鬼姫「わたしの愛は美しいでしょう?」

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6 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:15:20.99 ID:hGr+6DsHO

鬼姫「やん、おっきくなった……」

くそっ、また始まった。

何をされても欲情なんてしないのに、魔法一つでこのざまだ。

この女、どういうわけか、ここだけは絶対に傷付けない。やりたきゃ他の男とやれ。

屈辱だ。こんなことをされるくらいなら、いっそ切り落とされた方がマシだ。


鬼姫「愛してるわ。さあ、わたしを満たして」


狂ってる。

痛めつけて、傷付けて、愛してるって囁いて、何度も何度も肌を重ねる。

肌は爛れ、肉は焦げ、髪は焼かれ、頭皮は捲れ、一見すれば死体みたいな様だ。

こんな姿にしておいて愛してるだと? 気狂いの変態め、さっさと死んじまえ。


鬼姫「んっ…そうよ、その目がたまらないの」


よがってんじゃねえ、さっさと終わろ。

俺は何もしない、こいつの場合、ぶん殴ったって悦ぶだけだからな。
7 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:16:42.23 ID:hGr+6DsHO

鬼姫「やん、おっきくなった……」

くそっ、また始まった。

何をされても欲情なんてしないのに、魔法一つでこのざまだ。

この女、どういうわけか、ここだけは絶対に傷付けない。やりたきゃ他の男とやれ。

屈辱だ。こんなことをされるくらいなら、いっそ切り落とされた方がマシだ。


鬼姫「愛してるわ。さあ、わたしを満たして」


狂ってる。

痛めつけて、傷付けて、愛してるって囁いて、何度も何度も肌を重ねる。

肌は爛れ、肉は焦げ、髪は焼かれ、頭皮は捲れ、一見すれば死体みたいな様だ。

こんな姿にしておいて愛してるだと? 気狂いの変態め、さっさと死んじまえ。


鬼姫「んっ…そうよ、その目がたまらないの」


よがってんじゃねえ、さっさと終わらせろ。

俺は何もしない、こいつの場合、ぶん殴ったって悦ぶだけだからな。
8 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:18:56.55 ID:hGr+6DsHO

鬼姫「あっ…出てる……んっ…」

出てるんじゃなくて『出させた』んだろうが。

俺はあちこち痛くてそれどころじゃないんだよ。

さっさとどけ、気色悪い。


鬼姫「あんっ……もう少し余韻に浸らせてくれてもいいじゃない。いじわる」


黙れ塵女、終わったんならさっさと出て行け。

大体、そんな風に頬を膨らませて拗ねたって全然可愛くないんだよ。

俺にこんな仕打ちをしておきながら、そんな表情を作れるなんてどうかしてる。


鬼姫「こんなに愛しているのに、あなたはいつになったら愛してくれるの?」


死ぬまで有り得ない。死んでも有り得ない。

お前を愛するだと? そうなったら俺もいよいよ終わりだな。


鬼姫「くすくす。まあいいわ、必ず虜にしてみせるから。じゃあ、またね……」


こいつが出て行くと痛みが消え失せる。いつものことだが、これがキツい。
9 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:22:24.52 ID:hGr+6DsHO

勿論、これも魔法だ。

自分がいない間は痛みをなくして、此処へ来たら痛みを与える。

痛みに慣れさせない為の手段だろう。よく考えたもんだ。その頭を他に回せないもんかね。

それにしても、魔法ってやつは本当に便利だ。

焼いたり、凍らせたり、雷を落としたり、風を起こしたり、傷を癒したり。

高位の魔族ともなれば、死人を生き返らせることも可能らしい。


魔法。


強い者にはめっぽう優しくて、弱い者にはとことん厳しい。

それが、魔法に対するイメージ。

もし人生で一度きり、とんでもなく強力な魔法使えるなら、今すぐにあの女を殺してやりたい。

こんな風に、何度も何度も考えた。

あいつを殺すことを、あいつが苦しむ様を妄想した。

あいつが俺にしたように、充分に苦しめてから殺すことも考えたが、それは止めた。

だって、あの女ときたら、首を絞めても悦ぶし、馬乗りになって殴っても悦ぶんだ。
10 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:24:10.64 ID:hGr+6DsHO

加虐趣味で被虐趣味。

正に、異常性欲者だ。

人間なら死ぬほどの痛みでも、あの女には甘い快楽にしかすぎない。

だから、やられてる間は抵抗しない。

わざわざ悦ばせたくもないからだ。だが、それすらも、鬼姫にかかれば快楽になる。

俺が拳を握り締め、震えて堪えている様が、鬼姫にはたまらないらしい。

何をしても、何もしなくても、鬼姫に悦楽を与える。


これから先も、ずっと。


結論、俺は弄ばれ、いずれは気が狂って死ぬ。

そりゃあ一矢報いたいとは思うさ。

でも、相手は魔族だ。その見込みはない。

これが現実、抗いようのない現実なんだ。

人間の俺には、鬼姫に傷一つ付ける手段もない。
11 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:27:27.67 ID:hGr+6DsHO

