高嶋友奈「結城ちゃんは勇者である」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/19(火) 19:52:58.72 ID:WIN2YWrH0

あらすじ:普通の日常を送る高嶋友奈は、とある事情から勇者に変身することになる

高嶋友奈という名前の少女が『結城友奈は勇者である』の世界に行くお話です
下記スレの続編となりますのでご了承願います

郡千景「結城友奈は勇者である」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1511958755/





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1513680778
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/19(火) 19:57:47.50 ID:WIN2YWrHo

*プロローグ

高嶋友奈(昔、友達にひどいことを言ってしまった)

友奈(謝らなければ、と思った。だけど……私には勇気がなかった)

友奈(謝れないまま時間だけが過ぎていき、結局私は転校することになって、その友達とはそれっきりになってしまった)

友奈(とても、後悔している)

友奈(もう二度と、あの子に謝ることはできなくなってしまったから)

友奈(それ以来、私は他人を傷つけないように、同じ間違いを犯さないように、細心の注意を払いながら生活している)

友奈(辛くても苦しくても、どんな時でも……笑顔を浮かべて)

友奈(明るい人だ、気配りができる人だ、ムードメーカーだ、なんて言われるけど、本当の私はただただ他人に怯えているだけの弱い人間でしかない)

友奈(本当は、とても嫌になることもあるけど、それでもやっぱり他人を傷つけるほうが嫌だったから、私は皆の思い描く高嶋友奈を演じ続けるしかなかった)

友奈(そんな日々にも慣れてきたある日のこと)

友奈(迷い猫を追いかけて、路地裏? と言われるような場所に迷い込んだら、そこには私と同い年くらいの女の子が動くことなく座っていた)

友奈(一瞬だけ嫌な想像をしてしまったけど、やっぱりそんなことはなくて、女の子はただ単に地べたに座っているだけのようだった)

友奈(ひどい顔をしている……)

友奈(それが正直な女の子の第一印象。でも、そんな顔は鏡でいつも見ていたから、直感的に私と同じなのだと思った)

友奈(──放っておけば潰れてしまう)

友奈(それが分かっていたから……あの時の自分を見ているように思えたから、私は声をかけていた。少しだけ勇気が必要だった)

友奈「大丈夫?」

少女「……」

友奈(女の子は何も言わず私を見て、何故だか怯えているように見えて、最後に目を細めた。だから、私は怖くなんてないんだよ、といつもの笑顔を被せてみる)

友奈(……ちょっとだけその子の気持ちが分かってしまっていたから、笑顔は少しだけ失敗していたのかもしれない)

友奈(それは、もう謝ることのできない友達へのしょくざいだったのだと思う。私の口は自動的にこう告げていた)

友奈「もし行くところがないんだったら、良ければなんだけど……うちに来る?」

少女「……」

少女「……良い、の……?」

友奈(私は笑顔で頷き──今度は上手くいったと思う……ううん、違う、本心からの笑顔だったから成功も失敗もないんだ)

友奈(私が許されることは決してないけど、この時、ほんの少しだけだけど、誰かから許してもらったような気がした。だから、自然に笑えていたんだと思う)

友奈(私は女の子の凍えるように冷たい手を握った。女の子もそれに僅かに応えてくれて、お互いの手はほんの少しだけあたたかくなった)

友奈(これが、郡千景ちゃん──ぐんちゃんとの出会い)



3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/19(火) 20:01:03.53 ID:WIN2YWrHo

*???

友奈「……あれ……?」

友奈(気が付くと、私は知らない場所に居て、多分大きな森の中に居るのかな? 足元に大きな木の根が伸びているのが見えた)

友奈「でも、この根……いくらなんでも大きすぎるし、それに色がとっても鮮やかで……きれい……」

友奈(思わず感激してしまう。見渡してみると、周りには同じように大きな植物がいっぱいあって、どれもカラフルって言葉がぴったしな色ばっかり。……あれ? でも、この光景ってどこかで……?)

友奈「……!」ハッ!

友奈「まさか、この場所って!?」

友奈(思い当たり私は首を必死に動かして、周りをよく観察してみる。──やっぱりだ!)

友奈「ここって……結城ちゃんは勇者であるの樹海、だよね……?」

友奈(私が今見ている光景は、ぐんちゃんと一緒にハラハラしながら見ていたアニメ『結城ちゃんは勇者である』に出てきた樹海と呼ばれる場所にそっくりだった)

友奈「ええと、私、夢でも見ているのかな……?」

友奈(熱中して見ていたアニメだったからその影響で見た夢なのかも。でも、頬をつねると……痛い! やっぱり夢じゃない? でもでも、ぐんちゃんは夢でも痛みはあるって言っていたし……いや、だけど、うーん……)

友奈(今の状況がよく分からなくて、私はちょっとだけ混乱し始める。だけど、そんなことをしている余裕なんて本当はなくて)

ドカーン!

友奈「何!?」

友奈(交通事故でもあったような音だったよね、今の? でも、こんな大きな森の中で事故って……?)

友奈(気付けば私は、音のした方向に無意識に歩いて、走っていて、音がどんどん大きく激しくなっていく。"そこ"にあったものたちが見えていたはずなのに、ううん、見えていたからがむしゃらに走った。必死に見えないふりをして)

友奈(そして)



女の子「こっから先は……通さなさいッ!!」ウォォォー!



友奈(目の前で小柄な女の子が──ばーてっくすと、戦っていた)



4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/19(火) 20:09:04.78 ID:WIN2YWrHo

友奈(痛そう、なんて言葉で言ってはいけないくらいにその子は傷ついていた)

友奈(それなのに……身体中ボロボロで真っ赤な血がいたるところから溢れていて、多分私よりも小さな子のはずなのに……悲鳴も泣くさえもしないで、必死にばーてっくすへと大きな武器を振るっていた)

友奈(その姿は勇気のない私が憧れた──勇者に、間違いない)

友奈(だけど、その女の子が勇者なのだとしたら、アニメの中の誰かのはずで、だけどその子は見たことのない子で──)カサリ

友奈(現実とは思えない光景に目を奪われていたのだと思う。自分が左手に何かを握りしめていたことに今更気付く。落としてしまったそれは、一冊の本)

友奈(そう、ぐんちゃんと心待ちにしていた──)

友奈「……鷲尾須美は、勇者である……!」

友奈(その可愛らしくも儚げな表紙を見て、私はようやく思い出した)

友奈(さっきこの本が届いて……一緒に入っていた手甲を私が触ってしまって、それで……それで!)

ドカッ!!

友奈(本に目線を向けていた時間は少しだけだったはずなのに、目の前の光景は目まぐるしく変わっていた。ばーてっくすが……女の子を、攻撃して……た、倒れて!?)

友奈(血が本当にひどい! 地面に流れるくらい流れるなんて! こ、このままじゃ……!?)

友奈(見ているだけの私が涙を流しそうなくらいひどい怪我なのに、女の子は、女の子は──!)



女の子「帰るんだぁ! ……守るんだーっ!!」ズシャッ!

友奈(あんな大怪我なのに、女の子は、立ち上がって……)

女の子「化け物には分からないだろ、この力!」ズバッ!

友奈(大きな武器を、必死、に……振り、回して……)

女の子「これこそが、人間様の……! 気合と! ……根性と──ッ!」グッ!

友奈(真剣な瞳と、心の底からの叫びが……女の子の凛々しい声と、重なって……)

女の子「魂ってやつよォオォォォーッ!!」

友奈(その姿があまりにも尊くて……私は、涙を流していた)



5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/19(火) 20:12:52.87 ID:WIN2YWrHo

友奈「……あぁ……」

友奈(女の子の姿に心を震わせられていても、それでも、声が上手く出せない)

友奈(何としてでも言葉にしないといけないのに、喉の奥に何かが引っかかってどうしても言葉にならない)

友奈(多分、女の子には見えていないのだと思う。私にしか見えていないはずなんだ)

友奈(女の子の真後ろ、心臓の位置に大きな鋭い針が迫っていて、それが今にも突き刺さろうとしている)

友奈(一秒すらない時間の中で、やけにゆっくりと私の時間は過ぎていき、悲惨な未来の訪れを私はただ待つだけ)

友奈(あんなに必死で、文字通り命懸けて戦っている子が居るのに……私はここで何をやっているのだろうか?)

友奈(今が夢なのか現実なのか正直分からないし、右も左も何もかも分からないことばかり。それは認める。だけど、どんな状況であっても、誰かが傷つくのを見ているだけなんて……許せない。許せるはずがない。そんな自分を私は決して許せない!)

友奈(何より)

友奈(誰よりも必死なあの子を私は、絶対に!)

友奈(──死なせたくないっ!!)



6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/19(火) 20:14:42.15 ID:WIN2YWrHo

友奈「やめろぉおぉぉぉーッ!!」

友奈(身体は勝手に動いていた。自分でも信じられない速度で景色が流れていく)

友奈(敵うはずはないと知っていたのに、それでも私はあいつらの前に飛び出して、右手を固く握り、思いっきり拳をぶつけていた)

バシッ!

友奈(打撃音がやけに大きく響き、三体のバーテックスの視線のようなものが一斉にこちらを向いた)

友奈(……良かった、あいつらの注意が私に向いてくれて。……うん、あの子は無事だ)

友奈(それだけはホッとして、多分私はここで死んでしまうのだと思った)

友奈(──それなのに)

少女「……まさか……アタシたち、以外にも……勇者、が……!」ゼェ、ハァ…ハァ…

友奈(私の身体に光がはしったかと思ったら、それは右腕の先から桜色に広がり、私の服の形は一瞬で変わっていた。動きやすい、装束のような、どこか神聖な服──ううん、衣に)

友奈(気付くと右拳にはあの手甲がはめられていて、不思議なことに私が今どうなったのか、これからどうすれば良いのかが、全部分かった)

友奈(そして、手甲はハッキリと教えてくれる。あの子も言ったように私が──)



友奈(勇者になった)



友奈(……の、だと)



7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/19(火) 20:18:19.23 ID:WIN2YWrHo

友奈「……すぅ……はぁ……」

友奈(勇気のない私だから勇者は憧れだった。だから、本当に勇者になれたのだとしたらとても嬉しい。だけど、自分に相応しいのかと言われれば素直に頷けない。そんな気持ちは確かにあったけど、今この時だけは置いておく)

友奈(目の前のばーてっくすは依然として存在しているのだから)

友奈(ばーてっくすに私のさっきの攻撃は全く効いていなかった。一瞬だけ攻撃はやんでいたけど、また雨のような攻撃がやってくるだろう。──これもすぐに分かった、今の私の力じゃ全然足りていない)

友奈(だから、自分の中のとても深いところから"それ"を呼び出す。すぐさま拳にまとわせた)

友奈(その瞬間、私の身体が風のように軽くなり、世界がさらにゆっくりとなる。どんどん自分の身体だけが加速していき、スローモーションの限界点で私は"それ"を完全に捉えることができていた)

友奈("それ"の名前が頭の中に浮かび上がる。私は自分の想いをのせて叫んでいた。──お願い! 力を貸して──!)



友奈「一目連《いちもくれん》っ!!」



友奈(疾風となった私はばーてっくすたちに拳を足を、何度も何度もぶつけていく)

友奈(女の子の持つ武器のように簡単には傷をつけることができなかったけど、連打は徐々に会心の手ごたえを作っていく)

友奈(幼い頃から学んでいた武術の技を、守るために、その全てをぶつけていた)

友奈(やがて、ばーてっくすの身体の一部がとてつもなく脆くなる。見逃さず、私は渾身の力を振り絞って!)

友奈「これでっ! どぉーだぁー!!」

友奈(頭の中で鮮明に思い出す。今の私になら再現できるはずだ!)

