真姫「アイリスのはなことば」

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183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:18:31.91 ID:iVlOUhKto

伏見「理事長、車に乗ってください」

理事長「え……」

伏見「学校に戻りましょう」

理事長「は、はい……」


伏見「……そうだ、学校だ」


後輩「?」

伏見「後輩君、運転して」

後輩「いやいや、俺は君より先輩ですけど!?」

伏見「いいからはやく!」

後輩「わ、わかったよ!」


バタン


伏見「えっと、無線は……」

後輩「これだ」

伏見「サンキュ」

後輩「だから、俺は先輩だって――」

ガガッ

伏見「警部、応答してください」

『俺じゃなくて、本部に伝えろ』

伏見「えっ!?」

『話はしてある』

後輩「マジっすか、先輩……」

伏見「え、えっと……本部」

『はい、こちら本部です』

伏見「音ノ木坂学院の下校時刻を普段通りにしてください」

『え……?』

後輩「爆破予告が出てるから早期下校の対応じゃないと……!」

伏見「知ってる。……それでいいですか、理事長」

理事長「……で、ですが、今、職員会議で早期下校の趣旨を伝えているはずです」

伏見「生徒の安全はそれで守られるでしょうが、あの子たちは違う」

理事長「…………」
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:21:54.29 ID:iVlOUhKto

ガガッ

『伏見、爆破予告と殺害予告の犯人は同一人物なのか?』

伏見「それは分かりません。……けど、学校が安全であることは変わりありません」

理事長「……わかりました、刑事さん。普段通りに」

伏見「理事長からの許可も取りましたので。周辺の学校はお任せします」

『理由を聞かせろ、伏見刑事』

後輩「うわ……警視……」

伏見「時間稼ぎの意味があります」

『その間に俺たち一課に動けと言っているのか?』

伏見「そう取ってもらっても構いません」

『いいだろう。では、音ノ木坂学院の警備を強化する』

伏見「了解しました」

後輩「おぉ、先輩が啖呵切った影響だ……」

伏見「理事長、生徒たちにはまだ爆破予告のことは伏せておいてください」

理事長「はい……わかりました」

伏見「先生方には私が詳しく話します」

理事長「……お願いします」


伏見「……これで守りは鉄壁のはず」


……


185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:23:26.73 ID:iVlOUhKto

―― 同時刻:2年生の教室


穂乃果「――!」ビクンッ


真姫「……?」

ことり「穂乃果……ちゃん?」


穂乃果「……ほ……ほぁ……ビックリした」

真姫「どうしたの?」

穂乃果「高いところから落ちた夢見ちゃった……あはは」

海未「しっかり寝たはずでは?」

穂乃果「ここのところ睡眠不足だったから」

海未「授業中にその不足分を補っていたようですが」

穂乃果「む……ああ言えばこう言う……」

海未「それはあなたです」

ことり「まぁまぁ」

真姫「ケンカはだめだよ」

穂乃果「そうだけど、うみちゃんが」

海未「穂乃果がいけないんです」


ヒデコ「あのやり取りを見てると平和だなって思うわ」

ミカ「ほんとほんと」

フミコ「……また自習ってどうしたんだろ」

ヒデコ「そういや、前の自習も説明無かったよね」

ミカ「うんうん」

フミコ「ミカ、漫画読みながら相打ちするの良くないよ」

ミカ「ほんと、そうだよね」

ヒデコ「話、まったく聞いてないよね」

ミカ「そうそう、その通りだと思う」


……


186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:26:11.12 ID:iVlOUhKto

―― 帰りのホームルーム


担任「さて、今日はこれで終わりだが――」


穂乃果「あー、終わったー」

真姫「おわったぁ」

ことり「真姫ちゃんも疲れたみたいだね」

海未「……」


担任「大事な話があるんだが――」


穂乃果「今日はどこ寄って行こうか?」

真姫「こうえんにいきたい」

穂乃果「うーん……それもいいけど」

ことり「ちょっと穂乃果ちゃん、先生の話が終わってないよっ」


担任「大事な話があるんだが、なぁ、高坂」


穂乃果「……はい、どうぞ」


担任「今日の昼頃、みんながよく利用する駅に爆破予告が出された」


海未「え――!」

ヒデコ「嘘……」

ミカ「ば、ばくはっ!?」

真姫「……?」

ことり「…………」

穂乃果「……」

フミコ「昼のサイレンってそれだったんだ……」


ザワザワ


担任「みんな静かに。駅は一時封鎖されたけど、
   いたずらと判明されたので見合わせていた電車は今は通常通り運行している」


海未「……ホッ」

ヒデコ「はぁ、びっくりした」


担任「悪戯と判断されたが警察は警戒しているらしい。
   だから今日は早く帰るように。遅くなるようなら必ず家に電話するんだぞー」


ミカ「はーい」

フミコ「爆破なんて、テレビの中の話だけだと思ってた」

生徒D「ねー。ニュースでは見てたけどまさか近所でなんて」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:28:16.93 ID:iVlOUhKto

担任「はい、それじゃ今日はこれで終わり。気を付けて帰るんだぞ」


穂乃果「今日も天気が良かったから、遊びたかったのになぁ」

ことり「今日はしょうがないよ。にこちゃんが練習しようって言ってたけど」

穂乃果「練習?」

真姫「れんしゅう?」

ことり「うん、発声練習しようって」


担任「そうか、それはちょうど良かった」


穂乃果「?」

担任「高坂たちの部活の取材がしたいって相談があってな」

穂乃果「取材?」

海未「部活とは……私たちもですか……」

真姫「おなかすいた……」

ことり「部室にお菓子あるから、もうちょっと我慢してね」


ヒデコ「明日の休み、どこ行こうか」

ミカ「海に、行きたいな」

フミコ「なんで急に海なの……?」

ミカ「私を呼んでいる気がする」

ヒデコ「気のせいだって」

フミコ「海に呼ばれるって怖くない……?」

ミカ「……確かに」


真姫「うみちゃん、こわくないのに」

海未「いえ、私ではありませんよ」


担任「あぁ、そこの3人も協力してくれ」


ヒデコフミコミカ「「「 ? 」」」



……


188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:30:47.84 ID:iVlOUhKto

―― 同時刻:音ノ木坂学院周辺


伏見「……」


後輩「しかし、あの爆破予告がハッタリだったとは……犯人は何考えてんスかね」

警部「俺が知るか。それより、あの予告に使われた紙からなにか分かったか」

後輩「バッチリッス」

警部「報告しろ。……おい、伏見、何を見ている」


伏見「え、いえ……なんでも」


後輩「屋上になにが……?」


伏見「はやく報告を」


後輩「だから、俺の方が先輩だっての。……えっとですね、
   みんな、文面に注目していたようですが、紙の裏に花が描かれてるんですよ」

警部「花……?」

後輩「そうです。調べたところ、薔薇、デイジー、パンジー、スミレ、
   チューリップ、オニユリ、朝顔、ダンディライオン、スイートピー」

伏見「……花…」

後輩「そして、アイリスの計10枚分ですね」

警部「ふむ」

後輩「はい」

警部「……?」

後輩「以上です」

警部「それだけか?」

後輩「……そうです」

警部「なにがバッチリだよお前……」

後輩「いや、手がかりこれしかなかったんですって!」

警部「その花から得られる共通点とかあるだろうが」

後輩「そうッスね。……セット販売とかあるかもしれないんで調べてみます」

伏見「もしかして……」

警部「何か分かるのか?」

伏見「小さい頃に読んだ記憶があって……。それと、花の名前に少しだけ知識があるんです」

後輩「読んだ……? 絵本とか童話……?」

伏見「うん……。確か、ナイフに文字が彫られてあったよね……?」

後輩「あ、あぁ……えっと……『vorpal sword』って」

伏見「アリス……」

警部「……は?」

伏見「気になって調べたんですその文字。
    それは鏡の国のアリスに出てくる剣。そして、さっきの花の名前……」

警部「それがあの児童小説がに共通してるってのか」

伏見「……はい、そうです」
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:33:39.29 ID:iVlOUhKto

後輩「警官を刺したナイフ、犯行予告に使われた紙に描かれた花」

警部「それが同一人物が出したと証明しているっていうのか?」

伏見「爆破予告はハッタリでも殺害予告は本気……かもしれません」

後輩「どうします、先輩。本部はもう爆弾が偽物だったことで警戒を緩めてますけど……」

警部「俺がもう一度本部へ行って掛け合ってくる」

後輩「でも先輩、さっき啖呵切ったからっ」

警部「根拠は乏しいが……事が起こってからじゃ手遅れだ」

伏見「……」

警部「伏見、あの子らをいつまで学校に足止めしておくんだ?」

伏見「陽が暮れるまで。……それで犯人逮捕です」

警部「何を待ってるかは知らんが、本当だな」

伏見「はい。これだけ証拠を残してますから」

警部「よし。それじゃ、お前はこれから最善と思う行動をしろ。
   日が暮れるまで報告はいらん」


伏見「分かりました」


警部「お前はここで見張りだ。なにかあったら連絡しろ」


後輩「はい!」


警部「ったく、なんでこんな雲を掴むような事件を追ってんだ……」

タッタッタ......


後輩「……先輩にも子どもがいるんだよ」


伏見「……」


後輩「だから、親の気持ちが分かるんだろうな……」


伏見「うん。――あんな気持ちはしたくない。――させたくない」


後輩「じゃあ俺、見回りしてくるわ」

スタスタスタ


伏見「私は――――」


……


190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:35:24.24 ID:iVlOUhKto

―― 屋上



海未「はい、わん、つー、すりー」


にこ「こうやって、こう」

凛「こうやって……っ」

穂乃果「こうだね!」


真姫「……」


ミカ「いいねいいね、撮っちゃうよ」

パシャッ

にこ「にこっ♪」

絵里「ちょっとにこ、集中して」

にこ「してるわよ」

絵里「シャッター切る度にカメラ目線してるでしょ」

にこ「本能だからしょうがないの☆」

花陽「反対から同時に撮ったらどうなるのかな……」


希「真姫ちゃん、もうちょっとこっちに来て」

真姫「……うん」


ことり「あの、真姫ちゃんはNGでお願いね」

ヒデコ「どうしてだっけ?」

ことり「今の真姫ちゃんを残しておきたくないの」

ヒデコ「……」

ことり「本来の真姫ちゃんに戻った時、
    知らない自分の写真を見たらきっと混乱するから……」

ヒデコ「……うん、わかった」

ことり「その代わり、にこちゃん達をたくさん撮ってね」

ヒデコ「オッケー」


真姫「……」


海未「わん、つー、すりー」


ミカ「いいよ、みんな笑顔がとってもいい!」

パシャパシャ


絵里「なんだかプロっぽいわね……」


ミカ「どんどん撮っていくよ〜」

パシャパシャ
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:36:21.93 ID:iVlOUhKto

タンタタンタンッ

にこ「……っ」

凛「よっとっ」

穂乃果「くるくるくるくる〜」

タンッ

穂乃果「キメ!」


ミカ「ぬ……!」


穂乃果「どうしたの?」


ミカ「ごめんごめん、フィルムが……」


にこ「デジカメでしょそれ!」


ミカ「ごめんなさい! 変なボタン押しちゃってっ」

ヒデコ「どれどれ?」


にこ「せっかくのキメポーズが……」

凛「久しぶりに踊るの楽しいにゃ〜」

穂乃果「あはは、そうだね〜」


真姫「……」


絵里「どうしたの、真姫?」


真姫「ん……」


絵里「?」

花陽「いっしょに、踊りたいのかな……?」


穂乃果「そうなの?」

真姫「……うん」

穂乃果「そっか……。じゃ、一緒に踊ろうよ」

真姫「うんっ」

希「といっても、真姫ちゃんトレーニングウェア持ってきてるん?」

穂乃果「……ううん、持ってきてないね」

絵里「それじゃ、私の貸してあげるから……着替えてきましょ」

真姫「うん」

ことり「あ、私も〜」

テッテッテ
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:37:59.78 ID:iVlOUhKto

にこ「でも、久しぶりに踊ってみると……体が鈍ってて思うようにいかないわ……」

海未「毎日の練習は必須ですね……」

穂乃果「というか、歌の練習のはずだったのに」

ヒデコ「やっぱりさ、躍動感ってのが欲しいわけよ」

ミカ「うんうん。動きってのが必要なわけ」

にこ「さっき撮ったのみせて」

ミカ「……どうぞ」

にこ「ふむふむ……なるほど」

ミカ「これなんか、素早い動きを想像させますね」

穂乃果「ブレてるじゃんっ! これブレてるじゃん!!」

にこ「っていうか、全部ブレてるじゃない!」

ミカ「ご、ごめんなさい〜!」

ヒデコ「まぁまぁ。素人だし」

にこ「あんた、自信満々に綺麗に撮ってあげますよ〜って言ってたわよね」

ミカ「すいません……。私、普段は自然を相手に撮っていまして」

穂乃果「嘘だよね」

ミカ「すいません。写真は記念撮影くらいです」

にこ「……」

凛「喉乾いたにゃ〜」

ヒデコ「フミコがお礼の飲み物用意してるから、もうちょっと頑張って」

凛「やった〜!」

希「飲み物?」

ヒデコ「理事長からの差し入れって、紅茶と冷たいドリンクを用意しています」

穂乃果「ふぅん……珍しいね?」

希「そうやね……」

ヒデコ「私も理事長から直接じゃなくて、先輩からなんで……詳しくは知らないんですけどね」

穂乃果希「「 ? 」」

にこ「じゃあ、止まっていたら綺麗に撮れるわけ?」

ミカ「……多分」

にこ「今度は自信なさそうになったわね」
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:38:51.45 ID:iVlOUhKto

凛「ふふ〜、凛はいい構図を思いついたよ!」

希「どういうの?」

凛「かよちん、向こうへ行って」

花陽「え、う、うん……?」

希「なるほど、夕陽をバックにするわけやね」

凛「そうだよ。かよちん、ストップ」


花陽「うん……」


ヒデコ「どうよ?」

ミカ「……よく分かんない」

にこ「なんで素人っぽくなってるのこの子……さっきまでのプロっぽい感じはどうしたの?」

穂乃果「にこちゃんが突っ込むからだよ」

希「お、ええやん〜。シルエットになってて」


花陽「そ、そう?」


ミカ「……」

パシャッ


海未「なにも言わずに押しましたね……」
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:39:44.05 ID:iVlOUhKto

―― 廊下


真姫「……」

絵里「どう?」

真姫「……うん、だいじょうぶ」

ことり「うん、どこも変じゃないね」

真姫「ありがとう、ことりちゃん」

ことり「どういたしまして〜♪」


理事長「あ……ことり」


ことり「お母さん……?」


理事長「……」


ことり「……?」


理事長「……」


ことり「どうしたの?」


理事長「ううん、なんでもない……」

スッ

ことり「な、なに……?」

理事長「髪に糸くずが……」

ことり「あ、うん……ありがとう」

理事長「……それじゃ」

ことり「うん、また後でね」

理事長「必ず、帰ってきて」

ことり「うん。……うん?」

理事長「……」

スタスタスタ......


