多分、素直になると、死んでしまう病気(艦隊これくしょん)

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104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/29(水) 01:01:06.90 ID:GZHBOvCa0
叢雲「……あ、この書類。じゃあ、曙は本当に……」

叢雲「ねえ、アンタ、曙から何か聞いた?」

叢雲「……そう。ま、それはそれでいいわよ。私も聞かないわ。言いふらされたいものじゃないだろうしね」

叢雲「でもね、アンタはそれでい……」

――叢雲に、もう一組の書類を渡した。

叢雲「……え、なに? これ?」

叢雲「ええと……。……ああ、ふーん。なるほどね。そういうこと。はいはい。わかったわよ」

叢雲「仕方ないわね。仕方のない司令官さまのために、私が手伝ってあげる。せいぜい感謝しなさいよ?」

叢雲「……また奢ってくれるって? ふふん、当然でしょ。今度は1ホールまるごと頼むわよ。……え」

叢雲「……太らない! 艦娘は毎日運動してるから太らないの!」

――叢雲に蹴飛ばされた……
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/29(水) 01:01:38.94 ID:GZHBOvCa0
――執務室を出て、廊下を歩いていると、満潮が窓によりかかっていた。

満潮「ん……」

満潮「…………」

満潮「……大丈夫そうね」

満潮「じゃ、せいぜい頑張りなさい」

――満潮はそれだけ言うと、背を向けて歩き去った……
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/29(水) 01:02:08.22 ID:GZHBOvCa0
――今日は曙が、この鎮守府を去る日だ。

――最寄の駅から、転居先へと旅立つらしい。

――曙は一切の会も式も見送りも拒否して、黙って鎮守府を去ると言った。

――その言葉通り、同室だった潮にそっけない別れを告げ、鎮守府の敷地外へと歩き出す曙が見えた。
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/29(水) 01:02:39.48 ID:GZHBOvCa0
曙「なによ……結局来たわけ?」

曙「あんだけいらないって言ったのに、まったくもう……」

曙「ま、わざわざ提督様が貴重な勤務時間を浪費してくださったわけだし、一応挨拶はしてさしあげるわ」

曙「じゃあね」

――曙はそれだけを言うと、門扉を通って敷地の外へ出た……
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/29(水) 01:03:44.81 ID:GZHBOvCa0
――その隣に並び、歩きはじめた。

曙「……ちょっと、なにやってんのよ」

曙「仕事を放り出して、戦場から逃げ出す艦娘についてこようっての?」

曙「あんたはね、国民の血税で食べさせてもらってるのよ。それをちゃんと自覚して……」

曙「……え? 休暇?」

曙「……午後だけ? そんな急に……」

曙「……叢雲が、ね。あ、そう。はあ……」

曙「あのさあ、あんたにはやるべきことがあるでしょ。あたしなんかに構ってないで、他の子を見てあげなさいよ」

曙「それに、あたしはもう民間人なんだから、これは立派なストーカーよストーカー。110番ものね」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/29(水) 01:04:24.49 ID:GZHBOvCa0
曙「……い、嫌なのか、って。嫌よ、嫌に決まってるでしょ。通報するわよ」

曙「……だ、だから……本当に嫌なの……」

曙「……別に……」

曙「……そんなに言うなら……いいけど……」

曙「…………ばか」

曙「…………」

――曙が、自分の袖を少しだけ掴んだ……

曙「…………」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/29(水) 01:05:09.22 ID:GZHBOvCa0
曙「…………」

