魔王「リインカーネーション」

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468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 00:06:02.75 ID:EUNAEcDAO

盗賊「はいはい、分かったよ」トサッ

ザッ…ザッ…ザッ…

戦士「…………」ツンツン

盗賊「なあ、あんまり弄くんなよ。下手したら怪我すんーー」

ジャキッ!

戦士「わっ!!」

盗賊「はぁ、だから言ったろ。もう良いかい?」

戦士「……なるほど、此処から刃が出る仕組みか。見たことない武器だ。これは何という武器だ?」ツンツン

盗賊「さあ? 自分で作ったから名前なんかねえよ」

戦士「これを自分で作ったのか!? お前、手先が器用なんだな。女みたいだ。体も細いし」
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 00:31:11.54 ID:EUNAEcDAO

盗賊「編み物とかしないのか?」

戦士「しない。私は戦士だから」

盗賊「戦士、ね……」

盗賊「(つーか本当に似てんな。姫様は遊牧民の子だったとか言ってたし、後で聞いてみるか)」

戦士「何だ? 女が戦士を名乗るのが可笑しいか?」

盗賊「いや? ただ、きみには戦って欲しくないと思ってさ。戦うとこなんて見たくもねえ」

戦士「敵がいれば戦わなければならない。私には敵と戦う覚悟がある。だから戦士になった」

盗賊「……(敵?)そっか。ところで、そろそろそこに戻ってもいい? 座りたいんだけど」

戦士「ん、もういいぞ。ただ、これは預っておく。なんか危ないからな」

盗賊「どーぞ。で? きみは何で俺を助けてくれたんだ?」

戦士「お前を待つように言われた。巫女様の予言だ。こうして話すのも私でなくてはならないらしい」

盗賊「……予言」

戦士「疑うか?」

盗賊「いや、信じるよ。話を続けてくれないか。知りたいことは山ほどあるんだ」
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 01:36:50.63 ID:EUNAEcDAO

パチパチッ…

盗賊「第四の騎士。王を打ち倒す者」

盗賊「俺が死の騎士の生まれ変わりね……白い騎士が輪転器って言ってたのはそういうことか」

戦士「輪廻転生。お前は全ての始まりで、全てを終わらせる者。巫女様にはそう聞いた」

盗賊「……全てってのは何を差してる?」

戦士「そこまでは分からない。未来だという者もいれば世界だという者もいる。解釈は多々ある」

盗賊「どっちにしろ碌な結果は生まなさそうだな。そんな危険な奴を何で助けた?」

戦士「初代の王と鴉の騎士は選択を間違えた。それを正すのがお前らしい」

盗賊「選択?」

戦士「そう、選択だ。どんな考えがあったのか知らないが、二人は存在してはならない力を世界に遺してしまった」
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 01:41:13.82 ID:EUNAEcDAO

盗賊「存在してはならない力…王の力か?」

戦士「あれがある限り自由はない。あれは鎖だ。世界は千年以上もあれに縛られ続けてる」

盗賊「ん〜、何だかよく分かんねえな……」

盗賊「要は俺が魔王を倒すことになるってことなのか? 第二第三の騎士を倒して?」

戦士「そうだ。そうすることで何かが終わり、何かが変わる。お前にその意思があれば」

盗賊「……あのさ、俺はただのニンゲンだぜ?」

戦士「知ってる。それも巫女様から聞いてた。鴉はいずれ境界線を飛び越えてやって来ると」

盗賊「……輪転器のことも知ってるのか?」

戦士「それなら私より巫女様の方が詳しい。私は今の話を伝えるように言われただけだからな」
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 02:19:22.17 ID:EUNAEcDAO

盗賊「巫女様は何できみに?」

戦士「理由は分からない。ただ、私の話なら大人しく聞くだろうと言っていたな……」ウーン

盗賊「(そりゃそうだ。彼女じゃなけりゃ姫様を捜しに行ってた。こんな話には付き合わなかった)」

盗賊「(冷静でいられんのも彼女がいるからだ。似てるからか? どこか安心してる自分がいる)」

戦士「何だ?」

盗賊「いや、何でもない。それより、きみはさっき敵と言ってた。その為に戦士になったってさ」

戦士「ああ、そうだ。それがどうかしたか?」

盗賊「きみの敵ってのは何だ? きみさえ良ければ教えてくれないかな?」

戦士「……魔王だ。私がまだ幼い頃、奴に全てを奪われた。両親を殺され妹は行方知れず。もしかしたら攫われたのかもしれない」
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 02:40:43.83 ID:EUNAEcDAO

盗賊「…………」

戦士「あれは本当に突然のことだった」

戦士「奴は大軍を率いてやって来た。部族の皆は必死に抵抗したけど大半は殺された」

盗賊「……何で魔王はきみ達の部族を襲った? 巫女様には予知出来なかったのか?」

戦士「それが私にも疑問なんだ」

戦士「あの時、巫女様は何処に逃げれば助かるか知っていた。なのに襲撃されることは言わなかった」

戦士「巫女様は何も言わなかった。誰に何を言われても酷く罵られても、その件についてだけは今でも絶対に喋らない」

盗賊「………」

戦士「私も何度か聞いたけど駄目だった。だからあれ以来、巫女様は肩身の狭い思いをしてる」

盗賊「こう言っちゃ何だけど、何でそんな奴を信じる?」

戦士「親を亡くした私を育ててくれたのが巫女様だ。今でも色々言われてるけど、本当に優しい人なんだ……」
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 02:43:18.82 ID:EUNAEcDAO

盗賊「(……育て親、か)」

戦士「服は乾いた。輪転器について知りたければ集落に案内するから付いてこい。これは返す」スッ

盗賊「ありがとう。助かるよ」

戦士「……お前は変な奴だな」ポツリ

盗賊「?」

戦士「話すつもりじゃなかったことまで話してしまった。お前は変な奴だ……」

盗賊「そうかな。俺からしたらきみの方が変わってるぜ? ニンゲン相手にこんなに優しくしてくれるんだからさ」ニコッ

戦士「………行くぞ。付いてこい」ザッ

盗賊「(巫女様とやらに会えば輪転器の疑問が解けるかもしれねえ。そうなれば、あの爺さんや将軍が何を企んでんのか見えてくるはずだ)」

盗賊「(もしかしたら姫様の居場所だって分かるかもしれねえ。今は、何にでも縋る。何にでも……)」
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 02:46:17.27 ID:EUNAEcDAO
ここまで
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/29(火) 03:06:06.74 ID:nXhIHsaeO
乙ー
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 08:52:53.24 ID:84Bn0qKN0
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 00:47:24.80 ID:h2abarDbO

ザッ…ザッ…

盗賊「……凄え。渓谷っていうより峡谷だな」

戦士「凄い? 何がだ?」

盗賊「この景色。目に映るもの全てさ」

盗賊「ここにあるものは、生まれてからこれまでの時間をそのまま生きてるって感じだ」

盗賊「色んなとこを見てきたつもりだけど、こんなに手付かずの自然は見たことない」

戦士「ここはまだ幼いからな」

盗賊「幼い?」

戦士「巫女様がそう言っていたんだ。河の浸食による地形変化。地形輪廻と言うらしい」
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 00:48:30.43 ID:h2abarDbO

盗賊「地形輪廻……」

戦士「この渓谷はそれが始まったばかりで、これから長い年月を掛けて更に姿を変えていく」

戦士「この形になるまで気の遠くなるような時が流れたようだが、それでもまだ幼いらしい」

盗賊「へ〜、物知りなんだな」

戦士「……そんなことない。今話したことは全て巫女様に教えられたことだからな……」

盗賊「いやいや、未来も見通すような物知りから教えられたんだ。きみだって立派な物知りさ」

戦士「お前は良く口の回る奴だな」

盗賊「だろ? 出会った奴には大体言われる」

戦士「………旅、してたのか?」

盗賊「ん? ああ、諸国を廻って泥棒してた」
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 00:55:20.98 ID:h2abarDbO

戦士「お前、盗人だったのか」

盗賊「盗人じゃなくて泥棒ね。ドロボウ」

戦士「どっちにしろ同じだ。というか、何でそんなことを話す? 黙っていればいいものを……」

盗賊「きみは色々話してくれただろ? だから隠し事は無しにしようと思ってさ」

戦士「……何で盗む?」

盗賊「それを美しいと感じるから」

戦士「それ、とは何だ? 美しいというのは金や銀のことか?」

盗賊「勿論そういった物だって盗むけどそれだけじゃないぜ? 俺が盗むのは形あるものだけじゃない」

戦士「?」

盗賊「ん〜。例えば、そうだな……女の子の泣いてる顔とか、塞ぎ込んでる女の子の悩みとか」
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 01:08:53.76 ID:h2abarDbO

