少年「俺のクラスは亜人だらけ」

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1 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 11:58:50.63 ID:uvoRIYNt0
このSSは男「僕の生徒は亜人だらけ」の番外編です。

更新頻度は遅いですがよろしくおねがいします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1520564330
2 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:06:54.18 ID:uvoRIYNt0
人生が変わるきっかけなんていくらでもある。

ただそれが良い方向なのか悪い方向なのか。どっちに転がるかだなんてわかりやしない。

この選べやしないきっかけを俺は運命と呼べばいいのだろうか。

誰かが言った。人間は運命の奴隷だと。選ぶ権利のない選択肢を突きつけられるのだからその通りだ。

親を殺され復讐に走る子供を見た。

金持ちに拾われ娼婦として生きる女を見た。

どれも些細なきっかけだ。少なくともこの場所では。

ただきっかけが些細だとしても結果は些細なんかじゃない。

復讐は遂げられず遺体は道端に晒された。

肉体の旬を過ぎた女は捨てられ、路頭に迷った。

理不尽に迫られ、人生を動かされる弱者の集まり。

それがこの場所。

特別保護地区と名付けられたこの場所だ。

ほんの些細なきっかけに運命を翻弄される奴らの集まり。

俺のきっかけは一つの数式と一杯の暖かいスープだった。
3 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:13:12.68 ID:uvoRIYNt0
役立たずと呼ばれていた。

俺の名前だ。

この場所ではその日を生き延びることしか皆考えていない。

大切なのは作り方と手に入れ方。

種をまいて育てる力。

それを奪う力。

胃を満たす以外の力に価値なんてない。

そんな中でなにも生み出さない数式を解き続ける俺は確かに役立たずだ。

今日も俺はカリカリとろう石で煤けた煉瓦に数式を書き続ける。腹は減るばかりで体は不自由になるばかり。

ただ頭と心だけは満たされていく。

ガリリッ

小指の爪より短くなったろう石がついに砕け散った。

少年「………新しいの探さないとな」

グゥゥ

腹の虫が鳴いたがろう石の方が重要だ。

このまま数式に囲まれて安らかに死ぬことが俺の些細な抵抗なのだから。
4 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:23:42.08 ID:uvoRIYNt0
カツン

石が壁に跳ね返る音がした。

建物に囲まれたこの中庭に来るものは少ない。

いや一人だけだと言ってもいい。

数に囲まれたこの不気味な場所に入ってくるのは一人だけだ。

メイド「少年」

メイド服を着た少女。俺よりも年下のくせに俺よりも立派に生きている。

なぜだか知らないがときおり俺に食糧を届けてくれる。化粧の下にうっすらと見える頬の色を見たら自分だって満足に食べれてないだろうに。

その礼として簡単な勉学を教えてやってるが、釣り合っているようには思えない。恩返しでもするべきなのだろうが俺にはその術がこれしかない。

少年「今日の勉強か? すまないがろう石がなくなっちまってな」

メイド「いえ違います」

少年「なんだ。荷物運びか? でもお前の方が力は―――」

メイド「買われました」

その言葉に俺は一言「そうか」しか返せなかった。

誰かに買われた方がこんな場所にいるよりかはマシな生活が送れるかもしれない。他の隷属婦よりは器量があるはずだ。悪いようにはならないだろう。

少年「なかなか買われなかったもんな。やっと買われたか」

なんとか軽口をはきだすもメイドの表情はぴくりとも変わりゃしない。

メイド「価値なしと判断される前に買われて良かったです」

価値なしと判断された隷属婦は娼婦に落とされる。その前に買われたことは運が良かったのだろう。

ただ隷属婦が娼婦のように扱われないとは限らないが。

女の魅力を感じないメイドの体ならそうなることはないだろうが。いやそういうのが趣味の奴もいると聞いた。

………心配しても意味がない。メイドがどうなろうと知ったこっちゃない。

自分のためにだけ生きる。それが当たり前で、ルールなのだから。
5 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:27:21.90 ID:uvoRIYNt0
少年「まぁ、頑張れよ」

メイド「はい。今までありがとうございました」

メイドはぺこりと頭を下げて元来た道を戻って行った。

今思えば俺はメイドに家族愛を感じていたのかもしれない。

酷く寂しい痛みが、空腹よりも辛い痛みが堪えた。

少年「ろう石………探しにいくか」

メイドの姿が見えなくなってから中庭を出る。

すぐにろう石は見つかるだろう。珍しくもなく、さして欲しがられない物だから。

見つけたらすぐに中庭に戻ろう。

そして一人、数式を書き続け力尽きよう。
6 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:33:36.85 ID:uvoRIYNt0
この日に限ってろう石は見つからなかった。

いつもならすぐに見つかるだろうに、不思議と影も見えない。

路地をさまよい続けた俺はいつの間にか特別保護地区を抜け出していた。

人権をほとんどはく奪された第二種人間である俺がここでどんな目にあっても文句は言えない。

急いで戻らなければ。

踵を返して腹立たしいことにこの場所よりは安全な特別保護地区へと戻ろうとしていた時だった。

重い車輪が転がる音と馬のいななきが聞こえた。

音をした方を向くと猛烈な勢いで走ってくる馬車。その行く先に俺がいた。

避けるべきなのだろう。避けるべきだ。避けなければ。

脳が警鐘を鳴らすが栄養不足で痩せ細った体が上手く動かない。

立ちすくんだ俺は目の前に迫る馬の毛並を観察した。

こんな死に方はしたくなかったが仕方ない。

できることなら途中の数式を解き終わりたかった―――。
7 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:41:03.14 ID:uvoRIYNt0
ドッ

衝撃は思ったよりも軽かった。

俺の体は宙を飛び、夕焼けがひどく眩しい。

そのままゆっくりと俺の体は地面に向かって落ち―――

なかった。

「何を思ってこの私の進路を妨害した」

誰かに抱えられていた。

白髪赤目の壮年の男が俺を見る。俺はその男の腕の中にいて。

「もう一度問う。なにゆえに私の進路を妨害した」

少年「あ……あんたは?」

ベーラ「ロード家嫡男。ベーラ・ロードである!」
8 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:48:40.72 ID:uvoRIYNt0
少年「妨害したつもりはない。よけきれなかっただけだ」

