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とある未来の通行止め その3 -
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1 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/04(日) 23:01:51.49 ID:n8mXO3js0
一方さんと打ち止めの未来設定。 一方さん22歳(もしくは23歳)。 打ち止め17歳。
一方さんが打ち止めのこと(特におっぱい)好きすぎて変態。
打ち止めがD、Eカップを経て、ただいま絶賛Fカップ。彼女の辞書の反抗期はない……が、少し残念なところがある。
1スレ目
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1310/13106/1310655464.html
2スレ目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1317481213/
主に通行止めの二人が繰り広げる、愛とほのぼのとイチャイチャとおっぱいだらけのスレ。
通行止めの他には、黄泉川家、浜滝(結婚した)、上インがよく登場します。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1330869711
(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。
忌村「不思議な薬が出来たわ…」【安価】 @ 2025/07/12(土) 00:02:05.36 ID:BD6esqAF0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752246124/
どうなるのかな? @ 2025/07/11(金) 22:45:01.94 ID:GJ4hg/bKo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1752241501/
空の雫 @ 2025/07/11(金) 21:39:32.38 ID:UbINMeJK0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1752237571/
ベルトルト「クリスタだ」 @ 2025/07/10(木) 00:09:53.46 ID:H3mTkX5wO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752073793/
てす @ 2025/07/08(火) 22:20:03.31 ID:xzv/7nI6o
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1751980802/
男「友達一人もいないけど漫画とアニメがあるから毎日充実している」 @ 2025/07/08(火) 00:27:51.33 ID:PBp8RzMcO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1751902071/
【安価】タイトルからあらすじを想像して架空の1クールアニメを作る 2025夏 @ 2025/07/07(月) 02:09:39.53 ID:pv74dAvR0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1751821778/
【安価コンマ】好きと嫌いと異世界と 2 @ 2025/07/06(日) 22:07:29.64 ID:yYA4flIp0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1751807249/
2 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/04(日) 23:07:07.98 ID:n8mXO3js0
もう少し2スレ目を更新したら、こっちでやっていきます。
まさか3スレ目までいくとは思わなかった。 どうぞよろしくお願いします。
3 :
rindou
[sage]:2012/03/04(日) 23:44:41.26 ID:1cP1ngNM0
こちらこそ、よろしくお願いします。m(_ _)m
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2012/03/04(日) 23:52:58.91 ID:MTO6BvOLo
┌─────┐
│い ち お つ.│
└∩───∩┘
ヽ(`・ω・´)ノ
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/03/07(水) 21:22:34.08 ID:NCs3lhKb0
乙です>{安産祈願}〜。
6 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/08(木) 00:27:58.92 ID:36IvKIcU0
3スレ目初の更新いきます。
7 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 00:30:51.70 ID:36IvKIcU0
一方通行と打ち止めは、そのまま病院で一泊することにしたが、一方通行だけは一度自宅に戻った。
ブランカに夕飯を与えなければならないし、着替えを用意するために。
病院の駐車場に運ばれていたポルシェでマンションに近づくと、部屋の電灯が点いていることに気づいた。誰かがいる。
玄関を開ければ、長く不在にしていたため寂しかったのだろう、愛犬が飛びついてきた。犬の頭を撫でながら、照明が灯るリビングへ。
ソファでくつろぐ番外個体が、そこにいた。
「おかえり。散歩と、ご飯はミサカがやっといてあげたよ」
「……おォ」
彼女も、ミサカネットワークを通じて知っているはずだ。打ち止めの妊娠を。自分達の結婚を。
「あはっ、その青くなってるほっぺが黄泉川に殴られたトコ? お姉様に突っ込まれたお腹も見てみたいなっ」
「やかましィ。……着替えを取りに来ただけだ。すぐ病院に戻る」
「ふぅん」
「この部屋にいてェなら好きにしろ。ついでだからブランカの朝飯もまかせる」
「まぁいいけど」
玄関に歩いていくご主人様を、名残惜しげにハスキーが追いかけてくる。今日は朝からずっと出掛けていて、かまってやっていない。
「悪ィなァ。明日までは、ちょっと忙しいンだよ。番外個体で遊ンでろ」
「くーん」
靴を履いて、いざドアを開けようとしたら、
「ねぇ、最終信号は……」
「……大丈ォ夫だ。心配すンじゃねェよ」
廊下の壁に左肩を預けた番外個体も、一方通行を見送っていた。
「心配するなと言われても、今ネットワークはお祭りと心配の嵐なんだよ。無理言わないで」
「……お祭りだァ?」
「良くも悪くもね。ただこのミサカに、あなたを殺してやろうという衝動が起きないのは、そういうお祭りなんじゃない?」
「………」
8 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 00:32:58.20 ID:36IvKIcU0
不思議なものだ。芳川に頬を叩かれ、黄泉川に殴られ、御坂美琴には蹴りを食らった。下位個体達には、(いつもより)刺々しい言葉で非難と嫌味を言われたのに。
番外個体だけは、彼女にしては非常に稀有である、不安そうな表情で佇んでいるだけ。
「明日、先生に診てもらうんでしょ?」
「あァ。俺が能力で走査した限りでは、腹のガキに異常は見当たらねェがな」
「今はね」
「……」
番外個体の声が、いつもの……、いや、いつもより険がある。
「最終信号は、大丈夫なんだよね!?」
「そうだ」
間髪いれずにそう答える。会話の間に、番外個体は一方通行のすぐ傍まで近づいてきて、ブランカの首に腕を回し、床に膝をついた。
ブランカは青年を見上げているが、彼女は犬の毛に頬を埋めて視線を下に落としている。
今度こそドアを開ける。愛犬の頭を撫でるついでだ。番外個体にも、少しだけ……
「じゃ、もォ行くぜ」
青年が姿を消した後、一人と一匹は、しばらく玄関でくっついていたが、やがてじっとしていられなくなった犬が番外個体の腕から逃れ出る。
ブルブル体を振って、元気のない彼女を励ますように「あう」と鳴いた。
「……ふぅ。今日は二人で上の部屋に行こっかー? どうせ黄泉川と芳川もお姉ちゃんのことで頭いっぱいだと思うけどね」
「わんっ」
9 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 00:40:19.21 ID:36IvKIcU0
翌朝、仕度を終えた打ち止めは、病室で一方通行の迎えを待っていた。彼女は一方通行が運ばれた病室で夜を明かしたが、青年はどこか別の場所で寝たらしい。
「用ォ意できてるか?」
「おはよー、ってミサカはミサカはあなたに抱きついて挨拶してみる」
打ち止めを片手で支え、一方通行は電極のスイッチを入れる。きっとこれから、毎朝の診察が日課になるのだろう。
彼の邪魔にならないよう、打ち止めは静かに待つ。十数秒の後、終わったと見て訊いた。
「どうだった? 赤ちゃんは元気?」
「最初に調べた時より、一・六ミリ成長してる」
「おぉっ、……おぉぉ……」
打ち止めは一歩離れて、両手でお腹を撫でる。興奮と、慈愛が読み取れる表情を見て、一方通行の決意は改まった。
10 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 00:41:55.87 ID:36IvKIcU0
二人は病室を後にし、階下へ。一階の廊下を端の方まで歩く。
こんな所に診察室は無いはずだと、打ち止めは不審に思ったが、黙って青年の後に続いた。
やがて角を曲がり、扉が現れる。
一方通行が壁の一部に手をかざすと、指紋認証だろうか、扉は自動で開いた。
よくよく周りを確認すれば、壁や廊下が建築されて間もないことに気づく。
「どこに行くの?ってミサカはミサカは初めて立ち入る秘密基地っぽい場所にドキドキしてみたり」
「ぷっ、秘密基地だァ?」
「あー笑ったな!?」
「どこでもねェよ。この病院の地下だ」
扉を抜けて数メートル。二人はエレベーターに乗って降下していた。
「ココの地下に施設なんてあったっけ?」
「最近作ったばかりだから、オマエは知らなくて当然だ」
「………あ、ヨシカワが言ってた研究所ってここのことか!ってミサカはミサカはまさか病院の地下にあるとは盲点だったり」
「ここに作るのが一番合理的だったからなァ。建設費用以外は」
「ひょっとして、あなたは昨夜そこで寝たのね?」
「あァ、仮眠室があるし」
エレベーターを降り、通路を進む。やがてガラス張りの部屋が現われ、その中に白衣を着た下位個体の姿があった。
11 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 00:47:18.72 ID:36IvKIcU0
(ひっどーい。ミサカに内緒にしてたなんて、ってミサカはミサカは仲間はずれにされていたことを知って憤慨してみたり)
(別に隠していたわけではありません、とミサカ一〇〇三二号は弁解します)
(『病院の地下に研究所出来たのか』と訊かれなかったので言わなかっただけです、とミサカ一三五七七号は正当性を主張します)
(なんという屁理屈、ってミサカはミサカは呆れてみる)
自分の横で黙りこむ打ち止めに、おそらくネットワークで下位個体と会話しているのだろうと、一方通行は見当をつけていた。
この研究所を設立しようという計画は、彼が大学四年の前期あたりから立てていた。冥土帰しや芳川桔梗の研究や調整のおかげで、妹達の体は随分安定してきている。
その成果をもっと如実にさせるため、莫大な資金をかけてここを作ったのだ。
また、研究自体にも金はいくらあっても不足はない。というか金がなければ出来ないことの方が多い。
冥土帰しほどに至ってはその限りではないだろうが、それでもあるに越したことはない。下位個体本人達にも協力させ、芳川や一般人も関わるならば、なおさらだろう。数は力だ。人でも、金でも。
いくら一方通行でも、さすがに地下に最新設備を整えた研究所を建設するのは財布と相談が必要だった。なので、彼は資金集めに集中しようと、コネと能力を活用して、日々お金儲けに精を出すことにしたのであった。
12 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 00:50:21.67 ID:36IvKIcU0
(ちなみに、番外個体もここで働いていますよ、とミサカ一〇〇三九号は上位個体にさらなる事実を開示します)
(なんだとー、番外個体まで……っ)
(今日も彼女は出勤していませんね、とミサカ一〇〇三二号は無断欠勤の多い末っ子を嘆いてみます)
(一方通行曰く、給料ドロボーだそうです、とミサカ一〇〇三九号は無理やり連れてこられているのだから仕方ないかもと理解を示します)
一番調整が必要な番外個体だから、一方通行は彼女もここへ通わせたい。
実はバイトしていたカフェで正社員にならないかと誘われていたが、一方通行が半ば強引で乱暴な手段でもって拉致してきたようなものだ。
(まぁ、三日に一回は来ますので、口で言うほど嫌でもないんでしょう、とミサカ一〇〇三二号はツンデレを可愛く思います)
(そっかぁ……)
打ち止めは隣の青年を見上げた。その頬笑みの理由にも見当がつく一方通行は、ちょっと恥ずかしい。
「なンだよ……」
「えへへへ、あなたに惚れ直してたとこ」
露骨に顔をしかめる青年だったが、打ち止めの笑顔は変わらない。
「あ、せんせーだ。こんにちはー!ってミサカはミサカは手を振ってみる〜」
通路の奥の部屋から出て二人を待っていてくれたのか、冥土帰しも笑顔で手を振り返した。
13 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 00:53:54.31 ID:36IvKIcU0
検査の結果は、至って良好だった。
「今のところはね」
彼も、番外個体と同じことを言う。
とりあえずはほっとしたが、油断は許されない。妊娠五週目だという我が子を腹越しに撫で、打ち止めも真面目な顔をしていた。
「打ち止めは妹達でも、最も体が安定しているから、このまま順調に育ってくれるんじゃないかとは思う。でも、なにぶん初めてのことだ。慎重に越したことはないね?」
「あァ……」
「週に一度、ここで経過を見ていこう。上の産科でもサポートできるようにしておく。妊娠中に気をつけることを勉強しないとね」
「はーい」
「うん、良い返事だ。一方通行はこれからも打ち止めの体調に気をつけておくんだよ。何か異常があったら、いつでも知らせてくれ」
「分かった」
忙しい冥土帰しを、打ち止めのためだけに独占できない。一方通行達は席を立とうとした。
「いやぁ、それにしても嬉しいねぇ。あの一方通行と、小さかった打ち止めに子供ができて、結婚だなんて」
「……」
「先生が助けてくれたおかげでもあるんだよ?ってミサカはミサカは感謝を述べてみる」
「だからさ。僕は嬉しいよ」
「急になンだ」
「先生は喜んでくれて、ミサカとあなたを応援してくれる、ってことなんだと思うよ」
「いやまァそのとおりのこと言ってたから、それは俺も分かってンだよ」
「ははははは、さぁもう行きなさい。君達、急な事で疲れてるんじゃないかな? ゆっくりしたまえ。それにまだ報告するべき人もいるだろう」
14 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 00:58:05.90 ID:36IvKIcU0
(他に知らせた方がいいヤツ……ねェ)
打ち止めに言われたので、仕方なく呼び出したのだ。
妊娠発覚から一週間後の休日、一方通行はとあるカフェの屋外テラス席に腰掛けていた。目の前にはサンドイッチを頬張る浜面仕上。
「ふぉまえはなんかたべふぇーの?」
「今はいい……、それよりアイツ遅っせェな……」
「ふぁみじょーが、……遅刻することなんて珍しくねぇじゃん。つーかまだ待ち合わせ時間より前だろ」
「それなのに、どォしてオマエは一食食い終わってンだろォな」
「ちょっと遅い朝飯食おうと思って。遅れて来るよりいいでしょ。さっきから不機嫌だなお前」
「………」
一方通行の眉間に皺があるのが普通だと認識している浜面は、さして気にしていない。
腹を満たしてコーヒーで一息ついた頃、上条当麻が息を切らせてやってきた。数分の遅刻で済んだのは、むしろ上々である。
15 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 01:00:52.90 ID:36IvKIcU0
「はぁ、はぁ、久しぶり。悪いな遅れちまって。つーか浜面はいつから居たんだよ。飯食ってたな?」
「俺が着いた時には、もう呼び出した本人はいたよ」
浜面が一方通行を指さす。彼は視線を逸らし、両手をズボンのポケットに突っ込んだ。上条も椅子に座り、一方通行の様子を伺った。
呼び出したからには、何か用があるのだろう。「遊ぼォぜェ」などと彼が誘ってくるわけないし。
上条にも冷たいジュースが運ばれてきて喉を潤した後、下から覗き込むように、一方通行に問いかけた。
「一方通行が俺と浜面の両方を呼び出すなんて珍しいよな。なにか、事件か?」
「……、そんな大げさなモンじゃねェよ」
「あ! ねぇねぇ! 事件といえば俺に嬉しい出来事があったんだよ聞いてー!」
深刻な表情の上条と、気まずそうな一方通行と、嬉しそうな浜面。
「打ち止めが、オマエらには早めに言った方がいいって言うからなァ。一応だ、一応」
「打ち止めも関係してるのか? ……助けが必要なら」
「聞いてよぉ!! 俺、新、車、買ったんだよぉぉぉおおぉぉん。聞きたい? 何買ったか聞きたい? あのね」
「もう! ちょっと黙ってらっしゃい! 上条さん達は今大事な話してるの!」
「ヤダ発表しちゃう! なんとラン」
「打ち止めが妊娠した」
「え、え? エェェエエエェエエ!!?」
「……………はい?」
浜面は椅子からひっくり返りそうなほどに絶叫して驚き、上条は放心していた。
16 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/08(木) 01:03:24.01 ID:36IvKIcU0
とりあえずここまで。
明後日には更新します。
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/08(木) 01:05:08.16 ID:Sa0VACqIO
浜面カワイソス
乙!
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2012/03/08(木) 01:10:31.34 ID:6LfL5yhho
乙パイ
浜面子どもっぽいな
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2012/03/08(木) 01:24:40.78 ID:Rhw91Guio
乙
ラン…ボルギーニはないか
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)
[sage]:2012/03/08(木) 07:25:27.45 ID:ASjDjJ2AO
乙
上条、浜面も複雑な心境だろうな
二人の事だから素直に祝福してくれるとは思うが
21 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/08(木) 22:21:08.24 ID:j3onqwp00
明後日というのは、嘘だ。
更新します。
22 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 22:23:36.53 ID:j3onqwp00
こういう反応だとは思っていた。
浜面が、ずり落ちた体を椅子に収め直すのを待って、一方通行は再度告げた。
「今は妊娠二ヶ月目。つーわけだから、お前らの連れ合いにも言っとけ。アイツとは、しばらく外で遊べねェぞ、ってな」
「あ、あぁ言っとくけどよぉ……」
淡々とした青年に、あれこれ追及しようとした浜面は毒気を抜かれて肩すかしを食らう。
上条は未だ言葉も無い。浜面が正面で手を振る。
「……おい上条、一方通行になんか言うことないのか」
「おう…、とりあえず」
上条は一方通行と視線を合わせる。赤い目が数度、瞬きを繰り返した。
「おめでとうございます」
そう言って、ツンツン頭は深々と頭を垂れた。
「そう、そうだったな。驚いたし打ち止めはまだ高校生のはずだし色々あるけど、まずはお祝いだよな! よっ、お父さん!」
「……、…はァ」
「お前が父親になるなんてな……。きっと大変だと思うけど、打ち止めと子供のためにも頑張れよ」
男と女で、こうも違うものだろうか。それとも、親族関係のない同世代故だろうか。
もろ手を挙げてお祝いされたのが、意外にも嬉しかったことは内緒である。
23 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 22:25:47.67 ID:j3onqwp00
「まさか結婚した俺より先に子持ちになるとは……。さすがです、第一位。予定日いつ?」
「打ち止めはどうしてるんだ? 元気にしてるか?」
次々に投げかけられる問いかけに、内心戸惑いながらも答える一方通行。
(悪くは、ねェ、…か?)
「あーなんか羨ましくなっちゃった。俺も結婚して一年だし、理后ともそろそろ子供欲しいね、って話してたんだ。コツを教えてくれよ」
「あるかンなモン。……ヤってりゃそのうちできるだろ」
「ちょ、一方通行さんここは屋外なんで、もうすこし穏便な表現で頼みますよ」
上条は教師をしているのだから、こんなところを生徒に目撃されたらバツが悪い。たとえ自分の発言じゃなくても。
「わり、わり、上条は先生だもんな」
「そうだよ、しかも今は特別生活指導員って役職授かっちまってんだ」
「あン? オマエ国語教師じゃなかったか?」
「いやぁ、それがなぁ……」
相変わらずの上条当麻。なんとか教師になったはいいが、魔術絡みの急用で海外に行くわ、トラブルに巻き込まれて入院するわで、
とても主要五科目の担当が務まらないらしい。担任したクラスも、他の先生に交代させられてしまった。
24 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 22:29:59.77 ID:j3onqwp00
「それでクビにならんのは何でなん」
「仕事に支障が出るのがこの右手のせいなら、クビにならないのも右手のおかげ、ってね」
未熟な若者が、しばしば道を踏みはずすのは万国共通である。それが異能を携えた学園都市の子供達なら、尚のこと。
上条の幻想殺しのおかげで、彼の通う学校はとても素行がいいらしい。他校の生徒も怖れをなしているそうだ。
環境改善が著しいため、学校側は上条に去ってほしくない。
「ほォ、それで<特別生活指導員>か」
「役職ついたおかげで給料上がったし、ありがてぇけど、なんかなぁ」
「なんでもいいじゃん。給料が上がったんならさ。俺なんて新車のローンが始まるから、これからおこづかい減らされちゃうんだもん」
そんなんで嘆いていては、子供が欲しいどころではないだろう。授かる様子がないので、浜面は新車を買ってしまったわけでもあるが。
「そうそう、浜面なに買ったって?」
「あ、やっと聞いてくれるのね! ほら、まず写真見せてやるよ」
打ち止めの妊娠に話題を取られていたが、ようやく自慢させてもらえると分かり、上機嫌で携帯端末を操作する浜面。
まずは上条に見せる。彼は端末を手渡されると、隣の一方通行にも見えるようにお互いの顔の間に端末を掲げた。
一方通行も興味があるのか、それを覗き込む。
25 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 22:34:53.37 ID:j3onqwp00
「どーだ。いいだろ、かっけぇだろ!?」
「おぉ、素直にかっこいいなー。いいなー車。俺も欲しい」
「でェ? コレなンつー車だよ。国産車? 外車?」
「あははは、国産車だよ一方通行。ほらこのエンブレム。上条さんだってよく知ってるもん」
「名前まで知らないけどね」と、にこやかに端末を返してくる上条と、「ふーン」だけで済ます一方通行。
浜面仕上は、さっきより更に脱力する。普通の男子なら、心拍数があがる車だぞ。見せろ、乗せろと騒ぐ車だぞ。
「なんて悲しい野郎どもなんだ……!」
「オマエにだけは言われたくねェ」
「同意」
「……っこの、男はいつも憧れ気分だろぉが! 少年の心はどこいったぁぁぁ!」
「うるせェなァ。もったいぶらずにさっさと言えよ。どォせ分かンねェけど」
スティックシュガーの空き袋が飛んでしまうほど、浜面は大きく息を吐いた。両の肘を机について、顎を支える。
「エボだよ、ランエボ。聞いたことくらいあんだろ?」
「ん? ランバダ?」
「違うわボケ! ランサーエボリューションの略称だっ! 正しくはランサーエボリューションⅪ GSR!! しかもハイパフォーマンスパッケージだ!」
「長ェ……」
「とても覚えられないな」
「エボイレブン、もっと簡単にエボイレ、と記憶するがいい」
「ウイイレ?」
「さっきっから、上条はどうしてそう……」
26 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 22:37:37.80 ID:j3onqwp00
納車されて間もないその愛車は、実は近くの駐車場に停めてあるとのこと。
せっかく久しぶりに会ったので、このままドライブに行こうと浜面は提案した。男子らしからぬ上条と一方通行だが、それでも見せびらかしたいのだ。
「一方通行いいのか? 打ち止めのそばにいた方がいいんじゃ……」
駐車場へと歩く道すがら、上条が気遣う。
「……いい。今日は」
「ははーん。分かったぞ、一方通行さては……」
『もうっ、毎日毎日二十四時間ミサカにくっついてなくても、ミサカも赤ちゃんも大丈夫だよ!』
『……でもなァ』
『でももだってもなーい!ってミサカはミサカはさすがにストレスが溜まってきたと厳しい評価を突き付けてみる!』
『……』
『それにお仕事はいいの!?ってミサカはミサカはずっと事務所に行ってないことを心配してみたり』
『こォいう時のために、ああいう仕事をしてるンだよ』
『ミサカは何やってるか教えてもらってませんし。仕事しないなら、たまにはお外で遊んできなさい!』
「ってカンジ?」
「……」
なぜ分かった。一方通行は浜面を睨む。
「思い出すよ、結婚した直後の俺を。そうやって理后に怒られたもんだ」
「しみじみしてるとこ悪いけど、かっこ悪いからね。ま、そういうことなら、今日は男だけで楽しみますか」
一方通行は一言も発してないのに。
かっこ悪い逸話は、他二名によって確定事項とされてしまった。
27 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 22:43:04.85 ID:j3onqwp00
「じゃーん。俺の愛車、エボイレでーす! 黒光りのボディがセクシーだろ」
ランサーエボリューション Ⅺ GSR 2000CC 5速MT 4WD 総額約四〇〇万円
「うんセクシー。一方通行は後ろ乗る? なんかこのイス座りにくそう」
「俺のもこンなだけどなァ。どこでもイイぜ」
「つまんねぇぇぇぇぇぇっ。レカロシートを座りにくいで一蹴されたし」
さっそく乗り込んで、道路を流すことにした。浜面がエンジンを掛けたとたん、上条がそのやかましさに肩をすくめる。
「うわ、うるさ。一方通行のポルシェよりもでかいんじゃねぇか?」
「そーいうもんなの、こういう車は。さぁしゅっぱーつ!」
狭く、入り組んだ道路を走行する時、赤信号から発進するたび、浜面の左手と左足が忙しなく動く。
マニュアル車ならではの操作に、一方通行はリヤシートの体を動かして注目する。
(へェ……)
クン、クン、グンっ、と操作と同時にダイレクトに体に伝わる衝撃が物珍しい。座席の中央から顔を覗かせている彼に、浜面が気づいた。
「一方通行のポルシェはオートマだからな。楽しいぞ、マニュアルは」
「………面倒臭そォ」
「はっはははは、一度乗ってみりゃ…と言いたいところだが、…クラッチ踏めるの? お前の足」
「さァ? やったことねェから」
「じゃあ、まず上条さんに運転させて。免許はちゃんと取ったぞ」
そういえば、一方通行はマニュアル免許どころか、自動車運転免許自体を未取得なのであった。
コネを利かせて、学園都市内なら運転してもいいよ、という許可証を発行させているだけなのである。
28 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/08(木) 22:46:51.72 ID:j3onqwp00
コンビニの駐車場にランエボを停めて、浜面と上条が席を代わる。
ペーパードライバーの上条はかなり緊張していたが、助手席の浜面にアドバイスされて、すぐにコツを掴みはじめた。
「教習車と全然違うなぁ。すげぇ加速」
「もう5速に入れろよ。しばらくはこの幹線道路走ろうぜ」
三十分ほどして、また別のコンビニに入る。三人はそれぞれ飲み物を選び、車外で体を伸ばした。
浜面が、サスペンションがどうの、ブレーキがどうのと話しているが、上条にはあまり理解できない。
ポルシェを持つに当たり、その辺は勉強した一方通行こそ、実はいい話相手なのだが、いかんせん彼は知っているだけで、興味は強くない。
それでも、運転席の窓から、シフトノブやペダル等を、再度珍しげに見ていた。
「……ねぇ浜面くん。一方通行も運転したい、って言ってるよ」
「ん? でも大丈夫かな。クラッチかなり重いでしょ?」
一方通行の背後で、何やら掛けあいが始まった。
「やってみなけりゃ分からないじゃない。ね? 乗ってみたいよね?」
「………」
「……だな。じゃ、今度は上条くんがリヤシートな」
また一言も発してしないのに。一方通行も「ランエボ運転してみたいオトコの子」に認定されてしまった。
29 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/08(木) 22:49:26.77 ID:j3onqwp00
とりあえずここまで。
7年後には発売されとるでしょ、エボ11。
10で最後だったりする……?
30 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2012/03/08(木) 23:24:47.73 ID:6LfL5yhho
乙パイ
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/03/09(金) 01:25:39.33 ID:e65ypC0Do
乙。
いいなー男友達同士のこういう会話。
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/09(金) 03:24:41.23 ID:0nSYZLuIO
乙ゥ
やべぇクルマネタわっかんねぇ
でも
>>1
のおかげで浜面のテンションの高さは伝わってくるww
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/09(金) 06:55:49.37 ID:aRYEVl0DO
乙
エボイレとかマジ胸熱
国産を選ぶ浜面はよく分かってるな
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/03/09(金) 23:08:13.03 ID:WWxSzltw0
乙です
家族持ちなので(トヨタ)ランドクルーザーかと予想してたけど外れたww
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)
[sage]:2012/03/10(土) 17:39:17.37 ID:cmjoCDgro
前スレ
>>892
が追いつきましたよっと
一方通行もちゃんと免許とりゃいいのに、とどうしても思ってしまう
36 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/11(日) 00:14:39.45 ID:mJNfgIRa0
>>33
出るといいですね、11。…もう無理かな。ボディーカラーは赤にするか迷いました。しかし浜面に赤はねぇな、と。
>>34
ランクルのが、「浜面」のイメージに合ってると思います。エボは完全私の趣味です。
>>35
教習所に通う一方さんを想像すると、震えるほど笑えます。
>>32
すみません。よく考えれば、車に詳しくない人には不親切な内容でした。
しかし、今日投下分は、さらに輪をかけて不親切なため、せめてマニュアル車についての説明をさせて頂きます。
次レスを読めば、本編も楽しんで頂ける、……といいなぁ。分かる人はすっ飛ばしてください。
37 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/11(日) 00:18:47.42 ID:mJNfgIRa0
<簡単にわかる、マニュアルトランスミッション車のしくみ>
自転車に例えてみてください。ママチャリはさておき、ハンドルに切り替えスイッチがありますよね?
みなさん、特に難しいことも考えずに、アレを指で操作して自転車を漕いでいませんか?
マニュアル車(MT車)も、同じようなものです。
MT車は、切り替え(シフトチェンジ)を、左足でクラッチペダルを踏みつつ、左手でシフトレバーを動かして操作しますが、
自転車に置きかえると、なんとなくイメージしやすいかと思います。
自転車の場合、漕ぎだしは「低」ですね。そして、ある程度スピードが出ると「中」に、もっとスピードが出ると「高」に切り替えます。
「高」で発進するのは、難しいですよね。MT車も、4速、5速では発進できません。
MT車の発進時は「低」にあたる1速。
時速10〜20qぐらいで2速に、そしてだんだんと3速、4速、5速……とシフトアップしていきます。(逆に、5→4→3……は、シフトダウン という)
急加速したい時には、2速、3速で50、70qまで、いっきにスピードUPしたりします。
(スポーツカーは、このような走りに特化しています。大型トラックなどでは、まずできません)
この場合、エンジンは高回転し、ガソリンを大量に消費します。
自転車でも、「低」、「中」、で漕ぎまくれば急加速できますが、乗ってる人間は疲れます。
そして、足はグルグル回してるのに、スピードが一定を過ぎると、努力に見合った加速をしにくくなります。
そうなると、「高」に切り替えないと、ただ体力の無駄になるだけです。
みなさんが自転車を漕ぐときに、右手で 低→中→高→中→高……と切り替えスイッチを操作するように、
MT車も 1→2→3→4→3→4→5→……4、3(急加速)→4→5……
と、シフトチェンジして走らせます。自分の意のままに、1トン超の車を操るのは、オートマ車にはない充実感を以下略
38 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/11(日) 00:24:31.40 ID:mJNfgIRa0
まず、浜面が広い駐車スペースにエボを移動させ、一方通行に発進をさせてみることにした。
仕組みも、やり方も、頭脳明晰な彼なら分かっているだろうが、左手で操作するシフトレバーはともかく、
問題は左足で踏むクラッチペダルをしっかり操作できるか否かである。マニュアル車は、特に発進が難しいのだ。
ランエボのクラッチは、スポーツカーらしくかなり力を入れないと踏み込めないし、戻すときに帰ってくる反動も大きい。
そこを左足で一定に保ち、いちいちタイミングを併せてシフトチェンジしないと上手く走らない。失敗するとエンストしてしまう。
ゴゴゴ、ボスン。
案の定、情けない音を出して二回ほどエンストさせてしまった一方通行。やっぱり無理か?と一方通行以外が諦めかけた頃、
「仕方ねェ……」
一方通行は首の電極に手を伸ばす。まさか、たかがドライブにベクトル操作を使うというのか。浜面がぎょっとする。
「げっ、ナニ考えてんだ」
「今使わないで、いつ使うンだよ」
「確実に今ではねーよ!?」
「ムリムリ、浜面諦めようぜ。いっそこの方が安全だし、バッテリーのこと考えたら、一方通行だって長くは運転しないさ」
「上条はコイツにだけ優しいと思う。俺は不公平を訴えてみる。俺の車なのに。今度俺にポルシェを運転させるべきだと思う」
39 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/11(日) 00:26:11.80 ID:mJNfgIRa0
上条の予想は、惜しくも外れた。一方通行が勝手に有料道路に乗ってしまったのだ。
信号も交差点もないそこでは発進がない。シフトチェンジが必要なほどの減速、加速が少ない。一度スピードが出て5速に入れてからは、一方通行は能力未使用のままアクセルだけを踏む。こうなれば、普段のポルシェと同じだ。
たまに、加速したい時だけ5速から4速にシフトダウンするが、低速度の時よりクラッチ操作がシビアではなく、能力を用いなくても可能だった。
「一方通行さーん? いつハンドル返してくれるんですかねー?」
「うるせェ、ケチケチすンな」
「楽しいから、もう少し貸して、だってさ」
「はいはい、通訳ありがとさん」
40 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/11(日) 00:36:28.41 ID:mJNfgIRa0
車内で他愛もないことを喋る三人。有料道路に入ってから、二十分ほど経った頃…
「うぉっ、あっぶねーな。なんつーインテRだ。百五十キロくらい出てんじゃねぇかアレ?」
三人が乗るエボの左を、白いスポーツカーが猛スピードで追い抜いていった。浜面が首を伸ばし、前方に走り去っていく車を確かめる。
頻繁に車線変更して、次々に他の車を抜かしていく。乱暴な運転だ。
上条が、フロントシートの間から顔を出して浜面に訊いた。
「インテアール?」
「正しくは インテグラ タイプR、っつってな、去年復活した往年の名車よ」
「インデックス?」
「本日二回目の違うわボケ! イ、ン、テ、グ、ラ! エボと違って」
「浜面よォ」
今日はよくセリフを中断される日だ。浜面は運転席の一方通行に顔を向けた。声のトーンがなんだか怪しい。
「そのインテRとやらと、この車、どっちが早ェンだよ」
「は? いや排気量は同じだけど」
「じゃあ互角なンだな?」
「え? でもインテの方が軽いし、向こうもマニュアルだけど6速まであるから」
「ンだよ、ランエボってトロいのか」
「カッチンとキた。出力はエボが上だよ! ただこういう平坦な高速道路ではインテの方が多少有利かもね?ってだけで」
今、浜面は、余計なこと言った。
「……ふーン、なンでもイイ。オマエら、どっかに掴まってなァ」
「いやぁー! この人スイッチオンしたよ! うわぉ鮮やか!」
浜面も称賛してしまうほどのシフト捌きだった。マニュアル車の運転はこれが初めてなんて、とても思えない。
能力を発動させた彼にとってエボは今、自分の手足も同然である。
「ごめんね浜面。元はといえば、俺が一方通行の心を代弁したばっかりに……」
上条はシートベルトを確認した。しっかりはまっているか、緩んでいないか。
「後ろ姿がムカついた。あの白いの、絶っ対ェ抜かす」
「子供かお前はぁぁぁ!あんな暴走車にムキになるなよぉ!」
41 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/11(日) 00:40:28.06 ID:mJNfgIRa0
急加速を始めたランエボⅪ。自動車大国日本が誇る最新式のスポーツカー。
しかも運転しているのは、ベクトルを操る最強の超能力者だ。
「だだだだ、大丈夫だとは思うけど! ローン残ってんだからくれぐれも気をつけてねぇぇぇ!? できれば今すぐ法定速度に落としてほしいっ」
「黙ってろ、舌噛むぜェっ、とォ」
「うおぇ、車の動きじゃない。なに今の…っ」
「吐くんじゃねぇぞ上条!? そして間違っても右手で一方通行に触るな! 触ったら死ぬ!」
「はははは、雪山の、寝たら死ぬぞー、みたいだな」
「ハハハハ、なんで気楽なのキミ」
そこは、<一方通行>に対する信頼の違いだろうか。実際に戦ったからこそ、その精密性に確信を持っているのだ。
「はっ、見えてきやがったァ!」
「お、お、お、インテも早いぞ! アッチも子供が運転してる!」
追走してくるエボに気づいたのか、抜かされまいと、インテRもさらに加速を始める。
住民の多くが学生で、車の所有者が少ない学園都市でも、休日にはレジャー目的でいつもより車両が多く走行している。
白いインテRと黒いランエボは、そんな車達をかわしながら疾走していた。迷惑な暴走車二台に、他のドライバーはさぞ驚いたことであろう。
42 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/11(日) 00:45:47.73 ID:mJNfgIRa0
ベクトル操作で制御された車体は、不自然なほどによく止まり、よく曲がる。反則ブレーキング性能を備えたエボが、ジワジワと差を詰めていった。
「ちょろいな」
「うーん、でも、前方に他の車がいなくなっちゃったぞ。……ほら、また離されてく。おぇ」
「くっそ、無茶な運転しやがって。タイヤが減るよぅ……」
ほぼ直線の、障害物がない平坦な道路。ランエボより二〇〇キログラム以上も軽いインテRが、車間を広げていく。それにこっちは三人乗りで、なおさら重い(一人は平均体重よりずっと軽いけど)
「ばァーか。そりゃ俺にとっても願ったり叶ったり、なンだよ」
「え、う、わ。Gが…っ」
明らかに異常な加速だった。浜面と上条の背中が、シートに張り付く。
「公道で普通の車が出していいスピードじゃねェぞ! ベクトルターボか!? 今何キロだ!?」
「二四〇キロォ。ちゃンとコントロールしてっから心配いらねェよ」
「あぁあァァ一方通行、さすがにこれは上条さんもちょっと怖いっ」
「メーターが三〇〇まであるってことは、そこまでなら出していいってことだろォが」
「んなわけあるかいぃぃぃ!もう嫌じゃぁぁぁー! 横に一方通行乗せるといつもヒドイ目に遭うー!」」
「ほォら捕まえたァ……っ」
ついに、憎い白い影と並ぶ。のは一瞬だった。すこーんと抜かして、エボはそのまま颯爽と走り去る。
インテRも諦めたのか、減速を始め、やがてルームミラーから姿を消した。
それを確認し、不敵な笑みを浮かべる一方通行も、加速をやめる。彼が首に手を伸ばしたことで、恐怖のカーチェイスは終わりを告げた。
他の乗員は、文句を言う余裕もない。浜面は弱々しい仕草で看板を指さした。
「……一方通行さん、パーキングあるよそこ。……休憩を所望する」
「おォ。丁度良かったわ。俺のバッテリーも、もうすぐ切れるし」
「……え?」
まったく、心が休まる暇がない。
43 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/11(日) 00:48:42.79 ID:mJNfgIRa0
パーキングエリア入口付近の駐車場に停めてから、数十秒後。「後は頼む」と言い残して、一方通行はエボのリヤシートに突っ伏して意識を失った。
ちゃんと、寝てもいい所をチョイスするという気の使いよう。
「………」
「………」
ドアからはみ出した一方通行の足を見ながら、頼まれた二人は腰に手を当てる。
「どうしよっか、このデカイ子供」
「えーと、どこかでコンセント借りれば充電できるけど」
「でも通報されそうだよね」
「そうだね。脱力しきった男を担いで歩いてたら、黄泉川先生の仲間がやってくるかもね」
ここから一番近い充電ポイントは、上条の家だ。とにかくそこへ急ぐことにした。
二人は一方通行の体を折り曲げて、どうにかシートに彼の全身を収める。
「はぁ、ちっとも休憩できやしねぇ。ひょっとしてコイツと車に乗ると、必ずヤバい目に遭う運命なの?」
「それとも俺が同乗したからなのでせうか……」
「言うな上条。それに多分違う。一方通行が悪い」
44 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/11(日) 00:53:05.35 ID:mJNfgIRa0
「おかえり、とうま! ……あ、いらっしゃい、はまづら……、それにあくせられーたも。……また寝てるのかな?」
留守番していたインデックスが、疲れた顔の上条、浜面を部屋に招き入れる。彼の背中には、グッタリした一方通行。
「ただいま、インデックス。ちょっと待っててな」
居間のコンセントに充電器を差すと、一方通行はすぐに意識を取り戻した。
「ふゥ、……よォシスター、しばらくだったな」
「うん、こんにちは。らすとおーだーは一緒じゃないんだね? 会いたかったなぁ」
男三人は、顔を見合わせた。さて、インデックスになんと言おうか。いや、言い方なんてそうも無いけど。
ここはやっぱり、「お前が言え」と、上条にプレッシャーが掛けられた。
「えーと、あのな、打ち止めのことなんだけど……」
「?? なぁに?」
「妊娠したんだってさ。だから、これから遊びに誘うにも気を使わなきゃいけないぞ。大事な体なんだから」
「ふぇ? えぇぇぇぇぇ? ううううそぉ? らすとおーだーがぁぁぁぁあああ!!?」
「うーん、いい驚きっぷり。俺も理后に言う時が楽しみだなぁ」
45 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/11(日) 00:56:00.04 ID:mJNfgIRa0
電極を充電している間、一方通行は昼間と同じようなことを、もう一度インデックスに答えるハメになった。
床に座りこんだ彼女から、あれこれ質問される。
打ち止めが高校を中退することには残念そうな様子だったが、やがて打ち止め自身が喜んでいることを知ると、彼女も一方通行を祝福した。
「おめでとう! 結婚式はいつするのかな? また司祭役やらせてくれたら嬉しいんだよ」
「……あァ、その」
実はまだ、プロポーズさえしていない一方通行であった。「しよう」と気合いを入れていた日は気絶してしまったし。
それから一週間、しないままでズルズル過ごしてしまったのだ。お腹の子供のことに、気を取られていたことも要因している。
「今は打ち止めの体調を優先してェから、まだ予定は……。籍は近いうちに入れる」
「そっか。……りこうも結婚して、らすとおーだーも結婚かぁ……」
(ねぇ上条、俺一方通行がまだプロポーズしてない、に千円)
浜面が、友人の一大イベントに乗じて、賭けごとを持ちかける。が、上条は無視。
インデックスの正面まで移動し、一方通行を遮るようにして、こちらも床に膝をついた。
「とうま?」
青年は、至極まじめな顔で、両手でインデックスの手を握る。
「インデックス、結婚しようか」
46 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/11(日) 00:58:35.70 ID:mJNfgIRa0
「お、おい?」
「はァ?」
客人の男二人と、インデックスが目を見開く。
「……え」
「なんだか、今のインデックスの顔見てたらさ、俺も急に結婚したくなったんだ」
急に始まった恋愛劇に、浜面と一方通行は完全に蚊帳の外である。
特に一方通行は、まるで壁に繋がれているような状況なので、自分が滑稽な気さえしてしまう。
「シスターのお前に、いきなりこんなこと、って思うかもしれないけど……。俺の奥さんになってください。頼む」
「………、あ、あ、は、……はい」
言葉少ないインデックスだったが、突然のプロポーズに感激しているのは、顔を見れば明らかだった。
「………」
「………」
(なに完全に二人だけの世界を築いてるんだ)とは、一方通行と浜面の心のツッコミである。珍しく、ピタリと意見が一致した。
満タンまで、まだ少し余裕があるが、一方通行は充電を終わらせた。目線と顎で浜面に合図し、無言で上条の部屋を後にする。
携帯端末で録画を始めようとしていた浜面は、惜しそうに口を尖らせるものの、素直についてくる。
背後で、家主がこっちを見送る気配がしたが、ほんの一瞬のことだった。
47 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/11(日) 01:00:54.30 ID:mJNfgIRa0
「今日はビッグニュース二連発だったな」と、ホクホクした浜面に送られ、一方通行は自宅に戻った。
夕闇迫る中、玄関のドアの前に立つと、打ち止めが作っているであろう晩御飯の匂いが漂ってきた。
そういえば、今日は昼食を取っていないので、腹が空いていることに気づく。
しかし彼には、空腹を満たすより先に、やらねばならぬ事がある。
「帰った」
「おかえりー、ってミサカはミサカはおたま装備でお返事してみるー」
「わんっ」
台所から声だけの打ち止めと、尻尾を振って走り寄ってくるハスキー犬。じゃれついてくるブランカを避けながら、一方通行は少女の元へ。
「打ち止め、ちょっといいか」
「ん? 待ってね」
コンロの過熱を弱め、打ち止めがエプロンをしたまま青年に近づく。
「鍋は?」
「あとは煮込むだけだったから、ってミサカはミサカはナイスタイミングで心配無用だと告げてみる」
二人はリビングのソファに座った。打ち止めが首をかしげ、一方通行からの言葉を待つ。
何やら話があると見当がつけられるので、彼の口が開かれるのを待っていたが、
「わふわふわふ」
「……」
一方通行の膝に前足を掛け、鼻を押し付け、ブランカが「かまってコール」を繰り返す。
「あー、待て待てェ。仕切り直しだ」
48 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/11(日) 01:03:13.64 ID:mJNfgIRa0
愛犬に待機を命じ、一方通行は打ち止めの手を引いて寝室へ入っていった。薄暗いので、少女が照明を点けようとしたが、それを制してベッドに座らせる。
ひと息ついて、よくよく彼女の姿を見れば、エプロンをしたままだったのでそれを脱がせた。
(この人がムードを気にするなんて、ってミサカはミサカは……、まさかの予感に緊張してみたり)
一方通行の口が開く……が、中々声が聞こえてこない。彼は頭を掻いた後、打ち止めを抱き寄せて、良い香りの髪に顔を埋めた。
そのまま、掠れた声で囁く。
「ラストオーダー…、俺と、……結婚してくれ」
「……うん。する」
「明日、籍入れに行くか」
「これでミサカも、『黄泉川打ち止め』だね、ってミサカはミサカは末永くよろしくお願いしますとお返事してみる」
打ち止めの表情は見えないけが、きっと、さっきのインデックスのように、輝く笑顔を浮かべてくれているだろう。
「……遅くなって、悪かったな」
「ふふ、ずーっとミサカにひっつき虫してるより、プロポーズする方が簡単じゃない?」
「俺にとっては、コッチの方がハードル高ェンだよ」
ボソボソ、ボソボソ。
二人だけにしか聞こえない愛の囁きは、ドアの外でブランカが寂しい鳴き声をあげるまで続いた。
49 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/11(日) 01:08:41.48 ID:mJNfgIRa0
ドライブする一方通行と、プロポーズする一方通行の巻 完
インテR乗りが、読者の方にいたら申し訳ない。
「正しくは インテグラ タイプR、っつってな、去年復活した往年の名車よ」
「インデックス?」
「本日二回目の違うわボケ! イ、ン、テ、グ、ラ!」
これを言わせたくて、インテ登場させました。だから復活とか激嘘です。
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/11(日) 01:53:38.20 ID:qBTb0z2DO
一方通行は
ひとかたみちゆち、か。
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/03/11(日) 01:56:21.39 ID:VSCG3Dck0
おおおお乙!
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2012/03/11(日) 02:55:26.49 ID:9KStFNeNo
>>49
乙!
ホンダさん、とういより日本の車メーカーは
俺が死ぬまでにもう一度スポーツカーに力を入れてくれないだろうか・・・
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2012/03/11(日) 03:21:22.78 ID:CdzcMYiQo
乙パイ
あれ?
普通は車にコンセントってついてるもんじゃないの?
車線変更しまくってどんどん抜かして行く運転か…
小学生のときのサッカーのコーチがポルシェでそんな運転してたな
あと一方さんと打ち止め、上条さんとインデックスさんおめでとう!
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/11(日) 06:47:16.77 ID:jtnj+lHDO
一方さん用にDC12or24vからAC100vが取れるようにDCACインバータが必要だな
お手軽なのはパルス幅変調式だが、一方さんのチョーカーには
少々お高いのだが正弦波式や位相制御式の方が安心か
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/03/11(日) 07:51:25.00 ID:gFG5in3+o
ベクトル操作で電流作って充電やー! とか考えたけど、プラマイゼロになるのかね。 乙っした−。
結婚おめー!
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2012/03/11(日) 10:03:15.43 ID:GfHsb7lXo
乙
これから式までのなんやかんやかな
車内ACコンセントはスポーツカーならオプションだわな
ポルシェもランエボもHV/EV車じゃなさそうだし
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/11(日) 12:33:00.04 ID:oWGhMAuDO
>>1
乙ぱい
プロポーズは打ち止めのおっぱいに顔を埋めてするのかと思ってた自分爆発しろ
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大分県)
[sage]:2012/03/11(日) 12:38:41.76 ID:chJiDerL0
乙
浜面から報告を受けた時の滝壺のリアクションも見てみたいなww
59 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/11(日) 21:47:10.75 ID:zq/de5j90
>>52
流行らないですからね、今時……。 今度発売されるハチロクってどうなんだろうか?
>>53
>>54
が説明するような機器があれば大丈夫(らしいです) カーショップで安価に手に入る車両用携帯充電器などは、
携帯バッテリーおしゃかになる。車からは電源取らない方がいいと思ってました。
>>57
そうすりゃ良かった……
>>58
ふむ。 ……うむ。
大事なことを言い忘れていました。
交通ルールを守って、歩行者優先の安全運転をしましょう。
60 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/15(木) 12:46:05.57 ID:R/yhBgSM0
仕事が修羅場になったので、少々お待ち下さい。
61 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/17(土) 00:33:28.35 ID:KlEKmZVX0
久しぶりに投下します。
安定のバカップルです。
62 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/17(土) 00:35:47.07 ID:KlEKmZVX0
打ち止めが弱っている。
つわりに悩まされているのだ。いままで好きだった食べ物が、急にそうでもなくなったり。
料理を作ろうとして、その匂いに気持ち悪くなったり。
炊きたてのご飯の匂いに吐き気をもよおしたのには、打ち止め本人も驚いていた。
そう、一番の問題は吐き気である。
食べなきゃいけないのに、食べられないのだ。
「食欲ないの……」
「無くても、ちっとは食わねェとだめだろ……。ほれ、一口、二口でもいいから」
「ん。……あーん」
一方通行は職場の事務所に出掛けても、頻繁に自宅に戻り打ち止めの世話を焼いた。キッチンに立つのも億劫な妻に代わり、口にできそうな料理を拵えたりすることも。あと、洗濯物も畳むようになった。
「まるであなたが主夫みたいね、ってミサカはミサカは不甲斐ない奥さんで申し訳なかったり」
「ンなこと気にするな。まァそう思うなら、食ってくれれば俺の気も休まるンだが」
「あはは、うん。頑張るよ、ってミサカはミサカはお皿を空にしてみる」
「おォ。少量ずつでいいらしいから、また食える時に食え」
「はーい」
まだ注意が必要な妊娠初期とはいえ、まるで重傷患者のように寝てばかりで過ごすのは良くない。打ち止めだって、家事はこなすし、番外個体や下位個体が愛犬の散歩に行く時は、手ぶらでゆっくりとお伴したりする。
ただ、クローン体である我が身は、いくら注意しても足りないことはないだろうと、一方通行の献身に甘えさせてもらっているのだ。
(ベクトル操作で赤ちゃんのこと丸分かりだもんね。きっとこの人の方が、ミサカより『お母さん』なのかも?)
早く、自分も胎動というものを実感してみたいものだ。ほんの僅かにしか膨らんでいない腹を擦る打ち止めであった。
63 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/17(土) 00:41:45.60 ID:KlEKmZVX0
一方通行に対して、打ち止めが申し訳ないと思っていることがもう一つ。
妊娠発覚から、二人は性交していない。口には出さないが、一方通行がかなり我慢していることは明白だった。
流産しやすい妊娠初期は要注意期間だ。せめて安定期に入る来月までは避けたほうがいいだろうと、打ち止めも考えていた。
出産を終えるまで一方通行が我慢するつもりなら、それは仕方ないことだが。
(果たして我慢できるかしら?ってミサカはミサカはあの人の煤けた後ろ姿を思い起こしてみたり)
「あ、したいのかな」という素振りが見えた瞬間、ぐっと言葉を飲み込んで背を向ける。
風呂上がりの自分を見つめる赤い目の揺らぎ。
それらを感じるにつけ、打ち止めは寂しいような、済まないような気になる。
そして何より、
(……まただ)
朝、一方通行の分身が自己主張することが多くなった。今までだって無かったことはないが、とても多くなった。
一方通行が先に寝床を出ていってしまうこともあるので、きっと打ち止めが数えている回数よりも多いに違いない。
二人が重ねてきた男女の営みの中で、打ち止めが積極的に一方通行を慰めたことはあまりない。酒の力が加わった時や、お互いのテンションが上手い具合に一致して時でもないと。
(……今日こそ頑張っちゃうぞ、ってミサカはミサカはこっそりゆっくり実行してみる)
まだ薄暗い夏の早朝。打ち止めは愛する旦那様のために、一歩を踏み出す。
そしてそれは、一方通行にとっても大きな一歩だった。しかし、彼は複雑な心境だったことだろう。
(妊娠してなかったら)まだ高校生の少女にさせることではない、と考えていたからだ。
では、卒業後ならどうだ、と言われれば、きっと口ごもる。要は、ただ気恥ずかしいのである。
64 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/17(土) 00:43:44.28 ID:KlEKmZVX0
気遣いからの打ち止めのご奉仕が習慣と化した頃、夕食後のリビングでまったりしていた時だった。
つわりも治まり安定期に入った打ち止めは、一方通行にあるファイルを手渡した。ただのコピー用紙の束を、プラスチックのカバーで纏めた簡素なものだった。
わざわざパソコンからプリントアウトして、見せやすいように冊子状にして用意していたらしい。
「ね、コレ読んでみて、ってミサカはミサカはあなたに重要情報を提示してみる」
「あァ? なンだよ、わざわざ……」
口で伝えてくれれば早いのに、なぜ?
「いーいーかーらー。はーやーくー」
ソファでくつろぎながら、一方通行はまず表紙をめくる。
「……………」
(さぁ、この人の反応や如何に!?ってミサカはミサカは止まっちゃったあなたの再起動を促してみたり)
「ほら、読んで読んで」
「オマエ、こりゃ一体……」
まず一枚目の紙に書かれていたタイトルは
<妊娠中のセックスについて>
65 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/17(土) 00:47:51.83 ID:KlEKmZVX0
一方通行は、打ち止めが無事出産を終えるまでは性交出来ないと覚悟を決めていた。
「覚悟」なんて大げさ、と言われるかもしれないが、誰にも言う気は無いので問題ない。
ただでさえ大事な打ち止めの体だ。自分達の息子のためだ。(男の子でした)
万が一のことがあっては、悔やんでも悔やみきれない。
「こンなン見せられても、俺は」
「とにかく全部読んで。あなたなら、たったの十ページぐらいすぐでしょ。 一分? 二分? 文句はその後」
「……」
まだタイトルしか見ていないので、言われるままにページをめくっていった。
(……、イラストまでありやがる)
これは一緒に見たくない。一方通行は重心をずらして妻から少し離れ、ファイルを持つ手を狭めた。
(ゴムって妊娠してても着けなきゃいけねェのか……)
だから、「覚悟」してたのなら、そんな事実は関係ないだろう。残念がる必要などないはずだ。
そう我に返って、弱い心を叱咤する。打ち止めは、なんでもない様子で一方通行を見ていた。過度な期待も伺えない。
とにかく、読み終わった。ファイルを打ち止めに返すのは、なんとなく嫌なので、青年はテーブルの上にそれを投げ出した。
「ミサカは別に、あなたが遠慮する気なら何も言わない、ってミサカはミサカはあなたの意思を尊重してみる」
「……」
「ただね、赤ちゃんの成長も順調だし、ミサカの体調も良さそうだし」
「ガッツガツ食ってるモンな。言っとくが、妊娠中だからって、体重の増え過ぎは良くねェン」
「分かってますぅ! いつも注意されてるからぁ! そうじゃなくて」
打ち止めは、一方通行の体に寄り添い、電極のスイッチを入れた。
「息子ちゃんはどう? 元気」
「……あァ」
66 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/17(土) 00:49:47.28 ID:KlEKmZVX0
日に日に大きくなる子供の体。最初に気づいた時は指先程度だったのに、今は手の平大で、体重も百グラムを超えた。
鼓動はより力強くなり、凄まじい速さで成長を続けている。
「お、動いてンな」
「うん、最近はミサカも分かるようになったよ、ってミサカはミサカはあなただけの特権をようやく味わえるようになって嬉しかったり」
『大丈夫』なら、ストレスやその他諸々のものを溜める必要はないよ、と提案してみた。夫の苦しみは、妻の苦しみなのだ。
一方通行が辛いと、打ち止めの精神がよろしくない。ひいては、腹の子によろしくないのでは? と思い、こうして解決案を示してみた打ち止めである。
それでも却下されるなら、それに従おう。でも、もし彼が、彼の能力が良しとするならば……
「……」
「……」
「シャワー浴びてこようかな、ってミサカはミサカはさりげなく行動に移してみる」
「……慌てなくていい。ゆっくり入ってこい」
「! はーい、ってミサカはミサカは計算どおりだとほくそ笑んでみたり」
早歩きでバスルームに向かう打ち止めの足音に、愛犬のハスキーが床に預けていた首を持ち上げる。
ブランカと一緒に打ち止めの背中を見送った一方通行は、再度ファイルを手に取って、注意点の確認を始めた。
再確認など、彼の頭脳には必要ないのだが……
67 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/17(土) 00:52:16.00 ID:KlEKmZVX0
通行止めの妊娠中夫婦生活の巻 完
いつも、イチャチャ、バカップル
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/17(土) 00:53:18.94 ID:aQ5XbjPIO
乙乙!
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2012/03/17(土) 00:53:57.10 ID:mTJ6Qyivo
乙パイ!乙パイ!