――…………

曙「…………」

――…………

曙「……あ」

――冷たい雫が頬に触れた。雨が降ってきたようだ……

曙「傘、持ってないわ。……まあ、駅なんてすぐそこだし、走ればいいだけ……」

――折り畳み傘を取り出し、曙の上に広げる。

曙「ふーん……用意いいのね。……天気予報を見た? へえ」

曙「でも、そんなにあたしの方に傾けたらあんたが濡れちゃうでしょ」

曙「……よくないってば。前も言ったけど。もっとあんたは自分を大切にしなさいよ」

曙「これからは……あたしは手伝ってあげられないんだから」

曙「……だから、もっとみんなに助けてもらうのよ。いい? ……よし」

曙「うん。みんながいれば大丈夫よね、きっと。……そうよ、あんたなんか一番信用できないんだから」

曙「…………なんてね」

――曙は、再び言葉を切った……
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/29(水) 01:06:51.23 ID:GZHBOvCa0


――沈黙は、不思議と心地よかった。

――ただ身体を近づけて歩いているだけで、曙の熱が自分に伝わってくるような気がする。


112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/29(水) 01:10:47.89 ID:GZHBOvCa0
曙「……あたしね」

曙「ほんとは、たぶん、ずっとまともじゃなかった」



曙「自分で思ってるよりもずっと……艦娘が辛くて、苦しくて、それを我慢してた」

曙「普通の女の子みたいに、誰かと映画を観たり……そういう生活にあこがれてた」



曙「そんなこと言ったらみんなが心配するから……強がってたのかな」

曙「だから、素直になれなくて……」



曙「辛くても、役立たずにはなりたくなかったわ」

曙「だからあたしはそれでよかった」



曙「いつ死んでもいいって……ううん、死にたかったのかも」

曙「きっとそう」

曙「死にたかった」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/29(水) 01:11:42.41 ID:GZHBOvCa0

曙「………………」



曙「……あなたのために死にたかった」

曙「死んで……役に立ちたかった。力になりたかった」

曙「あたしを全部使って、そうして、そのかわり……ずっと覚えていてほしかった」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/11/29(水) 01:13:13.69 ID:GZHBOvCa0
曙「でもね……あたし……」

曙「あの時……言えたから……」

曙「だから、やっぱり死にたくなくなって」

曙「そうしたら……生きたいって思えたの」

曙「ねえ、提督……ううん……」

――曙は、自分の名前をそっと口にした……

曙「返事……聞かせてね」

曙「全部、終わったら……」


――気がつけば、駅が目の前にある……
115 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2017/11/29(水) 12:08:27.36 ID:GZHBOvCa0
曙「あーあ。もう、着いちゃった」

曙「ここまででいいわ」

曙「じゃあ、ね」

曙「……え? 傘……くれるの? ……降りた後に、まだ降ってるかも、って。心配性ね。でも、ありがとう」

曙「ん、なによその顔。あたし変なこと……」

曙「あ」

曙「あは」

曙「そうか。初めて、言ったっけ。ありがとうって」

曙「うん。そうかも」

曙「ふふふ」

曙「ありがとう。さようなら」
116 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2017/11/29(水) 12:08:54.65 ID:GZHBOvCa0
――曙はほほえんで前を振り向き、改札へと歩いていった……

――切符を改札に入れようとして……

――曙は立ち止まった……
117 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2017/11/29(水) 12:10:27.46 ID:GZHBOvCa0
曙「…………」

――…………

曙「っ」

――振り向き、こちらに走り寄った曙が……

――……!

曙「んっ……!」
118 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2017/11/29(水) 12:10:59.39 ID:GZHBOvCa0
曙「……ん……は……」

曙「ふ……はあ……ん……」

――…………

曙「……はあ」

――そっと、曙が身体を離した……
119 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2017/11/29(水) 12:11:31.94 ID:GZHBOvCa0

曙「……不思議ね」

曙「……後悔、少しだけしてた」

曙「……でも、今は」

曙「……これでいいって思えるの」

曙「…………」

曙「……そっか」

曙「……よかった……」

曙「うん。またね」


――改札の向こう側へと消えていく姿を、見送った……
120 : ◆yJGN1SPTmzFo [saga]:2017/11/29(水) 12:12:55.01 ID:GZHBOvCa0
――振り返ると、駅の入り口に叢雲がいた。

