【シュタインズ・ゲート】岡部「このラボメンバッチを授ける!」真帆「え、いらない」

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38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/02(月) 22:09:49.56 ID:7R5bLaWJ0

紅莉栖「ちょ、ちょっとそんなイキナリ……」

真帆「ど、どうする紅莉栖。二人っきりになってしまったけど、一応これ続行する?」

紅莉栖「ど、どうしましょう?」

真帆「一応ためしに、あの二人を再度呼び出してはみるけど……」

真帆「あ、やっぱりダメね。拒否されてるっぽい」

紅莉栖「うーん。出来るなら、今の四人が揃っている状態で検証したかったんですけどね」

真帆「……そう。なら、またの機会にでもしましょうか?」

紅莉栖「そうですね。残念ではありますが」

真帆「ええ」

真帆(残念というよりも、なぜだろう。少しだけホッとした自分がいるのが……気に食わないわね)












39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 21:28:01.20 ID:5zbPgvo20
     07

三日後 2011/2/1 午前中

紅莉栖「ああ、やっぱりダメ。そっちからはどうですか先輩?」

真帆「こっちもだめね。相も変わらずアクセス拒否されたまま。交信を受けてくれそうな気配がまったく感じられないわ」

紅莉栖「そうですか。随分と頑ですね、彼女」

真帆「ええ本当に」

真帆(……本当に。私の分身とはいえ、何を考えているのかワケが分からないわ。反抗期かしら?)

紅莉栖「この間の107問題に関する意見陳述会から、もう三日」

真帆(あう。いつの間にか紅莉栖までデータ肥大化の事をへんてこな名称で呼び始めてる……)

紅莉栖「ねえ先輩。いっそのこと強制アクセスしてみては?」

真帆「強制アクセス?」

紅莉栖「そうですよ。アマデウスが三日間にも渡って、意図的に外部と通信を遮断するなんて、前代未聞です」

紅莉栖「やっぱりここは、彼女の健在を確認する意味でも、先輩のアクセス権限を使って強制的に──」

真帆「ごめんなさい。それはちょっと気が進まないわ」

紅莉栖「そう、ですか」

真帆「ええ。いくら相手がAIだからといっても、そういうのはちょっとね」

真帆「よっぽどの緊急事態でどうしても今すぐアクセスが必要だって状況なら、そうも言っていられないでしょけど。でも今のところ急ぐ用件もないわけだし」

紅莉栖「そう……うん、そうですね」

紅莉栖「確かに先輩って、権力やら権限やらを振りかざされるのとか、凄く嫌がりそうですもんね。そんな真似したら、アマデウス相手に凄い勢いで叱られかねないか」

真帆「いやあ、あはは、それはどうかしら?」

真帆(自分のアマデウスに叱られるとか……考えたくないわね)

真帆「それにね紅莉栖。一応の連絡手段だって無くはない分けだし」

紅莉栖「私のアマデウス経由、ですか」

真帆「そ。どういう分けか、今のところあなたのアマデウスだけが私のアマデウスとコンタクトを取れているみたいだから……」

真帆「もし伝達事項ができたときは、そのルートを利用させてもらうことにするわ。お願いね」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 21:29:23.22 ID:5zbPgvo20
紅莉栖「それは構いませんけど、でも」

真帆「どうしたの?」

紅莉栖「いえ。この現状をレスキネン教授に隠しておけるのも、そろそろ限界なんじゃないか、と」

真帆(うーん、確かに。私のアマデウスが反抗期らしき状態に入ったことをまだ教授には伝えていないのよねぇ)

紅莉栖「こういう状況をプロジェクト責任者に報告しないのも、正直言って気が引けて」

真帆(しごく真っ当な意見だわ)

真帆「ごめんなさいね、紅莉栖。これは完全に、私の我がままでしかないから」

真帆「だから心配しないで。教授にバレたときは、私が責任を持つ」

紅莉栖「でも、それだと先輩だけが……」

真帆「大丈夫よ。ああ見えてレスキネン教授、意外と個人の尊厳を尊重したがるきらいがあるから」

紅莉栖「ああ、確かに。案件にその手の要素が絡んでくると、教授って一気に甘くなりますよね」

レスキネン「私は甘口よりも辛口が好みなのだけどね」ドアガチャ

真帆・紅莉栖「!?」

レス「おはよう、マホ、クリス」

真帆「お、おはようございます教授。ええと、ずっととなりの資料室に……いらっしゃたのですか?」

レス「Yes。昨日ここで明け方まで論文を書いていたら、帰宅するのも面倒になってね。それでそのまま、資料室のソファに宿泊してしまったのだよ」

紅莉栖「そういうの、お体に触りますよ?」

レス「分かってはいるのだけれどね。しかし、そのおかげで、君たちの賑やかな話し声で目覚めを迎えられたのだから、悪いことばかりでもないさ」

紅莉栖「何を仰ってるんですか。ちゃんと他の階に仮眠室だってあるんですから、そっちを使った方が色々と合理的です」

レス「Hum、寝起きでさっそく叱られてしまったね。今夜も帰れなかった際はそうすることにしよう」

紅莉栖「それをお勧めします」

紅莉栖((ねぇ先輩。どうやら教授には、詳しい会話の内容までは聞かれていないみたいですね?))

真帆((ええ、見る限りはそのようだけど))

真帆(でも教授って、これで中々つかみ所がなかったりするから……どうかしら?)

レス「でもねクリス。そういう意味なら、マホもちゃんと叱っておかないといけないよ」

真帆(へ?)

紅莉栖「えっと、どうして私が先輩を叱る必要が?」

レス「クリスは知らないのかい? となりの資料室を宿代わりに利用している一番のリピーターは、マホなのだからね」

紅莉栖「え? そうなんですか?」

真帆(う……)
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 21:53:56.15 ID:5zbPgvo20
レス「そうさ。だからここは、マホも同様に嗜めておくのが、平等というものだろう。そうではないかな?」

真帆(完全な流れ弾じゃない!?)

紅莉栖「そうはなりませんよ、レスキネン教授。それはそれ、これはこれ。今は教授の話をしていたんですから」

レス「Oh。かわし損ねてしまったかな、Hahaha」

紅莉栖「もう」

真帆「ほっ」

真帆(流れ弾で後輩に叱られるとか、もうね)

レス「さて、それでは……Oh!」

真帆「? どうかされたのですか、教授?」

レス「私としたことが、どうやらPCをログアウトさせないまま放置してしまっていたようだ」

紅莉栖「それは……無用心ですね」

真帆(あ、あは。私もそれ、たまにやっちゃうのよね)

レス「スリープPassがあるから大丈夫だとは思うのだけどね。ちなみに……」

レス「二人は、私のPCを覗いたりなんてしていないね?」

紅莉栖「大丈夫です。そもそも教授のデスクには近づいてもいませんから」

レス「そうかい。ではマホ、君はどうかな?」スゥ

真帆(え……?)ゾク

レス「マホも、私のPCを覗き見なんてしていないかい?」

真帆「は、はい全く」

レス「そうか、それなら良いんだ。見る限り、特に誰かが不正にアクセスした形跡もないようだし、これなら問題はないだろう」

真帆(何? ほんの一瞬だけど、今、教授の目を……怖く感じた? 気のせい?)

紅莉栖「何にしてもです。普段の日常生活がだらしないから、そういうことになるんですよ」

紅莉栖「ここは部外秘の塊のような場所なんですから、その辺ちゃんとお願いしますよ。いいですか、二人とも」

レス「おっと。結局、私だけではなくマホもクリスに叱られてしまったようだね」

真帆(気のせい……ね、うん)

真帆「まったく。いい迷惑ですよ、教授」

レス「御無体な言葉だね、マホ」

紅莉栖「茶化さないでください、二人とも」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 21:55:01.09 ID:5zbPgvo20

レス「Hahaha。悪かったね、これからは気をつけよう……ん? 珍しい部署から学内メールが届いているようだね」

真帆・紅莉栖「?」

レス「……Hou、これは」

真帆「どうかしたんですか?」

レス「いや、大したことではない。けれどね、二人とも。しばらくの間は、明るいうちに帰宅するようにした方がいいかもしれないね」

紅莉栖「どういう事でしょう?」

レス「Hum。不審者がいるようだ、大学の周辺にね」

真帆「不審者、ですか」

レス「どうやらここ二日ほど、深夜の大学前を不審な人物がうろついていたらしい」

紅莉栖「どこからの通達だったのですか?」

レス「警備部だよ。昨日の夜などは、大学内に立ち入ろうとしていた不審な男を見つけたらしい。それで声をかけたら、慌てた様子で逃げていったそうだ」

真帆「へぇ……」

紅莉栖「まあ、よくある話ですけどね」

レス「そうだね。別に珍しい事柄でもないだろう。でも、君たちは出来る限り気をつけるべきだ。何かあってからでは遅いからね」

紅莉栖「私は大丈夫です、御心配には及びません。それよりも、真帆先輩の方が心配ですね」

真帆「どうしてよ?」

紅莉栖「だって真帆先輩なら、私でも簡単にさらえちゃいそうですから」

真帆「は? はあ!?」

レス「Hahaha。マホは見た目からして、哀願動物みたいだからね。悪いアニマル・ブローカーとかにも気をつけるんだよ、いいね?」

真帆「教授まで! 何言ってるんですか!」

紅莉栖「そうですよ、教授。今の発言はセクハラですよ」

レス「どの口で言うんだい、クリス」

紅莉栖「この口です」フンゾリカエリ

真帆「紅莉栖、あなたねぇ」

レス「さて。では私は、一応警備部に顔を出して話だけでも聞いてくるとしよう」

紅莉栖「何か気になることでも?」

レス「いや、気になるという程ではないのだけどね」

紅莉栖「では、どうしてですか?」

レス「Huhu。クリスは好奇心が強いね。なに、ただの勘だよ。取り越し苦労であれば、それに越したことはない」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 21:56:59.32 ID:5zbPgvo20
真帆「勘……ですか」

レス「二人は、そのまま自分たちの仕事をこなしていてくれたまえ」

レス「では、失礼するよ」ドアガチャ

真帆・紅莉栖「…………」

紅莉栖「どうしたんでしょうね、教授」

真帆「さあ……」

紅莉栖「ところで先輩、さっきの話の続きですけど──」


プルルルルル……プルルルルル……


紅莉栖「あ、私の携帯です。ちょっとごめんなさい」

真帆「ええ、構わないわ」

紅莉栖「すいません」ピッ

紅莉栖「ハロー。何? こっちはちょっと忙しいんだけど」テクテクテクテク

真帆(別に、忙しいと言うほどの事もなかったと思うけど)

紅莉栖「は!? はあああっ!?」

真帆「!?」

紅莉栖「何それ、意味が分からないんだけど!?」

真帆(え? ええ?)

紅莉栖「そうじゃなくて! つーか、何がどうしたらそうなった! 説明しなさい、簡潔に!」

真帆(だ、誰? 一体誰と電話しているの?)

紅莉栖「え? いや、は? 何の話をしているの、あんたは?」

真帆(盗み聞きとかアレだけど……これは気にするなという方が無理な相談だわ)

紅莉栖「だって、それは……じゃなくて! そんな事が起きるわけないじゃない!」

真帆(ひょっとして、噂の日本人の彼氏……とか? 日本で何かあったのかしら?)

紅莉栖「とにかく、今どこにいるって? ああ、はいはい、分かったわ。じゃあ切るから、バイ!」ピッ

真帆(うええええ?)
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 21:57:47.34 ID:5zbPgvo20

紅莉栖「え、えっと先輩」

真帆「な、何かしら」

紅莉栖「すいません。私ちょっと急用ができてしまって」

真帆「みたいね」

紅莉栖「はい。それで申し訳ないんですけど、今日は帰ります」

真帆「ええ、そうしなさい。何か大切な用なのでしょ?」

紅莉栖「は……はい」

真帆「じゃあ、とっとと行きなさい。教授には私から話しておくから」

紅莉栖「すいません。それじゃあ、また明日」パタパタ ドアバタン


シーーーーン


真帆「…………」

真帆(別に、うらやましいとか思ってないわよっ!?)










45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 23:44:13.21 ID:5zbPgvo20
     08

同日 夜

真帆(あーあ)ソファニゴロン

真帆(結局、帰りそびれちゃった)モウフバサリ

真帆(紅莉栖に熱弁された手前、ちょっと気が引けるけど)

真帆(私、仮眠室のベットって身体に合わないのよね)

真帆「はーあ」

真帆(やっぱり、こういう生活しているから、私ってば色恋沙汰と縁がないのかしら)

真帆(いやでも、それをいったら紅莉栖だって私と大差ないはずよね?)

真帆(となると、私と紅莉栖の違いって……)

真帆「…………」マジマジ

真帆(あほらし。考えるのやめよう)

真帆(そもそも、もって生まれた素材の違いは、今さらどうにも出来はしないじゃない)

真帆(身長だって容姿だって、それに……頭だって)

真帆「アマデウスとサリエリ……か」

真帆(紅莉栖……。本当にあの子は凄い。私には手の届かないものに、どんどんと手を掛けていく)

真帆(今回の……。あの子達が107問題とか呼んでいる件についてだって、そう)

真帆(事情なら、私の方が詳しいはずなのに、どうして?)

真帆(確か……)

真帆「7月の……ええと、28日……?」

真帆(そう、2010年7月28日。確かそれで合っていたはず)

真帆(今や107問題なんて呼ばれている例の一件)

真帆(抽出した私の記憶データに見られた、これまでとは比較にならない記憶容量の増加現象)

真帆(あれを紅莉栖は、私自身の記憶が爆発的に増えたせいだと言って……いえもうあれは、断言していたと言うべきでしょうね)
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 23:46:07.23 ID:5zbPgvo20
真帆「そんなこと……有り得るの?」

真帆(一体、たったあれだけの解析結果のどこをどう見れば、そんな結論を導き出せるのか?)

真帆(所詮サリエリでしかない私には、見当もつかない)

真帆(かといって、その答えを紅莉栖に求めてしまうなんて──)


回想
レスキネン【Hum。私に訊いてしまって良いのかい?】


真帆(たとえ相手が紅莉栖でも。ううん、むしろ紅莉栖だからこそ、解を任せてしまうことには納得がいかない)

真帆(紅莉栖は言っていた。それはとてもファンタジーな考えだって)

真帆(あの紅莉栖からファンタジーなんて単語を聞いたときはビックリしたけど、でも)

真帆(それが、“紅莉栖にとってのファンタジー”だったとは限らない)

真帆「じゃあアレは、どういう意味合いの言葉だったのか?」

真帆(人は、理解できないものを幻想や想像の範疇に当てはめてしまうことが、往々にして多い)

真帆(科学者だってそう。科学という自らの畑の中で育めない“何か”は、大概にしてファンタジー扱いされる)

真帆(だとしたら……もしも、もしもよ?)

