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千歌「勇気は君の胸に」
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260 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/18(月) 01:05:30.68 ID:/qW9MsG40
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜千歌が目覚める数日前 浦の星王国 城内〜
梨子「―――お待たせしました、女王」
善子「……」ムスッ
女王「随分とわたくしを待たせてくれましたわね」
善子「……それは悪かったと思っているわ」
梨子「善子っ!」
女王「構いませんので二人共席に座りなさい。早速本題に入ります」
善子「やっと例の解析が終わったのよね?」
女王「ええ、ここまで解析に時間が掛かったのは未知の技且つ複数人の炎が複合された技だったのが原因だそうです」
梨子「初期の段階で鞠莉様の技だと分かってたのでは?」
女王「それは――」
善子「そんなのはどーだっていいじゃない」
善子「重要なのはどんな技だったのか、でしょ」
女王「……説明は省いてもよろしくて?」
梨子「分かりました」
261 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/18(月) 01:08:18.86 ID:/qW9MsG40
女王「結論から言えばあの技により別世界の人間がこの世界に召喚されました」
女王「精神のみの召喚では無く、本体ごと呼び寄せていますわ」
梨子「べ、別の世界からの召喚したんですか!?」
善子「それって何かマズい事なの?」
梨子「マズいなんてレベルじゃない! 下手をすればこの世界が崩壊しかねない危険な行為よ!!」
善子「っ!?」ゾワッ
女王「成功したのは奇跡に近いですわね」
善子「で、でも、前女王だってそのリスクは知っていたんでしょ?」
女王「当然ですわ」
善子「ならそのリスクを承知の上で召喚を試みた……」
梨子「鞠莉様は無意味な事をする人では無い。この召喚にもきっと重要な理由があるはず」
女王「召喚された人物の特定は完了しています」
女王「データを送りますわ」ピピピ
梨子「これは……女の子?」
梨子「……この顔、どこかで……?」ボソボソ
善子「……」
262 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/18(月) 01:12:03.24 ID:/qW9MsG40
女王「名前は『高海 千歌』。推定年齢は17歳の高校生ですわ」
梨子「名前まで割れているんですね」
女王「同じ世界線に同一人物は存在できない」
女王「存在しないはずの人間が同時に共存すると世界が拒絶反応を起こして瞬く間に崩壊してしまうのです」
梨子「……この世界の『高海 千歌』は既に死亡している」
女王「それが召喚に成功した要因の一つでしょう」
梨子「この写真を使って過去の死亡者リストから検索したって事ですか」
女王「浦の星王国内に居るのなら監視カメラからすぐに見つかるのですがね」
梨子「今は虹ヶ咲か音ノ木坂に居るんですか……厄介ですね」
善子「……」
梨子「善子? さっきから黙り込んでいるけど、どうし―――」
善子「――あっ!! 思い出した!!!」
梨子「び、びっくりした……」
女王「何を思い出したのです?」
263 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/18(月) 01:17:07.47 ID:/qW9MsG40
善子「この子! 私この子に霧の炎で作った身分証を渡したわ!」
女王「……何ですって?」
梨子「間違いないの?」
善子「私、直感的に怪しいなと思った人物には炎で作った物をこっそり忍ばせるようにしてるの」
女王「いくら何でも都合が良すぎる気がしますが、まあいいでしょう」
梨子「それなら善子の炎の反応を調べればすぐに場所が分かる!」
善子「ただその……問題が一つだけ」
女王「マップに反応を表示させましたわ」
梨子「って何これ……反応多すぎじゃない!?」
善子「いやー、手当たり次第に忍ばせているから、ざっと五十人くらいは表示されてると思う」
梨子「手掛かりがあるだけマシと考えるべき……かな」
女王「しらみつぶしに当たるしか方法は無いですわね」
女王「――では速やかに『高海 千歌』を発見し可能な限り無傷で連れて来なさい」
女王「その際、抵抗してきた人物や組織が居た場合は各自の判断で始末して構いません」
善子・梨子「「――了解」」
264 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/18(月) 01:21:33.83 ID:/qW9MsG40
――――――――
――――――
――――
――
果南ちゃんがどのくらい強いのか正確には知らない。
でも昨日のテストを見る限り炎や技、匣兵器無しの素手で曜ちゃんを倒していた。
更に果南ちゃんは自分は守護者だって言っていた。
善子ちゃんも同じ守護者だけれど、力の差はそこまで無いはず。
それに相性がいいって言っていた。
千歌「――果南ちゃんならきっと大丈夫……だよね」
――両者は睨み合ったままその場で動かない。
炎を灯している善子は技の発動準備は完了している。
一方、果南は右腕の包帯を解いただけ。
リングの炎どころか武器すら手にしていない。
先に仕掛けたのは善子。
パチンッと指を鳴らすと、果南の足元から火柱が出現。
果南の体全体を飲み込んだ。
思わず果南の名前を叫ぼうとした千歌だったが、火柱から無傷の果南が勢いよく走りだした。
善子「……チッ! やっぱり幻術は効かないか……!?」
果南「だから言ったじゃん! 相性最悪だってさ!!」
265 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/18(月) 01:26:10.44 ID:/qW9MsG40
――幻術。
相手の脳に直接作用して幻覚を見せ、実際には起きていない現象をあたかも起きていると錯覚させる技。
この技を使用できる者を『術者』と呼ぶ。
霧の炎の持ち主がこの幻術を使える場合が多い。
あくまでも錯覚なので幻術によって作られた刃物や生き物による攻撃で肉体が傷つく事は無い。
だが、術者の能力が高ければそれも例外となる。
脳に作用する力が強ければ錯覚によって肉体にダメージを負うし、暗示で体の自由も失う。
思い込みだけで死ぬ事だってある。
善子の幻術はまさにその例外である。
千歌が見た火柱は幻術であり、実際には発生していない。
にもかかわらず千歌は火柱が発する熱や音をハッキリと感じ取っている。
仮にこの火柱が千歌に向けて発動されていたら脳の錯覚だけで全身の皮膚は大火傷状態となり、最悪ショック死しただろう。
そんな強力な技である幻術なのだが、果南には効果が無い。
とある理由で果南は幻術の作用を受けないのだ。
接近に成功した果南。
果南の右ストレートを善子は転がるようにして回避。
善子「なら、これはどうよ!!」
地面から生えた植物のつるが果南の足に巻き付く。
果南「くっ、今度は有幻覚かッ!!」
266 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/18(月) 01:28:55.55 ID:/qW9MsG40
――有幻覚。
幻覚を霧の炎で強化し、実体を持つ幻覚を生み出す。
善子が脳内でイメージした武器や植物等々を霧の炎で具現化する。
神経をすり減らす大技だが、幻術が効かない相手にも有効となる技である。
果南が巻き付いたつるを右手で触ると、一瞬で消滅した。
果南「炎を使う技は無駄だって事は知ってるでしょ?」
善子「ええ、勿論」
果南「術者は肉体的苦痛に弱い。一発ぶん殴れば力を使う事は出来なくなる」
善子「それが出来れば、ね」
果南「今の私には幻術も有幻覚も効かない! 一気に距離を詰めて一撃を――」
ガクンッ―――!
果南「……は?」
善子「どうしたの? いきなり片膝なんかついて」クスクス
果南「な、に……が?」
千歌「果南ちゃん! あ、あし……脚が……!!!」
果南「脚……?」
自分の右脚へと目線を落とす。
太もも辺りに太い杭が深々と突き刺さっていた。
果南「いつの間に……」
267 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/18(月) 01:32:53.18 ID:/qW9MsG40
善子「右手で有幻覚のつたを打ち消した時よ」
善子「と言うか痛みに鈍感過ぎじゃない? 麻酔でも打ってるの?」
千歌「早く晴の炎で治療して! 技とか匣とかあるでしょ!?」
果南「……っ」ギリッ
千歌「何やってるのさ!?」
善子「ああ……それは知らないんだ」
千歌「何が!?」
善子「果南は技や炎を“使わない”んじゃない、“使えない”んだよ」
千歌「使え、ない……?」
善子「右手にはめている『ヘルリング』による呪いでね!!」
善子の周囲に果南の脚に刺さっていたのと同じ杭が複数出現した。
先端は全て果南の方向を向いている。
善子「これらは全て有幻覚で作った杭。だから果南の右手が触れれば一瞬で消滅するわ」
善子「でもね――!」
スウゥゥ……
果南「ッ!!?」
千歌「き、消えた!?」
268 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/18(月) 01:42:12.24 ID:/qW9MsG40
善子「この杭は私のイメージで作り上げた物よ。透明化させる事なんてわけないわ!」
善子「もっとも、見えないだけでその場には存在している」
善子「だからリングの炎をレーダー代わりに使えば探知出来るし匣兵器で相殺も出来る」
善子「この程度“普通の人”なら簡単に対処出来るのよ」フフフ
果南「……ッ」
善子「私と果南は相性最悪だって言っていたわね?」
ドスッ――!!
果南「ッッッ!!!」ボトボトッ
善子「確かに間違っていない」
ドスドスドスッ―――!!
千歌「あ、あぁ……」ガタガタ
善子「果南にとって私は“相性最悪”だったわね――!」
果南「は、はは……一本……取られ、た……な」
―――ドサッ
果南「……ゴフッ」
269 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/26(火) 23:57:07.38 ID:fD14+jHH0
千歌「果、南ちゃん……嫌ぁ……かなんちゃ――」
善子「動かないで」パチンッ
千歌「うっ!? 体につたが!!?」
善子「邪魔が入ったけど任務は達成出来そうね」
千歌「……果南ちゃんはどうなるの!?」
善子「どうなるって……そりゃ始末するわよ」
千歌「っ!?」
善子「頭や心臓は右腕で防がれたけどあんだけ杭を撃ち込んだんだ。ほっといても死ぬでしょうけど」
千歌「嫌だ……果南ちゃんを助けてよ……」ポロポロ
善子「はあぁ? あんたバカなの?」
千歌「お願い……お願いします……っ」
270 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/27(水) 00:04:03.72 ID:daATT7mK0
善子「……はぁ、無理なものは無理。諦めな――」
グサッ―――!!
善子「……あっ?」
善子「何、あ……肩……ナイフ? これは、血……?」
善子「――う、うがあああああああ!!? 痛いいいいいいイイイ!!!?」
千歌「え、えっ??」
果南「――あーもう五月蠅いな、ちょっと刺さったくらいで大げさだよ」ムクッ
善子「果南……ッ!? どうして起き上がれる!!?」
果南「どうしてって……意識があるから?」
善子「何でその傷で意識を保てる!? 痛みで気絶してなきゃおかしいでしょうが!!」
果南「痛みねぇ……」
果南は右手で刺さった杭に触れて消しながらゆっくりと立ち上がる。
痛みで顔を歪ませている様子は全く無い。
千歌「果南ちゃん……っ!」
果南「心配せてごめんね?」
果南「――もう終わらせるからさっ!!」
走り出す果南。
傷の痛みの影響を感じさせない動きだ。
果南「喰らえッ――!!!!」
―――バキッ!!!
右ストレートが善子の顎を完全に捉えた。
善子「が、ああ……」ドサッ
271 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/27(水) 00:09:21.92 ID:daATT7mK0
果南「はぁ、はぁ、はぁ」
善子「……ま、まだ、まだ、だ―――!!」
果南「ッ!? まだ意識が!!」
果南「だったもう一発―――……ぐっ!?」ガクンッ
千歌「大丈夫っ!?」
果南「や、ヤバっ……出血しすぎたか……!!」
善子「逃がさ、ない……!!!!」
バシュッ!! バシュバシュバシュッ!!!!
