【艦これ】 続 外地鎮守府管理番号88

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898 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/07(火) 02:29:52.50 ID:7JwiKUZmo
あけおめほ
899 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/01/20(月) 22:58:55.64 ID:NMWLJ5Lo0
皆様、大変遅くなりましたが新年あけましておめでとうございます
Win7のサポート終了に伴い不調のPCを更新したらいろいろデータの互換がなかったり
オープンオフィスのワードの使い勝手の悪さに閉口
そして、定番化しつつある書けない病の発症で遅くなりました
保守感謝いたします、忘れずにお待ちいただいてくれている人がいるのは励みになりますね…
よろしければ、どうぞお読みください、少しばかり人によっては胸糞な話があるかもしれません
900 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/01/20(月) 23:04:37.71 ID:NMWLJ5Lo0
「はい、ではそのように。」


中将の子息、その候補生からの指示を翔鶴が受ける。

提督たちが微修正を行い艦隊の再度の展開を行っている頃、

相手もまた作戦変更を行っていた。


「翔鶴が旗艦となり指示を出すのか?」


索敵範囲が広い偵察機を飛ばせる空母が旗艦として艦隊の指揮を執るそれはおかしくないのだが。

それが何故今になって本来の大和から変更されるのかという疑問を長門は抱かずにいられなかった。

さらに言えば翔鶴は本来、大破判定でこの場から撤収していないといけないはずでもある。


「翔姉ぇ、敵艦隊の位置が分かったよ。」


索敵機を回収しながら手短に叢雲たちのいる位置を伝える瑞鶴。


「了解しました。今まで位置をわからないように行動をしてきたわりに

 あっさりと見つかる様な行動をとっているようですね。」

「まー、何某かの罠だよねー。」


翔鶴の言葉に瑞鶴が返す。


「翔鶴、すまないが疑問に答えて貰えないだろうか?」


あくまで丁寧な態度を崩さずに翔鶴に今になっての旗艦変更や何故、

とどまっているのかの疑問を再度ぶつける長門 。


「チッ。うるせぇなぁ。いい加減、黙ってくれない?」

「候補生から何も言われてないんだろうなって事はわかってたけどさぁ。」


いかにも長門への返答が煩わしいと言わんばかりに言葉遣いがぶっきらぼうになる翔鶴。


「あんた達はさ、成績は優秀だけどいつも中将の息子である候補生に意見をよくしてたじゃない?」


「あれさ、ほんと迷惑だったのよね、正しいのかもしれんないだけどさ。

 あんたが意見するせいでしょっちゅう不機嫌になってたのよね、あれ。」


自分達の指揮官をあれと呼び本当に嫌そうな顔をしながら話をする。

実際、長門は候補生の指示がおかしな時や理解し難い指示が来た際には

納得がいく説明を求めたり自分の立場から意見の具申をする事が多かった。

遠ざけられる事を覚悟はしての意見具申は候補生の為を思えばこそ。


「あんたさ、卒業してさ、前線というかまぁ、あれよ。鎮守府に着任(つける)と思ってる?」


長門の質問に答えずに長門へ質問を返す翔鶴。
901 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/01/20(月) 23:09:42.94 ID:NMWLJ5Lo0
「一体どういう意味だ?」

「あー、やっぱりねぇ。そうよねぇ。」

「いえね、なんという事でもないのよ。

 大和型は未だにレア、稀少艦娘。適合者も少ないから猶更よね。」

「でも、私たちは違う。」


翔鶴が語気を強め言う。


「私に瑞鶴、それにあなた達長門型。今となってはその艤装の入手も容易い。」

「最前線の提督たちの誰もが渇望した初期と比べれば今は十分に揃っている。」

「さらに言えば、新米兵士が艤装性能が勝るといえどベテラン勢に割って入れるか?」

「少し考えればその可能性くらい頭のいいあんたならわかるでしょ?」


長門を睨めつけながら言葉を吐く。

艦娘の艤装が開発され新型としてロールアウトされてから

月日がたてば稀少といえどある程度の数は普及する。

その製造に莫大な資材を消費する事と適合する者が少ない大和型は

未だに稀少だがそうでないものはちょっと珍しい程度にまで収まっているのだ。


「珍しいって稀少価値、そうね、プレミアってのは何も提督連中だけに作用するわけじゃないわけよ。」

「まして、私たち艦娘の一般人への情報は制限されている。」


話の意図が読めないと長門が翔鶴へ告げる。


「前線であぶれた艦娘の行き先の噂くらいあんたも聞いたことあるんじゃないの?」


間抜けを見るといった笑顔で翔鶴は語る。


「艦娘の中でもレア、さらに言えば前線の提督達の手垢がついていない処女(新品)」

「なかなかいい商品だと思わないかしら?」


つまりは海軍の闇である。

深海棲艦との戦いに国際社会を巻き込んで同盟国と共同でといくら負担を分散した所で

戦争というのは穴の開いた樽に水を灌ぐかのように金が消える。

特別措置法で新税の設立や国債の発行を行ったり、

海運を使う企業に協力を要請という形で恫喝しての出資を募ったり。

裕福な篤志家や著名な投資家達へ海軍への寄付を呼びかけ。

考えられる様々な方法で金が集められる中で相手への見返りとして

最も手軽かつ手早い手段の一つが売春という胸糞の悪い手段である。

もちろんだが世間一般的な人身売買的なものよりはいい待遇なのは当たり前ではある。

場合によってはそのまま除隊後に妾、あるいは本妻として結婚というのも僅かばかりにはあるらしい。

さらに、メリットだけいえば海軍は不要な艦娘の面倒をみずに済み、

相手はそこいらの一般女性が束になってもかなわない美女とくれば満足のいかない男はいない。

少し、性癖に歪んだ相手がいたとしても海軍があまり酷い目に合わないように

監視はしているという事であるから問題はないのであろう。

建前上はであるが。 また、それを行っているのも海軍が主体としてやっている事ではないという形らしい。

すべてはらしい、かもしれない、の噂である。
902 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/01/20(月) 23:15:25.20 ID:NMWLJ5Lo0
「私はそんなの嫌よ?だから我慢してあのピザに抱かれたってのに……」

