高嶋友奈「結城ちゃんは勇者である」

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92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 20:36:08.21 ID:eJvlprTto

千景「……」

千景(思うことがなかったかと言えば嘘になる。けれど、今の私に必要な情報であるかと問われればそれも否。几帳面な字でびっしりと書かれているため、最初の数ページを読んだだけで疲労と、それなりの時間が経過していた)

千景「……必要な部分だけ読みこんで、後は流し読みが最善のようね」

千景(改めて続きを読んでいく。先ほどのペースでは本日の夜に至っても三冊の読了に至らないだろう。本当に必要な情報だけを精査しながら目と手を動かしていった)

千景(ふと、ある記述を見つけ手が止まる)

千景「──玉藻前とは、随分大層な名前ね」

千景(一冊目の御記の中ほど、大赦の保有する三大精霊、三大妖怪に関する記述があった。乃木家が保有する鴉天狗、この世界の高嶋さんが使用したとされる酒呑童子、──そして、郡千景に実装されて結局使われることのなかった玉藻前)

千景(玉藻前、要するに九尾の狐ね。その知名度、妖怪としての格の高さから、相当に強力な精霊だったことは容易に想像がつく。……正直、私の帰還に一切関係しない情報ではあるが、頭の中に念のため留めておこう。なにぶん、現状の七人御先ではバーテックスとまともに戦うことすら難しいのだから)

千景(けれど、あの手甲が精霊の集合体で郡千景の記憶を持つものなら、七人御先と言う精霊はおそらく──)

ブルルル

千景(着信? ……三ノ輪さんからね)

千景「千景よ。動きがあったの?」

銀『あ、千景さん! 実は今、東郷さんの家に呼び出されてしまったんですよ!』

千景「……予想よりも一日早いわね」

銀『しかも東郷さんの家の周りを監視していたところを見つかってしまって、もうすでに東郷さんの家にアタシと風先輩、友奈さんが揃っているんです。今、トイレで電話をしていますけど、そんなに長くは居れないですし、どうしましょう……? あと、東郷さんは何故か千景さんだけ呼んでいないんですよね?』

千景(大方三ノ輪さんの不幸体質で見つかったと言う理由なのでしょうけれど、東郷家への事前配置がアダとなったわね……)

千景「状況は飲み込めたわ。三ノ輪さんはこのまま史実通り物語を進めなさい。私もすぐに上里家から出て次の計画へ進むわ。正直口惜しいことがあることは確かだけれど、臨機応変に対応するしかない場面よ。私が呼ばれていない理由も想像は出来るから、その辺は気にしなくて良いわ」

銀『わ、分かりました。何かあったらまた連絡します。……そんで、東郷さんを思わず止めてしまわないように努力してみます』

千景「ええ、お願いするわね」

千景(通話を切り、早速行動を開始する。全然読み進められていないが、物語は動いてしまい、ゆゆゆで言う第十話から最終話までの局面が一斉に押し寄せてくることは必至。最早贅沢は言っていられない状況だった)



93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 20:37:26.44 ID:eJvlprTto

*一時間後・自室

風「……ごめん、いきなり呼び出したりなんかして」

千景「昨日、私もあなたを呼び出したのだからお相子と言うものよ。それでどう言った用件なのかしら?」

千景(上里家を出て目的地へ向かう途中、風先輩からの着信があった。最初は不在着信も考えたが、結局通話を取り、こうして自室で顔を向かい合わせる流れとなっている)

風「……アタシ……もう、どうしたらいいのか……」

千景(彼女は酷い顔をしていた。今にも泣きわめきそうな赤子のような顔。それを辛うじて理性が抑えていると言った様子だ)

千景「……何があったの?」

千景(当然、先ほどの三ノ輪さんからの連絡で理由は察している。けれど、こんな惨状の人に非情な言葉を掛けられるほど私はまだまだ……非情にはなりきれていないようだった)

風「……満開の、後遺症は……治らない……だって! 勇者は死ねなかった! 先代勇者の話は本当だったんだッ!!」

千景「落ち着きなさい! ──と言っても難しいようね。自販機でミルクティーを買ってきているのよ、ひとまず一口でも飲んでおきなさい。……話はしっかり聞いてあげるから」