ベーラ「ふむ。その軟弱そうな体ではたしかに道理。弱者の道理はその弱者故と言える」

バカにしているつもりはないのだろうが、口調、抑揚、肩の竦め方まで偉そうだ。

ベーラ「見ればおそらく第二種の人間。なぜ巣を抜け出した」

巣? あれが巣なものか。落ち着ける場所なんてありやしない。

少年「ろう石を探しに、ここまで来た」

ベーラ「ろう石? そんなものでどうする。お絵かき遊びにでも興じるのか?」

少年「数式が途中なんだ」

ベーラ「! これは驚いたぞ。野生のままに生きると言われる醜悪な第二種が数式と言ったか!」

ベーラ「その言葉は知恵者の宝具よ。なにゆえにそれを望むか。疾く答えよ!」

少年「数学は楽しい。いつだって正しい。あの場所で正しいことなんて数式だけだ」

ベーラ「賢人を気取るか第二種よ。これは面白い。これは面白いなぁ!」

ベーラ・ロードがくつくつと笑う。ひとしきり笑うとベーラは大きく目を見開いた。

ベーラ「我に隷属せよ第二種!!」
9 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 12:57:14.06 ID:uvoRIYNt0
少年「俺を買うのか?」

ベーラ「いいや、買いはしない。だが対価を求むのであれば差し出そうではないか」

そういってベーラ・ロードは俺を地面に放り投げてから両手を打ち鳴らした。

どこからともなく従者らしき人が現れ、俺にマグカップを差し出した。

ベーラ「さぁ! 受け取るがよい!!」

ばっと気取りながら片手を俺に向ける。

そのマグカップの中には湯気を立てるスープがなみなみと注がれていた。

嗅覚を通じて脳を犯す香りは空腹を耐えきれないほどに膨らませた。

気が付けば俺はそのスープを飲み干していた。

諦めていた生への欲求がよみがえる。野生のままに生きると言われてもしかたないほどに俺は欲求を抑えきれないでいた。

ベーラ「くつくつくつ。まるで犬よ!」

ベーラ「だが吸血鬼に犬が従うのは道理。さぁ契約は成立した!」

ベーラ「我に従い我のために死ねぃ!!」

この日。俺はたった一杯のスープと引き換えに吸血鬼に自分を売り渡した。
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/09(金) 14:05:45.30 ID:8zqP9HGZO
こっちも期待
11 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 15:51:44.52 ID:GJ/1N4KX0
それからというもの俺は勉学のみならず運動、社交界でのマナーなど全てを叩きこまれた。

時には鞭で叩かれることもあった。まるで犬を躾けるかのように。

それでもあそこよりはマシだった。食事は出るし、何も気にせず勉強ができる。

他者にとっては地獄かもしれないが俺にとっては天国だった。

少年「ふぅ……こんなもんかな」

ろう石より簡単に、細かな字が書ける鉛筆という道具を置く。上等な紙には今日勉強したことが纏められてあった。

コンコン

ドアがノックされる。返事をする前に間髪入れずドアが開けられた。

「起きてるかしら。駄犬」

起きているも何も時刻は昼。吸血鬼にとっては深夜に等しいが俺は人間であって昼の起きていることが普通だ。

入ってきたのはベーラと同じく白髪赤目の少女。ベーラの妹のミレイア・ロードだった。

吸血鬼であるが学園と呼ばれる勉強を学ぶ施設に通っているらしく昼型の生活を送っている。

しかしどうも辛いらしく目の下にはひどいクマが見える。

少年「どう、しました。ミレイア、さま」

敬語にはまだ慣れない。目の前の少女が幼く見えるのもあるだろうが。

ミレイア「良い報せともっと良い報せを持ってきてあげたわ」

したり顔で俺を見るミレイア。こういった顔をしている時のミレイアは面倒事を持って来る時だ。

また何か面倒事をと思っているとどうやら顔にでていたらしく酷く頬を叩かれた。

ミレイア「良い報せはあんたも学園に通えることが決まったわ!」

少年「………それは、どういう」

ミレイア「そのまんまよ。お兄様があんたを学園に通わせることにしたの」

それは本当に良い報せだ。より良い環境がもらえるのなら望むことは他にない。

ミレイア「もっと良い報せはね」

ミレイアは大きく息を吸い込んで勿体ぶりながら言った。

ミレイア「あんたがこのミレイアちゃんの義弟になれるってことよ!」

絶句だった。

理解できずに口を開けて呆けているとミレイアはそれを感激のあまりに言葉もないのであると思ったらしく満足そうに息を吐いた。
12 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 15:59:27.74 ID:GJ/1N4KX0
どうやら学園に通わせられることによってロード家の名を背負わなければいけないらしく、形式上だけはロード家に加わることになったらしい。

奴隷としては破格の待遇ではあるがそれが結局何になるわけでもない。

ミレイア「弟は昔から姉の奴隷と言うわ。つまりあんたはミレイアちゃんの命令に絶対服従ってわけ。いいわね」ニヒヒ

これも特に変わっていない。

ミレイアは俺がこの家に来た当初から俺に無茶なことをさせてそれを楽しんでいた。いやもっとひどくなるかもしれないがまぁそれはそれでいい。

こんな我が侭な奴だがその存在に救われている部分もあるのだ。

俺が起きてる間にいるのは喋りかけても事務的にしか反応を返さない使用人とミレイアだけ。

口では高圧的だが一応配慮をしているということも知っている。

本当一応ではあるが自慢の義姉、ということになるのだろう。

ミレイア「あら、これ間違えてるじゃない。ロード家の名を背負うからにはうんたらかんたら」

少年「合ってますよ。ほら」

ミレイア「〜っ! ちゃ、ちゃんと指摘できるなんて勉強はしっかりしてるみたいね! 精進なさい!」

バシンッ

少年「ぐっ」

理不尽で俺よりも頭の悪い姉だが………まぁ、自慢の姉ということにしておこう。
13 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 16:06:29.24 ID:GJ/1N4KX0
学園に入るのはいきなりだが次の日だった。

使用人に起こされ、いつの間にか用意されていた服に袖を通す。

少年「………忘れ物はないかな?」

忘れ物なんて当日にあるわけないがそれでも一応鞄を見てみる。

筆記用具とノートとハンカチと幾許かの金。必要なものは全てある。

準備万端である。それでは学園に向かおうと珍しく高鳴っている胸を押さえながら部屋から出―――

バンッ!