善子「今度は何ッ!!?」
千歌「この水の壁は……!」
曜「――千歌ちゃん、果南ちゃん!!」
千歌「よ、よーちゃん!」ジワッ
曜「二人共無事!?」
果南「今の私を見て無事に見える?」
272 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/27(水) 00:12:30.09 ID:daATT7mK0
曜「ええっ!? その傷でどうして生きてるのさ!!?」
果南「……いいや、いいタイミングで来てくれたね」
果南「この隙に逃げるよ。曜、私を担いで!!」
曜「私ぃ!? そ、そりゃそうか……分かった!」
善子「待て! このまま逃がして堪るか!!!」
千歌「善子ちゃん……」
果南「千歌っ! 早く!」
曜「来て千歌ちゃん!」
千歌「うん……ごめんね、善子ちゃん」ダッ
善子「このッ……待て、待てよ……まつうらああああああアアアアア!!!!」
273 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/27(水) 00:21:23.50 ID:daATT7mK0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
曜「――車まで着いたよっ!」
千歌「果南ちゃんが運転するの……?」
果南「先に治療しなきゃだから無理」
千歌「じゃあ誰が……」チラッ
果南「曜、運転の経験は?」
曜「ある訳ないでしょ!? 免許だって持ってないよ!」
果南「何かしら乗り物の運転ぐらいした事ないの? 何でもいいから」
曜「ええ……強いて言うなら、遊園地のゴーカートくらい……?」
果南「……よし、君にはAT免許を進呈しよう」
曜「ガバガバ判定だね!?」
果南「ギアを『D』にてアクセル踏むだけなんだから簡単簡単!」
果南「ほら、追手が来る前にさっさと出して!」
曜「りょ、了解でありますっ!!!」
果南「千歌、私の鞄取って」
千歌「これ?」
274 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/27(水) 00:23:55.22 ID:daATT7mK0
果南「そうそう」
果南「ええっと、確かこの中に……お、あったね」ゴソゴソ
千歌「ホッチキスとガムテープ?」
千歌「そんもの何に――」
―――バチンッ!
千歌「痛ッ!?」ゾッ
果南「うーん、もう二か所くらいやっとくかな」
―――バチンッ! バチンッ!
果南「うん、穴が塞がったね」
果南「この調子で全部塞いじゃおう」バチンッ、バチンッ
千歌「な、ななな……」ワナワナ
果南「ん?」
千歌「何やってるのさ!?」
果南「何って……見ての通り応急処置だけど?」
275 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/27(水) 00:31:49.87 ID:daATT7mK0
千歌「見れば分かるよ! い、痛くないの……?」
果南「止血しなきゃヤバイし、へーきへーき」バチンッ、バチンッ
千歌「平気って……」
果南「ガムテープでグルグル巻きにするから手伝って」
千歌「分かった……」
千歌「巻くからバンザイしてよ」
果南「……」
千歌「そのままだと巻きにくいからバンザイしてってば」
果南「……」
千歌「ねえ、聞いてるの? 果南ちゃ――」
―――バタッ
千歌「えっ!?」
果南「……ぅ」
曜「何、どうしたの!?」
千歌「分かんない! さっきまで普通に話してたのに突然……っ!!」
276 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/02/27(水) 00:37:09.50 ID:daATT7mK0
曜「やっぱり危ない状態だったんだ……!」
曜「そりゃそうだよね……あんなに血が出てれば誰だって……」
千歌「急いで曜ちゃん!」
千歌「このままじゃ果南ちゃんが……果南ちゃんが死んじゃうよ!!」
曜「分かってる!」
果南「……ぃ、……ぅよ」
千歌「喋らないで!」
果南「大、丈夫……だっ、て……」
果南「こんな………とこ、ろで……死ねな……い……か、ら……」
果南「…ぅ……ぅぅ………」ガクガクガクッ
曜「っ!? ヤバイ、これ本当にヤバイよ!!」
千歌「果南ちゃん! 果南ちゃん―――!!!」
277 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 00:26:54.36 ID:KVFCSo750
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
果南「……ぅ」パチッ
よしみ「お、凄いタイミングで目を覚ましたね」
果南「んぁ……手術中だったのね」
よしみ「麻酔無しでやってるからそのまま動かないでねー」ヌイヌイ
果南「……は〜い」
よしみ「それにしても派手にやられたね」
果南「善子に穴だらけにされちゃった」
よしみ「応急処置とは言えホッチキスは無いでしょ」
果南「どこかの大佐みたいに傷口を焼き固めた方が良かった?」
よしみ「発想がワイルドだなぁ……。それならまだホッチキスの方がマシかな」
果南「でしょ?」
よしみ「痛みを感じないからって無茶しすぎ」
果南「うん……戦い方が雑になってるのは自覚してる」
278 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 00:32:07.22 ID:KVFCSo750
よしみ「――千歌ちゃんから聞いたよ、黒色と紫色を間違えたんだって?」
果南「あー……うん、そうだよ」
よしみ「いよいよ視覚にも影響が出ちゃったんだね」
果南「いつの間にか右腕の黒色化も二の腕付近まで来てる」
よしみ「想定より呪いの進行が早いな……」
よしみ「このペースだとあと一か月も持たないですよ」
果南「だろうね……ちょっとマズいかな」
よしみ「雨のリングの回収を急いだ方がいい」
果南「うん、王都に向かう予定も早めなきゃ」
よしみ「リングの回収は私と花丸ちゃんで行くよ」
果南「……いや、私が花丸と行く」
よしみ「いやいや、その傷で行かせると思う?」
果南「よしみが行ったらルビィの護衛どうするのさ」
果南「あの子の側には よしみ が居なきゃダメ」
よしみ「……」
279 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 00:33:12.37 ID:KVFCSo750
果南「大丈夫だって。出発は明後日にするからさ」
よしみ「はぁ、こんな事なら全身麻酔使って眠らせて置けば良かったかも」
よしみ「それで、リングを回収した後はどうするつもり?」
よしみ「曜ちゃんに渡すの?」
果南「それを決めるのは私じゃない、リングの方だよ」
果南「曜に適性があれば好都合だけど……可能性は低いだろうね」
よしみ「まぁ……うん、あの子に適性があるとは思えないかな」
果南「何はともあれ曜と千歌に話をしなきゃダメか……」
果南「意外と早いタイミングで話す事になっちゃったな」
280 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 00:34:38.39 ID:KVFCSo750
よしみ「――よし! 手術完了だよ」
果南「サンキュー♪」
よしみ「二人を呼んできます?」
果南「いいや、話すのは明日にするよ」
果南「流石に体が重い……気がする」
よしみ「へぇ、とっくの昔に感覚は失ったと思っていたのに」
果南「皮肉? ちょっと傷ついたぞ」ムッ
よしみ「申し訳ない、無神経でした……」
果南「いいぞ、許す」
果南「千歌と曜によろしく言っといてね」
よしみ「……分かりました」
281 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 00:36:55.44 ID:KVFCSo750
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
果南「――お、二人共来たね。その辺の椅子に適当に座ってよ」
曜「全員この部屋に揃ってるんだ」
ルビィ「うん……」
花丸「今回私とルビイちゃんは居るだけだけどね」
曜「ふーん?」
千歌「怪我の具合は大丈夫なの……?」
果南「大丈夫大丈夫っ!」
よしみ「っと本人は申していますが、絶対安静の重傷患者です」
果南「こら、余計なこと言わないでよ!」
曜「重傷だってのは分かってるんだけど全然そんな風に見えないんだよね」
千歌「私だったら痛くて喋るのも辛いと思う」
果南「そりゃ痛くないから平気なんだよ」
千歌「痛くない?」
282 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 00:43:45.20 ID:KVFCSo750
よしみ「その表現は適切じゃないです。果南さんは痛みを感じない」
よしみ「――……いや、感じる事が出来ない体になってしまったんです」
曜「体を改造した……って事?」
果南「まあ待ってよ、順を追って説明するからさ」
果南「昨日よしみ からどんな話をするかある程度は聞いたんでしょ?」
千歌「うん、一応」
曜「果南ちゃん達がどうして今の女王と対立しているのかを話してくれるんだよね」
果南「その話に入る前に、私の特性について説明するね」
果南「薄々気が付いているとは思うけど、私の右手……正しくは黒く変色した部分には炎による攻撃を無力化する効果がある」
果南「でもこれは生まれつき備わっていた特性じゃ無い」
曜「後天的な物って事?」
千歌「確か善子ちゃんが“ヘルリングの呪い”がどうとかって……」
果南「この中指と同化した黒いリング、これがヘルリングだよ」
283 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 00:48:09.27 ID:KVFCSo750
千歌「普通のリングとは何が違うの?」
果南「ヘルリングはこの世界に六種類存在する霧属性の最高ランクの呪いのリングなの」
果南「それぞれが別々の呪いが宿っていて、使用者と契約する事で強力な力を得る事が出来る」
曜「霧属性? 果南ちゃんは晴の守護者だったんだよね?」
果南「私の持っているヘルリングはその特性上、使用者が霧の波動を持っていなくても使えるんだ」
果南「『特定部位に触れたあらゆる炎、及び炎を使用した技を全て無力化する』これがヘルリングによって得た私の力」
千歌「凄い! 無敵の力じゃん!」
果南「無敵ね……本当に無敵の力だったのなら、私は善子に負けてないよ」
千歌「あっ、ごめん……」シュン
曜「なら、“ヘルリングの呪い”によって痛覚が無くなったの?」
よしみ「それだけなら寧ろメリットだったかな……」
284 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 00:54:52.70 ID:KVFCSo750
果南「このリングをはめた瞬間、私の体には色々な変化が起きた」
果南「第一にリングをはめた右手の黒色化。初めは手首までだったんだけど、今はご覧のあり様」
曜「適用範囲が広がるのは良い事なんじゃないの?」
果南「その通り。これ自体は見た目が変わるだけでデメリットじゃない」
果南「第二に私の体に流れる見えない生命エネルギーの波動が一切流れなくなった」
曜「リングで体に流れる波動を高密度のエネルギーに変換して炎を生成する……だから果南ちゃんは炎が使えないんだ」
よしみ「悪影響はそれだけじゃ無い。生命エネルギーの流れが消失した、これが何を意味するか分かる?」
千歌・曜「「?」」
果南「……私ね、五感の内三つは既に無くなっちゃったんだ」
千歌「無く、なった……?」
果南「今の私は美味しそうな料理を出されても何も匂わないし、食べても味を全く感じない」
果南「熱湯や氷風呂に飛び込んでも熱さや冷たさを感じないからへっちゃらだし、後ろから包丁で刺されても多分気が付かない」
千歌「いや、ちょっと……ええ……っ??」
曜「そうか……だからあの時千歌ちゃんのリングに触っても平気だったんだ」
千歌「待って! じゃあ昨日の買い物の時も……」
果南「うん、視覚にも影響が出始めちゃった」
285 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 00:56:53.30 ID:KVFCSo750
