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蛇足 とあるフラグの天使同盟 捌匹目 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/21(土) 14:22:41.86 ID:k5/+0LA+o
この二次創作はライトノベル『とある魔術の禁書目録』の登場人物、一方通行を主人公にした
平成能力者浪漫譚です。でも人斬り抜刀斎とか喧嘩屋とかは登場しません。

【本編】

一方通行「フラグ・・・ねェ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1285654962/

上記のスレが本編最初のスレです。こっからグダグダと続いていきます。


【本編のエピローグ・続編】

蛇足 とあるフラグの天使同盟
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1307804166/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 弐匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1310210981/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 参匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1313069422/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 肆匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1316009458/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 伍匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1319277226/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 陸匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1322982536/

蛇足 とあるフラグの天使同盟 七匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1327741451/


上記のスレからの続きとなっています。もしお暇でしたら、ご一読を。


以下、留意点など。


・更新は基本的に三日以内です。時間帯は不安定。
・キャラ崩壊が起きています。ご注意ください。
・地の文と台本形式、両方でお送りします。
・誤字脱字のバーゲンセール。発見した方は厳しく指摘してやってください。
・書き溜めは多分尽きる事は恐らくないでしょう。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1334985761(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
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もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

【進撃の巨人】俺「安価で巨人を駆逐する」 @ 2024/04/27(土) 14:14:26.69 ID:Wh98iXQp0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714194866/

諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714136403/

少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

2 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/21(土) 14:24:03.32 ID:k5/+0LA+o


                   【登場人物紹介・『天使同盟(アライアンス)』の構成員】


【一方通行(アクセラレータ)】


このSSの主人公。学園都市最強、超能力者(レベル5)第一位の『一方通行』の能力を持つ白髪の少年。
第三次世界大戦を経て大天使ミーシャ=クロイツェフに好意を抱かれてしまった哀れで幸せな男。
『第一九学区事件』後、ひょんな事から垣根帝督と衝突してしまうが、その事もあって一方通行は
他人(特に異性)との交流について真剣に考えるようになる。現在はフラグを立てた女性陣と真剣に
向き合い、自分という存在と方向を確立しようと奮闘している。


【ミーシャ=クロイツェフ】


『神の力(ガブリエル)』。本作のヒロインにして『天使同盟』の顔。水を司る本物の大天使。
第三次世界大戦で意思疎通をした一方通行に好意をよせ、以後は彼と共に人間界で生活する。
『第一九学区事件』で周囲の仲間達に救ってもらった後も学園都市に居座り自由奔放に暮らす。
現在、フィアンマと打ち止めを巻き込んで一方通行に贈る『サプライズ』を進行している。


【風斬氷華(ヒューズ=カザキリ)】


『天使同盟』に咲き誇る一輪の花。『天使同盟』内でも比較的常識を持ち合わせている健気な女の子。
油断をするとつい風斬がヒロインなのではないかと勘違いしてしまうほどヒロインをしている、はず。
『第一九学区事件』後も好意を寄せる一方通行相手になかなか積極的になれずにいるが、健気に彼を
遠くから見守っている。風斬氷華専用ルートが蛇足にて確定した。
3 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/21(土) 14:24:40.15 ID:k5/+0LA+o

【エイワス】



物語の都合上、出番が少なくなっているため、最近プリキュアへの転職を考えるようになった。



【垣根帝督】


学園都市第二位の超能力者(レベル5)、『未元物質(ダークマター)』の能力を持つ少年。
『第一九学区事件』で脳をひどく損傷し、能力と魔術が使用出来なくなってしまった。
現在はドレスの少女と共に過去に訪れた魔術サイドの地へ足を運び、能力と魔術を
取り戻す修行に専念している。一方通行同様、異性との向き合い方がわからないでいる。
一方通行との衝突の末、何の間違いか垣根帝督専用ルートが蛇足にて確定した。


【フィアンマ】


『天使同盟』最後の構成員。ローマ正教『神の右席』のリーダーを務めていた最上級魔術師。
様々な経緯を辿った末、『天使同盟』唯一の魔術師として加盟する事になった。
組織内でも比較的常識人ではあるが、それでもたまに意味不明のボケに走ってしまったりする。
現在はミーシャと打ち止めの協力を受けながら、とある『計画』を進行中なのだが…………。
4 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/21(土) 14:25:22.11 ID:k5/+0LA+o


                    【閲覧可能エンドルート一覧】



・【風斬氷華育成計画 -AIM Simulation-】

・【兎追いしかの街 -Wonder land-】

・【闇喰らわぬもの祈るべからず -Saint-】

・【俺より強い奴に I need you -Advance-】 

・【???】 

・【第一位と第二位の垣根を越えて -Identity-】

・【???】

・【???】

・【???】
5 : ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 14:26:06.82 ID:k5/+0LA+o

テンプレはここまでです。

では前スレにて投下を開始しますので、しばらくお待ち下さい。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) :2012/04/21(土) 14:44:00.83 ID:8m5Z/gt90
スレ立て乙
7 : ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:02:59.03 ID:k5/+0LA+o

前スレが残ってる間こっちがこのままじゃ何だか寂しいので、
小ネタ投下しまーす。
8 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:03:31.60 ID:k5/+0LA+o

――【ミーシャ=クロイツェフ】


ガブリエル「あのロシアの雪景色を、私は未だ鮮明に思い起こす事が出来る。
      右方のフィアンマに召喚され、兵器を携えた人類に理不尽なまでの
      攻撃を実行し、多くの人間に涙を流させ、大地を破壊し尽くした。
      そんな時だった。 私の前に、『天使』が立ちはだかったのだ。
      雪と同化しそうな程に白く、白い天使。 だがその背に背負うは
      闇をも塗り潰す漆黒の翼。 ―――――それが私と彼の出会いだった」

一方通行「オマエ何普通に喋ってンの!?」

ガブリエル「本気を出せば人類の言語を扱うくらい、容易い」

一方通行「常に全力でいろ!」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) :2012/04/21(土) 15:03:45.56 ID:8m5Z/gt90
キター!
10 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:04:19.44 ID:k5/+0LA+o

ガブリエル「この世に降りて私も長い。 いい加減、人間言語も慣れてきた」

一方通行「そりゃ重畳」

ガブリエル「だが、こうして私が通常の人間の如く言葉を振る舞う機会は滅多にない」

一方通行「どォいうケースでオマエは普通に喋るンだよ」

ガブリエル「貴方と二人の時だけ」ギュッ

一方通行「ぎゃああああ抱きつくなァ!!」ミシベキバキバキバキ……

ガブリエル「あのロシアの地で私は胸を貫かれた―――貴方の『魅力』という矢に」

一方通行「そもそもの大前提であるそこが怪しいモンなンだよな」
11 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:05:01.37 ID:k5/+0LA+o

ガブリエル「その言葉の意味するところは?」

一方通行「あの時、俺とオマエは殺し合いをしてただけだろ」

ガブリエル「しかしその向こう側の世界で、私と貴女は『対話』を交わした」

一方通行「覚えがねェな」

ガブリエル「ならばそれで構わない。 私だけの想い出として、その記憶を保持し続ける」

一方通行「……そォかい」

ガブリエル「礼を言う」

一方通行「どォいたしまして」
12 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:05:47.27 ID:k5/+0LA+o

ガブリエル「あー、やっぱ普通に喋るのダルいわーマジで」パネェワー

一方通行「今のは聞かなかった事にしといてやる」

ガブリエル「時に。 私はいつまでこのガウン……という衣服を着用しなければならないのか」

一方通行「学園都市にいる以上は着続けてろ」

ガブリエル「衣服など、コミュニケーションをとる際には障害にすらなり得るというのに」

一方通行「召喚される時代を間違えたなオマエ。 石器時代にでも降りてりゃ
     全裸でのコミュニケーションが……いや、あの時も服はあったか」

ガブリエル「私の名はミーシャ=クロイツェフという」

一方通行「どっかのシスターみてェな会話方式を用いるンじゃねェ。 なンだ急に」
13 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:06:45.20 ID:k5/+0LA+o

ガブリエル「だが貴方は私を『神の力(ガブリエル)』と呼称する」

一方通行「ミーシャってのは……よくわかンねぇが、間違った名前なンだろ。
     だったらガブリエル呼びで正しいじゃねェか。 不満なのか?」

ガブリエル「不満? 逆だ。 嬉しい、そう呼んでくれて」

一方通行「そォか。 じゃあガブリエル呼びは継続させてもらうぜ」

ガブリエル「fuditmgttiaediehhnrz……」

一方通行「あーノイズノイズ」

ガブリエル「失礼。 ミーシャという名は、サーシャ=クロイツェフという
      魔術師の器に宿った際に名乗った名前である事は説明したか」
14 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:07:35.25 ID:k5/+0LA+o

一方通行「どっかで聞いたよォな覚えがあるな」

ガブリエル「そこで貴方に二択を迫ろう」

一方通行「急になンだよ……」

ガブリエル「この本来の私の姿である、青白く、形容し難い肢体の姿と。
      サーシャ=クロイツェフの姿を借りた私。 どちらが好みか」

一方通行「あァ? ンだそりゃ……、解答を拒否したら?」

ガブリエル「暴れる」

一方通行「説得力と迫力が両立する脅しを吐けるのはオマエだけだよ。 ……、」
15 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:08:40.46 ID:k5/+0LA+o

ガブリエル「……」ドキドキ

一方通行「……………………サーシャの姿のオマエかな」

ガブリエル「ちょっとロシア行ってくる」

一方通行「待てこの冗談だクソったれ!! 今のクソ不気味なオマエこそガブリエルだ!」

ガブリエル「どうせそれも、本心ではないのだろう」プイッ

一方通行「オマエが疑心暗鬼なンざ一〇〇年早ェンだよ!」
16 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:09:28.80 ID:k5/+0LA+o

ガブリエル「普通に喋る私とノイズ混じりのたどたどしい言葉遣いの私、どちらが好みか」

一方通行「後者」

ガブリエル「xbwtuhawjkkygygwxznsgfnwkxibcepcncwiebgfswxbdnthkjpszmhtkwg
      dehcgrceaunkxphfzjbcwzjhicthfkrjmawxtkarjxjgppjggutrjsieuwsf
      ueypscgyneekewdzbkphhagabrbyhtsjzizxmibjnpckkjszemrwxecttsjf
      cumfiuishgaywfuegznhaxjfpjfugjzbhcmxdmiriragwafgibdamdhawnkh
      gigmdwnmpfmshzxjaehkyhskyerxwnhrekjwfmpgtrtrfhgmuffbbibyseft」

一方通行「やっぱこの方が落ち着くな」


〜〜〜


エイワス「見給え、あの仲睦まじさ。 あの光景に私は一定の価値を見出すよ」

フィアンマ「魔術サイドの人間から言わせれば異様としか言えんがな」

垣根「なあ風斬。 あの二人のイチャつきぶりを見たお前の心境をグラフで表してみろ」

風斬「微笑ましさ六〇%、羨望一九%、嫉妬……一八%、殺意九〇〇%」

垣根「限界超えちゃった」
17 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:11:01.24 ID:k5/+0LA+o

――【一方通行】


垣根「実を言うと俺、一方通行の事すげえ嫌いなんだよな」ケラケラ

一方通行「……そォか」

垣根「え?」

一方通行「まァ、別に構わねェけどな。 人に嫌われンのは慣れてる」

垣根「あ、あれ?」

一方通行「だが同じ『天使同盟』である以上、メンバーの一人である
     オマエと分かり合おうと歩み寄る努力を俺は怠らねェよ」

垣根「あの、一方通行さん?」
18 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:12:03.76 ID:k5/+0LA+o

一方通行「いつかオマエが俺に心を開いてくれる事を、俺は信じて生きていく」

風斬「一方通行さん……」

エイワス「人間とは実に不便で、悲しい生物だ。 表面上の交流だけでは
     永遠に分かり合えない。 相手の心、芯を理解しなければ本当の
     絆を結ぶには至らないのだ。 ふふ、これが神が与え給うた試練か」

フィアンマ「人は一人では生きていけんとよく言うがな。 相手を理解しようと
      歩み寄るその本能が、それを裏付けているのかもしれん」

ガブリエル「sxff応援eeidfd」

垣根「いやいやちょっと待って!! ちょっと待てよテメェら!!」

一方通行「どォした、垣根クン」

垣根「何そのよそよそしい呼び方!? え、これどういう流れ?」
19 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:12:47.21 ID:k5/+0LA+o

風斬「ど、どうかしましたか……垣根(?)さん」

垣根「なんで疑問形なんだよ!? 俺は垣根帝督だ! いやそうじゃなくて、」

フィアンマ「やかましいな、何だというんだ」

垣根「この流れはおかしいだろ! 俺が最初にああやって嫌な事言って、
   一方通行が『言われるまでもなく俺だってオマエなンざさっさと
   くたばればイイと思ってるよクソ野郎』とかそんな感じで返して、
   俺がさらに減らず口叩いて喧嘩に発展するって流れだろこれは!」

エイワス「おやおや、これはこれは」

ガブリエル「zxa拳ywj会話hdrf」

フィアンマ「この天使の言う通り、確かに喧嘩もコミュニケーションの一種だな」
20 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:13:32.88 ID:k5/+0LA+o

風斬「あ……やっぱり垣根さんも、一方通行さんとそういう形で
   コミュニケーションを取りたいって思ってるんですね」

垣根「あぁ……いやまぁそこまで深くは考えてねえけどよ……」

一方通行「なンだオマエ、そォいう魂胆だったのか。 でも安心しろ、」

垣根「あ?」

一方通行「俺はオマエとそォいう形であろォと無かろォと、会話なンざ
     死ンでもお断りだと常々思ってるよこの腐れゲス野郎が」

垣根「ほ、本当か……?」

一方通行「当たり前だろ。 今すぐここで意味もなく自害してくンねェかなって思ってる」
21 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:14:46.32 ID:k5/+0LA+o

垣根「そうか……ならいいんだ。 やっぱお前はそうでなくちゃよ」

エイワス「あぁ、これはさすがに気持ち悪いな」

垣根「うるせえよ!」

フィアンマ「ふん。 しかし、お前のような人間が『天使同盟』の生みの親とはな」

風斬「ふふ、リーダーですもんね……一方通行さんは」

一方通行「ちっ……腹立たしい事に、いつまでも経っても後悔の念が
     生じねェンだよな……。 こンな集まり作っちまった事に対して」

エイワス「ほう、一度も後悔したことがない、と」

垣根「あん? リーダーって事に対してはもう認めちまってんのかよテメェ」
22 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:16:23.15 ID:k5/+0LA+o

一方通行「認めるもクソもあるか。 そもそも『天使同盟』のリーダーって何だよ、何すンだ?」

エイワス「何を言う。 リーダーである君が我々を導いてくれなければ、
     我々はただ路頭に迷うだけの愚かで醜い化け物ではないかね」

一方通行「何が導けだ、オマエらいつもどっかで好き勝手やってンだろォが!」

垣根「そろそろ本格的に俺達の立ち位置を決めてくれよ、リーダー」

一方通行「どォいう意味だ」

エイワス「一方通行、君が『天使同盟』をどう捉えていようと、『天使同盟』は
     もはや一つの立派な軍事組織だ。 同盟が軍事組織と化するのは稀だが、
     構成員が構成員だけにこれは避けられない事態だと私は考える」

一方通行「軍事組織……。 なら俺は差詰め元帥ってところか? 堅苦しいな、リーダーでイイ」
23 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:16:53.86 ID:k5/+0LA+o

フィアンマ「ついにリーダーである事を認めたか……」

ガブリエル「eduu私rpdjub」

一方通行「ガブリエルは……戦闘員」

エイワス「しかも陸海空、そして宙も活動範囲の戦闘員か。 オールラウンダーだな」

垣根「俺は?」

ガブリエル「umnf特攻xrgfhz」

フィアンマ「特攻隊が適任だと言っているぞ」

垣根「一人なのに特攻隊!?」
24 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:17:24.15 ID:k5/+0LA+o

風斬「あ、あの……私は?」

エイワス「君は夜伽が適任ではないかな。 ついでに戦闘員も兼ねて」

一方通行「ぶっ」ゲホゲホ

風斬「? "よとぎ"って……何ですか?」キョトン

垣根「戦闘員を兼ねた夜伽って何だよ……たくましすぎるだろ……」

フィアンマ「……あまり聞きたくないが、俺様は?」

垣根「魔術専門軍師とかどうよ」

フィアンマ「想定よりまともな役職だな」

エイワス「私は一般幕僚と特別幕僚を全て賄うとしようか」

一方通行「だったら……」
25 :小ネタ  ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:18:23.80 ID:k5/+0LA+o


・一方通行/リーダー
・ミーシャ=クロイツェフ/陸海空宙戦闘員(オールラウンダー)
・風斬氷華/戦闘員兼夜伽(リーダー専属)
・エイワス/一般幕僚及び特別幕僚(参謀長)
・垣根帝督/神風特別攻撃隊(単独)
・フィアンマ/魔術専門軍師


エイワス「これが『天使同盟』だ」ドヤァ

一方通行「誰と戦ってンだよ俺達は!?」

フィアンマ「エイワス一人で回っているようなもんだろこの組織……」

垣根「戦闘員もミーシャだけで充分じゃねえか……」

風斬「あ、あの……リーダー専属の夜伽ってつまりどういう事ですか……?」

エイワス「こんな荒唐無稽な組織だが、どうだろう一方通行。 少しは後悔したかね?」

一方通行「いや、むしろちょっと楽しいと思っちまった。 絶対手放さねェからなオマエら」
26 : ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/04/21(土) 15:19:23.82 ID:k5/+0LA+o

小ネタの割には投下量が多めになってしまいました……。

これで主要メンバーのネタは終わりましたかね。それでは、失礼しました。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) :2012/04/21(土) 15:23:24.56 ID:8m5Z/gt90
腹痛えwwwwww
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/04/21(土) 15:37:24.09 ID:m9BvmN6x0
単行本の巻末にある4コマとかのオマケ漫画的なノリ
つーか最初のレスで既に腹筋がお亡くなりに
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/21(土) 15:42:48.18 ID:8x4FpMT9o
>最近プリキュアへの転職を考えるようになった。
何考えてやがるエイワスwww



風斬が夜伽とか腎虚になっちゃう
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/21(土) 15:45:09.34 ID:8u4k2BWAo
ちょっと風斬に夜伽の意味教えてくる
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/04/21(土) 17:09:35.16 ID:Y2tdd1Pdo
>>30
なんか白くて黒いもんが飛んでったんだけど・・・
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/21(土) 17:11:48.85 ID:0cXtVXjio
>>31
それ俺の精子
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/04/21(土) 18:43:25.80 ID:TeIWTF+U0
スレ建て乙!!
文字化けしなくてよかったよかった
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/22(日) 01:07:32.78 ID:gHQNr3gDO
リーダー専用夜伽…

ちょっと一方通行殺してリーダー変わってくる
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/22(日) 08:59:28.91 ID:J4BzKq8b0
ガブリエルが可愛すぎて生きるのが辛い。
人間じゃない?そんなもの余裕。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/22(日) 10:09:49.98 ID:gHQNr3gDO
文字通り天使だからな

ガブリエルマジ大天使!
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/22(日) 14:26:46.71 ID:hrB0EQVQ0
>>34が消息不明の件について
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/22(日) 15:16:55.00 ID:8T2X/Nrv0
これは楽しみ
39 :VIP縺ォ縺九o繧翫∪縺励※NIPPER縺後♀騾√j縺励∪縺兌sage] :2012/04/23(月) 20:58:31.27 ID:wJQ4rlvj0
ていとくん魔術と未元物質取り戻したら
魔法名を名乗って欲しい
40 :VIP縺ォ縺九o繧翫∪縺励※NIPPER縺後♀騾√j縺縺槭@縺セ縺兌sage] :2012/04/23(月) 21:04:05.94 ID:wJQ4rlvj0
>>39?40
すみません
文字化けしました
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [ [sage]]:2012/04/23(月) 21:14:44.40 ID:wJQ4rlvj0
>>39
>>40
しっかりしろよ!
魔法名は「together008」
意味は「私の力は彼らと共に」とか?
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/23(月) 21:18:37.36 ID:wJQ4rlvj0
>>41
お前もしっかりしろよ
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2012/04/23(月) 21:19:57.02 ID:74FB03I8o
freezer109みたいな感じだろ
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/23(月) 23:03:18.38 ID:0Jh8wejio
まずラテン語で考えるとこから始めようか
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2012/04/23(月) 23:06:01.22 ID:U7/nEj9to
ラテン語でも冷凍庫はFreezerだぞ
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/04/24(火) 00:10:48.17 ID:JKyjsG2Fo
togetherのこと言ってんだろ
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/04/24(火) 00:33:43.44 ID:iDCvHA0AO
魔法名なら

praeposterus001
俺の未元物質に常識は通用しない

とかはどうだろうか?
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/24(火) 07:13:32.42 ID:EfGBi8oDO
ラテン語はわからないから意味だけ


俺に常識(フラグ)は通じない

とかでどうでしょ?

なんやかんやで死亡フラグ立てるわりには生きてるし
49 :47 [sage]:2012/04/24(火) 09:05:01.01 ID:iDCvHA0AO
補足でpraeposterusはラテン語で【前は後ろ】という意味で英語の
preposterous【非常識な】
の語源らしいよ。
50 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:25:52.39 ID:ZLrNHC2Do

垣根帝督の魔法名の話題ですか、とても面白く、そして参考になります。
参考になるっていうか……ちょっとハラハラしながら閲覧させていただきましたww

皆様こんばんわ、>>33様の仰るとおり、前スレの失態を踏まずに済みました。
新スレ、蛇足8スレ目の最初の更新を開始します。
このスレでもさっそくの支援をありがとうございます!

小ネタも思いの外楽しんでいただけたようで何よりです。ただこの小ネタの存在を
私が忘れていたというあり得ないボケもあり、投下が遅れた点については謝罪申し上げます……。
また機会があれば、こういうショートショートを挟んでいきたいと思っております。

さて、今回は垣根帝督とバードウェイの議論を一旦休憩します。
パトリシア、ステイル、心理定規の様子だったり、バードウェイが
この議論をどう考えてるかだったりをお送りします。

それでは、よろしくお願いします!
51 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:26:40.54 ID:ZLrNHC2Do


――――――――――――――――――――――


パトリシア「ステイルさんは、あれからどう過ごしていらっしゃったんですか?」ピコピコ

ステイル「ん?」ピコピコ

心理定規「あぁー、ドリフトし損ねた……」カチカチッ

パトリシア「一〇月に勃発した第三次世界大戦、私はとにかく早く終わって欲しいと
      切に願ってました。 学園都市とロシアが対立した理由は私にはよく
      分かりませんでしたけど。 もしかしたらあの戦争にステイルさんも巻き
      こまれてるんじゃないかと不安で不安で……」

ステイル「……なぜ僕があの戦争に関わっていると思った?」
52 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:27:12.61 ID:ZLrNHC2Do

パトリシア「あ、いえ……関わるのではなく、巻き込まれてるんじゃないかなって……。
      以前に起きた、えっと……"るーん"? がどうとか言う物を巡った争いと
      第三次世界大戦が私には何だか似たような雰囲気に思えて……」

ステイル「……」

心理定規「く……、こんな時にバナナなんて必要ないのよ……」イライラ

パトリシア「……あの、私すごく失礼なこと言ってたりします?」

ステイル「いいや、」

パトリシア「じゃ、じゃあ……」

ステイル「僕も君と同じだよ。 戦争なんてくだらない争い、早く終わってしまえば
     いいと、君と同じようにただひたすら願っていた。 ……心からね」
53 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:27:48.71 ID:ZLrNHC2Do

パトリシア「そうですか……。 ふふ、良かった」

ステイル「?」

パトリシア「ステイルさんも私と同じ事を、同じ時期に願ってたんだなって思うと……」

ステイル「思うと?」

パトリシア「……ええっと」

心理定規「運命を感じる〜!!」

パトリシア「そ、そう……いやいや! え!? な、何ですか急に!?」

心理定規「もしかして私、邪魔かしら?」

パトリシア「そ、そんな事ないですけど? ど、どうして……?」
54 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:28:47.67 ID:ZLrNHC2Do

心理定規「赤コウラ飛んでったわよ」

パトリシア「え……、あ!」カチカチッ

心理定規「また一位いただき〜」

パトリシア「くぅ……、最後の最後で油断しました……」

心理定規「こういうゲームもやってみると結構楽しいわね」

パトリシア「ステイルさん、また最下位ですね」クスクス

ステイル「このテの娯楽はほとんど経験が無いものでね……」

心理定規「さっきの話なんだけどさ、」

パトリシア「?」
55 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:29:31.05 ID:ZLrNHC2Do

心理定規「戦争なんて起きたら、早く終わってほしいと思うのが普通なんじゃない?」

パトリシア「そ、そうですけど……」

心理定規「だったらお二人さんの当時の願いがかぶるのを運命とするには弱いんじゃないかしら?」

パトリシア「そ、そうですよね……」シュン

ステイル「さっきから運命運命と言っているが、何の話だ?」

パトリシア「なな、なんでもないですよなんでも!」アセアセ

心理定規「面白いわねあなた」

パトリシア「か、からかわないでください! 私は別にそんな気は……」
56 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:30:21.85 ID:ZLrNHC2Do

心理定規「申し訳ないけど、私にそういうごまかしは通用しないわよ」

パトリシア「え?」

心理定規「心の距離を詰めようと奮闘してるあなたの心情が何となく見えちゃうのよ」

パトリシア「ま、まさか……学園都市の能力……ですか?」

心理定規「そんなとこかな、私には人の心の距離が見えるし、操作出来る」

パトリシア「なんて乙女チックな能力!」

心理定規「あなたとこの男の心の距離はまだ遠いわね。 フラグ、ちゃんと積み立ててる?」

パトリシア「そんな機会がありませんし、私は別にそんなつもりじゃないって……」
57 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:31:34.30 ID:ZLrNHC2Do

心理定規「自分にウソついてもしょうがないでしょ」

パトリシア「うう〜……お姉さんといいあなたといい、どうしてこんな……」

ステイル(トップに出てもすぐに青のコウラが……一位になる意味あるのかこのゲーム)ピコピコ

心理定規「ロシアで限界を超えた私なら或いはあなたの心の奥底に眠る
     想いを成就させる事も出来るけど……。 所詮は幻想なのよね」

パトリシア「は、はあ……。 ……?」

心理定規「何でもないわ。 ……にしても、話し込んでるわねあっちは」

ステイル「相手が相手だからな、垣根帝督も必死なんじゃないか?」

心理定規「ふうん。 よっぽど"あっち"の領域にお熱って訳ね」
58 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:32:33.98 ID:ZLrNHC2Do

パトリシア「お姉さん達、一体何の話をしてるんだろう……」

心理定規「あれもこれも手に入れたいなんて男の話、聞く価値ないわよ」

ステイル「ずいぶんと垣根帝督を気にかけているんだな」

心理定規「一応、彼とは学園都市に居た頃からの付き合いなんだけどね。
     今回彼と同行しててつくづく思うのよ。 彼、本当に私の手に
     届かないどこか遠くへ行っちゃったんだなって」

ステイル「そう思うのも無理はない。 法則と法則の間には深い溝が―――」

心理定規「んー、そうなんだけど、そういう事じゃなくて」

ステイル「?」
59 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:33:52.00 ID:ZLrNHC2Do

心理定規「彼、周りが見えてないって感じなのよね」

ステイル「……"こちら"側に夢中になりすぎてか? そこまでの魅力が
     こちら側の領域にあるとは僕には思えないんだけどね」

パトリシア(こちら側の領域ってなんだろ……)ピコピコ

心理定規「どう言い表したらいいのかわかんないけど、何だかそれは少し寂しい気もする」

ステイル「寂しい?」

心理定規「最初はそんな垣根帝督をつまらないと思ってたんだけど、最近そう思うのよ。
     当たり前かも知れないけど、もう暗部の頃の垣根帝督はいないのよね」

ステイル「……?」

心理定規「そう思うと、何だかキューって、胸が締めつけられる」
60 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:34:49.45 ID:ZLrNHC2Do

ステイル「……どうして君は垣根帝督に同行したんだ?」

心理定規「……さぁ、」

心理定規「何故かしらね」

パトリシア「……と、とりあえずゲームに集中です、集中!」

心理定規「私、パトリシアの事からかえる立場じゃないのかも」

パトリシア「?」

心理定規「どこに行ったのかしらね、……彼」

心理定規「……」

心理定規「何で私は着いていったのかな」
61 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:35:58.49 ID:ZLrNHC2Do


――――――――――――――――――――――


小休止である。時刻はそろそろ昼に差し掛かるところだった。


マーク=スペースは部屋にいる垣根達に軽い食事を振る舞うため、エプロンを装備し
キッチンでフライパン片手に料理をしていた。途中、彼の様子に気付いたパトリシアが
手伝いを申し出たが、部屋から突き刺すように飛んできた"ボス"の視線に感づいた彼は
丁重にお断りする。


(……適当にコンビニで何か買ってくるって選択肢の方が良かったんじゃねえかこれ……。
 ついボスに促されてキッチンに立っちまってるけど、あんな大勢の人間に配膳しなきゃ
 ならねえ軽食なんてもはや軽食じゃねえだろう。 俺も料理が得意って訳じゃねえし、
 これでボスの口に合わなかったらなんて言われるか分かったもんじゃねえな……)
62 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:36:49.43 ID:ZLrNHC2Do

食欲をそそる香ばしい匂いを漂わせながらフライパンの上で転がるウインナーを
見つめながらマークはここまでの経緯で積み重ねた疲労を吐き出すように息を吐く。

『明け色の陽射し』のアジトを担うここ、石造りのアパートメントの一室に
あれだけの数の人間が訪問してくるなど初めての事であった。

今回はたまたまパトリシア=バードウェイが居たためこのアジトも本当にただの
アパートの一室と化していたのだが、例えばこの部屋の現状が例の『暴徒』殲滅の
作戦会議室なる場所となっており、そこに垣根帝督ほかイギリス清教の魔術師が
近付いてきていると判明した場合どうなっていたか、想像するだけで頭痛が起きる。

ましてや相手は魔術サイドとは領分の違う科学サイド、学園都市の能力者が二人。
そして幾度と無く対立している対魔術師組織イギリス清教の魔術師が三人である。
パトリシアが居なければ有無を言わさずここら一帯は戦場となっていたかもしれない。


(そんな連中とコタツを囲んで科学と魔術に関する議論を交わすとはな……。
 この組織に属して俺も長いが、まさかこんな日が来るとは想像もしなかった。
 これも第三次世界大戦……と、学園都市のあの事件による影響の余波なのか)
63 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:38:05.84 ID:ZLrNHC2Do

ここまでの議論の時点で既に『明け色の陽射し』、というかそのボスである
レイヴィニア=バードウェイは学園都市の人間である垣根帝督に助言めいた
言葉を何度か贈っている、贈ってしまっている。イギリス清教の魔術師に
対しても彼らにとって有益になりかねない情報を与えてしまっている。

科学サイドの学園都市はもちろん、実を言うと"魔術結社ではない"『明け色の陽射し』の
魔術師であるマーク=スペースにとってはイギリス清教との交流も避けたいものであった。
彼は科学と魔術の領分に関してきちんと区別したいという考えをもっており、その考えを
ボスであるバードウェイにも度々厳しく説いている。その度にキツいお言葉を受けたり
右から左へと聞き流されたりしているのだが、これもマークの役割だから致し方無いのだ。

故に垣根帝督らがここへ訪問しようと考え、近付いてきている事を彼はすぐに察するべきであった。
そもそも、数ある『明け色の陽射し』のアジトからどうやってボスが居るこの部屋を突き止めたのか、
垣根帝督がこの場所を突き止めるために使役した『部下』とは一体何者なのか。垣根らと議論を交わして
いるときは浮上する余地すらなかった疑問が、小休止を挟む事によって次々と頭の中に生まれてくる。
64 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:39:47.57 ID:ZLrNHC2Do

(連中がここを襲撃しようと目論んでいたら俺やボスは後手に回っていたな……。
 やはりパトリシア嬢の存在を考慮した上でも防衛術式の一つでも展開させておく
 べきだったか。 幸い、連中は本当にボスへ相談しに来ただけのようだが……)


と、そこでマークは眉をひそめた。フライパンの上にあるウインナーの数が
明らかに少なくなっている。ボーッと考え事をしながら調理していたため
途中で落としてしまったのかと慌てたが、


「あちちっ」

「うおあっ!? ぼ、ボス!」


はふほふと熱々のウインナーを口に含みながらバードウェイが台所の隅っこにしゃがみ込んでいた。
65 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:40:47.97 ID:ZLrNHC2Do

「少し焼きすぎじゃないのかマーク。 これでは我が組織の調理担当は務まらんぞ」

「いつ私が調理担当になりましたか! ていうか術式で気配消してつまみ食いしないでください!」


威厳こそあれどこんな風に、たまにトップとしての立場を忘れたかのように
子供じみた真似をするバードウェイに呆れながら、マークはウインナーを小皿に盛り付ける。


「…………ところでボス」

「ん?」

「垣根帝督のことなのですが」


マークは表情を切り替えてシリアスな雰囲気を醸しながら話を切り出した。
それを受けてもバードウェイは退屈そうにあくびをしてマイペースを保っている。
66 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:41:28.29 ID:ZLrNHC2Do

「これ以上彼に踏み込んだらいよいよ『明け色の陽射し』としての体裁を保てなくなると
 私は考えます。 今回彼が持ち込んできた案件、どう考えても我々が関わるべきもの
 ではない。 魔術と科学の境界線を半ば強引に踏み荒らし、天使はおろかあのエイワス
 との繋がりを持つ彼は我々にとっても危険分子でしか―――」

「認識が甘いぞ。 お前、あの第三次世界大戦で一体何を学んできた?」


出来の悪い生徒にうんざりしながら指導する教師のように、バードウェイはつまらなそうに言った。


「あのくだらん戦争で魔術と科学を二分する境界線は崩壊したと言ってもいいだろう。
 ああいった世界規模の争いは必ず新たな勢力を生み出すきっかけとなる。 今回の
 戦争の影響の産物が『天使同盟』なら、その一部である垣根帝督が魔術か科学かの
 どちらかのみに属しているはずがない。 ヤツらは、そういう集まりなんだろうさ」
67 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:42:39.58 ID:ZLrNHC2Do

「それは両サイドのどちらかではなく、世界全体としての見解では?
 我々『明け色の陽射し』は魔術結社ではなくとも、魔術サイドの組織
 として存在していなければならないはずです」

「垣根帝督がここへ来た時点で『明け色の陽射し』の立場は揺らいでしまったのさ。
 言ってしまえば運の尽き、垣根帝督がこの私を訪ねた時点でそれは確定した。
 そして我々の立場を揺るがす材料をあの男はどうやら持っているようだしな」

「……ロシア成教本部で起きた襲撃事件、ですか。 まさか彼もあの時に……」

「それは考えにくい。 あの男がそれほどの力を持っているならわざわざ私に
 相談という形で近付かなくても、その力で真正面からここを潰せばいいだけだ。
 私が垣根帝督の訪問を拒否したとしても、『暴力』であの男は片付けられる。
 ヤツが私の妹に気を遣う理由もないしな。 だがそうはしなかった、恐らく
 『天使同盟』は"そういう"連中ではないんだろう。 リーダーの一方通行とか
 いうのがそういった行動を禁止する方針を定めているのかもしれない」


ま、仮にここを襲撃してきたとしても私が返り討ちにしてやるけどな、と
バードウェイは邪悪な笑みを見せて付け加えた。マークはため息をつくしかない。
68 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:43:35.91 ID:ZLrNHC2Do

「しかし……彼、垣根帝督もそうですが。 あのような未知と脅威を誇る
 力を持った少年を討ってしまえる一方通行という存在。 我々が主力と
 している『天使の力(テレズマ)』の根源、ミーシャ=クロイツェフ。
 第三次世界大戦の引き金を引いた右方のフィアンマ。 十字教を終焉に
 導くような知識を世に放ったエイワス。 以上のような連中が集う組織の
 一部として存在しているらしい風斬氷華という『何か』。 その気になれば
 今すぐにでもこの惑星を消滅させられるような組織が、本当に裏もなく我々
 の下へやって来るという事があるんでしょうか?」

「お前はずいぶんと『天使同盟』を評価しているんだな」

「評価というより危険視ですよ。 そしてせざるを得ない」

「ふん。 まぁ、そんな危険分子である『天使同盟』がのこのこと
 我々を訪ねてきて下さったんだ。 この状況をいかに楽しむかで
 今後のヤツらの印象も変わってくるんじゃないか?」

「どうするおつもりですか?」

「普通だよ。 普通に、歓迎する。 まだ互いに話も終わってないしな」
69 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:44:49.20 ID:ZLrNHC2Do

それが、『明け色の陽射し』のボスであるレイヴィニア=バードウェイの決断であった。
そしてそれは、『天使同盟』に対する『明け色の陽射し』全体の対応という事になる。
垣根帝督を、『天使同盟』を歓迎する。だがそれが友好的な歓迎とは限らない。

マークは食事の用意を進めながら見た目一二歳前後の金髪少女に尋ねる。


「話とは? 彼が魔力を取り戻す手段は『未元物質』の発現にかかっている、
 という結論がついさっき下ったはずですが。 『槍』の話題になった時に
 私に視線で合図を送ったのも、ボスもその結論で話を収束させようと考えた
 からだと私は受け止めましたが……違うんですか?」

「その話はそれで終わりだし、垣根帝督自身もロシアで薄々気づいていたと
 示唆する発言をしていただろう。 だからそれはもういい。 ただな、
 あの男は魔術という法則の根本をまるで理解していないよ。 あいつは
 魔術が使えりゃそれでもう魔術師であるという短絡的な考えで思考放棄してる」
70 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:46:38.21 ID:ZLrNHC2Do

「法則ではなく、魔術の本質を理解していないと」

「周りに魔術の本質を説いてくれるような親切心あふれる魔術師がいなかったのかな。
 まぁフィアンマがそんな事を教えてくれるとは限らないし、垣根帝督が『天使同盟』
 として世界各地を回り、その時に出会った魔術師もわざわざそこまで世話をする義理が
 無いからなぁ。 せっかくだ、この私がその役割を担ってやる。 ロシアでの一件で
 ストレスが溜まっていたし、丁度いい吐き溜めが現れてくれた、せいぜい利用してやるさ」


それを聞いてマークは垣根帝督に少しだけ同情すると同時、バードウェイに気付かれぬよう
ホッと安心したように息をついた。

やはり彼女は完全敗北を喫したロシアでの一件を根に持っていたのだ。
白いローブに身を包んだ得体の知れない魔術師。垣根帝督の話を聞いた今なら
あの魔術師の正体もマークはある程度察する事が出来た。バードウェイなら
完璧に正体を見抜いているかもしれない。
71 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:47:24.69 ID:ZLrNHC2Do

あの時味わった理不尽な敗北で湧き上がった憤りを垣根にぶつけてやる、とバードウェイは言う。
だが本当に、その言葉通りに彼女が垣根にああだこうだとストレスをぶつける事はないだろう。
魔術の概念についてこれから垣根と話をする。彼に概念を説く過程でストレスを発散させる算段
なんだろうなとマークは適当に推測した。


「味にこだわる必要性が無くなってよかったなマーク。 恐らく、これから
 始まる議論は超一流レストランのフルコース料理でも味が劣化してしまう」

「……ですねえ。 暴徒の案件処理も終わっていないこの状況で、勘弁してほしいものです」

「無知に対して教えを以って説き伏せる楽しさをお前は学んだ方がいいな」


それも遠慮しておきます、とマークは肩をすくめて呟いた。
72 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:55:24.83 ID:ZLrNHC2Do

Q. >熱々のウインナーを口に含みながらバードウェイが台所の隅っこにしゃがみ込んでいた。

A. 何かおかしなところでもあるんですかねえ……。

おかしなところといえば、>>62のマークのセリフの言葉に意味が同じものが……。
『影響』だけでお願いします。すみません。

さて次回は再び徹底議論。『槍』の話はひとまず終わったと言っても、
『未元物質』の話自体はまだ続きます。今度は魔術ではなく、能力が
使用出来なくなった点について議論します。まあ正確には能力は復活しつつありますが、はてさて。

次回更新は三日以内。

それでは、新スレもどうかよろしくお願いします。ありがとうございました!

次のスレでついに本編のスレ数に追いつく……なんてこったい。
73 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/24(火) 09:56:22.34 ID:ZLrNHC2Do



                          【次回予告】



「垣根帝督、お前の中の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』はどこへいったんだ?」
魔術結社『明け色の陽射し』のボス――――――レイヴィニア=バードウェイ




「俺が……俺の現実を自ら否定した、だと……!?」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・学園都市第二位の超能力者(レベル5)『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督




「『自分だけの現実』が存在し、かつそれを観測できて能力者は能力を行使することが出来るのよ」
『クラッカー』の構成員・『心理定規(メジャーハート)』の能力者――――――ドレスの少女



74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/24(火) 10:35:27.63 ID:hOHNn47DO
乙!

凄く乙!!

果てしなく乙!!!
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/04/24(火) 18:28:27.68 ID:XV9baTK+0
>>1乙!!
追いつくどころか追い抜いていってくれ
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/24(火) 19:08:14.31 ID:FQjJ9M1l0
ちくしょうステイルもげろ
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/24(火) 20:08:27.18 ID:EfGBi8oDO
乙!

もはや蛇足(無駄な付け足し)の表現は正しくないくらい濃い内容になってきたな


楽しいから問題ないぜい!

かの龍玉も「もうちょっとだけ続く」からが本番だったじゃないか
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/04/25(水) 13:26:30.46 ID:+DKynfCAO
>>77
つまりこれはもはや蛇足ではなくとあるふらぐの天使同盟Zだと?
いや、ごめん、自分でも意味がわからん。

とにかく>>1乙!
毎回楽しみにしてるよ!
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/04/25(水) 15:59:29.62 ID:BddxiOPw0
>>1乙!
毎回すごい楽しみにしてます。

ここまで続いてて、俺の生活の一部になってる天使同盟だけど、
いつか終わっちゃうんだな、って思うと・・・今から何故か寂しいです。

今のところ終わる気配無さそうだけどwwww
更新頑張ってください!!
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/25(水) 19:52:53.77 ID:LTdwa97g0
前スレで
垣根の槍は科学と魔術が交差している
と言っていた
つまり蛇足から物語は始まっているんだよ!
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/25(水) 22:44:02.37 ID:rsQ2clIDO
蛇足、というよりかは蛇を龍にしてる途中なんだよ、きっと
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/26(木) 04:10:01.90 ID:pEj9o8eDO
>>81
なるほど!

つまり蛇足が終わったら蛇牙、さらに次は蛇角とどんどん続くわけですね
83 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:25:34.40 ID:Cp7WUTOso
>>77
で、ですよね……あの漫画も結局延ばし延ばしやっといて尚大人気なのですから……
まあ引き合いに出す漫画が高レベル過ぎる気もしますけど。

こんにちわ、更新を開始します。

そろそろゴールデンウィークですね。皆様は何かご予定がありますでしょうか?
……多分これ、去年の今頃も同じような事言ってるんだろうなあ〜……。

今回は、というか今回でバードウェイとの議論はおしまいです。
垣根パート自体はあとちょっとだけ続きますけど。
バードウェイから提示された結論を受けて、垣根帝督は何を思うのでしょうか。

それでは、よろしくお願いします!
84 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:26:36.67 ID:Cp7WUTOso


――――――――――――――――――――――


垣根「……さて、どうしようか」

心理定規「まだお話を続けるつもりなの?」

垣根「……お前、何でここにいるんだよ」

心理定規「んー、パトリシアへの気遣い? なんて」

垣根「?」

ルチア「あの……申し訳ございません、私までご相伴に預ってしまって」

マーク「いえ、気になさらず。 お口に合うかどうかは保障しかねますが」
85 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:27:28.32 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「さっきつまみ食いした時も思ったが、うん、イマイチ」モグモグ

マーク(クソガキ……)

テオドシア「ステイルはこっちに来ないのマスか? まぁパトリシアの監視
      ……もとい面倒を見なければならないので仕方ないデスけど」

垣根「あー。 じゃあとりあえず俺が魔術を行使するためには『未元物質』を
   取り戻さなきゃならねえって結論が出たところで、また一つ頼みが――」

レイヴィニア「その前に、だ」

垣根「あん?」

レイヴィニア「ロシア成教本部の襲撃の件、お前は我々を襲った魔術師を知っている事を
       示唆するような発言をしていたな。 大体予想はつくが、言ってみろ」

垣根「予想ついてんなら言う必要なくね? お前鋭いし、多分それであってるぞ」
86 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:28:13.74 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「まぁ十中八九あいつだろうなというのはあるが、念のために聞いておく」

テオドシア「ちょい待ち、それ『必要悪の教会』の私が聞いても構わないのデスしょうか?」

ルチア「どういう意味ですか?」

テオドシア「一応私、イギリス清教からそのロシア成教襲撃事件の犯人を
      突き止めるよう調査依頼が出されてるのマスけど、ここで
      垣根帝督が口にした人物のことを本部に連絡しちゃうかもデス」

垣根「別にいいけど、報告したところであいつをどうこう出来るとは思えねえな」

心理定規「気になるー、誰だれー」

垣根「お前にゃ関係ねえよ」

心理定規「仲間外れはよしてよね」
87 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:29:01.08 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「で?」

垣根「エイワス、らしいんだけど」

レイヴィニア「………………やっぱりな」

マーク「それは事実ですか?」

垣根「根拠はねえよ、ただ俺の部下がそう言ってただけ」

テオドシア「…………報告すんのやめとこ」

垣根「それでいいのかイギリス清教……。 まぁ賢明だと思うぜ」

レイヴィニア「クソッ、正体を知ったらだんだん腹が立ってきた」イライラ

マーク「言い訳の余地もない大敗北でしたからねえ」
88 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:29:38.56 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「あの時の私はたまたま調子が悪かっただけだ! それに聖人ババァも邪魔してきたし」

マーク「彼女も一生懸命戦ってくれたじゃないですか……」

垣根「機会があったら俺の方からお灸を据えておこうか?」

レイヴィニア「必要ない! ったく……だから他の組織と手を組むような真似は嫌だったんだ」

マーク「イギリス清教やロシア成教と一時的な共同戦線を組もうと言い出したのはボスじゃ……」

レイヴィニア「ていっ」ビシッ

マーク「うぐぅ」

垣根「にしても、何でロシア成教を攻撃したんだろうな?」
89 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:30:28.83 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「『天使同盟』にはフィアンマも加盟していると言っていたな。
       恐らくはフィアンマの右腕を回収しに来たんだろう」

垣根「そうなのか?」

マーク「本人から聞き及んではいないのですか?」

垣根「ある日突然やって来たからなフィアンマの野郎は」

マーク「……もしや、そんなノリで他の構成員達も?」

垣根「『天使同盟』に加盟条件とかねえぞ。 あ、でも他が推薦しても
   一方通行が拒否ったら基本的にお断りだな。 最終的には一方通行が
   折れて加盟するって流れなんだけど、あいつ誰だっけ……イギリスから
   ロシア行く時に来たうるせえ女のガキ。 あいつは最後までダメだった」

マーク「自ら加盟を望むとは、失礼ですがその女性も物好きなんですね」
90 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:31:53.73 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「誰だそいつ?」

ルチア「イギリス→ロシアというと、あなた達が女子寮から出て行った時に?」

垣根「ああ、そん時に俺らの船に乗ってたんだよ。 名前なんて言ったかな……」

心理定規「思い出せないならその程度の存在だったって事じゃない?」

垣根「でもあのガキ、一応ロシアで別れるまでは『天使同盟』の補助員みてえな
   立場になってたからな。 『天使同盟』として一緒に活動したヤツって
   正規構成員を除けばあのガキだけだし。 個人的には加盟もOKなんだが」

テオドシア「名前忘れてるクセに」

垣根「ロシアで別れた時なんか結構ドラマチック(笑)な雰囲気だったから、
   そう簡単に忘れるはずねえんだが……なんかパンダみてえな名前」
91 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:33:27.40 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「とにかく、ロシア成教の件については拝聴した」

垣根「根拠も証拠もねえけどな」

レイヴィニア「さてそれで、お前の案件なんだが」

垣根「ああ。 『未元物質』の演算能力の回復な、今んとこ順調っぽいけど」

レイヴィニア「どのような方法で能力の再生を行なっている?」

垣根「戦闘だよ、ただひたすら戦闘。 良くも悪くも、俺の能力は
   大体が戦闘で使用されてるからな。 演算能力を戻すなら、
   環境も慣れ親しんだものにしておくべきだと思ってそうしてる」

心理定規「だったら第一位と戦った方が近道になるんじゃない?
     あの超能力者、あなたの能力が通用しないらしいしさ」
92 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:34:06.65 ID:Cp7WUTOso

垣根「魔術も似たようなもんだろ。 ま、あまりにしょぼい魔術だったら
   『未元物質』で対応出来ちまうし、ワシリーサやテオドシアレベルの
   魔術師相手なら一筋縄じゃいかねえから丁度いい刺激になるんだよ」

テオドシア「いや〜、照れるマスね」テレテレ

心理定規「実際、今どれくらいまで回復してるの?」

垣根「レベル4の能力者程度なら軽くあしらえる程度には戻ってる。
   だが本質である肝心の翼がどうやっても現出しねえんだよな」

マーク「実戦訓練を繰り返すだけで能力を取り戻せるのですか?」

垣根「それは――――」

レイヴィニア「『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』」
93 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:34:36.83 ID:Cp7WUTOso

垣根「、っと……」

心理定規「よくご存知ね、魔術師さん。 それは私達側の感覚で捉える世界なんだけど」

マーク「……本当によろしいのですか、ボス」

レイヴィニア「さっきも言っただろ、もはやこれまで通りの認識では
       この世界でやっていけんよ。 第三次世界大戦の産物
       であるこいつと関わった以上、我々も魔術サイドだけに
       こだわっているわけにはいかない。 理解出来るだろ?」

マーク「今に始まったことではないのは承知ですが……頭を抱えるレベルですね」

レイヴィニア「だがこの干渉は妹を巻き込む事と同義しない、それも分かってるな」

マーク「無論です」
94 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:36:56.56 ID:Cp7WUTOso

垣根「先に言われちまったが、学園都市で開発される能力には
   『自分だけの現実』っつー独自の土台が必要になってくる」

テオドシア「ロシアで演算能力の事は聞きましたが、それは初耳デスねえ」

ルチア「同じく……。 一体何ですかそれは?」

垣根「じゃあついでに説明しておこうか、このお子ちゃまは知ってるみてえだけど」

レイヴィニア「…………………………」

マーク「…………………………………」

垣根「……ん? 何だよお前ら」

レイヴィニア「いや、何でもない。 話してみろ」
95 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:37:54.57 ID:Cp7WUTOso

垣根「『自分だけの現実』ってのはいわば可能性世界のことだ」

ルチア「可能性世界……?」

垣根「世界っつっても、自分の中にだけ存在する小せえ世界なんだけどな」

心理定規「例えば垣根帝督なら『「未元物質」を現出させる可能性』、
     私なら『他者との心の距離を調節できる可能性』かしらね」

垣根「本来の現実とは違う、テメェだけの現実を観測して俺達は能力を発動できるんだ」

心理定規「言ってしまえば妄想力なのよ。 自分は炎を操れる〜、と思い込めば
     やがて自分の中に存在する少し常識から外れた現実が観測できるの。
     垣根帝督とか、レベル5にもなると常識から大きく外れてるんだけど」

テオドシア「よーわからんデスねえ」

ルチア「自分の中にある『自分だけの現実』を観測するなんて事ができるんですか?」
96 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:39:04.31 ID:Cp7WUTOso

垣根「普通の人間には不可能だが、それを可能にしちまうのが学園都市の開発なんだよ。
   さらにAIM拡散力場なんてものも絡んでくるんだが……これはまぁいいだろ」

心理定規「どんな世界が観測できるか、そもそも観測が出来るのかどうかは
     個々の資質によるんだけどね。 『自分だけの現実』が存在し、
     かつそれを観測できて能力者は能力を行使することが出来るのよ」

テオドシア「魔術師の私達が聞いてもまるで理解出来ないデスマスね」

垣根「こればっかりは能力者独自の感覚だからな、仕方ねえよ」

レイヴィニア「その土台を糧に能力を発動するのが学園都市の能力者」

垣根「そういうこった」


レイヴィニア「……ふん、滑稽というかマヌケというか、呆れるな」
97 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:40:02.03 ID:Cp7WUTOso

垣根「あ?」

心理定規「あら、能力者はお嫌い?」

レイヴィニア「科学サイド自体あまり好かんが……そうではない」

垣根「何が気に入らねえんだ?」

レイヴィニア「お前、滔々とその現実とやらについて語っておきながら気がつかんのか?」

垣根「…………何だよ」

レイヴィニア「能力はどうやって発動するんだ」

垣根「今さっき説明しただろ。 まず『自分だけの現実』を観測して操作―――」

レイヴィニア「お前は『未元物質』という能力が発動できんらしいな」
98 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:40:50.48 ID:Cp7WUTOso

垣根「………………」

心理定規「……ああ、そういうことね。 言われればその通りだわ」

テオドシア「?」

レイヴィニア「垣根帝督、お前の中の『自分だけの現実』はどこへいったんだ?」

垣根「…………俺の、現実……」

ルチア「その『自分だけの現実』が消失してしまったから垣根帝督は能力を……?」

心理定規「そうなるわね。 当たり前の事すぎて深く考えもしなかったわ」

垣根「……全くだ。 あって当たり前の世界だったからな……」

テオドシア「でもある程度は能力を発動できるようになってマスよね?」
99 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:41:43.68 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「そうだな。 それが事実なら、『自分だけの現実』は完全に消失したわけではないらしい」

心理定規「そんな事ってあるの?」

レイヴィニア「知らんよ。 その辺はお前達の分野だろう?」

垣根「……俺の『自分だけの現実』は、どういう状態になっちまってるんだ?」

レイヴィニア「それこそお前にしかわからん事だろう」

ルチア「『自分だけの現実』の状態を調べる手段は無いのでしょうか?」

心理定規「あるわよ、学園都市に『自分だけの現実』の状態をチェック出来る機材が。
     けど私が知ってる機材は学園都市暗部の所有物だしねえ、手が出せないかも」

テオドシア「そもそもどうして垣根帝督の『自分だけの現実』は無くなっちゃったんデスしょ?」

垣根「…………魔術による影響、か」
100 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:42:35.19 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「いや、魔術を使っただけで個人の可能性を否定すると同義の被害が発生するとは思えんな」

垣根「だったら……」

マーク「……『原典』、でしょう」

垣根「……! だが『原典』の汚染は俺の演算能力を完全に奪ったわけじゃ―――」

レイヴィニア「正確には『原典』を用いて―――お前が自ら壊したんだ、垣根帝督」

垣根「俺が……俺の現実を自ら否定した、だと……!?」

レイヴィニア「魔術発動の際の魔力精製と『原典』による汚染、この二つの、
       『自分だけの現実』とは全く違う法則が『自分だけの現実』
       という土台を根元から崩してしまったんだよ」

心理定規「魔術だけならそんなことにはならないって訳?」
101 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:43:35.14 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「私も話に聞いただけで実際にその人間を見た訳じゃないんだが……。
       学園都市の能力者の中には能力者でありながら魔術を使用する奴が
       何人か存在するらしい。 もしかしたらお前も心当たりがあるんじゃないか?」

垣根(………………一方通行。 だがあいつは……)

レイヴィニア「だがそいつらは例外なく、無意識に"セーブ"している」

ルチア「セーブ……? 法則を振るう加減を制御しているという事ですか?」

レイヴィニア「その通り。 魔術か科学か、どちらかの法則に偏りすぎて
       しまうとどちらかの法則を発動することが難しくなるんだ。
       魔術に浸りすぎると『自分だけの現実』という土台が崩壊する。
       一体自分にとって何がその現実なのか、脳が理解出来なくなる」

心理定規「科学と魔術を有する人間は偏りを無意識に調整していると」

レイヴィニア「意識的に行なっている人間もいるかも知れないがな」
102 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:44:53.90 ID:Cp7WUTOso

マーク「しかし垣根帝督の場合はその制御が不完全なのです。 いや、不完全すぎる」

レイヴィニア「魔術を扱う能力者が完全にどちらをも扱う事は出来ない、絶対にな。
       機会があったら見せてもらえばいい。 どれだけセーブしようが
       能力者が魔術を使用すると必ず肉体に何らかの副作用が生じるだろう」

マーク「そしてそれが度を超えると……その人間は死に至ります」

ルチア「……」ゾクッ

レイヴィニア「定められた法則の領域を犯しすぎた人間への罰則と言って問題ない」

垣根「……」

レイヴィニア「垣根帝督。 お前が求めているモノはお前が想像する以上に過酷なんだよ」

心理定規「でもさぁ、今例に出た魔術を使う能力者って垣根帝督も当てはまるでしょ?
     垣根帝督が現状こんな事になってるのも、魔術を使っちゃったからっていう
     のは分かるけど、だったら最初に魔術を使った時点で『自分だけの現実』が
     壊れちゃうんじゃないの? 垣根帝督は制御が出来ないヘタクソらしいし」
103 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:46:07.47 ID:Cp7WUTOso

マーク「魔術の行使にだけ留めておけば肉体へ掛かる負荷が襲う、程度で済んだでしょう。
    それだけでも死に至る危険性はありますが、土台の崩壊までには至らない」

ルチア「だったらなぜ垣根帝督は能力が……?」

マーク「そこで『原典』なんですよ。 先もボスが説明したように、『原典』は
    魔術サイドの観点からしても未知で満ち溢れています。 そんな代物を
    彼は無理やり脳に刷り込んでしまった。 ただでさえ魔術という別の
    法則で『自分だけの現実』に負担がかかっている状況で『原典』の毒。
    通常なら廃人と可してしまうところですが、彼の場合は土台の崩壊で済んだ」

レイヴィニア「魔術行使のリスク+『原典』の汚染というスペシャルコンボに、『自分だけの現実』は耐えられなかったんだ」

テオドシア「いやでも垣根帝督の『未元物質』は徐々に復元しつつあるのデスけど」

レイヴィニア「そう、だから不思議なんだよこの男は」

マーク「魔術と科学の制御が不完全な彼は肉体への副作用によって死んでしまってもおかしくない。
    偏りすぎは破滅をもたらします、特に魔術側への大きな偏りは能力者には致命傷です。
    彼の話を聞く限りだと彼もそのテの人間のようですが、現にこうして生きています。
    これは我々からしても実に不可思議な現象です。なぜ彼はこうして生きていられるのか」
104 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:47:38.74 ID:Cp7WUTOso

心理定規「だってさ。 あなた何で生きてるの?」

垣根「…………」

心理定規「……? ねえ、垣根帝督」

レイヴィニア「能力開発の詳細は知らんが、『自分だけの現実』が中途半端に
       存在するなどという事は実際にあるのか?」

心理定規「どうだろ。 私も今日初めて気付いたし」

レイヴィニア「そうでないのなら、やはり『未元物質』は復元しつつあるという事になるが……」

マーク「……」

レイヴィニア「『未元物質』復元の理由が魔術師との戦闘訓練だとしたら、"気が進まんな"」

テオドシア「?」
105 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:48:45.78 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「『未元物質』復元は即ち、『自分だけの現実』の再構成に繋がる。
       お前の中の、お前だけの世界が元に戻りつつあるという訳だ」

ルチア「どうすれば垣根帝督が能力を取り戻せるのか……という話ですか?」

レイヴィニア「それが今話している議題だろう?」

垣根「……」

心理定規「教えてくれるの? ていうか方法が判明したのかしら?」

レイヴィニア「私は魔術師だ。 能力云々は専門じゃないんで憶測の域を出ないがな」

垣根「……どうすれば、取り戻せる」

レイヴィニア「死ねばいい」

ルチア「は……はい?」
106 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:49:40.88 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「正しくは『死』を求めればいいんだ。 本当に死んでしまっては
       元も子もないが、死に近づく事でこいつの『自分だけの現実』は
       再構成を進めていく。 能力の演算は脳がその全てを処理する。
       まあ……死ねは些か言葉が過ぎているかも知れんが、リアルの『死』の
       感覚を刷り込ませ、脳を刺激し『自分だけの現実』を呼び起こすんだ」



―――あと一〇〇回くらい死にかければ能力を取り戻せるのではないマスでしょうか。



テオドシア(げ……、あの時の冗談が冗談じゃなくなってるし……)

レイヴィニア「机上の空論にも程があるけどな」

心理定規「どうしてそんな結論に至ったのかしら」
107 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:50:49.25 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「垣根帝督、お前は以前に一度"死んだ"と話していたな」

ルチア「あ……一方通行に殺されたとかいう、あの話ですね」

垣根「……それがどうした」

心理定規「あなた、さっきからテンション低くない?」

レイヴィニア「ふん、"自覚"したんだな」

心理定規「?」

レイヴィニア「学園都市的には死んだ事にはなってないと言ったが……、
       脳だけ摘出されてあとは破棄なんぞ、死んでいるも同然だ」

垣根「……」

レイヴィニア「その一方通行とかいうヤツに殺された日、お前の中の現実は壊れてしまったんじゃないか?」
108 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:52:41.34 ID:Cp7WUTOso

テオドシア「……? でも復活してからも能力は使えたのデスよね?」

レイヴィニア「エイワスの手によって復活したはいいものの、その後しばらく、
       例えばお前はある種の精神的不安定に蝕まれてはいなかったか?」

垣根「……!」

心理定規「……そうなの?」

マーク「死を体験した後に還ってこれるというケースは非常に稀ですからね。
    普通の人間ならパニック状態に陥っていても不思議ではないでしょう」

レイヴィニア「恐らくその時からもう既に、お前には『死』がまとわりついていたんだ。
       『天使同盟』に加盟した時点で、『自分だけの現実』の崩壊が運命付けられて
       いたんじゃないかと私は考える。 一気にではなく、徐々に壊れる形でな」

垣根「…………」
109 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:54:19.83 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「……『お前に俺の何がわかる』、的な反論も無しか? つまらんな」

マーク「ボス」

レイヴィニア「分かってる。 だがお前はその『死』を糧にした。 死を糧にして、
       そこから『自分だけの現実』を再び構成した。 それによって復元
       した『自分だけの現実』を土台に、『未元物質』を発動してるんだ」

心理定規「学園都市も裸足で逃げ出すぶっ飛び理論ね」

レイヴィニア「だから憶測の域を出ないと言っているだろう。 ……もっとも、」

垣根「……」

レイヴィニア「的外れ、という訳でもないみたいだがなぁ?」

ルチア「死は生物にとっての終着点ですよ? それを力の糧にするなんて……」
110 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:55:10.16 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「だがこの仮説は、垣根帝督が魔術に魅了された動機の裏付けにもなる」

テオドシア「と、いうと?」

レイヴィニア「誰かから最初に魔術の話を聞いた時、垣根帝督は十中八九
       能力者が魔術を使う危険性についても説かれたはずだ。
       最悪の場合死に至る、そのリスクにこの男は"惹かれてしまった"」


―――なんで能力者がマジュツを使うと死ぬんだ?

