【艦これ】龍驤「たりないもの」外伝

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337 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:46:27.96 ID:H5a88qZDO
 
 
そんな話になったきっかけの叢雲さんと弥生さんの一件は複雑だった


かつて沈んだ卯月さんの替わりに卯月さんを演じていた弥生さん。そのストレスの捌け口として暴行を受け子供を産めない身体にされた叢雲さん


普通なら加害者として捕まるかされていたはずだが何故か叢雲さんはそれを愛情として受け入れてしまった


しかし実はそれをしたのが愛する卯月さんではなく弥生さんだったと叢雲さんは知る


その上卯月さんは弥生さんの中で生きていて同じ身体を共有している


ならもう三人で幸せになろうと提案する卯月さんだったが叢雲さんと弥生さんの関係は今や暴力ありきになってしまっていた


叢雲さんは今は弥生さんも好きらしいがやはり騙されていたという気持ちはあったようだ、だけど好き、でも許せない、とかなりの葛藤があったのか不安定になってしまっていた


そこに来て叢雲さんは弥生さんがもう暴力は振るわないとの言葉に怒り狂って逆に殴りかかっていく


自らの身体の傷も全て愛情の証だと思っていた叢雲さんにとってはそれが単なるストレス解消だとは認められなかったのだろう
338 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:49:51.40 ID:H5a88qZDO
 
 
「そもそもの間違いは叢雲さんがそれを受け入れてしまった事ですね。そこで矯正出来ていればこうはならなかった」


私の叢雲さんへのイメージでは一番最初の暴力の時点でやり返したりしていそうだと思っていたけど、そういう所で包み込む優しさなんかが発揮されてしまったのだろうか


『そういえば遊び程度の叩いたりは卯月の時からあったみたいだからその流れで受け入れてしまったんだろうねぇ』


「そこから間違いです。限度を超えたらちゃんと叱らないと。だからここまで拗れたんですよ」


『なかなか辛辣だねぇ朝ちゃん』

「好きな相手を傷付ける…そんな関係は間違っているに決まっています。エスカレートするのを止めもしないなら最後に待つのは破滅ですよ」


『相手がSかMだったら?』


「専門外です。痛いのも痛め付けるのも御免です」


…私はそんなの知らないはずだけど、この世のものとは思えない激痛を味わった事があるような気がしてそれを愛情表現などとはとても思えなかった
339 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:52:07.52 ID:H5a88qZDO
 
 
そして弥生さんをボコボコにしようとする叢雲さんは止めに入った神通さんに取り押さえられそのまま病院送りになった


片や弥生さんも自分を責めるあまりとんでもない事をしようとする


「ちょっと…また…自殺…?」


後ろでガタンと何か音が聞こえた気がしたが敢えてそちらは見ないようにする


「はっきり言って安易過ぎますね。まだ二人共生きていてやり直しが出来るのにすぐに諦めて逃げようとしている」


確かに叢雲さんの身体については取り返しは効かないだろう。だからと言って自殺するにはまだまだ軽いと私には見える。まあ自殺しても許される理由など無い方がいいに決まっているけど


そして弥生さんはおそらく漣さんの真似をして精神の自殺を図るが失敗していた


『まぁそれも当然だよねぇ。毎日死にたい死にたい思ってても死ねないのと一緒で本来勝手に生きようとするのが生き物というやつだからね』


「私から言わせれば絶望が足りませんね。失敗するのも当然です」


彼女に比べたら…


そしていつも通り目覚めた弥生さんに重巡さんが怒っていた。心がそう簡単壊せてたまるかと、何故立ち向かわないのかと、そして


≪もうあんな思いはしたくないんだ…≫


怒りながらも哀しげそう言っている重巡棲姫さん


…貴女にも聞こえた筈ですよね


私は背後の部屋に意識を向ける。すると微かに啜り泣く声が聞こえた。何かは伝わったのだろうか…
340 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:55:01.10 ID:H5a88qZDO
 
 
叢雲さんの病室で卯月さんのビデオレターを観ている叢雲さん弥生さん、そして司令官と龍驤さん


それはもう必死なものだった。一人ぼっちにされるのは嫌だと泣きそうになりながら、最後には我慢出来ずに涙ながらに訴えていた


それを見た弥生さんは泣き始め、叢雲さんも反省したかのように項垂れる。結局この二人には卯月さんが必要なのだと解った


『実際大した子だよね卯月って』


「そうですね…彼女は何が起きても最後まで絶望はしないような気がします」


それから叢雲さんと弥生さんは返信のビデオレターを撮り始めている。そしてお返しにと卯月さんの大好きなイタズラを仕込んでいる


これも愛情表現なのだろう


痛みを与えなくとも、痛みを受け入れなくとも愛情を伝える事は出来る。二人は気付いているだろうか


暴力によって繋がっていた時よりも楽しそうな笑顔を自分達が浮かべている事に


きっと卯月さんが居る限り二人は大丈夫なのかもしれない。私は楽観的だとは思いつつもそう信じるのだった
341 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:57:27.44 ID:H5a88qZDO
ここまで
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/21(日) 16:26:49.16 ID:bz1VCgNro
おつ毎回楽しみ
>大本営の上層部もロリコン
一見ディストピアだがある意味一番平和に見える悪夢
343 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:34:04.30 ID:ewPdNPWDO
>>340から
 
 
こんちには、朝潮霊です。今日も司令官達の様子を見ていきます


最近の司令官と龍驤さんは少しずつ以前の状態に戻りつつあるようだ。ようやく乗り越えたのだと思えるようになってきている


これこそ許し合える関係というのだろうか


「龍驤さんの過去にこれ以上のものはさすがに無いだろうけど、そういえば司令官の過去ってどんなのだろう」


『昔は悪党だったとかだったらどうする?』


「それは無いんじゃないでしょうか。昔って提督になる前になるだろうし」


『学生時代は金髪ヤンキーと組んで髪の毛を思いっきり立てて喧嘩三昧だったとか』


「それこの前読んでた漫画の話ですよね、明日から本気出すとかなんとか」


『まあ多少悪かったとしても血の気の多い艦娘に比べたらかわいいね!』


確かに私達艦娘から見たら不良程度は文字通り子供の喧嘩にしか見えないだろう


むしろ極道とかマフィアの方が近い。切った張ったに違法薬物、警察沙汰は日常茶飯事。場所によっては人身売買と考えれば考える程やばい世界だ


深海棲艦との縄張り争いにケジメをつけられる日はいつになるだろうか

344 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:36:23.54 ID:ewPdNPWDO
 
 
今この鎮守府に居る中でも血の気の多い筆頭の一人である夕立さんが再会した最上さんに食ってかかっている


時雨さんが身体を失う羽目になったのはあくまで最上さんのせいだと聞く耳を持たない


「何だか解っていて意固地になっている印象を受けますね」


『前に自分で言っていたね。まともになったら耐えられないって、常に誰かを責めていないと駄目な状態なんだろうね』


「それでも他の姉妹と居る時は少し柔らかな顔になっているみたいですけどね」


『夕立っていうのは元々そんなに思い詰める性格じゃない艦種だし。人格に合わない事がいつまで持つかな…』


「夕立さんがあの性格になったのは一度壊れたからかもしれません…。再統合した結果ああなったというか」


どんな負荷でも歪まずに元のままという強靭な精神が持てるのなら…しかしそれはもう人ではないのかもしれない


その後最上さんは悪くないのだと朝霜さんに言い負かされてしまう夕立さん


この辺りはやはり夕立という艦娘の本質なのだろう。難しい事はあまり考えず、感情と直感で動いている


そして子供の仕返しのように朝霜さんにとっての禁句を連呼する。すると朝霜さんは途端に怯え始め普段の強気な彼女とはかけ離れた状態になって龍驤さんに介抱されていた


やっぱり子供だ


そして噂をすれば影とも言うようにその禁句の張本人、早霜が唐突に現れる

345 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:37:45.09 ID:ewPdNPWDO
 
 
「ちょっとしたホラーですね彼女は…」


ずっと見ていた私ですら早霜が笑い声を上げるまでそこに居るのに気付かなかった


これまでも前触れ無く突然現れたりする事があったがそれも能力なのだろうか


そして早霜は夕立さんを始めとした特務艦や元特務艦に囲まれているにも関わらず余裕の笑みを浮かべている


何かが光ったように見えた、糸のような…


そして夕立さんの身体から血が噴き出す


「え…一体何が…?」


『どうやら鋼線みたいなもので切り刻んだようだね。とてつもなく細く鋭い』


それでも夕立さんはかなりの重傷にも構わす早霜に襲い掛かろうとする。それを必死に止める時雨さんと春雨さん。そして三人を庇うように白露さんが前に立ちはだかっている


その時、一喝するような声と共に何処からともなく飛来した魚雷により早霜の上半身が吹き飛び、程なく残った下半身も消えていく


「あれがりすぽんですか…」


『リスポーンね。何だか朝ちゃんのは栗鼠のキャラクターか何かみたい』


「…いいじゃないですか別に」


若干赤面しつつそんな事を言っていると突然夕立さんが最上さんに噛み付き血を吸い始める

346 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:42:03.50 ID:ewPdNPWDO
 
 
「ちょ…彼女は一体何を…」


『へぇ…そんな能力?持ってたんだねぇ…』


Y子さんが指し示すと夕立さんの出血が止まり始めていた。あまりの光景にそれには気付かず龍驤さんや白露さん達は二人を地下隔離室に担ぎ込んでいく


隔離室の一角には新たに設置された医療器具やベッドがあるが以前より手狭になってしまっている


重傷だった夕立さんは血を吸った事によるのか手術の必要が無い程に回復していた。そして最上さんは血の吸われ過ぎで貧血気味にはなっていたが大事には至らなかったようだ


「夕立さんは吸血鬼だった…?そういえば目も赤いし…」


『相手を喰らったり血を吸ったりして自らの一部に変換し回復かな』


「そういえば以前にも夕立さんと早霜がやり合った時も夕立さんは重傷だったのに生きてました」


『早霜の身体を食べて回復したおかげで…いや、もしかするとその時からかな?』


「仮に食べれば特殊能力を得られるのだとすれば早霜ってなんなんでしょう…」


『確かあの早霜はドロップ艦だったね。見た目こそ艦娘早霜だけどもしかしたら』


「深海棲艦?」


『さぁねぇ、だけど深海棲艦は海から生まれる。ならドロップ艦娘は元々は何なのか…。そしてあの海にはイレギュラーな存在まである。何があっても不思議じゃないよ』


そしてベッドで悔し泣きをする夕立さん。負けず嫌いなのも彼女の本質なのだろう、いつかは嬉し泣きの顔を見られたらいいのにと私は思う

347 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:43:51.64 ID:ewPdNPWDO
 
 
例の白露型淫乱集団が改めて鎮守府に着任するという話が出ていた


「現役特務艦に元特務艦…戦力的には申し分無いんですけど…どうなるんでしょうね…」


この鎮守府は割と性にオープンという側面もあったのだが上には上が居るという事か


そして特にやばいのが淫乱ピンクこと元特務艦の春雨さん。本当に誰彼構わず涎を垂らしている


「本当に…会わなくて良かったとこれほど…」


『朝ちゃんの場合手錠付けてたし間違い無くロックオンされるね…』


「やめてくださいやめてください」


耳を塞ぐポーズでいやいやをする私。仮に春雨さんに襲われたら手錠が有ろうと無かろうと抵抗は出来ないだろう


そして仕返ししようにもあっさり返り討ちに遭いまた…という事になりかねない


いつだったかもう一人のピンクさんも文句を言ったり蒸し返したりしなかったのはそれを恐れての事だったのかもしれない


そして何故か同じ顔をしている駆逐棲姫さんとにらめっこをしている春雨さん。はっきりした理由は不明だが春雨さんは彼女には欲情しないらしい


元々は同一の魂の可能性があるようだがそれも定かでは無いようだ


そして春雨さんの話からどうやら彼女の脳内ピンクは一度沈みかけた事がきっかけになっていたのではと駆逐棲姫さんは司令官に話していた

348 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:45:44.08 ID:ewPdNPWDO
 
 
「生命の危機に瀕した生き物は種の保存に走るという話ですね」


『それがずっと続いていたとはねぇ…。脳内麻薬垂れ流しで廃人になっていてもおかしく無かったとは思うけど』


「そこはさすが元特務艦という所なのでしょうか」


簡単には壊れたりはしないというか、上手く馴染んでいた状態だったのかは判らないが


「それに春雨さんはこれまでも結構艦娘を襲っていたようですけど、変わらず自由にしているのは…」


『多分白露や村雨がどうにかしていたんじゃないかな。示談にしたのか特務艦権限で泣き寝入りさせたのかは知らないけどね』


「後者なら最悪ですね…。あ、また警察沙汰ですかねこれ」


そして春雨さんは薬での治療に入り、正気を取り戻していった


あれが素の春雨さん…どことなく儚げで駆逐棲姫さんと完全に被る。これまでは常に発情したような顔をしていて今とはまるで違っていた


『正気になったらなったでまた大変そうだねぇ…』


「そうですね…」


これまでの被害者というのがどれだけ居てどう思っているのか、今現在訴えられても逮捕されてもいないからといってこれからもそうだとは限らないのだ
349 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:46:53.45 ID:ewPdNPWDO
 
