【艦これ】 続 外地鎮守府管理番号88

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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:25:02.37 ID:zL81RoFL0

第一話 海賊と賞金首 前篇
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:26:29.20 ID:zL81RoFL0


ゴウゥンゴウゥン


「コースこのまま!」


視界を共有する大艇の妖精からの情報を処理し指示を飛ばす。


「爆撃コースに乗ったかも!」


コースに乗ればやり直しは出来ない。


「RAISE!」


二式大艇の翼のエンジンの間に吊るされた800kg爆弾が切り離される。

ザバン ザバッ ザバン!

水切りの要領で反跳爆撃。

ズン!


「目標に命中確認!」

「やったかも!」


これは明石達が88鎮守府に加入する前の話である。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:27:44.47 ID:zL81RoFL0

提督「お疲れぇい。敵潜水艦拠点に配達は終わったか?」

秋津洲「うん!終わったよ!」

提督「二式大艇で敵拠点をぶっ潰すのはどうだ?」

秋津洲「最高かも!」

秋津洲「もうすぐしたら大艇ちゃんも帰ってくるかも!!」

提督「適材適所って言葉はな、人の能力、特性を正しく判断して

   ふさわしい地位、仕事に就ける事ってよく言うが……。」

提督「見極める側の目が曇っていちゃぁどうしようもねぇんだ。」

提督「お前さんを無能とか言って厄介払いした前の鎮守府はとんだ節穴揃いだな。」

秋津洲「でも、秋津洲は戦闘はあんまり得意じゃないかも……。」

提督「どんなに艦載機が強くてもそれに指示を出す艦娘が優れてないと意味が無えんだ。」

提督「優秀なネームドであってもその召還には使用者への負担がでかい。」

提督「この辺りは巫女的な扱いで英霊を降ろす代償なんだろうな。」

秋津洲「だから江草隊とか友永隊は改二レベルの二航戦さん達でないと無理なんだね!」

提督「そうだ。扱える艦載機の多さは本人の精神力の大きさとも言える。」

提督「積み替えて使っても他の奴らが使うとキレが鈍いんだよなぁ。」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:28:48.37 ID:zL81RoFL0

秋津洲「秋津洲は合計3機かも……。」

提督「考え方の問題だよ。いいか?3機しか使わなくていいんだ。」

提督「多くの艦載機を扱うのに神経すり減らさず3機に全振り出来るんだ。」

提督「考える事が少なくていいってのは

   一度に処理しないといけない事が多い戦場では有利だぞ?」

秋津洲「提督さんは秋津洲の事をきちんと評価してくれるから大好きかも!」

提督「お前さんみたいな若くて可愛い嬢ちゃんに好かれるとは嬉しいねぇ。

   どうだ、今夜ベッドの中で愛を語らねぇか?」

明石「なに妻の前でどうどうと浮気宣言してるんですか。」

秋津洲「あっ!明石さん!改造して貰った大艇ちゃん最高かも!」

提督「あぁ、鬼嫁かあちゃんが来た……。」


明石は88鎮守府に来る前、一人の提督と結婚していた。

それは艦娘としてではなく一人の女性として。
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:31:19.09 ID:zL81RoFL0

明石「はい。預かっていた日本刀の手入れ終わりましたよ。」

提督「おっ。ありがとう。」

明石「にしても長船なんて初めて拝みましたよ。」

提督「幼馴染で旧家の親友がな、俺をここに送り出すのにくれたんだよ。」

提督「俺をここに送らざるを得ない、すまないって言葉と共にな……。」

明石「人材不足も極まりですね。」

提督「当たり前だ。教壇に立つ教育者を戦場に送り出すなんざしてたら国が育たねぇ。」

提督「と、まぁ。それはさて置くとして、拠点を移動しますかね。」

明石「準備は終わってます。」

提督「移動を終えたらこないだの不審船から奪った金塊でいつも通り資材の手配を頼む。」

明石「でもいいんですかね?」

提督「いいんだよ。戦域設定してある海域を改造した高速艇でうろついている時点で怪しいってのに。」

提督「国際救難信号と同じ周波数帯で誰何して返事無し、同じ改造船が2隻とくりゃ。」

秋津洲「そういうお取引の船かも!」

提督「阿賀野に臨検させりゃ案の定だ。」

提督「スィートでハッピーな粉末に大量のドル札、さらに金塊だ。」

提督「ありがたく貰ったところで罰はあたるめぇ。」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:32:47.13 ID:zL81RoFL0

明石「抗議とか来ないですかね?」

提督「………、非合法組織が強盗にあったからって警察に駆け込むか?」

提督「何の悪い冗談だよ。」

明石「それもそうですね。」

阿賀野「提督さん!後は提督さん達だけだよ!」

提督「おぅ。了解した!今日は第三拠点で過ごすぞ!」


この提督の鎮守府運営はかなり特殊だった。

というのも鎮守府という形での施設を建てず、

防衛を受け持つ海域内の複数の島に修理用の簡易入渠ドックのみを持つというやり方だった。

つまりは移動式司令部という形で敵に拠点を把握させないという神出鬼没の通商破壊を行っていた。

通商破壊に限定した作戦展開を行っているのは司令部の移動を簡単にする為、

軽巡、駆逐、軽空母という即応機動性重視の中、小型艦の所属に限定していた為である。

8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:34:20.55 ID:zL81RoFL0

提督「後は修理時間が短くて済むって所だな。」

提督「ところで阿賀野、お前、飯ちゃんと食ってるか?」

阿賀野「うん!食べてるよ!」メソラシ


ムニムニ


提督「摘めない…。お前な、嘘はいかんぞ。」

提督「うちの取得はとにかく食料は豊富な事なんだから。」

阿賀野「でも他の鎮守府の娘達はあんまり食料事情が良くないみたいだけど…。」

提督「気にすんな。他所は他所。うちはうちだ。」

提督「軍令の連中がまともに物資を送ってくれないなら

   いかに現地調達するかは管理職の腕次第だろが。」

阿賀野「じゃぁ、今日の夕飯いっぱい食べてきます!」

提督「おう。腹いっぱい食ってこい。」

明石「実際うちは食料が豊富ですよね。」

提督「地域住民の皆様と仲良くしているお陰だな。」

提督「海にいる怪しい奴らをぶっ潰して、潰した相手から金品を頂く。」

秋津洲「やってること海賊行為かも!」

提督「悪い奴らから奪って何が悪い。

   俺達正義が有効活用してやるってんだ。涙流して喜べって話だろ。」

9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:35:32.25 ID:zL81RoFL0

明石達の提督は豪放磊落を絵に描いたような人物だった。

受け持ちの戦域内は多島海海域でそれなりの大きさの島には住民も居る。

そういった住民の航海の安全を保障する代わりに食料を分けてもらったり、

民間船舶の警護を上に無断で受け持つ事で艦隊司令部に報告しない報酬を受けていたりした。

そうやって得たお金は全て艦隊の維持費へと当てられていた。

そして、上からの苦情等は鼻をかんで捨てていた。



提督「つっても紙が固いと鼻が切れるからよく揉まないとまずいな。」

明石「なに独り言を言ってるんですか。」

提督「あぁ、まぁ、いいだろ。

   それより敵の潰した補給艦から物資って拾えないものなのかねぇ。」

明石「あれを解体しますか……。」

提督「いまいち生態が分からんのよな。未だに謎が多い。」

明石「技研の方でも色々やってはいるんですけどね……。」

提督「あぁ、そういえば主席研究員だったよな。」

明石「えぇ……。」

提督「あぁ、すまん。お前さんの過去を聞くつもりじゃなかったんだ。」

提督「聞いた俺が悪かった。」



明石が艦娘として自分の所に着任したときに見た経歴に関する書類の内容を思い出す。

その経歴はあまりにも立派過ぎたため何かあったんだなと提督をして察する程の物だった。

有体にいえば『 過去の経歴を洗い流す目的 』という奴である。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:36:43.93 ID:zL81RoFL0

明石「提督は過去をあまり気にしないんですね。」

提督「女は秘密が多いほど魅力が上がるっていったのは誰だったか忘れたが…、

   夫婦であっても旦那にゃ内緒の秘密があったっておかしくねぇ。」

提督「大事なのは相手が話してくれるその時まで気づいていても目をつぶっておくことだ。」

秋津洲「大人かも!」

明石「それじゃぁ、私は行きますね!」

提督「あぁ、俺は秋津洲とゆっくりいくよ。」

明石「浮気は駄目ですからね?」

提督「分かってる。」



去り行く明石にひらひらと手を振る提督。



秋津洲「良かったの?」

提督「なぁ秋津洲、夫婦ってのはな長い付き合いになるとお互いに嫌な所も目に付くようになる。」

提督「そんな時はな片方の目を瞑るんだ。そしたら見えにくくなるだろ?」

秋津洲「かも。」

提督「そんでな。お互いに見えないのをカバーしてやれば、まぁるく納まるのさ……。」

提督「見なくていい汚ねぇもんは自分からゴミ箱に手を突っ込んで見るもんじゃねぇって事さ。」

秋津洲「分かったような分からないような?」

提督「その内お前さんにいい相手が出来れば分かるさ。」

提督「さっ、移動するぞ。」

提督(もっとも俺がその秘密の重さに耐え切れるかどうかの自信がないんだがな…。)

提督(生物工学、それも遺伝子工学の専門家ばっかり集めていた研究チームとくりゃなぁ。)

提督(何をしていたか大方の予想はつくが……。)

提督(やばいの一言で片付けられるようなもんじゃ無えだろうな。)

11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:39:30.18 ID:zL81RoFL0

深海棲艦 南方棲姫拠点泊地(深海棲艦 補給物資後方集積所)


南方棲戦姫「忌々しい海賊共め!」

空母棲姫「どうしたの?そんなに声を荒げて?」

南方「あぁ、空母か。どうした?」

空母「どうしたって御挨拶ねぇ。」

空母「規定の物資の補給が遅れているからわざわざ出向いて取りに来てあげたって言うのに。」

南方「あぁ、ごめんなさい。少しイラついていたわ。許してちょうだい。」

空母「いいわ。私と貴方の仲じゃない。」

空母「それより貴方をそこまで怒らせている原因を知りたいわ?」

南方「敵にハラスメントをよく理解している糞野郎が指揮官についたみたい。」

南方「今までの鎮守府建屋を設置して拠点を構えるやり方ではなく

   ゲリラ的に出現してはこっちの補給艦部隊を潰していく。」

南方「その所為で拠点の把握がしにくい上に茂みの中に入渠用施設とかも巧妙に隠してるみたいでね。

   どこに潜んでいるのかさっぱりなの。」

南方「腹立つ事に補給艦を潰すことを最優先目標にして

   高速艦で構成されてるから戦艦なんかでは逃げる敵に追いかけることが容易じゃない。」

南方「何より敵の魚雷は射程が長い。それを良く理解して嫌がらせしてきやがる。」

南方「こっちからしてみれば戦艦、空母を混ぜて補給艦1、2隻の部隊を守るには効率が悪い。」

空母「確かに数隻の補給部隊構成だと歩が悪そうね。」

空母「では、大艦隊で補給艦を移動させてみたらどうなのかしら?」

南方「やってみたわよ……。目標が大きすぎて連中とは別の艦隊を呼び寄せる羽目になったわ。」

南方「大艦隊になればそれだけ目的とする敵以外の艦隊の目につきやすくなるの。」

南方「更に腹が立つのはこの海賊どもは足の長い水上艇で偵察をこなし、

   こっちのデポ、こちらの通商破壊作戦に従事する潜水艦の泊地を効果的に狙ってる所よ。」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:40:17.17 ID:zL81RoFL0

空母「人の嫌がることは進んでやりましょうを徹底してるのね。」

南方「今いる手持ちの部隊じゃ敵を効果的にやれやしない。」

南方「そして忌々しい事に敵には腕っこきの工作艦が居るみたいなの。」

南方「小破程度のダメージを朝に与えても昼には元気に攻撃しかけてくる始末。」

南方「正直敵の指揮官よりそっちの方が厄介だわ。」

空母「そうね、経験を積んだ兵を減らせないどころかゾンビの如く復活されたら困るわね。」

空母「私達の補給でボーキが滞っているのが困っているから来たんだけど。」

南方「ごめんなさいね。」

空母「面白そうな事になってるわね。」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:41:13.46 ID:zL81RoFL0

南方「こっちは面白いじゃすまないわ?」

空母「あら、気を悪くしたならごめんなさい?