友奈「勇者ーっ! キィーック!!」

友奈(アニメで見た結城ちゃんの鋭く綺麗な蹴り技は、ばーてっくすの身体の一部を貫いていた)



8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/19(火) 20:20:34.26 ID:WIN2YWrHo

女の子「……くっ……! アタシだって! ……が、頑張らない、と、いけないのに……!」ガハッ!

友奈(女の子の身体はもうボロボロで、膝をつきながらばーてっくすの攻撃を防ぐので精一杯だった)

友奈(だから、私がばーてっくすを倒して、女の子を安全なところに連れていかないと!)

友奈(それなのに、ばーてっくすの攻撃は激しくてあの子を抱えて逃げることがとても難しい。さっきの勇者キックさえほとんどダメージになっていないのか、敵の動きに影響は全く出ていなかった)

友奈(足りない。今の私では力が全く足りていない)

友奈(切り札と言えるくらいに強力なはずの一目連でも駄目なら、どうすれば……!?)

友奈(……あった……)

友奈(私の奥底から呼び出した一目連のさらに奥の奥。そこに、もっと強力で恐ろしい力が眠っている)

友奈(これを使えば、これさえ使えればあの子を助けて、病院に連れていくことができるかもしれない)

友奈(そう思ったら躊躇はなかった。私は自分の奥のさらにその奥へと手を伸ばし──)

友奈「……っ……!?」ゾクリ

友奈(途端、身も心も凍えるような強烈な寒気がはしる)

友奈(誰から言われなくても分かる。"これ"は人が触れてはいけないものなんだ……)

友奈(だけど!)

友奈(だけど! 今は、今だけは! あなたの力が必要なの! あの子を助けるために、ばーてっくすを追い払うために、私に力を貸して!!)

友奈(お願い──!)

友奈(心の奥底の強固な檻に、私は──触れた)



9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/19(火) 20:27:45.13 ID:WIN2YWrHo

友奈(全てが灰色で、色のない場所に私は居た)

友奈(ここは多分私の心の中なのだと思う。私は海の中のように、宙で漂っていた)

友奈(見えないけど、目の前には檻のようなものが確かにあって、そこには強力な力が封印されているのが分かる)

友奈(この檻の扉を開けさえすれば、一目連よりも強い力を私は使えるはずだった)

友奈(だけど)

友奈(……怖い)

友奈(どうしようもなく怖い。覚悟を決めたはずなのに、誰かを助けるために自分はどうなっても良いといつも思っていたはずなのに、私はとても躊躇してしまっている)

友奈(本能が言っているんだ。"それ"の封印は絶対に解いちゃいけないって)

友奈(どうしよう? と思ったのはそれでも数瞬で、私は恐る恐るだけど、檻に手を……かける)

友奈(瞬間)ゾクリ

友奈(──たくさんの声が頭の中に響いていた)

《……黒いものが私の心の中に入ってくる……》
《……高嶋さん……最期に、一目だけでも──》
《……どうして救ってくれなかったのだと、友の亡霊たちが言うんだ……》
《……怖い……助けて……タマっち先輩……》
《……駄目なのに、なんでタマはこんなこと考えて……》

友奈「あ……あ、あぁあぁぁあぁぁぁぁッ!!」

友奈(頭の中に知らない人たちの心がいくつも入ってくる。一つ入ってくるたびに、私の心が一つ黒くなっていく。心の中の誰かがそれを"穢れ"だと言った。心が穢れていくことで、私は破滅へと進んで行くのだと私ではない誰が言ったように聞こえた)

友奈(多分、私の中に四人か五人くらい誰かが居て、頭がおかしくなりそうなくらい記憶をかき混ぜられてしまっている。それは耐えがたい痛みだと思った。身体ではなく精神を傷つけられるような言葉では表現できない激痛。そう思いながらも、こうしてやけに冷静な自分もここに居て──)

友奈「があぁあぁぁっ!!」

友奈(今、苦しんでいる私はやっぱり自分自身で、唐突に、こうして考えている今の私も同じようになってしまった時、高嶋友奈という人間が消滅してしまうのだと分かった。多分、手甲が教えてくれたんだと思う)

友奈(やっぱり人が触れてはいけない力だったんだね……)

友奈(それでも……それでも! 私は! 諦めたりなんかするもんか!)

友奈(誰かのために戦って傷ついて、必至に何かを守ろうとしたあの子を助けられるのは今は自分だけなんだ!)

友奈(あの子を助けるためだったら、どんなに苦しくても根性で耐えきってやる!)

友奈(だから!)

友奈(私は絶対に! 諦めない! 諦めてたまるかぁあぁぁっ!!)



友奈(──そして、気付いた時には、灰色の世界の中にたった一色だけ、色が現れていた)



10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/19(火) 20:34:21.75 ID:WIN2YWrHo

友奈(……カラス?)

友奈(それは青い色のカラスだった。よく見ると胸には印みたいなアザがあって、多分これって桔梗のマークだよね?)

友奈(カラスは私の右腕に乗り、一度だけ首を傾けるとカァと鳴いた。すると不思議なことに、私の身体とこうして思考している心が一つに戻っていき、あれだけ苦しんでいた痛みと誰かの声はどこかへ行ってしまっていた)

友奈(心の中の世界だから自分自身でも曖昧な感じだけど、これは多分、穢れを乗り越えた証なんだと思う)

友奈(カラスを見ると、ただ黙って私を見つめ、暫くして真っすぐ飛び立ってしまう)

友奈(……綺麗な瞳が私に何かを託してくれたのだと、何となくだけど思った)

友奈(カラスの飛んで行った先には檻があり、私はもう一度手を伸ばし、見えない檻に触れる)

友奈(今度は一切恐れない。そして、寒気も感じなかった)

友奈(触れると、見えなかった檻の頑丈な扉から白い光が放たれる)

友奈(それは次第に広がっていき、やがて檻は粉々に砕け散っていた)

友奈(灰色の世界の中で白い光は収まりきれなくなって、世界から灰色が消え、急速に白い世界へと生まれ変わっていく)

友奈(光の中心に"それ"は居た)

友奈(それは私が求めていたもの。求めていた力)

友奈(手を伸ばす。かすかに触れただけで、あたたかな光が指先から私の身体へと入ってくる)

友奈(光の中には真っ黒なものが潜んでいたけど、今は光に覆われていて白にしか見えない)

友奈(きっと、さっきのカラスが手助けしてくれているんだ。そう思い、私は勇気を貰えた)

友奈(だから、その勇気を込めて、新しい力を呼び起こす)

友奈(きっと、この力ならあの子を助けることができるはずだから)

友奈(だから、私は、力をこめて叫んだ)

友奈(切り札のさらにその奥にある強大な力の名前を。其の名は──)






友奈「酒呑童子《しゅてんどうじ》っ!!」






友奈(──そして、鬼《高嶋友奈》は、ばーてっくす……バーテックスにその異形の拳を振るった)



11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/19(火) 20:34:59.49 ID:WIN2YWrHo
原作に倣って最初からクライマックスなところで次回に続く

のわゆが関係していたので厳しいかなと思っていたのですが、予想外に続きを待っている方が多いようでしたので少し続けてみました
私信:襲来園っちを3時間で60枚以上集められるようになっていました。無課金の人でも☆3いけるので今回の襲来はお勧めです

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/19(火) 22:37:49.07 ID:Hm5qz2A7o
待ってた
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/19(火) 23:52:58.14 ID:mA6RxTD9o
乙、待ってた
前作にあの子がいたのはそういう事だったか
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 21:57:37.85 ID:X3bSqtveo

友奈(肘を引き、ただ前へと右腕を突き出す)

友奈(手甲と、おどろおどろしい形をした大きな影──鬼の手とが一つに重なっていた)

友奈(黒い鬼の手がギョロリと開き、その巨大なかぎ爪はバーテックスの一体を易々と飲み込んでいく)

友奈(右手を閉じると、グチャリと、卵を握りつぶしたような感触)

友奈(腕を引き戻し手を開いた頃には、針を飛ばしていたバーテックスの姿が消えていた)

友奈(……鬼がバーテックスを食べ尽くしてしまったんだ)

友奈(ただ一発のパンチが、あれだけの強敵をあっけなく倒してしまっていた)

友奈(あまりにも圧倒的で、なんて恐ろしい力なのだろうか……)

友奈(今更ながらに私は自分の振るった力の本質を理解し、背筋を震わせる)

友奈(この力におぼれてはならない、と手甲は言った。心の中で頷く)

友奈(気を引き締め、残り二体のバーテックスを私は睨みつけた)

友奈(まだ戦いは終わっていない)



15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 22:08:53.05 ID:X3bSqtveo

女の子「……」

女の子「……ば、バーテックスが……たった一撃、で……。……あ……」

友奈(バーテックスが一体居なくなり、私はようやく女の子のそばまで近づくことができていた。視線は前からそらさず女の子へと話しかける)

友奈「もう少しだけ我慢してね。今、私が終わらせてしまうから」ヒューヒュー

女の子「は……はい! ──!? も、もしかして! かなりの無理をしているんじゃ──!」

友奈(そっか……やっぱり私の身体は無理をしているんだね。あどれなりんが出ているからか自分では気にならないけど、身体のどこかから壊れた笛のような音が聞こえ続けている。肺あたりが良くないのかもしれない。……だけど!)

友奈「私は大丈夫。ちょっとだけ待っててね」ニコッ

女の子「……っ……」

女の子「……はい。……悔しいですけど、アタシはどうも……もう立つこともできないようで……。本当に……申し訳、ないですが……よろしく、お願い……しますっ」ペコリ

友奈(話すことさえ難しかっただろうに、途切れ途切れの声でそんな内容のことを女の子は言ってくれた。だから)

友奈「うん、任せて!」

友奈(私はゆっくりと、静かに走り出す。その度に笛の音がひどくなったけど、今だけは無視!)

友奈(バーテックスは私の接近を知って、すぐさまやって来た。攻撃が私に降り注ぐ。だけど──)

友奈(右の掌底でさそりみたいな尻尾の攻撃を受け止め、左手刀でうちわみたいな羽を突き刺す)

友奈(こうして私の両隣にバーテックスが固定された。だから、私は酒呑童子の力を限界まで振り絞り、両拳に最大級の鬼の力を宿らせた)

友奈(……私が今使っている酒呑童子はおそらく完璧なものではないのだろう。鬼の手は最初から影のような姿で実体のない幻のように揺らめいている)

友奈(それでも、不完全であっても酒呑童子の力は本物で、今の私なら二体のバーテックスが相手でも倒しきれると自信があった)

友奈「──かはっ!」ビチャビチャ

友奈(口から生臭いドロッとしたものがあふれ出す。……けど、これも無視。今はあの子を助けて、一刻も早く病院へと連れて行くことだけを考えろ! そして、あの子を一刻も早く日常に戻してあげるんだ!!)

友奈(私の両手からバーテックスよりも巨大な鬼の手の影が現れ、鋭いかぎ爪が伸びる。そして、その手のひらを大きく開く)

友奈(多分、これを使えば私も限界となる。……ううん、もうとっくに限界は超えていたんだ)ビチャ…ビチャ…

友奈(身体中が悲鳴を上げて、強烈な貧血みたいに倒れそうになる。でも、堪える!)

友奈(両の脚で精一杯地面を踏みしめ! 視線は絶対に両手から離さない!)

友奈(私は最後の一撃を放つため、心の中で一度だけ目の前のバーテックスたちに話しかけていた)

友奈(……あなたたちが良い存在なのか悪い存在なのか、正直私には分からない。でもね、やっぱりあの子を傷つけたことだけは……それだけは、許せないんだ)

友奈(だからね、バーテックス。ここで──)






友奈「終わりにしよう!」







友奈(あまりにも巨大な鬼の手が、二体のバーテックスを包み込み──やがて、弾けた)



16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 22:12:13.61 ID:X3bSqtveo

*???