70 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/17(土) 01:13:19.12 ID:KlEKmZVX0
>>69
左右ニ個あるものだしね。 その表記は的を得ている。
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/17(土) 08:07:38.31 ID:5YMCNq0DO
>>1
乙ぱい
打ち止めタソがそのおっきなおっぱいで一方さんを包んであげればいいと思うんだ
ぱっくんしてごっくん、してくれたら最高だろうなぁ
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/03/17(土) 13:54:26.23 ID:bbOi6d3Co
乙ぱい
73 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/17(土) 22:50:07.60 ID:SRCb1RDV0
今回から、読んでる人を置き去りにする勢い。
投下します。
74 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/17(土) 22:57:45.72 ID:SRCb1RDV0
最近の一方通行は、打ち止めを家に置いて一人で出掛けることが多い。
長くても数時間で帰ってくるので、打ち止めは仕事をしているのだとばかり思っていた。
しかし、実は違う。
仕事をしてないわけではなかったが、最近の彼の興味はまったく別のことにある。
それは『指輪』だった。
入籍して、一方通行と打ち止めは晴れて夫婦となった……が、結婚式は挙げていない。打ち止めはウェディングドレスさえ着たことがない。
それは打ち止めの体調を最優先したからであって、決して一方通行が嫌がったからではなく、全ては子供のためだった(本音は嫌だけど)
そして妊娠も四ヶ月目に入り安定期となった今なら、式ぐらい出来るかもしれないが、お腹の子が大きくなってきたので、ドレスを着れなくなってしまったのだ。
それについて打ち止めが不満を表したことはないが、浜面達の式をうっとり眺めていた様子を思い起こせば、やりたかっただろうと分かり切っている。
式はしばらく無理となってしまったので、せめて指輪だけでもしっかり渡さなければならない。
プロポーズの時は、うっかり上条当麻とインデックスに触発されて、勢いのままに通過してしまい指輪を用意していなかった。
一方通行はここ数日ジュエリーショップを渡り歩いたり、カタログやネットで検索をかけたりで、家を留守にしていたのだ。
(……もォ宝石見過ぎて目が痛ェ。チカチカする)
なかなか買いたい指輪を見つけられない一方通行は、鉱物について無駄に詳しくなった。
75 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/17(土) 23:00:23.42 ID:SRCb1RDV0
目がチカチカするようになってから数日。一方通行はふっきれた。
(ダイヤでいい。ここは世間一般で一番有名な石でいく。それに打ち止めの誕生石だし、ダイヤって装飾品だけじゃなく、工業用品としても役に立ちまくりだし)
ロマンチックではないこじつけも混ざっているが、石はダイヤに決まった。そうなれば後は買うだけだ、すぐ終わる。
(終わらねェじゃねェか……)
三日経っても、彼は指輪を買うことができなかった。色々吟味してみたが、どうも「コレだ」という一品に巡り会えない。
特別なものをあげたいのだ。自分が打ち止めに合うと思う、世界にひとつが欲しい。
(はァー…、しょォがねェなァ。こうなったら自分で掘りに行くか)
なんとこの第一位、地中に埋まっているダイヤモンドを掘り出すことにした。手作りにもほどがある。
76 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/17(土) 23:03:20.85 ID:SRCb1RDV0
だが、ダイヤの産出地は限られているし、ほぼ全ての鉱脈には既に所有者が居る。「掘らせてくれ」と言って、素直にそれが叶うはずはない。
一方通行が築いてきたコネの中に、ダイヤ鉱山を所有する者はさすがにいない。
気は進まないが、一方通行は義父を頼ることにした。世界中を巡り、多種多様な人々に接している御坂旅掛なら、自分にはないコネを持っているかもしれない。
詳細は告げなかったが、「ダイヤ」という単語から連想されるものに、御坂旅掛はすぐ合点がいった。
息子と孫がいっぺんに出来たときも嬉しかったが、その息子が(おそらく、いや、絶対に)娘のためにダイヤモンドを探しているという。旅掛は大いに喜んだ。
電話口の向こうから響く大声に、一方通行は思わず頭を反らせた。
『そうか!うちの娘のために指輪をなぁ。俺はいい息子を持った』
「………」
この義父、やたらと一方通行を息子扱いする。本当のことなので、「気安く呼ぶな」とも言えない。
『それにしても、わざわざ発掘から始めることはないだろう。加工前の原石を当たってデザインするという手もあるぞ』
「出来ればピンクダイヤか、ブルーダイヤが欲しいンだ。希望は三カラット以上の」
『ほぉ、そりゃまた……。青はまず無理だろう。ふぅん……』
様々な色が存在するダイヤモンドだが、無色透明なものほど価値が高いとされている。
その中でブルーやピンクといった限られた色だけが、透明な石よりも希少で、その価値は格段に跳ね上がる。
希少なだけあって、一カラット以上の石が見つかることは稀である。一方通行はそれを承知で大粒を求めていた。
77 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/17(土) 23:05:13.64 ID:SRCb1RDV0
「やっぱ無謀だと思うか? アテが無ェなら自分でなんとかするが」
『おいおい、性急だな。なにも諦めろとは言ってないだろう。今心当たりを探しているところだ』
数十秒経って、御坂旅掛はある南の国を一方通行に紹介した。
「マリネラ?」
『そうだ。小国だが、有数のダイヤ産出国だ。知らないか?』
「さァな、あるといえば、あるよォな…」
『今どきめずらしい王制国家だ。しかも国王はまだ十七歳の少年で、十歳から執政している、いわゆる天才ってやつだな』
通話しながら、一方通行は事務所のパソコンで『マリネラ』を調べてみた。千年以上の歴史を持ち、ただの一度も植民地支配されたことがないらしい。それは遭難多発地域に孤立する島国であることや、帝国主義時代を乗り切った当時の為政者の活躍による。
近代化されてからは、国土に埋まるダイヤモンドを輸出してたちまち裕福になり、観光地としてもわりと人気だそうだ。
『そこの偉いさんに、ちょいとツテがあってな。話を通しといてやろう』
「王様本人とは知り合いじゃねェのか」
『心配するな。俺の予想じゃ、あの国王は絶対OKするぞ』
「なぜ分かる」
『バカと天才と変態は紙一重って言うじゃないか。学園都市の超能力者と言えば、一も二も無く許可が出るさ』
78 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/17(土) 23:12:22.62 ID:SRCb1RDV0
通行止め×パタリロ準備号の巻 完
いきなりクロスSSです。しかもパタリロです。禁書読者の年齢まったく考慮してません。
「パタリロ」はサザエさん的に永遠の十歳ですが、ここは禁書世界に「パタリロ」が存在したら、というIF設定でいきます。
だからパタは17歳。タイムワープもしません。二足歩行の喋る猫もいません。
空気を読まずに、我はゆく。さらば
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/17(土) 23:13:22.13 ID:EagI7igIO
乙
マリネラぐぐったらわろた
パタリロは知らんがww
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2012/03/17(土) 23:16:08.09 ID:mTJ6Qyivo
乙パイ!乙パイ!
話が分かるように書いてくれればそれでいい
81 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/18(日) 00:39:39.07 ID:bnqS9GPBo
パタリロだと……え、いちゃいちゃSSかと思ったらクロスもするんかここ……すげぇぜ。
82 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/18(日) 02:32:29.66 ID:+rwi87hDO
>>1
乙ぱい
…まさかパタリロがくるとは…この
>>1
ってヤツぁやるなぁ
ところで、胎教にいいと教えられて大喜びでクックロビン音頭を踊る打ち止めと、それを呆れ顔で見守る一方さんを幻視してしまったんだがどうしてくれる
83 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/03/18(日) 05:40:37.07 ID:IfKcMK5lo
一方さんも美少年の内だよな
漲ってきた
84 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2012/03/18(日) 06:33:59.88 ID:4vqDHzI6o
一方さんなら圧縮圧縮でダイヤ自製できそうだけどなんて俺得
禁書世界ルールでもイロイロ絡めそうだけどはたして
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2012/03/18(日) 12:09:44.58 ID:ZijdYrmNo
白髪頭、天才、世界中に同じ顔した部隊がいる(タマネギと妹達)
割と殿下と一方さんは類似点が多いんだよ
86 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
:2012/03/19(月) 10:29:54.51 ID:UTsXDjQAO
17才のパタリロか。意外に丸みが取れてラシャーヌみたいな美少年になってるかもしれないな。今後の展開期待してます。
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/03/21(水) 00:51:16.94 ID:kbJIrQN80
一方さん、バンコランさんには気を付けて。
お尻を狙われちゃいそうで心配。
あと、嫉妬するであろうマライヒにも気を付けた方がいい。
88 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/21(水) 19:37:23.24 ID:3+yK+hWl0
私バカよね、おバカさんよね。優しいレスばかりで泣くわ、もう。
>>80
了解しました。そのあたり気をつけます。
>>82
私にも視えた。 ……かわぇぇぇぇ。 打ち止め「あなたも一緒におどろーよー」
>>85
同意同意。1スレ目から企んでいたパタ×禁(通行止め)ですが、ずぅーっとそう思ってて言うの我慢してました。
>>87
その二人にも気をつけるべきですが、もっと要注意人物なのが……
それでは投下します。
89 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/21(水) 19:44:36.42 ID:3+yK+hWl0
御坂旅掛との電話を終わらせ、一方通行は家路についた。きっと数日内には彼から連絡があるだろう。
その間に、もっと『マリネラ』という国について調べておくことにした。
その日の夜、打ち止めが風呂に入っている時だった。自室の机で早速情報収集に努めていたら、携帯端末に音声着信があった。
五秒ほど考えてみたが、記憶にない番号である。とりあえず通話してみることにした。まずは黙ったまま、相手の出方を伺う。
「……」
『もしもーし、そちらは学園都市の超能力者、一方通行さんですか?』
「誰だ、オマエ」
『あのー、わたくしマリネラ国王のパタリロ・ド・マリネール八世なんですけど』
「……はァ?」
『あれ? ミスター御坂から紹介してもらったんだけど、ご存知ない?』
御坂旅掛と話をしたのは、ほんの数時間前だ。先方からもう連絡が来るなんて、いくらなんでも早すぎる。
自分のアドレスは、旅掛が教えたのなら納得だし、仮にも一国を導く指導者なら諜報機関を駆使して調べられるだろう。
しかし、最高権力者自らが電話を掛けてくるとは予想外。
「本物かよ」
『天使も羨む、この魅惑のテノールボイスが証明にならないかな』
「………」
『それで聞いた話によると、僕の国で期限付きだけど労働をしてくれるって本当ですか?』
「御坂旅掛と、どンな話をしたのか知らねェが、ダイヤを探しているのは確かだ」
『ピンクダイヤねぇ……。確かに、運が良ければ、マリネラでもたまに採掘される』
話が早いに越したことはない。一方通行はさっさと交渉を済ますことにした。
一日も早く、打ち止めの指に理想の指輪を飾らせてやりたい。
90 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/21(水) 19:53:54.94 ID:3+yK+hWl0
「俺は目的の物さえ手に入ればそれでいい。出た石は正当な値段で買い取らせてもらう。こっちの勝手で国家事業の現場に潜らせろと要求してンだから」
『随分と殊勝ですなぁ。御坂さんから聞いてる印象と違うんだが、君は本当に一方通行さん?』
「……あと、俺が行う採掘作業のついでに出る石も、そっちの物にしてくれ」
『それは君の、最強と言われている超能力でもって約束されてると考えていいのかな?』
「そォだ。俺の目的を達成する過程で、勝手に湧いて出る利益だ。最低いくらなのかは、保証できねェがな。全て提供する」
地中の原石を探す途中で、きっとたくさんの石を拾い上げてしまうだろう。
ピンクダイヤ以外には興味がないので、それらはマリネラ側に引き取ってもらうつもりだった。
『くれると言うなら、遠慮なく貰おう。良い人だ、君は。いつ来てくれるんですかね?』
「気の早ェ王様だな。まだ何も準備してないンですけどォ」
『なんなら、日本のマリネラ大使館からタマネギを派遣させて、準備と渡航の手伝いをさせましょーか?』
「必要ない。俺も急いでるから、……四日以内には入国させてもらう」
「玉ねぎ」ってなンだ。と疑問に思うも、スルーして話し合いを進める。出国前に連絡を入れることにして、通話を終わらせた。
91 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/21(水) 20:00:40.68 ID:3+yK+hWl0
「お話終わった?ってミサカはミサカはお風呂が空いたことをお知らせしてみたり」
途中から打ち止めの気配は感じていた。
夫が電話中だと見て、彼女は邪魔しちゃいけないと思って部屋の外で待っていたのだ。
それを分かっていたので、パタリロ国王との話を先に終わらせた一方通行であった。いつまでも廊下に立ちっぱなしでいさせられない。
「遠くに行くの?ってミサカはミサカはお仕事なら仕方ないと聞きわけ良かったり。どれくらいで帰れる?」
「今回は……、さァなァ。終わるまで、だ」
妊娠中の打ち止めが安定期に入ったので、一方通行はまた海外へ出向くことにしたのだろう。
打ち止めは長期不在を伺わせる一方通行の答に眉を寄せてしまった。
青年は椅子から立ち、打ち止めの肩を抱いて一緒にベッドへ腰かけた。悲しそうなその顔は、すぐに満面の笑顔になると確信している。
「南の島国だ。気候は年中温暖」
「寒いのが苦手なあなただから、ミサカは安心したよ」
「うるせェ。お前だって寒いよりあったけェ方がいいだろォが」
「そりゃそうだけど」
「長期滞在になるかもしれねェ。妊娠中の旅行に必要なモンて何だ?」
「…え?」
「オマエも一緒に行くンだよ。三日後には空の上だ。明日から準備始めるぞ」
いつもの仕事の時と同じように、打ち止めに留守を頼もうかとも思ったが、今回はいつ帰ってこれるか分からない。
幸いなことに、打ち止め自身も腹の息子も、経過は良好だ。いっそ自分が傍にいた方が安心できる。
「新婚旅行だぁー!!」とはしゃぐ打ち止め。ベッドが大きく揺れ、一方通行は優しい力で、妻をベッドに押し付けた。
たとえ安定期でも、無意味に胎児に衝撃を与えるようなことは避けるべきである。
92 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/21(水) 20:02:41.73 ID:3+yK+hWl0
旅立つ前に、打ち止めと胎児の体調を徹底的に調べ、旅行に必要な物も買った。
冥土帰し、芳川桔梗は心配そうな顔をしていたが、新婚旅行に浮かれる打ち止めに押された形だ。
「くれぐれも気をつけてね。こまめに診察をすることを忘れないで」
くどくど言いつける芳川に、最初のうちはともあれ、いい加減一方通行はうんざりしてしまう。
「ミサカは既に、四時間に一回は診察されている、ってミサカはミサカは芳川の心配を払拭してみたり」
「まぁそうなの。すっかりお父さんしているのね」
「………」
「言いふらされたくなかったら、お土産を奮発すると誓いなさい」
「酒か?」
「君は私をアルコール中毒者だとでも思っているの?」
空港まで見送りに来た芳川に手を振られ、一方通行と打ち止めは機上の人となった。
93 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/21(水) 20:05:21.12 ID:3+yK+hWl0
約半日後、快適な空の旅を終え、二人は地上に降り立つ。
常春の国、マリネラ。
「ふぁあぁぁ、すっかり寝ちゃった。……おぉ、日本とは空気が違うね」
「湿度が低いンだ。夏の日本と比べると快適だな」
「これからどこに行くの?ってミサカはミサカはオシャレなリゾートホテルを期待してみたり」
「ホテルじゃねェよ、宮殿だ」
「は?」
「宮殿? 宮殿ってナニ!?」と騒ぐ打ち止めをひとまず放置し、一方通行は周囲を見回す。
(迎えを寄越すと言っていたが……)
「あれぇ? あの看板、何であなたの名前が書かれてるの?」
「あァ?」
< ようこそマリネラへ 日本国、学園都市の一方通行様 >
< おいでませマリネラ 一方通行様 >
< 歓迎 一方通行様 歓迎 >
「……………」
人が行き交う空港内で、通行人の頭から上に突き出たプラカードが、くるくる回りながらこちらへ近づいてくる。
打ち止めが指し示す方向から、「あ、いたいた」という声が複数あがった。
「どーもどーも、日本からお越しの一方通行さんですよね」
「パタリロ殿下の命を受けて、お迎えに参りました!」
妙な姿の男達だった。
オールバックの髪を後頭部でピンと立たせ、全員同じ眼鏡、同じ服。同一人物が三人並んでいるようだった。
一瞬「クローンか?」と思ってしまったが、よく見れば体格や輪郭、声が違うことに気づく。どうやら、意図して同じ容貌を装っているらしい。
日本語で書かれた文句と、そっくりな三人の男達を不思議そうに見ている打ち止め。
一方通行の名が書かれているということは、彼の関係者なのだろうと判断した。
94 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/21(水) 20:08:17.00 ID:3+yK+hWl0
「この人たちはだあれ?ってミサカはミサカは無反応のあなたにリアクションと説明を求めてみたり」
「……ひょっとしてオマエらがタマネギかァ?」
「そうでーす! ボクはタマネギとしちゃん号です!」
「よっちゃん号でーす!」
「マッチ号でーす!」
「「「三人合わせ」」」
三枚のプラカードを持ったまま、タマネギ達が子供用特撮番組の戦隊ヒーローのようなポーズをキメようとしたので、一方通行は杖で、コンコンガン、とそれらを弾いて中止させた。
床に落ちたプラスチックと木材で出来た板を拾い、三枚まとめて綺麗に折り畳む。もちろん能力は使用モードになっている。
ただのコピー用紙のように曲げられ、折られていくプラカードをあっけにとられて見ていたタマネギ部隊の三人。
ソフトボールぐらいになってしまった三枚のプラカードが、近くのゴミ箱に「がんっ」と重量を感じさせる音とともに捨てられた後、おずおずと声を掛けてみた。
「あらー、お待たせしちゃ悪いと思って看板を用意したんですが、いけませんでしたかねぇ?」
「発案者はよっちゃん号です」
「としちゃん号も賛成してたじゃないかー!」
「今のはどうやったんですか? あれがアイキってやつですか?」
国家事業の邪魔をするような真似を要求しているのだから、今回は下手に(出た方がいいかも)、とわきまえるつもりだったが、
「やかましいィ…っ!」
地に響くような声と、凍りつかんばかりの視線に刺され、タマネギ・タノキントリオは口を閉じて姿勢をただした。
95 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/21(水) 20:11:17.67 ID:3+yK+hWl0
「お兄さん達はどうして同じ恰好をしてるんですか?ってミサカはミサカは荷物を持ってくれた優しいよっちゃん号に訊いてみる」
出口に向かい、一行は空港内を歩いていた。にこやかな少女の側に自然とタマネギ達は集中している。
「僕達がマリネラ王室が誇るタマネギ部隊だからです。部隊に入るためには、知能的、身体的にあらゆるテストをクリアした一握りの人材だけなんですよ。この姿は特殊メイクで、部隊の制服みたいなものなんです」
えっへん、と胸を反らす よっちゃん号に、打ち止めは拍手を送った。
怖そうな一方通行とは対照的な打ち止めだけが、この場を繋ぐ希望だ。
「我々の主な仕事は殿下の補佐です。大事なお客様だと伺ってますので、お二人の滞在中は不自由がないようにサポートしますね」
「ありがとう……。でも、ミサカは自分が殿下のお客様だって今知った。ちょっとあなた、これって新婚旅行じゃないのっ?」
96 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/21(水) 20:13:37.97 ID:3+yK+hWl0
「新婚」という言葉に、タノキントリオがざわついた。一方通行と打ち止めが結婚している夫婦ということに驚いたのだ。
世界的に見ても、とくに若く見られる日本人。白髪色白赤目という一方通行とて、顔の作りは日本人だし、打ち止めは言うまでもない。
「俺は一言も新婚旅行だなンて言ってねェだろ。オマエが勝手に吹聴してただけですゥ。その方が芳川や冥土帰しの説得に有利だから、あえて否定しなかった」
「おのれぇ、このミサカ泣かせめ。でもこのミサカにだけは教えてくれてもいいのに、それをしなかったのは何でかな?」
「なンででしょォねェ」
タノキントリオの、一方通行に対する印象はめまぐるしく変わる。『コワイ人』から、今度は『素直じゃない愛妻家』に。
ロータリーに着けられていた車に乗り込む頃には、最初より更にくだけたものになった。
「宮殿に到着されますと、正門でタマネギ部隊管弦楽部による歓迎のコンサートが内緒で行われる予定なんですけど」
「………やめさせろ」
「ですよねー」
「えーミサカは聴きたいなー」
「やめてくださいィー」
97 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/21(水) 20:16:06.28 ID:3+yK+hWl0
とりあえずここまで
文字とか、言語の矛盾は全力スルー美少年。
98 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)
[sage]:2012/03/21(水) 21:22:09.18 ID:SvngjMXI0
乙です
確か、パタは仏教徒で親日国家ぽいので問題ないかとww(イメージ的にローマ正教徒ぽいですが)
99 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/22(木) 02:56:02.64 ID:bPiGcW/DO
>>1
乙ぱい
パタリロに続いてタノキントリオ…
>>1
の世代が判ってしまうなw
やはり芳川への土産は『美少年』で決まりだなw
100 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/22(木) 21:43:27.18 ID:vv1BbfW90
>>98
確か真言宗だったような。(密教だっけ?)
マリネラ語とかの設定が原作の「パタリロ!」にあれば、登場人物が英語を喋っていることにしたのに。
>>99
「美少年」を飲む芳川…… エロいです。
あとですね、私だってタノキントリオをテレビ中継で見た覚えなんてないですよ。
あくまで一般常識として知っていただけですもん。
101 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/23(金) 00:31:37.16 ID:X7cwmj8Z0
タマネギ マッチ号が車内から連絡してくれたおかげで、管弦楽部による歓迎コンサートは中止された。
一方通行と打ち止めは、滞りなくマリネラ宮殿内に足を踏み入れる。
どうして王宮に泊まることになっているのか訊きたい打ち止めだが、それは二人きりの時にしよう。
車内では、窓ガラスに手をつけないように気をつけて、流れる景色に目を奪われていたのだ。
このマリネラという国には、妹達は誰ひとり来たことが無く、打ち止めが初めて目にする国だったから。
広く長い廊下を進んでいる今現在、一方通行はマッチ号と話をしている。聞こえてくる内容は、さっそく宿泊する部屋に案内してくれるとのこと。
「申し訳ありませんが、殿下は夕方までイギリス外交官との会談で出掛けています。まずはお部屋で長旅の疲れを癒してください」
「構わない。むしろその方がありがてェな……。打ち止め、体は平気か」
一方通行は隣を歩く妻を慮った。妊娠後に、こんなに遠出したのは初めてだ。
「平気平気。だいたい移動はほとんど車と飛行機だよ?ってミサカはミサカはファーストクラスのふっかふかソファの快適さを思い出してみたり」
たくさんお昼寝できたからか、打ち止めは元気そうだった。その様子を見て、一方通行は(打ち止めだけが分かる程度に)安堵の表情を浮かべる。
マッチ号の案内で廊下を折れる直前に、騒がしい足音が接近してきた。それと人の叫び声も。
102 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/23(金) 00:33:21.40 ID:X7cwmj8Z0
「殿下―!! それは今日の夕食に使うんです返してぇぇぇー!」
「わーはははははこれは僕のオヤツにする! 夕ご飯までにはまだ時間があるからなんとかしろー!」
「だったら食費をくださーい!」
「そこをやりくりするのがお前達の」
「仕事だー」というセリフを響かせ、豚一匹分はあろうかという肉を抱えた少年が、一方通行達の横を一陣の風のように通り過ぎていった。
八秒も遅れて、コック姿のタマネギがヘロヘロになりながら追いすがる。肉泥棒と思わしき少年は、もう影も形も見当たらない。
人間離れした脚力だった。
「あぁ、ま、またやられ、た…」
「おい、お客様の前で恥ずかしいじゃないか。どうして殿下がいるんだ? イギリスの外交官と話してるはずじゃ?」
「ぜぇぜぇ、なんか中佐も一緒に来てて、ぜぇ…、あっというまに話を纏めて終わっちゃったらしいんだ」
(殿下ァ?)
(今のお肉抱えた人が?ってミサカはミサカは今日の夕飯の心配をしてみたり。ご飯もここでお世話になるんだよね)
一番に会わなければならないこの国の少年王が、さっきの肉を抱えた人影だというのか。日本からの客人二人は、思わず顔を見合わせた。
103 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/23(金) 00:35:41.79 ID:X7cwmj8Z0
「日本からたくさん食料持ってきて正解だったね」
「そォいう問題……か?」
「あ、いや大丈夫です大丈夫。お二人には必ず素晴らしいディナーをご用意しますですっ」
「し、失礼しました。お見苦しいところを…」
コックのタマネギ隊員とマッチ号が、慌てて弁解する。「そうだ、今日は魚料理にしましょう」と言い繕って、コックは去って行った。
「もういませんが、ご紹介します。さっき走ってたのが、我がマリネラ王国のパタリロ殿下です。十歳の時に戴冠は済ませてますが、『殿下』とお呼び下さい」
「そっか、普通は陛下、だよね」
「本人のこだわりでして。成人か結婚したら、嫌でも『陛下』ですけどね」
マッチ号は案内を再開する。国王を捕まえるのは困難だと判断し、当初の予定どおりに客人に休んでもらうつもりである。
あれこれ部屋の説明を終えて、マッチ号も二人に挨拶をして出て行った。
ようやく二人きりになれて、この旅行(そもそも旅行なのかさえも怪しい)の真相を訊き出すチャンスが巡って来た。なのに打ち止めは、部屋の中を物色するのに忙しくて後回しにしてしまう。
「すごーい、外国のお風呂だぁー」
「すごーい、お姫様ベッドだぁー」
「すごーい、カーテンがひらひらレースだぁー」
飛行機のファーストクラスでのソファに、負けずとも劣らない良い座り心地の長椅子に腰を沈めていた一方通行は、ちょこまか動き回る打ち止めを、肩肘ついて眺めていた。
(あーァ、大人しくしてらンねェのかコイツは)
「すごーい、丸焼きだぁー」
「……丸焼き?」
104 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/23(金) 00:40:13.49 ID:X7cwmj8Z0
打ち止めが窓を開けて外を見ていた。この部屋は一階だが、地下室があるのか地面は遠く、二階ほどの高さがある。
窓の外を、下からもくもくと煙が立ち上がっていくのが見えた。火事ではないようだが……
「なにが燃えてンだ?」
「お肉。マンガのキャンプみたいな焼き方だよ!」
一方通行も打ち止めの隣まで来て下を覗き込む。あれはどう見ても、さっき国王に強奪されていた肉だろう。
やはり豚一頭まるごと状態だったのか、胴回りと四肢のみにまで加工されてはいるが、まるごとだった。
片手で握っても指が回らないほどに太い木の枝が首から尻に通され、両脇をこれも枝で支えられていた。下ではいい塩梅で燻った薪が肉を焦がしていて、食欲をそそる匂いも部屋まで届く。
「お肉は発見したけど王様がいないね、ってミサカはミサカは周囲を確認してみる。マッチ号か、さっきのコックさんにお知らせした方がいい?」
「さァな」
ベッドサイドに備え付けられている内線電話を取ろうとして振り向く打ち止め。
「っ! きゃ、誰!?」
妻の悲鳴に、体が自然に反応する。一方通行はとっさに左手で打ち止めを庇い、杖を放って首の電極に手を伸ばす。
侵入者に驚く声で異常に気づくなんて。気配をまったく感じなかった己の不甲斐なさを責めた。しかし、
「………おい、その顔…」
ここ数日、写真や動画で見た覚えがある。
「こんにちは。ようこそマリネラへ。僕が国王のパタリロ八世です」
105 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/23(金) 00:41:20.32 ID:X7cwmj8Z0
とりあえずここまで。
ちょっと筆が進んだので投下しました。
やっとパタリロが登場です。
106 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/03/23(金) 02:23:30.43 ID:oGIMoqtAO
パタリロ読みたくなってきた
107 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2012/03/23(金) 02:29:25.43 ID:fJ7oGVkbo
乙パイ!
108 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/23(金) 02:44:28.11 ID:9g9jKczbo
乙。
109 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/23(金) 15:43:01.01 ID:p7V0cHQIO
>>106
ツッコミ体質持ちなら読んでるだけですっごい疲れたぞ
後、腹が痛くなる
110 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/23(金) 22:30:00.38 ID:z5zI6AHIO
おつん
そういや打ち止めの語尾がなくなってるな
もしや意図してやってるのか?
111 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/25(日) 02:07:40.04 ID:J3vFEkjDO
>>1
乙ぱい
そーいえば殿下ってタイムワープ能力持ってなかったっけ?
112 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2012/03/25(日) 07:18:05.37 ID:Gn/wgpYgo
乙
中佐ということは、みんな+7歳なんだよな
年取らない連中に出番はあるのかな?
>>111
>>78
113 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/25(日) 14:13:26.25 ID:J3vFEkjDO
>>112
オゥフ…読み抜いてたわ、tnx
114 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2012/03/25(日) 17:51:00.10 ID:sOYuUMNbo
浜面とか黒夜のような盾(ギャグ要員)なしで一方さんの精神は持つのだろうかww
115 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/25(日) 21:55:15.78 ID:WXly0sha0
>>106
是非。現時点で100冊くらい単行本出てますが。
>>110
股の下のタマタマだよ。 いつもよりちょっと少なかっただけさ。
>>112
みんな+7歳です。44号は霊感中年かな… 出番無いけど。
>>114
禁書世界のIFパタリロなので、そこまで心配は必要ないかと。
でも、間者猫とハードボイルドに密談する土御門とか(二人とも「ニャー」「にゃー」うるさい)
幼女の素晴らしさについて熱く語り合うヒューイットと一方さんとか(でも打ち止めのことは内緒)
肉球と拳で語り合うスーパーキャットと削板とか
大食い対決するパタリロとインデックスとか
面白そうだなぁ。
それらは妄想だけにとどめて投下します。
116 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/25(日) 22:00:21.98 ID:WXly0sha0
「さささ、立ち話もなんですから」
そう言って、一方通行と打ち止めにソファをすすめる国王。自分は鏡台から椅子を持ってきて、ローテーブルの対面に置いた。
手に持っていた薪は、ポイと放り投げて窓の外へ。
日本人二人は、この少年から目を離せないままに腰を下ろした。
にこにこ笑う顔は、マイクを持ってオシャレな服を纏えば、アイドルで通じるほどにハンサムだった。
身長は一方通行と同じくらいだろうか。ついでに髪の色もよく似ていた。
頭部は綺麗に分け目をつけて、そのまま肩まで流す長めのヘアスタイル。
細身は細身だが、一方通行よりは筋肉がついて見える。
着ている服はタマネギ隊員達の制服に似ているが、飾りが多く、作りも丁寧なものだった。
軍服のようなそれは、彼がこの、軍事的には大国の軍部最高司令官も兼ねているからである。
「まぁ造幣局長とか司法長官とか、他にも色々やってます」
「わぁ、ミサカと同じ十七歳なのにすごい!ってミサカはミサカは生の王様に興味深々だったり」
「え、お譲さん、僕と同じ年なんですか?」
童顔に見える打ち止めを、自分より幼い少女だと思っていたパタリロ。
日本では、化粧して装えば「えー、もっと年上に見える―」と言われ、鼻を高くしていた打ち止めだったのに。
今は妊娠中だしノーメイク。あとゆったりしたワンピースと、踵ぺったんこの靴だった。
「むー! ミサカだって本気出せば立派なレディなんですぅー」
「ははは、失礼。今晩のディナーでは、よろしければ君の本気を披露してくれたまえ」
「残念ですが、お腹に負担がかかるからドレスは着られないの、ってミサカはミサカは実力を発揮できなくてミサカも残念だったり」
打ち止めが何を言っているのか分からなくて、パタリロは笑顔のまま停止する。
117 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/25(日) 22:07:01.30 ID:WXly0sha0
「……おなか? 下痢でも患ってるんですか」
「……妊娠してンだよ。まだ腹は目立ってねェから分かりにくいかもな」
「四ヶ月目の食べ盛り、ってミサカはミサカは密かに夕ご飯の心配をしてました」
気まずそうな表情で、パタリロは窓の外を見た。自分が強奪した、今晩のメインディッシュが焼ける煙がもくもくと……
「あー、それはそれは……。げふんごふん。お譲さんには少々ワイルドですが、丸焼きはいかがですかね?」
「食わせられるかあンなモン。コックは魚料理にすると言っていたぞ」
「だからタマネギ達が釣り竿持って出掛けてたのか。仕事サボって遊びに行くのかと思ってた」
「………」
「………」
「せっかく減給できるチャンスだと思ったんだがなぁ」
限られた食費で生きていくため、涙ぐましい努力を強いられるタマネギ隊員達であった。
118 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/25(日) 22:09:57.98 ID:WXly0sha0
「さぁて、僕は打ち止めさんに食べてもらうディナーの材料を調達してきます。タマネギだけに任せておけんな」
一方通行がこの国に来た本命の理由はダイヤモンドだが、それにはまったく触れずに、パタリロは席を立った。少年王は一方通行と視線を合わせ、少しだけ笑う。
もしかして、打ち止めがいるこの場ではしない方がいいと、気を使ったのかもしれない。
「君達二人が滞在することは、宮殿に務める全ての者が知っている。案内はその辺に湧いているタマネギ達がしてくれるだろう。好きに歩き回ってくれ」
「いいのか。ここが執政の本拠地だろ。国家機密とかの管理は」
「見られて困るような機密は、簡単には見られないようになってるのさ。あ、でも扉や壁を破壊して、鍵が掛かった部屋に押し入ったりしないでくれよ」
「しねェよ」
パタリロは窓から飛び降りると、豚を担いで茂みの中へ消えて行った。
それを見送った打ち止めは、早歩きでソファの一方通行の元に戻ってくる。
「王様が、好きに歩き回ってもいいって、ってミサカはミサカはさっそくお城探検に行きたいと訴えてみる」
「どンだけ元気なンだよオマエは。ちったァ休め」
「ミサカは飛行機の中で五時間もお昼寝したから休憩は必要ないの。ねー行こーよ、ねー」
広い宮殿だ。高い塔もあるし、部屋数は優に百を超える。庭園も手入れが行き届いていて、噴水が虹を作っていた。
こんな楽しそうな所で、じっとしていられない。
渋る一方通行を置いて一人で部屋を出て行こうとさえしたので、青年は観念して付き合うことにした。
119 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/25(日) 22:12:31.65 ID:WXly0sha0
学園都市には少ない、緑のある所に自然と足が向いた。
どこまでが宮殿の敷地なのか分からないが、木漏れ日降りそそぐ森が、見えない先まで続いている。一方通行と一緒で迷子なんてありえないが、奥へ入るのはやめておいた。
芝生が刈り取られた歩道を歩く。時々、働いているタマネギ隊員達に会ったが、皆、勤務中なのか愛想良く挨拶を交わすだけ。
最初に仲良くなった、よっちゃん号達はどうしているのか気になった打ち止めだが、簡単に見分けがつかないので、こちらから声を掛けることは難しいだろう。
「あ、これ何の実かな。……ひゃー、ちょっとすっぱい」
「こォら勝手に食ってンじゃねェ。ホントに腹こわすぞ!」
「見て見て! 薔薇があるよ!キレイーってミサカはミサカは蝶のようにお花に誘われてみる」
色とりどりの薔薇の花が咲いていた。そういえば、二人が案内された部屋の花瓶にも活けてあったが、ここで摘んだものかもしれない。
薔薇以外にも、様々な種類の花が咲いていて、まるで植物園の一角のようだった。
花園の向こうには小さい畑。
野良着を着た男(遠目で分からないが、きっとあれもタマネギ隊員だと思う)が、水を撒いている、のどかな風景が広がっている。
120 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/25(日) 22:14:53.42 ID:WXly0sha0
「こんなにたくさんの花が、地面からちゃんと生えてるの初めて見たよ、ってミサカはミサカはいい香りを深呼吸で堪能してみたり」
「……ちょっと、くど過ぎねェか。香水をぶちまけたみたいだ」
「もぅ、ロマンチックにいこうよー」
歩いているうちに、背の高い薔薇の茂みに紛れ込んだ。誰からも見られないから、左手に打ち止めが腕を絡めていても大丈夫だ。
ヒールを履けない彼女のアホ毛がぴょんぴょん揺れて、一方通行の顎をくすぐる。
そうして花の中を散歩すること数分。
「……子供?」
「ン?」
「子供の声がする、ってミサカはミサカは耳を澄ましてみる」
「……確かに。…あともう一人いるな」
だんだんと、甲高い子供の声が二人に近づいてくる。
楽しそうな笑い声と、その子を追う大人の気配も。
121 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/25(日) 22:17:08.04 ID:WXly0sha0
すぐにガサガサ、ガサリと、道なき道から、葉っぱをくっつけた男の子が現われた。薔薇の茂みを掻き分けておきながら、どこにも刺で怪我した様子がない。
「……ふふふふふ、こんにちは、お兄ちゃん、お姉ちゃん。ここでは初めて見る顔だね」
「びっくりした。こんにちはチビちゃん。鬼ごっこでもしてたの?」
「まぁね。ママがコレを取り上げようとするから逃げてたんだ…けど、もう追いつかれちゃうなぁ」
見たところ、七、八歳くらい。金髪の巻き毛が美しい子供だった。あどけないその顔は、フランス人形のように完璧だった。
手には携帯用ゲーム機。落とさないように首から紐が掛かっていた。
「おいガキ、随分この城に馴染ンでます、って物言いだな。こ」
一方通行が子供に話しかけた時、彼らは初めて目を合わせる。
その瞬間、一方通行の胸を急激な圧迫感が襲う。あまりの苦しさに、打ち止めから離していた左手を再度伸ばし、彼女に縋りついた。
「!? あなた!?」
(なン……!? コレは…っ)
しばらくご無沙汰だった、この感じは……
122 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/25(日) 22:22:12.32 ID:WXly0sha0
「フィガロっ、もうこんなとこまで逃げて。……あれ?」
「ママー、知らない人見つけたー」
今度はちゃんと歩道を小走りに、もう一人が現われる。
彼女が子供を追いかけていた母親に違いない。片目を隠した長い髪は腰まで届いていた。
美形は美形だが、金髪以外は「フィガロ」と呼ばれた子供にあまり似ていなかった。
彼女が子供を抱っこした直後、一方通行を襲った圧迫感は消え去る。
(………、止まった……)
「君、どうかしたのかい? フィガロ、何かしたの?」
「なんにも? たった今会ったばっかだし」
心配そうな打ち止めに「大丈夫だ」と告げて、一方通行は態勢を立て直す。あの一瞬の負荷には心当たりがあるが、今は身重の彼女に、心身共に負担は掛けたくない。
「俺は何ともない。オマエらは誰だ? 宮殿で働いてるヤツじゃなさそォだな」
パタリロは、『君達二人が滞在することは、宮殿に務める全ての者が知っている』と言っていた。では、自分達を知らないこの親子は何者なのか。見ために不審なところはないが、たった今起こった体の異常事態が不審満載である。
「ぼくはマライヒ。この子はフィガロ。パタリロ……、ここ国王の友達だよ」
まだ不安そうな打ち止めに支えられながら、一方通行は『普通の子供』にしか見えない彼を凝視した。
「えへへ、フィガロだよー」
フィガロはただ、無邪気に手を振っている……
123 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/25(日) 22:24:53.89 ID:WXly0sha0
とりあえずここまでだよー。
全然大した展開にはならない予定。
124 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)
[sage]:2012/03/25(日) 23:13:28.80 ID:INljEyk9o
謎の圧迫感の正体が気になるな
125 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(石川県)
:2012/03/26(月) 00:01:10.81 ID:r9p50kzZ0
うーむ、フィガロを出してきましたか。これはダイヤモンド探しのはずがとんでもない方向へ?
今後の展開期待してます。
126 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/26(月) 04:18:05.94 ID:lIiAvvfIO
圧迫感って……魔術……なのか?
127 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/26(月) 06:28:15.76 ID:wh819J4DO
そーいやフィガロはミカ…ゲフンだっけ?
パタと一方の三人で絡んで欲しいな〜
128 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/26(月) 23:26:00.33 ID:Ob+9YUbDO
ミカン星人か…
129 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/27(火) 23:05:35.77 ID:mcabOpkg0
>>125
全然全然。期待しないでください。
続き投下します。
130 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/27(火) 23:10:14.77 ID:mcabOpkg0
マライヒと、彼女に抱っこされているフィガロ、一方通行と打ち止めは連れ立って歩いていた。
ここマリネラ宮殿については、我が家のように詳しいというマライヒが案内してくれるというからだ。
あの『パタリロ殿下』とは、かれこれ七年も付き合っているマライヒは、マリネラを訪れる頻度も多い。そしてパタリロが彼の住むロンドンに足を運ぶ機会も同じように多いらしい。
打ち止めは一方通行がその申し出を辞退するのではないかと思っていたが、意外にも了承された。
それは、一方通行がフィガロに抱いてる不信感故だが、打ち止めは知る由もない。
「マライヒと王様は仲良しなのね、ってミサカはミサカは友情の大切さを実感してみる。あなたも、ハマヅラやカミジョウを大事にしてね?」
「話が飛ンだな」
「全然飛んでないよ」
「二人とも仲良いんだね」
フィガロを抱っこしたマライヒが笑う。「あそこが気持ちいいんだよ」と、見晴らしの良い丘に建つベンチに腰を落ち着けた。
大理石の柱と屋根に囲われ、日差しを遮ってくれている。
「あんまり妊婦さんを歩かせちゃ悪いかもと思って。もう安定期?」
「おぉ、分かるの? さすが経験者は違いますなぁ、ってミサカはミサカは先輩に色々訊いちゃおうかと算段してみたり」
「うーん、でもぼくはちょっと事情が特殊というか……。出産も回復手術だったし。でも産んだ後のことなら大体答えられるかな」
十八歳でフィガロを産んだマライヒ。打ち止めにとって思いがけない出会いであった。
今の自分と大して変わらない年で母親になった彼女の経験談は、打ち止めを大いに勇気づけてくれる。マライヒがだんだんと困った様子を見せるのに気づかずに、矢継ぎ早に質問を投げかけた。
131 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/27(火) 23:12:08.57 ID:mcabOpkg0
(打ち止めは楽しそう、っつーか、興奮してンなァ。コイツの正体が気になっただけだったンだが、結果オーライか)
盛り上がるお母さん達の隣では、その会話を聞きながらも、フィガロから目を離さない一方通行。
怪しい子供は、四人の一番端……一方通行の隣で、没収を免れた携帯ゲーム機を夢中でプレイしている。
マライヒの抱っこから降ろされると、何故か「とてててて」という、可愛い足音で一方通行の隣にやってきたのだ。
『圧迫感』を警戒して身構えた一方通行だったが、そんな事態は無く、右側はフィガロに、左は打ち止め達に挟まれている状態だった。
小さいけど、耳障りなゲームの音が止まった。
「ここクリアできない。お兄ちゃんできる?」
「………」
フィガロがゲーム機を一方通行に手渡す。日本製ではなかったが、作りは良く似ていた。
一方通行はしばし黙考した後、ほんの少しボタンを弄って子供に返す。
「おら、出来たぞ」
「……ん。ありがとう。……ねぇ」
「あン?」
フィガロは、せっかくやってもらったゲームの確認もおざなりに、身を乗り出して母親と打ち止めのやり取りを見ている。
「お姉ちゃんは、もしかしてママのこと女だと思ってるみたい?」
「オマエの言ってることがよく分からねェな。アイツはお前の母親なンだろ?」
「そうだよ。マライヒママ。でもママは女じゃないよ。男だよ」
「……やっぱりよく分からねェな」
132 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/27(火) 23:13:24.50 ID:mcabOpkg0
初対面時に、フィガロがマライヒを「ママ」と呼び、また、マライヒの容貌がとても女性的だったものだから、一方通行達は彼をすっかり「女」だと思っていた。
「……養子、かァ?」
自分も黄泉川愛穂の養子だから、まずそう予想してみた。
引き取られた先の保護者の男が、あまりに女性的なので、フィガロが勝手に「ママ」と呼んでいるだけなのか?
「ううん、ちゃんとパパもいるんだ。バンコランパパ。もちろんパパも男だからね」
つまり……
(あァ、ゲイのカップルが養子をとったのか。旦那役は『バンコラン』っつー野郎なンだな)
あれ? でもさっき隣でマライヒが『出産も回復手術だったし』と言っていなかったか?
「やっぱり意味が分からねェ」
133 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/27(火) 23:15:18.66 ID:mcabOpkg0
「えー!? マライヒって男なの!?ってミサカはミサカは目の前の美人さんを疑いと驚きの目で凝視してみる」
「男がどォやって赤ン坊産むンだよ」
「産んだ後で男になったの?」
女だと思っていたマライヒが男で、しかも男でありながら子供を妊娠、出産したと告げられて、一方通行と打ち止めは驚いた。
信じられない、イロイロと。
そういえば、マライヒの胸板は真っ平だ。驚きのため遠慮を忘れた打ち止めが、長い金髪が掛かるマライヒの胸部をまさぐった。
会ったばかりの男の体に、なにをしているのかこの妻は。一方通行は打ち止めの肩を掴んで自分に引き寄せる。
「あははははは……、たまに……奇跡ってあるじゃない? それが七年前に、ぼくのお腹で起こっただけだよ」
まさか、本当にそんなことがあるのか。二人は疑わしげにマライヒの腹を見る。
(てゆーか細っ! ミサカは赤ちゃんが産まれた後のウエストの心配してたんだよね実は。その辺もマライヒに訊いてみよう)
(コイツはもしかして頭のネジがぶっ飛ンでて、記憶の改竄が起こってるンじゃねェのか?)
大人達の混乱を鎮めようと、フィガロがまた可愛い足音を立てる。ママの足元まで来ると、ピョンと膝に飛び乗って抱きついた。
134 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/27(火) 23:17:13.35 ID:mcabOpkg0
「僕は本当にママのお腹で大きくなって産まれたんだから。その時のこと覚えてるし。何より手術はこの宮殿でやったんだ。パタリロ国王もタマネギ達もみんな知ってるよ」
「………」
「………」
「不思議だと思うけど、そういうことがこの世界にはあるってこと、お兄ちゃん達も分かってるでしょ?」
そう言われると、過去に見てきた、体験してきた出来事のなんと不思議であったことだろう。
それに比べたら、男が赤子を妊娠するぐらい「アリ」かもしれない。
「無理に信じてくれなくていいよ。ただ、ぼくはフィガロがこのお腹に宿ってくれたことに感謝してるし、幸せだから細かいことは結構どうでもいいんだ」
細かいことだとは思えないが、ほほ笑み合う親子は本当に幸せそうだった。
(羨ましいなぁ、かわいいなぁ、ってミサカはミサカは早く自分の赤ちゃんに会いたくなってみたり)
小さな男の子が、母(?)の膝に抱かれて笑う。あと数ヶ月後には、自分もきっと、絶対こうなっているはずだ。
「フィガロちゃん、ミサカのお膝にもおいで?ってミサカはミサカは勧誘してみる」
なんの躊躇もなく軽く頷いて、子供は膝から膝へ移動を開始する。フィガロに不審を感じている一方通行は、一瞬やめさせようかと思ったが、打ち止めの表情を見て口を閉ざした。
「フィガロ、打ち止めちゃんのお腹には赤ちゃんがいるんだから、そっとだよ」
「うん」
「わぁ……」
温かな重みに、幸福感を感じる。打ち止めは遠慮して背筋を伸ばしている子供を抱きしめた。
135 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/27(火) 23:19:14.36 ID:mcabOpkg0
「……ママにもパパにも無い感触。……柔らかいなー」
妊娠四ヶ月目の打ち止めであるが、パタリロが気づかないように、まだ腹はあまり目立たない。
こうして抱きしめられれば、背中に一番当たるのがそのFカップである。
小さなフィガロだと、ちょうど後頭部に枕のように宛がわれる。
純粋に気持ち良くて、フィガロは「ぽふ、ぽふ、ぽよん」と頭を押し付けた。
一方通行は、止めなかったことを少し後悔する。そして、怪しいとはいえ、こんな小さな子供に嫉妬する己を自覚して呆れてしまう。
しかし、それも「無理からぬことだ」と、ふっきれるほど、打ち止めに惚れていることも自覚した。
「すごいね。しーんせーん」
「はぅ、カワイイ…っ」
隣で夫が不機嫌な顔をしているのに、打ち止めは頬を胸にすり寄せるフィガロをますます抱きしめた。
(フィガロ気持ちよさそう……。あーあ、こんな時は、ぼくにもバストがあればいいのにと思っちゃうよ。バンコランは嫌がるだろうけど)
我が子を、切なくも温かい視線で見守るマライヒとは対照的に、
(くっそ、このクソガキが調子に乗りやがって)
一方通行の眉間には、皺が深く刻まれていく。
136 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/27(火) 23:21:39.62 ID:mcabOpkg0
何度目になるか、フィガロが反対側の頬にも柔らかい感触を与えようと頭を振った。
その拍子に、無邪気な子供と、ヤキモチ焼きの男の目が再び合わされる。
また起こるかもしれない胸の苦しみにも怯まず、一方通行は大人げなくフィガロを睨みつけた。「そのくらいにしておけよ」という意味を込めて。
普通の子供なら間違いなく泣きだしそうな形相だったが、やはり只者ではないフィガロは吹き出すのを堪え、打ち止めと密着していた体を離した。
「降ろして。ゲームの続きやるもん」
「ちぇー、ってミサカはミサカはマライヒが取り上げようとするのも無理はないと親の心境を理解してみたり」
「だって、お兄ちゃんが怖い顔してるからさ」
三人の視線が、一方通行に集まる。
「………ふン」
「あらららら、あなたってば。相手はこんなチビちゃんなのよ?」
ふてくされたのか、気まずいのか、恥ずかしいのか。そっぽを向いた一方通行の手を取って、打ち止めは「浮気じゃない」ことを訴えた。
「二人とも本当に仲良いんだね」
「ねー。パパとママみたい」
137 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/27(火) 23:24:20.91 ID:mcabOpkg0
とりあえずここまで。
長いな。ダイヤ堀り、いつ行けるんでしょうか。
138 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/27(火) 23:25:30.94 ID:pQSSD0vDO
>>1
乙ぱい
そしてフィガロ爆発しろ
139 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/27(火) 23:28:10.19 ID:M0CRrbXj0
乙ぱい。
打ち止めさん、俺の頭もおねがいします。
140 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/28(水) 01:42:58.55 ID:rPNoNaW5o
よくわかんないキャラ出て来るようになってつまんなくなったね!
141 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/03/28(水) 01:51:36.48 ID:A6kREQzEo
パタリロ知らない俺だけど楽しんで読んでるぜ乙!
142 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2012/03/28(水) 01:56:17.63 ID:Zw7Vilj0o
オリキャラだと思っとけばぜんぜん楽しめるぜ!
乙パイ!
143 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/28(水) 03:34:55.28 ID:Or2ZVJsIO
乙
男が妊娠って……
ねぇだろ……ねェえええだろぉおお!
(乱数さん風に)
144 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/03/28(水) 12:44:21.20 ID:9qhQUOmr0
アリかなしかと言ったら…
アリだな!
乙パイ!
145 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/29(木) 22:02:45.32 ID:/GXO2Ef30
>>138
相手はチミっ子(?)じゃないですか。 大目にみてあげましょう。
>>140
ごめん! まだ少し好き勝手に突っ走る。
>>141
>>142
ありがとう。
短いけど投下。
146 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/29(木) 22:05:17.77 ID:/GXO2Ef30
子育てのこと、ダイエットのことで、打ち止めとマライヒは、そのまま話題尽きることなくベンチに居座り続けた。
フィガロはこれ幸いとばかりに、没収されずに済んだゲームを進めている。
一方通行はというと、
(眠ィ……)
うとうとしていた。
男性でありながら『母』であるマライヒが良き理解者なのか不明だが、打ち止めは今後のために情報収集に躍起だ。
それを中断させるのは得策ではない。
それに、初日からあちこち休まず歩き回るよりも、なんでもいいから座っていてくれるなら、それはそれでよし。
あとは、やはりフィガロに対する不信感もあったのだが、マライヒと打ち止めの前では問い詰めることもできない。ずーっとひたすらゲームばかりやっているし。
もう、一方通行がとれる手段は寝るしかない。もちろん、全ての意識を手放すことはしなかったが。
147 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/29(木) 22:07:40.82 ID:/GXO2Ef30
「あ、マライヒさーん! 一方通行さーん!」
丘の下から呼び声が聞こえる。一方通行は目を開けた。タマネギ隊員が一人駆け上がってくるところだった。
「こんなところに皆さんおそろいでしたか。もうすぐ夕食の用意が整いますので、探していましたよ」
「あ、その声はよっちゃん号かな?ってミサカはミサカはカマをかけてみる」
「そうです、よっちゃん号です! 嬉しいなぁ、もう覚えてくれたんですね」
(もォそンな時間か……)
いつの間にか、夕焼けが迫っていた。時差ボケもあるのか、やけに時が経つのが早い。
食事はパタリロと一緒の部屋で取るのだそうだ。そこにもマライヒが案内してくれることになった。
「王様とごはんを食べるのに、この恰好でいいの?ってミサカはミサカは普段着を見降ろしてみたり」
「あはははは、そんなこと。殿下はまったく気にされませんよ」
「そうそう。あとテーブルマナーもね。パタリロ自身が滅茶苦茶なんだから」
よっちゃん号とマライヒに心配を一蹴され、打ち止めは歩き始めた一方通行の隣に並ぶ。
忙しいのか、また走って去っていくよっちゃん号を見送り、四人は再び連れ立って歩く。
148 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/29(木) 22:13:16.61 ID:/GXO2Ef30
最初に歩いた大きな廊下を、宿泊する部屋とは反対に折れて案内された、三十畳ほどの部屋。
中では給仕に動くタマネギ隊員達と、窓辺に立って外を眺めるパタリロがいた。
ここでは、何もかもをタマネギ部隊がやるらしい。掃除も、事務仕事も、食事も。
(あらゆるテストをクリアした一握りの人材なンじゃねェのかよ。……ン? 誰だ、ありゃァ)
パタリロの隣には、背が高く、長い黒髪の男がいた。なにやら密談を交わしているように見える。
「パパー。お仕事終わり?」
一番最後に入って来たフィガロが駆けだす。彼がフィガロの父にしてマライヒの恋人、バンコランである。
イギリス情報部・MI6の諜報員で、階級は数年前から中佐。
マライヒよりも長いストレートヘアーを揺らしながら、一方通行と打ち止めに近づき、バンコランはそう簡単に挨拶した。
「ジャック・バンコランだ。よろしく」
「黄泉川打ち止めです」
「………一方通行だ」
やけに、一方通行との握手だけ長い。戸惑いの表情でバンコランを見上げると、彼は目を細めてにっこり微笑んでいた。
MI6のバンコラン中佐といえば、『その世界』では知る人ぞ知る、美少年キラーである。
三十四歳になっても、その直らない浮気癖のせいで、マライヒは気を揉んでいた。
今、一方通行は彼の射程圏内の獲物として狙われている……
149 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/29(木) 22:16:01.63 ID:/GXO2Ef30
「妻の!! 黄泉川打ち止めです!ってミサカはミサカは言い知れぬ脅威を感じ取って警戒のポーズを取ってみたり!」
いつだって打ち止めは一方通行の救いだ。
握手していた夫の左手をもぎ取り、打ち止めはバンコランの前に立ちはだかった。
背の高い彼からは、アホ毛の頂点さえ胸元に届くので精一杯。
それでも気迫は凄まじかった。
「妻、だって?」
「……そうだよ。彼女達は新婚ほやほやなの。どうして残念そうなのかな? バン!?」
「アホか。彼らが日本からの僕のお客さんだ。ちなみに一方通行さんは若く見えるが二十三歳。お前のストライクゾーンから外れているはずだが?」
マライヒとパタリロから叱責を食らうバンコラン。終いには、息子のフィガロに腿の肉をつねられてしまった。
「パーパ、めっ」
「っつぅ! 分かった分かった。まったく、何もしとらんじゃないか」
打ち止めが猫だったら、きっと背中と尻尾の毛が逆立っている。(アホ毛は実際に逆立っていた)荒い鼻息でまだ警戒を解かない。
「オイ、あまり興奮するな。腹のガキに障るだろォが」
「これが興奮せずにおれますか! あなたはどうして落ち着いてるのっ」
ゲイに狙われた悪寒が背に這い上ってきたのは、一瞬のこと。
それよりも、こうして打ち止めが、強く独占欲を露わにしてくれた嬉しさの方が先立っている一方通行だった。
150 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/29(木) 22:20:37.41 ID:/GXO2Ef30
とりあえずここまで。
美少年大好きバンコラン。 しかし、人の物とノンケには手を出さない。
151 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)
[sage]:2012/03/30(金) 11:02:31.26 ID:uFKH+OHRo
乙
アホ毛が逆立つって意外と想像するの難しいかもw
152 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)
[sage]:2012/03/30(金) 14:08:32.22 ID:oJs9Yfiio
>>151
猫のしっぽが膨らむ感じじゃね?