少年「うぐぁっ」

ミレイア「ミレイアちゃんが起こしに来てあげたわよ! 感謝なさいって、なんで床で寝てるの?」

少年「い、いえ。なんでも」

実際はミレイアが開け放った扉が猛烈な勢いで俺にぶつかったために倒れたのだが言い返すこともできず鼻を抑える。

ミレイア「まぁなんでもいいけど爺やが車を出すから急ぎなさい」

少年「準備はできてます」

ミレイア「そ。それじゃあ行くわよ」
14 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 16:20:15.72 ID:GJ/1N4KX0
黒く長い魔導車に乗り込む。使用人であればミレイアと同じ席に座ることはできないがそこはまぁ一応義弟らしくミレイアの隣(と言っても長い椅子の端だが)に座る。

ミレイアの顔をちらりと見ると新学期が始まったらしくうきうきと表情が弾んでいる。

まぁなんともよく動く口と表情筋だこと。

魔導車が走り出すとミレイアは楽しそうに足をぱたぱたと動かしていた。

ミレイア「勉強は十分かしら? ロード家の名に恥じない優等生ぶりを見せつけることね」

少年「大丈夫だ、です。今までの勉強のほうがずっと難しいですから」

実際そうだ。おそらく学園の方が優しく簡単だろう。だがそれは俺以外にも当てはまることできっと切磋琢磨していくことになるのだろう。

ミレイア「そうそう。分かってると思うけど第二種なんてことばれちゃいけないわよ。あんたはあくまでも第一種の人間でロード家の養子になった少年。いいわね」

ミレイア「とくに刻印は誤魔化しようがないから絶対に見せないこと!」

刻印。識別印と呼ばれる焼印。第二種のみに押される生まれながらの烙印。

目立つものではないが見られれば即第二種ということがバレる。俺の刻印は運よく右胸で隠しやすい場所であるが、隠しやすいと言っても暴かれやすい場所でもある。

まぁ、下着を脱がなければバレないし始めから疑りかかってくる奴もいないだろう。

注意して過ごせばいいだけ。ただそれだけだ。

ミレイア「ついたわよ。降りなさい」

魔導車から降りるとそこには巨大な建物と敷地が広がっていた。感嘆の思いに耽っていると大きいとはいえ狭い車内を器用に走って助走をつけたミレイアがドロップキックをしてきた。

ミレイア「靴が綺麗になったわね。ありがと」

そういって俺の上からぴょんと飛び降りててくてくと歩いて登校するミレイア。

………ロード家の名に恥じぬとはいったいなんなのだろうか。
15 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 16:56:43.38 ID:GJ/1N4KX0
入学式というものがあるらしい。道も知らない場所だが案内があったので迷うことはなかった。

案内に従って行くとこれまた巨大な建物。講堂と書かれてある。どれだけのお金があればこんな建物を建てることができるのだろうか。

見回していると生徒の数が増えてきた。どうやらもうそろそろ始まるらしい。

何をすればいいかは中に入ればわかるだろう。

少年「にしても、多いな………」

なんという人口密度の高さ。息がつまりそうだ。

それに人間なんてのは数えるほどしかいない。それも全員第一種の人間だろう。

第二種の人間は俺だけ。

前までは第二種に囲まれていたというのにな。

疎外感を覚えるものの表情には出さない。どうせここじゃあ種族なんてもんは関係ないだろう。

人間も少ないと言えど珍しいものでもない。ただ冷静にいつも通り行動していればいいだけだ。

壁に張り出されている紙に自分の名前を見つける。どうやら2組らしい。

2組の列に並び椅子に座るとざわざわとまわりの声が耳に入った。

標準語から方言らしきものまでまとまりのない言語がここにいる者が各地から集まっているということを教えてくれる。

「やぁやぁ☆ ここ座っていいかな?☆」ピコピコ

いきなり声がかけられた。その主は淡い桃色の羽を持ったハーピーだった。独特の抑揚で隣の椅子に座っていいかを求めている。

少年「構わないが」

「やたっ☆ありがと☆」ピョンピョン

少年「俺の椅子でもないから別に許可は取らなくていいだろうに」

「でも隣に知らない人が座るのが嫌な人っているじゃん☆ あ、私はオルレアンだよ☆ オルレアンちゃんって呼んでな☆」ビヨン

少年「俺は少年だ。よろしくなオルレアン」

オル「恥ずかしがんなって☆」グイングイン

少年「ところで」

さきほどからずっと気になっていたのだが、頭の上で縦横無尽に動き回るその

少年「寝癖? があるぞ」

オル「寝癖じゃねぇ★ 冠羽だ冠羽! か・ん・う!」

固まった笑顔でオルレアンは俺の背中にビンタを繰り出してきた。ミレイアの蹴りよりは痛くないがそれでも鋭い爪が痛い。

「それはアホ毛じゃないのか」

「アホ毛。萌え要素の内の一つではあるが実際に見てもそれほど萌えはしないだろう」

オル「うるせぇバカども★!!」

いきなり現れた二人をオルレアンが返す爪で切り裂く。二人の男………!?

