
584 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:11.56 ID:K2IPlNY0
わたしは、意気地なしだった』
585 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:12.74 ID:K2IPlNY0
「1年前、奥涯がうちの大学に持ってきた試料も、その文章と同じぐらい突拍子もないものだった」
586 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:13.45 ID:K2IPlNY0
怪物が僕の家の中にいた。沙耶を床に組み伏せて犯していた。
587 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:13.99 ID:K2IPlNY0
「私が匂坂くんから聞いたところによると、彼は奥涯の親族から調査を頼まれている、という話だった」
588 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:14.55 ID:K2IPlNY0
「タンポポって花があるよね。種を風に乗せて飛ばすやつ」
589 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:15.11 ID:K2IPlNY0
答えはない。だが扉の外からはたしかに、何かと葛藤するような彼女の気配が伝わってくる。
590 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:16.58 ID:K2IPlNY0
591 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:17.19 ID:K2IPlNY0
これならば――そう気を取り直して、耕司は家の他の場所も見て回ることにした。
592 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:17.88 ID:K2IPlNY0
「……」
593 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:18.72 ID:K2IPlNY0
“悲鳴を上げて逃げ回る以外の選択肢が、自分にはある――”
594 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:19.27 ID:K2IPlNY0
595 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:20.05 ID:K2IPlNY0
「遅すぎるよ。彼女はとっくに死んでるだろう。誰もが君ほど幸運だなんて思わない方がいい」
596 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:21.82 ID:K2IPlNY0
597 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:22.41 ID:K2IPlNY0
「沙耶――外だよ」
598 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:22.98 ID:K2IPlNY0
「沙耶は食べないの?」
599 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:23.58 ID:K2IPlNY0
沙耶が少し不服そうな声で口を尖らせたのが意外だった。
600 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:24.35 ID:K2IPlNY0
次に目が覚めるときには、山を下り、あの街の賑わいに身を投じる決心がついているかもしれない。そんな決心さえ必要なくなっているかもしれない。
601 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:25.13 ID:K2IPlNY0
602 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:25.76 ID:K2IPlNY0
603 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:26.33 ID:K2IPlNY0
「そうか。お父さん、見つかるといいね」
604 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:26.94 ID:K2IPlNY0
「……そいつは言いがかりのつけ方が逆だろ、耕司」
605 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:27.51 ID:K2IPlNY0
「なぁ、それって俺とお前の役回りが逆じゃないのか?」
606 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:28.09 ID:K2IPlNY0
彼女が力を込めるたび、可愛らしい鎖骨が浮き上がり、そこから浅く柔らかい曲線を描く乳房が湯の中を泳ぐのが見える。
607 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:28.66 ID:K2IPlNY0
608 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:29.22 ID:K2IPlNY0
弱々しく訴えかけながら、瑶は摺り足で前に進む。
609 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:29.95 ID:K2IPlNY0
そんなことを耕司は、なかば本気で考え始めていた。
610 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:30.53 ID:K2IPlNY0
611 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:31.54 ID:K2IPlNY0
612 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:32.14 ID:K2IPlNY0
行き先も告げずに栃木にまで来てしまったが、青海のことがあって間もないだけに、ひょっとしたら今ごろは心配しているかもしれない。
613 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:32.97 ID:K2IPlNY0
うちの病院がある大学のキャンパスってね、けっこう野良猫が居着いたりしてたんですよ。学生がエサあげたりするから、近所の野良猫が集まってきて。
614 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:33.58 ID:K2IPlNY0
僕の腕の中で、いつになく沙耶の身体は熱かった。ときどき背筋から四肢へと駆け抜ける痙攣は、痛ましいほどに激しく、ともすれば彼女の脆い身体をバラバラに壊してしまいそうなほどだった。
615 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:34.36 ID:K2IPlNY0
こんな内容を真に受けるなら、その他のすべて――世界の法則を統べる理屈のすべてが戯言になってしまうではないか。
616 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:35.22 ID:K2IPlNY0
617 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:35.98 ID:K2IPlNY0
「でもお前、たしか、あのとき――」
618 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:36.52 ID:K2IPlNY0
“彼はもう引き返せない所まで踏み込んでいる”
619 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:37.10 ID:K2IPlNY0
「いいや」
620 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:37.69 ID:K2IPlNY0
621 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:38.24 ID:K2IPlNY0
622 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:38.86 ID:K2IPlNY0
ふいに凉子が足を止め、床に注目する。耕司も後ろから覗き込んだ。埃をかぶったロープの束が丸めてうち捨てられている。
623 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:39.68 ID:K2IPlNY0
匂坂家の門前に立ったところで、青海は深呼吸をし、昴った神経をいったん落ち着けた。
624 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:40.41 ID:K2IPlNY0
625 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:40.99 ID:K2IPlNY0
「どういう意味です?」
626 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:41.56 ID:K2IPlNY0
そのとき沙耶が見せた表情は、哀しむような、それでいて何か安堵したかのような、どちらにも取れる不思議な微笑だった。その笑顔を見た僕はにわかに不安になった。まるで僕の軽率な一言が、どうしようもなく沙耶を傷つけてしまったかのような気がした。
627 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:42.13 ID:K2IPlNY0
郁紀は耕司を避けなくなった。面と向かって話すようになった。それなのに何故か今の郁紀は、かつて耕司たちを遠ざけようとしていた頃の彼よりも、余計に遠くへ行ってしまったような気がしてならない。
628 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:42.69 ID:K2IPlNY0
こういうことを女性にやられるのは初めての体験で、正直なところ僕はショックに打ちのめされていた。
629 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:43.29 ID:K2IPlNY0
「俺の場合、先生っていう前例を見て学んでますからね。抜かりはありませんよ」
630 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:44.42 ID:K2IPlNY0
吹きさらしの前庭の気温は刺すほどに冷たい。あんなにも冷たく思えた地中の泥よりも、外気はなお一層厳しかったという事実を、今さらながら理解した。
631 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:44.97 ID:K2IPlNY0
「まぁ落ち着け。ここで君がいくら殺気立ってみたところで始まらん」
632 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:45.53 ID:K2IPlNY0
ほとんど間を置かず、携帯電話が着信音を鳴らす。むろん相手は確かめるまでもない。