 
今日は私の月命日らしい


日進さんが定期的に鎮守府に来るようになってしばらく経つ


私自身は自分の死んだ日などはあまり意識はしないがやはりそれは今生きている者にこそ必要な事なのだろう


「そういえば彼岸に居ないと降ろせないらしいですけど私の時は確か…」


『朝ちゃんがこの狭間に来る前だからねー。あの頃の朝ちゃんの業の重さは相当で、あのままだと地獄に落ちてたから無理矢理引っ張ってきちゃった。重かったよー』


「今は…そうか…もうひとりの私が…」


『うん…だいぶ軽くはなったよ。全部じゃないけど本当に肩代わりして持って行った』


「どうしているんでしょうか…もうひとりの私は…」


『…聞く必要は無いよ。朝ちゃんがしなければいけないのは忘れない事と感謝する事だけ』


Y子さんはきっぱりと言い切った。おそらくは良くない状況なのだろう。だとしても私に出来る事は他には無いと彼女は断じたのだ


『そうそう、悔やんで自分を責めて謝り続けるよりありがとうって言う方が言われた方も気持ちがいいでしょ。それを未だにあの男はねぇ…』


呆れたようにY子さんはモニターに映る司令官の姿を見ている

350 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:48:15.47 ID:ewPdNPWDO
 
 
司令官は未だに私の事で自分を責め続けていた


挙げ句の果てに居もしない私の亡霊が夢に出て責めるのだという


「…何だか腹が立ってきました」

『あはは…』


「さっきの言葉がよく解りました。確かに延々謝られ続けると逆にムカつきますね」


私がいつ私に詫び続けろ司令官!とでも言ったのか、冗談じゃない


「司令官…私が死んだのは司令官のせいだと私がいつ言いましたか…私が死んだのは私が弱かったから…!」


「自ら幸せを掴もうとはせずに誰かに幸せにしてもらおうとして、それなのに差し伸べられた手を取る事すらしなかったのは私!」


「自分自身の未来を信じきれなかった私の弱さのせいだった!」


「こんな事になるなら…私は…司令官には出会わず…独りのままで…」


≪バチィン!≫


何かを強く叩く音がモニターからこの部屋にも響き渡る


いつの間にか顔を伏せていた私がそちらを見れば日進さんが司令官に思い切り平手打ちをしていた


それはもう凄い剣幕だった。そして悲しそうだった。まるで私の言葉を代弁するかのように彼女はまくし立てている


そして呆然とする司令官を残し部屋を出ていってしまった。そんな司令官を気遣う龍驤さんと朝霜さん


これも私の罪…その形だ。だけど前を向く為にはそれを悔やんでばかりでは駄目なのだ。いつか司令官にもそれに気付いてほしいと思う

351 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:50:07.95 ID:ewPdNPWDO
 
 
『大丈夫?朝ちゃん』


「ええ、私もまだまだですね…すぐに揺らぎそうになってしまう…」


何とかは死んでもと言うけれど、少なくとも悔やむのは止めたつもりでいた筈なのに


「もう後悔しても仕方が無いですからね…。当事者である内には間違いにも気付けない。ようやく解るのは全てが終わった後」


だからこそ後悔しないように生きなければならない、なんて言うのは簡単だけれど


部屋を出た日進さんが漣さんの姿の重巡棲姫さんと話している


「漣さんと直接は話させてあげられないんですかね…」


『向こうからしたら何処に居るかなんて知りようが無いしねぇ…。また降ろすのに挑戦でもしたなら手を加えてみたりは出来なくも無いけど』


Y子さんが言うには口寄せというのはあくまで彼岸の向こうに念を飛ばし、該当の人物が近くに居て尚且つそれに応じればやっと話せるくらいのものらしい


『その念のポインタをここに引っ張って来て繋げる事は可能ではあるけどね。何処から繋いでるかはあっちからは確かめようが無いし』


どちらにせよ術者の負担は大きい。ちょっと話したいなどと乱用すればあっという間に力尽きてしまうのだと言う

352 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:51:52.97 ID:ewPdNPWDO
 
 
日進さんのアドバイスを受け重巡棲姫さんは富士さんを通して伝言を伝えるらしい


『また見てみる?』


「いえ…ただでさえこんな覗き見をしているのにしかも精神世界までというのはちょっと…」


『今更だと思うけど?まあどんな内容かはお姉ちゃんに聞けばわかるか』


「ほどほどにしましょうよ…」


精神世界に潜っている重巡棲姫さんは傍目からは今どんな状態なのかは判らない。だけど…


「泣いていますね…」


『前向きなように見えてもやっぱり苦しいものは苦しいんだろうね』


どんな会話が為されているのかまるでうなされているような、そんな顔をしていた


それからしばらくして富士さんがやってくると


【漣の様子はどう?】


と聞いてきた


『今は眠ってるよ。正直まだ起きるには早かったんじゃないかなと思ってる』


【そう…丁度良いわ、直接伝えてくる、その情景も含めあの子の心に】


そう言って富士さんは漣さんが眠る部屋へと入って行った


私は二人の邪魔をしないよう静かにして考える


漣さんには帰りを待つ人が居る。そして彼女を何より大切に思っている。おそらく想いの強さはあの小さな深海棲艦にも負けてはいないように思える

353 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:54:01.67 ID:ewPdNPWDO
 
 
あまりにも近すぎて、それこそ同じ身体を共有しているくらいに近すぎて、その想いはこれまで上手く伝わってはいなかったのかもしれない


いつか重巡棲姫さんの想いが正しく伝わった時、彼女は…漣さんはどうするのだろうか


あくまで拒絶するなら最悪の結果になるだろうか


もしも…それすら乗り越えられたならきっと彼女は私には想像も付かない本当の強さというものを得られるのかもしれない


どれだけ傷付こうと、何を失おうとも、前に進む事を止めない、本当の強さを


それはきっとあの鎮守府にとって大きな力となるだろう。失い尽した存在がそれでも進もうと言うのならきっともう誰も崩れたりはしないのだと
354 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:56:23.66 ID:ewPdNPWDO
ここまで
こじつけ
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/25(木) 12:08:59.54 ID:2VTBjWEjo
乙乙
開幕朝潮霊挨拶は卑怯、笑うわ
けどストレイボウ朝潮はNG
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/25(木) 12:30:21.56 ID:snM0wZHTO
ぽいぬの能力は早霜の前からあったと思う。元ネタ通りだと一回目食らったのは内臓系にダメージ入る技だし
覚醒すると生命力激増して死亡率低減、吸血とか捕食で回復がセットのビーストモードだと思われる
357 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:17:05.04 ID:X5txiLSDO
>>353から
 
 
「姉妹っていいですよねー」


『あーうん、そーだねー』


伊19さんや伊26さんのやり取りを見ながらY子さんにそう振ってみた


彼女はお姉さんの事をどう思っているのだろうか。姉である富士さんはY子さんにおっかなびっくり接している印象を受けた


それでも心配してか富士さんは時々顔を出してはY子さんに冷たくあしらわれて寂しそうに帰って行く


反抗期というやつだろうか


『今反抗期とか思ったでしょ』


「思っていませんよ」


やばい、読まれている


『別にいいけどさー。言っとくけど嫌いとかじゃないから、下手に甘やかすと調子に乗っちゃうからお姉ちゃんは』


「はあ」


何だか愚痴り始めたY子さん。やれ考え無しだの、余裕綽々な割に予想外の事態になると真っ白になるとか、結構流されやすいとか、いつか騙されて酷い目に遭いそうだとかだんだんその内容がどれだけ心配かにシフトしていく


