千歌「勇気は君の胸に」

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160 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:16:09.07 ID:OGx6MZSd0
曜「残り三体!!!」


曜の耳を焼き切った人形兵が同様の攻撃を仕掛けようとしていた。

発射まで数秒前―――



曜「二度も当たるもんか!!!」ボッ!!



水の鎖が人形兵の右手に絡みつき、引っ張り上げる
発射口を無理矢理隣に居る人形兵に向けさせた。

発射寸前のタイミングだ
緊急停止は間に合わない。



――ゴッ!!!!!!



放たれたビームは人形兵の胸元を貫いた。

すぐさま接近し、この人形兵も無力化する。



曜「――残り一体だ!!」
161 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:20:08.59 ID:OGx6MZSd0
視線を残りの人形兵の方向へ向ける。


……ここまでの流れは曜が脳内でシミュレーションした物と全く同じだった。

想定では残った人形兵との距離は数メートル。

水の鎖で足下を崩し、その隙に接近してトンファーで手足の関節を砕く算段だ。


だが、物事というのは想定通りに進む事の方が極めて少ない。
ここまで上手く進んだのは奇跡に近い。

実際は想定とは異なり人形兵は既に目の前に迫っていた

チェーンソーに改造された右腕を高々と振り上げている。



曜「やっば……これ避けられ――!?」グラッ



振り下ろされるチェーンソー。

雷の炎により切れ味が数段向上したこれは人の頭蓋骨程度なら一瞬で削り取るだろう。

一か八か、後方に倒れ込むように回避する。
162 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:24:25.07 ID:OGx6MZSd0



―――ブシャッ!!!!



チェーンソーの刃は曜の右肩を少し抉った。
多少血は出たが支障は無い。

しかし、咄嗟の事とはいえ避け方が致命的だった。

仰向けに倒れ込んでしまった故、次の攻撃を避ける事が出来ない。


――トドメの一撃が曜の顔面に襲い掛かる。



曜「うぅッ!!!!?」ゾワッ



無意味なのは分かっているが両手のトンファーで防御する。

死を覚悟した曜は思わず両目をギュッと瞑った。
だが……


曜「………あ、あれ……?」


お、おかしい……攻撃が来ない…?
チェーンソーの音も止まったぞ??


恐る恐る目を見開くと……



人形兵「……ガ、オゴ……ガガ……」

曜「な、なん……攻撃を止めた……?」
163 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:27:30.49 ID:OGx6MZSd0
人形兵「……ガ、オゴ……ガガ……」

曜「な、なん……攻撃を止めた……?」

人形兵「 ガ……ゴ、 ゴ……ジ………」

曜「何……何か言っているの?」

人形兵「 ォ……ド……ゥザ ……ン ………」

曜「……?」

人形兵「………………」

曜「……動かなく、なった」



曜「……はは、あははははは!!!」

曜「やった!! やった勝った! 私は勝ったんだ!!!」

曜「あはははは、ははは……は、は」

曜「そうだ……私は勝ったんだ。なのに――」


なのに何だろう……すごく嫌な感じがする。

この感覚……"何か取り返しのつかない事"をしてしまった気が……
164 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:34:41.42 ID:OGx6MZSd0


――そもそもどうして私の実力で人形兵を倒せたの?

星空さんの仲間が倒せなかった敵だよ?

それを一度に五体も相手にしたにも関わらず
大きな怪我を負う事なく私は倒せてしまった。

――この人形兵がたまたま弱かった?

……そんなはずは無い。

仮にも国が作った兵器だよ。

大きな個体差があるとは考えられない。

――なら、実は私の実力は星空さんの仲間よりもあったって事?

……一番有り得ない。



曜「……考えるのは後でいいや。今は一刻も早く千歌ちゃんに追いつかなきゃだよね」





「――凄いな、この数の人形兵を倒せるとは思わなかった」





バッと声のする方向へ振り向く。

そこには日本刀を握り、白ワイシャツを返り血で真っ赤に染めた むつ の姿があった。
165 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 01:35:28.70 ID:OGx6MZSd0
今回はここまで
166 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/05(水) 02:06:40.18 ID:OGx6MZSd0
前回の文章はダッシュ記号が文字化けしちゃって「??」になってましたね……確認不足でした
167 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:25:52.19 ID:EDQYlBtw0


曜「っ!? どうしてあなたが……っ!? 星空さんと戦っているはずじゃ―――」

むつ「どうしてだって? それは愚問だよ」



そう言うと彼女は曜に切断された人間の右手を見せつけてきた。

その右手の中指には晴のモーメントリングがはめてあった。



曜「星、空……さん……ッ」

むつ「本当は人形兵にするつもりだったんだけどね……あの人、自殺しちゃったからさ」

曜「――人形兵にするつもりだった?」

むつ「はい?」

曜「ちょっと待ってよ……人形兵(マリオネット)はロボットなんじゃ無いの!?」

むつ「ロボットだって? いやいや、人形兵はサイボーグだよ」

曜「だからロボットじゃ……」



むつ「――あ、まさか君……なるほどねぇ」ニタァ



曜「な、何だよ!!」
168 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:28:12.32 ID:EDQYlBtw0

むつ「そうかそうか、こいつは傑作だ! そりゃ敵の正体を知らなきゃ普通にブッ壊せるわな!! いやー無知って本当に怖いなぁ!!」ケラケラ

曜「無知って……何を言ってるのさ!?」


むつ「ふふふ、いい? サイボーグっていうのは身体器官の一部を人工物に置き換えた"改造人間"の事なんだよ。君の言っているのは完全に機械化された"人造人間"だ」

曜「だったら何だって……」

むつ「まだ分からないの? つまりお前が今壊したそれは"元"人間って事だよ! もっと言えば"元"星空リンの仲間だった人間だ」



曜「―――――………は?」ゾッ



むつ「ふふっ、その顔、星空リンも全く同じ様に青ざめていたよ」

むつ「そりゃ当然だよねぇ? 知らなかったとはいえ自分の仲間の頭をぶっ潰しちゃったんだもんなぁ」

曜「じゃ、じゃあ……星空さんの仲間が一方的にやられていたのは……」

むつ「変わり果てた姿だったとしても、仲間は殺せなかった。最も、私達もそれを見越してこの人形兵達を連れてきたんだけど」

むつ「まだ調整段階だったから十分な性能を引き出せていないけど、この町の反逆者供を抹殺するには丁度良かった」


曜「わ、私は……知らないうちに……ひ、人を……」ガタガタ

むつ「今更気にしてどうするの? そもそも"あれ"はもう人じゃ無い。壊しても人殺しにはならないよ」

曜「そ、そんなの詭弁だ!!」

むつ「何さ……気を使ったのに」
169 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:29:53.42 ID:EDQYlBtw0


曜「うるさい!! そもそもなんで……なんでこの町の人を襲った!!」

むつ「国の治安を脅かす勢力を排除するのが私達の役目。敵の態勢が整う前に叩くのは当然でしょう」

曜「この町の人々が全員そうだと言うの?」

むつ「いいや、排除したのはこちらが把握していた反逆者と人形兵に抵抗した者のみだよ。無関係の人間の命は奪っていない」


曜「何を言っているの……?」


むつ「ん?」

曜「無関係の人間は殺していない? 何人も殺したじゃないか!!」

むつ「何をデタラメを……人形兵にその様な命令は出していない」

曜「実際に殺されているんだよ!! あの姉妹だってまだ子どもだったのに……っ!!」

むつ「こ、子ども……だって……?」ゾワッ

むつ「そんなバカな……調整段階とはいえ人形兵への命令プログラムは完璧だったはず……」



曜の聞いて、むつ はほんの一瞬だけ動揺した様な気がした。

しかしすぐに澄ました顔に戻り、信じられないセリフを言い放った。






むつ「……そう、ならその子達は運が無かったのね。だから死んだ」





曜「―――……は?」
170 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:34:13.14 ID:EDQYlBtw0


むつ「人形兵が直接手を下さなくとも、流れ弾や二次被害で致命傷を負う可能性は十分あるもの」

曜「運が悪かった……? 本気でそう言っている、の?」

むつ「ええ。そもそも人間がいつ死ぬかなんて誰にも分からないじゃない。交通事故で死ぬかもしれないし、階段でうっかり足を滑らせて死ぬかもしれない」

むつ「この町に住んでいなければ、この町に星空リンが来なければ、このタイミングにこの町に居なければ、どれか一つでも避けられていれば死なずに済んだのにね」

むつ「――…断言出来るのは、その姉妹は今日死ぬ運命だった。ただそれだけよ」



曜「―――。」



――人間はいつ死ぬか分からない?

それは理解できる。


でも、あの子達が死んだのは運命だって?

それを あなた が言い切ってしまうの?



曜「――……ざけるな」


むつ「何だって?」



曜「ふざけるな……ふざけんな!!!!! 人の命を何だと思ってるんだよ!!!!!!」

むつ「……」


曜「私は今まで自分の国がどんな事をしてた何て知らなかったし、知ろうともして無かった……」


曜「――だけど、今ハッキリ分かった。あなたは……"あなた達"は間違っている!!!」


むつ「間違っている、か……その宣言が何を意味するか分かっていて言ってるの?」

曜「当然だよ。人形兵と戦った時から覚悟は出来ている」

むつ「そう……」



むつ「――おめでとう、たった今から君も反逆者の一員だよ」カチャッ



むつは日本刀型の匣兵器『雷電』を構える。

雷の炎によりバチバチと帯電したその刀身は鮮やかなエメラルドグリーンに変色していた。
171 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:35:23.95 ID:EDQYlBtw0


曜「……ッ」


……一目見ただけで分かる
この人の強さは私とは次元が違う。

「やってみなくちゃ分からない」とか「可能性はゼロじゃ無い」とか
そんな淡い希望すら打ち砕かれた。

確信してしまった、私じゃ絶対に勝てない……。

――でも……


曜「――勝てないと分かっていても……逃げるわけにはいかないんだよ」ボウッ!!

むつ「青い炎か……それにしても随分と弱々しい炎だね」クスッ
172 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:42:22.98 ID:EDQYlBtw0

曜「うん、知ってるよ――!!」ダッ!!



走り出す曜。

同時に むつ の周囲に複数の水の鎖を生成し、彼女の体を縛った。


これには むつ も驚きを隠せなかった。

炎を使った技は以前に比べて発動までのスピードは格段に向上したとはいえ
一流の使い手でも発動まで一秒は要する。

戦闘中の一秒は気の遠くなるような長さだ。

故に多くの者が匣兵器を使用する。


対する曜の発動スピードはコンマ数秒。

発動スピードの一点に限れば守護者と同等のレベルだった。



むつ「だからこそ炎の弱さが非常に惜しい」バチバチッ!!!