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嗚呼、退屈。

彼との時間が唯一の至福の時、瞬きの間に終わる幸せなひととき。

今日も彼は変わらなかった。

だから愛しい。だから愛させたい。振り向いて欲しい。んっ、まだ奥が熱い。

でも、今は退屈。

父が魔王に尽くした結果、わたしは裕福な暮らしを約束された。

魔族領の内乱を『力』で抑えたのは、わたしの父。魔王に心酔した屑。

魔王の思想に共感して、数多の戦いに身を投じ、理想の為に命を落とした愚かな男。


哀れよね。


自分の為に力を使えば良かったものを、誰かの為に使うなんて。

どんなに賞賛されようと、魔王に利用されたことには変わりはないのに……

まあいいわ。

わたしはそうならない、わたしの力はわたしの力。誰の為でもない、わたしだけの力。
12 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:32:05.29 ID:hGr+6DsHO

蹂躙、支配、終わりなき闘争。

それが魔族のあるべき姿なのに、人間と和平を結ぶなんて有り得ない。

弱者は滅び、強者が生きる。

弱者を踏んで強者が立つ、それが世界のあるべき姿。

だから今日、わたしは魔王を殺す。

わたしより弱い者が上に立つのが気に入らない。

わたしより弱い者が世界を回すのが気に入らない。


強者は、我が儘であるべきなのだ。

わたしは、我が儘であることを許された強者。だから、思うままに生きる。


わたしの好きなように壊して壊して、終わらない争いを始める。

日和って平和呆けした愚かな魔族の目を、わたしが覚ましてあげる。

まあ、それもこれも、彼と結ばれるまでの暇潰しに過ぎないのだけれど。
13 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:34:40.68 ID:hGr+6DsHO

嗚呼、早く彼に会いたい。彼の瞳が見たい。

あの瞳、あたしを憎む瞳。

どれだけ痛みを与えても、甘い快楽を与えても、決して消えない憎悪の炎。

あの瞳が、たまらない。

だからこそ、精一杯『愛して』あげたい。

思い出すたびに身震いする。

彼がいた場所が、わたしの奥が疼く。女として生まれて良かったと、心から思える。


側近「どうなさいました」

彼の声を与えた部下が言う。

これで、彼の声を忘れずに済む。

鬼姫「なんでもないわ」

側近「そろそろ魔王が到着するようです。もう少しの辛抱ですよ」


彼の声がすぐ側にある、心が昂ぶる。

あんまり喚くものだから、声を奪って部下に与えた。だって、勿体ないもの。

でも、これでは駄目ね……ますます彼に会いたくなってしまうもの。

愚かな魔王様、早く来て下さい。

彼を抱いても身体が疼いて仕方がないの。だから、さっさと殺させてくださいませ。
14 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:43:18.22 ID:hGr+6DsHO

ーーーー
ーーー
ーー


魔王「ぐっ。鬼姫、何故だ。何故こんなことを」

そんなの決まっているじゃない。退屈だからよ。

何の争いもなく人間とと和平を結ぶなんて、わたしには堪えられない。

魔族は強くあるべきなの。平和などとは無縁の、果てない闘争を続ける存在なのよ。

魔王様、あなたが捧げた数百年の安寧は、わたしの気紛れで消える。

魔族とは、そうあるべきだわ。

力あるべき者が世を統べる。それが魔族の持つ、生来の性なのだから。

には目もくれず争い続ける日々、戦いに明け暮れる日々。


それが魔族。

それが強者。


この世界は、わたしの為だけにある。

暇だから戦って、暇だから壊す。

彼以外の生物なんて、わたしには何の意味も持たない。

犬も、魔族も、人間も、生物という点において、わたしにとっては何も違わない。
15 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:46:33.48 ID:hGr+6DsHO

魔王「愚かな。力に狂ったか」

いいえ、わたしは自分の力を示しただけ。

供も置かずに此処に来たあなたの失態。

あなたの信じた父に恩義を示す為にお一人で来たのだろうけど、本当に馬鹿ね。

わたしのように、未だに争いを望む者がいることを知らなかったのだから。

魔族を忘れた魔王様、さようなら。

さあ、死になさい。


魔王「がっ…」


わたしはこの直後、とても後悔することになる。

この後に起きた、たった一つの偶然が、わたしの手から彼を奪った。

それはとても寂しくて切ないけれど、同時に嬉しくもある。

だって、彼がわたしを求めているのが手に取るように分かるのだから。

彼の発する強い魔力が、彼の想いが、全てわたしに向けられているのだから……
16 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:48:05.47 ID:hGr+6DsHO

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何か、上が騒がしいな。

この部屋にまで響くなんて相当だぞ、爆弾でも爆発したのか?

それとも、拷問趣味がバレて踏み込まれたのか?

いいぞ、派手にやっちまえ。

出来れば死んで欲しいが、爆発如きで死ぬような奴じゃないだろうな。


魔王「ぐっ……」


な、何だ……

何かが、落ちて来やがった。屋敷から地下まで突き抜けて来たのか?