『あと口下手で言い負かされやすい。朝霜なんかに好き放題言われて何も言い返せないとか不甲斐ない姉だよまったく…』


「好きなんですね、富士さんの事」


『…嫌いじゃない』


私が端的に感想を言うと何だか素直じゃない返答が帰って来た


私から見たら二人は結構似ている。顔立ちだけでは無く性格も。立ち居振舞いは逆だけれど


358 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:18:39.53 ID:X5txiLSDO
 
 
『…お姉ちゃんもあの伊19みたいに心配性な部分あるから。むしろ心配なのはこっちだっての』


「うふふ」


『なにさー。朝ちゃん、最近ちょっと生意気!』


「ちょっと羨ましいなって思っただけです。艦種的には私にも妹は沢山居ますが…それを実感する暇はありませんでしたから」


これでも私も朝潮型の長女だ。だけど妹達に出会う前にああなった。感覚的には一人っ子みたいなものだ


『…ずるいなあ、もう。そんな風に言われたら怒れないじゃん』


「ごめんなさい、でも正直な気持ちです」


Y子さんは拗ねたようにそっぽを向いて呟く


『…ほんとは、理想郷なんて…』


その先の言葉は私の耳には届かない。だけど何を言おうとしたのか何となく解ってしまう


本当は理想郷なんてどうでもいいから富士さんには一緒に居てほしい


そんな風に言いたかったのかもしれない


私がここに来るまで彼女はここでずっと一人で、富士さんは艦娘を救おうと世界中を駆け回っていて、彼女はそんなお姉さんをどんな気持ちで見ていたのだろう


もちろん富士さんが救おうとしている中に妹である彼女が一番に含まれているのは確実なのだろうが…


救うとは何なのだろう。その為に今寂しい思いをさせている。気付いた時には距離が開いてしまっていて昔のように話せない。想いは届かない


私に出来る事は何か無いだろうか…ここに来てまた新たな悩みが生まれてしまったようだった

359 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:20:07.22 ID:X5txiLSDO
 
 
村雨さんが朝霜さんと朧さんに責められていた


私だってエリートを鼻にかけたようなのは好きではないし皮肉のひとつも出るかもしれない。けれど少なくとも歩み寄ろうとしている人間にあの言い方は無いと思う


『あの鎮守府に居るための資格とか必要なのは初めて知ったけどねー』


「目に入らなかった。そういう意識を持っていないのが問題なんじゃないですかね。一般人の意識というか」


例えば介護経験がある人と、それまでそういう経験の無い人とはまったく視点が違うのだ


だけどそれは別に悪い事では無い。ただ村雨さんにはまだその視点が無いだけなのだ


「普通の鎮守府ならそれでもよかったんでしょうけど。敢えてそこに居たいというのなら今までのやり方では駄目なんです」


実際村雨さんは悪い人では無いと思う。春雨さんを押し付けようとしたのも悩んだ末の苦渋の選択なのだろう


そうで無かったらさっさと出て行ってあとは知らんぷりでも不思議では無い


『それと朝霜は何でか上から目線でお前要らないとか言ってるのかな』


「逆なんじゃないですかね…牙を剥いて威嚇して、それでも怖れずに手を差し伸べられる人間か測っている…そんな感じに見えます」

司令官や龍驤さんはどちらかと言えば来るもの拒まずだ。だけどそうやって誰彼構わず受け入れて、その相手に何か裏があったら…


ましてや鎮守府の誰かを傷付ける事態になるかもしれないと考えているのだろうか

360 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:21:27.93 ID:X5txiLSDO
 
 
『気持ちは解らないでも無いけどねぇ…。あれはあれで敵を作る結果になりかねないような』


「そうですね…あそこでもし村雨さんの怒りを買って権限でどうとかという話になったら…」


『村雨を殺す?』


「それは危険過ぎますね。白露型全員の怒りを買ってそれこそ鎮守府が血の海になります」


守るというのなら時には頭を下げる事も覚えるべきだとは私も思う。牙を剥いてばかりではいずれ危険と判断され駆除対象になってしまうかもしれない


朝霜さんがプライドを捨て頭を下げる姿は私には想像が出来なかったけれど


それから村雨さんは鎮守府を出て行くと言い出し白露さんに止められていた。何でも知らせてくれたのはあの朝霜さんらしい


『フォローを入れるくらいならあんな言い方しなければいいのに』

「不器用なんですよきっと」


不器用なりに鎮守府を守ろうと自ら嫌われ役を演じているのだろうか。素の部分もありそうではあるが


気配りを諭しておきながら自分はそれが出来ないなどという事は無かったのだ。私も彼女の事を少し誤解していたのかもしれない

361 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:23:12.48 ID:X5txiLSDO
 
 
「命の価値とは何なんでしょうね…」


飛鷹さんはかつて大切な友達を亡くしている。そして最近それは他者の、手術を受け持った病院に責任があるらしい


当時手術を受けていたのは二人、飛鷹さんの友人ともう一人、その際深海棲艦の攻撃により電力がストップ、非常電源で手術を続けられるのは一人だけだったらしい


病院側はそれを隠していた。それは何故か


「大物の政治家が娘を助ける為にお金を積んで優先させた…」


『口止め料も入ってるんだろうねぇ』


他人の命をお金で左右させたなどと知られたらとんでもないスキャンダルだ。そしてそれを承諾した病院側にとっても明るみには出せない


飛鷹さんと清霜さんがその友人の家を訪ねるとその政治家がご両親に土下座して謝罪していた。それを聞いて激昂する飛鷹さんを必死に押し止める清霜さん


「この場合誰が悪いんでしょうね…。誰だって赤の他人より身近な誰かを優先するのは当たり前です…けど…」


『まあ病院側だろうね、悪いのは。お金に目が眩んだのか知らないけど。比較的持ちそうな方を後回しにするくらいがまあ正しい判断だったんじゃないかな』


「後回しにされた方が間に合わなかったら…?」


『その時はそれまでだね。結果助からなかった方の親がどちらにせよ助かった方を恨んでいたよ』


そうなるのだろう。今回はお金で傾いたに過ぎず、他の要因なら許せていたという話でも無いのかもしれない

362 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:24:50.14 ID:X5txiLSDO
 
 
政治家さんはその一連を公表し改めて謝罪すると約束して帰って行った


飛鷹さんは一時危うい状態になっていたがさすが清霜さんというか見事に引き戻して見せていた


それから少ししてその事がニュースになりあの人は約束を守っていたと解る


「結局はあの政治家の娘さんも亡くなってしまって誰も救われなかった…。どちらかが生きていればその子の分までなんて言えていたんでしょうけど…」


『そんなものだよ…悲劇の後にまた悲劇なんてよくある話だよ』


「やりきれないですね…」


もしも飛鷹さんの友人の両親が更にお金を積んでいたら、相手が政治家ではなかったら、そんな無意味なもしもは単に立場が逆になるだけ


何故自分の子供が。何故そっちだけが助かったのだと、何故。と

363 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:26:30.24 ID:X5txiLSDO
 
 
「それにしても…」


私はモニターを見る。鎮守府の食堂でご飯を食べている龍驤さんの姿があった。しかし手足がしっかりと生えていた


「また食べに来ていたんですね。しかもタッパーまで持参して」


リュウジョウさん。例の謎の集団、アケボノさん達の仲間


私は詳しい事はほとんど知らない。だけど味方ではあるようで司令官も信頼していた


龍驤さんとリュウジョウさん。こうして見ると手足以外にも雰囲気や表情、微妙な話し方、何もかも別人だというのが私でも判る


何だか自爆して口を滑らせているのもまた龍驤さんではあり得ない事だ


彼女達は何やら不思議な能力を備えていてリュウジョウさんは変身能力があるらしい。なんと那智さんに変身して愛宕さんと会話をしていた


愛宕さんは若干の違和感を感じてはいたようだが偽物だとはさすがに思わなかったようで、そこは演技力もあるのだろう。相手が同じ龍驤さんでなければその違いは判らない


そして今度は龍驤さんに変身してなんと司令官を相手に試そうとしていた。しかも手足までそっくりになっている


『元々ある部分まで消して変われるんだねー。普通なら気付かないよこれは』


「ですね…私も多分判らないかも」


しかし司令官は一目で見抜いてしまう。さすがは司令官。誰よりも身近な相手を間違える筈は無かったのだ。匂いとまで言ったのはちょっと変態っぽいけれど


誰かの恋人とか家族とか身近過ぎる相手では騙し通すのはやはり難しいらしい

364 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:28:32.95 ID:X5txiLSDO
 
 
「そういえばリュウジョウさん、組織に潜入する為に変身して練習してたと言っていましたね」


そのリュウジョウさんは間宮さんのお弁当を沢山持ってホクホク顔で帰って行った。あれはきっと必ずまた来るだろう


『あんなでは多分すぐバレそうだけどね』


「変装して何処かに潜入するスパイにしてもバレた時の為の保険は用意するものですから大丈夫なのでは」


『だといいけどねー』


大本営にしろ組織にしろスパイやら諜報員やらを沢山使っているのだろう。私達艦娘が深海棲艦と戦っている間に人間も決して表には出ない戦いをしているのだと思う


そして同時に艦娘が深海棲艦だけでは無く人間同士の争いにまで駆り出されるようになって久しい


「ただ平和な海を守りたい、そんなシンプルな時期は本当に僅かでしたね」


力のある者は放っては置かれない。深海棲艦との戦争が終わっても艦娘の戦いは終わらないのだろう


これからも海の上ではなく陸上で死んでいく艦娘は増える一方なのかもしれない
365 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:29:30.07 ID:X5txiLSDO
ここまで
会話が少ない
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/30(火) 12:03:38.61 ID:r3jloD6Mo
まいどおつおつ
朝霜に関しては早霜の出自やかけられまくってるらしい暗示と見えてる地雷が怖いんだ…
八島さんの名表示本編登場が成ったがこちらでどう言うのか楽しみです
367 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:20:56.97 ID:TcHKAzrDO
>>364から
 
 
「今のところ変わり無し…か」


私は朝潮。うん、いいわ。特に問題は無いみたい


眠り続ける漣さんのお世話を…と言っても今は魂だけの状態なので例えば身体を拭いたり排泄物の処理などの必要は無いので手間という手間はまったく無い


この間富士さんが重巡棲姫さんの伝言を伝えに来てから少しだけ表情が楽になったように見える


今度目覚めた時には以前より良くなっていればいいのだけど


彼女の布団を軽く掛け直し部屋から戻る


『様子はどう?』


「変わりありませんね…もう少し何かしら良い刺激があれば…」


『難しいねぇ…何が良く働いて何が地雷になるのか』


「そうですね…下手をしたらずっとこのままという可能性も…」


また司令官達から何かしらの訴えかけがあればとは思うけど窓口になる富士さんの気分次第でもある


まあなんだかんだ優しい富士さんなので受けてくれる気はするが

368 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:22:36.04 ID:TcHKAzrDO
 
 
「大本営の新兵器ですか…」


いつになく司令官と幹部さんが真剣な顔で話している。深海提督に対して核エネルギーを動力とした新しい兵器を使うらしい。しかもゆくゆくはその射程は地球全てをカバーするのだと


私も大本営が何か兵器を作っているという話は聞いた事はあるけど正直あまり信じてはいなかった。今の人類にそこまでのものは作れやしないと思っていた


しかし実際にそれは完成していて、いよいよ使われる時が来ていたらしい


「弾頭に使われないだけまだマシと考えるしか無いでしょうか…」


また核かと私は思う。被曝してあれだけの犠牲者が出たにも関わらずまだその力を使おうとしている。一度持ってしまった力は手放せないのが人間なのだろうか


「いつか司令官も言っていましたね、その力がこちらに向く可能性があるかもしれないと。味方なのに…」


『和平派の鎮守府を邪魔者として粛清するくらいの事はしそうだけどね』


「そんな事をしたら世界中から避難を…まさか…」


『恐怖による支配』


世界中の何処にでも攻撃出来るとなれば下手に刺激して自分達の国が撃たれたら…とY子さんは言う。そしてその力で持って軍事クーデター、そんな最悪な歴史のifが現実のものになってしまうかもしれない


「でも国内の世論はそんなの認めませんよね」


『まあ…下手をしたら自国内にその兵器を、しかも一般市民に向けて…なんて可能性もゼロでは無いのかもね』


「まさか…」


信じられない…とは言い切れない。例え味方だろうと不都合なら消してきた大本営なら或いは…と考えてしまう

369 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:24:15.80 ID:TcHKAzrDO
 
 
「どんな兵器か気になりますね…」


『じゃあちょっと見てみようか』


モニターの映像を鎮守府から切り替える。普段私はあの鎮守府の様子しか見ないし他は興味もあまり無い。だけど事が事だけに司令官達も無関係ではいられない


という訳で大本営の件の兵器がある施設を…


「…え?」


血の海だった


施設の廊下だろうか、床も壁も一面真っ赤に染まっている。その血溜まりには人間の身体の一部らしきものが沈んでいる


鋭利な刃物で切られたかのような綺麗な断面が見えた


「あれは…人間…?」


『艦娘もいるね…皆殺しかな…』


何者かの襲撃があったのは一目瞭然だ。そして廊下の奥には一人の女性が佇んでいた


「あれは…大和…ですね」


大和。艦娘の中でも最強の一角でありこの国にとって最も信頼されている存在の一人


その大和が一振りの刀を持ち血の海に立っている。考えるまでも無くこの惨状をもたらした張本人だ


「裏切り…?乱心して暴走した?」


『そういう訳では無いみたいだね。ほらあれ』


Y子さんが指し示した方から複数の人影が現れ、それに大和が指示を出している。あれは…確か


「…傀儡」

370 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:26:32.04 ID:TcHKAzrDO
 
 
傀儡…例の組織が擁する兵隊とも言うべき人形。人形と言ってもその戦闘能力は私などでは手も足も出ないくらいに強い。聞いた話ではあの朝霜さんですら相討ちに近いくらいの結果になった事もあるという


以前龍驤さん達が遭遇した頃はそこまでの強さではなかったらしいが、今ではもう出会ったら逃げる事を考えなければならない程に改良されているらしい


しかもそれが何体も、大和の指示に大人しく従っている。つまりあの大和は組織の…


その傀儡達が何やら見慣れない巨大な艤装を抱えて持ってきた。話の内容からあれが例の新兵器らしい


『なるほどね、組織は大本営の新兵器を奪いに来たか、もしくは使用不能にするのが目的みたいだね』


「組織も同じ情報を掴みいち早く動いた訳ですか…にしてもここまでするなんて…」


そして大和が何処かに通信をしていると突然窓ガラスが割れ、人影が凄まじい速さで飛び込んできた


窓ガラスと言っても軍施設のもの、間違いなく強化ガラスのはず。それをいとも簡単に砕いたのだ


そして飛び込んできた人影は一瞬で傀儡達を倒してしまう。しかも武器らしきものは持っていない、素手であの傀儡を…尋常では無い


駆け付けた大和と人影は対峙する。動きを止めた事でようやくはっきりとその姿を見る事が出来た


「見た事の無い艦娘ですね…確か大本営が新型艦娘を作ったとか何とか話は聞いた事があるような…」


いつだったか大演習の際にお披露目されたらしい新型艦娘、信濃、話に聞いた特徴と一致している


あの頃私は精神状態が最悪で暴走しかけて気絶させられていたので直接は見ていなかった

371 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:29:07.37 ID:TcHKAzrDO
 
 
その信濃と大和が睨み合っている。私でも解る…二人は強い。いや、強いなんてものじゃない、次元が違う


信濃が徐に手を翳すと何処からともなく一本の槍?が飛んできてその手に収まった。変わった刃の付いた槍だ。しかも飛ぶとはどういう原理なんだろう


『大和の持つ刀も、あの槍もただの武器じゃないよ。使い手を自ら選ぶ伝説級の武器』


「そんなのがあるんですね…もしかして他にも色々あったりして」


『どうだろうねぇ、巡り合わせ次第では選ばれる誰かがまた現れるかもね』


そうこう言っている間に信濃と大和が構えを取り―――


その姿が掻き消えたと思った瞬間、凄まじい轟音と共に映像が乱れる


「わっ!?わわっ!何ですかあれ!?」


『ひゅー、なかなかやるねぇ二人共』


その場に居ないはずの私にもその衝撃が伝わる。二人の姿は速すぎて私には捉えられない。おそらくはもう既に何十合も切り結んでいる


その度に映像は乱れ、はっきりとは見えないが周囲の施設がどんどん崩壊していくのが判った


「何なんですかあれ…何処の死神ですか…」


仮に私があの場に居たら最初の激突で吹き飛ばされて壁にでも赤い華を咲かせていただろう。もはや艦娘の範疇を遥かに超えている。艤装だとか砲だとか彼女達には必要無いのではないだろうか


