【艦これ】龍驤「たりないもの」外伝

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1 : ◆I4lwDj9Dk4S2 [saga]:2018/07/29(日) 19:36:41.81 ID:KWhwaqQEO
このスレは
【艦これ】龍驤「足りないもの」【安価】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1515586186/

からの派生作品や外伝を書き込む場所です、とりあえず場所だけ立てておきました


自分も使えなくなったエンドやその他ボツの話なんかを書き込むかもしれませんので、よろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1532860601
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/29(日) 19:43:16.32 ID:D3aw33GFO
拡散希望
あやめ速報、あやめ2ndへの掲載拒否を推奨します
創作活動に対する冒涜を行う酷いまとめサイトです

あやめ速報へのSS掲載を拒否して下さい
あやめ速報に掲載されてしまった貴方のSSを消すように訴えて下さい
不当サイトの活動源にしてはいけません
あやめ速報を利用しないで下さい
このことを多くの方へ伝えて下さい
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/15(月) 23:29:46.46 ID:OowvP4VX0
保守
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/19(金) 07:12:34.93 ID:2LesPwfK0
保守
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 23:14:21.72 ID:objbYOuMO
ほんの少しですが書かせてもらいます。外伝と呼べるかはわかりませんが龍驤と提督が発狂していた時の話です



狂日

「あひゃははははははっ!沈め沈め沈め沈め!」

今日もまた神通はんの叫び声で目が覚める。朝方までやることギッシリでやっと寝れたと思ったらこれや。
神通はんは朝やろうが昼やろうがお構い無しに暴れよる。もう何が敵で何が味方かすらわかってないみたいや

「やめて下さい神通さん!そんな装備で海に出るなんて!」
「ゼンブワタシが壊す。コワスコワスコワスコワス。…」

夕張はんが必死で神通はんを止めてるけど練度の差は大きい。夕張はんを振り払うと神通はんは単艦出撃して行った

「痛あ・・」
「夕張はん怪我とかしてない?」
「大丈夫です、でも神通さんが一人で出撃してしまいました・・」
「ウチらにはどないしょうもできへん、せめて鎮守府で暴れやんのが救いやで」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 23:17:15.74 ID:objbYOuMO
夕張はんは潜水艦の子らに付きっ切りやから他にできることはウチがせなあかん。執務室に向かおうとした所で今度は龍田はんらを見かけてしまった



「シネ」
「あがっっっぐ・・」
「あああぁぁああぁぁアぁァァァァ!」


龍田はんは槍の柄で暁の首を突き刺しとる。ほんでその脇には頭を抱えて叫んどる響がおった。暁は息ができてないみたいで顔色が悪い。このままやとあかんからとにかく槍を引っ込めるように説得せなあかん



「龍田はんお願いやからやめたってくれる?」
「オマエもシネ」
「がっっっっ・・」


暁に槍を突き立てたままウチの首を絞めてきた。首の骨が折れるん違うかっていうくらい強い力で絞めてくる。右手で槍を持っとるから利き手は右手のはずや。ウチの首を絞めとる左手はそこまで強くないはずやのに。



「シぬ、シヌ・・また死ぬぅんああァァァァ※△○◇!」


響は向こうの言葉で叫んでるみたいやけどどないすることもできへん。暁はとうとう声も聞こえへんようになった。次はウチの番なんやろか。ウチはこのまま死んでしまうんか。
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 23:19:02.53 ID:objbYOuMO
いっそこのまま死ぬ方が楽かもしれん。龍田に殺してもらった方が楽かもしれやん。司令はんも狂ってしまったこんな日々は地獄でしかない。この世が地獄なんやったらあの世はきっと天国や。もうやれることは全部やったんやから恨まれることはないでな。ウチがそう思って体を力を弱めた瞬間、龍田はんは突き飛ばされて廊下に転がっていった



「しっかりしなさい暁。意識はあるの?」
「ゲ・・ほっっ・・」
「意識はあるみたいで安心したわ黒潮は平気?」


雲龍はんにお礼を言いつつウチは平気って答える。龍田はんは雲龍はんの一撃でのびたみたいで動いてなかった



「龍田は私が面倒見るから安心して」
「ウチは暁と響のフォローしとくわ。助けてくれてほんまにありがとうな」
「これくらいなんて事ないけど、提督はどこに行ったのかしらね。提督も漣も早く帰ってこないかしら」


雲龍はんの中ではあの事件がなかったことになっとる。龍驤はんが電車に轢かれてカタワになったのと漣がここから逃げ出したことが綺麗サッパリ消えとるんや。
それだけや無くて今が何月何日かも理解できてない。着任してきた日付けを言うたと思ったらその一か月の話をしだしたりするねん。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 23:21:48.73 ID:objbYOuMO
夕張はんによれば記憶障害かもしれんって言うてるけどそんなもんどうでもいいコイツらは全員狂っとるんや。
唯一無事やった潜水艦のみんなもそのうちあかんようになるやろ。そうなったらこの鎮守府は終わりや。


終わり、全部終わりや。せっかく艦娘として生を受けたのにウチはまた死ぬんか。こんなことやったら生まれてくるんやなかった。


何も考える気がなくてボーっとしとったら窓の外から空が見えた。雲一つない景色で上からここが丸見えになっとる感じやった。これやったらカミサマにも見てもらえてるんと違うかな。そんなことはあり得れへんけどウチの口は自然と開いた


「カミサマ助けて・・お願いやからこの地獄からウチを救って下さい・・・・」


ウチの独り言は響の叫び声にかき消されてカミサマどころか誰にも届くことは無かった
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 23:22:47.71 ID:objbYOuMO
お目汚しありがとうござました
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/02(金) 23:27:42.40 ID:+Pbvy/qso
おつおつ
よう踏ん張ったな…
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/04(日) 10:58:39.97 ID:w93enpFpO
おつ
酉つけてないということは>>1ではないってことかな?
良かったよ
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/04(日) 15:58:00.58 ID:XaXlXUNH0
乙です
正に地獄だな…
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 19:51:30.43 ID:zLVN/nU7O
勝手に書きました。口調などが一貫してない部分があるかもしれません。


これはガングートが爆撃から漁港を守る→記者会見の話の数ヶ月後、漁港が再開され数日経った日の話

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漁港
ワイワイ ガヤガヤ
ワイワイ ガヤガヤ


漁師1「いや〜爆撃された時はどうなるかと思ったがなんとかなるもんだな。」

漁師2「建物はピカピカ、通路はツルツル、死傷者が出なくて本当に良かったな。」

ガングート「全くだ、私に感謝しろよ。」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 19:52:18.79 ID:zLVN/nU7O
漁師1「おっ!ガングートさん、すみませんねまたボランティア頼んじゃって。」

ガングート「いや、私もこの漁港が再開されたらまた手伝おうと思っていたのだ、遠慮するな。
それよりこの荷物はいつもの倉庫に積んでおけば良いのか?」

漁師2「まったく、嬉しい事言ってくれるじゃないの・・・あ〜、このオレンジ色の箱はあっちにいる田中ってヤツに渡してくれ、あいつが整理するから、残りはいつもの場所だ。」

ガングート「了解した、では失礼する。」カツカツ

漁師1「さぁ、俺たちも仕事だ仕事。ボランティアばっかりに任せちゃ顔が立たねぇ。」

漁師2「本当だな、ははは!」

ワイワイ ガヤガヤ
ワイワイ ガヤガヤ
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 19:53:43.03 ID:zLVN/nU7O
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昼休み

ガングート「さて、次は・・・」

漁師1「オーイ!もう昼休みだぞー!」

ガングート「む、もうそんな時間だったか」

漁師1「ははは、そんな反応だと思ったよホラ」缶コーヒー

漁師1「そんなに普段の仕事に比べてこっちは楽かい?」

ガングート「あぁ遥かに楽だ、普段の生きるか死ぬかに比べたらな」カシュッ

漁師1「あんた達が居るからこっちも商売出来てるから感謝しきれないよ。本当にありがとうな。」

ガングート「同じ様な事を皆から言われているぞ、気にしなくていい。本当にこの国の人間は義理堅いな。」ゴクゴク

漁師1「・・・それにしても記者会見のガングートさんはテンパってて噛みまくりで面白かったな〜。」

ガングート「ッ!ゴホッゴホッ、貴様ッ!アレを見たのか!」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 19:55:23.43 ID:zLVN/nU7O
漁師1「見たも何も、ここで働いてる人全員であの会見見てたんだぞ。」

ガングート「なっ、全員でだと!」

漁師1「あっ、良いところに。オーイ!」
漁師2「ん?なんだ?」

ガングート「おい!仲間を呼ぶんじゃない!」

漁師1「ガングートさんの記者会見ってみんなで見たよな?」

ガングート「聞くんじゃない!」

漁師2「見た見た。すごい面白かったなアレ」

ガングート「お前も答えるな!」

漁師1「いつもは自信満々で鋭い眼光のガングートさんが挙動不振になって、何か喋る度に唇がプルプル震えてたよな。」

ガングート「思い出さなくていいそんな事!」

漁師2「俺は途中の『危険が危なかった』のやつが好きだけどな。」

ガングート「ぬぁぁぁ!蒸し返すんじゃない!鎮守府内でもかなりイジられたんだからな!」

漁師1「でもそんなガングートさんがこの漁港を守ってくれたから・・・」

ガングート「急に取り繕ったフォローを入れるな!なんなんだまったく・・・」カツカツ
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 19:56:16.02 ID:zLVN/nU7O
漁師1「ガングートさん何処行くんですか??」

ガングート「昼飯だ!缶コーヒーだけで腹が膨れるか!」

漁師2「あっ!ガングートさん、お詫びに奢りますよ!」

ガングート「何?本当か??」

漁師2「俺と1さんで奢りますから。」

漁師1「話題振ったのは俺だしな・・・機嫌なおして下さい。」

ガングート「・・・早く行くぞ!さっさと食べて仕事再開だ!」

漁師1「はーい」
漁師2「うーす」

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18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 19:57:24.14 ID:zLVN/nU7O
初めてこういうの書きました、楽しんで頂けたら幸いです。
つまらなかったごめんなさい。
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/05(月) 20:08:04.25 ID:0PJ/qziBo
おつおつ
鎮守府ても外でもイジられる親しみ易いガンちゃんいいね!
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:17:26.87 ID:WiC6eSNG0
途中までですが投稿します。
旧世界(傷付いた)から新世界(足りないもの)へどう変わっていったのか。『足りないもの』が始まる何年か前の所で終わります。
妄想バリバリなので合わない人がいると思います。ご了承ください。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:25:01.69 ID:WiC6eSNG0
神威「皆さん、着きました。」


提督「……ここか。」


望月「あ〜、疲れた〜。」


菊月「望月は何もしてないだろう……。三日月、この場所で間違いないな?」


三日月「えぇ、間違いない。ここです。」


千代田「ここで扉ってやつを開けば平和な世界になるのね。」


荒潮「今よりは良い世界になるって言ったけれど本当かしら〜?」


三日月「…………本当よ。理想郷、ニルヤカナイへの扉を開けばその力がこっちの世界に流れ込んで来る。理想郷の力が流れ込んで来るのだから、少なくとも今よりは良い世界になるわ。」


荒潮「……如月はどう思う?始まりの艦娘の言っていることは本当かしら?」


如月「わから…ない…。けれど…嘘を…ついている様には…見えないわ…。」


荒潮「そう……。なら、信じるしか無いわねぇ。」


龍驤「うちはもうこの体で満足してるんやけどなぁ……。もしかして今よりもナイスバディになってしまうんか!?ほんま困るわ〜♪」


曙「はいはい、存分に困ってちょうだい。大鳳、念のために海の底の確認してもらえる?」


大鳳「わかったわ。万全を期しましょう。……………………うん、大丈夫ね。」


羽黒「船の中過ごしやすかった!」


グラーフ「そうだな。揺れも殆ど気にならなかった。」


ル級「(船が揺れてグラーフが泣きついてくると思ったのに……!)」


ガンビアベイ「ほ、本当に船の上でやるんですか?」


ポーラ「直上に島でもあれば良かったんですけどね〜。仕方ないですよねぇ。」


三日月「ここが良いわ。三日月、そろそろ…………。分かりました、始まりの艦娘さん。」


三日月「さぁ、皆さん。ここに大きい扉があるとイメージしてください。そして自分の中にある力を放出してその扉を捉えてください。」


三日月「捉えた。そのまま押して!いきます!」

22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:34:38.20 ID:WiC6eSNG0


ガシッ ズッ……


千代田「うぅ……重い。」


菊月「くっ、司令官!支えてくれ!」


望月「まじ面倒くせ〜……でもやるしかないか!」


ポーラ「車椅子はポーラが押します!ガンビアベイさんは扉の方に集中してください!」


ガンビアベイ「T……Thank you!(ポーラさん本気だ……。が、頑張らなきゃ!)」


龍驤「これちょっち重過ぎやぁ……曙、まだまだ行くでぇ!」


曙「言われなくても……くっ。」


羽黒「皆が好きだから。だから頑張る!」


神威「皆さんの力に少しでもなれるなら私も頑張ります!」


グラーフ「ル級、一緒に頼む!」


ル級「もちろんだ。……グラーフ、この扉を開けて世界がどうなるか未知数だ。それでも怖くないのか。」


グラーフ「ふんっ、散々話しただろう。怖がって先に進まなかったら平和な世界になんてたどり着けない。・・・・・・怖いのは変わらない。それでも進めるのなら進むのだと。」


ル級「……そんなグラーフも悪くない!」


大鳳「私はこの扉の先、扉が開いた世界の先まで見透してみせるわ。はっ!」


ズズズッ……


三日月「……私は艦娘が虐げられる世界なんて望まないわ。三日月も皆も協力してくれてありがとう。」


荒潮「まだ開いていないんだから、もう終わった事のように言わないでもらえるかしら……!」


菊月「そうだ、終わったら桜の丘で花見をしないか?」


曙「それ今言うの!?」


望月「おぉー。いいねぇ。」


千代田「じゃあ師匠と私と曙で食事の用意しましょ。」


ポーラ「ポーラはワインを用意しますね〜。とってもとっっても楽しみです〜。ザラ姉様達も連れて行きましょう〜。」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:44:26.84 ID:WiC6eSNG0




ーー


ーーー


ザラ「……提督。」


ザラ提督「どうした?」


ザラ「平和な世界になるのだとしたら怪我が起こらない。そうすれば怪我が因果となった出会いも消える。」


ザラ「そして過去が変われば今も未来も変わってしまう……。もしそうなるとしたら提督……。」


ザラ提督「……ザラのことは忘れない。忘れたくない。もし忘れたとしても必ず迎えに行く。だからそれまで待っていてくれないか?」


ザラ「あ……。ずっと……ずっと待ってます……。ふふっ。」


ーーー


ーー





千代田「ひ、ら、い、た!」


菊月「ああ……で、一体どのように変わる……んっ…風?」


提督「……!全員俺の所に集まれ!飲み込まれるぞ!」


ーーー


ーー




24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:47:40.12 ID:WiC6eSNG0



「………………んっ。ここは?」


寒い。暗い。何があったんだっけ。そうだ。扉を開いたら光と風の奔流を受けて……。


「皆!」


返ってくる私の声が無情に突き刺さるだけ。


「菊月!」


そう叫ぶと、錆びついた扉を開ける音と太陽の光が私に飛び込んできた。


「私の名前を呼んだか?」


菊月だ。
私は寒さと喜びで体を震わせながらも菊月の所まで走った。
その姿を見るまでは。


「えっ……。」


右腕がある。右目もある。髪も赤色に変色していない。


いや、扉を開けて平和な世界になったから治ったのね。


そんな私の希望は



「誰だ?貴様。」



容易く打ち砕かれた。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:55:22.52 ID:WiC6eSNG0
ーーー

ーー




「お茶です。どうぞ。」


「ありがとう。いただくわ。」


私は菊月に不審艦として応接室まで連れていかれた。
目の前には私を睨む菊月、ソファで寝転んで雑誌か何かを読んでいる望月がいる。


「……望月。」


「ん。呼んだ?」


「その、体は大丈夫?」


「実はさっきまで遠征に行っててさー。あぁー、しんど。マッサージでもしてくれるの?」


「そう、ね。やらせてもらえるかしら?」


「おい、望月。こいつは所属場所が怪しく、私達の鎮守府の倉庫に忍び込んでいたやつだぞ。何をされるか……」


「菊月、客人に失礼過ぎ!もっちもほら、何させようとしているの!」
「してくれるって言ってるんだから良いじゃん。……あーそこそこ。凝ってんだよねー。」


深海棲艦化していない。普通の『望月』だ。なら私の知っている望月とは違う。違う『望月』だ。
なのに私の感覚はこの望月が私の知っている望月だと訴えてくる。


「菊月、謝って!謝らないとまた実験するよ!」


「うげっ!菊月、早く謝れって!」


「はぁ……。確かに失礼だった。悪かった。」


「別に気にしてないから……。ねぇ、菊月。左手で握手してもらえる?」


「なぜ左手?まぁ構わないが…………んっ。」


菊月の手を取る。
千代田と演習した後、一緒にお風呂に入って菊月を応援した。その時に握手したのと同じ感覚。
……あぁ、平和な世界ってそういうことなのねぇ〜。
すると応接室の扉が開かれ、軍服を着た男性が入室してきた。


「司令官。どうでしたか?」


「彼女、荒潮の言っていた鎮守府についてもう一度調べてみたが何も出てこなかった。A提督って人もいなかったよ。それで、もし良かったら……」


「ん〜?A?」


望月が雑誌をパラパラめくっている。覗いてみる。どうやら望月が読んでいたのはファッション雑誌らしい。そしてあるページを開いてテーブルの上に置いた。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 18:58:20.95 ID:WiC6eSNG0

「Aってこの男性モデル?」


そうよねぇ。平和な世界なら提督になってないわよねぇ。なら、こう言うしかないじゃない。


「違う人だわ〜。」


「そうだよねー。」


「……で?司令官は続けて何を言おうとしたんだ?」


「あぁ。荒潮さえ良ければドロップ艦として着任しないか?」


「超低確率のドロップ艦としてですか?」


「超低確率?」


「はい。ドロップ艦は超低確率で……もしかして知りませんでした?」


「あたしだって知ってるよー。」


「誰にでも知っていること知らないことがあるだろう。比べることじゃない。」


この世界だとドロップ艦は希少なのねぇ。


そうだ。


「ねぇ、欠損艦っていないのかしら?」


4人とも目を丸くして私を見てくる。
あら〜、聞いたらまずかったかしらぁ。
そう思っていると三日月が口を開いた。


「欠損艦なんていませんよ。艤装展開中なら大きな怪我もしないんですから。怪我をしてもかすり傷程度です。」


「欠損って深海棲艦に腕とか食べられちゃうわけ?そんな戦いやってらんねー。」


「そんな仕様だったら負け戦になるな。艦娘が最初から今の仕様で本当に良かった。」


「艤装を展開しなければ欠損は起こるだろう。だが今のところそういった話も聞かないな。何か気になることがあるのかな?」


「いいえ、混乱させてごめんなさいねぇ。」


私達が存在するってことは深海棲艦がいる。そして戦いもある。
けれど私達の世界みたいな被害は出ないのねぇ。
なら皆は私達の世界の事を思い出さない方が良いわねぇ。
いえ、菊月も望月も欠損や深海棲艦化が起こっていない。艦娘の常識さえ変わっている。
だとすればこの世界は艦娘誕生から変わっていると考えるのが妥当ねぇ。
だから知らない方が良いっていうのが正しいかしらぁ?


私達の世界で起こった悲しい出来事は私の中だけに閉まっておきましょう。
……でも楽しいこともあったわねぇ。


「うーわぁ、司令官泣かせた。泣かせるのは三日月だけにしときなよ。この前の出張の時に私も一緒に行きたかったって泣いてたんだから。はいハンカチ。」


「え?」


あらやだ大変。泣いちゃった。

27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/11/06(火) 19:00:24.02 ID:WiC6eSNG0
一旦ここまで
また書きためができたら続きを載せます
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/06(火) 19:09:17.75 ID:B28AqxsAo
たんおつー
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/06(火) 20:08:54.74 ID:WiC6eSNG0
扉を開く前の望月の台詞にカタカナを入れるのと改行ミスしてしまった〜。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/08(木) 17:40:16.53 ID:X3JKU8xv0
>>26からの続き また途中までですが投稿します。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/08(木) 17:46:26.46 ID:X3JKU8xv0
「大丈夫ですか?……ってもっち!言わないでって言ったでしょ!」


「……あー。そうだな。今度は三日月も一緒に行けるように手配する。」


「あ……ありがとうごさいます。」


あらあらぁ〜。良いわねぇ〜。


「ラブラブー。ひゅーひゅー。ここは万年春だなぁ。」


「んもぅ!もっち!」


「羨ましいな……。」


「菊月まで!」


「ははは……。それで荒潮。どうだろう?うちに来ないか?」


本当に楽しそう。私も……。でも……。


「保留にして良いかしらぁ?」


「荒潮が良ければ理由を聞きたい。」


「少し旅をしたいからよ〜。」


「…………鎮守府に迷惑をかけてしまうかもしれない旅なのか?」


あらぁ。この提督、結構鋭いのねぇ。


「そうねぇ〜。そうなるかもしれないわねぇ。」


「鎮守府に籍を置けば鎮守府が気になってその旅が出来なくなるか……。わかった。なら少しばかりだが援助をしよう。」


「それでそちらに何のメリットがあるのかしらぁ。」


「面白そうで奇妙な運命に恩を売るのも良いだろう?」


……凄い慧眼を持っているわね。怖くなってきたわ。
それはともかく、確かに少し協力は欲しいわね。


「……そうね。じゃあ……」


そうして協力して欲しいことをあげていく。
ふと横をみると、菊月が雑誌を熱心に見ている。どうしたのかしら。


「……なぁ望月。私もこの雑誌が欲しいんだかどこで売っていたんだ?」


「んぉ?菊月がそういう雑誌に興味を示すの珍しいねぇ。2冊持ってるし、欲しいならそれあげるよ。」


「感謝……。何故かこのAとか言う奴に妙に惹かれるんだ。」


「菊月も?あたしも同じだー。だからいつもは買わないような雑誌2冊も買ったんだよねー。なんだろうね。」


……これも運命なのかしらねぇ〜。
そういえばザラさん達はどうなっているのかしら。この提督に聞いてみましょう。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/08(木) 18:00:47.79 ID:X3JKU8xv0


「その鎮守府は知っている。そこの提督からイタリアのお土産を貰うんだ。頻繁に行く理由は……確か『恋に落ちた。』とかだったか。いつも仏頂面なのに、その話をするときはよく笑うんだよ。」


今度は心配なさそうねぇ。


「……では準備に時間が必要だからその間はバイト艦としてここで働いてもらう。勿論給料は出す。お金は必要だろう?」


「しばらくお世話になるわ。よろしくね?うふふっ。」

ーーー


ーー




「艦隊が戻ってきまぁ〜す。」


「大分暴れまくっていましたね……。」


「けっこう壊しちゃったぁ。お風呂に入るわねぇ〜。三日月、艤装の整備お願いできる?」


「任せてください。」


聞いていた通りの性能ねぇ。私の艤装もちゃんとこの世界に適応していて良かったわぁ。

一通り洗い終わって広い浴槽にゆっくりと浸かる。
お臍の横に入れた桜のタトゥーは消えていない。良かった。
……艤装の中にお札の貼られた球、如月はいなかった。あの子達はあの球をどこから見つけてきたのかしら。


……もし球が見つかったとしても、この世界になったから干渉できないかもしれない。
そうだとしたら私達の世界を知っているのは実質私1人だけ。あの時味わったような孤独感にまた攻められる。
せっかく平和な世界になったのに皆が私達の世界を知ってしまうのは避けたい。
でも私の中には私達の世界を知って欲しい、共有して欲しいという思いもある。アンビバレンス。
だから旅に出る前に一回だけ会う。ここの提督に協力してもらって、千代田と曙はそれぞれ元々いた鎮守府に所属していることがわかった。アポイントメントも取ってもらった。他のメンバーは難しかった。


千代田、仲間との関係は良好かしら。他の子の娯楽品とか勝手に捨ててない?出撃ばかりして体壊したりなんかしてたら怒るわよ。
曙、提督との関係はどう?
調べてもらって、例の火事は起きていないのはわかったわ。そちらの提督も私達の世界にいた人とは違うみたい。だから火傷の傷なんて出来てないでしょう?あぁ、でも包帯を巻いていると何故か安心するとか言われたら笑っても良いわよね。


艦名が同じなだけで別の艦娘かもしれない。本当に同じ艦娘だとしても、菊月や望月のように知っていないかもしれない。それでも良い。一回だけ会おう。それがこの気持ちを納得させるための方法。

……ちょ〜っと眠くなってきちゃった。お風呂上がりにバナナジュースでも作って飲もうかしらぁ。
そしたら明日の準備の確認をして今日はもう寝ましょう。

33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/08(木) 18:01:32.48 ID:X3JKU8xv0
一旦ここまで
また書きためができたら続きを載せます
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/08(木) 18:34:52.38 ID:9YpTKUlAo
たんおつー!
35 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:12:27.92 ID:Z/n76TvWO
途中まで投稿されている方がいるのでコテハンで投稿させていただきます

・龍驤が鳳翔のお店で酒を飲みながら語るお話
・時系列的にはどこにおいても何とかなるかと思います
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/17(土) 18:14:31.54 ID:Z/n76TvWO

ー鳳翔のお店ー

……お、おったおった。おつかれさん。

飲みもの?せやなぁ、とりあえずビールでええかな。



お、きたきた……鳳翔はんありがとうな。


キュポンッ


トクトクトクトク……



んじゃ、乾杯!

チンッ


ゴクッゴクッ



……ぷはぁー!頑張ったあとのビールは最高やなぁ。


37 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:15:48.38 ID:Z/n76TvWO



……それで、どないしたん急に?『2人だけで飲みたい』なんて。

ウチ、あんまり飲まれへんけど、ほんまに大丈夫か?

しかもここ個室やんけ。そんなに聞かれたくない話なん?



……ええで、大丈夫や。ここでの話はウチらだけにしとくから、な?

大丈夫、大丈夫。ツラいのはよーわかる。
戦いだっていつ終わるか分からへんし、いろんな敵に脅かされてるのも楽なことやない。

みんながみんなそうやんや。キミだけやない。

つらかったら、いつでも頼ってくれて、ええんやで……?


38 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:17:08.52 ID:Z/n76TvWO








……え?そういう話じゃない?


ウチと提督のえっちやと!?アホか!!







あっごめんなさい……静かにします……。


39 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:18:55.93 ID:Z/n76TvWO


ったく、たまたま誰もおらへんかったから良かったわ……




あ!?誰もおらへんから別に話したっていいじゃない!?

絶対話さへんわ!帰るで!!




……もう止めるから飲もう?

ったく、しゃあないなぁ……


ええか?ウチが酒に弱いからってペラペラ喋ると思ったら大間違いやからな!!


鳳翔はーん!なんか適当に作ってくれへーん?あと日本酒、熱燗でたのむわー!

ウチの?ちゃうちゃう、2人で飲む分やで?

大丈夫やって、最悪鳳翔はんが提督か誰かに電話してくれるから。

気にせず飲もうや、な?
40 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:21:04.51 ID:Z/n76TvWO


……………………


………ハハハ……ウフフ……


…………声が聞こえる……?




「……ったく、困ったもんや、ウチの性事情なんて知って一体何がしたいねん」

「まぁまぁ、龍驤さんと提督さんの仲はみんな知ってますし、気になることだってありますよ」


龍驤さんと……鳳翔さん?


「そういうもんなんかなぁ……んくっ、そろそろやめとこうかな」

「あら、もうおわりですか?

……龍驤さん、途中から飲んでませんでしたよね?」


え?


「鳳翔はんやって片棒担いでたやろ?途中からのウーロンハイ、ただのウーロン茶になっててびっくりするとこやったわ」

「うふふ、へべれけ対策だって最初に相談したのは龍驤さんですよ?」

「何度か酒で潰されてるからなぁ……鳳翔はんも最初の時からすり替えるの上手なったわ」

「あら龍驤さんだって、相手の方にお酒を勧めるの、お上手になりましたよ?あの日本酒、ほとんど飲ませてましたよね?」

41 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:23:14.80 ID:Z/n76TvWO


…………あ、また、眠気が…………



「でも、私も気になりますね」

「ん〜?何が?」

「龍驤さんと提督さんの、夜のこと♪」

「えぇ…………?」

「先日来た方がおっしゃってたのを聞いちゃいました。なんでも龍驤さん、

首を絞めていただくのがお好き……だとか」

「」ブッ


えぇっ!?


「ゲホッゲホッ……なんか、声せえへんかった?」


いけない、寝たふり寝たふり……


「……気のせいじゃないですか?」

42 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:25:36.96 ID:Z/n76TvWO

「そうかなぁ……ま、えぇわ。鳳翔はん、今日の煮物ちょうだい」

「はい、ただいま……それで、首絞めのお話なんですけど」

「……話逸れへんかぁ」


あれ、本当だったんだ……


「うふふ、私も1人の女性として、殿方との営みは気になりますから……それに、今日は小さな2人はお休みなんです」

「う〜……鳳翔はんとウチの仲やから、特別に話してもえぇけど……別に面白くもなんともないで?」

「ありがとうございます。それに……」チラッ




いま、こっちを……!?


「……いえ、なんでもありません」

「?」
43 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/17(土) 18:31:35.06 ID:Z/n76TvWO

『龍驤の異常な愛情 または提督は如何にして心配するのを止めて首を絞めるようになったか』

龍驤が戦線復帰するまでの過程を中心に、なぜ龍驤が首絞めを好むのかを考察したお話

・これは妄想です
・呼称、喋り方、設定でガバったら脳内変換で
・ブラックジョーク要素はありません
・核戦争が起きたりとかしません
・これは妄想です

とりあえず触りだけです
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/17(土) 19:35:10.41 ID:AmauPpOOo
たんおつー
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 01:26:12.59 ID:EApYW/Rz0
乙ですって!
鳳翔さんが「首を絞めていただくのがお好き……だとか」なんて言うところに凄い背徳感がある。
題材も文体も良さげて楽しみですね。
また、トリップをつけられたということで、分かりやすくしてもらいありがとうございます。
お互いに楽しんでいきましょう。
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 20:13:05.72 ID:EApYW/Rz0
>>32からの続き
また途中までですがよろしくお願いします
酉は後からつけることにします
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/11/18(日) 20:25:07.88 ID:EApYW/Rz0
undefined
48 : ◆6yAIjHWMyQ [saga]:2018/11/18(日) 22:04:40.74 ID:EApYW/Rz0
 そして翌日になった。
うららかな春の朝日は、布団から私を追い出して目を覚まさせる事はするが、気持ちまでは晴れ晴れとしたものにしてくれない。
今日は曙に会う日。千代田の鎮守府の方が距離は近いのだけれどもそれは日程の関係。
 支度を終えた私はここの提督――――サングラスを掛けているからグラサン提督と呼ぶことにした――――に鎮守府内の如何にもな高級車が置いてあるところまで案内された。
するとグラサン提督から助手席のドアを開けられてどうぞお嬢様と微笑まれた。サングラス姿も相まって非常に付き人らしくみえた。
ありがとうお・じ・さ・ま♪と冗談を言うと渋い顔をされた。イケナイ事をしているみたいだって。不審艦を匿っているのはイケナイ事じゃないかしらぁ。
そう言うと何故か勝ち誇った顔をするグラサン提督。不気味だわぁ。


 グラサン提督が機嫌良く運転している横で、私は三日月から貸してもらっていた書物の続きを読む。この世界の艦娘の扱いや歴史などを頭に入れる為だ。
あっ、この世界だと『本営』表記が『大本営』表記になっているのねぇ〜。細かいところにも気をつけなきゃ。
 そんな感じで読み進めていると、グラサン提督にグローブボックスを開けてみてと言われた。何が欲しいのか聞いてみてもまぁまぁ良いから開けてみてと言われるだけ。


「私の分のサングラスでもあるのかしらぁ〜?怪しい人ねぇ。」


なんて返しながらきっと私に被害が及ぶようなことは起きないだろうと思い、短い付き合いだがグラサン提督を信用している自分に内心驚きつつ、グローブボックスを開けてみる。
中には車検証と思わしき書類が積まれており、その上に艦娘の身分証明証があった。手に取って見てみる。
『グラサン提督の鎮守府近海でドロップ。以降無所属。』
 先ほどの勝ち誇ったような顔をした原因はこれかと頭を抱えた。大鳳の男女関係観を聞いた時の事を思い出した。あの時も頭を抱えたわ。


「大本営に申請してドロップ艦として私の身分証明書を発行したのね。公文書偽装じゃないの。」


「そこそこの権力を持っているから平気だよ。こういう良い事に使う分には特にね。ウチの近海でドロップして倉庫に潜んでいたとすれば嘘じゃない。」
「どこかの鎮守府に所属したい時とか買い物をする時にそれを持っていれば色々便利に事が進む。生活していく上で必要だろう?せっかく作ったから貰ってくれるとうれしいな。」


「仕方ないわね〜。じゃあ……貰っておいてあ・げ・る♪」


 出来るだけ迷惑をかけたくないと思う一方、私はこの世界に存在しても良いのだと言われたようで気持ちに少し日が射した。

49 : ◆6yAIjHWMyQ [sage]:2018/11/18(日) 23:02:27.47 ID:EApYW/Rz0
短いですが一旦ここまで
また書きためができたら続きを載せます
誰が喋ったのか名前を付けなくてもわかりますかね?
50 : ◆6yAIjHWMyQ [sage]:2018/11/18(日) 23:20:43.64 ID:EApYW/Rz0
訂正
大本営に申請してドロップ艦として→ドロップ艦として大本営に申請して
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 00:13:33.48 ID:kMIvdiN6o
たんおつー
大丈夫よ
52 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:20:57.75 ID:PC7kVGmT0
投下
53 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:23:44.80 ID:PC7kVGmT0



「どこから話そうかな……ウチが艦載機飛ばすために、身体に印を刻んでるって話は知っとるよな?」




巻物と艦載機、両手を使わなあかん龍驤型の艤装。

事故でカタワになってもうたウチは、血眼で戦線復帰の道を探していた。


いろんな理由があるで?


戦い以外の生き方を知らなかったのもある。


ただただ、死に場所へ行きたかった……ってのもある。


でも、理由はそれだけやなかった。
54 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:25:45.07 ID:PC7kVGmT0

あの時の鎮守府は、今みたいに大所帯でもないし、軍功だってそこそこの小さな鎮守府。

いつ何が起きてもおかしくない中で、とにかく出撃を重ねて戦績を稼ぐ毎日。

そんな最中に、ウチが事故に遭って、鎮守府が機能不全に陥った。

いますぐに取り潰し……そんな処分が下されてもおかしくない状況やった。




鳳翔はんも知っとるやろ?ウチらが発狂していた間、潜水艦のみんながギリギリのところで支えてくれたこと。

でも、それはあくまで最低限のラインを守りきってくれただけ。

少なくない艦娘を預かる鎮守府として、数ヶ月機能していなかった遅れを取り戻し、機能していることを証明せなあかん。




潜水艦たちはもういない。

何とか立ち直ったやつらだけで作った水雷戦隊や雲龍だけで、莫大な遅れを取り返すのは至難の業。

ウチが戻らんかったら、どうなってたかも分からんわ……
55 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:27:39.04 ID:PC7kVGmT0

ウチが艦載機を飛ばす方法、それ以前に航行する方法を模索してる間、鎮守府は日に日に酷いものになっていった。

結果を出せない鎮守府には当然資材も報酬も満足には与えられない。

戦域を鎮守府近海に抑えて燃料を節約し、クリティカルヒットを意識して弾薬も最小限にする。

修復も大破時以外は無し。

最小限の支援で最大限の利益を図る、まさにブラック鎮守府や。


お互い、闇の中からようやく帰ってきたばかりの寄せ集め。

励ます余裕も無く、みんな黙りこんで、流れ作業のように出撃と帰還を繰り返してた。


(頭の中)ブラック鎮守府が立ち直ったと思ったら(経営)ブラック鎮守府に、なんてな、わはは。






…………ウチ、そういう鳳翔はんの優しい笑い方、好きやで。
56 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:30:24.69 ID:PC7kVGmT0

片足だけで航行する方法をようやく物にしたのは、いっそのこと本当に心中しようかという考えが鎮守府に広まりだした頃だった。




ところで鳳翔はん、修復材って知っとるよな?

負傷した艦娘が使用することで身体を治療する『液体』や。

本来、修復材は原液を薄めてドッグで長期的に使用する方法と、原液をそのまま使用して即時回復させる方法がある。

財政火の車の鎮守府やから、当然原液で使うなんて言語道断。

しかし、時間のかかるドッグでは出撃数に無駄が出る。


そんな時に夕張と北上が思いついたらしい。




『支障をきたす傷だけ修復材で治療すればいいのでは?』



57 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:32:09.78 ID:PC7kVGmT0

実験は成功やったよ。


患部に原液を塗ることで、応急処置的に傷口を塞ぐことができた。

極端な話、腕がちぎれても原液を塗ればとりあえず塞がるんや。


これの良いところは、少ない修復材で多くの艦娘を治療できること。

そうすれば出撃できる回数が増えて、おのずと戦果も上がる。

さすがに完全再生させるには入渠せなあかんかったけど、帰還と出撃のサイクルは明らかに早くなった。


どうにか結果を残せるようになって、日々の配給や報酬も多少はよくなった。

明日の朝も迎えられるか分からん鎮守府は、しばらく生きていけるくらいには回復したんや。




理論的には、な。






58 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:34:05.40 ID:PC7kVGmT0


「そんなことが…………」

「あんま知ってる子もおらんと思うで。ここ最近は艦娘もだいぶ増えたことやし」


ガラガラガラ


「こんばんは、龍驤来てませんか?」


この声……提督?