叢雲「………………」



――傘を二本持っている……

叢雲「………………」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/29(水) 14:47:56.31 ID:2uc6+PY30
待ってたそして待ってる
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/10(日) 16:02:47.71 ID:uJGfHq7A0
まだか?
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/07(水) 11:07:55.81 ID:r8a/9PTL0
まだっすか?
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/07(水) 11:10:45.29 ID:79FdEo5SO
恥ずか死ぬ
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/20(火) 01:05:10.23 ID:dYHK/vnd0
まだか?
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/06(金) 22:55:42.20 ID:hXs6cXUY0
おーい
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/12(火) 11:41:04.54 ID:O4Kkv0hDO
保守
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/28(水) 02:20:36.76 ID:zoEtQxJs0
あけましておめでとうございます
129 : ◆yJGN1SPTmzFo [saga]:2018/11/28(水) 02:23:26.36 ID:zoEtQxJs0
叢雲「……なによ。いたら悪いわけ?」

叢雲「あーそうねそうよね、そうですね。大変悪うございました。お邪魔をして申し訳ありませんでした、司令官殿」

叢雲「何よ。バカじゃないの。まったく。バカは私か。バカ見たわ」

叢雲「ふんっ」

――叢雲は乱暴に傘を投げつけてきた……

叢雲「とっとと帰るわよ! 休暇は終わり! 仕事をする!」

――叢雲はそう言って、早足で歩き始める。慌てて後を追いかけた……

叢雲「ほんと、冗談じゃないわよまったく、やめた艦娘に、即手を出すなんて、なんなのかしらこれ、あー、もう馬鹿馬鹿しいったらほんとに……」

叢雲「そもそも急に曙がやめるって言い出したのもおかしいのよ最初からこのつもりだったんじゃもう二人の間で全部話が済んでたからきっとこうやってマヌケに仕事を押し付けて見送りにかこつけた逢引をしてたのねそそうかそうよそういうこと」

叢雲「こんなことになるなら臨時で秘書艦なんか引き受けずに砲撃訓練でもしてればよかったわよ標的に写真でも貼り付けて念入りに手足をすこしずつ吹き飛ばして最後に頭をそうだ今からでも遅くないわ今ここに本人がいるわけだし」

叢雲「いっそ手足全部と頭に魚雷をくくりつけて別方向に発射して全身を引きちぎってやるのも面白いかも最後にどの部位が身体にくっついてるかで賭けもできるしさぞ見物だわねえ聞いてる!!」

叢雲「……わかってるわよ! 悪いのは全部曙だって言いたいんでしょ! だから自分には責任がないし私は何一つ文句を言わず粛々と仕事に戻れと言いたいのね! そうでしょ!」

叢雲「あ? 違う? 違うっていうのはどういう意味よ」

叢雲「違わないならやっぱり共謀して……!」

叢雲「……………………………………………」

叢雲「…………………………………はあ……」

叢雲「なんだかな……」

叢雲「あーあ……」
130 : ◆yJGN1SPTmzFo [saga]:2018/11/28(水) 02:25:20.30 ID:zoEtQxJs0
叢雲「………………」