633 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:46.11 ID:K2IPlNY0
634 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:46.70 ID:K2IPlNY0
ゆっくりと、だが決然と、郁紀は頭を後ろに反らし……次の瞬間、まるでバネ仕掛けの玩具のように機械的な勢いで、頭を斧の刃に叩きつけた。
635 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:47.38 ID:K2IPlNY0
丹保の表情がありありと変わったのを見て取って、耕司は言葉を止めた。
636 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:47.99 ID:K2IPlNY0
もう一度、あ、い――
637 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:48.55 ID:K2IPlNY0
638 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:49.14 ID:K2IPlNY0
639 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:49.73 ID:K2IPlNY0
「もう全然問題ない。一方通行の標識もどういうのか解ったし。スピードさえ出さなければどこを走っても大丈夫だよ。で、そっちは?」
640 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:50.30 ID:K2IPlNY0
641 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:50.85 ID:K2IPlNY0
ついさっきの凉子の言葉。冷ややかな語調が、よりいっそう冷酷に耕司の耳の中で蘇る。
642 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:51.40 ID:K2IPlNY0
「お前がこれ以上、誰も傷つけないというのなら、俺にしたことは忘れてやる。この別荘で見つけたことも。
643 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:51.96 ID:K2IPlNY0
小さな鳴き声に振り向くと、もう一匹、さっきより小さい怪物が階段の踊り場からこちらを窺っていた。
644 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:52.61 ID:K2IPlNY0
耕司の心境などまるで意中にない口調で、凉子は冷たく言い放った。
645 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:53.35 ID:K2IPlNY0
646 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:11:54.01 ID:K2IPlNY0
「――ふぅん」
647 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:55.16 ID:K2IPlNY0
無駄と知りつつ、僕は沙耶の姿をもとめて家中をうろつき廻った。小一時間ほどもそうやって、現実を受け入れまいと無駄な努力を続けた。
648 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:56.27 ID:K2IPlNY0
『どんどん……腐って、いくの……肌が、崩れて……さっき……耳が、取れ、ちゃった……』
649 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:57.68 ID:K2IPlNY0
「君は――これからもずっと、この病院に居続けるのかい?」
650 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:58.46 ID:K2IPlNY0
「ともかく、今日は脚が必要なんだ。車を出してくれないか?」
651 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:59.08 ID:K2IPlNY0
そう考えて、改めて耕司は自分の行動が解らなくなってきた。
652 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:11:59.73 ID:K2IPlNY0
ぐじっ
653 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:00.34 ID:K2IPlNY0
「たぶん、表に積み上げてあるゴミのせい。あれ、普通の人間にはちょっと耐えられないんじゃないかな?」
654 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:01.81 ID:K2IPlNY0
655 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:02.46 ID:K2IPlNY0
洋佑の中で、ぞわり、と狂おしい欲望が鎌首をもたげる。
656 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:03.03 ID:K2IPlNY0
限界――次の瞬間に、僕の欲望がたっぷりと瑶の顔面にぶちまけられた。
657 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:03.84 ID:K2IPlNY0
文字通り逃げるようにして、僕はその場を後にした。
658 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:04.88 ID:K2IPlNY0
「端的な感想ありがとう。でもね、君だって他人事じゃなくなるよ。これ以上先に進むんならね」
659 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:05.46 ID:K2IPlNY0
そうは思っても、油断はできなかった。郁紀はいつどのタイミングで、耕司が助勢を連れていないか確かめようとしてもおかしくない。ここで下手を打って郁紀を警戒させたら、奇襲を企む凉子の思惑も水泡に帰すのだ。もうしばらく、凉子には狭いトランクの中で我慢してもらうしかない。
660 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:06.08 ID:K2IPlNY0
このまま沙耶が戻らなかったら――そう考えると頭髪を引き毟りたくなるほどの焦燥に駆られる。久しく遠ざかっていた真の孤独への恐怖が、じわじわと僕を圧迫していく。
661 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:06.79 ID:K2IPlNY0
「続けろ、瑶」
662 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:07.92 ID:K2IPlNY0
耕司はだんだんと空恐ろしくなってきた。郁紀も異常だったが、この女医はさらに常軌を逸しているのではなかろうか。
663 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:08.49 ID:K2IPlNY0
「この先、すべてを先生に任せろと言うのなら――先生のこと、信用させてください」
664 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:09.08 ID:K2IPlNY0
僕は我を忘れて吼え猛りながら肉塊を斬って斬って斬って斬って斬りまくり、ヤツが微動だにしなくなってからも切り刻み、それから屍がもう苦痛を感じないことに気がついて余計に逆上し、さっさと殺してしまった悔しさに駆られて包丁を突き立てた。
665 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:09.75 ID:K2IPlNY0
その光景は、かつて幾度となく凉子の眠りを苛(さいな)み、悲鳴とともに夜の静寂を破らせた悪夢の光景と、示し合わせたように合致していた。
666 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:10.31 ID:K2IPlNY0
667 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:11.00 ID:K2IPlNY0
「いいよ。じゃあ僕は居間の続きをやってる」
668 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:11.70 ID:K2IPlNY0
むしろ先に酒の方が尽きてしまいそうなのが手痛い誤算だった。
669 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:12.34 ID:K2IPlNY0
それとも、ただの同情なのか? 人として社会と繋がる術を、何もかも失ってしまった僕への哀れみなのか? たったそれだけの理由でここまで乱れ狂えるほどに、君は淫らな子だっていうのか?
670 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:12.88 ID:K2IPlNY0
671 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:13.61 ID:K2IPlNY0
672 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:14.16 ID:K2IPlNY0
673 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:14.71 ID:K2IPlNY0
674 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:15.28 ID:K2IPlNY0
今となってはもう無理だが、もし瑶の末路について彼女自身の見解を問うことができるなら、間違いなく彼女は僕に殺される方を望んだだろう。今の瑶の境遇は、ただ殺される以上に惨い有様に違いない。そうと弁(わきま)えた上で沙耶は、こんなことをしたのだ。
675 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:15.87 ID:K2IPlNY0
冷たい夜気はほんの少しだけでも沙耶の熱を冷ましてくれるかもしれない――そんな虚しい望みも、ますます短く切迫した呼吸で、血色のない唇を喘がせている沙耶の有様に、一歩の慈悲もなく消し飛んだ。
676 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:16.67 ID:K2IPlNY0
どのくらいの時間、そうやって野生の沙耶を見守っていたのか分からない。痛みのあまり何度か意識が遠退いたこともある。正直なところ、僕は暴力沙汰というのには慣れていない。
677 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:17.51 ID:K2IPlNY0
678 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:18.14 ID:K2IPlNY0
それにしても――ただの患者であるという以外にこのT大とは何の縁もない匂坂が、どうやって奥涯のことを知ったのか?
