女神

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192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 22:56:07.72 ID:GO5crQa4o

 やはり同姓同名の他人ではなかったのだ。僕は胸を痛めた。彼女にとっては僕なんて過
去の思い出に過ぎないのだろう。だから、同じ学校に入学してもそのことを僕に知らせる
気にすらならなかったのだ。それは僕にとっては厳しい発見だった。ある意味、優が黙っ
て転校したことより厳しかった。

 あの時は、僕たちは家庭の事情というやつに振り回された悲劇のカップルだと思い込む
ことが出来た。彼女が黙って転校して行ったのも、僕に話したとしてもどうにもならなか
ったのだからだと。

 でも、こうして同じ学校に入学したことを、優が僕に話そうという発想がない時点で、
僕と優に起こった出来事は僕が思い込んでいるようなロマンティックな悲劇などではなく、
単に彼女が僕のことなんか気にしていなかったということになる。それも、おそらく彼女
が転校した時から。いや、もしかしたら僕と付き合っていたときから。

 僕の告白に応えなかった遠山さんだけど、その後の生徒会活動には普通に顔を出してく
れていた。学園祭が近かったので、今では主戦力となっている彼女が僕のことを気にして
生徒会や実行委員会に顔を出しづらくなったらどうしようと思ったのだけど、責任感が強
いせいか彼女は普通に活動に参加してくれていた。

 ただ、僕が堪えたのは遠山さんがやたらに僕のことを気にするような行動を取るように
なったことだった。僕を振ったことを気にしていたのだろうか。彼女は告白を機に僕とよ
そよそしくなるより、今まで以上に僕に親しく話しかけることによって、僕の告白は気に
してませんよ、今までどおりいい先輩後輩でいましょうと訴えているようだった。

 でも、そんな彼女の行動はかえって生徒会役員たちの好奇心を刺激してしまった。

「石井会長と遠山さん、最近妙に仲良くない?」

「遠山さんって本当は石井会長狙いだったのかな」

 そんな噂が流れているよと僕に教えてくれたのは、副会長だった。

「ばかばかしい」
 僕は切り捨てた。「だいたい遠山さんには、広橋君だか池山君だかがいるんだろ」

「でも最近の彼女、妙にあんたに話しかけたりあんたのそばに擦り寄ったりしてるからなあ」

副会長は例によってこの手の話題が大好物のようだった。

「あんたのこと、実は好きだったりして」

 そんなことはないことは僕が一番よく知っていた。そしてこの噂を鎮めるには、僕が遠
山さんに告白し振られたという事実を明かせばそれで澄むことだった。でも、二見さんの
彼氏を知ろうとして仕掛けた告白とはいえ、そんな事情まで話すわけにいかないから、そ
れだと世間に出回る事実は僕が遠山さんに振られたということだけになる。それは、プラ
イドだけは無駄に高い僕には耐えられなかった。

 なので、無念ながらこの噂は放置するしかなかったのだけど、その後も遠山さんは僕に
気を遣うあまり、今までより僕に近づき僕に優しく接することをやめなかった。それは僕
の精神状態に微妙な影響を与え始めた。僕はあくまで作戦の一環として遠山さんに告白す
る振りをしただけなのだけど、彼女が僕をこれ以上傷つけまいと、告白前と変わりないと
いうか告白前より親密に接してくれるようになると、僕は何だか本当に彼女に振られたよう
な気分になってきた。

 ただでさえ、優の僕に対する本心を知った後なのに、遠山さんに本気で恋して、そして
振られた気になっていった僕は、だんだんといつもの冷静さを失うようになっていった。
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 22:57:37.82 ID:GO5crQa4o

そのうち、ひそかに危惧していたとおり、僕が遠山さんに告白して、彼女がそれを断っ
たという噂が生徒会内に流れ始めた。それは噂ではなく事実だったのだけど、僕は本気で
遠山さんが好きになったわけではない。でもその噂はその部分は抜きで、本気で僕が彼女
を好きになり告白して、そして振られたということになっていた。僕は噂をやはり副会長
から聞かされたのだった。

「遠山さんがあんたのことを好きなんじゃなくて、逆だったか」

 副会長は遠慮会釈なく僕に言った。「遠山さんって、あんたのことが好きだから最近あ
んたに接近してるんじゃなくて、振ったことが後ろめたくてあんたにも気を遣って欲しく
なくて、今まで以上にあんたと接するようにしてたのね」

 僕は反論しようとしたけど、何といっていいのかわからなかった。

「元気だしなよ。そもそも遠山さんには広橋君がいるってあたしが教えてあげたのに、あ
んたはだめもとで告ったんでしょ」

 僕が遠山さんに告白した場所には誰もいなかったはずだ。それを知っているのは僕と遠
山さんだけなのだ。そして、遠山さんは僕に告白されそれを断ったことを自慢げに周囲に
話すような子ではなかった。いったい誰がこんな話を広めているのだろう。僕は必死に考
えたけど、そんなことをする人間のことは思いつかなかった。

 僕はもう副会長に返事をする気すらなくしていた。それから、僕は生徒会では遠山さん
を避けるようになった。そんな僕に彼女は戸惑っていたようだけど、周りの役員たちはや
っぱりねという視線で僕を見ているようだった。

 やがて僕のプライドは、僕を気遣うような、そして僕をからかうような役員たちの視線に
耐えられなくなっていった。

 生徒会に居辛くなった僕は、会長としての最低限の仕事を済ますと、僕が部長を務めて
いるパソコン部で時間を過ごすようになった。ここは気楽な場所だった。僕は部長だった
けど、ここの部員を組織として動かすとかみんなで一丸となって何かをやり遂げようなん
て無駄なことを考えたことは一度もなかった。

 この部は極度な個人主義的な雰囲気が特徴であり、部員たちはデスクトップPCの前で
思い思いに勝手なことをして放課後の時間を過ごしていた。まるでネカフェのようだった
けど、それがパソ部の部活の実態だったのだ。一応僕はこの部の部長なのだけど、ここに
逃げ込むとそういうことは別にどうでもいいやと感じられるような雰囲気の場所なのだっ
た。

 ある日、生徒会のミーティングで戸惑っているような遠山さんや、からかい混じりの役
員たちに最低限の指示を与えた後、僕は逃げるようにパソ部の部室に来た。いつもは静か
にPCの前で好き勝手なことをしている部員たちが、どういうわけか困惑したように一人
の女の子を囲んで何やら話し合っている姿が僕の目に入った。

「どうしたの」

 僕は誰にともなく声をかけた。何で男だらけのこの部室の真ん中に、こんな部に似合わな
い一年生らしき女の子が目を伏せて座っているのだろう。

「ああ部長。ちょうどよかったです」

 二年生の副部長が心底助かったという表情で言った。「彼女、入部希望者なんですけど」

 それで、こいつらは困惑した様子だったのか。僕は少しだけおかしかった。僕はイケメ
ンでもリア充でもないけれど、こいつらのように女の子が部室に来たというだけでこれほ
ど面食らってどうしたらいいのかわからなくなるということはない。僕はその女の子を見
た。

 それではこの女の子はパソ部に入りたいといういうのだろうか。個人的にアドバイスす
るならば止めておいた方がいいよといいたところだけど、部長としてはそうもいかなかっ
た。

「僕が部長なんだけど、君はパソコン部に入部希望なの?」

 よく見ると、その子はすごく可愛らしい子だった。優とか遠山さんのように、きれい
で可愛らしいけど、実は意志が強いという感じはせず、か弱く守ってあげたいという外見
の少女だった。徽章を見ると一年生だ。
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 22:58:49.00 ID:GO5crQa4o

「はい。いろいろネットのこととか勉強したくて」

 その一年生の女の子はきれいな顔を上げて僕の方を見て言った。意外としっかりとした
口調だった。

「そうか。入部はいつでも歓迎するけど・・・・・・でも、うちって女の子は一人もいないんだ
けどそれでも平気なの」

 僕はまず気になっていることを確認した。

「あ、はい。女子でも入部させてもらえるなら」

 彼女はあっさり答えた。

 そこまで言うなら、彼女の入部を断る理由はなかった。僕は彼女に聞いた。

「じゃあ、名前と学年とクラスを教えてくれる?」

「はい。名前は池山麻衣といって学年は一年でクラスは」

 僕はそれを聞いて呆然とその美少女を眺めた。では、この子がブラコンだという、池山
君の妹なのだ。

 その時、ふと僕の心に次の作戦が浮かんできた。遠山さんから聞き出せなかった情報も、
この池山さんからなら聞き出せるかもしれない。僕はその思いを隠して精一杯の笑顔を浮
かべて彼女に言った。

「パソコン部にようこそ。君を新入部員として歓迎するよ」

 その時、黙って池山さんに見蕩れていたらしい副部長以下の部員たちが拍手を始めた。
リアルな女性は苦手なはずの部員たちも、彼女の可愛らしい容姿に無関心ではないようだ
った。

 ・・・・・・今度はうまくいくかもしれないな。部員たちと一緒になって拍手しながら僕はそ
う思った。

 その日から僕は、遠山さんと顔をあわせて一緒に仕事をすることに対して、気が重く感
じていたこともあり、生徒会では最低限の指示をするだけで、残った時間はパソコン部に
顔を出すようにした。副会長はこれまで僕が生徒会活動に打ち込んでいたことを知ってい
ただけに不思議そうで はあったけど、結局のところ遠山さんに振られた僕が、この場に
いることがいたたまれないのだろうという解釈に落ち着いたようだった。そしてそれは他
の役員たちの共通認識でもあるようだった。

「あんた考えすぎだと思うけどな」

 学園祭に向けた作業を分担して開始した生徒会役員と学園祭実行委員たちを尻目に、
生徒会室を去って行こうとする僕に副会長は話しかけられた。

「遠山さんと一緒に居づらいんでしょうけど、告って振られることなんて別に恥かしいこ
とじゃないじゃん。あんた変なところでプライド高すぎだよ」
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 22:59:19.98 ID:GO5crQa4o

 彼女の言葉は僕の胸に突き刺さった。確かに僕は遠山さんのことを本気で好きなったわ
けではなかった。それでも、彼女に告って彼女に振られたことは事実だったし、そのこと
が生徒会で噂になり哀れむよう視線で僕がみんなに見られていたこともまた事実だった。
そして、真実 はどうあれ、そういう状況に僕のプライドは耐えられなくなっていたのだ。

 僕はそのことについて副会長に言い訳することすらできなかった。

「何を考えているのか知らないけど、僕は部活に行かなきゃいけなくなっただけだよ」

 僕は彼女に言い訳した。

「あんたの部活ってパソ部でしょ? 部長なんかいてもいなくても同じでしょうが」

 副会長は僕の言い訳なんか頭から信じていないようだった。

「新入部員が入部したんだよ。一年生だし唯一の女の子だからあいつらには任せられない
んだ」

 僕はその新入部員が池山君の妹であることは副部長には話さなかった。僕はそれだけ言
い訳すると、副部長の追及を逃れパソ部の部室に向かったのだった。



 僕が部室に入った時、池山さんは部室で一人ぽつんと取り残されていたようだった。彼
女は落ち着かなげにあてがわれたPCの前で一人座っていた。どうやら副部長や部員たち
は情けないことに彼女を指導するどころか世間話さえすることができず、とりあえず彼女
にPCをあてがってそのまま放置したようだった。もっとも、ちらちらと彼女の方を盗み
見している部員はいたようだけど。

 本当にどうしようもないやつらだな。僕はそう思ったけど、よく考えるまでもなく広橋
君たちのようなリア充より、パソ部の部員の方がより僕と同類なのだった。それでも部長
として彼女を一人で放置する訳にはいかなかった。そして、今の僕には誰にも言えない秘
めた目的もあるのだ、

 僕は池山さんに歩み寄り声をかけた。

「池山さん、こんにちは」

 彼女はあてがわれたパソコンを操作するでもなく俯いていたけど、僕のあいさつを聞く
と慌てた様子で顔をあげた。僕の方を上目遣いに見上げた彼女の白く綺麗な顔に、僕は一
瞬ドキッとした。

「あ・・・・・・部長。こんにちは」

 緊張しているのか、か細い声で池山さんが言った。

「君は今何をしてたのかな」

 僕は彼女に話しかけながらデスクトップのディスプレイをちらっと眺めた。画面は真っ
黒で起動すらしていないようだった。

 こいつら本当に新入部員を放置したのか。僕は少し飽きれた。男の部員だったらあれほ
ど専門知識をひけらかしながら最初の面倒だけは見ていたこいつらも、リアルで美少女で
ある池山さんに話しかけて面倒を見る勇気はなかったようだった。生徒会で振られた男と
して見られていた僕も、この部では女性関係に関してはこいつらより数段上のようだった。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 23:00:26.70 ID:GO5crQa4o

「いえ。特に何もしていません。よくわからなくて」

 池山さんは言った。

 ・・・・・・やばい。この子本当に可愛いな。彼女の表情を見て彼女の弱々しい言葉を聞いた
とき、僕は思わずそう思ってしまった。今でも僕は優への恋情を抱えているはずなのに。

「よくわからないって言うけどさ」
 僕は気を取り直して彼女にレクチャーを始めた。

「まあ、うちの部はパソコン部って言うだけあって、パソコンとかネットとかIT関係な
らなんでもありな部だからさ」

 池山さんは頷きながら僕の言うことを聞いてくれていた。

「だから、部員たちもそれぞれ好き勝手に活動してるんだよね」

「・・・・・・はい」

「例えば、隣のブースにいるあいつ」

 僕は彼女と同じ一年生の部員を指差した。こいつは他の部員たちと異なり彼女をチラ
見することなく一心不乱にディスプレイ上を埋め尽くしたコードを睨んでいた。

「彼は、CGIスクリプトを勉強中なんだよ。勉強中っていっても基礎を覚える段階じゃなくて、実際に応用的なプログラムを組んでるんだけどね」

「それから、反対側にいるあいつ。あいつは、Second Lifeっていうバーチャルワールド
内で実装されている言語、リンデン・スクリプト・ランゲージっていうんだけど、それを
使って仮想世界内で通用するプログラムを毎日組んでる」

「はあ」

 池山さんにはぴんと来ないようだった。

「じゃあ、部室の反対側にいるあいつ」

 僕はもっとわかりやすい作業をしている二年生の部員を指し示した。

「彼は3Dモデリングを練習しているんだ。SHADEというソフトなんだけど・・・・・・ほら、
画面が見えるでしょ」

 そいつの作業中のディスプレイにはリアルな3Dのオブジェクトがでかく映し出されて
いた。これなら彼女にも理解しやすいだろう。

 ・・・・・・だが、僕は彼の作業中の画面を池山さんに紹介したことを一瞬で後悔した。その
画面上には、3Dでリアルに描写された幼女のヌードが大写しに描かれていたのだ。

 ・・・・・・おい。おまえはこの前まで確か人類初の恒星間移民船とやらの3Dグラフィック
を製作してたんじゃなかったのかよ。

 こうして部員それぞれが好き勝手に作業している様子を紹介していると、だんだん彼女
は元気がなくなっていく様子だった。

「どうかした?」

 僕は彼女に声をかけた。彼女はしばらく俯いていたけど、やがて細い声で話し出した。

「あの・・・・・・。あたし、パソコン部ってちょっと勘違いしていたかもしれません」

「勘違いって?」

「あたしは本当に初心者で、家のパソコンでたまに天気予報とかニュースとかミクシーと
か見るだけで」

 まあそうだろうな。僕は最初から彼女のPCスキルに期待なんてしていなかった。でも、
そう考えていたわりには僕は彼女に部内でもスキルの高い部員が何をしているかを紹介し
てしまったのだった。

 何でだろう? 僕は自己分析した。この可愛らしい、守ってあげたいという欲望を刺激
する一年生の少女に、うちの部の凄さを自慢したかったからかもしれない。つまり僕は彼
女に対してうちの部のレベルを感心させたかったのだ。それは、そうすることでスキルの
高い部員を擁する部の部長である僕を池山さんによく見せたかったからだろう。僕はこの
兄である池山君が大好きだという美少女に、僕に対して関心を持ってもらいたかったのだ
ろうか。

 当初の目的を忘れ少し混乱しだした僕だけど、僕の最初の部活レクチャーが失敗してし
まったことはは理解していたので、まずそれをフォローすることが先決だった。
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 23:01:56.39 ID:GO5crQa4o

「ああ、ごめん」

 僕はなるべく明るい声で彼女に言った。

「君はネットのこととか勉強したいと言っていたね」

 僕はなるべくさわやかな微笑みになるよう努めながら、池山さんの可愛らしい顔を見
た。

「うちの部はいろんなやつがいるからね。例えば・・・・・・」

 僕はすぐ近くのブースで何やら作業している一年生のディスプレイを指し示した。

「例えばこいつなんかは」

 ・・・・・・げ。おまえは何で堂々と校内ででエロゲしてるんだよ。ネットどころかそもそも
オンラインでさえないだろうが。僕はあわてて違うデスクのPCの方を指差した。

「違った・・・・・・こいつね」

 何をしていようとエロゲのしかもムービーシーンを一心不乱に眺めているやつよりは
ましだろう。

 僕が指差した部員は三年生だった。彼は、無関心を装いながら僕らの方を気にしていた
他の部員たちと異なり、僕と池山さんの方なんか気にせずに一心不乱にキーボードに向か
って何やら長文を打ち込んでいた。

「この先輩は何をされているんですか」

 池山さんが聞いた。そういやこいつは何をしているんだろう。僕は、とりあえずエロゲ
のセックスシーンを彼女に見せないためにこいつを指差しただけで、こいつが何をしてい
るのかなんて考えてもいなかったのだ。あらためてこいつの画面を覗くと、そこには2ち
ゃんねるの専用ブラウザが表示されていた。

「ああ。君って2ちゃんねるって知ってる?」

 僕は聞いた。

「あ、はい。たまにお兄ちゃんが見てましたから」

池山さんはすぐに答えた。そういえばこの子はブラコンなんだっけ。僕は副会長に聞い
た噂話を思い出した。

「こいつは2ちゃんねるに入り浸ってるんだよ。いつも見ているのは、アニキャラ総合っ
ていうところだけどね」

 それから僕はもう少し普通の活動をしている部員を紹介した。フォトショップとかイラ
ストレーターを使用して画像製作をしているやつや、DTMソフトを使って音楽を作ってい
るやつ、HTMLやFLASHでサイト製作をしているやつとか。でも、最後に僕が池山さんにう
ちの部活動の感想を聞いた時の反応は印象的なものだった。

「で、ネット関係を勉強したい言っていってたけど」

 僕は彼女に聞いた。

「うちの部員の活動を見てさ、具体的にどんなことを覚えたいの?」

「あの」

 彼女は遠慮がちに言った。

 正直に言うと、この時の僕は彼女に気を惹かれだしていた。あれだけ恋焦がれていて結
果的に裏切られた優とか、僕が振られたことになっている遠山さんのことが、この瞬間に
は僕の脳裏から忘れ去られているほどに。

「あたし、2ちゃんねるとかって詳しくなりたいです」

 池山さんは僕の質問にそう答えた。
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 23:02:49.83 ID:GO5crQa4o

 ・・・・・・いったい池山さんは何を考えているのだろう。僕にはよくわからなかった。でも、
僕が今では彼女のことを気にしていることだけは確かなようだった。僕の当初の意図であ
った優のことを調べたいという目的に加えて、池山さんのことを知りたいという新たな目
的が僕にはできたのだった。僕は実は気が多いのかもしれない。僕は初めてそういう感想
を抱いた。僕はついこの間まで中学生だった池山さんの幼く可愛らしい容姿を好ましく思
いながら言った。

「僕もそんなに詳しくないけど、よかったら一緒に2ちゃんねるとかネットのこととか勉
強しようか」

精一杯優しく微笑んで。こんな気持悪いことを言ったら彼女にドン引きされて嫌われて
しまうかもしれない。でも、僕はそう口に出してしまったのだ。

 しばらくして、池山さんは僕にぺこりと頭を下げた。

「はい。部長、よろしくお願いします」



 次の日から僕は池山さんをPCの前に座らせ、自分は彼女の横に置いた丸椅子に腰掛けて
指導することにした。指導といっても池山さんの希望は抽象的でネットとか2ちゃんねる
とかに詳しくなりたいというものだった。

 正直、これが可愛らしい池山さんでなければそんな希望に応える気すらしなかったろう。
うちの部は確かに生徒会と違って非リアな部員の集まりだったけど、部員の資質はそれな
りに高かったし、数少ない新入部員でさえVBAを覚えたいとかC++やJavaをもっと自由に使
えるようになりたいとか、そういう希望者が多かった。正直に言えばうちの部のドアを叩
いて、街中のパソコン教室の初心者クラスに初めて通うお年寄りのような希望を堂々と述
べたのは、僕の知る限りでは彼女だけだった。

 周りの部員たちもてっきり飽きれて彼女に冷たくするかと危惧したのだけれど、やはり
彼らも美少女の艶やかな容姿の誘惑には勝てなかったようで、だんだんと彼女がパソ部の
部室にいることに慣れてきた部員たちは、おどおどしながらも彼女に話しかけたり彼女を
助けたがるような様子を見せ始めたのだった。

 部員たちが彼女を受け入れたのはよかったけれど、池山さんへの彼らの関心や干渉は正
直迷惑だった。あからさまに言えばこいつらの池山さんへの関心は、僕にとって二つの理
由から邪魔だった。

 一つには、彼女は優と池山君、遠山さんと広橋君の関係者だったから、僕は池山さんと
仲良くなり、さりげなく彼らの交際事情を聞きだしたかった。中学時代の切ない想い、僕
の人生で唯一の恋愛のことは僕の心の中でまだ生きていたけど、優の気持ちを今更知った
からといってそれが復活 するわけではないことは承知していた。それでも真相を知りた
いという気持ちはまだ薄れてはいなかった。

 二つ目は、すごく単純に言ってしまうと僕が池山さんに惹かれ出していたからだった。
優のことを引き摺っていたり、遠山さんに仕掛けた偽装告白と、彼女の拒否が思ったより
自分の心に打撃を与えたこととか、そいうことはこの頃にはあまり自分の心に思い浮ばな
くなっていた。つまり僕と池山さんが二人きりで過ごす時間に介入しようとする部員たち
が僕にとって邪魔だったのだ。

 そういう理由から僕は彼女を独り占めしていていたかったのだ。
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 23:03:50.44 ID:GO5crQa4o

 池山さんは、優とかその他の、僕に告白してきた女の子たちとはタイプが全く違ってい
た。どういうわけか僕が好きになる、あるいは僕を好きになる女の子は容姿は様々だった
けど、基本的にはしっかりとした性格のお姉さんタイプの女の子が多かった。でも、遠山
さんはちょっと違っていた。

 遠山さんは守ってあげたいという気持ちを男に起こさせるような女の子だった。そうい
う彼女の控えめで可憐な姿に、正直僕は惚れてしまった。そして、それは僕だけではなく
他の部員たちも同じようだったけど、僕は見苦しくも部長権限を振りかざして彼女の教育
係の座を確保したのだった。

「遠山さんって自分の家にパソコンないの?」

 最初に、僕は彼女のあまりの初心者ぶりに驚いて聞いた。

「リビングにパソコンはあるんですけど、おにい・・・・・・兄がいつも使っているんであたし
はあまり触ったことはないです」

 彼女はそう言った。

「それでも、スマホとかでネット見たりしない? それと学校の授業でもネット関係の講
座があるよね?」

「あたし、スマホもメールとかLINEくらしか使えませんし、IT関係の授業もあまり興味が
なくて」

 それなら、いったい彼女はなぜ今更パソ部の扉を叩いたのだろう。僕は疑問に思った。
うちは遠山さんのような女の子が思いつきで入部するようなクラブではない。パソ部は校
内の評価は最悪で、一般の生徒たちからはキモヲタの巣窟のように目されていたのだし、
女性すら一人もいないようなそんな部に中途でわざわざ勇気を出して入部希望をした意味
は何なのだろう。

 僕はその時久しぶりに自分の「傾聴」スキルを発動しようと思いついた。高校に入って
からはほとんど思い浮かべたことがなかったスキルだったけど、今こうして遠山さんと二
人でPC前に座っていると、彼女のことをもっとよく知りたいという欲求が僕の心に浮かん
できた。

 そうすれば、多分単なるいい部長という立場で表面的な会話をしているよりてっとり早
く彼女の心に入り込めるだろう。そして、今までの実績でいうと僕がコンサルタントを成
功した女の子たちはかなりの高確率で僕を好きになったのだった。それは単なる陽性転移
に過ぎないのだけれど。そういうクライアントの感情に流されえてはいけないというポリ
シーのもとで、僕はそういう告白は全て断っていた。

 その僕が今やあえて遠山さんに陽性転移的な感情を覚えてもらうように仕掛けようとし
ている。コンサルタントとしては最低の行動だった。それは人の相談にのる仕事の倫理規
範に真っ向から反する態度だった。クライアントに献身的にコンサルタントした結果とし
て、相手から好意を抱かれてしまうのはしかたながない。ただ、その場合でも術者はその
好意を穏便に断るべきだ。

 それに対して最初からクライアントの好意を目当てに行うコンサルタントなんて普通な
らあり得ない。でも、僕は今そのあり得ないことをしようと考えていたのだった。

 僕の横で当惑したようにパソコンと格闘している遠山さん。まだ新しい制服に身を包ん
で華奢小さな身体で僕の隣にちょこんと座っている遠山さん。彼女の髪からふと匂う甘く
さわやかな香り。そういう彼女の様子は、今まで経験したことのない、彼女に対する保護
欲と征服欲を僕の心に掻き立てたのだった。
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 23:05:15.37 ID:GO5crQa4o

「じゃあ専ブラのインストールからしてみようか」

 僕はマウスを持つ彼女の細く華奢な手をじっと見つめながらも、なるべく冷静に聞こ
えるように言った。

「2ちゃんねるを閲覧したいならIEよりもいろいろ便利だし快適だし」

「専ブラって何ですか」

 当然ながら池山さんは聞いたけど、その聞き方は少し首をかしげて僕の方を見上げると
いう僕にとっては破壊力抜群なものだった。この子は本当に可愛すぎる。僕は彼女の無邪
気な疑問の表情にどきどきしながら答えた。

「2ちゃんねるの掲示板を閲覧したり投稿したりするための専用のブラウザのことだよ」

「見やすいとか投稿しやすいとかもあるけど、掲示板そのものへ与える負荷が低いんだ」

 そう言っても彼女にはよくわかっていないようだった。

「IEとかだとHTML全体を読み込むんだけど、専ブラは掲示板のDAT、データだけ
を読み込むからね」

「はあ」

「わからなくてもいいよ。とりあえず使いやすいから専ブラを使う方がいいと考えてくれ
れば」

 僕はとりあえず何種類かのブラウザをDLした。使ってみて使いやすい方をこの先彼女
が選べばいい。インストールが終ると、僕は改めて彼女に質問した。僕はこの先の彼女の
答えによっては久しぶりの傾聴スキルを駆使して、彼女の抱えている問題を解明しようと
思っていた。

「さあ、これで準備完了だよ」

 僕は池山さんに話しかけた。「2ちゃんねるに詳しくなりたいって言ってたけど、とり
あえずどういうスレを見たいの?」

「あの・・・・・・」

 彼女は僕の方を見て言い淀んだ。今の僕には彼女のそういう表情さえ可愛らしく感じた。
これが男の新入部員だったら即座にうちの部から追い出していたかもしれないけど。

 ・・・・・・こんな子が本当に僕の彼女だったらなあ。僕はその時、そう考えた。そうだった
としたらもう僕が不毛なコンサルティングをすることもないだろうし、優みたいな複雑な
性格の子に対して報われない想いを抱えることもないだろう。普通に仲の良い普通にリア
充の同級生たちと同じような恋愛ができるのかもしれない。自分よりか弱い池山さんとい
う女の子を守りつつ、その対象の子から頼られ愛されることができたのなら、相手の気ま
ぐれな感情に翻弄された中学時代の優との交際とは全く違う恋ができるのだろう。

 僕がそう思って純情で可憐な池山さんの悩ましい表情を眺めたときだった。彼女が僕の
質問にようやく返事をした。そして、それは純情でも可憐でも何でもない言葉だった。

「部長、女神行為って知ってますか? 何だかネット上で自分のヌード写真とかを公開し
ているスレがあるらしいんですけど」

 僕は彼女の言葉に呆然として、そのきょとんとした可愛らしい顔を眺めていた。僕も女
神板とかVIPとかの女神スレとかは知っていた。でも目の前の小さないい匂いのする華
奢な美少女からその名前を耳にするとは思ってもいなかったのだった。

 2ちゃんねるで女神行為を見ること自体は、うちの部では別におかしなことではない。
部活と称してエロゲをしたり部費で購入したPOSERを使って少女の裸体を3Dモデリ
ングしているような部員がいるのだから、部長の僕でさえ顧問にばれない程度ならそうい
うスレを閲覧することを禁止しようなんて思ったこともなかった。でも、目の前の一年生
の少女が女神スレを見たいと言うとは僕の想像の範疇をはるかに超えていた。

「えーと。知っているか知らないかで言えば知っているけど・・・・・・君、本当にそれが見た
いの?」

 とりあえず僕はドキドキしながら聞いてみた。目の前のおとなしい美少女の容姿に対し
て説明するには、女神板の紹介は、全くふさわしくない言葉だった。心の中に卑猥な妄想
めいた考えが浮かんできたため、僕は慌ててそれを打ち消すように聞いたのだった。
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 23:08:07.56 ID:GO5crQa4o

「はい。というか、もう見たことはあるんです。でも、画像は削除されてるみたいで一枚
も見られなかったんですけど」

 池山さんは相変わらず真面目な表情でとんでもないことを話し続けた。「ああいうのっ
てどうしたら画像とか見られるんでしょうか」

「どうしたらって、削除される前に見るしかないと思うけど」

 正直に話すと、この時の僕は彼女が何を考えているのかわからなかったのだけど、それ
はそれとして僕は下級生の少女と女神画像の話を普通にしているという奇妙なシチュエー
ションに興奮し出していた。具体的に言うと下半身が人様にお見せできる状況ではなくな
っていたのだ。

「そうですか」

池山さんがため息をついた。「やっぱりリアルタイムでスレを見張っていないといけな
いんですね」

 その時、僕は自分の下半身の状況のことを考えていたせいか、ふとあることを思い出し
た。つまり、自分が自宅で密かにオナニーするときに閲覧したことのあるサイトのことを
思いついたのだ。でも僕はそのことを口に出すべきかどうかためらった。

 ・・・・・・みんなから信頼されている生徒会長の僕があんなサイトを見ていることを誰かに
知られるなんて、ただでさえ自分に自信がないくせに無駄にプライドだけが高い僕にとっ
ては屈辱的なことだったけど、この時の僕は下級生の可憐で清純そうな少女と女神行為の
話を普通にしているという奇妙な状況に流されてしまっていたのかもしれない。

「まあ、他にも手段はあることはあるよ」

 僕は少しためらってから口にした。

「はい? 削除された画像を見ることってできるんですか」

 彼女は顔をあげて僕の方を見た。沈んでいた表情が一瞬明るくなったようだった。

「あることはある。でも、女神板と一緒で十八禁のサイトだけど」

 いったいおまえは何歳なんだよ? 僕は自分に自嘲的に問いかけた。もちろん、まだ十
八歳未満だった。

「部長、そのサイトってどうすれば」

「ちょっと待って」

 僕はようやく我に帰って体勢を立て直した。いつの間にか下半身も正常な状態に戻って
いるようだった。

「ちょと待ってくれ」

 僕は彼女に繰り返した。

「・・・・・・はい」

「とりあえず、君がパソコン部に入部した目的をもう一度詳しく教えてくれるか? あと、
何で女神の画像なんかを見たがっているのかを」
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/04/17(日) 23:08:36.10 ID:GO5crQa4o

 ようやく僕は部長らしい言葉を池山さんに対して口にすることができたのだった。

 池山さんは僕の言葉を聞き再びうつむいてしまった。その時初めて僕には周囲のことを
気にする余裕が生じてきた。

 改めて周囲を気にしてみると、近くにいる部員のほとんどがそれぞれ作業をしているふ
りをしながらも、僕と池山さんの会話に聞き耳を立てているようだった。このままこのヤ
バイ話をここで続けるのはまずい。僕はそう考えた。

「あのさ」

 僕はこの頃には完全に落ち着きを取り戻していた。

「君の話を聞かせてもらっていいかな? 何か事情があるんでしょ」

 彼女はうつむいたまま何も返事をしなかった。

「無理とは言わないけど、十八禁サイトの紹介なんかさせられるんだったら事情くらいは
聞いておきたいな」

 僕は池山さんにそう言った。この時、さっきの性的な興奮は既に僕の中では鎮まってい
て、むしろ彼女との仲を深めるのにはいいチャンスなのではないかという考えが心の中に
浮かんできていた。高校一年生の女の子が素人の裸身画像に執着するなんて、何か事情が
あるとしか考えられない。そして何か事情や悩みを抱えている相手に対して、僕の傾聴ス
キルは、これまでほとんど無敗に近い成果を誇ってきたのだから、池山さんの相談に乗る
ことで彼女の信頼を勝ち取り仲良くなると共に、優や池山君たちの情報も仕入れることが
できるかもしれない。

 池山さんは顔を上げて何か話そうとして、そこで周りを見渡してまた黙り込んでしまっ
た。そういえばコンサルタントをするにはここは最悪の環境だった。僕たちの周囲は池山
さんの容姿に見蕩れている部員たちに囲まれていたのだから。
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/17(日) 23:09:14.75 ID:GO5crQa4o

今日は以上です
また、投下します
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/04/26(火) 11:33:33.80 ID:SAoScxfQO
追いついた 期待
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/01(日) 22:57:47.52 ID:lwUWxol4o

「池山さん、ちょっと付き合ってくれないかな」

 女性を誘うのが苦手な僕だったけど、悩みを持つ相手に対してはまた別だった。高校に
入学してから二年以上こういうことをしていなかったのだけど、中学時代に駆使したスキ
ルはまだ身体に残っているようだった。この時、それが自然によみがえってきた。今の僕
は、何もためらいはない。