153 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(徳島県)
[sage]:2012/03/30(金) 16:26:43.89 ID:JNndd8Gy0
実際に男でも妊娠できるようになったらしいね
154 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/30(金) 17:28:53.25 ID:7wzoBWH80
>>151
アホ毛ってもともと逆立ってるのが普通でした。
「ささくれ立つ」というような表現がふさわしかったですね。
>>152
が言うようなイメージで。
>>153
しっかり覚えてないけど、腸に受精卵を移植する、みたいなことは聞いたことがあります。こえぇ。
明るいうちの投下は久しぶりだ…
155 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/30(金) 17:31:23.16 ID:7wzoBWH80
二十人掛けの長いテーブルの端に、パタリロ、マライヒ、バンコラン。
向かいには打ち止め、一方通行とフィガロが座った。
「……何で俺の隣なンだ」
「だめ?」
「だめとは言ってねェ。理由を訊いただけだ」
「ここがいい」
「………」
会ってからずっと、子供は一方通行の隣にばかり陣取りたがる。打ち止めは羨ましそうにしていたが、なんだか気味が悪い。
食事が進み、やがて全員に厚切りのステーキが運ばれてきた。
何か動物の肉に見えるが、メインディッシュはパタリロのオヤツになったはずなので、これはどうしたのだろう。
肉が無いので、タマネギ達は魚を釣りに行ったのではなかったか。
それよりも疑問に思うことがある。不気味な緑色のソースがたっぷりかかっていて、煮込んであるのか、肉自体も緑に染まっていた。
「お魚じゃなかったの?ってミサカはミサカはグリーンなお肉にびびってみたり」
「安心したまえ。この肉は僕自らが調達してきたモノだ」
確かにパタリロは、妊娠中打ち止めのために材料を調達すると言っていたが……
マライヒはパタリロのことを、「すっごい強欲で守銭奴だよ」と評していたのに、ポケットマネーをはたいたのだろうか。
156 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/30(金) 17:35:03.40 ID:7wzoBWH80
「緑って……。なンの肉だよ、コレ」
「ただのパタフィンクス料理だが? マリネラでは有名ですよ」
「……原料は?」
「パタフィンクス」
なんだそれは。スフィンクスの仲間か。
「窓から見えるだろう、あの峰が。パタリロ山に住む、人面四足の獣、パタフィンクスの肉だ」
食べる気がしない名称だった。
人を食ったようなこの国王の冗談だとは思うが、掴めないだけに口に入れるのを躊躇う。
人面とかスフィンクス云々はともかく、実はとんでもないゲテモノの肉かもしれないし。
「時々人を襲うので、定期的に狩猟部隊を結成してるんだ。今日は僕一人で捕って来たのだ」
「どれどれ……。うん、色は怖いけどおいしーよあなた、ってミサカはミサカは異国の味に感動してみる」
「オマエ少しは学べよ」
つわりもすっかり過ぎ去り、とにかく食べたい妊婦の打ち止めは、不気味さなどに負けていられない。嬉々としてナイフとフォークを操った。
「っふふ、大丈夫だよ。ただの牛肉だってば」
「ソースに、すりおろしたアボカドを使ってるんだったか」
黙っていたマライヒとバンコランも手を動かし始める。やはりパタリロの、ただの冗談だったらしい。
二人にとってはお馴染の料理なので、一緒になって客人の反応を楽しんでいたのだ。彼らも人が悪い。
そんな両親に育てられたせいなのか、それともそういう資質が元からあるのか、フィガロまで空気を読んで食べるのを待っているとは。
(ここは、俺には過ごしにくいところだ)
一方通行も不機嫌を隠さない表情で食べ始めた。緑の肉は、とても旨かった。
157 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/30(金) 17:37:14.40 ID:7wzoBWH80
「なんだ、マライヒ。彼らに言ったのか」
「気づいたらフィガロが喋り始めちゃってて。いつもみたいに否定されなかったのが嬉しかったな」
デザートが下げられ、六人は食後の酒やお茶を飲んで歓談している。打ち止めは搾りたてオレンジジュース。
「でも本当にマライヒのお腹から産まれたんでしょ?ってミサカはミサカは証人も大勢いるみたいだし信じてみる」
「マライヒが実は女なンじゃねェかとも思ったが、まァこの広い世の中、色ンな事が起きてるモンだ」
日本の客人は科学の街からやってきたというので、そういう『奇跡』を信じないと思っていた。パタリロは柔軟な思考の一方通行達に感心したが、バンコランはそうではない。
「ちょっと待ちたまえ。わたしが女性を愛する趣味など持つはずがないだろう。マライヒはれっきとした男だ」
「やめろバンコラン。大真面目な顔で変態宣言するんじゃない。せっかくちょっといい雰囲気だったのに台無しだ」
「いや、ここは全力で否定しなければならない。一方通行君、君の奥さんを前にして失礼だとは思うが言わせてもらおう」
打ち止めが身構える。男同士の薔薇世界に身を置くバンコランが、完全に夫から手を引いたと思ってないので、少し敵意を持っているのだ。
彼はパタリロの制止も聞かず、変態宣言を続ける。
「そもそも女性はなんか柔らかくてフニャっとしてて好きになれん。特にバストが無駄だと」
「はァ!? 馬鹿かオマエ、それがいいンだろォが普通!」
158 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/30(金) 17:38:50.19 ID:7wzoBWH80
自慢の胸を『無駄』扱いされてショックを受けそうになった打ち止めだったが、一方通行が先に言い返してくれた。もっとも彼は意識する前に口が滑ったらしく、一瞬「しまった」という顔をしていたが。
「そうだよパパ。お姉ちゃんのおっぱい気持ち良かったよ」
おまけに、バンコランの息子からの思いがけない後方支援。やはり誇ってもいいのだ、自分のFカップを。
打ち止めは胸を張り、一方通行はフィガロの評価を少し改めた。
(ムカつくガキだが、趣味はマトモだな)
「なんだとフィガロ。お前パパの知らないところで何してたんだ」
「もう、打ち止めちゃんに抱っこしてもらっただけだよ。それより恥ずかしいことばかり言わないでよね、バンコランのバカっ」
食後の歓談のはずだったが、何故か非常にアホらしい話題になってしまった。
マライヒも怒りだしたことだし、パタリロが呆れて手を叩き、強制終了を告げる。
「あーもうヤメヤメ。なんのハナシだこれは」
159 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/30(金) 17:40:41.43 ID:7wzoBWH80
グダグダになった食事を終え部屋に戻り、一方通行と打ち止めはソファに体を沈めてくつろいでいた。
「さっきはミサカのために言い返してくれてありがとね、ってミサカはミサカは嬉しかったのでお礼してみる」
『それがいいンだろォが普通!』
失言だった。
変態とはいえ、初対面の他人に恥ずかしい嗜好を晒すような真似をしてしまった一方通行は非常に気まずい。打ち止めに対してどう返答したらいいのか、言葉に詰まる。
「………あァ」
結局こんな、曖昧な返事しか出てこなかった。言葉が出ないので、代わりに手を出すことにした。
昼間、フィガロに打ち止め(の胸)を取られて悔しかった思いを晴らそうという、子供っぽい心理もあったから。
160 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/30(金) 17:43:28.20 ID:7wzoBWH80
打ち止めの背中に手を回し、ファスナーを途中まで降ろす。緩んだ首元の部分を剥き、二の腕までワンピースを脱がせた。
これでは両手を自由に動かせないが、打ち止めはされるがまま、焦らない。
一方通行の子供っぽい心理を分かってのことか、単純に情事を楽しむつもりなのか。
お腹が膨らんできた頃に、締め付けるのは良くないだろうと、ワイヤーの無いスポーツタイプのブラジャーを着けている。
それを引っ張り、乳房を露わにしながら、一方通行は思い出したように打ち止めの唇にキスをした。
以前、胸ばかりにイタズラをしていたら、「まずはキス」だと怒られたことがあったので。
「ん、……ベッド?」
「まだここでいい……」
背もたれがある方が、胸の膨らみを堪能できる。ソファの角部分に彼女の背を預け、柔らかい胸に指を埋めていく。
妊娠中は乳首に刺激を与えるのは良くないので、そこは時折かすめるだけ。それでも手に余る乳房を優しく揉めば、打ち止めから漏れる甘い吐息が一方通行の感情を昂らせた。
そこに吸いつくと、声は頭に降ってきて、息は白い髪を揺らす。
妊娠してからは、安定期に入るまではずっとおあずけが続き、その後も愛し合う回数はぐっと減らした。
交合に至らない場合も多かったが、それはそれで新しい扉を開けるきっかけにもなった。
今夜もそのつもりで、これ以上打ち止めの服をショーツ以外は脱がせる必要はない。
半裸にも満たない、拘束されたような姿に、ある種のマニアックさを感じて楽しくもあるし。
161 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/30(金) 17:44:45.62 ID:7wzoBWH80
数分の後にベッドに移動し、代わりばんこにお互いを慰め合った。
まだ寝るには早い時間ではあったが、やはり長旅の疲れがあるのだろう。風呂に入ったらもう寝ようという意見で一致した。
打ち止めがバスルームから出てくるのを待っている一方通行。悔しい思いを晴らし、安らかな心で寝転んでいると、彼の携帯が音声着信の合図を鳴らす。パタリロからだった。
ダイヤに関する話は、明日にすればいいと思っていたが、早くなっても構わない。一方通行は通話に出る。
「ダイヤの件か?」
『いや、そうじゃない。悪いが今から屋上に来れないか?』
おかしな申し出だ、屋上とは。てっきりパタリロの自室か、どこか別の客室に呼び出されると思っていたのに。
『フィガロが君を屋上に連れてこいと言ってるんだ』
「………あのガキが?」
『そうだ。構わないかね? 場所は』
「いい、直接行く」
簡潔に答え、通話を切った。ベッドに「国王と話があるから出掛ける」とメモ用紙を残し、一方通行は窓から外へ身を躍らせた。
162 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/30(金) 17:47:18.54 ID:7wzoBWH80
「彼は来てくれるって?」
「快く了承してくれた。だが『直接行く』とはどういう意味かな」
広い宮殿内。屋上へ上がるエレベーターや階段の位置は案内がないと発見しにくいはずだ。しかも宮殿の屋上はひとつではない。
フィガロとパタリロは、芝生の敷かれた庭園にいる。ここが一番広い屋上だ。
雲の無い星空の下、首を傾げる国王と、ベンチに座って届かない足を揺らしている子供。
「あ、来たよ」
特に疑問に思っていなかったフィガロが、空の一角を指さす。濃紺の夜空に、一方通行の白い体はよく目立つ。
一方通行は宮殿全体を見渡せるまで高く上空に飛び、二人を見つけるという最短方法を取った。着地の衝撃を殺し、微かな音で二人の前に降り立つ。
163 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/30(金) 17:48:40.03 ID:7wzoBWH80
「ほぉー、それが噂の超能力の一端かな。すごい登場の仕方だ! 詳しく訊きたいなぁ」
「その話は後だ。……俺になンの用がある?」
フィガロと目を合わせる。微かだが、また一方通行の胸に圧迫感が起こった。
(何者だ、このガキは一体)
「君は僕とよく似ているよ。そんなに睨まなくても大丈夫さ」
「?? 何を言ってるんだフィガロ?」
パタリロに答えることなく、フィガロはベンチから飛び降り、一方通行の前に立った。 ……圧迫感が増す。
さっきから疑問なことばかりのパタリロであった。国王なのに、一方通行からもフィガロからもないがしろされている。
164 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/30(金) 17:50:35.70 ID:7wzoBWH80
小さな子供の体が光りだす。発光はどんどん強くなり、その中心に見えるフィガロの影が、形が大きくなっていった。
警戒して能力を使用モードのままにしていた一方通行だが、苦しさに眉を潜め、胸に手をやった。
(コイツは……!)
光が弱まり、そこにいたのはフィガロではなくなっていた。
マライヒのように長い金髪と、一方通行と大して変わらない身長の美しい青年。何よりも異様なのが、背中から生える四枚の白い羽。
「天使…!?」
「おいおいフィガロ、いやミカエルさん。いいんですか、そんな簡単に正体暴露しちゃって」
パタリロはフィガロの真の姿を知っていた。だからこうして落ち着いているのだが、どうしてわざわざ一方通行に明かす必要があるのかは分からない。
「ちょっとパタリロくん、先に言わないでほしいなまったく。……そう、私は天使長ミカエルです」
驚きに目を丸くする一方通行に、ミカエルが手を差し伸べて翼を拡げた。
「そして、一方通行……。君もそうじゃないかい?」
「なにを……?」
天使がほほ笑むと、一方通行の胸の圧迫感がスーっと背中へ抜けるように消えていく。
それと同調するかのように、青年の背中にも白い翼が現われた。
「おお! これは!?」
「ふむ。珍しいな。僕と似ているが、完璧に同じとも思えない」
頭上に光の輪まで出現し、一方通行も誰の目から見ても「天使」の姿となった。パタリロは興奮して、ミカエルと一方通行を交互に見比べている。
165 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/03/30(金) 17:51:46.50 ID:7wzoBWH80
「この野郎。勝手にナニしてくれやがる」
今の変身は、もちろん一方通行の意思によるものではない。というか、衣装直しじゃないんだから、こんな軽々しくなろうと思ってなれるものでもない。
「怒らないでくれ。こうして確かめたほうが早いと思ったんだ」
「怒ってねェよ。……オマエ本当に天使かァ? 俺の知ってる天使と全然違うな」
過去に相見えた天使は、意思の疎通も難しそうな言葉と、異様な容貌で襲ってきた。だが目の前のフィガロ、もといミカエルは、まるで宗教画から抜け出たように美しい姿と、人間臭い思考を携えている。
「やはり人徳かなぁ。僕の周りには、どうしてこう神々しいものが集まるんだろう」
尋常でない状況に関わらず、とぼけた感想を本気で述べるパタリロに、二人の天使が冷たい視線を送った。
なんとも、緊張感が出ない。
166 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/03/30(金) 17:54:02.10 ID:7wzoBWH80
とりあえずここまで。
通行止めのイチャイチャも久しぶりだ…
167 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/30(金) 20:35:40.94 ID:S3MiNehIO
天使長って……
魔術界大騒ぎじゃねぇかwww
168 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/03/30(金) 23:34:35.78 ID:mu0W7gjqo
し、尻アス……?
169 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/31(土) 05:47:11.20 ID:8GnMBDpDO
>>1
乙ぱい
しかし、打ち止めっぱいの描写が少ないぞぉ!
もっとたゆんたゆんでにゅくにゅくさせてくれぇぇ!
170 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2012/03/31(土) 12:29:31.59 ID:7/5Qe3I8o
>>168
新しい扉ってまさか…
171 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/31(土) 13:31:45.70 ID:prn5sIvDO
国王陛下の大事なお客様(の奥様)に対してバンコランの発言は如何なものか
172 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2012/04/01(日) 17:57:36.60 ID:EUiPTftwo
公的な場以外ならバンコランはパタリロに遠慮せんだろう
173 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/04/01(日) 23:07:58.61 ID:eu61T5fr0
乙です
たしかパタリロママには色目使ってたバンさん
174 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/01(日) 23:28:08.27 ID:QqAzeI6M0
>>167
もっと本気で『禁書』とクロスさせるなら、魔術サイドと絡めるのが面白いよねぇ。フィガロっていつもはイギリスにいるし。
>>169
それをやったら、話が進まなかったから…
>>170
正常の範囲内で 新しい扉 です。
>>171
>>172
あらゆる意味で悪い男ですよね、バンコランは。おっぱいの魅力を理解できないのは可哀そう。
>>173
むしろパタママの方が誘惑してた。バンコランも、彼女だけは、まんざらでもない様子……
さらに視力が悪くなり、ついにコンタクトを新調して視界良好。 思わぬ出費だが、投下は快適。
175 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/01(日) 23:30:11.38 ID:QqAzeI6M0
「とりあえず座らないかい?」
そう言ったミカエル……フィガロの背中から翼が消え、暗闇を照らしていた燐光も無くなった。
それと同時に、一方通行の翼と、頭上の輪も消える。
「助かった、さっきから眩しいと思ってたんだ。ほらここどうぞ」
上着の裏ポケットから取り出しかけていたサングラスを元に戻すパタリロ。
さっきまでフィガロが座っていたベンチの中央に陣取り、両脇を手で叩いて、天使二人に着席を促した。
「………」
(羽が消えてもデカいままかよ…)
翼が無くなり、『人間』にしか見えなくなったミカエルだが、身長も髪の長さもそのままで、年の頃は十代後半といったところか。
「さて一方通行くん、僕に色々訊きたいことがあるかな?」
「そォだな……」
フィガロと一方通行は、パタリロを間に挟んで喋りだす。聞き逃すまいと、少年王は耳に神経を集中させた。
176 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/01(日) 23:39:03.74 ID:QqAzeI6M0
「オマエ、昼間は無邪気なガキを装って、よくもやりやがったなァ……」
一方通行がなんのことを言っているのか分からなくて、フィガロは昼間にあったことを思い出そうとした。
数秒後、心当たりに辿りついて顔を歪める。
「あぁ、君のお嫁さんの豊かな胸に、スリスリしたことかい?」
「夕食の席で話してたことかね。君は愛妻家なんだな」
表街道を歩けない者さえ、身をすくめる鋭い視線を浴びながら、フィガロとパタリロは愉快そうに笑い合った。
お世辞にも愛想が良いとは言えない若者が、自分の新妻に(悪意は無いにしても)不埒な真似をされたことを怒っている。
それは、あらゆる案件よりも重要らしかった。
「はははははは、…………そこか!?」
どんな真理と神秘が囁かれるのか、パタリロは内心緊張していたのに。
「おォそこだよそこ。ガキだからと大目にみてやったら、実はこンなオトコでしたァ、…って詐欺か」
「いやいやいや、……いやいや。一方通行さん、よく見たまえ。『ミカエル』ですよ? もっと他に訊くべきことあるんじゃ?」
「ふふふ、厳密にいえば、天使に性別という概念を当てはめるのはふさわしくない。決して下心があってしたわけじゃないんだよ。許しておくれ」
「……ふン」
「そして真面目に答える大天使ね……。もっと有意義な議論が交わされるのが普通だろう」
パタリロは足を投げ出し、両脇の二人に接触するのも気にせず、腕はベンチの背もたれの後ろにひっかけた。だらしない恰好だ。
「まぁ『フィガロ』になっている僕は『男』なので、その辺にまったくこれっぽっちも興味がないとも言えないけれど」
「なンだとォ?」
「余計な事言うなフィガロ。バンコランに似たのか?」
177 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/01(日) 23:42:10.12 ID:QqAzeI6M0
「そォいやオマエの両親は、子供が天使だってこと知ってンのか」
「バンコランパパも、マライヒママも知らないよ。下界でフィガロの正体を知ってるのは、彼、パタリロくんだけさ」
「ハーイ」と挙手するパタリロ。
「僕が言いふらしても、誰も信じないだろうからと、記憶を修正されることなく現在に至っている。酷い理由だろう?」
それは今までに、誰かの記憶の修正が必要な事件が起こっていることを示す発言だった。
この世界では、一方通行や、彼の馴染みの人も関わっていない不思議なことが起こっているのだと、改めて実感する。
もしかしたら上条当麻のような『ヒーロー』が、誰かを救うために、今もどこかで汗や血を流し、拳を握っているのかもしれない。
「ふゥン……。そもそも、天使がどうして人間の赤ン坊になってンだよ。しかも男から産まれる理由は?」
「ソドムの男達にも子供を与えるべきか否か、という天の実験でね。その対象のカップルが、パパとママだったんだ」
つまり、これからゲイの男達に赤ん坊が産まれるようになるのか? 何かの<手違い>で、ノーマルの男が妊娠してしまうような事態にならないか?
一方通行はそれを想像して、……ゾっとした。
「青い顔しなくても大丈夫。この試みは、現時点では見送られることになったよ。再考されるにしても、人間の時間で測れば、数百から、千年単位で先のことさ」
「ただ、フィガロはバンコランとマライヒの情に応えて、二人の子供として地上に留まっているのだ」
「よく言うよ。『帰るな』と僕を説得したのはパタリロくん自身じゃないか」
「だから余計なことは言うなってば」
本当に、穏やかで優しい天使があったものだ。すっかりヒトと仲良くやっているらしい。しかも、『家族』として。
178 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/01(日) 23:44:38.91 ID:QqAzeI6M0
「俺の知ってる天使とは、やはり大違いだ……」
煌めく星空の下。常春の国は、夜風も体に気持ちいい。サラサラ流れる髪をそのままに、一方通行が呟く。
血のつながりが無くとも、過ごした歳月が長くなくとも、誰かと誰かは『家族』になれることを、一方通行は知っていた。
肩までの白髪と、腰までの金髪の他二人も、気持ちよさそうに夜風を身に受ける。
「一方通行さんの口ぶりは、自分は天使じゃない、というようだね?」
天使が人間に化ける事例を体験しているパタリロだから、一方通行の先程の姿は、彼がミカエルのような存在だと思わせるに充分だった。
「俺を正確に間違いなく説明することは、俺にも出来ない。だが、一応は自分を人間だと括って生きている。……バケモノだったとしてもな」
「私も、自らを天の父上に仕える天使長・ミカエルと定義して存在している。今はフィガロと二足のわらじだけど。それでいいんじゃないかな」
「なるほど。一方通行さんが過去に会ったという天使は、『そういう天使』だったと?」
「ふむ…。その結論でいこうか。僕もすべての答を持っているわけじゃないし」
「それよりも」と、ちょっと口調を厳しくして、パタリロの向こうに座る一方通行を睨むフィガロ。
179 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/01(日) 23:47:59.61 ID:QqAzeI6M0
「自分をバケモノだなんて蔑んではいけません。君の手は、これまでにどれほどの救いを叶えてきた?」
「……取り返せないものがある。知ったよォなこと」
「でなければ、あんな美しい羽が現われるなんてことないもの」
「――……勝手に言ってろ」
ミカエルは絶対能力者進化計画を知らない。それでもこの天使は、天使らしい測り方で、一方通行の今を『美しい』と審判した。
「一方通行さんとは僅かな付き合いですけど、僕もぜひ仲良くなりたいと思ってますよ」
商談をする時のように、パタリロが両手を揉み合わせる。きっと一方通行の超能力や、
たった今見た天使化に、大好物の「お金儲け」の匂いを嗅ぎ取ったのだろう。
「おや、パタリロくんの悪いクセが始まった。くれぐれも気をつけてね、お兄ちゃん」
「その呼び方やめろ」
「さっそく明日からダイヤ鉱山に行きましょう! まずはそこでどんな超能力を見せてくれるのか、期待させてもらおうかな!」
180 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/01(日) 23:49:31.37 ID:QqAzeI6M0
とりあえずここまで。
天使と王様と超能力者がグダグダするだけの回でした。
181 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/03(火) 01:07:28.58 ID:W2QIrgsC0
そして、また通行止めイチャイチャの回です。
182 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/03(火) 01:09:02.19 ID:W2QIrgsC0
屋上から宛がわれた部屋に戻る時は、階段とエレベーターを使った。
あちこちから、夜勤でもあるのか、動きまわる人の気配がする(どうせタマネギである)
そっとドアを開けると、部屋の照明は消され、打ち止めはベッドで寝ていた。
屋上に呼び出されてから一時間しか経っていないが、やはり旅の疲れがあったのかもしれない。
足音を忍ばせるために、一方通行は杖を使わずにバスルームへ入る。手早くシャワーを浴び、スウェットのズボンだけ見に着けた。
ドライヤーも音が出るため、反射で一気に髪を乾かす。
部屋には二つベッドが用意されていたが、空いている方の枕が無い。布団をめくって枕の在りかを探していると、
「ふっふっふ、枕が欲しいかね?ってミサカはミサカは悪の組織風に交渉を持ちかけてみる」
「起きてたのか」
183 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/03(火) 01:10:58.68 ID:W2QIrgsC0
頭もほとんど布団の下に隠れている打ち止めから、くぐもった声が聞こえてきた。
起こさないように気を使ったのだが、それは必要なかったらしい。
「頭を高くして寝たければ、ミサカのきゃーいきなりめくらないでよっ、ってミサカはミサカはきゃーどうして裸なのっ」
「下は履いてるだろォがよ」
ベッドの中で、一方通行が使うはずだった枕を抱きかかえていた打ち止め。渡すまいと、ますますコアラのように丸くなった。
起きているなら遠慮しなくていい。一方通行はベッドが揺れるのも気にしないで、どさりと打ち止めの横に寝転んだ。
「ふー」と大きく息をつき、仰向けのまま数回深呼吸を繰り返した。
そして、丸いままの打ち止めの方に体を向け、ジリ、ジリ、と距離をつめる。それに押されるように、打ち止めも後方に移動した。
「あ、枕が……」
「無くても俺は困らねェ。こうすりゃいいンだからよォ」
大きなサイズだったので、ひとつでも二人の頭を乗せることができた。ただし、距離はとても近い。
184 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/03(火) 01:13:49.35 ID:W2QIrgsC0
(枕が欲しければ、この国に来た理由を言えぃ!ってミサカはミサカは訊き出そうと企んでたのに失敗に終わってみたり)
ずっと暗い中にいたので、目は慣れている。打ち止めには、一方通行の顔が少し疲れているように見えた。
自分は飛行機の中でお昼寝したが、そういえば彼は、もしかしてずっと起きていたのでは?
「あなた、疲れてるみたいね?」
「ン……? あァ、ちょっとな……」
「……じゃあミサカがイイコイイコしてあげる、ってミサカはミサカは癒しモードに突入してみる」
「いいから、オマエも寝ろ」
「いいから、撫でられろー、ってミサカはミサカはあなたのマネで対抗してみたり」
上半身を起こした打ち止めのは、まだ抱えていた枕を放り投げ、腕を一方通行の頭の下に差し込んだ。
電極から伸びるコードを引っかけないように、そっと……
拒むようなことを言っていたわりには、青年からの反抗はない。それどころか、軽く自分から頭を持ち上げて、打ち止めの行動を補助する動きも感じられた。
手首を折り曲げ、一方通行の後頭部に触れる。その手に少し力を入れて、自分の胸に呼んだ。
寝間着の向こうから、いつものいい匂い。一方通行は深く息を吸う。
(あァ、こりゃあのクソ天使がやりやがるのも無理はねェよな……)
窒息するので、顎を引いて空気を吸える隙間を確保する。鼻と額に柔らかな感触。腕枕は、一本で髪も梳いてくれるサービス付き。
もう片方の腕は、背中をゆっくり撫でてくれていた。首から腰に、腰から脇腹に。
気持ちいい……
日本からの長旅で疲れているから。あと時差ボケもあるし、そういえばさっき無理やり羽出された。
あれこれ自分に言い訳をして、一方通行はこの癒しを享受する。
185 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/03(火) 01:17:36.63 ID:W2QIrgsC0
「打ち止め、オマエ、俺以外の男にこンなことすンなよ」
「えぇー?するわけ、……もしかしてフィガロちゃんのこと言ってるの? まったく、ヤキモチ焼き屋さんね」
アイツの本当の姿は、お前の年と同じくらいの男(に見える天使)なンだよ、とは言えず、一方通行は黙った。
「あと半年くらいで息子ちゃんが産まれるのに、ってミサカはミサカはそうなったら赤ちゃんは抱っこするからね? と宣告してみる」
「アホ、うちのガキはいいンだよ。俺と、うちのガキと、あとブランカ以外だ」
「はいはい」
ブランカの世話は、妹達、黄泉川、芳川にまかせてある。自宅には番外個体を泊まらせて、愛犬が寂しがらないようにしてきた。
ちなみに、番外個体もちょっと嬉しそうだった。
(明日は番外個体に、ブラちゃんの様子を見せてもらおー、っと)
フワフワの毛皮のハスキーのことを考えていたら、一方通行を、ついブランカを撫でるように扱ってしまっていた。
素肌を強く擦ってしまい、彼から抗議の声が上がる。頭にキスして謝って、『イイコイイコ』を続けた。
五分か、十分かして、打ち止めの手の動きがゆっくりになってきて、そして……
(やっと寝たか……)
意識を手放した打ち止めの腕から、頭を浮かす。枕をずらし、丁度いい位置に合わせた。
布団からはみ出していた彼女の腕を仕舞い、今度こそ一方通行も睡眠を得るために目を閉じた。
186 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/03(火) 01:20:40.56 ID:W2QIrgsC0
翌朝、一方通行が目覚めると、ベッドに打ち止めはいなかった。でも気配はする。気配どころか、食欲をそそる焼いたパンと、コーヒーの匂いもする。
「おはよー。朝ご飯持って来たよ、ってミサカはミサカはそろそろだと思って準備しておいたファインプレーを自我自賛してみたり」
「あー……、おォ」
「顔洗ってきて? 一緒に食べようよ」
「ン」
疲れている一方通行が楽できるよう、打ち止めは調理室のタマネギコックに頼んでルームサービス風の朝食を用意した。
ローテーブルに並べたそれをいただき、一方通行は服に着替える。
携帯端末に届いていたメールのチェックをし終わったら、打ち止めが、
「ひょっとして、王様とお出掛けするのかな?ってミサカはミサカは感を働かせてみる」
「あァ、旅行、旅行と浮かれてたのに期待外れだと思うが、行ってくる」
「へーき、へーき。このお城は広くて面白そうだし、マライヒ達も二、三日はいるんだって。退屈はしない、ってミサカはミサカは謝る必要がないことを告げてみる」
結局、一方通行が何の目的でマリネラに来たのか分からずじまいだが、そこにはもう、こだわらないことにした打ち止め。
「フィガロちゃんもいるしね」
「オマエゆうべの俺のハナシ聞いてたか?」
「?? 何をそんなに心配してるの?ってミサカはミサカは七歳児に敵意を持つあなたを不審に思ってみたり……」
「…………」
187 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/03(火) 01:25:11.71 ID:W2QIrgsC0
とりあえずここまで。
修羅場も終わり、サクサクいけたらいいな。
188 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/04/03(火) 02:42:04.88 ID:eTd/4s7Fo
乙。 俺も癒してくれるお嫁さんが欲しいお……浪人とかプレッシャーがやべぇ。 特に親から。
189 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/03(火) 03:32:38.62 ID:L2GD3wbDO
>>1
乙ぱい
俺も癒してくれるおっぱいが欲しい
…欲を言えば『いやし』よりも『いやらしい』の方が…
190 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/04(水) 03:03:11.40 ID:pBo30ojn0
>>188
かけてもらえるプレッシャーがあるうちが花だよ。
やっとダイヤを掘る。投下します。
191 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/04(水) 03:04:48.59 ID:pBo30ojn0
一方通行はタマネギとしちゃん号の運転する車の後部座先に乗っている。横にはパタリロ。
「今から行く第五鉱山は、実はもう鉱脈はほとんど掘りつくした所なんだ。だが、君の超能力ならば、我々が見逃していた原石を発見できるかもな」
「どォせなら採掘真っ最中の鉱山に連れてけ……と言いてェが、カラーダイヤの発見は最早運だからな。文句は無いぜ」
「理解してくれて助かるよ。あと、マリネラにも商売上の都合というものがあってね。取引先への納期とか……。稼働中の鉱山の予定を変えるのは、今はキツいのだ」
車は大通りを抜け、山道を登り始める。窓の外には、背の高いクレーンが見えたが、動いてはいなかった。
だんだんと木がまばらになってゆき、コンクリート製の平屋の建物やテント、プレハブ小屋が集まった盆地があった。
あと一キロも走れば、そこに着く。
192 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/04(水) 03:05:48.82 ID:pBo30ojn0
「さぁここからは少し揺れますよ」
未舗装の山道では仕方のないことだった。としちゃん号が、ハンドルを握りしめる。
「一方通行さんのことを疑うわけではありませんが、超能力で地中のダイヤを掘れるものなんですか?」
「こら、機嫌を損ねるようなこと言うな。閉めようと思ってる鉱山から、クズでもいいから石が出るなら、こんな良いハナシはないだろうが」
「まーたお金儲けしようとして。しかもお客様の力で。殿下ったらもう、恥ずかしい」
「金儲けのどこが悪い。僕はお金が大好きだ、愛している。小銭のチャリチャリ音をBGMにした時が一番良く眠れるんだ、お金が好きなんだ」
パタリロが前方の運転席に両手を伸ばし、頭を掴んで揺する。ハンドルがぶれて、ただでさえ乗り心地が悪い車は、さらに不安定となった。
というか、ガードレールもない砂利道を下っているのに非常に危ない。
193 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/04(水) 03:07:41.57 ID:pBo30ojn0
「うわぁ、やめて殿下危ない落ちます!」
「無礼な部下め、こーしてやる。どうだ眼鏡のフレームが曲がると不快だろう」
「不快どころか死にますってぇぇぇ!」
「フレーム如きで死ぬとは、大げさなヤツだなぁ」
絶対的な権力を持つ少年王が治める、専制君主制の国。今どき、なんて時代錯誤な、と思ったが、来て見て会ってみれば、国王もその部下も、良い意味で遠慮がない関係だ。国民は穏やかで気候もよく、これなら観光客が多いのも納得だった。
国王直轄の部隊員にしては確かに無礼な物言いだが、パタリロも普段からそんな部下に慣れている風だった。
微笑ましいと言えなくもない光景。
しかし、今はそんな状況ではない。じゃれるパタリロによって、一方通行の乗る車が盆地に向けて滑落するかもしれない事態なのだ。
別に、彼の能力があれば無傷で済むが、ピンンクダイヤを手に入れる行程に、面倒は極力起こしたくない。
その面倒に『パタリロが大怪我をする』とか『パタリロが死亡する』という項目が浮かばないのは、不思議と思わなかった。
フィガロの秘密を(昨日まで)ただ一人知る人間であることや、初対面で見た人並み外れた身体能力に、
「コイツも只者ではない」と一方通行は感じている。
194 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/04(水) 03:10:03.09 ID:pBo30ojn0
「落ち着け運転手」
一方通行は能力を使い、車体を強制的に安定させた。走行中の車を制御するのは初めてではない。上条、浜面とのドライブの経験もある。こんなところで役に立った。
シートベルトを外していたパタリロが、反動でドアに頭をぶつけていたが、そんなことは気にしない。
「え!? い、今勝手に……!?」
驚きながらもハンドルを固定して運転を取り戻すとしちゃん号。不自然な車の動きを不気味がるものの、安全が確保されてほっとしていた。
「おぉ、今のも君の超能力か!? もっと見せてくれ!」
「驚かないンだな。悪いが易々と開帳出来るシロモノじゃねェンだよ。ま、採掘現場では隠すつもりはないがな」
「ふむふむ、いいぞ。ますます興味が湧いた。その首のチョーカーを構って発動するのか? どういう仕組みだ?」
(見ていたようには思えなかったが……。やはり食えない王様だ)
195 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/04(水) 03:12:50.07 ID:pBo30ojn0
閉山直前とあって、第五鉱山は閑散としていた。
採掘に使っていたクレーン機械を解体するための作業員(姿のタマネギ)や、プレハブ小屋の中で書類を片付けている職員(姿のタマネギ)が十人程度いるだけだった。
「あれ、殿下だ。ここになんの用だろう」
「? 見慣れない少年もいるな。誰だ?」
手を止められるタマネギ隊員達が、車から降りてきた主君を出迎えにくる。自然と初対面の一方通行に視線が集まった。
「あ、ひょっとして、日本からおみえになるというお客様ですか? お二人だと聞いてましたが」
「そうだ。彼のお連れさんは宮殿に残っている。あー、話があるので、全員集めてくれないか?」
パタリロの命令で、数人のタマネギ隊員が四方に分散していった。気安い仲でも、統率はしっかりとれている。
196 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/04(水) 03:14:33.61 ID:pBo30ojn0
超能力でダイヤを掘る。
タマネギ達は「えー?」と、半信半疑だ。当然である。
一番大きな部屋がある、コンクリートの平屋の中、パタリロと一方通行を前に、皆腕を組んだ。
「本当なんだ。確かに一方通行さんは超能力を持っている。空港でもプラスチックを簡単に丸めてたし、さっきも殿下のせいで事故りそうになった車を操って助けてくれたんだ!」
ここに来る道中で、否定的なことを言っていたタマネギとしちゃん号が、つい今しがた体験した不思議を同僚達に熱弁する。
「興奮するなよ。僕らだって超能力ってものを全否定するわけじゃないさ。ウチには霊感青年なんて冠のついた四四号もいるし」
「そうそう、でも、怪力やサイコキネシスや発火能力や予知能力とかで、どうやってダイヤを掘るっていうんだ?」
それは、広く一般にも知られた異能の代表的名称。しかし、この日本からのお客様は、かの学園都市の第一位である。かなり、規格外。
「だから機嫌を損ねるようなこと言うんじゃない。一方通行さんが怒ったらどうするんだ」
「さっきから人を器の小せェ短気野郎にすンなよ。怒るか、これくらいで」
「はっはっは。さすが学園都市最強は心も広いですな」
「えぇ、学園都市!?」
197 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/04(水) 03:16:39.81 ID:pBo30ojn0
第五鉱山で働いていた彼らは、もう一週間以上ここで寝泊まりをしていたため、お客様が学園都市の人間だと、今初めて知る。
ウワサの学園都市の、それも「最強」と言う主君の言葉に、タマネギ達は色めき立った。
「そ、それは興味あるなぁ。どうやってダイヤを見つけるつもりなんですか!?」
「空飛べますか!? ビーム出せますか!? 透明になれますか!?」
(うるせェな……)
空は飛べる。ビームは……出そうと思えば出せるだろうが、それは『原子崩し』の十八番だ。透明には、なるのではなく、他の人間の目に映らないように錯覚させる方法で、姿を隠せることは出来ると思う。
いちいち回答を用意するも、口には出さない一方通行であった。
このお客様は、どうもあまり喋らないらしい。そう判断したタマネギ達は、パタリロに矛先を変えた。
「殿下は知ってるんでしょ。どうやるんです?」
「はっはっは。…………知らん」
タマネギ達は、また「えー?」である。
「やかましい。どうせすぐに分かることだ。みんな、閉山の準備を一時中断してくれ」
どんな方法かは見当もつかないが、とにかく国王命令だ。
一方通行の元に、鉱山の見取図や、デジタル画像処理された地層が映るノートパソコンが用意されたが、
「いらねェよ、そンなモン」
建物から出ていく一方通行にヘルメットを被せたほうがいいんじゃないかと、空気の読めない隊員が近づき、パタリロの足払いを受けてすっ転ぶ。
「いいから、お前達はもう黙って見ていろ」
198 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/04(水) 03:18:56.97 ID:pBo30ojn0
砂利と石と岩ばかりの中を、重機の間を縫って歩く一方通行。さすがに、普段よりは杖をつきにくい。
あんな足で本当に大丈夫なのかと、ハラハラしながら後を追う部下と、
昨夜の天使化を見て、なんの心配もしていないパタリロ。脳内は、興味と、儲けることでいっぱいだ。
(この辺でいいか)
盆地のようだが、それは山をくり抜いて出来た人工的な物。その盆地が更に一部分だけ深く抉れていたり、壁には光の届かない横穴がたくさん空いている。
そこからダイヤの原石を掘り出していたのだろう。今立つ場所が、鉱脈があった中心部だ。
一方通行はチョーカー型電極のスイッチを弄る。もう杖は必要ないので収納した。
三十秒、一分、二分、…………
「どうしたんだろう、全然動かない」
「静かに……」
微動だにせず一方通行を見続けるパタリロと、ざわつくタマネギ隊員。
やがて数メートル先の少年(彼らには十代に見える)が振り返り、「離れてろ」と言う。
「え? ど、どれくらい離れればいいんです?」
「六十七メートル」
「具体的ですね!?」
不穏な雰囲気だ。みんな来た道を戻る。中には、一方通行が何をするのか見逃すまいと、クレーンに向けて走り出す者までいた。
高い所からなら、五十メートル離れていても『超能力』を目撃できるかもしれない。
「俺もクレーンに登ろうかなぁ。誰か双眼鏡とか持ってない?」
「事務所に置いてあるかもな……、あれ?」
「どうした?」
「殿下は?」
「…………………」
「ま、まさか」
199 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/04(水) 03:21:16.78 ID:pBo30ojn0
「行ったか……」
こうして、大きな演算式を組み立てるのは随分と久しぶりだ。しかし、いささかの狂いがあるかも、とは恐れない。
完璧だから<一方通行>だ。 精密が売りの<一方通行>だ。
一方通行は右足で地面を踏みしめる。大地が揺れた。
もう一回。間髪おかずに竜巻を起こし、緩んだ地盤に振り下ろす。本来は天に向かって登る竜巻だが、彼はそれを全方位に向かって『振るう』ことが出来た。
轟音に次ぐ轟音。もっともっと地下だ。深くなる穴に身を沈め、どんどん掘る。
数十メートルも撒き上げられた岩が頭上に落ちてくるが、途中で右へ左へ、前へ後ろへ弾かれるように飛んでいった。
それを免れて降ってきた岩も、一方通行の反射によって体には何の傷もつかない。
いきなりの地震と、地中から噴火のように吹き出す茶色と黒の岩。
散る火花のごとく弾けて投げ出される岩と粉塵の中、パタリロがいるかもしれないと、タマネギ達は悲鳴をあげた。
「あぁぁぁ〜こうなることは予想できたのに」
「まさかこんな大爆発な超能力だなんて!」
「落ち着け! まだ殿下があそこに留まっていると決まったわけじゃない!」
「馬鹿、殿下なら留まるどころか、一方通行さんの背後に張り付くぐらいのことをする!」
焦っても、とてもあそこへ近づくことなど出来ない。ただ、大爆発が収まるのを待つしかできなかった。
200 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/04(水) 03:23:49.86 ID:pBo30ojn0
轟音が止んだのは、四分以上も後だった。土煙が凄まじいので、それを風に乗せて払う。
ようやく呼吸できる状態になったので、穴から飛び上がってきた一方通行は電極のスイッチを通常モードに戻した。
ダイヤの原石が含まれている岩を集めた場所に移動しようと、ますます歩きにくくなった荒地を進もうとしたら、
「げぇっほげほげふぉ、あー死ぬかと思ったぁ。息が……、喉が……誰か水持ってこーい」
「な……!?」
半ば砂と石に埋まりながら、パタリロが両手を振り回している。
「お、一方通行さんちょっと僕を掘り出してくれ」
「にやってンだ……!」
「見たくて。君の超能力」
呆れを遥か彼方に通り越して、あの一方通行が動けずにいた。我を取り戻し、能力を使ってパタリロを引っ張り出してやる。
(見たかったからァ!? そしてなぜ生きている……!?)
「見たぞ見たぞ! でも凄いということしか分からなかった」
「このアホ国王が……、死にてェのか。離れてろと言っただろォが……!」
「いやー、ゴキブリ走法がなければ危なかったよ。でも生きてるから結果オーライだ」
異常すぎる。このパタリロ・ド・マリネール八世という少年王は。
「………オマエ、もしかして『原石』なンじゃねェのか?」
「やだなぁ、ダイヤモンドのように輝いてますかぁ?」
「意味が違ェよ……」
201 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/04(水) 03:25:54.29 ID:pBo30ojn0
とりあえずここまで。
ここ掘れ わンわン。
禁書世界にパタリロがいたら、たとえその滅茶苦茶ぶりを半分以下におさえても、『原石』としか説明つけられないや。
202 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/04(水) 04:25:21.62 ID:leWe2KLDO
>>1
乙ぱい
ソギー以上の原石だろうなぁパタリロは
203 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/04(水) 06:54:31.95 ID:BoK/EpsIO
さすがパタリロだwwww
>>1
乙
204 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/04/04(水) 19:45:33.92 ID:xUPRRhmAO
パタリロは鉱物的な原石に例えるならクリプトナイトとかその辺だな
205 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/05(木) 23:31:20.81 ID:QOOU3FJl0
>>204
かっけー。そういうネーミングセンス皆無……
愛車の車種が生産終了です。意気消沈ですが投下します。
206 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/05(木) 23:38:52.04 ID:QOOU3FJl0
石と砂利と埃で、パタリロの姿は悲惨なものとなっていた。まだ若干むせながら、意味があるのか分からないけど両手で服や髪をはたく。
「まったく、美少年が台無しだ。いや、砂利にまみれるイイ男という諺が日本にあったっけ?」
「無い」
その直後、薄くなった砂埃の向こうから数人が駆けてくる。
「あー! 殿下ぁー!」
「おぉお前達、水をくれ、水」
降りそそいでくる大岩、小岩の中に自ら飛び込み、危うく死にかけたというのに、
パタリロの超然とした態度はどうだ。一方通行は杖にもたれて目を細める。
「ご無事で……!」
「もう心配したんですよ心配したんですよもう〜」
わらわらと、二人の……パタリロの周りにタマネギ隊員が群がった。異常な国王だが、部下達にはこうして慕われているようで、
知らぬこととはいえ、危機に晒してしまった一方通行は少々具合が悪い思いだ。パタリロが勝手に招いたことなので、誰も彼を責めていないが……
一方通行はもう一度電極のスイッチを構い、タマネギ達の肩の間からパタリロに手を伸ばす。
軽く触れ、その一瞬でみすぼらしかった国王の姿は元の清潔さを取り戻した。
空中に撒き散らされた砂や小石に驚き、タマネギ達とパタリロ自身も身じろぎする。
「で、殿下がキレイになった!?」
「失礼な。僕は昔から綺麗だ」
「ふざけてる場合ですか。……一方通行さん、ありがとうございます」
「……礼はいらねェよ」
わずかだけど、「罪ほろぼし」ということで。
207 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/05(木) 23:41:18.02 ID:QOOU3FJl0
パタリロが無事だった今、タマネギ達は一方通行の起こした超常現象の話題で持ち切りだった。
無愛想にしても、威嚇しても、煩わしく纏わりついてくる同じ顔。
正直、『妹達』のことを思い出してしまう。
『ミサカは、ミサカは、ミサカは、ミサカは……』
打ち止めとは違う、無機質さを残す彼女達の声が頭の中に蘇る。
渋い表情の一方通行に気づき、パタリロは冗談抜きで後ろ髪を引っ張る部下を振り切って第五鉱山を後にした。
としちゃん号にも、「お前もここで今日は解放してやる」と、二人だけで退散する。
パタリロが当然のように運転席に乗り込むので、一方通行は助手席に座った。
「さてと、どこに行くかね。予定どおり、次の鉱山でいいかな?」
「あァ。……なァ王様よォ、十七歳なンだろ? 免許はあるのか?」
「気にしない、気にしない。僕がマリネラの法律なのだ」
「………」
208 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/05(木) 23:48:59.44 ID:QOOU3FJl0
道中、パタリロは色々と質問をしてきた。一方通行の超能力については、彼がのらりくらりとかわすため、
その本質まで理解するに至らなかったが。
そのかわり『原石』についての情報を得たパタリロ。
「『原石』ってェのは、能力開発を受けていないにもかかわらず、先天的に能力を発揮する人間のことだ」
「へぇ、さっき一方通行さんは僕のことをそう呼んでましたけど、……僕が?」
「あの状況で普通の人間が無事でいられるとは考えられない。オマエが魔術師じゃないのなら、『原石』だと思ったまでだ」
「いやあれはですね、僕が幼少のみぎりに編み出したゴキブリ走法という特殊な」
「どォせ王様にしか出来ねェンじゃないンですかァ? そりゃ能力と謳っても学園都市なら通じる。むしろ能力としてしか判断されねェだろう」
「ふーん」と、さして興味もないように、パタリロは片手でハンドルを握る。
「昨夜のフィガロと一方通行さんの話の繰り返しですけど、僕は昔からこうだったからなぁ。いきなり超能力者と言われても」
「超能力者(レベル5)に判定されるかは分からない。少なくとも強能力者(レベル3)には相当するだろォが」
「レベル3?」
パタリロの興味は尽きない。学園都市の格付け方法や能力開発、進んだ科学。一方通行は差し障りのない程度に教えてやる。
特に科学力については根掘り葉掘りの食い付きよう。聞けば、パタリロ自身が様々な科学的発明を趣味にしているとのこと。
「宮殿のセキュリティから、国政、国防の管理を行うマザーコンピューターも僕が設計したんだ。今後の技術開発のためにも、ぜひ行ってみたいよ、学園都市」
「はン、学園都市は科学技術の流出には滅法デリケートだ。まず無理だろ」
(コイツが来たら、絶対ェロクな事にならない)
209 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/05(木) 23:52:18.26 ID:QOOU3FJl0
その頃、一方通行が自分のためにダイヤモンドを掘っているなどとは知らない打ち止めは……
「ふにゃ〜、カワイイカワイイ、ってミサカはミサカはフィガロちゃんを撫でくりうりうりしてみたり」
「あはは、お姉ちゃんくすぐったいよ。ゲームできないじゃないか」
「あ、ごめんね」
マリネラ宮殿の一角、日当たりのいいサロン。誰が弾くのかグランドピアノ。あと、今は誰も立っていないが、カクテルバーも備え付けられていた。
打ち止めは窓に近いソファで、またフィガロを膝に乗せている。一方通行の小言はあまり真剣に受け取られていないようだ。
無理もない、相手を普通の七歳児だと思っているのだから。
それを数メートル離れたテーブルから眺めるのは、マライヒとバンコランである。
子守を休業できたマライヒは、優雅にのんびりコーヒータイム。バンコランもそれに付き合っていた。
イギリス外交官護衛の任でマリネラに来ている彼だが、なにせ七年以上もの腐れ縁があるパタリロが国王の国だ。
交渉はバンコランを交えて、予定を三日も早く繰り上げて片付いてしまった。もしかして、国もそれを期待して任務が回された可能性もある。
「打ち止めさんのおかげで、マライヒもゆっくりできるな」
「うん。本人も喜んでくれてるみたいだし」
バンコランが行くなら自分も……、とついてきたマライヒ。馴染みもあるし、温かいし、霧の多いロンドンよりも過ごしやすい。
知り合って早々に仲良くなった女の子が息子の世話まで買って出てくれて、とても気が楽だ。
210 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/05(木) 23:56:27.84 ID:QOOU3FJl0
「打ち止めさんは妊娠中だとか?」
「そう、四ヶ月目だって。ぼくの妊娠期間はたった三ヶ月だったからあまりアドバイスできないんだけど、産まれた後のことならご教授するつもり」
「あぁ、そうしてやりなさい。あの若さで親になるのは大変だろう」
「ふふ。打ち止めちゃんは十七歳。ぼくがフィガロを産んだ時とほぼ変わらないよ」
「そうだった」と、バンコランは頭を掻いた。
初対面の時に、一方通行を十代後半のストライクゾーンの美少年と勘違いしたように、実際の年齢よりも若く見積もった感覚が抜けない。
「んん、お前も大変だったことは事実じゃないか」
「まぁね。それに打ち止めちゃんは学校もやめて……。大変だよね…」
男同士で妊娠するのと、高校中退で母になる少女……。一般的にどちらが大変だろうか。
「四ヶ月目ということは、あとどれくらいで産まれるものなんだ」
「んーと、半年足らずかな」
「ほう、男の子か? 女の子か?」
「さぁ、そこは訊いてないや。………男の子だったら、どうだっていうの?」
「ど、どうもしないぞ。私は睨まれるようなことを言ったか!?」
「将来が楽しみ、とでも思ったりしたんじゃないの」
マライヒのヤキモチは、相手が胎児でも有効だった。
211 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/05(木) 23:58:54.31 ID:QOOU3FJl0
大変さを微塵も感じさせない打ち止めは、楽しそうにフィガロと携帯ゲームの画面を見ていた。子供の肩に顎を乗せて、時々ダメ出しやアドバイスを送る。
クスクス笑いあって、抱っこして抱っこされて。とても中睦まじく見える。
ふと、フィガロの手が止まった。背中を打ち止めから離し、「どうしたの?」と目で訊いてくる打ち止めを見上げる。
「ねぇお姉ちゃん。赤ちゃんって男の子だね?」
「え? どうして分かったの、ってミサカはミサカはマリネラでは男の子だと口に出した覚えがないことを確認してみる」
「……勘だよ」
(まいったな、父親に似てヤキモチ焼きの子供だ。マライヒママみたい。一方通行くんに告げ口されなきゃいいけど…)
バンコランとマライヒ、そして打ち止めから見えないように、フィガロはミカエルの顔で喉を鳴らして笑った。
212 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/06(金) 00:06:26.08 ID:HeWlHlw/0
とりあえずここまで。
この大天使、全然悪いと思ってませんね。
今日も膝抱っことおっぱい枕をしたとバレたら、一方さん怒るぞ。
213 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/06(金) 06:30:40.54 ID:nwniN60DO
>>1
乙ぱい
よしフィガロ、ちょっとそこ代われ
214 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/04/06(金) 06:57:49.91 ID:iZCJlHC0o
クリプトナイトってスーパーマンの弱点じゃね?
シリアスキャラを脱力させる王様にはぴったりだな
215 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/04/08(日) 22:00:23.42 ID://yiLJQ+0
乙です、俺がふぃがr・・・
216 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/08(日) 23:11:42.81 ID:FBwAHyRF0
>>214
かっけぇと思ったのに……
続き投下します。
217 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/08(日) 23:13:07.19 ID:FBwAHyRF0
紅い日で宮殿の壁が紅く染まる頃、一方通行とパタリロが戻って来た。
「あなたーおかえり〜、ってミサカはミサカはジュリエット気分で手を振ってみるーっ」
中庭まで車を乗り入れ、シートから降りた途端、頭上から打ち止めの声が聞こえる。館と館を繋ぐ渡り廊下から身を乗り出し、一方通行(とパタリロ)を出迎えてくれていた。
明らかに夫に向けて手を振っていたが、返事を返したのはパタリロだった。
「ただいまー打ち止めさん。………一方通行さんも言ってやればいいのに」
「………」
「あそこの手摺、崩れかけてて危ないのに。立ち入り禁止にしてたんだがな」
最後まで言い終わらないうちに、パタリロの横からロミオ(仮)は消えた。
218 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/08(日) 23:15:26.28 ID:FBwAHyRF0
「わぁお、えぇと…おぉロミオ、あなたはどうしてあなたなの。あれ?」
渡り廊下まで跳び上がった一方通行は、手摺の状態を蹴って確かめる。崩れかけどころか、完成してわずか数年の綺麗なモノだ。
てっきり一方通行が芝居にノってくれたのかと思って打ち止めが縋りついてくるが、軽くあしらう。
(やはり冗談か)
「崩れかけ」というのは、八割方パタリロの嘘だと分かっていたが、一応念には念を入れておいただけだ。
中庭の方を睨むと、少しも悪びれていない国王がニヤニヤしてこっちを見ている。
「また夕食の時に会いましょう。それまでごゆっくりー」
車を置きっぱなしにして、パタリロは宮殿の中に姿を消した。打ち止めも、なにやら一仕事終えてきたらしい一方通行の手を引いて部屋に引き返す。
複雑な造りの宮殿で、ここから宿泊する部屋までは幾つか廊下を折れなければならないが、今日一日で彼女はとても内部に詳しくなった。
ずっとフィガロと一緒に過ごし、城の中を案内してもらったからだ。
「お疲れ様、ってミサカはミサカはあなたを労ってみる」
「大して疲れてねェ。オマエはどうもなかったか」
「うん。フィガロちゃんとゲームやったり、マライヒ達とジュース飲んだり、お城を探検したりして楽しかったよ、ってミサカはミサカは有意義に過ごしたことを報告してみる」
一方通行は、「疲れてねェ」ことはなかった。異国の地で、旅疲れも抜けないままに行動を続けていたのだ。パタリロの異常さや、同じような容姿のタマネギ隊員達とのやりとりは、けして人付き合いが得意ではない彼の体力に多少の影響を及ぼしている。
219 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/08(日) 23:19:49.28 ID:FBwAHyRF0
部屋に戻り、真っ先に向かったのはベッド。ゴロリと横になると、打ち止めも乗ってきた。
彼女は一方通行の頭近くまで移動し、彼の頭を太ももの上に導いた。正座をすると「血が巡りにくくなる」と注意されるので、足はまっすぐに伸ばして。
(はァ………)
「息子ちゃんが大きくなって、お腹も大きくなったら、あなたにこうしてあげられなくなっちゃうね」
「そォだな」
「今のうちだよ、ってミサカはミサカは期間限定のサービスを提供してみたり」
「馬鹿。産まれて腹が元どおりになったら、また出来ンだろォが」
「あ、そっか。でも出産してもお腹が出たままだったら怖い……、ってミサカはミサカは複雑な女心を抱えていたり」
「くだらねェ」
女心を理解しない夫の髪を、悔しまぎれに掻き乱す。「なにくそ」という意思表示だったのだが、それは気持ち良い類の刺激として受け取られた。
220 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/08(日) 23:24:21.25 ID:FBwAHyRF0
初日のように賑やかな夕食を終えた一方通行は、打ち止めより先に入浴した。今は交代で彼女が風呂を使っているので、夜風に当たろうとテラスがある場所を訪れた。
常春の夜の風が気持ちいいことを、けっこう気に入ったのだ。
テーブルに肘をついて庭木のざわめきを聴き、花園から香ってくるのか、いい匂いを吸い込む。
目を細めてリラックスしていたら、突如背後でライターの火を灯す音がする。
そこには、スパイ仕込みか、気配を忍ばせて接近していたバンコランが立っていた。
「やぁこんばんは。ここで吸ってもいいかね?」
「勝手にしろよ。ここは俺の家じゃない」
ジッポライターを背広の内ポケットにしまい、葉巻を摘まんで煙を吐く。紫煙が暗闇に揺れていた。
薔薇の香りが掻き消されてしまったが、そんなことを残念に思う一方通行ではない。
「俺になンか用ですかねェ」
「口寂しかったのでな。そうしたら先客が居ただけのこと」
「そォかよ」
一方通行から二メートル弱の距離を保ち、バンコランはただ葉巻を嗜む。しばし、無言が続いた……
「いや、少し……興味はあるな」
「あ?」
いきなり会話の続きが始まったらしい。しかも「興味がある」ときた。同性愛者の男が。
一方通行は首を捻って振り向く。
221 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/08(日) 23:28:12.76 ID:FBwAHyRF0
「ふ、妻帯者に手は出さんよ。超能力を持った少年……、失礼、見た目より上だったな。私は現実主義者なのだが、あの学園都市出身ともなれば興味も湧こうというものさ」
相方の男が妊娠出産し、そして自分は父親を務めながら『現実主義者』もないだろうに。一方通行はフィガロの正体を知ってしまったので、かなりの神秘を身近に置く彼を可笑しく思う。
「……フィガロの出自と比べりゃ、超能力なンざ不思議でもねェよ。科学的に開発されたモノなンだからな」
「ふむ、そこだ」
「何が」
「学園都市の人間である君達が、フィガロがマライヒから産まれたことを……信じてくれたのかは分からないが、否定しなかったそうだね」
「あァそのことか。……俺も打ち止めも、『信じている』」
暗く視界は悪いけど、バンコランが目を大きく開いて眉を跳ねあげるのが分かった。
「『知っている』……と言った方が正確か。世界には科学で測れない現象があることをな」
「………」
半分を残し、葉巻を携帯灰皿に押し付けるバンコラン。
「特に何をしてもらったわけではないが、ありがとうと言っておこうかな」
「何もしてねェンだから、言われる筋合いはない」
「はははは、奥さんとかなりタイプが違うのだな、君は。二人とも親になるというのに、動じない所は似ているか……」
222 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/08(日) 23:32:54.17 ID:FBwAHyRF0
親になる。
その言葉に、テーブルにつきっぱなしだった肘を離した一方通行。動じていないように見えたのか、と自分の振舞いを思い起こす。
確かに、打ち止めと子供を守らなければと、動揺や戸惑いを表に出さないように心掛けていた。
日々成長していく子供に、言い知れぬ興奮と期待がどんどん高まっていく。
それが『親』の正しい姿なのだろうと己の心に安堵したが、片方で不安が高まっていくのも確かだ。
「そう見えるか……」
「なんだ、実は動じていたのか」
「子供を持つつもりなンて、無かったからな」
持てる資格など……。
打ち止めが強く望みを示してくれたなら、いつか。
そう逃げてしまうと思っていた。
まるで「面倒だ」「子供なんて欲しくなかった」とも取られかねない物言いだったが、そうではないと分かっている。バンコランは今日、打ち止めと数時間を一緒に過ごしていたから。
こうして一方通行と二人で会話するのが初めてなバンコランは知らないが、今夜の一方通行からは、普段聞けないセリフがよく出てくる。
「フフフ、それは私こそ そうだったよ。なにせ男同士だしな」
「まァそりゃそォだ」
だからなのか。女でなければ子は宿らない。それなのに、愛する男はフィガロを身籠った。
親になることはないはずだったバンコランなのに、いきなり予定外の『父親』となってしまった彼に、一方通行は不安の解消を求めているのかもしれない。無意識にでも。
223 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/08(日) 23:36:40.45 ID:FBwAHyRF0
「あの時はかなりまいったな。焦った。体力には自信があったが、寝込む直前だったよ」
(…………俺はまだマシか。だいたい打ち止めは『男』じゃねェし)
妊娠発覚直後、打ち止めによれば一方通行は笑っていたという。
素直な感情の発露を拠りどころにして、彼は打ち止めと四ヶ月を過ごしてきた。しかし出産が近づいてくるにつれ、この手で赤ん坊を抱くのか、育てていくのかと、未知なる世界に怖れも感じる。
第一に、打ち止めの身体的負担が心配だ。
「大丈夫だと思う。そう気負わぬことだ」
流石に顔に出ていたようで、二歩近付いたバンコランが一方通行を気遣った。こっちも連帯感みたいなものを抱いたのだろうか。
「『パパ』と子供に呼ばれれば男はみんな父になるし、子供は『息子』『娘』になるものだ」
先輩の飄々とした笑顔に、一方通行はきょとんとする。そういう表情だと余計に若く見えるのになと、バンコランは「惜しい」と思った。
「そンなものなのか」
「経験者の言葉だ。説得力があるだろう」
ゲイに励まされた一方通行であった。
224 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/08(日) 23:38:31.99 ID:FBwAHyRF0
とりあえずここまで。
バンコランもステイル並みに吸うから、未来は肩身が狭いだろう。
225 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2012/04/08(日) 23:46:13.78 ID:fcr2ew2To
乙
朝食をワインで済ましたりな>バンコラン
226 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/09(月) 04:27:10.72 ID:ekWqVUmDO
>>1
乙ぱい
Zippoを使っていたのか…
てっきりデュポンあたりだと思ったのだが
227 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/09(月) 13:57:44.58 ID:JRuCXIXU0
>>226
火がつけばなんでもいいや、と思ってそう。 個人的にマッチを使うのが「渋い」と思うが、さすがに無いだろうね。
228 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/04/09(月) 23:15:39.80 ID:G7s3FDwAO
火のつける方法で味が変わると
聞いたことがあるな
後『無敵のスーパーマンと対抗無力化出来るモノ』と考えたら格好いいだろクリプトナイト
229 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/10(火) 17:06:26.62 ID:wfRG3edQ0
>>228
そういう表現だとかっこいいな! 我ながら流されやすい。
投下します(激甘注意)
230 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/10(火) 17:08:46.96 ID:wfRG3edQ0
一方通行と打ち止めのマリネラ四日目の天気は、分厚い雲に覆われた空となった。じきに雨が降ってくる。
三日目の昨日も、一方通行は引き続きピンクダイヤを求めてパタリロと鉱山めぐり(バッテリーの関係で三ヶ所)をした。今日もと思っていたが、あれでも国王なパタリロは、どうしても外せない公務のために付き合えない。
彼の同行なしに勝手に鉱山を掘るのは避けた方がいいだろうと、今日は打ち止めと二人きりで過ごすことにした。
午前中に街へ繰り出し、珍しい南国のお土産を買い漁る。
杖つきと妊婦では重い荷物は運べないので、手軽な物以外はことごとくマリネラ宮殿への配達を依頼した。
ちなみに自動車運転免許証は、これもパタリロの鶴の一声で発行された。出国する時返還してね、という気軽さで。
231 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/10(火) 17:10:57.24 ID:wfRG3edQ0
(コイツ、ダイヤ見て盛り上がってたなァ……。クソ、見つかるか?)