リングの炎で体を縛る全ての鎖を断ち切る。


ほんの一瞬しか動きを封じられなかったが接近するまでの時間が稼げればそれでよかった。


曜は右手のトンファーに炎を集中させた。

弱い炎でも一点に集中すれば鋼鉄をも溶かす一撃となる。


曜の炎圧ではそこまでの威力にはならないがダメージを与えられる可能性は高まる。



曜「おおッ!!!!」ブンッ!
173 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:45:06.43 ID:EDQYlBtw0

むつ「………」ジッ



むつ はトンファーの攻撃を『雷電』の刃で受け止めた。

金属同士がぶつかり合う甲高い音は鳴らず
刃はトンファーに深々と刺さった。



曜「んな!!?」ゾッ

むつ「その程度の炎と武器で、私の『雷電』を防げると思ったか!!!!」



更に力を入れてトンファーごと曜の体を斬り落とそうとする。

曜は踵で地面を強く蹴り飛ばして距離を取った。



曜「な、何なんだよその切れ味!?」

むつ「この『雷電』は雷の特性を最大限引き出せるよう設計されているの。並大抵の武器じゃ紙の強度と大差ない」

曜「紙と同じって……滅茶苦茶だよッ!!」ギリッ

むつ「あなたの炎じゃ防ぎきれないのは今ので痛感したはずだよ。大人しくしていれば痛みを感じる事無く三枚おろしにしてあげるよ」カチャッ

曜「……それは勘弁して欲しいかな」


むつ「それはそうとさ、いいのそこで?」

曜「?」




むつ「――その距離、『雷電』の間合いだよ」




刀身に纏わせていた雷の炎が細長く伸びる。

疑似的な刀身は曜の体まで十分届く長さとなった。


それを腰の高さで真横に薙ぎ払う。



―――バチバチバチッ!!!!



曜「ウ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!!!?」ブシュゥッ!!



直撃した雷の炎が曜の全身をズタズタに引き裂く。

幸運にも致命傷は避けられたが余りの激痛に片膝をついた。




曜「ぐッ……がぁ、があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

むつ「やっぱり炎で伸ばした刀身じゃ切断は出来ないか」
174 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:50:13.37 ID:EDQYlBtw0


曜「はぁ、はぁ、はぁ……」ボタッボタッ


むつ「痛い? 大丈夫、そのまま動かなければすぐに解放されるから」


曜「はぁ、はぁ ……嫌だ、ね!」ボッ!!


むつ「……この期に及んでまだ抵抗するの?」

曜「当たり前じゃん。私は千歌ちゃんを追いかけなきゃいけないんだ。だから簡単に諦めて死ぬわけにはいかない」

むつ「心配しなくともすぐに向こうで会わせてあげるよ」


曜「だったら尚更諦められない! 千歌ちゃんは―――」







曜「―――……千歌ちゃんは私が守るんだから!!!!」







―――ゴオオッ!!!!




曜「えっ?」


むつ「何ッ!? ほ、炎の量が急上した!!?」

曜「な、なんでいきなり……?」



曜「……ま、まさか」グルッ











千歌「――…はぁ、はぁ、はぁ、っはぁ」ゼェ、ゼェ







175 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/13(木) 01:51:02.43 ID:EDQYlBtw0
また後日更新します
176 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 15:57:50.05 ID:Yipmq1y50



曜「なんで……なんで戻って来たのさ!!!?」

千歌「はぁ、はぁっ……、ご、ごめん!!」

曜「謝って欲しいんじゃない!」

千歌「そうじゃないよ! いや、確かに戻って来た事も悪いと思っていけど……そうじゃないの!」

曜「だったら何さ!?」


千歌「私は曜ちゃんを信じて先に行ったんだ。曜ちゃんが約束を破る訳が無い、曜ちゃんなら大丈夫だって自分に言い聞かせながら走ってた」


千歌「それなのに私……土壇場で曜ちゃんの言葉を信じられなくなっちゃった! 幼馴染なのに……本当にごめん!!」


千歌「曜ちゃんが戦うなら私も一緒に戦う。逃げるなら一緒に逃げる。私達はどんな時だって一緒じゃなきゃダメなんだよ!!」

曜「……」

千歌「曜ちゃん一人が傷つくなんて……私には耐えられない!!」

曜「……千歌ちゃんはそれでいいの?」

177 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:02:04.29 ID:Yipmq1y50
千歌「覚悟が出来てるから戻って来た……ッ!!」ブルブル




……覚悟は出来てるだって?


……そんなに震えているのに?



今まで殴り合いのケンカだってした事無いって話してたじゃん。

こんな大量な血も、死体も、人の死に際も

見たのはきっと今回が初めてだろうな。



普通の女の子ならとっくに逃げ出している。

心に深い傷を負ってトラウマになってしまうだろう。


それなのに千歌ちゃんは戻って来た。

恐怖で震える体を必死で押し殺して。

私の為に戻って来てくれたんだ。



……ああ、なんて強い子なんだろう。

誰にだって出来る事じゃない。

この子と友達になった向こうの世界の“私”が本当に羨ましいなぁ。








曜「千歌ちゃん!!!」

千歌「!」









曜「一緒に戦おう。千歌ちゃんと二人なら私、負けないから!!!」



178 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:03:16.30 ID:Yipmq1y50




むつ「…随分と強気だね。本当に勝てると思っているの?」


曜「当たり前だ!!!」ダッ!!




むつへ向かい迫る曜。

普通なら全身をズタズタに引き裂かれた痛みで動けないのだが
雨の“鎮静”で痛みを強引に打ち消した。

『雷電』の刃にトンファーが触れる。



―――ガキンッ!!!!



むつ「何ッ!?」



今度はトンファーが斬り裂かれることは無かった。

曜の“鎮静”が むつ の“硬化”を上回ったのだ。




キーンッ―――!!



キーンッ―――!!



ガキンッ―――!!



幾度となく打ち合う両者。

むつの剣戟に怯むことなく食らいついて行く曜。


むつは焦る。

剣の名門である園田家を打倒した自身の剣戟。

誰にも負けない確固たる自信があった。

それを無名の少女に見極められているのだ。



曜「うおおおおお!!!!」


むつ「し、しまっ…」
179 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:03:58.97 ID:Yipmq1y50



この動揺の隙を突く。

左のトンファーで『雷電』の斬撃を弾き飛ばし、右のトンファーをむつの胴体に叩きこむ。


むつ の体は後方に大きく吹き飛び、建物の壁へ激突した。



曜「っ……はぁ、はぁ……はぁっ……よしッ!!」

千歌「やった!」

曜「今のは手ごたえアリだよ! このまま押し切ってやる!」



180 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:12:53.60 ID:Yipmq1y50




むつ「………」



……いったいなぁ、もう。

ギリギリで炎の防御が間に合ったけど、雨の炎が雷の炎を貫くなんて。

『雷電』の刃も防御された。

炎の強さに圧倒的な差があれば有り得る。


でも、さっきまでのあの子にそれ程の炎圧は無かった。

オレンジ髪のアホ毛の子が来てから急激に炎圧が上がったんだ。

会話から察するにかなり親密な関係なのは明らか。



……守るべき人が来た事により覚悟の質が変わった?



炎圧(炎の大きさ)や純度に変化が出るのは覚悟の差だ。

人によって覚悟に該当する感情は異なり、合致した時に最大限の力を発揮する。

戦闘中に偶然合致するのはよくある話だ。



……だとしても、この子の変化は異常すぎる。



覚悟の変化だとかそんな次元の話じゃない。

まるで外部から力を供給されているような……

供給、そうか供給か。


むつ「……可能性は無くはないね。試してみよう」ムクッ

181 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:14:46.58 ID:Yipmq1y50


千歌「お、起き上がった!?」

曜「……ッ」ギリッ



むつ はチェーンで腰にぶら下げていた匣を手にする。

雷の炎を注入すると匣からは二匹の動物が飛び出した。



千歌「あれって……狐?」

曜「あ、アニマルタイプの匣兵器か!?」



むつ「―――開口、おいで……電狐(エレットロ・ヴォールピ)」



曜「そりゃ国の兵士だもんね……その匣兵器を持っていて当然か」

むつ「使うつもりは無かったんだけどさ、こっちも本気でやらなきゃダメかなと」


千歌「よ、曜ちゃん…」

曜「大丈夫、三対二になっちゃったけど問題無い」

むつ「問題無いですか……。本当にそうかな?」



むつ「行け!! 『電狐』!!!」



むつ の命令で雷の炎を纏った二匹の狐は高速回転しながら襲い掛かる。
182 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:19:00.25 ID:Yipmq1y50


曜「撃ち落としてやる! ……えっ?」



迎撃態勢を取った曜。

だが、二匹の『電狐』は曜の左右を大きく逸れていった。



……狙いが逸れた?



曜「……ち、違う!! この軌道はッ―――!!?」




―――ブシャッアアア!!!!!




……曜は激しく後悔した。

どうして直ぐに分からなかったんだ。

容易に予想できた攻撃だったはずだ。


でも、もう遅い。


千歌の全身から血飛沫が舞い、真っ赤な花が咲いた―――。
183 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:21:40.26 ID:Yipmq1y50




千歌「あっ……?」




目の前が綺麗な緑色でいっぱいになった。

かと思えば、一変して赤一色となった。

自分の体から何か噴き出している。

生暖かいお風呂に入っているような不思議な感覚。



自分の身に何が起きたのか。

自覚するまでに時間は掛からなかった。





千歌「い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああ!!」





雷の炎が私の体を斬り裂く。

顔を。腕を。腹部を。腰を。脚を。

皮膚を貫き肉を引き裂き血管を破壊する。




千歌「―――あ゛あ゛あ゛あ゛!!!! あ゛ッ、あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」




攻撃は一旦止む。

二匹の『電狐』は千歌の体から少し離れた。

自立するのに必要な筋肉を断ち切られた千歌はその場に倒れる。

地面には千歌の体から漏れ出た鮮血で円形の池を形成され、徐々に大きくなっている。

184 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:25:18.27 ID:Yipmq1y50


千歌「あがが……あ、ああ……」




……痛い。

……痛イ。

……イタい。

痛い。痛イ。いたい。イたい。イタい。いタい。

こんなの聞いてないどうしてこんな思いをしなきゃいけないの?

たえられないたえられない。無理むりムリむリムり。こえすらでない。

これぜんぶわたしの血だ。チ。ち。血血血チチチチちちちちち。

いたいしんジャう、いたいのイヤだ。

これじょうはムリイタイのいやだ。

たすけてようちゃんおねがいタスけて。

タスけてようちゃんタスけてようちゃんタスけてようちゃんたすけてたすけてたすけてたすけて―――


185 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:26:38.72 ID:Yipmq1y50



曜「……あぁ、ああ……」

むつ「やっぱりね。目に見えて炎圧が下がった」


曜「貴様ァァァアアアア!!!!!」

むつ「怒るなよ。サポート役を先に潰すのはセオリーでしょう?」


曜「千歌ちゃん!! 今そっちに行―――」

むつ「行かせると思う?」



―――ガキンッ!!



曜「くそッ!! 邪魔するなよ!!!」ギギギッ!

むつ「まだ防げるだけの炎圧は出てるのね」

曜「この……ッ!!」

むつ「でもさ、あの子の元に行ってどうするつもり?」

曜「あ゛あ゛!?」ギロッ

186 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:28:57.44 ID:Yipmq1y50


むつ「雨の炎じゃ痛みを取り除くくらいしか出来ない」

曜「……うるさい」

むつ「傷を癒せる晴の炎が無ければあの子は助からない。行くだけ無駄だよ」

曜「うるさい!!」

むつ「君の取るべき行動はただ一つ。炎圧が下がり切る前に私を倒す事でしょ。ほら、こうしている今もみるみる弱っているよ」

曜「うるさいって言ってんだよ!!!」




……言われなくたって分かってる。

千歌ちゃんを救う為には一刻も早くこいつを倒さなきゃいけないことくらい。

でも……ああッ!!

後悔と怒りで頭がどうにかなりそうだよ!!!