叢雲「………………」

叢雲「……あ?」

叢雲「何謝ってるのよ。自分が悪いことをしたって思ってるわけ? へえ? じゃ、アンタの何が悪いのよ、言ってみなさいよ」

叢雲「……ほら、そうやって口ごもって。何が悪いかもわからないのに謝るって何のつもり!」

叢雲「そうよ! 私は八つ当たりをしてんの!! だからアンタが謝る必要なんてこれっぽっちもないのよ!!」

叢雲「……だから……」

叢雲「だから、……ごめん」

叢雲「………………」

叢雲「はあ……ホント……格好のつかないこと」

――叢雲はまた黙って、前を歩いていく。しばらくそのまま無言で歩いた……

――雨が降る道に、人影はない。叢雲とその後ろを歩く自分の二人だけだ。

――前を歩く叢雲は、急に立ち止まって、こちらを向いた。

叢雲「……で、さあ」

叢雲「実際、曙のことどう思ってるの? 好きなの? 結婚とかするわけ?」

叢雲「……まだわからない? はっきりしないわね」

叢雲「………………じゃあさ」

叢雲「アンタ、好きな人、とか……っているの? ……曙以外で」

叢雲「……いない? あっ……そう……。フーン」
131 : ◆yJGN1SPTmzFo [saga]:2018/11/28(水) 02:26:00.93 ID:zoEtQxJs0
――叢雲はまた、前を向いて歩きはじめた。自分もその後ろについていく……

――雨が降る道に、やはり人影はない。叢雲とその後ろを歩く自分の二人だけだ。

――前を歩く叢雲は、またも急に立ち止まって、こちらを向いた。

叢雲「あのさ……」

叢雲「………………」

叢雲「………………」

――叢雲はまたまた、前を向いて歩きはじめた。自分もその後ろについていく……
132 : ◆yJGN1SPTmzFo [saga]:2018/11/28(水) 02:26:38.61 ID:zoEtQxJs0
――雨が降る道に、変わらず人影はない。叢雲とその後ろを歩く自分の二人だけだ。

――前を歩く叢雲は、またも急に立ち止まって、こちらを向いた。

叢雲「あの、さ……」

叢雲「………………」

叢雲「………………」

――叢雲は三度、前を向いて歩きはじめた。自分もその後ろについていく……
133 : ◆yJGN1SPTmzFo [saga]:2018/11/28(水) 02:27:41.37 ID:zoEtQxJs0
――雨が降る道には、本当に人影がない。世界に存在するのが、叢雲とその後ろを歩く自分の二人だけになったようだ。

――……そして、前を歩く叢雲は、急に立ち止まって、こちらを向く。

叢雲「あの……ええと……」

叢雲「………………」

叢雲「………………」

叢雲「やっぱり、何でもない……」

――叢雲はふたたび、前を向いて歩きはじめようとする。その肩に手をかけた。

叢雲「っ!?」
134 : ◆yJGN1SPTmzFo [saga]:2018/11/28(水) 02:28:32.79 ID:zoEtQxJs0
叢雲「な、なによ!?」

叢雲「……言いたいことがあるなら言え、って!? 別にないわよそんなもの!!」

叢雲「何でもないって言ったでしょ! だから本当に……

叢雲「何、でも…………ないの」

叢雲「本当だから……離してよ……」

叢雲「お願いだから……」

叢雲「………………」

――叢雲は弱々しく、うつむいている……

叢雲「………………」

叢雲「………………」

叢雲「………………」

叢雲「………………」

叢雲「………………」

叢雲「あのさ」

叢雲「私、アンタのことが好きなの」

叢雲「………………」

叢雲「………………」

叢雲「………………」

叢雲「………………」

叢雲「………………」

叢雲「なんか言いなさいよ」

叢雲「……どうなのよ。私のことを好きになったとか、全然好きになってないとか、何かあるでしょ」

叢雲「……わからない? またそれ?」

叢雲「……ダメだからね、私に言わせたのはアンタなんだから。もう誤魔化させないんだから」

叢雲「ほら! 言いなさいよ!」

――叢雲は傘を落とし、両手で自分の頬をつねり、ひっぱりはじめた……

――こちらを見上げる叢雲の顔は、怒り顔だ。

――顔に雨が落ちて、目元から流れている……

叢雲「……言ってよ。……言ってったら」

叢雲「………………」

叢雲「………………」

叢雲「……言えないの……?」

叢雲「………………」

叢雲「………………」

叢雲「そう。わかった」

――叢雲は手を離して、傘を拾った。

叢雲「…………はあ。スッキリした」

叢雲「大丈夫よ。私は曙みたいにはならないから」

叢雲「言葉を探してるんじゃなくて、本当に言えないだけだってことも、わかった……だから、大丈夫」

叢雲「じゃ、帰るわよ。司令官」

――叢雲と、無言で雨の中を並んで歩いた……
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/28(水) 03:04:18.94 ID:u2FJ55OA0