   最近、私が受け持っている海域には骨のある相手が居なくて。」

空母「飛行場姫と遊び相手が欲しいわねって話をしていたところなの。」

空母「ボーキを大量に用意してもらえるかしら?」

空母「私が出るわ。」

空母「楽しそうだから航空兵力を持った娘達に声をかけて回ってあげるわ?」

南方「あら、それは凄く助かる。」

空母「実に楽しいバーベキュー大会が出来るわよぉ〜?」

空母「私ね、艦娘が焼け焦げる匂いが大好きなのよ。」

空母「あの、人特有のタンパク質に油と硝煙の入り混じった独特の香り。」

空母「ンフ。んふふんふ。ンフフフ。」

空母「楽しみだわぁ〜。」


恍惚とした表情を浮かべる空母棲姫。

南方棲姫が背筋に寒気を感じたのだとしたらそれは彼女が薄着だからという訳ではないだろう。

14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:42:14.17 ID:zL81RoFL0

明石達拠点



提督「明石!ここの戦域は放棄して逃げるぞ!」

提督が声を荒げ所属艦娘全員へ撤収撤退命令下す。

明石「どうしたっていうんですか?」

提督「懇意にしてる米、英両大使館から情報を貰った。」


見てくれと差し出される一枚の書類。

提督は艦隊司令部、軍令部双方を通さずに同盟諸国の艦艇警備や

海賊からの人質奪還等も請け負っていた為大本営が掴んでいない、

掴んでいても流さない情報も時として得ることがあった。

提督が差し出した書類には提督が受け持つ海域の近隣海域を受け持った鎮守府が圧倒的。

それは言葉通りの圧倒的戦力で。

抵抗する暇も与えられずに赤子の手を捻られるかのごとく壊滅させられたと書いてあった。

よくある気付いたら全てが終わっていたという奴である。
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:43:06.76 ID:zL81RoFL0

提督「上は情報を回さず周囲の鎮守府を捨て駒にして防衛の為の時間稼ぎをするつもりなんだろな。」

提督「んなもんに付き合わされてたまるか。」

明石「でも、それならなんで他の国の大使館の方が情報を持ってるんですか?」

提督「うちの国の情報管理の甘さをいまさら知らない訳じゃないだろ?」


金、酒、女、古来よりの誘惑に弱いのが官僚機構に居る者達の伝統。

危機管理という事であれば諸外国のほうが情報収集力に強いのは言うまでも無く。

防衛企業に身元確かではない怪しい者を入社させ

国防に関する情報が抜かれるなんていうのも悲しいかなお家芸だったりもしている。

諸外国からしてみれば日本を矢面に立たせ壁になってもらい自分達は後ろから応援する。

日本に火中の栗を拾わせて危なくない所から文句を言って取り上げる。

それが一番現実的かつ金が掛からないやり方なのだ、だから情報収集には余念が無い。

16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:44:19.59 ID:zL81RoFL0

明石「それで情報を得たと。」

提督「あぁ。海図を見る限り徐々に『 焼き払い 』ながら北上してきているようだ。」

提督「早晩ここに現れるのは間違いねぇ。」

提督「あれだ、敵と借金取りは来ねえ方がいいって奴だ。」

明石「それならいいもの手にいれてますよ。」

提督「ん?」


物資に掛けてあった布をまくる明石。


明石「んふふふ。」

提督「お前ねぇ…。こいつぁ……。」

明石「逃げる前に細工をして逃げましょうや。」

提督「明石。」

明石「何ですか提督?」

提督「やっぱりお前は最高の女だわ。」

明石「なに当たり前の事言ってるんですか。この世に私以上の女なんて居ませんよ。」

明石「結婚出来た事に感謝してくださいよ?」

提督「こきやがれ。」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:45:20.78 ID:zL81RoFL0

提督達が拠点を引き払って2日後。

敵の大艦隊は、いやそれを艦隊という単位で括るには

多すぎる深海棲艦の群れが提督達の居た島を強襲した。



空母「敵からの反撃はなしかぁ。」

南方「この島もハズレみたいね。」

ネ級「島内に敵の拠点跡があったそうです。」

南方「へぇ。」

ネ級「慌てて逃げたらしく機密書類や使用していた施設の破壊はされていません。」

南方「引き続き敵の施設捜査を行って頂戴。」

南方「敵の指揮官と工作艦の情報は特に重要……。」



そう命令を下そうとした時だった。

轟音が響いた後、天高く黒煙が伸びる。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:46:36.93 ID:zL81RoFL0

提督達が撤退する時に仕掛けていたのは、非人道的兵器として名高い兵器の一つ。

ナパーム弾こと油脂焼夷弾だった。

その燃焼温度は1000度を超え広範囲を焼尽、破壊する兵器である。

爆発するときには大量の酸素を消費し一酸化炭素を撒き散らし敵を酸欠により殺す。



南方「なっ。」



島に上陸し施設の捜索を行っていた者達で生き残る者はいないだろう。

だが、この兵器の恐ろしい点は別にある。

ビチャビチャ。



リ級「熱い!熱い!熱い!」ギャァァ!



爆発するときに大量の火がついた燃焼剤を広範囲に撒き散らす点である。

そして、その親油性ゆえに人体に付着した場合、洗い流す事は出来ず燃え続ける。

海中に逃れ火を消そうと試みるものが居るが消すまでの間に

体に付着した燃焼剤は広がり体表を焼け爛らせる。

元より燃焼剤には金属のアルミニウム粉が混ぜられている為、

水に触れると金属反応により爆発的燃焼が起こる為、簡単に消せるものではない。

そこには地獄絵図が広がっていた。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:48:02.13 ID:zL81RoFL0

空母「あは♪」

空母「あははははははは!!!!」

空母「あぁぁあああああははっはっはっは!!!!」

空母「やってくれやがったわねぇ!」

空母「いや、こっちが迂闊だったというべきよねぇ!!あはははははは!!」

南方「おっ、おい?」



自分の手勢が多数やられたにも関わらず激昂する訳でなく大笑する空母棲姫。



空母「実に最高な敵ねぇ。

   施設の破壊をせずにそれを囮にしてこっちが周辺を捜索しようもんなら

   トラップが発動するようにするなんて。」

空母「持っていけずに残した物もこっちの手勢含めて丸ごと『 焼却 』していくなんてね。」

空母「最高に頭がぶっとんだ敵じゃない。」

空母「敵の指揮官は私がじきじきに首を捥いでやるわ。」

空母「そして首を剥製にしていつまでも眺めてあげる。」

空母「どんな醜男でも私が最後まで愛してあげる。」

空母「うふ。」

空母「うふふふふふ。」

空母「きっとすごく、凄く、素敵よねぇ。」

空母「それを考えると今から夜が眠れないわ。」

南方(くっ、狂ってやがる!)

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:50:59.68 ID:zL81RoFL0

空母「花婿を迎えに行くのにこの程度の軍勢じゃ失礼よねぇ。」ンフ

空母「もっと、もっと集めなきゃ。」



南方棲姫は要求される物資の量とこれから起こるであろう敵への虐殺を考えると頭を抱えずにはいられない。

その為、制止の言葉を掛けようとするが。



南方「これ以上の軍勢を集めるなんて。」

空母「な に か し ら ?」



兵站の維持ができないと言い掛けるが。

空母棲姫の狂気と狂喜を前に言い出せる訳も無く。

そして、以前に感じた寒気の正体をしっかりと把握し、

それが制止をしようとした自分へ向けられかけ

今後、自分にそれが向けられない事に保障が無いことに薄ら寒いものを感じずには居られなかった。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:51:57.74 ID:zL81RoFL0

友軍の到着と護衛退避の裏側(?)

番外編 家に帰ろう。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:53:07.21 ID:zL81RoFL0


大規模作戦が行われているとある作戦海域



磯風「一緒に、家へ。鎮守府へ帰るぞ!」

大和「……。無理ですよ…。」

大和「私は大破していますし。」

浜風「曳航索が切れてしまいました……。」

大和「敵の追手も迫ってきています。皆さんが帰りきる為に私が殿を勤めますので。」

大和「私はここまでです。」

大和「さっ。行ってください。」

浜風「そんなぁ……。」

磯風「誰か!?付近に友軍は居ないのか!?」

川内「居るよ。」(無線)

川内「平文でがなりたてなさんな。耳に障る。」(無線)

浜風「友軍ですか!?あの!?助けてはいただけませんか!?」



無線から聞こえてきたのは希望の声。



長門「お前達の中で料理の上手い者は居るか?」



なにやら間の抜けた質問。



大和「それでしたら私が。」

雪風「大和さんですか?」



無線の向こうから聞こえる声は時として敵にとって最凶とされる駆逐艦の頼もしい声。



大和「えぇ、大和です。」

雪風「5分です。待っていてください。必ず行きます。」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:54:33.56 ID:zL81RoFL0

彼女達は宣言通りにやってきた。

全力で駆けつけた、そう言うようにやって来た友軍艦隊達の艤装は敵の返り血であろうか。

赤く、黒く、汚れが付いていた。

艤装に書かれる所属の管理番号は88。

深海棲艦出現後に新たに割り振られた各海軍区の番号の中でも

存在しないはずの8始まりの軍区管理番号である。



大和(彼女達の所属はいったい?)

時雨「3分31秒。」

摩耶「雪風が急かすから全力で来たぜ。」

川内「まったく道中の敵もなかなか面倒だったよ。」

グラ「雪風がいつに無く本気だったからな。我々もそれに倣らわねば女がすたるという奴であろうよ。」

大和とその護衛に付き退避していた浜風、磯風を見つめる雪風。

雪風「無事……ですね。」

大和「はい。」



雪風には思う所があるのだろうか大和をじっと見つめる。



川内「あのさ、感動のシーンで悪いんだけど。」

川内「これ、捌ける娘居る?」



川内、長門が肩に担ぐは巨大な鮪達。



時雨「川内が鮪が食べたいって言うから釣りに出てたんだ。」

長門「その所為で弾薬を少ししか持ってない事もあり節約しながらの道中だったんで少し遅くなった。」



そう言う長門の左手には歪に曲がったト級らしき物の砲塔。

24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:55:34.87 ID:zL81RoFL0

雪風「皆さん、無事ですね。」



ぎゅっと大和に抱きついた状態の雪風が妹、といってもあくまで形番上の上での物だが。

その妹達、浜風、磯風を見回す。

二人は損傷こそ少ないものの大和を庇いながらの退避であった為だろう。

それなりに怪我を負っていた。



時雨「雪風、大和達を追撃してきた追っ手が迫ってきてるよ。」


ブチッ。

25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:56:13.86 ID:zL81RoFL0


                      雪風「許さん。」


26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:58:09.82 ID:zL81RoFL0

怒気のこもった一言。



雪風「七代先まで髄に染みる恐怖。地獄へ堕ちる事を懇願する恐怖を味合わせてやる。」

川内「あらら、敵が哀れだねぇ。」

摩耶「雪風が本気かぁ。」

長門「まぁ、縁深い者達がやられていては仕方あるまいよ。」

グラ「なれば露払い位は頼まれようか。」

時雨「払う露が残ればいいんだけど。」



共にいくつもの修羅場を潜り抜けて来たからこそ知る仲間の力量。

だからこそ皆、怒りが臨界を越えた雪風の恐怖は知っている。

仲間達が知る雪風の怒りが頂点の時の強さは災禍。

仲間達をして対峙した敵が哀れになる。

それ程の修羅だった。

そして、周囲にいる僚艦の実力も勝手知ったるなんとやら。

相手が指揮官クラスの姫や鬼でも無いのであれば。

敵に遅れを取るわけが無く。

万夫不当の連中なのである。

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:59:06.59 ID:zL81RoFL0

雪風「ちっ。たいした運動になりやしない。」



雪風達の全力の戦闘の後、追ってきた敵は形を残していなかった。



雪風「皆さん。もう、大丈夫ですよ。」

浜風「ひっ。」



笑顔で近づく雪風に顔を引き攣らせ後ずさる浜風。



雪風「………。」



近づきかけ止る雪風。



時雨「随分勝手だね。」

時雨「自分達が助けを求めて来たんじゃないか。」

時雨「それを。」

雪風「時雨さん、いいんです、いいんです…。」

雪風「慣れてますから。」



力なく言う雪風の顔はどこか寂しげ。

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/06(火) 23:59:50.68 ID:zL81RoFL0