千景(考えることすら辛いのか、風先輩は言われた通りミルクティーに一口だけ口をつけた。そして、ポロポロと片目から水滴をこぼしていく。眼帯も水分を吸収しきれなくなったのか、間もなくそちらからもこぼれ出す)

風「アタシが……アタシが! ……ゆ、勇者部なんか作らなければ! ……皆、こんな目に……あわなくても……済んだ、はずで……」

千景「それはないわね。何故なら讃州中学には東郷美森と結城さんが居るのだから。先代勇者と勇者適正値最高値が揃っているのよ? 必ずお役目には讃州中学勇者部が選ばれていたはずよ」

風「……先代勇者……? え……誰が……?」

千景「東郷美森よ。彼女は先代勇者としてバーテックスと戦い、足の機能と記憶を失ってしまったのよ」

風「……え……。……ご、ごめん……多分、アタシ……今全然何も考えられなくて、よく分からなくて……」

千景「そう、なら分かりやすい言葉で言い換えましょうか」



千景「讃州中学勇者部のメンバーは皆、大赦によって仕組まれた者しか存在していないのよ」



風「……っ……!」



94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 20:38:17.47 ID:eJvlprTto

千景「三ノ輪さんも先代勇者の一人よ。お察しの通り彼女は記憶の全てを供物として奪われた。結城さんは勇者適性値最高位。三好夏凜は言うに及ばず、両親が大赦関係者で勇者適性もあり、讃州中学に席を置くあなたと樹さん、犬吠埼姉妹が選ばれないなんてこともありえない。──つまり、あなたに非は一切ないのよ」

風「……」

風「……アタシ、……本当に何も知らなかった……」

千景「そうであるように大赦は仕組んだのだろうし、何も知らないことは大赦にとってはあまりに都合が良かったのでしょうね」

風「……ねぇ、千景。……あんたも仕組まれていたの?」

千景「私だけは欄外……と言いたいところだけれど、大赦ではなく初代勇者様に仕組まれていたようね」

風「初代、勇者が……」

千景「……」

千景「……このままあなたを慰めてあげたいところだけれど、生憎私は予定が押していてね、あなたが私と会いたかった本題に移ってもらっても良いかしら? 今なら可能な限り答えてあげるわよ?」

風「……」

千景(風先輩は幾度か逡巡し、けれど意を決したのか私を真正面から見つめて口を開く。涙はいつの間にか枯れていた)



風「教えて……教えて欲しいの! 皆は、勇者部の皆は! 本当にこのまま治らないの!? 未来から来た千景なら知っているのよね? ねぇ!」



千景(切実な、風先輩の想いが私の中に確かに伝わっていた)



95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 20:40:05.95 ID:eJvlprTto

千景「……ええ、知っているわ」

風「なら!」

千景「けれど、答えはもうすでにあなたに与えていたはずよ」

風「え……? いつ!?」

千景「言ったはずよね? あなたの信じる道を進みなさいと。そして、間違っていたら勇者部の皆が正してくれると。……答えにはなっていないかしら?」

風「……」

千景(その沈黙は重い。けれど、彼女なりに落としどころを見つけたのか、少しだけまともな顔になり)

風「……ありがと。あんたが居てくれて本当に良かった」スクッ

千景「行くの?」

風「……ええ。樹と夏凜にも伝えないといけないから。これはアタシの、勇者部を始めてしまった部長の務めで、アタシが今やらなければならないことだから」

千景「そうね。隣の部屋の三好さんは出かけているようだから、まずは樹さんに伝えてあげると良いわ」

風「そのつもり。……ほんと千景には迷惑をかけるわね」

千景「……」

千景「一度しか言わないからよく聞きなさい」

千景「知り合いの居ないこの世界で、あなたと樹さんはこんな私に、親身にしてくれた。……救われていたのよ。ありがたいと思っていたのよ。……だから、私はそれを返しただけ。ただそれだけ」