「ここで負ける様な事になればそんな目になるかもしれない。」

「負けなくてもまぁ、あんた達はわかんないけどね。」


ふんと鼻をならし再度、長門達を睨みつける翔鶴。

なにせ指揮官は海軍内でそれなりに権力のある中将の息子である。


「で、まぁ、私はあんた達よりあれから信用を受けてた分こういう時の指示も受けてるって訳。」

「ここまで言えば理解できんだろ、お前ら娼婦になりたくないなら私に黙って従え。」


乱暴にしかし、あくまでも目的は勝利という事への秘策があると続ける。


「相手の中から裏切り者が出る手筈になってる。」


なっ、と驚愕の言葉を言いかける長門。

だが、自分達の指揮をとる候補生の事を考えればなりふり構わずやるだろう事は理解できた。

そして、時を同じくして翔鶴達が今後について移動をしながら話をしていた時。

叢雲たちも今後の動きについて話を行っていた。


「さてと、連中はどっちの部隊に食いついてくれることかしらねぇ。」

「あら、私たちのいるこちらで間違いないのじゃないかしら?」


叢雲の言葉に扶桑が返せば。


「何事も絶対はないって言いたくはあるけど間違いないだろうというか………。」

「そうね、あいつ、まぁ、司令官なんだけど。」

「あいつが言うには相手にはったりを利かすためには自信が無いような事でも

 自信をもって堂々とした態度でいれば相手側が確信をもって会話をしていない限りは

 引くことがおおいそうよ。」


どういう事かしらと暁が尋ねそれに叢雲が続ける。


「会話をしていて相手がつねに堂々として話をしていれば

 相手の専門外の事なんかだと簡単に騙せるって事かしらね?」

「詐欺師の手口とも言えるのだけどね?権威や客観的に見えるデータ。

 つまりは騙そうとしている相手が客観的に見ても信用できるデータとかね。

 大学教授とか公的機関認証とかそういった類よ。」

「あいつ曰く、嘘ってのは本当が9割、嘘1割くらいでつくとまずバレないそうよ?」

「あとから聞いても本当に細かい部分でしかないから、
 
 そんなことありませんと言えば相手もそうだったかな?になりやすいそう。」


脈絡もなく詐欺師、人をいかに騙すかの講座が始まったことに疑問符を浮かべる隼鷹、暁。
903 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/01/20(月) 23:20:36.37 ID:NMWLJ5Lo0

「つまりは提督の変更した仕掛けは信じる者は掬われるという最低な罠という事かしらね?」


扶桑が理解したとばかりに言葉を続ける。


「あー、そうそう、そういう事。

 詐欺とか騙される人って自分が信じたい嘘を言われるとそれを信じちゃうみたいなのね。」

「信者と書いて儲け(もうけ)みたいなやつよね。」

「今の私たちのいる位置と飛鷹達のいる位置を考えてもらえるかしら?」


隼鷹が現状の二つの艦隊の位置について説明、全員での認識の共有を兼ねて話始める。


「そうだねぇ、飛鷹達はいま島影に停泊している状態だね。」

「側面の島にはそれなりに高さのある山もある。

 周囲についちゃ敵の侵攻方向を制限しやすいがこちらの脱出口も限られるあまりいいとはいえないね。」


と隼鷹が一般論を言えば。


「だけれど水深はそれなりにあるから

 潜水艦の娘たちも待機できる場所がそれなりにあるわけよね。」


事前の下調べで分かっている海底状況について暁が述べる。


「付け加えるなら空襲での強襲という事であれば山側から行えば

 山が壁になるから電探が働かないので練度の高い艦載機乗りが高度を低く山伝いに飛ぶことで

 ギリギリまで気付かれにくいという敵側への利点もあるわ。」


扶桑が敵側からの視点について意見を述べる。


「一方で、私たちのいる場所については四方が開け確認をしやすく、

 また足下の水深もまた潜水艦が潜むのに十分。」

「こういった状況下で取るとしたらどうでるかしら?」


叢雲がにこりとしながら暁に語り掛ける。

「そうね、順当に考えるなら飛鷹さん達の方へは襲撃をするにしても艦隊ではないのじゃないかしら?」

「あまりにもあからさまに罠っぽいもの。」

暁の言葉にうなずく叢雲。

「そうさねぇ、あたしらはしょせん軽空母だからね。」

「艦載機を艦戦に全振りして敵の数を減らしたといっても

 あっちの正規空母の娘達にはまだ攻撃機は残っているだろうしね。」

「少しでも提督の罠に懲りているならあからさまな方にはいきたかないねぇ。」

隼鷹がそういえば。

「罠を仕掛けられていても私たちの方へ攻撃を仕掛けるのであれば、

 まだ四方が開けている分だけ対処しようあるかしら?」

と扶桑が続く。

「私達のそれぞれの位置がどちらかが襲撃されても

 直ぐに駆けつけることができるような位置取り展開している事をつかんでいたとしても。」

「こちらに来ざるを得ないってわけよね。」

最後に叢雲が引き取る。
904 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/01/20(月) 23:23:01.73 ID:NMWLJ5Lo0