「よかったら、どこか別な場所で話をしようか。事情さえ話してもらえれば力になれるこ
ともあると思うよ。なんで女子の裸の画像なんか見たいのかは知らないけど、見る方法も
あることはあるし」

 僕は彼女に餌をちらつかせて言った。彼女は少しためらっていたけど、結局は僕の誘い
に同意してくれたのだった。

 ・・・・・・中学生の頃、僕が人の相談を聞いていた場所は校内の人気の無い場所が多かった。
放課後の中庭とか屋上とか、あまり人がいない時の図書室とか。でも、高校生になった今
では校外のカフェとかの方がより知り合いに遭遇する危険は少ない。中学の頃は入りづら
かったスタバとかにも今では自由に入れるのだし。

 僕は池山さんを促して部室から立ち去った。背中には多数の部員の無言の視線を感じて
いた。部室から離なれ校門の外に出ても、並んで歩いている僕たちに下校する周囲の生徒
の好奇の視線が向けられた。

 それはそうだろう。池山さんと連れ立って下校する僕なんかを見かければ、いったいど
ういうカップルなのかと不審に思われても不思議はない。周囲の視線を自分に集めること
に日ごろから慣れているかのように、池山さんには全く動揺する様子はなかった。むしろ、
これから僕に対して話そうとしていることの方が彼女の心に負担になっていたようだった。

 僕はといえば、これから池山さんの話を聞きだせるということへの期待感や不安よりも、
むしろ自分が可愛い女の子とデートしているような状況に不覚にも心をときめかせていた
のだった。これから二人で向かうのは駅前のスタバ。可愛い女の子と二人きりでスタバに
寄り道するそんなシチュエーションは僕にとって初めての経験だった。中学時代に優と手
を繋いで下校していた時だって、カフェとかに寄り道した経験などなかったのだ。

 奥まった目立たない席に着いて彼女と向き合って座った時になって、ようやく僕は浮か
れた気分を抑え、少し本気で彼女の話を傾聴するスキルを発動すべく体勢を整えた。単に
彼女のいい相談役になるだけではなく、できれば優の情報を聞き出し更に池山さんと親し
くならなければいけない。さすがの僕にとってもこれは敷居の高いミッションだった。そ
れに何より人の悩み事をコンサルティングするのはすごく久しぶりだったということもあ
った。こういうことは場数を踏んでいないといけないし、間が空くとすぐに体がスキルを
忘れてしまい一々次の言葉を考えながら相談に乗るようになってしまう。これではクライ
アントが白けてしまい、思っているように内心を話してくれなくなることも考えられた。
それでも、これだけはやり遂げなければいけない。

 僕は池山さんに話しかけた。

「僕が何で君の話を聞こうとしているか不思議に思っているでしょ」

 彼女は意外なことを聞いたとでもいう様子で顔を上げた。

「そう思われても無理はないよね。君はただネットのことを調べたくてパソコン部に入っ
てきたのに、いきなり部長に理由とか事情とかを問い詰められたんだもんね」

 僕はその時、とっさに少し変則的な方面から攻めて行くことに決めた。昔のクライアン
トと違って彼女は自分から僕に相談しに来たわけではない。彼女にとって僕は単なる入り
たての部活の部長に過ぎなかった。普通に彼女を問い詰めたところで彼女が心を開いてく
れる可能性は少ないと思ったからだ。それで僕はまず自分のことを話し始めた。

「まず言っておきたいんだけど、僕は君のことがすごく気になっている」

 僕は思い切って言った。
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/01(日) 22:58:16.58 ID:lwUWxol4o

「・・・・・・はあ」

 池山さんの反応は芳しくなかった。それはそうだろう。パソ部みたいなオタクの巣窟み
たいな部に、目的があるために入部した彼女が部の先輩にいきなりこんな告白まがいのこ
とを言われたら、彼女だってドン引きするに違いない。ましてこれだけ容姿や雰囲気に恵
まれている彼女なら、いくら外見が幼そうとはいえ男からの告白になんか慣れていただろ
うし。

 でも僕はこの時もう一段の切り札を切るつもりだったので、池山さんが次の言葉を喋り
だす前に僕は話を強引に続けた。

「あとさ。僕はパソ部の部長だけど生徒会長もしていてね」

 それを聞いて、拒絶的な雰囲気で僕の言葉を遮ろうとしていた池山さんは気を変えたよ
うだった。僕はそんな彼女の様子に構わず話を続けた。

「だからという訳じゃないけど、僕は人の相談に乗ることが多いし結構それでみんなから
感謝されてるんだ。相談してくる人の秘密は完全に守るし、どんな悩みを聞かされても飽
きれたり驚いたりしないで相談に乗るようにしているからね」

 少しは池山さんの心を掴んだようで、とりあえず彼女は僕の話を聞くことにしたみたい
だった。

「それが一つ。あと、君って遠山さんの知り合いでしょ」

「あ、はい。お姉ちゃんとは小学生の頃から」

 僕は彼女の意表をついたようで、突然遠山さんの名前を聞かされた彼女は驚いたように
答えた。

「遠山さんは大切な生徒会の仲間だし、君のことは他人とは思えない。だからどんな事情
があるかは知らないけど、君の力になりたいと思ったんだ」

 池山さんはそこで初めて僕の方を見つめて首をかしげた。

「あの、先輩・・・・・・あたしのこと気になるってどういう意味ですか」

「そのままの意味だよ遠山さんの知り合いとして君を助けたいと思うけど、それとは別に
君のことが異性として気になっている」

 今にして思えば、その時の僕はよくもそんな恥かしいことが平気な表情と口調で言えた
ものだと思う。広橋君のようなイケメンならともかく、普通ならこんな低スペックな僕が
可愛い女の子に対して言うことが許されることではない。でもこのときの僕は必死だった。
優の行動の真相を知ること、そして目の前の少女と仲良くなること。僕はその二つの目的
だけは何としてでも成就させたかったのだ。

 とはいえこんなセリフを聞かされた池山さんの反応は気になったから、僕は少し話しを
中断して彼女の反応を覗った。

 でも、池山さんは僕なんかがこんな告白めいたセリフを言ったことを別に滑稽に感じた
りはしていないようで、馬鹿にするようでもなく真面目な表情で僕を見ていた。

「先輩。あたし、今のところ誰かと付き合うとか考えていなくて」

「うん、わかってる。それにどっちみち僕なんかじゃ君と釣り合わないこともわかってる。
僕なんかが君みたいな子と付き合えるなんて考えてもいないよ。だから僕のことは気にし
ないでいいんだけど、それでもよかったら相談してくれないかな」

 その時、知り合って初めて池山さんがおかしそうに微笑んだ。

「先輩っておかしな人ですね。付き合いもしない女の子なんかに親切にしたって仕方ない
のに」

 僕は彼女の微笑を呆けたように眺めた。その微笑みには僕に対する嘲笑めいた感情は少
しもないように思えた。少しだけ飽きれている感じはあったけど。

 僕はその期を逃さず慌てて口を挟んだ。

「君が僕のことなんか相手にしてくれなくてもいいんだ。でも気になる女の子の力にはな
りたいし、力になれるとも思う」

 その時、僕はもっと彼女の心配を取り除いた方がいいと思いついた。

「それと。僕が君に夢中になってストーカーみたいになることは絶対にないから。何だっ
たら遠山さんとかに聞いてくれてもいい。僕はそういう男じゃないから」

 それからしばらく沈黙が続いた。僕はもう言えることは言ったのであとは池山さんの返
事を待つだけだった。そして少しして彼女がその沈黙を破った。
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/01(日) 22:59:06.81 ID:lwUWxol4o

「先輩って変な人ですね」

 再びくすりと笑ってから池山さんが言った。「でも、生徒会長をしてるだけあって本当
にいい人なんですね」

「生徒会長であることはあんまり関係ないけどね」

「あたし、せっかくだから先輩に話を聞いてもらおうかな」

 やっと僕は彼女にここまで言わせることができたのだった。

「池山さん、僕を信じてくれてありがとう」

 僕は穏やかに言った。僕は冷静に話していたようだけど、やはり内心では相当緊張して
いたようだった。そしてその緊張がようやくほぐれ出すのを感じていた。

「何で先輩がお礼を言うの? 何か変なの」

 池山さんは僕をからかうように言った。これではどっちが年上なのかわからない。

「あと、池山さんって言うの止めませんか。後輩なんだからあたしのこと、池山って呼び
捨てしてください」

「君がタメ口で話してくれるならそうしてもいいけど」

 僕はこの時緊張が去って行ったせいで少し調子に乗ってしまったかもしれない。池山
さんに僕のことなんか相手にしてくれなくてもいいと言ったばかりなのに、こんな調子の
いいことまで言ってしまうなんて。

 案の定、彼女は少し警戒したように見えた。でもそれは僕の誤解のようだった。再び彼
女は笑った。

「それでいいよ、先輩。あたしのことも池山・・・・・・っていうか麻衣って呼んでね」

「わかった」

 僕は最高な気分になってもいいはずだったけど、ここまでうまく行き過ぎると逆に不安
な気持ちが湧き上がってくるのを抑えることができなかった。礼儀正しい正統的な美少女
だと思い込んでいた池山さん、いや、麻衣だけど、この反応はどうなのだろう。いきなり
親しげに僕に話しかけるなんて。

 彼女は意外と男と遊びなれた子だったのだろうか。その時僕は少し不安に思った。

 それでもその疑念は、眼の前の美少女から気安く話しかけられたという喜びや優越感に
は勝てなかった。とりあえず今は目の前にいる麻衣ちゃんと仲良くなれたことだけを考え
よう。

「じゃあ、早速だけど麻衣ちゃんの話を聞きたいな」

 僕は彼女に言った。

「ちゃんはいりません」

 彼女が少し機嫌を損ねたように言った。やばい。この子、本当に可愛い。そして、呼び
捨てにしてって僕に微笑む美少女に対して、僕は動揺していた。

「先輩には全部お話しするけど、どこから話せばいいのかなあ」

 麻衣は、ついさっきまでの僕に対する疑念を完全に払拭したような親しげな口調で話し
始めた。そして僕はそのことに密かに興奮していた。僕は最初の難関を突破したのだった。
それも予想していたよりスマートな方法で。

「先輩、とりあえずこれを読んでもらっていい?」

 彼女は自分のスマホのメーラーを開いて、それを読むように僕を促した。それはどこ
からか転載を繰り返されたメールみたいだった。
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/01(日) 23:00:34.92 ID:lwUWxol4o

from :優
sub  :やっほー
本文『さっき始めたばっかだけどもう200レス超えちゃった。今日は流れが早いみた
い。君が本当にあたしに興味があるなら下のURL開いてみて。今日は人多過ぎだから早め
に画像消しちゃうし。じゃあ、もし気に入ってくれたらレスしてね。そんでさ、もしレス
してくれるならレスの中に、制服GJって書いてね。それで君だってわかるから。じゃあ
ね』



 これだけでは全く意味の通じないメールだった。でも僕は凍りついたよう差出人の名前
欄を見つめていた。僕の昔の彼女の名前がそこにあった。そして、本文中には池山君の名
前もあったのだった。

「先輩、どうしたの」

 ふと気づくと僕はずいぶん長いことそのメールを眺めて凍りついたようだった。さっき
まで感じていた麻衣と親密になれそうだという期待感や喜びは僕の中で影をひそめ、何か
得体の知れない不安感が湧き上がっていた。

「どうしたのって―――これだけ見せられても何が何だか」

 優と池山君の関係がどうなっているのかは置いておくとしても、このメールのどこに麻
衣を悩ませる問題があるのか僕にはわからなかった。

「これだけじゃないの。こっちも」

 麻衣はスマホを僕から取り返して少し操作してから再びメールが表示された画面を僕の
方に示した。僕は彼女に促され次のメールを読んだ。



from :優
sub  :無題
本文『じゃあ、そろそろ始めるね。今のところ他の子がうpしてる様子もないから、見
てても混乱しないと思うよ。念のために繰り返しておくけど、女神板はうpも閲覧も18
禁なんであたしは19歳の女子大生って名乗ってるけど間違わないでね。』

『モモ◆ihoZdFEQaoのがあたしのレスだから。あと結構荒れるかもしれないけど動揺して
書き込んだりしちゃだめよ? 君は今日はROMに徹して』

『ああ、そうそう。これは余計なお世話かもしれないし、あんまり自惚れているように思
われても困るんだけどさ。今日うpする画像はすぐに削除しちゃうから、もし何度も見た
いなら見たらすぐに保存しといた方がいいと思うよ』

『じゃあ、下のURLのスレ開いて待っててね。8時ちょうどに始めるから』

『やばい。何かドキドキしてきた(笑) 女神行為にドキドキなんかしなくなってるけど、
君に嫌われうかもしれないって思うとちょっとね。でも隠し事は嫌いなので最後まで見て
感想をください。あ、感想ってレスじゃないからね』

『じゃあね』

 女神板。十八禁。十九歳の女子大生。メール本文に散りばめられた単語が僕の不安を煽
った。それにこの文面からは優と池山君はずいぶんと親しい仲であることがうかがわれた。

 何よりこのメールの趣旨は、優が女神行為をこれから実行しその様子を池山君に見ても
らいたがっていることにあることは明らかだった。

 ・・・・・・女神行為? あいつが何でそんなことを。僕と別れていた僅か二年余りの間にい
ったい彼女に何が起きたのだろう。そして優と池山君はやはり付き合っているのだろか。

 僕は混乱していた。麻衣と親しくなれたら、その後は彼女の相談を真摯に受け止める予
定だったのだけど、今の僕はそれどころではなく優の変貌にうろたえていたのだった。優
はいったいいつからこんなことをしていたのか。優の女神行為と僕が優に振られたことに
は因果関係はあるのだろうか。いくつもの疑問が同時に僕の心の中でせめぎあった。

 それでも、しばらくすると僕は何とか自分の心を制御することができた。今は自分にと
って何が大切なことかを考えるべきだ。それは麻衣と親しくなることと、優に何が起きて
いるのかを知ることだった。そしてそのために何をすべきかを考えた時、ここで僕が優の
メールの内容にいくら悩んでいても結果は出ない。僕の目的のために今すべきことは麻衣
の話を傾聴することなのだ。

 僕はようやく混乱する思考を鎮めて改めて麻衣を見た。
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/01(日) 23:02:01.52 ID:lwUWxol4o

 ―――彼女は僕が混乱している間、黙って僕を観察していたようだった。僕の混乱振り
に飽きれるでもなく、助け舟を出すでもなく、自分の話を強引に進めるわけでもない麻衣。
その表情からは何やら僕のことを見極めようとしているような冷静さが感じられた。

 僕は、自分で勝手に思い込んでいた彼女の印象を改めざるを得なかった。この子は決し
て甘やかされた可愛いだけの幼い少女ではない―――優といい麻衣といい、僕が魅力を感
じる女性はなぜ例外なく複雑な思考を持っているのだろうか。かつて僕は優のことをとて
も中学生とは思えないほどしっかりと自分を冷静に見つめていると思ったことがあったけ
ど、一見幼い甘えん坊のような、そして大人しそうな麻衣さんも実は優と同じような複雑
な考えを秘めている少女らしかった。

 僕はため息をついた。僕は何でこういう面倒くさい、自分の考えを心に固く秘めている
ような女の子に惹かれてしまうのだろう。今にして思えば遠山さんが僕を傷つけまいとし
て取った単純でひたむきな行動が懐かしく思えるほどだった。その行動に結果的に僕は傷
付いたのだけど、少なくとも彼女が何を考えて僕に接近したのかは簡単に理解できたのだ
から。

「まあ君が見たがっているスレがどれなのかはわかったよ。URLも記されていたし」

 僕は気を取り直してそれまでじっと僕の反応を見ていたらしい下級生に話しかけた。

「でも、何で見たいのかという動機は全然わからないね。最低でもそれくらいは話しても
らえないかな。前にも言ったけど下級生に十八禁の画像の見方を教えるんだったらそれな
りの理由は聞きたいな。僕の生徒会長としての立場もあるし」

「・・・・・・それはこれからお話しします―――そうしたら先輩、あたしのこと助けてくれ
る?」

 麻衣は表情を一変させ、再び頼りないけど可愛らしい下級生らしい表情になった。

「―――あたしの味方になってくれる?」

 僕くらい人間観察ができて、僕くらい他人が何を考えているのかわかるのなら、こんな
単純な手にひっかかることはないはずだった。麻衣にとって僕は都合のいい先輩に過ぎな
いのだろう。でも僕の目的に近づくためには麻衣と親しくなる必要があるのは自明の理だ
ったし、何より僕は麻衣に本気で惹かれていたようだった。辛い思いをするかもしれない
とわかってはいても、優と池山君の関係を知りたいという目的が、麻衣と対面して話を重
ねるにつれ次第に薄れてきたほどに。

「そうするよ」

 僕は頼りなく守ってあげたいまだ幼さを残しているような女の子、麻衣に返事した。

「君を助けたいし、何より僕は君のことが好きだから」

 僕はこの時、この段階で口にするのは危険なことまで喋ってしまっていた。君のことが
気になるではなく君のことが好きだと僕は宣言してしまったのだった。それは麻衣に引か
れるかもしれないという意味からも、麻衣に弱みを握られて先導を奪われるかもしれない
という意味でも最悪のタイミングの告白だった。でもその告白を口にした途端、それが今
の僕の真の想いだということに気がついた僕は逆に気が楽になったのだった。

 そして麻衣はその言葉を聞いてもドン引きすることもなく勝ち誇る様子も見せなかった。
彼女は僕の反応が当たり前のように淡々と話を再開した。

「先輩、お姉ちゃんとは親しいの?」

 麻衣は予想外の方に話を進めた。

「特に親しいというわけでは・・・・・・生徒会で一緒だからよく話はするけど」

 麻衣は僕が遠山さんに告白して振られたことを知っているのだろうか。小学生の頃から
の知り合いで、副会長の言うように最近まで毎日一緒に登校する間柄なら、僕なんかに告
白されて困惑した遠山さんが麻衣に相談したとしても不思議はない。でもそれは確実な話
ではなかったから、 とりあえず僕は無難な返事をしたのだった。

「そうか。じゃあお姉ちゃんは何も言わなかったかもしれないけど―――先輩、あたしお
兄ちゃんのことが大好きなんです」

 遠山さんからは麻衣の話は聞いたことがないのは確かだったけれど、彼女の極度なブラ
コンぶりについては副会長から聞いたことがあったから、そのこと自体には僕は驚かなか
った。ただ、どうしてそんなことをわざわざ僕に話すのだろうという疑問は感じた。麻衣
が優と自分のお兄さんとの付き合いに不満を感じているからだろうか。

「あたし昔からお兄ちゃんが好きで、今まで何度も男の子に告白されてもいつもお兄ちゃ
んと比べちゃって」

 麻衣は続けた。

「あたしももう高校生なんだし、実のお兄ちゃんと恋人同士になれるわけなんてないって
わかってるんだけど」
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/01(日) 23:03:26.13 ID:lwUWxol4o

 もうか弱い少女の振りをする余裕は彼女にはないようだった。この告白は嘘ではない。
そう直感した僕はいろいろと混乱している自分の心を静めて、クライアントの話に没頭す
る姿勢になった。過去の経験が生きていたのか、僕は自然に傾聴する体勢に移行すること
ができたのだった。

「続けて」

 僕は彼女の目を見ながら言った。

「お姉ちゃんが昔からお兄ちゃんのことが好きだったことは知っていたの。そしてお姉ち
ゃんがあたしのお兄ちゃんに対する気持ちを知っていて自分の気持を無理に抑えていたこ
とも」

 麻衣は冷静に話を続けていたようだったけど、テーブルの下で握り締めていた手の震え
が彼女の装った冷静さを裏切っていた。

「君は遠山さんのことが大好きなんだね」

 僕は穏やかに口を挟んだ。

「・・・・・・うん。お姉ちゃんは昔からあたしのことを気にしてくれて、うちは昔から両親の
仕事が忙しくて普段家にはいなかったんで、お兄ちゃんとお姉ちゃんがあたしの両親のよ
うだった」

「君はいいお兄さんとい、幼馴染のいいお姉さんに恵まれたんだね」

 僕は彼女に話をあわせた。彼女はそうやってその二人に甘やかされ守られて成長してき
たのだろう。

「うん。お兄ちゃんとお姉ちゃんには本当に感謝してる。でも・・・・・・そんなお姉ちゃんに
あたしは辛い想いをさせてたんだなって思ったら、お姉ちゃんに申し訳なくて」

「それで君はどうしたいの」

「どうしたいというか、この間お姉ちゃんに言ったの。もう自分に正直に素直になってっ
て。あたしのことはもう気にしないでって」

「君はそれでよかったの?」

 ブラコンという言葉では言い表せないほど池山君に依存してきた彼女にとってはそれは
思い切った、辛い選択だったろう。

「うん。あたしもそろそろお兄ちゃんを卒業しなきゃって思った。今でも一番好きなのは
お兄ちゃんだけど、あたしがお兄ちゃんと結ばれることなんてないんだから、それなら二
番目に好きなお姉ちゃんにお兄ちゃんの恋人になってほしいって」

 その頃になると麻衣は僕の様子を気にする余裕もなくなったみたいで、手が震えるどこ
ろか全身を震わせ目にはうっすらと涙を浮かべるようになっていた。

 僕は次の言葉を催促せず彼女が落ち着きを取り戻すのをじっと待った。心情的には麻衣
の手を握るか肩を抱くくらいはしたかったけど、それはせっかく心を開いた彼女を警戒さ
せてしまうかもしれない。それにこの頃になるとだんだん僕は落ち着きを取り戻してきて
いた。むしろ今では取り乱しているのは麻衣の方だった。僕は心理的に彼女より優位に立
ったということもあり、彼女が再び話し出すのを余裕で待つことができたのだった。

「あたしがお姉ちゃんにそう話したとき、お姉ちゃんは最初は驚いていたの」

 しばらくして自分の袖で涙を拭いた麻衣が話を再開した。

「だから、あたしは最初はお姉ちゃんがお兄ちゃんのことを好きだと思っていたのは勘違
いかなって思ったんだけど・・・・・・そうしたらお姉ちゃんが、麻衣ちゃんありがとうって言
って」

 ここで彼女はまた俯いて涙を浮かべたけど、今度はそれほど取り乱すことはなかった。

「それで、その後何が起きたの?」

 僕は興味本位の質問と取られないよう努めて静かな口調で聞いた。

「お姉ちゃん、お兄ちゃんに告白したんだけど・・・・・・お兄ちゃんにすぐには返事できないって言われて」

「保留されたってこと?」

「うん・・・・・・。一応、親友の夕也さんがお姉ちゃんのことが好きみたいで、お兄ちゃんは
そのことを気にしてるらしいんだけど」

「一応ってどういう意味かな」

 僕はそこがかなり気になったので、本当はまだひたすら話しを聞きだしていなければい
けない段階なのだけれど、思わず突っ込んでしまった。
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/01(日) 23:05:00.54 ID:lwUWxol4o

「あたしね、お兄ちゃんに好きな人ができたんじゃないかって思った。それでお姉ちゃんの
気持ちに応えなかったんじゃないかって」

 麻衣はそう言った。いったん収まった体の震えが再び彼女を襲ってきたように見えた。

「それがこのメールの『優』なんだ」

 僕はそう言った。麻衣は一瞬ためらったけど、結局はゆっくりと頷いた。

 優と池山君は帰宅途中のスーパーで初めてちゃんと話をしたらしいけど、その際の優の
態度はとても積極的だったそうだ。単なる同級生だよと池山君は麻衣に言い訳したけど、
麻衣の女の子の勘では、優が池山君に気があることは明らかだったと言う。そして麻衣に
は池山君の方も優に興味がある様子に見えた。

 池山君のそういう態度に傷付いた麻衣を見かねて遠山さんが池山君に注意したそうだけ
ど、結果的にそれは彼を意固地にしただけに過ぎなかった。

「今にして思うとお姉ちゃん、あたしのためというより自分の気持を素直にお兄ちゃんにぶつ
けたんじゃないかなあ」

 麻衣はそう言った。

 その後、麻衣は池山君への依存から立ち直ろうと努力を始め、一方でそんな麻衣に励ま
された遠山さんは池山君に告白したのだった。結果として遠山さんは池山君に返事を保留
されたのだけど、その理由は遠山さんのことが好きな広橋君への遠慮だったそうだ。

「あたしはお兄ちゃん離れしようって決めたから、お姉ちゃんのことが気の毒だったの。
でも、ちょっとだけほっとしたかもしれない。お兄ちゃんとお姉ちゃんが恋人同士になら
ないで今までみたいに三人で一緒に仲良くいられるかもって」

「今はそういう状態なんでしょ? それなら問題ないよね」

 麻衣の暗い表情から目を逸らしながら僕はわざとそう言った。もちろん問題なんてある
に決まっていた。それは優の問題だった。ただ、ここまでの麻衣の話では池山君が優に好
意を持っている、あるいは二人が付き合い出したという明白な証拠はない。

 あのメールのことを除けば。

「お兄ちゃんは二見さんが好きなんじゃないかと思うの。そして二見さんもお兄ちゃんの
ことを」

 麻衣が俯いてそう言った。

「・・・・・・それはメールのことでそう思ったの?」

「うん」

「そもそもこのメールって、どうして君が見れたの?」

 それは多分麻衣を追いつめるであろう質問だったけど、ここまで来たら聞きづらいとこ
ろだけを避けて通るわけにはいかなかった。

 案の定、麻衣は真っ赤になって再び俯いてしまった。

「あの・・・・・・いけないことだとは思ったんだけど、お兄ちゃんがお風呂に入ってる間にお
兄ちゃんの携帯を」

 麻衣は小さな声で告白した。それ以上言わせるのはかわいそうだったので、あとは僕が
補足してあげることにした。

「お兄ちゃんが気になってお兄ちゃんあてのメールを見ちゃったわけだね。それで優から
のメールを2通見つけて自分のアドに転送して送信履歴を消した」

 麻衣は黙っていた。

「僕は責めてるわけじゃないよ。もちろん普通ならエチケット違反だけど、君にも辛い事
情があったわけだし」

「・・・・・・ありがと」

 麻衣は小さく呟いた。
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/01(日) 23:05:56.14 ID:lwUWxol4o

「それでこのメールを見てどう思った?」

 答えなんてわかりきっていたけど、相談役の口からではなく自分から語らせる方がコン
サルティングする上では効果的だったから、僕は作法に従って続けた。

「どうって・・・・・・こんなメールやりとりするくらいだもん。まだ付き合ってないにしても、
お互いに十分その気があるとしか思えないよ」

「そう言えばこのメールに池山君は返信していなかったの?」

「うん。どっちも受けただけで返信してなかった」

「じゃあ次の質問だけど、この二つのメールにはURLが貼ってあるけど、君はそれを踏ん
だ?」

「踏むって? ああクリックしたってことね。うん、見てみたよ」

「どうだった?」

「最初のメールにあったURLは、このスレッドは過去ログ倉庫に保管されていますとかっ
て出て・・・・・・何かよくわからなかった」

「二つ目のメールのURLはどうだった」

「うん・・・・・モモっていう名前の人がM字とか乳首はだめとかレスしてて」

 麻衣は辛そうだったけど、このあからさまな破廉恥な言葉に僕の方もダメージを受けて
いた。優は変った性格だったけど性的に奔放というわけはなかったはずだった。それが女
神板でM字だの乳首は駄目だの娼婦まがいのレスをしている。正直、女神板のことはよく
知っていたのだから、最初に優のメールを見せられた時にこうなることはある程度予想は
していたのだけど、実際にその言葉を麻衣の口から聞くと僕は再び気分が暗くなっていく
のを感じた。

 僕と優が付き合っていた頃だって手を繋ぐくらいが精一杯だった。でも性的な面では奥
手な僕はそれだけでも十分嬉しかったのだ。逆に優がそれ以上の接触を求めていたら僕は
戸惑っていただろう。2ちゃんねる的に言うと僕は典型的な処女厨だったから、僕は手を
繋ぐことで満足してくれている優が好きだった。でも、それは僕の勘違いで、優は相手が
僕だったから手を繋ぐ以上のことをしようとはしなかったのだとしたら。現に、彼女は女
神行為をしている。そしてあろうことか池山君に自分の女神行為を見るように勧めている
のだ。

 同じ高校に進んだことを連絡してこなかったことや、僕には手を繋がせただけなのに池
山君にはそれ以上に積極的な好意を示している優のことを考えると、中学時代の僕の大切
な思い出は全て僕の錯誤だったのかもしれなかった。

「先輩?」

 麻衣が黙り込んだ僕の方を見て言った。「顔色悪いけど大丈夫?」

 僕は麻衣の柔らかい声で瞬時に自分の役割を思い出した。いろいろ混乱していたけれど、
今は麻衣のケアに専念しないといけない。それに、辛さは心の底に残っているものの、今
の僕がいい匂いのする華奢な体つきの後輩の少女の隣に座って彼女の相談に乗っているこ
とに萌えていることは事実なのだ。そのせいか、過去の出来事に関する心の痛みは覚悟し
ていたほどではない。僕は気を取り直して言った。

「ほら、このURLにmegamiってあるでしょ。このスレは女神板のスレだよ。自分の裸と
か際どい下着姿とかをスレで不特定多数の閲覧者に見せることを、女神行為って言うんだ。
そして見せる人は女神と呼ばれている・・・・・・乳首は駄目は、そういう閲覧者のリクエスト
を断ったレスだろうね」

「前にも言ったけど画像は見られなかったの。何かすぐに削除されちゃうみたいで」

「ネットって不特定多数の人が見てるからね。画像をそのままにしておくといろいろ女神
にとっては危険なんだよ。だから自衛のためにすぐに画像は削除するんだ。たまたまリア
ルタイムで遭遇した人だけが画像を見ることができるというわけさ」

「・・・・・・先輩、削除された画像を見ることができるって言ってたよね」

「正確に言うと見ることができる可能性はあるってことだけど」

「その方法を教えてくれる?」

「僕は君に言ったよね? 十八禁のサイトを下級生に紹介するなら、何でその下級生がそ
んなにその画像を見たいのか知りたいって」
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/01(日) 23:06:52.55 ID:lwUWxol4o

「・・・・・・それは」

「言いづらいなら僕が聞くよ。君は池山君に過度に依存することから卒業しようとしたそ
うだけど、お兄さんに彼女ができるのは許せるわけ?」

「だからそれは言ったでしょ? お姉ちゃんにもうあたしのことは気にしないでって話し
たって」

「聞いたけど、それは僕の聞きたいことじゃないよ―――遠山さんと池山君が付き合い出
したとしても、多分それはこれまでの君たち三人の仲良し関係の枠内の変化に過ぎないだ
ろ? ほら、君だって比喩的に言ってたじゃん。池山君と遠山さんは君の両親のようだっ
たって。それが現実になるだけでしょう」

「・・・・・・どういう意味?」

「池山君と遠山さんが付き合ったとしたら君は辛いかもしれないけど、それでも仲良し三
人組でいられることには変わりないわけだ」

 麻衣は黙ってしまった。

「僕が聞きたかったのは遠山さん限定ではなくて、その他の女の子とが池山君と付き合う
ことまで君が許せるのかってこと」

「・・・・・・お兄ちゃんの恋愛を邪魔する気はないの」

 麻衣は再び涙を流し始めた。これではコンサルやカウンセラー失格だった。でも、ここ
だけははっきりとさせておかないといけない。僕は敢えて挑発的な言葉を口にした。

「たとえそれが二見さんでも?」

 しばらくの沈黙のあと麻衣は顔をあげ僕の方を真っ直ぐに見て言った。

「お兄ちゃんが好きな人ならあたしは許せるよ」

「でも、お兄ちゃんにふさわしくないような破廉恥で汚い女だったら絶対に許さない」

 その時の麻衣の目の光に僕は少しぞっとした。自分以上に大切な相手という概念を僕は
これまで抱いたことはなかったのだけど、彼女にとっては自分の兄はそういう存在なのか
もしれなかった。

「メール見る限りだと、二見さんが女神であることは間違いなさそうだけど」

 その言葉は麻衣を傷つけたかもしれない。でも同時に僕の心も自分のその言葉に痛みを
感じたのだった。

「あたし、お兄ちゃんが好きな人なら大抵のことは許せると思うの」

「そうか」

 ようやく僕は麻衣の心情を掴んだようだった。この子が画像を見たがるのは、優の女神
行為が麻衣が許せる「大抵のこと」の範囲内なのかを知りたいのだろう。

 僕は腕時計を見た。もうかなりいい時間になってしまっていた。窓の外は夕暮れを通り
越して暗くなっている。

「まあ、だいたいはわかったよ」

 僕は言った。「さっきも言ったとおり僕は君のことが好きだから君に協力する」

「先輩」

「いろいろくどく聞いて悪かったけど、二見さんがどういう人か一緒に確かめよう。画像
だけじゃなくてもいろいろと手段はありそうだし」

 僕にはこの時もう気がついていた。僕のしようとしていることは僕が心を惹かれるよ
うになった眼の前の少女を助けることになるのかもしれないけど、僕のかつての彼女だっ
た優を傷つけることになるかもしれない。
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/01(日) 23:08:49.92 ID:lwUWxol4o

「明日また部室で話そう。その時にいろいろ教えるから」

 それでも麻衣と親しくなりたいという欲望、僕の中学時代の一番大切な思い出が、自分
の胸の中心にいた優自身によって汚されたという想い、そしてそれを確認したいという欲
求。それらを考えあわせるとると、この時の僕にはもう他の選択肢は考えられなかったの
だ。