長門「家に帰るか。」フン

長門「ここから1海里も行かない所に我々以外の友軍が居るようだ。」

長門「連絡を取っておいたから向こうもこっちに向かってきている。」

長門「合流して帰るがいいだろう。」

長門「我らがそこまで付き合う義理は無い。」

川内「さぁて、帰りますか、鮪は鮮度が命だからねぇ。」

摩耶「礼を言う事すらしないなんてなぁ。」

摩耶「正規様は随分と驕ったもんだねぇ。」

グラ「衣食足りて礼節を知るという言葉がある。」

グラ「存外その辺りが足りて無い鎮守府所属なのであろうさ。」



雪風への態度に嫌味を言う各面子。



川内「まぁ、いいさ。」

川内「私らは存在していない存在だからね。」

川内「あんたらは今日、私らにあった事は忘れるんだね。」



少し苛立ちながら言い先に離れた長門達の後を追う川内。
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/07(水) 00:01:04.75 ID:S77RZwFB0

鎮守府へと帰る帰路。



時雨「雪風、泣きたかったら泣いてもいいんだよ。」



先頭を行く雪風に近づき声をかける時雨。



雪風「雪風は何か間違っていたでしょうか。」ズビッ



目の端に涙を溜め時雨の顔を見上げる雪風。

妹達に大和。

駆逐艦雪風の魂を受け継ぐ艦娘にとって他の何にも代え難い絆。

それを護る為に全力で当たったのだ。



時雨「間違いなんてないさ。」

時雨「間違ってなんかいるもんか。」

長門「あぁ、連中はぬるま湯に漬かっていた所為で頭がおかしくなってんだろ。」

長門「我々がやっているのは戦争だ。」

長門「命の遣り取りだ。」

摩耶「味方と敵が分からないような奴は今を生きたって後がないさ。」

摩耶「雪風が気にやむ事なんてなにもないよ。」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/07(水) 00:01:47.22 ID:S77RZwFB0

川内「さっ、早く帰って鮪パーティだ!」

川内「ところで伯爵、鮪に合うワインって何?」

グラ「日本酒以外ないだろうな。」ンフー

摩耶「えっ、シュタインベルガーじゃないのか?!」

グラ「サッシーミーに激甘ワインはどうかと思うが?」

雪風「はい、雪風も日本酒を押します!」ズビッ



川内の露骨な話題変えに食い気が勝ったか雪風が乗る。



時雨「そっか。じゃ、早く帰らないとね。」

長門「あぁ!帰るぞ!」

摩耶「今日の飯は寿司だな!なっ!」



一同はこの後、鮪を捌きその味に舌鼓を打つのだが量が多すぎたか暫くは鮪尽くしだったそうである。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/07(水) 00:03:33.71 ID:S77RZwFB0

川内「鮪料理のバリエーションが尽きた…。」ウプゥ

明石「いやぁ、売れ残ってた醤油に味噌が樽で売れて良かったですよ。」

明石「更には間違えて仕入れてしまった寿司桶まで売れたですし。いやぁ。儲かりました。」ホクホク

不知火「そんな物まで取り扱っていたんですか。」

明石「胡椒瓶から砲弾まで。お金さえ頂ければクレムリンだろうがホワイトハウスだろうが。」

明石「引っ張ってきてみせますよ。」ニヤリ



戦士達が魂と体を休める場所。

それに名前を付けるとしたら『 家 』と呼ぶのが妥当だろう。

家が有れば出撃しても戻ることを、家へ帰る事を。

強く願うだろう。

命知らずの荒くれ者達が家と慕う場所。

ここは日本番外地、外地鎮守府管理番号88。

天気が良ければ釣りも出来ます。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 00:15:20.11 ID:S77RZwFB0
皆様お久しぶりです
16春を完走出来ずナイオワだったのを何とかリベンジ果たすべく
甲甲甲乙甲丙丁で駆け抜け、クリアから1週間程暇見ては堀つづけカンスト燃料が6万切ってようやく来ました
資材がグロい事になってますがアイオワとれたので良しです
新艦タシュケントは堀考えて丙で割ったらゲージ割と同時に着任、空気を読める(?)出来る娘です
堀は後、海防の娘と浜波残ってますがやる気なし、次回以降でもいいです、今回はアイオワが全てでした
ジャービスはミニ金剛です、声がほっこりします
アイオワ堀の副産物でリシュリューが2人、アークロイヤル、グラーフ、ビスマルクが増えました
ありがたいですね、最終海域の報酬艦についてはしずま艦だと思っていたので1の心情については察して下さい
ガンビアベイはサラトガに似せた発艦方式で親和性が有りますね
ポンコツ性能ですが性能より可愛さで使う方なので問題なしです、報酬のカタパルトできっと化ける改二が来ると思います
では、次回更新もお時間よろしければお読みいただけると幸いです
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 00:52:16.52 ID:gXwBusdA0
本当にお疲れさまですw
明石の話も面白いけど、雪風が苛烈すぎて笑ったw
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 15:21:48.18 ID:jX9ZDHf2O

待ってた
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 20:36:51.53 ID:cVcc4n1W0
お帰りなさい

いいねえ、雪風

36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 21:18:01.69 ID:Lp7rrf1A0
おっ、続き来たか
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/07(水) 22:36:06.38 ID:iVk6Ezc70
第二弾きたか
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/08(木) 12:46:37.62 ID:yeLQ3Cqd0
オープニングから

『RAISE!』

とか言われたら、もうねwwww

原作者スター・システムの常連であるところの
“シルバーゴースト”さんとか“火付けの柳”さんとかの登場も心待ちにしといてイイかな?
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 22:57:34.48 ID:JlzpJifn0
お世話になります
ミリ要素を入れた艦これSSもっと増えろと思いながら書いています
燃えなSSふえろ、ふえろ……

本日分の更新させていただきます
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 22:59:30.04 ID:JlzpJifn0

第二話 海賊と賞金首  中編
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:00:19.53 ID:JlzpJifn0

提督「ガボガボガボ!(海坊主だぞぉ!)」

明石「何か捕れました?」

提督「いや、なんか反応してよ。こう、女の子らしくキャーとかさぁ。」

明石「いや、実際禿げですから坊主なのは変わらないでしょ?」

提督「母ちゃんは手厳しいな。まったく。」

明石「で、収穫は?」

提督「えーっと魚と貝類、伊勢エビ?が捕れまして多分食べられる?」

阿賀野「わー、提督さん!いっぱい捕れたね!」

提督「おう。こないだの密輸組織の連中の船に色々ダイビング用品があったからな!」

明石「実際便利ですよね。」

提督「全員分手配可能ならしておいてくれ。」

提督「何が起きるか分からんからな。」

提督「食料の確保に海女の真似事するにしても装備がきちんとしていた方がいいだろ。」

明石「ですね。数、揃えておきますね。」

提督「頼む。」

提督達が食糧確保の為にダイビングにいそしんでいる所に秋津洲が向かってくる。

秋津洲「提督!大艇ちゃんが長距離偵察から戻ってきたよ!」

提督「おっ!分かった。カメラの写真は現像に回してくれ!」

秋津洲「分かったかも!妖精さんに現像お願いしてくるかも!」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:01:27.40 ID:JlzpJifn0

移動式鎮守府施設 テント内



提督「んー、もうちょっと鮮明な写真が欲しい。」

提督「後、拡大出来ないかな。」



現像された写真を見ながら提督が感想を漏らす。



明石「拡大ならなんとかなりますけどどうされました?」

提督「秋津洲が大艇の長距離偵察で空撮してきた写真なんだがな。」

明石「うーん。これは敵の補給基地らしき施設ですか?」

提督「うん。」

提督「出入りしている連中の喫水状態が分かればありがたいんだけどな。」

秋津洲「喫水状態かも?」

提督「うん。写真を撮ってきてもらったのは敵の勢力圏下の最前線。」

提督「海軍と敵さんでオセロゲームやっている所だ。」

提督「だから喫水状態で神様に祈る状況になってなければいいなぁと思ったのさ。」

秋津洲「かも?」

提督「とりあえず、喫水についてだが入港する補給艦が沈んでいれば物資を運んできている。」

提督「つまりは基地なり泊地なりを建設中と判断できる。」

秋津洲「かも。」

提督「んでだ、逆ならこちらが把握していなかった集積地があって撤退しているって事だが。」

明石「どうします?」

提督「管轄区域が違うからどうしようも無いな。」

提督「それに自分で言っておいてなんだが敵との陣取りゲームやってる最前線に補給所を作るというのはよっぽどだ。」

提督「兵站を危険に晒す事は馬鹿がやる事ってのは新米提督でも理解できる事だからな。」

提督「罠と思いたい。罠の為の見せ掛けではないとすると恐ろしく痛い。」

秋津洲「痛い?」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:03:23.33 ID:JlzpJifn0

提督「あぁ、最前線っていっただろ?」

提督「それこそこんな所に集積所を作られたら

   コンビニへ買い物に行く気楽さで周辺海域に戦争しに行けるって事だよ。」

提督「トヨタが世界的に有名にしたジャストインタイムをやられると

   補給が細いこっちじゃ山火事にお猪口で火消しやるようなものになってしまう。」

明石「そこまで差が出ますか…。」

提督「あたぼうよ。弾もってこいアパーム!で持ってこないアパムと違って

  『持って…』まで口に出したときには富士山の如き量があったりする感じになるな。」

提督「兵站が潤沢な敵を相手どるのは戦争の負けを覚悟した方がいいもんだ。」

提督「どんなに兵士が優秀で銃が精巧であろうと撃つ弾がなければ機能しないし飯が無ければ餓死する。」

提督「小学生でも判る話だ。

   だけにこの最前線にコンビニを開店するってことは

   24時間営業のサプライチェーンまで確立出来てるって事の証明でもある。」

明石「……。」

提督「薄ら寒い話だろ。ノンストップで大量に資材を敵は運び込んで来るってのはある種の悪夢だ。」

提督「だけにそれが維持できなくて撤退してくれている話だと神に感謝するんだけどな。」

提督「うちが潰している補給艦の量を見るとパンドラの箱底って奴な気もする。」

提督(というか最悪の事態が濃厚なんだよなぁ…。)
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:04:17.74 ID:JlzpJifn0

明石「うちで強行偵察やります?」

提督「ん。あぁ、そうだなぁ。出すだけ被害が出るだろうが、その価値はある。

   だが、さっきも言ったようにそこはうちの管轄じゃないんだよ…。」

提督「よその管轄に嘴をいれる真似をするとどうなるかは明石も知らないわけじゃないだろ?」



やれやれと肩をすぼめながら零す提督。



提督「こっちからはその辺りの受け持ち鎮守府に早めに逃げるか

   分散している兵力を一纏めにして危機に備えろとしか連絡出来ん。」

明石「海軍組織って凄く無駄が多いですね。」

提督「高度に専門化された組織なんてもんはだいたいそんなもんだ。」

提督「横紙破りを極端に嫌う。組織を保つ上で悪くは無いが危機に対する即応性は悪くなるな。」



渋い顔をする二人。
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:05:22.62 ID:JlzpJifn0

阿賀野「提督さん!ご飯の用意できたよ!」



そんな会話をする二人の所に阿賀野がやってくる。



提督「おっ、分かった。」



つ ムニムニ



提督「うん。阿賀野の腹が摘める。食料は十分に行き渡っているようだな。」



提督が掴むは脇腹…、ではなく胸。



阿賀野「ちょっ、提督さん!セクハラぁ!」キャッ



ゴゲシ。



明石「不燃ゴミは処分しておきますねー。」



ズルズル。



提督「明石は最高ぅ〜。」b 


秋津洲「提督は懲りない人かも。」
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:06:40.81 ID:JlzpJifn0

敵 前線基地(南方棲姫 臨時泊地)



南方「こんな所に新しく補給集積地を作る意味はあるのか?」

空母「最前線だからこそよ。」

南方「物資の集積地を作ると敵に攻撃目標を与えるような物じゃないか?」

南方「それともこの間の指揮官を捕まえる為の罠にでもする気?」

空母「えぇ。罠といえばそういえなくもないわね。」

空母「でも、そうね、例の指揮官はこの罠には掛からないわよ?」



じゃぁ何の為に?