「あれ?どないしたん?」

「お前が飲みに行ったっきり帰ってこないから、みんな心配してたんだ」

「えっ……げ、もうこんな時間かいな!?」

「あらあら、私も気づかなくて……とりあえず、暖簾を下ろしてきますね」パタパタ

59 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:35:57.82 ID:PC7kVGmT0

「何もなくて良かったよ……ん?龍驤だけか?」

「あー、それやったら、そこに」


ね、寝てますよー…………(汗)


「寝てるのか……とにかく龍驤、帰ろう」

「あら、まだお話が終わってないですよ?」

「お話?」

「あれやねん、鳳翔はんに、ウチらの、その……営みのこと、聞かれてな///」

「営みって、お前…………」

「ええ、ですがまだそのお話までたどり着いてなくて」

「あれや、ウチが身体に印刻んだ時のこと」

60 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:36:58.05 ID:PC7kVGmT0

「あれか……鳳翔さん、もしかして、修復材のことも?」

「えぇ、お聞きしましたが……」

「……このこと、絶対内緒にしてくださいね?特に金剛や羽黒には……



……下手すれば鎮守府が潰されるかも分からないので」


えぇっ!?


「!?誰かいないか!?」


……す、すぴー、すぴー…………


「……気のせいか?」

「そうなんちゃう?こんな時間に歩いてなんかおらんやろ?」



「あの、提督さん。潰されるって……」

「あぁ、それなんですけど……」


61 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:38:20.68 ID:PC7kVGmT0

修復材は所定の方法以外での使用は禁止されてるんです。

龍驤から聞いたと思いますが、使用方法は2つ。ドッグでの使用と、高速修復材としての使用です。

この時、違法な使用を防ぐために、バケツの中身は一括で使い切り、即時破棄する義務があるんです。


これ以外の使用方法を用いた場合、当然罰則が課せられるんですけど……




どうやって凌いだかって?


夕張が空バケツを偽造して、北上が帳簿を誤魔化していたそうです……



62 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:39:48.95 ID:PC7kVGmT0

「まぁ…………」

「……くれぐれも他言しないようにお願いします」

「まぁここまで話してもうたし、もう鳳翔はんも共犯や」

「あらあら、それは困りましたね……♪」

「まったく……とりあえず鎮守府に連絡してくる」ピポパ



モシモシ?アァ、サザナミカ。ジツハ……



「でも、提督さんが思い出したくないとは、そんなに悔やんでいるということなのでしょうか」

「あの修復材の話、実は致命的なデメリットがあってな……」

「デメリット、ですか?」

「まぁ、追い追い話すわ」

63 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:40:52.58 ID:PC7kVGmT0

「…………うん、頼む。では」ピッ

「何やって?」

「今日は2人で楽しんでこい……だとさ」

「あら、いい秘書艦さんじゃないですか」

「まぁ、たまにはいいか。鳳翔さん、熱燗をください」

「はい、一緒にお料理もお出ししますね」

「ありがとうございます」



「では」

「改めて」

「「乾杯」」


チンッ



それで、どこまで話したんやっけ?

64 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2018/11/19(月) 23:42:33.87 ID:PC7kVGmT0

ここまで
本家で増えた設定に絶賛焦ってますが、まだまだ長いので頑張ります(汗)
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 01:35:44.56 ID:1wCBsw58O
おつ
良いですね
少し気になった事があるのですが
>>極端な話、腕がちぎれても原液を塗ればとりあえず塞がるんや。
艤装展開中はそのような傷を負うことはなく
かつ艤装解除時に負った傷は雲龍や瑞鶴、榛名の例から修復材では治すことが出来ないと思われるのですが
そのところはどのようなお考えなのでしょうか?
66 : ◆lxd9gSfG6A [sage]:2018/11/20(火) 10:12:24.32 ID:spKjnhna0
>>65
これはやらかしましたねぇ……
序盤で「出撃の怪我は修復材で治る」ってあったので、修復材をかければ傷や弾痕が治って回復するイメージでしたが、直後の「敵の攻撃で腕が千切れるなんて艦娘じゃない」を見逃すとは……
腕の無い龍驤のブラックジョークだと思ってください




さすがに無理がありますねすいませんでしたぁぁぁぁあ!!

67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 10:23:22.47 ID:QZlSr4HWo
そんなに気にしなくてもいい
外伝書くってだけで賞賛もの
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 10:49:48.70 ID:v9TUrBCDO
艤装の効果で重傷は防げるにしてもその艤装がダメージを受けすぎて損傷したら効果も消失するとかは考えたけど
そもそもそんな状態になったら欠損がどうとかより轟枕確定かな
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 13:05:26.75 ID:zsMULQiuO
好きに書いて…どう解釈してもいいから…
書いてくれるだけで凄く嬉しい…
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/20(火) 18:17:35.04 ID:ggNePMyn0
乙です
良い雰囲気だなぁ 一体誰が寝たふりをしているのだろうか

変に取り繕う文を書くよりはその一行分をなかったことにした方が書きやすいかもね なくても問題なさそうですし
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/18(火) 00:15:55.14 ID:la50Nsh60
保守
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 13:59:40.30 ID:BWF1i+bVO
目覚ましが鳴り眼が覚める。いつも通りの変わらない部屋の中でひと伸びしたあと、男は部屋を出て行く。

「寒い……」

男は無意識にそう呟く。住んでいる『アザレア』というアパートは家賃が安いが特殊な建物で、部屋の中に台所が無いのだ。全部屋2L、こんな物件を探せと言われる方が難しいだろう。

洗面所とトイレは共有なので気温がマイナスになろうが顔を洗う為には部屋を出る必要があるのだ。

「寒い……」

蛇口をひねると氷のように冷たい水が出てくる。以前はこの共有の洗面所の水道はよく凍っていたらしいが、住民からのクレームが相次いだ為対策がとられそういう事は無くなった。
洗面所にかける金があるなら部屋に台所をつけてくれ…男はそう思いながら顔を洗い会社へ行く為の身支度を済ませる

「行ってきます」

男の台詞に答える人物は居ない。挨拶は口に出せと親から躾られた影響で意味もなく言葉を発しただけだった。
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 14:02:09.00 ID:BWF1i+bVO
「ただいま」

男は意味のない言葉を発し帰宅する。勤めている会社は所謂ブラックでは無いがホワイトでも無いありふれた企業である。決して給料が悪い訳では無いのだが、男はこのアパートに住み続けている。

「今日はミックス弁当が半額か」

ビニール袋から総菜屋の弁当を取り出し机に置く。その弁当は一人暮らしの男性には高級品といえるものだったが、半額ならば相場のものである。
男はそのまま食事を摂るかと思いきや、部屋着に着替え外出する。

その目的は近くにあるコインシャワーだ。風呂が無いアパートなのでこういうものを理由するしか無いが、案外悪くなく汗もしっかりと流せる。
そのコインシャワーは百円で一定量の湯が出る仕組みなのだが、男はいつも百円では足りず二百円を使う羽目になっている。だがその事について男は何とも思っていない。

この男の行動は矛盾しているように思える。安いアパートを借りているのに食事はそこまで節約しない。金が勿体ないのならコインシャワーだってなんとか百円で済まそうとするだろう。

しかし男はそうしない。なぜなら男は金を節約する為にここに住んでいるのではなく、ただ何となく決めただけなのだ。
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 14:04:06.87 ID:BWF1i+bVO
この男と「何となく」は切っても切れない縁で大学を決めた理由も「何となく」、今の会社を志望した理由も「何となく」である。

このアパートも会社から特別近い訳ではなかったが「何となく」決めてしまったのだ。『アザレア』という華やか名前とは程遠いこのアパートに惹かれるものがあるとは思えないが、それでも「何となく」ここに住み続けている。

「なんだ?隣の部屋から物音がするのか?」

夕食をしていた男の耳に雑音が入ってくる。隣の部屋は空き部屋だったはずだが確かに物音がする。音を立てないように玄関を開けて隣の部屋を見てみると扉の隙間から光が漏れていた。

「引っ越してきたのか……」

物音の正体が不審者でなさそうだと安堵し静かに扉を閉める。
引っ越しの挨拶が無いのが気になるが、昼間なら仕事で居ないし今はもう夜だ。夜の挨拶は迷惑だと思って自重しているのだろう。

挨拶をする気が無い迷惑を振り撒きそうな隣人が越してきた訳ではないと自分に言い聞かせつつ、男は眠りについた。
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/29(土) 14:07:32.49 ID:BWF1i+bVO
「寒い……」

次の日、いつもと同じように男は洗面所に向かう。だがそこには何時もと違う光景があった。

このアパートの洗面所は狭く、出勤時間が重なる時間には渋滞する。男はそれを嫌いわざわざ早朝に目覚ましを合わせているのだ。そうすれば誰かとかち合うことは無かったのだが、今日の洗面所には人影が見える。

一人だけならそこまで混むことも無いと男は気にせず洗面所に向かう。すると男の気配に気付いたのかその人物がこちらを振り向いた

「ああああ、あの……こここ、この水道って……」

その人物は淡い桃色の髪の毛でまさにアザレアのような色をした女性だった
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 15:27:41.96 ID:ceTzd8oAo
たん乙?
この切り口は思いつかなかった
続きがぜひ見たい
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 16:39:02.21 ID:BWF1i+bVO
「ここの水道はコツがいるんだ。先ずは根元の元栓を開けてから蛇口をひねる」

「そそそそそ、そうだったんですね……」

「大家から何も聞いていないのか?」

「はははは、はい……」

「あの爺さんついにボケ始めたか?」

「そそそそ、そんな事……ななな、無いです……」

「越してきたばっかりなんだろう?何か分からないことがあったら聞いてくれ」

「ええええ、えっと……?」

「俺は隣に住んでる男だ」

「あ……挨拶……を……ししししし、して……無かった……!」

「ならこれが挨拶でいいじゃないか。日中は仕事だから迷惑をかけることは無いと思う」

「わわわわ、私は……ああああ、明石……です」

洗面所で用を済ませ男が部屋に戻ってくると玄関で崩れ落ちてしまった。それなりに音が出てしまったが周りも起きている時間なので文句は言われないだろう
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 16:40:21.98 ID:BWF1i+bVO
「なんだ……あの女性は……それにこの胸の高鳴りは……」

男は恋愛経験があったがそれも人並みで「何となく」好印象だった女性と付き合っていただけだった。

そんな相手とは当然長続きなどするはずも無く、男も本気で誰かを愛したことなど無かった。

だが今の男の抱いているモノは今まで経験のした事の無いような高翌揚感とエネルギーに満ち溢れていた。

「明石……さん……」

男は「何となく」ではなく「本気で」女性を好きになったのだ。
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 16:41:46.64 ID:BWF1i+bVO
「明石さん、弁当ここに置いておきます」

「ああああ、ありがとう……ご、ございます……おおおお、お金を払い……ます……」

「気にしなくていいですよ。それより頑張って下さい」

「は、はい……」

俺はあの日から明石さんの部屋をよく訪ねるようになった。水道が無いのは知っていたのにキッチンが無いことには気付かず、飯をどうすればいいのかと半泣きで俺の部屋を訪ねてきたというのも原因の一つだ。

明石さんは何かの研究を独自でしているらしく、薬やそれに関する本がズラリと並んでいた。

明石さんの喋り方や仕事の事は何も聞いていない。一度そういう話になりかけた時に悲しそうな表情をしていたからだ。嫌われたくないというのもあるが、何より明石さんに悲しい表情をして欲しくなかった。
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 16:43:16.21 ID:BWF1i+bVO
「おおおおお、お金は……かかか、必ず払います……」

「余裕のある時でいいですよ。じゃあ俺はこれで」

「おおおお、お休みなさい……」


こんなアパートに越してきたということは金が無いんだろう。全額こっちが払うのは嫌がりそうだから、俺が払った金より安い金額を提示しておこう。そんなことより……

「お休みなさいか。誰かに言われるのは久しぶりだ」

今日はいい気分で寝れそうだ。
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 16:44:33.83 ID:BWF1i+bVO
「具合悪いんですか?」

「だだだだ、大丈夫……で……す……」

ある日明石さんが洗面所で突っ立っていた。顔を洗っていた素ぶりは無く顔は青白かった。足取りも重く真っ直ぐ歩くことも困難だったので、彼女の部屋まで介抱してあげた。

「病院に行った方がいいんじゃないですか?」

「へへへへへ、平気……です……ねねね、寝てない……だけ」

「無理はしないで下さいね」

「はははは、はい……」

あの顔色は寝不足だけでは無いと思うが、明石さんがそう言うのなら何も言えない。もっと様子を見ておきたかったが、ただの隣人がこれ以上部屋に居座るのもよくない上に出社時間も迫ってきていたので部屋を後にすることにした。
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 16:48:47.14 ID:BWF1i+bVO
「悪化したら救急車を呼んで下さいね」

「あああ、ありがとう……ごごごご、ございます……」

その日の俺は仕事が手に付かず、久しぶりに上司に怒られる羽目になった。

会社から帰ってくると明石さんの部屋には明かりが付いていて物音もしていた。動けるようにはななったみたいで一安心だ。後でもう一度様子を見に行ってみよう。

しかし気を使わせてしまう可能性もある。何か異変を感じない限り部屋を訪ねるのはやめておこう。

結局その日は会うことが無く俺は眠りについた。
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/29(土) 16:50:07.43 ID:BWF1i+bVO
「行ってきます……」

返事の帰ってこない嘆きを部屋に投げて出社する。明石さんに会えななかった朝はなんとなく気分が落ち込んでしまう。

そういえばここ数日は朝に会うことは無かったし、昨日は早くに寝ていたようで俺が帰ってきた時にはもう部屋の電気が消えていた。最近体調が悪そうだったから心配だ、研究も大事だろうが自分の身も大事にして欲しい。


「こっちだって早く!」
「わかってるわ!」
「○○……!」

すれ違ったのは艦娘……か?なんでこんな陸地を走っているんだ?この辺に鎮守府は無かったはずだが。

それに胸の大きかった艦娘は何か名前を呼びながら走っていたが、すれ違いざまだったのでよく聞き取れなかった。

だが俺には関係の無いことだ、勝手にしておいてもらおう。それより俺は明石さんの事が心配なんだ。

「今日は食べやすいものを買って帰ろう」

俺はそう呟きながら会社へと向かっていった。
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 17:30:39.95 ID:BWF1i+bVO
「寒く……ない」

暖房の効いた部屋で目を覚ました俺はそう呟く。新しく越してきたマンションは床暖房がデフォルトで入っているような素晴らしいマンションだ。ここに越してきて数日しか経ってないが、とても住み心地が良い。

俺が『アザレア』を出た理由はただ一つ、明石さんが消えてしまったからだ。会社から帰ってくると明石さんの居た部屋が空き部屋になっていた。大家に聞いても急に引っ越した、迷惑料として来月分の家賃も置いていったから文句が言えなかったと言われてしまった。

明石さんは携帯も何も持っていなかった。彼女とは隣人という繋がりだけだったのだ。明石さんとの繋がりが消えたアパートに何の未練も無く、俺はすぐに引っ越すことに決めた。

このマンションは以前のアパートとは東西真逆の位置にあり、通勤時間も増えてしまった。だが朝寒くもなく、トイレが自室にある部屋に比べれば大した問題ではない。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 17:32:01.08 ID:BWF1i+bVO
「行ってきます」

誰も居ない部屋にそう呟き部屋を出る。そしてエントランスに貼ってある壁紙をチェックする。ここにはこのマンションに関するお知らせや情報が貼られている。前のアパートでは大家の手書きのメモが投函されているだけだったことに比べれば随分と分かりやすい。

「俺の隣の部屋に引っ越しか」

部屋番号を確認すると確かに隣に新しい住人がくるらしい。そういえば明石さんもそうだったんだよな。

明石さんとの事で後悔していることが一つある。それは気持ちを伝えられなかったことだ。

向こうに好意は無かった可能性が高い。それでも言わなかったことに対しての後悔で胸が潰されそうになった。だから俺はあのアパートから引っ越したのだ。

運命の悪戯か何かで、もう一度彼女に会えたら俺は……
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 17:33:49.12 ID:BWF1i+bVO
だが現実的に考えると明石さんともう一度会うことは難しいだろう。名前しか知らずに務め先も分からないのでは探しようも無い。

叶わぬ夢を見るとはこういう気分なのか。俺は初めてこんな気持ちになったのかもしれない。

そうだ、俺は今までこんな気持ちを経験したく無いから「何となく」という選択肢を選んできたんだ。「何となく」選んで失敗してもダメージが少なかったからずっとこの選択肢を選び続けてきた。

人が前に進むためには挫折が必要だと聞いたことがある。挫折というには余り重いが、そう割り切ってしまおう。

俺は前に進んだ。人間として一つの階段を登ったんだ。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 17:35:45.49 ID:BWF1i+bVO
壁紙の前から移動しようとした時、管理室の方から大家さんの話し声が聞こえた。大家さんの大きい声によるとどうやらその引っ越してくる住人が来ているようだ。

ここの大家さんはマダムという言葉が似合う人で、趣味でこのマンションを経営しているらしい。俺とは住む世界が違う。

軽く溜息をついたあと外に出る為にエントランスを抜ける。するとその時に磨りガラスの隙間から一瞬管理室の様子が見えた。



そこにはアザレアのような色をした女の人が座っていた
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/12/29(土) 17:36:21.55 ID:BWF1i+bVO
『アザレア』
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/29(土) 19:27:44.80 ID:nINio5SCo
おつおつ
外(民間)から足りないもの鎮守府のメンバーを見た様子が良く表現されてて好きです
90 : ◆6yAIjHWMyQ [saga]:2019/01/19(土) 00:10:05.80 ID:pmprOgPyO



 そんなやり取りをしていると時間と車は進んでいったようで、私たちは曙のいる鎮守府に到着した。


 その少し前からフロントガラス越しに見えていた漆喰を塗られた塀と立派な松の木をはじめとした植物達のせいで、内部の様子を窺うことはできなかった。


 私の座っている助手席側、つまり進行方向左側を正門前に向けて停車。日本家屋を元にした鎮守府とは聞いていたが、重厚な正門の側に憲兵さんがいなければどう見ても鎮守府には見えなかった。

 助手席の窓が開けられる。

 私は憲兵さんと一言二言会話しながら先ほど貰った私の身分証を提示する。次にグラサン提督の身分証を右から左へ受け流す。一瞬見えたグラサン提督の名字。『烏山』というらしい。


 すると身分証の確認をしていた憲兵さんがおひょうと素っ頓狂な声を上げた。あたふたした様子でしばらくお持ちくださいと言い、正門のわきに在する小門の方へ小走りで向かって行く。


 私はグラサン提督に疑いの目を向ける。


 「話は通してあるって言ったのはどの口かしらぁ?」


 自分の顎に人差し指を引っ掛け首をかしげてみせる。


 「誰かが来るのは伝えていたが、誰が来るかは伝えないで遊んでいるんだろうなぁ。あの憲兵君は新人だろうに可哀想だ。」


 グラサン提督はサングラスを黒色のハードケースに仕舞いながら答えた。グラサン提督は烏山提督になった。


 はぁとため息が二つ。私の右側にいる烏山提督と戻ってきた憲兵さんからほぼ同時に聞こえた。それが妙に面白くてくすくすと笑ってしまった。


91 : ◆6yAIjHWMyQ [saga]:2019/01/19(土) 00:11:59.65 ID:pmprOgPyO



 車がいかめしい正門をくぐり抜けて鎮守府の敷地内へと乗り入れる。そのまま左手に見えるガレージに向かう。正門前にいたのとは違う憲兵さんが木製のシャッターを上げる。烏山提督はハンドルを切り返して、後ろ向きに車をガレージの中へしまう。勝手を知っているような動きだった。何回か来たことがあるのかしら。

 助手席の窓が軽く叩かれる。

 「荒潮、ドア開けるよ。」

 烏山提督は既に運転席から降りていた。私はシートベルトを外したところだった。車の暖房が良く効いていたせいか、少し呆けてしまっていた。

 ドアが開かれて、手を差し出される。素直に手を引かせてあげる。乗車するときにも似たようなことをされたのを思い出す。ひょっとしたら菊月たちにも毎回やっているのかもしれない。


 二人の靴音が反射に反射を返す。ガレージの中から外へ歩む。前方には水に濡れて黒く光る石畳。その終点は鎮守府本殿まで続いている。私の記憶に間違いがなければ、朝のテレビ番組の天気予報はこの地域の雨雲の不在を知らせていたはず。

 視線を左へ持っていく。海の近くで松の木が己の存在を立派に示していた。ガレージの側の花壇には赤、黄、紫。色とりどりのパンジーが咲いている。


 「「おはようございます!」」


 真後ろから快活な声が聞こえる。
 振り返ると、水やりをしている艦娘二人が、来訪者である私達を見つめていた。ジョウロを片手にし、笑顔で手を振ってくる。石畳はジョウロを運ぶ際に、こぼれた水で濡れてしまったのね。烏山提督も私も手を振って答える。屈託のない笑顔はこの鎮守府の良さを言葉にせずに語っていた。


 「ちょっとあそこにいる憲兵君と話をしてくるから、荒潮はここで待ってて。」

 烏山提督は先ほどシャッターを上げた憲兵さんへと向かう。

 「はぁ〜い。」


 空に指先が触れるほどにぐっと背伸びをする。ずっと座りっぱなしだったので、体の節々からミシミシと音が鳴る。

 「ん、うぅん〜……ふぅ。」

 そのまま大きく深呼吸。潮風に誘われた梅の匂いを含んだ風が、頭の周りを一周して鼻をくすぐり去っていく。朝露に抽出された新緑の青臭さが遅れてやってきた。

 「すこ〜し、寒いわねぇ。」

 手を下ろして腕をさする。時節は春とはいえ、今は午前中でまだ風が冷たい。車の中にいたことで暖まっていた体から、熱が奪われていく。『荒潮改』の服を着ているのもそれに拍車をかけている。

 当時、艤装から呪いの玉を取った後、艤装との接続が安定した、つまり元に戻ったとわかったので改二に戻した。

 それから『荒潮改二』の服を着ていた。が、数日前に改の服装で過ごすように言われた。ドロップ艦がすぐに改二の状態になっていると怪しまれてしまうからということらしい。その時に何か違和感があったのだが、なるほど。身分証明書を発行した為にか。すぐに気付かなかった。
 それはそれとして、この改の格好は私の内温性を揺らす一因となっている。曙の炎が恋しい。


 「やめなさい。」


  強制的に思考を止めるために、自らを戒めるために命令を吐き出す。
 未練がましい。1度会えるだけでも僥倖であるのに、これ以上を望むのか。


 別の事に思考を走らせるために、今度は内側から正門と塀を見てみる。
 鎮守府には見えないと思っていたが、近寄りがたい雰囲気を放つ外装は、民間人を鎮守府から遠ざける為にあるとふと気づく。
 人間を深海棲艦の脅威から守るという鎮守府の役割を考えると、被害に遭う可能性のある人の全体数を減らす点で、理に適っている。同様に、艦娘と民間人との接触回数も減るので、トラブルも起きにくくなる。
 ここの提督は目の付け所が良いのかもしれない。


 烏山提督が私のところへ戻ってきた。


 「じゃあ行こうか。」


 「そうねぇ。」


 烏山提督が石畳の上を歩いて玄関のある方へと向かうので、私もそれに続こうとしたのだが、最初の一歩目で玉砂利の敷かれた場所を踏んでしまった。そのまま二歩三歩。歩くたびにザシュっと聞こえる玉砂利のこすれる音が何だか妙に心地良いので、石畳を無視し玄関に着くまで堪能した。


92 : ◆6yAIjHWMyQ [saga]:2019/01/19(土) 00:13:14.89 ID:pmprOgPyO
一旦ここまで
質問や確認したいこと等がありましたら、どうぞ
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/19(土) 00:39:30.72 ID:otdB5HR/o
おつおつー
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/01/19(土) 00:42:01.47 ID:AA/LlWkDO
おつです
>>48からの続きでいいのかな?
95 : ◆6yAIjHWMyQ [sage]:2019/01/24(木) 18:47:15.23 ID:yTLR0A0sO
>>94
はい。>>48からの続きです

改めて見ると、行間や字下げのレイアウトが読みにくいですね
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/24(日) 00:51:24.02 ID:S8zpqVYR0
保守
97 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/02/28(木) 04:22:34.56 ID:7kTtEa1DO


「お前の事が好きなんだ…漣」


バレンタインの夜、どこかすがるような、不安そうな眼差しで見つめてくる小さな深海棲艦、潜水新棲姫


元は私の特殊な身体に興味を持ち鎮守府にまで付いてくる事になり流れで関係まで持ってしまった


そのせいなのか、私のどこがいいのか、いつの間にか好意を持っていたらしい


この子は頭が良く好奇心旺盛で色々な事に興味を持ち覚えもとても早い、しかしまだ世間知らずな部分もあり元々過酷な海で暮らしていたせいかその価値観もシビアだった


それが原因でご主人様が倒れた事もあり私もその時はそれはもう怒り狂ったものだった


98 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/02/28(木) 04:24:16.77 ID:7kTtEa1DO


それから私は潜水新棲姫がまた何かしでかすのではとそれとなく見張るようになり、そして気付いた


とにかく危なっかしい、自分の興味を引くものを見付ければ周りが見えなくなる、一度などは工廠の危険な機械に捲き込まれそうになって私や秋津洲さん、明石さんが大慌てで引き離し、機械を停止させお説教する羽目になったりもした


この子は頭は良いけど見た目通り子供なんだと気付くのにそれほど時間は掛からなかった


そうして見張りを名目に彼女に付いて回る内に思うようになった


放って置けない、誰かが教え、導かないとこの子は遠からず取り返しのつかない事になる、何とかしないと…


99 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/02/28(木) 04:25:42.37 ID:7kTtEa1DO


それからはもう大変だった


ひとつの事柄でこれは違うと教えてみても理詰めで反論してきて逆に私が論破される始末


それならばと感情に訴えかけるよう説得しようにもこの子にはまだそういう部分があまり理解出来ないらしい


いつだったかこの子が鎮守府の書庫で本を読み漁っていたがさすがに子供の情操教育や道徳の本は無かったようだ、今度注文しておこうと思う


それでも少しずつ、根気よく接する内に初めて会った時のような深海棲艦としての価値観や雰囲気が薄れていっているのが内心嬉しかった


100 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/02/28(木) 04:27:22.61 ID:7kTtEa1DO


もしかして…そのせいだったのだろうか、この子が私に好意を抱くようになったのは…


それにここで私が拒絶したらこの子はこれからどうなるのだろう、まだまだ危なっかしい所は沢山あり、ひとりにするには不安が大き過ぎる


それにかつてこの子の深海棲艦としての価値観がまだまだ強かった頃の言動で一部の艦娘に良く思われていないのも知っている


元はといえば私が引き込んだようなものだからここで放り出すのは無責任に過ぎるだろう


私を見つめる潜水新棲姫のまるで仔犬のような純粋な目を私は眩しく思いながらそう考えるのだった


それに…


101 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/02/28(木) 04:28:50.33 ID:7kTtEa1DO


「本当の所言うとな…漣だけでも辛いねん…その上更に増えるなんて…」


いつの間にか食堂の一角に作られていた村雨さんのクラブで龍驤さんは私にそう吐き出した


私は辛うじて顔には出さないようにして相槌を打つ


正直ショックだった


ご主人様とよりを戻して以降、三人で旅行に行ったり、お揃いのペンダントを買ったり、一緒に仕事したり、二人でご主人様にお説教したり、三人であれやこれやしたり、色々な事があった


私は自惚れていた、楽観していた、龍驤さんにも私を好きになってもらっている、受け入れてもらっていると思い込んでいた、いつか戦争が終わっても三人でいられると根拠も無く信じていた


102 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/02/28(木) 04:30:49.71 ID:7kTtEa1DO


何の事はない、ただ我慢してもらっていただけだったのだ、私は気付かぬ内に龍驤さんに負担をかけていたのだ


ここで龍驤さんが万が一また崩れてしまっては深海棲艦との和平の為に動く今のご主人様には計り知れない負担になる、下手をすれば二人ともが倒れる事もあり得る


そうなれば私達を快く思わない大本営のいくつかの派閥か組織か、もしくはそれ以外の誰彼に付け入る隙を与えてしまうかもしれない


そして朝霜の事もあり、私が今の位置に留まり続ければ遠からずそうなるだろう


ご主人様と龍驤さんには幸せになってほしい、その為なら私は私自身すら惜しくはないのだ


だから


103 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/02/28(木) 04:33:04.46 ID:7kTtEa1DO


『だから潜水新棲姫の好意を受ける事にしたのか』


私の中に住む、今や一蓮托生の重巡棲姫がどこか不機嫌そうにそう言った


「ええまあ、そうです、何だか随分不機嫌そうですね」


『私はお前の感情をもろに受ける、お前の葛藤は私には正直面白くない』


「そう言われましても…」


『お前はそれでいいのか?提督の事はもうどうでもいいと?』


「そんなわけないじゃないですか…人の気持ちがそんな簡単に右から左へ行くなら誰も苦労しません…」


『だろうな』


104 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/02/28(木) 04:35:16.31 ID:7kTtEa1DO


「何だか今日は意地悪ですね」


『言っただろう、面白くないと、だがまあ…お前の決断を私は尊重するよ』


「ありがとうございます…」


『それでこれからは正式に潜水新…ああ面倒だ、あのちびっこと恋人として付き合っていくのか?』


「そうですね、今のところはそれでもいいと思ってます、何となくペットと周りには言ってはいますが」


『今のところか』


「ええ、少なくともあの子が1人でも危なげ無く生きていけるようになるまではどんな形にしても面倒を見ていくつもりです」


『まるで親だな』


「自分の子供と関係を持つ親なんて嫌過ぎるので恋人でいいです…」


『ペットはいいのか?それは俗に言う獣か…』


「言わせねーよ!」


105 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/02/28(木) 04:37:20.28 ID:7kTtEa1DO



『漣』


「なんですか?」


『私もだからな』


「はい?」


『私もお前の為ならこの命、惜しくはないんだからな』


「貴女が死んだら結局私も死ぬじゃないですか…」



106 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/02/28(木) 04:39:22.55 ID:7kTtEa1DO


『いや、お前だけは何があっても死なせはしない』


「…私だって…貴女には死んでほしくないんですけど?」


『そうだな…すまない、最後の手段を使わずに済む事を祈ろうか』


「最後の手段?よく解りませんが駄目ですからね!」


『ああ、解った』


「本当に?約束ですよ?」


『ああ、約束しよう』


107 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/02/28(木) 04:41:19.55 ID:7kTtEa1DO


ホントに解ったのかなあ…などとぶつくさ言いながら漣が帰った後私は考える


漣、私はお前の感情を受けると言った


それはつまりお前が好きだと、大切だと向ける感情は私にも影響を与えるんだ


いつからか私自身もあの頼りない提督を憎からず思っていたのだ


こういうのも失恋というのだろうか、私にとって漣はもはや自分自身とも言える程になっていて始めの頃のような恋愛感情とは変わった気がする


いずれは私もあのちびっこを自らの子か恋人のように思う日が来るだろう、漣自身はまだ気付いていないがあいつは割と気が多い上にちょろいのだ


108 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/02/28(木) 04:43:21.39 ID:7kTtEa1DO


漣、約束はしたがいざという時には私はそれを破るだろう、自らを省みず、これも元はといえばお前の影響だ


だがそれまではお前が護りたいものを私にも護らせてくれ、お前が好きになったものを私にも好きにならせてくれ


私はお前を選んで良かったと心の底から思っている、あのまま海をさ迷っていたら味わえなかった楽しみや喜びをお前を通して沢山経験出来た


そんな私からお前に返せるものはこの命しか無いのだ


いつかその時が来ない事を


いつかその時が来る事を


そんな事を祈りつつ私は宿主の中で束の間の眠りに付くのだった


109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/28(木) 12:29:29.52 ID:fkpC/8kbo
乙乙
漣ちゃんめっちゃ複雑な経緯で悩んでるけどいい女だよ
艦娘×深海カップル達もずいかがみたいに何かしてあげたい
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/01(金) 23:57:54.55 ID:MmUT1WjA0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1541669468/83 を基にしたまとめを作成していたので誠に勝手ながら投下させていただきます…


駆逐艦

・暁
改二。胃腸が弱いため厄介払いで移籍。お酒に弱い。響と隣部屋。
レ級の尻尾をクリティカルで破壊。
紆余曲折を経てレ級と恋仲になる。SとMどちらもいける。 他人の性感帯が分かるようになったらしい。
・雷
もっと頼られたい。料理が美味しい。お仕置きアンカー使い。特三型の四人の部屋は隣同士。
翔鶴 がDJのラジオ番組『白鶴、まる。』のアシスタントをしている。
・電
怒声をあげられたり威圧されたりするとパニックを起こす。 半分トラウマスイッチの入った響を元に戻すほどのくすぐりの達人。
雷「調子のいい日の電は敵に回しちゃいけないの」
・響
改二。本人の希望で響と呼ばれる。暁と隣部屋。語尾に「ニャン」とつける時がある。
艦娘の反対派のテロにより前の鎮守府の司令官が亡くなったと故に死に敏感。
事件は揉み消されており響から詳細を聞いたのは提督とガングートのみ。
フリフリ猫耳メイド服の自撮り有り。筋肉質な男性が好き。猫耳&猫尻尾を着けていることがある。
結構派手な下着を穿いているらしい。「先生」とその子供の「うすしお」という野良猫と仲がいい。
・清霜
前の鎮守府にいた武蔵を尊敬している。その武蔵は脳の病気に罹り亡くなる。清霜は、病気が進行して声帯が機能しなくなった武蔵のために手話を覚えた。
手話ができるため長門の通訳をするときがある。
・霞
改。龍驤からママみを感じられている。毒草マニア。皆に薬を渡す。薬剤師免許持ち。
タナトフィリア。鎮守府裏で薬の元となる草を栽培、また山へ採取しにいったりする。
榛名のことをお姉さまと呼び、付き合っている。素質はあったが前鎮守府で出撃させてもらえず練度不足。 榛名曰くストレスが溜まっているとSになるらしい。
・黒潮
改二。龍驤のブラックジョークに対応できる子。喧嘩が強い。加賀と素手の殴り合いをした。
前の鎮守府の提督が浮気をして鎮守府が解散。故に当鎮守府に来たのはたまたま。 神通とは仲がいい。
『悲劇』の時に神通や龍田を相手に立ち回った。その時のことを夢に見る時がある。漣のことが嫌いだったが、飛鳥の仲裁?もあり関係は改善する。。
・不知火
改二。お洒落に気を使う。猫耳狸柄パーカー着用。
一度怒りのスイッチが入ると大変。前の鎮守府では凄かったらしい。 隼鷹と仲が良い。
スパッツへのこだわりが大きく、そのままでお手洗いに行ける改造をしたり自分で作ったりしている。変な本の大半はお尻モノ。
特務艦綾波から離れるためK提督の鎮守府にレンタル移籍するが、脱走した綾波と交戦、実は傀儡であることが判明する。
・卯月 / 弥生
改。霞より練度が大きい。
かつて卯月が沈んだ際に、弥生が卯月の肉体を食べた結果、現在は弥生の肉体に卯月の意識も存在している。
性行中毒だったが改善。バリタチ。最高五股。
叢雲に槍で刺されて入院していた。叢雲に鉄パイプを入れてお腹を踏んだことがある。
・朝霜
練度250。提督に滅茶苦茶にしてほしい為に当鎮守府に来た。元々いた鎮守府の提督から移籍する許可をもらっているが、当鎮守府の提督は受理していない。
首輪をつけたり体中にピアスを空けていた。
ピアスには守れなかった人の名前が刻まれ、またその人物の一部が練り込んであったが、そのピアスを夕立に破壊される。 後にピアスを鋳なおし、イヤリングとして付けている。
提督が好き。幹部付き特務艦。龍驤の事故現場に遭遇している。 早霜に調教されていたので、早霜にはまるで逆らえない。
・叢雲
改二。ポニテメガネ。うーちゃんが好きで刺しちゃった(二回)。
釈放後、当鎮守府に所属した。スリップ着用タイツ直穿き。
卯月が改二になった叢雲をイジめたいというので頑張って改二になったらしい。
卯月に下半身を蹴られまくって正常な卵子を排卵できない体になり、妊娠不可能。
・皐月
改二。提督の友人である女性提督の所から移籍。母乳で溺れて天国を見た。雲龍の胸が好き。 一時漣や雲龍と肉体関係を持つ。
オッパイを極めた結果マッサージの技術を身に付けた。オッパイを揉んでいるとき、富士と遭遇するが、そのオッパイを揉み富士を体から追い出した。
・陽炎
改二。制服は金色。艤装も金色。家具も金色。私服も金色。メッキ加工ができる。他人に選ぶ服のセンスは真面。
一から夜の金色相棒を作ったことがある。出撃の合間に工廠で手伝う。
最後には快楽堕ちして奴隷になる陵辱系モノが好き(金色のカバーがかけられている)。
好きな甘味はケーキ。カップケーキ等をよく食べる。栄養剤代わりに金粉をかける。
改二の際、艤装を金色に塗装したところ、艤装が爆発してロボになった。声が出る。装着すると船速が早く耐久が大きくなる。装着した見た目はアイアンマッ!
かつては万引き癖があった。不知火と同じく傀儡である。
・漣
当鎮守府の初期艦。龍驤が怪我をした数日後に別の鎮守府に移籍。提督の初めて。
腕や脚をくっつけられた跡があったが、整備士によって健常者となる。胆嚢に友好的な重巡棲姫がいる。
深海の魚雷を使えるが深海の主砲は使えない。 アレを生やせる。
レ級とともに和平派の深海棲艦を集めている
・潮
傀儡の完璧なチューナーとして作られたが失敗作として放棄されたと思われる。
整備士と知り合いでかつ大本営を裏切った提督に送られる予定であったと思われる。
好きな艦種になれる。深海棲艦にもなれる。深海棲艦になると口が悪くなる(ブラック潮)。艦種に合わせて体型が変化する。
得意な重巡と当鎮守府での層が薄い戦艦をメインに使いこなせるよう頑張っている。空母艤装は一航戦や五航戦のものに近い。
皐月にオッパイの気持ち良さを教え込まれた結果、漣のものより長い立派なモノが生える。
・S朝潮
元ブラック最前線激戦区鎮守府所属。売られて毎回自分の中に出された液体を掻き出して飲んで生き延びていた。
買った男を自分の手で始末した。
殺人の件で再審が行われるも、朝潮の減刑は認められず、新型手錠のモニター期間も終了したため刑務所送りとなり、獄中で自殺する。
その怨念が独り歩きし、島風鎮守府を苦しめるが日進に怨念の事を伝え供養してもらう。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/01(金) 23:58:35.27 ID:MmUT1WjA0
・山雲
霞の薬品の管理について監査に来た。恐らく組織側の艦娘であり、幹部と駆逐棲姫を拘束し、二人を奪還された後は艦娘を深海棲艦のように変異させる薬を飲み暴走する。
『頭ネジ』の武蔵に殺害されるが、その遺灰と朝雲が持っていた山雲の死体の一部が融合して出来た卵から、妖精さんサイズになって復活する。艤装の威力はサイズ相応だが、艤装を出している間は秋津洲を軽々投げ飛ばすほどの怪力を発揮できる。
・朝雲
山雲と同じく霞の薬品の管理について監査に来た。山雲が組織側の艦娘だとは知らなかった。どこにも所属していないことが判明し、提督の鎮守府所属となる。
・初雪
古鷹を自殺させたということで加古を憎んでおり、提督の昇進と同時に鎮守府に着任する。
古鷹の自殺の原因の多くが古鷹に寄生した深海棲艦によるものだと知り、加古を殺そうとしていたことを謝るなど加古との関係は持ち直す。
・白露
・村雨
・春雨
夕立・時雨(駆逐水鬼)の姉妹艦。元々は同じ鎮守府に所属していたが、時雨の死後バラバラになったらしい。
ガングートの代わりの戦力として鎮守府にレンタル移籍する。
春雨は富士を追い出している。