風「……」

千景「さぁ、行きなさい。あなたも為すことがあるのでしょう?」

風「……ええ! ……よく分からないけどさ、千景も頑張りなさいよ? アタシが言える言葉かは分からないけど一応」

千景「まったくね」クスッ

風「……もう、そう言われると思ったわ」フフッ

千景(犬吠埼姉は玄関を通り過ぎる間際、一度だけ振り返り、その言葉を残して出て行った)

風「それと、ありがと。──またね、千景」

千景「ええ、またどこかで」



千景「──風先輩」



96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 20:45:56.23 ID:eJvlprTto

*結界の壁

銀『風先輩が大赦を潰すって言っています。それを夏凜さんと友奈さんが説得しようとしているんですが……その……千景さんの言っていた通りではあるんですけど、やっぱり実際に見ると堪えますね……』

千景「辛い役目を押し付けてしまったわね。申し訳ないけれど、最後までお願いするわ」

銀『……千景さんからのお願いを断れるわけなんてありませんし、何よりこれはアタシたち勇者の物語ですからね。大口をたたいてしまった以上、アタシはやりますよ!』

千景「ええ、頼りにしているわよ」

銀『はい。千景さんこそ……須美をよろしくお願いします』

千景「確かに、頼まれたわ」ピッ

千景「──さて」

千景「なんとか間に合ったようね。正直、足が棒になりそうなくらい今日は歩いてしまったし、タクシーなんて言うものも何度か使ってしまったわ。──ねぇ、東郷さん?」

美森「……どうして、千景ちゃんがここに……」

千景「こちらこそ言葉を返しましょうか? 勇者服姿になって、嘔吐して、あなたこそどうしたのかしら?」

美森「……」

千景(局面はゆゆゆ第十話。いよいよクライマックスが迫っている)



97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 20:48:10.72 ID:eJvlprTto

美森「……千景ちゃん。私はこの世界の真実を知ってしまったのよ」

千景「世界は炎に呑まれていて、バーテックスが無限に湧いてくることかしら?」

美森「!? な、何故それを……!?」

千景(目を見開くほど驚くとはね)

美森「……以前から疑問ではあったのだけれど、訊ねることをしないままここまで来てしまったのがそもそもの間違いだったのね……」

美森「──千景ちゃん、あなたは誰なの?」

千景「随分と抽象的な質問ね。なら、あなたこそ誰なのか答えることは出来るの?」

美森「私は東郷美森。かつて鷲尾須美の名で勇者を努め、今またそのお役目に縛られる者の一人よ」

千景「へぇ、よく分かっているようね。少しだけ見直したわ」

美森「……私は答えたわ。今度は千景ちゃんの番よ」

千景「私は郡千景。歴史に抹消された西暦時代の初代勇者、郡千景本人よ。乃木園子の先祖であり気にくわない友人であるところの乃木若葉の手によって、この時代に飛ばされた者、それが私よ」

美森「千景ちゃんが初代勇者……? ……ありえないわ、そんな非現実的な話」

千景「あなたの着ているそれは何? そこに落ちている銃は何? 私からすればこの神樹と言う箱庭世界自体が余程非現実的なのだけれどね」

美森「……」

美森「本当なの?」

千景「ええ」

美森「……本気なのね。ひとまず納得することにするわ」

千景「そう、私はどちらでも良かったのだけれどね」



98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 20:50:37.07 ID:eJvlprTto

美森「初代勇者の千景ちゃんは、私を止めてに来たの?」

千景「現勇者の東郷さんを止めに来る道理など、私にあるわけないでしょう?」

美森「……なら、何故ここに居るの?」

千景「物語の行く末を見届けに」

美森「……そう、私が行おうとしていることさえ、あなたは見透かすのね」

千景「気にくわないけれど、あなたの思考はある程度読めてしまうのよ」

美森「……そうね。私も千景ちゃんの思考はある程度読めるわ」

千景「例えば、私を"ちゃん"付けする理由。あなたの性格なら郡さんと呼ぶのが後輩と言う立場から考えても自然ではある。けれど、自己申告のあなた以外は全員名前で呼ぶことが勇者部では暗黙の了解となってしまっていた。なら、千景さんと呼ぶ? いいえ、それだと私との心理的距離がさらに離れてしまう。だから、自戒のためにあなたは私を千景ちゃんと呼ぶ選択をした」

