魔王「リインカーネーション」

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368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 22:49:24.35 ID:RlZ2n5szO

王女「冗談…ではないのですね」

盗賊「ああ、朦朧としてたけどはっきりと憶えてる。兜が外れたと思ったら俺の顔が出てきたんだ」

盗賊「……まあ、だから何だって話なんだけどさ。でも同じ顔なんて気味が悪いだろ? 輪転器だとか言われるしさ」

王女「……今のお話を疑うつもりはないですが、顔や白騎士について確かめる術はありません」

盗賊「確かめる術がない? 遺体が消えてたとか?」

王女「い、いえ、そうではありません」

王女「王宮関係者である騎士団長さんも立ち会って身元を確認したらしいのですが、判別不能だったと言っていました」
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/30(金) 23:12:43.97 ID:RlZ2n5szO

盗賊「えっ、何で?」

王女「……遺体が枯れ果てていたらしいのです。まるで血の一滴まで吸い取られたように」

盗賊「んな馬鹿な!! あんなに元気に飛び跳ねてたってのに中身は干涸らびてたってのかよ」

王女「兵士さんや騎士団長さん。警備隊の皆さんも同じ反応をしていました。あり得ない…と」

盗賊「ってことは白騎士については何も掴めなかったのか。益々わけが分からなくなったな」

王女「……そうですね。様々な思惑が蠢いているような気がします」

盗賊「(あの爺さんが嘘吐いてんのか? それとも将軍が裏で何かやってんのか?)」

王女「………」キュッ

盗賊「(……家族に命を狙われてるかもしれないんだ。血の繋がりがなくても、そう考えるだけで辛いだろうな)」

盗賊「(姫様は巻き込んだって言ってたけど、巻き込まれたのは俺達の方なんじゃねえか? 何かもっと、大きなものに……)」
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/02(日) 01:56:05.18 ID:If7cuYzZO
飽きた?
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/03(月) 23:32:06.85 ID:uwchgiKz0
まってる
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 18:07:10.88 ID:/nEX0JHPO

盗賊「………」ウーン

王女「泥棒さん? どうしました?」

盗賊「あ〜。いや、何でもない。さっきのやつまだ残ってるかな。喋り過ぎて喉が渇いてきた」

王女「あっ、はい。まだありますよ」スッ

盗賊「ありがとう。んっ…あ〜、美味い。ところで姫様、俺はどのくらい寝てた?」

王女「丸二日です。あの夜、兵士さんとお医者様がこの教会跡地に運んでくれたのですよ?」

盗賊「……そっか。じゃあ後で礼を言わねえと。姫様にも面倒掛けちゃったな」

王女「いえ、そんなことはありません。わたしにはこれくらいしか出来ませんから……」

盗賊「そんな風に言うなよ。俺はその『これくらい』ってやつに助けられたんだからさ」ニコッ

王女「……泥棒さん…」

盗賊「それに、長いこと此処に居て様子を見ててくれたんだろ? そこの机に日記あるし」
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 18:15:41.22 ID:/nEX0JHPO

王女「それはその、色々ありまして……」

盗賊「色々って?」

王女「……街のお医者様がニンゲンに付きっきりで看病することは出来ないと仰ったのです。今にも息絶えようとしているのにですよ?」

盗賊「そ、そうなの?」

王女「はい。それでわたし、恥ずかしながら怒鳴ってしまいまして……泥棒さんの命を救って下さった恩人に対して何て失礼な真似を……」

盗賊「ま、まあそれは仕方ねえさ」

王女「……仕方がない?仕方がないとは何が仕方ないのですか? 死んでいたかもしれないのですよ?」

盗賊「(怖っ!!) い、いや、俺みたいなニンゲンを看病したら気が触れてると思われちまうだろ?」

盗賊「死にかけのニンゲンを助けようとしてくれただけでもありがたいもんだよ。軟膏とかもくれたしさ」
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 19:09:41.02 ID:/nEX0JHPO

王女「……泥棒さんは傷付いたりはしないのですか?」

盗賊「ニンゲンの扱いに?」

王女「ニンゲンの扱いではありません。ニンゲンに対する接し方に。です」

盗賊「接し方…ね。こっち側じゃあ随分と変わった言い方だな。初めて聞いたかもしんねえ」

王女「っ、やはり酷いのですか?」

盗賊「別に酷いとは思わない。こっちにはこっちの常識ってもんがある。だろ?」

王女「……わたしには…あなたを殺してしまう常識など必要ありません」

盗賊「姫様?」

王女「ニンゲンだから助けない。ニンゲンだから一人で戦わせる。ニンゲンだから死んでも構わない。ニンゲンだからっ……」キュッ
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/08(土) 19:38:02.65 ID:bUPlqLnM0
きた!
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 20:46:11.91 ID:/nEX0JHPO

盗賊「そう言ってたの?」

王女「……はい。差別や偏見はニンゲンに限ったことではない。それはこちら側でも起きていることなのだと言われました」

王女「泥棒さんにはこちら側に思うところはないのですか? そういったものに対して……」

盗賊「ん〜、何だか難しい話だなぁ。あのさ、これって俺個人の考えでいいんだろ? ニンゲンとして。とかじゃなくてさ」

王女「はい。泥棒さんの考えを聞かせて下さい」

盗賊「俺はこっちも向こうも変わりないと思うよ? 良い奴はいるけど悪い奴はもっといる」

盗賊「確かに風当たりは強いけど、初めて会った奴といきなり仲良くなんて出来ない」

盗賊「姫様だって初対面の奴に『同族なのでお友達になりましょう』なんて言われたら戸惑うだろ?」

王女「そう…かもしれませんね」

盗賊「なっ? だから種族なんて関係ないのさ。そんなのは性格の不一致ってやつだよ」
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 21:06:45.13 ID:/nEX0JHPO

王女「……性格だけではないと思います」

盗賊「そりゃあ根付いた差別なんかが邪魔するかもしれないけど、良い奴は良い奴さ」

盗賊「ツノがあっても尻尾があっても牙や爪があっても、そこは絶対に変わらない」

王女「そうなのでしょうか……」

盗賊「そうさ。だって実際に助けてくれたのはニンゲンじゃないだろ?」

王女「それは…そうですけれど……」

盗賊「姫様は難しく考え過ぎだよ。種族は違っても男は男。女は女」

盗賊「どのくらいの種族がいるのか知らねえけど性別は二つしかない。必要なのは愛だよ、愛」ウン
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 21:44:21.42 ID:/nEX0JHPO

王女「あ、愛!?」

盗賊「だってそうだろ? 種族が違っても綺麗な女性は綺麗な女性なんだ」

盗賊「ツノが生えていようが尻尾が生えていようが綺麗な女性だという事実に変わりはない」

盗賊「男は女性を守るべきだし女性は男を優しく包み込む存在であるべきだ。と私は思うわけだよ」

盗賊「そう考えれば種族間の問題なんて些細なもんさ。そう思うだろ?」

王女「……何だか、やけに饒舌ですね。言い慣れているように思えます」

盗賊「……これは種族の垣根を越えて仲良くなる為の必要技能なんだ」

王女「綺麗な女性と。ですか?」ニコッ

盗賊「いやいやいや? 俺は別にーー」

王女「泥棒さんが眠っている間、あのお店の看板娘さんから色々な話を伺いました。先日お見舞いに来てくれたんですよ?」ニコッ
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 22:16:07.03 ID:/nEX0JHPO

盗賊「へ〜、そうなんだ。それは嬉しい限りですね」

王女「ええ、わたしも嬉しかったです。ニンゲンとしてではなく本質を見ている方でした。あのような方がもっといれば良いのにと心から思います」

王女「ところで、とってもお上手なようですね。女性を口説くのが」

盗賊「姫様、それは違う。あれは行き違いというか擦れ違いというかアレがアレなんだよ」

王女「フフッ、何がですか?」

盗賊「……え〜っと。ほら、アレだよ。気になる女性に微笑みかけられると俺に惚れてるんじゃないかと思ったりするやつだ」

盗賊「あのキツネ娘は俺が助けた時に掛けた何気ない言葉をそのように捉えたのだと思います」ハイ

王女「勘違いさせるような言葉を言ったのではないのですか? 例えば……」

王女「俺はきみの尻尾は綺麗だと思うぜ? 他の奴等が何を言ってるか知らないけどさ。とか」

王女「尻尾にその模様がなかったら俺ときみがこうして出会うこともなかった。とか」

王女「きみが特別だから尻尾も特別なんだよ。きっと天が二物を与えたのさ。とか」

盗賊「(……あのキツネ、都合のいいとこだけ切り取って姫様に話しやがったな)」
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 23:25:00.85 ID:/nEX0JHPO