ことり「……」


真姫「どうしたの?」


絵里「……なんでも……ないわ」


ことり「どうしたのかな、お母さん……」


真姫「?」


絵里「……もうすぐ陽が暮れるわね」


……


195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 12:40:58.64 ID:iVlOUhKto

―― 家庭科室


「もうアイドル部たちの練習は終わったころかしら」

フミコ「はい、ヒデコからメール来てました」

「それじゃ持って行ってくれる?」

フミコ「分かりました」

「手伝ってくれてありがとう。とても助かったわ」

フミコ「いえ、これくらい」

「お茶請けはこれくらいでいいかしら」

フミコ「そうですね。あまり多すぎてもいけませんから」

「それじゃ、よろしくね」

フミコ「先輩は一緒に行かないんですか?」

先輩「私は他にすることがあるから。……あ、そうそう」

フミコ「?」

先輩「穂乃果さんと真姫さんを理事長室に呼んでくれって頼まれたの忘れてたわ」

フミコ「じゃあ、ついでに伝えておきますね」

先輩「ありがとう、助かるわ。できるだけ急いでもらってね」

フミコ「分かりました。それでは……よいしょっ」

先輩「一人で持てる?」

フミコ「だい……じょうぶです」

先輩「ごめんね、あなた達の分も用意するから、後でここに来てちょうだい」

フミコ「はい。ありがとうございます……でも、もう日が暮れるから……私たちは先に帰ります」

先輩「そうね、早く帰れって先生に言われてるからゆっくりはできないか……残念」

フミコ「どうして、アイドル部だけ残ってるんでしょう?」

先輩「さぁ……わからないわね」

フミコ「おっと……それじゃ、行ってきます」

先輩「行ってらっしゃい。ちゃんとみんなに飲んでもらってね。高級品だから」

フミコ「ふふ、は〜い」


先輩「……必ず」


「飲んでくれないと、困るから」



……


196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 13:28:17.31 ID:iVlOUhKto

―― 夕暮れ時:アイドル部


フミコ「お待たせしました〜。……よいしょっと」


にこ「なにそれ」

フミコ「高級な茶葉を使用してますよ」

花陽「わざわざティーポットに淹れてくれたんですか……?」

フミコ「香りと味を最大限に味わってほしいって」

にこ「ふぅん……」

凛「冷えてるって言ってたよ?」

フミコ「それは、このクーラーボックスに」

凛「なにがあるのかな〜? 
  あ、スポーツドリンクとオレンジ、アップルがある! 飲み放題?」

フミコ「ある分だけは、そうなんじゃないかな」

凛「やった〜!」

海未「そこまで用意してくれていたのですか?」

フミコ「取材のお礼だそうだから」

にこ「ふふ、ついに私の……にこにーの偉大なる一歩が新聞に載るのよ!」

希「学校のブログやけどな〜」

にこ「分かってないわね、希……この小さな」

希「この小さな記事がやがて大きな存在へと変貌したうちらの奇跡の一文になるんやね」

にこ「そ、そうよ。……分かってるじゃない」

花陽「それじゃ、並べますね」

フミコ「ありがとう」


ガチャ


ことり「ふぅ〜、着替えてきたよ〜」

絵里「これは一体……?」

真姫「おちゃかい?」

穂乃果「おぉっ、お茶会っ! セレブだ!」

絵里「……このティーポット……どこかで見たような」

ことり「あっ! これ、すっごく高いポットだよ!」

にこ凛「「 えっ!? 」」

ことり「わぁ〜……このティーカップも!?」

にこ「い、いくらくらい……?」ゴクリ

ことり「5桁か……6桁……」

花陽「う、うそー!?」

穂乃果「じゃ、じゃあ一生に一度しか味わえないお茶会だね!?」

希「というか、なぜそんなものが……」

フミコ「そ、そんなに高かったんだ……」
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 13:29:30.79 ID:iVlOUhKto

にこ「セレブっていうのわね、何事にも動じないものなの……ことり、ついでくれるかしら」

凛「自分で注ぎなよ〜」

にこ「ふふ、セレブにこにそんなことできなくってよ」

絵里「あなたは誰なのよ……」

海未「にこのイメージするセレブってこういうのなんですね……」

ことり「はい、どうぞ」

にこ「ありがとう。……くんくん」

花陽「セレブがあからさまに匂い嗅いでる……」

にこ「この匂いは……あれね、ターメリックね」

真姫「カレー」

にこ「?」

真姫「カレーのスパイスだよ」

にこ「そうそう、カレーのスパイス。彼にはスパイスが必要なの」

凛「なにを言ってるの?」

穂乃果「しかも親父ギャグ……」

にこ「い、韻を踏んだのっ! ラップよ、にこラップ!」

希「セレブには程遠いみたいやな」

にこ「と、とにかく、いただくザマス……ずずーっ」

海未「キャラが定まっていませんね……」

絵里「もう何が何だか……」

フミコ「あはは……」

ガチャ

ミカ「フミコー? 帰るよー?」

フミコ「あ、うん」

ヒデコ「それじゃ、私たち帰るね」

穂乃果「今日はありがとー」

ヒデコ「いえいえ。それじゃ」

フミコ「片付けは明日やるから、適当に置いといてね」

ことり「ううん、私がやるから」

フミコ「う〜ん……うん、わかった」

海未「ありがとうございました」

フミコヒデコミカ「「「 ばいばーい 」」」

バタン


穂乃果「さてっと、私もセレブになってみようかな〜」

絵里「せっかく淹れてくれたんだから、いただいてから帰りましょうか」

凛「凛にもちょうだい、かよちん!」

花陽「うん、ちょっと待っててね」

にこ「うえ……まっず」
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 13:30:51.53 ID:iVlOUhKto

ガチャ


フミコ「ごめんごめん、伝言忘れてた」

海未「え?」

フミコ「穂乃果と真姫ちゃん、理事長室に急ぎで来てくれって」

ことり「お母さんが……?」

絵里「さっき出ていったように見えたけど……もう戻ってきたのかしら」

真姫「……?」

穂乃果「うん、わかったー」


フミコ「それじゃね」

バタン

穂乃果「せっかくだから、一口いただいてから……」

ことり「穂乃果ちゃん、お母さんさっき変だったから……なにか伝えたいことあるんだと思う」

穂乃果「え、そうなの?」

絵里「……そうね。すぐに行ったほうがいいかも」

穂乃果「わ、わかった」

海未「ちゃんとお菓子も残しておきますから安心してください」

穂乃果「そこまで欲張りじゃないよー」


にこ「ごくごく……、うぇ、やっぱりまずい」

希「口に合わない?」

にこ「そうみたい。凛、私にもスポドリとって」

凛「はいにゃっ」


穂乃果「じゃ、行こうか、真姫」

真姫「……うん」

穂乃果「チョコレート貰ってくね」

ことり「はい、どうぞ、真姫ちゃんも」

真姫「ありがとう、ことりちゃん」

ことり「いえいえ♪」


ガチャ


穂乃果「話ってなにかな……」

真姫「もぐもぐ」


バタン


花陽「こ、これが……セレブのティータイム」

絵里「そんな構えなくてもいいわよ。普通に飲めばそれで楽しめるわ」

花陽「さ、さすが絵里ちゃん、様になってる」

凛「ごくごく……にゃっまずい!」

希「あらら……凛ちゃんまで」
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 13:32:05.15 ID:iVlOUhKto

にこ「…………」

ことり「海未ちゃんも、どうぞ」

海未「ありがとうございます。いただきます……」ズズーッ

絵里「……」

花陽「……う、うん?」

凛「どう、かよちん」

花陽「うぅん……こういう味なんだ……。もっと……爽やかになると思ってたのに」

海未「そうですね……濁ったような」

希「ん……本当だ……」

にこ「……ん……んん」

絵里「どうしたの、にこ?」

にこ「な……なんだか急に……眠気が……」

ことり「ん〜……本当だ、前に飲んだ茶葉の方が美味しいかな?」

凛「…………」

花陽「あ……あれ……?」

絵里「花陽……?」

花陽「うぅん……どうしたんだろ……」

希「え……エリち……ッ」


絵里「どうしたの、希?」


希「こ…れ……なにか……入ってる……ッ」


絵里「う……うそっ!」

ガチャーン


ことり「あ……あれぇ……」

海未「な……なんです……これは……っ」


凛「すぅ……すぅ……」

花陽「……すぅ」

にこ「くかー……」


絵里「まさか……睡眠薬……!?」


ことり「ん……ん…………」


海未「……まさか……そん…な……」


ことり「すぅ……」


希「エリち……はやく……逃げ……て……ッ」


絵里「わ……私ものんで……」
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 13:33:27.54 ID:iVlOUhKto


希「いや……や……」


海未「く……ぅぅ……っ」


希「……うしない……たくな……い」


絵里「のぞ……みっ……だめ……寝ちゃ……だめっ」


希「……だれ……も……」


「うし……な……いた…く……な……い」


「のぞ……み……」


最後の抵抗として涙が零れ落ちた

東條希の涙

それをみた絢瀬絵里は微睡んでいく意識の中で先端の尖ったものを探す


「……っ……だ…め……」


それを手に刺して意識の回復を図ろうとした


だが見つからない


「……ほ……の……」


横たわり、出入り口のドアを薄れゆく意識の中、声に出す


危険が迫っているのだと


「に……げ…………」


校内に居ては駄目だと



「――……」


しかし声にならない声をこの部屋が飲み込んだ
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/26(月) 13:35:00.58 ID:iVlOUhKto


「すぅ……すぅ」


机につっぷして眠る星空凛


「……くぅ……すぅ」


椅子に持たれて眠る小泉花陽


「くー……すぅ……」


不自然な姿勢で眠る矢澤にこ


「すぅ……」


海未に寄り添うように眠る南ことり


「…………」


ことりを守るように眠る園田海未



「…………」


静かに眠る東條希


「……――」


険しい顔で眠る絢瀬絵里


バチバチンと音を立てて照明が消えた


沈もうとする夕陽だけが室内を照らす


しかしそれも束の間


次第に光を失った薄暗い部屋は不穏な空気が漂い始める


ゆっくりと忍び寄る死の誘い


眠る7人の少女たちは

抗うすべもなくただその時が来るのを待つだけだった


そのとき、部屋を覗いた者が――


「ァハハ」


――嗤った

202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:01:27.56 ID:gtFhDy4Ho

―― 理事長室前


コンコン


穂乃果「……」

真姫「もぐもぐ」

穂乃果「喉乾かない?」

真姫「のどかわいた……」

穂乃果「もうちょっと我慢してね。美味しい紅茶が待ってるから」

真姫「うん、わかった」


コンコン


穂乃果「……おかしいなぁ」

真姫「いないね」

穂乃果「居ないねぇ……呼ばれたのに居ないなんて……なにかあったのかな」

真姫「またあとにしよう?」

穂乃果「でも、急ぎでって言ってたし……」

真姫「ジュースのみたいから」

穂乃果「……うん、分かった。それじゃ、後にしよう」

真姫「うん、ありがとう、ほのかちゃん」

穂乃果「ふふ、なんでお礼言うの?」

真姫「わがままいったのに、きいてくれたから」

穂乃果「そんなわがままじゃないよ〜」


担任「お、高坂」


穂乃果「あ、先生」

担任「取材は終わったか?」

穂乃果「あれって取材なんですか? なんていうか、適当っていうか……」

担任「あはは。悪いな、あれは取材っていうよりネタ集めって程度なんだよ」

穂乃果「ネタ?」

担任「学校のサイトに、アイドル部のことを載せようと思って。理事長の提案でな」

穂乃果「……そうだったんですか。あの、それで、理事長なんですけど」

担任「ん?」

穂乃果「どこ行ったか知りませんか? 呼ばれたのに居なくて」

担任「変だな……説明に行ったはずなんだが……」

穂乃果「説明?」

担任「いや、なんでもない。まぁとにかく……今日はどうするんだ、お前たち」

穂乃果「お茶会をして、帰ります」

担任「まぁいいけど、ほどほどにな。それじゃ、見回りがあるから」

穂乃果「……はい、それでは、失礼します」
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:03:01.87 ID:gtFhDy4Ho

担任「暗くなったから親御さんを呼んで帰るんだぞ。今日は用心して帰れ」

穂乃果「はい……分かりました」


スタスタスタ


穂乃果「変な先生……。早く帰れって言わないなんて……」


真姫「……どこいったのかな」


穂乃果「どうしたの?」


真姫「きのうもきょうも逢ってないから……」


穂乃果「……そういえば、耳鳴りしなくなった……」


「あ、いたいた。穂乃果さ〜ん」


穂乃果「え?」


「ちょうど良かった〜。絵里さんに用があるんだけど、今は部室にいるの?」


穂乃果「は、はい……部室です」


「一緒に行ってもいいかな」


穂乃果「……はい、いいですよ」


「……よかった」


穂乃果「……」


「ふふ、どうしたの? 私の胸なんか見て」


穂乃果「あっ、すいませんっ。えっと……3年生ですよね」


「うん、そうだよ。あ、リボンを見たんだね」


穂乃果「そ、そうです。見たことないなぁって思って……」


「私、最近イメージを変えてみたの。眼鏡も変えて。髪もストレートにして」


穂乃果「へぇ、そうなんですかぁ……」


「立ち話もなんだから、歩こうよ」


穂乃果「……そうですね」


「なんだかぎこちないなぁ。先輩の前だからって気にしなくてもいいのに〜」


穂乃果「あ、あはは……」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:04:21.55 ID:gtFhDy4Ho

真姫「……」


「真姫さん? 空になにかあるの?」


真姫「ううん。ないよ」


「ずっと眺めてたけど」


真姫「ひみつ」


「ふぅん、そっか〜。なんだか可愛いね、真姫さんって♪」


真姫「……」


「ねぇ、私の顔に……――見覚えある?」


真姫「?」


穂乃果「……?」


「ほら、私の顔……よく見て」


真姫「……ううん、みたことない」


「そっか……残念」


穂乃果「小さい頃に逢ったことあるんですか?」


「そんなに昔じゃないけど、あるよ。とっても忘れがたい場所でね」


真姫「?」

穂乃果「演奏会とかかな?」


「そんな華やかな場所じゃないけど」


真姫「どこ?」


「どこで逢ったか、知りたいってこと?」


真姫「うん」


「あれ? 真姫さんって……なんだか子供みたいな喋り方するんだね」


穂乃果「――?」

ドクン


「もっとクールな人かと思ってた〜」


穂乃果「あ、あの……真姫のこと、知らないんですか……?」


「うん、知らない。……それがどうしたの?」


穂乃果「い、いえ……なんでも」
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:06:15.21 ID:gtFhDy4Ho