友奈(……ぐん……ん……待……ね……)

友奈(…………)

友奈(……)

友奈(……何か、夢を見ていた気がする)

友奈(まぶたがとっても重いけど、起きなきゃって何となく思った。だから、頑張って開いてみる。すると──)

??「……!? あぁ! 目を、目を覚まされたのですね!」

友奈「……とう、ごう……さん……?」

友奈(目の前には綺麗な黒髪の女の子が居て、その両目をうるませていて──)

??「!? も、申し訳ございません! 知己の方とは知らず失礼いたしました。私は鷲尾須美と申します。理由がありまして、今は東郷美森から改名して鷲尾の姓名を名乗らせていただいております」

友奈(……ぼんやりとしていた意識が徐々にはっきりしていく。とても丁寧な言葉遣いのこの女の子は東郷さんじゃなくて、鷲尾須美ちゃん……それはどこかで聞いた名前で──!?)

友奈「あ、あの! ……ごほっごほっ!! お……女の、子はっ!?」

須美「ご、ご無理はなさらないでください! 三日三晩眠っていてさらには重症なのですよ! 動かれてはなりません!」

友奈「で、でも……! あの子はボロボロで、病院が必要で──!」

友奈(自分でも言っていることが支離滅裂だと思ったけど、気持ちはどうしても言葉を先走ってしまう。そんな風に私がグシャグシャとなってしまっていた時)

ガラッ

??「一緒に居た女の子、ミノさんのことなら安心してください。あなたが助けてくれたおかげで順調に回復しています」

須美「そのっち!?」

友奈「……あぁ……そう、なんだ……。……良かった……」

友奈(私は、あの子を助けることができていたんだね……)

友奈(ホッとしてベッドの上で身体の力を抜く。今部屋に入って来た女の子はそんな私の姿を見て優しく微笑んでくれる。それが一層、私に安心感を与えてくれて、さっきまでの元気が嘘のように私は動けなくなってしまっていた)



17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 22:15:54.54 ID:X3bSqtveo

友奈(三日三晩眠っていたらしい私が目を覚ましたとのことで、その後すぐにお医者さんが呼ばれ、簡単な診断などが行われた)

友奈(どうも私の身体はひどく無理をしていたらしく全治三ヶ月の重傷とのことだ。言葉で聞くととてもひどい怪我だと思ったけど、想像するほどひどいという実感はあまりなかった)

友奈(ただ実際には、薬の影響で身体はあまり動かないし、普通に歩けるようになるまで最低でも一ヶ月はかかってしまうらしい。それを考えると、やっぱりとんでもなく重症だったのだと思う)

友奈(そんな自分の状況を把握するまで大体半日くらいの時間が掛かった。すっかり夜になってしまっていたので、本当は眠くないけど頑張って寝て、当たり前だけど目を覚ましたら次の日になっていた)

園子「失礼しまーす!」

須美「こら、そのっち。友奈さんの前なのだから礼儀正しくしなさい。あと、病院では静かに」

園子「はーい」

須美「もう、本当に分かっているのかしら?」

友奈「ふふっ、いらっしゃい二人とも。何だか須美ちゃんって、園子ちゃんのお母さんみたいだね」

須美「私がそのっちのお母さん……?」

園子「おかあさーん♪」ダキッ

須美「えぇ!? そのっち!?」

友奈「あはは」

友奈(穏やかな午後の日差しの中、須美ちゃんと園子ちゃんが私のお見舞いに来てくれた。……嬉しいな)



18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 22:22:52.11 ID:X3bSqtveo

須美「──それで、今は治療に専念するために、銀への面会は控えるよう言いつけられています」

友奈(私は須美ちゃんと園子ちゃんに、あの時の女の子、三ノ輪銀ちゃんの容態を教えてもらっていた)

友奈「そんなにひどい状態、だったんだね……」

友奈(私がもう少し早く助けることができていればまた違っていたのかもしれない──と考えてしまったところで、すぐさま自分の思い上がりだと思い直し頭を振る。首から上は幸いにも自由に動かすことができていた)

園子「でもでもー、ミノさんは言っていたんですよー。包帯でミイラみたいな姿だったけど、『しっかり治してくるから、須美と園子はアタシの帰りを待っていてくれよな』って。ミノさん、カッコよかったよ〜」

友奈「……うん、銀ちゃんは本当にカッコいい女の子だよね」

友奈(私はようやく理解していた。銀ちゃんは、この二人の友達のために命懸けで戦っていたんだと。……私もぐんちゃんがそばに居たら同じ決断をしていたと思うから、銀ちゃんのあの時の気持ちが痛いほどよく分かる気がした)

須美「あ、そうでした。銀から友奈さんへの言伝を預かっています」

友奈(そう言って須美ちゃんが伝えてくれる)

須美「『アタシを助けてくれて、本当にありがとうございます。身体は少しアレですけど、おかげさまでアタシは元気です! 良くなったら絶対に直接お礼に行きますので、今はこの伝言だけで許してください』……だそうです。……銀だけではなく、私からもお礼を言わせてください。──ありがとうございました。私とそのっちも友奈さんにこの命を救ってもらいました」ペコリ

園子「……うん、そうだね。友奈さんが居なかったら、私たち以上にミノさんが危なかったんだと思う。だから、友奈さん。ミノさんと私たちを助けてくれて、本当に、本当にありがとうございました!」ペコリ!

友奈(……)

友奈「……ううん、私は私ができることを行っただけで、お礼を言われるような立派なことはできて、いないよ……。……だけど、須美ちゃんと園子ちゃん、それに銀ちゃんの言葉は私の心の中で大切にさせてもらうね。私こそ、ありがとう」

友奈(それが正直な私の本音だった)

園子「あはは……私たちまでお礼を言われちゃったね、わっしー」

須美「友奈さんは自分の行いをもっと誇って良いのだと思います。ですが……それが友奈さんのお人柄なのですね……」

友奈(須美ちゃんと園子ちゃんが居て、銀ちゃんの想いに包まれた私の病室は、とてもあたたかい、春のひだまりのような場所に思えた。だから……私の心も、とってもぽかぽかしていたんだ──)



19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/20(水) 22:23:29.32 ID:X3bSqtveo
続く
2期園子100枚達成、いえーい!(書きながら周回していました)

修正
>>3
女の子「こっから先は……通さなさいッ!!」ウォォォー!

女の子「こっから先は……通さないッ!!」ウォォォー!

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/21(木) 21:47:42.30 ID:95MzH9E2o
おつ
前作から一気に見てきた
ぐんちゃんが幸せそうで本当に良かった
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 23:12:42.87 ID:tvEOU77ro
前スレから読んでいただいている方々、誠にありがとうございます
今回の投下分は人によって若干メンタルダメージを発生させますので、アニメ放送後辺りに読んでも良いかもしれません(アニメよりは全然ぬるい内容なので)

では投下していきます
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 23:24:40.58 ID:tvEOU77ro

*???

友奈「……え……?」

友奈(今の今まで病室に確かに居たはずなのに……気が付くと私は、人の手が全く入っていない、見覚えのある鮮やかな植物の森の中に居た)

友奈(何が起こったのか一瞬分からなかったのだと思う。……だけど、須美ちゃんと園子ちゃんだけはそのままに、他の全てが変わってしまっていたのだから……これは、間違いなく──)

須美「樹海化……! よりにもよってこんな時に!?」

園子「……」

友奈(そう、須美ちゃんが言ってくれたようにこれはアニメで見たあの樹海化で間違いない。でも、テレビで見るのと実際に体験してみるのとでは全く違っていた。アニメではもう少し余裕があるように思っていたけど、本当はまばたきの間の時間で起こってしまうような現象だったんだ……。ここ数日で感覚が少し麻痺していたのか、私は妙に感心してしまっていた)

須美「え……。友奈さん!? ……そ、そんな! 友奈さんまで呼び出されたと言うの……!?」

友奈(私を見て、須美ちゃんがギョッとし、そのすぐ後に悔しそうな、悲しそうな、とても複雑な表情を浮かべていた。……誰だって、今の私を見てしまえば反応に困るのだから当たり前の話だよね……)

友奈(──私は、ベッドと一緒に、樹海へと来てしまっていた。……綺麗な植物の地面の上に、白いベッドが一つ。それは、とても違和感のある光景だったと思う)

友奈(そして、『参ったなぁ』とも思った)

須美「……くっ……! 友奈さんは、怪我で満足に動くこともできないのよ! 寝具ごと呼び出すなんて神樹様は何を考えて──!?」ハッ!

友奈(須美ちゃんの顔から色が失われてしまい、その視線の先を私も追っていく。……!? ……嘘、だよね……?)

友奈(そこに居たのは──)

友奈「銀、ちゃん……」

友奈(私と同じようにベッドの上で横たわり、だけど、私には付けられていない酸素マスクや、大掛かりな機械が今も繋がれて、いる……。……私から見ても明らかな重体にしか見えないのに、銀ちゃんは……銀ちゃんは……っ……こうして樹海の中に、呼び出されて、しまっていたんだ……)

友奈("あれ"と戦う、それだけのために──)

須美「バーテックス……!」ギリッ

友奈(……身体がまともに動かない私と、意識のない様子の銀ちゃん。そして、ゆっくり近づいて来ているバーテックス。唯一、須美ちゃんだけは戦えそうであったけど、私と銀ちゃんの存在が足かせになっているのか、さっきから私たちとバーテックスで視線を迷わせていた)

友奈(……)

友奈(……うん。多分、できるはずだ。……それに、勇者は根性だって結城ちゃんも言っていた! だから、覚悟を決めろ高嶋友奈! ここは私が頑張る場面だ!)

友奈("それ"を呼び出そうとした、まさにその直前。不意に静かだけどやけに乾いた声が……聞こえて、きた)



園子「……そっかぁ……やっぱり間違いなんて、何もなかったんだね……」…シュピーン



友奈「園子、ちゃん……?」

友奈(何故だか泣きそうな顔をした園子ちゃんが、勇者姿となって、ぼんやり気配を感じさせず私の隣に立っていた)



23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 23:32:41.93 ID:tvEOU77ro

友奈(泣きそうに見えたその表情はほんの一瞬のこと、すぐさま凛々しさで覆い隠されてしまう。普段ほんわかしている園子ちゃんだったから、それだけで今がどうしようもないくらい非常時であると再度思い知らされてしまう。……とても悲しいことだと思った)

園子「わっしー! 今度は私たちがミノさんと友奈さんを守る番だよ!」

須美「……そのっち……。──ええ! 二人には絶対手出しをさせない! 私たちで絶対に守るんだっ!」パン!

友奈(須美ちゃんが自分の頬を叩き、その瞳が一気に勇者のそれに変わった。私は知っていたはずなのに、全然理解していなかったんだね……。二人は間違いなく人々を守る立派な勇者で、そして……小学生でそれを背負わされることは、とても凄いことで、だけどあまりにも残酷な仕打ち、だった)

園子「友奈さん。少しだけ時間がかかると思います。でも、私たちが絶対にバーテックスを追い払うので、ここで待っていてください」

友奈「……ううん、私も戦うよ。身体はこんなだけど、多分勇者になれば戦えると思う。……一番年上の私が、二人の足手まといになっていちゃ駄目なんだ!」

友奈(バーテックスの恐ろしさは十分に理解している。その上で、私は覚悟を決めて園子ちゃんにそう返した。そんな私の気持ちに応えてくれたのか、どこからともなくあの手甲が目の前に現れて──)

友奈「来い! 手甲!!」

友奈(自動的に右手にはめられた手甲から桜色が舞い、私の姿は勇者装束へと変わっていく。……うん、思った通り問題なく立つこともできる。これで私も戦うことが──!?)ゾクッ

友奈(ゾクリと嫌な感じがしたと思ったら──もう、遅かった)

友奈「あ……あぁああぁあぁぁぁーっ!」ガクガク

須美「ゆ、友奈さん!? しっかり、しっかりしてください!」

友奈(こ、心が……心が! 入ってくる!!)