待ってた
136 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2019/03/11(月) 00:23:12.20 ID:n52VVqhm0
tst
137 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2019/03/11(月) 00:26:16.87 ID:n52VVqhm0
明石「あ、二人が帰ってきましたね」

明石「うーん、遠目から見てもわかる、何かあった風な雰囲気……曙ちゃんの時と同じ……」

明石「良かったんですか、満潮ちゃん」

満潮「何がですか」

明石「叢雲ちゃんに傘を渡して、仕事を代わってあげて……」

満潮「私は別にそういうのじゃないから。いいんです」

明石「……本当に?」

満潮「疑うなら、あの眼鏡で私のことを見てみたらどうです? あれで見れば艦娘が何を思ってるのかわかるのでしょう?」

明石「いやー……まあ……そうです、はい。よくわかりましたね」

満潮「あの鈍感男が、妙な眼鏡をかけたら急に気の利いたナンパ男になった。誰だっておかしいと思います」

明石「いえ、誰も思ってなかったみたいですけど……」

満潮「みんな頭が悪いんですね」

明石「提督がメガネをかけていたのは三日だけで、しかも満潮ちゃんの前ではかけてなかったんですけど……」

満潮「だから?」

明石「満潮ちゃん、どれだけ提督のことを見てたんです?」

満潮「当然でしょう? 私はあの司令官の艦娘なのだもの」

明石「……やっぱり眼鏡で見てみてもいいです? 満潮ちゃんを」

満潮「ふん」
138 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2019/03/11(月) 00:27:41.25 ID:n52VVqhm0
――叢雲と共に、鎮守府の正門の前へとたどりついた……。

叢雲「あーあ、結構濡れちゃったわ。まずは軽くお風呂に入って……。……? 司令官?」

叢雲「まだ曙のこと、気にしてる? ……そうよね」

叢雲「でも、ね。ほら」

――急に叢雲に手を握られ、引っ張られる。

――叢雲はこちらを向かないまま、鎮守府の中へと自分を引っ張っていく……。

叢雲「またいつかさ。会えばいいじゃない」

叢雲「そうね。たとえば。戦争が終わったら」

叢雲「平和になったら、会えるでしょ」

叢雲「どんなに後ろを向いても、もう見えないわ」

叢雲「だから、前を向いて歩いたら、きっといつか……ね」

叢雲「だから……」


――――――――
139 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2019/03/11(月) 00:28:23.70 ID:n52VVqhm0


 そして三年後。

140 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2019/03/11(月) 00:29:23.04 ID:n52VVqhm0
――季節は夏。叢雲と共に、駅前へとやってきた。

――まだ少しだけ時間がある。日差しの中に、二人で並んで立った……

叢雲「はあ……」

――叢雲は妙に不満そうなため息をついている。

叢雲「……嫌ってわけじゃないわよ。ついてきたいって言い出したのは私なんだから」

叢雲「というか、司令官にだって私のため息の理由くらいわかるでしょ」

叢雲「……はあ? わからない? ああ、そう。そうですか」

叢雲「本気で言ってるのかしら、この男」

叢雲「……暑いから駅の中に入らないか? 駅の中で突っ立ってたら邪魔でしょ」

叢雲「というか、別に暑いからため息をついているわけじゃないわよ」

叢雲「あのねえ、私は……」
141 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2019/03/11(月) 00:31:05.71 ID:n52VVqhm0



「お久しぶりですね、提督、叢雲」


142 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2019/03/11(月) 00:33:26.55 ID:n52VVqhm0
叢雲「え」