―――それは、能力者が脳開発をされているからです。 いわゆる、拒絶反応が起こって……


垣根「……俺は」

心理定規「ようは死にたがりって事?」
111 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:56:37.26 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「常に死を傍に置いていないと自己を保てなくなっているんじゃないか?
       死を体感する事で生を実感出来るなんて話は結構あるだろう。
       死という根本的概念が垣根帝督を垣根帝督たらしめているんだ」

垣根「……」

レイヴィニア「つまりもっと死に近づけば……それこそ『原典』の海に飛び込みでもすれば
       『自分だけの現実』も或いは再構成する事が出来るだろうが……。 こんな
       話をしてしまっては今までと同じようにという訳にはいかないだろうな」

マーク「『禁書目録』の知識に一切のフィルターを介さず閲覧するという無茶な
    行為も、死が行動原理であろう彼なら納得できてしまうというものです」

レイヴィニア「だがそれを自覚した今、実行に移すのは非常に難しいぞ?」

垣根「……」

レイヴィニア「何度でも言うが、これは事実ではなくあくまで推測だぞ」
112 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:57:25.40 ID:Cp7WUTOso

垣根「……能力についてはそれで構わねえよ。 『未元物質』の話はそれで解決って事でいい」

レイヴィニア「ん?」

垣根「なら……魔術は。 魔力はどうやったら精製出来るようになるんだ」

ルチア「な……、垣根帝督。 あなたはまだそのような事を―――」

レイヴィニア「……呆れて物も言えんな。 話を聞いてる間にも思ったが、お前は本物のバカだよ」

マーク「我々の意見を聞いて尚、魔術を求めますか」

垣根「それしかねえんだよ俺には。 あいつらと……『天使同盟』と付き合っていくには、
   能力だけじゃ足りねえんだよ!! もっと力を得て強くならねえと…………」

レイヴィニア「魔術をナメるなよクソガキ」

垣根「何……?」
113 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:58:43.36 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「いいか、よく聞け。 魔術というのはな、才能の無い人間が才能のある
       人間に追いつくために開発された技術なんだよ。 脳を弄られて才能を
       開花したような天才であるお前のために作られた法則じゃないんだ。
       お前みたいに、死と同伴した好奇心でホイホイと手に出来るような力じゃないんだよ」

垣根「好奇心だと……!?」

レイヴィニア「危険性を承知で求めているから更にタチが悪い。 お前みたいな、能力も魔術も得たい
       などという『強欲』にまみれた人間の存在そのものが、魔術に対する『冒涜』だと断言していい」

垣根「冒……涜……」
114 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 11:59:24.79 ID:Cp7WUTOso



―――あなたの生き方はとても強欲だと私は思うデスマス。能力と魔術、
   このどちらかの領域に立って人は生きていくものデスしょ。

―――あ、あなたはどこか魔術という法則を軽んじている傾向が見られます。
   魔術結社のアジトに立ち寄って、そこで魔術を冒涜するような物言いを
   働いてしまったらトラブルの原因になります。

―――冒涜的かどうかはともかく、魔術を軽視しているという点には頷ける。



ルチア「! あ……」

テオドシア「……」
115 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 12:00:43.54 ID:Cp7WUTOso

レイヴィニア「明確な理由もなくワガママなガキみたいに魔術が使いたい魔術が使いたい。
       己が信念、敵に突きつける武器、位階、それら全ての意味を含めて誓言する、
       魔術師という存在の柱とも言える『魔法名』も持たんお前が何をほざくか」

垣根「……」
       

レイヴィニア「結論を述べよう。 魔術サイドからはもう足を洗え」


垣根「……」

レイヴィニア「『未元物質』を取り戻す作業なら、ここまで来たら私も付き合ってやってもいい」
116 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 12:01:30.96 ID:Cp7WUTOso

マーク「……」

レイヴィニア「死がどうこう言ってきたが、それでもお前は生きているんだ。
       どういう経緯であれ再び享けた生を雑に扱う必要はない」

垣根「……」

レイヴィニア「話は終わりだ。 私は少し外へ出てくる、お前達は適当に寛いでおけ。
       パトリシアもいるしな、構ってやってくれ。 マーク、行くぞ」

マーク「……了解です」


            ガチャ  バタン
117 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 12:02:29.96 ID:Cp7WUTOso

垣根「……………………」

心理定規「あっはは、怒られちゃったねえ」

垣根「……」

心理定規「……………………どうするのよ」

垣根「……」

テオドシア「ていうかまだ話終わってないのデスけどねえ、個人的に」

ルチア「…………垣根帝督」

垣根「……あー面倒くせえ」

ルチア「?」

垣根「ちょっと一人にしてくれ」
118 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 12:07:02.89 ID:Cp7WUTOso

今回はここまでです。ちょっとだけ投下量多めになっちゃいました。

まあ要するに、『能力はまだ望みがあるけど、魔術のことはもう忘れろ』というのが今回の垣根パートの締めです。
垣根、こっぴどく叱られてしまいました。それと、今まで散々あった死亡フラグ云々の場面は伏線でもなんでもないですよ。
死亡フラグはギャグとして割り切って、今回の『死』の話はまた別モンだと考えていただければと思います。

意気揚々とアジトに赴いた垣根でしたが、終わってみれば何だコレ……な雰囲気になってしまいました。
魔術は捨てろと言われ、彼はどう進んでいくのでしょうか、というか進んでいけるのでしょうか。

……という感じで、次回、垣根パート一旦終わりです。思ったより短かったですかね?

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
119 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/27(金) 12:07:52.29 ID:Cp7WUTOso



                          【次回予告】



「垣根帝督と話していた時のバードウェイ様はとても楽しそうデスしたねえ〜。
 まるで見たこともないようなオモチャをプレゼントされて喜んでる子供のような」
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師――――――テオドシア=エレクトラ




「…………何が言いたいのかなテオドシア君? もしアレなら今ここで天使呼ぶけど?」
魔術結社『明け色の陽射し』のボス――――――レイヴィニア=バードウェイ




「クソッ! 何も見えなくなっちまった……、全部投げ出しちまいてえ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・能力も魔術も失った少年――――――垣根帝督




「垣根帝督……」
元ローマ正教のシスター――――――ルチア



120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/27(金) 12:38:54.63 ID:rkGCfeuIO
ルチア来い!
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/27(金) 12:41:18.61 ID:/SLZObvto
乙!
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/27(金) 13:04:34.98 ID:a5cjOUmDO
おつ
ガブリエルの友達が召喚されると聞いて
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/27(金) 14:00:05.49 ID:XcSswKmDO
なんかアルマロスが出てきそうだな
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2012/04/27(金) 18:42:05.22 ID:/8irBSP70
まだ新訳を読んでないんだが、今読んだら混乱すると思うよ俺
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2012/04/27(金) 18:42:09.30 ID:sYRsj6bJ0
まだ新訳を読んでないんだが、今読んだら混乱すると思うよ俺
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/27(金) 20:21:43.19 ID:OiO1Jgzw0
>>心理定規「だってさ。 あなた何で生きてるの?」

ここだけ抜き出すとメジャーたんひどい
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/04/27(金) 21:29:37.62 ID:O7Vz2Dtq0
将棋の名人が警視総監になろうとするようなもんかねえ
(『才能』の世界と『努力』の世界として両者を抜き出してみたが伝わるだろうか)
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2012/04/27(金) 22:18:53.67 ID:Z1cSn7BI0
乙。あいかわらず垣根は苦悩が続くな。たまにはエイワスたんを出して、ふんわりサラッと、シャランラ〜ってしたらいいなじゃね?
(全く伝わらない…)
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/27(金) 23:29:39.50 ID:YrspsTkK0
エイワスちゃんはラブプラスがどうのこうのいいつつプリキュアになろうとしていて忙しいから無理です
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/28(土) 14:19:53.54 ID:ucSsRGJxo
リア充がエロゲする感じってことだな
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [sage]:2012/04/28(土) 21:06:26.13 ID:mMQusrqfo
数日かけて本編の頭から読み直してきて今追いついた
改めて乙!

ところで本編初期の番外通行にニヤニヤしたんだが、ヴェント編の番外個体の態度からすると、もうフラグはなくなってるんだろうか
番外個体可愛かったから、一方通行に番外個体にも向き合って欲しかったが
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/04/28(土) 22:09:23.42 ID:tU6aMHns0
新スレおめでとうなの
ていとくん最大の見せ場ってあとどれくらい?
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/04/29(日) 02:40:28.94 ID:NNyrbmx80
>>132
5年後くらいじゃないかな
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/29(日) 09:15:30.58 ID:5db+Vz2DO
おつ!

力が欲しい 仲間が欲しい 魔術が欲しい 生が欲しい 死が欲しい この世の全てが欲しい!

強欲こそが垣根!!
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/29(日) 13:52:37.67 ID:dwiyPCy70
フラグもだろ?
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/04/30(月) 00:26:36.31 ID:liq3UdKS0
>>133  それは垣根があまりにも不憫だ・・・
垣根涙目・・・
137 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:17:17.39 ID:heCG1Wtho
>>131
なんていうか少なくとも、このSSの番外個体や打ち止めはフラグとか
そういうものを超越している存在にあります。上手く言えないのですが、
恋愛感情などとうに超えているような、そんな存在になっています。
番外通行とか書きたかったですけど、そのテのSSはありふれてて私なんかが
介入できる余地がなく……。出番自体はまだありますのでご安心を。

>>133
そうですね、10年後くらいに……というのは冗談で。
最大の見せ場はまだ先ですが、出番はちょろちょろありますよ。
本編SSではかなり主人公しちゃってたので、今は抑え気味ですが。


おはようございます、皆様。更新を開始したいと思います。
今回で一旦垣根パートは終了です。ただ苦悩する垣根と、
『暴徒』の件について少し触れていきます。

それでは、よろしくお願いします!
138 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:18:36.14 ID:heCG1Wtho


――――――――――――――――――――――


「ちょっとお待ちになってくださいな、小さなボスさん」

「……何だ?」


垣根帝督との話し合いを終えたバードウェイは部下のマーク=スペースを
引き連れて街へ出ていた。そこに背後から軽い調子の声が飛んでくる。
『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師、テオドシア=エレクトラだ。
その少し後ろには難しい顔をした同組織の魔術師、ステイル=マグヌスの姿もある。

テオドシアは真冬の大気を受け、肩を抱いて大袈裟に震えながら
白い息と共にバードウェイへ言葉をかけた。
139 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:19:42.60 ID:heCG1Wtho

「垣根帝督の案件は片付いたのデスしょうけど、まだ私達からのお話が終わってませんデス、はい」

「お前達はただあの男に同伴してきただけじゃないのか?」

「イギリス清教から連絡が入ったんだよ。 暴徒と交戦中の『明け色の陽射し』と
 合流し援護するようにってね。 その時僕達はロシアにいたからイギリスに到着
 した時には事が済んでしまっていたようだけど」


ステイルの言葉を聞いたバードウェイはあからさまに不機嫌な表情を浮かべた。
要請もしていない援護をイギリス清教が彼らに送っていた事実が面白くないのだろう。


「イギリス清教の援護など我々に必要だと本気で思っているのか?
 まぁ、我々が暴徒相手に"やりすぎないよう"牽制しろという意味の
 派遣指令なら納得がいくというものだがな」
140 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:20:33.47 ID:heCG1Wtho

そう言いながら見せるバードウェイの邪悪な笑みは、垣根帝督との会話では
ほとんど出てこなかったものであった。


「……私達が暴徒と接触している時にイギリス清教からその指示が
 出たとしたら、あなた達がイギリスに到着するまでの時間が早過ぎる
 気がするのですが……。 座標指定移動術式でも使って来たんですか?」


マークの疑問に、煙草の煙を吐きながらステイルがつまらなそうに答える。


「学園都市にはトンデモ技術で開発された音速旅客機があるんだよ。
 腹に力士を乗せたような苦しみと共に僕達はここへ来たという訳だ」

「あの飛行機、色々と不思議だったデスよね。 客室乗務員が居ない
 という点はともかく、パイロットも私達に顔すら見せてこなかった
 し、機内アナウンスや機内サービスも来る気配が無かったマスし」
141 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:21:22.82 ID:heCG1Wtho

「あんな旅客機で機内サービスを受けてもありがたみが無いけどね……」


航行中の状況を思い出してしまったのか、ステイルの顔が若干青ざめている。


「それで? わざわざ学園都市式の愉快な空の旅を自慢しに私を追いかけてきたわけじゃないんだろう?」

「ええ。 いやデスから最初の方に言った暴徒についてなのデスマスけど」


話が本題に戻ってもテオドシアの気軽な雰囲気は変わらない。


「よろしければ暴徒に関する情報、出来れば構成員の詳細や使用魔術の系統、
 規模、拠点の数、今後の行動などなど、そんな感じの情報を提供していただ
 ければ我々『必要悪の教会』も嬉しい限りなのでございマスけど〜、どうデス?」

「それはひょっとしてギャグで言っているのか?」
142 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:22:10.37 ID:heCG1Wtho

ごますりをしながら下手な態勢で情報提供を要求しているように見えるが、
テオドシアの場合どこか裏で何かを企んでる感がその作り笑顔に滲みでている。
が、それとは関係なくバードウェイの対応は冷たいものだった。


「イギリス清教から我々との連携指示を受けたとか何とか、そういう話らしいが?
 ボスの私から言わせてもらおう。 我々『明け色の陽射し』はお前達イギリス清教
 に戦力的価値を全く見出しておらん。 期待もしてない。 だからお断りだ」

「僕としてもこんな連中と手を組むなんて意向は命令されても御免被りたいね」


そこだけ聞くとバードウェイに対して敵意剥き出しで反論しているように思えるが、
ステイルはただ単に自分の意見を正直に口にしているだけである。
143 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:23:26.76 ID:heCG1Wtho

「暴徒なんて所詮、誰かが起こした何らかの現象にあっさり感化されて暴走
 しているだけの、無能の集まりでしかない。 加えてその暴徒を生み出して
 いるのがあの『黄金結社』サマなのだから呆れて物も言えないというものだ」

「我々『明け色の陽射し』と『宵闇の出口』を同列視している時点で
 お前という存在の浅い底が見えてきそうだな。 ローラの犬が」

「暴徒を逃した失態を部下に押し付ける程度の器なんだね、『明け色の陽射し』のボスは」

「……言うようになったじゃないか。 リチャード=ブレイブの一件で
 我々が姿を現した時のビビりっぷりが影も残っていない。 お前も
 あの第三次世界大戦で何かを得たクチか? だがその程度ではお前達に
 協力してやろうという気持ちにはなれんな、もっと頑張ったらどうだ?」


バチバチバチ……といつの間にか口論に発展してしまったステイルとバードウェイの
間に火花が散る。ステイルが咥える煙草の先端が異常に燃え上がり、バードウェイは
その視線だけで相手を押し殺さんと目に見えない力で対抗する。
144 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:24:19.72 ID:heCG1Wtho

さてどうこの場を収めようかとマークが思案していると、


「…………科学サイドの垣根帝督には不必要なくらい肩入れしてたクセに」


ボソッと。注意しなければ聞き取れない程度の声量で呟いたテオドシアの言葉に
バードウェイの表情が氷のように凍りついた。


「…………なになに? 何か言ったかなクソババァ、垣根帝督が何だって?」

「なーんか、私達とあなたじゃ『格』が違うみたいな口ぶりでいらっしゃいマスけどぉ、
 結局あなたも私達と同じく、垣根帝督が秘める『未知』に少なからず興味を抱いた
 魔術師に過ぎないんじゃないかなぁ〜って、あー別にこれはただの独り言デスけどね?」
145 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:25:13.61 ID:heCG1Wtho

もはや隠すつもりもないらしい。テオドシアは嫌味全開の笑顔で"独り言"を呟く。
対するバードウェイも笑顔ではあったが、そのこめかみには青筋がひくひくと走っていた。


「マーク……魔術剣の用意は出来てるだろうな?」

「肩入れし過ぎである点は事実です。 それに、彼女はただ独り言を
 呟いているだけですのに、いちいち反応するボスもどうかと……」

「ま、マーク?」


いつもは何だかんだで味方側の立場でいてくれるマークまでもが、
まるで寝返ったように四十路前のバ……お姉さんに同意するような物言いをする。
146 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:26:01.52 ID:heCG1Wtho

「垣根帝督と話していた時のバードウェイ様はとても楽しそうデスしたねえ〜。
 まるで見たこともないようなオモチャをプレゼントされて喜んでる子供のような」

「て、テオドシア……そろそろ」


最初はもっと言ってやれみたいな気持ちだったステイルが顔に冷や汗を浮かべながら
『さすがに挑発しすぎ』と言いたげにテオドシアを止めようとする。
バードウェイの実力を垣間見ているステイルだからこそ、ここでバードウェイに
キレられたらマズいとヒヤヒヤしているのだ。さっきまでバードウェイに対して
挑戦的だった彼もさすがに許容出来ない範中であるらしい。


「…………何が言いたいのかなテオドシア君? もしアレなら今ここで天使呼ぶけど?」

「あなたの好奇心を揺さぶってくれた垣根帝督が『明け色の陽射し』を訪れる事に
 なったのも、キッカケは私達の情報提供デスよ? 主にステイルが垣根帝督に
 『「明け色の陽射し」には見た目以上にガキでワガママで高慢ちきだけど実力は
 確かなクソガキがトップに君臨してる』って言わなきゃ、垣根帝督があなた達に
 そこまでの興味を示す事はなかったんじゃないかなぁ〜なんて思ったり」

「ちょ、オイ!! 僕はそんなこと言ってな―――――ごはぁ!!?」
147 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:26:57.06 ID:heCG1Wtho

瞬間、ステイルが正体不明の攻撃によって地面に押し潰されてしまった。
バードウェイは微動だにしていなかったが、この流れだと攻撃の正体は
彼女の魔術によるものだろう。その証拠にマークは額に手を当ててため息をついている。

理不尽な粛清を受けた同僚の事など意にも介さずテオドシアは続けた。


「感謝しろとまでは言いマスせんけど、借りを返す程度の気持ちで
 結構デスので私達に情報提供してくれませんか?」

「結局それが本音だろうが、まったく……」

「よろしいのですか? ボス」

「ま、こんな私でも第三次世界大戦の時に世界のために一肌脱いだ前例があるしな。
 状況も状況だ、暴徒の件に関してのみの協力もやぶさかではない。 仕方なく、な」

「よっ、御大将。 それでこそバードウェイデスよね」


そんな訳でひとまずバードウェイはイギリス清教と一時的な戦線協定を結んだのだった。
ステイルは死んだ。
148 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:27:54.81 ID:heCG1Wtho


――――――――――――――――――――――


別にそんな話をするために遠路はるばるイギリスに足を運んだ訳じゃない。
別に説教や小言を受けるために『黄金』系魔術結社に接触した訳じゃない。
ただ魔力を再び手にするためのコツなんかをちょっと教えてもらえたら。
ただ魔術に関する面白い話の一つや二つでも聞けたら。

こんなシリアスな空気を吸うために自分は『天使同盟(アライアンス)』を抜けたのではない。
失った物を、落っことしてしまった物を取り戻そうとしただけ。それが今回は魔術だっただけ。

魔術を使った自分に感謝してくれた人がいたから。

魔術を使った自分を叱咤し、真剣に心配してくれた人がいたから。

感謝される事がこんなにも嬉しく、暖かいものだとは思わなかったから。

怒られるという事がこんなにも大事で、心配されるという相手の心遣いがありがたいものだとは思わなかったら。
149 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:28:43.21 ID:heCG1Wtho

ただ、それだけ。




「だったら何でそう反論しねえんだっつー話だよなぁ」

「え?」




『明け色の陽射し』のアジト、石造りのアパートメントの一室。ベランダである。
垣根帝督は誰かに話しかけたつもりではなく、気がつけばそんな言葉が口から漏れただけなのだが。
少し離れた場所、彼と同じくベランダから外の景色を眺めていたルチアが彼の言葉に反応した。
150 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:29:26.01 ID:heCG1Wtho

「……一人にしてくれって、俺言ったよな?」

「す、すみません……」

「別にいいけど。 あの女みてえにお前もパトリシアとゲームしてりゃいいのに」


そう促されても、ルチアはベランダから移動する事はなかった。
ただジッと遠い目をしている垣根帝督の横顔を見つめている。


「怒られたなぁ」

「そうですね」

「ったく……何だよあのガキ。 あんなのが組織のトップ張ってる『明け色の陽射し』って
 色々問題があるんじゃねえの? 俺はただ相談しに来ただけだってのに、何をムキになって
 熱弁してるんだか。 あの辺やっぱガキだよな。 クソったれが、無駄足もいいとこだぜ」
151 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:30:49.37 ID:heCG1Wtho

垣根の言葉には力が無かった。隣にルチアがいるためとりあえず何か喋っておこうという、
そんな空っぽの言葉だけが、イギリスの青空に吸い込まれていく。

言葉の内容はほとんどがバードウェイへの不満。だがそれも本音ではない事が
隣で聞いているルチアには理解できた。そもそも本当にバードウェイからの言葉の数々に
不満を抱いたのであれば、彼の性格ならその場で本人にぶつけているはずである。

思い知らされたのではない。

分かってた。最初から。

力を求め、その先の着地点が自分には無い事くらい、彼なりに理解していた。


「俺は一度死んだから、その後も死を求めて彷徨ってると。 ハッ、
 お前は既に死んでいるってか。 あのガキ、漫画の読みすぎだぜ」
152 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:31:53.80 ID:heCG1Wtho

「死んだ人間は絶対に生き返りません。 あなたは今もこうして
 生きているのですから、正真正銘生きているのですよ」

「シスターが哲学語ってんじゃねえよ」

「哲学に魔術も科学もありませんよ」


くっだらねえ、と垣根はため息をついて後ろを振り返る。
そこにはガラス戸に背を預けてパトリシアとのゲーム対戦に熱中している
ドレスの少女の姿があった。


「あの女、もう魔術にゃ興味ねえとか言ってたのに、何で着いてきてんだろうな」

「……」
153 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:32:44.74 ID:heCG1Wtho

「あいつも最初は『面白そうだから』って理由で俺に同行してたんだ。
 ……俺も似たようなもんかも知れねえ。 俺だって魔術に興味を
 持ったのは面白そうだからってのが理由だし。 信念とかなんとか、
 そんなご大層なもんを掲げなきゃ触れちゃいけねえ領域なのかよ魔術は」


魔術を使う理由。魔術は才能の無い人間が才能のある人間に追いつくために開発された技術。
それで言えば、自分は第三次世界大戦で魔術を使ったという一方通行に対抗意識を持って魔術を
使おうと考えた時期もあったかも知れない、と垣根は過去の記憶を振り返ってみる。

例えば『第一九学区事件』ではどうだっただろうか。垣根は当時の事をほとんど覚えていないが、
それでもミーシャ=クロイツェフを救うために血反吐を吐き散らしながら戦った。
天使を守るため、乃至は皆を守るため。自分の居場所である『天使同盟』を守るため。

立派な理由じゃないか、と垣根は失笑する。大事な何かを守るために危険な技術に手を伸ばす。
まるでヒーローだ。いや、ヒーローならそんな"邪道"に進まなくても守るべきものは守れるだろうか。
そんなヒーロー像を大義名分にして魔術を使う自分を予想して、垣根は気分が悪くなった。
154 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:33:48.23 ID:heCG1Wtho

「己が信念、ねえ……。 魔術を使いたい、或いは使った理由なら色々とあるが、
 真の理由がそのどれにも当てはまってねえとあのガキは言いたかったのか。
 ごちゃごちゃと理由を並べてねえで、自分だけの信念を見出せって事なのかよ」

「……さっきの話に出てきた、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』にも少し似ていますね」

「かもな。 学園都市の能力もその現実を見失っちまったら使えなくなる」


魔術も能力も使用する上で、結局は『自分』に依存している。当たり前の話だが。
魔術なら『魔法名』、能力なら『自分だけの現実』。魔法名が無ければ魔術が使えないという
訳ではないだろうが、信念をその名に乗せ、敵対者に名乗り、覚悟を示す事が魔術師なのだ。


「お前の魔法名って何なの?」
155 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:34:50.13 ID:heCG1Wtho

「私には魔法名はありません。 私はシスターであって、魔術師ではありませんから。
 先の話の場合ですと、私はシスターという役職、立場に自分の信念を預けています」

「立場……か。 自分の存在と同義だよな」


その存在が一度消えてしまったから、死んでしまったから、自分は魔術が使えなくなったのか。
否、使う資格が無いのか。垣根はバードウェイから受けた言葉の意味を改めて考え直してみる。

魔術を使う使わない以前に、使う資格が必要ならば、自分は生きていなければならない。
今の垣根帝督は生きているし、死んでいる。矛盾しているようだが、垣根には自覚できた。

その中途半端な場所から『生』の方向へ脱出しなければならない。生きるためには明確な
目標が必要である。仕事を全うするため、人生を楽しむため、家族を養うため、恋人を守るため。
人間、誰しもが何らかの目標、信念を持って生きている。それが無い人間は今の垣根と同じく
死んでいるも同義なのだ。
156 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:35:50.71 ID:heCG1Wtho

一方通行への対抗意識が消え失せた。ミーシャを守る必要性が無くなった。
だから魔術というもう一つの力が必要なくなったと自分の心が判断したのかと垣根は考える。


(だったらどうして……)


ならばなぜ、なお魔術という法則を自分は追い求めるのだろうかと垣根は自問自答した。
魔術に魅せられたから? 魔術を使うために生きるという目標があれば魔術が使えるのか。
だったらとっくに彼はその力を再び取り戻しているはずである。魔術を取り戻すために
学園都市を発ち、わざわざ『黄金』系魔術結社にまで接触したのだから。

一方通行に対する対抗心を再び燃やしてみるか。ミーシャを、居場所を守る必要が無いのなら
代わりの誰かを守ってみるか。ひたすら特訓に励んでみるか。バードウェイも、思い出してみれば
テオドシアも言っていた『死に近づく行為』で魂辺りが危険を察し、魔力を精製してくれるかもしれない。
157 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:37:00.90 ID:heCG1Wtho

どれだ。

どれを選べば魔術を取り戻せる。選んで、しかしそれで失敗したらどうすればいい。
歩むべき道を失ってしまったら自己の存在が自覚出来なくなる、"死んでしまう"。

それに魔術以前に自分は能力も取り戻せていない。『自分だけの現実』すら掴めていない。
魔術も科学もない、ただの一般人。いや、一度死んでいる垣根は自分が一般人である事も自覚し難くなっている。

では垣根帝督とは一体何なのか? というもはや前提破錠、意味不明の疑問にぶち当たってしまう始末。


垣根帝督は―――――。




「わっかんねえよちくしょう!」



158 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:37:44.76 ID:heCG1Wtho

髪を掻き毟って叫んだ。突然大声を張り出されルチアは小さな悲鳴を上げ、
室内でゲームをしていたドレスの少女とパトリシアが彼の背中をキョトンと見る。


「クソッ! 何も見えなくなっちまった……、全部投げ出しちまいてえ」

「垣根帝督……」


ルチアが彼の肩に優しく手を乗せるが、効果はあまり無かったようだ。
垣根は目を固く閉じ、唇を噛んで震えるだけだ。

何も無くなってしまう。『無』の恐怖が垣根の心を蝕んでいく。


そんな恐怖に震えるしかない自分に吐き気すら催す垣根。
その彼に対し何も出来ないでいるシスターのルチアもまた、静かに悔やむのだった。
159 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:40:56.40 ID:heCG1Wtho

今回はここまでです。

これで垣根パートは一旦お終いです。カッコイイ垣根を描けなくて申し訳ありません……。
今回はただただ苦悩するだけの、言ってしまえば情けない垣根でしたね。
彼の悩みに対する解答は、すごく簡単なものなですが、あまりに簡単すぎて逆にわからないというものです。
垣根がそれに気付くことが出来る頃には、この蛇足SSも最終回直前に差し掛かっているでしょう。

さて次回はちょっと小話を挟みます。○○パートとか置くほど長い話ではありません。
軽く読み流していただけたらと思います。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
160 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/04/30(月) 08:41:29.08 ID:heCG1Wtho



                          【次回予告】



「いやあ、科学の街で眺める雪景色も悪くないですね」
『グループ』の構成員――――――海原光貴




「寒い上に視界確保が面倒になるだけの障害じゃない?」
『グループ』の構成員――――――結標淡希




「夢のない事を言うなよ。 ま、後者に関しちゃ同意するがな」
『グループ』の構成員――――――土御門元春




「…………くっだらねェ」
『グループ』の構成員―――――― 一方通行(アクセラレータ)



161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/04/30(月) 08:56:20.27 ID:2KfqOOQC0

162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/30(月) 09:01:46.91 ID:zoBZ5Sqj0

ついにグループ登場か・・・・・
原作で登場は3年後になりそう。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/30(月) 09:06:49.69 ID:z384rRJE0

ステイル・・・
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/04/30(月) 09:07:07.40 ID:pzJyMPxPo
雪景色……
グループで雪掻きか!?
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/30(月) 09:46:00.74 ID:J0r/9lJc0
ちくしょうていとくんもげろ
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/04/30(月) 11:40:00.62 ID:DB/ljy6M0
ステイルは死んだ、スイーツ(笑)
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/04/30(月) 12:42:53.36 ID:kpHQWtJS0
>>1乙!

>垣根がそれに気付くことが出来る頃には、この蛇足SSも最終回直前に差し掛かっているでしょう。

えっ
もしかして最終回近いんかこれ・・・

あ、蛇足の最終回か、続編あるはずだから安心だね!
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2012/04/30(月) 13:52:33.79 ID:N1ku/M5a0
最終回……だと……
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/30(月) 15:39:38.07 ID:KN+d3orL0
ていとくん・………
ずっと応援してるぜ!
あとルチアがていとくんの正妻すぎて俺の立場がない、俺の存在も無なのか……

最終回か……蛇尾が出るんですよね?そうですよね?

何はともあれ>>1乙!
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/30(月) 15:40:27.41 ID:+8f9BSx+o
まさかステイルがガッシボカ(笑)されるとは……
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [sage]:2012/04/30(月) 19:00:07.12 ID:2DAODTabo

グループか、楽しみだ

>>137
わざわざ済まない、尾行の時やデート計画の時の番外個体と、最近の番外個体が違ってたから、ちょっと気になっただけなんだ
フラグ消したのかなぁと
恋愛じゃない方が好きだから、次の出番も楽しみに待ってます
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 05:32:44.48 ID:qOp4Hl/DO
>>169
蛇足が終わったら解放した各ルートを回って、最後にTRUEEND行って、そして続編に続いて行くって俺の頭の中で言ってたから大丈夫だよ
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/02(水) 03:49:58.08 ID:7bms8EmV0
このアホみたいなやりとりで>>1が書き辛くなるようなことがありませんように
174 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:13:58.58 ID:lmYf1d0ho
>>167
私の言う『最終回は近い』が本当だった試しがあるのか、それが答えだ……


こんにちわ、更新を開始します。
今回は非常に珍しい、つか初めての『グループ』主体のお話です。
つってもここからしばらく続く訳はなく、ニ、三回の投下で一旦終わりですけど。

もう忘れかけていた暗部の存在ですが、原作とは違いこのSSでは暗部はまだ健在。
『グループ』として呼び出された一方通行の心境は複雑なものでした。

それでは、よろしくお願いします!
175 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:14:33.33 ID:lmYf1d0ho


――――――――――――――――――――――


学園都市は空から降り注ぐ幻想的な雪景色に染められていた。
一端覧祭開催から五日目の夜。いや、既に時刻は午前〇時を回っているため
正確には六日目である。

深夜の学園都市は街全体が色鮮やかな光のイルミネーションに包まれている。
その装飾と純白の雪が織り成す街並みは、もうすぐ訪れるクリスマスの雰囲気を想起させる。
もっとも、この時間帯に街を出歩く学生はほとんど居ないため、せっかく冬の季節が演出して
くれたこの美しい景色もあまり意味が無い点については残念としか言いようがない。

つまり現時点でこの景色を見ている人間は、とことん学園都市の規律に逆らうスキルアウトか
深夜勤務の『警備員(アンチスキル)』。相応の機関で開発や実験に没頭する研究者。

もしくは―――――。
176 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:15:06.02 ID:lmYf1d0ho




「いやあ、科学の街で眺める雪景色も悪くないですね」

「寒い上に視界確保が面倒になるだけの障害じゃない?」

「夢のない事を言うなよ。 ま、後者に関しちゃ同意するがな」

「…………くっだらねェ」




――――――夜、『闇』こそが活動範囲であり領域である、学園都市暗部の人間くらいだろう。
177 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:15:50.09 ID:lmYf1d0ho

「『グループ』、久々に全員集合ですね」

「というか、これまでは単に"一人"抜けてただけの状態だっただけよ」

「そうだな、久しぶりという言葉はお前に送った方がいいだろう。 ……一方通行」


言われて、一方通行はあからさまに舌打ちをしてみせた。
今は誰にも使われていない第一〇学区の廃墟ビル。せっかくの雪も、
辛気臭いビルのひび割れた窓から見たら台なしだな、と彼は思った。


『グループ』。学園都市暗部の組織である。


学園都市の機密情報漏洩阻止、リーク。公認されていない物資搬入ルートの確保、または破壊。
能力者の暴走抑止、及び始末。要人警護、或いは暗殺。秘密裏に遂行される実験への協力、乃至は破棄。

表舞台の人間には注文できない"裏の仕事"を請け負う闇の住人で構成された組織、暗部。
『グループ』は統括理事会直属の暗部組織の一つだ。構成員は四人という、少数精鋭で構成されている。
178 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:17:05.41 ID:lmYf1d0ho

「最後に仕事を共にしたのは『ドラゴン』の件以来でしょうか?」


つまらなそうに窓へ視線を投げ続ける一方通行に柔和な声色で尋ねた少年、海原光貴。
線が細い、いかにも優男な雰囲気ではあるが、実は学園都市に潜り込んだ魔術師であり
その老人受けしそうな爽やかな笑顔も術式によって貼り替えた偽の顔だ。


「あの後すぐに戦争が始まっちまったからな。 上層部も街を守るのに
 手一杯で、暗部を動かす余裕が無かったんだろう。 ま、オレとしては
 そのまま風化してくれれば少しは楽が出来たんだが……そう甘くはないか」


土御門元春。明るい金髪に派手なサングラス、そして制服の下に着込んだ
アロハシャツという容姿はこの真冬でも変わりはなかった。
彼は能力者でありながら魔術サイドの組織の魔術師でもあるという稀有な存在だった。
魔術サイドと科学サイド、両方の闇に深く関わっている二重スパイである。
179 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:17:44.45 ID:lmYf1d0ho

「戦争が終わっても学園都市の腐った部分は何一つ変化が無かったのだけどね。
 私達が三人でクソ以下の雑用を押し付けられている間、貴方は一体どこで何をしていたの
 かしら? 差し支え無ければ上手に仕事をサボれる方法を教えて欲しいのだけど」


軍用懐中電灯を右手で器用に回しながら、わずかに不満を含んだ声で一方通行に
声をかける少女の名は結標淡希。茶色の髪を耳より低い位置で左右に別けて結っており、
冬服のミニスカート、ピンクの布で胸を隠し、その上にブレザーを引っ掛けているこの
少女は学園都市の大能力者(レベル4)『座標移動(ムーブポイント)』を有している。
どっかの赤い魔術師がよくこの能力者と勘違いされているが、それはまた別のお話。


「残念ながら差し支えあるなァ。 戦争なンていう好機を前に上手く立ち回れなかった
 自分のマヌケっぷりを自覚しろよ。 その失態のツケの愚痴を俺にぶつけてンじゃねェ」


そして、一方通行である。海原の言う通り、彼が『グループ』の構成員として
活動したのは一〇月一七日、『グループ』として『ドラゴン』の情報を追った
あの忌々しい日が最後であった。こうして四人全員が揃うのは約二ヶ月ぶりの事だ。
180 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:18:45.84 ID:lmYf1d0ho

「自分も気になりますね。 自分の場合、あなたがどこで何をしていたのか以上に、
 "なぜ今日この日まであなただけが暗部の構成員として招集されなかったのか"。
 まさか本当に上層部の裏をかいてサボっていたのではないでしょう? でなければ
 あなたがわざわざ今日ここに赴く意味が分かりませんからね」

「うざってェな。 なンだ、今日のお仕事はサボり魔の俺に対する説教とかですか?」

「そんなんじゃない。 海原も結標も、あまり人の事情を詮索するなよ。
 オレ達はただ集められて、上からの指示に従って仕事を片付けるだけの
 道具だ。 お前らだって普段どこで何をしてるか詮索されたくないだろ?」


土御門の言葉に、海原はやはり柔和な笑みで返し、結標はつまらなそうにそっぽを向いた。


「その割には、」


そっぽを向いたまま、しかし尚も結標は一方通行に探りを入れる。
181 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:20:20.74 ID:lmYf1d0ho

「貴方、『グループ』の隠れ家を利用してるみたいだけど、何故かしら?」

「誰も使ってねェンだから問題はねェはずだろ、俺が勝手に利用しても」

「あのメガネの女が関係しているとか?」


そこで一方通行は初めて結標に視線を向けた。海原は結標の意味深な発言に
首を傾げる。土御門はなぜか、特に気にする素振りを見せない。
結標はうっすらと口元に笑みを浮かべながら更に続けた。


「風斬氷華……って言ったっけ。 貴方とは違って素直で人の良さそうな子だったわね。
 あの子と同居する場所にあの隠れ家を選んだのだとしたら貴方の趣味を疑うのだけど。
 あの時聞けなかった事、今ここで色々と聞いてもいいものなのかしら」

「いちいち人のプライベートを探ろォとする女に趣味がどォこォ言われたくねェな。
 野郎の人間関係を把握しておかなきゃ落ち着けねェ性根の腐ったババァかオマエは」
182 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:21:09.54 ID:lmYf1d0ho

一方通行の言葉に結標は表情を歪ませる。二人の視線が交差し、その場の空気が
一瞬にして張り詰めたが、土御門と海原は動揺することなくその光景を眺めていた。
こんな殺伐とした雰囲気が、しかし『グループ』にとっては日常茶飯事。

『グループ』として集まった四人に和気藹々とした交流や馴れ合いなど一切存在しない。
以前からそうであるし、今回もまたいつも通りであると一方通行は改めて自覚する。


(……結標じゃねェが、しかし本当に何も変わってねェな。 この街の『闇』は)


そう、改めて、自覚せざるを得ないのだ。三人にとってはそうでなくても、
一方通行にとってはこうして招集されるのは本当に久々の事なのだから。

自然、一方通行の頭には疑問が浮かび上がる。
183 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:22:34.87 ID:lmYf1d0ho

(だが何故、急に俺にお呼びの声がかかりやがった? あの電話の野郎……、
 まさかあのタイミングを見計らって俺に連絡を入れてきた訳でもねェだろ。
 俺と接触する機会がありゃ連中はこっちの都合なンざ構わず招集するはずだ)


例えば、第三次世界大戦終結直後である。ミーシャ=クロイツェフとの熾烈な戦闘、
そして打ち止めを救出するために己の体を犠牲にして酷使した魔術。

心身ともにボロボロになった当時の一方通行に接触し、学園都市側で回収する事だって
可能なはずなのだ。何なら相変わらず彼の能力使用権限と打ち止め、そしてその時ロシア
に居た番外個体を人質にして再び彼を『闇』に引きずり込めばそれで済んだ話。

だが実際にはそうはならず、一方通行は紆余曲折を経て打ち止めと番外個体を
学園都市に帰す事に成功した。そして遅れて帰国しようとした一方通行を待っていたのは――――。
184 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:23:42.05 ID:lmYf1d0ho

(……上層部の連中が『天使同盟(アライアンス)』の存在に気付いた、
 もしくはその詳細を全て把握していたとしたらどォだ? 後者なら
 俺以上に手に負えねェ怪物に囲まれた俺においそれと接触出来るモン
 じゃねェ、上は必ず警戒する。 当時はアレイスターも居たしな)


だがそれは考えられない、と一方通行は自らの推測を否定した。
仮に学園都市の上層部が『天使同盟』の存在を発足直後から知っていたとしたら、
当時『天使同盟』の存在を面白く思っていなかった学園都市統括理事長、アレイスターが
あの手この手を駆使して潰しにかかっていたはずだ。

現に『第一九学区事件』で『天使同盟』はアレイスター一人に壊滅させかけられている。
あの時のアレイスターは"魔術師"であったが、"統括理事長"としてのアレイスターでも
『天使同盟』殲滅は可能だったのではないか、と一方通行は新たに仮説を立ててみた。
185 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:24:35.03 ID:lmYf1d0ho

(アレイスターが上の連中に『天使同盟』殲滅の具体的な指示を送れば
 可能だったはずだ。 その頃の俺も暗部の影には警戒していたしな)


だが結果として、『天使同盟』に暗部の魔の手が襲いかかる事はなかった。
これは当時のアレイスターが『天使同盟』を脅威として見ていなかったからか、
アレイスターが学園都市の暗部や上層部では手に負えないと判断したためか、
理由はいくらでも考えられる。

そのあらゆる仮説の中から、一方通行は最も可能性の高い仮説について熟考してみた。


(抑止……。 『天使同盟』は発足時から既に保護されていた? …………エイワスの野郎に)
186 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:25:33.66 ID:lmYf1d0ho

エイワスが『天使同盟』に加盟した時点で、エイワスとアレイスターは対立関係にあったという話を
本人が口にしていた事を彼は思い出す。対立、というよりはエイワスによる一方的な離反だろうか。
エイワスが『天使同盟』側に回った以上、然しものアレイスターも簡単に手出しは出来なくなる。
『天使同盟』そのものはもちろん、打ち止め達を脅しの材料として利用するのも難しいだろう。

そして一方通行は知る由もないが、そもそもアレイスターとしては天使の存在を学園都市に
知られると非常に面倒だったという事実もある。上層部に『グループ』を動かすよう指示すれば
必然的に一方通行も活動する事になり、上層部と天使の距離が縮まってしまうのだ。


そしてそこにエイワスという最悪の要素が加われば、一方通行を暗部として活動させる事は
困難どころか事実上不可能となってしまう。もっとも、その状況に陥る事で困るのは一方通行でも
アレイスターでもなく、上層部。学園都市統括理事会だけだろうが。
187 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:26:36.19 ID:lmYf1d0ho

(エイワスの離反、行動によってアレイスターの目論見が抑止されていた。
 アレイスターが動けないのなら必然的に上の連中も下手に動けねェ。
 ……この仮説が正解だった場合、また新たな仮説が生まれてくるンだが)


まず、一方通行の『エイワスによる抑止説』は概ね当たりであった。

エイワスの行動原理は『興味と価値』である。しかもエイワスが抱く興味と
価値観はその他の生物とは似ている物もあればまるで違う物もあるのだが、
『天使同盟』は後者であった。無論、『天使同盟』の存在を知って興味を持つ
人間もいるだろうが、その人間とエイワスが抱く興味の方向はまるで別物だ。

当時のエイワス、否、現在のエイワスも言ってしまえば、『天使同盟』のためなら何でもやる。
この同盟を守るためならその辺の国の一つや二つは軽く滅ぼすだろうし、この同盟を守るためなら
他人が鼻で笑うような慈善事業にも額に汗をかいて一生懸命取り組むであろう。
188 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:27:44.93 ID:lmYf1d0ho

その中に、恐らく『一方通行と暗部の繋がりを(期間は扠置いて)断ち切る』というものがあったのだ。
これまでにもそれを示唆するようなエイワスの発言があったような気がすると一方通行は振り返ってみる。
ならば、今から二時間程前の『グループ』の仲介役が口走った『ようやく繋がった』発言も納得出来る。

しかし、


(だったら今日、俺が『グループ』として招集されたのは……)


『抑止説』が的中していた場合に生まれる新たな仮説に、一方通行の胸の鼓動がわずかに早まった。


(エイワスが俺と暗部を再び"繋げた"。 もしくは……エイワスの身に何かがあった)
189 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:29:43.92 ID:lmYf1d0ho

その二つの可能性について考える前に、一方通行は首の電極チョーカーのスイッチを切り替えた。
学園都市最強の超能力が問題なく発動出来る状態。電極に異常は見受けられない。
即ち、一方通行の能力は現時点では上層部によって奪われている状態ではないという事になる。

だからと言って安心はできない。今この瞬間、突如として能力を奪われるかもしれない。
一方通行の右腕に装着してある、『対能力遠隔操作用遮断ジャミング装置』でもカバーしきれない
未知の電波によってミサカネットワークの援助から乖離される可能性だって考えられる。
この段階ではまだ一方通行はその新種の電波(仮)による遮断攻撃に対抗できる策を持っていない。

そうする事で一方通行を無力化して拉致、或いはこの場で抹殺するために招集されたのかも知れない。
彼以外の『グループ』三人が(まず考えられないが)上層部とグルである可能性も否定は出来ない。
一方通行はわずかに視線を動かして三人の様子を見るが、そんな算段を立てているような様子は確認できなかった。

改めて、一方通行は『抑止説』から派生した仮説について推測してみる。
190 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:30:27.50 ID:lmYf1d0ho

(前者……、エイワスが俺と暗部を再び繋げた可能性。 あり得ねェ話じゃねェ、
 あの野郎ならほンの気まぐれで上の駒として働く俺の姿を見て愉しもォと考えていても
 不思議ではねェ。 或いは俺が暗部として行動する事でエイワスが得をするよォな……、
 いや、それはない。 あいつは損得で動くよォなタイプじゃねェ。 ……ならば、)


残るは後者、『エイワス自身に何らかのアクシデントが発生した』ケース。
だがこのケースは前者に比べると起こり得ない、あってはならないケースでもあった。


(アクシデント……エイワスが何者かに、上の連中に消されちまった可能性は?
 確かエイワスは学園都市で作られた人形みてェなモンだ。 上があいつの
 システムの『核』を見つけ、破壊したとしたらどォだ? ……だがそれを
 エイワス自身がさせるとも思えねェ。 アレイスターは……動けないはずだ)


その他にも何十通りのケースを思案してみるが、どれもこれも憶測の域を出ない。
圧倒的情報不足であるが故にこれだという確信を得る事が出来ない。
191 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:31:39.69 ID:lmYf1d0ho

(これまでエイワスが俺と暗部のラインを何らかの方法で遮断していた事は間違いねェ。
 そして今日、電話の野郎が俺と連絡を取れたという事は、どォいう理由か知らねェが
 エイワスからの妨害が無くなったって訳だ。 この事態を俺はどォ捉えればイイ……?)


『グループ』の仲介役に直接聞ければ話は早いが、言うまでもなくその手段は現実的ではない。
素直に吐くとも思えないし、何よりエイワスとアレイスター、『天使同盟』の事情を上層部が
知らなかったとしたら、一方通行はわざわざ自分から情報を提供するハメになってしまう。
少なくとも上層部は一方通行とエイワスに繋がりがある事実を把握しているはずだが、
その繋がりの中心に『天使同盟』がある事まで知られていたら非常に面倒な状況になる。


(仮に招集連絡を俺が無視していたらどォなっていた……? 俺の周りの人間を
 攫ってでも俺を動かそォとしたか? それとも俺がそォ考える事も連中は予測し、
 ………………クソったれが、完全に油断してた。 "片鱗"には触れてたのによォ)
192 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:32:35.74 ID:lmYf1d0ho

オルソラ=アクィナス、アンジェレネと一緒に参加した風紀委員の体験講習。
その時に発生した誘拐事件で一方通行は学園都市の暗部が未だに暗躍を続けている
ことを誘拐犯の魔術師から聞いている。その情報をもとに、確信こそ得られぬものの、
そろそろ『グループ』も動き出すのではと推測する事も不可能ではなかった。

だが時既に遅し。こうして暗部の招集に応えた以上、今更抜けることは出来ない。
しかしそれについて一方通行は後悔していなかった。仲介役から電話を受けた時に
上層部が自分とその周りについてどこまで把握しているのか調べる必要があったため、
一方通行はあえて今回の招集に応じたのだ。

つまり彼が今考慮しなければならない点は、『学園都市統括理事長代理を務めるエイワスに何があったのか?』である。


「一方通行」
193 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:34:25.77 ID:lmYf1d0ho

エイワスも学園都市の上層部の件も、どちらも蔑ろにはできない。
自分でも自信の持てる解答を見出さなければ―――そして暗部との『決着』を、


(決着? それは)


『決着』、それは即ち―――




「一方通行!」

「!」



194 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:34:54.00 ID:lmYf1d0ho

と、そこで一方通行の思考が中断された。原因は名前を叫んできた土御門の声だ。


「どうした、何を呆けてる?」

「…………、なンでもねェよ」

「貴方が今回の仕事でくたばろうが知ったことではないけど、
 私の足を引っ張るような愚行は御免被りたいわね」

「分かってる」

「……意外、貴方でも素直に返答することがあるのね」


思考の渦に翻弄されていた一方通行は、ひとまず大きく息を吐いた。
グチャグチャになって溜まっていたわだかまりのようなものが白い息となって排出される。
195 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:35:33.80 ID:lmYf1d0ho

(……エイワスの件については後回しだ。 杞憂である可能性の方が高いしな)


だが杞憂ではなかった場合、自分に何が出来るか考えようとしたが、それもやめておいた。
今は暗部として活動している最中である。万が一、あれこれと様々なこと考えて
意識を散らし、それが原因で死んでしまったらエイワスも『天使同盟』もクソもなくなる。

『闇』の誘いに乗ったのは一方通行自身。今は『グループ』の一人としての自覚を持つべきなのだ。


「おや、」


そこで海原が何かに反応した。彼の視線の先にはボロボロになった木製の机と、
その上に無造作に置かれているノートパソコンがある。

パソコンのディスプレイに何かが表示され、ほぼ真っ暗の室内にわずかな明かりが差した。
196 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:36:32.53 ID:lmYf1d0ho

「どうやら今回の仕事内容について記載された情報が送信されたようですね」

「確認するぞ。 内容によって四人一組で遂行するか二手に別れて行動するか
 決める。 一方通行、結標、電極の状態は入念にチェックしておけよ」

「問題ねェ」

「同じく」


夜の学園都市。

一方通行。土御門元春。海原光貴。結標淡希。

二ヶ月ぶりに集結した『グループ』の暗躍が始まる。
197 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:39:55.08 ID:lmYf1d0ho

『グループ』主体とか言っておきながら一方通行ばっかり目立つ話でしたね。
そんな感じで、今回の投下はお終いです。

ようやく一方通行もエイワスの異変に感づき始めました、遅いよ。
まあ気付いたところで彼に出来ることは現時点では何もないのですが。
エイワスを今、どうこう出来るのは次回予告に出てくる魔術師だけです。

次回は小話を挟みます。そして今回の『グループ』の話は長編ではないので、
仕事の内容云々とか一切省いてあっさり終わります。出番自体はまだありますけど。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
198 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/03(木) 15:41:33.28 ID:lmYf1d0ho



                          【次回予告】



「そこまで求められると、さすがの私も心が揺れてしまいかねないな」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・破錠の危機にある『ラプラス』の偶像――――――エイワス




「常軌を逸する程度であなたを手にできるなら、私はどこまででも道を踏み外すだろう」
世界最強最悪の大魔術師・学園都市統括理事長――――――アレイスター=クロウリー




「これが『一方通行(アクセラレータ)』か、黒夜のやつ……」
『クラッカー』の構成員・『駆動鎧(パワードスーツ)』のコレクター ――――――シルバークロース=アルファ



199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/03(木) 17:23:19.36 ID:pDbAtU5DO
乙でした
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/03(木) 18:45:24.78 ID:vPwGiMFDO
乙!

今回はちょい短め…?


若干物足りない感じがする俺はわがまま過ぎるだろうか……
3日以内の更新を続けてくれてるだけで十分感謝ですね!


そして、またもやアニメ未登場の新キャラが…
Googleてんてー!
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/03(木) 19:36:24.15 ID:QqiZ43ZAo

>>200
シルクロと黒夜は初登場なわけではないんだが
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/05/03(木) 20:17:50.90 ID:zV/62CmT0
>>200
一応出てるぞ
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/03(木) 20:44:03.50 ID:vJvGz3rho
>『天使同盟(アライアンス)』の構成員・破錠の危機にある『ラブプラス』の偶像
って読んで確かに偶像だと納得してしまった

>>1
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/03(木) 21:17:18.06 ID:g7lFYQYC0
ラブプラスのアイドル、エイワスたんですね
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/05/03(木) 21:42:36.97 ID:UyLv2ggz0
ホルスの住人、聖守護天使エイワスともなるとプリキュアでもありラブプラスでもあることなど容易だとでもいうのか…
あ、>>1乙です
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/03(木) 22:40:58.98 ID:vPwGiMFDO
>>201-202
あれ?

黒夜は出た気がするけど、もいっこの方はわかんね


このSSも長いからねぇ…
ちらっとしか出てないキャラだと覚えれない…


ってか、早く禁書3期が始まれば問題ないのですよ
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/05/03(木) 22:52:06.24 ID:PS0Ghgzz0
もうこれ以上天使同盟に加入出来ないとしてもこのアレイスターには天使同盟に入ってほしいな
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/04(金) 01:18:54.72 ID:3yYAkpxX0
>>206
悲しいことにシルクロはアニメに登場しない・・・・
新約はアニメ化しないで22巻までアニメ化だろうしなー。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/05/04(金) 07:40:14.45 ID:aO9kSP2I0
>この同盟を守るためなら 他人が鼻で笑うような慈善事業にも額に汗をかいて一生懸命取り組むであろう。
エイワスが一生懸命なんて想像できねえwwww
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/04(金) 09:20:52.93 ID:b8ZFZB+DO
>>208
なら素直に原作読むよ

このスレ見てから原作全巻買ったから
読む時間があんまりないのが欠点……


>>209
俺はなぜか一生懸命畑を耕すエイワスを想像した
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/05/04(金) 22:29:13.39 ID:Kjz/kOsAO
まだ続いてたのかよww 一昨年ぐらい続いてないか? 作者どんだけスゲェんだよww
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2012/05/04(金) 22:41:23.88 ID:1dZfeKLbo
2年弱だな
たぶんラノベ20冊分くらいあるんじゃね?
同期のきぬはた荘でラノベ10冊分らしい
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2012/05/05(土) 00:28:36.57 ID:BN8NlAiZ0
原作にしたら何巻分くらいあんの?
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/05(土) 01:58:47.56 ID:ryCFAaTa0
乙なの
結標ってもう電極いらないのでは?
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/05(土) 08:39:28.80 ID:gZXfyv5DO
あわきんの電極で疑問に思ったんだが、あわきんも一通さんみたいに脳に障害負ったの??
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/05(土) 16:18:16.68 ID:wL3+WoxSo
<<215
あわきんはトラウマですよ。なんか能力を使った時に壁か床かに足の皮をめり込ませてしまって、
でめり込ませたのに気づかず歩いて足の裏の皮というか皮膚そのものがベリベリべりってもろに剥がれてそんな感じでトラウマになって自身を転移させるとそのトラウマで吐いたりするようになった。
で、そのトラウマを緩和するために低周波治療器を使って精神を安定させている。これがここで言う電極。
だけど暗部抗争15巻かの時にトラウマは克服したはずなんだけど。間違いだったらすまん
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) :2012/05/05(土) 16:35:27.19 ID:tGYc5awX0
218 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:39:08.95 ID:1m3sZOM7o
>>214
え、あの電極もう使ってないんでしたっけ?マジかよやっちまったどうしよう。
でもまあ戦闘シーン無いし、別にいいか……ほら私、手元に原作ありませんから
そういう細かい事情調べられなくて……(言い訳)。

さて、冒頭から謝罪するハメになった>>1です。ごめんなさい。

上にラノベ何冊分云々の話題があがっておりますが、どうなんでしょうね?
台本形式のところを全部地の文に直して……4、5冊分かなと思ったことがありますが、
そんなに多いのかな。長ったらしいことは間違いありませんけども……。

今回は原作で言う行間といいますか、ちょっとした小話です。
全然出番なかったプリキュアと、ひそかに暗躍する顔面こんがりイケメンのお話。

それでは、よろしくお願いします!
219 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:40:02.84 ID:1m3sZOM7o


――――――――――――――――――――――


この現状を甘んじて受け入れなければならない己の無力さを
悲観しているのかと思えば、別にそんな事はなく。


「まったく、ヴェントもやってくれる。 冷や汗をかいてしまったよ。
 まさかここで物語の幕が閉じてしまうのではないかとね。
 しかしシステムに頼らずこうして物語を追っていく感覚は新鮮で良いな。
 他の生物と等しい位置から読む先を予想出来ないスリルは刺激になるよ」


最先端すぎる科学技術で宙に表示されたモニターを閉じ、エイワスは満足げに息をついた。
冷や汗をかいたと言うが、その喜怒哀楽が全て混じったような形容し難い表情には微塵の
変化も見受けられない。
220 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:41:01.87 ID:1m3sZOM7o

第七学区、通称『窓のないビル』。その内部から一方通行とヴェントのやり取りを
『滞空回線(アンダーライン)』を用いて鑑賞していたエイワスは、淡く輝く黄金の髪を
滑らかな動作で撫でながら後ろへ振り向く。


「余裕だな、エイワス」

「『待機』という選択肢以外ない今の私が狼狽する理由もあるまい?
 もはやこのビルから出る事も叶わん、外界との連絡手段も断たれた。
 そんな私に出来る事と言えばただ一つ、やはり『鑑賞』しかないのだよ」

「『観察』の間違いだろう」


振り向いた先に映るのは、巨大なビーカーにも見える生命維持槽。
その中にはたっぷりに満たされた弱アルカリ性培養液と、おびただしい数のモニター。
そして――――、
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/05(土) 16:41:25.20 ID:s3ZVtijTo
>>216
能力で事故起こしたのは事実だけどそれでできなくなったのは自分自身の転移
これがLv5に至れない原因とされている
精神安定が必要になったのはですのおばさんと戦った直後に一方通行にキズモノにされたせい
222 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:41:40.27 ID:1m3sZOM7o




「さて、経過はどうだろうか? "学園都市統括理事長"、アレイスター=クロウリー」

「まだその肩書きに物を言わせる程の力は私には戻っていない、適当な事を言うなエイワス」




学園都市統括理事長にして最強最悪の大魔術師、アレイスター=クロウリーが
例に漏れず逆さまの体勢で浮かんでいた。

アレイスターは『第一九学区事件』でエイワスと衝突した後、敗北。
学園都市の全てのシステムを操作できるこのビルをエイワスに掌握され、
また戦闘で精根尽き果てた彼は統括理事長としての義務も果たせなくなり、
エイワスを統括理事長代理としての立場に就かせる事で街の維持を続けていたのだが、
223 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:42:46.77 ID:1m3sZOM7o

「さっきも言っただろう? 私という存在の根幹である『ラプラス』が消失したと
 判明した今、私に価値は無くなった。 AIM拡散力場の残りカスも同義の私に
 統括理事長を務める力など無いが、しかし君の肉体修復が予定されていた時期より
 大幅に早く終了するという僥倖が重なった。 代理などという役目は意味を成さんよ」

「……統括理事長の役職についてはひとまず置いておくにしても、
 問題はやはり『ラプラス』だな。 『ラプラス』に異常が発生
 したどころか消失していたという事実と、その原因が判明した
 点については安堵するに足るが、しかしその原因が…………」


アレイスターは隠す事もせず思い切りため息をついた。無数に浮かぶモニターの
操作に疲れたというよりは、心の底から呆れ果てたという調子のため息であった。
224 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:43:57.01 ID:1m3sZOM7o

『ラプラス』。学園都市が有する、『ドラゴン』が霞んでしまうレベルの超最重要機密事項。
アレイスターとエイワスのみがそのシステムの存在を知る、究極のブラックボックス。


あたかも未来を通ししてきたかのような発言、相手の心を読んだかのような物言い、
能力者や魔術師はおろか大天使でさえ子供扱いする最強にして最凶の戦闘能力、
無から有を生み出す神の如き所業、次元と次元を渡り歩き、どこにでも顕現できる移動能力。

全世界の原子の位置と運動量、演繹、概念、法則、因果律を全て掌握しているとされる『ラプラス』。
その『ラプラス』をシステムとして開発し、AIM拡散力場に組み込み現出したのがエイワス。
『ラプラス』というシステムがあるからこそ、上記のような自由奔放というレベルではない振る舞いが
出来ていたのだが、今のエイワスにはもうそのような力は僅かも残っていなかった。

一方通行が推測した『エイワス自身に何らかのアクシデントが発生』は見事に的中してしまっていた。
『ラプラス』は消失。肉体の修復が予測より早く進行し、ビル内での活動範囲が広がったアレイスターは
原因究明のため今自分が出来る範囲で行動を起こし、『ラプラス』消失の原因を見つける事が出来たのだが……。
225 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:44:57.78 ID:1m3sZOM7o

「まさか『第一九学区事件』で既に『ラプラス』の消失が始まっていたとはな……」

「困ったものだな」

「あなたの不注意が原因だったのだろうが!! やはり"私が作ったエイワス"に
 聖守護天使(アウゴエイデス)級の"エイワス"を堕ろすのは無茶が過ぎたんだ!」


思わず怒鳴る、というかツッコミに近い感覚で声を張り上げてしまうアレイスター。
自身にすら価値を見出していないのんきなエイワスを前にすれば、然しもの彼も
平常心を失ってしまうのだろう。


『ラプラス』が消失した原因は、なんとその『ラプラス』を核に構成されているエイワス自身が破壊してしまっていたのだ。
226 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:45:54.28 ID:1m3sZOM7o

『第一九学区事件』、エイワスとアレイスターはたった二人で神話の一ページに追加できそうな
スケールの違いすぎる戦闘を繰り広げていた。エイワスの恐るべき戦闘能力に追い詰められたアレイスターは
『ホルス』の法則をその身に宿し、圧倒的な力を以って反撃に移る。

逆に追い詰められてしまったエイワスは最終手段に打って出た。アレイスターが学園都市で作ったエイワスの"モデル"、
かつてアレイスターがエジプトのカイロで授かった『法の書』の知識を伝えた聖守護天使、即ち"本物のエイワス"を
AIM拡散力場で構成された『器』に降霊させ、顕現したのだ。

ホルスの一面である神の召使が降臨してしまっては、所詮人間であるアレイスターに勝ち目はない。
カイロで己に必要な知識を授けてくれた聖守護天使との再会に歓喜しながら、彼は敗北を喫した。


……が、エイワスが実行した別位相からの降霊儀式は筆舌に尽くし難い、狂気の沙汰と言って遜色ない暴挙であった。

いくら『ラプラス』が核と言っても、学園都市製エイワスは能力者が生み出す微弱なAIM拡散力場をベースに構成された
存在であって、そんな人の生み出した人形が次元の違う神のような存在を受け止められる器量を持っているはずがない。
結果として聖守護天使エイワスはアレイスターを瞬殺したためほんの僅かの間しか人形に降霊していなかったのだが、
その在るか無いかの降霊時間が災いし、『ラプラス』は水に溶ける砂糖のように静かに消失してしまったのだった。
227 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:47:07.57 ID:1m3sZOM7o

「めでたしめでたし」

「何がめでたいものか! あなたと学園都市、仮に一から作り直したらあなたの方が時間がかかるのだぞ」

「うむ、私はその『ラプラス』の修復作業の経過を尋ねているのだよ、アレイスター」

「…………。 ……、芳しくないな。 魔術を否定して生み出した『負』の結晶。
 その『ラプラス』を今ここでもう一度復元するという作業は、とにかく"果てしない"。
 砂漠に広がる砂粒を全て数え終える程度の時間がかかっても不思議ではないな」

「結構」


『ラプラス』の復元。それはエイワスの完全復活も同義だ。
『天使同盟』に加盟したエイワスはアレイスターの制御下から離れ、好き放題に振る舞ってきた。
挙句の果てにはそのアレイスターを自ら撃破するというエゴイスティックぶり。正直に言って、
アレイスターが掲げる『プラン』に必要不可欠な存在という点を考慮してもエイワスを復活させて
得られるメリットが、デメリットに比べてあまりにも少なすぎる。
228 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:48:41.37 ID:1m3sZOM7o

ハイリスクローリターン。下手すればハイリスクノーリターンである。
骨折り損のくたびれ儲け。骨どころか、復活した瞬間エイワスがアレイスターを
粉々にしてしまう可能性だってある。アレイスターが消えた学園都市の今後、
魔術サイドの動き、それらにエイワスが興味を持ってもおかしくはない。

だがそれでも、


「果てが見えなくとも、私は必ずあなたを復元してみせる」

「『プラン』のためか?」

「……………………"それもある"」

「ふふ、やはり酔狂だな君は。 主目的を見誤るなよ?
 『プラン』がついでになっては元も子もあるまい?」


例え見返りがなくとも、"エイワスが自分を選んでくれる事はない"としても、
アレイスター=クロウリーという魔術師は『プラン』のためにエイワスを復元させ、
アレイスター=クロウリーという人間は湧き上がる感情に従ってエイワスを求める。
229 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:51:16.39 ID:1m3sZOM7o

狂愛。例えるなら、好きな人間のフィギュアを作ってそれを愛でる行為に近い。
アレイスターはそういう事をやっている。完全に常軌を逸脱してしまっている。
しかし何もかもを捨てたアレイスターには、それしか選択肢は残されていないのだ。


「そこまで求められると、さすがの私も心が揺れてしまいかねないな」

「常軌を逸する程度であなたを手にできるなら、私はどこまででも道を踏み外すだろう」

「では、私は引き続き観察を」

「言っておくがエイワス。 まもなくこのビルの全機能をあなたの修復に回す。
 この生命維持装置以外の機能をシャットダウンするぞ。 『滞空回線』もな」

「えっ」


常識には当てはまらない二人の会話から生まれた空気は、形容し難い不思議なものだった。
それ以降二人は言葉を交わさず、エイワスは『観察』に、アレイスターは『復元』に没頭する。
ビル内を満たすその沈黙は、少なくともアレイスターにとっては心地の良いものであった。


だから、気付かない。そう遠くない未来に訪れる『危機』に。


『ラプラス』を失ったエイワスは、未来で起きる現象を予知する事が出来ない。
その危険性が二人の身を、学園都市そのものを滅ぼす脅威を秘めていると。
230 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:52:37.25 ID:1m3sZOM7o


――――――――――――――――――――――


「これが『一方通行(アクセラレータ)』か、黒夜のやつ……」


人間という生き物の中にはいわゆる、『自分を見失う』という現象が発生する例がある。


例えばそれは怒りである。ほんのはずみで、大したことのない理由で、視界が真っ赤に染まり、
周囲の人間からしても温厚、温和で通っているその人間が突然憤怒に身を任せ、暴挙を働く。
理由なんて無くたって人は狂ったような怒りに支配されることだってある。そして破壊の限りを
尽くしたその人間は『我を見失っていた』、と正気に戻って口にする。
231 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:53:11.10 ID:1m3sZOM7o

例えば、それは行き過ぎた『改造』である。顕著な例を挙げれば整形だろうか。
顔は人間の個性を、おそらくは最も主張している部位だろう。人間の中には
『美』を追求して止まない個体も存在するが、整形手術は美を手にする方法の一つだ。
しかし度が過ぎると、元の顔が思い出せなくなる程にその個性は失われてしまう。
例としてはやや薄いものの、これも少なくないパターンの一つであると言える。


学園都市暗部『クラッカー』の構成員、シルバークロース=アルファはどちらかと言えば後者に
あてはまる人間といえよう。彼は過去に、制裁として顔を焼かれた経験がある。顔を焼く、つまりは
自分の強い個性を焼き払われたも同然の酷な裁きを、彼は過去に経験している。それから暗部として
活動していく内に学園都市の技術で修復された顔は焼かれる前のそれと全く同じものであったが、
過去の経験が己を醜悪という心情が歪めているのだと気付き、自分という個性を捨てた。
232 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:54:14.07 ID:1m3sZOM7o

『どちらかと言えば』、と記述したのは彼が自己を見失ったのではなく、捨てたからだ。
似たようなものだが、しかし『喪失』と『破棄』は突き詰めるまでもなく意味合いが違う。
捨てて、だが自分の存在を保つ上でやはり個性を完全に破棄することは出来ない。
だから彼は『駆動鎧(パワードスーツ)』に拘った。あらゆる種類の駆動鎧で自分を着飾り、振る舞う。
別に駆動鎧でなくともいいのだが、暗部として活動するに学園都市の汎用兵器は何かと都合が良かった。
暗部はどこから捻出しているのか、金もある。自分が要求したスペック通りの駆動鎧を生産するばかりか、
必要以上に量産してくれる。シルバークロースにとって暗部は都合のいい最適な環境だった。


「しかし脳を演算コアに代用するシステムは……さすがにキツいものがあるな」


独り言とともに、シルバークロースの口から赤黒い血が吐き出される。
長髪を毟るように頭部を掴み、低い呻き声を出しながら壁に背を預けて落ちるように座り込む。
呼吸をしようとするが、その度に口から溢れる血反吐がそれを妨げてしまう。
233 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:55:55.63 ID:1m3sZOM7o

「げ、ぁ…………。 ううぅ、ぐぷ……、………………はぁ、あぁ……」


数分ほど酸素を取り入れる作業と格闘し、ようやく息が整ったところで、
シルバークロースが履くズボンのポケットから小さな電子音が鳴った。
彼の携帯端末に、『クラッカー』の下部組織から連絡通知のメールが届いていた。
シルバークロースはメールの中身を確認し、つまらなそうに舌打ちをする。


「ふん、分かってはいたが……『超電磁砲(レールガン)』仕様のファイブオーバーの
 一部は『グループ』が回収していたか。 あの組織には第一位がいるはずだが、一体
 どの場面で使うつもりなんだ。 しかもスペックダウンを施されているというのに」
234 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:56:55.35 ID:1m3sZOM7o

彼の『コレクション』の一つである駆動鎧、『FIVE_Over.Modelcase_”RAILGUN”』。
学園都市第三位の超能力者の規格を超えるために作られたこの駆動鎧は、『第一九学区事件』で
学園都市統括理事長に無断で全機出撃させられ、その五〇〇に及ぶファイブオーバー全てが
第二位の垣根帝督に破壊されてしまっていた。そのほとんどが回収不可能なまでに破壊されており、
どうにか稼働できる状態のファイブオーバーもあらゆる機関によって回収された。つまり本来の持ち主
であるシルバークロースの手元には一機も戻って来なかったという事である。


「ファイブオーバー……結局はレベル5の真似事の範疇から抜け出すことは出来なかった失敗作。
 模範レベルや稼働時間など考慮したところで、その気になれば無能力者でも破壊する事が出来る
 程度の代物。 やはり重要なのは元になったモデルなんだ、第三位では話にもならない」


未だに激痛が走る頭に手を添えながら、シルバークロースはゆっくりと立ち上がった。
一般人はまず知らない、学園都市のとある地下施設。シルバークロースがコレクションを
保管する地下空間だ。その地下に、シルバークロースの独り言だけが虚しく、しかし不気味に
こだまする。
235 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 16:57:49.90 ID:1m3sZOM7o

「第三位程度では、天使には立ち向かえない。 ……ヒーローショーの見学も悪くなかったな」


彼の血で濡れた携帯端末が着信を告げる。相手は同じ『クラッカー』の構成員である黒夜海鳥だった。


『おや、生きていたかシルバークロース』

「際どかったがな、ファイブオーバーを一度体験した過去が功を奏した。 ……それで、用件は何だ?」

『「グループ」がどうやら活動を始めた。 私は予定通りサンプルの一部を回収する。
 言うまでもないだろうが、お前はそこで待機だ。 「グループ」には接触するなよ』

「本当に言うまでもないな。 こんな状態で相対してもタカが知れている」


通話が切れた。シルバークロースは口元の血を拭う。その口には笑みがこぼれていた。


「もうすぐ暗部は、いや、学園都市そのものが変わる。 そのためなら、私は"何にでもなってやるさ"」
236 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 17:02:00.04 ID:1m3sZOM7o

今回はここまでです。

少し投下量が少ないですが、なのでその分早めに投下しました。
物足りないと感じた方には申し訳ないとしか言えませんが……。

エイワスとアレイスターは相変わらずです。『滞空回線』も使えなくなった今、
ますます暇になるエイワスはきっと更にアレイスターをいじって遊ぶのでしょう。

シルバークロース=アルファって誰だよって読者もいらっしゃるようで、
今回の話はなら丁度よかったかもしれません。しかし原作の彼とは少しだけ
設定が変わって(いるような気がし)ます。根本的な部分は同じですけど。

次回は一仕事終えた『グループ』のお話です。改めて『グループ』の面々の事情を
確認し、もう暗部はアレするしかないなと思う一方通行の話をお送りします。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
237 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/05(土) 17:02:48.31 ID:1m3sZOM7o



                          【次回予告】



「貴方が風斬とかいう女とイチャついてた時だったかしら」
『グループ』の構成員――――――結標淡希




「イイから黙って答えろクソ女。 どォなンだよ」
『グループ』の構成員―――――― 一方通行(アクセラレータ)




「……どうやら本当に、自分の事情を把握しているようですね」
『グループ』の構成員――――――海原光貴




「俺達『グループ』は"そういう集まり"だろ? その事でいがみ合うのはよせよ」
『グループ』の構成員――――――土御門元春



238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/05(土) 17:09:18.18 ID:QQB7Tyeu0
乙!
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/05(土) 17:12:43.51 ID:RFzcoJJzo
おっつです
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/05(土) 20:00:44.82 ID:K5ZvDcAU0

エイワスちゃんまじうっかり
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2012/05/05(土) 20:36:53.34 ID:BN8NlAiZ0
エイワスまじ天使
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/05/06(日) 01:11:35.77 ID:PxEKYwYz0
エイワスとアレイスターの身を滅ぼしかねない程の脅威か

このペアは絶対に消えないで欲しいな
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/06(日) 08:55:13.68 ID:iSnqJN7DO
おっつん!