《友達を……殺してしまった》
《私が何もできなかったから、きっと二人は居なくなってしまったんだ》
《なんで……! どうして私は! そこに居てあげられなかったの!?》
《こんな私なんて──居なくなってしまえば良いのに》

友奈「がぁあぁぁぁっ!!」

友奈(嫌だ嫌だ! 黒くて嫌なものが私の中に直接入ってくる! 心がそれに呑まれて、私がおかしくなる! 苦しい! かゆい! 痛い! 手でかいてしまいたいのに触れる場所がなくて狂ってしまいそうッ!!)

友奈(──誰か、誰かっ! 私を■して! お願い、だからッ! ■して!!)



24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 23:35:12.82 ID:tvEOU77ro

須美「友奈さん! どこが痛いのですか!? お、お願いですから、落ち着いてください!」

園子「……わっしー。ごめんだけど、友奈さんをお願いするね。バーテックスは私が追い払ってくるから」

須美「そんな無理よ、そのっち! 一人だけでバーテックスの相手をするのがどれだけ無謀か分かっているでしょう!?」

園子「うん。……でもね、わっしー。私は絶対に死なないし、あのバーテックスは追い返せると決められているから、大丈夫なんだ」

須美「そのっち! 何を言っているのか分からないけれど、もう少しだけ待って! 友奈さんを落ち着かせたら私も──」

園子「……」フルフル

園子「わっしーにはミノさんと友奈さんのことをお願いしたいんだ。色々と危ないからね。それと多分、友奈さんに今起きていることは、精霊の副作用なんだと思う。だから、友奈さんの右手を握ってあげて。きっと、勇者装束の神気で落ち着くと思うから」

園子「それじゃあ、わっしー。──行ってくるね」ニコッ

須美「そのっち!!」






ヤァァァ-ッ!

園子「こんなの! ミノさんならっ!!」

園子「ここから……出ていけぇぇぇーっ!!」



25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 23:38:20.58 ID:tvEOU77ro

友奈(……右手が、あたたかい……)

友奈(ゆっくりと目を開くと、昨日と同じように綺麗な黒髪の女の子が居て──)

友奈(昨日と違って……泣いて、いた……)

須美「なんで……なんで! ……こんな無茶をしたのよぉ……」ポロポロ

園子「……えへへ……でも、約束通り……私は死ななかった、でしょ……?」

須美「……そんなの! ただの結果論じゃない! あんなの……特攻よりも無謀な捨て身でしかないわ……!」ポロポロ

園子「……あっちとは反対に、わっしーを泣かせちゃったね……。……やっぱり全部が全部、その通りにはいかないものなんだ……」ボソリ



友奈(……ああ……そっか)

友奈(須美ちゃんを泣かせてしまったのも、園子ちゃんをボロボロにしてしまったのも……全部、私なんだ……)

友奈(戦えると勘違いした馬鹿な私が、私よりも小さな女の子をどうしようないくらい傷つけてしまった)

友奈(ほんと馬鹿で……なんて救いようがないんだろう、私って……)

友奈(……またあの時と、同じ失敗をしてしまっている……)

友奈(そんな救いようのない私は、須美ちゃんの手の温もりを感じながら、樹海化の終わりをただ眺めていた)






友奈(──ここで終わっていれば、まだ少しだけでも、救いはあったのかもしれない)






26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 23:41:22.37 ID:tvEOU77ro

*病室

園子「あ、友奈さん。目を覚ましたんですね」

友奈「えぇ!? ど、どうしたの、その包帯!? 全身ぐるぐる巻きだよ!?」

園子「えへへ、ちょっとだけ頑張り過ぎちゃったのかも。でもでも、私は全然大丈夫なのですよー。友奈さんこそ具合が悪かったりとかしていませんか?」

友奈「え、具合? ええと、気分は悪くないと思うけど……あれ? 身体が動かないや。何でだろ?」

園子「勇者装束はもう解かれているんですよ。だから、動けるようになるにはしっかり身体を治さないといけないですよー」

友奈「あ、そうなんだ。……病室に居るからおかしいとは思っていたんだよね」

園子「その……友奈さん。わっしーが居ないので今のうちに伝えておきます」

友奈「わっしー? ワシ? あ、ごめんごめん話の途中で。それで何?」

園子「実は、この本をこっそり読んでしまいました。……ごめんなさい」

友奈(そう言って差し出された本は──)

友奈「わあっ! 綺麗な女の子の絵だね。これって小説か何か?」

園子「……ええと、この小説って友奈さんの本じゃなかったんですか?」

友奈「うーん、見覚えはないと思うよ」

園子「……あれー? 私の予想だと……おかしいなぁ……」ウーン

友奈「あ、そうそう。私も聞いても良いのかな?」

園子「あ、はい。いいですよ〜」

友奈「多分私が寝ぼけているだけだと思うんだけど、怒らないで聞いてね。……ええとね」






友奈「──あなたって、若葉ちゃんとひなたちゃん、どっちなんだっけ?」






園子「……え?」



27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/22(金) 23:43:12.96 ID:tvEOU77ro
とりあえずここまで
アニメ最新話でメンタルへのダメージが予想されますので、次回はとても平穏な日常回となります

[今回のゆゆゆい]
今日の3時間で上級ラストを70周して襲来そのっちが+150を越えました。2日6時間で130周回したので全襲来中最速で回っている計算になるようです(そして+100越えは初めて)

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/23(土) 15:17:42.51 ID:iRIf3iCvo

*神世紀300年・郡千景視点

三好夏凜「友奈!?」

三ノ輪銀「友奈さんッ!?」

東郷美森「ああ……我が祖国に敵が……!」

結城友奈「──ここ、だぁー! 勇者……連打っ! えい! えいっ! とおっ!」ヒュンヒュンヒュン

犬吠埼樹『わあ、見る見るうちに減っていきます!』キュッキュ

郡千景(古びたゲームコーナーの一角、結城さんが筐体のボタンを慣れない手つきで連打していた。けれど、そこには確かに光るものもあって──)

千景「ふふっ。結城さんったら、私が教えた名古屋打ちをこんなにも早くマスターするなんてね」

美森「名古屋……! あの金鯱城のあった場所ね!」

千景(キンシャチ城? ……ああ、名古屋城のことね)

犬吠埼風「……しっかしあれよねー、インベーダーゲームに熱中している中学生なんて四国中探してもアタシたちくらいのもんじゃない?」

千景「それ以前に最初から疑問だったのだけれど、インベーダーゲームが現存しているこの旅館って何なの?」

銀「あー、確かアタシが小さい時くらいだったのかな? レトロゲームが物凄く流行っていたってなんかの本に書いてありましたよ」

千景「……テーブル型のアーケードゲームがレトロ、ねぇ……」

千景(私が居た西暦の現代でさえ、濃いマニア向けの店に行かなければお目に掛かれないそういう筐体なのよ? それが遙か三百年以上未来に現存していて、しかもプレイすることが出来るなんて……。流石に復刻品であるとは思うけれど、それでもそこには確かに受け継がれてきたゲーマーたちの変わらぬ魂があって……少しだけ嬉しくなってしまったのは内緒の話)



29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/23(土) 15:25:36.46 ID:iRIf3iCvo

友奈「わわわっ、わぁー!」

-------------------------------------------------------
 SCORE<1>       HI-SCORE      
   05800         72000


    皿 皿 皿 皿 皿 皿 皿 皿 皿 皿 皿
    皿 皿 皿 皿 皿 皿    皿 皿 皿 皿
    皿 皿 皿 皿 皿 皿    皿 皿 皿 皿 
    皿 皿 皿 + 皿 +    皿 皿 皿 皿
    皿      皿 皿      
            凸

 ____________________________
   1                  CREDIT  00
----------------------------------------------------------

チュドーン!

銀「ああー! おっしい!」

美森「……祖国が、敵の手に……」ガックシ…

夏凜「ちくしょう……!」クッ!

風「とりあえず、二年生組の感情移入感が半端ないわね……」

樹『でも、友奈さんすごかったです!』キュッキュ

友奈「うぅ……ぐんちゃーん、負けちゃったよー」ショボン

千景「頑張ったわね、結城さん」ナデナデ

千景「けれど、まだまだ改善できるはずよ。まずは名古屋打ちのタイミングについて詰めていくところから始めましょう。それと──」

千景(結城さんの手を取り、私は実技指導していく。……そう、これは教えるために仕方がないことであって、肉体的接触は必然なのである。決して邪な気持ちなど入り込む余地はなく──あ、結城さんの華やかな香りが……)クラリ…フフッ

夏凜「……何だか千景がヤバイ時の東郷みたいな顔しているわね」

美森「夏凜ちゃん、それはどういう意味なのかしら」ニッコリ

銀「ひぃっ!?」

夏凜「ち、違うのよ東郷! 別に悪気があったわけじゃなくて……!」アタフタ

風「いやいや、それ以外に何があるって言うのよ」

樹『夏凜さん、ファイトです!』キュッキュ

千景「……」ハッ!?

千景(くっ、私は何たる醜態を晒してしまったの!? よりにもよって"あの"東郷さんと同列扱いされてしまうなんて……! ……これは自戒が必要ね)ギリッ

友奈「ぐんちゃん?」

千景「……いえ、何でもないわ結城さん。──そう、そのタイミングよ! そこから一定のリズムで連射していくの」

友奈「えい、えい! やぁー!」ヒュンヒュンヒュン

千景「上手いわ。その調子よ」

千景(──ある休日の日、ゆゆゆで言ったら七話だったか、慰安旅行で海を訪れていた私たち勇者部一同は、日暮れの訪れと共に旅館へと場所を移していた。そこで見つけたゲームコーナーでレトロゲームに興じている次第である)



30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/23(土) 15:27:42.62 ID:iRIf3iCvo

*旅館内通路

銀「アタシ、ゲームセンターのゲームでエンディングまで行った人初めて見たッス……」

千景「所詮は定番ゲームね。慣れれば誰だってワンコインノーコンティニューでクリア出来るわ」

夏凜「いや、そんなのあんただけでしょうに……」

千景「分かっていないわね、三好さん。私程度の腕なら掃いて捨てるほどいるし、闇深い人種ならワンコインで開店から閉店までをプレイ出来るのよ」

夏凜「え……そういうものなの?」

風「はい、そこー。微妙に世間に疎い夏凜へ偏った情報を教えない。大体そういうことを知っている千景だって相当闇深い感じでしょうに」

千景「……"アタシの邪眼がうずく……!"とか言っていた人に言われたくないわね」

風「なっ……! アタシのナイスな眼帯をバカにするでねー!」

樹『なんでなまったのお姉ちゃん?』キュッキュ

友奈「あ! マッサージコーナーだって!」ミテミテー

美森「あれは!? 三次元空間無重力式按摩座椅子! まさかここでお目に掛かれるなんて……!」

風「おっ、なになに〜? 何か凄そうな名前じゃない?」

千景「……ふーん、無重力を体感出来るマッサージチェア、ね……」

千景(通路の途中の広間にはマッサージコーナーと書かれたプレートがあり、そこには二台のマッサージチェアが置かれていた。エアポートから大型スーパーまでコイン式のマッサージチェアが置いてあることは多いけれど、目の前にあるこれは明らかにそれらよりも大型で、かつ一目でその作り、シートの柔軟性まで一ランク以上違っていることが分かる)

銀「東郷さん、これって凄いんですか?」

美森「ええ、凄いと聞いているわ。身体の凝りがほぐれるのはもちろんだけれど、按摩中は宇宙空間のような無重力を感じることが出来るらしいの。その心地はまさに夢心地であると、按摩ブロガー北条氏が絶賛していたわ」

夏凜「誰よ、北条」

千景「東郷さんってネット関連のことになるといきなり横文字を使い始めるわよね?」

樹『はい。前に悔しそうな顔でだきょうしているって言っていました』キュッキュ

風「あんたたち、食いつくポイント間違ってない? 間違っているわよね?」



31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/23(土) 15:32:30.22 ID:iRIf3iCvo

銀「分かってますって部長。ここはやっぱりこっちッスよね」コレデスヨネ?