……どうする。

……どうする。

……どうする。

187 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:35:31.84 ID:Yipmq1y50


千歌「……よ゛、う゛……ちゃん」

曜「ッ!!?」

むつ「へぇ……まだ意識あるんだ」



残された僅かな力を振り絞り体勢を上げる。

大量出血により体温は著しく低下し唇は真っ青となっていた。



千歌「はぁ……はぁ、はぁ……ッ」

曜「千歌ちゃん! ゴメン! わ、私……ッ!!」



……ソウダヨ。ヨウチャンノセイダ。



千歌「大、丈夫……だから」



……全然大丈夫ジャナイ。



千歌「私なら……大丈夫、だから……ッ」



……コノママジャ死ンジャウヨ。



千歌「だ……から……か、って………」



―――ベチャッ



千歌「……」


曜「……ッ、ぁ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


曜「殺す! お前は絶対に殺す!!」

むつ「……言うだけなら簡単だよ。直ぐ行動に移さなきゃ」
188 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:37:22.37 ID:Yipmq1y50


千歌「………」



指一本動かせない。

痛みは感じなくなっていた。

心臓の鼓動も徐々に弱まってる。




……全部ヨウチャンノセイダ。

……違う。

……ヨウチャンガ守ッテクレナカッタセイダ。

……違う。


曜ちゃんは悪くない。

攻撃を躱せなかった私が悪いんだ。

そもそも、こうなる事も覚悟の上で戻って来たじゃないか。


……でも、このまま死んじゃうの?

私が死んだら元の世界はどうなっちゃうんだろう。


曜ちゃん。梨子ちゃん。花丸ちゃん。ルビィちゃん。善子ちゃん。果南ちゃん。ダイヤちゃん。鞠莉ちゃん。


もう二度とみんなと会えない。

廃校の阻止も出来てない。

ラブライブ本戦にだって出場出来てない。

まだまだまだまだ、やり残した事が沢山ある。


まだ……死にたくないよぉ……。




―――グチャッ




千歌「………ぁ」
189 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:38:17.89 ID:Yipmq1y50


曜「……」



千歌のすぐ隣に曜が仰向けに倒れ込んできた。

既に意識は無い。

手に持っているトンファーは短く切断され

右肩から左腰にかけて大きな切創が出来ていた。

傷の深さは不明だが、出血量から見て致命傷に近い。


曜は敗北したのだ。




千歌「………よ………ぅ………ち、ゃ………」



最後の力を振り絞り、曜の右手を掴む。

刹那、千歌の意識は暗い暗い闇の中に落ちて行った―――。


190 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:42:22.15 ID:Yipmq1y50

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




むつ「……終わったね」



ふぅ、と一息つく。

『電狐』を匣に戻した。



むつ「他者の炎を増幅させる技か。初めて遭遇したけれど中々興味深いね」

むつ「まだ死んでないし、連れて帰って人形兵にするのも……」

むつ「……いや、この傷じゃ城に戻るまで持たないか」



むつ は『雷電』に炎を纏わせる。



むつ「ただの小娘が私に一撃を入れたご褒美だよ。『雷電』渾身の一撃で葬ってあげるよ」バチバチッ!!!









???「―――……うーん、それはちょっと困るかな」









むつ「……今度は誰?」



声のする方向を向く。

そこには黒いローブにペストマスクを被った小柄な人間が立っていた。

声を聞く限り少女であるのは間違いない。
191 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:45:19.47 ID:Yipmq1y50


???「ここで彼女達に死なれたら困る。まだやって貰わなきゃいけない事があるからね」

むつ「私が知った事じゃないね」

???「君の任務はもう終わったでしょう? ならここで今すぐ撤退してくれると助かるんだけど」

むつ「……いいや、たった今新たに追加されたよ。お前を排除するって任務がね」

???「止めて置いた方がいい。まだ死にたくないでしょ?」

むつ「言ってくれるじゃない。……このクソガキがッ!!」



―――バチバチバチッ!!!



リングから凄まじい炎が放出される。

曜との戦闘時以上の出力だ。



???「はぁ……仕方ないなぁ。まだ本調子じゃないけど、戦うしかないね」

192 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:47:55.78 ID:Yipmq1y50


???「……後悔するなよ?」




―――ゴオオオッ!!!!




むつ「……ッ!!? な、なんだ……何なんだその炎はッ!!?」



“黒い炎”だと!?

大空の七属性のどの色でも無い。

そもそもこの炎圧は何だ。

さっきの子と同等かそれ以上だ。

人間一人が生み出せる炎圧を遥かに超えている。

それに右肩から生えている黒い翼は一体……。



むつ「お前は一体……何者な―――」




―――グチャ……




むつ「………は?」

???「はい、お終い」

むつ「何を……され、た………」ドサッ








???「―――おやすみなさん♪」






193 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:50:01.62 ID:Yipmq1y50


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





千歌「…………っぅ」




……痛い。

また痛み始めた。

痛みを感じるって事は私はまだ死んでない?

でもこの傷じゃもう助からないよね。

血もこんなに沢山出ちゃったし。

どうせ死ぬのにどうして意識が戻っちゃったんだろう。

痛みが無いまま逝きたかったのにさ。

神様も残酷な事するよね……。





「―――……んちゃん!」





……何だろう。

声が聞こえる。

誰か近くに居るのかな。





「―――……果南ちゃん、みんなも早く! ここに居たよ!!」
194 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:52:21.49 ID:Yipmq1y50

「こ、これは……酷い」

「これ……もう死んじゃってるんじゃ……」

「大丈夫。二人共微かだけど脈はまだあったずら」

「よしみ、どう?」

「そうですね……二人共酷い傷ですが今ならまだ間に合います」

「ほう」

「本当!? なら早く―――」



「―――ただ、確実に救えるのは片方だけです」



「え……ひ、一人だけ……?」

「出血量が余りにも多すぎる……残された体力を考慮すると二人同時に救える可能性はかなり低いかと」

「……なるほどね」
195 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:54:22.52 ID:Yipmq1y50


「どうするずら?」

「か、果南ちゃん……」

「選んで下さい。どちらの子を助けますか?」

「全く、嫌な選択を押し付けるね……」



千歌「……ぁ、……ぅぉ」



「っ! ね、ねえ、千歌ちゃんが!」

「このタイミングで意識を取り戻したずら!?」

「しっ! 何か言ってます」



千歌「……ぅを、……すけて」



「……えっ」



千歌「―――よう、ちゃん……を、助けて……くだ…さい」



「う、嘘……」

「どうして……果南ちゃんとよしみちゃんの会話は聞こえていたはずなのに」


千歌「お願い……します……曜ちゃんをたす、けて……」


「驚いた……この状況で自分じゃなくて他人の命を優先するなんて」

「自分を助けてって言っても誰も批判しないのに……凄い」


「……よしみ、私の指示はもう分かっているよね?」

「ええ、勿論分かってます」







「―――絶対に“二人共”救ってみせますよ!!」ボッ!!




196 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2018/12/19(水) 16:55:52.13 ID:Yipmq1y50
今回はここまで。今回更新で物語の三分の一くらいです。
197 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:13:32.71 ID:3Lp6gUoI0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



〜浦の星王国 城内 病室〜



善子「よいしょっと」ギシッ

むつ「……ぁ、津島……さ、ん?」

善子「あ、起こしちゃった?」

むつ「いえ……目を閉じていただけですから」

善子「……」

むつ「……」

善子「…何無様にやられてるの?」

むつ「はは……返す言葉もないです」アハハ…

善子「ヘラヘラしてるんじゃないわよ」

むつ「す、すみません」
198 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:20:32.45 ID:3Lp6gUoI0


善子「……随分とコンパクトな体になったじゃない」

むつ「ええ、腰から下と内臓の六割を失いましたから……」

むつ「今は三人の術師が交代で施してくれる幻術で内臓の機能をなんとか補って辛うじて生きています」

善子「知ってる。皮肉で言ったの。真面目に返答しないで」

むつ「で、ですよね……」


善子「……なんでよ」

むつ「え?」

善子「なんで私の幻術は拒絶したの?」

むつ「……」

善子「私の力なら人間の内臓機能くらい私一人でカバー出来る! 何なら無くなった足だってね!! 以前と変わらない体に戻してみせるわ!!」

むつ「……そうですか」

善子「もしかして私の負担になると思っているの? だとしたら見くびらないで。こんなの私にとってペン回しと同じくらい簡単な事よ」

むつ「え、津島さんペン回し出来なかったはずじゃ……」

善子「あ、揚げ足とるな! ブッ飛ばすわよ!?」

むつ「そ、それは勘弁して欲しいです…」
199 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:23:40.75 ID:3Lp6gUoI0


むつ「確かに、あの音ノ木の初代霧の守護者『東條希』と同じ『魔術師(マーゴ)』の異名を持つ津島さんならきっと出来るでしょうね」

善子「なら―――」


むつ「でもいいんです」

善子「ッ!? だから何でよ! 分かっているの!? このままじゃあなた、人形兵(マリオネット)にされるのよ!?」

むつ「ええ、分かってます」

善子「ならどうして!?」

むつ「……これは“罰”なんですよ」

善子「罰?」

むつ「私は奪ってはいけない命を奪ってしまった……その罰なんですよ」

善子「何よ……それ……」

むつ「だからいいんです。私はこのまま―――」


善子「いい訳無いでしょ!!!」


むつ「つ、津島……さん?」
200 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:27:55.57 ID:3Lp6gUoI0

善子「どうしてそんなにあっさり受け入れるの!? このままじゃ死ぬのよ!?」

善子「私なら何とか出来るって言ってるじゃん! だから頼れよ!!」

善子「私は……! 私は…むっちゃんに生きて欲しいんだよ!!」ポロポロ

むつ「……っ」ギリッ

善子「生きたいって言えよぉ……ねぇ、お願いだから…」

むつ「津島さ……善子ちゃん、泣かないで?」

善子「……泣いてないし」グシグシ


むつ「……少し、昔の話をするね」

善子「何よ、いきなり」

むつ「善子ちゃんが私の上司に就任した時の話だよ」
201 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:30:50.88 ID:3Lp6gUoI0


むつ「あの時は年下の子どもが自分の上司に就くって聞かされてホント気に入らなかったね」

善子「や、やっぱり…?」オロオロ

むつ「当時のメンバー全員が納得して無かったよ。『守護者は中学生のガキに務まる役目』じゃないってね」

むつ「どんな生意気なクソガキが来るのか全員で色々と予想していたんだよ?」


むつ「……でも全員の予想は大外れ。超が付くくらい謙虚で逆に引いたよね」

善子「だ、だって一番年下だったし……。それで引くのはおかしくない?」

むつ「それくらい衝撃だったんだよ。子どもで天才ってのは生意気と相場が決まってるから」

むつ「それと同じくらい善子ちゃんの才能には衝撃を受けた。この人には一生敵わないって」
202 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:39:15.85 ID:3Lp6gUoI0


むつ「すっごく悔しかったけどさ、誇らしくもあったんだよ。私はこれからこんなに凄い人の部下になれるんだってね」

善子「……」

むつ「昔は謙虚だったのに今じゃ太々しくなったよねー」ジトッ

善子「う゛っ」ドキッ

むつ「日々の雑務は全部私達に押し付けられて正直うざかったし、訓練メニューは嫌がらせかってくらい辛かった」

善子「い、いや……雑務の件は確かに私が悪いけど……訓練の方はみんなの事を想って―――」

むつ「大丈夫、みんな分かってますよ」

むつ「善子ちゃんがみんなを鍛えてくれたお陰で私は今生きているんですから。以前のあの三人じゃ人の臓器を幻術で作るなんて出来なかったから」
203 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:43:15.13 ID:3Lp6gUoI0


