真姫「アイリスのはなことば」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:23:25.76 ID:Z4CMpj7Yo


「ぐ…あぁッ……」


ポタッ

 ポタッ


滴が垂れ落ちていく

地についたその滴が辺りを染め上げていく


赤く 紅く 朱く


それは血の色


「アぁ……ッ……ガ…ハッ」


止めどなく流れる血

膝をついて

体を支えることができず

ついに倒れこんでしまう


「――……」


腰のあたりに突き刺されたナイフが鈍く光る



「ひっ――!」


凄惨な現場に居合わせた少女が一人


少女の名は


 西木野真姫



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1498227805
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:26:06.69 ID:Z4CMpj7Yo

「…………」


ゆらりと影が動く


瞳から光を失っていく様を見下ろしていた影が動く


恐ろしい空間を生み出した人物が振り返ろうとしている


それに気づいた少女は血だまりからその人物へと視線を動かしていく


「……ッ!」


少女はその横顔を見る


「きゃぁぁあああああああああ」



少女の後方から悲鳴が響く



「……」


ザッザッザ


悲鳴と同時にその人物は走り出した


現場からの逃走


「……――」


その後姿を見て

 倒れているその姿を再認識する


腰のあたりに突き刺さったナイフと

黒く色を付けた血だまりを凝視してしまう


「――――……」


目の前で横たわる人物の命が今まさに消えようとしていた


助けなければ――

 と思うが体は動かない



非現実的な光景と匂いが少女を縛り付ける
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:27:11.74 ID:Z4CMpj7Yo

ふと思い返すのはつい先刻のこと


屋上で聞いた話


三人の幼馴染が楽しそうにしていた幼少時代の話


なぜこんなことを――


と、疑問に思うが
少女はその現実と非現実が混ざり合ったまま


「――」


意識を閉じてその場で倒れた





立ち去った人物

その犯人の顔を忘れようとするように

それが本能であるかのように


自分の日常を守るために

大切な仲間を守るために――



……


4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:29:25.57 ID:Z4CMpj7Yo


―― 深夜:高坂邸


『――近くの病院に搬送され、意識不明の重体』


「まぁ……」


『現場から逃走した犯人は未だ捕まっておりません』


「事件現場の近くの病院って、西木野病院よね……」

「……」

「明日、穂乃果に注意するよう伝えておかないとね……お父さん」

「……」コクリ



……




―― 朝


「それじゃー、行ってきまーす!」


「あ、ちょっとまって穂乃果!」


穂乃果「え、なに? おかーさん?」

母「あのね――」


……



5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:31:28.89 ID:Z4CMpj7Yo

―― 神社


「おはようございます」

「おはよう〜」


「あ、海未ちゃん、ことりちゃん」

「おはよ〜!」


海未「花陽と凛の二人だけですか?」

花陽「ううん、穂乃果ちゃんもいるよ」

凛「あっちで、電話してるにゃ」

ことり「でんわ?」

花陽「う、うん……真姫ちゃんに連絡するって……」

ことり「ふぅん……」

海未「待っていれば来るのでは?」

凛「うん、そうだと思うんだけど……。あ、絵里ちゃんたちも来たにゃ!」

海未「……にこは居ませんね」

ことり「いつもはもう来てる時間なのにね」


穂乃果「おかしいなぁ」


海未「どうしたのですか?」

穂乃果「真姫ちゃんが電話に出ないんだよ」

ことり「メールは?」

穂乃果「してはいるんだけど、返事はまだ……」

花陽「どうしたのかな……?」

凛「真姫ちゃんにしては珍しくお寝坊さんだにゃ〜」


希「みんな、おまたせ〜」

絵里「おはよう」

海未「おはようございます」

希「あれ、真姫ちゃんとにこっちがまだみたいやね」

絵里「あら、本当……珍しいわね」

凛「かよちん、準備体操しとくにゃ」

花陽「うん……そうだね」

ことり「それじゃ私たちも」

絵里「えぇ、体をほぐしておきましょうか」

海未「ほら、穂乃果も」


穂乃果「あ、みんなちょっと待って」


希「どうしたん?」


穂乃果「ねぇ、みんなはさ……昨日の事件って知ってる?」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:33:54.37 ID:Z4CMpj7Yo

花陽「じけん?」

絵里「……」

海未「確か……警察官が……」

凛「うぅっ、怖い事件だよねっ」

花陽「???」

希「……?」

ことり「えっと?」

穂乃果「さっき、お母さんから聞いたんだけど――」

絵里「西木野病院の近くで人が刺されたのよね」


花陽希ことり「「「 えっ!? 」」」


穂乃果「うん、そう……」

希「ひ、人が……?」

海未「はい……それも警察官が……背後から刺されたとか……」

花陽「ひ、ひぃっ」

凛「そ、その人はどうなったの!?」

絵里「意識不明の重体って……今朝のニュースで言ってたわ」

ことり「え、えぇぇ……」

凛「は、犯人は……?」

絵里「……まだ逃走中」

凛「こ、怖いにゃ……ッ」

花陽「うぅぅっ」

希「二人とも、大丈夫やから」

海未「……穂乃果、電話してたのって…?」

穂乃果「う、うん……なんだか嫌な予感がして」

希「ひょっとして……真姫ちゃんが……なにか……ってこと?」

穂乃果「うん……外れてほしいから電話してるんだけど……」

ことり「や、やめようよ。きっとすぐ来るよっ」

凛「そうだよ! いつもの澄ました顔を見せてくれるにゃ!」

絵里「そうね、言霊という言葉もあるし……」

穂乃果「…………」

海未「ほ、ほら、穂乃果……いつものように体力トレーニングを始めますよ」

穂乃果「……うん」

ことり「そ、そうだっ、にこちゃんと真姫ちゃん、一番最後に来た人に罰ゲームをするってのはどうかな!?」

海未「そうですね! 校庭10周というのはいかがでしょう!」

凛「ポテトもごちそうになろうかな〜?」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:35:12.09 ID:Z4CMpj7Yo

絵里「ついでに、草むしりも追加しちゃおうかしら」

希「時間が無くて手が付けられなかったとこやね」

花陽「そ、それはちょっと……」

凛「かわいそうすぎるにゃ〜」

ことり「だから、みんなで一緒にしようっ」

海未「みんなで校庭を走って、ポテトを食べて、草むしりですか……」

希「おかしな集団になるね」

絵里「……そうね」

凛「なんだかバカみたいにゃ〜」

花陽「それでもいい……っ」

ことり「だから……はやく来て……っ」


海未「……」

希「……」

凛「……」

絵里「……」

花陽「……」

ことり「……」


穂乃果「……もう一回」

ピッピップ

trrrrrrrr


プツッ

『もしもし』


穂乃果「あ――、出た!」



希「ほっ……」

凛「もぅ、びっくりした〜」

絵里「ふぅ……」

花陽「よかったぁ」

ことり「あ、にこちゃんも来た……!」

海未「思い過ごしでよかった――」


穂乃果「えっ、真姫ちゃんの……お母さん……?」


……


8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:36:29.88 ID:Z4CMpj7Yo

―― 昼休み:学校


「……で、なんで私なのよ」


穂乃果「にこちゃん、暇でしょ?」

にこ「暇っていうか……練習はどうするのよ」

穂乃果「中止だよ。真姫ちゃんが気になるもん」

にこ「行きたいなら一人で行きなさい。私はこれでも忙しいの」

穂乃果「じゃあ、帰りのホームルームが終わったら校門で」

にこ「話聞いてた?」

穂乃果「だって……花陽ちゃんも凛ちゃんもあの付近怖がってしまって……にこちゃんしかいないんだよ」

にこ「絵里は?」

穂乃果「生徒会、希ちゃんも生徒会。ことりちゃんバイト。うみちゃん部活」

にこ「にこにーは部室でアイドル研究☆」

穂乃果「それじゃ、よろしくね」

にこ「会話が成り立ってない!」


……


9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:37:59.59 ID:Z4CMpj7Yo

―― 放課後:校門


にこ「おっそ! 人を待たせておいておっそーい!」


……




にこ「……」


穂乃果「ごめんごめん、待った?」


にこ「13分も待ったわよ。もう帰ろうかと思ったわよ」


穂乃果「ホームルームが終わらなくて」

にこ「花陽と凛も行くの?」

花陽「う、うん……心配だから」

凛「付いて行きます」

にこ「別にいいけど……。どうせ風邪かなんかじゃないの?」

穂乃果「電話で聞いた時、そんな風じゃなかったけどなぁ……」

にこ「私達の顔を見て、『別に、お見舞いなんかこなくてもいいのに……』っていうわよ」

凛「真姫ちゃんの真似? 似てないにゃ」

にこ「『ふ、ふんっ、別に嬉しくないんだからっ』」

穂乃果「……」

にこ「『で、でも……ありがとう』」

花陽「……」

にこ「『お礼をいうのは当たり前でしょっ』」

穂乃果「それ、いつまでやるの?」


……


10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:39:27.41 ID:Z4CMpj7Yo

―― 西木野病院


にこ「え、病院……?」

穂乃果「うん……」

花陽「おうちの方じゃないの?」

穂乃果「真姫ちゃんのお母さんがこっちに来てくれって」

凛「あれ……?」


「……」


凛「……あの人…」


キィィィィイイイ


穂乃果「――!?」


ィィィィィイイイン


穂乃果「う――!?」

にこ「穂乃果……?」

穂乃果「耳鳴りが……っ」



ぞわぞわっ


花陽「〜〜っ!?」

凛「かよちん……?」

花陽「うぅっぅっ」

凛「うわっ、鳥肌が凄いよ、かよちん!」



「……」


スタスタスタ......



穂乃果「……ふぅ、収まった」

花陽「な、なんだろう、今の……」

にこ「なによ、あんた達……やめてよねぇ」

凛「……」


凛「さっきの男の人……なんだったんだろう……?」



……


11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:41:36.58 ID:Z4CMpj7Yo

―― 病室


看護師「こちらです」

穂乃果「ありがとうございます……」

にこ「個室……」

花陽「……」

凛「なんだか落ち着かないよぉ」


スーッ


看護師「どうぞ」

穂乃果「失礼しまぁす……」

にこ「……」

花陽「……っ」

凛「えっと、真姫ちゃんは――」



「……」


凛「あ、いた……!」

にこ「なんだ、見た感じ普通じゃない」

花陽「よ、よかった……」

穂乃果「真姫ちゃん、お見舞いに来たよ」


真姫「……」


凛「顔色はそんなに悪くないみたい」

にこ「まったく、心配させないでよねぇ」

花陽「真姫ちゃん、今日は……どうしたの?」

穂乃果「そうだ、リンゴを買ってきたんだよ」


真姫「……だれ?」


凛「?」

にこ「え?」

花陽「真姫…ちゃん……?」

穂乃果「ん?」


真姫「だれ……?」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:42:46.60 ID:Z4CMpj7Yo

凛「だ、誰って……凛だよ?」

にこ「……」

花陽「……」

穂乃果「穂乃果だよ?」


真姫「……っ」


凛にこ「「 えッ!? 」」


真姫「ぐすっ」


花陽穂乃果「「 えぇ!? 」」


真姫「うぅっ……ぅぅぅっ」


凛「な、なんでっ!?」

にこ「ま、真姫っ!? 落ち着いて!?」


真姫「うわぁぁんっ」


花陽「どどどどうしようっ!?」

穂乃果「ええっとあれっどうしたの?!」



「あなたたち、こっちに――」


穂乃果「え……?」


真姫「うわぁぁぁああん」



……


13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:44:07.94 ID:Z4CMpj7Yo

―― 診察室


看護師「ようやく落ち着いたようです」


「そうですか、分かりました」


凛「泣いてたよねっ、とっても泣いてたよねっ!?」

にこ「大粒の涙こぼしてたわよね!?」

花陽「あれっあれっ!? あれれ!?」

穂乃果「なんで、なんでどうしてっ」


「あの、話を……いいですか?」


凛「は、話!?」

にこ「なにがっ!?」

花陽「どうなってるのっ!?」

穂乃果「お、落ち着こうっ、みんな落ち着こうっ」

凛「そ、そうだにゃ」

にこ「し、深呼吸よっ」

花陽「ひぃぃふぅぅぅ」

穂乃果「すぅぅぅはぁぁぁ」


穂乃果「よしっ、落ち着いた」


「よろしいですか?」


穂乃果「は、はい」


「私は……真姫の母です」




……


14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:47:03.14 ID:Z4CMpj7Yo

―― 逢魔が時:公園


にこ「はぁ……」

凛「こんなことになるなんて……」

花陽「嘘……っ」

穂乃果「……」


「穂乃果……!」


穂乃果「あ……」


希「はぁっ、はぁ……」

海未「どうしたんですか、いきなり話があるって……!」

絵里「な、何があったの?」

花陽「希ちゃん、だ、大丈夫……?」

希「ちょっと息切れが……ふぅ、大丈夫……」


穂乃果「え、えっと……なにから話せばいいのか……」


にこ「順に話しましょ。私たちも心の整理が必要だわ……」


穂乃果「そうだね……うん、わかった」


海未「……」

絵里「……」

希「……」


穂乃果「ことりちゃんには明日話すとして……」


にこ「私たち、4人で真姫のところに行ったのよ」

海未「……はい」

絵里「朝、穂乃果が電話したのよね」

穂乃果「うん、そう。……真姫ちゃんのお母さんが出て……その時は今日は休むって」

希「……」

穂乃果「それと、話したいことがあるから、放課後に来てくれって」

にこ「でも、行ったのは……真姫の家じゃなくて、病院だったのよ」

希「風邪……とか……?」

花陽「う、ううん……風邪じゃない……」

海未「なんだったのですか?」

穂乃果「待って、ちゃんと順序立てて話すから……」

海未「は、はい……」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:48:53.53 ID:Z4CMpj7Yo

穂乃果「それで、真姫ちゃんの病室に入ったら……様子がおかしかったの」

絵里「様子?」

凛「凛たちの顔を見ても反応しなかった。ぼんやりしてたみたいだけど……そうじゃなかった」

希「……?」

花陽「わたし達のこと、忘れてたの」

絵里「え……!?」

海未「き、記憶喪失ですかっ!?」

にこ「違う……みたい」

希「じゃ、じゃあ――」


穂乃果「幼児退行、だって」


海未「え……」

絵里「……」

希「……」



穂乃果「精神年齢が……7歳から、9歳くらいに戻ってるって」

にこ「真姫のお母さんが言ってたわ」


海未「よ、幼児退行……?」

絵里「どうして……そんなことに?」


穂乃果「昨日、事件があったでしょ」

絵里「え、えぇ」

穂乃果「真姫ちゃん、犯人の顔を見てる……のかもしれない」

希「――!!」


にこ「医者の話では、防衛反応でそうなったのではないかって言ってたわ」

花陽「……」

凛「……」


にこ「事件現場で真姫は倒れてて……通報した人が言うには、走り去った人物を見て倒れたって」

絵里「そんなことが――」


「ちょっと、君たち」


海未「っ!?」ビクッ

花陽「きゃっ!?」


「な、なんだ、どうかしたのか!?」


海未「い、いえ……すいません」

穂乃果「お巡りさん……?」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:50:26.86 ID:Z4CMpj7Yo

警官「もう陽が暮れたから、はやく帰りなさい」


絵里「は、はい……わかりました」

希「そうやね、もう帰らんと」


警官「決して一人で出歩かないように。いいね?」


花陽「は、はぃ」

希「あ……」

警官「うん?」

希「いえ、なんでも……」

警官「今はこのあたり、パトロールを強化しているから同僚に家まで送らせるけど」

希「いえ、おかまいなく」

警官「安心しなさい、相手は女性だから」

絵里「そうしてもらいなさい、希」

凛「そうだよ」

希「それでは、お言葉に甘えて」



ガガッ

『本部です』

警官「帰宅途中の女子生徒を送りたいので要請を」

『了解』



穂乃果「にこちゃんは大丈夫?」

にこ「大丈夫よ、人通りの多い場所だし」

海未「それじゃ、話の続きは……」

絵里「明日、ね。ことりにもその時に話しましょう」

穂乃果「うん、分かった」


穂乃果「それじゃ、みんな明日ね――」



……


17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/23(金) 23:51:31.26 ID:Z4CMpj7Yo

―― 西木野病院


真姫「……ぐすっ」


母「……」

父「……」


真姫「おうちに帰りたい……ぐすっ」


……


18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:52:43.23 ID:Z4CMpj7Yo

―― 夜:高坂邸


「お姉ちゃん、醤油取ってー」

穂乃果「うん……、はい、雪穂」

雪穂「ありがと……」

穂乃果「……もぐもぐ」

雪穂「ねえ、お母さん……お姉ちゃんどうしたの?」

母「さぁ……」

雪穂「帰ってくるなり、ずっとあんな感じでしょ」

母「……」

穂乃果「……もぐもぐ」

雪穂「ピーマンもちゃんと食べてるし……」

穂乃果「ねぇ、お母さん」

母「なに?」

穂乃果「朝聞いた……昨日の事件って犯人捕まったの?」

母「ニュースになってないから、まだなんじゃないかしら」

穂乃果「そっか……」

雪穂「早く捕まって欲しいよね」

穂乃果「うん……本当に……」

父「……」モグモグ

穂乃果「……ごちそうさま」

雪穂「え、もう?」

母「明日もトレーニングするんでしょ?」

穂乃果「ううん……。明日は、休むよ」

母「そう……。しばらくはそうした方がいいかもね」

穂乃果「……」

父「……?」

母「どうしたの?」

穂乃果「でも、明日は早く登校するから」

雪穂「なにかあるの?」

穂乃果「うん、ちょっとね」

母「朝も言ったことだけど、本当に気を付けてね」

穂乃果「うん、分かってる」


……


19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:54:03.90 ID:Z4CMpj7Yo

―― 朝:西木野病院


穂乃果「あ……!」


にこ「あ……!」


穂乃果「おはよう、にこちゃん」

にこ「おはよう……」

穂乃果「にこちゃんも気になったんだ?」

にこ「まぁね……。昨日のあの様子を見たら気になるわよ」

穂乃果「昨日の朝は寝坊したのにね。今日はちゃんと早起きできたんだね」

にこ「うるさいわね。……そんなことより、ちゃんと会えるの?」

穂乃果「どうかな……。とりあえず、真姫ちゃんのお母さんに話し聞けないかなって」

にこ「……そうね。探してみましょ」

穂乃果「うん」


……


20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:55:55.45 ID:Z4CMpj7Yo

―― 病室


穂乃果「真姫ちゃん、おはよう〜」

にこ「おはよ〜」


真姫「……」


穂乃果「う〜ん……警戒されてるね」

にこ「まぁ、それも当然よね。真姫からしたら見知らぬ人なわけだし」

穂乃果「じゃあ、自己紹介しようか……?」

にこ「してみましょ」


真姫「……」


穂乃果「えっと、初めまして? 高坂穂乃果です」

にこ「矢澤にこ、にこにーだよ♪」


真姫「?」


穂乃果「あ、にこちゃんに興味持ったみたい」

にこ「えっとぉ、職業はアイドルでぇ、あ、間違えちゃった☆ 本業は学生なんだけどぉ」


真姫「……」


穂乃果「あ、外向いた。興味なくした」

にこ「なんでっ? 女の子ってアイドルに興味持つものじゃないの?」

穂乃果「だって、真姫ちゃんだし……。
     私が最初に誘った時も『興味ありません』って言ってたし」

にこ「あ、そう……」


真姫「……」


穂乃果「ねぇ、真姫ちゃん」


真姫「?」


穂乃果「私とお友達になろう」


真姫「ともだち……?」


穂乃果「うん。なってくれたら嬉しいな」


真姫「……」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/23(金) 23:57:36.80 ID:Z4CMpj7Yo

穂乃果「ほのかの好きな食べ物はいっぱいあるけど、嫌いなのはピーマンなんだ」

にこ「お子様ね」

穂乃果「だって、苦いんだもん」

にこ「じゃあ、ゴーヤーもコーヒーも嫌いってことだよね☆」

穂乃果「はいはい。それで、真姫ちゃんの好きな食べ物ってなにかな?」

にこ「流さないで!」


真姫「……」


穂乃果「今度、ほのかと一緒に食べようよ」


真姫「……」


穂乃果「みんなで食べるとね、もっとおいしい――」


キィィィィイイイ


穂乃果「――!?」

真姫「?」

にこ「どうしたの、穂乃果?」

穂乃果「ま、また耳鳴りっ」

にこ「え……?」


ィィイイイイイン


真姫「……だれ?」


にこ「???」

穂乃果「なにこれっ」



……




―― 病院の外




……。


男「……」


……。


男「そうか、分かったよ、アイリス」



……


22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 00:40:35.38 ID:WaUNN6Q5o

―― お昼:校庭


穂乃果「今は精神状態がとても不安定なんだって」

希「そうなんや……」

ことり「……」

絵里「実際に見て、どうだったの?」

穂乃果「退屈そうにしてた……かな」

海未「家にも帰れないのですか?」

穂乃果「うん……。小さいころの記憶が今に跳んで来てるでしょ、
    部屋の模様も違うし、両親も少し違うから……とても混乱してるって」

絵里「ご両親の小さな変化ですら不安なのね……体の変化もあるだろうし」

希「…ある意味、孤独なんやね……」

穂乃果「その話を聞いたから、私は友達から始めたいなって思った」

海未「……」

穂乃果「記憶を戻すのは、それからじゃないかな……」

絵里「記憶を取り戻す方法はあるの?」

穂乃果「ううん、まだ分からないみたい」

ことり「私たちに出来ることはあるかな……」

穂乃果「今までと同じだよ。ただ、友達としてやり直さなきゃだけど」

海未「その点は、穂乃果が頼りですよ」

ことり「そうだね」

海未「精神的なものでは特に……」

穂乃果「なんだかちょっとひっかかるけど、うん、分かった」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 00:41:44.60 ID:WaUNN6Q5o

「あーー!!」


穂乃果「ッ!?」

絵里「ど、どうしたの凛?」

希「そんな大声出して……」


凛「思い出した! 昨日、病院の前に変な人がいた!!」

花陽「へ、変な人……?」

凛「うんっ! 病院に入るのかなって思ったけど、そのまま引き返していったんだよ!」

絵里「それは怪しいわね……」

希「報告する?」

絵里「そうね、一応しておきましょう」

ことり「誰に?」

希「昨日、帰りに送ってくれた人で、何かわかったら連絡してくれって言われてるんよ」


穂乃果「ところで……にこちゃんは?」

絵里「今日は早起きしたから、昼休みは部室で眠るって言ってたわ」

穂乃果「しょうがないな、にこちゃんは……」

海未「授業中に寝ているあなたが言えた台詞ではありません」


……


24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 00:45:05.71 ID:WaUNN6Q5o

―― 放課後:公園


「どうも、伏見といいます」


凛「警察の人……?」

伏見「えぇ。ほら警察手帳」

凛「わぁ、初めて見た」

伏見「ふふ、学生さんには縁のないものだからね」

凛「見て、かよちん」

花陽「おぉぉ……」

絵里「もう、凛ったら……」

伏見「それで、話を詳しく聞かせてくれるかな」

凛「はい。凛は見ました! 病院のまえで怪しい人を!」

伏見「ふむふむ。外見的特徴は?」

凛「男の人でした!」

伏見「背格好は?」

凛「えっと……太ってはいなかったかな? チラってみただけだから……あんまり」

伏見「そっかぁ……。身長は大体でいいからわかる?」

凛「170くらい?」

伏見「不審に思ったのは、病院の敷地内に入らなかったから、だよね?」

凛「うん。じっと中を見てたのに、くるっと引き返して行っちゃったから」

伏見「ふぅむ。確かに変だね」

花陽「あ、あの……そ、その人が犯人……なんでしょうか」

伏見「なんとも言えないかな」

凛「どうしてですか?」

伏見「犯人が現場の近くに行くのかなって思うんだよね」

絵里「あの、いいですか?」

伏見「いいよ、なに?」

絵里「昨日、注意を受けた人にはパトロールを強化していると聞きましたけど……」

伏見「うん、人通りが少ないところは特にね」

絵里「安心できるのと同時に、不安にもなるのですが……」

伏見「そうだね、制服姿の警官がうろうろしてちゃね……」

凛「ここにくるまでに何人か見たよね」

花陽「……うん」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 00:46:09.54 ID:WaUNN6Q5o

絵里「確かにあの事件はショックを受けましたけど……ここまでするのかなって」

伏見「やっぱり住民に不安を与えてるかぁ……。でも、この事件は特殊で――」

凛「とくしゅ?」

花陽「……っ」

伏見「あぁっと今の無し。忘れて忘れて」

絵里「……」

伏見「君たち学生は帰りにどの店で買い食いしようか、どこで遊ぼうかを考えてください」

凛「……」

花陽「……」

伏見「よし、今日はこんなものかな。また、何かあったら連絡よろしくってことで」

絵里「……はい」

伏見「大丈夫、私たちがもう事件を起こさせないから」

絵里「……」

伏見「他に、なにかある?」

凛「ううん。でも、大したこと言ってないから……せっかく来てくれたのに……ごめんなさい」

伏見「そんなこと、ないない〜。
   事件解決の糸口になったりするから、どんな情報でも大事よ」

凛「……それならよかった」

伏見「何もなければ、私はこれで」


絵里「はい、さようなら」


……


26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 00:47:11.86 ID:WaUNN6Q5o

―― 夕暮れ時:病室


にこ「できた!」

穂乃果「うわ、すごっ!」

希「おぉ〜」

真姫「……」

にこ「リンゴの皮むき、くるくる回して一度も途切れず!」

真姫「……」

にこ「凄いでしょ、ねぇ、凄いでしょ!」

真姫「……」

にこ「ほ、ほら、よく見なさい。
   薄く切ってあるのよ、この辺りなんかヒヤヒヤものだったんだから」

希「はい、真姫ちゃんどうぞ」

真姫「……うん」

にこ「あ、ちょっと邪魔しないでよっ。っていうか、いつの間に切り分けたのよ」

穂乃果「にこちゃんが自慢している間にだよ」

真姫「……シャク、シャク」

希「おいしい?」

真姫「……うん」

希「ふふ、よかった」

にこ「切ったの私!」

穂乃果「選んだの私!」

希「買ったのはうち」

真姫「シャクシャク……」

にこ「あら、なにこれ? スケッチブック?」

希「らくがき帳……みたいやね」

穂乃果「なにが書いてあるのかな?」

真姫「だ、だめ……」

穂乃果「お絵かきしてるの?」

真姫「……うん」

穂乃果「ちょっと見せてほしいな〜」

真姫「だめ……ひみつ……」

穂乃果「そっか、それは残念」

にこ「……」

希「……」

穂乃果「そうだ、外に出てみようよ、真姫ちゃん」

真姫「そと……?」

穂乃果「そうだよ、きっと夕焼け空がきれいだと思うな」

真姫「……」


……


27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 00:48:13.43 ID:WaUNN6Q5o

―― 同時刻:会議室


伏見「西木野真姫さんの様子は?」

医者「当初見られたパニック状態から、大分落ち着いてきました」

伏見「精神面は戻りそうにありませんか」

医者「午前中に来られた刑事の方にも言いましたが、これはデリケートな問題です。
   本人を含め、友人方にも気を急かすようなことはしないでください」

伏見「……はい」

医者「あなたに言うことではないかもしれませんが、あの刑事さんたちには迷惑しましたから」

伏見「と、いうと……?」

医者「面会させろと言ってきかなかったんです。
   見た目は高校生でも中身は幼い子供……恐怖を与えるようなことは避けてください」

伏見「はい……。上にはその件について、必ず報告します」


……


28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 00:49:44.06 ID:WaUNN6Q5o

―― 逢魔が時:病院庭園


伏見「……ふぅ」


伏見「……」


伏見「それにしても、広い庭園ですこと」


ヒラヒラ


伏見「? これは……羽?」


ヒラヒラ


伏見「ということは……」


……。


伏見「やっぱり……。ちょっと待ってね」


伏見「うんいいよ。私はこうやったほうが自然と話ができるから」


伏見「あ、ちょっと待って」


希「伏見さん……?」

伏見「東條さん……だっけ」

希「はい、昨日はありがとうございました」

伏見「いえいえ、あれも仕事のうちです。礼には及びません」

希「今日は……?」

伏見「お医者さんにお叱りを受けまして」

希「?」

伏見「うちの捜査一課が迷惑をかけたみたいで」

希「……はい、その件は聞いてます」

伏見「二度と同じことがないように強く言っておくから」

希「お願いします。……真姫ちゃんを怖がらせるようなことは…」

伏見「ごめんね、心配かけちゃって」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 00:50:50.60 ID:WaUNN6Q5o

希「あ、電話中に話しかけてしまって……」

伏見「ううん、いいのいいの。それじゃね」

希「……はい」

伏見「あっちにいるのは……お友達?」

希「そうです」


にこ「どこ、どこよっ」

穂乃果「見えないよ、真姫ちゃん」

真姫「みえなくなっちゃった……」


伏見「それじゃ」

希「はい、さようなら」


伏見「あぁ、もしもし……ちょっと話をしてて、大丈夫大丈夫〜」


伏見「それで、君、昨日こっちに来たでしょ、見られてたよ〜」


伏見「そうだね、あまり来ない方がいいかも」


伏見「それと、今確認したよ」


伏見「西木野真姫さん、本人を――」



……


30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 09:34:11.14 ID:WaUNN6Q5o

―― 夜:高坂邸


母「なに、話って……?」

雪穂「ドラマ始まるから早くして〜」

穂乃果「お父さんは?」

母「明日の仕込みだけど」

穂乃果「そっか……。お父さんにも聞いてほしいんだけどな」

母「後でお母さんから伝えるから、言ってみて」

雪穂「テレビ見ながらでもいい?」

穂乃果「ダメ。大事な話だよ」

雪穂「じゃあ、早く言ってよ」

穂乃果「うん、あのね……真姫ちゃんのことなんだけど」

母「……」

雪穂「精神が逆戻りしたって言ってたよね。どうなったの?」

穂乃果「あまり状況は変わってないけど……。でも少しずつ受け入れるようになったって」

母「受け入れる……?」

穂乃果「最初は自分の環境が激変してたから、混乱してたんだけど……」

母「そういうこと……」

穂乃果「真姫ちゃんのお母さんが言うには、私とにこちゃん……友達にだけ、
     少しだけど心を開いているんだって」

雪穂「……」

母「……」

穂乃果「それでね、ここからが本題なんだけど」

母「真姫さんをうちで預かりたいと?」

穂乃果「えぇっ!? なんで分かったの!? おかーさんエスパー!?」

雪穂「私も話の流れでそう言うだろうなって思ったけど……。理由は?」

穂乃果「え?」

母「そうしたい理由があるんでしょ?」

穂乃果「うん……」

雪穂「……」

母「……」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 09:35:09.55 ID:WaUNN6Q5o

穂乃果「刑事さんが来てね、真姫ちゃんが怖がっちゃったんだって……」


穂乃果「直接は会ってないけど、扉の向こうで看護師と言い合いしてたのを聞いて」


穂乃果「とても怖かったんだと思う」


母「……」


穂乃果「大切な仲間だから、友達だから、真姫ちゃんを守りたい」


雪穂「……」


穂乃果「ずっと一緒に居て、不安や恐怖を追い払いたいんだ」


母「わかった」


穂乃果「お母さん……」


母「色々と大変だと思うけど、今ある状況を少しでも改善できるなら、お母さんは協力するから」


穂乃果「ありがとう!!」


雪穂「学校は?」

穂乃果「え?」

雪穂「ずっと一緒に、って言ったけど、学校はどうするの?」

穂乃果「あ」


……


32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 09:37:31.33 ID:WaUNN6Q5o

―― 朝:病室


穂乃果「おはよう、真姫ちゃん」


真姫「……うん」


穂乃果「ほのかの友達連れてきたよ〜」


海未「園田海未といいます」

ことり「南ことりです♪」


真姫「……」


海未「警戒されてますね……」

ことり「…こっち向いてくれないね……」


にこ「おはよー、にこにーだよ♪ 元気してるかな☆」


真姫「……?」


海未「関心を引いた……!?」

ことり「さ、さすがにこちゃん……!」

穂乃果「にこちゃんのあのキャラが気に入ってるみたい」


にこ「真姫ちゃん、リンゴ食べる? むいてあげるにこ♪」

真姫「ううん、いい……」

にこ「あ、そう……」

真姫「……」

にこ「でもでも、一日一個医者いらずっていうくらいリンゴは栄養満点なんだよ☆」

真姫「ううん、いい」

にこ「じゃ、じゃあ……ジュースにするから」

真姫「……うん」

にこ「よし」


海未「なぜそんなにリンゴを推すのですか?」

穂乃果「特技を披露したいんじゃないかな」

ことり「じゃあ、私も皮むきを手伝って」

にこ「私がやるから」

ことり「はい」


……


33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 09:39:43.04 ID:WaUNN6Q5o

―― 昼:学校屋上


絵里「それで、放課後に迎えに行くのね」

穂乃果「うん。真姫ちゃんのお母さんにも話してある」

絵里「困ったことがあったらなんでも言ってね。私も協力するから」

穂乃果「うん!」

凛「学校はどうするの?」

穂乃果「それなんだけど……。真姫ちゃんと一緒に居たいから、休もうかなって」


絵里海未「「 ダメよ(です) 」」


穂乃果「って、思ってたんだけどぉ、お母さんにもダメって言われたからぁ、どうしようかなってぇ」

花陽「不貞腐れてる……」

穂乃果「お母さんみたいに即答しなくてもいいでしょー」

海未「当たり前です」

絵里「真姫をダシにして授業をさぼろうとしてるみたいよ?」

穂乃果「そんなことないよッ! それはちょっと思ったけど、でも8割くらいだもん!」

花陽「8割も!?」

海未「さて、本当に穂乃果に預けてもいいのか、再検討しましょう」

絵里「そうね」

凛「心配になってきたにゃ」

花陽「そ、そうかな……穂乃果ちゃんなら安心できるけど……」

穂乃果「よし、花陽ちゃんにはお父さんが作った試作品を贈呈しよう」

花陽「わ、わーい」

海未「ちょっと、試作品なんですから、娘が評価しなくてどうするんですか」

穂乃果「みんなにも食べてもらおうと思ったけど、やっぱりあげないよ!」

絵里「意地悪されたからってそんなこと言うなんて……まったく」

海未「子供ですか」

凛「子供にゃ」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 09:40:30.17 ID:WaUNN6Q5o

花陽「こ、これは……!」

穂乃果「どうだった?」

花陽「もっちりとした食感だけどとろけるような柔らかさ!
    桜のようなふんわりとした風味だけど濃密な甘みが!
    それでいて後味さわやかな感覚! ついつい二口、三口と進んでしまう〜!」


花陽「おいしい、おいしいよ ほのかちゃん!」


穂乃果「そ、そんなに……?」


花陽「ありがとう、ありがとう!」


海未「もらった時は少し困ってたのに、食べた後の反応がここまで違うなんて……」

絵里「き、気になるわね……」

凛「穂乃果ちゃん!」

穂乃果「あげないよ〜!」

海未「子供ですか!」


……


35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 09:42:24.90 ID:WaUNN6Q5o

―― 放課後:病院


穂乃果「真姫ちゃん、朝言ったこと、考えてくれたかな?」

真姫「……」

穂乃果「友達の家にお泊りするって思ったらいいんだよ」

真姫「おとまり?」

穂乃果「そう、お泊り」

真姫「……」

穂乃果「真姫ちゃんと友達になってそんなに経ってないけどね、
     私は真姫ちゃんのことよく知ってるから」

真姫「……」

穂乃果「こわくないよ」

真姫「……うん」

穂乃果「こわいことがあっても、必ずほのかが守ってあげるから」

真姫「うん」

穂乃果「楽しいから、ね?」

真姫「うん、おとまり……する」



……




―― 病院ロビー


真姫母「真姫のことよろしくお願いします」

穂乃果「はい」


真姫「……」

36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 09:43:32.57 ID:WaUNN6Q5o

―― 病院出口


にこ「そういえば、絵里」

絵里「なに?」

にこ「あんた、病室に行ったことないわよね」

絵里「……えぇ」

にこ「どうしてよ」

絵里「ちょっとね」

にこ「まさか……真姫と顔を合わせづらいってわけじゃ……」

絵里「……」



穂乃果「お待たせ、お待たせ〜」

真姫「……」


にこ「荷物、それだけ?」

絵里「……」


穂乃果「あとで、届けてくれるって」

真姫「……っ」

穂乃果「あらら、どうしたの真姫ちゃん?」

にこ「なんで隠れるのよ」

真姫「……あのひと」

穂乃果「あのひと?」

真姫「……っ」

穂乃果「どのひと?」


絵里「……」


真姫「こわい」

穂乃果「絵里ちゃんが?」

真姫「……」コクリ


にこ「どうしてよ」


真姫「……」


絵里「ふぅ……やっぱりね」


穂乃果「?」


絵里「にこと真姫は先に歩いてて。穂乃果と話するから」


……


37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 09:44:59.81 ID:WaUNN6Q5o

―― 商店街


絵里「花陽も似たような反応だったでしょ?」

穂乃果「あぁ、そうだったね」

絵里「子供受けが悪いというか……ね」

穂乃果「それが気になってたから会えなかったの?」

絵里「……えぇ」

穂乃果「大丈夫だよ。話をすれば、絵里ちゃんを知れば、また対応も変わってくるよ」

絵里「どうしてそう断言できるの?」

穂乃果「だって、真姫ちゃんだし。にこちゃんとだって……ほら」


にこ「ちょっと、きょろきょろしないの。人にぶつかるわよ」

真姫「……ちがう。あれ、なかった」

にこ「あれ……って、あぁ、あの建物ね。去年建ったばかりだから」

真姫「あれは?」

にこ「メイド喫茶よ。ことりが働いてるところ」


穂乃果「ちがうよ! 適当なこと教えないでー!」


にこ「ことりが働いてそうなところだったわ」

真姫「あのお店、いきたい」

にこ「アイス? それはまた今度ね。お腹すいてんの?」

真姫「うん、おなかすいた」

にこ「もうちょっと我慢してなさい」

真姫「……あれは?」

にこ「ゲーセンよ」


穂乃果「観光客を案内してるみたいになってるけど、
     にこちゃんが頑張って話かけたから気を許してくれてるんだよ」

絵里「……そうだったの。……私も怖がってちゃだめね」


「おーい、真姫ちゃ〜ん!」


真姫「……?」

にこ「あっちよ、凛と花陽と海未がいるでしょ」

真姫「……うん」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 09:46:39.33 ID:WaUNN6Q5o

にこ「ほら、手を振り返してあげたら?」


真姫「……」フリフリ


「あ……! おーい、お〜い! 真姫ちゃ〜ん!」

「そんなに大声出さないでくださいっ!」

「そ、そうだよぉ、恥ずかしいよぉ」


穂乃果「あはは」

絵里「ふふ」


にこ「結構買ったわね〜」

海未「足りなくなっては困りますから、少し多めに買いました」

穂乃果「花陽ちゃん……そのずっしりと重そうなのは……」

花陽「お米だよっ!」

穂乃果「あ、やっぱり……」

絵里「このまま穂乃果のお家に向かうの?」

穂乃果「えっと、ことりちゃん迎えて、それから希ちゃんを」

絵里「わかったわ。それじゃ行きましょうか」

穂乃果「待って、絵里ちゃん」

絵里「……なに?」

穂乃果「ちゃんと自己紹介しなきゃ」

絵里「そうだったわね。……えっと、真姫?」

真姫「……?」

絵里「改めて自己紹介させてもらうわ。絢瀬絵里よ。これからよろしくね」

真姫「……うん」

穂乃果「挨拶されたんなら、ちゃんと自分も挨拶しなきゃダメだよ?」

真姫「……にしきの、まき…です」

凛「挨拶が済んだら、さっさと行くにゃ〜」

花陽「まだ時間はあるよ、凛ちゃん」

凛「ことりちゃんか希ちゃんの場所でゆっくりしよう〜?」

花陽「そうだね。あ、真姫ちゃんも行こう?」

真姫「う、うん……」


絵里「うーん、まだ萎縮しちゃってるわね」

海未「それはしょうがないですよ。真姫の中ではまだ面識は浅いのですから」

にこ「っていうか、この人数でおしかけて大丈夫なの?」

穂乃果「うん、多分!」


……


39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 09:48:17.54 ID:WaUNN6Q5o

―― メイド喫茶


カランカラン


ことり「いらっしゃいま――……あ、真姫ちゃん〜♪」

真姫「えっ、……ことぃちゃん……?」

ことり「わぁ、来てくれたんだ〜♪」

穂乃果「ことりちゃん、もう上がれるの?」

ことり「ちょっと待ってて、店長に聞いてくる」

テッテッテ


穂乃果「びっくりした?」

真姫「……うん」

穂乃果「あの格好でここでアルバイトしてるんだよ。
     ほら、この写真とか、ことりちゃんが働いてる様子がわかるでしょ?」

真姫「……」

穂乃果「そういえば、ことりちゃんってハッキリ呼べなかったね」

真姫「……っ」

穂乃果「恥ずかしがらなくてもいいよ〜。でも、次はちゃんと呼んでみてね。
     誰も気にしないから」

真姫「……うん」


ことり「穂乃果ちゃん、ごめんねぇ。もう1時間くらいは出られないかも」

穂乃果「そっか。……じゃあ、希ちゃんのとこで待ってるから、そっちに来てくれる?」

ことり「ううん、待たないで先に行っててもいいよ?」

穂乃果「ダメだよ。人通りの少ない場所はなるべく二人以上でって言われてるでしょ?」

ことり「あ、そっか……」

穂乃果「私の家までそういう箇所いくつかあるから、ね」

ことり「うん、ごめんね」

穂乃果「いいよべつに。みんなと一緒に待ってたらすぐだよ」

ことり「うん、ありがとう〜」

穂乃果「それじゃ、またあとでね」

ことり「またあとで〜」

真姫「……」

ことり「真姫ちゃんも、あとでね」

真姫「うん……。おしごと、がんばってね……ことり…ちゃん」

ことり「うん! ありがと〜♪」


……


40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:09:33.76 ID:WaUNN6Q5o

―― 神社


希「……」


希「なんやろ……この居心地の悪さ……」



「希〜!」

「希ちゃ〜ん!」


希「お、にこっちと凛ちゃんや」


「よーい、どーん!」


「うわっ、いきなり走り出したにゃ!」

「ちょっ、ずるいわよ穂乃果!」

「一位の人にはさっきの試食品が贈られま〜っす!」


希「試食品?」


ドドドドッ


「か、勝ちますっ!」

「負けられないわ!」

「もう一度、あの味をっ!」

「えっ!? なんで海未と絵里が本気出してんの!?」

「かよちんまで!? そんなに美味しかったのー!?」

「っていうか、私は別にいらないから本気出さなくてもいいや」


希「なんだかわからないけど、重要な勝負なんやな」


ドドドドドッ


希「さぁ、突然始まった階段駆け上がり勝負! 勝者は誰の手に〜?」


ドドドドッ


希「勝負を捨てた穂乃果選手! 試合に取り残された真姫選手とゆっくりあがってきます!」


ドドドドッ


希「にこっち選手、階段中央でなんだか白けた模様! 走るのを止めて歩いています!」


希「凛選手! 前の三人が並んでいて追い抜くことが出来ない〜!」


希「並ぶ三人! 海未選手速い速い! 絵里選手も負けじと駆け上がる! 大健闘の花陽選手!」


ドドドドドドッ


希「さぁ、謎の試食品を手に入れるのは誰か〜! ゴォール!」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:10:53.80 ID:WaUNN6Q5o