一人は東国にあるような服を着たリザードマン。そしてもう一人、一人と呼んでいいのかわからないが服と眼鏡だけ宙に浮いていた。

しっかりと悲鳴は二人分聞こえるためにそこにいるということは分かるが

バジロウ「お、見ない顔だな! 俺はバジロウ。一流の料理人になる男だ! ん? なに変な顔をしているんだ? あぁ、こいつはノヘジ。見てわかる通り。いや見えないんだが透明人間だ」

透明人間。聞いて分かる通り透明な人間。人間とつくが人間でないことは分かるが

少年「初めてみた………」

ノヘジ「熱い視線を向けてくれるのは構わないがどうせなら美少女に見られたかったと言わざるを得ない」

バジロウ「この通りアホだ」
16 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 17:06:02.39 ID:GJ/1N4KX0
少年「三人は知り合いなのか?」

バジロウ「中等部からの知り合いだ」

オル「腐れ縁ってやつだな☆」

ノヘジ「どうせなら美少女と縁を育みたいものだ」

オル「ここにいるだろ☆」バリィッ

ノヘジ「けヴぃんっ!」

変な悲鳴をあげながら倒れこむ服と眼鏡、もといノヘジ。

足元からしくしくと泣き声が聞こえるのは不気味であるのでノヘジを助け起こす。

オル「美少女に向かって失礼だぞ、ぷんすこぷんすこ☆」

頬を膨らませて憤慨するオルレアン。その頭の上ではアホ毛が猛烈に動いていた。

オル「美少女だよな☆ バジロウ☆?」

バジロウ「あ、あぁ………」

バジロウの青い鱗が更に青ざめて見える。どうやら逆らわないほうがいいらしい。

オル「少年もそう思うだろ☆」

セクシーに見えないセクシーポーズをとりながらオルレアンが俺に向かって投げキッスをする。

さきほどのような惨劇にあいたくはないが………

1.オルレアンの容姿を賞賛する

2.頷いておく

3.否定する

>>17
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/09(金) 17:11:47.76 ID:U6P6XK4YO
2
18 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 17:45:11.95 ID:GJ/1N4KX0
ここは頷いておこう。バジロウに倣って曖昧な返事をしておく。

オル「よしっ☆」

オルレアンの好感度【2】

オルレアンは満足そうに頷いて腕を組んだ。

バジロウ「もうすぐ始まるぞ。大丈夫かノヘジ」

ノヘジ「わ、わが生涯に、悔い、あり」ガクッ

バジロウ「ノヘジィイィイイイイッ!!」

後ろから聞こえる寸劇を聞き流してオルレアンに倣って座る。雑音はしだいに静まり全員が自然と檀上に集中した。

カランカランとハイヒールの音を響かせ女性が檀上へと上がる。

背中に備えた一対の黒い羽。顔の半分を覆う面頬。着物のような服に朱色の高下駄ととにかく目を引くいでたちだった。

無機質な足音はハイヒールではなく高下駄のものだったらしい。

女性は檀上にある演台の前で止まると面頬を外し生徒を見回した。

その目は鋭く、小さい口はきりりと引き締まっており真面目で厳しそうな雰囲気を覚えた。

すうと大きく息を吸うとかなり広い講堂の端から端まで響き渡るような低く大きな声でこう言った。

「我が校の高等部へようこそ。進学した者も入学した者もいるだろうが先に居たからと言って偉いわけではない」

「切磋琢磨し、己を高みへと羽ばたかせる者こそ偉いのだ。我が校に入ったからにはそのことを肝に銘じてくれることを信じている」

「我が校では主に勉学を教える。しかし勉学は義務ではない。だからこそここへ来た諸君は義務以上に勉学に取り組んでくれることだろう」

「勉学以外にも部活動に所属することもいいだろう。部活動は諸君が経験できる唯一の社会経験であると言ってもいい。勉学をおろそかにすることは許されないが入って損はない。私は陸上部、航空部門の顧問もやっているから興味があるものは覗いてくれ」

「………話がそれてしまったな。話を戻して諸君らに与えられる自由は今まで以上のものとなる。だからこそしっかりと選択をし諸君らの自由により良いものを詰め込んでいってくれ」

「さてと、話は短い方がいいだろう。私の無駄な話で諸君らの貴重な青春を奪うわけにはいかないからな。最後に謝辞だけ言わせてもらう」

「諸君、おめでとう。知っている人は知っているだろうがこの学園の現学園長。テラス・カルラインだ」
19 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 17:52:51.10 ID:GJ/1N4KX0
周囲に倣って拍手をする。

学園長は面頬をつけ直し檀上の隅へと消えて行った。

オル「よし、それじゃ教室行くか☆」

少年「え、もう終わりなのか?」

オル「テラス学長の座右の銘は神速を尊ぶだからな☆ 誰かに無駄なことされるなら自分で無駄な事したほうがましってスタンスだぞ☆」

バジロウ「語弊がある気がするがおおむね間違ってないな。少年は入学組だろうから教室を案内してやるよ」

少年「それは助かる」

これだけの人数だ。いくら列になっているからと言って迷わないわけではない。他の列に紛れ込んでしまって別の教室にたどり着くということもありえる」

バジロウ達と話しながら教室へと向かう。

こんなに喋ったのは人生で初めてかもしれないとふと思った。
20 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 18:10:00.63 ID:GJ/1N4KX0
教室の広さはおおよそ生徒100人が満足に過ごせるほどの広さだった。黒板を中心に扇形に席が広がっている。

この規模のクラスが何十もあるのだからこの学園がどれだけ大きいのかを知れる。

バジロウ「まだ座席は決まってないみたいだな。適当に座っとくか」

ノヘジ「ふむふむ」

少年「なにやってるんだ?」

ノヘジは真剣な表情(をしていると思う)であたりを見回してメモをとっていた。

ノヘジ「素晴らしい女の子がいないかチェックしている。大切なことだろう」

少年「あぁそうか…」

会って一時間もたってないがこのノヘジという男の人となりが分かった気がする。

ノヘジ「例えば………あの女子なんかレベルが高いな」

指をさした先に居たのは巫女服を纏った女性。見える右手は包帯に巻かれているが怪我をしているのだろうか。

つややかな頭には二本の立派な角があるがなんの亜人だろうか。牛?