戦士「……それのどこが美しいんだ」

盗賊「盗んだものが美しいんじゃない。盗んだ後に見せてくれるものが美しいんだよ」

戦士「お前が何を言いたいのかさっぱり分からない。はっきり言え」

盗賊「答えは笑顔さ。女性が最も輝いて見える瞬間ってのは笑ってる時だからな」ウン

戦士「言っていて恥ずかしくならないのか」

盗賊「いや、別に。だって本当のことだろ?」

戦士「……知らん。私には縁の無い話だ」

盗賊「そんな顔してると疲れちまうぜ? くすぐってやろうか?」

戦士「私がどんな顔をしてるのか分からないが、お前と話している方が疲れる」
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 02:35:11.04 ID:h2abarDbO

盗賊「………」

戦士「どうした?」

盗賊「喋ると疲れるって言うから黙ってみたんだけど駄目だな。俺が耐えられそうにねえや」

戦士「なら、何か話してみろ。集落に着くまでの暇潰しになる」

盗賊「…………外の世界を知らない女の子がいた。その子はずっと外の世界を夢見ていた」

盗賊「鍵の掛けられた部屋が彼女の世界だった。彼女は一人きりで、ずっとそこにいたんだ」

盗賊「ある日、そこに一人の男が現れた。男は彼女に外の世界を見せたくなった」

戦士「その女を不憫だと思ったのか?」ガサッ

盗賊「それもあるけど彼女は美しかった。その男は彼女に一目惚れしちまったのさ」ガサッ
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 02:40:23.22 ID:h2abarDbO

戦士「随分と軽い男だな」

盗賊「まあまあ、そう言ってやるなよ」

盗賊「で、男は彼女を外に連れ出した。馬に乗せて草原を駆け、街に着けば買い物をした」

盗賊「彼女は目を輝かせていたよ。男には見慣れた光景でも彼女には新鮮で鮮烈だったんだ」

盗賊「そんな彼女の顔を見て、男は嬉しくなった」

盗賊「ほんの短い間しか過ごしていないのに、男の中で彼女は存在は大きくなっていたんだ」

盗賊「それこそ何物にも代えがたいくらいにね。男は少し戸惑った。これまでは一度もそんなことにはなかったから」

戦士「……それで?」

盗賊「甘やかな時は長く続かなかった。非情な現実ってやつが次々と彼女を襲ったんだ」

盗賊「彼女は悩んだ末に元いた世界に帰ることにした。が、男がそうさせなかった」
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 02:45:40.16 ID:h2abarDbO

戦士「随分と軽い男だな」

盗賊「まあまあ、そう言ってやるなよ」

盗賊「で、男は彼女を外に連れ出した。馬に乗せて草原を駆け、街に着けば買い物をした」

盗賊「彼女は目を輝かせていたよ。男には見慣れた光景でも彼女には新鮮で鮮烈だったんだ」

盗賊「そんな彼女の顔を見て、男は嬉しくなった」

盗賊「ほんの短い間しか過ごしていないけど、男の中で彼女の存在は大きくなっていたんだ」

盗賊「それこそ何物にも代えがたいくらいにね。男は少し戸惑ったみたいだ。これまでは一度足りともそんな気持ちにならなかったから」

戦士「……それで?」

盗賊「甘やかな時は長く続かなかった。非情な現実ってやつが次々と彼女を襲ったんだ」

盗賊「彼女は悩んだ末に元いた世界に帰ることにした。が、男がそうさせなかった」
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 02:52:49.41 ID:h2abarDbO

戦士「惚れた女を離したくなかったのか?」

盗賊「それもあるかもしれない。でも、それだけじゃない」

盗賊「男は彼女の世界が変わり果てていることを知っていたんだ」

盗賊「何故か。実はその男、その世界の主に彼女を連れ出すようにと頼まれていたのさ」

盗賊「男がそれを告げると彼女は涙した。これまでの全てが嘘だったのか……ってね」

戦士「その男はどうした?」

盗賊「そりゃあ否定したさ」

盗賊「あれは本心だ。貴女と共にいたいという気持ちに嘘偽りはない。ってな」

盗賊「彼女は再び涙を流した。けど、それは先程とは全く違う色の涙だ」

盗賊「男は彼女の涙を見た時に決心した。彼女の為に戦うことを」
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/31(木) 03:05:31.72 ID:h2abarDbO

戦士「戦う? 誰と?」

盗賊「非情な現実ってやつが形を成した怪物さ」

盗賊「どんなに刺し貫いても倒れない『それ』を見た時、男にはそいつが不死にすら思えたよ」

戦士「勝てたのか? 不死の怪物に」

盗賊「何とか勝利することが出来たみたいだ。で、男は戦いの末に気を失って目覚めると棺桶の中だった」

戦士「………」

盗賊「彼女とは目覚めた直後に再会出来た。しかし、更なる現実が彼女を襲おうとしていた」

盗賊「それを知った男は何とかしようとしたが、再び深い眠りに落ちてしまう」

盗賊「目覚めるとそこは見知らぬ土地。男は彼女の居場所を知るべく、藁にも縋る思いで預言者の元へ向かった」

盗賊「自らを戦士と名乗る美しい女性の助けを得ながら、ね」ニコッ

戦士「……その男は彼女と再会を果たせると思うか?」

盗賊「どうだろうな。ただ、少なくともその男だけは彼女との再会を信じてるだろうさ」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 03:10:36.39 ID:h2abarDbO
ここまで
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 08:41:35.39 ID:P658J+nDo
おつ
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/31(木) 08:53:30.28 ID:nCikHAUaO
乙ー
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/31(木) 21:15:37.55 ID:VBuzN7aw0
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/01(金) 03:05:41.25 ID:s6gV6xVIo
おつです
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/02(土) 23:49:04.75 ID:bd1LdiYlO

ガサッ…ガサッ…

戦士「……ん。この辺りならいいだろう」

盗賊「どうしたんだ?」

戦士「集落はまだまだ先だ。少し休むぞ。お前もそこら辺に座れ」

盗賊「疲れたのか?」

戦士「馬鹿を言うな。私がこの程度で疲れるわけがないだろう」

盗賊「なら何で? 早く行かねえとーー」

戦士「お前の事情は把握した。巫女様に会いたいという気持ちは分かる。だが焦るな」

戦士「私はお前を無事に集落に連れて行かなければならない。お前、今の自分がどんな顔をしているか分かるか?」

盗賊「さあな、鏡がないから分かんねえよ。それに、今は自分を見つめ直すほど暇じゃないんだ」

戦士「まだ減らず口を叩けるのか、お前は中々に根性のある男だな。見掛けは当てにならないとは良く言ったものだ」
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/02(土) 23:54:56.94 ID:bd1LdiYlO

盗賊「そりゃどうも。でも休む必要はないぜ?」

戦士「………頑固な奴だ」ザッ

盗賊「お、おいおい何だよ。何か怒らせるようなこと言ったっけ?」

戦士「脱げ」

盗賊「……え〜っと、そういうのはお互いを深く理解して少しずつ段階を踏んでからにしないか?」

戦士「いいから服を脱げ。早くしろ」

盗賊「分かった、分かったよ。軽い冗談じゃねえか。そんなに凄まなくたっていいだろ……」スルッ

戦士「!!」

盗賊「………だから見せたくなかったんだ」

戦士「(包帯だらけだ。この傷を背負いながら私の後を付いてきていたというのか?)」

戦士「(右肩、胸から腹に掛けての傷。それから背中。打撲している箇所も多々ある。顔色も酷い。普通なら倒れているか気を失ってる)」

戦士「(意識を保つにもやっとのはずだ。私に気取られないよう痛みに耐えていたのか、今までずっと……)」
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 00:22:32.76 ID:VSCf0YOJO

盗賊「もういいか?」

戦士「良いわけがないだろう。棺に入っていた所持品の中には薬があったな。それを寄越せ、というか座れ」

盗賊「………はぁ、分かった。負けたよ。薬は腰にある革鞄のどれかに入ってるから取ってくれ」トスッ

戦士「ん、これだな。この先、集落に着くまでお前の荷は私が持とう。軽装備とは言え、その状態では辛いだろう」

盗賊「悪いな……」

戦士「………まずは包帯を外すぞ」

クルクル…

盗賊「ありがとう。助かるよ」

戦士「礼は要らない。それより何故傷のことを言わなかった? このまま歩き続けていれば無茶では済まなかったぞ」

盗賊「……立ち止まりたくなかったんだ。止まっちまうと余計なことばかり考えちまう」
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 00:44:34.13 ID:VSCf0YOJO