果南「まだ色覚異常で済んでるけれどそのうち喪失して、その内視力も無くなるだろうね」
よしみ「五感全てを喪失した後、数日以内に命を落とす。これが呪いの力を得た果南さんが受ける代償」
千歌「そんな……何とかならないんですか!」
曜「リングを外せば進行が遅れたりしないの!?」
よしみ「リングは指を同化しているから外せないよ」
曜「だったらいっその事手首から下を斬り落とすとか!」
果南「ちょっ、バイオレンスだな!?」
曜「死ぬよりマシでしょ! 痛くないなら尚更いいじゃん!!」
果南「……試さなかったと思う?」
曜「っ!?」
千歌「斬り落とした事あるんだ……」ゾッ
よしみ「結論から言えば無駄だった」
よしみ「切り刻んでも、焼き尽くしても、薬液で溶かしても、一定時間経つと破片が右腕に集まって再生してしまう」
曜「おぅ……そこまでやったんだ」ドンビキ
286 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 00:58:34.12 ID:KVFCSo750
果南「使用者が死なない限りこのリングが外れる事は無いの」
千歌「じゃあ……果南ちゃんは……助からない……」
果南「運が悪いんだよな……個人的には先に聴覚の方が良かったのに」ガッカリ
果南「戦闘中に目が見えなくなるのはホント勘弁して欲しい」
曜「そういう問題じゃ――」
千歌「……どうしてそんな力を手に入れたの?」
果南「ん?」
千歌「自分が死んじゃうのが分かっていたのに……どうして?」
果南「……少し、昔話をしようか」
果南「私にとってかけがえのない二人の友達との出会いと、それを失うまでの話をね―――」
287 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 01:03:08.86 ID:KVFCSo750
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
二人と初めて会ったのは小学生の頃。
私達は同じクラスだった。
すぐに仲良くなったんだけど、キッカケは正直よく覚えていない。
席が近かったからよく話したからか、たまたま班が一緒だったからか、大した理由は無いと思う。
名前は『黒澤 ダイヤ』と『小原 鞠莉』
二人はいつも一緒。鞠莉の身の回りのお世話をダイヤがやっていた。
他のクラスメイトもいつも余所余所しい接し方だったのが当時不思議で堪らなかったんだ。
その理由を知ったのは小学校高学年に上がった時だ。
何となーく今まで気になっていた事を聞いてみたら二人共キョトンとしてね……。
鞠莉は『なるほど! だから今まで……フフ、アハハハ!!』と大笑い。
ダイヤは呆れ顔だったけれど丁寧に説明してくれた。
ダイヤと鞠莉は王族の人間で、鞠莉は次の女王様候補だった。
黒澤家と小原家が王族だって事は知っていた。
でもダイヤと鞠莉は苗字が同じなだけだと思っていたからこの時は驚いた。
けど友達が未来の女王様だって事はとても誇らしかったし、それを護衛しているダイヤの事も尊敬していた。
二人の正体を知った後も私達の関係性に特に変化は起きず、そのまま同じ中学、高校と進んでいった。
288 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 01:08:30.28 ID:KVFCSo750
――問題が発生したのは高校卒業後の進路を決める時。
特にやりたい事が無かった私はダイヤと鞠莉と同じ進路にしようとしていたの。
成績は上位の方だったから二人がどんな大学を選ぼうと大丈夫だった。
――二人は大学進学を選ばなかった。
鞠莉は王位継承に向けて、ダイヤは守護者になる為の本格的な準備に入ると聞いた。
完全に失念していたよね……私と二人は身分が違う、この事実を思い知らされた瞬間だった。
これから先は別々の道を進む。以前のように会う事も出来なくなると思うと少し寂しかった。
仕方ないよね……今までが特別だったんだもん。
卒業式の日。
私はこれまでの感謝の気持ちと、自分の進路をダイヤと鞠莉に告げた。
こうやって会えるのも今回が最後だと思うと涙無しには話せなかったよ。
そんな私に対し、二人の反応は予想外過ぎた。
鞠莉は何故か凄く怒っていたし
ダイヤはあの時と同じ呆れ顔だった。
ダイヤ『――呆れた……ここ最近ずっと浮かない顔をしていると思ったら……はぁ』
果南『な、何さ!? だって会えるのはこれで最後なんだよ!』
ダイヤ『どうして最後なんです?』
果南『どうしてって……そりゃ、鞠莉は女王様になっちゃうし、ダイヤも守護者になるじゃん』
果南『二人は平民の私じゃ手の届かない場所に行っちゃう……』
ダイヤ『そうですわね』
果南『ほら、間違ってないでしょ?』
289 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 01:09:45.20 ID:KVFCSo750
ダイヤ『果南さんが こ・の・ま・ま 普通の進路を歩むなら二度と会う事は無いでしょう』
果南『……は?』
ダイヤ『いいですか? この国には女王を守る守護者は六人居ます』
果南『そんなの知ってるよ』
ダイヤ『現在の守護者達の任期は鞠莉さんが王位継承式を向かえたタイミングで終了するのです』
果南『……だから?』
ダイヤ『……鈍いですわね』
ダイヤ『新女王である鞠莉さんの守護者はまだ決まっていない、もっと言えば“これから”決めるんですよ』
果南『っ!』
ダイヤ『だから、わたくしもこれから守護者になる“準備”をするのです』
果南『じゃあ……もし私も守護者に選ばれれば……っ!!』
ダイヤ『理解出来たようですわね』
290 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 01:12:06.58 ID:KVFCSo750
鞠莉『……果南の事だからそれくらい考えているって信じてたのにっ!』ムスッ
果南『ご、ごめん……』
果南『――でも、これからどうするべきかは決まったよ』
ダイヤ『ふふ、いい顔です』
鞠莉『守護者選定に私の私情は挟められない。その人物が守護者に相応しいかどうか決めるのはリングだから』
ダイヤ『それでも必要最小限の実力が無ければ選考段階で落とされます』
ダイヤ『継承式は一年後、時間はあまりありません』
果南『分かってるさ。キッチリ仕上げるよ』
果南『ダイヤも油断して不合格なんて事にならないでよ?』ニヤッ
ダイヤ『やかましいですわ。自分の心配だけしていなさい』
鞠莉『寂しいけれど、暫しのお別れだね……』
ダイヤ『何を言っているのです? 全然寂しくは無いでしょう』
果南『一生の別れが、たったの一年になったんだ。すぐにまた会える!』
鞠莉『っ! ……ええ、そうね!』
果南『――待っててね、二人共』ニッ
291 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/06(水) 01:14:30.16 ID:KVFCSo750
――こうして、私は守護者になる為の特訓を開始したんだ。
本来ならたった一年でどうにかなるハードルじゃない。
ちょっと鍛えただけで国を護る兵士の試験を突破出来る程甘くはないのだから。
でも、私の場合は事情が少し違う。
実は中学に入った頃からダイヤと一緒に色々な訓練をしていたんだ。
戦闘訓練は一通りマスターしていたし、勿論リングを使った技の習得も済んでいた。
思い返せば、ダイヤがこの訓練に私を誘ったのはこの時の為だったんだ。
……ダイヤが呆れるのも無理ないよね。
私は一年間、基礎トレーニングとダイヤと一緒に六年間学んだ事の総復習を毎日毎日繰り返した。
選考会当日までそれはもうあっという間に時間は過ぎ去っていった……卒業式がつい昨日の事のように感じたよ。
属性ごとに会場が分けられ、私はダイヤとは別会場で選考会に臨んだ。
――選考自体は余裕で通過出来た。
そもそも誰一人落とされなかったんだよ。
私の一年間の努力は一体……。
本番はここから。
Aqoursリングに炎が灯るか否かだ。
守護者選定の全てはここにかかっている。
どんなに強力な技を習得していても、別のリングでは高純度の炎が出せていても
Aqoursリングが使えるかどうかは別の話なんだ。
最終選考は次々と進み、遂に私の順番が回ってきて―――。
292 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/15(金) 23:16:53.35 ID:Nz8jNFF10
―――ガチャッ!!
果南『――ダイヤ、鞠莉!! やった! 私やったよ!!』
鞠莉『果南っ、良かった……!!』ウルウル
ダイヤ『まあ、当然の結果ですわね。わたくし はこれっぽちも心配していませんでしたし』
ルビィ『……お姉ちゃんの嘘つき』
鞠莉『そうよ、さっきまで何かブツブツ口にしながら部屋中歩き回っていたじゃない』
ルビィ『「心配する必要は無い……何も心配は無いですわ……」とか「大丈夫……大丈夫ですわ」とか言ってた』
ダイヤ『ちょっ、二人共!!?///』カァッッ
果南『ダイヤ……心配かけてごめんね』
ダイヤ『だ・か・ら! 心配してないと言っているでしょう!』プイッ
果南『ふふ♪ ダイヤもバッチリ守護者になれたんだ』
ダイヤ『当たり前でしょう』
果南『ルビィも守護者に?』
ルビィ『ううん、私は鞠莉さんの補佐役になったよ』
鞠莉『この国のNo.2ね』
果南『マジか!? 凄いじゃんルビィ! ……あ、ルビィ様になるのか』
293 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/15(金) 23:20:36.26 ID:Nz8jNFF10
ダイヤ『ルビィの事は以前話したではありませんか……』
果南『そうだったけ?』
ダイヤ『あとこれからは鞠莉さんの事も“鞠莉様”か“女王様”と呼ぶように』
鞠莉『ええーっ、私は今まで通りの呼び方がいい!』
ダイヤ『あの頃とは私達は立場が違うのです。上下関係はしっかりとしなければ』
果南『なら、ダイヤは妹のルビィも“ルビィ様”って呼ぶつもり?』
ダイヤ『ええ』
ルビィ『何かちょっと嫌だな……』
ダイヤ『心配しなくともすぐに馴れます』
鞠莉『何はともあれ、これでまたみんな一緒になる事が出来たわ!』
鞠莉『私とルビィは国のトップとして、ダイヤと果南は守護者として、浦の星王国をより良い国にしていきましょう!』
ルビィ『うんっ!』
ダイヤ『ええ!』
果南『うん、頑張ろう!』
294 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/15(金) 23:26:23.80 ID:Nz8jNFF10
――ここからの日々は凄まじいものだった。
辛い事、嫌な事、悲しい事も沢山あったけれど、とても充実していたよ。
鞠莉はすぐに民に慕われる女王になった。
これまでの女王は護衛の関係上、祭典の時と国交の時以外は城の外に出ない。
でも鞠莉は国民との交流を優先したんだ。
城に居ても今抱えている問題をきちんと把握出来ない。
実際に会って話す事で初めて分かる事の方が多いんだって鞠莉は言っていた。
守護者全員、鞠莉が外出する度にピリピリしていた一方、止めた方がいいとは誰一人言わなかった。
みんな、鞠莉のこの考え方は浦の星王国をより良くしていくと信じていたからね。
鞠莉『―――私ね、この国が大好きなの』
果南『……突然どうしたのさ?』
鞠莉『私の代から今まで色んな人々と会ってたり話したりしてるじゃない?』
鞠莉『その時のみんなが凄く明るくて、シャイニーな笑顔が眩しくて……まだまだ未熟な私に頑張れって言ってくれて……』
鞠莉『それが凄く嬉しかったわ』
果南『……うん』
ダイヤ『……』
鞠莉『だからね、私は大好きなこの国をもっと良くしたい! 全員がシャイニーな笑顔で暮らせる、そんな国にしたいの!』
ダイヤ『鞠莉様ならきっと出来ますわ』
果南『だって鞠莉だもんね!』
ダイヤ『鞠莉“様”でしょう! いい加減呼び方を改めなさい!』
295 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/15(金) 23:30:20.19 ID:Nz8jNFF10
果南『ええーーっ、三人の時くらいいいじゃん!』
ダイヤ『いっっつも付けて無いでしょうが!!』
果南『ダイヤの石頭め』
ダイヤ『はあ!?』
鞠莉『もうダイヤってば、短気は損気デース♪』
果南『そーだそーだ』