しかし、あれだね


とあるまとめサイトから読みはじめて追い付いた身だとコメントするときに


いかにまとめに自分のコメが残るかを意識しちゃうね

読み返した時に自分のコメがあると少し嬉しいww

おかげで「おつ」の一言じゃなくなるから作者的には嬉しいかもだが
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/05/06(日) 09:16:57.95 ID:MRbD1q+g0
第3位のFIVE_Overがダメとか…

Equ.DarkMatterは仮面だし
一方通行のFIVE_Overは想像つかないぞ
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/06(日) 11:54:43.61 ID:zu2By6+Co
>>244
全く違うだろうが、ちっちゃな百合子がわらわら出てくるのを幻視した
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/06(日) 15:15:12.13 ID:DzB6MOHDO
天使級の力を得て神に気に入られる代わりに
ロリコンになります
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/06(日) 18:12:03.93 ID:TUqD4OLV0
>>1乙です!

>私の言う『最終回は近い』が本当だった試しがあるのか、それが答えだ……
ワロタwwwwwwでもこれですぐ終わることはないね!安心!

>>246
ロリコンになったくらいであの力が・・・ゴクリ
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/05/06(日) 22:23:29.60 ID:waq8Zc0AO
久しぶりに覗いたらまだ続いててワロタ
249 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:37:31.13 ID:uNwkOEdZo

こんばんわ、久々のゴールデンタイム更新です。
いつも支援してくださっていただき本当にありがとうございます。

さて今回は『グループ』です。仕事を終え、しかしなお暗部に関する
疑問が払拭できない一方通行。クソみたいな仕事でたまったストレスを
ぶつけるように、彼は上層部に食ってかかります。

それでは、よろしくお願いします!
250 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:38:12.15 ID:uNwkOEdZo


――――――――――――――――――――――


以前の一方通行なら八つ当たりで学区の一つ二つは破壊していたかもしれない。


『お疲れ様でした。 今回はこちら側、相手側共に犠牲者が発生しませんでしたので、
 薬莢と血痕の処理のみを我々の方で行わさせていただきます。 あなた方が回収した
 学園都市研究機関の実験サンプルとデータは後ほど、いつもの方法で送ってください』

「了解だ。 そっちで後始末を請け負うなら、オレ達はもう解散して構わないな?」

『結構です。 いつも通り収集車をそちらへ向かわせます。 では、寒いので風邪には気をつけて』

「待てよ」
251 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:38:55.70 ID:uNwkOEdZo

通信の終了を遮ったのは一方通行であった。ノートパソコンのスピーカーから
『何か?』、と例の電話の男が返してくる。


『グループ』が出向いた今回の仕事は、否、今回の仕事も、実にくだらない内容だった。
学園都市で研究を進めている特殊な植物の育成実験データ。そのサンプルとデータを
『外』へ流そうと企む研究員の捕縛、及びサンプルとデータの回収。

そんな案件は普段なら警備員辺りが担当するものであるが、『グループ』が出向くと
いう事はその実験やら植物のサンプルやらは所謂、あまり表沙汰には出来ない裏がある
内容、代物なのだろう。


今回は長い間ご無沙汰していた一方通行をも招集しての活動。何か大きな陰謀が
チラつく重大な仕事なのかと思いきや、結果を見ると結局いつもの暗部っぷり。
やる気も起きようがないこの仕事だが、時間だけはやけにかかってしまい、
気づけば早朝の五時を過ぎていた。一方通行だけではなく、残りの三人も
うんざりといった調子で珍しくあからさまに肩を落としている。
252 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:40:11.20 ID:uNwkOEdZo

以前の一方通行なら八つ当たりで学区の一つ二つは破壊していたかもしれないが、


「お咎めは無しってか」

『と、言いますと?』


一方通行が抱いたのは『不自然さ』であった。第三次世界大戦から約二ヶ月、
未だ学園都市の『闇』から抜け出せないでいたはずの一方通行は『天使同盟』という
"隠れ蓑"に身を潜め、――恐らくだが――エイワスの妨害によってまんまと暗部から
身を離していた一方通行に、しかし『上』はその点について一切言及してこない。

この二ヶ月、一方通行がどう『闇』を切り離し、どう過ごしてきたのか。
学園都市第一位という便利極まりない"道具"を簡単には手放したくないだろう
『上』が詮索してこない事に、一方通行は違和感を覚えていた。
253 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:40:51.84 ID:uNwkOEdZo

「……」

『何か気になる点があるのでしたら承りますが? 一方通行』


一方通行は慎重になるよう自分の頭に言い聞かせる。
もしこのノートパソコンの先にいる『グループ』の仲介役が全てを知っているのなら、
一方通行が『天使同盟』を立ち上げ、世界各地で色々な行動をしてきた事を知っているのなら、
それを踏まえた上であらゆる疑問点をぶちまけてみればいい。

しかし、

もし『上』がまるで何も知らぬマヌケだったとしたら?
この二ヶ月、ミーシャ=クロイツェフとかいう大天使、人外と
あれだけ街をムチャクチャに引っ掻き回したにも関わらず、
未だに『上』が『天使同盟』と一方通行の繋がりに気付いていないボンクラだとしたら?
何も知らない上で、ようやくコンタクトを取れた一方通行を今日の仕事に招集したに過ぎなかったら?
254 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:41:56.62 ID:uNwkOEdZo

その場合、真のマヌケは一方通行になりかねない。『上』が必死こいて一方通行の秘密を
探ろうと奮闘する中で、わざわざ自分から相手が欲する情報を提供する事になるからだ。


果たして掌の上なのか。それとも無知か。


一方通行は――――、


「今まで暗部としての活動を無視してきた俺を、今日、急に呼びつけたのは何故だ?」


"カマ"をかけてみた。上層部の現状を罠で引き出す、姑息で下手な手段。
しかしそれが逆に、一方通行が本当に訳もわからぬまま仕事に呼び出された
バカな野朗だと演出させる。
255 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:43:00.13 ID:uNwkOEdZo

『電話の男』は数秒間を空けて、


『参りましたね。 それは逆にこちらが尋ねたかった内容なのですが』


何でもないように、さも当たり前のようにそう返事をした。


この返事が"本当"なのか"カマかけ"なのか、一方通行は疑う事が出来る。


「どォいう意味だ? 俺ァてっきりお払い箱かと思って安心しきってたンだが、
 急に招集をかけられて呆気に取られちまったンだぞ。 俺みてェな危険分子が
 いなくとも仕事が回るよォになったのかと考えてたンだが……違うってのか」


相手の口から核心が漏れるのを待つ。
256 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:43:43.47 ID:uNwkOEdZo

『とんでもない。 我々としては常に、あなたを必要としているのですよ。
 「グループ」は四人の内誰が欠けても成り立ちません。 一人でも欠ければ
 我々はあっという間に破錠してしまいます。 確かに我々は上からあなた方に
 指示を出している立場ですが、それはつまりあなた方なくしては我々も立場を
 保てないのです。 その辺りはあなたも既に理解しているものだと思ってましたが』

「その反吐が出そォなおべンちゃらは誰に習った? 俺がいねェ間に口が上手くなったなァ」


『グループ』の仲介役はくつくつと苛立ちを誘うような笑い声を漏らし、続ける。


『それで、あなたの質問に対する返答ですが……率直に申し上げますと
 我々でも原因が掴めていません。 かの第三次世界大戦終結直後に
 我々はあなたを回収するためにロシアへ赴いたのですが、あなたを
 発見するには至らず、それから数日後に「グループ」への仕事が生まれた
 ため一先ずあなたに連絡を入れたのですが……、何故か繋がらないのですよ』
257 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:45:13.35 ID:uNwkOEdZo

「連絡を受けた気配すら今日まで感じなかったけどな。 そこまで俺が
 必要なら能力の使用権限をそっちで奪って俺を拉致りゃイイだろォが」

『それが可能でしたらとっくに実行しておりますが』

「……つまり、オマエらは今日まで一切、如何なる手段を以ってしても
 俺に干渉出来なかったっつー訳か。 どォしてそンな事になるンだよ」

『その原因が判明していれば苦労はしません。 下部組織の連中を派遣して
 街にいるであろうあなたを監視させる手も考えたのですが……、それに
 気付いたあなたが機嫌を損ねても面倒でしたので、そこは控えました』

「ずいぶンと言ってくれるじゃねェか。 何なら今ここでキレてやろォか?」

『遠慮をする必要がありませんから。 ですが、気に障ったのでしたら詫びましょう』

「チッ」
258 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:46:26.62 ID:uNwkOEdZo

一方通行は忌々しげに舌打ちするが、当然相手の言葉に本気で憤っている訳ではない。
相手の言葉から状況をどう読み解いているかを悟られないための演技である。


『質問は以上ですか? でしたら今日はここで解散です。 しかし、一方通行。
 あなたとこうしてようやくコンタクトを取れた事に我々は大変歓喜しています。
 今後も「グループ」として活動し、我々に貢献してくれる事を願っていますよ』

「言ってろ」


そこで通信は途切れた。ノートパソコンの電源が静かに落ち、『グループ』の
四人が佇む廃墟ビルの一室が暗闇に支配される。


「さっきのやり取り、なに?」
259 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:47:24.01 ID:uNwkOEdZo

一方通行に質問してきたのは軍用の懐中電灯を退屈そうに弄っていた結標淡希だ。


「『上』の連中が貴方と連絡を取れなかったって、どういう意味かしら?
 貴方、暗部からの招集を回避出来る策でも見つけたの?」

「仮にそォだとして、オマエは俺から教えを乞うのかよ?」

「冗談でしょ? 私は私で連中の裏をかけるような方法を模索するわよ」


そしていつものように睨み合う二人。だが結標はともかく、一方通行は
彼女の事など完全に見ていなかった。


先ほどの、仲介役とのやり取り。そこから一方通行が導き出した結論は、
260 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:48:17.67 ID:uNwkOEdZo

(…………シロだな。 断言は出来ねェが、連中は十中八九"俺の事情"を把握していねェ)


上層部は何故一方通行と急に連絡が取れなくなったのか、本当に原因が掴めていない。
一方通行はそう判断するが、しかしそれでもハッキリと断言出来ない状況に苛立つ。
まだ分からない。学園都市の事だ、いくら彼が最強の超能力者だからといって、
そんな怪物を無力化し、無理やりにでも『闇』に引きずり込む手段はいくらでもあったはず。

その手段をあえて使わず一方通行を出し抜こうとしているケースも考えられたが、
一方通行は否定した。何故なら一方通行と暗部の繋がりを断ち切った原因に、
これまた断言出来ないがエイワス――もしくはアレイスターも――関わっているからだ。

いくら学園都市の上層部でも、学園都市最奥部の『闇』である『ドラゴン』の
裏をかく事などできない……はず、と。

考えられるケースはいくつもある。しかしそのどれもが一〇〇パーセントではない。
エイワス関連と上層部の情報が不足しているが故に生じる疑惑、迷い、新たな懸念事項。
261 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:49:20.41 ID:uNwkOEdZo

「……あァ、そォいや結標」

「何よ」


さっきまでいがみ合っていた結標に、一方通行はできるだけ自然さを装ってこう尋ねた。


「以前、統括理事長とその代理の案件を気にしてやがったが、アレから
 『案内人』としての仕事が回ってきた事はあったか?」

「貴方が風斬とかいう女とイチャついてた時だったかしら」

「イイから黙って答えろクソ女。 どォなンだよ」

「……無いわよ。 言ってなかったかしら、あのビル、座標の指定が出来なくなってるって」
262 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:50:00.96 ID:uNwkOEdZo

「……、その現象、今でも起こってンのか?」

「?」


予想外の質問だったのか、結標は怪訝に眉をひそめた。
だが一方通行の紅い瞳から窺える真剣味に何かを感じ取ったのか、
結標は茶化したりはぐらかしたりする事なく正直に答える。


「……あれからたまに『座標移動』を試みてみたけど、てんでダメだわ。
 まるで"そこに座標が存在しない"というあり得ない事態が起こってる
 のかと錯覚してしまうくらい、あのビルの座標が"見当たらない"のよ」


やれやれと言わんばかりに彼女は肩をすくめた。
263 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:51:18.23 ID:uNwkOEdZo

一方通行は続けて尋ねる。


「……俺から聞いておいてこォいうのもアレだが、何故
 その後も『窓のないビル』への座標移動を試みたンだ?」


その言葉に結標は意外そうな表情を浮かべた。彼らの会話を
何の気無しに聞いていた海原光貴も似たような顔をしていたが、
土御門だけは腕を組んで壁に背を預けたまま何の反応も示さない。


「一応聞いておくけどこの会話、多分あのビルにも垂れ流しになってるわよ?」

「聞かれても問題ねェからさっさと答えろ」


結標は音もなく振り続ける雪が覗ける窓から例のビルがある方へ一瞬視線を配り、口を開く。
264 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:54:08.11 ID:uNwkOEdZo

「第三次世界大戦後、世界中が戦争についてあれこれ報道したために
 世間が慌ただしくなった……というのはさすがの貴方も知ってるわよね?」

「それがどォした」

「それは学園都市の暗部も例外ではなかった。 あの戦争の後、貴方だけじゃなく
 私達も、他の暗部組織にもしばらく仕事が回ってこなかったのよ。 これは憶測
 だけど、あの戦争に学園都市の上層部も何らかの形で関わっていて、そのいざこざ
 が原因で上手く事が回らなかったんでしょうね。 けどそれ以上に、統括理事長
 アレイスター=クロウリーの失踪が連中にとっての大打撃になっているのでしょうけど」


そういう結標だが、実はその憶測には若干の間違いがある。
第三次世界大戦後に学園都市上層部が兵器の回収や情報規制に追われて
暗部組織にまともな指示が出せなかったのは事実。アレイスターの『失踪』により
統括理事会も学園都市維持に全力を注ぎ込まなければならなかったため、
暗部とはいえあくまで能力者、学生である彼らに干渉する暇が無かったのも事実。

しかし結標は知らない。アレイスターは厳密には失踪したのではなく『衰弱』しており、
その原因たる怪物、エイワスがまんまと統括理事長の座に就いている事を。
だが結局、今度はエイワスが『衰弱』に陥り、アレイスターが学園都市のシステムをフルに
回転させて修復に臨んでいることを。結標が危惧した『滞空回線』も、今は機能していない。
265 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:54:56.09 ID:uNwkOEdZo

結標も当然、別の誰かが統括理事長に就任している『噂』を耳にしており、
以前に一方通行へその話を持ちかけている。が、彼女はその噂を信じていなかった。
情勢管理に付随する混乱をごまかすために上層部が捏造したダミー情報だと考えていた。


「あのビルは無論、ただそこにあるだけのビルじゃない。 『案内人』である私は
 そこを理解してるわ。 私が求めたのは情報よ、第三次世界大戦や『第一九学区事件』、
 一端覧祭で起きた不可思議な現象、それらの情報をあのビルから片鱗でもいいから
 掴めないかと度々『座標移動』を試みていた……ってだけの話」

「……」

「それと、『天使同盟(アライアンス)』についての情報もね」


それを聞いた時、自分は上手く動揺を隠せていただろうかと一方通行は思った。
結標の口から『天使同盟』の名が出た事には別段驚きはしない。このご時勢、
世界中の人間一〇〇人に聞いたら九〇人は『知っている』と答える程の知名度。
それが今の『天使同盟』だからだ。
266 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:56:02.67 ID:uNwkOEdZo

だがそれでも『結標淡希は「天使同盟」についても探りを入れている』という
事実を知れば一方通行の心も少しは波立つ。それを察知されれば自分が『天使同盟』の
一人だと発覚しかねない。もはや今更そんな事を気にしても仕方がないくらいには
このトンデモ組織の正体は知られているが、それでも自分から明かすことは避けたかった。


(初春と佐天を誘拐したクソ共に『天使同盟』を名乗ったのは失態だったか……)


何の効果も無いかもしれないが、一方通行は話題を少しでも『天使同盟』から
遠ざけるため適当に話を切り替えた。


「そォは言うが、本命はそのどれでもねェンだろ」

「?」

「第一〇学区の少年院。 そこに今もぶち込まれてるオマエの連れを
 どォにかして解放してやれねェか。 その手掛かりを得よォってンだろ」
267 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:57:34.41 ID:uNwkOEdZo

結標の表情が忌々しげに歪む。その顔には苛立ちと、自分の事情をある程度
知られているとはいえこうもあっさり自分の考えを看破された不甲斐なさに
対するストレスが程よくブレンドされていた。


「大戦後のゴタゴタの時が最大のチャンスだったろォなァ。
 そこで上手く事を運べなかった時点でオマエは無力だよ」

「悪いけど今の私、貴方の安い挑発を受け流せる程の余裕は無いわよ?」

「俺と同じだ」

「え……?」


軍用の懐中電灯を力強く握り締める結標だったが、最後の一方通行の
呟きを耳にして眉をひそめた。気のせいか一瞬、彼の表情に後悔の念が
浮かんでいたように見えたのは結標の考えすぎなのだろうか。
268 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 19:58:29.58 ID:uNwkOEdZo

「ま、結標だけじゃなく一方通行にも、海原にも、俺にも、連中の盾として
 利用されてる大事な何かがあるって事だ。 そんな事は全員承知のはずだし、
 俺達『グループ』は"そういう集まり"だろ? その事でいがみ合うのはよせよ」


とりあえずといった形で土御門が話をまとめたが、しかし一方通行はそこで引っ掛かった。


(そォいう集まり……か。 こいつらを『闇』に縛り付けてる鎖は、やはり『人質』……)


一方通行はしばし考え込み、やがて自然に口からこぼれたように言う。


「オマエにも、そォいうモンがあるのか」

「おや、自分ですか? まさかあなたが自分にそんな事を尋ねるとは思いませんでしたが」
269 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 20:00:17.65 ID:uNwkOEdZo

相手は海原光貴であった。彼はその柔和な笑みを一切崩すことなく、やや困ったように返す。


「そうですね、自分ももちろん例に漏れず抱えています。 元を辿れば
 自分が蒔いた災いの種ですが、ならばそれは自分が責任をもって摘み
 取らなければならないと考えています。 皆さんと同じ、何も変わりませんよ」

「……ショチトル、とか言ったか」

「? あぁ、そういえば皆さんは以前にショチトルが入院している病院へ
 来た事があったのでしたね。 いえ、その前に『ブロック』の件で接触
 しているのでしたか。 いやぁ、何故あなたが彼女の名を知っている
 のかと一瞬背筋が凍りましたよ、なにせ―――――」

「『暦石』、とかいう『原典』をあの女からオマエが引き継いだ過程で
 入院したンだったな。 『翼ある者の帰還』の内部で一悶着あったンだろ?
 潮岸と抗争した時も『原典』絡みで衝突したらしいじゃねェか、"エツァリ"」

「――――――……………………いや今度こそ、背筋が凍りましたよ」
270 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 20:01:26.27 ID:uNwkOEdZo

海原の顔から笑みが消えた。二人の会話に結標は何の話をしてるのかとキョトンとした
表情を浮かべ、土御門は何故かニヤニヤと面白そうに口角を歪めている。


「自分、そこまであなたにお話しましたっけ? それともカマをかけられたのでしょうか?」

「イイや、カマかけじゃねェよ。 オマエにゃ悪いが知っちまっただけだ。
 信用してもらおうなンざ思ってねェが、この情報をネタにオマエを搖すろォ
 とか目論ンじゃいねェから安心しろ。 ……だが、大丈夫なのかよ?」

「…………何がです」

「『原典』ってモンがどンだけ危険な代物か、"あっち側"のオマエはよく理解してンじゃねェのか」

「ちょっと、何の話をしてんのよ」
271 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 20:03:09.10 ID:uNwkOEdZo

なんか蚊帳の外な雰囲気を悟った結標が事情説明を要求するが、二人は無視した。


「自分を心配してくれているんですか?」

「俺がオマエの身の心配をするよォな人間に見えンのか?」

「返す言葉もありませんよ。 ……どうやら本当に、自分の事情を把握しているようですね。
 いや参りました。 『原典』の汚染に関しての返答ですが、今のところ問題はありません。
 ……しかし本当に、あなたは今日これまで一体どこで何をしていたのやら、気になります」

「ただの事故に過ぎねェよ、俺はオマエの身の周りの環境なンざ興味ねェからな。
 オマエが属する組織も女の件も、これ以上踏み込む気はさらさらねェよ」

「そうである事を願っています」

(……こォでも言っておかねェと、うるせェだろォからな)
272 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 20:03:45.82 ID:uNwkOEdZo

海原は額の汗を拭い、彼にしては珍しく盛大にため息をついた。
個人的に外部の人間にはあまり知られたくなかった事情なのだろう、
一方通行が『翼ある者の帰還』に本気で興味が無い事を察して安心したらしい。




「さて、ずいぶんと長い間話し込んじまったみたいだが」




言いながら土御門が壁から背を離すと、残りの三人も別の意味で疲れたような
雰囲気を醸しながら各々解散の準備を始めた。
273 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 20:04:16.69 ID:uNwkOEdZo

「今日はこれまでだ。 まだ話し足りないようなら、また次に招集された時に
 思う存分話せばいい。 たださっきも言ったが、あまり互いの事情に深く
 関わったりするなよ。 その分、自分が背負う負担が大きくなるだけだからな」

「誰に向かって説教垂れてンだオマエは」

「ん? 別に説教をしたつもりはないんだがな。 じゃあ、お疲れさん」


解散宣言と同時に、まず結標の姿が虚空に消えた。彼女の十八番『座標移動』である。
自分の肉体の転移は困難であるはずだった彼女だが、どうやらその弱点も順調に克服しているらしい。
そして海原もいつもの優男な笑顔を見せつけて廃墟ビルから立ち去っていく。
274 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 20:04:43.73 ID:uNwkOEdZo

「……、」


一方通行も面倒くさそうな調子で杖をつき、その場を後にしようとしたのだが、


「一方通行」

「あン?」

「……少し、いいか?」


そう言って彼を呼び止めた土御門の、そのサングラスの奥から覗く目を見て、
一方通行はやはり面倒くさそうにため息をつくのだった。
275 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 20:08:26.55 ID:uNwkOEdZo

今回はここまでです。

ロシアで暗部が一方通行を見つけられなかったとか、その辺の話って触れた方が
いいのでしょうか?自分の頭の中だけでその辺の話を終えて満足しちゃってる
状態なんですが、そういうのはよくないってどこかで聞いたような気がして……。
まあ機会があればちょろっとやってみたいかなと思ったり思わなかったり。

あと結標が海原についてどこまで知っているのか、あまり自信がありません。
魔術師であることから所属の組織まで全部知ってるんでしたっけ?
だとしたら今回の話、かなり意味不明な内容になってしまうので心配です。

次回はまた小話を挟みます。風斬とヴェント、ミーシャと美琴で行間的なものを。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
276 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/07(月) 20:09:09.11 ID:uNwkOEdZo



                          【次回予告】



「アンタはさ、私と友達になれて幸せ?」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)――――――御坂美琴




「またいつか……『天使同盟』のみんなと一緒に過ごせる日が来ますよね」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・AIM拡散力場の集合体――――――風斬氷華



277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/05/07(月) 20:13:45.96 ID:rv4sdeOAO
乙! 今回も面白かった!
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/07(月) 20:16:51.22 ID:FQ1ANv4DO
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/05/07(月) 20:48:54.06 ID:4q2XqsyP0
乙!!風斬待ってたよ!!
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/08(火) 00:05:29.68 ID:lCMx8DaX0
乙! また一つフラグを回収したようでなによりです
エツァリの顔色は、まさに海原のごとく青くなったんだろうな
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/08(火) 10:59:57.95 ID:HeU9jcQGo
おつ
土御門って教会経由で全部知ってるのかな
天使同盟はステイルとか神崎と漫才やった仲だしなぁ
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/08(火) 18:22:31.02 ID:8+vLR6CDO
おつ!

つっちーは全部知ってそうだな
アレイスターも天使同盟も


そして、次回ついにおっぱい天使登場か
胸熱だな
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/05/08(火) 19:31:20.07 ID:OyH6j/r80
>>280だれがry
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/09(水) 01:33:23.41 ID:aGaWWf8K0
ずーっと面白いけど、最近ますます面白い!

>>1乙です!
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/09(水) 16:29:06.30 ID:kxFAPqK7o
>>258
電話の相手、東のエデンの秘書っぽいなwww
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/09(水) 17:19:51.23 ID:3geuUXmko
>>285
「ノブレスオブリージュ。これからもハーレムの中心たらんことを」
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/09(水) 18:43:12.77 ID:9zvLSDVW0
288 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:21:57.94 ID:wLMunw9Jo

こんにちわ、真っ昼間から更新していきたいと思います。

今回はまた行間のような話を挟んでいきます。
ミーシャとの付き合い方を考える御坂、そして最近離れ離れな状況ばかりの
『天使同盟』に寂しさを感じる風斬。そんな彼女を遠回しに励ますヴェント。
風斬は久々の登場です。本当はもっと書きたいんですけどね……。

それでは、よろしくお願いします!
289 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:22:35.55 ID:wLMunw9Jo


――――――――――――――――――――――


力の一環で雪をも自由に操れる存在にとって、今も夜の学園都市に
降り続ける雪はあまり興味を唆られないものなのかもしれない。


「………………」


ミーシャ=クロイツェフである。彼女は今夜もまた、空に浮かぶ月を眺めていた。
雪のせいで若干空色が悪く月も綺麗に映っていないが、睡眠という行為が必要でない
彼女はこうして毎晩月を眺める事が日課になっているため、空模様はあまり意に介さないのだ。
290 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:23:29.77 ID:wLMunw9Jo

以前は―――『第一九学区事件』以前は、正確には月を見ているのではなく
この空の向こう、宇宙空間を泳ぐ『ベツレヘムの星』を、その一部である
『星の欠片』を眺めていた。己の存在を補助する"柱"に何らかのアクシデントが
発生し、突然自分が消えてしまわないかと少しだけ怯えながら、眺めていた。

眺めるといっても宇宙にある『星の欠片』を実際に肉眼で捉えられる訳もなく、
(ミーシャに肉眼があるかどうかは別として)、その『欠片』から感じる別位相の
わずかな『匂い』と『天使の力(テレズマ)』を感じ取っているだけなのだが。


「cyuij綺麗zefro」


あの壮絶な事件を経て、『天使同盟(アライアンス)』の"四人"が死に物狂いで『星の欠片』を
守ってくれたおかげでミーシャは消滅の危機に怯える必要は無くなった。故に夜空を鑑賞する
という行為も必要無くなったのだが、『星の欠片』を眺めている内に月そのものにも本当に
魅入られるようになり、現在の彼女はただ純粋に季節外れのお月見を楽しんでいるのだった。
291 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:24:25.34 ID:wLMunw9Jo

『天使同盟』の"四人"が守ってくれた『星の欠片』。

厳密には守ったというより『応急処置』を施したに過ぎず、更に細かな調整を
加えないとミーシャの存在は安定せず、結局いずれは消えてしまうかもしれない
という状態なのだが、今の『天使同盟』は更に一人、非常に頼もしい仲間が増えており、
その仲間が『星の欠片』の安定に全力を注ぎ込んでくれている。


『天使同盟』各々の本当の目的や気持ちはともかく、一部からは『災厄』の如く
恐れ、畏れられる存在である自分を守ってくれている仲間がいる環境に、彼女は
改めて、これ以上ない幸福を感じていた。
そして、比較するつもりはミーシャには勿論無いが、その中でも彼女にとって特別な存在である少年。

一方通行。現世に降り、まず最初に興味を惹かれた人間。

ミーシャはフィアンマや打ち止めの協力の下、あるサプライズを彼に贈る計画を企てている。
そのサプライズの準備がもうすぐ完了する。ただの勘と期待ではあるが、ミーシャはそう思っていた。
それが成功したら一方通行は必ず喜んでくれる。ミーシャはそう信じて疑わない。
292 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:24:56.59 ID:wLMunw9Jo

幸福を提供してくれた一方通行に、今度は自分から幸福を贈ろうという、健気で純粋な思考。
『天使同盟』から抱えきれない程の幸福を受け取った彼女からの恩返し。
そう考えるに至るまでに、ミーシャ=クロイツェフという大天使は幸福感に満ちている。

そんな彼女に最近、新たな幸福が舞い降りてきた。




「……まだ起きてたの? アンタって基本、寝ないのね」

「xkdi美琴laqec」



293 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:26:06.50 ID:wLMunw9Jo

背後からかかる少女の声。ミーシャは外の景色が見える窓から視線を外し、
ゆっくりと後ろへ振り返る。


御坂美琴。学園都市、常盤台中学に所属する超能力者(レベル5)第三位の『超電磁砲(レールガン)』。


彼女が着るには少し子どもっぽいデザインのパジャマをミーシャが褒めたら、美琴は嬉しそうに笑ってくれた。
そんな美琴は眠たそうに目を擦りながらベッドを降り、ミーシャの隣に並んで外の景色を眺める。


「んー、なんか目が覚めちゃった。 今日……ってもうすぐ明日になるけど。
 今日はあれだけ夜更かししてアンタの翻訳機の調整をしてたのに、何でこんな
 時間に目が覚めちゃったんだろ……。 あぁ、翻訳機の完成はもう少し待ってね」

「diyuw必要alj無aoqte」

「そう? でもあった方が何かと便利だと思うんだけどねー」
294 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:26:53.93 ID:wLMunw9Jo

そう言う美琴だがこうしてミーシャの雰囲気を察して、彼女が何を伝えようと
しているのか何となく理解できる領域にまで達している美琴が翻訳機の必要性を
説いても、イマイチ説得力に欠けてしまう。


「また月を見てたの?」


お姉様ぁ〜……と、背後のベッドで幸せそうな笑顔を浮かべながら寝返りをうつ
白井黒子の寝言を聞きながら、ミーシャは静かに頷いた。


「アンタ毎晩月見てるわよね。 なんかロマンチックというか……自称天使の
 アンタにロマンチックとか言うのもヘンか。 あ、もしかしてアンタは天使
 だから天界から降りてきてて、あの月の向こうにこの世と天界を結ぶトンネル
 みたいなのがあって、その先にある故郷を懐かしみながら空を眺めてるとか?」
295 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:27:24.38 ID:wLMunw9Jo

「vyrlkm大体cexnlhi」

「さすがにそれは無いかな? ま、それが事実だったとしても私とアンタの
 関係に大きな変化が訪れる事は無いけどね。 むしろアンタがマジの天使
 だったら友達代表として私を天界に連れて行ってみてほしいわよ」

「cpty歓迎lstrj」

「う、…………じ、冗談よ。 アンタ空飛べるから本当に月まで連れてかれそうだし」


じゃあウチ来る? 的な軽い調子で手を差し伸べてきたミーシャの誘いを
美琴は苦笑いしながら拒否した。例えこの空の先に天界への入り口があったとして、
そこにたどり着くまでに自分の命が保つ自信が美琴には無かった。

美琴は話題を切り替えるためにコホン、と咳払いを一つ。
296 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:28:12.49 ID:wLMunw9Jo

「そういえばアンタ、昨日も今日もここに泊まってるけど大丈夫なの?
 保護者……ていうかお仲間さん? あの火野とかいう男が心配してる
 んじゃない? ……まぁ、帰って来ない事に不安を覚えるような男とは
 思えないけどさ。 一応連絡の一つでも入れた方がいいんじゃない?」

「lpres無問題txvpyf」


ノイズ全開の声で何かを呟くと、ミーシャは(どこに仕舞っていたのか)携帯電話を
取り出して美琴に見せつけてきた。それはこの携帯に送られたメールの一つであり、


『じゃあ今日も天使さんは御坂さんの所にお泊まりするんですね。
 了解しました、いつでも帰ってこれるように鍵は開けてあります
 ので。 あまり御坂さんに迷惑かけちゃダメですよ? 今日は
 麦野さんと絹旗さんが遊びに来てくれたので賑やかです♪』
297 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:29:00.48 ID:wLMunw9Jo

午後一〇時頃のメールだった。送信者の欄には風斬氷華と表示されている。


「風斬氷華……、前も言ったかもしれないけど、アンタ意外と交友関係広い
 わよね。 風斬……もしかしてあの憎たらしい程大きな胸のメガネ女か?
 そして何故か聞いた事もないこの麦野って名前に何かを感じるんだけど……」

「itudw皆lpew友達qptcn」

「うーん、知れば知る程謎が深まっていくわねアンタの素性……。
 いや探ろうって訳じゃないんだけど。 本当に知りたかったら
 素直に尋ねるし。 『天使同盟』云々はもちろん除いてね」


ミーシャに関するあらゆる疑問を美琴は抱えているが、しかしそれを
本人に本気で尋ねた事は一度も無い。割とどうでも良さそうな情報や
聞いても差し支えなさそうな事なら美琴も適当に質問するが、
あまりにもプライバシーに関わりそうな事や美琴自身聞くのが恐ろしく
感じる事は聞かないようにしている。
298 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:29:34.63 ID:wLMunw9Jo

それが、美琴が取るミーシャとの距離の取り方であった。
警戒しているのではない、嫌悪している訳でもない、不信感を抱いているとも違う。
急ぐ必要はない、と判断したためである。ゆっくり、ゆっくりと、時間をかけて
ミーシャ=クロイツェフという存在を知っていく。

そして自分を知ってもらう。

これまで人間と触れ合う時はこのようなコミュニケーションをとったりしなかった。
大体の人間が美琴を『常盤台の超電磁砲』として認識していたため、美琴が相手の
事を知らなくても相手は美琴を知っている、という状況ばかりだったからだ。
"どう知られているか、どう認識されているか"は人それぞれだったが。

……もっとも、それも昔の話であり、今の美琴は別け隔てなく様々な人間と
交友を深めている。ただ自分を知ってもらう難しさ、辛さをよく理解している
美琴は、十中八九人外であり人との繋がりを得るのがより難しいであろうミーシャに
仄かな親近感を覚えたのだ。美琴がミーシャと絶妙に距離をとっているのはその配慮である。
299 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:30:05.86 ID:wLMunw9Jo

(……ま、私が勝手にそう思ってるだけだけど)


だがこんなミーシャにも結構な数の友達がおり、ではその友達とは一体どんな
人間なのか、ていうか人間なのか、その友人の中に一人や二人は人外がいるんじゃないか、
などとミーシャに対する更なる疑問と好奇心を抑えながら、


「じゃあ、とりあえず一つ聞いていい?」

「kucn何pyuv」


美琴は一つ、単純かつ純粋な質問をミーシャに投げかけてみた。
300 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:30:47.81 ID:wLMunw9Jo

「アンタはさ、私と友達になれて幸せ?」

「getps無論sdhto」


即答であった。しかもお得意かつ久々のサムズアップ付きでの返答だ。
美琴はそのよくわからん仕草に呆れながらも、自分と友達でいられて
幸せだと答えてくれたミーシャに感謝するのだった。


あと数時間もすれば、一端覧祭は六日目を迎える。


その六日目。ミーシャ=クロイツェフの『愛』がこの街を支配する事になろうとは、本人も予想だにしなかった。
301 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:31:45.49 ID:wLMunw9Jo


――――――――――――――――――――――


にも関わらず、である。風斬氷華はそれでも、胸にとんと残る寂寥感めいた
何かを払拭できた気にはなれなかった。


何が『にも関わらず』なのかというと、ここ第七学区のとあるアパートメント。
学園都市暗部組織『グループ』の隠れ家を担う一室……というが、実質はもう
『天使同盟』と愉快な仲間たちの住処と化してしまっているこの部屋に、
今日は『アイテム』の麦野沈利と絹旗最愛が遊びにきてくれた。

残りのメンバーである浜面仕上と滝壺理后は仲睦まじく一端覧祭をエンジョイ
しているらしく、その、所謂ラブラブオーラが介入を許さず、二人は近寄る事
さえ躊躇ってしまう始末だという。
302 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:32:40.31 ID:wLMunw9Jo

そんな訳でここ数日お手すき状態である麦野と絹旗はよせばいいのに『天使同盟』などという
危険かつ怪しさ極まったイミフ組織のアジトにお邪魔し、勝手に夜まで騒いでお泊まりするに
至ったのだ。


「雪……綺麗だなぁ……」


と、風斬はこれまた勝手に寝床を占拠しご就寝なさってらっしゃる麦野と絹旗に
くしゃくしゃになった布団をちゃんと被せてやり、しんしんと降り続ける雪を
窓越しに眺めながら独り言を呟いた。


久々に遊び騒いだ風斬は若干の疲れも感じていたが、それ以上に人と触れ合って遊ぶ
楽しさが上回り、その興奮が冷めないため深夜の一時を回ってもまだ寝付けずにいた。
数時間前に常盤台中学の女子寮に泊まるという旨のメールを送ってきたミーシャと同じく、
こうして彼女も雪に彩られた夜空を眺めている。
303 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:33:24.22 ID:wLMunw9Jo

麦野と絹旗を交えた食事やお喋りは真実楽しかった。


にも関わらず、である。風斬氷華はそれでも、胸にとんと残る寂寥感めいた
何かを払拭できた気にはなれなかった。


(最近……、)


ソファの上に転がっていたミニクッションを胸に抱きながら、風斬は表情を曇らせる。


(『天使同盟』のみんなと……遊んだりしてないな……)


最後に『天使同盟』が全員集結したのはいつだっただろうか、と風斬は過去の記憶を辿る。
304 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:34:11.74 ID:wLMunw9Jo

もう一週間くらい前になるだろうか、一方通行とエイワスが新たな構成員、フィアンマを
連れてすき焼き屋にやって来て、そこで六人全員が集まったあの日以来だろうか。
いや、そこから少し時を進めて、一端覧祭初日に長点上機学園で特別講習を行った時以来だろうか。

だとすれば、まだそこから一週間も経っていない。しかし、それでも、風斬にとっては
皆で集まったその日が遠い過去の出来事のように思えてしまった。

別に麦野や絹旗がこうして遊びに来てくれたり、たまに外で上条当麻やインデックスと出会い
他愛のない会話を弾ませたりする事に何も思わない訳ではない。それはもちろん楽しい事であり、
風斬にとって充実した時間であるのは今更疑うまでもない。

例えそれが無くても、『天使同盟』の面々が帰ってこない日が続いても、
この部屋にはまだ風斬の友達が居る。
例えば麦野や絹旗と一緒に今も部屋で寝ているオルソラ=アクィナスやアンジェレネだったり、
305 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:35:06.01 ID:wLMunw9Jo

「そんなツラ見せられたらこっちまで気が滅入るんだけど」

「あ……ヴェントさん。 起きてたんですか……?」


淋しげにしょんぼりと沈んだ顔をする風斬に、鬱陶しそうに話しかける魔術師、
ヴェントだったりと、昔とは違い風斬の周りには常に何人ものかけがえのない
友達が居てくれる。

ちなみにこのヴェント、今日(日付が回っているため正確には昨日だが)は普段より
帰ってくる時間が遅く、帰ってきても何やらそわそわと落ち着かない様子でろくに
食事も取らなかった。


「大方、最近『天使同盟』のみんなと遊んだりしてないな〜とか考えてたんだろ?」

「うぅ……だって、寂しいものは寂しいですもん…………」
306 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:36:12.06 ID:wLMunw9Jo

心境をあっさりと看破され、少しだけ頬を膨らませる風斬。
ヴェントは呆れたようにため息をつきながらソファに座る風斬の隣に腰を下ろす。


「んな事ほざいてる暇で会いにいけばいいだろ。 全員死んでる訳でもないし」

「それは……そうなんですけど……」


ヴェントの指摘通り、会おうと思えば『天使同盟』の一部とはいつだって会えるのだ。
一方通行は電話の一本でも入れればすぐにでも会ってくれるだろうし(と、風斬は信じている)、
ミーシャも迷うことなく一緒に居てくれるだろう。

ただエイワスは……正直に言って困難であった。この学園都市に居るのは間違いないだろうが、
この街のどこに居るのか、そもそもアレはどこにでも居てどこにも居ない訳のわからん人外なので
出会うという概念が果たしてアレに当てはまるのか、甚だ疑問ではある。
307 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:36:58.56 ID:wLMunw9Jo

垣根帝督も難しい。一方通行とあのような衝突があった事もあり、もうしばらくは
この居場所へ戻ってこないであろうと風斬は考えている。

そしてフィアンマは最も予測しにくかった。『天使同盟』の新参者なだけに
風斬も彼の行動範囲を掴めないし、何を考えているのか、普段どこで何をしているのか、
皆目見当もつかないという意見が正直なところである。


「ところで……ヴェントさんは今日、どこに行ってたんですか?」

「ん……え、あ? え? わ、私? 今日? え、別に? 何が?」

「?」

「わ……私がどこで何をしてようがアンタには関係ないでしょ?」
308 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:37:44.00 ID:wLMunw9Jo

そこまで深く追求するつもりもなく、風斬は単純な疑問をぶつけてみただけ
なのだが、何故かヴェントは顔を真っ赤にして慌てふためきごまかしてきた。


「あ……アンタが悪いのよ」

「え……?」

「アンタがさっさと手を打たないから……私が先んじたに過ぎないんだから」


ヴェントが一体何を言っているのかさっぱり理解出来ない風斬だったが、
彼女の様子に淡い不安を覚える。漠然とであるが『出遅れ感』のような
何かが風斬の胸をキュッと絞めつけてくる。

だがそんな正体不明の焦燥感より、今は瞭然としている寂寥感を拭いたい風斬。
309 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:38:36.92 ID:wLMunw9Jo

「まさかもうこのままずっと……みんなと集まって過ごしたり出来ないのかな……」

「あ?」

「なんて……、あり得ないはずなんですけど……どうしても不安になっちゃって……」


たかが一週間前後。『天使同盟』が集まっていない状態が続いているだけだが、
風斬はそんな想像をしてしまうくらい寂しさに襲われていた。

『別』なのだ。今この部屋で過ごしてくれているヴェント、麦野、絹旗、オルソラ、アンジェレネ。
浜面仕上も滝壺理后も。上条当麻もインデックスも。最近知り合った五和という少女も。
この街で触れ合った多くの人間。外国で交流した様々な魔術師達。他にも、たくさん。
それら全員が平等に、風斬にとってなくてはならない大切な友人。

それと『天使同盟』は別だと、風斬は意識的に捉えていた。差別をしているのではない。
『天使同盟』の面々ももちろん大切な仲間であり友達だが、風斬にとって彼らはそれ以上の、
特別な存在になっているのだ。
310 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:39:34.28 ID:wLMunw9Jo

依存。当然といえば当然だが、もはや『天使同盟』は風斬氷華の総てであり、全てだった。


「心配し過ぎよ」

「え?」

「アンタらみたいな化物が、他の何かに属せる訳がない。 他の何かに依存したり、
 ましてや同盟破棄をする訳がない。 アンタらみたいにある種"極まった"連中が
 どれだけ外部と関わろうとその色に染められる事はないわ。 どいつもこいつも
 キャラが濃すぎて塗り潰せない。 だからアンタらがこのままずっと離別したまま
 なんて状況は絶対に続かないわよ。 世間からすれば迷惑以外の何者でもないけど」

「……ヴェントさん……」
311 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:40:10.20 ID:wLMunw9Jo

「……ま、仮にアンタらがバラバラになっても……アンタには、……」

「?」

「……………………な、何でもない。 もう寝る」


最後の方は小声だったため聞き取れなかった。ヴェントは不貞腐れたように
風斬から視線を逸らすと、麦野達が寝ている部屋へ去って行った。

しかし風斬にはきちんと伝わっていた。ヴェントが、彼女が彼女なりに、
不器用ながらも元気の無い風斬を励まそうとしてくれた思いを。
部屋に戻るヴェントを見送り、窓越しに見える雪を見て風斬は微笑み、
312 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:40:36.87 ID:wLMunw9Jo


「…………そう、ですよね」


そして願い、信じるのだった。


「またいつか……『天使同盟』のみんなと一緒に過ごせる日が来ますよね」


『天使同盟』全員が再び集い、笑顔で過ごせる日が来ると願い、信じる。
そんな風斬氷華の想いが成就する日はやってくるのだろうか。
313 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:45:09.89 ID:wLMunw9Jo

今回はここまでです。

こうしてみると風斬の最後のセリフなんか思いっきり『前フリ』なんですが、
はてさてまた再び六人全員が集まる日はくるのでしょうか。
垣根とは違い、やたらリアルなフラグを立てる風斬なのでした。

ミーシャの方でも六日目に何かが起こるフラグが立ってますが、
そしてもうすぐ一端覧祭六日目をお送りするのですが、正直言って投下するかどうか
悩むレベルのカオスっぷりです。ロシアの買い物パート以上のギャグ回だと思います。

次回は『グループ』最後のお話。一方通行と土御門が密会をします。
土御門が一方通行を連れ出した理由とは、的なお話です。よろしくお願いします。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
314 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/10(木) 12:45:36.43 ID:wLMunw9Jo



                          【次回予告】



「あ? なンの話だよそりゃ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)




「んん〜? しらばっくれても無駄だぜい? オレ聞いちゃったもんにゃー♪」
上条当麻のクラスメイト――――――土御門元春



315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/10(木) 13:03:55.35 ID:+Lo6ddtDO

乙!


リアルタイムktkr

そして家くるかい?ってレベルで地球外に誘うなwwwwww
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/10(木) 13:24:30.44 ID:6gXdpfLDO
おつ
土御門さんプライベート仕様じゃないですかー
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/10(木) 14:55:02.56 ID:FaCWWrQq0
面白いんだけど、文句があるんだよなあ。 

原作より面白いもの書いていいのか、ていう。
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/10(木) 15:35:02.96 ID:0rECzbeWo
弁当とおっぱいメガネの絡みは壁を全く感じなくて癒されるわー
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/05/10(木) 18:45:30.46 ID:FCK2djrS0
ペロッ・・・これは、一方通行が尋問される予感!(主に女性関係を)
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/05/10(木) 19:24:49.15 ID:jGXZpMUV0
あァン?これまで以上のカオスだァ?

もっとやれお願いします
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/10(木) 19:41:17.58 ID:wo3wKLKB0
>>1乙!!
久しぶりのほのぼの?なギャグ回に期待
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/10(木) 21:33:19.53 ID:VRphkm1J0

カオス展開かー楽しみだ。
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/10(木) 22:35:02.53 ID:ZhlyFQnPo
これ以上カオスになったらアレイスターが泣いちゃうだろ!いい加減にしろ!
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/11(金) 02:19:38.86 ID:uH1afCqj0
>>1

カオス回超期待
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/11(金) 15:02:15.24 ID:0+Ld/+bIO
ヴェント「意を決してジェットコースター乗ったのに、ギャク回とか言われたんだけど」
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/11(金) 17:42:59.15 ID:4YD0kZ+DO
大丈夫

エイワスもガブも存在自体がカオスだし
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/12(土) 13:47:41.19 ID:oM87F4XU0
乙 久々にくるの?
学園都市ドタバタほのぼのラブコメディ?ボキリ(一方さんの背骨の音的な何か)もあるよ?
328 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:41:09.63 ID:hGYtV+Xlo
>>326
まあ確かに……、そう考えるとカオスな話なんていつものことですよね。
少し過剰に表現しすぎました。これまでこのSSを読んで下さっている方から
すれば結局いつもの『天使同盟』かもしれませんね。

皆様こんばんわ、今日も更新を開始したいと思います。

今回で『グループ』の話は一旦終わり。一方通行と土御門が密会をします。
土御門がわざわざ一方通行だけを誘って話しておきたいその内容とは。
大体予想はつくと思いますが、ていうか予想されていて、そして当たっていますが
どうか最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

では、よろしくお願いします!
329 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:41:37.94 ID:hGYtV+Xlo


――――――――――――――――――――――


「ここでいいだろう」

「……?」


道中、会話らしい会話は交わされなかった。学園都市、深夜もいいとこの時間帯である。
雪は未だに降り続け、その美しさにもいい加減飽きが訪れ、雪によってもたらされる寒さに
うんざりとした気持ちさえ一方通行には湧いてきていた。


『グループ』での久々の仕事を終えた後、土御門元春に案内された場所は第一〇学区の
喫茶店だった。しかしこの時間帯に喫茶店が営業しているはずもなく、そもそもここは
既に閉店して数ヶ月が経った、客も居なければ店員もいない寂れた無人喫茶と化している。
330 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:42:21.76 ID:hGYtV+Xlo

土御門は店内のカウンターを乗り越え、更に奥へと歩いて行く。
訝し気に思いながらも、一方通行は彼の後を着いて行った。


「第一〇学区でもここはスキルアウトの連中がほとんど近寄らない場所だからな。
 オレ達みたいな訳アリの連中が密会するにはうってつけの場所なんだよ」


言いながら土御門は業務員専用の事務室の扉を開いた。
その先に広がる光景を目にした一方通行はくだらないと言わんばかりにため息をつく。


「改めて思うが、この街はやっぱ何も変わっちゃいねェ」

「そう言うなよ。 まさかオレ達みたいなのが堂々と二四時間勤務の
 ファミレスやネットカフェを利用する訳にもいかないだろう?」
331 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:43:01.13 ID:hGYtV+Xlo

一見、そこは小洒落たバーの店内に思える。実際に小さなカウンターはあるし、
その奥にはどこから取り寄せたのか、ありとあらゆるアルコールが均等に
並べられてり、宣伝すれば街の隠れた店として人気が出そうな程であった。

喫茶店の中に小さなバー。質の悪い冗談というか、土御門や一方通行のような
こういう場面転換に慣れた人間でなければ混乱してしまっていただろう。
暗部なら誰もが一つは構える、いわゆる隠れ家のような場所だった。


「座れよ」


着席を促し、なぜかポケットから拳銃を取り出し一方通行の手元のカウンターに
わざわざ放り投げると、土御門はバーカウンターの奥へ移動する。
332 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:43:36.27 ID:hGYtV+Xlo

「一応聞いておくが……何か飲むか?」

「煮え湯でも飲まされンのか?」

「ははっ、そういう冗談。 以前のお前なら絶対に吐かなかっただろうな。
 もっとも、煮え湯云々は使い方が違うんじゃないか? オレ達の間に
 信頼関係なんか築かれてないだろ。 ああ、言っておくが挑発じゃないぞ」


いつも通りの軽快な口調に、しかし一方通行は警戒した。
土御門とはこれまで何度か仕事を共にしているが、仕事後にこのような行動、
しかも二人だけというシチュエーションは無かった。

土御門は冷蔵庫の中から適当にドリンクを取り出し(見たところ酒ではない)、
グラスを持って一方通行の隣に腰を下ろす。
333 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:44:25.05 ID:hGYtV+Xlo

「改めて、久々のお勤めご苦労様」

「そンなに死にてェのかオマエは」

「"今のお前じゃ"迫力に欠けるな。 ……っと、忘れてた」


何やら意味深な発言に一方通行はわずかに眉をひそめたが土御門は無視し、
おもむろに立ち上がると両腕を挙げて降参するような体勢をとった。


「なンの真似だ? 無抵抗を示すにゃシチュエーションとタイミングがおかしいだろ」

「いや、どちらもベストだぜい。 オレはこの通り武器を持っちゃいない、
 唯一所持してた拳銃はその通り、お前の手元に置いてあるしな。
 当然、このカウンターの奥に大量の武器を隠してましたなんてオチもない。
 さっきの信頼関係がどうこうの話じゃないが、確認してくれて構わないぞ」
334 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:45:06.18 ID:hGYtV+Xlo

「必要ねェよ。 あったところで俺がやる事ァ変わンねェからな。 それより、」


茶番くさい土御門の素振りに苛立ちながらも一方通行は先を促す。


「言いてェ事があンならさっさと話せ。 前置きが長げェンだよ」

「そうだな、お前を怒らせてもオレには何のメリットも生じない」

「あ?」


目の前の金髪グラサンを蹴り飛ばしてさっさと帰ろうかと思ったが、
結果的に一方通行が行動を起こす事は無かった。
335 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:45:48.67 ID:hGYtV+Xlo




「『天使同盟(アライアンス)』。 あんな化物共に牙を剥かれたら、オレなんてひとたまりもない」




土御門の発言を受けて一方通行がまず行ったのは、手元にある拳銃に視線を移す事であった。
今ここで拳銃を構え、不敵に笑う土御門の脳天をぶち抜き始末する事は造作も無い。

が、一方通行は動かない。なぜならここで土御門を亡き者にする理由と必要性を感じなかったからだ。
336 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:46:27.72 ID:hGYtV+Xlo

「…………おや。 どうやらオレはまだ生きてるようだが?」

「……………………、……、………………オマエは一つ勘違いをしている」

「拝聴しようか」


未だに諸手を挙げ続ける土御門を睨みつけながら、一方通行は冷静な口調で言った。


「…………"俺達の間で掲げてた秘匿主義は、とォの昔に破錠してンだよ"」

「だが最低限、素性の隠匿は務めてるんだろ? お前から明かす事は避け、
 しかし相手から尋ねられたらTPOにもよるが素直に答える。 これは
 お前達のような怪物が集まっているから生じている余裕だろうけどな」


ふぅ、と軽く息をつき、土御門は手を降ろして改めて席につく。
337 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:47:47.27 ID:hGYtV+Xlo

「…………個人での調査か? だったら大したモンだ」

「お前に褒められてもなぁ。 ま、そうだよ、オレ個人の調査で
 知るに至った。 『天使同盟』、その正体。 だがな、別に
 信じてくれとは言わないが、今の今まで生きた心地がしなかったぞ」

「何を怯えてやがる? オマエにゃイギリス清教っつゥ後ろ盾があるだろォが」

「おいおい、その頼りの後ろ盾がお前達『天使同盟』に抱き込まれてるんだぞ?
 それに個人的意見だが、今のイギリス清教ほど信用性の無い組織も存在しない。
 こうしていつも通りに振る舞ってはいるが、これでもギリギリなんだぜい?」


それは、全てを把握し、理解し、"知っていて"、かつ"知った"者同士の会話であった。


土御門元春は『天使同盟』の素性を知っていた。これに対し、一方通行は別段驚く事はない。
彼が『天使同盟』のどこまでを知っているのか、一方通行の興味が惹かれる事もない。
338 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:48:41.12 ID:hGYtV+Xlo

最初から全てを知っていた訳ではなく、土御門も秘術を尽くして嗅ぎ回っての現状らしい。
だというなら納得だと、一方通行は思った。


「いつから調査してやがった?」

「『第一九学区事件』の後かな。 暗部の仕事が入って、あの事件で暴れ回ったらしい
 連中の素性の洗い出し。 結局そいつらの詳細までは掴めなかったが、他方向から
 調査する事で分かる事もある。 例えばこの一端覧祭、……悪いが笑っちまったぞ。
 お前達、派手に動き過ぎだろう。 お前からしちゃ面白くないんだろうが、どうやら
 主役の大天使様がそうはいかないらしいな。 あれだけファミレスに通っていれば
 嫌でも噂は立つ。 そこから過去へ辿って調査すればオレ程度の人間でも見えてくるのさ、」


グラスに注いだドリンクを一口含み、笑みを浮かべて土御門は言った。
339 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:49:33.16 ID:hGYtV+Xlo

「お前達の素性がな。 さすがに長点上機学園主催『特別講座』の宣伝はやりすぎたな」

「チッ、後の祭りってレベルじゃねェぞ。 未だに公になってねェのが奇跡なンだよ」

「ははは、それは言えてるな」


今度こそ土御門は笑ってみせた。嫌味を含まない、正直な苦笑。
対して『天使同盟』発起人である一方通行は表情を歪めて髪を掻くしかない。


「一方通行、ミーシャ=クロイツェフ、ヒューズ=カザキリ、『ドラゴン』……エイワス、
 垣根帝督、右方のフィアンマ。 ……構成員を知った時、オレは世界の終わりを予感したね」

「何度かそォいう感じの感想はもらってるが、大袈裟過ぎるってンだよ。
 俺達が暴れたってせいぜい滅ぼせるのは街の学区程度の規模だったろォが」
340 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:50:21.08 ID:hGYtV+Xlo

「お前が聞いてないだけかもしれないが、あの事件は完璧に全世界を巻き込んでた。
 ……まぁその話は聞いたにしろ聞いてないにしろ、オレの口から偉そうに垂れる
 話じゃない。 それより、どうだ? 魔術サイドは。 オレの事は誰から聞いた?」

「前者については広すぎて面倒だって感想しかねェよ。 後者だが……、
 情報提供者の素性を俺から聞いて、制裁するってンなら言えねェな」

「そこまでオレも必死じゃないさ。 そんな事したらお前が黙っちゃいないだろ?」

「……オマエらのとこの聖人だよ」

「おう、ねーちんかよ。 そういや学園都市に来てたが、やっぱ『天使同盟』絡みか」


本当に細かい部分までは把握していないが、それでも大体の事情と現状は知っているらしい。
たった一人でそこまで深く情報を掴んだこの土御門という男の手腕に、一方通行は驚かされたが
それを表に出す事はなかった。
341 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:51:27.97 ID:hGYtV+Xlo

「俺からも聞きてェ事がある」

「素直に喋る保証はないぜい?」

「正味問題ねェ、素直に話せる案件じゃねェからな」


よく見ると手元にある土御門の拳銃に弾が込められていない事に気付いた
一方通行は小さく舌打ちをした。その上で、続ける。


「俺と結標や海原の野郎との会話でオマエも気付いてるだろォが、
 統括理事長の"二人"、あのクソ共の現状について、どォ考える」

「俺は『予知能力(ファービジョン)』も持ってなければ名探偵でもないんでな。
 『ドラゴン』という綱を辿ってもエイワスの存在くらいしか知り得なかったし、
 アレイスターも例の事件で何らかの痛手をお前達に負わされた、程度の推測
 しか出来やしない。 ……が、それでも街の状況くらいは何となく読めてる。
 でなけりゃこうしてお前とこんな話が出来るはずがないしな」
342 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:52:40.41 ID:hGYtV+Xlo