駄目だ。煙が酷過ぎて、落ちてきたのが何なのかさっぱり分からない。


魔王「誰か、おるのか?」


人? いや、そんなことは有り得ない。人間なら原型を留めていられる筈が無い。

ここに落ちるまでに、皮膚やら肉やらが削ぎ落とされてズタボロになってるはずだ。

って事は魔族か? 上で一体何があったんだ?

17 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:50:03.46 ID:hGr+6DsHO

魔王「……魔族かと思ったが、人間だったか」

こんな形だからな、そう思われても仕方ない。っていうか誰だよ、この爺さん。

見てくれは貴族っぽいけど、手酷くやられたのかぼろぼろだ。


魔王「お主、声を奪われておるのか。余程、鬼姫が憎いと見える」


何だこの爺さん、魔族には違いないだろうが、変な感じだ。

確かに鬼姫は憎いが、それをどこから知った。


魔王「その憎悪が、お前を魔族と勘違いさせた原因か。その憎悪、魔力と似ておる」


まさか、俺の心と記憶を読んだのか。

魔族ってのは、平気でそういうことするんだな。

あの鬼姫ですら、そんな真似はしないってのによ。

魔王「………話している時間はない。お主に、鬼姫を倒す力を与えよう」
18 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:52:47.63 ID:hGr+6DsHO

何言ってんだ?あんたは誰だ?

おい、答えろ。 鬼姫を倒すって、どういう……


魔王「すぐに終わる。辛抱してくれ」


何だ、何かが、何かが入って来やがる。

うえっ、気持ちわりぃ、吐きそうだ。クソッ、何しやがった!?


魔王「儂の魔力を与えた。その力を以て、鬼姫を打ち倒してくれ」


そこからは、あまり記憶がない。

体中の血管が沸騰したみたいに熱くなって、壁にぶつかるのも構わず転げ回った。

頭は割れるほど痛み。心臓が、何度も爆発した。


魔王「どうか鬼姫を止めてくれ」


知るか阿呆、思い付く限りの罵詈雑言を喚き散らしたが、やっぱり声は出なかった。

喉元からどろりとした何かがせり上がってくる。吐き出すと、炭化した何かだった。

やっと痛みが落ち着くと、爺さんは消えていて、着ていた服だけが落ちていた。

死んだのだと、何となく思った。

あの女を倒せだと? ああ良いさ、殺しても構わないならな。


たが、今じゃない。


魔力の使い方も魔法の使い方も分からないのに戦いを挑んでも、勝ち目はない。

大体、あんな爺さんの魔力で勝てるかも怪しい。とにかく、このどさくさに紛れて屋敷を出よう。
19 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:54:06.09 ID:hGr+6DsHO

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何とか屋敷からは逃げ出せた。

屋敷の中だけでなく、そこかしこで戦闘が始まってたのが好都合だった。

あの爺さんは結構な要人だったのか? まあ、そんなことはどうでもいい。

今のところ追っ手は来ていないが、魔族領にいる限り安全とは言えない。

人間領まで行ければなんとかなるか? いや、見てくれはゾンビみたいなもんだ。

化け物だと思われて、兵士に殺されるかもしれない。何しろ、声を出せないのがキツい。

こんなナリで町中にいては、いずれ見付かる。保護されるとも思えない。

焦った俺は、逃げるように町を離れて山に入った。が、ある存在を忘れていた。


そう、魔物だ。


気付いた時には遅かった。気付いた時には、魔物はそこに迫っていた。

俺は混乱して、無我夢中で逃げた。

結局追い付かれ、組み敷かれ、喰われそうになった時、ふと頭を過ぎった。
20 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:55:05.67 ID:hGr+6DsHO
 
 
 
 
 
 
 
『何で?』
 
 
 
 
 
 
21 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 20:57:26.87 ID:hGr+6DsHO

そうだ。

何で俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ。俺が何をしたって言うんだ。

ふざけんな、鬼姫も、魔物も、魔族も、全部全部死んじまえ。

俺と同じ痛みと苦しみを与えてやる。


呪ってやる。

死ね。死ね。死んじまえ。

どいつもこいつも死んじまえばいいんだ。


そう強く念じた瞬間、辺りに肉の焼け焦げたような悪臭が立ち籠めた。

そっと目を開けると、覚悟していた痛みなく、俺は喰われてはいなかった。

大口を開いて噛みつこうとしていた魔物は皮膚を剥がされ、焼け爛れて死んでいた。

理解するのに、そう時間は掛からなかった。

魔力、魔法だ。

手も触れず、念じるだけで殺す手段なんて『それ』しかない。

俺は、俺と同じ姿になった魔物を見下ろしながら、体に巡る力を理解した。

そして、理解した瞬間に誓った。

この力を使って、鬼姫を殺す。
22 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:00:43.89 ID:hGr+6DsHO

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あの日、俺が魔力を手に入れてからどれくらいの時間が経っただろう