風「うんうん、流石は銀坊ね。空気が読めているわ」

銀「うわ、凄っ! マサオさんが全巻揃っているし」スゲー

風「そっちか!? 確かに本棚が備え付けられていて、漫画とかいっぱい揃っているけど! いるけどぉ!」

友奈「マサオさん、うちにも全巻あるよ」

風「マサオさんはもう置いておきなさいよ! 銀も読み始めない! アタシが言いたいのは──」

グイーングイーン

美森「これが、無重力!? いえ、まだ始まったばかりよ、落ち着きなさい東郷美森……!」ウィーン

風「アタシが言いたかったのは確かにそれだけど! それだけどー! ほんとッ自由ね東郷! その前にあんた車椅子なのにいつスタンバッたのよ!?」

友奈「私がお手伝いしました!」ハイ!

風「ええ、知っていたわよ! 友奈だとは思っていたわよ!」

夏凜「この自動販売機、ピーナッツは売っていてもサプリは売っていないのね……」ザンネン

風「そこはせめて煮干しって言いなさいよ!? おつまみで売っているかもしれないでしょ! そもそも、自販機にまでサプリを求めるなぁーッ!!」

樹『テンション高いね、お姉ちゃん。旅行だから?』キュッキュ

千景「西暦の時代なら一応そんな自販機があったと聞いたことはあるわね。……それはそれとして、ねぇ、樹さん? 私は思うのだけれど、あなたのお姉さんは漫才の突っ込みで将来生計を立てると良いと思うわ」

樹『はい、たまに私もそれ思います……』キュッキュ…



32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/23(土) 15:34:54.33 ID:iRIf3iCvo
とりあえず今書いた分を
……アニメがシリアスで次回が年始だからね、SSくらいは少し明るい話でも良いよね
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/23(土) 23:51:18.53 ID:IrXhqMLao
おつ
そういや友奈の部屋にマサルさんあったね
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 19:43:39.49 ID:q3nwKlWao

美森「……」ホゥ…

グイーングイーン

友奈「ええー!? ま、マッサージチェアが浮いて、東郷さんを呑み込んでる!?」

千景「……酷い誤解を生みそうな言葉だとは思うのだけれど……なるほど、これは確かに既存のマッサージチェアとは違うわね」

千景(マッサージチェアが大きく水平にリクライニングしたと思ったら、腕と足の部分のシートが東郷さんのそれを包み込んでいた。機械音と共にシートが振動、揉み機が都度ゆっくりと動き、残されたのは至福を顔に浮かべた黒髪少女の姿のみ)

夏凜「気持ちよさそうね、東郷……」

銀「すっげー……これがハイテクってやつかぁ……」

風「はー、マッサージ機も進化しているのねぇ……。にしても東郷、あんたやっぱり全身コリコリだったりするの?」

美森「……ふぅ。あ、はい、そうですね。車椅子だとどうしても肩と腕、腰が凝りやすくなってしまうもので」グイーングイーン

夏凜「へー、東郷も苦労していたのね」

風「いやいや、これはあれよー、夏凜」

夏凜「? あれって何よ?」

風「……とーごー、車椅子もそうなんでしょうが、それ以上にさ──」チラリ

ズッシリナタワワ

風「そのぉご立派なものがー、重かったりするんでしょー?」フヒヒッ

樹『お姉ちゃん、それセクハラ』キュッキュ

銀「じ、実はですね! アタシもメッチャ肩こりがあって! ですね──!」

ポン、フルフル

風「そんなウソをつかなくて良いの。皆、分かっているから、ね?」ジアイノヒトミ

銀「うわーん! アタシはまだまだ発展途上なんだいっ!!」

千景「……まぁ、三ノ輪さんならその言葉の通りになってもおかしくないわね」

千景(スレンダーな体型ではあるけれど、こういったタイプは個人的統計によれば、気付くとそこも大きくなっていることが多いように思う。それに彼女だって標準かその少しを下回る程度にはあるのだ。だから、真に問題なのは──)チラリ

ジー

樹『な、なんで皆さん私を見ているんですか!?』スッポコスッ

ポン

風「大丈夫、お姉ちゃんは信じているからね」シンケンナヒトミ

樹『もう! お姉ちゃん嫌い!!』キュッ!キュッ!!

風「えぇっー!?」ガビーン



35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 19:45:09.78 ID:q3nwKlWao

千景(……胸の話は置いておくとして、私も肩こり持ちではあるのよね)

美森「……あぁ……これが、極楽浄土……」ホッコリ

夏凜「こらこら、勝手に天国に行かない」

千景「……」

千景(次世代を感じさせるマッサージチェアはもう一台空いている。……私も体験してみようかしら?)

銀「千景さんもあのマッサージチェアに興味津々ですか?」

千景「多少はね。……昔から肩が凝りやすいのよ。ああ、胸の話は今関係ないわ」

銀「はっ!? 思わず登山しかけていた! ……ええと、アタシが揉みましょうか?」

千景「揉むって、肩揉みのことよね?」サッ

銀「何で今胸を隠したんスか……。これでもアタシ、両親に肩揉みが上手いって言われているんですよ?」

千景「……親、孝行なのね」

銀「まぁ、記憶のないアタシに出来ることなんてタカが知れていますから。で、どうッスか?」

千景「……そうね、折角だしお言葉に甘えようかしら」

銀「はいはーい! 銀さんマッサージ店ただ今開業ッス! それじゃあ、千景さん。そこの椅子に座って下さい」

千景「ええ」

千景(簡素な椅子に腰かけると、三ノ輪さんが私の後ろに立つ。……あたたかな手のひらが私の両肩に当てられた)

風「へー、面白そうなことしているじゃないの? 実はアタシも普通に肩こるのよねー」

友奈「それじゃあ、風先輩には私が!」

風「え、そう? 何だか催促したようで悪いわね」

美森「……」ナムナム

夏凜「何であんた、風を拝んでんの?」

友奈「えーい!」モミモミゴリッ!

風「うぎゃー!!」

千景(……結城さんもまた、高嶋さんと同じくゴッドハンドを持つ者だったのね……)



36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 19:50:09.90 ID:q3nwKlWao

銀「お客さーん、こってますねー」モミモミ

シアツ、グッグッ

千景「……」

千景(……いい……)ホゥ…

銀「首と肩の付け根辺りを揉み解すと肩は大分楽になるんですよ。痛かったら言ってくださいね」コリコリコリ

千景「……た、多少痛い気もするけれど、ほ、ほぐれている気が……するから! こ、このままでお願い……!」

銀「あ、少しだけ力を緩めます。揉み返しになると大変ですからね」モミモミ、モミ

千景(……あぁ……三ノ輪さんの手がカイロのように熱くて……その繊細な指先の巧みさが……的確にツボを押していて……肩から、老廃物が抜けていくような心地が……)ハワー

樹『千景さん、とっても気持ちよさそうですね』キュッキュ

友奈「よーし! 銀ちゃんに負けていられないぞー!」モミモミモミ!

風「──ちょ……やめ……ゆ、ゆう──うぎゃぁー!!」

夏凜「友奈はあんまり力を入れていないように見えるけど、なんで風はあんなに悶絶しているわけ?」

美森「そうね……身体の凝りも酷くなってしまえば、蓄積された凝りによって多少の按摩でさえ痛みを感じてしまう人が居るらしいわ。でも、ほぐされてくれば大分楽になるはずなのだけれど」グイーングイーン…ピタ

美森「あら? ……もう終わってしまったのね」ザンネン

夏凜「なるほどね。つまり、風も千景も普段のストレッチが足りてないってことでしょう? あとで私が正しいストレッチをきちんと教えてあげないといけないわ!」ミモリンヲクルマイスヘモドス

美森「ありがとう、夏凜ちゃん。でも、ほどほどにしてあげてね?」

銀「千景さん、左肩のここ、痛いでしょう? ガチガチになっていますよ。……少しだけ我慢してくださいね」ギュッギュ、コリコリ、コリッ!

千景「!?」

千景(痛みが一瞬奔る。しかし、すぐに肩の筋肉全体が三ノ輪さんの繊細な手つきに包まれていき痛みは全て違う感覚に置換されていった。硬かった肩が溶けるように柔らかくなっていくのが分かる。……それがとても、気持ちいい……!!)

千景「……ああ……もう死んでしまっても良いわ……」ウットリ

樹『えぇー!?』キュッキュ!?



37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 19:54:40.21 ID:q3nwKlWao

銀「──と、こんなところですかね」

千景「……ありがとう、三ノ輪さん。とても気持ち良かったわ」ホッコリ

銀「へへっ。いつもゲームをやらせてもらっている多少ばかりのお礼ッスよ。肩こりが少しでも楽になったんなら嬉しいです」

千景「ええ、肩が嘘のように軽いわ」グルグル

友奈「──ふぅ、こんなところかな?」

風「い、いちゅきー! あ、アタシ……し、死ぬかと思ったよぅー!」

樹『よしよし』キュッキュ、ナデナデ

夏凜「まさに天国と地獄に別れたわね……」

美森「……!」キラーン

美森「いえ、違うわ、夏凜ちゃん。この勝負、友奈ちゃんの勝ちよ!」

夏凜「いつから勝負になっていたのよ!?」

銀「それは聞き捨てならないッスね、東郷さん。理由を聞かせてもらいましょうか」

美森「一見すると、風先輩はただ苦しんで今現在樹ちゃんへと抱き着いているだけに見えるわ」

夏凜「ほんと見たまんまね」

美森「だけれど、それは物事のほんの表面にしか過ぎない。……風先輩、万歳をしてみてください」

風「ぐすぐすっ……え、バンザイ? こう? ──こ、これは!?」

風「肩が羽のように軽い! いえ、それだけじゃない!? 身体中が信じられないくらい、そう、軽いの! ダイエットで体重を四十キロくらい落としてしまったかのように!」

樹『それじゃあ空気になっちゃうよ?』キュッキュ

風「……」

樹『お、お姉ちゃん、まさか!?』キュッキュ…!?

風「ほ、ほら、アタシって育ちざかりだし……?」

樹『今日からうどんは一日一杯までね』…キュッキュ

風「!?」

美森「……分かったかしら、銀?」

銀「そ、そんな……アタシが……アタシが、負けた……!」ガーン!

ポン

千景「いいえ、違うわ、三ノ輪さん。そもそもあなたはプロのマッサージ師ではないのよ? こういった素人が行うマッサージであるなら、それは心地良さを何より重視してしかるべきなのよ。……あなたのおかげで今、私の心と身体は満ち足りている、それがただ一つの答えでしょう?」

銀「ち、ちかげ、さん……ッ!」ブワーッ

千景「ええ……!」コクリ

ガシッ!

夏凜「……何で抱き合ったのよ、この二人」

美森「按摩を通して友情が再び芽生えたに違いないわ。ああ、素晴らしき按摩交流」←大体の元凶

風「……うどんの件は樹と後でよーく話し合うことにして、その……ありがとうね、友奈。正直さっきは痛くて幽体離脱さえする勢いで、こっそり友奈に恨まれているかとすら思っていたけど、この身体の軽さには代えがたいわ。今なら百メートルを三秒で走れる気がするもの!」

夏凜「世界記録もビックリじゃない!?」

友奈「えへへ、お父さんとお母さんにも『友奈は上手だな』って良く褒められるんだー」ニッコリ

千景(……)



38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 19:57:53.26 ID:q3nwKlWao

*旅館・個室

風「……冷静に考えるとさっきのアタシたちってババ臭かったわよねぇ?」

夏凜「冷静に考えなくても、マッサージコーナーで数時間つぶす中学生って何よ?」

銀「アタシ、マサオさんを全巻読破しました!」

千景「……何故、この時代にまでぬ〜ぼ〜の漫画が現存していたのかしら? 思わず読んでしまっていたわ」

友奈「ぬ〜ぼ〜も私の部屋に全巻あるよ」

千景「……今度、結城さんの家に続きを読みに行っても良いかしら?」

友奈「うん、良いよ!」

千景(ふふっ……都合よく結城さんの家へ遊びに行く口実を作ることが出来たわ!)