「うん・・・・・・先輩、ありがと」

 麻衣は細い声でようやくそれだけ言ったのだった。

「こんな時間になっちゃったけど、家は大丈夫?」

 僕は今更ながら心配になって麻衣に聞いた。

「うん。最近はお兄ちゃんのご飯の支度とかしてないし、家にいても自分の部屋にいるよ
うにしてるから」

 だから心配しないでと彼女は少しだけ泣いた跡を残している顔で微笑んだ。

「じゃあ帰ろうか。駅まで送っていくよ」

 僕は立ち上がった。

「ありがと」

 麻衣は男のこういう親切には慣れているようで、三年生で生徒会長で部長の僕の申し出
にも恐縮することなく自然に礼を言った。

 そうして僕と麻衣は二人並んで駅の方に歩いて行ったのだった。もう下校時間はとっく
に過ぎていたはずだけど、それでも数人の学校の生徒たちが駅の方に向かって歩いてい
る姿を見かけた。

 逆に言うと僕と麻衣が寄り添って歩いている姿も彼らに見られているはずで、僕はその
ことを少し心配したけれど、麻衣は他の生徒たちの視線など全く気にしていないようだっ
た。

 駅の改札まで来たところで彼女は僕を振り返り、僕の片手をその華奢な両手で握った。

「先輩ありがと。あたし、人に感情を見せるのが苦手だからそうは見えないかもしれない
けど、先輩にはすごく感謝してる」

 ふいに僕の心臓がごとっていう粗雑で大きな音を立てたように感じて僕は狼狽した。麻
衣に聞かれなかったろうか。

「まだ、僕は何もしてないよ。感謝するならもっと先だろ」

 僕は何とか辛うじて冷静に返事をすることができた。

「ううん。今でも先輩には凄く感謝してます―――こんなことお兄ちゃんにもお姉ちゃん
にも相談できないし」

 状況的に言っても利害関係的に言ってもそれは彼女の言うとおりだった。彼女には池山
君への想いを相談できる相手は身近にはいないのだ。

 客観的かつ全人格的に彼女の相談を受け止めてあげられる人。傾聴者とはそういう人間
のことを言う。彼女にとってはそれは僕なのだった。

「いいよ。何度も言うようだけど、そして僕は君の好意とかは全然期待していないけ
ど・・・・・・。それでも僕は君のことが好きだから君を助けたい」

「先輩・・・・・・ありがとう」

その時、麻衣は僕の手を握りながら背伸びをして僕の頬に唇を軽く触れた。

「じゃあ、また明日ね。さよなら先輩」

 僕は頬に残る麻衣の唇の感触を感じながら彼女に手を振った。

 ・・・・・・客観的かつ全人格的に。僕がそうでないことは今の僕が一番よく知っていた。麻
衣のことを考えているようで、実はこれは僕にとって極度に自分勝手なゲームだった。

 僕の思い出を踏みにじった優。

 偽装とは言え、僕の告白を断った遠山さん。

 僕が今惹かれている麻衣。
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/01(日) 23:09:53.66 ID:lwUWxol4o

今日は以上です
また投下します
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/02(月) 21:07:31.42 ID:x/FVRnVUO
おつ
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/04(水) 21:07:45.21 ID:mt1lqNZYo

 帰宅して風呂に入り食事を終えた僕は、自室のPCの前に陣取る前に、麻衣から転送し
てもらった優のメールをスマホからPCに転送した。

 今日はいつも習慣になっている授業の予習や受験に向けた対策は諦めるつもりだった。
宿題は出ていないから作業に専念できる。まずはVIPのスレを開こう。当然、DAT落
ちしているので、麻衣はスレを見れなかったようだけど僕は●を持っている。僕は専ブラ
を立ち上げ優の最初のメールに記されているURLをコピーしてそのスレを開いた。



『暇だからjk2が制服姿をうpする』



 予想していたことだけどレスの多さに少し困惑した。これは優が立てたスレなのだから
>>1のIDでレスを抽出すれば話は早いのだけど、僕は怖いもの見たさに突き動かされ、
時間をかけて最初からスレを追っていったのだった。



『とりあえず顔から。目にはモザイク入れました』
『制服のブラウスとスカート。鏡の前で撮ってます』



 もちろん画像は見れるはずもなかったけれど、優のレスには自分の格好の簡単な説明が
入っていたから彼女がどんな姿を晒しているのかはだいたい想像がついた。外野のレスも
当時のこのスレの盛り上がりをうかがわせるようなものだった。



『女神きたーーーー!!』
『ここが本日の女神スレか』
『かわいい〜。もっとうpして』
『ふつくしい』
『ありがとうありがとう』
『光の速さで保存した』
『セクロスを前提に結婚してください』
『これは良スレ』
『つか全身うpとか制服から特定されね?』



そして優らしき女も律儀にレス返していた。

『>>○ 特定は大丈夫だと思います。よくある制服なので。心配してくれてありがと』

『>>○ ならいいけど無理すんなよ。校章とかエンブレムとかはぼかしといた方がいい
ぞ』
『つうかお前らこれって転載だぞ。前にも見たことあるし』
『何だ釣りか。解散』

『>>○ 今撮ってるんだけど。前にも何度かうpしてるんでその時見たのかな? とり
あえずID付きで手と腕』

『おお。確かにIDが』
『俺は信じてたぞ』
『つうかexiff見りゃ今撮影してるってわかるじゃんか。お前ら情弱かよ』
>>1のスペック教えて』
『首都圏住みの高校2年です』
『彼氏いる? 年上はだめ?』
『処女?』
『可愛いよね。これだけ可愛いとやっぱイケメンしか眼中にない?』

『>>○ 彼氏はいません。年上でも大丈夫ですよ〜』
『>>○ 処女です』
『>>○ 顔よりか優しくて頭がいい人がいいです』

『30代のリーマンだけど対象外?』
『アドレス交換しない? 捨てアドでもいいんだけど』
『出合厨は氏ねよ』
>>1も全レスしなくていいからもっとうpして』

『次は足です。太くてごめん』

『むちゃ綺麗な足だな』
『全然太くないっつうかむしろ細いじゃん』
『なでなでしたい』
『パンツも見せて』
『何という神スレ』
『もっと、もっとだ』
『もっと顔みたい』

『パンツはダメです。つ横顔』
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/04(水) 21:08:21.48 ID:mt1lqNZYo

 僕はスレを追っていくごとに次第に重苦しい気分に包まれていった。中学時代の優はク
ラスで浮いているわけではなかったけど、それは彼女自身の、人の話を聞き、人の相談
に乗るという努力に立脚して得た立場に過ぎなかった。だから、僕と知り合った優は、優が
密かに持て余していた、人に認められたい、人に関心を持ってもらいたい、人に話を聞い
て欲しいという欲求を、僕を利用することで解消していたのだった。そしてそんな役割を
担った僕がいたからこそ、彼女は転校するまでの間、学校内で「いつでも相談に乗ってく
れるいい子」という役を演じきることができたのだった。

 そして愚かな僕は、自分が彼女にとっての精神安定剤だということは理解していたけれ
ど、それでもあの頃は、そういう役割を果たしている僕のことを優は好きなのだと思い込
んでいた。

 でも今なら理解できる。自分でも認めるのは辛かったけど、僕には当時の優のある意味
利己的な心の動きがわかったような気がする。校内で一緒にいる時の優の僕への好意は嘘
ではなかったと思う。ただ、転校することが決まった優は、もう僕には利用価値がないこ
とに気づいたのだ。遠く離れてしまい、優の承認欲求を常に一緒にいて満たすことができ
ない僕に、引越し後の彼女は今までと同じ価値を見出さなかったのだろう。

 そうして僕は優に見捨てられたのだ。

 僕は自分の傷を自らかき混ぜるような、鋭い苦痛の伴う想いを回想しながらレスを読み
進めた。

『みんな構ってくれてありがとう。ちょっと用事が出来たのでうpはおしまいです。み
んなまたね〜』

 これで彼女の女神光臨は終了のようだった。

『楽しませてもらったよ。気をつけて行ってらっしゃい』
>>1乙 良スレだった』
『うpありがと。またな』
『今日は冷えるから上着着とけよ おつかれ〜』
『またうpしてね』
『コテ酉付けてよ』
『転載されるから画像ちゃんと削除しとけよ』
『帰ってくるまで保守しとこうか』
『制服GJ』

『みんなありがと。保守はいいです。今日は帰宅が遅くなるのでこのスレは落としてくだ
さい』

『>>○ 制服をほめてくれてありがと。どうだった?』



 制服GJ。これはメールで打ち合わせていたとおりのキーワードだから、多分これは池山
君のレスなのだろう。そして僕はそのレスに対する「どうだった?」という優のレスに、
優が池山君に微妙に媚びているような雰囲気を感じた。

 僕は次のメールに記されたURLを専ブラで開いた。megamiという文字列からもこのス
レが女神板のスレであることは明らかだったので、僕は少し警戒してそのスレを開いた。
その途端にその恥知らずで猥褻なスレタイが目に飛び込んできた。

【貧乳女神も】華奢でスレンダーな女神がうpしてくれるスレ【大歓迎】

 確かに優はどちらかというと細身の体つきをしていたからこのスレの需要にはあってい
るのだろうけど、それでも優は決して華奢というほどではない。華奢で守ってあげたいと
いうのは麻衣のような子のことを言うのだ。その時、僕の頬に麻衣がしてくれたキスの感
触が蘇った。その感触に勇気付けられた僕は気を取り直して再びスレを追い始めた。

 そのスレは何年か前に立っていたものなので、これまでにもいろいろな女神が光臨して
いた。一からスレを追っていくことの不合理さに気がついた僕は、一気に先月くらいのレ
スまでスレを飛ばした。それからまたレスを確認して行くと、メールに記されていた優の
コテトリがあった。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/04(水) 21:08:54.67 ID:mt1lqNZYo

モモ◆ihoZdFEQao『こんばんわぁ〜。誰かいますか』

『いるぞ〜』
『モモか。久しぶりだね』
『モモちゃん元気だった?』
『ちゃんと大学入ってる?』

モモ◆ihoZdFEQao『人いた。最近恋に落ちたせいか痩せてますます貧乳になりました
(悲)』

『美乳じゃん』
『美乳なんだろうけど手で隠すくらいならうpするなボケ』
『乳首も見せないとか何なの』
『モモちゃんの乳首みたいです』
『美乳というより微乳かもしれん。こんなんに需要ねえよ』
『>>○ スレタイも読めんのか。モモ、ナイス微乳。手をどけようよ』
『肌綺麗だな。こないだまで女子高生やってだけのことはある』
『乳首見せる気ないなら着衣スレいけよ』
『ふざけんな。削除早すぎるだろ』
『即デリ死ねよ』
『のろまったorz』
『次の画像うpしてくれ』

モモ◆ihoZdFEQao『画像は15分で削除します。ごめん』
モモ◆ihoZdFEQao『あと乳首はダメです。需要ないかなあ』

『ねえよ帰れ』
『需要あるよ。乳首なくてもいいから次行ってみよう』
『モモの身体綺麗だからもっと見たいれす』
『次M字開脚してみて』

モモ◆ihoZdFEQao『リクに応えてみました。乳首はダメだけどM字です。15分で消しま
す』
モモ◆ihoZdFEQao『ほめてくれてありがとうございます。じゃ最後は全身うpです。乳首
なしですいません。15分で消します』

 例によって画像は確認できない。でも優と外野のレスの応酬から優がどんな感じの画像
を貼ったのかはだいたい理解できてしまった。VIPのスレと違い池山君はメールで優に
指示されたとおり何もレスしていないようだったから、優が自らうpした卑猥な画像を見
て、彼がどんな感想を抱いたのかは窺い知ることはできなかった。本当はそこがわかると
麻衣の悩みにも応えやすくなるのだけれど。

 僕はスレを閉じた。多分、女神板を優のコテトリで検索すれば、こんなものではないく
らいの優の愚行の証拠が押さえられるだろう。優がコテトリを自ら白状しているメールが
あり、しかもそのコテトリで優が自分の意思で行っていた破廉恥な行為のスレも残ってい
るのだ。

 問題は画像だった。テキストの羅列ではインパクトは薄い。優が晒した画像を押さえな
ければ決定的な行動は起こせない。僕は今日麻衣と別れて自宅に戻る時、おぼろげながら
この先すべきことはだいたい見当がついたと思った。それは確かにそのとおりなのだけど、
やはり画像そのものがあるのとないのとではインパクトが全く違う。それについては僕に
は心当たりはあった。多分少し検索すればすぐにでも画像を辿れるだろう。

 僕は自室の壁にかかっている時計を見た。既に深夜の一時を越えている。

 その時僕にはもっといい考えが頭に浮かんだ。今、優の画像を見つける必要なんてない。
明日、麻衣と一緒にいるところで、麻衣の眼の前で優の卑猥な画像を発見し麻衣に見せれ
ばいい。その方が麻衣も衝撃を受けるだろう。自分の兄が惹かれている優の、誰にでも裸
身を見せる娼婦のようなその姿を目の当たりにすれば、麻衣はきっと落ち込むに違いない。

 そして、その麻衣を慰めて救い出せるのは今や僕だけなのだった。僕は再び頬に麻衣の
唇の感触を感じた。ビッチの優には社会的制裁を与えよう。今では僕のパソ部の後輩であ
る麻衣を傷つけた罪もあるのだし。

 さっき僕が考えていたのは僕の個人的な嫉妬から、池山君に罰を与え結果的に優が巻き
込まれてもそれは優の自業自得というものだったけど、今の僕のターゲットは恥知らずな
優に変っていた。そして池山君がそれに巻き込まれてもそれは僕の責任ではない。僕はよ
うやく自分がしようとしている行為を正当化する理由を見出したのだった。

 それはかわいそうな麻衣の心の救済だった。これは決して優にコケにされた僕自身の個
人的な復讐劇ではないのだ。傾聴するコンサルタントとしては当然の行為に過ぎない。

 僕はパソコンの電源を落としてベッドに横になった。いろいろ興奮しているため僕はな
かなか寝付けなかった。この時、優と知り合う前の中学時代の僕のような冷静な傾聴者が
いて僕をコンサルタントしてくれていたら、この時の自分の行為の動機の利己的な性格を
炙りだしてくれていたかもしれない。でも、もうそんなカウンセラーはその時の僕のそば
にはいなかった。
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/04(水) 21:09:36.85 ID:mt1lqNZYo

 翌朝、僕は遅刻ぎりぎりの時間に目を覚ました。全身にじっとりと嫌な汗をかいていた。
何でこんな夢を見たのだろう。それは、優と一番距離が縮まった時の甘美な記憶だった。
そして次のシーンは、麻衣が背伸びして僕の頬にキスしてくれた昨晩の記憶だ。

 かつて付き合っていた優の、まるでAV女優のような姿を見て気が弱くなってるんだろ
う。僕は自分の見た夢について考えるのを止めて階下に下りた。遅刻寸前だから朝食は省
略でいいけど、出社する前の父親を掴まえなければならなかった。

 ・・・・・・僕が家を飛び出した時、僕のバッグはいつもより重かった。その中には父から
借りたモバイルノートとモバイルルータが入っていたからだ。

 その日の放課後、僕は生徒会室に顔を出した。時間が早すぎたせいで室内には副会長と
遠山さんが何やら雑談しているだけで、他に役員の姿は見当たらなかった。二人の会話を
邪魔することに少し気が引けたけど、僕は急いでいたので副会長に話しかけ、必要な指示
を彼女に伝えた。それだけ済ませて僕が部屋を出ようとすると副会長はあからさまに不服
そうな顔をした。そして僕に向かって何かを話そうとしたけど遠山さんのことを気にした
のか、結局彼女は何も言わなかった。

 そのことにほっとして僕が生徒会室を出ようとした時だった。それまで黙って僕と副会
長のやりとりを聞いていた遠山さんが口を開いた。

「あの、先輩」

 それは副会長ではなく僕にかけられた言葉だった。

「うん。どうしたの」

「先輩、最近生徒会にいないでパソコン部の方にばっかりかかりきりになってますけ
ど・・・・・・ひょっとしてあたしのせいですか」

 遠山さんは思い詰めたような表情で言った。

「君のせいって・・・・・・何でそうなるの。こんな時期だけどパソ部に新入部員が入ってきた
から指導しないといけないだけだよ」

 僕はどぎまぎして答えた。いったい遠山さんは急に何を言い出したんだろう。しかも副
会長が聞いているところで。

「でも先輩、あのことがあってから学祭の準備に加わらないし、あたしのことも避けてる
みたいだし」

「だからそうじゃないって」

「あの・・・・・・生徒会には先輩は必要な人ですし、先輩が気になるならあたしが役員を辞め
てもいいかなって。先輩の態度が変になっているのはあたしの責任だし」

 何を言っているのだ。この上から目線の勘違い女は。僕はその時彼女を憎んだ。彼女は、
僕が自分に振られたために、彼女を避けて卑屈な行動を取っているのだと断定し、それな
ら僕を振った自分が身を引きますというご立派なことを提案しているのだった。

 僕をコケにするのもいい加減にしろ。

 僕はこの時遠山さんをというより、遠山さんや広橋君に代表されるような、他者から好
意を持たれて当然と考えている類いの人種に激しい憎悪を抱いた。遠山さんは自分が僕に
とって高嶺の花だということを前提に、その高嶺の花である彼女は僕のようなゴミと付き
合えるわけはないけど、それでもそのことによって僕を傷つけたことをすまないと思って
いるということを言っているのだった。

 それは、自分は優しい女だから例え自分にとってゴミクズのような男を振ったとしても、
そのことに対してきちんと罪悪感を感じられる優しさを持っているのだとアピールしてい
るのと同じだった。
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/04(水) 21:10:22.41 ID:mt1lqNZYo

「あんたさあ、ガキみたいに拗ねるのはいい加減に止めなよ」

 それまで黙っていた副会長までそこで口を挟んだ。

「いつまでも振られて傷付いた自分をアピールされると本気でうざいんだけど。生徒会長
の癖に下級生に心配させてどうすんのよ。そもそも、あんたの方が遠山さんに告って始め
たことでしょうが」

 遠山さんへの憎悪を募らせていた僕に対して副会長は説教するように言った。そうじゃ
ないのに。僕はもう反論する気すら失って、この場の雰囲気が自分にとって想定外の流れ
になったことに忸怩たる思いを抱いた。

「前にも言ったけど誰だって振られることなんかあるんだし、あんただってそんなことは
承知でこの子に告ったんでしょ。別に失恋することは全然恥かしいことじゃないけど、失
恋したことに拗ねて構ってちゃんやってるあんたの姿は正直痛いよ」

「もういいんです。悪いのはあたしだし」

 遠山さんが副会長の話に割り込んだ。

「あんたもこいつを甘やかすのやめなよ。あんたが役員を辞める必要なんて全然ないよ」
 副会長は今度は矛先を遠山さんに向けた。

 僕はもうこれ以上、この場の雰囲気に耐えられなかった。ようやく乱れる心を静めてで
きるだけ冷静に話すよう努めながら、僕は言った。

「正直、何でこんなに非難されなきゃいけないかよくわからないけど、ここの役員はみん
な優秀だし、僕だって学祭の準備に必要な指示は不足なく出してるでしょう」

 僕はなるべく感情を抑えたトーンで喋ることに腐心しながら続けた。

「でもパソ部の方はそうは行かないんだよ。新入部員の面倒もろくにみようとしない奴ら
ばっかりだし、大切な新人だから僕が面倒を見ないと」

「パソ部の新人ってどうせオタクなんでしょ? 放っておいたって好きなネトゲとか勝手
に始めるんじゃないの?」

 僕の言うことを頭から信用していない副会長は言った。

「あんたの言うことは全然信用できないんだよね」

「嘘じゃないよ。しかも一年の女の子だしなおさら部員たちには任せておけないという
か」

「一年の女の子?」

 妙なところに副会長が食いついてきた。

「あんたが遠山さんへの面当てでこんなことをしてるんじゃないというのが本当だとした
ら、あんた今度は一年生を狙っているのかよ」

「そうじゃないよ。とにかくそういうことだから、僕はもう行くよ」

 その時、遠山さんが僕の方を見て言った。

「もしかしてその新入部員って、池山麻衣ちゃんって子じゃないですか?」

 間抜けなことに僕は今まで遠山さんと麻衣が親密な仲であることをうっかり忘れていた
のだった。これからしようとしていることを考えると、麻衣がパソ部に入部したことは優
や池山君の関係者には伏せておきたかったのだけど、ここまで明白な事実に対して嘘をつ
くことはできなかった。そうじゃないよと否定して後でそれが嘘だとわかった場合のダ
メージの方がはるかに大きいだろうし。

 なぜ遠山さんがパソ部の新入部員を麻衣だと見抜いたのかはわからなかったけど、とに
かく僕はこの場を離れたかった。

「そうだよ」

 僕は短くそれだけ言って、これ以上彼女たちの制止の言葉に耳を貸さず半ば強引に話を
打ち切って生徒会室を後にした。
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/04(水) 21:10:56.85 ID:mt1lqNZYo

 部室に入ると麻衣はもう既に部室に来ていて、相変わらず所在なげにぽつんと座ったま
ま俯いてスマホを弄っていた。

「やあ」

 僕は麻衣の別れ際のキスを意識してしまい、少しぎこちない声で妹に声をかけた。

「あ、先輩」

 顔を上げた麻衣の表情にぱっと笑顔が灯った。彼女は初対面の時とはうって変わったよ
うに親し気な態度を僕に示した。

「昨日はありがとう、先輩」

「いや、僕の方こそ」

 僕の方こそとは変な切り返し方だった。これではまるで僕が麻衣のキスに感謝している
みたいじゃないか。僕は少し狼狽したけど、麻衣の笑顔を見ているとさっきの部室での屈
辱的な会話でささくれ立っていた心が癒されていくように感じた。

「ここじゃまずいから、部室を出て場所を変えよう」

 その言葉の意味は麻衣女にもすぐに伝わったようだった。

「うん。どこに行くの?」

 彼女はもう僕のことを信用しているようで、すぐに自分のバッグを持ち上げて立ち上が
った。

「この時間なら屋上には人気がないだろうし」

「そうだね。人目があったらまずいよね」

 麻衣は言った。僕に人気のないところに連れられて行くこと自体には警戒心すらないよ
うだ。

 目論見どおり放課後の屋上には人気は全くなかった。僕たちは屋上に設置されている古
びた石のベンチに並んで腰かけた。寄り添って座っていたわけではないので、僕と麻衣の
間には空間がある。僕はモバイルノートをバッグから取り出して僕と彼女の間に置いた。

 僕は黙ってノートを起動し、専ブラを立ち上げてブクマしておいたスレを開いた。今日
のところは淡々と麻衣に事実だけを伝えるつもりだった。この先すべきことは見えていた
けれど、とにかくまずは客観的なデータを麻衣に見せることから始めるつもりだった。彼
女が動揺したとしてもそれはこの先避けては通れない道だった。僕はまず、麻衣が見よう
としたけど、DAT落ちして見れなかったVIPのスレを開いた。

「優さんの最初のメールに記されていたスレがこれだ。今日は読めるようにしておいたか
ら見てごらん。僕はずっと待っているから時間かけて読んでみて」

「・・・・・・わかった」

 麻衣は緊張した表情でディスプレイに表示されているスレを読み始めた。

『暇だからjk2が制服姿をうpする』)

 僕は真剣にスレを読んでいる麻衣の姿をじっと眺めていた。じっと眺めるに値する容姿
の女の子だったし、彼女ははスレに没頭していたから、僕が彼女をどんなに眺めてもその
ことに気まずい思いをすることはなかった。でもその時の僕は一年生の美少女を鑑賞して
いたわけではない。むしろスレを読む彼女の反応を観察しようとしていたのだ。途中、麻
衣は画像へのリンクを踏もうと無駄な努力をしていた。

「これって画像見れないの?」

 麻衣はスレの途中で僕の方を見て聞いた。

「どうもアップしてすぐに削除しちゃうみたいだね」

 僕は答えた。

「じゃあ顔も見れないし、これが本当に二見先輩さんかどうかなんてわかんないじゃん」

「まあ経緯からいって間違いないんだろうけど」

 池山君へのメールの内容とそこに記されたスレがこのスレであることを勘案すると、当
然これらの画像には優の姿が写っていたずだった。

「とにかく画像は無視して最後までスレを読んでみたら」

「・・・・・・わかった。先輩の言うとおりにする」

 麻衣は再びディスプレイに目を落として画面をスクロールし始めた。
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/04(水) 21:11:29.00 ID:mt1lqNZYo

 途中スクロールするスピードが速くなった。さすがに雑談みたいなレスは適当に読み飛
ばすことにしたのだろう。二十分ほどで麻衣は全レスを読み終わったようだった。

「・・・・・・制服GJっていうレスがあった」

 麻衣が画面から目を外して暗い声で言った。

「うん。池山君のレスだろうね。池山君はやっぱりリアルタイムでこのスレを見てたんだ
と思う。もちろん、そのときは画像も」

 僕は言った。彼女を誘導しないこと、今日の僕はそれだけは気をつけようと思っていた。
これからすることは全て麻衣の自主的な意思で始めなければならないのだ。そうでなけれ
ばこれは僕の個人的な意趣返し、個人的な復讐劇、もっと言えば麻衣への執着のための行
動になってしまう。

「女神板の方は見れたんだよね?」

 僕は麻衣に聞いた。

「うん。全部は見てないけど、メールの日付のあたりのレスでモモっていう名前の人が画
像を見せてたみたい」

「まあ、画像はすぐに削除されるからね。でも、これで二見さんが誰にでも身体を見せる
ような女であることはわかったわけだ」

 僕は話を進めた。

「で、どう思う? 君はお兄さんの交際には反対しないと言ってたけど、こういう女神が
君のお兄さんの彼女でも許せるのかな」

 麻衣は少しためらった。

「わからないよ・・・・・・でも、少なくともこれじゃ証拠にならないよね。名前があるわけで
もないし」

 ここからは待ったなしの一発勝負だった。優の画像を麻衣に見せなければならない。か
といってVIPや女神のスレがまとめられていなければそれで計画は止まってしまう。

「ちょっと待ってて」

 僕は麻衣に言って、優のコテトリで検索を開始した。検索結果の上位は2ちゃんねるの
ものだったけど、少しスクロールするとURLが2ちゃんねるのものではないサイトがヒ
ットしていた。僕はざっと検索結果を眺めた。

「・・・・・・何してるの?」

 麻衣が不安そうに聞いた。

「うん、ちょっと。あ、ヒットした」

「何?」

「えーとミント速報だって」

 ミント速報は2ちゃんねるのエロ系のスレをまとめている大手まとめサイトの一つだ。
計画どおりだった。スレがまとめられているなら多分ここだろうと思っていた。

 そこで僕は少しためらった。ここはアダルトサイトだった。この間まで中学生だった麻
衣にこんなサイトを見せていいのだろうか。そこは割り切ったつもりだった僕だけど、実
際にミント速報の過去ログを開こうとする段になって急に僕は怖気づいたのだった。そ
もそも僕は童貞な上に女性に対して免疫がない。そんな僕が麻衣と肩を並べて裸だらけのミ
ント速報を見る勇気はなかったのだった。こんなことを危惧している間も、麻衣は興味
津々な様子で僕が画像を表示するのを待っている様子だった。

「何よそれ」

 ミント速報自体がぴんとこないであろう麻衣が質問した。
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/04(水) 21:11:57.47 ID:mt1lqNZYo

「まとめサイトみたいだね。それも結構エッチな」

 僕は顔を赤くして言った。みたいだねではない。僕は実はこのまとめサイトのことは以
前から知っていたのだ。

「・・・・・・何でそんなもの見る必要があるの」

 麻衣が不思議そうに聞いた。僕は腹をくくった。もともと僕と麻衣をこんなエロいシチ
ュエーションに導いたのは、僕のせいではない。全ては優のアブノーマルな嗜好から始っ
たことなのだ。とにかく優の画像が残っているログを探そう。

「ちょっと黙ってて・・・・・・」

 検索結果のURLLをクリックするだけではお目当てのログにダイレクトに辿りつけな
いのがこの手のサイトの特徴だった。目的を達するまでにはいくつものアンテナサイトを
の画面を経由させられる。僕は集中して目当てのログを追い求めた。

 しばらくして僕はようやくそこに辿りついた。

「あ、これだ。タイトルはミント速報の管理人が勝手に扇情的なやつをつけてるけど、さ
っきの貧乳どうこうというスレの、二見さんが女神行為をしていたところのログだよ」」

 僕は麻衣に言った。

『今春入学したばかりの処女のJD1が大胆な姿を露出!!』

「ほら画像が残ってる。さっきのスレッドをまとめてあるんだね」

 僕はもう麻衣のことを考慮することなく一枚目の画像を彼女に示した。クリックするま
でもなく該当レスの部分に最初から画像は表示されていた。

 一枚目は、優の上半身裸身の写真。左手で胸の部分を隠している。目の上に線を重ねて
いるけど、その表情は優のものに間違いなかった。

 二枚目は、鏡に写した優自身を撮影したもので、優はスカートを脱いで床に座りこんで
足をMの形に開いている。開いた足の中心部にはブルーで無地のパンツがくっきりと写っ
ていた。

 三枚目は、姿見に正面から自分を映した全身の画像で、その体にはブルーのパンツ以外
何も身に纏っておらず胸だけは左手で隠している。

 その時は麻衣と二人で同じ学校の女子のヌードを見ているという異常な状況だったのだ
けど、僕はまず自分の元カノのはずだった優のヌードに得体の知れない怒りを感じた。冷
静に駒を進めなければいけないこの時、その怒りは僕の理性を裏切っている状態だった。
心配していたような欲情している感じはない。むしろ、自分の中学時代を全て否定された
ような怒りと悲しみが僕を襲った。

 その状態のまま優へのどす黒い感情に身を任せ混乱していた僕に、麻衣が泣きそうな声
で話かけた。

「これって・・・・・・」

 おどおどした様子で麻衣は優のヌード画像から目を背けた。僕は気を取り直して優に答
えた。今は優に対して怒りを感じたりしている場合ではない。

「目は隠してあるけど・・・・・・顔つきや体格からいってどう考えても二見さんだな、これ」

「・・・・・・なんで。一体何であの人、こんなことを」

「さあ? それはわからないけどさ。少なくとも池山君にふさわしい女じゃないよね」

 僕はさりげなく麻衣に言った。麻衣は少しためらっていたけど、結局僕の方を見て頷い
た。

「・・・・・・うん」

 ここまでは作戦通りだった。自分が途中で思わず動揺してしまったことは想定外だった
けど、何とかリカバリーすることはできたようだ。

「もう少し画像を探そうか。これだけ無防備ならいくらでも出てきそうだね。バカな女」
 優をバカと言い放った時の僕の言葉は心から真実だった。・・・・・・バカな女。僕と付き合
っていればこんな娼婦まがいのことをして、承認欲求を満たす必要もなく、成績のいいク
ラスでも評判のいい女の子でいられたのに。これは優の自業自得以外の何物でもなかった。

「・・・・・・バカって」

 麻衣は、生徒会長の僕は人を非難することを言わないと思い込んでいたのだろう。その
僕の暴言に驚いて彼女はそう言った。

「だって、バカじゃん。つうか情弱っていうのかな」

 僕はもう優に同情するつもりはなかったから、僕の言葉はさぞかし冷たく聞こえただろ
う。
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/04(水) 21:12:30.67 ID:mt1lqNZYo

 その後も僕はミント速報を検索し続けた。あのVIPのスレは結局まとめられてはいな
いようで画像も発見できなかったけど、優がこれまで女神板で繰り返していた女神行為の
画像はかなりの数を回収することができた。僕も麻衣もその頃にはこの異常なシチュエー
ションに頭が慣れてきてしまったので、一々優のセミヌードを見るたびに動揺することは
なくなっていた。そうして検索していって最後にヒットしたスレは。

『【緊縛】縛られた女神様が無防備な裸身を晒してくれるスレ【被虐】』

 元スレのタイトルはこれだった。モモのコテトリのレスに張られた画像を一目見て麻衣
は顔を背けて泣き出した。

 一枚目は、優が床に座り込んでいる画像だけど、後ろ手に縛られてカメラの方を怯えた
ような表情で見ている彼女が映し出されていた。

 二枚目は、一枚目とポーズは全く一緒だけど、優はブレザーを脱いでいてブラウスの前
ボタンは全部外されているので肌が露出していた。スカートもめくられていて白く細い太
腿があらわになっている。線が入って目を隠しているけどやはり優は怯えたような表情を
している。

 三枚目は、二枚目とポーズは一緒だけど、優はブラウスを脱いで上半身はブラしか着用
していなかった。スカートは完全に捲くられてパンツが見えている。

 その怯えたような優の表情は、まるで彼女が拉致されて無理やり犯される寸前のように
見えた。今までのあっけからんとしたヌードと異なりこの画像の優はまるでAV女優のよ
うに拉致されて犯される少女の演技をしていたようだった。

 収まっていた優への怒りが僕の中で再び沸き起こってくるのを感じたその時、麻衣が顔
を上げて優の画像を厳しい視線で見つめた。

「どうしたの」

 僕は自分の感情を抑えて麻衣に声をかけた。高校一年生には見るに耐えない画像だった
ろう。ショックも受けているはずだった。さすがに今日一日でやりすぎたかと思った僕が
麻衣をケアしようと話し出した時。

「二見さん・・・・・・殺してやりたい」

 麻衣は低い声でそれだけ言って再び泣き出した。

 僕が麻衣の肩を抱いてそっと引き寄せると、彼女は逆らわずに僕の胸に顔を押し当てて
泣きじゃくった。



 しばらくして泣き止んだ麻衣は僕の腕の中から身体を離して、うつむき加減に泣き濡れ
た瞳をハンカチで拭いた。

「ごめん先輩・・・・・・ありがと」

「・・・・・・うん」

 焦らす気ではなかったけど、この後どうするかについては僕の方から切り出すつもりは
なかったから、僕は麻衣が落ち着くのをじっと待っていた。麻衣が僕から身体を離したせ
いで中途半端に置き去りにされた自分の腕を僕はモバイルノートの方に戻して、そっとミ
ント速報の優の裸身が表示され続けていた画面を閉じた。屋上には人気はないようだった
けど用心するに越したことはない。