むつ「私は善子ちゃんの……霧の守護者 津島善子の部下になれた事を誇りに思ってます。そして、この命尽きるまで私の力を捧げる覚悟がある」

むつ「だからこそ今の私は人形兵になる必要があるんです」

善子「?」

むつ「善子ちゃんの幻術なら私の内臓と足は完璧に再現出来るでしょう。でも、何かの拍子に幻術が解けてしまったら? その瞬間、私は間違いなく即死する」

善子「……私はそんな間抜けな事はしない」

むつ「善子ちゃんがいかに凄い術師だとしても、私の体の一部を幻術で維持し続けるには相当なキャパシティを必要とする」

善子「だからそれはっ!!」

むつ「もしもの時に善子ちゃんの足を引っ張るのも役に立たないのも嫌なんですよ」

善子「……私の命令でも?」

むつ「ええ、ここだけは譲れない」

善子「……石頭め」



―――ガチャッ



梨子「やっぱりここに居たのね」
204 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:46:02.44 ID:3Lp6gUoI0


善子「……何の用事?」

梨子「たった今、人形兵が記録した映像の復元が完了したって報告があった」

善子「あれだけグチャグチャにされていたのによく直せたわね…」

梨子「これからその映像を元に敵の正体を突き止める。一緒に来て」

善子「……」

むつ「……善子ちゃん?」

善子「分かってる……言われなくても行くわよ」

むつ「ならいいんです」

善子「……もうここに来る事は無いわ」

むつ「うん……その方がいいよ」

善子「……今までありがとう」

むつ「……」ニコッ

205 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/09(水) 23:51:03.38 ID:3Lp6gUoI0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



千歌『……すぅ』


曜『――ねえ』


千歌『……すぅ……すぅ』


曜『――お〜い、起きてよー』ユサユサ


千歌『んん……ふわあぁ〜〜あ』ゴシゴシ


曜『やっと起きた。もうすぐバス停に着くよ』


千歌『……ふぇ? どこに??』


曜『これから行くフリーマーケット会場の近くのバス停だよ』


千歌『ふりーまーけっと???』


曜『もしかしてまだ寝ぼけてる?』


千歌『……あ、ああ!! そうだそうだ、完全に寝ぼけてたよ……あはは』
206 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/10(木) 00:09:34.35 ID:AWGkPAXa0




――私と曜ちゃんだ……これは一体?


『……これはあなたの記憶よ』


――私の記憶?


『ええ、千歌っちがこっち世界に来る直前の記憶だよ』


――あなたは誰? 姿が全く見えないんだけど……。


『……分からない』


――どうして?


『私自身も誰なのか分からないんです。色々あって……人格がまだ安定しないんだ』


――人格……?


『あ……ほら見て、場面が切り替わるわよ』


207 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/10(木) 00:12:38.13 ID:AWGkPAXa0




千歌『ほぇ〜、洋服とかアクセサリーとか色々な物が売ってるね』


曜『これぞフリマって感じだね! こんなに可愛い制服もこのお値段とは……』ウットリ


千歌『9000円って……フリマでこの値段は流石に高いでしょ』


曜『分かってないなぁ。これを普通に買おうとすると数万円はくだらないんだよ!!」


千歌『うげぇ!? そう言われると確かにお得だね……』ムムム


曜『まあ、完全に予算オーバーだから買わないけどね』


千歌『ですよねー』


千歌『……ん?』


曜『どうかしたの?』


千歌『いや……別に何でも――』


曜『千歌ちゃん、そのリングが気になるの?』
208 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/10(木) 00:14:57.88 ID:AWGkPAXa0


千歌『気になるっていうか……ちょっと派手だったから目に留まっただけだよ』


曜『細かい彫刻にオレンジ色の綺麗な石……何だか善子ちゃんが好きそうなデザインだね』


千歌『もう似たような物を持ってるかもよ?』クスッ


曜『かもね。次の衣装のアクセサリーにメンバーカラーのリングってのも良いかも!』



――あっ。


『思い出したかしら?』


――そうだ、そうだよ。私の最後の記憶はバスの中じゃない、ここであのリングを見つけた時だよ。


『その通りよ』


――私がリングを手に取った直後、いきなり目の前が真っ暗になるんだ。


『そして、あの砂浜で目を覚ます』


――だとしたら……ここで手に取ったリングはどこにいったの?


『……』
209 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/10(木) 00:16:54.03 ID:AWGkPAXa0


――ポケットの中にも目を覚ました砂浜にもリングは無かった。単純に見落としただけ?


『大丈夫、あなたはあのリングをちゃんと持っているから』


――えっ、私が持っている……?


『詳しく説明したい所だけど、そろそろ現実世界のあなたが目を覚ます頃なのよね』


――ちょ、ちょっと待ってよ! あなたは一体誰なの!?


『ごめんね……でも最後に一言だけ伝えるわ』


――ぐっ……眩し―――



『例え世界が違っても、千歌っちが紡いできた仲間との絆は変わらない。この先に何があっても、それだけは信じて―――!!』







210 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:27:50.24 ID:6pUuQ+RI0

――――――――――――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――



千歌「―――……ぁ…う、うぅ……」パチッ



千歌はベットの上で目を覚ました。


……ここは一体何処なのだろう。

病院というわけでも無い。

民家の一室を病室に改装したような感じだ。

私はどのくらい眠っていたのかな。

長い長い夢を見ていた気がするし、見てない気もする。

記憶がとても曖昧だ。




千歌「……痛っ!?」ズキンッ



起き上がろうとした千歌。

だが、身体中が石のように硬い。

筋肉の柔軟性がほとんど失われていた。

と、そこに……。



―――ガチャッ



「失礼しま……ピギャアア!!?」
211 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:29:58.46 ID:6pUuQ+RI0

千歌「ぁ……ルビィちゃ、降幡さん……?」

「ちょちょちょちょちょっと待ってて!!」

「よ、曜ちゃん!! 果南ちゃーん!!」バタバタッ

千歌「あっ! ……行っちゃった」



現れたのは前に自身を“降幡 愛”と名乗った彼女。

目を覚ました千歌を見ると大慌てでその場を去った。



千歌「うーん……あの人絶対にルビィちゃんだよなぁ」

千歌「隠すつもりならもうちょっと頑張ろうよ……ルビィちゃんらしいっちゃらしいけどさ」フフッ



もう一度体勢を起こそうと試みる。



―――ジャラッ



千歌「あれ? 首元に何かぶら下がってる?」

千歌「ネックレス……じゃないね。オレンジ色の石が埋め込まれたリングだ」

千歌「このリングどこかで見覚えがあるような……」ウーン



ドタドタドタ―――!!



曜「―――千歌ちゃん!!!!」バタンッ!!!
212 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:33:54.40 ID:6pUuQ+RI0

千歌「うぉ!?」ビクッ

曜「あ、ああ……本当に……うぅ……」

千歌「ど、どうしたの? 顔が傷だらけだし、服もボロボロになってるじゃ―――」



曜「う、うわあああああああああん」ダキッ

千歌「よ、よよよ曜ちゃん!!?///」

曜「ぐすっ……ごめ、んね……本当にごめんね」

千歌「え?」

曜「私が弱いせいで千歌ちゃんを死なせかけた……」

千歌「……ん」ナデナデ

曜「もう二度と目を覚まさないかと思った」

千歌「でも目を覚ましたよ」

曜「このまま千歌ちゃんが死んじゃうかと思ったら……凄く怖かった……」

千歌「ちゃーんと生きてるよ。ほら、心臓の音も聴こえるでしょう?」

曜「……うん、聴こえる。でも、何だかちょっと早いね」

千歌「き、気のせいじゃないかな?」

曜「……私、もっと強くなるから」

千歌「……うん」

曜「絶対に千歌ちゃんを守り切れるくらい強くなるから!」

千歌「曜ちゃん……」
213 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:35:26.19 ID:6pUuQ+RI0



「あー……ゴホンッ、そろそろいいかな?」



曜「あ、ご、ごめんなさい。つい……///」

「ふふ、まあ気持ちは分かるけどね♪」



曜の後ろから聞き覚えのある声の女性が現れた。

右眼を真新しい包帯で覆ったその女性は前に写真で見せられたそれと同じだった。



「あの時は偽名で使ってる諏訪の方で名乗ったよね」

千歌「……やっぱり」

「一応追われている身だったからさ」

千歌「じゃあ、あなたは……」


果南「うん、私の名前は『松浦 果南』だよ。多分あなたの知ってる『果南』と同一人物だと思うよ」

千歌「なら、高槻さんや降幡さんも」


花丸「はーい、『高槻』改め『国木田 花丸』ずら」ペコッ

ルビィ「く、黒澤 ルビィです……さっきはいきなり飛び出してごめんなさい」


果南「二人共来てくれたんだ」

花丸「そりゃ、一か月近くも意識不明だった千歌ちゃんが目を覚ましたって聞かされたらすっ飛んでくるよ」

千歌「い、一か月!?」

果南「ビックリでしょ?」
214 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:37:18.44 ID:6pUuQ+RI0


千歌「そんなに長く眠っていたら心配になるのも当然だよね……」

曜「私は一週間くらいで目が覚めたんだ」

ルビィ「曜ちゃん、最初は千歌ちゃんの傍につきっきりだったんだけど……」

果南「途中から私が外に連れ出したんだ」

千歌「そうなの?」

曜「うん……悔しいけど千歌ちゃんの傍に居ても私に出来る事何もなかったし、だから私に出来る事をしようと思ったんだ」

花丸「今日までずーーっと私達と一緒に修行してたんだよ」

千歌「だからボロボロなんだね」


果南「―――さてと、起きたばかりなのは分かっているけど色々と話してもらうよ」

千歌「うん、私も聞きたい事いっぱいあるし」

果南「まあ、曜から大体の事情は聞いてるんだけどね」

花丸「そうだよ。今更何を聞くの?」

果南「そうだね……一番気になっているのは首にぶら下がってるソレだね」

千歌「あ、これ?」ジャラッ

ルビィ「私も気になってた……どうしてソレを千歌ちゃんが持ってるか」

曜「そもそも千歌ちゃんの首に無かったよね。いつの間に付けていたの?」

千歌「それが私にもさっぱり分からないんだよ」
215 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:48:10.03 ID:6pUuQ+RI0

花丸「記憶が正しければ二日前には無かったずら」

千歌「なら、この中の誰かがつけてくれたんじゃないの?」

果南「それはあり得ない」

千歌「どうして?」

果南「だってそのリングは私達が探していたリングだからだよ」

千歌「探していた……これを?」


果南「ねえ、曜」

曜「ん?」

果南「そのリングを触ってみてよ」

曜「触る? 別にいいけど……」ピトッ



―――バチイッ!!!!