真姫「ほのかちゃん、のどかわいた」

穂乃果「そ、そうだね……も、戻らないと」


「うん、早く行こうよ。みんな待ってるんでしょ?」


真姫「うんっ。たのしみ」


「本当に子供みたい」


真姫「?」

穂乃果「――ッ」

ドクン 
 ドクン


「穂乃果さん、急にどうしたの、顔色が悪いみたいだけど」


穂乃果「え、あ、えっと……私も喉が渇いたなって……思って」


「そうなんだ……。部室はあの部屋だよね」


穂乃果「そ、そうです……アイドル部……」


「……」


穂乃果「あ、あの……先輩は……最近、学校休んだりって……しましたか?」


「……あぁ、うん。休んだよ……風邪をひいてしまって」


穂乃果「えっと、じゃあ、あの……私たちの活動って知ってますか?」


「……もちろん。この学校では有名だから、あなたたち」


穂乃果「そうです……ね。ライブも何回か行いましたから」


「最初は3人で踊ったのよね。講堂のステージで」


穂乃果「そうなんです。とっても……緊張しました。……観てくれました?」


「もちろん。衣装が可愛かったし、なんだか初々しくて……それも良かった♪」


穂乃果「い、いやぁちょっと照れます。でもたくさんの人に見てもらって嬉しいですね」


「立派よ。あんなに堂々とみんなの前で歌えるなんて簡単にできることじゃない」


穂乃果「――ッ!」

ドクンッ 


「初めてのライブであんなに声援をもらえるなんて――」


穂乃果「は……ッ……ぅッ」

ドクン

 ドクンッ
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:07:51.27 ID:gtFhDy4Ho

「どうしたの?」


穂乃果「あ、あの……絵里ちゃんに用事ってなんですか?」


「困ったことがあるから、生徒会長に聞きたいことがあって」


穂乃果「明日じゃ……ダメなんですか? 希ちゃんのクラスも知っているでしょ?」


「変なこと言うのね。二人は同じクラスじゃない。脈絡がないこと言ってるの気付いてる?」


穂乃果「そ、それは……えっと」


ドクン

 ドクン

  ドクンッ


真姫「ほのかちゃん……?」


「……」


穂乃果「あ、あれ……そうだっけ……?」


「そうよ。間違えたりなんかしないから」


穂乃果「ま、真姫……ちょっとこっちに来て」

真姫「?」


「……」


穂乃果「お、お母さんに、で、電話してっ」

真姫「……うん」

穂乃果「遅く……な、なるからって」

ピッポッパ

真姫「ほのかちゃん、だいじょ――」

穂乃果「え、えっと、はいっ。そのまま話せばいいからっ」

trrrr

真姫「ほ、ほのかちゃん……っ」

穂乃果「あ、あはは……な、なんだろねっ、の、のどがかわいて声が――」


「……」

スッ


真姫「あっ」

穂乃果「あッ!」


『はい、もしもし、伏見です』
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:09:39.35 ID:gtFhDy4Ho

「お母さんって……刑事さんなの? そう表示されてるけど」


穂乃果「そ、そうなのっ。お母さんっ、ま、まだ新米でッ」


『もしもし、高坂さん?』


「声、震えすぎ。……どうしてバレちゃったのかな」


穂乃果「か、返して……っ」


『もしも〜し?』


「……あ、あのすいませんっ」


『え? あなたは……?』


「穂乃果の友達、フミコって言います。ちょっとふざけてたら押してしまってっ」


穂乃果「か、返して!」


「ごめんって穂乃果〜。刑事さんに知り合いがいるからかけてみようってなって」


『ふぅん……』


「本当にかけるつもりは無かったんですっ。すいませんでした!」


『まぁ、そういうことならいいよ。気を付けてね』


「はい。……もう、穂乃果ってば〜」


プツッ


穂乃果「な、なに……っ」

真姫「このひと、こわい……」


「……またかかってきたら面倒ね。マナーモードで充分か」


穂乃果「あ、あなた誰なの!?」


「さっきの変な質問は私を警戒してたのね。ほら、真姫ちゃんは、こっちにッ!」

グイッ


真姫「いやっ!」


「はい、大人しくしててね」

ガチャリ


真姫「やぁっ」


穂乃果「ま、真姫!」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:16:43.63 ID:gtFhDy4Ho

「フフ見て、この姿」


穂乃果「……ッ」


「アイドルでこんなに可愛い子が、後ろに回された手に錠がかけられている。
 見る人が見れば、とっても美しい画になると思わない?」


真姫「やぁ、いやー!」


穂乃果「止めて! 真姫を返して!」


「写真に撮って、売りつければいい値が付きそう。世の中腐ってるから想像以上かも」


穂乃果「ふざけないでよッ!!」


真姫「いやぁーー!! やぁぁあああ!!」


「しーっ、しずかに……ほら、穂乃果ちゃんが怖い顔してる」


真姫「ほ……ほの……ちゃんっ」


「そうよ、そのまましずかにしててね」


穂乃果「真姫から離れてッ!」


「あなたも静かにして。真姫ちゃんに傷をつけたくないでしょう?」

スッ


真姫「ひっ――!」


穂乃果「――!」


「私が何者か、もう知ってるわよね……?」


穂乃果「真姫を……離してっ……お…お願いだからっ!」


「これはあの警官を刺したのと同じナイフ。切れ味は知ってるでしょ、二人とも」


真姫「ほ、ほのぁちゃ……んっ」


「それにしても、本当に子供みたい。変ね……私の顔も覚えてないし」


穂乃果「真姫は……あの事件のショックで……精神が幼い頃に戻ってるから……ッ」


「そうなんだ……。そういうことってあるのね」


穂乃果「だからッ! 知らないのは当然なの! どうして放っておいてくれないの!?」


「さっき、しずかにしてってお願いしたよね」

スッ


真姫「やぁ……ッ」

穂乃果「……ッッ」
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:18:20.84 ID:gtFhDy4Ho

「別に、口封じに来たわけじゃないのよ」


穂乃果「〜〜ッ!!」


「……すごく怒ってるのね。さっきまで声が震えてたのに」


穂乃果「当たり前でしょ!!」


「さっきから大声出してるけど、誰も出てこないの気付いてる?」


穂乃果「え?」


「中でみんながどうなってるのか、教えてあげる」


穂乃果「……」


「絶望がそこにあるのよ。開けて確かめてみて」


穂乃果「――」


「すごい。さっきまで顔を赤くしていたのに真っ青……本当にこんな表情になるのね」


真姫「やぁ……っ……いやぁっ」


「小説ではありきたりな表現なのに」


穂乃果「う……うそ……でしょ……」


「嘘かどうかは開けてみればわかるでしょ」


穂乃果「……いや……っ……うそだ……そんな……の」


「駄目、座らないで。自分の足で歩いて自分で確かめるの」


穂乃果「……うそだ……うそだ……うそ…だ……うそだ絶対に嘘だ」


「しょうがない。いらっしゃい真姫ちゃん」


真姫「ほのかちゃんっ……ほのかちゃんっ……たすけてほのかちゃんっ」


穂乃果「あ……あ……ッ……真姫……!」


「あっさりとここまで来れるなんて……やっぱり導かれてるのね……私」


穂乃果「どうして……どうしてこんなことするの……っ」


「あなた達の命に価値があるからよ――」
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:26:55.22 ID:gtFhDy4Ho

―― 命の価値


彼女はそれについて小さなころから考えていた。

それは物心ついたころ両親を事故で失ったころに遡る。

彼女の両親は多忙を極め、仕事先から仕事先へ向かう途中の飛行機事故でこの世を去った。


残ったのは多額の遺産

それと引き換えに彼女は親の愛を永遠に受けることがきなくなった。


親の死を知ったのは報道番組。

ニュースキャスターが悲しそうに搭乗者数を読み上げていた。

その中の数字に親二人も含まれていることはまだ知らない。

知ったのは、そのあと。

名前が文字となって表れた時。

隣で彼女の世話をしていた家政婦が絶望の色を示す。

それを見て彼女は知った。

同姓同名の他人ではなく私の両親の名前なんだと。
嘘や悪戯で誰かが私を騙しているわけではない、現実なのだと。


名前が表示されたのはそれが最初で最後だった。

それからは死亡者数としてだけ報道されていった。


彼女は考えた。

名前から数字に変わった両親の命の価値について。


それから遠い親戚の叔父と叔母が彼女の家に住むことになった。


彼女はただ潰れていく時間の中で生きていく。


そして小学4年生のとき、彼女の中に魔物が生まれることになる。


クラスメイトの一人が誕生日なのでみんなでお金を出し合ってプレゼントを買おうということになった。

彼女は根が暗かったのでそれに誘われることはなかった。

だから、チャンスだと思いその集められたお金を盗むことにした。

みんなが困れば困るほど、誕生日の子の価値が上がるのだと思っていた。

実際にはその通りだった。

学級で問題になり、保護者を集めた説明会があり、日が経つにつれ騒ぎが大きくなっていった。


彼女は知った。

その子の命にはとても価値があるのだと。


担任の先生にお金を渡しに行く。

驚いていたが、お金を受け取り、この問題は解決してみせると言ってくれた。


彼女は安心した。
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:28:54.46 ID:gtFhDy4Ho

その日の放課後。

叔母と叔父に連れられ、繁華街を歩いているとき、担任の姿を見た。

渡した封筒を手にして歩いていた。

不思議に思った彼女は担任の行動を凝視した。


担任は自然な足取りで歩いて行き、ゴミ箱の前で止まった。

この問題を無かったことにする為、ゴミを捨てるかのように放り込んだ。


彼女は理解した。


誕生日の子には価値がないのだと。

この担任の先生にも価値がないのだと。


彼女の中に魔物が生まれた。


クラスではその事件は有耶無耶なままに忘れ去られていった。

その教師とは卒業まで目を合わすことはなかった。


卒業式の夜。
アルバムをめくっていく。

自分の写真が一枚しかないことを確認してゴミ捨て場に向かった。

小学校で過ごした時間とともに卒業アルバムを捨てた。


中学に上がるころ、叔父と叔母が田舎に帰ると伝えた。

彼女の面倒は見切れないと。

財産には手に付けていないから、それで生きて行けと。


広い家には彼女のみが住むことになった。

それが両親の遺したすべてだった。


それから1年、叔母が雇った家政婦が世話をしていたが、
ふと思い立ち、叔父に連絡する。


家を売り、お金だけが残る。

それで彼女は両親の命の価値を知った。


新しいマンションで暮らす最初の夜。

彼女は両親が死んで初めて泣いた。

それが中学2年生の冬だった。


中学卒業の夜、また同じように卒業アルバムを捨てた。


高校に入っても彼女は命の価値を考える。

それらの本を手当たり次第に読んだ。

哲学書は勿論、オカルト雑誌や犯罪に手を染めた宗教団体の本も読んだ。

それでも彼女は理解できずにいた。
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:31:46.71 ID:gtFhDy4Ho

そして、とある街で起こった悲惨な事件。

彼女の歳の近い学生が体をバラバラにして殺された。

この猟奇的な事件は一時的な報道で終わってしまった。


彼女は考える命の価値を。


ネット喫茶にて事件のあった地元の警察署へメールを作成する。

もう一度、あの事件を取り上げてほしいと、公表してほしいと。

そうしないとまた命が奪われることになると。

それは犯罪をほのめかすような文章だった。

警察に目を付けられる可能性を考えてネット喫茶を選んだ。

文章を書きあげて彼女は考える。

どうやってこの場を去ろうかと。

入店のときは適当な連絡先を筆跡を気を付けながら記入した。

だがお金のやりとりをする退店の時はそうはいかない。

考えあぐねているとき、事は起こった。

別の部屋で利用客同士のケンカが始まったのだ。

大声を張り上げ怒鳴りあって騒いでいる。

送信ボタンを押した彼女は少し多めの金額を支払い、
ケンカから逃げるよう振舞い、その場を後にした。


思えばそれが最初の導きだった。


高校の本だけでは彼女の知識欲は満たされなかった。
ならばと思い、本屋へとアルバイトを探した。

平均的な学力と平均的な生活をしていれば後々困ることは無いのだと思っていたからだ。

バイト先の店長は彼女の容姿を見て気に入り、採用する。
彼女はそれに気付いたが、すぐに期待外れに終わると理解していた。
自分の性格は自分がよく知っていたのだから。

そしてこれが二つ目の導きになる。


バイトから帰る途中、チンピラに絡まれた時。
彼女の人生は大きく揺さぶられることになる。


肩をゆらして歩く男に彼女は避けようとした。
だが、男は彼女にぶつかるようわざと歩いた。

彼女は謝るが男は聞かなかった。

口汚い言葉で彼女を罵る。

謝り続ける彼女の声に男は調子づいていった。


その時、彼女は思った。

この人間の命に価値はないのだと。


小さい頃から毎日欠かさずに読んでいる小説がある。
叔母が作ったご飯が冷めるほどに夢中になり
叔父が心配するほど夜が明けるまで読み続けた小説。

その物語に登場する生物の首を撥ねた剣をモチーフにしたナイフが彼女の手元にあった。

衝動買いした日から肌身離さず持ち歩いているナイフ。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:34:11.68 ID:gtFhDy4Ho

その時、彼女に棲み着いていた魔物が顔を出す。


彼女は男を切りつけた。

価値のない人間は生きている意味がないと。


腕を切りつけられた男は彼女の表情を見て恐怖する。

その顔に感情が無かったからだ。

恐れや怒り、後悔や殺意など、男に向けられる感情は一つとしてなかったからだ。

あるのは死んで当然だから消えてくれという眼の意思だけ。


男は逃げた。


彼女はそれを見て近くのコンビニのトイレに入りナイフに付いた血を洗い流した。

理由は大切な物が汚されて嫌だったから。ただそれだけだった。


そして、なるべく人通りを避けて歩く中、背後から呼び止められる。


その人は警官だった。

いろいろと質問され、当たり障りなく答えていたが、
交番まで来てくれと催促されてしまう。


そこでまた魔物が蠢く。


無線で連絡しようとしている警官の背後に回り
ナイフをハンカチで持って躊躇なく刺した。

このとき、刺した彼に友人や恋人、家族との繋がりが視えたのなら、
彼女はその手を引いたのだろう。

しかし、彼女には一切の繋がりがない。

だからそれに気づけない。

そのせいで刺したナイフをもう一つ深く突き刺してしまう。


苦しそうな声を出して倒れる警官。

彼女はその瞳から光が失っていく様を見つめていた。

すると背後から呻き声が聞こえてきた。


振り返ると、そこには少女の姿。


その向こうから悲鳴が上がり、彼女はその場を後にした。

血で染まった上着を脱ぎながら家路へとつく。


風呂に入りながら少女の顔を思い出していた。

切りつけた男でもなく、刺した警官でもなく、少女を思い出していた。


次の日、彼女は日常へと身を置いた。

それはもう二度と味わえないからと、最後に経験しておこうとそう思ったからだ。


しかし、いつまで経っても警察は迎えに来ない。

失ったナイフの代わりに手作りの人形を持ち歩くことにした。
名前を『アリス』と名付けた。

そのアリスに話しかけた。返事をくれたような気がした。
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:36:27.66 ID:gtFhDy4Ho

休日。

バイト先に犯行現場を目撃した少女が来店してきた。


彼女は警戒する。

ポケットに入れてあるもう一つのナイフを握りしめた。


友人と一緒だから、少女の命を奪い、その命の価値を教えてもらおうと思った。

そして自害する。それが彼女の人生の最後に相応しい結末だと考えていた。


だが、少女は彼女の顔を覚えていなかった。


アイドル雑誌を買って出て行った。


彼女は考えた。

そして答えに辿り着く。

自分自身の命にも価値が無いのだと。


少女の友人たちが話していたスクールアイドルという単語。

ネットで調べると簡単に詳細を知ることができた。

さらにこの地域の学校と含めて調べる。

すると少女たちの名前が判明した。

ライブ映像も全部見た。

彼女は確信した。


少女たち、

西木野真姫を含めた9人の命には価値があるのだと。


すると誰かが囁いた。

その価値をさらに高めるべきだと。


その声に従い、脅迫状を打ってプリントした。

封筒を用意しているとその紙が消えた。

その後、相手に届いたと知る。


同時に彼女自身に天使が憑いているのだと確信する。


見守ってくれているのだと、導かれているのだと、錯覚する。


それ以降、彼女は自分の世界が輝いたように感じていた。


西木野真姫との出会いが彼女の人生を大きく変えた。


彼女は考えた。

西木野真姫だけは生きていてほしいと。



真姫「…っ……ぐすっ……うわぁぁん」
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:39:50.69 ID:gtFhDy4Ho