軽巡

・阿武隈
改二。酔うとキス魔になる。
下の毛は生えていない。清霜ですら生えてるのに。不感症の疑い。
前の鎮守府で独自のノルマを課せられていた。
・多摩
改二。龍驤が心配な為に艤装を破壊したり義足義手を隠したりしていた。
女子力の塊。瑞鶴のリハビリ担当医にアタックした結果婚約。
普段は指輪をネックレスにしている。
恥ずかしさのメーターが振り切れるとゴメン寝する。興奮すると語尾がとれる。
改二になった際、夜目が利くようになったり、野生の感が強くなったりした。マル秘作戦で加賀と一緒になったことがある。 その影響か、加賀とともに血中細胞が変異している。
・北上
改。工作艦医療担当も出撃もするハイブリットな北上様。
一生龍驤さんの専属技師。素質も練度も問題無いが、改二の服は寒いので改のまま。当鎮守府の憲兵と付き合っているが、情事が下手。
・夕張
工作艦担当。鎮守府の色々を盗撮している。ドローンも使う。夕張が着任してからは、集合写真は同じ場所で夕張が撮る。
鎮守府の運営がままならなくなった時、潜水艦達と一緒に何とかしていた一人。
メロンと呼ばれることが嫌い。前の鎮守府ではそう言って弄っていた相手が階段から落ちそうになった時、手を伸ばさなかった。
トリガーの使い過ぎで生命が殆ど無くなるも回復。入院時、PCが扱える烏に懐かれた。他の者に懐く様子はない。
夕張「やっぱりメロンは夕張ですよね!」
もし艦娘を殺してしまったときのために死体を隠しておくための冷凍庫を工廠に置いていた。その冷凍庫は時津風とヅカ系に詳しいらしくファンクラブ限定の超限定版DVDを持っている。
・神通
改二。練度99。ケッコンカッコカリ済。バトルジャンキーだったので匙を投げられ移籍してきた。
移籍当初は勝手に出撃を繰り返し気絶するまで帰ってこなかった。
ジョークにものってくれる。<龍驤さんは背も小さいですよ。
黒潮と共に龍驤に頼りにされている。素質は30だったが提督と話し合って変わり改善する。
ダメになると食べ物を噛めなくなる。注射が嫌い。 脇腹が弱点。
・川内
改二。夜戦がうるさくて夜戦に抗議をしたら自分が夜戦になった。
ニンジャ。素質問題無し。神通に次いで練度が大きい。休日は誰も知らない山水の滝で体を清める。
師匠と仰ぐ由良が居てその影響を受けて鬼軍曹と呼ばれていたらしい。愛用のバイクを所有。
提督の鎮守府に来てから梟挫を習得した。元々は忍者提督の鎮守府にいた。
・龍田
改二。天龍ちゃん好き。一思いに殺すのが得意。前の鎮守府で提督に襲われた。
素質は5であったが、当鎮守府に着任後に素質が上がり改善する。
・天龍
龍田の改二実装に凹むも皆からのビデオメッセージで感動。自分の役割を果たすと意気込む。
過激な乙女ゲーのガチャ中毒。株とかでへそくりを作って課金していた。霞の薬で様子見。
・大井
別の鎮守府から移籍。北上(別)に襲われ心意喪失するも、球磨が投与していた毒や周りの協力もあってある程度回復。
動けなくなるまでは別の鎮守府で一二を争う練度であった。強くなるのが好き。
・球磨
別の鎮守府から移籍。大井の介護をしていた。北上(別)を恨んでいる。
自我のない深海棲艦が脳以外のどこかに寄生、一体化している。趣味は艦娘の盗撮や使用済み下着の収集。
北上(別)の死体の破片を浴びた際、体内の深海棲艦を北上が乗っ取っていた。
北上(別)の働きで内臓を破裂させられ、その際北上は血を浴びた明石に移動した。その怪我は完治するが、下着を使った料理は食べられなくなったらしい。
・由良
川内の師匠として川内を鍛える。深海棲艦を滅ぼした後、艦娘も処分するという考えを持つ。
強くなるために深海棲艦のコアを食べたらしい。4体の深海棲艦を体内で飼っている。
忍者提督とケッコン済み。

重巡
・加古
改。寝坊癖がある。不知火達によく着替えさせてもらっている。 埠頭で釣りをして何も考えず時間が過ぎるのが好き。
前の鎮守府で共にエースだった古鷹を自殺に追い込んでしまった事から他の重巡を見ると錯乱していたが、先の記述とは別の古鷹が流したボトルメールを受け取ってから彼女と交流し、元気になっている。
・羽黒
目を見られるのが恥ずかしいので髪の毛で隠している。幹部さんが送った監査官(艦)。
素質は30程度で改二には程遠い。正式に当鎮守府に着任している。正義に悩んでいたが答えを見つけることができた。
絡み酒。酒に弱い。ウイスキーボンボンや甘酒でも酔う。
下の毛は結構濃いというか、ワイルドというか。剃っても逆効果。過去に男性経験あり。
・那智
当鎮守府が初着任な艦娘2号。当面の目標は改二。男性経験なし。
疲れが取れることもあり、皐月のマッサージを気に入っている。
・愛宕
男性恐怖症。町で男の人とすれ違うだけでもダメ。
前の提督に毎日ささやきボイスを聞かされて発症。それを理由にドロップアウトするのは嫌なので当鎮守府に移籍。
提督からの指示は他の者を通して伝達される。 男性恐怖症克服のため那智に男装してもらうが、その姿にキュンとする。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/01(金) 23:59:14.28 ID:MmUT1WjA0
潜水艦

・伊401
メンタル弱。他の潜水艦とは違い『悲劇』の後も鎮守府で活動している。心の病治療済み。潜水棲姫を人質に取られ組織のスパイをしていた。
・伊168
過度のストレスによる狭心症であり右眼がうまく見えていない。
潜水艦達の中で一番ひどい症状だった。鳳翔のお店で働いている。
鎮守府でリハビリ中。初期トリガー使用者。
・伊8
鳳翔のお店で働いている。はっちゃん特製サラダ。
・伊58
『bar海底』を開店。仔狸を裏で飼っている。
・呂500
『bar海底』で働いている。鎮守府に復帰。酒乱で絡み酒。将棋が得意。
・伊19
高級店『料亭竜宮』で働いている。
・伊26
高級店『料亭竜宮』で働いている。
ストレスにより綺麗に白髪になる。
・伊13
潔癖症。手垢やドアノブ、握手がだめ。手袋をしている。
個人風呂を作ってもらったり個人食器を買ってもらったりして感謝している。
恋人は出来たことがない。恋人が出来たら全身を使って洗ってあげたいという願望がある。
性的に興奮してくると、酷い腰痛に襲われる。フレンドさんは触らないで声や息遣い、見た目だけで満足させていた。
・伊14
アルコール中毒だが、霞の薬で改善している。

戦艦
・金剛
改。艦娘の権利を守る団体から偵察にきた艦娘。
現在レンタル移籍中。
不祥事により所属団体の幹部から降格。艦娘保護団体の活動が忙しく、練度不足。
提督を狙っていたがその気持ちは親愛に因るものだと気づく。金剛の部屋は龍驤の部屋の隣にある。
・ガングート
改二。酒に酔い、暖炉に頭から突っ込んで顔に火傷を負ったため志願して当鎮守府に移籍。ホラー映画が苦手で叫び声を上げる。
純血。 ポンコツだが練度は高い。火力に自信有り。ロシア国籍。町の人達に人気。孫さんと鎮守府外で同棲、孫との子を妊娠し、入籍する。
・長門
改二。耳が聞こえず喋れないため読唇術やタブレット等で意思疎通をする。
ギリギリ改二。グロい話は少し苦手。宇宙戦争の映画が好きだった。
大層強大な力を持っていた深海棲艦と素手で戦い沈む。ダメコンを積まずに轟沈したが復活した。
轟沈した自分を助けた大本営に恩を感じ、スパイとして大本営と通じている。接触回線と非接触回線を搭載しているので、接触回線を搭載する者とは触れるだけで意思疎通ができる。
朝霜に尋問されるが、トラウマが再発した秋津洲が暴れる混乱に乗じて、陸奥とともに行方をくらます。
・榛名
榛名提督の鎮守府から移籍。霞のことが好き。艤装解除時に近くの駆逐艦を庇って左手薬指を欠損する。
比叡の料理で生死を彷徨った結果タナトフィリアに目覚める。左手薬指の爪を噛む癖があった。
死ぬ時は一緒に死のうと霞に言ったらしい。
・アイオワ
大本営からの支援として着任する。大和型に匹敵する火力と強力な対空火力を誇る。皆にハッピーを振りまいているが、かつてはアンハッピーな時期もあったらしい。
「ミーは強いわ!何故ならアメリカは強いから!」「そしてハッピーだからなのよ!」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/01(金) 23:59:48.21 ID:MmUT1WjA0
空母

・雲龍
元世紀末鎮守府所属。定期的なエステ通いと手入れにより自慢の胸をもつ。胸は普通の『雲龍』より大きい。
忙しくても休み等きっちり与えてくれる提督に感謝している。当鎮守府の最初の正規空母。『悲劇』の際、記憶障害が起こった。
その胸で何度も皐月を狂わせているが、皐月によるマッサージを受けている。

・天城
右腕二の腕あたりまでが何かにより腐っていた。その部分は腐臭が無く、痛覚が働いていなかった。
隠れて酒や煙草を使用していたが皆にばれていた。他の『天城』とは生まれつき全然違った。
素の口調は男勝りであり障害者になることを恐れていたが手紙や説得により切除に切り替えた。現在は義手。
胸が異様に膨らんだり母乳が出るようになったりしたが前より少し大きくなった程度で収まった。
天提督とは隠れた恋仲だったようだが天提督のガン宣告を機に結婚することになる。照れると耳が赤くなる。

・葛城
龍驤が安心して休んでいられるように強くなりたい。その為に朝ランニングや瑞鶴の特訓を行っている。
夜戦(意味深)等の話題になると真っ赤になるウブな子。その手の経験はない。
当鎮守府が初着任な艦娘1号。葛城の部屋は執務室近くにある。
組織の末端に属していた男性と良い雰囲気。 秘書艦の仕事を勉強中。

・加賀
ツンデレ空母。百合好き提督鎮守府から移籍。瑞鶴を戦闘から遠ざけるため排斥行動をしていた。
前は如何にして戦果を稼ぐか、どれだけ他人と差をつけるかが生き甲斐だった。練度は高いらしい。

・瑞鶴
怪我をする前から改二。盲目。普段は飛鳥(盲導犬)と共に行動し、出撃時は四感(艤装の駆動音や風)で判断し戦闘。
加賀と恋仲。
百合好き提督鎮守府から移籍。目は艤装解除後にやられた為修復剤で治せない。
雲龍と行ったエステでの豊胸メニューにより少し大きくなっている。ツンデレ好き。

・翔鶴
当鎮守府に来る前から改二。瑞鶴を追ってカバンに入る。一時期ホームレスになっていた。
百合好き提督鎮守府から移籍。瑞鶴から瑞鶴翔鶴の写真を入れたハートの形をしたロケットをプレゼントされる。
体を許すのは将来伴侶になる殿方だけと決めている。噴式を使える。影が薄いことを気にしている。
『白鶴、まる。』というラジオ番組にDJ 「白鶴」としてアシスタントの雷と共に出演している。

・隼鷹
改二。不知火とヘンな話で弾む。
夜に対する恐怖を酒でごまかしていたが、泥酔した自分の姿を見ることで飲酒量を減らした。川内と同じくバイクを所有。

・飛鷹
清霜を礼号組という悪い見本から守ろうとする。一人だと安眠できないため清霜と一緒に寝ている。
前の鎮守府で良く懐いてくれていた娘に似ていたため、その娘と清霜を重ねて見ていた。
その娘は戦艦が好きでボランティアで仲良くなるも、手術中に深海棲艦の襲撃による停電が起きて亡くなる。
折り合いがついてからはその娘と清霜を重ねて見ることがなくなり、清霜のことが好きになる。

・龍驤
改二。最大練度。線路に転落した少女を助けようとして電車に轢かれ、左腕及び左足太腿先を欠損。義足義手がない状態で鎮守府内を行き来する姿にドン引きしている艦娘は多い。趣味は読書。
義手にロケットパンチ機能がついている。
艦載機発艦のために全身に印を刻んでいる。使用するのは舌に刻まれた印。
ドM気質(情事の際に首締めを求める)。
<天然モノのパイパンっぴょん!
<可愛いパンツはいてるやん!

・ガンビアベイ
他の鎮守府から転属してきた。足が不自由。杖があれば歩くことはできる。
前の提督や一部艦娘、同じ様に障害持ちの人からは良くしてもらっていたが、それが面白くない娘達と良くしてくれる娘達の軋轢が酷くなっていくのに耐えられなかった 。弁護士として艦娘のかかわる裁判で活動する。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/02(土) 00:00:20.66 ID:dhaJ4tRy0
その他

・秋津洲
ブラック最前線激戦区鎮守府から移籍。工作艦。彼氏はここに来てからはできてない。
ワーカホリック気味だが食堂での会話や初めてできた友達である明石の存在により緩和されてきている。
夜の相棒の名前は大艇ちゃん。前歯2本は折られたので差し歯。大艇ちゃん(飛ぶ方)への拘りが凄い。
下着は基本的にウニクロで安いのをまとめ買いしている。 以前の鎮守府で暴力をふるわれたというトラウマがある。
・明石
完全なサイボーグを作ろうとしていた。 整備士と通じていたが思想の違いにより袂を分かつ。
工作艦。所属していた団体は真っ当。幹部により、以前の記憶を消される。
作業のクセや特徴を掴むために工廠組のノートをつくっている。
北上(別)が体内に入ったことで、以前の明石の人格が目を覚ますが、由良の中にいる深海棲艦達によって以前の明石の人格は完全に消滅し、吃音が改善する。
皆には秘密にしているが、ある男性といい関係のようだ。
・レ級
駆逐棲姫の姉のようなもの。
尻尾を暁に破壊される。暁と恋仲になる。基本受け。お尻に嵌まる。
艤装が大きさ3mくらいの戦艦になる。超重力砲ビーム。雷のような見た目。深海棲艦も艦娘も食べたことないよ。
漣とともに和平派の深海棲艦を集めている。雷の艤装を使うことができる。
・駆逐棲姫
通称クキ。恐らく駆逐艦の突然変異。両足をスクリューに巻き込まれ失っている。義足や車椅子で行動。
嵐(自然現象)が怖い。天体観測が好き。幹部をパパと呼ぶ。幹部と結婚する。深海棲艦も艦娘も食べたことないよ。
艤装は持っていないが工廠組が右腕用の機銃付きの籠手を開発している。
・提督
鬼畜カニバ鬼悪魔ドS提督等様々な風評被害に悩まされている。
あがり症。人相は良くない。金庫に今まで撮った集合写真を保管している。
ネコミミが好き。朝霜も叫ぶほど痛い足裏マッサージができる。菓子類を作るのが得意。
・幹部
偉い人。モンド(必殺仕事人)。駆逐棲姫と結婚する。脇フェチ。
明石の頭をチョメチョメした人。提督に代わり和平派提督たちの派閥のリーダーとなる。
・女幹部
幹部の知り合いで綾波を特務艦にした。その正体は菊月であり、ある男性を探しているらしい。
・飛鳥
瑞鶴の盲導犬。犬種はゴールデンレトリバー。 加賀のことは青いおっぱいの人と認識している。
・医師(瑞鶴のリハビリ担当医)
女性不信。多摩のひとめぼれの人。まずは友達として多摩と付き合った。
清いお付き合いの果てに多摩と婚約。
・鳳翔
鎮守府の近くに店を構えている。
大事な存在を深海棲艦に傷付けられたことがあり、提督のところには所属していなかった。
深海棲艦との和平には反対。

・憲兵
当鎮守府唯一の憲兵さん。
多摩に告白され振り、北上に告白して降られた。
そこで周りを妬むようになったが那智の言葉により北上に再度告白。北上と恋人になる。
・間宮
料理を教えていたりする。日常的に皆の食事作りを担当している。
・医者
身長150cm程。当鎮守府住み込み。内科医。寝ている人が好き。
鎮守府を行き来して艦娘専門の治療行為をしている。鎮守府敷地内の診療所や鎮守府内の医務室にいる。
・千歳
水上機母艦。医者に有料で胸を貸す。心療内科専門医。カウンセリングも大丈夫。
鎮守府敷地内の診療所や鎮守府内の医務室にいる。
・孫
熊野の事件で世話になった地元の権力者、その孫息子。
日本酒蔵で働く杜氏。ガング―トに対する日記をつけている。 ガングートの妊娠後、ガングートと入籍する。
・最上
時雨を取り戻せるという甘言を弄され、組織の傀儡の調整役になった。その後脱走し当鎮守府に助けを求める。
時雨に初めてあげたプレゼントはお洒落な服とアクセサリー。幹部預かり。
・駆逐水鬼
中身は時雨。最上と出かけている時に乗っていた水上バスが深海棲艦の魚雷にやられ瀕死。その後死亡。
時雨の死体は一度盗まれた後に脳を抉り取られた状態で発見された。
・那珂
傀儡。川内に保護されるも、夕張が使った古ぼけた艤装の中にあった黒い球を持ち去る。黒い球は荒潮に回収される。
・潜水棲姫
座礁して動けなくなっていたところを伊401に助けられる。同胞を食べたことがある。火力は大和型〜長門型の数値。雷装値は重雷装巡洋艦並み。
・北方棲姫
鎮守府に 時津風に殺されて深海棲艦となった。時津風と遭遇した際、殺人の証拠を消そうとした時津風に殺されるが時津風も道連れにする。
・潜水新棲姫
潜水棲姫 とレ級と一緒にいた漣を捕虜だと思いこむ。漣の棒を調べているうちにセイエキを浴び、発情し漣たちについてくる。鎮守府で知識を吸収し、書類仕事も手伝うようになる。
漣の下半身に負け、漣の言うことは聞くようになる。漣曰くペットとのこと。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/02(土) 00:00:51.76 ID:dhaJ4tRy0
・百合好き提督
瑞鶴放置の理由が、戦隊の花形として盲目の瑞鶴は相応しくないからだと思っていたら、加賀との仲が悪く見えたからだった。
加賀曰く戦果を稼ぐのが趣味のような人だったのだが…。瑞加賀LOVE。お気に入りの百合モノ同人誌を赤城に捨てられる。
鳳翔さんのお店の常連。
・赤城
百合好き提督鎮守府所属。百合好き提督が好き。狐耳のコスプレをしたりする。鳳翔さんのお店の常連。

・天提督
優柔不断。膵臓癌であったが手術は成功。天城と結婚をする。初体験は天城から襲われ、下の毛も剃られた。 誰にでもダメコンを積む。
・扶桑
・山城
・村雨
改二。
・龍鳳
・深雪
天城を姉御と呼び慕っている。

・島風提督
ブラック最前線激戦区鎮守府の提督。島風のためなら何でもする。
頭のネジが外れた艦隊(以下『頭ネジ』)を指揮している。謎の組織とつながっていた。
皆との情事をやめると宣言した。 新年の大演習以来、提督の鎮守府とは接近禁止となる。
・島風
両手足欠損の達磨状態であったが、整備士によって両手足を生やしてもらった。
島風提督のことが好き。一緒にかけっこをしたい。
・長波
洗脳されている疑いがあったがメンヘラなだけだった。夜が激しすぎる。
神通「ヤンデレでしょうか?」 五月雨「メンヘラ」
・五月雨
『頭ネジ』作戦担当。煙草を吸っていたが妊娠を機にやめる。
スイッチを押されると頭が割れそうになるほど痛くなる。ドS。
粗暴な言葉遣いだったがさみだれへの影響を考え、島風に協力してもらい、直す。
島風提督をパパと呼ぶ。
・大鳳
『頭ネジ』旗艦。ヤンデレ。ナイフ、ペンや箸で島風提督を刺し殺しかけている。
・摩耶
島風提督が戻ってきたと聞いて戻ってきた。
煙草を吸っていたが島風提督がいないと吸っている気がしなかったらしい。
島風提督が好き。真面。
・伊400
『頭ネジ』真面な部類……だと思われたが、島風提督を取るためにスイッチを使い、五月雨及びさみだれを人質にする。
その後作戦は失敗し、逃亡。現在行方不明。島風から「皆が熱くなった時でも、常に冷静な判断を下してくれる頼もしい存在」と信用されている。
漂流していたところを整備士たちに発見され、共に行動することになる。ビスマルク「貴女ただのツンデレじゃない。」
・武蔵
『頭ネジ』一番やばい奴。思考言動が幼い。水鬼レベルを素手で殴っていた。文月をいじめっ子だと思っている。
・天津風
島風が無事で幸せならそれで良いと思っている。幹部預かりから戻ってきた。洗脳解除済み。
・夕雲
島風提督を刺した後通りかかった『頭ネジ』にポイ捨てされ、提督らに捕縛される。
組織に早霜を人質にとられているという洗脳を受けていた。早霜は元々居なかった可能性がある。
更に聞こうとすると気絶し、組織の事どころか色々な記憶が曖昧となる。現在は幹部が連れて帰っている。
・大淀
超低確率であるドロップ艦として着任。常識枠。五月雨「クソメガネ」(第一声)
・文月
改二。幼女塾という団体に買われ助けられてから改二となった。武蔵が苦手。現在幼女塾所属。
・浜風
下半身を4回程手術した。妊娠経験あり。子供が出来なくなる。凄く具合は良いと評判。幹部預かりから戻ってきた。
・さみだれ
五月雨と島風提督の子供。 近所の不良たちは、さみだれに頭が上がらないらしい。クリスマスに空飛ぶタクシーで移動するサンタにミニ艤装をもらう。
・後任提督
島風提督がいない間ブラック最前線激戦区鎮守府を担当。五月雨にサンドバッグにされ血反吐を吐き逃亡。

・北上(別)
球磨や大井のいた鎮守府の艦娘。多摩(別)を演習中の事故に見せかけて始末。深海棲艦に寄生されており自爆して亡くなった。
・多摩(別)
球磨や大井のいた鎮守府の艦娘。既に亡くなっている。球磨曰く腰抜け。

・榛名提督
霞のことは覚えていない。比叡を反省させるため榛名の移籍を許可するなど、決して悪人ではない。
金剛(別)、比叡、霧島が所属している。

・朝潮提督
朝潮とケッコン
・朝潮
龍驤とは龍驤が五体満足だった頃に提督会議で知り合った。ドM。朝潮提督とケッコン済み。
龍驤にBLを勧めた。緊縛されて羞恥責めされるのが好み。叩かれるのも大好き。

・川提督
管理人(北上)と副管理人(大井)の為に二人を失踪扱いにする。
・管理人
川の上流にあるキャンプ場の管理人さん。旦那さん。
・副管理人
川の上流にあるキャンプ場の副管理人さん。奥さん。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/02(土) 00:01:27.18 ID:dhaJ4tRy0
・K提督
かつて不知火が所属していた鎮守府に不知火が去った後、異動してきた新米提督。
・足柄
K提督の秘書艦。海防艦ばかりの鎮守府で数少ない重巡。
・防空埋護姫
K提督の鎮守府のカボチャ畑にあった動物用の罠に捕まっていた。なんやかんやでK提督の鎮守府に滞在。
・択捉
・松輪
・対馬
・佐渡
・日振
・大東
K鎮守府所属の海防艦ズ。まだ練度は低い。

・阿武提督
かつて阿武隈が在籍していた当時の鎮守府の女性提督。
現在は同鎮守府の用務員をしている。
・長良
阿武隈が在籍していた鎮守府所属。厳しいノルマの無くなった現在の鎮守府が物足りない。
・鬼怒
阿武隈が在籍していた鎮守府所属。姉と同じく現在の鎮守府に物足りなさを感じている。

・忍者提督
元々忍者の家系だった。由良のことが大好き。
・長良
・五十鈴
・名取
・鬼怒
忍者提督の艦娘たち。以前所属していた川内は阿武隈の代わりだった。姉妹の中では由良が一番強かったらしい。

・老幹部
漣に初期艦としての心構えと実務を教えた。戦争は勝って終わらないと意味が無いと語る。

・曙
どこかの鎮守府所属。厨房担当。一年程前に孤児院での火事に遭遇し、逃げ遅れた4人全員を助ける。
そのうちのひとりであった大学生(孤児院の卒業生)を倒れてきた燃える柱から守る。
それにより右腕に火傷の痕がある。『第七駆逐隊の集い』に参加して高級栞ゲット。
助けた大学生のプロポーズを受けた。大学生が就職したら結婚する予定。

・H幹部
深海棲艦に勝ち目が無いと悟らせ、講和交渉に持ち込むという考えの派閥のトップ。オネエ。男漁りは趣味みたいなものらしい。
・朧
H幹部鎮守府所属。ロングヘアー。暇があれば読書。『第七駆逐隊の集い』に参加。
H幹部に毎朝髪の毛を梳かしてもらっている。H幹部のことが好きで付き合っている。

・浜波
かつて明石によって問題のない右脚を切断された。現在は車いすを使っている。

・綾波
沈みかけている所を深海棲艦に寄生される。右腕に意識が残っている。レ級様。

・タシュケント
深海棲艦を仲間に、ソビエト連邦再興・社会主義社会完成のために暗躍している。暗殺などの仕事をして資金を集めている。予備の肉体が多数あり、肉体が傷ついても新しい体で復活する。

・日進
大本営所属だが本人は和平派。艦娘の葬儀を担当している。個人的に悪いものを祓う仕事もしている。
島風鎮守府を呪うS朝潮の怨念を祓う。イタコのように死者の声を伝えることもでき、S朝潮の想いを提督たちに伝える。
黒潮と、お好み焼きは大阪と広島のどちらが本物なのかを発端として、プライドを賭けた勝負を繰り広げる。
>>1曰く、日進は下も濃くて真っ裸就寝派。

・陸奥
死を恐れ、大本営に従っていれば死ぬことはないと諜報活動を行っている。長門と同じく接触回線を搭載しているので、長門と触れるだけで意思疎通ができる。
長門とともにどこかへ逃走する。

・あきつ丸
海軍ではなく警察に所属している。由良に捜査に協力してもらう代わりに、由良の任務は見逃してきた。
・まるゆ
あきつ丸と同じく警察に所属。警部補。皆にはモグラと呼ばれているらしい。響の提督を殺していた犯人を突き止めていたが、逮捕する前に深海棲艦の攻撃で町は壊滅した。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/03/02(土) 00:01:59.81 ID:dhaJ4tRy0
・夕立
特務艦。時雨を殺した組織に復讐がしたい。最上をクズ重巡と思考の中で呼ぶ。駆逐水鬼が殺された時雨であると知る。
・時津風
特務艦。視察官と繋がっていた。夕立の犬になる。 かつての自身の殺人の証拠を消すため北方棲姫を殺すが、自身も命を落とすことになる。
死体はアケボノによって処理、朝霜以外は記憶を消去され時津風は大本営へのテロ未遂で射殺されたことになっている。
・綾波(特務艦)
かつて不知火が所属していた鎮守府唯一の生き残り。不知火に暴力をふるわれ、不知火と鎮守府の仲間を殺した大本営を憎んでいる。のちに女幹部の特務艦となる。
不知火に過剰な暴力をふるい女提督に再教育されるが脱走し、不知火と交戦するが傀儡の性能を発揮した不知火に撃破され、再起不能のダメージを精神に負い解体処分となる。

・早霜
『料亭竜宮』で暴れた。朝霜を「泣き虫姉さん」と呼ぶ。愛情が歪んでいる。
どうやら死んでも復活できるようだ。

・ヴェールヌイ
ガングートの妊娠を聞きつけてやってきたロシアの使者。背丈がでかい。

・監査官
男性。切れ者。

・視察官
女性。S朝潮に対して執拗な取り調べを行った。脱走犯。時津風と繋がっていた。
整備士に助けられるも、人間の身体はもう使い物にならなかったため、駆逐イ級の死骸で代用される。

・整備士
組織の元トップ。すぐに忘れられてしまうような容貌。伊13、伊14、呂500、伊401のみ潜伏場所を知っている。
卓越した義肢技術と生体生成技術(艦娘の体から本人の腕脚や内臓を作れる)を持つ。国に追われており公には死亡扱いされている。
白血病の手術痕有り。死亡届はアメリカで出されている。「男」と書き込まれることが殆ど。吹雪と恋仲。
・吹雪
深海棲艦のように肌が白く、角が生えている。轟沈したが整備士に助けられる。
生身の左腕を整備士が作ってつけた。轟沈したからかこの姿になったからか練度が元の倍になった。
・神風
傀儡に記憶をインストールされた者。将棋が得意。
・旗風
傀儡に旗風としての記憶をインストールされた者。
・ビスマルク
傀儡に記憶をインストールされた者。深海棲艦の力を抑えるには負の感情を持たないようにすれば良いと知っている。

・アケボノ
火を出現させる能力を持った艦娘。荒潮たちとチーム『NAMELESS』として行動を共にしている。
・荒潮
『NAMELESS』の一員。自身が死亡した際、過去に戻るという能力を持った艦娘。
・望月
『NAMELESS』の一員。限定的な未来予知能力を持った艦娘。 半分深海棲艦となっている。
・大鳳
『NAMELESS』の一員。透視能力を持った艦娘。
・神威
『NAMELESS』の一員。瞬間移動の能力を持っており、よくアケボノ達をテレポートさせている。
・羽黒
『NAMELESS』の一員。念写能力を持った艦娘。
・グラーフ
『NAMELESS』の一員。治癒能力を持っており、瀕死の状態でも回復させることができる。

・深海提督
組織と関係を持っている。深海棲艦たちに忍術を教えている。

・伝説の翔鶴
当鎮守府から遠く、未確認深海が確認されている『鉄の海域』に出没。朝霜が化け物、傷一つつけられないであろうと評価。
両腕が無く舌に印を刻み大量の艦載機で羽を作って飛ぶ。零戦と九九式を扱う。おばあさんに一時期保護されていた。
中継基地と呼ばれる鎮守府の最後の生き残り。基本的には誰も姿を見たことがない。
どこかの鎮守府に縛られるより、自由に海を守りたいと話す。

・信濃
大本営の新型艦娘。戦艦と空母のコンバート。天城・榛名・大井はその存在に妙な違和感を感じていた。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/02(土) 01:53:45.34 ID:npnuzYRDo
お疲れ様
思えば遠くに来たものだ
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/02(土) 06:47:06.07 ID:RwYpasryo

個人的には朝霜に提督龍驤とのリハビリ周りを入れて欲しいかも
120 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:12:38.37 ID:NdMAUcQDO



『朝ちゃーん、みかん剥いてー』


「はいはい…」


私の名前は朝潮、かつて艦娘としての使命を果たさせてもらえずに売り飛ばされ、凄惨な生活を送り、その後新たに私の主人となった人間を生きるために殺した私


その後とても運良く優しい司令官に巡り会うも結局は私自身の業に負け自らの命を絶ってしまった


人を殺し、自らの命までも絶った私はもちろん地獄に落ちるだろうと思っていたけれど…何故か洋室の中に炬燵というアンバランスな部屋でみかんを剥いていた

121 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:14:18.76 ID:NdMAUcQDO


「はいどうぞ」


『ありがとー、ちゃんと筋も取ってくれる几帳面な朝ちゃん好き』


私の対面に座るこれまた炬燵に似合わないゴスロリ服の少女…やし…何だか言ってはいけないらしいのでY子さんと呼んでいる―は炬燵に顎だけ乗せた状態で口を開ける


『食べさせてー』


「はいはい…」


これまで何度も繰り返した動作にいい加減慣れたものでY子さんの口にみかんを放り込む、密かに何処まで遠くから入れられるか挑戦中だ


122 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:16:18.28 ID:NdMAUcQDO


窓から外を見ると赤い彼岸花が咲き乱れ、その奥に海かと思う程の巨大な川が見えた


彼女が言うには此処は彼岸、あの世とこの世の境目の更に外れの方らしい


私は自分が死んでいると自覚している、本来なら有無を言わさず川を渡らなければならないらしい、そこを彼女の力で繋ぎ止めてもらっているのだと


『なにー?成仏でもしたくなった?』


「いえ、別にそういう訳では…」


123 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:17:43.71 ID:NdMAUcQDO


成仏すれば魂は浄化され、全ての記憶も無くし生まれ変わる…普通の死者なら


私は人を殺し挙げ句自殺した、この先へ進んでもそこは地獄


私にはお似合いだとも思いつつもやはり怖い、彼女がここに置いてくれるのはまさに渡りに船…三途の川でそれは笑えないけれど


そもそも何故私をここに繋ぎ止めているのか、理由を聞いても教えてはくれなかった


124 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:19:18.37 ID:NdMAUcQDO


『そろそろ時間だね、ほらまた沢山』


彼女の視線の先には大勢の人、人、人、現世で亡くなった死者の魂達が三途の川を渡っていく


老若男女問わず…艦娘や深海棲艦もその中にいた、おそらくは海以外の場所で死んだのだろうとY子さんが説明してくれた


『本来なら艦娘や深海棲艦は海に還るもの…それが変わりつつあるね、より人間に近付いて、人間のような業を背負い、人間のように死ぬ、それが良いことなのか悪い事なのか私にもまだ判らないけどねー』


125 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:21:13.32 ID:NdMAUcQDO


私達艦娘は深海棲艦と戦う為に生まれた、作られた


海で戦いいずれは海で死ぬ…私自身それでいいと思っていた、迷いなど無かった


だけどいつしか私は人を憎み、人を愛し、そして海以外の…暗い部屋で独り自らの命を絶った


私達艦娘に艦娘以外の役割を求め出した人間がそうさせているのかもしれない…私のように…


126 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:23:03.82 ID:NdMAUcQDO


「ところで沢山死んだって…何かあったんでしょうか」


『んー…見てみる?あんまり面白いものじゃないと思うけど』


「他に見るものもありませんし…お願いします」


そう言うと彼女はテレビのリモコンを手に取り壁に備え付けられたテレビに向ける、普通のテレビとは違い映るのは…


127 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:25:06.08 ID:NdMAUcQDO


「うわ…」


予想はしていた


何処かの国の漁村が深海棲艦に襲われていた


もはや海上ではなく上陸してまで人間を襲う深海棲艦、数人の艦娘が必死に守ろうと戦っているが程無く全滅してしまった


必死の抵抗だったのか深海棲艦の亡骸も少なくはなかったが残った深海棲艦は全く意に介してはいなかった


そして生き残りも居なくなった村で更に深海棲艦はあろうことか人間の、艦娘の亡骸を喰らい始める


128 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:27:41.18 ID:NdMAUcQDO


「うっ…」


吐き気がこみ上げ私はモニターから目を反らす


損壊した遺体なら見た事はあるし私自身が損壊させた事もあるがさすがに口にするという光景からの嫌悪感は初めて感じるものだった


私の様子を見てY子さんがテレビを消してくれた


『仲間を食べる深海棲艦は知ってるよね?』


「ええ…コア…?でしたっけ、それを食べて強くなると」


『でも今のやつらは違った…どうしてだと思う?』


「解りません…仲間以外でも強くなるようになったとかでしょうか」


129 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:29:26.20 ID:NdMAUcQDO


『求めるものが違うから』


「求めるもの?」


『まーあの程度の数ならすぐ討伐されて持ち帰られる事は無いかな、その辺はお姉ちゃんしっかり見張ってるみたいだし、噂すら広まってないからねー』


「あの…それはどういう…」


『秘密ー、朝ちゃんが自分で可能性を考えてみたら?時間はたっぷりあるよ?』


130 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:31:09.29 ID:NdMAUcQDO


こっちではね…という最後の言葉は私には意味が解らなかった、答えを教える気はなさそうだ


彼女はこういう問答からの丸投げをよくする


私は諦めてすっかり冷めてしまったお茶で喉を潤すのだった


131 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:32:52.06 ID:NdMAUcQDO


『ところでさー』


「はいはい、みかんですか」


『ちが…ああ違わない、みかん剥いてー剥きながら聞いてー』


「はいはい…なんでしょう」


…そういえばこのみかんは何処から…いやこの部屋だって不思議だ、外に出れば扉以外は彼岸花と三途の川しか見えない…彼女が言うにはこの場所を買ったとか何とか…あの世でも土地の売買は可能なのだろうか


『気にならないの?皆の事』


132 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:35:03.14 ID:NdMAUcQDO


ピタリと手が止まる


皆…か、…彼女の言う皆が何の事なのかはすぐに解った


『剥きながらー』


はいはい…とみかん剥きを再開しながら言う


「少しは気になりますよ、多分」


『多分かあー、やっぱり色々抜けたんだねぇ』


「抜けたとは」


133 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:37:08.52 ID:NdMAUcQDO


『執着、未練、そして怨念…そういうものは結局皆現世のものだから、後に残るのは記憶と業と情くらい』


確かに…ここに来てからはあれ程ぐちゃぐちゃだった私の思考がクリアになっていたのは気付いていた


『朝ちゃんの業は深いけど今の朝ちゃんが本来の朝ちゃんなんだろうね』


まあ…例えば私が殺人を犯す発端の存在を思い出せば多少ムカつきはするけどそれでも殺したい程ではない


そもそも今更という思いの方が強いのだ、彼らが幸せになろうがもう勝手にしてくれという感じだ


134 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:39:08.12 ID:NdMAUcQDO


ただ…また同じ事を繰り返すかもという思考をしてみると…


『ストップ、駄目だよー朝ちゃん』


「ごめんなさい…また…」


『多分だけど現世にまだ朝ちゃんの怨念が残ってるのかも…あれも一応朝ちゃんだから何処かで繋がってるんじゃないかな』


「あんなシリアルキラーみたいな私を私とは認めたくないですね…二言目には殺す殺すと…」


135 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:41:13.88 ID:NdMAUcQDO


「怨念が残っているとしてどうしたらいいんでしょう」


『まあねー…居場所も解らないからまた夢枕しても説明のしようがないね』


「また祓ってくださいでも何処に居るかは解りませんで丸投げではさすがに悪いですね…」


『まあいずれ力尽きて勝手に消滅してくれるよ!多分ね!』


「だといいんですが…」


136 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:43:30.38 ID:NdMAUcQDO


『考えてもしょうがない事は考えない、長生きの秘訣だよー』


「もう死んでるんですというツッコミ待ちですか」


『でさー、気にならないの?』


「まあ…少しは…」


『じゃあ見ちゃおう!』


と、再び彼女がリモコンを手に取るとボタンをいじり出す


137 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:46:52.46 ID:NdMAUcQDO


ドキドキする…心臓もう止まってるけど…気分的に


執着も未練も消えた、それでもこんな気持ちになれる…私はちゃんと司令官の事を愛していたのだと…


司令官は元気だろうか、龍驤さんを泣かせてはいないだろうか、それともまた彼女を増やしているのだろうか


そんな風に考えながらモニターを見つめる私、そして…


138 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:49:22.57 ID:NdMAUcQDO


<あぉぉぉぉ!イグッ!イグゥー!