曜「痛っっっっったあああああい!!!!」

千歌「えっ!? ちょっ、ええ!!?」アタフタ

曜「指! 指取れてない!? ちゃんとある!!?」

ルビィ「だ、大丈夫! ちゃんとあるから!!」
216 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:50:56.09 ID:6pUuQ+RI0

果南「ふむ、曜でも触れないのね」

千歌「何なのこれ!? 凄く危険なやつなの!?」

花丸「多分そんな事は無いずら」

千歌「何でさ?」

花丸「だって曜ちゃんが抱き着いた時は何とも無かったでしょ」

千歌「あっ」

花丸「どういう原理か分からないけど、そのリングを取ろうとすると何らかの力が働く仕組みになってるんだと思う」

果南「なるほどね」スッ

曜「え!? 何で普通に触れるの!?」

果南「見て、この左手はリング自体には触れられてない。透明な球体に覆われているみたいだよ」

花丸「その球体部分に触れると反応するんだね」

果南「千歌も触ってみなよ」

千歌「え、でも曜ちゃんみたいになるんじゃ……」

花丸「それは無いずら。……多分」

千歌「多分って……うぅ、怖いなぁ」ソーット



―――ピトッ



千歌「あ! 触れたよ!」ホッ
217 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:53:11.54 ID:6pUuQ+RI0

曜「千歌ちゃんだけはリング本体に触れるんだ」

花丸「どうするの、果南さん」

果南「私の右手で解除するのも考えたけど、千歌以外が触れないなら今のままの方が安全かな」

ルビィ「誰も使えないリングだしその方がいいと思う」

千歌「ねぇ、このリングは一体何なの?」

果南「ああ、それは『大空のAqoursリング』だよ」

曜「なんだ Aqoursリング か。……って、ええ!?」

千歌「Aqoursリングって曜ちゃんが前に話していた守護者が持ってるっていうアレだよね」

花丸「少し違うよ。守護者に与えられるのは『晴』『雷』『嵐』『雨』『霧』『雲』の六属性ずら」

ルビィ「『大空のAqoursリング』は浦の星王国の女王にのみ所有が許されるリングなの」

千歌「女王のみって……何でそんな大層なリングがこんな所にあるのさ?」

果南「さあね」

花丸「それに今の女王はそのリングを必要としない人だから」

曜「大空属性じゃないの?」

ルビィ「それは……」

果南「それは追々説明するよ。今は千歌の話をしよう」


果南「千歌は別の世界から来たって話だったね」

千歌「うん。曜ちゃんが言うには平行世界から来たみたい」

果南「その“へいこう”世界にも二種類あるんだよ」

千歌「二種類?」
218 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 00:57:51.47 ID:6pUuQ+RI0

果南「この世界は合わせ鏡みたいに無数に展開しているんだ」

果南「もしもの数だけ、言うなれば人の意志の数だけ存在すると言ってもいい」

千歌「『あの時ちゃんと勉強してたら』とか『あっちの色の服にしておけば』とかで増えるの?」

果南「極端に言えばその通りだね」

花丸「多少の違いはあったとしても、辿り着く未来は同じになる世界群を“並び立つ世界”と書いて『並行世界』と呼ぶずら」

千歌「辿り着く未来が同じ? 私が居た世界とここは違いが大きすぎる気がするんだけど」

果南「もしもの規模が大きいと世界は別の未来へと進んでしまう」

花丸「“もしも滅んだはずの文明が今なお繁栄していたら” “もしも人類に特殊能力が発現したら” みたいに文明に影響を与える変化が生じた場合は全く違う世界が形成されて分岐する」

果南「この分岐した世界をどこまで延長しても交わらない意味の方を使った『平行世界』と呼ぶ」

ルビィ「どちらの世界も同じ人物が存在しているけれど、平行世界の場合は性別や役割が違ったりするんだ」


千歌「だから私の知ってるみんなとは色々違うんだね」

曜「私が調べたやつとなんか違うな……どっちも同じ読み方の漢字を使って判別しにくいのも不親切だし」

花丸「別世界の存在は情報統制の対象になってるから。真実と虚偽の情報がごちゃごちゃなんだと思うな」

果南「千歌がそのリングを持ってるから、それを触媒にして世界を移動して来たのは明らかなんだけど……」

花丸「それだと妙ずら」

千歌「何か引っかかる事があるの?」

果南「確かに前女王だった鞠莉はどっちの世界にも干渉する力を持っていたしその世界の人物を召喚も可能だって言ってた」

果南「でも、本当に別世界の人物を肉体ごと呼び寄せるなんて無茶な真似は絶対にしない」

ルビィ「下手をすれば世界ごと消滅しかねないから。普段は別世界の自分に憑依して覗き見する程度に抑えてたし」

曜「消滅って…」
219 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 01:02:32.51 ID:6pUuQ+RI0

千歌「……ん? 鞠莉ちゃん!? 女王様は鞠莉ちゃんなの!?」

ルビィ「もしかして鞠莉ちゃんとも知り合いなの?」

千歌「知り合いも何も、みんなと一緒でAqoursのメンバーだよ!」

ルビィ「千歌ちゃんの言うAqoursって曜ちゃんが話してたアイドルグループの事だよね」

曜「女王様や守護者とも一緒なのか…全然想像出来ないや」

千歌「前女王って事は今の女王様は誰なの? 鞠莉ちゃんは今どこにいるの?」

花丸「……それは」チラッ

ルビィ「……」

果南「……」

曜「なんか……マズイ事聞いちゃったんじゃない?」

千歌「い、今の質問は無かったことに……」

果南「――死んだよ」

千歌「へ?」


果南「鞠莉は死んだんだ。今から三年前にね」


千歌「三年前に……死んだ…?」ゾッ

曜「三年前って今の女王が即位した時期じゃん!」

ルビィ「……」

果南「今の浦の星王国と後の二国を支配しているのは、ここにいるルビィの実の姉である『黒澤 ダイヤ』だよ」
220 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 01:05:22.34 ID:6pUuQ+RI0
果南「別名“氷の女王”。歴代最悪の女王として恐れられている」


千歌「そんな…あのダイヤさんが……」

花丸「スクールアイドルAqours……この世界だと絶対に有り得ないメンバーずらね」

曜「果南ちゃん達の目的はダイヤさんを女王の座から退かせる事なの?」

果南「うーん……それもちょっと違うかな」

ルビィ「私も違うよ」

花丸「果南さんとルビィちゃんは似た目的だと思うけど、マルは二人と全然違う目的ずら」

千歌「じゃあ、みんなは一体どんな……」



―――バタンッ!!!



よしみ「千歌ちゃんが目を覚ましたって本当!?」ゼエ、ゼェ

果南「おお、おかえりなさい」

よしみ「ルビィ、様から……連絡があって…大急ぎで帰って、来たよ……」ゼェ、ゼェ

よしみ「うう……き゛も゛ち゛わ゛る゛い゛…」

花丸「そんなに急ぐ必要は無かったと思うけどな……」


千歌「……あ、まだ果南ちゃん達に言ってない大切な事があったよ」

花丸「ずら?」

果南「言ってない事?」

ルビィ「何かあったっけ?」
221 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 01:07:45.59 ID:6pUuQ+RI0


千歌「私達を助けてくれて本当にありがとうございました」ペコッ

曜「私からも、改めてありがとうございました」


ルビィ「……私はお礼を言われることは何もしてないよ」

花丸「同じくマルも。千歌ちゃん達を救ったのは よしみさん ずら」

果南「だってさ、よしみ」フフ

よしみ「わ、私は別に……果南さんの指示に従っただけですから」アセアセ


よしみ「ゴホンッ、千歌ちゃん早速だけど色々と検査させてもらうよ。ルビィ様も手伝って下さい」

ルビィ「うん」

千歌「分かりました」

果南「曜は修行の続きだよ」

花丸「この後もた〜〜っぷり、しごいてあげるずら♪」

曜「うげぇ……勘弁して欲しいであります…」

千歌「あはは……頑張ってね曜ちゃん」

222 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 01:10:34.22 ID:6pUuQ+RI0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



よしみ「―――うん、どこも異常は無いね」

ルビィ「でも傷跡は所々残っちゃったね……アイドルやってるのにこれは……」

千歌「生きているだけで十分ですよ! このくらいの痕なら気にしないです」

よしみ「寝たきりの期間がちょっと長かったから二、三日はリハビリ頑張ろうね」

千歌「はい。歩くのがこんなにしんどいと感じたのは初めてだよ……」

ルビィ「困った事があったら私達に気軽に言ってね?」

千歌「ありがとうルビィちゃ……ルビィさん」

ルビィ「さっきみたいにルビィちゃんでいいよ。千歌ちゃんの世界では私は後輩なんでしょ?」

千歌「でも今は年上だし……」



検査中に二人と話していて新たに分かった事がある。

みんなの年齢だ。

曜ちゃんと花丸ちゃんは元の世界と同じ年齢だった。

一方ルビィちゃんは二十歳。

果南ちゃんも二十三歳とどっちも成人済。

あの町で会った時に大人っぽく感じたのは勘違いじゃ無かったんだね。

ちなみに よしみさん は教えてくれなかった。
……あの感じだと、果南ちゃんより年上なんだと思うな。

223 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/21(月) 01:14:31.18 ID:6pUuQ+RI0


ルビィ「ならルビィちゃんって呼ばなきゃ返事しません!」プイッ

千歌「ええ……」

よしみ「大人気ないですよ、ルビィ様」

ルビィ「そんなの知りませーん」

千歌「わ、分かったよ……ルビィちゃん」

ルビィ「……えへへ♪」


千歌「ここに居るみんなの事をもっと知りたいんですけど、聞いてもいいですか?」

ルビィ「えっと……それは」チラッ

よしみ「駄目ですよ、ルビィ様」

ルビィ「……うん」

よしみ「申し訳ないけど、今は言えない」

千歌「え?」

よしみ「うん、だって私達と千歌ちゃんはまだ仲間じゃないからね」
224 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:18:24.60 ID:ERfEfUhx0

千歌「どういう意味……?」

よしみ「言葉の通りだよ」

ルビィ「よしみさん」ムッ

よしみ「お、怒らないでよ。私だってこんな事言いたくないし……」



プルルルルル―――!



ルビィ「あ!」

よしみ「もしもし。はい、ええ……そうですか」

よしみ「分かりました、今連れて行きますね。それでは」ピッ

よしみ「……まさか今日やるとはね」

ルビィ「大丈夫なのかなぁ……」

千歌「え、何?」

よしみ「千歌ちゃん外に出るよ。何をするかは行けばすぐに分かるから」

225 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:24:56.66 ID:ERfEfUhx0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



花丸「――あ、来たずら!」



外に出ると切り株に腰掛けている花丸と果南の姿があった。
花丸の手には少し厚めの本があり、ほんのりと紫色の炎が纏っていた。

曜は少し離れた場所に大の字で倒れている。
その辺り一面には大量の刀が墓標のように突き刺さっていた。



よしみ「随分と派手にやってるなぁ」ヤレヤレ

千歌「何これ……地面に刀が沢山刺さってるよ……?」

ルビィ「花丸ちゃんの匣兵器だよ」

花丸「凄いでしょー!」



パタンと本を閉じると足元に刺さっていた一本だけ匣に戻り、残りは全て消滅した。



花丸「匣兵器の名前は『村雲(むらくも)』。園田家が作った雲属性の特性を最大限に引き出せる日本刀ずら」

千歌「紫色の炎は雲属性なんだね」

ルビィ「雲属性の特性は『増殖』だから、花丸ちゃんの『村雲』は無限に数を増やせるんだよ」

花丸「ただマルは剣術なんて全く使えないから『村雲』を飛び道具みたいに発射するだけなんだけどね」


千歌「ええっと……それで私は何の為に呼び出されたの?」

果南「ちょっと待ってて」
226 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:37:59.12 ID:ERfEfUhx0


果南「――曜! 休憩はどのくらい必要?」

曜「……ふぅ、もう大丈夫だよ!」ムクッ



立ち上がった曜は千歌の側に行く。



曜「ごめんね、病み上がりなのに来てもらってさ」

千歌「それは別にいいんだけど、何をするの?」

曜「ええっとね、簡単に言えば入団テスト……みたいな?」

果南「そうだよ! 曜が私達の役に立つだけの力があるか、これからテストするんだよ」

千歌「テスト……?」

果南「このテストで私が納得出来る結果を残せなかったら、即刻ここから出て行ってもらうよ」

千歌「え!?」

果南「そうだな……治療費代わりにそのAqoursリングを貰うから」

ルビィ「ほ、本気なんですか果南ちゃん!?」

果南「本気だよ。私達は国と戦うんだ、戦力にならない人は要らない」

ルビィ「でも今ここから追い出しちゃったら……」

花丸「間違いなく二人共捕まっちゃうだろうね。最悪そのまま処刑されちゃうかも」

千歌「そ、そんな……」
227 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:44:36.08 ID:ERfEfUhx0


曜「大丈夫だよ、そんな事にはさせないから―――!」ボッ!!