王女「……本当に色々なことを聞きました」

盗賊「?」

王女「思い立ったらすぐに動く。何かあれば所構わず飛び込む。無茶ばかりしていると」

王女「根付いた差別や偏見などどこ吹く風、種族も境界線も飛び越えて何処までも自由に……」

盗賊「そんなに考えてねえよ。やりたいことをやってるだけさ」

王女「……大凡の者はそのようには出来ません。何故です? 何故そのように生きられるのですか?」

盗賊「単純な話さ。こういう奴なんだよ、俺はね」

王女「……それでは答えになってませんよ。ずるいです」

盗賊「でもさ、そんなもんだよ。行きたい場所へ行って、見たいものを見る」

盗賊「俺がやってるのはそれだけさ。余計な荷物は肩に載せないようにしてるんだ」
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/08(土) 23:33:23.52 ID:/nEX0JHPO

王女「余計な荷物?」

盗賊「差別だとかそういうもんだよ。そんなもんベタベタくっつけてたら身動き取れなくなる」

王女「………」

盗賊「くぁ…ごめん。急に眠たくなってきたから寝るよ」ゴソゴソ

王女「あっ、はい。申し訳ありません。傷が痛むのに長話に付き合わせてしまって……」

盗賊「そんなことないよ。多分さっきの飲み物に何か入ってたんだと思う。姫様も疲れてるだろ? 早めに休んだ方がいいぜ」

王女「……はい、そうします。ゆっくり休んで下さい」

盗賊「ん、お休み……」

王女「あ、ちょっと待って下さい。包帯の取り替えと軟膏を塗らないと」

盗賊「あ〜、そっか。じゃあ、お願いします」ムクッ

スルッ…パサッ…

王女「(酷い傷。何度も見たけれど、見るたびにそう思う。治るまでにどれだけの時間が……あれ?)」
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/09(日) 00:12:19.83 ID:LVRUYPaNO

盗賊「…スー…スー…」カクンッ

王女「あっ…」

ポフッ…

王女「ふぅ、危なかった。無理をさせてしまいましたね。後は任せてゆっくりと休んで下さい」

スルスル…ヌリヌリ…

王女「(右肩と胸の傷は勿論、背中の傷にもまだ熱がある。触れていると火傷しそう)」

王女「(聞きたいことは沢山あったけれど、こうして生きているのならそれだけで……)」

盗賊「…ん…」ビクッ

王女「(やはり痛むのでしょうか。泥棒さん、ごめんなさい。もう少しで終わりますから)」

盗賊「…くす…ぐったい…」

王女「(ふふっ、くすぐったかったんですね。何だか赤ん坊みたい……)」
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/09(日) 00:28:35.82 ID:LVRUYPaNO

盗賊「…ん〜……」

王女「(そう言えば看板娘さんが言っていましたね。こんな無防備な姿はそうそう見られるものじゃないって)」

盗賊「…スー…スー…」

王女「………」スッ

プニプニ…

王女「(体は引き締まっているけれど頬は柔らかい。黒髪、おでこ、瞼、鼻筋、唇……)」

王女「(顎から首をなぞって鎖骨から胸板に……)」

盗賊「……寒…い……」

王女「(っ、わたしは何を……早く終わらせて服を着せないと……でも、何だかおかしい)」

王女「(早く傷が癒えて元気になって欲しいのに、ずっとこのままでいられたらなどと考えてしまう……そんなこと駄目なのに)」

ズキッ!

王女「っ、違う。わたしは何も間違っていない。ずっと二人きり。そう、この人はわたしのーー」
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/09(日) 17:44:47.80 ID:zCyzYusgO
面白いですね、乙ー
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:14:12.29 ID:axYEm/xEO

【玉座の間】

老人「首尾はどうだ。順調か」

将軍「それは父上が一番良く分かっているでしょう。私が改めて報告せずとも感じているはずです」

老人「ああ分かっている。分かっているからこそ、お前の口から聞きたいのだ」

将軍「……全ては父上の目論み通りですよ。奴は白騎士に勝利しました。辛勝ではありますが」

老人「納得出来ないと言った顔だな。まだ信じられぬか?」

将軍「いえ。白騎士に期限が迫っていたとは言え、奴は最後まで一人で戦い抜き勝利した。その戦術と技量は認めざるを得ません」

将軍「加えて意志の強さ。抗い難い死の誘惑をも撥ね除ける力を持っている。相応しい器だとは思います」
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:17:08.65 ID:axYEm/xEO

老人「ふむ。ならばその顔の陰りは何だ?」

将軍「認めざるを得ない男ではあります。しかし、奴はニンゲン。器として保つのか否か。そこが気掛かりでなりません」

老人「白騎士に勝利したのが何よりの証明だと思うがな。現に呑まれてはいまい?」

将軍「それは三騎士の全てに通じることです。その結果、彼等は呑まれている」

老人「呑まれたのは彼女を求めたからに他ならない。だが此度は違う」

老人「長い長い時を経て、遂に二つの輪転器は揃ったのだ。求めるものが傍らにあるのなら呑まれはせんだろう」

将軍「輪転器が輪転器の狂いを抑えると? 不確定なものに縋るのは如何かと思いますが」
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:19:34.38 ID:axYEm/xEO

老人「フッ、抑える。か」

将軍「……何か可笑しいことでも?」

老人「お前は誰かを愛したことがあるか?」

将軍「質問の意味が分かりません。それとこれと何の関係がーー」

老人「良く聞け。もう二度と会うことは叶わぬと悲観に暮れていた。その最中に思い人と再会出来たらどうする?」

将軍「……戸惑うでしょうね。もう二度と会えぬはずだったのですから」

老人「悲観に暮れていた時が千年ならばどうだ? いや、もっと長い時ならばどうする?」

将軍「……想像も出来ません。父上、この問いの意図は何です?」

老人「結論から言えば抑えることなど出来はしないと言うことだ。何せ千年以上も煮詰めた愛だ。止める術などありはせんよ」
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:43:04.47 ID:axYEm/xEO

将軍「あの二人を引き合わせたのは、その狂いを抑える為だったのでは?」

老人「それもある。が、儂の目的は王の力からの解放。あの二人を引き合わせたのもその為だ」

将軍「……今のは父上自身の言葉ですか?」

老人「ああ、これは紛うことなく儂の言葉。彼女の愛を垣間見た、王の声だ」

将軍「千年以上も愛し続けるなど常軌を逸している。そんなものを見続けるなど苦痛でしかないと思いますが」

老人「……王の力を継承をした者の宿命だ。だが、直に解放される。このまま何の邪魔も入らなければな」

将軍「………」

老人「その様子だと上手く行っていないようだな。早めに手を打つものと思っていたが」

将軍「時を計っているだけです。輪転器の破壊はより一層慎重にすべきだということが今の会話で分かりました」

老人「計っている間にも時は回る。頭の中で策を巡らすだけでは何も得られぬぞ」
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/11(火) 12:44:43.86 ID:axYEm/xEO

将軍「急かしているようにしか聞こえませんね」

老人「助言しているだけだ。父としてな」

将軍「父の言葉といえども助けにならぬものを助言として受け取るわけには行きません」

老人「フッ、そうか。ならば好きにするがよい」

将軍「元よりそのつもりです。では……」ザッ

ギギィ…パタンッ…

将軍「(奴は負傷している。父上が次の騎士を動かす前に一度仕掛けてみるのも手だ。騎士団長のお陰で口実は出来ている)」

将軍「(こういった場合は挑発に乗った方が面白い。如何なる状況だろうと楽しむ。苦境など苦境と思わなければいい)」

将軍「(明らかに不利な戦であろうと常に有利であるような心持ちで動く。心に余裕があれば戦術の幅も広がる)」

将軍「………そうですよね、父上…」ポツリ
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/16(日) 00:15:00.68 ID:M5pIqeUiO

【詰め所】

警備兵「……ハァ」コトッ

警備兵「(報告書を書こうにも何と書けば良いのか分からない。この二日で何枚無駄にしただろうか)」

警備兵「(事実は事実。起きた事をそのまま書けば良いのだろうが、問題はその事実というやつだ)」

警備兵「(干涸らびた遺体が殺人を犯したなど誰が信じる? これではまるで作り話。創作だ)」

警備兵「…チッ…もう面倒だ。やはりそれらしく現実的に書いた方がーー」

ガチャッ…バタンッ…

騎士団長「……はぁ」

警備兵「お疲れのようですね。団長殿」

騎士団長「それは君もだ。隈が酷いぞ」

警備兵「創作のような事件をさも現実の事件のように創作するのに四苦八苦していましてね」
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/16(日) 14:44:16.94 ID:luxEjUDrO
乙ー
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 00:55:23.55 ID:1R/q2gQOO