美森「……例えば、友奈ちゃんに抱いているあなたの感情。友奈ちゃんも気付いているけれど、千景ちゃんは友奈ちゃんに誰かを重ねている。重ねないように努力しようとするけれど、どうしても重なってしまうのね、気付けばその誰かと同一視してしまっている。──それが、私は本当に嫌なの」

千景「まるでノベルゲームで言うところの正妻気取りの幼馴染ね、あなたは。本当に気持ち悪い」

美森「横から入って来たくせに私の友奈ちゃんを取らないでよ!」

千景「結城さんはあなたの所有物ではないわ。何様のつもり?」

美森「銀だって! 最近は千景さん、千景さんって! なんで私の大切な人ばかり!」

千景「あなた気付いているの? それは二股の気質よ?」

美森「何も知らないくせに! 私がどれだけ友奈ちゃんと銀に救われたと思っているの!?」

千景「知るわけないでしょう。友情は結局のところ双方向でしか成り立たないのだから、あなたの一方通行はただの戯言でしかないわ」

美森「……また私を見透かした上で煽っているのね?」

千景「ええ、当然の話じゃない? 私は最初からあなたが気にくわなかったのよ?」

美森「……奇遇ね。私もよ」

千景「意見が合うわね」

美森「そうね。……きっと私たちは似た者同士、だから同族嫌悪するのよ」

千景「そう、結局はそう言う話よ」

千景(私の東郷さんへ抱く想いは、アニメ視聴後から一切変わっていなかった)



99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 20:52:34.43 ID:eJvlprTto

千景「人と人が居るのだから仲良しこよしの楽園空間であることのほうがおかしいのよ」

美森「それを考えれば私と千景ちゃんのほうが健全な状態にあるのかもしれないわね」

千景「女と女のドロドロさがにじみ出ている素敵空間ね」

美森「……噂には聞いたことがあるけれど、女性同士って本来そう言うものなの?」

千景「そうね。欺瞞を顔に張り付けていながら同調圧力をかけ続ける、それがよくある女性社会よ。私はクズだと思っているけれど」

美森「よく分からない世界だわ。そもそも神世紀の情操教育であればそう言ったことは悪であると皆理解しているはずなのに」

千景「……やはり意見は合うわね。出会い方が違っていれば親友同士になれたかしら、私たち?」

美森「そう言う台詞こそが嫌いなのでしょう? 心にも思っていないことは言わないほうが良いわ」

千景「ごもっともね」

美森「……」

千景「……」

千景「──これで、お互いの胸の中に溜まっていたものは吐き出せたかしら?」

美森「あと三日は最低必要ね」

千景「私は三ヶ月ね」

美森「なら三年よ」

千景「三百年」

美森「……もう、それじゃあ神世紀の歴史が出来上がってしまうじゃない」

千景「……ふふっ」

美森「うふふ……」

千景(気にくわない相手同士だが、それ故に相手のことが読め過ぎて、逆におかしくなってしまった。──それが私たち二人の関係でもある)



100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 20:55:46.91 ID:eJvlprTto