美森「はっ!? 千景ちゃんから不穏なオーラを感じる」ピキーン!

千景(あなたはニュータイプか何かなの!? ……偏執的な人って本当に怖いわ)

風「にしても、すっごい御馳走ね……。やっぱり部屋間違っているんじゃない?」

千景「……この旅行の前にも言っていたとは思うけれど、世界を守るために命懸けで戦っていたあなたたちなのよ? これくらいはあってしかるべきよ。むしろ危険手当と考えても全然足りないとまで言えるわ」

夏凜「あんたの考え方って何て言うの? ビジネスライク? やたらそんな感じよね」

銀「あれ? でも、夏凜さんて大赦から派遣された勇者なんですから、ビジネス的なものですよね?」

夏凜「私の勇者は名誉職よ! ビジネスと一緒にされたくないわね」

美森「そうよ、銀。神聖なお役目を一般的な職業に当てはめようとすること自体が神樹様への冒涜よ」

銀「うっ、確かに……」

千景(……なるほど。神世紀の人たちというのは"そういう風"に教育を施されてきたと言うわけか。西暦でも当たり前のように行われていることではあるけれど、こうして傍から見るとその異質さがよく分かるわ。……もっとも、この件について私がどうこう言ったところで意味なんてないのでしょうが)

友奈「皆、折角のごちそうが冷めちゃうよ? 先にいただきますしちゃわない? 私お腹ペコペコだよー」

樹『そうですね。実は私も……』キュッキュ

風「はいはい、皆育ちざかりですもんね。それじゃあ、神樹様の恵みに感謝して──」

全員『いただきます!』



39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 20:00:39.64 ID:q3nwKlWao

銀「いやー、ほんと美味しかったッスよね〜、今日の夕食」

美森「ふふっ、まだ言っているのね、銀」

風「うっ、銀が夕飯のことを思い出させるからお腹が……」グゥ

樹『ダイエット』キュッキュ

風「はい……しゅみましぇん……」

千景(客観的に見ても犬吠埼姉は特に太っていないし、体重も中学三年女子としては平均程度、むしろ下回るだろう。そもそもダイエットは計画を立てて継続しないと逆に毒となることが多々あるし、十代の私たちに本来必要なものとも思えない。……まぁ、あえて指摘するようなことはしないけれど)

夏凜「なに寝る前にご飯の話なんかしているのよ。ほら、さっさと寝るわよ」

風「いやいや、分かってないわね、夏凜。こういう時は寝る前にお決まりのあのお話をするのが常識でしょう?」

夏凜「え、そういうものなの?」

銀「そういうものッスよ、夏凜さん。寝る前の定番と言ったら! それはもう──怪談でしょう!」

美森「ええ! 流石は銀、分かっているわ!」

風「ちっがーう!! こういう時にするのは恋バナって相場が決まっているでしょうがっ!」

美森「風先輩もう一度言ってください」

風「こ、こいばな……」

千景「ごめんなさい、聞こえなかったわ」

風「こ、こい……って何度も言わせないでよ! 恥ずかしくなってくるでしょ!?」

千景「はっ」

風「何で久々に鼻で笑ったの!? あんた!」



40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 20:04:00.94 ID:q3nwKlWao

銀「こ、恋バナ……ッスか……。ええと、皆さんにはそんな体験とか、あるん……ですか?」

友奈「私、皆のこと好きだよ?」

樹『それはもしかしなくても友情では? でも、嬉しいです』キュッキュ

千景「聞いたかしら、東郷さん。結城さんは私のことが好きらしいわよ?」

美森「あら、違うわよ、千景ちゃん。私のことを友奈ちゃんは好きと言ったのよ」

千景「ふふっ……」

美森「うふふ……」

夏凜「怖っ! この二人だけ何で素で怪談やってんのよ!?」

風「はいはい、千景も東郷も友奈ことが好きなのねー。皆知ってるから落ち着きなさいって。で、他にある人ー」

樹『……』キュッキュ

夏凜「……」ソッポヲムク

友奈「ええと、お父さんとお母さんのことが──」

風「いや、それはもう良いって。何、皆ないの?」

美森「はい! 私が好きな人は──」キョシュ

風「だからそれはもういいって!」

夏凜「そういうあんたはどうなのよ?」

風「何私の話が聞きたい? ……もう、仕方がないわねー。あれはそう──」

銀「ま、まさか部長……!?」

夏凜「え、マジなの!? ……って、何で私と銀以外誰も驚いていないのよ?」

樹『同じ話をもう何回も言っているんです、お姉ちゃん』キュッキュ…

千景「……とても、悲しい人ね……」

風「ちょっと! 本気で可哀相な人を見るような目はやめてよ! ……別に良いでしょ……実話には変わんないわけだし……」

千景「はいはい、良かったわね」

風「対応が雑っ!?」



41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 20:07:46.92 ID:q3nwKlWao

友奈「そう言えば、銀ちゃんがモテモテだって聞いたことあるよ?」

美森「ゆ、友奈ちゃん、それはあくまでも同性からの話で、別に銀は──」

樹『銀ちゃん、男子からも人気がありますよ?』キュッキュ

銀「ちょ、ちょっと樹さん!?」

風「ほう」

千景「それはそれは」

夏凜「……少し興味あるわね」

銀「な、何ですか、皆して……あ、アタシを見ても何も面白くないですって! ほ、ほら、怪談やりましょう、怪談! ね、東郷さん」

美森「銀、その件、詳しく聞かせなさい」グイッ

銀「ひぃっ! な、なにも面白い話はないですって! ──え、あ、皆さん? あ、アタシを囲んで……いや、やめ……やめてぇーっ!」イーヤー

千景(……その後、樹さんの補足もあり、三ノ輪さんの恋バナは勇者部一同の中でオープンとなった。その際色々とあったのだが、まぁとりあえず、自傷……失礼、自称女子力の塊が地団太を踏んでいたことだけはここに記しておく)

風「しくしく、銀に負けた……」

銀「泣きたいのはこっちですよっ!」モォー!



42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 20:27:35.99 ID:q3nwKlWao

*翌日・海岸前

風「いやー、慰安旅行もあっと言う間だったわねー」

美森「風先輩。家に帰るまでが旅行です」

風「遠足かい!?」

千景(送迎の車が来たため、勇者部一同は一日を過ごした綺麗な海辺を最後に眺めていた。……正直、海に遊びに来ることなんてことは縁遠く、増してやそれを楽しめるなんて思ってもいなかった。……それもきっと、このメンバーだからなのでしょうね)

夏凜「どうやら千景も楽しめたようね。……実は私もよ」

千景「……お互い本来海には縁がなかったのでしょうけれど、不思議なものね」

夏凜「? 海なら、アタシは毎日素振りをしに行っているわよ?」

千景(……やはり三好夏凜は若干世間知らずのようだった。まぁ、それも個性だろうし、素性を考えれば仕方のないことではあるか)

友奈「……」

友奈「私たちはこの綺麗な景色を、守ることができたんだね……」

千景「……ええ、そうよ、結城さん。あなたたちが守ったのよ」

千景(静かに、感慨深げに呟いた結城さんの言葉に私は同意した)

友奈「ぐんちゃんも、だよ」

千景「……?」

友奈「あなたたちの中に、ぐんちゃんも、ちゃんと入れてあげてね?」

千景「……そう、だったわね……」

千景(私は結城さんから目をそらし、目の前の海へと視線を逃がしてしまう。……純粋な彼女の言葉は重く、だからこそ、自身の知っている未来があまりにも足枷だった)

風「ほらー、あんたたち。さっさと乗りなさい。置いていくわよー?」

千景(……去り際、車の中から見た景色も、先ほどと同じく、鮮やかでとても綺麗な色の海だった)

千景(こうして、穏やかな一泊二日の勇者部の慰安旅行は幕を閉じ、そして──)



千景(延長戦が、始まる)



43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/24(日) 20:28:19.49 ID:q3nwKlWao
続く
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/25(月) 13:29:40.15 ID:WwLct9LGo
楽しみ
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/25(月) 17:22:49.42 ID:vmD2JXmlo
おつ
勇者の章で心砕かれてるのでいい癒やしになった
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/25(月) 21:40:28.53 ID:gxGQDJVco
ここまでお付き合いいただけている方が何人かいるようで安心しました……
続きを投下していきます
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/25(月) 21:49:59.85 ID:gxGQDJVco

*樹海

風「──この延長戦で本当に終わり。ゲームセットにしましょう!」

夏凜「そうね、絶対逃がさないわ!」

風「行くわよっ!」

友奈・美森「はい!」

樹「……」コクン!

ヘンシン!

銀「いやー、いつ見ても皆の変身シーンって圧巻だなぁ。……あれ? 千景さんは変身しないんですか?」

千景(……普段と変わらない様子の彼女。だからこそ、私は訊ねる)

千景「三ノ輪さんは、平気なの? 前回の戦いであなたは怪我を負ってしまったのよ?」

銀「それを言うなら千景さんもでしょ? 第一、皆がついているんです、何一つ心配なんてありませんよ。……あ、ただ、怖いのはいつも通りではあるんですけど、アタシだけが戦えないって言うことだけは、正直文句がありますけどねー」

千景「……そう。あなたはやっぱり強いのね」

銀「へ……?」

千景「来なさい! 手甲!」

バシューン!

銀「わぁ!? またいきなり飛んできた!」

千景(……おそらくは大丈夫なはず。切り札さえ使わなければ、きっと──)

友奈「あれ……? それって……?」ズキン

風「へぇー、千景が持つとそれが大鎌に変わるのねー。何と言うか、神秘だわ」

美森「私たちの変身も大概に神秘だとは思いますよ?」

樹「……」コクコク

夏凜「千景らしいと言えばらしいんだろうけど、それって死神とかそういう系統の恰好よね……」

千景「……ふぅ。人の変身に関してとやかく言わないでもらえるかしら?」

千景(変身は完了。今のところ……異常は無い、ようだった)



48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/25(月) 21:57:16.83 ID:gxGQDJVco

風「よーし! 千景の変身も終わったところで、アレやろうか」

美森「了解です」ギュッ

夏凜「ほんと好きねぇ、こういうの」スッ

友奈「ほ、ほら! ぐんちゃんも!」クラッ…

千景(結城さん……?)