騎士団長「報告書か。こんな街の警備兵にしておくには勿体ない程に勤勉だな」

警備兵「お褒め頂き光栄です。団長殿は彼女の付き添いを?」

騎士団長「うむ。あのような輩と二人きりにするわけにはいかんからな。今ならば問題ないだろうが」

警備兵「ということは、奴はまだ?」

騎士団長「ああ、未だ目覚めてはいない。姫様もいつになく思い悩んだ顔をしておられた」

警備兵「……そうですか。ところで彼女は何処に?」

騎士団長「医師の所へ送り届けた。今頃は奴の経過などを話していることだろう」

警備兵「一人で置いてきたのですか。この二日間、片時も離れずに護衛していたというのに」

騎士団長「今日もそのつもりではいたのだが、私が傍らにいると姫様の気が休まらないと思ってな……」
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 01:12:13.63 ID:1R/q2gQOO

警備兵「まあ、そうでしょう」

騎士団長「?」

警備兵「いや、湯浴みにさえ付いて来られればそうなるでしょう? 流石にあれは度が過ぎていますよ」

騎士団長「ぐっ…し、しかしだな……」

警備兵「ご心配なさるお気持ちは分かりますが彼女の素性は知られていません。もう少し楽にしたらどうです?」

騎士団長「それは自分でも思う。しかし敢えて手を抜くだとか肩の力を抜くだとか、そういう類のことは昔から苦手なのだ」

騎士団長「戦闘や訓練ならば出来ないこともないのだが、こういった任務だと中々な……」

警備兵「(厳密には任務ではない。それを任務と捉えて行動するあたりが正に堅物だ。良く言えば勤勉。悪く言えば融通が利かない)」

警備兵「(ただ、部下に好かれる男だということは分かる。思いやりがすぎる嫌いはあるが……)」
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 01:39:52.03 ID:1R/q2gQOO

騎士団長「同じく隊を率いる君に聞きたい」

警備兵「は、はぁ。何でしょう?(こんな街の警備隊と王宮騎士団を一緒にしていいのか……)」

騎士団長「君はいつもどうしている? 癖のある連中をまとめるのは疲れるだろう」

警備兵「まとめてなどいませんよ。事件が起きた時は私が勝手に推理して勝手に解決しているだけです」

騎士団長「何? では、これまで起きた事件の全てを一人で?」

警備兵「ええ、大体は。私ような奴に付いてくる者はいません。ここでは変わり者ですから」

騎士団長「うぅむ、街の平和の為に尽力する者を変わり者扱いか。まるでなっとらんな」

警備兵「……警備隊とは言っても自警団に毛が生えた程度ですからね。仕方がないですよ」

警備兵「隊長はかなり高齢の方で腰痛を理由に長らく休んでいますしね」

騎士団長「高齢ならば若い者が代わればいいではないか。彼は次期隊長を指名しなかったのか?」

警備兵「……実のところ何度も頼まれてはいるんですがね。独断専行の自分には隊長など務まらないと固辞しています」
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/17(月) 02:10:30.43 ID:5HwslOvro
乙ー
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 02:17:42.74 ID:1R/q2gQOO

騎士団長「いかんな」

警備兵「?」

騎士団長「如何なる集団だろうと長は必要だ。頼るとも頼らざるとも部下の自由だが、長がいれば個々が締まる」

騎士団長「警備隊の面々を見たが、俺がやらずとも誰かがやるだろうという雰囲気に満ちている。その『誰か』というのが君だ」

警備兵「………」

騎士団長「有能が故に同僚と馴染めないのなら、才を活かして上に立つべきだ」

警備兵「親身になって頂いて恐縮ですが、私は人を束ねるような器ではないので……」

騎士団長「束ねずともいい」

警備兵「どういうことです?」

騎士団長「上に立つ者が成果をあげれば勝手に付いてくる。君の場合、同じ立場だからいかんのだ」
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 02:24:38.98 ID:1R/q2gQOO

警備兵「はぁ、そうなんですかね」

騎士団長「ああ、断言出来る。君と似た奴が王宮で隊長をやっているからな」

警備兵「(意外と懐が深いんだな。輪を乱す者は許さない徹底した規律を持つ集団かと思っていたんだが……)」

騎士団長「そいつは腕は良いが口数が少なくてな……」

騎士団長「誰よりも献身的なのだが人目に付かないようにしていたものだから誰もそれに気付かなかった」

警備兵「では、どうやって隊長に?」

騎士団長「周りが放っておかなかった」

警備兵「?」

騎士団長「倒れたのだ。何もかも自分で出来るものだから無理が祟ったのだろう。それをきっかけに皆が気付いた」

騎士団長「訓練用の武器の手入れや管理。それらを知らぬ間に片付けていた存在にな」
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/17(月) 02:28:11.86 ID:1R/q2gQOO

警備兵「………」

騎士団長「何でも出来るが頼ることを知らん。口数も少ない。ならば皆で支えよう……という運びになったようだ」

警備兵「そうなるとは限りませんよ。私と彼では環境が違う」

騎士団長「うむ、そうだな。しかし、このままでは機能しなくなるぞ」

警備兵「まあ、考えてはみますよ。それより、そろそろ迎えに行った方が良いのではないですか?」

騎士団長「そ、そうであった!! 早く行かなくては……では、失礼!!」ザッ

ガチャッ…バタンッ!

警備兵「慌ただしい人だ。しかし、あんな風に話したのは初めてだな。あれも彼の人柄の為せる業か……」

警備兵「……俺にああいったことは出来ない。そもそも上に立つなど柄じゃない。やはり一人の方が性に合ってーー」

ガサッ…バサバサッ…

警備兵「……いや、やはり事務員くらいは欲しいな。あまりお茶を飲まなくて綺麗好きでうんと真面目な奴がいい」
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/17(月) 02:36:23.61 ID:1R/q2gQOO
今日はここまで
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/17(月) 13:53:28.51 ID:5HwslOvro
乙ー
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 18:28:13.70 ID:LEa1hsVBO
ーーー
ーー


医師「……何でまたそんなことを」

王女「深い理由などありません。ただ、あの人にはもう少しだけ休んでいて欲しいのです」

王女「あの日からというもの傷を負ってばかり。ゆっくりと眠る間も、傷を癒やす間もありませんでしたから……」

医師「だから嘘を? まだ二日しか経っていないから今はそれで凌げるかもしれないが長くは続かないぞ?」

王女「ええ、分かっています。でも、せめて人の手を借りてでも動けるようになるまでは休んで欲しいのです。だから協力をーー」

医師「悪いが無理だ。俺の立場も危ういんだ。警備兵の旦那には何かあったらすぐに報告しろと言われてる」
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 18:51:45.06 ID:LEa1hsVBO

王女「っ…どうか、お願いしますっ」

医師「………ハァ…分かったよ。あんたのような美女にそこまで頼まれちゃあ断れん」

王女「!! あ、ありがとうございますっ……」

医師「一つ聞いても良いか?」

王女「え、ええ。わたしが答えられる範囲であれば……」

医師「なに、そう難しい話じゃない。俺個人の興味から来る極々単純な質問だ」

王女「?」

医師「お嬢さん。あんたはあいつに惚れてるのか? あのニンゲンに」

王女「はい。わたしはあの人を愛しています。もう、随分と前から……」
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 18:54:20.07 ID:LEa1hsVBO

医師「………」

王女「あの、どうかしましたか?」

医師「い、いや、あまりに素直に答えたもんだから面食らった。付き合いは長いのかい?」

王女「……どうなのでしょうね」ポツリ

医師「?」

王女「自分でも分からないのです。とても長かったような、ほんの瞬きの間だったような気もします」

王女「気付いた時にはあの人を愛していました。この思いは決して叶わぬこととは分かっていながら、わたしはあの人を愛してしまった……」

医師「(叶わぬ恋か。それはそうだろうな。ニンゲンと恋に落ちるなど許されるはずがない)」

医師「(美人な上に家柄もかなり良さそうだ。きっと親が猛反対したんだろう)」
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 18:56:21.84 ID:LEa1hsVBO

医師「………」

王女「あの、どうかしましたか?」

医師「い、いや、あまりに素直に答えたもんだから面食らった。付き合いは長いのかい?」

王女「……どうなのでしょうね」ポツリ

医師「?」

王女「自分でも分からないのです。とても長かったような、ほんの瞬きの間だったような気もします」

王女「気付いた時にはあの人を愛していました。この思いが決して叶わぬことと分かっていながら、わたしはあの人を愛してしまった……」

医師「(叶わぬ恋か。それはそうだろうな。ニンゲンと恋に落ちるなど許されるはずがない)」

医師「(美人な上に家柄もかなり良さそうだ。きっと親が猛反対したんだろう)」
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 19:33:01.48 ID:LEa1hsVBO