花丸「ずら!?」

よしみ「凄い炎圧だ!? 修行の時とは比べものにならないくらい大きい!」

果南「おお……千歌と『同調』するとここまで大きくなるんだ…」シュルシュル



果南は右腕に巻いた包帯を外す。

露出された腕は指の先から肘の先まで真っ黒に変色していた。
所々皮膚がめくれあがっていて酷く荒れ果てている。

強い衝撃を与えたら瞬く間に崩れ落ちてしまいそうな感じだ。




果南「いつでもかかってきなよ」ニヤッ

曜「言われなくともッ!!」



パチンと体の正面で手の平を合わせる。

曜の両側に魔法陣が現れた。



曜「―――『激流葬(トッレンテ・ディ・アクア)!!』」
228 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:49:49.45 ID:ERfEfUhx0


魔法陣から放たれた雨の炎は螺旋状の激流となり、果南を襲う。



果南「へぇ、いつもより規模もスピードも段違いじゃん」

曜「回避はもう間に合わない! 炎を使った技で防御するしかないよ!」



曜は普段の修行相手は花丸。
果南とはトンファーを使用した格闘術の時のみ相手をしてもらっていた。

その際、果南は一回も技もリングの炎も使用していない。

花丸の技はある程度は知っているが果南のは全く知らなかった。

故に、この初撃は果南の技を知る為に重要だった。


―――しかし、果南は“何もしなかった”。

直撃すれば人間の筋繊維に深刻なダメージを与える威力。
向かってくるこの攻撃に対し、果南はただ右手を突き出しただけ。
炎も纏わせていない、完全無防備の右手をだ。

果南の右手が『激流葬』の先端に触れると―――。



―――キュイィィィン!!



一瞬で『激流葬』は雲散霧消した。

不敵な笑みを浮かべる果南の顔が目に入る。
229 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:54:39.46 ID:ERfEfUhx0

――曜はこの現象を覚えている。

あの日の路地裏での一戦。

『水の壁(ムーロ・ディ・アクア)』をかき消したのも右手が触れた瞬間だった。



曜「……その右手に何かカラクリがあるのか」

果南「それはどうかなん?」

曜「すぐに分かるさ!!」



もう一度『激流葬』を発動させようとする。

だが果南も易々とそれを許すはずがなかった。
服の内側に忍ばせていたナイフを曜に向かってスローイングして牽制した。

発動を阻まれた曜。
接近してくる果南をトンファーで応戦する。



曜「………」


――妙だな。
飛んできたナイフにも殴りかかってくる拳にも炎を纏わせていない。
右手にリングは付けている。

なのに果南さんはどうしてリングの炎を使わないの?

手加減されている?
私程度はそれで充分だって事?

……いや、それは違う。

修行の時とは動きのキレも一撃一撃の重みも全然違う。
目も本気で私を倒しに来ている目だ。


果南「――隙だらけだよ!!!」ゴッ!!

曜「ぐふっ!?」


ルビィ「みぞおちに入った!」

花丸「あれは辛いずら……」
230 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 00:59:22.43 ID:ERfEfUhx0

曜「が、っが……はっ………」



お腹を押さえ、その場にしゃがみ込む。

果南はお構いなしで曜の顔面へ蹴り込み、曜は大きく後ろへ吹き飛んだ。



曜「……ぅぐ」

果南「む、ぎりぎりトンファーで防いだみたいだね」

曜「な、ん……で……」

果南「?」

曜「あんなに思いっきり蹴り飛ばしたのに何で涼しい顔で立てるのさ!?」

果南「ん? 何か変??」

曜「金属製のトンファーだよ!? 痛くないの!?」

果南「ん……別に?」キョトン

曜「ま、マジか……」

果南「そんな事はどうでもいいじゃん。言っとくけどこのままだと不合格だよ」

曜「……いいや、もう勝負はついたよ―――!!」



曜は右手で地面を叩いた。



果南「この動作……『水の壁(ムーロ・ディ・アクア)』か!?」



身構える果南。

だが、予想していた技は発動しなかった。

果南の周辺に複数の鎖が出現。

腕の黒く染まった部分を避け、体中に巻き付いた。



曜「――捕らえた!!」
231 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 01:03:49.40 ID:ERfEfUhx0

果南「うお!?」

花丸「上手い!」

よしみ「あれじゃ果南さんも動けない」


果南「むっ……」ギチギチッ

曜「無駄だよ、今の鎖は人の力で引き千切れる強度じゃない」

曜「それにこれは雨の炎で作った鎖だ。『鎮静』の効果ですぐに力が入らなくなる!」

果南「うーん……困ったなぁ」


果南「――ふんッ!!」



―――ゴキッ!!



曜「……は?」



―――ゴキゴキッ!!



千歌「な、何の音?」



生々しい音が聞こえた次の瞬間、果南の右腕が有り得ない方向へだらりと落ちた。
その拍子で体を縛り付けていた鎖数本に触れ、鎖が消え去る。

力尽くで関節を外したのだ。
常人には耐えらない激痛が走っているはず。

にもかかわらず果南は涼しい顔で鎖を外し続ける。



曜「んな!? 強引に関節を外して解いた!?」
232 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 01:07:10.34 ID:ERfEfUhx0

千歌「曜ちゃん! 油断しないで!!」

果南「もう遅い!!」



拘束を解除した果南は右腕の関節をはめ直し、曜の目の前まで接近。

曜を地面に投げ倒して今度は逆に関節技で拘束した。



果南「――勝負あったね」

曜「ぐっ、ま、まだだ……!」

果南「止めておきなよ。無理に動けば骨が折れるよ」

曜「……リングの炎が使えない。これも右手の力なの?」

果南「そうだよ。この手で触れている限り、その対象は炎は全く使えなくなるの」

曜「反則でしょ……それ」


よしみ「はーい、そこまで」

千歌「よしみさん?」

よしみ「もう十分でしょ。放してあげてください」

果南「そうだね」パッ

曜「いてて……」

千歌「大丈夫!?」

曜「ゴメン千歌ちゃん……負けちゃった」シュン…

千歌「それはいいの。曜ちゃんが無事ならそれでいい」

曜「でも……」


よしみ「大丈夫だよ、このテストの合否に勝敗は関係無いからさ」

千歌「へ?」
233 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 01:11:05.10 ID:ERfEfUhx0

よしみ「条件は“納得できる結果が残せるかどうか”でしょ。果南さんをあそこまで追い詰められたなら十分」

花丸「本当だったら鎖で拘束した時点で合格だったのに……」

果南「いやー、負けるのはちょっと悔しいじゃん」

ルビィ「負けず嫌い……」

よしみ「それ以前に果南さん人が悪いですよ。仲間になりたかったら戦えだなんて」

花丸「そうずら。大人げなさすぎ」ジトッ

果南「な、何さ二人して」アセアセ

よしみ「仮に仲間に入れる気が無いなら、どうして曜ちゃんに修行なんてさせたの?」

ルビィ「た、確かに」

花丸「果南ちゃんは最初から入れる気満々だったずら」


曜「……つまり今の戦いは何の為にやったの?」

果南「まあ、一種の歓迎会……みたいな?」

曜「な〜んだ……てっきりもうダメかと思ったよ」グデーン
234 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/01/29(火) 01:21:03.13 ID:ERfEfUhx0
果南「でも現状の曜の実力が知りたかったのは本当だよ。千歌の『同調』込みなら十分戦力になるのは確認出来た」

千歌「その『同調』って何?」


果南「『同調』は対象と見えないパスを繋ぐ事で炎圧の最大値の底上げをする技だよ」

果南「曜は千歌から炎の供給を受けているお陰で本来扱える数倍の炎圧を出せてるってわけ」

花丸「近ければ近い程その効果は大きくなって、触れあっていればフルパワーで供給出来るずら」

曜「じゃあ、供給元の千歌ちゃんが炎を使えるようになったら……」

果南「この中に居る誰よりも強大な炎を出せるだろうね」

曜「ほえぇ、凄いね千歌ちゃん!」

千歌「……でも出せればの話でしょ? 私、炎出せなかったじゃん」

曜「ああ、そっか……」


千歌「でも、いつの間にそんな技を使えるようになっていたんだろう……?」

曜「そもそも出会った時から発動していたよね」

果南「その技は鞠莉が使っていた技なんだよ」

千歌「鞠莉ちゃんが?」

果南「うん、そして鞠莉以外は使用できない技でもあった」

曜「え? でも実際千歌ちゃんも使えているよね?」


果南「……鞠莉が持っていたはずの大空のリングを持っていて、鞠莉にしか使えないはずの技を使える」ジッ

千歌「?」キョトン

曜「果南ちゃん?」

果南「まさかとは思うけど――」



果南「――“そこ”に居るの、鞠莉……?」

235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/11(月) 19:25:18.76 ID:7LihbQ7hO
待ってる
236 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:06:00.80 ID:fxV8g96D0
コメントありがとうございます。
お待たせしてしまって申し訳ございません。
237 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:09:06.17 ID:fxV8g96D0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


善子「……」ゴロンッ


「――どうしたの?」


善子「お母さん……」

善子母「最近ずっと元気が無いじゃない」

善子「別に……いつも通りよ」

善子母「もう、相変わらずウソが下手なんだから」


善子母「……むっちゃん、人形兵になってからも活躍中みたいね」

善子「……」

善子母「人形兵の中でも最高傑作だって話じゃない。善子としては――」

善子「やめて、聞きたくないし話したくない」

善子母「……ごめんなさい」


善子「……自分でも分かってるわ。いつまでも引きずっている訳にはいかないって事くらい」

善子「むつはあくまでも部下の一人、そこに特別な感情を持ってはいけない。私の部下は むつ だけじゃないから」

善子母「……そうね」

善子「こんな心が乱れたままだと、いつか戦闘中に致命的な隙を生みかねない」

善子「だ、から……早く……忘れ、ないと」

善子母「……」

善子「……ぅ、うぅ」
238 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:11:48.91 ID:fxV8g96D0