「相手に選択肢を与えているように見せかけて巧妙に、

 いや今回については強制的に一つの選択肢しか与えていない。」

「最初の潜水艦娘達の襲撃に海峡部での伏撃。

 二度あることはなんとやらじゃないけど流石に見え見えの罠にのるわきゃないわな。」



隼鷹がもっともな意見を言う。



「さっきの詐欺師の話じゃないけれど言葉巧みに相手の思考誘導して騙すって事で

相手は騙されたと気づかないって話もあったわね。」

「あくまで、自分がそうと決定したと認識させる事が大切だって。」

「提督もつくづく悪だねぇ。」


叢雲達に攻撃がいくように仕掛けた提督の思考への罠に感想を述べると隼鷹がその感想を述べる。

叢雲達がちゃくちゃくと準備をしていた時、提督も動き始めていた。



「えっ、あっ、はい。了解いたしました。」



香取が提督達の艦隊の被害報告を提督から受ける。


「軽空母飛鷹、駆逐艦雷、中破、駆逐艦響、小破。ですね。」

「ほんとうに宜しいんですね。」

「えぇ、よろしくお願いいたします。」


提督が香取に自艦隊の被害を報告する。

提督の態度があまりにも余裕綽々であったため聞き返してしまったが……。

どうやら間違いはなかったようである。

一体何を考えているのやらと香取が提督の思考に思いを馳せる。

そして、その意図に気づき背中に冷や汗が噴き出るのを意識するのはほんのあと数分後の事であった。
905 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/01/20(月) 23:31:53.39 ID:NMWLJ5Lo0
以上少ないですが本日分の更新です
1レスの改行ぎりぎりまで入れての巻いていっております!残りが少ないから仕方ないですね!
皆様、イベントどうでしたか?いちは甲甲甲甲乙甲!で駆け抜け初の全艦娘コンプいたしました、めでたい
そして、初月も追加で掘り更に鎮守府の層を厚くしていっておりますです
イベ後の大型でサラトガ狙いましたが大鳳(三人目)が来ました…、うん、色違いで持てるから便利ですね!(白目)
この後の展開は多分毎回察しのいいレスを下さってる方とか気付かれるんじゃないかしら?と思っています
お読みくださっている皆さんがいろいろ考えてレス下さってるのはいい意味で毎回ドキッとしながら読んでいます
では、最後に一言いっちから、提督は狡猾、さんはい!提督は狡猾!
ここまでお読みいただきありがとうございました、乙レス、感想レス、いつも励みになっています
お気軽にレスを残していただけると本当にありがたいです、次回もよろしければお読みください
906 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/21(火) 01:19:52.03 ID:nkxRqoEX0
新年投下乙です
自分も甲甲甲甲乙甲での攻略でしちゃ
907 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/01/28(火) 14:27:12.79 ID:+asJ9zFC0
へぇ中破…なるほど

艦隊側でやりたいことはなんとなく分かったけどこれ敵のおつむが程よく悪いが絶望的にバカではないという絶妙な残念さが大前提な気が
長門が土壇場(今)で一皮剥けると負けはしないが冷や汗かかされそう
908 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/19(火) 01:01:33.30 ID:cQpzdrR50

「この局面で中破かね?」


飛鷹達の中破の報せはそれぞれに驚きを与えた。

ある者は失点を取り返す好機ととらえ顔を喜色に染め。

ある者はこれから何が起きるのかと好奇に染めた。

また、ある者はやれやれ悪い癖が出たと呆れ気味に顔をしかめ。

そしてある者はここでその中破という事態が

どう盤面を動かすのかと深く思考を巡らせる。

まさしく三者三様。

しかし、その根底で皆が考えるのは、もうすぐこの演習の結果が終わるという確信である。

その結果がどうなるかというのは別にして、という但し書きはつくが。



「よし!よし!よし!」



まさしく小躍りするという表現が正しい様にその候補生は喜んでいた。



(今までいいようにやられていましたからね……)



その様を呆れと憐れみを持った表情でみる鹿島。

最も教官としての彼女から見れば相手が偉いさんの息子というだけでやっている行為はすべて黒。

演習相手の提督と比べて黒に限り無く近い白色ではなく純然たる黒なのである。

ゆえに自分の職務を遂行するのであれば早々に、いかにこの試合を終わらせるか、

そして自分に火の粉が掛かってこないように立ち回るか。

それが重要なのである。
909 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/19(火) 01:04:10.08 ID:cQpzdrR50