そんな疑問の顔を空母棲姫に向ける南方。



空母「そんな顔しなくても大丈夫よ。」

空母「目的は別にあるんだから。」

空母「敵が優秀なのはあくまで現場指揮官としてよ?」

空母「将の将ではなく兵の将。人間社会って物をあなたも勉強した方がいいわよ?」

南方「人間達の協力者を使って情報を集めているのもその為か?」

空母「人間達の船を沈めた際に得た貨幣や貴金属類は私達には無用の長物でしょ?」

空母「連中の情報に賞金を掛ければ色々と情報が集まってくるでしょう。」

空母「人間程己の欲望に忠実な連中は居ないわ?私達はその隙をつくのよ。」
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:07:54.89 ID:JlzpJifn0

ネ級「空母棲姫様。磁気感応機雷の準備が出来ました。」

南方「あれを使うのか?」

空母「えぇ。あれを使うわ。」

空母「数がそんなに用意できないのが難点よね。」

空母「これも人間を利用しているからこそ用意出来た物よね。」



磁気感応機雷。

本来の兵器としてのそれは蝕接、

あるいは付近の艦艇により乱れた地磁気を感知して爆発するといったものなのだが……。

深海棲艦の使うそれは違った。

海上を漂い艦娘に寄生。

そして、脳を支配するのだ。

トキソプラズマに寄生された鼠が猫に食べられる為に鼠の恐怖心を無くし脳を支配するように。

この兵器は敵の感情を支配、コントロールする。

脳を支配された艦娘は恐怖と痛みを感じなくなる。そして、死ぬまで戦い続ける。

戦う相手は味方である艦娘。

そして宿主が絶命するときに周囲を巻き込む爆発を起こすという最低最悪の兵器。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:09:53.49 ID:JlzpJifn0

空母「私達がその排除を目的としている鎮守府は倒せないでしょうけど。」



空母の台詞に疑問符を頭に浮かべた顔をして見つめる南方。

おびき寄せる為の罠ではないと始めに言っていたものの敵を倒せないでは困るのだ。



空母「いいのよ別に。機雷で艦娘を敵の後方拠点へ送り込むことが出来れば私達の勝ちよ?」

空母「今まで潰されてきた補給艦達の位置、私達が虱潰しに捜索してきた海域からここは離れているでしょ?」

南方「確かに。」

南方(と、なるとここに補給基地を作って攻撃を容易にすべき理由があるという事か。)

南方「成る程、目的とする敵の補給線を完全に絶つのが目的か。」

空母「そう、ここを拠点に敵の補給線を絶つわ。」

空母「敵が何処にいるか分からない上に強敵だとしても補給無しに動ける軍隊なんていないでしょ?」

南方「だが、敵の補給線を絶つには相当に後方へ侵攻する必要性があるぞ?」



そう、言うのとやるのとでは大きく違う。

実際、目的とする敵の、海軍の物資集積地はかなり後方に設置されていた。

その為、深海棲艦に攻撃される事は無かったのだがこれが原因で物資の輸送が遅くなっていたのも事実ではあった。
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:11:02.83 ID:JlzpJifn0

空母「敵の後方集積地拠点へ浸透破壊作戦を実施する。」

空母「機雷はその製造に艦娘を苗床にする所為で

   量産性に乏しいけど今回持ってきた数があれば十分。」

空母「その為の陽動だけに鹵獲艦娘を使うつもりよ。」

南方「あれを製造したのは人間だったはずだよな?信用できるのか?」

空母「信用も信頼もどっちも不要よ。」

空母「あれが機能するかどうかは既にテスト済みで満足のいく結果だったわ。」

空母「戦争に私達が勝てばいいの。勝った方が後は好きに出来るんだから。」

空母「私達にあれを持ってきた人間も勝ち馬に乗りたいのでしょう?」

空母「歴史を作る事が出来るのは勝った者だけよ。」

空母「そして、勝った方が有利に歴史を作るのは今までもこれからも変わらない事実。」

空母「勝てばいいのよ勝てば。」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:12:03.36 ID:JlzpJifn0

南方棲姫が敵である人間が作り出した磁気感応機雷の使用を躊躇うことを嗜める空母棲姫。

なにしろ南方棲姫は今の所、敵にいい様にやられているのだ。

敵が小賢しく色々な小手先の罠を仕掛け狡賢く動いているのが原因ではある。

なので負けが続いている状態で勝つために手段を選ぶべきではないのだ。

深海棲艦達に人が作った常識や法が通用するわけがないのだから。

それが例え非道なやり方での勝利の方法であったとしてもである。


空母「助攻から主攻まで。一気に片を付けてあげる。」

空母「圧倒的物量による暴力が何かというのをしっかりと味あわせてやるわ。」

空母「それと……。」

ネ級「空母棲姫様。滑走路の作成も順調に進んでいます。」

ネ級「今夕には全て使用が可能になります。」

南方「航空基地まで作っているのか。」

空母「えぇ、飛行場ちゃんに重爆も借りてきたの。」


島には4本の滑走路が整備され既に完成している3本にエイの様な形をした飛行機がずらりと並んでいる。
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:13:20.86 ID:JlzpJifn0

空母「敵の前線基地を短時間で焦土に変えるに手段は選ばないわ。」



その新型爆撃機は所謂重爆撃機と呼ばれる戦略爆撃機。

帝国海軍が主として使用した一式陸攻等の戦術爆撃機と違い腹に大量の破壊兵器を積める戦略爆撃機。

それがズラリと並ぶ姿は圧巻かつ壮観。



空母「大陸の欧州と違ってこっちは島ばかりだから

   夜間爆撃がやり難いのが難点だけど昼に限っての限定使用なら最高に効力を発揮するはず。」

空母「欧州戦線が落ち着けばこちらの太平洋戦線にも順次投入されていく機体よ。」

空母「太平洋戦線に投入した際の評価テストも兼ねているから損耗については一切を考慮しなくていいと話はついてるの。」



敵である艦娘達の海軍組織は硬直化著しい事は散発的に起こした戦闘で明らか。

幾つかの鎮守府へ同時に攻撃を仕掛けてみたものの連携した行動をとることはおろか

中には協力を拒んでいるような動きをする者達もちらほら。



空母「機動性と一体性の無い軍隊は殺されることを待つ家畜の様なものよね。」



ぽつりと一言。

阿鼻叫喚の地獄絵図を齎す為には願ってもない条件とも言える。
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:15:31.69 ID:JlzpJifn0

空母「真に恐ろしい敵は優秀な敵より無能な味方とは良く言ったものね。」



作戦展開予定海域の海図を見ながら更に感想を漏らす。

敵の現場指揮官が優秀ではあったのだろうけど結局は現場指揮官なのだ。

戦術レベルでの作戦の対応は出来るのだろうが戦略単位では凡そ無理なのだろう。

権限というものに縛られる人間社会のなんと哀れな事か。



空母「試合に勝って勝負に負けるという奴かしら?」

南方「?」

空母「気にしないで頂戴。南太平洋から艦娘共を追い落すわよ。」

南方「あぁ。勿論だ。」

南方(実に冷静かつ的確な判断。先日の狂気は一時の気の迷いだったんだろう。)



元々空母等の航空機を一度に大量に扱う艦種は一度に処理する情報量の多さから

姫、鬼といった指揮官クラスの中でも特に頭の回転が速い。

なればこそ横断的に軍の指揮権を委譲しやすい深海棲艦では

南方棲姫としては優秀な者に総指揮を任せるのが自然。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:17:07.77 ID:JlzpJifn0

南方(冷静な時の空母は味方をして敵に回したくないと思わせる大胆不敵な作戦を思いつくものよな。)

南方「ところでこの作戦につける名前は何にする?」

空母「そうね……。」

空母「 『 断頭台(ギロチン) 』なんてどうかしら?」

南方(敵指揮官の首を取る事に執着していたからだろうか…。)

空母「この作戦が成功すればこの周辺海域に展開する敵は全て死刑台の上の囚人みたいなものよ?」

空母「敵の指揮官の首を取る事に執着しての作戦名じゃないわよ。」ニコリ



心の奥底を見透かされたような一言。



空母「この辺りにある敵の鎮守府とやらは20?30?もっとあったかしら?」

空母「でも、目的とする指揮官からすればゴミよね。」

空母「敵はいずれ理解するでしょうね、自分達が如何に怠惰であったか。」

空母「私達は凡百木っ端の愚将なんて束になった所で恐れはしない。たった一人。」

空母「そう、目的とするは彼だけよ。彼が全軍の指揮を執ることは絶対に阻止しないと。」

空母「その為に今ここで確実に息の根を止めるわよ。」ニコォ
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/15(木) 23:22:53.68 ID:JlzpJifn0

将の価値を正当に評価するのは時としてその将に対峙した敵である事は多い。

空母棲姫は自身の部隊を文字通り吹き飛ばしてくれた提督を高く評価している。

そして、生かしておく事は自陣営にとって後に大きな禍根となることを理解していた。



空母「この作戦が成功すればこの辺りの勢力図を書き換える事になるでしょうね。」



その微笑みは氷の様。



空母「さぁ、行くわよ!」


一声勧奨。

空母棲姫の一声に居並ぶ者達は気を引き締める。

そして、空母棲姫自身から漂う気配は戦場へ向かう重々しく禍々しい。

しかしその足取りは逢引へ向かう淑女の如く軽やか。

空が黒く、海が赤く染まるのはもうまもなくである。
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 23:29:52.24 ID:JlzpJifn0
次回更新で明石編は終われるかと思っています

明石編以降の話としては1話、女性達による民間軍事会社を題材にしたあれのオマージュ的な話をやりたいなぁと

現在下調べとかをやっています、外国の地名を出す関係でグーグルマップ見ながらあーでもないこーでもないをやっています

資源がそれなりに回復してくると2人目のアイオワを狙うか等と色々考えてしまうのは博打みたいで危険ですね

現在掘りをされている皆様が上手くいくことを祈りつつ今日の更新はこれにて終了です

応援、感想レスいつもありがとうございます、いただける事に感謝しています

次回もお時間よろしければお読みいただけるとありがたく思います
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/15(木) 23:49:46.74 ID:HKkhWXOv0
おつ
アイオワかー
甲堀り…いけるか
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/16(金) 01:13:39.25 ID:79gILcAA0
おつおつ
その時点で最も優れる答えがあっても、しがらみやら権力やらで最善を尽くせないのは本当に人の性だよなあw
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/17(土) 07:10:32.24 ID:phpweoli0
モーガン提督ktkr()

空撮ネタまで出してくるとはわかってるわぁww

深海棲艦側に米帝だけでなくP4要素もぶち込んでくるなんて
ファンを煽りすぎではないかと

要約すると、控えめに言って最高です
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 23:55:22.23 ID:4Zou6NdV0
深夜のラーメンはメタボへのパスポート
皆様お久しぶりです、今後の展開に関わる部分なので色々丁寧にやってたら更新に間の空く結果となりました
お待ちしていた方へは深くお詫びいたします
本日の更新は空いてた期間分だけ長い?かと思いますので、お時間よろしければお付き合いください
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 23:57:55.49 ID:EBY2HS/Uo
おk。全裸で正座待機してる
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/05(木) 23:58:11.71 ID:4Zou6NdV0

第三話 海賊と賞金首 後編


※今更ですが前スレ、グラーフ編にてFw190とすべき所が多くの箇所にてFw109と機種名を間違えていました
 ここに深くお詫びいたします、誤字に気付かず申し訳ありません
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/05(木) 23:59:19.51 ID:4Zou6NdV0