海未「ぜぇはぁっ」

絵里「はぁはぁっ」

花陽「ふぅふぁっ」


希「勝者は〜、胸の差で花陽選手の勝利〜!」


海未「そんな……!」

絵里「なんてこと……」

花陽「やった!」


凛「凛が体力勝負で負けるなんて〜〜!!」


にこ「どうでもいいけどね、あんたたち」

海未「はぁはぁ……なにか……?」

絵里「なに……?」

花陽「?」

穂乃果「階段を全力で駆け上がったら……その……」


海未絵里花陽「「「 ??? 」」」


真姫「ぱんつ……」


海未絵里花陽「「「 〜〜〜ッッ!!! 」」」


にこ「今更抑えてもね……」

海未「破廉恥です!」

凛「真姫ちゃんたち以外に誰もいないからセーフにゃ」

にこ「ギリギリセーフよ。ギリセーフ」

真姫「ぎりせーふ」

絵里「そういう問題じゃないのよっ!」

花陽「あ……あぁ……」

穂乃果「あの、けしかけた私のせいです……ごめんなさい」


……


42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:12:55.51 ID:WaUNN6Q5o

―― 夕暮れ時


真姫「み〜つけた」

凛「みつかったにゃ〜」


穂乃果「凛ちゃんで最後だね。じゃあ、最初に見つかった、うみちゃんの鬼!」

海未「それはいいですが、別の遊びにしませんか?」

花陽「飽きちゃった?」

海未「いえ、そういうわけでは……」

穂乃果「トラシカだよね、うみちゃん」

絵里「ウマでしょ」

真姫「とらうま?」

穂乃果「昔ね……今みたいにみんなでかくれんぼしてたんだけど……。
     日が暮れるから最後にもう一回だけやって帰ろうってなったんだ……」

花陽「ほ、穂乃果ちゃん……話し方が怪談みたいだよっ」

穂乃果「あの時も、今みたいに、うみちゃんが鬼になってね……」

凛「ごくり……」

穂乃果「もうい〜かい〜? ま〜だだよ〜」

海未「……」

穂乃果「もうい〜かい〜? もうい〜よ〜」

真姫「……っ」

穂乃果「うみちゃんは閉じていた目を開いて……私たちを探し出した」


穂乃果「ここかな? いない。 ここだ! いない。 ここしかないはず。でもいない」


穂乃果「いない、いない、いない、いない。どこにもいない」


穂乃果「いないいない。だ〜れもいない」


穂乃果「みんな、私を置いて、帰っちゃったのかな? ひどいなぁ、かなしいな、さびしいなぁ」


穂乃果「そう、思って……。今みたいに暮れそうな夕陽をみつめたの」


花陽「……」

凛「……」

真姫「……っ」

海未「……」


穂乃果「そしたら、一つの影が立っていた」


穂乃果「ことりちゃんかな、ほのかちゃんかな。そう思ったうみちゃんは嬉しそうに声を上げるの」


穂乃果「み〜つけた〜!」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:15:59.85 ID:WaUNN6Q5o

穂乃果「だけど、その声を聞いた影は動こうとしなかった」


穂乃果「夕陽がまぶしくてよくみえない」


穂乃果「うみちゃんはその影に近づいて顔を確認した。……だけどそれはありえない人だったの」


穂乃果「うみちゃんはとんでもないひとをみつけた……!」


花陽凛海未「「「 ごくり 」」」


穂乃果「なぜなら その 影は う み ちゃ 」



「 おまえだーーーッッ!!! 」



穂乃果花陽凛海未「「「「 キャァアアーーーー!! 」」」」



穂乃果「って、にこちゃん!!」

にこ「ふんっ」

穂乃果「なんでうみちゃんの視点で語ってるのに『おまえだー!』ってなっちゃうの!?
     話がおかしくなるでしょ!!」

にこ「海未が聞き入ってること自体おかしいでしょ」

穂乃果「怖い話だからそこはいいの!
      花陽ちゃんも凛ちゃんも突っ込まないで聞いてくれてたし!」

にこ「そんなことより、私はまだ見つけられてなかったんですけど!?」

穂乃果「あれ、そうだっけ?」

にこ「そうよ! ずっと隠れてたのにあんた達はなにか話してるし、
    深刻な話かと聞きに来たら怖い話してるじゃない、バカじゃないの!?」

穂乃果「あー……ごめん」

にこ「見つけてくれる人がいないのにずっと隠れてる人の身にもなってほしいわ」

穂乃果「あれ、みんなは?」

にこ「四方八方に走っていったわよ」

穂乃果「ふふ、よっぽど私の話にのめり込んでいたんだね」

にこ「絵里は聞いてなかったみたいだけどね。離れてたし。
    途中から真姫を連れてどこかへ行ったわ」

穂乃果「えぇ……」

にこ「えーっと……ほら、あっちで参拝してる」

穂乃果「本当だ……」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:17:24.06 ID:WaUNN6Q5o

絵里「これでよし、と」

真姫「かみさまにおねがい?」

絵里「えぇそうよ。みんなが平穏無事にいられますようにってね」

真姫「……」

絵里「それとね、真姫?」

真姫「?」

絵里「穂乃果たちが今みたいに怖い話とかしてても、無理して聞くことないからね」

真姫「うん……」


希「ん〜? 何の話?」


絵里「なんでもないわ。仕事は終わったのね」

希「うん。事務の仕事がちょっと長引いちゃって」

絵里「気にしないで。こっちは遊んでいたんだから」

真姫「……」


穂乃果「はい、ターッチ!」

ことり「きゃっ」

穂乃果「わーい、にげろ〜!」

凛「鬼さんこちら〜」

にこ「手のなる方へ〜」

ことり「待て〜!」

海未「そう簡単には捕まりませんよ」

花陽「わっ、わわわっ」

穂乃果「こっちこっち〜♪」

ことり「あ〜ん、悔しい〜! あれ、デジャヴ……」


真姫「……」

絵里「行ってきていいわよ、真姫」

真姫「ううん、いい……」

希「みんな友達なんだから、遠慮は必要ないんよ」


真姫「……」


穂乃果「おーい、真姫ちゃんもおいで〜」

凛「おいで〜!」


絵里「ほら、行ってらっしゃい」

希「みんな待ってるよ」

真姫「……うん」

タッタッタ
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:18:55.97 ID:WaUNN6Q5o

絵里「……結構素直なのよね」

希「……」

絵里「ことりも合流したことだし、しばらくしたら移動しましょうか」

希「……そうやね」

絵里「どうかしたの?」

希「……ここって神聖な場所やから、いつもは精神的にも落ち着くんやけど」

絵里「……」

希「なぜか最近は落ち着かなくて、居心地が悪くなるんよ……」

絵里「不吉なこと言わないでよ……」

希「……」


にこ「捕まえてごらんなさ〜い」

真姫「えいっ」

にこ「えっ!?」

穂乃果「なに驚いてるの!? あっさり捕まってるけど!」

凛「遅……」

花陽「油断しすぎだね……」

ことり「タイムリミットは夕陽が沈むまで〜」

海未「その時鬼だった人は罰ゲームですよー」


にこ「よぉし、ギリギリまで粘って最後に捕まえてやるわ〜」


穂乃果「うわっ、姑息だ!」

海未「真姫、逃げてください!」

ことり「狙われてるよ!」


真姫「ん〜っ!!」


にこ「さぁさぁ、お逃げなさい〜」


凛「いやな鬼だにゃぁ」

花陽「あぁっ、捕まるっ」

穂乃果「そういえば、みんなで見るために伝伝伝を持ってきたんだった。
    落とさないように気を付けないと……」

にこ「ちょっと!? 傷なんて付けたら絶対に許さないわよ!?」

穂乃果「大丈夫大丈夫〜」

にこ「待ちなさい! こらー!」


絵里「標的が変わったわね……」

希「……」


希「この地に、なにか禍が起きようとしている……?」


……


46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:20:18.89 ID:WaUNN6Q5o

―― 高坂邸:玄関


穂乃果「ただいま〜」


母「おかえりなさい」

雪穂「おかえり〜」


穂乃果「お母さん、雪穂、紹介するね。真姫ちゃん」

真姫「……こんばん…わ」


母「はい、こんばんは」

雪穂「……」


穂乃果「真姫ちゃん、私のお母さんと、妹の雪穂」

真姫「……まき…です」


母「穂乃果の母をやっています。さ、上がって上がって」

真姫「……っ」

穂乃果「ほら、入って入って」

真姫「う、うん……」

雪穂「……」

穂乃果「どうしたの、雪穂?」

雪穂「あ、うん……。本当に雰囲気が違うから……」

穂乃果「不安だらけだと思うから、よろしくね」

雪穂「うん、わかった」

穂乃果「お父さんは?」

雪穂「晩御飯の支度してるよ。人数が人数だから」


……


47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:21:56.24 ID:WaUNN6Q5o

―― 居間


にこ「みんな、ご飯届いてるー?」

凛「えっと……あ、希ちゃんとことりちゃんが無いにゃー」

にこ「おっけー、他は足りてるのねー」

穂乃果「にこちゃんお客さんなんだから座っててよ」

にこ「いいのいいの、これくらい手伝わなきゃ時間がかかるでしょ」

ことり「はい、どうぞ希ちゃん」

希「ありがと〜」

絵里「すいません……急におしかけてしまって……」

母「いいのよ、大した物用意してないんだから、気にしないで」

絵里「いえ……それでもかなり手の込んだ料理で……」

母「お父さんが張り切っちゃってね。
  小学の時にやってた誕生日会以来で、少し楽しんでたみたいだから」

海未「そういえば、やってましたね、誕生日会」

ことり「あったあった♪」

穂乃果「懐かしいね……」

雪穂「今みたいにいろんな人来てたよね」

穂乃果「ヤマーダちゃん、元気にしてるかな?」

ことり海未「「 だれっ!? 」」

花陽「外国人……?」

雪穂「いえ、適当に言っただけですから」

穂乃果「せっかくだから、今日は誰かの誕生日を兼ねたパーティーにしようよ!」

海未「やめなさい。……また適当なことを」

ことり「みんなにちゃんと行き渡ってるかな……」

にこ「隣、いいかしら……?」

真姫「……」コクリ

にこ「失礼するわね……。って、前にも似たようなこと言ったような……」

穂乃果「じゃあ、にこちゃんの誕生日ってことで」

にこ「別にいいけど、ケーキは?」

花陽「いいの!?」

希「……」

にこ「どうしたの、希?」

希「うん?」

にこ「さっきからしずかだけど」

希「そんなことないよ。ただちょっと、賑やかで置いてけぼりなだけ」

にこ「ふぅん……」

凛「穂乃果ちゃん、はやく頂きますしよう〜?」

穂乃果「そうだね。じゃあ……」

絵里「お母さんたちは……?」

穂乃果「お店の方で過ごすって」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:23:21.71 ID:WaUNN6Q5o

花陽「真姫ちゃん、コップとって?」

真姫「……?」

花陽「ジュース、なにがいい?」

真姫「おれんじ……」

花陽「……はい、どうぞ」

トクトクトク


穂乃果「じゃあ、いただきますの挨拶は……主賓のにこちゃん」

にこ「はい?」

凛「しゅひんってなに?」

穂乃果「主役ってこと。誕生日だから」

海未「意味が違いますよ」

ことり「誕生日でもないよ〜」

穂乃果「?」

絵里「主賓っていうのは、お客さんの中で一番地位が高い人」

にこ「……」スッ

希「当然のごとく立ったね」

ことり「部長さんだから」

にこ「みんな、コップ持って」

凛「かよちん、凛もオレンジお願い〜」

花陽「うん」

にこ「今日はぁ、にこの為に集まってくれてぇ、とっても嬉しいですぅ」

真姫「……」

にこ「今日という日をぉ、にこは一生忘れませんっ」

穂乃果「……」

にこ「これからも辛いことや悲しいことがあるかもしれませんが、
   みんな、にこのことを支えてくださいっ!」


にこ「代わりに、みんなが同じように苦しいときは、にこが支えてあげますっ。
   勇気を出して一歩を踏み出せるように――」


穂乃果「反応に困るよ!!」

にこ「なによ」

穂乃果「良いこと言ってるけど、そのキャラで台無し!」

絵里「はぁ……」

希「真姫ちゃん」

真姫「……?」

希「ヒソヒソ」

真姫「……え?」

希「いいから、言って♪」

真姫「……」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:25:07.55 ID:WaUNN6Q5o

凛「ご飯が冷めちゃうにゃ〜」

花陽「あったかいうちに食べなきゃ」

にこ「わぁかったわよ、簡潔にいうから」

海未「お腹すきましたから、それでお願いします」

にこ「穂乃果が邪魔しなければとっくに終わってたのよ。……こほん…」

穂乃果「……」

にこ「今日はぁ、にこの為に集まってくれてぇ、とっても嬉しいですぅ」

花陽「最初から!?」


真姫「い、いただき…まーす……!」


一同「「「 いただきまーす 」」」


にこ「ちょっとぉ! 名演説を聞かなくていいの!?」

穂乃果「というか、今日はにこちゃんの為に集まったわけじゃないし」

にこ「あんた……にこの誕生日ってあれだけ言っておいて……」

雪穂「今日のお姉ちゃん……適当すぎ……」


……




ことり「ごちそうさま〜」

凛「おなかいーっぱい」

真姫「ごちそうさま……です」

穂乃果「ねぇ、みんな……明日はどうするの?」

にこ「どうするのって?」

穂乃果「明日休みでしょ? どこか行きたいなーって」

雪穂「片付けますね」

絵里「ありがとう。私も手伝うわ」

ことり「私も手伝うね」

雪穂「いいえ〜、ゆっくりしててください」

穂乃果「雪穂、お茶〜」

雪穂「はいはい」

絵里「じー……」

穂乃果「な、なにかな?」

絵里「あまり、よそ様のお家のことをとやかく言いたくないんだけど……」

穂乃果「はい……なんでしょう」

絵里「ちゃんと手伝ってあげなきゃだめよ?」

穂乃果「い、いつもはちゃんと手伝ってるよ」

絵里「本当に?」

穂乃果「……はい」

絵里「ならいいけど」

穂乃果「……私にお姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:27:02.39 ID:WaUNN6Q5o

海未「これからどうしますか?」

凛「なにかして遊びたいにゃ〜! ね、真姫ちゃん?」

真姫「うん……」

花陽「それでは、伝伝伝を」

にこ「なんでやねーん! って、本当に持ってきてたの!?」

希「それじゃ、トランプでもする?」

穂乃果「しようしよう。花陽ちゃん、リモコン」

花陽「ありがとう」

プツッ

花陽「あ……」


『先日起きました、警察官刺傷事件ですが、犯人は未だに――』


花陽「――!」

プツッ


海未「……」

ことり「……」

凛「……」

絵里「……」

真姫「……?」


穂乃果「ババ抜きでいいかな、真姫ちゃん?」

真姫「うん」

希「それじゃ、配るね」


母「みんな、今日は泊まっていくの?」

絵里「いえ、別々のところにお世話になろうと思っています」

希「エリちと花陽ちゃんはことりちゃんとこに、凛ちゃんとうちは海未ちゃんのところに」

母「もう遅いし、それがいいわね。ちゃんとお家にの人に連絡はしておいてね」


一同「「「 はーい 」」」


にこ「にこはぁ、どうしよっかなぁ?」

真姫「帰っちゃうの……?」

にこ「真姫ちゃんがそういうならぁ、にこは穂乃果ちゃんのとこにお世話になっちゃおう☆」

穂乃果「屋根上が空いてるからそっち使ってね」

にこ「せめて屋根裏にして!」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:28:10.08 ID:WaUNN6Q5o

絵里「明日遊ぶにしても、一度帰るから……昼になるわね」

穂乃果「そうだね。後でどこに行こうか考えようね、真姫ちゃん」

真姫「……うん」

穂乃果「どうしたの?」

真姫「……といれ」

穂乃果「案内するね。ついてきて」

真姫「……」

スタスタスタ......


絵里「なんだか、最近の穂乃果ってしっかりしたお姉さんって感じね」

にこ「そお?」

海未「確かに、しっかりしようと張り切ってる部分は見えますね」

凛「真姫ちゃんも頼ってるみたいだね」

花陽「……」

ことり「どうしたの、花陽ちゃん?」

花陽「うん……。犯人ってまだ捕まらないんだね……」

希「……」


……




―― トイレ


ジャー

 ガチャ


真姫「……」


ヒラヒラ


真姫「あ……」



……


52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:28:58.60 ID:WaUNN6Q5o

―― 玄関



「――。」



雪穂「……?」



「――。」


雪穂「外に誰かいる……?」


「雪穂〜」


雪穂「あ、お姉ちゃん」

穂乃果「真姫ちゃん、知らない?」

雪穂「外……かな? 話し声が聞こえるけど」

穂乃果「外……?」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:30:07.76 ID:WaUNN6Q5o

―― 高坂邸:前


真姫「……うん、バイバイ」


……。


真姫「……」


「真姫ちゃん?」


真姫「?」

穂乃果「誰かいたの?」

真姫「……」

穂乃果「電話……じゃないよね」

真姫「ひみつ」

穂乃果「……」

真姫「?」

穂乃果「ねぇ、真姫ちゃ――……ううん、真姫」

真姫「なに……?」

穂乃果「その秘密にしてることって、真姫にとって危険なことじゃないよね?」

真姫「きけん……?」

穂乃果「うーん、なんて言えばいいのかな……不安になったり怖くなったりすることじゃないってこと」

真姫「ひみつにしたらダメ……?」

穂乃果「ううん、ダメじゃないよ。それが大事だと思うならそうするべきだから」

真姫「……」

穂乃果「さ、中に入ろ」

真姫「うん」

穂乃果「……」


穂乃果「……ん?」


真姫「どうしたの?」


穂乃果「ううん、なんでもない」


……


54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:31:26.80 ID:WaUNN6Q5o

―― 居間


にこ「はい、罰ゲームをどうぞ」

凛「じゃあ、ちょっと恥ずかしいけど……物マネをします!」

海未「それは期待ですね」

凛「にっこにっこにー♪」

ことり「凛ちゃんかわいい♪」

にこ「罰ゲームになってないんですけど!?」

花陽「む、むしろ……にこちゃんの罰ゲーム……になってたりして」

真姫「……」

希「真姫ちゃんも戻ってきたから、配りなおすよ〜」



穂乃果「絵里ちゃん、ちょっとこっち来て」

絵里「どうしたの……?」

穂乃果「さっき、外で視線を感じたんだけど……」

絵里「え……!」

穂乃果「警察の人が警護にあたってくれてるんだよね?」

絵里「え、えぇ……真姫はあの事件のカギだと思われてるから……」

穂乃果「その人と話してたのかな……」

絵里「どういうこと?」

穂乃果「真姫が外で誰かと話をしてて……あまり深くは聞かなかったんだけど」

絵里「……」

穂乃果「外に出てきた真姫に注意したのかな……」

絵里「呼び方、変わってるのね」

穂乃果「うん……さっきね、なんだか放っておいたらダメだって改めて思ったんだ」

絵里「……」

穂乃果「目を離したらすぐにどこか行っちゃいそうだと思って……」

絵里「……家族のように接しようと?」

穂乃果「うん、そういうこと……」

絵里「なるほどね。……それで、さっきの話だけど」

穂乃果「うん……?」

絵里「なるべく注意してみてて、真姫のこと」

穂乃果「わかった。……だけど、秘密だって言われてるから詮索するのもどうかなって」

絵里「適度に見守っててあげるのよ」

穂乃果「難しいけど……分かった」


……


55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:32:47.46 ID:WaUNN6Q5o

―― 高坂邸:前



穂乃果「気を付けてね」

ことり「うん、それじゃ、また明日〜」

絵里「おやすみ」

花陽「ごちそうさまでした」

真姫「……バイバイ」

にこ「気をつけなさいよ〜」


スタスタスタ......


穂乃果「みんな帰っちゃうと少し寂しいね」

真姫「……うん」

にこ「真姫は、楽しかった?」

真姫「たのしかった。またみんなとあそびたい」

穂乃果「それは良かった」

にこ「明日も遊べるわよ」

穂乃果「それじゃ、お風呂入って寝ようか」

真姫「うん」

にこ「それにしても、穂乃果のうちにお泊りなんて考えもしなかったわ」

穂乃果「うみちゃん達とは中学まで何度かあったんだけど、高校入ってからはしなくなったなぁ」

真姫「ちゅうがく……?」

穂乃果「うみちゃんとことりちゃん、ずっと一緒にいるんだよ」

真姫「なかよしさんだった」

穂乃果「そうでしょ。分かり合ってる仲だから」

にこ「穂乃果ちゃん、にこのことも分かってくれてるよね?」

穂乃果「なにが?」

にこ「にこを屋根上なんかに寝かせたりしないよね、ね?」

穂乃果「あれは冗談だよ、決まってるでしょ〜?」

にこ「ベランダが空いてるとかも無しだからね?」

穂乃果「……」

にこ「沈黙やめて」

真姫「ふぁぁ……」

穂乃果「もうちょっと眠いの我慢してね。ほら、はやくお風呂入ろう〜」


……


56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:33:24.07 ID:WaUNN6Q5o

―― 朝


チュンチュン

 チュンチュン


穂乃果「ん……んん……」

真姫「すぅ……すぅ……」

にこ「くかー……」

穂乃果「ん?」

真姫「ん……すぅ……」

にこ「ん、んん……」

穂乃果「あ、そっか……二人ともお泊りしたんだった……」


穂乃果「二人がここで寝てるなんて……なんだか、変な気分……」


……


57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 10:35:11.01 ID:WaUNN6Q5o


―― 昼:商店街


穂乃果「ねぇ、真姫は学校に行きたいって思う?」

真姫「がっこう……」


子供「ねぇ、おかーさん、あれ買って、あれ買って〜」

母親「あと8年経ったらね〜」

子供「そんなに待てな〜い〜!」

母親「じゃあ、今度のテストで92点取れたら考えてあげる」

子供「え、本当に〜! やったー!」

母親「いい、92点よ? 92点だからね?」



穂乃果「私たちと一緒の学校だよ」

真姫「……うん」

穂乃果「少し、考えてみて」

真姫「……」コクリ


絵里「穂乃果、真姫、お待たせ」

花陽「まだ二人だけ……?」

穂乃果「にこちゃんは一度戻ってから来るって」

絵里「それとね、海未は用事が出来たんだって」

穂乃果「そうなんだ……残念だね」

真姫「うん……」

花陽「あ、ことりちゃんが来たよ」

穂乃果「おーい、ことりちゃ〜ん!」


「あ、穂乃果ちゃ〜ん!」


絵里「あら、一人……?」

花陽「凛ちゃんと希ちゃんがいないね」


ことり「ごめんねぇ、待たせちゃって」

穂乃果「ううん、そんなに待ってないから大丈夫だよ」

真姫「……うん、だいじょうぶだよ。ぎりせーふ」

ことり「ふぅ……、よかった……。ぎりせーふ?」

穂乃果「にこちゃんが言ってたんだよ、それ……。変な言葉覚えちゃったね」

絵里「今日も人通りが多いわね……」

花陽「はぐれないようにしないとね」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 13:04:15.10 ID:WaUNN6Q5o

ことり「ねぇ、絵里ちゃん」

絵里「?」

ことり「希ちゃん、昨日から少し様子がおかしかったよね……?」

絵里「そうね……。調子悪いのかと思って聞いたけど
   『なんともない』って言ってたわ。……なにかあった?」

ことり「うん、昨日ね、帰ってからいろいろ話をしてたんだけど……
    その時も『なんでもない』って言ってた……」

絵里「一体どうしたのかしら……?」

花陽「凛ちゃんは?」

ことり「凛ちゃん、お家の用事があるんだって」

花陽「そうなんだ……」

真姫「……」

穂乃果「にこちゃん、遅いなぁ……」


……




―― 希の部屋


ペラッ

ペラッ


希「……」


希「すぅ……ふぅ……」


希「占いは所詮、占い……」


希「出た結果を受け止めて、前向きに……進む……」


希「勇気を出して、一歩を踏み出す……」


ペラッ


希「……!」


希「……――悪魔」


……


59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 13:09:47.41 ID:WaUNN6Q5o

―― 商店街


穂乃果「遅れるなら連絡くらいくれてもいいのに……」

真姫「じかん、まちがえたんじゃない……?」

穂乃果「えー? ちゃんと13時って言ったよね? それも3回くらい」

真姫「……うん、いってた」

ことり「3時と間違えてたりして……」

花陽「そんな、まさ……か…」

穂乃果「にこちゃんに限ってそんな間違い……ありえる!」

絵里「電話してみましょ」

穂乃果「……うん」

ポパピプペ

trrrrrrr


プツッ


『はい、もしもし〜?』


穂乃果「にこちゃん、いまどこ?」

『家だけど?』

穂乃果「集合時間、何時って言ったっけ?」

『3時でしょ?』

穂乃果「……」

花陽「あぁ……」

ことり「やっぱり……」

穂乃果「じゅう、さん、じ!」

『13時……? とっくに過ぎてるじゃない!』

穂乃果「そうだよ! どうするの、来るの?」

『い、行く、行くわよ! ちょっと待ってなさい!』

穂乃果「じゃあ、私たち、適当に過ごしてるから、着いたら連絡してね」

『わかった。……道理で遅すぎると思ったのよねぇ』

プツッ

絵里「真姫はどこか、行きたいところ、ある?」

真姫「あっち、あれにいきたい」

ことり「本屋さん?」

穂乃果「よし、行ってみよう」

花陽「そ、そういえば……今日は新刊の発売日……!」


……


60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 13:11:14.03 ID:WaUNN6Q5o

―― 本屋


店員「いらっしゃいませ」


花陽「えっと、えっとぉ……!」

絵里「なにをそんなに真剣に探しているの?」

花陽「今日は毎月発売されるスクールアイドル雑誌の……あっちかな!?」

絵里「私は参考書を見てくるわね」

ことり「ファッションチェック〜♪」


穂乃果「みんな思い思いに進んで行くね……」

真姫「……」

穂乃果「真姫はなにか探してる本とかあるの?」

真姫「うん……」

テクテクテク......


穂乃果「よし、付いて行こう……」


真姫「……」


穂乃果「絵本……?」


真姫「……」スッ


穂乃果「『天使と悪魔』……」

真姫「どっちが天使なの?」

穂乃果「こっちじゃないかな、白い服着てるし、優しそうな表情してるし」

真姫「こっちは?」

穂乃果「悪魔……かな。無表情だから、多分そうだよ」

真姫「そうなんだ……」

穂乃果「……」

真姫「あくまって、こわい?」

穂乃果「うーん……会ったことないから分かんないけど……怖いんじゃないかな」

真姫「……」

穂乃果「人をね、悪い方に誘う魔物なんだよ。それは怖いよね」

真姫「……うん」

穂乃果「逆に、天使は天の使いの者だから清らかなんだよ」

真姫「こわくなかったけど……」

穂乃果「え?」

真姫「……」

ペラッ ペラッ
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 13:12:32.32 ID:WaUNN6Q5o

穂乃果「……」


店員「……」


穂乃果「う……店員さんに見られてる……」

真姫「……」

ペラペラッ

穂乃果「それ、面白い?」

真姫「うん……」

穂乃果「買う?」

真姫「ううん……」

穂乃果「……えっと、他にどんなのあるかな」


穂乃果「あ、懐かしい……小さいころに読んだよこの猫の本」


穂乃果「おぉ〜、木とヤギの……なんだか怖かったんだよねぇ」


ことり「ねぇねぇ、穂乃果ちゃん」

穂乃果「ん?」

ことり「この衣装のデザイン、かわいいよねっ」

穂乃果「あぁ、うん、かわいい〜」

ことり「ここのフリフリとかいいよね」

穂乃果「うみちゃんに着せてみたいよね〜」


真姫「……」


ことり「うん? どうかしたの、真姫ちゃん?」

真姫「これ……」

ことり「え、ゴスロリ?」

真姫「うん、かわいい」

穂乃果「……ふぅん」

ことり「ねぇ穂乃果ちゃん」

穂乃果「な、なに?」

ことり「真姫ちゃんって、ゴスロリに興味あったっけ?」

穂乃果「ううん、多分ない。私の知る限りないよ」


真姫「悪魔……じゃないみたい」


ことり穂乃果「「 ? 」」
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 13:13:49.79 ID:WaUNN6Q5o

店員「いらっしゃいませ」


にこ「……」

スタスタスタ


穂乃果「あ……」


にこ「あったあった……。えっとぉ……」


ことり「私たちに気づいてないよね……?」

穂乃果「だね……。しかも連絡くれてないし……」


にこ「どこぉ……どこにあるのぉ……?」

ペラペラペラッ


絵里「32ページ」


にこ「32……と。あったあった……小さッ!」


花陽「私たちの名前はないけど、記事になるなんて嬉しいよねぇ」


にこ「なにが期待の新人スクールアイドルよぉ……! もっと枠を大きく取り扱いなさいよね……!」


穂乃果「あの、ちょっといいですか?」


にこ「部長であるにこのこと全然触れられてないしっ!」


穂乃果「あのぉ、すいません」


にこ「え、あぁ……ごめんなさい」

スッ


穂乃果「いや、本を取りたいんじゃなくて……あなたに用があるんですよぉ」


にこ「悪いんだけど、いまプライベートだから……って、穂乃果?」

穂乃果「はい、私です」

にこ「どうしてここに……って、みんないるわね」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 13:14:48.97 ID:WaUNN6Q5o

穂乃果「私たちに連絡をくれず、脇目も触れずにここへまっすぐ来ましたね」

にこ「そ、それがなにか?」

穂乃果「人を待たせてるのに自分の記事を探すのが第一って……」

にこ「う……」

絵里「……」

ことり「……」

花陽「……」

真姫「……」

にこ「む、無言の圧力……」

穂乃果「なにか、言うことがあるんじゃないですか?」

にこ「え、えっと……そのぉ」

穂乃果「……」

にこ「に、にっこ」

絵里「誤魔化さない」

にこ「ごめんなさい」ペコリ


……


64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/24(土) 13:15:42.51 ID:WaUNN6Q5o

―― ゲームセンター


にこ「あの人形のどこがいいのよぉ〜!」

穂乃果「真姫のご指名なんだから頑張って、にこちゃん!」

ことり「もうちょっと前だよ!」

花陽「あぁ、行き過ぎ!」

真姫「…おちちゃった……」

にこ「もぉ〜! 取れる気がしない〜!!」


『ほな、あとで……』

絵里「わかった、それじゃ」

プツッ


穂乃果「もう最終兵器だね、ことりちゃん!」

ことり「わかった、任せて!」

真姫「が、がんばって……!」

ことり「よぉ〜し!」

にこ「あの人形、ちょっとやそっとじゃ動かないわよ」

絵里「ねぇ、穂乃果」

穂乃果「うん?」

絵里「私はこれで失礼するわ」

穂乃果「あ、うん……わかった」

絵里「それじゃ、ね」

穂乃果「うん、バイバイ〜」


……


65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:03:21.82 ID:Sez8j5keo

―― 逢魔が時:神社


絵里「もうこんな時間……」


絵里「楽しい時間はあっという間ね……」


「エリち」


絵里「あら、私服……?」


希「今日は、バイトじゃなく……私用できたんよ」


絵里「どうしたのよ、みんなで遊ぼうって話してたのに」


希「うん、ごめんね……遊んでいるときに急に呼び出して……」


絵里「それはいいけど……」


希「いろいろと考えてたんよ」

絵里「いろいろ?」

希「最近、うちの心が不安定で……落ち着かなかくて……」

絵里「そう、言ってたわね……」

希「ここ、神聖な場所にいるのに……それでも精神は揺れ動かされてるようで」


希「真姫ちゃんのこともあって、ショックを受けてるんやって思ってたんや」


絵里「……」 


希「それでもみんなは、この非日常を真姫ちゃんと一緒に今までの日常へと戻していった」


希「うちもそれに倣って……いつもの風景に溶け込んでいきたかったんやけど……」


希「それが出来なかった」


絵里「……」


希「この不安定な状態を改善したくて……占ったんよ」


希「うちらの未来を……」


絵里「結果は……どうだったの?」


希「……これやった」


スッ


絵里「それは……」


希「『悪魔のカード』」


絵里「…………」


希「いま、うちらは窮地に立たされているみたいなんや――」
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:04:50.44 ID:Sez8j5keo

pipipipipi


絵里「――!」


希「……電話」


絵里「え、あ……えっと……穂乃果?」


プツッ


絵里「もしもし?」


『絵里ちゃん! どうしよう!!』


絵里「ど、どうしたの?」

『なんか、変なのが届いたんだよッ!』

絵里「変なのって……ちょっと、落ち着いて穂乃果」

『こ、これってもしかして犯人からの手紙なんじゃないかって!!』

絵里「え――」

『な、なんでこんな――!』


希「どうしたん……?」


絵里「犯人からの手紙……?」

希「え――!?」


『な、なんでうちのッ! 真姫のいる場所がッッ!!』


絵里「いま、どこなの穂乃果」


『どうしよう、どうしようっっ』


絵里「落ち着いて穂乃果!」


『――ッ!』


絵里「真姫と、一緒なんでしょ?」


『あ、うん……!』


絵里「真姫を不安がらせちゃダメよ。それを第一に考えて」


『う、うん……そうだね……ッ』


絵里「今から向かうわ。どこにいるの?」


『お、おうち。私の家だよ』


絵里「家、ね。わかった。……希」

希「うん、行こう……!」
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:08:09.56 ID:Sez8j5keo

絵里「穂乃果、周りに誰かいる?」


『ううん……あ、歩いている人ならいるけど……』


絵里「その場を動かないでね、今向かってるから。それと一度電話を切るけど」


『え……!?』


絵里「しっかりしなさい。あなた、お姉ちゃんでしょ?」


『あ……うん!』


絵里「じゃあ、少しの間だけだから」


プツッ


希「どうするん?」

絵里「伏見さんに連絡するのよ」

希「手紙っていったい……?」

絵里「さっぱりわからないわ……」

ピッピップ

trrrrrrrr


プツッ


『はい、伏見です』


絵里「私です、絢瀬絵里ですっ」


『あぁ、絢瀬さん?』


絵里「あ、あのっ……えっと」


『どうしたの? 慌ててるみたいだけど』


絵里「穂乃果、高坂穂乃果を知っていますか?」


『え? こうさか……あぁ、うん』


絵里「あの、だから……真姫のいる場所がっ、穂乃果の家でッ!」


『えっと、ごめん、よく分からない……』


希「エリち、止まって。冷静に……」


絵里「止まってられないわよ、急がないと!」


希「エリちはお姉ちゃんやろ?」


絵里「――!」
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:09:20.69 ID:Sez8j5keo

希「重要な部分だけ話すんや」


絵里「……わかった」


『……』


絵里「伏見さん」


『はい』


絵里「真姫はいま、高坂穂乃果の家にいます」


『……』


絵里「その家に、犯人からの手紙が届いたようです」


『え――!?』


絵里「どうすれば、いいでしょうか」


『……』


絵里「……」


『高坂さんの電話番号を教えてくれる?』


絵里「わかりました――」


……


69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:15:34.00 ID:Sez8j5keo

―― 高坂邸


真姫「ほの…ぁ……ちゃん……」

穂乃果「ご、ごめんね。ちょっと驚いたことがあって、あはは……」

真姫「……っ」

穂乃果「えぇっと……あ、その人形取れてよかったね!」

真姫「……」

穂乃果「さすがことりちゃんだよね、一発でとれちゃうなんて〜」

真姫「うん……」

穂乃果「でもこれ、なんて種類の人形――」


pipipipi


プツッ


穂乃果「は、はい、もしもし!」


『伏見といいます。警察の者です』


穂乃果「け、けいさつ……!?」


『絢瀬さんから聞きました』


穂乃果「絵里ちゃん……?」


『いま、その手紙は持っていますか?』


穂乃果「は、はい。持ってます」


『その手紙を、これから駆け付ける刑事に渡してください。
 ちゃんと身分証を提示するので、安心してください』


穂乃果「わ、わかりました」


『それから、その手紙の文面を写真に撮ってほしいんだけど、出来るかな?』


穂乃果「しゃ、写真……?」


『携帯電話でパシャッと』


穂乃果「は、はい……」


『絢瀬さんもそっちに向かっててすぐ到着すると思う』


穂乃果「あ……はい」


『それじゃ、後で』


プツッ
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:16:38.74 ID:Sez8j5keo

穂乃果「……絵里ちゃん」

真姫「……ほの…かちゃん?」

穂乃果「ごめんね、変に心配かけちゃって……。もう大丈夫だから」

真姫「……うん」


穂乃果「あ、そうだ……写真を……」


ピロリン


「君たち……!」

穂乃果「は、はい」

「警察だ。いま、連絡を受けた」

穂乃果「……あ、あの」

警部「不審な人物は見たか?」

穂乃果「い、いえ……今帰ってきたばかりなので……」

警部「そうか……」

ガガッ

警部「おい、こっちに来い」

『なんスか、先輩?』

警部「事件の容疑者が接触してきたようだ」


穂乃果「……」

真姫「……」


警部「その紙がそうか?」

穂乃果「は、はい」

警部「こちらで預かろう」

穂乃果「……」


警部「ふむ――」


穂乃果「真姫……大丈夫だよ」

真姫「う、うん……っ」


警部「――なるほど」


「先輩!」

警部「これを鑑識に回す。あと、鑑識班も呼べ」

後輩「は、はいっ。入れる袋を持ってくるんスね!」

警部「おい、手袋を忘れるな」

後輩「は、はい〜」


穂乃果「……」

真姫「……っ」
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:18:23.09 ID:Sez8j5keo

警部「では、二三、質問させてもらおう」


穂乃果「ぅ……っ」


ガラガラ


母「……どうしたの?」


穂乃果「お母さん……っ」


母「……?」


警部「失礼、私はこういう者です」


母「はぁ……警察の……」


警部「この家に犯人と思われる者から手紙が届きました」

母「え――」

警部「内容を確認したいので、質問に答えてもらいます」

母「……」

警部「君、いいね?」

真姫「……ッ!」

警部「君は、この手紙に記されてることが事実なら犯人の顔を二度も見ていることになる」

真姫「は、はんにん……?」

警部「思い出せるはずだ。相手の顔を……!」

真姫「え、えっと……」

警部「この手紙が本物なら――」


穂乃果「ま、待ってください……!」


警部「……?」


穂乃果「ま、真姫は……忘れているんです、事件のあった時のこと……」

警部「……」

穂乃果「だ、だから……」

警部「思い出すチャンスじゃないか」

穂乃果「え……?」

警部「犯人の顔を思い出せば、今までの記憶もまた戻る。そうじゃないのか?」

穂乃果「そ、それは……わかりません」

警部「すべてを思い出すことが何よりも優先すべきだ」

穂乃果「で、でも……真姫が……!」


真姫「ぅぅ……っ」


母「こんなに震えて……。怖がらせてしまっては思い出せるのも思い出せないのでは?」

父「…………」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:21:18.50 ID:Sez8j5keo

警部「……」


後輩「せ、先輩……」

警部「時間が経てば、また忘れてしまうかもしれない。
   危険に晒されているのはここに書かれている通り、9人になっているのかもしれないんだ」


穂乃果「―――ッ!」


母「え……?」

父「……!」


真姫「ほのか……ちゃんが……きけん……?」


警部「だから、一刻も早く犯人を――」


「ちょっと待ってください!」


警部「……」


絵里「犯人逮捕のために、一般人を傷つけてもいいのですか!?」


警部「人聞きの悪い……。君たちは誤解している。私たち警察は協力が欲しいだけだ」

後輩「そ、そうだよ。犯人をこれ以上好き勝手にさせてはいけない。
   悪運の強さに我々も手をこまねいてきたけど……もうそうはいかない!」

警部「余計なことを言うな、馬鹿野郎!」

後輩「す、すいません」


「それなら、私が事情を聴きましょう」


警部「あ……?」


伏見「私が得た情報は全部、そちらに回しているでしょう?」


警部「誰だ、おまえ……?」

後輩「ほ、ほら、あのオカルトの……!」

警部「あぁ、窓際部署の新米が研修に来たって……」

伏見「ち、が、い、ま、すぅ! 刑事十三課ですぅ! 正式な部署なんですぅ!」

警部「チッ……。もういい。俺たちは聞き込みだ」

後輩「は、はい!」

警部「必ず全部、こっちに回せよ」

伏見「言われるまでもなく」

警部「……」

スタスタスタ......