ノヘジ「向こうの子もレベルが高い」

次のノヘジが指をさした先にいたのはケンタウロスの女の子だった。ショートカットで活発そうな印象を受ける。

馬の部分は鹿毛でつややかに光っている。じっと見ているとこっちに気付いたらしく顔を赤く染めて顔を背けた。

ノヘジ「………くっ」

少年「どうした」

なぜかノヘジが悔しがっていた。
21 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 18:15:15.87 ID:GJ/1N4KX0
オル「なにバカなことしてんだ、おい★」

俺はバカなことをした覚えはないがオルレアンが怖い顔をしているのでノヘジの後ろに下がる。

オル「やっぱお前が原因か★」

ズバンとオルレアンの爪が炸裂する。ノヘジは再び変な悲鳴を上げて倒れこんだ。

傍から見れば奇行だが騒ぎにならないあたり中等部からこの調子らしい。

ノヘジ「う、裏切ったのか。少年、よ」ガクッ

少年「裏切ってねぇよ」

オル「美少女ならこのオルレアンちゃんで充分だろ☆」

再びオルレアンがセクシーに見えないセクシーポーズをとる。

ノヘジ「………青と白の縞パン!」

オル「見てんじゃねぇよ★!!」

倒れながらオルレアンのスカートの中を凝視しているであろうノヘジの顔がオルレアンの足で思いきり踏みつけられる。

あれは痛そうだ。

バジロウ「援護はできないぞノヘジ」

少年「言い訳ができないな」

そのままノヘジは寝転がったまま静かになった。

気絶したらしい。
22 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/09(金) 18:32:47.14 ID:GJ/1N4KX0
少年「っ!」ブルル

バジロウ「どうした?」

少年「ちょっとトイレに行きたくなってな」

バジロウ「トイレはすぐそこだがもうすぐ教師が来るだろうから急げよ」

少年「あぁ」

小走りで教室から出ていく。言われた通りトイレはすぐそこにあって急な尿意は解消された。

手を洗ってハンカチでふいているとどこからか困ったような声が聞こえた。

「だ、誰か助けてほしいです。助けて欲しいのであります」

消え入るような声な助けを求める声に気付いた者は俺しかいないらしい。声を辿るとそこには前髪ぱっつんのおかっぱ少女が廊下に座り込んでいた。

少年「どうかしたか?」

「!」

声をかけるとぐるんとこっちの方を勢いよく向く。

その両目から涙が今すぐ零れそうで事情を知らない第三者には俺がこの少女を泣かせているように見えるだろう。

そうなっては敵わない。といっても声をかけた今逃げ去るわけにもいかないから早いとここのトラブルを解決してしまおう。

少年「なにか困りごとか?」

「助けてくれるのですか? 私を助けてくれるのですか?」

少年「あぁ、迷惑じゃなければだが」

「迷惑ではありませんです! 誰も助けてくれなくて困ってたのであります!」

バッと両手を広げる彼女の腕にあるのは薄い飛膜。飛ぶ系の亜人か。

少年「何に困っているんだ?」

時間に余裕があるわけじゃない。はやいところ終わらせなければ。

「眼鏡が壊れてしまいまして……」

少年「見えないのか」

「人とかは超音波で見えるのですが、文字だけはどうしようもなく。クラスがわからないのでありますぅ」

少年「クラスか………(超音波?)」

教室は規則的に並んでいるのだからなんとか案内できるだろう。

少年「どこのクラスなんだ?」

「2組ですぅ」

少年「なら同じクラスだな。ちょうどいい」

「! 本当ですか! 助かるです!」

飛びついてぎゅっと抱き着いてくる少女。服の上からじゃわからなかったが意外とメリハリついた………危ない危ないノヘジの思考に汚染されている。

少年「あー。早く行くぞ。先生が来るらしいからな」

「はいっ。あ、名乗り忘れていたです。私はリューンです。コウモリのリューンであります!」

少年「俺は少年だ。見ての通り人間だ」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/03/09(金) 19:25:36.32 ID:zhgWL+l/O
乙ー
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/09(金) 20:09:29.54 ID:Dn6KIRkSO
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/10(土) 10:41:28.10 ID:0lcqS4Uko
期待
26 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/16(金) 10:33:20.49 ID:nAc8IF/I0
リューンを連れて教室に戻るとノヘジが復活しており、俺を見て血の涙を流していた。何もないところから血が噴き出ているために非常に不気味である。

というか、透明人間でも血は赤いんだな。

リューン「助かったでありますっ」ペコッ

噴き出る血に若干怯えたリューンが俺に一礼をしてそそくさと適当な席に座る。ノヘジに絡まれる前に離れて正解だろう。

バジロウ「もうそろそろ先生が来るからな。座ったほうがいいぞ!」

少年「席はどこに座ればいいんだ?」

オル「指定はないから私と座ろうぜい☆」

バジロウ「んにゃ、少年は俺の横だよな?」

少年「俺は………」

1.オルレアンの横に座る

2.バジロウの横に座る

3.二人の間に座る

4.リューンの横に座る

>>27
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/16(金) 10:34:36.74 ID:NRtU40Qg0
4
28 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/16(金) 11:04:51.04 ID:nAc8IF/I0
少年「あいつの隣に座るよ」