空母棲姫達深海棲艦拠点



全ての物資が揃い、招集をかけていた深海棲艦全てが揃う。

机上の海図と各戦力を示す駒を睨みながら空母棲姫がゆっくりと口を開く。



空母「機は熟したわ。」

空母「まずは助攻になる部隊Aから動いてもらおうかしら?」

南方「では、同時に部隊Bもだな。」

空母「えぇ、そうね。主力になる本隊Cは時間差で最後に動いて貰う事になるわね。」

空母「数日程AとBで暴れてもらって本隊への欺瞞工作とする形になるわね。」

南方「主力のCが侵攻を開始した場合は正しく破竹の勢いとなるだろうな。」

空母「そうね。Cが侵攻を始めたらBは方向転換して主攻撃目標へ進攻。」

南方「各部隊の旗艦と司令部施設のある本隊Cとは連絡を密にしないとな。」

空母「えぇ。後は進軍速度が全てになるわ。」

南方「部隊Aは捨て駒になるから敵鹵獲艦娘部隊で指揮系統は不要?」

空母「もちろん不要よ。使い捨ての駒を統率する必要はないわ。」

空母「攻撃する方向は見せかけもいい所だし。時間稼ぎと攪乱目的だから要らないわ。」

南方「では部隊Bの指揮に私が入ろう。」

空母「私が本隊の指揮でいいの?」

南方「 ? 空母が立案したんだろ?ならば戦功はそっちがあげるといい。」

空母「あら。悪いわね。」

南方「戦略爆撃機まで組み込んだ作戦の指揮は私には無理というだけの話さ。」

南方「流石に副官を複数抱えないと処理しないといけない情報が多くなるから私に総指揮は無理だ。」

南方「私が自分自身のいい所と思っているのは身の程を弁えているということだよ。」

空母「将として重要な資質と思うわよ?」

南方「褒め言葉として受けとろう。」

南方「それに敵が認識しているこの辺りの指揮官は私だ。」

南方「囮に立つなら有名人の方が向いてるだろう。」

空母「あら、アイドルでも目指すつもりかしら?」

南方「はは。私の歌声は酷いから無理だろうな。」
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:00:20.46 ID:UVTnURzf0

空母棲姫と南方棲姫が拠点に居並ぶ深海棲艦達の前に立つ。

その様は閲兵式と呼ぶに相応しく実に多くの艦種、階級の深海棲艦達が居た。

空母棲姫と南方棲姫が一同の前に立つとその視線が一斉に集まる。

右手をさっと上げ自分へ視線を集中させる空母棲姫。

そして全員へ向け出撃前の演説を始める。



空母「屑鉄諸君!今日は我々の歴史に新たな1ページが刻まれる事になる!」

空母「その日を諸君らと迎えることが出来ることを実に喜ばしく思う。」

空母「我々がこれより行う作戦は敵を完全にこの南太平洋海域から消滅させるだろう。」

空母「敵は全て殺せ!通り道に有るものは全て瓦礫へと変えるのだ!」



空母棲姫の宣言へ同意の声が方々から上がる。
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:02:17.14 ID:UVTnURzf0


空母「屑鉄諸君!諸君らの敵は!」

一同「殺せ!殺せ!ぶっ殺せ!」

空母「我ら深海棲艦の目的は!」

一同「殺せ!殺せ!ぶっ殺せ!」

空母「深海棲艦として諸君らは敵を愛しているか!?」

空母「敵を屑鉄に変える準備は出来ているか!?」

一同「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」

空母「よろしい。総員、抜錨!」



人型の深海棲艦達が鬨の声をあげ異形の者達もそれに続く。

後に『 南太平洋の悲劇 』とも『 南太平洋の悪夢 』とも言われる戦いの幕が開ける。

南方棲姫達が助功として敵防御線右翼を攻撃開始。

時を同じくその最右翼を深海機雷に寄生された艦娘達が攻撃を開始する。



南方「逃げるものは追うな!進軍速度を重視だ!」

南方「進路上にある物は全て破壊せよ!」



怒涛の進軍速度に合わせ司令部機能を移動させながら南方棲姫が指示をだす。

進軍速度重視で損害は度外視。

まさしく物量で攻める事の出来る深海側だからこそ出来る攻勢である。

そして、敵からの攻勢に対し防御線の維持の為、

南太平洋に置かれた海軍南方方面軍司令部が下した決断は

各鎮守府より予備戦力を抽出しそれを持って防御に当たるといういかにもな作戦だった。

姫級ですら囮として使う絢爛豪華な作戦。

まして、その囮の姫級は以前より既知の指揮官として知られる南方棲姫である。

この時の海軍司令部の判断を誤りと言う者がいるとしたら

正解を神の視点で論ずることが出来る後の世の歴史家くらいであろう。
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:03:36.65 ID:UVTnURzf0

南方棲姫達が進撃を始めた頃の明石達拠点



愛用のキャラバッシュに刻み煙草を詰め、火をつけて一服した後に黙考。

提督は敵の意図を探るべく静かに考えを巡らせていた。

敵がここ2、3日妙な動きをしている事を察知。

秋津洲の大艇や軽空母の艦娘達に偵察機を出させ集められる限りの情報を得た中で気になるものがいくつか。

友軍の拠点に味方であるはずの艦娘が攻撃を仕掛けていること。

損害を無視して全力で進む部隊がある事。その進撃方向での海軍重要拠点は遠い。

しかも驚いた事にそれを率いているのは南方棲姫では無いかという事。



提督「新人兵が戦場の空気にやられて錯乱して味方を殺すってのはままあるが。」



敵として向かってきた艦娘に遭遇し撤退してきた阿賀野の話を聞く限り。



提督「薬物等の新兵器で精神汚染にでもあったのか?」



と判断するしかないのだった。

そしてその仔細を話し意見を求めた明石は「あっ…。」と一言を発した後、

自分用に割り当てられたテントから出てくる気配がない。



提督「自分の位置が漏れるのを警戒して司令部との連絡を最低限にしていたのが裏目に出たな。」



海図を広げ敵の進行方向と先日情報を得た新設されたと思しき補給拠点の位置を改めて見直す。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:04:33.28 ID:UVTnURzf0


提督「あっ。」



手に持っていたパイプを地面に落す。

提督は気付いたのだ、いや、気付いてしまった。



提督「俺達は檻の中じゃねぇか。」

提督「この南太平洋にたいした策士が居たもんだ。」クックック

提督「実に清々しいまでの負けっぷりだ。いっそ弟子入りしたいくらいだな。」ハハハ

秋津洲「提督、どうしたかも?外まで笑い声が聞こえてきたかも。」

提督「あぁ、秋津洲か。悪いが全員に集合を掛けてくれ。」

提督「拠点8へ移動だ。」

秋津洲「8番かも!?」

提督「あぁ、8番だ。」



拠点8番は万一補給が受けられなかった時用に燃料、弾薬、保存食等を備蓄してある拠点。

そこへ向かうという事は自分達が緊急事態に陥ったと全員に暗に知らせる事になる。

提督は敵の助攻が陽動ということを見抜いていた、更に今の状態が嵐の前の静けさという事も。
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:06:02.49 ID:UVTnURzf0

補給所 拠点8番


提督「全員聞いてくれ。南太平洋の海軍はまもなく壊滅する事になる。」

提督「完全に敵にしてやれた。」

阿賀野「提督さん、どうしたの?」

提督「俺の読みが正しければ間違いなく敵は海軍の後方集積地点を落す。」

提督「それも今まで見たこと無い圧倒的物量を持ってだ。」

秋津洲「かも!?」

提督「持てるだけの燃料、弾薬、食料を持ったら今夜にでも撤収作戦を実行してくれ。」

提督「敵にたいした策士が居たもんでな。ブリッツをやられた。」

阿賀野「ブリッツ?」

提督「ん?何だ?知らないのか?」

阿賀野「提督さん程阿賀野達は戦史の事は詳しくないもん。」

提督(現状認識は最悪の事態でも共有しておいた方がいいとは士官教練の基本だな。)

提督(この辺りの教育を怠っていたのは己の不始末だな。)ハハ

提督「昔取った何とやらだな。よし、夜まで時間はある。講義と行こうじゃないか。」



周辺海域の海図にざらりと広げるのはどこに持っていたのか大量の将棋の駒。
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:08:10.64 ID:UVTnURzf0

提督「まずは俺達海軍の防衛ラインがここで……。」キュキュキュ

提督「俺が海軍大学校で教鞭をとっていたのは皆知っての通りだと思うが、

   さてと、敵の防衛線がここに設定されている場合どう攻める?」

阿賀野「えーっとこれは阿賀野達が深海側として海軍の防衛線をどう突破するかって事?」

提督「そうだ。補給については考えない物とする。」

秋津洲「えーっと、右側の防御が薄いから右側から防御線をずーっと迂回するかも!」

提督「うん。だいたい普通の解答だな。」

提督「左側は抜かれたらアメリカ大陸に一気呵成に攻める事が出来るから基本厚めの防御陣が敷かれてる。」

提督「じゃ、次にだ。局地戦闘においての戦闘の勝利条件は何だと思う?」

阿賀野「えっと…、継戦能力の破壊?」

提督「正解、通商破壊で敵補給艦の掃討をさせていた甲斐があったようだな。」

阿賀野「提督さんにいつも作戦の目的は口をすっぱくして言われていたもん。」ドヤッ

提督「以上を踏まえるとだ。敵が俺達南方方面軍を完全に潰そうと思った時に重要拠点となるのがここだ。」

秋津洲「後方の巨大集積地かも?」

提督「あぁ、集積地はもとより南方方面軍の艦隊司令部がある所だ。さらに石油精製所やらの生産拠点でもある。」

阿賀野「でも、前線からかなり後方だよ?」

提督「そうだ。だから、始めに言った『 ブリッツ 』が生きてくるんだ。」

提督「元々は陸軍の戦術の一つで俺自身海軍に応用してくるとは思って無かったのが迂闊だったと言えるな。」

提督「まぁ、みんな見てくれ。」



提督が先ほどの海図に置かれた駒を動かしながら行う説明を聞き入る一同。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:10:08.18 ID:UVTnURzf0


提督「先ほどの後方拠点は左翼から侵攻した方が近いが説明したようにまず無理だ。」

阿賀野「だね。」

提督「その為、今まで前線で小規模戦闘を繰り返しお互いの陣取り合戦を敵、南方棲姫とやって来た。」

秋津洲「かも。」

提督「そして、ここ2、3日の敵の動きだ。」

阿賀野「右翼の防御が薄い所をついて後方へ侵攻しようとしている?」

秋津洲「南方棲姫が一大攻勢をかけてきたかも!」

提督「と、思うよな。」

秋津洲「かも?」

提督「ここで思い出してくれ。俺達が設営を察知した敵の補給基地の位置だ。」



提督が海図にある敵側領域の島に飛車を一枚置く。



阿賀野「どちらかというと左翼よりの位置?」

提督「そうだ。更に敵の手に落ちて何がしかの細工をされた?と思しき艦娘達が攻めてきているのがこの辺り。」



歩の駒を右翼側にぱちぱちと置き並べていく。



提督「だんだん分かってきただろ?」

阿賀野「提督さん、深海側だけ王将が2枚有るのはどうしてかしら?」

提督「つまりはそういう事だ。」

提督「敵に指揮官、つまり姫級が二人いるって事だ。」

提督「前線補給基地を新設した所で気付くべきだったんだよ。」

提督「南方棲姫と比べてやり方が大胆になった違和感にな。」

提督「今回の敵は作戦参謀が今までと別の奴が絵図を書いているのは間違いない。」

提督「それで右翼に南方を使って総攻撃をかけると?」

秋津洲「各鎮守府で出せる戦力を持って防衛に当たるかも。」

提督「そうだ。」

提督が戦力に見立てた歩を南方棲姫を表す王将に向けて動かす。

阿賀野「左翼の守りが薄くなっちゃった……。」

提督「そして、将棋の駒で飛車といえば?」

秋津洲「縦横の直線移動かも。」

提督「そうだ。ここの新設基地に基地航空隊を配備するとどうなる?」

70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:11:33.64 ID:UVTnURzf0

阿賀野「敵に基地航空隊があるの?」

提督「俺達にあるんだ。敵に無いと考える方が不自然だろ。」

秋津洲「陸攻?」

提督「ならまだ救いがあるが戦略爆撃機なんか持って来られたらお手上げだ。」

阿賀野「戦略爆撃機かも?」

提督「あぁ、陸攻なんか目じゃねぇ搭載量の爆弾を運んでくるぞ。」

提督「第二次世界大戦で代表的な所でB-17だな。

   日本が零戦の開発で四苦八苦してる頃には既に実戦配備されてた化け物だからな。

   後はB-24、29と続いていくシリーズだ。」

提督「B-17は頑丈で機銃で撃ったくらいじゃなかなか落ちてくれねぇんだよ。」

秋津洲「大艇ちゃんみたいな感じ?」

提督「そうだな。日本が頑張って作った四発機で実戦に投入出来たのは大艇くらいだもんな。」

提督「まぁ、そんな感じで陸攻がワンショットライター等と不名誉な渾名を付けられるのに対して

   B-17はフライングフォートレスと来たもんだ。」

提督「搭載爆弾は単純比較で陸攻の4倍。赤い人もびっくりだ。」

阿賀野「赤い人?」

提督「知らないか…。ジェネレーションギャップだなぁ。」

提督「4倍の爆弾をその護衛機を必要としない防弾性能と対空性能を持った爆撃機が後方へ浸透してきてみろ。」



つついと飛車の駒を動かす提督。
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:13:21.11 ID:UVTnURzf0