あれから、魔法について様々なことを魔物を相手に試してみた。

魔法は感情に左右される。

攻撃魔法は敵意や憎悪、治癒魔法は優しさや愛といった感じらしい。

他にも幻を見せたり出来るみたいだ。


試してみた結果、色々と分かった。


俺には攻撃魔法しか使えないらしい。まったく、随分と使い勝手の悪い力だ。

因みにこれは、愛や優しさなんてものが俺に残っていない証拠でもある。

なのに、変態鬼姫は治癒魔法を使える。

ってことは、奴は愛を持っているってことだ。

どうやら偏執的、変態的、倒錯した愛でも『愛』の内に入るみたいだな。

線引きが曖昧で腹が立つ。

あんな奴が、人を痛めつけるのが趣味の変態が、治癒魔法を使える。
23 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:02:58.29 ID:hGr+6DsHO

なのに、やられた側の俺は使えない。

ふざけやがって、魔法ってのは本当に優しくないやつだ。

体中が痛くて眠れやしない、いつも鬼姫を殺す術だけを考えてる。

もう、どれくらい眠っていないだろう。

ただでさえ頭がおかしくなりそうなのに、一睡も出来ないときた。


睡眠ってのは大事なんだな。


鬼姫が俺から睡眠を奪わなかった理由がよく分かる。

簡単に狂ってしまわないように、睡眠をとらせたんだろう。

その『優しさ』すら、愛と捉えられるんだから余計に腹が立つ。

鬼姫はこの手で殺す、止めてくれとか言われたが知らん。

たとえ首だけになっても、喉笛を噛み千切って殺してやる。

でもまだだ、まだ使えてない。

鬼姫を殺す方法を見つけるまでは、この山からは下りない。外からは、戦の音が聞こえる。

大砲をぶっ放したような派手な音、つんざくような悲鳴。また、あいつに壊されたんだろう。

魔族、魔力、魔法、魔物。

力が法になる世界……

最初から間違っていたんだ。あんな奴等と、共に生きられるわけがない。
24 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:05:06.48 ID:hGr+6DsHO

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彼がわたしの手を離れてから数ヶ月が経った。

魔王を殺したのが知れると、魔王傘下の魔族が大挙として現れた。

あの軍勢を前にした時はほんの少しだけ興奮したけれど、やはり彼の前には及ばない。

殺しても殺しても、血を浴びて真っ赤になっても、最後の一人の懇願する顔を見ても……


城の天守に立っても……


結局、何をしても、わたしが満たされることはなかった。

あの時、わたしの屋敷の前に出来た血の流れ。あれだけは美しかった。

名だたる魔族が一つの川となり、地を赤に染める様だけは、美しいと思えた。

彼の血の一滴にも劣るけれど、夕陽も相まって、とても素敵な景色だったと思う。


鬼姫「はぁ、退屈」


最近は敵と呼べる者はめっきり来なくなったから、わたしから出向いて殺しに行っている。

わたしは確かに強いけれど、魔族ってこんなに弱かったのかしら。
25 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:06:40.48 ID:hGr+6DsHO

泣き喚いて助けを請う姿は醜いったらない。

でも、そんな無様で惨めな姿も、彼だっら様になるのかしら。

いえ、そんなはずはない。彼なら助けてなんて言うはずがない。

きっと、あの燃えるような瞳であたしを睨みつけて、首に手を掛けようとするに違いない。

彼が人間としてでなく、魔族として生まれていたら……

それはそれで素敵だけれど、やっぱり人間だからこそ美しいのでしょうね。

弱く、儚い。だからこそ、彼は美しい。


側近「鬼姫様、もうじき到着するようです」


突然の彼の声に胸が高鳴る。

声の主が部下であることは分かっていても、否応なしに鼓動が早くなる。

でも、それも長くは続かない。

今日は久しぶりに、わたしを殺しに来た者と戦わなくてはならない。
26 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:08:09.31 ID:hGr+6DsHO

それも魔族ではなく、人間。

彼以外の男、彼以外の人間。

屑、塵芥。


側近「俺が始末します。鬼姫様が出る必要はありません」


彼の声で話すにあたって、彼と同じように話すよう命令した。

その方が、耳心地が良い。

まだぎこちないけれど、彼女は良くやってくれている。

わたしを、楽しませる為に。


鬼姫「いいえ、遠路はるばる来てくれたんだもの、わたしが出ないと失礼だわ」


戦いを挑むからには、それなりの勝算があるのだろう。

そうでなければ、一人でわたしに挑むなんて有り得ないもの。

魔王傘下の残党と手を組んで、苦労して苦労してここまで来たのだから。

人間や残党からは、勇者と呼ばれていると、部下から聞いていた。
27 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:09:55.28 ID:hGr+6DsHO