ダイヤ『……っ』ブチッ
鞠莉『……あっ』
果南『やっば』
ダイヤ『……果南、表に出なさい』
鞠莉『だ、ダイヤ……? 守護者同士の戦闘行為は禁止よ……?』
ダイヤ『戦闘? 安心して下さい……ただ話し合うだけですよ、ええ』
ダイヤ『うふ、うふふふふ……』
果南『あ、あはははは』
果南『はぁ……マジか』
鞠莉『ファイト、果南っ♪』
鞠莉なら将来きっと最高の女王様になる。
今までのどの先代の女王様よりもきっと
最善最良の女王様に。
そう、信じていたんだ―――。
296 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/15(金) 23:33:20.27 ID:Nz8jNFF10
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜三年前 浦の星王国 王都〜
果南「……むぅ」
梨子「いつまで不貞腐れているんですか?」
果南「だって! なんで私がお留守番組なのさ!?」
梨子「もう二日間も同じことボヤいてるじゃないですか!」
果南「……」ムスッ
梨子「理由はダイヤさんから説明されたのでは?」
果南「そうだけどさぁ……」
ダイヤ『――果南さんは梨子さんと一緒に王都に残って下さい』
果南『はあぁ!? なんでさ!?』
ダイヤ『守護者全員が国を離れるわけにはいかないじゃないですか』
果南『そんなのは分かってるよ!』
果南『梨子が留守番なのは理解できるよ。でも私がそっちに選ばれなかった理由は!?』
鞠莉『私が果南を指名したからよ』
果南『鞠莉!』
鞠莉『梨子一人でも支障は無いと思うけど、どんな事にも不測の事態はつきもの。万が一の為にも、守護者は二人以上残しておきたいの』
果南『今回の会合には虹ヶ咲と音ノ木坂の女王と守護者も参加するんだよね?』
ダイヤ『予定ではそうなっています』
果南『私はまだ一度も会った事が無いんだよ? 二人は幼い頃に何度も会ってるのにっ!!』
297 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/15(金) 23:44:39.83 ID:Nz8jNFF10
果南『ズルいズルい! 今回は譲ってよダイヤ!!』
ダイヤ『あなた……子どもですか?』
果南『何とでも言え! 参加する為ならプライドだって捨ててやるんだからな!』
ダイヤ『はぁ、呆れた』
鞠莉『果南、何を言おうともあなたの参加は認めないわ』
果南『うっ……そんなぁ……っ』ジワッ
鞠莉『別に果南に意地悪したくてこんな事を言っている訳じゃないのよ?』
果南『じゃあ何なのさぁ?』
鞠莉『果南なら私が留守の浦の星を任せられると信じているから』
果南『ならダイヤでもいいじゃん……』
鞠莉『ダイヤはこういう事に慣れているから連れて行くだけよ』
鞠莉『他の守護者が信用出来ない訳ではけど、果南の方が付き合いも長いからさ』
果南『でも……』
鞠莉『別にこれが最後会合じゃ無いわよ。次回は連れて行くから機嫌直してよ、ね?』
果南『……分かった』ムスッ
鞠莉『いい子ね♪』
ダイヤ『全然納得した顔をしてませんけどね』
果南『ダイヤ、しっかり鞠莉を護衛するんだよ!』
ダイヤ『言われるまでもありませんわ』
ダイヤ『果南さんも留守は任せましたからね』
果南『はいよ』
鞠莉『じゃあ、行ってくるわね〜♪』フリフリ
298 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/15(金) 23:50:27.91 ID:Nz8jNFF10
果南「……はぁ」ガッカリ
梨子「国の防衛も重要な仕事なんですから、やる気出してください」
果南「分かってるよぉ……だからこうして街を一緒に徘徊してるじゃん」
梨子「一緒にってのがダメな気がしますけど……」
果南「城に居た所でやる事無いんだし」
果南「そもそもどこの誰が攻めてくるってのさ」
梨子「今回の会合には浦の星、虹ヶ咲、音ノ木坂の女王とその守護者が参加しているんですよね」
果南「そうそう」
梨子「近年は比較的良好な関係になってきたとは言え、長い間いがみ合って来た国同士の長が直接会うとは……」
梨子「文書やテレビ電話、時には戦争でしかやり取りをしてなかった時代からしてみれば良い流れなのかもしれない」
果南「良い流れねぇ……」
梨子「果南さん?」
果南「……ここ数年でグッと仲が良くなったよね」
梨子「ええ」
果南「それも不気味なくらい」
梨子「……ええ」
299 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/15(金) 23:53:38.78 ID:Nz8jNFF10
果南「水面下で半世紀近くも緊張状態が続いていた三か国が短期間でこれほど関係が好転するわけが無い」
梨子「裏で何らかの条約が結ばれた、とかでしょうか?」
果南「もしくは争いを中断せざるを得ない事態が発生した」
梨子「共通の敵が現れたという事ですか?」
梨子「それなら争っている場合では無いですけど……」
梨子「だとしたら、私達にも知らされていない理由は?」
果南「……確かに。もしそうなら守護者の私達にも話が来てるか」
梨子「ですよね」
果南「やっぱ、私の考えすぎかな」
梨子「仲が良くなるのはいい事なんだから素直に喜ぶべきですよ!」
果南「それもそっか」
果南「はぁ……今頃ダイヤ達は何やってるのかなぁ」
梨子「女王様が揃ってるんだし美味しい料理が沢山出てきていたりするのかな?」
果南「美味しい……料、理……っ!!」
300 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/15(金) 23:56:28.38 ID:Nz8jNFF10
果南「……梨子、私達も今から美味しい物食べに行こうか」
梨子「果南さんの奢りでなら」
果南「決まりだね!」
梨子「何を食べようかな………あれ?」
果南「どうかしたの?」
梨子「あれって……ダイヤさん?」
果南「ダイヤだって? いやいや、まだ帰って来てるはず無いじゃん」
梨子「なら向こうから歩いて来る人は誰……?」
果南「ボロボロな格好しているあの人? ぱっと見、訳アリって感じだ……け……ど………」
ダイヤ「……」フラフラ
果南「うそ……ダイヤっ!?」ダッ
梨子「ちょっ、待って下さい!」
果南「ダイヤ!!」
ダイヤ「……あぁ、果南さんですか」
果南「果南さんですか、じゃないよ!」
果南「何でダイヤがこんな場所に居るのさ!?」
ダイヤ「……」
301 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/16(土) 01:15:26.20 ID:Mv6rJ+dn0
梨子「服もボロボロ……み、右腕も無いじゃないですか……っ!?」
果南「何があったの!? 鞠莉はどうしたの!!?」
ダイヤ「……ました」
果南「何?」
ダイヤ「――……鞠莉は死にました。もうこの世には居ません」
果南「……………は?」
ダイヤ「あの場に居た虹ヶ咲、音ノ木坂の女王及び守護者も全員死亡。浦の星の守護者もわたくし以外は全員死亡しました」
梨子「え……死、亡……?」
果南「ちょっと……」
ダイヤ「他国のリングの回収は出来ましたがAqoursリングは霧以外は行方不明ですわ。恐らくこの島全域に散らばったのかと」
果南「ちょっと待ってよ、そんな事より……」
ダイヤ「国のトップと最高戦力のほとんどが死亡した今、虹ヶ咲と音ノ木坂を落とすには絶好のタイミングで―――」
果南「――ダイヤッ!!!」グイッ!!!
梨子「果南さん!?」
ダイヤ「……胸倉なんて掴んで、苦しいですわね」
果南「何が起きたか全然理解できない……きっとダイヤがここまで帰って来られたのは奇跡的で喜ぶべきなんだと思う」
果南「けどっ!! けどどうして……」
果南「――どうしてダイヤが側に居ながら鞠莉が死んだ!!!!?」
ダイヤ「……」
果南「答えろ!! ダイヤっ!!!」
302 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/16(土) 01:17:19.71 ID:Mv6rJ+dn0
ダイヤ「……それを貴女に説明して何の意味があるのです?」
果南「何だと?」
ダイヤ「説明したところで鞠莉が死んだ事実は変わらない」
果南「ッ! 開き直ってるんじゃないよ!」
ダイヤ「最も、貴女が居ようが結果は変わらなかったでしょう」
ダイヤ「いや……死体の数が一つ増えるだけか」フフ
果南「この……ッ!!!」グイッ
ダイヤ「……いつまで掴んでいるつもりですの?」
果南「はあ?」
ダイヤ「いい加減、その手を離しなさい」ピトッ
―――パキッ、パキパキパキ!!!
果南「ッッッ!!!?」
梨子「手が一瞬で凍り付いた!?」
ダイヤ「便利な力でしょう? リング無しでも扱えるし失った右腕も作り出せる」パキパキ
果南「な、何でダイヤが『氷河』属性の炎を使える!?」
ダイヤ「口の利き方には気を付けなさい。女王に対して無礼極まりないですわよ」
梨子「女王……?」
ダイヤ「ええ、わたくしが浦の星王国の女王となるのです」
果南「は……?」
303 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/16(土) 01:18:57.48 ID:Mv6rJ+dn0
ダイヤ「ルビィに鞠莉の代わりは務まらない。だからわたくしが女王になります」
果南「何勝手な事を言ってんだ! 普通に考えてルビィに決まってるでしょ!」
梨子「果南さんの言う通りです。いくら何でも無理がある」
ダイヤ「……そうですか、ならば先にルビィを始末するしか無いですわね」
果南・梨子「「!!?」」
ダイヤ「ルビィは城に居ますわね?」
梨子「ほ、本気でルビィ様を消すつもりなんですか!? 実の妹を!!?」
ダイヤ「殺しはしませんよ。先ずはわたくしに王位を譲るよう話をするだけです」
果南「脅すの間違いじゃないの……?」ギロッ
ダイヤ「果南、反抗的な態度を取るのはおススメしませんわよ」
ダイヤ「その凍った両手を今すぐ砕いたって構わないのですから」
果南「ぐッ……」
ダイヤ「今後の事は追って連絡します。それまで二人は待機していなさい」
ダイヤ「それでは」スタスタ
果南「……」
梨子「……行っちゃいましたね」
果南「うん」
梨子「一体これからどうなっちゃうんだろう……」
果南「ダイヤ……」
304 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/16(土) 01:22:46.06 ID:Mv6rJ+dn0
―――間も無くしてダイヤは浦の星王国の女王となった。
ルビィとどんな話があったのか知らない。
本人が目の前に居るけれど、大体の予想は出来るし。
ダイヤの就任は公には公表されず、鞠莉が死亡した事、女王が変わった事のみが伝えられたんだ。
女王になったダイヤが真っ先に行った事は他の二国に対しての宣戦布告だ。
他の国は女王や最高戦力である守護者の大半を失った事態を把握し切れていない。
この混乱に乗じて一気に支配しようと目論んだんだ。
国の重要な施設は勿論、街や自然も焼き払う。
抵抗してくる敵は徹底的に叩き潰す。
誰が支配者かを知らしめるため、過剰な戦力を投入して。
鞠莉達が築いてきた国同士の関係をダイヤはぶち壊したんだ。
私はそれが許せなかったんだ―――。
ダイヤ「――果南、こんな所で何をしているのです?」
果南「……」
ダイヤ「梨子と共に虹ヶ咲の守護者の生き残りを排除するように命令したはずですが?」
果南「……説得はしたんだ」
果南「でも梨子は私のお願いよりもダイヤの命令に従った」
ダイヤ「女王の命令に従うのは当然の事ですわ」
ダイヤ「だからこそ理解できない……何故、貴女は今ここに居る?」
果南「これ以上戦争を続ければ取り返しのつかない事になる」
305 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/16(土) 01:25:52.66 ID:Mv6rJ+dn0
ダイヤ「それが?」
果南「鞠莉や先代の女王達がどれだけ苦労して平和な世界を作ってきたか知ってるでしょ!?」
果南「ダイヤのしている事はそれに対する裏切り行為だ」
ダイヤ「……だから?」
果南「今ならまだ間に合う……」
ダイヤ「はぁ、何を言いだすかと思えば」
ダイヤ「――命令に従いなさい。わたくしからは以上ですわ」
果南「……そっか」
ボオォ―――!!!