善子母「――忘れる必要なんてないんじゃない?」

善子「……え」

善子母「守護者がどういう心構えであるべきなのかは知らない。多分、善子が今考えている通り忘れてしまうが正しいのかもしれない」

善子母「善子は優しい子だから……この先も忘れる事はきっと出来ない」

善子母「でもね、それでいいのよ」

善子母「善子のその優しさがあるからこそ、部下はあなたを心から慕い、あなたの為に命を懸けて戦うの」

善子「……買い被りすぎよ。みんな女王の為、国の為に戦っている」

善子母「本当に“あの”女王の為に戦っていると思うの?」

善子「それは……」

善子母「あなたの為に戦った部下の事を忘れようとしちゃダメ。今は辛くてもその想いはいつか大きな力となるわ」

善子「……うん」



―――ピンポーン



善子「――開いてるわ、入っていいわよ」

梨子「不用心ね」ガチャ

善子「何か用?」

梨子「『何か用?』じゃないわよ! ほら」

善子「あ、これどこにあったの?」

梨子「私の部屋に置きっぱなしだったんだからね」

善子「あー……道理で見つからないわけね」

梨子「自分のスマホくらいしっかり管理しなさい」

善子「はいはい。で、要件は?」

梨子「女王様直々の招集命令よ。鞠莉様が発動させた技の解析がやっと終わったらしいわ」

善子「あれやっと終わったのね。数日で終わるって言ってたのが一か月以上も掛かったとは……」
239 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:13:08.67 ID:fxV8g96D0


梨子「――それはそうと、善子ちゃん」

善子「ん?」

梨子「この部屋って他に誰か居るの?」

善子「は? 見た通り誰も居ないけど?」

梨子「あれ? 話し声が聞こえたからてっきり誰か居るのかと思ったのに……まさか独り言?」

善子「……空耳よ。私はさっきまで寝てたんだし」

梨子「ふーん、そう」

善子「……」



240 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:33:17.15 ID:fxV8g96D0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




曜「ふぅー、疲れたー!」ドサッ

千歌「一日お疲れ様」

曜「あの後もみっちり修行とかスパルタ過ぎでしょ……体中が痛い」

千歌「でも、何だか嬉しそうな顔してる」

曜「まあね、今までちゃんと戦い方を教えてくれる人はパパしかなかったからさ」

曜「前の自分より成長しているのが実感出来て凄く楽しい!」

千歌「そっか」ニッ


曜「千歌ちゃんも今日から家事全般のお手伝いしてるんだよね。まだ病み上がりなのに大丈夫?」

千歌「リハビリも兼ねてるから大丈夫」

千歌「それに曜ちゃんが頑張ってるのに私だけ何もしないのはダメだと思うし」

曜「向こうの世界では家が旅館やってるんだよね。今日の晩御飯美味しかったよ!」

千歌「あー……うん、今日出した御飯は私が作ったんじゃないんだ」

曜「……あれ? だってルビィちゃんと一緒にキッチンで料理してたよね?」

千歌「確かに料理してたよ、うん、これでも旅館の娘だし?」

千歌「でもさ、だからってその娘が必ずしも料理が得意なわけじゃないよね……」トオイメ

曜「あ、あはは…」
241 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:37:59.41 ID:fxV8g96D0

千歌「一応作ったけど、人様に食べてもらえる味じゃ無かったね……グスン」

曜「じゃあ、あれはルビィちゃんが作ったやつだったのね」

千歌「その通りです」

曜「千歌ちゃんが作った料理は捨てちゃったんだ」

千歌「ううん、果南ちゃんが全部食べてくれた」

曜「果南ちゃんが?」


千歌「ここに私が作った料理が少しあります」

曜「見た目は普通だね」

曜「いただきま〜す」パクッ

曜「モグモグ……んんッ!?」

千歌「ね? 酷い味でしょ」

曜「うん……お世辞にも美味しいとは言えない、かな」

曜「これを果南ちゃんは全部一人で食べたの?」

千歌「うん」

曜「ウソでしょ…これを全部食べるってどんな味覚してるんだ……」

千歌「……」ジワッ

曜「っ!?」



―――コンコンッ



果南「入るよ〜」ガチャ

曜「あ、か、果南ちゃん」

果南「ん、どうしたの千歌?」

曜「そ、それはその……」

千歌「……グスッ、何でもないよ」

果南「んん? まあいいや」
242 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 00:44:52.66 ID:fxV8g96D0

千歌「それで、どうかしたの?」

果南「部屋の様子はどうかなと思って。ほら、二人で一部屋だからさ」

曜「別に大丈夫だよ。今までもずっと二人で寝てたし」

千歌「寧ろ一緒の部屋にしてもらえて嬉しかったよ。一人はちょっと寂しいからさ」

果南「そう、なら良かった」ニコッ


果南「そっち座ってもいい?」

曜「うん、いいよ」

果南「ありがと」ギシッ

千歌「……」ジーッ

果南「ん? ジロジロ見て、何か付いてる?」

千歌「痛々そうだなって思って……」

果南「あぁ……見苦しかったね、ごめん」

千歌「い、いや、私は気にして無いよ」

果南「太ももの火傷痕とか酷いもんでしょ? 嫁入り前の身体だってのにさ」アハハ

曜「強くなるにはそれなりの代償が必要って事だよ」

千歌「女の子には厳しい代償だね……」

果南「そんな事無いよ。なりたいものになる為の必要経費みたいなものだよ」

曜「なりたいもの?」

果南「私はね、守護者になりたかったんだ」

千歌「そっか……守護者になる夢を叶える為に戦ってるんだね」

果南「いや、守護者にはなってるよ」

千歌「……はい?」

曜「なってるって?」

果南「こう見えて私は浦の星王国の晴の守護者なんだ」

曜「いやいやいや……流石に冗談でしょ」

果南「心外だな〜、だったらルビィや花丸にも聞いてみなよ」

曜「マジか、本当なんだ……」
243 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 01:03:03.41 ID:fxV8g96D0

千歌「だからあんなに強いんだね」

果南「そりゃ、この国で最も強い六人の一人ですから!」エッヘン

曜「つまり今の私にはまだ炎を使うまでも無いって事か……悔しいなぁ」

果南「……まあ、これから精進したまえ!」パシンッ

曜「痛ったッ!!?」


千歌「……ん? だったら変じゃない?」

曜「何が?」

千歌「果南ちゃんは浦の星王国の守護者なんだよね」

千歌「守護者って国や女王様を守るのが使命なんでしょ?」

曜「……あっ」

千歌「じゃあ、なんで果南ちゃんはその国と戦っているのさ?」


果南「……当然の疑問だよね」

千歌「答えてくれるの?」

果南「うん、でも今は話さない」

曜「親密度が足りないから?」

果南「そんなギャルゲーみたいな理由じゃないよ」

果南「話すと長くなるからね、機会を作ってちゃんと話したい」

千歌「そっか……うん、待ってるね」


果南「―――んで、話は変わるんだけどさ」

果南「千歌にお願いがあるんだよね」

千歌「私に?」

果南「千歌って元の世界ではアイドルやってるんだよね?」

千歌「うん、スクールアイドルをやってるよ」

果南「アイドルって事は歌やダンスは勿論出来るんだよね?」

千歌「とーぜんだよ! 今はダンスは無理だけど……」

果南「ならさ、もし良かったら何曲か歌ってくれないかな?」

曜「あ! 私も千歌ちゃんの歌聴きたい!」

千歌「別にいいけど……随分唐突だね」

果南「実はアイドルにちょっと興味があって……」
244 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 01:18:09.65 ID:fxV8g96D0

千歌「興味あるのっ!? なら果南ちゃんもスクールアイドル始めない!?」キラキラ

果南「く、食いつき方凄いな!?」タジッ

曜「千歌ちゃん、年齢を考えようよ。果南ちゃんはもうアイドルって年じゃない」ポンッ

千歌「あ、そっか。この世界の果南ちゃんは高校生じゃ無いんだった」

果南「……年増で悪かったね」プクウッ

千歌「うーん、どの曲を歌おうかな…?」

果南「曲数は結構あるの?」

千歌「選曲に悩むくらいは多いよ」

千歌「何かリクエストとかあると選びやすいかな」

果南「リクエストかぁ……曜、何かある?」

曜「そうだねぇ……じゃあ、一番最近に作った曲を歌ってよ!」

千歌「新しい曲って事は……今練習中のあの曲かぁ」ムムム

曜「折角だし、他のみんなも呼ばない?」

果南「もう呼んでるよ♪」



―――ガチャッ



よしみ「ライブ会場はここですかー?」

ルビィ「お、お邪魔します!」

曜「いつの間に連絡したんだ……」
245 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/13(水) 01:19:03.59 ID:fxV8g96D0

花丸「サイリウムも人数分持ってきたずら!」シャキーン

よしみ「はい、二人の分」

果南「サンキュー♪」

曜「準備早いなぁ」ポキッ


千歌「あ〜、ああ〜〜♪」

千歌「……よし、準備オーケーだよ!」

花丸「始まるずらか!」ブンブンッ!

よしみ「待ってました!」

千歌「ダンス無しでアカペラだけど、精一杯歌います!」

千歌「それでは聴いて下さい、最初の曲は―――」



246 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:28:21.28 ID:/qW9MsG40

――――――――
――――――
――――
――



千歌「―――ありがとうございましたっ!」ペコッ


曜「……すっごい!」パチパチ

よしみ「本当に凄かった! 凄かったよ! その、えっと、ああもう語彙力が足りない!」

千歌「えへへ」

果南「……」

花丸「……」

ルビィ「……」

千歌「あ、あれ……? 三人共どうしたの?」

果南「いや……凄すぎて余韻に浸ってた…」

花丸「……う、うぅ……」ポロポロ

千歌「花丸ちゃん!?」

花丸「ア゛ン゛コ゛ール゛は゛無゛い゛ずら゛か!?」グスッ

ルビィ「アンコール! アンコール!」

千歌「え、あ、私はいいけど……」

果南「いやいや、二人共そこは我慢しなよ」

ルビィ「え!?」

花丸「何でさ!?」
247 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:30:38.61 ID:/qW9MsG40

果南「二人の事だからこの後も際限なくアンコールするでしょ」

よしみ「確かに」ウンウン

花丸「ぐっ……図星ずら」

曜「てっきり一曲だけ歌うんだと思ってたけど、結構歌ったね」

ルビィ「十曲くらいは歌ってた!」

千歌「折角サイリウムまで用意してくれたから沢山歌っちゃいました♪」


千歌「ねえねえ、みんなはどの曲が気に入った?」

果南「難しい質問だねぇ……」ウーン

花丸「マルは一曲目の『未来の僕らは知ってるよ』が好きずら!」

ルビィ「それも良かったよね! 私は『ダイスキだったらダイジョウブ!』かなぁ」

よしみ「敢えて選ぶなら、『Step! ZERO to ONE』だね」

果南「私は一曲だけ選ぶなんて無理だよ……」

よしみ「えー? 本当は歌に夢中で曲名忘れてるだけなんじゃないの?」

果南「そ、そそそんな事ないよおぉ〜?」アセアセ

花丸「図星ずら」ジトッ

果南「待って、あと少し、もうここまで出かかってるんだよ」

果南「うーんとね……あ、サビが『どんな未来かは 誰もまだ知らない』って歌詞のやつ!」

千歌「ああ、『未熟DREAMER』だね」

果南「そう、それっ!」
248 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:34:27.73 ID:/qW9MsG40