魔族でさえ、勇者なんて屑に頼る始末。

彼等には、魔族としての誇りもないのかしら。ないのでしょうね。

確か、希望の象徴であり平和をもたらす者……

そんな感じだったかしら。

本当に馬鹿馬鹿しい。

彼以外の人間を滅ぼすのは、もう何年か後にする予定だったのに……


側近「鬼姫様、そろそろ」

鬼姫「ええ、行ってくるわ」


荒れ地に立つ愚か者を見て、わたしは天守から飛び降りた。
28 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:11:49.89 ID:hGr+6DsHO

すると、背後から彼の声。


側近「俺が来るまで死ぬなよ、鬼姫」


戦いに赴く度に言わせている台詞。

他はぎこちない部下も、これだけはさらりと言えるようになった。

わたしはふわりと浮いて、振り向かぬまま微笑する。

彼の姿を思い浮かべながら緩やかに落下する。

目を閉じて、愛を囁く。


鬼姫「わたしは死なないわ。あなたに会う、その時まで……」


そんな小さな喜びも、屑によって消されてしまった。矮小な、人間に。

彼とは違う、優しげな眼差し。

ただ、その奥には、自分が特別な存在だという自負が見える。

いえ、あれは自負じゃないわね。ただの自惚れ。傲慢。

勇者なんて呼ばれて、その名に酔っているのかしら。哀れだけれど、本人に自覚はないのよね。

世界を救うなんて言って、人々の為に奔走して……本当に馬鹿みたい。

自分の本質も見えていない盲目者、こんなちっぽけな存在が勇者だなんて笑えないわ。

少しは期待していたのに、期待していたわたしが馬鹿みたいじゃない。
29 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:13:52.88 ID:hGr+6DsHO

いえ、目の前の屑に罪はない。

彼以外の男に期待なんてするからいけないのよ。わたしが愚かだったわ。


鬼姫「さあ、早く済ませましょう」

勇者「……いいだろう」


けれど、此処まで来てつまらない真似をしたのなら、どうしてやろうかしら。

あら、何かしら。何かがくる。

魔力、人間の許容量を超える魔力が収束してる。違う、あれは魔力じゃない。

なるほど、人々の『希望』とは良く言ったものね。 何千万のそれが、この屑に力を与えている正体。

下らない。

そんなものに頼らなければ戦えないなんて。そんなものに頼らなければ、わたしの前に立てないなんて。


鬼姫「……まどろっこしいのは嫌いなの、早くぶつけなさい」

勇者「人々の願いを喰らえ、鬼姫!!」


屑が、わたしの名を呼んだ。

彼以外の男が、わたしの名を呼んだ。
彼以外の声が、わたしの名を呼んだ。
彼以外の男が、わたしの名を呼んだ。
彼以外の声が、わたしの名を呼んだ。

わたしは渾身の力で放たれた希望を一振りで消し去り、屑の腕を、触れずに消し飛ばした。
30 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:17:44.93 ID:hGr+6DsHO

勇者「な、何故だ!何故通じない!!」

確かに発想は面白いけれど、その程度でわたしを殺せると思っていたのかしら。

救いようのない生き物ね。

薄っぺらい希望なんてものより、確かに存在しているものが勝っただけよ。

何千万の人間が命を捧げたのなら、わたしを倒せたかもしれないわね。


勇者「……何をした」

鬼姫「何もしていないわ」

鬼姫「これは愛。何千何万の希望に、わたしの愛が勝った。それだけよ」

勇者「そんな馬鹿なことがッ!?」

鬼姫「なんて汚い声……弾けなさい」


どんな醜男でも、弾ける時は美しい。

それにしても、彼以外の生き物って、わたしを苛立たせるのが上手いわね。

でも、少し嬉しいわ。何千万人もの弱者が託した『希望』。

それを、わたしの『愛』が打ち砕いたのだから。

わたしがどれだけ彼を愛しているのか、それが証明されたのだもの。


鬼姫「……あら、狼だなんて珍しい」


少しうっとりとしていて、視線に気付かなかった。 もしかしたら、ずっと見ていたのかしら。

あの刺すような視線、彼に良く似ている。

ふと近付こうとした時、わたしの魔力を察知したのか、狼は何処かへと消えてしまった。
31 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:19:32.84 ID:hGr+6DsHO

>>>>>>

勇者だったか、随分呆気ないな。

まあ『人間』ならあんなもんだろうさ。

でもなるほど、あんな魔力の使い方もあるわけか。勉強になったよ。

でも、あれじゃあ弱い。もっと確実に、一撃で『鬼姫』のみを殺す方法があるはずだ。

くそっ、憎い憎いと思いながら鬼姫のことばかりを考えている。

例え魔法でも、この憎しみは消せないだろう。


大体、何が愛だ。


変態嗜好の気狂い女の愛なんて、肥溜めの中の死体みたいなもんだ。

あの女の愛を形にしたら、とんでもないことになるんだろうな。

想像するだけで虫唾が走る。

まあいい、狼を通して見たあれは参考になった。

問題はどうやって改良応用するかだ。

魔力を集めてぶつける、それは通じない。

そもそも、受け継いだ力は鬼姫に劣っているわけだしな。
32 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:21:33.28 ID:hGr+6DsHO

いや待て、確かあの時……

『憎悪は魔力に似ている』

そうだ、確かにそう言っていた。いや、ただの憎悪じゃない。

俺が持つのは『鬼姫への憎悪』だ。 それは俺の核、力の根源。

殺したい、痛みを与えたい、消えない傷を与え、絶対の死、あの女を、滅ぼしたい。

だが、魔力だけでは届かない。もっと別の、俺そのものの力をぶつける方法。


俺、そのもの?