679 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:21.29 ID:K2IPlNY0
「貴様、青海をどうした? 津久葉にいったい何をした? それを考えてもまだ俺が、貴様を[
ピーーー
]のに迷うだと?」
680 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:21.92 ID:K2IPlNY0
『彼女たちが異世界への扉を見つけだす可能性は如何ほどだろうか。首尾良く異界への旅を成し遂げたとして、辿り着いた世界が生命の繁殖に適した環境である可能性は、さらにどれほど稀少だろうか。
681 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:22.53 ID:K2IPlNY0
「……チッ!?」
682 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:23.06 ID:K2IPlNY0
こうやってひとつずつ、僕は生きる楽しみを取り戻していくのだろう。沙耶と一緒に。
683 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:23.68 ID:K2IPlNY0
「――んぐ――んぐ――」
684 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:24.46 ID:K2IPlNY0
「このォッ!」
685 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:25.04 ID:K2IPlNY0
686 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:25.99 ID:K2IPlNY0
687 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:26.56 ID:K2IPlNY0
返答の代わりに、凉子はもう一方の手に持っていた銀色の筒を、床に倒れた耕司へと投げよこした。
688 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:27.27 ID:K2IPlNY0
※選択肢
689 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:28.29 ID:K2IPlNY0
「ふぅん」
690 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:29.02 ID:K2IPlNY0
「ご飯、できたよ〜」
691 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:12:29.64 ID:K2IPlNY0
慰めるようにやさしく指で竿をさすり上げながら、上目遣いに訊いてくる沙耶。
692 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:30.17 ID:K2IPlNY0
「なんだか……不安なんだよね。そういう心理戦っていうの。確実じゃない、っていうか……」
693 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:30.73 ID:K2IPlNY0
694 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:31.44 ID:K2IPlNY0
もし彼女に出会うことなく、この汚穢(おわい)に歪んだ世界にただ独り取り残されていたら、ほどなく僕は本物の狂気に冒されていただろう。今の僕は彼女によって生かされていると言ってもいいほどだ。
695 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:32.09 ID:K2IPlNY0
696 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:32.67 ID:K2IPlNY0
「たぶん。そこに奥涯教授もいるらしい」
697 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:33.28 ID:K2IPlNY0
<<郁紀に電話ルート>>
698 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:33.95 ID:K2IPlNY0
「でも、それじゃ大した効き目はなかった。悪夢は日毎にひどくなっていく一方で。安眠するには鉈じゃまだ足りなかったんだ。それで父の銃を盗んできた。
699 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:34.83 ID:K2IPlNY0
やはり沙耶は本気で、僕との子供を求めているんだろうか?
700 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:36.07 ID:K2IPlNY0
瑶の豊満な胸に股間を預けたまま、僕は快楽を満喫するのとは別の部分の思考を使って、状況を吟味した。
701 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:36.79 ID:K2IPlNY0
あろうことか――生物の精子、である。食物とは別にそれを胎内に吸収したい、というのだ。またしてもその欲求について『本能的衝動』という表現を使っている。
702 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:37.42 ID:K2IPlNY0
ただ必死だった。祈る相手は神でも悪魔でもなく、郁紀ただ一人だけだった。奇跡を願うのと同じ気持ちで、ただ郁紀の変心に一縷(いちる)の望みを託して叫んだ。
703 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:38.00 ID:K2IPlNY0
「津久葉が死んでると決めてかかってるあんたなら、当然そう思うでしょうね」
704 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:38.61 ID:K2IPlNY0
705 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:39.27 ID:K2IPlNY0
「大丈夫。安心していいよ。……さ、じゃあ急いで支度しよう」
706 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:39.91 ID:K2IPlNY0
僕はどう答えただろうか……事故の後、はじめて目を開けて恐怖したあの日なら。
707 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:40.93 ID:K2IPlNY0
それ以外の窓はカーテンどころか雨戸まで閉め切られていることに、いまさらながら瑶は気がついた。
708 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:41.59 ID:K2IPlNY0
郁紀は耕司を殺して秘密を闇に葬る気だろう。そもそも瑶が無事かどうかも怪しいものだ。いま目の前にある冷蔵庫に彼女の肉があったとしても何の不思議もない。
709 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:42.45 ID:K2IPlNY0
「ああ、これはこれで……」
710 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:43.73 ID:K2IPlNY0
711 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:44.35 ID:K2IPlNY0
「くそおォ! 畜生ォォォ!!」
712 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:45.03 ID:K2IPlNY0
713 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:45.83 ID:K2IPlNY0
714 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:48.15 ID:K2IPlNY0
「教えてくださいよ、先生――」
715 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:48.75 ID:K2IPlNY0
「明日にでも行ってみようかな。ここ」
716 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:49.39 ID:K2IPlNY0
717 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:50.00 ID:K2IPlNY0
718 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:50.51 ID:K2IPlNY0
単独でいる今のうちに、知らせられるだけの情報は伝えておこう。
719 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:51.26 ID:K2IPlNY0
僕は狂ってなんかいない。
720 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:51.92 ID:K2IPlNY0
「他の人じゃ、駄目なんだ。僕、事故にあって、その後遺症らしいんだけど……人がヒトの姿に見えないんだよ」
721 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:52.64 ID:K2IPlNY0
722 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:53.87 ID:K2IPlNY0
「ひぃッ、ひぃッ、ヒィィィッ!」
723 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:54.51 ID:K2IPlNY0
724 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:55.06 ID:K2IPlNY0
手短に用件を伝えただけで、通話は切れた。
725 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:55.69 ID:K2IPlNY0
726 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:56.45 ID:K2IPlNY0
727 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:57.01 ID:K2IPlNY0
「郁紀……」
728 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:57.62 ID:K2IPlNY0
「――で、あと心配なのが、津久葉瑶って女の人?」
729 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:12:59.57 ID:K2IPlNY0
「ねぇ――郁紀――イキそうに、なったら――」
730 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:00.38 ID:K2IPlNY0
本音を言えば耕司とて、これから単独で事に当たるのは、あまりにも心細かった。
731 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:01.26 ID:K2IPlNY0
その後もしばらく、奥涯と『彼』との蜜月の記録は続く。
732 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:01.92 ID:K2IPlNY0
――さしたる感慨はなかった。
733 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:02.54 ID:K2IPlNY0
「うん!」
734 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:03.36 ID:K2IPlNY0
「え〜?」
735 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:04.09 ID:K2IPlNY0
沙耶がテーブルに乗せた料理は……残念ながら、お世辞にも食欲をそそるような色味と匂いをしていなかった。だがそんなのは外食すれば毎度のことだ。
736 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:04.66 ID:K2IPlNY0
眺めているうちに僕は、まるで沙耶のあどけなく清楚な彼女の顔を陵辱しているかのような気分になってきた。ひときわ禁忌感を刺激し、そそられる倒錯の歓喜。
737 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:05.29 ID:K2IPlNY0
居間や寝室と同様に、この風呂場も僕と沙耶の色に塗り込めた安らぎの空間だ。玄関や廊下は万が一のとき人目に触れても問題ないよう、元の色彩のまま残してある。自分の家でありながら、僕が心底リラックスできる場所は三部屋しかない。
738 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:06.04 ID:K2IPlNY0
739 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:06.87 ID:K2IPlNY0
この塗装が数日中の出来事でないのは、部屋の隅に溜まった埃の量から明らかだ。
740 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:07.66 ID:K2IPlNY0
741 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:08.57 ID:K2IPlNY0
「ぅわ、わ、わぁぁ……ッ」
742 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:09.23 ID:K2IPlNY0
凉子に負けず劣らず硬い口調で、耕司は短く返答した。
743 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:10.05 ID:K2IPlNY0
沙耶は言葉を切り、深く息を吸ってから、言った。
744 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:10.90 ID:K2IPlNY0
「ひどい……」
745 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:11.78 ID:K2IPlNY0
この場にあってはならないほど軽やかな電子音とともに、瑶の手の中で光が瞬いた。液晶画面の冷たい光。新たなメールの着信だった。
746 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:12.61 ID:K2IPlNY0
「――本当ですか?」
747 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:13.30 ID:K2IPlNY0
試しに値のうち幾つかを選出して私のノートPCに入力し、ルーカステストを行ったところ、そのすべてが正解だった。おそらく残りは確認するまでもないだろう。
748 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:13.89 ID:K2IPlNY0
「頑張るよ。どんなことだってやる。僕は――」
749 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:14.56 ID:K2IPlNY0
――何のつもりだ? ただ説教がしたくて呼び止めたのか?