「ここで9つの命が絶たれ、私の行動の理由を知れば、去年の事件を思い出すことになる」


穂乃果「わけが分からない……やめて……やめてよ……おねがいだから!」


「そうでしょうね。分からないわよね。私たちと同じ年頃の子たちが殺されたってこと」


真姫「わぁぁぁんっ」


穂乃果「真姫……だいじょうぶだから……真姫…こっちを……ほのかを見てっ」


「やっぱり……関心なんて無いよね」


真姫「ほのっ……ほのかちゃん…ほのかちゃんっ」


穂乃果「まき……だいじょうぶだよ……わたしが付いてるから」


「真姫ちゃんを見逃してあげる」


穂乃果「……」


「そのかわり、あなたが身代わりになるのよ穂乃果」


真姫「ぅぅ……っ……ぐす……うぅぅっ」


穂乃果「……わかった」


「いらっしゃい、穂乃果」


穂乃果「……」


「そう、これでいいッ」

グイッ


穂乃果「……ッ……まきを、離してッ」


「それじゃ、解放してあげる」


真姫「うぅぅっ……ほのか……ちゃんを……はなしてっ……うぅぅ」


穂乃果「……こんなこと……して……いいと思ってるの……?」


「思ってない。人を殺すのだから……赦されないのは当然でしょ」


穂乃果「だったら……!」


「もう時間が無いからお喋りはおしまい。真姫ちゃん、こっちを見て」


真姫「うぁぁあん……ほの……っ……ほのかちゃぁんっ」


穂乃果「まき……ごめん……ごめんね……」
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:44:19.47 ID:gtFhDy4Ho

「幼児化してるのは計算外だったけど……まぁいいか。ほら、これ飲んで」


穂乃果「むぐっ……!?」


「みんなも飲んだから、あなたも飲まなきゃ駄目よね」


穂乃果「ごくっ……ごく……っっ」


「真姫」


真姫「ほのかちゃんっ……ほのっちゃんっ」



「そうよ、ちゃんと見ててね」



穂乃果「や……いや……いや…だ……」



「今、あなたたちの――」



真姫「ほのかちゃんッ!」



「――物語が終わるから」



「ま……き……」

「ほのかちゃん!」



睡眠薬を無理に飲まされた穂乃果は薄れゆく意識の中で真姫を見る


穂乃果は心の中で強く強く願った。

真姫を助けて、と。


穂乃果の首にナイフを当てて彼女は確認する


真姫が穂乃果をちゃんと見ているのかどうか


「ァハハ」


彼女は嗤いながら涙を零した。

穂乃果から伝わる体温を感じたから。

それは人生で初めての温もりだったから。


だが、彼女は止まらない

8人と自分を殺して9つの犠牲を払うことで死んで失われた命の価値が高められると信じているのだから

彼女という異分子

それがこの事件の謎を深めていくことを彼女は計算していた

警察やマスコミが調べれば調べるほどに去年の犠牲になった学生の命
そして、高坂穂乃果を含めた8人の命の価値が高まると

そう信じているのだから
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 12:49:09.29 ID:gtFhDy4Ho

真姫は覚えていなければいけない

この瞬間を

穂乃果の命を奪う私の存在を

そしてこれから奪っていく様を

8人の命を1人の少女に背負わせる

それは苦しい人生になるだろう

だがそれは当然なのだと

価値ある命なのだから。

そう思いながら穂乃果の首に当てていたナイフを一気に引く――


「……ッッ」


「…………――ぅ」


「――――ぁ――?」



薄暗い廊下の中で羽が舞う


それは西木野真姫だけが視ることのできる世界――


「あい……ちゃんっ……たすけてッ!」
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 13:05:30.66 ID:gtFhDy4Ho

――逢魔が時


昼から夜に移ろう時刻


太陽と月の光が生み出す曖昧な世界


その世界では人と魔物が遭遇しやすくなると云われている


常に隣にあった世界が混ざり合う

西木野真姫が視ているもう一つの世界――



(申し訳ありません、真姫様。遅れてしまいました)



少女が舞い降りる

ゴスロリの服を身にまとい、特徴ある髪型、幼くも整った顔立ち。
それは西洋人形をイメージさせる姿。

そして両腕で人形を抱える様が可憐な少女を思わせる。

しかし可憐なだけではなく恐ろしい姿でもあった。

頭に山羊の角が、背中には蝙蝠のような羽が生えている。

それは悪魔を彷彿とさせる姿でもあった。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 13:07:41.55 ID:gtFhDy4Ho

――

クロス元の作品

なないろリンカネーション
https://www.youtube.com/watch?v=yOn5lttcPTY

――
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 13:16:30.25 ID:gtFhDy4Ho

「あいちゃんっ……ほのかちゃんをったすけてっ」


その姿を見ても怯まない真姫は叫んだ。


(この人が事件の犯人なのですね。……迂闊でした)


「ぁ――ぁぁ――」


穂乃果を抱える彼女は何が起こっているのか理解できていない。

身動きできないでいた。


悪魔の姿をした少女が、眠る穂乃果をゆっくりと引きはがす。


(校内に侵入してくるとは……。申し訳ありません、真姫様)

「うぁぁぁんっ……ほのかちゃんっほのかちゃぁぁんっ」

「…すぅ……」


傷一つなく真姫のところへ運ぶと大声をあげて泣いた。


(今、手錠を壊します)


人差し指で触るとそれが壊れた。


不安と恐怖でいっぱいだった真姫の心が穂乃果を抱きしめると安心してさらに泣いた。


「もう大丈夫だよ、だから泣かないで真姫ちゃん」


少女が抱えている人形が喋り、真姫に話しかけた。


「うんっ……うんっ……あり…がとう……ウーパちゃんっ」


「これくらいどうってことないさ。ね、アイリスちゃん」


人形が少女、アイリスに話しかけた。


(はい。危なかったですが穂乃果様の強い声が届きました。それに気づけて良かっ――)


笑顔で言いかけたところでアイリスの顔が廊下の向こうへと動いた。


「……?」


アイリスが視た方向へ真姫も視線を動かす。


すると


廊下の向こうから小さな足音が聞こえてきた。
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 13:21:01.78 ID:gtFhDy4Ho

(真姫様、早くこの場を離れてください)


「え……で、でも……っ」

「すぅ……すぅ」


寝ている穂乃果を抱えては移動することはできない。

その時。


「―――はぁっ、はぁ」


金縛りにあっていた彼女が動いた。

アイリスが彼女を縛っていた力が無理やり解除されたからだ。


(あれが、伊予様の対なる者……――疫病神)


廊下の奥から姿を現したのは少年だった。
中性的な顔立ちで英国の子供の服装を身にまとっている。


「そっちが出てくるのは、フェアじゃないよね。だからボクも干渉させてもらうよ」


子供の姿をした者が歩みながら言った。


(……あなたが、彼女を唆したのですか?)


アイリスが問う。


「これはテレパシー? 君は何者なの?」

(アイリスは、鬼です)


何度も何度も少年を縛り付けるよう力を使うアイリス

だが些細なことのように気にも止めずに歩いてくる少年


「ボクは手紙を届けただけ。ここまで来られたのは彼女の運さ」


(…………)


「……アリス……私は間違えているの……?」


状況が理解できない彼女が呆然とした顔でつぶやいていた。


「鬼か……そうか。……でもボクは疫病神じゃないよ。
 あんなねっちりとした性格じゃないからね」


(……真姫様、早く逃げてください)


「で、でも……っ」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/27(火) 13:40:54.33 ID:gtFhDy4Ho

「9人をここへ集めたのは失敗だったね」


(いえ、人間相手では警察でも充分でした。
 ですが得体のしれない存在から9人全員を守るにはここが最適だったのです)


「ふぅん、そうなんだ。とりあえず、ボク達は退場しようじゃないか」


そう言いながら少年は何も持っていない両手を振り上げた。


(え……?)


アイリスは相手を理解できないでいた。

だから何もできずにいた。


「ボクは死神さ」


振り上げた両手に大きな鎌が突如出現し
アイリスの上半身を刈るように振り下ろされた。


(……――!)


鎌はアイリスの体をすり抜けたが

アイリスの命は刈られてしまった


「――」


人形が両手から零れ落ち、
糸の切れた操り人形のようにアイリスは地面へと崩れ落ちた。


「あいちゃん――ッ!」


真姫は絶望を叫ぶ。

倒れたアイリスの瞳に光は無かった。
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 00:43:05.58 ID:mwOZ0t6Co

「……ここまで来て……どうして……止めるの……?」


混乱する彼女に死神が近寄る。


「もう邪魔するものはいないよ。さぁ立って、目的を完遂させよう」


「私は……後戻りできない……のに……」


死神が囁き続ける。


「君がここまで来たのはボクの力なんかじゃない。君自身の力さ」


「……どう……して」


「その制服を手に入いれたのも、この学校に今教師がいないのも君が知恵を絞ったからさ」


「……」


「もう誰も君を止められない」


「……うん」


「大丈夫。彼女たちの死は後で必ず意味を持つから。死神のボクがそう言うんだから」


「……そうか……わかった」


彼女は立ち上がる。

床に転がったナイフをもう一度手にして。


「9人じゃなくて、10人必要なんだね、アリス」


彼女は真姫を見る。


「あいちゃんっ、ほのかちゃんっ! おきてっ、おきてよぉ!!」


息をしていないアイリスを揺さぶる。
深い眠りに落ちた穂乃果を揺さぶる。

しかし二人とも起きることはなかった。


「フ……君がそういうならそれでいいさ。ボクが見守っているよ」


「……ごめんね……真姫」


彼女の目に悲しみの色が映る。


「ほのちゃん〜〜っ! あいちゃん〜〜! うわぁぁぁああん!」
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 00:44:29.55 ID:mwOZ0t6Co

「本当は生きていて欲しかったんだけど……ごめんなさい」


大粒の涙を流して泣き続ける真姫の前に彼女は膝をついて心から謝る。


「ひっ――!」


その姿を見た真姫は凍り付いた


「すぐにみんなも真姫の元に送るから……ね」


真姫の頬に手を当て罪の赦しを請う。

しかし真姫の目に映るのはただの化け物でしかなかった。


「ごめんね――真姫――」


ナイフを引いた彼女は泣いた

独りになったあの夜に泣いて以来泣くことはなかったのに

真姫の前で二度も泣いた


それを見た真姫は


「……」


しずかに彼女をみつめた


「……」


そのまっすぐな目を見た彼女はナイフを引いたまま硬直する


「……っ」


「どうしたの?」


彼女は真姫に問う


「どうして……ぐすっ……ないてる……の……?」


真姫は問いかける

彼女自身分からない答えを


「これから殺される相手に心を開いてはダメ」


真姫の喉元へとナイフが一直線に襲い掛かる
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 00:48:41.84 ID:mwOZ0t6Co

「うぅ――」

「――ぅ――ぁ――また――?」


彼女と真姫の体が縛られ身動きを封じられた


「また君か」


床に倒れるアイリスを見下ろして死神が言った


「――」


死の淵にあるアイリスが最後の力でこの場にいる人間の動きを止めている


「……」


死神はもう一度鎌を振り上げた

今度こそ息の根を止めようと


「……?」


廊下の向こうから何かを感じた

それは死神がこの世に生まれて初めての感覚


猛獣から発せられるような殺気が死神に襲い掛かる


「……なんだろう?」


4つの足で移動してくるナニカが居る――


そう気づいた時にはソレは死神に飛びかかっていた



「オラァァァアアアアッッ!!!!」



勢いをそのままに死神の顔を蹴り飛ばす


「うっ――!?」


死神は数メートル吹き飛ばされる

その衝撃で周りの窓ガラスが粉砕した


「うぁっ――!?」


真姫に襲い掛かる彼女もそれに巻き込まれ2メートルほど飛ばされた
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 00:52:29.34 ID:mwOZ0t6Co

寝ている穂乃果の髪が激しく揺れる
死が迫っていた真姫は横に倒される


「…………」

「ぁ……ぅ……ぅ……」


死神を蹴り飛ばした者の姿を視た


短いスカートの着物を身にまとい、頭には猫耳が付いていた


「一遍死ぬかガキィィイイ!!」


愛嬌ある姿には不釣り合いな形相で怒鳴り上げている


「葵――、人命救助が先だ――!」


遠くから男の声が聞こえた


「…………」


横たわる真姫
その心は限界に近づいている

何度も殺されかけ、何度も大切な人の命を奪われかけた

恐怖と絶望を何度も繰り返し疲弊していた



「……」


呆然と座り込む彼女もまた限界にあった

命を奪おうとする度に止められている

何度も覚悟していた先へと進めず混乱もしていた

導かれてここまで来たのに、寸前のところで止められていたからだ



「ご主人! アイリス息してない!!」


うつ伏せに倒れるアイリスを確認した猫耳の少女が叫んだ


「はぁっ……はぁ……っ……アイリス!」


息を切らして駆け付けた男の名前は、加賀見真

加賀見家第八代当主
鬼を使役する特殊な家に生まれた真は3人の鬼を従えている


長女、葵

次女、芙蓉

三女、アイリス


それぞれが特殊な力を持ち、主である真のお役目の力になっている
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 00:55:23.97 ID:mwOZ0t6Co

「……ぐッ……うがぁぁあッ――」


アイリスの側まで駆け寄ると用意していたカッターで手首を切って血を流した


鬼は日常生活の中で枷を付けて生活している

本来の力を抑えていなければ主である人間に危害を与えてしまう為だ


その枷を外すには主である真の血が必要だった


「……やばい、逃げようご主人」


仰向けに倒れている死神を見て呟く葵


「アイリス……起きるんだっ、アイリスッ!」


流れ落ちた血はなにも変化なくアイリスの顔を汚すだけだった


「…………」


真姫はぼんやりとする意識の中でその光景を眺めていた


「ダメだッ、死んじゃダメだアイリス!!」


以前、病室で会った時、言っていたことを思い出す

アイリスには大事な人がいると

それを聞いた真姫は羨ましく思った


それがこの人なのかな、と真姫は思った


「――あい…ちゃん……」


掠れた声で名前を呼んだ


「――……」


すると突然、床に転がっていた人形が形を変えた

小さな人形が大トカゲの姿へと変化する

真から流れていた血がアイリスの口へと移動を始めていた


「アイリス……!」


垂れ流れる血が全て横たわるアイリスの口へと向かっていく


それは異様な光景だった



「ご主人! 逃げよう!!」


葵が叫ぶ
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 00:58:58.69 ID:mwOZ0t6Co

「……ふぅ……ふぅ…っ」


血が流れるごとに本人の顔が青くなっていく


真は辺りを見まわした


寝てはいるが呼吸をしている穂乃果

うっすらと目を開けてこっちをみている真姫

そして

項垂れるようにして座る、彼女の姿を


「逃げ……ない……ぞ」


葵に答えた真はアイリスの変化を視る


服装が変わり角が更に大きく膨れ上がっていた

人形から変化した大トカゲの目が6つになり、アイリスの肩に自らの意思で登った


枷を外すことができた
それは鬼本来の力が宿っていることになる


ゆっくりと体を起こし立ち上がった


(ありがとうございます。マスター)


アイリスは死の淵から蘇った


「はぁ……はぁぁ……結構疲れたけどな……」


苦笑いで応える真

大量の血をアイリスに注ぎ込んだため、立ち上がれない



「真様すぐに止血を!」

「あ、あぁ……ありがとう」


少し遅れて駆け付けた着物姿の芙蓉が真の傷の手当を行う


「ア……アイリスちゃん……?」


異様な姿をしたアイリスを見て少し動揺する伏見梓も姿を現した


「ご主人! 逃げようってば! アイツやばい!」


葵が指さした場所に死神は立っていた


鬼である葵に全力で顔を蹴られたのにも関わらず無傷だった

吹っ飛ばされて廊下を転がったのに埃一つついていない


「…………」


その姿に葵と芙蓉は危険な気配を肌で感じていた
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:01:17.93 ID:mwOZ0t6Co