……そうか、これなら殺せる。

これは俺にしか出来ず、俺だけが持つ、鬼姫しか殺せない魔法だ。

他の奴等に効くかどうかは分からないが、鬼姫に対してだけは絶大な威力を発揮する。

よし、狼も無事に帰って来た。策も練った。もう、待つ必要はない。俺には時間もない。


さあ、行こう。


ぼろ切れを羽織った死体が、狼の背に跨がって山を下りる。滑稽だな。

そういやこの前、魔族に協力頼まれたっけな。断ったけど。

俺を屍の王なんて言いやがって、俺は人間だってんだよ。

俺は誰かの為に戦うわけじゃない、俺の為に戦う。

誰かを救う為でもない、ただ鬼姫を殺す為に戦う。

だからこそ、鬼姫を殺せる。
33 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:24:08.04 ID:hGr+6DsHO

まだ城が見えないってのに、血と腐った肉の臭いがする。

俺同様、狼も顔を顰めてる。

でもまあ、随分と慣れたもんだ。環境に適応する力ってのは中々馬鹿に出来ないな。

ちゃんと人間やってた頃なら、間違いなく吐いていただろう。

今や声がなくても会話出来るし、魔物なんて虫けらみたいに殺せる。

以前なら怖くて怖くて仕方がなかった化け物も、一瞬で殺せるようになった。


力を得て、試して、殺した。


どこまで出来るのかを試した結果、俺が想像していた範囲外のことすら可能になった。

今なら、鬼姫の居場所まで一瞬にして移動出来るだろう。

それなのに、わざわざ狼に跨がって移動するのは何故だろう。

きっと考える時間が欲しくて、そして、悩みたかったんだろう。

人間として、悩みたかったんだろう。
34 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:26:20.08 ID:hGr+6DsHO

……鬼姫と出逢って、魔族領に来た。

度重なる拷問と性交。 鬼姫に人生を狂わされ、死体みたいな姿にされた。

そう、人生だ。人としての生を奪われた。

俺はもう、人としては生きられない。きっと、人だとは認めてもらえないだろう。

今じゃあ、屍の王なんて呼ばれる始末だ。

お供に狼、他に仲間はなく、肉を剥き出しにした、おぞましく、醜い存在。

魔王の如き魔力を持ち、数多の魔物を葬る怪物。


屍を生む屍、屍に立つ屍。

それが、魔族から見た俺らしい。


俺はただ、魔物から身を守ってただけだってのに、何とも酷い言われようだ。

確かに魔物を相手に魔法を試したし、魔物を殺して喰ったりもした。

俺の噂を聞きつけてやって来た魔族は、人間が魔族を見るような目で俺を見ていた。

醜いと、得体の知れない魔だと、おぞましいと思ったのだろう。

言わずとも、目がそう語っていた。蔑みながら、怖れていた。

まあいいさ、何とでも思うがいい。

全ては生きる為にしたことだ。

大体、今更になって魔族と協力して、仲良しこよしで鬼姫を倒そうなんて思えない。
35 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:29:28.15 ID:hGr+6DsHO

俺には、絶対に思えない。

どいつもこいつも信用出来ない。信用出来るのは、こいつだけだ。

こいつは俺のような醜い化け物と昼夜を共に過ごし、寒い夜は俺を包んでくれた。

魔法で懐かせたわけじゃない。この狼は、自ら俺といることを望んでくれた。

人間、魔族。果ては世界がどうなろうが、俺にはもう、どうでもいい。

この力を使って何かを支配しようだなんて微塵も思わない。あるから利用する、それだけだ。


力の使い道も目的も、一つだけだ。


ほら、見えてきた。

魔族を敵に回した魔族、化け物の頂点、あれが鬼姫だ。

あれが、この力の向かう先。あの女さえ殺せれば、後はどうなっても構わない。

……あの女、俺と初めて出逢った時と同じ着物を着てやがる。

当然、分かってて着てるんだろうな。

俺は出逢った時の姿には二度と戻れないってのに、あの糞女め。
36 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:31:34.28 ID:hGr+6DsHO

狼、お前はもう戻れ。

分かるだろ、お前はこんな所にいては駄目だ。

此処には、俺と鬼姫だけでいいんだ。ほら、もう行け。よし良い子だ。

今まで、ありがとう。元気でな。


鬼姫「お帰りなさい。お別れは済んだのかしら」


ああ、終わった。

此処には、俺とお前の二人だけだ。


鬼姫「ええ、二人きり。わたし、この時をずっと待っていたの」


そうかい、それはそれは有り難いな。

お前がいつ山に来るものかと、不安に思ったこともあったんだ。

俺がお前を殺せるようになるまで待ってくれて、本当に良かった。


鬼姫「あら、てっきりわたしが恋しくて戻って来てくれたと思ったのに」
37 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:33:15.88 ID:hGr+6DsHO