マリネラの一番の収入は、当然ダイヤモンド産業である。天然物の採掘はもちろんだが、人工ダイヤも取り扱っている。
アクセサリーとして加工されたものが、安価で土産物店に並べられていた。
それを手に取って(全て触れるように展示してある店さえあった)「キレイキレイ」とはしゃぐ打ち止めは目で「買って」と訴えてきたが、どうにか誤魔化す。
『それ人工だぞ』
『分かってる。でもキレイだよ?ってミサカはミサカは本物は値段が凄いからコレを…』
『どォせ買うなら天然の上等品が良い。今度な』
『ぶー、ってミサカはミサカはお値打ち価格のコレで充分だったり』
超希少の大粒ピンクダイヤの指輪を打ち止めに贈るため、はるばるマリネラくんだりまで来たというのに。あそこで人工ダイヤのネックレスなど買っては格好がつかない。
空模様と体調が心配だからと何気ない風を装い、観光を切り上げて宮殿に帰って来たのだ。
232 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/10(火) 17:13:04.45 ID:wfRG3edQ0
タマネギ マッチ号に日本への航空便の手配を頼み、あとは降りだす雨を待ちながら部屋でくつろぐことにした。
フィガロ達もまだ宮殿に滞在しているはずだが、今日は会っていない。日本を出て四日ぶりだ、こうして打ち止めとゆっくりするのは。
「あなたとゴロゴロできて嬉しいな、ってミサカはミサカはコーヒーを淹れながら隣に失礼してみたり」
打ち止めも同じことを考えていた。
初日以外は行き先も目的も告げずにパタリロと出掛けたので、友人(フィガロ達)と一緒でも寂しかったのだ。
打ち止めのためだとしても、所詮それは一方通行の勝手な思い込みだ。理想の押し付けとも言える。
済まないと感じるが、それでもやはり欲しい。世界にひとつの指輪が。
過去に、指輪を特別視する打ち止めを幾度か見たことも、彼の決心を補強している。
(俺がダイヤを探していることは、もしかしたら打ち止めの耳にも届いているかと思ったが……)
今日のお土産探し時に、人工ダイヤを欲しがったことでそれは無いと考えてよさそうだ。しかしタマネギ達の口から、いつ打ち止めに知れるとも分からない。
心苦しくはあるが、それでも明日からはまたダイヤ探しに精を出そう。だから今を濃厚に過ごす。そうして少し清算する。
233 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/10(火) 17:15:48.04 ID:wfRG3edQ0
ソファの隣に座った打ち止めからコーヒーが入ったカップを受け取り、一口啜る。テーブルにカップを置いたあと、彼女の肩を抱いた。
同時に雨音が響く。照明をつけていない部屋が、もっと暗くなってきた。
「また時間が取れたら観光に連れてってやる」
「うん! でも気を使わなくても大丈夫だからね、ってミサカはミサカはお城の中でも充分楽しいとあなたの負担を考慮してみたり」
「負担なンかじゃねェよ。……オマエとああしてると、俺も楽しい…」
「ひぃっ、どうしたのあなた。あなたの口からそんな甘々トークが出てくるなんて、ってミサカはミサカは南国の空気が思考の異常に関わっているのかと心配してみる」
肩を抱いていない右手で、軽くチョップをする。普段はもっとロマンチックな演出をしろと言うくせに、いざ実行したら心配されるとは……
「ったく…。もっとタノシイことさせろ」
いいよ、と小さな返事が聞こえ、首を伸ばした打ち止めからのキス。
234 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/10(火) 17:20:18.24 ID:wfRG3edQ0
「……コーヒーの味」
「今飲ンだばっかだから」
「妊娠してからコーヒーもお茶も飲めないからさ、ってミサカはミサカはあなたのキスで味を堪能してみたり」
「………ほォ」
コーヒーもお茶も、含まれている成分が胎児には毒だ。以前のように、一方通行と一緒に砂糖とミルクを入れたコーヒーを飲めなくなった打ち止めなのである。
それを辛いなどとは思わないが、たまに飲みたいなー、と感じることもある。
一方通行はテーブルに手を伸ばし、カップに残るコーヒーを一気に空にした。
「いい飲みっぷりですなー」
「オマエにだけ我慢させるのは本意じゃない」
コーヒー味のキスぐらいならいいだろう。さぁもっと味わえ。
「別にミサカはあなたみたいにコーヒー大好きじゃないんだけどね」
「………」
「でもあなたのことはだーい好きなので嬉しい、ってミサカはミサカはほろ苦なちゅーでも大歓迎」
しとしと降る雨の音をBGMに、二人で香ばしい味を交換しあう。
愛しい妻の体を抱きしめながら、一方通行は早く指輪を手に入れようと決心を新たにした。
235 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/10(火) 17:22:33.13 ID:wfRG3edQ0
とりあえずここまで。
吐いた砂糖でコーヒーが甘いよ。
236 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/10(火) 20:07:40.04 ID:skQ523kDO
>>1
乙ぱい
杤の実を生でごりごり噛みたくなるような甘さだなオィ
>明日からはまたダイヤ探しに精を出そう。
つまり今晩は打ち止めに精を出す訳か…チクショウ
237 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/12(木) 00:27:37.65 ID:dkfFCynV0
>>236
……うん、まぁそうね。身も蓋もない言い方だけどそうね。
投下します。
238 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/12(木) 00:30:17.61 ID:dkfFCynV0
ここはマリネラのとあるダイヤモンド鉱山……のはずれ。そびえる崖の向こう側こそが、採掘現場だ。
一方通行は若草が生えるその崖の前に立っている。現場じゃないので、周りには誰もいない。耳に当てた携帯端末からパタリロの声がする。
『全員退避させた。いつでも大丈夫だ』
「王様もちゃンと離れてるだろォなァ?」
『はいはい』
最初に訪れた第五鉱山の一件以来、こうしてパタリロの非難を確認しないと気が収まらない。携帯の通話を切り、一方通行は崖に向かってパンチを繰り出した。
ゴバゴバ どどどど
衝撃が土中を伝わり、三十メートル挟んだ向こう側から土砂が噴出する。溢れたその中に、ダイヤの原石が含まれているはずだ。
同じことを三発繰り返し、雨上がりの澄んだ空気に土埃の臭いが漂ってきた。崖向こうの採掘現場では、さぞひどい有様になっているだろう。
一方通行の携帯が鳴り、再びパタリロの声が。
『出ましたよ。いやいやタマネギ達が興奮しちゃって』
「ふン、こっちまで聞こえてる。戻ると面倒ォそォだな……」
『原石の採取はこいつらにまかせて、我々は次に行きましょうか』
239 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/12(木) 00:34:09.08 ID:dkfFCynV0
一方通行のベクトル操作で、鉱山に眠っていたダイヤの原石の在りかを調べる。
もともと採掘予定から漏れていたところを、彼の能力で発見、採掘(という名の破壊活動)し、目的のピンクダイヤを探しているのだ。
これで巡った鉱山は八ヶ所だ。最初は閉山する所を掘ったのだが、この絶大な威力を見たパタリロは、
稼働している鉱山の操業を止めてさえ、彼の行動を後押しするようになった。
見逃していた石を拾いあげるチャンスなのだ。地中深くに採掘機械を埋めてしまった所は無理だが、
こうして大量の土砂が流出をしても構わないポイントでは、大いに力を振るってもらった。
それが叶わない場合は、図面や地層データを元に、彼の示した原石が埋まる場所を機械で通常の採掘を進めている。
その数、既に二十ヶ所に及ぶ。こうして鉱山巡りをしている今も、タマネギ隊員が指定されたポイントを掘り進めていた。
そこからもピンクダイヤ発見の可能性があるわけだが、今のところそれはまだない。
(……今のうちに、無色のダイヤで手を打つ覚悟をしておいた方がいいかもな)
パタリロが運転する車の助手席で、足と腕を組む一方通行は妥協案を用意し始めていた。
いつまでも学園都市を離れているわけにはいかない。打ち止めは妊娠中なのだから、冥土帰しがいる病院での定期検診を欠かせないのだ。
「大丈夫ですよ。過去に一ヶ所からブルー、イエロー、ピンクダイヤが、同時に合計十三カラット発見されたこともあります。見つかる時は案外ポロっと出てくるもんですって」
「……ン。……次はまだかよ」
「あと五分くらいかなぁ」
一方通行の心を読んだように、パタリロがフォローをする。
それは純粋に励ましなのか、単に彼の能力で大儲けできていることを喜んで、やる気を起こしてもらいたいだけなのか。
240 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/12(木) 00:36:05.03 ID:dkfFCynV0
観光はきのうの半日だけで、旦那様は今日も妻を置いてお出掛けだ。ピアノがあるサロンで打ち止めが一人テーブルに座っていると、フィガロが駆け寄ってきた。
「お姉ちゃーん」
「やっほー。パパとママはどうしたの?ってミサカはミサカと同じように一人のフィガロちゃんに質問してみたり」
「今日は二人でデートだよ。僕達、明後日でロンドンに帰るんだ。その前に遊ぶんだってさ」
七歳になったフィガロなら、もう一人で留守番させても大丈夫だからと、マライヒとバンコランは昔のように二人で家を頻繁に空けるようになった。
しかもここはマリネラ宮殿だ。タマネギ達もいるので、尚更「安心だ」と、羽を伸ばすつもりである。
それに、打ち止めが喜んで面倒を見てくれるのではないか、という甘えも。
「そっかぁ。じゃあ今日もミサカと遊ぼう!ってミサカはミサカはフィガロちゃんをお誘いしてみる」
「うん。……それ何食べてるの?」
241 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/12(木) 00:37:44.41 ID:dkfFCynV0
テーブルに紙を敷いて、その上に広げたものを指で摘まみ口へ運んでいた。食べ盛りの妊婦なので、人目を気にせずパクパク食べる。
「ちりめんじゃこ。きのう街で買ったの。なんでマリネラにちりめんじゃこがあるのか不思議だけど、ってミサカはミサカはカルシウム補給できるから好都合だったり」
「おひとつどうぞ」と、打ち止めの手からフィガロの口にもお裾わけ。子供は眉根を寄せて咀嚼した。
「変わった味だね」
「うふふ、日本の食べ物だよ。あとミサカが持って来たやつだけど、こんなのもあるの」
日本のフルーツと聞かされて、美しい赤色の実を見せられた。サクランボのようだと思い、フィガロはまた口を開く。
「!!……な、…すっ!…うぅひゃにこれ……!?」
「あーはっはっはっはっはー! 梅干し攻撃ぃ、ってミサカはミサカは変顔に大爆笑!」
「ひどいよ、お姉ちゃん……」
(それに君も……)
フィガロはこっそり打ち止めの腹を睨む。
母親の高揚を感じているだけなのかもしれないけれど、そこで息づく小さな命も自分の醜態を笑っていた。
(あーぁ、嫌われたなぁ、僕)
242 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/12(木) 00:40:50.31 ID:dkfFCynV0
「まだ口の中が変なカンジ」
「ごめんねぇ、ってミサカはミサカはお詫びに飴ちゃんを進呈してみる」
「妊婦さんって、甘い物良くないんじゃなかったっけ」
「うぐ、よく知ってるねそんなこと。カルシウム不足になるから虫歯がね……。でもちゃんと歯磨きしてるし、さっきみたいに補給も怠らないから」
「大丈夫大丈夫。お兄ちゃんには言わないから大丈夫だよ」
「良かったー、ってミサカはミサカはお口直しの賄賂をあーん」
繋いでいた手を離し、フィガロに飴を与える打ち止め。今日は、まだ探検していない敷地に行こうとしている。
宮殿の南側の端までくると、廊下は行き止まりとなった。
フィガロは横の壁についていた(この宮殿にしては)小さな扉を開けると、外へと歩き出す。
壁の無い、柱と屋根だけの石造りの通路。一分ほど歩くと建物に行き当たる。
コンビニぐらいのサイズだが、それはそれは豪勢なものだった。打ち止めは白磁の壁を見上げる。
「ローマってカンジだねぇ」
「お風呂だよ」
「えぇ、これが?ってミサカはミサカはギリシアな雰囲気に興奮してみたり」
「その辺意識して作ったみたい。でも賓客用だし、ここまでは遠いからあんまり使う人がいないんだって。ママは好きでよく利用してるけど」
フィガロが中に入り、照明を点ける。いきなり浴室だった。面積の三分の二が浴槽で、奥の扉が脱衣所のようだ。
そこまで濡れずに辿りつけるよう、排水溝と並行した通路が壁沿いに続いている。
「日本人てお風呂好きだよね。お姉ちゃんならパ、殿下も使っていいって言うよ。僕は時々プール代わりにしてる」
今は湯も水も張られていないので、一直線に脱衣所へ向かう。そこの壁に設置されたリモコンを操作すると、湯が溜まる仕組みだった。
243 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/12(木) 00:42:37.68 ID:dkfFCynV0
「ほうほうなるほど、ってミサカはミサカは説明書きのままにボタンを押してみる」
「そうだよ…って何スタートしちゃってるのお姉ちゃん!?」
「ありゃ? 入っていいんでしょ?」
「まだお昼だよ」
「お昼でも入るの、日本人は。フィガロちゃんも一緒に入る?」
子供は子供らしからぬ表情でブンブン首を振った。頬は赤い。
「い、いいよ。僕オトコだし」
「子供のクセに照れちゃって」
「普通七歳にもなったら、女の人とお風呂入らないでしょ」
「……ミサカはフィガロちゃんより大きくてもあの人と一緒だった、ってミサカはミサカは昔を懐かしんでみたり」
「………へぇー。随分長い付き合いなんだね」
「それは肉体年齢は十歳でも、実年齢は零歳だったから」と、今は言い訳する人がいない。いたとしても、どうせ事情を説明できないが。
そもそも、ここに一方通行がいたら『フィガロとお風呂』なんて許すはずもない。
「えーっと、僕は外でゲームやってるからさ。お姉ちゃんだけゆっくりしてよ」
「長風呂になっちゃったらお部屋に戻っててね」
「大丈夫、待つよ……。っ、じゃあね!?」
既に服を脱ぎ始めた打ち止め。フィガロは慌てて退室した。ミカエルは大天使でも、フィガロは人間の男の子なのだ。
244 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/12(木) 00:44:42.11 ID:dkfFCynV0
とりあえずここまで。
また風呂ネタ。風呂が好きでごめんなさい。
245 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/04/12(木) 07:19:38.82 ID:+fZGSi2AO
お風呂!お風呂!
246 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/13(金) 00:46:06.84 ID:X0FYBP4IO
へんなとこで恥ずかしがるんだな
247 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/14(土) 03:23:29.50 ID:HQn0c3FJ0
そろそろマリネラ編も佳境です。佳境だけどバカバカしいです。
248 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:25:55.84 ID:HQn0c3FJ0
天井付近には、明かり取りの磨りガラス。そこから降ってくる薄い日差し。
豪奢な造りの大きな浴槽で足を伸ばす打ち止めは、大きく息をつく。
(はぁ〜極楽極楽、ってミサカはミサカは泳いでみたり)
底に手をついてスイスイ。仰向けになって足をバシャバシャ。
(あ、お腹がお湯から出ちゃう……)
こんな風に泳ぐと水から胸が出てしまうのは常だが、膨らみ始めた腹も同じように空気に触れるようになった。
湯に浸かって寒いはずはないのだが、なんとなく悪いと思って泳ぐのをやめる。腹の子もしっかり温まってほしい。
(ごめーん。もう横着しません、ってミサカはミサカは謝意を表明してみたり)
謝意だろうと愛情だろうと、それはいつも腹を撫でることで表している。
だんだんと張ってきた腹部を見降ろしていた打ち止めの表情が陰り始めた。最近一人になると、こういうことが多い。
情緒不安定だ。
これがマタニティブルーなのかもしれない。誰しも起こる現象だから気楽に構えていようとしている。
しかし、なにぶん初めてのことゆえ、正常な(?)マタニティブルーなのか分からない。
深層心理ではクローン体である我が身を不安に思っているのかも。もしくは、自分には母になる覚悟が足りないのでは?
ぽとり。
涙が落ちた。泣かないように気張ったり、我慢したりしていたが、いっそ涙を出しきった方がスッキリすると学んだ。
でも、復活にかかる時間は確実に長くなっている。
(……情けないお母さんだなぁ)
打ち止めは勢いよくお湯に顔を漬け、涙よ溶けろと、泡と共に叫びを吐いた。子供が宿る腹を力強く抱きしめて。
249 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:27:19.76 ID:HQn0c3FJ0
その頃フィガロは……
木陰の下、芝生に直に座って携帯ゲームに興じていた。しかし数分前から手は止まっている。視線も虚空を見つめ、心ここにあらずな様子だった。
ゲーム機を置き、立ち上がって威容の風呂を振り返る。
「あー、そういうことかい。親孝行だね」
「人使い荒いなぁ」と呟きながら、風呂に近づいて行く子供の背中には、目を凝らさないと見えないが、輝く『羽』が四枚現れていた。
それがはっきり出現し、大人も包み込めるほど大きく広がった時、フィガロの姿は忽然と消えた。
250 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:29:04.28 ID:HQn0c3FJ0
「ごばがばばばばばばばばぁ! っ、はぁはぁはぁ……ふぅ」
ちょっとスッキリした。大声効果アリだと、打ち止めは今後の有効な対策の発見にガッツポーズ。ただし、人気のない所でしかできない。
(あとは激レア、あの人の『愛してる』ボイスを脳内再生して……あれ? ここどこ?)
自分は今大浴場の中で湯に浸かっていたはずなのに。
いつの間にか両足で立っている。そして周囲の様子もおかしい。濃い霧の中にいるようで、遠近がつかめない。
裸の体はどこも濡れていなくて、髪も乾いていた。浴槽もお湯も、風呂場の壁も見当たらない。
(??………)
ふわふわした床を何歩か歩く。無意識に腹に両手を添えると、今までにない大きな胎動を感じた。
異常な事態なのに、不思議と不安がない。そばに一方通行がいるような安心感さえある。
朝目覚める直前の、夢うつつの世界のようだった。
「ラストオーダー」
「!」
251 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:30:26.80 ID:HQn0c3FJ0
「だ、れ?ってミサカはミサカは、あ」
名を呼ばれて振り返ると、そこには長い金髪の男が立っていた。手を伸ばせば届くほど近く、優しい視線に釘付けとなる。
しかし自分が裸なことに気づき、慌ててしゃがんだ。
「おや失礼、恥ずかしい?」
「…………!」
男はさらに歩み寄り、柔らかな布を肩に掛けた。打ち止めはそれだけで「親切な人」という評価を下し、促されるままに立つ。
「わぁ!? 羽!?ってミサカはミサカはタオルかガウンだと勘違いしてたりっ」
「今はこれしか持ち合わせがなかったんですよー」
四枚の羽を器用に重ねて曲げて、ミカエルは打ち止めを包み込んだ。重厚な羽毛は隙間なく肌を覆っており、打ち止めが間違えるのも無理はない。
「まぁいいや。あの、どうしてミサカの名前知ってるの?ってミサカはミサカは初対面の天使さんに訊いてみる。……天使だよね?」
「はい。私は大天使ミカエルです」
「うおぉぉぉ、ってミサカはミサカは未知との遭遇に興奮してみたり!」
(君の旦那さんも似たようなもんなのに)
ミカエルは笑った。
252 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:33:05.66 ID:HQn0c3FJ0
「もう大丈夫だからね。泣かないで」
「え、見てたの……?」
「君の息子さんに呼ばれたんだよ。お母さんを助けてくれ、ってさ」
「うそぉ!?ってミサカはミサカはお腹の赤ちゃんが喋れるわけないと疑ってみるけど、天使さんが嘘言うとも思えないし……」
「本当」
ミカエルはその場に跪き、打ち止めの右手を恭しく取った。裸を隠してくれていた羽がどいてしまい、打ち止めはちょっと焦る。
「美しいひと。あなたと、あなたの美しい子のために、天使の加護を授けましょう」
「あ……」
ミカエルの唇が、手の甲に触れる。そこからあたたかい何かが、全身に広がっていった。
「一人で泣いてはいけませんよ。あなたのそばにはいつも、あなたの天使がいるんだから」
「……うん」
もう一度羽の中に抱きしめられ、打ち止めは目を閉じた。とても良い気持ちだったが、お腹の子が激しく動いて、意識を覚醒させる。
「打ち止めさんが裸だから怒ってるなぁ。別に狙って来た訳じゃないのに」
(怒ってるんだコレ!?)
「そういうことなので、名残惜しいですが私はこれで退散します。このことは内緒にしてくださいね。特に一方通行くんは絶っ対怒るから」
「あの人のことも知ってるの?」と訊く前に、羽が両目の前にかざされた。反射的に目を閉じ、開いた次の瞬間にはもう天使はいなかった。
(夢?)
思わず頬をつねろうとして、手が湯船の中に沈んでいることに気づく。状況は泣いていた時のままに戻っていた。
「……天使さん、どこ?ってミサカはミサカは声に出して呼びかけてみる」
答はどこからも聞こえない。風呂場の装置からあがる僅かな電子音と、体を動かすと揺らめく水音が響くばかり。
心を覆っていた憂鬱は綺麗に消え去り、体も芯まで温かい。
打ち止めは湯から上がると脱衣所へ向かった。鏡に映る裸を見つめ、特に腹に視線を向ける。
「ありがと」
253 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:34:37.10 ID:HQn0c3FJ0
だいぶ長いこと入浴してしまったと思っていたが、実際には半時間ちょっとしか経っていなかった。
打ち止めをはゲームをして待っていたフィガロと再び手を繋ぎ、ぼんやり歩いていたら宿泊する部屋の前まで戻って来ていた。
「お姉ちゃんがなんだか疲れてるみたいだから、今日はもうおしまい。お部屋でお休みしてなよ」
「……そうしよっかな。えへへ、お風呂に入ったら普通は疲れが取れるのにね、ってミサカはミサカは遊べなくてゴメンと謝ってみる」
打ち止めはまったく疲れていなかった。天使が与えてくれた温もりがまだ体中を巡り、足取りは軽い。
しかし頭が若干混乱していることもあり、フィガロの気遣いに甘えることにする。
(不思議体験しちゃったなぁ……。内緒、って言われたけど、あの人にも言えないなんてつまんない………)
ベッドに転がり一方通行が使っている枕を抱えていると、疲れはないのに、いつの間にか眠ってしまった。
254 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:36:51.65 ID:HQn0c3FJ0
マリネラに来て五日目。
今までになく遅い帰りとなった。夕食の時間も過ぎそうだったため、
一方通行は軽く食べられるものを、パタリロと共に鉱山の食堂で済ましてきた。
今日は採掘最盛期の鉱山を回ってきたので、作業員のタマネギ達と一緒に入念な採掘計画を打ち合わせしてきたのだ。
バッテリーには制限があるし、地中に機械が大量に埋まる現場では派手な活動はできない。
探査機よりも正確で広範囲に威力を発揮する<一方通行>を全面的に信用し、パタリロは彼の指示通りに動いてくれた。
時間はかかるが、同時に複数ヶ所の原石に向けてアタックできる。今日で一方通行が目星をつけたポイントは三桁に及んだ。
明後日には多くの原石が掘り出される予定だ。その中にピンクダイヤがあればいいのだが……
帰ってくると、タマネギの一人から打ち止めが部屋で寝ていると告げられた。
この隊員はフィガロからそう聞かされて、今夜は夕食に呼んでいないとのことだ。
(今日もフィガロと遊ンでやがったのか)
面白くはないが、打ち止めは楽しそうだし『フィガロ』は七歳の子供だし、まぁ良しとする。
妻が眠る暗い部屋に入り、そっとベッドに近寄った。
255 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:38:31.96 ID:HQn0c3FJ0
(………打ち止め……)
ベッドサイドの照明を点け、安らかな顔の彼女を覗き込む。この国に来た初日は寝たふりしていたが、今日は本当に寝ているらしい。
大人しくしてくれるのは好ましいが、寝過ぎじゃないかとも思う。
能力を使用モードにし、体に触れて恒例の診察をする。妻も息子も体調は良好だった。
(またデカくなってる……。当ォ然だけどな。……お、すげェ動いて)
打ち止めの腕からこぼれ落ちていた枕を避け、ゆっくり上下する腹を撫でた。
バンコランには不安を吐露していた一方通行だが、こんな時の自分の表情を知っていれば……
(まったく、間抜けヅラしやがって……)
腹と同じく、上下する胸を揉んで起こしてやろうかと『ワルイ顔』をした時、唐突に脳裏にあるビジョンが浮かんだ。
目を開けて薄暗い部屋にいるのにも関わらず、それは映画を見ているように明瞭なイメージで。
まるで視点を二ヶ所持っているようだ。
256 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:39:18.02 ID:HQn0c3FJ0
『おや失礼、恥ずかしい?』
『わぁ!? 羽!?ってミサカはミサカはタオルかガウンだと勘違いしてたりっ』
『はい。私は大天使ミカエルです』
『あ……』
『このことは内緒にしてくださいね。特に一方通行くんは絶っ対怒るから』
一糸纏わぬ裸の打ち止め。天使の姿となり、成人男性(に見える)ミカエル。
打ち止めの手にキスするミカエル。
裸体を羽に包まれて、うっとり目を閉じる妻……
257 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:40:34.52 ID:HQn0c3FJ0
「………………」
嫉妬。困惑。憎悪。
手が震えた。
次いで現れたのは、凶悪な笑みだった。
「あンのクソ天使がァ……! 人の女にな、に、を……っ」
喉から絞り出された恐ろしい声に、数時間ものお昼寝から意識が醒めつつあった打ち止めが、目を擦って起きる。
「ふん……? もう夜?ってみしゃかはミサカはあなたにお帰りを言ってみる」
「打ち止め、怒らねェから言ってみな……。オマエ今日の昼間なにしてた?」
「…………え?」
「俺には言えねェのか?」
ベッドの上で、優しく両頬を支えられる。ロマンチックなシチュエーションなのに、夫の目が怖い。……。すっごく怖い。
「ど、どうしたのあなたなんかへん、って」
「オマエが喋らないのならもういい。アイツに直接訊く」
荒々しい仕草で杖をつき、一方通行は部屋を出て行ってしまった。
開け放しにされたドアからその背中を見送っていた打ち止めは、とにかく後を追うことにする。
258 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:42:34.82 ID:HQn0c3FJ0
杖使いなのに、まるで競歩のように早い。声をかけづらいので、打ち止めは時々小走りで十メートル後をついていく。
一方通行が、何か勘違いか誤解をして怒っているのは分かるが、さっぱり見当がつかない。
(これは嵐の予感がするぞ、ってミサカはミサカは代理演算没収も辞さない覚悟で監視を続けてみる)
まさか、天使との浮気発覚を知り、激怒しているなどどは知らない打ち止めは冷静だった。
方や一方通行は頭に血が昇り過ぎて、先程のビジョンがなぜ見えたのかという疑問を考察する余裕もなく、フィガロ親子が滞在している部屋へと向かっている。
本来なら能力を開放して一気に直撃したいところだが、今日のダイヤ探索でバッテリーの残量は多くない。
(あの野郎返答しだいではぶっ殺してやる)
途中、鬼の形相で競歩してくる学園都市最強に驚き、幾人かのタマネギが壁に張り付いて道を譲った。
「こんばんは〜、ってミサカはミサカは行儀よくご挨拶して印象の回復を図ってみる」
「これも内助の功になるのかなぁ」と、見当違いをしながらついていく打ち止め。
ノンキである。
259 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:44:35.42 ID:HQn0c3FJ0
ドン!
ドアを蹴り開けて、一方通行はフィガロ達が宿泊している部屋に一歩を踏み入れた。
突然の乱暴な来客に、マライヒとバンコランが目を丸くする。
一方通行は二秒弱だけスイッチをONにし、この部屋にフィガロがいないことを把握すると、またドアも閉めずに歩き去った。
五秒後、ぴょこぴょこアホ毛を揺らした打ち止めが申し訳なさそうに頭を下げてやってくる。
「ごめんなさーい、ウチの人がとんだご迷惑を、ってミサカはミサカは奥様風なセリフで二人に謝ってみる」
「打ち止めちゃん、こんばんは。一方通行くんどうしたの?」
「えらく怒っていたようだが?」
「それがミサカにも分かんないの。でも安心して。ミサカの方が強いからいつでも止められ、あれマライヒ何やってるの?」
自分の部屋にあるソファと同じ物に座ったバンコランの後ろに立ち、彼の長い黒髪を掴んでいたマライヒ。
もう片方の手でブラシを振って見せ、照れくさそうに打ち止めに笑いかけた。
「うふ、ブラッシング。バンは髪が長いのにお手入れあんまりしないから、ぼくがよくやってるんだ」
「バンコランて犬みたいだね。でもラブラブでいいなぁ! 今度ミサカもやってみよーじゃあね、ってミサカはミサカはあの人の追跡を続行して……」
打ち止めによってドアが閉められたので、彼女の声は途中までしか聞こえない。
でも犬と言われたのは確かだ。バンコランはいたく不服である。
「犬……」
「ぶ、ぷ、あははははは……。さ、あとちょっとだよ」
260 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:47:50.68 ID:HQn0c3FJ0
続いて一方通行が訪れたのは、パタリロの執務室だった。
「お、どうしたんですか。なんか機嫌悪そう」
「フィガロはどこだ」
「フィガロがどうかしましたか?」
「知らねェなら用はない」
「まぁ待って。すぐ調べられますよ」
重厚な造りの木製机から席をはずし、ステンレス製の机に移動するパタリロ。
十五畳ほどの部屋はこの二つの机をメインに棚が配置されていた。
散らかった室内を進み、一方通行は国王の横からパソコンのディスプレイを覗き込む。
「これは何だ」
「CIAのメインサーバー」
「…………はァ?」
「バンコランはフィガロに携帯端末を与えていないが、安全のために位置特定用の衛星受信機を持たせている。ゲーム機とピアスに」
「CIA? MI6じゃなくて?」
「衛星大国だからな、アメリカは。そこの友人に頼んで、CIA情報員だけに与えられる特別装備を貸してもらってるんだ。まったく職権濫用ですよ」
パタリロだけには言われたくない言葉である。
そしてCIAのメインサーバーに明らかに違法侵入している彼には、犯罪行為を云々する資格はないだろう。
フィガロの居所が知れるなら、そんなことにはこだわらない一方通行も同じだが。
261 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:50:21.84 ID:HQn0c3FJ0
フィガロがタマネギ隊員達用の食堂にいることが分かり、パタリロが呼び止めるのも聞かず、一方通行は部屋を出て行った。
パタリロが肩をすくめていると、彼を追っていた打ち止めがやってくる。
「失礼しまーす、ってミサカはミサカは散らかったお部屋に驚いてみたり。ここは王様のお部屋じゃないの?」
「これぐらいが落ち着くのだ。今、一方通行さんが来ましたよ」
「やっぱり。あの人変だったでしょ」
「えぇかなり。フィガロを探していたようだが……」
打ち止めに「なんで」と問われても、パタリロも理由は分からない。二人は一緒にタマネギ食堂に向かうことにした。
262 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:51:50.20 ID:HQn0c3FJ0
フィガロは誰もいない食堂の隅に座り、毎度のことだがゲームを楽しんでいた。
大人用の椅子とテーブルなので、脇から腕全体と顎を乗せただらしない恰好で。マライヒが見たら怒られるので、こうしてこっそりやっている。
画面に影が掛かり、フィガロはプレイをストップさせて振り向いた。
「お兄ちゃ」
「オマエ昼間打ち止めに何やった」
「な? ちょっと待ってどうして知ってるの」
一方通行が背後に近づいていることは気づいていた。気配など隠していなかったし、杖をつく音もしていたから。
でもこの異様さはどうだ。
恐ろしい顔。恐ろしい声。恐ろしさがオーラとなって全身から溢れているようだ。
(あっれー? お姉ちゃんには喋れないように『口止め』したのにどうして?)
ややこしい事態を避けるため、ミカエルはそう誓約を強制させたというのに。目の前の男は嫉妬の炎で燃えている。
263 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 03:54:13.69 ID:HQn0c3FJ0
「な、なんか勘違いしてない?」
「オマエがでかくなって打ち止めを裸にしたことを言ってンのか?」
「違うよ違う! あれはお風呂だったから」
「風呂だとォォォ!?」
一方通行の背中から黒い嵐が噴出した。食堂の机や椅子、食器が収まった棚が吹き飛ぶ。
「わぁぁぁ!? ナニコレ堕天!?」
「釘が刺し足りなかったよォだなクソ天使がァァァァァあああああ!!」
「待って話を聞いてよお兄ちゃーん!」
「死ね!!」
問答無用で黒い翼が襲ってくる。身の危険を感じたフィガロは、こちらも翼を出してミカエルに変身して防ぐ。
誤解を解かなければならないが、今の一方通行はとても冷静にはなれないだろうし、この姿を人間に見られるのはまずい。
まず逃げよう。
大天使はガラスをぶち破って空へと飛び立つ。黒い天使もそれに続いた。
丁度二人が床を蹴るところを、大きな物音を聞いて慌てて駆け込んできたパタリロと打ち止めは目撃する。
「あ!? あなた!?」
「あ!? フィガロ!?」
「「…………」」
「「あれが!?」」
264 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/14(土) 03:55:50.12 ID:HQn0c3FJ0
とりあえずここまで。
間男ならぬ、間天使か……
一方さんが結構アホになった。
265 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/14(土) 03:59:27.65 ID:X9N/nZEDO
>>1
乙ぱい
いや結構前から打ち止め一筋の大馬鹿野郎だったしw
266 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/14(土) 04:06:51.22 ID:99OQ3pjIO
急にバトル展開とな!?
267 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)
[sage]:2012/04/14(土) 07:00:17.32 ID:UBDVNzqBo
乙っぱい!
天使の加護受けるとか聖人になったらどうする気だよww
科学の結晶同士から産まれたら魔術サイド涙目過ぎるw
268 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/04/14(土) 07:33:44.13 ID:O5qY1H9AO
つまり原石の形になるな
269 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/14(土) 22:06:07.13 ID:SpLNYcrL0
>>266
ばとる? ごめん、そんな……
>>267
どうなるんでしょう。 とにかく、お父さンにソックリ、としか考えてない。
続き投下します。
270 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 22:08:34.11 ID:SpLNYcrL0
「てゆーかあれはお風呂の天使さん、ってミサカはミサカはフィガロちゃんとは知らずに恥ずかしい思いをしちゃった」
ミカエルが一方通行とパタリロの前で姿を現したことにより、打ち止めに強制された『誓約』はその効力を失った。ごく自然に効力を発揮し、そして消えていったので、打ち止めにはなんの自覚もないが。
「一方通行さんは黒い羽も出せるのか。なんと魔界的な……。君の旦那さんは一体何なんだい?」
「あの人はミサカの愛しいダーリンです、ってミサカはミサカは自信満々でこれが真実と言い張ってみたり」
打ち止めとパタリロは、はるか遠くに消え去る飛行物体を見上げながら曖昧な情報交換を続ける。
最初から一方通行とフィガロを探していた二人に一足遅れ、破壊音を聞きつけたタマネギ達が走る気配が近づいてきた。
パタリロは打ち止めの手を引いて、ミカエルがぶち破ったガラス窓と壁から脱出する。
部下に事態を言い訳をするのが面倒臭い。
「どこに行くの?ってミサカはミサカは急ぎ足の王様に訊いてみる。あの人はあっちのお空だよ」
「追いつけるもんかあんなの。放っておこう。それより僕は僕でやることがある」
271 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 22:09:55.35 ID:SpLNYcrL0
身を忍ばせながら庭を通って執務室に戻り、パタリロはパソコンの前に座る。さっきの一方通行のように、打ち止めも横に立った。
パタリロは作業を開始する前にふと思い至り、自分が座っていた椅子を彼女に譲った。
それくらいのことはできるのだ。
「これはご丁寧にどうも」
「いえいえ、当然のことです」
もうひとつの木製机から椅子を移動させ、今度こそ仕事にかかった。
まず、マザーコンピュータへのアクセス権限を、今使っているこのパソコンだけに限定する。
そしてタマネギ食堂の様子を映していた監視カメラの映像をコピーし、カメラ機能が故障したように細工して限定を解除した。
「ふぅ、これでタマネギ達が録画映像を見ることはできないだろう」
「さっきの場所で何があったか映ってるのね、ってミサカはミサカは早く見てみたいと王様を急かしてみたり」
そして二人は見た。
「風呂ォォォ!?」と絶叫する一方通行を。
272 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 22:12:04.41 ID:SpLNYcrL0
打ち止めが、ミカエルとの邂逅をパタリロに語り、一方通行が残念な勘違いをしていることが判明した。
ミカエルはセクハラをするために現れたわけではないので、これでは大天使が不憫である。とばっちりである。
「でも、どうやってあの人はお風呂での事を知ったの? ミサカはずっと寝てたし」
「僕とダイヤ……、ごほん。仕事中にそんな異常はなかった。宮殿に帰って来てからの僅かな時間に、何かが起こったんだな」
打ち止めは、再度不思議体験を思い出す。あの天使は何と言っていた?
「もしかしてだけど……、ってミサカはミサカは不確定な仮説を立ててみたり」
自信無さげな打ち止めだったが、なんでもいいので言ってみてほしいとパタリロに促され、
ミカエルが腹の胎児と意思を交わしていたらしいこと告げる。
「この子に呼ばれたと天使さんは、フィガロちゃんは言ってた」
「胎児とはいえ一方通行さんの息子で、もう片方は大天使だもんなぁ……。うわぁ、あり得る」
「赤ちゃんがあの人に教えたと思う?」
「しかも一方通行さんが誤解するような、偏った情報をね」
呆れ顔で肘をつき、パタリロは不躾にも妊婦の腹を指さした。
「……むむぅ」
「まったく、どんな教育をしてるのかね」
「とにかくいっぱい食べてます!」
273 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 22:14:16.85 ID:SpLNYcrL0
マリネラの静かな夜空を、純白の羽と、黒い羽が舞う。白い輝きを、黒い闇が追っていた。
時々、距離を詰めた一方通行が背中の翼を振るって攻撃を繰り出す。上から落とし、横から薙ぎ、下から切り上げる。
ミカエルはそれを避け、白い翼で防ぎ、払う。
接触はもう二十回を超えた。
「待てこの糞野郎ォォォォ!」
「天使に向かってなんて失礼な! 落ち着いて一方通行くん、君は何か大変な思い違いをしているよ!」
「俺が知ってることが本当ォというだけで、オマエは俺に百回殺される理由があンだよ!」
「そうそう、どうして僕が打ち止めさんの裸を見たことを知ってるの! 誰から……、あぁぁぁああ!?」
(ゲームに夢中になっている時点でそうは言えないが)お上品な天使から、彼らしからぬ大声が響く。
「分かった子供だね!? 君、赤ちゃんから変な聞き方したんじゃない!? しまったアッチには『口止め』してなかった……!」
「はァ? 何言ってンだ」
「子供」「赤ちゃん」と聞いて、やっと一方通行の追撃が収まった。
一方通行がなぜ誤解しているかの原因が見え始め、ミカエルは空で地団太を踏む。
「そっちが助けて、って言うから助けたのにこの仕打ち! まったく君は自分の子供にどんな教育をしてるんだ!」
「だから訳分かンねェこと言ってンなよ。胎児にどォ教育しろってンだ」
ミカエルは後ろを振り向き、本当に意味を分かっていない一方通行の表情を見た。全身も向き直り、首を傾げ、怪訝さを表して訊く。
「…………もしかして、今日初めて赤ちゃんと喋った?」
「??……」
「………あっそう……」
ミカエルと一方通行は、この追走劇が終わりを迎えたことを悟り、飛翔のスピードを下げながらマリネラ宮殿の方へ進行方向を変えた。
274 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 22:16:56.85 ID:SpLNYcrL0
いつかの屋上庭園に降り立ち、二人の背中から羽が消える。
一方通行はバッテリーの残量を確認したが、久しぶりに黒い羽を暴れさせる直前とあまり変わっていなかった。
自分のメンタル面と大きく関わっていることは把握していたが、今回は全面的に無礼な勘違いらしいので、
いっそ意識を失って、ほとぼりを冷ましたい気もした。
しかし、ミカエルの言葉が気になる。
「まるで、打ち止めの腹のガキと喋れるようなこと言ってたな」
「喋れるっていうか、読むっていうか、感じるっていうか」
自分の子供(胎児)と、数回に渡り心を読み合ったと教えられ、一方通行は絶句した。
彼の百面相に、フィガロは内心で殺意を向けられた甲斐があったかも、とさえ感じる。
ヤキモチを焼く息子。
フィガロの醜態を笑う息子。
母親の裸を見た大天使に怒る息子。
そして、父親に偏ったビジョンを見せた息子。おかげで大天使を襲ってしまった。
フィガロの予想では、「おそらく、お父さんに僕のことをやっつけて欲しかったのかもね」ということだ。
275 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 22:18:55.75 ID:SpLNYcrL0
「身勝手だけど、それが赤ちゃんなんだな、きっと」
「……………………」
「僕はてっきり、一方通行くんも僕と同じように意思の疎通が取れているとばかり思ってたよ」
「…………………」
「もうホント君にそっくりだよね! お母さんのこと好き過ぎだよ。おかげで酷い目に遭った」
「…………………」
「聞いてる?」と眼前で手を振られ、一方通行は我に返る。
「その、腹のガキが精神系能力者のように明確な意思を伝えるとか、俺の脳に直接映像を見せるとか、………変だろ」
「普通じゃないけど、親思いの良い子だよー?」
子供は、涙に暮れる打ち止めを助けてほしい、自分を助けてほしいと訴えて、ミカエルの背中を押したという。
「詳しい事情は赤ちゃん自身も分かってないだろうけど、君達の心配や不安も感じてたみたい」
「打ち止めとガキは、もう大丈夫なのか……」
「安産祈願は僕の管轄じゃないから、百パーセント大丈夫とは言い切れない」
「オイ」
「でも最大限の祝福を贈るよ。こんな大サービスをしたのは過去に数回しかないんだからね」
「……そォか」
「あとは君が守ってあげれば安心じゃない?」
フィガロは慣れ慣れしく一方通行の背中を叩き、部屋に戻ろうと勧めた。
一方通行と打ち止めが、常人より出産に多大な不安を抱いている理由は知れなくても、
あの子供に請われた時点でミカエルの行動は決定されていた。
そうするのが自然だと理解し、加護を与えた。
(もしかして僕は、そのためにマリネラに来たのかもしれない……)
276 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 22:20:35.01 ID:SpLNYcrL0
いまだ大人の姿を保ったフィガロと一方通行が、エレベーターがある階下までの階段を降りていると、
下からも足音が登ってくる。パタリロと打ち止めだった。
「ケンカは終了かな?」
「あーなーたー? フィガロちゃんに謝った?ってミサカはミサカは暴走しすぎなあなたを叱ってみたり」
「コイツが『ちゃん』なンて可愛いタマかよ。見ろこのデカさを」
「あはは……。さぁパタリロくん、あとは二人に任せて僕らは席を外そうか」
一方通行は屋上へ踵を返す。打ち止めはそれについて行き、フィガロに笑顔と目配せを贈った。
「あぁもう疲れたよ。あの子のせいで……」
隣にパタリロがいると思い込んで声に出したのに何の反応もなく、フィガロは階段を振り仰いだ。
そこにはべったりと腹這いになり、屋上の様子を出歯亀するこの国の王様の姿が。
「こらパタリロくん。はしたない……」
「うるさい。後学のためだ、今イイとこなんだ」
「だーめ」
「おわっ、コラ! フィガロ! 痛いっ。宮殿を破壊されたんだぞ。これぐらいいいじゃないか!」
パタリロの足を掴み、フィガロは容赦なく階段を降りる。
これで、熱い抱擁と口づけを交わす一方通行と打ち止めを見るのは、星空だけである……
277 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/14(土) 22:21:56.61 ID:SpLNYcrL0
「俺達のガキは、なンか……」
「うん。ちょっと変わった赤ちゃんみたいだね、ってミサカはミサカは今回のトラブルメーカーを諌めるべくポンポンしてみる」
「ふ……、フィガロが言うには、コイツは本能だけの、まっさらな状態らしい。説教が効くかどォだかな……」
「私達の赤ちゃんだもん。絶対イイコだから大丈夫!ってミサカはミサカは根拠を述べてみたり」
もう一度、一方通行が打ち止めを抱きしめる。
「だったら、もう一人で泣いてンなよ」
「あ、……バレちゃった?」
「……俺が、いる」
「うん。この子もいるし。ミサカは幸せ者ね……」
もう一度、ふたりはキスをする。
母と父に挟まれた子供が、笑っているような気がした。
278 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/14(土) 22:25:11.50 ID:SpLNYcrL0
とりあえずここまで。
危うく「乳と母に挟まれた息子が…」と誤字するとこだった。あぶね。
まじお父さンそっくりよ。
279 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/15(日) 14:09:28.03 ID:TkCuTmIDO
やはり親子なんですねwww
280 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/19(木) 15:46:56.67 ID:4G7R8cdH0
お久しぶりです。
浜面のせいなのか、私もしばらくローン生活……
仕事も頑張るが、こっちも頑張ります。
281 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/19(木) 15:49:11.28 ID:4G7R8cdH0
自分の息子が、思ったより普通じゃなかった。
フィガロは「何を感じているか分かる」と言っていたし、過去のイメージを父親の脳に見せるとか、普通じゃない。
大天使との追いかけっこの後、一方通行は打ち止めの腹に向かって意識を集中してみたが、子供はウンともスンとも言いやしない。
難しい顔で腹を睨まれる打ち止めは、少し緊張してしまった。今お腹が鳴ったらどうしよう。
「あの、お風呂行きたいんだけどいいかな?ってミサカはミサカはお腹へ熱視線を送るあなたへ許可を求めてみたり」
「……昼に入ったンだろ」
「夜も入りたいし。シャンプーはしてないし。そうだ、あなたも一緒に行こうよ。すっごく広ーい素敵なお風呂を発見したの!」
「……別にイイけど」
そこでフィガロに裸を晒したのだろうと見当がつく。妻子を救うために顕現してくれたのだろうが、それはそれ。これはこれ、である。
妻と一緒に入浴すれば、少しは恨みも薄まるか。
着替えを持ちながら廊下を歩いていては、「あぁ、お風呂一緒に入るのか」とバレるので、
夫は妻を抱きかかえ、彼女が導く所へと窓から飛び立った。
案内された大きな風呂に、一方通行は二年前の夏に旅行した温泉旅館を思い出す。
楽しい夜だった。
282 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/19(木) 15:51:09.16 ID:4G7R8cdH0
楽しい夜でリフレッシュした翌日、今日も一方通行はダイヤ探しへ。打ち止めは宮殿内の探検へ……
「行こうかと思ったけど、マライヒ達は明日ロンドンに帰っちゃうから、今日は子育て勉強会するの、ってミサカはミサカは立派な心掛けを披露してみたり」
「おォ、立派立派ァ」
「息子ちゃんのために準備万端にしとかないとね!」
(しかし、大天使を育てるゲイのカップルって、子育ての指導元としてはどォなンだろォな……)
疑問を抱きながらも、一方通行はパタリロと共に宮殿を出発した。
283 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/19(木) 15:54:09.08 ID:4G7R8cdH0
まだ本格的に採掘が始まっていない、開山したばかりの鉱山を崩してひと息ついた後、一方通行は木陰で昼食を食べる。
パタリロが車の荷室から大きなバスケットを四個も出してきて、素早くレジャーシートの上にお弁当を広げたのだ。
ここはまだ食堂なども建設されていないので仕方ない。しかし、青空の下、この国王と二人きりでピクニックとは……
「さぁさぁどうぞ。遠慮しないで」
「……すげェ量だな。学園都市にも、王様といい勝負ができそうなシスターがいるが……」
「ほほぉ、それはぜひ一度手合わせしてみたい」
「二人が食う料理を用意するだけで一苦労だ。やめとけ」
休憩を終わらせ、また地中の探索を開始しようとした時、パタリロの携帯端末に部下のタマネギ隊員から連絡が入った。
杖を持って立とうとする一方通行を、パタリロが手招きして止める。
「出たかっ?……そうか、すぐ向かう。あぁ、お前達は作業を続行しておいてくれ」
「!……」
通話が終了する前に、一方通行はパタリロに詰め寄った。
「出た」とは、十中八九ダイヤのことだろうが、普通のダイヤなら六日前から掘り続けている。こうしてわざわざ連絡を寄越すということは、
「ピンクダイヤか?」
「えぇ、まだ何カラットの結晶体かもはっきりしませんが」
「どこだ」
「二日前に行った第十六鉱山」
パタリロはポケットから車のキーを取り出し、急いで現場へ向かおうとした。その彼の首根っこを、一方通行が掴む。
車など、まどろっこしい。驚きと抗議の叫びを無視して、一方通行は南国の青空を飛んだ。
284 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/19(木) 15:56:54.85 ID:4G7R8cdH0
「何だあれは!?」
「鳥か!?」
「飛行機か!?」
「いや、殿下だ!」
「おーい、ピンクダイヤで間違いないんだろーな〜」
砂利の上に張ったテントから、数人のタマネギ隊員が空を覗いている。聞き慣れた声が響いてきたので周囲を確認してみたら、それは空から降りてくるところだった。
「お早いお着きで。電話してから五分も経ってませんよ」
「思わずスーパーマンごっこをしてしまいました」
キャハハハハハハハと笑い合う、選ばれしエリート部隊の面々。パタリロを抱えて一緒に降りてきた一方通行はイラつく。
「……早く見せろ」
「そうそう。もし違ったら、今度は食堂吹っ飛ばされるくらいじゃ済まないぞ」
「食堂?」と首を傾げる部下を尻目に、パタリロは一方通行を連れてテントの中央に足を進めた。ゆうべの食堂の件は、未だ原因不明のままにしている。
鑑定用レンズを目に着けて原石を調べていたタマネギが、国王にそれらを譲り渡した。パタリロは照明の下で原石をくるくる回す。サイズは鶏卵より二回りほど大きい。
初めて見るパタリロの真剣な顔に、一方通行は少し感心する……が、それよりも、テーブルの上に他に三個も石があることの方が気になる。
そのうちひとつは、今パタリロの手の中にある石の三倍はありそうだ。
285 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/19(木) 15:58:59.56 ID:4G7R8cdH0
「四つも出たのか?」
「はい、我々も驚きました。どれもピンクカラーなのは間違いないのですが」
「ダイヤは不純物や内部の亀裂如何で価値が左右されますからね」
「まずはそこを鑑定します。………殿下、どうですか」
タマネギ達が一方通行に解説してくれた。彼らも興奮気味の様子でパタリロを見守っている。
久しぶりに採掘されたピンクダイヤに、みんな少なからず心が踊っているのだ。
一方通行は打ち止めの笑顔を思い出す。喜んでくれるだろうか……
数分後、四つ全てを鑑定し終わったパタリロが、目の周りを揉みほぐしながら背伸びをする。
部下達が水筒から冷えたお茶を注いで勧めた。一方通行にも。
「どうでした? この石が一番上等だと思うんですが……」
それは、四つの原石の中では下から二番目に小さい物だ。パタリロは頷く。
「あぁ。このデカいのは、細かく割るしかないだろう。それでもかなりの儲けだが。それに比べて、コレはいい! 純度の高い単結晶体だ。加工しなきゃ正確には分からんが、五カラット以上でカットできるぞ」
一方通行の手にそれが渡る。ただの薄ピンク色のガラス玉に見えるそれを、一方通行は能力使用モードで弄る。
そして、「ぱき、ばきばき、がり」と音を響かせ、石を削り取っていった。
ざわつくタマネギと違い、パタリロは落ち着いたものだ。半分以下になった石を一方通行から受け取り、椅子から立ち上がる。
「加工工程が楽で助かる。あとは腕利きのカット職人達に磨かせましょう」
「どれくらいで出来る? 時間が掛かるなら……」
「なぁに、国王命令で働かせれば、一日で大丈夫。お待たせしませんよ」
286 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/19(木) 16:01:35.90 ID:4G7R8cdH0
部下の一人から車のキーを受け取り、パタリロは運転席へ乗り込む。
代わりにピクニックセットと共に置いてきてしまった車の回収を命令し、エンジンをかけた。
「良かったですね! 打ち止めさんも絶対喜びますよ」
「素敵な指輪になるといいですね。ご協力できて光栄です」
一方通行が助手席のドアを閉める前に、タマネギ隊員達が見送りにきて口々に祝いの言葉をくれる。
はるばるやってきた日本人の超能力者が、なぜピンクダイヤを探しているのか彼らは知っていたのだ。一方通行はパタリロを睨む。
「僕はなにも言ってないぞ。だいたい、新婚の夫がダイヤを探している……。それだけで普通に『指輪』って分かるものですよ」
「………」
「そして奥さんには内緒だということもね。箝口令を敷くまでもなく、それはタマネギ達も承知してましたけど」
「………」
その話は一体どこまで広まっているのだろうか。数百人いるというタマネギ部隊全員か?
バンコランやマライヒには? フィガロはきっと知っているに違いない。知らぬは打ち止めばかりなり……?