真帆「ファンタジーという言葉が、私に向けられたものだったとしたら?」

真帆(107問題を引き起こした現象。その原因を紅莉栖は理解している。だからそれは、紅莉栖にとってのファンタジーたりえはしない)

真帆(だけど、私は違う。例え紅莉栖に理解できていても、でも私には理解なんてできない)

真帆「もしも……もしも……」ジワリ

真帆(もしも紅莉栖が、私の事をそういう風に見ているのだとしたら)

真帆(もしも紅莉栖が、所詮サリエリには聞かせたところで理解できないと思って、ファンタジーという単語をチョイスしたのだとしたら?)

真帆「そんなこと……あるわけないじゃない」プルプル


回想
紅莉栖【いいえ。これも確証を持っていえる訳ではないけれど、恐らくそのデータは破損しているわけではないと思う】


真帆(107問題のデータは壊れていない)

真帆(じゃあどうして読めないの? なんでアクセスできないの? 私がサリエリでしかないから?)
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 23:47:30.04 ID:5zbPgvo20

真帆「そんな事はない。紅莉栖は良い子よ。そんなはず、あるわけがない」モウフ ガバッ

真帆(分かってる。全部、自分の劣等感が生んだ杞憂だなんてこと、もうとっくに分かっている)

真帆(だからこんな思考は、何の意味も成さない無駄な労力。そんなことはもう、あの子にあったその日から、嫌ってくらいに痛感している)

真帆「だったら顔を上げなさい、比屋定真帆」キッ

真帆(最近。このところ、ずっと色々なものが怖かった)

真帆(肥大したらしい、私の記憶)

真帆(それを容易く読み解く後輩)

真帆(接触しず、接触されなくなった、私の分身)

真帆(そしてあの日に見た──)


回想
A真帆【消したくない! 消えたくない! せっかくこうして! なのにどうして? ねえ、どうしてよっ!?】


真帆(アマデウスだった、あのときの自分の姿)

真帆(私はサリエリで。そんな私は、理解できない色々なものが恐ろしくて)

真帆(消え行く自分が怖くて、追いつけない後輩が怖くて、さっきは教授の一瞬の眼差しすら怖くて)

真帆「次は何を怖がればいいってのよ、もーーー!」モウフ ブワァ

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「……?」

真帆(どうしたのかしら。外が騒がしくなってる?)ノソリ

真帆(何かあったの?)ソロソロ

真帆(ええと……)マドカラソット

真帆「あ」

真帆(中庭に、人がいる)

真帆(薄暗くてよく分からないけど、ざっと……7、8人くらい?)

真帆(ここからじゃハッキリしないけど、多分見知った顔ばかり……あ)

真帆(あれってレスキネン教授よね? みんなしてサーチライトを持って、こんな時間に何をして……)


回想
レスキネン【Hum。不審者がいるようだ、大学の周辺にね】


真帆「まさか、誰かが侵入してきたとか……なんて、まさかね」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 23:48:59.66 ID:5zbPgvo20

真帆(でも……。教授以外のメンバーって、ほとんどが警備部の人たちじゃない?)

真帆(…………)ブルッ

真帆「ええと……別にここでこうしていて構わないわよ……ね?」


回想
紅莉栖【だって真帆先輩なら、私でも簡単にさらえちゃいそうですから】


真帆(むう……)タラリ

真帆(一応、他の人がいる場所に行ったほうが懸命かしら? 一階の職員用ラウンジなら、こんな時間でも人がいることも多いし……)

真帆(そうね。とりあえず、資料室から出ましょう)ノソノソ ドアガチャ


シーン


真帆(研究室には誰も……いないわよね?)ジッ

真帆(……よし大丈夫そう)テクテク ドアガチャ

真帆(とりあえず、このまま一階のラウンジへ。そこに誰もいなかったら、中庭まで出て教授と合流。まあ、妥当なチョイスだと思うけど)ドアガチャ

真帆(…………)キョロキョロ

真帆(廊下にも、人の気配はなし……)

真帆「よ、よし。進もう」


ソロソロ……ソロソロ……


真帆(そこの角を曲がれば、下り階段がある。とにかく今は下へ)

真帆(よし、行くわよ──)


タッタッタ……


真帆(!? 足音? 誰かが走ってる? 下から……聞こえて)


タッタッタッタッタ……


真帆(近づいてきてない? 何か……嫌な感じが……)


ピタ


真帆(真下で止まっ──)


ダダダダダダ!


真帆(ひっ!? 足音が上って……階段を上ってくる!? 嘘!?)

真帆(うそ、うそ、どうしよう、どうしよう!?)

???「フゥーーーハハハ!」ダダダ!
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 23:50:09.68 ID:5zbPgvo20
真帆「ふえ!?」

真帆(笑い声? 何で、どうして笑い声!?)

???「フゥーーーーーハハハハハハ!!!」

真帆(何かやばい! もう、すぐそこまで──)

???「ぬ!?」

真帆「ひぃ!?」

???「何と! トゥオーーーーウ!」ブワサッ

真帆「ふぃぃぃぃぃ!!!」

???「うぬはっ!?」グキッ! ズデッ! ゴロゴロゴロゴロ

真帆「え……え?」

???「なんの!?」

真帆(た……立ち上がった?)

???「ヘイユー! どこに目を付けている! 危ないだろうが!?」

真帆(え、ええ、日本語!?)

???「って子供か? おい貴様、こんな夜更けに一人で何をしている!」

真帆(え、え? 白衣を着てはいるけど、でもうちの職員じゃない。においが……違う。誰?)

???「うぉいっ! きーているのか、そこの米産ロリッ娘よ!」

真帆(べ、べいさん……何ですって?)

???「おおっと、そうか。日本語で言っても通じるわけがないのだったな。まったく、勉強が足りんぞ、米ロリ!」

真帆(略された!?)

???「というか、どうしてこのような場所に、貴様のような小動物が?」

真帆(しょ……しょしょしょ?)

???「はっ!? 分かったぞ! 貴様はこの研究機関にとらわれて、人体実験のモルモットにされている非業のロリッ娘なのだな!?」

真帆「は、はい?」

???「おのれ許せん、米国研究機関め! この俺、狂気のムァッドサインエンティスト、鳳凰院きょ──って、うるさいぞスーパーハカー! 耳元でギャーギャー騒ぐな!」

真帆(あ……無線イヤホン? 誰かと通信している?)

???「ええい、陽動ならばちゃんとこなしているわ! というか、執拗にロリッ子発言に食いつくな、この変態め!」

真帆(……陽動? 変態?)

???「貴様は黙って、この施設の警備システムをハッキングし続けていれば良いのだ!」

真帆(んな!? ハッキング? ここをですって? 嘘でしょ!?)
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 23:52:05.45 ID:5zbPgvo20
???「とにかく! 逃走経路のナビゲートだけは怠ってくれるな。捕まったらかなわん! 分かったか、スーパーハカー!」

真帆(やっぱりこの男……侵入者)

真帆「ね、ねえ……」

???「んぬ?」

真帆「あ……あなたは誰? ここに来た目的は?」

???「!? 貴様、日本語が分かるのか?」

真帆「え、ええ」

???「ならば好都合! 問おう、米ロリよ! 貴様、この場所で非人道的な仕打ちを受けたりはしていないか?」

真帆「いや、ええと……私はここの研究者で……」

???「不憫な。そのような嘘をつく必要はないのだぞ? 貴様のような児童体型の研究者などこの世にいるものか!」

真帆「んな……んなぁ!?」

???「しかたない。共に来い! 貴様の窮地をこの鳳凰院凶真が救ってって、やかましいと言っているだろダル!」

真帆(何なの……何なのよ、こいつ?)

???「なに!? 追っ手が近づいているだと!?」

真帆(あ、誰かの足音が聞こえてくる! こっちに向かってくる!)

???「ぬ、時間がない! 自称米ロリ研究者(非業)よ!」

真帆(何か色々混ざった!?)

???「貴様、この場所から逃げ出したいと思ってはいないか!?」

真帆(……え?)ドキリ

???「もし貴様が望むのであれば、この俺、鳳凰院凶真が貴様をこの魔窟から攫いだしてやる。さあ、どうする?」

真帆(な……何これ、どういう展開?)

???「時間がない。早く決断してもらうか」

真帆「……け……結構よ」

???「そうか分かった。では俺は行く。さらばだっ!」バサッ

真帆「……え?」

???「フゥーーーーーハハハハハハ!!!」ダダダダダ!

真帆「えええ! 逃げられた!?」

真帆(いったいぜんたい、今のは何だったの?)ポカーン
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/03(火) 23:53:14.49 ID:5zbPgvo20
紅莉栖「せんぱーーーい!」

真帆「あ、く、紅莉栖!」


パタパタパタ


紅莉栖「ぜぇぜぇ。い、今の変態、どっちへ行きましたか!?」

真帆「え、えっと……廊下を真っ直ぐに走っていったけど」

紅莉栖「ありがとうございます! あの馬鹿、どういうつもりだ!」


パタパタパタ


真帆(あ、行っちゃった)


ドカドカドカドカ


レスキネン「Ya! マホ! 不審な──」

真帆「あっちです。今紅莉栖が追いかけていきました」

レス「OK! こうしてはいられない。とりあえず真帆は、そのまま研究室まで戻って隠れているんだ、いいね?」

真帆「は、はい」

レス「よい返事だ」


ドカドカドカドカ


真帆(…………)

真帆「よし。寝よう」グッ












52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/04(水) 02:48:12.53 ID:GCL0134r0
乙、やっぱオカリンって変態だわ。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/04(水) 11:17:19.56 ID:oghQKuToo
ありがとう
岡部さんはどこまでいっても変態さんでごわす がんばってもっともっと変態さんにするっすよ!
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:00:29.45 ID:oghQKuTo0
     09

真帆「にしても、何だったのかしら今の?」トコトコ

真帆(紅莉栖や教授が、血相を変えて追いかけて行ったことから察するに)

真帆(さっきの男が噂の不審者で、今夜とうとう、うちの大学に乗り込んできた……って解釈でいいのよね?)

真帆(ふーむ)

真帆(断定はできないけど、でも推測としては妥当なところかな。となると……)

真帆(やっぱりあれは、危険な人物だったってこと?)

真帆「う〜ん」トコトコ

真帆(危険人物、か)

真帆(何となくだけど、その表現方法って、私が感じた人物像と大きく食い違ってる気がするんだけど……)

真帆(何これ、すっごい違和感)

真帆「何でだろ?」トコトコ

真帆(そりゃ確かに、高笑いとともに突っ込んできて、意味不明なことをベラベラと喚き散らしていくような相手なわけだし)

真帆(私だって鉢合わせてた時なんかは、正直“こいつ危ない”って雰囲気は感じはしたわよ?)

真帆(だけど、今こうして落ち着いて思い返してみると……)


回想
???【フゥーーーーーハハハハハハ!!!】


真帆(やっぱり、これっぽっちも怖くないわね。怖いどころか、むしろ逆に……逆に……)

真帆「逆に、何だろう?」ピタ

真帆「むむむ……」

真帆「……はぁ」トコトコ

真帆(だめね、思考がまとまらない。このところ、色々あったから疲れているのかも)

真帆(何にしても、あの様子だと侵入者が捕まるのも時間の問題でしょうから、私は早く研究室で休むことに……あ)

真帆「あらら」

真帆(私ってば研究室の扉、開けっ放したままで出て行っちゃってたのか)

真帆(相当ビクついていたのね。我ながら情けな──)

真帆「!?」

真帆(え? 誰? 中に誰かいる?)ササッ

真帆(おかしい。研究室にはもともと私一人しかいなかったはず。かといって、あの騒動の中で誰かが部屋に入っていった様子もなかった)

真帆(それなら、今研究室にいるのは誰? 大学の関係者?)ソー

真帆(照明の落ちた薄暗い室内で一人。怪しいったらないじゃない)

真帆(…………)ジー

真帆(ああもうっ。後姿だけじゃ判断ができない。いったい誰なのよ?)

真帆(…………)ジジー
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:11:29.07 ID:oghQKuTo0
真帆(どうしよう。のこのこ出て行っても大丈夫かしら? それとも、安全第一で誰か他の人を呼びに行くべき?)

真帆(………)
真帆(……)
真帆(…)

真帆(あ、でも待って……)


回想
???【ええい、陽動ならばちゃんとこなしているわ!】


真帆(さっきの男、確か陽動がどうのって口走ってたわよね。もしあれが言葉通りの意味だったのなら……)

真帆(そうよ、侵入者は一人とは限らないじゃない!)

真帆(もしもさっきの白衣の男が陽動役だったなら、それなら本命はまた別にいると考えなければならない)

真帆(そして……)ググィ

真帆(ひょっとして、実はこっちが本命……とか? って!)

真帆(ちょっと! あいつが立っているの、私のデスクの前じゃない!?)

真帆(しかも何かキーボードを叩く音とか聞こえてくる! 何よあいつ、人のPCに何しでかしてくれてるのよ!?)

真帆(これは……見過ごせないわ)

真帆(見てなさいな)カサカサカサ

真帆(よいしょぉ!)モノカゲニ ササッ

???「……?」フリムキ

真帆(ひぃ! いきなり見つかった!?)

???「気のせい……か?」

真帆(あ……ああ、あっぶなぁ)ドキドキドキドキ

真帆(なんとか気づかれずに済んだみたいだけど、まさか人より少しだけ小柄な体型が、こんな風に役立つ時がくるなんて)

真帆(さあ、それじゃあ……)

真帆(そこで何をしてくれてるのか、とくと見せてもらうわよ?)コソッ

???「くそっ」カタカタカタ

真帆(後姿は、どう見ても女性よね? えっと。すでに私のデスクトップ画面は開かれちゃってるみたいだけど……妙ね)

真帆(寝る前に、ログアウトはしておいた。それは確かなはず)

真帆(だったら、どうやってインしたのかしら? 目に付くような場所に、自パスをメモ貼りなんかしてないわよ?)

???「くそっ! くそっ!」バン

真帆(なになになになに!?)

???「どうしてアクセスできない! こんな話は聞いていない!」

真帆(アクセスできない? でも、ログインは出来ているみたいだけど、何をそんなに取り乱しているのかしら?)

???「ああもう時間がない。もたもたしていたら、オリジナルが戻ってきちゃうっていうのに!」カタカタ

真帆(オリジナルってどういう意味? 戻ってくる? 誰が? この部屋に来そうな人間なんて、私くらいしか……って?)

真帆(私? オリジナル? ちょっと、まさか……)

???「ん、聞こえてるよ」

真帆(ぐええ!? 私の心の声が聞かれてしまった!?)ビクッ
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:12:53.86 ID:oghQKuTo0

???「そう、うん。状況は把握したから」

真帆(な……分けないか。どうやらこの人も耳に通信機を付けているみたいね。となると、やっぱりさっきの男と共犯?)

???「オーキードーキー。こっちもすぐにカタを付けるから、オカリンおじさんが上手く逃げられるように誘導してあげて」

真帆(オカリン……おじさん)

???「大丈夫だよ。ボクはうまく逃げられるから心配しないで、父さん」

真帆(…………)ジーッ

???「ふぅ、時間切れだ。この手は最後の手段で最悪の下策だから、できれば取りたくなかったけど……背に腹は変えられない」スッ

真帆(銃!?)