といっても香取と比べれば鹿島の頭痛と胃痛の負担は軽いものではある。



「さてと、馬鹿が喜んでいるんだろうなぁ。」



下卑た笑いを浮かべ口に煙草を咥え火をつけ呟くのは提督である。

香取はこの相手の素性をここに来てようやく把握した。

違和感の正体、そう、ここで提督の素顔が見れた時点でようやく把握したのだ。

この相手。海軍上層部が送り込んだ現役の提督、それもバリバリの前線帰り。

恐らくその目的は養成学校の調査、綱紀粛正。

冷徹かつ確実にその任務を行うことの出来る相手であることは間違いないだろう。

どおりで妹の鹿島が鼻につくくらいの血の香りがする相手と喜ぶわけだ。

或いはそれに類する戦歴を持ったピカピカの勲章持ち、

一言でいえば大好き深海殺し、である。

普通なら優位に進めている戦況で部下の中破をわざわざ受けに行くわけがない。

いや、その報告は欺瞞情報であろうことは間違いなく、そして報告させた意図が不明なのだ。

なにせ、ここまで周到に準備を行い敵の機先を制し、

相手の策をすべて児戯として捻じ伏せてきている者がである。

まともな思考を持っていればこの中破をわざわざ受けたのは何かの罠としか考えないだろう。

いや、むしろ敵を破滅させる為の一里塚、

もといすでに首に匕首が突きつけられていると気づこうものである。

更にこれを罠としてみれば恐らくは中破のダメージは受けていないであろう事が考えられるのだ。



「香取先生?いかがなさいましたか?」



にこりと向けるその笑顔、試合開始までは爽やかに見えていたが、

今となってはその笑顔はまるで魔王か混沌の破壊神か。

一つ返事を間違えればそこで終わる。

この相手、間違いなく自分も粛清対象に入れているに違いないのである。

返事を間違えればリストの一行目に見事、華丸急上昇なんてことになりかねない。

自分に見せたこの笑顔はまさしく死刑判決前の、次はお前だの予告に違いないのである。

これはいけないと香取はその頭脳をフル回転させ、薄氷を踏む思いでその喉奥から絞り出す。

そして、その返事はこれだった。



「全ては計算づくですか。なかなかのお手並み。これは特別に加点が必要なようですね。」



あくまで余裕を持った対応と思わせることに主眼を置きつつ

言葉は冷静さを保った上で自分の動揺を悟られないようゆっくりと語った。

香取はこっちに怒りの矛先を向けないでくれぇと

土下座せんばかりの心持ちなのは悟られないように全力で表情を装う。

この場にいるのは誠実に、そう職務に忠実な一人の教官なのである。

そういう体を装わないと間違いなく粛清されてしまうと

香取が笑顔を引きつらせながら返事をしたのは無理からぬ事であるのだ。
910 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/19(火) 01:08:54.16 ID:cQpzdrR50

一方の提督はというと顔に出さないものの内心実に穏やかではなかった。

敵のやり方へ怒り心頭に発する、という訳ではなく

冷静さを失い自分の素をよりにもよって香取の前にさらしたことについてへの焦りである。

これは実にまずい、今日の演習は偉い人たちが来ているのである。

今日はこれまでやってきた事の集大成を上司の前でプレゼンして商品、

つまりは自己の売り込みをして次の仕事への権限を勝ち取る為の場なのだ。

あくまで一候補生が落ちこぼれな底辺から優勝という逆転劇を演じなければならない

という上司が描いた台本の演目に沿った演技が求められているのである。

なればこそ、最後の最後まで単なる提督候補生を演じて、

香取達にはそうと思って貰わないといけないのだ。

だが、現実はどうだろうか?

冷静さを失い演習相手を全滅させる事へ作戦を大幅に変更しようとしている。

実践において平均的な提督であれば作戦目標が達成できないとなれば出来る範囲内で行動するだろう。

負けているのであれば被害を抑えつつの撤退、

勝利しているのであれば戦果拡張を狙うか被害を出さないためにそこで戦闘を終結するかである。

そう、あくまで平凡手、手堅い一手しか打たないものだ。

敗北状況下で全滅か逆転かの博打を打ったり勝利状況下で休むことなく敵殲滅の為の前進、

追撃殲滅戦をやる為に作戦変更するなど余程の経験や自信がないと出来たものではない。

所謂、勝負勘、ここが引き際、ここが攻め時の機を見る感覚は

実戦経験が無いと培われるものではないからだ。

そう、つまり、ここで提督がそれを指示したことによって

香取に私はこういうものですと名刺を渡してしまったようなものなのである。

冷静になった後に香取をみてみれば引きつった笑みが能面の様に張り付いている。

やり過ぎた、そして悟られた。

提督がこう思わないはずがないわけで、提督は相手の心情を図るべく

駆逐艦が潜水艦の位置を知るために探信儀から音を出すように様子見の声掛けをした。

素性がバレてしまえばそれを理由に、そう、不正入学として今行われているこの試合を

強制的に終了されても仕方がない場面だからだ。

そうなれば上が書いた台本から外れるばかりか期待された役割を演じきれない愚か者の烙印を押されかねない。

それは実に困るなんてものではない、だからこそ、提督は香取に一声かけた。

『いったいどうされましたか』 と。

提督の心の声が聞こえたなら、頼む、気づいたことをみなかったことにしてくれという絶叫が聞こえていただろう。

そして、一瞬の沈黙、それはほんの数秒だが体感として実に長く重い間であった。

待ち望んだ香取からの返事は。

『 特別に加点が必要のようですね 』である。

そう、提督は勝ったのだ。勝訴を勝ち取った被告人の様に全身でその喜びを表現したいくらいである。

教官の香取は提督の正体に気づいていながら敢えて見なかった事にすると宣言したに等しいのである。

ふふふふふ。

うふふふふふふふ。

お互いの心の声を押し殺し二人は笑う。お互いに自分の望む結果を得られたと確信して。

提督と香取のこのお互いへの誤解は結果としては良い方向へ向かう事となったのは言うまでもない。
911 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/05/19(火) 01:11:23.73 ID:cQpzdrR50