この二人の近くにいるのは楽しいが集中が出来ない。

といっても他の知り合いといってもさっきのリューンしかいないからな。

オル「え〜付き合い悪いぞ☆」

ノヘジ「もう女に手を出すとは………流石と言わざるを得ない」

バジロウ「モテ男ってのは実在したんだなぁ」

なんだか不名誉なレッテルを貼られたような気がするが気にせずにリューンの横へ行く。

リューン「うへへ、このクラスには美男美女が多くて、妄想が捗りますですよ♪」

少年「リューン、隣いいか?」

リューン「うひゃへあおぅ!?」

リューンに声をかけると素っ頓狂な声をあげ驚いていた。どうやら何かに集中していたみたいだ。

邪魔をしては悪かっただろうか。

リューン「な、なんですか。どうしましたですか?」

少年「隣座っていいか?」

リューン「あ、大丈夫ですよ。でもさっき話されてたハーピィの女の方の隣の方がいいんじゃないでしょうか」

リューン「異種族間の愛はじゅるるる、うへへ」

リューンの好感度【2】

少年「リューン?」

リューン「はっ! な、なんでもないであります!」

なんでもないなら大丈夫みたいだな。隣に座らせてもらおう。

ガラガラガラ

席に着くと同時に教室の扉が開いて赤い鱗をした派手で大柄の男が入ってきた。

男は教卓の前まで行くと、黒いファイルを教卓の上に投げ、クラス中を見回した。

おそらく教師だと思うが………見れば見るほど怪しくなってくるな。

「おう、全員そろってんな。なんだこのデンジェラスフェロモンむんむんのハイパーグレートモストハンサムな男は一体誰だって思ってる面してんな?」

アータル「見ての通り教師のアータル・オルファンだ。俺はそんじょそこらの教師の三倍はすげーからこのクラスになったからには他のクラスの三倍はすげーことしてやる」

アータル「ってことでよろしく!」

どこが見ての通りか分からないし、何が凄いのかよくわからない挨拶だったが教室中から拍手が上がったのでそれに倣う。

アータルは満足したらしくポケットから煙草を取り出すと、口に咥え火をつけた。そして一口で吸い切ると大量の紫煙を吐きだした。

今のところ教師らしき要素は一つもない。外部の者が侵入して教師を気取ってるんじゃないかとも思えてくる。

アータル「まずは学校の案内だが―――」

ふと横を見るとリューンは虚空を仰ぎながらにやにやと笑っていた。

その口からは涎が垂れているように見えるが大丈夫だろうか。

………表情を除けば容姿は良いと言っても差し支えないだろう。人間目線で見ればだが。

スタイルもさっきの事を思い出せば悪くないし………

いや何を考えてるんだ俺は、ここに来たのは勉強のためだ。恋愛のためなんかじゃない。

といっても人、衣食住が満たされれば色恋に興味が出るのも当然………

リューン「あの、少年殿? 私の顔になにかついてますか?」

少年「よだれ、垂れてるぞ」

リューン「うひゃあおぅっ」

いや、ないな。色恋は俺にはまだ早すぎるみたいだ。
29 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/16(金) 11:11:58.50 ID:nAc8IF/I0
アータル「―――ということで今日は終了だ。といっても帰っていいわけじゃないぜ」

アータル「分かってると思うがこの学園は広い。明日からは普通に授業が始まるが、講義が行われる教室まで案内してくれる奴はいねぇから自分で把握しとかなきゃいけねぇ。わからなくて遅刻しましたなんて言い訳にはなんねぇからな」

アータル「そのほかにも部活見学ももう始まってる。とくに決まってない奴は見学してみろ。案外楽しいことが見つかるかもしれねぇぜ」

楽しいこと、ねぇ。

あの世界に比べたら箸を転がしてもってのはないがたいてい何やっても楽しい。

この魅力的な世界で俺は一体なにをしていくのだろうか。

未来の俺はいったい――――――。
30 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/16(金) 11:18:41.23 ID:nAc8IF/I0
バジロウ「学園を案内してやろう!」

少年「は?」

帰り支度をしているとバジロウがいきなりそう言った。

後ろには宙飛ぶ眼鏡ことノヘジもいる。

バジロウ「俺らはもう学園の事は分かってるからな。案内してやるよ」

少年「資料で教室は把握してるから問題ない」

バジロウ「つれないこと言うなって。良くいうだろ百聞は一見にしかずってな」

ノヘジ「学園の建物は増設に次ぐ増設で入り組んでいる。資料で理解した程度じゃ遭難してしまうな」

少年「遭難って………」

所詮学園施設だ。常に誰かがいるだろうし、遭難するわけがない。

バジロウ「学園内で四日遭難した奴は見たことあるぞ」

少年「………」

ノヘジ「俺は一週間した奴を見たことがある」

………冗談、だよな?

バジロウ「ま、俺らに任せろって!」

ノヘジ「はっ、まさかすでに女性との約束を取り付けているんじゃないだろうか」

バジロウ「まじか、それなら俺らはお邪魔ってことか!」

少年「えっとだな」

1.案内してもらう

2.先約があると嘘をつく

>>31
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/16(金) 11:25:35.85 ID:ywzVZclwo
2
32 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/16(金) 11:31:26.22 ID:nAc8IF/I0
男「ちょっと用事があってな」

バジロウ「なら仕方ないな。俺らは部活の見学でもすっか」

ノヘジ「チアリーディング部を見学したいものだ」

とくに用事があるわけでもないのだがとっさに嘘をついてしまった。

集団行動が苦手だったってのもある。向こうじゃ基本一人だったからな。

二人が去るのを見届けてから鞄を持つ。資料を見ながらなら一人で一通り見回れるだろう。

そう思っていたのだが―――。
33 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/16(金) 11:39:29.01 ID:nAc8IF/I0
少年「………迷った」

見事に迷っていた。

問題は資料にのってない小道が多かったことだ。

隠し部屋に飲み込まれたり、怪しい邪教集団から逃げていると完全に見知らぬ場所へとやってきてしまった。

バジロウ達と行動していればよかったかと今さらながら後悔する。

でも建物だ。窓で外を確認できるのならいずれ外に出れるだろう。最悪下まで行ければ窓から飛び降りるだけだ。

そう思ってないとどうしようもないほどに俺は迷っていた。

少年「………お腹がすいたな」

金は少し持っているがそれを使う場所がなければ仕方ない。

学食があるとは聞いているがそこにいくためにもまずは抜け出さなければ。

とりあえず前進あるのみだ。

そう思って踏み出した矢先

ぐにり

なにか柔らかく弾力のあるものを踏みつけてしまった。

おそるおそるそれを見ると

黒い人「」

少年「―――っ!!」

血を流した黒い人「」

少年「う、あ、あ」

少年「うわぁあああああぁああ!!」
34 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/16(金) 11:44:22.74 ID:nAc8IF/I0
ねちょり―――