王女「あの日のことは、今でも忘れられません」

医師「(なんて深い悲しみに満ちた顔だ。というか、これは若い女が出来る表情じゃない。何というか、まるで未亡人のような……)」

王女「……ごめんなさい、あの人とのことは上手く言葉に出来ません。本当に沢山の…色々なことがありましたから」

医師「そ、そうか。色々と大変だったんだな。済まないな、立ち入ったことを聞いしまって……」

王女「いえ、そんなことはありません。今のわたしはあの人に寄り添って生きていける。それだけで幸せですから」

医師「…ハァ…まったく、そこまで言ってくれる女がいるなんて心底羨ましいぜ」

医師「奴が起きたら今の言葉を直接言ってやれ。痛みを忘れて飛び跳ねて喜ぶだろうよ」

王女「そ、そうでしょうか?」

医師「何を言ってんだ? そこまで言われて喜ばない野郎がいるわけがないだろう?」
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 20:11:54.91 ID:LEa1hsVBO

王女「……難しい人ですから」

医師「そうなのか? 話を聞いた限り馬鹿で向こう見ずで楽天的な奴だと思っていたんだが」

王女「そう見えるだけで内面はしっかりしていますよ? 白い騎士との戦いに臨んだのも熟考した上でのことです」

王女「そうでなければ白い騎士を相手に五体満足で勝つことなど出来なかったでしょう」

医師「……まあ、確かに」

王女「考え無しに思えて実はそうではないのです。あの人はあの人なりにしっかりと物事を見ているのですよ?」

医師「分かった分かった。負けたよ。だからそんなに熱く愛を語らないでくれ。このままじゃ胸焼けしそうだ」

王女「そ、そんなつもりで話していたわけではありません!」カァァ

医師「ハハハッ! 済まないな。あまりに熱心に語るもんだからからかいたくなった」

王女「真面目に話していただけなのに……」

医師「(……やけに大人びてると思えば恥じらう少女のように顔を赤らめる。こういうとこにやれらたのかね)」
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 20:44:53.50 ID:LEa1hsVBO

カランッ…カタカタ…

医師「っ、またかよ。本当に気味が悪いな。何なんだよこいつは……」ガシッ

王女「………」

医師「驚いたろ?」

王女「えっ……あっ、はい。とても驚きました。申し訳ありません。突然のことで声も出なくて……」

医師「こんなものを見れば誰でもそうなる。俺も初めて見た時はそうだったからな」

医師「一見普通の結晶に見えるが生き物みたいに動きやがる。興味深いがそれ以上に不気味でな……」

王女「……あの、それをどこで?」

医師「これは奴の腹から取り出したものだ。半ばまで突き刺さっていたんだが傷一つなかった。まったく奇妙なもんだよ、こいつは」カランッ

王女「っ、もし宜しければその結晶を頂けませんか?」

医師「はぁ? 何だってこんなもんを?」

王女「既にご存知だと思いますがあの人は泥棒です。そのような珍妙な品には目がないのですよ」
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 21:48:39.27 ID:LEa1hsVBO

医師「泥棒?」

王女「え、ええ。そうです。ご存知だと思っていましたが……」

医師「(……そう言えば、警備兵の旦那が王宮に忍び込んだとか言ってたな。詳しくは教えちゃくれなかったが)」

王女「……あの、駄目でしょうか?」

医師「いや、別にやるのは構わんよ。置いていても不気味なだけだ」スッ

王女「あ、ありがとうございますっ。急に譲ってくれなどと言って申し訳ありませんでした」

医師「礼も謝罪もいらんよ。元々は奴の腹に刺さってたものだからな」

王女「………」ギュッ

医師「大層嬉しそうだが泥棒ってのはそんなものでも喜ぶのか? 変わってるんだな」

王女「……こういった曰く付きの品を蒐集するのが好きな人なので……」

医師「世の中にはそういう奴がいるみたいだが俺にはさっぱり理解出来んな。何がいいのやら……」

医師「しかし、あんたのようなお嬢さんが泥棒に恋をするなんて信じられんよ」
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 23:00:45.40 ID:LEa1hsVBO

医師「しかも奴はニンゲンだ。尚更疑問だよ」

王女「種族の違いなど些細なことです。同族であっても見るに堪えない争いを起こします」

王女「種族の繋がりなど脆い。今この瞬間にも同族の手によって苦しんでいる方もいるでしょう」

医師「………」

王女「そんな世界で誰を信頼し、誰を愛するのか。それはとても難しいことです」

王女「けれど、わたしは幸運にも彼のような存在に出会えました。この人だけは失いたくない。そう思える存在に……」

王女「彼が何者であろうと、わたしは最期まで共にいるつもりです。それがわたしの望みですから」

医師「(夢見る年頃。良いとこのお嬢さんかとばかり思っていたが、どうやら間違っていたようだ)」

医師「(まさかこんな覚悟を持っていたとは思いもしなかった)」

王女「?」

医師「(まったく、立派な女性だよ。歳で判断するもんじゃないな……)」
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 23:09:59.66 ID:LEa1hsVBO

ガチャッ!

医師「!?」

騎士団長「ひ…お嬢様!!!」

王女「!!」ビクッ

騎士団長「良かった。入れ違いになってしまったのかとーー」

医師「…ハァ…心配して来たのは分かるが驚かさないでくれ。お嬢さんの心臓が止まったらどうする?」

騎士団長「も、申し訳ない……」

王女「あの、何かあったのですか?」

騎士団長「いえ、異常はありません。お迎えに上がりました」

王女「そ、そうですか……」

騎士団長「お嬢様、もうじき日が暮れます。宿に戻りましょう」
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 23:38:52.15 ID:LEa1hsVBO

王女「え、ええ。分かりました」

騎士団長「さあ、行きましょう。何があるとも分かりませんからな」

医師「なあ、警護の人」

騎士団長「……警護? あ、ああ。私に何か?」

医師「いや、随分と過保護だと思ったもんでな。彼女はそんなに良いとこのお嬢さんなのか?」

騎士団長「良いとこのお嬢さんだと……貴様、この方を誰だと思っている」

医師「いや、だから良いとこのお嬢さーー」

騎士団長「喧しい!! いいか、1度しか言わぬから良く聞け!! この方は畏れ多くもーー」
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/19(水) 23:41:27.87 ID:LEa1hsVBO

王女「あ、あのっ!」

騎士団長「如何しまし………」ハッ

王女「落ち着きましたか? では、そろそろ行きましょう」

騎士団長「は、はい。そうですな」

王女「お騒がせして申し訳ありません」

医師「え? あ、ああ……」ポカーン

王女「それから、お話を聞いて下さってありがとうございます。では、今日はこれで失礼します」

バタンッ…

医師「何がなにやら。まるで嵐のようだったな……」ポツン
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/20(木) 01:28:19.25 ID:GasoOL9so
乙ー
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/23(日) 07:10:00.25 ID:RQkqjq3cO
エタ
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 00:17:19.57 ID:Y3JrDDfTO

トコトコ…

王女「………」

騎士団長「(う、うぅむ。何か気を悪くさせるようなことをしてしまったのだろうか)」

騎士団長「(先程から何も言わず俯いたままだ。やはり湯浴みに付いていこうとしたのが悪かったのか……)」

王女「……騎士団長さん」

騎士団長「な、何でしょうか?」

王女「好きな人はいますか?」

騎士団長「は…えっ!? 姫様、今なんと?」

王女「何かを犠牲にしても守りたいと思う。真っ先に思い浮かぶ。そういった方はいますか?」
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 00:19:25.36 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「い、いえ、おりません」

王女「それは何故です?」

騎士団長「何故と言われましても。職務上、愛や恋に現を抜かす暇などありませんので……」

王女「今はそうでしょうけれど恋をしたことはあるでしょう?」

騎士団長「……それは、まあ…騎士になってから交際したことはありませんが」

王女「苦しくはないのですか?」

騎士団長「そんなことはありません。職務の方が大事ですので」

王女「……そうですか。わたしは苦しかったです」ポツリ
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 00:30:20.95 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「姫様?」

王女「自分の気持ちを押し殺し、あの場所に閉じ籠もっているのはとても苦しかった」

王女「皆の為に諦めた自分の想いや願い。それらを見続ける毎日でした。あの日から、ずっと……」

騎士団長「………」

王女「こうして再び外に出られるだなんて想像もしていませんでした。もう二度と…そう思っていましたから」

騎士団長「……王宮に戻りたくはないと?」

王女「ええ、そうですね。出来ることならこのままでいたいと思っています」

騎士団長「(っ、姫様のお気持ちも今ならば分かる。しかし、騎士としてやるべきはーー)」

王女「けれど」

騎士団長「?」

王女「けれど、そうもいかないことは分かっています。いずれは戻らなければならないでしょう」
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 00:33:05.55 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「いずれは? それは一体どういう?」