750 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:15.20 ID:K2IPlNY0
「沙耶、もう――」
751 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:15.78 ID:K2IPlNY0
「沙耶、もう――」
752 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:16.44 ID:K2IPlNY0
そして、
753 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:17.32 ID:K2IPlNY0
「どのぐらい――かな」
754 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:18.36 ID:K2IPlNY0
「んぐ……ちゅ……ぱぁふ」
755 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:19.02 ID:K2IPlNY0
756 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:19.67 ID:K2IPlNY0
凉子は腕時計の針を確認する。午前七時。戸尾耕司がどこにも寄り道せずに車を駆ったのだとしたら、そろそろ東京に着く頃合いだろう。
757 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:20.61 ID:K2IPlNY0
そういえばこの病院は怪談話が絶えないことで有名だ。
758 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:21.23 ID:K2IPlNY0
759 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:22.04 ID:K2IPlNY0
「俺が警察に行けば、済むことです」
760 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:22.62 ID:K2IPlNY0
つまり今、闇の底に独り座り込んでいる自分は、すでにもう丸腰なのだと――そう耕司が理解した、そのとき。
761 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:23.35 ID:K2IPlNY0
「うわぁ、いっぱい出た……」
762 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:23.98 ID:K2IPlNY0
763 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:24.69 ID:K2IPlNY0
764 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:25.64 ID:K2IPlNY0
真っ暗な夜の海。
765 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:26.22 ID:K2IPlNY0
途方に暮れて、そう訊き返すのが精一杯の僕に、沙耶はようやく感情をおちつけて、沈んだ声で語り始めた。
766 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:26.79 ID:K2IPlNY0
次に目が覚めるときには、山を下り、あの街の賑わいに身を投じる決心がついているかもしれない。そんな決心さえ必要なくなっているかもしれない。
767 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:27.34 ID:K2IPlNY0
「沙耶――ッ!?」
768 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:27.96 ID:K2IPlNY0
小悪魔的に笑いながら僕をベッドへと押し倒す沙耶は、いつもと変わらない甘い重さと感触で、僕の自由を奪ってしまう。
769 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:28.56 ID:K2IPlNY0
車を止めて、耕司は改めて手元の写真と目の前の建築物とを見比べる。たしかに、間違いない。
770 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:29.25 ID:K2IPlNY0
771 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:30.10 ID:K2IPlNY0
時間が時間だけに、広い店内はぽつりぽつりと孤島のように数卓が埋まっているばかりである。気怠げに注文を取りに来たウェイトレスを、コーヒー2杯の注文で追い払った後は、耕司と凉子は忘れ去られたかのように客席の片隅で孤立していた。
772 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:30.79 ID:K2IPlNY0
だからといって凉子が何かの助けになるかといえば――きっと彼女は、耕司がもっとも望まない形での決着をつけようとするだろう。彼女を頼みにするわけにはいかない。
773 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:31.43 ID:K2IPlNY0
「……ひどい有様だな。ほら、これ」
774 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:32.94 ID:K2IPlNY0
愛くるしく繊細な顔が驚きと恐怖に凍る。その表情が洋佑の嗜虐心に火をつけた。二匹の化け物を殺したあとも胸に燻り続けていた暴力衝動の残り火に、新たな燃料が注ぎ込まれる。
775 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:13:33.91 ID:K2IPlNY0
「お父さんがここにいる可能性は?」
776 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:34.65 ID:K2IPlNY0
横合いからの不意打ちで手から携帯電話を叩き落とされたのにも、耕司は咄嗟の反応ができなかったし、その瞬間まで、すぐ傍に忍び寄っていた郁紀の存在には気付きもしなかった。
777 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:35.99 ID:K2IPlNY0
沙耶のその呟きに込められた孤独の色が、哀しい祈りが、僕の胸を締め上げた。
778 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:36.98 ID:K2IPlNY0
講堂に向かうのかと思いきや、様子が違う。どうやら帰宅するつもりらしい。
779 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:37.79 ID:K2IPlNY0
かけ直そうかとも思ったが、よくよく考えれば郁紀と一緒のときに彼女と連絡を取るのは問題だろう。耕司と瑶が主治医のところまで押しかけていったと知れば、郁紀はまた機嫌を損ねるに違いない。
780 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:38.45 ID:K2IPlNY0
781 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:39.32 ID:K2IPlNY0
782 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:40.12 ID:K2IPlNY0
「うん……今日ね、隣の家の息子に会ったよ」
783 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:41.51 ID:K2IPlNY0
自分がドアノブに手をかけ、ゆっくりと引き開けるのを、瑶は心の奥のどうしようもない部分に追いやられた思考で、なすすべもなく意識していた。
784 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:42.40 ID:K2IPlNY0
『うん、ありがとう。
785 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:43.23 ID:K2IPlNY0
どこにも逃げ場はなかった。悪夢の終わりはなかった。
786 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:44.58 ID:K2IPlNY0
返答があった。たしかに津久葉瑶の声――だろうか? 呻吟(しんぎん)に掠れ潰れて、声音の質はよく解らない。
787 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:45.47 ID:K2IPlNY0
皮肉をたっぷり交えた嘲りの口調で、電話先の郁紀がクスクスと笑う。
788 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:46.15 ID:K2IPlNY0
「やっぱり……郁紀にはさ、家族とか、友達とか、もっともっと大勢いたほうがいいのかな?」
789 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:47.17 ID:K2IPlNY0
790 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:48.05 ID:K2IPlNY0
「いただきます」
791 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:49.06 ID:K2IPlNY0
無様に泣き崩れた顔を見られて、きっと笑われるんだろう。からかわれるんだろう。それでいい。この上もなく幸せだ。だから一刻も早くこの仕打ちを終わらせてほしい。
792 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:49.73 ID:K2IPlNY0
793 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:50.28 ID:K2IPlNY0
先人の教訓を胸に刻んだ耕司には、もちろん、準備に抜かりはない。
794 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:50.88 ID:K2IPlNY0
だがこいつらに銃弾が決め手にならないのは耕司も経験済みである。チャンスは、今しかない。
795 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:51.76 ID:K2IPlNY0
796 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:52.62 ID:K2IPlNY0
「さあ、どうだかな。どうだっていいことだろう」
797 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:53.23 ID:K2IPlNY0
冷たくもない、粘ついてもいない、まぎれもない人間の――肌。その髪に薫る芳しい少女の匂い。
798 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:53.78 ID:K2IPlNY0
想いを告げた瑶が郁紀と再会したのは、その一週間後――集中治療室の窓ガラス越しに見る、重体の郁紀の痛々しい姿だった。
799 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:54.74 ID:K2IPlNY0
800 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:55.90 ID:K2IPlNY0
「うんうん、分かる分かる。郁紀は男の子だからそれでいいの。正常な本能だよ?」
801 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:56.75 ID:K2IPlNY0
総じてアンティークの類、と見えなくもないが、いずれにも共通するのは、どこか見る者の生理的嫌悪を掻き立てるような悪趣味な意匠である。