ピンク髪の見慣れた誰かが同じくピンク髪の見慣れない誰かに襲われている光景だった


「なんでよりによってこんな場面なんですかぁぁぁ!!!」


『あっあれぇ!?おかしいなぁ…チャンネル設定間違えたかな…アンテナかなあ…』


「不思議な道具の割には変に現代的ですね!!!」


<んほぉぉぉ!またイグゥ!


「早く消してください!!!殺しますよ!!?」


せっかく怨念から離れられたのにまた怨霊化しそうな私だった


139 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/03(日) 06:51:15.56 ID:NdMAUcQDO
ここまで
また何か思い付けば
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/03(日) 14:04:59.20 ID:Br3BWx6hO
乙、よりにもよって春雨が漣犯してるシーンかよwwww
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/03(日) 15:48:57.77 ID:B/EcnNgio
おつです
やしm、Y子ちゃんは「まだ」姉と違ってやるときゃやってくれる感残ってる
あとそのTVください
142 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 20:57:31.67 ID:nQ+6pbjDO
>>138から



「うふ…司令官はやはり素敵ですね」


『そーですねー』


私の名前は朝潮、かつて人間に買われ人間を殺し、人間を好きになった私だけど最後には自らの憎しみに負けて自決の道を選んだ


何の因果か成仏せずに三途の川の片隅でこうしてかつて暮らしていた場所を覗き見る生活を送っている


現世の様子を観る事が出来る謎テレビの使い方を何故かあった説明書を読んでからはその好きになった人間、司令官を眺めては悦に入っている私


テレビという物で観ているせいか何となく現実感が薄いように感じる



143 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 20:59:39.52 ID:nQ+6pbjDO



「それにしても少し見ない間に新しい顔ぶれもちらほらといますね」


『あれから色々あったみたいだよー、球磨がチェストバスターしたり、長門がスパイで得意技は頭突きだったり、朝霜が提督と龍驤の子供になったり、ガングートの子供が国家間戦争を引き起こしかけたり』


「まるで意味が解らないんですけど…え?…は?司令官の子供に!?」


『食い付くのはそこなんだねぇ』


私も司令官の子供になってみたかったかも…司令官をパパと呼んで甘える私、龍驤さんをママと呼びお世話をする私…川の字になって眠る親子三人…いいかもしれない


『…なんか何考えてるか解っちゃう顔してるなぁ』



144 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:02:01.98 ID:nQ+6pbjDO



「そういう事ですか…球磨さんとはあまり接点は無かったけど生きていて良かったですね…」


詳しく説明を受けた私はそう本心から思う、ついでに下着料理が出来なくなったらしいのも心から良かったとも激しく思う、実は私も被害者なのだ。下着が減っていると不審に思い探しているとその自分の下着が鍋で煮込まれていた私の気持ちが解るだろうか


「それに長門さんが大本営のスパイですか…まああの人の事もよく知りませんでしたけど…それに朝霜さんが幼児退行するのは意外ですね」


あの人への私のイメージはとにかく強い、喧嘩っ早い、逆境にも耐性のあるドM、と思っていたけど弱点もあったんだなあ


『一見強いように見えても何かを抱えてる、そんな人が集まる鎮守府なんだよね、運命か…それとも何かの意志が働いてるのかな』



145 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:05:01.06 ID:nQ+6pbjDO
 
 
 
「貴女の仕業ではないんですか?」


『どうだろうねぇ、そんな人の巡り合わせを操る力があったらこんな世界にした私をどうする?』


「…世界は別にどうでもいいですが、始めから司令官に会わせてほしかったと文句を言います」


『それだけ?復讐してやろうとか無いんだ?』


「それだけです、もう恨むとか復讐だとか懲り懲りなんですよ私は」


『そっかぁ…ふーん…そっかぁ…』


意味深なニヤニヤ顔で何処か嬉しそうに頷くY子さん、何だか正直気持ち悪い。実際彼女は底が知れない不気味さはあるけれど多分そんな力は無いと思う、あったとしたら私はここには居なかっただろうと思えるくらいには何となく信用している
 
 
 
146 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:07:23.71 ID:nQ+6pbjDO
 
 
何故私をここに繋ぎ止めているのか聞いた時その理由をはぐらかした彼女だったが、ある時一瞬見た申し訳なさそうな顔を私は忘れられなかった


はっきりとは聞いてないが多分彼女は私に罪悪感を抱いている…何故かは解らないがそれなら私がやるべきは出来る限り気楽に振る舞う事。恩はあれど何一つ悪くなどない彼女の為にも…


「それにしてもガングートさんにも子供が出来たのも驚きですね、しかも双子なんて」


『そうだねぇ…途轍も無く低い確率の筈なんだけどよっぽどの回数だったのかなぁ』


回数って…まぁその…私程ある意味で経験豊富な艦娘もなかなか居ないだろうけどその内容が酷かったせいで正直な所その手の話題は苦手なのだ。司令官に迫ってみたりした事もあったがむしろあれは我を忘れた暴走みたいなもので


「他には何か無かったんですか?他には」


露骨に話を反らす作戦に出る私だった


147 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:09:54.90 ID:nQ+6pbjDO


他の話も大概だった


不知火や陽炎さんが実は大本営製の傀儡だったとか、和平派の深海棲艦が同族に虐殺されいくつかの鎮守府が全滅したとか、あわや外交問題勃発からの鎮守府取り潰しの危機だったりとか聞いてるだけで震えが走る


その話の中で潜水新棲姫のせいで司令官が倒れた話を聞いた時私がその場に居なくて良かったと思った


「その時点であの私が居たら確実に殺しにかかってましたね…」


『まあそうかもねぇ、でも今はもうそんな事にはならないみたいだよ』


と彼女がモニターを指し示すとその小さな深海棲艦がべったりとピンクの初期艦に付き従っていた


148 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:12:03.07 ID:nQ+6pbjDO
 
 
「同一人物ですかこれ…私が見た時はもっとこう…キリリとしていて厳しい雰囲気でしたけど」


『恋は人を変えるというやつだねぇ』


初期艦さんに付き従う深海棲艦ははっきり言ってデレデレだった。それを受けている彼女は何処かこそばゆいような困った表情を浮かべている


「和平派の深海棲艦集めで付いてきたという話でしたけどいつの間に…」


『最初は身体目当てだったみたいだよー。でも多分刷り込みに近いものもあるんじゃないかな』


「身体目当て…ああ…そういう…」


何かにつけてそういう話題に行かざるを得ないのはあの鎮守府の呪いか何かなのだろうか


149 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:14:45.95 ID:nQ+6pbjDO
 
 
『あの小さな深海棲艦はほとんど外の世界を知らなかった。人類や艦娘と戦う事が全てだと思っていた。だけど子供らしい好奇心旺盛さから初めて見たものに強い興味を抱いた』


「そういえば初期艦さんが一度捕まったと聞きましたが…」


『色々見たんだろうねぇ』


「不純じゃないですか」


『始まりなんてそんなものだよー。だけど最初に出会った相手だというのも強く影響していたと思うよ。もしかすると退屈な世界から連れ出してくれた王子様?みたいに思っているのかも』


「ふぅん…王子様ですか…」


悪い癖だとは思いつつ、つい自分と重ねてしまう。自分にはあの地獄から救い出してくれる王子様は現れなかった。その後にさすがに王子様とは呼べないけれど素敵な人に巡り会ったので私はまだ恵まれていたのだと今なら思える


150 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:17:35.32 ID:nQ+6pbjDO
 
 
「は?司令官に付いていけないから和平派を抜ける?何考えてるんですかこの石頭は、司令官以上に和平に相応しい人は居ないでしょうに」


『どうどう、抑えて朝ちゃーん』


それからしばらくして和平派の会合を覗き見していた私はそんな場面に腹を立て聞こえる筈の無いブーイングを飛ばしていた


生前は決して見る事の無かった和平のリーダーとしての司令官の勇姿を見ようと思ったらいきなり会合は崩壊していた


「だいたい何ですか具体案出せって、無茶振りにも程があります。あの襲撃からまだそんなに経っていないじゃないですか、そんな簡単に対策出来るならそもそも襲撃自体を防げる筈です。いやそれよりも何で司令官に丸投げしてるんですか、無能だから自分では考えられないんですか」


『朝ちゃーん、落ち着いて朝ちゃーん』


はっ…私とした事が…いけない、思わずヒートアップしてしまった


151 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:20:41.24 ID:nQ+6pbjDO
 
 
「すみません…思わず何か…」


『まあ仕方ないよ、だけどあの彼の言い分も解るかなー』


「そう…ですけど…」


私自身もそれまでの経験から割とシビアな価値観を持っている。誰も傷付けず、何も失わず平和を勝ち取る、それがどれだけ難しい事かは理解出来る


だけど司令官のあの優しさに救われた私はむしろその甘さこそが司令官の武器なのではないかと思う部分もある


『実際今の提督のままだとちょーっと難しいよねぇ…』


「むぅ…確かに完全に敵対している相手なら倒す覚悟も必要なのは解りますけど…だけど話し合いが出来る場に引っ張り出せれば司令官ならきっと…」


『言葉が通じても話が通じない相手は必ず出てくるよ、同じ人間同士でそうなんだから違う種族なら尚の事』


「それは…」


『笑顔で銃を突き付けながら説得が出来るような図々しさがあの提督にあればいいんだけどねぇ…』


152 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:22:21.90 ID:nQ+6pbjDO
 
 
「それはまあ…そうかもしれませんね…でも多分司令官はあのままでも大丈夫な気がします」


『へぇ…それはどうして?』


「あの鎮守府は足りないものを補い合う鎮守府です、司令官に足りないそういう非情さ、シビアさは他の誰かがきっと補ってくれます」


そして司令官はそんな誰かをきっとまた優しく受け止めるだろう。むしろ謝ったりするかもしれない、自分の代わりに手を汚させてすまないと


だけど心配なのはあの鎮守府はそういう思いの強さからか独断専行しがちな人が多いという事だ、それが悪い方向に進まない事を私は祈るしか出来ない


そしてまた現世の様子を観る私達


153 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:24:20.40 ID:nQ+6pbjDO
 
 
司令官も参加するという提督達の集まりがテロリストに狙われていると匿名の電話が入り密かに初期艦さんが護衛に向かうという


「よりによって司令官が居る時を狙われるとは…私も居たら…鎮守府から出られない私では無理ですね…」


『せめてもう少し人数を揃えて行けばいいのにねぇ、テロリストが何人かも判らないのに』


「私も同じ立場だったら同じ事してた気がします…一刻も早く駆け付けなければと、それで頭が一杯なのではないでしょうか」


そんな事を話していると早くも犯人の潜伏場所を発見する初期艦さん、そういう所は流石だと思う、しかしやはり複数居るようで対応に困っている様子


154 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:26:20.02 ID:nQ+6pbjDO
 
 
そこに後を付けてきたらしい潜水新棲姫も現れ、何やらアドバイスをしている。それを聞いた初期艦さんがテロリストの武器弾薬の集積場所を砲撃した


大爆発


『うわぁ…無茶するなぁ…爆弾もあったみたいだし、下手したら皆吹っ飛ぶよあれ』


「こちらの人数が少ないですからね、多少の無茶は必要ですよ」


驚き、浮き足立った犯人達は計画の失敗を悟ったのか、側にあった装甲車に乗り込み逃走していく、それを見た深海棲艦が初期艦さんを引っ張って近くの車に乗り込み後を追う、そしてカーチェイスが始まった


155 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:28:01.73 ID:nQ+6pbjDO
 
 
「テレビで見ている事もあって本当に映画みたいですね」


『あはは、そうだねぇ。あ、でももう終わりそうだよ』


しばらく追いかけっこをしていたテロリストの車がカーブを曲がりきれずガードレールに突っ込んでいく


「ドジですねぇ。引き際は鮮やかでしたけど、運転は素人なんでしょうか」


『装甲車だからどんなのが運転してるのかよく見えないねぇ』


「『あ』」


ガードレールを突き破り半分近く崖に乗り出した犯人の車に追いかける二人の車も突っ込んでいく、その衝撃で装甲車は崖下に落ちていき二人の車は停車した


「ドジですねぇ」


『仕方ないんじゃないかな…いきなり道を塞がれたんだし』


156 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:29:43.84 ID:nQ+6pbjDO
 
 
爆発はしていなかったようなので運が良ければ犯人達はまだ生きているだろう。初期艦さんがふらふらと車から出るとなんと助けに行こうとしている、どうやら深海棲艦は気絶しているようだ


この人も司令官至上主義を公言しているが私とは違い大概甘いのだ。私なら助けには行かず止めを刺す事を考えていただろう。ましてや司令官も狙われていたのだ、放ってはおけない


事故のすぐ後に崖下に降りようなんて無茶もいいところだと思っていると程なく警察が追い付いて来て初期艦さんと深海棲艦は保護された


「どうやらこれで解決のようですね」


『あ、これから病院に運ばれるみたいだよ』


「それにしても通報はしていたとはいえたったの二人でテロリストを追い掛けるなんて無謀ですね。しかも一人は戦力にならない、さすがは突っ走りの初期艦さんですね」


『この場合あの深海の子が焚き付けたようにも見えたけどねぇ』


157 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:31:35.60 ID:nQ+6pbjDO
 
 
「酷い怪我はしていないように見えましたけど頭とか打ってなければいいのですが…」


何となく心配なので病院での風景を見ていると意識を取り戻した深海棲艦が初期艦さんに抱き付く。よほど怖かったのか心配していたのかと思ったていたらカッコよかった、また惚れ直したと目をキラキラさせていた


『熱烈だねぇ、何て言うかすっかりメロメロ』


「あの…あんまりこういう場面を見るのは…」


などと言いつつテレビを消そうとはしない私。やはり気になるのは気になるのだ


そして小さな深海棲艦の頭を優しく撫でる初期艦さん。うわぁ…何かすごい優しい顔してる…割といつも賑やかなイメージだったけれどああいう顔も出来るんだ…


158 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:33:30.11 ID:nQ+6pbjDO
 
 
やがて司令官や龍驤さんもお見舞いに来て少しの間入院という事になったようだ


それからもちょくちょくお見舞いをしている司令官に初期艦さんが今度は和平派の会合が狙われていると話していた


つい最近テロがあったのにまたという事は別口なのだろうか、この国にはテロリストがどれだけ居るのだろう


「別口のテロリストか内部抗争とかなんですかね」


『うーん…』


いつものように鎮守府の様子を眺めて一週間近くが経ったがどうも何も起きてはいないらしい


「デマだったんですかね。そもそも初期艦さんはこの情報を誰から…そういえば先のテロ情報も初期艦さんへの匿名電話だったらしいですが、彼女はテロテロ詐欺の標的にでもなっているのでしょうか」


『そんな詐欺は聞いた事…いや割とあるのかな、大抵はすぐ特定されて捕まるけど』


159 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:36:24.13 ID:nQ+6pbjDO
 
 
何となく気になって病院の様子をモニターに映すと初期艦さんは退院の準備で荷物の整理をしていた。そういえば明日退院という話だったと思い出していると看護師さんが病室へ入ってくる


「特に変わった所は無いみたいですね。ただのイタズラだったんでしょうか」


『…あいつは…』


「え?」


いつになく真剣な彼女の声に私はそちらに振り向こうと―――





ご主…!





―――空気が噴き出すような音と何かが倒れる音がした
160 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:39:41.67 ID:nQ+6pbjDO
 
 
「え?」


再びモニターに目を戻すと先程の看護師さんが何かを手に持ちそれを倒れている初期艦さんに向けていた


『…!』


再び先程の空気が噴き出す音、今度は連続で。初期艦さんの身体が僅かに痙攣してそのまま動かなくなった


「え?なんで…?あれってもしかして銃…どうして看護師さんが…?」


『朝ちゃん!もういいから!リモコン貸して!』


Y子さんが何かを叫んでいる。だけど私はモニターから目を離せなくなっていた

そしてその看護師さんが顔を上げ私はその目を―――


――見た
161 : ◆B54oURI0sg [sage saga !red_res]:2019/03/15(金) 21:44:46.90 ID:nQ+6pbjDO
 
 
 
あああああああああああああああ痛いああああ嫌だああああああああ指あああああ痛い痛いあああ痛いああああああああああああああ止めてあああああ痛いああああああああ助けてああああお腹がああああ止めろああああ目あああ痛いああああああ助けてああ殺すああああどうしてあああああああああああああ止めてあああああ痛いあああああ殺してああああああ嫌だあああああああああ死にたくないあ殺すあああああ痛いあああああ死にたいあああああああああ助けてあああああ誰かああああああああああ司令官ああああああああ―――
 
 
 
162 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:46:52.40 ID:nQ+6pbjDO
 
 
 
 
 
『―――朝潮―――』
 
 
 
 
163 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:48:25.17 ID:nQ+6pbjDO
 
 
「あれ…?」


ふと私が我に返るといつの間にか目の前にY子さんが居て私の頭を両手で挟んでいた。彼女の目は不思議な輝きを放っていたがそれもすぐに消え、手を離す


「私…今…何か…?」


何か…途轍もない悪夢を視ていたような気がする。私が思い返そうとすると


『―――何も無いよ―――』


その彼女の声を聞くと頭の中の何かが霧散していくのを感じる


『―――何も起きなかった―――貴女はアレには会った事も無い―――それは存在しない記憶――』


「何を言って…」


あれ…?本当に何も無かったような気がする。いやそうじゃなくて私は確か病室の様子を見ていて…


164 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:49:59.12 ID:nQ+6pbjDO
 
 
「初期艦さん!」


思い出した。初期艦さんがあの看護師にいきなり撃たれて…あれは一体誰だったのか、見覚えは全く無かったが嫌な目をしていた、まともな人間ではないのは確実だろう


『…大丈夫?朝ちゃん?』


「え?私は別に何ともないですよ、いきなりショッキングな場面でびっくりはしましたが」


『そっか…なら良かった』

妙に心配そうなY子さん。こんな彼女は珍しい、いやそれよりも…


再びテレビモニターを見ると先程の看護師は既に居らず、血の海に沈んでいる初期艦さんが居るだけだった

「ああ…なんてことに…」

165 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:52:26.27 ID:nQ+6pbjDO
 
 
司令官に限らず初期艦というのは提督にとっては特別な存在だと聞いた事がある。それが轟沈どころか陸で何者かに殺されたとなればあの優しい司令官がどれ程心を痛めるか想像も付かない


それにあの人には私もお世話になっていた。その顔見知りが目の前で殺された。私の中にとある感情が沸き上がるのを感じる


これは憎しみとは違う。恨みや怨念とも違う。理不尽に対する、仲間を傷付けた者に対する正当な怒り


ああ…私は司令官だけでなくちゃんと他の皆の事も大切に感じていたのだと今更ながら…遅すぎる…今になって気付いたのか…


「彼女も…ここに来るんでしょうか…海ではなく陸で死んだとなれば私と同じく…」


『まだそうと決まった訳じゃないみたいだよ』


166 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:55:56.87 ID:nQ+6pbjDO
 
 
見ると倒れている初期艦さんの右腕だけが動きナースコールを押そうとしていた。間違いなく意識は無い、これは…


『あの子の中の深海棲艦が頑張っているみたいだね、普通なら艦娘だろうと即死だけど深海棲艦が何とか繋ぎ止めてる』


そしてどうにかボタンを押せたのか別の看護師さんが駆け込んできてそれからはもう大騒ぎだった


泣き叫ぶ小さな深海棲艦はまるで母親が死んでしまった幼子のようで見ている私も辛かった。そして連絡を受けて駆け付けてきた司令官は想像していた通りに狼狽して痛々しく、そして龍驤さんは思っていたよりは冷静に、だけど顔面は蒼白のまま司令官を慰めていた


ICUに担ぎ込まれた初期艦さんはどうにか一命を取り止めたようで私も胸を撫で下ろす。だがまだ予断は許さない状態のようで…



167 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 21:58:11.86 ID:nQ+6pbjDO
 
 
それから司令官の様子を見守っていると何処となく雰囲気が変わっている事に気付く


「司令官…やっぱりすごく怒っていますね…」


『いくら優しい甘いと言ってもそりゃあねぇ。これで怒らなかったらそれこそ異常だよ』


ただそれが私のような暗い憎悪でなく正道に立てるような怒りであればいいのだけれど…


そして龍驤さんが誰かを呼んだようで見た事の無い海外艦と連れ立って病院に向かうようだ。どうやらあの人なら助けられるらしい


168 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 22:00:07.45 ID:nQ+6pbjDO
 
 
「凄腕のお医者さんとかでしょうか」


『まあそんなようなものかな。…ん?お姉ちゃんがお話始めたみたいだねぇ…どうなるかなぁ…』


「ふ…じさんですか?」


『はっきり言っちゃっていいんじゃないかな。別にお姉ちゃんも止めてないし。そもそも色々な所で結構名指しされてるよお姉ちゃんは』


「秘密裏に何かしていると聞きましたが」


『活動している限りその存在を隠し通すなんて不可能だよ。というかドックに関わる人間なら元から知ってる事だし、そこからお姉ちゃんに行き着くのに時間は掛からなかったと思うよ』

169 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 22:02:23.95 ID:nQ+6pbjDO
 
 
『どれぇ、ちょっと様子をっと…』


Y子さんがリモコンを操作する、すると画面が切り替わり見た事のない風景が映る。白い何も無い空間に初期艦さんと黒い着物の女の子が何かを話している


「これが富士さん…」


服装は和洋真逆だが姉と呼んでいるだけあって顔立ちはよく似ている、だけど見た感じ富士さんの方が背も小さくこちらの方が妹のようにも見える、それに胸も…


ふと富士さんがピクリと反応してちらりとこちらを見た気がした


『お?さすがに解っちゃうかあ…まあ気にせず続けてねーお姉ちゃん?』


170 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 22:05:09.09 ID:nQ+6pbjDO
 
 
溜め息をひとつ吐き富士さんが初期艦さんに向き直り話を続ける


初期艦さんが話す内容もまた私にとっては興味深かった

あの龍驤さんの独占欲は私も知っている。それに確かに龍驤さんは今回の事でも私が自殺した事でも悲しんでくれていた、しかし本人にも自覚は無く無意識だとしても私や初期艦さんを邪魔だと感じていてもおかしくはないかもしれない


そもそも横恋慕していた私の方が悪いのだからそう思われていても仕方がないとも思う


それとは別に確かに仲間を大切に思う気持ちは本物だったと確信している。そうでなければあれほど親身に接してはくれないし、私から断ったとはいえ司令官を分けようなどと言い出す筈がない


171 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 22:07:23.78 ID:nQ+6pbjDO
 
 
そして初期艦さんが自らの想いを吐き出す。いつの間にか彼女はあの小さな深海棲艦の事が司令官よりも好きになっていたらしい。はっきり言ってこれが一番の驚きだった


「…意外ですね…いつも司令官第一だとばかり思っていましたが…」


『朝ちゃんもあの提督ばっかり見てたから知らなかっただろうけど、あの深海棲艦頻繁にアプローチしてたみたいだよ。多分そんな風に求められるのは初めてだったんじゃないかな』


「ものの見事に落とされてしまった訳ですか…」


『あのピンクの子も色々面倒を見てる内に情が移っていったみたいだねぇ』


…もしかしたら私にもそんな相手がいたらもっと楽に生きていけたのだろうか、憎しみも忘れ、横恋慕の負い目など無く、幸せに…


172 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 22:09:50.00 ID:nQ+6pbjDO
 
 
ふとモニターを見ると初期艦さんの姿が薄れていっている所だった


「えっ…消え…?」


『ここは精神世界だから現実に戻るだけだよ。お姉ちゃんあの子を見逃したみたいだねぇ…珍しいなぁ』


Y子さんがやたらニヤニヤとしながらそう言ってモニターの中の富士さんに手を振っている。すると今度ははっきりとこちらを見た富士さんが苦虫を噛み潰したような顔をして顔を反らしている


『照れるな照れるな。後で誉めてあげるからぁ』


何だかやたら嬉しそうなY子さん。この二人もよく解らない、仲は悪くはないのかな


そして映像が切り替わり病室にの場面に。あの深海棲艦が初期艦さんに抱き付いて泣きじゃくっていた


173 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 22:12:35.00 ID:nQ+6pbjDO
 
 
どうやらあの海外艦の人がどうやったのか治療したらしい。あれほどの重傷を完全に治すなんて信じられない、だけど…


「良かったですね…本当に…ぐすっ」


『朝ちゃん…』


私なんかとは違う、彼女はあの鎮守府には無くてはならない存在だ。私は結局司令官や皆に迷惑ばかりかけてしまった…せめて死ぬ前に恩を返したかったなあ…

『朝ちゃんこっちに』


「…?なんでしょう」


Y子さんが私を手招きする

174 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 22:15:15.72 ID:nQ+6pbjDO
 
 
「あ…」


彼女が私を抱き締め優しく頭を撫でてくる


『…ごめんね』


「なんでY子さんが謝るんですか…何もしてないのに」


それには答えず彼女は私を抱き締め頭を撫で続ける


私は不思議と安らぎを感じそれに身を任せるのだった 
175 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/15(金) 22:17:35.91 ID:nQ+6pbjDO
ここまで
二人で外野視点で好き勝手言っていくスタイル…の筈
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/15(金) 23:21:22.38 ID:zmTIfQUBo
おつです
オーディオコメンタリーなやり取り好きなんだよなー
そして朝潮にも平原といわれる富士さん……ステータスだ元気だせ
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/15(金) 23:23:21.99 ID:TghJSXsHo
タシュケントはトラウマ
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/15(金) 23:58:35.86 ID:Lu6v8KbVO
素晴らしかったです
179 : ◆lxd9gSfG6A [sage]:2019/03/16(土) 01:19:19.66 ID:cetMpEXN0

「……失礼しました」

「はい。おやすみ、不知火」


バタン

コツコツコツコツ…………


千歳さんのカウンセリングが終わり、誰もいない廊下に出ました。

黒潮の付き添いから始まったカウンセリングは、思ったよりずっと長かったようで、月明かりを頼りに歩きます。

同室の陽炎も、帰りが遅いことを心配していることでしょう。
180 : ◆lxd9gSfG6A [sage]:2019/03/16(土) 01:20:23.85 ID:cetMpEXN0

コツコツコツコツ…………


…………陽炎に、どこから話せばいいのでしょう。

龍驤さんに反発する黒潮と話したこと。

異変を感じて千歳さんのところに付き添ったこと。

千歳さんのカウンセリングを受けたこと。




激昂した黒潮に綾波が重なって見えたこと。

その黒潮に傀儡と呼ばれたこと。

そして、不知火はPTSDであると診断されたこと…………


……………………

181 : ◆lxd9gSfG6A [sage]:2019/03/16(土) 01:21:42.18 ID:cetMpEXN0


ザザーン……ザザーン……


あてもなく歩いて、近くの海岸にたどり着きました。


綺麗な海が見たくて、なんとなく散歩をしていただけです。


決して、部屋に帰りたくなかったわけではないのです。


誰も聞いていないひとりごとを呟きながら、砂浜に腰を降ろしました。

水面に大きな満月が揺れる、穏やかな夜の海です。



182 : ◆lxd9gSfG6A [sage]:2019/03/16(土) 01:23:03.44 ID:cetMpEXN0

ザザーン……ザザーン……




暴力。

綾波。

傀儡。

PTSD。


千歳さんのカウンセリングで、不知火は自らの過去を話しました。



不知火は、多くの過ちを犯してきました。


かつての仲間に、数えきれないほどの暴力を振るったこと。

葛城さんに無理をさせてしまった瑞鶴さんを、正義面をして糾弾したこと。

鎮守府が消滅して、唯一の生き残りだった綾波が、私を恨んでいたこと。

その綾波さえ、廃人となって解体されたこと…………

183 : ◆lxd9gSfG6A [sage]:2019/03/16(土) 01:25:55.36 ID:cetMpEXN0


この鎮守府に来て、不知火はたしかに変わりました。

ですが、それで不知火の過去が無かったことにも、生まれ変わったことにもなりません。

不知火は今でも、感情に振り回されて、暴力に訴える艦娘だと考えています。





ですが。

もし不知火の過ちが、未来を変えるために活かせるなら。

不知火のように過ちに囚われた仲間に、寄り添うことができるなら。


それが彼女への、せめてもの手向けになればと、思います。
184 : ◆lxd9gSfG6A [sage]:2019/03/16(土) 01:28:26.35 ID:cetMpEXN0


水面に揺らぐ、夜月の輝き。

浮かんでは消える、いくつもの影。


執念に満ちた心を抱えて、絶望の中に沈んでいった彼女には、決して届かないとわかっていも。

残されたこの命を、償いのために捧げることができれば。

彼女が生きていたこの世界を、未来につなぐことができれば。


正しいかどうかは分かりません。

自己満足かもしれません。



それでも。





それでも、不知火は…………………………






185 : ◆lxd9gSfG6A [sage]:2019/03/16(土) 01:29:49.15 ID:cetMpEXN0



「…………あっ、やっと見つけた!」



「もー!いつまでたっても帰ってこないから心配したじゃない!なんでこんなところにいるのよ!!」


「ほら明日も朝早いん…………?」


「いや、だって……そのかおわぷっ!?」




「ど、どうしたのよ急に……あーあーそんなにぐしゃぐしゃにしちゃって………よしよし………………」



186 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/03/16(土) 01:30:47.72 ID:cetMpEXN0
『ここにいないあなたへ』
187 : ◆lxd9gSfG6A [sage]:2019/03/16(土) 01:33:09.01 ID:cetMpEXN0
元ネタは[たぬき]の映画で流れた星野源の楽曲です。
YouTubeにあるのでよかったら是非。
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/16(土) 11:41:13.79 ID:b/w0V1i8o

ん゛ん゛っいい曲!
出てきた陽炎型は皆主役張れるエピソード持ってるよね
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/16(土) 13:40:23.59 ID:dZzWUhhDO
おつです
ここの物語は割と姉妹艦の繋がりが弱いように感じていたけど陽炎はちゃんとお姉ちゃんしてるみたいで安心した
金ピカだけど
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/03/19(火) 17:18:33.14 ID:1VtF/uQA0
>>91からの続きです
191 : ◆6yAIjHWMyQ [saga]:2019/03/19(火) 17:21:20.37 ID:1VtF/uQA0


 玄関ポーチに到達し、烏山提督の革靴の音が止む。一拍遅れて、私と玉砂利の演奏も幕を引いた。灰色の碁盤の上に二人で並ぶ。

 正面へ顔を上げる。木で作られた両引き戸が鎮座していた。木製縦格子に、それらを繋ぐように整然と填められた乳白色の擦りガラスは自形の石英、つまり水晶、その結晶面のような形をとっている。

 そこにただ存在しているだけの空虚な玄関だった。不用意に人を近付けさせまいと威圧感をだしていた正門とは打って変わった印象を受ける。

 それと同時に何かが引っかかった。4枚建戸のあちこちに視線を巡らす。後頭部に火花が散った。京都の料亭で見た、銅製蝶が飾られた合掌引手にそっくりだ。 

 あの料亭は、前の提督が――――。思考を断絶。ここで思い出したところで何になるのか。多少は晴れた心を無駄に曇らす必要はない。

 思考の破片を振り払うように顔を右に向ける。烏山提督は、玄関の壁にある呼鈴を押さずに扉を見つめているだけだった。


「そのインターホン、鳴らさないの?」


「鳴らさなくてもあちらから来るよ。」


 烏山提督は口に手を当て、軽くあくびをしながら答えた。ずっと運転をしていたから少し疲れているのかしら。後で何か恩返しをしよう。

 あくびが収まると、彼はあぁと声を出した。


「ここの提督にだけは荒潮の事情をすでに話した。彼女に話を通しておいたほうが安全性および秘匿性が高まる。」


 笑顔で大事なことを世間話のように話された。

 一瞬身構えたが、しかしこのタイミングで公開されたのならこの情報はさほど重要ではないのだろう。彼を信じよう。


「それ、大丈夫なの?」


 されど念には念をいれる。用心には網を張れ。


「大丈夫。信頼出来る人だよ。小生と同じ、いわゆる上層部の一人だからね。」


「あぁ、でもあっちのほうが上だ。」という彼の呟きがすぅっと消えて、そこそこの権力という無駄な謙遜はいらないと思った。


192 : ◆6yAIjHWMyQ [saga]:2019/03/19(火) 17:23:16.96 ID:1VtF/uQA0


 程なくしてガラス越しに人影がみえた。ぴたぴたと張り付くような音が微かに聞こえる。

 影は小さくなり、カタン。左へ移動しまたカタン。大根をゆっくり輪切りにした時の音に近い。

 そして戸車の回り擦れる音を響かせながら、二枚の扉は左右に離れていく。その間から現れた人間は――――。


「烏山、待っていたよ。」


 聞き覚えのある声だった。その声はカシミヤのように柔らかく、そして軽く弾んでいた。

 見覚えのある顔だった。下手に化粧を施せば価値が失われるであろう肌と顔立ち。

 その顔には黒曜石が如き双眸と眉が、高い左右対称性で配置されている。あまりに整い過ぎて地味な印象さえあった。

 豊かな黒髪からつくられた一本の三つ編みが陽光の当たらぬ影の中で、蜜蝋でも塗られたような光沢を放ちながら、胸元へ垂れ下がっている。

 枯れた蔓が赤褐色で描かれた、黒茶地の着物を纏った女がそこにいた。


「――――」


 心臓が、自壊してしまいそうなほどに大きく鼓動を刻み、一瞬停止。

 眼球がころりと抜け落ちてしまうのではないか。そう自覚できるほどに私の瞼は開かれた。きっと瞳孔も散大しているに違いない。

 口内が粘つく。朽木がねじ込まれ、そのまま張り付いたかのように喉が窄まる。水分が体の中心へと向かっていく感覚があった。

 その感覚に乗じて、烏山提督とこの女に気取られないように息を吸う。慎重に吐く。女の姿を見た瞬間から反射的に握りこんでいた拳が、弛緩していくのがわかった。

 最前線の第一艦隊から長く離れていたこともあってか、不測の事態が起こってからの、精神の立て直しに、あの頃よりも時間がかかっている。

193 : ◆6yAIjHWMyQ [saga]:2019/03/19(火) 17:24:28.96 ID:1VtF/uQA0


「それが本当なら、門衛に誰が来るのかをしっかり伝えてあげてやれ。狼狽していたぞ。」


 隣から聞こえる、男の語気鋭い声。菊月達と話すときの調子とは違う。私は知らなかった。


「不測の事態にも対応できるように鍛えてあげる。この親心が分からないかなぁ。」


 女の眉根に一瞬皺が刻まれたが、すぐに戻った。しかしこの対応はまさに暖簾に腕押し。私の知らない、彼女の応対だった。


「そして初めまして。君が曙さんに会いたいっていう荒潮さんだね。」


 女は相対するように私へ体を向き直し、腰をかがめた。視線が合う。懐かしさが鼻先を仄かにくすぐる。甘くスパイシーな香り。

 頭をよぎるのは『澪標』。秘書艦を必要としない彼女が愛用していた、恐らく最初で最後の秘書艦になったときに聞いた、香水の名前。


「ボクはここの提督で、雲林院っていいます。どうぞよろしく。」


 手を差し出される。握手を求めているのでしょう。右手を差し出す。陶器のような見た目から放射されたこの熱の感触を、私は知っている。


「手、冷たいね。烏山、荒潮さんに防寒着を用意しなかったのかい?」


 女の視線が烏山提督へと向けられる。私はその視線をたどる。


「合うものがなかったんだよ。」


 目をそらされた。4つの瞳の圧力に屈してしまったのかしら。合うものがなかったのは確かだけれど。


「そっか、じゃあ仕方ないね。ささっ、上がって上がって。」


 女は身を翻し、扉の内へと進む。続く烏山提督の背後に、私もまた続く。




 予想外の出来事というものは得てして確認不足によって起こる、と思う。

 確かめてもらったのは今の曙の提督の名前が、旧世界の曙の前の提督の名前と一致しないということだけだった。自分のその浅慮さを恨む。

 いや、これは見様によっては好都合だ。曙の様子とこの女の様子を一度に把握できる。

 あなたを見極めよう。かつて、あなたの麾下にいたこの私が。


194 : ◆6yAIjHWMyQ [saga]:2019/03/19(火) 17:29:04.47 ID:1VtF/uQA0
一旦ここまで
質問や確認したいこと等がありましたら、どうぞ
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/20(水) 07:38:38.97 ID:KHOibW1ko
おつおつ
196 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:12:21.24 ID:XmkdBCEDO
>>174から
 