王女「騎士団長さん、一度だけ我が儘を聞いてくれませんか? 一度だけの頼み事です」

騎士団長「……それは、内容によります」

王女「そんなに険しい顔をしなくても大丈夫ですよ。そう難しい話ではありません」

王女「彼が目を覚ますまで待って欲しいのです。彼が目覚めれば王宮に戻ります」

騎士団長「何故そこまでして……」

王女「愛しているからです」ニコッ

騎士団長「なっ…」

王女「わたしがこんなことを言うなんて意外ですか?」

騎士団長「い、いやいやっ! そういうことではありません。奴は悪党、無法者ですぞ!?」
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/24(月) 01:52:13.57 ID:Y3JrDDfTO

王女「ええ、言われずとも分かっています。ですが、それとこれとは話が別です」

王女「彼がわたしを救ってくれたことに変わりはないのです。受けた恩を返すくらいはさせて下さい」

騎士団長「し、しかし…」

王女「とても意地の悪い言い方になりますが、如何にニンゲンとはいえ恩人を見捨てるような真似が出来ますか?」

騎士団長「うぐっ…それは……」

王女「騎士団長としても個人としても、そういった人道に背くようなことを出来るような人とはとても思えませんが……」

騎士団長「わ、分かりました。少しばかり時間を下さい。今すぐには答えられません」

王女「……考えて下さるだけでもありがたいです。先程は意地の悪いことを言って申し訳ありませんでした……」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 02:15:30.09 ID:Y3JrDDfTO

騎士団長「いえ、姫様の仰る通りです」

騎士団長「恩人に対して何も返さぬというのは私も如何なものかと思います」

王女「……ありがとうございます。騎士団長さんが来てくれて良かったです。他の方ならどうなっていたか…」

騎士団長「姫様、まだそうすると決めたわけでは……」

王女「そ、そうでしたね……」

騎士団長「(もう一度あの医師に奴を診断して貰わなければ。その結果次第で決めることにしよう)」

騎士団長「(あまりに長く掛かりそうな場合は姫様には申し訳ないが諦めて頂く他ない)」

トコトコ…

騎士団長「そろそろ宿に着きますな。私は部屋の前にいますので何かあれば仰って下さい」

王女「あのぅ…それなのですが、あれから宿も変更して部屋も広いですし中にーー」

騎士団長「何度も言いましたがそれは出来ません。ましてや姫様と同じ部屋に入るなど決してーー」
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 02:21:14.20 ID:Y3JrDDfTO

王女「湯浴みには付いてこようとしたのに。ですか?」

騎士団長「そ、それははそれ。これはこれです。出掛ける際は必ず同行します。湯浴み以外は……」

王女「フフッ…ええ、そうしてくれると助かります。他の女性客の方達も驚いていましたから」

騎士団長「申し訳ありませんでした。姫様が刺客に狙われているかと思うと周りが見えなくなってしまって」

王女「いえ、わたしだけならばよいのです。ただ、他のお客様にまでご迷惑を掛けるのはちょっと……」

騎士団長「………」

王女「どうしました?」

騎士団長「いえ、何でもありません。さ、宿に着きましたぞ。入りましょう」
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/24(月) 02:27:10.11 ID:Y3JrDDfTO

王女「は、はい。そうですね」トコトコ

騎士団長「(世辞にも姫様が泊まるに相応しい宿とは言えん。にもかかわらず文句一つ言わず、それどころか他の宿泊客のことまで配慮して……)」

騎士団長「(以前に王族関係者の警護をした時とは天と地の差。あのような輩には姫様の爪の垢でも煎じてーー)」

王女「どうしたのですか? 冷えてきましたし入りましょう? 風邪を引いたら大変ですよ?」

騎士団長「………」ジーン

王女「?」

騎士団長「姫様のことは命に代えてもお守りいたします。御安心下さい」ドンッ

王女「へっ?」

騎士団長「さ、入りましょう。冷えてきましたからな。風邪を引いたら大変ですぞ?」

王女「は、はぁ……」
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/24(月) 15:10:11.92 ID:CLbC6O0Eo
乙ー
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 12:31:53.54 ID:q/U8JrihO

【宿屋】

騎士団長「(愛している。か)」

騎士団長「(あのような快活な笑顔を見るのは初めてだ。恋する乙女とは正にあのことだろう)」

騎士団長「(……だが、あの表情の奥にはそれだけではない何かがあるような気がする)」

騎士団長「(会話の最中には気にならなかったが、今になって妙な違和感を覚える)」

騎士団長「(どう表現すればいいのか分からんが。何というか、姫様らしくなかった)」

騎士団長「(何も知らぬのにらしくないと言うのもおかしな話だが、何かが引っ掛かる)」

『今はそうでも恋をしたことはあるでしょう?』

『何かを犠牲にしても守りたいと思う。真っ先に思い浮かぶ。そういった方はいますか?』

騎士団長「(………あたかも年上の女性と話しているような……そうだ。違和感はそこにある)」
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 12:46:48.53 ID:q/U8JrihO

騎士団長「(からかうのとはまた違う)」

騎士団長「(母親から恋人が出来たのかと訊ねられた時のような。そんな感覚……)」

騎士団長「(あの時の姫様は少女と言うにはあまりにも大人びていた。表情や口調。それらが目上の者に対するものではなかった)」

騎士団長「(道に迷う若者に物腰柔らかく語り掛けるような。あれは、人生を『知っている者』特有のーー)」

コツコツ…

警備兵「随分と難しい顔をしていますが、どうかしましたか?」

騎士団長「いや、少し気になることがあってな。それより、君は何故此処に?」

警備兵「これを届けに来ました。団長殿宛てです」スッ

騎士団長「書簡? こ、この印は……」カサッ

警備兵「……では、私はこれで失礼します」
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 13:32:35.65 ID:q/U8JrihO

警備兵「(王宮からの書簡……)」ツカツカ

警備兵「(大方、彼女を連れ帰れという指示か何かだろう。だが何故だ。何故、騎士団長がこの街にいることを知っている?)」

警備兵「(彼は独断でこの街に来たと言っていたはずだ)」

警備兵「(当初は何かしらの密命を帯びているのかとも思ったが彼は人を騙すような……いや、そんな器用な人物だとは思えない)」

警備兵「(彼が王宮に報せた様子も無い。情報交換をしているとしたら先程の反応はあまりに不自然だ)」

警備兵「(ならば、王宮に情報を流している何者かが街に潜伏していると考えるのが自然だろう)」

警備兵「(……書簡の内容には非常に興味を引かれるが、これ以上の詮索はすべきではないな)」

警備兵「(俺には俺の、彼には彼のやるべきことがある。早く詰め所に戻って報告書の続きでも書くか)」ガチャリ
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/27(木) 13:35:35.51 ID:q/U8JrihO

ドタドタドタッ!

警備兵「ん?」クルッ

ガシッ!

警備兵「!!?」

騎士団長「…はぁっ…はぁっ…ま、待ってくれ」

警備兵「ど、どうしたんです? 血相を変えて……」

騎士団長「頼みがある」

警備兵「は、はい?」

騎士団長「事情は説明する。しかし此処ではまずい。姫…お嬢様には申し訳ないが部屋で話そう」

警備兵「いや、急にそんなことを言われましても。それに、まだ協力するとは一言もーー」

騎士団長「頼むっ!この通りだ!!」ザッ

警備兵「……一大事。ですか」

騎士団長「……ああ。一大事だ」

警備兵「……分かりました。では、急ぎましょう。表情から察するに時間もなさそうだ」
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/28(金) 03:27:34.28 ID:5n2/RwoyO
乙ー
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/28(金) 23:59:43.96 ID:wa2XofG2O

ーーー
ーー


盗賊「………殺す?」

看板娘「そ。不要になった輪転機の破棄。それから輪転機が輪転器であることを知る者の抹消」

盗賊「つまりは姫様と俺を殺せってことか。依頼に裏があるとは思ってたけど随分と急だな。それは爺さんが?」

看板娘「違う違う。王サマの息子、将軍だよ」

盗賊「あ、そう。まあ、それはどっちでもいい。それより足洗ったんじゃなかった?」

看板娘「あれ、足洗ってるとこなんて見せたっけ? 一緒にお風呂入ったことないよね?」

盗賊「……見られてなくても風呂に入ったら足は洗えよ。清潔感のない奴は嫌われますよ?」

看板娘「失礼な。ちゃんと隅々まで洗ってるよ。なんなら嗅いでみる?」
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 00:14:47.72 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「魅力的な提案だけど遠慮しとくよ。で?」