――ふと、見覚えのない女性に声をかけられた。

――白いワンピースに、大きな帽子、手提げのカバンにも、見覚えはない。

――しかし、その茶色の瞳と黒い髪は……どこかで見た記憶がある。

叢雲「えっ……まさか」

叢雲「貴女が、曙!?」

「はい。元、ですけど。二人とも元気そうですね」

叢雲「え、え、嘘でしょ……」

――その顔には、常に気を張ったような意地っ張りな表情はどこにもなく、ただ和やかなほほえみが浮かんでいる。

――叢雲よりも小さかった背も、頭ひとつぶん大きい。

――体つきも、遥かに女性らしくなっていた……。

叢雲「た、確かに艤装を外したら成長するって聞いてたけど……」

「ふふ。自分でも、変わったなって思いますよ」

叢雲「変わりすぎでしょ」

――曙だった彼女は、やわらかに自然な笑みを浮かべている……。

「そう言う叢雲は変わってないですね」

叢雲「はあ!? ケンカを売っているのかしら?」
143 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2019/03/11(月) 00:34:25.81 ID:n52VVqhm0
「いえ。羨ましいなって」

叢雲「え?」

「3年……いえ、最初から。ずっと提督と一緒にいたんですね」

叢雲「あ……」

――言葉をつかえさせた叢雲を見て、彼女は楽しそうに笑ってみせる。

「本当に叢雲は変わってませんね。悔しいくらいに」

叢雲「……そうね」

叢雲「そうよ。結局、私は変わらなかったわ。関係もね」

「あら」

叢雲「ふんだ」

――楽しそうに笑う彼女に、叢雲が不満げに鼻を鳴らした。

叢雲「……ほら、さっさと行きましょ。満潮を待たせたままじゃ悪いでしょ」

「満潮も来ているんですね」

叢雲「車を用意してくれてるの。少し先の道路で待ち合わせてるわ」

――三人で少し歩くと、道路脇に古めかしいセダンが停まっている……。

満潮「来たわね。さ、さっさと乗って」

「はい。お久しぶりです、満潮」

満潮「そうね。久しぶり、曙……今は違うか」

叢雲「……満潮は、この姿にリアクションはないわけ?」

満潮「この程度のことでいちいち驚かないわよ」

「満潮も変わってないですね」

満潮「でしょうね。……全員乗った? ベルト締めた? じゃあ出すわよ」


――叢雲が助手席に乗り、後部座席には自分と彼女が乗り込んだ……。

――車が10分ほど走ると、目的の砂浜が見えてきた。

――平和になった海で、大勢の人々が泳いでいる……。


「本当に終わったんですね。戦争」
144 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2019/03/11(月) 00:35:43.02 ID:n52VVqhm0
叢雲「今更? 最後の戦闘はもう半年も前の話よ」

「本当かどうか、わからなかったので」

満潮「ま、元々、軍にいた人間なら疑うところでしょうね。でも、実際に深海棲艦はそれ以降確認されてない」

叢雲「7月には終戦宣言もあったでしょ?」

「そうですね。でも、実感がなかった……」

「……え? そんな、提督。私は」

叢雲「たまにはいいこと言うじゃない。司令官。そうよ、『私たち』が勝ち取った平和よ。あなたもね」

満潮「そういうこと。せいぜい誇りに思っておけばいいの。あんたがどう思ったって、誰も損はしない」

「……ありがとう。みんな」

――その言葉に、叢雲と満潮が吹き出した。

叢雲「ふふっ! それ、初めて言われたんじゃないかしら!」

満潮「さすがにこれは驚きね! いい響きじゃない!」

「……な、も、もう、私は真剣に……!」

「……ふん。そうね。そうよ。私は素直になったんですよ。二人と違って」

「ねえ、提督?」

叢雲「あっ! ちょっ、なに手を握ってるのよ!」

「叢雲も握ったらいいんじゃないですか? 満潮も」

叢雲「あ、あんたね!」

満潮「私はハンドルを握ってるの。というか興味ないし」

「素直になったらどうです?」

満潮「私は最初から素直なのよ」

「あーあ、素直になったら死んじゃう病気ですね」

満潮「それはあんたの病気だったでしょうが」

叢雲「むむむ……」
145 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2019/03/11(月) 00:38:49.56 ID:n52VVqhm0
――駐車場に車を停め、全員で砂浜へと向かった。