『滞空回線(アンダーライン)』の存在を危惧して土御門は言っているのだろう。
あの最先端過ぎる科学技術があればこの二人がどこでどう警戒網を巡らせようとも
会話の内容が筒抜けだ。

だがそれは『滞空回線』を受信する側が正常であればの話。


「ザルだろ。 今、この街は」

「アレイスター、エイワス共に街の管理が行える状態じゃねェ、と」

「十中八九な。 こういう言い方しか出来なくて悪いが、『天使同盟』を
 隠れ蓑にしてきたお前に、ある日突然上層部が介入してきた。 偶然に
 してはあまりにもタイミングが"臭すぎる"し、しかしだからと言って
 意図的とも思えないな。 半ば厄介者と化していた今の統括理事長に
 お前と暗部の繋がりを断たれていたんじゃないか?」
343 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:53:37.25 ID:hGYtV+Xlo

「そしてそれは俺と暗部の繋がりだけの問題じゃなくなってくる。
 姿を見せねェやりたい放題の統括理事長エイワスが動けねェ今、
 上層部と暗部が調子に乗ってバカやらかす可能性が浮上する」

「そうなりゃお前が守りたがってる大事な者も、オレにとってかけがえのない
 大事な者もくだらない飛び火を被る。 無論、それだけに留まらないだろう。
 事は学園都市全体にまで規模が膨らみ、街全体がひっくり返っちまうだろうな」


だから、と土御門は前置きして、


「上層部と、そこから派生する暗部を全て潰そうって考えてるんだろ?」

「……………………………………」
344 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:54:22.28 ID:hGYtV+Xlo

一方通行が反論しなかったのは土御門の指摘がとんだ的外れだったからではない。
むしろ真逆。図星。

ヴェントと別れた直後、『グループ』の電話の男から仕事の指令が飛んできた時から、
既に暗部殲滅の考えが一方通行の頭には浮かんでいた。


「力でねじ伏せるつもりか? 『天使同盟』なら容易だろうが……」

「力だけならな。 だがそれは現状、不可能に近い。 矛盾しているよォだが、
 暗部を潰せるその力が今は散り散りになってンだよ。 ガブリエルや風斬、
 フィアンマに声をかけりゃ恐らくは協力してくれるだろォが、俺としては
 出来るだけそれは避けてェ、……それでも最後は頼っちまうかも知れねェが。
 元暗部の垣根やエイワスなら話は別だが、そいつらは今動けねェときてる。
 垣根は俺が原因でもあるが学園都市にはいねェし、エイワスも連絡がつかねェ」

「……それは知らなかったな。 第二位の目撃情報は何度か傍受しているから
 垣根帝督もこの街にいるもんだと思ってた。 しかし、ならどうするんだ?
 潰す潰すと言うは容易いが、無策で潰せる程暗部も温くはないぞ。 エイワス
 や『天使同盟』のバックアップ無しじゃいくらお前でも実行は出来ないだろう。
 言うまでもないとは思うが――――」
345 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:55:18.38 ID:hGYtV+Xlo

「ナメてンのか。 言われるまでもなく、オマエら『グループ』は使わねェよ。
 それじゃ本末転倒だろォが。 使わねェっつか、使えねェンだよクソボケ」

「はっ。 まさかお前みたいな人間が、お前だけじゃなくオレ達まで『闇』から
 救い上げようとしてくれるとはな。 『天使同盟』の影響で丸くなったのか?」


危うくジャケットの懐から拳銃を抜きそうになった一方通行だが、これまた
図星であるし本人も自覚している事なのですんでのところで思いとどまった。


「ついでだクソ野郎。 暗部が潰れりゃオマエや結標、海原にも影響が及ぶだろ」

「だからさっき、結標と海原との会話で二人の抱えてるもんを『再確認』したのか」
346 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:56:02.24 ID:hGYtV+Xlo

またしても図星だった。土御門にいいようにからかわれている気がして
一方通行としては非常に面白くなかった。
結標淡希が抱える少年院の仲間、海原光貴が抱える魔術組織の同胞。
上層部に盾にされているそれらを、暗部を潰せば解放する事が出来る。

ついでだと彼は言うが、"丸くなった"一方通行の心中は果たしてどうだろうか。


「それにオマエにとっちゃ意味のねェ影響だろ。 オマエは"あっち"にも属してる」

「お前が頑張ってくれるだけで荷が軽くなるなら儲けものってもんさ。
 もっとも、その影響でオレの大事なものに被害が及ぶってんなら……
 天使だろうが何だろうが、オレはお前達に牙を剥く事になるけどな」

「オマエの大事なもの、」
347 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:56:48.89 ID:hGYtV+Xlo

「きゃわいいきゃわいい妹がいるんだにゃーこれが♪
 たまにオレの部屋にも寄ってきてくれて、健気なんだ。
 カミやんが住んでる部屋の横なんだけど」

(……あの学生寮か)

「舞夏ってんだが……、手ぇ出すんじゃないぜい」

「ふざけンなクソ野郎」


軽い口調で言うが、サングラスの奥から覗く瞳は真剣味を帯びていた。


「とにかく、そういう所にまで飛び火が被る事態を避けたいんだ」

「……だから、そォならねェよォに今、策を練ってンだろォが。
 こォしてオマエと喋ってる暇なンざ本来ねェンだぞ」
348 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:57:45.02 ID:hGYtV+Xlo

「分かってるよ。 今日ここにお前を呼び出したのも単なる釘刺しだ。
 それとオレ個人の『確認』も兼ねてたんだ。 お前が『闇』から足を
 洗うのは勝手だが、だったらそれ相応の立ち位置は用意してなきゃならない。
 ……だがまぁ、余計な世話だったようだな。 お前にはもう、『天使同盟』
 という立派な、立派すぎておっかない居場所がある」

「何様のつもりだオマエ、ここで死ぬか?」

「お前が抜けてた穴埋めをさせられてたんだ、これぐらい許容してくれよ」


忌々しげに一方通行は舌打ちしてみせた。本当に、どれだけ話してみても
この土御門という男の本質が理解できない。これならまだ天使だの何だのと
いう人外と関わりあっていた方がマシだとさえ思う。


ともあれ、これで一方通行の胸にのしかかっていた蟠りが少しは解消された。
349 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:58:33.49 ID:hGYtV+Xlo

まずエイワスの状態。土御門も根拠こそ無いが、一方通行と同じ推理を立てていた。
あの金髪無敵怪人に何らかのアクシデントが発生し、一見何の変哲もないこの街の
システムはガタガタに崩れてしまっている。昨日、いや一昨日の『暴徒』による
誘拐事件がそれを裏付けている。

一番の早道はエイワスに直接面会してニ、三発ボコって目を覚まさせる事だが、
それが出来れば一方通行がこうして頭を悩ませる事が無かったし、そもそも
暗部からお呼びがかかる事も無かった。


(第三次世界大戦の時に暗部を潰せればベストだったが……悔やンでる場合じゃねェ)


学園都市暗部の殲滅。これまで『天使同盟』問題と個人の抱える問題ばかりに
執着して目にもくれなかったが、暗部を無くせばその後の行動に付随する負担が
かなり軽減される。打ち止めや番外個体を脅かす影も霧散するし、自分自身も
これ以上クソったれな仕事に付き合わされる事が無くなる。
350 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 18:59:28.50 ID:hGYtV+Xlo

ただ、言うは易く行うは難し。暗部の組織などあとどれだけの数が存在するか
不明瞭であるし、それら全てを潰そうとなるとそれこそ街を巻き込む戦争に
発展しかねない。ならばブレイン、暗部に関わっている上層部を潰せば自然と
根も枯れるだろうが、これだってそう簡単に実行出来るはずもない。


考えなえれば、ならない。イギリスへ向かうまでに、暗部を潰す手段を。


「それに、」


と言ったのは頭の中で対暗部殲滅用作戦を組み立てている一方通行ではなく、
何やら気味悪くニヤニヤと笑みを浮かべてくる土御門であった。
351 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 19:00:12.71 ID:hGYtV+Xlo

「お前にはまだ、暗部だの何だのがカスに思えてくる重要な案件が残ってるしなぁ?」

「あ? なンの話だよそりゃ」

「んん〜? しらばっくれても無駄だぜい? オレ聞いちゃったもんにゃー♪
 例えばほら、お前雪の降る夜の街という最高のシチュで前方のヴェントと―――」


瞬間、一方通行は今度こそジャケットの懐から拳銃を取り出し、土御門に躊躇なく発砲した。
土御門は顔を青くしながら信じられない速度でカウンターの奥に飛び移る。


「アブネッ!!!」

「ちっ」
352 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 19:01:00.78 ID:hGYtV+Xlo

「殺す気かテメェ!! 今のは間違いなく殺意込みの発砲だっただろ!?」

「あァぶち殺す気マンマンだったぜ土御門ォ……、オマエどこでそれを知ったァ!!?」

「い、いやこれはマジでたまたまなんだにゃー。 暗部の依頼が来て集合地点に向かう
 途中にお前とヴェントが居るのを見てな。 まず『神の右席』がフィアンマ以外に
 来てた事を知らなかったし、何があったのかと様子を窺うだけのつもりだったんだぜい?
 そしたらお前、あんな展開になっちゃって―――ちょ、おい能力はやめろマジで死ぬって!!」

「何だったら呼ンでやろォか? 『天使同盟』の残存勢力をここによォ……?」

「国一つ潰せるような勢力を私怨で使う気かにゃー!? 他言しないからホント許して!!」


ふーふー、と獣のように荒ぶる吐息をどうにかして落ち着かせた一方通行は
乱暴に腰を下ろし席についた。しばらくして、ガタガタと全身を震わせながら
土御門が恐る恐るカウンターから顔を覗かせる。
353 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 19:01:47.06 ID:hGYtV+Xlo

「……ま、まぁこれでオレの話は終わりだ。 オレは協力もしないが
 邪魔もしない。 せいぜい、お前の危惧する通り本末転倒にならないよう
 気をつけてくれ。 当然、『天使同盟』の情報をリークする事もしないし
 オレから関与する事もない。 "いつかその時が来たら"、話してくれよ」

「………………、チッ。 二度と会う事もねェだろ」

「そう願ってるぜい」


一方通行は拳銃をしまい、カウンターの土御門に背を向けてその場を後にしようとした。
しかし、


「あ、……」

「……何だ」

「いや、まぁ……これは独り言だから適当に聞き流してくれ」
354 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 19:02:23.25 ID:hGYtV+Xlo

本当に独り言を呟くように、土御門は一方通行と目も合わせずこう言った。




「『天使同盟』とイギリス清教に繋がりがある事は当然オレも把握してる。
 まあだからこそ言っておきたいし、そして余計なお世話なんだろうけど」

「?」

「イギリス清教最大主教、ローラ=スチュアート。 ……"あの女には気をつけろ"」




一端覧祭開催から六日目の朝がやってきた。イギリス清教最大主教、ローラ=スチュアートとの謁見まで残りわずか一日。
355 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 19:07:20.31 ID:hGYtV+Xlo

今回はここまでです。


Q. 土御門は具体的にどうやって『天使同盟』の素性を知るに至ったんですか?
  いつから?どういうルートで?手段は?例えばあの日、土御門は何をしていた?

A. そ  ん  な  こ  と  聞  く  な  。


という訳で、土御門はやっぱりというべきか、知ってました。
まあ知ったからってどうなるもんでもないですけど……まあ彼なら
知っててもおかしくないかなと思ってそういう立場にしてみました。

さて次回からいよいよ、そして実質的に『一端覧祭編』最終章、六日目に突入します。
これまで結構マジメなお話が続いた一端覧祭だけに、六日目は頭おかしい内容になってます。
そんな六日目の主役を務めますは、一方通行でもミーシャでも風斬でもなければ、
エイワスでも垣根帝督でもありません。

あの男です。あいつがそれはもうとんでもない事を(結果的に)やらかします。バカです。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
356 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/12(土) 19:08:10.28 ID:hGYtV+Xlo



                          【次回予告】



「それでは火野ちゃん、よろしくお願いするのです」
上条当麻のクラスの担任――――――月詠小萌




「お前に『奇跡』を披露してやる」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ



357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/12(土) 19:08:32.81 ID:1NSbVFnU0
>>1乙!!
そういやまだ一端覧祭やってたんだな…
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/12(土) 19:19:43.09 ID:rJCXAJzY0

フィアンマさんなにやらかすん・・・
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/12(土) 20:02:24.18 ID:wvyhrPVCo
おつ
このフィアンマは焼肉で火をつけるために魔術を使うフィアンマ
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/12(土) 20:33:03.45 ID:M5CseAma0
おつ
フィアンマさんwwww
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/05/12(土) 23:37:54.77 ID:/b/kLZzR0
あ、バカだこいつ
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/13(日) 00:00:15.93 ID:YjI2PPR2o
一通さん必死すぎますチェリーすぎます
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/13(日) 06:15:16.73 ID:GZmTirFDO


バカと聞いて最初になぜかソギーが頭に浮かんだぜ…
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/13(日) 13:49:38.21 ID:CnJBlpjF0
乙ww

なぜか場を盛り上げるために口から火を吹くフィアンマ想像した。
365 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 13:55:52.09 ID:B8CtpJH4o
>>357
まあ一端覧祭なんてのは名ばかりですけどね。文化祭なんて実際一日目くらいしか
まともにやってないし、あとは私の都合で開催しているだけに過ぎないという……。
例えば風紀委員体験講習とか、こういう時じゃないとやりにくいかなと思って。

こんにちわ、更新を開始します。

今回から名ばかりの一端覧祭は六日目に突入します。そして事実上、これが最後の
一端覧祭となる……のかな?主役はフィアンマ、つまりフィアンマパートです。
月詠小萌の部屋に世話になったフィアンマはついにあの『計画』を実行に移します。

それでは、よろしくお願いします!
366 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 13:56:19.96 ID:B8CtpJH4o


――――――――――――――――――――――


一方通行はイギリスへ向かう前に、学園都市に蔓延る『闇』を払拭すると決意した。
どんな形であれ『闇』はせいぜい背負う事しか出来ないと考えていた彼だが、
背負うだの抱えるだのといった綺麗事では進めないと自覚したが故の、決意。


ミーシャ=クロイツェフは交流を深めていった。『天使同盟』だけで満足していた
自分と決別し、自分を受け入れてくれる『友達』を作るために。これまでも何人か
そういう人間との交流もしてきたが、御坂美琴はその明確な第一歩なのかもしれない。


風斬氷華は求めた。一端覧祭開催以来、各々が別行動を取る『天使同盟』の現状に
寂寥感を覚え、いつかまた六人が集まって笑顔を振り撒きながら過ごせる日常を。
367 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 13:57:18.08 ID:B8CtpJH4o

エイワスは傍観するしかなかった。己の存在を支える『核』を失い、もはや
傍観者として君臨する事も難しくなったが、それでも観察を続けるしかない。


垣根帝督は苦悩した。『天使同盟』と一時的に離別し、改めて魔術という法則と向き合い、
しかし魔術のエキスパートである少女に非情なる現実を思い知らされ、方向性を見失った。
これから先自分はどう生きていけばいいのか、根本的な原理すら霧がかってしまっていた。


これが、一端覧祭開催六日目までの『天使同盟』の経緯。明確な目標を掲げて進む者、
異常ながらも楽しかった日々を渇望する者、耐え忍ぶ者、苦しみながらも道を模索する者。
一方通行、ミーシャ=クロイツェフ、風斬氷華、エイワス、垣根帝督は今日も生きていく。


そして――――――。
368 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 13:58:06.37 ID:B8CtpJH4o




「……………………朝、か」




『天使同盟(アライアンス)』の新参者にして現在最後の構成員。

元ローマ正教『神の右席』の魔術師。最強クラスの力を所持する『神の如き者(ミカエル)』の象徴。

右方のフィアンマもまた、一端覧祭六日目の朝の日差しを鬱陶しそうに浴びていた。


「結局徹夜になってしまったな。 いや、むしろこれほどの術式構成を二日で
 完成できた事に驚くべきか。 もっとも、俺様一人では不可能だったが」
369 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 13:58:48.13 ID:B8CtpJH4o

フィアンマが居る場所は何の変哲もない、といえば嘘になるが、第七学区の一画に建つ
木造二階建てアパートの一室であった。部屋には今も煙草のヤニの匂いが微かに残っており、
少し室内を移動するだけでも苦労するほどビールの空き缶や衣服が無造作に放られている。

眠気は無いといえばこれもまた嘘になるが、ともあれフィアンマは二日間に及んだ精密作業で
蓄積した疲労を和らげるために窓を開けて外の空気を吸おうとしたが、


「……っと、いかん。 今この窓は開放出来んのだったな」


すんでのところで窓を開けるための手が止まった。別に窓を開ける事で外の冷たい空気が
室内に入り込み、傍のベッドですやすやと寝息をたてる見た目小学生の高校教師、月詠小萌を
起こしてしまうのではと気を遣った訳ではない。
370 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 13:59:40.26 ID:B8CtpJH4o

フィアンマの眼の前にある窓には、奇怪な文字が綴られていた。外の景色を窺う事すら
難しい量の文字が、黒のインクでビッシリと窓を染めてしまっている。
窓だけではない。部屋の中心部に置かれた丸テーブルから始まるこの奇怪な文字の羅列は
這うように床に流れ、そこから台所、トイレの扉、天井と、室内全域に至っている。
床に物が無造作に転がっていなくとも歩くのに苦労する状況だ。

それも二日前、フィアンマが小萌先生の部屋に(無断で)お邪魔し、一人でせっせと
文字を綴っていた時よりも細かくだ。外出時に不便だという事で玄関の扉だけは
かろうじて文字の支配から逃れている。


「むにゃ」

「……起きたか」

「んあ……んー、火野ちゃん。 おはようございますー」
371 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:00:28.20 ID:B8CtpJH4o

と、室内の様子を改めて確認しているフィアンマの耳に甘ったるい声が届いた。
小萌先生、起床である。どう見てもお子ちゃま用のパジャマに身を包んだその
未成熟な肢体の小萌先生が年上だと、フィアンマはこの二日間の同棲を経ても
未だに信じる事が出来なかった。『実は魔術結社から派遣された妖精なのですー』、
と言われても余裕で納得出来る。


「ふああ……寒い寒い〜……」

「壁、迂闊に触れるなよ」

「はわわ、そうなのでした。 昨日ついに『完成』したのですよねー」

「正確には月詠、お前が就寝してから俺様が最後の調整を加え、たった今完成したところだ」


小萌先生は寝ぼけ眼で室内を見回し、うんうんと感慨深そうに首を縦に振った。
372 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:01:27.52 ID:B8CtpJH4o

室内を埋め尽くす文字の正体は魔方陣。中央の丸テーブルには文字というか、
円形の不気味な模様が描かれている。そこが二人が協力して作り上げた術式の核。


大天使ミーシャ=クロイツェフ主催、『一方通行へのサプライズ』計画の要であった。


「これでその……ミーシャちゃん? が用意したサプライズが一方通行ちゃんに
 届くのですよねー? 『天使同盟』にとって必要なステップですから、ここで
 しくじってたら元も子もないのですが……本当に不備は無かったですかー?」

「一応お前にも簡単に魔術の法則を説明したはずだが……やはり理解は出来んか。
 そんなお前に不備の有無を指摘しても意味はないだろうが、あり得んよ。
 俺様が何度も何度もチェックしておいた。 この魔方陣の正確性に問題はない」


二日前の夜、小萌先生がフィアンマとの同棲を許可した時、彼女は魔術をフィアンマから知った。
そして、それだけではない。
373 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:02:43.54 ID:B8CtpJH4o

魔術というオカルトと呼ばれる法則が存在し、フィアンマがその力を行使する者だという事。
『天使同盟』という組織の存在、構成員、『天使同盟』が今も学園都市に潜伏している事。
ミーシャ=クロイツェフという天使の存在、その天使がある計画を企てているという事。
その計画にフィアンマと打ち止め、番外個体という少女も加担しているという事。
計画成就のためには儀式を執り行う場所とが必要であり、小萌先生の協力が欠かせないという事。
ミーシャが提案した計画が一方通行という人間のための素敵なサプライズ(笑)だという事。


それら全てを余す事無くフィアンマは開示し、しかし小萌先生が理解出来た事柄は
自分が協力したらミーシャも一方通行も幸せでみんなハッピー、とかいう確証も保証もない、
そもそもフィアンマはそこまで言ってないというものだけで、魔術だの何だのはよく分からなかったようだ。

『天使同盟』に関しても一切他言しないと約束してくれて、それどころか自分も会いたいなどと
言い出す始末。フィアンマもここまでのお人好しには出会った事がなくただ困惑するばかりで、
それでもこの小さな教師に感謝したのだが、
374 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:03:22.29 ID:B8CtpJH4o

「ちょっと顔洗って歯を磨いてくるので、待っててほしいのですー」

(……計画の概要をほぼ理解出来ないでいる月詠をこのまま巻き込んでしまってもいいのか……?)


これから行う魔術、大魔術はしくじれば全世界を崩壊させてしまう危険極まりないものだ。
『御使堕し(エンゼルフォール)』、そこにフィアンマが計画成就のために手を加えた改良版、
『御使堕し(改)』。ここらで小萌先生に手を引かせてもいいのだが、あのお人好しは意地でも
最後まで付き合うと言って聞かないだろう、とフィアンマは浅くため息をついた。


(……まぁ、ここまできて今更手を引けは無いだろうな。 乗りかかった船だ)


いよいよ、である。
375 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:04:22.67 ID:B8CtpJH4o

これより、フィアンマはミーシャ主催のサプライズ開始のテープを切る。
『御使堕し(改)』。本来の『御使堕し』の効果を大幅に変更し、副作用とも言える
魂の入れ替わりを未然に回避する術式を組み込んだ、前代未聞の新大魔術。

これが成功したら魔術サイドの歴史に新たな一ページが加わるだろうが、これはあくまで
ミーシャ、フィアンマ、打ち止めが一方通行のためだけに行うものであり、魔術サイドに
公になる事はない。公にしても魔術サイドに余計な混乱を起こすだけだ。


チャンスは一度きり。失敗して『んじゃもう一回』はきかない。というか失敗したら
世界が果たして今のままを維持しているかどうかも保証出来ない。
ミーシャから一方通行へのささやかなプレゼント、という何だか気の抜ける目的だが
フィアンマの掌はじっとりと汗ばんでいた。

と、そこでフィアンマはやらなければならない事を思い出し、ゴシゴシと歯を磨く
小萌先生に尋ねた。
376 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:04:55.77 ID:B8CtpJH4o

「月詠」

「ふぁえ?」

「儀式を執り行う前に打ち止めに連絡しておかなければならんかった。 電話はあるか?」

「ぅあー、そうなのでした。 そこに置いてあるので使ってくださいなのですー」


小萌先生が指さす方向に目を向けると、そこには今時珍しいダイヤル式の黒電話が床に置いてあった。
フィアンマは打ち止めの携帯番号を思い出しながらダイヤルを回す。ニ、三回くらいのコール音の後に、


『もっしもーし、どなた? ってミサカはミサカは確認してみるんだけど』

「俺様だ」
377 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:05:23.30 ID:B8CtpJH4o

『フィアンマ? どこから電話してるのってミサカはミサカは首を傾げてみたり』

「説明すると長くなるから省略させてもらう。 それより、これから"始めるぞ"」

『ッ! ついにこの日がやってきたか……ってミサカはミサカはキャラを変えてごくりと生唾を飲んでみる』

「気構える必要はないだろ。 お前は予定通り、『変化を確認したら』携帯電話を握りしめて
 待機していればいい。 ミーシャが上手く事を運び、お前の携帯電話に本命のメールが届いた
 その瞬間、お前の仕事は本格的に始動する。 余裕があれば俺様も協力するが基本的にはお前の
 交渉術が鍵を握っているんだ。 せいぜい、"こっちの世界に興味を惹く"ように尽力するんだな」

『任せとけよ相棒、ってミサカはミサカは心配性の相棒を安心させてみる』


そういやそんな設定あったな……と呆れながらフィアンマは受話器を置いて通話を終えた。
378 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:06:18.16 ID:B8CtpJH4o


――――――――――――――――――――――


「……さて、」


フィアンマは改めて丸テーブル……、小さな小さな儀式場と化してしまった
丸テーブルの前に座った。歯磨きと洗顔を終えた小萌先生も彼の対面側に
ちょこんと座り込む。


「ステップその一、なのですよー。 『御使堕し(笑)』の発動でしたよね?」

「あぁ。 あと一応訂正をしておくが『御使堕し(改)』だ、どういう言い間違いをしている」
379 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:06:59.35 ID:B8CtpJH4o

そう言うとフィアンマは静かに瞼を閉じた。形容し難い沈黙が室内を支配し、
小萌先生の表情もここぞとばかりに引き締まる。部屋中に綴られた魔方陣の文字は
まるでこの部屋だけが不思議な異空間になり果てたのかと錯覚させる。
だが一端覧祭で賑わう外からの喧騒が、あくまでここは現実世界なのだと再認識させてきた。


「……月詠。 術式を発動させる前に『アレ』をここに用意しなければ」

「アレ? ……ハッ! うっかりしてたのですー!」


床に描いた魔方陣の一部を踏み消してしまわぬよう慎重に立ち上がり、
小萌先生はタンスへ向かった。引き出しの中から何かを取り出し、そそくさと
丸テーブルの下へ戻ってくる。

小萌先生が持ってきたのは、牛乳瓶より少し小さめサイズの透明な空きビンであった。
380 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:07:47.50 ID:B8CtpJH4o

「このビンの中に……ええっと、」

「"サーシャ=クロイツェフの魂を収める"。 ……出来ればそんなどこにでも売ってそうな
 ビンではなく、魔術的な下拵えをした霊装を用意したかったのだが、今の俺様にそんな
 物を用意するコネは無い。 まさか街を出て魔術サイドに用意させる訳にもいかんしな」


ビンの中に魂を入れる。仮に誰かがフィアンマの言葉を聞いたとして、成る程と理解できる
人間はこの時点ではいないだろう。加担者の小萌先生ですら、魂を入れるというのがどういう
意味なのか分かっていないのだから。


「魂の定義は俺様ですら未だに理解できんものだが……今から魂について
 研究を進めていては埒が明かん。 多少の不安要素は目を瞑るしかない」
381 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:08:30.39 ID:B8CtpJH4o

小萌先生は丸テーブルの中央、魔方陣の中心点にそっと空きビンを置いた。


「それでは火野ちゃん、よろしくお願いするのです」

「任せておけ。 ここまで付き合ってくれた礼と言ってはなんだが、」


フィアンマは普段あまり浮かべる事のない、薄く、しかし優しさに満ちた笑みを浮かべて言った。




「お前に『奇跡』を披露してやる」



382 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:08:56.30 ID:B8CtpJH4o

小萌先生はニッコリと微笑み頷いてみせた。
フィアンマは深く息を吐き、今一度計画内容を頭の中で確認する。


―――――これより始まる『御使堕し(改)』、及びミーシャ主催サプライズ計画の概要は以下の通りだ。


Step1. フィアンマが『合図』を送る。その合図を感知したミーシャ=クロイツェフは
    一時的にアストラル体(器を脱いだ魂と同義)となり、地球圏外へ『飛ぶ』。


Step2. ミーシャ(アストラル体)が宇宙空間を泳ぐ『星の欠片』の門へ向かい、一度別位相へ『還る』。
    ミーシャは別位相にて一方通行へ贈るサプライズの『準備』を整える。

Step3. 『星の欠片』を介してミーシャが別位相に還った事を確認したフィアンマが『御使堕し(改)』を発動。
     別位相へ還った大天使ミーシャを再び現世に『召喚』する。
     ※不安要素その一。ここで『御使堕し(改)』が失敗したらミーシャは二度と現世に降りられなくなる。
383 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:10:08.47 ID:B8CtpJH4o

Step4. 無事に現世へ降りる事が出来たミーシャ(アストラル体)はそのままサーシャの下へ直行。
    本来の『御使堕し』通り、魂の入れ替わりを行う。移転先はミーシャの要望でサーシャ=クロイツェフ。
    ※不安要素そのニ。ここでサーシャに拒否されたらアウト。サーシャの懐の深さに賭けるしかない。


Step5. ミーシャはサーシャの肉体を得る事で降臨。入れ替わり、サーシャの魂が弾き出される。
    その魂が別の人間に乗り移る前に小萌先生の部屋に引き寄せ、ビンの中に封じ込める。


Step6. ミーシャが別位相で行った『準備』が成功していれば打ち止めの方に"ある変化"が訪れる。
    フィアンマがミーシャの顕現を安定させ、かつ打ち止めが『成功』すれば全て完了。
    ミッションコンプリート。お疲れ様でした。


「………………………………」
384 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:11:08.94 ID:B8CtpJH4o

確認してみればしてみるほど、荒唐無稽な計画である事を自覚させられた。
あまりにもギャンブル性が強すぎる。Step4など特に顕著だ。
予めサーシャに連絡の一つでも入れておけと言いたい、とフィアンマは今更ながら愚痴をこぼしたくなった。


特に重要で不安なのがStep2〜3である(もっとも、重要かつ不安要素なのは全Stepに当てはまるが)。
別位相でのミーシャの『準備』が空振りしたらフィアンマの苦労は全て水泡に帰してしまうし、
万全の調整を施しているとはいえ元ネタは大魔術『御使堕し』、この魔術の副作用とも言える
魂の入れ替わりを阻止出来なかった場合、世界は混乱の渦に巻き込まれてしまうのだ。

しかもタチの悪い事にその混乱を認識出来るのは術者であるフィアンマのみであり、
本来の『御使堕し』を強引かつ無茶にアレンジしているため術式を解除して魂の座標を
元に戻す方法も取れる保障はない。
385 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:12:05.19 ID:B8CtpJH4o

仮に全ての手順が滞り無く遂行できたとしてもそれで幸福を得るのはミーシャと、
サプライズを受け取った一方通行であり(一方通行が喜んでくれる保証も勿論無い)、
最も功績の大きいであろうフィアンマには何の儲けもありはしない。


ハイリスクノーリターン。今すぐここでフィアンマが匙を投げても責められる者はいないだろう。


(……だというのに、計画を投げ出そうという気が起きん俺様は相当にどうかしているな)


それでもフィアンマはやる。大天使様のワガママに、全力で応える姿勢を崩さない。


彼には、それしかないから。第三次世界大戦という争乱を引き起こし、失敗し、
その後の世界の行く末を見る事でしか存在理由を持たない彼には、そのために
『天使同盟』などという組織に加盟した彼には、他に手段などないから。
386 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:12:47.45 ID:B8CtpJH4o

見守るしかない。ミーシャ提案のサプライズが一方通行に、そしてこの世界にどう影響を与えるのか。


(…………世界の行く末を見る? それが、俺様が『天使同盟』に加盟した理由。 ……?)


一瞬、フィアンマの頭に自分でも理解不能な『疑問』が浮かんだ気がしたが、
彼はその疑問らしき何かを払拭し気を取り直す。


「合図を送る」


瞬間、フィアンマの右肩辺りから空気が膨張し爆発したような炸裂音が発生した。
その肩口から出現するは彼の力の象徴。第三の腕、『聖なる右』。
長さが不揃いな四本の指を蠢かすその真っ赤な腕を見て、小萌先生は腰を抜かしてしまった。


「はわわわわわ………………、ど、どうなってるのですかこれは……」
387 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:13:30.99 ID:B8CtpJH4o

第三の腕の出現に呼応するように、丸テーブルに描かれた魔方陣が赤く発光し始めた。
そこから波紋のように赤い光が範囲を広げ、部屋中に綴られた文字に伝わっていく。


(ミーシャが今どこにいるのかが気掛かりだが……せめて外にいてくれよ)


第三の腕の指が不気味に震えた。四本の指の一本が天井に向かって突き出された。
その指から伸びる爪の先端がほんの数瞬、激しい光を放つ。
恐らくこの学園都市のどこかにいるであろうミーシャへの『合図』だ。


(まずこれに気付いてもらえん事には何も始まらんのだが……クソッ、頼むぞ……)


気がつけば最初の段階から運試しの形になってしまっていた。
『合図』に気付きアストラル体と化したミーシャをいつでも感知出来るよう、
フィアンマは全神経を研ぎ澄ます。
388 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:16:15.98 ID:B8CtpJH4o

今日はここまでです。ちょいと中途半端ですが。

具体的な内容を見てもフィアンマ達が何をしようとしているのか分からないと
思いますが、今この段階で理解されても困るので重要な部分はわざとぼかしています。
まあ分かる人にはオチとかも全て分かるでしょうけれど、お楽しみに。

ここから先はしばらく儀式実行です。そしてもちろんほぼギャグパートです。
フィアンマは真剣ですが、やってることは馬鹿馬鹿しいのでギャグということで。
長い目で見てもらえると助かります。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
389 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/15(火) 14:16:58.10 ID:B8CtpJH4o



                          【次回予告】



「こいつは、『本物』。 ……私はそこを疑いたくない」
学園都市・常盤台中学の超能力者(レベル5)――――――御坂美琴




「cltc『門』……、問題無し。 ld帰還、私の―――世界」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・水を司る大天使『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ




「おおおーっ!!? あ、アレがミーシャちゃんなのですかー!?」
上条のクラスの担任――――――月詠小萌




「『御使堕し(改)』…………、発動」
『天使同盟』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ



390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/05/15(火) 14:26:15.45 ID:thSr3Asf0

『御使堕し(笑)』wwww
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/15(火) 16:09:10.77 ID:g736ClQH0
>>1乙!!
結局サーシャたんが監禁されるでおk?
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/15(火) 16:17:49.05 ID:YMnzDTXUo

計画内容はほぼ想像通り
打ち止めの役割の意味がまだよくわからないけど
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/15(火) 16:42:55.09 ID:Da2T8Q2To
おつ
合図とかメールじゃダメだったのか
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/15(火) 19:08:40.30 ID:E87wTkdxo
>>393
お前、ちょっと歯くいしばれ
そげぶしてやっから
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/05/15(火) 19:19:28.37 ID:2Y1V+kqr0
いやマジでサーシャには連絡しとこうぜww
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/05/15(火) 20:36:55.15 ID:CIdPWhRS0
面白くなってきやがったwwww
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2012/05/15(火) 21:35:22.03 ID:GWiQ49/c0
いや、そこはサーシャに連絡しとけよww
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/05/15(火) 22:47:54.22 ID:q5HvUd1AO
瓶詰めサーシャ……ゴクッ
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/16(水) 02:12:32.75 ID:qBLLmrJDO
ガブリエル「悪いけどお前の体ちょっち貸してくんね?
その間お前の魂は瓶詰めな!」

サーシャ「おk」


こうですか?わかりません><
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/05/16(水) 05:30:13.13 ID:UEh3zOfs0
>>399 QB乙
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2012/05/16(水) 23:21:17.14 ID:3EQwineh0
こういう惹きこまれる文章書ける人って単純に尊敬できるわ
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/17(木) 02:52:23.10 ID:vPdG6jnl0
>>1乙!

映画やら3期やらでとあるシリーズのブームが再燃した辺りにifストーリーとして『とあるフラグの天使同盟』が書籍化される夢を見た
403 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:13:40.99 ID:q+h8ix+ro
>>393
い、いや……そこはほら、魔術的に!非科学でやった方が映えるかなと思って!
ていうかフィアンマ携帯持ってましたっけ?そういうとこ忘れるとかあり得ないですよね……筆者として。
いや携帯持ってなかったとしてもあの小麦粉霊装で……しかもそれなら魔術っぽい……、……。

科学も魔術も超越した手段なんですよ、右腕でのお知らせは!それで納得しろ!


暴言もいいとこの>>1です。今日もはりきって更新したいと思います。

今回も引き続きフィアンマパート。果たして彼は無事に『御使堕し(笑)』、もとい『御使堕し(改)』を
発動させるに至れるのでしょうか。そしてミーシャの突然の帰還に御坂は……といったお話。

それでは、よろしくお願いします!




404 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:14:17.86 ID:q+h8ix+ro


――――――――――――――――――――――


賽の一投目。フィアンマの最初の賭けはとりあえず勝ったようで――――


「!」

「ん? どうした?」

「離せと言っていますのにこの化物!!」


朝の常盤台中学、女子寮の一室。

御坂美琴はベッドの上でストレッチをして体をほぐし、白井黒子は二本の長いツインテールを
グイグイと引っ張って遊んでくるミーシャ=クロイツェフに何度も肘鉄を食らわせていた。
405 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:14:58.35 ID:q+h8ix+ro

その時であった。ふと、白井の艶やかなツインテールが魔の手……もとい天使の手から解放された。
ようやく飽きたのかと思った白井だったが、何やらミーシャの様子が少しおかしい。
部屋の窓、その先の景色をジッと見据えたままピクリとも動かなくなる。


「……………………………………」

「どうしたのよ? 何か興味が惹かれるものでも見つけた?」


言いつつも、しかし美琴は返事を返さないミーシャに漠然とした不安を感じた。
ミーシャが人間なら『お腹がすいたのか』とか『どこか具合でも悪いのか』と
尋ねていただろう。しかし相手は自称天使、例え天使でなくとも人外である事は
間違いのない存在だ。
406 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:15:52.27 ID:q+h8ix+ro

人間である自分には想像も出来ない『何か』にミーシャが気付いたのか、と。
今も窓の外の景色を見ているのではなく、彼女にしか感じ取れない何かを
察したのではないかと、あまり愉快でない推測が次々と浮かんでくる。

美琴は再度、恐る恐る質問してみる。


「……何かあったの?」

「―――――――――、」

「このオモチャがしっかりと機能すればミーシャさんの仰りたい事も伝わりますのに……」


やはりミーシャの口から言葉はおろか、未だに慣れないノイズが発せられる事はない。
白井が指でくるくると回している美琴印の発明品、『ガブリンガル』もあれから何度か
改良を加えたが、結局クソの役にも立たなかった。もっとも、ミーシャの言葉を他の
言語に翻訳して音声を出力するという技術を独自に生み出した時点で相当なものだが。
407 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:16:22.98 ID:q+h8ix+ro

「…………ctso始動utx」

「え?」


そこでようやくミーシャの口(にあたる部分)がわずかに動きを見せた。
が、消え入るような不明瞭の声は美琴や白井には理解が追いつかない。

代わりにとでも言うようにミーシャは携帯電話を取り出す。
そこで美琴と白井は眉をひそめた。ミーシャが手に持つ携帯電話の
裏面……に付着している胡散臭い呪符に綴られた奇怪な文字が赤く発光していたからだ。


何それ? と美琴が聞く前に彼女の携帯電話が着信音を発した。
新着メール通知。相手は言わずもがな、目の前でポチポチと携帯を打鍵していた大天使。
408 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:17:08.08 ID:q+h8ix+ro


『ごめんなさい。 ちょっと還る』

「は?」


思わずメールの文章に対して聞き返してしまった。横から首を出して
覗いてきた白井も眉間にシワを寄せて訝しむだけだ。内容について考察する
暇もなく次のメールが届く。一度にまとめて送信しろよ、と美琴は心の中でツッコんだ。


『ほんの少しだけ、今の私とはお別れ。 でもまたすぐ、会いに行くから』

「え……ちょ、何? お別れって? 還るって……アンタどこに還るのよ?」


『帰る』ではなく『還る』、という表現に美琴の中にあった漠然とした不安が確信に変わった。
お別れ――――それはこの天使が元居た場所、或いは世界に帰るという意味ではないのか。
409 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:18:13.54 ID:q+h8ix+ro

せっかく友達になれたというのに。協力して友達を救ったというのに。白井も交えて、ようやく
ミーシャという人外がいるこの環境にも適応出来てきたというのに。


すぐに会いに行く、という文章など目に入らなかった。そんな保証がどこにあるのか。
ミーシャが天使であるなどと美琴は今も半信半疑であるし、非科学の法則が存在する事を
何となく理解してもだからどうしたと、今でも言ってのける事が出来る。

還るという文章に、美琴は寂しさとは別に、理由もろくに説明しない
一方的な離別に対する怒りが込み上げてきた。


「ちょっと待ってよ!! 急にこんな事言われても―――――」
410 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:19:05.14 ID:q+h8ix+ro

しかし色々な感情が織り交ざった美琴の言葉は、


「………………な、……」


確かに『個』として存在していたミーシャの肉体が不定形なアストラル体へと
変貌する際の激しい発光によって遮られてしまった。


仮に幽霊というものがこの世に存在していたら、実はこんな感じじゃないかと思わされるその姿。
球体かと思った次の瞬間にはアメーバのような形容し難い形になり、かと思いきや現存する
数学知識では表現出来ないような立体型へ姿を変えたり、とにかく安定していなかった。
その塊の中に、ミーシャが持っていた携帯電話が重力を無視してふわふわと浮かんでいる。

ただ"ミーシャだったそれは"、蜃気楼のようにゆらゆらと揺蕩い、先とは違う
落ち着いた光を放っていた。それがミーシャ=クロイツェフの魂、厳密には
『天使の力(テレズマ)』の塊と化した彼女である事を、学園都市の人間である
美琴と白井が分かるはずもない。二人はただポカンと、開いた口を塞ぐことも
忘れて凝視し続けるだけだった。
411 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:19:59.33 ID:q+h8ix+ro

「……ミーシャさんとは、どこかの能力者が生み出した立体映像か何かでは
 ございませんの……? わたくし達をからかって面白がるという目的で
 こんな事を……。 そ、そうとでも考えなければ納得いきませんの……」


目の前で起きた非科学オンパレード現象に対する白井の感想も妥当と言えばそうだった。
だが美琴は違う。そうは思わない。この現象を説明してみろと言われてもまるで不可能であるし
する気もないが、それでも、


「……そんなんじゃないわよ」

「お姉様?」

「こいつは、『本物』。 ……私はそこを疑いたくない」
412 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:21:48.13 ID:q+h8ix+ro

半信半疑ではあるものの、しかし美琴もどこかで認めていたのかもしれない。
そんな気持ちを思わせる発言だった。

ミーシャの手に触れた時に感じた、否、贈られた純水な『愛』を、美琴は信じて疑わなかった。
存在自体は疑わしく思ってはいるが、あの感情だけは間違いなく本物だった、と。
あれは科学やオカルトなどという物差しで測れるものではない。生命ならば誰もが抱き、有する、
当たり前の感情。それをミーシャが持っていた以上、ミーシャは偶像などではなく『本物』。
目の前の不定形な塊には困惑せざるを得ないが、そこだけは揺るがなかった。


「ミーシャ」


名前を呼ぶ。返事はない。この姿では言葉を話すことも叶わないのだろうか。
それでも美琴は続ける。さっきまでの怒りなど何処吹く風、彼女は柔らかい
笑顔を見せながら言った。
413 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:22:26.02 ID:q+h8ix+ro

「一から一〇までワケ分かんないけど……ちゃんとまた、戻ってきなさいよ?」


やはり返事はない。だが、力強く頷いてくれたような気が美琴にはした。
そしてミーシャだった光の塊は楕円状に形状を変化させ、




勢い良く窓…………ではなく、部屋の壁をまるまる一面吹き飛ばし、耳を劈くような
轟音と共に天高く舞い上がって行った。壁の破片やガラスが外に散らばってしまったが、
幸いその周囲に人はいなかったようで、怪我人などは出なかった。



414 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:22:55.49 ID:q+h8ix+ro

「あんのクソボケがぁぁー!!! 飛んでくにしてももっと穏便に飛ぶ方法があったでしょ!?」


派手すぎる『帰宅』に憤慨する美琴だったが、むしろ何故この状況でプンスカと怒ってられるのかと
茫然自失の白井は外気から流れてくる冷たい空気を浴びながらそう思った。

だが二人を襲う嵐は留まる事を知らない。


「………………貴…………様……ら………………」


背後。部屋の出入り口の扉が、いつの間にか開放されていた。
現実とは思えぬ程の悪寒と恐怖を背中に感じながら、美琴と白井は振り返る。
415 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:23:31.73 ID:q+h8ix+ro

常盤台中学女子寮寮監。そのキリッとしたメガネの奥に潜む瞳は確認出来なかったが、
室内の惨状に対し明らかに憤っている事だけは、アレだけの非科学的現象を目の当たりに
したばかりの二人でも容易に察することができた。




「かしこまれいッッッ!!!」




停学処分さえ下らなかったのは幸運としか言い様がない。
416 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:24:15.14 ID:q+h8ix+ro


――――――――――――――――――――――


「おおおーっ!!? あ、アレがミーシャちゃんなのですかー!?」

「あの莫大な『天使の力』……間違えようがない、前哨戦は滞りなくクリア……」


第七学区の木造二階建てアパートの一室で、フィアンマと小萌先生も窓からそれを確認した。
まるで隕石が"逆流"したかのような、常軌を逸した光景。距離からして同じ第七学区の
某所から飛翔したアストラル体のミーシャを肉眼で確認したフィアンマは、


(宇宙空間の『ベツレヘムの星』、……『星の欠片』と『聖なる右』をリンクさせる)
417 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:25:04.79 ID:q+h8ix+ro

丸テーブルに戻り、魔方陣を見据えながらミーシャに負けず劣らずの魔力を精錬する。
これでフィアンマ達が仕上げた術式の効果に従い、ミーシャは宇宙空間に存在する
『星の欠片』へ誘われるように移動していく仕組みだ。

彼の肩口から生えるように現出している第三の腕が痙攣を引き起こしたように震えた。
あまりに不気味で禍々しいその挙動に見ていた小萌先生が若干顔を青くしている。

すると室内を埋め尽くす魔方陣の文字の赤い発光が明滅し始めた。
まるで『警告』。本来の『御使堕し』にはあり得ぬ現象。これ以上踏み込めば
もう後戻りは出来ないと、術者のフィアンマに強く牽制しているようにも見える。


(リンク完了。 ……『星の欠片』は正常に機能しているな、"欠片"という時点で
 正常とは言えんが……ともあれこれであの天使を一度セフィラに還す事が出来る)
418 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:25:42.13 ID:q+h8ix+ro

だがフィアンマは止まらない。こんな所で停滞している場合ではない。
賽は投げられた。魔方陣の赤い明滅は確かに警告とも捉える事が出来るが、
魔術サイドにおいて『赤』の象徴といえばフィアンマの『右』に出る者はいない。

この男は止まらない。大魔術の前に臆する事はない。


(ミーシャがセフィラの座に戻り、『準備』を整え終えるタイミングを間違えるな……。
 ヤツがまだ戻っていない時に『御使堕し(改)』を発動させてしまったら終わりだ。
 『準備』の最中に発動してもまた然り。 全意識を宇宙に、星に向けろ――――)


ミーシャが宇宙へ飛翔して数分。学園都市はにわかにざわついていた。
それも必然、朝っぱらから突然訳のわからん発光体が腹の奥に響き渡る程の
爆音と共に晴天へ飛んでいったのだ。学園都市はおろか、下手をすれば日本各地で
今頃緊急報道が行われているかも知れない。
419 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:26:53.88 ID:q+h8ix+ro

「こ、これ……街中で騒ぎになったらどうするつもりなのですか……?」

「学園都市の連中にとっても今のは確かに不可解な現象だが、"それまでだ"。
 そこからあの光の正体や目的、そして俺様達の事情にまで至る事はない」


ただ願うはミーシャ飛翔時に目撃者が居なかったという事。
もしくは目撃者が居て、しかしその人物がミーシャと交流していない事。
……残念ながら前者も後者もぶっちぎりでシカトされているのだが。


フィアンマはそれらの懸念事項を全て置き去りにし、集中力を高め続ける。
それに呼応するように魔方陣と文字の発光が激しくなっていく。
彼の顔を流れる大量の汗を、小萌先生は手術時の助手の如くタオルで拭き取っていく。


そして『星の欠片』とミーシャ=クロイツェフは―――――。
420 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:27:40.49 ID:q+h8ix+ro


――――――――――――――――――――――


宇宙。


ある意味、ここも現世と切り離された異世界。地球という惑星から得られる
エネルギーを無視してこの空間に儀式場を作ったら新たな効果が期待出来る
のではないかと魔術サイドでも稀に囁かれる、未だ未知なる世界。

地球だけではなく、太陽、月。惑星だけではなく人工衛星、宇宙ステーション。
更に太陽系から離れても人類が進出させた最新科学が宇宙を泳いでいるだろう。


そのどこまで行っても星と闇が広がる海に、
421 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:29:04.84 ID:q+h8ix+ro

「cxtuj発見pzutz」


声が響いた。音が伝播するはずのないこの宇宙で、その音を聞く存在も無いが、
確かに響いた。声の主は学園都市、地球から飛翔してあっという間に大気圏を
突破した謎の発光体、大天使ミーシャ=クロイツェフ――――のアストラル体。


ミーシャは宇宙に到達して間もなく、かつて『天使同盟』の全員が血眼になって
探し出し、そして死守した天使の玄関。

『星の欠片』を発見するに至った。発見したというか、地球でフィアンマが
彼女を儀式場まで誘導しているだけなのだが。
422 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:30:09.92 ID:q+h8ix+ro

「…………」


『第一九学区事件』の、最後の最後で牙を剥いてきた圧倒的存在、太陽を
睨むように一瞥すると、ミーシャは体内(としか表現しようがない)に収めた
携帯電話を確認する。本体裏側に貼りつけたフィアンマお手製の呪符のような
札は尚も不気味に赤く光を放っていた。地球から離れてもフィアンマの魔力が
働いている証拠だ。


そして視線を正面に構える。『星の欠片』。よく観察してみると
欠片の下方部分に何か鋭いもので穿ったような痕がある。
恐らくあの事件の際、垣根帝督が創りだし、一方通行が投擲した『槍』の痕跡だろう。

以前にフィアンマが打ち止めと番外個体の前で指摘した通り、『星の欠片』は
科学と魔術で混成された『槍』という未知なる異物が干渉した影響で不安定な
状態になっていた。それを確認出来るのはミーシャとエイワス、フィアンマぐらいしか居ないが。
423 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:31:08.89 ID:q+h8ix+ro

「vioz感謝ryml」


だがミーシャは改めて心の底から感謝の意を、既に遠く離れた地球に居る仲間達へ贈る。
確かに不安定ではあるが、この処置を施してもらえなかったらミーシャはとっくに消え去って
しまっているのだから。


「? ……、」


……ただその『槍』が"『星の欠片』に刺さっていない事"にミーシャはわずかな疑問を覚えたが、
今はそれどころではないため彼女は浮かびかけた疑問を棚上げにした。
424 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:31:35.29 ID:q+h8ix+ro

「cltc『門』……、問題無し。 ld帰還、私の―――世界」


『星の欠片』に近づくにつれてミーシャの言葉に混じるノイズが減少していく。


玄関。この先に広がるは、もはや人間言語では表現出来ない、未知という
言葉すら陳腐に思える天界が存在する。


ミーシャは迷わず突き進んだ。自分の存在確立のため、そして最も大事な一人の少年の幸せを願って。
425 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:32:12.15 ID:q+h8ix+ro


――――――――――――――――――――――


緊張の糸が極限まで張り詰めていた。生唾を飲むことすら躊躇われる、
呼吸でさえも儀式の阻害になってしまうのではと思える。


「………………」

「………………」


真冬の朝にも関わらず、フィアンマの全身は汗でぐっしょりと濡れていた。
そんな彼に対し、両手を組みながら無言で励まし続ける小萌先生。
正直今の状況を何一つ飲み込めていない彼女だが、魔力の過剰な精錬行為で
衰弱している彼の傍にいてあげる事が、今自分に出来る一番の行いだと確信していた。
426 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:33:09.78 ID:q+h8ix+ro

肩から現出している赤い腕、その四本の指が、何かを探るように音もなく蠢いている。


やがて、


「………………セフィラの感覚。 この反応、『イェソド』か!」


およそ一般人が聞いても理解できない言葉をフィアンマが叫んだ。
『聖なる右』がさらに強く光を発し、小萌先生はもう彼の姿を直視
する事すら出来なくなってしまう。


(この時点で既に『奇跡』だな……ミーシャめ、無事に還ったか。 ならば携帯電話は……)
427 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:33:50.89 ID:q+h8ix+ro

本人にしか感知できない事だが、フィアンマはミーシャ=クロイツェフの『帰還』を確認した。


(ここからミーシャを再び堕ろす……。 超遠距離召喚、難易度は三次大戦の比ではないが、)


そこでしばらく閉じられていたフィアンマの瞳がおもむろに見開かれた。

次の瞬間、小萌先生は本日何度目かも分からない『非科学』を目の当たりにする。
ただの黒い墨で綴ったはずの魔方陣の文字が……、生き物のように蠢き、そして
宙に浮かび始めたのだ。

トリックアートを鑑賞しているような錯覚。均等に並んでいた文字は浮遊し、
フィアンマと小萌先生を取り囲むように凄まじい速度で渦巻き始めた。
428 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:34:34.03 ID:q+h8ix+ro

「動くなよ」


言われなくとも、と小萌先生は無言で頷いてみせる。恐らくこの渦巻く文字に触れたら
構成していた魔術的な仕組みが崩れてしまうのだろう。二人はこの文字が生み出す台風の目に
居る状態だった。それだけならまだしも、文字は赤く光っているためまるで血の壁に取り囲まれた
ように思え、小萌先生はわずかに身震いした。


そして、


「頼むぞ『神の力(ガブリエル)』……そして『神の如き者(ミカエル)』よ」
429 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:34:59.60 ID:q+h8ix+ro

暴風のように荒れ狂う文字の渦中、フィアンマは思い切り深呼吸をして唱えた。




「『御使堕し(改)』…………、発動」




一端覧祭開催から六日目。フィアンマに、ミーシャに、そして一方通行に訪れるは『奇跡』か『悲劇』か。
430 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:35:53.18 ID:q+h8ix+ro

                  〜Information〜


【ようこそ、全人類の皆様方 -Welcome to ALLIANCE-】がアンロックされました。


・【風斬氷華育成計画 -AIM Simulation-】

・【兎追いしかの街 -Wonder land-】

・【闇喰らわぬもの祈るべからず -Saint-】

・【俺より強い奴に I need you -Advance-】 

・【???】 

・【第一位と第二位の垣根を越えて -Identity-】

・【ようこそ、全人類の皆様方 -Welcome to ALLIANCE-】

・【???】

・【???】
431 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:39:53.81 ID:q+h8ix+ro

なんかエンドルートの空き枠が増えたり減ったりしていますが、ようやく安定しました。
上記のやつで確定です。9つですね。ご迷惑おかけしました。

てなわけで今回はここまでです。

意外な場面でアンロックされましたが、意表を突くことができたでしょうか。
まあ各ルートの投下なんてまだ遥か先のことなのでどうでもいいと思いますが……。

ついに発動した『御使堕し(改)』。この無茶で無謀で無理くさい大魔術は
無事に成功を収めることができるのか。
成功するならわざわざフィアンマパートなんて題したりしな(ry

次回更新は三日以内。次回予告は下記のようになってますが、相変わらずフィアンマパートなのでご安心を。

それでは、今日もありがとうございました!
432 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/18(金) 12:40:19.59 ID:q+h8ix+ro



                          【次回予告】



「お、第一位発見〜」
新生『アイテム』の構成員・学園都市第四位の超能力者(レベル5)『原子崩し(メルトダウナー)』――――――麦野沈利




「ううぅ〜……、何で第一位と……何の超罰ゲームですかこれ……」
新生『アイテム』の構成員・大能力者(レベル4)『窒素装甲(オフェンスアーマー)』――――――絹旗最愛




「……まァイイ。 その話、乗った」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)



433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/18(金) 12:42:27.66 ID:IVICnkR80
>>1乙!!!

フィアンマさんがイケメンすぎて生きるのが辛い
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/05/18(金) 12:50:39.82 ID:+OVo/uFAO
寮監さんマジ勇次郎
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/18(金) 13:55:27.74 ID:IV7x35yU0

دراسته الأولى. واجه والده متاعب
الجديدة من مواقف أوكوبو المناهضة للنظام
وزير الداخلية ورئاسة الوزارة

436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/18(金) 14:00:21.65 ID:IV7x35yU0
ミスった。
すいません
乙!
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/18(金) 14:38:56.39 ID:nDxJ+Rjzo
どことミスったらそうなるんだよwwwwwwwwwwwwwwwwww
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/18(金) 16:11:17.59 ID:p/ZlpEUko
何語なんだ……www
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/18(金) 18:41:03.09 ID:YFU7qSZC0

何ていうか『魔封波』思い出した
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/18(金) 19:11:35.06 ID:iTNjlvX10
相変わらずエンドルートのネーミングセンスがすげえw
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2012/05/18(金) 19:12:20.15 ID:vFhalwtQo
ガブが書き込んだのかと思った…wwe
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/18(金) 19:38:12.76 ID:mXcJcXxl0
>>1乙!!
ていとくんの槍は気絶したせいで消えちゃったんだっけ?
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/18(金) 21:43:37.21 ID:ulzrYSnDo
おつ
これはフィアンマルートなのかガブリエルルートなのか
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/18(金) 22:56:26.78 ID:G03y2UGqP
それにしてもルート二つは確定的な人がいるからわかるけどあと一つはわからんなぁ
エイワスかフィアンマかいっそアレイスターかもう上条さんでいいかセトが出るか影が薄いメインヒロインか
あと並ぶ順番も全く謎だ
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [sage]:2012/05/19(土) 01:20:51.00 ID:wctJzUGB0


>>435
アラビア文字?

そう言えばムハンマドはガブリエルの啓示によってイスラム教始めたんだっけ?
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/19(土) 13:04:27.63 ID:VF4l42Yzo
>>445 色々混ざってるぞ
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/21(月) 12:05:59.62 ID:fz+hd4/d0
そろそろ挿絵分が不足してきたな・・・(チラッ
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/21(月) 12:17:20.87 ID:j5AO+kvHo
絵師様()が湧くからやめろ
449 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:29:23.53 ID:WFc6FdLOo
>>442
本編の最後の最後で、エイワスは消えたと発言しています。
しかし蛇足にてフィアンマが打ち止めと番外個体に『星の欠片』について
説明した際、彼は欠片とのリンクで『槍』が"刺さったまま"健在していると
言っています。そして前回、ミーシャは宇宙で欠片から"抜けた"『槍』を
目撃しています。

この齟齬が実は今、垣根を悩ませている案件に関わってくるのですが……それはまたいずれ。

>>443-444
前回解放されたルートはフィアンマルートです。
ルート一覧の順番は特に意味はありません。まぁなんとなく
この順番がいいかな……程度にしか考えてません。ごめんなさい。

というわけで今日も更新、フィアンマパートです。
ついに発動した『御使堕し(改)』がもたらす影響とは……的なお話。

それでは、よろしくお願いします!
450 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:30:17.90 ID:WFc6FdLOo


――――――――――――――――――――――


確かに常盤台中学辺りの方角から謎の飛行物体が青空へ飛翔していき、
それに気付いた街の人間たちが若干の騒ぎを見せていたはずなのだが、


(…………さて、どォする)


学園都市最強の怪物、一方通行にとってそれは完全に意識の外の出来事であった。
なんだか今日は朝から騒がしい……程度にしか今の状況を捉えていなかった。

一端覧祭開催から今日でもう六日目。明日の最終日を終えれば、学園都市は
またいつもの日常に切り替わる。まるでこの一週間など夢であったかのように、
学生たちはそろそろ迫ってきた進学に向けての準備を整えなければならない。
451 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:31:03.89 ID:WFc6FdLOo

だが一方通行はそんなものとは全くの無縁。むしろ彼が今考慮しなければならないのは、


(学園都市暗部の壊滅……。 上層部へのダメージがそれに繋がるが、……簡単な話じゃねェ)


深夜から早朝にかけて土御門元春と交わした会話内容を頭の中でリピートしながら
一方通行は現代的なデザインの杖をつき、第七学区を歩いて行く。

『天使同盟』の巣窟と化したあのアパートには帰らなかった。否、帰れなかった。

今も恐らくあのアパートには前方のヴェントがいる。五日目の夜に彼女の心情に
薄々気付いた一方通行は、そんなヴェントが今もいるであろうアパートに帰りづらく
なっていた。この辺り、彼もやはり人間である。
452 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:31:52.81 ID:WFc6FdLOo

そしてヴェントの事について真剣に考えようとした矢先の『闇』だ。これではろくに、
いや下手に彼女はおろか魔術サイドの人間と交流出来なくなってしまう。まずは暗部を
解体させなければならない。そしてそれ以外に、一方通行がこの一端覧祭で得た
数々の異性との交流。垣根帝督と暗に交わした約束もあり、ヴェントも含め、一方通行は
そろそろ『総合的に』解答を示さなければならない。

なぜならあと明後日、もしくは明日の夜に、彼はイギリスに赴く事になっているからだ。
そのイギリスの件で関しても、先の土御門との会話で懸念事項が増えてしまい、
一方通行はあらゆる案件に対して深く考察していかなければならない状況下にあった。


そんな試行錯誤の渦に翻弄される彼の背中に、


「お、第一位発見〜」

「朝から超不吉なものを目撃してしまった感がありますね」

「……オマエらか」
453 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:33:17.01 ID:WFc6FdLOo

声がかけられた。元暗部組織『アイテム』の構成員、麦野沈利。そして絹旗最愛。

『敵対組織「天使同盟」』として接触したあの時の殺伐した雰囲気は今はもう無く、
麦野は普通の知り合いに接するような気軽さで彼の下へやってくる。
隣にいた絹旗は何とも不機嫌そうな表情を浮かべていたが、一方通行は気に留めない。


「大天使サマとは一緒じゃないの? お前基本一人なのか」


麦野は尋ねた。その大天使様は既に宇宙に向けて発射されたのだが、当然知る由もない。


「オマエこそ、残りのバカップル二人はどォした。 まさか
 オマエらがあいつらに気ィ遣ってやってるなンて事ァねェだろ」
454 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:33:53.97 ID:WFc6FdLOo

「気を遣ってるというか、気を遣わされてるって感じですかね。
 あなた達と一悶着あった後、超浜面と滝壺さん、更に仲睦まじく
 なってしまいまして。 こう……近寄るスキも無いと言いますか」


肩をすくめて絹旗は首を横に振った。どうやら今日も浜面仕上と滝壺理后は
二人だけの世界を満喫しているらしい。
あの二人が結ばれた瞬間に一方通行は立ち会っているのだが、今なら素直に思えた。

浜面と滝壺が羨ましい、と。


「……結構な事じゃねェか」

「お前ヒマなの? だったら適当にその辺ブラつかない?」

「えー、何が超悲しくて第一位なんかと……」
455 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:34:42.85 ID:WFc6FdLOo

その時、麦野の誘いはひとまず置いといて一方通行は別の事を考えていた。


彼女達『アイテム』は、一方通行が現在抱えている暗部の問題をクリアしている。
第三次世界大戦で手にした暗部脱出の鍵を手にし、彼女達は何の変哲もない日常を
謳歌している。


自分もそういう手段で『闇』から抜け出せないだろうか? という案が頭をよぎった。
もしくは『アイテム』の協力を受けて『グループ』も暗部から……と一瞬考えたが、


(寝惚けンな)


一方通行は己に一喝した。クソ以下のアイデアだった。外見では判断し難いが、
彼も相当に追い詰められている証拠であった。
456 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:35:49.79 ID:WFc6FdLOo

まず『闇』から抜け出すのではダメ。一方通行の場合、『闇』を解体しなければならない。
そして『アイテム』への協力要請。論外である。暗部解体のために暗部から抜けだした
彼女達を巻き込んでは本末転倒もいいとこ。『闇』から解放されて弛緩しかけている彼女達を
利用する真似など、外道もいいとこである。


「おい聞いてんのかよ第一位? この私とデート出来るなんてまず巡り会えない幸運だよ?」

「超不運の間違いじゃないですかね。 しんどいだけの買い物に付き合わされ……あ痛たたッ!」


『窒素装甲(オフェンスアーマー)』展開中であるはずの絹旗に麦野の容赦無いチョップが切り込まれる。
一方通行は白い目でその光景を見ながら、しかし息抜きも必要だという結論に至り、あわよくばヴェントの
件について相談でもしてみようかという気持ちで彼は言った。
457 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:36:28.18 ID:WFc6FdLOo

「……まァイイ。 その話、乗った」

「よし、それじゃとりあえずファミレス行こうか」

「ううぅ〜……、何で第一位と……何の超罰ゲームですかこれ……」


という訳で一端覧祭六日目は『アイテム』の構成員、麦野と絹旗を交えて過ごす事に――――――


―――――ならなかった。結論を述べる形になるが、そうは問屋がおろさなかった。
458 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:36:55.97 ID:WFc6FdLOo


――――――――――――――――――――――




『御使堕し(改)』、発動――――――――――――!