美森「多分、正面からこう言う風に言い合いをしたのは生まれて初めての経験だと思うわ」

千景「本当は幼少期に体験しておく事柄なのでしょうけれど、環境と性格によっては中々難しいのよね」

美森「まったくその通りだわ」

千景「……」

千景「……世界を終わらせるの?」

美森「……ええ、そうするしか皆を、友奈ちゃんを救う手立てはないから」

千景「延々と続く辛い延命治療よりは死による救いを、かしら?」

美森「……私だけなら我慢することは出来る。でも、友奈ちゃんが、大切な人が苦しむ姿は見たくないの」

千景「同意見ね」

美森「……」

美森「ねぇ、千景ちゃんの本当に大切な人の名前は何て言うの?」

千景「高嶋さん、高嶋友奈さん。容姿から性格まで何から何まで結城さんにそっくりな素敵な人よ」

美森「それは是非ともお会いしてみたいわね」

千景「あら? それは浮気かしら? 結城さんに告げ口するわよ?」

美森「千景ちゃんこそ現在進行形で浮気中でしょう?」

千景「私は結城さんにも真剣よ」

美森「浮気のよくある言い訳ね……と言いたいところだけれど、何となく気持ちが分かってしまう自分が憎いわ」

千景「本当に難儀な性分ね、私たち」

美森「ええ。でも、こんな自分と一生付き合っていかないといけないのよ」

千景「そうね、それが人生と呼ばれるものなのでしょうね。そして、あなたのその一生の最期を私が看取ってあげるわ」

美森「……本当に私を止めに来たわけではなかったのね」

千景「馬鹿な女の末路を笑いに来ただけよ」

美森「……」クスッ

美森「……うん。見てて、千景ちゃん。私の一世一代の大馬鹿を」

千景「見届けましょう。似た者同士のあなたが世界へと売るその大喧嘩を」

千景(東郷さんは銃を取り、私も勇者服姿となってその後を追う。目の前には神樹の作り上げた頑強な壁。そこへ彼女は標準を合わせ)

美森「──待っててね友奈ちゃん。今、救ってあげるから」



千景(そして、東郷さんは壁を破壊した。間もなく大量の星屑たちが箱庭世界に侵入してくる。──こうして『結城友奈は勇者である』の最終話は幕を上げた)



101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 21:00:06.29 ID:eJvlprTto

*エピローグ&プロローグ『結城友奈』

友奈「はぁ、はぁ……はぁっ……!」

友奈(ぐんちゃんが帰ってからも頭痛は収まることがなくて、私はベッドの上で毛布をかぶりながら自分の頭を抱え続けていた)

友奈(とっても苦しくて、何故だか昔のことを次々に思い出していた。走馬燈、という縁起でもない言葉浮かんでしまったけれど、ぴったりだと思った)

友奈(……あれは私たちが初めてバーテックスと戦った時の記憶で──)

友奈(思い出そうとして、そこでピタリと私の頭の中は止まってしまう)

友奈(……初めて、戦った……?)

友奈(自分の考えたことなのに、私はどうしようないくらいの違和感を抱いてしまう)

友奈(私が初めて変身して戦ったのは、あの時のはずなのに……どうして……どうして!)

友奈(──どうして、銀ちゃんが戦う姿を私は見ているの!?)

友奈「……っ……!」ズキン

友奈(…………)ズキン

友奈(……)ズキッ

友奈(……ああ、そうだった。そうだったよね。そうだったんだ)

友奈(また)

友奈(また……私が私でなくなる時間が長くなっているんだ)ズキズキ

友奈(この頭痛がなくなったら、きっと私は本当に思い出せなくなってしまう)

友奈(本当にギリギリのところで私は保たれていた)

友奈(思い出す。思い出した。……そう、私は……私の名前は──)



友奈(高嶋友奈)



友奈(結城ちゃんではない、高嶋友奈なんだ)

友奈(──大丈夫、私はまだ覚えている)ズキズキ



102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 21:02:11.33 ID:eJvlprTto

友奈(自分のことを思い出してしまえば、一緒に元の世界の記憶だって思い出せる。……根性でぐんちゃんとの記憶だけはまだ残してあった。だから私はまだまだ私で居ることができる)

友奈(ぐんちゃん……)

友奈(先ほどまでそこに居た人の温かさを思い出して、私は途端に泣きそうになるけど、今行わないといけないのはそれを思い返すことじゃない)

友奈(──私が園子ちゃんにしてしまった過ちは、もう二度繰り返してはいけない。あの時に私はそう心に誓ったんだ)

友奈(……私はしょくざいをどれだけできていたのだろう? 銀ちゃんに『鷲尾須美は勇者である』の本を届けて、園子ちゃんの言う通りに勇者部で自分らしさを貫いて……でも、それじゃあ全然足りない。小説の中で須美ちゃんに忘れられてしまった園子ちゃんに、"誰だっけ?"と私は聞いてしまった。どれだけ傷つけてしまったんだろう……。今だって須美ちゃんと銀ちゃんに忘れられてしまっているのに、私がしてしまったことは……)スクッ