戦士「………そうか。薬を塗るぞ」

盗賊「ああ、頼むよ」

戦士「(酷い傷だ。胸の斬り傷は深く、肩の傷は貫通している。背中のこれは矢傷か?)」

ヌリヌリ…

盗賊「ッ!!」ビクッ

戦士「す、済まない。染みるだろうが暫く堪えてくれ」

盗賊「気にすんな、これくらいなら大丈夫さ。眠気覚ましにはピッタリだ」

戦士「……ずっと戦っていたんだな」

盗賊「ああ、ガラにもなく頑張っちまった。まさか化け物と戦う羽目になるとは思わなかったけどな」

戦士「何故だ? 何故そこまで戦える? その女はそこまで大切な存在なのか?」

盗賊「(あ〜、そういや前に姫様にも同じようなこと聞かれたっけな)」チラッ
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 01:11:28.29 ID:VSCf0YOJO

戦士「ん? 何だ?」

盗賊「……いや、何でもない」

戦士「?」

盗賊「男ってのはさ、女の前で格好付けたくなるもんなんだよ。きみの部族の男だってそうだろ?」

戦士「ああ、惚れた女に渡す為の獲物の大きさ競い合ったりしている。女が受け入れるかは別だが」

盗賊「へ〜、男の勝負ってわけだ」

戦士「そのようだな。私には理解し難いが男達は熱心にやっている。だが、こんな傷は負わない」

戦士「どんな強者でも退く時は退くものだ。お前の場合は度が過ぎているんじゃないか?」
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/03(日) 03:09:53.29 ID:CP9Mduoto
乙ー
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 14:31:40.82 ID:NEUEpsasO

盗賊「そんなことはねえさ」

戦士「……意味が分からん」

戦士「お前は女の前で格好を付ける為だけに無茶な戦いをするのか? こんな傷を負ってまで?」

盗賊「まあ、うん。そうみたいだな」

戦士「何故だ? お前は死を怖れていないのか?」

盗賊「……死ぬことよりも怖ろしいものがあるんだ」

戦士「?」

盗賊「大事な何かを失うことさ」

戦士「信念や誇りか?」

盗賊「ま、それは人それぞれさ。とにかく、それを失ったら二度と立ち上がれない。生きていけないんだ……」
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 14:36:31.52 ID:NEUEpsasO

戦士「……死んだら、終わりなんだぞ」ポツリ

盗賊「?」

戦士「命を晒すのは愚か者のすることだ。勇敢と無謀は違う。自らの命を差し出すような真似はするな」

戦士「大事なものを守れても生きていなければ意味がない。だから、生きる為に戦え」

盗賊「……そんな顔しないでくれよ。薬なんかよりそっちの方が沁みる」

戦士「何を言ってる?」

盗賊「……え〜っと、そうだな。今のきみがどんな顔してるか分かるかい?」

戦士「知りたくもない」

盗賊「じゃあ教えてやらないとな。何て言うか、迷子の子供みたいに泣きそうな顔してた」

戦士「うるさいぞ。傷口と一緒に口も塞がれたいのか」

盗賊「いつ死んだっていいような目をしてる。俺には生きる為に戦えとか言ったくせに」
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 14:42:42.08 ID:NEUEpsasO

戦士「黙れ」

盗賊「戦わない道だってある」

戦士「黙れっ!!」ドンッ

ドサッ…

盗賊「…………」

戦士「……お前に何が分かる」

盗賊「少しは分かるさ。大方、魔王と戦って死ぬ気つもりなんだろ?」

戦士「ああそうだ。その為に生きてきた。それが私の生きる理由、目的だ」

盗賊「復讐か」

戦士「それ以外に何がある。帰るべき家も両親も妹も失った。よく遊んだ幼友達も……」
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 14:54:55.72 ID:NEUEpsasO

盗賊「………」

戦士「瞬きの間に辺り一面が火に包まれた。叫び声を上げながら焼けていく様を見た」

戦士「家族と過ごした記憶、皆で作った花の王冠、木登り競争、あの頃は皆が笑っていたんだ」キュッ

戦士「……決して色褪せることのない思い出さえ、あの日以降は辛いものでしかなくなった」

戦士「失ったものは家族だけじゃない。記憶や思い出さえも失った。あの炎に塗り潰された」

戦士「真っ赤な炎が全てを焼き尽くした。いいか、何もかもだ!! 何もかもを奪われた!!」

盗賊「……けど、きみは生きてる」

戦士「っ、うるさいっ!!」

バキッ!

盗賊「……ゲホッ…復讐なんて止めてくれ」

戦士「っ、まだ言うか!!」

バキッ! バキッ! バキッ! バキッ!
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 15:03:17.34 ID:NEUEpsasO

盗賊「…ゲホッ…ゲホッ…」

戦士「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

盗賊「………手、大丈夫か? 痛めてねえか?」スッ

ギュッ…

戦士「は、離せっ!!」

盗賊「……聞いてくれ」ギュッ

戦士「う、うるさいっ、お前の言葉なんか聞きたくないっ!! 手を離せ!!」

盗賊「きみには戦って欲しくない。だから、復讐なんて止めてくれ」

戦士「っ、何なんだ。何なんだお前は……言うに事欠いて復讐を止めろだと? ふざけーー」

盗賊「俺がやる」

戦士「…………えっ?」

盗賊「俺が魔王を殺る。だから復讐は止めろ。さっきも言ったろ? きみが戦うとこなんて見たくないんだ」
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 15:53:57.28 ID:NEUEpsasO

戦士「……お前、自分が何を言っているか分かっているのか?」

盗賊「勿論分かってるさ」

戦士「ふざけるな……」

戦士「お前には魔王と戦う理由などないはずだ。巫女様に会いに行くのも、さっきの話に出ていた女の為なんだろう」

盗賊「ああ、そうだ」

戦士「なら何故だ。何故戦う。それに何の意味がある。私を憐れんでいるのか」

盗賊「………そっくりなんだよ」ポツリ

戦士「何?」

盗賊「あのさ、妹がいるって言ってたよな。双子か?」
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 16:08:45.72 ID:NEUEpsasO

戦士「その問いに何の意味がある」

盗賊「いいから答えてくれ。頼む」

戦士「………ああ、双子だ」

盗賊「やっぱりそうか。じゃあ、もう一つ。きみの部族は元々は遊牧民だったろ?」

戦士「……何故それを知っている。それもニンゲンであるお前が……」

盗賊「決まりだな。戦う理由なら今出来た」

戦士「何だそれは……お前が何を納得したのか私にはさっぱり分からない。説明しろ」

盗賊「きみとさっき話した女の子がそっくりなんだよ。似てるなんてもんじゃない、瓜二つなんだ」

戦士「私とその女が姉妹だと言いたいのか? 断言出来るだけの根拠は?」

盗賊「他の種族とは違う額の一本角が何よりの証拠だ。きみと彼女以外にそんな種族は一度も見たことがない」
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:10:42.16 ID:NEUEpsasO

戦士「そ、それは確かなのか?」

盗賊「当たり前だろ。こんな悪趣味な嘘は吐くかよ。ただ、彼女には幼い頃の記憶が無いんだ」

盗賊「遊牧民の子だってことは憶えてるみたいだ。でも、受け入れられなかったんだろうな……」

戦士「………姫様」ポツリ

盗賊「?」

戦士「お前が目覚めた時、私を見てそう言った。妹は王宮に囚われていたのか」

盗賊「……ああ、そうだ」

戦士「お前はその理由を知っているのか」

盗賊「……ああ」

戦士「教えてくれ。魔王は何故、妹を攫ったんだ」

盗賊「直接聞いたわけじゃない。これから話すのは仮説、憶測だ。それでもいいのか?」
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:13:19.34 ID:NEUEpsasO

戦士「そ、それは確かなのか?」

盗賊「当たり前だろ。こんな悪趣味な嘘吐くかよ。ただ、彼女には幼い頃の記憶が無いんだ」

盗賊「遊牧民の子だってことは憶えてるみたいだ。でも、受け入れられなかったんだろうな……」

戦士「………姫様」ポツリ

盗賊「?」

戦士「お前が目覚めた時、私を見てそう言った。妹は王宮に囚われていたのか」

盗賊「……ああ、そうだ」

戦士「お前はその理由を知っているのか」

盗賊「…………ああ」

戦士「教えてくれ。魔王は何故、妹を攫ったんだ」

盗賊「直接聞いたわけじゃない。これから話すのは仮説、憶測だ。それでもいいのか?」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:15:10.01 ID:NEUEpsasO

戦士「それでも構わない。話してくれ」

盗賊「……彼女は、輪転器なんだ」

戦士「!!?」

盗賊「もう察しが付いただろ。魔王がきみの部族を襲撃したのは彼女を手に入れる為だ」

盗賊「双子の姉、きみがいるのに何で彼女を攫ったのか。そこまでは流石に分からないけどな」

戦士「そんな……だとしたら、巫女様は全てを知っていて黙っていたのか? 私を育てたのは何故だ? 魔王に輪転器を与える為に部族の皆を裏切ったのか?」

盗賊「お、おい。しっかりしろ」

戦士「何故そんなことをするんだ? 王の力を断ち切るのが目的ではなかったのか? その為に私はお前とーー」
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:19:30.73 ID:NEUEpsasO

盗賊「ッ!!」

ギュッ!