その後、車内は静かだった。
287 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/19(木) 16:07:48.19 ID:4G7R8cdH0
とりあえずここまで。
なんて言って渡すんだろうか。
288 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/04/19(木) 18:19:14.72 ID:e/rdq7hWo
出たか(ガタッ
289 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/19(木) 23:07:26.21 ID:Hmo0F51DO
>>1
乙ぱい
出ちゃった!テヘペロ☆彡
290 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/24(火) 22:10:10.57 ID:RWe9LCdy0
そういえばもうすぐ黄金週間だ。たいした連休じゃないけど。
遠出する予定はない。きっとコレ書いてるんだろうな。
続き投下します。
291 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/24(火) 22:15:46.57 ID:RWe9LCdy0
夫が昼過ぎに帰って来たので、打ち止めはとても喜んだ。国王と出掛けるといつも夜に戻っていたから。
講師(マライヒ)の勧めもあり、打ち止めは子育て勉強会と言う名のお喋りを中断して一方通行とデートすることになった。
二人でまた宮殿の外に行き観光を楽しむ。建国から軽く千年以上もあるというマリネラは珍しい遺物や史料館も多く、それらに足を運んだ。
前回の外出時に散々土産物は買い漁っていたし、今日のような機会がもう一度あるとは限らなかった。
「知らない土地をあなたと二人で歩いていられることの方が、実は嬉しいんだよ、ってミサカはミサカは素直な気持ちを伝えてみる」
「あンだけ手当たりしだいに買い物しておいて、説得力ねェぞ」
「目につけば欲しくなっちゃうの。でも、あなたのことは見えなくても、いつも欲しい。いつだってス・キ。うっきゃー! 恥ずかし!」
「………………」
「なんか言ってよ!!」
292 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/24(火) 22:19:38.07 ID:RWe9LCdy0
自分といられるだけで満足。『物』には大して執着しないと言う打ち止め。
自宅に大切に仕舞っている、あの指輪だけで満足しているのだろうか。二年も前に、衝動的に買ったアレだけで。
(しかし、浜面の結婚式での様子とかを思い出す限りじゃァ、結婚指輪、婚約指輪には反応を示すと思うンだよなァ……)
それは一方通行の希望。
苦労して掘り当てたピンクダイヤ。妻を一人宮殿に残し、寂しい思いをさせてまで手に入れたピンクダイヤ。
現在、パタリロ国王の威光を発揮させて、大急ぎで加工、カットの真っ最中である。
リングは先にデザインと製造を終えてあったので、それさえ終わればもう渡せる。
プロポーズから、結婚式(まだ挙げてない)、そして婚約・結婚指輪と、色々とおざなりにしてしまった。
いわゆる『デキちゃった婚』。しかも学園都市第一位と、
第三位のクローン・妹達の司令塔である最終信号の夫婦という特殊な事情もあったから……と彼は言い訳したい。
それを帳消しにとはいかないまでも、多少の不義理を埋めることのできるアイテムとして、
世界にただひとつの特別な指輪を贈りたいと考えていた。
それなのに、
(こンなものより、「一緒に観光したかった」とか、「病院から離れる危険を犯すほどのことか」、と言われたらどォすりゃいいンだ)
そんな不安が湧きあがる。
明日には完成する特別な指輪。愛と誓いと信頼の証。そして、謝罪の意もちょっと含まれている。
なにより、打ち止め喜ぶ顔が見たいから……
しかし、その辺の価値観の違いが離婚の原因になるのでは? 情報番組や大衆向けコラムでは、それが定番だと謳われていたじゃないか。
(……………)
ここまで来て渡さないワケにはいかない。祈るばかりである。
293 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/24(火) 22:23:56.18 ID:RWe9LCdy0
「わぁ、この人見て! 王様のご先祖様だってぇ!? に、似てなーい!ってミサカはミサカはイケメンキングとお爺さんの顔の違いに爆笑してみる!」
「……なンつーか、潰れた肉まンだな」
「どっちかっていうと、あんまんかな」
歴代国王の肖像画が、壁一面に数十枚も連なって飾られている。
近代以降は写真になり、もちろん一番端の最後の写真は二人にも馴染みの深い、パタリロ・ド・マリネール八世その人なのだが。
展示室を順路になぞって歩いていた二人は、思わず立ち止まった。
「………え。この子供が昔の王様なの?ってミサカはミサカは潰れたピザまんを凝視してみる」
「爺さンとソックリじゃねェか。どうやったらコレがああなるンだ? 全身整形か? サイボーグか?」
隣の隣に飾られた写真の中の祖父にそっくりな、十歳の頃のパタリロ。戴冠式の写真と思われた。
短い手足と、丸々と太った体。上下から圧縮したように潰れた顔。今の彼とは間逆の容姿だった。
掃除夫に扮したタマネギ隊員を発見したので、礼儀を忘れて訊いてみた。
「あぁ、あの写真は殿下が子供の頃のものですから。昔は成人病糖尿病高血圧をはじめ、多種多様な病を併発してたんですよ。その治療薬の副作用…………ということに、表向きはしています」
「表向きィ?」
「なんだ。ダイエットしてああなったわけじゃないのか。コーチ発見したぜ!ってミサカはミサカはぬか喜びしてしまったり」
「今はすっかり健康になったので、正常な体重、正常な体調。成長期特有の骨格の変化が今の殿下に良い結果となったんですね…………ということに、表向きはしています」
「中身はなーんにも変わっていません」と、乾いた笑いを残し、彼はモップとバケツを持ってトイレに消えていった。
294 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/24(火) 22:28:31.19 ID:RWe9LCdy0
マリネラの発展にダイヤモンドは欠かせない。いたるところに、それをアピールする店や施設があり、
美しい宝石に打ち止めは感嘆の声をあげた。ついさっき、俗物的な物よりも二人の時間が嬉しいと言っていたその口で。
(どこに行ってもダイヤだらけだな、この国は)
数日前に、ダイヤは買わない素振りを見せた手前、この状況が長く続くのは具合が悪い。
一方通行は宮殿から拝借してきた車を走らせ、海へ向かった。海ならダイヤが無いと思ったのだ。
予想どおり海にダイヤは無かったが、ビーチも無かった。あるにはあるが狭い。どちらかといえば岩場だった。
それでも青い水平線を望むレストランはあるし、観光用のクルーザーが停泊する船着き場があった。
どうせ打ち止めに水着を着せて泳がせることなんてさせられないし、これだけで充分である。
295 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/24(火) 22:32:04.26 ID:RWe9LCdy0
空いた小腹を満たしながら、そよ風に吹かれてチーク素材のデッキチェアに身を委ねる。
「このベッタベタな新婚旅行の風景に実は憧れてたの。夢が叶って大満足、ってミサカはミサカはメロンを欲してみたり」
「……食ってばっかの嫁だよな」
小さなテーブルに乗ったフルーツの盛り合わせ。フォークにメロンを刺し、一方通行は打ち止めの口元に甲斐甲斐しく運んだ。
適当に選んだ飲食店。案内された場所は、六畳ほどのバルコニー。いわゆるカップルシートになるようだ。
人目が無いのをいいことに、打ち止めは一方通行に給仕をさせている。
「もうすぐ暗くなる。そしたら城で晩飯だぞ」
「余裕です。だって二人分だもん、ってミサカはミサカはさらなる栄養を求めてみる。オレンジ」
これからもっと食べるようになるのだろう。マリネラに来てから明日で一週間になるが、腹の子供は、その間に四十グラムも重くなった。
打ち止めが食べる食物の栄養で育つのだと思うと、彼女の主張が正しいように感じる。
出産後のダイエットに心馳せることもあるが、それよりもまず子供を成長させることが大事と認識しているのだろう。
だが食べ過ぎが良くないことは確かな事実なので、その辺の手綱はしっかり取ろうと誓う一方通行であった。
296 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/24(火) 22:36:50.32 ID:RWe9LCdy0
新婚旅行を満喫した二人は、マリネラ宮殿に戻ってきた。バンコラン達は明日帰国するので、この六人で夕食を取るのは今日で最後となる。
コックが腕を振るってくれたディナーは、今までになく豪勢だった。
「よく食うなァオマエ、ほンとに……」
「むぐふぐ。……ちょっと、妊娠中の奥さんに向かってその言い草はないでしょ、ってミサカはミサカは結構本気で異議を申し立ててみる」
打ち止めの食べっぷりに、コック姿のタマネギ隊員が忙しそうに、それでも嬉しそうに厨房とテーブルを行き来する。
「おいしー、おいしー」と絶賛されて、嬉しくないはずがない。
「ぼくもフィガロがお腹にいた時は同じくらいか、もっと食べてたよ」
「だよねぇ?ってミサカはミサカは味方の出現に得意になってみる」
「実際に身籠った者でないと、この食欲は理解し難いだろうさ。心配しなくてもある程度まかせて大丈夫なんじゃないか?」
バンコランもマライヒも、打ち止めに加担するような言い方だった。
しかし一方通行はベクトル操作を駆使する超能力者だ。妊娠している本人以上に、母体と胎児の状態を把握できてしまうのだ。
慌てて詰め込んだ妊娠と出産に関する知識の中に、避けるべき事態が多くあることを学んだせいか、今後も変わらず心配はしてしまうだろう。
「まァ、食わないよりはよっぽどイイ。だが、制限体重を越えたら対策をとるからな」
「まるで医者のようだな、一方通行さんは」
打ち止め以上に食べているパタリロ。大天使の祝福を受けて尚油断しない彼に感心している。
でもそうなるとフィガロの立場が無いのでは? と思い、自分の横に座る子供を見た。フィガロは肩をすくめて笑うのみで、小声で少年王に囁いた。
「そんなこと気にしやしないよ。……それより指輪はできたの?」
「どーしてお前がピンクダイヤが出たことを知ってるんだ」
「気になって」
「………工房からの連絡では、深夜か朝にはなんとか」
「そう」
ヒソヒソと会話する国王と大天使(仮)を、対面に座る一方通行が睨んでいる。
まさか聞こえているわけ……あるかもしれないので、二人は食事に意識を集中させた。
297 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/24(火) 22:42:29.93 ID:RWe9LCdy0
真夜中過ぎ、お腹が満たされた打ち止めはスヤスヤと安眠している。
指輪の完成が気になる隣の一方通行は目が冴えていた。サンプルや参考画像で、完成予定のイラストは見せてもらっている。
明日にはそれが、やっと手元に届く。
「んにゃ…」
ノンキな妻の意味の無い寝言。暗闇に慣れた目で安らかな寝顔を確認し、そっとベッドを抜け出した。
昼に連れて行かれた原石加工工房では、きっと今も職人達が精を出しているはずだ。
パタリロが持って来た石を見て、職人は目を爛々と輝かせていたが、十八時間以内に完成せよという国王命令には閉口していた。
作業工程はどの辺まで進んだのか知りたいし、実際に目で見たいので訪ねてみることにした。
(おざなりな管理なのか、信用してくれているのか)車のキーは、返さないでそのまま持っているので、足には困らない。
パタリロに訊いても連絡を取ってくれるだろうが、もう彼も寝ているかもしれないし、少々気恥かしい。今更だけど。
298 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/24(火) 22:47:08.81 ID:RWe9LCdy0
三十分ほど車を走らせて工房に着いた。三階建の二階の部屋に明かりが灯っていた。一方通行は入口のセキュリティを解除し中に入る。
特徴的な金属音がする作業部屋に、なんとパタリロがいた。しかも彼がカット作業をしているように見える。
昼間に顔を合わせた職人は隅の壁付近でゴロ寝していて、その顔は憔悴しきっている。細心の注意が必要となるこの作業を、
十数時間も続けてくれたのだろう。
「お、こんばんは一方通行さん。御心配には及びませんよ、僕はスパコン手作りする程度に手先が器用なんです」
「……完成までどのくらいだ」
「もう仕上げだけですから……そうだな、二時間くらい」
「待つ」
パタリロから二歩ほど下がった場所に、椅子を持ってきて座る。パタリロは顕微鏡のような機械に再び目を当て、作業を始めた。
一方通行と、この指輪のために一国の王が残業してくれているのである。
二人とも一言も喋らず一時間半ほどが経った。パタリロが前を向いたまま、唐突に後ろの一方通行に声を掛ける。
299 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/24(火) 22:50:35.21 ID:RWe9LCdy0
「二人か三人で交代で磨けと命令したんだが、アイツら頑固で。他人の手が加わった石は磨けないと言うんだ」
「まァ、感覚的な作業ならそうだろォな」
「結局仕上げを残して限界が来たもんだから、こうして僕が……、よし。完成」
手袋をした手の平に石を乗せ、パタリロが一方通行を振り返る。小豆粒ほどの美しい桃色。素直に綺麗だと、一方通行も思った。
「素晴らしい極上品です。五カラットで、通常の販売価格は日本円で二億以上。ドルでもいいですよ」
「分かった。すぐ振り込む」
「五千万でいいです」
「はァ? それじゃ見合わないンじゃねェか?」
部下の食費にも過酷を強いる彼らしくない。パタリロは手を握って輝きを隠した。
「その代わり、またマリネラに来て、今回のようなダイヤモンド探しの依頼を受けてもらいたい」
たったひとつを求めて、一方通行は眠っていた石をかなり掘り当てた。
当初ここまでの利益を期待していなかったパタリロは、すっかり味をしめてしまったのだ。
「……子供が生まれた後でいいなら」
「はい。契約成立」
300 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/24(火) 22:53:03.54 ID:RWe9LCdy0
いつ果たされるとも知れない曖昧な契約だったが、パタリロはいたくご機嫌だった。
この一週間足らずで、一方通行のどこを見て信用したのだろう。
「さーて、あとはこのプラチナリングにはめれば……」
「俺がやる」
怪訝な表情は一瞬で引っ込んだ。一方通行の能力がどういうものか詳しく説明されたことはないが、この少年王は石を渡してくれた。
ベクトル操作というものを理解したわけではないが、「彼が言うからにはできるんだろう」という程度の認識だ。
石は、ほんの数秒でリングに収まった。これでいつでも指にはめられる状態になった。渡しさえすれば。
パタリロが石と揃いの桃色のケースをくれたので、そこに指輪を仕舞い、とりあえず宮殿に帰ることにした。
渡す時のセリフは、なりゆきにまかせることにする。
301 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/24(火) 22:55:18.39 ID:RWe9LCdy0
打ち止めが眠る部屋に戻る頃には、朝日で空が紫に染まり始めていた。
自分が寝ていた場所に腕を伸ばす妻に、外出を勘付かれたかもしれないと思ったが、内緒にする必要はもうない。
いっそ問い詰められて、そちらから理由を聞き出してくれないかとさえ考える。
どこへ行っていたと問われれば、コレを作っていたと答えられるから。
しかし期待は外れ、安穏とした顔と様子が一度も目を覚まさなかったであろうことを容易に教えてくれた。
一方通行はポケットからケースを取り出し、リングを打ち止めの手に近づける。
(……似合ってる)
可愛い妻に、世界にただひとつの可愛い指輪。
普段は絶対口にしないような言葉をシミュレーションしたり、彼女が好みそうな場所で渡そうかと思案していたが……
一方通行はそっと打ち止めの左手を取り、薬指にダイヤのリングをはめた。
「………」
苦労して用意した指輪は、打ち止めによく似合っている。
ほっと息をついた一方通行は、唐突に訪れた眠気に飲まれ、倒れるようにベッドへ崩れていった。
そういえば、彼は丸一日以上もろくに寝ていなかった。
302 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/24(火) 22:58:59.78 ID:RWe9LCdy0
「っん〜、よく寝た、ってミサカはミサカはのびのびしてみたり」
完全に太陽が顔を出した。明るくなった室内を見回すと、隣にいるはずの夫がいない。
おかしいと思って上体を起こせば、一方通行は打ち止めの腰辺りに、布団も被らず背を丸めて寝ていた。
足の先はベッドからはみ出し、しかも靴を履いたままである。
(これは一体どういうこと?)
シーツに手をついて彼の顔を覗き込もうとした時、違和感が。手の平を見ると、指輪がはまっていた。
手を裏返す。とても美しい宝石が輝いていた。
ダイヤモンドに見えるが、ピンク色をしている。さらにものすごく大きいと思う。
「………キレイ……」
一方通行の手元には指輪のケースが開いたままで無造作に転がっていた。寝ている間に、彼がはめたのだと察する。
ぐっすり眠っているところ忍びないが、打ち止めは一方通行の肩を揺する。
「あなた、起きて、ってミサカはミサカは早朝サプライズに興奮を覚えてみたり」
「……ン」
「この指輪はなぁに?ってミサカはミサカは訊いてみる。ねぇおはよう」
「……オマエにやる。婚約指輪も、結婚指輪も渡してなかっただろ」
「あ、ありがとう……」
眠い目をこじ開けて、妻が笑ってくれるかどうか見ようとしたが、近づいてくる顔は逆光でよく分からない。
笑顔を教えてくれたのは、頬に押し当てられる唇の形だった。
303 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/24(火) 23:05:07.38 ID:RWe9LCdy0
とりあえずここまで。
『妖怪指輪はめ』
寝ている隙に忍び寄り、指輪をはめて翌朝驚かせる。照れ屋。
304 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/04/24(火) 23:13:31.56 ID:3wYT48GAO
一通さん格好良すぎて二人目妊娠するレベル
305 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/25(水) 22:44:57.67 ID:SpRnMKLDO
>>1
乙ぱい
一方△すぎて俺もにんっしんっしちゃいそうだ
306 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/04/25(水) 23:59:27.32 ID:UjqOEITno
>>305
背孕みか……奇跡が起きれば何とか。
乙っしたー!
307 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(空)
[sage]:2012/04/26(木) 07:33:04.70 ID:ERP4VcyY0
乙ですの!
308 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/27(金) 21:40:17.76 ID:jYGOY3OA0
乙等いつもありがとう。
>>304
早いよww
>>306
山なんとか風太郎だっけ? これまたニッチな…
>>307
ありがとですの!
続きいきます
309 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/27(金) 21:42:25.84 ID:jYGOY3OA0
ベッドの上、楽な姿勢でお互いの体を支え合う二人。
「キレイだね。なんていう宝石なの?」
「……ダイヤに決まってンだろォ? オマエ、あちこちの店で黄色い声出してたじゃねェか」
「やっぱりダイヤなんだ。ピンク色のもあるんだね、って…………、これメチャクチャ大きいんだけど、ねぇ」
一方通行は、『どォせ買うなら天然の上等品が良い』と言っていた。これが本物で、天然物で、上等品なら一体いくらするのだろう。
打ち止めは土産物屋で見たイミテーションや人口ダイヤの値札を思い出して固まった。
「くだらねェことは気にするな」
打ち止めが笑ってくれるなら、それでいいのだ。
(仕事の依頼を受ける代償として、すっっげェ割引になってるし)
「もう! ミサカに指輪をくれるためにマリネラに来たのね、ってミサカはミサカはあなたの行動の真相に辿り着いてみる」
「やっと気づいたか」
「ミサカが鈍いとでも言いたげね?ってミサカはミサカは憤慨してみたり。……でも指輪がすっごくキレイだから許してあげるー」
「そりゃどォも」
「キレイね。ありがとう。好き、大好き」の雨あられ。頬ずりされてキスされて……
これではとても眠れない。
「ミサカとあなたは新婚夫婦なんだから、指輪をしなきゃいけなかったのよね、ってミサカはミサカはうっかりさん」
「そォいや俺もしてねェ。つーか持ってねェ」
「じゃあじゃあ、ミサカがあなたにプレゼントする! 高いのは無理だけどあげる!」
「……派手にすンなよ」
310 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/27(金) 21:44:14.67 ID:jYGOY3OA0
打ち止めは本当に嬉しかった。
自分のことを考えて、柄じゃないことをしてくれた一方通行が愛しい。愛されていると実感できる。
特別に思ってくれているから、他の誰もが持ち得ないような特別な指輪を用意したのだろう。
それはいつ入手できるか分からない物だったから、こうして異国の地に同伴させたのだと、今になって様々なことに合点がいった。
昔なら置いて行かれただろうに、夫婦となって、子供を授かった今は連れて来てくれたのだ。
離れたくない。オマエもそうだろう? と。
『打ち止め』を欲して素直に伸ばされる手に、妻たる自分も躊躇いなく縋れる幸福。
「キレイだな、ってミサカはミサカは……涙が出そう」
「………」
「こんなにキレイな指輪を貰って、ミサカはとっても嬉しいよ、ってミサカはミサカはお返しの指輪に力を込めることを誓ってみる」
「無理すンなよ。どンなのだって構わねェ」
「分かってる。『コレ』と張るつもりは毛頭ありません。要は、あなたは既にミサカの旦那様だと周知してもらえれば、ってミサカはミサカは指輪の効果に期待を寄せてみたり」
他に気を許すつもりなんてない。ありえない。
それでも打ち止めがくれた指輪なら、喜んで着けよう。鎖に繋がれた姿に安堵してくれるなら本望。一方通行だってそうしたいぐらいだ。
「そンじゃあ、そういうことで。俺寝るから」
「うん。おやすみあなた……」
一方通行はゆっくり体をベッドに倒す。打ち止めに支えられながら。
彼女はシーツの上を膝で移動し、夫の頭を太ももの上に乗せた。髪を梳いて、耳や頬を撫でていると、ほんの数分で眠りにつく。
それでも自然に手が動いて、打ち止めは一方通行の重さを感じ続けた。
311 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/27(金) 21:46:46.64 ID:jYGOY3OA0
「おはようお姉ちゃん。お兄ちゃんは?」
「おっはよー、ってミサカはミサカはご機嫌なご挨拶。あの人はお疲れでお寝坊さんだよ」
「そっか。僕達が帰るまでに起きてきて挨拶できるといいけど」
「お昼過ぎだっけ? どんな手を使っても起こすから大丈夫、ってミサカはミサカは約束してみる」
早起きの二人だけ、先に食堂の席についてミルクとお茶を飲む。やがてマライヒとバンコランもやってきた。
国王も今朝は同席しないらしく、四人での朝食が始まる。
「……打ち止めちゃん、その指輪………」
パンを持つ打ち止めの左手薬指に光るダイヤに、マライヒが目ざとく反応する。
「あ、コレ? えっへへー。旦那様からのプレゼントなの!ってミサカはミサカは婚約指輪か結婚指輪か分からないけど、とにかく嬉しかったり」
「ちょ、ちょっと見せて!!」
マライヒは大層な勢いで立ち上がり駆け寄ってくる。打ち止めの手を取り、邪魔なパンを奪ってテーブルに放った。
「ふぉぉ…っ、ってミサカはミサカはマライヒの迫力に」
「うっそ、すごい……!! この濃さ、大きさ………!」
バンコランとフィガロが目を合わせる。「また始まった……」と親子は溜息をついた。美しい宝石が好きなのは、女性だけとは限らない。
「貰ったっていつ!?」
「け、今朝。このダイヤを掘りにマリネラに来たんだって、ってミサカはミサカは圧倒されつつ答えてみたり」
「えぇっ、じゃあこれつい最近採掘されたばっかりなの!?」
「多分……」
312 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/27(金) 21:48:06.43 ID:jYGOY3OA0
可哀そうになるほどに、マライヒは羨ましがった。指を咥えて上目づかい。
(うぅっ、カワイイ……!って、ミサカはミサカは負けそう……!?)
「んん! ……マライヒ、いい加減にしないか。打ち止めさんが困っているだろう」
バンコランに注意され、マライヒはすごすごと席に戻るが、打ち止めの指輪から目を離さない。
「そんなにスゴイの? この指輪」
「凄いなんてもんじゃないよ。ピンクはカラーダイヤの中でも、ブルーと並んで最も価値が高いんだ。しかも……五カラットぐらいかな、そんな大きいの……」
へぇー、と指をまじまじと眺める打ち止め。「大事にしなきゃなぁ」と思っている。
「あと色も濃い方が高値がつくんだ。それは確実にファンシー以上だよ」
(ファンシー? そういう基準があるんだ、ってミサカはミサカは詳しいマライヒに感心してみたり)
「そうなると、かる〜く百万ドル以上」
打ち止めは持ち直したパンを落とした。
313 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/27(金) 21:49:34.43 ID:jYGOY3OA0
気持ちよさそうに眠る一方通行。打ち止めは朝食を食べた後、ずっと彼のそばで過ごしていた。
指輪と一方通行を交互に眺め、動悸を落ちつけようと務める。
(億って……。あなた、億って……)
その値段にはド胆を抜かれた。お金持ちな一方通行のことだから、値段はさしたる負担じゃないのだろう。
きっと、美しくて希少な宝石を……、と考えていきついたのがピンクダイヤなだけであって、高価だから選んだ訳ではない。
それにマライヒは、お金を出せば買えるようなサイズじゃないと言っていた。よく見つけられたと感心もされた。
(お値段のことをあれこれ言うのはやめとこう。せっかくこの人がくれたんだもん、ってミサカはミサカは『愛』を貰ったと思ってみる、ことにする)
できれば無理やり起こしたくはないので、唇に願いを込めてキスを贈る。
新しい友人との別れのひと時を惜しむべく、打ち止めはフィガロ達のいる部屋へと出向いた。
314 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/27(金) 21:51:00.27 ID:jYGOY3OA0
「失礼しまーす……あ、もう荷造り終わってるんだ、ってミサカはミサカはお別れに直面して寂しくなってみる」
鞄が数個まとめて床に置いてあり、部屋の中はすっきり片付いていた。いつでも旅立てる様子だ。
「いらっしゃい。そんな顔しないでよお姉ちゃん」
「……うん。フィガロちゃん、ミサカのこと忘れないでね」
「忘れたくても無理だよ。お兄ちゃんのことも」
膝をついてフィガロの頭を抱える打ち止め。本当は背の高い男(に見える)の天使だと分かっていても、
今の可愛い子供の姿を見ては、こうしてスキンシップしたくなる。
また赤ちゃんの怒りを買うのはごめんだと、フィガロは適当なところで逃げ出した。
マライヒの後ろに隠れたのに、ママは打ち止めの方へ近づいていってしまう。
「打ち止めちゃん、ぼくとアドレス交換してくれる?」
「するする!ってミサカはミサカは今後も相談に乗ってくれると嬉しいな」
「もちろん。ぼくからも連絡するね」
315 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/27(金) 21:52:54.11 ID:jYGOY3OA0
あっという間に賑やかなお喋りに花が咲く。打ち止めの視界の端で、バンコランが腕時計を気にしているのが見えた。
はっとして壁に掛かった時計を見ると、そろそろ空港に出発する時間だ。
「もうこんな時間かぁ……。ミサカはあの人が起きてないか見てくるね、ってミサカはミサカは一時撤退してみたり」
自分の動作が原因で少女に気を使わせてしまったと悟り、バンコランが済まなさそうにしている。
「疲れているようだったら、寝かせておいてあげたらどうだ。君から宜しくと伝えてもらえば構わんだろうさ」
「うん。…………」
「何か?」
ドアに手を掛けて、打ち止めがバンコランを見つめる。
「バンコランはもうあの人のこと諦めた?ってミサカはミサカは警戒してみる」
「!!? そ、そんな私は横恋慕など…っ、いやいやそもそもマライヒという者がありながら」
ぎょろりとマライヒに睨まれて、バンコランの背中に冷たい汗が伝う。まだ常春のマリネラ国内なのに。
いらぬ波風を立てておきながら、当の本人はその場を去る。
廊下に出たら、今起こしに行こうと思っていた一方通行がこちらに歩いてくるところだった。まだ目が開ききっていない。
「良かった、あなた起きたのね。もうすぐマライヒ達が帰っちゃう時間だよ。ご挨拶に間に合うね、ってミサカはミサカはほっとしてみる」
「そンなのはどォでもイイ」
目が覚めたら妻がいなかったので、探しにきただけである。
「ダメだよー。お世話になったんだから、さよならくらいは言わないと」
一方通行の手を引いて踵を返す。『お世話になった』三人は、いずれもにこやかに青年を出迎えてくれた。
結局空港に出発するまでの僅かな時間を共にすることになってしまった。だって一方通行を逃がすまいと、打ち止めが終始捕まえていたから。
316 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/27(金) 21:54:08.22 ID:jYGOY3OA0
タマネギ隊員が運転する車が、宮殿の出入り口につけられた。
荷物を積み込むバンコランとマライヒ。フィガロはその隙に、傍らに立つ一方通行と打ち止めに声を掛ける。
「二人ともさようなら。元気な赤ちゃんが産まれることを祈ってるよ」
「ミサカ達のために色々と良くしてくれて、本当にありがとう。あとこの人と息子ちゃんが迷惑かけてごめんね、ってミサカはミサカは二人に代わって謝罪してみたり」
「じゃあな、セクハラ天使」
「あはは……、まぁいいや」
苦笑いのフィガロに、一方通行は声を潜めて囁いた。わざわざ膝を折って。
「おい、俺には『アレ』以来、ガキの声も何も感知できねェンだが」
「ふぅん? 僕も常に分かるわけじゃないけど、どうしてだろう。相性か、タイミングとか?」
フィガロは打ち止めの腹に視線を移し、意識を集中させたのだが……
「今ちょうど寝てるみたいだね」
肩すかしであった。
「聞こえないのが一般的なんだし、気にすることないよ。良い子ってのはミカエルのお墨付きだしさ」
317 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/27(金) 21:55:49.28 ID:jYGOY3OA0
その後、車の窓から手を振るフィガロを見送り、一方通行と打ち止めは部屋に戻る。まだ少し眠い夫に付き合い、打ち止めも昼寝。
夫婦が目覚めた時には、太陽は少し赤くなり始めていた。
「ふわー…、すっごく怠惰な一日だったね。いいのかな」
「これからまた長時間の飛行機だ。体力温存には丁度いい」
「ん? ミサカ達も日本に帰るの?ってミサカはミサカはそういえばマリネラでの御用事は終わったんだっけと指輪を見てみる」
それに、そろそろ冥土帰しのいる病院に定期健診に行かなければならない。学園都市を離れて一週間になる。
「オマエは新婚旅行だとはしゃいでたが……、全然付き合えなくて悪かったなァ」
「ううん。ミサカはとても楽しかった。それに素敵な指輪も貰えたし」
「そォか……」
「今度は王様に挨拶だよ」と、パタリロの元へと一方通行の手を引く打ち止めであった。
318 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/27(金) 21:57:27.85 ID:jYGOY3OA0
パタリロの執務室へ行く途中、通りすがった食堂で彼を見つけた。
ランチには遅く、ディナーには早い時間だったが、パタリロは一人で大量の料理を片づけている。
「あー、王様だけごはん食べてる、ってミサカはミサカは羨望と非難の声を送ってみる」
「……オマエ腹が空いたのか」
「うん」
二人に気づいたパタリロが、手招きしてテーブルに誘う。
「今日は朝食を食べ損ねたから、こうして不足したカロリーを摂取してるんだ。よかったら打ち止めさんもいかがかな?」
「わーい。いただきまーす! あなたも食べる?」
「起きてすぐ、こンながっつり食えるか。それに機内食もあるだろォが」
「おや、一方通行さん達はもう日本に帰るんですか」
手も口も休めることなく、パタリロが訊く。一方通行は同席したが、給仕のタマネギ隊員が運んできてくれたコーヒーだけをいただいた。
「あァ。今晩中に出国する。……そォだな、晩飯は食う暇ねェから今食っとけ」
言われなくても、打ち止めはそのつもりだった。
「もぐもぐ……。そうですか…。僕としてはもうしばらく滞在してほしいんだが仕方ない。あの契約はくれぐれも忘れないでくださいよ」
「半年以上先だが、覚えておく」
パタリロは食べながら空港への車を手配する。どうやら一週間前と同じように、タノキントリオが一肌脱いでくれるそうだ。
319 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/27(金) 21:59:55.93 ID:jYGOY3OA0
「さようなら! 打ち止めさん、一方通行さん。どうかお元気で!」
「また来てくださいね。あと我々タマネギ部隊のお力が必要な時は、いつでもお声を掛けてください」
「日本にも大使館がありますから」
出国ゲートの前で、タノキントリオが別れを惜しんでくれる。
マリネラ宮殿には珍しい可愛い女の子と、センセーショナルな超能力者の青年に、勝手に好感を抱いていた。
「さようなら、としちゃん号、よっちゃん号、マッチ号。お世話になりました、ってミサカはミサカはおじぎしてみたり」
「そんなそんな。頭を上げてください」
「急な帰国じゃなければ、もっと盛大にお見送りできたんですが」
「そりゃ結構だ。オマエらのノリは、俺には理解できねェンだよ」
ぞんざいに片手を上げて、一方通行はさっさとゲートをくぐる。打ち止めは慌てて夫を追いかけた。
後ろを向けば、タノキントリオはずっと手を振ってくれている。
「ばいばーい!!ってミサカはミサカはお城のみんなにもヨロシクと伝えてほしかったりー!」
一方通行の背後で、大声で叫ぶ妻の声が響く。そしてそれに応えてキャアキャア騒ぐタマネギ達の声も。
「……恥ずかしい真似してンじゃねェよ」
「無愛想さんなあなたの分までミサカがやってあげてるの。嫌なら笑顔で握手でもすればいいのに」
「………」
320 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/04/27(金) 22:04:32.27 ID:jYGOY3OA0
上昇を始める飛行機の窓に顔を近づけ、打ち止めは遠ざかるマリネラを見降ろす。
「たった一週間だったけど楽しかったなぁ、ってミサカはミサカはしみじみしてみたり」
一方通行の目的はピンクダイヤの指輪を手に入れることだった。それは見事果たされ、おまけに大天使の加護までもらった。
青年は隣の席の打ち止めに手を伸ばした。子供が育つ腹に触れ、そっと撫でる。
思いがけず息子が普通でないことを知り驚いたが、父親としての心構えは以前よりしっかりした気がする。
(天使を襲わせるのはどォかと思うが、俺を頼って……ねェ)
お腹をさする一方通行の手に、打ち止めがダイヤが輝く左手を重ねた。
「早くヨミカワ達や番外個体に会いたいね、ってミサカはミサカは学園都市を懐かしんでみる」
「ふン。オマエはブランカに飛びつかれねェよォにしろよ」
「あなたバリケード展開!ってミサカはミサカは頼りにしてみたり」
夫婦と親子の絆が深まったマリネラ旅行は終わった。
半日後には、学園都市だ。
321 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/27(金) 22:08:46.31 ID:jYGOY3OA0
通行止め、マリネラに行くの巻 完
暴走終わり。
打ち止めの誕生日を四月にするという設定が決まってから……
誕生石はダイヤだな。ダイヤといったらマリネラだな。という風にしか考えられなくなったのでした。
次回からは通常の学園都市通行止めに戻ります。
322 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2012/04/28(土) 09:16:56.39 ID:fnOJDpJno
乙
フィガロあたりになるともう読んでなかったな>パタリロ
鉱山でプラズマ出るかなと思ったけど、アンドロイドも禁書世界じゃ無理だわな
323 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/04/29(日) 21:22:42.92 ID:v1+6Csie0
>>322
うん無理だった。 打ち止めならアホ毛の「ビビビ」でプラズマと意思の疎通がはかれそうだ。
324 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/02(水) 23:18:32.32 ID:fb4W8g0t0
久しぶりに学園都市の通行止め&黄泉川家です。
325 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/02(水) 23:21:29.36 ID:fb4W8g0t0
一週間ぶりに自宅に帰る。
ロックを解除しドアを開けると、一方通行の肩口から打ち止めが顔を出し、
「たっだいまー!ってミサカはミサカは懐かしの我が家の香りにテンションを上げてみたり」
「はうわうわうわうっ」
「おい待て待て」
奥の部屋から猛ダッシュしてきた愛犬のタックルを、(能力を使って)一方通行が受け止める。身重の打ち止めが万が一転倒でもしたら事だ。
捕まえられた腕の中、まずブランカは主人の体に頭や鼻を擦りつけて喜びを表す。
そして膝をついた女主人にも体を寄せ、匂いを嗅ぎまくった。勢いよく振られたシッポでお尻が揺れている。
「ごめんねブラちゃん寂しかったねぇ〜、ってミサカはミサカは熱い歓迎に感動してみる。……うぅん、かわいー」
「おかえり最終信号」
「ただいまー。お留守番ありがとね、番外個体」
「おみやげ」
「いっぱいあるよ!ってミサカはミサカはまずはお菓子を取り出してみたり」
「ちょーど小腹が空いてたんだ」
一方通行と打ち止めがマリネラに滞在している一週間、番外個体が二人の自宅で留守を預かっていた。ブランカの世話があるからだ。
いつ帰国できるか分からなかったので、愛犬も懐いている気心の知れた彼女にお願いしたのである。
326 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/02(水) 23:23:37.15 ID:fb4W8g0t0
リビングにお土産を拡げ、しばし三人で情報交換を行う。
もっとも打ち止めと番外個体にはミサカネットワークがあるので、お互いの一週間はある程度把握していた。
「へーぇ、それが例のダイヤモンドか」
「キレイでしょ?」
「デカすぎじゃね? 大体エンゲージリングなの? マリッジリングなの?」
「大きいことはいいことだ! それにこの人からの愛のしるしには変わりないんだから、細かいことはいいの、ってミサカはミサカは見せびらかしてみたり」
何を言ってもノロケられるので、番外個体は肩をすくめた。さっきから黙ったままの一方通行を見ると、彼は腕を組んでウトウトしている。膝には愛犬の顎を乗せて。
「ちょっと、眠いの?」
「……ンァ? おゥ」
「おうじゃねーよ。寝るなら部屋行ったら? こーんな高そうな指輪買っちゃて。明日から稼がなきゃならんでしょうが」
「うるせェ。そう思うならオマエもちゃンと出勤しろ。給料泥棒してンじゃねェよ」
いつもどおりの応酬を交わし、一方通行は寝室へ向かった。シャワーも浴びずに寝るようだ。
(きっとまた飛行機に乗ってた間あんまり寝てないのね、ってミサカはミサカはお疲れなあなたに感謝してみる)
打ち止めはもう少しだけ、久しぶりに会う妹とお喋りを楽しむことにする。
ご主人様に去られたシベリアンハスキーは、今度は打ち止めの横に座って甘えていた。
327 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/02(水) 23:24:58.97 ID:fb4W8g0t0
「お土産の大きいの、重いのは空港便で届くからね。番外個体にはミサカとおそろいの服もあるから、ってミサカはミサカは更なる期待を煽ってみる」
「まだあるの?」
「ヨミカワ達のとか、病院の下位個体達とかカミジョウ達とか」
「お優しいことで」
番外個体は他愛無い話をしながらも、時々打ち止めの左手に視線を送る。それに気づいた打ち止めは、
「……あれ? 本当に羨ましい?ってミサカはミサカは番外個体の視線を追ってみたり」
「べつにぃ。ただ普通に綺麗だから見てるだけ」
「ふぅん……」
打ち止めは指輪をはずし、番外個体に渡す。彼女は数分間もそれを持たせてもらった。
遠慮しているのか、この指輪の意味を考えてか、はめたりはしなかった。
328 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/02(水) 23:29:12.23 ID:fb4W8g0t0
一方通行が寝室に引きあげてから数時間後、彼は明け方に目を覚ました。隣では寝間着に着換えた妻が寝ている。
自分が着替えもせずに寝ていたことを思い出し、風呂へ行こうとベッドを降りた。
床に転がっている愛犬を避けてバスルームへ行く途中、玄関に番外個体の靴があることに気づく。もう家主は帰還したので泊まる必要はないのだが、きっと打ち止めの部屋で寝ているのだろう。
以前なら打ち止めと彼女が同じベッドで寝て、一方通行が一人寝というのが常だったが……
もう夫婦なので、これでいいのだ。
すっきりした後、今度は腹を満たす。打ち止めか番外個体かは知らないが、
キッチンテーブルの上には味噌汁とおにぎりが作ってあったのでいただいた。
リビングで缶コーヒーを飲んでいると、寝癖がついたままの姿で打ち止めがやってきた。
「おはよー、ってミサカはミサカはあなたを後ろからぎゅーしてみる」
「はいおはよォ」
言いながら、慣例と化した診察を行う。打ち止めもそれを分かってじっとしている。
「どう?」
「大丈夫だ。明日は病院で検診な」
「はーい。今日は上に行ってヨミカワとヨシカワにお土産を渡しに行こうね、ってミサカはミサカは実家への訪問を促してみる」
「あァ、今日届くンだったか」
329 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/02(水) 23:33:21.31 ID:fb4W8g0t0
一方通行が仕事をしに自宅近くの事務所に出向いている間に、マリネラ土産は届いていた。それを上の階の部屋に運ぶまでもなく、黄泉川愛穂も芳川桔梗も自宅に来ていたが。
「おかえりなさい一方通行。新婚旅行は楽しかったかしら?」
「おかえりじゃん。お土産ありがとなー」
そう言う保護者達だが、二人とも打ち止めに群がったまま、ろくに一方通行を見もしない。番外個体は離れた場所でブランカを抱えて弄っていた。
「あなたおかえり、ってミサカはミサカはヨミカワとヨシカワに遮られて」
「綺麗ねぇ。何カラットあるのかしら」
「知らないじゃん。ダイヤなんて縁がないし」
「いくらくらいするのかしら」
「知らないじゃん。ダイヤなんて縁がないし」
久しぶりに会った子供への挨拶もおざなりに、黄泉川達は打ち止めの指輪にばかり注目している。
一方通行はリビングの隅で愛犬と戯れていた番外個体に近寄った。ブランカがご主人様に飛びつきたがっているが、番外個体が離してくれない。
「ありゃなンだ」
「……お姉ちゃんの指輪が羨ましいんでしょ。見れば分かるくせに」
「………」
黄泉川も芳川もやはり女性である。宝石が嫌いなわけはない。それでもあんな風に、大人げなく打ち止めに群がってまでとは……。
一方通行は意外に思った。それはあのピンクダイヤが、普通のダイヤとは大きく一線を画す代物であることも一因だ。
「オマエも?」
「べつにぃ。ただ普通に綺麗だとは思うけど」
「ふゥン……」
その夜、一方通行は別れの挨拶を交わしたばかりの、かの国の王様に連絡を取った。
黄泉川と芳川にはピアス。番外個体にはネックレス。
一カラット未満だが、それぞれにホワイトダイヤのアクセサリーを注文するために。
(たまには家族サービスってかァ?)
330 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/02(水) 23:38:48.70 ID:fb4W8g0t0
通行止めの帰宅の巻 完
ダイヤを買わされる一方さん。
331 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/05/03(木) 06:19:55.37 ID:iHWocSDXo
おくさんこいびとにごうさんかのじょにほんめい……乙っしたー!
332 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/03(木) 18:41:54.30 ID:n3uyKCbM0
>>331
おくさん 以外は、誰がどれなのよ?
今日は原点に立ち返ってみました。
333 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/03(木) 18:44:03.84 ID:n3uyKCbM0
妊娠五ヶ月目になると、打ち止めの腹はますます大きくなってきた。もう誰が見ても立派な妊婦さんである。
十月になったとはいえ昼間は暑い時があり、涼しいマタニティ用の服を着て歩いていればお腹が目立つ。
「冬になったらあったかいやつも要るね、ってミサカはミサカは今後必要になる物リストに記録してみる」
「オマエそンなの書いてたのか」
打ち止めの手からメモ帳を横取りし、何が書かれているのかと一方通行が見る。子育てに関することが専用に記されたものかと思いきや、
なんのことはない。普通の生活必需品や見たい映画、やらなければいけない家事などが、ごちゃ混ぜに書かれていた。
「適当すぎンだろこのメモ。メモの意味が……」
「どうしたの?」
「この新しいブラジャーってのは?」
「あ、………読んでのとおり、新しいブラジャーを買わなきゃいけなくて、ってミサカはミサカは胸が張ってきたことを明かしてみる」
「……やっぱりコレでもデカくなンのかァ……」
334 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/03(木) 18:46:08.98 ID:n3uyKCbM0
妊娠すると、誰でも胸が大きくなる。それは既にFカップだった打ち止めでも例外ではなく、最近乳房の張りを実感するようになったらしい。
今ま経験したサイズアップは、着けていたブラジャーがきつくなってきたことから発覚していたが、
妊娠後しばらくしてからは締め付けるのを良くないと思って、ワイヤーのないスポーツタイプの物しか着用していなかった。
それでも、見た目や手で支えた時の感覚が、明らかに先月とは違う。
このまま何ヶ月も対策を取らないでいるのは形の崩れに繋がらないかと、打ち止めは少し不安に思っていた。
「本当にデカくなってンのかよ。今までと変わってねェように思うぞ」
「やんちょっと待って!ってミサカはミサカはいきなり掴みかかってくるあなたをえっちと罵倒して逃げてみる!」
「おい危ねェだろ。新しいの買いに連れてってやるから大人しくしてろ」
「うぬぅ。ミサカの弱みにつけこんで、なんて卑怯なの、ってミサカはミサカは明日のお出掛けに心弾ませてみたり」
どうやら触診の了解が得られたと見て、一方通行は妻を抱えて寝室へ。
「わ、わざわざベッドに行くのぉ?」
「ソファじゃヤりにくいだろォが」
「や、や、ヤるってあなたまだお風呂も入ってないのに、ってミサカはミサカは焦ってみるっ」
「……そォいう意味で言ったわけじゃねェが、そォいうご希望なら叶えてやってもいいぞ」
(しまった特大の墓穴を掘ってしまった、ってミサカはミサカは……。別に大して後悔しないけどぉ〜、も〜)
335 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/03(木) 18:48:29.65 ID:n3uyKCbM0
薄暗い寝室のベッドにそっと運ばれた打ち止めは、条件反射か、仰向けに寝そべってしまう。
「こら、脱がせてもないのに寝るな」
「あら、そういえば」
上体を起こした打ち止めは胸の前のボタンを外し始めた。三つ外れたところで、
背後の一方通行が裾や肩の部分を掴み、あっという間に首、腕を通して脱がされてしまった。続いて肌着、そしてスポーツブラも。
(脱がせやすいなァ)
上半身裸になった妻を、膝立ちになっていた一方通行が抱きしめる。一週間ぶりに触れる彼女の素肌に鼻を押し付けて匂いを確かめた。
(まるでブラちゃんみたいね、ってミサカはミサカは犬は飼い主に似るという言葉は本当だったと笑ってみる)
それとも一方通行がブランカに似てきたのだろうか。そんなことを考えていると、肩の辺りにあった手がゆっくりと下がってきた。
「…………」
「……どう? 大きくなったと思う?」
上から乳房に手を宛がっているだけでは判然としない。寄せてみたり指を埋めてみたり。
下から持ち上げてみると……
「デカく、なってる……な」
「やはり、ってミサカはミサカはあなたのお墨付きをもらって勝利のガッツポーズ」
「何と戦ってンだオマエは」
あぐらをかいた一方通行。手は妻の胸に宛がったままで、自分の方に引き倒す。
見降ろした打ち止めの頬はほんのり染まっていて、目は潤んでいる。薄暗い中でも分かる。
「ちゅーして、ちゅー」
「……ン」
336 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/03(木) 18:51:24.86 ID:n3uyKCbM0
胸ばかりではなく、首筋や脇腹も指を滑らせる。一方通行から与えられる刺激に、打ち止めは体を捻って反応した。
すっかり密着していた背中の下の方、彼の腰辺りに硬いモノを感知。一方通行の手が一瞬止まったのを、打ち止めは見逃さなかった。
「……えいえいえい」
「っ、……こら。この…っ」
すりすりと腰を揺すって、服の上から擦りつけてみる。
触角が乏しい背中では詳しい反応を把握できなかったが、背後の夫の口ぶりから察するに効果はあったようだ。
調子に乗った打ち止めは、手を自分の背中の裏に派遣する。
「おぉ……。あなたは服脱がないの?ってミサカはミサカは暗に脱衣をオススメしてみる」
「ン、……まず、…オマエから」
「あっ……ん。し、下は自分でやる……」
後ろから打ち止めを抱えているこの状態では、スウェットとはいえ脱がしにくい。
もぞもぞ蠢く妻の背中を見守りながら、一方通行も上着をベッドの下に投げ捨てる。
体は熱くなっていて、初秋の夜だが少しも寒くはなかった。
汗をかいた後は、冷えないうちに入浴しよう。
337 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/03(木) 18:52:46.65 ID:n3uyKCbM0
胸が張ってきた打ち止めの巻 完
おっぱいだ。
やはりおっぱいこそがこのスレの原点だ。
338 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/04(金) 13:56:34.24 ID:POhK/+bk0
黄金週間進行!!
まぁ今日で終わっちゃうんですが。 庭にくるスズメに癒された日々でありました。
パンをまくと、警戒心が強いチュンはお向かいの平屋にパンを咥えて逃げる→パン離す→転がってウチの庭にパンUターン→チュン呆然
かわいかった。
339 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/04(金) 13:58:23.66 ID:POhK/+bk0
十月のある昼下がり、事務所で愛妻弁当を広げていた一方通行の携帯端末が音声着信を告げた。それは思いがけない人物からだった。
必要あるかもしれないからお互いアドレスを登録しているだけであって、好んで連絡など取りあったりしない。
だからこそ、何か急用があるのだろうと四コール目で通話に出る。
『御坂だけど……』
「どォした」
『今、打ち止めはそばにいない?』
「いない。俺は家から出て一人だ」
『そう……。今から会って報告したい事があるんだけど、いいかしら』
誰の目にも触れたくないと言うので、それならばこの事務所があるビルがいいだろうと、一方通行は住所を教えた。
一時間後、外の駐車場に車が停まり、御坂美琴が降りてくる。ロックを解除してやらねばと思ったが、彼女は入口に手をかざすと、
ほんの数秒でセキュリティシステムにハッキングして易々と中に入ってきた。
(……いまだにそンなことやってンのかよ)
340 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/04(金) 14:00:37.01 ID:POhK/+bk0
五階建てのビルだが、使っているのは三階部分の数部屋だ。
たまにだが客人がいないわけではなく、唯一対面式で座れるソファがある部屋に御坂を案内する。
通りすがりにカラフルな布に包まれた物を見て彼女が、
「あ、これお弁当じゃない? アンタもこういうの食べるのね」
と、目ざとく見つける。さっさと鞄に仕舞っておくのだったと、一方通行はちょっと後悔した。
「さってとー。その仏頂面を長いこと見るのは美琴さんの精神上あまり良くないから、サクサクやるわよ。サクサクと」
「……」
御坂はノートパソコンを取り出すと、一分ほど経ってから一方通行にディスプレイを見せる。
膝の高さのテーブルに置かれたパソコンをずらし、青年の顔が画面に近づく。眉間に深い皺が刻まれ、赤い瞳が、細められた目で鋭さを増した。
御坂は反対側の彼が座るソファに移動し、横から手を伸ばす。右手だけで器用に素早くキーボードを操作し、次々に情報を呼び出した。
341 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/04(金) 14:02:07.51 ID:POhK/+bk0
「昨日発見したの。何年経ってもコイツらの考えることは変わらないわ」
(クソ野郎ォどもが……)
それは、「学園都市第一位に子供が出来た」ことによる、研究機関の報告書、並びに今後期待される能力開発、技術開発、一方通行に対する実験『協力』をどのようにするか、という具体例が記されていた。
御坂美琴の名前、打ち止め、義母の黄泉川愛穂の名まで挙がっている。
「隠し通せることじゃないから、こんな事もありえるかと思っていたけど……。ここまで計画立てちゃってるとは、呆れて笑えたわ」
「だなァ。この街の科学者ってのは成長しねェンだな」
ふと、脳裏に芳川桔梗の穏やかで寂しげな笑顔が浮かぶが、今はそれどころじゃないので思考を切り替える。
「成長っていうか、知らないのよね。現在の研究施設で中堅ぐらいの位置にいる科学者って」
「知らねェ?」
「一方通行や私が七年前に大暴れした時のこと。けっこう学園都市から離れたヤツもいるんじゃない?」
「あァ……」
(殺しちまったのも結構いるしな……)
だから直接知らない。レベル5を怒らせたらどうなるか。彼ら、彼女達の大切な物に危害を加えたらどうなるか。
研究者、科学者が当然と考える利益に、今の一方通行がどんな拒否を示すか。
(生かしといて、恐怖政治って手もあったわけか。今となっては遅いが)
342 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/04(金) 14:03:21.96 ID:POhK/+bk0
「俺も一応網は張ってあったンだがな。まだこちらには掛かってない」
「あたりまえでしょ。この私が細心の注意であぶり出したのよ。さすがにアンタでも先に見つけられるわけないってーの」
「大した自信だ。このデータ、そこのパソコンに送っておけ。後は俺がなンとかする」
いかにも気に食わないといった表情で、御坂が一方通行を睨む。(ものすごく)手荒な対処を取ると思っているのだろうか。
昔ならいざ知らず、彼は死人まで出す気は無い。
ただ『馬鹿なやつら』に熱いお灸を据えるだけだ。
二度といらない世話を持ちかけてこないように。
用がある時はこっちから出向いてやる。そうじゃなければ構うなと。
「なによ。私には探らせるだけで、実行させないつもりなの?」
「あァ?」
一方通行の予想とは少し違う理由で顔をしかめていたらしい。
そういえば昔の御坂美琴は、一方通行の実験を止めるために何をしていたんだっけ。
「私もやるわよ。ていうかもうやっちゃったわよ。ほらココ」
343 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/04(金) 14:04:55.38 ID:POhK/+bk0
ノートパソコンのキーボードを叩き、一方通行にディスプレイを見せる。そこのページだけ全体にグレーにされていた。
建物の外観を映す写真の上に、かわいい字体で「かんりょう☆」と、でかでかと書かれている。
「オマエまさか」
「てへ。昨日発見した、って言ったじゃない。一ヶ所襲撃するくらい一晩でできるもん」
「もン、じゃねェだろ。立場分かってンのか」
「大丈夫よ。絶対に御坂美琴だと分からないように小細工オンパレードよ。昔の経験を活かしたスパイのような美琴さんだったわよ」
「…………」
彼女がこんな風になってしまった責任は、一方通行にもある。
明るい世界の眩しい道を歩いている御坂美琴に、今更こんな暗い仕事をさせるのは、打ち止めや妹達も良く思わないだろう。
しかし止められないのも事実だし、だからこそ好かれているのかもしれない。
「あ〜、とにかく、これ以上オマエは何もすンな」
「やーよ。じゃなきゃデータ渡さない」
「ンだとォ? 在りかさえ知れりゃァいつだって奪えるンだぞ。ただ面倒くせェから痛い目みる前にさっさと寄越せ」
「ひっど! 打ち止めに二人きりで密会したことバラすわよ!」
「寒気が出るよォな言葉を選ンでンじゃねェよ」
344 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/04(金) 14:06:58.92 ID:POhK/+bk0
物騒なやる気を出す御坂美琴を宥めるのに、だいぶ時間を取られた。ここ最近で一番の疲労だ。
彼女が帰ったあと、机に土足を投げ出したまま、携帯端末で土御門元春の番号に掛ける。
「早く出ろよ…」
繋がらないので、もっと気は進まないが結標淡希に掛けようかとしたら土御門が折り返してきた。
「…………」
『おい、用があるから電話してきたんじゃないのか』
「まァな」
『無言とはどういう了見だ?』
「……仕事がある」
『へー』
電話の向こうの土御門は、あくびとともに適当な返事をした。一方通行からの連絡といえば、ある程度察しがついている。
『依頼主は一方通行自身かな』
「そォだ。急ぎで潰したい機関が数個ある。できるだけ同時に落としてェから、結標と海原にも繋ぎをつけろ」
『エツァリ、な。ほぉー懐かしい、グループ全員集合だにゃー』
おどけた調子に少々イラつくが、彼に残りの二人にも集合をかけてもらいたいので我慢。
『一方通行からのお・ね・が・い、って言えばアイツらも了解してくれるだろう。準備が出来たら俺から連絡する。まぁ二日か三日待っててくれ』
「報酬は用意するから余計な事は言うンじゃねェぞ」
『はいはい、っと』
通話を終えて、深い溜息と共にソファに体を埋める。
まだ夕暮れ前で、帰宅の予定時間より早いがもう仕事をする気がしない。
一方通行は打ち止めが待つ自宅に帰ることにした。
345 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/04(金) 14:09:20.88 ID:POhK/+bk0
とりあえずここまで。
このスレはいちゃいちゃとほのぼのしかありません。
グループが揃っても全然ハードボイルドにはなりません。
346 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/05(土) 09:04:59.49 ID:hEPjea2IO
┌─────┐
│い ち お つ.│
└∩───∩┘
ヽ(`・ω・´)ノ
347 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/05/05(土) 18:26:31.68 ID:Nz0Kt86AO
『死人は』出さないだけで
愉快なオブジェ展示会開催決定だな
348 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/05(土) 19:13:14.90 ID:ocSPFooIO
バトル展開ktkr
349 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岐阜県)
:2012/05/06(日) 23:23:15.10 ID:JyqGFCf00
あわきんは研究者たちとは別な理由で息子を狙いそうな気がするww
350 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/05/06(日) 23:54:40.70 ID:YlZaHyRAO
打ち止めと一通さんの子供な上天使の祝福を受けた時点でイケメンは確定だからな…
351 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/08(火) 00:34:41.75 ID:nayWyfAc0
みんなの期待を容赦なく裏切るよごめん。
続きいきます。
352 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/08(火) 00:38:14.67 ID:nayWyfAc0
自宅に帰ったあと、顔にも態度にも、何も出さずに打ち止めに接した……つもりだったが、打ち止めには少しいつもと違うと判断された。
「いつもより近いね、ってミサカはミサカは身動きできなかったり」
「あ……寝苦しいか?」
「平気。落ち着く〜。でもあなたの腕が疲れちゃわない?」
就寝の時、ベッドの中で背後から打ち止めを抱きしめるように密着していた。一方通行の腕は、自然と膨らんだ腹と胸の間に収まっている。
「俺のことは気にしなくていいから、早く寝ろ……」
「……うん。おやすみ」
(研究所がすぐに動き出すとは思えねェが……。超電磁砲が襲撃を掛けたことで、功をあせるヤツが出る恐れがあンな)
御坂美琴は引き続き監視を続けている。何か動きがあればすぐに分かるだろうが、万全を期しておきたい。
明日、番外個体に事情を話そうかと考えながら、妻を腕の中に閉じ込めて一方通行も浅い眠りに落ちた。
353 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/08(火) 00:40:17.83 ID:nayWyfAc0
朝起きると携帯端末に土御門からのメールが届いていた。それによって番外個体への説明は後回しとなる。
たった一晩で、結標淡希、海原光貴……エツァリに了解が取れ、今すぐにでも集合できるそうだ。
(……暇人かコイツら)
彼らにも彼らの生活があるだろうから、必ずしも全員の協力を仰げる保証はない、とさえ危ぶんでいた一方通行だというのに。
たった数時間で叶ってしまった。
いつもどおり愛妻弁当を持たされ、一方通行は自宅から出勤する。今日も妻からの強制いってらっしゃいのキスで送り出された。
「…………」
実はこれから仕事ではなく、懐かしい面々と会って、危ない仕事の打ち合わせである。
昼をまたぐことになったら、この弁当はどうしよう。
354 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/08(火) 00:44:03.17 ID:nayWyfAc0
持ちビルに着けば、入口前のガードレールに尻を乗せてぼんやり空を見上げる土御門。彼は一方通行に気づくと「早く開けろ」という仕草でビルを指さした。
「よぉ。じきに結標と海、…エツァリも来るぞ」
「おォ」
一方通行の後をついて廊下、エレベーターと、土御門はビルの中を進む。
すぐに昨日、御坂美琴も腰を降ろしたソファに座った。それまで二人は無言であった。
土御門は昔のように金髪でサングラスは掛けているものの、アロハシャツではない。紺色のジャケットとジーンズだ。
一方通行は、苦労の末御坂から受け取ったデータを事務所のパソコンに映し出した。先に土御門に見せておいてもいいかと思っての行動で、
それを見越した土御門が背後に寄って来る。一方通行は彼に席を譲って窓際に移動する。外を見降ろすとロングヘアの女が歩いていた。
女は歩道から一方通行を窓越しに確認し、一瞬にして姿を消した。
「なかなか良い部屋じゃない」
パンツルックでヒールを履いた結標淡希が、座標移動を駆使して現れた。
「海原はまだなの?」
「いいや、アイツも丁度来たな」
引き続き窓の外を見降ろしていた一方通行が、結標を一瞥して促す。彼女は一方通行の隣に立ち、同じく下を覗いた。すると、
「おっとと……。こうして結標さんに運んでもらうのは随分と久しぶりですね」
褐色の肌と黒い髪の青年、エツァリが先着三人の中央に立っていた。唐突なテレポートに文句も言わず、穏やかな笑みのままである。
「これで全員揃ったわね。さっさと始めましょ」
355 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/08(火) 00:46:46.80 ID:nayWyfAc0
一方通行は作戦に必要な資料を三人に渡す。ソファに四人で向かい合い、計画の要旨を説明しようとしたら結標が、
「は、はあぁぁぁぁぁ!!? 一方通行結婚したの!?」
すっとんきょうな声を上げて場を止めた。男三人も「は?」という顔をしている。彼女は激しく目を動かし、受け取った書類を読み進める。
「うっそうっそぉぉぉぉぉぉ! 子供!? ちょ、誰と、あ、あの子と。……えぇー」
「結標は一方通行がデキちゃった婚したことを知らなかったのか?」
「知らないわよ! 知ってたらおもいきりからかうに決まってるじゃない」
「自分も知ってましたので、当然結標さんもご存知とばかり…」
昔、『グループ』の一員として学園都市の闇を駆けた結標淡希。
一方通行の状況を、彼女もある程度知っていると思い込んでいた土御門とエツァリは意外だった。
それは一方通行も同じだ。高校生の少女と婚前交渉の末妊娠、結婚という褒められない出来事を、改めて突きつけられた気分である。
(いや、それよりもだなァ)
学園都市第一位が結婚し、おまけに彼の遺伝子を継ぐ子供が出来た。ちょっと耳を澄ましていれば聞こえてくる情報である。それを知らなかったということは、結標は本当に平和な世界で暮らしているのだろう。まさかそこまで暗部とかけ離れたところで今を生きていたとは。
今回の作戦で、相手側に自分達四人の素性を明らかにするつもりは、もちろんない。しかし、犯人の検討がつかないわけないだろう。
ちょっかいをかけられる前に、先制攻撃で応えてきた一方通行に違いないと。
果たして結標を巻き込んでいいものか……?