友奈(立ち上がる。服が汗びっしょりで気持ち悪かったから着替える。気付けば、今はぐんちゃんさがさっきまで居た木曜の日じゃない。多分、一日か二日経ってしまっている。時間間隔さえ高嶋友奈は曖昧になってしまっていて、近いうちに私は本当の意味で結城ちゃんに成り果ててしまうのだろう)

友奈(結城ちゃんになってしまうことは正直に言うと怖いけれど、仕方がないことではあると思う。お義父さんとお義母さんもこんな身寄りのない私に優しくしてくれて大好きだから不安もない。だから、受け入れている。──でも、それは今じゃない。私は何も行うべきことを行っていない。全てはその後じゃないと駄目なんだ!)



103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 21:04:51.49 ID:eJvlprTto

友奈(高嶋友奈であることを暫く思い出せなかった頃、私は樹海の中に居た。風先輩と樹ちゃんが戦っていて、私と東郷さんはそれを見ているしかなくて)

友奈(怖かった。何で私たちが、って思った。でも、風先輩と樹ちゃんの姿にとっても勇気を感じて、勇者だと思った。私もそうありたいと憧れた)

友奈(そして、私と東郷さんに危機が迫り、今度は私の番で、その時がやって来る)

友奈『私は……讃州中学勇者部、結城友奈!』

友奈(この瞬間、久しぶりに私は自分が高嶋友奈であることを思い出していた。とんでもなく間の悪いタイミングだったと思う。でも、ちょうど良いタイミングでもあった。だから、私はバーテックスに向けて、自分自身に向けて、結城ちゃんに向けて、こう宣言したんだ)

友奈(全てが終わるまで私は高嶋友奈であることを忘れたりなんかしない。だけど、本物の結城ちゃんが居ないこの世界なんだから、ここに居る高嶋友奈が結城友奈として──)

友奈『私が! 勇者になる!』

友奈(それが、今の私の本当の意味での始まり──高嶋友奈でありながら私が結城友奈になった日だった)



104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 21:06:30.10 ID:eJvlprTto

友奈「……そうだ……高嶋友奈の役目は、まだ……まだ終わってなんかいない……!」

友奈(記憶は大分曖昧になってしまっているけど、これだけは覚えている。風先輩を止めて、それから、それから──!)

友奈「東郷さんの、心を……守って、あげないと……」ズキッ!

友奈(頭痛がひどい。吐き気と共に、今すぐにでも高嶋友奈が消えそうになる。このまま結城友奈で良いような気さえしてくる)

友奈(だけど、耐える! 私は絶対に成し遂げなければならないことがあるから!)

友奈(──私は友奈!)

友奈(ほんの少し前まで知っていたはずなのに、今はなに友奈かは思い出せないけど……友奈であるならそれで十分!)

友奈(どんな友奈であっても友達を助けたいという気持ちに変わりはないから)

友奈(部屋を出て、外に出て、道路に出る。大赦からメールが来ていた。風先輩を止めて欲しいと書かれていた。東郷さんにも注意してあげて欲しいと書かれていた)

友奈(頷く)

友奈(ふらつく足取りが途端にはっきりした)

友奈(──私は友奈)

友奈(結城友奈であり、高嶋友奈!)

友奈(……今度は思い出すことができた。多分、これが最後になるのだろう)

友奈(私は友達を守るため、前へと進んで行った──)






                     高嶋友奈「結城ちゃんは勇者である」終






105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 21:08:59.95 ID:eJvlprTto

【次回予告】

犬吠埼姉妹の女子力を見せてあげるわッ!

                        やるじゃない、先輩!

私がこの悲劇を終わらせてみせる!

      それがきっと! アタシがここに居た理由だからッ!

勇者たちよ! 私に続け!



                『満開!』

一目連っ!

                             七人御先ッ!