「やばいって、ご主人……!」


「なんて……気配でしょう……」


「アイリス……状況……分かるか?」


(はい。そこで座っている人が犯人です)


「えっ、この子が……!? 学校の制服着てるってことは……」


驚いた梓はすぐに答えを導き出す


「そうか……置き引きの被害者の服……!」


(真姫様と穂乃果様のご友人はこのドアの向こうで眠らされています)


アイリスは死神に視線を向けたまま報告する


「何人いるんだ?」


(7人です)


「……そうか。……葵、逃げるのはやっぱり不可能だ」


あきらめた声で真は言った。


「あたしがご主人を抱えるから!」


「ダメだ。……それに、もうあんな思いを誰にもさせたくない」


その言葉にアイリス、葵、芙蓉、梓の4人は沈黙する


「梓さんだけでも……」


「冗談。犯人を前に逃げられますかって」


梓は勇ましく真に返す


「……で、あれはなんだ。座敷わらしの対なる者って……やっぱり疫病神なのか?」


(いえ、死神です)


「「 うわぁ…… 」」


アイリスの回答に真と梓は軽く絶望した


「…………」


その死神は黙ったまま動かない


それが不気味さを増していた
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:03:33.93 ID:mwOZ0t6Co

「追い掃うことはできるか、アイリス」


(アイリスだけでは不可能かと……)


「ご主人、あたしにも血を……枷を外させて!」


「そうだな……芙蓉も一緒に……それしか」


「ダメです真様! それ以上血を失っては真様の命に危険が……!」


真が鬼と解決策を論じている間、梓は穂乃果と真姫の様子を観る


「……穂乃果ちゃんには傷もないみたい。ひとまず安心かな」


「すぅ……すぅ」


「あとは……西木野さん?」


「……」


梓の呼びかけに真姫は応えない


じっと横たわった状態で虚空を見つめていた


「いけない、早く病院へ――」


真が警告する


「梓さん、動かないで!」


「え――?」


声のした方へ視線を向けると、死神が鎌を手に歩みだしていた


(葵お姉さま、芙蓉お姉さま、アイリスの後ろに)


「じゃ、遠慮なく〜」


「葵姉さん! 妹の背中に隠れるなんて!」


「いや無理っしょ。死神とか無理っしょ!」


「さっき蹴り飛ばしてたじゃないか、もう一度やってみせてくれ」


「ひっで! ご主人ひっで!! 鎌持ってる死神にもう一度って!?」


「やっぱムリだよな……冗談だって……」


いつもの調子で会話している鬼たちを見て、死神は語り掛ける


「時間が無いんだ、皆殺しで行くよ」


なぜか理解できないといった表情をしている死神が鎌を振り上げながら近づいてくる

振り下ろした時、誰かが死ぬという理屈はアイリスだけじゃなく、他の者も理解していた
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:05:41.54 ID:mwOZ0t6Co

(……――!)


アイリスは全力で死神の動きを封じ込める


「…………」


死神は蜘蛛の巣を振り払うような動きを見せて力を跳ね返した


それを見た真が叫ぶ


「梓さん! 芙蓉! 葵! 三人を外へ連れて行ってくれ!」


「ですが真様……!」


「だってご主人! こいつ犯人じゃん!」


死神は動きを止めた


「……」


あとは振り下ろすだけ


「お役目は人を裁くことじゃないって言われてるだろ葵! 急げ!」


「き、聞けない……! ご主人が何より大事だから!!」


「私もです、真様!」


真の前に立つ葵と芙蓉


(マスター……)


枷を外したとはいえアイリスだけでは止められない

ならば――


「……ッ」


芙蓉が巻いた血の滲んだ包帯を解く

傷口を開くように力を込める真

葵と芙蓉の枷を外すしか他に方法がなかった


「…………」


その真を見て、梓が真姫と穂乃果を守るように前に立つ


その時――


この場にいる誰もが予想だにしない出来事が起こった


ガチャリ


音を立ててアイドル研究部のドアノブが回った
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:08:21.06 ID:mwOZ0t6Co

「え……?」


「なに……?」


全員の視線がそこへ集まる


ゆっくりと回ったドアノブが部室のドアを開かせる


アイリスの報告では寝ている人しかいない部屋のはずだった


(…………)


羽を飛ばしてドアの向こうにいる者の正体を探るアイリス


「……」


死神は黙って出てくる人物を見定めようとしていた


「……ぅ……ぅぅ」


左手を床につき姿勢を低くして現れたのは――


「え…り……ちゃん……」


絢瀬絵里の姿を確認し、誰よりも早く声を上げたのは真姫だった



「ぇ……?」


頭を押さえ狭い視野で声のした方へ目を向ける


真姫が壁にもたれて座っていた


穂乃果が床に横になって寝ていた


二人を確認した後、もう一人の人物を見た


それは真だった


「あなた……!」


怒りを沸かせ頼りない足で真に近づく絵里


そして、


「―――ッ!」


パァンと頬をたたいた


「ぇ……?」


真は呆然とする
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:10:26.61 ID:mwOZ0t6Co

「わたしの……大切な人たちに――」


と言いかけたところで倒れそうになる


「あ、絢瀬さんっ」


それを梓が抱きとめた


「ゆる……さな……いっ」


梓の腕の中で怒りを露にする


その時、梓は気付いた

絵里の手の甲に何か尖ったもので刺された傷跡を



「ご主人、犯人に間違われてない?」

「みたいですね……」

(あ……はい、そのようです)

「またかよ!?」


その一部始終を見ていた死神が呟いた


「そうか。……なるほど」


(え……?)


アイリスが死神を見返した時、もうその場にソレは居なかった


「あ、ご主人! あの野郎いなくなってる!」

「……あ、あ? どこに行った?」

(どうやら諦めたようです)

「……よく分からないけど……みんな助かったってこと?」

(はい。死神にもなにかしらの規則があるようでした。
 自ら穂乃果様や真姫様の命は奪わないでいましたから)

「ふぅ……そうか……」


「……」


そのやり取りを聞いた梓は再び眠りについた絵里を壁に持たれさせ
全員の確認を行うため、部室に入った


「アリス……私は……結局なにも……」


項垂れた彼女は抜け殻になっていた

真が姿を現したことですでに計画は崩れていたのだから
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:11:44.74 ID:mwOZ0t6Co

そして、アイリスは意識が薄れゆく真姫の前に座った


(真姫様……聞こえますか……?)


「……」


真姫は応えなかったが、瞳はアイリスを捉えていた


(全部終わりましたよ)


「…………」


その声に真姫は薄く笑った

そして、口を動かした


「――……」


声にならない真姫の声


だが、アイリスだけは聞こえていた


心の声に耳を傾けるアイリスの能力


出会った時からアイリスは真姫の声を聞いていた


苦しそうな声、悲しそうな声、辛くどうにもならない声


鬼であるアイリスはその声にどうすることもできない

気持ちを理解し同情することもなかった


だけど、穂乃果が真姫の心を開いた時

アイリスは不思議と嬉しく感じた


それを主である真に伝えると

友達になれるんじゃないかと言われた


鬼であるアイリスと人間である真姫の間でそれはあり得ない繋がりだった

それは不可能だとアイリス自身が思っていた

その必要も感じてはいなかった
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:13:48.93 ID:mwOZ0t6Co

しかし、2度目に病室を訪れた時

真姫はアイリスの姿をらくがき帳に描いていた

それを見せてくれた時、嬉しいと思った

だから、話をしたいと思った

だけど、何を話していいのか分からないアイリスは黙ったまま真姫の前に立っていた

すると、真姫は聞いてきた

その人形はなに? と

それから二人は会話をするようになった


真に報告すると

友達になれたんだなと嬉しそうに言ってくれた

嬉しそうな真を見ると嬉しくなった

家族はいるけど、友達のいなかったアイリスの心は喜びに満ち溢れた


その友達を傷つけてしまった時

アイリスは深く落ち込んだ

真姫の友人を金縛りで縛った時、真姫に怒られたから

主である真の身を優先させるため本能でやったこと

それゆえにアイリスは心で割り切れるはずだったが、なぜか簡単には割り切れなかった

友人の真姫より主である真が大切なのは揺るがない

だから、真姫と友人であったことを切り捨てるつもりでいた

だが、主は仲直りして来いと兄のように言ってきたのだった


ただ人形を届けるだけ

それだけのはずだった


高坂家に着いて、玄関の前に置こうとした時、真姫が現れた

置くのを止めて、手渡しすると

真姫はとても喜んでくれた


その顔を見てアイリスは友人を守りたいと思った


だからこそ犯人の殺意を止め、
死の淵にあった意識の中でも力を振り絞ることが出来た
真姫の声で息を吹き返すことが出来た
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 01:14:58.46 ID:mwOZ0t6Co

真の命令ではなくアイリス自身の意思で真姫を守れたことが嬉しかった



(真姫様……聞こえますか……?)


「……」


真姫は応えなかったが、瞳はアイリスを捉えていた


(全部終わりましたよ)


「…………」


その声に真姫は薄く笑った

そして、口を動かした


「――……」


ありがとう

真姫はそう言って、深い深い眠りに落ちた


(……真姫様……寝てしまったのですか?)


「――」


真姫は応えなかった




それから

眠った彼女たちが目を覚ましたのは、

日にちが替わって昼を過ぎたころだった。


……


237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:08:31.70 ID:mwOZ0t6Co

―― 病室


ガバッ


穂乃果「――ハッ」



穂乃果「夢!?」



穂乃果「なぁんだ〜」


雪穂「夢じゃないよ!」


穂乃果「うわっ、びっくりした……」


雪穂「もう! びっくりしたのはこっちだよお姉ちゃん!」


穂乃果「ゆ、雪穂……大声出さないで……」

雪穂「あ……ご、ごめん……」

穂乃果「うぅ……頭がボーっとする」

雪穂「……どこか痛いところとかない?」

穂乃果「……うん、大丈夫みたい。ここはどこ?」

雪穂「病院。西木野病院だよ」

穂乃果「……あ、あ――!!」

雪穂「?」

穂乃果「み、みんなは!? どうなったの!?」

雪穂「お、落ち着いてお姉ちゃん」

穂乃果「ねぇ、どうなったの!?」

雪穂「え、……みんなって、海未さんたちのことだよね?」

穂乃果「う、うん……」

雪穂「みんなもここに運ばれてるよ」

穂乃果「そっか……それで、みんな大丈夫なの?」

雪穂「まだ寝てるみたいだけど……」

穂乃果「……」


ガチャッ


母「穂乃果……?」


穂乃果「……あ、お母さん」


タッタッタ

ガバッ

母「穂乃果――!」

穂乃果「お、お母さん……!」

ぎゅうう
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:09:57.62 ID:mwOZ0t6Co

母「うぅっ、ほのかっ」

ぎゅううう


穂乃果「く、苦しいよお母さんっ」

雪穂「……」

母「よかった……本当に、良かった」

穂乃果「……うん。ごめんね、心配かけて」

母「ううん、いいのよ。無事だっただけで……それでいい」


穂乃果「お母さん……私は、あと八十年生きるから……」

母「絶対よ……」

穂乃果「うん、約束する」

母「……うん」


雪穂「ねぇ、なにがあったの?」

穂乃果「……雪穂は何も知らないの?」

雪穂「……うん。お母さんもお父さんも話してくれない」

母「……」

穂乃果「刑事さん……伏見さんは?」

母「医者と話をしてる。もうすぐこっちにも来ると思う……」

穂乃果「話がしたいんだけど、呼んでもらってもいいかな」

母「……えぇ、分かった」


……




伏見「お邪魔します」


穂乃果「あ……!」


絵里「おはよう、穂乃果」


穂乃果「絵里ちゃん……!」


絵里「大変な目に遭ったわね」


穂乃果「……って、車いすって……!」

絵里「体は大丈夫よ。ただ、昨日の今日だから……念のためってね」

穂乃果「そっか……」

伏見「まだみんな寝てるけど、命に別状はないから、安心してね」

穂乃果「はい……っ……ぐすっ……はいっ」

絵里「穂乃果……っ」

穂乃果「よかった……良かったよぉ」ボロボロ

伏見「守るって言ったのに、危険な目に遭わせて……ごめんなさい」

穂乃果「うぅ……」ボロボロ


母「……」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:11:47.05 ID:mwOZ0t6Co

絵里「私もね、お母さんと亜里沙に泣かれちゃったわ……」グスッ

穂乃果「ぐすっ……」

絵里「だから、心配かけた分……私たちはしっかりと生きていかないとね」

穂乃果「うんっ……うんっ」


伏見「……」

母「……」グスッ


穂乃果「みんなはまだ……っ……寝てるの?」

絵里「うん……」

伏見「睡眠薬の治療は適切に行われているから、目を覚ますのも時間の問題かな」

穂乃果「そっか……。絵里ちゃんが一番最初なの?」

絵里「えぇ。私は一口しか飲んでいなかったから。
   でも、にこが結構飲んでたから、もしかしたらにこが最後かも」

穂乃果「そうなんだ……」

絵里「さっき様子を見に行ったけど、顔色は良かったわよ」

穂乃果「うん……よかった」

伏見「それで、話があるんだよね?」

穂乃果「はい……。お母さん、雪穂に詳しく教えてないんだよね」

母「そうよ。……穂乃果たちは知らないでしょうけど……犯人から手紙が届いたのよ」

穂乃果「……また?」

伏見「犯行予告が、8人の家にね」

穂乃果「……」

絵里「……」

母「……」

伏見「世間にも事実は知らせていない。刑事告訴をするなら、話は変わってくるけど」

穂乃果「告訴ってことは……みんな」

絵里「そうよ、犯人に罪を犯した責任を取らせるってことだから」

穂乃果「……それなんだけど、絵里ちゃん」

絵里「まさか……」

穂乃果「うん……事故ってことにできないかなって」

絵里「な、なにを言っているの穂乃果」

穂乃果「私だって、犯人に怖い思いさせられたよ。許せないって思った……だけど」

絵里「穂乃果、私が……いうことじゃないけど」

穂乃果「うん……お母さんたちに心配かけたよね。家族を不安にさせた、それも含めて許せないって思う」


母「……」

伏見「……」


穂乃果「だからこそ、事件があった事実を忘れて、事故だったってことにしたい」

絵里「穂乃果……」

穂乃果「ごめん、変なこと言ってるのは分かってる。だけど……真姫のこと考えたら……」

絵里「……」
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:12:37.72 ID:mwOZ0t6Co