356 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/08(火) 00:48:19.69 ID:nayWyfAc0
そんな躊躇いを感じた一方通行にはまったく気づかず、興奮し喋り続ける結標。
「おもしろすぎるわ。一方通行がパパって……。どこのヤンキーよ、高校生の女の子を妊娠させて」
「うるせェな。今日はそンな話は」
「赤ちゃんは男の子? 女の子?」
「……男」
「へぇ良かったじゃない。男の子は女親に似るっていうもの」
「いやそれが、……どォも俺にソックリって言われた」
「誰に?」
「て…、誰だっていいだろ」
「出産予定日はいつ?」
「三月」
「おいおい待て結標、一方通行。本題から逸れてるぞ」
「楽しそうなところ申し訳ありませんが、仕事の話をしようじゃありませんか」
金髪と黒髪の青年が苦笑いでたしなめた。
357 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/08(火) 00:51:26.62 ID:nayWyfAc0
攻撃対象の研究施設は全部で九ヶ所。一方通行が二ヶ所。土御門とエツァリがペアで三ヶ所。結標が四ヶ所という持ち回りである。
「私が単独で四ヶ所って多くない? おまけに土御門とうなツァリの侵入までサポートって重労働すぎじゃない?」
「それぞれの特性と各施設の距離や規模を考慮した結果だぜい」
「そうですね。一方通行さんが二ヶ所ですけど、この二つは大きいですからね。実質一番重労働は彼ですよ」
「うツァリの言うとおりだ。結標、いいな」
「分かったわよ」
達成が困難というわけではないので、結標は念押しする土御門にあっさり了承した。たしかに資料を見る限りでは、
一方通行が向かう施設が群を抜いて大規模である。セキュリティも強固に違いないし、人も多いだろう。
「こンな時は、海ばリが職員に変装して内部から攻撃を仕掛けンのが楽なンだがなァ」
「今回はその辺の準備期間がほぼ無いに等しい。一方通行が行くのがベターだろう」
目撃されるリスクの回避も踏まえた作戦なのだ。
358 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/08(火) 00:54:29.53 ID:nayWyfAc0
入念な作戦会議は続く。
そんなシリアスな空気を読みつつも、あえて流れを断ち切る者がいた。エツァリだ。
「あのー、申し訳ありませんが中断を求めます」
「トイレは先に済ましときなさいよ」
「違います! そんなことじゃありません」
「くだらねェ事だったら承知しねェぞ」
「自分としては重要です。……さっきから、皆さんからの呼び方がひどすぎるんですが」
暗部組織・グループとして活動していた期間、エツァリは『海原光貴』として加わっていた。他の三人からもその名で呼称されていた。
しかし今は、ほとんどの時間を本来の姿で生活している。褐色の肌、黒い髪の彼を見慣れていないメンバーは、つい癖で「海原」と呼んでしまいそうになるのだ。
結果、「うツァり」 「うなツァリ」 「海ばリ」 「エな原」 などという珍妙な名前が、先程からちらほら聞こえている。
土御門はわりかし間違いが少ない方なのだが、
「エツァら、ってなんですか。どうしてそこまで言って最後に『ら』?」
「にゃははは。この雰囲気のせいですたい。昔みたいで、ついついお前を海原と呼んじまう」
エツァリは盛大に溜息を吐くと、「ちょっとだけ失礼します」と言って部屋を出た。
残りの一同が、やっぱりトイレか? しかも大きい方の、と勘繰った頃、彼は戻ってきた。
「……おまたせしました。これでいいでしょう」
「あら、やっぱりその顔の方がしっくりくるわ」
「そンじゃオマエのことは『海原』で統一な」
「不測の事態に備えて用意していた護符でしたが……、こんなことのために」
海原光貴の姿となったエツァリ。あんな間抜けな呼ばれ方をするぐらいなら、この方がマシである。
359 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/08(火) 00:58:23.05 ID:nayWyfAc0
とりあえずここまで。
一人だけ15歳(の姿に変身した)海原。浮く。
360 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/08(火) 01:10:13.98 ID:sGZ6fCra0
乙
361 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/08(火) 01:20:08.76 ID:Hos34fdSO
誤字だと思ったらwwwwww
乙
362 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/05/08(火) 06:06:52.53 ID:SC7Hewa5o
うん、おれも誤字だと思ってました。 乙。
363 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/08(火) 13:05:50.00 ID:HRlecMVIO
うなツァリわろたwww
そしてあわきん……あれが世の女性の一般的な反応なのかしら
乙乙です
364 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/08(火) 19:01:22.92 ID:ISBsdvYco
そういやエツァリの術で一番イイ時期の自分の皮膚保存しとけば不死まではいかなくても擬似不老は可能だよな…
女性陣が黙っちゃいないんじゃね?
365 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/08(火) 22:22:07.28 ID:WJvqyRPIO
>>364
小萌先生「ktkr」
366 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/09(水) 02:47:29.22 ID:GavnJBwX0
>>364
私だって黙っちゃおれんわ。もう遅いけど。
>>365
てんてーには必要ないのでは…… きっと何十年経ってもあのまま。
続きいきます。
367 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/09(水) 02:49:48.93 ID:GavnJBwX0
大体の計画を立て、元グループの四人は机から顔を離した。
「それでは実行は三日後の夜ですね」
「あァ。それまでに一応の武器と装備を揃えられるだけ用意しておく」
「上のバックアップがまったく無いものね。私は武器なんて使わないけど、あっても無駄じゃないわ」
「そうだな。頼んだぞ一方通行」
打ち合わせは終わったが、土御門、海原、結標が席を立って帰る気配は無い。
しばしの沈黙の後、一方通行が上着のポケットから小さくて透明なケースを取り出した。
「コレが報酬だ。先に渡しておくか?」
「報酬? そんなもの用意しておいてくれたんですか?」
海原と結標がきょとんとしている。二人とも報酬があることを土御門から聞かされていなかった。
「一方通行が『お・ね・が・い』ってウィンクした方が面白そうだから伝えてない」
「自分もそう思います。それに貴方に貸しを作る方がメリット高そうですし」
「絶対ェ言わねェから大人しく受け取れ」
「あら、それダイヤ?」
結標がケースを手に取り、透明な輝きを放つ宝石を目の前にかざした。上から下から、熱心な様子で。
「結標さんは気に入ったみたいですね。どうしたんですか、あれ」
「最近あるルートを確立してなァ。仕入れておいたンだ」
368 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/09(水) 02:52:41.08 ID:GavnJBwX0
番外個体と保護者達にダイヤのアクセサリーをプレゼントしたら、それはそれは喜ばれた。憎まれ口が十八番の番外個体でさえ、素直に「ありがと」と言って受け取ったくらいである。
ダイヤモンドが、人心、特に女性に大ウケだと感心した一方通行は、役に立つこともあるだろうと、マリネラから輸入しておいたのだ。
それに金(ゴールド)は以前から買っていたが、ダイヤモンドにも投資の幅を広げようとも考え始めていたし。
「ダイヤは貨幣より安定した価値を保っている。持ってて損はないハズだ」
「もうちょっとマシな言い方ないの?」
やはり結標も女だ。美しい宝石に大してロマンのかけらもない評価を述べる一方通行に非難を向ける。
「まぁいいわ。現金なんかよりずっと気が効いてるじゃない」
「ピアスにしたいから二個くれ」とねだる結標のはしゃいだ様子に、土御門と海原はそれぞれ大事なヒトを重ね合わせる。
(舞夏もダイヤ欲しがるかにゃー)
(ショチトルにあげたら、結標さんみたいに喜ぶかも)
一方通行はウィンクしなくて済んだ。
369 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/09(水) 02:54:46.00 ID:GavnJBwX0
「ったく。意地汚ねェ野郎だな。結局二個もせしめやがって」
「いいじゃない。その分こっちはサイズの妥協をしたわ」
こんな出費も労力も、すべては一方通行が一方通行たるゆえんである。
学園都市において、彼の価値は無限大だ。どんな研究施設だって彼を欲しがっている。
それによって得られたもの、失ったものは様々だが、彼はもう第一位という肩書をとっくに必要としていない。
格付けなど無くても権力層にある程度の口は出せるし、コネも築いた。持つことで面倒を呼び寄せるくらいなら、いっそ捨ててもいい身分だった。
「俺はいつまで第一位なンだ?」
急に呟いた一方通行に、他三人は顔を見合わせる。その言葉の意味に思い当たり、土御門が、
「仕方ないぜよ。他にいないんだから」
「つっても俺、もォ二十三歳なンだが。学生でもないンだが」
「だーから、仕方ないの。レベル5は学園都市の象徴として絶対存在しなければならない。しかし今の超能力者に代わる人材がいないんだ」
そう。後進が育っていないのも要因だ。一方通行をはじめとした超能力者に並べる者は、今のところいない。
「以前私にも打診があったわ、そういえば。『丁重に』断ったけど」
「仮に今後レベル5になり得る学生が出現したとしても、一方通行さんが引退できるか定かじゃありませんしね」
370 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/09(水) 02:56:20.86 ID:GavnJBwX0
人数が八、九、十……と増えていくだけかもしれない。学園都市としては、超能力者の数は多い方がいいに決まっている。
仮に一方通行が既に第一位でなかったとしても、今回の事態は避けられなかっただろう。それほど一方通行の影響は大きい。
「なァ、第二位はまだ目覚めないのか」
「……垣根帝督か。もう少し、だな」
「それ二年前も聞いたぞ。どォなってンだ」
「何度言わせるんだ……、これも仕方がない。お前があんなにグチャグチャにしたせいだ」
第二位の未元物質・垣根帝督は、とある研究施設で再生処理を施されている。それが始まって何年経った?
「細胞からクローンを作るんじゃない。完全な再生だ。いくらここが学園都市でも時間はかかる」
自分に次ぐ超能力者がいれば、狂った科学者達が一方通行に注ぐ視線も逸れるのではないかと、第一位は勝手な主張で土御門を問い詰める。
「未元物質を悪用させないため、助力を請う機関も人間もいちいちフィルターにかけている。そう速やかにはいかないんだぞ」
「……クソ」
「特に脳だ。能力まで元どおりにするからには」
「もう、これからお昼ごはんだってのに、そんな話はやめてちょうだい」
「おや、そんな時間ですか。そういえば自分もお腹が空いてきましたね」
371 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/09(水) 02:59:14.07 ID:GavnJBwX0
そんじゃ昼飯食いに行くか、と頷き合って、一方通行以外の三人がドアに向かう。ソファに座ったままの雇い主に、「来ないの?」と促した。
「なンで俺がオマエらと飯食わなきゃならねェンだよ」
「臨時とはいえ従業員なんですから、食事代を経費でまかなってくれませんかね」
「個室の部屋を取れば、もう少し細かい打ち合わせも出来るだろう」
「……俺は遠慮する。今決めた内容だけで作戦に支障はない」
「そんなこと言わずに。打ち止めさんと結婚して子供までこさえた貴方に、恨みつらみ妬みそねみの小言を囁かせてくださいよ」
昼飯なら、打ち止めの手作り愛妻弁当がある。それを食べなければならない。海原と土御門の誘い(?)をつれなく断った。
「なに一匹狼してんの。別にごはん食べに行くくらい平気でしょ? そんで奢りなさいよ」
「やかましィ。請求書寄越せば払ってやるから、さっさと行け」
頑なに拒否する一方通行の視線の先を読み、土御門が結標に何やら耳打ちをする。彼女はすぐさま頷いた。
その瞬間、隅の棚に置いてあった一方通行の鞄が、くたりと歪む。
結標の手の中には、座標移動で取り寄せたお弁当箱。包んでいた布さえ省いて、一目でそれと分かる、箱だけの状態で。
一方通行の肩が揺れる。
「……愛妻弁当かにゃー」
「……なるほど、気がつきませんでした」
「……ぷ」
結標はニヤニヤと顔に笑みを張り付かせ、弁当箱を一方通行の目の前に置いた。
「お寿司食べていいかしら。回らないやつ」
「好きにしろよ……」
うーに、うーに。いっくら、いっくら。たいはまちえんがわー。……大トロ!
一方通行を残して去っていく三人の足取りは軽い。今日の昼食はとても豪勢だ。
372 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/09(水) 03:02:40.04 ID:GavnJBwX0
とりあえずここまで。
垣根が私の予想より早く原作で復帰するかも。(それどころか、冷蔵庫のままフェードアウトしてくと思ってた)
自分設定では7年後も意識が戻ってないことになっています。
373 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/09(水) 06:53:50.24 ID:3Ds24A8DO
乙〜
374 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage saga]:2012/05/09(水) 07:23:04.83 ID:8auQNgfg0
┌――――――――─┐
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彡へu ヽ、 / ⊂、 〈
r"´>、.____ ,.‐'\ リリ
`~´ `) )
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375 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/09(水) 12:52:02.47 ID:LhwJMQ1IO
帝凍庫やめろwwwww
376 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/09(水) 17:38:33.45 ID:bGaRWiSIO
まったくもってずる賢い奴らだぜえ……
舞夏は「うーんダイヤかー確かに欲しいけどそんなもの付けたら目立ってしまうしそれはメイドとしてうんたらかんたらー」とか言いそうだな
377 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岐阜県)
:2012/05/09(水) 19:07:59.39 ID:lTmpeG9n0
舞夏はどこかでメイドとして働いてるのかな
378 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/05/10(木) 00:23:02.65 ID:56D7qMHAO
とりあえずツッチーが自殺してないという事はまだ結婚はしてないな
379 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)
[sage]:2012/05/11(金) 20:30:10.67 ID:xtUap2y00
いやいや、仕事(メイド)中はアクセは付けんだろww、付けるときは
そりゃ彼氏と会う時とか気合い入れて・・・・おや?いつの間にか折り紙が?
380 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/12(土) 21:48:41.00 ID:JUaSEm7q0
乙など、いつもありがとうございます
>>374
いろんな帝凍庫の中でも、特にアレだね
>>376
言いそうww がんばれ兄貴
>>377
学生しながらメイド(アルバイト)してるかも。どこがいいかなぁ
>>378
>>379
つっちーが、「ガチで手を出している」に100万ペソ
続きいきます
381 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/12(土) 21:52:23.42 ID:JUaSEm7q0
決行前日の夜のことだった。翌日は朝一番から研究所襲撃のために行動を起こす予定になっている。
アメリカから空輸されてくる銃器類の受け取りに学園都市外に出なければならないし、
一方通行自身が侵入する施設を下見に行こうと思っていた。
そんなことを夕飯を食べながら考えていたので、打ち止めの姿がキッチンに見当たらないことに気づくのが遅れた。
(……いつから?)
シンクを見ると、打ち止めの食器が水に漬けてあった。自分はどれほど時間をかけて夕飯を食べていたのだろうか。
一方通行は箸を置いてキッチンを出る。
リビングにもいない。風呂場にもいない。壁に手をつきながら、廊下を早歩きで戻る。
「打ち止め」
返事はない。
「打ち止め!」
「はーい? なーに?」
通り過ぎようとした寝室から、聞きたかった声が。でも室内は照明がついていない。薄く開いていたドアを押し、一方通行は妻を見つける。
打ち止めは廊下から漏れ入ってくる明かりと、ベッドサイドの簡易照明だけで洗濯物を畳んでいた。
382 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/12(土) 21:55:10.81 ID:JUaSEm7q0
「……電気もつけないで何やってンだ」
「見れば分かるでしょ。カゴで両手がふさがって、そこのスイッチが押せなかったの、ってミサカはミサカはあなたに電気をつけてもらいたかったり」
洗濯カゴをベッドか床に置いてから照明をつければいいのに、ものぐさな彼女はそれをしなかったのだ。一方通行も普段ならそんなこと、どうとも思わないが、今はタイミングが悪い。
「それで? 大声出してどうしたの?ってミサカはミサカはご用事を聞いてみたり」
「あ、……見当たらねェから探しただけだ。なンでもない」
それだけであんな声で呼ばれるだろうか?
打ち止めは不審に思うも、一方通行がおざなりなお手伝いを始めてしまったので、慌てて皺を作りたくない衣類の整理に追われてしまった。
だからキッチンに戻ってきた時、夫がまだ食事を食べ終わっていないことを知って再び疑念が湧き起こる。
(……最近この人変だよね)
「最近あなた変だよね、ってミサカはミサカはテーブルを指さして問い詰めてみる」
「…………」
そこには食べかけの夕飯。もちろんすっかり冷めている。一方通行はテーブルに近づき、行儀が悪いことに立ったまま残りを口へと掻き込んだ。
ようやく空になった食器を打ち止めがシンクへ運び、そのまま一方通行の手を引いてリビングのソファへと移動。
「さぁ、何を隠しているのか……ミサカに全てぶちまけてもらおうか、ってミサカはミサカはいぶし銀な取り調べをしてみたり」
「……」
「んー? 黙ってちゃ分からないぞ?ってミサカはミサカは優しく問いただしてみる」
「……」
「お願ぁい。教えて教えて。ねぇ、教えてくれないとイジメるぞぉ」
「……」
383 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/12(土) 21:57:39.80 ID:JUaSEm7q0
(黙ってても分かるよ……)
いつもそうだった。一方通行は打ち止めを守るためにいつも……
(ミサカも一緒に、あなたと同じもの見てたいの)
ふざけた取り調べだったので、このまま黙秘で切り抜けようと思っていた一方通行は真剣な眼差しの打ち止めに息を飲む。
「ミサカはもう小さいままのミサカじゃない。あなたと結婚して、あなたの赤ちゃんを産む奥さんだよ、ってミサカはミサカは訴えてみる」
「そォ、だな…」
「うん、奥様だもん。教えて旦那様」
一方通行は言ってもいいかと考え直す。当初は心配をかけたくないので、打ち止めには秘密で遂行しようとしていた。
しかし、打ち止めは知りたいという。妻となった彼女がそう望むなら、今回の計画を話しても差し支えないと判断した。
御坂美琴から第一報を受けたところから、順番に全てを明かす。明日、旧知の者と共に襲撃に行くということも。
「オマエが心配するような危ないことはしねェよ。ただコッチの意思を示して、ヤツらとの間に線を引きたいだけだ」
やはり、打ち止めの顔は少し曇ってしまった。一方通行が荒事をしようとしているのだから無理もない。
しかも原因は二人の結婚と妊娠であり、我が子を含めた『家族』の平穏を案じてしまう。
384 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/12(土) 21:59:56.83 ID:JUaSEm7q0
「……ミサカは明日どうすればいいかな。あなたの気が散らないように……そうだ、病院の地下にいようか」
「あァ、それいいなァ。番外個体に残業させときゃまず大丈夫だろ」
あそこならセキュリティも完璧だ。無断欠勤の多い番外個体だが、理由を伝えれば出勤するだろう。
それどころか、襲撃組に加わりたいと息巻く可能性さえある。
「夫婦で協力して困難を乗り越える……。これでミサカとあなたの愛は益々深まっていくね、ってミサカはミサカは興奮してみる」
「馬ァ鹿」
暗部にいた頃を思い出すような事に及ぶというのに、一方通行の胸中は以前と違う感覚で満たされていた。不条理や怨嗟に叫ぶ声もない。
家族を守らなければという当然の使命感に燃え、一家の大黒柱は戦いに行く。
「うっふっふー。明日は忙しいあなただから、今夜のうちにいっぱい甘えさせて、ってミサカはミサカはまずは膝枕を所望してみたり」
「そこは『ゆっくり英気を養ってね、なンでもしてあげる』とかじゃねェンかよ」
「レディーファーストだよ。まずミサカから……」
385 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/12(土) 22:07:36.93 ID:JUaSEm7q0
とりあえずここまで。
短くてすみません。次はもう少し早く投下できるようにしたいです。
1スレ目を立ててから10ヶ月…
1年を超えることなく終わりたい。
386 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/05/12(土) 22:54:24.35 ID:1oDRLbquo
おつです
387 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/05/13(日) 00:32:11.20 ID:aC7k8ucAO
別に一年なんてぶっちぎっても良いのよ?
388 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/13(日) 07:00:20.65 ID:dNXJ5+EDO
>>1
乙ぱい
1年超えたっていいじゃなーい
打ち止めの臨月ぱいが非常に気になる今日この頃
389 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/05/15(火) 19:01:09.31 ID:FIsE4TTc0
1スレ目からやっと追い着いた
これからもこっそり応援させていただきます
390 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/16(水) 00:14:36.40 ID:n9+P7/rf0
>>387
>>388
いや、キリがいいので『一応の』目標にするわ。一応の。
おっぱいについては期待して待っててください。
>>389
まだご新規さんているんですね驚き。素直に嬉しい。堂々と応援してほしい。
そしていつから追走が始まったかだけ教えてください。どれだけ時間をかければ追いつくんですか。
続き投下します。
391 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/16(水) 00:17:54.79 ID:n9+P7/rf0
とある個室サロンで、土御門元春、海原光貴、結標淡希は会話もなく過ごしていた。
土御門は長椅子に寝転がっている。サングラスをかけているので眠っているのか不明。
海原は薄い文庫本を読んでいて、結標は携帯端末を弄っていた。
「……あいつ遅いわね」
「まだ集合時間前ですよ」
その会話を聞いて、土御門がゴロリと寝返る。大きな体を器用に動かし、細長い椅子から落ちる危うさは皆無だった。
「杖をつく音がする。そこまで来ているぞ」
全員が出入り口のドアを見る。数秒後、それを開けて中に入ってきた男は意外な風貌をしていた。
白髪赤目の色白の青年が入ってくると思っていたが、現れたのはサングラスで目を隠した黒髪の男だった。しかし、見覚えのある杖と背恰好で一方通行だと分かる。
「全員集まってンな。一応の装備を持って来たが、急だったから」
「ちょっと待て。お前一方通行か?」
「は? 当たり前だろ。髪染めただけでナニ言ってンだ」
「なんで染めてんのよ」
「そしてなんでサングラスなんですか。サングラスは既に土御門さんという担当者がいるんですよ」
「俺の存在意義がサングラスみたいに言うのはよせ」
この男が一方通行だと分かっていても、土御門達は聞かずにはいられない。
臨時従業員は「答えなければ仕事しない」という態度を表した。一方通行は舌打ちする。
392 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/16(水) 00:19:50.28 ID:n9+P7/rf0
「今回の作戦は別に破壊が目的じゃねェ。馬鹿共に身の程を思い知らせてやるのがキモだ」
「分かってます。それとその変装になんの関係が?」
「余計な波風は立てたくない。各研究機関にも上にも、『一方通行』が動いたことを勘付かせるだけ……にとどめるのが好ましい」
大暴れしたことが原因となって、昔のようにまた飼われるのはゴメンだ。
手を引くならこれ以上は勘弁してやる、という意思表示をするだけ。
壊し過ぎてはいけない。かといって手を抜き過ぎて根を残してもいけない。要はバランスだ。
「白くて赤目、っていやぁ、嫌でも一方通行を連想させるからな。しかも狙ってる研究対象なら一発だ」
「つまり、『もしかして一方通行が?』って匂わせる程度がいいのね」
「貴方がそんな気を回すなんて……」
「ンだよ、その目はァ……」
「大人になったんだにゃー」
「大人になったのねぇ」
「大人になったんですねぇ」
「喧嘩売ってンのかオマエら」
(土御門はサングラス越しだけど)三人の視線が同じ色を帯びて一方通行を見ている。なんだか腹が立つ。
一方通行はまったくの遠慮無しで、低い声と共に睨みつけるがこの三人は動じなかった。それは第一位の赤い目が隠されているせい……ではない。
393 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/16(水) 00:22:29.23 ID:n9+P7/rf0
「もォいい。オマエらとっとと働け。……この中から必要な物があれば使え」
「おや、随分雑多な」
一方通行が引っ張ってきたキャリーバッグの中には、幾つかのハンドガンと銃弾が詰まった箱。その他にも、
「この包みは何?」
結標がオレンジ色のザラ紙に巻かれた塊を手に取る。大きさは彼女の片手に収まるほど。
「C4だ。気をつけろよォ」
「お前は本当に穏便に済ます気があるのか」
それはとてもポピュラーな爆弾である。よほどの衝撃を加えなければ爆発したりしないので、鞄に一まとめにしてきたのだ。
ツッコミつつも、幾つか持って行くつもりの土御門に、一方通行は対応する起爆装置を渡した。
「使い方は分かるよな。余らせると、かえって足がつきやすいから使い切れよ」
「あいよ」
結標は何も受け取らず、自前の軍用ライトを軽く振った。彼女もこのような『仕事』は久しぶりなので、念のために物置から引っ張り出してきた物だ。
そして上着を脱ぎ、袖の部分を腰に回して結んだ。革素材のチューブトップが、豊かな胸を包んでいる。透明なストラップが肩に掛かっているので、何かしらバストもカバーされているようだ。
昔はサラシを巻いていたが、今日はこのスタイルで臨む。
気合いを入れていると、一方通行が自分の胸元を直視していて結標はぎょっとする。
394 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/16(水) 00:25:10.58 ID:n9+P7/rf0
「な、なによ」
「……別にィ」
女の味を覚えた一方通行が、てっきり自分に欲情でもしたのかと思ったが、彼は心底興味無い素振りで顔を背けてしまった。
銃を二丁選ぶと、ひとつはズボンに突っ込み、もうひとつは厚手のジャケットの内側に収めた。そこにはホルスターが吊るしてある。
予備の銃弾をポケットに詰めながら思い出すのは、妻である打ち止め。
(さっさと終わらせて、迎えに行かねェとなァ…)
「驚きました。一方通行さんがセクハラをしているのかと思いましたよ」
「俺も。嫁さんが妊娠中って旦那の浮気が多いって聞くし」
一方通行が結標の胸をじっくり見ていたことは土御門と海原も意外と思って気づいていた。彼女の胸を見て打ち止めを思い出していたなどと言えるわけもない一方通行は、「うるせェ」と一言呟いて先にサロンを後にする。
早く仕事にかかれば、帰りも早くなるから。
395 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/16(水) 00:30:05.92 ID:n9+P7/rf0
前日の下見の成果もあって、一方通行は易々と施設内に侵入できた。
目撃されないよう、頻繁に電極のスイッチを切り替え、周囲を警戒しながら奥へと進む。
一方通行と打ち止めに関わる情報や物質的資料の奪取、破壊はもちろんだが、その他の主力研究項目についてもダメージを残すつもりである。現在進行している仕事が滞れば、まだ産まれてもいない自分の子供にちょっかいを掛けている暇も無くなるはずだ。
(こォいう所のセキュリティってェのはどこも同じだな。逆に辿ることさえ出来れば勝手に案内してくれやがる)
張り巡らされている侵入警報装置の位置や、人間の心理を考察すれば、それは一方通行にとって容易いことだった。普通は<逆に辿る>など困難なので、セキュリティの意味を成している。
今は深夜だが、大規模なこの施設が無人になることはない。泊まり込みの宿泊設備も充足しており、風呂上がりの私服で歩く者もいた。
どうしても回避できない時には、先手を打って相手を昏倒させた。近くの適当な物影や個室に隠し、できるだけ迅速に核心部へと歩を進める。失神させた者が誰かに発見されて騒ぎが起ころうとも、それはそれで構わない。どうせ自分以外は全て敵なのだから、いっそ対処しやすい。
(ふン…。ここも一応覗いていくか……)
これまでに何部屋か調べてみて、壊すべき物がないか確認してきた。外部へ漏らすことのできない重要な研究ほど、
こうして中心部に集められているのだから、この辺りからは尚更注意していくつもりだった。
396 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/16(水) 00:32:55.73 ID:n9+P7/rf0
五十畳ほどの広さの部屋には、白衣を着た職員が二人と、灰色のスーツ姿の三人の男がいたが、ほぼ同時に気絶させる。
一方通行はスーツの男を踏みつけて、幾つものモニターが壁一面に設置された場所に立つ。起動されていた近くのパソコンを構うと、それは探していた一番の標的だった。
彼自身のこと、打ち止めのこと、産まれてくる息子についてのデータが入力されている。
幸い、生体細胞などの遺伝子データは取得されていないようで、あくまでも一方通行達の現状や周囲の情報だけだった。
(そこに関しては、俺が普段から細心の注意を払っているから当ォ然だ。杞憂だったか……)
これを跡形も無く消して、さらなる主要研究にも傷をつけていけば任務完了だ。
念のため全てのデータを閲覧しようと、一方通行は能力を使って処理を始める。
(………………)
その作業は一分足らずで終わった。終わったが彼は動けない。
(何だよこれはァ……!?)
画像もあったので、目の前のモニターに映し出してみた。それのせいで動けない。
怒りに震える握りこぶしだけが、この部屋で動いている唯一のものだ。
397 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/16(水) 00:36:05.55 ID:n9+P7/rf0
どれほどの望遠で盗撮したのだろうか。画面には一方通行と打ち止めが映っている。
見覚えのある場所で肩を寄せ合い、腕を絡める二人。
信号待ちの愛車の中、運転席と助手席から顔を近づけてキスを交わす二人。
暗い時間帯にフロントガラス越しに撮影されているのに、それはしっかり確認できる。さすが学園都市の科学技術。
(誰だこれェ!? 俺か、本当ォに俺か)
いつもの病院の正面玄関。打ち止めの腹を撫でながら歩く一方通行の細められた目。こんな顔で笑う自分を客観的に見たのは初めてだ。
元グループで襲撃するポイントは全部で九ヶ所。とくに規模の大きい二ヶ所を一方通行が担当するわけだが、
他の七ヶ所もこのようなデータを持っている可能性が高い。ただしこれほどの盗撮映像を揃えられたのは、人材も資本も豊富であるここぐらいであろう。
……と思い込みたい。
土御門も、海原も、結標も、今頃腹を抱えて笑っているかもしれない。データのコピーをしているかもしれない。そんなことはないと願いたい。
タイミング悪く、土御門から携帯端末に音声着信が。
398 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/16(水) 00:38:15.91 ID:n9+P7/rf0
『ぶふっふ、おま、外でナニしちゃいかんぜよ。あんなことしてちゃバレるのも、っプー!』
『ちょっと見てください。キスしてますよあの一方通行さんがキスしてますよ。小さい御坂さんと許せないこんな』
通話口からは海原の声までも聞こえてくる。隠密行動を心掛けろといった作戦中に、コイツらは何を大騒ぎしているのか。
『当たり前だにゃー、落ち着け海原。妊娠するようなことまでしといてチューしないわけないだろうが』
『だってだって公園のベンチでなんて破廉恥極まりありません!』
付き合っていられないので、一方通行は電話を切った。電源も落とす。このままでは結標からも掛かってきそうだ。
(気が変わった)
打ち止めには怒られるかもしれない。後で煩わしい事後処理に追われるかもしれない。それでも彼はもう決めた。
(徹底的に、ぶっ壊してやらァ)
399 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/16(水) 00:41:30.50 ID:n9+P7/rf0
直後、爆風と局地的な地震とも思える揺れが研究所を襲う。同じ現象は、一時間後にもう一ヶ所でも起こった。
ちょっと灸をすえるだけのつもりだったのだが……。これでは超電磁砲を責められない。
建物が崩れる轟音。混乱し逃げまどう人々の叫び声。
粉塵や、まだ壊れていないスプリンクラーから噴射される水で、視界はとても悪い。
それでも多くの者が見た。一人の男が地を蹴り、腕を振るうたびに新たな破壊が襲うのを。
施設には殺傷武器を持った用心棒もいたが、誰も襲撃犯に対抗しようとはしない。
だってアレって『一方通行』じゃないか!? 髪が黒いけど!
予想以上に一方通行の行動は把握されてしまった。
「余計な波風は立てたくない」と言っていたのは誰だったか……。一方通行は多くの人間に新たなトラウマを刻みつけ、仕事を終えた。
しかし本当に大変なのはここからで、明け方に再度集合した個室サロンでは、
海原からの嫌味に、土御門と結標にさんざんからかわれるという苦痛を味わわされるのであった(残り少なくなっていたバッテリーを消費して黙らせたけど)。
400 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/16(水) 00:44:43.61 ID:n9+P7/rf0
グループだヨ! 全員集合! の巻 完
四人しかいないけどね。 あ、でもドリフターズも五人しかいなかったやそういえば。
401 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/16(水) 01:28:03.45 ID:TX6WdvBIO
クウェンサー「C4よりハンドアックス使えよハンドアックス」
402 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/16(水) 02:59:03.90 ID:MpoJqodDO
>>1
乙ぱい
もしかして海外サイト探したら通行止めの動画見つかったりして…
…あ
403 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/05/16(水) 06:27:14.25 ID:P6ehAPUYo
流出って……怖いですよね……)まがお おつっしたー!
404 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/16(水) 11:22:37.62 ID:S0f1lfPDO
セロリとラストオーダーの野外盗撮物か……
ちょっと探して(ギャー
405 :
>>389
[sage]:2012/05/16(水) 22:34:05.94 ID:W5MX7wAc0
>>1
乙ですやっぱグループは微笑ましいですね
>>390
先週の金曜くらいから少しづつ消化していった感じです
406 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/17(木) 00:04:00.44 ID:7euSVND70
>>401
一方「持ってねェ」
>>402
>>403
>>404
外ではキス以上してない、はず。
でもそういう設定も燃える。ビデオがあったら大枚はたいても入手したい。誰か作ってくれ。
>>405
私でもそんなに早く読む自信はない…… ありがとう。
今回の一方さんは最高に…、最高です。
407 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/17(木) 00:06:22.44 ID:7euSVND70
十一月。
打ち止めはもうすぐ妊娠七ヶ月目となる。すでに普通の洋服は着られなくなり、いつもマタニティウェアを着るようになった。最近は妊婦さんのニーズに応え、随分と可愛らしいデザインの物が増えており、一方通行と二人で楽しいショッピングをしたものだ。
今日は平日だが、自由業のような一方通行は朝から家にいる。打ち止めに代わり、朝食作りと洗濯をし、愛犬のブランカをブラッシングしていた。
「あぅーん」
「こりゃ夏毛か。反対側もやりてェンだよ。転がれ、ほら」
「へっ」
「転がれって……」
夫が犬の世話にやっきになっている声を聞きながら、打ち止めは昼食の用意をしていた。
「あなた、反対は後でミサカとやろうよ。ごはん出来たから先に食べよー、ってミサカはミサカはおたまを鳴らしてみたり」
「おゥ」
気持ちのいいブラッシングが中断されてしまい、白いハスキー犬はがっかりしてご主人様を見上げる。だったら大人しく反転すれば良いいのだが。
「後でな」と一方通行に頭を撫でられ、そのまま昼寝に突入した。
408 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/17(木) 00:09:30.82 ID:7euSVND70
昼食を食べた後、夫婦はソファで腹休めをしている。
ブランカは鼻を「ぴーぴー」鳴らして寝続けているので、ブラッシングは日を改めてもいいかもしれない。
「まったりー、ってミサカはミサカはあなたに甘えてみるー」
「食ったばっかなのに、苦しいだろォが。しかも最近オマエ急激に重くなってきたし」
「仕方ないでしょ! 息子ちゃんが急成長中なんだから!ってミサカはミサカはデリカシーの無いあなたに制裁を与えてみる!」
「うっ。……俺もそォいう意味で重くなったと言ったンだ。深読みしすぎだ阿呆…」
二人でじゃれあっているのが楽しいので、愛犬が催促しないのをいいことにこのまま『遊ぼう』と思っていた。
重い、と難癖つけつつも、一方通行は膝に乗ってきた打ち止めを支えてやる。
自分の胸板に背中をくっつけ、頭をすり寄せて来る打ち止め。アホ毛がくすぐったい。
胎児の負担にならないように、妊娠後はこうして後ろから抱きしめることが多くなった。日に日に、腹へと回す手が遠くになっていく。
マタニティウェアの上から、その腹を撫で、髪を梳き、頬や耳に指を滑らせてやる。打ち止めはブラッシング中の犬のように、甘えた声を漏らした。
「ん〜」
「ン……」
時折首を捻ってキスをねだられる。一方通行はその都度応えた。
打ち止めに言わせれば、背後から「キスしたい」という無言の訴えを感じていたからだが。
409 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/17(木) 00:11:47.87 ID:7euSVND70
一方通行の手は、ゆっくり優しく、子供が宿る腹を……撫でるフリして打ち止めの胸をかすめる。
妻から異論が出ないので、彼は本格的に行動に出た。
太ももまであるマタニティウェアの裾を摘まんでたくし上げ、中に手を侵入させる。打ち止めも時折体を浮かせ、夫を手助けしてあげた。
スポーツブラ下に手を突っ込み、右手も左手も対象に動かす。ブラのゴムが伸びてしまうが、一方通行が楽しそうにしているので、打ち止めは容認した。自分も結構楽しいし。
だんだんと激しさを増す夫の手。打ち止めは支えを求めてソファの端と、一方通行のズボンを握って体を安定させる。
「あ、あ」
「イイか?」
「……うん」
一方通行が含み笑いをこぼす。きっと口も吊りあがっているに違いない。
今回はまだ真っ昼間だし、彼の余裕の態度から、これだけの『遊び』で済みそうだと、打ち止めは至って平静だった。
410 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/17(木) 00:13:48.72 ID:7euSVND70
(……? なンか、手が濡れてねェか?)
胸しか触っていないのに、両の手の平に湿り気を感じ、一方通行は右手だけを服の下から出して確認する。左手の動きも中断したので、打ち止めはどうしたのかと彼を見上げた。
一方通行が手を凝視しているが、その手は彼女の視界には入らない。
「これ見てみろよ。なンか濡れてるだろォ? な?」
「あ、ほんとだ、ってミサカはミサカは汗をかくほど暑くないのに不思議だったり」
「もう十一月だぞ。こンくらいで汗出るわけねェだろォが」
「じゃあ何?」
打ち止めは本当に分からないらしい。一方通行は少々言いづらそうに、打ち止めの耳元で囁いた。
「……母乳」
「え?」
411 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
:2012/05/17(木) 00:16:39.83 ID:zwAbXpuAO
わっふる
412 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/17(木) 00:16:44.35 ID:7euSVND70
「だから母乳」
「えぇ!? もう!? だって産まれてくるのは三月だよ?ってミサカはミサカは気が早いお胸に驚いてみる」
打ち止めが膝の上でじたばたするので、一方通行はがっちりと胸と腹の上を押さえて落ちつかせた。
「おそらく初乳ってやつだ。早ければ今ぐらいから分泌が始まる。色も透明だし間違いねェよ」
「随分詳しいのね、ってミサカはミサカはスラスラと出てくるおっぱいの知識に感心してみたり」
「…………」
まるで打ち止めの胸から母乳が出るのを、一方通行が待ち望んでいたのかと勘違いされているような。
「手当たり次第に文献や医学書を調べてあンだよ。少しでもリスクを回避してェから。変な誤解すンなよ」
「?? 誤解って?ってミサカはミサカは焦ってるあなたをとりあえず宥めてみる。どーどー」
「!……、く」
焦りは深層心理をごまかしたいからか……。一方通行は項垂れる。
少しも焦らない彼女に申し訳ない気になってくる。自分だけが後ろ暗い欲望を持っているみたいで。
余裕の打ち止めが、ちょっと憎らしいぐらいだ。
413 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/17(木) 00:20:01.05 ID:7euSVND70
結果、ごまかしなのか照れ隠しなのかは置いといて、一方通行の行動はヒートアップしていった。
「ちょっと服脱いでみろ。ついでに調べてみっから」
「し、調べるって……。いいよ。明後日には病院で検査があるし、ってミサカはミサカはそこで正しい指導を受けるつもり」
「最高の頭脳が申し出てンだ。遠慮すンな」
「遠慮なんてしてないよぉぉぉぉ」
両脇を持ち上げられて、打ち止めは一方通行の膝から降ろされた。かと思うと、間髪いれずに服を捲り上げられ、胸を露出させられる。
逃げようにも、一方通行が真正面から覆いかぶさっているので叶わない。
(能力も使ってないのに素早すぎだよあなた……!)
一方通行はソファに片膝をつき、いざ胸を揉んでやろうと手を構える。
(っと、その前に)
彼は自分のジャケットを脱いで、打ち止めの腹にかけた。冷やすといけないから。
「そんな気は使わなくていいから思いとどまってほしいの、ってミサカはミサカは変態行為をしようとするあなたに呆れてみる」
「誰が変態だこらァ」
「んんっ、いたぁい。っ……せめて優しくして……!」
「悪ィ」
妻も覚悟を決めてくれたようだ。一方通行は慎重に、でも許される限りの強さで乳房を揉む。母乳が出ないものかと、胸板から先端へと絞るように力を加えた。
414 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/17(木) 00:25:11.04 ID:7euSVND70
(出ねェな。両手でやってみるか)
まず、向かって右側の乳房にターゲットを定め、上下から十本の指で膨らみ全体を掴む。そしてじわり、じわりと握り込んでいく。
「あっ」
打ち止めの体がビクリと震えたが、まだ堪えてくれている。もう少しだけ我慢してくれと、一方通行は圧力をかけた。
だから注視していた乳首からほんの少しの液体が出た時、思わず声が。
「お!」
興奮した声と、乳房を絞る手が離れたことで、打ち止めは目をつむって背けていた顔を夫に向けた。
「……出たぞ」
「わぁ…。赤ちゃんはこれを飲んで大きくなるんだね、ってミサカはミサカは自分の体だけど母体の神秘に感銘を受けてみる」
「やはりほとンど色はねェ。これから濃くなってくンだろォな」
一方通行は指先で乳房に垂れている母乳をすくって、二人の顔の間に持ってくる。打ち止めのも興味津々で見入っていたのだが、
それが夫の口に運ばれていくので、まさかと思って止めようとするも間に合わなかった。
「やだっ」
「…味はない」
「……!」
口の中で舌を転がし、自分の母乳を味わわれている。無味無臭らしいけど、そんなことは関係ない。これはとても恥ずかしい。打ち止めの顔は真っ赤になった。
その様子が、一方通行の嗜虐心を煽る。こんな初心な仕草の打ち止めを見るのは久し振りだ。
「あーっダメダメダメ〜!」
「っちゅゥー」
「あぁ! やめて! もうっ」
「ちゅ、ン、ちゅー」
打ち止めの胸に顔を埋め、思いっきり吸った。妊娠前はこうして責めてやるのが好きだったし、打ち止めも喜んでくれていた。
妊娠後は乳首への刺激は早産、流産につながるということで控えていたため、こうするのは、
(六ヶ月振りか……)
半年も打ち止めの乳首をおあずけしていた反動が、今まさに溢れ出ていた。
(ちょっとくれェいいだろ……)
「はぅ、……で、出てる?ってミサカはミサカは恥ずかしながらも聞いてみる」
「ぷは。分かンね、味無ェし」
今度は反対側の胸へと口を寄せる。母乳が出ているとしても、一方通行自身の唾液と混ざってしまい判別できない。
415 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/17(木) 00:30:46.35 ID:7euSVND70
「まるであなたが赤ちゃんみたいよ、ってミサカはミサカは大きすぎる子供にそろそろ解放を求めてみたり」
「今後の練習だと思え」
「あのね、赤ちゃんはね、歯は生えてないの…! 噛まないで、えぇ」
「…………」
「無視かい。大体あなたのお母さんはヨミカワでしょ、ってミサカはミサカは役不足のはず」
「オマエのがいい」
「ん、っふ。あぅ、どうしてだろ、すごい殺し文句のはずなのに、あっ」
イマイチかっこよくないのは、母乳を吸おうと乳首にむしゃぶりついているからだ。
一方通行は何を言われてもやめるつもりはない。ずっと中腰だったので、ソファに寝るよう促した。ためらいながらも、夫に甘い彼女は背中を滑らせて仰向けになる。これでもっと一方通行が調子に乗るだろうが、そんな人を好きになった自分の負けだ。
もう逃げませんから、あんまりがっつかないで。
打ち止めは胸の上で蠢く夫の頭を抱え、溜息をついた。
(でも、これからおっぱいがどんどん出てくるようになるんだよね、ってミサカはミサカは吸われるべきか拒否するべきか悩んでみる)
416 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/17(木) 00:34:39.25 ID:7euSVND70
一方通行、打ち止めの乳を吸うの巻 完
吸うに決まってんじゃん。飲むに決まってんじゃんここの一方さんなら。しかし、引くわ〜。
小ネタ(稲中パロ)↓
一方「おっぱいが俺に囁くンだ……」
右乳首「こっちの乳首はあ〜まいぞ〜♪」
左乳首「こっちの乳首もあ〜まいぞ〜♪」
浜面「すげぇな一方通行…。おっぱいと会話したんか」
上条「で? どっちを吸ったんだ?」
一方「よせてりょーせーばい」(幸せ笑顔)
浜面「贅沢は学園都市の敵です!!」(悔し涙)
上条「踏んじゃお!!」(悔し涙)
417 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/05/17(木) 00:36:00.00 ID:1FSWxzc5o
乙。 なんっつーか……当たり前だけど、俺は変態なんかじゃ無かった。 うん、超ノーマル。
一方さん……流石です。レベル高すぎて引かれるレベル。
418 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/05/17(木) 01:01:12.60 ID:zwAbXpuAO
確実に母乳出たらおっぱい吸うよな
どの位確実かというとコーラを飲んだらゲップが出るくらい確実
419 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/17(木) 01:15:03.51 ID:ds3wzjzSO
こら面滝壺さんは出来るだろ
乙
420 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/17(木) 14:03:51.37 ID:r1PiPK9DO
直吸いするかは別として
とりあえず一度は口にしてみたいわな
>>416
このあと打ち止めに
「どーしてそーゆーこと人に言うの?」って怒られるんですねわかります
乙。
421 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2012/05/17(木) 18:38:06.98 ID:QUG32KMio
乙
妊娠発覚から半年以上か
浜面上条たちはどうなったんかな
422 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)
[sage]:2012/05/17(木) 22:01:53.94 ID:/bJOBWsA0
電磁砲とか不良神父とか堕天使メイドとか妖精チラメイドとか
話は付いたのだろうか?
423 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/05/18(金) 01:34:11.23 ID:aWbnupVZ0
そういえば上条さんインデックスにプロポーズしてたっけ
……ヤバい修羅場だ
424 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2012/05/18(金) 08:33:28.10 ID:66+CBi9DO
>>1
乙ぱい
そりゃやっぱ吸ってみるよな!うん!
425 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岐阜県)
:2012/05/18(金) 18:53:30.24 ID:AIVGj5qM0
>>422
>>423
ステイルや神埼は何だかんだで祝福しそうな気もする
修羅場になりそうな面々もいるかもしれないが
426 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/19(土) 04:08:50.15 ID:zUSDk3iDO
>>1
乙ぱい
一方さんも母乳特戦隊の仲間入りか…
427 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/20(日) 01:56:42.70 ID:MBK2qOFb0
前回の投下から一晩開けて、けっこう激しい後悔に襲われたりしました。
でもやっぱ、 吸うよな…
>>419
浜面「吸えるけど、母乳は出ねぇんだもん」
>>420
そのとおりだ。
上条さんと浜面のことがレスで触れられていたし、今回はその辺をちょっとだけ踏まえた話を投下します。
428 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/20(日) 01:58:51.29 ID:MBK2qOFb0
「俺達でキャンプ行ったのって去年だっけ」
「いんや、一昨年だよ。丁度今くらいの季節だったな」
「そーだった、そーだった。楽しかったなぁアレ。また行きてえなぁ」
浜面仕上は軍手をはめたまま腕を組み、遠い目で心を馳せた。
二年前の秋に、一方通行と打ち止め、妻の理后とインデックス、そして隣の上条当麻とキャンプをしたのだ。
その時の彼は自業自得とはいえ、割とぞんざいな扱いを受けたのだが「楽しかった」という感想に至るあたり心が広い。というか感覚が麻痺している。可哀そうに。
「行きたいことは行きたいけどさ、俺達ももう気楽な学生じゃないし。予定合わせるの大変だろ?」
「そっか」と残念そうな浜面。上条は軍手を外して湯呑みを取る。ずずず、と音をさせて熱い緑茶を啜った。
二人は一方通行と打ち止めの自宅のベランダにいる。庭に面した階段に座り休憩中だ。なんの休憩かというと、
「わぁー。すっごくキレイになったね。お庭が見違えたよ、ってミサカはミサカはカミジョウとハマヅラの努力に感謝してみたり」
「なんの。これくらいお安い御用だぜ」
「捨てるのはあそこの隅に纏めといたからな。後で一方通行に運んでもらうといいよ」
「了解、ってミサカはミサカは敬礼してみる!」
おぼんにお茶受けの甘味を乗せてやってきた打ち止めは、庭の大掃除をしてくれた青年二人にそれを勧めた。
「あのままじゃとても新年を迎えられないと心配してたの。あの人は「どォせ春にまた生えてくる」って言って我関せずだったし」
429 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/20(日) 02:00:51.35 ID:MBK2qOFb0
マンション一階の庭つき部屋なので、お手入れしないとそこは無法地帯の荒野となる。
打ち止めが慣れないながらも庭いじりをして平和を保っていたが、妊娠後はそれができなかったため放置していた。
すると草は伸び放題。植木の落ち葉が枯れた草の上に積もり、壁にツタまで這った。そのツタも枯れて茶色くなると、
庭だけ廃墟の様相を呈してしまっていたのだ。
打ち止めがそのことを苦にしているとインデックスから聞いた上条が、
浜面を誘って一肌脱ぐことにしたのである……という名目で、彼女と一方通行の様子を見たいとも思ったし。
(元気に仲良くやってるみたいで、上条さんは一安心しましたよ)
「二人ともお休みの日にごめんね。庭掃除が無ければ、お外であの人と遊べたのに、ってミサカはミサカは友情の妨げになったことを残念がってみる」
「友情ォ? ふざけたこと言ってンなよ」
実は家主の一方通行もずっと家にいる。ソファに寝転び床に垂らした手で、伏せる愛犬の背中を撫でながら。
時折力を込めると、嬉しがって尻尾で床を掃くのが可愛らしい。ベランダにいる男達からは死角なので平気だ。
「ツレナイこと言うなよ一方通行」
「まぁ確かに一方通行が友達かっていうと、全力では頷き難いよな」
「そォいうこった」
頭の一部しか見えない一方通行に上条が手を振り、浜面は饅頭を噛みながら首をかしげた。
「でもこうして庭掃除を買って出ちゃう程度の仲なんだよな」
「良いこと言うなぁ浜面」
「俺は頼ンでねェっての」
打ち止めとインデックスの世間話が、偶然上条の耳に入っただけのことだ。
(アイツらと、あと(旧姓)滝壺が仲良いせいだろォが)
430 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/20(日) 02:02:24.51 ID:MBK2qOFb0
「嫁三人の仲が良いからな俺達。必然的にこうなっちまう」
浜面も一方通行と同じ意見である。それは面白くないと思った一方通行は賛成の意を封印した。
上条はそれ以前に、『嫁三人』という呼称に反応を示す。
「お、俺とインデックスは、まだ夫婦じゃねーだろ…」
「プロポーズ大公開したクセになに照れてんのよ」
「つーかよォ、オマエらいつ結婚できンだよ」
「うるせー。上条さんだって一生懸命頑張ってるの。もう何度イギリスに足を運んだことか」
そして、たまに火傷を負って帰国していた。
インデックスはイギリス清教のシスターである。彼女の所属組織に結婚の了解を得るべく、上条は奮闘しているという。
土御門元春が「俺も巻き込まれて……。一緒に燃やされそうだぜい」と嘆いていたのを知っていた一方通行は、
改めてインデックスの複雑な立場を不憫に思った。
ひとつ屋根の下で肩を寄せ合うだけの幸せもアリだが、当人同士が結婚して絆を確かめ合いたいというならそれが正解だ。
自分が打ち止めと夫婦になってそう実感したように。
431 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/20(日) 02:05:26.17 ID:MBK2qOFb0
「カミジョウとハマヅラもお昼ごはんもうすぐだからね。こんな所じゃ寒いから、あの人と一緒にソファで待ってて、ってミサカはミサカは調理を再開してみる」
「かえって悪いな。大した労働でもねぇのに」
「今のミサカとあの人にとっては重労働だったの、ってミサカはミサカは大助かりしちゃったり」
浜面は頭を掻きつつも、素直に少女の勧めに従った。御馳走されることは来訪する前から告げられていたので。
労働を終えた男達が近づいて来たため、一方通行はブランカの背中にあった手を引っ込めた。
「はぁ〜。体動かしてないと、さすがに寒くなってくるな」
「もうすぐ冬ですし」
そうだ。寒いのに上条と浜面の世話を焼く打ち止めが頻繁に窓を開けるので、
一方通行はその度に震えていたのだ。文句を言いたくても、自分が庭掃除をしないせいだと責められるので言えない。
「…あ」
不意に声を出す家主に視線が集まる。
「炬燵出さねェと」
「ちょっと早いって。ほんとに寒がりだなぁ」
「ちゃんと打ち止めに了解取ってからにしろよ。またケンカになるぞ」
独り言のつもりで言ったのに、上条と浜面からのこのリアクション。一方通行は首をもたげて、客を睨む。
炬燵のことで打ち止めと毎回ひと悶着あることを、どうして知っているのか。
432 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/20(日) 02:07:11.63 ID:MBK2qOFb0
「怖い顔すんなって。嫁ネットワークで俺達にも情報が流れてくるんだよ」
浜面はシレっと言い放つ。上条が「だからまだ嫁じゃねー」と反論しているが、そんなことはどうでもいい。
打ち止めと(旧姓)滝壺とインデックスは仲が良い。だからお喋りもする。彼女達の話題にのぼらないわけないだろう、夫の話が。
上記三人の女性の中で、もっとも口が忙しないのは誰だ?
(……俺だけ情報の流出が著しい)
一万人近くの妹達で構成されるミサカネットワークの司令塔である打ち止め。そんな打ち止めと何年も付き合っているので、
一方通行自身はプライバシー保護の観念が薄い方だと思っていた。
(だからって、炬燵で喧嘩とか一緒に風呂に入るとか、バラされて平気なわけねェだろォが)
まだまだ色々ある。上条達はどこまで知っているのだろう……
一方通行は力なく溜息をついて、寝ていた体を起こした。キッチンからは、打ち止めが昼食を用意する物音が聞こえる。
(今夜仕置きも兼ねて、どンなことまで話してるか聞き出してやる)
433 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/20(日) 02:09:23.53 ID:MBK2qOFb0
食事の後は四人と犬一頭で雑談が始まる。一方通行から口を開くことは少なく、問われれば答える程度だ。
しばらくして、話の主軸は二年前のキャンプの思い出話になり、同じようなレジャーがまた出来たら……という希望が客から述べられた。
「もうすぐ冬だからキャンプはダメだろ? 冬といったらスキーだけど、一方通行は無理だろ?」
「……ソリで滑る一方通行」
浜面の呟きに、打ち止めが吹き出して顔を伏せる。妻としていかがなものか。
「春以降か。どっか行くにしても」
「今度はちゃんと夏にキャンプしようぜ」
ただの雑談のはずが、「春以降」とか、もう一度「キャンプ」とか、やけに具体性を帯びてきた。
打ち止めは春の自分、夏の自分を想像して戸惑う。
春には出産を迎えているはずだ。
夏には慣れない子育てに追われているはずだ。
聞くところによれば、子育ては毎日が戦争で気が休まることが無いという。数時間おきの授乳と、目を離すことのできない危うさ。
(ミサカは参加できないよね、ってミサカはミサカはちょっとだけ寂しくなってみたり)
そんなことは妊娠直後から分かっていたし、当然だと受け入れていた。打ち止めは両手でお腹をかばう。
434 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/20(日) 02:11:48.08 ID:MBK2qOFb0
「オマエらは馬鹿か。俺と打ち止めは当分の間、遠出できねェぞ。行くならそっちで勝手にしろ」
打ち止めのお腹の上には、隣の一方通行からも手が伸ばされる。
上条と浜面はハっと気づいて顔を見合わせた。
「そ、そうだった。打ち止め達はこれから遊ぶどころじゃないな……」
「すまん……。忘れてたわけじゃねぇけど、盛り上がっちまった」
「平気だってば。他のミサカ達や、病院の先生、ヨミカワ達が協力してくれるっていうから、カミジョウとハマヅラはこの人と遊んであげて、ってミサカはミサカは旦那様の交遊関係を優先してみたり」
一番年若い打ち止めの気遣い。そんな健気な彼女に、お客は益々慌てる。
「やめろよ。打ち止めも一緒に決まってるだろ。インデックスだってそうしたいはずだ」
「そうそう。赤ん坊を連れて行けるトコに遊びに行きゃあいいんだよ」
「でもぉ、せっかくだからあの時のキャンプみたいに……」
一方通行は、こんな気遣いの応酬はくだらないと思う。彼の行動原理はいつも定まっているからだ。
「オマエが行きたいなら、出来る範囲で遊べばいい。浜面が言うよォにガキを連れて」
「あなた……」
「それに三年、五年経てば状況は変わるじゃねェか」
子供はいつか立って歩きだし、言葉を覚え、学校に通うようになる。
一方通行はそんな未来のことを考えていたのかと、彼以外が目を丸くした。
「子供が大きくなってから、みんなでキャンプでもなんでもすればいいってことか」
「それまでは近場でエンジョイしようぜ!」
「ありがとう!ってミサカはミサカは感激してみる! さすがミサカの旦那様&その友達!」
435 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/20(日) 02:14:11.15 ID:MBK2qOFb0
和やかな雰囲気のリビング。柄でもないと自嘲する一方通行は少々居心地悪く、その表情は芳しくない。いきなり浜面も同じような顔になった。
「しまった。大事なことを忘れていたぜ」
「なにを?ってミサカはミサカはハマヅラに訊いてみたり」
「俺達も今すぐ子供デキた方がよくね!?」
ガシィッ、と上条の肩を掴み同意を求める。求められた人は茶を吹いて、他人様の家のペットに被害をもたらした。
ブランカはぶるぶると体を振り、結局この場の全員が濡れる。
「んはっ、ぶはっ、浜面、急にアホなこと……!」
「だってココんちの子が成長した頃に理后かインデックスが妊娠すると、結局同じことの繰り返しになるぞ」
「ははぁ、なるほど、ってミサカはミサカはもっともだと頷いてみる」
各家庭の子供の年齢が近い方が、イベントやレジャーなど、何事もこなし易い。
「こりゃあ責任重大だぜ! 俺達の力が試されてる」
「だから俺はまだ結婚もしてないの何度言わせんの!」
上条は若干赤くなった。そんな彼を放って、浜面はソファの上で姿勢を正し、一方通行の方へ体を向けた。
気持ちの良い音を響かせ手を合わせ、第一位を拝む。
「……ナニしてンだ」
「アクセラ大明神様。なにとぞ俺と理后が子宝に恵まれますよーに」
「…………」
「ついでに上条とインデックスもお願いします!」
その後、浜面に訪れた事態については、いつも以上にいつもどおりだった。
436 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/20(日) 02:19:54.95 ID:MBK2qOFb0
主人公達の未来予想図の巻 完
生でシテないのにデキた一方さんだから、きっとご利益あるよ!