ふざけるなよ変態女。

今じゃあお前が笑う度に殺したくて仕方ないんだよ。美しさなんてものは一切感じない。

気持ち悪いんだよ、犬畜生にも劣る塵屑が。


鬼姫「酷い……」

鬼姫「わたしはこんなにも愛しているのに……見て、この着物。美しいでしょう?」


なるほど、お前は本当に救いようのない変態だな。その着物、俺の皮膚で造ったのか。

どこかが違うとは思ったが、よくそんなものを想像出来るな。気狂いが。


鬼姫「だって、あなたを傍に感じられるんだもの」


黒髪を震わせ、頬を赤らめながら己の女を弄る。恥じらいも何もあったもんじゃない。

見せ付けるようにして抜いた指は、てらてらと光っていて、とろりとした透き通った糸を引いた。

変わってない。

いや、あいつは生まれながらに『そう』だったのだろう。
38 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:36:17.11 ID:hGr+6DsHO

まあいい、俺は終わらせに来た。

愛する男の皮膚で着物を作る異常者、俺をこんな姿にした張本人。

俺は、お前を滅ぼす為に此処へ来た。


鬼姫「……そう。なら、声を返すわ」

鬼姫「悲しいけれど、あなたの意志は固いようだし。最期、なのよね」

屍王「ああ、最期だ。俺が、お前を殺す」


長い間使ってなかった為に上手く声が出なかったが、何とか口にした。

眼前に立つ鬼姫は、心底嬉しそうな顔で、初めて会った日と同じ顔で笑っている。

事実、嬉しいんだろう。

自分の趣味嗜好、歪んだ愛情を、鬼姫は否定しない。 あれは、そういう女だ。


鬼姫「さあ、ちょうだい。あなたの全てを、わたしに魅せて……」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/29(日) 21:38:36.07 ID:hGr+6DsHO

俺は俺に集中した。

魔翌力の根源に潜り、俺と繋げた。

俺そのもの。肉ではなく、精神。

俺を俺たらしめる物。ごく簡単に言えば、命ってやつだ。

何とも皮肉な話だが、俺の鬼姫に対する憎悪、想いは、どこの誰にも負けはしない。

その想いと命を繋いで、俺自身を魔法として放つ。正に、一度きりの魔法。

そして、言うんだ。

まだ自分を保っていられる内に、 鬼姫にしか通用しない、魔法の言葉を……













屍王「さあ、鬼姫。俺の想いを、受け取ってくれ」







 
40 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:40:23.07 ID:hGr+6DsHO

嗚呼、なんてこと。

そんなこと言われたら、受け入れるしかないじゃない。拒絶なんてするわけないじゃない。

だって、あなたは、わたしだけの物なのだから。

だからわたしは、あなたの全てを受け入れてみせる。全てを抱き止めてみせるわ。

そもそも、あなたのいない世界になど未練はない。だから、この命を失おうと構わない。


嗚呼、入ってくる。


あなたの叫び、呪い、狂気、憎悪、侮蔑、殺意。

この全てが、わたしに向けられているものなのね。なんて、なんて素敵な贈り物なのかしら。

あなたの皮膚、肉、髪、爪、歯……

そのどれよりも美しくて、刺激的な贈り物。

これが、あなたの『想い』なのね。

出来るのなら、ずっとずっと一緒にいたかった。きっと良い夫婦になれたと思う。

けれど、こんなものを貰ってしまったら、その夢は諦めるしかなさそうね。

もう一度、あなたの瞳を見たいけれど、どうやらそれも無理みたい。
41 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:44:55.47 ID:hGr+6DsHO

だって、わたし……

この素敵な素敵な魔法に、あなたの想いに満足してしまったの。

だからもう、どうなってもいい。

あなたとなら、消えたって構わないわ。

もう、あんな窮屈で退屈な世界にいる必要はないのよね。

何だか、とっても気分が良いわ。

こんなに満たしてくれるなんて、やっぱり、あなたは最高の男性だわ。


わたし、しあわせよ?


あのね、一つだけ内緒にしていることがあるの。

そんな顔をしなくても大丈夫。これは、とってもとっても幸せなことだから。

わたしとあなたは消えてしまうけれど、わたしとあなたの繋がりは消えないの。

もう遠くなってしまったあの世界に、わたしは、それを残してきたわ。

ちょっと寂しいでしょうけれど、こればかりは仕方ないわよね。

だって子供は、いずれ親から離れなければならないでしょう?

ただ、それが早まっただけのことなのよ。

あの子には悪いけれど、わたしはわたしの幸せの為に生きると決めたの。

出来ることなら、あの子にもそうあって欲しいものだわ。
42 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:47:25.29 ID:hGr+6DsHO

いえ、きっとなれるわ。

だって、わたしとあなたの子なのだから。

くすくす、吃驚した?