盗賊「……もう止せ。今は何も考えるな」

戦士「なあ、教えてくれ……」ギュゥ

戦士「私はどうしたらいい。何を信じればいい。誰を憎めばいい。何か言ってくれ。私は、私は……」ポロポロ

盗賊「お互い、今は何を考えても答えは出ない。預言者に答えを聞こう」

戦士「っ、無理だ。情けないことに震えが止まらない。私は、知るのが怖いんだ……」

盗賊「大丈夫、大丈夫だ。俺が傍にいる。怖くなんかない。一緒に聞こう」

戦士「……お前は怖くないのか。全てが仕組まれていたのかもしれないんだぞ。妹との出会いすらも」

盗賊「もしそうだったとしても、俺がやることは変わらない。寧ろ、これではっきりしたよ」

戦士「やること?」

盗賊「女を泣かせた責任は必ず取らせる。戦う理由なんてのはそれだけで充分さ」
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 18:25:48.94 ID:NEUEpsasO

盗賊「ッ!!」

ギュッ!

盗賊「……もう止せ。今は何も考えるな」

戦士「なあ、教えてくれ……」ギュゥ

戦士「私はどうしたらいい。何を信じればいい。誰を憎めばいい。何か言ってくれ。私は、私は……」ポロポロ

盗賊「落ち着くんだ。今は何を考えても答えは出ない。預言者に答えを聞こう」

戦士「っ、無理だ。情けないことに震えが止まらない。私は、知るのが怖いんだ……」

盗賊「大丈夫、大丈夫だよ。俺が傍にいる。怖くなんかない。一緒に聞こう」

戦士「……お前は怖くないのか。全てが仕組まれていたのかもしれないんだぞ。妹との出会いすらも」

盗賊「もしそうだったとしても俺がやることは変わらない。寧ろ、これではっきりした」

戦士「?」

盗賊「女を泣かせた責任は必ず取らせる。戦う理由なんてのはそれだけで充分さ」
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/03(日) 22:11:14.66 ID:PfjP5Z8Yo
乙ー
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 23:21:54.96 ID:sIEmPr6tO

戦士「女を泣かせた。それが戦う理由?」

戦士「お前はそんなことの為に命を張るのか? 本気で言っているのか? お前は馬鹿か?」

盗賊「馬鹿でも阿呆でも構わない。俺にはそれだけで充分なんだ。それに、もう一つ見たいものが出来た」

戦士「見たいもの? 何だそれは」

盗賊「きみの笑った顔だよ。背負わされた痛みや悲しみは俺が全部拭い去ってやる」

戦士「傷だらけの奴が言っても説得力がないな」

盗賊「……せっかく格好付けたんだ。せめて頬を染めるなり恥ずかしがったりしてくれよ」

戦士「私がそんな女に見えるのか?」

盗賊「そう見えないから見たいんだよ。見せないから見たくなる。分っかんねえかなぁ……」
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/03(日) 23:25:02.13 ID:sIEmPr6tO

戦士「分からんな。まったく理解出来ない」

盗賊「そっか、そりゃ残念だ」

盗賊「それより、そろそろどいてくれないかな? 跨がられて抱き付かれたまま話すのは……」

戦士「苦しいか?」

盗賊「まさか、そんなわけないだろ? でもほら、この状況を見られたらあらぬ誤解を生みそうだしさ」

戦士「此処には私達しかいない。だから誤解は生まれないし何も起きはしない。違うか?」

盗賊「……あのさ、それは男として見てないってこと? それとも信用してくれてーー」

戦士「お喋りな鴉だな」ギュッ

盗賊「怖いのか?」

戦士「………もう少し。もう少しだけ、このままでいさせてくれないか。まだ、震えが止まらないんだ」
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 00:14:50.31 ID:z0piNFb+O

盗賊「……そっか」

戦士「………」ギュゥ

盗賊「(何か、姫様に抱き付かれた時のこと思い出すな。状況は全然違うけど……)」

戦士「……痛むだろう。殴って悪かった」

盗賊「気にすんな。何も知らない奴に知ったような口を利かれたら殴りたくもなるさ」

戦士「………妹は…その、どうなってた?」

盗賊「ん〜、最初は引っ込み思案で自分の気持ちに素直になれないって感じだったな」

盗賊「でも王宮を出てからは明るくなった。気弱に見えるけど、実は気が強くて芯がある。そんな子だよ」

戦士「……そうか。出来ることなら会ってみたいな。記憶がなくとも構わない、色々話したい」

盗賊「きっと会えるさ。というか、ニンゲンにこんなことしていいのか?」
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 00:33:01.13 ID:z0piNFb+O

戦士「こんなこと、とは?」

盗賊「今の状況のことだよ。触れたり抱き着いたり、抵抗とかないのか?」

戦士「ニンゲンの方がまだマシだ。火を放った奴等はこっち側の奴等だからな」

盗賊「……そうか。あのさ、襲撃以降は隠れ住んでるのか?」

戦士「ああ、何せ王が直接襲撃したんだ。王に敵視された種族が外で生きるなど危険過ぎる」

戦士「私達が『こうなった』のは他の種族も知っている。私達には此処で生きる他に道はなかったんだ」

盗賊「(姿を消した種族の隠れ里。狐娘が言ってた安住の地ってのは此処なのか?)」

戦士「お前こそ抵抗はないのか?」

盗賊「ん?」

戦士「ニンゲンはこちら側の奴等を蛮族と忌み嫌っているのだろう?」

盗賊「みたいだな。俺は角があろうと尻尾があろうと美女とあれば大歓迎だけどさ」

戦士「……お前の瞳には嘘がないな。妹が信用したのも分かる気がする」
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 01:50:29.92 ID:z0piNFb+O

盗賊「そうかな……」

戦士「ああ、お前の瞳は今までに見たことのない色をしているよ。何というか、綺麗だな」

盗賊「口説いてんのか?」

戦士「馬鹿を言うな。だが、これ以上は妹に悪いな。そろそろ退こう」スッ

盗賊「大丈夫か?」

戦士「ああ、もう随分と楽になった。休ませるつもりが余計に無理をさせてしまったな……」

盗賊「いいさ。薬塗って包帯を取り換えてくれただけでも充分だよ。んっ…いってえ」

戦士「無理するな。ほら、服を貸せ」

盗賊「……悪い」

戦士「前屈するようにして両手を下げろ。袖に通したら一気に着せられる。行くぞ?」
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 01:52:42.56 ID:z0piNFb+O

盗賊「んっ。何だか急に年取った気分だ」

盗賊「ったく、脱ぐ時は割と楽だったってのに。片腕を動かせねえってのはキツいな」

戦士「肩と胸の傷は癒えるまでに時間が掛かるだろう。完全に治癒するとなるとなれば数ヶ月は必要だ」

盗賊「……そこまで待っていられるほど時間はない。何とかやってくさ。さあ、行こうぜ」

戦士「待て」

盗賊「ん? 何だ?」

戦士「此処からは一定距離を進んだら休息を取るようにする。傷を増やしてしまったしな……」

盗賊「それはもういいって。ほら、行こうぜ」ニコッ

戦士「(私の笑った顔が見たいと言ったが、こいつのように笑えるとは自分でも思えない)」

盗賊「どうした?」

戦士「いや、何でも無い。先に進もう」ザッ

戦士「(いつかはこいつと同じように笑える日が来るのだろうか? 再び外で暮らせる時が来るのだろうか?)」

戦士「(私は『その先』など望んでいなかったはすなのに………何か、妙な気分だ……)」

ザッ…ザッ…ザッ…
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/04(月) 01:55:44.33 ID:z0piNFb+O