 そのまま麻衣が話しだすのを待っていたけれども、彼女はうつむいたまま黙ってしまっ
ていた。そのまましばらく沈黙が続いた。これからしようとしていることはある意味人の
人生を左右することになるのだから、それを切り出すのは麻衣の方からでなければならな
かった。僕の方からそれを積極的に切り出すわけにはいかない。

 それでも沈黙が続くと僕は少し焦り始めた。麻衣だってもう何をすればいいかは理解で
きているはずだ。どうすればいいかはわからなにしても、そうするという意思さえはっき
りと口に出してくれれば方法論は僕が考えてあげることができる。そもそも麻衣だってそ
れを期待して僕に近づいたのだろうから。

 だけど、麻衣は何も喋り出そうとしない。彼女もこの先に取るべき手段について僕の方
から切り出されるのを待っているのだろうか。そうすることによって僕を共犯にし、結果
に対する責任を僕と共有することによって自分の罪悪感を薄めようとしているのだろうか。
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/04(水) 21:12:58.14 ID:mt1lqNZYo

 そんなことはないだろう。僕は時分の考えを否定した。優の卑猥な緊縛画像を見てショ
ックを受けている麻衣にはそんな回りくどいことを考える余裕があるとは思えなかった。

 僕はためらった。これから開始するかもしれないゲームは優の人生を変えてしまうかも
しれない。仮にその実行犯が僕であるならその結果責任は取らざるを得ないのだけど、少
なくとも自分の動機だけはみっともなくないものにしておきたかった。優の心変わりへの
復讐心、あるいは優と池山君の仲への嫉妬心が行為の動機だったら、それではあまりにも
僕が惨め過ぎる。たとえ誰かにばれなかったとしてもそれでは自分のメンタルがもたいな
いだろう。

 そう考えて僕は麻衣の方から話を切り出すのを待ったのだけど、相変わらず麻衣はうつ
むいて沈黙したままだった。事を始めてからはかなり僕も精神面に打撃を受けるであろう
ことは最初から覚悟していたけれど、始まる前から麻衣相手に神経戦になることまでは全
く予想していなかった。

 このままだとせっかく勝ち取った麻衣の信頼までが揺らぎだしそうだった。

 ・・・・・・仕方ない。少なくとも話のきっかけくらいは僕の方から切り出そう。クライアン
トが黙りこくって行きどまってしまった時、こちらから方向性をアドバイスすることはよ
くあることだった。それだけのことだ。僕は無理に自分を納得させた。決して麻衣の術中
に陥ったというわけではない。麻衣には今や僕しか頼る相手はいないのだし。

「二見さんの画像を見たわけだけど」

 僕は観念して自分の方から麻衣に話を振った。

「殺してやりたいとか穏やかじゃないことまで言ってたけど、お兄さんの彼女として二見
さんは許せそう?」

 許せるわけがないから麻衣も黙っているのだろうけど、とりあえず僕はそう聞いてみた。

「許せるわけないよ。あんな・・・・・・あんな姿を堂々と不特定多数の人たちに喜んで見せて
いるような女なんて。お兄ちゃんの彼女じゃないとしたって理解できない」

 うつむいたままでようやく麻衣は声を出してくれた。小さな声だったけど彼女の考えは
ストレートに僕に響いた。

「じゃあ、君はこれからどうしたい?」

「どうしたいって・・・・・・」

「つまり、二見さん女神行為を止めさせたいの?」

「え?」

「え、じゃないよ。君は何をしたいの? 僕は君のことが好きだから君がしたいと思うこ
となら手伝うけど、それにはまず君が何をしたいのかをはっきりさせてくれないとね」

 僕はやむなくききっかけは作ってあげたけど、それでも本当に肝心な部分は麻衣妹に言
わせたかった。

「君はどうしたい? 繰り返すけど二見さんに女神行為を止めさせたい?」

 それでも麻衣は黙っていた。僕は話を続けた。

「彼女が女神行為を止めれば池山君との仲は許せるの? それとも二見さんが女神行為を
するなんてことはどうでもいいけど、そういう女が池山君の彼女になることは許せな
い?」

「うん。二見さんはお兄ちゃんにはふさわしくない。お兄ちゃんが好きな子と付き合うこ
とにはもう反対はしないけど、家族として考えたら二見さんなんか論外だよ」

 麻衣はようやく顔を上げてはっきりと言った。

「今さら二見さんが女神じゃなくなったって無理。パパとママだって・・・・・・お姉ちゃんだ
って、この画像を見たら同じことを言うと思う」

「じゃあ、話は簡単だね」

 僕は麻衣ににっこりと笑いかけた。

「二見さんと池山君を付き合わないようにさせればいいんだね」

「う、うん」

 麻衣は戸惑ったように答えた。

「でもそんなことどうすればできるの?」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/04(水) 21:13:26.98 ID:mt1lqNZYo

「難しいだろうね。僕が池山君の前に突然現れて、女神行為をするようなビッチは君には
ふさわしくないよ。妹さんも心配してるよ、なんて言っても池山君は聞き入れないだろう
し」

「先輩、あたしのことからかってるの?」

「違うよ。でも池山君は二見さんの画像を全部見ているし彼女の女神行為のことは全部承
知のうえで彼女に惹かれてるんでしょ」

「・・・・・・そうかも」

「だったら、正攻法で行っても池山君が二見さんのことを嫌いにさせるのは無理じゃん
か」

「・・・・・・じゃ、諦めるしかないの?」

「そうは言っていない。池山君と二見さんが付き合わないようにする、あるいはもう付き
合っているんだったら別れさせることは可能だよ」

「どうするの?」

 麻衣は細い声で言った。

 本当に気がついていないのだろうか。それともわざと僕の口から提案させようとしてい
るのだろうか。僕は迷った。僕は自分が当初想定していたシナリオから逸脱し、いつのま
にか僕の方から積極的に作戦を提案するような立場に追い込まれていた。

 ここに至って再び躊躇したけれど、結局麻衣への執着心が僕の理性を制圧してしまった。
麻衣は僕の第一印象よりは清純な女の子ではないかもしれないけど、優とは違って複雑な
思考の結果、僕を利用としようとするような子ではないに決まっている。盲目的な麻衣へ
の執着が僕の心の中の小さな葛藤に勝利したようだった。僕はその手段を麻衣に話し出し
た。

「言っておくけど、これをやれば池山君と二見さんは別れるだろうけど、そのかわり二見
さんには相当ダメージがあるし、池山君だってそれなりに傷付くと思うよ」

「・・・・・・いったい何をする気なの?」

 麻衣は完全にことが僕主導で運ぶものだと思い込んでいるような口調で言った。でも麻
衣に執着していた僕は心の中の麻衣の言動への疑問は押さえつけてしまっていたから、僕
はその続きを話すことにしたのだった。

「何をって、簡単なことだよ。二見さんの女神行為を先生にばらせばいいんだよ。ミント
速報のURLを担任に送付するだけじゃん」

 そのことが意味することは麻衣にも理解出来たろう。それはある意味、優の人生を少な
くとも優の高校生活を破壊することに繋がる行為なのだった。

 麻衣は黙り込んだ。ここまで深入りしてしまった僕だけど、麻衣のゴーサインがはっき
りと示されなければこれを実行するつもりはなかった。今度は僕も妥協する気はなかった。
麻衣が何か話出すまではもう自分も黙っているつもりだった。

 屋上から見下ろす町の建物からは灯りがあちこちに点き出していた。空も薄暗くなって
きていて、完全下校時刻ももうすぐだった。これで麻衣が決断しないなら今日はここまで
にしよう。

 下校時間のアナウンスが流れだした。僕は麻衣の方を見ないで立ち上がった。

「今日はもう帰ろう。校門も閉まっちゃうし」

 僕はそう言ってモバイルノートをカバンにしまおうとしたとき、麻衣が立ち上がって僕
の方を見つめたた。

「あたしが頼めば、先輩は協力してくれるの?」

 ようやく麻衣がそう言った。協力してくれるのと。そう、これはやるとしたら麻衣のた
めに僕がすることではない。麻衣のために僕が協力して、麻衣自身がこれをやるのだ。

「君に協力するよ。二見さんにはひどい仕打ちになるだろうけど、僕は君のことが好きだ
から」

 麻衣は僕の手を握った。

「先輩、あたしに力を貸して。あたし決めた。二見さんがどうなってもいいから、二見さ
んからお兄ちゃんを引き剥がしたい」

 僕は僕の手に重ねられた麻衣の小さな手を握り締めた。それはすごく冷たい感触だった。

「じゃあ、明日から始めようか」

 麻衣は小さく頷いた。
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/04(水) 21:14:05.62 ID:mt1lqNZYo

今回は以上です
また投下します
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/05(木) 03:51:42.68 ID:xBPO6ZLt0

大量投下で読み応えあったよ
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:36:13.83 ID:my8qAWPQo

 その日、僕はもう日が落ちて薄暗い通りを駅まで麻衣と一緒に帰った。彼女はもう何も
言わなかったけど、校舎から出ると黙って僕の手を握った。完全下校時間になっていたの
で、周囲には先生に注意される前に校門を出ようと下校を急ぐ部活帰りの生徒たちで溢れ
ていたし、校門の前には急いで生徒たちを校内から追い出そうとしている先生の姿もあっ
たけど、麻衣はやはり何も言わずに僕の手を握ったままだった。

 昨日に引き続き僕と麻衣が寄り添って薄暗い道を歩いている姿は、きっと下校中の生徒
たちに目撃されていたはずだった。こんなことを繰り返していればそのうち僕と麻衣の仲
が噂になるのは時間の問題だったろう。そういう可能性に気がついていないのか、あるい
は気づいていてもどうで もいいのか、麻衣は周囲を気にする様子もなく自然に僕の手を
握ったまま、ゆっくりと駅の方に歩いていった。どちらかというと僕の方が周りの視線を
気にして挙動不審になっていたから、他人から見たら二人の様子は寄り添うというより、
麻衣に手を引かれた僕が後ろからついて行っているように見えたかもしれない。

 麻衣にとってはこれは恋ではない。僕は好奇心に溢れてた周囲の視線に戸惑いながらも、
恥かしい勘違いをしないよう自分に言い聞かせた。麻衣と親密になることが今の僕の目標
だけれども、それはこんなに簡単に成就するものではないはずだった。今の麻衣には僕の
ほかに相談する相手がいないし、僕には傾聴スキルがあったから麻衣にとって僕は唯一の
相談相手、それも信頼できる相談し甲斐のある唯一の相手だった。もともと年上の相手に
自然に甘えることができる麻衣なのだから、信頼している相手に手を預けるくらいで彼女
の恋愛感情を推し量ることはできない。

 それに、今の僕は中学時代よりももっと自分に対して自信を持てなかった。手を繋いで
一緒に帰るというだけなら、優とだって同じことをしていた。そればかりか一度だけ、優
は僕に向かって直接僕のことを好きと言ってくれたことさえあったのだ。でも結局、優が
僕のことを好きだということは僕の勝手な思い込みに過ぎなかった。そう考えると麻衣が
頬にキスしてくれたり手を握ってくれる行為自体を過大評価してはいけない。

 有体に言えば麻衣にとって、僕は臨時のお兄ちゃんになったに過ぎないのではないか。
僕はそう考えた。麻衣がこれからしようとしていることは、池山君を優から引き離すとい
うということだから、麻衣はこれまでのように池山君を頼るわけには行かない。それに対
して、僕は麻衣の意向を全人格的に尊重する態度をしつこいくらいに示してきた。そのこ
とに安心した麻衣は、彼女の心の中で僕を臨時のお兄ちゃんに任命したのではないだろう
か。

 そう考えると僕には、下級生の少女と手を繋いで暗い帰り道を一緒に歩いているこの甘
い状況に、感傷的に浸りきる贅沢は許されていなかった。明日からはもっといろいろと仕
掛けないといけない。そのためには麻衣を傾聴者である僕にもっと依存させていかなけれ
ばならない。そのための布石は打ったし結果も今のところ予想以上だった。でもここで満
足してしまっても何にも意味はない。この先に打つ手はだいたい思い浮んでいたのだけれ
ど、もう少し体系的に整理しておいた方がいい。

 ・・・・・・ただそれは麻衣と別れて自宅に戻ってからでもいいだろう。僕は少しだけ自分を
甘やかした。この状況に浮かれさえしなければ、少しだけ、ほんの少しだけこの恋人同士
のデートのようなシチュエーションに浸ってもいいかもしれない。それが僕の勘違いであ
るにしても。麻衣に手を握られながら、そんな考えをごちゃごちゃと頭の中で思い浮かべ
ていた僕は、ふいに彼女に話しかけられた。

「先輩、さっきから何を考えているの」

 麻衣が僕の方を見上げながら不思議そうに言った。彼女もこの頃には自分の考えが整理
できたようで、さっきまでの泣きそうな表情は見当たらなかった。その不意打ちに僕は少
しうろたえた。僕はとても彼女に告白できないようなことを考えていたのだから。

「いや・・・・・・別に」

 僕は我ながら要領を得ない答えを口にした。でも彼女にはそれ以上僕を追求する気はな
いようだった。

「そう・・・・・・先輩?」

「うん」

「先輩って最近あたしに構ってくれてるけど、学園祭前なのに生徒会とかは顔を出さなく
ていいの?」

「ああ。それは大丈夫」

 麻衣の件がなかったとしても、そもそも生徒会にはい辛いのだけど、それは麻衣に言う
話ではなかった。

「副会長とか遠山さんとか、みんなしかっりしているから。僕なんかがいなくても大丈夫
だよ」

 どういうわけか麻衣は僕の答えを聞くと黙ってしまったけど、次の瞬間僕の手は彼女の
冷たい小さな手によって今までより強く握りしめられたのだった。

「先輩、本当にありがとう」

 麻衣は僕の手を離して少しだけ僕の方を見てから、ちょうどホームに入ってきた電車に
間に合うよう急いで改札の方に吸い込まれて行った。電車に乗る前に一瞬僕の方を見て手
を振った彼女は、気のせいか少しだけ僕と別れることを名残惜しそうに思っているかのよ
うに見えた。
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:37:25.31 ID:my8qAWPQo

 自宅に戻った僕は、自分を捉えて離さない甘い感傷や将来へのはかない希望のような僕
の心を乱す要素を自分の心の中から排除して、なるべく冷静に今後取るべき手段を考え始
めた。

 僕たちの目標は、女神行為を繰り返している女から池山君を引き剥がすということだっ
た。それに対してとりあえず採用できる最初の行動は、優の女神行為を画像付きで学校側
に通報するということだ。それを実行したら、学校側は優に対して女神行為を止めて自分
の行動を反省するように指導するかもしれないし、場合によっては優に停学処分くらいは
言い渡すかもしれない。でも、それによって池山君と優が確実に疎遠になることは期待で
きなかった。屋上で麻衣に話したように、池山君は既に優の女神行為を知っている。そし
て麻衣の言うように池山君が優のことが好きなのだとしたら、それは優の女神行為を承知
のうえで彼女に惹かれていることになる。そう考えると優の女神行為が学校側に知られた
だけでは、麻衣の望んでいる結果は出ないだろう。

 次の行動を考えると、もはや選択肢はあまり多くなかった。こうなると池山君と優を別
れさせるには物理的に二人を隔離するしか方法はない。普通ならそんなことを仕掛けるこ
となんて不可能だ。まして彼らの知らないところで麻衣と僕がそんなことをできるわけが
なかった。ただ、一つだけ方法があった。それにはやはり優の女神行為を利用する方法
だった。

 普通なら許されることではない。それは人の人生を変えてしまってもいいというくらい
の覚悟がなければできないことだった。それを実行するかどうかは別として、その考えが
理論的に成立するかどうかだけ検証しておこう。僕はこれ以上考えたくないとしり込みす
る自分に鞭打ってシミュレーションを始めた。

 まず女の女神行為を校内に広く知らせること。これは、パソ部の副部長が管理運営して
いる学校裏サイトを使えば造作もない。それだけで、普通の神経なら優は不登校になるは
ずだった。さらに2ちゃんねるで優の身バレスレを立てれば、優の実名が全国に晒される
ことになる。これがうまくネット上で広まれば、優は学校に来れなくなるばかりではなく社会
的にも抹殺されることになる。

 僕はその状態を想像してみた。検索サイトで優の実名を入力すると、優の恥知らずな女
神行為が画像付きでヒットするのだ。まとめサイトのようなのもできるかもしれない。つ
まり、優の将来の進学や入社の際、試験官や採用担当者が数分だけ時間と手間を費やして
ネットで検索するだけで優の将来は閉ざされることになる。そしてここまでいけば優は姿
を隠さざるを得ないから、池山君とはもう接触することすらできなくなるだろう。

 普通は知り合いに対してここまでできるものではない。僕だって優には恨みはあったけ
どここまでするつもりはなかった。ただ、麻衣がそれでもそれを望んだとしたら僕はそれ
を断れるだろうか。

 ・・・・・・とりあえずシミュレーションはここまでだった。もう少しひどい状況を考えるこ
ともできたのだけど、そういうことを生徒会長の僕が考えているというだけでもストレス
を感じていたから、僕はもうこのあたり脳内シミュレーションを止めることにした。あと
は明日、麻衣と話し合ってどこまでするかを考えよう。

 これから勉強をする気力なんてとても残されていなかった。僕は今日も勉強を放置して
眠ることにした。そうすると、浅い眠りの夢の中に再び僕にキスし僕の手を握る麻衣の可
愛らしい姿の甘美な記憶が現れてきたのだった。



 翌日、僕は学校に向かう坂道を歩きながら昨日の夜考えていたことを思い返していた。
昨夜は自分では冷静に考えていたつもりだったけど、朝の明るい陽射しの中で自分が今後
行うかもしれないことを改めて冷静に考えると、僕は次第に怖くなってきた。麻衣と仲良
くなれたのは僕にとっ て望外の喜びだったけれど、この後麻衣が実際に僕に行動を求め、
僕がその要求に応じた後に僕を待っていることは何なのだろう。

 麻衣との要求を満たせたとしても、それで麻衣と恋人同士になれる保障なんて何もない。
むしろ、せっかく池山君から卒業しようとしている麻衣はこれまでのように彼に依存する
状態に戻ってしまうかもしれない。そこまでは今までも僕が繰り返して考えていたことだ
った。そして、万一僕たちが仕 掛けるかもしれないこの作戦が外に漏れたとしても、ネ
ット上で自分の裸身を餌に自らの承認欲求を満たすなんていうはかなくも愚かな行為を繰
り返して、そうなる原因を作ったのは優だった。匿名の掲示板上で責められるのは優だけ
だろう。僕はこれまでそう考えていたのだった。

 ただ、朝になって今改めて冷静に考えると、これからするかもしれない行為は実は自分
にとって結構危険な行為であることに今初めて僕は思い至ったのだった。

 優の実名を晒して女を追い詰めるということ。それは匿名の名無しのレスによって生じ
たことなら、その発端を作ったレスを誰がしたかはあまり問題にはされないだろう。

 でも、万一そのレスにより優が身バレする原因を作った人間が特定されたらどうだろう。
移ろいやすいネット上の無責任な批判は、優を身バレさせた僕にも向かうことになるかも
しれない。そうなれば、ある意味では優と同じく僕の将来もそこで終ることになるかもし
れなかった。

 真面目な生徒会長が、同じ学校の後輩の秘密をネット上で大々的に暴く。そのこと自体
にもスキャンダルな要素があるし、その原因まで追究されていくと僕と優の中学時代の付
き合いまで晒されるかも知れない。

 僕がしようとしていることは、それくらい僕自身にとってもリスクの高いことだという
ことに僕はその朝初めて気がついたのだった。
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:37:55.84 ID:my8qAWPQo

 麻衣が示してくれた好意に有頂天になっていた僕は、麻衣を助けている自分自身に生じ
るかもしれないリスクについてはこれまであまり考えてこなかった。でも一度それに気が
つくと、今まで冷静に優を破滅させる手段について考察していた自分が、いかに考えが甘
かったか理解できるようになった。これまで麻衣の甘い好意の片鱗に夢中になっていただ
けだった僕は、自分に生じるかもしれないリスクに初めて戦慄とした。

 僕は、優と池山君を別れさせることに協力すると麻衣に約束してしまっている。麻衣が
求めれば、それがどんなに危険な道であっても僕にはもう断れないだろう。せめて、その
手段が優に与えるダメージの大きさに麻衣がためらって、そこまでするのは止めようよと
言ってくれるのを期待するしかなかった。

 その時、突然僕は誰かに頭を叩かれた。

「こら。あんた何で昨日話の途中で生徒会室から逃げ出したのよ」

 暗い考えから我に帰ると、副会長が僕を睨んでいた。

「あの後、遠山さんが落ち込んで大変だったんだよ」

「悪い。部活があったから」

 僕はもう何度目になるかわからないその言い訳をもごもごと口にした。

「本当に情けないなあ、あんたは。別に身近な生徒会の役員の子に告るのは自由だけど、
告られた遠山さんに生徒会をやめるとか言わせるなよ」

「僕はそんなつもりは」

「じゃあ何で生徒会室に来ないのよ。何で遠山さんをあからさまに避けて彼女に気を遣わ
せてるの? あんた彼女が好きなんでしょ。振られたとしても彼女の気持ちを考えてあげ
なさいよ、先輩なのに情けない」

 副会長も相当僕に言いたいことが溜まっているようだった。確かに無理もない。こいつ
は僕の代わりに学園祭の実行委員会を仕切ったり、僕を振って傷つけたと思い込んで落ち
込んでいる遠山さんを宥めたりさせられていたのだろうから。

 自分の悩みで精一杯だった僕も、その時は副会長に申し訳ない気持ちがあった。今の僕
は自分の義務を放棄して麻衣のことしか考えずに行動していたのだから。

「君には悪いと思っているけど・・・・・・」

 そうして僕が副会長に謝ろうとしたその時、僕の片腕は誰かに抱きつかれ急に重くなっ
た。僕はいきなり抱きついてきた麻衣に気がつき言葉を中断した。そして、僕を更に責め
たてようと意気込んでいたらしい副会長も驚いたように黙ってしまった。

「先輩は何も悪くないです」

 麻衣は僕の左腕に自分の両手を絡ませながら、おそらく面識もないであろう副会長を睨
んでそう言った。

「あんたは」

 副会長が言った。面識はないかもしれないけど、校内の男女関係の噂が好きな彼女は麻
衣のことは知っていたようだった。

「たしか、遠山さんの知り合いの池山さんだっけ」

 麻衣はそれには答えなかった。

「先輩は悪くないです。あたしがパソ部に入部して、それで何もわからないでいることを
心配してくれて面倒見てくれてるだけで」

「・・・・・・」

 副会長はとりあえず僕への悪口を中断し、むしろ当惑したように僕の方を見た。副会長
には、僕の腕に抱き付きながら自分を睨んでいる麻衣の姿はどう映っているのだろう。

「あんたさ・・・・・・」

 副会長はとりえず麻衣を相手にせず僕に向かって吐き捨てるように言った。

「やっぱり女を乗り換えてたのか。遠山さんに振られたからって、すぐに下級生に言い寄
るとか最低だね。しかも遠山さんの親しい相手の子にさ」
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:38:43.77 ID:my8qAWPQo

 僕はそれに対して何も言い訳できなかった。本当は遠山さんなんて好きじゃなかった。
優と池山君の関係を知りたいために、僕は遠山さんに告白する演技をしたのだ。でもそれ
を告白すれば僕はもっと最低の人間として認識されてしまう。そして、どんなに否定しよ
うが僕が麻衣に惹かれてしまったことも事実なのだった。

 僕はその時はもう、硬直していて何も言い訳できる状態ではなかった。麻衣にまで僕が
遠山さんに告白したことを知られてしまった。僕は、僕の腕に抱き付いている麻衣がこの
時どんな表情をしていたのか確認する勇気すらなかった。

「言い訳もなし? あんたいっそもう生徒会長やめたら?」

 副会長は妙に落ち着いた声で僕に言った。こいつがこういう声を出すときは本当に怒っ
ている時なのだ。これまでの生徒会での付き合いで僕はそのことを知っていた。

 どちらにしても、もう僕には副会長に言い訳できなかった。生徒会長であることとパソ
コン部の部長であることだけが、中学時代と違って無冠では全く人気のない僕の唯一の拠
りどころだったのに、それさえ僕は失おうとしていたのだった。

 その時、僕の腕に抱きついていた妹はそのままの姿勢で副会長に言った。

「浅井先輩って、もしかして石井先輩のことが好きなんですか」

 麻衣のその言葉にその場が一瞬で凍りついた。

「あ、あんた、何言って」

 僕は副会長がここまで狼狽した姿を見るのは初めてだったかもしれない。彼女の表情は
蒼白になり、そしてすぐに紅潮した表情でになった。麻衣は副会長の名前を知っていたよ
うだった。

 僕は、この時初めて僕の腕にくっついている麻衣を見た。まだこの間まで中学生だった
幼い外見を残した彼女は、一年生にとっては自分よりはるかに大人に思えるだろう副会長
を前にして、少しも臆した様子がなかった。そして、麻衣は僕の方など振り向きもせず真
っ直ぐに三年生の副会長を見つめていた。

「あたしに嫉妬してるんですか? だったらお姉ちゃんのことを心配してるような振りを
するのはやめて、石井先輩に『あたしとこの子とどっちか好きなの?』ってはっきり聞け
ばいいんじゃないですか」

 副会長も今や紅潮した顔のままで麻衣を睨んでいた。僕はいたたまれない気持ちを持て
余して、結局黙って下を向いてなるべく早くこの修羅場が終ることだけを心の中で祈って
いた。それに校門の前に近いこともあり、みっともない三人の男女の様子はすでに相当の
生徒たちの視線を集めているようだった。

「あと、浅井先輩は勘違いしてますよ」

 妹は平然と続けた。

「先輩はお姉ちゃんに振られたからあたしに乗り換えたわけじゃないですよ」
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:39:13.88 ID:my8qAWPQo

 いったいこの子は何を言おうとしているのだろう。そして何が目的で僕をかばっている
のだろう。僕は混乱していた。

「先輩があたしのことを好きだとしても、それはお姉ちゃんとは関係ない先輩の純粋な気
持ちでしょ。そのことを非難する資格が浅井先輩にあるんですか」

「・・・・・・あんたさあ。調子に乗ってるんじゃないわよ、ブラコンの癖に」

 追い詰められた副会長はついにそれを口にした。でも、苦し紛れの反撃は相応に効果が
あったようで、麻衣はそれを聞いてこれまでの元気を失ったようにうつむいてしまった。

「・・・・・・それこそ、君には関係ないよな」

 僕は思わず麻衣をかばって口走った。

「僕のことを責めるのはいいけど、それは麻衣のプライバシーの侵害だろ? ブラコンと
かって全然今までの話と関係ないじゃないか」

「この子のこと、もう麻衣って呼んでいるんだ」

 一瞬まずかったかと思ったその時、僕は自分の腕に抱きついていた麻衣の手が更に力を
込めて僕にしがみつくようにしたのを感じた。視線を麻衣の方に逸らすと、今まで気丈に
振る舞っていた彼女は僕の方を潤んだ目で見つめていた。

 麻衣が僕の援護に元気づけられたのかどうかはわからない。でも、ブラコンと決め付け
られて一瞬黙りこくってしまった彼女は再び副会長に向かって果敢に反撃した。

「とにかく、石井先輩が生徒会に出ないことと、先輩がお姉ちゃんに振られたこと、それ
に」

 そこで妹はちょっと言いよどんだ。

「・・・・・・それとあたしと先輩の仲がいいことを一緒にしないでください。もし先輩とあた
しが恋人のように見えるとしたら、それは先輩じゃなくてあたしのせいですから」

 それはどういう意味なんだ? 僕は再び混乱した。

「そんなことを言ってると、それこそ浅井先輩があたしに嫉妬してるようにしか見えない
ですよ」

 麻衣は顔を赤くしたけど、きっぱりと最後まで言いたいことを話し続けたのだった。

「もういい。あたしはこれからはあんたのことには関らないから」

 副会長はもう麻衣とは目を合わせず、僕に向かって捨て台詞のような言葉を吐き捨てて
去って行ったのだった。
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:42:31.29 ID:my8qAWPQo
 その日の昼休み、僕はこれでさっきから何度目かわからなくなっていたけど、朝の出来
事を思い返してそのことの持つ意味を考えていた。朝の校門の前で、どうして麻衣はあそ
こまで僕に肩入れしたのか。副会長と僕のトラブルなんか彼女には全くかかわりのない話
だった。麻衣はきっと、浅井君のことは生徒会副会長として知っていただけで、面識すら
なかったはずだ。副会長が僕が生徒会室に顔を出さないことで責めていた言葉を聞いて、
麻衣は自分に時間を取らせたことに罪悪感を感じたからだろうか。

 でも、それも不自然だ。僕はそう思った。副会長は直接的には僕が部活にかまけている
ことを責めたのではなく、僕が遠山さんを避けようとして生徒会活動に参加しなくなった
ことを責めていたのだ。だから麻衣が副会長の言葉を聞いたとしても、その言葉に彼女が
罪悪感を感じる必要は全くない。

 麻衣が僕のことが好きで、その僕が副会長に責められていることに我慢ができなかった
からか。そう考えたい気持ちは僕の心の底に根深く存在していたけど、冷静に考える癖が
ついている僕にはそう楽天的には考えらなかった。

 麻衣が僕を頼っているのは自分のしようと考えていることを実現するのに僕を必要とし
ているからだ。確かに最近の彼女は僕の手を握ったり、別れ際に頬にキスしたり、腕に抱
きついたりという思わせぶりな行動をしている。でも、それは男として異性として僕を意
識しているわけではなく、臨時のお兄ちゃんとして僕のことを認識しているからだろう。
そして最近よく理解できてきたのだけど麻衣の身びいきはすごく激しかった。麻衣が池山
君や遠山さんに対して捧げる愛情と忠誠は無限大だった。それに比べて周囲の生徒たちへ
の彼女の関心は、中庭の花壇に這っている虫に対する関心とほとんど変わらないくらいだ
った。その虫たちの中には麻衣に対して熱い視線を向けている男子もいたと思うけど、彼
女はそんな視線に気がついたとしてもそれには全くの無関心に近い態度を取っていたよう
だった。

 ついこの間までは僕もその虫たちの一人に過ぎなかった。それが、優と池山君を別れさ
せるという目標を麻衣と共有し出してから、僕も臨時のお兄ちゃんとして彼女の意識の中
では身内扱いされるようになったようだった。

 そう考えると、今朝の麻衣の言動は何となく理解できる気がした。僕のことなんか、男
としては意識していない彼女だけど少なくとも今は、彼女の意識の中では僕は彼女が守る
べき身内のカテゴリーに入ったのだろう。そして僕は最初に妹に協力を持ちかけた時の彼
女のセリフを忘れてはいなかった。

『君のことが異性として気になっている』

 そう言った僕に対して麻衣は真面目な口調で釘を刺したのだった。

『・・・・・・先輩。あたし、今のところ誰かと付き合うとか考えていなくて』

 そうだ。僕は出だしで一度彼女に拒否されているのだ。最近の麻衣の言動に惑うと最後
には彼女を困惑させ自分も傷付くことになる。

 恋人にはなれなくても、麻衣が見知らぬ三年生の先輩に噛み付くほど僕のことをかばっ
てくれただけでも十分じゃないか。少なくとも僕は麻衣にとって地面を這う虫ではなくて、
身内の仲間入りを果たしたのだから。

 ふと気がつくと教室内にはもうあまり生徒たちは残っていないようだった。学食や購買
に行く生徒たちは昼休みのベルと共に教室を出て行ってしまったから、ここに残っている
のは教室の机を寄せ合わせて何人かのグループでお弁当を広げている生徒たちだけだった。
今日は秋晴れのいい陽気だったから、弁当持参の生徒たちも中庭や屋上に行っているのか、
教室に残って食事をしている生徒は数人くらいしかいなかった。
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:49:24.49 ID:my8qAWPQo

 あまり食欲はないけど午後の授業中にお腹が鳴ったりすると恥かしい。僕は購買で余り
物のパンでも買うことにして席から立ち上がった時、教室のドアから誰かを探しているよ
うに室内を覗き込んでいる下級生の姿に気がついた。

「先輩、まだいてくれてよかった。間に合わないかと思っちゃった」

 麻衣は教室内で食事をしている上級生たちを全く気にせず、僕に向かって大きな声で話
しかけた。

「どうしたの」

 麻衣の方に近寄りながら、僕は周囲の生徒の視線が気になって低めの声で返事した。普
通、学年によって校舎が別れているうちの学校では下級生の生徒が上級生の教室を訪れる
ことは滅多にない。そのうえ麻衣のような少女が僕のような冴えない男を訪ねてきたのだ
から、その姿に教 室内の注目が集まったのも無理はなかった。

「これからお昼でしょ? 一緒に食べない?」

 麻衣は周囲の上級生を気にせず平然とした態度で言った。

「別にいいけど。急にどうしたの」

「急じゃないの。先輩、いつも購買でパン買ってるみたいだから今日は一緒に食べようと
思って先輩のお弁当を作ってきたんだけど」

「え」

 さっきまで期待する理由がないと自分で結論を出したばかりの僕は再び動揺した。女の
子が僕のためにお弁当を作ってくれるなんて生まれて初めての体験だった。

「今朝、先輩に話そうと思ったんだけど浅井先輩に邪魔されて言えなかったよ」

「そうだったの」

 麻衣に恋焦がれている僕としては天に昇っているような幸せな気持になってもよかった
はずなのだけど、やはり僕はどこまでも卑屈にできているのだろう。同級生たちの面白が
っているような表情に僕は萎縮してしまっていた。

 麻衣はそんな僕の手を握った。

「天気がいいから屋上に行きましょ。中庭はさっき見たらもうベンチは空いてなかったし
ね」

 僕は呆けたように麻衣を見つめながら彼女に手を引かれるまま教室を後にした。

 屋上のベンチにも結構人がいたけど、どういうわけか前に麻衣と一緒に座ってモバイル
ノートで女神スレを見た時のベンチが空いていたので、僕たちはそこに腰かけた。麻衣は
持参していた可愛らしい巾着袋を開けてお弁当が入ったタッパーを取り出した。