 
「ふぁあ…」


いつもの様にテレビを通して私がかつて居た鎮守府の様子を見ている私


私の名は朝潮、他に特に言うべき事も無い、独房!連れていけ!まあ私はむしろ独房に入れられる側ですが


…じゃなくて、幽霊生活にもだんだん慣れてきたけれど特にする事も無い私


この現世テレビを観るか、Y子さんのお世話をするか、部屋の掃除…とは言え普通の家の様に埃が積もったりはしないので専ら彼女が散らかした本やらお菓子やらを片付けるくらい


そのY子さんも今日は部屋で寝ているのでここには私一人だった


あれから司令官達は殺し屋を探すも見付けられずあっさり諦めて初期艦さんの復帰パーティーを始めた


司令官と別れる場面は少しだけ意外だった。少なくとも現状維持するのではと思っていたけど彼女も随分思い切ったものだと思う
197 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:14:12.62 ID:XmkdBCEDO
 
 
パーティーの後は特に何事も無く普段通りの鎮守府に戻った様子で今は夜。それぞれ思い思いの時を過ごしている様子を流し見る


何やら猫耳を着けた龍驤さん朝霜さん響さんに壁まで追いやられている司令官が居た


「相変わらず司令官は猫耳に弱いんですね…」


正直誘惑というよりもその司令官の反応が楽しくて玩具にしている感が強い。私もやった事があるがつい調子に乗って龍驤さんに怒られたのも良い思い出


それから龍驤さんと司令官を残し部屋から退出する響さんと朝霜さん。ここからはプライベート、いくら見放題と言ってもそこは私も弁えている


リモコンを操作し場面を変える


「…ええ見ませんよ、私は夕張さんとは違うんです。そういうのは見ちゃ駄目なんです」


誰にともなくそう言い訳をするのは別に見たいからではありません。断じて違います
198 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:16:38.87 ID:XmkdBCEDO
 
 
ふと覗いた書庫で潜水新棲姫に膝枕している初期艦さんと北上さんが話していた


≪霊は成仏してなんぼですけど、ここで見てて欲しいって気持ちもありますよ≫


すみません成仏してません…そこじゃないけど見てます


何となく心の中で謝る私



――と



ガチャ



背後から扉の開く音が聞こえた。Y子さん起きたのかなと振り向くとそこに居たのはあの精神世界で見た黒い着物の少女


【あの子は居ないのね】


「あ…はい、Y子さんはお部屋で寝てます」


【そう…】


何処かホッとしたような、それでいて寂しいような複雑な表情を浮かべ


そして何も言わずに炬燵に入り項垂れる
199 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:18:51.69 ID:XmkdBCEDO
 
 
「あの…大丈夫ですか?何処か具合が…」


【私にも少し休みたいと思う事くらいあるわ…】


と疲れた顔で言う彼女


「とりあえずお茶でも淹れますね」


【…えぇ】


この人は確か富士さん…始まりの艦娘でありY子さんの姉、詳しい事は知らないし具体的に彼女が何をしているのかも私は聞いていなかった


以前Y子さんから聞いたのは全ての艦娘の中に眠っていてきっかけがあると目覚めるという事だけ


この際本人に聞いてみるのもいいだろうか
200 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:20:32.57 ID:XmkdBCEDO
 
 
「はい、どうぞ」


【ありがとう…】


お茶を受け取り啜る富士さん。同じくお茶を啜る私と目が会った


あの目だ


Y子さんが時折私に向けるあの申し訳無さそうなあの目を彼女もしていた


【…私の話はあの子から聞いている?】


「始まりの艦娘で全ての艦娘の中に居るという事くらいでよく知りません」


【そう…ならいい機会だから貴女にも説明するわ、私が何を目指しているのか…】


「いいんですか?」


【えぇ…今の貴女には知る権利がある。全てとはいかないけれど話せる事は話すわ】
201 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:22:22.94 ID:XmkdBCEDO
 
 
「理想郷の扉…艦娘達を救う…ですか…」


【えぇそうよ】


艦娘達がどのようにして生まれたのか、その話は私にとって驚きではあった


つまりはこの人は私達のお母さんでY子さんは叔母さんという事になるのだろうか


【私は私の娘達を戦いの道具のままにしておくつもりは無いの。…この世界に居る限りそれは死ぬまで付いて回る】


「その扉を開く為に艦娘達の魂を集めていると…何か矛盾していませんか」


【…解っているわ。けれど私だけの力では扉は開けない、どうしても取捨選択は必要になってしまう…】


…失言だったかもしれない。彼女の辛そうな顔はとてもじゃないけどそれを好きでやっている訳ではないと雄弁に語っていた
202 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:24:32.46 ID:XmkdBCEDO
 
 
【…だけど最近、予想外の事実が判明してしまったの…】


「それは…?」


彼女はここに来た時に見せていた疲れた表情を浮かべ


【傀儡艦娘…聞いた事はある?大本営が独自に、私の建造ドックを通さずに艦娘を作っていた…】


そこで私は以前Y子さんから聞いた話を思い出した


「不知火さんや陽炎さんが確かそうだと…」


【そうよ…おかしいとは思っていた…彼女達は特別精神が強靭な訳じゃない普通の艦娘。きっかけは充分あった筈なのにいつまで経っても私は目覚めない…】


そして悔しげに目を伏せ溜め息を吐く
203 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:26:47.74 ID:XmkdBCEDO
 
 
【あそこ以外の艦娘もそう。彼女達が苦しんでいるのを他の艦娘の目を通して見ている事しか出来なかった。少なくとも私が中で目覚めていれば少しは良い方向に誘導してあげたりしようと思っていた…】


「誘導…ですか」


【えぇ…完全に乗っ取ったりしない限りは限定的にしか干渉は出来ない、無意識に働きかけて助けてくれそうな人の元に行かせてみたり…初雪のように】


そこで意外な名前が出て私は驚いた


「初雪ってあの初雪ですか?」


【そうよ、不自然なまでに貴女に構おうとしたあの初雪。…あの子も結構危ない状態だったけれど】


確かに今思うと不自然にも程がある。そして彼女が言うにはあの初雪も憎しみを持っていたから私と会わせ上手く事が運ばないか期待していたらしい


…ん?何だか…この人…もしかして
204 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:30:04.31 ID:XmkdBCEDO
 
 
「あの…もしかしてそれだけですか?」


【………どういう意味かしら】


今解った。この富士さん割と行き当たりばったりなんだ


【…仕方ないでしょう、何故か貴女には直接干渉出来なかったのだから。あの時点で私が誘導しやすかったのがあの初雪しか居なかったのよ】


私が胡散臭げに見やると咳払いひとつして富士さんはそう言った


【…でもそれも結局は無駄だったわ。私の力不足で…ね】


そして彼女は私に向き直り


【…ごめんなさい、本当に。貴女があの人間に売られ、酷い仕打ちを受けているのを私は見ているしか出来なかった】


そうして私に頭を下げる
205 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:32:25.64 ID:XmkdBCEDO
 
 
ああ…そうか…やっと解った。この人やY子さんがどうして私にそんな目を向けるのか


これまでは単に私を死なせた事に罪悪感を抱いているのだとばかり思っていた


最初から…それこそ私が艦娘としてこの世に生を受けてからずっと…見ていたんだ…見守っていたんだと


頭を下げ続ける富士さんを見ながら私はすっと立ち上がり近付く


私の接近を察した彼女の肩がぴくりと動く。しかし頭は下げたままだ


…多分私が報復行動に出るとでも思っているのかもしれない
206 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:34:06.62 ID:XmkdBCEDO
 
 
「頭を上げてください」


彼女の前に立ち敢えて強い口調で言う


【…】


ゆっくりと顔を上げ私の目を見返してくる。その目はどんな罵倒も暴力も受け入れようという意志が感じられた


…やれやれ、生前ならいざ知らず今の私はそんな事はしたくない。けれど富士さんはおそらくあの私しか知らないのだ


だから私は思い切って彼女に飛び付いた


【えっ…】


困惑する声が聞こえるが無視して思い切り抱き付く、頭をぐりぐりと押し付けて甘えて見せる
207 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:37:48.12 ID:XmkdBCEDO
 
 
良い香りがした。何処か懐かしいような、切ないような


幼少の時期など無い筈の私が、それでもまるで自分が子供になったような


母親など知らない筈の私が長らく離ればなれになっていた肉親に会えたような


「うっ…ぐ…ひっ」


ああ…駄目だ…彼女を慰めるつもりでこんな行動に出たが自分でもこれは予想外だった…多分、本当にこの人は私達の…


私はいつしか彼女にすがり付き泣きじゃくる


そんな私の背中に手を回し優しくぽんぽんと叩く富士さんに私はますます声を上げて泣いてしまうのだった
208 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:39:16.14 ID:XmkdBCEDO
 
 
【落ち着いたかしら?】


「はい…あの…すみません」


【構わないわ】


何となく気恥ずかしくなって顔を伏せながらもまだ抱き付くのは止めない、離れ難い気持ちが強くて自分でも抑えられない


【もう私が貴女にしてあげられる事はほとんど無いのだから…遠慮はしなくてもいいのよ】


「はい…ありがとうございます…」


多分今鏡を覗いたら私の顔は真っ赤になっているだろうと頭の中の冷静な部分で考えていた


こうなったらもう開き直るしかないとしばらく甘え続ける私なのだった
209 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:40:53.49 ID:XmkdBCEDO
 
 
それから彼女の膝枕の上でぽつりぽつりとそれまであった楽しかった事を話す私

私にとって良い記憶というものはほとんどがあの鎮守府のもの。もちろん彼女は知っている事ばかりの筈たけれどそんな事は口に出さず相槌を打ってくれていた


不思議に思う


これが本来の富士さんであり私達にとても優しく接してくれる


先の話では歪んだ艦娘の魂を集め…つまりは命を奪っているという


…我が子のように思っているのだとして、その魂を狩らなければならない…その心情は私には想像するに余りあった


そんな事を考えていると点けっぱなしにしていたテレビから騒がしい声が聞こえた
210 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:43:20.10 ID:XmkdBCEDO
 
 
見ると鎮守府の様子がおかしい、何やら有毒なガスが発生したと騒ぎになっていた


すると富士さんが


【…どうやらこれは事故のようね…あら?これは…】


少し遠くを視るような目をした後にそう言った彼女が窓の外に顔を向けた


釣られ私もその方向を見ると妙なものが遠くに見える

烏に吊られた誰かがこちらに近付いてくる


【…あれは貴女の所の秋津洲ね。どうやらあのガスを吸い込んだみたい、あのままだと死者の仲間入りね】


「ええ!?」


私は慌てて外に飛び出す
211 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:45:34.31 ID:XmkdBCEDO
 
 
「こっちに来ちゃ駄目です!こっちに来ちゃ駄目!」


私は遠くに見える秋津洲さんに向かってブンブンと手を振ってジェスチャーをする。さすがに遠すぎてどんな顔をしているのかは見えないが目が合ったような気がする


【どうやら治療は間に合ったみたいね、臨死体験で済む筈よ】


と、吊られた糸が切れ、秋津洲さんが落下、あわや地面に激突という所でその姿が掻き消えた


改めて鎮守府の様子を見るとどうやら戦艦の人の料理が原因だったらしい、どんな料理だったらそんな有毒ガスが発生するのだろう…

【そんな事であっさりこっちにこられたら堪ったものじゃないわね…】


「ですよね…」


と溜め息を吐く富士さんと私
212 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:47:34.56 ID:XmkdBCEDO
 
 
「でもあれ?魂を集めるなら好都合だったのでは?」


言ってからまたしまったと思う。私は割と思った事がすぐ口に出てしまうのだ。それで結構トラブルに見舞われたりもしたがこの悪癖は死んでも治らなかったようだ


しかし彼女は特に気にした風も無くそれに答える


【仮にあの魂を狩っても大した力にはならないわね。私が求めているのは強い感情の歪んだ魂】


「それってもしかして私のような?」


【…そうね。でも今の貴女はもう大分落ち着いているからそこまでではないわ】


むしろ貴女から別れた怨念の方が強い力を持っていた、生憎と見失ってしまったけれどと富士さんは締め括った
213 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:49:42.04 ID:XmkdBCEDO
 
 
部屋に戻るとY子さんが起きてきていてこちらに手を振る


『やっほ、お姉ちゃん久しぶり』


【…調子はどうかしら】


『んー、悪くはないかな。お姉ちゃんこそお疲れみたいだねぇ』


【問題無いわ。少し休憩させてもらったしね。それにこの子に力も貰った。また頑張れるわ】


と私の頭を撫でる富士さん。力?何か吸われたんだろうか、よく解らない。でもこうして撫でられるの落ち着く
214 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:51:44.91 ID:XmkdBCEDO
 
 
【さて…私はそろそろ行くわ。あまり悠長にはしていられない】


『もう行くの?もう少しゆっくりしたっていいんじゃないかな』


【…こうしてる間にも不幸になる子達が増えている。何とか出来るのは私しか居ないのよ】


『だって傀儡の艦娘だってどれだけ居るか解らないのに集めきれるの?そろそろ別の方法を考えたら?』


【…他の方法を考えている時間は無いわ。直接連れて行けなくともやりようはある】


『相変わらず強情なんだから…』


困った姉だなとY子さんが肩を竦める。何となく話に入れない私は二人の顔を交互に見るしか出来ない。首が痛い
215 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:54:07.52 ID:XmkdBCEDO
 
 
そして部屋から出ていこうと扉に手を掛ける富士さんに私は思わず


「あのっ…!」


【何かしら?】


振り向き私を見る目はやはり優しい。これっきりなんて何か嫌だ


「良かったらまた来てください!またお話してください!」


そう上目遣いで…とはならないけど必死に訴える。富士さんの背丈は私とそう変わらないのだ


少し困ったような顔をした富士さんがY子さんに目線を送ると彼女はにやりと笑うだけで何も言わない


決して逃がすまいと意志を込めて見返す私に富士さんはやがて諦めたように溜め息を吐き


【…解ったわ。たまになら、またお話しましょう】
216 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:56:13.77 ID:XmkdBCEDO
 
 
そう言ってまた頭を撫でてくれる


「っ!ありがとうございます!お母さん!」


【え…】


『ぷっ…』


あっ…私は思った事がすぐ口に…


「そそそ…そうじゃなくて!富士さんがお母さんならY子さんは叔母さんなのかなとか思ってなく…」


ガッ


おや?急に視界が暗く…


『うんうん、朝ちゃんはそのすぐ口に出る癖を直そうね、ね?』


ギリギリ


「ああぁぁあぁぁぁ!?」

Y子さんのアイアンクローを受け三途の川に私の絶叫が響き渡る


【はぁ…】


富士さんの溜め息を聞きながら私は意識を手放したのだった
217 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/22(金) 02:57:21.02 ID:XmkdBCEDO
ここまで
次は…
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/22(金) 07:52:01.68 ID:ZJWIXrrZo
おつおつ
……扉開ける前のルーツから考えると三日月が八島造ったから、富士さんはおばあちゃn
219 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:16:01.20 ID:OVYeofFDO
>>216から
 
 
『いやあぁぁぁ!やめてぇぇぇ!』


部屋にY子さんの絶叫が響き渡る


「往生際が悪いです。いいから大人しくしていてください」


『往生してるのは朝ちゃんもじゃんかぁ…お願いだから考え直してよぉ』


いつに無く情けない声で懇願する彼女。しかし私は断固として拒否


「駄目です。諦めてください。この炬燵は片付けます」


『しょんなぁ…』


私の名は朝潮。幽霊生活数ヶ月の新米です。そろそろ炬燵の季節じゃないので片付けましょうかと言った所この有り様。炬燵の魔力は彼岸も此岸も関係無いようで

1◇
 
 
「だいたい眠りたいなら部屋にベッドがあるじゃないですか」


『それとこれとは別なんだよぅ…朝ちゃんは炬燵が恋しくないの…?』


「確かに快適ではありますがもう春なんですからそういうのはきっちりするべきです」


『ここでは四季なんて関係無いと思うんだけど…』


ここは三途の川の片隅に作られた家。夏も冬もあまり変わらない気候…というかここに居ると正直季節感どころか時間の感覚も曖昧になりそうになる


だからこそしっかり日付を確認してそれに見合った状態にするべきだ


『くぅ…この真面目ちゃんめぇ…』


そう言った私に諦めたように項垂れるY子さん。ちょっと罪悪感…いや、ここで折れたが最後、きっとずっと出しっぱなしになるに決まっている


そうして私はてきぱきと炬燵を仕舞いようやく洋室らしさを取り戻した部屋を見て満足するのだった
220 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:18:53.73 ID:OVYeofFDO
 
 
あれからまた鎮守府では色々あってガングートさんがついに双子を出産した


一時危険な状態に陥ったらしいが結果無事に済んだようで私もホッとした


赤ん坊の顔を私も覗き見したけれど何とも小さくて守ってあげなければという気にさせる。…ちょっとだけ心残りが増えたかもしれない。私も…と


そんなニュースを聞き鎮守府も明るくなっている最中、あの人の…龍驤さんの様子がおかしい事に気付いた


義肢も付けずに廊下を這いずる龍驤さんを初期艦さんが抱えていく


龍驤さんは司令官との子供を欲しがっていた。だけど自分の身体では出産に耐えきれない、だから子供は作れない、だけどやっぱり子供が欲しい


そんな思考の袋小路


聞いた話では身体を治す事も可能らしいが詳しい事は私は知らない。だけど龍驤さんはそれを拒否していると


かつて龍驤さんが救えなかった子供への義理立てなのだろうか。幸せになれるチャンスを敢えて掴まない、私にはその部分はあまり理解出来なかった

221 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:21:22.71 ID:OVYeofFDO
 
 
不安定になった龍驤さんを隔離室で拘束している場面は正直見ていられなかった


連絡を受け駆け付けてきた司令官が必死に訴えかけている


そして私は…今ほど聞くんじゃなかったと後悔した事は無い龍驤さんの告白を聞いてしまった


『えっ…』


「ふた…また…?龍…驤…さんが…?」


私は信じられない気持ちでモニターを眺める。同様に驚くY子さんの声が聞こえた気がした


そしてその後鎮守府の皆の前で懺悔をする龍驤さんは司令官の事も最初は別に好きではなく財布程度にしか思っていなかったと、そして電車に轢かれそうな子供を自らの点数稼ぎに利用しようとして失敗し、あの身体になったと語る


その姿を私は呆然と眺めるしか出来ない

222 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:23:12.95 ID:OVYeofFDO
 
 
私にとって司令官と龍驤さんは理想の恋人だった。多少歪な部分もあったけれどお互いに想い合う気持ちは本物だと思っていた


だからこそ私は司令官や龍驤さんの申し出を断り続けてきた。理想の二人に割って入るなんて駄目だと自分を抑え続けてきた


『朝ちゃん!駄目!それ以上考えなくていいから!』


さすがに耐えきれない時には甘えさせてもらったりもしたけれど一線は越えなかった


『朝ちゃん!!』


お嫁さんを裏切るような事はさせてはいけない。…だけど先に裏切っていたのはそのお嫁さんの方だった…?


なのに…そんな…始めから知っていたら私は…私は…?


―奪えばよかったんですよ―

223 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:24:53.42 ID:OVYeofFDO
 
 
「…え?」


『…!』


声が聞こえた。私の声が


―貴女は/私は幸せになりたかった―


―そんな不貞を働く女は司令官には相応しくありません―


『まずい…!繋がりが強まってる…』


私であって私じゃない声がだんだん近付いてくる


―いっしょに行きましょう?あの女を殺して今度こそ司令官を私/貴女のものに―


「―さあ―」


その声が後ろから聞こえた

私が振り向くとそこには私が居た

224 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:26:38.81 ID:OVYeofFDO
 
 
鏡に写した自分自身、しかし決定的に違う、笑顔を浮かべているのに歪んで見えるその顔、そしてその目は黒く塗り潰したかの様な暗闇で


かつて私がその死を以て切り離した怨念の姿だった


「―さあ、行きましょう?―」


その私がこちらに手を差し伸べる


「あ…あ…わた…しは…」


怖い…これが…こんなのが生前私の中に…私が育てた…これが…


こんなのは人の姿をした怪物だ…深海棲艦の方が遥かにマシに思える憎悪の塊


『お生憎様。朝ちゃんは渡さないよ』


そう言って私に背を向け間に割って入るY子さん

225 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:29:17.39 ID:OVYeofFDO
 
 
「―…貴女は?―」


『私はこの子の保護者よ、悪い友達のお誘いはお断りさせてもらうね』


「―私も朝潮ですよ?―」


『オマエは違う。朝ちゃんに巣食った怨念に過ぎない。軽々しく朝潮を騙らないでもらえる?』


「―そう…邪魔をするんですね…―」


そう言って顔を伏せたその私が突然絶叫した


「―アアアアァァァァァァッ!!!!―」


その瞬間あの私を中心に黒い染みが急激に広がり床を、壁を侵食していく。侵食された部分が一気に朽ち果て、ボロボロと崩れていく


『やばい!』


Y子さんが慌てた声を上げ私の手を掴み部屋から飛び出した


その次の瞬間私達の居た部屋が崩れ去り瓦礫の山になっていくのが肩越しに見えた

226 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:31:26.26 ID:OVYeofFDO
 
 
「ああ…部屋が…」


『く…消えかかってるとばかり思っていたけど何処にこんな力を…』


「―あの男の鎮守府から追い払われて確かに消えかけましたね―」


歪んだ笑顔を貼り付けた見るに堪えない私が瓦礫の中から染み出すように現れて言う


「―だけど海には私の餌になるものが沢山ありました。海で死んだ者達の無念な魂が―」


『食べたのか…浮かばれない魂を…』


「―えぇそうですよ、おかげでだいぶ力を蓄えられました。後はそこの私を連れて行けば完全になる。そうすれば私を祓える者はもう誰も居なくなります―」


そう言って再びあの黒い染みを解き放つ


「―そうしたら今度こそアイツラを…そしてあの女も…うふふ…司令官…待っていてくださいね…―」

227 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:33:47.64 ID:OVYeofFDO


「あの女…?司令官をどうするつもりですか!」


震える身体を押さえ付け私は問いかける。するとあの私は裂けようかというほどに笑みを大きくして


「―解ってるくせに、貴女は私なのだから。司令官を裏切っていた龍驤を殺します。そして司令官を連れていく。二人きりで誰にも邪魔をされない所で私は幸せになるんです―」


「違うッ!私はそんな事望んでない!」


「―本当に?―」


にたり、ともう一人の私が笑う。違う違う、違う!そんな事は許されない、してはいけない!欲しいものは全部奪う?相手の意志も無視して?


そんなの…私が一番嫌いなアイツラと同じになってしまう。私を売った者、私を買った者、私を殺そうとした者、そこに私自身の意志は必要とされなかった


龍驤さんが死ねば司令官は壊れる、そんな司令官を自分のものにして何になるのだろう。私に笑いかける事も抱き締めてくれる事もしない意志の無くなった脱け殻を
228 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:35:01.66 ID:OVYeofFDO
 
 
「…解った…貴女は私なんかじゃない。ただの化け物だ…絶対に認めない…!」


「―私はオマエだ!オマエの憎しみから生まれた!オマエが育てた!―」


「だったら!」


私は構える。私は人間じゃない、死んだとしても艦娘だ!出せる筈だ!そう信じ意識を集中する


ガシャン


「だったら…私が生み出し育てたのなら、私が消して見せる!」


出せた…今となっては懐かしい、私の艤装。艦娘にとってはこれも魂の一部、私は砲を怨念に向け


ドォン!


躊躇わず砲弾を放った

229 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:36:17.26 ID:OVYeofFDO
 
 
だが


「―アハ、アハハハハッ!―」


怨霊からまた溢れ出した黒い染みが砲弾に触れると途端にその勢いは消え、錆びた塊になって地面に落ちた


「―ワタシはオマエより強い!オマエにワタシは殺せない!大人しくワタシに取り込まれろ!そしてワタシを不幸にした全てのものに復讐するんだ!―」


「お断りだッ!確かに私は不幸だったかもしれない、だけど決してそれだけじゃない!私は幸せだったんだ!」


「―なら何故ワタシは死ななければならなかった!―」


悲痛な叫びは怨霊のものか、それとも私自身のものか

230 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:39:10.25 ID:OVYeofFDO
 
 
「…」


「―幸せだったと言うのなら何故死ななければならなかった!答えろ!―」


「…私は私自身に負けたんです、私は生き続ける事に耐えられなかった、弱かった。ただそれだけの事です」


「―ワタシは弱くない!ワタシを殺したのはアイツラだ!―」


「いいえ、違う。死を選んだのは私自身、救いの手を振り切ったのも私。憎しみに囚われた弱い心のせい」


「―違うちがうチガウちがう違うチガウ!!アアアアァァァァッ!!!―」


頭を抱え髪を振り乱し絶叫する怨霊が再び黒い染みを、今度は鋭利な刃物のような形状にして私に向けた


「―もういい、オマエはイラナイ。ワタシはワタシだけでいい、オマエもワタシの敵だ―」

231 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:42:01.48 ID:OVYeofFDO
 
 
「…もうこれ以上憎しみを撒き散らさせない、ここで止めます!」


あれを食らったらただではすまないだろう。ギリギリで避けて砲撃を叩き込む!そう考え重心を落とす


―と肩に触れる手があった


『よく言ったよ朝ちゃん。大丈夫、今は私が付いてる』


にこりと笑うY子さん


『私の力を貸してあげる。よく狙ってね。…いくよ』


ズン…!


「ぐっ…!?」


圧倒的な圧力が空間に満ちる。砲を構えるどころか立っているのも辛い、しかしやがてそれは収束していき私の艤装が淡く光を放つ
頃には重圧は消えていた


「ありがとうございます!いきます!」


そして私は再び砲を構える。怨霊が暗闇の刃を私に放つ、しかし私は避けようとはせず砲口を正確に照準、引き金を引いた

232 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:43:38.66 ID:OVYeofFDO
 
 
砲撃の音はしなかった


いや、したのかもしれない


私の放った砲弾が淡い光を放ちながら黒い刃をいとも簡単に貫き標的に着弾、そして大爆発


そして気付けば巨大なクレーターが出来ていた


『あっちゃあ…力込めすぎたかなぁ…加減が難しいなぁ…ふぅ』


「あ…あ…え…」


疲れたような溜め息を吐くY子さんに呆然とする私


やがて爆発の粉塵が晴れるとそこには身体の3分の1が消滅した怨霊の姿


『しぶとい…どれだけ食べたんだアイツは…』


「―ア、アァァァ!―」


平坦な地面を滑空するように滑る怨霊。しかしその目標は私達ではなく…


『…!アイツ川の方に!』


233 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:45:47.73 ID:OVYeofFDO
 
 
怨霊の向かう先には川を渡る死者の魂の群、つまりアイツは…


『アイツ、ポーション使う気だよ!朝ちゃん早く!』


「あの人達は回復アイテム扱いですか!」


などと突っ込みをする余裕をいつの間にか取り戻していた私は走り出す


川の水面を沈む事無く滑っていく怨霊、艤装もある、そして三途の川だって水の上、なら立てる筈!


半分くらいは祈る気持ちで水面にジャンプすると問題無く立つ事が出来た。…良かったぁ…


水面を切って走りながら脚の艤装を展開、魚雷の発射態勢に入る


この魚雷はクリスマスの日に司令官が私の為にこっそり開発してくれた特製のものだった


龍驤さんの手前、変に気を持たせるような物はプレゼント出来ないと苦心した結果らしい

234 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:47:38.82 ID:OVYeofFDO
 
 
不器用な司令官らしいというか何とも色気の無いプレゼントだとあの時は思ったものだったけれど、今の私にとってはこれほど役に立つプレゼントは他には存在しないだろう


ありがとうございます司令官!


心の中で感謝しながら魚雷を放つ


「当たれぇぇぇッ!!!」


狙い違わず私の放った魚雷は怨霊の足元に差し掛かり


ドドドオオオォォォォン!!!


巨大な水柱が上がった


その余波に吹き飛ばされていく死者達が見えた…どうやら川に沈んだり消えたりはしていないようだ…ごめんなさい!


そして水面には左肩の先と腰から下が無くなっている私の怨霊が漂っていた


私は近付きそれを見下ろし砲を向ける。いつしかあの淡い光は消え失せていた。どうやらそれぞれ一発ずつの力だったのだろう

235 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:49:40.96 ID:OVYeofFDO
 
 
「―ア…アァ…ニクイ…コロス…アイツラヲ…シレイ…カン―」


「…」


もはやあの黒い染みを出す力も残っていないのかただ弱々しく私に手を伸ばすだけ


…この子は私が育てた、私の弱さが生み出した、言わばこの子も私の被害者なのかもしれない


「…ごめんなさい…ごめんなさい…!弱い私でごめんなさい…!」

「―ア…―」


「ごめんなさい…!貴女を生み出してしまってごめんなさい…!」


涙が溢れる、止められない


「―…―」


「ごめんなさい…!」


「―もう…いいです、謝らないでください―」


ハッとしてもう一人の私の顔を見る


そこには先程までの憎しみに支配された悪霊の姿は無く、弱々しく笑顔を浮かべる私が居た。その目も暗闇ではなくはっきりとした輝きで私を見返している

236 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:51:24.45 ID:OVYeofFDO
 
 
「―貴女は私、だけどやっぱり私と貴女は違う…貴女はちゃんと強くなれていた…出来たら死ぬ前にそうなれていたら良かったんですけど―」


「ごめんなさい…」


「―謝らないでくださいってば。それは私にも言えるんですから、さあ、引き金を引いてください…終わりにしましょう?―」


「でも…」


「―貴女の後悔も憎しみも、そして罪も、全部私が持っていきます。ここで撃たないといずれまた暴走しますよ?私はあくまで貴女の怨念なんですから―」


「…」


「―もし次があるなら今度こそ幸せになりましょう?朝潮―」


「…さよう…なら…もう一人の私…」


もはや涙で何も見えない、けれど砲口はしっかりと照準されている


「―さようなら…司令官―」

237 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:53:46.55 ID:OVYeofFDO
 
 
 
 
 
ドォン…
 
 
 
 
 
238 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:56:09.03 ID:OVYeofFDO
 
 
私が岸から上がり部屋のあった辺りに戻ると黒い人影がもうひとつ増えていた


「富士さん!」


『私が呼んどいたんだよぉ』


その背後に以前は扉だけだった場所に和風家屋が鎮座していた


【私は修理屋ではないのだけれどね…】


溜め息を吐きつつ富士さんが言う。この家は富士さんの趣味なのだろう。そうして家に入ろうとする一同。すると富士さんが


【…頑張ったわね…朝潮】


そう言って私の頭を撫でてくれた


「…えへへ」


思わず赤面しつつも笑顔が込み上げてくる。この人に褒められるとすごく嬉しい。先程までの哀しい気持ちが癒されていくのを感じる

239 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 01:58:45.02 ID:OVYeofFDO
 
 
「…これはなんでしょうか」


頬が引くつく、さっきの笑顔が今は引き吊った笑いに変じていた


【あら…?いけなかったのかしら…この子がこれは絶対に必要だとリクエストするものだから…】


富士さんが困惑した声を出す。いいええ、富士さんは全く悪くありません


新しい和風家屋の居間にはそう―炬燵があった。ご丁寧にみかんまで


『え…えへへ…あぁー疲れたなぁー!さぁさぁ二人共入ろうよ!』


Y子さんが誤魔化すような笑顔で炬燵に入ろうとする


「まずはそれを片付けましょうか。いえいっそ跡形も無く破壊した方が…」


『いやあぁぁぁ!やめてぇぇぇ!』


三途の川の片隅でY子さんの絶叫が木霊するのだった
240 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/03/27(水) 02:01:15.97 ID:OVYeofFDO
ここまで
ちょっとミスしてしまいました…
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 18:42:50.94 ID:ZGYvFs33o

おつかれ、朝潮
シリアスもいけるのいいっすねえ!
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 19:20:32.35 ID:PLkbc2WBO
ある日

「司令官手紙がきてるんやけど…」

龍驤が手に持っている封筒は大本営の格式ばったものや民間のそれとは違う雰囲気が漂っていた

「これは海外から送られてきたのか」

「そうやねん。アイオワかガンビアベイ宛かな?」

この鎮守府で海外艦といえばその二人が該当する。以前所属していた鎮守府からの手紙だろうか?