まず異変が起きたのは地上でも無ければ宇宙の『星の欠片』でもない。
高度約二〇キロ地点の空でそれは起きた。


そこに出現したのは、円、というか、『陣』。
『第一九学区事件』のあの現象を彷彿させる円形、一般人が見ても、
いやその分野に極めて詳しい魔術師が観察してもそれが何なのか理解すら出来ないだろう。
459 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:37:58.00 ID:WFc6FdLOo

なぜならそれは魔術だが、たった今新たに誕生した新大魔術だからだ。


まず高度二〇キロとなると、人の目に映らない。成層圏と呼ばれるエリアだ。
人工衛星のカメラでも不可思議な法則で生まれたその円形を捉える事は不可能である。
よってこの現象は世界中の誰一人として認識することは叶わないのだ。半径約五キロ
という巨大さを誇っていながら、誰一人、魔術サイドの観測局でも、不可能なのだ。

しかし早速ではあるが、上記の説明に訂正を加えなければならない。
誰一人認識出来ないと言ったが、実は一人、世界でただ一人、この現象を
認識はおろか、観測さえ可能とする人間、魔術師が存在する。


(『月の象徴』を感知。 セフィラそのものに悪影響は……及んでおらんな。
 "繋がった"……ここまでは順調、予定通り……。 既にオリジナルの『御使堕し』とは
 かけ離れた現象ではあるが……俺様が組み込んだ術式の効果と寸分の違いも無い。
 ……魔方陣の展開終了を確認。 魔術サイドには悟られておらん、これなら……!)
460 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:38:42.52 ID:WFc6FdLOo

学園都市、第七学区。ありふれた、どこにでも建っていそうなボロっちい
木造二階建てアパートの一室は、とんでもない事になっていた。


「ひ、火野ちゃん……」

「不安要素など……ふん、杞憂だったな……!! 楽勝だ……これなら……!」


右方のフィアンマ。そして月詠小萌。現在、『御使堕し(改)』の実行中。


室内に渦巻いていた真紅に輝く魔方陣は、もはや渦どころの騒ぎではなくなっていた。
四方八方三六五度、あらゆる角度に方角に、荒れ狂う怨霊が如く吹き荒んでいる。
非物理的なものであるせいか、荒れ狂う奇怪な文字はさっきから幾度と無く小萌先生の
小さな肉体を通過しているが、彼女に肉体的なダメージはない。
461 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:39:52.36 ID:WFc6FdLOo

それでも得体の知れない不安が起因して浮かぶ小萌先生の怯えたような表情が
晴れる事はなく、それとは対照的にフィアンマの顔にはわずかな笑みがこぼれていた。
だが全身は汗に覆われ、室内は不気味な赤の発光に包まれているため確認しづらいが、
その顔も疲労からか青ざめてしまっている。


「火野ちゃん……、ほ、本当に大丈夫なのですかー……?」

「杞憂と言った。 あとはミーシャを"堕ろし"、ロシアに居るであろう
 サーシャ=クロイツェフの肉体へ誘導し、器を手に入れればいいだけだ」

「あ、あの……仮にそのサーシャちゃんがロシアにいなかったら……?」

「心配はいらん。 以前の『御使堕し』でミーシャは一度サーシャに
 乗り移っている。 一度乗り移った媒介は得てして以前に入れ替わった
 魂を"引き込みやすい"。 という効果をこの『御使堕し(改)』は有している」
462 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:41:10.41 ID:WFc6FdLOo

……と、思う―――とフィアンマとしては付け加えたかった。
確証は無い。ただ信じるしかない、己の技量と奇跡を。

つまりロシアにサーシャがいなくとも、サーシャが存在していれば何ら問題はないという事だ。
味を占めた、という表現は良くないが過去に一度乗り移っている肉の器に惹かれるように、
ミーシャの魂はサーシャの下へ引き寄せられていくとフィアンマは言う。


「そろそろビンを構えておけよ月詠……」

「は、はいなのです!」


指示された小萌先生は小さな両手でしっかりと丸テーブル中央に設置されたビンを握る。
その際に蓋の役割を担うコルクを抜き、サーシャ(の魂とやら)がここへ来てもいいように
いつでもウェルカム状態を整えた。


「……降りろ……。 ………………降り、ろ…………」
463 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:41:54.92 ID:WFc6FdLOo

そしても著しい体力と魔力の低下で呼吸が荒くなってきたフィアンマが呟き、

その呟きはやがて、懇願するような叫びに変わった。


「……降りろ、ミーシャ=クロイツェフ。 再びここへ帰って来い!」


高度約二〇キロの地点に展開した魔方陣が、地上のフィアンマに呼応するように
赤い輝きを放った。


だが、


「な……なんだ……!?」

「ひ、火野ちゃん?」


しかしここでまず"最初の"、想定の範囲外の出来事がフィアンマを襲う。
464 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:42:35.32 ID:WFc6FdLOo


――――――――――――――――――――――


『御使堕し(改)』の予想だにしない現象はまず、


「あ? なんだよアレ」


深夜〇時過ぎ。イギリスはランベスのアパートメント、暗闇に包まれた
その一室で寝転がっていた垣根帝督に牙を剥いた。
465 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:43:11.67 ID:WFc6FdLOo

「……ん、何?」

「いや、あれ」


垣根がベランダ、その先の外へ指を向ける。まだ寝入っていなかった
ドレスの少女、そして彼らの会話が耳に入り目を覚ましたルチアと
パトリシア=バードウェイが彼の指差す方向に視線を移すが、


「……? 何かあるのですか? 特に異変は見受けられませんが」

「マジで言ってんのか? そこ、空にふわふわ光が飛んでるじゃねえか」

「網膜剥離の前兆でも起きてんじゃないの? 何も見えないわよ」

「私にも……何も見えませんが。 それよりもうお休みになった方が……」
466 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:43:38.25 ID:WFc6FdLOo

垣根以外の人間にその『光』は見えていないようだった。
しかし気のせいとは思えなかった。現に今も垣根の目には、上空から雪のように
ゆっくりと降りてきた小さな『光』が一つ、まるで何かを探し求めているように
右往左往しながら宙で漂っている光景が映っている。

すると、


「?」


ギクリ、と垣根の体が一瞬強張った。何故、と問われてもこの時の垣根は答えられないだろう。
うろうろと彷徨っていた『光』が急に動きを止め、こちら―――垣根の方を一点に見据えていたからだ。
ただの『光』にしか見えないはずの"それ"から何故視線を受けたように感じたか、これもまた不明である。
467 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:44:21.00 ID:WFc6FdLOo

「なっ…………!!」


そしてその『光』は恐るべき速度で―――――壁もドアも透過して、垣根の胸を貫いた。


「が、ぁっ…………!!?」

「ちょ、ちょっと。 どうしたのよ?」


『光』が見えない女性陣からすれば、急に垣根が胸を押さえて悶絶したようにしか見えない。
三人は神妙な面持ちで彼の突然の動作をただ見つめるしかない。
468 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:44:58.35 ID:WFc6FdLOo

そして当の垣根は混乱していた。確かに今、突然『光』に胸を貫かれ、例の『暴徒』による
遠距離攻撃型魔術でも食らってしまったかと危惧していたのだが……、


「………………、……、……………………? な、んだ? ダメージは、無い……?」


しばらく穴も何も空いていない胸を押さえて周囲を警戒していたが、
追撃はやって来なかった。痛みも無い、体調に変化もない。


(クソ……何だってんだ?)


しかし得体の知れない気味の悪さだけが、いつまでも彼の胸にのしかかっていた。
そして――――――。
469 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:45:39.12 ID:WFc6FdLOo


――――――――――――――――――――――


「……あン? なンだありゃ?」

「ん?」


同時刻(と言ってもここは朝だが)、麦野、絹旗と共に第七学区を歩いていた
一方通行もまた、垣根が目撃した謎の発光物体を視界に捉えた。
『光』はイギリスで垣根が見た時と同じく、光に群がる羽虫のように不規則な軌道を
描いて空中をひゅんひゅんと飛び回っている。
470 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:46:51.93 ID:WFc6FdLOo

「何ですか急に立ち止まって。 空を仰いで超感傷に浸りたくなってんですか?」

「このタイミングで俺が感傷に浸る意味がわからねェよ。 いや、アレ。
 オマエら見えねェのか? 光る球体が飛び回ってるだろォが」

「はぁ? …………何も見えないけど」

「超ヤバいクスリでもキメてるんですか? 私にも見えませんが」


一方通行は二人の反応に眉をひそめた。周囲を見渡してみるが、
大勢の通行人の中にその『光』を見て騒いでいる人間は見当たらない。
どうやら垣根のケースと同様、一方通行にしか『光』は見えていないようだ。。


(……なら『天使同盟』関連の現象か? 意図が見えてこねェが……)
471 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:48:02.97 ID:WFc6FdLOo

とりあえず、という気持ちで『光』の正体を推測してみようと試みた彼だったが、


「―――――――――、あ、ァ?」


刹那。まさに一瞬の出来事であった。


その瞬間になぜ一方通行が『訳のわからぬ「光」に胸を貫かれた』と認識出来たかというと、
『光』の軌跡が尾を引いて自分の胸を通過していった痕跡が目下にあったからだ。
やはりこれも(一方通行は知る由もないが)垣根のケースと全く同じであった。
472 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:48:45.10 ID:WFc6FdLOo

「チッ!!」

「?」


遠距離からの攻撃。これまで散々実戦の状況に身を置いてきた一方通行ならばそう直感するのも無理はない。
彼は即座に首元の電極チョーカーに手を添え、スイッチを切り替えて能力使用モードで臨戦態勢に入る。
一方通行のただならぬ雰囲気に麦野と絹旗も表情を『切り替え』、周囲に意識を巡らせるが、


(……………………追撃がこねェ? 攻撃ではない? なら、なンだ今のは?)

「……ねえ、つい私らも乗ってみたけど、結局なに?」

「戦争帰りの兵士じゃないんですから、そう気を張ってちゃ超身が持ちませんよ?」
473 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:49:29.18 ID:WFc6FdLOo

二人の言葉を無視して一方通行は先程自分の胸を貫いた『光』を探してみるが、
当然というか、やはり見つけるには至らなかった。
胸に痛みはない。電極にも異常は発生しておらず、能力は問題なく使用出来る。


(どっかの誰かさンが俺への悪戯目的に放ったモンでもねェだろ。
 それにしちゃ地味過ぎるし、意味が分からねェからな。 ……)


あれこれと考察しても無駄に疲れるだけだと判断した一方通行は思考を放棄するが、


ここからわずか数分後。もっと今の現象について深く考えておくべきだったと後悔する事になる。
474 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:52:28.35 ID:WFc6FdLOo

今回はここまでです。

さて、さっそくイレギュラーが発生しました。
これが失敗なのか否かは現時点では判断できませんが、
一方通行どころかイギリスにいる垣根にまで、その影響は及んでいます。
彼らの胸を貫いた『光』の正体、そしてその意味とは……てな感じで。

そして確認しておきますが、このお話はギャグパートです。

次回は舞台がロシアに移ります。なんだか忙しくなってきました。
久しぶりにロシア成教のあの子が登場、そして偉いことになります。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
475 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/21(月) 20:53:00.00 ID:WFc6FdLOo



                          【次回予告】



「………………私、妊娠してる」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ



476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/21(月) 20:54:34.62 ID:lMS/f0Jx0
>>1乙!!
ガブちゃんの友達が溢れてきたのか?
とか言おうとしてたけど次回予告に全部もってかれた
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [Sage]:2012/05/21(月) 20:58:30.09 ID:JBwgbYkf0
ワシリーサ発狂だな
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/21(月) 20:59:10.92 ID:gmALOws2o
乙なんだぜっ

ガブちゃんがなんかやらかしてんのかなww?
俺の予想通りだとすると風斬がとても心配だ……(いろんな意味で)
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/21(月) 21:12:50.89 ID:cSs+Ij500
俺の子か…
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/21(月) 21:24:25.58 ID:a2z+N6dt0
>>479 そげぶ
最初垣根くんにガブリエルが降りたのかと思った

481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage ]:2012/05/21(月) 22:28:51.30 ID:/b+TDi8i0
残念だったな 俺の子だ
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/05/21(月) 23:06:46.74 ID:+VlIsSl80
ガタッ

ていうか、『槍』の挙動から垣根サイドに繋げる構想が既にあるのか
このSSはほんとすげえな
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/22(火) 00:06:25.22 ID:oGYYdw2do
受胎告知……?
なんかサーシャだけに留まるのかコレ?

乙!
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/22(火) 00:13:32.86 ID:zl2zlq5S0
1行だけの予告なのにすさまじい破壊力だな
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/05/22(火) 00:58:22.44 ID:7yPmTARAO
今回はかなり短めだったな。
続きが気になる。
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 01:47:18.55 ID:6NkUvB+DO
>>480
俺も
久しぶりに垣根にあって歓喜のあまり飛び付いてしまったのかと…

そしてサーシャが妊娠か…

ワシリーサよ…
寝てるところを襲うのはどうかと思うぜ?
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 02:04:11.82 ID:eW90YJPZo
サーシャの受胎告知に感想が吹き飛んだ
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/22(火) 05:44:52.41 ID:qp9xKhC10
予告がぶっ飛んでてワロタ

あぁ、あの時のか・・・時期的には俺の子で間違いないな
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 09:00:24.75 ID:wJXzY2Ivo
>>488
いや俺の子だな
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 13:14:16.83 ID:2E+nmJRIO
人喰い婆さん 「みんな私の為に争うのはやめて!」
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/22(火) 13:33:11.03 ID:hn6rONhY0
>>490
はいはいそげぶそげぶ
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/22(火) 19:16:05.71 ID:6LXkndxp0
なんだ俺の子か
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/22(火) 19:55:00.63 ID:AcT92iK30
処女受胎とかサーシャちゃんマジ聖女
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 21:41:21.40 ID:3yTBqvQW0
まさか一方通行と垣根まで妊娠・・・なんてことは、ある訳ないですね
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 23:35:45.97 ID:fii0Gu2zo
一方通行が垣根の子を妊娠だと!?ガタッ
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 23:52:19.42 ID:fBEPF4eO0
冗談でもやめろよ 気色悪い
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/23(水) 09:38:12.33 ID:p7Ik9Albo
どっかのスレで頭ァやられちまったんだろうな
一応被害者みたいなもんなんだ、責めてやるない
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/05/23(水) 19:11:51.76 ID:fhpn2czAO
あァ、あの第五位が腐ってるスレか。
他スレの話は荒れるからやめねェか?
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 06:59:25.65 ID:TrwJh4PDO
時事ネタだなww

まとめの時にリンクが貼られそうだ
500 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:37:12.30 ID:dYYN7Lwvo
>>482
いやそんな大それたもんでもないですよ、このSSは……。
例えばオルソラなんか当初は(本編に)登場する予定すらなかったですし、
結構その時の思いつきで書いた話も多いですww

おはようございます、今日も更新を開始したいと思います。

前回、ついに発動した『御使堕し(改)』。不安要素てんこ盛りの
大魔術でしたが、やはり異常事態が発生してしまいました。
学園都市の一方通行はおろか、イギリスの垣根にまで及んだ『光』の現象。
この現象の意味するところは……そしてサーシャの運命は、という感じでしょうか。

それでは、よろしくお願いします!
501 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:38:07.08 ID:dYYN7Lwvo


――――――――――――――――――――――


垣根帝督、一方通行ときたら当然、この男も。


「ッ!?」


フィアンマは荒れ狂う文字の嵐など問題とするに当たらないと言わんばかりに
飛んできた正体不明の『光』にその胸を貫かれていた。
二人同様、もちろんフィアンマにもダメージはない。だが、


「ど、どうしたのですか火野ちゃん……?」
502 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:38:58.08 ID:dYYN7Lwvo

まず、小萌先生には今の現象が目視出来なかったらしい。おもむろに手を胸に
持っていくフィアンマの行動がいまいち理解出来ないでいるようだ。
今、この部屋で『光』を見たのはフィアンマのみという事になる。

そしてその『光』の正体は科学サイドのエキスパートである一方通行と垣根帝督には
看破出来なかった。皆目見当もつかなかった。なぜならこの現象は魔術サイドの領分、
世界は大きく二分して、魔術と科学に隔てられているのだから。

にも関わらず、


(今の光は……何だ?)


魔術サイドのトップクラスに位置する魔術師、右方のフィアンマは困惑していた。
同時に、ある種のストレスを感じていた。
503 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:39:40.30 ID:dYYN7Lwvo

フィアンマでさえも先の『光』の正体が分からない。フィアンマにすら分からないのなら
この世界に『光』の正体を説明出来る者など居ないのかもしれない。


だがそこは、流石『神の如き者』を扱う常軌を逸した魔術師と言えるだろう。
『光』について具体的な解釈は出来ない彼であったが、しかし大凡、何となく、
ぼんやりとではあるが『多分ああで、こうなんだろうな』程度の推論を立てる
事は出来た。


(現時点の状況では情報が不足し過ぎていて推測のしようがないが……、
 今の光が俺様の『御使堕し(改)』によって出現したのだろう、という
 事は理解出来る。 これは推測ではなく、確信と断言して問題ない)
504 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:40:38.38 ID:dYYN7Lwvo

現在進行形でフィアンマが実行中の大魔術、『御使堕し(改)』はこの世に
現存するどの魔術書にも、況してや『禁書目録』にも記載されていない、
ミーシャのサプライズのためだけにフィアンマが発案した全く新しい魔術だ。
そしてフィアンマは『神の右席』の魔術師という身分上、少々偏ってはいるものの
魔術という法則の知識を膨大に、その頭脳に貯蓄している天才である。


「……火野ちゃん」


そんな彼が新たな魔術を開発、実行し、そんな彼が知り得ない魔術的現象が
彼の目の前で起きたのだ。あの『光』が『御使堕し(改)』の影響で発生した
何かであるというのは明々白々であり、彼がその結論に至るのもまた当然だ。


しかし、腑に落ちない。
505 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:41:20.40 ID:dYYN7Lwvo

若干のストレスが生じてしまう。『光』の原因を看破するに至り、
だがその『目的』が然しものフィアンマも全く予想出来ない。


(何故俺様の胸を貫いた? いや、身体部位などどこだってよかったのかもしれん。
 目的の対象に干渉さえすればそれで達成出来たと考えた方がいいだろうか……?
 だが、果たしてその目的、結果、理由は? 術者である俺様のコントロール下から
 外れて、術者である俺様自身に干渉するなど、本来の『御使堕し』からかけ離れた
 現象だ。 今俺様が発動している魔術の影響で発生した事は灼然たる事実。
 ならば何故、術者である俺様にあの光の正体がわからん? ……それ即ち――――)


イレギュラー、ということなのだろう。


腰掛け仕事的、当座凌ぎで急造した大魔術。そもそものベースが強大な大魔術である事という
リスクと、セフィラへの干渉、しかも純然たる『天使の力』が二つも組み込まれた荒唐無稽の術式。
506 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:42:19.24 ID:dYYN7Lwvo

その弊害。フィアンマが危惧していた、想定の範囲外の現象、副作用が起きた。
想定の範囲外というか、想定そのものが不可能であるが故、未然に防ぐ事も出来ない
厄介極まりないアクシデント。


(やはり完璧に、何の障害も発生させんまま術式を実行するには至らんかったか。
 しかしその想定の範囲外の度が過ぎるぞ。 俺様、もしくは世界そのものに何らかの
 悪影響が及ぶ副作用ならまだ納得出来るが、……月詠の様子を見る限りではあの
 光が世界規模の大災害を起こしているようには思えん。 ……それがまた不気味だが)


もっとも、魔方陣が超局地的竜巻の如く荒れ狂う現状の室内では外の様子を窺うどころか
ここから動く事すら許されないため確認しようがないのだが、外に何らかの大規模な現象が
起こっていればこの室内にも変化があっていいはずである。何せあの『光』は室内の状況など
お構いなしにフィアンマの胸を貫いたのだから。
507 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:43:39.20 ID:dYYN7Lwvo

(……胸を貫く、という行動。 ……意味するは何だ? マーキング的要素を含む何か?)


『光』の考察をしている暇で術式の次の過程をさっさと踏むべきなのだが、
フィアンマにはあの『光』の行動の一連がどうしても"不吉"に思えてならず、
嫌な予感が拭えず、魔術の失敗など思慮の外で考察を続けた。


(あるいは胸という位置に重要な意味合いがあるのか? だとしたら……胸は魂、心の位置。
 対象の情報を解析する自動制御型術式の類? 科学サイド風になぞらえるならスキャニングか。
 そう仮定して、光は俺様の心から何を読み取った? 思考、知識―――それとも、『個性』か)


だとすれば気味の悪さより一層際立ってくる。己の全てを覗き見られた感覚は、
改めて思い返してみればあったような気がしないでもない、とフィアンマは
更に沸き上がってくるストレスに思わず舌打ちをした。
508 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:44:37.92 ID:dYYN7Lwvo

自分というプロフィールを全て読み取り、しかし情報を得てそこからどうするのか、
それが分からない事も彼の苛立ちを募らせていく。自分が発動した魔術なのに、
その際に生じた現象の効果が分からないという事実に忸怩たる思いも生じてくる。


「火野ちゃん」


と、そこでようやく、フィアンマの耳に小さな教師のか弱い声が届いた。
さっきからずっと彼の偽名を呼び続けていた小萌先生はようやくこちらに
視線を寄越してきたフィアンマに、しかし安堵する事はなく不安げな顔で見つめ返す。
509 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:45:08.36 ID:dYYN7Lwvo

「……問題はない。 魔術の行使を続行する」

「無理はダメですよ?」

「無論だ。 ……すまん、少し、落ち着いた」


『天使同盟』が『天使同盟』の都合でやっている事で他人を不安にさせてどうする、
とフィアンマは迷ったが最終的に『光』に関する考察を保留し、術式の続行に
専念することを決めた。


「ミーシャちゃんは帰ってきたのですかー?」

「俺様が組み込んだ術式の通りに経過が進行していれば降りてくるはずなんだが……、
 その直前の光の影響で召喚に何らかの支障をきたしたか……? 遥か上空の『門』を
 さっきから『聖なる右』経由で監視しているが、一向にあのクソ天使が帰ってくる
 気配がない。 このステップで躓いたら元も子もない、いやどこで躓いてもダメだが」
510 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:45:53.26 ID:dYYN7Lwvo

このままミーシャ=クロイツェフが帰ってこれなかったらとんでもない失態を背負う事になる。
『天使同盟』の全員に、そしてミーシャが交流をしてきたその他の人間に何を言われたか
分かったものではない。隣に小萌先生がいなかったら全てを投げ出してしまっていたかもしれなかった。
不安だけが、過ぎていく時間と共にただ募っていく。

だが、杞憂であった。


「ッ! 来たか」


高度約二〇キロ地点に出現している魔方陣が、エンジンに火を付けたように回転し始めた。
地上にいるフィアンマの赤く悍ましい第三の腕が尋常でない質量と力を感知し、痙攣にも
似た動きを見せる。


そして上空の魔方陣から、凄まじい輝きを帯びたミーシャ=クロイツェフのアストラル体が
大地を貫かんと下界へ、恐ろしい速度で降下していった。
511 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:46:34.58 ID:dYYN7Lwvo

(チッ、あのクソ天使、どれだけテンションが上がっているんだ!? 予想以上に
 スピードが速い!! …………が、所詮は器無き魂、俺様の力で制御出来る)


フィアンマは肩から伸びるように出現する『聖なる右』に指示を送った。
それに呼応して、第三の腕は最初にミーシャへ合図を送った時のような
発光をし始める。


(行け、サーシャ=クロイツェフの下へ。 ここがお前の最後の踏ん張り所だ)


ミーシャ発案サプライズ計画はStep4、サーシャ=クロイツェフとの交渉へと移行する。
512 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:47:36.39 ID:dYYN7Lwvo


――――――――――――――――――――――


偶然とは誰かの明確なる意志が原因で生じるものである、らしい。
故に偶然は『偶然』生じる事はないという事になる。
人の意志が生み出すのならばそれはもう偶然ではなく故意なのではと
思うかも知れないが、その人間の思慮とはかけ離れた、まるで別件の何かが
発生したらそれは偶然と呼べるのではないだろうか。


「はふぅ〜……」


学園都市では今、フィアンマという人間の個の意志がとてつもない強さの意志を
発し、念じ、願っていた。意志。それは時に思いも寄らない偶然を生み出す。
左様であるならば彼の強い、強すぎる意志は世界のどこかで何らかの偶然を
生み出しているかも知れない。何せフィアンマの意志の強さと言ったら、それはもう
意志というか願いというか、『呪い』と言って差し支えない。
513 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:48:54.71 ID:dYYN7Lwvo

『頼むからサーシャ=クロイツェフが意味もなく無人かつ広い場所で一人でいてくれますように』。


フィアンマが念じるその呪いは、果たして『偶然』にも叶ったのだった。
今も世界で跳梁している確率という概念を、彼が強引に歪めたのではと疑えるくらい、あっさりと。


「第一の私見……おっと、つい人前で振る舞う口調がこぼれてしまいました。
 今は私一人なのですから、あんな面倒な口調でキャラを装う必要はないのでした」


なんかとんでもない独り言をほざいたような気がしないでもないが、そこはひとまず置いておいて。


サーシャ=クロイツェフは露天風呂でそのどちらかと言えばまだ未成熟の身体を
露天風呂という場所で癒していた。
514 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:50:42.91 ID:dYYN7Lwvo

ロシア。エリザリーナ独立国同盟領土から少し外れた、普段はあまり人が立ち寄らない
雪山の麓にある天然の露天風呂が満喫出来るジャパニーズ銭湯である。


かつてここを訪れた『天使同盟(アライアンス)』とその連れと共に、色んな意味で
思い出に残る時間を過ごしたサーシャにとって、やはり色んな意味で思い入れのある憩いの場。
憩いの場であると同時に、いつもサーシャの傍にいる金メダル級の変態クソシスターが居る場合は
これ以上なく危険な場所と化すのだが、


「今日はワシリーサも珍しく出張っていますし、思う存分羽を伸ばせます」


まだ幼さが残る顔に無垢な笑顔を浮かべながら、サーシャは独立国領土内に"停泊"している
超巨大メガヨット『アライアンス』号で見つけた水面を走るひよこのオモチャを眺めている。
この光景をワシリーサが見たらそれはもう某汎用人型決戦兵器の咆哮に負けず劣らずの歓喜の叫びを
轟かせているだろう。
515 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:51:43.09 ID:dYYN7Lwvo

そんなワシリーサは現在、サーシャの口にした通り珍しくこの場に居なかった。
いや居たら居たでサーシャに追い出されているだろうが、実はこの露天風呂の死角に
いつかの第一位と第二位のように潜んでいるということもなく、ワシリーサは普通に
一人のシスターとしてロシア成教の本部に足を運んでいるのだ。

一応サーシャもワシリーサも『殲滅白書』としての立場が残っているが、
第三次世界大戦で同胞に対する裏切りに近い行為を起こした二人(というかワシリーサの独断だが)に
同組織の魔術師達はいい顔をしなかった。元直属上司のニコライ=トルストイの影響もあって
部隊にも戻れず、エリザリーナ独立国同盟で隠れるように生活をしていたのだが、『第一九学区事件』から
数日後の事だった。ロシア成教の総大主教であるクランス=R=ツァールスキーから招集命令が下ったのだ。

それを好機とみたワシリーサが総大主教と交渉し、どうにか『殲滅白書』へ正式に戻してほしいと
頼み込んでいるようだ。もっとも、クランスの姿が見たいがためだけにワシリーサも奮闘しているのかも
しれないが……、しかし自分のために居場所を取り戻そうとしてくれる彼女の姿に、サーシャは素直に感謝をしていた。
516 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:52:49.54 ID:dYYN7Lwvo

(普段からああなら私も純粋に尊敬できるのですが……、頼りになるけど、相変わらず困った上司です)


ともあれ、自分の裸体を見て鼻息を荒くする変態修道女がいないのだから、今のうちに美しい
雪景色が一望出来るこの露天風呂を満喫しようとサーシャは改めて大きく息をつき、


「……、うん? ――――――――――うわっ」


叫ぶ暇も、戦闘態勢に移る暇も与えられなかった。


空の向こうから何か、ぼんやりと光る何かが見えたと思ったら、次の瞬間にはそれが
自分に向かって『墜落』し、湯船を派手にぶちまけてしまったのだ。
517 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:53:39.09 ID:dYYN7Lwvo

お湯の雨がしばらく、浴場に降り注いだ。幸い男湯にも利用客はいなかったようで、
この墜落事故が何事かと騒ぎになる事も無かったが、


「あ、あ、わっ、う――――――は、ぁ、……? う、ぎゅ? な、何……」


サーシャ本人は騒がずにはいられない。もくもくと立ち上がる湯気で視界が確保出来ず、
先の飛来物の正体が何なのかも分からず、そして何やらやたらと身体が重い。背中に
何かがのしかかるような重さではなく、極度の疲労に陥った際の気怠さに似た重みだった。

より厳密に言うと、気のせいかその……下腹部辺りが特に重い、気がした。
湯気と混乱でまだ詳しく確認できないサーシャだが、全身の気怠さから一つ
飛び抜けた重さが、下腹部から感じられた。
518 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:54:36.73 ID:dYYN7Lwvo

呼吸が上手く行えないのは混乱のせいかお腹の苦しみからか、答えは恐らく両者だろう。

湯気が晴れる前に更にもう一つ、原因不明の現象がサーシャ=クロイツェフを襲う。
"意識が、保ちにくい"。彼女は率直にそう思った。意識が薄れていくとかそういうものではなく、
何か別の意識が介入し、それに蝕まれていくような、想像するだけで恐ろしい感覚。
足元がおぼつかず、よろよろと湯船から上がろうとするが上手く歩けない。

操作系術式を食らい操られる寸前にそんな感覚に襲われる、とサーシャは以前に変態上司から
聞いたことを思い出す。つまりこれはどこかの魔術師による遠隔攻撃なのか。
混乱した頭を冷やすことに努めながらサーシャは警戒心を高めていく。
519 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:55:27.51 ID:dYYN7Lwvo




『突然の事で驚いたと思う。 貴女には素直に非礼を詫びたい』

「のわぁっ!!?」




声がした。精神を乗っ取られた時にありがちな『頭の中から声がする』、という類のものではなかった。


『今の私の立場からこのような物言いは相応しくないが、まずは落ち着いてほしい』

「―――――と、"私自身がそう仰っていますが、どうしますか私"!?」
520 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:56:15.84 ID:dYYN7Lwvo

そう。その声は音源不明ではなく、あろうことかサーシャ自身の口から発せられていた。
端から見ればサーシャが一人でコントを繰り広げているようにしか見えないだろう。
人によっては病院に連絡してくれるかもしれない。

口が勝手に動く。サーシャの意に介さず、言いたい放題言ってくれる。
サーシャの喉から放たれるその声は、しかし彼女とは似ても似つかぬ透き通った美声であった。
……一応断っておくが、別にサーシャの声が汚いと断じている訳ではない。

結局頭の中で現状を整理出来ぬまま、先に湯気の方が晴れていった。

視界が広がる。周囲に変化は見当たらない。謎の敵性魔術師の姿はおろか、
相変わらずこの浴場にはサーシャ一人しか居ない。声は二種類響いているのに。

そしてサーシャはある変化を見つけた。
521 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:57:00.25 ID:dYYN7Lwvo

「…………………………………………」


さっきから妙にずっしりとした重みを感じるその下腹部に視線を落とし、彼女は絶句した。


「………………私、妊娠してる」




膨らんでいたのだ。さながら妊婦の如く、ぽってりと、サーシャの下腹部は膨らんでいた。



522 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:57:42.38 ID:dYYN7Lwvo

「うわっ、うあああああああああああ!!! わ、わ、わ、ワシリーサ!! ど、だ、
 だ、第一の質問ですがど、どうしましょう!? に、妊娠してしまいました!!!」


極限までパニクったサーシャが頼ったのは、さっきまで居ないことに安心していた変態上司であった。


『落ち着いて、サーシャ=クロイツェフ。 貴女は身篭った訳ではない』

「い、いやこれはもうどう見ても妊娠………………おや? この感覚……」


と、ここでようやく、ようやくサーシャから激しい混乱が抜けていった。
あれだけ狼狽していた彼女の精神に落ち着きを取り戻させたのは、さっきから
落ち着けと説く訳のわからん謎の声ではなく、感覚。
523 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:58:25.48 ID:dYYN7Lwvo

それは、とても懐かしい、しかしそら恐ろしい、不思議な感覚であった。
膨らんだ下腹部を摩りながらサーシャはこの味わった事のある感覚が何であるか、
半分くらい蝕まれてしまっている記憶を辿って思い返してみる。


大した時間はかからなかった。夏。八月がもう終わろうかという時期。
しかしサーシャにはその辺りの時期の記憶がすっぽりと抜け落ちている。
にも関わらず彼女がその日の事を想起出来たのは、


「だ、第二の質問ですが、あなたは……………………」


光の塊としてサーシャに突撃してきた何かの意識と記憶を"共有"しているため。
共有といってもその全ての記憶が読み取れる訳ではないが、薄ぼんやりとなら
あの八月下旬の出来事が思い出せる程度の……そんな、共有レベル。
524 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 08:59:11.71 ID:dYYN7Lwvo

意識が蝕まれているのではなく、介入によって増えただけだ。その未知の違和感を
サーシャは蝕まれていると勘違いしてしまったのだ。

そして現在、共有している記憶はともかく感覚を、サーシャは覚えている。
懐かしいと思える。何故なら彼女はこの不思議と暖かく、抱擁感溢れる存在と
"直接触れ合った事があったから"。


「ミーシャ=クロイツェフ………………ですか?」

『正しい。 無沙汰である、私の友達―――サーシャ=クロイツェフ』


大天使ミーシャが、サーシャの口を借りて久方ぶりの挨拶をした。
525 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 09:03:25.41 ID:dYYN7Lwvo

今回はここまでです。

これでサーシャが妊娠どうのこうの言ってた理由がわかったかと思います。
決して私が『ボテ腹サーシャちゃんってのもいいんじゃね』と興奮して
このようなシチュエーションを書いた訳ではないので、勘違いなさらぬよう。
私はそこまで変態ではありませんので。ええ。

さてサーシャに憑依(?)することができたミーシャは彼女との交渉に望みます。
魂よこせという無茶すぎる要求にサーシャは答えてくれるのでしょうか。
そしてフィアンマまでも貫いた『光』の正体を放置しておいても大丈夫なのでしょうか。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

フィギュアメーカー『アルター』から発売する一方通行がイケメンで素晴らしいですね。
欲しいところですが、もう飾る場所なんてない……。
526 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/24(木) 09:04:28.94 ID:dYYN7Lwvo



                          【次回予告】



「ならば吐き出せ。 己の魂を」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・水を司る大天使『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ




「いや何さらっと恐ろしいこと言ってるんですか」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ




「頑としてそこを動くな。 その空きビンに魂をホールインワンしてやる」
『天使同盟』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ




「ふぇ? 何か叫び声が聞こえたような―――――――」
上条当麻のクラスの担任――――――月詠小萌



527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 09:33:55.01 ID:Y7ANMS4IO
乙!

ボテ腹のサーシャ……ゴクリ
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 10:29:11.60 ID:qpmA3TIxo
>>1
キャラ付けだと・・・・・・・・・・・・・・・
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 12:21:19.91 ID:IL6qaH8IO
魂よこせってか器よこせじゃね?
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/05/24(木) 12:26:50.90 ID:vINHpp+E0

>今は私一人なのですから、あんな面倒な口調でキャラを装う必要はないのでした」

なん・・・だと・・・。
つかボテ腹サーシャちゃんとか新しすぎるな
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/05/24(木) 13:47:47.29 ID:rv3D6FbD0


必死にキャラ付けしてるボテ腹サーシャちゃんかわいい!
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 15:31:19.26 ID:IL6qaH8IO
>>1が面倒くさいがためにアイデンティティをキャラ作りにされたサーシャちゃんまじおれの嫁になって下さいお願いします
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 17:14:46.63 ID:zN2DNqxGo
ボテ腹サーシャちゃんってなかなかマニアックだな
大いに好きだけど
てかガブリエルによるセルフ受胎告知ってとんでもないジョークだなwwwwwwwwwwwwww
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/05/24(木) 17:29:14.62 ID:7IpsZNxz0
今のサーシャにあのボンデージ着せて連れ回したら
いくらワシリーサでも十年はムショ暮らしになるぞww
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 17:39:29.52 ID:qpmA3TIxo
キャラ付けに必死なサーシャたん想像したらワシリーサの気持ちがわかってしまった。
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/25(金) 00:54:48.56 ID:kDAL0Vv60
ボテ腹サーシャちゃんってのもいいんじゃね
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/25(金) 05:35:06.64 ID:oF4jftiDO
>>1乙!

キャラ付け…だと…?


ってか、ガブよ…
それは交渉ではなく脅迫では…?
フィアンマもなに上手いこと言ってんの?!
538 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:19:11.56 ID:UcF6Yn9Uo
>>529
確かに、これは失敬。魂よこせだと天使じゃなくて死神ですねww


皆さんこんにちわ、マリテニのやりすぎで親指を痛めた>>1です。
日曜日の更新でございます。

一応言っておきますが、言うまでもないかとは思いますが、
サーシャのキャラ付け云々はギャグですからね!
原作のサーシャはこんな適当なキャラではないのでご注意ください!

さて今回はミーシャとサーシャが久々に再会し、奇妙な状況で喜びをわかちあいます。
サーシャは今回のサプライズに協力してくれるのでしょうか?

それでは、よろしくお願いします!
539 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:19:53.52 ID:UcF6Yn9Uo


――――――――――――――――――――――


他の誰かがこの光景を眺めていたら、それは一人でコントの練習に励む
不思議な金髪の女の子だと認識していただろう。無論、覗きが発覚すれば
問答無用で『水よ、蛇となりて剣のように突き刺せ』の餌食であるが。




「―――――――ふむ、一方通行へのサプライズ……ですか」

『良ければ詳細を拝聴し、協力してほしい。 否、貴女の協力なくして
 この計画の成就は無い。 報酬を望むなら、制限なしで捧げる事を誓う』

「第一の質問ですが……誓うとは、ちなみに何に?」

『……、………………。 神』



540 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:20:41.49 ID:UcF6Yn9Uo

天使が神に誓うって、それはただの直談判なのでは……とサーシャは呟くようにツッコミを入れた。
今のがミーシャなりのボケなのか、もしくはマジなのか、判断に困る発言だった。


ミーシャの派手な墜落で何事かと人が大勢集まってくるという事態はなんとか避けられたらしい。
あれだけの爆音が響き、しかし今も尚この露天風呂にはサーシャ=クロイツェフただ一人である。
正確にはサーシャと――――もう一人、


「それにしましても、挨拶が遅れましたがお久しぶりです、ミーシャ」

『今更か』


その切り込むようなツッコミはどこで覚えてきたのだろう、と困惑気味に笑いながら
サーシャは妊婦のように膨らんだ下腹部を湯船の中で摩る。その姿だけを見ると
本当に妊婦だと錯覚してしまいかねないが、ミーシャも言った通り、サーシャのお腹に
新たな生命は宿っていない。
541 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:21:29.75 ID:UcF6Yn9Uo

宿ったのは、ロシアで交流を深めた、親友と言って大言壮語でない大天使。


いつだったか、現象管理縮小再生施設で上司のワシリーサと交わした、

『「神の力」の「天使の力」(ややこしすぎる)を体内に宿した場合、
 受胎告知のを引き受けた天使という説が反映され、下腹部が膨らむ』

という会話をサーシャはうんざりとした表情を浮かべながら思い出した。


八月の終わり頃、どうやらサーシャは『神の力』をその身に宿しどこかで
活動していたようだが、その時のサーシャの下腹部がどうだったとかは、
一切明らかになっていない。無論、本人も知らない。

ただ仮の話になるが、当時あの『現場』にいた数人の人間に尋ねれば、
恐らく『別に膨らんでなかったけど』的な答えが返ってくるだろう。
542 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:22:07.68 ID:UcF6Yn9Uo

(けど実際……こうして膨らんでいる訳ですから、何でしょう……ちょっと恥ずかしい)


優秀な魔術師だろうと、サーシャちゃんだって立派な乙女なのだ。
そりゃそれ相応の身体部位が出っ張れば羞恥の一つや二つは感じるだろう。


『どうした。 ぽんぽんに耐え難い痛みを感じるか』

「お腹の事をぽんぽんと呼称するあなたの俗っぷりに私はもうどうリアクションを
 すればいいのか分かりかねますが、しかし第一の解答として答えさせていただき
 ますと、痛みはありませんよ。 補足説明すると、少し重みを感じますが……」

『ならば吐き出せ。 己の魂を』

「いや何さらっと恐ろしいこと言ってるんですか。 ……で、"その話なんですけど"」
543 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:23:08.46 ID:UcF6Yn9Uo

何か嫌な感じで本題に引き戻されてしまったが、サーシャは落ち着いて話に乗った。


「学園都市で発動している『御使堕し』……『御使堕し(改)』に従い、私とあなたの魂を入れ替えろと」

『少しの間、貴女の肉体を器として扱う無礼を先に詫びておく』

「まだ了承してないのですが……」

『断ればあのロシア民謡のヒロインをここに呼ぶ』

「脅しに出た!?」

『冗談、だ。 しかし、ぜひとも協力を願いたい』 
544 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:23:52.96 ID:UcF6Yn9Uo

うーん……、とサーシャは考え込み、顎の部分を湯船に浸してぶくぶくした。


「しかしその……、第ニの質問ですが、今も発動中である『御使堕し』の術者は
 あの右方のフィアンマなのですよね? あの男が『天使同盟』に加わっている
 という事実だけでも業腹なのですが、更にそんな男に協力しろとなると……」

『フィアンマは信頼出来る。 私の計画に加担してくれた事がそれを裏付けている。
 他の仲間も、彼を信用している。 もう、かの戦争のような真似は彼はしないし、
 そのような気もないだろう。 仮にそういう事を企てていて、実行しようとすれば』

「すれば?」

『グシャ……、っと』

「もっと具体的に言ってくださいよ怖いです!!」
545 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:25:21.45 ID:UcF6Yn9Uo

そうでなくともフィアンマ現在、極度の疲労でグシャってなりそうなのを二人は知らない。

サーシャ=クロイツェフはミーシャ、フィアンマ、打ち止め等が絡んだサプライズの
一部始終を聞いた。最終的に一方通行へどのようなサプライズが披露されるかまでは
ミーシャが『秘密』と言って教えてくれなかったのだが、まぁそこは重要ではないのだ。

サーシャが考慮すべき問題は魂の入れ替え。武装兵器の換装とは訳が違う、
存在の入れ替えと言える行為の可否を今ここで下さなければならない。
どうやら数日考えせて、とは、ミーシャの話を聞く限りではいかないらしい。
ここで即決しろという大天使様からのムチャぶりにサーシャは頭を抱えた。
ていうか事前に連絡しろよ、って思った。


「第三の質問ですが、魂の入れ替え時に私が消滅、霧散する等の危険性はありますか?」
546 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:26:03.27 ID:UcF6Yn9Uo

『その点に関してはもう我々を信頼してもらうしかない。 しかし術者はフィアンマ、
 安全面には関しては太鼓判を押して保証出来る。 急な申し付けである事は重々承知だ』

「………………第四の質問ですが、もう、今、即刻決断しなければならないのですよね?」

『貴女はただでさえ、以前に私をその身に宿している。 その副作用は
 後にフィアンマが処置を施してくれるだろうが、今こうして再び私が
 貴女の身に宿り続ける危険性は、説明するまでもないと判断する』

「……………………そして私の魂、私は学園都市へ、……」


学園都市に赴く事が出来れば、またあの愉快な仲間たちと交流できる。
ただその時、自分が一体どういう姿なのか、仮の器が用意されているのか、
サーシャは分からない。ミーシャにも聞いたが、不明であると申し訳なさそうに返ってきた。
547 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:26:48.81 ID:UcF6Yn9Uo

安全面に関しては問題ない、とはいえ未知の恐怖が付随するこのギャンブルに、サーシャは、


「………………承知しました。 他でもないあなたの頼み、引き受けます。
 魂の入れ替えを承諾します。 そして私は学園都市へ向かうとしましょう」

『え……、マジで?』

「何ですかその『うわマジで引き受けたよこのバカ……』みたいなニュアンスの返事は!?
 ちょっとあなた本当にミーシャ=クロイツェフなんでしょうね!? いえ、この『天使の力』の
 総量からしてミーシャ以外あり得ませんが……しかしあなた、口調が右往左往してますよね。
 どうやら『天使同盟』以外の人間と交流していると窺えますが……ああ、でも不安になってきた。
 今一度確認しますがこれ、世界を巻き込んだ私に対する大掛かりなドッキリではないですよね?」

『世界を巻き込んでそんな不躾を働く理由と勇気は私にはない、安心して』

「どの口が言うんですか……まあ私の口が言ってるんですけど……」
548 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:27:35.68 ID:UcF6Yn9Uo

ともあれ、サーシャ=クロイツェフは魂の入れ替えを許可してくれた。
恐るべき器の大きさ。ミーシャはこれ以上ない感謝の気持ちを全て伝えきれないことに
悔しさすら感じていた。


『本当に、……本当に感謝する。 私は、良き友人を持った』

「いえ、私も少しだけですが、楽しそうだなと思っていたりもするので。
 では時間も押しているようですし、早速始めま――――――――――」


と、言いかけた所で、


「サーシャちゃぁぁぁぁぁぁん! 今帰るから待っててね〜!」
549 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:28:16.69 ID:UcF6Yn9Uo

遥か、遥か遥かはるか遠方から、そんな黄色い、いやサーシャにとってはどす黒い声が飛んできた。
『殲滅白書』最強(自称)のシスター、ワシリーサである。
ミーシャを身に宿しているサーシャは特に聴力が強化されているため、ワシリーサの声がおよそ
三〇〇〇〇メートル前後の位置から飛んできている事が分かった。愛が伝播し過ぎである。


「バカな……早すぎる! マズいです、ヤツが帰ってきます!
 ミーシャ、魂の入れ替えに要する時間はどれくらいなのですか!?」

『大丈夫、すぐに終わるから心配はいらない』


ミーシャは狼狽しまくるサーシャを安心させるような声色で、
550 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:28:52.42 ID:UcF6Yn9Uo




『では、先に学園都市へ貴女を送る――――――――


 ―――――――――――私も後から、追いつくから」




意識が、分離した。前者の声色と、後者の声色が変化していた。


『うわっ、あ、私がもう一人? いや、これは私の肉体を私が魂視点で
 眺めているという事…………って、のわあああああああああああ!!』
551 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:29:27.44 ID:UcF6Yn9Uo

一瞬の出来事、という表現すら霞む程にそれは一瞬であった。
気付いたらサーシャの視界に"湯船に浸かるサーシャの姿"が映っており、
それが魂と化し分離した自分が見ているのだと認識したと思ったら、
景色が"飛び"、サーシャの魂はロシアの空を突っ切って飛翔していった。


「サーシャちゃん♪ ってなにィィィィ!!? サーシャちゃん自ら私へヌード提供だと!?」

「………………"解答一"。 この裸体はあなたへ捧げるために晒しているのではない」

「うん? この感じ……むむむ、サーシャちゃんじゃあないわねえ」

「恐るべき速度の看破に驚愕すると同時に、わずかながら気味の悪さを感じる」


ミーシャ=クロイツェフは、サーシャ=クロイツェフの姿で、
瞬間移動の如く帰ってきたワシリーサに、極めて冷静な口調で対応した。
552 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:30:40.90 ID:UcF6Yn9Uo


――――――――――――――――――――――


本来の『御使堕し』で発生する魂の入れ替わりは大規模に、そして一瞬で終わる。
それこそドミノ倒しのように、止める間もなくその魂は別の人間へと憑依し、
追い出された魂もまた、別の人間に器を求めるように入れ替わっていく。


ミーシャとサーシャの入れ替わりも、だから一瞬で済んだのだが、


「どうやら入れ替え作業は滞りなく終了したようだな。 サーシャ=クロイツェフ、
 当然ミーシャから説明を受けての承諾だったのだろうが……よく引き受けたもんだ」

「と、言いますと……?」
553 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:31:13.72 ID:UcF6Yn9Uo

「段階はいよいよ終盤、いや、ある意味これがラストフェイズだ―――サーシャの魂をここへ引き寄せる」

「引き寄せる、ですか」

「というか既に誘導している。 誰かの魂と入れ替わられてもかなわんのでな」


フィアンマが言い終えると同時、彼の肩から伸びる『聖なる右』が一際大きな動きを見せた。
もうすっかりこの状況に慣れたのか、小萌先生は暴風のように荒れ狂う赤き文字の渦中でも
のんびりとした調子で第三の腕を見つめる。


とぷん、と。川に小石が落ちたような音がアパートメントの一室で小さく鳴った。
フィアンマの禍々しい赤の腕が、彼と小萌先生を取り囲むように吹き荒んでいる
魔方陣に突っ込んだのだ。

回転稼働する洗濯機の水の中に手を入れるイメージが一番近いだろう。
554 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:31:44.18 ID:UcF6Yn9Uo

「それにはどういう意味があるのですかー?」

「詳しく説明しても理解はできんだろう。 要するに、サーシャ=クロイツェフの魂を
 操ってここへ―――月詠が今持っている空きビンの中へ誘導するのに必要な行為なんだ」


冷静かつ平たい説明をするフィアンマだが、その口調とは裏腹に息は絶え絶え、
肩は疲労で上下に弾んでいる。少し小突いただけで倒れてしまいそうだ。
だがそれでも中断する訳にはいかない。ここで力尽きたら現在こちらに向かっている
サーシャの魂は、見えない何かに引っ張られるように誰かの肉体めがけて飛んでいってしまう。

そうなってはお終いだ。オリジナルの『御使堕し』ならともかく、この非合法な仕組みで
発動した『御使堕し(改)』で魂の入れ替えが起きた場合、どうやって元に戻せるのか分からないし、
元に戻す手段が果たしてあるのかどうかさえ定かではないのだから。
555 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:33:04.29 ID:UcF6Yn9Uo

瞳を閉じ、サーシャの魂の気配を探る。肉体という壁が無い分、彼女の気配を感じるのは容易い。
何せサーシャの力の源が一糸纏わず露出しているのだ。力の露呈を阻害する衣服や肉体は
存在しない。


「……………………」


滴る汗を無視し、フィアンマは第三の腕でサーシャを誘導しつつ、その気配を探る。


(斜角では対応しづらい……やはり空きビンと魂の角度はゼロである事がベスト。
 全くのゼロとはいかんだろうが……多少の誤差はアドリブで補うしかあるまい)


学園都市からロシアまでの距離は言うまでもなく長い。が、今回距離に関する問題は
無に等しいと言って過言ではない
556 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:33:43.38 ID:UcF6Yn9Uo

サーシャの魂の移動速度は学園都市製の音速旅客機をはるかに凌駕している。
まさにあっという間の到着となるだろうが、この凄まじすぎる速度を
フィアンマがコントロールする事が出来ないのがネックだった。

音速を超える速度で飛来してしまえばこんなアパートは粉々に吹き飛んでしまうだろうが、
魂に質量は存在しないのでそこも問題ない……と、フィアンマは考えている。
そもそも魂とは何なのかが具体的に証明されていない世の中である。質量がどうのこうのなど
考えるだけ無駄だ。


「月詠……」

「は、はい」


フィアンマがぼそりと、消え入りそうな声で小萌先生の名を呼んだ。
557 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:34:28.99 ID:UcF6Yn9Uo

「空きビンを持って……そこから三歩、いや二歩……半、下がれ」

「え、ええっと……」


きゅぽん、というこの場にそぐわない間抜けな音がした。小萌先生が空きビンの
コルクを抜いたのだ。ピンポン球大程度の口。質量の無い魂なら口の大きさも
関係はないのだろうか、と小萌先生は不安を覚えながらもフィアンマの指示に従う。


「こ、この辺ですか?」

「そこから一歩も動かず、空きビンを掲げてみろ」

「ほい」
558 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:36:00.14 ID:UcF6Yn9Uo

「頑としてそこを動くな。 その空きビンに魂をホールインワンしてやる」

「あの……今更ですが、こんなビンだと魂がすり抜けちゃうのでは?」

「魂を収めた後に俺様がどうにかする、余計な事は気にするな」

「り、了解なのです……!」


そんな事が出来るのかどうかと問われれば、術者であるフィアンマにも答えられない。
そう出来るよう術式を組んだのがこの『御使堕し(改)』だが、テストもしていない
新大魔術の成功率など見当もつかない。

だが何度も覚悟した事だが、とにかくやるしかないのだ。
559 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:36:40.52 ID:UcF6Yn9Uo

やがて、


『―――――――――――――――……………………ぁぁぁあああああああああ』

「ふぇ? 何か叫び声が聞こえたような―――――――」

「来るぞ」


フィアンマの言葉に小萌先生は慌てて、


「ま、ま、魔封波ぁぁぁぁぁ!」


と意味不明の叫び声を轟かせた。フィアンマの『何の呪文だ!?』というツッコミも
彼女の耳には届いていない。
560 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:37:22.13 ID:UcF6Yn9Uo

『ああああああああああああああああああああ助けてええええええええええ!』

「入れ……」


どこからともかく―――というか直上、恐らくは真上から響く女の子の叫び声。
距離感が掴めない、どの辺りから聞こえる声なのかが不明瞭で、小萌先生は眉をひそめる。
その隣でフィアンマは願うように言った。


「入れッ!!!」


直後、部屋の天井から床にかけて一筋の閃光が走った。
サーシャの魂が上空から一直線に小萌先生の部屋を通過したのだ。
561 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:38:01.04 ID:UcF6Yn9Uo

そう、"通過した"。




美しさすら感じるその閃光は――――果たして小萌先生の背後に走っていた。




「……あれ?」

「なっ……クソッ!! わずかにズレたか!!」


背中に何かを感じたのか、小萌先生はポカンとした顔で後ろに振り向く。
だが既に魂が引いた軌跡は消え去っていた。
562 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:38:36.40 ID:UcF6Yn9Uo

フィアンマは位置的に閃光が見えていたため、空きビンの口への軌道がズレてしまった事を
認識し、もしかしたらとっくに地面に激突して粉々になっているかもしれないと不安に
なりながらもサーシャの魂を操作しようと舵の役割を担う『聖なる右』に意識を向ける。


ぴし、と。硬い物に亀裂が入ったような音がした。
その音は気のせいか、天井から聞こえたように思え、小萌先生は首を擡げる。


「あ」


そこで何かを見た小萌先生が言葉を紡ぐ前に、


まず天井ではなく―――部屋の床が派手な崩落を始めた。
563 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:41:40.75 ID:UcF6Yn9Uo

今回はここまでです。

そうです、上の方でも言ってる方がいましたが、私も書き溜めてる時に
そう思ったので魔封波って言わせました。炊飯ジャーだったら完璧でしたね。

サーシャの器のデカさも大したものですが、しかしそれにしたって
小萌先生の家はろくな目に遭わねーです……原作一巻然り。
床の崩壊が始まったらあとはもう雪崩のように……理解いただけるでしょうか。
サーシャの魂の行方と共に、ご期待いただければと思います。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
564 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/27(日) 16:42:11.54 ID:UcF6Yn9Uo



                          【次回予告】



「正直、あなたとは二度と会いたくなかったのですが、そうも言っていれらませんね」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ




「俺様に言及したい事などいくらでもあるだろうが、話は後だ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ



565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/27(日) 16:46:15.33 ID:tP5Spd5Mo
光速の金髪ボテロリ……これはこれでありだと思います!
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/27(日) 16:53:55.73 ID:utS7894ro

話せてるって事は誰かに入っちゃったのかね
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/27(日) 17:50:00.40 ID:KXeYh1sA0
あー、せんせーがー…
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/05/27(日) 18:48:05.80 ID:AaO8h3S+o

テンパりすぎて舌が回ってないな
サーシャちゃん、よっぽど恐ろしい思いをしたんだな
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/27(日) 19:15:03.07 ID:giqDhhbK0

>『どうした。 ぽんぽんに耐え難い痛みを感じるか』
ガブェ・・・。
つかサーシャ可愛いなぁ
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/05/28(月) 05:32:38.70 ID:ySbYwoZJ0
大天使様直々にロシア民謡のヒロインに対するお仕置きとか、どうかな?どうかな?
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/28(月) 09:14:03.10 ID:hF302p5DO
サーシャあああああああああああああああ!!!!!!!!
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/05/28(月) 19:01:16.79 ID:pCUhtAG20

ミーシャが普段こんな風にしゃべれたらどんなに楽しいのだろうかwwww
573 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:15:31.63 ID:V3fIZP09o

おはようございます。更新を開始したいと思います。
支援レスをいつもありがとうございます。

さて今回はいよいよ一端覧祭六日目の"序章"がクライマックスを迎えます。
魂と化したサーシャをビンに収めることに失敗してしまったフィアンマ。
それどころか大魔術の悪影響なのか、月詠小萌のアパートが崩壊し始めてしまいました。

月詠小萌のアパートはもうダメそうですが、果たしてサーシャの魂の運命は……という感じです。

それでは、よろしくお願いします!
574 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:16:17.82 ID:V3fIZP09o


――――――――――――――――――――――


高層ビルの解体に爆破という手段が用いられる事は、たぶんにある。
例えるならば小萌先生が体感したのは、その爆破解体した瞬間のビルの中の
それなのだが、これは些か比喩表現が大げさ過ぎると言えよう。
人間、生きている内に爆破解体するビルの中にいる事なんてそうそうない。
というか一度だってあってたまるか。小萌先生は死んではいないのだから。


もっと一般的にわかりやすい例えを用いるのならば、エレベーターだろうか。
それも降り。エレベーターが階下へ降りるとき感じる、わずかな浮遊感。
小萌先生が体感した感覚はこれに近い。実際はエレベーターのそれよりもう少し、
胃袋がせり上がる感があったが、スカイダイビングやバンジージャンプは一般的な
例えとしては行き過ぎているだろう。
575 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:16:47.68 ID:V3fIZP09o


まあ要するに、


学園都市第七学区の一画。木造二階建てアパートの一室、月詠小萌宅の一室が崩壊を始めたのである。


「おいいいいいィィィ!!? せ、先生のお家がー!!!」

「ちっ!」


サーシャ=クロイツェフの魂が真上から真下へ綺麗に通過した。しかしそれはフィアンマの
目論見通り小萌先生が小さな手に持つ空きビンの中へではなく、それより少しズレた座標だった。
日常生活でほとんど聞く機会が無いであろう、アパートメントクラスの建造物ががらがらと
崩れる音が小萌先生の顔面を青く染める。
576 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:17:51.20 ID:V3fIZP09o


この状況下で尚叫び嘆く事が出来る小萌先生の余裕っぷり(実際は混乱の極みにあるが)も相当だが、
小萌先生と同じく、床が崩落し半ば自由落下状態となっているにも関わらず舌打ちする態度を示す
フィアンマもやはり大物である事は疑いようもない。こんな惨事を招いたのも彼に一因があるというのに。


(床だけではなく、天井もか! しかし何故崩落が? 魂に質量があるはずないと
 踏んでいたが……認識が甘かったか? 魂そのものではなく、サーシャが有する
 魔力が物理法則を引き起こした? だとしたらこの程度の被害で済む訳がないが……)


と、天井も等しく崩れ落ち、その瓦礫が小萌先生の小さな体躯に迫っている事に気付いたフィアンマは、


「ッ!!」
577 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:18:31.98 ID:V3fIZP09o


ぶん、と軽く腕を振った。彼の象徴たる右腕を。それに応えるように『聖なる右』が
数瞬遅れてその恐るべき力を発揮する。小萌先生を押し潰さんと迫っていた瓦礫は
溶岩に浸したかのように蒸発し消滅してしまった。

小萌先生がそれに対し感謝する暇はもちろんない。彼に救われたことにすら彼女はまだ気付いていない。
当面の危機を回避したフィアンマの頭に次によぎったのは、『サーシャ=クロイツェフの行方』と
『階下の部屋に住人がいるか』、である。

もちろんフィアンマとしては最優先に懸念したいのは前者。空きビンへの収納に失敗したサーシャの魂が
何らかの衝撃を受けて消滅でもしたら取り返しが付かない。超大規模な、しかし結果としてはただの殺人である。
だが後者の方も気掛かりではあった。もし階下の部屋に住人が居たら、瓦礫に飲まれて問答無用で死んでしまうだろう。


前者と後者の懸念事項を同時に晴らす方法を模索するフィアンマだが、そんなものは視線を
下に落とせば済む話だと気付いた。が、部屋の崩落からここまで現在約一秒。
578 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:19:28.78 ID:V3fIZP09o

わずか一秒だが、木造二階建てアパートの崩落など二秒もあれば完遂してしまう。
つまり現時点で前者と後者の安全の有無を確かめる暇は存在しない。よって、


「月詠!!」

「ひ、火野ちゃ―――――むぎゅっ」


フィアンマは第三の腕を振るい少し離れた距離で落下していた小萌先生を引き寄せ、
自分の体に抱き寄せる形で確保し、一階へ着地する選択肢を取った。


遅れて、フィアンマの迎撃から逃れた瓦礫が雨のように地面へ降り注ぐが、
それも赤の一撃で全て吹き飛ばしてしまう。
579 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:20:05.01 ID:V3fIZP09o


「怪我はしておらんか?」

「は、はい。 ありがとうなのです、火野ちゃん」


ここで部屋を壊された事に対し非難せず礼を言う辺り、小萌先生も大概お人好しである。


(サーシャ=クロイツェフの魂は―――――――?)