802 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:58.35 ID:K2IPlNY0
「郁紀ィ――ッ!」
803 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:13:59.39 ID:K2IPlNY0
やはり、家の中にはもういないのか……安堵に似た脱力が、洋佑の緊張を緩ませる。
804 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:00.36 ID:K2IPlNY0
「……俺が単独なのを確認するまで、居場所は教えないつもりみたいです」
805 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:01.19 ID:K2IPlNY0
『……助けて……戸尾、くん……こんなの……こんな形の、指……私の、手じゃ……ない……』
806 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:02.54 ID:K2IPlNY0
怪物の動くリズムに合わせて、沙耶の啜り泣く声がしゃくり上げるように上擦る。涙に濡れた瞳が僕を見た。息も絶え絶えのまま、彼女はか細い声で僕を呼ぶ。
807 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:03.47 ID:K2IPlNY0
沙耶は見ていて気の毒になるほどに狼狽していた。そういえば沙耶は食事の場面を決して僕に見せたことがない。よほど恥ずかしがっていたんだろうか。何だか僕はとんでもなく卑劣な覗き見をしてしまったような気分になり、途端に沙耶に申し訳なくなった。
808 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:04.09 ID:K2IPlNY0
「……津久葉?」
809 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:05.28 ID:K2IPlNY0
「うん、まぁ」
810 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:06.20 ID:K2IPlNY0
郁紀だ。
811 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:07.29 ID:K2IPlNY0
それで心底『可愛い』と思えるようになった。
812 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:07.97 ID:K2IPlNY0
ふらふらとおぼつかない足取りで、洋佑は玄関から外に出た。
813 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:08.53 ID:K2IPlNY0
「……ひどい有様だな。ほら、これ」
814 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:09.85 ID:K2IPlNY0
それとも沙耶は、女の裸体を前にした男が感情とは別の次元で反応せざるを得なくなるということを、理解してくれていないんだろうか。
815 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:10.57 ID:K2IPlNY0
上だ。青海の頭上から滴り落ちてくるのだ。
816 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:11.35 ID:K2IPlNY0
「なぁ津久葉……」
817 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:12.07 ID:K2IPlNY0
818 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:13.01 ID:K2IPlNY0
せっかく人目につかない所まで出かけるんなら、ついでに……と、思ってさ」
819 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:13.73 ID:K2IPlNY0
そして洋佑の両耳と鼻から、細くうねる管状のものが頭蓋の中に進入してきた。
820 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:14.41 ID:K2IPlNY0
そこまで瑶の意気が萎えて追いつめられるのを、相手は待ちかまえていたのかもしれない。
821 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:14.99 ID:K2IPlNY0
だが意味不明の頁だけを選り分けていくうちに、自ずとカラクリは判明した。各行の続きは別のルーズリーフの同じ行へと続いていたのだ。
822 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:15.65 ID:K2IPlNY0
戦慄して瑶は周囲を見渡した。やはり――見られている。
823 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:16.75 ID:K2IPlNY0
持ち合わせた煙草の箱が空になり、あとは苛立ちとの戦いが始まった。何度か気晴らしに携帯電話で青海の番号をリダイヤルし、無駄と知りつつも短いメールを打った。もちろん何の反応もなかった。
824 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:17.36 ID:K2IPlNY0
いずれにせよ――
825 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:18.05 ID:K2IPlNY0
つまり今、闇の底に独り座り込んでいる自分は、すでにもう丸腰なのだと――そう耕司が理解した、そのとき。
826 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:18.65 ID:K2IPlNY0
一度目よりも湿った音だった。
827 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:19.54 ID:K2IPlNY0
知っている。だが沙耶に話したことはない。
828 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:20.42 ID:K2IPlNY0
829 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:21.04 ID:K2IPlNY0
さっきのような凝った演出の悪夢よりは、まだこういう幻覚の方が与(くみ)しやすい。症状としてはより重いのかもしれないが。
830 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:21.84 ID:K2IPlNY0
「……」
831 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:22.51 ID:K2IPlNY0
『いや、僕はまだ一人だけ』
832 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:23.10 ID:K2IPlNY0
「君はそれ以上のことを、僕のためにしてくれるんだ」
833 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:23.92 ID:K2IPlNY0
「目を開けちゃ駄目!」
834 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:24.86 ID:K2IPlNY0
「なによぅ。スケートしたことなかったのがそんなに不思議?」
835 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:25.55 ID:K2IPlNY0
「郁紀はさ、沙耶に子供産ませるの、嫌?」
836 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:26.12 ID:K2IPlNY0
からかうような口調で言いながら、沙耶は僕の股間を暴き出すと、白く繊細な指で竿と睾丸をそれぞれに包み込む。
837 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:26.88 ID:K2IPlNY0
838 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:27.59 ID:K2IPlNY0
839 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:28.19 ID:K2IPlNY0
そいうえば、閉め切った室内には塗料の溶剤の臭気が立ちこめているはずだ。だが、もっと嫌な匂いを外でさんざん嗅がされてきた僕には、べつだん気になるようなものではない。
840 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:28.80 ID:K2IPlNY0
「間違いなく言えるのは、そいつが奥涯の研究の核にあるモノらしい、ということだけだ。もし匂坂くんがこの沙耶と呼ばれるものとすでに深く関わっているのなら、彼はもう引き返せない所まで踏み込んでいる、ということになる」
841 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:29.43 ID:K2IPlNY0
あの津久葉瑶が、こんな声を出すわけがない。こんな匂いを放つわけがない。
842 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:30.17 ID:K2IPlNY0
『ギャアアアアッ!』
843 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:31.24 ID:K2IPlNY0
「ふぅん……わたしも見てみたいな。青海ちゃんが食べられるところ」
844 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:32.82 ID:K2IPlNY0
暗号めいた形で放置されていた手記を、一貫して読める形に書き直し、重複を削除し、索引性を高めて編集していく。
845 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:33.73 ID:K2IPlNY0
沙耶はゆっくりと指を曲げて、僕の指に優しく絡めてきた。
846 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:34.72 ID:K2IPlNY0
その言葉を自分の口で繰り返し呟いた途端、耕司の中に、静かな、だが抑えきれないほどに猛る怒りが湧いてきた。
847 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:35.35 ID:K2IPlNY0
848 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:35.94 ID:K2IPlNY0
「……どうして……」
849 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:36.54 ID:K2IPlNY0
850 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:37.38 ID:K2IPlNY0
851 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:38.16 ID:K2IPlNY0
「見るんじゃない」
852 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:38.76 ID:K2IPlNY0
「なぁに?」
853 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:39.35 ID:K2IPlNY0
すぐ間近で、カチカチとテンキーを押す音が秘めやかに連続する。
854 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:40.10 ID:K2IPlNY0