二人はほぼ互角のように思える。これはいつまでも決着が付かないのではと考え始めたところで横槍が入る、あれは…

372 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:31:49.27 ID:TcHKAzrDO
 
 
「早霜…?あの大和を援護した?つまり…」


『組織の仲間だったか、最近仲間になったか…だねぇ』


新兵器の艤装を回収したと伝え、大和と共に姿を消す早霜


「瞬間移動?…あの早霜も大概化け物ですね…」


『強さ的には大した事無いんだけどねぇ、能力とか糸とか文字通り搦め手でいくタイプみたいだよねぇ』


残された信濃と共に施設が崩壊していく。逃げられたと悟ったのか僅かに顔を歪め、そして遺体に手を合わせていた


やがて彼女は脱出し、施設は完全に瓦礫の山となってしまった


「組織はまんまと大本営の新兵器を強奪。…これで破滅は回避されたという事ですかね」


『…』


「?どうかしましたか?」


『大本営が次の一手を打たなければ確かにこれで安心とも言えるけどね…』


「まさか…あれ以上の兵器をまだ隠し持っていると?」


『…』


何だかY子さんの様子がちょっとおかしい。こんな時富士さんが居てくれたら…
373 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:33:36.25 ID:TcHKAzrDO
 
 
それから少ししてY子さんの言葉は現実のものとなった


大本営は用意していたのだ、次の一手を


Y子さんがいつもとは違う様子で語り出す


『あははっ!組織はやっちゃったねぇ!あの信濃の艤装を強奪したせいであたしにお鉢が回ってきちゃったんだ!』


『とうとう起動してしまった!世界を終わらせる最悪の兵器が!』


映像に映るのは今まで見た事も無いような異様な兵器の姿。その砲口は組織の本拠地があるであろう地域へと向けられているという


そしてあれは言わば生まれたばかりの自分なのだと彼女は言う


「…つまり今ここに居るY子さんは未来から来た?」


『正しくは違う世界の未来から、いや、過去かもしれない。扉が開かれる前の、変わってしまう前の世界の未来から。ねぇ朝ちゃん、ターミネーターって知ってる?』


「ええと…確か暴走したAIが人類を滅ぼす為に過去にロボットを送り込んで人類の希望となる子供を生まれる前に殺そうとする…でしたっけ」


『まあそんな感じだね。人間が自分達の為に創り出した存在に滅ぼされかけている。そんな部分は似ているかな』


彼女はその未来で殺戮兵器として破壊の限りを尽くしたのだという。まさにあの映画のように人類は滅びかけ、艦娘達も敵味方の区別も曖昧に殺し合い、混沌とした世界になってしまっているのだと


『そんな未来を変えようとお姉ちゃんは過去に戻り理想郷の扉を開いた。結果未来は変わったかのように見えた。だけどあたしが生まれお姉ちゃんの妹になっていた。この世界にもあたしが存在する可能性が出来てしまっていた』

374 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:35:26.88 ID:TcHKAzrDO
 
 
このまま行けばかつての世界の未来のようになってしまうだろうと彼女は言う


『今まであたしの名前を呼ばせなかったのはこの世界であたしの存在を確定させたくなかったから…だけど結局は無駄だったね』


よく解らない事を言う。頭を捻る私にY子さんは


『つまり名も無き兵器ならあたしの因果は影響せず、破壊も容易だった。だけどよりにもよってあたしの名前を付けた事で存在はより強固なものとなってしまった』


数百万の命を奪った存在の因果があの兵器へと集まり始めているのだと


『だけどもう遅い。名前は呼ばれてしまった。存在は確定され、これからもその砲口は何処に向くか解らない』


「そんな…」


『まあそういう訳だから朝ちゃんももうあたしの事を仮名で呼ばなくてもいいよ。せっかくだから呼んでみたら?バリバリはしないから』


「はあ…」


いきなり普段の様子に戻った彼女がそんな事を言ってきた。名前…


「…」


『…』


「…」


『ん…?』


「わ…」


『はいダウト!どういう事!?あたしの名前知らなかったの!?』
375 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:38:30.23 ID:TcHKAzrDO
 
 
「だって最初に呼ぶなって言われてからずっとY子さんでしたし…そのうち忘れちゃいました」


『…』


怒ったのか、彼女は黙り込んでしまう。名前を忘れたなんて言ったのはまずかっただろうか。バリバリが来るかと身構える私


『…ぷっ、あはっ…あははははっ!』


「あ…あのう?Y子さん?」


珍しく爆笑する彼女に私は戸惑うばかりだった


『そっかー、あはは…。朝ちゃんの中ではあたしの名前はあれじゃないんだね』


「あの…差し支え無ければ、改めて教えてくれたらそう呼びますけど…」


『ううん、いい。ここではあたしはY子さんでいい。…ここだけでもあたしはあれじゃない』


嬉しそうに、悲しそうに彼女はそう言って笑う


『今の世界にはまだ希望がある。もしかしたらあれを破壊出来る誰かが居るかもしれない』


そうしたらあたしは…


そこまで言ったY子さんの顔を見た私は凍り付く。見覚えのある表情だったからだ


私が生前鏡で見ていた自分の表情と同じ


自殺志願者のような顔をしていた
376 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:39:56.73 ID:TcHKAzrDO
ここまで
解釈が合っているのか解りません
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/04(土) 14:56:43.81 ID:lqh+3YXXo

人格も無いただの殺戮兵器八島とおちゃめバリバリ世話焼きY子さんは別人
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/04(土) 16:46:52.63 ID:ZTasXaCJO
おつおつ
富士が過去に戻ったっていうのはどういうことだろ
379 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 17:01:12.94 ID:TcHKAzrDO
>富士が過去に戻った

以前そういう描写があったような気がしましたが如月と混同していたかもしれません
元々富士は八島を知らなかったとするならここはやらかしですね
380 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:46:20.61 ID:P2dcfLCDO
>>375から
 
 
はい朝潮です。Y子さんのカミングアウトから少し経ったけれど隕石が落ちたというニュース以外は特に変わり無く日々は進んでいる


彼女の物言いだとあの兵器が起動したら即世紀末みたいな想像をしていた私は少し肩透かしを食らった気分だ


『そりゃそうだよ、言ったじゃん、生まれたてだって』


「じゃあそこまで世界の危機という訳ではないんですかね」


『今は、ね。いつか誰かが言った、あれは兵器としては完璧過ぎるって』


今のあの兵器は単に核を撃ち出すだけのものに過ぎないらしい。だけど改良されてどんどん進化していくという


『今は人間の手で目標の座標を打ち込んで着弾までの演算をAIが担うだけの形だけどね』


「AIって…そんなの付いてるんですか?」


『当たり前じゃん。遠く離れた場所に核を撃ち込むなんてのを手動でやってるとでも思った?』


「それはそうですけど…それってY子さん?」


『ああ、違うよ。このあたしじゃなくてあくまであの兵器に搭載された人工知能。感情なんて存在しない、ただどれだけ効率的に敵を殺せるか考えるだけの』


「え…」


『いずれそのAIは改良され、敵を設定するだけで自動的に滅ぼしてくれるようになる』


今は発射コードのみで制御されてはいるがそれを知れば誰でも撃てるというのは完璧な兵器には程遠い、後々には兵器自らが考えその資格がある人間を判別するようになるという

381 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:47:51.46 ID:P2dcfLCDO
 
 
『仮にその人間が殺されたりした場合も自らの判断で報復攻撃が出来る。そして破壊されないよう防衛機能も追加されて手が付けられなくなっていくんだ』


何とかするなら本当に今のうちしか無いんだよと彼女は言う


まるで他人事のように言っているがそれはつまり自分を…


私がそう考えていると点けっぱなしにしたモニターから慌ただしい声が流れた


それは突然行方不明になっていた、そして突然帰って来た呂500さんの話


「無事だったんですね…良かった」


数日前突然姿が見えなくなり必死に捜索していた司令官達。その安否が絶望視され始めた頃呂500さんは前触れ無く鎮守府に帰って来た


しかし自分が行方不明だったという自覚は無く、その間の記憶も無いらしい


念の為検査をしたところ…彼女は


「殺されていた…?そんな…今そうして生きているじゃないですか…」


『あの時雨と同じなんだね、生存の定義を何処に置くかは人それぞれだけど。少なくとも呂500は一度は死んだという事かな』


私とY子さんでは感情移入度が違うとはいえドライな事を言う彼女にちょっとムッとしてしまう


「…ああして生きているんです。だったら死んでいないんです」


我ながら子供っぽい理屈だとは思いつつそう言ってY子さんを睨む私に彼女は


『あー、ごめんね…別にそんなつもりじゃ無いから。帰って来た事は良かったとは思うよ』

382 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:49:10.38 ID:P2dcfLCDO
 
 
「私こそごめんなさい…別に責めたい訳じゃなくて…その…」


お互いにバツの悪い空気になってしまう。すぐ感情的になってしまうのはまだまだ修行が足りないなと反省する


傀儡となってしまったという呂500さんに組み込まれている情報漏洩の装置。下手に除去する事も出来ず、結局はゴーヤさんに押し付けるような形で鎮守府から遠ざけるしか無いようだった


そもそもこの鎮守府で除去は可能なのかも判らない、下手をしたら今度こそ死んでしまうかもしれない


危ない橋を渡るよりは、問題の先伸ばしだとしても有効な手段が無い現状では無難な選択なのだろう


『遠ざけるにしても解体するにしても露骨過ぎると結局勘づかれるとは思うけどねぇ』


「じゃあ詰んでるという事じゃないですか…」


『ダミーの情報を送るとか器用な事が出来たらいいんだけどねぇ』


「その装置を除去したのがバレたらどうなるんでしょうか」


『さあ…それでいきなり攻めてくるっていうのも考えにくいけど…変わりの傀儡にまた誰かが差し替えられたりするんじゃないかな』


あの組織の事だ、また誰かを拐って傀儡にして送り込む。それを繰り返し気付いたら艦娘は誰も居なくなっていて完全に掌握されてしまう、他の鎮守府ではもしかしたら既にそういう所もあるのかもしれない


かつて漣さんが身を寄せていた鎮守府が正にそうだったらしいが、それがひとつとは限らないのだ

383 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:51:19.32 ID:P2dcfLCDO
 
 
「ところでその整備士さんってどんな人なんでしょうね」


『おやぁ?珍しいねぇ、朝ちゃんがあの鎮守府以外に興味を持つなんて』


「別に興味なんて…ただちょっと気になっただけです」


とんでもない技術をただ人を救う為だけに使っているらしい。司令官以外にそんな人間が存在するとは正直信じられなかった。何度か助けてもらったというのも何か下心があっての事だと思っていた


