【デレマス】白菊ほたる「夜更かしと、藍子さんとのオセロ」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:17:29.95 ID:mR3a0gwl0
アイドルマスターシンデレラガールズの白菊ほたると高森藍子の小話です。

地の文あり、マイナーCP、ご注意。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1504459049
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:20:12.65 ID:mR3a0gwl0
これは私の、この事務所で初めての夏の話だ。
とはいえ、全てをお見せすることは出来ないから。

夏の終わりにみんなで寮に集まって、いわゆるパジャマパーティーをしたときの夜。
その夜更けの、ちょっとした残夏の話。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:22:07.71 ID:mR3a0gwl0

「もうすぐ、夏が終わりますね」

網戸を通り越して、晩夏の涼しい風が入り込んでくる。

蝉しぐれはすっかり止んで、ジージーと夜の虫の声に代わってしまった。
部屋の電気は消してしまって、小さなランプと外の明りだけを頼りにして。

そんな静謐とした部屋で、藍子さんと二人、机を挟んでオセロに興じていた。

「みんなぐっすりですね。もう寝ますか?」
「もう少しだけ、おねがいします」

黒を白で挟んでひっくり返す。これで一気に白の優勢である。
勝てば八勝目、藍子さんに追いつける。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:23:59.52 ID:mR3a0gwl0

「ほたるちゃんも、案外負けず嫌いですよね」
「すみません、嫌でしたか?」
「ううん、いくらでも付き合いますよ」

盤上には、あと六つの空きがある。藍子さんが黒を入れて五つ。

白、黒、白、黒。

そして、白の最後の一手。
盤面の黒を私の白色が染めて、私の勝ち。
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:25:42.85 ID:mR3a0gwl0

「やった……!」
「負けちゃいました…… これで、おあいこですね」
「ふふっ、運が絡まなければ、私だって強いんですよ」

トランプ、人生ゲーム、ウノと様々やったが、ここまで善戦しているのは本日初だ。

石を均等になるように手前の溝に戻して、もう一度。

「もう遅いですから、次で終わりにしましょうか」
「そうですね。のんびり打って、この勝負でお終いに」

今度は私が黒色、先制で始まる。
ここまでの作業も、もう手慣れてしまっていた。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:26:51.84 ID:mR3a0gwl0

「今年の夏はどうでしたか、ほたるちゃん」

私の先手から、静かにゲームはスタートした。

盤上の黒が一つ裏返る。ぱちり。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:27:56.63 ID:mR3a0gwl0

「まさか海のお仕事をする日が来るなんて思いませんでした」

透き通る海、灼けた白い砂浜。

まさか私にも水着の仕事が舞い込むなんて、思いもしなかった。
プロデューサーさんには、感謝の念でいっぱいだ。

カメラマンさんに「楽しそうな君たちが撮りたい」なんて言われたときには驚いたけれど、出来上がった写真を褒めてもらえたから、仕事としても上出来だったろう。

それにあの撮影は、みんなも一緒だったから。

「どうしても、忘れられそうにありません…… 海の青も、夜空の黒も、全てが、宝物になりました」

アイドルの活動は楽しいものだと、改めて感じた。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:29:09.40 ID:mR3a0gwl0

「それは良かったです♪ 私も、波に水着を盗まれるのは初めて見ました」
「ああっ! それは忘れてください……!」
「ふふっ、忘れられそうにありません♪」
「もう……」

藍子さんは茶目っ気たっぷりに笑って、パチリ。

すかさず、分かり易く怒った演技を入れながら、黒をひとつ入れて、くるり。
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:30:25.02 ID:mR3a0gwl0

「藍子さんはどうでしたか、今年の夏は」

彼女が悩んでいる間に、話題の種として質問を返す。

「そうですね…… 思えば事務所に来て、一番綺麗な夏だったと思います」
「綺麗、ですか」

感慨に浸るようにゆるりと、藍子さんが次の一手を打つ。
黒猫色の石が、白鳥色に変わる。

10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:31:47.19 ID:mR3a0gwl0

「うん。思い返せば、狂いそうな暑さも、澄み渡った青空も、咲き渡る花々も、こんなに美しく見えたのは初めてかもしれないなって」
「それは、良かったです」

彼女と同じ喜びを分かち合えていたと知り、幸せを噛み締めて一手。
砂浜のように白い直線が、黒にひっくり返る。

負けじと白が、パチリ。
それならばと、くるり。

パチリ、くるり、パチリ、くるり。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:32:59.29 ID:mR3a0gwl0

そのまま、時間の許す限り、八×八が埋まるまで、他愛ない話を繰り広げた。

あの水着は可愛かった。
あんなアクシデントが起こるとは思わなかった。
あそこのジュースが美味しかった。

そんな話を延々と……

そして、いつしか最後の三マスになっていた。

白色が置かれる。二、三の石が白に変わる。

黒色を置く。黒色の線が四方に延びる。

そして最後の白色が、呆気なく、パチリ。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:34:19.62 ID:mR3a0gwl0