伏見「まったく、なぁにがオカルトよ、窓際よ、
   こっちのおかげで解決した事件もあるってのに」
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:23:02.25 ID:Sez8j5keo

母「真姫、中に入って」

真姫「……ほの…」

穂乃果「大丈夫だよ」

真姫「……うん」

穂乃果「……」

父「……」コクリ


穂乃果「お母さん、お父さん……ありがと」


絵里「……」

希「……」


伏見「っと、愚痴ってる場合じゃない。えっと……穂乃果、さん?」

穂乃果「は、はい」

伏見「私は伏見といいます。絢瀬さんから番号を教えてもらって電話をしました」

穂乃果「……はい」

伏見「さっそくだけど、撮った写真を見せてくれるかな」

穂乃果「ちょ、ちょっと待っててください」


希「うちは、真姫ちゃんが気になるから中に入ってるね」

絵里「えぇ、お願いね」


穂乃果「え、えっと……」

絵里「……あの、写真って?」

伏見「証拠品だから、捜査一課に持っていかれると思って、高坂さんに撮ってもらってたの」

絵里「……」

穂乃果「……これ、です」


伏見「……」



『 こんにちは。

  突然の手紙を不審に感じられるでしょうが、
  私の顔に覚えがないようなのでこうして筆を執りました。

  今日は商店街へ行きましたね。
  西木野真姫さんとは目を合わせたのですが、私には気付かなかったようです。

  運がいいですよ。

  9人のお名前、簡単に知ることができました。

  あなた方はスクールアイドルをやっているのですね。

  それでは、また。 』



伏見「なるほど……警部の言った意味が分かった」


絵里「……なによ、これ」

穂乃果「……」
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:27:43.03 ID:Sez8j5keo

伏見「では、質問させてもらうけど、いい?」

穂乃果「はい……」

伏見「商店街に行ったのは何時?」

穂乃果「13時です」

伏見「ふむ……。それで、帰ってきたのがついさっき……と」

絵里「あの、一緒に考えてもいいですか?」

伏見「え?」

絵里「何が起こっているのか、知りたいですから」

伏見「……うん、そうだね。知恵を貸してくれると助かる」

絵里「邪魔なようなら言ってください」

伏見「わかった。……で、手紙の差出人が……って、ちょっと待ってね」

穂乃果「?」

伏見「手紙はどこにあったの?」

穂乃果「郵便受けです。……そこの」

伏見「これに触るのは誰?」

穂乃果「お父さんとお母さん、私と妹の雪穂……だけです」

伏見「西木野さんは?」

穂乃果「触っていません」

伏見「オッケー……、では失礼して」

絵里「……その白い手袋って本当にやるんですね」

伏見「まぁね〜。現場保存は基本だから」


パカッ


伏見「何もなし。……手紙と一緒に入ってたものって?」

穂乃果「ありません。あの手紙だけです」

伏見「そっか……」

絵里「……」

伏見「話を戻すけど、商店街ではどこへ?」

穂乃果「本屋とアイスショップ、洋服屋さん……最後にゲームセンター……かな?」

絵里「そうよ、それで合ってる」

伏見「結構回ったねぇ……。ここが重要なんだけど」

穂乃果「は、はい」

伏見「西木野さんが他人と目を合わす機会ってどれくらいあった?」

穂乃果「え、えっと……」

絵里「最後のゲームセンターは分からないけど、
    前に挙げた3つの店は店員とも目を合わすタイミングがありました」

伏見「……なるほど」

絵里「でも……」

伏見「?」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:30:03.51 ID:Sez8j5keo

絵里「真姫はあっちこっちとキョロキョロしてたから……」

穂乃果「うん……」

伏見「通行人の中にいたかもしれない……と」

絵里「……はい」

伏見「あとで店の場所を教えてもらうとして……」

穂乃果「……」

伏見「あの手紙は事件……警察官を刺した犯人が出したものだと思う?」

穂乃果「え……?」

絵里「どういうこと……ですか?」

伏見「思い込みって結構危険で、見えない物を見えたと錯覚させてしまうからね」

穂乃果「???」

絵里「あの、おっしゃる意味が……」

伏見「この手紙の主は、事件の犯人と西木野さん本人しかしらない情報を持っているんだよね」

穂乃果「えっと……それって……」

絵里「あ……!」


伏見「『犯人の顔を見ている』という事実」


絵里「わ、私たちは真姫が犯人の顔を見ている『かもしれない』ってだけ……!」

伏見「私たち警察も同じで、『かもしれない』ってだけだった。だけど手紙で事実が分かった」

穂乃果「……ど、どういうこと?」

絵里「今の真姫を含めて、私たち9人と真姫のご両親は犯人に繋がる情報は一切持っていないの」

伏見「逆に犯人は西木野さん本人の顔は覚えていた。だからこんな文章を書ける」

穂乃果「……」

絵里「……」


『 こんにちは。

  突然の手紙を不審に感じられるでしょうが、
  私の顔に覚えがないようなのでこうして筆を執りました。

  今日は商店街へ行きましたね。
  西木野真姫さんとは目を合わせたのですが、私には気付かなかったようです。

  運がいいですよ。

  9人のお名前、簡単に知ることができました。

  あなた方はスクールアイドルをやっているのですね。

  それでは、また。 』


伏見「この手紙を見て君たちは『犯人の顔を見たかもしれない』という疑いから、
   『犯人の顔を見ている』と確信してしまったんじゃないかな」

穂乃果「あ……」

伏見「もう一度聞くけど、あの事件の犯人が出した手紙だと思う?」

穂乃果「それは……」

絵里「あの、伏見さん」

伏見「……?」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:32:33.69 ID:Sez8j5keo

絵里「真姫の近くに犯人が……?」

穂乃果「え――」

絵里「穂乃果が電話で最初に言っていましたけど、
   どうして真姫の居場所が分かったのか……気になっているんです」

伏見「そうだね……、それは重要なポイントだと思う。でも……」


穂乃果「……」

絵里「……」


伏見「私は……――いないと思う。警部たちの聞き込みでハッキリするだろうけど」


穂乃果「ほっ……」

絵里「どうしてですか?」


伏見「その次の文章を読めばわかると思う。
   西木野さんの身に起きている状況を理解してない可能性が高い」


穂乃果「……?」

絵里「真姫の精神が逆戻りしているってことを……犯人は知らない……?」

伏見「そう、そのことは警察側は知っている。それに医者にも口止めしているから」

絵里「ふぅ……変な汗をかいちゃった……」

穂乃果「私も……」

伏見「だから顔見知りでもない、全くの赤の他人の可能性が強い」

穂乃果「……」

伏見「それで最初の質問に戻るけど……この手紙の主があの事件の犯人かどうか」


穂乃果「私は犯人だと思います」


伏見「どうして?」

穂乃果「『運が良かったですね』に悪意を感じました」

伏見「……」

穂乃果「もし運が悪ければどうなったのか……って思ったらとっても怖くなったんです」

伏見「なるほど、うん。わかりました。
   この手紙の主を事件の犯人として捜査していきます」

穂乃果「……」

絵里「いいんですか? 穂乃果の直感が根拠で……」

伏見「充分だよ。それに、脅迫まがいの内容だから無視はできない」

絵里「……」

伏見「今回の件で犯人はかなり大胆な行動に出てる。
   警護はこのままつけるけど、何か不審な点があったらすぐに連絡して」

穂乃果「……はい。よろしくお願いします」
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:33:44.62 ID:Sez8j5keo

絵里「あの、この家を見張っていた人はいなかったんですか?」

伏見「残念なことに……。張っていた人は君たちと一緒に商店街に行ったんでしょう」

絵里「……」

伏見「この点からいっても、犯人はありえない状況を作り出してるから。こっちも右往左往しちゃってね」

穂乃果「さっきの……悪運がどうとかって……」

伏見「そういうこと。ここまでくると運がどうこうってレベルじゃないんだけどね」

絵里「……」

伏見「それじゃ、ご両親にも詳しく話をしたいから、いいかな?」

穂乃果「は、はい。……どうぞ」

伏見「お邪魔します」


……


78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:38:28.89 ID:Sez8j5keo

―― とあるマンションの一室



「ねぇ、アリス」


「去年のあの事件、全然話題になってないのはどうしてだろう」


「あれだけのインパクトのある事件、みんな忘れてしまったというの?」


「それともすでに飽きてしまったの?」


「そうね、そう思うよね」


「女子生徒バラバラ殺人事件」


「犯人の動機は伏せられてる。きっと親族への配慮なんだろう」


「……」


「だけど」


「犠牲になった女子生徒の子たちを忘れてはいけない」


「そして」


「半年前に送ったメールは、いまだに無視されてる」


「だから」


「私が彼女たちの犠牲を無になんかさせない」


「だって」


「三倍のインパクトが世間を、この国を駆け巡るんだから」


「必要なのは」


「9人の犠牲」


「それで、命の価値は高まっていくのだから」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:39:11.43 ID:Sez8j5keo

「ねぇ、アリス教えて」


「私に、それができるかどうか」


……。


「フフ、ありがとう」


「そうね、もう後戻りできないから」


……。


「あの警察の人がきっかけをくれた」


「フフッ」


「フフフッ、アハハハハッ!!」


「素敵! あの時から世界が輝くようになった!」


「西木野真姫」


「ありがとう、あなたに出会えてよかった!」


……。



……


80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:41:55.54 ID:Sez8j5keo

―― 高坂邸


伏見「それではこれで」


母「あの、娘たちに危険は……」

穂乃果「……」

伏見「それをほのめかす一文はありましたけど、気にしなくても大丈夫です」

絵里「……」

伏見「私たちが止めてみせますから、任せてください」

母「……」

穂乃果「はい、お願いします」

伏見「うん、それじゃ」


pipipipipi


プツッ


伏見「はい、伏見です」

『前の車に乗れ』

伏見「わかりました」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:43:48.40 ID:Sez8j5keo

―― 車内


伏見「おつかれさまです」

後輩「お疲れさま」

警部「で、どうだった」

伏見「ご両親に説明しました」

後輩「彼女たちの身の危険が迫ってるって?」

伏見「まぁ、はい」

警部「手紙の内容を把握してるのか」

伏見「……連絡先を教えてもらってるので」

警部「信用されてねえな、俺たちは」

伏見「……」

後輩「なんだかやけに彼女たちと距離が近そうだから、妙だなと思ったんだよなぁ」

警部「出せ、署に戻るぞ」

後輩「了解ッス」

伏見「聞き込みの方は?」

警部「今のところ、目撃者無しだ」

伏見「そうですか……」

警部「鑑識班も成果なしだとよ」

後輩「白昼堂々と脅迫状を投函……ありえないッスね……」

警部「昼から夕方にかけて、あの辺りは人通りがないとは言えない場所だ」

伏見「……」

後輩「じゃあ、見張りを使った複数犯……?」

警部「どうだかな……」

伏見「あの証拠品の手紙、一日だけ借りられませんか?」

警部「それをどうするんだ?」

伏見「相談したい相手がいまして」

後輩「それは?」

伏見「所属してる部署の唯一の手段ってことで」

警部「……」

後輩「カモフラージュの物でも一緒に入れてくれればそこからも捜査進められたんスけどねぇ」
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:45:00.48 ID:Sez8j5keo

伏見「そういえば、あの子たち9人の名前……簡単に知ることが出来たってどういうことですか?」

後輩「あれ、知らないの、スクールアイドル」

伏見「そういえばそんな単語があった……」

後輩「彼女たち、そこそこ有名だから。調べればすぐだよ」

伏見「へぇ……知らなかった。アイドルかぁ……確かにみんな可愛いかった」

警部「おまえ、去年のあの事件を捜査してたんだってな」

伏見「え?」

後輩「あの事件……?」

警部「女子生徒バラバラ殺人事件のことだよ」


伏見「…………」


後輩「あぁ……あの……」

警部「課長からそれを追ってここへ来たと聞いた。
    今回の事件と、その事件、繋がってんのか?」

伏見「さぁ、それを調べに来ただけですから」

後輩「む……なんだ、その態度」

警部「いいから。……悪かったな」

伏見「……いえ」

後輩「でも、もう終わったんじゃ……?」

警部「事件ってのはそう簡単じゃねえんだ」


伏見「……」


……


83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:46:58.86 ID:Sez8j5keo

―― 穂乃果の部屋



キィィィィイイイ


穂乃果「う……」


ィィィィィイイイン


母「どうしたの?」

穂乃果「最近、ちょっと耳鳴りがしてて……」

母「病院に行く?」

穂乃果「大丈夫だと思う……。しばらく続くようだったら行ってみる」

母「……。それで、話を戻すけど」

穂乃果「うん。真姫ちゃんのお母さんはなんて……?」

母「娘の望む方を尊重するって」

穂乃果「……そっか」

母「穂乃果はどうしたい?」

穂乃果「一緒にいたい。犯人は……真姫のこと……狙ってるみたいだから」

母「……」

穂乃果「守って……あげなくちゃ……」

母「楽観できる状況じゃないのよ?」

穂乃果「……うん。でも、あの刑事さんが安心してって言ってくれてるし……」

母「……」

穂乃果「どうしたの?」

母「ううん、なんでもない。親は親同士で連絡とってみるけど、あなた達はどうするの?」

穂乃果「うん、絵里ちゃんと希ちゃんとも話したけど……明日、みんなに伝えてみる」

母「あまり考えすぎないようにね」

穂乃果「……うん」


「おねーちゃん〜」

コンコン
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:47:58.33 ID:Sez8j5keo

穂乃果「いいよ、入ってー」


スーッ


雪穂「真姫ちゃん、お風呂に入れたよ〜」

真姫「……」


穂乃果「うん、ありがと、雪穂」


真姫「ありがとう、ゆきちゃん……」

雪穂「えへへ〜、どういたしまして」


母「……」


雪穂「あれ、なんか大事な話? 邪魔しちゃった?」


母「ううん、それは終わったから。みんな早く寝なさい」


雪穂「はーい、それじゃおやすみ〜」

穂乃果「おやすみ〜」

真姫「おやすみなさい……」


……




―― 高坂邸:玄関前


母「雪穂は知らなくていいって、穂乃果は言ってたけど……本当にいいのかしら」

父「……」コクリ

母「その雪穂が、妹が出来たみたいに嬉しそうにしちゃってるの」

父「……」

母「穂乃果も、守らなきゃって言って強くあろうとしてるけど……少し震えてて」

父「……」

母「一人で背負おうとしてるのを見てると、なんだか切なくなってきちゃって」

父「……」

母「娘たち三人、守ってあげてね、お父さん」

父「……」コクリ

母「あの女性刑事さん、見た目若いのに……見た目以上の経験を積んでそうだったわ……」


……


85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:52:01.20 ID:Sez8j5keo

―― 深夜:穂乃果の部屋


穂乃果「すぅ……すぅ……」


「ぐすっ……」


穂乃果「……ん…?」


「ぐすっ……っ」


穂乃果「まき……?」


真姫「……ぐすっ」


穂乃果「どうしたの……真姫……?」


真姫「て……」


穂乃果「あ……ごめんごめん。離しちゃってたね……」


真姫「……っ」

ギュッ


穂乃果「怖い夢でもみた?」

真姫「ううん……ぐすっ」

穂乃果「……」

真姫「なにもわからない……」

穂乃果「……?」


真姫「ほの…っ…かっ……ちゃん…の……こと……わからないっ……」


真姫「にこ…ちゃんっ……も……ぐすっ」


真姫「……そと…の……っ…ことも……わからないこと……ばっかり…っ」


穂乃果「……」


真姫「おとうさんも……おかあさんも……っ」


真姫「まきがおかしいから……みんな、やさしくしてくれるんだよね……?」


穂乃果「……真姫ちゃん」


真姫「ぐすっ……」


穂乃果「みんなが優しいのは、心配してるからだよ」


真姫「……ごめんなさい……っ」


穂乃果「え?」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:53:12.12 ID:Sez8j5keo

真姫「めいわく……かけて……っ……ごめんなさい……ぐすっ」


穂乃果「あ、ち、違うよ」


真姫「ぅぅっ、うぅぅっ」


穂乃果「心配してるのは、みんな、真姫のことが好きだからだよ」


真姫「ぐすっ……?」


穂乃果「大切だから、大事に想ってるから、優しくしてるの」

真姫「……」

穂乃果「迷惑かけていいんだよ、心配かけていいんだよ」


穂乃果「だって、私たちはかけがえのない友達……仲間なんだから」


真姫「なか…ま……?」


穂乃果「そうだよ。辛いときに支えあったり、悲しいときに落ち込んだり」


穂乃果「一緒になってそれを乗り越えるの」


真姫「……」


穂乃果「みんなと一緒にいれば、楽しいことがもっと楽しくなる」


真姫「……」


穂乃果「今日だって、うみちゃんと凛ちゃん、希ちゃんが一緒になって遊んでくれれば……」


真姫「……うん、たのしかった」


穂乃果「え?」


真姫「かくれんぼして、おにごっこして……ごはんたべて……ゲームして」


穂乃果「……うん」


真姫「……」


穂乃果「心配かけてもいい、迷惑かけてもいい。
    それでも、みんなは真姫と一緒にいたいんだから。真姫もそうでしょ?」


真姫「……うん」


穂乃果「一緒にいたいってことは、相手のことが好きってことだから」


真姫「うん」
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:54:57.25 ID:Sez8j5keo

穂乃果「だから、泣かないで」

ナデナデ


真姫「……うんっ」


穂乃果「あ、やっと笑った……」


真姫「?」


穂乃果「じゃあ、もう寝よっか。明日、学校だから」


真姫「……」


穂乃果「学校、こわい?」

真姫「……うん」

穂乃果「それでも行くよ。大丈夫……みんな一緒だから」

真姫「……」

穂乃果「怖く…ない……から……」

真姫「……」

穂乃果「……すぅ…」

真姫「おはなし……」

穂乃果「……ん、……ん?」

真姫「おはなし、して?」

穂乃果「えっと……何の話がいい?」

真姫「なんでもいいから」

穂乃果「じゃあ……穂乃果が迷惑をかけてる人のはなし」

真姫「……」

穂乃果「その人は、小さいころから一緒で……すぐ怒って、
    ほのかが一緒に何かやろうって言っても『嫌です』ってすぐ断るの」

真姫「……うみちゃん」

穂乃果「正解、よくわかったね」

真姫「……ほかには?」

穂乃果「他……? えっと……ほのかに元気をくれる人のはなし」

真姫「……」

穂乃果「その人は元気いっぱいで、猫みたいに――」

真姫「りんちゃん」

穂乃果「はやいよ……もうちょっと話を聞いてくれても」

真姫「ほかには……?」

穂乃果「じゃあ、ほのかに、いつも厳しくしてる人のはなし」

真姫「うみちゃん」

穂乃果「うみちゃんはさっき言ったでしょ? もう少し話聞いてね」

真姫「……はい」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:56:29.60 ID:Sez8j5keo

穂乃果「その人は、出会ったころ、私たちがやろうとしてることを否定してたのね」

真姫「ひてい?」

穂乃果「『認められないわ』って」

真姫「ふぅん……」

穂乃果「でもね、その人は……本当はとっても優しいの。
    ほのかもそうなんだけど、前をまっすぐ見すぎてて周りがみえなくなっちゃって」

真姫「……」

穂乃果「でもね、その人にも大切に想ってくれてる人がいたから、
    自分にも周りにも優しくすることができたの」

真姫「よく、わからない……」

穂乃果「そっか……そうだね、難しすぎたね」

真姫「もっと、きかせて」

穂乃果「……叱ってくれるのは、ほのかやみんなを見守っていてくれるからなんだよ」

真姫「……」

穂乃果「みんなのお姉ちゃん」

真姫「えり…ちゃん?」

穂乃果「正解〜」

真姫「うん、ほかには?」

穂乃果「そろそろ寝ようか……眠たくなっちゃった……」

真姫「さいご……だから」

穂乃果「……うん。それじゃあ……その人はね、かわいくて、マスコット的存在で」

真姫「ますかっと?」

穂乃果「マスコット。みんなのおもちゃ……じゃなくて、可愛がられる存在ってこと」

真姫「……」

穂乃果「私たちの中心人物で、みんなを引っ張ってて、頼れる人で……うん……」

真姫「……?」

穂乃果「偏った知識が豊富で……見栄っ張りで、でも寂しがり屋でツインテールで……」

真姫「はなちゃん」

穂乃果「全然違うよっ」

真姫「?」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:57:01.32 ID:Sez8j5keo

穂乃果「ほぼ答えを出したのに……。えっと、ほら……意地悪してくる人」

真姫「にこちゃん」

穂乃果「はい、正解」

真姫「いじわるする、にこちゃん」

穂乃果「ふふふ、それはね」

真姫「……?」

穂乃果「真姫のことが好きなんだよ」

真姫「ううん、きらいなんだよ」

穂乃果「素直じゃない人はね、思ってることと逆のことをするんだよ」

真姫「……そうなんだ」

穂乃果「そうだよ、そうに違いないよ」


真姫「…………」


穂乃果「それじゃ、おやすみぃ」


……


90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:58:26.29 ID:Sez8j5keo


―― 朝:通学路


穂乃果「うぅ……結局7人全員話してしまった……」


海未「朝からフラフラして……。それではいけませんよ、シャキッとなさい」

穂乃果「ふぇ〜い」

ことり「おはよう、穂乃果ちゃん」

穂乃果「おはよう! さぁ、今日も元気よく行くよ!」

海未「無理に元気を出さなくてもいいです」

穂乃果「もぉ、シャキッとしろって言ったのうみちゃんなのにぃ」

ことり「あれ、真姫ちゃんは?」

海未「メールで一緒に来ると言っていましたよね?」

穂乃果「……え?」


「……」


穂乃果「あんなとこに隠れてる!?」


タッタッタ


穂乃果「真姫!」


真姫「……!」ビクッ


穂乃果「ほら、行くよ」


真姫「でも……」


穂乃果「だいじょうーぶだってぇ、昨日、話したでしょ?」


真姫「……」


穂乃果「凛ちゃんも花陽ちゃんも一緒なんだから、平気平気〜」


真姫「ほのか…ちゃんは?」


穂乃果「私は……別だけど……」


サッ

「……」


穂乃果「ヤドカリかっ!」
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 03:59:30.50 ID:Sez8j5keo

海未「無理して連れて行かなくてもいいのでは……?」

ことり「うん……」


穂乃果「それはダメ。なにがあるか分からないもん」


海未「?」

ことり「……?」


穂乃果「う〜ん、隠れたまま出てこないよぉ……どうしよう、困ったなぁ」


「……」


穂乃果「ヤドカリって何が好きなの?」

海未「知りません。用事があるので先に行きます」

穂乃果「……うん、分かった」

海未「徐々にでいいと、私は思いますよ?」

スタスタスタ......


穂乃果「できればそうしたいけど……」


ことり「ヤドカニの好物は分からないけど……真姫ちゃんが好きな物はなにかな」


「……」


穂乃果「そうだなぁ……。昨日の夜、大事そうに抱いて寝てた……よし!」

ことり「どうしたの?」

穂乃果「忘れ物取りに行ってくる! ちょっと待ってて!」


タッタッタ



……


92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 04:06:50.64 ID:Sez8j5keo

―― 音ノ木坂学院


「おはよー、穂乃果」

「おはよう、穂乃果ちゃん」

「おはよう」


穂乃果「あ、おはよう、ヒデコ、ミカ、フミコ」

真姫「……っ」


ヒデコ「あ、西木野さん、登校してきたんだ〜……ん?」

ミカ「……ん?」

フミコ「ん?」


真姫「……?」

ことり「えぇっとぉ、気にしないで〜」


ヒデコ「う、うん……」

ミカ「…それじゃ……」

フミコ「……教室で」


真姫「……」

穂乃果「やっぱ目立つよね……」

ことり「そうだね……」

真姫「……」

ことり「でも、真姫ちゃん気にしてなさそうだし……」

穂乃果「まぁ、いっか……」


「あ、真姫ちゃんだー!」

「本当だ……!」


真姫「……りんちゃん、はなちゃん」

凛「学校に来たんだ〜」

花陽「良かった……って、あれ?」

真姫「?」

凛「なぁに、その人形〜?」

花陽「昨日、ことりちゃんが取った人形だよね……?」

ことり「う、うん」

凛「変なにんぎょ――むぐっ」

穂乃果「ダメだからっ、大事にしてるからっ、お気に入りだからぁっ」

凛「むぐぐ」コクコク
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 04:08:42.77 ID:Sez8j5keo

真姫「ルーパちゃんっていうの」

花陽「そうなんだ……かわいい」

真姫「うん、かわいい」


「ププッ、かわいいのは人形じゃなくてあんたでしょっ」


穂乃果「……!」


にこ「真姫がまさか人形を抱いて登校してくるなんてっ、プププッ」


穂乃果「ちょっと、にこちゃん!」

にこ「ごめんごめん、予想外すぎて、おかしくて、名前まで付けちゃって……ププッ」

穂乃果「笑いすぎ!」

ことり「にこちゃん、意地悪だよぉ」

にこ「はいはい、ごめんなさ〜い☆」

穂乃果「反省してないね!」

真姫「……」


にこ「うーん……何度見ても可愛いとは思えないわこの人形……」

真姫「にこちゃん、まきのこと好きなの?」

にこ「……」


にこ「…………」


花陽「……!」

ことり「わ、わぁ……中々聞けないこと聞いたよ……」


にこ「は?」

真姫「ほのかちゃんがいってた。いじわるするのは好きだからって」


にこ「はぁ〜〜ッ!?」

穂乃果「だ、だって事実でしょ?」

にこ「私は小学生男子かー!?」

凛「似たようなもんだにゃ」

花陽「で、でも、間違ってないよねっ」

にこ「なによそれ、私がさっき笑ったことの仕返しってわけ?」

穂乃果「そうじゃないけど……」

真姫「……」

にこ「まったく……しょうがないわね」


絵里「あら、真姫……本当に登校したのね」

希「賑わってるみたいやね」


にこ「にこは〜、真姫ちゃんのこと、とっても大好きにこ♪」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 04:09:49.95 ID:Sez8j5keo

真姫「はい」

にこ「え?」

真姫「だっこしてもいいよ」

にこ「わ、わーい……」


穂乃果「それ、真姫のお気に入りだからね。もっと喜ばなきゃ」


にこ「う、嬉しいにこ〜☆」


希「にこっち〜、はい、チーズ」


にこ「にこ♪」


パシャッ


希「おぉ……、カメラを向けられると自然にポーズをとるんやね」

絵里「さすがね……」

穂乃果「卒業アルバムに載せたらどうかな」

希「それは名案〜」

絵里「とてもいい表情してるから」

にこ「やめて!?」


凛「どうしてそんなにお気に入りなの?」

花陽「昨日のゲームセンターでずっと見てたよね……?」

真姫「うん、おそろい……だから」

凛「おそろい?」

花陽「二つ……取ったかな……?」

ことり「ううん、一つだけのはず……」

凛「誰とお揃いなの〜?」

真姫「ひみつ」


穂乃果「……」


……


95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 04:11:39.99 ID:Sez8j5keo

―― 1時限目:2年生の教室


ヒデコ「朝から自習なんて珍しいね」

フミコ「職員室で会議してるみたいだよ」

ミカ「なにかあったのかなぁ?」


穂乃果「すぅ……すぅ……」


海未「よく寝ていますね……いつものことですが……」

ことり「昨日遅くまで真姫ちゃんとお喋りしてたんだって」

海未「何の話をしていたのやら……」

ことり「……朝から見てて思ったんだけどね」

海未「……?」

ことり「真姫ちゃんは、良い方に変わったと思う」

海未「……」

ことり「だけど、穂乃果ちゃんが……少し変だと思う。いつもと違う気がする」

海未「確かに……さっきも違和感が残ること言っていましたね」

ことり「真姫ちゃんが心配なのは分かるけど……」

海未「らしくありませんよね……」


「園田さーん」


海未「?」


「1年生のお客さんだよー」


海未「……1年生?」

ことり「あ……凛ちゃん!」



凛「……」


ことり「ど、どうしたの?」

海未「今授業中ですよ?」

凛「こっちも自習なんだね。凛たちのところもそうなんだよ」

海未「そうですか……」

ことり「全学年自習してるのかな……?」

凛「って、それどころじゃなくて、真姫ちゃんが大変なのっ」


……


96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 05:52:43.60 ID:Sez8j5keo

―― 保健室


真姫「……」


保険医「困ったわね……」

花陽「す、すいません……」

保険医「あなたが謝ることじゃないけど……」


コンコン

 ガラガラ


穂乃果「失礼します」


真姫「あ……!」

テッテッテ


真姫「ほの…かちゃん……っ」

穂乃果「真姫……」


ことり「……」

海未「……」



保険医「……」

花陽「真姫ちゃん……朝のホームルームが始まってすぐに……教室から出て行っちゃって……」

凛「凛たちが慌てて追いかけたの……」

穂乃果「……そうだったんだ」

真姫「……っ」

保険医「事情は聞いてる。だから、今日はもう帰宅した方がいいんじゃないかしら」

穂乃果「…………」


海未「そうですよ、穂乃果。今の真姫に無理をさせてもいい結果にはならないと思います」

ことり「学校に出てこられただけでも……」


穂乃果「それじゃ……ダメ…なんだよ……」


海未「……」

ことり「……」


穂乃果「な、なんとか……学校に居させてほしいんですけど……駄目ですか?」

保険医「それは、担任と話し合って決めてね。ここで過ごす選択肢もあるから」

穂乃果「……はい、分かりました」


……


97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 05:54:31.84 ID:Sez8j5keo

―― 休み時間


絵里「そんなことがあったの……」

希「やっぱり、知らない人だらけだと不安なんやね……」

凛「真姫ちゃんが登校してきたから、教室のみんなも注目しちゃってて……」

にこ「人形も持ってるから尚更ね」

花陽「すごく居心地悪そうにしてた……」

絵里「そうでしょうね……」


穂乃果「真姫は、どうしたい?」

真姫「……わからない…」

穂乃果「……」

真姫「ごめ…なさ……い……」

穂乃果「ううん、謝らないで」

真姫「……っ」


絵里「担任の先生は、なんて言ってるの?」

海未「少しずつ慣れてくれれば、それでいいと。
   できれば出席はしてほしいみたいです」

ことり「でも、無理はしないで欲しいとも言ってたの」

希「……そう」

にこ「この学校が怖い所だと思う前に、帰らせた方がいいと思うけど」

絵里「でも……」

海未「……?」

にこ「恐怖心って結構厄介よ。
   みんなも小さいころ、怖い場所には近づきたくなかったでしょ」

ことり「うん……そうだね」

希「真姫ちゃん、この学校が……怖い?」

真姫「……」コクリ

にこ「私たちだって、知らない場所に放り込まれたら不安になるでしょ。
   だから慣れるまで時間がかかるわよ」

穂乃果「凛ちゃんと花陽ちゃんが一緒だから、なんとかなると思ったんだけど……」

凛花陽「「 ごめんなさい 」」

穂乃果「せ、責めてる訳じゃないよ。ご、ごめんね」

絵里「とりあえず、休み時間が終わるから話は次ね」

希「真姫ちゃん、もう少しだけ保健室で待っててくれる?」

真姫「……めいわく」

にこ「?」

真姫「かけて……ごめん……なさい……」

海未「……!」

絵里「真姫……」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 05:56:09.20 ID:Sez8j5keo

真姫「ぐすっ……」

花陽「真姫ちゃん……っ」

穂乃果「真姫、昨日も言ったけど――」


にこ「それは違うわよ」

真姫「ぐすっ……?」


にこ「真姫の問題はみんなの問題なの。
   だからこれはみんなの問題になるからみんなで考える。それは当たり前のことよ」

真姫「……っ」

凛「にこちゃん……!」

ことり「そうだよ、だから……泣かないで?」フキフキ

真姫「うん……っ」

海未「なんて含蓄のある言葉でしょう……」

穂乃果「にこちゃんがっ、輝いて見える」


ピカーッ

にこ「ふふん」


希「いつものしたり顔にも後光が差さっているようや……!」

花陽「お、オーラが……!」


ピカーッ

にこ「今頃気付いたの〜? まぁ、いつも一緒に居るから慣れてしまってたのね〜」


穂乃果「今からにこ様と呼ぼう!」

絵里「ほら、遊んでないでさっさと戻りなさい」

穂乃果「そうだね。それじゃ、行こうか真姫」

真姫「……うん」

にこ「待って」

穂乃果「……?」

にこ「真姫の問題はみんなの問題だからね。
   みんなの問題は、みんなで考える。それは当たり前のことなんだから」

絵里「それが分かったら、もう迷惑とか言っちゃダメよ?」

真姫「……うん」

穂乃果「さ、行こ行こ」

スタスタスタ...


にこ「……」


「……」

「なんで二回言うかなぁ……」

99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 05:58:15.23 ID:Sez8j5keo

にこ「……あれ?」


希「いつものにこっちに戻ってしまったようや」

花陽「本当だ……」

凛「かよちん、凛たちも戻ろ」


絵里「それじゃ、後でね」

希「ほな」

ことり「私たちも行こう、海未ちゃん」

海未「待ってください、絵里」

絵里「え?」

希「?」

海未「絵里は、真姫を帰すことに反対なのですか?」

絵里「……どういうこと?」

海未「聞いたそのままの意味です」

絵里「……」

希「どうしてそういうこと聞いてるのかってことやない?」

海未「……」

にこ「あんた達、なんの話をしてるのよ?」

ことり「……」

絵里「もう時間よ。……その質問は、穂乃果にしてみて」

海未「……」

にこ「次も自習だったらいいのに〜」

スタスタ......


キーンコーンカーンコーン


ことり「行こう、海未ちゃん」

海未「……はい」

ことり「穂乃果ちゃん、なにか隠してるよね」

海未「私もそう思います。そして、それは絵里と希も知っている……と思います」

ことり「それを知りたいって、海未ちゃんは思う?」

海未「……それは……まぁ」

ことり「私は、穂乃果ちゃんが話してくれるまで待つ……かな」

海未「聞き出すのは間違いでしょうか……?」

ことり「今はまだ話さない方がいいって思ってるんじゃないかな……」

海未「……」

ことり「でも、海未ちゃんは力になれるかもしれないよ?」

海未「ですが、どうしたらいいのか、よく分かりません……」

ことり「海未ちゃんは海未ちゃんの考えでいいと思う」

海未「……分かりました」


……


100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 05:59:55.24 ID:Sez8j5keo

―― 昼休み:職員室


担任「1年の西木野を同じクラスにしろ……って?」

穂乃果「いえ、してください!」

担任「言い方の問題じゃなくて」

穂乃果「みんなで話し合ったんですけど、それが一番じゃないかなって」

担任「1年の担任とも話したけど、少しずつでもいいって言ってたぞ」

穂乃果「話、してくれたんですか?」

担任「まぁな。朝の緊急会議でその話が出た」

穂乃果「……」

担任「この前起きた事件の犯人が捕まっていないから、
   学校付近の警戒を強めるようにって警察からも連絡があってな」

穂乃果「……そうですか」

担任「『生徒に危険が迫っている可能性がある』とも言われた」

穂乃果「――!」

担任「それ以上は詳しく説明されてないが……西木野の置かれている状況はあまり良くないと思ってる」

穂乃果「……」

担任「話を戻すけど、高坂の提案はあたし一人で決められることじゃない」

穂乃果「それじゃあ、誰に相談したらいいでしょう?」

担任「とにかく状況が異例だからな……学園長に相談してくれ」

穂乃果「……分かりました」

担任「あたしは1年の担任と話をしておく。こっちは任せておけ」

穂乃果「え……それじゃあ……」

担任「その提案を受け入れるよ。許可が下りたらクラスのみんなにも伝えておくんだぞ」

穂乃果「は、はい!」


……


101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:01:33.58 ID:Sez8j5keo

―― 学園長室


学園長「えぇ、かまいませんよ」

穂乃果「あれ……あっさり……」

学園長「それで西木野さんの居場所を守れるなら、それが最善策なのでしょう」

穂乃果「居場所……」

学園長「それが目的なのではありませんか?」

穂乃果「そこまで考えていませんでした……」

学園長「無意識にそうしたいと思っていたのだと思いますよ」

穂乃果「……」

学園長「お母さんから話は聞いています」

穂乃果「!」

学園長「朝早くにいらして、今、あなた達が置かれている状況を説明してくださいました」

穂乃果「……」

学園長「ですから、あっさり決めたわけでもありませんよ」

穂乃果「そうだったんだ…………お母さん……」

学園長「生徒たちは西木野さんへの待遇に違和感を感じられると思います」

穂乃果「……はい」

学園長「事情を知らない生徒もいますから、その点はあなた達がしっかりとフォローするのですよ?」

穂乃果「わ、分かりました!」

学園長「地域とも連携を取って、安全に過ごせるよう努めます。
    ですから、学園内では安心してもらって結構ですよ」

穂乃果「はい、ありがとうございます!」

学園長「礼には及びません。自分の子供に危険が迫っているかもしれない……。
     そんなことは絶対に見過ごせませんから――」


……


102 :>>101 訂正 [saga sage]:2017/06/25(日) 06:08:32.54 ID:Sez8j5keo

―― 理事長室


理事長「えぇ、かまいませんよ」

穂乃果「あれ……あっさり……」

理事長「それで西木野さんの居場所を守れるなら、それが最善策なのでしょう」

穂乃果「居場所……」

理事長「それが目的なのではありませんか?」

穂乃果「そこまで考えていませんでした……」

理事長「無意識にそうしたいと思っていたのだと思いますよ」

穂乃果「……」

理事長「お母さんから話は聞いています」

穂乃果「!」

理事長「朝早くにいらして、今、あなた達が置かれている状況を説明してくださいました」

穂乃果「……」

理事長「ですから、あっさり決めたわけでもありませんよ」

穂乃果「そうだったんだ…………お母さん……」

理事長「生徒たちは西木野さんへの待遇に違和感を感じられると思います」

穂乃果「……はい」

理事長「事情を知らない生徒もいますから、その点はあなた達がしっかりとフォローするのですよ?」

穂乃果「わ、分かりました!」

理事長「地域とも連携を取って、安全に過ごせるよう努めます。
     ですから、学園内では安心してもらって結構ですよ」

穂乃果「はい、ありがとうございます!」

理事長「礼には及びません。自分の子供に危険が迫っているかもしれない……。
     そんなことは絶対に見過ごせませんから――」


……


103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:11:12.95 ID:Sez8j5keo

―― 放課後:アイドル研究部


絵里「――それで、明日から穂乃果と一緒に授業を受けるのね」

穂乃果「うん! 帰りのホームルームでみんなにちゃんと伝えたよ!」

希「反応はどうだった?」

穂乃果「キョトンとしてた!」

絵里「……でしょうね」

希「海未ちゃんとことりちゃんは?」

穂乃果「同じくキョトンとしてた!」

絵里「話してなかったの?」

穂乃果「ちゃんとしたよー」

海未「決まってからじゃ遅いんです! 話を進める前に……!」

穂乃果「どうすればいいかって、職員室に行く前に相談したでしょ?」

海未「それはそうですが……」

穂乃果「なら問題ないよね」

海未「…………」

穂乃果「真姫のこと、全学年に伝えた方がいいのかな……?」

絵里「そうした方が真姫のことを理解してくれるから助かることは助かるけど……」

海未「伝える手段が難しいですね」

希「そうやね……。重く受け止めるんじゃなく、知っていて欲しいだけやから……」

穂乃果「各クラス、回ろうかな?」

絵里「そうするなら、3年は一緒に回るわよ?」

穂乃果「ありがとう、絵里ちゃん!」

絵里「それじゃ、明日の朝にしましょう」

穂乃果「うん!」


「みんなー、早く早くぅ〜!」

「真姫ちゃんも待ってるよっ」

「はやく遊ぶにゃー!」


穂乃果「もうちょっとだけ待っててー、調べ物があるから」



―― 校庭


凛「じゃあ、もう一度真姫ちゃんと勝負にゃ〜」

にこ「いい加減、代わりなさいよ!」

花陽「真姫ちゃんは休憩だね」

真姫「……」

花陽「穂乃果ちゃんは調べものだって」

真姫「……うん」

にこ「さっき負けた借りを返してあげるわ、凛」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:14:59.94 ID:Sez8j5keo

海未「……はぁ」

真姫「どうしたの?」

海未「いえ……」

凛「海未ちゃん、バドミントン勝負しよ〜」

海未「今はそういう気分では……」

にこ「ちょっと凛、私との勝負が先でしょ?」

凛「海未ちゃんに勝ってからその勝負は受けるにゃ〜」

にこ「分かったわ。ほら、立ちなさい海未!」

海未「……」

にこ「にこアタックVをお見舞いしてあげるわ」

花陽「Uは……?」

真姫「うみちゃん……?」

海未「……わかりました、受けて立ちましょう」


―― 部室


絵里「ねぇ、穂乃果……海未たちにはまだ話さないの?」

穂乃果「なにを?」

絵里「手紙のこと。ことりにも話していないでしょ?」

穂乃果「あぁ……、うん」

希「みんなにもまだ話してないし……どうするん?」

穂乃果「私、結構動揺しちゃったから……みんなも動揺しちゃうと思う」

絵里「……そうね」

希「うちもエリちも……そうやった」

穂乃果「そうなったら……真姫を不安にさせちゃうかなって……」

絵里「……先生方は?」

穂乃果「理事長だけ知ってる。他の先生には手紙のことはまだって。
     でも、なんとなく状況は知ってるみたいだった」

希「ふぅむ……職員会議はなんやったんやろ?」

絵里「私たちも内容は知らないわね……」

穂乃果「学校周辺の警戒態勢を地域と連携して取っていくって話だと思う。多分……」

希「それやったら、少なくとも学校内は安全やね」

絵里「えぇ。地域の人たちの目もあれば、安心もできるわ」

穂乃果「私もそれを聞いて安心できたよ」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:16:01.93 ID:Sez8j5keo

絵里「それはそうと、穂乃果の調べたいことって?」

穂乃果「真姫が持ってる人形のこと。あれってなんだろう?」

希「多分、ウーパールーパーやと思う。うちもよくは分からないんやけど」

絵里「ちょうどパソコンもあるし、ネットで調べてみましょ」


穂乃果「よし。にこちゃーん!」


にこ「え?」

スカッ


にこ「あぁーー!?」

海未「よしっ!」グッ



穂乃果「パソコン借りるねー!」


……


106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:17:29.34 ID:Sez8j5keo

―― 同時刻:大通り



「……」



伏見「南……さんでよかったかしら」

ことり「え?」

伏見「あ、失礼しました。私は、こういうものです」

ことり「……警察……の人?」

伏見「急に声をかけてごめんなさい。ひょっとして、と思って」

ことり「はぁ……」

伏見「特に用事はないんですけど、どこへ行くのかなって」

ことり「バイトです。すぐそこの喫茶店で働いてて」

伏見「そうですか。ところで……学校で何か聞いてますか?」

ことり「なにかって……?」

伏見「注意事項とか、受けませんでしたか?」

ことり「えっと……登校下校と学校が休みの日は人目の多いところを歩きましょう。
    って話……ですか?」

伏見「そうですそうです。……ん?」


「……」

スタスタスタ......