秋津洲「おおぅ。」

阿賀野「うわぁー。」

提督「間の駒を全て無視のとんでも王手。」

秋津洲「将棋でやったら怒られるかも。」

提督「実際の将棋で言えば初手で相手の王将を盤面から叩き出す行為だからな。」

提督「ブリッツって言葉はドイツ語で稲光を意味する。」

提督「最近ではイラク戦争で米英軍がやってのけていたな。」

提督「まずは爆撃機で敵の拠点を破壊、

   その後高速機動機械化部隊が敵の脆弱な部分へ突撃そして文字通り稲光の如き速さで敵最重要拠点を破壊だ。」

提督「そして、通過時に空いた穴から雪崩の如く怒涛の勢いで敵が侵入してくる。」

阿賀野「はい!提督さん。つまり阿賀野達の司令部が落ちるって認識でいいの?」



少し青ざめた顔で理解した事への確認を行う阿賀野。



提督「その通りだ。始めの南方棲姫の部隊は陽動だな。」

提督「陽動に姫級を使うとは予想もしてないだろうし

   更に言えばこの辺りの指揮官として既知の相手だから突出して出てくれば司令部は全力で排除を命じるだろう。」

提督「で、陽動に引っかかって左側が通常より手薄になる。」

提督「その手薄になったところに戦略爆撃機で防衛線上の拠点を吹き飛ばす。」

提督「戦略爆撃機は艦艇とかの移動目標には使えんが建物とかの固定目標には

   さっきも言った爆弾の搭載量のお陰で甚大な被害を齎すことが可能だ。」
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:15:40.96 ID:UVTnURzf0

秋津洲「防御線に穴をあけるだけなの?」

提督「穴を空けたら今度は同じ航空戦力の空母連中の仕事だ。」

提督「大まかな仕事と細かな仕事の作業分担、ちょいと意味は違うがワークシェアって奴だな。」

秋津洲「でもこの仕事の分かち合いはよくない分かち合いかも。」

提督「だな、戦略爆撃機隊は雑事に捕らわれなくていいからどんどん先に進めるからな。」

提督「後、間違いなく護衛もついてるだろうから完全に爆弾を落すのみに集中できる。」

阿賀野「敵がずるい。」

提督「そう言ってもなぁ。戦争だからなぁ…。さてと、説明を続けるぞ。」

提督「穴が開いた後は高速機動部隊で一気に進軍。

   そして無線などの連絡手段で連携を密にしているだろう南方棲姫が同時に進路変更。」

阿賀野「二方向からの進軍には急に対処出来ない?」

提督「予測出来てないと無理だろうな。」

提督「姫級指揮官が1人と思い込んでいた上に

   敵の基地戦力は飛行場棲姫だけだと思い込んでいた所に付け込まれた。」

提督「更に味方を攻撃する事への躊躇い、

   鹵獲艦娘の攻撃へ躊躇わない奴は居ないだろうから迎撃の手は正直鈍くなるだろう。」

提督「大陸における都市爆撃と違って島にある拠点を狙うやりかたは

   的が小さいから狙いにだろうがそこは落す爆弾の量を増やせば問題ない。」

提督「なんせ挟撃の形になるから前線から戦力を引き抜く暇はないだろう。」

提督「南方棲姫の陽動が始まってここ数日。

   それから考えれば早くて明日、遅くても明後日には俺達の後方司令部は更地にされるだろうな。」

阿賀野「そんなに早く?」

提督「あぁ、このブリッツって戦術は敵深海棲艦の性能の良い電探、無線設備、航空機材、

   全てにおいて向こう側に有利な条件が整ってる。」

提督「さらに言えば兵力を旧ソ連の如く無駄遣い出来る深海連中なら

   猛進する際の損害も一切考えなくていいから負傷した連中も俺達と違って捨てていける分、

   進軍速度が落ちることがない。」

提督「だから進軍速度はこちらの予想する以上の早さだろう。

   さらに兵站についても補給艦を大量に向こうは用意できるし

   それでも足りなければ爆撃機に積んで航空輸送してもいいしな。」

提督「まさしく物量で殴る。だ。」

73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:17:01.54 ID:UVTnURzf0

提督「だから補給基地が作られた時点で詰みだったと言うわけだ。」

提督「まっ、そういう訳だから撤収だ。」

阿賀野「じゃ、提督さんの船も燃料入れておくね!」

提督「いや不要だ、俺はここに残る。」

阿賀野「えっ!?」

提督「本来は指揮官が死ぬのは避けるべきだが退き陣も速度が全てだ。」

提督「俺が乗る船を守りながら逃げてみろ?

   スピードが遅いのと標的がここに居ます!って言っているようなものだ。」

提督「敵の指揮官っていうのは須らく最優先排除目標だからな。」

提督「それに生き残っても俺の階級だと地獄しか待ってない。」

秋津洲「階級かも?」クビカシゲ

提督「俺の階級は将官位だ、南太平洋で大きく負けたとしても人類が消滅するわけじゃない。」

提督「責任をとらせる生贄が要るわけだよ。

   どんなに才能があっても一度の失敗で全てを失うのがすばらしきかな日本型社会って奴だ。」

提督「逆に死んだ奴はいい奴だ、となるのも日本型社会でな。」

提督「俺がここで死んでお前達が逃げる為の時間を稼げば

   不惜身命の精神すばらしいで美談に仕立ててくれる。」

提督「お前達が本土に逃げ帰った後の事まで考えれば俺はここで死んだ方がいいのさ。」

提督「生きて帰って、生き地獄を味わうくらいなら英雄として死なせてくれ。」

提督「俺は疲れたよ。」

阿賀野「提督さん。」

74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:18:17.74 ID:UVTnURzf0

提督「ま、そういう訳でこいつは俺からの最後の指令書だ。

   俺が撤退命令を出したことを証明するものだから絶対に無くすなよ?」

阿賀野「分かったわ!」

提督「それから阿賀野、これは白紙の指令書だ。

   撤退中に本土へ逃げるまでに必要あれば現地徴発でもして物資は手に入れろ。」

提督「判子と俺の署名は入れてある。文面は良く考えて書け。」

阿賀野「白紙委任状みたいなものかしら?」

提督「当たりだ。こいつは海軍の人事システムの穴を突いた物だからな。

   悪用は今回限りにしとけよ。」ニヤリ

阿賀野「うん!分かったわ!」ウフフ



これは、海軍の司令部に戦死が報告され確定するまでは提督が生きている扱いになる為、

提督の地位をぎりぎりまで使い倒すというある種の詐欺である。

75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:19:30.88 ID:UVTnURzf0

提督「負傷者は出来る限り収容しながら撤収してくれ。

   この海域で何があったのかの情報は値千金の価値がある。」

阿賀野「分かったわ!」

提督「最後にこの手紙だ。艦隊司令部の戦略参謀におれの昔馴染みがいる。

   そいつを頼れ。悪いことにはならんはずだ。」



こうして撤退の指示を出し、拠点を離れる阿賀野達を見送ると提督は一人、拠点にある建屋へ入っていった。



提督「元々はここが鎮守府としての拠点になるはずだったんだがな…。」

提督「まぁ、無駄に拠点を構えると枷になっちまうわなぁ。」



食堂になるはずだった部屋に椅子を置き床下収納からナポレオンを取り出す。



提督「お前達はどうして逃げなかった?」



発電機を動かしている為に使える水道から出る水で

埃を被ったグラスを洗いながら部屋の入り口に向かって問いかける提督。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:21:26.59 ID:UVTnURzf0