「誰から送られてきてる?」

「トゥ…ニ…?あかんよう読まんわ」

「宛名はどうだ?」

「それがなぁウチの見間違いやなかったら…」

「駆逐艦……陽炎?」
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 19:23:17.80 ID:PLkbc2WBO


「陽炎さんへの手紙なんですよねぇ。開けちゃっていいんですかぁ?」

「陽炎は演習しとるし怪しいもんやと困るやろ」

件の手紙はガンビアベイに翻訳してもらうことになった。アイオワは忙しいし知識人のガンビーに頼むのがベストやね

「これ、え……えええ!?」

「なんやねん大声出して」

「ここここの手紙!とんでも無い人から送られてきてますよぉ!」

「なんやまたややこしい奴か?」

「違いますこの手紙の差出人は!!」
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 19:26:24.59 ID:PLkbc2WBO


「たまに体を動かすのはいいわよね」

「陽炎はいつも工廠ですからね」

「いざという時は戦えなあかんでー」

「だからこうやって体を動かしてるんじゃない」

プシューッと音を立てて陽炎はヘルメットを脱ぐ。全身が黄金に輝くそのパワードスーツは彼女だけのものだ。
陽炎は艦娘では無い。複雑な事情により通常の艤装では無くこのような武器で戦っている。

「相変わらず金色ですね」

「当たり前でしょ」

「海域やと目立ってしゃあないねん。もうちょいどうにかならん?」

「ならないわね」

「流石は金狂いの陽炎です」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 19:29:19.91 ID:PLkbc2WBO


金狂いと言われてしまった陽炎はいつものように演説を始める。金色こそ至高だ。金色こそ高貴なのだ。金色こそ…
その演説を二人は聞き流しながら艤装をしまう。汗を流しに風呂にでも行こうかと話していると何か飛翔物がこちらに向かってくるのが見える。

「あれなんやと思う?」

「深海の艦載機では無いですね」

「もっと大きい。飛行機ほどは無さそうや」

「大型のドローンでしょうか」

「一理あるな」

相変わらず演説を続ける陽炎は視界には入らず黒潮と不知火はその飛翔物を目で追う。あれは攻撃能力のあるドローンだという最悪の状況を予測していたがどうやらそれが現実になりそうだった。

「こっちに向かってきとるな。迎撃準備や」

「海に出ますか?」

「それやと間に合わんかもしれんからここからやる。装備を実弾に切り替えるで」

「了解」

「いつまでやっとんねん陽炎!」

「はえ?」

「未確認飛行物体を発見や迎撃準備!」

「えぇえっと、了解!」

まだ熱弁を振るっていた陽炎は慌ててスーツを装着する。彼女の迎撃準備が整うと飛行物体はそれを確認したように三人に急降下を始めた。
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 19:31:27.56 ID:PLkbc2WBO



「やっぱりここが目的か!」

「組織の兵器でしょうか」

「なんでもいいから落とすわよ!」

『武器を向けるのは待ってくれ。こっちは話をしに来たんだ』

三人がそれぞれ迎撃態勢に入ると飛行物体から声が聞こえた。その声質は提督のよりも老けているようだが活気に満ちていた声だった。

「スピーカーで話しかけてきましたね」

「関係あらへんやってまうで!」

「人が乗ってる大きさじゃないわね。対空砲準備!」

『お前達話聞いてたのか?』

対空砲から弾丸が放たれ飛行物体は一度上昇する。対空砲のレンジ外まで上がると再び声が聞こえた

『やれやれとんだ歓迎だな。手紙は受け取ってないのか?』

「そんなもん知らん!」

「怪しい人からの手紙は受け取らないのが普通です」

「それって怪しい人に着いていかないってやつじゃないの?」

「なんですか不知火に落ち度でも?」

『まさか誰も英語ができなかったのか?アイツを頼るのは癪だったがこうなるなら頼むのがベストだったな』
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 19:35:09.40 ID:PLkbc2WBO


飛行物体から愚痴のような声が聞こえている間陽炎はその物体を凝視していた。あれは何処かで見たような記憶があったのだ。
それは自分が艦娘として生を受けた後、金色に憧れて金色に狂っている時に見つけたアレにとても良く似ている。

「どうしました陽炎」

「私知ってるかも。アレ見たことある」

「ほんまに?」

「もしそうだとしたら…」

『大体日本語オンリーっておかしいだろ。最も美しい言語である英語を使わない時点でどうかしてる』

「あのーすいません聞こえますか?」

『ああ聞こえてるぞ』

「手紙の事は分かりませんけど私はあなたを知ってるかもしれません」

『むしろ知ってもらわなければ困る。こんな島国にまで文句を言いに来た意味が無い』

「えっと、You are Iron Man?」

『Yes I an Irom Man』

「きゃぁああああーー♡♡」


飛行物体に叫び声に似た歓喜の声を上げる陽炎。何のことかわからずにお互いに目を合わせる黒潮と不知火。そして歓喜の声に自惚れている赤と金でパワードスーツで空を飛ぶ男性。彼の目的とは……?
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 19:35:58.02 ID:PLkbc2WBO
続きは誰かが書いてくれると信じて。ここが限界
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 19:38:58.78 ID:ZGYvFs33o
おつおつ
社長!
ヒーローデビューする陽炎の続きまってるぞー
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/27(水) 19:42:31.71 ID:RIy+e9GWO
トニー・スタークさんお帰りください
251 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 04:46:37.61 ID:NvpBgk+DO
>>239から
 
 
『落ち着いた?朝ちゃん』


「はい、私はもう大丈夫です」


『そっかぁ』


嬉しそうに笑うY子さん。ちなみに炬燵に入ってぬくぬくとしながらだけど


結局炬燵を片付けるのは彼女の必死の懇願に加えせっかく出したのに片付けるのは勿体無いとの富士さんの助け船もあって断念せざるを得なかった


その富士さんも用が済んだとばかりに早々に行ってしまった。もう少しゆっくりして行けばいいのに…また甘えたりしたいという願望は関係無い


これまでの洋室とは異なり純和風の畳部屋。座布団に座りまたあのテレビを観る私達。…結局ここでは他にする事が無いのだ


その映像にはあの龍驤さんの懺悔から向こう鎮守府の掃除や食堂の手伝い、果てはトイレ掃除までおよそ秘書艦のやる仕事では無い事をしている龍驤さんの姿


そしてそれを誰も止めようとも、手を貸そうともしていない。私は正直龍驤さんの告白と並んでこれもショックだった

252 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 04:48:29.86 ID:NvpBgk+DO
 
 
「こんなのまるでイジメじゃないですか…何で誰も止めないんですか!」


『まあまあ朝ちゃん。少なくともあれはあの子が自主的にやってる事だからねぇ…誰も止めないのはむしろ接し方が解らない感じかな』


「接し方って…今まで通りに助けてあげたらいいじゃないですか…」


『なら朝ちゃんはどう思った?あの場に居たら助けてあげる?』


「それは…仮にあのまま私が生きていたとして…」


あの頃の私があの場に?それはまずい所の話じゃない。まず間違い無く司令官を奪おうとするか最悪龍驤さんを…


「かなりヤバイですね。自分で言うのも何ですが狂犬に餌を与えるようなものです」


『まあそうなるな…だねぇ。止めないあの子達は戸惑っているだけだと思うよ』


「戸惑ってる…今冷静になって考えるとそうですね。少なくとも今の龍驤さんしか知らない私には全くイメージが出来ないのが正直な所です」


例え本人がそうだと認めていても信じられないという気持ちの方が強い。それほどに司令官と龍驤さんは仲睦まじかったのだから


『中には直接怒りをぶつけたりしてる子も居るみたいだし陰湿な事にはならないかな?多分そう長くは続かないと思うよ』

253 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 04:50:09.09 ID:NvpBgk+DO
 
 
Y子さんの言う通りだった


程無く怒っていた艦娘も龍驤さんに普通に接するようになっていた。黒潮さんだけは荒れているけれどあれはまた別に理由があるのだとY子さん


『あれは過去のトラウマと改二化の影響が変な風に嵌まった結果かな。多分あの子に改二はまだ早かったんじゃないかな』


「そうなんですか…確か高血圧になって一時は脳血管が危険だったと聞きました」


『急激な能力の上昇に肉体が引っ張られてそれが血圧に出た…怒りっぽくなったのもそのせいかな。ある程度土台がしっかりとしてないと改二化に耐えられずに悪影響が出たりとか』


「単に強くなる改装くらいにしか思っていませんでしたけど難しいんですね…」


『改二って名称はむしろ間違いだったり…なーんてね』


ボソリと呟く彼女だったが私にはよく意味が解らず首を傾げるばかりだった

254 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 04:53:53.72 ID:NvpBgk+DO
 
 
ガングートさんの退院祝い並びに赤ん坊のお披露目パーティーが行われていた


「双子の赤ちゃん…かわいいですね…」


『そうだねぇ…いいよねぇ…』


何だか和み系テレビ番組でほっこりする独身女性二人みたいな状態になっている私達


抱かせてもらった赤ん坊が泣いてしまい慌てる初期艦さんや女性がしてはいけない顔をしてあーんをしてもらっている飛鷹さん。司令官にあーんしてもらって泣いてしまう龍驤さん


ちょっとだけ羨ましいけれどもう嫉妬したりはしない、負の感情は本当にあの子が持っていってくれたのだと実感する。…ありがとうもう一人の私…


『朝ちゃん…あーん…もがっ』


何となく予想していた私はみかんを丸ごとY子さんの口に突っ込む


『せめて皮を剥いてからお願い…』


「はいどうぞ」


『もがっ…もぐもぐ』


「何と…」

255 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 04:55:37.76 ID:NvpBgk+DO
 
 
黒潮さんは結局改に戻す事で症状は改善された


一時荒れに荒れていた彼女は周りに当たり散らしたり龍驤さんを手にかけようとしたりかなり不安定だった


だけどそれは本人が一番望んでいない事。行き場の無い怒りは私にはその気持ちがよく解る


「やっぱりそれしか無かったみたいですね…」


『黒潮が再び改二になれるかはあの子次第だね。また同じ症状になるかもと及び腰になるとは思うけど』


「それはそうですよ。せっかく治ったのに進んでまた発症させたくは無いですよ」


『まぁねぇ、多分また同じ事になったら次は無いかもねぇ』


「まるで他人事みたいに言うんですね」


『だって他人事だもーん実際』


この人にはこういう所がある。常に見守っている癖に関係無いみたいな事を言う。それを指摘しても単なる暇潰しだしと誤魔化す


いつか私に向けた目はとても他人事で関係無いと本気で思っているとは思えなかった


『朝ちゃんだってさぁ…今はもう割と他人事じゃない?』


痛い所を突いてくる

256 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 04:57:07.96 ID:NvpBgk+DO
 
 
かつて当事者だったとはいえ今の私にはもう確かに関係は無い


それでも短い間とはいえ仲間として一緒に過ごした。それを無関係だと切り捨てたくは無い


だけど少しずつ…その実感が薄れつつあるのを私は感じていた


私の居ないあの鎮守府…その時間が長くなればなる程、知らない顔が増えていく程、もうあそこは私の居た場所とは違うのだと思えてきて…


『…ごめん』


何やらばつの悪そうな顔をして謝るY子さん。そんなに落ち込んだ表情をしていたのだろうか


「謝らないでください。確かにその感覚はありますから…多分もう過ごす時間が別れたという事なんですよね…」


『うん…死者と生者は交われない、交わってはいけない。もしそんな認識が広がって完全に交わってしまったら…』


その先を促す気にはなれなかった。私でも何となく予想出来てしまう程にそれは良くない結果を招くだろうと解った


「まぁ…今の私にとっての時間とはここで過ごす時間ですから。あとはただ懐かしむだけです」


そんな懐かしい顔達に早く安息が訪れるように私は願う事しか出来ない

257 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 04:58:55.12 ID:NvpBgk+DO
 
 
「深海提督…そんなのが居るんですね…」


女幹部さんからの情報で深海棲艦のボスらしき存在と司令官達が接触するらしい


「そもそも何で一介の提督でしかない司令官をそんな大事な場面に連れて行くんでしょうか。司令官は口下手だしお世辞にもそういうのには向いているとは思えません」


『言うねぇ…好きな人だったんじゃないの?』


「あくまで客観的な評価です」


まぁ司令官の強みはあの優しさなのでもしかしたら良い方向に進むのかも。それでも一応心配なので見守る事にする。見守るしか出来ないけれど


そして現れた深海棲艦、そしてもう一人の人物が深海提督なのだろうか。帽子を目深に被っていて顔がよく見えない


ザザッ


突然モニターにノイズが走り状況が見えなくなる


「故障でしょうか?アンテナとか…」


『そんなはずは無いんだけどなぁ…これはまさか…』


≪…司…官…な…んで…?≫


ノイズで声が聞き取れない。そして女性の泣き叫ぶ声。これはあの女幹部さんの?あの厳しそうな彼女が?…一体何が起きているのか

再び映像が戻った時、そこは見慣れた鎮守府で、泣き崩れている女幹部さんとどうしていいか解らない司令官達


そこに初期艦さんが駆け込んできて驚くべき報告をした

258 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 05:01:10.44 ID:NvpBgk+DO
 
 
「戦争の…終結…本当に…?」


正直信じられなかった。こんなにあっさり終戦出来るならここまで戦争が続いたのは茶番劇もいいところだ。そしてそれは司令官達も同様なようで調査に向かわせたりしていた


『賠償金とか言ってたからきっとそれに釣られたのかもねぇ』


「仮にも軍隊がそれでいいんですかね…」


そもそもちらりと見た限り、あの深海提督というのは人間だった。それが一人。全ての深海棲艦を従えて停戦させるなんて可能なのだろうか


「まぁ疑問は残りますが…過程はどうあれこれで平和になるならやっと司令官達も幸せになれますね…」


『だと良いんだけどね…』


「また意味深な事を言う…これからは誰も傷付かなくて済むようになるんです。私みたいな境遇になる艦娘ももう生まれない」


そうしたら私は幸せに暮らす司令官達を眺めながら自分の中に残った後悔と付き合いながら過ごし、そしていつかは私もあの川を渡るのだろう


生まれ変わったら司令官の子供になれたらいいな。そうしたら気兼ねなく甘えられるのに。そしてお父さんのパンツと一緒に洗濯しないでください!とか言って司令官をへこませたりしてからかうのだ
259 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 05:02:18.56 ID:NvpBgk+DO
 
 
しかし私のそんな妄想が霧散してしまう程に状況は悪化していく


変わり果てた姿で運び込まれた艦娘の姿…確かあれは由良さん。あの途轍も無く強い彼女が最早死にかけていた


「被曝って…一体何で…」


聞けば深海提督の思惑を探る為の調査でおそらく深海提督の命令で高濃度汚染された金塊を回収していた深海棲艦の一群と遭遇、交戦の最中倒れたそうだ


それまで何度も訪れていた由良さんはそれとは気付かず被曝し続けていたらしい


気付いた時にはもう手遅れな程重篤化していて輸血も駄目だと千歳さんが沈痛な表情を浮かべていた


しかしそれから少ししてその由良さんが助かったと喜ぶ川内さんの姿があった


『あの子には深海棲艦が四体も宿っていたし、そのまま死を待つだけなんて事は無いよさすがに』


「でももうあれは完全に深海棲艦の姿ですよね…しかもごちゃ混ぜで…」


『…それだけ無茶しないと助からなかったって事だよ。普通なら無理だもの』


そしてその由良さんの旦那さんらしい忍者提督が訪ねて来てなんと姿がまるで変わってしまった彼女にすぐに気付いたのには驚いた


「これぞ夫婦の絆ですね!」


『そのきっかけが匂いっていうのは何か変態っぽいけどねぇ』


「それも含めて知り尽くしてる関係って事ですよ」


そういうもんかなぁ…とY子さんはいまいち理解出来ない風な顔で言う


そのまま医務室で夫婦の営を始めようとした二人に私は即モニターをオフにしてY子さんがぶーたれるのを黙殺するのだった

260 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 05:04:03.91 ID:NvpBgk+DO
 
 
司令官と幹部さんの会話でどうやら深海提督が大本営へ支払う賠償金としてその金塊が使われたようだと言っていた


『…間違い無く人間の考えつく策だねこれは』


「どうしてそう思うんですか?あの深海棲艦ではなく」


『深海棲艦にしろ艦娘にしろこんな惨い事は思い付きもしないよ。人間が人間を殺す為の手段…それを利用するのもまた人間しかあり得ない』


Y子さんは何処か諦めの混じった表情でそう言った


実際それはあまりにも効果的な方法で欲深い人間程引っ掛かる。そしておそらく狙い通りに大本営上層の機能は麻痺していると幹部さんが話していた


これから一体何が始まろうとしているのだろう。私もさすがに不安になってきた


幹部さんはこのまま終戦となるだろうと言っていたけれどそれはもう降伏に近いようなものだと私は思う


そして深海棲艦はそんな降伏は受け入れはしないだろうとも
261 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 05:08:26.76 ID:NvpBgk+DO
 
 
由良さんの放射能被曝から念の為鎮守府で血液検査を行うらしい


注射を嫌がる神通さんが全力で逃げ回って果ては決闘まで始めたのにはさすがに私は呆れる


「いい大人?が注射くらいでみっともないですね。私なんて注射どころじゃない刃物を自分で刺したりしていたというのに」


『いやいやいや、さすがにそれはどうなの朝ちゃん』


「それに比べたら注射なんて本当余裕ですよ余裕。一瞬チクリとするだけで何て事ありません」


『…朝ちゃんさぁ、もしかして本当は嫌いなんじゃないの?注射』


「なななな…なぬを…何を言っているのですか好きですよ注射。毎日してほしいくらい好きですよ注射」


『いやいやいやいや…』


そんな風に何処か気楽に会話をする私達


特に私はまだそこまで深刻な事態だとは思っていなかった。いつものように皆ならどうにか切り抜けて大変だったねと笑い合う。そんな姿を期待していた


だけどそれもそこまでだった


数日後の夜、鎮守府に絶叫が響き渡るまでの

262 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 05:12:24.69 ID:NvpBgk+DO
 
 
聞く者の心までも引き裂いてしまうような叫び。私はそんな声を初めて聞いた


絶望の声、悲しみの声、怒りの声、現実を受け入れられない子供が泣き叫ぶような声、もしくはそれら全て


「一体何が…。…ぁ…え…?」


『これは…あいつ…またあいつか…!』


その場面がモニターに映し出される


泣き叫ぶ初期艦さんの姿。そしてその腕の中には頭に穴が開き、そこから脳らしきものが流れ落ちている小さな深海棲艦。生きているようにはとても見えなかった


その側には手に銃を握り締めて目、鼻、口、耳から血を流している女性が倒れていた


その顔、目には見覚えがあった。以前初期艦さんを撃ったあの殺し屋だ。限界まで目を見開きこちらも既に絶命しているのが解った


「こんな…事って…どうして…?」


『復讐…だろうね。あの金塊を新棲姫は殺し屋に渡していたんだ。汚染されているとは知らずに』


「どうして深海棲艦が殺し屋にそんな物を渡すんですか!」


つい声を荒げてしまう。理解出来ない事に直面すると人は怒りで誤魔化そうとする


『それはもう終わった事だよ。今更聞いた所で何の意味も無い』


そんなやり取りの最中にも初期艦さんは絶叫し続けている。喉が枯れようとも、血が出ようとも止めるつもりが無いかのように、止められないかのように


止めてしまってはその現実を直視しなければならなくなる、だから叫び続けなければいけないと、そう叫んでいるように私には見えたのだ

263 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 05:14:19.58 ID:NvpBgk+DO
 
 
その後はまるで石が坂を転げ落ちて行くように状況が動いていく


泣き叫ぶ初期艦さん、恋人の遺体を食べようとする初期艦さん、挙げ句司令官達に当たり散らし龍驤さんの首を絞める初期艦さん


しかし突然叫び出し走り去っていく初期艦さん


誰が見ても解る。彼女は壊れかけていると


「彼女のこんな姿…想像も出来ませんでした…」


『無理も無いよ…。幸せの絶頂から一気に地の底まで突き落とされたようなものだからね…』


そうか…彼女の精神は決して弱くはなかった。むしろあの鎮守府の中では強い方だった筈


それが一気に崩壊寸前までになってしまっている。その激しすぎる落差から受けるダメージは私には計り知る事すら出来ない


咳き込む龍驤さんを介抱する司令官。追いかけようか迷う素振りを見せていたが結局追いかけはしなかった


ここで追いかけていたらまた結果は違ったのだろうか。司令官なら龍驤さんを背負ってでも追いかけるだろうと思っていた


おそらくは別れた事が影響していたのかもしれない。この場合は悪い方に
264 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 05:18:03.21 ID:NvpBgk+DO
 
 
廊下で俯いたまま突っ立っている初期艦さんが居た


「大丈夫でしょうか…何か様子が…」


『…え?これは…お姉ちゃん?』


「富士さんがどうかしたんですか?」


と、映像の初期艦さんが顔を上げ、そして泣き崩れたと思ったらすぐに泣き止んだりしている。もうかなり錯乱しているのかもしれない


ふと違和感があった


それまでの初期艦さんとは明らかに表情が違う。先程までの壊れる寸前とは思えない強い意志を宿した目をしている


まさか立ち直ったのだとすればあまりに急すぎる


私が困惑していると背後で扉の開く音が聞こえ私が振り向くと富士さんが部屋に入って来る所だった。そして―


「は…?え…?」


私はモニターと富士さんの方を交互に何度も見返す


私達の前に富士さんに抱えられた初期艦さんが居たのだった
265 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/04(木) 05:19:48.21 ID:NvpBgk+DO
ひとまずここまで
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/04(木) 08:41:10.16 ID:NEGBFoe2O
漣はほんとにな…
男女両方の面で恋人を奪われてるからな…
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/05(金) 01:03:02.68 ID:gTejhF1Mo
おつおつ
新姫ちゃんは来ないよねぇやっぱり
268 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/08(月) 06:07:07.28 ID:YeTediuDO
>>264から
 
 
「は…?え…?何でここに初期艦さんが?だってあそこに…」


私はテレビに映る初期艦さんを見る。確かに居る…じゃあこっちは…


【落ち着きなさい、説明はちゃんとするからまずはこの子を奥の部屋に】


そう言って富士さんが初期艦さんを抱えて…と言っても背丈は富士さんの方が僅かに低いのでまるで抱き付いて引きずるようになっている


「あ…はい!じゃあこっちに」


おかしい…初期艦さんの目は開いてはいるのにまるで私を見ていない。というか目に光が無い


私は富士さんと二人で奥の部屋に初期艦さんを連れていき布団を敷く。その間も周りの状況に反応を示さない


布団を敷き終わりそこに初期艦さんを横たえると富士さんはスッと彼女の額に触れる。すると目を閉じて寝息を立て始めた


【ひとまずはこれで安心ね…】


そのまま軽く額を指先で撫でながら話し出した


駆逐艦漣は一度死んだのだと

1◇
 
 
「精神の自殺…そんな事が可能なんですか…?」


【普通の人はそんな事は簡単には出来ないわ。だけどこの子はちょっと違う。どうやら何度も精神世界で活動した経験があるから出来たのでしょうね…】


「…自殺なんて彼女のイメージからかけ離れすぎです。何て馬鹿な事を…人の事は言えませんけど」


【…それがそうでも無さそうなのよね】


「どういう事ですか?」


【一体何があったのかは見ていたわね?…それによってこの子の心はバラバラに砕け散る寸前だった】


富士さんが言うには初期艦さんは無意識に自己防衛した結果自らの精神を殺した、つまり活動を停止させたのだと


あのまま外部の刺激に晒され続ければひび割れた彼女の心はそれに耐えられずに砕け散って最終的に発狂、周りの全てを傷付けていたでしょうと


【…この子には覚悟する時間さえ与えられなかった…むしろ希望を見せられていた…あんまりだとは思わない?】


富士さんは悲しげにまた初期艦さんの額を撫でる


【だから私がこの子の魂を預かり、ここに連れてきた。世界から隔絶されたここなら余計な刺激も無いから】


「これから彼女はどうなるんでしょうか…」


【…解らないわ…この子次第としか言えない。再び立ち上がれるのか、ずっとここでこのままなのか…】
269 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/08(月) 06:12:01.59 ID:YeTediuDO
 
 
「あのテレビを見せたりは…」


【今は止めておきなさい、今のこの子には毒にしかならないわ】


「そうですよね…あ、じゃああの…潜水新棲姫の魂をここに連れてくれば…」


【…確かにあの深海棲艦も陸の上で亡くなった。もしかしたら来ているかもしれないけれど…】


と、富士さんが窓の外を見る。その先の三途の川のある辺りに夥しい数の死者の群


【あの中から探してみる?居るかどうかも解らない小さな女の子を】


「…富士さんが呼んだりは出来ないんですか?」


【私は深海棲艦に直接の干渉は出来ない、それにあの深海棲艦が未練を持って留まっている保証も無いわ。既にもう渡ってしまった可能性すらある】


「未練になるものなら居るじゃないですか、ここに」


【自ら死地に赴いたというのなら未練を残さない覚悟を決めていた筈よ。自分がいつまでも留まっていたら残された者は前に進めない、そう考えていてもおかしくは無いわね…】


「それじゃあ…救われないじゃないですか…!」


【落ち着きなさい…私も貴女と同じ気持ちよ…】


人差し指を立て静かにと言いながら富士さんは私を促し居間に戻る。振り返って見た初期艦さんは死んだように…眠り続けていた
270 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/08(月) 06:13:51.96 ID:YeTediuDO
 
 
『おかえり』


言葉少なく迎えるY子さん。何処と無く空気が重い


「…お茶でも淹れますね」


【お願いするわ】


そうして準備をしながら私は富士さんに聞いてみる


「こう言っては何ですけどこれで二回目ですね。富士さんが艦娘を助けるの。一度目は初期艦さんを見逃した時」


そう言った私の言葉を聞いたY子さんがにんまりとした顔になる


『二回じゃ済まないんだなぁこれが』


【な…何よ】


富士さんがこれはまずいという顔になる。私は聞いてはいけない事を聞いたのだろうか


『あの鎮守府だけじゃなくて色んな所で結構お姉ちゃんは艦娘を助けてるんだよ〜』


【べ…別にいいじゃない、単なる気まぐれよ】


『お姉ちゃんの計画が進まない理由解った?朝ちゃん』


「何となく…解ります」


『魂連れて行く時も対話して相手の同意を得てからだし、そうでない場合もなるべく死にそうな子を選んでだし』


問答無用な時はその相手が救いようの無いクズの場合だけだしとY子さんぺらぺら


『良さそうな魂見付けたら問答無用で即刈り取るとかしてたらとっくに達成されてたと思うけどね〜。選り好みしすぎなんだよお姉ちゃんは』


【そんな事したら可哀想じゃない!】


『…ね?』


ハッとして俯く富士さん。耳が赤い。ちょっと待って何…かわいいこの人


まあそう言うY子さんも私をここに連れて来たり何だかんだ助けてくれているので似た者姉妹なのかもしれないとお茶を注ぎながら思う私


しかし怒ると富士さんよりも怖いので口には出さない私

271 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/08(月) 06:15:45.46 ID:YeTediuDO
 
 
そうして少しばかり空気が軽くなったのを感じ私はまたテレビを観る


だかこちらとはまるで違い鎮守府の空気はかつて無い程重い


「何だかんだでムードメーカーでしたからね…しかも鎮守府の支柱を担う一人でしたし…」


というよりも彼女が居なかったら今のあの鎮守府は無かったのかもしれないのだ。つまりは私にとっても恩人という事なるのかもしれない


怒る人、体調を崩す人、そしてそんな中皆を元気付けようと鎮守府中を回る司令官…この中で一番つらいのは司令官の筈なのにあくまで優先するのは自分以外な司令官が心配になる


そして司令官は今は初期艦さんの身体であるらしい重巡棲姫と共に主不在の部屋の掃除を始めた


普段から自分の部屋にはあまり帰っていなかったらしく散らかり放題で掃除もろくにしていないようだ


考えてみれば彼女は大抵執務室に居て秘書艦の仕事をしているか龍驤さんのサポートや鎮守府中を駆け回っていたように思う


その上和平派深海棲艦集めでいつも忙しそうにしていたのも何度も見ている


潜水新棲姫と正式に付き合うようになってからは司令官も気を使ってか二人の時間を取らせたりはしていたようだけれど
272 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/08(月) 06:17:34.19 ID:YeTediuDO
 
 
≪提督が朝潮の部屋で泣いているのは知っている≫


初期艦さんの声で彼女とは違うイントネーションでそう話す重巡棲姫さん


ここからいつも司令官達を見ている私ももちろんそれを何度も見ていた。その度に私は申し訳なくて…


「…ごめんなさい…司令官…ごめんなさい…」


司令官は悪くないとここで叫んでもその声は決して届く事は無い。だけど目を反らす訳にはいかない


どれだけここで謝っても、後悔してももう遅い、これが私のした事の結果だ


残された人達に傷を残し今も苦しめている。いっそ私の事など忘れてくれたらならどんなにいいか


おそらくは仮に私の声が届いたとしても彼は自分を責め続けるのだろう


そしてそれは司令官だけでは無く鎮守府の皆にも言える事で…


たまに彼女達の会話の中に未だに私の名前が出る事がある。そして大抵は私を救えなかった事への悔恨の言葉に繋がる


本当に…ここの人達は…私は届かないと知りつつも同じように謝る事しか出来なかった

273 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/08(月) 06:18:57.92 ID:YeTediuDO
 
 
司令官達が部屋の掃除を再開し始めて少ししてから二人は何かを見付けた


それは初期艦さんが密かに用意していた二つの指輪。これは単なるペアリングではなく婚約指輪か。彼女はそこまで本気で…


それを見て涙を流す重巡棲姫さん。司令官も気を使って一声掛けて部屋を出て行くが何処かその声が詰まっているように聞こえた。


何となく私は振り返り少しだけ開けた襖から眠る初期艦さんを見る

「あ…」


確かに眠っているしこちらの声や音も聞こえているかは解らない。だけど眠る彼女の目からは映像と同じように涙が流れていた


いつか彼女が目覚めた時、私は何と声を掛ければいいのだろう。生きる希望を再び見出だしてくれたら…私と同じ後悔を出来ればしてほしくは無いと思う


「ああして貴女の為に泣いてくれている人がまだ居ますよ…」


私はそう彼女に声を掛けてみる。果たしてその耳に、心に届いたか、涙を流しながらただ静かに眠り続けるのだった

274 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/08(月) 06:20:22.27 ID:YeTediuDO
 
 
それからも誰かが不調を訴えてダウンしたり早霜が朝霜さんにちょっかいを掛けてダウンさせたり叢雲さんが暴れて弥生さんをボコボコにしたり悪い流れが止まらない


その都度対処してはその場は収めているようだけれど根本的には解決していない。こんな調子ではいつか追い付かなくなる…


その上霞が違法薬物所持で捕まったり、鎮守府の隠し部屋から大量のドラッグが発見されたりともうあそこは呪われてでもいるのだろうか


「例え執務室の壁に前提督の遺体が埋まってたり、そもそも鎮守府の土地は昔は墓地だったりしてたとしてももう私は驚きませんよ…」


『誰かがテレビから霊界に拐われたり最後には鎮守府ごと謎の穴に吸い込まれたりしちゃうねぇ』


【何の話よそれは…】


富士さんが呆れたように声を上げる。最近は彼女は割と頻繁に初期艦さんの様子を見にここに来ている。助けた手前預けて放置なんて無責任だものとは富士さんの談


『昔観た映画の話、続編では家族の絆の力で乗り越えるんだよー』


「…家族の絆ですか…司令官も言ってましたね、皆は家族だと…」


【どうなのかしらね…】


富士さんがぽつりとそんな事を言う
275 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/08(月) 06:21:48.18 ID:YeTediuDO
 
 
「どういう意味ですか?」


私が聞くと富士さんは少し言いにくそうにして、それでも誤魔化さずに話し出す


【その提督からして自分の基準でしか物事を考えていない節があるわ】


「そんな事無いです!司令官はいつも皆の為に悩んだり泣いたりしているじゃないですか!」


【気に障ったのなら謝るわ。あくまでそういう部分もあるという事。確かに彼の優しさは嘘ではないでしょう】


「そうですよ!」


『いいの?お姉ちゃん。そんな話して』


【まぁ、ここだけの話という事にして頂戴。で、だけれど、その提督はいつも言っていたわね、もしも龍驤に何かあれば自分はどうするかを】


「そうですね…龍驤さんが居なければ司令官は生きては行けない、きっと後を…」


【他の艦娘達を見捨てて?】


「あ…」


そうか…富士さんの言いたい事がやっと解った


【実際にそうなった場合、彼がどうするかは解らない。だけど残される気持ちを誰よりも理解しながら自分も同じ事をするようなら…】


「…結局は司令官も自分の事しか考えていなかった、そういう事ですか…」


【最愛の者を喪った精神状態ですもの…無理も無いとは思うわ。だからこそそんな時に誰かが支え、繋ぎ止めなければならないわ】


そうでなければ…と富士さんは視線を奥の部屋に移す。支え、繋ぎ止めるのに失敗した場合…ああなるのだと言外にそう言っていた

276 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/08(月) 06:23:35.91 ID:YeTediuDO
 
 
「和平…調停…?」


その報せを受ける司令官達もそしてそれを覗き見る私達も胡散臭げな表情になっていた


「講和の話が出てから随分流れが早いですね…」


司令官達の話では大本営はもうガタガタで受け入れるしか無いという事らしい


だけどほとんどの深海棲艦は今まで通り活動していて深海提督が従えるのはほんの一部。こんな和平に意味があるとはどうしても思えなかった


「まさか大本営は深海提督が全ての深海棲艦を支配していると本気で信じているのでしょうか…」


『半信半疑、だけどすがるしかない。そんな所じゃないかなぁ。金塊の件で騙されていたと気付いただろうにねぇ』


そして世界各地に放映される和平調停。今にも死にそうな元帥が深海提督との調印式に現れる


【長くは無いと自分自身悟っているわね、最後の役目だとでも思っているのでしょうね】


『元はと言えば欲をかいた結果で自業自得なのにねぇ』


【死を前にして目が覚める。よくある話よ。少なくとも今の元帥の目は濁ってはいない。屑のままなら自分自身の延命に走るでしょう】


しかし調印式が終わった直後力尽きたのか元帥は倒れてしまった。会場は騒然として医療班が処置をしている。この後に予定されていた深海提督の会見はうやむやになってしまう

277 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/08(月) 06:25:31.33 ID:YeTediuDO
 
 
すると深海提督は一言二言傍らに立つ深海海月姫に何かを言うと立ち去ってしまった


「和平調停がこんなのでいいのでしょうか」


【何もかも急だったのだからアクシデントは仕方無いわね】


と、一人残った深海海月姫がテレビカメラの前に立つ。彼女が代わりに会見をするのだろうか。こんな騒然とした中で?


『ん?あいつ…何かする気みたいだね』


【何かって?】


『ふむ…まあ、私がする事じゃないか』


Y子さんは意味深な事を言うだけで何も答える気は無いようだった。仕方無いわね…と再び画面を見る私達


深海棲艦は何かを呟いている、会場の騒ぎでよく聞き取れない。彼女は両手を上げて合いの手のようなポーズを取る


≪これは…プレゼントよ≫


辛うじてそんな言葉が聞こえた


パン!


そして手を勢いよく打ち鳴らした

【…ぐ!?】


突然私の隣に居る富士さんが呻き声を上げ突っ伏してしまう


「富士さん!?」


『なるほどねぇ…そういう事、変な力の流れだったから何か仕掛けるとは思ったけど』


「何呑気に言ってるんですか!いきなり倒れたんですよ!」


慌てて富士さんに駆け寄る私。彼女は意識を失っていた
278 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/08(月) 06:27:13.99 ID:YeTediuDO
 
 
それから…


呼ぼうと揺すろうと意識を取り戻さない富士さんを奥の部屋、初期艦さんの隣に敷いた布団に寝かせ私達はモニターを見る


既にあの深海棲艦の姿は無く、程なく会場の場面もスタジオに切り替わった


「一体富士さんはどうしたんでしょう…」


『…間違い無くあの深海棲艦の仕業。電波に乗せて自分の力を飛ばした。随分器用な事が出来る深海棲艦だなぁ』


Y子さんはいつもと同じ調子でそう言った。だけどそれなりに彼女と一緒に過ごしてきた私には何となく解った。彼女は怒っていると


『何をするのか興味があったから放っておいたけどまさかお姉ちゃんに手を出すとはねぇ…ふーん』


私は下手な事は言わないようにして映像を鎮守府に切り替える。そして富士さんだけでは無かった事を知った


「ほとんどの艦娘が昏倒した…?」


『お姉ちゃんを昏倒させ、引いては国中の艦娘を昏倒させる。それが狙いかなぁ。やる事が大胆だよねぇ…もちろんこれは手段であって目的は他にあるだろうねぇ』


妙に饒舌になっているY子さん。つまり感情が昂っている。やっぱり怒っているらしい


『艦娘の動きは封じられた。そうしたらどうなるか…ちょっと考えれば解るよ。防衛線が機能停止してる。艦娘の哨戒も無い、今なら攻めたい放題』


「まずいじゃないですかそれ!」

画面の向こうでも司令官達が同じ結論に至っていた。そして少しして朝霜さんが初期艦さんの身体の重巡棲姫さんの所に行く。同じく彼女も昏倒していた


『…どうやらお客さんみたいだねぇ、お姉ちゃんは今動けないからあたしが行ってくるねぇ』


そう言い残しY子さんは姿を消した。…大丈夫だろうか、朝霜さんは人当たりが割ときつい、今の機嫌が悪いY子さんと会ったらどうなるんだろう

279 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/08(月) 06:28:47.51 ID:YeTediuDO
 
 
≪その名を呼ぶな!≫


バリバリバリバリ!


≪ぎゃあああぁぁぁ!≫


案の定だった。迂闊に名前を呼ぼうとした朝霜さんが何故か雷に打たれている。私が以前間違えて名前を呼びそうになった時はデコピンくらいで済んだけどそれでもかなり痛かった


『あー、ちょっとすっとしたー』

Y子さんが何処かすっきりした顔になって帰って来る


「あの…朝霜さん完全に気絶していたんですが…」


『あれでもかなり手加減したんだよー。…ふぅ』


すっきりした顔と何故かはっきりと解る疲労感


「大丈夫ですか?この上Y子さんまで倒れたら私…」


『あー、大丈夫大丈夫。手加減って結構大変なんだよ。だからちょっと疲れただけだから』


そう言って炬燵に入り込み冷めたお茶を啜る彼女


手加減は大変…私でも彼女の力が並外れているのは解る。以前力を貸してもらったのはその一端に過ぎないと何となく理解していた


彼女が伸び伸びとその力を振るえる相手など多分この世界には居ないのだろう。ストレスが溜まって爆発したりしたら…私は改めてY子さんを怒らせないようにしようと誓うのだった


…ところでその2って何だろう
280 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/08(月) 06:30:45.13 ID:YeTediuDO
ここまで
また同じミスを…
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/08(月) 09:42:11.03 ID:kuMFb+a0o

捌きウマす
割と……?>朝霜の人当たり
282 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:04:28.07 ID:OcSTB+ZDO
>>279から
 
 
「ああ…またここも…」


私は海辺の町が深海棲艦に蹂躙されている光景をただ見ている事しか出来ない


ほとんどの艦娘が意識を失ってから丸一日、機能しなくなった防衛線を越えて深海棲艦が攻撃を仕掛けている


大本営は今や艦娘に頼りきりで通常兵器はほとんど無いか、あっても深海棲艦にはあまり効果的では無く使われず埃を被っていると聞いた事がある


つまり守る艦娘が居ない今、完全に無防備、その犠牲者の数も日に日に膨れ上がっていく


「…結局深海提督の狙いはこれだったという事ですか…まんまと騙されて、最初から和平は口実に過ぎなかった」


あれから富士さんも目覚める気配が無い、もしかしたらもう人類は終わってしまう…?


『…中には起きている艦娘も居るようだしそんな簡単にはいかないと思うよ。もう少ししたら他の艦娘達も目を覚ます。それまでの辛抱だね』


一部の眠らなかった艦娘が何とか防衛線を支えたり救出に向かっている地域もあるにはあるがとても追い付いてはいない。犠牲者の数は千に届こうとしていた


そんな中どういう訳か深海提督が龍驤さんと会い話し合いをしたいと言い出したらしい

283 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:06:06.84 ID:OcSTB+ZDO
 
 
「どう考えても罠に決まってるじゃないですか!」


『まあ私達視点ならそう思うのも当然だけどあちらからすればまだ和平を結んだ相手だからね。限り無く黒に近いと思っていても断る訳にはいかないよね』


しかも二人だけとの指定付きだ。わざわざ龍驤さんを名指しする理由が解らない。深海棲艦の対処の話し合いというのに大本営では無く一介の提督に障害のある艦娘を呼ぶ…怪しすぎて私でも何か裏があると解る


しかし大本営、引いては人類の危機。Y子さんの言う通り断る事は出来ないだろう


そして私の、そしておそらく司令官達も感じていたであろう不安は的中してしまう事になる


≪よくも私達の子供を殺したわね≫

284 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:08:45.10 ID:OcSTB+ZDO
 
 
龍驤さんが過去に見殺しにする事になってしまった子供の親はなんと人間と深海棲艦との間に生まれた子なのだという


それから先の龍驤さんの錯乱は無理も無かった。龍驤さんは自分の不調を何故か私には見せようとはしなかったけれどまさにあんな感じだったのだろうか


そして再び自殺防止の為、隔離室で拘束されてしまう龍驤さん。その間も深海棲艦による犠牲者の数は増え、二千人に達した所で計っていたかのように眠っていた艦娘達が目覚めていった


「龍驤さん一人を苦しめる為だけにこれだけの事を…?二千人の人の中にだって子供は居た…それが親だった人のする事か!」


私は立ち上がってやり場の無い怒りを…そうだった…こんな風に誰かを憎んだ結果が今の私だ


『落ち着…止めるまでも無かったかぁ、成長したね朝ちゃん』


「怒りは感じます、だけどそれだけで頭を一杯にしたらろくな事になりませんから」


『経験者は語るってやつだね』


「それに私がここでどれだけ怒った所で何にもなりません…それこそ誰一人に対しても」


私達がそんな話をしていると奥の部屋から富士さんが現れた
285 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:10:04.72 ID:OcSTB+ZDO
 
 
「富士さん!もう大丈夫なんですか?急に起きたりして…」


【…大丈夫よ】


『コアを強制停止なんてされたんだから何かしらダメージがあっても不思議じゃないよ、無理しない方がいいんじゃない?』


【…】


自覚はあるのか富士さんは座り込む。あまり顔色が良くない


「私からもお願いします。あまり無理しないでください」


【…ありがとう】


「富士さん!?」


『お姉ちゃん…』


なんと富士さんは静かに涙を流していた


【…目覚めてからすぐ状況は確認したわ…。私が不甲斐ないせいでこんな事に…人間なんて好きじゃないけれど、それでも…それでも死ねばいいなんて思わない…】


それから富士さんは静かに泣き続けていた。それは哀悼の涙。私達二人はただ黙ってそれを見ているしか出来なかった

286 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:11:30.17 ID:OcSTB+ZDO
 
 
【ごめんなさい…もう落ち着いたわ】


しばらくしていつもの調子に戻った富士さんが私達に頭を下げる


『それにしても結構動けていた艦娘も多かったみたいだね。何とか乗り切った鎮守府や防衛に成功した町もあったよ』


【傀儡の艦娘ね…結果的にはそれに救われていた…】


富士さんは釈然としない表情で言う。自分の計画の邪魔になるそれが最後の砦となっていた。富士さんにはつらい所なのだろう


『あ、お姉ちゃん、お客さんみたいだよ。また朝霜だね』


【そう…この前は私の替わりに悪かったわね】


『いいよいいよ〜』


そう言い残し姿を消す富士さん。私達とよく話す富士さんは初期艦さんの中に居る富士さんなのだという。今は身体の主である初期艦さんがあの状態なのでよくこちらに様子を見に来ている

287 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:13:08.34 ID:OcSTB+ZDO
 
 
『うふ、うふふふふ〜』


富士さんと朝霜さんが話始めてからY子さんが怖いです


相変わらず誰に対してもボロクソに言う朝霜さんに富士さんは何も言い返せない


しかも富士さんのせいで大勢が亡くなったとも取れる発言までしているのはさすがに私もムッとしてしまう


『…あいつ、今度会ったら…』


ぼそりと呟く声は聞かなかった事にする。いや本当プレッシャー凄いんですけど


≪お前…アホか?≫


ばきぐしゃ!