ことり「?」

伏見「いえ、なんでもありません。誰かに見られてた気がして」

ことり「え……」

伏見「あぁ、きっと南さんがスクールアイドルだからかなぁ?」

ことり「えー、そんなことないですよぉ〜」

伏見「でもアイドルやってるだけあって、少し他の人と違うね。
    こんなに人がいるのにちょっと違うなって思ったもん」

ことり「えぇ〜、ちょっと恥ずかしいです。にこちゃんなら喜びそうだけど……」



「……」


……


107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:18:48.46 ID:Sez8j5keo

―― ロッカールーム


「他にもあの学校の生徒がいたのに、わざわざ南ことりに声をかけるなんて」


「やっぱり警戒されてる」


「……」


「フフ」


「手紙、届けてくれたんだね、アリス」


「……」


「私には天使が憑いてる」


「だからこの地に安全な場所は無いのかもしれない」


「なんてね」


「……」


「もう一つ、あのナイフが欲しいけど」


「止めておいた方がいい?」


……。


「……」


コンコン


「はい」


ガチャ


「あのさぁ」


「おはようございます、店長」


店長「あ、あぁ、おはよう。これから俺、銀行に行ってくるから店番よろしく」


「はい、わかりました」


店長「それじゃ」


バタン


「……」


「急いで、計画を立てよう」


……


108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:21:22.43 ID:Sez8j5keo

―― 同時刻:公園


『今忙しいんですけどー?』


男「セーブ出来ないのか?」


『できるかボケ! ネトゲじゃぞ、リアルタイムじゃぞ!』


男「じゃあ、芙蓉に電話代わってくれ」


『今買い出しに行ってておらん』


男「ちょっとだけでいいから、手を止めて聞いてくれないか?」


『それは無理! 超レアアイテムをかけての狩りをしとるんじゃ、5時間を捨てろというのか?!』


男「……大事な話なんだが」


『わかったわかった。聞いてるから、言うてみ?』


男「俺がここに着いた日の夕方、警官が刺されたんだ」


『うむ、それは知っておる。全国ニュースに取り上げられておったからな』


男「その犯行に使われた凶器から犯人を絞り出そうとしたんだが、上手くいっていない」


『ほう……日本の警察がか』


男「店は特定できたらしいんだけど、
  監視カメラが先日から壊れてて犯人の詳細が分からないんだ」


『……』


男「店番をしていた人に話を聞いたが、相手の性別すら判断つかないと」


『それはありえんじゃろ』


男「深夜の来客で、その時猛烈な眠気があったと話しているらしい」


『……』


男「そして、そのナイフで警官を刺す前に――」


『あぁー!? なにやってんの薔薇男戦士! 今のチャンスだったのにぃー!!』


男「……」


『おっ! ライムさんナイッス! いいぞいいぞー! ひょっひょっひょ!』


男「……」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:26:14.77 ID:Sez8j5keo

『話の続き、はよせい』


男「しづらいわ。……本当に聞いてるのか?」


『聞いとる聞いとる。警官を刺す前になんじゃ?』


男「刺す前に……、チンピラの腕を切り裂いてる」


『……』


男「そのチンピラが交番に駆け込んで、犯人のことを説明したらしいんだ」


『らしいとはどういうことじゃ。記録ぐらい残っておるじゃろうに』


男「推測でしかないんだが……。
  その事情を聴いた警官はチンピラ同士のいざこざだと思ったのかもしれない」


『相手にされなかったということか……』


男「その時交番に居たのは一人。
  念のため、犯人が近くにいるかもしれないと、付近をパトロールした」


『そして犯人らしき人物を見つけ、事情聴取しようとしたところ……刺された』


男「……あぁ」


『それで、その時の状況は?』


男「無線で警察の本部に連絡しようとしたらしいんだが、途絶えてしまったんだ」


『その時か、刺されたのは』


男「そうだと思う」


『ふむ……。じゃが、その犯人について、チンピラからもう一度聞き出せばよかろう』


男「そのチンピラはその日の夜、
  峠を車で暴走していたらしく……崖から転落して死亡している」


『なに……!?』


男「警察の見解では、居眠り運転による事故だそうだ」


『……』


男「梓さんが言っていたんだが……そのチンピラ、何度も深夜に走っていたらしい」


『なるほど。深夜に何度も暴走を行うものが、
 運転中に居眠りなどするのか……ということじゃな』


男「梓さんも同じところにひかかかってるみたいだった。
  だけど、現場にブレーキ痕がないことから警察は居眠り運転と判断したらしい」


『これは……きな臭いのう』
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:29:23.33 ID:Sez8j5keo

男「そして、ここらが本題なんだが」


『うむ?』


男「昨日の夕方……犯人から手紙が届いた」


『どこに?』


男「事件の目撃者がお世話になっている家にだ」


『……』


男「投函時刻は、昼から夕方にかけて。人通りがある場所だけど、目撃者は無し」


『……』


男「そして手紙から犯人につながる情報は得られていない」


『手紙の内容は?』


男「その目撃者の子には仲間がいるんだけど、その仲間を危険に晒すかのような内容だ」


『脅迫か……』


男「だけど、その目撃者の子……事件のショックで精神が幼いころに戻っているんだ」


『……ふむ』


男「仲間は全員同じ学校に通う高校生。もちろん今はこの地域、警戒態勢に入っている」


『……意味がないかもしれん』


男「どういうことだ?」


『っしゃー! 倒したー! わほーい!』


男「……」


『はぁ〜……疲れたぁ〜。よっし、アイテムもドロップしたし、これで満足じゃ!』


男「……おい」


『怒るな怒るな。……で、その犯人な、おそらくじゃが――』


男「?」


『――憑かれておるな』


男「どうして……?」


『話が全てフワフワしておるが、
 ソレの存在がありえない状況を生み出しておると確信できる』


男「……」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:31:41.00 ID:Sez8j5keo

『わたしの対なる者か、あるいはその類の者……じゃろうな』


男「……マジか」


『思ってる以上に悪い状況かもしれん。用心に用心を重ねておかねばならんぞ』


男「犯人逮捕は難しいか?」


『いや、証拠品の手紙があるのじゃろう?』


男「そうだ……だから、電話したんだ」


『葵か……。しかし、一人でそこまで行くのは……』


男「無理だな。だから、芙蓉と一緒に来てほしかったんだが……」


『ふぅむ……。芙蓉も芙蓉で、この土地から離れたことないからのう……。
 主であるお前となら出ることは可能かもしれんが……』


男「やっぱり、俺が一度帰らないといけないのか……」


『そうじゃな。証拠品を管轄外へ持ち出すのは論外じゃろうし』


男「あぁ、それは梓さんも言ってる」


『ならば急いで戻ってこい。今、犯人に対抗できるのは、お主の力しかないかもしれんのだからな』


男「わかった」


『あ、待て。今って秋葉におるんじゃろ?」


男「そうだけど?」


『ついでにパソコンのパーツ買ってきてくれんか? やっすくて性能のいい――』


プツッ


男「ふぅ……。全部俺たちの思い過ごしであればそれが一番いいんだが」


……。


男「あぁ、今すぐ帰る。梓さんにも連絡しておくけど……」


……。


男「多分、明日には戻ってこれると思う」


……。


男「友達を守るんだ、アイリス」



……


112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:33:13.73 ID:Sez8j5keo

―― アイドル部研究室


希「これが……」

絵里「ウーパールーパー……」

穂乃果「かわいいかなこれ……」

希「真姫ちゃんって、この生物のこと知ってるのかな?」

絵里「知っていないと、あの名前を付けられないでしょう?」

希「そうなんやけど……」

穂乃果「その名前がルーパなんだけど……」

絵里「?」

穂乃果「どうしてウーパじゃないと思う?」

希「どういうこと?」

穂乃果「真姫が言ってたんだよ。『お揃い』だって」

絵里「お揃い……ということは、もう一つその人形があって」

希「その名前がウーパなんやない?」

穂乃果「そうだよねぇ」

絵里「そのもう一つの人形を持つ人物に心当たりは?」

穂乃果「無いんだよね……。その辺の話になると、『ひみつ』っていうし」

希「……」

絵里「子供のころの記憶に、そういう子が友達にいるのかもしれないわね」

穂乃果「うん……やっぱりそうだよね」

絵里「そうは思ってなさそうね。無理やり納得しようとしてるみたいだけど……?」

穂乃果「それしかないと思うんだけど、すっきりしないなぁって」

希「……」

絵里「さっきから黙ったままだけど、どうしたの希?」

希「別に……なんでもないよ」スッ

カチカチッ

穂乃果「……?」

絵里「ウッ――!?」

穂乃果「……え?」

希「見てしまったんやね、エリち」

絵里「……ッ」

穂乃果「な、なにを?」

絵里「ナンデモナイワ」

穂乃果「でも、さっき『ウッ――!?』って唸って」

絵里「ナンデモナイノヨ、ナンデモ」

希「さぁ、みんなと遊ぼう♪」

穂乃果「不審すぎるよふたりとも!?」

絵里「いいから、ほら」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:34:43.08 ID:Sez8j5keo

穂乃果「ウーパールーパーの画像開いてたよね、なにか見たんだよね?」

希「そこまで気付いてしまっては……」

絵里「そうね……家に帰って自分で調べてしまいそうだし……」

希「話すしかなさそうやね……」

穂乃果「な、なに……なにを見たの……?」ゴクリ

絵里「……唐揚げ」

穂乃果「?」

希「それ以上は言えない……」

穂乃果「えっと……ウーパールーパーの並んだ画像を見てて……唐揚げ……?」


絵里「……」

希「……」


穂乃果「……あっ」


絵里「ダメよ!」ガシッ

穂乃果「っ!?」

絵里「想像してはダメ。いいわね?」

穂乃果「う、うん……!」

希「うちらも、はよ忘れよ、エリち」

絵里「そうね……」

穂乃果「そ、それより気になってるんだけど」

絵里「こ、今度はなに?」

穂乃果「ほら、これ……」

希「うちもさっきから気になってたんよ」

絵里「……?」


『 極秘資料 』


絵里「なによこのフォルダ?」

希「うちら3人が知らないってことは、海未ちゃんや凛ちゃん達も知らなさそうやな」

穂乃果「ということは、にこちゃん?」

絵里「なにかしら、極秘って」

カチカチ

穂乃果「あぁっ、絵里ちゃん勝手にっ」


『パスワードを入力してください』


絵里「鍵が掛かってる……」

希「ふぅむ、気になるなぁ〜」

穂乃果「中身はなにが入ってるんだろ……」
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:35:58.09 ID:Sez8j5keo

絵里「……」

カタカタ


[ nico ]


カチッ


絵里「あ、開けたわ。やっぱりにこだったのね」

希「なんて入力したん?」

絵里「本人の名前」

希「ふぅん……」

穂乃果「画像ファイル……だね」

絵里「なにかしら」

カチカチ

穂乃果「……これは」

希「……」

絵里「……」

カチカチ

絵里「これも……」

カチカチ

絵里「これも、本人ね」

穂乃果「これって、ブログに載せる画像だよね……」

希「そうやな。自分がどの角度で映るのがいいか、研究しとるわけやな」

絵里「全部、にこの画像ね」

穂乃果「……」

希「おぉ〜、これなんてええやん」

絵里「希、大体分かってたんじゃないの? このフォルダの中身……」

希「極秘という割にデスクトップに置いてあるし、
  パスワードは本人のやし、見てくれって言ってるようなものやん」

穂乃果「た、確かに……」

希「あれ? この『etc』フォルダは?」

絵里「開いてみるわ」

カチカチ

穂乃果「また画像……?」

絵里「……」

カチカチ

 カチカチ

希「うちらの画やね」

絵里「『エトセトラ』扱いなわけね」

穂乃果「ふぅん」

希「なるほどなるほど」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:38:00.79 ID:Sez8j5keo

真姫「ほのかちゃん……まだ?」


穂乃果「あ、あぁ、うん……今行く〜」

絵里「ウッ――」

希「人形見たらダメやエリち!」

絵里「そ、そうね……!」


真姫「ぇ……っ」


希「ち、違うんよ、真姫ちゃん」

絵里「別に、その人形が嫌ってわけじゃないのっ」


凛「海未ちゃんの勝利〜!」

海未「相手になりませんね」

にこ「接戦でしょ!?」

穂乃果「うみちゃん、代わってくれる?」

海未「はい、どうぞ」

にこ「私も疲れたから、休憩〜。ほら、花陽」

花陽「うん」

穂乃果「さぁ、にこちゃん! 勝負!」

にこ「だから〜、疲れたって言ってるでしょ〜」

穂乃果「そっか……アイドル選手権、バドミントン編はにこちゃん棄権と」

にこ「……なによそれ」

穂乃果「今度のブログに載せようと思って」

にこ「……」

穂乃果「楽しい雰囲気の写真を貼るけど、にこちゃんは名前だけになるかな」

にこ「む……」

穂乃果「さぁ、花陽ちゃん、一位を目指して勝負しよ」

花陽「う、うん」

凛「何か知らないけど、楽しそう〜! 凛もやる!」

にこ「ちょっと待ちなさいよ」

穂乃果「なんですか、不戦敗のにこちゃん?」

にこ「かちーん」


海未「やたらと煽りますね……」

真姫「しゃしん……とるの?」

希「ううん、撮らないよ」

絵里「『今』を残してはおけないものね……」

真姫「?」


……


116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:39:31.10 ID:Sez8j5keo

穂乃果「やった!」


にこ「くぅ……っ」

絵里「……ふぅ」


穂乃果「ふふん」


にこ「もぅ、くやしいぃ〜」

絵里「次は希、やる?」

希「そうやね、『エトセトラ』の底力を見せてあげないとね」


穂乃果「どうだ、思い知ったかー!」

にこ「なんであんたがしたり顔なのよ」

海未「勝ったのは絵里です。あなたは負けたのですよ穂乃果」

穂乃果「そうだったね……」


希「ほら、にこっち」


にこ「えぇ〜、また〜?」

穂乃果「あれ、真姫は?」

海未「あっちで凛たちと遊んでますよ」


花陽「ころんだっ!」


凛「……!」ピタッ

真姫「……っ」ピタッ
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:40:07.43 ID:Sez8j5keo

花陽「だーるまさんが――」


凛「そろぉりそろぉり」

真姫「そろーり」


花陽「ころんだっ!」


凛「……」ピタッ

真姫「……」ピタッ


花陽「じー……」


凛「……」

真姫「……っっ」


花陽「じぃーー……」


凛「……」

真姫「……んっ」グラグラ


花陽「はい、真姫ちゃん動いた〜」


ドテッ

真姫「はなちゃんずるい〜」

花陽「ふふ、無理な姿勢取ってたから」

凛「じゃあ、次は真姫ちゃんの番だよ」



穂乃果「古典的な遊びだね」

海未「……」


……


118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:53:19.60 ID:Sez8j5keo

―― 逢魔が時:帰り道


にこ「はぁ〜……」

真姫「どうしたの?」

にこ「にこってば、可愛いから意地悪なライバルたちの厳しいシゴキにもあっちゃうのよぉ」

真姫「そうなんだ……たいへんだね」

希「真姫ちゃん、にこっちの言うことは話半分で聞いてええんよ」

にこ「ひどいっ、まだ意地悪は続くのねっ」

真姫「のぞみちゃんもにこちゃんがすきなんだ?」

希「そういうこと〜」ニコニコ

にこ「本心が見えない笑顔なんですけど」

絵里「誰が意地悪なライバルよ……」


凛「少し喉乾いちゃった」

花陽「おうちまで我慢できる?」

凛「うーん……」


穂乃果「明日からことりちゃん、しばらくバイト休めるっていうからいっぱい遊べるね」

海未「……そうですね」

穂乃果「なにして遊ぼうかな〜」

海未「……あの、穂乃果聞きたいことが――」

絵里「?」


にこ「それじゃっ、ここでバイバイにこ☆」

希「うちもここで。みんな、また明日ね」

真姫「……うん」

希「そんな顔しないで、真姫ちゃん」

にこ「穂乃果と一緒なんだから寂しくないでしょ?」

真姫「うん」

にこ「じゃ、おやすみ」

希「バイバイ〜」フリフリ

真姫「バイバイ……」フリフリ

凛「また明日にゃ〜」

穂乃果「ばいばーい。……って、さっき何か聞きかけたよね、うみちゃん?」

海未「え、えっと……話しにくいのなら、話さなくてもいいのですが」

穂乃果「うん……?」

絵里「……」

凛「真姫ちゃん、凛と一緒にジュース飲も?」

真姫「ジュース?」

凛「そう、あっちの公園の側に販売機あるから、真姫ちゃんが選んで」

真姫「いいの?」

凛「うん、行こ行こ!」グイッ

真姫「あっ……」

タッタッタ
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:55:08.13 ID:Sez8j5keo

花陽「凛ちゃんっ、そんなに引っ張っちゃ危ないよっ!」


「凛がいるからへーきへーき!」

「り、りんちゃんっ」


花陽「ま、待ってっ!」


絵里「気をつけなさいよー?」


「大丈夫だにゃー!」


絵里「……危なっかしいんだから」

穂乃果「あはは、すっかり仲良しさんだね」

海未「……」

穂乃果「それで、うみちゃ――」


キィィィィイイイン


穂乃果「まただ……っ」

海未「穂乃果……?」

絵里「どうしたの?」

穂乃果「あはは……また、耳鳴りが」


「あぁーーッッ!」


絵里「凛……?」


キィィイイイン


穂乃果「うぅ……もうっ、なにこれっ!」


「犯人がいたーー!」


海未「えっ!?」



―― 公園



『店員には全員、アリバイはあるから……通行人の可能性が高くて』

男「それなんですけど、家のネトゲ廃人が言うには――」


凛「あぁーーッッ!」


男「……?」
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 06:57:16.65 ID:Sez8j5keo

凛「犯人がいたーー!」


男「犯人……!?」


『どうしたの、真君?』

真「いえ、近くにいる女子高生が犯人がいたって大声上げているんです」

『えっ!?』

真「なにかの遊びかな……?」


凛「かよちん、真姫ちゃんを守ってて!」

真姫「……っ」ブルッ

花陽「う、うんっ」


ぞわぞわ

花陽「〜〜っ!?」



……。


真「え……、俺が犯人……?」


凛「誰か―ッ! 誰か助けて――ッ!!」


真「本当だ、あの子ッ、俺を見て叫んでる!?」


……。


真「あ、あぁそうだな、電車の時間もあるし!」

『その声が聞こえてるけど……真君どうなってるの?』

真「すいません梓さんっ! またあとで電話しますから!」

『ちょっと――』

プツッ


真「ここで時間を食ってはいられないって」ダッ

タッタッタ



凛「あっ、逃げた!」

花陽「まき……ちゃん?」

真姫「……はん……にん?」ブルブル

凛「真姫ちゃんをこんなに怖がらせて……絶対に許さないッ!」ダッ

タッタッタ


花陽「凛ちゃんッ!?」


絵里「まって、凛!」

海未「追ってはいけません!!」

穂乃果「凛ちゃんッ」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:00:37.60 ID:Sez8j5keo

凛「待て――――」


……――!


凛「――!」


キィィイイイイィィイイイイイイイン


穂乃果「あぅッ!?」

海未「穂乃果!?」



ビリビリ

凛「ア――ぅ――」

 ビリ
  ビリ ビリ


凛「――うご――け――――な―――ッ―」


……。



花陽「凛ちゃん!?」

絵里「凛――!!」

真姫「だめ……っ」


ビリビリ

凛「――」


真姫「だめーーっ!!」


……。


真姫「りんちゃんにひどいことしないでっ!!」


……。


凛「――――ぅっ!」ガクッ


凛「ふ…ぅ……はぁ……はぁっ」


花陽「凛ちゃんっ、りんちゃん!」

凛「かよ……ちん……」

花陽「〜〜っ」

絵里「大丈夫、凛?」

凛「だ、大丈夫……」

絵里「何があったの?」

凛「か、体が動かなくて……それしか分からない……ふぅ……はぁ」

花陽「りんちゃん〜〜っ」ボロボロ
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:01:52.85 ID:Sez8j5keo

凛「どうして……かよちん……泣いてるの……?」

花陽「だって、だってぇ……」ボロボロ

絵里「走り出したと思ったら急に止まって……固まって動かないんだもの……」

凛「そ、そうだったんだ……」

絵里「犯人を追うなんて……なんて危ないことするの」

凛「だって……真姫ちゃんが……」

絵里「私ですら怖かったのよ。花陽はもっと怖かったはず」

花陽「ぐすっ……」

凛「……ごめんね、かよちん」


真姫「…………」


海未「ほのかっ、穂乃果!」

穂乃果「ぅぅ……だ、大丈夫……」


穂乃果「今までで一番酷かった……っ」


……


123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:04:06.67 ID:Sez8j5keo

―― 夜:公園


伏見「そう……。絢瀬さんは二人を送ったのね」

海未「……はい」

真姫「ほのかちゃん……」

穂乃果「だ、大丈夫大丈夫……もう治ったから」

伏見「酷い耳鳴りがしたって言ってたけど……」

穂乃果「そうなんです……いつもは軽く鳴るんですけど……さっきはひどくて」

伏見「…………」

海未「あの、あなたは……?」

伏見「あぁ、園田さんとは初対面だっけ。私は……こういう者です」

海未「警察……?」

伏見「地元は離れた所なんだけど、今は調査の為にここへ来たの」

海未「……」

伏見「だから土地勘がなくて……此処へ来るのに遅れました」

海未「いえ、不審に思っているわけではないのですが……」

伏見「?」


pipipipi


穂乃果「……あ……お母さんだ」


プツッ


『もしもし?』

穂乃果「ごめんね、お母さん。今帰るから」

『それならいいけど。真姫は?』

穂乃果「一緒だよ」

『お父さんも心配してるから、早く帰って来てね』

穂乃果「はーい」

プツッ


伏見「それじゃ、送るから帰りましょう」

穂乃果「はい。お願いします」

真姫「……」

海未「……」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:05:26.02 ID:Sez8j5keo

穂乃果「あの、聞きたいことがあるんですけど」

伏見「いいよ、なに?」

穂乃果「け、拳銃って持ってるんですか……?」ゴクリ

伏見「あはは、ないない。命令が出れば別だけどね」

穂乃果「そうですよね……」

伏見「もしかして、ガッカリしてる?」

穂乃果「いいえ〜」

伏見「携帯してたとしても見せません」

穂乃果「あはは、ですよね」

真姫「……」


海未「無理に明るく振舞おうとして……」


……




―― 高坂邸玄関前


母「あ、穂乃果」


穂乃果「お母さん……?」


母「あら、刑事さんも……?」


伏見「偶然そこで出会いまして、せっかくだからとここまで同行させてもらいました」

母「そうですか……。ありがとうございます」

伏見「いえいえ。これも仕事の内です」


海未「……」


母「さ、中に入りなさい二人とも」

穂乃果「うん。……それじゃあね、うみちゃん」

真姫「……」

海未「……」

穂乃果「うみちゃんをお願いします」

伏見「うん。任せて」

海未「あの、穂乃果……」

穂乃果「……」

海未「聞きたいことがあります」

穂乃果「……うん、分かった。真姫は先に入ってて」

真姫「……うん」


母「どうしたの、真姫は?」

穂乃果「いろいろあったから、疲れちゃったんだと思う……」

母「……そう」

スタスタスタ......
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:07:57.47 ID:Sez8j5keo

穂乃果「……話って?」

海未「穂乃果、なにか隠していますよね」

穂乃果「……それは」

伏見「大事な話みたいなので、少し離れてるね」

海未「いえ、今回の事件のことなので聞いていてください」

伏見「……?」

穂乃果「事件……?」

海未「真姫を中心に、ナニカが起こっているのは、さっきの絵里の反応でも分かりました」

穂乃果「……」

海未「絵里はまるで、本当の危険がそこまで迫っているかのような声で凛を止めました」

穂乃果「それは、犯人を追っかけたらそうなるよ。うみちゃんだってそうでしょ?」

海未「私は、凛が無事だったのを知って安心しましたが……絵里はそうではなかった」


伏見「……」


海未「まるで……――犯人が近くまで迫ってるかのような焦燥感を」

穂乃果「――!」

海未「やはり、そうなのですか?」

穂乃果「そ、それは……」

海未「推測だけで言いましたが……的を射たようですね……」

穂乃果「……っ」


伏見「……」


海未「真姫に対する穂乃果の対応を見ていれば分かります。
   一人にさせたくないような言動……それは危険がすぐそこまで来ているかのようでした」

穂乃果「……」

海未「私たちはどれだけの時間を共に過ごしてきたと思っているのですか?」

穂乃果「……」

海未「現状を話してください、穂乃果」

穂乃果「…………わかった」

海未「……」

穂乃果「伏見さん、あの画像を見せてもらってもいいですか?」

海未「画像……?」

伏見「はい、どうぞ」

穂乃果「ありがとうございます」

海未「……?」

穂乃果「私のデータは削除したから、転送した伏見さんしか持ってないんだ」

海未「……それは?」

穂乃果「犯人からの手紙」

海未「え――」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:10:17.57 ID:Sez8j5keo

『 こんにちは。

  突然の手紙を不審に感じられるでしょうが、
  私の顔に覚えがないようなのでこうして筆を執りました。

  今日は商店街へ行きましたね。
  西木野真姫さんとは目を合わせたのですが、私には気付かなかったようです。

  運がいいですよ。

  9人のお名前、簡単に知ることができました。

  あなた方はスクールアイドルをやっているのですね。

  それでは、また。 』


海未「――!」


穂乃果「多分、うみちゃんが今感じてることを私と絵里ちゃんは感じたんだよ」

海未「『それでは、また』って……」

伏見「もう一度接触してくる意思を表しているね」

海未「い、悪戯の可能性は……」

伏見「低いかな。人を刺した犯人がわざわざ手紙を送ってくること自体が異常だから。
   その異常性は、犯人になにかしらの意図を持ってるのかもしれない」

穂乃果「……」

伏見「だから今、この地域は警戒を強めてるの。高坂さんも同じくらいにね」

海未「こんなことが……っ」

穂乃果「真姫を不安にさせたくないから黙ってた。
    絵里ちゃんと希ちゃんは知ってるけど他のみんなはこの手紙のこと知らない」

海未「……」

穂乃果「みんなには普通に接してほしいから。今日、理事長と話をしてて思ったんだけどね」

海未「……?」

穂乃果「真姫は……居場所が無いって感じてるんじゃないかなって」

海未「居場所……?」

穂乃果「自分がどういう状況に置かれているのか、なにも分からない。
    小さいころから今までの記憶に空白があるから、現在の姿形に理解が追い付いてなくて」

海未「……」

穂乃果「怖くて不安で逃げ出したいけど、それはどこへ行っても同じだから……」


穂乃果「恐怖心だけがまとわりついてくるから」


穂乃果「だから、すぐに遠慮して……えっと、なんだっけ」

海未「それ、絵里と希が辿り着いた答えですね」

穂乃果「う、うん……3人で話してそうなんじゃないかって……。よく分かったね……」

海未「穂乃果には似合わない言葉が出てきたから、そうじゃないかと……」


pipipipi

伏見「おっと……失礼」

プツッ

伏見「はい、伏見です」

127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:12:21.45 ID:Sez8j5keo

穂乃果「……私たちで、居場所を作ってあげたいから。
     『真姫の居場所』があるって知ってもらいたいから」

海未「それは、もう実感してると思いますよ」

穂乃果「そうかな……」

海未「楽しそうにしていますから。みんなと一緒に」

穂乃果「うん、そうだと嬉しいな」


伏見「話は落ち着いたかな?」


海未「……はい」

穂乃果「それじゃ、うみちゃんのことお願いします」

伏見「はい、任せてください。いろいろとね、不安になるようなこと言ったけど」

海未「……?」

伏見「私たちが守ってみせますので、安心してください」

海未「はい、わかりました」

穂乃果「また明日ね」

海未「はい、おやすみなさい」

伏見「あ、ちょっといいかな、高坂さん」

穂乃果「はい?」

伏見「高坂さんの、耳鳴り……説明できる人がいるんだけど、会ってみる?」

穂乃果「え?」

海未「どういうことですか?」

伏見「私はとある調査の為にここへ、相棒と一緒に来たのね。
    その相棒が特殊な家柄の人で、いろいろと私たち十三課に協力してもらってるの」

穂乃果「はぁ……」

海未「協力……ということは、警察の人ではないのですか?」

伏見「そうよ。一般人ってところ。それに、誤解も解いておきたいし」

穂乃果「誤解?」

伏見「夕方にあの公園でみた人物は犯人じゃないのよ」

海未「え……?」

伏見「その人こそが私の相棒ってわけ」

穂乃果「……その人が、耳鳴りの説明をしてくれるんですか?」

伏見「そういうこと。時間があったらでいいんだけど」

海未「待ってください。犯人じゃないなら、どうして逃げたのですか?」

伏見「電車に乗る時間に間に合いそうになかったからね。……結局乗り損ねたみたいだけど」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:13:40.42 ID:Sez8j5keo

穂乃果「……うぅん」

海未「どうしますか、穂乃果?」

穂乃果「もうこんな時間だし……」

伏見「それもそうだね。
   ただ、明日の朝には一度帰っちゃうから、話をするなら早めにと思ってね」

穂乃果「うぅん……どうしよ?」

海未「お母さんに相談してみては?」

穂乃果「そうだね……ちょっと待っててください」

伏見「うん」

穂乃果「すいませんっ」

タッタッタ


海未「伏見さんは説明できないのですか? 穂乃果の耳鳴りについて」

伏見「できることはできるんだけど……。
   私が言っても説得力ないし、証明もできないからね」

海未「……そうですか」

伏見「園田さんもお家の人に連絡した?」

海未「はい。先ほど」

伏見「もう一度連絡した方がいいかもね」

海未「そうですね……」


穂乃果「あ、あのっ」

伏見「?」

穂乃果「せっかくですけど、行けなくなりました……すいません」

伏見「いいっていいって。耳鳴りの件は、高坂さんの体調に大きな変化は与えないし、
   重要なのは、その人が犯人じゃないって知ってほしかっただけだから」

穂乃果「わ、わかりました。……凛ちゃんにもそう伝えておきます」

伏見「うん、よろしくね。……それじゃ、行こうか園田さん」

海未「は、はい」

穂乃果「それじゃ、また明日〜」

海未「はい、おやすみなさい、穂乃果」


……


129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:15:05.58 ID:Sez8j5keo

―― 高坂邸:居間


母「そろそろ時間ね」

雪穂「見たいテレビでもあるの?」

真姫「……」

穂乃果「雪穂、真姫と一緒に部屋に行っててくれないかな」

雪穂「え? お姉ちゃんは?」

穂乃果「お客さんが来るから、話をするの」

雪穂「こんな時間に?」

母「そうよ、大事な話だから」

雪穂「……わかった…。それじゃ、行こっか、真姫ちゃん」

真姫「……」

穂乃果「すぐに行くから」

真姫「……うん」

穂乃果「先に寝ててもいいよ」

真姫「ううん……おきてる」

トテトテトテ......


雪穂「ご飯もあまり食べてなかったけど……」

穂乃果「……うん。……元気づけてあげて?」

雪穂「どうやって?」

穂乃果「それは……あの人形を抱っこさせて?」

雪穂「どの人形?」

穂乃果「ルーパちゃんだけど。あれ、そういえば……?」

母「あの人形、持ってなかったわよ?」

穂乃果「うっそ!?」

母「あなた達が戻ってきたとき、持ってなかったけど」

穂乃果「あぁー! あの公園で落としたんだ!」

雪穂「……今頃気付いたのぉ?」

穂乃果「い、色々あったからっ! 今から取ってくる!」ガタッ

母「待ちなさい!」

穂乃果「だって……!」


ピンポーン


穂乃果「あ……」

母「お父さんに取りに行ってもらうから」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:18:51.48 ID:Sez8j5keo

真姫「……ゆきちゃん?」


雪「あ、あぁ……今行く〜」


穂乃果「で、でも……」

母「大事な話なんだから、穂乃果も居なきゃ駄目でしょ」

穂乃果「う、うん……」

母「ほら、迎えに行くわよ」




―― 厨房


穂乃果「お父さんお父さん〜! 一生のお願い〜!」


父「……?」




―― 玄関



真姫母「こんばんは」


母「いらっしゃいませ。どうぞ、中にお入りください〜」



……


131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:21:25.98 ID:Sez8j5keo

―― 公園


『あっひゃっひゃっひゃ!』

『ザザッ……――ザッ……ザザ』

『もう、二人とも笑いすぎです』


真「……」


『まっ、まこちゃんがっ、犯人っ! ぶふーっ! 笑わずにいられるかっ! ひゃっひゃ』

『――ザッ……ジッ……ザザ』

『申し訳ありません。真様……』


真「いや、いいよ。芙蓉が謝ることじゃない……」


『だっ、ダメッ……腹がっハラがねじれるっ、笑い死ぬっ』

『ザッ――……ジジッ――ザッ……』

『では、明日のお昼頃にこちらに戻られるということでよろしいでしょうか?』


真「あぁ、それくらいには着くと思う」


『その時刻に、駅までお迎えに参ります』


真「別にいいんだけど……」


『いえ、お迎えに参ります』


真「わ、わかった」


『アイリスも一緒に帰られるのでしょうか』


真「いや、アイリスは」


『ザザッ……ザ……ザザザッジザザザッ』

『あっ、ちょっと姉さん!』


真「なんかノイズがひどくなったけど……葵か?」


『え、えぇ……葵姉さんが……気を付けて帰ってきてください、と』


真「……うん、わかった」


『それでは、失礼しま――』

『違うぞ真、葵が言うたのはなぁ』


真「言うな。どうせ下らないこと言ったんだろう。芙蓉の気遣いを無駄にするな」


『ほう、さすがじゃのう。主は何でも知っておるのか』
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:23:49.65 ID:Sez8j5keo

真「じゃあ、切るぞ」


『ザザザッ……ザッザザ――』

『捕まっても逃がしてあげるから、大丈夫って』


真「やかましい」


プツッ


真「なんで俺が犯人前提なんだよ。…はぁ……なんだか、余計な疲れが……」


……。


真「あぁ、うん。大丈夫だ」


伏見「お待たせ。はい、どうぞ。コーヒーでよかったかな」


真「お、ありがとうございます」

伏見「アイリスちゃんも。オレンジジュース」


……。


伏見「いえいえ、協力してもらってるから……。人形、二つも持ってた……?」


……。


真「すぐそこで拾ったんです。……あの子が落としたみたいで」

伏見「あの子?」

真「西木野真姫さん。さっき電話した時です」

伏見「あぁ、あの時……」

真「俺は家を知らないので……どうしようかと」

伏見「私が返してあげようか?」


……。


伏見「うん、いいよ。お安い御用です」

真「いや……やっぱり」

伏見「?」

真「仲直りのために、自分で渡して来たらどうだ?」


……。


真「それは、会ってみないと分からないだろ?」

伏見「喧嘩でもしたの……って、『視える』の、西木野さん……?」

真「そうみたいです。あの子、小さいころそういう体質だったのかも」
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:26:10.12 ID:Sez8j5keo

伏見「へぇ……気付かなかったな」

真「そういうことだから。がんばれ」


……。


伏見「それで……あの時、なにを言いかけたの?」

真「犯人のことなんですけど」

伏見「うん。……ごくごく」

真「家のネトゲ廃人が言うには、憑りつかれてるらしいです」

伏見「その憑りついている方は……人間の命令を聞いたりするの?」

真「無いこともないんじゃないかな、と。……俺のような人種もいますから」

伏見「問題なのは……憑りつかれている犯人が、
   ソレを意識して利用しているのか、無意識に利用されてるのか……だね」

真「……前例はあるのか、家に帰って聞いてみます」

伏見「お願いします。相談役にはあとで、詳しく話を伺いたいので、よろしくと」

真「分かりました」

伏見「はぁ……嫌な予感はしてたんだよなぁ……。
   そっち系は完全に真君頼みになっちゃうじゃん……」

真「学校側のことで何かわかったことありますか?」

伏見「うん……。学校に犯人は居ないって裏付けは取れたことと、あとは……」

真「……」

伏見「去年、2年生が置き引きにあってるね。……あとは、特になし」

真「裏付け?」

伏見「バイト先と、あの日あの場所ですれ違った学校の生徒はいないってこと」

真「結構人通り多いですよね」

伏見「西木野さんと目が合うくらいの距離だから、学校の生徒だったら他の子も気付くと思う。
   1年、2年、3年とあのグループには揃ってるからね」

真「それでも……人を判別するのは難しいのでは……?」

伏見「音ノ木坂学院は、生徒数の減少で全校生徒が少なくてね」

真「なるほど……」

伏見「犯人が近くにいるかもしれないって可能性を少なくとも学校内の人間は排除できた」

真「でも、犯人はあの子に近づこうと思ったらいつでも近づけるわけ…か……」

伏見「そういうことだね。聞くまでもないけど、あの子たち……窮地に立たされてる?」

真「……そう考えて動いた方がいいと思います」

伏見「……わかった」
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:27:28.07 ID:Sez8j5keo

真「でも……葵の力で、事件は一気に解決に向かうはずです」

伏見「うん、頼りにしてる。こっちも動けるだけ動くから」

真「はい。……あ、そういえば……刺された警官はどうなりました?」

伏見「まだ目覚めていないけど、入院先を変えたから手は出せないと思う」

真「それならよかった。……ですけど」

伏見「犯人の情報を持つもう一人の人物だから、それを放置しているってことは」

真「近いうちになにか行動を起こすかもしれないですね」

伏見「だね。……あの子たち9人を見守っていれば必ず姿を現すでしょう」

真「その中でも鍵なのは――」


……。


真「……え?」

伏見「あ、本当だ……高坂さんのお父さん」


父「……」キョロキョロ


真「なにか探しているみたいだ……」

伏見「……その人形かも。渡してあげようか?」


……。


伏見「……うん、分かった。じゃあ、そう伝えておく」

真「先回りしないといけないぞ」


……。


真「わかった、ここで待ってるよ」


伏見「あのぉ、高坂穂乃果さんのお父さんですよね?」

父「……?」


……



135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:28:28.33 ID:Sez8j5keo

―― 高坂邸:玄関


真姫母「それでは、娘をよろしくお願いします」


母「はい。また何かあれば、いつでもどうぞ」


真姫母「ありがとうございます。それでは失礼します」


穂乃果「……おやすみなさい」


ガラガラガラ

 ピシャッ


穂乃果「……」

母「穂乃果……大丈夫?」

穂乃果「明日、みんなに話すから……大丈夫」

母「……」

穂乃果「これはみんなで受け止めなきゃいけないことだから」

母「こんな時、なんて言えばいいのか分からないけど……」

穂乃果「……」

母「いつでも私たち親は、あなた達、子どものことを見守っているから」

穂乃果「うん。やれることを精一杯やるよ」

母「その意気よ」

穂乃果「よし、それじゃ、真姫と話してくるね!」

母「えぇ」

136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:29:31.22 ID:Sez8j5keo

―― 穂乃果の部屋


穂乃果「話終わったよ〜」


雪穂「お姉ちゃん……」

真姫「……」


穂乃果「?」


雪穂「真姫ちゃん、ケンカしちゃったって……」

穂乃果「ケンカ……?」

真姫「うん……。きらわれちゃった……」

穂乃果「……どうして?」

真姫「まきが、おこったから……」

穂乃果「……」

雪穂「真姫ちゃんが怒る人って……?」

穂乃果「……私には思い当たる人がいない」

雪穂「???」

穂乃果「ねえ、真姫」

真姫「……?」

穂乃果「そのケンカをしたお友達って……いつ知り合ったの?」

真姫「ほのかちゃんと出逢ったあと……」


穂乃果「…………」


真姫「……」



キィィィィイイイ


穂乃果「ぅ――また――?」


ィィィィィイイイン


雪穂「おねえ…ちゃん……?」



ヒラヒラ


真姫「あ……!」スクッ


雪穂「真姫ちゃん?」


真姫「……」

テッテッテ
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:31:46.20 ID:Sez8j5keo

雪穂「あ、ちょっ、どこ行くの!?」


キィィィイイイイン

穂乃果「あ、あとを追うよっ」


雪穂「う、うんっ。お姉ちゃん大丈夫?」


穂乃果「み、耳鳴りがしてるだけだからっ」




―― 高坂邸:玄関


ドタドタドタ


真姫「……っ」


 ガラガラガラ


母「なんの騒ぎ……?」


雪穂「わかんない!」


母「分かんないって……」


穂乃果「……耳鳴りが止まった…」



真姫「……よかった」

ぎゅううう


雪穂「あれ、人形が……」

母「お父さんが持ってきてくれたのね」

雪穂「でも、いないよ?」

母「?」

雪穂「あ、戻ってきた」

母「あら? ということは……刑事さんが持ってきてくれたのかしら?」


父「……?」
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:33:05.95 ID:Sez8j5keo