「先輩、どうぞ。美味しくないかもしれないけど」

 僕は彼女に勧められるままに小さなおにぎりや、ちまちまとした綺麗な色彩のおかずを
食べたのだけど、もちろん味わって食べる余裕なんてその時の僕にはなかった。

「美味しい?」

 麻衣が無邪気に聞いた。

「うん」

 僕はとりあえず頷いた。

「あ、そうだ。先輩に教えてもらいたいんだけど」

 食事中に急に思いついたように麻衣が言った。

「あたしも自分の部屋にパソコンが欲しくて・・・・・・どんなのを買ったらいいと思う?」

「どんなのって」

 突然思ってもいなかった話題を振られて面食らった僕だけど、これは考えるまでもなく
返事できるような質問だった
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:49:53.79 ID:my8qAWPQo

「正直、ネットを見るだけならどんなのでもいいよ。普通に量販店で売っている安いノー
トとかでも十分でしょ」

「それがよくわかんないから聞いてるのに」

 麻衣はふくれた様子で言った。そしてそんな彼女の表情すらとても可愛らしかった。

「だから部屋でネットするだけならどんな機種だって大丈夫だって。それともうちの部員
たちみたいに何かやりたいことが別にあるの?」

「・・・・・・先輩が教えてくれた女神板とかミント速報とかが見れればいいんだけど」

 やっぱりそこか。

「・・・・・・だったらデザインが可愛いとか値段が安い方がいいとか、ノートかデスクトップ
とか」

 僕は無難に返事した。

「その辺はどうなの」

「ノートで可愛いい方がいいな」

 僕はスマホで何機種かの画像を検索して彼女に見せた。パソ部部長としては腹立たしい
ほど簡単なミッションだった。何しろ、ノートで可愛くてネットに接続できればいいとい
うのだから。

 いくつかのパソコンの画像をチェックしているうちに彼女はある機種が気に入ったらし
かった。

「これすごく薄くていいなあ」

「別に可愛くはないよね。あと、それマックだし」

「これは駄目なの?」

「駄目じゃないよ。でも可愛いというより格好いい方に近いかな。それにAirって大学
生とか社会人とかがよく持ってるんだけどね」

「それでもいい。これ欲しい」

 驚いたことに彼女はその場でそれを購入するよう僕に頼んだ。用意周到なことに彼女は
父親のカードの番号やセキュリティコードをメモに控えてきていた。

「お父さんにお願いしたらこのカードでネットで買っていいって。本当はお兄ちゃんに頼
むように言われたんだけど」

 まあ、今の麻衣と池山君の関係なら気軽にそういうお願いはできないだろう。これでは
本当に僕は臨時のお兄ちゃんだった。

 二十万円以下ならいいらしい。僕はメーカーの直販サイトでそれを注文したのだけれど、
その際、期せずして僕は麻衣の住所をこの入力過程で手に入れた。あとはギフト扱いにし
て麻衣の父親の名前でなく彼女宛てに届くようにした。

「明日には届くみたいだよ」

 僕は彼女に言った。僕は彼女のために必死でパソコンを購入していたのに、彼女自身は
僕が黙ってスマホでオーダーに必要な項目を入力していることに飽きてきたようだった。

「まだ終らないの」

 麻衣は不服そうに言った。「これじゃ、パソコンを注文しているだけでお昼が終っちゃ
うじゃん」

「もう少しだから」

 僕は答えた。こういうわがままを自然に、かつ無邪気に言えるところも僕が彼女に惹か
れた理由の一つなのだろう。

「せっかく先輩とお昼一緒なのに、これじゃあ何も話せないじゃない」

 僕の昼休みを多忙にさせた原因を作った麻衣は無邪気に文句を言った。
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:50:22.51 ID:my8qAWPQo

 その夜、僕はうちの部の副部長が密かに開設し管理人をしている裏サイトを覗いてみた。
そのサイトはくだらない校内の噂や、どうでもいい悪口で盛り上がっている低レベルの掲
示板だと僕は断定していたから、このサイトを見るのは久しぶりだった。

 とりあえず最近のレスの付近を中心に見て行くと、探していた優と池山君関係のレスが
付いているのを見つけた。

『××学園の生徒集まれ〜☆彡』

『2年2組の二見さんって、最近感じよくね?』

『あ〜。うちもそう思った。初めは人間嫌いな人なのかなって思ってたんだけど。最近良
く話すけどいい子だよ。成績いいけど偉そうにしないし』

『うちも二見さんから本借りちゃった。つうか今度一緒にカラオケ行くんだ☆』

『つうか二見って可愛いよね。俺、告っちゃおうかな』

『誰よあなた。もしかして2組?』

『違うよ。俺2組じゃねえし。つうか2年ですらねえよ』

『・・・・・・二見って池山と付き合ってるんだよ。知らないの?』

『嘘。マジで!?』

『マジマジ』

『でもさ、池山と広橋って遠山さんを取り合ってたんでしょ? 池山は遠山さんを諦めち
ゃったのかな』

『まあ、夕也が相手じゃ勝ち目は(笑)』

 やはり優と池山君は既に付き合っているらしい。

 予想していたこととはいえ、このことを麻衣が知ったらと思うと僕は気が重かった。優
と池山君の仲が急接近しているであろうことは麻衣だって予想しているだろうけど、実際
にそれが確定的に真実だと知ればやはり彼女は相応に傷付くに違いなかった。そして優の
女神行為にひどく拒否反応を示している麻衣は、次のステップに進むことを僕に要求する
かもしれない。

 今まで僕は優に対して実際には何の手出しもしていなかった。麻衣の相談に乗りつつ麻
衣と親しくなって行っただけだった。でも麻衣が本気で優と池山君を別れさせようと思い
詰めたら、僕はその手段を提供せざるを得なくなるだろう。それが優の人生を変えてしま
うほどひどいことであっても、ここまで麻衣に惚れ深入りしてしまっている僕には麻衣の
要求を断ることはできないだろう。

 翌朝、僕は登校中に麻衣と出会わないかと期待したのだけど、彼女の姿は見当たらなか
った。そしてこれは幸いなことに僕は副会長にも遭遇することなく教室に辿り着いたのだ
った。

 昼休みになって今日は学食か購買かどっちにしようかと迷いながら教室を出たところで、
僕は教室の前で所在なげに佇んでいる麻衣に気がついた。昨日の裏サイトのレスを思い出
して気が重くなった僕は、無理に笑顔を装って麻衣に声をかけた。

「やあ。もしかして今日もお弁当を作ってきてくれたの」

 麻衣は俯いたまま黙っていた。僕は慌てて言葉を続けた。

「ごめん・・・・・・冗談だよ。何か用事があった?」

 麻衣は黙ったままだった。今にも泣きそうな彼女の表情が僕の目に入った。

 僕は何か自分にもよくわからない衝動に駆られて麻衣の肩を抱き寄せた。後になって考
えてみると、ヘタレの僕が同級生たちに好奇の視線に囲まれている状況でこんな思い切っ
た行動を取ったことは自分でも信じられなかったけど、その時は目の前で震えている小さ
な姿の少女を泣かせてはいけない、誰かが守ってあげなければいけないという思いだけが
僕をやみくもに突き動かしていたのだった。
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:51:02.27 ID:my8qAWPQo

 典型的なリア充の麻衣を守ってあげるのは普通なら僕なんかに割り振られる役目ではな
かった。でも、優と池山君や遠山さんと広橋君の複雑な愛憎関係に巻き込まれている麻衣
は多分、今ではこんな情けない僕しか頼る相手がいなかったのだ。

「屋上でいい?」

 僕は周囲の好奇心に満ちた視線を自然に無視して、黙って抱き寄せられている麻衣に話
しかけた。麻衣は何も反応してくれなかったけど、僕は彼女を引き摺るように屋上に向か
う階段を上り始めた。

 僕たちは黙って屋上のベンチに座っていた。僕は相変わらず麻衣の肩に手を廻して彼女
を抱き寄せていた。麻衣は別に抵抗する素振りを見せるでもなく俯いているままだった。

 そのまま数分が過ぎた頃、麻衣はようやく顔を上げて言った。

「ごめんなさい、先輩。せっかくの昼休みなのに心配させちゃって」

「いいよ。僕のことなんて気にしなくてもいいから」

 僕は彼女の肩に廻した手に心もち力を込めた。麻衣はそれに逆らわず素直に僕の方に身
を寄せた。

「今朝ね」

 ようやく麻衣が消え入りそうな声でぽつんと話し始めた。

「お兄ちゃんと二見さんが手をついないでた」

「・・・・・・そうか」

「それで・・・・・・お兄ちゃん、あたしに自分は麻衣さんと付き合ってるって言った」

「池山君が君にそう言ったの?」

「うん。お兄ちゃん、お姉ちゃんのことも振ったみたいで」

 麻衣は裏サイトを見るまでもなく、リアルで優と池山君がいちゃいちゃしているところ
を目撃してしまったみたいだった。

 僕はもう小細工じみた慰めの言葉を口にしようとは思わなかった。麻衣の池山君に対す
る深い想いは身に染みて感じていたから。

 それは僕のこの先の人生にも影響するような決断だったと思うけど、その時の僕は麻衣
を傷つける優や池山君から彼女を守りたい一心だったのだ。

 僕は泣きそうな表情で僕に寄りかかって俯いている麻衣に改めて話しかけた。

「じゃあ、予定通り二見さんの女神行為を暴いて、彼女さんを池山から引き剥がそうか」

 麻衣ははっとした様子で顔を上げた。

「最初からそうしたかったんでしょ? 君が決心するなら僕も最後まで付き合うけど」

「・・・・・・先輩」

「君が本気なら僕もいろいろ準備する。こういうことは衝動的にやってもうまく行かない
し、よく計画を練らないとね」

 麻衣はまた俯いてしまった。

「それとも君が池山君と二見さんの付き合いを認めて祝福してあげられるなら、僕はもう
何も言わないし何もしない。君もパソ部を止めて今までどおりの生活に戻れるよ」

 一応、僕は麻衣に退路を示してあげることにした。麻衣が優と池山君の仲を認めれば、
こんな危険なゲームを始める必要はない。その結果、僕は麻衣を失うかもしれないけど、
僕の将来に対するリスクも無くなるのだ。麻衣がどう判断することを僕は望んでいたのだ
ろう。この時はもうそれすらわからなくなっていた。僕は黙ってただ麻衣が結論を出すの
を待っていた。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:51:55.62 ID:my8qAWPQo

 麻衣は僕の腕の中から抜け出して、身体を真っ直ぐにして僕の方を見た。

「お兄ちゃんの相手が二見さん以外の人なら誰でもいい。でも裸で縛られてる姿を誰にで
も見せるような二見さんがお兄ちゃんの彼女なのは許せない」

「・・・・・・うん」

「先輩、あたしを助けてくれますか」

 普段から馴れ馴れしい麻衣にしては珍しく敬語で僕に頼んだ彼女の表情は、日ごろから
動じない彼女が始めて見せるような緊張したものだった。

 僕はその瞬間に心を決めた。

「僕は君を助けたい。君がやるなら僕もやるよ」

「ごめんね先輩」

 この時、どういうわけか麻衣は僕に謝ったのだった。それから麻衣は黙って再び僕に寄
り添って、僕のシャツの胸に顔を当てたまま静かに涙を流した。

 僕は、その日はもう放課後に麻衣と会わないことにした。結局昼休みの間中、僕は僕に
くっついて泣いている麻衣の頭をずっと撫でていた。

 午後の授業が始まる前に僕は麻衣に注意した。心を乱している彼女にうまく伝わるか不
安だったけど、案外彼女は冷静に僕の指示を理解してくれた。

「今日は部活は休みにしよう。君は真っ直ぐに家に帰るんだ」

「うん」

「そして今日家に帰って池山君に会っても、彼のことを責めちゃだめだよ」

「・・・・・・うん」

「池山君と二見さんの交際に理解を示す必要はないけど、二人の交際は許さないみたいな
態度は絶対取っちゃ駄目だ」

「わかった」

「これからすることが君の差し金だったなんて池山君に知れたら、彼が君のことをどう思
うかわかるよね?」

 麻衣もそのことは十分理解しているようだった。

「わかってる。お兄ちゃんにはなるべく普通に接するようにする」

「くれぐれも嫉妬心を表わし過ぎないように。そうでないと優を陥れたのは君だと疑われ
るかもしれない」

「心配しないで」

 麻衣は言った。大分落ち着いてきたようで、その頃には彼女の言葉は柔らかいものにな
っていた。

「先輩の言うとおりにするから」

 そこで麻衣は再び僕を潤んだ瞳で見つめた。

「大袈裟かもしれないけど、先輩の恩は一生忘れないから」

「本当に大袈裟だよ。誉めるなら全部うまく言ってから誉めてくれよ」

 麻衣はくすっと笑った。昼休み時間の最後になって、ようやく僕は麻衣に笑顔を取り戻
させることができたようだった。それが僕には嬉しかった。

「じゃあ、もう行かないと」

 麻衣はそう言ってった立ち上がった。昼休みも残り僅かになっていた。

 麻衣が僕の腕から抜け出して先に立ち上がったせいで、まだベンチに座っていた僕は彼
女を見上げる体勢になった。

「じゃあ、また明日」

 麻衣が不意に少し屈んで僕にキスした。前のキスとは違ったところに。

 僕は自分の唇に少し湿った小さな柔らかい感覚を覚えながら、早足で屋上から去ってい
く麻衣の姿を見つめていた。



 ・・・・・・今日は早く家に帰って準備をしないといけない。とりあえずWEBメールで捨て
アドを作るところから始めよう。
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:52:24.99 ID:my8qAWPQo

 その夜、麻衣にキスされた興奮と、もう引き返せないところまで踏み込んでしまったと
いうストレスとが僕の中でごちゃごちゃに交じり合っていて、僕にはその感情を制御する
ことができず結局捨てアドの作成すら手がつかない有様だった。

 僕は答えの出ないことはわかっている疑問について考え込んだ。一つは麻衣が今僕のこ
とをどう考えているのかということ。僕は臨時のお兄ちゃんとして、池山君と遠山さんに
代わって麻衣を守っているつもりだった。最初は優のことが気になって麻衣に接近したの
だけど、麻衣に惹かれるようになってからは、僕は麻衣の願いをかなえてあげることに目
的を変更した。そして傷付くことを恐れた僕は自分の行為に対して何も見返りを求めては
いけないと自分に言い聞かせてきた。僕なんかと麻衣がカップルとして釣り合わないこと
は自分が一番よく知っていたから。それに一番最初に麻衣のことが気になると白状した僕
に対して彼女は、誰とも付き合う気がないと正直に話したことだし。

 その後、麻衣が人目を気にする様子もなく僕の手を握ってたり、寄り添って歩いたり、
更には頬にキスしてくれたりしても僕は勘違いはしなかった。

 でも、昼休みに麻衣は僕にキスした。唇と唇が触れ合った瞬間には何も考えられなかっ
たけど、こうして少し間をおいてそのことの意味を考えると、今まで自分に対して禁止し
ていた麻衣の好意への期待がどうしても浮かんできてしまった。もしかしたらこれまでの
一連の付き合いを通じて麻衣が僕に愛情的な意味での感情を抱いてくれるようになったと
したら。

 これは考えても結論の出ることではなかったけど、それでも僕は麻衣の気持ちを推し図
ることを止められなかったのだ。そして、しばらくしてこうした無益な思考からようやく
抜け出た瞬間、僕は自分がしようとしていることを思い出し、今度は得体の知れない恐怖
心や不安感を感じ出した。

 泣き出しそうな顔で俯いていた麻衣の姿を見下ろした時、僕はそのことが自分にもたら
すリスクは承知のうえではっきりと決断したはずだった。でも、あらためて自分がしよう
としている行為が優や、場合によっては池山君の人生に及ぼす影響と、そしてそれを仕掛
けたのが僕であるということが、本人たちや世間に知られた時に僕が失うかもしれないも
のの大きさを考え出すと、やはり今でも僕は体が震えだすほど怖かったのだ。

 麻衣の好意への予感と、麻衣に好意を抱かれるおおもととなったであろう、僕が仕掛け
ようとしている行動への恐怖。僕は何度もそれらを天秤にかけてみた。昨日までならまだ
引き返せたかもしれなかった。こんなにも麻衣を求めている僕だったけど、その僕の恋情
さえ諦めさせるほどの恐怖が僕を襲っていたのだから。でももはや手遅れだった。昨日ま
でなら止められたかも知れなかったことも、今日の麻衣のキスによって、もはや引き返せ
ないところまで連れて来られてしまったみたいだった。

 僕を怖気づかせまいと、麻衣が計算して僕にキスしたとしたら、彼女は恐ろしい女だっ
た。でもそれは考えられなかった。優と池山君が付き合出したことを知り、泣きそうにな
るほど動揺した彼女にそんな複雑な行動を取れたはずがない。そして何より、麻衣は甘や
かされて育った自己中心的な思考の持ち主だったけど、それでも決して他人を顧みない思
考過程や行動しか取れない子ではなかった。

 多分、池山君と遠山さんは麻衣を甘やかしつつも、根本的な部分では彼女に正しく接し
たのだろう。基本的には芯がしっかりした子だったせいか、どんなに甘やかされても大切
にされても、麻衣はスポイルされなかったのだ。その証拠に彼女は自分の池山君への気持
ちを抑えて、池山君と遠山さんの仲を応援している。そして、優の女神行為さえなければ、
彼女は優と池山君との仲だって応援していたかもしれなかった。

 結局その夜は何も手がつかないまま、僕はいつの間にか寝てしまったようだった。結構
冷え込んだ夜だったけど、興奮状態の僕は布団に入らずベッドに仰向けになったままいつ
の間にか重苦しい眠りに引き込まれていたのだった。
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:52:56.58 ID:my8qAWPQo

 そのせいか、あるいは麻衣にキスされて興奮していたせいか、翌日目を覚ました時僕は
自分の身体に異常を感じた。体が妙に重くそして気だるかった。喉にも痛みを感じる。そ
れでも僕は時間を確認すると慌てて身支度をして登校しようとした。既に遅刻ぎりぎりの
時間になっている。

 朝食をパスして自宅から出ようとしたところで、僕は母さんに捕まってしまった。母さ
んは僕を呼び止めるとリビングに連れて行き体温を測るよう僕に言った。完全に失敗だっ
た。母さんが呼び止める前に登校していれば、今日も麻衣と会えたはずなのに。

 案の定、僕がしぶしぶと差し出した体温計を見た母さんは今日は休むように僕に言い渡
した。さすがにこの体温で登校すると言い張ることもできず、僕はしかたなく自分の部屋
のベッドに逆戻りさせられたのだった。

 ベッドに横になると目の前がぐるぐると回り始めた。確かにこれでは登校しても何もで
きないだろう。それでも僕は学校に行きたかった。昨日僕にキスしてくれた麻衣に会いた
いという自分の願いはさておき、麻衣は今日から作戦が決行されるものと期待し、あるい
は覚悟して登校してくるに違いない。

 それなのにその期待に僕は応えられないのだ。昼休み、あるいは放課後に僕を捜し求め
て校内を歩き回る麻衣の姿が思い浮んだ。きっと彼女は僕の不在に困惑するに違いない。
それどころか彼女は、僕がこれから行おうとすることにびびって学校をサボったのだと誤
解するかもしれない。

 僕はぐるぐる回る部屋の天井を眺めながら焦燥感に駆られていた。麻衣に誤解される、
またはそこまでいかないまでも、たたでさえ不安定な心理状態にある麻衣をさらに不安に
させてしまうかもしれない。

 今ならまだ授業が始まる前だった。僕はとりあえず麻衣にメールすることにした。自分
が熱を出したこと、登校しようとして母親に止められたこと、作戦が延期になって申し訳
なく思っていること。

 そして最後に、麻衣の期待を裏切ってしまったけど登校できるようになったら必ずこれ
はやり遂げるからと記して僕はそのメールを送信した。

 僕の不調は単なる風邪のせいらしかったけど、熱はなかなか下がらなかった。僕は結局
その週は学校に行くことができなかった。授業については全く心配していなかったし、今
では生徒会活動にも参加していない駄目な生徒会長だったから、学校での活動を心配する
必要は僕にはなかった。ただ麻衣のことだけがひたすら気がかりだった。

 僕のメールに対して麻衣からの返信は戻って来なかった。僕なんとはメールする必要が
あるほど親しくないと判断されたのか、それとも作戦を決行しようという日になって約束
を破って休んでしまった僕に対して怒っているのかはわからなかった。そして麻衣の気持
ちがわからないことが僕を不安にさせた。返事すら来ないのに更にメールを重ねることは
僕の無駄に高いプライドが許さなかったから、最初のうちは僕は横たわったままで答えな
んか出ないことと知りつつ麻衣の気持ちを推し図ろうと無駄な努力に時間を費やしていた。
でもこんな無駄なことをしていても仕方がないと僕の理性が主張するようになったので、
僕は週の後半は体調を誤魔化しつつ作戦を練ったり、優の女神行為の監視に努めるように
した。机に座ってPCを操作するのはまだ辛かったから、僕は父さんに借りっ放しになっ
てなっていたノートをベッドに持ち込み無理な姿勢で女神スレの監視を始めた。

 モモのコテトリで検索する前に、とりあえず優がよく出没していたスレを開いてみた。
スレンダーな女神云々というスレには彼女は現れていないようだった。次に僕は以前麻衣が
閲覧して泣き出した縛られた女神云々というスレを見始めた。しばらくして、僕はモモ
のレスを発見した。

 相変わらず画像は削除されていたので優が今度はどんな緊縛画像を貼ったのかはわから
なけったけど、モモのファンだと思われるスレの住人のレスの中に気になるレスがあるこ
とに僕は気がついた。最初は、相変わらずモモへの賞賛が続いていて、いつもより画像が
綺麗だとかいつもより表情が真に迫っていて迫力があるとかそういうレスが多かったけど、
そのうち優の画像に関して疑問を呈する住人がレスし出したのだった。



『モモGJ! いつもありがと。でも、後姿の画像見たらちゃんと後ろ手に縛られてるけど、
どうやって自分縛りしたん?』
『いいね。何か写真の腕前上げた? 今までより全然画質いいじゃん』
『画質というか、構図とかプロっぽい。まさか・・・・・・』
『モモ、ひょっとしてこれ彼氏が撮影したりしてる?』
『これは自撮りじゃねえだろ』
『写真は最高なのに何かショックだ。モモって彼氏いない処女って言ってたじゃん。ハメ
撮りだったのかよ』
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:53:25.40 ID:my8qAWPQo

 これらの疑義に対して優はセルフタイマーで撮影したとか、後手縛りも縛られているよ
うに見えるだけだとか言い訳してスレの住民を宥めていた。

 まさか、池山君なのだろうか。僕は麻衣から池山君の数少ない趣味の一つが写真撮影だ
ということを聞いたことがあった。麻衣はそれを楽しそうに微笑みながら僕に語ってくれ
た。池山君の被写体はほとんど麻衣で、麻衣自身は面倒で嫌なのに池山君に言われて仕方
なくポーズを付けたりカメラに向かって微笑んだりさせられるそうだ。彼女はそれを嫌と
いうよりはむしろ幸せそうに話したのだった。

 僕はミント速報を開きモモのコテトリで検索した。すぐにヒットしたその過去ログを開
くと、優の緊縛写真が今までとは違って相当な枚数が表示された。

 その画像はどれを取っても今までの優の自撮り画像とは次元の異なるものだった。写真
のことは余り詳しくない僕でもそれはすぐにわかった。今までの優の画像は素人くさく、
でも逆にそれは生々しい感じを醸し出していて、それを目当てに彼女のファンが群がって
いたようだったけど、この新しい画像は非常に扇情的な仕上がりで、画質も今までとは比
べ物にならないほどくっきりと優の表情や肌の透けるような白さを生々しく映し出してい
た。つまり良くも悪くもプロっぽい仕上がりなのだった。優の緊縛裸身や怯えたような表
情が繊細に映し出されている反面、優の部屋の様子は綺麗に大きくボケている。それは今
までの優の自撮りのように生活感あふれる部屋の様子まで映し出されていた画像とは全く
質が異なる出来映えだった。

 もうこれは池山君が優を撮影したことで間違いないだろう。僕が病気になったせいで作
戦の決行が遅れたのだけど、結果的にはそのおかげでより破廉恥な画像を公開することが
できる。それに優の自撮りのぼやけた画像では、最悪本人がこれは自分ではないと開き直
る可能性もあった。わかる人にはわかるとは思うけど、本人が強く否定すれば決定的な証
拠はない。でも、この鮮明な画質であればいくら目に線が入れてあるとはいえ、もはや言
い逃れはできないだろう。これはどこから見ても優そのものだった。

 その時、僕はまた別なことに気がついた。最初に優の女神行為の画像を見た時に感じた
な胸をえぐられるような嫉妬心を、僕はこの扇情的な画像から感じなかったのだ。やたら
プロっぽいできだからだろうか。僕は最初はそう考えたけどやはりそうではないだろう。
僕は優への未練をついに捨てることができたのだった。古い恋を忘れるには新しく恋する
ことが一番の特効薬のようで、麻衣に恋焦がれ始めた僕は、これだけ衝撃的な優の画像を
見ても今や全く嫉妬心を感じないでいられたのだ。

 今日はもう土曜日だった。麻衣がメールに返信してくれないことが再び僕の心を蝕み始
めていた。本気で麻衣に嫌われたのだろうか。最後に見た麻衣の姿は僕にキスして屋上か
ら去って行った後姿だった。まさかこれで終わりなのだろうか。麻衣に約束した作戦の決
行はこれからなのに。

 この頃になると、堂々と池山君に撮影させた緊縛画像を誰にでも見せている優の人生を
狂わすことへのためらいはだいぶ消えてきていた。もちろん、それが自分にはね返ること
への恐怖はまだ残ってはいたけど、それよりも自分が麻衣に見捨てられたのではないかと
いう不安の方が大きかった。

 明後日は月曜日だしこの体調なら月曜日は登校できるだろう。熱もほとんど平熱に近く
なっていた。登校したら何をするよりもまず麻衣を探し出そう。恥かしさや妙なプライド
が邪魔して、僕はこれまで彼女の教室を訪れたことはなかったけど、麻衣は平気で上級生
の校舎に入り込んで僕を訪ねてくれていたのだ。僕ももう周囲を気にしている場合ではな
い。月曜日になったらもっと積極的に行動しよう。そう考えて僕は自分を納得させた。

 ところが意外なことに翌日の日曜日の朝、僕は突然母さんに起こされたのだった。時間
は既に午前十時を越えている。

「お友だちがお見舞いに来てくれてるわよ」

 母さんは妙ににやにやしながら僕を起こした。

「池山さんっていう下級生の子だけど、部屋に通してもいい?」

 母さんはそこでまた笑った。「可愛い女の子ね。あんたの彼女?」

「そんなんじゃないよ。部活の後輩」
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:53:55.76 ID:my8qAWPQo

 僕は戸惑いながらもとりあえず母さんのからかい気味の誤解を解いた。それにしても麻
衣が僕の家を訪ねて来るとは予想外にも程がある。以前からいきなり教室に訪ねて来たり
したことはあったけど、まさか休日に自宅に尋ねてくるとは考えたことすらなかった。

 母さんが僕の言い訳をどう思ったかはわからないけど、もう僕をからかうのはやめたよ
うで、じゃあ入ってもらうねとだけ言って再び階下に下りていった。

 少しして母さんに案内された麻衣が僕の部屋に入ってきた。相変わらず気後れする様子
がない様子だったけど、かと言って馴れ馴れしい感じもしなかった。これなら母さんも彼
女に好感を抱くだろう。

「先輩、こんにちは」

「あ、うん」

 僕の返事は自分でも予想できていたようにぎこちないものだった。母さんはそんな僕の
反応を見て内心面白がっていたようだった。

「わざわざお見舞いに来てくれてありがとう。もう熱も引いてるしうつらないと思うから
ゆっくりしていってね」

 母さんは麻衣にそれだけ言って部屋を出て行った。

「あ、はい。ありがとうございます」

 麻衣も礼儀正しく返事した。

 母さんが部屋を出て行った後、僕たちはしばらく黙っていた。僕は麻衣の姿を盗み見る
ように眺めた。学校で見かける制服姿の麻衣は守ってあげたいという男の本能を刺激す
るような、女の子っぽく小さく可愛らしい印象だったから、僕は何となく私服の彼女ももっ
と少女らしい格好をしているのだと思い込んでいた。いくらリアルの女子のファッション
に疎い僕でも、さすがにギャルゲのヒロインのような白いワンピースとかを期待していた
わけではないけど、麻衣なら何というかもう少しフェミニンな女性らしい服装をしている
ものだと僕は勝手に想像していたのだった。

 そんな童貞の勝手な思い込みに反して麻衣の服装は思っていたよりボーイッシュなもの
だった。別に乱暴な服装というわけではなく、お洒落だし適度に品もあってこれなら服装
に関しては保守的な僕の母さんも眉をひそめる心配はなかっただろう。そんな麻衣は僕の
方を見てようやく声を出した。

「先輩、具合はどう?」

 それは落ち着いた声だった。

 僕は急に我に帰り、自分のくたびれたスウェット姿とか乱れたベッドで上半身だけ起こ
している自分の姿を彼女がどう思うか気になりだした。

「うん。明日からは学校に行けると思う。心配させて悪かったね」

 僕は小さな声で麻衣に答えた。彼女は僕の具合なんか気にしていなかっただろうけど、
それでもやはり心配はしていたはずだった。それは僕が実行を約束した作戦がどうなって
いるのかという心配だったと思うけど。

「突然休んじゃってごめん。一応、メールはしたんだけど」

 そのメールに対して麻衣は返事をくれなかったのだ。でも僕はそのことを非難している
ような感情をなるべく抑えて淡々と話すよう心がけた。

「病気なんだから仕方ないじゃない。先輩が謝ることなんかないのに」

 麻衣はそう言って改めて僕の部屋を眺めた。

「あ、悪い。そこの椅子にでも座って」

 麻衣を立たせたままにしていることに気がついた僕は、少し離れた場所にあるパイプ椅
子を勧めた。

「うん」

 麻衣はそう言って、どういうわけかベッドから離れたところに置いてある椅子を引き摺
って、ベッドの側に移動させてからそこに腰かけた。椅子の位置がベッドの横に置かれた
せいで僕の顔のすぐ側に麻衣の顔があった。

「本当にもう大丈夫なの?」

 麻衣は僕の額に小さな手のひらを当てた。その時僕は硬直して何も喋ることができなか
ったけど、胸の鼓動だけはいつもより早く大きく粗雑なリズムを刻み出したので、僕は額
に当てられた彼女の手に僕の鼓動が伝わってしまうのではないかと心配した。

「熱はもうないみたい。先輩のお母様の言うとおりもう風邪がうつる心配はないね」

 麻衣はそう言った。
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:54:24.53 ID:my8qAWPQo

 僕の熱を測り終えた麻衣は、僕の額に当てた手をそのままにしていた。そして不意に小
さな身体を僕の方に屈めた。今度は彼女の唇は前より少しだけ長い間、僕の口の上に留ま
っていた。

 麻衣が顔を離して再びベッドの側に寄せた椅子に座りなおした。いつも冷静な表情が少
し紅潮しているようだった。

「・・・・・・何で?」

 僕は混乱してうめくように囁いた。

「何で君はこんなこと」

「何でって・・・・・・。風邪はうつらないみたいだし。先輩、そんなに嫌だった?」

「嫌なわけないけど、何で君が僕なんかにこんなことを」

「先輩、あたしのこと気になるって言ってなかったっけ?」

 確かに僕は麻衣にそう言った。恋の告白と同じレベルの恥かしい言葉を僕は前に麻衣に
向かって口にしたのだった。

「・・・・・・でも、君と僕なんかじゃ釣り合わないし、それに君は誰とも付き合う気はないっ
て」

「何で先輩とあたしが釣り合わないの?」

 まだ紅潮した表情のままで麻衣が返事をした。

「あたしじゃ先輩の彼女として不足だってこと?」

 何を見当違いのことを言っているのだろうか。わざとか? わざと僕のことをからかい
牽制しているのだろうか。それともこれは、優に対する作戦に僕が怖気づくことのないよ
うにするための言わば餌なのだろうか。

「・・・・・・。僕は最初に君に振られたんだと思って」

「そうか。そうだよね」

 麻衣はもう顔を赤らめていなかった。むしろ今まで見たことのないほどすごく優しい表
情で僕を見つめていた。

「何であたしに振られたと思ったのに、こんなにあたしのためにいろいろとしてくれてる
の?」

 僕はどきっとしてあらためて彼女を見た。これは惚れた欲目だ。僕の心の中で警戒信号
が鳴り響いた。

 ・・・・・・麻衣のような子が僕を本気で好きなるはずがない。これは言わば馬車馬の目の前
にぶらさげる人参のようなものだ。あるいはひょっとしたら麻衣は僕に相談しているうち
に、陽性転移を発症したのかもしれなかった。そうであればそれは当初の僕の目的のとお
りだった。でもこれまで麻衣とべったりと時間を過ごしてきて、彼女のために無償で、自
分を滅ぼしかねない行為を行うことに決めた僕は、今では陽性転移的な感情なんて欲しく
なかったのだ。

 それとも彼女は陽性転移的な感情ではなく本心から僕のことを好きになったのだろうか。
それはいくら言葉を重ねても答えの出ない類いの疑問だった。僕よりももっとリア充のカ
ップルにも等しく訪れることはあるだろう男女間の根源的な問題だったのかもしれない。

「何でって・・・・・・」

 僕は再び口ごもった。

「先輩はもうあたしには興味がなくなっちゃった?」

 麻衣の柔らかい言葉が僕の心に響いた。

「二見さんとお兄ちゃんのことばっかり気にしてるあたしなんかにうんざりしちゃっ
た?」

「そんなことはないよ。約束どおり明日から僕は、二見さんと池山君を別れさせるため
に」
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:55:06.69 ID:my8qAWPQo