ダイヤ「……何のつもりですか?」
果南「ダイヤの暴走を止める」
果南「話してもダメなら力尽くでも止めてみせるっ!」
ダイヤ「……ぷっ」
果南「ああ?」
306 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/16(土) 01:27:17.55 ID:Mv6rJ+dn0
ダイヤ「ウフフフ、アハハハハハハハッ!!!」
果南「……何が可笑しい?」ギロッ
ダイヤ「アハハハハッ……はあーあ、久々に大笑いしましたわ」
ダイヤ「力尽くでも止める? 貴女が? このわたくしを?」
ダイヤ「貴女如きが、わたくしに勝てると本気で思っているのですか?」
果南「―――ぁ」プツンッ
ダイヤ「リングに炎を灯した時点で明確な反逆行為。極刑は免れない」
ダイヤ「光栄に思いなさい、女王であるこのわたくしが直々に刑を執行致しますわ」
ダイヤ「思い残す事無いよう全力で掛かって来なさい」
ダイヤ「もっとも、一瞬で片が付くと思いますがねぇ」
果南「――上等だよ……」ギリッ
ダイヤ「いつでもどうぞ」ニコッ
果南「……ダイヤアアアアアアアァァァアァ―――!!!!!」
307 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/16(土) 01:28:34.95 ID:Mv6rJ+dn0
――私はダイヤと戦った。
勿論今まで本気でやり合った事は無かったけど、勝算はあった。
力尽くでも止めるとは言ったけれど、あの時は殺すつもりで挑んだんだ。
……その結果、私は敗れた。
右眼もこの時の戦いで潰されたんだ。
まるで歯が立たなかった。
戦いにもならなかった。
ダイヤは終始無表情。
機械的に私を処理し始めた。
息を吸って吐くだけの肉塊と化した私を凍らせては溶かし、凍らせては溶かしを繰り返す。
意識を失いかければお腹に風穴を開けて強引に起こされた。
三回目以降は数える事すらも止めた。
何度も、何度も何度も何度も何度も繰り返される。
私も流石にこの時はもうダメだと思ったよね……。
“死にたくない”よりも“早く殺してくれ”と強く強く願った。
そして、私の意識は何の前触れもなくプツンッと途切れてしまった――。
308 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/22(金) 22:09:34.95 ID:kfSVeD8K0
果南「―――……っぁぐぅ」パチッ
ルビィ「果南さん」
果南「ル、ビィ……?」
果南「ここは……車の中、なの?」
よしみ「そうですよ」
ルビィ「よしみさんの車の中です」
果南「ん……体に力が入らない」
よしみ「当たり前ですよ。本来なら死んでてもおかしくない怪我だったんだから」
よしみ「ルビィ様に感謝しなよ? なぶり殺しにされかかってた果南さんをギリギリで助けて下さったんだから」
よしみ「治療が後数分遅かったらあの世行き」
果南「そっか……ありがとうルビィ」
ルビィ「いえ……いいんです」
309 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/22(金) 22:17:41.94 ID:kfSVeD8K0
よしみ「予め言っておくけど、その怪我を治すのに晴の炎をフルパワーで使ったから」
よしみ「多分数十年分の寿命が縮んだと思うけど文句は言わないでね」
果南「うん、死なずに済んだだけいいよ」
果南「でも私を助けたって事はどういう意味か分かっているの?」
よしみ「……」
ルビィ「……うん」
ルビィ「果南ちゃんを助けに入った時、一瞬だけお姉ちゃんと目が合ったの……冷たい目だった」
ルビィ「あの人はもうお姉ちゃんじゃない……完全に別人」
果南「……」
ルビィ「それに『逆らうならば殺す』って言われたの。本気だった……お姉ちゃんは本気で私に殺すって言ったんだよ」ポロポロ
ルビィ「……もう覚悟を決めるしかないと思った」
よしみ「私もダイヤ様のやり方には反対でしたから。味方するならこっち側かな、と」
果南「味方になってくれるのは嬉しいけどさ……」
果南「……私の技や匣兵器じゃ歯が立たなかった。ルビィとよしみが増えた所で意味が無いよ」
よしみ「私達が無策で飛び出してきたと思う?」
310 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/22(金) 22:25:43.51 ID:kfSVeD8K0
ルビィ「これを見てください」ゴトゴトッ
果南「匣兵器? でも見たことないやつだね」
よしみ「これは最近開発に成功したAqoursリングでしか開口出来ない、守護者専用の匣兵器さ」
果南「っ!? 完成したんだ……」
よしみ「ルビィ様が大空、嵐、霧以外の匣を持ち出して来てくれた」
よしみ「あとは散り散りになったAqoursリングを回収して新たな適合者を見つければ……」
ルビィ「お姉ちゃんを女王から退けられる可能性はあるっ!」
果南「……それだけじゃ足りない」
よしみ「足りない?」
果南「実際にダイヤと戦った私には分かる。強力な匣兵器を使っても、ダイヤの“あの技”の前には無力なんだ」
果南「“あの技”を何とかしないと勝ち目は無い」
311 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/22(金) 22:32:11.57 ID:kfSVeD8K0
よしみ「策はあるの?」
果南「Aqoursリングの回収と同時にあのヘルリングも探し出す」
よしみ「ヘルリングに頼るのか……」
ルビィ「晴属性の果南ちゃんでも使えるヘルリング? ……って、まさか!?」
果南「私がその力を得てダイヤを倒す」
よしみ「本当に呪いの力が必要なの?」
果南「……うん」
よしみ「でも呪いを受けるのが果南さんである必要性はどこにも無い。道中で見つけた同士でも、なんなら私でもいいのでは?」
果南「よしみの力は絶対に失えないし他の人に呪いを押し付けるなんて出来ない」
果南「となれば、私以外には居ない。戦闘スタイルの面においても私が適任だと思うし」
よしみ「……っ」
果南「何はともあれ、リングも適合者も見つけ出さない事には始まらない」
果南「仲間を集めて、私達ももっと力をつけないと」
果南「過酷な日々が始まると思う……それでも私について来てくれる?」
ルビィ「うん!」
よしみ「ついて行くけど、途中でうっかり死なないでよね?」
果南「ん……善処するよ」
312 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/22(金) 22:54:21.05 ID:kfSVeD8K0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
果南「――これが二年前の話」
果南「こうして私達の散り散りになったリングを探しつつ、適合者を探す旅が始まった」
果南「その道中で花丸と出会ったんだ」
花丸「リングの適合者が守護者の定義とするなら今はマルが雲の守護者ずら」
果南「これまでに見つけたリングは『雲』と『雷』。残りの『雨』も場所の目星は付いている」
曜「『雨』……」
千歌「『雷』は適合者は見つかっているの?」
果南「うん。ここに居るよ」
千歌「え、誰?」
ルビィ「わ、私です……」
千歌「ルビィちゃんが!?」
果南「意外でしょ? ただ、ルビィが戦闘する事は出来るだけ避けたいけどね」
曜「それはダイヤさんを倒した後に女王になってもらう為に?」
果南「まあ……最初はそれが理由だった」
果南「私達の当初の目的はダイヤを王座から退かせる事。話し合いで解決出来ない以上、退かせる方法はダイヤを殺すしかない」
ルビィ「……でもそれじゃダメなの」
果南「私達はダイヤの死を望んでいない。これがこの旅を始めてから辿り着いた本心」
313 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/22(金) 23:00:14.17 ID:kfSVeD8K0
曜「……何で?」
果南「ん?」
曜「果南ちゃんは殺すつもりで戦ったって言ってたじゃん。それで逆に殺されかかった」
果南「無様にも返り討ちにされたね」
曜「鞠莉さんが築き上げてきてもの全部壊した事を憎んでないの?」
果南「憎いさ、それは絶対に許さないよ」
曜「今だって色々な人に酷い事をしている。そんなダイヤさんを生かしておくべきだと思う?」
曜「本当にダイヤさんの死を望んでいないの?」
果南「……そうだねぇ……」
果南「ダイヤは鞠莉が死んだ事で別人に変わってしまった。冷徹で冷酷な、最低最悪の女王になってしまった」
果南「―――でもね、たとえどんなに変わってしまっても……ダイヤは私の友達なんだよ」
曜「友、達……?」
果南「友達が間違った事をしたらそれを正す。友達なら当たり前の事だよね」
果南「だから私はダイヤの所に辿り着いたら、一発ぶん殴ってやるんだ」
314 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/22(金) 23:05:20.64 ID:kfSVeD8K0
曜「分からない……それはもう友達の域を超えているよ……友達とは言っても赤の他人じゃん」
曜「自分の人生を、命まで掛けて……私には分からないよ」
果南「曜だって千歌を命懸けで守ったじゃん」
曜「それとは状況が違うよ。ダイヤさんは果南ちゃんの事をもう友達とは思ってないもん」
果南「んー、千歌なら分かるよね?」
千歌「うん、ちょっとは」
千歌「もしも曜ちゃんがって想像したら、果南ちゃんと同じ事考えると思う……かな」
曜「それは千歌ちゃんの世界の“私”の場合の話?」
千歌「それもそうだし、この世界の曜ちゃんでも同じだよ」
千歌「曜ちゃんが悪い事をしていたら止める。絶対に止めてみせるよ」
曜「……」
果南「大丈夫、曜にも理解できる日がきっと来るよ」ニッ
曜「……そうだといいな」
315 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/22(金) 23:10:31.49 ID:kfSVeD8K0
果南「いつかもう一度、ダイヤと一緒に冗談を言い合ったり笑い合ったり……そんな当たり前だった日常を取り戻す」
果南「これが私とルビィの望み、夢かな」
ルビィ「またお姉ちゃんの笑顔が見たい。……叶う、かな?」
花丸「違うずら、必ず叶えるんだよ」
よしみ「その為にここまで頑張って来たんですから!」
千歌「花丸ちゃんはどうして果南ちゃんと仲間になったの?」
花丸「マルも二人と似たような理由ずら」
千歌「友達関係って事?」
花丸「まあね。果南ちゃんと一緒の方が色々と都合が良かったから」
花丸「何も言わずに居なくなった友達を連れ戻す。それがマルの夢ずら♪」
曜「私には……みんなみたいに夢とか目的が何もない……」
果南「無理に見つけようとする必要は無いよ。私達が特殊なだけ」
花丸「そうずら。曜ちゃんだって自分から望んでこの場に居るわけじゃないんだし」
果南「はたから見れば私達、ただのテロリストだもんね」
よしみ「曜ちゃんは元の生活に戻る為に戦えばいいんだよ」
曜「……そうなのかな」ボソッ
千歌「……」
316 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/22(金) 23:11:31.22 ID:kfSVeD8K0
果南「――さて、話はこれでお終い。花丸、明日は私と雨のリングを回収しに行くから準備しといてね」
花丸「明日っ!? その体で行くずらか!?」
果南「悠長に休んでる場合じゃ無くなったんだ」
千歌「痛みを感じないからって無茶しすぎだよ……」
よしみ「言っても聞かない人だからさ……諦めて」
果南「数日は帰って来ないから留守は任せたよ、よしみ、曜」
よしみ「うむ、任された」
曜「わ、私も?」
果南「何か変な事言ったかな?」
曜「……ううん、分かった任せてよ!」
317 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:14:43.16 ID:1wzK0UIw0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜二日後〜
曜「……ふわぁぁっ」ポケェ
よしみ「何呆けているのさ?」
曜「休憩しているだけだよー」
千歌「さっきまで花丸ちゃんから出されていたメニューをこなしてましたから!」
ルビィ「本当だからね?」
よしみ「そ、そんなに疑ってないですよ」
千歌「よしみさんが持ってるそのバスケットはなーに?」
よしみ「そろそろお腹がすく頃かなと思って」ゴソゴソ
よしみ「ほら、サンドイッチ作ってきたよ」
曜「おおーっ!」キラキラ
千歌「先に言ってくれれば手伝ったのに」
よしみ「いいのいいの」
曜「ねえねえ食べていい? 食べていいよね?」
318 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:16:06.55 ID:1wzK0UIw0
ルビィ「がっつき過ぎだよぉ……」
よしみ「あはは、早く食べなよ」
曜「頂きまーーす!」
曜「もぐもぐ……ん〜〜、美味しい!!」
千歌「本当だ凄く美味しい」モグモグ
よしみ「ふっふっ、作った甲斐があったよ♪」
ルビィ「果南ちゃんと花丸ちゃんはちゃんと見つけられたのかな」
千歌「場所の目星は付いてるって言っていたよね?」
曜「具体的な場所は言ってなかったけれど、どこなの?」
よしみ「確か、湖の中だったような……」
千歌「湖!? ダイビングの装備なんて持って行って無かったよね」