粘度のある赤色の液が糸を引いて靴に付着する。

これは、これは、これは。

理解の前に感づいた本能が警鐘をあげる。奥歯ががたがた震え視界がぼやける。

観察してはいけない。目を逸らさなければならないはずなのに眼球は頑として動いてくれなかった。

黒い羽、黒い服、高身長、男、血だまり、包丁

否定する材料が一つもない。

これは、

した―――

ガシッ

少年「ひっ!」

死体「ァああ」

動いた、痙攣なんかじゃない。俺の足首を掴んで

少年「ああぁああああああああっ!!」
35 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/16(金) 13:04:56.85 ID:nAc8IF/I0
意識はいつの間にか途切れていた。

キャパシティを越えた脳が強制的に意識を落とさせたのだろう。

あれは幻覚だったのだろうか。

気付かない間に迷ったことに対してストレスをかかえていたのだろうか。

いや、それでもあれだけリアルな………

トントン トントン

肩を叩かれる。

………一体誰だろうか。

瞼を開けるとそこには。

黒い男「あー、無事であるか?」

少年「〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?」

蜘蛛の男「だから先輩じゃ無理ですって、かえって逆効果ですよ」

大柄な男「フハハハ! 目が覚めたか小僧!」ヌッ

少年「――――!」ジタバタ

蜘蛛の男「オルキヌス先輩もです! 顔でかいんですから!」

オルキヌスと呼ばれた男「!?」ガーン

天使の女「やはり悪魔は害悪。根絶やしにしなくては」グッ

蜘蛛の男「元凶が何言ってるんですか! おとなしくしててください!」

ローブの人?「んー、口封じ薬できたヨー」

少年「ひ、こ、殺される…」

派手な女「あっ、口封じって漫画で見たことあるよ! キッスのことでしょ! 君! チューにはチューいするんだぞ!!」

黒い人「………」

天使の人「………」

顔のでかい人「………」

蜘蛛の人「………」

謎の人「………」

蜘蛛の人「………」

少年「………」

滑った人「なんかいってよぉ!!」
36 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/16(金) 13:05:39.80 ID:nAc8IF/I0
今日はここまでです。
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/16(金) 13:27:22.20 ID:0JkcGtObo
おつー
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/16(金) 13:28:10.38 ID:RtN8yu0NO

初めて生徒会メンバー全員揃ったな
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/16(金) 15:15:58.15 ID:NSRmeDhdO
副会長血みどろだけどそれでもちゃんと副会長として会長の下に就いてはいるのね
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/16(金) 16:14:39.15 ID:+re8rlb9O
殺し愛ってやつやな
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/03/16(金) 18:27:12.46 ID:B7xwcImeO
乙ー
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/16(金) 20:39:13.98 ID:DNLG4haWo
蜘蛛の人2回黙っててワロタ
43 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/21(水) 13:24:51.56 ID:lomSQdP90
空気が冷えたおかげで冷静に思考する余裕が生まれた。

目の前にいるのはおそらく悪魔、天使、鮫?の亜人、ローブを被った人?、鳥系の亜人、アルケニー。

駄目だ、半分以上は正確な種族が分からない。わかったところでなんだという話ではあるが。

全員心配そうに俺を見てることからどうやら害す気はないと思われる。演技だと言ってしまえばそれまでだが。

駄目だ、疑心暗鬼に落ちいってすべてが怪しく思えてくる。

少年「へくしゅんっ!」

寒い。春と言ってもまだ気温は低い。そんな中校舎で倒れていたのだろう。体は冷え切っていた。

鳥の人「寒いのかね? なら私が暖めてあげようか? 私の体は熱いからきっと、ほっとするよ」

蜘蛛の人「黙っててください。ダジャレが寒すぎて彼が風邪をひいてしまったらどうするんですか!」

鳥の人「がーんっ」

少年「あの」

起きてから気になっていたこと。さっきの記憶が嘘じゃないなら

少年「そっちの人。さっき死んでませんでした?」

悪魔「むっ、我のことか」

倒れていた人、血だまりに沈んでいたのはこいつだ。黒い羽、黒い服、身長。すべてが記憶と一致する。

なのに目の前のこいつはさっきまでの事が嘘だったかのようにぴんぴんしている。

天使「えぇ、さっき殺しましたよ?」

少年「やっぱり死んで………殺した?」

天使「はい。ぶすっと包丁でぐりぐりーってやりました。ぶい」

少年「………な、なぜ?」

天使「だって、ねぇ」

衝撃の告白をしている奴が恥ずかしそうに自分の髪をくるくると指で巻いて照れくさそうにこう言った。

天使「黒くてウザったいものが目の前でカサカサしてると駆除したくなるでしょう?」
44 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/21(水) 13:35:31.79 ID:lomSQdP90
何一つ共感できない犯行理由をぶちかましたこの女は「きゃっ、言っちゃった」的な恥じらいを出しつつも満足そうな顔をしている。

完全に理解できない思想。理解してはいけない思想。

今このご時世で、やりたいからやったなんて理由がまかり通るような世紀末な世界ではない。

なるほど、目の前のこいつはやばいやつなんだなと理解した体が勝手に後ずさる。

少年「た、た」

厳つい人「どうしたお前。そっちには窓しかないぞ。そうか外の空気を吸いたいのだな!」ポンッ

蜘蛛の人「なに言ってるんですか! 窓から飛び降りるつもりで―――「よくやるヨ?」うるさい人外!!」

飛び跳ねて窓枠に足をかける。外、目がくらむほどの高さ。

天使「あらあら、無謀な挑戦は青春の特権だけど、背中に翼がなければ飛ぶことは叶わないのよ?」

悪魔「自分の限界を試す姿勢! 良し!!」

厳つい人「青春は待ってはくれねぇ。止まるんじゃねぇぞ」

後ろには異常者。

どっちがマシか。もちろん空で―――

蜘蛛「あぁ! やばいっ!!」

パキンッ

飛び降りようとした足が動かなかった。恐怖でこわばったとかじゃない。ぴくりとも動かない。

いや足だけじゃない腰も、窓枠にかけた手も。

「14時38分現行犯。誘拐及び見たところ恐喝。被害者確保」

蜘蛛「あぁ、助かりましたよ! ヒョウカさ―――」

「封印凍結。対象べリア、セラフ、オルキヌス、セルリア、クレル、ヤツカ」

「―――――執行」

景色が瞬いて

―――真っ白になった。
45 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/21(水) 13:59:31.88 ID:lomSQdP90
「大丈夫ですか?」