「そんなこと聞いてないじゃない」

 突然麻衣が初めて感情を露わにして言った。「二見さんとかお兄ちゃんのことなんか今
は聞いていないでしょ」

 麻衣は僕の方を真っすぐに見た。

「先輩が今でもあたしのことを・・・・・・その、好きかどうか聞いてるんじゃない」

「・・・・・・本当に僕なんかでいいの?」

 僕はもう自分自身を誤魔化すことを諦めた。振られて傷付くなら一度でも二度でも一緒
だ。僕は心を決めた。一度振られたつもりになっていた僕だけど、ここまで言われたらも
う一度ピエロになろう。その結果、麻衣に利用されただけだとしてもそれはもはや今の僕
には本望だった。

「今でも僕は君のことが大好きだけど・・・・・・」

 その時、麻衣の冷静な表情が崩れ彼女は静かに目に涙を浮かべた。

「先輩って本当に鈍いんだね。あたし、手を握ったりキスしたり一生懸命先輩にアピール
してたのに」

「その・・・・・・ごめん」

 僕は何を言っていいのかわからなくなっていたけど、期待もしていなかった麻衣の好意
への予感は急速に胸に満ち始めていた。

「女の子にあそこまでさせておいて、何も反応しないって何でよ? 先輩って今までいつ
も女の子にこんなことさせてたの?」

 麻衣は涙を浮かべたままだったけど、ようやくいつものとおりの悪戯っぽい表情になっ
た。

「そんなことはないよ。だいたい僕はこれまで女の子にもてたことなんかないし」

「嘘ついちゃだめ」

 麻衣は見透かしたような微笑を浮かべた。

「先輩、中学時代にすごくもてたって。先輩と同じ中学の子に聞いちゃった」

 それは陽性転移だ。でもこの場でその言葉を口に出す気はなかった。麻衣がかつて僕が
女の子に人気があったと思い込んでくれているのなら、何もそれを否定する必要はない。

「あと浅井先輩って、絶対先輩のこと狙ってると思う。この間だって浅井先輩、あたしに
嫉妬してたよね」

「それはない」

 僕は即答した。少なくともそれだけは麻衣の勘違いだった。

 麻衣が話を終えたせいで、またしばらく僕たちは沈黙した。

 やがて麻衣が再び僕に言った。

「先輩、あたしはっきり返事聞いてない」

「君のことが好きだよ。僕なんかでよければ付き合ってほしい」

 僕はもう迷わなかった。例えこれは自分の破滅に至る道だったとしても後悔はしない。

「・・・・・・・うん。これでやっと先輩の彼女なれた」

 僕は思わず麻衣の手を握った。

「ありがとう」僕はようやくそれだけ低い声で口に出すことができた。麻衣も僕の手を握
り返してくれた。

「ありがとうって、何か変なの」
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:55:55.31 ID:my8qAWPQo

「ありがとうって、何か変なの」

 彼女は笑った。そして再び僕たちはどちらからともなくく唇を交わした。そのときふと
目をドアの方に向けると、母さんが紅茶とお茶菓子を持って部屋の外に立っていた。

 さすがに麻衣は僕から身を離して赤くなって俯いてしまった。でも母さんはどういうわ
けか嬉しそうに僕たちに謝った。

「お邪魔しちゃってごめんね。池山さんからお見舞いに頂いたケーキを持って来たのよ。
池山さん、お持たせで悪いけど食べていってね」

「はい。ありがとうございます」

 さすがの麻衣も恥かしかったのだろう。母さんの方を見ないでつぶやくように言った。

「じゃあ、ごゆっくり」

 母さんはそう言って部屋を出て行った。

「紅茶、どうぞ」

 僕はとりあえず紅茶を勧めた。

 ここまで幸せな展開になるとは思わなかった僕だけど、それでも心のどこかには例え麻
衣が本当に僕のことを好きになったのだとしても、それは優と池山君関係の作戦の同志と
しての感情から始った恋かもしれないという考えは拭いきれなかった。もちろんそれでも
僕は充分満足だった。麻衣の僕への気持ちが陽性転移でなければ、きっかけがどうであろ
うと僕はその結果には満足していた。

 でも、この恋のきっかけとなった優関連の作戦は僕のせいでまだ始ってすらいなかった。
ありていに言えば一週間も遅れているのだ。僕はもう迷いを捨てて麻衣のために全身全霊
でこのミッションをやり遂げる覚悟ができていた。それで、僕は今日くらいは作戦のこと
は忘れて麻衣とお互いに抱いている恋愛感情について甘いやりとりをしたいという気持ち
もあったのだけど、無理にそれを抑えて作戦の話をしようとした。それがきっと麻衣の望
むことでもあったろうから。

「それでさ、明日のことなんだけど」

「うん」

 いつも活発な彼女らしからぬ大人しい声。

「月曜日、二見さんと池山くんの担任の先生に捨てアドからメールしよう。最初は大人し
い方の女神スレの過去ログ、ミント速報のやつだけどそのURLを匿名で先生に知らせよ
う」

 どういうわけか麻衣は黙ってしまった。

「どうかした」

 麻衣はあからさまに不機嫌そうに僕を見上げた。いったい僕の何が悪かったのだろう。
僕は麻衣の希望を忖度して、その希望どおりの言葉を口にしただけなのに。

「先輩、あたしたちって今付き合い出したんだよね」

「う、うん」

「何でこういう時にそんな話をするの? そういうのは学校ですればいいじゃない」
 麻衣は可愛らしく僕を睨んだ。

「今はもっと違うお話を先輩としたかったのに」

 不意に僕の胸が息もできいくらい締め付けられた。でもそれは僕がこれまで経験のない
ほど幸せな甘い息苦しさだった。

「・・・・・・もう一回好きって言って?」

 麻衣は僕の方を見上げて言った。

「大好きだよ」

 今度は僕の本心だった。麻衣はようやく機嫌を直したように笑ってくれた。

「あたしも先輩が大好き」

 麻衣が僕に抱きついてきた。僕たちは再び抱き合って唇を重ねた。

 その日は遅くなって麻衣が帰るまで、僕たちはお互いのことを夢中になって語り合った。
僕が自分の気持を彼女に正直に話すのはこれが初めてではないけど、麻衣が言葉で気持ち
を語ってくれたのはこれが初めてだった。

「最初はね、お兄ちゃんのメールを見て二見さんがああいうことをしてるってわかったん
だけど、自分ではこれ以上どうすればいいかわからなくて、でもこのまま放っておく気に
は全然なれなくて」
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:57:12.78 ID:my8qAWPQo

 僕たちは僕と麻衣の馴れ初めから恋人同士になった今に至るまでの心境を語り合ったの
だった。僕が話せることはあまりなかった。パソ部の部室を訪れた麻衣に惹かれて好きに
なったこと、そのためにはたとえ彼女が僕のことなんかに振り向いてくれなくても協力し
ようと思ったこと。自分ではもっといろいろ複雑な想いを抱えて悩んできたつもりだった
けど、いざ麻衣に話すとなるとわずか一言二言で僕の話は終ってしまった。でも麻衣は別
にあきれるでもなく微笑みながら僕の話を聞いてくれた。それから彼女は自分の想いを語
ってくれたのだった。

「それで自分でもすごく単純な発想だったけど、パソコンの前で悩んだことを解決するん
だからパソコン部に入ろうって思ったの」

「それであの日に君はパソ部の部室にいたんだね」

 僕は彼女と初めて出会った日を思い出した。遠巻きに見守る部員たちに話しかけてさえ
もらえず、麻衣にしては珍しく心細そうな姿で俯いて座っていたその姿を。それはついこ
の間の出来事だったのに、僕には遥か昔のことのように思えた。あの時部室で俯いていた
大人しそうな、まるで人形のような少女が僕の彼女になるなんて、あの時は夢にも思って
いなかったのだ。まあ、知り合ってみると彼女は決して大人しく儚い少女では全然なく、
むしろ物怖じしないはきはきとした性格だったのだけど。でも、そういう新たな発見さえ
も僕を麻衣に惹きつける一因となったのだ。

「最初はどうしようと思ったよ。誰も話しかけてくれないし、副部長さんも部長が来るまで待っ
ててくださいって言ってくれただけだったし」

「でもそのおかげで先輩と知り合えたんだもんね。勇気を出してパソ部に顔を出してみて
よかった」

 麻衣は微笑んで僕の手を握った。

「うん」

 僕もそれには全く同感だった。人生は偶然の出会いに満ちている。そんなありふれた陳
腐な言葉がこれほど真理だと思ったのは生まれて初めてだった。

「正直に言うとね。最初は先輩のことあたしの話をよく聞いてくれて相談に乗ってくれる
先輩としか思っていなかった」

 彼女はそう言って、今度は僕の手を自分の指でなぞるように撫で始めた。思わずその感
覚に心を取られそうになった僕は気を引き締めて彼女の話に集中しようと努力した。

 今でも僕は自分の置かれた境遇を心から信じ切れていなかった。だから僕は自分の心の
安らぎを求めるためには麻衣が語りだした心境の変化を聞くしかないと思った。それで僕
は自分の手に感じている心地よい違和感を半ば無理に意識の外に締め出した。

「でもね。先輩って自分のことはあまり話さないであたしの話ばかりを聞いてくれてたで
しょ? あたし、先輩に話を聞いてもらっているうちに自分が本当は何をしたいのかが整
理できて、それで先輩には本当に感謝したんだけど」

「そうなの」

「だけどね、自分の気持が整理できたら今度は先輩が何を考えてあたしの話を親切に聞い
てくれているのか、それがすごく気になるようになちゃった。ほら、あたし最初に先輩に
酷いこと言ったじゃない? 誰とも付き合う気はないって」

 それはよく覚えていた。でももともと彼女と付き合えるなんて期待すらしていなかった僕は、
その時は麻衣のその言葉にそれほど傷付くことはなかったのだ。

「おまえ何様だよ? って感じだよね。あんな思い上がったことを先輩に言うなんて。先輩、
あの時は本当にごめんなさい」

「・・・・・・無理はないと思うよ。僕なんかに君が気になるとか気持ち悪いこと言われたら、
君だってそれくらいは釘刺しておこうって思うのは当然だよ」

「何で先輩って、すぐに僕なんかとかって自分を卑下したような言い方するの?」

 今までの優しい表情に変って麻衣は少し憤ったような顔で僕に聞いた。

「何でって・・・・・・」

「先輩はもう少し自分に自信を持った方がいいと思うよ」
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:58:42.19 ID:my8qAWPQo

 僕は黙って頷いた。麻衣はもう少し何かを話したそうだったけど結局回想の続きを話し
始めた。

「それで先輩にいろいろ女神スレのこととか教わったりパソコンを選んでもらったりして
いるうちにね、あたし何か、先輩に二見さんとお兄ちゃんの話をすることなんかどうでも
よくなってきちゃって」

 え? 僕はその時、麻衣の言葉に驚いた。僕のことを好きになったのは本当だとしても
その根底には麻衣の池山君への執着があることについてはこれまで疑ってさえいなかっ
た。一番僕にとって望ましい事態は、麻衣が池山君を助ける同志としての僕を好きになる
ことであって、僕はそれ以上の ことを考えたことすらなかったのだ。一番最悪のパターン
は麻衣が僕を利用するために僕を好きになる振りをすることで、次に悪いのが陽性転移
だった。そんなことを考慮すれば、たとえ目的を同じにする同志としての愛情であっても僕
にとってはそれは充分すぎる答えだった。

「その頃からかなあ。あたし自分でも何を悩んでいるのかよくわからなくなちゃって。お
兄ちゃんのことを考えてたはずなのに、先輩ってあたしの話を聞きながら何を考えてるん
だろうってそっちの方に悩むようになっちゃった」

 陽性転移を発症したクライアントは傾聴者が何を考えているのか知りたいなんて思わな
い。彼女たちが傾聴者に恋するのは傾聴者の中に写った自分に恋をしているのだ。その恋
はクライアントにとっては自己愛と同義といってもいい。自分を唯一認めてくれ自分に関
心を持ってくれる相手としての傾聴者だけが、クライアントにとっての恋愛対象というこ
とになるのだった。

 麻衣の話はそれを真っ向から崩すものだった。麻衣は僕が何を考えているのか知りたい
という気持ちを抱き、そしてそれが僕への恋愛感情に転化していったようだ。かつて僕の
人生の中で唯一僕のことを好きだと言った優でさえ、僕を好きな理由は僕が彼女のことに
関心を示し彼女の話をひたすら聞いてくれる相手だったからだった。僕は彼女の承認欲求
を満たしてあげるという、その一点だけで、彼女の中で特別な存在でいられたのだった。

 でも麻衣は僕自身に関心を抱いてくれた。そう言えばさっき、麻衣に愛情を示された僕
が気を遣って優と池山君を別れさせる作戦を披露してあげようとした時、どういうわけか
麻衣は不機嫌になったのだった。

 そんな僕の感傷には気がつかず麻衣は話を続けた。

「この間の朝、浅井先輩が先輩を責めてたでしょ? あの時あたし頭が真っ白になって、
先輩のことを責める浅井先輩が許せなくて・・・・・・あの時にはもう先輩のこと好きになって
たのね、きっと」

 僕はもう何も言葉にできず黙って僕の手の上で動いていた麻衣の小さな手を捕まえて握
り締めた。

「多分、あたし浅井先輩に嫉妬もしていたんだと思う。それで次の日にお兄ちゃんと二見
さんがいちゃいちゃしてて」

 やっぱり辛いのだろう。彼女はそこで俯いて言葉を止めた。

「でもその日も先輩は優しくて、あたしのために自分には何の得にもならないことをしようっ
て言ってくれて」

「・・・・・・うん」

「先輩がお休みしている間、とにかく寂しくて仕方なかった。でも、そのおかげで自分の
気持に初めて向き合うことができたの」

「それでメールなんかじゃ嫌だから直接先輩に告白しようって思った。あれだけいろいろ
アピールしたのに先輩、何も反応してくれないんだもん」

 麻衣の告白もこれで終わりのようだった。

「先輩、大好きよ。あたしのこと見捨てないでね」

「・・・・・・何を言ってるの。それこそ僕のセリフだよ」

「相変わらず無駄に自己評価が低いのね。あと先輩、あたしのこと過大評価しないでね。
あたしは女神でも何でもないんだから」

 僕たちは再び抱き合った。人生の絶頂にいたといってもいいその瞬間、さすがの僕もも
う疑う必要は何もなかったのだけど、麻衣が女神という単語を口にしたことが少しだけ僕
には気になった。もちろんそれは考えすぎだったのだろうけど。
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/06(金) 22:59:11.03 ID:my8qAWPQo

「あたしそろそろ帰るね。もう遅いし」

 もう今日だけでも何度目かわからないほどお互いに抱きしめあってキスしあっていたた
め、思っていたより遅い時間になってしまったようだった。

「あ、じゃあもう遅いから送っていくよ」

 僕は立ち上がろうとしたところで麻衣に肩を押さえられて再びベッドに座り込んでしま
った。

「ずっと学校を休んでいた病人が何言ってるの」

 麻衣が立ち上がったので、彼女の全身が再び僕の目に入った。やはり可愛いな。僕は立
ち上がることを諦めた。

「月曜日は登校するんでしょ」

「うん。もう大丈夫」

「じゃあ朝、先輩の家まで迎えに来ていい? 一緒に学校行こ」

「ああ、いや。僕が迎えに行くよ」

 麻衣が笑った。

「あたしんちは学校から逆方向だよ。それにお兄ちゃんが出てきたら何て言って挨拶する
気?」

 僕は浮かれるあまりいろいろと考えなしに喋ってしまっていたようだった。

「七時半ごろに迎えにくるから。それなら中庭とかで朝一緒にいられる時間があるでし
ょ」

「待ってるよ」

「じゃあまた明日」

 僕は大声で母さんを呼んだ。これまで邪魔しないでいてくれた母さんが待っていたよう
にすぐに二階に姿を見せてた。

「もうお帰り? また来て頂戴ね。池山さんならいつでも歓迎するから」

「あ、はい。ありがとうございます。あの、月曜日に先輩を迎えに来てもいいですか」

 母さんは笑った。「あら。それじゃ、ちゃんと朝この子を起こしておかないとね」

 この話の何がおかしいのか僕にはさっぱり理解できなかったけど、母さんと麻衣は目を
合わせて仲良く笑い合っていた。
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/06(金) 22:59:46.76 ID:my8qAWPQo

今日は以上です
また投下します
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/08(日) 10:52:25.70 ID:SQSsyl/JO
おつんつん
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/12(木) 23:14:11.46 ID:PRviaZz6o

 その翌日、麻衣はきっかり七時半に僕を迎えに来た。玄関まで迎えに出た母さんに礼儀
正しくあいさつした彼女は、母さんの後ろからぎこちなくおはようと声をかけた僕を見て
微笑んだ。

「おはよう先輩」

「じゃあ気をつけていってらっしゃい」

 母さんはそれだけ行って家の中に入ってしまった。玄関前に取り残された僕たちはしばら
くぎこちなく向かい合って黙っていた。

「行こ」
 先に沈黙を破ったのは麻衣の方だった。彼女は少し上気した顔で僕の手を握ってさっ
さと歩き出した。僕は親に手を引かれる子どものように麻衣の後をついていったのだった。

 まだ登校時間には早かったけどそれでも部活の朝練に向う生徒の姿は結構あって、その
中で手を握り合って登校する三年生と一年生のカップルはやはり人目を引いているようだ
った。

「あたしね」

 麻衣はまだ顔を赤くしていたけど、周囲の生徒たちの視線を気にしている様子は全くな
かった。

「今朝お姉ちゃんに電話したの。これからは朝部活があるから一緒に登校できないって」

 麻衣は何かを期待しているかのように僕の方を見上げて言った。そういえば以前副会長
から聞いた話では、麻衣はこれまでは池山君と遠山さん、そして広橋君と四人で一緒に登
校していたのだった。池山君がいち早くその輪から抜け出して、多分今では優と一緒に登
校しているのだろう。そして麻衣は残った二人と一緒に登校するより、付き合い出したば
かりの僕と一緒に登校することを選んでくれたのだ。

 僕がそんなことを考えながら麻衣の方を見ると、彼女はまだ何かを待っているかのよう
に僕の方を見つめていた。

 ・・・・・・ああ、そうか。僕は慌てて麻衣に言った。

「よかった。じゃあ、これからは二人で一緒に登校できるんだね」

 期待通りの反応だったのか麻衣は僕の言葉に満足そうにうなずいた。よかった。僕は麻
衣の期待を裏切らずに返事ができたようだった。僕は何とか正解を答えることができたの
だ。

「パソコン部でも朝練ってあるの?」

 麻衣が無邪気に聞いた。

「あるわけないさ」

 僕は麻衣の質問に思わず少し笑ってしまった。「体育系の部活じゃないんだし・・・・・・そ
れにみんな夜中まで家でパソコンの前に座りっぱなしだし、朝早く登校するやつなんてい
ないさ」

「ふーん。じゃあ授業が始まるまで部室で一緒にお話ししない?」

「別にいいけど。まあ確かに朝の部室なんて誰もいないからちょうどいいかもね」

「誰もいないって・・・・・・先輩のエッチ」

 麻衣は何か誤解したみたいで顔を赤くして僕に言った。でも、それは決して怒っている
ような口調ではなかった。
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/12(木) 23:15:12.05 ID:PRviaZz6o

 こうして始った僕と麻衣との交際は普通の恋人同士が辿るであろう道を模範的になぞっ
ているかのようだった。お互いに甘えあったりお互いに相手に自分を好きと言わせようと
したりすねてみたり、そんな他愛もない駆け引きをしているだけですぐに時間は去って
いってしまう。麻衣は前から他人が僕たちを眺める視線には無頓着だったけど、今では
僕も麻衣に夢中になっていたから、もはや他人の視線を気にすることすらなくなっていた。
いくら生徒数の多いマンモス校とはいえ朝からべったり寄り添っている三年生と一年生のカ
ップルは周囲の注目を引いたと思う。昔の僕ならそういう好奇心に溢れた視線にとても耐
えられなかっただろうけど、初めて心から僕のことを想ってくれる恋人を得た僕はもうあ
まり周囲のことは気にならなくなっていた。

 麻衣はもうあまり池山君と優のことを口にしなくなっていた。もともと彼女が僕に関心
を持ったのは自分のことを助けてくれる相手としてだったはずだけど、この頃になると麻
衣が僕に要求するのは自分に対する僕の愛情だけになっていて、優の女神行為についての
話題は全く口にしなくなっていたのだった。

 朝僕たちは一緒に登校し、誰もいない部室で寄り添って授業開始までの短いひと時を過
ごした。その後、僕はもう人目を気にすることなく一年生の校舎の入り口まで麻衣を送っ
て行った。始業前に駆け込んでくる生徒たちで溢れている校舎の前では、麻衣も部室に二
人きりでいる時みたいに僕に抱きついたりキスしたりすることはなかったけど、別れ際に
彼女は名残惜しそうに僕の手を握った。

 昼休みと放課後の逢瀬も部室を使わないというだけで僕たちがしていることは同じだっ
た。

 僕は幸せだったし麻衣同じことを思ってくれているように見えた。でも僕はもっと彼女
を喜ばせたかった。そのために僕ができることって何だろう。

 何か彼女にプレゼントをすることは真っ先に考えたのだけど、それは僕にはあまりピン
と来なかった。二人の交際の記念にアクセサリーそれもペアリングのようなものをプレゼ
ントできないかと思ったけど、いろいろな意味でそれは僕にとってハードルが高かった。
まずはどんなものを選べばいいのか見当もつかなかった。それにタイミングということも
ある。考えてみれば僕には麻衣の誕生日すらわかっていないのだった。

 そう考えて行くうちに僕はふと初心に帰ってみるべきではないかと思い立った。

 もともと麻衣が抱え込んでいた悩みは今でも全く解決していなかった。麻衣に池山君の
ほかに気にする相手ができたせいで、今では一時、池山君と優の女神行為のことを考えな
いでいられるのかもしれないけれど、麻衣が池山君の交際相手の破廉恥な女神行為に心を
痛めていたこと自体は全く解決していないのだ。

 それにプレゼントを買うことなんてお金があればできることだけど、池山君と優を引き
剥がすことは僕にとっては大きなリスクを伴うことだった。それは一時は胃が痛くなるほ
ど考えこんだことでもあった。でも、今の僕の幸せに見合うくらいのプレゼントを麻衣に
するのだとすれば、アクセサリーを買うなんてことでは全然引き合わない。むしろリスク
を承知で最初に約束したとおり麻衣の悩みを解決してあげてこそ、僕は胸を張って彼氏だ
と言えるのではないだろうか。

 ここまでの僕の幸せは偶然の僥倖だった。麻衣は僕のことを好きになってくれたけど僕
はその好意に対してまだ何もしてあげていない。最近の麻衣は優の女神行為のことを話題
にしなくなっていた。麻衣だって人間なんだから恋人ができた今は恋人である僕のことだ
けに夢中になっているのかもしれないけれど、いつか冷静になれば池山くんの彼女のこと
で胸を痛める時がくることは明らかだった。麻衣が今では異性として池山君を見なくなっ
ていたのだとしても、仲の良い兄妹であることには変りはないのだ。

 僕は考えた。麻衣が優のことを僕に話さなくなったのは、もしかしたら作戦を実施する
僕に負わせるリスクのことを麻衣が考え出したせいのかもしれない。麻衣が僕のことを本
気で好きになっているなら、僕が負うべきリスクのことを気にしてくれたとしても不思議
ではなかった。それなら僕はなおさら彼女に気を遣わせないよう自分からこれを実行すべ
きなのだろう。それは僕が今、麻衣にしてあげられる一番のプレゼントだった。

 その朝、早起きした僕はもう迷わなかった。麻衣が迎えに来るまで一時間くらいは時間
がある。僕は昨晩作ったWEBメールの捨てアドから緊急連絡網に記載されている優と池
山君のクラスの担任の携帯にメールを送った。

 とりあえず最初は「スレンダーな女神スレ」で優が池山君に自分の女神行為を見せ付け
た部分が転載されているミント速報の過去ログのURLを記載することにした。緊縛画像
とか池山君が撮影したより扇情的なレスや画像は、まだ大事な玉として温存して置いた方
がいいだろう。高校二年生の女子がネットで不特定多数の人間相手に下着姿を晒している
画像だけでも、最初としては充分なはずだった。
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/12(木) 23:15:41.13 ID:PRviaZz6o

『突然メールしてすみません。御校の二年生の女子生徒である二見優さんがネット上で破
廉恥なヌードを自ら公開していることをご存知でしょうか。こういう行為が健全な青少年
に与える影響を考えると看過するわけにはいかないと思ってご連絡さしあげました。しか
るべき対応を期待しています。万一必要な指導をしていただけない場合には、この事実を
マスコミ等の諸方面に通報せざるを得なくなりますのでご留意ください。それではよろし
く対応方お願いいたします』

 僕はそのメールを送信した。麻衣に相談せず自分の一存でこれを行ったことはいい考え
だったと僕は思った。麻衣は僕にリスクを負わせたことを気にしないで済むし、僕にとっ
ては大切な彼女に捧げるプレゼントを彼女に要求されたからではなく自発的に贈ることが
できたのだから。

 僕はパソコンを消して、階下に降りた。今日も麻衣は僕を迎えに来るはずだった。どの
タイミングで麻衣にこの最高の贈り物を披露しようか。僕はその時これまで感じたことの
ないくらいの高揚感に包まれていた。

 翌朝も麻衣は正確に七時半に僕の家に寄ってくれた。僕は玄関先に出て彼女が来るのを
待っていた。家の前に立っている僕に気づいた妹はすぐに顔を明るくして僕の方に寄って
来た。

「おはよ、先輩」

「おはよう」

 もう僕たちはそれ以上余計なあいさつをせず、すぐにどちらともく手を取り合って自然
に同じ歩調で学校に向った。付き合い出してまだそう日は経っていなかったけど、この程
度の日常的な行動を取るにあたり僕たちはもうお互いに言葉を必要としなかった。そのこ
とが僕には嬉しかった。沈黙していてもお互いに不安になるどころか心が安らいでいる。
そういうことはどちらかの一方通行の気持ちでは成り立たないことだったから、僕はもう
僕の隣で沈黙している麻衣が何を考えているのか悩むことはなかった。そして、それは多
分麻衣も同じだったろう。

 お互いに言葉は必要とはしていなかったけど、僕たちは互いに握り締めあった手の力を
強めたり肩をわざと少しぶつけ合ったり、恋人同士ならではのボディランゲージをぶつけ
合っていた。手を握るタイミングが偶然一致した時、麻衣は大袈裟に驚き痛がる振りをし
ながら僕の方を見上げて笑った。

 一年生の教室がある校舎の入り口まで来ると、麻衣は周囲の生徒の視線なんかまるで気
にしない様子で、僕に抱き着き、僕の顔を見上げて微笑んだ。

「先輩」

「うん」

 僕も迷わず彼女の身体に手をまわした。少しの時間、僕たちは抱き合ったままじっとし
ていた。

「もう行かないと」

 やがて、名残惜しげに僕から身を離した麻衣が立ち上がった。

「今日もお弁当作ってきたから、少し寒いかもしれないけど屋上で待ってるね」

「うん」

 それから昼休みまでの間、授業中も僕は麻衣のことを考えていた。

 その時になってようやく僕は早朝のメールを思い出した。今朝は麻衣にこの話はできな
かった。早く麻衣に披露したいと思う反面、この僕からのプレゼントを麻衣に伝えるには
まだ早すぎるのではないかという気もしてきた。

 麻衣の望みは優を池山君から引き離すことだったけど、それはまだ成就していない。鈴
木先生が今朝のメールに気がつき何か対応をしているのかもしれないけど、それはまだ成
果となって現れてはなかった。僕のしたことは単に捨てアドから鈴木先生にメールをした
だけに過ぎない。こんな程度のことを得意気に麻衣に披露したとしてもそれは僕の自己満
足だ。僕のしたことはただ行動を起こしたということに過ぎず、麻衣の望む結果は出せて
いないのだから。

 僕は気を引き締めた。麻衣の僕に対する気持ちは、疑り深く臆病な僕にとっても疑う余
地がないくらい完璧に近い形で確かめられた。僕はもう麻衣の僕に対する気持ちについて
不安に思うことはなかった。

 次は僕が麻衣に対して自分の気持を見せる番だった。それは百万回彼女に対して好きだ
と叫ぶことではない。麻衣の切ない望みを完璧な形でかなえてあげることこそが僕の麻衣
に対する本当の告白なのだった。

 昼休みになり僕は教室を出て共通棟の屋上に向かった。麻衣とはそこで待ち合わせをし
ている。お互いに時間を無駄にせず長く一緒にいるためには共通棟での待ち合わせがいい
のかもしれないけど、今度は僕の方から麻衣の教室に迎えに行ってみようか。きっと麻衣
のクラスメートはざわめいて僕たちの仲を噂するだろうけど、麻衣はそんなことは気にせ
ずに僕の迎えを喜んでくれるだろう。

 今日は優は登校していないのだろうか。それともメールの効果が発現するとしてももっ
と時間を要するのだろうか。僕は麻衣へのプレゼントのことを気にしながら共通棟の屋上
に続くドアを開けた。
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/12(木) 23:18:10.88 ID:PRviaZz6o

 麻衣はもう先に来て硬い石のベンチに腰かけていた。

「ごめん」

 僕は麻衣を待たせてしまったことに妙な罪悪感を感じて麻衣に謝った。彼女はそれには
答えずにでも優しく微笑んでくれた。

 その昼休みは麻衣は珍しく寡黙だった。彼女は僕にお弁当を勧めた。そして僕が彼女に
勧められるままに手づくりのサンドイッチを食べている間、黙ったまま微笑んで僕を見つ
めていたのだった。それは奇妙なほど静かな時間だった。

 朝、お互いに抱き合い引き寄せあったときのような情熱的な感情は今でお互いに収まっ
ていて、それでもお互いをより近くに、まるで自分の分身のように親しく感じている度合
いは朝のひと時よりも大きかったかもしれない。麻衣の沈黙はもう僕を不安にさせること
はなかった。

「先輩?」

「うん・・・・・・美味しいよ本当に」

 僕はサンドイッチを飲み込んで答えた。小さい頃から料理をしているだけあって彼女
の料理の腕前はお世辞でなく確かなものだった。

「ありがと」

 彼女は言った。「でもそんなこと聞きたかったんじゃないのに」

「うん? 何?」

「あたしね」

 麻衣は僕の方を見つめた。顔には相変わらず優しい微笑を浮かべていた。

「本当に先輩と出会えてよかったと思う。普通なら一年生と三年生なんか出会う機会って
少ないじゃない?」

「まあ、同じ部活とかじゃないと普通はないよね」
 僕は答えた。それに同じ部活だったとしても三年生と一年生のカップルはうちの学校で
も珍しかった。ほとんど中学生に近い一年生と大学生に近い三年生ではいきなり恋人同士
に至るにはギャップが激しすぎるし、少しづつ長い時間をかけてお互いにわかりあうにし
ても一年と三年では共に一緒に過ごせる期間は短かかった。部活からの引退や受験を考え
ると長くても半年くらいだったろう。そう考えると僕と麻衣のようなカップルが成立した
のは一種の奇跡だった。

「お兄ちゃんと二見さんのことがあって、たまたまあたしがパソコン部に入ろうと思った
から、あたしと先輩って知り合えたんじゃない?」

「うん」

 本当にそのとおりだった。それに僕が学園祭の準備にかまけていて、パソ部に顔を出さ
なければ彼女と知り合うことすらなかっただろう。いろいろあって偶然に生徒会に居辛く
なった僕が生徒会室を避けて部室に避難したからこそ僕は今、麻衣の彼氏でいられるのだ。
そう考えると本当に綱渡りのような偶然が積み重なった、危うい一筋の糸の上で僕たちの
儚い恋は成就していたのだった。僕は本当に幸運だったのだろう。

「先輩と知り合う前のあたしと、先輩の彼女になったあたしって別な人間なのかもしれな
い」

 麻衣は随分と難解な表現で話を続けた。僕との出会いを喜んでくれたのはわかったけど、
それにしてもそれは大袈裟な物言いだった。

「いろいろあたしも成長したのかもね」
 麻衣は言った。「あたしって今までお兄ちゃんが大好きで、今までも他の男の子に告白
されたこともあったんだけど、いつもお兄ちゃんのことを考えちゃって」

「うん」
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/12(木) 23:21:00.69 ID:PRviaZz6o

 麻衣がブラコンだということは彼女と知り合う前から副会長に聞いていたので、別にそ
れは僕にとって驚くほどの情報ではなかった。

「だから、二見先輩の女神行為を見つけた時は本当にあの人が許せなったし、お兄ちゃん
の彼女があんなことをしているなんてもってのほかだと思ってたの」

 それは良く理解できる話だった。そして、現に僕はそんな麻衣のために既に手を打って
いたのだから。

「・・・・・・先輩のせいだからね」

 その時、麻衣は微笑みながら涙を浮かべるという複雑な表情を僕に見せた。

「全部先輩のせいなんだから。先輩、責任とってくださいね」

 彼女は涙を浮かべつつも幸せそう僕に向かってに微笑んだ。

「責任なんかいくらでも取るさ」

 僕は少し驚いて言った。「でも、何が僕の責任なの?」

「これから話すよ。でもその前に一つだけ聞かせて?」

「うん」

「この間、浅井先輩が言ってたこと・・・・・・先輩がお姉ちゃんに振られたって、それ本当な
の?」

 まずい。僕はそのことをすっかりと忘れていたのだ。麻衣はあの時僕と遠山さんのこと
を副会長が話しているのを聞いていた。あの時は副会長に責められていた僕を助けようと
した麻衣は遠山さんのことには言及しなかったのだけど、普通に考えればそのことを麻衣
が気にしていない方がおかしかった。