曜「この時期に潜ったら冷たすぎて死んじゃうよ!?」
よしみ「果南さんなら温度に関係なく潜れるから平気平気」
ルビィ「それに『熱いお茶』があれば水中呼吸もバッチリだもんね」
319 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:18:01.89 ID:1wzK0UIw0
千歌「……へ?」
曜「あ、『熱いお茶』ぁ?」
ルビィ「うん、『熱いお茶』」
曜「何で『熱いお茶』があれば水の中で息が出来るのさ?」
ルビィ「さぁ?」
曜「知らないの!?」
ルビィ「だって花丸ちゃんが本に書いてあったって言ってたんだもん!」
曜「んなアホな」
よしみ「実際に息が出来たし、深く考えなくてもいいかなと」
曜「ええっ、マジか……」
千歌「ファンタジーだなぁ」
曜「ん、待てよ……今、私はよしみさんがサンドイッチと一緒に持ってきたお茶を飲みました」
千歌「飲んだね」
曜「これは熱々のお茶でした」
よしみ「作りたてのお茶だからね」
曜「つまり……水の中で息が出来る条件が揃っている……?」
ルビィ「揃ってるね」
曜「………」
千歌「よ、よーちゃん?」
320 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:20:33.11 ID:1wzK0UIw0
曜「い、いけるのか……? いやでも……まさか……」ブツブツ
よしみ「まあ嘘だけどね」
ルビィ「うん、嘘」
曜「っ!!?」
千歌「だよねー」
よしみ「――さて、そろそろ休憩はお終いだよ」
よしみ「午後からは私も一緒に付き合うからさ」
曜「はーい」モグモグ
よしみ「千歌ちゃんはルビィ様と夕食の準備をお願いね」
ルビィ「戻ろうか」
千歌「うん」
千歌「じゃあ曜ちゃん、頑張ってね〜」フリフリ
何気ない、平和な日常。
勿論こんな日々が長く続くとは思っていない。
果南ちゃん達が戻ってくれば国を相手に戦いを挑む事になるんだもん。
世界を超えても出会うことが出来た大好きなAqoursのメンバー。
みんなと笑いながら過ごす日々が少しでも続けばいいのに。
それだけで私は幸せなんだ……。
…………崩壊はいつも唐突に訪れる。
321 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:24:35.21 ID:1wzK0UIw0
曜「ありがとう! がんばる………ん?」
曜「あっちから誰か歩いて来るよ? お客さん?」
ルビィ「お客さん……よしみさん?」チラッ
よしみ「いや、そんなのが来るなんて聞いてません……」
千歌「あの髪色に髪形……あのシルエット………ぁ」
よしみ「……バカな!? 何でここにあの人が来るっ!!?」
曜「……っ!!」
梨子「―――……へぇ、こんな所に潜んでいたのね。裏切者さん」
ルビィ「梨、子……さんっ」
梨子「ルビィ様も元気そうで何よりです」ニコッ
ルビィ「……うゆぅ」ビクッ
322 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:27:35.07 ID:1wzK0UIw0
梨子「あれ? 善子ちゃんの報告では果南さんも居るはずなんだけど、どこなの?」
よしみ「答える義理は無い」
梨子「……別に構わないわよ。今回の目的は果南さんでもルビィ様でも無いし」
梨子「――そこの君、高海 千歌に用事があるの」
よしみ「千歌ちゃんに!?」
千歌「……久しぶりだね、梨子ちゃん」
梨子「まさか、あの夜に出会った子が別世界から来てたなんて夢にも思わなかったわよ」
梨子「それに、まだその子と一緒に行動してるとも思わなかった」
曜「……」ギロッ
よしみ「どうしてこの場所が分かった?」
梨子「それは簡単よ。高海 千歌の居場所を特定する方法があったから」
千歌「私を?」
曜「発信機か何か付けられているって事!?」
梨子「ご名答♪」
ルビィ「そんなバカな……ここは花丸ちゃんが特製の結界を張っている! あらゆる電波、炎の反応だって遮断する結界を!」
よしみ「仮に発信機があったとしても、周囲三キロを覆う結界で反応は消せる」
よしみ「それ以前に部外者がこの場所に近づいた時点で私が察知出来る! ……出来るはずだったのにっ」
323 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:30:56.87 ID:1wzK0UIw0
梨子「善子ちゃんが倒された時間帯に近くにあった反応を追跡したの」
梨子「あなた達の言う通り、この場所から三キロ離れた場所でロストしたわ。でもそれさえ分かれば十分」
梨子「下手に大勢で行けば探知される恐れがあったから、こうして私一人で来たって訳」
よしみ「私の探知用の結界をすり抜けるとは……流石は守護者と言うべきか」
梨子「無駄話はもういいでしょ。早く高海 千歌を渡して」
曜、よしみ、ルビィが庇うように千歌の前へと出る。
曜「簡単に渡すと思う?」
よしみ「千歌ちゃんは私達の仲間だ!」
ルビィ「……ぅ!!」
千歌「みんな……」
梨子「はぁ……まあそうなるわよね」ポリポリ
ゴオオオォォ―――!!!
梨子「―――邪魔する者は排除していいって命令されているのよ?」ギロッ
梨子の右手から凄まじい熱量の炎が発生。
彼女から放たれる突き刺さるような殺意と熱波で千歌達は一歩後ずさった。
曜「な、何なのあれ!?」
よしみ「梨子の使う炎は常人のそれとは規格が違う! 破壊力だけなら一、二を争うレベルだよ!」
324 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:36:39.12 ID:1wzK0UIw0
ルビィ「き、来ます!!!」
右手から放たれる巨大な光球の炎。
曜は千歌を、よしみはルビィを抱えて左右にダイブして回避。
炎は地面を抉りながら背後にあったアジトに直撃した。
たった一撃で全体の三分の一が損傷。
鉄筋コンクリートで出来た建物は一部が一瞬で灰と化した。
梨子「避けられちゃった……」
曜「危なっ……!?」
千歌「で、デタラメな威力じゃんっ」ゾッ
よしみ「ぐ、ぐうう……」ジュウウウゥゥ
ルビィ「よしみさんっ!?」
千歌「嘘っ!?」
よしみ「申し訳、ございません……避けきれません、でした……」
ルビィ「背中が焼けただれてる……早く治療しないと!」
よしみ「この程度問題ありません……痛っっ!!」グラッ
梨子「無理しない方がいいんじゃない?」
325 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:38:25.00 ID:1wzK0UIw0
梨子「……動かれると一瞬で灰に出来ないから嫌なのよ。だからじっとしていて?」
よしみに向けられる右手。
既に攻撃の準備は整っていた。
よしみ「ッッ!! 離れてルビィ様!!!」
梨子「――バイバイ♪」
曜「―――『水の鎖(カテーナ・ディ・アクア)!!!!』
梨子に巻き付いた鎖が右腕を真上に引き上げた。
発射された光球は何も無い空へと逸れる。
梨子「……何?」ギロッ
曜「ルビィちゃん!!」
ルビィ「は、はい!」
326 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:40:53.22 ID:1wzK0UIw0
曜「ここは私が何とかするから、千歌ちゃんとよしみさんを連れて逃げて!!」
よしみ「っ!? む、無茶だ!! いくら修行したとは言え、梨子とはまだ戦いにもならない!!」
曜「私は果南さんに留守を任されたんだ」
曜「誰が相手だろうと関係ない……私は、私に与えられた役目を果たす!」
梨子「ふふ、威勢だけは一人前ねぇ」
曜「……うるさい」
よしみ「ダメ、だ……曜ちゃん一人じゃ殺される……私も……」
千歌「私はここに残るよ」
よしみ「なっ!?」
千歌「だって私の居場所は筒抜けなんでしょ? ならルビィちゃん達と一緒に逃げても意味が無い」
千歌「それに曜ちゃんが全力で戦う為にも私も残らなくちゃ」
よしみ「……無謀だ」
曜「なら、その傷を治して戻って来て下さい」
曜「この場所がバレてしまった以上、コイツは絶対に倒さなきゃいけないし」
梨子「……♪」ニコニコ
ルビィ「……行こう、よしみさん」
よしみ「……はいっ」ギリッ
327 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:44:09.25 ID:1wzK0UIw0
よしみ「曜ちゃん、千歌ちゃん! 直ぐに戻るからそれまで待ってて!!」
曜「……」コクッ
梨子「ねえねえ、この状況をちゃんと理解しているの?」
梨子「自分で言うのもアレだけど、私はこの前君が倒した人形兵(マリオネット)や逆に倒された『雷電』使いの子とは格が違うんだけど」
曜「理解していないのは桜内 梨子、アンタの方だよ」
梨子「?」
曜「今回は最初から千歌ちゃんが側に居るんだ。だから、今の私は誰にも負けない」
梨子「……『同調』だっけ? そんな他力本願な力で強気になるなよ」
巻き付いた鎖を嵐の炎で分解し、引き千切る。
梨子「一先ず、この一撃を防げるかな?」
三発目の光球。
曜は両手を地面に叩きつけて水の壁を作り盾を張った。
最初の一発より一回り小さかったが威力は絶大。
水の壁は一瞬で蒸発し、二人は後方に吹き飛んだ。
千歌「きゃっ!」
梨子「おお! 今ので貫けないのね!」
曜「くっ……炎は消せても、衝撃までは無理か!?」
梨子「ほらほら、避けなきゃ死ぬよ」
―――ゴッ!! ゴオッ!! ゴオォォ!!
曜「嫌らしい攻撃だなっ!」
328 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:47:19.96 ID:1wzK0UIw0
曜は千歌を抱え、飛んでくる光球を回避する。
梨子の目的は千歌を無傷で連れて帰る事。
その際、邪魔者は排除しなければならない。
邪魔者の排除は難しくは無い。
しかし、その強すぎる火力ゆえに対象も巻き込むリスクが伴う。
曜もまた、千歌を梨子の魔の手から守る立ち回りをしなければならない。
……梨子はそこを逆手に取った。
先程の攻撃で曜の『水の壁(ムーロ・ディ・アクア)』のおおよその耐久力は把握出来た。
ならば、それよりもほんの少し高威力の光球を千歌を狙って放てばいい。
そうすれば曜は千歌を守らざる得ない。
今は避けられているが、その内逃げ場は無くなる。
詰むのは時間の問題だ。
梨子「その子に自身を守る術が無い以上、君に勝ち目は無いわよ?」
千歌「梨子ちゃんの言う通りだよ! 曜ちゃんの得意な接近戦に持ち込まなきゃ!」
曜「それじゃ前の二の舞になっちゃうよ!」
千歌「攻撃が全部私に向けられているのは分かってる。だったら私を囮に――」
曜「ダメ、それだけは絶対に嫌だ!!!」
千歌「ならどうするのさ!?」
329 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:49:03.40 ID:1wzK0UIw0
梨子「……やーめた」
曜「は?」
千歌「攻撃を止めた…?」
梨子「このまま続ければ確実に仕留められるけど、それじゃ物足りないわ」
梨子「私に恐れずに挑もうとしてくれてる。こんな機会は久しぶりだもの……勿体無いわ」
曜「……勿体無い、か」
梨子「気に障ったかしら?」
曜「いいや、お手上げ状態だったから寧ろ有難いよ」
曜「最後までそうやって慢心していてくれるともっと嬉しいかな」
梨子「君には私が慢心してるように見える?」
ジャラジャラッ―――!!!
梨子の周囲に『水の鎖』を生み出す。
全身に巻き付かせて動きを封じる算段だ。
梨子「その技はもう見たよ!」
鎖が梨子の体に触れる前に一瞬で空中分解する。
身体の周囲に嵐の炎を纏わせてバリアを張っていたのだ。
このバリアがある限り『水の鎖』は勿論、『激流葬』も通じない。
330 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:51:50.94 ID:1wzK0UIw0
曜「はあぁぁぁッ……!!!」
梨子へと向かい迫る曜。
眼前まで迫り、右手のトンファーを振り抜きバリアを打ち破る。
もう片方のトンファーで顎を狙う。
が、梨子はとれを片手で軽々と受け止める。
梨子「いいわねぇ! 恐れずに接近してくるその勇気!」
曜「……ッ、素手で止めるの…!?」
梨子「素手? 違うわよ」
―――ゴオオオォォッ!!
梨子はインパクトの瞬間、手の平から炎を出して衝撃を和らげていた。
今度はその炎で掴んだトンファーごと曜の左腕を焼く。
曜「ぅぐああああッ……!!」
誤って沸かしたてのやかんに触った時とは訳が違う。
まるでマグマの中に腕を突っ込んだような、そんな痛みと熱さが曜を襲う。
曜は咄嗟に飛び退き、距離を取る。
曜「……ッぁ、あ゛あ゛あ゛あ゛……ッッ!」
331 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 00:59:39.66 ID:1wzK0UIw0
梨子「炭化させたつもりだったんだけどな……雨の炎で守ったのね」
曜「ぁ……ぐぅ、はッ……」
手を握ったり開いたりして動きを確かめる。
皮膚はただれ、意識が飛びそうになる程痛いが腕は死んでない。
……まだ、戦える。
曜「……行くぞッ!!!」
梨子「……」
……今の一撃で折れなかったのは意外だったな。
あの子の左腕はほぼ使い物にならなくなった。
片方のトンファーに炎を集中させての連続攻撃。
速く、鋭い連撃。
果南さんと修行を積んだのは嘘じゃないみたいだね……。
―――ゴッ!!!