ああ今のはY子さんが湯呑みを握り潰した音です。えぇもう一度言います。ガラスのコップなどでは無く湯呑みをです


私はもう彼女の方は見る事が出来ない、怖くて


そして朝霜さんは富士さんの言う理想郷を完全に否定するだけして帰って行く


…確かに問答無用で連れて行かれたら嫌がる艦娘も居るだろう。だけどそれを求める艦娘だって中には居るとも思う


私ならどちらを選ぶだろうか。せめて体験してから決めるとか出来たらいいのに


やがて富士さんが部屋に戻って来た。ああ…やはりかなり消沈してしまっている

288 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:15:00.09 ID:OcSTB+ZDO
 
 
「富士さん…あまり気にしない方が…」


と、慰めようとした私の言葉を遮って富士さんが聞いてくる


【…朝潮、私は貴女にも干渉出来なかった…。貴女も幸せを感じていたの…?あんな目にあっていながら…】


「そうですね…司令官と出会う前ならそんな事は無かったと思いますけど、あの鎮守府での日々は確かに幸せでした。楽しかったです」


【そう…そうなのね…】


富士さんは座り込んで項垂れてしまう。朝霜さん…彼女のこんな姿を見てもバカだのアホだの言うのなら私は貴女を張り倒す


「富士さん…司令官と出会う前の私ならきっと理想郷に行きたがったと思います。同じようにこの世界に絶望している艦娘は必ず居るとも思います」


『そうだねぇ。要は本人の意志確認をすればいいだけの話だよ。全て全員なんて端から無理だったんだよ』


【…私はやっぱり行き当たりばったりなんて言われるのも仕方無いのね…。今まで考えもしなかった…】


『ニュース番組と一緒なんだよ。お姉ちゃんが目覚めるのは不幸真っ只中の艦娘だもの。幸せに暮らしている艦娘の中では目覚めない。それが全てだって勘違いしちゃってたんだよお姉ちゃんは』


なるほど…確かにそうなのかもしれない。不幸ばかりを見てきた富士さんはそれを確かめようとはせずに全ての艦娘を救おうと決意した…でも結局それがかえって不幸にしてしまう可能性には気付かずに
289 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:16:30.69 ID:OcSTB+ZDO
 
 
【…ところで、その破片が散らばっているのは何】


『何でも無いよ〜』


Y子さんは自分が握り潰した湯呑みの破片を片付けている。富士さんが馬鹿にされて怒っていたのは本人に言ってあげたら喜んでくれるだろうか、私がそんな事を考えていると


『ね…?朝ちゃん?』


「はい、何でもありません」


よし、これはお墓まで持っていこう。この場合私は私のお墓に王様の耳はロバの耳をすればいいのだろうか


――と


がたん


「朝…潮…?」


襖に何かがぶつかる音と私の名前を呼ぶ声が聞こえた。それは私にとって懐かしい声のひとつであり直に聞くのは本当に久しぶりなものだった


私は振り返る


いつ目覚めるとも知れなかった初期艦さん…漣が私の姿に目を見開いていた

290 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:17:36.34 ID:OcSTB+ZDO
 
 
『思ったより早かったね』


漣「朝潮…本当に朝潮なんですか…?じゃあ私は…」


「ストップ!説明はしますからまずは座ってください。お茶淹れますから」


私は初期艦さんを…いえ、漣さんを無理矢理炬燵に座らせてお茶の準備をする


漣「あ…え…?」


状況が飲み込めず目を白黒させるばかりの漣さん。思考停止している今の内にと手早くお茶とお菓子を差し出す


『朝ちゃーん私にも〜』


「はいはい…」


私はY子さんの分もお茶の準備をする。今度の湯呑みは握り潰さないでほしいものだ


【あ、じゃあ私も】


「一度に言ってくれませんかね…今淹れます」


おそらく富士さんのはわざとだ、空気を弛緩させようとでも思ったのかもしれない。でもこの場合は…


バン!


まあ焦れている人には逆効果で


漣「お茶なんてどうでもいいから早く説明してください!ここは何処ですか!何で朝潮がここに居るんですか!朝潮がここに居るという事は…」


そこで言葉は途切れた

291 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:18:53.21 ID:OcSTB+ZDO
 
 
私がここに居る、つまり自分は死んだ、死、そこまで連想して思い出したのだろう。彼女の顔が青ざめていく


漣「私…は確か…消えようと…」


【私が連れて来たのよ。そしてここは彼岸と此岸の境目の世界。分かりやすく言えば三途の川よ】


漣「貴女は…富士…。…どうして?どうしてそんな余計な事をしたんですか!私はもう何もかも嫌になった!だから終わりにしようとしたのに!」


「…余計な事ですか」


私は思わず口を挟んでしまう。どうも最近の私は富士さんの肩を持つ傾向にあるらしい


漣「朝潮…貴女は私達の知ってる朝潮なんですよね?」


「はい、自らの憎しみに負け自殺したあの朝潮です。負け犬です。貴女もそうなるんですか?」


漣「な…!」


カアッという音が聞こえそうな程、彼女の頭に血が登ったのが判った

292 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:20:26.94 ID:OcSTB+ZDO
 
 
漣「アンタが…アンタが自殺したせいで漣達がどれだけ…ご主人様がどれだけ…」


再び彼女の言葉が途切れる。赤くなっていた顔がまた青ざめる


彼女は頭の回転が早い。私が言うよりも早く、言うまでもなく、自分も同じ事をしようとしたとすぐに思い至ったようで


漣「ごめんなさい…漣に朝潮を責める資格は無いですね…。つまり漣はもう…」


【貴女はまだ死んではいないわ】


漣「え…?」


【一時的に貴女の魂を私がここに連れて来た。言わば幽体離脱をしている状態よ】


漣「どうして…」


漣さんは完全に勢いを無くし項垂れる。そしてポロポロと水滴が落ちるのが見えた


漣「やっぱり余計な事だ…私はもう疲れた…大好きな人ももう居ない…私は龍驤さんを手にかけようとまでしてしまった…また裏切った…」


やっぱりまだ心の傷は塞がってはいないようで。当然だ、まだつい最近の出来事だったのだから


【ごめんなさい漣…。貴女を助けたのは私のエゴよ…。だけどね…自ら可能性を捨てて欲しくは無かったの…】

293 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:22:12.43 ID:OcSTB+ZDO
 
 
漣「私に可能性なんてもうありません…全部終わったんです」


…今の彼女はネガティブの塊だ、かつての私がそうだったから解る。何を言っても届きはしないだろう。自分自身で気付くしか方法は無いのだ


「仮にそうだとしてもまずはここでゆっくり…」


ふと思い付き私は言い直す


『「ゆっくりしていってね!」』


何故か便乗してきたY子さんの声が重なった


漣「…」


しまった…今彼女はネガティブの塊だと思ったばかりなのに。富士さんの事行き当たりばったりとか言えないかも


漣「…どこでそんな知識を仕入れたのか知らないけど…ずいぶん気楽そうですね…」


すると漣さんはあのテレビを見て


漣「どういう仕組みかは知らないけどあれで私達を見ていたんですね…。苦しんでいる私やあの子を見て楽しかったですか?」


なるほど…そう来たか。しかし私は動じる事無く答える


「楽しんでいるように見えたなら謝ります。貴方達が幸せになっていてくれたなら素直に楽しんで見る事が出来ていたんですがね」


漣「そんなの漣のせいじゃない!」


「知っています、ずっと見ていたんですから」

294 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:24:19.15 ID:OcSTB+ZDO
 
 
「だけど貴女が居なくなった事で皆の幸せが遠のいたのは確かですよ」


漣「そんな訳無い…むしろ私は…」


「貴女が居なくなってからの司令官達の様子を今から教えます。貴女にはそれを聞く義務がある」


漣「嫌だ!聞きたくない!何も聞きたくない!」


ちょっと性急に過ぎたかもしれない…今の彼女にはいつか富士さんが言った通り司令官達の話は毒にしかならないのか


漣さんは耳を塞ぎ逃げ出そうと―――


ズン…!


「う…!」


【ちょっと…】


漣「うぁ…あ…!?」


部屋の重力が何倍にもなったかのような圧力。Y子さんが漣さんに向けてプレッシャーをかけている


『ちょっと…落ち着こうか…。ね…?』


漣「あ…ぁ…」


漣さんには初めての彼女の力。先程までのとは違う意味で顔面蒼白になっている


『落ち着いてそこに座ってね。…座れ』


漣「は…はぃ…」


【あんまりやり過ぎると気絶してしまうわよ】


『解ってるって』


怯えきって元居た位置に座る漣さん。葛藤やら悲哀やらが恐怖一色に塗り替えられてしまっている。それが狙いだったのだろうか、彼女の恐怖を刺激して自らを守ろうとさせていた


『話の前にまぁとりあえずはこっち』


Y子さんがリモコンを操作して鎮守府の映像が切り替わる


漣「え…?」


そこには隔離室で拘束されている龍驤さんの姿があった

295 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:26:27.33 ID:OcSTB+ZDO
 
 
漣「どうして龍驤さんが…もしかしてまた調子が…」


「…これまでで一番最悪の状態に今なってしまっているんです」


漣「そんな…」


「それでも…それでも聞きたくないですか?」


漣「そ…れは…」


迷いを見せる漣さん。しかし何となく解った。このまま聞かない選択を彼女はきっとしないだろうと

漣「…もう漣には関係無いけど一応…。一応聞かせてください」


そうして漣さんが居ない間の出来事を私は可能な限り事細かに話して聞かせる


話が終わる頃には彼女の顔にはこれまでとは違うものが浮かんでいた。自責の念と、怒り。しかしそれもとても弱い、発奮には程遠いものだった


漣「私の…せいで…」


『それはさすがに驕りが過ぎるよ、龍驤が真実を知るのはきっと止められないし。その結果起こる事も変えられはしなかった。ただ…何かは出来ていたかもしれないけどね』


漣「何が出来ていたんでしょうね…恋人も守れなかった私に…」


自嘲するように言う漣さん。だけど少しだけ…これまでとは違うように見えたのは私の気のせいか

296 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:28:34.38 ID:OcSTB+ZDO
 
 
漣「それで…私を助けてどうさせたいんですか…?鎮守府に帰れとでも…?」


やはり疲れたように言う彼女。あの明るかった姿からは想像も出来ない程に陰を背負ってしまっている


「それはいずれは…」


【いいえ、誰も帰れなんて言わない。好きなだけここに居てもらって構わないわ】


私の言葉を遮って富士さんが言う。あの…?


【だけどね…いつか…貴女がまた希望を見出だす事が出来たら…私も嬉しい。やっぱりこれは私のエゴね…】


漣「…」


その富士さんの言葉に何かを考えている漣さんはやがて


漣「…じゃあしばらくはここに居ます。結局何も見付からなかったらその時は…」


そこで言葉を切り彼女は


漣「私の魂を富士…さんにあげます。いつかの時は見逃してもらいましたけど今度はその必要はありませんから」


【…そう】


富士さんは複雑そうな顔をしてそれだけを言って黙り込んでしまった
297 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:29:59.15 ID:OcSTB+ZDO
 
 
そうしてこれまでの私達と同じように鎮守府や世界の様子を見る漣さん


漣「犠牲者二千…虐殺…」


『老若男女問わずね。もちろん子供だって居た』


漣「貴女達はそれを黙って見ていただけだったんですか…」


責めるような視線を一瞬向けるもすぐに俯いて


漣「なるほど…少しだけ深海提督達の思考が解りました。龍驤さんはもちろんの事、何もしなかった人間そのものも同じくらい憎んでいる…」


「だからこそ龍驤さんを苦しめる為の道具くらいにしか思っていない、そういう事なんでしょうね」

ひたすらに考える漣さん。多分違う事を考えて一番思い出したく無い事柄を遠ざけているのだろう。私はそれに付き合い一緒に考察してみる


だけど同じ鎮守府での話なら自然とそこに行き着いてしまう。彼女はまた苦しそうな顔を浮かべる


漣「あいつらが…あいつらのせいであの子が…」


これは…まずいのかも知れないと私は話を反らす


「そういえばあの、重巡棲姫さんでしたっけ?あの人もすごい頑張っていましたよ!」


それを聞いた彼女は少し嫌そうな顔をする


漣「私にはあいつが解らない…いつも嫌な事ばっかり言って私を責める…きっと私の事が嫌いなんだ…」

298 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:31:10.53 ID:OcSTB+ZDO
 
 
『本当にそう思う?』


Y子さんが口を挟んできた。それに漣さんはまだ若干怯えつつも


漣「だってそうじゃないですか…結局あの子が…」


そこで言葉に詰まる漣さん。思い出してしまったのか目に涙を浮かべ


漣「あの子が死んだのは結局漣のせいだってあいつが言ったんだ!わ…私が…」


『…それは違うよ漣』


漣「何が違うんですか!」


『その子が死んだのは漣とは関係が無い。あの子自身のせいだよ。きっかけを遡れば不知火か更に言えば大本営の異動命令、もっと言えばそんな鎮守府を作った提督。さあどれにする?』


漣「そんなの言い出したらキリが無いじゃないですか…」


『解ってるじゃん。こじつけようと思えばいくらでも、誰でも悪く出来てしまう。まさにキリが無いよね』


それ以上言い返せず黙り混む漣さん。そこに私も言う


「少なくともあの重巡棲姫さんはその自分の過ちに気付いて貴女に謝りたいと言っていました」


漣「…」


『それに嫌いだからっていうのも逆だよ』

299 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:32:41.18 ID:OcSTB+ZDO
 
 
「そうですね。大切に思うからこそ厳しい事を言う。例え本人に嫌われても。なかなか出来る事ではありません」


漣「それを漣に言ってどうしろって言うんですか…」


「私達から漣さんにああしろこうしろとは言いませんよ。ただ、誤解したままではいてほしく無いだけで」


漣さんはテレビモニターに映る自分を見る。睨み付けるような複雑な表情で


漣「…角なんて生えて身体の色も白くなって」


『漣の魂が抜けてる影響で重巡棲姫が強く出てるんだよねぇ』


漣「関係…ありません…。もうあの身体は彼女にあげたんですから」


そう言って漣さんは奥の部屋に引っ込んでしまった


【…これからどうなるのかしらね】


ぽつりと富士さんが呟く声が聞こえた。それは漣さんだけの事では無く世界全ての事を指しているように私には聞こえた
300 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/12(金) 07:34:23.87 ID:OcSTB+ZDO
ひとまずここまで
本編次第で…
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/12(金) 10:27:04.87 ID:ty9mx+PIo

すぐにアンダーラインでの話を上げてくれるのは感心する
本編でも思ったけど富士にも成長フラグきてるよな
302 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:13:59.12 ID:t/ppvMKDO
>>299から
 
 
それからというもの鎮守府皆は龍驤さんを元気付けようとあの手この手と全力を尽くしていた


だけど霞の案ははっきり言って良くない。まさかドラッグで苦しみを取り除こうなんて


『使ったら間違い無く霞だけでは済まない事になるだろうねぇ』


「そうですね…副作用も酷いと言っていた辺り隠し通すのも難しいと思います」


そしてそうなったら間違い無く龍驤さんは施設行き。司令官も何らかの責任を取らされ提督を首になる可能性が高い


霞は逮捕され、証拠品として必要な薬や材料さえ押収、鎮守府は崩壊。よほど上手く隠しでもしない限り全て持っていかれるだろう


霞はその辺り大雑把で金庫も設置していなかった。聞いた話では最初は部屋に鍵すら無かったらしい


そして警察に鎮守府の皆に必要な物だと説明した所であまり期待は出来ないだろうと私は思う


当然ながら霞は他の皆に止められていたが、これも追い詰められた人間の視野狭窄なのだろう


「それにしてもまさか無理矢理注射しようとするなんて…もし間に合わなかったらと思うと…」


ダメ、ぜったい
303 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:15:24.62 ID:t/ppvMKDO
 
 
鎮守府の皆が集まって龍驤さんを励まし、説得する。しかし龍驤さんも頑固なものであくまで自分が悪いのだと言い張る


それでもそうして吐き出す事で少しは楽になれたのか僅かに元気を取り戻していた


「この調子なら…」


この調子なら龍驤さんもいずれ元気になるだろう。そう私も思っていた


しかしある日鎮守府に侵入者があったらしいと騒ぎになっていた


それはよりにもよって深海提督その人で、龍驤さんをまたもや追い詰めようとわざわざ鎮守府にまで来るなんて徹底している


そして龍驤さんは持ち直した分を全て失い今は薬によって眠らされている


「こうなってしまうともう戦うしか無いのかもしれませんね…」


『そうだねぇ。あくまで敵視してくる相手なら説得は難しいよねぇ』


「それにしても…」


と、私は奥の部屋の方を振り向いてみる
304 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:16:46.11 ID:t/ppvMKDO
 
 
ピシャ


慌てて襖を閉める音


「気になる事は気になるんですね…岩戸か何かでしょうか」


『また呼ぼうか?あたしが』


「いえ、そっとしておきましょう。無理強いしても仕方ありません」


今や奥の部屋は漣さんのテリトリーのようになっていた


私達も敢えて踏み込んだりはしないようにしている。彼女が自分の意志で来ない事には始まらないのだ


たまに泣き声が聞こえたりうなされる声がしたり、暴れる音がしたりとまだまだ彼女は不安定なようで


考えてみたらあの頃の私によく似ているような気がする。司令官達もこんな気持ちだったのだろうか…


司令官のように上手く慰める自信の無い私は下手に声もかけられずにいた。そもそも慰めの言葉が果たして彼女に有効なのかも判らない


無力感。どうしてあげる事も出来ない。せめてこの先何かしら上手く転んでくれる偶然に期待するしかないのだろうか
305 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:18:14.19 ID:t/ppvMKDO
 
 
龍驤さんを精神の病院に入れるという話が出ていた


深海提督が鎮守府に侵入し揺さぶりをかけてくる事も含めての対策らしい


「どうなんでしょうね…仮にも軍施設と病院でセキュリティにそれほど差は無い気もしますが」


『身分を偽って入ってくるか、それも飛ばして誘拐されちゃうかも』


仮に強引に拐おうとされたらむしろ対抗出来ない病院の方が危険な気がする


『かといってこのままだと違法薬物に頼らざるを得ないかなぁ』


「今すぐ施設に入れるか発覚して施設に入れられるか…もうこれは詰んでいるのでしょうか…」


そんな中例の富士さんを停止させる胞子の対抗策が見付かったと秋津洲さんが執務室に飛び込んでくる


そんな方法をまさか科学者という訳でもない秋津洲さんが?


しかし内容を聞いた所研究を重ねた結果発見したというよりは偶然見付かっただけだったらしい

306 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:19:51.96 ID:t/ppvMKDO
 
 
『ぷっ…ふふ…まさか激辛焼きそばとか…想像付かないよ普通。多分あの海月姫ですらそんなの知らなかったんじゃないかなぁ…ふっ』


「でもその…対抗策が見付かったのは良いのですが…使った後の絵面がちょっと…」


『お食事中の方は閲覧注意だねぇ』


胞子は強い刺激物に弱いらしく、激辛の食べ物でなんと体外に排出されるという話だった


…口から


半泣きになりながら超激辛焼きそばを食べ、そして胞子ごと食べた物吐き出す事になる


出た物体も含めモザイク必須である


「うっ…ちょっと気分が…」


しかし私達が見ているのは、見てしまったのは当然ながらモロである


『いったんテレビ消して…朝ちゃん…うぇ…』


その後改良され、成分だけを抽出したカプセルになり少しだけ楽になっていくのだが上からが下からになり全国の艦娘が排出の苦しみに阿鼻叫喚するのはまた別の話である
307 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:21:39.82 ID:t/ppvMKDO
 
 
「龍驤さんが拐われた!?」


どうやらあの女幹部さんが深海提督を誘き出す餌として連れていったという話らしい


いくら何でもあんな状態の龍驤さんを連れ出すなんて…いやそれよりも龍驤さんを恨んでいる人物の前に連れていくなんて危険過ぎる


『殺しはしないとは言ってもいつ気が変わるか判らないしねぇ…』

あの女幹部さんにとって深海提督は何よりも大切な存在だったらしい。司令官に涙ながらに訴えていたあの姿に偽りは無かった


前の世界がどうとか私にはさっぱり理解出来なかったが要点は深海提督と女幹部さんはかつて恋人同士で今は記憶を失い深海海月姫と夫婦のようになっていて子供まで作ったという所か


女幹部さんの立場からすれば平静ではいられないのは解らないでも無いけれど


「形振り構わないにしても協力をお願いした司令官まで裏切るような事をするなんて…」


しかし最悪の結果は免れていたようだった。誰にとっての最悪か、女幹部さんにとってはむしろこれが最悪だったのかもしれない


記憶を取り戻した深海提督は女幹部さんを拒絶。あろう事か銃弾を撃ち込まれ倒れていた所を発見された
308 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:23:24.46 ID:t/ppvMKDO
 
 
銃弾は急所を意図的に外されていたようで命に別状は無いらしい。それでも女幹部さんの仲間の一人が不思議な力で治療していた


「すごいですね…撃たれた傷がもう跡形も無く…」


傷は治ったがショックで泣いているばかりの女幹部さんを彼女の仲間が連れていく


それからその中の一人、アケボノさん?が龍驤さんを危険に曝した事を司令官に謝罪していた


償いに彼女達の持つ不思議な力で龍驤さんの精神状態を改善させる事に挑戦するという


そんな事が可能ならもっと早くと思わなくも無いが色々事情があるらしい


実際それは効果があったようで龍驤さんは少し元気を取り戻したようで私も少し安心する


「これで施設送りもドラッグ使用も無くなりそうで良かったですね…」


『また何かしらで精神状態が悪くならなければいいけどねぇ』


「さすがにもう何も出て来たりはしないと思いますが…しないですよね?」


過去から無くともこれから起きる事次第ではまだどうなるか判らない。果たしてそれは内部からか外部からか
309 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:24:42.46 ID:t/ppvMKDO
 
 
驚くべき事が発覚した


先日の深海提督の鎮守府侵入を手引きしたのはあの川内さんだったらしい


『力が欲しいか』


「秘伝書とかいうのに釣られてよりにもよって深海提督に情報を渡していた…これ、かなりまずいですね…」


『ならば、くれてやる』


「今や深海提督と深海海月姫は完全に敵という認識をされています。これがバレたら下手をしたらこの鎮守府全体が裏切り者と見なされてしまう可能性が…」


『…欲しいか』


私はよく解らない事を言うY子さんをスルーしてモニターを見ている。そこには由良さんにボコボコにされている川内さんの姿


結局その秘伝書の技を持ってしても由良さんには勝てなかったらしい。私には完全に裏切り損としか思えなかった


そして司令官は川内さんの事を由良さんに丸投げして処分保留。それを雲龍さん達に詰め寄られやむ無く川内さんを鎮守府から追放という形を取る事にしたようだ


『…多分彼女達も解ってるみたいだね。発覚した場合に形だけでも処分したという事実が無いのはかなりまずいって』


何事も無かったように話に加わるY子さん。スルーされて若干落ち込んでいる。いや…どう絡めと


『裏切り者は処分しました、だからうちは裏切ってはいない、この鎮守府は関係が無いと、少なくともそう言える状態にしておかないと後が怖いねぇ』


それが何処まで通用するのかは判らないがこのまま川内さんをここに置いておくのは危険だと皆は考えたのかもしれない


結局川内さんは忍者提督の鎮守府に異動という事になったようだ


司令官は間違い無くそこまで考えはいない。解っていたとしたら他人の鎮守府に迷惑をかけるかもしれない川内さんを預けたりしないだろう
310 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:26:00.30 ID:t/ppvMKDO
 
 
アケボノさん達の治療が効いているのか龍驤さんの調子が少しずつ戻っていっている


何より大きいのは少しだけ考え方が変わった事だ


あくまで自分に原因があるとはしつつそれでも深海提督と深海海月姫がした事は許されない事だとようやく認めたのだ


当然と言えば当然だ。恨みがあれば何をしてもいいなど誰一人認めはしない


彼らは越えてはいけない一線を越えてしまった。今後は彼ら自身が憎まれる番になるだろう


そうして憎しみは連鎖していくのだろうか。私は結局殺さずに済んで本当に良かったと思う。自らの命と引き換えに憎しみを断ち切れたのだとすれば少しは意味があったのだと。そんな事は結局慰めにもならないのだけど


「少しだけ鎮守府の雰囲気も明るくなりましたかね。まだまだ以前には程遠いですが…」


『鎮守府が暗くなった発端は朝ちゃんだけどねぇ』


「ぐっ…それを言われると…」


『それでも繰り返すんだから人ってやつは…』


Y子さんがぼそりと呟く。おそらくは似たような場面をそれこそ飽きる程見てきたのかもしれない


そしてそれは富士さんも同じで彼女は行動に移した。Y子さんはただ見続ける事を選んだ。その違いは何なのだろう
311 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:27:44.52 ID:t/ppvMKDO
 
 
珍しく司令官が一人で執務をしていると何故か机の下から白露さんが這い出して来て司令官を襲おうとしている


「何なんですかあの女!というかいつからそこに!?」


『おーさーえーてー』


「寝取り趣味ってここにとっては致命的じゃないですか!本当の敵はそこに居たんだ!」


『あーさーちゃーんー』


「そう思いませんか漣さん!」


ピシャ


「…チッ。おや?朝霜さんが止めましたね。ちょっと意外です。てっきり一緒になって襲うのかと思いましたが」


『それをしたらどうなるか解っててやるならバカとしか思えないよーお姉ちゃんよりアホだよー』


「根に持っていますね…」


他の白露型の皆さんに連行されそれはもうお仕置きに次ぐお仕置きが行われていた


私は生きている間に彼女達に会わなくて良かったと心の底から思う。きっとあの中の誰か…主にピンクの誰かの毒牙にかかっていたかもしれないと思うと震えが走る
312 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:29:26.25 ID:t/ppvMKDO
 
 
私がいつものように鎮守府の様子を見ていると蒼白な顔をした天城さんが走って行くのを見付けた


どうやら天城さんの旦那さんである天提督の癌が再発したらしい


今度はリンパに転移していて余命一月と宣告されたと話していた


「せっかく手術したのにこれでは…」


『癌ってそういうものだからね…一度出来てしまえば常に再発の危険性がある』


天城さんは天提督の側に居る為に向こうの鎮守府に戻る事になったらしい


それから一月が経ち、病院の屋上で大分やつれてしまった天提督に寄り添う天城さんの姿があった


実際天城さんが側に居たおかげか医師の宣告よりも長く天提督は生きていた。しかしそれももう限界が近いのだと素人の私でも判る程に痩せ細ってしまっていた

313 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:30:54.62 ID:t/ppvMKDO
 
 
本当はこんな場面、部外者の私達が見るべきでは無いと解ってはいた。だけど私は目が離せなかった


こんな…こんな穏やかな顔を死を前にして出来る人間が居るのだと私は知らなかった


「私とは違うんですねきっと…私が彼の立場ならどうせ死ぬからと自暴自棄になって何をするか…」


そうして二人は屋上から海を眺めながら最後の時間を過ごしている。穏やかに思い出話をしながらそれはそれは幸せそうに、これから死が二人を別つとは思えない程に


そして彼は天城さんにこの綺麗な海を守ってほしいと言い、眠るように静かに息を引き取った。苦しみなど欠片も感じていないかのように微笑みを浮かべたままで


残された天城さんは叫ぶでもなくただ静かに泣いていた。眠っている彼を起こさないように。私にはそう見えた


そして彼女はポケットから2つの錠剤を取り出し握り潰し捨てる


「あれは…もしかして…」


『うん…』


やはり用意していたのだ。後を追う為の薬を。しかし彼女はそれを捨てた。生きていく為に、約束を果たす為に
314 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:33:14.51 ID:t/ppvMKDO
 
 
「どうして…」


ふと背後から声がした


私が振り向くといつの間にか漣さんがすぐ後ろに立っていた


漣「どうして…」


ただそれだけを繰り返す。つまり何より大切な存在を失ってどうして生きていこうと思えるのだと。そう彼女は言っているのだ


「約束…したから…?でもそれだけではありませんね…。きっとあの彼の顔があまりにも幸せそうだったからでしょうか…」


漣「幸せ…?だって好きな人と居られなくなって…死んでしまうのに何が幸せだと…」


「短い間でも精一杯に後悔しないようにすごせた証だと思います。全く無いのかはさすがに判りませんが、少なくとも彼は幸せを感じながら逝ったのだと私は思います」


漣「…」


「何よりも彼は後を追う事を望んでいない。大切だからこそ生きてほしいと、そう願っての約束なのだと思います」


漣「………あの子も」


「ええ…きっと同じように願っている筈です」


大切だからこそ


自分の後を追ってほしいなどと願うようなら本当の意味で相手を思いやってなどいない。そんな事は私でも解る
315 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:35:27.14 ID:t/ppvMKDO
 
 
「…ねぇ漣さん、貴女には私と同じ過ちを繰り返してほしくはないんです。貴女はまだ戻る事が出来ます、私とは違って」


彼女は俯いたまま何も言わない。聞いているのかも解らない。だけど私はこれだけは伝えなければならない


「私は…今更ですが、後悔しています。一時の苦しみから逃れる為にああした事を、未来の可能性を信じる事が出来なかった…」


「実際楽にはなりました、自分の過去について苦しまなくてよくなったのは確かです。でもそれだけです。たったのそれだけ」


漣「それだけ?あれだけ苦しんでいたのにそれだけですか…?」


「そうする事で私が失ったものに比べたらたったのそれだけです。全く釣り合いが取れないくらいに私は全て無くした」


漣「…それは…どういう…」


「漣さん、私はね…もう何も出来ないしもう何処へも行く事が出来ないんです。どれだけ大切な人や仲間が苦しんでいようが声のひとつもかけられないし側に行って元気付ける事も出来ない」


後悔してもしきれない。もし私が生きていたとして刑務所で数年。真面目にしていればいずれは出られた筈。そうしたらまた司令官達に会えたのにと今更ながらそう思う


そしてもしかしたら司令官以外に私が幸せになれる誰か、何かに巡り会えていたのかもしれない


「…私はそうして一時の憎悪や苦しみから逃れる為に全てを自ら棄ててしまった!そしてその事で司令官や皆に傷を負わせてしまった!」
316 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:38:49.67 ID:t/ppvMKDO
 
 
「解りますか!?そんな自分と同じ過ちを繰り返そうとしている貴女を私がとんな気持ちで見ていたか!」


漣「だって…漣にはもう何も…」


「何も無い?私の前でそれを言いますか?」


漣「なら大切な人を失う気持ちがあんたに解るのか!」


「そうやって自分の事ばかりだから彼女が被曝している事にも、死を覚悟していた事にも気付けなかった!因果なんて大層なものは関係無い!単に貴女の気配りが足りなかっただけです!」


漣「お前…!」


言い過ぎたかもしれないと口に出してから気付くが後の祭。彼女は激昂し私に掴みかかろうとする


ズズン!