銀「はいはい、千景さんも行った行った」オシダシオシダシ

千景「……」

千景「三ノ輪さん、あなたも加わりなさい」グイッ

銀「えぇー!?」

風「お、千景も良いこと言うわね。やっぱり勇者部はフルメンバー揃ってなんぼよ」

銀「いや、でも……アタシは戦えるわけじゃないですし……」

美森「勇者部六箇条。勇者部は一蓮托生よ」

風「いつの間に一ヶ条増えていたのよ!? あの、一応アタシ部長なんですけど? ……まっ、でも、東郷には一女子力を進呈しましょうか! よく言った!」

美森「わぁ。友奈ちゃん、一女子力貰っちゃったわ」

友奈「良かったね、東郷さん」

千景「……知っての通り、あなたのお仲間はこういう人ばかりよ」

銀「……」ハァ

銀「いやー先輩たちには敵わないな〜」ホントニ…

樹「……」ソデクイクイ

銀「もちろん、樹さんもですよ。──ふしょう三ノ輪銀、円陣に参加させていただきます!」



49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/25(月) 22:07:40.49 ID:gxGQDJVco

風「円陣組めたわね? さぁて、敵さんをきっちり"昇天"させてあげましょう」

千景「ぷっ……」

風「なんで笑った!? なんで笑ったの千景! ここ一応真面目な場面よ?」

千景「な、なんでもないわ……。続けてちょうだい」

千景(い、言えるわけがない。高嶋さんと"笑点"を見ていた影響で、あのBGMが脳内再生されてしまったなんて!)テッテレテレレ、テッテ

夏凜「まぁ、土台、風が真面目にやること自体あっていないのよ」

風「なにをー! 言ったわね!」

美森「……でも、おかげで皆の肩の力が抜けました。流石上級生のお二方です」チラリ

友奈「え? 樹ちゃんも夏凜ちゃんの意見に賛成? あはは、それだと風先輩がちょっと可哀相かも……」

千景(……東郷さんも気付いていたのね。結城さんの様子がおかしかったことに。……意図は全くしていなかったが、副次効果なのか今はいつもの結城さんに見えていた)

風「ま、まぁね! アタシってほら? 部長だし?」

千景「はぁ……部長、さっさと締めてくれないかしら? バーテックスがいい加減近づいて来ているわ」

風「元はと言えばあんたのせいでしょー! ……まぁ、良いわ。時間がないのは本当だし良いことにしておいてあげる! それじゃあ──」

風「勇者部、ファイトー!」

皆『おー!』



50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/25(月) 22:10:27.60 ID:gxGQDJVco

千景(アニメ通りであれば、ここで一旦、三好夏凜以外は躊躇する場面であるが──)

友奈「結城友奈! 先陣を切ります!」

夏凜「いえ! 先陣はこの私よ!」

風「まったく二人とも……少しアレコレ考えてしまったアタシが恥ずかしくなってくるじゃない。こらー、待ちなさい!」

樹「……」ツイテイクヨ

美森「凄いわね、千景ちゃん。ここまで計算していたの?」

千景「……どう答えて欲しいのよ、あなたは?」

美森「そう……。やっぱり千景ちゃんもその可能性に至っていたわけね」

千景「否定も肯定もしないわ」

銀「あのー……何だかお二人さんの会話が頭のいい人のそれと言うか……何言っているのかついていけないッス!」

美森「良いのよ、銀はそのままで」

千景「ええ、それについては同意するわ」

銀「……わーい、先輩たちが何故だかアタシにやさしいやー」シクシク



51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/25(月) 22:35:34.66 ID:gxGQDJVco

美森「──速いわね、あのバーテックス」

千景「樹さんが以前倒したバーテックスと同様速度偏重型ね。星座モチーフであるとしたら二体目故にふたご座と言ったところかしら?」

千景(前衛タイプは私を除き全員前線に出てしまったので、残されたのは三ノ輪さん、東郷さん、私の三人のみとなる。後衛として戦場の様子を観察し、状況によってはすぐさまの移動が伴うため、今は臨戦態勢であった)

美森「……くっ。私の射撃では目標を捉えることが出来ない」

千景「相性の良さで考えるのであれば、攻撃速度に優れた樹さんか三好夏凜が適当でしょうね。でも──」

ヤァー!
テーイ!

美森「友奈ちゃんと夏凜ちゃんが突撃を仕掛けたわ。……流石ね」

千景(前線での光景は史実……アニメに対してその言葉を使うのは抵抗があるが、私の知る史実通りと言ってしまっても差し支えなかった)

美森「敵は伏したわ。私たちも行きましょう」

千景「ええ。ほら、行くわよ、三ノ輪さん」

千景(生身の三ノ輪さんが居る以上、本当ならここで待機することも最良の一つだろう。しかし、事前に出した勇者部の結論としてはなるべくまとまっておくことが適当だと答えは出ていた。……先日の決戦から生じた教訓みたいなものね。所詮、戦いにおいては素人の集団、それ故に守り手が多くなるこの結論に私自身異存はなかった)

銀「……はーい。ちょっとだけ蚊帳の外な銀さんなのでした」フタリダケデモウ…

千景(? 何故三ノ輪さんは少しだけ拗ねた顔をしているのかしら?)

美森「銀! その顔も可愛いわ!」

銀「えぇー!?」

千景(……いえ、やっぱりいつも通りね)



52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/25(月) 22:48:59.50 ID:gxGQDJVco

美森「友奈ちゃん!」

友奈「あ、東郷さんたちだ。夏凜ちゃんと私でバーテックスは倒したよ。あとは──」

風「封印開始!」

夏凜「なにこれ!? 御霊が大量にあふれてくる!?」

風「アタシがやるわ!」

千景(……決意がにじんでいるわね。後遺症の危険性を踏まえた上での風先輩の台詞だろう。元々責任感の強い人だから、一時的に場の空気が和んだとしてもその危機意識を消せるはずはないし、彼女は決して愚か者というわけでもない。そこから考えれば当然の情況ね。けれど、史実通りなら三好夏凜もまた──)

夏凜「トドメは私に任せてもらうわよ!」

風「夏凜! やめなさい! 部長命令よ!」

夏凜「ふっふーん、私は助っ人で来ているのよ。好きにやらせてもらうわ!」

千景(互いに一歩も譲らない。……その間にも)

友奈「はぁーっ! 勇者、キーック!!」

千景(……やはりあなたが行くのね、結城さん)

バシュー!

千景(炎を纏わせた蹴り技が御霊を貫く。そして、舞い上がる業火。これが結城さんの新しい精霊、火車の力……)

友奈「ふぅ……何事もなかった。成せば何とかなるね!」

夏凜「友奈、あんた何で勝手に……あ」

風「……っ……」

樹「……」

美森「……っ……」

千景(……彼女の右手には満開ゲージが三つも溜まっていた。この場で、自身らに訪れた後遺症を連想しない者はいないだろう)

友奈「ご、ごめんねー。新たな精霊の力を使いたくてつい先走っちゃいました」エヘヘ…

美森「友奈ちゃん……身体は平気?」ギュッ

千景(東郷さんが結城さんの左手を握りしめる。……頃合いだろう)

友奈「うん、元気そのものだよ……って、あれ? ぐんちゃん?」

美森「……あの、千景ちゃん?」

千景(結城さんと東郷さんの間に無理やり割り込み、私は片方の人の手を握っていた)ギュッ

千景「別に……単なる嫉妬よ」

銀「遂に言っちゃったよ!? この人!」

友奈「あはは、二人とも仲良しさんだね」

千景(……見た目上は、結城さんの代わりに私と東郷さんが手を握り合っている形になる。しかし、東郷さんであれば私が二人の仲を邪魔したのだと邪推してくれるだろう。したがって、今後の流れに不自然は生じないはずだった。……世界は花と共に散り、樹海化が解かれていく)

友奈「皆に怪我なく終わって良かったよ」

美森「友奈ちゃん……」

千景(そして、樹海はその役目を終え……)

千景(……さて、ここからが私の本番だ。気を引き締めていこう)



53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/25(月) 22:54:38.72 ID:gxGQDJVco

*朽ちた瀬戸大橋の見える祠

美森「戻った、けれど……」

銀「ここって……屋上、じゃないですよね?」

千景(東郷さんに触れていた私がここに居るのは必然として、まさか三ノ輪さんまで一緒とはね……。やはり彼女は──)

美森「大橋……!」

銀「わっ、ほんとだ! ってことは結構離れた場所に居るんですね、アタシたち」

千景「どうやら携帯の電波も掴めないようね」

千景(スマホを適当に取り出し、本来なら結城さんの告げた台詞を言っておく。なるべく私の知る歴史に近いほうが再現性が上がるに違いない、その程度の理由である)

美森「……本当だわ。私の改造版でも駄目なようね」

銀「今さり気なく、改造版とか言いませんでした?」

千景「……」ピクッ

千景(さて、お出ましのようね)






声「ずっと呼んでいたよ〜。わっしー、ミノさん」






千景(……ええ、こちらこそ待ちかねていたわ。──乃木園子)






54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/25(月) 22:55:30.64 ID:gxGQDJVco
続く
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 21:57:57.58 ID:FQATJGRHo

銀「声? ──東郷さん、千景さん」

東郷「ええ、行ってみましょう」

千景(社の大きな支柱、その向こう側には──ベッドの上で、左目だけをのぞかせた包帯姿の少女。……改めて惨い、わね)

銀・美森『……っ……!』

乃木園子「会いたかった〜。ようやく呼び出しに成功したよ、わっしー、ミノさん」

銀「み、ミノさん……? ってアタシのことだよ、な? え、ええと、じゃあ、わっしーって言うのは……? いやいや! その前にどうしてこんなところにベッドがドーンって置かれて!?」

千景(乃木園子は東郷さんに視線を向けた)

園子「……あなたが戦っているのを感じてずっと呼んでいたんだよ」

銀「戦っていて、って……もしかして! 東郷さんの知り合いなんですか?」

美森「……」フルフル

美森「いいえ、初対面だわ」

園子「……っ……」

園子「あー、はははっ」

千景(……知らないことはこんなにも残酷なのね)

園子「わっしー、て言うのは私の大切なお友達。いつもその子たちのことを考えてて、つい口に出ちゃうんだよ」

銀「……あ。す、すいません! と言うことはアタシの知り合いってことですよね? 三ノ輪でミノさんだとは思うんですけど……その……実はアタシ、過去の記憶が全部なくなってしまっていて……本当に、ごめんなさい……思い出せなくて」

園子「……」

園子「ううん、良いんだよ。ミノさんがこうして元気でいてくれるだけで、私はとっても嬉しいんだー」

千景(……三ノ輪さんに関しては最早確定ね)

美森「……あの、私たちを呼んだのですか? けれど、どうやって?」

園子「そこにある祠、"バーテックス"との戦いが終わった後だったら、その祠を使って呼べると思ってね」

銀「ば、バーテックスをご存知なんですか?」

園子「一応、ミノさんたちと同じお役目を担っている立場ってことになるのかな? 私、乃木園子って言うんだよ」

千景(……アニメと違い先輩と自称をしなかったわね。つまり、三ノ輪さんも東郷さんも勇者としては彼女の後輩に当たらないと言うこと)

銀「さ、讃州中学一年、三ノ輪銀です」

美森「東郷、美森です」ペコリ

園子「ミノさんに……美森、ちゃん、か……」



56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 21:58:33.93 ID:FQATJGRHo

千景(乃木園子の今の一言にどれだけの感情が込められているのか……。重苦しく湿った空気が漂ったのを感じる。けれど、場違いであっても、私だけ名乗らないわけにもいかない流れだろう)

千景「……郡千景よ」

園子「そっか、あなたが千景ちゃん……。ミノさんを助けてくれてありがとうね」

千景「……助けられたのは私のほうよ。それに私は一応、あなたにもお礼を言う立場なのでしょう?」

園子「……気付いていたんだ?」

千景「今、肯定を得たわ」

園子「ふふっ、怖い人だね」

千景「それはお互い様でしょう?」

園子「うーん、どうなのかな?」

千景(まったく、左目だけしか見えないのにこんなにも見透かすような瞳をして……。けれど、これで、乃木園子が私に便宜を図っていたことを自白したに等しい。前提はここにおいてようやく整い、私は乃木園子へと続けて話しかける。これが本題だ)

千景「……あなたにも本題があるでしょうから、私からは一つだけ投げかけさせてもらうわ」

園子「心遣いありがとうね。どんな内容かな?」

千景「あなたには聞きたいことがそれこそ山ほどある。だから、後日……いえ、出来る限り近いうちに、時間をいただけるかしら?」

園子「なーんだそんなこと。もちろん、良いよー」

千景「……随分とあっさり了承するわね。こちらとしては好都合だから助かるのは事実だけれど」

千景(これでもそれなりに緊張はしていたのだ、酷く拍子抜けしてしまっても仕方がない。一方で、確約は得た以上、この場で彼女と会話を続ける必然性はなくなった)