千歌「曜ちゃんはどう?」

曜「私は最後の曲が好きだな〜」

ルビィ「最後曲って言うと……」

花丸「『勇気はどこに? 君の胸に!』ずらね」

曜「うん! 『夢は消えない 夢は消えない』って繰り返す所が本当に好き!」

よしみ「それな!」

花丸「『やり残したことなどない』の部分も心にグッとくるモノがあったずら……」

よしみ「それっ!」

果南「よしみ、圧倒的な語彙力不足……」


曜「そうだ! 良かったらこの曲の歌詞を教えてよ!」

曜「歌詞を覚えて私も歌えるようになりたい!」

千歌「もちろんいいよ」ニコッ

千歌「なんなら、みんなに今日歌った曲全部教えちゃうよ!」

花丸「ほ、本当に!」キラキラ

千歌「だってこれは全部Aqoursの曲だもん」

千歌「この世界でもいつかみんなと、Aqours九人で歌ってみたいな……なんて」

ルビィ「みんなで……か」

果南「千歌……」

千歌「……冗談。ここにいる果南ちゃん達と歌えるだけで満足だよ」

千歌「よし、じゃあ明日から歌のレッスンをやるからね!」

曜「了解であります!」

ルビィ「楽しみだなぁ」
249 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:35:42.69 ID:/qW9MsG40


果南「あ、そうそう明日と言えば」

千歌「ん、何かあるの?」

果南「千歌、明日は私と街に行こう」

果南「服とか下着とか、生活に必要な物を買わなきゃね」

千歌「いいの? ありがとう!!」

曜「え、いいな〜! 私も行きたい!」

果南「っと曜は申しているけど、連れて行っていい?」

花丸「いいよ。その分、明後日のメニューに上乗せするだけずら」

曜「え゛っ」

花丸「――冗談ずら♪ 千歌ちゃんと楽しんで来るといいずら」ニコニコ

曜「あ、あはは……本当に冗談、冗談なんだよね……?」ダラダラ

果南「曜、ドンマイ」ポンッ

曜「……ええいっ! こうなったら自棄だ! 千歌ちゃん、明日は楽しもうね!」

千歌「う、うん……」アハハ…


250 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:38:21.30 ID:/qW9MsG40

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



〜翌日 旧虹ヶ咲領 北部〜



果南ちゃん達のアジトは森の中にある。

花丸ちゃん曰く、ここは星空さんと出会った場所から更に北側で
旧虹ヶ咲領と旧音ノ木坂領の国境線付近に位置しているらしい。

果南ちゃんの車で森を抜けて小一時間。
そこそこ大きな街に到着した。

私達は追われている身のはずなのに変装とか全くしていない。
大丈夫なのか凄く心配だったけど、ここには浦の星の人間はまず来ないから大丈夫みたい。



千歌「ねえねえ、この服いいと思わない?」

曜「どれどれ……おお! いいじゃん♪」

千歌「だよね!」

千歌「あっ、ただ……これ見て」ピラッ

曜「たっか!? この服こんなにするの!?」

千歌「なんか全体的に値段高いんだよね」

千歌「一番安い服でも浦の星の二倍はしてる」

千歌「定価はそんなに変わらないのに……」

曜「税率が異常に高いんだよ。これは支配している国が自由に変えられるからさ」

千歌「むぅ……じゃあこれは無理だね」
251 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:40:26.05 ID:/qW9MsG40


果南「おーい、千歌!」

千歌「なーにっ?」

果南「いい感じの服見つけたよ」

千歌「おお! ……おぉ?」

曜「果南ちゃん……?」

果南「えっ、何、ダメだった?」アセアセ

曜「流石に千歌ちゃんにこの色は似合わないと思うなぁ」

千歌「折角選んできてくれたのに……ごめんね?」

果南「あれっ? 千歌に黒色ってそんなに似合わないかなぁ……」

千歌「え、“黒色”?」

曜「何を言っているのさ、ド派手な“紫色”じゃん」

果南「……紫?」

曜「なんかこう、叔母様が好んで着てそうな色だよね」

千歌「デザインはちょっと好きなんだけど」


果南「……そんな、まさか……」ブツブツ


千歌「果南ちゃん? どうしたの?」

果南「……へ?」
252 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:42:21.88 ID:/qW9MsG40

曜「なんか変な汗かいてるけど、大丈夫?」

果南「あっ、だ、大丈夫大丈夫っ!」

果南「自分のセンスが年寄り臭くなってた事に動揺しただけだよー」アハハ

千歌「そう?」

果南「私のセンスは絶望的だから千歌と曜が持ってる服を買おうか」

曜「でも凄く高いよ?」

果南「子どもが気にする事じゃないよ」

果南「そもそも高いのは最初から知ってるし」

千歌「じゃあ……お言葉に甘えちゃおうかな」エヘヘ

曜「なら私の服もついでに――」

果南「曜はお金持ってるでしょうが」

曜「……」

果南「欲しければ自分で買いなさい」

曜「……はい」シュン

千歌「ごめんね、私ばっかり買って貰って……」

果南「いいのいいの! どさくさに紛れた曜が悪い」

曜「ごもっともであります……」
253 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:44:24.62 ID:/qW9MsG40


果南「よし、お会計済ませて来るね。曜はこのお店で買うの?」

曜「ここではいいかな」

曜「私は一旦お花を摘みに行こうかと」

果南「千歌は?」

千歌「邪魔になっちゃいそうだしお店の外で待ってるよ」

果南「そっか、じゃあ少しだけ待っててね」

千歌「はーい」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




千歌「ん〜〜っ、今日もいい天気だねぇ」グググ


……あまり自覚は無いけど、この世界に来てからもう一か月も経ったんだよね。

つまりラブライブの予選も既に終わってる……。

結果はどうだったのかな? 突破出来たのかな……?
……私が居なくたってみんななら大丈夫だよね!

きっとみんななら……。

……。


千歌「――どうして、こんな事になっちゃったんだろうね」

千歌「ごめんね……みんなごめん……」グスッ




少女「……」ジッ




千歌「?」
254 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:47:24.62 ID:/qW9MsG40


何だろうあの子。ずっと私の事を見てるぞ。
私の顔に何か変なものでも付いてるのかな? だとしたら恥ずかしいな。

でもあの子……どこかで見たような―――。




『凄い……もう全然痛くないよ!』ブンブン!


『仲良し仲良し♪』


『いやったあ!! 約束だよ?』



『ど、こ……、真っ暗で……何も、見えない……よ?』


『……ぁ、温かい……なぁ』


『じゃあ……治ったら、一緒に……遊んで、く……る………?』


『……え、えへへ、楽し……み……だ……な……ぁ』




千歌「――あ! まさか、でもそんな……!?」


見間違う訳が無い。あの顔はあの時の妹ちゃんだ。
間違う訳が無い……でもここに居るが無い。

だって妹ちゃんはあの時亡くなったんだ。あの怪我で生きているはずが無い。

なら今私を見ているあの子は? ただ似ているだけの別人?

髪形も背丈も服装だって全く同じ。
そんな偶然があり得るの……?


少女「……っ」ニヤッ
255 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:49:13.86 ID:/qW9MsG40

千歌「――あっ、待って!!」


目が合った瞬間に走り出した。このままじゃ見失っちゃう!

後先考えずに私は少女の後を追った。





果南「……あれ?」キョロキョロ

曜「お待たせ〜」

果南「曜、千歌は?」

曜「へ? 外で待ってるんじゃないの?」

果南「それが居ないんだよ」

曜「あれ〜、どこに行っちゃったんだ??」

果南「……」




256 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:51:57.32 ID:/qW9MsG40

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜郊外 森林地帯〜



千歌「――待って、お願いだから待ってってば!!」

少女「……」ピタッ

千歌「はぁ、はぁ、はぁ……」

少女「……」


千歌「……君は誰なの?」


――少女は答えない。


千歌「あの時会った子なの?」


――少女は何も答えない。


千歌「生きていたんだね……良かった、死んじゃったかと―――」



少女「――ふふ、うふふふふっ」



千歌「な、何……?」

少女「人形兵(マリオネット)の映像から姿を複製したけれど正解だったわね」

千歌「複、製……?」

少女「そもそも本当に生きていると思った? あの傷で生きているわけが無いじゃない」

千歌「なら君は一体誰なの!?」
257 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 00:57:12.22 ID:/qW9MsG40

少女「そうね……この姿だったら分かるかしら?」


そう言うと彼女の体から紫色の濃霧が発生し、瞬く間に体全体を覆い隠した。

その霧も徐々に薄くなり隠れていた姿が露になると――。


千歌「――よ、しこ……ちゃん」

善子「へぇ、もう私を知っているのね」

千歌「そのリング……守護者なんだ」

善子「リングの事も守護者の事も知ってるんだ! 流石に一か月も“この世界”に居ればそのくらい知ってるか」

千歌「えっ」

善子「高海 千歌、あなたが平行世界から来た事は知っている」

千歌「どうやって!?」

善子「詳しく知りたいのなら私と一緒に王都まで来てもらおうかしら?」

千歌「んな!?」

善子「これは女王の命令、あなたに拒否権は無い」

千歌「ダイヤさんが私に何の用だってのさ!」

善子「っ!? ……驚いた、女王の名前まで知ってるとは」

善子「今まで誰と行動していたのかも気になるわね……」

善子「まあいいわ、それも含めて全部話してもらうから」ジリッ


善子はリングに炎を灯したまま近寄ってくる。


千歌「ち、近寄らないで!!」
258 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 01:01:37.64 ID:/qW9MsG40

善子「抵抗はしないでね。出来れば無傷で連れて行きたいからさ」

千歌「う、うぅ……」

善子「あなたもバカよね。こんな場所までのこのことついて来るなんて」

善子「見つけるまでちょっと時間掛かったけど、これで任務完了――」



突如リングの炎が不自然に揺らいだ。
視界の端でそれを認知した善子は踵で地面を強く蹴り飛ばして千歌から距離を取った。



ドスドスドスッ―――!!



善子が居た場所に複数のナイフが突き刺さる。



果南「――勝手に居なくなっちゃダメだよ、千歌」

千歌「果南ちゃん!」

果南「まさかこんな所まで来てるとは予想外だったけど見つかって良かった」


善子「二か月ぶりね……松浦、果南――!!」

果南「善子……完全に不意打ちだったのによく躱せたね」

善子「炎を使えばこの程度不意打ちでも何でもないわ」

果南「ああ、リングの炎をレーダー代わりにしたのか」

善子「あんたと一緒なら守護者の事も女王の名前も知っているのも納得」
259 : ◆ddl1yAxPyU [saga]:2019/02/18(月) 01:03:14.14 ID:/qW9MsG40

果南「それで、千歌に何の用事?」

善子「説明したら渡してくれるの?」

果南「どうなの千歌」チラッ

千歌「嫌だ……行きたくない」

果南「じゃあダメだね」

善子「そう……」

善子「あーあ、楽に終わると思ったんだけどなぁ……」ポリポリ

果南「……下がってて」

千歌「う、うん……」

善子「また逃げるの?」

果南「そうだよ。本気で戦えば善子を殺してしまうから」

善子「……ふふ、面白い冗談ね」

善子「今回はあの雲のAqoursリング使いが居ない。アイツさえ居なければ私から逃げ切るのは不可能よ」

果南「それでも逃げ切ってみせるさ」シュルシュル

千歌「大丈夫……なの?」

果南「任せて。善子にとって私は“相性最悪”だからね――!」



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