「私の勝ち、ですね」
「ほたるちゃん、強い」
「えへへ……」

ゲームで勝利するのは、久しい体験だった。
やはり、運で左右されないゲームは良いものだ。

時計を見ると、時刻は午前二時を回っている。
窓の外にはもう、人の活気は見られなかった。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:35:22.71 ID:mR3a0gwl0

「だいぶ遅くなっちゃいましたね。ほら、月が綺麗ですよ」

指を差されて視線を少し上に向けると、円なそれが白熱灯のように輝いていた。

こんなに明るいのに、言われないと案外気づかないものだ。

「大きいですね、今晩の月は……」
「きっと寂しくて、誰かに見て欲しいんですよ」
「いいですね、そういうの」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:36:57.45 ID:mR3a0gwl0

何となく眺めていたくなって、片付けの手は止まってしまった。
椅子を窓の方に向けて、空を仰ぐ。

そのまま眠ってしまいそうなくらい、静かな時間が流れていた。
時計の音と、いくつかの吐息だけが聞こえてくる。

「あのね、ほたるちゃん」

沈黙の中で、藍子さんの囁きが上がった。
その柔らかい音に、耳を傾ける。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:38:12.80 ID:mR3a0gwl0

「私ね、ほたるちゃんと出会ったとき、『暗い夜みたいな印象の子だなぁ』って、思ったんです」

藍子さんは、半ば独白のように語りを進めている。
そんな彼女の心の声に、私なりにしっかりと頷く。

「でもね、一緒にいるうちに、『何か違うなぁ』って思うようになっていて…… その答えが、いま分かった気がします」

視界の端で、私に体を向けたのが分かった。
私も視線を降ろして、彼女の方に向き直る。

暗闇の中でも、嬉しそうに微笑む彼女の表情は見えていた。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:42:16.51 ID:mR3a0gwl0

「ほたるちゃんは、『月』みたいですね」
「月……?」

彼女は続ける。私も、より深く聞き入る。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:47:34.35 ID:mR3a0gwl0

「月は、夜道を歩く人達には欠かせない存在なんですよ。それこそ、今みたいに電灯が無い時代には、かなり重宝されていたって聞きます」
「そんな、私なんか……」

あまりに自分に合わぬ誇大な例えに、違和感を覚えてしまう。
しかし、彼女は本気でそう思っているようだった。

「ほたるちゃん、貴方が重ねてきた苦労を、私には完全に理解出来る訳じゃない……」

藍子さんが瞑目する。

とても真剣な表情だ。
私の以前が分かち合えないことを嘆いていること。
それが、ひしひしと伝わってくる。

「でも、私にも分かります。貴女が、いまもどこかで夢を追う人々の、ひとつの希望になれていること……」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:49:03.47 ID:mR3a0gwl0

私が、希望。私が、誰かを照らす月……?

「なんだか、しっくりこないです……」
「まあ、私の想像も入っていますけどね。でも、きっと……」

月みたいなアイドル、暗闇を照らすアイドル、か。

不思議な感じだ。私を照らしてくれたあの人達みたいに、私もなれるのだろうか。
本当に、今は想像だけかもしれないけれど、そんな存在になれたら……

「――ありがとうございます。頑張ってみますね」
「ふふっ、一緒に頑張りましょうね♪」

藍子さんが、ふわふわとした笑顔で私の頭を撫でた。
それも、なんだか心強く感じる。すっかり励まされてしまった。

うん、頑張ろう。みんなと一緒なら、私にも……
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:50:33.59 ID:mR3a0gwl0

しかし、こうして真っ直ぐに褒められるのも、なんだかくすぐったく感じる。

本当に、この人は、人を幸せな気分にさせるのが上手い。
それこそ、周りの人達を暖かく照らしてしまうような――。

「――月って、太陽が無いと輝けないんですよ」
「え?」
「……なんでもないです♪」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:52:27.51 ID:mR3a0gwl0

もう一度、時計に目をやる。
時刻は午前二時三十分、かなり夜更かしをしてしまった。

「さて、片付けましょうか」
「はい、早く寝ないと、明日も忙しいですからね」

机上の昼と夜の色が混在したボードゲームを仕舞って、椅子も元通りにして。

足元の布団は寝相の悪い人、綺麗に寝る人、様々絡み合っていて、足場が少なくなっている。
それすら愛おしく感じつつ、仕方なく端の空いた布団に、二人並んで寝転んだ。

21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:53:41.16 ID:mR3a0gwl0

 ああ、まだこの幸せが続けばいいのに。
 でも、明日もきっと、良い事あるよね。
 
薄れる夏に期待を抱きつつ、この夜の一幕に、瞼を閉じた。
外からは、まだ虫の鳴き声が聞こえていた。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:55:02.02 ID:mR3a0gwl0
終わりです。ありがとうございました。
短くてすみません。

HTML化、依頼してきます。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/04(月) 02:56:47.24 ID:mR3a0gwl0
それと過去作も、よろしければ……

【デレマス】白菊ほたる「雨の嫌いな私と、藍子さんとの帰り道」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501844051/

【デレマス】白菊ほたる「ちょっと髪が伸びた私と、藍子さんとの昼下がり」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501598434/

【デレマス】白菊ほたる、10歳の夏
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501437575/

では、おやすみなさい。
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