穂乃果「……」

ピッピップ

trrrrrr


プツッ


『どうしました、穂乃果?』

穂乃果「うみちゃん、聞きたいことがあるんだけど、いいかな」

『なんですか?』

穂乃果「伏見さん……じゃなくて、刑事さん……うみちゃんを送ったよね?」

『そうですよ。うちの前まで』

穂乃果「そこから……公園へ行って、お父さんより先に人形を持ってくるなんてありえない」

『はい……?』

穂乃果「……ううん。なんでもない。それとね、真姫のことで明日話があるから」

『……話、ですか』

穂乃果「うん。真姫のお母さんと話をしたから、みんなにも聞いてもらいたい」

『分かりました。それでは明日』

穂乃果「おやすみ」

プツッ


穂乃果「……」


真姫「……ありがとう……あいちゃんっ」

ぎゅううう


……


139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:34:09.46 ID:Sez8j5keo

―― 朝:登校中


穂乃果「……」

真姫「……」


海未「なんだかフラフラしていますね、二人とも……」

ことり「夜更かししてたのかな……?」


真姫「ほの……ちゃん……」フラッ

ギュッ

穂乃果「あ……ちょっと……持たれちゃダメだよ……真姫……」

真姫「すぅ……すぅ……」

穂乃果「寝ないで……」


海未「また夜遅くまでお喋りしていたのですか?」


穂乃果「せいかい〜。……うみ……ちゃん」フラッ

ギュッ

海未「ちょ、ちょっとほのか!」

穂乃果「すぅ……すぅ」

真姫「すぅ……すぅ……」

海未「二人分!?」

ことり「規則正しいリズムだね」

海未「おっ、重たいっ!」


……


140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:36:08.10 ID:Sez8j5keo

―― 音ノ木坂学院:校門


海未「……」フラフラ


絵里「海未の足元がふらついているわね……」

にこ「珍しく夜更かしでもしてたんじゃない?」

絵里「ダメよ、海未? 不規則な生活はお肌の敵よ」

海未「そ、そういうわけでは……」

にこ「深夜の通販番組ってつい見ちゃうのよね〜」

海未「違います!」

絵里「それもそうよね。海未に限ってそれはないわね」

ことり「ここまで二人を支えて歩いてきたから……」


穂乃果「もうここでいいや……」

真姫「すぅ……すぅ……」

穂乃果「おやす…み……」

絵里「ダメよ、こんなところで寝ては……」

穂乃果「あと十分……」

絵里「授業が始まっちゃうでしょ」

真姫「すぅ……すぅ」

絵里「真姫も、起きて」

真姫「……すぅ」


にこ「全力で寝てるわね」

海未「穂乃果は半分起きていましたが、真姫は本当に寝ていて……
   ここまで引きずって来るの……大変でした……っ」グスッ

ことり「うん、頑張ったね、海未ちゃん」


希「ベンチを囲んで何をしてるのかと思えば、真姫ちゃんが寝てるんやね」

真姫「すぅ……すぅ……」

にこ「保健室に連れて行ったら?」

絵里「そうね、そうしましょう」


凛「みんな、何してるの〜?」

花陽「どうしたの……?」


真姫「ん……ん……」

穂乃果「んん……むにゃむにゃ」

海未「いけません。穂乃果が本格的に寝る体勢に入っています」

花陽「チャイム鳴っちゃうよ……」

絵里「起きなさい穂乃果!」

穂乃果「もう……すこし……お母さん……」ムニャムニャ

絵里「お、おか……」ガーン

希「ショック受けてる場合ちゃうんよ、エリち」
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:37:38.54 ID:Sez8j5keo

ことり「まどろみの中ってとっても気持ちいいんだよね」

にこ「覚めたら体がだるくて最悪だけどね」

凛「もう朝だよ〜、起きるにゃ〜」

真姫「りん…ちゃん……?」

凛「おはよう、真姫ちゃん」

真姫「……」

凛「?」

真姫「ごめんね、りんちゃん……」

凛「どうして謝るの?」

真姫「きのう、こわいことあったから……」

凛「……真姫ちゃんのせいじゃないよ」

真姫「…………」

凛「凛は大丈夫にゃ♪」

真姫「……うん!」

海未「……ほら、真姫はもう目が覚めていますよ」

穂乃果「ぅぃ……」

にこ「……なにかあったの?」

絵里「ちょっとね。……後で話すわ」

希「……」

穂乃果「ほけんしつ……つれてって……うみちゃん……おねがい……」

海未「ダメです」

穂乃果「ことりちゃん……」

ことり「ご、ごめんね……」

絵里「もう行きましょう」

希「そうやね。起きたようやし」

凛「かよちん、凛たちも行こ」

花陽「うん。みんなあとでね」

真姫「うん……バイバイ」

穂乃果「だれか……だれか……ほのかを……ほけんしつにぃ」


ヒデコ「なにやってんの、穂乃果?」


穂乃果「ちょうどいいところに……ほけんしつへつれてってぇ」


フミコ「どこか体でも悪いの?」


穂乃果「ねぶそくでぇ」


ミカ「それはダメでしょ」


真姫「ふぁぁ……ぁ」


……


142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:38:42.56 ID:Sez8j5keo

―― 2年生の教室


担任「それじゃあ、しばらくは高坂を一番後ろにして、
   南と二人で西木野を挟んで授業を受けてくれ」

ことり「は〜い」

穂乃果「わかりました〜」

真姫「……」


担任「みんなも事情は昨日聞いた通りだから、協力してやってくれ」


クラス「「「 はーい 」」」


ことり「真姫ちゃんは自由にしてていいんだって」

真姫「うん……」ガサゴソ

ことり「らくがき帳……?」

穂乃果「一番後ろなんてラッキー♪」

海未「寝る権利を与えられたわけではありませんよ」

穂乃果「ぎくっ」


……


143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:39:56.24 ID:Sez8j5keo

―― 休み時間:廊下


絵里「二人とも寝てるわね……」

ことり「授業の途中で、真姫ちゃんはやることなくなって……。
    穂乃果ちゃんの真似して寝ちゃったんだ……」

希「まぁ、それでも、教室から出ていかなくてよかったやん」

海未「そうですね……。少し心配していましたが、なんとかやっていけそうです」

にこ「それで、昨日なにがあったのよ」

希「うちも気になってる」

海未「それは……」

ことり「昨日……?」

海未「結論から言えば終わった話なので、気になるなら凛のところに行きましょう」

ことり「それなら、私は聞かなくてもいいかな……?」

海未「はい、それでいいです」

にこ「それじゃ、私もパス。終わった話なら別にいいわ」

希「うちは聞いておこうかな」

海未「それでは、行きましょう」

絵里「凛たちは次の授業体育よね。校庭に行きましょ」

海未「絵里は、穂乃果から真姫の話をいつするのか聞いておいてください」

絵里「話?」

海未「真姫のお母さんと話をしたそうです。それをみんなに話したいと言っていました」

絵里「わかったわ」


……


144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:41:10.88 ID:Sez8j5keo

―― 校庭


海未「凛!」


凛「にゃ?」


海未「少し話があるのですが」

凛「うん、なぁに?」

希「話は聞いたよ。不審な人を追いかけようとしたって」

凛「……うん」

希「そんな真似はもう二度としないで」

凛「…………はい」

海未「昨日、絵里も言っていましたが本当に危険な相手だったら……」

凛「……」ションボリ

海未「……希にまで強く言われては深く反省するしかないですね」

凛「……」

海未「どうしてそんなことを?」

凛「あの時、真姫ちゃんが震えてて……許さないって思って……」

希「真姫ちゃんを想っての行動やから、そこは素直に感心するかな」

凛「でも、かよちんが泣いちゃって……絵里ちゃんも不安そうな顔してて……」

海未「……」

凛「だから……もうしません」

希「うん……」

海未「それと、あの男の人ですが」

凛「?」

海未「どうやら犯人ではないようです。刑事さんの協力者だそうですよ」

凛「えっ、そうなの?」

希「警察に協力……?」

海未「一般人だと言っていましたが……どうやって協力するのかは分かりません」

凛「なぁんだ〜。凛の早とちりだったんだね〜」

希「……」

凛「それじゃ、追いかけても意味はなかったんだ〜」

海未「凛……」

希「反省の色が薄くなってるようやね……」ワキワキ

凛「あ、でも……あの金縛りは一体――」

希「わしっ」

ワシッ

凛「にゃぁぁああああ!!!」


……


145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:47:07.17 ID:Sez8j5keo

―― 昼休み:アイドル研究部


ことり「ここを通すの」

真姫「……こう?」

ことり「そうそう」


凛「なにやってるの?」

ことり「リリアンだよ」

にこ「なにそれ」

ことり「この道具を使って編み物するの」

真姫「……」クルクル

ことり「真姫ちゃん、上手上手〜♪」

にこ「面白いの?」

真姫「……ん」クルクル

凛「細かい作業……」

花陽「器用だね……さすが真姫ちゃん」

にこ「没収!」

真姫「あっ」

ことり「にこちゃん!」

にこ「みんなで集まってるのに、なに地味な遊びしてんのよ!」

真姫「……むぅ」

にこ「なによ……。後でしなさい、こんなの」

真姫「すぐいじわるする」

にこ「はいはい。そんなことより、外で遊びましょ。影踏みよ影踏み」

凛「外で遊ぶのは賛成〜! だけど、太陽が真上にあるから影が短いよー?」

にこ「だからいいんじゃない、行くわよ〜。よいしょっと」


絵里「あ、こら! 窓から出ない!」


にこ「いいじゃないの。回って出るの面倒だし」

ピョン


凛「よいしょー!」

ピョン

花陽「凛ちゃんまで……」


真姫「よいしょ」

ことり「ダメっ!」ガシッ

真姫「……?」

ことり「私たちは回ってこよう、ね?」
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:52:05.37 ID:Sez8j5keo

穂乃果「真姫はなんでも真似するようになったね。……危ないなぁ」

海未「あなたも悪い影響を与えていますよ」

穂乃果「そんなはずはないよ」

海未「なぜ言い切るのですか」

穂乃果「だって、しっかりしようと心掛けているんだもん!」

海未「ふぅ……。それで、話とは?」

穂乃果「溜息で話題変えた……!」

希「話しはうちら4人だけでいいの?」

穂乃果「うぅん……どうしよう。『真姫ちゃん』の問題だから……」

絵里「とりあえず、聞かせて」

海未「『真姫』ではなく『真姫ちゃん』ですか……」

穂乃果「うん。その『真姫ちゃん』に戻ったことがあるかどうか聞きたいんだけど……」

希「穂乃果ちゃんが一緒にいるんやから、それが全てやと思うよ?」

穂乃果「でも、ずっとってわけでもなかったから」

絵里「そうね……。私の見た限りではそんな素振りは見られなかったわ」

海未「私もです。それに、その反応があったとしたら、凛たちも言っているはずですから」

穂乃果「そっか……そうだよね」

絵里「本来の真姫に戻ったかどうか、それを聞いた理由は?」

穂乃果「精神が『真姫ちゃん』に戻る兆候が見られたら、病院に連れてきてほしいって言われて……」

希「……」

穂乃果「その時、ふと思ったこと聞いたんだけど……戻らなかったらどうなるのかって」

海未「なんて言ったのですか……?」

穂乃果「記憶が『真姫』のまま上書きされて、
     『真姫ちゃん』の精神は……眠ったままになるって」

絵里「眠ったまま……」

希「でも、真姫ちゃんが目覚めることはあるんやない?」

穂乃果「うん……。でも、『真姫』と『真姫ちゃん』が繰り返し目覚めていたら
     どっちの精神にも負担がかかりすぎて良くないって」

希「……そっか」

海未「ということは、どちらかが眠ったままに――……いえ、本来の真姫の姿が正しいのですよね」

穂乃果「……そうだね」

絵里「……」

希「本来の真姫ちゃんの姿……」



「痛いにゃ! 足踏んだよにこちゃん!?」

「凛踏んじゃった♪」

「ネコ踏んじゃったのリズム……!」


「ふぅ、汗かいてきちゃった……」

「こっち、涼しいよことぃちゃん」

「木の下かぁ……それなら影踏まれないね♪」

「……のぞみちゃんがこっちみてる」フリフリ
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:55:53.27 ID:Sez8j5keo

希「ふふ、無邪気やなぁ」フリフリ

海未「本来の姿に戻るにはどうしたらいいのでしょう?」

穂乃果「お医者さんが言うには、その時と同じショックを受けるくらいじゃないかって……」

絵里「同じ……」


「かよちん、木の下に逃げるにゃ!」

「うん!」

「反則よ反則ーー!」


そよそよ

「はぁ〜、気持ちいい〜♪」

「本当だ〜」

「いいよね、こんなそよ風……」

「……うん、いいよね」


「ごー、よん、さん……」


「なんかカウントしてるにゃ」


「時間制限があるに決まってるでしょ。……にー、いち」


「「「 わー! 」」」

「わ、わー!」

タッタッタ

「反応が遅れた真姫!」

「やーーっ!」


きゃっきゃ

 きゃっきゃ


穂乃果「それじゃ、私も行ってくるね」

海未「話は終わりですか?」

穂乃果「うん、終わりっ」

ピョン
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 07:57:39.18 ID:Sez8j5keo

―― 校庭


にこ「これじゃ影踏みにならないわね」

凛「だから言ったにゃ」

真姫「だからいったみゃん」

にこ「……」

ことり「だから言ったわんっ」

花陽「だから言った……チュウ」

にこ「ねずみって、それでいいの……?」

花陽「は、ハムスターだから……」

にこ「あ、そう。というか、なによこの流れ」

凛「にゃーにゃー」

真姫「みゃんみゃん」

ことり「わんわんっ」

花陽「チューチュー」

にこ「にこにこ♪」

穂乃果「この中に一人仲間はずれがいます。それは誰かな〜?」

凛真姫ことり花陽「「「「 にこちゃん! 」」」」

にこ「大正解〜。にこにーだけ、可愛いアイドルでした〜☆」

穂乃果「ブーブー」

にこ「それはブタさんだよね? ブーイングじゃないよね〜?」

凛「缶蹴りしよー!」

真姫「かんけり?」

凛「こうやって、缶を蹴る!」

カーン

穂乃果「それっ、隠れろー!」

ことり「わー!」

凛「わーい!」

花陽「こっち来て、真姫ちゃんっ」

真姫「う、うんっ」

テッテッテ


にこ「え……」


ぽつーん


にこ「また私から鬼で始まるの!?」
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 08:03:26.98 ID:Sez8j5keo

―― アイドル研究部


海未「幼稚園児たちが遊んでいますね」

希「穂乃果ちゃん、色々と背負ってるみたいで、心配やね……」

絵里「大丈夫よ。私たちにも話してるし……、そうでしょ海未?」

海未「それでも無理はしてると思いますが……。今のところは絵里の言う通り大丈夫だと思います」

希「そっか……」

絵里「前に、穂乃果が言ってたけど」

希「ん?」

絵里「真姫の精神が戻ったのは防衛反応だって」

海未「そうですね……」

絵里「それって、どういう意味なのかしら」

希「……犯人の顔を忘れたほうが安全やってことやない?」

絵里「でも、覚えていたら、警察に協力して犯人逮捕は時間の問題だったわけでしょ?」

海未「……はい」

希「なにか意味があるって、エリちは考えてるん?」

絵里「そうじゃないけど……。いえ、そうね……なにか意味が、理由があるような気がして」

希「ふぅむ……理由、か……」

海未「絵里は、犯人からの手紙を見ましたよね」

絵里「……えぇ。その件について、穂乃果から聞いたのね」

海未「はい。……手紙の一文に怖い箇所がありました」

希「……そうやね。運がいいですよ、って」

海未「それを見て、もし、を考えてしまって……とても怖くなりました」

絵里「……」

海未「でも、刑事さんに、大丈夫だからって声をかけてもらえて……少し安心してもいるんです」

希「伏見さん……やね」

絵里「同性なのに、不思議と安心できるのよね」

海未「多分、穂乃果もそう思っているはず……」

希「だから、多少の無理を見守っていようと思ってるんやね」

海未「……そういうことです」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 08:04:06.39 ID:Sez8j5keo

絵里「ふふ、意外と素直なのね」

海未「真姫の影響ですね……」


「はい、凛見つけた〜」

「あー、しまったにゃー」

「なにその棒読み」


「「 真姫ちゃん〜!! 」」

「行けー!」


タッタッタ


「え!?」


「えいっ!」

カーン



絵里「意味と理由……」



……


151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:22:43.39 ID:Sez8j5keo

―― 夕暮れ時:公園


ことり「ぱ、い、な、つ、ぷ、る」

絵里「はい、じゃんけん」

花陽「ポン」

凛「勝ったにゃ。……ち、よ、こ、れ、い、と。っと」

真姫「じゃーんけん」

にこ「ポン」

真姫「勝ったみゃん。……えっと」

ことり「グーで勝ったらグリコだよ」

真姫「ぐ、り、こ」


海未「一周したら勝ちと言いますが、中々ゴールに近づきませんね……」

穂乃果「もうすぐ日が暮れちゃうね」

希「みんな童心に戻ってるようやな〜」


海未「陽が暮れる前に帰りますよ」

ことり「もうちょっと待って〜」

真姫「まって〜」

海未「……しょうがないですね」


穂乃果「希ちゃんに聞きたいことがあるんだけど、いいかな」

希「うん?」

穂乃果「希ちゃんって、目に見えない力って信じる?」

希「それは……スピリチュアルパワーのこと?」

穂乃果「うーん……そんな感じかなぁ」

希「うちは信じてるよ。人と人を繋げる力とか、人の想いが及ぼす力とか」

穂乃果「希ちゃんらしいね」

希「それがどうかした?」

穂乃果「真姫なんだけど、『視える』体質なのかなって」

希「ん?」

穂乃果「たまにね、ずっと一緒に居る私でも理解できないこと言ったりしてて」

希「……」

穂乃果「昨日、この場所で……真姫は友達とケンカしたって言って……落ち込んでたの」

希「うん……」

穂乃果「あの人形、ルーパちゃんのことでも辻褄が合わないことがあって……」

希「真姫ちゃんは小さいころ、そういう体質だった……のかな?」

穂乃果「昨日、真姫のお母さんにそのこと聞いたけど、そんな言動はなかったって」

希「……」

穂乃果「それって、小さいころの記憶にある友達とは違うと思うから」

希「ふぅむ……だから、『視えている』ってことなんやな」

穂乃果「……うん」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:25:12.87 ID:Sez8j5keo

希「真姫ちゃんはその存在について、どう言ってるの?」

穂乃果「怖いとかは思ってないみたい。むしろ親しんでるようだよ」

希「……なら、心配はいらないんやない?」

穂乃果「そうかなぁ……」

希「真姫ちゃんを言葉巧みに騙すような存在なら、穂乃果ちゃんはすぐ不安になるはずや」

穂乃果「……」

希「まぁ、今までがそうだから、これからもそうだとは限らないけど」

穂乃果「……うん。それが怖いよ」

希「大丈夫。うちらもしっかり見てるし、なによりそれを感じたらすぐ教えてくれればいいから」

穂乃果「対処法はあるの?」

希「うちのバイト先、知ってるやろ」

穂乃果「おぉ……!」

希「今の真姫ちゃんを見ていれば、その存在について悪意はみられないかな」

穂乃果「……そうだね! うん、ありがとう希ちゃん!」

希「いいよ、これくらい」

穂乃果「はぁ〜、安心したらお腹すいてきちゃった」

希「ふふ」

穂乃果「まだ遊びは終わらなさそうだねぇ……」


希「……でも、どうして『視える』ようになったんやろ。……何か、意味がある……?」


絵里「チ、ョ、コ、レ、イ、ト」

ことり「じゃーんけん、ポン」

にこ「勝ったにこ♪ ……に、こ、にー、は、か、わ、い、く、て、に、ん、き、も、の、で」

ピョン
 ピョン


にこ「み、ん、な、の、し、せ、ん、を、ひ、と、り、じ、め」

ピョン
 ピョン
  ピョン


絵里「……どこまで行くのかしら」


「だ、れ、も、が、あ、こ、が、れ、る、う、ちゅ、う、い、ち、の、あ、い、ど、る、で――」


花陽「そのまま帰ってしまいそうな勢い……」

真姫「ちょきはチョコレートだよね」

ことり「……うん」

真姫「にこちゃん、まちがえてる」

凛「いつも間違えてるよね」

希「どこで止まるか付いて行ってみようか」

穂乃果「信号で止まるんじゃないかな」


……


153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:28:48.17 ID:Sez8j5keo

―― 夜:希の部屋


希「ふぅ……」


ペラ

 ペラ


希「うちらはまだ、窮地に立たされているんやろか……」


ペラ

 ペラッ


希「占いは所詮占いやけど……」


ペラッ


希「――え」


希「……――死神」



……


154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:29:43.02 ID:Sez8j5keo

―― 深夜:穂乃果の部屋


穂乃果「ん……んん……」

真姫「すぅ……すぅ……」

穂乃果「……んん?」

真姫「すぅ……」

ギュウウ

穂乃果「……あつい」


穂乃果「ちょっと……離れて……ね」グイグイ


真姫「……ん……ん」


穂乃果「……ふぅ」


真姫「すぅ……すぅ……」


穂乃果「……すぅ」


真姫「ん……ん……?」


穂乃果「くぅ……すぅ……」

真姫「……」モゾモゾ

ギュウウ

真姫「すぅ……」

穂乃果「ん……ん……」

真姫「すぅすぅ……」

穂乃果「……ん?」

真姫「すー……すぅ」

ギュウウ


穂乃果「……」

真姫「……すぅ……すぅ」

穂乃果「……あつい」


……


155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:30:55.41 ID:Sez8j5keo

―― 朝:登校途中


穂乃果「……おは……よう」


海未「また夜更かしですか……?」

ことり「真姫ちゃんは元気そうだね」

真姫「うん、元気みゃん」

海未「その語尾、気に入ったみたいですね」

ことり「かわいいわんっ」

海未「穂乃果も真姫を見習って元気良く行きましょう」


穂乃果「……」


穂乃果「しくしく」



……


156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:31:50.64 ID:Sez8j5keo


―― 授業中:2年生の教室


穂乃果「すやすや」

真姫「……」カキカキ

ことり「……?」

真姫「ことりちゃん、いろえんぴつかしてください」

ことり「……うん、どうぞ」

真姫「ありがとう」

ことり「……どういたしまして」

穂乃果「すぅ……すぅ……むにゃむにゃ」

真姫「……」カキカキ

ことり「……ゴスロリ?」


……


157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:34:14.47 ID:Sez8j5keo

―― 昼休み:中庭


花陽「いただきまーす……はむっ」

真姫「はむっ」

花陽「うぅーん! やっぱりおいしいよ〜!」

真姫「おいしいよ」

穂乃果「そっか。絵里ちゃんとうみちゃんが普通だと言った試食品の饅頭、
     花陽ちゃんには大好物になったみたいだね」

絵里「き、期待が大きすぎたのよ」

海未「そ、そうです。嫌な言い方をしないでください」

凛「もぐもぐ……。うーん……凛もそれほどじゃないかも?」

穂乃果「そうなんだ……。絵里ちゃんたちにはハードルが高くなっちゃったのかなぁ?」

凛「でも美味しいよ。もぐもぐ」

ことり「にこちゃん、大丈夫かな……」

絵里「そうね……。まさかあのまま止まらずに進んでいくなんて……」

海未「あの方角なら、今は……金沢でしょうか……」

希「……」

穂乃果「にこちゃん、早く帰ってきて……みんな待ってるよ……!」


にこ「ここにいるわよ」


穂乃果「はい、希ちゃんもどうぞ〜」

希「うん、ありがとう」


にこ「昨日のあれは、みんなが遊ぶのを止めないから強制的に終わらせてあげたの!」


真姫「はなちゃん、あんこついてる」

花陽「えっと……どこかな?」

真姫「とってあげるね」

花陽「ありがとう〜」


にこ「日が暮れるのに全然進まないんだから、
   にこの機転にありがたく思いなさいよね!」


凛「海未ちゃん、半分食べる〜?」

海未「ありがとうございます、いただきます」

絵里「今日もいい天気ね」


にこ「無、視、す、る、なー!」


穂乃果「あはは、それ新しいね」


……


158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:35:55.61 ID:Sez8j5keo

―― 放課後:音楽室


真姫「〜♪」


たらったらんらん たらったらん♪


穂乃果「ゆ、指の動きが……!」

希「はやい……」ゴクリ

にこ「この曲は……?」

花陽「ゴリウォーグのケークウォーク……だよ」

ことり「ピアノの演奏は……その頃から完ぺきだった……!?」

海未「天才ですか……!?」

絵里「ハラショー……」

凛「おぉー……」


たんたららったん たん♪


穂乃果「すごいっ、すごいよ真姫!」

凛「真姫ちゃん、すごーい!」

花陽「す、素敵だった!」

パチパチ
  パチパチ


真姫「えへへ」


にこ「な、なかなかやるじゃない」


真姫「にこちゃんも、ひけるの?」


にこ「あ、アタリマエデショー」

ポン

にこ「?」

海未「……やめましょう。見栄を張るのは」

絵里「そうよ。素直になることも人生には必要なの」

にこ「弾けるわよ!」


真姫「にこちゃん、こっち」

ポンポン

にこ「……?」


穂乃果「一緒に演奏しようってことじゃない?」
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:37:01.77 ID:Sez8j5keo

真姫「すわって?」

ポンポン

にこ「う……」


希「もう後には引けないやん……」

ことり「真姫ちゃん、嬉しそうだよ……」


真姫「いっしょに」

にこ「わ、わかったわよ……」


凛「か、簡単なのがいいんじゃないかな?」

花陽「う、うん。ネコ踏んじゃったとか聞きたいな……!」


にこ「え、えっと……」

真姫「……」


たららんったったん♪


にこ「あーぁー、そうそう。思い出したー」


海未「本当に弾けるのでしょうか……」

穂乃果「……」


にこ「り、りん踏んじゃったー」


凛「不謹慎にゃー!」

絵里「誤魔化さないでちゃんとやってね」


にこ「うぅ……」

真姫「にこちゃん、こう……」


たららんたんたんたんったんっ


にこ「……」


たん たん たんたん たんたんたん

たららんったったん


にこ「こう……ね」

真姫「……うんっ」



花陽「……楽しそうに演奏するね、真姫ちゃん」

穂乃果「いつもそうだったよ。真姫ちゃんはいつも楽しそうに演奏してた」


たんたらららーたん たんっ たんっ ♪


……


160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:39:10.82 ID:Sez8j5keo

―― 夕暮れ時:商店街


真姫「ペロペロ」

にこ「そんなに慌てて食べないの」

真姫「だって、とけちゃうから」

にこ「ゆっくり舐めて大丈夫だから」

真姫「……うん」

にこ「ほっぺに付いちゃったじゃない」

真姫「……?」

にこ「動かないで、拭いてあげるから」

真姫「ん……」

フキフキ

真姫「と、とけちゃうっ」ペロペロ

にこ「あー、もう……こんどは鼻に……」


穂乃果「みんなで買い食いするアイスは最高だね!」

絵里「そうね、たまにはいいわね」


花陽「おいしいぃ〜」

ことり「こっちも美味しいよ。一口食べてみる?」

花陽「いいの?」

ことり「うん♪」

花陽「じゃあ……いただきます」

パクッ

ことり「どう?」

花陽「おいしぃ〜♪」


希「幸せそうやね」

凛「む、あれは……」


花陽「はぁ、なんでこんなにおいしいんだろう〜」


凛「今のかよちんには気付かないね」

希「そうやね。アイスに夢中みたいやし」


花陽「真姫ちゃん、こっちのアイスも食べてみてっ」

真姫「うんっ」

パクッ

花陽「おいしいでしょ〜。…………あれ?」チラッ

真姫「うん、おいしぃ〜」

花陽「ふふ」


花陽「え?」チラッ
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:39:50.06 ID:Sez8j5keo

花陽「あぁーー!!」


真姫「……っ!?」ビクッ


花陽「きょ、今日発売だったんだ……!?」

にこ「あー、あの伝説的アイドルの――」

花陽「わ、忘れてたぁぁああ!!」

真姫「は、はなちゃん……?」ビクビク

凛「かよちん、真姫ちゃんが怯えてる」


穂乃果「教科書に載りそうなくらい、見事な二度見だったね」

海未「なんですかそれは……」

ことり「海未ちゃんのいただきまーす」

パクッ


……

162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:40:52.05 ID:Sez8j5keo

―― 夜:高坂邸


穂乃果「いただきまーす」

真姫雪穂「「 いただきます 」」

母「はい、召し上がれ」

父「……」モグモグ

穂乃果「うまっ」

雪穂「寄り道したって聞いたけど、食べられる?」

真姫「うん。……うま」

雪穂「ダメだから! お姉ちゃんの真似しちゃダメ!」

真姫「う、うん……?」


母「ふふ、すっかり馴染んだみたいね」

父「……」


……


163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:42:04.69 ID:Sez8j5keo

―― 深夜:穂乃果の部屋


穂乃果「それじゃ、電気消すよー」

真姫「うん」

パチッ

穂乃果「ふぅ……」

真姫「ね、ほのかちゃん」

穂乃果「うん?」

真姫「また、おはなしきかせて?」

穂乃果「そうだなぁ……」

真姫「……」

穂乃果「今日は、真姫のこと聞かせてよ」

真姫「……?」

穂乃果「学校、楽しい?」

真姫「うん、たのしい」

穂乃果「そっか」

真姫「ほのかちゃんといっしょだから」

穂乃果「ふふ、そっかぁ」

真姫「あと……うみちゃん、ことりちゃん」


真姫「りんちゃん、はなちゃん」


真姫「えりちゃん、のぞみちゃん……いじわるするけど、にこちゃんも」


真姫「みんな、だいすきだから」


穂乃果「そっか、そっかぁ」

ぎゅううう

真姫「ほ、ほのかちゃん……?」

穂乃果「とっても嬉しいから、ぎゅーってするの」

真姫「うれしいの?」

穂乃果「うん、うれしい」

真姫「じゃあ……ぎゅーってする」

ぎゅううう

穂乃果「くるしいよ〜」
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:42:40.55 ID:Sez8j5keo

真姫「ずっと……みんなといっしょにいたい」


穂乃果「……ずっといっしょだよ」


真姫「うん、うれしい」

ぎゅううう


穂乃果「……」


真姫「……ん」


穂乃果「眠たい?」


真姫「うん……」


穂乃果「おやすみ、まき」


真姫「うん……おやすみ……なさ……い」


穂乃果「……」


真姫「……すぅ……すぅ」


穂乃果「遊び疲れちゃったんだね……」


真姫「くぅ……すぅ……」


穂乃果「……」


穂乃果「ずっと一緒だからね、真姫……ちゃん」


真姫「すぅ……すぅ」


……


165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:43:10.72 ID:Sez8j5keo

―― 朝:高坂邸玄関前


穂乃果雪穂「「 行ってきまーす! 」」

真姫「行ってきまーす」


母「はい、行ってらっしゃい。気を付けてねー」


「「「 はーい 」」」


母「さて、今日も一日頑張りましょう」


……


166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:43:48.89 ID:Sez8j5keo

―― 登校途中


真姫「おはよう」

ことり「うん、おはよう〜♪

海未「今日は寝不足ではなさそうですね」

穂乃果「うん、しっかり寝たからね!」

真姫「きょうもいっしょにあそんでくれる……?」

ことり「もちろん♪」

海未「まだまだ遊ぶレパートリーはありますからね」

穂乃果「そうだね。今日も一日楽しもう〜♪」

ことり「お〜♪」

真姫「おーっ」

海未「ふふ、しょうがないですね」

穂乃果「今日も楽しくなるよ、絶対!」

真姫「うん……っ!」

167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/25(日) 10:45:20.34 ID:Sez8j5keo



 ―― 4人の少女が今日という一日を期待で満たしていた ――



 ―― そのとき、空が嗤った ――



168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/25(日) 15:40:45.15 ID:D8Pn9Zy20
元ネタあるのかわからんが続き楽しみ
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 11:43:24.19 ID:iVlOUhKto

……




―― 昼:高坂邸玄関前


パカッ


母「あら、穂乃果宛に手紙……差出人は、小学校の友達だったような?」


母「同窓会のお報せ……にしてはまだ早いわよね」


母「……ピザのチラシが二枚も。……たまにはいいかも」


伏見「こんにちは」


母「あら、刑事さん」

伏見「なにか変わりはありませんか?」

母「えぇ、お陰様で。刑事さんはパトロールですか?」

伏見「そうです。私は車を与えられてないので、歩きながら……免許はあるんですけどね」

母「ふふ、大変ですね。そうだ、冷たい麦茶でもいかがです?」

伏見「いえいえ、そんな」

母「一杯くらいいいじゃないですか。ちょっと待っててくださいね〜」

テッテッテ


伏見「あー……、参ったなぁ……。催促したみたいになってしまった」

pipipi

プツッ

伏見「……はい、伏見です」

『もしもし、俺です』

伏見「どうしたの、真君?」

『すいません、今日中に戻るつもりだったんですけど……』

伏見「どうかしたの?」

『教授につかまってしまって……。戻るの明日になるかもしれません』

伏見「そっかぁ……」

『すいません』

伏見「ううん。今年卒業だからいろいろと忙しいよね」

『そっちの様子はどうですか?』

伏見「昨日、一昨日と……静かなものだね」


母「……どうぞ」


伏見「あ、すいません……」
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 11:45:58.05 ID:iVlOUhKto

『ということは、手紙以来……?』

伏見「そういうこと」

『真君……?』

『あ……』

伏見「ん? その声は……由美ちゃん?」

『あ、はいそうです』


母「……」ニヤニヤ

伏見「ごくごく……?」

母「お父さんから聞きましたよ。
  公園で若い男の人と二人で……」

伏見「ブフッ!」


『ど、どうしたんですか!?』

伏見「んふっ、ごほっ……な、なんでもない……。違いますってっ」

母「ふふふ」


『ん……?』

伏見「えっと……とにかく、なにか分かったことないかな」

『そうだ……。あの子たちに厄払いのお守りを持たせてください』

伏見「あぁ、相談役が言ってた……?」

『そうです、相手にはそれが効くかも――』

prrrrrr

伏見「あ、ごめん! 着信が入った!」

『は、はい。えっと、それじゃ』

伏見「また後でね!」

プツッ

母「隅に置けないのね〜。でも当たり前よね、美人さんなんだから〜」

伏見「ち が い ま すぅ!」

プツッ

伏見「はい、伏見です」

『おう、俺だ。今どこにいる』

伏見「えっと……高坂家の前ですが?」

『至急、駅に向かえ』

伏見「どういうことですか、警部……?」

『爆破予告があった』

伏見「え――」

『俺もすぐに向かう。ブツを見つけ次第、人を避難させろ』

伏見「わ、わかりました!」

プツッ

母「……?」
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 11:47:30.69 ID:iVlOUhKto

伏見「ごちそうさまでした!」

母「い、いえ……」

伏見「あ、そうだ……! 見張りの人……!」


見張り「……?」


伏見「絶対にそこを離れないで!」


見張り「……お、おう?」


伏見「走ってはきついなぁ……ッ」

タッタッタ


母「……なにかあったのかしら」


母「……」


母「……」ペコリ


見張り「……」ペコリ


母「さて、と……仕事に戻りましょう」


コトン


母「?」


母「……なにかしら」


母「もしかして……虫……?」


パカッ


母「手紙……?」


母「さっきは無かった――」

ペラッ


母「――……」



見張り「?」



母「そ、そんな――――穂乃果ッ!」



……


172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 11:49:15.08 ID:iVlOUhKto

―― 駅前


ザワザワ


「夜、暇っしょー?」


「あー、マジだりぃ……」


「なんだ、あのバイト! また連絡つかねえ……!」


「これはこれは、薔薇男戦士殿……!」

「おぉ、そなたがライムさんですか……! リアルでは初めまして!」


「今夜は夜までパーリナイッしょー!?」

「朝までにしようよー」


「さっきの音なんだったのかな?」

「誰かふざけて爆竹に火点けたんじゃない? たまにいるんだよね非常識なバカが」


伏見「はぁっ、はぁッ……」


駅員「早く、早くきてくれ……」


伏見「ふぅ……はぁ……。あの、警察です」

駅員「あっ、やっときた……っ」

伏見「それで、状況を説明してくれますか?」

駅員「は、はいっ。さっき、大きな音がしたんです」

伏見「……」

駅員「その音がした場所に……これが……」

伏見「拝見します」


『 今度は更に大きな音を披露する。この駅のどこかに爆弾をしかけた。 』


伏見「……」

駅員「ど、どうしましょうっ」

伏見「その音が出た場所を案内してください」

駅員「こっちですっ」


ファンファン

 ファンファン


「なになに、警察!?」

「なにかあったのー?」


ザワザワ


警部「おい、急げ!」

後輩「はいッ!」

タッタッタ
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 11:52:11.17 ID:iVlOUhKto

―― コインロッカー


伏見「……」

駅員「そこのゴミ箱が一つ壊されてしまってっ」


警部「ここか、現場は」


伏見「そのようですね。あと、爆破予告の紙がこれです」

警部「……ふむ」

後輩「先輩ッ!」

警部「ここは監視カメラがあるな」

駅員「は、はい、あります。あそこに!」

警部「ならそれを今すぐ」

後輩「先輩!!」

警部「なんだ」

後輩「きょ、脅迫状――じゃなくて、殺害予告です!」

警部「は……?」

伏見「え?」

後輩「さ、さっき本部から連絡が来てッ――高坂家に殺害予告がッ!」

伏見「――!?」

警部「……」

後輩「ど、どうしますか!?」

警部「おい、伏見」

伏見「さ、殺害……!?」

警部「お前はもう一度高坂宅に向かえ!」

伏見「は、はいッ」

後輩「あ、車使っていいから!」

伏見「わ、分かった」

タッタッタ


警部「くそ、なんだってんだ……」



……


174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 11:54:07.79 ID:iVlOUhKto

―― 高坂邸


ブオオオオオン


見張り「あ……!」


ガチャ


伏見「いつ届いたの!?」

見張り「分からない!」

伏見「分からないわけないでしょ!?」

見張り「俺もずっと見てたんだよ!」

伏見「……っ」

見張り「奥さんが郵便受けから紙を取り出して、読んで膝をついた」

伏見「……いつ」

見張り「あんたが俺に忠告して直ぐ後だ!」


伏見「…………」


見張り「ありえない……。奥さんは一度郵便受けから全部出して、一つ一つ目を通してた」


見張り「そしてあんたが来て、走り去って……それからだ」


見張り「その間、俺はずっと見ていたんだ!」


伏見「ふぅ……わかった」


見張り「信じてくれ!」


伏見「分かったって。疑ってないよ」


見張り「なんだよ、これ……意味が分からないっ」


伏見「……やっぱり、ナニカが」

スタスタスタ


ガラガラ


伏見「失礼します」


……


175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 11:57:45.61 ID:iVlOUhKto

―― 同時刻:駅監視室


ザザッ――ザッ――


警部「おい、どういうことだ」

室長「見ての通り、ノイズが走って犯人の姿は映っていないようです」

警部「周辺のカメラもあるだろ。それをチェックしろ」

室長「利用者の多いこの駅のカメラをですか?」

警部「そうだ」

室長「……わかりました」


捜査員「警部! 不審物を北側のロッカーから発見しました!」


警部「すぐに周辺を封鎖しろ! 爆発物処理班を呼べ!」


捜査員「はい!」


後輩「先輩! 本部からの連絡です!」


警部「なんだ」


後輩「また殺害予告が!」


警部「なに……!?」


……


176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:01:52.90 ID:iVlOUhKto

―― 高坂邸


『 高坂穂乃果を殺します 』


伏見「――ッ」


母「ほのか……穂乃果……っ」

父「……」

ギュッ


伏見「私たちが必ず犯人を止めます」


母「刑事…さん……」


伏見「そのまま横に、安静になさっていてください」


母「娘を……穂乃果をお願いします……」


伏見「――はい」



……


177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:03:46.93 ID:iVlOUhKto

―― 車内


ガガッ

『伏見、応答しろ』


伏見「はい」


『小泉宅にも殺害予告が届いた』


伏見「小泉……え――!? 花陽ちゃんですか!?」


『あぁそうだ。名指しで殺すと明確に記されている』


伏見「……こっちも同じ内容です」


『ただちに――』


伏見「いえ、警部。私は園田さんと南さんの家へ向かいます」


『……9人全員に予告が出されたということか?』


伏見「はい、その可能性が」


『分かった。それじゃあ、残りの5人はこっちで確認させる』


伏見「お願いします……」


『どうした』


伏見「娘の殺害予告をみた親に……どう説明すれば……」


『しっかりしろ』


伏見「……っ!」


『まずは学校に連絡を取って、9人の安全確保だ』


伏見「は、はい――」


『おい、待て警部』


伏見「?」


『なんですか、警視』

『十三課に勝手に動いてもらっては困る。
 研修の身でもあるんだ、大人しくさせていろ』


伏見「こんなときに……っ」
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:05:39.43 ID:iVlOUhKto

『お言葉ですが』

『……なんだ』

『今は爆破予告で状況が混乱しています。現場に近い伏見が――』

『経験の浅い新米刑事に務まる事件ではない』

『…………』

『我々一課に任せていろ、いいな』


伏見「……」


『おい、伏見』


伏見「はい」


『爆破予告と殺害予告、繋がっていると思うか?』


伏見「それは……分かりません」


『監視カメラに爆破予告を出した犯人の姿が映っていない、と聞いてもか?』


伏見「やっぱり……この地に……ナニカが……」


『おい、聞いているのか、警部』

『警視、我々――……警察の悲願のはずです』

『なんのことだ』

『事件を未然に防ぐことが、です』


伏見「…………」


『そんなものは理想にすぎん。事件が起こらないと我々は動けないだろう』

『だから――、起こる前に防ごうって言ってるんだ』

『誰に向かって――』

『分かったら邪魔するんじゃねえ!』


伏見「おぅ……」


『おい、伏見!』


伏見「は、はい!」


『とっとと動け! 犯人が止まってくれる保証はねえぞ!』


伏見「了解です!」


ガチャ

 ブルルルルン


伏見「そうだ、まだ事件は起こっていない――」


……


179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:07:15.81 ID:iVlOUhKto

―― 同時刻:3年生の教室


キーンコーン
 カーンコーン


先生「はい、それじゃ授業はここまで」



希「……」

絵里「……希?」

希「……ん?」

絵里「なんだか顔色が悪いみたいだけど、大丈夫?」

希「……ちょっと、昨日寝付けなくて」

絵里「考え事?」

希「うん……そんなとこ」


にこ「ちょっといい?」


希「どうしたん?」

にこ「今日の放課後なんだけど、久しぶりに練習しない?」

絵里「練習って言ったって……真姫はどうするの?」

にこ「ピアノの演奏はできるんだから、歌の練習をするのよ」

希「そうやね。……発声練習ならできるかな」

絵里「さっき、穂乃果たちは遊ぶ気でいたけど」

にこ「1時間くらい練習して、それから遊べばいいじゃない」

希「いいと思うよ。うちは賛成」

絵里「そうね、私も。それじゃみんなに伝えておいてね」

にこ「オッケー」


ファンファン

 ファンファン


希「パトカー……?」

絵里「珍しいわね、学校の近くを走るなんて」

にこ「はっ、まさか……!」

希「にこっちが可愛いすぎて罪になるから逮捕しにきたんと違う?」

にこ「にこが可愛――……やっぱりソウヨネー……」

絵里「どうでもいいけど、そのギャグを私たちにやっても無意味よ?」

にこ「ギャグってなによ! 何気に酷いわよね絵里は……」


……


180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:08:40.49 ID:iVlOUhKto

―― 同時刻:1年生の教室


凛「色鬼、高鬼、氷鬼……あとは……」

花陽「抱きつき鬼とか」

凛「うんうん」

花陽「他に鬼遊びは……」

凛「……?」


―― 廊下


先生「小泉さん、星空さんの2人はちゃんと教室に居る」

教師「3年の絢瀬、東條、矢澤も確認しました」

先生「それじゃ、2年生のところへ行きましょう」

教師「はい」


―― 1年生の教室


凛「先生たち、何の話してたんだろ?」

花陽「なんだか、変だったね……」

凛「えっとまだやってない遊びは……」

花陽「カードゲームがいいんじゃないかな?」

凛「凛は体動かしたいな〜。最近、踊りの練習もしてないから体が鈍ってるにゃ」

花陽「ふふ。それじゃ、次の休み時間に穂乃果ちゃんのところ行こう?」

凛「そうだね」


キーンコーン
 カーンコーン


凛「はやく放課後にならないかなー……」

花陽「もう、ちゃんと授業受けなきゃだめだよ?」

凛「分かってるってー」

花陽「あっ、先生来ちゃった」


先生「みなさん、悪いのですがこの時間、自習していてください」


凛花陽「「 ? 」」


生徒A「また自習……?」

生徒B「さっきパトカーが走ってたけどなにか関係あるのかな?」

生徒C「やめてよ、そういうこと言うの……」


ザワザワ


……


181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:10:45.42 ID:iVlOUhKto

―― 南邸前


伏見「忙しいところ、急にお呼び出しして申し訳ありません」

理事長「い、いえ……。それで要件というのは……」

伏見「郵便物の確認をさせてください」

理事長「は、はい……」

伏見「……」

理事長「…………」


パカッ


理事長「……?」

伏見「――!」

理事長「これは――……」


『 南ことりを殺します 』


理事長「え――」

伏見「……ッ」

理事長「ことり……」フラッ

伏見「だ、大丈夫ですかっ!?」

理事長「そんな……どうして……ことりが……っ」

伏見「ここに、座ってください」

理事長「なにかの……悪戯……ですよね……」

伏見「……」

理事長「そうよ……ことりが……誰かに恨まれるなんて……そんなこと」

伏見「ここで待っていてください」

理事長「……なんで……どうして……――ことりっ」


伏見「……」


ピピップ

trrrrr

プツッ


『なんだ』

伏見「警部、園田さんと南さんにも予告が出されました」

『こっちも確認した。星空宅、矢澤宅……それと、東條希の部屋だ』

伏見「……西木野さんは?」

『そっちは確認できていない』

伏見「……」
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:13:18.76 ID:iVlOUhKto