看板娘「ん? 何が?」

盗賊「何がじゃねえよ。質問の意味分かってんだろ。お前はどっちの味方なんだ?」

看板娘「あたしが敵に見えるわけ? 敵はこんなにペラペラ喋らないよ」

盗賊「……王宮の奴等に情報売ってた癖に良く言うぜ」

看板娘「あたしが売らなくても奴等なら直に嗅ぎ付けてた。それに、そのまま売ったわけじゃないから安心して? 現にこの場所まではバレてないし」

盗賊「はぁ…お前、王宮の奴等相手に偽情報掴ませてたのか。相変わらずだな」

看板娘「全部が嘘ってわけじゃないよ。真実7の嘘2。創作1って感じ」

盗賊「……比率なんかどうでもいいんだよ。いいのか? また前みたいなことになっちまうぞ」

看板娘「大丈夫。そうはならないしヘマもしない。何せ、これが最後の仕事だからね」
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 00:26:10.92 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「……何でだよ」

看板娘「?」

盗賊「せっかく表に慣れてたのに何で戻っちまったんだ。真っ当な人生に飽きちまったのか? あんなに憧れてたってのによ」

看板娘「……あんたのこと嗅ぎ回ってる奴がいたんだ。あんなの見ちゃったら仕方ないでしょ?」

盗賊「だったら俺に直接言えば良かっただろうが。危険を犯して情報流した意味が分かんねえ」

看板娘「ちょっとでも向こうの足を遅らせようと思ってさ。駄目だった?」

盗賊「駄目っつーか、せっかく手にしたもんを簡単に手放すなよ。店の制服似合ってたのに勿体ねえな……」

看板娘「……今の暮らしを手に出来たのはあんたがいたからなんだ。だからさ、少しくらい恩返しさせてよ」
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 01:11:48.45 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「返される恩がデカ過ぎんだよ」

看板娘「そう? あの時と同等のものを返そうとしてるつもりなんだけどね」

盗賊「そもそも恩を売ったつもりはねえ。だから返す必要なんかないんだ」

看板娘「あんたがそう思ってても、あたしにとってはそうじゃない。返すなら今しかないの」

盗賊「……今を捨ててまで返すもんじゃないだろ。もう少し後先考えろよ。嫁に行くとか色々あるだろ」

看板娘「結構前から嫁ぎ先は決めてるんだけど相手が乗り気じゃないからね〜」ニコッ

盗賊「……職業柄、収入が不安定なんだ。結婚するなら安定した収入のある男にしときなさい」

看板娘「はぁ、いつもそうやってはぐらかすんだから……罪な男だよね、あんたってさ」

盗賊「そりゃあ常日頃から罪深いことばっかやってるからな。何たって泥棒さんだし」
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 01:59:22.06 ID:3Ro3ad/0O

看板娘「……あの、さ」

盗賊「ん?」

看板娘「姫様のこと、本気なの?」

盗賊「どの辺から本気なのか分かんねえけど、今までにないくらい欲しいと思ってる」

看板娘「これでもかってくらいに本気だね。泥棒のクセに姫様に心奪われたわけだ」ニヤニヤ

盗賊「ん〜、そうかもしれねえな。上手く言えねえけど姫様は何か違うんだよ」

看板娘「………そっか。やっぱりそうだよね。うん、分かった」
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 02:04:41.32 ID:3Ro3ad/0O

盗賊「分かった?」

看板娘「気にしないで、こっちの話だから。それより動けるよね?」

盗賊「そんな風に聞かれたら「はい」としか言えねえだろ。向こうの手筈は整ってんのか?」

看板娘「勿論。向こうには騎士団長と警備兵がいるからね。色々あったけど何とか協力する方向に持っていけたよ」

盗賊「……良く信用してくれたな」

看板娘「事情を説明したら分かってくれたよ。警備兵には過去のことを根掘り葉掘り聞かれたけどさ……」

盗賊「そりゃそうだろうな。で、どうすんだ? 策は練ってあんだろ?」

看板娘「うん。あんたと姫様を今夜中に奴等の手の届かない場所に逃がす」

盗賊「そんなとこあるっけ?」

看板娘「一つだけね。こっち側で王の力が一切及ばない安息の地ってやつがね」
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/29(土) 02:18:19.93 ID:e21hpOA8O
乙ー
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/29(土) 02:56:36.16 ID:rEyUOzjxO

盗賊「分かった?」

看板娘「こっちの話。それより動けるよね?」

盗賊「そんな風に聞かれたら「はい」としか言えねえだろ。向こうの手筈は整ってんのか?」

看板娘「勿論。向こうには騎士団長と警備兵がいるからね。かなり苦労したけど何とか協力する方向に持っていけた」

盗賊「……良く信用してくれたな」

看板娘「事情を説明したら分かってくれたよ。警備兵には過去のことを根掘り葉掘り聞かれたけどね……」

盗賊「そりゃそうだろうな。で、どうすんだ? 策は練ってあんだろ?」

看板娘「うん。あんたと姫様を今夜中に奴等の手の届かない場所に逃がす」

盗賊「えっ、そんなとこあんの?」

看板娘「一つだけあるんだ。こっち側で王の力が一切及ばない唯一の安息の地っやつがね」
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/10(木) 23:54:00.30 ID:RQFCICMUO
盗賊「分かったって何が?」

看板娘「こっちの話。それより動けるよね?」

盗賊「そんな風に聞かれたら「はい」としか言えねえだろ。向こうの手筈は整ってんのか?」

看板娘「勿論。向こうには騎士団長と警備兵がいるからね。かなり苦労したけど何とか協力する方向に持っていけた」

盗賊「……良く信用してくれたな」

看板娘「事情を説明したら分かってくれたよ。警備兵には過去のことを根掘り葉掘り聞かれたけどね……」

盗賊「そりゃそうだろうな。で、どうすんだ? 策は練ってあんだろ?」

看板娘「うん。あんたと姫様を今夜中に奴等の手の届かない場所に逃がす」

盗賊「えっ、そんなとこあんの?」

看板娘「一つだけあるんだ。王の力が一切及ばない唯一の安息の地ってやつがね」
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/12(土) 12:59:02.66 ID:+6DblcTJ0
はよ
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:06:27.43 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「安息の地、ね……」

看板娘「そんな顔しなくたって大丈夫。此処にいるよりは何十倍も安全だから。多分」

盗賊「多分ってお前…行ったことねえのかよ……」

看板娘「まあまあ、そこは着いてからのお楽しみってことにしといてよ」ニコッ

盗賊「……はぁ、分かったよ。どの道、今はお前を信じるしかなさそうだしな」

看板娘「理解が早くて助かるよ」

盗賊「で、俺は何をすればいい? この体でどこまでやれるか分かんねえけど出来ることはするぜ?」

看板娘「………」

盗賊「どうした?」

看板娘「あんたがそういうニンゲン……」

看板娘「ううん、そういう男だってことは分かってるつもり。けどさ、少しは考えなよ」
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:07:53.13 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「はぁ? 何だよ急に」

看板娘「惚れてる女がいるなら悲しませるような真似はすんなって言ってんの」

盗賊「……ちゃんと考えてるさ」

看板娘「考えてない。意地張って格好付けて、無理して無茶して死ぬ際まで行って……」

盗賊「そうしなきゃならなかった。戦う以外に道はなかったんだ。仕方ねえだろ?」

看板娘「あんたは止まることを知らない。普通の…まともな奴なら逃げてる。化け物と戦おうなんて考えない」

盗賊「かもな。でも、知っての通り俺は普通じゃない」ニコッ
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:10:36.22 ID:3NGyzUZ5O

看板娘「ッ、ヘラヘラすんなっ!!」

バチンッ!