俺を止めたもの。それは氷だったらしい。

一瞬で俺の体と窓枠をつなぎとめた氷に命を救われた俺は助けてくれた女性。

肌が白く、銀髪の秀麗皎潔然の美人だが表情と声の抑揚に乏しい彼女は風紀委員長、ヒョウカと名乗った。

差し出されたアツアツのホットミルクを啜っていると、ヒョウカは俺の横にちょんと腰かけた。

ヒョウカ「大変でしたね。新入生」

少年「はい…いったいあれはなんなんですか?」

奇人変人集団。ヒョウカによって凍らされた連中の正体は。

まさか変なカルト集団?

ヒョウカ「生徒会です」

―――生徒会?

こっちの世界の常識に乏しい俺でもわかる。生徒の代表で部活動を取り仕切ったり、生徒と学園の間の折衝を行ったりする団体。

ヒョウカ「あれが? と言いたそうな顔をしていますね。意外かもしれませんが、あれでも他の追随を許さないほどに優秀な能力を持つのです」

あくまで能力は、ですが。とその後に付け加えたことから生徒会がどのような扱いを受けているのかが分かった。

ヒョウカ「平穏な生活を送りたければ関わらない方がいい人種ではあります」

その時、ヒョウカの顔が少しだけ笑ったように見えた。

気のせいかもしれない。もしくは眉をひそめたのかもしれない。どちらにせよ変化に乏しく一瞬だったため判断のしようがなかった。

「委員長。対象の運びだし完了しました」

部屋の中から氷漬けにされた人達を運び出している人達の内の一人がこっちへやってきた。

鼻の長い仮面をつけていて、黒い翼が生えている。学園長とは隠れてる部分が逆だな。

ヒョウカ「ご苦労様。では貴方、部下に送らせましょう」

少年「いえ、そんなご迷惑なこと」

「いや、見たところ顔色が悪い。倒れたらいかんだろう。迷惑じゃなければ送らせてくれ」

声は低く、重く響くが安心感を覚える。悪い人ではないのだろうと感覚で思わせるそんな声だった。

少年「それじゃあ、よろしくお願いします」

カルラ「俺はカルラ。見ての通り鴉天狗だ。何か疑問や相談があれば遠慮なく話しかけてきてくれて構わない」
46 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/21(水) 14:10:22.83 ID:lomSQdP90
カルラ「今日は不幸だったな。生徒会に巻き込まれて」

少年「そんなに生徒会って問題を起こすんですか?」

カルラ「上二人が主に。というか副会長が会長に手をかける事件がほとんどだ」

少年「………俺、黒い人が死んでるの見たんですけど、どうなってるんですか?」

カルラ「悪魔って種族は群を抜いて生命力が高いらしい。それで説明できないような気もするがな」

あそこまで血を流して数時間後にはぴんぴんしてる。

常識じゃ説明がつかないし、生命力の問題にしても納得はいかない。

カルラにそう言ってみるが困ったような顔をして笑うだけだった。

結局、結論としては考えない方が良いのだろう、ということになった。

カルラ「寮か? 実家か?」

少年「家です」

カルラ「ふむ。では歩いていては遅くなるな」

カルラは頷くと軽々と俺の体を担ぎ上げた。

カルラ「飛んでいくぞ。場所を教えてくれ少年。どこへ帰りたい?」

ばさっと羽ばたいたかと思うと地面ははるか下。小さく遠くにロード家が見えた。

男「あ、あそこです」

カルラ「ん? もしかしてロードの家のものか?」

男「はい、一応」

カルラ「なるほど、噂になっていたロード家の養子とはお前のことだったか。ロード家なら目立つからわかりやすい」

カルラ「下を噛まぬように口を閉じていろ。怖ければ俺にしっかりしがみ付いていろ」

抱きかかえて飛ぶからには自信があるのだろうがそれでも怖いものは怖い。カルラにしがみ付くとカルラの体がかなり筋肉質だということが分かった。

カルラ「では行くぞ」

力強い羽ばたき。景色は見ないが身体に当たる風の強さでどんどんと加速していることが分かる。

その速度は朝乗った車より速いのだろう。あっという間に家へとついていた。
47 :亜人好き ◆HQmKQahCZs [saga]:2018/03/21(水) 14:17:16.93 ID:lomSQdP90
カルラ「では少年。困ったことがあれば風紀委員を頼るといい」バサッ

少年「ありがとうございました」ペコッ

カルラは親指を立ててにっと笑うと、翼を大きく羽ばたかせた。もの凄いスピードで空へ消えあっというまに米粒ほどの大きさになった。

しかし使用人以外いない家に入るのは気が引ける。

少年「あっ。ミレイアに帰ったこと言ってないな。どうしよう」

といってもまた歩いて学校へ行っては日がくれる。

結局叱られることを覚悟して家の前でミレイアに帰宅を待つしかないか………。
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/03/21(水) 15:58:25.22 ID:24VhEV6EO
乙ー
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/21(水) 16:18:38.12 ID:LaB2pu4VO
乙乙
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/21(水) 16:51:45.07 ID:J8EWpFTkO

オルカが団長になってて草
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/21(水) 17:32:28.56 ID:+wfM3iPU0
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/21(水) 17:58:28.06 ID:4LucsND/O
おつつ
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/05/03(木) 00:38:11.31 ID:xtmJJD7Ro
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