『この殺害予告、複数犯が出したものだと思うか?』

伏見「どういうことですか?」

『証言によれば、ほぼ同時刻に投函されていることになる』

伏見「……」

『同一犯というのはありえないんだよ』

伏見「……」

『お前たち十三課ではそれを理屈抜きで理解できるのか?』

伏見「……はい、可能性に過ぎませんが」

『……そうか』

伏見「警部、学校側の対応をどうしましょう」

『待て』

伏見「……?」

『お前が考えろ』

伏見「え……?」

『最善策をお前が考えろと言ってるんだ』

伏見「ちょ、ちょっと待ってください、そんなこと!」

『常に犯人の行動は悪運によって守られている。
 俺たちの捜査はそれで足止めを食らってるんだ』

伏見「だけど私はまだ刑事としての……!」

『いいか、よく聞け』

伏見「……!」

『今、この時間に、この場所で、あの子たちを守れる可能性が一番高いのは恐らくお前だ』

伏見「――!」

『組織のしがらみは俺がなんとかしてやる。だから、考えろ。いいな?』

伏見「け、警部、悪戯の可能性も捨てきれないんですよ?」

『ナニカが起こっていることくらい俺にもわかる。だが理解できるのはお前だけだ』

伏見「……わ…わかり……ました……!」

『これから二人で行動しろ』

伏見「二人……?」


後輩「伏見さん!」


伏見「……分かりました」

『それで、これからどうする』

伏見「少し時間をください。とりあえず学校に向かいます」

『分かった。着く前に指示を出せ』

プツッ

伏見「ふぅ……はぁぁ……」


理事長「――……」


後輩「あの学校の理事長……? 顔色が悪すぎる……」
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:18:31.91 ID:iVlOUhKto

伏見「理事長、車に乗ってください」

理事長「え……」

伏見「学校に戻りましょう」

理事長「は、はい……」


伏見「……そうだ、学校だ」


後輩「?」

伏見「後輩君、運転して」

後輩「いやいや、俺は君より先輩ですけど!?」

伏見「いいからはやく!」

後輩「わ、わかったよ!」


バタン


伏見「えっと、無線は……」

後輩「これだ」

伏見「サンキュ」

後輩「だから、俺は先輩だって――」

ガガッ

伏見「警部、応答してください」

『俺じゃなくて、本部に伝えろ』

伏見「えっ!?」

『話はしてある』

後輩「マジっすか、先輩……」

伏見「え、えっと……本部」

『はい、こちら本部です』

伏見「音ノ木坂学院の下校時刻を普段通りにしてください」

『え……?』

後輩「爆破予告が出てるから早期下校の対応じゃないと……!」

伏見「知ってる。……それでいいですか、理事長」

理事長「……で、ですが、今、職員会議で早期下校の趣旨を伝えているはずです」

伏見「生徒の安全はそれで守られるでしょうが、あの子たちは違う」

理事長「…………」
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:21:54.29 ID:iVlOUhKto

ガガッ

『伏見、爆破予告と殺害予告の犯人は同一人物なのか?』

伏見「それは分かりません。……けど、学校が安全であることは変わりありません」

理事長「……わかりました、刑事さん。普段通りに」

伏見「理事長からの許可も取りましたので。周辺の学校はお任せします」

『理由を聞かせろ、伏見刑事』

後輩「うわ……警視……」

伏見「時間稼ぎの意味があります」

『その間に俺たち一課に動けと言っているのか?』

伏見「そう取ってもらっても構いません」

『いいだろう。では、音ノ木坂学院の警備を強化する』

伏見「了解しました」

後輩「おぉ、先輩が啖呵切った影響だ……」

伏見「理事長、生徒たちにはまだ爆破予告のことは伏せておいてください」

理事長「はい……わかりました」

伏見「先生方には私が詳しく話します」

理事長「……お願いします」


伏見「……これで守りは鉄壁のはず」


……


185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:23:26.73 ID:iVlOUhKto

―― 同時刻:2年生の教室


穂乃果「――!」ビクンッ


真姫「……?」

ことり「穂乃果……ちゃん?」


穂乃果「……ほ……ほぁ……ビックリした」

真姫「どうしたの?」

穂乃果「高いところから落ちた夢見ちゃった……あはは」

海未「しっかり寝たはずでは?」

穂乃果「ここのところ睡眠不足だったから」

海未「授業中にその不足分を補っていたようですが」

穂乃果「む……ああ言えばこう言う……」

海未「それはあなたです」

ことり「まぁまぁ」

真姫「ケンカはだめだよ」

穂乃果「そうだけど、うみちゃんが」

海未「穂乃果がいけないんです」


ヒデコ「あのやり取りを見てると平和だなって思うわ」

ミカ「ほんとほんと」

フミコ「……また自習ってどうしたんだろ」

ヒデコ「そういや、前の自習も説明無かったよね」

ミカ「うんうん」

フミコ「ミカ、漫画読みながら相打ちするの良くないよ」

ミカ「ほんと、そうだよね」

ヒデコ「話、まったく聞いてないよね」

ミカ「そうそう、その通りだと思う」


……


186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:26:11.12 ID:iVlOUhKto

―― 帰りのホームルーム


担任「さて、今日はこれで終わりだが――」


穂乃果「あー、終わったー」

真姫「おわったぁ」

ことり「真姫ちゃんも疲れたみたいだね」

海未「……」


担任「大事な話があるんだが――」


穂乃果「今日はどこ寄って行こうか?」

真姫「こうえんにいきたい」

穂乃果「うーん……それもいいけど」

ことり「ちょっと穂乃果ちゃん、先生の話が終わってないよっ」


担任「大事な話があるんだが、なぁ、高坂」


穂乃果「……はい、どうぞ」


担任「今日の昼頃、みんながよく利用する駅に爆破予告が出された」


海未「え――!」

ヒデコ「嘘……」

ミカ「ば、ばくはっ!?」

真姫「……?」

ことり「…………」

穂乃果「……」

フミコ「昼のサイレンってそれだったんだ……」


ザワザワ


担任「みんな静かに。駅は一時封鎖されたけど、
   いたずらと判明されたので見合わせていた電車は今は通常通り運行している」


海未「……ホッ」

ヒデコ「はぁ、びっくりした」


担任「悪戯と判断されたが警察は警戒しているらしい。
   だから今日は早く帰るように。遅くなるようなら必ず家に電話するんだぞー」


ミカ「はーい」

フミコ「爆破なんて、テレビの中の話だけだと思ってた」

生徒D「ねー。ニュースでは見てたけどまさか近所でなんて」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:28:16.93 ID:iVlOUhKto

担任「はい、それじゃ今日はこれで終わり。気を付けて帰るんだぞ」


穂乃果「今日も天気が良かったから、遊びたかったのになぁ」

ことり「今日はしょうがないよ。にこちゃんが練習しようって言ってたけど」

穂乃果「練習?」

真姫「れんしゅう?」

ことり「うん、発声練習しようって」


担任「そうか、それはちょうど良かった」


穂乃果「?」

担任「高坂たちの部活の取材がしたいって相談があってな」

穂乃果「取材?」

海未「部活とは……私たちもですか……」

真姫「おなかすいた……」

ことり「部室にお菓子あるから、もうちょっと我慢してね」


ヒデコ「明日の休み、どこ行こうか」

ミカ「海に、行きたいな」

フミコ「なんで急に海なの……?」

ミカ「私を呼んでいる気がする」

ヒデコ「気のせいだって」

フミコ「海に呼ばれるって怖くない……?」

ミカ「……確かに」


真姫「うみちゃん、こわくないのに」

海未「いえ、私ではありませんよ」


担任「あぁ、そこの3人も協力してくれ」


ヒデコフミコミカ「「「 ? 」」」



……


188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:30:47.84 ID:iVlOUhKto

―― 同時刻:音ノ木坂学院周辺


伏見「……」


後輩「しかし、あの爆破予告がハッタリだったとは……犯人は何考えてんスかね」

警部「俺が知るか。それより、あの予告に使われた紙からなにか分かったか」

後輩「バッチリッス」

警部「報告しろ。……おい、伏見、何を見ている」


伏見「え、いえ……なんでも」


後輩「屋上になにが……?」


伏見「はやく報告を」


後輩「だから、俺の方が先輩だっての。……えっとですね、
   みんな、文面に注目していたようですが、紙の裏に花が描かれてるんですよ」

警部「花……?」

後輩「そうです。調べたところ、薔薇、デイジー、パンジー、スミレ、
   チューリップ、オニユリ、朝顔、ダンディライオン、スイートピー」

伏見「……花…」

後輩「そして、アイリスの計10枚分ですね」

警部「ふむ」

後輩「はい」

警部「……?」

後輩「以上です」

警部「それだけか?」

後輩「……そうです」

警部「なにがバッチリだよお前……」

後輩「いや、手がかりこれしかなかったんですって!」

警部「その花から得られる共通点とかあるだろうが」

後輩「そうッスね。……セット販売とかあるかもしれないんで調べてみます」

伏見「もしかして……」

警部「何か分かるのか?」

伏見「小さい頃に読んだ記憶があって……。それと、花の名前に少しだけ知識があるんです」

後輩「読んだ……? 絵本とか童話……?」

伏見「うん……。確か、ナイフに文字が彫られてあったよね……?」

後輩「あ、あぁ……えっと……『vorpal sword』って」

伏見「アリス……」

警部「……は?」

伏見「気になって調べたんですその文字。
    それは鏡の国のアリスに出てくる剣。そして、さっきの花の名前……」

警部「それがあの児童小説がに共通してるってのか」

伏見「……はい、そうです」
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:33:39.29 ID:iVlOUhKto

後輩「警官を刺したナイフ、犯行予告に使われた紙に描かれた花」

警部「それが同一人物が出したと証明しているっていうのか?」

伏見「爆破予告はハッタリでも殺害予告は本気……かもしれません」

後輩「どうします、先輩。本部はもう爆弾が偽物だったことで警戒を緩めてますけど……」

警部「俺がもう一度本部へ行って掛け合ってくる」

後輩「でも先輩、さっき啖呵切ったからっ」

警部「根拠は乏しいが……事が起こってからじゃ手遅れだ」

伏見「……」

警部「伏見、あの子らをいつまで学校に足止めしておくんだ?」

伏見「陽が暮れるまで。……それで犯人逮捕です」

警部「何を待ってるかは知らんが、本当だな」

伏見「はい。これだけ証拠を残してますから」

警部「よし。それじゃ、お前はこれから最善と思う行動をしろ。
   日が暮れるまで報告はいらん」


伏見「分かりました」


警部「お前はここで見張りだ。なにかあったら連絡しろ」


後輩「はい!」


警部「ったく、なんでこんな雲を掴むような事件を追ってんだ……」

タッタッタ......


後輩「……先輩にも子どもがいるんだよ」


伏見「……」


後輩「だから、親の気持ちが分かるんだろうな……」


伏見「うん。――あんな気持ちはしたくない。――させたくない」


後輩「じゃあ俺、見回りしてくるわ」

スタスタスタ


伏見「私は――――」


……


190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:35:24.24 ID:iVlOUhKto

―― 屋上



海未「はい、わん、つー、すりー」


にこ「こうやって、こう」

凛「こうやって……っ」

穂乃果「こうだね!」


真姫「……」


ミカ「いいねいいね、撮っちゃうよ」

パシャッ

にこ「にこっ♪」

絵里「ちょっとにこ、集中して」

にこ「してるわよ」

絵里「シャッター切る度にカメラ目線してるでしょ」

にこ「本能だからしょうがないの☆」

花陽「反対から同時に撮ったらどうなるのかな……」


希「真姫ちゃん、もうちょっとこっちに来て」

真姫「……うん」


ことり「あの、真姫ちゃんはNGでお願いね」

ヒデコ「どうしてだっけ?」

ことり「今の真姫ちゃんを残しておきたくないの」

ヒデコ「……」

ことり「本来の真姫ちゃんに戻った時、
    知らない自分の写真を見たらきっと混乱するから……」

ヒデコ「……うん、わかった」

ことり「その代わり、にこちゃん達をたくさん撮ってね」

ヒデコ「オッケー」


真姫「……」


海未「わん、つー、すりー」


ミカ「いいよ、みんな笑顔がとってもいい!」

パシャパシャ


絵里「なんだかプロっぽいわね……」


ミカ「どんどん撮っていくよ〜」

パシャパシャ
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:36:21.93 ID:iVlOUhKto

タンタタンタンッ

にこ「……っ」

凛「よっとっ」

穂乃果「くるくるくるくる〜」

タンッ

穂乃果「キメ!」


ミカ「ぬ……!」


穂乃果「どうしたの?」


ミカ「ごめんごめん、フィルムが……」


にこ「デジカメでしょそれ!」


ミカ「ごめんなさい! 変なボタン押しちゃってっ」

ヒデコ「どれどれ?」


にこ「せっかくのキメポーズが……」

凛「久しぶりに踊るの楽しいにゃ〜」

穂乃果「あはは、そうだね〜」


真姫「……」


絵里「どうしたの、真姫?」


真姫「ん……」


絵里「?」

花陽「いっしょに、踊りたいのかな……?」


穂乃果「そうなの?」

真姫「……うん」

穂乃果「そっか……。じゃ、一緒に踊ろうよ」

真姫「うんっ」

希「といっても、真姫ちゃんトレーニングウェア持ってきてるん?」

穂乃果「……ううん、持ってきてないね」

絵里「それじゃ、私の貸してあげるから……着替えてきましょ」

真姫「うん」

ことり「あ、私も〜」

テッテッテ
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:37:59.78 ID:iVlOUhKto

にこ「でも、久しぶりに踊ってみると……体が鈍ってて思うようにいかないわ……」

海未「毎日の練習は必須ですね……」

穂乃果「というか、歌の練習のはずだったのに」

ヒデコ「やっぱりさ、躍動感ってのが欲しいわけよ」

ミカ「うんうん。動きってのが必要なわけ」

にこ「さっき撮ったのみせて」

ミカ「……どうぞ」

にこ「ふむふむ……なるほど」

ミカ「これなんか、素早い動きを想像させますね」

穂乃果「ブレてるじゃんっ! これブレてるじゃん!!」

にこ「っていうか、全部ブレてるじゃない!」

ミカ「ご、ごめんなさい〜!」

ヒデコ「まぁまぁ。素人だし」

にこ「あんた、自信満々に綺麗に撮ってあげますよ〜って言ってたわよね」

ミカ「すいません……。私、普段は自然を相手に撮っていまして」

穂乃果「嘘だよね」

ミカ「すいません。写真は記念撮影くらいです」

にこ「……」

凛「喉乾いたにゃ〜」

ヒデコ「フミコがお礼の飲み物用意してるから、もうちょっと頑張って」

凛「やった〜!」

希「飲み物?」

ヒデコ「理事長からの差し入れって、紅茶と冷たいドリンクを用意しています」

穂乃果「ふぅん……珍しいね?」

希「そうやね……」

ヒデコ「私も理事長から直接じゃなくて、先輩からなんで……詳しくは知らないんですけどね」

穂乃果希「「 ? 」」

にこ「じゃあ、止まっていたら綺麗に撮れるわけ?」

ミカ「……多分」

にこ「今度は自信なさそうになったわね」
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:38:51.45 ID:iVlOUhKto

凛「ふふ〜、凛はいい構図を思いついたよ!」

希「どういうの?」

凛「かよちん、向こうへ行って」

花陽「え、う、うん……?」

希「なるほど、夕陽をバックにするわけやね」

凛「そうだよ。かよちん、ストップ」


花陽「うん……」


ヒデコ「どうよ?」

ミカ「……よく分かんない」

にこ「なんで素人っぽくなってるのこの子……さっきまでのプロっぽい感じはどうしたの?」

穂乃果「にこちゃんが突っ込むからだよ」

希「お、ええやん〜。シルエットになってて」


花陽「そ、そう?」


ミカ「……」

パシャッ


海未「なにも言わずに押しましたね……」
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:39:44.05 ID:iVlOUhKto

―― 廊下


真姫「……」

絵里「どう?」

真姫「……うん、だいじょうぶ」

ことり「うん、どこも変じゃないね」

真姫「ありがとう、ことりちゃん」

ことり「どういたしまして〜♪」


理事長「あ……ことり」


ことり「お母さん……?」


理事長「……」


ことり「……?」


理事長「……」


ことり「どうしたの?」


理事長「ううん、なんでもない……」

スッ

ことり「な、なに……?」

理事長「髪に糸くずが……」

ことり「あ、うん……ありがとう」

理事長「……それじゃ」

ことり「うん、また後でね」

理事長「必ず、帰ってきて」

ことり「うん。……うん?」

理事長「……」

スタスタスタ......


ことり「……」


真姫「どうしたの?」


絵里「……なんでも……ないわ」


ことり「どうしたのかな、お母さん……」


真姫「?」


絵里「……もうすぐ陽が暮れるわね」


……


195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:40:58.64 ID:iVlOUhKto

―― 家庭科室


「もうアイドル部たちの練習は終わったころかしら」

フミコ「はい、ヒデコからメール来てました」

「それじゃ持って行ってくれる?」

フミコ「分かりました」

「手伝ってくれてありがとう。とても助かったわ」

フミコ「いえ、これくらい」

「お茶請けはこれくらいでいいかしら」

フミコ「そうですね。あまり多すぎてもいけませんから」

「それじゃ、よろしくね」

フミコ「先輩は一緒に行かないんですか?」

先輩「私は他にすることがあるから。……あ、そうそう」

フミコ「?」

先輩「穂乃果さんと真姫さんを理事長室に呼んでくれって頼まれたの忘れてたわ」

フミコ「じゃあ、ついでに伝えておきますね」

先輩「ありがとう、助かるわ。できるだけ急いでもらってね」

フミコ「分かりました。それでは……よいしょっ」

先輩「一人で持てる?」

フミコ「だい……じょうぶです」

先輩「ごめんね、あなた達の分も用意するから、後でここに来てちょうだい」

フミコ「はい。ありがとうございます……でも、もう日が暮れるから……私たちは先に帰ります」

先輩「そうね、早く帰れって先生に言われてるからゆっくりはできないか……残念」

フミコ「どうして、アイドル部だけ残ってるんでしょう?」

先輩「さぁ……わからないわね」

フミコ「おっと……それじゃ、行ってきます」

先輩「行ってらっしゃい。ちゃんとみんなに飲んでもらってね。高級品だから」

フミコ「ふふ、は〜い」


先輩「……必ず」


「飲んでくれないと、困るから」



……


196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 13:28:17.31 ID:iVlOUhKto

―― 夕暮れ時:アイドル部


フミコ「お待たせしました〜。……よいしょっと」


にこ「なにそれ」

フミコ「高級な茶葉を使用してますよ」

花陽「わざわざティーポットに淹れてくれたんですか……?」

フミコ「香りと味を最大限に味わってほしいって」

にこ「ふぅん……」

凛「冷えてるって言ってたよ?」

フミコ「それは、このクーラーボックスに」

凛「なにがあるのかな〜? 
  あ、スポーツドリンクとオレンジ、アップルがある! 飲み放題?」

フミコ「ある分だけは、そうなんじゃないかな」

凛「やった〜!」

海未「そこまで用意してくれていたのですか?」

フミコ「取材のお礼だそうだから」

にこ「ふふ、ついに私の……にこにーの偉大なる一歩が新聞に載るのよ!」

希「学校のブログやけどな〜」

にこ「分かってないわね、希……この小さな」

希「この小さな記事がやがて大きな存在へと変貌したうちらの奇跡の一文になるんやね」

にこ「そ、そうよ。……分かってるじゃない」

花陽「それじゃ、並べますね」

フミコ「ありがとう」


ガチャ


ことり「ふぅ〜、着替えてきたよ〜」

絵里「これは一体……?」

真姫「おちゃかい?」

穂乃果「おぉっ、お茶会っ! セレブだ!」

絵里「……このティーポット……どこかで見たような」

ことり「あっ! これ、すっごく高いポットだよ!」

にこ凛「「 えっ!? 」」

ことり「わぁ〜……このティーカップも!?」

にこ「い、いくらくらい……?」ゴクリ

ことり「5桁か……6桁……」

花陽「う、うそー!?」

穂乃果「じゃ、じゃあ一生に一度しか味わえないお茶会だね!?」

希「というか、なぜそんなものが……」

フミコ「そ、そんなに高かったんだ……」
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 13:29:30.79 ID:iVlOUhKto

にこ「セレブっていうのわね、何事にも動じないものなの……ことり、ついでくれるかしら」

凛「自分で注ぎなよ〜」

にこ「ふふ、セレブにこにそんなことできなくってよ」

絵里「あなたは誰なのよ……」

海未「にこのイメージするセレブってこういうのなんですね……」

ことり「はい、どうぞ」

にこ「ありがとう。……くんくん」

花陽「セレブがあからさまに匂い嗅いでる……」

にこ「この匂いは……あれね、ターメリックね」

真姫「カレー」

にこ「?」

真姫「カレーのスパイスだよ」

にこ「そうそう、カレーのスパイス。彼にはスパイスが必要なの」

凛「なにを言ってるの?」

穂乃果「しかも親父ギャグ……」

にこ「い、韻を踏んだのっ! ラップよ、にこラップ!」

希「セレブには程遠いみたいやな」

にこ「と、とにかく、いただくザマス……ずずーっ」

海未「キャラが定まっていませんね……」

絵里「もう何が何だか……」

フミコ「あはは……」

ガチャ

ミカ「フミコー? 帰るよー?」

フミコ「あ、うん」

ヒデコ「それじゃ、私たち帰るね」

穂乃果「今日はありがとー」

ヒデコ「いえいえ。それじゃ」

フミコ「片付けは明日やるから、適当に置いといてね」

ことり「ううん、私がやるから」

フミコ「う〜ん……うん、わかった」

海未「ありがとうございました」

フミコヒデコミカ「「「 ばいばーい 」」」

バタン


穂乃果「さてっと、私もセレブになってみようかな〜」

絵里「せっかく淹れてくれたんだから、いただいてから帰りましょうか」

凛「凛にもちょうだい、かよちん!」

花陽「うん、ちょっと待っててね」

にこ「うえ……まっず」
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 13:30:51.53 ID:iVlOUhKto

ガチャ


フミコ「ごめんごめん、伝言忘れてた」

海未「え?」

フミコ「穂乃果と真姫ちゃん、理事長室に急ぎで来てくれって」

ことり「お母さんが……?」

絵里「さっき出ていったように見えたけど……もう戻ってきたのかしら」

真姫「……?」

穂乃果「うん、わかったー」


フミコ「それじゃね」

バタン

穂乃果「せっかくだから、一口いただいてから……」

ことり「穂乃果ちゃん、お母さんさっき変だったから……なにか伝えたいことあるんだと思う」

穂乃果「え、そうなの?」

絵里「……そうね。すぐに行ったほうがいいかも」

穂乃果「わ、わかった」

海未「ちゃんとお菓子も残しておきますから安心してください」

穂乃果「そこまで欲張りじゃないよー」


にこ「ごくごく……、うぇ、やっぱりまずい」

希「口に合わない?」

にこ「そうみたい。凛、私にもスポドリとって」

凛「はいにゃっ」


穂乃果「じゃ、行こうか、真姫」

真姫「……うん」

穂乃果「チョコレート貰ってくね」

ことり「はい、どうぞ、真姫ちゃんも」

真姫「ありがとう、ことりちゃん」

ことり「いえいえ♪」


ガチャ


穂乃果「話ってなにかな……」

真姫「もぐもぐ」


バタン


花陽「こ、これが……セレブのティータイム」

絵里「そんな構えなくてもいいわよ。普通に飲めばそれで楽しめるわ」

花陽「さ、さすが絵里ちゃん、様になってる」

凛「ごくごく……にゃっまずい!」

希「あらら……凛ちゃんまで」
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 13:32:05.15 ID:iVlOUhKto

にこ「…………」

ことり「海未ちゃんも、どうぞ」

海未「ありがとうございます。いただきます……」ズズーッ

絵里「……」

花陽「……う、うん?」

凛「どう、かよちん」

花陽「うぅん……こういう味なんだ……。もっと……爽やかになると思ってたのに」

海未「そうですね……濁ったような」

希「ん……本当だ……」

にこ「……ん……んん」

絵里「どうしたの、にこ?」

にこ「な……なんだか急に……眠気が……」

ことり「ん〜……本当だ、前に飲んだ茶葉の方が美味しいかな?」

凛「…………」

花陽「あ……あれ……?」

絵里「花陽……?」

花陽「うぅん……どうしたんだろ……」

希「え……エリち……ッ」


絵里「どうしたの、希?」


希「こ…れ……なにか……入ってる……ッ」


絵里「う……うそっ!」

ガチャーン


ことり「あ……あれぇ……」

海未「な……なんです……これは……っ」


凛「すぅ……すぅ……」

花陽「……すぅ」

にこ「くかー……」


絵里「まさか……睡眠薬……!?」


ことり「ん……ん…………」


海未「……まさか……そん…な……」


ことり「すぅ……」


希「エリち……はやく……逃げ……て……ッ」


絵里「わ……私ものんで……」
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 13:33:27.54 ID:iVlOUhKto


希「いや……や……」


海未「く……ぅぅ……っ」


希「……うしない……たくな……い」


絵里「のぞ……みっ……だめ……寝ちゃ……だめっ」


希「……だれ……も……」


「うし……な……いた…く……な……い」


「のぞ……み……」


最後の抵抗として涙が零れ落ちた

東條希の涙

それをみた絢瀬絵里は微睡んでいく意識の中で先端の尖ったものを探す


「……っ……だ…め……」


それを手に刺して意識の回復を図ろうとした


だが見つからない


「……ほ……の……」


横たわり、出入り口のドアを薄れゆく意識の中、声に出す


危険が迫っているのだと


「に……げ…………」


校内に居ては駄目だと



「――……」


しかし声にならない声をこの部屋が飲み込んだ
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 13:35:00.58 ID:iVlOUhKto


「すぅ……すぅ」


机につっぷして眠る星空凛


「……くぅ……すぅ」


椅子に持たれて眠る小泉花陽


「くー……すぅ……」


不自然な姿勢で眠る矢澤にこ


「すぅ……」


海未に寄り添うように眠る南ことり


「…………」


ことりを守るように眠る園田海未



「…………」


静かに眠る東條希


「……――」


険しい顔で眠る絢瀬絵里


バチバチンと音を立てて照明が消えた


沈もうとする夕陽だけが室内を照らす


しかしそれも束の間


次第に光を失った薄暗い部屋は不穏な空気が漂い始める


ゆっくりと忍び寄る死の誘い


眠る7人の少女たちは

抗うすべもなくただその時が来るのを待つだけだった


そのとき、部屋を覗いた者が――


「ァハハ」


――嗤った

202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:01:27.56 ID:gtFhDy4Ho

―― 理事長室前


コンコン


穂乃果「……」

真姫「もぐもぐ」

穂乃果「喉乾かない?」

真姫「のどかわいた……」

穂乃果「もうちょっと我慢してね。美味しい紅茶が待ってるから」

真姫「うん、わかった」


コンコン


穂乃果「……おかしいなぁ」

真姫「いないね」

穂乃果「居ないねぇ……呼ばれたのに居ないなんて……なにかあったのかな」

真姫「またあとにしよう?」

穂乃果「でも、急ぎでって言ってたし……」

真姫「ジュースのみたいから」

穂乃果「……うん、分かった。それじゃ、後にしよう」

真姫「うん、ありがとう、ほのかちゃん」

穂乃果「ふふ、なんでお礼言うの?」

真姫「わがままいったのに、きいてくれたから」

穂乃果「そんなわがままじゃないよ〜」


担任「お、高坂」


穂乃果「あ、先生」

担任「取材は終わったか?」

穂乃果「あれって取材なんですか? なんていうか、適当っていうか……」

担任「あはは。悪いな、あれは取材っていうよりネタ集めって程度なんだよ」

穂乃果「ネタ?」

担任「学校のサイトに、アイドル部のことを載せようと思って。理事長の提案でな」

穂乃果「……そうだったんですか。あの、それで、理事長なんですけど」

担任「ん?」

穂乃果「どこ行ったか知りませんか? 呼ばれたのに居なくて」

担任「変だな……説明に行ったはずなんだが……」

穂乃果「説明?」

担任「いや、なんでもない。まぁとにかく……今日はどうするんだ、お前たち」

穂乃果「お茶会をして、帰ります」

担任「まぁいいけど、ほどほどにな。それじゃ、見回りがあるから」

穂乃果「……はい、それでは、失礼します」
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:03:01.87 ID:gtFhDy4Ho

担任「暗くなったから親御さんを呼んで帰るんだぞ。今日は用心して帰れ」

穂乃果「はい……分かりました」


スタスタスタ


穂乃果「変な先生……。早く帰れって言わないなんて……」


真姫「……どこいったのかな」


穂乃果「どうしたの?」


真姫「きのうもきょうも逢ってないから……」


穂乃果「……そういえば、耳鳴りしなくなった……」


「あ、いたいた。穂乃果さ〜ん」


穂乃果「え?」


「ちょうど良かった〜。絵里さんに用があるんだけど、今は部室にいるの?」


穂乃果「は、はい……部室です」


「一緒に行ってもいいかな」


穂乃果「……はい、いいですよ」


「……よかった」


穂乃果「……」


「ふふ、どうしたの? 私の胸なんか見て」


穂乃果「あっ、すいませんっ。えっと……3年生ですよね」


「うん、そうだよ。あ、リボンを見たんだね」


穂乃果「そ、そうです。見たことないなぁって思って……」


「私、最近イメージを変えてみたの。眼鏡も変えて。髪もストレートにして」


穂乃果「へぇ、そうなんですかぁ……」


「立ち話もなんだから、歩こうよ」


穂乃果「……そうですね」


「なんだかぎこちないなぁ。先輩の前だからって気にしなくてもいいのに〜」


穂乃果「あ、あはは……」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:04:21.55 ID:gtFhDy4Ho

真姫「……」


「真姫さん? 空になにかあるの?」


真姫「ううん。ないよ」


「ずっと眺めてたけど」


真姫「ひみつ」


「ふぅん、そっか〜。なんだか可愛いね、真姫さんって♪」


真姫「……」


「ねぇ、私の顔に……――見覚えある?」


真姫「?」


穂乃果「……?」


「ほら、私の顔……よく見て」


真姫「……ううん、みたことない」


「そっか……残念」


穂乃果「小さい頃に逢ったことあるんですか?」


「そんなに昔じゃないけど、あるよ。とっても忘れがたい場所でね」


真姫「?」

穂乃果「演奏会とかかな?」


「そんな華やかな場所じゃないけど」


真姫「どこ?」


「どこで逢ったか、知りたいってこと?」


真姫「うん」


「あれ? 真姫さんって……なんだか子供みたいな喋り方するんだね」


穂乃果「――?」

ドクン


「もっとクールな人かと思ってた〜」


穂乃果「あ、あの……真姫のこと、知らないんですか……?」


「うん、知らない。……それがどうしたの?」


穂乃果「い、いえ……なんでも」
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:06:15.21 ID:gtFhDy4Ho

真姫「ほのかちゃん、のどかわいた」

穂乃果「そ、そうだね……も、戻らないと」


「うん、早く行こうよ。みんな待ってるんでしょ?」


真姫「うんっ。たのしみ」


「本当に子供みたい」


真姫「?」

穂乃果「――ッ」

ドクン 
 ドクン


「穂乃果さん、急にどうしたの、顔色が悪いみたいだけど」


穂乃果「え、あ、えっと……私も喉が渇いたなって……思って」


「そうなんだ……。部室はあの部屋だよね」


穂乃果「そ、そうです……アイドル部……」


「……」


穂乃果「あ、あの……先輩は……最近、学校休んだりって……しましたか?」


「……あぁ、うん。休んだよ……風邪をひいてしまって」


穂乃果「えっと、じゃあ、あの……私たちの活動って知ってますか?」


「……もちろん。この学校では有名だから、あなたたち」


穂乃果「そうです……ね。ライブも何回か行いましたから」


「最初は3人で踊ったのよね。講堂のステージで」


穂乃果「そうなんです。とっても……緊張しました。……観てくれました?」


「もちろん。衣装が可愛かったし、なんだか初々しくて……それも良かった♪」


穂乃果「い、いやぁちょっと照れます。でもたくさんの人に見てもらって嬉しいですね」


「立派よ。あんなに堂々とみんなの前で歌えるなんて簡単にできることじゃない」


穂乃果「――ッ!」

ドクンッ 


「初めてのライブであんなに声援をもらえるなんて――」


穂乃果「は……ッ……ぅッ」

ドクン

 ドクンッ
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:07:51.27 ID:gtFhDy4Ho

「どうしたの?」


穂乃果「あ、あの……絵里ちゃんに用事ってなんですか?」


「困ったことがあるから、生徒会長に聞きたいことがあって」


穂乃果「明日じゃ……ダメなんですか? 希ちゃんのクラスも知っているでしょ?」


「変なこと言うのね。二人は同じクラスじゃない。脈絡がないこと言ってるの気付いてる?」


穂乃果「そ、それは……えっと」


ドクン

 ドクン

  ドクンッ


真姫「ほのかちゃん……?」


「……」


穂乃果「あ、あれ……そうだっけ……?」


「そうよ。間違えたりなんかしないから」


穂乃果「ま、真姫……ちょっとこっちに来て」

真姫「?」


「……」


穂乃果「お、お母さんに、で、電話してっ」

真姫「……うん」

穂乃果「遅く……な、なるからって」

ピッポッパ

真姫「ほのかちゃん、だいじょ――」

穂乃果「え、えっと、はいっ。そのまま話せばいいからっ」

trrrr

真姫「ほ、ほのかちゃん……っ」

穂乃果「あ、あはは……な、なんだろねっ、の、のどがかわいて声が――」


「……」

スッ


真姫「あっ」

穂乃果「あッ!」


『はい、もしもし、伏見です』
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:09:39.35 ID:gtFhDy4Ho

「お母さんって……刑事さんなの? そう表示されてるけど」


穂乃果「そ、そうなのっ。お母さんっ、ま、まだ新米でッ」


『もしもし、高坂さん?』


「声、震えすぎ。……どうしてバレちゃったのかな」


穂乃果「か、返して……っ」


『もしも〜し?』


「……あ、あのすいませんっ」


『え? あなたは……?』


「穂乃果の友達、フミコって言います。ちょっとふざけてたら押してしまってっ」


穂乃果「か、返して!」


「ごめんって穂乃果〜。刑事さんに知り合いがいるからかけてみようってなって」


『ふぅん……』


「本当にかけるつもりは無かったんですっ。すいませんでした!」


『まぁ、そういうことならいいよ。気を付けてね』


「はい。……もう、穂乃果ってば〜」


プツッ


穂乃果「な、なに……っ」

真姫「このひと、こわい……」


「……またかかってきたら面倒ね。マナーモードで充分か」


穂乃果「あ、あなた誰なの!?」


「さっきの変な質問は私を警戒してたのね。ほら、真姫ちゃんは、こっちにッ!」

グイッ


真姫「いやっ!」


「はい、大人しくしててね」

ガチャリ


真姫「やぁっ」


穂乃果「ま、真姫!」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:16:43.63 ID:gtFhDy4Ho

「フフ見て、この姿」


穂乃果「……ッ」


「アイドルでこんなに可愛い子が、後ろに回された手に錠がかけられている。
 見る人が見れば、とっても美しい画になると思わない?」


真姫「やぁ、いやー!」


穂乃果「止めて! 真姫を返して!」


「写真に撮って、売りつければいい値が付きそう。世の中腐ってるから想像以上かも」


穂乃果「ふざけないでよッ!!」


真姫「いやぁーー!! やぁぁあああ!!」


「しーっ、しずかに……ほら、穂乃果ちゃんが怖い顔してる」


真姫「ほ……ほの……ちゃんっ」


「そうよ、そのまましずかにしててね」


穂乃果「真姫から離れてッ!」


「あなたも静かにして。真姫ちゃんに傷をつけたくないでしょう?」

スッ


真姫「ひっ――!」


穂乃果「――!」


「私が何者か、もう知ってるわよね……?」


穂乃果「真姫を……離してっ……お…お願いだからっ!」


「これはあの警官を刺したのと同じナイフ。切れ味は知ってるでしょ、二人とも」


真姫「ほ、ほのぁちゃ……んっ」


「それにしても、本当に子供みたい。変ね……私の顔も覚えてないし」


穂乃果「真姫は……あの事件のショックで……精神が幼い頃に戻ってるから……ッ」


「そうなんだ……。そういうことってあるのね」


穂乃果「だからッ! 知らないのは当然なの! どうして放っておいてくれないの!?」


「さっき、しずかにしてってお願いしたよね」

スッ


真姫「やぁ……ッ」

穂乃果「……ッッ」
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:18:20.84 ID:gtFhDy4Ho

「別に、口封じに来たわけじゃないのよ」


穂乃果「〜〜ッ!!」


「……すごく怒ってるのね。さっきまで声が震えてたのに」


穂乃果「当たり前でしょ!!」


「さっきから大声出してるけど、誰も出てこないの気付いてる?」


穂乃果「え?」


「中でみんながどうなってるのか、教えてあげる」


穂乃果「……」


「絶望がそこにあるのよ。開けて確かめてみて」


穂乃果「――」


「すごい。さっきまで顔を赤くしていたのに真っ青……本当にこんな表情になるのね」


真姫「やぁ……っ……いやぁっ」


「小説ではありきたりな表現なのに」


穂乃果「う……うそ……でしょ……」


「嘘かどうかは開けてみればわかるでしょ」


穂乃果「……いや……っ……うそだ……そんな……の」


「駄目、座らないで。自分の足で歩いて自分で確かめるの」


穂乃果「……うそだ……うそだ……うそ…だ……うそだ絶対に嘘だ」


「しょうがない。いらっしゃい真姫ちゃん」


真姫「ほのかちゃんっ……ほのかちゃんっ……たすけてほのかちゃんっ」


穂乃果「あ……あ……ッ……真姫……!」


「あっさりとここまで来れるなんて……やっぱり導かれてるのね……私」


穂乃果「どうして……どうしてこんなことするの……っ」


「あなた達の命に価値があるからよ――」
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:26:55.22 ID:gtFhDy4Ho

―― 命の価値


彼女はそれについて小さなころから考えていた。

それは物心ついたころ両親を事故で失ったころに遡る。

彼女の両親は多忙を極め、仕事先から仕事先へ向かう途中の飛行機事故でこの世を去った。


残ったのは多額の遺産

それと引き換えに彼女は親の愛を永遠に受けることがきなくなった。


親の死を知ったのは報道番組。

ニュースキャスターが悲しそうに搭乗者数を読み上げていた。

その中の数字に親二人も含まれていることはまだ知らない。

知ったのは、そのあと。

名前が文字となって表れた時。

隣で彼女の世話をしていた家政婦が絶望の色を示す。

それを見て彼女は知った。

同姓同名の他人ではなく私の両親の名前なんだと。
嘘や悪戯で誰かが私を騙しているわけではない、現実なのだと。


名前が表示されたのはそれが最初で最後だった。

それからは死亡者数としてだけ報道されていった。


彼女は考えた。

名前から数字に変わった両親の命の価値について。


それから遠い親戚の叔父と叔母が彼女の家に住むことになった。


彼女はただ潰れていく時間の中で生きていく。


そして小学4年生のとき、彼女の中に魔物が生まれることになる。


クラスメイトの一人が誕生日なのでみんなでお金を出し合ってプレゼントを買おうということになった。

彼女は根が暗かったのでそれに誘われることはなかった。

だから、チャンスだと思いその集められたお金を盗むことにした。

みんなが困れば困るほど、誕生日の子の価値が上がるのだと思っていた。

実際にはその通りだった。

学級で問題になり、保護者を集めた説明会があり、日が経つにつれ騒ぎが大きくなっていった。


彼女は知った。

その子の命にはとても価値があるのだと。


担任の先生にお金を渡しに行く。

驚いていたが、お金を受け取り、この問題は解決してみせると言ってくれた。


彼女は安心した。
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:28:54.46 ID:gtFhDy4Ho