『まあたまには別の所を見るのもいいんじゃないかな。ポチっとな』


Y子さんが映像を切り替えるとそこは深海棲艦の基地跡のようだった。所々修理の跡が見えるが深海棲艦の姿は見当たらない


その基地の手前に見覚えのある人影があった


「あれは早霜?どうしてこんな所に…」


『当然だけど帰って来たという訳じゃ無さそうだね。潜入かな』


「たった一人で…とは言っても彼女は不死身に近い身体でしたね…」


周囲を警戒しながら進む早霜、しかしその背後に音も無く現れたのは深海海月姫だった


「あいつが居るという事はここは深海提督の…?」


そして深海海月姫は早霜を羽交い締めにして動きを封じた。それからどうするのかと思っていると一瞬何かが光ったように見えた


「スタンガン?早霜は…気絶していますね」


『あの深海棲艦が何か使ったか、周囲に罠を仕掛けていたってとこだろうね』


そして深海海月姫は昏倒した早霜を抱えて基地の中へと入っていく
384 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:53:08.66 ID:P2dcfLCDO
 
 
それから早霜は処置室のような部屋へと運ばれていく。そこにはまるで特徴の無い一人の男性…これが噂の整備士さんなのだろう…と別の深海棲艦と艦娘がスタンバイしていた


「この設備の揃い様は…もしかしてここは深海提督のアジトではなくあの整備士さんの隠れ家だったみたいですね」


整備士さんの側に控える深海棲艦の風貌は駆逐艦吹雪に似ている。整備士さんを司令官と呼ぶ彼女はおそらく秘書艦なのだろう


整備士さんは用途の解らない機械を幾つか用意してこれから早霜に何かをするらしい


そこからは私には何が行われていたのかまったく理解は出来なかった。何かの機械を使い検査をし、その後は…思い出したくない


「あ…頭をひら…うっぷ」


『大丈夫朝ちゃん?はいビニール袋』


あれだけ身体を弄くり回しておいて、今カプセルに入れられている早霜の身体には傷ひとつ残ってはいなかった。技術とかそういうレベルではない、まるで魔法だ


ようやく目覚めた早霜は自らの能力を全て消された事実を告げられショックを隠せないようだった


そしてこれまでのふてぶてしさがまったく消えてしまった早霜は朝霜に会いたいと懇願している


「艦娘の持つ特殊能力を消すとかとんでもないですね…。というかもう別人ですねあれ…」


『能力を手に入れた事で歪んでいたのか、歪んでいたからあんな能力を持てたのか…少なくとも今の早霜が素なんだろうねぇ』


必死に頼むその姿にほだされたのか早霜をカプセルから解放する整備士さん。全裸なのにはまるで無反応。まあさっきまで身体の内部まで見ていたのだから今更なのかも


そして整備士さんの側に控えていたもう一人の艦娘が更に誰かを呼びつけて―――

385 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:55:07.02 ID:P2dcfLCDO
 
 
ブツン


「はぁっ…はぁ…」


私は後ろを振り向いた。僅かに開いた襖の向こうは暗い部屋。たぶん…おそらく…変わりは無いように思える


いや…そもそも彼女は眠っているのだ、見られたはずは無い、聞かれたはずは無い。呼ばれた声に返事をする慌てた声、その顔は…


「あいつは死んだはずじゃ…いやそもそも別人だったのかも…」


『別人ではないみたいだよ』


モニターは今さっき私が慌てて消したが、Y子さんは目を細めて何か別のものを視ているようだった


『あたし自身はそのテレビが無くても色々視られるからね。まあ疲れるから普段あんまりしないけど』


「なんであいつが整備士さんと一緒に居るんですか…」


間違ってもその名前はここでは出せない。話自体も出来たら避けたいくらいだ。…だけど知っておくべきは多分私だ。だって仲間なのだから


『出来損ないとして処分されたものをあの整備士が拾ってそこに復活したらしいよ。どうやら早霜みたいに色々弄られているようだね。ずいぶんまあ…これまた別人だねぇ…』


Y子さんの話ではあいつはもうほとんど無力化されて性格も善良なものになっているらしい。今までした事を後悔している旨の発言までしていたのだという


「…は、ははっ…」


渇いた笑いが出た。ついつい生前の事を思い出してしまう


後悔している?それで?あいつが私にした仕打ちで私の人生はめちゃくちゃになった。反省している?だから?それで私に何を返してくれる?


何も出来ないくせに

386 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:59:11.72 ID:P2dcfLCDO
 
 
『――朝潮――』


ハッとして我に返る。しまった…まさかまたぶり返しそうになるなんて自分でも思ってもみなかった…


「ごめんなさい…たぶん私は今、自分に重ねてしまっていました…」


自分と彼女、どちらがより不幸かなどとむなしい比較なんてする気は無いけれど。取り返しが付かないという意味では共通しているのかもしれない


「奪われた側がここに居て、奪った側が生きている、なんなんでしょうねこれは…」


『…珍しい話じゃないよそんなのは』


「ええ解っています。この世は理不尽に溢れている事くらい身を持って知ってますしね…」


いつかの2000人の犠牲者もそうだ。彼等彼女等は何もしていない、それでも死ぬ羽目になった。それをした者達もまた生きている


それぞれにそうするに足る理由はあったのだろう。だけどそれに見合う結果を残せているとはとても思えない、つまりは無駄死にだ


「命までも代償にしておいて後悔してますは都合が良すぎますが…かといって死んで償えるものでもない」


『背負い続けるしか無い、いつか天から罰が下るまで、自ら終わらせる事は償いにはならない』


ああ…そうだ、彼女もそうだった。彼女も償い方を探しているんだ


この世界には加害者と、被害者と、傍観者しか居ないのかもしれない。それを変えようとする人間すらもそこに巻き込まれて苦しむ


この世は苦しみに満ちている。司令官…誰か…


私には何も出来ない、何処へも行けない。だったらせめて祈ろう、何の意味も無いのだとしても。私の大好きだった人に、大切な仲間に、お世話になった人達に、そして…私の事で罪に苦しむ人達にも


救いがありますようにと
387 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 06:01:32.03 ID:P2dcfLCDO
ここまで
苦しくなってきました
自分で書いて解りましたがやはり本編作者はとんでもないですね…
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/09(木) 12:21:23.83 ID:+qFeWh7Go
おつでした
タシュケントの一時退場も伏線だったと考えると恐ろしい
389 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 05:56:48.10 ID:ksNFMuDDO
>>386から
 
 
「オッスオラ朝潮!…ちょっとY子さん!こういうの私のキャラじゃないんですけど!」


『いいじゃんいいじゃん、たまにははっちゃけてみなよー』


という訳で朝潮です。何だかY子さんがたまには変わった挨拶をしてみたらどうかと私にモノマネをさせてきた。…挨拶って言ったってここには私達しか居ないのに意味はあるのか


漣「もうだめだぁ…おしまいだぁ…」


私の隣では漣さんがハイライトの消えた目で最初のセリフのライバルキャラのモノマネをさせられていた。迫真というか何というか…それ演技ですよね?そうですよね?


あの後少ししてからまた目覚めた漣さんだったが以前よりは落ち着いている。どんな事にしろ時間というものはそれをある程度癒してくれるのだろう


あれから鎮守府では暴走した陽炎さんが霞のママ力に陥落したりその霞の負担を減らす為に雲龍さんが新しいママ役になったりしていた


「不思議ですねぇ…母親なんて居ない艦娘があんなにものめり込むなんて」


『逆に居ないからこその未知の体験だったからかもねぇ』


「みんなしっかりしなきゃといつも神経を張っているからああいう癒しは必要なのかもしれませんね」

390 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 05:58:05.05 ID:ksNFMuDDO
 
 
「球磨さん…まだやってたんですね…」


大井さんと球磨さんと北上さんが何やら話していた。その話の流れで球磨さんがいまだに下着泥棒をしているらしい


「さすがに食べるのは無理でも匂いとかぬくもりを…ひえぇ…」


わからない…文化が違う。というか怖い。いつだったか私の下着を食べていた球磨さんを見た時のトラウマが蘇りそうだ


「は…そうだ…そういえばあの鎮守府では私の部屋はそのままでしたね…ま、まさか…」


漣「…漣の部屋も…まぁ別にもうどうでもいいか…」


漣さんは何だかキャラが変わっている。まるで某中二キャラのようになげやりになっている。そのうち「そう、関係ないね」とか言いそうだ


北上さんは球磨さんに自分の下着を盗まれていたと知っても気にしていないようだった。それどころか自分達の情事を見られる事にすら無頓着なようで


「いやいやいや…いくら自分の失態を晒していてもそれとこれとは話が別ですよ…」


漣「…同意する」


どうやら北上さんは露出調教されていてそういう感覚を忘れつつあるようだ。憲兵さん…貴方はいったい何をしているのだ…

391 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 05:59:26.54 ID:ksNFMuDDO
 
 
その後一人になった球磨さんはまたも脱衣場で下着漁りを始めている。さすがに主不在とはいえ他人の部屋に侵入したりはしないようだ。そうだと思いたい


「まあそもそも洗濯済みならターゲットにはなりませんよね…」


漣「…あの球磨さんなら一度でも使用した物なら例え洗っていても匂いを嗅ぎ分けますよ…どうでもいいけど…」


漣さんが不吉な事を言う。司令官…ちゃんと鍵をかけてくれているだろうか。本当にお願い


そして雲龍さんと千歳さんの下着を脱衣かごから拝借した球磨さんはご満悦な顔で戻って行った


その後お風呂から上がった二人はちょっと困った顔をして仕方なく下着無しのままで部屋へと替わりを取りに行った。あの落ち着き様は初めてではないのだろう


「個人の趣味は自由ですけど…人に迷惑をかけるようなのはちょっとどうなんですかね…」


漣「…あの鎮守府は…そういう部分も許容する場所なんです。本当なら軍規に反します。他なら厳罰か、最悪解体されます…どうでもいいけど…」


「ああ…そうでしたね…。他では受け入れられない趣味や、せ…性癖の為に追いやられて来た艦娘も居ましたね」


自分の場合はそんな段階ではなかったから失念していた


「と言ってもやっぱり黙って持って行くのは良くないと思います。…聞かれても困りますが」


貴女の下着を堪能したいので貸してください、洗って返しますから。そう言われて貸す女が居るかどうか


食べられて消滅するよりはマシと考えるべきだろうか…わからない…

392 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:00:55.44 ID:ksNFMuDDO
 
 
漣「…前にも思ったけど、ずいぶん気楽にしているようですね…朝潮…」


暗い目で私を見詰めてくる漣さん。もう売り言葉に買い言葉にならないよう気を付けないと…


「前にも言いましたが…私はもう関わりたくても関われないんです。だからといって幽霊らしく暗くしていても仕方がないので…気に障ったなら謝ります」


漣「別に…怒ってる訳じゃ…。私の知ってるイメージとちょっと違うから…」


『まあこれが本来の朝ちゃんなんだよきっと。色々なしがらみから解き放たれた』


漣「しがらみ…」


今や私よりもむしろ幽霊らしい雰囲気で漣さんは何かを考え込んでいる。今の彼女が考える事はろくな事じゃない気がする


「何度でも言いますが…死んで楽になる事なんてありませんよ。一時の苦しみから逃れた先に待っているのは永遠の苦しみと後悔です」


『その苦しみからも逃れたいならもう成仏して生まれ変わるしかない。けどね、未練や執着、恨みがある魂はそう簡単には成仏すら出来ないよ』


漣「生きてても苦しい…死んでも苦しい…。じゃあこの世界って何なんですか…」


すがるような目を向け私達に問いかける。彼女は答えを求めている、進むか止まるか判断しかねている


『あたしにもそれはわからない。存在してしまった以上腹を括るしかない。だって最後の最後には自分を救えるのは自分しか居ないんだ。どれだけ手を引いてもらっても歩き出すのは自分なんだから』