その頃、海上では隼鷹が自身の旗下にある艦載機達へ指示を飛ばしていた。



「中破ねぇ。盛り上がってきたわね。」



叢雲が語れば。



「これも一つの可能性として提督は語られていましたし、

 対処も事前に決められていた想定内ね。」


扶桑がこれからの動きが楽しみと返す。

敵のやり方に不満を覚えていた叢雲達が提督が敵を殲滅に目標を変えた事に喝采をあげていた。

そして敵対する翔鶴達もまた中破の報で作戦を変更していた。

そして長門と陸奥は考えるのを止めた。

二人は先の裏切り者が出る予定であると翔鶴に告げられた時点でこの試合を投げる事に決めた。

それは姉妹艦であるが故の阿吽の呼吸でアイコンタクトでの意思疎通。

今も目の前で中破の報せに良しと喜び

事実確認のための偵察機を飛ばそうともしない翔鶴達に愛想も尽きたのだ。

実戦ともなれば卑怯、卑劣も当たり前のように起こるだろう、そして行わねばならないだろう。

名誉を求める事の出来ない作戦に携わらねばならないこともあるだろう。

だが、と、長門は考える。自分の命を掛け金として積むのだ。

納得のいく命令を下す提督の下で働きたい。

正式に艦娘として戦うようになり命を落とすような事になるのでれば悔いのないように散りたい。

しかして、今自分に指示を出している奴はその対極に位置しておりその下では死んでも死にきれない。

だからこそ、端的に言えば『 やってらんねぇや 』と二人がなったのだ。

そして、艦隊の助言役としてこの最終戦以外でも

色々細かく旗艦をフォローしていた長門が投げた事でこの試合の趨勢は決まった。

試合後、何故に我らの指揮官が相手の候補生でなかったのかと

ため息交じりに長門は叢雲に語ったそうである。

912 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/05/19(火) 01:14:31.27 ID:cQpzdrR50
エタ……エターナルフォースブリザード!
少しだけ更新です、お待ちいただいていたかたおりますでしょうか?
いらっしゃると少しばかり僅かな期待……、愛想つかされてて仕方ないわけですしね……
仕方ないね…、お読みいただきありがとうございました
感想、乙レス、気軽に残していただけるとイッチが喜びます
誤解の美学は考えるのが結構大変、でも読んでいて楽しいですね、お互いに誤解したままだけどいい結果が出て万事よし!
大事です
913 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/19(火) 01:21:35.42 ID:3AQFTJmWo
>>912
乙乙
待ってたよー
914 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/19(火) 04:41:35.96 ID:ZGUAbTGSo

待ってた
915 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/19(火) 08:00:54.47 ID:mjcAsGAB0
おつ
まってたよー
916 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/19(火) 10:50:06.70 ID:DRSrIhJ/O
香取と提督の深読みが微笑ましい
917 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/19(火) 21:16:33.98 ID:0l/yy0DGo
待ってた乙
帰ってきてくれて嬉しいわ
918 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/04(木) 00:05:04.56 ID:RmhDnurG0
投げたのは「試合」だけかな
惨敗確定の現状、お偉いさんに価値を示すなら祁山の王平たるしか
島津の退き口じゃあ大した提督にはスカウトされそうにない
919 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/28(日) 00:56:29.92 ID:E0/y+fbuO
920 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/28(日) 00:59:56.00 ID:E0/y+fbuO
書き込みに問題ないようですね…
モバイルWifiなんでちょっと書き込みテストしました
一月ぶりでなんですが更新いたします
921 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/28(日) 01:02:45.50 ID:E0/y+fbuO

「やぁ。そろそろ合流できそうだから撃たないでもらえるかな?」


長門達の無線に周波数を合わせた上で連絡を入れてきたのは。


「響?きちんと始末はしたんでしょうね?」


翔鶴がその首尾の確認の返答をすれば。


「まぁ、てこずって私も被害を受けたけどきちんと行動不能にはしておいたよ。」

「偵察機で確認はしなかったのかい?」


言外に当然しているよねの雰囲気に、してないと言えるわけもなく当然のようにしたと答える翔鶴。


「響はこれから我々と行動を共にするのか?」


不平不満、不信と疑念、それらをないまぜにした表情そのままに響へと尋ねる長門。

922 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/06/28(日) 01:05:10.46 ID:E0/y+fbuO

「長門が私を警戒するのは分かるよ。むしろ、しないほうがおかしい。」

にこりと笑いながら長門達の付近に現れ合流してくる響。


「更に言葉を続けるなら味方を裏切ってまでこちらに来る相手が

また、裏切らないかと警戒しないのならそれは実に目出度いね。

私なら、そんな相手は警戒してしかるべきだと考えるよ。」



長門の心の内奥を見透かすかのように話を続ける響。

曰く、姉妹艦にして長門達の候補生の秘書艦を務める電を

助けるために裏切りを引き受けた事。

そして同じく姉妹である雷、そして仲間である飛鷹を攻撃するのには

やはり躊躇いが無かった訳ではない事。

しかし、この試合で響達を指揮する提督が負けずに勝ってしまった場合に

電が受ける責め苦を考えれば裏切り者の不名誉を受けてでも提督に負けて貰わなければならない事。

後の事を考えれば響の指揮官であれば裏切った理由についても説得ができるであろう事。

そして。



「私の指揮官の候補生はなかなか情にもろいからね。

後で涙でも見せれば許してくれるよ。」

「彼は甘ちゃんだ。」

「それで、私は陣形のどこに位置取りをすればいいのかな?」



響が語った事について長門は意見を口に出さずに考えていた。

それは一見、筋は通っている。だが、と長門は考える。

響の語った話はあらかじめ用意された答えではなかろうかと。

そして訝しみ、胡乱な視線を向ければ響はやれやれといった仕草をした。

923 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/06/28(日) 01:07:41.45 ID:E0/y+fbuO
「長門は私に対しての警戒が実に強いようだね。