その日の放課後。

叔母と叔父に連れられ、繁華街を歩いているとき、担任の姿を見た。

渡した封筒を手にして歩いていた。

不思議に思った彼女は担任の行動を凝視した。


担任は自然な足取りで歩いて行き、ゴミ箱の前で止まった。

この問題を無かったことにする為、ゴミを捨てるかのように放り込んだ。


彼女は理解した。


誕生日の子には価値がないのだと。

この担任の先生にも価値がないのだと。


彼女の中に魔物が生まれた。


クラスではその事件は有耶無耶なままに忘れ去られていった。

その教師とは卒業まで目を合わすことはなかった。


卒業式の夜。
アルバムをめくっていく。

自分の写真が一枚しかないことを確認してゴミ捨て場に向かった。

小学校で過ごした時間とともに卒業アルバムを捨てた。


中学に上がるころ、叔父と叔母が田舎に帰ると伝えた。

彼女の面倒は見切れないと。

財産には手に付けていないから、それで生きて行けと。


広い家には彼女のみが住むことになった。

それが両親の遺したすべてだった。


それから1年、叔母が雇った家政婦が世話をしていたが、
ふと思い立ち、叔父に連絡する。


家を売り、お金だけが残る。

それで彼女は両親の命の価値を知った。


新しいマンションで暮らす最初の夜。

彼女は両親が死んで初めて泣いた。

それが中学2年生の冬だった。


中学卒業の夜、また同じように卒業アルバムを捨てた。


高校に入っても彼女は命の価値を考える。

それらの本を手当たり次第に読んだ。

哲学書は勿論、オカルト雑誌や犯罪に手を染めた宗教団体の本も読んだ。

それでも彼女は理解できずにいた。
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:31:46.71 ID:gtFhDy4Ho

そして、とある街で起こった悲惨な事件。

彼女の歳の近い学生が体をバラバラにして殺された。

この猟奇的な事件は一時的な報道で終わってしまった。


彼女は考える命の価値を。


ネット喫茶にて事件のあった地元の警察署へメールを作成する。

もう一度、あの事件を取り上げてほしいと、公表してほしいと。

そうしないとまた命が奪われることになると。

それは犯罪をほのめかすような文章だった。

警察に目を付けられる可能性を考えてネット喫茶を選んだ。

文章を書きあげて彼女は考える。

どうやってこの場を去ろうかと。

入店のときは適当な連絡先を筆跡を気を付けながら記入した。

だがお金のやりとりをする退店の時はそうはいかない。

考えあぐねているとき、事は起こった。

別の部屋で利用客同士のケンカが始まったのだ。

大声を張り上げ怒鳴りあって騒いでいる。

送信ボタンを押した彼女は少し多めの金額を支払い、
ケンカから逃げるよう振舞い、その場を後にした。


思えばそれが最初の導きだった。


高校の本だけでは彼女の知識欲は満たされなかった。
ならばと思い、本屋へとアルバイトを探した。

平均的な学力と平均的な生活をしていれば後々困ることは無いのだと思っていたからだ。

バイト先の店長は彼女の容姿を見て気に入り、採用する。
彼女はそれに気付いたが、すぐに期待外れに終わると理解していた。
自分の性格は自分がよく知っていたのだから。

そしてこれが二つ目の導きになる。


バイトから帰る途中、チンピラに絡まれた時。
彼女の人生は大きく揺さぶられることになる。


肩をゆらして歩く男に彼女は避けようとした。
だが、男は彼女にぶつかるようわざと歩いた。

彼女は謝るが男は聞かなかった。

口汚い言葉で彼女を罵る。

謝り続ける彼女の声に男は調子づいていった。


その時、彼女は思った。

この人間の命に価値はないのだと。


小さい頃から毎日欠かさずに読んでいる小説がある。
叔母が作ったご飯が冷めるほどに夢中になり
叔父が心配するほど夜が明けるまで読み続けた小説。

その物語に登場する生物の首を撥ねた剣をモチーフにしたナイフが彼女の手元にあった。

衝動買いした日から肌身離さず持ち歩いているナイフ。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:34:11.68 ID:gtFhDy4Ho

その時、彼女に棲み着いていた魔物が顔を出す。


彼女は男を切りつけた。

価値のない人間は生きている意味がないと。


腕を切りつけられた男は彼女の表情を見て恐怖する。

その顔に感情が無かったからだ。

恐れや怒り、後悔や殺意など、男に向けられる感情は一つとしてなかったからだ。

あるのは死んで当然だから消えてくれという眼の意思だけ。


男は逃げた。


彼女はそれを見て近くのコンビニのトイレに入りナイフに付いた血を洗い流した。

理由は大切な物が汚されて嫌だったから。ただそれだけだった。


そして、なるべく人通りを避けて歩く中、背後から呼び止められる。


その人は警官だった。

いろいろと質問され、当たり障りなく答えていたが、
交番まで来てくれと催促されてしまう。


そこでまた魔物が蠢く。


無線で連絡しようとしている警官の背後に回り
ナイフをハンカチで持って躊躇なく刺した。

このとき、刺した彼に友人や恋人、家族との繋がりが視えたのなら、
彼女はその手を引いたのだろう。

しかし、彼女には一切の繋がりがない。

だからそれに気づけない。

そのせいで刺したナイフをもう一つ深く突き刺してしまう。


苦しそうな声を出して倒れる警官。

彼女はその瞳から光が失っていく様を見つめていた。

すると背後から呻き声が聞こえてきた。


振り返ると、そこには少女の姿。


その向こうから悲鳴が上がり、彼女はその場を後にした。

血で染まった上着を脱ぎながら家路へとつく。


風呂に入りながら少女の顔を思い出していた。

切りつけた男でもなく、刺した警官でもなく、少女を思い出していた。


次の日、彼女は日常へと身を置いた。

それはもう二度と味わえないからと、最後に経験しておこうとそう思ったからだ。


しかし、いつまで経っても警察は迎えに来ない。

失ったナイフの代わりに手作りの人形を持ち歩くことにした。
名前を『アリス』と名付けた。

そのアリスに話しかけた。返事をくれたような気がした。
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:36:27.66 ID:gtFhDy4Ho

休日。

バイト先に犯行現場を目撃した少女が来店してきた。


彼女は警戒する。

ポケットに入れてあるもう一つのナイフを握りしめた。


友人と一緒だから、少女の命を奪い、その命の価値を教えてもらおうと思った。

そして自害する。それが彼女の人生の最後に相応しい結末だと考えていた。


だが、少女は彼女の顔を覚えていなかった。


アイドル雑誌を買って出て行った。


彼女は考えた。

そして答えに辿り着く。

自分自身の命にも価値が無いのだと。


少女の友人たちが話していたスクールアイドルという単語。

ネットで調べると簡単に詳細を知ることができた。

さらにこの地域の学校と含めて調べる。

すると少女たちの名前が判明した。

ライブ映像も全部見た。

彼女は確信した。


少女たち、

西木野真姫を含めた9人の命には価値があるのだと。


すると誰かが囁いた。

その価値をさらに高めるべきだと。


その声に従い、脅迫状を打ってプリントした。

封筒を用意しているとその紙が消えた。

その後、相手に届いたと知る。


同時に彼女自身に天使が憑いているのだと確信する。


見守ってくれているのだと、導かれているのだと、錯覚する。


それ以降、彼女は自分の世界が輝いたように感じていた。


西木野真姫との出会いが彼女の人生を大きく変えた。


彼女は考えた。

西木野真姫だけは生きていてほしいと。



真姫「…っ……ぐすっ……うわぁぁん」
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:39:50.69 ID:gtFhDy4Ho

「ここで9つの命が絶たれ、私の行動の理由を知れば、去年の事件を思い出すことになる」


穂乃果「わけが分からない……やめて……やめてよ……おねがいだから!」


「そうでしょうね。分からないわよね。私たちと同じ年頃の子たちが殺されたってこと」


真姫「わぁぁぁんっ」


穂乃果「真姫……だいじょうぶだから……真姫…こっちを……ほのかを見てっ」


「やっぱり……関心なんて無いよね」


真姫「ほのっ……ほのかちゃん…ほのかちゃんっ」


穂乃果「まき……だいじょうぶだよ……わたしが付いてるから」


「真姫ちゃんを見逃してあげる」


穂乃果「……」


「そのかわり、あなたが身代わりになるのよ穂乃果」


真姫「ぅぅ……っ……ぐす……うぅぅっ」


穂乃果「……わかった」


「いらっしゃい、穂乃果」


穂乃果「……」


「そう、これでいいッ」

グイッ


穂乃果「……ッ……まきを、離してッ」


「それじゃ、解放してあげる」


真姫「うぅぅっ……ほのか……ちゃんを……はなしてっ……うぅぅ」


穂乃果「……こんなこと……して……いいと思ってるの……?」


「思ってない。人を殺すのだから……赦されないのは当然でしょ」


穂乃果「だったら……!」


「もう時間が無いからお喋りはおしまい。真姫ちゃん、こっちを見て」


真姫「うぁぁあん……ほの……っ……ほのかちゃぁんっ」


穂乃果「まき……ごめん……ごめんね……」
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:44:19.47 ID:gtFhDy4Ho

「幼児化してるのは計算外だったけど……まぁいいか。ほら、これ飲んで」


穂乃果「むぐっ……!?」


「みんなも飲んだから、あなたも飲まなきゃ駄目よね」


穂乃果「ごくっ……ごく……っっ」


「真姫」


真姫「ほのかちゃんっ……ほのっちゃんっ」



「そうよ、ちゃんと見ててね」



穂乃果「や……いや……いや…だ……」



「今、あなたたちの――」



真姫「ほのかちゃんッ!」



「――物語が終わるから」



「ま……き……」

「ほのかちゃん!」



睡眠薬を無理に飲まされた穂乃果は薄れゆく意識の中で真姫を見る


穂乃果は心の中で強く強く願った。

真姫を助けて、と。


穂乃果の首にナイフを当てて彼女は確認する


真姫が穂乃果をちゃんと見ているのかどうか


「ァハハ」


彼女は嗤いながら涙を零した。

穂乃果から伝わる体温を感じたから。

それは人生で初めての温もりだったから。


だが、彼女は止まらない

8人と自分を殺して9つの犠牲を払うことで死んで失われた命の価値が高められると信じているのだから

彼女という異分子

それがこの事件の謎を深めていくことを彼女は計算していた

警察やマスコミが調べれば調べるほどに去年の犠牲になった学生の命
そして、高坂穂乃果を含めた8人の命の価値が高まると

そう信じているのだから
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:49:09.29 ID:gtFhDy4Ho

真姫は覚えていなければいけない

この瞬間を

穂乃果の命を奪う私の存在を

そしてこれから奪っていく様を

8人の命を1人の少女に背負わせる

それは苦しい人生になるだろう

だがそれは当然なのだと

価値ある命なのだから。

そう思いながら穂乃果の首に当てていたナイフを一気に引く――


「……ッッ」


「…………――ぅ」


「――――ぁ――?」



薄暗い廊下の中で羽が舞う


それは西木野真姫だけが視ることのできる世界――


「あい……ちゃんっ……たすけてッ!」
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 13:05:30.66 ID:gtFhDy4Ho

――逢魔が時


昼から夜に移ろう時刻


太陽と月の光が生み出す曖昧な世界


その世界では人と魔物が遭遇しやすくなると云われている


常に隣にあった世界が混ざり合う

西木野真姫が視ているもう一つの世界――



(申し訳ありません、真姫様。遅れてしまいました)



少女が舞い降りる

ゴスロリの服を身にまとい、特徴ある髪型、幼くも整った顔立ち。
それは西洋人形をイメージさせる姿。

そして両腕で人形を抱える様が可憐な少女を思わせる。

しかし可憐なだけではなく恐ろしい姿でもあった。

頭に山羊の角が、背中には蝙蝠のような羽が生えている。

それは悪魔を彷彿とさせる姿でもあった。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 13:07:41.55 ID:gtFhDy4Ho

――

クロス元の作品

なないろリンカネーション
https://www.youtube.com/watch?v=yOn5lttcPTY

――
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 13:16:30.25 ID:gtFhDy4Ho

「あいちゃんっ……ほのかちゃんをったすけてっ」


その姿を見ても怯まない真姫は叫んだ。


(この人が事件の犯人なのですね。……迂闊でした)


「ぁ――ぁぁ――」


穂乃果を抱える彼女は何が起こっているのか理解できていない。

身動きできないでいた。


悪魔の姿をした少女が、眠る穂乃果をゆっくりと引きはがす。


(校内に侵入してくるとは……。申し訳ありません、真姫様)

「うぁぁぁんっ……ほのかちゃんっほのかちゃぁぁんっ」

「…すぅ……」


傷一つなく真姫のところへ運ぶと大声をあげて泣いた。


(今、手錠を壊します)


人差し指で触るとそれが壊れた。


不安と恐怖でいっぱいだった真姫の心が穂乃果を抱きしめると安心してさらに泣いた。


「もう大丈夫だよ、だから泣かないで真姫ちゃん」


少女が抱えている人形が喋り、真姫に話しかけた。


「うんっ……うんっ……あり…がとう……ウーパちゃんっ」


「これくらいどうってことないさ。ね、アイリスちゃん」


人形が少女、アイリスに話しかけた。


(はい。危なかったですが穂乃果様の強い声が届きました。それに気づけて良かっ――)


笑顔で言いかけたところでアイリスの顔が廊下の向こうへと動いた。


「……?」


アイリスが視た方向へ真姫も視線を動かす。


すると


廊下の向こうから小さな足音が聞こえてきた。
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 13:21:01.78 ID:gtFhDy4Ho

(真姫様、早くこの場を離れてください)


「え……で、でも……っ」

「すぅ……すぅ」


寝ている穂乃果を抱えては移動することはできない。

その時。


「―――はぁっ、はぁ」


金縛りにあっていた彼女が動いた。

アイリスが彼女を縛っていた力が無理やり解除されたからだ。


(あれが、伊予様の対なる者……――疫病神)


廊下の奥から姿を現したのは少年だった。
中性的な顔立ちで英国の子供の服装を身にまとっている。


「そっちが出てくるのは、フェアじゃないよね。だからボクも干渉させてもらうよ」


子供の姿をした者が歩みながら言った。


(……あなたが、彼女を唆したのですか?)


アイリスが問う。


「これはテレパシー? 君は何者なの?」

(アイリスは、鬼です)


何度も何度も少年を縛り付けるよう力を使うアイリス

だが些細なことのように気にも止めずに歩いてくる少年


「ボクは手紙を届けただけ。ここまで来られたのは彼女の運さ」


(…………)


「……アリス……私は間違えているの……?」


状況が理解できない彼女が呆然とした顔でつぶやいていた。


「鬼か……そうか。……でもボクは疫病神じゃないよ。
 あんなねっちりとした性格じゃないからね」


(……真姫様、早く逃げてください)


「で、でも……っ」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 13:40:54.33 ID:gtFhDy4Ho

「9人をここへ集めたのは失敗だったね」


(いえ、人間相手では警察でも充分でした。
 ですが得体のしれない存在から9人全員を守るにはここが最適だったのです)


「ふぅん、そうなんだ。とりあえず、ボク達は退場しようじゃないか」


そう言いながら少年は何も持っていない両手を振り上げた。


(え……?)


アイリスは相手を理解できないでいた。

だから何もできずにいた。


「ボクは死神さ」


振り上げた両手に大きな鎌が突如出現し
アイリスの上半身を刈るように振り下ろされた。


(……――!)


鎌はアイリスの体をすり抜けたが

アイリスの命は刈られてしまった


「――」


人形が両手から零れ落ち、
糸の切れた操り人形のようにアイリスは地面へと崩れ落ちた。


「あいちゃん――ッ!」


真姫は絶望を叫ぶ。

倒れたアイリスの瞳に光は無かった。
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 00:43:05.58 ID:mwOZ0t6Co

「……ここまで来て……どうして……止めるの……?」


混乱する彼女に死神が近寄る。


「もう邪魔するものはいないよ。さぁ立って、目的を完遂させよう」


「私は……後戻りできない……のに……」


死神が囁き続ける。


「君がここまで来たのはボクの力なんかじゃない。君自身の力さ」


「……どう……して」


「その制服を手に入いれたのも、この学校に今教師がいないのも君が知恵を絞ったからさ」


「……」


「もう誰も君を止められない」


「……うん」


「大丈夫。彼女たちの死は後で必ず意味を持つから。死神のボクがそう言うんだから」


「……そうか……わかった」


彼女は立ち上がる。

床に転がったナイフをもう一度手にして。


「9人じゃなくて、10人必要なんだね、アリス」


彼女は真姫を見る。


「あいちゃんっ、ほのかちゃんっ! おきてっ、おきてよぉ!!」


息をしていないアイリスを揺さぶる。
深い眠りに落ちた穂乃果を揺さぶる。

しかし二人とも起きることはなかった。


「フ……君がそういうならそれでいいさ。ボクが見守っているよ」


「……ごめんね……真姫」


彼女の目に悲しみの色が映る。


「ほのちゃん〜〜っ! あいちゃん〜〜! うわぁぁぁああん!」
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 00:44:29.55 ID:mwOZ0t6Co

「本当は生きていて欲しかったんだけど……ごめんなさい」


大粒の涙を流して泣き続ける真姫の前に彼女は膝をついて心から謝る。


「ひっ――!」


その姿を見た真姫は凍り付いた


「すぐにみんなも真姫の元に送るから……ね」


真姫の頬に手を当て罪の赦しを請う。

しかし真姫の目に映るのはただの化け物でしかなかった。


「ごめんね――真姫――」


ナイフを引いた彼女は泣いた

独りになったあの夜に泣いて以来泣くことはなかったのに

真姫の前で二度も泣いた


それを見た真姫は


「……」


しずかに彼女をみつめた


「……」


そのまっすぐな目を見た彼女はナイフを引いたまま硬直する


「……っ」


「どうしたの?」


彼女は真姫に問う


「どうして……ぐすっ……ないてる……の……?」


真姫は問いかける

彼女自身分からない答えを


「これから殺される相手に心を開いてはダメ」


真姫の喉元へとナイフが一直線に襲い掛かる
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 00:48:41.84 ID:mwOZ0t6Co

「うぅ――」

「――ぅ――ぁ――また――?」


彼女と真姫の体が縛られ身動きを封じられた


「また君か」


床に倒れるアイリスを見下ろして死神が言った


「――」


死の淵にあるアイリスが最後の力でこの場にいる人間の動きを止めている


「……」


死神はもう一度鎌を振り上げた

今度こそ息の根を止めようと


「……?」


廊下の向こうから何かを感じた

それは死神がこの世に生まれて初めての感覚


猛獣から発せられるような殺気が死神に襲い掛かる


「……なんだろう?」


4つの足で移動してくるナニカが居る――


そう気づいた時にはソレは死神に飛びかかっていた



「オラァァァアアアアッッ!!!!」



勢いをそのままに死神の顔を蹴り飛ばす


「うっ――!?」


死神は数メートル吹き飛ばされる

その衝撃で周りの窓ガラスが粉砕した


「うぁっ――!?」


真姫に襲い掛かる彼女もそれに巻き込まれ2メートルほど飛ばされた
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 00:52:29.34 ID:mwOZ0t6Co

寝ている穂乃果の髪が激しく揺れる
死が迫っていた真姫は横に倒される


「…………」

「ぁ……ぅ……ぅ……」


死神を蹴り飛ばした者の姿を視た


短いスカートの着物を身にまとい、頭には猫耳が付いていた


「一遍死ぬかガキィィイイ!!」


愛嬌ある姿には不釣り合いな形相で怒鳴り上げている


「葵――、人命救助が先だ――!」


遠くから男の声が聞こえた


「…………」


横たわる真姫
その心は限界に近づいている

何度も殺されかけ、何度も大切な人の命を奪われかけた

恐怖と絶望を何度も繰り返し疲弊していた



「……」


呆然と座り込む彼女もまた限界にあった

命を奪おうとする度に止められている

何度も覚悟していた先へと進めず混乱もしていた

導かれてここまで来たのに、寸前のところで止められていたからだ



「ご主人! アイリス息してない!!」


うつ伏せに倒れるアイリスを確認した猫耳の少女が叫んだ


「はぁっ……はぁ……っ……アイリス!」


息を切らして駆け付けた男の名前は、加賀見真

加賀見家第八代当主
鬼を使役する特殊な家に生まれた真は3人の鬼を従えている


長女、葵

次女、芙蓉

三女、アイリス


それぞれが特殊な力を持ち、主である真のお役目の力になっている
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 00:55:23.97 ID:mwOZ0t6Co

「……ぐッ……うがぁぁあッ――」


アイリスの側まで駆け寄ると用意していたカッターで手首を切って血を流した


鬼は日常生活の中で枷を付けて生活している

本来の力を抑えていなければ主である人間に危害を与えてしまう為だ


その枷を外すには主である真の血が必要だった


「……やばい、逃げようご主人」


仰向けに倒れている死神を見て呟く葵


「アイリス……起きるんだっ、アイリスッ!」


流れ落ちた血はなにも変化なくアイリスの顔を汚すだけだった


「…………」


真姫はぼんやりとする意識の中でその光景を眺めていた


「ダメだッ、死んじゃダメだアイリス!!」


以前、病室で会った時、言っていたことを思い出す

アイリスには大事な人がいると

それを聞いた真姫は羨ましく思った


それがこの人なのかな、と真姫は思った


「――あい…ちゃん……」


掠れた声で名前を呼んだ


「――……」


すると突然、床に転がっていた人形が形を変えた

小さな人形が大トカゲの姿へと変化する

真から流れていた血がアイリスの口へと移動を始めていた


「アイリス……!」


垂れ流れる血が全て横たわるアイリスの口へと向かっていく


それは異様な光景だった



「ご主人! 逃げよう!!」


葵が叫ぶ
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 00:58:58.69 ID:mwOZ0t6Co

「……ふぅ……ふぅ…っ」


血が流れるごとに本人の顔が青くなっていく


真は辺りを見まわした


寝てはいるが呼吸をしている穂乃果

うっすらと目を開けてこっちをみている真姫

そして

項垂れるようにして座る、彼女の姿を


「逃げ……ない……ぞ」


葵に答えた真はアイリスの変化を視る


服装が変わり角が更に大きく膨れ上がっていた

人形から変化した大トカゲの目が6つになり、アイリスの肩に自らの意思で登った


枷を外すことができた
それは鬼本来の力が宿っていることになる


ゆっくりと体を起こし立ち上がった


(ありがとうございます。マスター)


アイリスは死の淵から蘇った


「はぁ……はぁぁ……結構疲れたけどな……」


苦笑いで応える真

大量の血をアイリスに注ぎ込んだため、立ち上がれない



「真様すぐに止血を!」

「あ、あぁ……ありがとう」


少し遅れて駆け付けた着物姿の芙蓉が真の傷の手当を行う


「ア……アイリスちゃん……?」


異様な姿をしたアイリスを見て少し動揺する伏見梓も姿を現した


「ご主人! 逃げようってば! アイツやばい!」


葵が指さした場所に死神は立っていた


鬼である葵に全力で顔を蹴られたのにも関わらず無傷だった

吹っ飛ばされて廊下を転がったのに埃一つついていない


「…………」


その姿に葵と芙蓉は危険な気配を肌で感じていた
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:01:17.93 ID:mwOZ0t6Co

「やばいって、ご主人……!」


「なんて……気配でしょう……」


「アイリス……状況……分かるか?」


(はい。そこで座っている人が犯人です)


「えっ、この子が……!? 学校の制服着てるってことは……」


驚いた梓はすぐに答えを導き出す


「そうか……置き引きの被害者の服……!」


(真姫様と穂乃果様のご友人はこのドアの向こうで眠らされています)


アイリスは死神に視線を向けたまま報告する


「何人いるんだ?」


(7人です)


「……そうか。……葵、逃げるのはやっぱり不可能だ」


あきらめた声で真は言った。


「あたしがご主人を抱えるから!」


「ダメだ。……それに、もうあんな思いを誰にもさせたくない」


その言葉にアイリス、葵、芙蓉、梓の4人は沈黙する


「梓さんだけでも……」


「冗談。犯人を前に逃げられますかって」


梓は勇ましく真に返す


「……で、あれはなんだ。座敷わらしの対なる者って……やっぱり疫病神なのか?」


(いえ、死神です)


「「 うわぁ…… 」」


アイリスの回答に真と梓は軽く絶望した


「…………」


その死神は黙ったまま動かない


それが不気味さを増していた
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:03:33.93 ID:mwOZ0t6Co

「追い掃うことはできるか、アイリス」


(アイリスだけでは不可能かと……)


「ご主人、あたしにも血を……枷を外させて!」


「そうだな……芙蓉も一緒に……それしか」


「ダメです真様! それ以上血を失っては真様の命に危険が……!」


真が鬼と解決策を論じている間、梓は穂乃果と真姫の様子を観る


「……穂乃果ちゃんには傷もないみたい。ひとまず安心かな」


「すぅ……すぅ」


「あとは……西木野さん?」


「……」


梓の呼びかけに真姫は応えない


じっと横たわった状態で虚空を見つめていた


「いけない、早く病院へ――」


真が警告する


「梓さん、動かないで!」


「え――?」


声のした方へ視線を向けると、死神が鎌を手に歩みだしていた


(葵お姉さま、芙蓉お姉さま、アイリスの後ろに)


「じゃ、遠慮なく〜」


「葵姉さん! 妹の背中に隠れるなんて!」


「いや無理っしょ。死神とか無理っしょ!」


「さっき蹴り飛ばしてたじゃないか、もう一度やってみせてくれ」


「ひっで! ご主人ひっで!! 鎌持ってる死神にもう一度って!?」


「やっぱムリだよな……冗談だって……」


いつもの調子で会話している鬼たちを見て、死神は語り掛ける


「時間が無いんだ、皆殺しで行くよ」


なぜか理解できないといった表情をしている死神が鎌を振り上げながら近づいてくる

振り下ろした時、誰かが死ぬという理屈はアイリスだけじゃなく、他の者も理解していた
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:05:41.54 ID:mwOZ0t6Co

(……――!)


アイリスは全力で死神の動きを封じ込める


「…………」


死神は蜘蛛の巣を振り払うような動きを見せて力を跳ね返した


それを見た真が叫ぶ


「梓さん! 芙蓉! 葵! 三人を外へ連れて行ってくれ!」


「ですが真様……!」


「だってご主人! こいつ犯人じゃん!」


死神は動きを止めた


「……」


あとは振り下ろすだけ


「お役目は人を裁くことじゃないって言われてるだろ葵! 急げ!」


「き、聞けない……! ご主人が何より大事だから!!」


「私もです、真様!」


真の前に立つ葵と芙蓉


(マスター……)


枷を外したとはいえアイリスだけでは止められない

ならば――


「……ッ」


芙蓉が巻いた血の滲んだ包帯を解く

傷口を開くように力を込める真

葵と芙蓉の枷を外すしか他に方法がなかった


「…………」


その真を見て、梓が真姫と穂乃果を守るように前に立つ


その時――


この場にいる誰もが予想だにしない出来事が起こった


ガチャリ


音を立ててアイドル研究部のドアノブが回った
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:08:21.06 ID:mwOZ0t6Co

「え……?」


「なに……?」


全員の視線がそこへ集まる


ゆっくりと回ったドアノブが部室のドアを開かせる


アイリスの報告では寝ている人しかいない部屋のはずだった


(…………)


羽を飛ばしてドアの向こうにいる者の正体を探るアイリス


「……」


死神は黙って出てくる人物を見定めようとしていた


「……ぅ……ぅぅ」


左手を床につき姿勢を低くして現れたのは――


「え…り……ちゃん……」


絢瀬絵里の姿を確認し、誰よりも早く声を上げたのは真姫だった



「ぇ……?」


頭を押さえ狭い視野で声のした方へ目を向ける


真姫が壁にもたれて座っていた


穂乃果が床に横になって寝ていた


二人を確認した後、もう一人の人物を見た


それは真だった


「あなた……!」


怒りを沸かせ頼りない足で真に近づく絵里


そして、


「―――ッ!」


パァンと頬をたたいた


「ぇ……?」


真は呆然とする
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:10:26.61 ID:mwOZ0t6Co

「わたしの……大切な人たちに――」


と言いかけたところで倒れそうになる


「あ、絢瀬さんっ」


それを梓が抱きとめた


「ゆる……さな……いっ」


梓の腕の中で怒りを露にする


その時、梓は気付いた

絵里の手の甲に何か尖ったもので刺された傷跡を



「ご主人、犯人に間違われてない?」

「みたいですね……」

(あ……はい、そのようです)

「またかよ!?」


その一部始終を見ていた死神が呟いた


「そうか。……なるほど」


(え……?)


アイリスが死神を見返した時、もうその場にソレは居なかった


「あ、ご主人! あの野郎いなくなってる!」

「……あ、あ? どこに行った?」

(どうやら諦めたようです)

「……よく分からないけど……みんな助かったってこと?」

(はい。死神にもなにかしらの規則があるようでした。
 自ら穂乃果様や真姫様の命は奪わないでいましたから)

「ふぅ……そうか……」


「……」


そのやり取りを聞いた梓は再び眠りについた絵里を壁に持たれさせ
全員の確認を行うため、部室に入った


「アリス……私は……結局なにも……」


項垂れた彼女は抜け殻になっていた

真が姿を現したことですでに計画は崩れていたのだから
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:11:44.74 ID:mwOZ0t6Co

そして、アイリスは意識が薄れゆく真姫の前に座った


(真姫様……聞こえますか……?)


「……」


真姫は応えなかったが、瞳はアイリスを捉えていた


(全部終わりましたよ)


「…………」


その声に真姫は薄く笑った

そして、口を動かした


「――……」


声にならない真姫の声


だが、アイリスだけは聞こえていた


心の声に耳を傾けるアイリスの能力


出会った時からアイリスは真姫の声を聞いていた


苦しそうな声、悲しそうな声、辛くどうにもならない声


鬼であるアイリスはその声にどうすることもできない

気持ちを理解し同情することもなかった


だけど、穂乃果が真姫の心を開いた時

アイリスは不思議と嬉しく感じた


それを主である真に伝えると

友達になれるんじゃないかと言われた


鬼であるアイリスと人間である真姫の間でそれはあり得ない繋がりだった

それは不可能だとアイリス自身が思っていた

その必要も感じてはいなかった
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:13:48.93 ID:mwOZ0t6Co

しかし、2度目に病室を訪れた時

真姫はアイリスの姿をらくがき帳に描いていた

それを見せてくれた時、嬉しいと思った

だから、話をしたいと思った

だけど、何を話していいのか分からないアイリスは黙ったまま真姫の前に立っていた

すると、真姫は聞いてきた

その人形はなに? と

それから二人は会話をするようになった


真に報告すると

友達になれたんだなと嬉しそうに言ってくれた

嬉しそうな真を見ると嬉しくなった

家族はいるけど、友達のいなかったアイリスの心は喜びに満ち溢れた


その友達を傷つけてしまった時

アイリスは深く落ち込んだ

真姫の友人を金縛りで縛った時、真姫に怒られたから

主である真の身を優先させるため本能でやったこと

それゆえにアイリスは心で割り切れるはずだったが、なぜか簡単には割り切れなかった

友人の真姫より主である真が大切なのは揺るがない

だから、真姫と友人であったことを切り捨てるつもりでいた

だが、主は仲直りして来いと兄のように言ってきたのだった


ただ人形を届けるだけ

それだけのはずだった


高坂家に着いて、玄関の前に置こうとした時、真姫が現れた

置くのを止めて、手渡しすると

真姫はとても喜んでくれた


その顔を見てアイリスは友人を守りたいと思った


だからこそ犯人の殺意を止め、
死の淵にあった意識の中でも力を振り絞ることが出来た
真姫の声で息を吹き返すことが出来た
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:14:58.46 ID:mwOZ0t6Co

真の命令ではなくアイリス自身の意思で真姫を守れたことが嬉しかった



(真姫様……聞こえますか……?)


「……」


真姫は応えなかったが、瞳はアイリスを捉えていた


(全部終わりましたよ)


「…………」


その声に真姫は薄く笑った

そして、口を動かした


「――……」


ありがとう

真姫はそう言って、深い深い眠りに落ちた


(……真姫様……寝てしまったのですか?)


「――」


真姫は応えなかった




それから

眠った彼女たちが目を覚ましたのは、

日にちが替わって昼を過ぎたころだった。


……


237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:08:31.70 ID:mwOZ0t6Co

―― 病室


ガバッ


穂乃果「――ハッ」



穂乃果「夢!?」



穂乃果「なぁんだ〜」


雪穂「夢じゃないよ!」


穂乃果「うわっ、びっくりした……」


雪穂「もう! びっくりしたのはこっちだよお姉ちゃん!」


穂乃果「ゆ、雪穂……大声出さないで……」

雪穂「あ……ご、ごめん……」

穂乃果「うぅ……頭がボーっとする」

雪穂「……どこか痛いところとかない?」

穂乃果「……うん、大丈夫みたい。ここはどこ?」

雪穂「病院。西木野病院だよ」

穂乃果「……あ、あ――!!」

雪穂「?」

穂乃果「み、みんなは!? どうなったの!?」

雪穂「お、落ち着いてお姉ちゃん」

穂乃果「ねぇ、どうなったの!?」

雪穂「え、……みんなって、海未さんたちのことだよね?」

穂乃果「う、うん……」

雪穂「みんなもここに運ばれてるよ」

穂乃果「そっか……それで、みんな大丈夫なの?」

雪穂「まだ寝てるみたいだけど……」

穂乃果「……」


ガチャッ


母「穂乃果……?」


穂乃果「……あ、お母さん」


タッタッタ

ガバッ

母「穂乃果――!」

穂乃果「お、お母さん……!」

ぎゅうう
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:09:57.62 ID:mwOZ0t6Co

母「うぅっ、ほのかっ」

ぎゅううう


穂乃果「く、苦しいよお母さんっ」

雪穂「……」

母「よかった……本当に、良かった」

穂乃果「……うん。ごめんね、心配かけて」

母「ううん、いいのよ。無事だっただけで……それでいい」


穂乃果「お母さん……私は、あと八十年生きるから……」

母「絶対よ……」

穂乃果「うん、約束する」

母「……うん」


雪穂「ねぇ、なにがあったの?」

穂乃果「……雪穂は何も知らないの?」

雪穂「……うん。お母さんもお父さんも話してくれない」

母「……」

穂乃果「刑事さん……伏見さんは?」

母「医者と話をしてる。もうすぐこっちにも来ると思う……」

穂乃果「話がしたいんだけど、呼んでもらってもいいかな」

母「……えぇ、分かった」


……




伏見「お邪魔します」


穂乃果「あ……!」


絵里「おはよう、穂乃果」


穂乃果「絵里ちゃん……!」


絵里「大変な目に遭ったわね」


穂乃果「……って、車いすって……!」

絵里「体は大丈夫よ。ただ、昨日の今日だから……念のためってね」

穂乃果「そっか……」

伏見「まだみんな寝てるけど、命に別状はないから、安心してね」

穂乃果「はい……っ……ぐすっ……はいっ」

絵里「穂乃果……っ」

穂乃果「よかった……良かったよぉ」ボロボロ

伏見「守るって言ったのに、危険な目に遭わせて……ごめんなさい」

穂乃果「うぅ……」ボロボロ


母「……」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:11:47.05 ID:mwOZ0t6Co

絵里「私もね、お母さんと亜里沙に泣かれちゃったわ……」グスッ

穂乃果「ぐすっ……」

絵里「だから、心配かけた分……私たちはしっかりと生きていかないとね」

穂乃果「うんっ……うんっ」


伏見「……」

母「……」グスッ


穂乃果「みんなはまだ……っ……寝てるの?」

絵里「うん……」

伏見「睡眠薬の治療は適切に行われているから、目を覚ますのも時間の問題かな」

穂乃果「そっか……。絵里ちゃんが一番最初なの?」

絵里「えぇ。私は一口しか飲んでいなかったから。
   でも、にこが結構飲んでたから、もしかしたらにこが最後かも」

穂乃果「そうなんだ……」

絵里「さっき様子を見に行ったけど、顔色は良かったわよ」

穂乃果「うん……よかった」

伏見「それで、話があるんだよね?」

穂乃果「はい……。お母さん、雪穂に詳しく教えてないんだよね」

母「そうよ。……穂乃果たちは知らないでしょうけど……犯人から手紙が届いたのよ」

穂乃果「……また?」

伏見「犯行予告が、8人の家にね」

穂乃果「……」

絵里「……」

母「……」

伏見「世間にも事実は知らせていない。刑事告訴をするなら、話は変わってくるけど」

穂乃果「告訴ってことは……みんな」

絵里「そうよ、犯人に罪を犯した責任を取らせるってことだから」

穂乃果「……それなんだけど、絵里ちゃん」

絵里「まさか……」

穂乃果「うん……事故ってことにできないかなって」

絵里「な、なにを言っているの穂乃果」

穂乃果「私だって、犯人に怖い思いさせられたよ。許せないって思った……だけど」

絵里「穂乃果、私が……いうことじゃないけど」

穂乃果「うん……お母さんたちに心配かけたよね。家族を不安にさせた、それも含めて許せないって思う」


母「……」

伏見「……」


穂乃果「だからこそ、事件があった事実を忘れて、事故だったってことにしたい」

絵里「穂乃果……」

穂乃果「ごめん、変なこと言ってるのは分かってる。だけど……真姫のこと考えたら……」

絵里「……」
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:12:37.72 ID:mwOZ0t6Co

穂乃果「多分、知らないのは、にこちゃん、花陽ちゃん、凛ちゃん、ことりちゃんだよね」

絵里「そうよ。最初の脅迫状があった事実そのものを知らないんですもの」

穂乃果「実は眠らされて、危険が迫っていましたって……言いたくない。知ってほしくないよ」

絵里「……」


穂乃果「伏見さん、犯人の様子は――」

伏見「教えられません」

穂乃果「で、ですよね……」


母「穂乃果、本気で言ってるの?」

穂乃果「……うん。あの出来事をなかったことに……っておかしなこと言ってると思うけど」

母「……私たち家族だけの問題じゃないのよ?」

穂乃果「……うん」

母「…………とりあえず、親同士で話してみる」

穂乃果「うん……ありがとう、お母さん」

母「……まったく」


……


241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:13:30.82 ID:mwOZ0t6Co

―― 海未の病室


海未「……ん…」


穂乃果「あ……」

絵里「……」


海未「ん……ん……?」


穂乃果「おはよう、うみちゃん」

絵里「おはよう、海未」


海未「は……い……おはよう……ございま……す?」


……


242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:14:32.66 ID:mwOZ0t6Co

―― 凛の病室


凛「……ん……むにゃ……」


穂乃果「うみちゃん、無理してついてこなくてもいいんだよ?」

海未「いえ……大丈夫……です」

絵里「ご両親ともう少し話をしてきたら?」

海未「いえ……私もみんなが目を覚ますところに立ち会いたいです」

穂乃果「そんな大げさな……。絵里ちゃん、車いすはいいの?」

絵里「穂乃果が歩いているんですもの。私も平気よきっと」

穂乃果「そっか……」


凛「ん……んん……うるさいにゃ……」


穂乃果「あ……り〜んちゃん」


凛「え……? 穂乃果ちゃん……?」


穂乃果「おはよう」

海未「おはようございます」

絵里「おはよう、凛」


凛「なんで……凛の部屋にいるのぉ?」


……


243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:15:17.52 ID:mwOZ0t6Co

―― ことりの病室


ことり「すぅ……すぅ」


凛「ことりちゃん、まだ起きなさそうだよ」

穂乃果「でも看護師さんがそろそろ起きそうだって」

絵里「そうよ。海未と凛はその通りになったんだから、待っていましょう」

凛「ふにゃぁ……ふ」


ことり「ん……」


海未「あ、瞼が動きました」

穂乃果「じゃあ、そろそろだね」

凛「ことりちゃ〜ん」

絵里「しずかに、凛」

凛「凛のとき、3人でお喋りしてたのに〜」

穂乃果「あはは、ごめんごめん」


ことり「ん……んん?」


海未「おはよう、ことり」

絵里「おはよう」

凛「おはよう〜」

穂乃果「ことりちゃん、おはよう」


ことり「ん……ん……。あと30分……」


穂乃果「え?」


ことり「すぅ……」


海未「二度寝!?」


……


244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:16:22.32 ID:mwOZ0t6Co

―― 希の病室


希「……」


海未「なんだか、お姫様のように寝ていますね」

凛「本当だ……」

ことり「ふぁぁ……ぁ」

穂乃果「王子様のキッスで目覚めるらしいよ絵里ちゃん」

絵里「ふぅん」

穂乃果「反応薄っ!」

ことり「まだ頭がぼーっとするよぉ」

海未「睡眠薬の症状が残っているようですね……」

ことり「睡眠薬……って?」

凛「なんのことか凛も詳しく聞いてない……」

絵里「その話は、全員目が覚めてからね」

ことり「ふぁぃ……」

穂乃果「起きる気配ないね、希ちゃん……」

海未「そうですね……」

凛「王子様がキスするんだよね。じゃあ、凛が……」スッ

絵里「……」


希「……」


凛「なぁんて」


希「……」


絵里「起きてるでしょ、希」

穂乃果「え?」

ことり「ふぇ?」


希「……ばれてたか」


穂乃果「うわっ」

海未「び、びっくりしました……」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:16:58.32 ID:mwOZ0t6Co