上条さんの修羅場。涙をのむ乙女達……
見えないところで展開されてたり。
すっきぃだよっと 言えずにぃ はぁーつぅーこいはぁ〜
437 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/05/20(日) 05:50:29.81 ID:er5afTvio
1月ならギリギリだけど頑張れば学年一緒に出来る…かな?
438 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/05/20(日) 08:40:35.41 ID:xw1D0srAo
乙。 あぁ……確かに遊び友達なら、年が近いほうが良いのかも……なぁ。
年の離れた兄貴ポジションな天使のかご付き息子、ってのもありか!?
439 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/05/20(日) 12:01:24.28 ID:8SwfTveA0
アルビノの子供がアルビノとは限らない
……でも外見打ち止め似のアルビノショタも捨てがたい!
3Hの子供たちがキャッキャしてそれを見守る親バカたちまで妄想余裕でした
440 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/05/21(月) 00:05:07.00 ID:cqdCspGAO
多分裏で3回くらいは上条さん刺されてんだろ?
441 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/21(月) 10:20:15.44 ID:yjFbWfVDO
生まれた子供達の性別次第では、大きくなってからが楽しみですな〜
どこの子供がどこの家に娘さんを下さいと言いに行くのか……
442 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)
[sage]:2012/05/21(月) 20:05:53.71 ID:8kZZD7ga0
銀髪の美少女を取り合うツンデレ少年と熱血バカの幻想を念視しますた
443 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2012/05/21(月) 21:48:58.73 ID:ZkCqJ6ono
乙
イギリス清教を説得できても騎士派、王室派、女王陛下と先は長そう
デキ婚はいろんな意味で上条さんの命がないだろうし
両サイドのパワーバランス維持とか法律とか
444 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岐阜県)
:2012/05/22(火) 23:03:40.22 ID:iORkwbPb0
上条さんとインデックスの子供だと、魔術サイドの色んな勢力に狙われそうだな…
何らかの素養を受け継いで生まれてくるかもしれない
息子でイケメンになれば、上条一族の最高傑作が誕生する(フラグ的な意味で)
445 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/23(水) 21:26:27.97 ID:Ltm214sl0
いいなぁ、幸せな未来予想図は……
それぞれの子供達が仲良い、という妄想で心が穏やかになるね。
上条さんとインデックスの、結婚への道のりは描写するつもりは無いが、かなりの苦労を被ることでしょう。
投下開始します。
446 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/23(水) 21:31:07.14 ID:Ltm214sl0
妊娠八ヶ月ともなると、自分の足の甲が見えなくなるほどに腹が大きくなる。
血圧も高くなるし、むくみやすいし、胃が圧迫されて食事が摂れないなど、妊婦は色々大変だ。
打ち止めが家事を終わらせて少々荒れた呼吸を整えていると、優しく頭を叩かれた。一方通行だった。
「帰ったら俺がやると言っただろォが……」
「ごめーん。でも湿っちゃうから、ってミサカはミサカはあなたの帰宅時間が遅いせいだと言い訳してみたり」
「洗濯物なンざ、湿らせとけ」
寝室の床には取り込まれた洗濯物。ベッドの上には身重の奥さんと心配症の旦那さん。
大天使の加護のおかげか、冥土帰しをはじめとする学園都市の科学と医療のサポートのおかげか、打ち止めと腹の息子の状態は良好だ。
それでも、出来る用心ならなんでもしたい一方通行は、こうして息を荒げる打ち止めを嗜めた。
「明日からは晴れても乾燥機を使え。何か起こってからじゃ遅ェンだ……。頼むから無理すンなよ」
「分かったよ。心配かけてごめんね、あなた、ってミサカはミサカは二人一緒になでなでしてみる」
座る打ち止めの腹に耳を押し付けていたら、両手で子供(がいる腹)ごと抱え込まれた。
しばしそのまま……
「あ、動いてるの分かる?」
「あァ。元気のいいこった……」
もう能力を使わなくても、こうして触ったり、耳をつけていれば一方通行も胎動を感じられる。
あと少し、あと三ヶ月もかからずに産まれてくる。打ち止めとの間に授かった子供が。
447 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/23(水) 21:34:09.86 ID:Ltm214sl0
「…………」
「どうしたの、ってミサカはミサカはぎゅっとされて嬉しかったり」
本当は、もっと抱きしめたい。しかし八ヶ月目のこの腹囲。
態勢が悪いと手が回り切らず、さらに締め付けすぎるのを警戒して、一方通行はかなり手加減した。
(俺が父親たァな……。どうやって抱く? どうやって育てる? どうやって??)
「だいじょーぶだいじょーぶ。なんとかなるよー、ってミサカはミサカは仕返しのぎゅー!」
一方通行の心を見透かしていたような打ち止め。なんの根拠を持ってか、テキトーに夫を励ます。
そんな励まし方でも、一方通行には効果があった。
「はン。気楽なモンだぜ」
「うじうじズーン、って悩んでるよりよっぽど健康的、ってミサカはミサカはあなたのテンションを引っ張り上げてみる」
「分かった、分かった。オマエが大人しくすれば、もっとテンション上げてやらァ」
448 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/23(水) 21:37:35.53 ID:Ltm214sl0
そのままベッドの上で半時間ほどを過ごしていた。
「そろそろ離してほしいな、ってミサカはミサカは晩御飯を作りたかったり」
「……」
一方通行は携帯端末を手に取り、打ち止めの質問には答えずそれを操作した。どこかへ電話をかけているようだ。
「おォ、俺だ。……よく分かったな。後で食いに行く……。あァうるせェ。もォ切るぞ」
「ヨミカワ?」
「そォだ。今日の晩飯は、上の部屋にたかることにする」
「まぁ。お義母様に『嫁失格じゃん!』と責められてしまうわ、ってミサカはミサカは昼ドラ展開を警戒してみる」
「アホ。ブランカに餌やっとけ。風呂は後で俺が沸かすから、オマエは今日それ以上働くなよ」
449 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/23(水) 21:41:22.37 ID:Ltm214sl0
実家にて、黄泉川愛穂、芳川桔梗と共に夕飯を御馳走になった一方通行と打ち止め。四人は炬燵に足を入れて食後の団欒の最中だ。
ちなみにこの炬燵は、一方通行が先日一人で勝手に物置から出した。この部屋には頻繁に訪れるので、自分のために。
「すっかり上げ膳全据え膳でありがとう、ってミサカはミサカは楽ちんしてみる」
「いいのよ。体への負担が大きくて、動くの大変でしょう?」
「使えるものは何でも使うといいじゃん。明日もウチ来るか?」
久しぶりに子供達が「ごはん食べさせて」と甘えてきたのが嬉しかったのか、
黄泉川は大いに張りきったようだ。やけに豪勢なメニューだった。
芳川は厚手のストールを持ってきて、打ち止めの肩に掛ける。
出っ張る腹がつかえて、炬燵に充分に入れないのだ。打ち止めはストールを太ももの上まで被せた。
「もうそんなにお腹が大きくなって……。いつでも産まれてこられそうじゃん?」
「気が早いわよ、愛穂。まだ二ヶ月以上先なのだから」
八ヶ月目ともなれば、仮に早産しても育つケースがほとんどだ。科学と隣り合わせの医療も発達した学園都市なら尚のこと。
そうだとしても打ち止めの出産は、安全すぎるほど安全な道のド真ん中を、安全なスピードで通って欲しい。早産なんてもってのほかだ。
450 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/23(水) 21:45:14.39 ID:Ltm214sl0
「三月になりゃァすぐ産まれてくる。それまで待ってろ」
「分ぁーかってるじゃーん。楽しみだからついつい」
「楽しみなのだけれど、私と愛穂では、産まれた後の戦力になれないかもしれないのよね……。それが心配で」
黄泉川も芳川も未婚である。当然妊娠経験も出産経験もない。
超ハイスペックな科学&医療部隊はついているが、打ち止めには女としての人生の先輩である『産みの母』がいないのだ。
経験者であり、彼女の義母となった御坂美鈴は学園都市外在住なため、
たまの電話でアドバイスと励ましと冷やかしを貰うだけなので、身近ではない。
「私が子供持った時、そいつはとっくに捻くれて成長しきってたからなぁ。産まれたての赤ちゃんなんて、ドキドキするじゃん……」
体のサポートや、夕飯の用意をして負担を減らすことなどワケもない。当たり前のことだ。しかし、経験したことない乳児の子育てとなると、この保護者達とて自信が無かった。
「そんなことで気を落とさないでよ、ってミサカはミサカは大丈夫だから…」
「最初っからアテにしてねェよ。コッチはコッチで準備はしてンだ」
「それは私だって知ってるじゃん。でも心配じゃん。何を言われたって心配するじゃん」
「ウゼェ。ふンぞり返って言うことか」
いつもの団欒だ。じきに、ここに赤子が混ざる。
451 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/23(水) 21:49:18.35 ID:Ltm214sl0
「気が急くわ。もうベビーベッドや服は買ったの?」
「バッチリ! 外からのお取り寄せが多いけどね、ってミサカはミサカは赤ちゃんグッズにもブランドがあったことに驚いたり」
「そんな、産まれる前から贅沢させてどうするじゃんよ」
「仕方ねェだろ。この街はそォいうモンの品揃え悪ィンだから」
それでも数年前に比べたら、子供を育てる環境は充実し始めてきている。
学生だった若者が、結婚、出産後も学園都市内で生活し続けるケースが増えたためだ。
「ベビーカーは? チャイルドシートは? 抱っこ紐は必須と聞いた覚えがあるわ」
「あー全部ありますよォ。つーかもォホントやかましィわ」
一方通行は最高の頭脳をフル活用して、必要と思えるものは既に全て購入していた(手当たりしだい、と言えなくもない)
それらは空き部屋を占拠して置いてあり、自宅の模様替えも兼ねて、近いうちに配置しなければならない。
「そう。どうやらちゃんと準備しているみたいね。良かったわ」
「はァ…。だから今日はこれぐらいで、疲れる話はやめやがれ……」
あくびと共に、一方通行は両手を上げて体を伸ばす。そろそろ一階の自宅に帰るつもりである。
「桔梗も私も、二人がしっかりしてるから安心したじゃん。先のこと色々考えてんだねー」
「えっへん! 一丁前に夫婦なのだよ、ってミサカはミサカは鼻高々だったり」
「はいはい、おみそれしたわ。じゃあ名前も決まっているのかしら?」
「あ……、ってミサカはミサカは……」
「な、名前………………」
学園都市第一位の頭脳は、息子の名前について、まったくのノープランだった。
452 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/23(水) 21:53:27.02 ID:Ltm214sl0
とりあえずここまで。
2スレ目の初期で、通行止め二世の名前が話題になったことがあったっけ。
果たして、以外に普通なのか、キラキラネームなのか、厨ニネームなのか。
453 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/23(水) 22:03:32.19 ID:5RNsgyfto
キラキラネームや厨二ネームは子供が不憫すぎるからなーw
おつー
454 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/05/23(水) 22:07:41.09 ID:N5C+Mt04o
乙。 名前は普通が一番だと思うねん……乙っした−!
455 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)
:2012/05/23(水) 22:22:49.40 ID:/AamTgbs0
乙です。
関係ないけど、とある〜ってどうでもいいキャラには名前があるのに青Pと騎士リーダーに名前が無いのはなんでだろ?ww
456 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/24(木) 18:45:10.30 ID:+RrrVUiIO
>>455
あると思うぜ、ミサキチもあったし
457 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/05/24(木) 21:18:57.58 ID:+WKrftVAO
名前の無いのが名前みたいな
458 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/27(日) 00:55:35.87 ID:mDn43aq40
乙など、いつもありがとうございます。
がりがりさんの「アタリ」が数年ぶりに出て嬉しかったことを報告します。
しかし交換に行けるようなトシではなく、近所のお子様に譲りました。
ちびっこや、妊婦さんを見ては、ネタの対象としてしまう今日この頃。
ところで、ボラギノールは買えるのに、たまご倶楽部は恥ずかしくて買えなかったんですよ… 不思議。
投下します。
459 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/27(日) 00:58:03.63 ID:mDn43aq40
深刻な表情で黙りこくってしまった一方通行と打ち止め。二人は時々目を合わせては、すぐ逸らす。
(あなたも考えてなかったのね、ってミサカはミサカは同じ様子のあなたに連帯責任を求めてみたり)
(忘れてたァ……。やっべェー。打ち止めのセンスは期待できねェのに……)
「あら…、名前はまだだったみたいね」
「大丈夫じゃんよ。世の中には最後の最後までモメるカップルも珍しくないぞ」
保護者からフォローが入り、多少は荷が下りた。それでも、『命名』という大仕事を見つけてしまったからには、落ち着くことはできない。
出産を万全にするため、気にかかる案件は全て片付けておかなければ。
「ミサカ達は事前に決定しておきたいよね、ってミサカはミサカはあなたも同意だと思うけど」
「ンー…、だな。幸いまだ時間はある」
「産まれて数日経ってから、ようやく決まった……なんて話もあるくらいよ。焦ることないわ」
「理由は大体、家族で意見が合わないから。私も桔梗も一方通行達の決めた名前に反対なんてしないじゃん」
だから気負い過ぎなくていい。新婚夫婦は、笑顔で実家を送り出された。
460 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/27(日) 01:00:54.82 ID:mDn43aq40
(名前かぁ。ハト子や金魚ちゃんとは違うんだから、頑張って考えないと)
風呂に入り洗顔した後、寝室に置いた鏡台に座り、お肌のお手入れをする打ち止め。湯に浸かっている間も、息子の名前についてずっと考えていた。
「あなた、どうする?ってミサカはミサカは話題をふってみたり」
「まァ、考えておく……」
ベッドの上から一方通行の返事。今晩は先に入浴した彼も、天井を眺めて思案中だ。
「ミサカも頑張って考えるね!」
「……」
気合いの一発でオイルを頬に浸透させる。パン、という音を最後に、打ち止めもベッドに乗った。
「なによその顔はぁ、ってミサカはミサカだってやればできるもん」
「今までの実績がアレだかンな」
「ぶぅー」
一方通行の胸に圧し掛かってやろうと、打ち止めが膝立ちになって彼を見降ろす。
四肢を使って防御しようとした一方通行だったが、妻は「あ」と、後ろを振り向いた。
「しまった、しまった。お腹にクリーム塗るの忘れてた、ってミサカはミサカはこんな人に文句を言う前に日課を優先してみる」
「日課?」
こんな人は両手両足を上に向けたままの、間抜けな恰好で置き去りにされる。打ち止めは部屋を出て行ったかと思うと、足音を途切れさせることなく戻ってきた。手には化粧品だろうか、何かの容器を持っている。
「なンだそりゃ」
「あれ? ミサカがお腹につけてるクリームじゃない。知らなかったの?」
「知らン」
その背の低い円筒形は、脱衣所で見た覚えがある。どうせ打ち止めが使っている化粧品だと見当をつけていたので、
大して気に留めていなかった。しかし、『腹につける』という意味は分からない。
「これはね、妊娠線を予防するためのクリームなの、ってミサカはミサカはお肉の無いあなたに説明してみる」
「あァ、これが……」
461 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/27(日) 01:03:50.66 ID:mDn43aq40
急激に大きくなる腹部に、皮下組織が耐えられず亀裂が入る。それは赤や紫の妊娠線となって目に見えるようになり、
出産後も残ってしまうのだ。色が薄くなってほとんど目立たなくなるが、一生消えることはない。
専用のクリームを、マッサージしながら皮膚に塗り込むのが一般的な予防策である。
打ち止めも産婦人科で貰った物を使用しているが、産科医も「あまり気にしなくていい」とのことだったので、こうしてたまに忘れていた。
「いつもはお風呂上がりにつけることが多いから、あなたが知らなくて当然かも、ってミサカはミサカは最近やっと真面目に塗りだしたことを誤魔化してみる……」
寝間着の裾からボタンを外し、手に取ったクリームを下腹の方に塗りつける。一方通行はその様子を興味深そうに見ていた。
「妊娠線……。あるか?」
「う〜っすらと。この辺とか」
悪い目つきをさらに悪くして、打ち止めが指さすところを凝視する。言われなければ気づかない程度の紫色の線が、何本か縦に走っていた。
「これか。……後で消えるンだろ?」
「消えないけど、肌色になって分かりにくくなるよ。世の中のお母さんは全員そうなんだってさ、ってミサカはミサカはそれほど心配してなかったり」
「オマエが気にしてないなら、それでいい」
「むしろあなたのために塗ってるぐらい」
「はァ?」
「あなたがさ、ミサカに、そのー、ちゅーってする時とか。キレイで滑らかなお肌の方がいいかな〜、ってミサカはミサカは気を遣ってみたり」
「…………」
462 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/27(日) 01:08:19.68 ID:mDn43aq40
余計な事を……、と呆れることはできない。確かにそうだから。
馬鹿な事を考えるな、とも怒れない。だってそうだから。
かすかな痕など気にもならないが、予防可能であったり、軽度で済ませられるなら、それに越したことはないだろう。
一方通行は反論しないでおくことにした。
「お気遣いありがとよォ」
「どういたしまして」
「妊娠線って、胸や尻にもできるンだろ?」
「わぁ、楽しそうなカオ、ってミサカはミサカは危険信号キャッチでアホ毛を震わせてみる」
「診てやろォか」
「OKしてないのに脱がさないで!ってミサカはミサカやひゃははははくすぐったいぃぃぃぃ」
「動くなって。布団と服についちまうだろォが」
前を完全にはだけさせた後、仰向けに寝かせて両手にべったりつけたクリームを胸に塗りたくる。妊婦は腹部にだけ妊娠線が現われることが多く、胸、尻、太ももなどに線が出る人は一部である。
「だからお胸は結構なのに、ミサカには必要ないのに! それに量が多過ぎる! ぬるぬるし過ぎてる!」
「今出てなくてもいいンだよ。予防なンだからなァ」
「うぅ、ん。…、はぁ……」
463 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/27(日) 01:12:50.77 ID:mDn43aq40
手を乳房に宛がって、膨らみ全体を回すようにこねる。
両手で片方を左右から挟み、頂きの突起が高くなるように力を加える。もちろんクリームで滑るので、手はすぐに離れてしまった。
それを何度も繰り返す。反対側の乳房も平等(?)に。
胸の周囲や、一方通行の手首や腕にクリームが付着してしまい、ぬめりが足りなくなると、容器に指を入れてクリームを追加する。
人差し指に白い粘土質の塊を取り、ちょん、ちょん、と胸に乗せていった。なんとなくデコレーション。
冷たいクリームが胸につけられる度、打ち止めはいちいちピクリと反応を示す。胸も一瞬遅れで『たゆん』と揺れた。
「ミサカはケーキじゃないよぅ、ってミサカはミサカは例えるなら何ケーキ? やっぱりショート?」
「食わねェよ。大体このクリームは口に入れるモンじゃねェし」
五本の指先だけで、乳房を真上から掴む……そして滑って指が離れる。最近出始めた母乳が溢れ、山を垂れ落ち、それは口を寄せて食べた。というか舐めた。
「食べてるじゃないですか、ってミサカはミサカは……、実は気持ちよくて眠くなってきたり」
「え」
「すやすや、おやすみー…」
「おい、おい本当に寝ンなよ。俺がまだ……っ」
「すぴー」
「…………ね、寝やがった。この流れで普通寝るかァ?」
一方通行は今度こそ置き去りにされた。こんなに近くにいるのに。
切ない心と体を理性で押さえ込み、妻の体が冷えないように布団を腹まで掛ける。
胸はタオルでクリームを拭き取ってからじゃないと、とても寝間着や布団が触れていい有様ではなかった。
その作業の、なんと虚しいことか……
464 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/27(日) 01:15:33.94 ID:mDn43aq40
通行止め、子供の名前を考えるの巻 完
と見せかけてのヌルヌルおっぱい。行きつくところは結局そこだった。
465 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/27(日) 04:17:13.15 ID:I3vigvtDO
>>1
乙ぱい
クリームでテラテラ光る打ち止めのワガママおっぱい…
是非一口頂きたいですな
466 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2012/05/27(日) 04:27:03.93 ID:l2GuSXDAO
未だに大きくなった打ち止めを想像できない……
いつも頭に浮かんでくるのは胸に余計な脂肪がついたアニメの打ち止めです
467 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/05/27(日) 10:36:20.92 ID:IPriO37Ao
一方さんたら野獣やで……オツッシター。
468 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/30(水) 00:40:53.39 ID:eKDTw3X20
乙等ありがとう。
>>466
さては貧乳派? 私は大きなおっぱいの打ち止めばかりが思い浮かびます。
打ち止めのおっぱいのことばかり考えています。そういう病気です。
>>467
最近打ち止めも(旦那さん限定で)痴女っぽいからOK。 痴女と野獣でお似合いだ。
投下します。
469 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/30(水) 00:43:54.44 ID:eKDTw3X20
浜面理后はキッチンでお茶とホットミルクを用意していた。使い勝手の知れないキッチンなので、いつもより少々手間取る。
「できたよ」
「ありがとうなんだよ。りこうにだけ準備させちゃってごめんね」
「ううん。はい、熱いから気をつけて」
「これはどうも、ってミサカはミサカはお客様を働かせてしまったり」
「ラストオーダーはお腹が大きいんだからいいの」
インデックスと打ち止めは、浜面理后からそれぞれカップを受け取った。
今日は仲の良い三人で、ここ打ち止めの自宅で和やかなお喋りを楽しんでいる。
飲み物が用意される前から頬張っていたクッキーにさらに手を伸ばしつつ、インデックスが打ち止めのお腹を見る。
「くるしくない? 重くない?」
「重いに決まってるよー、こんなの。もう慣れたけどね、ってミサカはミサカは体重が九キロも増えたことを豪快に笑い飛ばしてみたり」
「そ、そっか。当たり前のこと訊いちゃった。あはは…」
「もうすぐだね、産まれてくるの。アクセラレータは立ち会うのかな」
「うーん。あの人どうする気なんだろ。ミサカはあの人がしたいようにすればいいと思って、そのへん相談してないや」
正月を過ぎて、打ち止めのお腹はさらに大きくなった。二月中には臨月となり、もう一キログラムほど体重が増える。
重いのも苦しいのも、三月までは続く。それどころか日ごと体の負担は増していく。
そして、難関の出産だ。特殊な事情を抱える打ち止めなので、通常よりもリスクが高い。
470 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/30(水) 00:48:59.70 ID:eKDTw3X20
「出産……。怖くないの?」
インデックスは打ち止めの妊娠と出産のことばかりを話題に上げる。表情も声音も、どこか不安げだ。
「怖くないよ!って言ったら嘘。ちょっと怖いの。でもあの人との赤ちゃんだから平気〜、ってミサカはミサカはノロけてみたり」
「………」
「今日のインデックスは、少し元気がないみたいだね。どうかしたの?」
ティーカップをテーブルに置き、浜面夫人がインデックスに向き合った。修道服を纏ったシスターは、俯いてぽつり、ぽつりと語る。
「私も、夏に結婚するから……。そしたらとうまの赤ちゃん妊娠するんだろうなー、って想像したら」
苦労の末、上条当麻とインデックスはやっと結婚できることになった。
仲良くしていた少女が急に妊娠して、どんどんお腹が膨らんで、もうすぐ子供を産む。伴侶を得て夫婦となるということは、
妻になる自分も、やがて同じように子供を宿すのでは……と、不安になった。未知の世界なのだ。
「インデックス……。心配しないで。ミサカはとっても幸せで、嬉しいんだよ? この幸せは、比べるものが無いの、ってミサカはミサカは不安払拭に向けてポジティブアピールしてみる」
「う、うん……」
「私も赤ちゃん欲しい。ラストオーダーが羨ましい」
片や上条との結婚を控え、妊娠を意識しはじめたインデックス。片や一年半も前に結婚したものの、未だ妊娠していない浜面理后。
「むむ。インデックスには不安がられ、リコウには羨ましがられ、ミサカはなんだか複雑な立ち位置だぞ、ってミサカはミサカは対応に追われてみたり」
思えばこの三人、それぞれの愛するヒトと心を確かめあっておきながら、歩むルートもスピードも、まったく揃っていない。
「ミサカはいささか順番を間違えて赤ちゃんができたんだよねー」
「私は順番どおりだけど、その次がなかなか……。しあげがラストオーダーにコツを教えて貰えって」
「へ? コツと言われても!?」
471 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/30(水) 00:51:41.74 ID:eKDTw3X20
教えを請われても困る。だって避妊していた。避妊具を着けずに最後まで至ったことは、一度もない。最早運としか言いようがない。
口をもごもご。手は無意識にお腹を撫でて、うろたえる打ち止め。浜面夫人の悩みになんと答えれば良いのか……
(コツ? コツって? 旦那様とイチャイチャしていれば、いつか妊娠するのでは?)
「セックスしよう、ってのはナシね。それは前に、しあげがアクセラレータに教えてもらった」
「……あの人ったら。帰ってきたら叱っておこう。でもミサカもそれしか言いようが……」
恥ずかしく、あけすけな既婚者達の会話に、未婚のインデックスが顔を真っ赤にして手を振り上げる。
「ふ、ふ、ふ、二人ともストップ!! 女の子がそんなハシタナイこと言っちゃだめー!」
現役修道女に叱られてしまった。しかし、口の周りに食べカスがたくさんついているのは、はしたなくないのか。
「どーどー、ってミサカはミサカは興奮しているシスターさんを落ち着かせてみる」
「そんなに真っ赤にならなくても。インデックスだって、もしかしたらラストオーダーみたいに、先に赤ちゃんできるかもしれないんだし」
「そうだよ。だからこういうお勉強会に参加しておいて損はないハズ」
「…………、しないもん」
「ん?」
「なに?」
472 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/05/30(水) 00:53:52.62 ID:eKDTw3X20
赤い顔はそのままに、インデックスはそっぽを向く。見られている? と勘違いしたハスキー犬が、尻尾を揺らして歩み寄ってきた。
赤面の少女はブランカの頭を抱え込み、浜面夫人と打ち止めから完全に顔を背けてしまう。でも声は聞こえた。
「私はシスターだもん。だから絶対妊娠しないもん。結婚するまでは」
何年も同じ屋根の下に暮らしている。
キスをしたのは、二年も前のホワイトデーだと記憶している。
結婚の約束も、半年以上前にした。それも、一方通行と浜面仕上の目の前で。
そんな上条当麻とインデックスだったが、
「……まだシテなかったんだね、ってミサカはミサカは、……驚いた」
「そうかなぁ、とはちょっと思ってた」
「うぅ…。実は妊娠どころじゃないんだよ、私は」
473 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/05/30(水) 00:55:34.31 ID:eKDTw3X20
とりあえずここまで。
上条さんとインデックス。
この二人は私の美しい幻想。そして多くの人々の希望。
474 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/05/30(水) 08:52:09.62 ID:A8tI7yWAO
でも結局したらするんだろ!
産めよ増やせよ地に満ちよで!
475 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2012/05/30(水) 20:57:09.37 ID:+XqWJxl8o
乙
男の子女の子には諸説あるようだけどなあ
それにしても上条さん・・・・ホロリ
476 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/05/30(水) 22:16:35.68 ID:5z0wEdQW0
上条さん……もしかしてまだ風呂場で寝てるのか……
乙です
477 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/05/30(水) 22:26:16.25 ID:5z0wEdQW0
上条さん……もしかしてまだ風呂場で寝てるのか……
乙です
478 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/05/31(木) 00:00:18.91 ID:7nVCBKITo
外に出したらオナンさんみたいになっちゃいますもんねー乙。
479 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2012/05/31(木) 18:35:52.59 ID:zgibRSMSo
その2のクリスマスパーティーでは寮表記だったけど
上条さんも大学生を経て教師担ってるんだし、さすがに学生寮は出てるんじゃね
480 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)
[sage]:2012/05/31(木) 20:55:20.28 ID:2SvdA4S70
乙です
ならば!その幻想を(ry
481 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/01(金) 20:56:41.01 ID:hMYOozon0
みなさん、乙をいつもありがとう。
>>474
そりゃしたらするさ。増えもするさ。
上条さんは
>>479
が言うとおりに、どこか広いお部屋に住んでるんじゃないかな。
そんで、夜はインさんに「一応鍵はしめろよ」と言い聞かせて、寝室は別々。
インさんは「うん」と答え、また結婚までは純潔を守るつもりでいながら、上条さんを信用して鍵をかけてなかったらかわいい。
でも上条さんはそれを知らないんだ。鍵はちゃんとかけられてると思ってんだ。就寝後のインさん部屋のドアノブに触れることもしなかったから。
結婚式と初夜のずっと後で、インさんからその事実を伝えられた上条さんが、後悔と喜びでごっちゃになって床を転げまわるところまでを妄想しました。
続き投下します。
482 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/01(金) 21:04:32.41 ID:hMYOozon0
仲良し女子三人が、おうちで恥ずかしい話で盛り上がっている頃、三人の旦那達は(一人はまだ未婚だが)薄暗い定食屋で昼食を取っていた。
浜面仕上オススメのその店は、量が多くて財布に優しい。おまけに味も良い。
「インデックスを連れて来てやりたいな。遠いのがネックだけど」
そろそろ車買わなきゃなー、と、ショウガ焼き定食の千切りキャベツを箸で摘まむ上条当麻。
蕎麦と天丼セットの蕎麦を先に片付け終わった浜面が、車購入を伺わせる上条に嬉々として話しかける。
「そういうことなら俺に相談しろよ。イイの見繕ってやるぜ」
「浜面の車みたいにうるさいのは嫌だぞ。維持費が高いのも却下」
この店には、浜面の愛車・ランエボⅪに乗って来ていた。相変わらず、やかましい上に腰や尻に振動が響く。
「ふんふん。インデックスとの結婚もあるしな……。国産のスモールカーがいいんじゃね?」
一方通行はヒレカツを口に運びながら、近いうちにチャイルドシートを車の座席に取り付ける練習をしようと、今後のカーライフを思い描いていた。
(ポルシェはしばらく出番がねェな。仕方がない。時間が取れる時にドライブでも…)
「上条が結婚する夏には、一方通行はもうお父さんしてるだろ? 式には出られるのか?」
「あ? あァ…。打ち止めは当たり前のよォに出る気みてェだが、実際のところ分からない」
生後数ヶ月の乳飲み子を抱え、未知の子育てに奮闘しているであろう自分と妻。それ以前に、健康を保ったまま出産を乗り切れるのかが心配である。
「打ち止めが…、っていうか、一方通行だけでも来いよ。上条に御祝儀やって、インデックスにたらふく食わせてやれよ」
「お、おい。無理強いすんな。だいたい予算の関係もあってだな、式も小じんまりしたやつにしようと考えてんだぞ。御祝儀は欲しいけど」
「教師って、給料悪いのか?」
「いや、そんなことないけどさ……」
車も欲しい。修道服を脱ぐインデックスに、彼女が好む衣装を与えてやりたい。いつでも腹いっぱい食わせてやりたい。それに、
「ゆ、指輪も買わないといけないし。いくら貯金しても追いつかねえよ」
頬を染めて黒髪を掻く上条当麻。
483 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/01(金) 21:13:12.77 ID:hMYOozon0
「どこの青少年だ」と、浜面と一方通行は呆れるも、その気持ちは理解できてしまう。脳裏に浮かぶのは、もちろんそれぞれの妻である。
「あ゛ー、まだ天丼残ってるのに、腹いっぱいになるようなこと言ってんなよ。帰りたくなるだろうが」
「いいだろ、今まで散々お前らだけノロけやがって。今度は上条さんの幸せオーラを食らえ」
「ちょっと待て。俺とコイツを同列に並べるンじゃねェ」
「ははは、こりゃ上条の方が俺よりも先に子供ができそうだな。よーし、仕上くんも負けないゾー」
「うっぜェェェ…」
握った箸にエビ天をぶっ刺して、浜面はそれを可愛い(と彼が思う)仕草で「エイエイ」と振った。気色悪い。
「……、あ、はは」
てっきり上条にも遠慮のないツッコミを頂くだろうと思っていた浜面は、力ない様子で空笑いする彼に不審の眼差しを向けた。
幸せ絶好調のはずなのに、この達観した表情はどうしたことか。一方通行もおかしいと思って、ヒレカツ定食を食べる手を休める。
二人の視線を感じ取り、上条当麻は力ない笑顔のまま語りだした。
「俺が浜面より先に子持ちになることなんてあり得ないよ。夏まではな」
「ん?」
「え?」
「相手はお堅いシスターさんだぞ。……ずっと前から言ってるじゃねーか。上条さんは紳士ですし」
「…………」
「…………」
「二人ともすげぇ顔だな」
一方通行は箸を完全に置いている。浜面はエビの尻尾を口から生やしたまま、咀嚼を忘れている。
上条が今言ったことは、つまり……
「上条……。っていうか神。あっ、エビが」
「さすが(ヒーローだな)」
「ちっとも嬉しくない」
484 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/01(金) 21:16:56.49 ID:hMYOozon0
三人の膳の中は、すっかり空になった。運ばれてきたお茶を飲み、年寄りくさい息をつく浜面が言う。
「はぁ〜。実は嫁さんたちがいない隙に、ボーイズトークで盛り上がろうと思ってたんだけど、これじゃあ上条には酷か」
「変な気遣うなって。ますます落ち込むじゃねぇか…。まぁ聞き役しかできないのは確かだ」
「俺が話役になると言った覚えはねェぞ」
「じゃ遠慮なく。まず一方通行に訊きたいことがあってさー」
「聞けよ」
「奥さんが妊娠するとセックスレスになることがあるらしいが、お前達はどうよ?」
「……」
「なんか俺が想像してたトークとは違うなぁ。まだシテもいない上条さんは、まったく会話に割り込めないよ。どうしよう」
「まだ一言も発してねェンだが。……それより、……そのォ、……セックスレスってマジか?」
妊娠と出産をきっかけに、女性の性欲が減退して性交を拒まれることがあるらしい。
妊娠中の期間だけ、出産後の数ヶ月だけ、という女性もいれば、その後数年、ヘタしたら孫ができるまで永遠の御無沙汰になることも。
(もしも打ち止めが、俺とヤるのを嫌がるようになったら……。俺は一体どォすりゃいいンだ)
もうさわれない? あのやわらかな胸に。
もう聞けない? 恥じらいも慎みも忘れてしまったあの嬌声を。
もう体を重ねて、貪りあって、慰め合って、気持ち良くなることができなくなったら。
「悪かったよ。そんな頭抱えて唸らないでくれ。たぶん一方通行は大丈夫だから」
「そンな根拠もねェ励ましされても」
「根拠は今の一方通行のこの姿だよ……」
優しい打ち止めが、こんな彼を拒むとは思えない。浜面と上条は確信した。
485 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/01(金) 21:22:42.61 ID:hMYOozon0
「俺も、早く理后との子供が欲しいけど、その辺どうなるのかと心配で。二人きりの生活だって楽しいし。一方通行がどうしてるのか、参考になるかと思ったんだ」
「あー…、そりゃ最近はヤってねェよ。あと一ヶ月ちょいで産まれるンだからな。だがその後は俺も分かンねェよ……」
妻大好きな男達の、欲望にまみれた苦悩。しかし当人にとっては重要なのだ。健全な男なのだから。
「夏を待ちわびている俺の前で、ずいぶん贅沢な悩みだなオイ」
いまだ穢れを知らぬ恋人を手に入れる日を夢見ながら、一足飛びにその後の心配などしたくない。
期待と興奮と、確かな幸せだけを実感したいのに。
上条はデザートを選ぶべくメニュー表に意識を移したが、ここが定食屋だということを忘れていた。
「あ、でもアイスがあった。寒いけど仕方ねぇ。すんませーん、バニラアイスひとつー」
一方通行と浜面の声は相変わらず聞こえてくるけど、舌に冷たい感触のアイスのおかげで、幾分気が逸れる。
「お父さんになりたい、って願望はあるけどさ。理后に拒絶されるかもしれないと思うと、……寂しすぎんだろ」
「クッソ。この馬鹿野郎ォが。俺はそンな心配全然してなかったのに、オマエのせいで不安材料抱えるはめになっちまった」
「だから一方通行は大丈夫だよ。打ち止めに愛されまくってるし」
「その言葉、そっくりそのままオカエシしてやンよ」
「畜生ぉ……もうビール頼むぞ。俺だって、俺だってなぁ…! インデックスぅ、早く結婚してぇぇ……」
486 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/01(金) 21:24:40.01 ID:hMYOozon0
とりあえずここまで。
みんなオバカだなぁ…
487 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/01(金) 21:55:02.69 ID:B+z8WwrXo
いつの時代も男は馬鹿なんですよ
でもそれが可愛いんだよ
乙ー
488 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/06/01(金) 22:02:41.59 ID:uZusP6G2o
男の馬鹿(人を傷つけるのは別)を赦せるかどうかが良いおくたんへの道だゼヨ……乙ー。
489 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/06/01(金) 22:37:39.02 ID:nUQTfmCAO
なんだこの愚痴りつつもノロケ幸せオーラ全開の空間は
490 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岐阜県)
:2012/06/02(土) 00:06:45.52 ID:wuGtRSCM0
浜滝の子供が息子なら麦のんは可愛がりそうな気がする
通行止めの息子を狙うあわきん…
491 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/02(土) 00:25:05.23 ID:5J3CvFLXo
我儘は男の罪
それを赦さないのは女の罪
492 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/06(水) 01:01:20.05 ID:2K80hfdR0
レスいつもありがとうございます。
新車が来て浮かれていたら間があきましたすみません。
続きいきます。
493 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/06(水) 01:02:50.42 ID:2K80hfdR0
夕方、浜面が運転するランエボが一方通行の自宅マンション前に乗りつけた。
車内から上条と一方通行も現れ、三人は一階の部屋に向かって歩く。
一方通行がドアのロックを解除する前に、インデックスが室内から出迎えに駆けつけた。
「おかえりとうま!」
「おう、ただいま」
「俺と一方通行もいるんだよ、インデックス」
「そしてここは俺の家だ」
結婚を控えたラブラブカップル。お互い相手のことで頭がいっぱい。外野のことはあまり視界に入らないのである。
この家に六人はちょっときつい。リビングのソファに座れないこともなかったが、通勤電車状態になる。
浜面も上条も、妻(予定含む)を迎えにきただけで、おじゃまする気はなかった。だがインデックスが、
「今ね、らすとおーだーが子供の名前で困ってる、っていうから、りこうと一緒に考えてたところなんだよ。とうまも協力して?」
上がるつもりはなかったのに、ぐいぐいと上条の手を引いて部屋の中に引っ張る。上条は後ろの家主に振り返り、
目で「いいの?」とお伺いを立てた。一方通行は肩をすくめ、肯定する。
「名前考えてんのかぁ。大丈夫か、一方通行達のセンスで」
浜面が最後に玄関をくぐり、靴を脱ごうとしたところで、
「オマエも来るのか」
「なんでそういうヒドイこと言うの? 理后もいるし、行くだろ普通」
「ふン」
494 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/06(水) 01:05:12.52 ID:2K80hfdR0
一気に人口密度が増した。浜面夫人が打ち止めの指示のもと、座椅子(芳川が持ちこんだ)と、大きなクッションを他の部屋から運んでくる。上条と浜面はそこに座り、なんとか全員リビングに収まった。
人が多くなって興奮したハスキー犬はぐるぐると歩きまわっていたが、
結局いつもの定位置である、一方通行の膝の上に顎を乗せて落ち着いた。
「人間は床なのに、ブランカさまさまだぜ」
「アクセラレータのそばが好きなんだね」
「ブランカの名前は一方通行が考えたんだろ? 良い名前じゃないか。俺達が協力しなくても大丈夫な気がするけど」
新しく淹れられたコーヒーを飲みながら、浜面と上条は目を細めてくつろぐハスキー犬を見た。
一方通行の上で、あんなに幸せそうな顔ができる生物は、打ち止め以外は彼しかいない。
「犬と一緒にすンじゃねェよ」
ブランカのことを軽んじているような口ぶりだったが、指で耳やら長い鼻を掻いてやる姿は誤解しようがない。
それをからかうと自分が痛い目に遭うだけなので、指摘はしない男達であった。
495 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/06(水) 01:07:54.52 ID:2K80hfdR0
「そういえば、黄泉川先生や芳川さんはなんて言ってるんだ?」
「ミサカ達が考えた名前なら反対なんてしないとのことで、おまかせなの、ってミサカはミサカは責任重大だったり」
「打ち止めの母ちゃんと父ちゃんも?」
浜面が言っているのは、御坂旅掛・美鈴夫妻のことだ。初孫が産まれるというのに、彼らが浮かれぬはずはないと思っていた。
「お母様もヨミカワと同じみたい。でもお父様は『俺の名前を分けてやってもいいぞ』って」
「いい、っつーか、暗につけてほしそうな様子だったがなァ……」
「あ、でもそれは名案かも! らすとおーだーとあくせられーたの名前から取れば?」
インデックスの提案に、浜面理后を除く五人がきょとんとした。その発想は持っていなかったのだ。
だって〈一方通行(アクセラレータ)〉と〈打ち止め(ラストオーダー)〉である。
まず、上条がやんわりと否定を込めた感想を漏らした。
「うぅ、う〜ん? 子供の名前を決める際にはよく使われる手法だが、果たしてどうかなぁ?」
「今一生懸命考えたけど、一雄(かずお)ぐらいしか思い浮かばんぞ…」
「ふむぅ、黄泉川一雄。日本人らしくて結構いいんじゃない?ってミサカはミサカはあなたはどう思うか訊いてみる」
なんの気なしに、ぽろっと口から出た一雄が打ち止めの高評価を頂いてしまい、浜面は慌てた。
「ままま待て打ち止め! 子供の名前をこんな簡単に他人に任せるんじゃねぇ。やめてホントに。俺まだ死にたくないよ」
一方通行に睨まれ、浜面は膝で歩いてクッションからはみ出す。夫の危機を感じ取ったのか、彼の奥さんが静かに挙手。
「はい」
「おっし、はい理后さーん! なにかな? 遠慮なくどーぞ!」
496 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/06(水) 01:09:17.11 ID:2K80hfdR0
「黄泉川ラス雄」
「…………」
「わ、わぁ。さすが俺の理后だね。強そうな名前〜。益荒男みたいな」
冷汗は引くことなく、口をひきつらせる浜面をよそに、上条がインデックスを相手に国語の先生ぶっている。
「ますらお、ってなあに?」
「んーと、強くて勇気があるたくましい男って意味だよ」
「へぇ。じゃあ……ねぇりこう、もしも女の子だったら?」
インデックスが期待の眼差しで浜面夫人を促す。一方通行は呆れた様子だったが、打ち止めは興味津々だ。
「女の子だったら…?」
期待を向けられた彼女は、「無理して考えなくていいよ? 産まれてくるのは男の子だし」と言う夫を無視して、しばし黙考する。
「黄泉川セラ子」
「わぁ。どっちにしてもお父さんに似て強そ〜」
497 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/06(水) 01:10:46.72 ID:2K80hfdR0
その夜、一方通行と打ち止めは上の階の実家にいた。また夕飯をたかりにきたのだ。
今晩は御馳走になった後も、息子達が帰る様子が無い。打ち止めは風呂まで借りた。
黄泉川愛穂はちょっと嬉しくて、キッチンテーブルに洋酒とグラスを出し一方通行を手招きした。
「久しぶりに付き合うじゃん」
「……明日に響かない程度にしろよ」
芳川桔梗は自室にて持ち帰りの仕事をしているとのことで、義母と二人きりの酒盛りが始まる。
来月には産まれる孫の話題ではしゃぐ黄泉川に、くすぐったい感情を刺激される。しかしそれだけではない心苦しさもあり、一方通行は長らく抱えていた思いを伝えることにした。
「なァ黄泉川。そろそろ…」
「えー、まだ全然飲んでないじゃーん」
「違うそォじゃねェ。そろそろマジで結婚しろよ」
「はぁ?」
心底意外。黄泉川は目を丸くした。でもグラスを傾ける手は止めない。
498 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/06(水) 01:12:14.40 ID:2K80hfdR0
「男いねェのかよ。その乳で捕まえてこい。芳川の分も捕ってこい」
「ちょ、ちょっと待て。急になに言ってるじゃんか」
一方通行と打ち止めがこの家を出て早二年。もう子供達のために人生を犠牲にしなくてもいいから、幸せになってほしい。一方通行はそう考えていた。
自分達が離れれば、誰かと一緒になって、彼女達を守りたいと願う男に出会ってくれるのではと。
もしかしたらすでに恋人がいて、結婚へのきっかけにならないものか、とも……
「なのにオマエらときたら、そンな素振り全然ねェのな。いいのかこのままで」
「あんた、それ本気で考えてたの。冗談だとばかり思ってたじゃん」
「あのなァ……」
「私が、一方通行達のせいで結婚を犠牲にしてるとでも思ってる?」
「――……」
499 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/06(水) 01:14:44.65 ID:2K80hfdR0
分かってるなら言わせるな。
一方通行はバツが悪いといった表情で睨む。黄泉川は酒のせいばかりではない、赤い頬でにやりと笑った。
息子が心配してくれて、ちょっとどころではなく嬉しい。
「結婚したくない訳じゃないじゃん。したくなったらする。でも私にはもう可愛くない息子がいて、そいつに可愛いお嫁さんが来てくれて、おまけにもうすぐ孫まで産まれるじゃんよ」
「だから旦那なンて要らねェってか?」
「んな身も蓋もない……ことあるかもね」
やはり……
未婚のまま子供を持ってしまった彼女は、どうも結婚に対して積極性を持たなくなってしまったらしい。もとよりその欲が薄かったのかもしれないが。
「一方通行が責任感じることないじゃん。私が自分で決めたことなんだから。それに結婚したくなったらするし。相手に惚れてもらわなきゃならないけどね」
「あっそォ…。子持ち孫持ちでイケると思ってンのかよ」
「それぐらい許容できない男なんて、こっちから用無しじゃん。それに私が結婚しちゃうと、あんたが寂しがるじゃんよ」
豪快に笑い飛ばす義母を肴に、一方通行も一気にグラスを空にした。黄泉川は席から立って、向かいの一方通行の後ろに回る。
てっきり次の瓶を取りに行ったと勘違いしていた息子は、対応が遅れてしまった。
「おい、なにやってンだ」
「へへへ。ありがとじゃーん」
黄泉川は一方通行を後ろから抱きしめた。この子供は、恥ずかしがってなかなかスキンシップを取らせてくれないから、
こんな風に隙を見て後ろから実行しないといけない。どっしりした胸を白い頭に乗せて、首に腕を巻きつけた。
重い。打ち止めよりも更に重い、この義母の胸は。
「この酔っ払いが」
「私がこんだけで酔うわけないじゃん」
「お風呂出たよー、ってミサカはミサカはマザコンさんとヨミカワのお邪魔をしてみたり」
「誰がマザコンだコラァ」
500 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/06(水) 01:17:28.63 ID:2K80hfdR0
「あらどうしたの。なんだか賑やかみたいだったけれど」
風呂から上がった打ち止めだけを先に一階へ帰らせ、一方通行は芳川桔梗の自室を訪ねていた。
「あー、酒が入った勢いだ。結婚しろ芳川」
「……いけないわ。君にはもう打ち止めという奥さんがい」
「馬鹿野郎、俺とじゃねェ。誰でもいいから……、いや、それなりの男を捕まえて早く結婚してこい」
芳川も黄泉川のような反応を示す。パソコンを置いた机から、椅子のキャスターを転がして離れる。
ベッドの側まで寄り、「座りなさい」と手で一方通行に促した。
「愛穂にも同じこと言って騒いでいたのね」
「アイツは全然その気が無い。駄目だ」
「っふふ、だから私? そうねぇ。私が結婚してこの家から出ていけば、愛穂も結婚するかしら」
「そンなつもりで言ってンじゃねェよ。……むしろ、オマエこそ」
黄泉川愛穂には、義理ではあるが一方通行という息子がいる。打ち止めも娘となった。
結婚しなくても、自分より若い家族がいるという事実は、安心と幸福を感じさせてくれる。
やがて孫も伴侶を得て、ひ孫ができるかも、という遠い未来の夢まで見させてくれる。
だが芳川には?
この先ずっとひとりでいるのだろうか。好いた男はいないのだろうか。結婚を望んだことはないのだろうか。
もしそうだったとして、彼女が彼女の意思で結婚の気配を感じさせないのだとしたら?
「私こそ?」
「…………」
「私の方が愛穂より心配だから、早く結婚してほしいの?」
「オマエばかりが背負わなくても、もう大丈夫だ…」
501 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/06(水) 01:19:03.77 ID:2K80hfdR0
絶対能力者進化計画。
一方通行は殺した。たくさん殺した。それを芳川はずっと見ていた。させていた。
罪。
一方通行は愛しいものに望まれて、その手を握ることができた。一生罪を背負って生きていくけれど、温もりを抱くことを自らに許した。
贖罪のように、殺してきた少女達の生を『普通』に近づける努力をしている。そしてそれは、芳川の方が長く続けてきたことだ。
今日だって、持ち帰ってきた仕事はその関係だろう。
「私はあのとき、もう大人だったのよ。君とは、違うわ……」
「そォだな。だからあのとき体を張ったンだろ」
いつもの寂しい笑顔を浮かべる芳川の脇腹を指さす一方通行。
「その腹の傷は、どォして負ったものか、よく思い出せ」
芳川の脇腹には、過去に負った傷痕がある。
それは死ぬほどのものだったが、一方通行が自分も瀕死の重傷を負いながら能力を使ってくれて、一命を取り留めた。
「でも、これは……」
「打ち止め、入ってこい」
「えっ?」
502 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/06(水) 01:20:40.07 ID:2K80hfdR0
「なりゆきで」と続けようとしたセリフは遮られ、バン、と勢いよくドアが開いて打ち止めが駆けこんできた。
「ヨシカワー!!」
「きゃ、ちょっと走らないで」
「ミサカがこうしていられるのは、ヨシカワが頑張ってくれたからだよ。ありがとう、ってミサカはミサカはヨシカワもお母さんなんだよ、ってミサカはミサカは感謝を筋力に変換して伝えてみる! ぎゅう!」
「……苦しいわ」
でも笑っている。
芳川の部屋に入ってからほんの一分足らずで、家に帰したはずの打ち止めがドアの外に張り付いていたことを一方通行は把握していた。
その上で、普段は口にすることのない言葉を選んでいたのだ。
「まず私と結婚するモノ好きを探さないといけないわね」
「大丈夫だよヨシカワ。こんな美人さんが釣り糸垂らせば、あっという間に大漁だー!ってミサカはミサカは太鼓判を押してみたり」
「まぁ、よりどりみどりなのね。困ったわ」
「だからといって、ヘンな男連れてくンなよ」
「一方通行がお父さんみたいじゃない。あ、本当にお父さんになったのだったわね」
打ち止めの熱い抱擁に応える芳川の笑顔は、幸せそうだった。
503 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/06(水) 01:29:44.16 ID:2K80hfdR0
出産を控えた通行止めと、その友人と家族の巻 完
このシメ(?)で
>>491
の歌を使おうと思っていたのにw
代わりのオマケ↓
浜面「一方通行の家でトイレを借りたら、面白いもんを見つけてしまった」
浜面「べつにトイレになかったら、面白くもなんともねぇんだけども」
人名事典(けっこう使い込まれてくたびれた感)
浜面「あいつトイレで子供の名前考えてんのか……ぷふ」
おや? トイレの外で恐ろしい気配がするぞ?
504 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/06(水) 16:44:27.63 ID:VSfh8h6IO
一方さんと黄泉川芳川の絡みは通行止めの次にニヤニヤしてしまうな…
505 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/06/07(木) 06:30:16.12 ID:bxaIAnJno
ぬぅ。ベタ甘も良いけど、こういった心温まる展開もいいよね。 乙っしたー!
506 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)
:2012/06/07(木) 22:46:56.66 ID:rIJXaDo70
俺これ読み終わったらと黄泉川さんにプロポーズするんだ…
507 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/06/08(金) 21:06:57.44 ID:tyf0QZza0
誰だよーここに愉快なオブジェ置いたヤツ
片付けるの面倒なんだからなー
508 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/08(金) 23:37:51.82 ID:pAa9APiK0
>>504
>>505
ニヤニヤ、ほっこりしてもらえて良かった。黄泉川家に幸あれ。
佳境だ……
509 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/08(金) 23:40:26.76 ID:pAa9APiK0
夢を見た。
映画やドラマでも聞いた覚えのある泣声。それは人間の赤子の声。
(あァ、こりゃ夢だな……)
すぐに夢だと分かった。だって自分の子供の出産予定日までには、あと十日以上あるのだ。
ただでさえ初産は予定日より遅くなることが多く、担当産科医からも、「遅れても平気なので、注意深く体調を観察するように」と言われている。
だからこれが夢だと、一方通行は判断した。
以前にもこんな夢は見たが、今回はやけにリアルだった。
まだ名前が決まってないのにどうするんだ、と焦る自分。
泣いて喜んでいる黄泉川。
医療スタッフとして出産に立ち会い、疲れた様子の芳川。
腕に産まれたての子供を抱いて笑っている打ち止め。
その妻の周りを、ソワソワと歩きまわって赤子の顔を覗き込む番外個体。手を伸ばしては、壊れるとでも思っているのか引っ込める。
(オマエの甥っ子だ。触れよ)
そこで、打ち止めに手招きされる。
『ほら、あなたも見て。あなたの赤ちゃんだよ』
(……ン)
打ち止めに抱かれる我が子を見る前に、目が醒めた。
510 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/08(金) 23:43:30.24 ID:pAa9APiK0
しん、と冷え込む二月末の朝。見上げた天井はいつもどおりだ。
一方通行はあくびをしながら上体を起こした。体と一緒に捲れあがった布団を手で直し、
横で眠る打ち止めが寒さで目を覚まさないように気を使ったのだが、
「んー、おはよ…、ってミサカはミサカは開かない瞼で朝のご挨拶をしてみたり。今日はあなた、早起きさんね……」
「おォ。ちょっと夢見てな」
「ほほう。どんな?」
一方通行が夢の内容を告げる前に、もぞもぞ動いていた打ち止めが、不意に静止して顔色を青に染めた。
冷気が入ってくるのにもかまわず、掛け布団を完全に取り払う。
二人の足元には丸くなって眠る愛犬と、シーツを濡らす水たまり。打ち止めの寝間着もぐっしょり濡れていた。
「……漏らしたンか?」
「ち、違う。たぶん破水だと思う」
「……」
「あ、なんかお腹もちょっと痛いかも」
「腹でも壊したのか」
「そうじゃなくて、陣痛かも」
「……予定日まであと十日もあるはずだが」
「初産はただでさえ遅れやすい、って聞いてたのにねぇ、てミサカはミサカはぁあ〜、イタタタタタ。これは痛いですぞ!」
511 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/08(金) 23:45:17.60 ID:pAa9APiK0
そこからは大慌てで病院へ向かう準備をした。打ち止めに蹴飛ばされながら服を着替えさせ、
大きな鞄に手当たりしだいに荷物を詰める。アレが要る、コレが要ると聞いていたが、全て思い出せた自信がない。
(落ち着け。混乱するな……)
「くーん?」
「あ、っとォ……。オマエの世話はちっと後回しだ。朝飯だけは用意しとくから、大人しく待ってろ」
「あう」
ブランカの世話は、病院に務める妹達か番外個体に連絡を取ればいい。携帯端末を取り出したが、
よく考えれば打ち止めがミサカネットワークを介した方が早いことに気づいた。当然それは彼女も考えることで、既に完了済みである。
「一〇〇三二号達に今から病院行くって言っといたよ! ヨシカワと先生も準備しといてくれるって」
「そォか。じゃ行くぞ」
時刻はもう、芳川が出勤した後だったということを、一方通行は始めて知った。
512 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/08(金) 23:54:28.42 ID:pAa9APiK0
車で病院に着くと、妹達二人が車椅子を用意して正面玄関に待機していた。一人が打ち止めをそれに座らせ、もう一人は一方通行に代わって車を駐車場に置きに行く。
「一方通行はこのまま上位個体に付き添ってください、とミサカ一九〇九〇号はシミュレーションどおりのセリフをカッコよく述べます」
「シミュレーションしてたのか」
「はい。しかし予定日より早い出産ということで、しょっぱなから想定外で焦っていることを隠し通せません、とミサカは正直に白状します。あわわわわ、緊張」
「余裕じゃねェ?」
「ふぅ〜、いたいぃぃぃぃ、ってミサカはミサカは漫才しとる場合か!って怒ってみたり」
打ち止めが運ばれたのは、産科がある階の病室のひとつ。なにをするでもなく、ただ待っていた。痛みに耐えて。
診察を終えた医師はこう言った。
「まぁ、気の早い赤ちゃんだわね。きっと明日までには産まれるわよ」
「へぇ? 明日?」
「分娩室に入るのは、多分半日後ぐらいだから」
「そんなに!?」
「って勉強したでしょ?」
だってこんなに痛いのに。きっとすぐに「ひーひーふー」といきむんだと、打ち止めは思っていた。
「まだまだ。本番はこんなもんじゃないわ。今のうちに覚悟を決めときなさい」
「はうぁぁぁぁぁああああっ」
513 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/08(金) 23:58:01.11 ID:pAa9APiK0
「うぅ、いーたーいー」
「……」
「あぁぁぁ……」
「……」
大慌てで病院に駆け込んでから二時間。間隔を置いてどんどんひどくなる陣痛に、打ち止めはただ耐えていた。
一方通行は、打ち止めの手を握ってベッドの横に腰掛けている。脂汗を額に張り付かせて、うんうん唸る妻の面倒をみていた。できることは、とても少ないが。
時々能力を使用してバイタルをチェック。汗を吹き、ストローを口元に寄せ水分を補給させたり。
あと数時間もこの苦しみが続き、いざ出産の時は、これとは比にならぬ痛みが襲うという。
「最終信号、大丈夫?」
番外個体が個室のドアを開けて入ってくる。
彼女は一方通行の反対側に座り、持ってきたおしぼりで打ち止めの額や首をぬぐった。番外個体も、思いつくのはこんなことだけだ。
「ありがとう。番外個体も来てくれたのね、ってミサカはミサカは優しい家族に恵まれて幸せ者だぁ。だから平気ぃぃぃぃ」
浅い息しか吐けない打ち止めを挟み、一方通行と番外個体は目を合わせる。
「ミサカネットワークに異常はないか」
「大丈夫みたい。浮かれたり心配したりするミサカ達で騒がしいけど。あなたも能力は普通に使えるよね?」
「あァ……」
「ふんんぬぬぬ。これぐらいで上位個体が務まらないとあっちゃぁ打ち止めの名がすたるぜ、ってミサカはミサカはやればデキル子」
左右から伸びてきた手に頭を撫でられ、こんな時なのに打ち止めは微笑んだ。
514 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/09(土) 00:00:08.44 ID:5RhntJUq0
しかしその余裕は一時間も続かなかった。打ち止めは余裕があるなんて認識ではなかったが、それを思い知った。
「あぁ! ……っうぅうう。い、いたいよー!!」
「打ち止め」
「無理ぃ! もう無理! 堪忍してお代官様ぁ!ってミサカは……!」
「しっかりしなよ最終信号っ。黄泉川も学校から応援してるよ!」
一方通行と番外個体は、それぞれ打ち止めの手を取って励ましていたが、いまや非力であるはずの打ち止めに握り返され骨が軋む思いである。しかし彼女が感じている痛みが、これでほんの僅かでも紛れるなら、どうということはない。
「ねぇ第一位、お姉ちゃんの痛がり方、尋常じゃないんじゃない。センセーか、産婦人科の人に今すぐ診てもらおうよ」
「参道が開き切るまでに、あと数時間はかかるはずなンだが……」
一方通行は不測の事態に備えて、使用を控えていた電極のスイッチを使用モードにした。
医師ではない自分だが、ある程度は現状を正しく把握できるだろう。
番外個体は片手を打ち止めに掴まれたまま、一方通行の指示を待たずにナースコールを呼び出した。
「あン!?」
奇声を上げた青年の様子に、番外個体は「すぐに来て」と、強い口調でマイクに告げた。
「どうだったの!?」
「……産道が、もうかなり開いている。こンな早く……」
「い、今すぐ産まれるってこと?」
515 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/09(土) 00:05:05.25 ID:5RhntJUq0
呼び出された担当産科医は個室で打ち止めを診察し、早すぎる変化に戸惑いつつ、分娩室へ運ぶように指示を出した。
妹達が個室に運んできたストレッチャーに、打ち止めは夫の手で乗せられる。おさえることなど、とうに諦めた悲鳴があがった。
「いぃ、いたい! あなたぁ」
「代われるもンなら代わってやりてェが、こればかりはどォしようもねェ。……頑張れ」
「……ひぐ、無理…。痛すぎる」
「頑張ったらなンでもしてやっから」
医師と看護師が先導し、番外個体と一方通行は変わらずに打ち止めの両脇を固めて進む。もうすぐ分娩室だ。
「じゃあ、じゃあねっ、赤ちゃんの名前ミサカが決めてもいい?ってミサカはミサカは頑張り条件を提示してみる…!」
「あァいいぞ。オマエがつけろ」
「やった。えーとねえーとね、ぐぅぅ……」
分娩室は扉が開放されていて、打ち止め達を待っている。芳川桔梗の姿もあった。
「最終信号、そんなことは後でいいから」
「だめ今言っとかないと……」
「縁起でもないこと考えないでよぉ! 産んだ後でいいじゃん!」
ヒステリックな声で、ストレッチャーを叩く番外個体。一方通行は涙が滲む打ち止めの目を見つめて頷く。
「ま、まもる…!」
「どンな字だ」
「えと、〈ごんべん〉のやつっ」
「『護』だな。分かった」
「やったぁぁぁぁぁぁああああ〜いたぁぁぁぁぁ……」という雄叫びを残し、打ち止めの姿は見えなくなった。
「名前決まったのね」
「おォ……」
「君は念のために、バッテリーを一杯にしておいてちょうだい」
そう言って、自分も扉の向こうに身を滑り込ませる芳川。彼女にとって産科は畑違いだが、
妹達の調整を長年手がけてきたことから、お産の間サポートをする予定になっていた。
芳川も一方通行も、自分の出番などないことを祈っている。
516 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/09(土) 00:07:07.34 ID:5RhntJUq0
「名前……。いろいろ考えてたんでしょ。いいの?」
「ン? 無事に産まれてくるならなンでもいい、もう」
「ミサカは割と気に入ったよ。護」
扉の前で立ち尽くす一方通行の腕を取り、番外個体はすぐそばの休憩スペースへと誘った。ここからなら分娩室もよく見える。
きっと、ここで出産を待つ人のために作られた場所だ。
備え付けられていた自販機からコーヒーを買って、一方通行に渡した。
「ほい」
「……」
いつ扉が開くとも知れないので、そこを見張れるように、二人は自然と隣合って長椅子に座った。
青年が両手に握る缶の封を切る様子がないので、番外個体は片手を伸ばして代わりに開けてあげる。
「飲めよ。先は長いよ」
「オマエ、自分の分はどォした」
「喉乾いてないもん」
「……」
一方通行だって、今は喉に物が通る気がしない。
517 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/09(土) 00:08:48.78 ID:5RhntJUq0
とりあえずここまで。
やっと産まれるね。
518 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/09(土) 00:50:14.74 ID:/BxNtACIO
おおおおおおおおおおおおおおおお
護ね!いいね!