盗賊「んっ。何だか急に年取った気分だ」

盗賊「ったく、脱ぐ時は割と楽だったってのに。片腕を動かせねえってのはキツいな」

戦士「肩と胸の傷は癒えるまでに時間が掛かるだろう。完全に治癒するとなれば数ヶ月は必要だ」

盗賊「……そこまで待っていられるほど時間はない。何とかやってくさ。さあ、行こうぜ」

戦士「待て」

盗賊「ん? 何だ?」

戦士「此処からは一定距離を進んだら休息を取るようにする。傷を増やしてしまったしな……」

盗賊「それはもういいって。ほら、行こうぜ」ニコッ

戦士「(私の笑った顔が見たいと言っていたが、こいつのように笑えるとは自分でも思えない)」

盗賊「どうした?」

戦士「いや、何でも無い。先に進もう」ザッ

戦士「(いつかはこいつと同じように笑える日が来るのだろうか? 再び外で暮らせる時が来るのだろうか?)」

戦士「(私は『その先』など望んでいなかったはすなのに………何か、妙な気分だ……)」

ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/04(月) 01:56:23.34 ID:z0piNFb+O
ここまで
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/04(月) 02:35:49.88 ID:LF7Z3mDl0


エラー出ても大抵書き込まれてるので1度リロードして見るがよろし
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/04(月) 10:17:48.06 ID:fdHttSoBo
おつ
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/05(火) 20:26:48.06 ID:jRXBudPsO
おつ
やっと追いついた……姫様がどうなってるか気になるな
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/05(火) 22:25:36.50 ID:OIUUiY7+o
乙ー
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 20:46:17.25 ID:60/2RLhIO

ザッ…ザッ…ガサガサッ…

戦士「ん。よし、此処で止まれ」

盗賊「あのさ、こんな調子で大丈夫か? 気遣ってくれんのは嬉しいけど、これで五度目だぜ?」

戦士「いいから腰を下ろせ。話がある」

盗賊「……何だよ、改まって」トスッ

戦士「もうじき集落に到着するんだが、その前に伝えておかなければならないことがある」

盗賊「あ〜、しきたりとか掟とか?」

戦士「まあ、そんなものだ。私達には私達の常識というものがあってな。それを知って欲しい」

盗賊「……何だか難しそうだな」

戦士「そう難しい話ではないから安心しろ。誤りのないようにしておきたいだけだ」

盗賊「誤りって?」

戦士「まず、我が部族に長はいない。長と呼ばれる者はいるが権力者というわけではないんだ」
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 20:48:58.25 ID:60/2RLhIO

盗賊「仕切ってる奴がいないってことか?」

戦士「そうだ。長とは人望のある者、話の出来る者を指す。分かり易く言うなら世話役だな」

盗賊「何それ、お悩み相談でもしてんのか?」

戦士「正にそうだ。諍いを止めたり仲を取り持ったりする仲介役でもある」

盗賊「へ〜、世話焼き婆さんみたいだな」

戦士「認識としてはそれでいい。親しみやすい人物だからな。しかし、先程も言ったように権力者ではない」

戦士「命令を下したりなどは一切しないし強い発言権も決定権もない。それが我が部族の長だ」

盗賊「なら誰が指揮を執るんだ? 例えばこう、狩りに行くぞ。とかさ」

戦士「お前が想像しているような明確な首長はいない。私達は個々の意志で行動する。ただ……」
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 20:52:28.73 ID:60/2RLhIO

盗賊「ん? 何だ?」

戦士「集落には皆に尊敬されている戦士がいる。狩人という男だが、大戦士と呼ぶ者もいる」

戦士「奴は孤独を好み、他者を寄せ付けない。しばしば姿を消すこともある」

盗賊「うわぁ、すっげー気難しそうな奴だな」

戦士「ああ。だが、何も言わずとも人を動かす力を持っている。ひとたび武器を手に取れば皆が立ち上がるだろう」

盗賊「長よりもそいつを敵に回した方が厄介ってわけだ。そいつに嫌われでもしたら集落全体が敵になるんだろ?」

戦士「そうなるだろうな」

戦士「いいか、狩人に悪態は付くなよ。本人がどうするかは別として周りが黙ってはいない」

盗賊「そりゃ怖いな。忘れないように傷口にしっかり塗り込んでおくよ」

戦士「是非そうしてくれ。巫女様と話す前に荒事を起こすのは避けたいだろう?」
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 20:57:54.54 ID:60/2RLhIO

盗賊「そうだな。集落に入ったらきみの後ろで極力は大人しくしておくよ」

戦士「…………」ジー

盗賊「しらを切る泥棒を見るような目で見ないでくれ。大丈夫だって」

戦士「馬鹿にされたり嗤われたりしても黙っていられるか? 多少の痛みも伴うかもしれないぞ?」

盗賊「大丈夫さ。きみに迷惑を掛けるような真似はしないよ。鴉にだって鳴かない日はあるんだ」

戦士「………本当だろうな?」

盗賊「本当さ。それより一つ聞きたい、狩人と預言者の関係は? 対立してたりすんのか?」

戦士「いや、そこは問題ない。狩人は巫女様に対してある程度の敬意を示している」

盗賊「……なるほど、そいつのお陰で預言者は肩身の狭い思いをするだけで済んでるのか」

盗賊「部族の危機を見過ごした預言者が何で生きてんのか不思議だったけど、これで合点がいった」
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 21:01:50.51 ID:60/2RLhIO

戦士「………」

盗賊「っ、ごめん。別に貶すようなつもりはなかったんだ。ただ、さっきから気になっててさ。悪かった……」

戦士「……いや、いい。お前の言う通りだ。狩人がいなければ巫女様は殺されていただろう」

盗賊「狩人は何で預言者を…その……」

戦士「生かしておいたのか、か?」

盗賊「………ああ。だって他の奴等は嫌ってんだろ? 何で狩人だけが?」

戦士「分からん。殺すつもりならとっくに殺していただろう。奴は語らない、皆を煽動するようなこともしない」

戦士「やるとしたら一人だ。その意志を誰に告げることもない。標的に忍び寄り無慈悲に粛々と実行する」
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 21:05:29.94 ID:60/2RLhIO

盗賊「……怖ろしい御方ですね」

戦士「実際にそうだからな。寡黙で逞しく、恵まれた体格と優れた力を持ち。それをひけらかす真似もしない」

盗賊「へ〜、そりゃあ老若男女問わず好かれるわけだ。本物の格好良い男ってやつだな」ウン

戦士「ああ、だからこそ信頼も厚い。付け加えておくと、狩人はお前のような奴が大嫌いだ」

盗賊「うん、そうだろうね。そんな気はしてた。俺もそういう奴が苦手だから気持ちは分かるよ」

戦士「しつこく言うが本当に気を付けろよ。もし会っても要らぬことは絶対に言うな」

盗賊「分かってるさ。でも、良かったよ」

戦士「良かった? 何が?」

盗賊「いやほら、色々と訳ありって感じだけど狩人と預言者は対立してないんだろ?」

盗賊「その二人が敵対関係になくて本当に良かったと思ってさ。俺は預言者に会えればいいわけだし」

戦士「胸をなで下ろすにはまだ早い。巫女様に会うまで……いや、集落に入ってから出るまで気は抜くな」
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 21:49:49.91 ID:60/2RLhIO

盗賊「分かっております」

戦士「……はぁ、幾ら身を案じてもこれだ。見知らぬ土地に足を踏み入れるんだぞ? 少しは緊張感を持ったらどうだ」

盗賊「ぶっ倒れそうなくらい緊張してるよ。表に出してないだけさ」ニコッ

戦士「(これだけ言ってもまだ笑うか。雲の如く掴み所のない男だな。その胆力も凄まじい)」

戦士「(いち戦士として、この男がどんな道を歩んできたのか興味がある。しかし……)」チラッ

盗賊「はぁ〜、どれもこれもすっげえ樹だ。こんだけ大きいと登ってみたくなるな」ウズウズ

戦士「やめろ馬鹿。今の自分がどんな有り様なのか忘れたのか、このニワトリ頭」

盗賊「冗談です」

戦士「……はぁ、まあいい。これで話は終わりだ。そろそろ行くぞ」
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/06(水) 22:10:16.20 ID:60/2RLhIO