売れっ子の画家というほどのこともない。個展を開くのも赤字が前提だ。だが書斎のマッキントッシュで片手間にこなす副業のエディトリアルデザインで、日々の暮らしに苦のないだけの糧は得ている。
855 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:41.14 ID:K2IPlNY0
――憶えてないんですか? と、そう口走ってしまいそうになり、瑶は核心に触れる言葉をぐっと堪えた。
856 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:42.14 ID:K2IPlNY0
今度は耕司が肩を竦(すく)めた。生者の特権として、ちゃんと両肩で。
857 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:42.86 ID:K2IPlNY0
そうは思っても、油断はできなかった。郁紀はいつどのタイミングで、耕司が助勢を連れていないか確かめようとしてもおかしくない。ここで下手を打って郁紀を警戒させたら、奇襲を企む凉子の思惑も水泡に帰すのだ。もうしばらく、凉子には狭いトランクの中で我慢してもらうしかない。
858 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:43.63 ID:K2IPlNY0
その日以来、僕は待ち続けている。
859 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:44.23 ID:K2IPlNY0
決して怯むまいと心に決めていた瑶だったが、そんな彼女の決意を挫くほどに、郁紀の表情の険しさは常軌を逸していた。
860 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:44.89 ID:K2IPlNY0
861 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:45.50 ID:K2IPlNY0
次に目を覚ましたとき、耕司は乾いた柔らかい感触に身を預けていた。
862 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:46.08 ID:K2IPlNY0
863 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:47.08 ID:K2IPlNY0
僕の心配は杞憂なんだろうか。仮にも一人の女性を愛することを誓った男である以上は、当然の心遣いだと思うのだが。
864 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:47.69 ID:K2IPlNY0
一目見た外観だけでこの廃墟は気に入っていた。さして広くない前庭には不法投棄された建材や粗大ゴミが山になり、ていのいいバリケードになっている。ここならば自宅にいた頃よりもさらに他人の干渉はなさそうだ。
865 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:49.01 ID:K2IPlNY0
866 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:49.92 ID:K2IPlNY0
顔面を真紅のオブジェに変えた郁紀は、再び、さっきよりもゆっくりと頭を反らし、そして燃え残りの生命の最後の力までを振り絞って、血染めの刃へと叩頭した。
867 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:50.77 ID:K2IPlNY0
茶色い染みだけの残ったコーヒーカップを凝視しながら、凉子は硬く乾いた口調で切り出す。
868 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:51.76 ID:K2IPlNY0
携帯電話にむけて怒鳴る耕司の声は悲鳴に近かった。いま瑶が直面している状況への、想像を絶した恐怖に、耕司の理性もまた蝕まれていた。
869 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:53.28 ID:K2IPlNY0
870 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:53.99 ID:K2IPlNY0
隣に座っている青海が、剥き出しの頬骨をカタカタと鳴らしながら提案した。
871 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:54.86 ID:K2IPlNY0
それとも沙耶は、女の裸体を前にした男が感情とは別の次元で反応せざるを得なくなるということを、理解してくれていないんだろうか。
872 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:55.53 ID:K2IPlNY0
むろん、変異は時間の問題だった。
873 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:56.21 ID:K2IPlNY0
「……嬉しくない?」
874 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:57.31 ID:K2IPlNY0
いくら何でも口の中になんて、我ながらあんまりだと思う。
875 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:58.38 ID:K2IPlNY0
「ああ、うんうん」
876 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:58.96 ID:K2IPlNY0
877 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:14:59.64 ID:K2IPlNY0
今の僕だから、今の沙耶がいる。――そう、さっき僕自身がそう言った。僕が驚くようなことじゃない。
878 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:00.26 ID:K2IPlNY0
879 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:02.01 ID:K2IPlNY0
沙耶は『手がかりになりそうな物など何もない』と言っていたが、あにはからんや、教授の家は探す価値のありそうな場所があまりにも多かった。今日一日では無理だと途中で諦めたが、この調子では、あの書斎を調べ尽くすだけでも何日かかることになるのやら。
880 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:02.76 ID:K2IPlNY0
徐行で門柱の側まで車を寄せてから停車し、耕司はエンジンを切って森の静寂に身を任せた。
881 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:03.60 ID:K2IPlNY0
882 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:05.00 ID:K2IPlNY0
「やめ――」
883 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:06.86 ID:K2IPlNY0
「うー、まぁ、ね……」
884 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:07.82 ID:K2IPlNY0
「そりゃあもう、おじさんが愉しめそうなこと、全部さ」
885 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:08.67 ID:K2IPlNY0
手足にまとわりつく蚯蚓(みみず)をブチブチと引きちぎって立ち上がろうとするが、バランスが取れずにまた転ぶ。その途端、床の蚯蚓(みみず)が一斉に洋佑の全身を絡め取る。
886 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:09.65 ID:K2IPlNY0
「気にしないで。明日はまた別のものを作ってあげるから」
887 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:10.48 ID:K2IPlNY0
「え〜?」
888 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:11.06 ID:K2IPlNY0
「お、おい、だから、もう、出ちゃうって――」
889 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:11.88 ID:K2IPlNY0
凉子は得意の非情な沈黙で、耕司の問いを無視する。だが耕司も今度は譲らなかった。黙々とルーズリーフの整理に没頭する凉子に、ずっと視線の圧力を与え続ける。
890 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:13.05 ID:K2IPlNY0
どんな有様になっているのか、鏡を使えば観察することもできるだろうが、そんなことをして幸福な気分になれるとも思えない。
891 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:14.11 ID:K2IPlNY0
瑶には、なぜが理解できた。――それが嘲り笑うそいつの声だと。
892 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:14.74 ID:K2IPlNY0
893 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:15.34 ID:K2IPlNY0
瑶の表情は暗い。もちろん青海の心配もあるのだろうが、三日前の郁紀との遣り取りも、まだ吹っ切れていないのだろう。
894 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:16.12 ID:K2IPlNY0
895 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:17.53 ID:K2IPlNY0
896 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:18.22 ID:K2IPlNY0
「電話をよこしたのは君だろうが」
897 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:19.02 ID:K2IPlNY0
そう言い残して、いつもより早く僕の病室を出ていった。
898 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:20.18 ID:K2IPlNY0
「人間にできないことを、簡単に出来るっていう君は――人間じゃ、ないんだね?」
899 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:20.90 ID:K2IPlNY0
沙耶に急かされて出した回答は、そんな心許ないものだった。
900 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:21.74 ID:K2IPlNY0
あれきり瑶は郁紀と会っていない。郁紀もまた彼らの前に顔を出すことはなかった。授業の合間には何となくこのカフェテリアに集っていた四人組が、今では二人しか残っていない。
901 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:22.35 ID:K2IPlNY0
「まぁね」
902 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:23.22 ID:K2IPlNY0
小悪魔的に笑いながら僕をベッドへと押し倒す沙耶は、いつもと変わらない甘い重さと感触で、僕の自由を奪ってしまう。
903 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:23.80 ID:K2IPlNY0
「あとでまた連絡する。それまでによく考えておけ」
904 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:24.45 ID:K2IPlNY0
『ダカラ、屋内ジャ愧Tテサ、屋苞ァ+けーと。凍ッタ塘1Dpデ滑レルトコロ』