 僕は迷った。本心で答えるならば僕は遠山さんのことは別に好きではなかったと答えれ
ばいい。でもその場合は、何で好きでもない遠山さんに僕が告白したのかということを説
明しなければならない。

 本当はそろそろ僕と優のことを麻衣に告白してもいい頃だったのかもしれない。もう麻
衣の僕に対する愛情には疑いの余地はなかったから、過去の話として僕が優に気持ちを奪
われていたことがあったことを告白してもいいのかもしれない。でも、優が麻衣にとって
見知らぬ女性であるならばともかく、優は現在進行形で池山君の恋愛の対象だった。その
優に僕までが心を奪われていたことを告白するのは、このタイミングではとてもしづらい
ことだった。なので、僕はその時まだそこまで割り切れなかったのだ。

「本当だよ。僕は遠山さんに告白して振られた。でも、今にして思うと何で僕はそんなこ
とをしたのかわからないんだ」

 それは苦しい言い訳だった。

「先輩、お姉ちゃんのどんなところが好きだったの?」

 目を伏せた麻衣が小さく言った。

「いや。多分、女の子にもてない僕は焦っていたんだろうと思う。このまま彼女すらでき
ないで高校を卒業すると思っていたところに・・・・・・」

「うん」

 麻衣は僕を責めるでもなく真面目に聞いてくれていた。そのことに僕は胸が痛んだ。

「そんなところに、身近な生徒会で綺麗な遠山さんと親しく一緒にいる機会があったか
ら。でも今の僕の気持ちはその時とは全然違う。君が僕なんかを好きになってくれたこと
は今でも信じられえないけど、それでもいい。僕は君を失いたくない」

 必死でみっともない姿を晒したことがよかったのだろうか。麻衣はゆっくりと頷いてく
れた。

「あたしとお姉ちゃんとどっちが好き?」

 麻衣はからかうように囁いた。

「君に決まってる」

 僕は言った。
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/12(木) 23:21:58.13 ID:PRviaZz6o

「ありがと、先輩」

 麻衣は僕の言い訳を受け入れてくれたようだった。

「あたし先輩とお付き合い初めていろいろわかったことがあるの」

「わかったって・・・・・・何が?」

「うん。人が人を好きになるって理屈じゃないんだって。正直に言うと先輩みたいなタイ
プの人とお付き合いするなんてあたし、以前は考えてもいなかったし」

 先輩みたいな人。僕は今では麻衣の愛情に疑いは持っていなかったけど、その言葉の持
つ意味にはすぐに気づいた。イケメンでもないしスポーツも苦手。得意なことと言えばパ
ソコン関係くらい。麻衣のような放っておいてもリア充な男から声をかけられる女の子に
ふさわしい男とは、僕はとても言えないだろう。

「・・・・・・それは自覚しているよ。僕なんかが君と付き合えるなんて普通じゃないことだっ
て」

 そこでまた麻衣はそれまで浮かべていた優しい微笑を消して僕を睨みつけた。

「またそんなことを言う。何でいつも先輩はあたしに意地悪なこと言うの?」

 麻衣は今にも泣き出しそうな表情で僕を非難するように言った。

「意地悪って・・・・・・正直な気持ちなんだけどな」

「何でそうやってあたしのことをいじめるの」

「いや、いじめるって。そんなつもりは全くないけど」

「先輩、あたしのこと好きって言ったよね?」

「うん。君のことは誰よりも好きだ」

「だったらもうそういう、自分を卑下するようなことは言わないで」

 何か不公平な感じだった。僕みたいなタイプと付き合うなんて考えたこともなかったと
最初に言ったのは彼女の方なのに。

「先輩のこと大好き」

 不意に再び麻衣の態度が柔らかくなった。そして彼女は僕に甘えるように寄り添った。
僕は自分の肩に彼女の重みを受け止めた。

「先輩も」

「え?」

「先輩も・・・・・・」

「うん。麻衣のこと大好きだよ」

 麻衣は黙って僕の肩に自分の顔をうずめた。彼女の細い髪が僕の鼻を刺激したため、僕
はくしゃみをかみ殺すのに大変だったのだけど。
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/12(木) 23:22:46.49 ID:PRviaZz6o

「あたし、もう二見先輩とお兄ちゃんの仲を許せると思う」

 彼女は僕の肩に体重を預けながら呟いた。

「お兄ちゃんもあたしと一緒なのかもね」

「どういうこと?」

 僕は何となくそう望まれているのではないかと思って、彼女の肩に手を廻した。

「恋愛って当事者同志じゃなきゃわからないんだよね。あたし、初めて恋をしてよくわか
った」

「・・・・・・うん」

 初めて恋をしたって。

「お兄ちゃんが二見さんのことを、二見先輩の女神行為のことを承知していても二見さん
が好きなら、あたしはそれを邪魔しちゃいけないのかもしれない」

 一瞬で僕の思考は甘い感傷から覚醒した。麻衣の肩を抱いていた手が震えた。

「・・・・・・先輩?」

 麻衣がいぶかしんだように聞いた。

「いや。続けて」

「あたしにはブラコンかもしれないけど、それでもお兄ちゃんの恋を邪魔する資格はない
と思う。特に今ではあたしの一番好きな男の人は、お兄ちゃんじゃなくて先輩なんだし」

「うん・・・・・・」

 途方もないほど幸福に思えただろう麻衣の言葉も、今の僕には全く響いてこなかった。
胃の辺りが重く苦しく軋んでいる。

「だから先輩、あたしが前に相談したことは全部忘れて。あたしはお兄ちゃんと二見先輩
の仲は邪魔しないし、お兄ちゃんの味方になるの。今ではあたしには先輩がいるんだし、
もうお兄ちゃんの恋を邪魔するのは止める」

 僕にはもう何も言えなかった。

「それをあたしに気がつかせてくれたのは先輩だよ」

 麻衣は僕の頬に手を当てた。

「大好き」

 麻衣に口を塞がれながら、僕はその甘い感触を感じることすらなく自分のしてしまった
早まった行為のことを鮮明に思い浮かべていた。

 もう僕には何も考えられなかった。僕は麻衣のことを思いやる余り先走って優の女神行
為のことを鈴木先生にチクってしまっていたのだった。

 僕の感覚と思考は戦慄し、震えた。どうしたらいいのだろう。どう行動するのが僕にと
って最適解なのだろう。

 僕にとってはもう優に制裁を加えるとかその巻き添えで池山君が痛めつけれられるとか、
そういうことはどうでもよかったのだ。最初は僕を虚仮にした優への復讐が動機の一つだ
ったけど、麻衣に惹かれ信じられないことに彼女に愛された僕にとってはもうこの二人の
ことなんてどうでもよかった。
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/12(木) 23:24:12.92 ID:PRviaZz6o

 ただ、麻衣の願いをかなえてあげることだけが僕の目的だった。そのために僕は麻衣に
黙って勝手にこの作戦を開始してしまったのだった。

 ・・・・・・今では麻衣はそれを望まないと言う。この時素直に麻衣に僕がフライングしたこ
とを白状して謝っていれば。でも、自分に自信のない僕にはそれを選択することができな
かった。

 結局、僕は麻衣に自分のしてしまったことを告白しなかった。鈴木先生にメールしただ
けでは何も起こらないかもしれない。あの画像は本人が白を切ればそのまま通ってしまい
そうなほど画質の悪いものだった。現に僕は優がこれだけでは追い込まれないときのため
の準備をしていたほどっだった。

 今ならまだ引き返せるかもしれない。そして引き返せる可能性があるのなら僕のしでか
したことを麻衣に告白しなくてもすむのかもしれない。

 僕はようやく掴んだ自分の幸せを壊したくなかったのだ。

「今日はお兄ちゃん、体調が悪くて早退したみたい」

 麻衣は僕の葛藤には気が付かずに言った。

「お兄ちゃんが心配だから、今日はまっすぐ家に帰るね。先輩と放課後一緒にいられなく
てごめんね」

「いや。それは早く帰ってあげないと」

 僕はようやく振り絞るように掠れた声で言った。

 麻衣はにっこりと笑って僕の方を見てからかうように言った。

「先輩、あたしとお兄ちゃんの仲に嫉妬してる?」

「な、何で君のお兄さんに嫉妬するんだよ」

「冗談だよ」

 麻衣は再び僕に抱きついて言った。

 放課後、僕は生徒会室に顔を出すことすらせず部室に向った。今日はもう麻衣に会えな
い。彼女は早退した池山君を心配して真っ直ぐに帰宅しているはずだった。

 麻衣ににあそこまではっきりと愛情を示されたのだから、普通なら有頂天になっていて
もいい状況だったけど、今の僕の心境は全く違っていた。麻衣の池山君への執着について
僕は決して軽んじていなかった。だから麻衣の僕への愛情を信じた後になっても、池山君
と優を別れさせることは、麻衣との約束どおり引き続き僕が果たすべき役目だと思ってい
たのだ。ただ、これは僕自身にもリスクが生じることだったから、僕のことを気にするよ
うになった麻衣は、僕のことを心配してそれを実行するよう僕に催促しづらくなるかもし
れないということは考えていた。

 だから僕は彼女には事前に何も知らせずに鈴木先生に優のセミヌードが掲載されている
ミント速報のログをメールで教えたのだった。

 でも、今日の昼休みで事態は一変してしまった。どんなに破廉恥だと思えるような相手
であっても、池山君が本当に好きな相手なら麻衣は許容することに決めたのだと言う。そ
して皮肉なことに麻衣が池山君と優のことを認めることに決めたきっかけは僕との交際な
のだった。

 もう一日早く、麻衣が池山君と優のことを許容することを僕が知っていれば。あるいは
もう一日僕が鈴木先生にメールを出した日が遅ければ。でももうそれを考えても仕方がな
い。

 僕のしたことが麻衣にばれたらどうなってしまうのだろう。あるいは、麻衣は当初の自
分の願いに忠実に行動した僕を理解し許してくれるかもしれない。それとも池山君を許容
した麻衣は、自分の兄が好きな優を社会的に追い込むかもしれないことを、自分に黙って
勝手に始めた僕を怒るだろうか。それは考えても結論の出 ることではなかった。

 僕は部室のパソコンを立ち上げ先日作成した捨てアドへのメールをチェックした。もう
こうなったら鈴木先生が僕の送ったメールを悪質な悪戯だと判断して無視してくれること
を祈るしかなかった。
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/05/12(木) 23:25:13.50 ID:PRviaZz6o

 しかしそんな僕の切ない期待を裏切るかのように新着のメールが到着していた。

from :明徳学園事務局
sub:ご連絡ありがとうございました
本文『当校の生徒の行動に関する情報についてご連絡いただきましてありがとうございま
した。頂いた情報につきましては慎重に調査させていただいた上で、必要があれば当該生
徒に対して指導を行ってまいりますので、ご理解くださいますようお願いいたします』

 それは鈴木先生の携帯からのメールではなく、学校のアドレスからの正式な回答メール
だった。僕の期待に反して鈴木先生は自分の胸に秘めることをせず、僕のメールに対して
組織として対応することを選んだようだった。

 でも、そのメールの内容はきわめて事務的なものだった。企業や役所がクレームに対し
て機械的に送り返す回答のようだったのだ。

 僕はそのことに少しだけ期待を抱いた。鈴木先生、いや学校側はあの画像が優のものだ
と断定するには証拠に乏しいと判断したのかもしれない。慎重に調査するだの必要があれ
ば指導するだのという表現には学校側の混乱が全く伝わって来ない。つまりひょっとした
ら証拠不十分で僕のメールを黙殺しようと考えているのではないだろうか。

 鈴木先生にメールを出したときも、僕はそういう可能性を考えないではなかった。あの
時の僕だったら、この学校のメールに対して更に破廉恥でより優だとわかりやすい画像が
晒されているミント速報のログを再び学校側に送りつけていただろう。でも今では事情は
一変していた。このまま事が収まってしまえばいい。僕はそう思った。そうすればメール
のことはなかったことになり、僕は何も心配せず麻衣と恋人同士でいられる。もう僕には
過去に僕を裏切った優への処罰感情とか、ことごとく僕が関心を持った女の子を奪ってい
く(ように思える)池山君への恨みは残っていなかった。

 僕はメールに返信しようと思った。前に考えていたような追撃メールではなく火消し
メールだ。僕は、僕の苦情メールを学校側が気にしすぎて優の行動をより詳細に調査しだ
すことを防ぎたかったのだ。

 とりあえず僕は自分がしつこいクレーマーではなく、学校から返事をもらえただけで満
足し矛を収めてしまうような人物であることをアピールし、学校側を安心させようと考え
た。

sub:Re:ご連絡ありがとうございました
本文『速やかにご対応いただきありがとうございます。もちろんその画像が二見優さん
のものではない可能性があることは承知しておりますので、慎重に調査していただいた方
がよろしいかと思います。その上でその画像が二見さんのものであると特定できなかった
場合は、一人の女生徒の将来がかかっているわけですから、無理にそれが二見さんの画像
だと断定することは公平ではないことも理解しております。』

『前のメールで、万一必要な指導をしていただけない場合にはこの事実をマスコミ等の諸
方面に通報せざるを得なくなりますと記しましたが、誠意を持って対応していただいてい
るようですので、今後どのような結果になったとしてもマスコミ等への通報はいたしませ
ん。このことについては撤回させていただきます。この後の処理については学校側に一任
いたしますので、慎重かつ公平な判断をお願いしたいと思います』

 今の僕ができることはここまでだった。あとは結果を待つしかなかった。同時に自分の
した行為を麻衣に告白出来るチャンスももう失われてしまっていた。ここまで策を弄して
しまったら麻衣には最後まで黙っているしか、嘘をつきとおすしかなかった。仮に優が追
い詰められる状況になってしまったとしても、それが僕のせいであることを麻衣に告白す
ることはできなかった。

 夜自宅で眠りにつく直前に、僕は麻衣から混乱してるらしいわかりづらいメールを受け
取った。

from :池山麻衣
sub  :ごめんなさい
本文『遅い時間にごめんね。さっきお兄ちゃんに二見先輩がどんな人であってもお兄ちゃ
んが好きな人ならあたしももう反対しないよって伝えたの。そして、今日二見さんが休ん
でいることをお兄ちゃんから聞きました』

『二見さん、事情がよくわからないけど停学になったみたい。何かすごく嫌な予感がする。
あたしたち以外の誰かが同じ事を考えていたのかもしれないね。お兄ちゃんは、明日は学
校休んだ方がいいと思ったんだけど言うことを聞いてくれないし、何でお兄ちゃんを登校
させたくないか自分でもちゃんと説明できないし』

『先輩ごめんね。明日はお兄ちゃんと一緒に登校するから先輩のこと迎えに行けない。お
昼もどうなるかわからないけど、またメールするね』

『二見さんに何が起きているのかわからないけど、あたし、今はお兄ちゃんの味方に、お
兄ちゃんの力になってあげないと』

『本心を言うと先輩と会えなくて寂しい。でも妹としてお兄ちゃんのこと放っておけない
から』

『じゃあおやすみなさい。そしてごめんね先輩。またメールするね。本当に愛してるよ』
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/12(木) 23:25:41.45 ID:PRviaZz6o

今日は以上です
また投下します
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/13(金) 04:15:13.45 ID:T0zB+WjM0
おつんつん
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/21(土) 15:10:47.30 ID:1Bp3uJOS0
スレチですがビッチ読み終わりました 完全にあのキャラの√にいくと思っていたので読み終わった後虚無感に襲われましたがめっちゃ面白かったです
この作品とビッチと妹の手を握るまで以外に作者の作品ってありますか?
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/21(土) 16:12:32.64 ID:YHpFhhkoO
>>264
>>14を見るべき
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/21(土) 17:51:46.46 ID:1Bp3uJOS0
>>265
ありがとうございます
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/05(日) 03:53:08.98 ID:Ymx312f8o
◯妹の手を握るまで 2011.12〜 2012.2 完結
●女神 2012.2〜2013.5 未完
●ビッチ 2012.8〜 2013.12 未完
◯妹と俺との些細な出来事 2013.8〜2014.3完結
●トリプル 2014.3〜2015.3 未完
○ビッチ(改) 2014.11〜2015.11 完結
●女神 2015.11〜2016.6 未完(3年ぶり2回目)
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/05(日) 10:12:43.23 ID:7AlIttanO
SS速報に居ながら1ヶ月で音を上げる奴がいると聞いて
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/07(火) 00:23:13.69 ID:vAalNZ3Lo

 女神行為用の撮影から始って最後は初めて優と結ばれたあの夜以降、俺と優の交際は思
っていたより順調だった。最初の頃、俺と優を追いかけてきた、周囲の奇異なものでも見
るような視線は、すぐになくなってしまった。優が周りの生徒たちと打ち解けようと決め
た後、驚いたことに彼女は実際にまるでぼっちだったことなどなかったかのように普通に
クラスに溶け込んでいた。初めてできた俺の彼女は、ぼっちの女神だったはずだけど、少
なくとも現在の優はぼっちではなくなっていた。それで、俺と優の関係は普通のカップル
として学校でも認められることになった。

 そして、ある意味不思議でもあり、ある意味すごくほっとしたことに、最近は帰宅が遅
かった麻衣が、ある夜、俺に突然話しかけてきたことがあった。麻衣が用意してくれた食
卓を囲んでいた時だ。

「お兄ちゃんさあ」

「うん」

「二見先輩とはうまくやっているの」

 俺はむせて、慌てて目の前のコップの水で喉に詰まった食事を洗い流した。

「何だよそれ」

「誤魔化さなくていいよ。まだ付き合っているんでしょ」

「それはまあそうだけど」

 俺は思わず身構えたけど、それでもやっと麻衣が俺と優の仲に言及してくれたのだ。俺
は緊張して麻衣の方を見つめた。

 麻衣も俺を見ていたので、二人で黙って見つめあうような不自然な状況になってしまっ
た。しばらく続いた沈黙に耐えられなくなった俺が、麻衣に話しかけようとしたそのとき、
麻衣が微笑んだ。


「ごめんね」

「何が」

 麻衣の意外な反応に驚いた俺は聞いた。

「あたし、いろいろ嫌な態度とかしちゃてさ。お兄ちゃんに嫌われても仕方ないと思うん
だけど」

「何の話?」

「あたしも認めるから」

「はい?」

「だから。あたしも認めるからって言ってるの。お兄ちゃんと二見先輩の仲を」

「どういうこと」

「人を好きになるなんて理由なんかないんだね。。あたし、最近そのことに気がついた」

 麻衣はそのときすごく優しい表情をしていた。本人は気がついていないようだけど。こ
の短い時間に、いったい、麻衣の心境に何がおこったのだろうか。

「いやさ。お前が何を言ってるのかさっぱりわからないんだけど」

「相手がどういう人でもさ、お兄ちゃんが好きになったのなら、もうそれを邪魔しちゃい
けないんだと思ったから」

「・・・・・・二見のことを言ってるの」

「誰でもだよ、誰でも」

「何でいきなりそんなこと言うの」

「お兄ちゃん?」

「ああ」

「あたしも、そろそろ兄離れしないといけないのかもしれないね」

「おまえ、さっきから全然意味わかんないんだけど」

「当分は、お兄ちゃんと一緒に登校しないし、お弁当もなしでいい? あ、下校も」

「別にいいけど」

「うん。じゃあ、もう寝るね。お兄ちゃん、お休み」
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/07(火) 00:23:54.53 ID:vAalNZ3Lo

 それで、麻衣とは以前のようにいつも一緒に行動するということはなくなった。朝の通
学や休み時間、そして下校時間まで俺と優はいつも一緒だったから、そうなることは当然
だった。妹は俺にお弁当を作ることはなくなったけど、朝食と夕食はこれまでどおり用意
してくれていた。ただ、前なら夕食後(場合によっては寝るときも)俺にべったりと寄り
添って離れようとしなかった妹は、最近では食事が終ると自分の部屋に入ってしまうよう
になっていた。別に口を聞かないとか話もしないということはなかったけど、今まで二人
きりで長い時間を過ごしてきただけに、その変化は俺にとって少し寂しく感じられた。で
も、これが普通の兄妹の仲なのかもしれない。俺はそう思ってこのことについてはこれ以
上考えるのやめたのだ。

 有希は、あの屋上の日以来、俺に対しては今までどおり接するように努めているようだ
った。俺のことは諦めないし、優は俺にふさわしくないと言い切った有希のことを思い出
すと、有希のその態度は拍子抜けするほど穏やかなものだった。それでも、有希は俺とだ
けではなく、優にも普通に話しかけていた。

 そういうわけで、久し振りに俺の生活はそれなりに落ち着いてきたのだけれど、夕也と
の関係だけは全く改善していなかった。クラスの中で優が普通に人気のある生徒になって
も、夕也だけは優に話しかけようとはしなかったし、相変わらず俺に話しかけることもな
かった。そればかりか俺とは目すら合わせようとしないのだ。

 朝の登校時は俺は優と一緒だったけど、妹は相変わらず有希と一緒に登校していた。そ
ればかりか、ある日、車両内で見かけたのは、夕也が再び妹や有希と一緒にいる姿だった。
有希は夕也と仲直りしたのだろうか。あいつは俺と付き合えなくても夕也とは付き合わな
いと言っていた。夕也はそれを承知でまた有希の側にいることを選んだのだろうか。気に
はなったけど、俺はそのことには関心を持たないように努めた。というか今では俺は優に
夢中になっていたし、優といる時にはあまり他の人間のことを深く考える余裕なんてなか
ったのだ。

 優は相変わらず謎めいた言動を取ることはあったけど、体の関係ができてからはそうい
う不思議な部分は少なくなり、むしろ前からは考えられないほど俺に甘え、じゃれかかっ
てくることが多くなった。そしてそういう優の姿は可愛らしく、俺は本当に優に夢中にな
っていた。夕也とまだ仲直りできていないことすらあまり気にならないほどに。

 優の女神行為は、以前ほどの頻度ではなかったけど今だに続いていた。VIPに立つ単
発スレにうpする時は、優は今でも即興でスマホで撮影した画像をうpしていたけれど、
女神板で「モモ◆ihoZdFEQao」のコテハンを使用してうpする時は、必ずその画像を撮影
するよう俺に頼むのだった。俺が撮影した画像はスレでは評判が良かった。画像が前より
全然良くなったねというレスが溢れるほどだった。俺も嬉しくないわけはなかったけど、
こういう場所で写真の腕を誉められても何か微妙な気持ではあった。あと、俺が撮り出す
と、本当に自撮りなのかというもっともな疑問も出始めていた。モモは処女で彼氏のいな
い大学生という設定になっていたから、優は新しいカメラのセルフタイマーで撮ってます
という言い訳でその疑問を凌いでいた。
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/07(火) 00:24:38.69 ID:vAalNZ3Lo

「処女厨ってやっかいなのよ。ある意味単なる荒らしよりたちが悪いの」

 ある夜、優は俺の前で、モモの処女性に疑問を抱いたスレの住人を何とか宥めるレスを
しながら言った。

「女神にもいろいろあってね。経験者であることがマイナスにならない女神も多いんだけ
ど」

 優は話し続けた。

「あたしの場合は、処女で彼氏もいない、清純で可愛い子が肌を晒しているという点でモ
モに興味を持ってる人たちが多いみたい」

 優は自分のことを平然と可愛いと言い放ったけど、確かにこれだけ可愛ければそのこと
については反感すら覚えなかった。今でも俺はこの可愛い子が本当に自分の彼女なのだろ
うかと、心のどこかでこの境遇を疑うことすらあったくらいだし。

「アイドル的な声優のファンの心理みたいなもんかね」

 俺はふと思いついて言った。

「そうかもね、それに近いかも。でもそれより自分勝手かもね。一方では娼婦のように体
を晒すよう要求しながら、一方ではリアルでの処女性を要求されるんだもん」

 優のその言葉は妙に俺を納得させた。

「そう考えると、俺って結構羨ましがられる立場だったんだな。アイドルと隠れて交際して
いるってことだもんな」

「ふふ。でも、そうね。不思議だけど、学校ではあたしたちの関係は皆が知ってるのに、
ネットでは秘密にしているなんて」

 優は笑ってそう言うと、貧乳スレにお別れのレスを投下し、パソコンの前から離れた。

「ねえ、今日も変な気持になってきちゃった・・・・・・しようか」



 その晩遅く優と別れを惜しんだ後、俺は自宅に帰宅した。結構遅い時間になってしまっ
ていた。

 俺は自分の鍵で玄関のドアを開け、ただいまと言いながらリビングに入った。一階は電
気が落ちていて暗かった。妹はもう自分の部屋に戻っているのかもしれなかった。ダイニ
ングのテーブルを眺めると、食事の支度がしてある様子はなかった。最近ではそれなりに
妹と会話をするようになっていたし食事も必ず用意されていたので、俺は夕食がないこと
に少し戸惑いながらも2階に上がって妹の部屋をノックした。返事はない。

 俺は声をかけながら妹の部屋のドアを開けた。部屋は暗く妹の姿もなかった。

 ・・・・・・どうしたんだろう。俺は自分の携帯を念のために確認したが、妹からはメールも
着信履歴も残っていなかった。俺は諦めて再びリビングに戻った。こんなことなら優に誘
われたとおりあいつの家で手料理をご馳走になるんだった。俺はその時自宅で夕食を準
備しているであろう妹に遠慮して優の誘いを断ったのだった。今日はカップラーメンでいい
や。俺はお湯を沸かしている間に、リビングのパソコンを起動した。しばらく待っていると見
慣れないメッセージが表示された。
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/07(火) 00:25:16.82 ID:vAalNZ3Lo

『直前のセッションが強制的に終了されました。セッションを復元しますか?』



 なんだ、これ。どうもブラウザを終了させる前にパソコンを強制終了すると出てくるメ
ッセージらしいなと俺は考えた。この種のパソコンやネットで疑問がある時に、今までは
夕也を頼っていたのだけど、今ではそういうわけにもいかない。俺はとりあえず「はい」
をクリックした。少しの間があって、ブラウザは強制終了される直前に表示していた画面
をゆっくりと表示し始めた。



【貧乳女神も】華奢でスレンダーな女神がうpしてくれるスレ【大歓迎】



 え? 俺は目を疑った。確かにこのスレは優と知り合って以来よく見るスレだけど、こ
のスレを開きっぱなしでこのパソコンを強制終了した記憶はなかった。それに最近ではこ
のパソコンでは、優の画像をいじるだけで、ここでは女神スレは見ないようにしていた。
携帯の画面で画像を閲覧するのは厳しいのだけど、自分の彼女の秘密を扱っている以上、
こんな家族共用のパソコンでは危険は冒せないと判断したからだ。パソ関係に疎い俺でも
閲覧したサイトのキャッシュがパソコンに残ってしまうくらいは知っている。だから、最
近では自室で携帯でしか女神は見ていなかったはずなのだ。

 まさか妹が? 妹には急いでパソコンを終了する時にいきなり電源をオフにする悪い癖
がある。何度も注意したのだけど、妹に言わせると今までこれで一度もパソコンが壊れた
ことはないよ、とのことだった。あいつが、妹が俺が以前閲覧したキャッシュを辿って優
の女神行為を発見したのだろうか。優は個人情報は一切晒していないけど、親しい人間が
目に線を入れて隠しただけだけの彼女の画像を見れば、それが優だと気がつくのはそんな
に難しいことではない。俺は狼狽した。

 よく考えれば、画像は即デリされるのだし、たとえ妹がこのスレを後から見ても画像は
見られない。画像さえなければモモが優だとは気がつかないだろう。それでも可能性が少
しでもある以上、これを見過ごすわけにはいかなかった。

 しばらく混乱した思考を続けた結果、俺が辿りついた結論は妹に正直に聞くということ
だった。どんなに軽蔑されても怒られてもいい、とにかく優を守ることが最優先だった。
優は俺を信頼して女神行為のことを明かしてくれたのだ。それが、俺のせいで女神行為の
ことがバレることがあってはならなかった。俺は妹に電話した。でも、妹が電話に出ることは
なかった。

 翌朝、俺はリビングのソファの上で目を覚ました。一瞬、なんでこんなところにいるの
かわからなかったけど、すぐに自分が麻衣の帰宅を待っている間に寝入ってしまったこと
を理解した。これでは、昨夜リビングで粘っていた意味がまるでない。毛布が掛けられて
いるので、妹は俺が寝てしまったあとで帰宅したのだろう。とにかく妹に女神スレのこと、
聞かないといけない。体を起こして壁の時計を眺めるともう七時四十五分だ。これでは遅
刻しそうだ。とりあえずリビングには麻衣の姿はない。念のため麻衣の部屋を確かめたけ
ど、やはり妹の姿はない。それはそうだ。こんな遅い時間に家にいるわけはないじゃない
か。

 とりあえず学校に行こう。これではもう優との待ち合わせ時間に、間に合わない。俺は
携帯をチェックしたけど、優からはメッセージも着信もない。とにかく学校に行って、麻
衣をつかまえよう。幸か不幸か俺は制服のまま寝てしまっていたから、すぐにでも家を出
られる。今朝は歯磨きも洗顔も省略だ。

 自宅前の最寄り駅まで来ても、優の姿はなかった。そりゃそうだ。いつもより三十分以
上も遅刻しているのだ。次の電車に乗らないと完全に遅刻だ。この電車って、昔、優がよ
く乗ってた時間の電車だった。これに乗ればぎりぎり遅刻しないで済む。駅から教室まで
はダッシュする必要はあるのだけど。
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/07(火) 00:25:47.47 ID:vAalNZ3Lo

 何とか始業に間に合う電車に飛び乗った俺は、少し落ち着いていつも見ている車窓を眺
めた。今朝は登校時間に優に会えなかったけど、それよりも今は麻衣のことが気になる。

 たとえ妹があのスレを見つけて内容を読んだとしても、画像は見られない。もちろん優
の本名なんて書いていない。あらためて冷静に考えれば、麻衣がモモを優のことだとわか
るはずがない。そう考えると、俺が麻衣を問い詰めるなんて逆効果というか、自分の首を
絞めるようなことになりかねない。

 ・・・・・・もう少し様子見の方がいいのかもしれない。

 教室に入ると、優の姿がない。そのとき同級生の女の子が話しかけてきた。最近、優と
よくしゃべっている女の子だ。

「おはよ。今日は二見さんお休みなの?」

「いや、どうなんだろ」

「どうなんだろじゃないでしょ。いつも一緒に登校してるのに」

「いや、今日は俺、遅刻しちゃってさ。優とは会ってないんだ」

「まさか、二見さんって、駅であんたを待ってるんじゃないでしょうね」

「それはないだろ。あいつ、待ち合わせ場所にはいなかったし」

「じゃあ体調でも悪いのかな」

「うーん。あとでメールしてみる」

「つうかメールすんなら今しろよ」

「だってもうホームルーム始るじゃんか」

「本当に使えないなあ、あんた」

「何でだよ」

「あ、先生来ちゃった。ちゃんと二見さんに連絡しておきなよ」

「ああ」

 こいつに言われるまでもない。体調でも崩したのか。それにしてもメッセとかもないと
か、少し心配ではあった。たしかに優はボッチだったけど、学校を休んだことはほとんど
ない。仮に休むのならLINEとかで知らせてくれるはずだ。もう俺と優は他人じゃないんだ
し。

 ぼっちの頃だって皆勤賞狙えるくらいに律儀に登校だけはしていた優がなぜ突然休んだ
のか。毎日待ち合わせして一緒に登校している俺に、メールも電話もなくいきなり。風邪
でもひいたのか。昨日は結構冷えたし、あいつは撮影中はずっと下着姿だったし。とりあ
えず優にメッセージを入れたけど、既読にならない。あいつと連絡取れないなんて付き合
い出して初めてだ。何か寂しい。とにかく授業が終わったら直接電話してみよう。携帯に
出ないのなら、以前教わった家電に電話してもいい。あいつのところもうちと同じでめっ
たに両親がいないらしいし。

 いつの間にか俺はてこんなにあいつに依存していたのか。俺は複雑な思いで反応しない
スマホの画面を見つめた。
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/07(火) 00:26:16.26 ID:vAalNZ3Lo

 ようやく休み時間になり、校舎の外に出て優に電話をしようとした俺に、いきなり夕也
が話しかけた。

「おい」

「おまえか」

「ちょっと話があるんだけどよ」

「話って何だよ」

 何だこいつ。今まで俺のこと無視してやがった癖に。それに今は夕也どころじゃな
い。

「・・・・・・ここじゃちょっとな」

「・・・・・・おまえ、俺とは話しないんじゃなかったのかよ」

「俺だっておまえなんかと話なんかしたくねえよ」

 何なんだ。

「何が言いたいの? おまえ」

「いいから喧嘩腰になるなよ。大事な話なんだって」

「・・・・・・今まで俺のこと嫌ってたおまえが何でそんなに必死なんだよ」

「話聞きゃわかるよ。屋上行くぞ」

「屋上って、昼休みじゃねえんだぞ。そんな時間あるか」

 優に電話しなきゃいけないのに、今はこいつに付き合っている時間はない。だけど、夕
也はひかなかった。

「・・・・・・授業なんてどうだっていいよ。とにかく一緒に来い」

「おい・・・・・・」

「行くぞ。授業なんてサボっちまえばいいって」

 夕也はそれだけ言うと、もう俺の方を見ずに、一人でさっさと屋上に向かって行ってし
まった。あいつはいったい何がしたいんだ。仕方なく、俺は夕也を追った。

 やっぱ有希とか優の話だろう。こいつがこんなに必死になるのは。俺はそう思った。優
のことは気にはなるけど、さすがに命に別条があるとかじゃないだろう。体調不良か寝過
ごしたとかいう落ちだろう。そう考えると、今は夕也と話をつけるいいチャンスかもしれ
なかった。優と付き合っていて、有希と付き合う気はない。そうはっきり夕也に言うのだ。
夕也は怒るだろうけど、怒られてもいい。ひょっとしたらその先に、有希と夕也が結ばれ
る展開だってあるのかもしれない。麻衣は俺と優のことを認めると言った。有希に関して
いえば、よくわからないけど、少なくとも夕也が俺と優のことを認めてくれれば、優にと
ってはだいぶ教室にいやすいことになるだろう。夕也が有希のことを好きなことは間違い
ないだろうから、こいつが俺と優のことを認めることだってあるはずだった。その先に有
希が夕也と付き合ってもいいと考えるかどうかはともかくとして。