――彼女は帽子を抑えながら、海を静かな微笑みと共に見つめながら歩いている……。


「綺麗ですね。海ってこんな色をしていたんだ」

叢雲「艤装を外すとそんな感性まで戻ってくるの? 見飽きた上に人が多いったら、もう」

「私が引っ越したのは内陸のほうで、海がありませんでしたから」

「……無意識で海を避けていたところもあったかも」

満潮「もうその必要もないわ。私たちが海を取り戻した」

「そうですね」

叢雲「だからこうして、海まで来て遊べるわけね。……まあ、私たちは飽きてるんだけど」

満潮「仕事場に休日にやってくるってのも悪くないわよ、たまには」

「仕事場、か」

「……二人は、艦娘をやめる気はないんですか?」

叢雲「あー、それ聞いてくる? んんー、どうだろ」

満潮「さっさとやめれば? で、こんな風に背でも胸でも伸ばし放題すればいいわ」

叢雲「……背とか胸とか、あんたが言う?」

「満潮はやめる気はないんですね」

満潮「私は艦娘でいいわ」

叢雲「そうなの?」

満潮「こいつを放っておけないしね」

叢雲「……そういえば、司令官はやめるつもりは?」

「……え? 考えたこともなかった? そうですか……」

満潮「いいかげんなとこがある割には仕事人間だから……」

叢雲「らしいっちゃらしいけどね……でも……」

「でも、叢雲はそのせいで3年間が何のアドバンテージにもならなかったのが不満だ、と」

叢雲「何の話よ! ……将来のことくらい考えたほうがいいって言いたかったの」
146 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2019/03/11(月) 00:45:16.89 ID:n52VVqhm0
叢雲「艦娘も、それを率いる司令官も、一つの役割を終えたんだから。存続させておくのは社会にとってのコストよ」

叢雲「いきなり放り出されてから後悔したら遅い。ちゃんと考えておかないと」

「そうですね。未来を思い描く……曙だったころの私には想像もできなかった」

「だから私は、艦娘をやめたんでしょうね」

満潮「………………」

満潮「……え? どうかしたのか、って? 別に……」

満潮「……いや、今更よね。遠慮する必要もないわ。このメンツに」

叢雲「なに? どうしたのよ」

満潮「ねえ、二人とも」

叢雲「ん?」

「なんですか?」

満潮「艦娘には……未来がないと思う?」

――満潮の問いかけに、思わず三人で顔を見合わせる。

――確かに、叢雲や彼女の言葉は、そういう結論に繋がっていたように思えたかもしれない。

――叢雲は、少し考えて答えた。

叢雲「そうは言ってないけど。どうなるかはわからないとは思っている」

「確かに。でも、どうなるかわからないのは、みんな同じですよね」

「私が艦娘をやめたのは単に、私の限界だったんだから」

満潮「なるほど、ね」

――満潮が頷いて、立ち止まった。

――その視線の先には、空と海の境がある……

満潮「それなら私は、今のまま、艦娘のまま、もう少し先を見てみたいと思う」

「満潮……」
147 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2019/03/11(月) 00:46:42.02 ID:n52VVqhm0