てかちょっと唐突でビビってしまったよ…
というかもしや
>>1
は女性だったり?そしてガイコンシャだったり?
519 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/09(土) 06:40:40.48 ID:kmHRxBKDO
>>1
乙ぱい
ちょっと助産婦資格取得して打ち止めのお産を手伝ってくる
520 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/06/09(土) 06:50:24.22 ID:28Wceqzj0
出産は壮絶だからねぇ
俺の妹は1日苦しんだあげくに帝王切開したから
521 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/09(土) 07:22:21.34 ID:8jacssSIO
おぃいいい、こっちまで緊張して来たぞ・・・頑張れ・・・!頑張れ打ち止め!
522 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/06/09(土) 09:06:44.70 ID:RJIpgF8Zo
乙。 山場じゃ! なんかいろんな意味で山場じゃ! あと
>>1
が経産婦とかじゃなくてまず背孕みって言葉が浮かんだ自分を殴りてぇ!
523 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/06/10(日) 06:13:39.37 ID:PJTZrReAO
黄泉川一方通行
黄泉川打ち止め
黄泉川護
まともな名前が逆に違和感!?
524 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/11(月) 00:17:24.50 ID:uI2Ap2TM0
乙等、いつもありがとうございます。
>>518
隠しきれない 色香が いつしか スレに しみついた? ……違うか。
私の性別については、明かすと夢がくずれないか。たとえば、
@ 体脂肪3%のガテン系で趣味ボディビルの、小指と親指二本だけで握力計が40sを記録するマッチョメンが書いてる とか
A 打ち止めと同じくFカップのため、ブラジャーが品薄で万年困ってるボイン姉ちゃんが、自らの乳を資料にしながら書いてる とか
B 加齢臭に悩み始めた36歳独身のサラリーマンが、毎晩カップメンで食事の手間と時間を削りながら書いてる とか
C 旦那と離婚後、ネットする時間が増えてしまったが故に通行止めに出会った男日照りの女が書いてる とか
分かったら嫌じゃない?
>>523
ネーミングセンス無いので…… 単純で分かりやすい名前にしました。
いつも守り、守られていた通行止めだし。 他にも由来はあるけんど。
クライマックスにむけて気合を入れたいので、次の投下はちょっとお待ちください。
早くて三日後、長くて一週間後、くらい。
525 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/11(月) 00:34:51.54 ID:kclX8TOAo
つまり、作者は子萌てんてーも目じゃないくらい合法ロリな可能性も微レ存!?
526 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/11(月) 00:36:15.26 ID:air6Y90Eo
Aの場合は全く嫌じゃないな不思議!
いよいよクライマックスか。正座で待ってる
527 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/11(月) 01:32:14.92 ID:FznUMYgco
旦那と離婚したガテン系Fカップ(36)
528 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/11(月) 10:49:44.17 ID:STYj8IJIO
>>527
想像したらキモいわwwwww
529 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/06/11(月) 21:39:53.26 ID:m3/8mmRm0
いや待て
ガテン系=アネゴ肌と変換すると・・・
黄泉川先生のような感じがする!不思議!
530 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2012/06/12(火) 08:31:09.60 ID:I24HP63DO
後はとある作品じゃないけど、08小隊のカレンみたいと思えばガテン系も悪くは……
531 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/13(水) 20:11:19.57 ID:0l1aWSKh0
さていくぞ。
一年近く続けてきたこの「とある未来の通行止め」も、今回の投下で……は終わりきらなかった。
キリのいいところまで。
532 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/13(水) 20:14:04.49 ID:0l1aWSKh0
時々、かすかだが打ち止めの叫び声が聞こえる。その度に胸が締め付けられる。
三十分ほど経ったころ、急ぎ足の人物が一方通行と番外個体の前で立ち止まった。冥土帰しだ。
「やぁ、二人とも暗い顔だね。大丈夫。お産は今のところ問題なく順調に進んでいるようだよ」
彼は緊急の手術を終わらせ、休むこともせずに、こうして打ち止めのところに駆けつけてくれた。主導するのはあくまで産婦人科医だが、
彼がいて困ることなどありえない。底が見えぬ医療の知識と技術は、どんな場面でも力になってくれる。
声をかけてくれた冥土帰しにろくな返事もできず、青年達はただ頷くだけ。医者から告げられた「順調」という経過に少し表情は明るくなったが。
「僕は芳川君と一緒にモニター作業を担当するよ。何かあったら、すぐに君達を呼ぶからね」
冥土帰しが分娩室へ入るために扉を開け、打ち止めの泣き叫ぶ声が瞬間的に大きく耳に届く。
二人は思わず立ち上がった……が、すぐに長椅子に座り直した。どちらともなく、溜息がもれる。
あんな悲痛な声が出ていても、順調なのだ。
533 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/13(水) 20:17:53.95 ID:0l1aWSKh0
それから三時間。一方通行は自分が呼ばれないことに安堵を覚え、この状況にもすこし慣れた。
隣の番外個体も同様で、彼女もジュースを飲みながら、時々足を伸ばしたりしている。
一方通行が二本目の缶コーヒーを買おうと立ち上がった時、黄泉川愛穂も駆けつけた。
「まだ産まれてない!?」
「まだ。もう三時間経ってるけど」
「そっか」
「黄泉川、学校はどォしたンだ」
「もう私が担当する授業はないし、初孫が産まれるって言って早退しちゃったじゃん」
ある筋からは恐怖を抱かれるほど教育熱心な彼女にとって、私情で早退するなんて珍しいことだった。
三人揃っても、ただ待つことしかできない。しかし賑やかな黄泉川が混ざったことによって、その場は途切れぬ会話が交わされる。
黙りっぱなしで重くなりがちだった空気が和らぎ、一方通行と番外個体の心は軽くなった。
しかしそれもつかの間で、漏れ聞こえる打ち止めの叫び声がより悲痛さを増した時には、
自然と一方通行は分娩室の前に立っていた。杖は長椅子に残したまま、扉に手をついて。
ついに彼は、呼ばれてもいないのに中に入っていく。
手術衣も着ないままなのは良くないのでは、と思った黄泉川が止めようとするが、番外個体が、「今反射中だから平気だよ」と、彼の背中を見送った。
534 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/13(水) 20:22:28.80 ID:0l1aWSKh0
突然入ってきた一方通行に、産科医と看護師達が少し驚くが、冥土帰しがモニター越しに許可を出したので何事もなく済んだ。
済んだといっても、相変わらず打ち止めは苦しんでいる。彼女は夫が側に来たことも気づかずに、痛みに顔を歪ませて、いきんでいた。
「打ち止め」
「もう少しです」という助産婦の短い状況説明に頷きながら、一方通行は強く握りしめられていた打ち止めの手を包み込んだ。
そこでやっと一方通行の存在に気づいたが、言葉が出てこない。打ち止めは彼の両手にすがることでそれに応える。
「出てきたわ! あと少し、あと少しよ。黄泉川さんいきんでー」
何度も経験してきたお産なので、医師達は落ち着いたものだ。でもこの夫婦にとっては初めてのことだし、
声高にできない『妹達』の詳細を知る冥土帰し、芳川桔梗は緊張を崩さないままだった。
そして、わずか数分後――
535 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/13(水) 20:23:30.96 ID:0l1aWSKh0
曖昧な夢ではない、本当の産まれたての赤ん坊の泣き声。生命の誕生。
産科医の腕に抱かれて、自分の子供が目の前にやってくる。
これこそ夢じゃないかと、一方通行の思考は上手く働かなかった。
だって夢の中ではいつも、打ち止めこそが子供を抱いて、夫である自分に微笑んでくれていたから。
536 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/13(水) 20:24:45.96 ID:0l1aWSKh0
あぁ、ミサカとあの人の赤ちゃんが産まれた。元気に泣いてる。良かった。
ミサカもなんとか生きてる……。死ぬかと思った、ってミサカはミサカは鼻からスイカは伊達ではなかったと実感してしまったり。
すっっごく痛かったけど、ミサカは頑張ったよ。
あなた、そこにいるよね? 約束やぶっちゃいやよ?
その子の名前は護だからね?ってミサカはミサカは念を押してみる……
537 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/13(水) 20:26:53.23 ID:0l1aWSKh0
「ネーミングセンス皆無の汚名返上だぜぇ…、ってミサカは、……ミサカは……」
「オイ!? 打ち止め、しっかりしろっ」
あれほど強い力で握られていた打ち止めの手が、一気に脱力してずり下がる。息子に気を取られていた青年は、
慌てて打ち止めの顔を覗き込んで肩を揺らした。
「大丈夫よ。落ち着いて」
「体力の消耗が激しくて失神したようだね? 出血もあるし」
「すぐに処置をするわ。こっちへいらっしゃい」
芳川が青年の腕を掴もうとしたが、まだ反射を展開していたため軽く弾かれた。
そこで我に返った一方通行が能力を通常モードに戻し、分娩室の壁際に身を寄せる。芳川はもう一度言う。
「大丈夫。すぐに会えるわ」
「…………」
「さぁ、打ち止めと赤ちゃんが入る病室へ案内するから一緒にきて」
538 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/13(水) 20:29:25.27 ID:0l1aWSKh0
実のところ調整用の培養器も準備していたが、それの出番は見送られた。
一般の病室で、いまだ意識が戻らずベッドに横たわる打ち止めと、彼女の回復に能力を使用している一方通行。
保護者二人と番外個体は、乳児用のベッドで寝ている護の周りに群がっていた。
「五時間弱の超安産だそうじゃんよ」
(アレで安産なのかよ……)
「ちっせー。スゲーちっこい爪がある。ちっせぇぇぇ」
(遠慮なく触りまくってンなコイツは。夢の中のオマエはもっと遠慮っつーか、可愛げがあったっつーか)
「あくびしたわ。産まれたてでもするのねぇ」
(打ち止めの腹の中にいる時からしてたぞ)
「……あなた」
「!――起きたか。大丈夫か?」
打ち止めが目を覚まし、大層な様子で首を巡らせた。彼女からは、ベビーベッドの側面しか見えない。
一方通行は学んだばかりのやり方で、赤子を抱いて打ち止めの元に運んでやる。そのぎこちなさに、笑いをこぼす三人がいたが無視。
今は早く、打ち止めにこの子を抱かせてやりたい。
病院で着せて貰った白い産着を通り越して、その温かさが体に伝わってくる。
539 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/13(水) 20:32:55.99 ID:0l1aWSKh0
「わぁ……」
初めて抱かれる母親の腕の中、赤ん坊はもぞもぞと動いている。
「ぱくぱく」と開けたり閉じられたりする口を見て、打ち止めが左手だけで子供を支え、着ていた患者用の服の前をはだけだした。
「お腹空いてるのかな、ってミサカはミサカは初授乳にチャレンジしてみたり」
その途端、一方通行は黄泉川に首根っこを掴まれてベッドから部屋の隅へと引きずられてしまった。
「おい、なンで」
「あ、ついつい、じゃん」
夫なのだから、我が子が乳を飲んでいるシーンを見たってなんの問題もないだろう。
しかし、黄泉川、芳川、番外個体の前では気恥かしいのも事実である。一方通行は大人しく女性陣の後ろに下がって、皆の肩越しからそれを見守った。
(飲むンだなァ。こンな産まれて数時間で……)
「もう、いいかな?ってミサカはミサカはどれくらい吸わせればいいのか分からなかったり」
「お腹が空けば泣くんじゃないの? 泣くのが赤ん坊の仕事でしょ」
「そうね。……さて、私は産婦人科と今後のことについて相談があるから、ちょっと席を外すわね」
「私はブランカの様子を見てこようかじゃん。誰も散歩行ってないじゃんか?」
芳川と黄泉川が、一番の特等席に座っていた番外個体の肩を掴み、三人揃って病室を出て行こうとする。
抵抗するような素振りを見せた番外個体だったが、黄泉川の腕が腰に巻きついてきて断念した。
最後に、「っべー」と憎らしく一方通行に舌を出して退室。
(ガキか)
こうして、親子三人水入らずとなった。
540 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/13(水) 20:34:48.41 ID:0l1aWSKh0
椅子に腰かけて、護の頬をつつく一方通行。その手を追って、打ち止めが目を合わせる。
柔らかく微笑んだ目に涙が滲んでいた。
「ありがとう、ってミサカはミサカはあなたにお礼を言ってみる」
「……礼を言うのは」
(俺の方だろ)
声が詰まって、言葉にならなかった。
一方通行の指が震え、その拍子に指先が護の口に当たる。小さな口が、細いそれに吸いついた。
「っ……」
「あなた……」
二人で、泣いた。
541 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/13(水) 20:35:47.27 ID:0l1aWSKh0
とりあえずここまで。
次回の投下が本編最後かなぁ?
542 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/13(水) 20:53:22.46 ID:fKa2tbwOo
乙←これはポニーテールじゃなくてお疲れ様なんだからうんたらかんたら
乙しか言えねぇ
543 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/06/13(水) 22:28:36.36 ID:PXVmdNom0
乙、最終回か・・・
通行止め夫婦の子育て奮闘記が見たかったぜ
544 :
sage
:2012/06/14(木) 00:47:15.16 ID:BNz55mHt0
乙乙
安産おめでとううううう!
出産祝い絵はどこにおくればいいんだ
545 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/14(木) 01:05:46.46 ID:yvSadwhIO
>>544
落ち着け
546 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/06/14(木) 06:26:41.80 ID:NQYEUOCho
乙。あー……終わっちゃうのか。寂しいのぅ。 まだまだ読んでいたい気持ちも強いけど、……うん。
547 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2012/06/14(木) 08:49:57.37 ID:dIQTtGcDO
>>1
と打ち止めと一通乙!
548 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/14(木) 08:50:50.32 ID:dIQTtGcDO
すまん、sage忘れた……orz
549 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/15(金) 01:00:00.45 ID:2gbyA+HDO
>>1
乙ぱい
無事出産こりゃめでたい!
どれここは一つ僕から祝いの踊りでも披露しようじゃないかサァーミナサンゴイッショニ!!パパンガパンッアソーレッダーレガコッロ(ry
550 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/06/15(金) 06:38:45.63 ID:siwiyO+AO
クックロービンー!
551 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(滋賀県)
[sage]:2012/06/17(日) 16:41:33.28 ID:OJto8fa0o
┌─────┐
│い ち お つ.│
└∩───∩┘
ヽ(`・ω・´)ノ
552 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 00:35:42.80 ID:Fz6z8l7g0
乙や乙ぱいやポニーテールを、いつもありがとうございます。
>>543
>>546
私もちょっと寂しいぜ。明日から何しようか状態。定年退職したおっさんのように。
>>549
>>540
ノリいいな! 私がいうのもアレだが、読者の年齢幅って下は何歳? 上は何歳か気になるね。
では最後の本編投下です。
553 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 00:38:38.36 ID:Fz6z8l7g0
その前に訂正だぜ。
上のレス、540じゃなくて
>>550
宛てでした。 最後にまったくカッコ悪い。
554 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 00:41:52.89 ID:Fz6z8l7g0
打ち止めは半月ほど入院することになった。その間、一方通行は毎日足繁く病院に通い、
ほとんどの時を一緒に過ごした。打ち止めが妊娠してからは遠方に出向く仕事は入れないようにしておいたし、
「仕事はいいの?」と口を尖らせる打ち止めを軽くいなして、妻と息子にべったりくっつく。
あの番外個体も、三日に一回という出勤態度を改め、毎日顔を出している。
彼女の体の調整に気を揉んでいた一方通行や冥土帰しにとっては好ましいことだった。
入院といっても、著しく消耗した母体を慮っての処置なので、こうして中庭を散歩したりできる。
病院に居を置く妹達から贈られたベビーホルダーに護を収め、打ち止めはゆっくり一方通行と歩いている。
「明日は懐かしの我が家だね、ってミサカはミサカは早くブラちゃんに会いたいな」
「オマエがしばらくいねェから、アイツちょっと拗ねてンな」
「えーそうなの? もう今日退院しちゃおうか!? 早く弟に会わせてあげたいし」
弟とは、もちろん護のことである。ブランカにとってこの子は弟分だろうとの、打ち止めの意見だった。
「いいや……どォせ明日だ。それより、寒いからもう部屋に戻るぞ。護が風邪でも引いたら事だ」
「こんなにグルグル巻きで抱っこされてるのに、寒くなんかないよねー?ってミサカはミサカはマモちゃんに同意を求めてみたり」
「だう」
「乳児にンなこと訊くなよ」
「あだ」
大天使から「お父さんに似た不思議な子」と言われていたので、一体どんな赤ん坊なのかと楽しみでもあり、不安でもあったが、ごく一般の子と大差ないように思えた。
ただしほとんど泣かない。おしめの時も空腹の時も「う〜」とむずがって不快を訴えるのみだった。
(眠いらしい時には泣いたっけか)
打ち止めの肩から吊り下げられたホルダーの中、黒い瞳で見上げてくる息子の頭を指先で撫でる。うっすら生えた髪も黒。
どうやら色以外は一方通行似のようだ。
「ほら、行くぞ」
「もう、結局自分が寒いだけなのよきっと、ってミサカはミサカはお父さんは寒がりだと教えてみたり」
背中を向けつつも、後からついてくる妻を、足をとめて待ってから歩きだした。
555 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 00:44:17.77 ID:Fz6z8l7g0
家に帰れば落ちつけるかというとそうでもなく、昼夜を問わない赤ん坊の世話は、新米夫婦を疲弊させた。
今までは看護師や病院の妹達がさりげなく手助けしてくれたことが、どれほどありがたいことだったのかと感謝した打ち止めであった。
病院では「本当に泣かなくて手のかからない赤ちゃんね」と褒められていたが、
頼りにする父と母が寝ていて気づいてくれないのでは、泣いて訴えるしかない。
「ひぁい!? はいはい何かにゃ、お腹が減った?」
「ンァ…?」
「あなたは寝てて」
深夜に起こされるのも毎晩のことだ。打ち止めが薄暗いままの部屋で授乳を始めたので、一方通行が照明をつけた。
満足そうに乳を飲む息子は可愛い。ふと気づくと、妻は護に乳を与えながら、うつらうつらと船を漕いでいる。
倒れないように肩を支え、息子の腹が満たされた頃合いを見計らって二人を引き離す。
「ふに、あなた…」
「あとは俺がやっとくから、オマエは寝てろ」
「うん……」
打ち止めを寝かせてから、一方通行は護を抱きあげる。
「うぃー!」
「そォか、美味かったか。良かったな」
食事のあとは、背中を叩いてげっぷさせなければならない。かるくあやし、背中に手を当てる。
抱けるのか、なんて不安に思っていたあの頃が懐かしい。
子育てに『待った』は無く、やらなければならないことに追われていたら、日々はあっという間に流れていった。
げっぷさせるのも手慣れたもので、もうすぐ息子は生後三ヶ月を迎える。
556 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 00:48:02.40 ID:Fz6z8l7g0
煌々と光る照明などものともせず眠る打ち止めの目の下には、隈が出来ている。
一方通行もいつまでも仕事をおざなりにするわけにはいかないので、最近は事務所に出掛けて家を開けることが多い。
慣れない初めての子育てに、この若い母親はすっかり疲れていた。出来る限り育児、家事を手伝う一方通行だったが、
子育ての負担はどうしたって女性の方が大きい。
おかげで今年は花見どころか、四月十五日の打ち止め十八歳の誕生日さえ、ろくに祝ってやることができなかった。
「何が欲しい」と聞けば、「寝たい…」と、うつろな目で答えられたものだ。学園都市最強の能力を有効活用して、彼女に数時間の連続睡眠をプレゼントしたけれど。
(この調子じゃァ、式なンて当分無理かもな)
出産を終えたら、延ばし延ばしにしていた結婚式を挙げようか、と二人で相談していたのである。
しばらくすればそんな時間もできるだろう、と気楽に考えていた。何人もの赤ん坊を世話してきた病院スタッフが
「手のかからない子」と評した我が子なので尚更そう考えていたが、甘かった。
「ん〜。……すぅ」
(寝たな……。そォそォ、寝るのもオマエの仕事だ)
授乳やおしめ交換をしてやれば、こうして夜泣きも治まり、すぐ眠る。
護はたしかに手がかからない方だと思う。それでも、一時も目が離せない子育ては大変だと身にしみた。
557 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 00:50:05.97 ID:Fz6z8l7g0
新緑の鮮やかさが残る初夏の終わりかけ。天の助けが現われた。
「お母様ありがとぉ〜、ってミサカはミサカはプロの手際に恐れ入ってみたり」
「大げさよぉ。もうこんなやつれた顔してっ。若いのにっ」
どこから聞きつけたのか、御坂美鈴が娘夫婦の助っ人にやってきた。
彼女は(戸籍上は)末娘の頬を両手で掴み、ぎゅう、と押し挟む。いじめているように見えて、実はそうではない。
「う、むぅ、……ひもひー(気持ちいい)」
「リンパマッサージよ。表情が明るくなるの」
「うぅう〜ん」
「ウフフ…。あら、孫が泣きそうよ。ちょっと見てくるわ」
さすがに母親経験者。二十年ぶりの子育てもお手のものだった。「今は便利な道具があって楽だわー」とさえ言う。
若い子ぶりたいのに、「おばあちゃんよー」と護に覚えさせようとする様は、ただ単に孫に会いたいだけだったのかもしれないが。
558 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 00:51:57.85 ID:Fz6z8l7g0
結婚一年の新婚さんの元に長期滞在するなんて野暮な事、もちろん美鈴はするつもりはなかった。せいぜい一泊させてもらえばいい。
その後はホテルに泊まって、美琴と遊べばいい、と計画していた。
しかし、普通の人生を送ってこなかったこの夫婦だからなのか、予想以上に疲労困憊していたため、数泊を申し出たのである。
「護の世話はこの美鈴さんにまかせなさい。打ち止めちゃんは、久しぶりにアクセラ君とのんびり休んでもいいのよ」
微笑ましい母娘の会話をキッチンテーブルから聞いていた一方通行は、この義母に感謝した。
「そうだ。外にお出掛けでもしてきたら? お買い物も全然してないんじゃないの?」
一方通行は、この義母にものすごく感謝した。
559 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 00:55:45.50 ID:Fz6z8l7g0
ポルシェにエンジンをかけるのも、どれくらいぶりだろう。懐かしい重低音に心が弾む。ましてや隣に打ち止めを乗せるなんて、数ヶ月無かったことだ。
大急ぎでメイクしてヒールを履いた打ち止めの装いは、結婚前のデートを思い出させる。
行き先など相談せずに出発してはみたが、どこへ向かおうか。
(行きたい所は、あるにはあるが……)
すでに一方通行は、打ち止めに対して色々さらけ出してしまっている。今更つける恰好なんてない。正直に言うことにした。
「打ち止め……、俺」
「??」
「ホテルに行きてェ」
「……いいよ。えへ、イイところに連れてってね!」
「ン」
良かった。妻も嬉しそうだ。
出産の前から性交を控えていて、無事に産まれたら……と、オタノシミを熟成させていたのに、
体に負担がかかった打ち止めは入院。加えて想像以上に大変だった子育てに追われ、満足に求めることができない状態が続いてしまう。
そんな折、不意に訪れた自由時間を何に使おうかと頭を巡らせたとき、真っ先に「シたい」と至る欲望に呆れるのは、もうやめている。
それは自然なことだと開き直って。
隣の妻も、そういう悩ましい欲望や、あるいは開き直りを持っていたのか。それとも最初から素直に受け入れていたのか……
行き先が決まり、ポルシェは軽快に走る。
560 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 00:57:53.91 ID:Fz6z8l7g0
昼の明るいうちから(しばらく利用できていなかったが)いつものビルに入っているホテルに行くのは恥ずかしかったので、
違う場所を選んだ。そこのスイートのバスルームは、へりにつかまってバタ足できそうなほど大きい。
疲れたそばから、湯にたゆたって癒せるのだ。これは便利。
「やぁーん。あなた溺れちゃうよ?ってミサカはミサカは脱出を図ってみたり」
「させるかよ」
打ち止めの裸の胸に顔をうずめる。脇に手を入れて、浴槽の壁に押し付けた。そうしないと口が湯に浸かってしまうから。
既にたくさんのキスマークがついているそこへ、隙間を埋めるように更なる赤を色づかせていく。
「あ、あん」
「…………。護はこンなンが美味いのか」
「食べる物で母乳の味が変わるんだって、ってミサカはミサカは美味乳(ウマちち)目指してがんばるぞ」
「ほォ」
561 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 01:00:04.12 ID:Fz6z8l7g0
目一杯遊んだ後は、一緒にベッドに転がってピロートークの時間。少しだけ、ほんの少しだけ子育てのことを忘れて、恋人同士の二人に戻る。
これも御坂美鈴のおかげだ。そこで打ち止めにある思いつきが浮かんだ。
「ミサカ達、明日結婚式しない?ってミサカはミサカは電撃発言してみたり」
「明日!?」
「お母様にマモちゃんのことお願いして、その隙に」
「…………」
結婚式といっても、招待客を呼ぶ気はない。二人だけで挙げるつもりだった。
「急すぎる。式場の予約なンて取ってねェぞ」
「ミサカはウェディングドレスで、あなたはタキシードを着て……。それで写真を撮れれば充分だよ、ってミサカはミサカは誓いの言葉も欲しいと本音をもらしてみる」
ドレスもタキシードも、すでにオーダーメイドの物を用意できている。着る暇がないだけで。
「オマエがそれでいいなら。後で式場に確認取ってみるか」
「うん!」
562 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 01:06:07.59 ID:Fz6z8l7g0
いくつか見繕っていた式場のひとつに、なんとか空きが見つかった。司祭もスタッフも必要ない、写真撮影だけしてくれ、という条件ゆえに了承が得られた。待機や衣装替えなどの準備をする控室と、教会を一時間ほど貸し切る。
「まだか」
「もういいよー、ってミサカはミサカはあなたにお披露目してみたり!」
先にタキシードに着替え、衝立の向こうで長々と待たされていた一方通行が振り向く。
純白のウェディングドレスを身にまとった打ち止めが、夫の感想を待っている。
「ふゥン。腹は無事に収まったか?」
「ちょっと初めに言うのがそれって失礼すぎ、ってミサカはミサカは全身まっしろのあなたを非難してみる」
「冗ォ談だ。……綺麗だ」
「ふほぉ!? うふへへへ…。でででもダメなんだから。罰はしっかり受けてもらいます。こっちきて。座って」
言われるままに、打ち止めが背後に立つ椅子に腰かけた。彼女はせっかくはめたレース生地のグローブを外して、持って来たヘアワックスを手に取り、
「オイオイ、なにする気だよ」
「大人しくしてったら。……ほらカッコいい! 素敵!ってミサカはミサカは珍しいあなたのお耳をくすぐってみる!」
美容院で髪のセットをやってもらったのは打ち止めだけだ。一方通行は普段と同じ。
「サラッサラヘアーも似合ってたけど、いつもと違って特別なカンジがする、ってミサカはミサカは記念日っぽくて盛り上がってみたり」
両手で白い髪を後ろに撫でつけられ、前髪部分以外が後方へ流された。
風呂に入って濡れているわけでもないのに、両耳が露わになって落ち着かない。
それは昨日からの高揚と相まって、より青年の心をはやらせた。
563 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 01:08:21.15 ID:Fz6z8l7g0
赤い絨毯が敷き詰められた撮影用の小さなスタジオで、数枚の写真を撮った。
これらは後で家族に見せなければならない。同席を断った手前、せめて写真は見せないと不義理が過ぎる。
もちろん、御坂美鈴にも「渡さないと護を抱いて、ついて行く」と言われていた。
「あなたが全然笑わないから、カメラマンさん困ってたね」
「……」
一方通行と打ち止めは並んで教会へ向かっている。先に式を挙げていたカップルと招待客が帰った後なので、進む場内は静まり返っていた。
式場側に、「極力構わないでくれ」という要望を伝えておいたことも要因だ。
屋根と柱だけの渡り廊下は、花香る庭の中。それが終わり、大きな木製ドアの前に立った。
ドアの正面は階段になっていて、本来の挙式なら、ここはブーケトスを待つ招待客(主に女)で溢れるのだろう。
二人は組んでいない方の手で、一緒に扉を開けた。
564 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 01:11:49.83 ID:Fz6z8l7g0
(こんな風にバージンロードを歩く夢を、ミサカはいつから抱いてたんだっけ……?)
(こンな風に明るい世界の象徴が俺の身に起こるなンて、あり得ないと思っていたが……)
隣を歩く愛する人がいたから、叶ったのだ。
(十字架でっか。ええと、リコウの結婚式ではインデックスの言葉に『誓います』って答えればOKだったけど、今回はどうすればいいの?ってミサカはミサカはここはミサカがお手本を)
示さなきゃ、と思って一方通行を見上げた。一方通行も打ち止めを見降ろしていた。
花嫁はベールを被らず、シルクと真珠の髪飾りだけだったので、二人の視線は近くで絡み合う。
普通なら新郎新婦は十字架に向かうのだが、一方通行は打ち止めの目の前に移動する。
ステンドグラスから降りそそぐ鮮やかな色が逆光となり、影となった新郎の正面が打ち止めの視界を埋める。
「教会でこう言うのもどォかと思うが……、俺が誓うのは、いつもオマエだ」
「…………」
「俺は、打ち止めを愛している」
「私も、あなたを愛してる」
何よりも誰よりも尊いものに誓いたい。
お互い囚われて、繋がれているのだとしてもそれでもいい。
二人で過ごしてきた日々が証明で、今この瞬間の心が真実だ。
(さっきの写真も、こんな顔をしてくれれば良かったのに、ってミサカはミサカだけの笑顔独占も悪くないと思い直してみる)
近づいてくる口づけを待って、打ち止めは目を閉じる。
(また泣いた……)
潤んだ目が閉じられたことによって、溢れた涙が打ち止めの頬に線を残す。
二人の誓いが唇でも交わされた。
565 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 01:13:23.08 ID:Fz6z8l7g0
今から八年前、一方通行という名で呼ばれる男と、打ち止めという名で呼ばれる女は、狂気の中で出会って縁を持つ。
大切なひとは、やがて愛するひとになった。
血を分けた子を作り、父と母になった。
それでも男は女のもので、女は男のものに変わりはない。
「愛してる」
「愛してるよ……」
ずっと。
566 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 01:14:13.23 ID:Fz6z8l7g0
「うぅ。ミサカ、あなたの赤ちゃんをたぁーっくさん産んであげるね! 野球チームが作れるくらいに!」
「……ほどほどに頼む」
567 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 01:14:57.87 ID:Fz6z8l7g0
とある未来の通行止め
おわり
568 :
ブラジャーの人
[saga]:2012/06/18(月) 01:18:37.84 ID:Fz6z8l7g0
ここまで書いてこられたのも、読んでくれたみなさんのおかげです。
ありがとうございました。
これでおしまいです。
あの言葉でお別れを言いましょう。
さよ海原!!(今日のところは)
569 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/18(月) 01:21:50.62 ID:YUuRu28DO
>>1
乙ぱい
これからの若い二人に幸いあれ
そして打ち止めからでるなら美味乳に決まってる!ハズ
570 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/18(月) 01:23:50.67 ID:C7OhWn/IO
>>1
乙ううううううううううう
長い間本当にお疲れ様でした
また
>>1
のSSが読めるといいです!
571 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2012/06/18(月) 01:35:05.22 ID:GQ1fWMHjo
>>1
乙
本編終了お疲れ様でした
毎回楽しみでしたわ
番外編とか落ち穂拾いとか期待していいのかな?
572 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2012/06/18(月) 01:38:59.14 ID:ODFeQ8kAO
僕も護きゅんみたいに打ち止めちゃんに授乳してもらいたいです><
573 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岐阜県)
:2012/06/18(月) 01:40:02.76 ID:kRC6Ivnu0
>>1
乙
お疲れさまでした。
ほのぼのしたストーリーに癒され、とても楽しい時間でした。
ありがとうございます。
574 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)
[sage]:2012/06/18(月) 02:14:46.94 ID:ifJDIeAAO
おつうううう海原
最終回というものはやっぱり寂しいぜ
575 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/06/18(月) 03:22:14.87 ID:AaAufIcSo
お疲れ様でした!
最初からずっと読んでたから感慨深い
いつも楽しみにしてたよ
幸せな二人を本当にありがとう!
おまけにも期待してる
576 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/18(月) 08:28:47.66 ID:8CALG6Yno
通勤電車で鼻をすすりながら見てたら、周りから怪訝な目で見られたZE☆
兎に角乙!
577 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/06/18(月) 09:34:40.37 ID:K7shpVXEo
(・ω・`)乙 これは乙じゃなくてポニーテールなんだからね!
……まぁ冗談はさておき、ほんっっとうに乙です!
最初っから最後まで、ニヤニヤさせてくれる良ssで、毎回楽しみにしてましたし
SS速報に出入りし始めてすぐにみっけた思い出深いスレなので、
終わってしまうのは寂しいですが、二人の門出を祝って……
ありがとうございました! ……オマケにも、きたいしてますww
578 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/06/18(月) 22:50:50.09 ID:UaP9DXZI0
息子は黒髪黒目なのか……ある意味一方さん似か?
盛大な乙を贈呈したい!!感動&ニヤニヤでした!!!!
579 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/18(月) 22:55:50.51 ID:Xix7rh4IO
おつおつ
これから育児編がはじまるんですよね!
580 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/19(火) 08:32:32.00 ID:jLJ20GqDO
>>1
乙ぱい!
最初は打ち止めのブラと成長する胸でセロリがやきもきしてた話なのに
気付いたら感動の大作にww
アフターあるっぽいしそっちも期待してる!
581 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/19(火) 20:29:23.92 ID:DnxQUYMV0
たくさんのレスをありがとうございます。ありがたいことこのうえなし。
ほんとに嬉しい。
オラ東京さ行くだ、的な気持ちでスレを立てたので、みなさんの優しさにいつも感謝してました。
おまけはそんなに多くないので、期待を膨らませてはいけません。
582 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/19(火) 20:32:42.67 ID:DnxQUYMV0
浜面仕上が一方通行と打ち止めの家にやってきた。彼は出産祝いだと言って、リボンが巻かれた箱を差し出す。
「……重ェな。なンだこれ」
訝しみながら、一方通行はビリビリと包装を破いて蓋を開ける。中身はダンベルだった。
「もっと筋力つけろよ。これから息子を抱っこしてやらなきゃいけないだろ? すぐにどんどん重くなるんだから」
「これでオマエを撲殺しろってことじゃねェのか」
「ちゃんと普通のお祝いもあるんで、振りかぶらないで」
お祝い金が入った封筒を打ち止めに手渡し、そのまま一方通行から距離を取る。リビングの壁際にはベビーベッドが置いてあり、その中にはアヒルのぬいぐるみと一緒に赤ん坊がいた。
「まぁ、ありがとうございます、ってミサカはミサカはマモちゃんのおかげでお祝いゲットしたよ、って収穫を見せびらかせてみる」
「あー」
「おぉ、護くん! たった半年で大きくなったなぁ!」
この家の夫婦を知る者は皆、赤子を見て同じ感想を漏らす。
「髪と目が黒くて小さくなった一方通行ってカンジだな」
「ねー。ますますあの人に似てきたの、ってミサカはミサカは将来が楽しみだったり。でも口はミサカの方に似てるんだよ」
ベッドを覗き込む二人のそばに、一方通行もやってくる。
「良かったじゃん。打ち止めみたいによく笑うイイコになるんじゃね? ひねくれずに育てよ」
「やかましィ」
色意外の容姿が自分に似ていようとも、確かに性格は妻に似た方がいいに決まっていると一方通行も思う。
自分が捻くれていることは百も承知だ。
「それがね、護はあんまり泣かないことは助かってるんだけど、あんまり笑いもしないの」
(乳を飲ンだあとは嬉しそォだけどな)
「へぇ? この笑いの帝王、浜面仕上が笑わせてやろうか」
583 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/19(火) 20:34:29.99 ID:DnxQUYMV0
浜面「いないいないばぁー」
護「うー」
浜面「べろべろばぁー」
護「うだー」
浜面「いないいないべろ婆ぁー」
護「あだー」
浜面「笑わねぇな! 『だー』しか言わん」
打ち止め「まだ半年だし……」
浜面「……1・2・3」
護「ッダー!」
浜面「て、天才だ……!!」
一方通行「変なこと教えンなこの馬鹿面がァ!」
浜面「ちが、今のタイミングといいイントネーションといい、この子絶対分かってるよ?」
一方通行「ンなわけあるか。馬鹿になったらどォしてくれる」
護「きゃっきゃっ!」
打ち止め「あ、笑った」
浜面「親子そろってヒドイ!」
以上
584 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/06/19(火) 22:02:05.59 ID:sDGdLytL0
アフターキター!
まもくんかわゆす(´ω`)
585 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/06/19(火) 23:15:54.21 ID:AiEqs7yUo
アフターだけで新スレか……ゴクリ なんか甥っ子を思い出すぜー期待乙
586 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2012/06/20(水) 00:47:14.31 ID:CKHZqpj8o
誕生祝い半年後にヅラのみ持参、、ってイロイロあったんだろうな
587 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/20(水) 00:52:38.95 ID:F8CWay/DO
>>1
乙ぱい
>浜面「……1・2・3」
>護「ッダー!」
ノリいいななんだコノヤロー!
とりあえず浜面卍固めろ!
588 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/20(水) 14:25:58.98 ID:0ppXysaW0
>>586
え…。私それやったけど。だってこっちも向こうも忙しくてなかなか時間が、という言い訳。浜面級なのか私は。
>>587
コブラもキメようぜ。
あと一回か、二回オマケで終わりです。
589 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/20(水) 14:28:08.96 ID:0ppXysaW0
上条当麻が一方通行と打ち止めの家にやってきた。
「赤ちゃんって実際には『ばぶー』って言わないんだな」
「そうだね。『ぎゃふんと言わせてやる』の『ぎゃふん』並みに言わないよ、ってミサカはミサカは観察結果に基づいて報告してみたり」
「ウチのガキは主に『だー』だな」
浜面仕上に『だー』しか言わんと評されたとおりだ。いつになったら言葉を喋りだすのだろう。
「一方通行達はパパママ派? お父さんお母さん派?」
「うーん。どっちでもいいけど、男の子だし後者かな?ってミサカはミサカは中学生や高校生になった時のことを考慮してみる」
「だが前者の方が発音のし易さと短さで有利だ。まァどっちでもいいが」
「そうか。ほーら護くん、パパって呼んでみなー」
「あだー」
「そうじゃなくて、パパ、だよ」
上条がベビーベッドから護を抱え上げ、父親の方を向かせる。その途端、泣かないことに定評のある赤ん坊が、火がついたように泣きだした。
「ぎゃーん! あー!」
「うわうあうわぁ! なんで急に!?」
「きゃあ凄い! マモちゃんがこんなに泣いてるの珍しいよ! あなたカメラカメラ!」
「アホ言ってる場合か。寄越せ三下」
一方通行が焦りまくる上条から我が子を受け取り、ソファで両手を開いてスタンバイしていた打ち止めにそのままパス。
一番安心できる場所に収まった護は、ピタリと泣きやんだ。
「なんかごめん。護くんも驚かせてごめんな」
頭を撫でようと、黒い髪に上条が手を伸ばすと、
「うー! ぎーっ」
護は反対側を向いて、ますます母の胸にしがみついた。
「えぇ? どーして!?」
「はン。嫌われたな、三下」
「今なら手を離しても落ちないよ、ってミサカはミサカは護のコアラパワーに驚愕してみたり」
590 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/20(水) 14:29:10.48 ID:0ppXysaW0
「あなたぁー、お茶っ葉、上の戸棚から新しいの出してー」
「水でも飲ませときゃいいだろ……」
上条のためにお茶を淹れようとした打ち止めと、彼女に呼ばれて一方通行もキッチンに姿を消した。
これでリビングには上条と護の二人だけだ。
上条はそろり、そろりと足を忍ばせてベビーベッドに辿り着く。泣かれない距離を測りながら、こっそり赤ん坊に語りかけた。
591 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/20(水) 14:30:19.93 ID:0ppXysaW0
上条「あのう、護くん。わたくしキミに何かしましたでせうか?」
護「うー」
上条「うーじゃ分かりません」
護「だー」
上条「喋れるようになったら教えてくれよな」
護「……ばぶー」
上条「!!? は!?」
護「ばぶ、ばぶー」
上条「い!? 言ったぁぁぁ!?」
一方通行「うるせェな三下が。ガキが驚くだろォが」
上条「いまっ、この子が『ばぶー』って!! ほらもう一回言ってっ。ご両親にも聞かしてあげるんだ!」
護「だぅ」
打ち止め「カミジョウ大丈夫?ってミサカはミサカは奥さんのお迎えが必要か確認してみる」
上条「なんでだよぉ…」
以上
592 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/06/20(水) 18:36:54.95 ID:HMUK9Azpo
幻想殺しに反応しおったか?
ってそう言えば折角の天使の加護が台無しに
593 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)
[sage]:2012/06/20(水) 21:11:10.92 ID:Ur8TmDN/o
そりゃ幻想殺しと神の加護じゃ、相性悪いわなwww
魔術側と絡んで欲しいが…カミやんのせいでそれどこじゃないもんなぁ
594 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)
[sage]:2012/06/21(木) 22:01:09.94 ID:phImoz0A0
出遅れt本編完結乙です。
歩く教会と同じですね
595 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/22(金) 00:34:18.96 ID:XUfJ5ZpI0
オマケにまで乙ありがとうございます。
今回が最後です。
(あ……。俺、今寝てんだな。もうすぐ起きれそうだ。起きたらどうすっか…)
青年は自分が寝ていることを理解していた。浮上しはじめた意識に従って、起床後の予定を組み立てはじめる。普段ならまず食べ盛りの体を満足させるための食事を考えるのだが、不思議と空腹は感じない。
(……体が動かねぇ。昨日なんかしたか? 筋肉痛とか?)
寝る前の自分を思い出そうとして、その記憶がないことに思い至る。そういえば、ここは自宅なのか、複数あるアジトのどれか分からない。シャワーを浴びた記憶、着替えた記憶もない。
混乱してきた。
とにかく、蘇らせることができる一番新しい記憶を検索しよう。
心理定規……
アイテム……
最終信号……
アレイスター……
そして、黒い翼。
(一方通行!!)
596 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/22(金) 00:37:11.63 ID:XUfJ5ZpI0
目をあけるとそこには、黒い瞳が待っていた。
しかしその目は一瞬で視界から逃れてしまう。次いで現れたのは白い天井。蛍光灯はついていないから、きっと今は昼間だ。
「パパー。垣根おきたー」
パタパタパタ。子供が走り去る足音で急激に意識が覚醒する。
(あぁ? なんでガキが?)
垣根帝督はベッドの上で身を起こそうとして愕然とする。目覚めたのに動けない。
大変な労力を払って、なんとか左肘をつく。そこで針が腕に刺さっていることに気づいた。そこから伸びるチューブと点滴スタンドで、どうやら医療施設にいるのだと悟る。
(うん? オイオイまさか……)
ゆっくり右腕を持ち上げて、掛かっていた布団をめくる。ゆるい患者服の上から自分の局部を確認して垣根は複雑な表情を浮かべた。
点滴の針だけでなく、排尿用のチューブまで刺さっている。
(どんだけ寝てたんだよ俺は)
597 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/22(金) 00:39:32.66 ID:XUfJ5ZpI0
刺さっている物に気を使いながら、やっとの思いでベッドに座る。
(はぁー)
一方通行に負けたのだ。現状からして、メッタメタのケチョンケチョンにやられたのだろう。
「っく……!?」
「畜生」と悪態をつきたくて口を開いたが、声も出ない。これはいよいよ事態は深刻だ。
まさか死線を彷徨ったりしたのだろうか。今は何月何日だ? 窓から見える景色は緑がまぶしいから、季節は春だろう。
(半年ぐらいか? とにかく声……)
「あ、あー。あー、わー」
「なーに? アー?」
発声練習していると、いつの間にか戻って来ていた先程の子供がこちらを見上げている。
598 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/22(金) 00:42:21.60 ID:XUfJ5ZpI0
「もうすぐお医者さんがくるよ。おれがよんだ」
「そう、かよ。…そこのナースコール、でもよかったんじゃねぇの」
「……しっぱい」
褒めてもらいたくて張った胸を引っ込め、子供は目を逸らす。
「おい、ガキんちょ。水、持ってきてくれ」
「いいよ。ほかには?」
幼児のクセに、いやに気が回る。垣根はふと考えて、点滴針が刺さっていない右手で顔に触れた。顎、頬、額。
「鏡、持ってこい」
「うん」
素直に頷き、子供はまた出ていく。
「こらこら、ここは病院なんだから、緊急以外は走っちゃいけないよ」
「きんきゅー!」
「じゃあ仕方ない」
入れ替わりに入ってきたのは、カエルに良く似た白衣の男だった。
「おはよう、垣根くん。気分はどうだい」
「良くはない」
「そりゃそうだね。これから君にはたっぷりと検査を受けてもらうよ」
「ふぅん」
「自分の状況はある程度理解しているかね?」
「ある程度は、な」
その時、開け放していた扉の向こうに、ひょっこり黒い髪が。垣根は医者との話を中断してそこを見る。
冥土帰しも彼の視線を察知して振り返った。プラスチックのコップを両手に持った子供が、
そればかりを見つめてスリ足で入ってくる。とても心配になる光景だ。零さないか、転ばないか。
「もってきたよ」
「おう」
飲んでも? とコップを指さす。冥土帰しは了承した。
「飲めるなら飲みたまえ。ゆっくりだよ。胃が驚く」
599 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/22(金) 00:45:28.16 ID:XUfJ5ZpI0
「ガキんちょ、鏡は?」
「かがみはあそこ」
個室の隅、手洗い場の上の壁には、大人の身長に合わせた鏡が掛けてある。
「アホか。動けねぇから、持ってこいっつってんだ、よ!」
「わかってるって」
子供はパイプ椅子を鏡の下まで移動させ、それに登ろうとしている。
「護くん、靴は脱ぐんだよ」
「はーい」
ばっきぃ!
「……」
「……」
「よっと! ほい、とれたぞ」
鏡は脱着可能な金具だけでなく、強力接着剤の力も借りて壁にくっついていた。護と呼ばれた子供は多少手間取りながらも鏡を剥がし、
両手が塞がったのでジャンプして降りる。そのままの勢いで、靴も履かずに駆け寄ってきた。
「この鏡、あんなにしっかりくっついてたんだねぇ。自分の病院なのに知らなかったよ」
600 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/22(金) 00:48:35.31 ID:XUfJ5ZpI0
鏡で見た自分の顔、姿は一方通行と戦う前のままに戻っていた。強大な力で襲われて、負ったであろう傷も見当たらない。髪はちょっと伸びている気がする。
「水もういい?」
「いい。……護、っつったか。お前はいつまでココにいるんだよ」
「えーと、パパがむかえにくるまで」
そういえば、目覚めて最初に聞いた声は「パパー垣根おきたー」であった。
「もうすぐここにくるよ」
「そうか、お父さんは今日、お母さんに付き添ってるんだったね」
「うん。ちょうせーは二時におわるんだって。さっきパパから聞いた」
垣根は壁掛時計を確認した。あと十分で二時だ。しかし二時を待たず、杖をつく音が近づいてくる。
「護ゥ…! ここには来るなと言っただろォがァ……」
601 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/22(金) 00:50:43.93 ID:XUfJ5ZpI0
「パパー!」
護はドスのきいた声の主にしがみついた。杖をつく人に対して遠慮がないが、一方通行は堪える。
「一方通行……?」
呆けた垣根を一瞥し、一方通行は息子を病室の外に押し出した。
「ずるい! おれだけなかまはずれなの?」
「気色悪ィな。俺だって仲間じゃねェよ」
まだ騒ぐ護を無視し、扉を閉める。
「十一年ぶりだな。クソメルヘン」
「……十、一年?」
垣根帝督が知っている一方通行ではなかった。
まずなんかデカい。なんかヒョロさ半減。なんか年くってる?
(そっか。十一年も経ってんのか)
602 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/22(金) 00:57:30.66 ID:XUfJ5ZpI0
その後は二人とも喋らず、ただ睨み合うだけ。見かねた冥土帰しの「難しい話はまた今度にしなさい」という助け舟でもって、
一方通行は部屋を出た。扉が開いた隙に駆け込んできた小さな影は、父親の制止も聞かずに垣根に近寄る。床には点々と水を零しながら。
「! 待て」
「はいお水! ここおいてく! 行こパパ!」
怒られる暇を与えないように、一人で勝手に水を運び、父親の手を引いて退散する。「ママはどこにいるの?」と話題の転換を図ることも忘れない。賢しい三歳児だった。
「あとで看護師を寄越そう。今は体を落ち着けるんだね?」
冥土帰しもいなくなって半時間後、体のあちこちからチューブが抜かれた。
垣根は肩を回し、伸びをする。ベッドから降りると、情けないことによろめいてしまった。手をつかなければ立てない。
「くく、ダッセぇ」
ベッドサイドに放置していたコップの水が、垣根が起こす振動を受けて波紋をおこしていた。
603 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/22(金) 01:05:58.12 ID:XUfJ5ZpI0
なんてカンジの話が書けたり読めたりしたら面白いのに。
私の垣根に対する愛が足りないから無理だった。
護「今日から垣根の家はおばあちゃんちだぞ」
垣根「はぁぁぁ!?」
とか
垣根「おいぃ! そこの色ボケども! 自分達のガキの髪が白くなってることぐらい気づけ!」
護「すげー。おれパパみたいになんの?」
とか
そうだったら楽しいね。
月末に削除依頼出しときます。
604 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/22(金) 01:49:01.86 ID:itq68nYDO
>>1
大変な乙ぱい
毎日更新されてないかチェックするのが日課になってたよ
良いSSをありがとう
そしてはやくていとくんのSSを書く作業に戻るんだ
605 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/06/22(金) 08:51:52.11 ID:4BcSo7auo
乙カレー
606 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/06/22(金) 10:48:16.77 ID:Oj1gm2W+o
つづきを! はりー!はりー!はりー! 乙でしたい!
607 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/22(金) 11:44:50.14 ID:yVZjHkPIO
護・・・これは流行る
麻琴といい感じに流行る
608 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/22(金) 21:56:21.17 ID:QHJcQ0VW0
続きですか……
気が向くか、失業したら書いてみますね。
タイトルをつけるとしたら『とある未来の通行止めファミリーwith未元物質』 センスないよ。
11年後の垣根、心理定規も一方さん達も皆年上に。「ムカつく! ガキ扱いすんな!」 みたいな。
11年後の垣根、打ち止め(のおっぱい)見て一方さんを羨ましがる。そしてロリコンと罵る。
ベクトル操作の能力者となった護のために、一方さんが開発に精を出す(研究者にまかせておけないぜ、ということで)
まるでベジータ様のように。
垣根もスケットとして護の能力開発に協力する。まるでピッコロさんのように。
そんな妄想のカスしかない。つくづく通行止めしかダメなんだなぁ。ごめんね垣根。
609 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2012/06/23(土) 15:34:57.82 ID:sRJdkTQ4o
乙でした
通行止めのイチャイチャと周囲の静かな遷移が
楽しくも微笑ましかったでしたわ
610 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/06/23(土) 20:19:33.66 ID:o6fT2tDno
乙っぱい。
希少かつ面白い通行止めSSがまたひとつ消えるのか…
611 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/23(土) 22:40:51.05 ID:ISw69LzDO
そげぶさんのお孫さんは?
612 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/24(日) 00:06:28.40 ID:rx32rSSDO
>>608
むしろそれ読みたいwwww
613 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/24(日) 08:28:29.87 ID:OvSHqBEIO
インデックスと上条の子供の名前か・・・気になるな
614 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(徳島県)
[sage]:2012/06/27(水) 15:01:55.82 ID:kqawMUQP0
乙!
615 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2012/06/28(木) 23:27:28.18 ID:YAM2kObf0
乙でした。
その3の中盤辺りから読ませて頂き、いつか支援物資を妄想しておりましたが、間に合いませんでした。orz
最後にしょぼいラフ&写メで申し訳無いですが捧げさせて下さい。
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3141289.jpg.html
616 :
ブラジャーの人
[sage]:2012/06/29(金) 21:10:31.17 ID:GxKVaijh0
>>615
喜んで揉む
617 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/06/30(土) 05:28:42.12 ID:aklTzhMDO
>>615
乙ぱい
おい、誰だよ?こんな所に
>>1
を模した愉快なオブシェを置いたのは?
618 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2012/06/30(土) 23:16:45.14 ID:Z6YDMjnS0
>>615
です。最初で最後の支援絵置き逃げ予定でしたが、今見たら文&絵にダウトがあったので
上げ直させて頂きました…。
文:×→いつか支援物資を ○→いつか支援物資をと
絵:細かいですがリボンの位置がズレすぎていたので修正しました。
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3149263.jpg.html
>>1
来たついでに1枚目同様ガッカリ絵ですいませんが、調子に乗って揉みやすそうなの置かせて頂きました。
一寸アレな絵ですが、このSSのテーマの一つにラスπも入っているのでお許し下さい。
………土下座の準備は出来てます。orz
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3149298.jpg.html
それでは良い通行止めを有り難うございました。さよ海原!
619 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/07/01(日) 23:34:52.24 ID:ohQfQj3z0
乙です!
620 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/07/03(火) 18:20:03.30 ID:BbfneFaIO
くそおおおおお404かよおおおおおおお
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