小萌先生の安全を確認し、どうやら幸いにも一階の部屋に住人が居なかった事を
察したフィアンマはようやくサーシャの魂の行方を追うに至った。
小萌先生を抱き寄せたまま忙しなく首を動かし周囲を見回す。アパートの崩落により、
当たり前だが二人は外へ追い出されていた。真冬の冷気が全身を撫でてくるが、
切迫した状況が二人に寒さを感じさせない。
580 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:20:39.56 ID:V3fIZP09o


ぼひゅ、と。


「―――――――――ッ」


崩れ落ちた瓦礫の山から光が飛び出したかと思った時には、既にその光は
小萌先生の方へ向かって飛んできていた。彼女とフィアンマは密着状態に
あるため、その光がどちらに飛んできているかなど判断できるはずがないのだが、
『御使堕し(改)』の"術者"であるフィアンマには、


「クソッ、サーシャ=クロイツェフか!?」

『だ、第一の質問ですが……その声は右方のフィアンマ?』
581 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:21:20.41 ID:V3fIZP09o

その光が小萌先生の魂との入れ替えを目的に漂うサーシャの魂だと判断する事が出来た。
一瞬『聖なる右』で消し飛ばしそうになったフィアンマだが、すんでのところで赤い腕を
急停止させ、小萌先生に向かうサーシャの魂の軌道を修正する事が出来た。

魂は小萌先生のすぐ傍を通過し、あらぬ方向へ飛んでいく。部屋の崩壊に伴って
魔方陣も完全に破壊されてしまっているが、フィアンマの魔力で魂の舵を取る事は
まだ可能であるらしい。


『う、く……ひ、引っ張られる……!?』


明後日の方向に飛んでいった魂は、しかし再び小萌先生を狙うようにUターンをし、
恐るべき速度で彼らの下へ向かってくる。
582 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:22:01.34 ID:V3fIZP09o


恐らくこれがラストチャンス。フィアンマは直感した。


「月詠、"今度こそ"、見えるはずだ。 あの光が」

「え、……うわっ。 な、何ですかあの綺麗な光の……珠?」

「お前の下へ向かってくる。 空きビンを構えてそのまま封じ込めてしまえ!」


急にそんな事を言われても、と思う反面、小萌先生の体は勝手に行動を起こしていた。
説明している時間も、フィアンマが魂の軌道を修正する暇もない事を、無意識に察したのだろうか。
小萌先生は両手でしっかりと空きビンを握りしめ、突き出すように両腕を前へ持っていく。
サーシャ=クロイツェフの魂は導かれるように真っ直ぐと突き進み、
583 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:22:41.93 ID:V3fIZP09o


しゅぽーん、と。惚れ惚れするくらい綺麗に空きビンの中に吸い込まれていった。


「蓋ァ!」

「は、はひ」


虫あみに捕らわれた蛾……否、蝶のようにビンの中で暴れる魂を確認した小萌先生は
フィアンマの一喝するような指示に従い慌ててコルクを取り出し、キュッとビンの口を閉じた。
そこでフィアンマがすかさず行動に出る。『聖なる右』をビンに向かって突き出し、"何かをした"。
何をしたかは小萌先生には分からなかったが、実はビンから魂が抜けないよう彼が術式を施したのだ。
584 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:23:25.35 ID:V3fIZP09o


「………………」

「………………」


しん…………と不気味なまでに辺りが静まり返る。一端覧祭が今も絶賛開催中である事が嘘のように。
ビンの中のサーシャ=クロイツェフが『わーわー!! ぎゃーっ!』と叫んではいるが、如何せんサイズが
ピンポン玉大の魂なので声量が乏しい。ちなみに、どうやら全体の約半分が綺麗に崩壊したこの木造二階建て
アパート、今は小萌先生以外住人が居ないようだ。まさかこの騒ぎの隣で寝ていたり無関心でいたりは出来ないだろう。

ただ静まり返ったといってもそれはあくまでフィアンマと小萌先生が感じる雰囲気だけの話であり、
半壊したアパートの前を通る通行人の視線が色々な意味で痛々しい。というか通報されてもおかしくない。
早い所この場を立ち去ってしまった方が良さそうではあった。
585 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:24:03.94 ID:V3fIZP09o


やがて、二人がようやく冬の外気に寒気を感じ始めた頃、二人は顔を合わせて互いを称え合うように言った。


「………………サーシャ=クロイツェフ、」

「ゲットだぜ。 なのですー」

『第一の私見ですが何を二人だけで完結しているのですか! ここから出してください!』


危うく全人類を巻き込む大騒動となりかけたこの『御使堕し(改)』によるミーシャのサプライズは、
小萌先生の自宅を除けばどうやら無事に全てのプログラムを終了する事が出来た。


はずだったのだが、やはりそうは問屋が卸さないらしい。
586 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:25:04.39 ID:V3fIZP09o


――――――――――――――――――――――


「……上空の魔方陣が消滅していない? 魂の入れ替わりを俺様が強引に中断したからか?」


無論、空を仰いだところで『御使堕し(改)』の魔方陣を確認する事は出来ない。
相手は高度約二〇キロという途方も無い地点に出現しているのだから。

だが視認は出来なくとも、魔方陣があるか無いかの確認はフィアンマなら出来る。
『聖なる右』を通して感知できるし、何より彼は術者本人だからだ。
そんなフィアンマは全ての過程が終了したはずの大魔術がまだ発動状態である事に気付き、
漠然とした不安感を抱きながら眉をひそめた。
587 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:25:43.42 ID:V3fIZP09o


「これが人間の魂……なのですかー? オーロラを球状に凝縮したらこんな感じになりそうなのです」

『だ、第一の質問ですが、あなたは一体?』

「ほえー……会話まで出来るのですか。 初めまして、先生は月詠小萌と言います」

『……ロシア成教「殲滅白書」所属の魔術師、サーシャ=クロイツェフです。
 まさかこのような状態で自己紹介をする日が来るとは思いませんでしたが』


何やらのん気に挨拶をしている小萌先生とサーシャだが、フィアンマの耳には届かない。
彼は第三の腕をアンテナのように動かしながら、ただ空を見上げて佇んでいる。
アパートを半壊させるという事故を起こした以上、早い内にここから消えなければならない
という考えは、今の彼の頭には無いらしい。
588 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:27:45.03 ID:V3fIZP09o


(何だ……? 魔方陣そのものが、飽和している? こんな現象、予定には……)


それは喩えるならば、風船に絶え間なく水を注ぎ込むような感覚。
大量の水を風船に流しこめば当然風船は膨らんでいき、なかなか割れはしないものの
みるみるうちに大きくなり、ゴム膜が悲鳴をあげ、最後には破裂してしまう。

遥か上空に出現している魔方陣に、それと似たような現象が起きているとフィアンマは感じた。


(いかんな、またしても想定外の現象だ。 対処……しかしどう処理する? 
 あとはもう打ち止めの連絡待ちだ、俺様に出来る事など残っておらん)


鼓動が徐々に早まっていくのを感じる。
589 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:28:21.76 ID:V3fIZP09o


(ヤバい)


嫌な汗がどうしても止まってくれない。


(よくわからんが、これはヤバい)


あと数秒で必ず爆発する爆弾の前でただ呆然と立ち尽くさざるを得ないような、
対処のしようがない状況に焦る。
爆弾は高度約二〇キロ地点。『聖なる右』で強引に消し飛ばす事も出来なくは
ないだろうが、それは爆破寸前の爆弾にハンマーを振り下ろすような愚行と同義である。
そんな衝撃を加えたらどうなるかなど、子供でも分かる。
590 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:29:17.64 ID:V3fIZP09o


(しかし、ならばどうする? 放置していればその内消えるか?)


これが既存の魔術ならばフィアンマの知識の中に対処法があっただろう。
だがこれはその彼が開発した穴だらけの新大魔術だ。何をどうしたらどうなるか、
術者本人にも分からない。魔術とはまず開発し、その効力、影響をを全て調査し、
弱点、対処法などがあれば可能限り穴埋めして、完成に至る。魔術の全てが全て
そうやって完成していく訳ではないが、大凡は以上の通りだ。


「……」

「火野ちゃーん? さっきからボーッとして、どうしたのですかー?」

『右方のフィアンマ……話には聞いていますが、本当に「天使同盟」に……』
591 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:29:52.60 ID:V3fIZP09o


二人に声をかけられ、何の気なしにそちらへ首を向けるフィアンマ。


その時だった。


「ッ!?」

「うひゃあ!? 眩し――――」
592 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:30:19.42 ID:V3fIZP09o




視界が、世界が、白に染められた。それが上空の魔方陣が『炸裂』し、
そこから噴出した光が(恐らくこの街全体を)覆い尽くしたのだと即座に理解した
フィアンマは実に聡明であると言えよう。



593 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:31:48.01 ID:V3fIZP09o


(しかもこの光は……『天使の力(テレズマ)』!? 『神の力(ガブリエル)』のものか?
 だが『天使の力』にしては……暖かく、柔らかい感じだが、この光の噴出がどこに、
 どのような影響を与えるんだ? クソ、今日はずいぶんと『光』に縁があるな……)


光の氾濫はほんの数秒で終わった。その光によって照らされたのは学園都市の辺りだけなのか、
または全世界に及んだのか、さすがのフィアンマにもそこまでは推測出来なかった
(恐らく後者だとフィアンマは考えているが、確信が持てない)。
きつく閉じていた瞼をフィアンマがゆっくりと開くと同時、彼の足に何かが当たった。


『つ、月詠小萌……もう少し丁寧に扱ってください。 割れたらどうなるか……』

「……サーシャ=クロイツェフ」
594 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:32:37.30 ID:V3fIZP09o


足元に転がっていたのは、サーシャの魂を収めたビンだった。どうやら先の
光の氾濫に驚いた小萌先生が落っことしてしまったようだ。ビンに使用されている
ガラスは結構な厚さがあったため、割れるまでには至らなかった。

フィアンマはビンを拾い上げる。その際、中にいるサーシャが『ひっ』と短い悲鳴を漏らした。
その悲鳴は恐るべき力を有するフィアンマに対して怯えたのではなく、単に(サーシャ視点からすれば)
巨大な手が頭上――魂である以上、頭上もクソも無いが――に迫ってきたのが原因だろう。
虫や小動物に触れようと手を近付けたら逃げる事があるが、サーシャはそれと似たような体験をしたのだ。


『正直、あなたとは二度と会いたくなかったのですが、そうも言っていれらませんね』

「俺様に言及したい事などいくらでもあるだろうが、話は後だ」
595 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:33:37.51 ID:V3fIZP09o

魔方陣は跡形もなく消え去っていた。あの光の氾濫は消える寸前に起きる現象だった……らしい。
らしい、と断言出来ないことに若干のストレスを感じるフィアンマだが、魔方陣が消えたことで
『御使堕し(改)』は完全に発動を終えた事になる。


ならば気掛かりなのは、世紀の大魔術は『成功』したのか、『失敗』したのか。


サーシャ=クロイツェフがこうして魂と化している点から鑑みて、ミーシャとの魂の入れ替えは
どうやら成功したと判断していいだろう。その後のサーシャ→他者の入れ替わりも、ビンに彼女の
魂を収めるという荒唐無稽の荒業でかろうじて阻止できている。

だがこれで『御使堕し(改)』が無事に成功したとは言えない。未知の大魔術である以上、
術者のフィアンマでさえ想定出来ないような、何らかの副作用が発生している可能性があり、
そしてその副作用が起きておらず、世界は何の問題もなく平常運行していると判断したその時、
初めて『御使堕し(改)』は成功したと断言出来るのだ。
596 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:34:07.65 ID:V3fIZP09o

打ち止めからの連絡が無い以上、ミーシャ発案のサプライズ自体が成功したかはまた不明であるが。


「火野ちゃん」

「ん?」


声をかけられた。火野ちゃん、と。小萌先生が、フィアンマに話かけたのだ。
彼はサーシャが収められたビンから視線を外し、小萌先生を見る。
597 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:34:39.18 ID:V3fIZP09o




「……………………………………………………………………………………………………………………………………」






598 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:35:06.48 ID:V3fIZP09o


そして。




フィアンマは、『御使堕し(改)』がこれ以上ない失敗に終わった事を確信した。



599 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:38:12.65 ID:V3fIZP09o

今回はここまでです。

というわけで、どうやら『御使堕し(改)』は無事に失敗したようです。
サーシャの魂を収めること自体には成功しましたが、大魔術の悪影響は
フィアンマの想像をはるかに凌駕するものでした。

あと>>593の後者は前者の間違いです。申し訳ありません。

次回は一端覧祭六日目の本番、メインパートをお送りします。
フィアンマが壊れに壊れまくります。ぶっ壊れます。
彼がなぜ失敗だと確信したのか、明らかになります。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

600 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/05/30(水) 09:38:45.83 ID:V3fIZP09o



                          【次回予告】



「どうしてこんな事になっちまったんだ、クソッ!! ちくしょう!!」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ



601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/30(水) 09:44:23.16 ID:rRAkWM220
>>1 乙です!

毎回楽しみにしてますー(・∀・)
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/30(水) 10:08:38.33 ID:MViszqzE0
乙。
今回も面白かった!続き気になる!!
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/30(水) 10:25:51.35 ID:1RBLeJlIO
乙です

面白いんだが、>>1がギャグパートと言い張る理由はいつわかるのか……?気になる
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/30(水) 10:41:50.96 ID:hSijhxkS0
>>1

乙です 数日かけて最初から読んで追いつきました
とても面白いです 更新楽しみにしています
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/30(水) 11:48:04.07 ID:ZgYjZHDw0

小萌てんてーマジ天使
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/30(水) 12:53:00.96 ID:ZM7ivCGDO
クソッ!気になる終わり方しやがって、乙しか言えねぇじゃねぇか!
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/30(水) 15:19:03.16 ID:0s1PQ5a/0
魔封波わろたwwwwwwww
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/05/30(水) 21:42:06.50 ID:wcQFbIMAO
無事失敗wwww
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/30(水) 23:14:51.71 ID:rZYInQ0X0
フィアンマ壊れすぎwwwwwwwwww
小萌先生の身に何が起こるかなんとなく予想がつくが
お口チャックマンで次回を待つわ
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/31(木) 08:58:24.62 ID:QjOi+8iDO
>>1乙!

失敗内容=小萌先生がオリアナになる

あのロリボイスで、歩く18禁に…







あれ?
これむしろ成功じゃね?
611 :VIPにかわりましてがNIPPERお送りします [sage]:2012/05/31(木) 12:54:38.95 ID:Xf6hccir0
男女性別入れ替わりか?www
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/31(木) 16:01:04.06 ID:ZVD+pOM2o
>>611
馬鹿なの?死ぬの?[ピーーー]よゴミ
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/05/31(木) 16:52:15.32 ID:Ji0tHtns0
>>612はTSした人に家族でも殺されたのだろうか
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/05/31(木) 17:02:57.57 ID:W1rI2Kx3o
予想してんじゃねーよってことだろ
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/31(木) 19:29:19.38 ID:Q6s5ZdQq0
予想はよそう!ってか。

まあ失敗するよね
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/31(木) 21:58:59.89 ID:yYhzqDBIO
>>615
そういうのやめろwwwwww
地味にくるwwwwwwwwww
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/01(金) 07:09:24.50 ID:/UR00+Tr0
>>615
無駄にギスギスして雰囲気悪いときにこうやって体を張ってスベってオウフな人って
世界の穢れを一身に背負ってくれてるみたいで、俺は好き

平和が一番だよねー
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 11:53:17.59 ID:76zGTmiDO
そんなことよりオルソラの話しようぜ


最近おっぱい要素が足りないんだけど…
切実におっぱいを求める!
番外編とかで
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/06/01(金) 12:01:47.40 ID:UepdRd3So
確かに最近ナイチチばっかだな
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/01(金) 13:50:22.09 ID:is1mDJnz0
全ての乳を平等に愛せ
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 13:55:29.06 ID:76zGTmiDO
乳神さま…
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 16:09:40.14 ID:/OZsbPbgo
お前らおっぱいばかりだな
たまには尻について語ろうぜ
レッサーの尻コキの話とか
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/01(金) 19:01:52.98 ID:sKGTt0Nz0
そういえば禁書ってあんま腋キャラが思いつかないな、身体部位的な意味で
強いて上げるなら・・・・打ち止め?
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 19:30:18.35 ID:HofvH94DO
神は言っている、乳を愛せと
625 :名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 20:15:46.60 ID:IyZpu1n+o
常盤台の体操服を思い出すがいい
あの格好でアクションする御坂さん最高でした
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/01(金) 22:36:39.11 ID:XoLlSkt60
小萌てんてー混乱のあまりブロントさんになっとるwwwwww
627 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:23:11.86 ID:dxN9fr0qo
>>603
いや、既に……え?認識の違いでしょうか?
それともこの程度でギャグパートとは片腹痛いわとか、そういう意味でしょうか。
もしそうでしたら私の力量不足をお許し下さい……、でもここから更にカオスですので!

皆様こんにちわ、今日も更新を開始します。

さて、今回から話がワケわかんないことになります。
正直結構遊びました。書いてて楽しかったですが(もういつ書きためたか分かりませんが……)、
今思うと少し調子に乗りすぎたかもしれません。

まあとにかくいってみましょう。フィアンマが大魔術の失敗を確信した理由とは?

それでは、よろしくお願いします!
628 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:24:00.61 ID:dxN9fr0qo


――――――――――――――――――――――




「あ?」




間の抜けた声を発してしまうフィアンマだが、しかし無理もない。


「火野ちゃん」

「は?」
629 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:24:46.19 ID:dxN9fr0qo




「火野ちゃん。 ……kuec火野arjcちゃxlusp」



「は?」


火野ちゃん、火野ちゃんと。壊れたスピーカーのようにフィアンマの偽名を呼び続ける
小萌先生の声に、"どっかで聞いたことのあるノイズ"が混じっているではないか。


声が。
630 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:25:25.58 ID:dxN9fr0qo


酷似しているではないか。何と、誰と、とは言わない。言うまでも、ない。


「kkedwm火野czhhgk如何rjddeywn」

「あ…………? あ…………?」


およそ人間の声帯から発声されているとは思えないその言葉、言語、ノイズ。
確かにフィアンマも小萌先生が人間なのか疑ったこともあったが、念を押すまでもなく
小萌先生は人間であるし、フィアンマもそれは理解している。こんな小さな体躯ながら
自分より年上であることに、やはり疑問を抱きはするがそれでも理解している。
631 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:25:55.82 ID:dxN9fr0qo


「klxutr火野aitguちゃutん」

「あ……? あ……? あ……? あ……?」

「jgiyde火野apwujo……」

「あ…………………………う、」

「火野ちゃん@zztxfjtc-myws.co.jp……」

「メールアドレス風に俺様を呼ぶな!」


ツッコミを入れるフィアンマが冷静さを取り戻したのかといえば、そうではない。
今のツッコミは反射的に出たものだ。無意識に、彼の意思とは無関係に口から出ただけ。
632 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:26:37.37 ID:dxN9fr0qo


「yjbvi火野dlptu」


そのノイズ混じりの声にフィアンマは驚愕を禁じ得なかったが、しかしそれに似た驚愕を
彼はこの数秒前に一度、味わっている。小萌先生の声を聞く前に一度、味わってしまっている。

フィアンマはまず"見て"、驚愕したのだ。声を"見る"ことは、何らかの技術を使用しなければ
不可能だ。そう。フィアンマは、見て、驚愕している。声を聞いて驚くよりも先に、それを見て、
『御使堕し(改)』が途方も無いスケールの失敗をしたのだと確信したのだ。


何を見たのか。


「つ、月…………詠……」
633 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:27:22.28 ID:dxN9fr0qo


当然、小萌先生を見たのだ。


どこを? 小萌先生の、何を見て、彼は戦慄したのか?


「火野ちゃん」

「月詠…………お前、その顔は」




顔、だ。顔が。月詠小萌のあどけない顔が――――――作りかけの、ドールの顔のように変貌していた。



634 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:27:56.98 ID:dxN9fr0qo

のっぺりとしたその顔は、そう、のっぺりとしているのだから何も無かった。
小泉八雲の『むじな』はあまりにも有名であるが、日本の怪談知識を富むんで
いないフィアンマは想起出来なかった。

そんな彼が、では何を想起したかといえば、天使以外の何があると言えるのか。
小萌先生の顔には人間にとって必須である器官が何一つ存在せず、それら全てを
皮膚の凹凸だけで再現しているという、ある意味怪談じみた恐ろしい顔になっている。
ここは怪談じみたではなく、神話じみたという表現が相応しいかもしれないが。


一般人が今の小萌先生を見たら絶叫してその場で気絶してしまうかもしれない。
蕎麦屋に駆け込むまでもなく、だ。だがフィアンマは驚き叫ぶことも、失禁することも、
気絶することもなく、ただ小萌先生を見つめ続けた。というか、視線を逸らす事が出来ない。


何が起きた? フィアンマの頭の中は、もうその疑問しかなかった。
635 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:28:36.67 ID:dxN9fr0qo


「uw火野tfhちゃんppm火野msちゃeんrz火野dh火gc野uge」

「ひっ……」


そして今更、忘れていたかのように、遅れてきた恐怖がフィアンマの感情を支配し始めた。
怖い、と彼は思った。人間ではあり得ない構造で象られた顔で、人間ではあり得ない声を
発しながら自分の偽名を呼び続ける小萌先生を、素直に怖いと思った。

とてとてと、ゆっくり歩きながらフィアンマの下へ向かう小萌先生。
そんな彼女から逃げるように、彼も一歩一歩後退っていく。


『………………フィアンマ?』

「ッ! さ、サーシャ=クロイツェフ……」
636 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:29:25.35 ID:dxN9fr0qo

フィアンマが持つビンの中から声がした。普通の声がした。
魂という時点で普通ではないが、それでも彼にとってサーシャ=クロイツェフの声は
至って普通の、人間の声だった。


『第二の質問ですが、どうかしたのですか? 先ほどから狼狽しているようですが』

「どうかしたのか……だと? あぁ、どうかしている、どうかしているだろ!!」


彼は叫んだ。ぐちゃぐちゃになった感情を一気に吐き出すように。


「顔!! 顔顔顔顔顔!! おかしいだろうが!? 分かるだろ、見えるだろ!?
 月詠の顔があのクソ天使とそっくりだろうが!? 瓜二つじゃねえか、あ!?
 声も!! 意味不明な方向から飛んでくるノイズが混じってやがる!!
 これでどうかしない方がどうかしているだろう!? これが異常でなくて何だ!?」
637 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:30:13.10 ID:dxN9fr0qo

『顔……? 声……?』

「見えるだろ!? 見ろや!! どうしてこんな事になっちまったんだ、クソッ!! ちくしょう!!」


いつもの口調が乱れるほどの混乱っぷりを示すフィアンマ。小萌先生の顔に向けて
ビンを突きつける。サーシャは暫くの間沈黙を挟んで、


『月詠小萌と対面したのはついさっきですが……別に何も変化はないかと』

「あ……?」


ビンの中でふよふよと浮かぶ魂は、当たり前のように続ける。
638 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:30:52.61 ID:dxN9fr0qo


『普通の顔じゃないですか、と私は言っているのですが』

「普通だと? まさか俺様以外には認識出来ないのか? お前、普通って……。
 お前の中の顔の基準では目も鼻も口もねえのが普通なのか!?」

『いえ、目も鼻も口もない事は魂と化した私でも視認できています』


でも、とサーシャは若干困ったような調子で言った。
639 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:31:28.79 ID:dxN9fr0qo




『"それがどうかしたのですか"? 別に……普通の顔だと思いますけど。
 声も、言葉だって、普通に理解できる言語を用いているじゃないですか』

「かはっ……!」




危うく、卒倒しそうになった。フィアンマは過呼吸を起こしたかのように息を荒げる。
640 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:32:07.80 ID:dxN9fr0qo


「かはっ……かはっ……かはっ……かはっ……かはっ……!」


これが普通だと、言う。サーシャは、何の躊躇いもなく、断言する。
これが、世界であると。普遍的な日常であると、彼女は言う。


「かはっ……!」


気がつけば、小萌先生はフィアンマのすぐ傍まで接近していた。
もはや何が何やらわからぬ状況に目を回し、がっくりと項垂れるフィアンマの頬を、


「lgblfi火野vlorちゃんspitj」


そっと、優しく撫でた。彼女はどうやらフィアンマを心配しているらしく、
彼も彼女の思いやりに気づく事が出来た。どうやら彼女は自分を『心配している"らしい"』と。
人間と接しているはずなのに表情から、声から、思いやりなのだと断言出来ない事に絶望を覚える。
641 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:32:55.36 ID:dxN9fr0qo


「gfiy火野―――――」

「クソったれがああああああああああああああああ!!!!!」


フィアンマは脱兎の如く駆け出した。逃走。恐怖と混乱と、そして
慈愛にあふれた優しさを提供してくる"異形"に耐えられなくなった。

がむしゃらに走り続けるフィアンマ。決して振り向かない。
小萌先生もノイズまみれの声で彼を追いかけるが途中で躓き、どてっと転んでしまった。
逃げては何も解決しない事は分かっているが、


「ちくしょう……!!」


フィアンマは、走り続けた。
642 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:33:40.21 ID:dxN9fr0qo


――――――――――――――――――――――


学園都市の地形をまだあまり知識として取り入れていないフィアンマは
自分が今どこにいるのかさえ分かっていなかった。分からないが、それでも
ただひたすらに科学の街を駆けた。視線を落とし、ろくに前も見ず、そのため
何度も何度も通行人と衝突しながら、彼はとにかく走り続けた。

体力に自信がある方ではない彼は一〇分ほど全力疾走したところで力尽きた。
大通りのど真ん中ではあるが、彼は構わず膝をつき酸素を補給する。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はっ……、っ……クソッ……」
643 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:34:21.75 ID:dxN9fr0qo

いっその事この街から出て行きたかった彼ではあるが、しかしそれはあまりにも
無責任が過ぎるというものだろう。今、街を出るには彼はやり残している事が
多すぎる。打ち止めからの連絡、ロシアだかどこだかでサーシャと入れ替わったミーシャの
帰還待ち、そして―――十中八九己の過失で『変貌』してしまった、最後まで自分の愚行に
付き合ってくれた月詠小萌。


(考えろフィアンマ……考えろ。 思考を止めるな、考えるんだ……。
 考えず感じるだけで打破出来る領域を凌駕してしまっている……。
 考えるんだ……どうすれば月詠小萌を元に戻してやれる?)


フィアンマは、激しく後悔した。後悔し、悔み、そして自己嫌悪した。
644 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:35:06.65 ID:dxN9fr0qo

かつて自分がここまで己の振る舞いに対し『失』を感じた事があったか?
と、彼は振り返る。その振り返る暇で小萌先生を元に戻す手段を練るべきだろうが、
それでも振り返った。
『失』。失敗、失意、失策、失態―――失望。自分という存在に、失望さえした。
第三次世界大戦。あの一件も最終的には失敗し、方法を間違えたと彼は認めているが、
それでも自分が起こしたあの戦争に対しここまで絶望する事はなかった。


己の行為で被害にあった被害者を直接、明確に認識していたわけではなかったからだ。
戦争を起こせばどれほどの犠牲者が出るか、もちろんフィアンマには理解出来ていたが、
その犠牲者一人一人の顔を、彼は確認した訳ではない。


認識するとしないで心境の変化にここまでの差が生まれるのか―――フィアンマは、後悔した。
645 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:36:07.37 ID:dxN9fr0qo

「月詠……」

『フィアンマ』


幻想的な響きの声が聞こえた。フィアンマが小萌先生から逃走する際に持っていた
ビン―――サーシャ=クロイツェフの魂が、彼の名を呼ぶ。


『どういう経緯であなたが錯乱するに至っているのか私には分かりませんが、
 落ち着いてください。 ミーシャの計画が成功したのか否か、私はまだ
 聞かせてもらっていません。 こんな所で膝をついている場合ではないでしょう』

「……」
646 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:37:01.76 ID:dxN9fr0qo

確かにそれも大事だが、とフィアンマは、しかしそれよりもまず小萌先生を
どうにかして元に戻す方を優先しなければとも考えた。あのまま放置するわけには
いかない。なぜかサーシャはあの小萌先生が正常であると確信しているらしいが
(直前に普通の小萌先生を見ているにも関わらず)、あのままでは彼女がこの街で
築いていた立場が危うくなってしまう。

彼女は自分が教師だと言っていた。今、あんなマネキンのような顔で、
呪いのビデオのノイズみたいな声の小萌先生が教室に入ってきたら
生徒は阿鼻叫喚するだろう。――フィアンマは名前を覚えていないが――、
吹寄制理が、姫神秋沙が、クラスの全員が、理不尽な涙を強いられてしまう。


阻止しなければ。己のくだらない失態で、無駄な涙を流させる訳にはいかない。
この時、フィアンマは初めて本当に真の意味で、純粋に人を救おうと決意した。
647 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:37:47.22 ID:dxN9fr0qo


(月詠小萌を……救う。 必ず元に戻してやる!)


と、


「?」


ぽん、と肩を叩かれた。この時フィアンマは膝をついてがっくりと項垂れた、
土下座にも近い体勢だったため肩を叩いてきた人物が誰なのか窺えなかった。
少し首を動かしてみると、その人物の足が見えた。長めのスカート、どうやら
この街の学生らしいが、見たことのない制服だったので少なくともフィアンマの
記憶には無い女学生だ。
648 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:38:28.39 ID:dxN9fr0qo

彼女のすぐ傍に、何やら屋台……というには些か規模が小さすぎるが、
商店を押して移動させるタイプの荷車が確認できた。恐らくこの一端覧祭で
宣伝活動のような事をしている一般学生なのだろう。


「…………? あ、あぁ……すまん」


なぜ肩を叩いてきたのかフィアンマは最初、分からなかったが、やがて理解に至る。
そりゃ一端覧祭の影響で多くの人が行き交う大通りで(それでもここら一帯はあまり
通行人がいなかったが)膝をついていれば邪魔になろうというものだ。


「邪魔をした。 非礼を詫びる」


よろよろと立ち上がり、膝の汚れをぱっぱと払ってフィアンマは女学生に謝罪する。
その際に彼は女学生の方へ視線を向けたのだが、冗談抜きで眼球が飛び出るかと思った。
649 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:38:57.54 ID:dxN9fr0qo




「irbbnsk大efug丈夫wyntzeznj?」

「お、おう」




生返事が出てしまった。あまりにも、あまりにも出し抜けに虚をつかれたからだ。
その女学生の顔は、果たして例のアレだった。目も口も鼻もない、皮膚の凹凸で
それら器官が表現された、のっぺりとした顔。そして―――例の、あの声。
650 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:39:40.41 ID:dxN9fr0qo


「あ、あぁ、あれぇ!!? あああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


獣のような咆哮。フィアンマの驚愕が世界中に伝播したのではと疑ってしまう程の
叫び声。小萌先生を何とかして元に戻そうというフィアンマの策が、思いが、
ガラスのように砕け散った。


「pncutど、どうしuyuたdyba大丈夫ですかzbaejyyz?」

「な……何故、こいつまで……!? いや、まず誰だこの女は、俺様は知ら―――」

「raseu……、eteepfhbsdyphdx?」

「え?」
651 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:40:16.87 ID:dxN9fr0qo

おどおどしながら心配そうに話しかけてくる女学生に意味もなく吠えていたら、
後ろから声をかけられた。否、声をではなく―――もう聞き飽きたと言っていい
あのノイズをかけられた。


「tbnfcxxr」


男子学生だった。しかしその顔はやはり製作途中のドールのような顔であった。
なぜ男だと分かるのかといえば、顔では判別出来ないのだから服装や体格で
判断するしかない。のっぺりフェイスの男子学生は何の騒ぎだとこちらへ駆け寄った……のだと思う。


「これは……悪夢、なのか? 魔術師の仕業か……?」


魔術師の仕業だし、その魔術師はお前だ。
652 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:40:52.74 ID:dxN9fr0qo

周囲を見回す。小萌先生から逃げる時は周りなど、ましてや通行人の顔まで
見ていなかったので気付かなかったが、


「……………………………………ぜ、全部。 全員、か、顔が……」


ミーシャが存在した別位相の世界の住人は、全員こんな顔なのかな。
と、フィアンマが呑気に考える事は、もちろんない。


喉が干上がった。全力疾走で失っていた酸素をせっかく肺に取り込んだのに
意味が無くなった。上手く呼吸が出来ない、胸が押し潰されそうな感覚。
この大通りを行き交う全ての人間の顔が、ミーシャ=クロイツェフのそれになっていた。
ホラー映画の撮影ですと言えば信じてしまうくらいの、筆舌に尽くし難い恐るべき光景。
653 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:41:37.41 ID:dxN9fr0qo

小萌先生だけだと、何故思い込んでいたのか、フィアンマは自分の間抜けさに
憤りすら覚えた。小萌先生一人という事はない、そんな訳がない。たまたま自分の
近くに居て術式発動に加担していたからといって、『被害』が小萌先生だけで
済むはずがない、と。

でも、だからと言って、こんな事ってあるのか。


『第一の私見ですが、ここで騒ぎを起こしても何の得も無いでしょうフィアンマ。
 ひとまずここから離れ、計画成功の有無を確認しない事には終われません』


ビンの中にいるサーシャが、さも当然のように言う。
フィアンマは心の中で返答した。『成功か否かを確認するまでもなく、もう"終わっている"』と。
どれほどの範囲まで影響が及んでいるかは調査が必要だが、少なくとも最低限の結論は出ている。
654 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:42:19.22 ID:dxN9fr0qo




学園都市は終わった。確認するまでもなく、学園都市に存在する全人類が"こうなっている"と、
フィアンマは得たくもないであろう確信を得てしまった。



655 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:42:57.92 ID:dxN9fr0qo


「うわっははぁあああああああああああああん!!!!」


もう、走るしかなかった。その気になれば『聖なる右』の力でどこへだって
飛んでいけるフィアンマだが、そんな手段など思慮の外。


解決策を練るゆとりなんて、今の彼にはない。世界最強クラスの魔術師は、
世界最大クラスの失敗を犯し、(顔が)天使だらけの街を走り抜けていく。
656 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:45:46.82 ID:dxN9fr0qo

やったねフィアンマちゃん! ミーシャが増えるよ!

そんな感じで、今回の投下を終了させていただきます。

やっぱりね、という方もいればこの展開に驚いてくれた方もいらっしゃ……ればいいなぁ。
いかがでしたでしょうか?学園都市の人間のほとんどがこうなってしまいました。
いかがでしたかっていうか、まだこの話続きますけど……。

さてどうするフィアンマ、といった感じで次回に続きます。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

ただ今回のこの現象、被害者はフィアンマだけじゃありませんよ。
657 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/02(土) 14:46:12.59 ID:dxN9fr0qo



                          【次回予告】



「一体全体………………何がどォなってやがンだァァァァァ!!!」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)




「うああああああああああクソったれ、意味わっかんねえぞコラァ!!!」
『天使同盟』の構成員・学園都市第二位の超能力者『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督



658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/02(土) 14:48:47.02 ID:upbVBJFao
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/06/02(土) 15:03:04.71 ID:o4fK9/vk0

途中のフィアンマが福本画で再生されるww
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/06/02(土) 15:16:51.89 ID:V77g7wzQo
乙乙

福本よりは椎名高志っぽく思ったわ、GSぐらいの頃の
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 15:22:14.53 ID:T964SMn2o
一番の被害者は某不幸体質のウニ頭だな
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 17:20:46.27 ID:R826OCqmo
そっちかよ!?w

予告をみる限り一方通行と垣根も正常っぽいな
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 20:35:00.56 ID:B9FHxsqb0
乙乙 フィアンマキャラ崩壊し過ぎワロタ

何がどうしてこうなったのかはさておき、とりあえず被害者の共通点は理解した
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/02(土) 20:57:22.52 ID:UQXi84N/0
>>1乙!!
>うわっははぁあああああああああああああん!!!!
俺様口調のフィアンマがこんな風に叫んでると思うともう……wwww
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 21:07:32.03 ID:LxpmdmJPP

見ろや!!でワロタ
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/02(土) 22:30:23.69 ID:wRwkSgI20
絶対に笑ってはいけない天使ハザード
生存者は天使同盟メンバーと幻想殺しだけ!
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/02(土) 22:47:11.92 ID:KYaN2BHOo
おつ
上条さんマジ哀れwwwwwwwwww
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/02(土) 23:08:55.53 ID:IAGngF710
これ正気の人間からすりゃホラーなんてもんじゃないな・・・。
フィアンマの反応にも笑いつつ納得。
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/03(日) 00:28:32.35 ID:AIE1aoyB0
怪談ののっぺらぼうを絶賛体験中かwwwwwwww
俺ならその場で気絶する自信ある
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/03(日) 03:53:20.22 ID:ZsEC9t8L0
うはー、早く続き読みてーwwwwwwww
こんなにwwktkするSSってやっぱりすごいと思うの
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/06/03(日) 08:38:43.53 ID:yK8tH2Bt0
フィアンマがキャラ崩壊どころがもう別人にwwwwwww
まあこんな怖え体験したら人格なんぞ破綻するわなwwww
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/03(日) 09:28:43.27 ID:2h41qL3Do
>>670
こんなに臭いレス出来るってあるいみ凄いと思うの
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/06/03(日) 15:17:55.91 ID:MXsu3wYoo
全員が顔無しか…
まるでクトゥルフ神話だなww
SAN値が1D20+5くらい減っても仕方ない状況ww
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/03(日) 16:03:21.36 ID:JELWwvDDO
やっちまったねフィアンマ♪


これで第一次天使生産計画は無事に大成功だな
俺たちはまだ、これがガブリエルによる巨大な陰謀の序曲だとは…この時は知るよしもなかった………


みたいな展開になったらどうしよう…(;´д`)
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/03(日) 23:53:46.16 ID:S8kDt5GL0
乙。超面白かった!
これは天界の住人と見た目が中途半端に入れ替わってしまったということかな?
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 01:40:02.09 ID:2uPQPFTIO
なんとなくブラザーズグリムで顔のパーツ無くなっちゃった女の子を思い出した
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 07:32:49.08 ID:Z5IP9JbIO
まさか周りから見たらこの3人が・・!?
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 23:08:39.06 ID:nXHu/DODO
乙www
なんて展開だwwww
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/05(火) 03:13:38.54 ID:KJm8SxE30
サーシャは目や口や鼻の概念を当たり前に持ってるのに
それが無くなってることに微塵も疑問を抱かないのが面白い

…ちょっと待て、ミーシャが人間の顔になってたらどうしよう
それはそれでキモいぞ
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/05(火) 09:26:48.31 ID:yRHy+G79o
>>679
おいちょっと待て今は身体はアストラル体といっても
普段のミーシャは全裸だぞしかも一通さんには人として見えるんだぞ
681 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 11:50:56.27 ID:xAoQ9lSuo

皆様こんにちわ。今日も更新を開始します。

さて前回、フィアンマがやらかしてしまい学園都市は素敵な楽園都市となってしまいました。
フィアンマは加害者であり被害者で、そして原因であるミーシャも悪気なんてものはなく、
とてつもなく厄介な現象としか言いようがないこの一端覧祭六日目。
どうやら概ね好評のようで私も心底安心しています……。

今回は天使だらけとなってしまった学園都市の純粋な被害者の模様をお送りします。
ああ、被害者が学園都市の住人だけとは限りませんが。

それでは、よろしくお願いします!
682 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 11:51:29.25 ID:xAoQ9lSuo


――――――――――――――――――――――


しかし珍しい事も世の中にはあるもので、学園都市の住人がどいつもこいつも
ミーシャ=クロイツェフの顔になっているという、怪談のカテゴリに加えても
いいぐらいの現象にフィアンマが襲われているその頃、


「……」


彼と全く同じ恐怖と混乱に陥れられている人物が、実は同じく学園都市に居た。
レベル5第一位、一方通行である。彼は一端覧祭六日目に、あらゆる案件について
思考を巡らせながらそのついでに、街で偶然出会った『アイテム』の構成員、
麦野沈利、絹旗最愛らとファミレスへ向かう途中だった。
683 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 11:52:09.02 ID:xAoQ9lSuo


「……」


そんな一方通行は現在、歩を止め、道を行き交う学生達の流れの中で一人、
ぽつんと佇んでいた。顔は呆然というか唖然というか顔面蒼白といった、
頭の中が空っぽになっていると窺えるような、そんな表情をしている。

彼は歩を止めたというより、歩けなかった。何故なら同行していた麦野と
絹旗が、彼の細い体をやや乱暴に抱きしめているからだ。
端から見ればじゃれ合っているようにもイチャついているようにも見える、
一部男性陣にとってはあまり面白くないであろう光景だった。
684 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 11:52:55.41 ID:xAoQ9lSuo


ただ。

一方通行に抱きついている麦野も絹旗も、その様子を見てクスクスと
笑ってくる通行人達も皆、


――――――――顔が。


「………………こいつァ、一体誰からの、どォいう意図のサプライズなンだ?」


正鵠を射たようで、実はそうでもない発言をする一方通行。
確かにこれは全体的に言えば一方通行へのサプライズになるのだが、
街中の人間が『こう』なる現象が彼へのサプライズではない。
685 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 11:53:33.17 ID:xAoQ9lSuo

これはただの一環というか、代償というか、端材のようなものだ。
本質ではなく、目的ではない。


「誰の仕業だ?」


麦野と絹旗に両端から抱きつかれながら、一方通行は無表情かつ平坦な声で疑問を口にする。

さっきからベタベタとくっついてくる二人の胸やら何やらの感触が凄まじい事になっていたが、でも顔が。
自分との距離をどこか置いていたはずの麦野や絹旗がやたらと甘えたように密着してくるが、でも顔が。
よく考えたらグラマーな美女と可愛らしい少女にもみくちゃにされるというシチュは喜ぶべきなのだが、でも顔が。
ここで道草食ってないでさっさと数ある案件を一つ一つ解決していかなければ、でも顔が。
今日も快晴空は青。一端覧祭にもってこいの文化祭日和なのだが、でも顔が。
こんな所でいつまでもボーッとしていたらいつまで経っても通行人から笑われるだけだが、でもその通行人の顔も。
686 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 11:54:36.45 ID:xAoQ9lSuo


顔が。麦野の、絹旗の、そこら中に溢れる学園都市の人々の顔が。


自分のよく知る、よくよく知る知る、あの偉大なる大天使様のお顔立ちとクリソツではございませんか。


「だ、誰の……」

「ixsggtpg……。 buysuekrreji」

「ixsggtp超gbuysuekrreji」

「一体全体………………何がどォなってやがンだァァァァァ!!!」
687 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 11:55:12.19 ID:xAoQ9lSuo


誰の仕業だ誰の企みだと言いながらも、一方通行の頭には既に約一名、容疑者の顔が浮かび上がっていた。


星よりも美しく流れる金髪と、何を考えているのか読めないフラットな顔つきの、あの大バカ野郎。
ここ最近ちっとも顔を出さず連絡も寄越さず、どこにいるのかも分からない銀河系宇宙の悪鬼。


「エイワス…………!」


思わずその名を口にしたが、しかし一方通行は確信する事が出来なかった。
大抵、意味もわからぬ現象が自分の身の回りで発生し、原因を探っていけば
たどり着くのはエイワスなのだが、ここ最近ではそうでもなくなっている。
この世から消えたのではと疑ってしまうくらい、一方通行はエイワスと連絡がとれていない。
誘拐事件でエイワスが干渉してこなかったのを機に、彼はあの怪物の身に何かあったのではと
考えている。よって、この吐き気を催す現象がエイワスの仕業だと断言できない。
688 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 11:55:59.03 ID:xAoQ9lSuo

ただ連絡をとれないことも含め、それら全てが今日この日のこのためのフラグなのだとしたら
本当に大したものだと一方通行は思う。しかもその可能性が充分に考えられるからタチが悪い。


「yeb第一cku位ju」

「は、離せオマエら! その顔で近づくンじゃねェ! その不気味にも程がある
 ツラはあのアホ天使以外にゃ似合わねェンだよ、つか怖えェンだよ離せ!」


仕掛けてくるアプローチまでミーシャと似通う麦野と絹旗を押さえながら彼は推察する。


(だが……仮にエイワスじゃねェとしたら誰だ? 風斬やフィアンマがまさかこンな
 くだらねェ真似するはずねェし……垣根か? いや、あいつにこンな芸当が出来る
 とも思えねェ。 やっぱガブリエルか……? あいつにしちゃ回りくどいが……)
689 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 11:57:17.80 ID:xAoQ9lSuo


それに、と一方通行は二人にもみくちゃにされながらも推察を続ける。
目的が皆目見当もつかないのだ。街中の人間、いや下手をすれば世界中の
人間をミーシャ化(ミーシャ化という造語に寒気を覚える一方通行)して、
一体どんなメリットがあるというのか?

そして人間がミーシャ化した事で仕草や性格までミーシャになると仮定すると、
麦野と絹旗の突然の奇行は納得できるが(したくもないだろうが)、ならば何故
周りの通行人は何も仕掛けてこないのか。顔も声も等しくミーシャのそれだと
いうのに、彼らだけは一方通行に何らかのアクションを仕掛けてこない。

現象と規模の基準が掴めない。そしてこの凄惨たる光景。信じがたい事に
ここまで平静を保ってきた一方通行だが、そろそろ彼の許容量にも限界が訪れ始めた。
690 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 11:58:19.04 ID:xAoQ9lSuo

「kxwaz超yzgn超ip」

「よ、寄るな……」


絹旗の顔がド至近距離まで接近してくる。その彼女の顔が本来の絹旗ならまだ一方通行も耐えられるが、
今はどういう訳か、あのミーシャ=クロイツェフの凹凸フェイスだ。こう言うとミーシャに対して失礼
かもしれないが、普通に気持ち悪かった。怖く、気味が悪く、鳥肌が止まらなかった。

他の容姿は全て以前と同じ絹旗、そして麦野だが、整った二人の顔だけがミーシャなのだ。
いい加減天使のあの顔にも慣れてきたはずの一方通行が、あろうことか涙目になってしまっている。


(――――――――、風斬は?)
691 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 11:58:57.28 ID:xAoQ9lSuo


ノイズとハグのスペシャルコンボに板挟みされる中、一方通行はハッとする。


(キャーリサは? オルソラ、アンジェレネ……ヴェントは今どォなってる!?
 それだけじゃねェ、芳川や黄泉川、番外個体も…………そして何より、)


麦野と絹旗がこうなってしまった以上、残りの人間も無事である保証はない。
むしろ『侵されている』可能性の方が高い。今挙げた人物達の顔を頭の中でミーシャの顔に
挿げ替えてみるが――――ダメだ、冗談ではないと彼は振り払うように首を振った。

そして、


(打ち止めのヤツは無事なのか? 電話…………いや直接確認してやる!)
692 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 11:59:57.41 ID:xAoQ9lSuo

ここで彼が優先した人物はやはり、打ち止めであった。
彼女までもがこの現象の影響を受けていたら、さすがの一方通行も耐えられないだろう。
そのまま発狂して身投げくらいなら実行してしまいかねない。

麦野と絹旗による求愛行動(?)によって抱擁というかもう拘束に近い状況下に陥った彼は
やっとの思いでチョーカーのスイッチを切り替え、やむを得ず二人を『反射』した。
そのまま地面を踏み込んで黄泉川が住むマンションに向かおうとしたが、


「……!」


目の前に。立ちはだかるように。


「………………………………ウソだろ風斬」


『天使同盟』最後の良心が、佇んでいた。


果たして、顔は例のアレだった。
693 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:00:55.04 ID:xAoQ9lSuo


――――――――――――――――――――――


学園都市が『ドキッ☆ ミーシャだらけの天使爛漫フェスティバル 〜ポロリはあるけど顔がねえよ〜』で
盛り上がっている同時刻。イギリスはロンドン、真夜中のランベス。石造りのアパートメントの一室で、


「………………どういう、冗談だこりゃ?」


垣根帝督もまた、フィアンマや一方通行と同じ地獄―――否、天国を味わっていた。


「xffcijcxbcm」

「cxbcmdtzj」
694 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:01:55.23 ID:xAoQ9lSuo


垣根の場合、まずは『心理定規(メジャーハート)』の少女とシスターのルチアであった。
あの『光』に胸を貫かれ、しかしそれ以降目立った変化がないと察した彼は頭のもやもやを拭えぬまま
仕方なくといった調子で就寝についたのだが、彼が夢の世界へ旅立つ前に現象は起きた。

フライングボディプレスだった。横になって寝ている垣根にリングの上でもない審判もいない
状況で、危険極まりない技が突如として襲いかかった。
肺の酸素を全て吐き出す事を余儀なくされ、何事だと憤りながら起き上がると、垣根の体の上に
何かが乗っかっていた。ドレスの少女である。うつぶせの状態で彼女はのしかかっていた。


ふざけるなと一喝しやや暴力的にドレスの少女を振り落とそうとしたが、そこに第二の魔の手が
彼の背後から奇襲をかけてくる。神聖なる修道女、ルチアであった。彼女は後ろから甘えるように
垣根に抱きつく。普段の彼女の性格を考慮するとおよそあり得ない行為であり、怒りよりも疑問が
優先された垣根は首を動かし後ろへ振り向く。
695 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:03:07.36 ID:xAoQ9lSuo


フィアンマや一方通行の例に漏れず、垣根に密着してきた二人は――――顔が無かった。


「おいテメェら、ふざけんな! んだよそのふざけた顔は!」


そのふざけた顔を彼はもう幾度と無く見ているのだが、ミーシャ以外の人間が凹凸フェイスに
なっている事に、戦慄せざるを得なかった。しかもフィアンマや一方通行と違い、垣根がいる
ここイギリスは真夜中である。月明かりだけが光源の暗闇の部屋で突然ミーシャの顔を被った
ドレスの少女とルチアが音源不明のノイズを撒き散らしながら密着してきたのだ。
ここで発狂せず、冷静とはとても言えないがしかし取り乱さなかった彼の精神は称賛に値する。


「fgnadzex」

「お前ら顔はどこへやったんだよ……。 まさかエイワスのクソ野郎が何かしやがったか?」
696 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:04:07.88 ID:xAoQ9lSuo


一方通行と同じ推論に垣根帝督も至った。やはり思考パターンが似ているのだろうか。
もっとも、例えば風斬がこれと同じ状況下に陥った場合も、まずエイワスを疑うだろう。
その風斬はまことに残念ながら学園都市にて『被害者』と化しているのだが……。


少女とルチアは尚も上半身を起こした垣根の体に張り付くように密着し、離れない。
彼の胸と背中に柔らかな心地よい感触が伝わってきているが、そこで鼻の下を伸ばし
この状況を楽しむほど今の垣根に余裕は無い。


(顔だけじゃなく行動まであのクソ天使に似てやがる……! 急にどうしたってんだ?
 何が起きた? ちくしょう、こんな顔が至近距離にあったんじゃこの現象の原因を
 探る前に俺の精神がもたねえ……。 一方通行の野郎、いつもこんな思いをしてたのか……)
697 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:04:52.46 ID:xAoQ9lSuo


自分でもよくわからない同情心を学園都市の第一位に向けていると、


「……」


もぞっ、と垣根帝督達とはまた別の影が動いた。同じ部屋で寝ていたパトリシア=バードウェイだ。
垣根の声が響いたため起きてしまったのだろうか。彼女は垣根に背を向ける形で起き上がる。


まるでこれからゆっくりと振り向いて――――垣根を心底驚かせてやろうと企んでいるかのように。


「ま、待てこのガキ……まさか。 こっちを振り向くんじゃねえ……!」
698 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:05:57.52 ID:xAoQ9lSuo


まさか、というかやはりパトリシアも。そんな不安が頭によぎる。
さすがにミーシャフェイスのジェットストリームアタックを仕掛けられたら
垣根の精神的な許容量をオーバーしてしまう。パニック状態は避けられない。
フィアンマと一方通行は少なくとも二〇〇万以上という数の現象を現在進行形で味わっているが。

垣根の願いも虚しく、パトリシアはゆっくりと彼の方へ振り向く。


「よせ―――――」

「え? 何ですか……?」

「……!? ………………"無事"なのかよテメェは」
699 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:06:50.06 ID:xAoQ9lSuo


結局、パトリシアから視線を逸らす事は出来なかった。が、豈図らんや、パトリシアの顔は
いつもの何ら変わらぬ、あどけなさが残った可愛らしい顔立ちのままであった。寝ぼけ眼が
彼女の可愛らしさを更に引き上げている。


「どうしたんですか垣根さ―――ひゃっ!? な、何をしているんですか
 あなた達は! そ、そんな……夜にそんな、はしたないというか大胆というか……」

「妄想たくましくしてもらってるとこ悪いんだがよ、お前が考えてるような
 リア充爆発シチュエーションとはかけ離れてんだこの状況は。 おい、
 今すぐバードウェイ……未だに帰ってきやがらねえお前のクソ姉と連絡取れるか?」

「え、お姉さんにですか……? 一体なぜ……」
700 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:07:39.20 ID:xAoQ9lSuo

「何故じゃねえよ! これ見ろクソガキ、暗くてわかんねえのか?
 このバカ二人の顔が"攫われちまってる"! 明らかな異常事態だろうが」

「zjtwjsjih」

「urmnecu」

「テメェらは黙ってろ」


年頃の女の子二人と布団の上でイチャついている(ように見える)光景に
顔を真っ赤にしたかと思えば、今度はキョトンと首を傾げるパトリシア。
何かに対して疑問を抱いたらしい。

それは姉のレイヴィニア=バードウェイと連絡をとれという垣根の申し出に対してか、
少女とルチアの顔がつるぺたになってしまっている異常事態に対してか。
701 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:08:23.36 ID:xAoQ9lSuo


否、そのどちらでもなかった。


「お二人の顔が……何かおかしいんですか?」

「いやマジ頼むぜ妹ちゃんよ。 お前は顔じゃなく頭がおかしくなったか?
 二人の顔がねえんだよ! お前は天使なんてお目にかかった事はねえだろう
 から分からねえかもしれねえが、それ抜きにしてもこの顔はおかしいだろうが!
 あと声も! ついでに行動も! これが異常じゃなかったらこの世に異常なんてねえよ」

「別に、普通の顔にしか見えませんけど……声も。 だ、抱き合ってるのはともかく……」

「なに? お前にはこいつらの目と鼻と口が見えてるのか?」
702 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:09:13.17 ID:xAoQ9lSuo

尋ねてみる垣根だが、既にその心には新たな不安が沸き上がっていた。
こういう時、当たらなくてもいい不安は的中してしまうものである。


「いえ、その……目も鼻も口も無いですけど……それが別段おかしいとは思いません」

「あ……?」

「声だって、"最初から"そうだったじゃないですか」

「何を……言ってやがんだこのガキは。 ……じ、じゃあなんだよ、
 俺やお前はこんな顔じゃねえだろうが! まさか俺達の方が異常
 だって言うつもりか!? 最初からって、ここに来た時こいつらは―――」
703 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:09:53.23 ID:xAoQ9lSuo

「顔に何も無いなんて、『普通』じゃありませんか。 私や垣根さんは
 元々こういう顔つきですし、彼女達は元々そういうお顔なんですよ。
 そんな事で取り乱すなんて……垣根さん、やっぱりお疲れなのでは?」

「ヤバいヤバい、マジヤバいよおいどうしちまったのこの世界」


目も鼻も口もない、声にノイズが混じっている。


それが普通であると、パトリシアは言う。多分、彼女は本気でそう言っている。
これが普通、平常、通常。これが世界の常識であると、彼女は断言する。


(………………この分だと、バードウェイやステイルも……)
704 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:10:39.17 ID:xAoQ9lSuo

垣根は未だに背中から抱きついてくるルチアに体を預け、がっくりと項垂れた。
魔術との向き合い方、これからの生き方、そういった自分自身の指針について
真剣に考え、精神的にボロボロだった彼に、この現実はあまりにも酷であった。


「え、何? 何なのこれ? 急に、どういう罰ゲームだこれ?
 ドッキリにしちゃ手が込みすぎてるよな? ワケわかんね……」


思考を放棄して眠ろうにも、ドレスの少女とルチアにこうしてベタベタされては
眠れやしない。そこまで垣根帝督は図太くもないし無関心にもなれない。


「うああああああああああクソったれ、意味わっかんねえぞコラァ!!!」

「ひっ……」
705 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:11:21.04 ID:xAoQ9lSuo


ついに叫んでしまう垣根。パトリシアが肩を震わせて驚いたが、彼は意に介さない。
原因も目的も不明瞭なこの現象に殺意すら覚えるがその憤りをぶつける対象も無い。
いっそこの現実を受け止めてしまおうかとも考える垣根だったが、普段の二人を知っている
だけに放っておくわけにもいかない。


「……」


しばらく茫然自失になっていた垣根はふと、ほぼ無意識にこんな事を言った。


「なんで俺とパトリシアは、"無事"なんだろうな」
706 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:16:32.83 ID:xAoQ9lSuo

今回の投下は以上でございます。

少なくともフィアンマよりは冷静だった一方通行と垣根帝督。
まあフィアンマは仕方がないと言うしかありませんが……。

現時点で何がどうなってどういう目的で何が起きてるのか、作中で明らかにはなっていませんが
しかしここまでのお話を読めばこの現象の詳細がわかるようにはなっています。
次のお話を読めばさらに判明しますが、最終的にどうなるんだっけこの話……。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
707 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/05(火) 12:18:01.23 ID:xAoQ9lSuo



                          【次回予告】



「うおおおちっくしょう!! インデックス、どうなってんだクソッ!!」
学園都市の無能力者(レベル0)――――――上条当麻




「けろけろけろけろけろ……!」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ



708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/06/05(火) 12:22:38.00 ID:dlEEpANso

フィアンマさん大丈夫かwwww
ゲコ太の呪いでもかかったのかwwwwww
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/06/05(火) 12:27:17.98 ID:8YMY6fBe0

けろwwけろwwwwけろけろけろwwwwww
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/05(火) 12:28:37.52 ID:46QRRB2M0
>>1乙!!!!
けろwwwwwwwwwwwwけろけwwwwwwwwえおkrwwwwwwwwwwkろwwwwwwwwwwwwwwwwww
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽) [sage]:2012/06/05(火) 12:34:56.39 ID:PCgqek3AO
やはりか上条さんwwwwwwwwwwwwwwwwww
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/05(火) 14:32:33.89 ID:9JuKj71z0
フィアンマが壊れたwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/06/05(火) 16:33:50.24 ID:Oj8kriIwo
フィアンマwwwwwけろけろwwwwww腹がwwww
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/05(火) 16:37:45.11 ID:0RmqdQON0
けろけろ、けろけろけろww
けろけろ!>>1けろ
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/05(火) 16:58:02.38 ID:0eX21LL50
乙けろ!ww
どういうことだコレはwwwwwwww
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/06/05(火) 18:40:52.05 ID:XZeh3pkO0
乙wwwwwwww
フィアンマどうしたwwww
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/06/05(火) 20:02:15.92 ID:TI5aaNoC0
けろけろwwwwけろwww
フィアンマwwww22巻挿絵でドヤ顔してたお前はどこいったんだよwww

正常なやつらのSAN値減少が心配だなー。よく精神吹っ飛ばなかったな(特に垣根)

乙でした
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/05(火) 20:44:47.33 ID:jmxHTYxd0
>>1
フィwwwアwwwンwwwマwww
けろけろけろけろwwwwwwww

風斬までもかー
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/05(火) 20:52:55.20 ID:t8QmWWG7o
>>717
クトゥルフじゃねえからwww
SAN値なんてねえよwww
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/05(火) 21:07:21.78 ID:KJm8SxE30
上条さん、なまじ幻想殺しがあるだけに右手で触って治らなかったら絶望感すごそうww
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/06/05(火) 22:34:26.78 ID:QCvsF/mto
腹痛いwwwwwwフィアンマwwwwwwwwwwケロケロwwwwwwwwwwww
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/06(水) 04:27:01.96 ID:sT0l0bXDO
ヤバい…

感想がフィアンマのけろけろですべてぶっとんだwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
723 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:48:22.89 ID:UR4JeBRMo

こんにちわ皆さん、今日も更新をしていきますよ〜。

って次回予告が全てを持っていってやがる……、これだから次回予告の選別は
慎重に行わなければいけないのですよね。いえ、私としては嬉しい限りですが。

さて今回はフィアンマに更なる、さらなる悲劇が襲い掛かります。
フィアンマ、一方通行、垣根帝督が天使だらけの桃源郷を楽しんでいる中、
やはりあの少年も被害に遭っていました。

そして今回はちょっとギャグパートではない行間を挟んでおります。

それでは、よろしくお願いします!
724 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:48:49.53 ID:UR4JeBRMo


――――――――――――――――――――――


フィアンマの足取りは重い。端正な顔立ちは見る影もなくやつれており、
その浅い呼吸は今にも止まってしまいそうだった。


「…………このままではいけない。 このままでは……いけない」


ぶつぶつと譫言のように学園都市の現状をフィアンマは嘆く。
壁に手を添えながらふらふらと放浪者のように街を彷徨う。
学園都市の全住人が(顔だけ)天使と化したこの街を、宛てもなく彷徨う。
725 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:49:33.67 ID:UR4JeBRMo


気がつけば結局、第七学区に戻ってきていた。いや、元々どこへ向かってという
明確な目標を持って走り回っていた訳ではないので、戻ってきたという表現は
適切ではないかもしれない。もしかしたらフィアンマはずっと第七学区をがむしゃらに
走りまわっていただけかもしれない。

とにかくフィアンマは現在、第七学区にいる。


「……どうする。 いくら『神の如き者(ミカエル)』でも過去へ遡って
 歴史を修正するという所業は……。 いや、そういう非現実的な考えを
 浮かべている時点で俺様はまともではないのだ。 考えなければ……」

『思考を巡らせているところ恐縮ですが、第一の質問を述べてもよろしいですか?』
726 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:50:23.80 ID:UR4JeBRMo

声は、フィアンマの左手から聞こえた。正確には彼の左手が握っている透明のビン。
そこに収められているサーシャ=クロイツェフの魂。彼女は魂と化している影響なのか、
心にとぷんと響き渡るような幻想的な声色で言った。


「何だ……? 質問? 心当たりがありすぎるな……」

『どうやらあなたは自身が発動させた大魔術の効果に対しひどく落胆している
 ようですね。 補足説明させていただきますと、この街の住人の顔や声の
 絶望的な変化に、でしょうか。 私には何のことやら未だに分かりかねますが』

「……俺様にしか観測できん現象らしいからな」

『そこで質問なのですが、』


サーシャは適当に前置きをして、本題に移った。
727 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:51:23.99 ID:UR4JeBRMo


『向こう、ほら、あのアパートのような建物です。 そこにいる男』

「?」


サーシャは魂だけの存在となっているため、『そこだ』と指をさす事も出来ない。
二時の方向です、と補足説明する事でようやくフィアンマにも伝わった。
そこには彼女の言う通り、安っぽいアパートメントのような建物がある。
二人は知る由もないが、そこはアパートではなく学生寮であった。

そしてその学生寮の入り口で、何人かの人間が揉め事を起こしている様子が窺えた。
学生寮は二人の位置から五〇メートルほど距離が離れているためなかなか詳しく
人物を特定出来なかったが、

モメている数人の内の一人、
728 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:51:59.00 ID:UR4JeBRMo


『あの男……少年、私は以前にロシアで、あなたの作った空中要塞の中で出会っているのですが、
 彼は一体何者なのですか? あの時は聞きそびれてしまったのですが、あなたなら或いは
 知っていたりするかもと思いまして。 というか、あの少年とあなたは要塞で戦ってましたよね?』

「……!」


そうだ、とフィアンマは目を皿のように見開きながら、全身を細かく震わせた。
失意の闇に飲まれ、しかしその闇に一縷の望みというか細い、だが確かな光が
差し込んできた時のような、歓喜の震え。
729 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:52:34.75 ID:UR4JeBRMo




「うだー、ちくしょー!!」

「上条……上条当麻……!」




特異な右手を有するツンツン頭の少年。かつてフィアンマが引き起こした
戦争の第一線を突っ走り、圧倒的な力を振るうフィアンマをその右手で、
異能の力を全て打ち消す『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で撃破したヒーロー。
730 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:53:16.38 ID:UR4JeBRMo


よく考えたら、それもそうだとフィアンマは納得した。
彼が何に納得したのかを説明する前に、上条当麻の『状態』を描写しておこう。

上条は『無事』だった。顔も、声も、あの大天使を模写したような現象は見受けられなかった。
相変わらず何らかのトラブルに見舞われているようで表情が歪んではいるが、それは立派に、
上条当麻という人間を主張する表情、顔であった。

では何故彼はこの『御使堕し(改)』の影響――というかもはや呪い――を受けていないのか。
フィアンマは納得した。右手だ。自分と同じ特殊な右手を持つ上条。『幻想殺し』は例え
世紀の大魔術だろうがその右手で打ち消せてしまう。

彼なら或いは、この現状を打破できるかもしれない。そう考えたフィアンマは表情を綻ばせかけたが、
しかしそれには至らなかった。
731 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:53:58.35 ID:UR4JeBRMo


(……いいものなのか? 今、俺様があの男と接触して)


フィアンマは世界中を巻き込んだ戦争の引き金を引いた大犯罪者だ。
もちろんそこに、上条当麻をも巻き込んでいる。彼の大切な人間も。
上条のお人好しっぷりをフィアンマは最後の最後、ロシアでの別れ際に
思い知らされたが、しかしここでも普通に接してくれるとは限らない。

出合い頭にぶっ飛ばされるかもしれない。今のフィアンマとしてはそうしてくれた方が
いくらか気は休まるが、それでは話にならない。

どうやら上条は誰かとモメているようだし、それが収まってから接触してみようと
フィアンマは結論づけた。遠目から彼の様子を観察する体勢に移る。
732 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:54:40.55 ID:UR4JeBRMo


しばらくすると、上条が学生寮の入り口から外へ出てきた。
それに続くように、恐らくは彼の口論の相手であろう何者かも一緒に出てくる。
小柄の、白い修道服を着た少女だった。


(…………禁書目録か。 あれからずっと、上条と共に……)


二人が外に出てきた事でしっかりと姿を確認できた。
ついでに二人の会話内容も、大声であるためか容易に傍受する事ができた。
733 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:55:17.03 ID:UR4JeBRMo




「うおおおちっくしょう!! インデックス、どうなってんだクソッ!!」

「anjとうまdbとうnjまhgp」

「おえっ」




フィアンマは吐いた。ビンの中のサーシャが何か喚いたが、構わず彼は嘔吐した。
734 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:55:59.13 ID:UR4JeBRMo


「けろけろけろけろけろ……!」

『ちょ、ちょっと……フィアンマ!? 急にどうしたのですか!』

「けろけろけろけろけろ……ヴォッ、おっ、おっ、おっ、……けろけろけろ……!」


別に気持ちが悪くなって吐いた訳ではない。別に、"インデックスの顔が例のアレに
なっていたから"吐いた訳ではない。


また壊してしまった。人と人との繋がりを。大切な絆を、よりによってあの二人の絆を。
もう二度と間違えないと誓ったはずなのに。上条が取り戻した世界を壊すまいと、
決意したはずなのに。フィアンマは壊してしまった。二人の世界を。
735 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:56:51.71 ID:UR4JeBRMo


「bhrgとうeyeまyta」

「ああもう、何だよこれ……不幸とかそういう次元を超えてるだろ……。
 この気味の悪い顔もなんかどっかで見た事あるし……。 あーダメだ、
 いくら右手で触っても治らねえ……。 これも魔術師の仕業か、クソ!」

「hjaごcth飯dugm。 ごはん」

「んでこんな状況でもメシをご所望かい!」


その光景を、フィアンマは遠目から見つめる事しか出来なかった。
既にボロボロになった二人の世界に、に自分が土足で踏み込んで
荒らす真似など、彼にはもう出来なかった。
736 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:57:30.53 ID:UR4JeBRMo


と、その時。


「?」


変貌してインデックスの相手に奮闘していた上条の下に、さらに何人もの女の子が突然
わらわらと集まってきた。フィアンマは怪訝に眉をひそめる。
上条の下へ集まった女の子達はもちろんのっぺりとしたあの顔になってしまっていたが、
そこら辺の通行人がランダムに彼の下へ詰め寄ってきている訳ではないらしい。

その証拠に、彼の意思に関係なく完成してしまった上条ハーレムの前を何人かの女子生徒が
スルーして通りすぎている。そして上条の下に集まった女の子の内、何人かはフィアンマも
見覚えがあった。
737 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:58:24.23 ID:UR4JeBRMo


前髪を切り揃えた美しい黒髪の少女。前髪を別けて額を露出させた巨乳の女子生徒。
変わった配色の衣服をまとった、恐らくは魔術サイド側の人間であると見受けられる少女……は、フィアンマは知らなかった。
おまけに常盤台中学の『超電磁砲』も群れの中におり、彼は驚いた。
その美琴に容姿がそっくりの、額にゴーグルを装着した少女が何人も押しかけていたが、
あれが以前に美琴が話した体細胞クローンの『妹達』なのだろうとフィアンマは理解する。


当然、それら全ての女の子は皆例外なく『呪い』の被害を受けてしまっているが。


(この……現象は? 大勢の女が上条当麻に対し求愛に似た行動を起こしている?
 女はランダムではなく、あの様子だと恐らくは特定の女だけ……)
738 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:59:21.39 ID:UR4JeBRMo


別に解決策が見つかった訳ではないが、それでもフィアンマは諦めかけていた
思考を再び巡らせる。変化した顔と声ばかりに注目しがちだが、今、上条の身に
起きている一種のハーレムじみた現象はどう考えても『異常』だ。

解決策はひとまず後回し。まずはこの現象、というか大魔術の副作用の『詳細』について
調べる必要があるのでは、と彼は考えた。


(吐いている場合ではないかもしれん。 現象の詳細を掴む事で、そこから解決策を見出せるかも……)


おぞましい顔の女性に取り囲まれた恐怖で絶叫している上条が気掛かりだったが、
フィアンマは心を鬼にしてその場を後にした。
739 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 14:59:52.82 ID:UR4JeBRMo


――――――――――――――――――――――


さて、ここまで一端覧祭六日目の惨劇をお送りしてきたこの蛇足という名の物語ではあるが。


ここで一旦、時計の針を巻き戻してもらおうと思う。


遡るは現在より約一週間以上前―――そう、あの世界最大規模の、本当の意味での惨劇となった事件。


通称『第一九学区事件』。
740 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 15:00:25.84 ID:UR4JeBRMo




『撃てます』

『当ァたれェェェェェェェェェええええええええええええええええええええええッッッ!!!!!!!!!!!!!!』




垣根帝督が錬成した『天使同盟(アライアンス)』を象徴する『槍』が、
一方通行の渾身の投擲によって空を突き抜けた直後の事だった。
『槍』の装飾であった羽根が、空から世界中に散りばめられるという
常軌を逸した超常現象が発生した。

世界中に降り注いだのだから、当然ほぼ世界中の人間が現象を目撃している。
741 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 15:01:14.20 ID:UR4JeBRMo

それはロシアで『天使同盟』の無事を願っていたサーシャやワシリーサ、レッサーやエリザリーナだったり。
イギリスで『天使同盟』を支援に向かった仲間を見送ったエリザードだったりリメエアだったりヴィリアンだったり。
同じくイギリスで大天使ミーシャ=クロイツェフの現存を信じたオルソラだったりアンジェレネだったり、
ルチアだったりアニェーゼだったりシェリーだったり。
世界中に派遣された、事情を知らないはずの『妹達(シスターズ)』だったり。

後に『天使同盟』と相見える事になるオッレルスだったりシルビアだったり。

後に『天使同盟』に加盟する事になる右方のフィアンマだったり―――――そして。




「いっその事、この私から『聖人』の力を全て抜き取ってから終わって欲しかったものだ」



742 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 15:02:18.28 ID:UR4JeBRMo


彼女は『必要悪の教会(ネセサリウス)』が管理する対一級魔術師用牢獄施設の一室にいた。


己の魔力を枯渇させんと吸収してくる謎の『黒い霧』に対し、しかし彼女は臆することなく
余裕の態度を見せながら誰に言うでもなくそう呟いた。
部屋の外から喧騒が聞こえてくる。『黒い霧』の他に、どうやらイギリス清教ほどの組織が
混乱状態に陥る何らかの現象が発生したらしい。


「こうなると……、こういうわかりやすい隙を見せつけられるとな……」


部屋の隅に座り込んでいた彼女はゆっくりと立ち上がった。
体調を確認するように彼女は拳を開閉させ、己が内に収められた"力"が
まだ完全には失われていない事を知る。
743 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 15:03:32.74 ID:UR4JeBRMo


「―――足掻いてみたくもなる」


瞬間、彼女は迷いなくその拳を部屋の出入口である、厳重過ぎる不可侵術式が
施された扉に向かって突き出した。

案の定、強大過ぎる彼女でさえも突破出来ないはずの扉が派手な音を立てて吹き飛んだ。
『黒い霧』は彼女だけではなく、魔力をまとう全ての生物、物質を無と化しているのだ。
彼女ほどの力があればいくら厳重な術式がかけられていようと、ビスケットを割るのと同義であり、
容易だった。


そしてここは牢獄施設だ。
744 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 15:04:18.08 ID:UR4JeBRMo


彼女が起こした行動は即ち―――脱獄であった。


作った穴から廊下に出てみる。どうやら彼女以外にここから脱獄を図ろうという
囚人はいないようだった。これは彼女の予想だが、恐らく『黒い霧』の現象を前に
取り乱し、脆くなった部屋から脱獄するという思考に至れないのだろう。

何者かが彼女に声を張り上げてきた。この牢獄施設の看守的な役職に就いている
魔術師だ。看守は彼女が脱獄した事実を壁に空いた穴の様子から即座に察する。
このような状況下に置いても、相変わらず混乱しながらも、しかし職務に全うする
その姿勢は賞賛に値するだろう。
745 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 15:05:09.57 ID:UR4JeBRMo


だが彼女の知った事ではなかった。『黒い霧』は魔力を有する万物に干渉する。
つまりこの看守も魔力を吸い取られ、ろくに魔術を使えないということだ。


「ひっ」


彼女は石造りの床を蹴り、飛びかかるように看守の下まで距離を詰めた。
看守が腰に携えていたダガーを一瞬で奪い取り、刃を首に突きつける。


「私が持っていた西洋剣……、どうせ今もここで管理しているんだろう?
 まずそれの回収を手伝ってもらおう。 当然、脱獄の援助も……な」

「あ……、う」
746 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 15:06:13.75 ID:UR4JeBRMo


「それともう一つ。 これはお前程度の人間には知らされていないかもしれないが」


首元の刃をより強く突きつけた彼女は小声で、しかし強調するようにその名を口にした。




「セイリエ=フラットレーという少年は今、どこで保護されている?」




この日、前代未聞の超常現象に見舞われた世界の裏で―――影で、
イギリス清教にとっての前代未聞の事件が勃発した。

事の発端は一人の女、魔術師の脱獄。


後の話になるが、彼女はこの現象を引き起こした連中と出会う事になる。
747 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 15:10:45.50 ID:UR4JeBRMo

けろけろけろ……という嘔吐の演出は、福本伸行氏の何かの漫画で
モブキャラがこういう嘔吐をしていた覚えがあったので真似させていただきました。
何の作品だったかちょっと思い出せないのですが……なんだっけ。

てなわけで今回はここまでです。

まあ当然ですけど、上条当麻もやられてしまいました。
大事なパートナーであるインデックスまでもがアレになってしまい、
さすがのフィアンマもショックを隠しきれません。

そして行間、これについては『急に何の話だ?』と思われる方が多いでしょうから、
お手数ですがその場合は本編の最終章、『槍』投擲直後辺りを読みなおしていただけると
わかるかと思います。過去の話を強制的に読ませるとかどんだけ最悪な書き手なのでしょうね……。

次回はフィアンマがそろそろ本腰を入れて事態の解決に望みます。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!