穂乃果「多分、知らないのは、にこちゃん、花陽ちゃん、凛ちゃん、ことりちゃんだよね」

絵里「そうよ。最初の脅迫状があった事実そのものを知らないんですもの」

穂乃果「実は眠らされて、危険が迫っていましたって……言いたくない。知ってほしくないよ」

絵里「……」


穂乃果「伏見さん、犯人の様子は――」

伏見「教えられません」

穂乃果「で、ですよね……」


母「穂乃果、本気で言ってるの?」

穂乃果「……うん。あの出来事をなかったことに……っておかしなこと言ってると思うけど」

母「……私たち家族だけの問題じゃないのよ?」

穂乃果「……うん」

母「…………とりあえず、親同士で話してみる」

穂乃果「うん……ありがとう、お母さん」

母「……まったく」


……


241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:13:30.82 ID:mwOZ0t6Co

―― 海未の病室


海未「……ん…」


穂乃果「あ……」

絵里「……」


海未「ん……ん……?」


穂乃果「おはよう、うみちゃん」

絵里「おはよう、海未」


海未「は……い……おはよう……ございま……す?」


……


242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:14:32.66 ID:mwOZ0t6Co

―― 凛の病室


凛「……ん……むにゃ……」


穂乃果「うみちゃん、無理してついてこなくてもいいんだよ?」

海未「いえ……大丈夫……です」

絵里「ご両親ともう少し話をしてきたら?」

海未「いえ……私もみんなが目を覚ますところに立ち会いたいです」

穂乃果「そんな大げさな……。絵里ちゃん、車いすはいいの?」

絵里「穂乃果が歩いているんですもの。私も平気よきっと」

穂乃果「そっか……」


凛「ん……んん……うるさいにゃ……」


穂乃果「あ……り〜んちゃん」


凛「え……? 穂乃果ちゃん……?」


穂乃果「おはよう」

海未「おはようございます」

絵里「おはよう、凛」


凛「なんで……凛の部屋にいるのぉ?」


……


243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:15:17.52 ID:mwOZ0t6Co

―― ことりの病室


ことり「すぅ……すぅ」


凛「ことりちゃん、まだ起きなさそうだよ」

穂乃果「でも看護師さんがそろそろ起きそうだって」

絵里「そうよ。海未と凛はその通りになったんだから、待っていましょう」

凛「ふにゃぁ……ふ」


ことり「ん……」


海未「あ、瞼が動きました」

穂乃果「じゃあ、そろそろだね」

凛「ことりちゃ〜ん」

絵里「しずかに、凛」

凛「凛のとき、3人でお喋りしてたのに〜」

穂乃果「あはは、ごめんごめん」


ことり「ん……んん?」


海未「おはよう、ことり」

絵里「おはよう」

凛「おはよう〜」

穂乃果「ことりちゃん、おはよう」


ことり「ん……ん……。あと30分……」


穂乃果「え?」


ことり「すぅ……」


海未「二度寝!?」


……


244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:16:22.32 ID:mwOZ0t6Co

―― 希の病室


希「……」


海未「なんだか、お姫様のように寝ていますね」

凛「本当だ……」

ことり「ふぁぁ……ぁ」

穂乃果「王子様のキッスで目覚めるらしいよ絵里ちゃん」

絵里「ふぅん」

穂乃果「反応薄っ!」

ことり「まだ頭がぼーっとするよぉ」

海未「睡眠薬の症状が残っているようですね……」

ことり「睡眠薬……って?」

凛「なんのことか凛も詳しく聞いてない……」

絵里「その話は、全員目が覚めてからね」

ことり「ふぁぃ……」

穂乃果「起きる気配ないね、希ちゃん……」

海未「そうですね……」

凛「王子様がキスするんだよね。じゃあ、凛が……」スッ

絵里「……」


希「……」


凛「なぁんて」


希「……」


絵里「起きてるでしょ、希」

穂乃果「え?」

ことり「ふぇ?」


希「……ばれてたか」


穂乃果「うわっ」

海未「び、びっくりしました……」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:16:58.32 ID:mwOZ0t6Co

希「ふふ、みんなおはよう」

穂乃果「おはよう、希ちゃん」

海未「おはようございます」

ことり「おはよう〜」

絵里「おはよう、希」

凛「もう〜、危うくキッスするところだったにゃ」


希「しても構わなかったんやけどなぁ」


凛「冗談ばっかり〜」


希「ふふ」


絵里「なにも失わずに済んだわ」


希「……うん」



希「うん……っ……よかった」ホロリ


穂乃果「希ちゃん……」


……


246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:17:55.04 ID:mwOZ0t6Co

―― 花陽の病室


花陽「むにゃむにゃ……もう食べられないよぉ」


穂乃果「定番の寝言だ……!」


希「みんなはもう病室移動してるん?」

凛「うん、同じ部屋だよ」

ことり「お母さんたちがやってくれてる」

海未「今日も病院に?」

絵里「本当は夜にでも退院できたんだけど。
   一応ね、明日の朝に検査をして、帰るのは昼になるわね」

海未「そうですか……仕方ありませんね」


穂乃果「そろそろ起きそうなんだけどなぁ」

ことり「起こしてみよう。花陽ちゃ〜ん」


花陽「んん……ん? え?」


凛「あ、起きた。おはよう、かよちん」

海未「おはようございます、花陽」

ことり「おはよう」

穂乃果「おはよう〜」

絵里「おはよう、花陽」

希「おはよう、花陽ちゃん」


花陽「あれ……? あれれ?」


……


247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:19:33.61 ID:mwOZ0t6Co

―― にこの病室


にこ「すやすや」


穂乃果「はい、あっがり〜」

ことり「あぁっ、穂乃果ちゃんが上がっちゃった」

海未「まさかの一抜けですか」

絵里「じゃあ、取るわよ、凛」

凛「はい、どうぞ〜」

花陽「ふぁぁ……ふ」

希「無理して付き合うことないんよ?」

花陽「ううん、大丈夫だよ……。いっぱい寝たからなんだかもったいなくて」

希「無理だけはせんといてね」

花陽「うん……ありがとう、希ちゃん」

ことり「はい、花陽ちゃん、取って?」

花陽「う、うん……。じゃあ、これ」

ことり「……」

花陽「あ……」

海未「渡りましたね」

絵里「そうね……。花陽にババが渡ったわね」

花陽「みんな観察しないでよぉ〜」

凛「引かないように気を付けろ〜」

花陽「もぉ、凛ちゃん〜」


にこ「……ん、ん?」


穂乃果「罰ゲームは、私にパン一年分を贈呈してもらおうかな〜?」

海未「絶対に飽きますよ。飽きて絶対に文句言いますよ。絶対そうなりますよ」

穂乃果「そんな、絶対絶対って3回も……多分いうけど……」

凛「多分じゃなくて、絶対だよね〜」


にこ「あれ……ここどこ……?」


ことり「あがった〜♪」

花陽「ひゃぁ〜、ぱ、パン一年分っ」

絵里「そんなの穂乃果の冗談なんだから」

希「そうや〜。なんならわしわし一年分でもええよ〜?」

穂乃果「それは遠慮させていただきます! 絶対イヤです!」


にこ「……うるさいわね…」
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:20:48.88 ID:mwOZ0t6Co

ことり「あ……にこちゃんが起きてる」

穂乃果「え? あ、本当だ」

絵里「おはよう、にこ」


にこ「……う、うん?」


絵里「お母さんに知らせてくるわね」


にこ「ここどこ?」

穂乃果「病院だよ。にこちゃん、ずっと寝てたんだから」

にこ「……病院?」

穂乃果「昨日、部室で飲んだ紅茶覚えてる?」

にこ「……うん」

穂乃果「それに睡眠薬になる成分が入ってたみたいで」

にこ「どういうことよ?」

穂乃果「えっとね……」


伏見「詳しくは私から話します。医者の先生と一緒に説明していきますので」


ことり「あ、刑事さん……」

花陽「……」

凛「……なにがあったの?」

希「……」

海未「……」


伏見「とりあえず、家族との話が先ね」


にこ「……?」

穂乃果「にこちゃん、ずっと寝てたからにこちゃんのお母さんたちも心配してたよ?」

にこ「っていうか、その寝てる人の隣で騒いでたわよね?」

穂乃果「だって、賑やかな方が早く目が覚めるって言われて」

にこ「目が覚めても放っておかれてたみたいなんですけどー?」

花陽「あはは……起きたばかりなのに、元気だねにこちゃん」

凛「それが取り柄にゃ」
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:21:19.49 ID:mwOZ0t6Co

希「おはよう、にこっち」

ことり「おはよう〜」

海未「おはようございます」

花陽「おはよう」

凛「おはよう、にこちゃん!」

にこ「な、なによ……みんな?」

穂乃果「ただの挨拶だよ。おはよう、にこちゃん」


にこ「お、おはよう……」


にこ「って、もう13時じゃないの……」

海未「おそようですね」

ことり「ヨーソロー?」

希「ちょっと違うかな」


……


250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:24:16.39 ID:mwOZ0t6Co

―― 昼過ぎ:中庭


伏見「それじゃ、私は最後に纏めなきゃいけないことあるから」

絵里「はい、ありがとうございました」

穂乃果「すいません……わがまま言って」

伏見「ううん。あなた達が決めたことなら、私たちは何も言うことはないよ」

希「……」

海未「……」


伏見「また後で挨拶に来るね」

スタスタスタ


絵里「伏見さんにはお世話になりっぱなしね……」

希「そうやな……」

海未「本当にそれでよかったのですか?」

穂乃果「う、うん。……ごめんね」

海未「私は、眠っていただけでしたから……何とも言えませんが」

穂乃果「……」

絵里「結局、ことり達には言わないのね」

穂乃果「うん、言わない。これは、人生の最期まで持っていく」

希「そっか……。穂乃果ちゃんがいうなら、しょうがないね」

海未「親はなんて言っているのですか?」

穂乃果「私のお母さんは……私の決めたことを尊重してくれてる……みたい」

海未「……」

絵里「張本人がそういってしまってはね……私の母も理解していたから」

希「……」

穂乃果「はぁ……いろいろと、迷惑かけて心配かけて……悪いことしちゃったなぁ」

絵里「穂乃果……」

希「穂乃果ちゃんのせいじゃないけど……。けど、そういうものやと思う、うちは」

海未「……?」

希「人と人が繋がるって楽しいことだけやないし。もちろん楽しいことがあった方がいいけど」

絵里「……そうね。楽しいことだけじゃ、ないから。辛いこと、苦しいことはみんなで乗り越えていきましょ」

穂乃果「―――うん、そうだね。……えへへ」

海未「なんですか、急に笑ったりして」

穂乃果「私も、真姫に同じこと言ったから。……みんなもそう思ってくれてうれしいなって」

希「にこっちも言ってたね。誕生会の時に」

海未「そうでしたね。あの誕生会そのものは嘘っぱちですが」

絵里「あら……? あの子たちは……?」

穂乃果「あっ! ヒデコたちだ……!」

希「お見舞いに来てくれたんやね」

海未「そういえば、今日は学校お休みでしたね」


穂乃果「おーい! ヒデコ〜!」
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:25:27.78 ID:mwOZ0t6Co

「あ、いたいた」

「元気そうだね」

「……」


海未「フミコにはどう説明するのです?」

穂乃果「なにが?」

海未「あの、犯人の手伝いしてたではありませんか……」

穂乃果「あ、そっか……」

海未「それで本当にことりに隠し通せるのですか……?」

穂乃果「だ、ダイジョーブ!」

海未「不安です……」


希「それじゃ、うちらは真姫ちゃんのとこ行ってるから」

絵里「体のこともあるし、あまり無理しないよう気を付けてね」


穂乃果「はーい」

海未「……」


ヒデコ「穂乃果、大丈夫なの?」

ミカ「入院してるって聞いてびっくりしたよ」

フミコ「……」


穂乃果「大丈夫大丈夫、元気元気〜。ワッショイワッショイ」


ヒデコ「重症……!?」

ミカ「そんな……」


穂乃果「違う! 元気をアピールしただけだから!」

ヒデコ「分かってるって」

ミカ「そ、そうだよ」

海未「ミカはまだ疑っているみたいですね」

ミカ「だ、だって、急にお祭り気分なんだもん!」

海未「確かに……まだ症状が残ってるかもしれません」

穂乃果「ひどいよね」


フミコ「ねぇ、ちょっといいかな話があるんだけど……」


穂乃果「う、うん……?」


フミコ「こっちに来て」

穂乃果「……わかった」
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:27:28.46 ID:mwOZ0t6Co

ヒデコ「どうしたのかな?」

ミカ「フミコ、今日はずっとあんな調子だよね」

海未「二人は……知らないのですか?」

ヒデコ「なにを?」

ミカ「?」

海未「いえ、なにかあったのかな、と」



フミコ「朝ね、昨日の片づけをしに学校に行ったんだ」

穂乃果「……そうなんだ」

フミコ「警察の人がいて、中に入れなかった」

穂乃果「……」

フミコ「そして、みんな……入院してるでしょ」

穂乃果「……」

フミコ「もしかして、昨日の紅茶に……なにか入ってたの?」

穂乃果「…………」

フミコ「私たち、昨日……部室に紅茶を届けてから……そのまま帰ったの」

穂乃果「……」

フミコ「もし、帰らずに……私たちも紅茶を飲んでいたら穂乃果たちと同じく――」

穂乃果「それは……その……」

フミコ「あの紅茶を用意した先輩……って、誰なの?」

穂乃果「え、えっと……」

フミコ「伏見さんって刑事の人から電話かかってきて、今一緒にいるのかって聞かれた」

穂乃果「……」

フミコ「だから、なにかあったんじゃないかって……。
    穂乃果たち入院してるし、学校に警察いるし、思い返したら先輩って名乗った人もなんだか怪しくて……」

穂乃果「……えと」

フミコ「ねぇ、穂乃果……あの人って……」

穂乃果「あ、あの人はね……!」

フミコ「……」

穂乃果「熱狂的なファンなの!」

フミコ「え?」

穂乃果「ずっとお茶会に誘われてたんだけど、
     断ってて、それで強引に学校に入ってきたみたいで!」

フミコ「…………」

穂乃果「あの人ね金持ちでみんなを招待したいって言っててそれであんな高いポットやカップを用意して」

フミコ「…………」

穂乃果「だけど、茶葉に睡眠薬と同じ効果の成分が入ってて、
     だから私たち寝ちゃってて!」

フミコ「紅茶にそんな成分があるなんて……聞いたことないよ?」

穂乃果「そう、だから警察が来たの! 事故だったのあれは!」
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:29:05.19 ID:mwOZ0t6Co

フミコ「それじゃ……刑事さんからの電話はなんだったの……?」

穂乃果「その人と一緒に居て……ちょっと怖かったから刑事さんに電話したの」

フミコ「……」

穂乃果「だけど、電話取られて……その人フミコの名前使ったから、
    伏見さん、不審に思って……フミコに連絡したんだよ」

フミコ「……」

穂乃果「そういうことだから……気にしないで……いいんだよ?」

フミコ「じゃあ、私……そんな人の手伝いしてたんだ……」

穂乃果「だから、気にしないでフミコ! フミコは悪くないんだから!」

フミコ「ごめん……」

穂乃果「あ……」

フミコ「みんなに、悪いことした……」


穂乃果「……」


フミコ「……ごめんね、穂乃果……」


穂乃果「……じゃあさ」


フミコ「……?」


穂乃果「これから、私たちを手伝ってくれないかな?」


フミコ「……どういうこと?」


穂乃果「これから、私たち……ライブをたくさんするから、手伝ってよ」


フミコ「……」


穂乃果「もちろん強制はしないよ。だって、フミコは全然悪くないんだから」


フミコ「……」


穂乃果「それでも気にしてしまうなら。私たちの側にいて、私たちを見ててよ」

フミコ「穂乃果……」

穂乃果「あの事故は大したことじゃないって証明するから」

フミコ「……」

穂乃果「……ね?」

フミコ「うん、――分かった」


……


254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:30:34.99 ID:mwOZ0t6Co

―― 夕方:病室


穂乃果「ふぅ、今日も疲れた〜」

ドサッ


にこ「戻ってきて早々、ベッドで横になるなんて……」


穂乃果「だから、疲れたんだよぉ……おやすみぃ」


にこ「変な時間に寝たら、夜寝られなくなるでしょ」

穂乃果「すぃ〜……ぴぃ〜」

にこ「みんなぁ、穂乃果のベッドに集まって〜、トランプしましょう〜?」


絵里「いやがらせにも程があるわね」

花陽「ダメだよ、にこちゃん」


にこ「あんたたち、私のベッドでやってたでしょ!?」


海未「騒がしくしないでください。ここは病院です」


にこ「くっ……見てなさいよ……いつか仕返ししてやるわ」


花陽「なんだか怖いこと言ってる……」

絵里「合宿とは違うんだから、しずかにしてなさい」


にこ「……肝試し」


海未「はい?」

にこ「夜に肝試ししない? ここ病院だからいろいろと――」


絵里「真姫の様子でも見に行こうかな」

花陽「今は凛ちゃんたちが行ってるから、まだいいんじゃないかな?」

絵里「でも、ほら……お医者しゃまも言ってたじゃないそろそろだって」


にこ「ぷぷっ、お医者しゃまって噛んだわっ、何焦ってんのよ。ぷぷぷっ」


絵里「……」

花陽「ど、ドンマイだよ、絵里ちゃん」

海未「花陽、追い打ちしてますよ」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:31:28.55 ID:mwOZ0t6Co