905 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:25.22 ID:K2IPlNY0
奇妙だった。今日の午後には医学部必修の基礎科目があるというのに。
906 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:25.80 ID:K2IPlNY0
「郁紀……」
907 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:26.38 ID:K2IPlNY0
「は、はぁ……」
908 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:26.99 ID:K2IPlNY0
909 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:28.55 ID:K2IPlNY0
怪物は、ふるふると細く震える触手を伸ばして郁紀の肩に触れ、それから愛おしむように血染めの頬を撫でて――
910 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:29.40 ID:K2IPlNY0
電話を切った後、凉子は未だ復元待ちのルーズリーフの束を、暗鬱な気分で数えた。
911 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:30.00 ID:K2IPlNY0
912 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:30.60 ID:K2IPlNY0
自分一人ではどうにもできない。一も二もなく耕司か誰かに相談したい。……事実、瑶は耕司の携帯をダイヤルしようとして、すんでのところで思いとどまった。
913 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:31.23 ID:K2IPlNY0
「よせ、青海」
914 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:31.80 ID:K2IPlNY0
井戸の横で耕司が電話していた相手が瑶だというのも、考えようによっては好都合だった。
915 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:32.48 ID:K2IPlNY0
「今なら、あなたの頭を元の状態に戻すことも、できるの」
916 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:33.27 ID:K2IPlNY0
優しく囁きかける沙耶の声が、どこか遠くから聞こえてくる。
917 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:33.83 ID:K2IPlNY0
「奥涯教授のことは、その……あなたの治療とは、何の関係もないでしょう?」
918 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:34.57 ID:K2IPlNY0
919 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:35.21 ID:K2IPlNY0
920 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:35.86 ID:K2IPlNY0
湾曲した肋骨の輪郭が、ひからびた腐肉と血をこびりつかせて真っ黒に染まっている。
921 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:36.51 ID:K2IPlNY0
「ぁぅ……」
922 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:37.76 ID:K2IPlNY0
そう恐れて、この手で彼女を確かめたくて、僕は薄い乳房に手を差し伸べ、縋(すが)るようにして両手で掴む。
923 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:39.26 ID:K2IPlNY0
生唾を呑み込んで、瑶は玄関から廊下に上がり、階段に足をかけた。
924 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:41.16 ID:K2IPlNY0
「ひととおり調べたけど、やっぱり、あれからずっと人が来た様子はないみたい。ここは安全だよ」
925 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:41.86 ID:K2IPlNY0
「でも、いきなりやって滑れたの? 青海ちゃん、凄くない?」
926 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:42.69 ID:K2IPlNY0
927 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:43.33 ID:K2IPlNY0
沙耶は床に散らばった書類を一枚ずつ拾っては、慣れた手つきで仕分けなおしていく。
928 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:43.93 ID:K2IPlNY0
なぜ君は、そこまで僕に……
929 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:44.67 ID:K2IPlNY0
930 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:45.39 ID:K2IPlNY0
931 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:46.15 ID:K2IPlNY0
むしろ先に酒の方が尽きてしまいそうなのが手痛い誤算だった。
932 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:46.93 ID:K2IPlNY0
拍子抜けした僕は言葉を失った。
933 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:47.57 ID:K2IPlNY0
久々に、外に出てみるのもいい――そう気まぐれに思い立った凉子は、読み直していた原稿を小脇に抱え、別荘の前庭に停めてある自動車に乗った。
934 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:48.59 ID:K2IPlNY0
それは耕司が最後まで受け入れられず、ついには殺意という強迫観念に逃げ込むことでしか整理のつけられなかった事態だというのに、凉子の口振りではまるで、この悪夢がほんの序の口であるかのようだ。
935 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:49.29 ID:K2IPlNY0
936 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:49.93 ID:K2IPlNY0
『郁紀はもう、俺が生きてることを知ってます。誰に助けられたかまでは教えてませんが、ともかく奴は警戒してるはずです』
937 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:50.53 ID:K2IPlNY0
938 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:51.08 ID:K2IPlNY0
939 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:51.66 ID:K2IPlNY0
深呼吸をし、はやる気持ちで入力ミスをしないよう慎重に、瑶はテンキーを操作して返信メールを作成した。
940 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:52.94 ID:K2IPlNY0
941 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:53.56 ID:K2IPlNY0
942 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:54.38 ID:K2IPlNY0
『ハハ、勘(煕ヒ&ヤッテクレヨ津久葉。コイツ今WCQエヒ]?ア角咨まッテンダ。ナンカオf&ノ前、コ6GBbュlナッテ始メテすけームVワユア性タ縷ンダカラサ』
943 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:55.00 ID:K2IPlNY0
耕司自身の理性のためにも、それが人間の仕業とは考えたくなかった。
944 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:55.63 ID:K2IPlNY0
ほほえむ郁紀の眼差しの奥底に、ねっとりと絡みつくような悪意の色を見いだしてしまうのは。
945 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:56.33 ID:K2IPlNY0
「お前、喧嘩に慣れてねぇな?」
946 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:56.96 ID:K2IPlNY0
「ねぇ――郁紀――イキそうに、なったら――」
947 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:57.65 ID:K2IPlNY0
「たぶん、表に積み上げてあるゴミのせい。あれ、普通の人間にはちょっと耐えられないんじゃないかな?」
948 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:58.49 ID:K2IPlNY0
949 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:15:59.26 ID:K2IPlNY0
辛うじて生活の痕跡があったのは、トイレ、浴槽、台所……それと寝室のベッドひとつだけ。
950 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:00.02 ID:K2IPlNY0
「うん!」
951 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:00.63 ID:K2IPlNY0
ただでさえ過敏な部分に、やや力を込めた吸引のキス。不意打ちの激しい刺激に思わず腰が浮く。
952 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:01.27 ID:K2IPlNY0
「彼女、僕の家に来る途中でいなくなったんだろう? もちろん僕だって心配だよ」
953 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:02.01 ID:K2IPlNY0
「匂坂くんの件について話が聞きたいっていうことだけど、それは私の方でも同じでね」
954 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:02.63 ID:K2IPlNY0
呵責ない勢いの自刃だったが、その一撃で死には至らなかった。
955 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:03.38 ID:K2IPlNY0
ふと視線を落とすと、椅子の足元に黒光りする金属光沢を見咎めた。
956 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:04.27 ID:K2IPlNY0
満面の笑みで頷いてから、沙耶は再度鎖を引っ張り、倒れていた瑶を床から引き起こす。
957 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:05.33 ID:K2IPlNY0
携帯電話の着信音が、作業を進める凉子の手を止めさせた。
958 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:06.28 ID:K2IPlNY0