748 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/08(金) 15:11:26.60 ID:UR4JeBRMo



                          【次回予告】



「(原因は未だ見えてこねェが、これ、ガブリエルが"増殖"してやがるな?)」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)




「……事後処理だ。 俺様の失態で狂ってしまったこの『楽園都市』を修正する」
『天使同盟』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ



749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 15:34:13.60 ID:8i1g+MvSO
>>1乙………………楽園?
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 15:36:16.15 ID:ZHMDTrYko
楽園と書いて「がくえん」と読むべし
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 15:49:29.58 ID:fmFv8CiZo
まぁ楽しそうではあるな
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 15:51:16.83 ID:Atjz3pPZ0
『楽園』と書いて『ハーレム』と読むんだ
つまり・・・
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 19:30:21.75 ID:8i1g+MvSO
つまりどういうことだってばよ
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage ]:2012/06/08(金) 21:32:07.86 ID:vphakOFL0
つまりは、もう少し待ったら、オルソラと黒子が俺のとこに来て、ムニュムニュチュッチュってなるってことだな
それにしても、なかなか来ないなぁ、、、
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/08(金) 21:33:44.30 ID:tyf0QZza0
失楽園の間違いじゃないか?
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/08(金) 22:04:32.53 ID:fH7RcZ3q0
天使化した人間は性格や言動が天使寄りになってしまうらしいな
ちくしょう当麻爆発s……上条、さん………お体には気をつけて…(目を逸らしながら)
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/08(金) 22:36:22.61 ID:NQy2KGPF0
みんなガブみたいな行動とり始めるのか・・・。
羨まし・・・くないな
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/09(土) 02:34:51.84 ID:Ph30XLxIO
ん?学園都市の住人みんなが「頂きます」したら窓割っちゃう状態なの?
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/09(土) 09:16:15.62 ID:/vYhgKZPo
学園都市の住民みんながくしゃみしたらコンクリ粉砕する状態か
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/09(土) 18:26:39.62 ID:JScak7am0
学園都市の住民みんなが万引きを平気でするようになるのか
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/06/10(日) 19:13:36.84 ID:CjCkRWR3o
それなんて世紀末?
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/11(月) 05:09:35.25 ID:k9mcg3d20
ヒャッハー!
763 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:28:10.60 ID:6MieMPHGo

天使だらけの世界なんて楽園以外表現のしようがないでしょう。
いや、でもこのSSに限っては地獄でしかないかもしれませんが……。

皆様おはようございます。今日も更新を始めたいと思います。

さて今回は……何でしたっけ。そう、フィアンマがやっと落ち着きを取り戻し始め、
事態の収拾に勤しむのです。
だがその頃、一方通行側では大変なことが……これ以上大変なことなんてあるのかと
言いたくなりますが、とりあえず大変なことが起きてました。そこから始まります。

それでは、よろしくお願いします!
764 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:29:17.11 ID:6MieMPHGo


――――――――――――――――――――――


やや遠慮がちながらもいつも自分に愛くるしい笑顔を見せてくれた風斬の顔が、
麦野や絹旗と同じく"無くなっている"事に一方通行は愕然とする他なかったが、


「jpwtuspbk」

「bkkpfr」

「やめろオマエら、急になンだってンだ!?」


もう顔がどうとか声がアレとか言っている場合ではなかった。
765 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:29:52.90 ID:6MieMPHGo

能力によって麦野と絹旗を振り払った一方通行の前に現れた風斬は、
麦野らと何らかの会話を交わした後――言語が理解出来ないため内容が把握出来ない――、
突如として戦闘行為を始めてしまったのだ。

容赦も遠慮も度外視した麦野の殺人光線が射出され、風斬がそれをAIM拡散力場で
構成したのであろうバリアのようなもので霧散させたと思ったら、絹旗が自身の能力を
駆使して一気に風斬の懐に詰め寄り拳を振るい、風斬は瞬時にあの紫電を放つ翼を展開し
空へ避難する。

風斬がその翼を振るって遠距離攻撃を放ち、対する麦野はやはり十八番の殺人光線で
それを相殺させていく。絹旗は脅威の跳躍で空中の風斬との距離を縮めてエリアルコンボを
披露し、それを全て(片手で)捌いた風斬が絹旗を地面に叩き落す。
766 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:30:35.61 ID:6MieMPHGo


映画の撮影ですと言えば言い訳もでき―――ない。ここにはカメラも回ってないし
スタッフもいない。いるのはバトル漫画のような戦闘を繰り広げる美女三人と、
その光景を前にあたふたするだけの学園都市最強(笑)の超能力者だけである。

構図だけを見れば麦野&絹旗vs風斬なのだが、漠然とそう捉えていた一方通行の
予想を裏切るように、さっきまで共闘していたはずの麦野が急に絹旗へ牙を剥いた。


「hkjktthdeucpfsh」

「――――超sfpccmkkni」


麦野の『原子崩し(メルトダウナー)』を絹旗はすんでのところで回避した。
風斬のように霧散できなかったため、そのビームは無関係の―――このバトルを
呆然と眺めていた野次馬に飛んでいったが、そこにすかさず一方通行が割り込んで
能力を使い上空へベクトル変換し事なきを得た。
767 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:31:43.87 ID:6MieMPHGo


「ふざけンなよ麦野、オマエ! 見境なしかよ!?」


とりあえずそう叫んで激昂してみた一方通行だったが、依然として混乱したままであるのは
言うまでもない。今の彼に脳内メーカーを照らせば頭いっぱいにインテロゲーションマークが
詰まっているだろう。

何が何やら分からない。麦野vs絹旗vs風斬という構図が成立している理由が分からない。
何の前触れも打ち合わせもほのめかしも伏線も無しに始まったバトルの意味するところが
理解できない。自分がいない間に、この三人の間で喧嘩に発展するようなトラブルがあったのかと
考えたが、だからといってこんな街中でドンパチを起こすほど彼女達の常識は欠けていない。
欠けているのは顔だけである。


さてどうしたものかと考える暇を、この歪んだ世界は与えてくれない。
三人が織り成す熾烈な戦闘に乱入者が現れた。『Here comes a new Challenger!』だ。
768 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:32:34.55 ID:6MieMPHGo


「………………irrwyyp邪cwf魔dzbxb」


三人の間に割りこむように上空から颯爽と舞い降りた乱入者は、ボンテージにも似た
真っ赤なドレスに身を包んでいた。言わずもがな、それは三日前に一方通行が必死で
看病をした英国『王室派』の第二王女様、キャーリサであった。

彼女のが右手に握る宝石の欠片のような物体――カーテナの欠片から、"淡い青の光"が剣の如く伸びている。
『グラストンベリ』の恩恵も受けていないのにどうやってカーテナの力を引き出しているのかは、
魔術に関する知識に疎い一方通行はおろか、恐らくキャーリサ自身も分かっていない。


(…………王室派の第二王女までもが、)
769 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:33:26.24 ID:6MieMPHGo


分かっているのは、狂戦士が四人となったこの戦場を陰からひっそりと除き見ている
フィアンマくらいのものだろう。上条が住む学生寮から移動し、この騒ぎを察して
彼はこの一帯に足を運んでいた。


(英国の移動要塞型霊装の恩恵など必要はないだろうな。 何せミーシャ=クロイツェフの
 純然たる『天使の力』がこの学園都市に等しく分配されているんだ。 当然、その対象に
 あの女が持つカーテナも含まれている。 『神の力』の属性である青の光を帯びているのが
 その証拠だ。 『御使堕し(改)』の副作用がこういう形で現れるとは思わんかったが……)


ここへ至る道中のコンビニで購入したミネラルウォーターを口に含みながら、彼は務めて冷静に
戦場の状況を分析した。ちなみにコンビニの店員がアレになっていた事は言うまでもない。
770 :×→除き見 ○→覗き見  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:35:22.97 ID:6MieMPHGo


教科書にも載っているような名高い第二王女が現れた事で周囲の野次馬が更に騒ぎ出すのではと
一方通行はそんな心配をしている場合じゃない心配をしたが、よく見ると、よく見なくても、
キャーリサは透過度の低い黒のサングラスに、頭には例のうさ耳バンドを装着していたため、
周囲の学生たちは彼女が第二王女である事に気付いていないようだ。

キャーリサ達はもちろん、その周囲の学生も漏れなく顔がミーシャ仕様になっているため
表情は窺いようがないが、恐らくは気付いていない。


「bgs一閃eed」


そして、一瞬だった。一閃にして、一瞬だった。
771 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:36:17.10 ID:6MieMPHGo


キャーリサは頭のうさ耳をひょこひょこ揺らしながら右手に携えるカーテナを一振りした。
それだけの動作で科学の人工天使が、学園都市第四位が、一方通行の防御性を誇るレベル4が、
瞬く間に薙ぎ払われ、吹き飛んでしまった。その凄まじい剣撃の余波が一方通行と野次馬を襲う。


だが一方通行が驚かされたのはカーテナの威力ではなく、


「muyhうさぎuakk」

「う……」


もはや収拾がつかないレベルの騒動の中心に立ち、王女としての強さを遺憾なく発揮し、
風斬達を虫のように払った事などもう忘れたと言わんばかりに、一方通行の下へとてとてと
駆け寄って抱きついてきたキャーリサの奇行に、彼は絶句せざるを得なかった。
772 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:37:42.60 ID:6MieMPHGo


「rftxwgtf」

「……」

「fxferghc」

「……」


何を言っているかはもちろん分からなかったが、何が起きているかは、ここまで
地獄絵図ならぬ天国絵図を見せつけられた一方通行は大凡理解出来てしまった。


(あのクソ天使に似た顔……似た声、そして暇がありゃ抱きついてくるこの行為……)
773 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:38:30.53 ID:6MieMPHGo

それは一方通行だから。『天使同盟(アライアンス)』の創立者である彼だからこそ、至れる結論だった。


(原因は未だ見えてこねェが、これ、ガブリエルが"増殖"してやがるな?)


結論というか、仮説の域を出ない推測ではあったが、仮説の時点で一方通行は吐き気を催した。
フィアンマと同じく、危うくキャーリサのつるっつるのお顔に汚物を吐き散らすところだった。
天使の増殖。『追加』ではなく『増殖』という点がミソだ。

もっとも、追加だろうが増殖だろうが、まずあってはならない事だが、天使が増えるなどという
事態になれば一方通行は壊れてしまうだろう。ミーシャ一人でさえギリギリなのに、これ以上増えたら
さすがの彼も自我を保てる自信がない。
774 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:39:18.88 ID:6MieMPHGo


(この調子だと世界中の人間が皆こォなっちまってンのか……? いや、そォ考えるにゃ
 まだ情報が不足してやがる。 つかこれ以上情報を取得したくねェってのが正直な所だが、
 放置しておく訳にもいかねェ……。 とにかく避難だ、このバカ王女引っ剥がして、
 まずは打ち止めの安否を確認しねェと―――――)


そこまで考えた辺りで、一方通行の意識が数瞬断絶された。


彼の華奢な体が宙に舞っていた。空中で意識を取り戻した一方通行は顔を歪めて吐血する。
遅れて鈍い痛みがやってきた。『何かが自分に衝突した』と彼は意識朦朧の中推測したが、
自分と同じように宙を華麗に待っているキャーリサを見て、『自分をぶっ飛ばすついでに
キャーリサも巻き添えにした』と考えを改めた。
775 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:40:02.92 ID:6MieMPHGo


「げはァッ!」


コンクリの地面に背中から落下した。ごぽ、と口から粘つく血糊が溢れ出る。
彼は『反射』の対象をほぼ全ての現象に切り替え、ベクトル操作で瞬時に床から飛び起きた。


起き上がり、一方通行の視界に飛び込んできたのは、科学の街にはそぐわない『氷の帆船』だった。


「…………げぼっ、ヴェ…………ント……?」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!」
776 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:41:12.35 ID:6MieMPHGo


氷の帆船の上からズタボロになった一方通行を見下ろしているのは、
彼が今抱える懸念事項の一つ、前方のヴェントであった。
彼女がこの帆船で突貫攻撃を仕掛けたのであろう事と、両拳をギュッと握り締めふるふると
震えている様子から鑑みて、どうやら相当怒っているようだが、やはり顔は"無くなって"いるため
憤怒の表情は窺えない。


「jk他者wtt女bb複数…………、acac愚図kehu」

「……?」

「tzg私nh失念hc? jmh非情et憎fw悔d」

「え、何……?」

「i貴様jjk殺idmx私kyb死jxj。 ――――――!!!」
777 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:41:45.48 ID:6MieMPHGo


ずどん、という爆音が空気を震わせた。ヴェントが操る氷の帆船から、同じ素材で構成された
氷の碇がとんでもない速度で一方通行を圧殺せんと射出されたのだ。氷の碇は一方通行の体に
直撃したが―――その瞬間、碇はスリップしたかのようにあらぬ方向へ滑走した。その先に
一般人が居なかった事は奇跡としか言いようがない。

一方通行のベクトル変換が、碇を"逸した"のだ。これが物理法則なら碇はヴェントの方向へ
完璧に反射されていただろうが、魔術の法則のベクトルを完全に把握出来ていない彼は
魔術攻撃に対し"いなす"くらいの対処しか取れない。


「待てこの……! 俺を―――――」


殺す気かクソ女、と彼が言い終える前に、第二射が飛んできた。
778 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:42:34.36 ID:6MieMPHGo


だが氷の碇と一方通行の距離がゼロになる前に、


「!」


上空から縦一直線に、眩い閃光が走った。閃光は氷の碇に鉄槌を下すが如く、
粉微塵にそれを砕き、結果的に一方通行を守る形となる。
遅れて、閃光の衝撃波が周囲に伝播した。目も開けていられない突風が、この
(少なくとも一方通行からすれば)意味不明理解不能の戦いの場を鼓舞する。


閃光は、キャーリサに一蹴されたはずの風斬氷華が繰り出したものだった。
魔術師と堕天使による(一方的な)確執、そしてロシアでの再会を経て仲を深めた
はずの風斬とヴェントが、学園都市で『〇九三〇』事件のリプレイを始める。
779 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:43:27.36 ID:6MieMPHGo


「gjjatfwn渡jatfwnayd」

「cnb邪魔aj削除wjifgcu」

「httans……、tu障rda死滅fbka」

「pjjn殺害kmi確定jpx」

「gxtie超hfie」


そこにキャーリサ、麦野沈利、絹旗最愛も加わり、この殺し合いだか痴話喧嘩だか
わかりゃしない戦闘行為はいよいよ歯止めが利かなくなってきた。然しもの一方通行も
このメンツ全員を相手取って無力化させるのは厳しい。
780 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:43:56.42 ID:6MieMPHGo


「drbnt警告adwa警告ar確保spty」


第一位ですら手に負えないレベルの連中が喧嘩をすれば当然『警備員』が出張ってくる。
警備員は対能力者という状況に関してはやはり手馴れており、あっという間に周囲の
野次馬を避難させ、怪物ガールズを取り囲むように陣形を展開した。

もっとも、第一位でも手に負えない連中を警備員がどうこう出来る訳がなく、
果たせるかなガチガチの装備で身を固めた警備員の方々はゴミ袋のように
四方八方へぶっ飛ばされてしまう。彼らは頭に防護メットを装着しているが、
当然その奥の顔はアレになっているのだろう。警備員が放つ言葉もノイズが混じっている。


「……、」
781 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:44:36.10 ID:6MieMPHGo


途中、その防護メットを外し拘束対象の彼女達に何かを叫んでいる警備員がいた。
前髪を左右にわけ、長い髪を後ろで結び、防護服越しでも何となく窺える豊満な胸の
女性警備員を一方通行はよく知っているような気がしたが、やはり顔が顔だったので
気のせいだと思う事にした。

と、


「afac第一位cr」

「あン?」


くいくいっ、と背後から袖を引っ張られ、一方通行は振り返る。
金髪のツインテール。小柄な体躯に赤いランドセル。『風紀委員』の腕章。
しつこいようだが顔がアレになっているが、顔など見なくとも一方通行には
その少女が誰なのかすぐに理解できた。
782 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:45:26.21 ID:6MieMPHGo


「きは……、……那由他のクソガキか」

「kjk呼称bspt……。 ……ygtj此方rgz」


一端覧祭四日目でお世話になり、事務処理のお仕事を押し付けるという
素敵なプレゼントをしてくれた、木原那由他であった。一方通行は彼女を
『木原』と呼称することに抵抗を覚え、やや迷って彼女の下の名を口にした。
那由他は名前で呼ばれた事に何らかの反応を示したようだが、表情が無いので
その胸中を察する事は出来ない。

それにしても、突然後ろから不気味な声で話しかけられ、振り返ったら
のっぺらぼう顔負けの凹凸フェイスがこんにちわというシチュエーションで
冷静に対応する一方通行はやはり流石『天使同盟』のリーダーといったところか。
麦野と絹旗の時こそテンパッていたものの、今はもう落ち着いているようだ。
……否、落ち着いていると言い聞かせないと精神がもたないのだろう。
783 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:46:10.19 ID:6MieMPHGo

軽い戦争が起きているこの現状で落ち着くのもどうかと思うが、
ともあれ一方通行は那由他の呼びかけに応じる。


「もォ会話なンざ成り立たねェだろォが一応聞くぞ。 なンだ?」

「wat此方yihg」

「……着いてこいっつってンのか?」


わずかに首を動かして頷く那由他。
784 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:46:40.91 ID:6MieMPHGo


「オマエはあの化物女どもみてェな奇行にゃ走らねェンだな……」

「khsbz不愉快ewhz」


那由他はなぜか一方通行の足を蹴り、そして戦場から離れるように
街の奥へ小走りで移動する。警備員の他に風紀委員が駆けつけたのかと
一方通行は辺りを見回したが風紀委員の姿は見えず、ではなぜ那由他が
ここへ来たのかイマイチ理解出来なかったが、ここで立ち尽くしていても
ろくな目に遭わないと察した彼は那由他の赤いランドセルを追って行った。
785 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:47:28.15 ID:6MieMPHGo


――――――――――――――――――――――


その一連の流れを陰から観察していた元凶、右方のフィアンマは、


「――――成程。 まだ不確定要素が多いが、概ね事態の原因と詳細は掴めた」

『第一の質問ですが、あの赤いドレスを着た女性は「王室派」の第二王女……?』


直に見るのは初めてなのか、ビンの中をふよふよと漂う魂モードのサーシャは
やや緊張を帯びた声で尋ねた。と言ってもサーシャの場合、周りの人間とは違い
顔はおろか肉体すら無い状態なので、彼女が今本当に緊張しているのか、様子が
窺えない。ある意味一番厄介な状態なのだがフィアンマはサーシャの問いを無視して、
786 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:47:55.63 ID:6MieMPHGo


「月詠小萌のアパートに戻る」

『第二の質問ですが、何か打開策が浮かんだのですか?』

「これから俺様が行うのは打開ではなく―――修正だ」


何やら意味深な言葉を呟くフィアンマ。そんな彼のすぐ横を、


「yie垣根pp様iz!」

「zspwmdgfsj……」
787 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:48:43.31 ID:6MieMPHGo

二人の少女が走り抜けていった。二人は名門、常盤台中学の制服を着ていた。
一方の女子生徒が無我夢中で駆け回り、もう一方の女子生徒がその彼女を
引き止めようと追いかけている……というシチュエーションのようだ。

ミーシャの言葉を理解できるフィアンマでさえ、会話内容が何故か理解できないため
雰囲気で場面を予想するしかなかった。


(今の女は……? 一人は知らんが、もう一人の方は常盤台中学の能力実演で見かけたような……)


見覚えの真偽を確かめるため記憶をたどってみるが、常盤台中学の能力実演は
ラストが色々な意味で印象に強く残ったため、その他の実演内容がうろ覚えになっており、
結局思い出すには至らなかった。
788 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:49:21.66 ID:6MieMPHGo


「…………ふん。 まぁ、いい」


ぼごっ、と溶岩が噴き上げたような音と共に、フィアンマの肩口から禍々しい赤の腕が伸びた。
彼は尚も警備員や『敵』と乱戦を繰り広げる怪物女性陣主演の舞台に目を向けて、


「この騒ぎの原因も、辿るまでもなく俺様が元凶だしな。 ―――責任はとらせてもらう」


何でもないような仕草で、軽く片腕を振った。


それだけで、風斬氷華(というかヒューズ=カザキリ)、キャーリサ、ヴェント、
麦野沈利、絹旗最愛という錚々たる戦力が地に叩き伏せられた。
理不尽なまでの圧倒的な力が、誰にも止められないはずの争いを終焉へと導いた。
789 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:50:56.96 ID:6MieMPHGo

これぞ瞬殺劇。突然意識を失い倒れた女性陣を困惑しながら連行する警備員。
そこまで確認したフィアンマはミネラルウォーターのボトルをゴミ箱に放り捨て、


「……事後処理だ。 俺様の失態で狂ってしまったこの『楽園都市』を修正する」


一世一代の大仕事。第三次世界大戦で実行しようとした事と似て非なる行動。
世界の修正。その成否はフィアンマの双肩―――否、右腕にかかっている。

「一方通行が"無事"だったところを見ると、恐らく垣根帝督も……。
 垣根帝督の無事を確認出来ればあの『光』の正体も判明するんだが……」

『ところで、ミーシャ=クロイツェフが戻ってくる気配がありませんね』

「いっそ還ってくれればいいんだがな」
790 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:55:01.32 ID:6MieMPHGo

今回はここまでです。

一方通行の下に集まった女の子達。垣根の名を呼ぶ常盤台中学の女子生徒。
そして上条当麻に群がった女の子達。

これらの共通点がわかればこの現象の正体がわかる……つもりで書いたのですが、
これ今読んでみるとわかんねえよな……まあギャグとして楽しんでいただくのが
このお話の目的なので問題といえば問題ないかもしれませんが……ホント行き当たりばったり。

さて次回はミーシャの方を覗いてみましょう。サーシャの身に宿ったミーシャ。
その事態を知ってあの変態が黙っているはずがありませんでした。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
791 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/11(月) 11:55:28.08 ID:6MieMPHGo



                          【次回予告】



「ふひ、例えば……私に、その生まれたままの姿でハグしちゃうとか」
ロシア成教『殲滅白書』のシスター ――――――ワシリーサ




「その程度で良いのか? 抱擁は私の専売特許である」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・サーシャの肉体に宿った『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ



792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/11(月) 12:03:48.68 ID:XRv/bIvIO
乙!


スレタイ通りだな!
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/11(月) 12:05:58.14 ID:qPXqIY0lo
上条勢力で地球が滅びかねない
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/11(月) 12:09:23.93 ID:InG3gUNoo
一方通行勢力でも地球を滅ぼせるぞ!
エイワスがいれば銀河も滅ぼせるぞ!
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/11(月) 12:46:45.27 ID:ZGaJ75qW0
えええ…誰かニートのサイヤ人呼んできてー!

フィアンマが一方退場まで隠れてたのは合わす顔がないからなのか?
いや顔はあるんだけども
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/11(月) 13:12:21.01 ID:wKz3IYSKo
能力は元のままか
抱きつかれて背骨が折れるのは極一部で済みそうだな
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/11(月) 18:58:37.44 ID:jSs/XG6IO
エイワスがアレイスターにチュッチュだと
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/11(月) 22:35:03.68 ID:hH1aVjpO0
アレイスター歓喜
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/12(火) 01:11:45.76 ID:sTZNrC9R0
>>1乙!

あれ?これワシリーサ背骨粉砕フラグじゃね?
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/12(火) 02:21:36.12 ID:LklglY4DO
弁当がヤンデレと化しておる…
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/12(火) 18:27:10.20 ID:dQR+93tho
お、追いついた……だと……?
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/13(水) 03:07:26.82 ID:Dvtg/ZuDO
>>801
おめでとう

ちなみにまだまだ続くからね
DBで言うと今ヤムチャが、ヤムチャした辺りだから
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/13(水) 19:48:13.08 ID:5adAladq0
ヤムチャが初登場した辺りだろ
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/13(水) 22:44:40.55 ID:xt+ZYn+z0
セル戦くらいだと思ってたが、マジか・・・大作すぎる・・・
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/13(水) 22:47:17.47 ID:5uzBM4Foo
>>1は数か月分書きだめてるらしいしあながち間違いでもなさそうなのが怖い
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/13(水) 23:14:47.38 ID:/IOT9mswo
ワンピ―スで言うとルフィが悪魔の実食った辺りか
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/14(木) 02:17:30.66 ID:N6FB/hQDO
幽白でいうと浦飯が死んだあたりだな
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/14(木) 03:44:42.90 ID:XaI0ukew0
>>807
ああ、プーちゃんがプーさんになる辺りな
809 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:21:20.99 ID:HYIhfDGro
>>805
いやさすがに皆さんが言ってるほど序盤じゃねえよww
そもそもこれ蛇足という名の続編ですし……どうなんでしょう。
ドラゴンボールでいうと、悟飯が高校(だっけ?)通い始めた辺りか……?

イマイチ他の漫画の進行具合と比較できない>>1です。
今日も更新を開始したいと思います。

さて今回は魂の入れ替えを行い、しかし未だにロシアでのんびりしてる
ミーシャとワシリーサのお話を挟みます。
中身が天使になってしまってもワシリーサの態度の変化はあまり見られず……的なお話。

それでは、よろしくお願いします!
810 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:21:48.75 ID:HYIhfDGro


――――――――――――――――――――――


「言っておくけどね、私は別にサーシャちゃんそのものが好きな訳じゃないのよん。
 いいえ、もちろんサーシャちゃんは大好きなんだけど、サーシャちゃんだけを
 ただ一筋に、ただ執着して、愛でている訳ではないと言うべきかしら?
 私は可愛いものなならオールオッケー。 即ち、今のあなたでもイケちゃうって事」

「聞いていないが」

「でもこの状況で欲情してられる程、私も呑気じゃあないのよん?」

「私見一。 そう発言する貴女の感情に大幅な高ぶりが窺える点について。
 貴女の発言と感情に矛盾が生じている事を指摘する。 ある種、興味深い」

「うへへへへへ、バレた? そりゃでも、まぁこうして、」
811 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:22:45.90 ID:HYIhfDGro


言われた通り、ワシリーサは両手をワキワキと動かしながら、


「目の前でサーシャちゃんがお着替えしているシーンをじっくり観察
 出来るとなれば、それはもう興奮しない方が失礼と言えるでしょ?」

「私見ニ。 その言葉の意味するところが私には理解し難い。
 私がサーシャ=クロイツェフではない事に貴女は気付いているのでは?」


エリザリーナ独立国同盟付近の雪山。その麓にある特設露天風呂。
女性専用更衣室でサーシャ=クロイツェフ―――否、ミーシャ=クロイツェフは
着替えをしていた。そのすぐ傍で、ロシア成教本部から帰還したワシリーサが
吐息を荒げながら彼女を凝視している。
812 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:23:26.67 ID:HYIhfDGro


姿はサーシャ=クロイツェフ。ウェーブがかった金髪の長い髪。小柄な体躯。
前髪で隠れがちの瞳は、いつもより少しだけ露出している。
今は全裸であるが、やはりいつもの透けた素材のワンピース型下着に、
黒のベルトで構成された拘束具のような衣服、その上に赤の外套を羽織り、
仕上げにリード付きの首輪を装着してサーシャ=クロイツェフ"ぶる"のだろう。

そう、彼女は外見こそサーシャ=クロイツェフではあるが、中身が違うのだ。
文字通り、中身が違う。なにせ魂という存在の根幹たる概念が入れ替わっている
のだから、中身が違うと形容しても間違いではないだろう。


サーシャの器に宿る魂は、ミーシャ=クロイツェフ。より正しくは、大天使『神の力(ガブリエル)』。
『天使同盟(アライアンス)』の一方通行に捧げるサプライズの過程で魂の入れ替えを承諾してもらったのだ。


その事情をミーシャから聞いたワシリーサはあらゆる角度から彼女の裸体を観察しつつ言う。
813 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:24:19.77 ID:HYIhfDGro


「そりゃあ気付くわよん、私はサーシャちゃんの事ならそれこそ魂レベルで
 知ってる、把握してるんだから。 あなた達が企てている計画自体はともかく、
 それにサーシャちゃんを巻き込むのは許しがたいのだけれど、でもサーシャちゃん
 本人が承諾したというなら私が口を出す余地はないわよねえ。 仕方ないって事」

「それについては、私は貴女に感謝する。 部下であるサーシャ=クロイツェフを
 貴女の許可もなしに巻き込んでしまった件については申し訳ないと思っている」

「へえ、申し訳ないと思ってるんなら、私の言う事くらい何でも聞いちゃうわよねえ?」


そう言うワシリーサの表情は、サーシャにすら見せた事のない悪魔じみたそれであった。
小悪魔じみたとか、意地悪そうなとか、そういうレベルではない。この女、明らかに
卑猥な考えを起こしている。
814 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:25:16.01 ID:HYIhfDGro


「言うこと? 私に出来る範囲であればやぶさかではないが」

「ふひ、例えば……私に、その生まれたままの姿でハグしちゃうとか」

「その程度で良いのか? 抱擁は私の専売特許である」


言わば『抱き癖』だろうか。ともあれミーシャ=クロイツェフはワシリーサの指示通り、
生まれたままの姿―――すっぽんぽんの全裸姿で、


「ん」

「おおうっ!?」
815 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:25:45.70 ID:HYIhfDGro


ぴと、と。ワシリーサに抱きついた。まさか本当に命令を実行してくれるとは
ワシリーサも思っていなかったらしく、突然の幸運に全身を強張らせている。


「おお、おおお。 い、いい感じよ! そのまま、抱きついたまま上目遣いカモン!」

「?」

「きゃわわわわわわわわわ」


言葉の意味がイマイチ理解できなかったミーシャだが、とりあえず変態シスターの指示通り
抱きついたまま視線を上に移す。前髪の隙間から覗くミーシャの瞳がこれまた何とも可愛らしく、
そして可愛いもの大好きなワシリーサにとってそれは二つの意味で『眼福』だったのだが、
816 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:26:18.21 ID:HYIhfDGro


ごきゃっ、と。人間の脊髄辺りが綺麗にへし折れたような音がした。


「ご、が……!?」

「申し訳ない。 ついいつもの癖で背骨を……」

「ごぼっ……うふふふ。 オッケーオッケー、むしろ嬉しいくらいだぜ!」


ミーシャもこれまで何度も人間に対し抱擁を実行した事があるが(特に、理由は不明だがレベル5の
超能力者が彼女にハグされる傾向がある)、ワシリーサのような反応を返された事はなく、ミーシャは
若干戸惑いながらも彼女が満足するまで抱擁し、改めて衣服の着用に取り掛かる。
817 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:27:14.14 ID:HYIhfDGro


「……」

「あ痛たたた……脊髄どころか肋骨もイッてるわねこれ。 ん、どうかしたのかしら大天使様?」

「今までは特に疑問を感じなかったのだが、サーシャ=クロイツェフが
 普段着用しているこの衣服、構造がかなり特殊である事が窺える。
 私が普段、本来の姿を周囲の目から隠すために着用する衣服は至って
 簡素な作りであり、着るという行為も実に容易なものであったが……」

「あー、学園都市であなた本来の姿を晒すのはちょっと目立っちゃうものね。
 服を着るなんて行為、あなたのような天使は無縁だろうし、着方わかんにゃい?」

「解答一。 貴女の言葉通り、この衣服の着用はやや難易度が高いと思われる」

「そうよねえ。 何なら服着なくてもいいんじゃない?」
818 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:28:14.63 ID:HYIhfDGro

「解答ニ。 私が得た経験から鑑みるに、全裸での行動は人間界において
 慎むべきものだと私は心得ている。 よってその選択肢は論外だろう」

「ちっ……。 あ、それなら私が服用意してあげよっか? 前にロシア成教から
 逃げる時にサーシャちゃんに渡したコスプ……服があるんだけど、何故だか
 サーシャちゃん、着てくれなかったのよねえ。 今から持ってこようか?」

「解答三。 今の私はサーシャ=クロイツェフの肉体を器している。 そうである以上、
 私は差し当たりサーシャとして振る舞わなければならないと考えられる。 内面は
 致し方なくとも、せめて外見だけでも重視しておかなければ彼女に迷惑がかかる」

「ええい天使のクセにお堅い事ばっかり言って……。 じゃあ、私がその服
 着せてあげようか? それ、私がサーシャちゃんに用意した服でもあるし」

「解答四。 現状、それが最適な選択肢であると、私もその意見に賛同する」

「やったぜ! 合法的にその服をサーシャちゃんに着せられる日が来るなんて」
819 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:29:14.59 ID:HYIhfDGro

という訳でまんまと衣服の着用許可を得たワシリーサはサーシャ……ではなく、
ミーシャ=クロイツェフに周りからの評価が散々の専用装備を着せてあげた。


「問一。 先程から必要以上に私の胸を触っている節があるが、それに意味はあるか」

「んんー? いやいや、だって魂の入れ替えでしょ? 万が一サーシャちゃんの体に
 異常があったりしたらどうするのよ。 大魔術の副作用は侮れないんだから、ふひ」


異常があるのはお前の頭だと、残念ながらそうツッコミを入れる人物は今ここにはいなかった。


「成程、得心いった。 貴女は心から部下を大切に扱う思いやりが溢れているな」

「お褒めに預かり恐悦至極に存じ奉ります、むふふふふ……」
820 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:31:36.44 ID:HYIhfDGro

「問ニ。 この首輪は何を意味するのか」

「えーっと……まぁ何かこう、ロシア成教的に何かを象徴したアイテムだったり
 そうじゃなかったり? まあ何か神話とか逸話とかそういうアレに基づいてるんじゃねーの?
 だって可愛いじゃない、サーシャちゃん首輪似合うのよ。 理由なんてそれで充分なのよん」


一介の魔術師とは思えないあまりにも適当な発言だが、もちろんツッコミはない。


「問三。 私がこの姿で可憐さを主張する事で得られるメリットは何か」

「メリットっつーか、私に需要がありますハイ。 可愛い子は可愛くなくちゃダメなのよん」

「そういうものなのか。 この世界へ降りて私も長いが、まだ学ぶべき事柄が沢山あるな」
821 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:32:39.44 ID:HYIhfDGro


『天使同盟』のヒロインに邪な教育が施された決定的瞬間であった。


「はい、出来たわよ」

「素晴らしい。 まさにサーシャ=クロイツェフのためにあしらわれた衣服。
 他の追随を許さないこの着心地は衣服を着用するという行為そのものが
 一つの娯楽であり、幸福なのだと理解できる。 この衣服を考案した貴女の
 センスに感服せざるを得ない。 サーシャが貴女を慕うのも頷けるというもの」

「………………う、う。 うぅ……」

「?」
822 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:33:11.42 ID:HYIhfDGro


ワシリーサの手馴れた手つきで着用が完了し、ミーシャは満足気に感想を口にしていると、
ふとワシリーサが嗚咽を漏らし、涙を流し始めた。


「問四。 何故泣く?」

「褒められた……。 中身はミーシャだけど、外見と声はサーシャちゃんだから……
 まるでサーシャちゃんがこの服に感動してくれたような気がして……。 あの子、
 照れ屋さんだから今までその服を毛嫌いしてた傾向があって……。 だから、
 嬉しいのよ……初めて褒めてもらえた……およよよよよ…………………………」

「…………変な人間」


ともあれ、着替えを終えたサーシャは露天風呂を後にし、ワシリーサもそれに続いた。
823 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:34:06.66 ID:HYIhfDGro


――――――――――――――――――――――


学園都市へ戻る前に、以前世話になったエリザリーナに礼が言いたいと
申し出たサーシャは、一度独立国同盟へ顔を出す事にした。外見がサーシャのため
相手を少し混乱させてしまう恐れがあったが、その辺のフォローはワシリーサが
してくれるという事で解決した。

その独立国への道中。


「ところでサーシャちゃ……じゃない、ミーシャ」

「?」


ふと、ワシリーサがこんな事を聞いてきた。
824 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:34:59.76 ID:HYIhfDGro


「あなたやフィアンマが今やってるそのサプライズ、あなたを一度元の位階へ
 還して『御使堕し』に似た魔術を発動させて、あなたを再び現世へ降ろして、
 魂の入れ替えをサーシャちゃんと交わすというのは理解出来たのだけど、」

「なにか疑問があるか」

「ええ。 あなたの魂をサーシャちゃんの体に降ろすと、サーシャちゃんの
 魂は体から分離するでしょ? で、その魂を学園都市へ誘導するってとこ
 まではさっきあなたから聞いたけど……、そこから先はどう対処してるの?」

「対処と言うと」

「まぁフィアンマ程の魔術師ならサーシャちゃんの魂を学園都市まで
 運ぶ手段くらいいくらでも考案できそうなものだけど、そこから先、
 結局サーシャちゃんは別の誰かの魂と入れ替わらばければならないでしょ?
 それだと魂のイス取りゲームを防ぐことは出来ないじゃない」
825 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:36:12.69 ID:HYIhfDGro

「……」

「その辺、どう対処してるのかなって疑問に思う訳ですよワシリーサさんは。
 なにせ大事な可愛い私の部下の命がかかってるからね。 聞いておかないと」


もっともな意見だ、とミーシャは思った。魂という定義の曖昧なそれは言ってしまえば
息を吹きかけただけで粉々になりそうなガラス細工よりもデリケートなものなのだ。
そしてその魂が自分の大切な部下の魂だと聞かされれば、心配して当たり前だろう。

そしてその辺りの話を聞いていない自分の落ち度をミーシャは反省した。


「解答一。 現状、世界規模の魂の入れ替えは発生していないと思われる」

「んー、まぁそれは私も何となく理解してるんだけど」
826 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:36:54.17 ID:HYIhfDGro

「補足説明を加えると、恐らくフィアンマが何らかの対処を施し、
 サーシャ=クロイツェフの魂を保護しているのだと考えられる」

「他人の器を媒介にするとかかしらん?」

「それでは意味が無い。 魂のままで、保護をしないと。 根拠のない
 推測であるが、フィアンマが宿す『神の如き者』が引き起こす『奇跡』を
 用いて、魂の状態を維持しつつ保護しているのではないだろうか」

「……仮にそれが可能だったとして、だったら今サーシャちゃんは―――」

「フィアンマの傍―――手元、と言っていいだろう。 そこで保護されてるのでは」

「た、大変だわ!」


突然ワシリーサが叫んだ。わなわなと両手を震わせ、珍しく顔を青くしている。
彼女が狼狽する意味がわからず、ミーシャは首を傾げながら尋ねた。
827 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:37:41.41 ID:HYIhfDGro


「問一。 貴女は何をそこまで困惑しているのか」

「サーシャちゃんの魂を手元に……。 フィアンマの野郎、忌々しい事に
 行動原理が私と似通ってやがる……! 悔しいけど、気持ちはわかるわ」

「問ニ。 フィアンマに何か問題が?」

「あの男―――サーシャちゃんの魂をコレクションするつもりだわ!」

「………………………………………………………………」


いきなり何を言い出すのだろうこのシスターは、とミーシャは閉口せざるを得なかった。
828 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:38:36.03 ID:HYIhfDGro


「コレクション……?」

「そうよ! こう……、そうね。 例えば、私がフィアンマならサーシャちゃんの
 魂を学園都市に誘き出す……もとい! 誘導した後、空きビンね、空きビンに
 詰めると思うのよ。 魂の形状がどんなものか、そもそも形として存在するのか
 どうかは分からないけど、形があるなら私はサーシャちゃんをビン詰めにするわ」


なんか恐ろしい事を言い出すワシリーサだが、さらに恐ろしい事にその推測は的を射ていた。
サーシャの魂は彼女の指摘通り、現在ビン詰め状態になっている。


「で、ビン詰めにされたサーシャちゃんの……あぁ、きっと綺麗なんでしょうね……。
 そのサーシャちゃんの魂を目で、目で凝視して楽しむ! まず、目で愛でるのよ!
 視姦的な! で、たまにビンから出してツンツンつついたりして……サーシャちゃんの
 反応を確かめてそれで悦に浸る……。 フィアンマはそれが目的なのよきっと!!」
829 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:39:23.21 ID:HYIhfDGro


名誉毀損で訴えられてもおかしくない、根も葉もない暴論を捲くし立てるワシリーサ。
まず何故自分とフィアンマの趣味嗜好が同じであるという前提が成り立っているのか
理解できないが、ワシリーサはその表情を歪ませながらさらに続ける。


「クソったれが……、それが右方のフィアンマか……! さすが、あんな大規模な
 戦争を起こしただけの男だけあるわ。 器が、発想がすでに常軌を逸している」

「私見一。 そんな推論に至る貴女の発想も常軌を逸していると言わざるを得ない」

「サーシャちゃんは騙されてる……、いえ。 サーシャちゃんだけじゃなく、
 あなたも騙されてるわよミーシャ! なるほど、思えば第三次世界大戦で
 サーシャちゃんを誘拐した理由も大天使の召喚という建前を振りかざし、
 その裏ではサーシャちゃんにあんな事やこんな事をしようと……ぐぬぬ」


ワシリーサの中でフィアンマがどんどん変態になっていく。
830 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:40:09.70 ID:HYIhfDGro


「許せないわ……。 サーシャちゃんを独り占めしようだなんて、
 考える事が汚いのよ『神の右席』ってのは! そりゃサーシャ
 ちゃんはあれだけ可愛いのだから、独占欲が湧く気持ちも理解
 できるけれど……。 上司として、この事態は見逃せないわね」

「私見ニ。 妄想をたくましくさせ過ぎでは―――――、?」


ブレーキがぶっ壊れた暴走特急が如く加速し続ける妄想特急にさすがのミーシャも
ややうんざりしてきた所で――――彼女は気付いた。


「……? フィアンマが出現させた空の魔方陣が……『炸裂』した?」
831 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:41:02.70 ID:HYIhfDGro




そう思ったと同時ミーシャは気のせいか、"自分の想い"、感情が『分配』されたような――――


―――――そんな、なんとも言えない、味わった事のない感覚を察した。



832 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:41:41.67 ID:HYIhfDGro


(……? この違和感の正体についての考察は、後回しにした方が得策か。
 学園都市で現在、何らかの異常事態が発生している可能性が浮上)


隣で一人喚くワシリーサの声は、もはや彼女の耳には届いていなかった。


緊急事態を報せる鐘がミーシャの脳内に響き渡る。根拠はない。魂の入れ替え直後で
必要以上に感覚を研ぎ澄ませているせいで、敏感になりすぎているだけかもしれない。
この警告の鐘も単なる直感でしかないが、


「ワシリーサ」

「何としてもあの変態右腕クソ野郎からサーシャちゃんを―――、ん? 何?」
833 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:42:30.88 ID:HYIhfDGro

「重ね重ね申し訳ないが、エリザリーナへ私からの挨拶を伝えておいてもらえるだろうか」

「え、どうしたのよ急に―――」


突然の申し出に言及しようとワシリーサが言葉を紡ぐ前に、ミーシャの体に変化があった。


彼女の小さな背中から出現するは、長いもので一〇〇メートルを超える巨大な水晶の翼。
瞬く間に数百の翼を展開させたミーシャは、とん、と地面を軽く蹴り宙へ浮かぶ。


「これから私は学園都市へ戻る。 私の勘が、事態の解決は急を要すると言っている」

「ちょ、ちょっと待ってよ! だったら私も乗せてって! 私もたった今学園都市に
 向かう用事が出来たのよ。 学園都市にいる右方のロリコン魔術師……、
 フィアンマに捕らわれてるサーシャちゃんを救出するという大事な任務が―――」
834 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:43:20.78 ID:HYIhfDGro

「急ぎだと言った。 すまない、世話になった。 ありがとうワシリーサ」


ワシリーサに取り付く島も与えず、ミーシャは地面の雪を爆散させ、音速をゆうに
超える速度でロシアの空を切り裂いていった。


「……」


しばらくの間、呆然と空を仰いでいたワシリーサはポケットからおもむろに
携帯電話を取り出し、電話をかける。


『もしもし、エリザリーナ独立国同盟居住区の――――』

「あ、もしもしエリザリーナ? おっつー、ワシリーサでーす」
835 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:44:07.77 ID:HYIhfDGro


相手はここ独立国同盟のトップ、魔導師エリザリーナだった。


『ワシリーサ? どうしたの、今日はロシア成教から招集されてたんじゃ?』

「いや悪いんだけど、私しばらく本部には顔出せないわ。 つかロシア出る」

『え?』

「多分ロシア成教からあなた宛てに抗議やら何やら飛んでくるだろうけど、
 私の不在に対するフォロー頼めるかしら? あとミーシャがよろしくだって」

『え、ちょ、急に何を言っているの? ロシアを出る? あなたが?
 それにミーシャって……。 あの天使、この国に来ているの?』


出し抜けな申し出に困惑するエリザリーナなどお構いなしに、ワシリーサは
さらに度肝を抜くような発言をした。
836 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:44:54.90 ID:HYIhfDGro


「ちょっと学園都市行ってくる」

『学園都市って……そんなその辺のコンビニに行くような感覚で言わないでよ。
 あなたがあの街に何の用なの? 言っておくけど、学園都市行きの航空便を
 手配しろだなんて言ってきても無理よ。 ロシア成教は今もあなたに対して
 警戒網を張っているし、その範囲に私の国も含まれてるの、知ってるでしょ?』

「ん〜にゃ、移動手段に関しては問題ないよん」

『ならどうやって向かうのよ?』


エリザリーナからの当然の問いに、ワシリーサは事もなげに返した。


「ちょっくら遠泳して日本海横断してくるわ。 愛しのサーシャちゃんを救いに」

837 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:48:06.37 ID:HYIhfDGro

今回はここまでです。

ようやくロシアからミーシャが飛び立ってくれました。彼女の速度なら
そう時間をかけずに学園都市へ到着するでしょう。

そしてその学園都市にもう一人、すんげぇ面倒くさい人がいらっしゃるそうです。
このSSでは学園都市にいろんな魔術師が来ていますが、彼女は初参戦ですね。
まあいつ学園都市に着いて、どう物語が展開していくかはまたいずれ……かなりいずれ。

次回はフィアンマ主体です。本格的に呪い……というか大魔術の悪影響を
修正する姿勢に入ります。
そして彼の心情にわずかな変化が起きるような、そうでないような。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
838 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/14(木) 13:48:38.11 ID:HYIhfDGro



                          【次回予告】



「(…………全てが元通りになったら、月詠は俺様にまた、あの笑顔を見せてくれるだろうか)」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ



839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/14(木) 14:04:05.04 ID:yvsXAZwDO
>>1乙!

あれ?
いつのまにかフィアンマと小萌にフラグたった?


そしてワシリーサによる世界規模のトライアスロンが開幕か…
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/14(木) 14:10:16.73 ID:XaI0ukew0
なるほど、背骨と肋骨を犠牲にすればミーシャinサーシャに思う存分抱擁してもらえるのか
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/14(木) 14:38:11.54 ID:u/LBWqmCo
俺、それならぎりぎり頑張れるかもしんねぇわ
sinuだろうケド、本望じゃん?
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/14(木) 16:32:44.92 ID:keJ2CHDDO
>>841
独り立ちはさせないぜ俺も逝く
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/14(木) 17:18:02.21 ID:ysHh7fqN0
乙。
最近カオスすぎててワシリーサの暴走(妄想?)がおとなしく見えたww
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/14(木) 17:53:32.02 ID:Q+X4laBeP

悟飯が高校行った辺りとかブウ編丸々残ってんじゃねーか
本編終了はセル完全体登場辺りだったのか
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/14(木) 19:30:39.51 ID:yvsXAZwDO
>>844
ちなみにアニメ版の話だぜ?

だから ブゥ編→GT編→改編 と続き
そして、所々に劇場版がある

つまり、後10年は続くってわけよ
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/14(木) 21:11:43.23 ID:r1u81pjSO
マジかよ…>>1パネェ
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/14(木) 22:56:02.13 ID:ZyPtRl2u0
一方通行とミーシャという異色の組み合わせから始まった話だしフィアンマが先生にフラグたてても違和感無い乙
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/06/15(金) 18:41:34.55 ID:ZgvsDA3D0
>>842
お前だけにいいかっこはさせないぜ
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/16(土) 02:20:50.05 ID:ZfNUQ+zU0
>>841
>>842
>>848

お前らの想いは俺が預かった
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/06/16(土) 10:24:51.90 ID:43E6AK7ho
>>849ついでにお前の気持ちも預かるぜ
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/16(土) 11:07:04.76 ID:C+nGRLVe0
変態右腕クソ野郎はドラゴンボールで言うと誰?
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/16(土) 13:47:22.36 ID:MOQ6bSRro
ブルマ
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/06/16(土) 14:51:46.92 ID:NJRXQPlk0
>>852 ちょwwwwwwwwww
せめてピッコロくらいにはwwwwwwwwwwww
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/16(土) 21:41:54.52 ID:mwduRec+0

「そんなその辺のコンビニに行くような感覚で」って
ロシアの場合日本と違って「その辺」にコンビニはすぐ見当たらないような気もするけど・・・
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/06/16(土) 22:42:39.33 ID:QW45MUsX0
こまけぇこたぁ
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/17(日) 01:39:07.39 ID:BLG5lDYEo
ほんと細かいな
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 01:42:28.60 ID:D1My+GTSo
意訳の範疇です
858 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 12:47:57.66 ID:62C+UwSeo
>>854
え、エリザリーナの国では数十メートル間隔で存在するんですよきっと……!