千景(……それじゃあ、後はあなたの本題を進めてちょうだい」

園子「やっぱり千景ちゃんは"そう言うこと"なんだね。ありがたく私の話に戻らせてもらうよ」

千景(全てに理解が届いたような表情を、乃木園子は、確かにした。……得体がしれないとはこう言う人物を指すのでしょうね……)



57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 21:59:49.48 ID:FQATJGRHo

銀「……実は千景さんとも、その……乃木さんはお知り合いだった、とか……?」

園子「ミノさん」

園子「私のことは園子でお願い。乃木さんだと流石に私もやりきれなくなっちゃうから」

銀「あ、すみません! そ、園子、さん……?」

園子「園子」

銀「そ、そのこ……」

園子「……ふふっ、なーに? ミノさん?」

銀「え、ええと、……そ、園子は千景さんとお知り合いですか?」

千景「私方面からは正真正銘の初対面。けれど、今はどうでも良いことよ。……乃木園子、あなたのその身体はバーテックスとの戦いで、そのようになってしまったのかしら?」

園子「ごめんね。私、ボーっとしているところがあるから進めてくれて助かるよ。それで、今の質問への返答としては否定になるかな。私、これでもそこそこ強かったんだから」

銀「え……? バーテックスに、こんな酷い目にあわされたんじゃ……」

園子「えーと……そーだそうだ。千景ちゃんは皆が満開したところを見たんだよね?」

千景「……ええ。普段の勇者姿ですら超人を超えているのに、満開で規格外の強さを手に入れていたわ」

千景(満開の話題をあえて三ノ輪さんと東郷さんには振らなかったわね。予測が徐々に筋道を辿って真相へと近づいて行く、そんな気配があった)

美森「私も……満開を、しました」

園子「……」

園子「そっか……。咲き誇った花は、ね──満開の後に散華と言う隠された機能があるんだよ」

美森「散、華……。華が散るの散華……?」

園子「……満開の後、身体のどこかが不自由になったはずだよ」

美森「……っ……!」

銀「っ! そ、それって!?」

園子「それが、満開の代償。その代わり決して勇者は死ぬことはないんだよ。……そして、私は戦い続けて今みたいになっちゃったんだ。全然動けないのは流石にきついけど、元からボーっとするのが得意で良かったかな?」

銀「──くっ! ……い、痛むんですか……?」

園子「痛みはないよ。敵にやられたものじゃないから。満開して戦い続けてこうなっちゃっただけで、敵はちゃんと撃退したよー」

美森「た、戦い続けてそうなった……じゃ、じゃあ……その身体は、代償で……?」



園子「うん」



千景(……乃木園子は、その故意に隠されていた真相を認め、三ノ輪さんと東郷さんの息を呑む音だけが、ただ一度ずつ聞こえていた)



58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 22:07:00.63 ID:FQATJGRHo
とりあえずここまで……なんですが、文量的に少ないのでちょっとした番外編を



【ここから・『楠芽吹は勇者である』絶賛発売中なSS】

*ある日の休日・閑静な歩道

銀「へっへーん、今日はラッキーだな〜♪」

銀(駄菓子屋の前に『大当たり増量中!』と書かれたガチャガチャなマシンがあったから、何となく一回まわしただけなのに……なんと! 大当たりが出ちゃいましたよ! 凄くない?)

銀「いやー、このヨーヨーめっちゃカッコいいし、アタシって本当はラッキーガールだったりして?」

銀(手に入れたのは赤くてギラギラの如何にも当たりって感じのヨーヨー。こいつを見てしまったら遊ばないわけにはいかないってもんよ! ……よし! そこの公園でアタシの美技を見せてやる!)



59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/26(火) 22:07:49.01 ID:FQATJGRHo

*公園

銀「ほっ! よっ!」

銀(気持ちいいくらいに技が決まっていく。……もしかしたら記憶を失う前のアタシってヨーヨーの達人だったりして? ウシッ! ──お次は! ウォークザドッグだ!)

キュルルルーッ!

銀(へへっ、最高のバッグスピンで犬の散歩も成功ってね!)

…パチパチパチ

少女「……」パチパチパチ

銀「あ、どうも、です」…ペコリ

銀(……あちゃー、誰も居ないと思って油断していたら女の子が一人居たのか……。一人ではしゃいでいる恥ずかしいところを見られた、よね……?)

少女「……ヨーヨー。凄かった……」

銀(あー、つまり一部始終、見ちゃったわけですね……。しかも、気を遣ってわざわざそんな台詞まで!)

銀「あははっ、粗末な技を見せてしまってごめんねー……」

少女「……」フルフル

少女「……他にも。できる?」

銀「え? 他にも? ……はい! アラウンド・ザ・ワールド!」ハッ!

セカイイッシュウ! シュルルー!

少女「……おぉ……!」パチパチパチ

銀(しきりに目を輝かせてくれるのが嬉しくて、アタシはついつい色んな技を披露してしまう。──そんなこんなで、気付けばそれなりの時間が過ぎ、空がすっかり真っ赤に染まっていた)

銀「いやー、アタシってば本当に調子に乗りやすくて困っちゃうよねー? その……いっぱいつき合わせてしまって、ごめんなさい」ハンセイ

少女「……ううん。楽しかった」

銀「え、そう……? はっ! 実は見る人を魅了させる超絶美技をアタシは披露してしまっていたとか!?」

少女「……そこまでは。言ってない……」

銀「ですよねー」シュン

少女「……」クスッ

少女「……よくこの公園。……来る?」

銀「うーん、買い物とかで通りかかるけど、遊びに来たのは結構久しぶりかな?」

少女「……そう。じゃあまた会える。……かもしれない」

銀「はっ!? やっぱりアタシのヨーヨーが魔性の魅了を秘めているから……!」

少女「……そこまでは。言ってない」

銀「あ、はい、すみません。その、調子に乗っていました、はい」シュン

少女「……」フフッ

少女「……それじゃあ。……またね」

銀「あ、うん。アタシに付き合ってくれてありがとね!」

少女「……」バイバイ

銀(アタシも手を振り返し、女の子が少しだけ微笑む。そして、夕焼けの中へと消えて行った)フリフリ

銀「あ」

銀「……折角だから名前を聞いておけば良かったかな」

銀(まぁ、また会った時にでも聞けば良いか)



 ──これは、華とその清廉に憧れた一人の雑草が、再び交錯したその記憶。



【ここまで・くめゆドラマCDも発売予定です!】

60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/28(木) 22:09:55.73 ID:uJnylGQwo

園子「──大いなる力の代償として、身体の一部を神樹様に供物として捧げていく。それが勇者システム」

美森「私たちが……供物……っ」

園子「大人たちは神樹様の力を宿すことができないから……私たちがやるしかないとは言え、酷い話だよね」

美森「それじゃ、あ……これから身体の機能を、失い続けて──」

銀「で、でも! 十二体のバーテックスは倒したんです! いや……それでも酷すぎる話ですけど、"アタシたち"はこれ以上失わなくても良いんですよね? もう戦わなくても良いんですよね! そうでしょう!?」

園子「……そうだと良いね」

千景(見知った会話ではある。……それでもその痛々しさは視聴時とは比べものにならない寒気をはらんでいて──)

千景「……それで、失った身体の機能は治らないの?」

千景(思わず、会話を進めるため口出しをしていた。……早く終わらせたいという気持ちがなかったと言えば嘘になる)

園子「……治りたいんよね。私も治りたいよ。歩いて友達を抱きしめに行きたいよ……」

銀「そ、それなら──!?」

ザッザッザ

美森「大赦の、人たち……?」

園子「──彼女たちを傷つけたら許さないよ。私が呼んだ大切なお客様だから。……あれだけ言ったのに会わせてくれないんだもの、自力で呼んじゃったよー」

千景(そして、深々と平伏する仮面の大人たち。……改めて異常な光景だった)



61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/28(木) 22:16:49.31 ID:uJnylGQwo

園子「私は今や半分神様みたいなものだからね。崇められちゃってるんだ」

美森「……」

園子「……悲しませてごめんね。大赦の人たちもこのシステムを隠すのは一つの思いやりではあるとは思うんだよ。──でも……私は、そういうの、ちゃんと……言って欲しかったから……」ツゥー

千景(……彼女は機能の残った左目だけで泣いていた)

園子「分かってても、友達ともっともっと、遊んでいたかった……やっぱりね、どこまでも心残りはできてしまうんだよ……それでも、少しは違ったから、伝えておきたくて……」

銀「……っ」

美森「……」

千景(三ノ輪さんと東郷さんが乃木園子の左側面に歩み寄る。東郷さんが彼女の涙に触れ、三ノ輪さんがその頬を優しく撫でた)

園子「……ふふ……そのリボン、似合っているね」

美森「このリボンは……とても大切なものなの……。それだけは覚えてる……でも、ごめんなさい……私思い出せなくて……っ」

園子「仕方がないよー」

千景(アニメと変わらないやりとり。けれど、ここで本来なら居なかったはずの人物が)

銀「……園子」

千景(……何かを決意した強い眼差し。次の台詞も本来なら存在しなかったもので……」

銀「アタシは絶対に諦めないし、こんなこと認めたりなんかしない」

園子「ミノ、さん……?」

銀「アタシは絶対に! 自分の記憶を取り戻してみせる! ──園子のその身体も、東郷さんの記憶と足も、勇者部の皆が失ったものも! アタシが、必ずアタシが! 何とかしてみせるっ!! ──そう、約束するよ」

千景(勇ましさの最後に、三ノ輪さんはとても優しい声で告げた。……でも、今の宣言に何らかの明確な根拠が存在しているように感じてしまうのは、私だけだろうか?)

園子「……うん。やっぱりミノさんは、ミノさんなんだねぇ……」ポロポロ



62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/28(木) 22:18:03.80 ID:uJnylGQwo

千景(三ノ輪さんが乃木園子の涙を拭い去った頃には、か弱き面を見せた少女は大赦の最上位である半神へと戻っていた)

園子「──戻してあげて。彼女たちの町へ」

千景(仮面たちは手を合わせ、乃木園子へと頭を下げた。了承したと言うことだろう)

園子「いつでも待ってるよ。こうして会った以上、もう大赦側も二人の存在をあやふやにはしないだろうから」

美森「……っ……」

銀「……園子、またね」

園子「うん……また、ね……」

千景(こうして、私たちは乃木園子の居る社を後にした。そして、帰りの車中)

銀「──大丈夫。アタシが何とかしてみせるから。五箇条にもあるでしょ? なるべく諦めないって。だから、ね?」ギュッ

美森「……ぎ、ん……っ!」ギュッ

千景(後部座席で慰め合う二人の声を、私はただ黙して聞いていた)



63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/12/28(木) 22:20:16.54 ID:uJnylGQwo

*翌朝・学校屋上

風「勇者は決して死ねない……身体を供物として捧げる……?」

銀「はい」

美森「満開の後、私たちの身体はおかしくなりました。身体機能の一部を供物として捧げると、乃木園子は言っていました。……事実、彼女の身体も──」

風「……じゃあ……アタシたちの身体も、もう……元には戻らない……?」

千景(三ノ輪さん、東郷さん、私の三人は犬吠埼姉に昨日の顛末を報告していた)

風「……その話、樹や夏凜には話した?」

銀「いえ、まずは風先輩に相談しようと思って」

美森「……」

風「そう……。じゃあ、まだ他の皆には話さないで。確かなことが分かるまで変に心配させたくないから」

銀「……分かりました」

美森「……」コクン

千景(報告は終わり、気だるさを感じながら私たちは解散する)

千景(下級生二人に続き、私も屋上口から出ようとした時)

風「千景。ちょっといい?」

千景「……ええ」

千景(ポツリポツリと小雨がこぼれる屋上に私は踏みとどまり、そのまま振り返る。先ほどまでと変わらず、真剣な表情の風先輩が目の前に居た)

千景(……徐々にアニメのゆゆゆから物語が乖離し始めているのは以前から察していた。だから、このイベントもまた本来から外れたものの一つとなっていくのだろう)



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