盗賊「………」

看板娘「今まではそれで良かったかもしれない。けど、今は違うでしょ!?」

看板娘「あんたが姫様のことを思ってるように、姫様もあんたのことを思ってる」

看板娘「姫様を本当に大切だと思うんなら、姫様が大切にしてるあんたを大切にしなよ……」ポロポロ

盗賊「……お前…」

看板娘「あんたに自覚はないだろうけど、何かを決めて走り出した時のあんたは、まるで死を迎えに行ってるように見える」

盗賊「………」

看板娘「あんなことをいつまでも続けてたら、いつかは絶対に死ぬ。惚れた女を残して逝くなんて最低だよ?」
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:13:40.82 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「確かにそいつは最低だな。でも、置いて逝っちまうつもりはねえよ」

看板娘「だったら!!」

盗賊「大丈夫さ。俺を見ろよ。棺桶には入っちまったけど生きてるだろ?」ニコッ

看板娘「…………はぁ、もういいよ。あんたはホントに変わらないね」

盗賊「お前は変わったな。狐の嫁入りが見られるとは思わなかったよ」

看板娘「何なら狐の婿入りを見せてくれても構わないよ?」クスッ

盗賊「俺の目はそう簡単に雨は降らせねえよ。さ、長話はこの辺にして安息の地とやらに行こうぜ」

看板娘「ああ、そうだね。早いとこ…? ちょっと待って、誰か来る……」サッ
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:15:46.02 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「ッ、王宮の奴等に嗅ぎ付けられたか。何人だ?」

看板娘「一人。ちょっと見てくるよ。あんたは此処で待ってて、一人なら何とか出来る」ザッ

盗賊「ちょっと待った」ガシッ

看板娘「どうしたの?」

盗賊「俺も行く。まだ満足には動けねえけど陽動くらいなら出来る」

ギュッ!

看板娘「ありがとね……」

盗賊「おっ、おい。こんなことしてる場合じゃーー」

看板娘「盗賊。あんたなら、そうしてくれるって信じてた」ポツリ
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/23(水) 01:17:49.43 ID:3NGyzUZ5O

盗賊「は? 何を言ってーー」

看板娘「ごめんね……」

チクッ…

盗賊「何を…ッ…」クラッ

看板娘「あんたはホントに変わらないね。でも、狐につままれるのはこれで最後。お休み、盗賊」

盗賊「っ、お前、何するつも…りだ……」フラッ

ギュッ…

看板娘「……終わったよ。油断させるのにちょっと手間取ったけど、予定通りでしょ?」

ザッ…

警備兵「ああ、予定通りだ。彼女と団長殿は先に行った。次は我々の番だ。さあ、行くぞ」
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/23(水) 01:36:58.04 ID:16NeqMAaO
乙ー
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/23(水) 18:22:23.70 ID:3jLT8S4U0
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:01:05.86 ID:/FszNacrO

ーーー
ーー


ガララララッッ…

警備兵「良かったのか?」

看板娘「そっちこそ良かったの? 死体を捨てに行くとかって身内に嘘まで吐いてさ」

警備兵「警備隊を身内だと思ったことはない。俺が棺桶を運び出す時の奴等の顔を見ただろう」

警備隊「無関心で無責任。警備隊という立場にありながら問題を見過ごす。それが今の警備隊だ」

看板娘「へ〜、そりゃ大変そうだね。そんな奴等より、あたしの方が役に立つんじゃないの?」

警備兵「かもしれないな」

看板娘「あれ、予想外の反応だね。冗談のつもりだったんだけど」

警備兵「それ程までに人員が不足している。悪狐の手も借りたいくらいだ」
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:04:32.69 ID:/FszNacrO

看板娘「………」

警備兵「どうした? 皮肉の一つでも返してくると思ったのだがな」

看板娘「あんたがそんなこと言うなんて、ちょっと意外でさ」

警備兵「意外? 何が?」

看板娘「堅物で嫌味ったらしくて、あたしみたいな奴のことは許容出来ない器の小さい男だと思ってた」

警備兵「俺も最近まで自分はそういう質だと思っていた。後ろの奴と出会うまではな」

看板娘「盗賊と関わって何か変わった?」

警備兵「忌々しいことにな。劇的に何かが変わったというわけではないが、ただ……」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:07:52.39 ID:/FszNacrO

看板娘「ただ?」

警備兵「……奴の行動を見て目が覚めた。上手く言えないが、そんな感覚だ」

警備兵「角がなかろうと尻尾が生えていようと、俺が認めると思えた奴は認めてやろうと思えた」

看板娘「うわぁ、一介の警備兵が偉そうに。そんなだから嫌われてるんじゃないの?」ニヤニヤ

警備兵「誰に嫌われようが構うものか。あんな連中と連むよりは一人でいる方がよっぽど楽だ」

看板娘「あらそう。ところで孤独な警備兵サン。あなたに一つお訊ねしたいことがあるのだけど宜しいかしら?」

警備兵「何だその口調は……で、何だ?」

看板娘「大嫌いなニンゲン。知性の欠片もないケモノ。そんな奴等と一緒に馬車に乗ってる気分は如何?」

警備兵「……そうだな。机から落ちた山のような書類を拾い上げて整理している時よりは幾らかマシだ」
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:11:00.47 ID:/FszNacrO

看板娘「っ、あははっ!! そっかそっか。ま、繕ったこと言われるよりはずっと良いかな」

警備兵「お前はどうなんだ」

看板娘「あたし? あたしは気分良いよ?」

警備兵「何故?」

看板娘「普段からご自慢の角を見せびらかして肩で風切ってる奴に運転させてるからね」

警備兵「そんな風に見えるのか。そんなことをした覚えはないのだがな」

看板娘「あたし等にはあんたら種族は皆そう見えるのさ。あたし等を見下して嗤ってる」

警備兵「否定はしない。奴等はケモノ、品性も知性もない。そう言われて育ったからな」
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 00:15:08.86 ID:/FszNacrO

看板娘「それはあたし等も同じだよ」

看板娘「角にしか養分が行ってない能無し。野蛮で粗暴、おまけに傲慢。そう言われて育ったからね」

警備兵「…チッ…全く、これこそ品の無い諍いだ。一体、何処の誰が言い出しのだろうな」

看板娘「さあね。とっくの昔に土に還ってるだろうから、幾らあんたでも見つけ出すのは不可能だろうね」

警備兵「……火種を撒くだけ撒いて土の中に雲隠れか。先人は面倒な問題ばかり遺してくれるな」

看板娘「しかし彼等がいなければ今の我々はいない。今ある文化や生活基盤は先人なくして有り得ないのだからね」

警備兵「………」

看板娘「ね、今のどう? 知識人っぽかった?」

警備兵「ああ、悪狐の化けの皮は何枚あるのか興味が湧いた。お前の毛皮はさぞかし高く売れるだろうな」
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 02:10:46.84 ID:/FszNacrO

看板娘「お〜、怖い怖い。今夜中に消えないと本当に剥がされちゃいそうだね」

警備兵「行く当てはあるのか? 元密偵には要らぬ世話かもしれないが」

看板娘「新しい皮を被れば何処でも生きてける」

警備兵「……そうか」

看板娘「同情してくれてんの?」

警備兵「同情? 何を馬鹿な。そんな生き方はしたくないから真っ当に生きようと思っただけだ」

看板娘「真っ当に、か。その方がいいよ。お日様の下で堂々と生きていけるしね」

警備兵「そうありたいものだが、それも今日までかもしれない。これが発覚すれば晴れてお前と同じ日陰者だ」
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 02:13:01.84 ID:/FszNacrO

看板娘「?」

警備兵「大罪人の逃走幇助。将軍の命に背いた反逆罪。片一方でも処刑は確実だ。人生を棒に振ったようなものだ」

看板娘「なら何で協力したのさ。あたしにはそれが一番意外だよ。そういうタイプには見えないし」

警備兵「自覚はしている。しかし、あんな話を聞かされれば仕方がない」

看板娘「姫様の話を信じるの?」

警備兵「信じる信じないの話じゃない。あの時の彼女には有無を言わさぬ何かがあった」

警備兵「威厳、風格。発する言葉の一つ一つに強い意志を感じた。あの時の彼女は王女というより女王のようだった」

看板娘「確かに。あれだけ言葉に力がある人は見たことない。初めて会った時とはまるで別人みたいだった」

警備兵「……本当に別人なのかもしれないな。もしそうであったとしても最早驚きはしない」
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 02:15:20.57 ID:/FszNacrO

看板娘「まあ、あんな話聞いた後だしね」

看板娘「王の力の封印が解けるとか、再びニンゲンとの戦争が起きるとか、四人目の騎士とかさ」

警備兵「お前はどうなんだ?」

看板娘「あたしは盗賊を逃がす為に協力しただけ。他にはなんにもない。あんたもそうだと思ったけど、違うの?」

警備兵「分からない。ただ、やらなければならないと感じた。これは必要なことなのだと」

看板娘「……運命、みたいな?」

警備兵「……ああ。運命だとか占いだとか、そういう類は一切信じない質なんだがな」

看板娘「その選択が間違ってたらどうすんのさ。それがただの思い込みだったら本当に人生を棒に振っちゃうんだよ?」
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 03:41:15.31 ID:/FszNacrO