漣「…」


漣さんはそれを聞いてまた何かを考え込んでいる。私達の言葉はどこまで届いているのだろうか…

393 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:03:10.29 ID:ksNFMuDDO
 
 
ある日の鎮守府に突然早霜が現れた。朝霜に掛けた暗示を解きたいのだと必死に訴えかけている


「早霜って確か…どうしてここに…」


『ふむ、どうやら早霜が頼み込んで送ってもらったみたいだよ』


内容をぼやかして話す私とY子さん。もう既に知っているのか、まだなのか、どちらにせよなるべく避けようというのが私達の結論だ


Y子さんが私に教えてくれた話では整備士さんは呂500さんが傀儡化された事に勘づいたらしくこの鎮守府を警戒し始めたらしい


下手をすればもう協力を仰ぐ事は出来なくなるのかもしれない。それどころか敵視までされたらどうなるのだろう


鎮守府の皆やアケボノさん達に囲まれたまま朝霜を説得する早霜


しかしやはりこれまでの行いが悪すぎたのだ。受け入られる事はなかった。そしてアケボノさん達は早霜を捕まえ姿を消した


『…早霜はアケボノ達の仲間まで手にかけてる…あれはもう殺されるね』


「…えっ」


私は龍驤さんに抱き締められ泣きじゃくる朝霜さんの姿を見ながらその映像を切り替えた


そこが何処かはわからない。早霜はあの女幹部――菊月やアケボノさんリュウジョウさん、その他見た事が無い艦娘達に囲まれ、詰問されていた


彼女達が聞くのは自分達の司令官である深海提督の安否と居場所


しかし

394 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:04:58.78 ID:ksNFMuDDO
 
 
整備士さんが自分達の安全の為に居場所に関する記憶を消していて…今同じ場所に居るらしい深海提督の居場所も当然記憶が無かった


それでも朝霜さんに会わせてほしいと懇願する早霜に菊月さんは手を触れ、そして――


菊月さんから錆びのようなものが早霜の身体に移り凄まじい速さで侵食していく


「あれが彼女の能力…?」


瞬く間に全身が錆びに覆われ顔半分まで錆びが登っていく。早霜は涙を一筋流し朝霜さんの名前を呼びながら、そして――


「っ!」


『朝ちゃん!?ちょっと待って!漣!朝ちゃん止めて!』


漣「え…え?」


私は部屋を飛び出し三途の川へと向かう。特に何か考えがあった訳でもなかったがとにかく我慢が出来なかった


私は別に早霜と知り合いでもなんでもないし思い入れなんて無い。司令官達にとって敵なら私にとっても敵だ


だけど


朝霜姉さん――


あの最期の姿を見て私はいても立っても居られなくなっていた


川沿いに辿り着いた私は辺りを見回す。相変わらず死者の魂は途切れる事が無い。そうしているうちに漣さんが私に追い付いてきた

395 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:07:29.50 ID:ksNFMuDDO
 
 
漣「…いきなり飛び出してどうしたんですか?まさかあの早霜まで連れてくるつもりですか?そんな事が出来るくらいなら…」


そこで言葉を切る漣さん。言いたい事は判る。あの小さな深海棲艦の魂の事だろう


実際あれからちょくちょく見に行ったりもしているが彼女の魂は見付かる事はなかった。そもそも来ているかもわからないのだ


もし見付かれば彼女にとってこれ以上無い救いとなるだろうが…


その場合、現世に帰ろうとする意志すら完全に捨て去りここで永遠に過ごすと言い出す可能性は高いように思う


そうしていると突然辺りの空気が変わった


川を渡る死者の群が怯え始める。空から何かが聞こえる。何かが落ちてくる


ああああああああああああああああああああああああああああああ朝霜姉さあああああん嫌あああああああああああああああ!!!


無数の死者にまとわり憑かれた早霜が川へと落下していく


あああああゴボッあああああ嫌ごめんなさい朝霜姉さんごめんなさいあああああ嫌あああああゴボッ助け――


落下した水面からも更に死者の腕が伸び、早霜はあっという間に水底へと引きずり込まれてしまった


連れて来るとか、話すとか、そんな暇すらありはしなかった

396 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:11:10.76 ID:ksNFMuDDO
 
 
『まったく…いきなり何をしようとするの…朝ちゃんは』


ゴンッ!!!


ようやく追い付いてきたY子さんが私にゲンコツを…お…


「お…おおおおお…!」


漣「うわ…下手したら死にますよあれ…」


「も…もう死んでますけどね…おおおおおお…」


うずくまりながらも突っ込んでしまうのは私の性格がそうさせるのだろうか


『早霜自身が言ってたでしょ、殺し過ぎたって。そんな魂に下手に近付いたら一緒に引きずり込まれるよ、助けようにも重くなり過ぎて引っ張り上げるのだって難しいのに』


「でも私は…ごめんなさい!」


再び拳を振り上げて見せたY子さんに反射的に謝る私


『やれやれ…あれは正しく自業自得だから同情の余地は無いのにさ…殺したのも自身の快楽の為だし』


「それはそうですけど…」


漣「生まれつきそうなら…それは誰の責任なんでしょうね…」


『それは…まあ、ね…』


彼女を、早霜をそういう風に生み出した世界が悪いのだろうか、止められなかった人間が悪いのだろうか


『そういうのもやっぱり自分を救う自分なんだよ。あんな事してろくな死に方しないと土壇場まで気付けなかった…。それに気付かせてあげられる人間が居なかったのが早霜の不幸かな…』
397 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:12:41.74 ID:ksNFMuDDO
 
 
早霜の一件から朝霜さんはやっと安心して過ごせるようになったのかみるみる元気を取り戻していった


結局早霜が固執していた暗示とは何だったのか謎は残った


朝霜さんを助ける為に暗示を解く、では解かなければどうなるのか…何にせよ早霜はもう居ない。それを聞く事はもう出来ない


そしてつかの間の平穏が戻った鎮守府にアケボノさんが現れ整備士さんの居場所を聞いてきた


「ずいぶん急いでいる様子ですね、何か緊急事態でしょうか」


『あの子達の緊急といえばあの子達の提督の話しか無いよね』


司令官達は整備士さんの居場所を知らないと答えるとさっさと姿を消してしまう


「ちょっと気になりますが…整備士さんかあ…」


漣「…?」


下手に整備士さんの所を見て漣さんがあれを見たらどうなるか、それが解らない程私は鈍くはないつもりだ


『…大丈夫、今は居ないみたいだよ。というかアケボノ達は辿り着けそうにないみたいだね』


「そうなんですか…?」


映像を切り替えてみると、アケボノさん達は整備士さんの秘書艦である吹雪さんに追い払われようとしていた


「嘘…たった一人であの人数を完全に圧倒していますね…。アケボノさん達は決して弱くはないのに…」


むしろ私よりもよほど強い。チームワークでなら朝霜さんにも負けないと豪語していたらしい


それを一人で圧倒出来るあの吹雪さんはつまり朝霜さんよりも強いという事になるのだろうか

398 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:14:43.38 ID:ksNFMuDDO
 
 
アケボノさん達は何でか早霜の名前を連呼していた。まさかあれで警戒心を解こうとしているのか


「えぇ…もうちょっと他に何かあるでしょうに…」


『予想外にあの吹雪が強くて完全に浮き足立っちゃってるねあれは』


結局更に警戒を強めた吹雪さんに押される形でアケボノさん達は退散せざるを得なかったようだ


その後整備士さんの潜伏場所らしき地点は爆破され完全に見失ってしまい消沈するアケボノさん達


『ふむ…どうやらあの鎮守府込みで警戒されちゃったみたいだよ。呂500の傀儡化の件のせいだね』


漣「そんな…あれだけ協力的だったのに今更…?傀儡なら潮だって居たじゃないですか」


『潮の場合はこちらから保護した形だけど呂500は送り込まれてきた、しかもそれを把握していてなおかつ処分もしない…。理由はどうあれ外から見たら疑われても仕方ないよこれは』


「これからは何かあっても彼等の協力は仰げませんね…下手をすれば敵対してしまう可能性も…」


問題はその事を司令官達はまだ把握していないという事だ。自分達の知らない間に敵視され、無警戒に接近し、味方だと思っている相手に問答無用で攻撃を受ける


あの吹雪さんの攻撃力をまともに食らったら無事では済まないだろう

399 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:16:02.73 ID:ksNFMuDDO
 
 
そうしている間にY子さんが何かに反応した


『使ったか…来るよ』


「え…?」


私が聞き返そうとするとモニターから轟音が響く。爆破されいまだ燃えている基地施設に突然光が降り注いだのだ


「うっ…!」


漣「く…!」


遥か彼方から巨大な光の帯が基地のあった島に突き刺さり飲み込んでいく。その眩しさから目を閉じる私達


少しして再び映像を見ると基地のあった場所には何も残ってはいなかった。それどころか島の形も少し変わってしまっているように思える


「これは…いったい…」


何処からかの砲撃があったのは確実だろう。そしてこの威力…思い当たるものはひとつしか無かった


『そう、あれが使われた。アケボノ達が焦る訳だね、でも結果的には脱出させられたから結果オーライなのかな』


「アケボノさん達は…」


『察知していち早く帰っていったよ』


「そうですか…よかった…。それにしても結構頻繁に使いますね…」


『今の大本営の最大の武器はあれだけだからね。使うしかないといったところかな』


あんなのをポンポン使って大丈夫なのだろうか。一発撃つだけでも鎮守府なら資源が吹き飛びそうだ
400 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:20:28.31 ID:ksNFMuDDO
 
 
所変わって映像は大本営の茶室。菊月さんがあれの情報を集める為に大本営に戻ったところ信濃さんと出会い


そしてどういう訳か組織の大和がそこに現れた


「菊月さんと信濃さんは解りますがこうまで堂々と大本営に現れるなんてどういう神経をしてるんでしょう…」


『例え見咎められても自分なら問題無いと思ってるんじゃないかな』


実際あの大和を止められる戦力は大本営にも多くはないのだろう。仮に戦闘になったらどれだけの犠牲が出るのか想像もつかない


その大和は今回は話し合いに来たと言ってお茶なんて立てているが信濃さんは警戒して手を付けようとはしなかった


「戦争を続けて均衡を保ち、武器を売りそれが平和と…。確かに戦争が終われば私達艦娘は必要無くなって数は減らされるでしょうが…」


『どうかな…深海棲艦との争いの次はまた別の争いに移行するだけだと思うよ。その際貴重な戦力である艦娘は今以上に必要とされる』


「そうなったら艦娘の敵は人間と、そして同じ艦娘になりますね…」


『大本営にはあれがあるけどそれだけじゃやっぱり足りない。どうしたって兵隊は必要になるからね』


そうして武器を売って国が潤ってもその武器が向けられるのが誰になるのか、また沢山の人や艦娘が死んでいくのだ。平和などとはお世辞にも呼べない


話を聞いた信濃さんが激昂して大和に斬りかかる


「艦娘になったからなのか元々なのか…血の気が多いですね」

401 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:23:54.55 ID:ksNFMuDDO
 
 
しかし前回とは違い大和はあっさりと信濃さんの槍を弾き飛ばしてしまう


『冷静さを欠いて勝てる相手じゃないよねぇ…』


信濃さんの肩を突き刺した大和がその目を覗き込んだ次の瞬間、信濃さんから大和への敵意が消えていく。目が虚ろだ


漣「これは…暗示…?」


「洗脳する能力ですかね…そこまで強いものではないようだけどあれだけの達人が使うとなると厄介ですね…」


傀儡を食べて能力を得たと話す大和、つまりそれは傀儡への能力付与が成功したという事なのか


「大量に居て、しかも一体一体がめちゃくちゃ強くてその上特殊能力持ちに…?」


『一発の破壊力の大本営か数で押す組織か…どちらが不利かな』


しかも信濃さんを洗脳し仲間に加えてしまった以上大本営はもう…?