仕方ないとは思うけれど、少しは信用してもらえないかな?」



気持ちが顔に出て苦虫を嚙み砕したかのような顔をしていたのであろう。

響が苦笑する。そして長門を咎める様に眉根をひそめ、睨みつける翔鶴。

翔鶴に睨まれたこともあり、意見する具申する気もなかったが

更なる不興を買いこれではもう何を言っても聞き入れてもらえないだろうなと考える長門。



「やれやれ、信じて貰えないのは仕方ない。じゃ、信用の無い私は先頭で体を張りますか。」



そして、旗艦の翔鶴と二三会話を交わした後、

響はそう言い残し輪形陣の外周、その先端へと移動していった。

恐らく響の役割に気が付いたのは自分だけなのだろうが

これを翔鶴に具申する気力は長門にはとうに無くなっていた。

また、先の響の言葉による毒。

これが艦隊内での適切な意見のやりとりを阻害する事を達成したことを考えれば

仮に意見具申したとしてもその結果を予想することは容易い。

響の役割は恐らくこういう事なのだろうなと長門は考え始める。

響は自身の指揮官を形式上、裏切り仲間を中破へと追いやりこちらの艦隊に合流。

一見すれば裏切るという予め言われていた任務を達成し、

その報告の為に翔鶴達に合流、さらには減った部隊の戦力の増強とプラスになる部分が大きい。

しかしこれは希望的観測に過ぎないのだ。

響が自分から長門へと語ったように響が裏切っておらず、

飛鷹達の損害も偽装されたものであった場合どうであろうか。

翔鶴達の部隊はいつ牙を向くか分からない敵という、

内に危険を抱えたまま演習を継続する事となる。

一連のやりとりを考えればいつ自分達へ魚雷をむけるかもしれない相手を輪形陣の後端、

或いは内側へ抱え込むことなど出来るわけがないと考えるのが当たり前である。

924 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/06/28(日) 01:09:53.95 ID:E0/y+fbuO
だからこそ響が陣形の一番外、かつ先頭に行くのを止めることはしなかった。

だが、と首筋にちりちりとした物を感じながら長門は考える。

試合が開始されてから自分たちをいいように翻弄してきている相手である。

響の裏切りが仮に相手候補生の予想外だったとして

それに対処できない程の相手なのか?という事には、

はなはだ疑問であると言わずにいられない。

いや、すぐにそれを利用して何か仕掛けてくるような相手であろうなと考える。

寧ろ、響が裏切る事を予測して、そしてそれを響本人から指示が出ていることを聞き出し

裏切ったように見せかけて合流しなさいと電を救う手立てを考えた上で命じている可能性もある。

此方と比べてあちらはお互いへの信頼関係の醸造も出来ていると見受けられる事から

そういった他者へ言えない秘事も相談出来る環境は出来ていると考えられる。

長門達の候補生からの命令を守りつつ本来の指揮官への義理を通すやり方はいくらでもあるだろう。

そう、なにも響がこちらに合流した後に長門達を攻撃せずとも

相手を利するやり方など幾らでもあるのだ。

例えば現在先頭を務める島風と交代して自分が先頭に立ち、対潜警戒をするといったもの。

敵の艦隊には現在、魚雷の残弾も残っており行方が掴めていない潜水艦娘達がいる。

彼女たちが近づいてきた際に故意に報告をしなければ長門達には見つけるすべがない。

その危険性を考ると島風と位置を入れ替えさせることが出来ない。

消去法的に響を先頭へと向けたが先頭であってもその危険性は変わらず、

他の手段を取られる可能性もある。
925 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/06/28(日) 01:12:52.17 ID:E0/y+fbuO

もし響が自分たちの位置情報を垂れ流していたとしたらどうか?

艦隊での艦の位置が予め分かっていれば空母艦載機による攻撃の順番もおのずと決まる。

場当たり的に目標をばらけさせるのではなく集中運用で一人ずつ確実に屠ればいいのである。

攻撃が始まれば響は対空射撃のふりをして攻撃機をスルーすれば長門達の被害は増えるだろう。

さらに響が先頭である理由を付け加えれば、

響たちの艦隊からの攻撃による『 誤爆 』のリスクを低くする事も考えれ、

艦隊の進行方向を誘導する意図もあると深読みできなくもない。

つまり、響は先ほどの会話で仕方なしに先頭へ行ったように見せかけて

実は先頭以外に行き場が無いように誘導し、

先頭に立つ事でいくつもの優位性を敵へ与える可能性があるのである。

この相手候補生の勝利へのあくなき執念は

自分たちの指揮官のそれと比べて実に丁寧かつ精緻、

そして何よりギリギリのルール違反にならないであろう所を見極めたやり方。

なにせ自分たちの候補生が先に指示した裏切りの指示を利用して

響に敢えて合流後は『 何もしない 』を響にさせるのである。

何もしなければ何かする事と比べ事が露見することは、まずない。

響を電を利用して裏切りをさせた事実は演習の記録に残るかもしれないが

その裏切りを利用して何もさせなかったというのは何もしなかっただけに記録に残らない。

長門は妙な強者への妙な信頼感というべきか、いや、相手の候補生が優秀だからこそ、

その思考をなぞり次の手を考えらる単純さに感嘆を覚えていた。

これが仮に自分たち指揮官だった場合は却って何をしでかすか分からない所だろう。

寧ろそれ見た事かと裏切りを審判としてついている教官に報告し

その場で試合終了をさせるかもしれない。

或いは後々の強請等のネタに利用しようとするかもしれない。

何にしろ、どうせ碌なことにならないだろう。

翻って、この演習相手候補生の動きを考えば、将棋で対局相手の性格、

癖を熟知した上でその上を行くために何手も先を読み考える楽しさがそこにはあった。

ひとつ、問題点があるなら今回の相手は常に真剣を首筋にあてた上で

禅問答をしてくるような情け容赦の無い相手という事だろうか。

答えを間違えれば即で首が跳ねられる、そして、こちらの艦隊内、

指揮官との不和を見抜いて響に自分の信頼を落とさせるダメ押しをさせている事を考えれれば

自分が艦隊の要となっている事も見抜かれていると考えるに容易い。

強者に認められるというのは名誉なことなのだがな、と、少しばかり嬉しくなるものの。

その結果が徹底的なまでの離間工作である。

926 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/06/28(日) 01:17:37.30 ID:E0/y+fbuO
長門が思考を巡らせていた頃、響は輪形陣の外側へと移動し、