盗賊「そうだな。さぁて、行くかぁ」ノビー

戦士「(こんな奴だ。どんな道を歩んできたのか聞いた所で真面目に答えはしないだろうな)」

盗賊「急がなきゃならないとは分かってるけど、どんな所なのか楽しみだな」

戦士「(まったく、子供のような奴だな。怖れも迷いもなく、ただただ明るく温かい表情をする)」

ザッ…ザッ…

戦士「(思えば、以前は皆もこうだったな。明るく陽気で大らかで、温かい心を持っていた)」

戦士「(日の光を浴び、涼やかな風を受け、空を見つめ、何処までも続く草原を駆ける)」

戦士「(……皆がそうだった。あの日が訪れるまでは……)」

戦士「(今では家族を失った癒えぬ痛みと深い悲しみ。それらを抱えながら鬱々と過ごす日々)」

戦士「(あれから十数年が経ったが皆の時は止まったままだ………)」チラッ

盗賊「?」

戦士「(この男にとってはいい迷惑だろうが、期待している自分がいる。出会ったばかりだというのに……)」

戦士「(……こいつが私に与えてくれたもの。言葉には出来ない『それ』を皆が感じてくれたなら。もしそうなれば、きっと何かが変わる)」
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/07(木) 00:25:28.32 ID:dkXHxwjUO

【玉座の間】

老人「よくぞ無事に帰ってきた。礼を言うぞ」

騎士団長「……いえ。しかし、未だに現状が理解出来ません。御子息、将軍はなにゆえに姫様を?」

老人「あれが何を考えて兵を差し向けたのかは分からん。ただ、事が事だ。あれは地下牢に入れてある」

老人「娘の命を狙ったのは許せぬが、盗賊を捕らえられなかったとは不甲斐ない奴よ」

騎士団長「(攫えと依頼しておきながら何を……一体何を考えておられるのだ)」

老人「もう下がってよいぞ。疑問はあるだろうが今は傷を癒せ」

騎士団長「陛下、私に処罰は無いのですか?」

老人「何を言うかと思えば……」

騎士団長「如何なる理由があれど、職務を放棄して出奔したのは罪であります」

老人「お主は娘を捜し出しただけでなく、その身を挺して暗殺者から守り抜いたのだ。どう処罰しろというのだ?」
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/07(木) 00:27:52.13 ID:dkXHxwjUO

騎士団長「部下に示しが付きません」

老人「フッ、如何にもお主らしい。まあよい、お主には謹慎を申し付ける」

騎士団長「そ、それでは余りにーー」

老人「軽い、か?」

騎士団長「…………」

老人「分かってくれ、儂が与えられる罰はこれが精一杯だ。娘の恩人を罰する親など何処にいようか」

騎士団長「(これが本心でないことは私にも分かる。が、今の私が何を問おうと得られるものは何もない)」

騎士団長「(だが、ただ一つだけ確かなことがある。以前の陛下とは何かが違う。何かが……)」

老人「ふむ、色々と思い悩んでいるようだな。迷い、憂い、戸惑い。そして、疑念」
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/07(木) 00:30:25.51 ID:dkXHxwjUO

騎士団長「!!?」

老人「フッ…今は何も分からぬだろう。しかし、いずれ分かる時が来る。そして、その時は近い」

騎士団長「……その時、とは?」

老人「珍しく質問が多いな。お主から怖れを感じるぞ。何を怖れる? 何かを『知った』か?」

騎士団長「(な、何もかも見抜かれている。いや、見透かされているのか?)」

老人「誰に何を聞いたのかは知らぬが、妄言に惑わされるな。己の目で真実を見極めろ」

騎士団長「……っ、はい。では、失礼します」

老人「あぁ、言い忘れるところであった」

騎士団長「何でしょうか?」

老人「娘に此処へ来るようにと伝えて欲しいのだ。今すぐにでも顔が見たい。今すぐにな……」
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/07(木) 00:57:51.10 ID:dkXHxwjUO

騎士団長「………」ゾクッ

騎士団長「(今になって、今になって初めて、私の目の前にいるのが何者であるのか理解した)」

老人「先程より顔色が悪い。どうやら血を失い過ぎたようだな。早く戻って治療を受けるがよい」

騎士団長「……そうします」

老人「娘への言伝、頼んだぞ」

騎士団長「了解致しました。では……」

ザッ…ザッ…

騎士団長「(瞳の奥底に何かが潜んでいた。あれが姫様の言っていたものなのか?)」

騎士団長「(澱んだ水底に沈められたような息苦しさを感じた。それに酷い寒気がする。これは血を失ったからではない。怖れているからだ……)」

騎士団長「(ッ、冷や汗が止まらん。姫様の言っていた通り『あれ』は我々とは違う)」

騎士団長「(間違いない、あれこそが姫様の危惧している存在。封じられし、王の力……)」
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/07(木) 01:00:03.33 ID:dkXHxwjUO
ここまで
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/07(木) 09:02:38.04 ID:gQE9qSFlO
乙ー
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 19:28:00.34 ID:rdIqrNsDO

ギギィ…パタンッ…

騎士団長「……何だ、これは…」

ザワザワ…

『では、将軍指揮下の特殊部隊が姫様を襲ったと?』

『どうやらそうらしい。姫様のことは騎士団長殿がお守りしたようだ』

『陛下の命で騎士団も駆けつけたらしいぞ。幾ら騎士団長殿といえど、お一人では守り抜けなかっただろう』

『御子息に対しても警戒していたのか。流石と言うべきか、用心深いと言うべきか……』

『貴様、口が過ぎるぞ。しかし、将軍は何故に姫様を亡き者にしようとしたのだろうな』

『輪転機が関係していると聞いた。不死の力を求めたのかもしれない』
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 19:29:32.73 ID:rdIqrNsDO

『俺は世継の問題だと聞いた。陛下は姫様を次期の王にするつもりだとか何とか……』

『何を思って将軍に付いたのか分からないが余りに浅薄だ。処刑は間違いないだろう』

『ああ。それもそうだが、陛下は徹底的に叩くだろうな。一切の埃が出なくなるまで……』

『敵と見做せば我が子にも容赦無しか。何とも怖ろしい御方だ』

『何を馬鹿なことを、それは王として当然のことだ。時には冷徹にならねば国を統治出来ん』

『ところで姫様は? またあの部屋に?』

『いや、亡きお妃様の部屋に移ったようだ。盗賊の件もあったからな』
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 19:32:54.66 ID:rdIqrNsDO

『その盗賊は何処に?』

『姿を消したらしい。目下捜索中のようだが、果たして見付かるかどうか……』

『確かに。何せ、二度も王宮に忍び入った奴だ。そう簡単に見つかるとは思えない』

『しかし謎だな。結局、奴は姫様を攫って何をしたかったのだろうか?』

『さあな、狂人の考えることなど分からんよ。いや、理解したくもない』

『お前達、此処で何を言おうと勝手だが姫様が攫われたことは口外するな。あらぬ噂が立つ』

『言われずとも分かっている』

『姫様は王宮から出たことなどない。異性に触れたことなど一度もない』

『そうだ、それでいい。我々も民も何が起きたかなど知らない。いや、そもそも何も起きていないのだ』

騎士団長「(何と騒々しいことか。嘗て、これ程までに王宮が揺れたことがあっただろうか)」

騎士団長「(……いや、事の重大さを鑑みれば仕方のないことなのかもしれん)」
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 19:39:02.93 ID:rdIqrNsDO

ザッ…

騎士団長「……皆、道を開けてくれないか」

『騎士団長殿!!?』

『も、申し訳ありせんっ!!』サッ

騎士団長「………」ザッ

『……見ろ、甲冑が傷だらけだ』

『凄まじいな、正に命を賭して守り抜いたのだろう。あの甲冑に刻まれた傷こそがその証だ』

『突然王宮から姿を消したかと思えば姫様を保護しての帰還。何とも凄まじい行動力だ』

『出奔したと聞いた時は耳を疑ったが全ては姫様の為、延いては陛下を思ってのことだったのだろう』

騎士団長「(……過大評価だ。私は後先考えずに突っ走っただけの愚か者に過ぎない)」

騎士団長「(ッ、私のことなどどうでもいい。一刻も早く姫様にお伝えせねば。私がこの眼で見たものを……)」ザッ
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/09(土) 00:57:32.75 ID:M825V50JO

騎士団長「やれやれ、やっと着いたな」

騎士団長「廊下にあれだけの人数がいると此処まで来るにも一苦労……?」

射手「……姫様に何か用か?」

騎士団長「そうか、貴様が警護を担当していたのか。姫様の具合はどうだ? お怪我は?」

射手「……安心しろ、何ともない。お前はどうだ? 手当ては受けたのか?」

騎士団長「俺なら大丈夫だ。手当てなら到着した際に受けたからな」

射手「……顔色が悪いな。もう一度しっかり治療を受けろ。それから沢山飯を食え」

騎士団長「ああ、姫様への報告が済めばそうするとしよう。む、そう言えば、まだだったな」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/09(土) 00:58:59.60 ID:M825V50JO