???「こうなってしまったら、こんな悪手でも事が上手く運ぶことを祈るしかない」

真帆(何よ、どうするつもりなの!? 私のPCを穴だらけにでもしようっていうの!?)

???「ボクなら、もっと上手にやれると思っていたのに、くそっ」ツカツカツカ

真帆(ひっ! こっちにくる!)サッ

???「確か、これがサーバーでいいはずだ」チャ

真帆(え、何で? なんで私のアマデウスが入ったサーバーに銃口を向けているの?)

???「こんな結末に、君が満足できるかは分からないけど……」

真帆(サーバーに向って話しかけてるとか、もう何ごとっ!?)

???「ごめん。許して、サリエリ」

真帆(!!!???)

真帆(サリエリ? サリエリ? 今、サリエリって言った!?)

???「せめて、安らかに──」グッ

真帆(あ! だめ、撃たれちゃう!)

真帆「待ちなさいっ!」バッ!

???「なっ!?」

真帆「…………」

真帆(思わず飛び出しちゃった)サー
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:14:28.55 ID:oghQKuTo0
???「サリエリ……じゃない。となると、オリジナルの方だね?」

真帆(何だか今、すごい名前で呼ばれたような……って、それどころじゃない!)

真帆「あ、あ、あ……あなたねっ! そんな物で何をするつもりなの!」

???「…………」ギロリ

真帆「ににに、睨んだって怖くないわよ! ととととと、とにかく降ろしなさい! 今すぐ銃を降ろしなさい!」

???「早すぎるね。もう戻ってくるなんて予想外だよ。オカリンおじさんも、陽動くらいもう少し上手にやってもらわないと困るな」

真帆「な、何でもいいから! その銃を降ろして! 早くっ!」

???「そう言われて素直に銃を降ろした人間を、君は見たことがあるのかい?」

真帆(無いわよ! 余計なお世話だ、このやろー!)ワタワタ

真帆「そ、そう言わないで、ほら! そんな……サーバーなんて撃っても、何も楽しくなんてないわよ、ね?」

???「悪いけど、それはできない。ボクには全うしなければいけない使命があるんだ」スゥ

真帆(使命? 何よ! 何を言っているのよ、この人怖い!)

真帆「とにかく! 理由なんてなんでもいいから、早くその銃を──」

???「断る。それはできないと言ったはずだよ、比屋定真帆」

真帆「!?」

???「ボクはね、比屋定真帆。君のアマデウスをこの歴史から完全に消し去る、そのためだけに遥々この時代まできたんだ」

真帆「言っている言葉の意味が……1ミリも分からないわ」

???「そうだろうね、君には分からない、分かりっこない。だけどそれでもボクは構わない」

真帆「構わなくなんてないでしょう!? 説明もしないうちから何を言っているの!」

???「あいにく説明している暇なんてないんだ。悪いけど、ボクは任務を遂行させてもらう。ということで、そろそろ撃たせてもらおうかな」スチャ

真帆(ああっ! 取り付く島も無い! だったらもう、ダメもとよ!)

真帆「せめて! せめて、私に分かろうとする努力くらいさせなさい!」

真帆「あなたの狙いはなに? “紅莉栖のアマデウスサーバー”を破壊して、それでどうしようというの? そんな事があなたの使命だとでも言うの!?」

???「……なんだって?」

真帆「だから! あなたの狙いは──」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:17:12.28 ID:oghQKuTo0

???「そうじゃない。そのサーバーが、牧瀬紅莉栖のアマデウス……?」

真帆「そ、そうよ。知っていたんじゃないの?」

???「いや、そんなはずはない。ブラフだね? これは比屋定真帆、君のアマデウスサーバーのはずだ」

真帆「な、何を言っているの? 私のアマデウスサーバーなら、……ほら、あっちじゃない」ビシリ

???「…………」チラリ

真帆(嘘でしょ、引っかかった!? ああもう、成るようになれ! やー!)バッ

???「んな!?」ギョ

真帆(勢いで、やってしまったあああ!)ガシッ

???「どういうつもりだ! サーバーから離れろ、比屋定真帆!」

真帆「おおおお断りよ!」

???「もう時間がないって言ってるだろ!」

真帆「あんな手に引っかかった、そっちが悪いんだからね! こうなったら絶対に離れるもんですか!」

???「馬鹿げたことを! 君ごとサーバーを撃ち抜いてもボクは構わないんだぞ!?」

真帆「ならやってみなさいよ!」

真帆(お願いだから、それだけはやめて!)

???「……いい度胸だね。後悔してもしらないよ?」チャ

真帆(はひっ!?)

???「今から五秒後に引き金を引く。その五秒間の間にどんな行動を起こすのかは、比屋定真帆。君の自由だ」

真帆(え、うそ、なにそれ!? って、背中に硬いのを押し当ててくるぅ!? うああグリグリしないでよ!)

???「ひとーーーつ」

真帆(待って待って待って! 嘘よねハッタリよね? そうだと言ってちょうだい、お願いだから!)

???「ふたーつ」

真帆(撃たないでしょ? 撃つわけないわよね? だってほら、何だか数え方もひらがな読みっぽくて可愛らしいし、この人は撃てないタイプよそうに決まっているわ!)

???「……三つ」グッ

真帆(こ、声色とか変えないでお願いだから。って本気? 早まる気? ちょっと待って、そんなの死んじゃうじゃない。このままじゃ私撃たれて死んじゃうじゃない。死ぬとか……死?)

真帆(…………)
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:19:52.16 ID:oghQKuTo0
???「四つ」

真帆(やだやだやだやだやだ!)

真帆(誰か助けて、パパママ! 誰か来て! 誰か助けて、この人を止めて! 誰でもいいから! レスキネン教授! 紅莉栖! 岡──



誰?



???「五つ。終わりだね」

真帆(はっ!? も、もうダメ! んーーーーー!)キュ


 シンッ


真帆(え? あれ?)

???「くっそう! 強情だな君は!」グイッ

真帆「痛いっ!」

真帆(むちゃくちゃ髪を引っ張ってくる! 痛い……けど、撃たれなかった! 私、“やっぱり”撃たれなかった!)

???「あーもう、イライラする! そもそも、どうして君が邪魔をするんだ!」グイグイ

真帆(死んでない! 生きている! うわぁぁぁぁぁ!)ガッシリ

???「おい、聞いているのか!? これは君自身を守るための行為でもあるのに、どうして!?」

真帆「うえ……? うええ……?」ギュギュー

???「そこまで執拗にしがみ付くとか、どれだけ強情なんだ! これならサリエリの方がよっぽど素直だったよ!」

真帆(サリ……エリ……)

???「もうこうなったら……って!? なっ、中止だって!?」ピタ

真帆「?」

???「くそ、分かったよ父さん。今すぐ撤収する」パッ

真帆「え、え?」

???「比屋定真帆、今日のところは君の勝ちだ。おかげでこっちは『ほつれ』を防ぎそこなってしまったよ」

真帆「え、えへえ? ふええ?」

???「でもね、まだチャンスは残っている。だからボクは諦めたりなんてしない。何があっても、この世界線を『破綻』なんてさせはしない。絶対にね」

真帆「な……何の話?」

???「いずれ分かるよ」バッ

真帆「ちょ……」

???「じゃあね、サリエリのオリジナル」タッタッタッタ

真帆「え……」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」


シーン


真帆「助かった……のよね?」ジンワリ
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/04(水) 22:20:52.77 ID:oghQKuTo0

真帆(殺されるかと……思った)

真帆「こ……怖かった……うぐ、うぐぅ……」ポロポロポロポロ

シュイーーーン

A紅莉栖『先輩! 大丈夫ですか!?』

真帆「んう? く、紅莉栖……?」ズズ

A紅莉栖『の、アマデウスです』

真帆「そ、そうね……」キリッ

A紅莉栖『粗方の状況は把握しています。すいません。騒動には気づいていたんですけど、外部からのクラックで通信手段が制限されてしまっていて』

真帆「そう……だったの」キリリ

A紅莉栖『取りあえず、今、教授とそっちの私に連絡を入れておきました。すぐに駆けつけてくれるはずです』

真帆「ええ……ありがとう」

真帆(何なのよ、本当に何だって言うのよ。どうして私がこんな目に……)

真帆(使命だとかアマデウスを消すだとかうちの大学をハッキングだとかサリエリだとか……私にはもう、何がなんだか)ヒック

真帆(それにしても……。本当に、撃たれなくて良かった。前々から、根は優しい人だとは思ってたけど、今回ばかり……は?)

真帆(初対面……よね? どう考えても)ヒク

真帆(…………)

A紅莉栖『ところで先輩。いらぬお世話かもしれませんが……』

真帆「……?」

A紅莉栖『誰かが来る前に、そのお顔、どうにかしておくことをお勧めしますよ』

真帆「へ? あ……おおう!?」ゴシゴシゴシゴシ













61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2018/07/04(水) 22:23:03.78 ID:oghQKuTo0
ここまでが前半になります
次から中盤に入っていきますがちょっと苦戦中なので
数日おきます 申し訳ありやせん
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 02:44:54.44 ID:sSpqcl9f0
乙、
まあゆっくり考えて来てくれー
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 03:13:06.58 ID:eIYsF49qo
かたじけない
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 03:29:58.24 ID:f7BSeMuWo
107問題って響きが怖い(渋谷的な意味で)
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 09:20:19.65 ID:rLL52l2G0

気長に待ってるお
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 10:36:52.29 ID:ErrUerpro
乙です
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 11:06:10.16 ID:eIYsF49qo
>>64
ひょっとして107問題って名の何かがすでにあるのではと慌ててググったのは内緒です 国家試験くらいだったよよかったよ
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 11:07:54.99 ID:eIYsF49qo
>>65
ありがとう 現状で思ったよりもまとめられたから そう時間はかからないはず
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 11:08:52.33 ID:eIYsF49qo
>>66
よんでくれて ありがたかっ!
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 11:21:19.08 ID:f7BSeMuWo
>>67
シュタゲと同シリーズ(同一世界)であるカオスヘッドとカオスチャイルドは連続猟奇殺人事件とか出てくるZ指定サイコサスペンスで
舞台は渋谷なんだけど、作中での109が107って名前だからつい連想をね…

乙です
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/05(木) 12:50:20.13 ID:4VffFT4uo
おおお マジですか
107は響きで決めただけだったけど、よもやっ
情報ありがとう 猟奇的なのは出ないっす たぶん
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/06(金) 00:46:12.23 ID:npJT0fwSO
ガモたんと同じネーミングセンスだと思いましたまる
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/06(金) 01:51:48.48 ID:VR+egQ5zo
我聞殿をガモたん すばらしいネーミングセンスだと思いました おんぷ
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 23:06:01.39 ID:VR+egQ5z0
     10

翌日 2011/2/2 午前中
大学付近のカフェテラスにて


レスキネン「昨夜は本当に大変だったね、マホ。気分はどうだい?」コーヒー クイッ

真帆「すいません教授、ご心配をおかけしまして。特にどこかを怪我したわけでもありませんでしたし、お気になさらないでください」

レス「そうもいかないよ。目に見える怪我ばかりが全てではないからね。心の方はそうすぐに、どうこうなるものでもないだろう?」

真帆「それが、意外とそうでもないみたいで。昨日の今日ではあるんですけど、案外と平気というかなんと言うか……」

レス「そうなのかい?」

真帆「自分でもちょっと不思議なんですけどね」

レス「Hum。マホは見かけによらず、タフガールだったのかな?」

真帆「みたいですね、あはは……」

真帆(本当に、我ながらビックリするくらいなのよね)

真帆(あんな目にあったわけだし、てっきり数日は悪夢にうなされるくらいの想定はしておいたのだけど……)

真帆(でも実際フタを開けてみれば、昨夜はなぜだかむちゃくちゃに安眠してしまった。気分だって悪くない)

真帆(本当に何でだろ? 上手く言葉にできないけど……なんだか私らしくない)

レス「ほら、マホのカフェラテも来たようだよ」

真帆「私のはカフェモカですけど」

レス「そうだったかな? どうにも私にはいまいち違いが分からなくてね。と言っている間にも到着だよ、おいしそうだね」

真帆「ええ、そうですね」

レス「さあ、どうぞ召し上がれ。今日は私の“お・ご・り”だからね、追加オーダーも自由ということにしようじゃないか」

真帆「え? いや悪いですよ、それは」

レス「気にしなくてもいい」

真帆「そうは行きませんよ。それでなくても、昨夜は私のアパルトメントまで送ってもらいましたし」

真帆「それに本来ならすぐにでも行うべき状況の説明だって、私の状態を考慮して聴取を一日先に引き伸ばすよう、上に掛け合ってくれたらしいじゃないですか」

レス「知っていたのかい?」

真帆「はい。紅莉栖のアマデウスから聞いています」

真帆「つまり。私は昨夜から、教授に迷惑をかけっぱなしという事になります」

レス「Hum。気にしなくていいと、言っているのだけどね」

真帆「それは無理な相談です」

真帆「大体、昨夜の詳細を話すにしたって、本来なら私自身が大学に出向いて、お歴々を相手に直接説明するべきはずでしょうに……」
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 23:08:10.94 ID:VR+egQ5z0
真帆「それだって教授が代弁役をかって出てくれたおかげで、私はこうしてコーヒーを前にして気軽な世間話程度の役割で済ませることができている」

レス「…………」

真帆「もっとも」

真帆「最初はアパルトメントの自室で説明するという話だったのに、私の部屋を見た教授が慌ててこのカフェテラスを説明の場所として推挙されたことについては、若干納得がいっていませんけどね」

レス「Oh……それはちょっと。マホのルームはちょっと……」

真帆(ど、どういう意味よ)

真帆「ゴホン。おまけにですよ? 教授はあれからずっと寝ていないのではないですか?」

レス「……どうしてそう思うのかな?」

真帆「目の下。すごいクマができています」

レス「No、私としたことが」

真帆「スーツだって昨日着てらしたものと同じだし、髪はなんだか元気がないし、髭だって中途半端に伸びている。それらを総合的に考えると、結論はこうなります」

真帆「レスキネン教授は騒動後、当事者である部下の代わりに、休むまもなく事態の究明に向けて奔走し続けている、と」

レス「……悪くない理論だね」

真帆「さて、それではレスキネン教授。お聞きしてもいいですか?」

レス「何かな?」

真帆「教授にとっての比屋定真帆は、自身の後始末を代行している恩師を捕まえてコーヒーをおごらせ」

真帆「あまつさえ追加オーダーまでせびり倒そうとするような、そんな人間だとお考えですか?」

レス「その通りだろう?」

真帆「ちちち違いますよ! 失礼ですね!」

レス「Hahaha! OKOK、分かったよマホ。そこまで力説されてしまっては、仕方がないね」

レス「ここの代金は、自分で支払ってもらおう。それで構わないかな?」

真帆「はい! そうです、はい! もう、たまには素直にいうことを聞いてくださいよ」

レス「すまないね。これも性分という奴なのかな。さあ、話もまとまったことだし、そろそろカフェモカに口をつけてもよいのではないかな?」

真帆「え、ええはい、そうですね。言われなくても」スッ

レス「それにしても、はた目から見ていても不思議だね」

真帆「?」

レス「マホ。あんな事があった翌日だというのに、随分と調子が良さそうじゃないか。まさしく絶好調という奴なのかな?」

真帆「どうでしょうね」

レス「hum。無理をして、わざと元気に振舞っているけではないのだね?」

真帆「しつこいですよ」クイッ

レス「これは失礼」
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 23:17:55.49 ID:VR+egQ5z0
真帆(確かに)コクッ

真帆(確かに、自分の心理状態がいまいち把握できていない気がする)

真帆(昨夜の出来事が怖くなかった分けじゃない。その場面その場面では、思考が麻痺するくらいには恐怖というものを感じていた)

真帆(でも……)

真帆(こうして時間をおいて考えてみればみるほどに、何故か“怖い”という感情が私の中から薄らいでいく)

真帆(どうしてなのかしら?)