穂乃果「あのさぁ、みんな」


海未「?」


穂乃果「寝ている間って夢とか……みた?」


絵里「夢?」

にこ「……覚えてないわね」

花陽「私も……」

海未「多分、私はみていないかと」


穂乃果「そっかぁ……」


絵里「穂乃果は覚えてるの?」


穂乃果「うん。……とってもかわいい声が聞こえた」


にこ「もしかして、わた」

穂乃果「にこちゃんじゃないよ」

にこ「……そう」

花陽「バッサリだ……」

海未「その声はなんて?」


穂乃果「八十年後に――」


「み、みんなっ!」


花陽「凛ちゃん……?」


凛「真姫ちゃんがっ!」


穂乃果「え――!?」


……


256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:33:16.22 ID:mwOZ0t6Co

――逢魔が時


昼から夜に移ろう時刻


太陽と月の光が生み出す曖昧な世界


その世界では人と魔物が遭遇しやすくなると云われている




「ん……」


ことり「……真姫ちゃん」

希「……」


「……ん……」


絵里「真姫……」

海未「……」


「…………んん」


花陽「真姫ちゃん……っ」

凛「……」


「…………」


にこ「……」

穂乃果「……みんな、待ってるよ、真姫ちゃん」


「……ん……んん?」


ことり「あ……!」

海未「起きた……」


「……え……だれ……?」


穂乃果「真姫……?」


「え……――穂乃果?」


穂乃果「真姫ちゃん……!」


真姫「ん……んん……なに、なんでみんな――」


希「真姫ちゃんっ」

ガバッ

真姫「きゃっ!? ちょ、ちょっと希!?」

絵里「……心配してたんだから、これくらいさせてあげて」

希「よかったぁ」

ぎゅうう

真姫「なに、なんなの……!?」
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:34:38.71 ID:mwOZ0t6Co

花陽「よ、よかった……っ」グスッ

凛「かよちんっ、泣いちゃだめなの〜っ」グスッ

ことり「本当によかった……っ」

海未「ことりまで……」

ことり「だって……」グスッ

にこ「まぁ、私は別に、心配はしてなかったけどね……っ」

真姫「なんでみんな……って、ここどこなの?」

穂乃果「病院だよ」

真姫「びょ、病院?」

穂乃果「そう……。『真姫ちゃん』ずっと寝てたから」

真姫「寝てたって……」

穂乃果「1週間くらいずっとだよ。みんな心配したんだから」

真姫「1週間も?」

穂乃果「うん」

絵里「寝る前に覚えていることはない?」

真姫「……」

希「最後に覚えていること」

真姫「……それは、えっと」

花陽「……」

凛「……」

真姫「あ――」

海未「真姫……?」


真姫「そうだ……わ、私……人が人を刺すところを――」


穂乃果「全部、終わったから」


真姫「え、……え?」


穂乃果「大丈夫だよ。その犯人、捕まった。だから、大丈夫だよ」


真姫「……――」


花陽「真姫ちゃん……」


海未「心のケアは必要ですね……」

にこ「そんなの、私たちが一緒にいればすぐ治るわよ」

凛「にこちゃん……たまにいいこと言うよね」

にこ「いつも言ってるわよ。それで、真姫、食べたいものある? お見舞いの果物いっぱいあるわよ」

真姫「え?」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:35:54.32 ID:mwOZ0t6Co

にこ「ほら、食べたいものあったら私が……にこにーが剥いてあげるにこ♪」

真姫「……」

穂乃果「じゃあ、りんごで」

にこ「なんであんたが答えるのよ。別にいいけど」

絵里「よくないでしょ。真姫のお見舞い品なのよ?」

希「勝手に食べたらダメやん」

真姫「……別に、いいわよ。好きに食べていいわ」

ことり「それなら私はメロンで♪」

海未「ことりまでっ!?」

凛「凛もメロンが食べたい!」

花陽「わ、わたしは……梨を」

穂乃果「苺も追加で」

絵里「それじゃあ、桃をいただこうかしら」

希「うちは、キウィ」

海未「バナナを」

にこ「全部私が用意するの?」

真姫「というか、少しは遠慮しなさいよね」

穂乃果「そういえば、切られたスイカが冷蔵庫に入ってたよね」

海未「まだ食べる気ですか!?」

にこ「じゃあ、りんごからね」

穂乃果「あれやってよ、あれ」

にこ「しょうがないわね〜。みてなさいよ」

真姫「あれって?」

にこ「これよ! 秘技、リンゴの皮を一度も途切れずに最後までくるくる回して切る!」

スルスルスル


真姫「……すごいけど、技名っぽく叫んだの意味あるの?」

にこ「ないわよ。はい、どうぞ」

穂乃果「はいよ」ヒョイ

ことり「穂乃果ちゃん、真姫ちゃんより先に手を出して……」

海未「自由人ですか」

真姫「シャクシャク」

にこ「どう?」

真姫「どうって……りんごの味だけど」

にこ「まぁそうよね」

真姫「?」
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:37:07.33 ID:mwOZ0t6Co

希「真姫ちゃんが寝ている間にクラスの子たちがお見舞いに来てたんよ」

真姫「……そう」

花陽「うん、みんな心配してたよ」

真姫「別に、お見舞いなんかこなくてもいいのに……」

絵里「そんなこと言って……」

真姫「ふ、ふんっ、別に嬉しくないんだからっ」

海未「素直じゃありませんね……」

真姫「で、でも……ありがとうって伝えておいて」

花陽「……」

真姫「お礼をいうのは当たり前でしょっ」

凛「ブフッ」

真姫「え?」

穂乃果「あはははっ!」

真姫「な、なに?」

にこ「まさか、それをそのまま言うなんてね」

真姫「なによ!?」

花陽「にこちゃんがね……ふふっ……真姫ちゃんの真似して言ってたのっ同じセリフ」

真姫「う……っ」

穂乃果「あははっ、おかしくて涙が出てきちゃったっ」

真姫「笑いすぎ……。ふんっ」

穂乃果「あはは……あー……おかしいなぁ」グスッ

海未「……」

希「……」

絵里「……」

真姫「さっきから気になってるんだけど、あのノートと人形ってなに?」


穂乃果「あぁ……これは……」



キィィィィイイ


穂乃果「――!?」


ィィィィィイイイイイン



真姫「穂乃果……?」


キィィィィイイ


穂乃果「ま、真姫ちゃん……」


ィィィィィイイン


真姫「……なに?」
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:38:22.60 ID:mwOZ0t6Co

穂乃果「耳鳴りがするんだけど、なにも……感じない?」


キィィィィイイ


真姫「え? ……別に?」


穂乃果「そっか……」


ィィィィィイイン


絵里「大丈夫?」

ことり「病室に戻った方がいいんじゃないかな」

海未「そうですよ、穂乃果……」


穂乃果「だ、大丈夫……治まったから」


真姫「……」


穂乃果「あ、そうだ。真姫ちゃん、これ貰ってもいいかな?」


真姫「人形? 別にいいわよ。誰が持ってきたのか知らないけど」


ことり「……」

花陽「……」


穂乃果「らくがき帳も……本当に、いいの?」


真姫「いいわよ。……私には必要ないから」


穂乃果「じゃあ貰うね。……ちょっと外出てくる」


真姫「あ、穂乃果……!」


穂乃果「え?」


真姫「私たち……小さい頃に……会ったこと、ある?」


穂乃果「……」


絵里「……」

希「……」

にこ「……」

海未「……」

ことり「……」

花陽「……」

凛「……」


真姫「……」


穂乃果「ううん、あの時――……音楽室で声を掛けたのが初めてだよ」

テッテッテ
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:38:59.29 ID:mwOZ0t6Co


真姫「……やっぱりそうよね」


海未「……」


真姫「それより、どうしたの、穂乃果は?」


絵里「さぁ……。希は知ってる?」

希「ううん、知らない」

凛「どうしたのかな?」

ことり「海未ちゃん……」

海未「よく分かりませんが、穂乃果に任せましょう」


にこ「ほら、用意したわよみんな!」

凛「すごい!」

花陽「全部切られてるっ!?」


……


262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:40:08.66 ID:mwOZ0t6Co

―― 中庭


穂乃果「えっと、アイリス……ちゃん?」


穂乃果「あれ、いないのかな……アイリスちゃん!」


穂乃果「アイリスちゃーん! いたら返事してー!!」


穂乃果「アイリスちゃ――」



キィィィィィィイイイイ


穂乃果「――!?」


ィィィィィイイイン



穂乃果「耳鳴りがするってことは……いるのかな」



キィィィィィィイイイイン


穂乃果「あの、これ。人形とらくがき帳……アイリスちゃんに持っててほしくて」


キィィィィィィイイイイン


穂乃果「真姫ちゃんが持ってたら、混乱しちゃうから、手放した方がいいんだ」


キィィィィィィイイイイン


穂乃果「私たちは『真姫』のこと……多分忘れる。ううん、忘れた方がいいんだと思う」


キィィィィィィイイイイン


穂乃果「お医者さんが言ってた。2つの人格は心の負担が大きすぎるって」


キィィィィィィイイイイン


穂乃果「だから、私たちはこれから『真姫ちゃん』と一緒に生きていくよ」


キィィィィィィイイイイン


穂乃果「ありがとね、アイリスちゃんっ、『真姫』を守ってくれ……てっ」ホロリ


キィィィィィィイイイイン


穂乃果「ありがとねっ……ありがとっ……守ってくれて……ありがとう」ボロボロ


キィィィィィィイイイイン


スッ


穂乃果「あ……!」
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:40:38.96 ID:mwOZ0t6Co


伏見「ありがとう、って」


穂乃果「え?」


伏見「アイリスちゃんが、ありがとうって言ってる」


穂乃果「ううん、礼を言うのはこっちだから」グスッ


伏見「私たち、これから帰るね」


穂乃果「そう……ですか……」


伏見「みんなによろしくね」


穂乃果「は、はいっ」


伏見「それじゃ、さようなら。元気で」


穂乃果「はいっ、さようなら!」


……


264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:41:22.04 ID:mwOZ0t6Co


―― 留置所


警部「……ほらよ」


「……」


警部「栞だ。お節介な刑事からだ」


「……」


警部「……」

スタスタスタ......



「…………」



「アイ…リス……?」



……


265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:43:39.31 ID:mwOZ0t6Co

―― 公園


(真姫ちゃ――ま、アイリスのことは視えなくなっていました)


「ちゃま?」

真「そうか……霊視の力はなくなってたか」

「真姫ちゃまってなに、ちゃまってなに? ねえねえ?」

真「突っ込まないでくれ、葵」

(うぅ……)

真「恥ずかしがらなくてもいいって、友達なんだから」

(は、はい……)

芙蓉「もともとは力が無かったのですよね」

真「あぁ、そうらしい」

伏見「でも、どうして『視える』ようになったのかしら」

真「多分、それは――」

「ご主人〜! もっかいアキバ行こう!」

真「行かないって。どれだけ周りに迷惑かけたと思ってるんだよ」

伏見「真君、うちの署にメールを送ったの、やっぱりあの子だったよ」

真「そうですか……理由はどうして?」

伏見「危険なくらい純粋だったからかも……。
   あの事件で導火線に火が付いてしまった……と」

芙蓉「様子はどうでした?」

伏見「叔父と叔母が来てね、面会したよ」

「あたしの言うこと聞かないと、次通る人のズボンかスカートを下すぞ」

真「脅迫するなよ。俺が犯人扱いされて通報されるオチが見えるんだから止めてくれ」

(あの方……。真姫様と違う出会いをしていれば……二人は友人になれたかもしれません)

真「心が読めたのか?」

(はい。幼い真姫様は……あの方に一瞬ですが、心を開いたようでしたから)

真「……」

(あの方も、真姫様には少し特別に感じていたようです)

伏見「でも、それが犯行の動機でもあったみたいだけど」

(いえ、その特別ではなく。……えっと、心を開きかけたみたいでした)

真「……そうか」

(もう後戻りできないから、止まれなかったようです)

伏見「爆破予告でたくさん証拠を残してたからね。自分を追い込むためでもあったのか……」


「ひょーぉ! うはぁー!」


芙蓉「姉さん、ブランコを壊さないでくださいね」


「いやっほぉーーい! ご主人〜! 一緒に乗ろ〜!」


真「その勢いで乗るのは無理だろ」
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:45:52.77 ID:mwOZ0t6Co

伏見「あの子、叔父と叔母が泣いたの見て、泣いてた」

真「……」

伏見「自分のやったこと、これから受け止めて……罪を償っていくでしょう」

(刺された警官は目を覚ましたそうですが……)

伏見「後遺症は残るけど、生活に問題はなしみたいだし……リハビリも大変だろうけど」

芙蓉「不幸中の幸いですね」

伏見「だね」

真「あの子たち、事件のことをどうするんですか? 刑事告訴は?」

伏見「しないって。西木野さんのこと、友達のこと、周りのことをを第一に考えた結論だって」

芙蓉「ご家族も同意なさっているのですか?」

伏見「うん。1週間の出来事を、早く忘れようって。子供たちがそう言ってるんだから、私たちもそうしたいって」

真「……そうですか。なんというか……強いですね」

伏見「それが傷を癒す近道なのかもしれないわね」

(みなさん、笑っていました)

真「その笑顔を守ったのはアイリスだ」

(良かったです。守れて)

「でもさぁ、アイリスぅ〜」

(なんですか、葵お姉さま?)

「いやぁ、最後のあれはどうかと思うよ?」

(はい?)

真「なんだよ、あれって」

「いやね、眠ってたあの子に、アイリスが話しかけてたんすよぉ」

芙蓉「ちょっと、姉さん……」

「八十年って、言ってたでしょ?」

(……?)

「うわ、この顔分かってない」

真「なにが言いたい?」

「単純に計算して、ですよ? あの子、15くらい? で、八十年後っつったら」

伏見「95だね」

「そうそう。計算できてないもん、うちの末っ子はよぉ」

芙蓉「なんでそんな言い方するんですか」

(あ……!)

「気付いた気付いた。百にならないじゃん〜。ニヤニヤ」

真「口でニヤニヤ言うな」

(〜〜〜ッ!)