希「ふふ、みんなおはよう」

穂乃果「おはよう、希ちゃん」

海未「おはようございます」

ことり「おはよう〜」

絵里「おはよう、希」

凛「もう〜、危うくキッスするところだったにゃ」


希「しても構わなかったんやけどなぁ」


凛「冗談ばっかり〜」


希「ふふ」


絵里「なにも失わずに済んだわ」


希「……うん」



希「うん……っ……よかった」ホロリ


穂乃果「希ちゃん……」


……


246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:17:55.04 ID:mwOZ0t6Co

―― 花陽の病室


花陽「むにゃむにゃ……もう食べられないよぉ」


穂乃果「定番の寝言だ……!」


希「みんなはもう病室移動してるん?」

凛「うん、同じ部屋だよ」

ことり「お母さんたちがやってくれてる」

海未「今日も病院に?」

絵里「本当は夜にでも退院できたんだけど。
   一応ね、明日の朝に検査をして、帰るのは昼になるわね」

海未「そうですか……仕方ありませんね」


穂乃果「そろそろ起きそうなんだけどなぁ」

ことり「起こしてみよう。花陽ちゃ〜ん」


花陽「んん……ん? え?」


凛「あ、起きた。おはよう、かよちん」

海未「おはようございます、花陽」

ことり「おはよう」

穂乃果「おはよう〜」

絵里「おはよう、花陽」

希「おはよう、花陽ちゃん」


花陽「あれ……? あれれ?」


……


247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:19:33.61 ID:mwOZ0t6Co

―― にこの病室


にこ「すやすや」


穂乃果「はい、あっがり〜」

ことり「あぁっ、穂乃果ちゃんが上がっちゃった」

海未「まさかの一抜けですか」

絵里「じゃあ、取るわよ、凛」

凛「はい、どうぞ〜」

花陽「ふぁぁ……ふ」

希「無理して付き合うことないんよ?」

花陽「ううん、大丈夫だよ……。いっぱい寝たからなんだかもったいなくて」

希「無理だけはせんといてね」

花陽「うん……ありがとう、希ちゃん」

ことり「はい、花陽ちゃん、取って?」

花陽「う、うん……。じゃあ、これ」

ことり「……」

花陽「あ……」

海未「渡りましたね」

絵里「そうね……。花陽にババが渡ったわね」

花陽「みんな観察しないでよぉ〜」

凛「引かないように気を付けろ〜」

花陽「もぉ、凛ちゃん〜」


にこ「……ん、ん?」


穂乃果「罰ゲームは、私にパン一年分を贈呈してもらおうかな〜?」

海未「絶対に飽きますよ。飽きて絶対に文句言いますよ。絶対そうなりますよ」

穂乃果「そんな、絶対絶対って3回も……多分いうけど……」

凛「多分じゃなくて、絶対だよね〜」


にこ「あれ……ここどこ……?」


ことり「あがった〜♪」

花陽「ひゃぁ〜、ぱ、パン一年分っ」

絵里「そんなの穂乃果の冗談なんだから」

希「そうや〜。なんならわしわし一年分でもええよ〜?」

穂乃果「それは遠慮させていただきます! 絶対イヤです!」


にこ「……うるさいわね…」
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:20:48.88 ID:mwOZ0t6Co

ことり「あ……にこちゃんが起きてる」

穂乃果「え? あ、本当だ」

絵里「おはよう、にこ」


にこ「……う、うん?」


絵里「お母さんに知らせてくるわね」


にこ「ここどこ?」

穂乃果「病院だよ。にこちゃん、ずっと寝てたんだから」

にこ「……病院?」

穂乃果「昨日、部室で飲んだ紅茶覚えてる?」

にこ「……うん」

穂乃果「それに睡眠薬になる成分が入ってたみたいで」

にこ「どういうことよ?」

穂乃果「えっとね……」


伏見「詳しくは私から話します。医者の先生と一緒に説明していきますので」


ことり「あ、刑事さん……」

花陽「……」

凛「……なにがあったの?」

希「……」

海未「……」


伏見「とりあえず、家族との話が先ね」


にこ「……?」

穂乃果「にこちゃん、ずっと寝てたからにこちゃんのお母さんたちも心配してたよ?」

にこ「っていうか、その寝てる人の隣で騒いでたわよね?」

穂乃果「だって、賑やかな方が早く目が覚めるって言われて」

にこ「目が覚めても放っておかれてたみたいなんですけどー?」

花陽「あはは……起きたばかりなのに、元気だねにこちゃん」

凛「それが取り柄にゃ」
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:21:19.49 ID:mwOZ0t6Co

希「おはよう、にこっち」

ことり「おはよう〜」

海未「おはようございます」

花陽「おはよう」

凛「おはよう、にこちゃん!」

にこ「な、なによ……みんな?」

穂乃果「ただの挨拶だよ。おはよう、にこちゃん」


にこ「お、おはよう……」


にこ「って、もう13時じゃないの……」

海未「おそようですね」

ことり「ヨーソロー?」

希「ちょっと違うかな」


……


250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:24:16.39 ID:mwOZ0t6Co

―― 昼過ぎ:中庭


伏見「それじゃ、私は最後に纏めなきゃいけないことあるから」

絵里「はい、ありがとうございました」

穂乃果「すいません……わがまま言って」

伏見「ううん。あなた達が決めたことなら、私たちは何も言うことはないよ」

希「……」

海未「……」


伏見「また後で挨拶に来るね」

スタスタスタ


絵里「伏見さんにはお世話になりっぱなしね……」

希「そうやな……」

海未「本当にそれでよかったのですか?」

穂乃果「う、うん。……ごめんね」

海未「私は、眠っていただけでしたから……何とも言えませんが」

穂乃果「……」

絵里「結局、ことり達には言わないのね」

穂乃果「うん、言わない。これは、人生の最期まで持っていく」

希「そっか……。穂乃果ちゃんがいうなら、しょうがないね」

海未「親はなんて言っているのですか?」

穂乃果「私のお母さんは……私の決めたことを尊重してくれてる……みたい」

海未「……」

絵里「張本人がそういってしまってはね……私の母も理解していたから」

希「……」

穂乃果「はぁ……いろいろと、迷惑かけて心配かけて……悪いことしちゃったなぁ」

絵里「穂乃果……」

希「穂乃果ちゃんのせいじゃないけど……。けど、そういうものやと思う、うちは」

海未「……?」

希「人と人が繋がるって楽しいことだけやないし。もちろん楽しいことがあった方がいいけど」

絵里「……そうね。楽しいことだけじゃ、ないから。辛いこと、苦しいことはみんなで乗り越えていきましょ」

穂乃果「―――うん、そうだね。……えへへ」

海未「なんですか、急に笑ったりして」

穂乃果「私も、真姫に同じこと言ったから。……みんなもそう思ってくれてうれしいなって」

希「にこっちも言ってたね。誕生会の時に」

海未「そうでしたね。あの誕生会そのものは嘘っぱちですが」

絵里「あら……? あの子たちは……?」

穂乃果「あっ! ヒデコたちだ……!」

希「お見舞いに来てくれたんやね」

海未「そういえば、今日は学校お休みでしたね」


穂乃果「おーい! ヒデコ〜!」
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:25:27.78 ID:mwOZ0t6Co

「あ、いたいた」

「元気そうだね」

「……」


海未「フミコにはどう説明するのです?」

穂乃果「なにが?」

海未「あの、犯人の手伝いしてたではありませんか……」

穂乃果「あ、そっか……」

海未「それで本当にことりに隠し通せるのですか……?」

穂乃果「だ、ダイジョーブ!」

海未「不安です……」


希「それじゃ、うちらは真姫ちゃんのとこ行ってるから」

絵里「体のこともあるし、あまり無理しないよう気を付けてね」


穂乃果「はーい」

海未「……」


ヒデコ「穂乃果、大丈夫なの?」

ミカ「入院してるって聞いてびっくりしたよ」

フミコ「……」


穂乃果「大丈夫大丈夫、元気元気〜。ワッショイワッショイ」


ヒデコ「重症……!?」

ミカ「そんな……」


穂乃果「違う! 元気をアピールしただけだから!」

ヒデコ「分かってるって」

ミカ「そ、そうだよ」

海未「ミカはまだ疑っているみたいですね」

ミカ「だ、だって、急にお祭り気分なんだもん!」

海未「確かに……まだ症状が残ってるかもしれません」

穂乃果「ひどいよね」


フミコ「ねぇ、ちょっといいかな話があるんだけど……」


穂乃果「う、うん……?」


フミコ「こっちに来て」

穂乃果「……わかった」
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:27:28.46 ID:mwOZ0t6Co

ヒデコ「どうしたのかな?」

ミカ「フミコ、今日はずっとあんな調子だよね」

海未「二人は……知らないのですか?」

ヒデコ「なにを?」

ミカ「?」

海未「いえ、なにかあったのかな、と」



フミコ「朝ね、昨日の片づけをしに学校に行ったんだ」

穂乃果「……そうなんだ」

フミコ「警察の人がいて、中に入れなかった」

穂乃果「……」

フミコ「そして、みんな……入院してるでしょ」

穂乃果「……」

フミコ「もしかして、昨日の紅茶に……なにか入ってたの?」

穂乃果「…………」

フミコ「私たち、昨日……部室に紅茶を届けてから……そのまま帰ったの」

穂乃果「……」

フミコ「もし、帰らずに……私たちも紅茶を飲んでいたら穂乃果たちと同じく――」

穂乃果「それは……その……」

フミコ「あの紅茶を用意した先輩……って、誰なの?」

穂乃果「え、えっと……」

フミコ「伏見さんって刑事の人から電話かかってきて、今一緒にいるのかって聞かれた」

穂乃果「……」

フミコ「だから、なにかあったんじゃないかって……。
    穂乃果たち入院してるし、学校に警察いるし、思い返したら先輩って名乗った人もなんだか怪しくて……」

穂乃果「……えと」

フミコ「ねぇ、穂乃果……あの人って……」

穂乃果「あ、あの人はね……!」

フミコ「……」

穂乃果「熱狂的なファンなの!」

フミコ「え?」

穂乃果「ずっとお茶会に誘われてたんだけど、
     断ってて、それで強引に学校に入ってきたみたいで!」

フミコ「…………」

穂乃果「あの人ね金持ちでみんなを招待したいって言っててそれであんな高いポットやカップを用意して」

フミコ「…………」

穂乃果「だけど、茶葉に睡眠薬と同じ効果の成分が入ってて、
     だから私たち寝ちゃってて!」

フミコ「紅茶にそんな成分があるなんて……聞いたことないよ?」

穂乃果「そう、だから警察が来たの! 事故だったのあれは!」
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:29:05.19 ID:mwOZ0t6Co

フミコ「それじゃ……刑事さんからの電話はなんだったの……?」

穂乃果「その人と一緒に居て……ちょっと怖かったから刑事さんに電話したの」

フミコ「……」

穂乃果「だけど、電話取られて……その人フミコの名前使ったから、
    伏見さん、不審に思って……フミコに連絡したんだよ」

フミコ「……」

穂乃果「そういうことだから……気にしないで……いいんだよ?」

フミコ「じゃあ、私……そんな人の手伝いしてたんだ……」

穂乃果「だから、気にしないでフミコ! フミコは悪くないんだから!」

フミコ「ごめん……」

穂乃果「あ……」

フミコ「みんなに、悪いことした……」


穂乃果「……」


フミコ「……ごめんね、穂乃果……」


穂乃果「……じゃあさ」


フミコ「……?」


穂乃果「これから、私たちを手伝ってくれないかな?」


フミコ「……どういうこと?」


穂乃果「これから、私たち……ライブをたくさんするから、手伝ってよ」


フミコ「……」


穂乃果「もちろん強制はしないよ。だって、フミコは全然悪くないんだから」


フミコ「……」


穂乃果「それでも気にしてしまうなら。私たちの側にいて、私たちを見ててよ」

フミコ「穂乃果……」

穂乃果「あの事故は大したことじゃないって証明するから」

フミコ「……」

穂乃果「……ね?」

フミコ「うん、――分かった」


……


254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:30:34.99 ID:mwOZ0t6Co

―― 夕方:病室


穂乃果「ふぅ、今日も疲れた〜」

ドサッ


にこ「戻ってきて早々、ベッドで横になるなんて……」


穂乃果「だから、疲れたんだよぉ……おやすみぃ」


にこ「変な時間に寝たら、夜寝られなくなるでしょ」

穂乃果「すぃ〜……ぴぃ〜」

にこ「みんなぁ、穂乃果のベッドに集まって〜、トランプしましょう〜?」


絵里「いやがらせにも程があるわね」

花陽「ダメだよ、にこちゃん」


にこ「あんたたち、私のベッドでやってたでしょ!?」


海未「騒がしくしないでください。ここは病院です」


にこ「くっ……見てなさいよ……いつか仕返ししてやるわ」


花陽「なんだか怖いこと言ってる……」

絵里「合宿とは違うんだから、しずかにしてなさい」


にこ「……肝試し」


海未「はい?」

にこ「夜に肝試ししない? ここ病院だからいろいろと――」


絵里「真姫の様子でも見に行こうかな」

花陽「今は凛ちゃんたちが行ってるから、まだいいんじゃないかな?」

絵里「でも、ほら……お医者しゃまも言ってたじゃないそろそろだって」


にこ「ぷぷっ、お医者しゃまって噛んだわっ、何焦ってんのよ。ぷぷぷっ」


絵里「……」

花陽「ど、ドンマイだよ、絵里ちゃん」

海未「花陽、追い打ちしてますよ」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:31:28.55 ID:mwOZ0t6Co

穂乃果「あのさぁ、みんな」


海未「?」


穂乃果「寝ている間って夢とか……みた?」


絵里「夢?」

にこ「……覚えてないわね」

花陽「私も……」

海未「多分、私はみていないかと」


穂乃果「そっかぁ……」


絵里「穂乃果は覚えてるの?」


穂乃果「うん。……とってもかわいい声が聞こえた」


にこ「もしかして、わた」

穂乃果「にこちゃんじゃないよ」

にこ「……そう」

花陽「バッサリだ……」

海未「その声はなんて?」


穂乃果「八十年後に――」


「み、みんなっ!」


花陽「凛ちゃん……?」


凛「真姫ちゃんがっ!」


穂乃果「え――!?」


……


256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:33:16.22 ID:mwOZ0t6Co

――逢魔が時


昼から夜に移ろう時刻


太陽と月の光が生み出す曖昧な世界


その世界では人と魔物が遭遇しやすくなると云われている




「ん……」


ことり「……真姫ちゃん」

希「……」


「……ん……」


絵里「真姫……」

海未「……」


「…………んん」


花陽「真姫ちゃん……っ」

凛「……」


「…………」


にこ「……」

穂乃果「……みんな、待ってるよ、真姫ちゃん」


「……ん……んん?」


ことり「あ……!」

海未「起きた……」


「……え……だれ……?」


穂乃果「真姫……?」


「え……――穂乃果?」


穂乃果「真姫ちゃん……!」


真姫「ん……んん……なに、なんでみんな――」


希「真姫ちゃんっ」

ガバッ

真姫「きゃっ!? ちょ、ちょっと希!?」

絵里「……心配してたんだから、これくらいさせてあげて」

希「よかったぁ」

ぎゅうう

真姫「なに、なんなの……!?」
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:34:38.71 ID:mwOZ0t6Co

花陽「よ、よかった……っ」グスッ

凛「かよちんっ、泣いちゃだめなの〜っ」グスッ

ことり「本当によかった……っ」

海未「ことりまで……」

ことり「だって……」グスッ

にこ「まぁ、私は別に、心配はしてなかったけどね……っ」

真姫「なんでみんな……って、ここどこなの?」

穂乃果「病院だよ」

真姫「びょ、病院?」

穂乃果「そう……。『真姫ちゃん』ずっと寝てたから」

真姫「寝てたって……」

穂乃果「1週間くらいずっとだよ。みんな心配したんだから」

真姫「1週間も?」

穂乃果「うん」

絵里「寝る前に覚えていることはない?」

真姫「……」

希「最後に覚えていること」

真姫「……それは、えっと」

花陽「……」

凛「……」

真姫「あ――」

海未「真姫……?」


真姫「そうだ……わ、私……人が人を刺すところを――」


穂乃果「全部、終わったから」


真姫「え、……え?」


穂乃果「大丈夫だよ。その犯人、捕まった。だから、大丈夫だよ」


真姫「……――」


花陽「真姫ちゃん……」


海未「心のケアは必要ですね……」

にこ「そんなの、私たちが一緒にいればすぐ治るわよ」

凛「にこちゃん……たまにいいこと言うよね」

にこ「いつも言ってるわよ。それで、真姫、食べたいものある? お見舞いの果物いっぱいあるわよ」

真姫「え?」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:35:54.32 ID:mwOZ0t6Co

にこ「ほら、食べたいものあったら私が……にこにーが剥いてあげるにこ♪」

真姫「……」

穂乃果「じゃあ、りんごで」

にこ「なんであんたが答えるのよ。別にいいけど」

絵里「よくないでしょ。真姫のお見舞い品なのよ?」

希「勝手に食べたらダメやん」

真姫「……別に、いいわよ。好きに食べていいわ」

ことり「それなら私はメロンで♪」

海未「ことりまでっ!?」

凛「凛もメロンが食べたい!」

花陽「わ、わたしは……梨を」

穂乃果「苺も追加で」

絵里「それじゃあ、桃をいただこうかしら」

希「うちは、キウィ」

海未「バナナを」

にこ「全部私が用意するの?」

真姫「というか、少しは遠慮しなさいよね」

穂乃果「そういえば、切られたスイカが冷蔵庫に入ってたよね」

海未「まだ食べる気ですか!?」

にこ「じゃあ、りんごからね」

穂乃果「あれやってよ、あれ」

にこ「しょうがないわね〜。みてなさいよ」

真姫「あれって?」

にこ「これよ! 秘技、リンゴの皮を一度も途切れずに最後までくるくる回して切る!」

スルスルスル


真姫「……すごいけど、技名っぽく叫んだの意味あるの?」

にこ「ないわよ。はい、どうぞ」

穂乃果「はいよ」ヒョイ

ことり「穂乃果ちゃん、真姫ちゃんより先に手を出して……」

海未「自由人ですか」

真姫「シャクシャク」

にこ「どう?」

真姫「どうって……りんごの味だけど」

にこ「まぁそうよね」

真姫「?」
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:37:07.33 ID:mwOZ0t6Co

希「真姫ちゃんが寝ている間にクラスの子たちがお見舞いに来てたんよ」

真姫「……そう」

花陽「うん、みんな心配してたよ」

真姫「別に、お見舞いなんかこなくてもいいのに……」

絵里「そんなこと言って……」

真姫「ふ、ふんっ、別に嬉しくないんだからっ」

海未「素直じゃありませんね……」

真姫「で、でも……ありがとうって伝えておいて」

花陽「……」

真姫「お礼をいうのは当たり前でしょっ」

凛「ブフッ」

真姫「え?」

穂乃果「あはははっ!」

真姫「な、なに?」

にこ「まさか、それをそのまま言うなんてね」

真姫「なによ!?」

花陽「にこちゃんがね……ふふっ……真姫ちゃんの真似して言ってたのっ同じセリフ」

真姫「う……っ」

穂乃果「あははっ、おかしくて涙が出てきちゃったっ」

真姫「笑いすぎ……。ふんっ」

穂乃果「あはは……あー……おかしいなぁ」グスッ

海未「……」

希「……」

絵里「……」

真姫「さっきから気になってるんだけど、あのノートと人形ってなに?」


穂乃果「あぁ……これは……」



キィィィィイイ


穂乃果「――!?」


ィィィィィイイイイイン



真姫「穂乃果……?」


キィィィィイイ


穂乃果「ま、真姫ちゃん……」


ィィィィィイイン


真姫「……なに?」
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:38:22.60 ID:mwOZ0t6Co

穂乃果「耳鳴りがするんだけど、なにも……感じない?」


キィィィィイイ


真姫「え? ……別に?」


穂乃果「そっか……」


ィィィィィイイン


絵里「大丈夫?」

ことり「病室に戻った方がいいんじゃないかな」

海未「そうですよ、穂乃果……」


穂乃果「だ、大丈夫……治まったから」


真姫「……」


穂乃果「あ、そうだ。真姫ちゃん、これ貰ってもいいかな?」


真姫「人形? 別にいいわよ。誰が持ってきたのか知らないけど」


ことり「……」

花陽「……」


穂乃果「らくがき帳も……本当に、いいの?」


真姫「いいわよ。……私には必要ないから」


穂乃果「じゃあ貰うね。……ちょっと外出てくる」


真姫「あ、穂乃果……!」


穂乃果「え?」


真姫「私たち……小さい頃に……会ったこと、ある?」


穂乃果「……」


絵里「……」

希「……」

にこ「……」

海未「……」

ことり「……」

花陽「……」

凛「……」


真姫「……」


穂乃果「ううん、あの時――……音楽室で声を掛けたのが初めてだよ」

テッテッテ
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:38:59.29 ID:mwOZ0t6Co


真姫「……やっぱりそうよね」


海未「……」


真姫「それより、どうしたの、穂乃果は?」


絵里「さぁ……。希は知ってる?」

希「ううん、知らない」

凛「どうしたのかな?」

ことり「海未ちゃん……」

海未「よく分かりませんが、穂乃果に任せましょう」


にこ「ほら、用意したわよみんな!」

凛「すごい!」

花陽「全部切られてるっ!?」


……


262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:40:08.66 ID:mwOZ0t6Co

―― 中庭


穂乃果「えっと、アイリス……ちゃん?」


穂乃果「あれ、いないのかな……アイリスちゃん!」


穂乃果「アイリスちゃーん! いたら返事してー!!」


穂乃果「アイリスちゃ――」



キィィィィィィイイイイ


穂乃果「――!?」


ィィィィィイイイン



穂乃果「耳鳴りがするってことは……いるのかな」



キィィィィィィイイイイン


穂乃果「あの、これ。人形とらくがき帳……アイリスちゃんに持っててほしくて」


キィィィィィィイイイイン


穂乃果「真姫ちゃんが持ってたら、混乱しちゃうから、手放した方がいいんだ」


キィィィィィィイイイイン


穂乃果「私たちは『真姫』のこと……多分忘れる。ううん、忘れた方がいいんだと思う」


キィィィィィィイイイイン


穂乃果「お医者さんが言ってた。2つの人格は心の負担が大きすぎるって」


キィィィィィィイイイイン


穂乃果「だから、私たちはこれから『真姫ちゃん』と一緒に生きていくよ」


キィィィィィィイイイイン


穂乃果「ありがとね、アイリスちゃんっ、『真姫』を守ってくれ……てっ」ホロリ


キィィィィィィイイイイン


穂乃果「ありがとねっ……ありがとっ……守ってくれて……ありがとう」ボロボロ


キィィィィィィイイイイン


スッ


穂乃果「あ……!」
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:40:38.96 ID:mwOZ0t6Co


伏見「ありがとう、って」


穂乃果「え?」


伏見「アイリスちゃんが、ありがとうって言ってる」


穂乃果「ううん、礼を言うのはこっちだから」グスッ


伏見「私たち、これから帰るね」


穂乃果「そう……ですか……」


伏見「みんなによろしくね」


穂乃果「は、はいっ」


伏見「それじゃ、さようなら。元気で」


穂乃果「はいっ、さようなら!」


……


264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:41:22.04 ID:mwOZ0t6Co


―― 留置所


警部「……ほらよ」


「……」


警部「栞だ。お節介な刑事からだ」


「……」


警部「……」

スタスタスタ......



「…………」



「アイ…リス……?」



……


265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:43:39.31 ID:mwOZ0t6Co

―― 公園


(真姫ちゃ――ま、アイリスのことは視えなくなっていました)


「ちゃま?」

真「そうか……霊視の力はなくなってたか」

「真姫ちゃまってなに、ちゃまってなに? ねえねえ?」

真「突っ込まないでくれ、葵」

(うぅ……)

真「恥ずかしがらなくてもいいって、友達なんだから」

(は、はい……)

芙蓉「もともとは力が無かったのですよね」

真「あぁ、そうらしい」

伏見「でも、どうして『視える』ようになったのかしら」

真「多分、それは――」

「ご主人〜! もっかいアキバ行こう!」

真「行かないって。どれだけ周りに迷惑かけたと思ってるんだよ」

伏見「真君、うちの署にメールを送ったの、やっぱりあの子だったよ」

真「そうですか……理由はどうして?」

伏見「危険なくらい純粋だったからかも……。
   あの事件で導火線に火が付いてしまった……と」

芙蓉「様子はどうでした?」

伏見「叔父と叔母が来てね、面会したよ」

「あたしの言うこと聞かないと、次通る人のズボンかスカートを下すぞ」

真「脅迫するなよ。俺が犯人扱いされて通報されるオチが見えるんだから止めてくれ」

(あの方……。真姫様と違う出会いをしていれば……二人は友人になれたかもしれません)

真「心が読めたのか?」

(はい。幼い真姫様は……あの方に一瞬ですが、心を開いたようでしたから)

真「……」

(あの方も、真姫様には少し特別に感じていたようです)

伏見「でも、それが犯行の動機でもあったみたいだけど」

(いえ、その特別ではなく。……えっと、心を開きかけたみたいでした)

真「……そうか」

(もう後戻りできないから、止まれなかったようです)

伏見「爆破予告でたくさん証拠を残してたからね。自分を追い込むためでもあったのか……」


「ひょーぉ! うはぁー!」


芙蓉「姉さん、ブランコを壊さないでくださいね」


「いやっほぉーーい! ご主人〜! 一緒に乗ろ〜!」


真「その勢いで乗るのは無理だろ」
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:45:52.77 ID:mwOZ0t6Co

伏見「あの子、叔父と叔母が泣いたの見て、泣いてた」

真「……」

伏見「自分のやったこと、これから受け止めて……罪を償っていくでしょう」

(刺された警官は目を覚ましたそうですが……)

伏見「後遺症は残るけど、生活に問題はなしみたいだし……リハビリも大変だろうけど」

芙蓉「不幸中の幸いですね」

伏見「だね」

真「あの子たち、事件のことをどうするんですか? 刑事告訴は?」

伏見「しないって。西木野さんのこと、友達のこと、周りのことをを第一に考えた結論だって」

芙蓉「ご家族も同意なさっているのですか?」

伏見「うん。1週間の出来事を、早く忘れようって。子供たちがそう言ってるんだから、私たちもそうしたいって」

真「……そうですか。なんというか……強いですね」

伏見「それが傷を癒す近道なのかもしれないわね」

(みなさん、笑っていました)

真「その笑顔を守ったのはアイリスだ」

(良かったです。守れて)

「でもさぁ、アイリスぅ〜」

(なんですか、葵お姉さま?)

「いやぁ、最後のあれはどうかと思うよ?」

(はい?)

真「なんだよ、あれって」

「いやね、眠ってたあの子に、アイリスが話しかけてたんすよぉ」

芙蓉「ちょっと、姉さん……」

「八十年って、言ってたでしょ?」

(……?)

「うわ、この顔分かってない」

真「なにが言いたい?」

「単純に計算して、ですよ? あの子、15くらい? で、八十年後っつったら」

伏見「95だね」

「そうそう。計算できてないもん、うちの末っ子はよぉ」

芙蓉「なんでそんな言い方するんですか」

(あ……!)

「気付いた気付いた。百にならないじゃん〜。ニヤニヤ」

真「口でニヤニヤ言うな」

(〜〜〜ッ!)

「赤くなった赤くなった」

芙蓉「やめて、姉さん」

「やーいやーい! ゆでたこ〜」

(うぅっ……うぅぅっっ)

「泣いた泣いた〜、赤鬼が泣いた〜」

芙蓉「姉さん?」ニョキ

「ごめんなさい」
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:47:47.08 ID:mwOZ0t6Co

(そうでした……っ……アイリス、間違えました……っ)

真「大切なのは時間じゃない。もう一度逢うことだよアイリス」

(ぐすっ……はい。マスター……)


「ご主人〜!! このおでん缶っての買って〜!」


真「帰りましょうか」

伏見「そうだね。乗り遅れたら大変」

芙蓉「はい。待っている人がいますから」


「コトリンのお土産〜! いいでしょ〜?」


真「土産はさっき買っただろ。というか、そんな安いもので……」

(マスター。アイリスも食べてみたいです)

真「マジで?」

芙蓉「おでんはおでんでしょう? 帰ったら私が作ってあげるから」

(……はい。分かりました)

真「しょうがない。アイリスには今回助けられたから、買ってあげるよ」

(マスター……!)

「ちょっ! アイリスばっかりずるい〜! あたしにも買ってよ〜!」

真「今回の功労者だぞ。当たり前だ」

「けっ、なんだいなんだい。贔屓しちゃってさ、けっ、こんな時はバイクでも盗んで走り出そうかな〜」

伏見「いじけ方がちょっと古い不良みたいだね……」

芙蓉「姉さんにはおでん作ってあげるから、今日はアイリスに……」

「計算ができない妹に、甘やかすんじゃないよ、まったく」

芙蓉「姉さん?」ニョキ

「ごめんなさい。桔梗様みたいに角生やすのずるい〜!」

(…………)

「葵お姉ちゃんも計算できないよね」

「まぁた腹話術か」

(腹話術じゃないですよ。ウーパくんが言っているんです)

「はいはい。で、あたしが計算できないって? 掛け算言ってみろやコラァ!」

真「なんでケンカ腰で掛け算限定なんだよ」

芙蓉「では、4かける5は?」

「えっと……しご……だから、死後の世界〜!」

「葵お姉ちゃんのユーモアは凄いね。誰もそんなこと言わないよ」

「ハァ? 馬鹿にしてんの、アイリス?」

(アイリスじゃないですよ。ウーパくんが言っているんです)

真「にく」

「うまい!」
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:50:19.91 ID:mwOZ0t6Co

伏見「はっぱ」

「まずい!」

芙蓉「ろっく」

「ごじゅうし!」

「できた。葵お姉ちゃんが掛け算できたよ。すごいね、アイリスちゃん」

(さすがです、葵お姉さま)

「よぉし、ちょっと体育館裏に来いや、アイリスゥ」

(ひぅっ!)

真「時間だな、いい加減帰ろう」

伏見「あぁー……帰ったら溜まってた仕事がたくさん……」

芙蓉「少しは休めないのですか?」

真「そうですよ。打ち上げ……じゃないけど、事件解決したんです。お疲れ会でもしましょう」

伏見「そうだね。それじゃお邪魔しようかな」

芙蓉「ふふ、腕によりをかけて用意します」

伏見「ナニカ居るだろうって言われてたけど……まさか死神とはねぇ……」

真「伊予が言うには、かなりレアな遭遇みたいですよ」

伏見「どれくらいレアなの? ツチノコ発見くらい?」

真「例えがよく分からないんですけど……11連ガチャで全部ウルトラレアがでるくらいの確率だそうです」

伏見「……私もよく分からないな、その例え」

真「数百年生きてるアイツが言うから間違いはないとは思いますけど……」

芙蓉「歴代の鬼たちの記憶にも死神との遭遇はありませんね……」

「うん、ないわぁ」

真「そうだ、アイリス」

(はい、なんでしょう)

真「あの死神、どうして諦めたんだ?」

(それは、絢瀬様が出てきたからです)

伏見「絢瀬さんが……?」

真「時間切れってことか?」

(その意味もあると思いますが……)

「いや、アイツ……皆殺しにするって言ってたでしょ」

芙蓉「そうですね、言っていました。それも本気で……なのになぜ?」

(死神が心の中で言っていました。『死なない運命なのか』と……)

真「『死なない運命』……?」

伏見「高坂さん達が……?」

(はい。何度もその時が来たのですが悉く阻止されていましたので)

真「……ふぅむ」
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:53:38.48 ID:mwOZ0t6Co

(恐らく……死神は命を奪う理由がなくなったのだと思います)

真「理由?」

(はい、後付けですが、今まで奪ってきた命には死ぬ理由が存在したようです)

伏見「……もしかして、チンピラが結構道を外れた人間だったこととか関係あるのかな」

(そのようです。死んで喜ぶ人間がいることをあの死神は知っていました)

真「いや……あの子たちはそうじゃない。あのチンピラと一緒じゃない」

(そうです。ですが、死神から見れば同じ。死ぬ理由が出来るから奪おうとしていたのです)

「意味が分からん!」

芙蓉「……確かに、順序が逆というのが難しいですね」

真「それが死神の規則なのか。その規則から彼女たちは外れた……だから諦めた」

(はい)

真「伊予がもう一つ言っていたな」

伏見「え……?」

真「死神が動いた事件はどれも歴史に残ってると……」

伏見「……」

真「よくよく考えたら恐ろしいな……。後に出来る理由の為に命を奪うなんて……」

「伊予様も言ってたよ。そういうのがわたし達だって。理屈じゃないって」

真「まぁ、そうなんだろうけど」

伏見「あ……私、分かったかも」

真「……?」

伏見「西木野さんと、アイリスちゃんが出会った意味……」

(意味ですか……?)

「なになに、教えて〜。面白いことでしょ?」

芙蓉「そうですね、気になります」

(教えてください、マスター)

真「話の流れで言えば、死神の規則から外れるためだよ」

「ホワッツ!?」

真「なんで英語……。二人が出会ったことで、運命は変わったんだ」

伏見「死神の言う『死なない運命』にね」

(…………)

真「人間同士でも似たような話は沢山あるよ。出会いは人生を変えるから」

(…………)

真「鬼と人間が出会って友達になったんだ。そりゃ、死神の力も超えるさ」

(そうですか……それは……嬉しいです)

真「俺も嬉しいよ。というか、誇らしい」

(〜〜っ)

芙蓉「ふふ、照れちゃって」

「おうおう、可愛いのう、アイリスはよう、おうおう」

(や、やめてください、葵お姉さま……っ)
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:56:02.35 ID:mwOZ0t6Co

真「なんでオラついてんだよ」

「あたしも可愛がれっつってんだよ、ご主人!」

真「いやだよ! そんな脅しで可愛がれねえよ!」

「それじゃ、可愛がってニャ?」

真「思い出したように猫キャラになったな」

伏見「あの子も……救われたのかも……ね」

(…………)

伏見「死神とあの子は繋がってたの? 死神の意思であの子を動かしてたの?」

(いえ。あの方は死神の声が聞こえていませんでした)

伏見「……」

(ですが、その声が聞こえるかのように動いてもいました)

芙蓉「波長があっていたのね」

(はい、そうです。とても恐ろしいくらいに)

真「そんな二人が引かれ合ってたのか……」

(最悪の偶然が重なっていたようですね)

真「……危なかったんだな……。あの子たちも、俺たちも」

「言ったじゃん! やばいって!」

(ギリギリでした……。ですがセーフです。ギリセーフです)

真「ギリセーフ?」

「妹がなんか、変な言葉覚えちゃってるよ」


pipipi


芙蓉「電話ですよ、真様」

真「あ、あぁ……うん」

プツッ

真「も、もしもし」

『もしもし……真君?』

真「ゆ、由美か……」

『今日も帰ってこられないの?』

真「いや、これから帰るよ。事件も無事解決したし」

『そうなんだ……。よかった……ね?』

真「うん……よかった」


「おうおう、イチャついてんじゃねえよ、ご主人」

ゲシゲシ

真「おい、蹴るな」

「にゃ〜ん、にゃ〜ん」

スリスリ

真「何がしたいんだ、葵……」


『琴莉ちゃんも、帰りを待ってるから』

真「うん、わかった」
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:57:00.36 ID:mwOZ0t6Co

伏見「あぁ、複雑な事件だったけど、終わったぁ……!」

芙蓉「上司にはどう報告したのですか?」

伏見「まぁいろいろと難しいから……うちの課長から説明してもらう」

芙蓉「死神とか、アイリスとか……色々説明できませんよね」

伏見「でも、警部は真剣に聞いてくれたよ。一課にもああいう人が居るって知れてよかったかな」


(…………)


「でも、人形二つもいらなくない?」

芙蓉「姉さんの意見は聞いてません」

伏見「そういえば……高坂さん、どうしてアイリスちゃんの名前知ってたんだろう」


(…………)


272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:57:39.35 ID:mwOZ0t6Co



真「アイリス、帰ろう」


(……はい、マスター)



(それでは、アイリスは帰ります)



(…………)



(さようなら、真姫様――)



……


273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/29(木) 13:59:17.85 ID:mwOZ0t6Co

―― 同時刻:真姫の病室


真姫「すぅ……すぅ」


希「よく寝てる」

にこ「あれだけ寝て、まだ寝るのね」

絵里「寝るのに体力使うから」


穂乃果「ここに飾っておこうかな? 気付くよね」


海未「穂乃果、その花は?」

穂乃果「ふふふ、知らないの、うみちゃん〜?」ムフフ

海未「む……」

ことり「アイリス、だよね?」

穂乃果「さすがことりちゃん」

花陽「でも、どうして?」

穂乃果「真姫ちゃんに教えてあげようと思って」

凛「なにを?」

穂乃果「花言葉を。『希望』『優しい心』『おもいやり』『純粋』」

海未「穂乃果が花言葉を……!?」ガーン

穂乃果「失礼しちゃうよね」

凛「わぁ、綺麗だにゃ〜」

希「白い花やんなぁ」

花陽「可愛い……。あれ、でも……いつ買ってきたの?」

穂乃果「さっき。着替えて抜け出してきたから」

絵里「穂乃果?」

穂乃果「あぁ、ごめんなさいっ、だって、買いたかったんだもんっ」

海未「もっと言ってやってください、絵里。私が言っても聞きません」

絵里「その花は散ってしまうから、お見舞いの花には向かないのよ?」

海未「……」ガーン

希「そっちやないんよエリち」

にこ「ふぁぁ……私も眠くなってきたわ……」

凛「うん……凛も少し疲れちゃった」

ことり「……それじゃ、寝ちゃおうかな?」

絵里「そうね、疲れはとっておきましょうか、横になるだけでもいいから」

花陽「……うん。……海未ちゃんは?」

海未「そうですね……私も戻ります」

凛「みんなと同じ病室って、すごく変な感じがするにゃ〜」

にこ「穂乃果は?」


穂乃果「私はもうちょっとここにいるよ」
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:00:36.74 ID:mwOZ0t6Co

にこ「そう……それじゃ」

花陽「また、後でね」

ことり「先に戻ってるね」

凛「穂乃果ちゃんも、早く来るにゃ」


穂乃果「うん」


希「……」


穂乃果「希ちゃん」


希「うん……?」


穂乃果「前に話した、『真姫』のお友達の話」


希「……」


穂乃果「後で聞いてね」


希「うん。待ってる」


穂乃果「って、言っても話せることあまりないんだけど」


絵里「……穂乃果」


穂乃果「うん?」


絵里「……ううん、なんでもない」


穂乃果「なに、絵里ちゃん〜?」


絵里「ただ、私はみんなの顔が見れて嬉しいのよ」


穂乃果「えへへ、私も」


絵里「それじゃ、ね」


穂乃果「うん」


海未「なにか、あるのですか?」


穂乃果「なにかって?」


海未「いえ、ここに残っている理由とかあるのではと思って」


穂乃果「……ねぇ、うみちゃん」


海未「……はい」


真姫「すぅ……すぅ……」


穂乃果「私たちには理解できないけど、『真姫』には理解できることがあったんだ」


海未「……」
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:01:34.34 ID:mwOZ0t6Co

穂乃果「私もさっき……なんとなくだけど理解できた」


海未「……」


真姫「……すぅ……すぅ」


穂乃果「『真姫』は寝てるんだよね」


海未「寂しいですか?」


穂乃果「ううん。だって、真姫ちゃんは真姫ちゃんだから」


海未「……」


穂乃果「だけど、その……『真姫』にしか理解できない友達と離れたことを……」


海未「……」


穂乃果「『真姫ちゃん』が知らないことが……ちょっと寂しいかなって」


海未「……難しいです。……私はそれを理解できないのですよね」


穂乃果「あはは……そうだね」


海未「先に戻っています」


穂乃果「あ、待って」


海未「はい?」


穂乃果「私たち、これから八十年生きていかなきゃいけないよ」


海未「それは……長い時間ですね」


穂乃果「そうだよね〜」


海未「ですが……できれば、そうありたいものですね」

スタスタスタ


穂乃果「……」


真姫「すぅ……すぅ」
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:02:14.92 ID:mwOZ0t6Co

穂乃果「私も逢えるかな……」


真姫「……すぅ」


「八十年後、私もアイリスちゃんに、逢えるかな……?」


「すぅ……」


「……」


「ん……ん……」



「……ねぇ、『真姫』」



「……すぅ……すぅ」



「よかったね、出会えて」



「すぅ……すぅ……」

277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:02:42.48 ID:mwOZ0t6Co


………………


……………


………


……




278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:03:25.76 ID:mwOZ0t6Co

(……真姫様……寝てしまったのですか?)


「――」


(…………)


「――」


(あ……)


「――」


(もう、アイリスの知る真姫様ではないのですね)


「――」


(もう少し、真姫様とお喋りしたかったのですが……)


「――」


(アイリスは真姫様とお友達になれて、良かったです。真姫様はどうでしょうか)


「――」


(……)


「――」
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:04:34.08 ID:mwOZ0t6Co

(別れる前に一つお願いがあります)


「――」


(アイリスの命は、マスターと共にあります)


「――」


(マスターが現世を離れる時、アイリスも一緒に逝くことになります)


「――」


(それはマスターが百を迎えるころになると思います)


「――」


(真姫様も、それまで生きていてください)


「――」


(常世でまた逢えたら、アイリスは嬉しいです)


「――」


(どうか、それまでお元気で)


「――」


(八十年後に逢えるのを楽しみにしています)


「――」
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:05:39.49 ID:mwOZ0t6Co


(アイリスの名前は、マスターが付けてくれたとても大切な名前です)


「――」


(花言葉は、アイリスにとって真姫様そのもののように感じました)


「――」


「……ひぐっ……ひっく……ぐすっ」


「――」


「うぅぅぅ……ぐすっ……ずずっ」


「――」


「ま…また…っ……あ…逢う…日まで……っ」


「――」



―― おやすみなさい……真姫……ちゃん。



終わり
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:11:10.71 ID:mwOZ0t6Co


以上で終わりです。
読んでくださった方、ありがとうございました。


クロス元はなないろリンカネーションという作品です。
日常が楽しい作品です。
その良さを生かしきれたのか謎ですが、
本作は倍以上に面白いです。VITAに出ているのでぜひプレイしてみてください。

なないろリンカネーション
https://www.youtube.com/watch?v=yOn5lttcPTY


ラブライブは他に
穂乃果「時の旅人」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396669413/
海未「くしゅんっ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430769907/
を書いてます。暇つぶしになれば嬉しいです。


今作は、影女「あけましておめでとうございます」をベースに構成しました。
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1325/13253/1325359507.html (←5年前!?)

色々と説明不足が否めませんが、もう少し精進したいと思います。

ありがとうございました。

282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 15:49:46.41 ID:GYnM/tFm0
と、時の人ッ!時の人じゃないか!?

今回もいい話でした乙
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/30(金) 11:33:39.35 ID:0/44vGVSO
突然オリジナルが出たのでクソでした
クロス元は1に書け
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/30(金) 12:10:51.26 ID:ZqRDQEF20
>>283
ヒント:最近のSS速報
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/01(土) 07:58:12.99 ID:1msrnwYoO
読み終えた乙
元ネタ知らなかったから途中着いていけなくなりそうだったけど良いラストでした
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/02(日) 03:26:08.07 ID:QNxfphMe0
時の旅人の人だったのか
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga !red_res]:2017/07/30(日) 11:36:24.12 ID:IJtmxOWSO
死ね
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