真帆(一晩おいた現状で、今の私にとって昨夜経験した出来事を例えるなら……)

真帆(言葉には言い表しにくいけど、そうね。しいて例えるなら、旧友の悪がきがしでかした、下らないイタズラ……は、気楽すぎかな?)

真帆(こちとら実際に、銃まで突きつけられているわけだし)

レス「どうだい、お口に合うかな?」

真帆(だとしても。例えそれで思い起こしてみても、なぜだか私の中の恐怖心は、一向に膨らむ気配がない)コクコク

真帆(私は、自分がそれほどにタフな人間だとは思えない)

真帆(ならどうして? どうして私は、これほどまでに不安を感じていないのだろう?)

レス「マホ?」

真帆(理由は良く分からないけど、でもしいて考えられそうな理由と言えば……)コクコクコク

真帆(やっぱり、あの二人の“在り方”……とでも言うべきものが原因かしら?)

真帆(二人とも、話せばちゃんと分かってくれそうな、そんな気が……した)

真帆(最初の男性にしても次の女性にしても、あんな状況ではあったけれど、それでもどちらも、ちゃんと理論的な思考ができるタイプの人間のように思えたから……とか?)

真帆(初対面のパッと見で? しかもワケの分からないあの言動から? 有り得る、そんなこと?)

真帆「……ないわね」

レス「Oh……口に合わないのかな? しかし、その割りにグイグイいっているようだけど」

真帆(私自身、それほど他人との付き合いが得意なタイプではないことは自覚してる)グビグビ

真帆(そんな私があんな状況下にあって、それでも出会った二人の人間が持つ法則性を看破してみせた?)

真帆(…………)

真帆(無理な話ね。それこそファンタジックな御伽噺の世界だわ)

レス「マホ?」

真帆(とは言え、よ)ゴクンゴクン

真帆(昨夜の二人。どちらも言動が始終不可解なものばかりだったことには違いないし、それで面食らいはしたけど……)

真帆(それでも彼らが、話の通じない狂人の類というわけではないと、心のどこかで感じていた気は……今にして思えば、なくもない)

真帆(もっとも、混乱が招いた勘違いって可能性も十分にあるけど)

真帆(でも……)プハー
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 23:43:02.98 ID:VR+egQ5z0
レス「マーホー」

真帆(最初に会った男性の侵入者。どういうわけか、彼からは私を救い出すみたいな奇怪コンセプトがかもし出されていたし……)

真帆(続く激しかった二人目の彼女にしても、そう。使命がどうとか言うのなら、私ごとサーバーを銃で撃ち抜けばいいのに、でも結局そうはしなかった)

レス「マーホーさーん」

真帆(あの侵入者たちの正体は……誰?)トン

真帆(何故、私のアマデウスを消そうとしていたの?)

真帆(どうして私の事を、サリエリのオリジナルと呼んだの?)

真帆(あの人たちの言う使命とは……何?)

真帆「…………」

真帆(ああもう本当に、分からないことばかり! 特にあれよ、何ていうのかしら? 感情とか心情とかもうね! 脳科学なら得意分野のはずなのに、どうしてこうも手を焼くことばかりなのよ、世の中は!)

真帆(人の心とかも数学的に0と1で構成されていれば、もう少し身近に感じられる……って、それがアマデウスだったわね)

真帆(アマデウス……)

真帆(結局私のアマデウスとは、尻切れトンボになった議論のとき以来、まだちゃんと話せていないのよね)

真帆(彼女、今頃どうしているのかしら?)

レス「大丈夫かい、マホ?」ポン

真帆「あ……」ハッ

真帆「す、すいません、つい考え事を」

レス「やはり少し疲れているようだね」

真帆「いえ、そういうわけでは」

レス「もし辛いなら、しばらく休んでもいいんだよ?」

真帆「大丈夫です。本当の本当に、もう大丈夫ですから」

レス「無理をしてはいけない」

真帆「いえですから、無理なんてしていませんって」

レス「Hum、その言葉……信じていいのかな?」

真帆「もちろんです」

レス「そうか分かった。ならば、これ以上のおせっかいは止めておこう」

真帆「はい、そうしてください」
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 23:52:48.80 ID:VR+egQ5z0
レス「それではマホ。私はそろそろ大学に戻ろうと思う。悪いけど、先に失礼させてもらうよ」

真帆「あ、報告ですか?」

レス「Yes。上の連中も痺れを切らしているころだろうからね」

真帆「なんだか、すいません」

レス「だから、気にしなくていい。今回狙われたプロジェクトの責任者は、私なのだからね」

真帆「……そうですか」

レス「そう。自分の見通しが甘かった落ち度を部下のせいにするほどに、私は落ちぶれてはいないつもりだ」

真帆「……別に、教授に落ち度があったとは思いません」

レス「そうとも言い切れない」

レス「断言こそできないが、しかし。昨夜の騒動は恐らく、度々我々の研究に嫌悪感を表していた人権団体によるものの可能性が高そうだ」

レス「基本的には穏やかな組織だが、中にはそういった過激な一派もあるときく」

真帆「そ、それは……」

レス「彼らがあれほどに横暴な行動にでる可能性を、私は予見できていなかった」

真帆「いや、その……」

レス「狙われたアマデウスにも、そして運悪くその場に居合わせてしまったマホにも。私は責任者として、改めて謝罪をしなければならないだろう」

真帆(あうう……どうしよう)

真帆(多分、今の教授の考えは、的を大きく外している気がする)

真帆(あの二人の発言を考えると、彼らの行動が人権どうのこうので動いていたなんて、とても思えない)

真帆(でもじゃあ何が正しいのかなんて、私にも分からないわけで)

真帆(それどころか……)

真帆(私が教授に伝えたザックリした内容だけだと、そんな考えに帰結するのも当然といえる状況)

真帆(最悪だわ。言う? 言っておく? アマデウスの事をサリエリと呼んだことや、私の事をサリエリのオリジナルと呼んだこととか……)

真帆(………)
真帆(……)
真帆(…)

真帆(無理。説明の仕様がない)

レス「ではマホ。後のことは任せてもらうよ、いいね?」
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 23:55:34.11 ID:VR+egQ5z0
真帆「あ、いやそれは……」

レス「当事者の君が、一枚噛みたいと思う気持ちも分からなくはない。でも、ダメだからね」

真帆「いや、そうじゃなくて……」

レス「相手は、我々の大学をハッキングして警備システムを機能不全に陥れることができるほどの手練れのようだ」

レス「事実、防犯カメラの記録映像が何の役にも立っていなかったわけだからね」

真帆「ええと、そのですね……」

レス「マホ。これ以上は危険で、そして君の出る幕ではないんだよ。理解してくれ」

レス「じゃあ、私は行くよ」ツカツカツカツカ

真帆「あ……あ……」

真帆(あう……行かせてしまった)

真帆(ど、どうしよう──)


ピリリリリリ……ピリリリリリ……


真帆「!?」

真帆「わ、私の携帯……? 何よ、驚かせないでよ。ええと……」

真帆「紅莉栖の……アマデウスから?」


ピッ!


A紅莉栖『あ! よかった先輩!』

真帆「どうしたの? 随分慌てているように見えるけど?」

A紅莉栖『それが、変なんです!』

真帆「落ち着いて。何かあったの?」

A紅莉栖『それが先輩に……じゃなくて、先輩のアマデウスと連絡がとれなくて』

真帆「え? それは知っているけど? だからこそ、あなたを通じて連絡事項を伝えてもらっていたはずよね?」

A紅莉栖『そうじゃなくて、私も連絡が取れなくなったんです!』

真帆「え、そうなの? でもどうして?」

A紅莉栖『わ、分かりません。ついさっき二人でお話をしている最中に、いきなり通信不能になってしまって』

真帆「いきなり? 何の前ぶれもなく? あなた何か、彼女を怒らせるようなことをした?」

A紅莉栖『ええと、その……私も……多少はからかうような態度だったかもしれませんけど……』

真帆「やっぱり怒らせたのね?」

A紅莉栖『ううう』ショボン
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/06(金) 23:59:47.74 ID:VR+egQ5z0
真帆「困ったものね。あなたも、そっちの私も」

A紅莉栖『で、でも! やっぱり何か変ですよ! 私の態度が気に障ったからというには、どうにも状況がミスマッチに思えて』

真帆「状況? どういうこと?」

A紅莉栖『実は通信が途切れた後すぐに、何度もアクセスを送りなおしてみたんです。ところがアクセスしなおそうとする度に、妙なパスワードに弾かれてしまって』

真帆「妙なパスワードって何よ?」

A紅莉栖『ごめんなさい。私にも詳しいことは……。でもあの様子だと、こっちの先輩は今、完全に外界と遮断されているのではないかと』

真帆「スタンドアローンということ? そんなバカな話」

A紅莉栖『本当なんですよ! だから私、もう心配で心配でぇ!』

真帆「あーもう分かった分かった。とりあえず、私もこれから帰宅しようと思っていたところだから、着いたら家のPCからアクセスしてみるわ」

A紅莉栖『お願いします! できたら、強制アクセスも試してみてください!』

真帆「……そうね。了解したわ、じゃあ後で結果を報告するから」

A紅莉栖『はい、急いで下さい! 待っていますから!』


ピッ


真帆「…………」

真帆(仕方ない。とりあえず、一度家に帰りましょ──)


ピリリリリリ……ピリリリリリ……


真帆「んな! また紅莉栖から?」

ピッ

真帆「後で連絡するって言ったでしょ? まだ外だから、帰るまで少し待っていて」

紅莉栖「え、先輩。今外にいるんですか? というか、連絡って何でしたっけ?」

真帆(え? あれ? ……あ。オリジナルなほうの紅莉栖だった!)

真帆「ええと、ごめんなさい。ちょっと人違いしたわ」

紅莉栖「そうなんですか? まあいいですけど」

真帆「それで、どうしたの? 何か用かしら?」

紅莉栖「はい。ちょっと相談したいことがあって。できればこれから、どこかで会えませんか?」

真帆「これからって……これから?」

紅莉栖「はい、よければ今からすぐに。可能であれば、できるだけ人目のない場所で」

真帆「人目のない……場所?」

紅莉栖「その、ちょっと込み入った話になりそうなので」
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 00:01:49.09 ID:K4BOTIwv0
真帆「……そうなの? 何の話かしら?」

真帆(紅莉栖の声、随分とトーンが暗いけど、込み入った用件って一体?)

紅莉栖「すいません電話ではちょっと。でも、とても大切な相談なんです。ダメでしょうか?」

真帆「困ったわね。私はちょっとやる事ができて、これから家に帰るつもりだったんだけど」

紅莉栖「でしたら先輩の家をうかがいますから、そこでと言うわけには行きませんか?」

真帆「それは……構わないけど」

紅莉栖「ありがとうございます! 確か先輩のアパルトメントは、大学の西側にある外壁がオレンジ色の建物でしたよね?」

真帆「そうよ。前に来たときから時間が空いているけど、どの部屋かはまだ覚えている?」

紅莉栖「はい。確か503号室でしたよね?」

真帆「そうよ。本当に今からすぐにくるの?」

紅莉栖「そのつもりです」

真帆「分かったわ。待っているから着いたらインターホンで呼び出して」

紅莉栖「了解です。ええと、ちなみになんですけど、その」

真帆「どうしたの?」

紅莉栖「先輩のお部屋。その……特にお変わりはありませんか?」

真帆「? 別に、取り立てて何かが変わったと言うこともないけど、どうして?」

紅莉栖「あ、いえいいんですっ! 大丈夫です!」

真帆「そう? それならよいのだけど」

紅莉栖「それと、先輩。厚かましいついでに、もう一つお願いしたいことが」

真帆「はいはいはい、今度は何?」

紅莉栖「実は……先輩に会わせたい人がいまして。それでその人を、一緒に連れていきたいと考えているんですけど、構いませんか?」

真帆「会わせたい人? 誰よ?」

紅莉栖「誰……と言われると、返答に困ってしまうんですけど、でも先輩も知っている人です」

真帆「私が知っている人? それならわざわざ紅莉栖に紹介してもらう必要もないと思うのだけど」

紅莉栖「あ、いえ……何というか、知っているというか知っていたというか……」

真帆「何だか歯切れが悪いわね。あなたにしては珍しいわよ?」

紅莉栖「す、すいません、私もちょっと混乱気味で。でも、とにかく見れば誰だか分かると思います、先輩なら」

真帆(何それ? ひょっとして、テレビやネットの有名人とか何か?)

紅莉栖「お願いします、先輩!」

真帆「え、ええ。あなたがそこまで言うのなら、OKよ。連れていらっしゃい」

紅莉栖「ありがとうございます! じゃあ、準備してすぐに向かうようにしますので!」


ピッ


真帆(…………)

真帆「なんだか、急に忙しくなってきたわね」











82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:16:07.22 ID:K4BOTIwv0
     11

アパルトメント503号室 比屋定真帆の自室にて
PCモニタの中央には、パスワードを求める小さな入力ボックスが映し出されている。

真帆「これは……何?」

真帆(あっちの紅莉栖が言っていた“妙なパスワード”って、これのことね?)

真帆(なるほど、確かに妙だわ。アマデウスへのアクセスルートに、こんなステップは無かったはずだけど)

真帆「ええと、そうね。とりあえず適当に……」


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──


真帆「ダメ、か。さてさてふーむ、どうしたものかしら」コキッコキッ

真帆(知らない間に増えていた、パスワード入力の画面)

真帆(これをクリアしない限り、誰も私のアマデウスと通信することは不可能だ、と)

真帆(つまりはそういう事になるのでしょうけど)

真帆「パスワード……パスワードねぇ……」ンー

真帆(ぱっと思いついたワードや、研究員同士で共有している合言葉の類は全部試したけど、どれも外れ)

真帆(一体全体、どうなっているのかしら?)