 しかし。サボるって、どうやって先生に言い訳すればいいんだよ。
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/07(火) 00:26:53.42 ID:vAalNZ3Lo

「おまえ、来るの遅せえよ」

 夕也が身勝手にも俺に文句をつけた。優に電話するのを先延ばしにしてまで付き合って
やっているのに。

「てめえ、ふざけんな。何日も無視してたくせにいきなり声をかけて授業までサボらせや
がって」

「そんなことはどうでもいいんだよ」

「何言ってるんだよ」

 本当に何なんだ。

「・・・・・・俺さ、今朝授業開始前に佐々木に呼び出されてさ」

「またかよ。おまえ前から佐々木に何を注意されてるんだよ」

「うるせえよ。俺と馴れ合ってるような口きいてんじゃねえよ」

「・・・・・・いったい何なの? おまえ」

「おまえが勘違いしないように言っておくけどよ。俺は有希の気持ちをあれだけひどく弄
んだおまえのことを許したわけじゃねえんだぞ」

 だからそうじゃねえのに。

「だからおまえと二見のことなんかどうなってもいいって思ってたんだけどよ」

 何なんだ。いったい。

「今日、朝の結構早い時間に佐々木に呼び出されてよ。職員室に朝の七時前に行ったら、
まだ佐々木が来てなくてさ。そしたら担任が職員室の片隅でひそひそ電話してたんだけど
よ」



 それは優の親への電話だったそうだ。佐々木先生を待つ間、夕也は聞くともなしに担任
が電話しているのをぼんやりと聞いていたそうだ。夢中になって電話をしている担任は、
夕也のことに気づいていなかったのか、声をひそめつつもかなり興奮した様子で電話をか
けていた。その中に二見優という単語が聞こえたらしい。夕也はそれを聞くと担任の低い
声に気持ちを集中した。

『当校としてもネット上の誘惑や危険に関しては、これまでも専門家を招いたりして生徒
たちには注意喚起してきましたけど、最近の風潮からして多少のことは見逃してきました。
でも、さすがに今回の件は許容範囲を超えています。他の生徒たちに与える影響が大きす
ぎるんですよ』

 担任の教師は額の汗を拭いながら、声をひそめながらもまくし立てるように話をしてい
たそうだ。

『高校生が下着姿の際どい写真をネット上で公開してたんですからね。二見さんは学校で
は友だちこそ少ないようでしたけど、これまで成績も素行も何も問題はなかったのに。も
ちろんいじめられているということもなかったし、何でこんなことをしでかしたのか』

『とにかく、投書に書いてあったURLをそちらにお送りします。ご自分の目で娘さんか
どうか確認してみてください。まあ、誰が見ても二見さんであることは間違いないと思い
ますが』

『はい。当然校長には報告してあります。誰が投書したのか? それはわからないですね。
というか、私の携帯のメールに投書してあったのでうちの学校の関係者、おそらくは生徒
だと思いますけど、WEBメールからのメールだったので特定は無理でしょうし、特定す
る必要もないでしょう』

『はい。ご自宅のアドレスでいいですか? ああ、携帯に。わかりました。そろそろ娘さ
んも家を出る時間だと思いますけど、今日は自宅で待機するようにお伝えください。頭ご
なしに怒らないようにしてください。事情を聞く前ですし、何か無茶な行動をされても困
りますし』

 夕也がそこまで聞き取った時、佐々木先生が職員室に入ってきたため、夕也はその後の
担任と優の親とのやりとりを聞くことはできなかったそうだ。
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/07(火) 00:27:27.46 ID:vAalNZ3Lo

「そんで、教室に戻ったら二見が来てないじゃんか。いったいあいつ何をしでかしたんだ
よ。下着姿ってまさか・・・・・・」

「ああ」

 女神行為が先生にばれたんだ。いったい何でこんなことに、つうか誰が。まさか、麻衣
が。いや、麻衣にはモモが優だと特定できる情報は入手できないはずだ。女神スレの画像
は十五分くらいで削除されるのだ。ありえないほどの偶然でリアルタイムの女神行為に遭
遇しない限り、画像を見ることはできない。つまり、仮に麻衣が貧乳スレを見たとしても、
それが優の女神行為だとは、優が女神だとは特定できたはずはない。というか担任がスレ
を見たとしても、なぜモモが優だと特定できたのか。画像なんか見られないはずじゃない
か。女神が自己の安全を図るためには、顔を隠すことと画像を即デリすることが必須条件
だった。顔を隠すことに関しては、確かに優は甘かったかもしれない。目に細い線を重ね
るだけでは、わかる人にはわかってしまう。でも、画像を即デリしている以上、学校の関
係者にばれるはずはないのだ。高校生でいつも女神スレに張り付いているようなやつはい
ないはずだ。

「ああじゃねえよ。俺はおまえらなんか大嫌いだけど、でも何つうかよ。二見も大変なこ
とになりそうだから」

「・・・・・・悪い。心配させちゃって」

「おまえらのしたことを、別に許したわけじゃねえぞ」

「・・・・・・ああ」

「まあ、ネットとか下着とかってだけでも、何が起こってるのか察しはつくけどな」

「今は俺の口からは言えねえけど」

「別に聞きたかねえけどよ、そんなどろどろしてそうな話。でも、おまえら何馬鹿なこと
やってんだよ」

「悪いな、夕也。俺、優の家に行くから」

「え?」

「今日は学校サボるから」

 これはやばい。俺はそう思った。いっこくも早く優と会って、善後策を話し合わないと。

「じゃあ、俺はこれで」

「・・・・・・しょうがねえなあ」

「何だよ」

「しょうがねえから担任にはおまえも体調が悪くなったって話しといてやるよ」

「・・・・・・悪い」

「うるせえ。黙って早く行けよ。きっと二見も悩んでると思うぜ」

「ありがとな」

「俺に礼を言うな。助けたくてしてんじゃねえよ。でも、おまえが落ち込むと有希とか麻
衣ちゃんが悲しむんだよ。察しっろよクズ」

「ああ。じゃあな」

「おう」
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/07(火) 00:27:56.50 ID:vAalNZ3Lo

今日は以上です
また投下します
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/08(水) 06:56:25.75 ID:Tx4CvWb30
おつんつん
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:10:01.28 ID:RyWkrIEDo

とりあえず、何とか担任が来る前に学校から抜け出せた。あいつの家に向かいながら電
話をしようと俺は思った。何度かコールしても優は電話に出ない。

 俺はほとんど走るように足早に歩きながら考えた。これからあいつはどうなるんだろう。
自宅謹慎とか先生から事情聴取を受けるのだろうか。それとも下手すれば停学とかもある
かもしれない。優が停学になるにしても、何で停学になったかを学校が生徒に公表したり
することはあるのだろうか。そんなことになったら本当に優はお終いだ。

 いや、女神行為をしてたから停学なんてそんなことを公表するわけがない。生徒にショ
ックを与えることになるし、何より学校の評判も落ちるだろうし。俺は祈るような気持ち
で自分にそう言い聞かせた。確かに、優の行為は道徳的ではないけれども、反面、法律を
侵しているわけではない。つまり、下着姿なのだから公然わいせつ罪の構成要件を満たす
ようなことではないはずだ。でも、それなら何で俺は今彼女の処分に即座に納得できたの
か。それが、同級生たちに知られたら恥ずかしい行為、彼らから今度こそ本当に優が排斥
されるような行為を、彼女がしていたと理解できていたからではないのか。

 思考が混乱して、今、自分がは何をすればいいのか考えられない。とにかく、優と連絡
を取ろう。あの聡明で大人びている優なら、彼女が陥っている立場を明確に説明してくれ
るかもしれない。あいつは、こんなことで混乱してパニックになるような性格ではない。
自分のしていることのリスクさえ、冷静に考えて女神行為をしていたのだから。

 それに。あれを撮影したのは俺なんだから、ある意味俺にも責任がある。そこに思い至
った俺は、たまらない気分になった。早く駅まで行って電車に乗ろう。電車の中でメール
すればいい。俺は半ば錯乱した状態で駅に向かって、今度こそ全力で駆け出した。

 何とか下りの電車に間に合った俺は、スマホから優にメッセージを送った。

『携帯に連絡してくれ。女神行為が担任にばれたのか? ・・・・・・すごく心配している。連
絡くれ』



 結局、その日俺は優と会えなかったし、連絡も取れなかった。優は俺のメッセージを既
読にしなかったし、優の家まで行って恐る恐るチャイムを鳴らしてみたものの、静まり返
った彼女の家からは何の反応もなかった。

 俺は途方にくれた。いったいこの先どうすればいいのだろう。優の家の前にいても仕方
がないけど、今更優のいない学校に戻る気はしなかった。俺はそのまま自宅に向かって混
乱した感情を持て余しながら歩き出した。ひどく混乱していた俺だったけれども、歩きな
がら考えているとすこしづつ疑問点が思い浮んできた。夕也が担任の鈴木先生の言葉を正
確に覚えているとすると、鈴木先生は優の親にこう言ったのだ。



『女子の高校生が下着姿の際どい写真をネット上で公開してたんですからね。お嬢さんは
学校では友だちこそ少ないようでしたけど、これまで成績も素行も何も問題はなかったの
に。もちろんいじめられているということもなかったし』

『とにかく、投書に書いてあったURLをそちらにお送りします。ご自分の目でお嬢さん
かどうか確認してみてください。まあ、誰が見てもお嬢さんであることは間違いないと思
いますが』



 夕也の記憶が正しいとすると、鈴木先生は緊急時の連絡網に記載してある自分の携帯の
メアドに送られてきたメールを開き、そこにあるURLを踏んで優の下着姿を確認したこ
とになる。だけどよく考えれば優は女神行為をする時は、自分のうpした画像を十五分く
らいで削除しているのだ。削除が早すぎて即デリ死ねよとか叩かれるくらいに徹底して。

 昨日と今日は優は女神行為はしていない。昨晩、俺の撮影した画像が自撮りじゃなくて
彼氏とセックスした時に彼氏が撮影したんじゃないかという疑惑に答えるレスはしていた
けど、その時は画像そのものはうpしていなかったのだ。それなのに鈴木先生が優の画像
を見られたはずがない。俺は何だか嫌な予感がした。額から汗が滲んでくる。俺は足を早
めて自分の家に駆け込むようにして入った。そして、リビングのパソコンを起動した。
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:10:33.47 ID:RyWkrIEDo

 パソコンが起動すると、俺はすぐ検索サイトを開いて優のコテトリを入力した。以前も
同じワードで検索したことがあったのだけど、最初のほうに女神板のスレがヒットしたの
でそれ以降の検索結果は確認していなかった。でも今日は違った。検索結果が表示された
ディスプレーを眺め、俺は女神板以外にヒットしたサイトを確認し始めた。あの時、何で
検索結果を確認しなかったんだろうと思うほど、ヒットしたサイトは少なかった。その上
位にヒットしたのは当然ながら全て女神板のスレだった。



【貧乳女神も】華奢でスレンダーな女神がうpしてくれるスレ【大歓迎】
【緊縛】縛られた女神様が無防備な裸身を晒してくれるスレ【被虐】
【女神も】女神様雑談スレ【住人もおk】



 その下にある検索結果には見慣れないタイトルが表示されていた。



『今春入学したばかりの処女のJD1が大胆な姿を露出!!―ミント速報過去ログ』



 俺はそのリンクをクリックした。そこはミント速報とかいうサイトで、やたらに有料動
画とかの宣伝リンクが連なっており、ページ全体が女性のあられもない裸体で埋め尽くさ
れているようなアダルトサイトだった。でも、そこに浮かび上がったメインの記事はよく
覚えているものだった。



モモ◆ihoZdFEQao『こんばんわぁ〜。誰かいますか』
モモ◆ihoZdFEQao『人いた。最近恋に落ちたせいか痩せてますます貧乳になりました
(悲)』



 そして、そこには画像を開くまでもなく最初から優の画像が表示されていた。それは、
俺が優にメールを貰って初めて見た時の、女神板にうpされていた彼女の際どい姿の画像
だった。・・・・・優があれほど気を遣って削除していた女神板の画像は、こうして半永久的
に他のサイトに転載され、誰でも閲覧できるようになっていたのだ。

 もう間違いなかった。鈴木先生が確認したのはこの画像だろう。そして、目に線が入っ
ているとはいえ優をよく知っている人には、その画像が彼女のものであることはすぐにわ
かったと思う。優は、いや優ならネットとか詳しいのだからこいつが大丈夫というなら大
丈夫だろうと安心していた俺も、今思えば本当にバカだった。まとめサイトのことは知っ
ていた。そもそも優の話では、2ちゃんねるに入り浸るようになったきっかけはまとめサ
イトだったはずだ。それなのに自分がうpした画像やレスしたスレが転載される可能性が
あることに全く気がついていなかったのだ。

 俺は今自分がどうすればいいのかわからなかった。優との連絡は相変わらず取れない。
優はこの先どうなるのだろうか。

 それについて考えているうちに、俺は次第に落ち着きを取り戻してきた。優の女神行為
が学校に知られたことは大変なことだったし、今頃優はどこかで学校側から事情聴取をさ
れているかもしれない。だけど、優がしたことが犯罪ではないことは確かだし、おそらく、
直接的な校規違反ですらないはずだった。学生としてふさわしくない行動を取ったという
ことで、停学くらいにはなってしまうかもしれないが、それ以上の処分はないだろう。
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:11:13.87 ID:RyWkrIEDo

 俺は優の処分の程度に思いが至ったせいで、更に落ち着きを取り戻した。優にとって最
悪なのは、周囲の生徒に自分の女神行為を知られることだろう。そうなったらもう、元の
ようにぼっちに戻るくらいでは済まない。噂に耐えかねて学校は中退することすらありそ
うだった。ただ、学校側が優の処分の理由を公表することは考えられない。教師の不祥事
ではないのだから、過ちを犯した生徒の将来への配慮ということは必ずなされるだろう。
それに、学校の評判を落とすということも考慮されるに違いない。優が停学処分で自宅謹
慎していることについて、クラスの同級生には家庭の事情でしばらく優は休みだと言うよ
うに伝えられるに違いないだろう。

 優にとっては、自分が親に隠れてしていたことを知られてしまったことは辛いだろう。
両親との関係はぎくしゃくするだろうし。そして優の処分が軽かったとしても、当然なが
ら優の女神行為はこれで終わりだろう。もう、ネット接続すらさせてもらえないかもしれ
ない。当然、俺が優の肢体を撮影することもなくなるわけだ。

 でも、それはもう仕方ないことだった。優が登校してきたら二人で話し合って最初から
やり直そう。俺たちは、俺と女神ではなくなった優は、この機会に普通の高校生らしい交
際だってできるはずだ。

 少しだけ安堵した俺が次に疑問に思ったのは、だれがこれを学校にチクったのかという
ことだった。鈴木先生が言っていたように、行内連絡用の鈴木先生の携帯に電話をしてき
たということは、生徒か、少なくとも学校関係者であることは間違いない。ただ、その相
手を特定するのは無理だ。2ちゃんねるかミント速報を偶然に閲覧したうちの学校の関係
者が、動機は不明ながら鈴木先生にチクったということだけしかわからない。誰であって
も不思議はない。ミント速報というアダルトサイトはいかにもアクセス数が多そうだった。
俺は念のためにこのサイトの名前で検索してみることにした。

 検索結果は膨大だったけど、とりあえず俺は最初の方にヒットしていた「ネットスラン
グ用語集」とかいうサイトを開いてみた。



『ミント速報(みんとそくほう)』

『誰でも無料で閲覧できるアダルトサイト。2ちゃんねるの女神板に貼られた画像、動画
を無断転載しているまとめサイトの最大手』

『女神のレス、画像、動画の転載を繰り返すことで巨大化し現在では毎日数十万のアクセ
スを稼ぎ十万人規模の利用者がいると言われている』

『過去にミント速報に転載されたことにより、女神の素性が割れて、氏名、年齢、学校や
職業、更には住所までネット上で大々的に晒された事件が何度も起きている札付きのサイ
ト』

『通常は女神板に貼られた画像は身バレや転載防止のために即座に削除されるが、ミント
速報を含むアダルトサイト管理者は、女神板に貼られた画像、動画を自動で回収するツー
ルを使っているとされている』

『また、複数の協力者が女神板に常駐していて、画像が削除される前に女神の画像を回収
し、アダルトサイトの管理者に提供しているとも言われている』



 これが事実なら俺と優はこれまで無防備過ぎたのだろう。でも、そのことを今更後悔し
ても仕方がなかった。それより、このミント速報は毎日数十万のアクセスがあると記され
ている。これだけの利用者がいれば、その中に優をよく知っているうちの生徒がいても不
思議はない。
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:11:43.23 ID:RyWkrIEDo

 優のことは心配でたまらなかったけれど、俺にはリビングのパソコンを立ち上げたとき
の状況が気がかりだった。それでも俺は優を陥れた犯人が麻衣ではなかったことに安堵し
ていた。というのは、最近の麻衣の発言や行為には、あいつが優の女神行為を知っている
としか思えない微妙な言葉があったからだ。でも、それは杞憂だったようだ。少なくとも
妹は今回の件に関係していない。麻衣は2チャンネルのスレを見たのかもしれないけど、
VIPのあのスレをリアルタイムで見れる可能性は相当低いし、たとえ見れたとしてもリ
アルタイムでなければ画像は削除されていたはずだ。そして、それは女神スレでも同じは
ずだった。ミント速報を見られさえしなければ。

 俺はただ妹が犯人であることへの否定的根拠が見つかったことに安堵していた。たとえ
俺が閲覧したスレを麻衣が発見したとしても、画像が削除されている以上、それが優のこ
とは思いもよらないだろう。

 ふと妹が突然購入したノートパソコンのことを思いついた。もしあのパソコンの閲覧履
歴にミント速報があったとしたら。

 ・・・・・・再び心が重くなってくるのを感じながら、俺は壁にかかっている時計を眺めた。
まだ、昼の十二時三十分だった。学校では今昼休みの最中だ。

 妹の留守中に妹の部屋に勝手に入り妹のパソコンを調べることに、俺は少しためらいを
感じたけど、妹の行動の真実を解き明かす方が優先だと、俺は自分に言い聞かせた。俺は
リビングのパソコンを終了させて、二階の妹の部屋に向かった。

 見慣れた妹の部屋に入ると、机の上に置かれているノーパソを開いて電源を入れた。一
瞬、パスワードがかかっていたらどうしようかと思ったけれど、妹のパソコンはしばらく
して無事に起動を終えた。俺はブラウザをクリックした。

 ブラウザの起動時に表示されるホーム画面は、このパソコンのメーカーが運営するポー
タルの画面だった。今のところ怪しいところは何もない。まず俺はブックマークを開いて
みた。

 ・・・・・・その結果は微笑ましいというか、健全な女子高生そのものだった。



『お手製お惣菜のヒント』
『お弁当に使えるレシピ』
『ガールズ・スタイル―女子中高生のためのファッションブログ』
『ツィンクル・スター:携帯小説ブログ』
『読モになろう!』



 俺はブクマされているサイト名を確認しながら、ブックマークの画面をスクロールして
いったけど、別に不審なサイトは見当たらない。



「恋占い」
「新作電子書籍のご紹介「妹が大好きでもう我慢できない!」
「鬼畜な兄貴:お兄ちゃんもう許して」



 鬼畜な兄貴じゃねえよ。俺は思わず心中で舌打ちした。でもまあ、妹のこの手の趣味は
昔からだ。俺は次に閲覧履歴を開いた。三週間前からの履歴が残っている。これはサイト
名が表示されずURLだけが羅列されているだけだったので、俺は時間をかけてURLを
クリックして、妹が閲覧したサイトを確認していくしかなかった。これには結局一時間以
上かかってしまった。

 ・・・・・・そしてほっとしたことに、その閲覧履歴の中にミント速報はなかったのだ。
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:12:32.42 ID:RyWkrIEDo

 思い切って妹のパソコンを調べてみてよかったと俺は思った。妹は優を陥れた犯人では
なかったのだ。そして俺は、優とは優が登校してきたらよく話し合ってこれからは慎重に
普通の高校生のカップルとして、付き合えばいい。今朝の衝撃的な出来事に遭遇し動揺
しまくっていた俺が、それからわずか半日程度でここまで考えをまとめられたのも、夕也の
おかげかもしれなかった。俺はぼんやりとそんなことを考えながら、麻衣のパソコンを閉
じようとした。

 その時、俺はふと妹の閲覧履歴の中に残っていた掲示板のことを思い出した。それはミ
ント速報ではなかったので、調査を急いでいた俺は、その時はその掲示板を見もしないで
次のURLをクリックしたのだった。けれども、こうして少し安心した気持になっていた
俺は、その掲示板を見てみようと思いついた。その掲示板に俺が惹かれたのは、掲示板の
タイトルにうちの学校の名前が書いてあったからだった。



『学園の生徒集まれ〜』



 これはいわゆる学校裏サイトってやつだろうか。まだ、妹の帰宅までには時間は十分に
あった。俺は少し心が軽くなっていたこともあり、好奇心にかられてその掲示板を見るこ
とにした。レスの大半は教師の悪口やテストや宿題の愚痴だった。あと、自分が気になっ
ている女子のことを書き込んでいるレスもあった。誰々がキモイとか、よく聞くいじめの
様なレスは見当たらず、裏サイトというほどのものじゃねえなと俺は考えた。もちろん教師
の悪口がある時点で学校には知られたらアウトなんだろうけど。

 全てのレスは匿名だったので、誰がレスしているのかはわからないけど、一度うちの担
任の鈴木先生のことを、自分の担任の鈴木がうざいとか書いてあるレスがあった。少なく
ともそいつは俺のクラスメートだろう。

 レスを読んでいるうちに飽きてきた俺がそろそろ読み止めようかと思い始めたその時、
突然、優の実名が書き込まれているレスに辿りついた。それは最近のレスだった。一瞬、
嫌な予感がした俺だったけれども、そのレスを読んでいるうちに何だか心が温かくなって
いくのを感じた。



『2年2組の二見さんって、最近感じよくね?』

『あ〜。うちもそう思った。初めは人間嫌いな人なのかなって思ってたんだけど。最近良
く話すけどいい子だよ。成績いいけど偉そうにしないし』

『うちも二見さんから本借りちゃった。つうか今度一緒にカラオケ行くんだ☆』

『つうか二見さんって可愛いよね。俺、告っちゃおうかな』



 これだけ優は同級生に受け入れられている。これなら女神行為ができなくなっても、優
の「承認欲求」とやらは十分にリアルでも満たされるだろう。この掲示板を見てよかった
と俺は思った。掲示板のレスはあと少し残っていたから、俺は最後まで読んでしまうこと
にして、画面をスクロールした。



『誰よあなた。もしかして2組?』

『違うよ。俺2組じゃねえし。つうか2年ですらねえよ』

『・・・・・・二見さんって池山と付き合ってるんだよ。知らないの?』

『嘘。マジで!?』

『マジだよ』

『でもさ、池山と夕也って遠山さんを取り合ってたんでしょ? 池山って遠山さんを諦め
ちゃったのかな』

『まあ、夕也が相手じゃ勝ち目は(笑)』



 ・・・・・・それは少しへこむ内容のレスだった。そして語尾に(笑)がついているレスが一
番最後のレスだった。

 まあ、いいいや。優は今ではリア充だ。学校側が今回の処分を公表しない限り、これ以
上事が大きくなることはないだろう。俺は麻衣のノーパソを閉じ、階下に降りた。そうい
えば朝から何も食べていない。俺はキッチンに行って冷蔵庫を漁ることにした。
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:13:32.63 ID:RyWkrIEDo

 冷蔵庫の中から食べられそうな食品をあさっていたとき、俺は背後から麻衣の声を聞い
た。

「・・・・・・お兄ちゃん」

「おう・・・・・・おかえり」

「・・・・・・ただいま」

「早かったな。短縮授業とかだった?」

 妹はそれには答えなかった。どうでもいい時間つぶしの会話なんかする気分じゃないの
かもしれない。

「どうかした?」

 それにしても、普段とは違う麻衣の様子に戸惑った俺は聞いた。

「別に。どうもしてないよ」

「そんならいいけど」

「・・・・・・お兄ちゃんこそどうしたの?」

「どうしたって何が」

「今日、学校早退したんでしょ」

「ああ、それか。ちょっと体調崩してさ。あ、家に帰ったら良くなっちゃったんだけど
ね・・・・・・まあ、サボりみたいなもん?」

「それならいいけど」

「いや、サボりだとしたらよくねえだろ」

「お兄ちゃん?」

「うん?」

「お兄ちゃんは今日早退したから知らないだろうけど」

「何が」

「お姉ちゃんから聞いたんだけど、二見先輩ってお家の事情でしばらく学校をお休みする
んだって」

 やっぱりそうなるか。

「・・・・・・うん」

「お兄ちゃん、知ってたの?」

「それは聞いてなかったけど、そうなるかもとは思っていた」

「そか」

 麻衣は自分のかばんを玄関前の廊下におろした。

「おまえ、さっきから何か言いたいことがあるの?」

「うん、これじゃわかんないよね。ごめん」

「あたし、やっぱりブラコンなんだろうね」

兄「はぁ?」

「ブラコンだから、あたし。たとえ学校中がお兄ちゃんの敵になっても、あたしだけはお
兄ちゃんの味方だから」

「はあ?」

「お兄ちゃん、二見さんのこと本当に好き?」

「ああ」

「そうだよね・・・・・・うん、そうだよね」

「おまえ、さっきから何を」

「お兄ちゃんが好きなら、二見さんがどんな人でもあたしも味方になるよ」

「おまえ、いったい俺に何を言いたいの?」

「・・・・・・うん。これだけじゃ、わかないよね」
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:16:25.43 ID:RyWkrIEDo

 何か凄く嫌な気分がした。

「リビングのパソコンのメールって、共用じゃない?」

「ああ」

「それで前にメーラー開いたら、二見さんあてのメール見ちゃって」

 画像は削除したのにメールは放置しちゃっていたのだ。俺ってどうしようもねえな。

「おまえ」

「うん。最初は何のことだかわからなかったけど・・・・・・URLがあったから」



from :優
sub  :無題
本文『じゃあ、そろそろ始めるね。今のところ他の子がうpしてる様子もないから、見て
ても混乱しないと思うよ。念のために繰り返しておくけど、女神板はうpも閲覧も18禁
なんであたしは19歳の女子大生って名乗ってるけど間違わないでね。』

『モモ◆ihoZdFEQaoのがあたしのレスだから。あと結構荒れるかもしれないけど動揺して
書き込んだりしちゃだめよ? 君は今日はROMに徹して』

『ああ、そうそう。これは余計なお世話かもしれないし、あんまり自惚れているように思
われても困るんだけどさ。今日うpする画像はすぐに削除しちゃうから、もし何度も見た
いなら見たらすぐに保存しといた方がいいと思うよ』

『じゃあ、下のURLのスレ開いて待っててね。8時ちょうどに始めるから』

『やばい。何かドキドキしてきた(笑) 女神行為にドキドキなんかしなくなってるけど、
あんたに嫌われうかもしれないって思うとちょっとね。でも隠し事は嫌いなので最後まで
見て感想をください。あ、感想ってレスじゃないからね』

『じゃあね』



「見たのか?」

「うん。画像は見れなかったけど、付いてたレス読めば二見さんが何をしていたかはわか
った」

 まさかこいつが鈴木先生に。いや、それは違うことは今日確認できたのだ。

「正直、ショックだったよ。お兄ちゃんに初めてできた彼女が、誰にでも裸を見せるよう
な、ふしだらな人だったなんて」

 優はそんな女じゃない。でも、普通の人間の反応としてはきっと正しい反応なのかもし
れない。俺と優の関係は、彼女の女神行為なんて超越してるって思ってたけど。今更なが
ら、こういうのって人にわかってもらうのは難しいのかもしれない。

「でもね。あたしはそれでもお兄ちゃんの決めた人なら理解しようと思ったの」

 ・・・・・・え?

「誰にでも体を見せられるような人でも、たとえ水商売をしている夜の女の人でも、お兄
ちゃんが決めた人なら反対はよそうと思った」

「・・・・・・おまえ、さっきからいったい何が言いたいんだよ」
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/06/26(日) 00:19:35.43 ID:RyWkrIEDo
「おまえ、何言ってるんだ。優が休んでるからって俺まで学校を休む理由はねえだろ」

「優って呼んでるんだ」

「いやさその」

「体調不良なんでしょ? 念のために休んで」

「何でだよ? もう大丈夫だってえの」

「どうせ今日だってサボったんでしょ? それならしばらく休んでた方がそれっぽいっ
て」

「だから何でそこまで俺を休ませようとするんだよ。優が、女神行為をしてたのは事実だ
よ。おまえが見たとおりだ」

「・・・・・・うん」

「でもよ、人間関係なんて、恋愛関係なんて人様々だろ? 俺は優の女神行為なんて承知
の上で付き合ってるんだよ!」

「お兄ちゃん・・・・・・」

「俺は学校に行く。優のことは別に恥じてねえし、優の停学中だって俺がこそこそする理
由なんてねえよ」

「さっきも言ったけど、二見さんとお兄ちゃんのことは応援するよ。でも、それなら、な
おさらお兄ちゃんは明日学校に行かない方がいい」

 俺にはその時の妹の言葉が理解できなかった。妹は優が女神行為をしていたことに気づ
いていた。そして、それは俺の不注意のせいだった。画像の削除とかには注意していたの
だけど、俺は不注意にも携帯からパソコンに転送した優からのメールをそのまま放置して
しまったのだ。妹はそのメールから女神板に辿りつき、優のレスを読んだのだった。あの
メールには優のコテトリも明確に記されていたので、誤解する余地は全くなかっただろう。

 妹が俺の彼女が女神だということに気づいていたことは、今日明白になった。それでも、
妹には優の画像は見られなかったはずだった。妹がミント速報に辿りつき優の画像を見た
形跡がないことは、今日一日でわかっていたし、鈴木先生に優の女神行為をちくって彼女
を窮地に陥れたのがこいつではないことも、わかっていた。

 それに、こいつは俺と優の交際に反対しないと言ってくれた。それはブラコンなこいつ
にとっては最大限の譲歩だったはずだ。それなのに、なぜこいつは俺に明日登校すること
を止めさせようとするのだろう。こいつは、何か俺が知らないことを知っているのだろう
か。

「何で俺が明日登校しちゃいけねえの」

 俺は妹に聞いた。

「俺は女神の優と付き合ってることを恥かしいなんて思ってねえよ。それに、そもそも学
校の奴らには湯うが女神行為をしてるなんて知られてねえし」

「まだ、今日はね」

 妹は暗い表情で言った。

 俺はこれまで、妹のことは何でも知っていると思っていた。幼少の頃から、両親が不在
がちなこの家で俺はこいつと二人きりで生きてきたのだから、こいつのことは何でも知っ
ていたつもりだった。こいつが初潮を迎えた時さえ、うろたえながらもこいつにいろいろ
説明し、有希の助けを借りながらドラッグストアに生理用品を死にそうな思いで買いに行
ったのだって俺だったのだから。

 でも、この時の妹の表情を眺めてもこいつが何を考えているのかはよくわからなかった。

「今日はそうだったけど」
 妹は繰り返した。

「明日も学校のみんなが何も知らないでいる保証なんてないんだよ」

 妹は俯いたままで続けた。

「何言ってるのかわかんねえよ。おまえ、何か知ってるなら教えてくれよ」

 俺は混乱しながら妹に言った。

「あたしにもお兄ちゃんに説明できるほど、知ってるわけじゃないよ。でも、明日学校で
何かあったら、お兄ちゃんはきっと傷つくと思う」

 妹は一瞬だけ、俺の目を真っ直ぐに見つめてそう言った。

「あまり楽観的に考えない方がいいと思う。二見さんのことも、お兄ちゃん自身のこと
も」

 元気のない声だったけれど、それでも妹は俺を見つめながら話を続けた。

「そうなっても、あたしだけはお兄ちゃんの味方だけど」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 00:20:10.99 ID:RyWkrIEDo

今日は以上です
また投下します
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/26(日) 23:27:38.85 ID:jD6uEk9vo
いいぞー
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/27(月) 01:29:55.26 ID:QKV2XcUg0
おつんつん
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/06/27(月) 08:28:07.36 ID:eMAvStjmO
やっと前作の尻切れ部分に追い付いてきた
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/07/03(日) 22:21:13.26 ID:zu2iar+do
おつおつ

既存スレまとめ直し
このペースなら、「女神」はあと半年くらいは掛かるかな

◯1.「妹の手を握るまで(2011/12/07〜2012/02/11)」(完結:67日,総レス数:1192)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1323265435/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1327754599/

●2.「女神(2012/02/01〜2013/05/27)」(未完:481日,総レス数:1766)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1328104723/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1337768849/

◯3.「妹と俺との些細な出来事(2013/08/06〜2014/03/02)」(完結:208日,総レス数:1159)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1375800112/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1388669627/

●4.「ビッチ(2012/08/29〜2013/12/18)」(未完:477日,総レス数:1459)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1346166636/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1360764540/

●5.「トリプル〜兄妹義理弟(2014/03/14〜2015/04/21)」(未完:404日,総レス数:787)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1394723582/

◯6.「ビッチ(改)(2014/11/26〜2015/11/30)」(完結:370日,総レス数:568)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1417012648/

◎7.「女神(2015/11/23〜)」(連載中:224日,総レス数:290)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448288944/

ここ以外にスレがあるのかどうかまでは分からん
そういえば、「女神」の一部と「妹の手を握るまで」に関しては小説家になろうにあったけど、あれは以前言っていた別サイト?
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