曜の攻撃が梨子のこめかみにヒット。
体勢が大きく崩れた。
曜「チャンスだ……ッ!!」
332 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 01:05:08.27 ID:1wzK0UIw0
千載一遇の好機。
ここで畳みかけて一気に決着をつける。
曜の炎は更に大きく燃え上がる――。
……梨子の目は曜の動きを完全に捉えていた。
勝敗を決する要因は様々存在する。
体力、体格、筋力といった基礎能力。
モチベーションや精神状態などのメンタル力。
これまでに培ってきた経験値。
これらは戦いが始まる前から現れる差だ。
梨子と曜にはこの時点で圧倒的に差がついている。
しかし実戦では何が起こるか分からない。
思わぬラッキーパンチが敵に致命傷を与えるかもしれない。
戦いの中で急激な成長があるかもしれない。
感情の高ぶりで突然新たな力が発現するかもしれない。
……否だ。
百歩譲ってラッキーパンチの可能性はあるだろう。
だが、今回の曜が与えた一撃は違う。
梨子が気まぐれで思い出に一発プレゼントしてあげただけ。
現実では都合よく新たな力は発現しないし、圧倒的な実力差をひっくり返すほどの成長は起こらない。
気持ちが勝敗を分けるのはお互いの実力が拮抗している時のみの話だ。
……勝負は始まる前から既に決まっている。
曜が勝てる見込みなんて最初からゼロなのだ。
333 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 01:06:54.89 ID:1wzK0UIw0
梨子「もういいわよ」
曜「や、やばッ……」
体勢を崩した梨子だが、右手は曜の体の方に向けられている。
回避はもう、間に合わない―――。
―――ゴオオオォォッッ!!!
梨子の炎が曜の全身を焼き尽くす。
コンクリートを一瞬で灰にする火力。
人間に直撃すれば体は一瞬で蒸発する。
……曜の体は残っていた。
間一髪で雨の炎を全身に纏わせるのが間に合ったのだ。
しかし防げたのはごく一部。
辛うじて即死を免れたに過ぎなかった。
全身重度の火傷状態。
曜は力なくその場に倒れ込んだ……。
334 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 01:08:22.66 ID:1wzK0UIw0
曜「っ、ぁ……」ドサッ
梨子「……蓋を開けてみれば大した事無かったわね」
梨子「久々に歯向かってくる敵だったからちょっぴり期待しちゃった」
曜「あ、あぁ……ぁ…」シュウゥゥゥ
梨子「結局、よしみは間に合わなかったか。残念だったね」
曜「ぁぐ……ぐっ、はぁ………っ」
梨子「苦しそうね? 安心して、今楽にしてあげるから」
梨子の手の平に高純度の嵐の炎が集中する。
先ほどは直撃だったとは言え、僅かながら雨の炎で威力を軽減していた。
だが、今の曜に次の攻撃を和らげる力は残っていない。
梨子の攻撃を受ければ今度こそ消し炭にされる。
……はずだった。
梨子「………何のつもり?」
335 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 01:11:00.69 ID:1wzK0UIw0
千歌「……」
曜「ぢ……が、ちゃ………ん………?」
千歌「………っ!!」キッ!!
千歌が曜と梨子の間に割って入る。
両手を横に広げ、鋭い目つきで梨子を睨み付けている。
千歌「――止めて! もう曜ちゃんを傷つけないでっ!!」
梨子「涙目で睨まれてもねぇ……いいから、そこをどきなさい」
千歌「どかない……!!」フルフル
梨子「―――どけ。私をこれ以上怒らせるな」ギロッ
千歌「……ッ!? い、嫌だ……絶対にどかない!!」
千歌「あなたの目的は私でしょ? どこにでもついて行くから……だからもう止めて……!」
曜「ッ!!?」
梨子「そうね……でも、ここにいる反逆者を見逃すわけにはいかない」
千歌「……だったら」
千歌はポケットから先の尖がったガラス片を取り出し、刃先を自分の喉元に突き立てる。
梨子「……正気?」
千歌「私が死ねば、あなたは任務を遂行出来ない。それは凄く困るんじゃないの?」
336 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 01:12:57.19 ID:1wzK0UIw0
梨子「……そんな脅しは無意味―――」
―――ザクッ!!!
千歌は突き立てたガラス片を左腕に突き刺す。
傷口からは真っ赤な鮮血がドクドクと流れ出てきた。
千歌「〜〜〜ぅ痛ッッ!!!!!?」ボタボタッ
梨子「んな!?」
千歌「……あ、侮らないでよ。私だって覚悟してこの場所にいるんだから……ッ!」ジワッ
梨子「!」ギリッ
千歌「これ以上誰も傷つけないって約束するなら、大人しくついて行くよ」
梨子「誰もって誰の事?」
千歌「曜ちゃんは勿論、よしみさんやルビィちゃん、花丸ちゃん、果南ちゃんも含めてだよ」
千歌「金輪際、みんなを襲わないって約束して」
梨子「……」
千歌「……ねぇ、どうするの?」
梨子「私がその条件を受け入れたとして、こっちにメリットはあるの?」
千歌「女王様が私を探している理由は分からない。でも、どんな要求でも断らないし全面的に協力する」
梨子「……仮に、要求が“命”だったとしても?」
千歌「………うん」
曜「!!?」
梨子「そう……なるほどね」
曜「だ……め、だよ……行っちゃ、だめだ……!」
337 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 01:14:44.74 ID:1wzK0UIw0
梨子「いいよ。その条件、受け入れてあげる」
梨子は手の炎を消す。
梨子「ただし―――」
千歌の隣を横切り、倒れている曜の指からリングを取り外した。
千歌「ちょっと、何を―――」
―――パキパキパキッ
千歌「……あっ」
梨子「このリングは破壊する。微々たる戦力でも削らせてもらうわ」
曜「ぁ、ぅあ……」
曜『――このリングもパパから譲ってもらった宝物なんだ!』エヘヘ
曜「……う、うぅぅ、うわあ、あぁ」ポロポロ
千歌「曜、ちゃん……」ギリッ
梨子「さあ、ついてきなさい」
千歌「……はい」
338 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 01:16:46.73 ID:1wzK0UIw0
曜「……ま、て……待って、よ………」グググッ
梨子「あ?」
曜「……わ、たさ、ない……私は、まだ……戦え、る…!!」
……立て……立て立て立て立て!! 立てよッ!!!!
立ち上がらないと千歌ちゃんが……千歌ちゃんが連れて行かれるんだ!!!
何の為に強くなろうと決めたんだ。
絶対に守るって約束だってしたじゃないか。
今立ち上がらなくちゃ意味が無い!!
くそッ!! 言う事聞けよ私の体あああ!!!!
…… お願いだから……お願い、だからッ!!
千歌「――よーちゃん」
必死に立ち上がろうとする曜の頬に
千歌はそっと手を添える。
曜「ちか、ちゃん……?」
339 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/03/26(火) 01:19:24.98 ID:1wzK0UIw0
千歌「ごめん……ごめんね……私にも戦う力があれば、曜ちゃんがこんなに傷つく事は無かったんだよね」
曜「……ぅぁ」
……違う、千歌ちゃんは悪くない。
千歌「私と出会ったせいで曜ちゃんの人生を滅茶苦茶にしちゃったよね」
千歌「本当にごめん……」
曜「……っ、ち……が……っ」
……嫌だ……千歌ちゃん……。
行かないでよ……ねぇ……。
千歌「―――バイバイ、今までありがとうね」ニコッ
340 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/02(火) 22:10:33.23 ID:14MbcLkM0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
治療を終えたよしみ。
曜の増援へ向かう為、ルビィと共に戦場へ走る。
あの場から離れてから約五分。
到着まではもう一分も掛からないだろう。
ルビィ「……閃光と轟音が止んだ……?」
よしみ「嫌な予感がする……っ!」
ルビィ「もうすぐ着きます!」
曜「……ぁ、ぉっ……ぁ」
よしみ「……っ!! 曜!!」
ルビィ「ひ、酷い火傷……っ!」
341 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/02(火) 22:12:10.74 ID:14MbcLkM0
よしみ「直ぐに治療を始めます! ルビィ様!」
ルビィ「は、はい! アジトから道具一式を持ってきます!!」ダッ
よしみ「曜! もう少しだけ耐えて!」ボッ!!
曜「……ち、……か……ちゃ…が」
よしみ「……喋らなくていい分かってる」ギリッ
よしみ「間に合わなくてごめん……」
曜「……っ………っっ」ガクガクッ
よしみ「ま、マズイ!?」
ルビィ「持ってきました! ……えっ」
よしみ「ショック状態だ!! 早くそれを渡して!!」
ルビィ「はい!」
よしみ「死なせない……! こんな所で死なせて堪るか!!」
ルビィ「曜ちゃん頑張って!! 曜ちゃん!!!」
342 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/02(火) 22:18:29.22 ID:14MbcLkM0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜浦の星王国 城内〜
梨子「――はい、これで手当てはお終いよ」
千歌「うん、ありがとう」
梨子「全く……あんな瓦礫で体を傷付けるなんてどうかしてるわよ」
千歌「心配してくれるんだ」
梨子「……別に、無傷で連れてこられなかったのが嫌だっただけ」
千歌「私はこれからどうなるの?」
梨子「女王様の……ああ、名前は知ってるんだっけ?」
千歌「うん、ダイヤさんだよね」
梨子「あなたをダイヤ様の所へ連れて行く」
千歌「……私、殺されちゃうの?」
梨子「さあね。少なくとも直ぐには殺されないとは思うわ」
梨子「ただ、今ダイヤ様は立て込んでいるのよ」
343 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/02(火) 22:22:20.34 ID:14MbcLkM0
千歌「じゃあ、私は牢屋に……」
梨子「いいえ」
千歌「へ?」
梨子「監禁するつもりは無いわ。城内から出なければ自由に行動しても構わない」
千歌「……逃げ出すかもしれないよ?」
梨子「言わなくても逃げ出せばどうなるかくらい分かるよね?」
千歌「うぅ……はい」
千歌「でも本当にいいの? 入っちゃいけない部屋とかは?」
梨子「心配しなくてもその部屋には入ろうとしても入れないから」
千歌「そっか」
梨子「……」ジッ
千歌「な、何でしょう……か?」
梨子「かしこまらなくていいわ。そっちの世界だと私達は友達なんでしょ?」
千歌「そう、だけど……」
梨子「前は私があなたの事を知らなかったからあんな事を言っただけ」
344 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/02(火) 22:28:15.89 ID:14MbcLkM0
千歌「じゃあ……梨子ちゃん」
千歌「質問したい事があるんだけど、いい?」
梨子「内容によるけどいいわよ」
千歌「果南ちゃんはダイヤさんが女王様になった時にこの国から出て行った。それはダイヤさんのやり方に納得できなかったから……」
千歌「でも梨子ちゃんはどうして今もダイヤさんの守護者をやっているの?」
梨子「……」
千歌「この世界に来てみんなと会って、話して、それで分かったんだよ」
千歌「確かに私の知ってるみんなとは年齢も生活も人間関係も全然違う」
千歌「……でもね、曜ちゃん、果南ちゃん、花丸ちゃんにルビィちゃんも私の知ってるままだった」
梨子「偶然よ」
千歌「そんな事無い。世界が違ってもその人の内面を作っているものは変わらないんだよ」
千歌「だから梨子ちゃんだってきっと――」
梨子「やめて」
千歌「……っ!」
梨子「他の人がどうだったかなんて関係ない。私は私なの。それ以外の何者でもない」
梨子「勝手にあなたの中の像を押し付けないで」
千歌「……ごめんなさい」
梨子「質問はどうして私がダイヤ様に仕えているか、だったわね」
345 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/02(火) 22:33:50.41 ID:14MbcLkM0
千歌「うん」
梨子「簡単よ、私はダイヤ様に恩義があるから」
千歌「恩義……?」
梨子「私は元々、音ノ木坂の人間だったのよ」
梨子「生まれも育ちも音ノ木坂でね、将来の夢は守護者になる事だった」
梨子「その為に必死で努力した。努力して努力して……音ノ木坂では誰にも負けないくらい強くなったわ」
梨子「……でも、私は守護者になれなかった」
千歌「リングに選ばれなかったんだね……」
梨子「音ノ木坂で守護者になれるのは一部の血筋を引く者だけだった。私には初めから挑戦権すら無かったってわけ」
千歌「……」
梨子「哀れでしょ? 最初から知っていれば叶うはずの無い夢を見る事も無かったのにね」