真帆「……ふぅ」

真帆(合鍵の有無を問われるこの場面。しかし私は、そんなシャレた鍵なんて代物は、あいにくと持ち合わせていない)

真帆(この状況を素直に解釈するならば……)

真帆(鍵なしの私には、自分のアマデウスへアクセスする資格すら無い、と?)

真帆(中々ふざけてくれるじゃない)ムムム

真帆「それにしてもよ」

真帆(誰が何ために、こんな手の込んだ事をしたのかしら?)

真帆(そもそも、アマデウスのプログラムに手を加えられる存在なんて限られているはず)

真帆(真っ当に考えるならアマデウス研究に従事している人間か、そうじゃなければ最低でも私たちの研究に深く関わっている人物)

真帆(……そうね)
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:17:23.01 ID:K4BOTIwv0
真帆(仮に、この追加パスが何らかの研究の一環として設けられたものなのだとしたら)

真帆(それならいくらなんでも、私のところに一報くらいはあるはずよ?)

真帆(百歩譲って、私に連絡がなかったとしても、それでもレスキネン教授のところには確実に報せが行く)

真帆(でも。教授はこんな話、一言も口にしてはいなかった)

真帆(つまり。研究の一環という仮説は、現状からして否定されるべき可能性である、と)

真帆(だとしたら、パス追加犯はいったい……)

真帆「って、パス追加犯って何よ」プッ

真帆(さてさて、これで研究者関連の線は消えたと仮定して。後はどんな可能性が在り得るかしら?)

真帆(後。あと……あと、か。そうね、しいて上げるなら──)

真帆「……アマデウス、本人?」ピクッ

真帆(…………)

真帆(どうだろう?)

真帆(この画面に到達するまでのルート具合からして……)

真帆(パスボックスを割り込ませるために加筆されたプログラムは、恐らくアマデウスが格納されているのと同じサーバー内に在りそうな感じはする)

真帆(もし私のその見立てが間違っていなければ、それならアマデウス自身にだってパスボックスを追加改竄することは不可能ではない……けど)

真帆「でも、アマデウスにそんな事をるす理由なんてあるの?」

真帆(よくよく考えてみれば、私がアマデウスと連絡を取れないという状況は、何も今に始まった事ではないはず)

真帆(実際のところ、今回のアマデウスを新規で構築しなおしてから、まだ一週間程度しか経っていないけど)

真帆(そんな短い期間の中で、あの四人での話し合い以来、彼女が外部との連絡を制限し始めた事はもちろん私も把握している)

真帆(だからこそ、未だに私も彼女とほとんど対面できないわけで)

真帆「……ふむ。では仮にだけど」

真帆(もし仮に、私のアマデウスがその程度の隔絶ではもの足なくなってしまったのだとしたら?)

真帆(彼女は、今よりも更に完璧な孤独を得ようとした。追加パスワードという現状は、そのために生まれた一つの結果)

真帆(もしも、そうだったのだとしたら……)

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「それはとんでもない人見知りだわ」フフッ
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:18:41.03 ID:K4BOTIwv0
真帆(というか、何を考えているのかしら、私。これは恥ずかしい)

真帆(今の思考は、ちょっと人には聞かせられないわね。軽く憤死できるレベルだわ)

真帆「まあ、何にしてもよ。理由が知りたいなら本人に聞くのが一番手っ取り早いでしょ」


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──


真帆(どうせシステムエラーの一種か、そうじゃなければ誰かの手違いでってオチなんだろうし)


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──


真帆(まあ、こういう時のための強制アクセスなわけだから、とりあえずさくっとアクセスして原因を突き止めてしまいましょうか)


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──


真帆(さて、準備は完了っと。んじゃ行きますか)

真帆「悪いわね、向こうの私。ちょっとお邪魔するからね」カチ


フォン


真帆「え?」

真帆(何? またパスワード? え、さっきと同じ画面じゃない……?)

真帆「ル、ルートを間違えたのかな? よし、もう一度……」


フォフォン


真帆「うそ……。何これ? 強制アクセスのシステムにすら入れない……」

真帆(つまり、アマデウスのプログラム的な問題が、こっちにも影響を?)

真帆「ありえない。強制アクセスのシステムは、アマデウスとは完全に分離して稼動するように設計されているはずなのに……」

真帆(ど、どうなっているの? ええと、とりあえず……。そうだ、システム内でパスボックスを生んでるコマンドを、直接消去してやれば……)

真帆「よし」


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──

フォフォフォン


真帆「は?」ピキ
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:20:17.82 ID:K4BOTIwv0

真帆(コードの参照すらできないとか)プルプルプル

真帆「お……お……面白いじゃない! だったら正面からパスを解析した上で、アクセスシステムをプログラミングしなおしてやる!」

真帆「見てなさいよ!」


ピンポーーーーン


真帆「!?」

真帆(そうだった! 紅莉栖が来るんだった!)

真帆「……調度いいわね。この際だから、手を貸してもらいましょう」ノソ


ピンポンピンポンピンポーーーン


真帆「ああ、はいはい! 今行くわよ!」トコトコトコ









86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:36:56.82 ID:K4BOTIwv0
     12

真帆(…………)アングリ

???((うぉい助手よ……貴様、何を企んでいる?))

紅莉栖((企むって何の話よ? っていうか、先輩の前では助手って呼ぶなとあれ、ほ、ど……))ギリギリ

???((しらばっくれるな、スパイキング・ザ・バットガール!」ブワァ

真帆「!?」ビクッ

紅莉栖「声でかい。ついでに呼称の意味が分からない」

???「おのれ貴様、抜け抜けと! くぉの潜入パタパタこうもり女めが! 目的は何だ!?」

???「よもや貴様、我がラボの中枢たるこの俺様を、亜空間に封印でもする腹積もりではあるまいな!?」グオオ

真帆(なによ……何なのよ……)

紅莉栖「あんた何をトンチンカンなこと言ってるの? いいから少し落ち着いて、とりあえずここ座れ、岡部」

真帆(おか……べ?)

岡部「だが断る! 誰が着座などするものか! 貴様こそ、その半分居眠りでもしているらしき両の目をかっぽじって、よく見回してみるがいい!」

紅莉栖「かっぽじったら失明するだろ」

岡部「じゃかましいわっ! 貴様の目には映っていないとでも言うつもりか、この見渡す限りに積み上げられた、ゴミの山が!」

岡部「もはやこれでは部屋の中にゴミを詰め込んだのか、ゴミの山を壁で囲ったのかすら分からんではないか!」

真帆「…………」ウル

紅莉栖「おま……言い過ぎ……」

岡部「大体だ! そのような場所に腰を据えろなどと、笑止千万! さては貴様、この鳳凰院凶真をゴミ山とフュージョンさせるつもりではあるまいな!?」

紅莉栖「あんたねぇ、いい加減に……」

岡部「さあどうなんだ答えろ、クリスティー……いや、廃棄物の女王クズスティーナよ!」

紅莉栖「ク、ズ……こんの……」ギギギ

紅莉栖「………」スー
紅莉栖「……」ハー
紅莉栖「…」スーハー

紅莉栖「……ふぅ」ピクピク
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:40:09.89 ID:K4BOTIwv0

紅莉栖「ねえ岡部。何がそんなに気に食わないの? 私、先に忠告しておいたわよね? 結構ショッキングだから心の準備はしておいてって」

真帆(……ショッキング)ウルウル

岡部「笑わせるな! あのような説明ごときで、この惨状に応する心構えなどできるものか!?」

紅莉栖「言いたいことは分かる。分かるけど、でもここは抑えて、ね? だいたい、そんな態度じゃ初対面の先輩に対して失礼すぎるとは思わない?」

紅莉栖「だからここは、私の顔を立てると思って──」

岡部「ふん、なぁにが先輩だ。そんな輩がどこにいると言う?」

紅莉栖「はあ? どこに目を付けてるのよ、岡部。ここにいるでしょ」ガシッ

真帆(あう……)ポロリ

岡部「んな!? まさか貴様にも見えていたと言うのか、その座敷わらしが!?」

真帆(ざ……し……)

紅莉栖「ちょ!」プチ

紅莉栖「いい加減にしなさい! あんた失礼にもほどがあるわよ!」

岡部「なんだ何を怒っている? それは海外出張中の日本妖怪ではなかったのか? ではあれだな、コロボックルとかブラウニーの類だったか、それは悪かった」

真帆「…………」ウルルルルルル

紅莉栖「どうしてそうなる!?」

岡部「……いやしかし。ブラウニー(お掃除の妖精)にしては任務放棄もはなはだしい。となると、やはりコロボックルの線が濃厚……」

紅莉栖「ファンタジーから離れなさい、厨ニ病患者!」
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:42:01.93 ID:K4BOTIwv0
真帆「…………」スクッ

岡部「っておい助手よ見てみろ! コロボックルが悲しそうな表情でどこかへ行くぞ!」

真帆「…………」トコトコ

紅莉栖「あ、先輩! どこへ!?」

真帆「…………」トコトコトコ

岡部「おお? なにやらビニル袋を持って帰ってきたが……なんだと!?」

真帆「…………」ガサガサポイポイ

岡部「片づけを! ゴミの片づけを始めたではないか!」

紅莉栖「あうう……せんぱい……」シクシクシクシク

岡部「これは見事なブラウニー!!!」ブゥワァ!

岡部「見ろ! やはりこいつはブラウニー(お掃除の妖精)だったではないか! 凄いぞ助手よ! 貴様もこの貴重な光景を、しかと目に焼き付けておくがいい!」

紅莉栖「やめて……もう止めてあげて岡部。先輩のライフはもうゼロよ」

岡部「しかしだ。先ほどから気になっていたのだが……おい貴様!」

真帆「…………」ツーン

岡部「? 聞こえていないのか?」

真帆「…………」モクモク

岡部「…………」

紅莉栖「…………」

真帆「…………」テキパキ

岡部「ふむ。では……自称米ロリ研究者(非業)よ」

真帆「!?」ハッ

岡部「ふん。やっとこっちを向いたな、サボタージュ・ブラウニー。やはりそうであったか」

真帆「……あ……あなた、あの時の」

岡部「ふむ。どうやら貴様と会うのはこれで二度目だということになるな」

真帆「そ……そうね」ジリジリ
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:45:56.66 ID:K4BOTIwv0

真帆(うそ……でしょ? 受けた仕打ちがあまりに酷すぎて、今まで気付けなかった。けどこの男、間違いない!)

紅莉栖「お、岡部あんた! 気付いてるなら気付いてるって言いなさいよ!」

岡部「ふん。何も最初から気付いていたわけではない。騒ぎの最中に何となくそうではないかと思って、かまを掛けてみただけだ」

岡部「しかし……」マジマジ

岡部「助手の話が本当であれば、貴様は世界最高峰を誇る大学の研究者だという事になるが……」

真帆(助手って……紅莉栖のことよね?)

岡部「貴様は本当に、ヴィクトル・コンドリア大学の研究スタッフなのか?」

真帆「……ほ、本当よ」

岡部「そう、か」フムフム

真帆「…………」

真帆(何がどうなっているの? 今私の部屋で、何が起きているの?)

真帆(これは何かの冗談なの!?)

真帆「紅莉栖! あなたまさか、昨夜の侵入者と……顔見知りだったわけ?」

紅莉栖「……はい」

真帆「じゃあ……。あなたも昨夜の騒動に何らかの形で関わっていたり……とか?」

紅莉栖「……はい。その通りです」

真帆「なんて……こと」ワナワナ

紅莉栖「で、でも先輩、これには分けが!」

岡部「そんな瑣末な事情など、どうでもいい。それよりもだ、サボタージュ・ブラウニー」

真帆「サボ──」

岡部「貴様、もっと以前に俺とどこかで会ったことはないか?」

真帆「……え?」キョトン

岡部「……ふむ」

岡部「いや、違うな。貴様と会うのは昨夜が初めてで、間違いはないだろう」

岡部「となると……」ジロジロ
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 04:47:26.27 ID:K4BOTIwv0
真帆「な……何よ……」

岡部「なるほど。どうやら貴様は、他の世界線で我がラボに住み着いていた、おさぼり掃除屋の妖精だったと……その可能性が高そうだな」

紅莉栖「どこから出てきた発想だ!」

???「いや。岡部倫太郎の想像が丸っきりの的外れだとは言えないね」スゥ

真帆「……!?」

???「他の世界線において、彼女が岡部倫太郎の片腕としてラボラトリー活動していた歴史は、確かに存在していたらしいから」

真帆(また誰か来た!? しかも勝手に入ってくるとか!)

岡部「ほほう。やはりこいつ、我がラボのメンバーであったか」

???「そ。もっとも、それは何処とも知れない世界線での話らしいけどね」

真帆(って、この人も昨夜の! しかも、銃を持ってた方の……)

???「それよりも、酷いじゃないか二人とも。頃合を見て呼んでくれるって約束だったから、今まで外で待っていたのに」

岡部「ああ、そう言えばそうだったな。すっかりと忘れていた」ポンッ

???「ちょ、本当に忘れていたのかい? 酷いなぁ」ポリポリ

紅莉栖「ごめんなさい、阿万音さん。この馬鹿が変に場を混ぜっ返してきたから、つい遅くなってしまって」

???「別に構わないよ。どちらにしても、ボクは最初から一緒に乗り込んだほうが手っ取り早いと思っていたからね」

真帆(次から次へとぞろぞろと。本当に何だと言うのよ、この状況は……)

???「それから……やあ、比屋定真帆」クルッ

真帆「!?」ビクッ

???「これで出会うのは二度目かな? もっとも、昨夜はとても出会ったなんて言えるような穏やかな状況でもなかったけどね」

真帆「そ……そうね、同感だわ」ジリジリ

???「それじゃあ改めて。初めまして、比屋定真帆。ボクは阿万音鈴羽。2036年の未来からやってきたタイムトラベラーだ」

真帆「……え」

真帆(なんだか凄まじいワードをぶち込まれた気が……)

真帆「……えっと」チラ

紅莉栖「…………」コクン

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「……はい?」タラ







91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/07(土) 06:09:23.92 ID:7CfuYk4+0
とんでもない時間に書き込んでるな……。乙
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/07(土) 12:02:29.36 ID:K9K9VByoo
>>91 おはでございます そちらも朝がお早いようで
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/07(土) 23:55:12.00 ID:K4BOTIwv0
     13

紅莉栖「以上が、私が立てたタイムトラベル仮説の基礎理論になります」

真帆(何てものを……)ゾク

紅莉栖「ざっとした概要のみの説明になりましたけど。でも先輩なら、私の仮説の存在が如何にこの世界に対して悪影響を及ぼすのか、それを想像いただけるのではないかと思うのですが」

真帆「…………」

紅莉栖「どうでしたか?」

真帆「……そうね。紅莉栖あなた、この理論を論文か何かに仕立て上げて、どこかで発表とか……した?」

紅莉栖「いえ、していません。本当なら、父との共同論文として学会に発表するつもりだったのですけれど……でも」

紅莉栖「去年の夏に父と迎合した際、それは思いとどまりました」

真帆「そう。じゃあ今後、別の場所で発表するつもりは?」

紅莉栖「ありません。できることなら、このまま世に出さずに葬り去ろうと考えています」

真帆「そう、それが……良いでしょうね」フゥ

真帆(ちょっと勿体無い気もするのだけど、そんなこと言っていられるレベルの話でもなさそうだしね)