射手「?」

騎士団長「礼がまだだった。姫様の下に駆け付けてくれたこと、心より感謝する」ザッ

射手「……礼はいい。ただ、もう無茶はするな。部下の皆が心配していたぞ」

騎士団長「そうか。皆には後で詫びなければならないな」

射手「……私も、心配した」

騎士団長「そ、そうか。それは済まなかったな。それより、姫様にお話せねばならないことがある」

射手「……分かった」

コンコンッ…

王女『はい』

射手「……騎士団長です。姫様にお話ししたいことがあると申しております」
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/09(土) 01:04:09.28 ID:M825V50JO

王女『分かりました。通して下さい』

射手「……さ、入れ」スッ

騎士団長「姫様、失礼します」

ガチャッ…パタンッ…

王女「騎士団長さん、王はどうでしたか?」

騎士団長「……以前とは明らかに様子が違っております。瞳の奥底に但ならぬ何かを感じました」

王女「そうですか……」

騎士団長「それと、陛下がお呼びです」

王女「分かりました。王が呼んでいるのであれば行かなければなりませんね。あまり気は進まないですけれど……」スッ

騎士団長「ッ、待って下さい」

王女「?」クルッ

騎士団長「一つ、お訊ねしたいことがあります。どうか正直にお答えて下さい」
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/09(土) 01:07:11.12 ID:M825V50JO

王女「何でしょう?」

騎士団長「………あなたは誰です?」

王女「………」

騎士団長「今の姫様は、人が変わったなどという表現では済まない程に……その、違っています」

王女「違う? 何が違うというのですか?」

騎士団長「迂遠な会話は不要です。お答え下さい。私は知りたいのです、真実を……」

王女「……いつ、お気付きになったのですか?」

騎士団長「奴を逃がす案を練っている時です。貴方は我々に対して指示を出しました」

騎士団長「自らが先に街を出ることで囮となり奴を別の道から逃がす。貴方は我々にそう『命じた』」

王女「ええ、確かにそう言いましたね。それのどこが不自然だったのでしょう?」

騎士団長「不自然ではないこと、それを不自然に感じたのです。まるで『慣れている』かのようでした」
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/09(土) 01:13:46.57 ID:M825V50JO

王女「なる程、そうでしたか……」

騎士団長「…………」

王女「………騎士団長さん。あなたは真実を知りたいと、そう言いましたね?」

騎士団長「はい」

王女「お話しするのは構いませんが、わたしが語る真実を信じることが出来ますか?」

王女「自分で言うのも妙ですが、とても信じ難いものだと思いますよ?」

騎士団長「王の力や死の騎士のことですか?」

王女「それは表面的なものに過ぎません」

騎士団長「?」

王女「あなたが知ろうとしているのは原因と結果。言わば、今に繋がるまでの全てです」
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/09(土) 01:47:50.33 ID:M825V50JO

騎士団長「今に繋がる全て……」

王女「ええ、そうです」

王女「本当に真実を知りたいのであれば付いて来て下さい。わたしはこれから、その原因と話さなければなりません」

騎士団長「原因?」

王女「ええ、あの者に宿るもの。王……いえ、輪転器から溢れ出ようとしている存在です」

王女「わたし個人としては、あなたにはこれ以上のことを知って欲しくはありません。知らずともよいこともあるのですよ?」

騎士団長「……いえ、行きます。中途半端には出来ません」

王女「後悔することになりますよ? 今ならまだ間に合いますが、本当に宜しいのですか?」

騎士団長「構いません。貴方が何者かは分かりまんが、私は姫様を守ると誓いました」

王女「……早速で申し訳ありませんが、それはもう叶いません」

騎士団長「何をーー」

王女「正直に話せと仰ったので正直に話します。あなたが姫様と呼ぶ存在はもういません」

王女「これは嘘でも冗談でもありません。これもまた、あなたが求めた真実の一つです」
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/09(土) 01:54:48.97 ID:M825V50JO

騎士団長「……何を、言っている」

王女「彼女は存在しないと言ったのです。彼女はわたしの器となってしまいましたからね」

王女「輪転器のことは既にご存知でしょう? 彼女はわたしの輪転器なのですよ」

王女「器となった者は消える。わたしという存在が流れ込んだ時、彼女は彼女でなくなった」

騎士団長「そんな馬鹿な話がーー」

王女「いいえ、あなたは既に分かっている。だからこそ、こう訊ねたのです」

王女「『貴方は誰か?』と」

騎士団長「それはっ…」

王女「真実は否定しようがない。目の前に在るものならば余計にそうでしょう」

王女「例え己の理解を超えていようとも、今のあなたは感じているはずです」

王女「わたしが王女なる存在ではないこと。そして、わたしの言葉に嘘偽りの無いことを」
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/09(土) 01:57:48.93 ID:M825V50JO
ここまで
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/09(土) 08:27:24.16 ID:GwP66kVUO
乙ー
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/09(土) 23:44:08.45 ID:p0HpI8qKO
広げた風呂敷を畳めるのか見物だな
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/12(火) 21:20:37.32 ID:/z9V4oG80

伏線はもちろんタイトル回収とかも楽しみだ
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:37:12.14 ID:b36DU9ymO

騎士団長「………有り得ない」

王女「有り得ない、ですか。それは信じ難いものを目にした時などに口にする言葉ですね」

王女「あなたの場合はそれを口にすることで心を保とうとしている。求めた真実を否定してまで……」

騎士団長「違う。体を残して命が消えるなど有り得るはずがない。そう言っているのだ」

王女「では、目の前にいる存在をどうやって証明するのですか? 気が触れたとでも?」

騎士団長「ッ、貴方こそ、どうやったらそんなことが出来る。それこそ証明しようがないはずだ」

騎士団長「肉体はそのままに姫様が亡くなったなど到底信じられるものではない」

王女「では、憑依しただとか乗り移ったとでも言えば納得するのですか? それはそれで疑わしいと思いますが?」

騎士団長「これは納得出来る出来ないの話ではない。これは余りにーー」

王女「あまりに荒唐無稽、まるで絵空事のようだ。ですか?」
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:39:58.13 ID:b36DU9ymO

騎士団長「………」

王女「随分と思い悩んだ顔をしていますね。真実を感じていながら理解は出来ていない」

王女「……いえ、直感が真実だと告げているけれど心が理解したくない。でしょうか?」

騎士団長「(ッ、そうだ。感じてはいる。目の前の存在が姫様ではないであろうことも分かっている……)」

騎士団長「(紡ぐ言葉に内包された強い意志。気圧される程の存在感と威圧感。これらは姫様のような少女が身に付けられるものではない)」

騎士団長「(それ故にこれが嘘ではないと分かる。理解したくなくとも理解させられる。しかし……)」

王女「もう一度言いますが、これは現実です」

王女「わたしはこの子を器として転生してしまいました。千と余年の時を経て」
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:43:32.72 ID:b36DU9ymO

騎士団長「……千と、余年?」

王女「ええ、あの人と別れてからそれだけの年月が経ちました。本当の本当に気の遠くなるような時間が……」

騎士団長「………改めて問います。貴方は誰です」

王女「あら、最初の質問に戻ってしまいましたね」

騎士団長「答えて下さい」

王女「……先程とは顔付きが変わりましたね。とても強い決意を感じます。迷いは消えましたか?」

騎士団長「決意などではありません。腹を括っただけのことです。さあ、お答え下さい」

王女「……そうですか。では、あまり時間もないので簡潔に申しましょう」

王女「わたしは魔王と呼ばれた存在。王の力をその身に宿した最初の王です」
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:45:23.77 ID:b36DU9ymO

騎士団長「(力を宿した、始まりの王……)」

王女「あら、あまり驚かれないのですね」

騎士団長「驚くだけの余裕がないだけです。お気になさらず、そのまま続けて下さい」

王女「分かりました。では続けましょう」

王女「長くなるので力を宿した経緯は省きますが、王の力は途轍もなく強大でした」

王女「そこでわたしは、力を封印することにしたのです。暴走を防ぐために」

騎士団長「しかし、力は代々の王にーー」

王女「ええ、そうですね。封印された力は代々受け継がれてきました。わたしと共に」

騎士団長「……い、意味が分かりません。どういうことです?」
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:48:37.32 ID:b36DU9ymO