               『私たちは!』



             『勇者に──なる!!』






           高嶋友奈の章 第三話「純潔」






106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 21:10:01.95 ID:eJvlprTto

ここまでお読みいただき誠にありがとうございました

これにて『高嶋友奈の章 第二話「心の平安」』は終了となります
お察しの方もいるかもしれませんが今話は『心の平安=ホオズキ=偽り』が物語のテーマです
と言うことは純潔は……と言うお話なのですが、事前告知通りこの第二話で一旦物語は終了となります

また、執筆時間があまり取れず長期間となってしまい誠に申し訳ございませんでした
加えて誤字脱字、重複表現、違和感のある台詞等が多々ありましたので、ほぼ全編に渡って修正したものを下記に上げております(内容に変更はありません)
もし今からお読みいただける場合はこちらがお勧めです
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9063709

ゆゆゆ2期も先日最終回を迎え、綺麗な終わりでありながら続ける余地を残していたのが嬉しい限りです(ちなみに次の純潔の話で一部似た展開があったりなかったり……)

では、またどこかで

107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/06(土) 21:11:40.47 ID:eJvlprTto
【おまけ・小ネタ解説】
・なんか凄いマッサージチェア→今住んでいるところのイオンに置いてあったので実際に体験済みです
・北条って結局誰よ?→チャットシリーズから名前だけ友情出演(番外編で肩もみを書いていたため)
・マサオさんとぬーぼー→友奈ちゃんの部屋にある漫画の名前を一部だけ変更
・わかばード→早速取り入れていることからも分かるようにこのSSは割と即興です
・前回の予告の台詞回収→上のため結構大変でした
・番外編で出てきた少女って?→くめゆを読もう!

多々あるけど、パッと思いついたところではこんなところでしょうか?
他にも探してみるのも一興かもしれません
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/06(土) 21:40:38.82 ID:aJn1eCkK0

次も楽しみにしてる
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/01/08(月) 01:00:44.90 ID:WsjyoplN0
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 19:58:17.10 ID:W+XkJAfGo
多々誤字等ありますが、物語上マズイ誤字がありましたので2レス分修正しておきます


>>91

*上里家・書庫


千景(……ここまであっさり通されると、拍子抜けを通り越して罠でもあるのではないかと警戒してしまうわね)


千景(午前の早い時間、上里家へと訪れた私は『鷲尾須美は勇者である』の小説をこの家の者に渡していた。いくつかの交渉を覚悟していたけれど、彼女は恭しく小説を受け取り、こうして上里家秘蔵の書庫へと真っすぐ通してくれた。……上里ひなた似の女性の様子から、生前の知人が何か言い残したことは明らかであり、私の知る上里さんらしいとも思ってしまう)


千景(……)


千景(そう、先日勇者服姿になったのが悪かったのか、今日に至っては乃木さんたちと行った模擬演習の記憶すら私は所有していた。他方で小学校以前の記憶もあちらの郡千景の記憶に全てすり替わってしまっているようだった。……もう私には猶予がないと言うことだろう)


千景「でも、させないわよ、郡千景。高嶋さんの記憶だけは、あなたに絶対に渡したりなんかしない!」


千景(発声し、私は決意を再び胸に宿す。──閑話休題、手早く目的のものを探し出してしまおう)


千景(屋敷の中の書庫だけあって広く蔵書も多いが、反面整頓は為されていて、家の者から聞いた情報があれば目的に辿り着くことは容易だった。だから、本棚の左上から本を数冊抜き出し、出てきた背面の平板を右へスライドする。……隠し扉の向こうには御記と呼ぶにふさわしい冊子が三冊収められていた)


千景「……なるほど、そう言うこと」


千景(三冊の中の一冊、そこには綺麗な楷書で『勇者郡千景様』と書かれていた。この状況を予測していたのだろうか? ……など色々思うところはあったが、表紙をめくり躊躇なく中に目を通していった)


千景(『西暦の終わり、人の中に神器を扱える者が現れました。彼女たちはその力を用いてバーテックスと戦い、今の世の中の礎を築いたのです。人々は神器に選ばれた少女たちを"勇者"と呼び称えました』)


千景(『初代勇者の数は五名。大赦に残される書物には四名とかしか書かれていないでしょうが、確かにもう一人の勇者が居たのです。彼女の名前は──郡千景。私たちの友人であり、他の勇者たちと戦い抜き世界を守った紛うことなき英雄。しかし、大赦はその独断で歴史から彼女を抹消してしまいました』)