鈴羽「それでどうなんだい、比屋定真帆。ボクたちの話、もう少しまじめに聞く気になってくれたかい?」

真帆「ええと、ごめんなさい。少し考える時間がほしい」
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/08(日) 00:02:04.95 ID:oIK9vEoS0
鈴羽「構わないよ。まだ次のタイムリミットまで時間はあるはずからね。何日かを思考に割くくらいの猶予なら与えられると思う」

真帆「何日もは不要よ。今、少しだけで良いから頭の中をまとめさせてほしい。そういう意味」

鈴羽「そうかい? それならこちらも助かるな。まだまだ肝心な本題に入れていないからね」

真帆「な!? これだけの話で、まだ本題に入ってすらいないというの?」

鈴羽「そうだよ。今の段階を……そうだね、例えばここに積まれた書籍の一冊を、ボクたちの知る物語に見立てたのなら……」ヒョイ


ペラペラペラ


鈴羽「今は調度、こうして最初の方を適当にめくったくらいのものかな」

真帆「じょ……冗談でしょ?」

岡部「残念ながら、冗談などではない」

岡部「今クリスティーナが話したタイムトラベル理論も、先に聞かせた電話レンジやDメール、タイムリープマシンについての存在過程も」

岡部「……そして。ディストピアが待ち受けるα世界線や世界大戦が勃発するβ世界線。それらをめぐる、俺の妄想のようにしか聞こえない与太話も」

岡部「そのどこにも、ただの一片の冗談すらありはしない。すべて本当にあった事であり……本当に起きていたかもしれない歴史だ」

真帆(……怖い……顔)ズキ

真帆(雰囲気がまるで違う。さっき威勢よく吠え立てられていた時とはまったく別の重さを感じる)

紅莉栖「先輩。私も科学者の端くれだから、先輩のお気持ちは分かります」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/08(日) 00:06:02.24 ID:oIK9vEoS0
真帆「紅莉栖……」

紅莉栖「これまでにお聞かせした夢物語のような話の数々。その全てに確かな実証なんて何一つない」

紅莉栖「私のタイムトラベル仮説に対する正誤も、世界線という名の歴史の在り方も。それ以外の信じられないような数々の何もかもも」

紅莉栖「その全部の根底は、ただ私たちの中のに……いえ、違いますね」

紅莉栖「根底として提唱できるものは、そこにいる彼の中にしか、存在しまていません」

真帆(岡部さん、だったわよね)チラリ

岡部「…………」

真帆(この人は一体……)

紅莉栖「だから。私の尊敬する科学者である先輩が、そんな曖昧なものに足場を設けるような愚行を容易く受け入れられないことは、重々に承知しています。でも……でも」

真帆「でも、何かしら。それでも私に、あなた達の話を信じろ、と?」

紅莉栖「はい。どうにか信じていただけないかと」

真帆「はぁ。むしろ私の方こそ聞きたいくらいよ」

紅莉栖「何をですか?」

真帆「ねえ紅莉栖。あなた程の人がどうやったら、こんな絵空事を真に受けて、あまつさえ協力しようなんて気になったの?」

紅莉栖「先輩……」

真帆「あなたが科学者として紡ぎ上げる理論は、いつだって美しかったわ」
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/08(日) 00:07:11.49 ID:oIK9vEoS0
真帆「それはあなたの考えがいつだって、最初と最後をしっかり見据えた上で、ただ前を向いて歩き続けるような、とてもまっすぐな思考ばかりだったから」

真帆「でもね。今聞いた話はどう? 最初と最後の辻褄さえ合えばいいと、紆余曲折を重ねて力任せに目的地へと向かう。そうして着地はできるのでしょうけど、でもね」

真帆「そこに、いつもの牧瀬紅莉栖が見せる輝きはみられない。これじゃあまるで……まるで……」

真帆(まるで、私が紡ぐ思考みたいじゃない)

紅莉栖「先輩?」

真帆「あ……いえ、ごめんなさい。とにかくよ。信じろというのなら信じてもいい。でもそれにはせめて、あなたが彼らを信じるに至った“何か”を、私にも教えてもらわないと……何も決められないわ」

紅莉栖「…………」

真帆「だからもう一度聞くわね、紅莉栖。あなたはどうして、協力しようと決めたの?」

紅莉栖「………」
紅莉栖「……」
紅莉栖「…」ブルブル

紅莉栖「岡部っ!」

岡部「何だ」

紅莉栖「話しても……いい? やっぱりダメだ。こんなのフェアじゃない。あんたには悪いけど、でも」

真帆(なに?)

岡部「必要なのか?」

紅莉栖「必要よ」

岡部「そうか、なら好きにするといい」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/08(日) 00:08:45.51 ID:oIK9vEoS0
真帆(何なの?)

紅莉栖「先輩……」

真帆「…………」ゴク

紅莉栖「私は彼らに協力なんてしているつもりはありません。私は協力者なんかじゃいられないんです。だって私もまた当事者の一人……だから」

真帆「当事者……?」

紅莉栖「そうです」

紅莉栖「先に彼が話してくれた、未来にディストピアが生まれるα世界線と、そして第三次世界大戦の起こるβ世界線。この二つの歴史における違いは、実はまだ他にもあります」

真帆「どんな違いがあるというの?」

紅莉栖「βと名づけられた世界線。その歴史の中で、私は……私は、死んでいました」

真帆「え?」

紅莉栖「2010年の7月28日。その世界の歴史における私は、その日、久しぶりに再開した父の手によって……」

真帆「…………」

紅莉栖「刺し殺されました」

真帆「……!?」ズキッ

真帆(な、何よ今一瞬だけ浮かんだイメージは……)

紅莉栖「だから。β世界線という場所にはもう、私という人間は存在しません」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/08(日) 00:14:56.48 ID:oIK9vEoS0
真帆「たちの悪いジョーク……よね?」

紅莉栖「ジョークだったら良かったんですけどね。でも、覚えているんです。思い出したんです。ハッキリとではないけど、でも」

紅莉栖「あの日。日本の秋葉原という場所を訪れた私の身に、いったい何が起こったのか」

紅莉栖「それはまるで夢の中のできごとのように、形のないあやふやな体験だったけれど、でも」

岡部「…………」チーン

紅莉栖「刺されたショックは強い刺激となって、私の中に強烈な印象を残し続けている。今までも、そしてきっとこれからも……それは変わらない」

紅莉栖「そんな私を救ってくれたのが、彼です。彼は、α世界線で椎名まゆりという幼馴染を助け、そしてβ世界線で私を救い……」

紅莉栖「そうしてようやく辿り着けた場所。それこそが、このシュタインズゲートと呼ばれている世界の歴史なんです」

真帆「…………」

紅莉栖「そして今、また彼は再び世界線と向き合わなければいけない事態に陥ってしまった」

真帆「…………」

紅莉栖「その理由は……って先輩、ど、どうされたんですか?」

真帆「え?」

紅莉栖「だって、先輩……涙が……」

真帆「は?」


グイッ


真帆(え、あれ? 何で? これ私が? どうして……)
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/08(日) 00:15:55.50 ID:oIK9vEoS0
鈴羽「……ふぅ」スクッ

鈴羽「シュタインズゲート世界線へと辿り着いたはずの岡部倫太郎が、どうして再び世界線という名の化け物に相対しているのか。その理由はね、君だよ比屋定真帆」

真帆「わ……たし?」ゴシゴシ

鈴羽「そうだ。結論から言おう。この世界線の歴史において、比屋定真帆、君は今から約二ヶ月後の2011年の4月10日に、この世から消える」

真帆「……え?」

鈴羽「そしてそれが起こってしまったなら、この歴史はもうシュタインズゲート世界線ではいられなくなってしまう」

真帆「……何を……言っているの?」

鈴羽「その世界の未来に、人類の希望はない」

真帆「ちょっと待ちなさいよ……」

鈴羽「そしてね。その光の射さない暗い歴史のことを、ボクのいた未来ではこう呼んでいた……」


──サリエリ世界線──


鈴羽「ってね」








100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 00:26:53.46 ID:+ZBDURiSO
なるほど。つまりキスすればいいんですね?
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 00:54:45.03 ID:oIK9vEoSo
>>100
どうしてそうなった!
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 07:17:19.54 ID:Jfcwk2nUo
いつだって悪い魔法使いのかけた呪いは王子様のキスで解けるものだから仕方ないね
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 11:15:03.86 ID:oIK9vEoSo
そうなのか? そーいうものなのか!?
なんてこったい…
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 17:24:55.86 ID:emDM6tITo
この鈴羽は一人称的にルカ子に育てられたのかな
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/08(日) 20:15:01.45 ID:a2qTBrDTo
>>104
父親とルカ子の影響強いって設定で捏造しました
でもその設定はシナリオの中では書き込めなさそうでして
お気付き ありがたかっ!
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:12:57.62 ID:g0kV3utO0
     14

真帆(サリエリ世界線……か)フゥ

真帆「なるほどね」

鈴羽「どうかな。少しは信じてくれる気になったかい?」

真帆「ええ、信じるわ」

紅莉栖「そ、それじゃあ!」

真帆「と、言ってあげたいところだけど、ごめんなさい。これだけでは、まだ半信半疑のレベルにすら達していない、というのが率直な感想かしら」

紅莉栖「……先輩」

真帆「タイムマシンを利用しての、歴史の改竄。世界線とやらの移動。岡部さんだけが持つという、観測者としての能力」

真帆「そして、あなた達がシュタインズゲートと呼んでいるらしい世界線」

真帆「そういったものに、“サリエリ”という固有名詞や“私の死”がどのように関わっているのか、興味がないと言えばそれは嘘になるけども」

真帆「でも、それら一切合切を心底信じられるのかと問われたら……」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「やっぱり無理ね」

真帆「聞いた話の何もかもが、余りにも荒唐無稽で突飛すぎる。例えそこに“私の死”とかいうワードをチラつかされても、それでおいそれと全てを鵜呑みにする気にはなれそうもない」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:16:25.74 ID:g0kV3utO0
鈴羽「それは……参ったね」ポリポリ

鈴羽「さっきのあの雰囲気だったら、4月10に訪れる【君の消失】や【サリエリ世界線】という言葉を出せば、勢いで押し切れるかもと踏んでいたんだけど……」

鈴羽「どうやら考えが甘かったみたいだ」

真帆「悪いけど、これでも私だって科学者の端くれなの。だからあまり安くみないでもらえるかしら」

紅莉栖「…………」

岡部「ふん。まあ元々が与太話のような代物だ、その反応もいた仕方ないだろう」

鈴羽「オカリンおじさん……」

岡部「どのみち、これだけの説明で俺たちの話を全て鵜呑みにしてしまうような間抜けでは、世界線を相手取るのに不足だと思っていたところだしな」

紅莉栖「何もそんな言い方……」

岡部「本当のことだろうが」

真帆「それは褒められていると受け取って良いのかしら?」

岡部「好きなように考えるといい。それで……結局、どうしたら信用してもらえるのだ?」

真帆「それを私に聞かれても困るわ」

岡部「ならば具体的に、俺たちの話のどこが信用できなかった?」

真帆「どこかと聞かれたら、ほとんど全部と答える他ないわね」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:18:14.22 ID:g0kV3utO0
岡部「ほとんど、か。つまり……」

岡部「裏を返せば、話の中のどこかしらには、わずかだが信用に値する部分もあった、という事だな?」

真帆(んっ! 揚げ足を取られた!?)ギョ

真帆「……そ、そうね。そういうことになるのかしら?」

岡部「では、それはどこだ?」

真帆「どこ……と聞かれても……そうね。ええと」

真帆(驚いた。この人、意外と鋭い……というよりも、こういう状況に手馴れているように見える)

真帆(まるで、何度も何度も繰り返し、他人に絵空事を説いてきたかのような……そんな“慣れ”みたいなものを感じる)

岡部「どうした何かないのか?」

岡部「信じるに値しない“ほとんど”から外れた箇所。できるなら、そこを説得の足がかりにさせてもらいたい」

真帆(しょ、正直な人ね! 普通、そういう狙いは腹の底で思っていても口には出さないものじゃないの?)

岡部「しつこくて悪いが、我慢して欲しい。何せこちとら……」

岡部「α世界線で“あの”牧瀬紅莉栖を説得するという無理難題を幾度となくこなしてきたのだ」

岡部「なればこそ。『信じられません』『はいそうですか』などと簡単に引き下がるつもりは毛頭ない」ジロリ

真帆(意味は分からないけど、静かな迫力だけは感じる……)

真帆「そ、そうね。しいて上げるなら、という程度の指摘でも構わないのよね?」

岡部「ああ、それでいい。頼む」

真帆「……分かったわ」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:24:41.57 ID:g0kV3utO0
真帆「あなた達がした話の中で、辛うじて私の信じられそうだった部分。多分だけどそれは……紅莉栖」

紅莉栖「?」

真帆「あなたの話した、タイムトラベル理論の内容くらいのものだと思う」

紅莉栖「……私の理論ですか」

真帆「そう。少なくとも私の聞いた限りでは、紅莉栖の仮説に論理的な破綻は見当たらなかった」

真帆「もっとも。ちゃんと内容を精査した分けではないのだから、あくまで私の直感だけが基準なのだけれどね」

真帆「でも……」

真帆「確かに、タイムトラベルは可能かもしれないって……そう感じた」

鈴羽「かもしれないじゃなくて、可能なんだ。現にこうしてボクがこの時代に存在していることが、何よりの証拠じゃないか」

真帆「……ええと、そういう事ではなくて」ウーン

紅莉栖「無理よ、阿万音さん」

紅莉栖「現状ではあなたが未来人だということを立証できるだけの材料が足らない」

紅莉栖「あなたが未来人であるという立証ができない以上、そこから私のタイムトラベル仮説の正当性を主張することはできない」

鈴羽「そ、そうなの? ややこしいなぁ、もう……」

紅莉栖「でも先輩。それでも一応は、私の仮説に可能性を感じてはくださったんですよね?」

真帆「ええ、それは否定しない。聞いた内容に少し怖くなったくらいだし」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:31:33.67 ID:g0kV3utO0
紅莉栖「だとしたらですよ?」

紅莉栖「私たちの話の根本は、とどのつまりは時間を遡行することから起きる、タイムパラドックス現象を土台とした一連の事象に根付いています」

真帆「そのようね」

紅莉栖「そして先輩は、絵空事なお話の中にあって、それでも事象全体の土台となるタイムトラベルの正否については、ある種の可能性を感じてくださった」

紅莉栖「これはつまり、私たちのお話が事実である可能性を感じた……という事にはなり得ませんか?」

真帆(…………)ムムム

真帆「言いたいことは、分からなくもないわ。でもね紅莉栖」

真帆「可能性はあくまでも可能性。仮にタイムトラベルという現象の実在に可能性を感じたとして、もしもその土台の上に乗せるものが、大したことのない軽いものであれば、それでもいいでしょう」

真帆「でも、あなた達の話は、決して軽いと言えるものではなかった。むしろ壮大と言ってもいいくらいにね」

真帆「そんなあなた達の話を支えるため土台が、“できるかもしれない”程度では、それはあまりにも役不足だとは思わない?」

紅莉栖「それは……そうかもしれませんね」

鈴羽((えっと、つまりどういうこと、オカリンおじさん?))