こんにちわ、日曜日の更新でございます。
いつも沢山の支援をありがとうございます。

さて今回はフィアンマが大魔術の修正に本格的に望みます。
そしてギャグパートもそろそろ終わりですかね。
一端覧祭六日目が終わったらそろそろ最終章が……いや、もうこれは言うまい。
どうせ最終章つったってまだ長いし……。

それでは、よろしくお願いします!
859 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 12:48:26.18 ID:62C+UwSeo


――――――――――――――――――――――


大魔術儀式の舞台となった第七学区の木造二階建てアパートにフィアンマが戻ってくると、


「……、月詠」


今や見るも無残な、全体の半分しか残っていないアパートの前で、小萌先生が
ポツンと体育座りをして固まっていた。自分も加担したとはいえ、大魔術の過程で
我が家が崩壊してしまった事に悲しんでいるのか、憤っているのか、茫然自失と
しているのか、顔が変化してしまった今では彼女の心境を窺いにくい。
860 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 12:49:16.98 ID:62C+UwSeo


「……」


だがその姿には、形容し難い哀愁が漂っていた。まるで、理不尽な災害によって
破壊された家の前で嘆く子供のような、そんな印象をフィアンマは受けた。
この狂った世界さえ修復出来ればそれで万事解決と思い込んでいた彼の心境を
揺るがせるに、小萌先生の寂しげな姿は充分な威力を有していた。


「kxy火野tbjちゃんfsbah」

「……」


戻ってきたフィアンマに気付いた小萌先生は慌てて立ち上がり、お尻の汚れを
払って小走りで彼に駆け寄ってきた。
861 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 12:49:59.16 ID:62C+UwSeo


「kjeh平気wkxd」

「待たせてしまったな。 月詠、しかしまだもう少しだけ、
 俺様に時間を与えてはくれまいか。 少しだけで構わん」

「?」


フィアンマの申し出の意味が理解できず、小萌先生は可愛らしく首を傾げる。


「……これはまた、改めてみると盛大に崩壊してしまっているな。
 立案はミーシャとは言え、事の発端は俺様でもある。 しかし、
 俺様にお前の家を修復する力は無い。 家の件はすまんが後回しだ」
862 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 12:50:36.68 ID:62C+UwSeo


「……」

「俺様に家を修復する力は無いが、だが世界と、お前を治す力はある」

「……、ckbj火野jtちゃんcxej」

「だから、少しだけ待っていてほしい。 お前の住処も、この世界も、
 何もかもが元通りになったら、また改めてお前に非礼を詫びるとするよ」


この時、自分が一体どんな表情を浮かべていたのか、本人であるフィアンマにも分からなかった。

有り体に言って、人の家がぶっ壊れようが消し飛ぼうが、知った事ではないというのがフィアンマの
性格であり本音だ。フィアンマという人間は、そういう人間である。
かつては世界に施す身勝手な『救済』のために多くの人間の命を脅かした魔術師だ。
人の家が、小萌先生の家が自分のせいで壊れてしまったところで、何の後ろめたさも感じないはずだった。
863 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 12:52:14.07 ID:62C+UwSeo

おかしくなってしまった世界を元通りにしたいという気持ちは、確かにフィアンマにはある。
それは間違いない。こんな世界で、自分以外のほぼ全ての人間が変異してしまった世界で
平然と過ごせるほど、フィアンマも強くはない。


だがその裏で、小萌先生の環境も直してあげたいという気持ちに、フィアンマは嘘をつけなかった。
一日だか二日だかの彼女との共同生活を経て情でも湧いたか。そうかも知れない。
『家もあとでどうにかしてやるから』とでも言っておかないと小萌先生がうるさそうだからか。
それもあるかもしれない。ここまで色々と彼女に手伝ってもらったのだから、それぐらいの事は
してあげなくてはならないと思ったからか。可能性としては、それもあり得る。

この衝撃的過ぎる世界の光景が、彼の心境に何らかの変化をもたらしたのだろうか。
それは誰にも、本人でさえもわからない。
864 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 12:52:44.87 ID:62C+UwSeo


(…………全てが元通りになったら、月詠は俺様にまた、あの笑顔を見せてくれるだろうか)


ただ、例えどれであろうと、今の自分の胸中にいずれかの想いが生まれていようと、
どれもが『らしくない』、フィアンマらしくないとわずかに照れのようなものを感じた彼は、


「……と、そうは言ったものの、正直お前の家の崩壊など想定の範囲内だったしな。
 なにせ未知なる大魔術。 家どころかしくじれば世界がお前の家のようになっていた
 かも知れんのだ。 住処が壊れる程度の覚悟くらい、魔術を理解しておらんお前でも
 漠然と決めていたはずだ。 よって尚ここまでお前に気を遣う俺様に感謝してほしいくらいだが」


と、心にもあるのかないのか分からない言葉を小萌先生の目を見ず――目は無いのだが――そっぽを向いて吐いた。
865 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 12:53:35.31 ID:62C+UwSeo


そんな素直になれない不器用な魔術師に対し、小萌先生は手招きで返した。
『おいで』という意味のジェスチャーはなく、どうやら『姿勢を低くしろ』と
いう意図のものらしい。疑問に思いながらも、もしかしたら家を破壊された怒りで
屈んだところに跳び膝蹴りでも食らわされるのかと思いながらも、フィアンマは
小萌先生の指示に応じ身を屈めた。


「uucemgbixfnbatd……」

「な……、んの真似だ? これは」

「mdnpanttsu」
866 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 12:55:11.36 ID:62C+UwSeo


撫でられた。真っ赤な髪が流れる頭を、フィアンマがこれまで味わった事のない
あまりにも『愛』溢れる力で、撫でられた。数十分前に頬を撫でられた時とは
比較にならない程の優しさだった。


ミーシャが普段からあちこちに伝播している『慈愛』。フィアンマの大魔術でミーシャ化した
人間が、外見だけではなく中身までミーシャと瓜二つになっている証拠だった。


(……やはり。 それで、上条当麻も一方通行もあのような状況に……)


ここでフィアンマはこの学園都市に起きている現象について再び推測してみる。
867 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 12:56:02.16 ID:62C+UwSeo


上条と一方通行が直面した、女の子に突然囲まれるという漫画のような現象。
二人の下に訪れた女性陣には全員にとある『共通点』があった。それは、
彼らを取り囲んだ女性陣が彼らに対し『通常以上の感情』を抱いているという点だ。

その通常以上の感情が果たしてどの感情に該当するかは本人達にしか分からないが、
その感情にミーシャの『別け隔てなく愛を与え、愛を求める』という行動原理が追加され、
あのようなある種羨ましい惨劇を生んでしまった、という事である。ただ一方通行の場合、
人選が人選であるが故に愛が歪み、殺し合いの一歩手前まで発展してしまっていたが……。


簡潔かつ俗に言うなら、上条と一方通行の下にやってきた女性陣は、何らかの形で
彼らとフラグが立っている人物という事になる。
868 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 12:57:09.82 ID:62C+UwSeo


(ならば『御使堕し(改)』発動時に俺様の胸を貫いた光は『選別』の意味があったのか?
 俺様や上条当麻のような例外を除いて、尚且つミーシャ化しておらん一方通行が俺様と
 同じくあの光に襲われているのならこの仮説は真実味を帯びてくるが……)


しかしあの『光』が何を基準としてフィアンマや一方通行、そしてフィアンマはその目で確認していないが
垣根帝督を選んだのかは分からなかった。仮説ならいくらでも立てられるが、それを証明出来ないのは
『御使堕し(改)』が未知であるが故か。不明瞭な点があまりにも多すぎる。


(該当者がいるのなら、今頃垣根帝督も二人のような目に遭っているのかも
 知れんな。 副作用の効果範囲がどこまで及んでいるのかは知らんが……)
869 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 12:58:36.14 ID:62C+UwSeo


フィアンマの頭を撫で終えた小萌先生はどこか満足気に微笑んだ―――ような気がした。


「……さっき、月詠は何と言っていたんだ? 俺様の頭を撫でた時に」


フィアンマは手に持っていたビンの中にいるサーシャ=クロイツェフに尋ねた。
魂だけの存在と化した彼女はやや間を空けて小萌先生の言語を通訳する。


『第一の解答ですが、「家なんかより突然走り去ってしまった火野ちゃんの方が
 心配でした……」と言っていましたよ。 補足説明……するまでもなく、
 自分の住処より突然錯乱したあなたを彼女は心配していたのでしょうね』

「……くだらん。 底抜けのお人好しだ、この女は。 上条当麻に負けず劣らずの、な」


複雑な面持ちを浮かべながらフィアンマは小萌先生の前で屈んだまま、
870 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 12:59:18.29 ID:62C+UwSeo


「これから大魔術の後始末を行う。 お前は俺様が今から言う場所で待機していろ」


『天使同盟(アライアンス)』が好き勝手に利用しまくる、『グループ』のアジトである
アパートの場所と部屋を小萌先生に伝えた。ここからアジトへの道筋をフィアンマが
よく把握していなかったため苦労したが、アパートの特徴を言うと彼女はすぐに理解してくれた。
サーシャの通訳によると、どうやら小萌先生はそのアパートを見た事があるらしい。


手を振りながら去っていく小萌先生の姿を最後まで見送ったフィアンマは、


「…………ところで、気付いているかサーシャ=クロイツェフ」

『第二の解答ですが、どうやら私の思い過ごしではないようですね』


アパートが半壊する騒ぎが起きたというのに、"さっきから周囲に人っ子一人通りかからない"
違和感に対し警戒心を高めた。
871 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:00:48.91 ID:62C+UwSeo


――――――――――――――――――――――


フィアンマとサーシャ=クロイツェフが感づいたその『視線』には、
対象を監視する以上の感情が含まれていなかった。
その『視線』に怒りや悲哀、怨恨や同情といった感情はわずかも入り交じっておらず、
ただ単純に、監視する事だけを目的とした『視線』である事に、二人は気味の悪さを
感じずにはいられなかった。


「ふん。 もう今更、どこぞの魔術結社が重犯罪者の俺様を拘束しに
 やってきたというようなオチは期待しておらんぞ。 ……誰だ」

「気分を害されたというのでしたら、深くお詫び申し上げましょう」
872 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:01:34.83 ID:62C+UwSeo


フィアンマが驚いたのは、自分たちを刺し続ける『視線』を送る監視者が本当に
存在していたからではない。いくら気配を絶とうと、百戦錬磨のフィアンマの警戒網を
逃れられる実力者など数える程しかいないだろう。

そうではなく、彼が驚いたのはその声だった。知り合いの声だったとかそういうのではなく、
自分が原因で狂ってしまったこの世界で、フィアンマや一方通行と同じように"通常言語"を
用いてかけてきたという事実に、彼は驚愕したのだ。


即ち、フィアンマ達を監視していた人物は『御使堕し(改)』の副作用―――呪いを
何らかの手段を以って回避しているという事になる。
873 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:02:34.10 ID:62C+UwSeo


「誰だと聞いている」

「名乗る名などありません。 道具に愛着を持つ感情は我々でも理解できますが、我々
 にはそれは該当しない。 道具以外の何者でもない我々には名詞も名刺もありません」


およそ人間から出る言葉とは思えない言葉を当たり前のように言いながら、
監視者―――否、監視者達は音もなく、初めからそこに居たかのように
姿を現した。

全身を黒のローブで包み込み、今この学園都市を襲っている現象とは違う意味で
表情が窺えず、フードの部分には金色の鷹の頭部の意匠があしらわれている。
874 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:03:47.53 ID:62C+UwSeo


「黄金の鷹……? 『黄金』系、いや、その程度の連中ではないな。
 隼頭はホルスの象徴……お前ら、アレイスターの御使か何かか」

「流石は『神の右席』の頂点に立っておられた魔術師。 察しが良くて助かります」

「クソったれが、『セレマイト』か。 セレマ教の狂信者共……ラブレーの物語から
 尚も発展し続ける屍のような宗教が科学の総本山であるこの街に潜伏してやがるとは、
 アレイスターは誰からそんな冗談を学んだんだ? 大体予想はついているが……」

『……?』


魔術に関してはかなりの知識を有しているサーシャでも、フィアンマと謎の連中が交わす
言葉の意味が理解できなかった。両者の間に流れる空気は険悪というそれではなかったが、
しかし少なくともフィアンマはセレマ教の魔術師の出現を面白く思っていないようだ。
875 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:04:49.40 ID:62C+UwSeo


「クロウリー教が動けぬ今、我々はエイワス様に遣わされる道具。
 既に一方通行様と垣根様にも接触を済ませております」

「セレマイト……実在したとはな。 それで、何故俺様を監視していた?」

「監視……というようなつもりはございませんでしたが。 フィアンマ様が
 これから実行される『修復』に、我々もお力添えをと考え至った次第です」

「……全てはお見通しか」

「フィアンマ様が今回引き起こしたこの現象について我々が言及するような事は
 一切ございません。 我々はただ、『天使同盟』という舞台の裏で動くだけです」
876 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:06:25.66 ID:62C+UwSeo


隠す素振りも見せずフィアンマは舌打ちをした。信用など一つも出来ないこの連中が
力を貸すと申し出た事に対しての苛立ちもあるが、何より先の小萌先生とのやり取りを
恐らく見られていたのだろうという事実が、彼は何より気に入らなかった。

それでも、


「どうせここにお前らが来たのも、アレイスターかエイワスに命令されたからだろう。
 あの怪物二人も『御使堕し(改)』の副作用を何らかの手段を用いて避けている訳だ」

「ええ。 ただクロウリー教だけは回避が間に合いませんでしたが」

(うわ……じゃあアレイスターの野郎も例のあの顔に……)
877 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:07:19.81 ID:62C+UwSeo

「魔方陣飽和からミーシャ=クロイツェフの『感情』が氾濫する過程で、我々が
 エイワス様の指示に従い第七学区の『ビル』を虚数学区へ避難させました。
 当然、ここら一帯の土地も今は虚数学区に『転移』しております故、ご了承を」

「虚数学区……五行機関、アレイスターが構成した擬似星幽界か。
 どうりでさっきから人間が一人も通りかからん訳だ。 勝手に
 俺様まで五行機関に移した事は……文句を言える立場ではないが。
 それで、この事態を解決するに対するお前らの見解を聞かせてみろ」

『第一の私見ですが……私、完全に置いてけぼりですよねこれ』


セレマ教の力を借りる事に迷いはなかった。今も継続している学園都市の異常の解決に
私情を挟んで意地を張っている場合でないことを彼は理解していた。
フィアンマは半壊したアパートに視線を向けながら意見を求める。
878 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:08:14.15 ID:62C+UwSeo


「まず此度、フィアンマ様が発動した術式……『御使堕し(笑)』ですが、」

「(改)だ。 お前まで月詠のような言い間違いをするな、気分が悪い」

「失礼。 『御使堕し(改)』ですが、そもそもフィアンマ様が構成した魔方陣には
 このように人間がミーシャ=クロイツェフ様の擬似体と化する現象は効力に含まれて
 おりません。 即ち、フィアンマ様が構成した魔方陣に間違いがあるものと思われます」

「……だろうな」


『御使堕し(改)』の魔方陣作成から完成に至るまで、フィアンマは小萌先生と共に
何度も構成内容にミスが無いか確認してきた。魔術に関してはトップクラスの知識を
有している自分がそれでもミスを犯していたなど信じたくはなかったが、セレマ教の
魔術師にまでそう指摘されてはフィアンマも認めるしかなかった。
879 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:09:00.79 ID:62C+UwSeo


「そもそも、あの狭い部屋を大魔術の儀式場に仕立て上げようと決めたのが
 間違いだったのかも知れんがな。 儀式場の中で生活をするようなものだ、
 どうしたって紡いだ文字が歪んでしまったりする。 ……俺様も大概だな」

「然るべき場所を選択して行うのがベストでしたでしょうが、状況が状況だけに
 選択の余地は残されていなかった。 むしろ学園都市内で行う事で、副作用の
 効果範囲がこの街に収まっただけ儲けものだと考えるのが良いでしょう」

「効果範囲……ミーシャ化が起きているのはやはりこの街だけなのか?」

「左様でございます。 学園都市はフィアンマ様の所業で一種の『ホーンティング』と
 化している。 ただ垣根様は現在、……この街ではないある場所におります故、
 学園都市外でも特定の人物がミーシャ様の擬似体と化してしまっていますが……」
880 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:10:46.09 ID:62C+UwSeo

そこだけは確認しておきたかっただけに、フィアンマは心底安堵したが決して表情には出さなかった。
もっとも、テレビでも見て映っている人間の顔を見れば確認できる程度の事なのだが、当時の彼に
悠長にテレビを鑑賞する余裕などありはしなかった。


「この現象を解消するにはやはり魔方陣の再構築が適切かと、畏れながら申し上げます」

「忌々しいが同意見だ。 この半壊したアパートの瓦礫から魔方陣――魔方陣を構成する
 文字を抽出し、ミスを犯している部分を術者である俺様が修正する他あるまい。
 抽出作業は俺様の『右腕』で出来ん事もないが……残り使用回数に多少の不安があるな」

「抽出作業は我々に一任していただければ、残りの魔方陣の修正作業にフィアンマ様が
 集中していただけるかと。 どちらにせよ、『神の如き者』は必要不可欠ですので」

「だったら話は早い。 さっさと―――」

「それと、」
881 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:11:19.02 ID:62C+UwSeo


フィアンマの急かすような指示を中断させて、セレマイトの一人が言った。


「我々の抽出作業が滞り無く完了し、フィアンマ様の修正作業が問題なく終わったとして、
 しかしそれだけではこの現象を改善するには至らぬ事をここで告げておかなければなりません」

「……ミーシャ=クロイツェフか」

「左様で。 ミーシャ様が最後の仕上げに四散した感情……というよりは『スピリット』と
 表現するのが正しいのですが、ここでは感情で一貫させていただきます。 四散した感情を
 修正した魔方陣を経由し、己が身の内に戻さなければ、街の人間はあの状態が続きますよ」

「あのクソ天使、そういえば何故学園都市に戻ってこんのだ」
882 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:12:03.41 ID:62C+UwSeo

「ロシアにてサーシャ=クロイツェフと肉体と精妙体の入れ替えを実行した後、
 ロシア成教本部より帰還したワシリーサと湯浴みを満喫し、談笑を交わしている
 最中に学園都市に異常に感づき、現在日本海上空をのんびりと飛行していますよ」

「もう殺していいよなあいつ……」

『ていうか、え? ちょっと待ってください、ワシリーサと湯浴み? 私の肉体で?』


セレマ教の魔術師達は視線だけで言葉を交わし、やはり音も立てず半壊した
アパートの前へ移動した。
883 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:12:43.48 ID:62C+UwSeo


「どうやって瓦礫に紡がれた文字を抽出するんだ?」

「そこは近代西洋魔術の技術を利用させてもらうまでですよ。 目には目を、と言いますでしょう?」

「……『ホルス』を代表するお前らが十字教の技術を用いると」

「畏れながら申し上げますが、セレマ教はただ一つの教義に縛られません。
 諸経混合的宗教……、我々の同胞に原理主義者は存在しません。
 前時代的技術であろうが、利用出来るものは利用するのがセレマ教です。
 携帯電話が普及する現代でも、公衆電話や黒電話を利用する人間がいるのと同義ですよ」


そういえば月詠小萌の家に黒電話があったな……、とフィアンマがあの汚らしくも
居心地の良い部屋を思い出している内に、セレマ教の魔術師達が抽出作業に入った。
884 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:16:54.72 ID:62C+UwSeo

今回はここまでです。

『ホーンティング』はアメリカのホラー映画の事ではなく、
特定の場所で生じた特異現象の用語……だった気がします。

とりあえず大魔術の修正は可能らしいということでフィアンマも一安心。
エイワスとかアレイスターはどうなったのという疑問についても少しだけ
触れています。アレイスターはどうやらダメだったようですが……。

虚数学区に移転とか正直かなり無理がある展開ですが、まあ前からそんな感じですよね。

次回はフィアンマそのものにちょっと視点を置き換えつつ、一端覧祭六日目(前半部)を終わろうと思います。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

にしてもよく建物が壊れますねこのSSは。
885 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/17(日) 13:17:36.68 ID:62C+UwSeo



                          【次回予告】



「第一の質問ですが、あなたはどのような経緯で「天使同盟」に加わったのですか?」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ(ビン詰め)




「俺様から志願したんだ。 いや、もう熱望と言って過言ではなかろう。
 たまたま他国で邂逅した一方通行とエイワスに土下座をして頼み込んだ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ



886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage saga]:2012/06/17(日) 13:19:33.83 ID:bCdZR20+0

乙です!



クローリー教はクローリー卿のことなのかな?
それとも人物を指してない?
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 13:23:14.09 ID:i7XHaVgJo
やっと理解した
これはシリアスじゃなくてギャグパートかもしれない
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 13:32:27.49 ID:rMbBai3IO
アレイスター、エイワスに笑われまくってんだろうな...(合掌)
889 : ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/06/17(日) 13:45:26.85 ID:62C+UwSeo
>>886
アレイスター=クロウリー教導者の略称だったのですが、
教導者という言葉自体まずあまり相応しくない言葉らしく、
しかも信者が教導者呼ばわりするのはおかしいですね……。

ご指摘ありがとうございます!ちょいと先の話のセリフを改善しておきます。
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage ]:2012/06/17(日) 15:18:00.90 ID:lvtL6hza0
アレイスターは、エイワスに迫ってるんじゃね?
エイワス逃げてーー
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 17:59:59.75 ID:JhBT+3YAP

これはエイワスパートが欲しい超欲しい
またウソだろおいとか言ってるのか
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 20:27:47.86 ID:pG6FZVgDO
マジでエイワスちゅっちゅっ状態だったのか
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 20:30:03.60 ID:D1My+GTSo
あれ、ハッピーエンドじゃねえのコレ
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/17(日) 21:49:45.40 ID:irHVAFTy0
セレマイト…セルライト…ベジマイト………むむむ
あ、>>1
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/17(日) 22:29:13.51 ID:gBxE+pXT0
本人には異常が自覚できないわけだからあの顔でエイワスに対して暴走しとるんかアレイスター
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/06/18(月) 16:33:06.71 ID:W+wCfonp0
っつかアレイスターは動けな・・・ミーシャ化してるなら生命維持装置ぶっ壊してエイワスに執着してそうだ・・・
>>1
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/18(月) 22:03:27.34 ID:91anYY5k0
生命維持装置から破り出てきて打ち上げられたマグロのような状態になりながらもエイワスに迫るアレイスターを幻視した
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/19(火) 04:11:24.17 ID:EkYQNgZZ0
>>1乙!
このスレもそろそろ1000か・・・

>>897
なにそれこわい \ビチビチッ/
899 : ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/06/19(火) 06:49:37.48 ID:3ENKxtWPo
私事で申し訳ありませんが、どうやらモニタの調子が悪いです。
突然更新が来なくなったら『ああ、こいつのモニタ逝きやがったな』と思ってください。

早めに買い換えるようにします。それでは、失礼しました!
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/19(火) 06:55:07.29 ID:cjFeTlGV0
>>1乙!!
スレ埋まる寸前に逝ったら面倒くさそうだなww
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/19(火) 09:05:26.37 ID:EkYQNgZZ0
>>899
>>1wwwwなんてこったwwww
モニタには頑張ってもらいましょうwwwwww
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage ]:2012/06/19(火) 19:26:46.07 ID:qF4Zxhjs0
大丈夫。今なら目をつぶったって更新出来るさ。
903 : ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/06/20(水) 11:52:18.53 ID:Av+caoS8o
あの本当……大変申し上げにくいのですが……
今日更新予定だったのですが、明日に延期というわけにはいかないでしょうか。
モニタの問題で明日には解決出来るのですが、今日中はちょっと……

『次回更新は三日以内』を破りたくはないのですが、どうかご容赦を……!

明日は必ず更新しますので!お待ち下さい!
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/20(水) 12:40:22.97 ID:3llQdOQDO
仕方ないね

乙でーす


ってか、モニターにも御使堕し(泣)の影響が行っているようですな

おのれ魔術師め…
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/20(水) 12:50:22.68 ID:231n2FjIO
エイワスだって今モニタなしで頑張ってるんだし仕方ないよね
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/20(水) 14:59:10.75 ID:HxADR1Bo0
ちょ、一方通行ってむぎのんにフラグ立ててたっけ?
いつフラグ立てたかお願い
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/20(水) 17:07:40.68 ID:AqHxbTBUo
いつからフラグが建ってないと錯覚していた・・・?
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/20(水) 18:23:07.28 ID:3llQdOQDO
>>906
学園都市で鬼ごっこしてる時にむぎのんと話した時かな

フレンダをフレ/ンダにしたことについて悩んでるみたいなことを相談してた
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/21(木) 04:54:19.09 ID:LGysQSHE0
おのれ魔術師!

更新まってまーす。>>1のペースでいいと思いますぜー。
910 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:28:51.69 ID:dBCHJmlAo
>>906
まあフラグと言いますか……実は私、一方通行と麦野の組み合わせが(も)好きでして。
この二人で色々話書きたいという衝動を抑えつつ今のお話を書いてる面もあったりします。
だからあの時の屋上での会話は私の欲望がやや漏れてしまったために出来た話だったりしますww

皆さんおはようございます!そして大変おまたせしました。
更新を開始したいと思います。

モニタはもう面倒なので液晶テレビをモニタにしました。
余裕が出来たら買い換えるということで……はい、これも私事です。
申し訳ありませんでした。

えー、今回もフィアンマが物思いにふけたりしますが、その前に奴らのパートを。

それでは、よろしくお願いします!
911 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:29:24.72 ID:dBCHJmlAo


――――――――――――――――――――――


学園都市ミーシャ=クロイツェフ化現象という前代未聞の超常現象に見舞われ、
しかしその影響を辛うじて逃れた者がいる。

一人はフィアンマ。彼が『御使堕し(改)』の術者であるためこれは当然だ。
次にミーシャ=クロイツェフ。逃れるも何もこの天使こそが元凶中の元凶だ。
次にサーシャ=クロイツェフ。魂だけの状態のためだろう、彼女も通常のままだった。
魂だけという時点で通常もへったくれもないかもしれないが……。

そして謎の『選別』により一方通行と垣根帝督も逃れている。
垣根帝督の場合はイギリスという場所が幸運だった点もあるが、
しかし彼らに限ってはいっそミーシャ化した方がマシなのでは思えるほどの
地獄を体験しているので、一概に『逃れた』とは言い難い。
912 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:30:27.11 ID:dBCHJmlAo

さらに例外として上条当麻も『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の効果で
現象の影響を未然に防いでいる。ただし彼のパートナーはご愁傷様だが。


そして、


「いつ以来だろうな。 先のように……正体不明の事象の、その正体について
 真剣に推理を立てようと試みたのは。 『ラプラス』が機能していた頃の
 私では思考する前に解答が提示されてしまうからな。 この現状が愉しい
 と思えるのならいっそ、システムの修復など必要ないのかもしれない」


『天使同盟(アライアンス)』が一人、聖守護天使エイワス。
913 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:31:37.33 ID:dBCHJmlAo

セレマ教の魔術師がフィアンマに言ったように、エイワスも現象の影響が
及ぶ直前、セレマイトに指示を出しエイワスが現在居る『窓のないビル』を
虚数学区に移転することで難を逃れていた。


「フィアンマが『御使堕し』に酷似した大魔術を発動。 その影響により
 『天使同盟』の"男性構成員"以外の学園都市の人間、及び『天使同盟』
 男性構成員とある程度の『フラグ』が立っている者にミーシャ=クロイツェフの
 感情と呼ぶべきエネルギーが分配され、いわゆるミーシャ化に至る……。
 君のとこの信者と答え合わせをしてみたら、見事に正解だったじゃないか。
 『ラプラス』を失ったとはいえ私もまだまだ有能だとは思わんかね?」


ただし、セレマイトはフィアンマにこうも言っていた。
914 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:33:24.11 ID:dBCHJmlAo


「ふふ……まったく。 聞いているのか、アレイスター=クロウリー」


セレマ教の開設者にして学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリーは"間に合わなかった"と。


「きょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


エイワスの言葉に、生命維持装置の中から返事をするアレイスター。
だがどうも、いやどう考えても様子がおかしい。
アレイスターの言葉は返事というより、狂気に満ちた叫びのようだった。
915 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:34:16.89 ID:dBCHJmlAo


「ひょーん。 ひょーん」

「ふふふ。 いや人間、長生きしていればそれは醜態の一つや二つは晒すものだが……
 アレイスター。 今の君は実に哀れで、滑稽で、しかしどこか美しさを秘めている」

「ひゅるるる……」


実を言うと、そして正確に言うとアレイスター=クロウリーは"半分間に合わなかった"。
ミーシャ化現象の脅威に対し、半分はもろに食らってしまったのだ。

ただ半分は間に合っている。具体的にアレイスターがどの部分を避けたのかというと、
ミーシャ=クロイツェフのような顔に変貌する現象、ミーシャ=クロイツェフのように
言葉を発する際ノイズが混じってしまう現象、この二点だ。
916 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:35:31.88 ID:dBCHJmlAo

では何を避けられなかったのかというと、それはエイワスが言うミーシャの『感情』の分配。
つまり特定の人物へ極端な求愛行動を起こす現象。これだけは避けられなかった。


「きゅーぉ」

「そして私も長いことこの世界を観測しているが……このような事態を見るのは
 初めてだ。 純粋に興味深い、好奇心をくすぐられる。 アレイスター、」


しかもある意味このビルの外の現状より、アレイスターの容態は悪化していた。


「感情と感情……もしくは無意識と無意識のせめぎ合い。 まさか人間という器の中で
 そんな事が起きようとは。 ユングでさえ想定出来なかったんじゃないだろうか。
 今も君の中では君の意志とミーシャ=クロイツェフの意志が激しく衝突している」
917 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:36:31.54 ID:dBCHJmlAo


半分間に合った間に合わなかった云々がまずかった。非常にまずかった。


アレイスターは例の現象の影響が及ぶ寸前、ほぼ反射的に超上級クラスの防護術式を展開した。
まだ完全にはその力を振るえない彼が全身全霊を込めて魔力を精製したのだ。
そうしてしまう程に、アレイスターは『御使堕し(改)』に対し脅威を抱いたのだろう。直感的に。

それでも完璧には防御出来なかった結果、アレイスターの中にミーシャの感情が介入し、
だがアレイスターの意志は上書きされなかった。中途半端に防いだ事が災いを招いてしまった。
エイワス曰く、それによりアレイスターとミーシャの意識がぶつかり合い、現実―――生身の
アレイスターが自我を保てなくなったようだ。

そういった経緯を経て、
918 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:37:32.84 ID:dBCHJmlAo


「ファー……ブルスコ……ファー……ブルスコ……」

「アレイスター、めっ」

「モルスァ」


アレイスターは壊れてしまった。生命維持装置の中から狂ったように(ていうか狂っているのだが)
ガラスを両手で叩き、それをエイワスに窘められアレイスターは萎縮してしまう。
……『天使同盟』などという連中に関わらなければこんな事には、と思うと彼に同情心が湧こうというものだ。
エイワスが加盟した時点で手遅れである事実は否めないが。

ただ驚くべきはアレイスターの変異ではなく、やはりその実力であろう。
あのフィアンマでさえ詳細が掴めなかった『御使堕し(改)』を直に見ることもなく、
完全ではないとはいえ防御出来る術式を即興で作り上げてしまったのだから。
919 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:38:25.52 ID:dBCHJmlAo

この辺り、アレイスターの魔術師としての才能は他の追随を許さない。
意志が半分"持っていかれて"これだ。全盛期、『第一九学区事件』当時のアレイスターは
まさに世界最強最悪の魔術師に相応しい力を持っていただろうし、それを撃破してしまう
エイワスに至ってはもう知らん。


「さて……一つ危惧しなければならない事は、フィアンマがこのまま現状を放置するという
 選択をしてしまうケースだな。 こんな姿になってしまったアレイスターも愉快ではあるが、
 こんなものあと数分も見たら飽きであくびを禁じ得ない。 退屈は避けたい私としては
 そのような事態もやはり避けたいのだが……。 さて、彼はどうでるかな」


『滞空回線(アンダーライン)』はおろか街中の監視カメラにも干渉出来ないため、
力を失ったエイワスが外の様子を窺う手段は無い。
920 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:39:12.85 ID:dBCHJmlAo


「私の予測だとこの現象は本質ではなく、価値もまた別の方向にあるようだからな」


『御使堕し(改)』がミーシャ=クロイツェフ提案サプライズ計画の通過点に過ぎない事まで
見抜いているエイワスの洞察力は驚愕に値するが、一人でこんな推理をしてもつまらない。
この現象に価値を見極め、そして興味を失いつつあるエイワスとしてはさっさと解決の道を
辿ってほしいという気持ちが正直なところだった。


「しかもアレイスターがこの状態では彼の肉体回復どころか、私の『ラプラス』修正に支障を―――」


カチャカチャカチャカチャカチャカチャガチャガチャガチャガチャッッ、ターーーーンッッッ!!!


エイワスの耳に打鍵音が響く。
921 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:40:41.74 ID:dBCHJmlAo

まるでトップクラスのピアニストが如く、アレイスターが宙に浮かぶキーボードを
打鍵した音だった。キーボードといっても立体映像なので本来ほどの軽快な打鍵音ではないが。
どうやらこんな状態であってもアレイスターはシステムの修復に力を注いでいるようだ。
注ぐことが出来るようだ。

執念。エイワスを治す、自分も治す。その確固たる執念が彼の意志を、魂を揺さぶっているかもしれない。


「……余計な心配だったか」

「はぁ……はぁ……」


結論から言えばフィアンマはこの後きちんと大魔術の修正を行う姿勢に移るのだが、
しかし例え世界が永遠にこのままであっても或いはそれもアリか、とエイワスは考えている。

避けたい事態は避けたい。だが、避けられなかっとしてもその結果を酒の肴には出来る。
エイワスにとっ酒とは興味と価値観。肴は、それを見出せる現象や事象。


エイワスは動じない。


この先、何があったとしても―――エイワスがエイワスたらしめるのだから。
922 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:42:12.53 ID:dBCHJmlAo


――――――――――――――――――――――


『御使堕し(改)』の修復作業は長期に渡ると見ていたフィアンマではあったが、
いざ実行に移してみると豈図らんや、ものの八時間程度で作業は最終段階、
あとは学園都市中(極一部イギリス)に散らかったミーシャ=クロイツェフの
『天使の力(テレズマ)』やら何やらを本人の手で回収する作業を残すのみとなった。


ミーシャ=クロイツェフ様によろしくお伝え下さい、と言い残し、次の時代を
生きる魔術師―――とカテゴライズしてもいいのか判断し難い黒のローブ集団、
セレマ教のセレマイトは既に全員姿を消していた。彼らの手により小萌先生の
住んでいた半壊の木造二階建てアパートとその一帯は虚数学区から元の位相へ
戻されており、セレマイトが抽出し修復した魔法陣が、アパートの瓦礫の中から
禍々しい赤の光を放っている。
923 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:43:02.70 ID:dBCHJmlAo

フィアンマは、それでも八時間という長時間の魔力の行使を余儀なくされたため、
アパートの前に座り込んで体力回復に務めつつ、現在学園都市へ帰還中らしい
ミーシャ=クロイツェフを待っていた。彼の傍には小さなビンが無造作に転がっており、
その中には魂だけの存在となったサーシャ=クロイツェフが詰められている。
暇なのか何かを考えているのか、表情も肉体も無いため様子を窺い知れない。


『第一の私見ですが、魂だけという状態は暇です』


暇らしい。ビンの中には娯楽など無いし、あったとて肉体が無ければどうしようもないので無理もないが。


『フィアンマ。 何か面白いお話を聞かせてください』

「いっそ清々しい程のムチャ振りに感謝すらしたい気持ちだが、しかしサーシャ=クロイツェフ。
 お前も見ていた通り俺様はついさっきまで膨大な魔力を消費して大魔術の修復を行なっていたんだ。
 お前の魂を震わせるようなエピソードを今の俺様に期待されても、俺様はその期待には応えられん」
924 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:44:35.83 ID:dBCHJmlAo

『では、私からいくつか話題を提供しますので、その話題に合わせて会話を盛り上げてください』

「コミュニケーションによほど飢えているようだな。 俺様との会話を求めるとは」

『第一の質問ですが、あなたはどのような経緯で「天使同盟」に加わったのですか?』

「ミーシャ=クロイツェフから聞いておらんのか」

『聞いていないから今こうして質問をしている訳です』


ぴん、とフィアンマは指でビンを突付く。ビンは何の抵抗もなくころころ……と転がり、
中のサーシャが『うわっ、うわっ……!』と慌てふためいた。それを見てフィアンマは
意地悪く笑みを浮かべるでもなければ無視するでもなく、ただサーシャの質問に答える。
925 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:45:33.60 ID:dBCHJmlAo


「俺様から志願したんだ。 いや、もう熱望と言って過言ではなかろう。
 たまたま他国で邂逅した一方通行とエイワスに土下座をして頼み込んだ」

『……第二の私見ですが、驚きました。 私の予想では半ば強引に、
 あなた自身も仕方なくといったところで渋々加盟したものだと……』


フィアンマは超適当に嘘をついた。この男、どうやらサーシャとまともに会話をする
つもりが無いらしい。


『しかし、よく一方通行が許してくれましたね。 加盟する以上、あなたの素性も彼には知られる訳でしょう?』
926 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:46:39.44 ID:dBCHJmlAo

「地面に額をこすりつけ、涙で顔面をグチャグチャにしながら懇願したからな。
 もうドン引きだったよ一方通行は。 むしろあいつが仕方なくで俺様の加盟を
 認めてくれたんだ。 『神の右席』を失って行き場のない俺様を拾ったんだよ」

『……成程、わかりました。 それでは次の質問に移行させていただきます』


番組の司会進行っぽく会話を続けるサーシャ。他人との会話に慣れていない―――という事はないだろう。
恐らく、相手が右方のフィアンマだから、沸かした湯船の温度を確かめるが如く慎重に言葉を選び、
よってやや緊張気味の口調になってしまっているのだろう。


『第二の質問ですが、あなたが起こしたあの戦争には結局何の意味があったのですか?』

「少なくとも、俺様が第三次世界大戦を起こさなかったら『天使同盟』は無かっただろうな。
 聞けばあの戦争でミーシャ=クロイツェフが一方通行を痛く気に入り、今日に至るらしいじゃないか」
927 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:47:24.89 ID:dBCHJmlAo

『……第三の私見ですが、「天使同盟」を利用して戦争の正当性を高めようとしている
 発言としか思えません。 そういう意味なのでしたら取り消してください』

「ならばそうしよう。 ついでに、ミーシャ召喚にお前を利用した事実も詫びようか」

『第一の解答ですが……、結構です。 ついでで片付く案件ではないですし、
 それに私とミーシャは今や友達です。 そこまで否定されたくないので』

「ふん。 生意気な女だ」


フィアンマは横倒しになったビンを片手で拾い上げると、缶コーヒーを飲む前に
振る動作のように、『ビン詰めサーシャちゃん(定価三四八円)』をシェイクした。
缶ビールでやったら確実に吹き出すくらいの勢いで振りまくった。
ビンの中から『うわわわわわわわぁぁぁ!!!? ……きゅ〜』という声が響いた。
サーシャ=クロイツェフ、完全にグロッキー状態である。
928 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:48:05.85 ID:dBCHJmlAo


(……何をやっているんだろうな、俺様は)


片手でサーシャを撃破したフィアンマは、しかし満足したような表情も素振りも見せず、
退屈そうにビンを地面に置き、ボーッと半壊のアパートを見つめた。


「……加盟した理由か。 ミーシャ=クロイツェフを召喚した責任、
 上条当麻が救った世界の行く末を見届けるため。 そう思っていたが」


もうサーシャ=クロイツェフは彼の言葉など聞ける状態にないが、それでも彼は独り言を続けた。
929 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:48:59.82 ID:dBCHJmlAo


「前者はともかく、後者はこんな組織に関わらんでも出来る事かもしれんな。
 少なくとも、俺様が見たかった世界は今の学園都市のような世界ではないが」


別に空を仰いだところで世界が見渡せる訳ではないのだが、フィアンマは視線を空に向けた。
『地球は、世界は広い』という話題を例えばしたとして、一〇人に一人くらいは空か地平線を眺めるような、
それと同じ何の気なしな感覚で、フィアンマは空に向かって言葉をかける。


「だったら、俺様は一体どんな世界を見てみたいのだろうな」


これで返事が聞けたらどれだけ楽だろう、とフィアンマは思う。
どんな世界を見届けたいのか。そもそも、世界の『救済』に失敗し、立場を失い、
拠り所の無くなった自分は、その世界とやらを見届けるまで何も得ずに生きていくのか、と。
930 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:50:08.89 ID:dBCHJmlAo


(何も得ず……いや、『天使同盟』という居場所を得たには得たが……しかし)


そういう、普段の彼ならまず考えないような事を、彼は今漠然と考えていた。

一方通行も垣根帝督も、大小はともかく明確な目標を掲げて今日も生きている。
ミーシャ=クロイツェフも現在進行形で頑張っているし、風斬氷華も、進むという
方向ではないにせよ何かを待ち続けて生きている。エイワスは……全ての事象の
『観測』そのものが顕現し続ける理由だったはずだとフィアンマは思い返す。


ならば彼は―――フィアンマはどうだろうか。求めている形に世界が変わって、
それを見届けるまで自分は空っぽなのか。今こうしてこの世界で生きている事が
世界の『観測』として成り立っているのか。このミーシャ提案のサプライズが
滞り無く終了したら、自分はどう過ごしていこうか。
931 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:51:13.97 ID:dBCHJmlAo

別にフィアンマは深く悩んでいる訳ではない。イギリスで生きる方向性を見失い、
苦しんでいる垣根のように頭を抱えて苦悩している訳ではない。
彼はただ、あくまで漠然とこの先どうしようかなと考えているだけである。
『今日の夜ご飯どうしよっかな』と献立を適当に考える主婦のようなものだ。


だがそんな事を考えている時点で、既に以前のフィアンマでは無くなってきている。
少なくとも『神の右席』の時分はこんな事を考える人間ではなかった。
それは考える価値が無いと切り離していたからなのか、考える暇が無かったからか。


(……暇か)


サーシャは魂と化した己の現状を暇だと言っていた。確かに魂だけになってしまえば
やる事なんて思考か会話くらいしか無いのだから暇だと嘆くのも致し方ないだろう。
そしてようやく、フィアンマも気付いた。気付くと表現する程大げさな発見ではないが、
932 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:52:10.58 ID:dBCHJmlAo


「俺様も暇だな。 毎日が」


八時間という、想定より短かったものの長時間の精密作業で疲れ果て、しかし充実した
時間である事を心の奥底で自覚しているからこそ気付けたのか。久しぶりにあんなに
『働いて』、終わって、疲れて、やる事が無くなって。暇―――だった、彼も。


『天使同盟』の新参者。彼以外の五人はかつて明確な目標を掲げて辛く険しいながらも
充実した日々を送ったが、フィアンマが加盟した時には事態は全て終了していた。
『天使同盟』にとって『第一九学区事件』後の世界は全てがオマケ。いや、フィアンマ
以外の五人はその後も何らかの目標を持って生きている。

しかしフィアンマにはそれが無い。細かく見直せば彼にも目標のようなものはあるが、
このサプライズ計画だってもうすぐ終わるし、上条当麻が救った後の世界が見たいと言っても
具体的にはどんな世界なのか、見るだけでは人間として充実した日々を送る事は出来ない。
ミーシャ=クロイツェフ召喚の責任も―――正直あって無いようなものだと彼は思う。
本来、用が済んだら元の位相へ還す予定の天使を『天使同盟』が引っ張り回しているだけだ。
933 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:54:13.16 ID:dBCHJmlAo




「……くく、俺様は。 『天使同盟』の『蛇足』を象徴する存在だな」




『天使同盟(アライアンス)』の『蛇足』を歩み続けているのは、自分ただ一人と彼は思った。


「なんたる茶番。 これが何もかもを失った俺様の姿、か」


と、彼がボーッと考えた故に算出された結論に至ったのとほぼ同じ時。
934 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:55:09.72 ID:dBCHJmlAo


『……ん? フィアンマ』

「ようやく帰還なされたか。 ミーシャ=クロイツェフ」

「問一。 早速で申し訳ないが、この街で一体何が起きているのか」


アパートの敷地内にその姿はあった。特殊すぎる作りの衣服に赤い外套。
外見はサーシャ=クロイツェフの―――ミーシャ=クロイツェフ。
ずっと空を見上げていたフィアンマが姿を目撃出来なかったという事は、
恐らく『外』のどこかで降りて学園都市に侵入し、徒歩でここまで来たのだろう。


『わ、私からも第三の質問なのですが、あの、ワシリーサと湯浴みをしたというのは……?』
935 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 09:56:16.90 ID:dBCHJmlAo

「待て。 そういうくだらん話は全て後回しにしろ」

『く、くだらん!? 第四の私見ですがこれには私の体の貞操がかかっているのですよ!?』


フィアンマはミーシャが来るまで考えていた事と結論を全て破棄した。
都合よく記憶や思考を忘失させる機能など彼にはないが、そのつもりで破棄した。


とりあえずまずはやるべき事を、出来る事をやり遂げる。
フィアンマは呆れたように薄い笑みを浮かべて、ミーシャに告げた。


「さてミーシャ=クロイツェフ。 事情を全て話すのはこの世界を直してからだ」
936 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 10:00:22.20 ID:dBCHJmlAo

今回はここまでです。

蛇足からの新キャラ、フィアンマ。今回は彼の話を少し深く書いてみました。
明確な目標がないんじゃないかと疑う彼には、しかしまだやる事が沢山あります。

……いえ、そんな事はともかく、前半です。エイワスパート。
これ正直もうアレイスターファンに殺されるんじゃないかと
怯えながら投下しました。アレイスターを少しギャグに走らせすぎてますよね……すみません。

ですが蛇足でのアレイスターのような扱いを、本編では垣根帝督が受けていました。
そして彼は最終章で活躍しましたが、つまり蛇足最終章ではアレイスターが……というつもりです。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!


937 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/21(木) 10:01:09.62 ID:dBCHJmlAo



                          【次回予告】



「オマエら俺を差し置いて何の話をしてやがった!?」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)




「―――だから、テメェの方からいきなり抱きついてきたんだっつってんだろ!!
 おい妹ちゃん、お前も見てただろ? 俺がルチアやこのクソ女に襲われてたのを」
『天使同盟』の構成員・学園都市第二位の超能力者『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督




「即ち、この肉体をどう扱おうが私の勝手と解釈する事が可能である」
『天使同盟』の構成員・サーシャの肉体を乗っ取った……?『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ




「うわーん騙されました! 天使に体を乗っ取られたー!」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ(ビン詰め)



938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/21(木) 10:08:35.43 ID:VZKuAL3P0
>>1
アレイスタークソワロタ
まさかのアレイスター大活躍ですか!?
瓶詰めサーシャちゃんを一つ貰おうか
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/21(木) 13:06:58.20 ID:5jSgi1mF0
乙!
アレイスターがペットみたいになっとるww
>>938じゃあ俺はミーシャちゃんで。
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/21(木) 13:45:28.64 ID:zMpkA5ZDO
>>939なら俺はアレイスター貰うわ
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/21(木) 14:06:51.45 ID:hSnSiCcf0
ファーwwwwブルスコwwwwファーwwwwwwモルスァwwwwwwwwww
しかし腐っても☆は☆だな、前代未聞の新魔術を反射的に半分防ぐとは

あ、俺は忘れられてる小萌先生貰っときますね
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/21(木) 14:17:54.53 ID:kqMkDaWIO

ファービーとか懐かしい
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/21(木) 15:28:23.25 ID:djrqsjDIO
ちなみに、麦野のフラグがわかるところは、6スレ目の>>715
「ん? ……コーヒー奢ってもらった方♪」
だね
麦野はツンデレだし
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/06/21(木) 18:13:40.76 ID:TUvHM3Yl0
じゃあ俺はバードウェイ姉妹をもrくぁwせdrftgyふじこlp;@:「」
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/21(木) 18:31:15.96 ID:UHGn6SgIO
天使同盟と一方崩しを並行してやってくれでもいいんだよ??チラッチラッ
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/21(木) 19:51:28.02 ID:OSY+cmQDO
じゃあ俺はみんながガチで忘れてそうなレッサーちゃんを頂くよ
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/06/21(木) 20:13:00.14 ID:uwJ4031B0
乙!
アレイスターの活躍に超期待w
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/21(木) 23:40:37.26 ID:V/BGetKK0
アレイスタァwwwwwwwwwおまえはwwwww本当にwwww愉快だなぁwwwww
俺もエイワスにめっ、てされたい乙
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/21(木) 23:57:22.84 ID:0CU5bIsIO
めっ
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/22(金) 17:57:53.28 ID:5/QdPf/K0
腹筋が死んだ
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国四国) [sage]:2012/06/22(金) 22:43:50.71 ID:3BUsyfoZ0
では俺様はファミレスの店員さんをもらおうか
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/22(金) 22:48:40.50 ID:W1xFcgUSO
sageの仕方間違ってますよ
953 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:19:57.65 ID:p+QH+/XAo

こんにちわ、今日も更新を開始したいと思います。
いつも沢山の支援をありがとうございます。本当に。

今回で一端覧祭六日目の『御使堕し(改)』パートは終わりです。
やんわりとですが、ここから話の雰囲気も変わっていきます。

そしてやってきてしまった次スレの季節……ホントどうしてこうなった。

それでは、よろしくお願いします!
954 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:20:27.64 ID:p+QH+/XAo


――――――――――――――――――――――


『壊れかけのRadio』という曲がこの世にはあるが、実際に故障寸前のラジオが
あって、そのラジオを延々と聞かされるという状況が生じたとしたら、きっと
こんな感じなのだろうなと一方通行は壊れかけのラジオを延々と聞かされる中思った。


「iwjpwpz、fnxp……npzc」

「あァー、はいはい」


厳密に言えば彼はラジオを聞いているのではなく、人間の声を聞いていた。
聞いて、適当にそれらしい相槌をうつ、を繰り返していた。
955 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:21:21.50 ID:p+QH+/XAo

ただし、喋る言葉全てにノイズがまみれた声を出すそれを人間と称していいのか
どうかは甚だ疑問ではあるが。


「yrdwfdfjgmwymjb」

「srdawknp」

「はいはい」


一方通行は風紀委員第四九支部がある学校に連れて行かれていた。
第七学区で怪物ガールズの熾烈な喧嘩を前にどうしようかと立ち尽くしているところに
四九支部所属の木原那由他が現れ、彼女は一方通行をこの教室へ招いたのだ。
以前、女子中学生誘拐事件で彼はここを訪れている。
956 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:21:55.62 ID:p+QH+/XAo

まず、何故那由他が一方通行をここへ連れてきたのかが彼には分からなかった。
連れてきた理由を那由他は恐らく口にしているのだろうが、何せ言語がミーシャと
同じ言語であるため(しかもたまに聴き取れるミーシャと違って那由他――街の住人
達の言語は一切理解する事が出来ない)、要領を得ないどころの話ではない。
あの戦闘に一方通行が巻き込まれないよう避難させてくれたのかもしれないが、
それを確かめる術もない。質問して頷いてくれれば確かめる事も可能だが、
というか実際それを促すために何度も質問形式の言葉を口にしているが、那由他が
なかなか頷くだけという返事をしてくれない。わざとやってんのかと彼は思った。

そして次に、何故那由他が所属するこの四九支部の教室にオルソラ=アクィナスと
アンジェレネがいるのかが分からなかった。ただ何となく一方通行は予想がついている。
オルソラ達が学園都市へ遊びに来て間もない頃に出会った風紀委員。金髪のツインテール
だとシスターの二人は言っていた。恐らくは木原那由他の事であろう。その時に軽く
那由他と交流をしたシスター二人は今日、ないしは昨日、再び出会い交流を深め、
まぁ何やかんやあって友人としてここにお呼ばれした……という程度の予想だ。
957 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:22:53.01 ID:p+QH+/XAo

当然、オルソラもアンジェレネも―――『例外なく』ミーシャ化している。変異している。
もっともこの街においては変異、変わって異なるのは一方通行の方なのだろうが。


「siiktdyxf」

「うンうン」


そしてこれが最も重要かつ根本であり、元凶といっても過言ではないのだが―――
結局一方通行は何故この街の人間全てがミーシャと化しているのか、分からなかった。
訳の分からない事はこちらの都合も考えず訳の分からないタイミングで発生する事が
ままあるが、それにしたってピンからキリまで訳が分からなかった。最初、この現象を
目の当たりにしてひどく取り乱していた一方通行も、この教室に来てからは落ち着きを
取り戻していたが、それは冷静になったのではなく思考を放棄した事による落ち着きであった。
958 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:23:49.52 ID:p+QH+/XAo

那由他とオルソラ、アンジェレネは(これもまた恐らくとしか言いようがないが)仲睦まじく
談笑し、たまに一方通行に話を振ってきて(いるのだと思う)、彼は適当に当たり障りのない
返事をする。正午を回ってお昼ご飯をごちそうになり、そしてまた談笑。

それを繰り返している内に、時刻は午後の三時を迎えようとしていた。

同時に一方通行のメンタルもまた、限界を迎えようとしていた。


(誰でもイイ……つかこの事態を起こしやがった張本人、もォそいつでイイ……。
 もォ怒りゃしねェから、そいつでも誰でもイイから、この悪夢を終わらせろ……)


悪夢。彼以外の人間にとっては何の変哲もない、一端覧祭の六日目という現実が、
一方通行にとっては悪夢でしかない。
959 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:24:43.88 ID:p+QH+/XAo

ミーシャ一人と会話を交わすだけでも実は結構精神的に疲労するのに、それが今は
三人だ。三人相手だ。一方通行は死んだ魚の目をしていた。この場面を漫画にしたら
彼の瞳のハイライトは消えているだろう。彼が発する返事も、もはや機械的なものになっていた。


おまけに今日まで親交度を深めた女性陣は警備員にしょっぴかれ、
もうこうなったらひたすら心配する他ない打ち止めや番外個体の安否も分からず
(黄泉川愛穂は手遅れだった。芳川桔梗も恐らく同じだろう)、肝心要のミーシャの
居場所も分からず、捜す気にもなれない。もう暗部の事も考える気力を削がれている。
このまま塵になって消えてしまいそうでさえあった。


(誰か……)
960 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:25:30.66 ID:p+QH+/XAo

誰かこの世界―――にまで及んでいるのか定かではないが、せめて学園都市だけでも
正常に戻してくれ、と。この事態、現象はやはり間違いなのである、と。誰でもいいから
証明してくれと。


―――そう、半ば呪文のように心の中で願い続けていた時だった。




ぱっ、と。教室の窓に強烈な光が差し込んできたのだ。



961 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:26:09.84 ID:p+QH+/XAo


「!」


本当の意味での戦争を体験した事のある人間なら、空からの爆撃かと思ったかもしれない。
本当の意味での戦争を体験した事のある一方通行は、空からの爆撃かと思った。


だがその考えはすぐに彼の中で否定される。一方通行はこの街全体を覆い尽くすような
光を一度浴びていた。それは、


(このミーシャ化現象が―――起きる前に!)


あの時の光も今のような、目が眩む光量だが攻撃性は感じられず、
むしろ"どっかで感じたような"暖かさで溢れていた。
962 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:26:48.23 ID:p+QH+/XAo


(この光が現象の原因だとすると、いよいよ俺もか?)


自分も、今この場に居る那由他やオルソラ、アンジェレネ。そして街中の人間のように
"ああなって"しまうのかと予感した一方通行は、しかしそれに対して恐怖や絶望感は
沸いてこず、自然と受け入れられるような気が―――するわけなかった。ふざけんなだった。
自分もミーシャのようになるのかと思うと、そしてそれを自覚出来ぬまま一生を過ごす可能性も
あるのかと思うと、ミーシャには失礼だが自律性を失いかねないと彼は焦燥した。


光が収まる。時間にして一秒にも満たなかっただろうその光が消え、いつもの街の風景が
窓から窺えるようになる。
963 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:27:21.75 ID:p+QH+/XAo




「――――――ねえ、さっきから尋ねてるんだけど、聞いてるのかな。 第一位のお兄さん?」

「ッ!?」



『突然』声をかけられ、一方通行は肩を弾ませた。
見ると、那由他が若干不機嫌そうな顔で一方通行の方をジッと見つめてきていた。


不機嫌そうな顔で―――不機嫌そうな『表情』で。
964 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:28:20.56 ID:p+QH+/XAo


不機嫌そうな―――『声色』で。


「あ、お、オマエ―――顔が!?」

「……私の顔が、何? 何か付いてる?」


顔が、木原那由他の顔が、歳相応の無垢……とはとても言えないが、歳相応の少女の、
整った顔立ちに変化していた。否、戻っていた。


「お、オルソラも……アンジェレネも、顔が……」

「え……? わ、私の顔がどうかしましたか……?」
965 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:29:23.92 ID:p+QH+/XAo

「先程から一方通行さんはお顔を気にしていらっしゃるようでございますね」

「ほら、私の言った通りでしょ? 第一位のお兄さんは顔で女を選ぶタイプだって」

「オマエら俺を差し置いて何の話をしてやがった!?」


一方通行はツッコんだ。ツッコミを入れる事が出来た。即ち―――会話が成立した。


顔だけじゃない。声も、元通りだった。女の子三人の華やかな声色が一方通行の鼓膜をくすぐる。
そして彼女たちの会話はあのノイズトークから引き続き、何ら変わる事なく行われている事が分かった。
つまりあの光を経て現象が改善された事実を観測したのは、少なくともこの場においては自分ただ一人
なのだと一方通行は理解に至る。
966 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:30:01.27 ID:p+QH+/XAo


「差し置いてって、あなたも私達の会話に加わっていたでしょ、第一位のお兄さん。
 まあなぜか適当に生返事を返すだけの、会話をするつもりもないですって感じだったけど」


ということは彼女たちに先の現象について尋ねても、一方通行が望む答えは返ってこないという事だ。
何故なら彼女たちにとっては現象なんてものは起きてなく、いつも通りの日常が流れていただけなのだから。
現象の観測が出来たのは果たして自分だけなのか。一方通行の頭にまた新たな懸念が生み出されていったが、


「おい、那由他」

「……その、那由他呼ばわりについてなんだけどさ、第一位のお兄さん。
 さっきも私を下の名前で呼んだけど、どういうつもりなのかな?
 普通に苗字か、それが嫌なら――嫌だろうから、フルネームで呼んでく――」
967 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:30:34.93 ID:p+QH+/XAo


「那由他」

「な、なに……ですか」


下の名前での呼称を貫く一方通行にやや気圧されたのか、那由他は注意深く観察しないと
確認できない程度に頬を染めながら、少し噛みつつ返事をした。
一方通行は名前を呼び、そして何を聞こうか散々迷ったあげく、


「オマエの風紀委員の権限使って、街の監視カメラの映像をこっちに寄越してくれ」


と頼んだ。
968 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:31:16.78 ID:p+QH+/XAo


――――――――――――――――――――――


「―――だから、テメェの方からいきなり抱きついてきたんだっつってんだろ!!
 おい妹ちゃん、お前も見てただろ? 俺がルチアやこのクソ女に襲われてたのを」

「う、う〜ん……」

「私の方から? 垣根帝督に? あり得ません、あってはならないのです!!
 適当な事を言って逃れようとしないでください! 寝ている私の体を起こして
 自分の体に密着させたとか、そういうふしだらな真似をしたに決まっています!」

「都合良く記憶が改竄されすぎじゃねえ!?」

「んー、でもまぁ、確かに腑に落ちない点はあるかも」
969 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:32:00.02 ID:p+QH+/XAo


ドレスの少女は人差し指を唇に当てながら、そんな事を言った。


「自分の意志であなたに抱きつくなんて事はないにしても……、んん。
 アレじゃない? ほら、夢でも見てて、無意識に彼に抱きついたとか」

「む、無意識下においてもこの私がこの男に抱きつくなどあり得ません。
 それはイコール、私の精神構造に何らかの異常が発生している事に……」

「ちょっと……お前、ルチア……それは言い過ぎじゃねえ……?」

「あ、すみません……」


軽く自殺したくなる程のルチアの言葉に垣根帝督はへこみにへこんだ。
970 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:32:54.13 ID:p+QH+/XAo


イギリスにも発生していたミーシャ化現象は、学園都市と同じく解消されていた。
一方通行が浴びた激しい光を垣根もまた目撃し、気がついたら抱きついてきていた
ルチアとドレスの少女の顔や声は元通りになっており、そして垣根はルチアから
渾身のビンタを食らった。おかげで彼の頬には綺麗な紅葉が浮かび上がっている。


イギリスは現在、朝の七時頃。『明け色の陽射し』のアジトを兼ねるアパートの一室。
この部屋には垣根帝督、ドレスの少女、ルチア、そしてパトリシア=バードウェイが
在室しているが、朝までぐっすり眠れたのは女性陣の三名のみであった。
垣根は結局朝まで少女とルチアに抱き枕の如く捕縛され、寝るに寝られなかった。


「ちくしょう……眠い。 テメェらのせいだぞ」

「知りませんよ。 あぁ、もう……どうしてこのような事に……」
971 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:34:05.60 ID:p+QH+/XAo

「幸せ者ね垣根帝督。 女の子に抱きつかれて寝不足だなんて」

「と、とりあえず朝ご飯にしましょう! ステイルさん達やお姉さん、
 まだ帰ってきてないようですし……先に済ませてしまいましょう」


特に垣根帝督とルチアは納得出来なかったようだが、これ以上口論しても
埒があかないと判断したのか、渋々布団を片付け始めた。

片付けついでに、垣根は三人にこんな質問をしてみる。


「お前らよ、さっき外ですげえ光ったヤツ、あれ見た?」
972 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:35:04.17 ID:p+QH+/XAo


「?」

「?」

「?」

「だよな」


やはりあの光を目撃したのは垣根帝督ただ一人らしい。

結局、深夜から朝にかけて発生したあの恐ろしい現象は何だったのか。
垣根は夢だと思おうともしたが、現象が発生してから一睡もしていないのに
夢もクソもない事に気付き、ずしりと重い瞼をこすりながら布団の片付けを続行した。
973 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:36:00.91 ID:p+QH+/XAo


――――――――――――――――――――――


こうして学園都市―――否。一方通行、垣根帝督、フィアンマを襲った
人類ミーシャ=クロイツェフ現象は無事に幕を閉じた。フィアンマは
『御使堕し(改)』の完全終了を確認すると、徹夜が続いた事もあってか、
全身の力を抜いてその場にへたり込んだ。


「終わったか……」

「問一。 私がこの世界へ再び降りた時、この街に発生した現象に
 ついては貴方から聞いたが、しかし何故解消する必要があったのか」
974 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:36:40.70 ID:p+QH+/XAo

「お前にとっては居心地が良い世界だったかもしれんがな、その他にとっては地獄
 でしかなかったんだよ。 その他には俺様と上条当麻、そして一方通行くらいしか
 該当せんだろうが。 ……ああ、それと垣根帝督も恐らくは地獄を見ているはずだ」

『何だかよく分かりませんが、これでフィアンマが抱えていた問題は
 全て解決したのですね? 労うつもりはないですが、お疲れ様でした』


サーシャ=クロイツェフの魂が収められたビンは、現在ミーシャが持っている。
ミーシャと言っても外見はサーシャ=クロイツェフで、しかしそのサーシャは
ビンの中で魂だけと化しているのだからややこしい事この上ない。


『しかし、第一の私見ですが……自分の肉体をこうして自分で見るというのは
 かなりの違和感がありますね。 鏡で自分の姿を見るには見ますが、ですが
 他者の視点だと私はこう映っていると思うと……ううむ』
975 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:37:37.39 ID:p+QH+/XAo

「問二。 思うと、何か」

『……うん。 あり得ませんよねこの服。 ミーシャ、そこで第一の質問なのですが
 これからこの街のデパートで衣服を購入しませんか? 補足説明しますと、別に
 購入しなくても、誰かから譲り受けるという手段もアリですが……とにかく着替えましょう』

「私見一。 衣服を着替える必要性を私は感じない」

『第二の質問ですが、なして!?』

「解答一。 サーシャ=クロイツェフはこの衣服が一番適合していると思われる」

『第一の私見ですが、そのサーシャ=クロイツェフである私が着替えましょうと言っているのです!』
976 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:38:37.85 ID:p+QH+/XAo

「解答ニ。 そのサーシャ=クロイツェフの肉体は、今は私の管理下である。
 即ち、この肉体をどう扱おうが私の勝手と解釈する事が可能である」

『うわーん騙されました! 天使に体を乗っ取られたー!』
 
「……お前ら二人が会話すると本当、面倒な台詞回しの応酬になるな……」


ぎゃあぎゃあと抗議するサーシャに対し、ミーシャはビンを思い切り振りまくる事で
黙らせた。魂というそれが具体的には何なのか、科学サイドでも魔術サイドでも明らかには
なっていないが、一般人に言わせても魂とはデリケートなものであると考えるだろう。
そんな魂をビン詰めにして振り回すなど正気の沙汰ではないのだが―――――
977 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:39:17.02 ID:p+QH+/XAo




「フィアンマ!」




魂の扱いについて議論する暇は、フィアンマの名を叫んだ少年が与えてくれないようだった。
学園都市第一位、一方通行は杖をがっがっと地面に叩きつけながら木造二階建てアパートの
敷地内に入ってきた。


「誰かと思えば、我らが『天使同盟』のリーダー様か。 久しぶりだな」

「フィアンマ、オマエさっきの現象…………。 ………………」
978 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:40:32.25 ID:p+QH+/XAo

「ん? どうした一方通行」

「なァ、フィアンマよ。 この光景から俺はどォいう解釈をすればイイと思う」


一方通行が言う光景とは、ド派手に半壊したアパート、その前でぐったりと座り込むフィアンマ。
そして何故か学園都市にいる"サーシャ=クロイツェフ"と、彼女が持つ綺麗な光が収まったビン。
ここから正しく現状を把握できる者など、せいぜいエイワスくらいのものだろう。


「貴方」

「あ?」


と、不意に"サーシャ"が一方通行に飛びついた。飛びついて、抱きついた。
その際サーシャの魂が入ったビンは放り投げられ、フィアンマが危うくキャッチする。
979 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:42:05.24 ID:p+QH+/XAo


「貴方。 先の誘拐事件は互いにお疲れ様でしたと労うべきだと私は考える」

「は? 誘拐事件? 何でオマエがその事を……ていうか、監視カメラで
 第七学区"漁ってたら"サーシャが居たモンで驚かされ…………、おい」

「?」

「オマエ、ガブリエルだな?」


恐るべき洞察力。一方通行は一分もしない内に『サーシャ=クロイツェフ(in ミーシャ)』を
看破してみせた。これには然しものフィアンマも驚愕を禁じ得ない。事情を知っているなら
ともかく、サーシャを知っている者がサーシャを見たら、誰だってサーシャだと思うだろう。

もっとも、彼は知る由もないがロシアにてワシリーサがサーシャがミーシャであることを見破っている。
980 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:42:48.75 ID:p+QH+/XAo


「解答三。 その通り、私はミーシャ=クロイツェフ。 流石」

「その通りじゃねェよクソ天使、サーシャだったら俺にこンな事して
 こねェだろォが。 つか出合い頭に俺に抱きついてくるバカなンざ
 クソガキとガブリエルくれェしかいねェしな。 で、何だこれは」

「問三。 何だこれは、という言葉の意味するところは」

「なァンでサーシャの中にガブリエルが入ってるンですかってこった」

「経緯を説明するためには、まずこの学園都市で起こっていた現象に
 ついても、ついでに説明せねばならんのだろうな。 面倒だが」

「! オマエ、フィアンマもあの現象を観測出来てたのかよ!?」

「そういう事だ。 少しは説明する手間も省けるだろう」


フィアンマは『御使堕し(改)』発動から終了までの経緯を一方通行に説明した。
981 : ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:47:53.18 ID:p+QH+/XAo

今回の投下は以上となります。

いかがだったでしょうか。一端覧祭六日目前半部、『御使堕し(改)』。
きちんとギャグで通せていたでしょうか。楽しんでいただけていたら
幸いなのですが……。

最初に触れましたが、ここからゆっくりと雰囲気が変わっていきます。
軽く今後の展開を述べますと、再び御坂美琴が登場したり、あの夫婦が登場したり……他にも色々。
お楽しみに。

そして次スレですが、もう今すぐ立てた方がいいのかな……。
ですが、それならもう少し待ってもらえるとありがたいです。
頃合いを見てちゃんと立てますので。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!
982 :次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI [saga]:2012/06/24(日) 15:48:45.52 ID:p+QH+/XAo



                          【次回予告】



「もう遅い。 貴方へのサプライズ贈呈はカウントダウンを始めている」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・サーシャの肉体に宿った『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ




「なンでサプライズなのにそンな死の宣告みてェな言い方になるンだ!?」
『天使同盟』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)




「だ、男性の胸元に密着し続けるというのもその……何やらアレですね」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ(ビン詰め)



983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/06/24(日) 15:54:35.12 ID:vGed3JyAO
乙!

ミーシャ×サーシャワロタwwww
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/24(日) 15:54:50.41 ID:7rvm/XjXo
大津
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/24(日) 16:40:52.16 ID:P8KHHJNZ0
乙。
やっと平和な世界にもどった・・・!(サーシャ以外)
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/06/24(日) 16:56:44.80 ID:fO29+yaI0
第一の質問ですが何故那由他達はミーシャ化前後の記憶はちゃんとあったのにルシア達はなかったのか?
それと、第一の私見ですがデレてる那由他ちゃん可愛い
>>1乙です
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/24(日) 18:27:18.89 ID:UHp8TqDK0
>>1
>>986それは心理定規とルチアが寝てたから
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/06/24(日) 20:52:42.47 ID:P7fZMVKK0
どうでもいいけど第一の私見が2つあるなwwほんとどうでもいいけど
てかルチアなにげにひどいなww
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/24(日) 21:16:04.68 ID:PYxtSv7B0
天使化中は筆談もアウト?
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/06/24(日) 23:45:24.13 ID:hXvPkq1V0
いちおつー

言語が合わないから無理なんじゃない?
それ以前に相手からは何も起きていないので筆談する必要はないから不審に思われちゃうでしょ
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/06/25(月) 00:44:31.37 ID:COuFbJevo
誘導まだ?
992 : ◆3dKAx7itpI [sage]:2012/06/25(月) 08:07:42.48 ID:AuEbIX6Lo
>>986
あ、ちゃんと二人共記憶あります。あくまでも自分の意志で抱きついていたという
現実から二人が目を逸らしているだけです(心理定規もセリフからは窺いにくいですが恥ずかしがってます)。
適当な事を言っているのは垣根ではなくルチア達です。

>>988
本当、めんどく……特徴的な口調ですよね。ごめんなさい

>>989
なんで筆談しなきゃならんの?ってなるからです。


蛇足 とあるフラグの天使同盟 玖匹目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1340578561/


そして次スレです。上記URLからどうぞ!
ついに本編と並んだぞオイ……。


993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/25(月) 11:55:41.54 ID:DFK9UoEIO
乙!

面白いものは見続けたいのがどくしゃなんです!
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/25(月) 12:45:44.02 ID:HUH4s0OIO
終わるまで全裸。命など惜しくない。
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/25(月) 14:58:22.63 ID:AH9Ea7bj0
私見一、>>1000は私が取ろう
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/06/25(月) 15:58:34.87 ID:yWdcEqhko
第一の私見ですが>>1000は私が取ります
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/25(月) 17:23:38.63 ID:2zbL9hH+0
>>1000は私が取る。これは私が生まれた時からの決定事項だ
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/06/25(月) 17:53:21.54 ID:cJGk0iap0
>>1000なら那由他ちゃんは俺の嫁
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/25(月) 17:58:22.50 ID:PM2gPPMCo
>>1000なら完全無欠のハッピーエンド
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/06/25(月) 18:05:05.70 ID:szIr4V2fo
1000
1001 :1001 :Over 1000 Thread
       / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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恒一「対策とか言うけどさ、どうせ来年の7月にはみんな死ぬよね」 @ 2012/06/25(月) 17:11:00.19 ID:/czdE60q0
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姑として嫁と仲良くやるコツ @ 2012/06/25(月) 15:14:36.09 ID:FvfFOGTL0
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眼鏡うp シフトレバーかと思ったらマイ操縦桿だった @ 2012/06/25(月) 14:41:17.55 ID:mUiob6o0o
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ぷらぐちゃんの小屋 @ 2012/06/25(月) 14:01:56.33 ID:EYizGwZKP
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神奈川ラーメングランプリ予選 @ 2012/06/25(月) 13:41:05.49 ID:PoUV89Sxo
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ふん @ 2012/06/25(月) 09:47:12.47 ID:br6tGwHio
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蛇足 とあるフラグの天使同盟 玖匹目 @ 2012/06/25(月) 07:56:01.40 ID:AuEbIX6Lo
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真美「はるるんのリボンを取ったら動かなくなった」 @ 2012/06/25(月) 04:18:31.16 ID:uBoDckhK0
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