明石「結婚した時の誓いの言葉忘れたんですか?健やかなる時も病める時も。」

提督「夫婦寄り添いだったか?」

明石「それに、提督にはちゃんと話しておかなきゃと思って…。」

秋津洲「秋津洲は大艇ちゃんがあるからギリギリまで逃げなくても大丈夫かも。」

秋津洲「それに必要だと言ってくれた提督さんの最後を見届けたかったから…。」

提督「俺は妻と部下に恵まれたな。」

提督「阿賀野もこの撤退戦の修羅場を抜けきれば一端の旗艦としていい面構えになるだろうが。」

提督「それを見届けられないのは心残りだな。」

提督「お前達も飲むか?」



グラスを二人に差し出す提督。



提督「ちょいとつまみをとってくる。保存食になにかあっただろ。」



そして、ブランデーのつまみとしてはちょっとおかしなサラミ。



秋津洲「塩たっぷりの保存食かも!健康の為に遠慮しておくかも!」

提督「だなー。高血圧まっしぐらだ。」

明石「結構いいお肉を使っていますね。」



箸を伸ばそうとしない秋津洲と対象的にぱくつく明石。



提督「でだ、明石。話してくれるんだな?」

明石「はい。」



明石が話し始めるのは前職での仕事内容。それは驚愕の内容だった。

77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:24:15.12 ID:UVTnURzf0

提督「するとその○四計画ってのは深海の姫、鬼級を人工的に作り出す研究だったのか。」

明石「はい。分野を超えて研究していた中で深海棲艦の姫級が群の統率を蜜蜂や蟻の様に行うなら

   その頭を此方で作って挿げ替えてしまえばいいという結論になったんです。」

提督「だが、それはお前、制御できないだろ。」



提督の意見は最も。



明石「その為の制御装置があったんです。」



提督の脳裏に浮かぶのは阿賀野からあった報告。



提督「例の友軍に攻撃してきた艦娘に使用されたという敵の新兵器の事か。」

明石「はい。何処から漏れたのか…。」

明石「私もその研究所で主席として研究していたのですがある日にふと目が醒めたんです。」

明石「艦娘を深海棲艦の姫級へ艦娘の意識を残したまま改造して頭には制御装置兼万一の自爆装置。」

明石「とても許されるものじゃないと。

   戦争を終わらせる為だとしてもこんな人の道を外れたものが許される筈がないって。」

明石「それで、全てを破壊して逃げたんです。」

提督「そうか。」

明石「それが、どうしてこんな事に……。」

提督「一緒に研究していた連中が居たんだろ?そいつらから漏れたんだろうさ。」

提督「戦争っての始まりから終わりまで全部を通して金になる。」

78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:26:20.39 ID:UVTnURzf0

提督「大方、欲に目のくらんだ海軍の誰かの仕業だろ。」

秋津洲「武器業者さんかも?」

提督「武器業者の実際はイメージ程儲からないのが実情だなぁ。」

提督「武器だけ作る重工業より化学や総合商社、

   戦費調達に関連する銀行、証券とかの金融屋だろうな。」

提督「武器開発に関連しての技術の方が民生転用して大きく儲けれるのよ。」

提督「枯葉剤なんかの土壌汚染は食料問題に直結するから

   化学兵器を使用された国は土壌汚染を無視して作物を作るとかで無い限り食料輸入国になっちまう。」

提督「コングロマリットなんかだと武器製造の重工業、食料調達の総合商社、あるいは穀物商社、

   戦費調達に関わる国債の販売引き受けで銀行、証券会社。全てにおいて金を稼げる。」

提督「戦争ってのは物と金を大量に消費してまったく生産性がない。」

提督「門外漢だからあまり詳しくないが軍事ケインズ主義っていう、

   まぁ、経済の調整目的で戦争をやる、あるいは強力な軍隊を持ち大量の軍事費を投入すべき、

   なんていう学説もあったりする。」

秋津洲「めちゃくちゃかも…。」

提督「学説が出る前だが成功例としてナチスドイツやら同時期のルーズベルトが有名かな。」

提督「ただ、こいつらはちょっと頭の螺子がなぁ。」

提督「とりあえず、ざっくり言うと巨額の軍事費が経済を好転させると考える経済学だ。」

提督「第二次世界大戦の例で言うなら週間護衛空母なんてやれたのは

   当時の不況により余っていた労働力の解消と

   金をばら撒く公共事業への大義名分を手に入れる為だったという見方も出来る。」

秋津洲「工業力があればこそのような気がするかも。」

提督「まぁな。んでだ、折角、戦争が起こってくれているなら

   なるべく長引かせて金を儲け様と考える輩が出てきてもおかしくはないさ。」

提督「長引く程にばら撒かれる金は多くなるからな。」

秋津洲「救いようの無い馬鹿かも…。」

提督「確かにな。」

79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:27:46.17 ID:UVTnURzf0

明石 グゥ

提督「と、薬が効いたな。」

秋津洲「やっぱり睡眠薬いれていたかも。」

提督「サラミは香辛料やら塩を多く使う分、味覚を鈍くしてくれる。」

提督「継ぎ足した酒に入れた薬の味を悟られずに済むって寸法さ。」

提督「惚れた女が一緒に死のうと言ってくれたとしても男は黙って拒否しねえとな。」

提督「死ぬのは一人でいい。」

提督「それと、誓いの言葉だが。死が二人を別つまで。って続くのを忘れてやがる。」

提督「まったく忘れっぽい奴だよ。」

秋津洲「提督。」

提督「秋津洲。すまねぇがお前の気持ちに応えてやることは出来ない。そして、明石の事、頼まれてくれないか。」

秋津洲「提督。」グシッ

提督「泣くな。化粧が崩れるぞ?」

秋津洲「ていとく〜。」ブワッ

提督「苦手なんだよ。女の涙ってのは。」

提督「まったく……。」

秋津洲 ウワァ―――――ン



抱きつく秋津洲の頭を撫でながら提督は一つ、深く溜息をついた。

一頻り泣いた秋津洲が良く眠る明石を抱え拠点から離れたのはその日の深夜。

不肖にして優秀と相反する評価が付けられた弟子への手紙とともに。

これはタイミングとしてギリギリだった。

なぜなら、空母棲姫達主力部隊侵攻の開始は払暁と同時だったから。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:29:37.56 ID:UVTnURzf0

夜明けの時間にも関わらず空がいつまでも暗いままだった。

敵が多すぎて空の色、海の色が見えなかった。

辛うじて命を拾った艦娘の証言である。

飛行機が八分に空が二分。

船が八分に海が二分。

いかに敵の航空兵力と艦艇が多かったかが分かるだろう。

払暁と共に始まった深海の一大攻勢作戦は翌日の黄昏時には終わり

黄昏と類義語である落日を南太平洋に展開する海軍に齎す事となった。



日本海軍南太平洋重要拠点



南方「この敵後方拠点をこうもあっさりと落すことが出来るだなんて思いもよらなかった。」

南方「人間達にとって要衝のはずなんだけどな。」



空母棲姫率いる主力C部隊が陥落させた敵拠点で合流した南方棲姫が最初に交わした言葉。



空母「そうそう、ここの指揮官達の首は浜辺に並べて置いたので一応見ておいて?」

空母「皺だらけの爺だの脂で弛みきったデブの首ばかりで華がないけれど。」



苦笑しながらその要請に了解したと返す南方棲姫。



空母「まぁ、攻められるはずが無いとの思い込みが防衛に割く人員を少なくしていたのでしょう。」

空母「実際あっさりとしたものだったわよ?」

南方「我々の拠点からここまでの距離を考えればそう思うのも無理は無い。」

空母「もっとも割いていた所で応戦出来ていたかどうかは分からないけれどね。」

南方「そうね。これだけの数を動かす作戦はそうそう実行できないものね。」



圧倒的物量で押す作戦というのは立案出来てもなかなか実行出来る物ではない。

RTS等のゲームをプレイした事がある方は分かると思うが大量の軍勢を一度に整えるのは

それだけで資源が底をつきかねない行為である。

だけに数を頼みとする深海勢力でも今回の作戦に用意した軍勢は前例の無い規模だった。

この時の作戦に使用された深海の主攻部隊C郡参加戦力は以下の数である。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:31:11.42 ID:UVTnURzf0

戦略爆撃機1500機

護衛参加戦闘機800機

参加した艦艇

駆逐艦(級種階級別省略) 423

軽巡洋艦(同省略) 45

重巡洋艦(同省略) 33

戦艦(同省略) 36

空母(同省略) 51

軽母(同省略) 54

補助艦艇(兵站等輸送用補給艦) 1500

これだけの艦艇数が一度に作戦参加して正しく蹂躪をしたのである。



南方「ここを落したことで兵站輸送関連の情報を精査すれば

   敵の拠点も全て所在が明らかになるだろうな。」

空母「ここの要衝を私達の拠点化に成功すれば敵の本土侵攻への拠点としても使用可能ね。」

空母「さてと、後の事は任せてもいいかしら?」

南方「?」

空母「私がこれだけの作戦指揮をとった理由ぐらい察しなさいよ。」

南方(まだ諦めてなかったのか。)

南方「……、爆撃機に私の部下も出そうか?」

空母「いらないわ。黒こげの剥製なんて面白くないでしょ?」

空母「剥製にするなら生身のままでないと。少数の手勢で充分よ。」

空母「あなたには此処の足場固めと残敵掃討の残業をお願いしてもいいかしら?」



笑顔で要求してくる空母棲姫。

勝利した後の個人的な楽しみ。

いや、寧ろ其方が主目的で敵の後方重要拠点を落すことは前座。

彼女は自分を虚仮にしてくれた提督を確実に殺す為、動き始めた。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:32:37.08 ID:UVTnURzf0

補給所8番近海



空母「日も暮れて来たわね。」

ヲ級「空母棲姫様、近くにどんちゃん騒ぎというか賑やかというか。」

空母「?」

ヲ級「尋常ならざるおかしな状況の鎮守府があります。」

ヲ級が言いにくそうに伝える変な様子の鎮守府の状況。

空母「なにそれ、あからさまに罠じゃない。」



どうしましょうという顔で空母棲姫を見るヲ級。



空母「実に面白いわね。本当、敵の指揮官の中で狂おしい程に会いたいと思った相手は初めてよ?」

空母「出来れば生きたまま味方に引き込みたいわね。」アハハハハ

ヲ級「敵の指揮官をですか?」

空母「私達に足りないものは何だと思う?」

ヲ級「?」

空母「全体を見通して総合的に戦略を立てる戦略参謀よ。」

空母「一部にそれをやれる姫、鬼の娘達も出てきているけど圧倒的に足りないわ。」

空母「さらに南方棲姫の様に兵站管理の出来る戦務参謀なんてもっと足りない。」

空母「私達が現状勝っているのは量だけよ。質を上げなければ勝利は無いわ?」

空母「さて、どうしようかしら?」



一般的な話をすればあからさまな罠にのる相手は居ない。

だが、現状、この戦闘域でまともな戦力を残している相手は居ない。

そして、自分が連れている部下達は選りすぐりの精鋭。



空母「ちょっと挨拶くらいしてみるべきかしら?」

空母「あなた達は万一に備えて戦闘体勢のまま待機しておいて。ちょっと顔を見てくるわ。」



空母棲姫はまんまと敵の思惑に乗った、好奇心が勝ってしまったのだ。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:34:18.47 ID:UVTnURzf0


その鎮守府は煌々と灯りに照らされ、腰に太刀を佩き正装をした人間が一人酒盛りをしていた。


提督「ようこそお嬢さん、我が鎮守府へ。」ニヤリ

空母「随分と面白い事を言うわね。」

提督「あんたは空母棲姫か?深海棲艦の図録で確認した事があるだけだが。」

提督「へぇ、写真よりずっとハクイ女じゃねぇか。」

空母「世辞の言葉として受け取っておくわ。」

空母「あなたが?」



尋ねる言葉はこれで充分。



提督「あぁ。」

空母「答えは分かっているけど一応聞くわ。あなた、私達の所に来る気はないかしら?」

提督「分かっているなら聞くだけ無駄だろ?」

提督「俺からもいいか?」

空母「どうぞ。」

提督「お前か?」

空母「分かっているんでしょ?無駄な質問よ。」

お互いの力量を知っている敵同士が出会えば。

提督「俺の首を獲るかい。」

空母「厄介な指揮官は生きていて貰うと困るのよ。」

空母「死んで貰えるかしら?」

提督「まぁ待て。最近の若い奴はせっかちでいけねぇや。酒でも飲もうじゃないか。」

提督「月が綺麗だぜ?」

空母「文学的なお誘いという訳ではなさそうね。」

提督「妻帯者なんでな。悪いが深い意味は無い。

   敵の優秀な指揮官という事なら話の一つくらいしてみたいとも思うものだろ?」

提督「それとも、その程度の心の余裕すらないのかい?」



ふんと鼻を鳴らし。



空母「いいわ、その酒瓶が空くまでは付き合ってあげる。」

提督「高級酒なんでな、時間を掛けてゆっくりと味わってくれ。」ニヤリ



それからゆっくりと2時間程、敵同士という形でありながら不思議な酒盛りは続いた。

そして、最後は訪れる。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/06(金) 00:36:55.77 ID:UVTnURzf0

提督「……、これで最後か。」

空母「そのようね。この酒盛りは貴方にとって何か意味はあったのかしら?」

提督「あぁ、大有りだ。俺の部下達を逃がす時間稼ぎに必要だったのさ。」



やられたという顔をする空母棲姫。



空母「何かの罠を仕掛けてくるのかと思っていたけど

   何も仕掛けてこない事が罠だったなんて。呆れたわ。」クスクス

空母「貴方みたいな指揮官は本当に厄介ね。心の底からここで殺せて良かったと思うわ。」

空母「さぁ、死になさい。」

提督「待て待てどうせ死ぬならそのでっけえ胸に挟まれて死にたい。」

空母「随分と肝の据わった願いね。いいわよ、いらっしゃい。」フフフ



ぎゅっ。



提督「ほほう。なかなかこれはボリュームあるじゃねぇか……。」ポムンポムン



スラッ。


ズンッ。



空母「!?」

提督「悪いな、俺も敵の優秀な指揮官を生かしとくわけにはいかねぇんだ。」



空母棲姫に抱きつきその背中から自分を貫くような形で刀を串刺しにて逃げられないように固定。



提督「一緒にあの世に逝ってくれや。」ニヤリ



カチリ。



提督が隠し持っていたスイッチを入れると大爆発が起き全てがその炎の中に飲み込まれる。

その爆発の炎は遠く離れた場所でも観測出来たそうである。

85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:37:40.17 ID:UVTnURzf0
旧海軍後方集積地(現深海棲艦新拠点)



南方「空母棲姫が殺られた!?」

南方「……、了解した。一旦拠点に戻ってくれ。」



空母棲姫が死んだことを連絡する無線を受け空母棲姫に付き従っていた部下に撤収の指示を出す。



南方「くそっ!これからの深海棲艦を支える貴重な人材が!」

南方「ここの拠点化と平行しての残敵狩りは私だけでは厳しいというのに!」

南方「実におしい人材を失くした。」クソッ



空母棲姫が提督の自爆による相打ちにより南方棲姫の残敵狩り包囲網構築は遅れ、

結果として多くの艦娘がその包囲網から逃げ延びたのである。

これが、後に海軍最大の汚点とも言われる『 南太平洋の悲劇 』の全貌である。
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:39:12.59 ID:UVTnURzf0

現在

提督「明石。探したぞ。」

明石「提督ですか。私に何か用ですか?」

提督「こいつもお前に渡しておこうと思って探していた。」

明石「バスクリンの缶ですか。」

提督「中身が強烈でな。疲れも吹き飛ぶ。」

提督「くれぐれも取り扱いには気をつけてくれ。」



カロカロコロ



明石「中身はなんですか……?」

提督「献金絡みの金の流れと積荷証券関連の金の流れ等色々だ。」

提督「俺の同期が時雨のやらかした事の裏取りしていて

   手に余るって事で俺に保険を掛けて来たんだ。」

提督「なんせ本土は魑魅魍魎の類が多いんでな。」

提督「表向きには時雨が主導してやった事になってそれ以外の関与を示す証拠が一切ない。」

明石「怪しいこと限りないですね。」

提督「あぁ、言葉は悪いが一介の艦娘風情に出来る山じゃねぇ。」

提督「中身を見ていたら明石が昔に勤めていた研究所の名前も出てきた。」

提督「それで、俺も再保険を掛けておこうと思っただけだ。」

明石「ありがとうございます。」

提督「礼には及ばん。世話になった師匠への手向けだ。

   お前ならこの情報の生かし方が分かるだろ。存分に役立ててくれ。」



提督はそう言い、同期から託されたUSBメモリのコピーを明石に渡したのだった。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:39:46.60 ID:UVTnURzf0

おまけ短編ギャグ 傭兵って個人事業主?
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:41:31.69 ID:UVTnURzf0

不知火「川内さんから確定申告の書類が提出されました。」

提督「もうそんな時期か。」

不知火「川内さんの場合は契約上個人事業主になりますから。」

提督「そうだな。」

不知火「他の個人事業主。傭兵扱いの方の提出書類の確認もお願いします。」

提督「懲役のある連中は海軍の方で面倒見てくれるが自由契約だと確認が入るのが面倒だな。」

不知火「国税局が査察に来ることがあるのでしょうか?」

提督「………、不知火。あいつらを舐めない方がいいぞ。」

不知火 ぬい!?