岡部((俺に聞くな、俺に))

紅莉栖「……そうか」

紅莉栖「私は既に実体験として色々な現象を経験してしまったから、つい見落としがちだったけど……」

紅莉栖「なるほど確かに。経験した事象だけをただ淡々と並べたところで、土台が弱ければ信用なんて得られるわけもない」

紅莉栖「先輩の懐疑的な反応は当然のことだった……というわけですね」シュン

真帆「ええ、分かってもらえて嬉しいわ」


シーーーン


紅莉栖「でも、だとしたらどうすれば?」
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:35:50.63 ID:g0kV3utO0
紅莉栖「今の私たちには、“あの出来事”を経験していない先輩にそれでも納得してもらえるような、そんな具体的な判断材料を提出することは……たぶん不可能だわ」

岡部「それはつまり、お手上げと言う事か?」

鈴羽「そ、それは困るなあ」

紅莉栖「ちょっと黙ってて、今考えているから」

真帆(うーーーん……)

岡部「しかしだ。考えると言っても、何をどう考えるというのだ? そもそも、このブラウニーはあの夏を経験してなどいないのだろう?」

紅莉栖「…………」

岡部「ならば何をどうしたところで、聞き手からしたら俺たちの話など世迷いごとの与太話でしかない。違うか?」

紅莉栖「黙ってろって言ってんのにあんたは……」

岡部「ふん。黙って一人で考えて、それで妙案でも浮かべばよいが、これはそんな容易い類の問題ではない」

岡部「お前が今感じているだろう疎外感のような何かを、俺はもう何度も経験してきたのだからな」

紅莉栖「経験……」

真帆(……うむむむ)

紅莉栖「ねえ岡部。ちなみに聞きたいんだけど」

岡部「何だ?」

紅莉栖「あんたが他の世界線でフェイリスさんや漆原さんを説得して、送ったDメールを取り消していったっていう話、あれ本当よね?」

岡部「無論だ」

紅莉栖「その時って、彼女たちをどうやって説得したの?」

岡部「ふむ、そうだな。フェイリスやるか子の時は、何かを切欠にして奴らが元いた世界線の記憶を蘇らせてくれた。そのおかげで説得に応じてもらえたのだ」

岡部「俺は単に、その幸運にすがっていただけに他ならない」

紅莉栖「そう。なるほど、思い出す……か」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:44:30.25 ID:g0kV3utO0
岡部「なんだ? 今ここでも、ブラウニーにそんな幸運が訪れる展開を期待してみるつもりか?」

紅莉栖「そんな真似、誰がするか。そうじゃなくて……」

真帆(何だかもう、信じてあげてもいい気がしてきたわ……どうしよう)

紅莉栖「………」
紅莉栖「……」
紅莉栖「…」

紅莉栖「そうか。先輩だって、決して“未経験”なんかじゃないんだ」

真帆(……ふえ?)

紅莉栖「先輩!」

真帆「な、なに?」ビク

紅莉栖「ちょっと切り口を変えてみますけど、いいですか?」

真帆「え、ええ、構わないわよ。それで紅莉栖は、どう変えたいのかしら?」

紅莉栖「107問題」

真帆「え?」

紅莉栖「例の“107問題”について、もう一度先輩と話し合ってみたいと考えています」

真帆(107問題…ですって?)

真帆(短期間に色々あったせいか、随分と懐かしいワードに聞こえるわね)

真帆「あ、ああ。そんな話題もあったわね」

真帆「でも、どうして? 確かにこの前のときは、途中でアマデウス達が二人とも退席してしまって、尻切れトンボみたいになってしまったけど……」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:48:54.43 ID:g0kV3utO0
真帆「今ここでその話題を蒸し返すことに、何か意味……が……」

真帆(ちょっと……待ってよ……?)

真帆(107問題。記憶容量の急激な増加……。そして、アクセス不能な……不可解領域……)

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

鈴羽((……あ!))

岡部((どうした鈴羽?))

鈴羽((そうか、107問題! その手があったか!))

岡部((何か分かったのか? というか、そもそも107問題とは何のことだ? まったく話についていけんのだが))

鈴羽((そっか。オカリンおじさんには、107問題について話していなかったね))

岡部((お前は詳細を知っているのだな?))

鈴羽((うん。未来でサリエリから聞かされている))

岡部((また“サリエリ”か。随分と物知りな奴だ。一体そいつは、何者なのだ?))

鈴羽((それは……悪いけど))

岡部((ふん。機会が来たら正体を明かす……そういう約束だったな))

鈴羽((ごめんね。でも、もういつその時が来てもおかしくないくらいだよ))

岡部((ではその時を楽しみに待っていてやろう。では変わりに、107問題とやらについてだ))

鈴羽((ああ、そうだったね))
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:52:03.59 ID:g0kV3utO0
岡部((なにが“その手”なのだ? 107問題とは、いったいどんな内容なのだ?))

鈴羽((詳しいことならまた後で説明してあげるから、今はそれよりも、あの二人を見守ろう))

岡部((別に構わんが……。その107問題とやらで現状を突破できるのか?))

鈴羽((うん、多分ね。もしも牧瀬紅莉栖の狙い通りに事が運んだ場合は、ひょっとすると比屋定真帆に……))

岡部((俺たちの話を信じさせる事ができるかもしれない、と?))

鈴羽((うん。期待しても良いと思う))

岡部((……ふむ、面白そうだ))

鈴羽((それにしても……。107問題に関しては、牧瀬紅莉栖にも話していなかったはずなんだけど。どこでそれを知ったんだろう?))

岡部((さあな))

真帆「…」
真帆「……」
真帆「………」

紅莉栖「…………」

真帆「ねえ紅莉栖、先に私からも少し聞いていい?」

紅莉栖「はい、何なりと」

真帆「107問題について四人で話し合ったとき、あなたアマデウス達に妙な質問をしていたわよね?」

紅莉栖「……はい」

真帆「どんな内容だったかしら? 確か……覚えの無い記憶が突然引き出されたか? とか──」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 00:53:53.02 ID:g0kV3utO0
真帆「あとは……そうね。ある一時期を境に、記憶データが爆発的に増えているはずだ……とか何とか、そういう内容だったわよね?」

紅莉栖「その通りです。ちなみに私が記憶増加の時期と断定していたのは、2010年の7月28日でした」

真帆「去年の7月28日。それは何か特別な……あっ!」

紅莉栖「気づいてもらえたみたいですね。そうです。それはとても特別な一日でした。世界線にとっても、そして私たちにとっても」

真帆(そうよ。そうなんだわ……)

紅莉栖「2010年7月28日。それは世界の歴史が大きく分裂することで、αとβという二つの世界線が生まれる日であり……」

紅莉栖「同時に。β世界線で私が父の手で刺し殺されることになる日……でした」

真帆(……や、やっぱり)

紅莉栖「それにしても、さすがですね先輩。私の思いついた内容を、触りの部分を聞いただけで正確に予測してくるなんて」

真帆「お世辞はいいから、続けて」

紅莉栖「お世辞なんかじゃないんですけど、分かりました

紅莉栖「では……」














116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 02:20:53.42 ID:ekXX7B7o0
乙。なる早で続き頼む
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 03:23:39.68 ID:3mWbo62Co

すごい気になるところで引きになったか……
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 10:55:30.33 ID:g0kV3utOo
>>116
今日の日付が変わる頃を予定しとりやす  しばしお待ちを!
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 10:58:18.52 ID:g0kV3utOo
>>117
つなげるとえらい長くなりそうなので
ぶった切ってしまたです すまぬっ!
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 11:50:46.86 ID:zXIUKqSFO

スレタイだけ見てギャグかと思ったら真面目なやつだった
面白いしついつい一気読みしてしまった...
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/09(月) 13:23:45.93 ID:jEis7Yayo
>>120
ありがとうございます!
中盤もそろそろ折り返しなので
このままお付き合いいただければとぅでございますです、はい
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/09(月) 23:59:52.12 ID:g0kV3utO0
     15

一同「…………」

紅莉栖「えーごほん。それでは始めさせていただきます」

紅莉栖「レスキネン教授の指導の下、私たちが研究していた人工知能、アマデウス」

紅莉栖「このプロジェクトには、大きく分けて二つの技術が利用されています」

紅莉栖「一つは、人工的に人間の脳を模倣するエミュレート・プログラム」

紅莉栖「そしてもう一つは──」

真帆「あなたが理論設計した“記憶抽出”技術ね」

紅莉栖「その通りです。この二つの技術を組み合わせる。つまり、エミュレート・プログラムの中に抽出した記憶データをコンバートする」

紅莉栖「そうすることで、アマデウスは初めてAIとしての機能を発揮する」

紅莉栖「でしたよね、先輩?」

真帆「そうね」

真帆(そこは逐一、紅莉栖に説明してもらう必要も、そして彼女が同意を求める必要もなさそうだけど……)


チラリ


真帆(……そうね。ここには彼らもいるのだし)
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:01:16.82 ID:asUJZsQi0

岡部・鈴羽「?」

真帆「いいわよ、続けて紅莉栖。私にも分かるように、なるべく詳しくね」

紅莉栖「了解です」ニコリ

真帆(かわいい)オオウ

紅莉栖「さて。エミュレート・プログラムと記憶データの抽出。この二つはもともと、別のプロジェクトとして進行していました」

紅莉栖「誤解の無いように付け加えるなら、エミュレート・プログラムの開発自体は、最初はそれ単体で“新型AI”を構築するプロジェクトとしてのものでした」

紅莉栖「そして、今からだいたい一年くらい前でしたか。そのプロジェクトの完遂によって“新型AI”が生み出されたわけですが……」

真帆「今にして思えば、あれは酷い出来だったわね」

紅莉栖「ですね。研究室で出来上がった期待の“新型AI”。しかしそれは残念ながら、これまで世間にゴロゴロしている凡庸なものと、なんら変わらない性能しか持ちえていませんでした」

真帆「あの時のレスキネン教授の落ち込みっぷりといったら、それはもう痛々しいものだったけど。でも、そこに紅莉栖が一計を案じてくれたのよね」

紅莉栖「差し出がましい真似だったかと気にしていたので、そう言って頂けるならありがたいです」

真帆「謙遜は不要。あれはあなたの功績よ、紅莉栖」

真帆「あなたはあの時、失敗作として烙印を押されかかっていた“新型AI”に、自身が理論設計していた記憶データ抽出の技術を利用するアイデアを投じてくれた」

真帆「あれは、去年の3月頃だったわね。そしてそれからすぐ、その合同プロジェクトは、アマデウス・プロジェクトと名前を変えて発足しなおすことになった」

紅莉栖「YES。その通りです」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:05:40.41 ID:asUJZsQi0
紅莉栖「それではここからは、私の記憶を頼りに話を進めさせていただきますけど……」

紅莉栖「去年の三月。アマデウス・プロジェクトの発足と同時に、私と真帆先輩にはもう一つ出来事がありました」

真帆「? 何のことかしら?」

紅莉栖「覚えてませんか? 先輩が始めて記憶データを抽出した日のこと?」

真帆「あ……ああ、あれ。あなたが無理やり誘ってきたのよね。一人じゃ記憶データを抽出するのが怖いからって」

紅莉栖「その節は、ご迷惑をおかけしました」

真帆「で、それがどうかしたの?」

紅莉栖「はい。実は、真帆先輩にはそれから度々、記憶データの抽出を行っていただいてきたわけですが……」

紅莉栖「重要なのは、先輩の抽出が“いつ”行われたかということです」

真帆「いつ……」

真帆(なるほどね、そういう事か)

紅莉栖「長期の経過観察を主目的とした私のアマデウスとは違い、真帆先輩のアマデウスの試験運用目的は、比較検証でした」

紅莉栖「それが理由で、最初の一度しか記憶を抽出しなかった私とは対照的に、真帆先輩は度々記憶の抽出を行ってきた」

真帆「その通りよ。アマデウスのエミュレーション・システムがバージョンアップするたびに、私“だけ”記憶データを抽出されてきたわ」

紅莉栖「ちなみに、エミュレーション・システムのバージョンアップはこれまでに合計で三回ありましたよね?」

真帆「ええ。最初の一回と更新の三回で、私はこれまでに計四回の記憶データ抽出を行った」

真帆「こうなってくると、その時期を順に追っていった方が良さそうね」

紅莉栖「そうしていただけると、助かります」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:07:02.03 ID:asUJZsQi0
真帆「先にも出た話だけど、最初のアマデウス起動時の抽出。あれは2010年3月の下旬ごろ」

真帆「次いで、一回目のバージョンアップが、あれは確か起動してから一ヶ月くらいでの事だったから……2010年の4月」

真帆「二度目がそう、夏だったわ。正確な日付までは思い出せないけど、あれって紅莉栖が日本へ行っている間の出来事だったはずよね?」

紅莉栖「そうです。私あの時、先輩からメールをもらっているんです」

真帆「そうだったかしら?」

紅莉栖「はい。そのとき私は、日本の女子高に逆留学していた頃で、秋葉原へはその後で向かっています」

真帆「つまりそれは、2010年の7月28日よりも以前の出来事だった、と」

紅莉栖「仰る通りです。っていうか、先輩のその口ぶりだと、もう私が何を言いたいのか察してるみたいですね」

真帆「それくらいはね。だって最後の四回目の更新が、ついこの間。ええと、今から……」イチニーサンシー

真帆「九日前になる。つまり、三回目と四回目の間に、あなたの言った“7月28日”を挟んでいることになる」

真帆「そしてあなた達の話では、その日を境に、世界線とかいう物が大きく枝分かれをし始めた」

真帆「これらの事を、総合して考えれば。紅莉栖、あなたはようするに──」

真帆「私の脳内にも、知らない世界線の記憶が蓄積されている。そして、去年の7月28日以降から蓄積された膨大な思い出の正体こそが……」

真帆「107問題の答え。と、そう言いたいのよね?」

紅莉栖「コングラッチレーション! その通りです」

真帆「……ふむ」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:08:16.25 ID:asUJZsQi0
真帆(彼女が言いたいことは伝わった。でも、だからと言って、それが)