対潜警戒を行いつつ艦隊の早期警戒艦として先頭を務める島風に声をかけた。

「お疲れ様。島風は流石の速度だね。」

響の機関と島風の機関ではその最大船速には当たり前のように差があり、

結果、島風が響のやや前を行くような形で航行する形となる。

そして、詰将棋の様に相手の思考をなぞっていた長門は響がこちらに来た理由、

島風を救う事は難しいかもしれない事を理解したために行動へ移った。

響が翔鶴率いる艦隊に合流した結果何が起こるかが理解できれば、

その時が来れば響は必ず行動を起こす。

何もしないことを行動を起こすというのもおかしな話だと

自嘲の笑みがこぼれるのを抑える事に苦労しつつ、

長門は翔鶴に万一の際の盾としてと具申し響と他の仲間の間に位置する順番へと移動する。

…………

……………………

ぱしん。

とある地点にて静寂に包まれる中、音が響き渡る。

周囲にもうもうと煙が立ち込める中、その柏手はよく響いた。

その拍手をした者は二礼し、何かの儀式でも始めようかという雰囲気を纏う。

拍手をし、その厳かな雰囲気を身に纏うは飛鷹である。

飛鷹は胸元から何かが書きつけられた紙を取り出し、よく通る声でそれを朗々と読み上げ始めた。

「高天原に神留り坐す 皇親神漏岐 神漏美の命以ちて ………」

飛鷹が読み上げるそれは大祓詞と呼ばれる祝詞である。

内容としては大まかには穢れ、罪、過ちを祓うものである。

その為、飛鷹が読み終えた後、その場は静寂に包まれ、

言いようの無い厳かな雰囲気が場を支配していた。

そして、その中で飛鷹が発艦用為に巻物を開け甲板の巻物の上に何かの部品らしき物を置いた。

実に小さな部品であったのだが、

一瞬にしてそれを中心として周囲の空間を歪めるようにして大気が凝縮されていき

そこに戦闘機が複数顕現した。


「靖国より現世に戻りし英霊の皆さん、敵の殲滅、どうぞよろしくお願いいたします。」


普段の命令的口調ではなくあくまでお願いという形で召喚、

発艦用の巻物の上に顕現した戦闘機達に告げる飛鷹。

そして、その艦載機に乗る者たちは鷹揚に頷くとその機体のエンジンを轟と響かせ大空へと消えていった。


「お疲れ様!」


飛鷹の執り行っていた儀式を黙って見つめていた雷が声をかける。

「ありがとう。にしても、提督もどこからあんな物を手に入れたのかしら……。」

飛鷹があんなものと言うのは先ほどの召喚に使われた媒体である。

「そんなに危険なものなの?」

雷の問いかけに陰陽型軽空母にもそれぞれ得意とする発艦方式の違いはあるけれどと

前置きした形で飛鷹は説明を始める。
927 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/06/28(日) 01:25:10.73 ID:E0/y+fbuO

一般的な陰陽型は神道型も道術型も共通して紙の人型を使い

それに英霊を降ろして妖精として顕現させて戦闘機妖精、攻撃機妖精として行動して貰う。

魂を卸す媒介が紙という事もあり妖精そのものの意識は薄く、

コントロールという部分は容易い。

しかし、容易い分、指示を出す側が熟達していなければ恐ろしく弱なる問題点がある。

これは弓道型も同じでありその艦載機の強さは召喚者の熟練度に依存する形となる。

極めれば呑波呑舟、大喰らいの一航戦と強者として名をはせた艦娘程となる事も可能ではある。

飛鷹が今回行った召喚方式はこの一般的な物とは少し違う。

英霊を降ろす媒介がその英霊に所縁のある物を利用している点である。

この降ろし方であれば指示者の熟練度はそれ程必要としない。

何故ならば英霊を降ろすのに所縁ある物を使用している為

現世との結びつきが人型を使った場合と違い強固になる為であり。

その結果として顕現した艦載機達は英霊になる前と同じように

自己の意識をしっかり持ちその持てる技量で敵を殲滅することが可能であるからである。

その為、降ろす英霊が名のある搭乗員の英霊であればあるほど

その強さは桁違いとなり艦載機操作の熟練度は低くともその強さを大喰らいの二人に迫る事も出来るのだ。

928 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/06/28(日) 01:37:18.42 ID:E0/y+fbuO
ここまでお読みいただいた方は、

なぜその方式が一般的ではないのだろうかと思われるだろう。

そう考えるのは無理からぬ事であり実際にそう思われても仕方のない事である。

しかし、メリットがあればデメリットがあるというもので

これに関してはデメリットが大きすぎて採用がされていないのである。

そのデメリットとは術者、この場合は召喚主である艦娘の巫女としての力量が問題となってくるの為である。

この力量が不足していた場合、英霊を現世に繋ぎとめるために多くの霊力を奪われ

最悪生命力を持ってそれに変える事となり死に至る事があるのだ。

デメリットの方が大きすぎる事もあり紙製の人型での召喚方が確立されてからは

その方式で英霊を召喚する者はいない。

もとより使いこなせたのも陰陽師型軽空母では過去に一人居たのみであり。

その者は千曳岩の龍驤、黄泉路塞ぎの龍驤、冥府の官吏、死霊使いの龍驤。

いくつもの呼び名を持ち圧倒的な霊力で持って多くの英霊を使役したと言われる存在。

また、英霊として呼びだした中には『 艦娘 』も含まれていたとか。

海軍の記録上居たという在籍記録は無いがその活躍により命を繋いだものもいるという話はあり

かといって何処かの鎮守府に在籍していたのかどうかは定かではない。

先の召喚方法についてもどこからともなく一人で救援に来た龍驤が目の前で艦載機を呼びだし

『 艦娘 』を顕現させたときに行ったやり方から推測、そして研究をされての推測に過ぎない。

その研究の過程で命への危険性が指摘され

巫女としての力が足りないものには絶対にさせない事とされた禁術でもあるやり方なのだ。

提督は飛鷹にその危険性をじっくりと説いた後に

本人の希望を聞き安全幅を多めに取ったうえでその媒介物を渡している。
929 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/06/28(日) 01:41:19.65 ID:E0/y+fbuO