提督「居酒屋の所得隠しを見つける為にゴミを漁って

   使用された割り箸の本数や納品されたおしぼりの数を確認したり。」

提督「一ヶ月以上張込みをして店舗の来店客数を調べたり。」

提督「コミケの壁サークルに貼り付いて来訪者はもちろん売り上げた冊数のカウント。」

提督「印刷所での発行部数、書店委託同人誌の売り上げからのサークル売り上げ予測。」

提督「そして自宅やレンタル倉庫等へ捜査に入り在庫の誤魔化しを見破る。」

提督「あの手、この手で税金を取ろうと脱税を見逃さない。」

不知火「恐ろしい人達なんですね。」
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:43:05.59 ID:UVTnURzf0

提督「まぁ、ここの場合、ほとんどが経費で落せるから川内には俺が色々指南しているがな。」

提督「後、調査に来ようとする連中の乗る船には

   護衛が出せませんと丁重にお伝えしているから、来る間に殉職する嵌めになる。」

提督「軍事施設に税金取立てというのが平和ボケした日本らしくもあるがね。」

提督「戦闘を艦娘に押し付けて自分らは平和を謳歌するというのは馬鹿げているとは思わないか?」

不知火「……。不知火の立場では返答致しかねます。」

提督「ん。にしてもあいつはもう少し上手くやれといわないとだな。」

不知火「おかしな点が?」

提督「これだよ。」



提督が指差す項目を見つめる不知火。



不知火「成る程。」

提督「これは艤装の一部になるから減価償却の方に廻せる。」

不知火「こちらは使い切り扱い出来ますので消耗品で経費に廻せますね。」

提督「あいつ向けに簿記の本でも買ってやるか…。」

不知火「経費で落しておきましょうか?鎮守府内図書館の貸し出し用とすれば可能かと。」

提督「頼む。」



外地鎮守府管理番号88。

傭兵だって個人事業主。

魚雷の一発、砲弾の一発で失う安い命。

地獄の沙汰もなんとやら、明日の命の遣り取りに、使うお金はTax Free

90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:43:42.13 ID:UVTnURzf0

第四話 We Will Lock you 前編

※タイトルのLockがRockでは無いのは意図的にしています。御了承下さい。
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:44:41.85 ID:UVTnURzf0

時雨「あっ、雪風。今日は休みかい?」

雪風「えぇ。今日はお休みです。」

雪風「時雨さんは?」

時雨「僕もだよ。これから明石さんの所へ注文していた商品を取りに行く所だよ。」

雪風「ご一緒してもいいですか?雪風も注文していた商品があったのを思い出しました。」



そして、明石の工廠兼酒保に着いた時そこには先客が居た。



スパ「だから高いですってぇ。」

明石「そう言われましてもねぇ。あなたの艤装特殊なんですよ。」

スパ「戦艦の艤装として普通でしょ!?」

明石「インチ。」

スパ「うっ。」

明石「だいたい艤装に使う部品くらいメートル法で作ってから文句たれろや。」アァン?

明石「整備に使う工具を揃える手間賃も入ってんだ。大まけにまけてその値段なんだよ。」

雪風「お取り込み中でしたか?」

明石「いえいえお客様。大丈夫ですよ。」



その光景はいつかみた光景。
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:45:49.21 ID:UVTnURzf0

時雨「艤装の清掃用特殊洗剤が届いているって秋津洲から連絡を貰ったから取りに来たよ。」

明石「あっ、あれですか。タンパク質が綺麗に落ちる魔法の洗剤。」

時雨「うん。艤装の熱でこびり付いたのもあっという間に落ちるから重宝してるよ。」

雪風「雪風はTONEのレンチセットです。」

明石「そういえば時雨さんはエビのセットを先日購入いただきましたけど?」

時雨「使い勝手はいいよ。流石ロブスター製品だ。」



ウォースパイトが居ないかのように接客を続ける明石。



雪風「ウォースパイトさんはどうしたんですか?」

スパ「!」

スパ「聞いてくださいよぉ〜。」



半泣きのウォースパイトが語りだす。

曰く修理を頼んだらぼったくりにあったと。



雪風「ぼったくり。」

スパ「見てくださいよこれ!」



明石からの見積書を見せられる二人。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:47:55.66 ID:UVTnURzf0

時雨「うーん、これは仕方ない気がするかなぁ。」

雪風「そうですね。これは少し壊しすぎですね。」

スパ「え。」

時雨「戦艦は装甲が厚いから敵からの攻撃をかわすより

   装甲で受け止めるって考えになってしまうのが悪いね。」

雪風「長門さんも同じ戦艦ですが避け切れず被弾する時は壊すところを考えていますよ?」

時雨「だね、壊すにしても修理が安くなるところを考えている。」

雪風「見たところ修理箇所は重要機関に近いところばかりですし…、

   回避行動の基礎が疎かの様ですね。」

時雨「被弾原因は魚雷が多いみたいだ。」

雪風「それもよくないですね。」

スパ「えっ。」

時雨「戦艦を沈める威力が出せる砲撃は同じ戦艦くらいだけだものね。」

雪風「その通りです。重巡でもラッキーパンチが出ればそれなりにダメージを与えられますが

   戦艦を沈めようと思ったら普通は魚雷です。」

雪風「大本営が格好良い艦娘の広報映画を作って

   駆逐艦が戦艦を砲撃で沈めたりなんかしているシーンがあったりしますけど馬鹿の極みですよ。」

雪風「現場を知らない。」

時雨「深海棲艦も人型だから人間と同じ弱点をピンポイントで狙えば可能かな?」

時雨「それが出来るとしても最新の兵装を使えるここの娘達くらいだけだろうけど……。」

雪風「戦艦という艦種を沈めようと思うなら空母艦載機による飽和攻撃が一番効果的です。」

雪風「しかるに魚雷を避けきれずに当たっているこの被弾の仕方は地獄の鍋底を覗いているようなもの。」

雪風「あなたは明日にでも死ぬおつもりですか?」



雪風の質問に首をぶんぶんと振り否定するウォースパイト。
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/06(金) 00:49:33.35 ID:UVTnURzf0

雪風「であればやるべき事は一つです!」ニタァ

時雨「演習あるのみだね。」ニコニコ

雪風「最近はこの辺りの敵も落ち着いてきているので

   1週間程は仕事をしなくても大丈夫だと思います。」ウキウキ

時雨「そうだね。暫くはいい訓練日和だね。」ニコニコ

スパ「えぇっ。」



うきうきした気持ちを隠しきれない様子の二人。



雪風「明石さん!」

明石「なんざんしょ?」

雪風「すみませんがウォースパイトさんの修理代金、貸しにしていただけませんか?」

明石「……、めったに無理を言わない雪風さんの頼みとあっちゃ応じない訳にはいきませんね。

   よござんす、貸しにしときましょう。」

雪風「すみません。」

明石「いいぇ、これは損して得取れって奴ですよ。

   ウォースパイトさんが長生きしていっぱい稼いでくれればうちも将来的に上客が増えるってもんです。」



雪風の要請に快く応える明石。そしてウォースパイトの肩に手を回し耳元で囁く。



明石「ビッグになってくださいよ?」ニタァ

スパ「はぃぃい!」ビシッ



その様子に笑いを堪える時雨に雪風。

この日から雪風と時雨によるウォースパイトへのしご……、もとい訓練が始ったのだった。

95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 00:56:21.05 ID:UVTnURzf0
以上で本日分の更新終了です
深海棲艦の採ったブリッツはドイツのパリ侵攻作戦とイラク戦争時の砂漠の嵐作戦を参考にしています
現代においては武器の高価格化が進んでいるため開発費も高騰し武器業者は儲からないようですね
銃器メーカーで有名なレミントンが会社更正法を申請していたのは記憶に新しいかと思います
航空機メーカーではミグとスホーイが合併しますし業界の再編はかなり進んでいっています
船舶関連は米国内はかなり再編が進んでおり空母、潜水艦なんかはそれぞれ実質1社しか製造ノウハウを持ってないです
ダイオキシン公害で有名になった枯葉剤を作っていたダウケミカルはフロンガスやテフロンで有名なデュポンとくっ付きましたし
かつて戦争で儲かっていた企業も平和だと……、これ以上はいけないですね
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 01:33:26.19 ID:JUzIg4pA0
おつおつ
敵の本気具合にひくけど、そんな手練れを一本釣りする方も天晴れか
…あとオチ担当が悲惨過ぎるw
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/07(土) 16:23:40.82 ID:fjwbpxyA0
阿賀野のドライさに草
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/08(日) 18:27:58.75 ID:RWmREyVeo
ヤード・ポンド法は死すべきだからね
仕方ないね
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/11(水) 01:06:42.37 ID:itCBXKBv0
ノリノリ不知火からウォースパイトは逃げられるのか!?
そんなお話、更新させていただきます
お時間宜しければお付き合い下さい
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/11(水) 01:07:34.91 ID:itCBXKBv0

第五話 We Will Lock you 中編
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/11(水) 01:09:47.34 ID:itCBXKBv0

執務室

不知火「司令、こちらの申請書ですが。」

提督「あぁ、それか。雪風に頼まれた奴だ。

   1週間ほど鎮守府近海に訓練海域を設定したいんだそうだ。」

不知火「そうですか……。」

提督「ウォースパイトに回避行動等の基礎訓練を叩き込むそうだ。」

提督「お前も手伝ってやってくれ。」

不知火 ぬい!?

不知火「ですが。」

提督「しばらく敵に動きがない。

   何か企んでいるのだろうが、いざ動く時は手駒が多いほうがいい。」

提督「ウォースパイトはまぁまぁだがうちの1軍連中にはかなり劣る。」

提督「うちの看板背負わせるにはまだまだ未熟だな。」フフン

提督「横須賀で海の銀狐の異名で呼ばれ教導隊の教官をやっていた頃の腕を見せてもらおうか。」

不知火「ですが、司令の秘書をする者が……。」

提督「ここ最近の仕事量だと秘書は無くてもなんとかなるさ。」

提督「寧ろ、今後に備え秘書業務で錆び付いた感を取り戻してきてくれ。」

ガチャ。

明石「提督、頼まれていた不知火さんの艤装の整備と動作チェック、

   後、燃料と弾薬。補給終わりましたよー。」

明石「それとファンネルマークの銀狐もペイントし直しておきました。」

提督「あぁ、ありがとう。」

提督「不知火、そういう事だ。行って来い。」ニヤリ

不知火「でっ、では。早速。」ウキウキ



こうして不知火も訓練に教官として参加する事となった。
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