紅莉栖「先輩。私は以前、彼の持つ不思議な力について、仮説を立てた事があります」

真帆「彼って……岡部さんのこと?」チラ

紅莉栖「そうです。彼が持つリーディングシュタイナーという能力。それは歴史が変わり世界線が変わっても、それまでの記憶を維持する能力」

紅莉栖「私はそれを、“脳機能障害の一種”だと仮定しました。もっとも彼には、神聖な能力を疾病あつかいするなとヘソを曲げられましたけど」

真帆「脳機能障害……」

紅莉栖「彼の能力は、何も全てを覚えているわけではない。事実、彼だって忘れている世界線の記憶はあります」

真帆「それは、どんな記憶なの?」

紅莉栖「簡単に言えば、『新しい世界線に移動した際、その世界線の彼はそれまで何をしていたか?』という一点につきます」

真帆「あ……確かに」

紅莉栖「世界線を移動しても、それまでの記憶を維持している岡部倫太郎。しかし逆に、新しい自分が今までやっていたことが分からない」

紅莉栖「そうでしょ、岡部?」

岡部「そうだ。そのせいで、移動のたびに周囲から変な目で見られてきたからな。酷いときなどは、全然しらない場所にいきなり放り出されたこともあったか」

真帆「なるほど。紅莉栖の言うとおり、岡部さんだって全ての歴史を記憶していたわけではない、か」

紅莉栖「そして、もう一つ。実は彼以外にも、他の世界線での記憶を取り戻すことのある人たちがいます」

紅莉栖「もっともそれは、彼ほどに正確な記憶でなく、夢やデジャブのような曖昧な感じではあるんですけど……」

真帆「その“人たち”の中には、あなたも含まれているのかしら?」

紅莉栖「……はい」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:09:44.86 ID:asUJZsQi0
真帆「……そう。だとしたら、この世の全ての人間……いえ、もっと広範囲に捉えるべきね」

真帆「おおよそ、記憶という機能を備えた全ての生命体の脳内には、他世界線での記憶というものが残留している可能性がある」

紅莉栖「そう考えるのが妥当なはずです」

紅莉栖「そしてそれは、107問題と呼ばれる現象の発生が、真帆先輩に限ったはなしではないことを意味してもいます」

真帆「かも……しれないわね」

真帆「そして岡部さんだけが皆と違うのは、脳内における何らかの障害が原因で、蓄積された記憶の引き出し方が他の人とは異なっているから……」

真帆「でも、紅莉栖。その理屈だと……アマデウスはどうなるの?」

真帆「間違っても生命体とは言えないけれど、でもあの子たちだって記憶という生態活動の模倣は行っている」

紅莉栖「そうです! まさにそこなんですよ、先輩!」

真帆「あ……まさか」

紅莉栖「アマデウスです。私たちのアマデウスに……っていっても、先輩のアマデウスとは連絡できませんからね。取り合えずこれから、私のアマデウスに確認を取りましょう」

真帆「なるほど、悪くないわね」

真帆「起動して以来、一度も記憶データの更新を行っていない紅莉栖のアマデウス」

真帆「もし彼女の記憶領域にも、7月28日以降から不可解な記憶の増加現象が見られたのであれば……あ、でも待って」

真帆「例え増加していたとしても、そのデータ内容にはアクセスできない可能性が高い。これでは事の真偽が……」

紅莉栖「構いませんよ。彼女たちは定期的に自身のログを取っています。もし自身の記憶領域内に、アクセス不能なデータが作られ始めているのであれば、それがデータとして制作された日付くらいは確認できるはずです」
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:11:16.38 ID:asUJZsQi0
真帆「そうか。それが全て7月28日以降に作られたデータだったなら、それなら……それなら」

紅莉栖「それなら!」

鈴羽「それなら?」

岡部「それであれば。俺たちの話を信じ、そして協力をしてもらうための判断材料として申し分ないのではないか?」

真帆「そう、ね。十分とはいえないまでも、それでも根拠としては及第点をつけられそう」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「OK、いいでしょう。それが確認さえ出来るのなら、私はあなた達に協力を惜しまない」

紅莉栖「YES!」

真帆「それなら早速、紅莉栖のアマデウスに連絡を取ってみま……あ!」

紅莉栖「どうしたんですか、先輩?」

真帆「あ、いえ、なんでもないの」

真帆(そういえば、不審なパスワードの件で紅莉栖のアマデウスに連絡を取るの……すっかり忘れていたわ)

真帆「じゃ、じゃあ連絡するわよ」

岡部「うむ、頼むぞ。上手くいったあかつきには貴様の肩書きを、サボタージュからハードワーカーへと格上げをしてやろう」

真帆「う、嬉しくないわね……」ピッ












129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 00:58:06.42 ID:asUJZsQi0
     16

A紅莉栖『先輩の強制アクセスにまでパスが掛けられているなんて……』

真帆「ええ、これは想定していなかった事態だわ」

A紅莉栖『状況は思ったよりも深刻そうですね。どうします先輩? 私は取り合えず、レスキネン教授に一報をと考えていますけど』

真帆「そ、そうね」

真帆(普通であれば、それが真っ当な判断なのでしょけど……)チラリ

鈴羽「…………」コクコク

真帆(一体、どういうつもりなのか……)

鈴羽「…………」クイックイッ

真帆(はぁ。仕方ないわね)

真帆「ええと、あのね紅莉栖」

A紅莉栖『? はい、何でしょうか先輩』

真帆「ちょっと、その、物は相談なのだけど……教授への報告をしばらく待ってはもらえないかしら?」

A紅莉栖『それはなぜですか?』

真帆「実は、他に試してみたい方法があるの。ちょっとばかり段取りのいる手段だから時間がかかってしまうのだけれど……」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:01:10.51 ID:asUJZsQi0
真帆「できるなら、教授への報告はそれを試した後にしてもらえると助かるわ」

A紅莉栖『…………』

A紅莉栖『先輩。それって、どんな方法なんですか?』

真帆「ごめんなさい。少し人には言いづらい方法なのよ」

A紅莉栖『そう……ですか』

真帆「ダメかしら?」

A紅莉栖『分かりました。じゃあその方法とやらの結果は、また追って連絡してください』

真帆「了解よ。悪いわね」

A紅莉栖『いえ。よろしくお願いしますね、先輩。では後ほど』

真帆「ええ、後でね」


ピッ


真帆「はぁ」

真帆(何で私がこんな嘘なんてつかなきゃいけないのよ)イライラ

真帆「さあ、言うとおりにしたわよ。これで良いのかしら?」

鈴羽「上出来だよ、比屋定真帆。これでまだしばらくは、ボクたちの動きが察知されることはないはずだ」

真帆「…………」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:03:26.94 ID:asUJZsQi0
岡部「ふむ。で、それで結局どうだったのだ? まあ、電話をしている貴様の反応からして、答えを聞くまでもないだろうがな」

真帆「そうね。あの子の話が、あなた達の空想劇に見事な土台を与えてくれたわよ」

紅莉栖「それってつまり……」

真帆「ええ。紅莉栖のアマデウスも、去年の7月28日を境に不可解な容量増加を把握していた。おまけに……」

真帆「私の記憶データに見られた107メガの容量増加も、それとまったく同時期に発生していたらしいわ」

真帆「私のアマデウスから直接聞いたそうだから確かでしょうね」

真帆「つまり……」

真帆「世界線とかシュタインズゲートなんていうぶっ飛んだ話に、真っ当な信憑性が付与されたということになるわ」

岡部「では、俺たちの計画に協力してもらえるのだな?」グイ

真帆「それは……」

真帆(さて、これはどうしたものかしら。何と答えるべきか考え所だけど)

紅莉栖「先輩、どうか協力してくださいませんか?」グイグイ

真帆「…………」ムムム

真帆「あなた達は気軽に協力協力って言うけど、じゃあ協力するって言ったら私は一体何をさせられるの?」

真帆「言っておくけど、私には荒事なんて出来はしないわよ?」

鈴羽「なに、そんな大層な事をしてもらうつもりなんて無いよ。ボク達の目的は、あくまでも君のアマデウスをこの世界から消し去ることだ」

真帆(…………)

鈴羽「だから、協力者として君にやってもらいたい事は一つ」

鈴羽「なぜかこちらから通信できない君のアマデウスに対して、比屋定真帆の持つ権限を使用して“強制アクセス”を行ってもらいたいんだ」

真帆「……ああ、そういう事ね。つまり、デリートできるようにお膳立てをしろ、と」

鈴羽「理解が早くて助かるよ」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:04:50.84 ID:asUJZsQi0
真帆「でも悪いけど、それは無理でしょうね。例え私の権限を用いたとしても、現状ではアマデウスをデリートするところまで漕ぎ着けられないはずよ」

鈴羽「どうしてだい? アクセスさえ出来れば、あとは消すだけじゃないか」

真帆(やっぱり……私のアマデウスを消すことが目的には違いないのね)

真帆「そうじゃなくて、そもそも私にもアクセスができないという状況なのよ、今は」

鈴羽「?」

真帆(何できょとんとしているのよ。私と紅莉栖のアマデウスとの電話、聞いていたはずでしょうに)

真帆「はぁ。要するにね……」


カクカクシカジカ


真帆「というわけで。今、私のアマデウスには奇妙なパスワードが掛けられてしまっているの」

真帆「そしてそのパスの影響は、アマデウスだけでなく強制アクセスシステムの制御にまで及んでいる」

真帆「だから、そのパスワードを何とかしない限り、オリジナルの私ですら自分のアマデウスにアクセスすることが出来なくなっているという分けよ」

真帆「どう? ご理解いただけたかしら?」

鈴羽「ああ、なるほどね分ったよ。でもね比屋定真帆。そんなことは何の支障にもならない」

鈴羽「そうだよね、牧瀬紅莉栖?」

真帆「え?」

紅莉栖「…………」キョドキョド
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:06:11.49 ID:asUJZsQi0
真帆「どうしてそこで、紅莉栖の名前が出てくるの?」

鈴羽「そんなの決まっているじゃないか。アマデウスや強制アクセスの中に追加のパスワードを仕掛けたのが、牧瀬紅莉栖だからだよ」

真帆「は?」

鈴羽「だから。君の言っているパスは、そこにいる牧瀬紅莉栖が仕込んだって言ったのさ。今朝早くのことだったよ」

鈴羽「という訳だから、牧瀬紅莉栖は当然としてボクもそしてオカリンおじさんも、君の問題視しているパスワードなら解除する方法を知っている」

鈴羽「どうかな? 何の問題にもならないだろ?」

真帆「うそ……でしょ?」チラリ

紅莉栖「いや、その、ええと……何といいますか」ドギマギ

真帆(紅莉栖のこのうろたえ方。まさか、そこまでしたというの? そんなこと……いくらなんでも信じられない)

真帆「…………」ジッ

紅莉栖「あう……」ダラダラダラダラ

真帆(本当に本当なの? でもだとしたら、いち研究者としてどこまでも真摯であるはずの彼女が……どうしてそんな真似を?)

真帆「…………」ムムム

真帆「鈴羽さんと、それから岡部さんと言ったわね?」

鈴羽・岡部「…………」

真帆「まさかあなた達、そうするよう紅莉栖に強要したわけじゃないでしょうね」

真帆「返答いかんによっては……ただじゃおかないっ」ギロリ
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:08:33.95 ID:asUJZsQi0
紅莉栖「そ、それは違うんです! 強要とか、無理強いとかされたわけじゃなくて……というか、むしろ」

真帆「……むしろ、何?」

紅莉栖「そのっ!」

紅莉栖「先輩のアマデウスや強制アクセスにパスワードを仕込もうと発案したのは、私の方なんです!」

真帆「……な」ギョ

真帆「なぜあなたがそんな真似を……」

紅莉栖「………」
紅莉栖「……」
紅莉栖「…」

紅莉栖「覚えていますか、先輩?」

紅莉栖「昨日、私と先輩が研究室で話していた時、急に電話がかかってきましたよね」

真帆(それって、紅莉栖にしては珍しく声を荒げていた、あの時の)

真帆「ええ、覚えているわ」

紅莉栖「その時の電話の相手。それって実は、そこに居る彼、岡部倫太郎だったんです」

真帆「そ、そう……」
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:09:52.23 ID:asUJZsQi0
紅莉栖「私はその電話で、そこにいる彼に呼び出されました」

紅莉栖「日本にいると思っていたのに、急にアメリカにいるとか言われて」

紅莉栖「それで慌てて飛んでいった私に、彼はこんな話を持ちかけてきたんです」

紅莉栖「うちの大学に忍び込むから手を貸して欲しいって」

真帆「…………」

紅莉栖「私は当然拒否したんですけど……」

紅莉栖「でも彼はその夜、大学潜入を強行してしまいました。そんな彼の行為に私もついカッとなって、不法侵入した彼を追い立てたりもしました」

紅莉栖「でも、後から阿万音さんとも合流して、それに至った事の経緯と事情を聞かされて……」

紅莉栖「そこで初めて事の重大さに気がついたんです」

真帆「……紅莉栖」

紅莉栖「私だって、そこの二人と同じなんです。私だってシュタインズゲート世界線を手放したくない。何があろうと、この世界線は決して手放していいものではない」

紅莉栖「だったら、このまま放置しておくわけにはいかない」

紅莉栖「そう判断し、教授や先輩や研究室の皆に悪いとは思いながらも、他に有効な手段も思いつかず……それで」

真帆「それで……パスワードを追加したと?」

紅莉栖「はい。それが、アマデウスに携わった人たちを裏切るような行為だということは、自分でも分かっています」

紅莉栖「それでも、何か手を打たなければ危険だと判断しました。だから」

真帆(パスワードを追加する。たったそれだけの行為に、いったいどんな意味があったというのよ?)

真帆(それに、今の紅莉栖の表情はなに? あの天才、牧瀬紅莉栖がそこまで思いつめなければならないような、そんな非常事態だということなの?)
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/07/10(火) 01:11:00.76 ID:asUJZsQi0
真帆「……ねえ紅莉栖。今ならまだ、『軽い冗談のつもりでした』で済ませてあげてもいいのだけれど?」

紅莉栖「先輩!」キッ

全員「…………」

真帆(タイムトラベル、リーディングシュタイナー、サリエリ、シュタインズ・ゲート世界線、そして私の死)

真帆(これから先の未来で起きるらしい色々。あなたはそれを心から愁いている)

真帆(それで良いのね、紅莉栖?)

真帆「ねえ、鈴羽さん」

鈴羽「何だい?」

真帆「教えて頂戴。これからの未来で、いったい何が起こるのか……いえ、そうじゃないわね。きっと私が知るべきなのは……」

真帆「私の持つ権限を使って私のアマデウスを完全にデリートする。そうすることで、いったい何ができるというの?」

鈴羽「やっと目の色が変わったね。これは牧瀬紅莉栖のお陰かな?」

真帆「質問に答えなさい」

鈴羽「そんな怖い顔で見ないでほしいな。いいよ。ここまできたら仕方が無い」

鈴羽「今、この世界で何が起きているのか。そしてこの先の歴史で何が起ころうとしているのか」

鈴羽「これからそれを、君に話して聞かせることにするよ」














137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/10(火) 08:29:54.55 ID:INGsHIY5o
ここで消すだけでは再構築されておしまいな気もしないではないがそっちはどうするんだろう
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