わたしね、その顔が見たくって、ずっとず〜っと黙っていたのよ?

そんなに喜んで(憎んで)くれるなんて、とっても嬉しいわ。

わたしとあなたは、二つで一つ。憎みながら愛し合うように出来てるの。

他の夫婦とはちょっと違うけれど、あなたと結ばれるなら、何の不満もないわ。


肉体が消えてしまっても

魂が消えてしまっても

わたしと、あなたは、ずっとずっと共にあるの。世界から消えても、永遠に。










ねえ、愛しい愛しい旦那様……






 
43 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:50:56.91 ID:hGr+6DsHO

>>>>>>>

側近「これが、姫様のご両親、屍王様と鬼姫様の最期です」

少女は目を閉じて、両親の愛の形に想いを馳せる。母は身勝手で我が儘。

父はそんな母を憎み、自分諸共消し去った。

両親がいないのは寂しいが、その物語はとても美しく思えた。

倒錯した女の愛と、愛された男の憎しみ。母はその憎しみすら受け入れて、父を愛したのだ。

少女には母の想いが痛い程に理解出来た。父が如何に魅力的な男性だったのかも理解した。

わたしにも、そんな男が現れるのだろうか? こんなにも素敵な出逢いがあるのだろうか?

少女は一時悩んだが、一瞬にして振り払った。


母に出来て、自分に出来ないわけがない。


なぜなら、少女にはそれだけの力がある。我が儘に、強者として生きられる。

嘗て、母がそうであったように。

弱者の上に立ち、世の全てを思うがままにしてみせる。
44 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:54:48.47 ID:hGr+6DsHO

屍鬼姫「わたしも、そうなれるかしら」

側近「ええ、なれますとも」

屍鬼姫「お母様のように、なる」


少女は物語りを聞くたび、そう決意する。


屍鬼姫「わたしも、お父様のような素敵な男性と出逢えるかしら」

側近「屍鬼姫様がそう望むのなら」

屍鬼姫「…………」


少女は父に想いを馳せる。母のような『女』をどうやって虜にしたのだろうと。

元は人間だったと聞く、それが屍の王と呼ばれる存在にまでなった。

それはそれは、とても素敵な男性なのだろう。 少女は、父に逢いたくなった。

母しか見たことのない父の姿が見たかった。母だけが知る父を知りたかった。


屍鬼姫「この世界に、お父様のような人間はいるの? わたしに見合う者が……」

側近「ええ、きっとおられるでしょう。姫様がそう望むのなら、必ずや現れるはずです」

屍鬼姫「……そうね。そうよね。だって、世界はわたしの為にあるのだから」


少女は立ち上がり、ふっと消えた。

己に見合う、たった一人の男を手に入れる為に。父を手に入れた母のように。

母と父のような……

『理想的』な夫婦になりたいと願いながら。




ーー少女は、母に似ていた。

45 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2017/10/29(日) 21:56:55.46 ID:hGr+6DsHO





 
鬼姫「わたしの愛は美しいでしょう?」





 
46 : ◆IULkuZ.Noal. [sage]:2017/10/29(日) 21:57:30.47 ID:hGr+6DsHO
終わります。ありがとうございました。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/29(日) 22:02:19.00 ID:vTQuqJbCo
ごめん
なにがしたいSSなのかさっぱりだった
48 : ◆IULkuZ.Noal. [sage]:2017/10/29(日) 22:08:52.39 ID:hGr+6DsHO
>>47 最後まで読んでくれてありがとうございます
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 21:12:24.11 ID:aow89VBCo
倒錯してるけど、俺は好き
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/30(月) 23:02:55.11 ID:JrVLiDmLO
最後まで手の平の上と言うか
やることなすこと全て鬼姫を喜ばせてる
どうやったら鬼姫に痛みを与えられたのだろうか?自殺?
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 10:45:18.69 ID:v9X4oSoMO
結構好き
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/10/31(火) 14:07:08.88 ID:BqTwMbeW0
いやいやいや
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1417093535/
本人?
53 : ◆IULkuZ.Noal. [sage]:2017/10/31(火) 17:44:28.46 ID:3Kor4Q3zO
>>52これは何年か前に私が書いたものです。
元のSSには酉を付けていないので証明は出来ませんが、本人です。

タイトルを変えて投稿したらどうなるだろうと思って、ちょっと書き足して再投稿してみました。

まとめられてもいないし、特別好評価を受けたものでもないので、まさか気付く人がいるとは思いもしませんでした。
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/31(火) 22:36:56.13 ID:BqTwMbeW0
そっか無粋なまねしてごめんね
好きだったから覚えててね気になったのよ
55 : ◆IULkuZ.Noal. [sage]:2017/10/31(火) 23:27:21.64 ID:kZrGG0+gO
>>54覚えている方がいるなんて思ってもいなかったので、とても嬉しいです。
ありがとうございます。
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