抑止力というやつで大本営と組織がお互いに睨み合うだけになれば確かに均衡するのかもしれないが…


そして大和は信濃さんを連れて行ってしまう。菊月さんはさすがに手を出せず見送るしかないようだった


弾き飛ばされ落ちていたはずの槍は何故か何処にも見当たらなかった
402 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:26:56.07 ID:ksNFMuDDO
ここまで
次以降はまだ未確定の部分もあって難しい
後追いみたいな形を取ったのは…
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/18(土) 14:21:53.23 ID:A+Lp12ql0

未来が難しいなら過去の話をしてもいいのよ?
404 : ◆Ym1fb/Qckk [saga]:2019/05/20(月) 08:36:48.78 ID:fAZCVd2CO



他の人と違っていいんだ。自分を信じ続けるといい。世の中いろいろあるけれど、俺だって何とかなった。

_元スウェーデン代表 ズラタン・イブラヒモヴィッチ


405 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:37:45.16 ID:fAZCVd2CO



「…………この辺でええやろ」

「あぁ、ここなら誰も気づかない」

「じゃ、棄てるわよ」


ポイッ

ザプン


ゴポポポポポポ……………









早霜「……………………ん……?」


406 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:39:42.15 ID:fAZCVd2CO

ピーッ!!


実況「さぁ試合開始です!今回はなんと艦娘がピッチに立ちます!」

解説「ものすごい経歴を持つ選手ですね。殺した人数がプロフィールの枠を超えてますよ。しかも趣味はなるべく苦しませて殺すこと……うーん、カンダタも真っ青な殺人快楽者ですねぇ」

実況「救われるはずのない魂に垂らされた蜘蛛の糸、彼女は登りきることができるのでしょうか!?活躍に注目したいところです!」


〔11:06〕


実況「ロスタイムは……結構長いですね。ほぼ半日です」

解説「分単位に直すと666分……うーん、彼女の素性を表すかのように不吉な数字だ」


407 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:41:01.67 ID:fAZCVd2CO


早霜「あれ……私、確か菊月に…………」


実況「早霜選手、やはり理解ができていないようです」

解説「死んだはずなのになんで?という顔をしてますね…………おや?何かおかしいですよ?」

実況「そうですか?いくらか身体に錆が目立つようですが、それ以外辺りには……んん!?いつもの審判がどこにもいません!!いったいどこに……?」


_海上

審判団「……………………」


実況「いました!早霜選手から遥か真上の海上です!なんと潜ることができない!!」

解説「泳げないのにどうしてこの試合を請けたのでしょうか。これは派遣した教会にも責任が及びそうですね」

実況「このままでは選手が動けず意図せぬ形でロスタイム放棄もありえます!いったいどうなってしまうのか……!?」




408 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:42:11.15 ID:fAZCVd2CO




ブクブクブクブク……


ザパァンッ


早霜「ぷはぁっ…………」


実況「おっと!早霜選手、自ら海上に出てきました!」

解説「状況と位置の把握のために出てきたようです。頭の回る選手で良かったですね」



早霜「……!敵……!!」ゴッ

主審「!」ピピピピピッ!!


実況「あぁーっと!審判を敵と認識してしまいました!誤解を解こうとしています!」

解説「副審がフラッグで守りの構えをしていますね。あんな棒切れでどうするというのでしょうか」


主審「……!」カード

早霜「……注意?みたいなものかしら?殺してはいけない……そんなところかしら」


実況「当然カードが提示されますが……ルールがいまいち伝わっていないようです」

解説「審判団への暴行が反則対象ですが、どうやら早霜選手、殺害そのものの禁止と解釈したようです」


409 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:43:40.89 ID:fAZCVd2CO


早霜「…………数字?」

主審「…………」コクッ

早霜「何かしら、これ…………私、たしかに死んだはず……」

主審「…………」トントン

早霜「時計?」

主審「……」シタユビサシ テアワセ

早霜「下に、両手……?」



解説「うーむ、どうやら時間が来たら地獄に落ちると伝えたいようですが……」

実況「いまいち意図が伝わっていないようです。ここでの時間は後々に響きそうです」



早霜「……そうだ、そんなことをしてる場合じゃない」

早霜「まだ終わってないなら、早く……早く姉さんの暗示を…………」

早霜「でも……ここはどこかしら…………」



実況「おっと、意図は伝わっていませんがどうやら動き始めるようです」

解説「どうやら彼女、生前に姉に仕掛けた暗示を解きたいようですね。まずはそこにたどり着けるでしょうか?」

410 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:44:58.22 ID:fAZCVd2CO


〔10:03〕


早霜「………………」スイーッ

審判団「…………」


実況「動き出してから1時間が経過しましたが、依然海の上を彷徨っています」

解説「自分がどこにいるのかさえ分かってないですからねぇ。しかも夜間で視界も悪い状況。せめて陸地にたどり着ければ良いのですが……」


早霜「…………」チラッ

審判団「…………?」

早霜「時間が減ってる……制限時間みたいなもの、なのよね?」

主審「…………」コクコク

早霜「ねぇ……私、確かに死んだのよね?」

主審「………………」コクッ

早霜「…………そう、やっぱりね」


実況「早霜選手、ここで死んだことを確認したようです」

解説「ほとんど動揺は見られませんね……いえ、ちょっと待ってください、早霜選手の手……?」


早霜「どこまでいっても先が見えないわね……」スイーッ


手「…………」ワキワキ……

ゴキッ、ボキッ…………


実況「これは……獲物を探すかのように、恐ろしい動き方をしている……!?」

解説「本人は無意識のようですが、本能が殺しを求めている……といったところでしょうか。手を出せば退場もありえる状況、かなり難しいゲームになりそうですね……」


早霜「でも、このままだとラチが明かないわ……探照灯でもあれば、周りだけでも見えるのだけど……どうすれば……」





「おい!おまえ!!」

411 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:46:38.26 ID:fAZCVd2CO


早霜「!!その声……!」

伊400「やっぱり逃げやがったんだなこの野郎!」


実況「おっと!これは潜水艦の伊400さんでしょうか!?ようやく審判団以外の人間に出会うことができました!」

解説「どうやら知り合いのようです。いやぁ、ここまで長かったですね」


伊400「だからお前は信用ならないと思ってたんだ!ボスのところには行かせねぇ!!」

早霜「ち、違うの……!私、さっきしん」


主審「!!」ピピーッ!!

早霜「!?」

主審「……!…………!!」


実況「あぁーっ!ここでついにやってしまいました!死んでいることを伝えてはいけません!」

解説「ようやく人に会うことができて安心してしまったのでしょうか。多くの選手が起こすミスですが、この気の抜けたところが危ないですねぇ」


412 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:49:57.72 ID:fAZCVd2CO



早霜「あっ…………言ってはいけないのね?」

伊400「あぁ?しん?」

早霜「し……し、信用されないのはよく分かってるわ…………」

伊400「はんっ、分かってるならいいんだ」

主審「………………」


実況「おや?カードを出しませんでした。これは辛うじてニュアンスは伝わっていない、ということでしょうか?」

解説「そのようですね。まぁ今回はジャッジに助けられたということで、焦らずに…………ちょっと待ってください?早霜選手の右手……」

実況「右手ですか?どうし……!?」


ナイフ「」キラッ……


実況「隠しナイフですか!?いつの間に……!?」

解説「伊400さんもまったく気づいていません……本人の意思さえあれば、ですね……」
413 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:50:59.11 ID:fAZCVd2CO


早霜「その、お願いがあるの!もう一度…………もう一度だけでいいから、あの鎮守府に連れていって!」

伊400「鎮守府ゥ?お前今日の昼に暗示解くからって連れていったじゃねぇか!」

早霜「そうなんだけど……その、暗示を解ききる前に追い出されてしまったの……!」

伊400「そんな馬鹿なことあるかよ!!さしずめ今度は朝霜を殺すかもう一度暗示かけるかのどっちかだろうな!」



実況「なかなか交渉がうまくいっていないようです」

解説「よっぽど生前の行いが悪かったようですね。そろそろ2時間に差し掛かるところですよ」

実況「どうやら鎮守府はかなり遠くにあるようですから、戻る時間を考えるとかなり厳しい展開を強いられています!」


414 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:00:58.32 ID:fAZCVd2CO


早霜「だから……!!」


ピピピピピッ!!


早霜「!?」

伊400「……!?てめぇ……やっぱり殺す気かよ……!」

早霜「殺す……?」

伊400「とぼけんじゃねぇ!そのナイフはなんだよ!!」

早霜「……!?」


実況「あぁっと!ここでついに手を出してしまいました!」

解説「主審の笛で辛うじてナイフが止まりましたね。しかし首寸前、身動きがとれません……!」


主審「………………」


実況「主審はすでにカードを出す準備をしています!」

解説「まだ手を出してないので反則は確定していませんが、さぁ早霜選手、抑えることができるでしょうか……?」


415 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:05:34.76 ID:fAZCVd2CO



早霜「………………………」

伊400「…………やれよ……やれるもんならな……!」



早霜(あぁ…………とうとう、出しちゃった)

早霜(これ以上殺す意味なんてないのに……早く、姉さんの暗示を解かないといけないのに…………)

早霜(もうだいぶ時間も経っている……早く説得しないと…………いや?)


早霜(ここでこれ以上足止めされるなら、いっそ…………)

早霜(でも……ここで殺したら鎮守府の位置が…………)

早霜(待って……?いっそ、この潜水艦だけじゃない)



早霜(さっきはやりそこねたけど、あのよく分からない奴らも………………)



実況「早霜選手、かなり葛藤しています!」

解説「ついに手が出てしまうのでしょうか……待ってください、これ審判団も狙ってませんか!?」

実況「審判団もですか!?そんなことしたら早霜選手どころかロスタイムまで消滅してしまいますよ!?」


早霜(殺す…………血の匂いを……あの叫び声を…………最後にもう一度だけ……!)

早霜(……違う!そんなことより、姉さんの暗示を…………でも……ふふ、うふふ…………!)


早霜「………………っ!」ギリギリ

伊400「………早霜ぉ…………!!」

416 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:06:52.17 ID:fAZCVd2CO


…………ポチャン


早霜「……………………お願いします」


バッ


伊400「!?」



実況「おっと!?ナイフを投げ捨て、土下座に出ました!!」

解説「止まった!……完全に殺す動きからのこれですからね、これには伊400さんも驚いています」



早霜「分かっているわ……私は数えきれない罪を犯してきた。信用しろなんて、できるわけないわね」

早霜「でも……私の最初の過ちを…………姉さんの暗示を解かないと……」

伊400「お前そればっかじゃねぇか!そんなことして許されるなんて思ってんじゃねぇだろうな!?」

早霜「赦しなんていらない!2度と姉さんに会えなくていい!すべて終わった後なら、どうなっても構わない!」

早霜「でも…………あの暗示を解かないと………………」





早霜「死んでも…………死にきれないのよぉ……!!」ポロポロ


417 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:09:18.74 ID:fAZCVd2CO



副審1「!!」カードダロ

副審2「……!!」チガウチガウ

第4審「…………」ハラハラ


実況「これはかなり際どい発言です!」

解説「死ぬことを示唆する発言ですからねぇ。審判団もかなり揉めているようです。さて、主審の判断は…………」


主審「………………」


実況「カードは……出ない!ここはカードは出ませんでした!」

解説「あくまでも表現のひとつとして解釈したのでしょうか。ここは主審に助けられましたね」


早霜「お願い……します…………ほんとうに、おねがい……!!」ポロポロ

伊400「な、なんだよコイツ………………」



418 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:10:07.25 ID:fAZCVd2CO


伊400「…………あぁもう!わかったよ!!今度こそ最後だからな!」

早霜「本当!?」ガバッ

伊400「ほんっとうに最後だからな!とりあえず身につけてる武器全部捨てろよ!!」

早霜「ありがとう……!本当にありがとう…………!!」ポロポロ

ポチャン

ポチャン

ポチャン

バラバラバラバラ!!