満潮「ずっと思ってた。私たちは本当に、単に深海棲艦と戦うためだけに生まれたのか」

満潮「もし、それだけじゃないんだとしたら……」

満潮「……え? そ、そうなの?」

満潮「……そっか、あんたもそう思ってたんだ」

満潮「……はあ? さすがに楽観的すぎない? まったく、これだからほっとけないのよ」

満潮「だから、付き合ってあげる! で、まあ……これからもよろしくね! あ、司令官がいつやめても私は構わないんだからね!」

148 : ◆yJGN1SPTmzFo [sage saga]:2019/03/11(月) 00:49:00.47 ID:n52VVqhm0


「……悩みどころですね、叢雲」

叢雲「うー」

149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/06/30(水) 00:19:20.92 ID:SYTLpyDi0
終わり?
150 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2021/06/30(水) 02:56:40.34 ID:AXyKFgQQ0
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151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/06/21(水) 04:04:11.26 ID:eNQTcyQw0


――施設を使い、全員で水着に着替え、砂浜へと降りていく。

――サンダル越しに砂の熱さが伝わってくる。

――海に、来た。実感が今更ながらに湧いてきた……。


「どうですか? この水着。……ふふ、似合ってますか。ありがとうございます」

叢雲「なぁにデレデレしてんのよ! 秘書艦を放っておいて元艦娘にかまけてるんじゃないわよ!」

満潮「まったく、隙だらけね。鼻の下伸ばしちゃって。シャキっとしたら?」


――三人はそれぞれに、自分を海の方へと引っ張っていく。


「あー! 海ですね! テンションが上がってきました! 泳ぎましょう!」

叢雲「ちょっと、その前に準備運動よ! 司令官は当然だけど、あんたも艤装を外してるんだから」

満潮「そのもう一つ前に荷物とパラソルの設置を手伝いなさいよ、こんなもの誰が用意したんだか……あ、私か」

「なんですかそれ、満潮。平和ボケですか?」

満潮「そうかもねー。昔よりも気を張らずに生きられる気はする」

叢雲「へえ。その割に、鎮守府では変わらずうるさいけど」

満潮「当然でしょ。平和だからって仕事を真面目にやらない理由にはならない」

「満潮らしいですね」

叢雲「三つ子の魂百までって言うしね」

満潮「なにそれ?」

叢雲「変わらないものもあるってこと」

満潮「ふうん。それはそうでしょ」

「……そうですね。ああ……海も空も、こんなにも青いまま……変わってなかった」

満潮「……ずっとそうだったわ」

叢雲「……ええ。ずっと、ね」


――少女たちの横顔は、青い空と海に、いつかどこかの遠い記憶を写し出しているようだ。

――水平線の向こうから吹く風が、彼女たちの髪をなびかせた。

――熱をはらんだ潮風に夏が香る。

――遠い、いつかのどこかのように、今年もまた、夏が来たのだ……。


叢雲「司令官? いつまでぼーっとしてるわけ? ほら、海に入りましょ」

満潮「しっかりしてよね、司令官」

「さあ、行きましょう。提督」


――いえ、と彼女は小さく首を振って笑う。

――耳元に顔を近づけて、自分の名前を呼ぶ。

――自分も笑って、彼女の名前を呼んだ。

――風が吹いて、三人の髪がなびくのが見える。

――それでやっと、自分も素直になれる時がきたのだと、そう思った。




おわり
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/06/21(水) 04:11:43.19 ID:eNQTcyQw0
最後に何を書けばいいのかずっとわからなかったのですが、数年ぶりに読み返して書けました。

最初は気軽にツンデレを書きたいなと思っていただけだったんですけど、急に曙が(自分の中で)告白したいと言い出して、させたら急に死の気配をまといはじめ……。
その結果、思いもよらぬ方向へと行ってしまった作品になってしまいました。人生というのはわからないものですね。

叢雲は長年の付き合いのある妻とか相棒
曙は恋する女の子
満潮は理不尽な妹

……みたいな書き分けを試みたのですが実際はよくわかりませんね!

ここまで読んでくれたみなさまに感謝します。ありがとうございました。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/06/24(土) 13:33:59.68 ID:An/cJqKVO

久々だしちょっと読み返すわ
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