王女「わたしと共に封印したのです。あの時、わたしと王の力は一つでしたからね」

王女「抑え付けたと言うべきか縛ったと言うべきか。何と言えば良いのでしょうね」

王女「え〜っと、分かり易く言うなら力を閉じ込めました。わたしが容れ物なったのです」

騎士団長「容れ物、ですか」

王女「そうです。それこそが輪転器の始まり」

王女「わたしが力を封じ込めた容器だとすれば、輪転器となった者は容器の容器ということになります」

騎士団長「あの、いまいち意味が……」

王女「あっ、申し訳ありせん。少々分かり辛かったですね。わたしと王の力、双方を受け継いできという意味です」

騎士団長「……王の力は貴方が封じた。王は代々、貴方と王の力の双方を受け継い……双方?」
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:52:57.52 ID:b36DU9ymO

王女「わたしと共に封印したのですよ。あの時、わたしと王の力は一つでしたからね」

王女「抑え付けたと言うべきか縛ったと言うべきか。何と言えば良いのでしょう……」

王女「え〜っと……分かり易く言うなら力を閉じ込めました。わたしが容れ物となったのです」

騎士団長「……容れ物、ですか」

王女「そうです。それこそが輪転器の始まり」

王女「わたしが王の力を封じ込めた容器だとすれば、輪転器となった者は容器の容器ということになります」

騎士団長「あの、いまいち意味が……」

王女「あっ、申し訳ありせん。少々分かり辛かったですね。わたしと王の力、双方を受け継いできたという意味です」

騎士団長「……王の力は貴方が封じた。王は代々、貴方と力の双方を受け継い……双方?」
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:55:19.32 ID:b36DU9ymO

王女「ええ、そうです。双方です」

騎士団長「では、貴方が此処にいるということは……」

王女「お考えの通りです。わたしがこの輪転器に入ったことにより封印は解けつつあります」

騎士団長「(……街を出る間際に言っていた王の力の封印とはこのことだったのか)」

王女「どうしました?」

騎士団長「いえ、それより封印はどうなるのですか? 私が見たものは、今の陛下の中にいるのは何なのです?」

王女「あなたが見たものは、輪転器から溢れ出つつある王の力そのものです」
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 20:57:15.97 ID:b36DU9ymO

騎士団長「力そのもの?」

王女「ええ。厄介なことに、あれには意志があります」

王女「我々とは決して相容れぬ意志。とても危険なものです。わたしはそれ故に封印を施しました」

騎士団長「それ程までに危険なものであるなら何故に……転生、でしたか? それを実行したのですか?」

王女「……誘惑に負けたのです。わたしの輪転器と成り得る者。つまり、この子の現れによって」

騎士団長「誘惑?」

王女「……あの人に会いたかった。あの人に触れたかった。あの時のように抱き締めて欲しかった。あの時のように、もう一度……」

騎士団長「………」

王女「もし次があるのなら、次こそは自分の望みを叶えたい。そう思い続け、そう願い続けていました……」
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 21:02:22.65 ID:b36DU9ymO

騎士団長「(自分の、望み………!!)」

王女『自分の気持ちを押し殺し、あの場所に閉じ籠もっているのはとても苦しかった』

王女『皆の為に諦めた自分の想いや願い。それらを見続ける毎日でした。あの日から、ずっと』

騎士団長「(そうか、そうだったのか。あの時の言葉はこういうことだったのか)」

王女「……千年という月日は、余りに長すぎました……」

王女「王の力を封じることは出来たというのに、時が経つにつれて強くなる自分の想いを封じることは出来なかった……」

騎士団長「…………行きましょう」

王女「えっ?」

騎士団長「知りたければ付いて来て下さい。そう言ったのは貴方です」

王女「いいのですか? わたしは王女ではないのですよ? あなたが守ると誓った者ではないのですよ?」
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/13(水) 21:08:23.91 ID:b36DU9ymO

騎士団長「もし……」

王女「?」

騎士団長「もし姫様が『戻られる』ことがあるのなら、私は貴方を守らなければならない」

王女「残念ですが、そんなことは有り得ーー」

騎士団長「証明出来ますか? そんなことは有り得ないと断言出来ますか?」

騎士団長「私にとっては貴方の存在ですら信じ難く有り得ないものなのです。ですから、私は信じられる」

王女「信じる?」

騎士団長「はい。有り得ないと思えるようなことも時には起こり得る。貴方の存在が正にそうです」

騎士団長「姫様は戻らないと言われようと、そんなことは有り得ないと言われようと、私は信じます。姫様は必ずや戻って来ると信じています」

王女「……そうですか。では、わたしからはもう何も言うことはありませんね……」

騎士団長「……さあ、行きましょう。真実を知る覚悟は出来ております」

王女「分かりました。では、参りましょうか。王が……あの者が、わたしを待っています」
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/14(木) 00:27:26.40 ID:7+WnNsEPO
乙ー
563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/18(月) 02:38:15.32 ID:R/GJ4WubO
投稿頻度が低いと飽きられるから大変
あんまり作り込んだストーリーにしない方がいい
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/22(金) 23:28:14.07 ID:edTmlWm3O

ガチャッ…パタンッ

射手「……長かったな」

騎士団長「諸々の状況整理をしていたのだ。陛下には街での出来事を改めてお伝えしなければならない」

射手「……ということは、お前も一緒に?」

騎士団長「ああ、俺は姫様と共に陛下の元へ行く。先程は詳しく話すことが出来なかったからな」

射手「……そうか。ところで姫様は?」

騎士団長「何やら探し物があるらしい。少しばかり待っていて欲しいとのことだ」

射手「……そうか」

騎士団長「………ああ……」

射手「……っ、私も一緒に行ーー」

騎士団長「駄目だ。扉の前で何を聞いていたのか知らんが妙な気は起こすな」
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/22(金) 23:31:03.28 ID:edTmlWm3O

射手「……私では守れないと?」

騎士団長「そういうことではない。そもそも貴様には俺と共に来る理由がない」

射手「……理由なら、ある。私はーー」

騎士団長「如何なる理由があろうと来る必要は無い。貴様は絶対に来るな」

射手「……何故だ。何故私では駄目なんだ」

騎士団長「……貴様はこの先を知らなくていい。知る必要もない。だから、これ以上は立ち入るな」

射手「……っ、何だそれは、警告のつもりか」

騎士団長「警告ではない。貴様の身を案じて言っているのだ。どうか、分かってくれ……」

射手「……私だって…私だってお前をーー」

ガチャッ…パタンッ

王女「申し訳ありせん。お待たせしました」

騎士団長「お探しの物は見付かりましたか?」

王女「……いえ、見付かりませんでした。おそらく襲撃の際にでも落としてしまったのでしょう」

王女「非常に残念ですけれど無いものは仕方がありません……さあ、参りましょう」
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/22(金) 23:54:47.07 ID:edTmlWm3O

騎士団長「分かりました。後は頼むぞ」

射手「……っ、分かった」

騎士団長「俺に…いや、王宮に何かあれば峡谷を目指せ。突然こんなことを言われても意味が分からんと思うが心に留めて置いてくれ」ポツリ

射手「待っーー」

騎士団長「行ってくる。備えは怠るなよ」

ザッザッザッ……

射手「……っ、いつもこれだ。お前はいつの時もそうだ。私が傍に立とうとする度に背を向ける。何も言わせずに遠ざける……」ギュッ

ーーーー
ーーー
ーー


ギギィ…バタンッ

王女「………」

騎士団長「………」

老人「……来たか。遂に、遂にこの時が来たのだな。我が子よ、愛しき娘よ……」
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/23(土) 01:01:53.04 ID:+OJS5t9rO

王女「あなたの娘になった覚えはありません」

老人「お主も儂から生まれ出た一つだ。娘と呼ぶことに差し支えはあるまい」

王女「……その者の意識はあるようですね。残り僅かのようですが」

老人「うむ、器に選ばれただけのことはある。今の儂では破ることは出来ぬだろう」

老人「しかし老いた器の意識など直に霧散する。現に儂は儂自身の言葉で話している」

王女「………」

老人「これが消えた時、儂は再臨する。この者の比ではない、若く強靱な器を得て……」

王女「……なる程、そういうことですか」

騎士団長「(まるで意味が分からん。王の輪転器とは姫様のことではなかったのか?)」

老人「否、王の輪転器はその娘…王女ではない」

騎士団長「!!?(やはり読まれている? しかし、心を読むなどーー)」

老人「不可能ではない。自らが不可能であるとするから不可能なのだ。本来ならば全ては…まあ、よい………」
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