「とはいえ、普通に降ろすよりどんどん霊力を持っていかれている気がするわ。」


艦載機妖精たちは疲労しない、その代わりにそれを使役する艦娘達が疲労する。

これは空母艦娘達に共通ではあるが、飛鷹は疲労以外に自身の術者としての霊力の減少を訴える。


「そんなに大変なの?」

「えぇ、でもそれに見合うだけの力は感じられるわね。」

「実際に戦闘が始まってみないと分からないけど、

 とっておきの切り札として提督が隠しておきたかったのは理解できる危険な手札よ。」

「へぇ、さすが司令官ね!」



常にどれほど先を見据え手を先じて打っているのかと考えると

自分の指揮官でありながら空恐ろしいものを感じる飛鷹ではある。

味方にさえ恐れを抱かせることすらある上官というのはあまり上に居て嬉しいものではない。

しかし、雷の様に盲信し、追従をするのであればこれ以上なく最高の指揮官なのであろう。

きっと提督として前線に立つのであればうまく立ち回らないと

煙たがられるタイプなんだろうなと考えうまくその補佐をしてあげる位置に、

卒業後も共に戦えるのであればいいのにと思わずにはいられない飛鷹であった。

930 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2020/06/28(日) 01:55:14.37 ID:E0/y+fbuO
イベント始まりましたねぇ
前段でのドロップがすごく豪華、タシュケにサラトガ、涼月、大和
未確認ではありますがイヨも落ちるとか?これは追加で掘らねばなりませんね
報酬、泥艦については特に…です、心があまり現状ではときめかないです
何事も守りに入ると衰退するというのはよくありますがあんまり攻めすぎると寿命を縮めるだけですね
時代劇のような王道、テンプレ物がなぜ人気を獲得でき長寿なのであるか?という部分の話になりますが
いつぞやの最終海域報酬艦みたいに、報酬艦として画像が出た段階で 「…………」 となったのを思い出す次第です
あの時の最終報酬艦さんはぶっちゃけ未だに慣れないこともありモスボール状態です
あれ?可愛いと言われる方のなんというか?どこが可愛いのか未だに理解できないんですよねー……
戦力が整ってくると報酬、ドロの新艦は艦娘としての性能より長く愛でていくことができるかの方が重要です
性能駄目でも別の艦に置き換えられますし、その逆もまたしかりです
(但し、ネルソンのみ除く、彼女はいるといないで取れる選択の幅がかなり変わりますので…)
戦艦としてみたとき性能としては劣るものの人気を獲得している新顔のコロラドとか、ガンさんとか
フレッチャーは改二が早かったなぁという印象、あれ、龍驤のパリピから普通に戻った?くらいの衝撃でしたね
なんというか、にんともかんともですね、新艦より既存レア艦の複数艦持ちを目指してしばらくは攻略より堀優先になりそうです
ではでは、みなさまここまでお読みいただきありがとうございました
待ってたとのありがたいお言葉をおかけいただき本当にありがとうござす、次の更新を早められるよう頑張ります!
感想、乙レス、お気軽に残してください!是非、よろしくお願いいたします!
931 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/28(日) 09:36:30.18 ID:Ypn7o10hO
話が良く練られているだけに途中での感想って書きづらいのよね
続きも期待してます
932 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/28(日) 12:14:11.38 ID:KcJx1UaiO
乙です。
イベントは7月に入るまで様子を見てから挑むつもりです
933 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/29(月) 00:45:16.74 ID:h3jkQ5aI0
最善も次善も許されない状況で意地を見せるかビッグセブン
934 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/30(火) 12:56:15.40 ID:1QOw9AC7O
久々の投稿とおもったら小説みたいな投稿で
全飛ばしで読む記もおきない
935 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/06/30(火) 13:27:22.00 ID:5nIEh8DjO
バカ城の嫉妬みたいな日本語やめーや
936 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/09(日) 04:54:53.67 ID:+Gkhv7lWo
937 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/08/17(月) 00:52:17.49 ID:IHuDNWy0O
久しぶりに投稿来てたと思ったらなんだか趣向が変わったのかな?これじゃないって書き方で…
938 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/12/16(水) 12:36:14.81 ID:g0F72HIno
まだかなー
読者様()の声気にせず今まで通りの続き待ってます
939 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/01/26(火) 10:36:47.18 ID:3HVfbF9+o
940 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/08/18(水) 08:05:46.88 ID:XOKMFNjpo
待機
941 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/02(水) 22:09:51.86 ID:pFIuXi+uo
942 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/21(月) 07:59:22.51 ID:chSqu/uAO
ほしゅ
943 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/07/05(火) 04:02:40.38 ID:TlMAbIL40
保守
944 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/07/30(土) 06:16:26.25 ID:w7ZUY/D30
はい
945 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/04/22(土) 22:45:45.53 ID:90u/NGitO
流石にもう厳しいか?
946 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/14(木) 05:26:54.82 ID:zZ2HOdTfo
保守
947 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2024/03/19(火) 20:11:53.27 ID:Cd2Lx5Zh0
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