警備兵「そうでないことを祈る」

看板娘「祈るって誰に? 偉大で永遠なる神の如き魔王サマ?」

警備兵「こんな時に神になど祈らない。まして魔王に祈るなど今となっては笑えない冗談だ」

看板娘「じゃあ誰に祈るのさ?」

警備兵「父と母だ。そろそろ河に着くぞ」

看板娘「此処まで来といてなんだけどさ、棺ごと河を渡らせるとか本当に大丈夫なの?」

警備兵「俺に聞くな。そもそも船があるかどうかも分からない。なければ終わりだ」
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 03:44:02.23 ID:/FszNacrO

看板娘「船に棺を載せて流して下さい。お二人にお願いしたいのはそれだけです。だもんね……」

警備兵「彼は必ず辿り着くとも言っていた。船があったとしても沈めば終わりだというのに」

看板娘「でも、目的地に行くには河を渡るしかなない。姫様の言ってた通り河に続く道だけは兵が張ってなかったし」

警備兵「彼女が先に街を出たのが大きい。城に戻ると言い出した時は驚いたがな」

看板娘「………」

警備兵「どうした?」

看板娘「凄いよね。殺せって命令が出されてるのに何の迷いもなく城に戻るとかさ……」

警備兵「無謀とも言えるがな」

看板娘「そうだね。それに、今まで守ってた奴が命狙って来るわけでしょ?」
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 03:45:29.62 ID:/FszNacrO

警備兵「そうなるだろうな」

看板娘「……はぁ、こりゃ勝てないわけだ」

警備兵「?」

看板娘「どんな策があるのか分かんないけどさ、あの娘は……姫様は諦めてない」

看板娘「こんな状況でも盗賊を生かすことを諦めてないんだよ」

看板娘「何て言うか、覚悟が違う。あの娘は愛に殉ずるってことをホントに出来るんだと思う」

警備兵「………着いたぞ、早く下りろ。よし、船はあるな。さあ、さっさと棺を運ぶぞ」

看板娘「……分かってる」

ザッ…ザッ…ザッ…ガコンッ…

警備兵「よし、固定したな。押すぞ」グッ

看板娘「んっ(はぁ、あたしに出来るのはこれくらいか。何だか、ちょっと悔しいな)」グッ

ズリズリ…バシャバシャ…ユラユラ…

看板娘「(盗賊、生きてね。どうか、無事に辿り着けますように……)」ギュッ
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/26(土) 03:48:51.83 ID:/FszNacrO

警備兵「おい」

看板娘「?」

警備兵「まだ終わったわけじゃない。俺達には帰りもある。気を抜くな」

看板娘「はいはい分かってるよ」

警備兵「………恋だろうが何だろうが生きている限り可能性はある。行くぞ」ザッ

看板娘「ありがと……」ポツリ

ーーー
ーー


戦士「もう夜明けか。巫女様の予言によればそろそろ来るはずだが、果たして本当に来るのか?」

戦士「予言が外れればご自身の立場すら危ういというのに……」

戦士「船頭には鴉が立つ。それは死を載せた船。棺には傷を負った鴉の騎士」

戦士「……鴉の騎士、死の騎士か。我が部族は過去に囚われたままーー」

カァー カァー カァー

戦士「鴉? 何処から…………!!?」ダッ

バシャバシャ!
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/26(土) 04:17:17.96 ID:rL+vpatWO
乙ー
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 08:19:55.83 ID:GSFBB0Vu0
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/26(土) 10:46:42.91 ID:vAQPADYlo
上手く言えないけど語る雰囲気が良いよね
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 21:04:32.25 ID:CbbMx9INO

ザブンッ!

戦士「ぷはっ!!」

戦士「(見えた。確かに見えた。あれは確かに船だった。霧の晴れ間に船影があった)」

バシャバシャ!

戦士「はぁっ!はぁっ!ぷはっ!!」

カァー カァー カァー

戦士「(まるで私を呼んでいるようだ……鴉の声がなければ間違いなく見逃していたな)」

戦士「(如何に巫女様と言えど今回の予言ばかりはと思ったが、まさか本当に現れるとは……)」

戦士「(巫女様は私が見つけることを知っていたのか? それともただの偶然なのか?)」

戦士「(……いや、違う。こうなった以上は必然だ。恐らく、この先に訪れるであろうことも)」

バシャバシャ!

戦士「はぁっ、はぁっ…まずいな」

戦士「(ここから先は流れが速い。渡し船程度では耐えられない。急いで乗り込まなければ)」
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 21:32:43.83 ID:CbbMx9INO

バシャバシャ!ガシッ!

戦士「ぷはっ…ッ!!」

ザバッ!ゴロンッ…

戦士「はぁっ、はぁっ、けほっけほっ……船頭に鴉。死を載せた船。棺には傷を負った鴉の騎士」

戦士「今は棺の中身を確認している場合じゃないな。流される前に岸に戻らないと……」

ギィ…ギィ…ギィ…

戦士「しかし、こんな小舟でここまで辿り着くとはな。沈まずに流れて来たのが奇跡だ」

カァー カァー

戦士「ああそうだったな、お前もいた。ずっとそこにいたのか? 難儀な船旅だっただろう?」

戦士「お前が呼んでくれたお陰で見付けることが出来たんだ。ありがとう」

カァー

戦士「霧の中で棺を載せた船を漕ぐ。こんな経験は初めてだな。冥府の船頭にでもなった気分だ」

戦士「そろそろ岸に着く。この棺の中身まで川を渡っていなければ良いが……」

ギィ…ギィ…ギィ…
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 22:39:51.95 ID:CbbMx9INO

ギィ…ギィ…ザザァ…

戦士「ふ〜っ、何とかなったな」

カァー カァー バサバサッ!

戦士「……役目は終えた、か? 遺体に集るのでなく棺を導くとは不思議な鴉もいたものだ」

戦士「さて、中を改めなければ。棺を暴くなど気乗りしないが仕方が無い」

ガコンッ!

盗賊「…スー…スー…」

戦士「……寝ている。何だコイツは? 若いし体も細い。こんな奴が本当に鴉の騎士なのか?」

戦士「もっと壮年で逞しい男を想像していたんだが拍子抜けだな。ウチの男達の方がまだマシだ」
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 22:53:41.61 ID:CbbMx9INO

盗賊「…スー…スー…」

戦士「おい、いつまで寝ている。いい加減に目を覚ませ」

ペチペチッ

盗賊「……んっ、寒っ…」

戦士「おい」

盗賊「……姫様? 無事だったのか…って言うか此処は? 狐娘は? 騎士団長と警備兵は?」

戦士「何を言ってる? 寝惚けているのか?」

盗賊「………あ〜、悪い。人違いだったみたいだ。早速で悪いけど此処は? きみは一体ーー」

戦士「説明なら幾らでもしてやる。取り敢えず起きろ。話はそれからだ」
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/28(月) 23:10:04.61 ID:CbbMx9INO

盗賊「ああ、分かった。よっ…痛っ…」クラッ

ガシッ!

戦士「その様子だと本当に傷を負っているようだな。ほら、私に掴まれ」

盗賊「……いや、いい。大丈夫さ、一人で歩けるよ」

戦士「ん、そうか。なら付いてこい」

盗賊「(日に焼けた肌。額に短い一本角。目元、鼻筋、唇。目つきと肌の色以外はそっくりだ)」

戦士「どうした。早く来い」

盗賊「悪りぃ悪りぃ、今行くよ(ったく、どうも調子が狂うな。民族衣装を着た姫様にしか見えねえ)」

盗賊「(いや、んなことはどうでもいい。それより姫様だ。姫様は無事に逃げ切れたのか?)」

盗賊「(姫様には騎士団長と警備兵が付いてるって言ってたけど大丈夫なのか?)」

盗賊「(つーか何で俺だけがこんなとこにいる。俺達二人を逃がすって言ってたけど失敗したのか?)」

盗賊「(くそっ、何がどうなったのかさっぱり分かんねえ。取り敢えず現在地を確認しねえと始まらねえな)」
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/29(火) 00:02:41.64 ID:EUNAEcDAO

パチパチッ…

戦士「何で火を焚いた?仲間にでも知らせる気か? 此処は渓谷だから無駄だと思うぞ」

盗賊「違う。きみの服を乾かす為にやったんだ。俺も寒かったからな」

戦士「そうか。しかし、まさか自分の棺を壊して火を付けるとは思わなかったぞ」

盗賊「乾いている木はあれしかなかったからな。使えるもんは何でも使うさ」ジャキッ

戦士「!!」バッ

盗賊「っと、悪い。驚かせちまったな。ちゃんと動くかどうか確認したくてさ」

戦士「………」ジー

盗賊「そんなに警戒すんなって、何もしやしない。なんなら、ほら」スッ

戦士「……そこに置いて三歩下がれ。ゆっくりだ。妙なことはするなよ」
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