959 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:07.03 ID:K2IPlNY0
「なぁ津久葉……」
960 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:08.14 ID:K2IPlNY0
「あの草叢の中に死んだ猫でもいるんじゃないかしら? でも、住んでいて気付かないのかしらね? あの匂いに」
961 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:08.81 ID:K2IPlNY0
「……こうやって、抱いていて」
962 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:09.58 ID:K2IPlNY0
963 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:10.45 ID:K2IPlNY0
言いながら、瑶はそれと気取られないようにそっと“彼”の横顔を伺い見る。
964 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:11.31 ID:K2IPlNY0
彼女の笑い。怒り。そして今日私に見せた――涙。
965 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:12.21 ID:K2IPlNY0
こんな風に銃身を詰めるとね、散弾がもっと広範囲に飛び散るようになって殺傷力が増すんだそうだ。アメリカでも重罪になる改造なんだとさ。私はそれをクローゼットの奥に突っ込んで、それでようやく眠れるようになったよ。――三日に一晩ぐらいはね」
966 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:13.18 ID:K2IPlNY0
「……それは?」
967 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:14.21 ID:K2IPlNY0
「どうした? 耕司」
968 :
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[sage]:2009/03/21(土) 01:16:15.39 ID:K2IPlNY0
耕司の心境などまるで意中にない口調で、凉子は冷たく言い放った。
969 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:16.26 ID:K2IPlNY0
970 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:16.83 ID:K2IPlNY0
971 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:17.69 ID:K2IPlNY0
『信用できるか。そっちが先に――』
972 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:18.25 ID:K2IPlNY0
「……」
973 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:19.02 ID:K2IPlNY0
974 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:19.67 ID:K2IPlNY0
もはや所番地で正確な位置が絞れるような土地ではない。地図にない私道だろうが何だろうが、手当たり次第に乗り入れて写真の景色を探していくしかない。
975 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:20.36 ID:K2IPlNY0
奇妙な匂い。だが決して不快ではない。むしろ胸のすく爽やかな芳香に思えた。どこか沙耶の髪の匂いにも似ている。
976 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:21.04 ID:K2IPlNY0
頭に白く霧が湧くような性感への刺激は明らかに思考の邪魔だったし、そもそも興奮は、すでに僕の中から失せていた。
977 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:21.64 ID:K2IPlNY0
覚悟を決めて電車に乗ってはみたものの、やはりラッシュアワーの間近な混雑には耐えきれず、途中駅で降車した僕は残りの帰路を歩いて戻った。
978 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:22.21 ID:K2IPlNY0
逃がすものか……洋佑は雄叫びを上げながら、怪物の後を追いかけた。こいつらを皆殺しにすれば、もしかしたら悪夢から覚めるかもしれない。その可能性に思い至り、殺意がますます獰猛に膨れあがる。
979 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:22.85 ID:K2IPlNY0
重く冷たい腐肉の塊が、津波のように耕司の上にのしかかってきた。
980 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:24.07 ID:K2IPlNY0
凉子は生前と同じ、冷たく躁的に歪んだ含み笑いで身体を揺する。胸元まで引き裂かれた左肩の先で、余り物のようにぶら下がっている腕がグラグラと揺れた。
981 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:24.72 ID:K2IPlNY0
「子供の頃は何となく怖かったのよ。あの靴、なんだか刃物みたいでさ」
982 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:25.29 ID:K2IPlNY0
『ダカラ、屋内ジャ愧Tテサ、屋苞ァ+けーと。凍ッタ塘1Dpデ滑レルトコロ』
983 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:25.95 ID:K2IPlNY0
瑶には、なぜが理解できた。――それが嘲り笑うそいつの声だと。
984 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:26.86 ID:K2IPlNY0
耕司と同じようにあの別荘を使うのは危険だし、そもそもどうやって誘い出すかが問題だ。
985 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:27.53 ID:K2IPlNY0
あの事故以来、3ヶ月ぶりに見る沙耶以外の人の姿。それも、女、それも――こんなにも豊満に雌の色香を備えた、美しい女。
986 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:28.27 ID:K2IPlNY0
耕司の脳裏を、テレビドラマでよく見るようなワンシーンが過ぎる。風呂桶に満たした湯に浸かって、手首を剃刀で切る自殺の場面。
987 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:29.05 ID:K2IPlNY0
だが毎朝目を覚ますたびに、世界は昨日と同じように醜く歪んだ姿のまま、そこにあった。
988 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:29.72 ID:K2IPlNY0
依然、匂坂の予後は心配だった。加えて彼と奥涯雅彦とを結ぶ謎の糸については、輪をかけて不安を煽られた。
989 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:30.63 ID:K2IPlNY0
限界を超えて注ぎ込まれる快楽に、ついに理性が決壊し、僕は溜めに溜め込んだ勢いのままに一気に白濁を吐き出していた。――僕をくわえ込んだ沙耶の喉深くへと。
990 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:31.31 ID:K2IPlNY0
そう言って凉子は、ダッフルバッグの内容物が硬い輪郭を浮き立たせている箇所をコツコツと叩いた。
991 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:32.31 ID:K2IPlNY0
「その頃にはもう、奥涯のことは一件落着していた。――少なくとも私はそう思っていた。奴は姿を消したきり、もう二度と私の前には現れないだろうと安心してた。この銃で何かを撃とうとか、殺そうとか、そういう必要があったわけじゃない」
992 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:33.44 ID:K2IPlNY0
最初のうちこそ、耕司は自分のやっている事がひどく馬鹿げたことに思えたし、こっそり後をつけるなどというやり方にも気が咎めるものがあったが、そんな呵責も郁紀の行動が謎を深めるにつれ、忘れ去られていった。
993 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:34.30 ID:K2IPlNY0
994 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:34.91 ID:K2IPlNY0
たしかに少し離れた場所に、都内有数の緑地公園がある。こんな果物が成っているなんて聞いたこともないが――そうか、今の僕に果物っぽく見えるというだけで、たぶん本当は別のものだ。
995 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:35.66 ID:K2IPlNY0
すなわち、郁紀が嘘をついている可能性。青海が彼と会っていた可能性。彼女の失踪に、郁紀が関与しているという可能性……
996 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:36.44 ID:K2IPlNY0
「奥涯って人は、どうなったんです?」
997 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:37.28 ID:K2IPlNY0
泣きわめきながら洋佑は腕を振り回し、周囲の物を手当たり次第に殴りつけた。
998 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:37.98 ID:K2IPlNY0
やがて耕司と同じ泥の中に立ち、狭い井戸の中で対面した相手は――
999 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:39.81 ID:K2IPlNY0
フラスクで酒を持ち歩くなんて、アル中の中年男のような……そう感じる耕司の価値観は半ば偏見かもしれないが、若い女医の持ち物としてあまりに不釣り合いな印象は否めない。
1000 :
VIPにかわりましてGEPPERがお送りします
[sage]:2009/03/21(土) 01:16:43.28 ID:K2IPlNY0
分厚い刃は凉子の左肩から、鎖骨と肩胛骨(けんこうこつ)、さらに数本の肋までを砕いて肺を潰し、胸の半ばまで達していた。
1001 :
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てててテスト〜☆ @ 2009/03/21(土) 00:58:34.30
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金曜日のくまたちへ @ 2009/03/21(土) 00:47:14.62 ID:Vuw666Io
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瀬綾透 @ 2009/03/21(土) 00:12:40.77 ID:MIMyPhwo
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メダロットみたいなゲーム作ってMEDAROT-revivalを盛り上げようぜ @ 2009/03/20(金) 23:11:23.82 ID:YC75Qd.0
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凶華様と凛の子の冴え冴えしい○○生活 @ 2009/03/20(金) 22:51:49.18 ID:/ZBHJYIo
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