伊400「そ、そんなにかよ……気持ちわりぃな…………」


実況「やりました!必死の願いが通じたようです!」

解説「とんでもない数の武器を捨てた気がしますが……彼女の執念は本物ですね。この粘り強さを最後まで持続できるでしょうか?」

419 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:11:08.38 ID:fAZCVd2CO



_足りないもの鎮守府


〔6:16〕


伊400「ほらよっ!着いたぞ」

早霜「本当に、ありがとう……!」

伊400「てめぇに感謝される筋合いなんかねぇよっ!2度とその顔見せんじゃねぇぞ!!」


ポチャン


実況「説得から3時間近くかかってしまいましたが、ようやく目的地に到着しました」

解説「ここまではあくまでも準備に過ぎませんからね。早霜選手、ここからが本番ですよ」


早霜「…………さて」


スタスタ


実況「おぉっと!?なんと正面から入ろうというのでしょうか!?」

解説「すでに日付を跨いでいるとはいえ、警備をしている憲兵もいるはずです。何か策があるのでしょうか?」



420 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:12:03.14 ID:fAZCVd2CO



憲兵「…………………」


ヒュッ


憲兵「……ん?」


シーン


憲兵「………………気のせいか」






早霜「……………………」スタスタ……



421 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:13:33.25 ID:fAZCVd2CO



由良「……………………」ミマワリチュウ


コトン


由良「!!」バッ


シーン


由良「…………………」




由良「……………………」スタスタ……




早霜「…………」スッ



実況「これは驚きました…………ここまで誰にも気づかれずに目的地に向かっています」

解説「彼女、先日失った能力を無しにしても、非常に高い身体能力を備えていたようですね。素晴らしいスニーキングスキルですよ」

実況「しかし、毎回すんでのところまで手が出かかっているのは大丈夫なのでしょうか?」

解説「うーん、いちおう殺傷行為については明確なダメージを与えない限りは反則でない、という解釈もできますが……先ほどのジャッジといい、今日はかなり甘めの判定が目立つ気がしますねぇ」



審判団「………………」スタスタ


由良「……………!」


ヒュッ


ブスッ!


審判団「!?」

由良「何者」

審判団「」マッサオ



実況「し、審判団の気配を感じ取ったぁ!?」

解説「これプロフィールですか?…………ほほう、忍者の末裔の元で鍛えられたらしいですよ……え?これ本当に彼女なんですか?容姿がまったく違うようですが……」

422 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:15:01.85 ID:fAZCVd2CO



実況「いったん早霜選手に戻りましょう……朝霜が眠る寝室に到着したようですが…………?」


ガチャリ


実況「やはり鍵がかかっているようですね」

解説「当然警戒しているようですね。しかも今日は朝霜以外に2人もいるようですよ。何かの拍子に起きてしまう可能性はとても高いですね」


早霜「……………………」スッ


カチャカチャ…………


実況「おっとかなりアナログだー!ハリガネで鍵をこじ開けようとしています!」

解説「意外と手つきは悪くないですよ。しかし開けるまではいかないみたいですね…………ん?」


ガチャッ


早霜「!!!!」


423 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:15:57.09 ID:fAZCVd2CO


ギィィィィ……


ズリ…………ズリ…………


龍驤「うぅん……トイレトイレ……」



実況「彼女は……軽空母の龍驤さんですね。片腕、片脚がない艦娘です。普段は義肢を付けているはずですが……」

解説「どうやら寝ぼけてそのままお手洗いに行ってしまったようですね…………早霜選手はどうでしょう?」



早霜「…………」ペター



実況「なんと天井に貼り付いています!これはファインプレイ!」

解説「いやぁ、彼女の能力には驚かされるばかりですね。これで部屋にも入れそうです」
424 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:19:01.72 ID:fAZCVd2CO


_寝室


提督「zzz…………」

朝霜「すぅ…………すぅ……」


早霜「……………………」


実況「ついに……ついに早霜選手、朝霜さんのもとにたどり着きました……!」

解説「龍驤さんが戻ってくるまであまり時間がありません。戻る時間もありますし、早めに暗示を解きたいですね」


早霜「………………姉さん……そのまま聴いてね……何も考えなくていいのよ……そのまま、力を抜いたままで……」ブツブツ

朝霜「すぅ……すぅ……」

早霜「〜〜〜〜〜〜」ブツブツ


実況「暗示の解除が始まったようです」

解説「いい感じに集中できてますね……そのままゴールまで行けるでしょうか」



早霜「……いまから数を数えるわね……0になると姉さんは催眠状態になるわ…………大丈夫、とっても気持ちいいわよ…………10…………9…………ほら、だんだん身体が重くなる……」ブツブツ


実況「これは……暗示をかけている?」

解説「解除するためにいったん催眠状態に持ち込むようですね。本人の意思を操作しやすい状態のほうが逆に暗示を解きやすいようです」

425 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:21:57.55 ID:fAZCVd2CO



……ズリ…………ズリ……


実況「おおっと!?ここで龍驤さんが戻ってきてしまったぁ!!」

解説「早霜選手、気づいた上で催眠を続行していますね!集中していますが、焦りが見えているところが気になります……!」

実況「さぁ早霜選手、催眠は間に合うのか……?」


早霜「〜〜6〜〜〜〜5〜〜………4…!」イライラ


解説「目に見えて焦ってきてますね。このままでは……!」


朝霜「…………うぅん……なんだ」ムニャムニャ




朝霜「よ……………………」パチクリ

早霜「……2…………1………………!」







朝霜「…………………ひ、ひ」

早霜「…………ゼロっ!」パチン

426 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:23:18.01 ID:fAZCVd2CO



ギィィィィ……



龍驤「はひぃ……久しぶりやなぁ、寝ぼけて義肢無しでトイレすましたんは……」

龍驤「ごめんなぁ、朝霜……寝とるか?」サスサス

朝霜「………………」トローン

龍驤「……ゆっくり寝れとるみたいやね……ほな、おやすみ……」zzz



早霜「…………………」ホッ



実況「早霜選手、ドアの裏に隠れて上手くやり過ごしました!」

解説「しかも朝霜さんへの催眠もしっかりかけています。あの状況でしっかり結果を出せるのは素晴らしいですね」

427 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:24:15.44 ID:fAZCVd2CO



実況「ところで、審判団の姿が見えませんが、どこにいるのでしょうか?」

解説「先ほど由良さんに見つかり退避したところまでは確認したのですが……」



_鎮守府外



主審「……………………」

副審1「………………」イカナイノ?

副審2「……………………」コロサレタクナイ

第4審「…………」オロオロ



実況「あぁーっと!審判団、仕事を放棄しています!」

解説「由良さんというリスクを懸念した判断かとは思いますが……副審たちはむしろこの状況に困惑していますね」

実況「主審はおそらく早霜選手がいるあたりを見つめていますが……これは仕事していると言えるのでしょうか……?」


428 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:26:03.66 ID:fAZCVd2CO



〔5:32〕



早霜「さぁ、最後よ…………姉さんはここで起きたことは、朝になると何も覚えていない…………」ブツブツ


実況「早霜選手、順調に暗示を解いています」

解説「これなら時間内に元の場所にも戻れそうですね。危ないところもありましたが、ここまで素晴らしいプレーを見せています」


早霜「……ほら、身体がすぅっと、浮かんでくる……」

早霜「すべてを忘れて……ここは、いつもの布団の中…………」






早霜「…………さよなら、姉さん」


パチンッ

429 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:28:06.98 ID:fAZCVd2CO


実況「早霜選手、見事やり遂げました……!」

解説「えぇ、ここまで荒いプレーも目立ちましたが、いままでの選手の中でも最高のパフォーマンスを魅せてくれたと思いますよ。彼女はとても強い心を…………」




早霜「…………………………」




解説「……ちょっと待ってください?早霜選手、何やら様子がおかしいですよ?」

解説「おっと?……審判団も心配そうに彼女を見ていますね……」


早霜「…………分かってるのよ」
430 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:29:17.64 ID:fAZCVd2CO

早霜「こんなことしても、許されるわけじゃない。褒められるわけじゃない。救われるわけじゃない……それでも、やらなくちゃ、いけないこと、くらい」




早霜「でも…………でもぉ………………!!」




早霜「もっと姉さんと話したかった!姉さんに、いろんな人に、許してほしかった!」



早霜「この力だって、もっといろんなことに活かしたかった!この心だって、もっと良い方向に治せるって信じたかった!」



早霜「姉さんに覚えていてほしかった!いろんなことをやり直したかった!」



431 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:30:09.88 ID:fAZCVd2CO


早霜「許されたい……!」



早霜「やり直したい……!」



早霜「忘れられたく、ない……!!」







早霜「死にたくない…………死にたくないよぉ…………!!」ポロポロ








実況「……まったく予想外の展開になってしまいました。早霜選手、ここに来て泣き崩れてしまうとは……」

解説「多くの選手がそうであったように、こうなる気はしていましたけどね……あの早霜選手さえも、死ぬことへの恐怖からは逃れられなかったということですね」

432 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:32:57.97 ID:fAZCVd2CO



〔2:27〕



_海岸



ザザーン……ザザーン……



早霜「……………………」



実況「どうにか海岸まで出てきましたが……早霜選手、まったく動きません」



副審1「…………!!」レッドレッド

副審2「……!…………!!」マダワカラナイ

第4審「………………」ソワソワ


主審「……………………」




解説「副審たちはまたヒートアップしていますが……主審が怖いくらいに沈黙を守っています」
433 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:34:21.26 ID:fAZCVd2CO


早霜「…………ねぇ」

主審「…………」

早霜「さっきのカード、出さないの?」

主審「……………………」

早霜「分かってるでしょ?私……」





早霜「もう、元の場所に戻るつもりはないのよ?」





実況「!?なんと早霜選手、みずからロスタイムを放棄するということでしょうか!?」

解説「ここでカードが出ると輪廻から外れてしまうのですが……いや、まさか……それが狙いだというのでしょうか!?」



早霜「それが何なのかはよく分からないけど……さしずめ、地獄に落ちるとか、生まれ変われないとか、そんな感じのものなのでしょう?」

主審「………………」

早霜「それ、あいにくとっても好都合なのよ」

早霜「私みたいなキチガイは、もうここに戻ってこない方がいいの……だから、早く終わらせてちょうだい……」



主審「……………………」スッ





実況「主審がカードに手をかけました……!早霜選手、とうとう望み通りの退場処分となってしまうのか……!?」


434 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:35:45.68 ID:fAZCVd2CO





ベキッ!


早霜「……………はぁ!?」

主審「……………………」



実況「なんと!?主審自らカードをへし折ってしまいました!!」

解説「本来ならカードを出すべき……いやそれ以前に、こんな暴挙に出た審判は初めてですよ……!」



早霜「どうして……!?私のこと、分かってるでしょ!?私は……生き物をなぶり殺して快感を得る狂人なのよ!」

早霜「こんな奴を生まれ変わらせたって、また誰かを苦しめるだけなのよ!?」

主審「………………………」フリフリ

早霜「違う……何が違うの?私が殺人者であることは変わらない!私の本性なんだから私が一番よく分かってるの!」

早霜「やり直しの機会なんて…………やり直しなんて………」





早霜「あなた…………私に、またやり直せばいいって言うの?」



主審「……………………」ピッ!


435 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:37:30.11 ID:fAZCVd2CO


ピュッ

ポンッ

ブロロロロロ…………


早霜「零式艦戦……これで戻れ、ということ?」

主審「………………」



早霜「それは、仕事だから?あるいは、情けかしら?それとも…………」

主審「……………………」



早霜「…………あなた、どこかで会ったこと、あったかしら?」

主審「……………………」

早霜「…………ふふっ、本当に喋らないのね」

主審「……!」ピッ!

早霜「急いで?はいはい、分かったわよ……」



チャポン

スイーッ……




実況「早霜選手、主審の案内に従い、キックオフ地点へ戻ります……!」

解説「今日のジャッジ、不思議なところがありますね。早霜選手が殺しに手を出すかどうか、それだけを注視していたかのような…………」






解説「…………そういえば、女性の主審なんて、協会にいたかな……?」


436 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:38:48.36 ID:fAZCVd2CO


〔0:02〕


_どこかの海上 キックオフ地点



早霜「はぁ……はぁ…………間に合っ、た……?」

主審「…………」フゥフゥ

早霜「そう……なんとか戻れたのね」



実況「早霜選手、時間内にキックオフ地点に戻りました!残り時間、2分です!」

解説「驚くべき航行速度ですね……いえ、早霜選手と審判団の意地なのでしょうか?」



早霜「…………本当にいいの?」

主審「………………」

早霜「まぁ、すぐに生まれ変わるとかは無いでしょうけど……この性癖、とんでもなく強いから、分からないわよ?」

主審「……………………」

早霜「……………………」

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