「赤くなった赤くなった」

芙蓉「やめて、姉さん」

「やーいやーい! ゆでたこ〜」

(うぅっ……うぅぅっっ)

「泣いた泣いた〜、赤鬼が泣いた〜」

芙蓉「姉さん?」ニョキ

「ごめんなさい」
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:47:47.08 ID:mwOZ0t6Co

(そうでした……っ……アイリス、間違えました……っ)

真「大切なのは時間じゃない。もう一度逢うことだよアイリス」

(ぐすっ……はい。マスター……)


「ご主人〜!! このおでん缶っての買って〜!」


真「帰りましょうか」

伏見「そうだね。乗り遅れたら大変」

芙蓉「はい。待っている人がいますから」


「コトリンのお土産〜! いいでしょ〜?」


真「土産はさっき買っただろ。というか、そんな安いもので……」

(マスター。アイリスも食べてみたいです)

真「マジで?」

芙蓉「おでんはおでんでしょう? 帰ったら私が作ってあげるから」

(……はい。分かりました)

真「しょうがない。アイリスには今回助けられたから、買ってあげるよ」

(マスター……!)

「ちょっ! アイリスばっかりずるい〜! あたしにも買ってよ〜!」

真「今回の功労者だぞ。当たり前だ」

「けっ、なんだいなんだい。贔屓しちゃってさ、けっ、こんな時はバイクでも盗んで走り出そうかな〜」

伏見「いじけ方がちょっと古い不良みたいだね……」

芙蓉「姉さんにはおでん作ってあげるから、今日はアイリスに……」

「計算ができない妹に、甘やかすんじゃないよ、まったく」

芙蓉「姉さん?」ニョキ

「ごめんなさい。桔梗様みたいに角生やすのずるい〜!」

(…………)

「葵お姉ちゃんも計算できないよね」

「まぁた腹話術か」

(腹話術じゃないですよ。ウーパくんが言っているんです)

「はいはい。で、あたしが計算できないって? 掛け算言ってみろやコラァ!」

真「なんでケンカ腰で掛け算限定なんだよ」

芙蓉「では、4かける5は?」

「えっと……しご……だから、死後の世界〜!」

「葵お姉ちゃんのユーモアは凄いね。誰もそんなこと言わないよ」

「ハァ? 馬鹿にしてんの、アイリス?」

(アイリスじゃないですよ。ウーパくんが言っているんです)

真「にく」

「うまい!」
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:50:19.91 ID:mwOZ0t6Co

伏見「はっぱ」

「まずい!」

芙蓉「ろっく」

「ごじゅうし!」

「できた。葵お姉ちゃんが掛け算できたよ。すごいね、アイリスちゃん」

(さすがです、葵お姉さま)

「よぉし、ちょっと体育館裏に来いや、アイリスゥ」

(ひぅっ!)

真「時間だな、いい加減帰ろう」

伏見「あぁー……帰ったら溜まってた仕事がたくさん……」

芙蓉「少しは休めないのですか?」

真「そうですよ。打ち上げ……じゃないけど、事件解決したんです。お疲れ会でもしましょう」

伏見「そうだね。それじゃお邪魔しようかな」

芙蓉「ふふ、腕によりをかけて用意します」

伏見「ナニカ居るだろうって言われてたけど……まさか死神とはねぇ……」

真「伊予が言うには、かなりレアな遭遇みたいですよ」

伏見「どれくらいレアなの? ツチノコ発見くらい?」

真「例えがよく分からないんですけど……11連ガチャで全部ウルトラレアがでるくらいの確率だそうです」

伏見「……私もよく分からないな、その例え」

真「数百年生きてるアイツが言うから間違いはないとは思いますけど……」

芙蓉「歴代の鬼たちの記憶にも死神との遭遇はありませんね……」

「うん、ないわぁ」

真「そうだ、アイリス」

(はい、なんでしょう)

真「あの死神、どうして諦めたんだ?」

(それは、絢瀬様が出てきたからです)

伏見「絢瀬さんが……?」

真「時間切れってことか?」

(その意味もあると思いますが……)

「いや、アイツ……皆殺しにするって言ってたでしょ」

芙蓉「そうですね、言っていました。それも本気で……なのになぜ?」

(死神が心の中で言っていました。『死なない運命なのか』と……)

真「『死なない運命』……?」

伏見「高坂さん達が……?」

(はい。何度もその時が来たのですが悉く阻止されていましたので)

真「……ふぅむ」
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:53:38.48 ID:mwOZ0t6Co

(恐らく……死神は命を奪う理由がなくなったのだと思います)

真「理由?」

(はい、後付けですが、今まで奪ってきた命には死ぬ理由が存在したようです)

伏見「……もしかして、チンピラが結構道を外れた人間だったこととか関係あるのかな」

(そのようです。死んで喜ぶ人間がいることをあの死神は知っていました)

真「いや……あの子たちはそうじゃない。あのチンピラと一緒じゃない」

(そうです。ですが、死神から見れば同じ。死ぬ理由が出来るから奪おうとしていたのです)

「意味が分からん!」

芙蓉「……確かに、順序が逆というのが難しいですね」

真「それが死神の規則なのか。その規則から彼女たちは外れた……だから諦めた」

(はい)

真「伊予がもう一つ言っていたな」

伏見「え……?」

真「死神が動いた事件はどれも歴史に残ってると……」

伏見「……」

真「よくよく考えたら恐ろしいな……。後に出来る理由の為に命を奪うなんて……」

「伊予様も言ってたよ。そういうのがわたし達だって。理屈じゃないって」

真「まぁ、そうなんだろうけど」

伏見「あ……私、分かったかも」

真「……?」

伏見「西木野さんと、アイリスちゃんが出会った意味……」

(意味ですか……?)

「なになに、教えて〜。面白いことでしょ?」

芙蓉「そうですね、気になります」

(教えてください、マスター)

真「話の流れで言えば、死神の規則から外れるためだよ」

「ホワッツ!?」

真「なんで英語……。二人が出会ったことで、運命は変わったんだ」

伏見「死神の言う『死なない運命』にね」

(…………)

真「人間同士でも似たような話は沢山あるよ。出会いは人生を変えるから」

(…………)

真「鬼と人間が出会って友達になったんだ。そりゃ、死神の力も超えるさ」

(そうですか……それは……嬉しいです)

真「俺も嬉しいよ。というか、誇らしい」

(〜〜っ)

芙蓉「ふふ、照れちゃって」

「おうおう、可愛いのう、アイリスはよう、おうおう」

(や、やめてください、葵お姉さま……っ)
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:56:02.35 ID:mwOZ0t6Co

真「なんでオラついてんだよ」

「あたしも可愛がれっつってんだよ、ご主人!」

真「いやだよ! そんな脅しで可愛がれねえよ!」

「それじゃ、可愛がってニャ?」

真「思い出したように猫キャラになったな」

伏見「あの子も……救われたのかも……ね」

(…………)

伏見「死神とあの子は繋がってたの? 死神の意思であの子を動かしてたの?」

(いえ。あの方は死神の声が聞こえていませんでした)

伏見「……」

(ですが、その声が聞こえるかのように動いてもいました)

芙蓉「波長があっていたのね」

(はい、そうです。とても恐ろしいくらいに)

真「そんな二人が引かれ合ってたのか……」

(最悪の偶然が重なっていたようですね)

真「……危なかったんだな……。あの子たちも、俺たちも」

「言ったじゃん! やばいって!」

(ギリギリでした……。ですがセーフです。ギリセーフです)

真「ギリセーフ?」

「妹がなんか、変な言葉覚えちゃってるよ」


pipipi


芙蓉「電話ですよ、真様」

真「あ、あぁ……うん」

プツッ

真「も、もしもし」

『もしもし……真君?』

真「ゆ、由美か……」

『今日も帰ってこられないの?』

真「いや、これから帰るよ。事件も無事解決したし」

『そうなんだ……。よかった……ね?』

真「うん……よかった」


「おうおう、イチャついてんじゃねえよ、ご主人」

ゲシゲシ

真「おい、蹴るな」

「にゃ〜ん、にゃ〜ん」

スリスリ

真「何がしたいんだ、葵……」


『琴莉ちゃんも、帰りを待ってるから』

真「うん、わかった」
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:57:00.36 ID:mwOZ0t6Co

伏見「あぁ、複雑な事件だったけど、終わったぁ……!」

芙蓉「上司にはどう報告したのですか?」

伏見「まぁいろいろと難しいから……うちの課長から説明してもらう」

芙蓉「死神とか、アイリスとか……色々説明できませんよね」

伏見「でも、警部は真剣に聞いてくれたよ。一課にもああいう人が居るって知れてよかったかな」


(…………)


「でも、人形二つもいらなくない?」

芙蓉「姉さんの意見は聞いてません」

伏見「そういえば……高坂さん、どうしてアイリスちゃんの名前知ってたんだろう」


(…………)


272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 13:57:39.35 ID:mwOZ0t6Co



真「アイリス、帰ろう」


(……はい、マスター)



(それでは、アイリスは帰ります)



(…………)



(さようなら、真姫様――)



……


273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/29(木) 13:59:17.85 ID:mwOZ0t6Co

―― 同時刻:真姫の病室


真姫「すぅ……すぅ」


希「よく寝てる」

にこ「あれだけ寝て、まだ寝るのね」

絵里「寝るのに体力使うから」


穂乃果「ここに飾っておこうかな? 気付くよね」


海未「穂乃果、その花は?」

穂乃果「ふふふ、知らないの、うみちゃん〜?」ムフフ

海未「む……」

ことり「アイリス、だよね?」

穂乃果「さすがことりちゃん」

花陽「でも、どうして?」

穂乃果「真姫ちゃんに教えてあげようと思って」

凛「なにを?」

穂乃果「花言葉を。『希望』『優しい心』『おもいやり』『純粋』」

海未「穂乃果が花言葉を……!?」ガーン

穂乃果「失礼しちゃうよね」

凛「わぁ、綺麗だにゃ〜」

希「白い花やんなぁ」

花陽「可愛い……。あれ、でも……いつ買ってきたの?」

穂乃果「さっき。着替えて抜け出してきたから」

絵里「穂乃果?」

穂乃果「あぁ、ごめんなさいっ、だって、買いたかったんだもんっ」

海未「もっと言ってやってください、絵里。私が言っても聞きません」

絵里「その花は散ってしまうから、お見舞いの花には向かないのよ?」

海未「……」ガーン

希「そっちやないんよエリち」

にこ「ふぁぁ……私も眠くなってきたわ……」

凛「うん……凛も少し疲れちゃった」

ことり「……それじゃ、寝ちゃおうかな?」

絵里「そうね、疲れはとっておきましょうか、横になるだけでもいいから」

花陽「……うん。……海未ちゃんは?」

海未「そうですね……私も戻ります」

凛「みんなと同じ病室って、すごく変な感じがするにゃ〜」

にこ「穂乃果は?」


穂乃果「私はもうちょっとここにいるよ」
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:00:36.74 ID:mwOZ0t6Co

にこ「そう……それじゃ」

花陽「また、後でね」

ことり「先に戻ってるね」

凛「穂乃果ちゃんも、早く来るにゃ」


穂乃果「うん」


希「……」


穂乃果「希ちゃん」


希「うん……?」


穂乃果「前に話した、『真姫』のお友達の話」


希「……」


穂乃果「後で聞いてね」


希「うん。待ってる」


穂乃果「って、言っても話せることあまりないんだけど」


絵里「……穂乃果」


穂乃果「うん?」


絵里「……ううん、なんでもない」


穂乃果「なに、絵里ちゃん〜?」


絵里「ただ、私はみんなの顔が見れて嬉しいのよ」


穂乃果「えへへ、私も」


絵里「それじゃ、ね」


穂乃果「うん」


海未「なにか、あるのですか?」


穂乃果「なにかって?」


海未「いえ、ここに残っている理由とかあるのではと思って」


穂乃果「……ねぇ、うみちゃん」


海未「……はい」


真姫「すぅ……すぅ……」


穂乃果「私たちには理解できないけど、『真姫』には理解できることがあったんだ」


海未「……」
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:01:34.34 ID:mwOZ0t6Co

穂乃果「私もさっき……なんとなくだけど理解できた」


海未「……」


真姫「……すぅ……すぅ」


穂乃果「『真姫』は寝てるんだよね」


海未「寂しいですか?」


穂乃果「ううん。だって、真姫ちゃんは真姫ちゃんだから」


海未「……」


穂乃果「だけど、その……『真姫』にしか理解できない友達と離れたことを……」


海未「……」


穂乃果「『真姫ちゃん』が知らないことが……ちょっと寂しいかなって」


海未「……難しいです。……私はそれを理解できないのですよね」


穂乃果「あはは……そうだね」


海未「先に戻っています」


穂乃果「あ、待って」


海未「はい?」


穂乃果「私たち、これから八十年生きていかなきゃいけないよ」


海未「それは……長い時間ですね」


穂乃果「そうだよね〜」


海未「ですが……できれば、そうありたいものですね」

スタスタスタ


穂乃果「……」


真姫「すぅ……すぅ」
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:02:14.92 ID:mwOZ0t6Co

穂乃果「私も逢えるかな……」


真姫「……すぅ」


「八十年後、私もアイリスちゃんに、逢えるかな……?」


「すぅ……」


「……」


「ん……ん……」



「……ねぇ、『真姫』」



「……すぅ……すぅ」



「よかったね、出会えて」



「すぅ……すぅ……」

277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:02:42.48 ID:mwOZ0t6Co


………………


……………


………


……




278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:03:25.76 ID:mwOZ0t6Co

(……真姫様……寝てしまったのですか?)


「――」


(…………)


「――」


(あ……)


「――」


(もう、アイリスの知る真姫様ではないのですね)


「――」


(もう少し、真姫様とお喋りしたかったのですが……)


「――」


(アイリスは真姫様とお友達になれて、良かったです。真姫様はどうでしょうか)


「――」


(……)


「――」
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:04:34.08 ID:mwOZ0t6Co

(別れる前に一つお願いがあります)


「――」


(アイリスの命は、マスターと共にあります)


「――」


(マスターが現世を離れる時、アイリスも一緒に逝くことになります)


「――」


(それはマスターが百を迎えるころになると思います)


「――」


(真姫様も、それまで生きていてください)


「――」


(常世でまた逢えたら、アイリスは嬉しいです)


「――」


(どうか、それまでお元気で)


「――」


(八十年後に逢えるのを楽しみにしています)


「――」
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:05:39.49 ID:mwOZ0t6Co


(アイリスの名前は、マスターが付けてくれたとても大切な名前です)


「――」


(花言葉は、アイリスにとって真姫様そのもののように感じました)


「――」


「……ひぐっ……ひっく……ぐすっ」


「――」


「うぅぅぅ……ぐすっ……ずずっ」


「――」


「ま…また…っ……あ…逢う…日まで……っ」


「――」



―― おやすみなさい……真姫……ちゃん。



終わり
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2017/06/29(木) 14:11:10.71 ID:mwOZ0t6Co


以上で終わりです。
読んでくださった方、ありがとうございました。


クロス元はなないろリンカネーションという作品です。
日常が楽しい作品です。
その良さを生かしきれたのか謎ですが、
本作は倍以上に面白いです。VITAに出ているのでぜひプレイしてみてください。

なないろリンカネーション
https://www.youtube.com/watch?v=yOn5lttcPTY


ラブライブは他に
穂乃果「時の旅人」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396669413/
海未「くしゅんっ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430769907/
を書いてます。暇つぶしになれば嬉しいです。


今作は、影女「あけましておめでとうございます」をベースに構成しました。
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1325/13253/1325359507.html (←5年前!?)

色々と説明不足が否めませんが、もう少し精進したいと思います。

ありがとうございました。

282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/29(木) 15:49:46.41 ID:GYnM/tFm0
と、時の人ッ!時の人じゃないか!?

今回もいい話でした乙
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