千景(『人に刃を向けようとしたこと、それは確かに人々が思い描く勇者とは乖離してしまうのかもしれません。ですが、我ら人が、その罪が、彼女を凶刃へと駆り立てたことも間違いようのない事実です。周囲の人が彼女を追い詰め、大赦もまた、精霊使用による穢れの累積を認識するところまでたどり着いていても尚、我々が生き残るために、勇者たちへは精霊使用の厳禁を言い渡すことはありませんでした』)


千景(『人の心の醜さが、被害者であるはずの彼女を歴史から抹消してしまったのです。大赦に席を置く身で言えることではありませんが、彼女を決して忘れないために、それ以上に友として、私は彼女に関する記述をこうして残すこととしました。上里の子孫は永延、郡千景が確かに居た証を守り抜くよう厳命とします。──千景ちゃん、これくらいしかできない私を、叶うことなら許してください』)



111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 19:59:26.37 ID:W+XkJAfGo

>>92

千景「……」


千景(思うことがなかったかと言えば嘘になる。けれど、今の私に必要な情報であるかと問われればそれも否。几帳面な字でびっしりと書かれているため、最初の数ページを読んだだけで疲労と、それなりの時間が経過していた)


千景「……必要な部分だけ読みこんで、後は流し読みが最善のようね」


千景(改めて続きを読んでいく。先ほどのペースでは本日の夜に至っても三冊の読了に至らないだろう。本当に必要な情報だけを精査しながら目と手を動かしていった)


千景(ふと、ある記述を見つけ手が止まる)


千景「──玉藻前とは、随分大層な名前ね」


千景(一冊目の御記の中ほど、大赦の保有する三大精霊、三大妖怪に関する記述があった。乃木家が保有する大天狗、この世界の高嶋さんが使用したとされる酒呑童子、──そして、郡千景に実装されて結局使われることのなかった玉藻前)


千景(玉藻前、要するに九尾の狐ね。その知名度、妖怪としての格の高さから、相当に強力な精霊だったことは容易に想像がつく。……正直、私の帰還に一切関係しない情報ではあるが、頭の中に念のため留めておこう。なにぶん、現状の七人御先ではバーテックスとまともに戦うことすら難しいのだから)


千景(けれど、あの手甲が精霊の集合体で郡千景の記憶を持つものなら、七人御先と言う精霊はおそらく──)


ブルルル


千景(着信? ……三ノ輪さんからね)


千景「千景よ。動きがあったの?」


銀『あ、千景さん! 実は今、東郷さんの家に呼び出されてしまったんですよ!』


千景「……予想よりも一日早いわね」


銀『しかも東郷さんの家の周りを監視していたところを見つかってしまって、もうすでに東郷さんの家にアタシと風先輩、友奈さんが揃っているんです。今、トイレで電話をしていますけど、そんなに長くは居れないですし、どうしましょう……? あと、東郷さんは何故か千景さんだけ呼んでいないんですよね?』


千景(大方三ノ輪さんの不幸体質で見つかったと言う理由なのでしょうけれど、東郷家への事前配置がアダとなったわね……)


千景「状況は飲み込めたわ。三ノ輪さんはこのまま史実通り物語を進めなさい。私もすぐに上里家から出て次の計画へ進むわ。正直口惜しいことがあることは確かだけれど、臨機応変に対応するしかない場面よ。私が呼ばれていない理由も想像は出来るから、その辺は気にしなくて良いわ」


銀『わ、分かりました。何かあったらまた連絡します。……そんで、東郷さんを思わず止めてしまわないように努力してみます』


千景「ええ、お願いするわね」


千景(通話を切り、早速行動を開始する。全然読み進められていないが、物語は動いてしまい、ゆゆゆで言う第十話から最終話までの局面が一斉に押し寄せてくることは必至。最早贅沢は言っていられない状況だった)



112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 20:03:12.33 ID:W+XkJAfGo
上記修正箇所は『初代勇者の人数』と『鴉天狗→大天狗』になります
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/12(金) 22:20:33.57 ID:QHT5/WDno
続ける予定はないと言っておきながら……下記が次スレとなります

結城友奈「これは勇者たちの物語」
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