梨子「嵐の守護者になったのは『西木野家』の人間だった。……実力は私の方が上なのにっ」ギリッ
梨子「まあ、誰一人認めてくれなかったけどね」
梨子「……自分より弱い人の下につく気はさらさら無い。だから私は国を出て行った」
346 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/02(火) 22:47:55.78 ID:14MbcLkM0
千歌「……」
梨子「……そんな事の為に出て行ったのって思ってる?」
千歌「ううん、思ってないよ」
千歌「梨子ちゃんにとって重要な事だったんでしょ? ならその選択は間違いじゃない」
梨子「そう……」
梨子「当ても無く彷徨っていた私はダイヤ様と出会ったの」
梨子「あの人は私の力を認めてくれた……私が必要だと言ってくれた」
梨子「――そして、ダイヤ様のおかげで私は夢だった守護者になれた」
梨子「私だってダイヤ様の女王としての振る舞いは正しいとは思わない」
梨子「……思わないけど、それは私がダイヤ様の敵に回る理由にはならないわ」
千歌「そうなんだ……」
347 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/03(水) 00:00:58.99 ID:TCkwwZxf0
梨子「あなたはダイヤ様が悪だと思っているの?」
千歌「……違うの?」
梨子「果南さんからどんな話を聞いたか知らないけど、片方の話だけで決めつけるのはどうかと思うわ」
梨子「正義の反対は悪じゃない、もう一つの正義よ」
千歌「梨子ちゃんは何か知っているんだ」
梨子「いいえ、ダイヤ様は私達にも何も話していない」
梨子「でも……あなたになら話すかもね」
千歌「私がお客さんだから?」
梨子「……すぐに分かるよ」
348 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/03(水) 00:02:23.54 ID:TCkwwZxf0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜三日後〜
よしみ「―――以上が、二人が外出中に起こった事の全てです」
果南「そっか……報告ありがとう」
よしみ「いえ……留守を任されていたのに申し訳ございません」
果南「梨子相手に全滅しなかっただけ良かった。よく生き残ってくれた」
よしみ「……はい」
果南「……それで、曜の具合は?」
よしみ「全身に重度の火傷を負っていましたが、一命は取り留めました」
よしみ「酷いケロイドが顔や全身に残っているものの特に後遺症はありません」
よしみ「……ただ、精神面のダメージが深刻で」
果南「……」
よしみ「ずっとうなされているんですよ……見てるこっちも辛くなる程に……」
果南「目の前で千歌を連れ去られて、大切にしていたリングも壊されれば無理もないよね……」
よしみ「……恐らく曜ちゃんはもう――」
果南「曜は今起きてるの?」
よしみ「え、あ、はい」
果南「ちょっと二人で話してくるよ」
よしみ「……分かりました。後はよろしくお願いします」
349 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/04(木) 21:51:09.18 ID:4H6J/4r50
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
曜「………」ボーッ
果南「やっほ、帰って来たよ」
曜「あぁ……果南さん」
果南「怪我の具合はどう?」
曜「……見た通りだよ。皮肉?」
果南「そうじゃない、本人の口からも聞きたかったの」
曜「そう……」
果南「……」
曜「………」
果南「……私の代わりにみんなを守ってくれてありがとね。曜のおかげで―――」
曜「気休めは止めて。私は何も守れなかった」
果南「………」
350 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/04(木) 21:54:10.53 ID:4H6J/4r50
曜「何も……ね……」
……重苦しい空気が医務室に漂う。
果南も曜も何も話さない。
長い長い沈黙が続く。
……そんな沈黙を打ち破ったのは曜だった。
曜「―――……歯が立たなかった」
果南「うん?」
曜「あれが守護者の実力なんだね。私の攻撃が全く通用しなかったよ……そもそも戦いにすらなって無かった」
曜「……このバカ曜は自惚れていたんだよ。千歌ちゃんが居れば誰にも負けないって思い込んでいた」
曜「その結果このザマ……ボロボロにされて、千歌ちゃんは連れ去られて、形見のリングも壊された」
曜「私は……私はっ……弱い……っ!!」ポロポロッ
351 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/04(木) 21:56:52.04 ID:4H6J/4r50
果南「……」
曜「あの女王のことだ、近い内に千歌ちゃんは必ず殺される……」
曜「もうぅ…… 二度と千歌ちゃんに会えない……」
曜「ねぇ、果南ちゃん……私はこれからどうすればいいの? ……どうしたらいいの?」
果南「どうすればいいか……か」
曜「もう分からない、分かんないよ……」
果南「悪いけどそれは私が決める事じゃないな」
曜「っ! だよ、ね……」
果南「でも、んー……強いて言うならそうだなぁ」
果南「――取り敢えずさ、難しいことは一旦置いておこうよ」
352 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/04(木) 21:59:37.31 ID:4H6J/4r50
曜「えっ……?」
果南「相手が誰だとか、自分の力がどうとか、そんなものは一回忘れよう」
果南「私は曜の本心が聞きたい」
曜「本心……?」
果南「確かに千歌は連れ去られた。でも、連れ去ったという事はダイヤは千歌に何かしら要件があるってことだ。すぐには殺されない」
果南「まだ曜は大切なものを全て失ってない。まだ取り返しがつく」
果南「……それを踏まえて聞くよ、曜はどうしたいの?」
曜「………ぁ」
果南「言ってごらんよ」
曜「………たい」ボソッ
果南「ん?」
曜「……千歌ちゃんに、会い、たい…」ポロポロ
果南「うん」
曜「こんな殺伐とした所だけじゃなくて、この世界の楽しい所を見せてあげたい」
果南「……うん」
曜「千歌ちゃんが元の世界に帰るその瞬間まで……私が一番長く側に居たい」
曜「千歌ちゃんと話したい事も……一緒に行きたい場所も沢山あるんだよぉ……」ポタッポタッ
果南「……うん」ナデナデ
曜「だから……だからぁ……う、うぅぅ……ひっく、ちか、ちゃんに……会い、たい」
果南「……それが曜の本心なんだよね?」
曜「……うん」
353 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/04(木) 22:03:07.36 ID:4H6J/4r50
果南「立ち向かう勇気はある?」
曜「……ひっく、……え?」
果南「もう一度、戦う勇気はある?」
曜「……でも私にはもう――」
果南はポケットから何かを取り出し、それをテーブルの上に置いた。
曜「これって、まさか」
果南「雨のAqoursリングとその専用の匣だよ」
果南「これを曜に託す」
曜「!」
果南「確かに曜は弱い。でも力が足りないなら、別の何かで補えばいい」
果南「曜の覚悟が本物なら、このリングと匣は必ず力を貸してくれる」
曜「……力」
果南「ただし、ここでその覚悟を示せないのならそれまで」
果南「千歌の事は諦めるんだね」
曜「……」
354 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/04(木) 22:15:22.97 ID:4H6J/4r50
果南「どうする? ……決断して」
曜「……答えなんて決まってる」
曜は机の上に置かれたリングを掴み、右手の中指にはめた。
曜の想いに呼応し、リングから雨属の青い炎が灯る。
灯った炎は不純物が殆どない、透き通るような青色の炎。
炎の純度はリングの性能にも左右されるが、
大きな要因は使用者の想いの強さだ。
混じり気の無い純粋な想いを持つ者に
リングはその力の全てを還元する。
曜「凄い綺麗だ……」
果南「曜はそのリングに認められた。雨の守護者に選ばれたんだよ」
曜「私が、守護者に……? 実感がわかないなぁ」
果南「これでメンバーが揃った。ダイヤ達に挑む為のメンバーがね」
曜「でも雷が……」
ルビィ「私が居るよ」ガラガラッ
曜「る、ルビィちゃん……!?」
355 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/04(木) 22:16:01.95 ID:4H6J/4r50
ルビィ「私も戦う……戦わなくちゃダメなんだ」
ルビィ「もう、後悔したくないから」
花丸「一度やると決めたルビィちゃんは誰にも止められないずら」
果南「ルビィ、花丸……勝手に入って来ちゃダメだよ」
ルビィ「ごめんなさい……」
花丸「でもさ、改めて考えるとマル達はイカれた事考えてるよね」
花丸「たった六人で国相手に挑もうとしているんだもん。正気の沙汰じゃ無いずら」
ルビィ「目的もバラバラだしね」
曜「いくらリングが凄い力を持っているからって、この人数で勝算はあるの?」
果南「勿論」
果南「みんな無事で終わるのが理想だけれどね。少なくとも私は死ぬからさ」
曜「……」
花丸「まあ……うん、そうだよね」
ルビィ「果南さん……」
356 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/04(木) 22:21:01.44 ID:4H6J/4r50
果南「もう! みんな暗い顔しないの!」
果南「私はこの力を得た事を後悔してない。命の使い方を自分で決めただけ」
花丸「……言い方だけはカッコいいずらね」
果南「――曜!」
曜「!」
果南「これから新しい力の使い方をマスターしてもらう」
果南「時間が無い……死ぬ気でやりなよ?」
曜「……分かってるさっ!」
357 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/04(木) 22:25:36.99 ID:4H6J/4r50
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
千歌「――あっ」
善子「げっ」
善子「マジか……私が最初に見つけちゃった……」
千歌「私を探していたの?」
善子「そうよ。女王がアンタと話がしたいってさ」
千歌「……そっか」
善子「そもそも、何勝手に城内をウロウロしているのよ!」
千歌「だって梨子ちゃんがいいよって言ってたから……」
善子「梨子がぁ?」
千歌「聞いてないの?」
善子「……まあいいわ、案内するからついて来なさい」
善子「……」
千歌「……あー、その」
善子「何?」
千歌「怪我は大丈夫?」
善子「あぁ、うん、別に何ともない」
358 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/04(木) 22:28:14.17 ID:4H6J/4r50
千歌「なら良かった」
善子「……変な人ね」
善子「ねえ、アンタ」
千歌「千歌だよ」
善子「千歌は普通に梨子や私と会話しているけど、怖くないの?」
千歌「怖い? どうして?」キョトン
善子「自覚無しか……ならそれでいいわ」
千歌「気にかけてくれてありがとうね」
善子「別に」プイッ
千歌「ふふ、善子ちゃんは善子ちゃんのままだね」
善子「千歌がそう思うならきっとそうなのかも」
善子「ただ、油断して心を許すような真似はしない事ね」
善子「私にとって千歌は友達どころか知り合いでもない、赤の他人なんだから」
千歌「今から友達になれないの?」
善子「……はぁ?」
359 :
◆ddl1yAxPyU
[saga]:2019/04/04(木) 22:29:49.57 ID:4H6J/4r50
千歌「な、何さ……?」
善子「あのね……敵対組織の人間同士が友達になれると思う? 無理でしょ」
善子「それとも千歌は果南達を裏切ってこっち側の人間になるって言う訳?」
千歌「それは……うぅ……」
善子「どーせ短い付き合いになるんだし、無理して関わる必要は無いわ」
善子「っと、話している間に着いたわよ」
千歌「ほぇ……大きな扉だね」
善子「この中で女王が待っている」
千歌「ダイヤさんが……」
善子「千歌の知ってる女王がどんな性格かは知らない。けど、同じように接するのは止めておきなさい」
千歌「……うん、気を付けるね」
善子は自分の身長の数倍大きな扉を開ける。
その向こうには、RPGでよく見る『王の間』と同じ様な空間が広がっていた。
扉から最奥にある玉座まで赤い絨毯が敷き詰められている。
玉座には一人の女。
退屈そうに頬杖をつきながら。
じっと千歌の目を見据える。
……冷たい。
視線、空気感がとにかく冷たかった。
今にも氷漬けにされそうな感じ。
震えが止まらなかった。
千歌「……ダイヤさん」
ダイヤ「ダイヤ……ああ、久しぶりにその名で呼ばれましたわね」
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