『二人共…少しうるさいよ』


Y子さんの圧力が私達を襲う。漣さんは顔面蒼白になり反射的に土下座していた。そして私は


「すみません…少しヒートアップしてしまいました。ごめんなさい漣さん、言い過ぎました…」


漣「…」


漣さんは何も言わずに奥の部屋に戻ろうとする。私はその背中に向かって言う


「貴女はまだ戻れる、そして貴女を待っている人達が居る。このままだとまた後を追って来る人が出るかもしれませんよ。貴女はそれを望みますか?」
317 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:41:08.27 ID:t/ppvMKDO
 
 
漣「そんなの居る訳…」


「例えば黒潮さん、彼女は漣さんを半ばライバルのように見ています。それこそ死んでも決着を付けに来るかも」


漣「決着ならもう…」


「それに重巡棲姫さん、彼女は貴女が戻って来るかもしれないと希望を持ちその先の事を見据えて頑張っています。貴女が戻らないと知ればどうなるかは判りません」

漣「…」


「そして司令官もそれを知って希望を持てた事で落ち込む事が少なくなりました。結局無理なのだと知ればどれだけの負担になるか」

漣「…ご主人様には龍驤さんがいます。私が居なくとも」


「逆ですよ。司令官が龍驤さんを支える助けが必要なんです。それがかつては貴女だった」


漣「霞とか…」


「私から見れば霞も危ういですけどね。大抵薬に頼ろうとするし…」


漣「だって…もう私には生き甲斐が…」


「私の話聞いてましたか?生きていれば新しい生き甲斐くらいまた見付かります。それを信じるのが希望というものです」


漣「そんなもの…いらない…私にはあの子さえ居ればよかった!」

そう吐き捨てて彼女はまた部屋に閉じ籠もってしまう

318 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:42:51.33 ID:t/ppvMKDO
 
 
「はあ…本当に頑固で意地っ張りでわからず屋…」


『お疲れ朝ちゃん』


「とりあえずは今伝えたい事は伝えたつもりですが…」


『まだまだ判らないね、どうなるかは』


彼女には私のように後悔してほしくは無い。だけど受けた傷が深すぎてその痛みが彼女の目も心も曇らせてしまっている


「私に言われて怒れるくらいの元気はあるみたいなので少しは望みがありそうな気はしますが…」


『さっきのわざとだったんだ』


「いえ、思った事をそのまま」


『まだ治らないんだねその癖…』

呆れたように言うY子さん。そしてまた私は鎮守府の様子を見守る


自らを棄てて、皆に傷を残してしまった私自身への罰はこの無力感をひたすらに呑み込む事しか無いのだと私は知っている


そしてこれ以上ここに来てしまう懐かしい顔が増えない事を私は願うばかりだった
319 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/16(火) 05:43:55.09 ID:t/ppvMKDO
ここまで
表現がマンネリ
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/16(火) 12:26:59.42 ID:dvhLqQLyo
乙乙
こう見ると似てたね朝潮と漣


よし漣大神のために裸踊りしようやしm
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/16(火) 19:21:42.91 ID:cQ8jtxAJo
死んでもなお責められる漣が哀れすぎる…
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/17(水) 23:48:11.31 ID:pl6VmzD+O
ーー幼女塾とは


「提督さんに秘書艦さん、調子はどうですか?」


阿武提督「ここの装備と施設に恥じない結果を出していくつもりです」


「そうですか。何回も説明させて頂きましたが、決してあの子達に無理だけはさせないで下さい」


阿武隈「各艦娘のノルマもその子達に合ったものを採用していますぅ!」


「ええ、そのようですね。あの子達の活躍は塾長を始め先生方も喜んでいます」


阿武提督「それは良かったです」


阿武隈「……」


阿武提督「どうしたの阿武隈?」


阿武隈「いえ…やっぱりスカートの長さが気になるなぁって…」


「そこは譲れない所です。少しでも動けば下着がチラ見…いやぁ神風型は元の服も良かったですが、我が塾のユニフォームもよく似合ってますよ」


阿武隈「海防艦の子なんておヘソまで見えてるじゃないですかぁ!」


「ええそうですけど…?」キョトン


阿武隈「なんであたしがおかしいみたいな言い方されるんですかぁ!」
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/17(水) 23:51:05.19 ID:pl6VmzD+O
「提督さん、ひょっとして彼女は我が塾出身では無いんですか?」


阿武提督「そうなんです。阿武隈はまだこの塾のことがわかって無いんです」


「成る程…合点が行きました」


「阿武隈さん、我々は幼女が大好きです。所属している人は全員ロリコンです」


阿武隈「それくらいわかりますぅ!」


「残念なことにこの世界では幼女が毎日のように酷い目に合っています。心無い大人に売られたり、謂れのない暴力を振るわれたりと被害は様々です」


「そんな幼女を救いたい。そういった理念で我々は動いているんですよ」


阿武隈「それは知ってますけどぉ!こんな短いスカートを履かせて…!」


「幼女の下着を見る以上の幸福がこの世に存在するのでしょうか?」


阿武隈「ひぃぃぃ…!」ゾクッ


「安心して下さい。我々は幼女に手を出しすことは絶対にしません」


阿武隈「そんなの信用できません!!」


「これはこれは…この様子だと御殿の事も知りませんね?」


阿武提督「ここの準備でバタバタして…一度くらい連れて行こうとはしてたんです」


阿武隈「なんなんですか御殿ってぇ…?」
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/17(水) 23:53:10.59 ID:pl6VmzD+O
「では簡単に説明させていただきます。幼女塾の本部である幼女御殿。ここには我が塾に所属している幼女の服が祀られているんです」


阿武隈「ひ……!!」


「阿武隈さん始めここの艦娘さんにはユニフォームから下着まで配布しましたね?それを回収して御殿に祀ります」


阿武隈「半年ごとに回収っていうのはそういう目的が!!」


「はい。そこで回収した神聖な神衣は洗わずに御殿へ祀られます」


阿武隈「この団体……思ってた以上にヤバい……!」ガタガタ


「勘違いしていただきたくないのは艦娘だからということではないのです。全ての塾生の服を祀ってあるのです」


「塾に来て一か月記念、半年、一年…幼女から少女になった日の記念など……それはもう様々ですよ」


阿武隈「ひぃぃぃぃぃぃぃ〜〜!」
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/17(水) 23:56:06.93 ID:pl6VmzD+O
「我々はボランティアではありません、塾の運営費は必要になります。そこで我が塾に入塾して体力のある塾生はスポーツをやってもらっているんです」


阿武提督「この間テニスで世界一になったハーフの日本人選手いるでしょ?あの子ってこの塾所属なのよ」


阿武隈「ええええぇぇ〜〜!!」


「我が塾では国籍も人種も思想も宗教も関係ありません。幼女であれば全て良しなのです」


阿武隈「でも…女の子でお金を稼ぐなんて……」


「そこも大丈夫です。我が塾では所属している塾生が稼いだお金は99パーセントが本人の物になります」


阿武隈「女の子はそれで大丈夫だとしてもぉ…塾はそんなのでやっていけるんですかぁ…?」


「そこで寄付です。日本…いえ、世界の方々からの寄付金で我が塾は成り立っています」


阿武提督「幼女塾は凄いの。寄付金の100パーセントが塾の為に使われてるのよ」
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/18(木) 00:02:16.65 ID:cI+AjelcO
「我々はお金を稼ぐのが目的ではありません。よく名前を聞く団体が駅前で寄付を募っていますが、それが実際使われているかは分かりませんよね?」


「我が塾ではそんなことはありません。1円も余す所なく塾生の為に使われているんです」


阿武隈「でも…証拠が無いじゃないですかぁ」


「あるんですよ。例えば阿武隈さんが100円寄付していただいたとしますね?すると貴女のお金がどう使われたか冊子が届くんです」


「希望されるなら冊子では無くデータでお配りしております。そうだ、実際に見た方が早いですよね。提督さん、見せてくれませんか?」


阿武隈「提督……?」


阿武提督「……」プイッ


阿武隈「あの…なんで目を逸らすんですかぁ……」



「提督さんは我が塾に熱心に何度も寄付していただいているんですよ」


阿武隈「提督…………?」


阿武提督「……」


「それがある日突然寄付が途絶えてしまったんです。我々や塾生が心配しましてね、提督さんの所を訪ねた所、提督を辞めていたと知ったんです」


阿武隈「……ロリコン提督」


阿武提督「だって…小さい女の子って可愛いんだもの…」


「…これも言ってなかったんですか?」


阿武提督「……はい」
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/18(木) 00:05:26.70 ID:cI+AjelcO
「まあそれは今度にしましょう。それより冊子を出していただけますか?」


阿武提督「……」スッ


阿武隈「うわぁ…ボロボロになるまで読んでるんだぁ……」


「ほら…見て下さい。このような内容なんです」


阿武隈「提督のお金はコートの一部として使われました…新しいユニフォームの一部になりました…」


「基本的に寄付金の使い道はこちらが決めています。特定の子だけを贔屓することは許されません」


「我が塾は全ての幼女を平等に愛しています。アスリートになれなかったからと言って見捨てるなんてことはいたしません」


阿武隈「でもぉ…」


阿武提督「一度幼女御殿に行ってみれば考えも変わると思うわ」


「それは私もおススメします。御殿に入った瞬間に感じる幼女スメル…あれは最高です」


阿武隈「……」ゾゾゾ
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/18(木) 00:07:46.36 ID:cI+AjelcO
阿武提督「私が寄付したお金がこの子の為に使われたんだって確認できるだけでも気持ち良いのよ」


「御殿では全ての神衣を着ていた時そのままの形で祀らせてもらっています」


阿武提督「当然下着もよ」


阿武隈「それこそ問題ありですぅ!」


「何も問題ありません。我々は祀られた神衣の匂いを嗅ぐだけです。例え神衣でも触ったりはしません」


「神衣の新作が来た時の匂い…いいですよねぇ…」


阿武提督「ええ、凄くいいわ…」


阿武隈「……あたし…とんでもない所に入っちゃったかも…」
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/18(木) 00:08:22.67 ID:cI+AjelcO
酷い内容
それではまた…
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/18(木) 00:47:14.31 ID:57ERTwW5o
変態かな?
変態かな
でもこれでも世に蔓延るカルトよりマシだよなああー俺も寄付してーなー本当になー
乙乙
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/18(木) 07:40:17.20 ID:08loZBQDO
おつです
御殿は何処かのモスクみたいなのをイメージした
巡礼しなきゃ
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/04/21(日) 15:31:23.00 ID:H5a88qZDO
>>317から
 
 
「こんどは龍田さん」


私は朝潮です。自分の事は棚どころか屋根の上にまで上げて言います


「復讐なんて良くないと思います!不幸になる人が増えるだけです!」


龍田さんに昔酷い事をしてトラウマまで植え付けた元提督が出所してくるのを知った龍田さんは鎮守府を無断で抜け出し復讐に向かったらしい


もう私みたいにはさせないと言う司令官…素敵です。そして嬉しくもあり、申し訳無くもある。何かにつけて私の名前が出るのはやはり引きずっているのもあるだろうと思えてしまう


『この鎮守府は過去に酷い目にあった子が多いから、心に余裕が生まれれば次は自分をそんな目に合わせた奴をどうにかしたい、そんな考えが出るのかな』


「自分の未来の為にここに居るのに結局まだ過去に縛られているんですね」


普段は忘れていてもふとしたきっかけで思い出し、負の感情を募らせていったのだろう。私と同じように


そして龍田さんを止める為に司令官達、そして天龍さんが向かい、警部のまるゆさんが元提督の出所時間を送らせてくれる


「何だか最近よく見かけますね、この人」


『それだけ警察沙汰になる案件が増えてきたって事かな』


でもとてもいい人なのは見ていて判った。常に皆を気にかけて今回もすぐに動いてくれた

333 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:32:58.73 ID:H5a88qZDO
 
 
しかし今回は天龍さんの説得により龍田さんは自らの手を汚す事無く皆の元に帰って行った


「本当に良かったです、きっとそれだけ龍田さんにとって天龍さんや皆の存在は大きかったんですね」


自身の行動で失うものと復讐が釣り合わなかった。だから止まれた


私の場合は司令官達に出会った時には既に手は汚れていて一人も二人も同じという思いがあった


決して大切で無かった訳では無かったが既に一線を越えてしまっていた違いは大きかったのかもしれない


その後元提督が恨みを買っていた他の誰かに刺されてしまったらしい。これこそ正しい因果応報というものだと思う


過去に過ちを犯しても変われた人や悔い改めた人には因果も少しはお目こぼしをしてくれたっていいのにと私は思う


「刺した人もやっぱり艦娘なんでしょうか」


『その可能性は高いかもねぇ。提督という立場上何かしらするのには一番手近な相手だし』


「私達の知らない人か…もしかしたら会った事がある人だったり」


『そうしたら世間は狭すぎるねー』

334 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:36:15.93 ID:H5a88qZDO
 
 
天城さんから始まり次に自らの道へ踏み出す番になったのはこの鎮守府ではあまり目立たなかった阿武隈さんだった


話で聞く限りは阿武隈という艦種はかなり強いらしかったけれどやはり個人差というものはあるようで


そうでなければ課せられていたノルマというのが想像以上にきついものだった可能性もあるけれど


「幼女塾って名前からして怖いんですけど…。よくそんな所に行く気になりましたね…」


『ロリコンを公言してはいるけど欲望から集めているというより何だか崇拝の対象にしてるみたいだね…』


「やっぱり怖いんですけど」


言ってみれば女の子だけの児童擁護施設なんだろうか。そして阿武隈さんが行くのは新たに作られる民間の鎮守府のような所らしい


「大本営はよくそれを了承しましたね、軍に対しての引き抜きなんて」


『そりゃあこれでしょー』


と、Y子さんは指でお金のサインをして見せる。…大本営の欲深い重役達は軒並み消えたはずだけどある程度まともだとしても人間はやはりそれには弱いのだろう


もうひとつの可能性として大本営の上層部もロリコン揃いで支援しているとか…もしそうだとしたらこの国は…


考えてみれば軍の貴重な戦力である私を売り飛ばしたのはあの島風提督の独断だったけれど、大本営に対してもお金さえ積めば売ってしまったりしていたのかもしれない


今でこそ大分マシになったけれどかつての艦娘の扱いは兵器…つまりはモノだったのだから

335 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:39:58.01 ID:H5a88qZDO
 
 
「阿武隈さんを引き抜くのもあの阿武提督さんだけの力では無さそうですね」


『そもそも首になってたんだしねぇ』


「推薦はしたんだと思いますが、動いた幼女塾はおそらく相当な影響力を持っていそうです」


そしてノルマを達成出来ずに心を病んでしまったという経歴を持つ阿武隈さんを引き抜くのを了承して動いてくれた?


「何かしら裏があるんでしょうか…」


『さぁねぇ…変態の考える事は解らないなぁ』


阿武隈さんと話す文月さんを見る限り確かに幸せになってはいるようだ。私の考えすぎか、どうもそういう特殊な方々を私は懐疑的な目で見てしまう


おそるおそる話を切り出す阿武隈さんに司令官達は暖かく背中を押した


進みたい道があるのならこの場所に縛り付けたりはしない。何より自由意志を重んじるこの鎮守府らしいと思う


「にしても民間の鎮守府っていうのはもしかしたらこれから増えていったりするんでしょうか」


『戦争が終わったら行き場が無くなる艦娘の受け皿として作るのはいいんじゃないかな、もしくは退役した子とか。それで何をするかはまた問題だけど』


私もそうだけど戦う以外にどうやって生活していくのか想像がつかない。イメージ出来るのは傭兵のような仕事くらいだ。訓練でも戦闘以外の事は教えられなかった


もしかするとこの一見怪しさ大爆発なこの団体が艦娘の未来の光明になるのかもしれない…

336 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:42:24.35 ID:H5a88qZDO
 
 
『朝ちゃんは痛いの好き?』


「何ですかいきなり…好きな訳無いじゃないですか」


『痛いのが気持ちいいとか愛情表現に感じるとか』


「あり得ませんね。私が殺した彼も私に殴る蹴るしましたけどあれに一片でも愛情のようなものがあればあの結果にはならなかったはずです」


そして私は不器用だった。自分を守る為に苦痛を快楽に変換するという事も出来ずに真正面から受け続けるしか無かった


むしろあの男は私に快楽を教えるというつもりも無くただ私を捌け口にするだけだった。もう少しだけでも思いやりがあったなら例え監禁されていてもさすがに頭は狙わなかったと今では思う


『中にはそういうのも歪んだ愛情として受け入れる人も居るみたいだから』


「そこに気持ちが入っているならまだ多少は…マシと言えるかもしれませんけど…歪んでますよ本当に」


痛みを痛みとしてちゃんと感じるにも関わらずそれを受け入れる…もしも司令官がそういう性癖の持ち主だったら…?


私を殴って喜ぶ司令官…上手くイメージ出来ない…。でもそうなったら多分私は受け入れる事は出来ないと思う。裏切られたと感じるかもしれない

337 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:46:27.96 ID:H5a88qZDO
 
 
そんな話になったきっかけの叢雲さんと弥生さんの一件は複雑だった


かつて沈んだ卯月さんの替わりに卯月さんを演じていた弥生さん。そのストレスの捌け口として暴行を受け子供を産めない身体にされた叢雲さん


普通なら加害者として捕まるかされていたはずだが何故か叢雲さんはそれを愛情として受け入れてしまった


しかし実はそれをしたのが愛する卯月さんではなく弥生さんだったと叢雲さんは知る


その上卯月さんは弥生さんの中で生きていて同じ身体を共有している


ならもう三人で幸せになろうと提案する卯月さんだったが叢雲さんと弥生さんの関係は今や暴力ありきになってしまっていた


叢雲さんは今は弥生さんも好きらしいがやはり騙されていたという気持ちはあったようだ、だけど好き、でも許せない、とかなりの葛藤があったのか不安定になってしまっていた


そこに来て叢雲さんは弥生さんがもう暴力は振るわないとの言葉に怒り狂って逆に殴りかかっていく


自らの身体の傷も全て愛情の証だと思っていた叢雲さんにとってはそれが単なるストレス解消だとは認められなかったのだろう
338 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:49:51.40 ID:H5a88qZDO
 
 
「そもそもの間違いは叢雲さんがそれを受け入れてしまった事ですね。そこで矯正出来ていればこうはならなかった」


私の叢雲さんへのイメージでは一番最初の暴力の時点でやり返したりしていそうだと思っていたけど、そういう所で包み込む優しさなんかが発揮されてしまったのだろうか


『そういえば遊び程度の叩いたりは卯月の時からあったみたいだからその流れで受け入れてしまったんだろうねぇ』


「そこから間違いです。限度を超えたらちゃんと叱らないと。だからここまで拗れたんですよ」


『なかなか辛辣だねぇ朝ちゃん』

「好きな相手を傷付ける…そんな関係は間違っているに決まっています。エスカレートするのを止めもしないなら最後に待つのは破滅ですよ」


『相手がSかMだったら?』


「専門外です。痛いのも痛め付けるのも御免です」


…私はそんなの知らないはずだけど、この世のものとは思えない激痛を味わった事があるような気がしてそれを愛情表現などとはとても思えなかった
339 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:52:07.52 ID:H5a88qZDO
 
 
そして弥生さんをボコボコにしようとする叢雲さんは止めに入った神通さんに取り押さえられそのまま病院送りになった


片や弥生さんも自分を責めるあまりとんでもない事をしようとする


「ちょっと…また…自殺…?」


後ろでガタンと何か音が聞こえた気がしたが敢えてそちらは見ないようにする


「はっきり言って安易過ぎますね。まだ二人共生きていてやり直しが出来るのにすぐに諦めて逃げようとしている」


確かに叢雲さんの身体については取り返しは効かないだろう。だからと言って自殺するにはまだまだ軽いと私には見える。まあ自殺しても許される理由など無い方がいいに決まっているけど


そして弥生さんはおそらく漣さんの真似をして精神の自殺を図るが失敗していた


『まぁそれも当然だよねぇ。毎日死にたい死にたい思ってても死ねないのと一緒で本来勝手に生きようとするのが生き物というやつだからね』


「私から言わせれば絶望が足りませんね。失敗するのも当然です」


彼女に比べたら…


そしていつも通り目覚めた弥生さんに重巡さんが怒っていた。心がそう簡単壊せてたまるかと、何故立ち向かわないのかと、そして


≪もうあんな思いはしたくないんだ…≫


怒りながらも哀しげそう言っている重巡棲姫さん


…貴女にも聞こえた筈ですよね


私は背後の部屋に意識を向ける。すると微かに啜り泣く声が聞こえた。何かは伝わったのだろうか…
340 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:55:01.10 ID:H5a88qZDO
 
 
叢雲さんの病室で卯月さんのビデオレターを観ている叢雲さん弥生さん、そして司令官と龍驤さん


それはもう必死なものだった。一人ぼっちにされるのは嫌だと泣きそうになりながら、最後には我慢出来ずに涙ながらに訴えていた


それを見た弥生さんは泣き始め、叢雲さんも反省したかのように項垂れる。結局この二人には卯月さんが必要なのだと解った


『実際大した子だよね卯月って』


「そうですね…彼女は何が起きても最後まで絶望はしないような気がします」


それから叢雲さんと弥生さんは返信のビデオレターを撮り始めている。そしてお返しにと卯月さんの大好きなイタズラを仕込んでいる


これも愛情表現なのだろう


痛みを与えなくとも、痛みを受け入れなくとも愛情を伝える事は出来る。二人は気付いているだろうか


暴力によって繋がっていた時よりも楽しそうな笑顔を自分達が浮かべている事に


きっと卯月さんが居る限り二人は大丈夫なのかもしれない。私は楽観的だとは思いつつもそう信じるのだった
341 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/21(日) 15:57:27.44 ID:H5a88qZDO
ここまで
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/21(日) 16:26:49.16 ID:bz1VCgNro
おつ毎回楽しみ
>大本営の上層部もロリコン
一見ディストピアだがある意味一番平和に見える悪夢
343 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:34:04.30 ID:ewPdNPWDO
>>340から
 
 
こんちには、朝潮霊です。今日も司令官達の様子を見ていきます


最近の司令官と龍驤さんは少しずつ以前の状態に戻りつつあるようだ。ようやく乗り越えたのだと思えるようになってきている


これこそ許し合える関係というのだろうか


「龍驤さんの過去にこれ以上のものはさすがに無いだろうけど、そういえば司令官の過去ってどんなのだろう」


『昔は悪党だったとかだったらどうする?』


「それは無いんじゃないでしょうか。昔って提督になる前になるだろうし」


『学生時代は金髪ヤンキーと組んで髪の毛を思いっきり立てて喧嘩三昧だったとか』


「それこの前読んでた漫画の話ですよね、明日から本気出すとかなんとか」


『まあ多少悪かったとしても血の気の多い艦娘に比べたらかわいいね!』


確かに私達艦娘から見たら不良程度は文字通り子供の喧嘩にしか見えないだろう


むしろ極道とかマフィアの方が近い。切った張ったに違法薬物、警察沙汰は日常茶飯事。場所によっては人身売買と考えれば考える程やばい世界だ


深海棲艦との縄張り争いにケジメをつけられる日はいつになるだろうか

344 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:36:23.54 ID:ewPdNPWDO
 
 
今この鎮守府に居る中でも血の気の多い筆頭の一人である夕立さんが再会した最上さんに食ってかかっている


時雨さんが身体を失う羽目になったのはあくまで最上さんのせいだと聞く耳を持たない


「何だか解っていて意固地になっている印象を受けますね」


『前に自分で言っていたね。まともになったら耐えられないって、常に誰かを責めていないと駄目な状態なんだろうね』


「それでも他の姉妹と居る時は少し柔らかな顔になっているみたいですけどね」


『夕立っていうのは元々そんなに思い詰める性格じゃない艦種だし。人格に合わない事がいつまで持つかな…』


「夕立さんがあの性格になったのは一度壊れたからかもしれません…。再統合した結果ああなったというか」


どんな負荷でも歪まずに元のままという強靭な精神が持てるのなら…しかしそれはもう人ではないのかもしれない


その後最上さんは悪くないのだと朝霜さんに言い負かされてしまう夕立さん


この辺りはやはり夕立という艦娘の本質なのだろう。難しい事はあまり考えず、感情と直感で動いている


そして子供の仕返しのように朝霜さんにとっての禁句を連呼する。すると朝霜さんは途端に怯え始め普段の強気な彼女とはかけ離れた状態になって龍驤さんに介抱されていた


やっぱり子供だ


そして噂をすれば影とも言うようにその禁句の張本人、早霜が唐突に現れる

345 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:37:45.09 ID:ewPdNPWDO
 
 
「ちょっとしたホラーですね彼女は…」


ずっと見ていた私ですら早霜が笑い声を上げるまでそこに居るのに気付かなかった


これまでも前触れ無く突然現れたりする事があったがそれも能力なのだろうか


そして早霜は夕立さんを始めとした特務艦や元特務艦に囲まれているにも関わらず余裕の笑みを浮かべている


何かが光ったように見えた、糸のような…


そして夕立さんの身体から血が噴き出す


「え…一体何が…?」


『どうやら鋼線みたいなもので切り刻んだようだね。とてつもなく細く鋭い』


それでも夕立さんはかなりの重傷にも構わす早霜に襲い掛かろうとする。それを必死に止める時雨さんと春雨さん。そして三人を庇うように白露さんが前に立ちはだかっている


その時、一喝するような声と共に何処からともなく飛来した魚雷により早霜の上半身が吹き飛び、程なく残った下半身も消えていく


「あれがりすぽんですか…」


『リスポーンね。何だか朝ちゃんのは栗鼠のキャラクターか何かみたい』


「…いいじゃないですか別に」


若干赤面しつつそんな事を言っていると突然夕立さんが最上さんに噛み付き血を吸い始める

346 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:42:03.50 ID:ewPdNPWDO
 
 
「ちょ…彼女は一体何を…」


『へぇ…そんな能力?持ってたんだねぇ…』


Y子さんが指し示すと夕立さんの出血が止まり始めていた。あまりの光景にそれには気付かず龍驤さんや白露さん達は二人を地下隔離室に担ぎ込んでいく


隔離室の一角には新たに設置された医療器具やベッドがあるが以前より手狭になってしまっている


重傷だった夕立さんは血を吸った事によるのか手術の必要が無い程に回復していた。そして最上さんは血の吸われ過ぎで貧血気味にはなっていたが大事には至らなかったようだ


「夕立さんは吸血鬼だった…?そういえば目も赤いし…」


『相手を喰らったり血を吸ったりして自らの一部に変換し回復かな』


「そういえば以前にも夕立さんと早霜がやり合った時も夕立さんは重傷だったのに生きてました」


『早霜の身体を食べて回復したおかげで…いや、もしかするとその時からかな?』


「仮に食べれば特殊能力を得られるのだとすれば早霜ってなんなんでしょう…」


『確かあの早霜はドロップ艦だったね。見た目こそ艦娘早霜だけどもしかしたら』


「深海棲艦?」


『さぁねぇ、だけど深海棲艦は海から生まれる。ならドロップ艦娘は元々は何なのか…。そしてあの海にはイレギュラーな存在まである。何があっても不思議じゃないよ』


そしてベッドで悔し泣きをする夕立さん。負けず嫌いなのも彼女の本質なのだろう、いつかは嬉し泣きの顔を見られたらいいのにと私は思う

347 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:43:51.64 ID:ewPdNPWDO
 
 
例の白露型淫乱集団が改めて鎮守府に着任するという話が出ていた


「現役特務艦に元特務艦…戦力的には申し分無いんですけど…どうなるんでしょうね…」


この鎮守府は割と性にオープンという側面もあったのだが上には上が居るという事か


そして特にやばいのが淫乱ピンクこと元特務艦の春雨さん。本当に誰彼構わず涎を垂らしている


「本当に…会わなくて良かったとこれほど…」


『朝ちゃんの場合手錠付けてたし間違い無くロックオンされるね…』


「やめてくださいやめてください」


耳を塞ぐポーズでいやいやをする私。仮に春雨さんに襲われたら手錠が有ろうと無かろうと抵抗は出来ないだろう


そして仕返ししようにもあっさり返り討ちに遭いまた…という事になりかねない


いつだったかもう一人のピンクさんも文句を言ったり蒸し返したりしなかったのはそれを恐れての事だったのかもしれない


そして何故か同じ顔をしている駆逐棲姫さんとにらめっこをしている春雨さん。はっきりした理由は不明だが春雨さんは彼女には欲情しないらしい


元々は同一の魂の可能性があるようだがそれも定かでは無いようだ


そして春雨さんの話からどうやら彼女の脳内ピンクは一度沈みかけた事がきっかけになっていたのではと駆逐棲姫さんは司令官に話していた

348 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:45:44.08 ID:ewPdNPWDO
 
 
「生命の危機に瀕した生き物は種の保存に走るという話ですね」


『それがずっと続いていたとはねぇ…。脳内麻薬垂れ流しで廃人になっていてもおかしく無かったとは思うけど』


「そこはさすが元特務艦という所なのでしょうか」


簡単には壊れたりはしないというか、上手く馴染んでいた状態だったのかは判らないが


「それに春雨さんはこれまでも結構艦娘を襲っていたようですけど、変わらず自由にしているのは…」


『多分白露や村雨がどうにかしていたんじゃないかな。示談にしたのか特務艦権限で泣き寝入りさせたのかは知らないけどね』


「後者なら最悪ですね…。あ、また警察沙汰ですかねこれ」


そして春雨さんは薬での治療に入り、正気を取り戻していった


あれが素の春雨さん…どことなく儚げで駆逐棲姫さんと完全に被る。これまでは常に発情したような顔をしていて今とはまるで違っていた


『正気になったらなったでまた大変そうだねぇ…』


「そうですね…」


これまでの被害者というのがどれだけ居てどう思っているのか、今現在訴えられても逮捕されてもいないからといってこれからもそうだとは限らないのだ
349 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:46:53.45 ID:ewPdNPWDO
 
 
今日は私の月命日らしい


日進さんが定期的に鎮守府に来るようになってしばらく経つ


私自身は自分の死んだ日などはあまり意識はしないがやはりそれは今生きている者にこそ必要な事なのだろう


「そういえば彼岸に居ないと降ろせないらしいですけど私の時は確か…」


『朝ちゃんがこの狭間に来る前だからねー。あの頃の朝ちゃんの業の重さは相当で、あのままだと地獄に落ちてたから無理矢理引っ張ってきちゃった。重かったよー』


「今は…そうか…もうひとりの私が…」


『うん…だいぶ軽くはなったよ。全部じゃないけど本当に肩代わりして持って行った』


「どうしているんでしょうか…もうひとりの私は…」


『…聞く必要は無いよ。朝ちゃんがしなければいけないのは忘れない事と感謝する事だけ』


Y子さんはきっぱりと言い切った。おそらくは良くない状況なのだろう。だとしても私に出来る事は他には無いと彼女は断じたのだ


『そうそう、悔やんで自分を責めて謝り続けるよりありがとうって言う方が言われた方も気持ちがいいでしょ。それを未だにあの男はねぇ…』


呆れたようにY子さんはモニターに映る司令官の姿を見ている

350 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:48:15.47 ID:ewPdNPWDO
 
 
司令官は未だに私の事で自分を責め続けていた


挙げ句の果てに居もしない私の亡霊が夢に出て責めるのだという


「…何だか腹が立ってきました」

『あはは…』


「さっきの言葉がよく解りました。確かに延々謝られ続けると逆にムカつきますね」


私がいつ私に詫び続けろ司令官!とでも言ったのか、冗談じゃない


「司令官…私が死んだのは司令官のせいだと私がいつ言いましたか…私が死んだのは私が弱かったから…!」


「自ら幸せを掴もうとはせずに誰かに幸せにしてもらおうとして、それなのに差し伸べられた手を取る事すらしなかったのは私!」


「自分自身の未来を信じきれなかった私の弱さのせいだった!」


「こんな事になるなら…私は…司令官には出会わず…独りのままで…」


≪バチィン!≫


何かを強く叩く音がモニターからこの部屋にも響き渡る


いつの間にか顔を伏せていた私がそちらを見れば日進さんが司令官に思い切り平手打ちをしていた


それはもう凄い剣幕だった。そして悲しそうだった。まるで私の言葉を代弁するかのように彼女はまくし立てている


そして呆然とする司令官を残し部屋を出ていってしまった。そんな司令官を気遣う龍驤さんと朝霜さん


これも私の罪…その形だ。だけど前を向く為にはそれを悔やんでばかりでは駄目なのだ。いつか司令官にもそれに気付いてほしいと思う

351 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:50:07.95 ID:ewPdNPWDO
 
 
『大丈夫?朝ちゃん』


「ええ、私もまだまだですね…すぐに揺らぎそうになってしまう…」


何とかは死んでもと言うけれど、少なくとも悔やむのは止めたつもりでいた筈なのに


「もう後悔しても仕方が無いですからね…。当事者である内には間違いにも気付けない。ようやく解るのは全てが終わった後」


だからこそ後悔しないように生きなければならない、なんて言うのは簡単だけれど


部屋を出た日進さんが漣さんの姿の重巡棲姫さんと話している


「漣さんと直接は話させてあげられないんですかね…」


『向こうからしたら何処に居るかなんて知りようが無いしねぇ…。また降ろすのに挑戦でもしたなら手を加えてみたりは出来なくも無いけど』


Y子さんが言うには口寄せというのはあくまで彼岸の向こうに念を飛ばし、該当の人物が近くに居て尚且つそれに応じればやっと話せるくらいのものらしい


『その念のポインタをここに引っ張って来て繋げる事は可能ではあるけどね。何処から繋いでるかはあっちからは確かめようが無いし』


どちらにせよ術者の負担は大きい。ちょっと話したいなどと乱用すればあっという間に力尽きてしまうのだと言う

352 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:51:52.97 ID:ewPdNPWDO
 
 
日進さんのアドバイスを受け重巡棲姫さんは富士さんを通して伝言を伝えるらしい


『また見てみる?』


「いえ…ただでさえこんな覗き見をしているのにしかも精神世界までというのはちょっと…」


『今更だと思うけど?まあどんな内容かはお姉ちゃんに聞けばわかるか』


「ほどほどにしましょうよ…」


精神世界に潜っている重巡棲姫さんは傍目からは今どんな状態なのかは判らない。だけど…


「泣いていますね…」


『前向きなように見えてもやっぱり苦しいものは苦しいんだろうね』


どんな会話が為されているのかまるでうなされているような、そんな顔をしていた


それからしばらくして富士さんがやってくると


【漣の様子はどう?】


と聞いてきた


『今は眠ってるよ。正直まだ起きるには早かったんじゃないかなと思ってる』


【そう…丁度良いわ、直接伝えてくる、その情景も含めあの子の心に】


そう言って富士さんは漣さんが眠る部屋へと入って行った


私は二人の邪魔をしないよう静かにして考える


漣さんには帰りを待つ人が居る。そして彼女を何より大切に思っている。おそらく想いの強さはあの小さな深海棲艦にも負けてはいないように思える

353 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:54:01.67 ID:ewPdNPWDO
 
 
あまりにも近すぎて、それこそ同じ身体を共有しているくらいに近すぎて、その想いはこれまで上手く伝わってはいなかったのかもしれない


いつか重巡棲姫さんの想いが正しく伝わった時、彼女は…漣さんはどうするのだろうか


あくまで拒絶するなら最悪の結果になるだろうか


もしも…それすら乗り越えられたならきっと彼女は私には想像も付かない本当の強さというものを得られるのかもしれない


どれだけ傷付こうと、何を失おうとも、前に進む事を止めない、本当の強さを


それはきっとあの鎮守府にとって大きな力となるだろう。失い尽した存在がそれでも進もうと言うのならきっともう誰も崩れたりはしないのだと
354 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/25(木) 05:56:23.66 ID:ewPdNPWDO
ここまで
こじつけ
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/25(木) 12:08:59.54 ID:2VTBjWEjo
乙乙
開幕朝潮霊挨拶は卑怯、笑うわ
けどストレイボウ朝潮はNG
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/25(木) 12:30:21.56 ID:snM0wZHTO
ぽいぬの能力は早霜の前からあったと思う。元ネタ通りだと一回目食らったのは内臓系にダメージ入る技だし
覚醒すると生命力激増して死亡率低減、吸血とか捕食で回復がセットのビーストモードだと思われる
357 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:17:05.04 ID:X5txiLSDO
>>353から
 
 
「姉妹っていいですよねー」


『あーうん、そーだねー』


伊19さんや伊26さんのやり取りを見ながらY子さんにそう振ってみた


彼女はお姉さんの事をどう思っているのだろうか。姉である富士さんはY子さんにおっかなびっくり接している印象を受けた


それでも心配してか富士さんは時々顔を出してはY子さんに冷たくあしらわれて寂しそうに帰って行く


反抗期というやつだろうか


『今反抗期とか思ったでしょ』


「思っていませんよ」


やばい、読まれている


『別にいいけどさー。言っとくけど嫌いとかじゃないから、下手に甘やかすと調子に乗っちゃうからお姉ちゃんは』


「はあ」


何だか愚痴り始めたY子さん。やれ考え無しだの、余裕綽々な割に予想外の事態になると真っ白になるとか、結構流されやすいとか、いつか騙されて酷い目に遭いそうだとかだんだんその内容がどれだけ心配かにシフトしていく


『あと口下手で言い負かされやすい。朝霜なんかに好き放題言われて何も言い返せないとか不甲斐ない姉だよまったく…』


「好きなんですね、富士さんの事」


『…嫌いじゃない』


私が端的に感想を言うと何だか素直じゃない返答が帰って来た


私から見たら二人は結構似ている。顔立ちだけでは無く性格も。立ち居振舞いは逆だけれど


358 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:18:39.53 ID:X5txiLSDO
 
 
『…お姉ちゃんもあの伊19みたいに心配性な部分あるから。むしろ心配なのはこっちだっての』


「うふふ」


『なにさー。朝ちゃん、最近ちょっと生意気!』


「ちょっと羨ましいなって思っただけです。艦種的には私にも妹は沢山居ますが…それを実感する暇はありませんでしたから」


これでも私も朝潮型の長女だ。だけど妹達に出会う前にああなった。感覚的には一人っ子みたいなものだ


『…ずるいなあ、もう。そんな風に言われたら怒れないじゃん』


「ごめんなさい、でも正直な気持ちです」


Y子さんは拗ねたようにそっぽを向いて呟く


『…ほんとは、理想郷なんて…』


その先の言葉は私の耳には届かない。だけど何を言おうとしたのか何となく解ってしまう


本当は理想郷なんてどうでもいいから富士さんには一緒に居てほしい


そんな風に言いたかったのかもしれない


私がここに来るまで彼女はここでずっと一人で、富士さんは艦娘を救おうと世界中を駆け回っていて、彼女はそんなお姉さんをどんな気持ちで見ていたのだろう


もちろん富士さんが救おうとしている中に妹である彼女が一番に含まれているのは確実なのだろうが…


救うとは何なのだろう。その為に今寂しい思いをさせている。気付いた時には距離が開いてしまっていて昔のように話せない。想いは届かない


私に出来る事は何か無いだろうか…ここに来てまた新たな悩みが生まれてしまったようだった

359 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:20:07.22 ID:X5txiLSDO
 
 
村雨さんが朝霜さんと朧さんに責められていた


私だってエリートを鼻にかけたようなのは好きではないし皮肉のひとつも出るかもしれない。けれど少なくとも歩み寄ろうとしている人間にあの言い方は無いと思う


『あの鎮守府に居るための資格とか必要なのは初めて知ったけどねー』


「目に入らなかった。そういう意識を持っていないのが問題なんじゃないですかね。一般人の意識というか」


例えば介護経験がある人と、それまでそういう経験の無い人とはまったく視点が違うのだ


だけどそれは別に悪い事では無い。ただ村雨さんにはまだその視点が無いだけなのだ


「普通の鎮守府ならそれでもよかったんでしょうけど。敢えてそこに居たいというのなら今までのやり方では駄目なんです」


実際村雨さんは悪い人では無いと思う。春雨さんを押し付けようとしたのも悩んだ末の苦渋の選択なのだろう


そうで無かったらさっさと出て行ってあとは知らんぷりでも不思議では無い


『それと朝霜は何でか上から目線でお前要らないとか言ってるのかな』


「逆なんじゃないですかね…牙を剥いて威嚇して、それでも怖れずに手を差し伸べられる人間か測っている…そんな感じに見えます」

司令官や龍驤さんはどちらかと言えば来るもの拒まずだ。だけどそうやって誰彼構わず受け入れて、その相手に何か裏があったら…


ましてや鎮守府の誰かを傷付ける事態になるかもしれないと考えているのだろうか

360 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:21:27.93 ID:X5txiLSDO
 
 
『気持ちは解らないでも無いけどねぇ…。あれはあれで敵を作る結果になりかねないような』


「そうですね…あそこでもし村雨さんの怒りを買って権限でどうとかという話になったら…」


『村雨を殺す?』


「それは危険過ぎますね。白露型全員の怒りを買ってそれこそ鎮守府が血の海になります」


守るというのなら時には頭を下げる事も覚えるべきだとは私も思う。牙を剥いてばかりではいずれ危険と判断され駆除対象になってしまうかもしれない


朝霜さんがプライドを捨て頭を下げる姿は私には想像が出来なかったけれど


それから村雨さんは鎮守府を出て行くと言い出し白露さんに止められていた。何でも知らせてくれたのはあの朝霜さんらしい


『フォローを入れるくらいならあんな言い方しなければいいのに』

「不器用なんですよきっと」


不器用なりに鎮守府を守ろうと自ら嫌われ役を演じているのだろうか。素の部分もありそうではあるが


気配りを諭しておきながら自分はそれが出来ないなどという事は無かったのだ。私も彼女の事を少し誤解していたのかもしれない

361 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:23:12.48 ID:X5txiLSDO
 
 
「命の価値とは何なんでしょうね…」


飛鷹さんはかつて大切な友達を亡くしている。そして最近それは他者の、手術を受け持った病院に責任があるらしい


当時手術を受けていたのは二人、飛鷹さんの友人ともう一人、その際深海棲艦の攻撃により電力がストップ、非常電源で手術を続けられるのは一人だけだったらしい


病院側はそれを隠していた。それは何故か


「大物の政治家が娘を助ける為にお金を積んで優先させた…」


『口止め料も入ってるんだろうねぇ』


他人の命をお金で左右させたなどと知られたらとんでもないスキャンダルだ。そしてそれを承諾した病院側にとっても明るみには出せない


飛鷹さんと清霜さんがその友人の家を訪ねるとその政治家がご両親に土下座して謝罪していた。それを聞いて激昂する飛鷹さんを必死に押し止める清霜さん


「この場合誰が悪いんでしょうね…。誰だって赤の他人より身近な誰かを優先するのは当たり前です…けど…」


『まあ病院側だろうね、悪いのは。お金に目が眩んだのか知らないけど。比較的持ちそうな方を後回しにするくらいがまあ正しい判断だったんじゃないかな』


「後回しにされた方が間に合わなかったら…?」


『その時はそれまでだね。結果助からなかった方の親がどちらにせよ助かった方を恨んでいたよ』


そうなるのだろう。今回はお金で傾いたに過ぎず、他の要因なら許せていたという話でも無いのかもしれない

362 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:24:50.14 ID:X5txiLSDO
 
 
政治家さんはその一連を公表し改めて謝罪すると約束して帰って行った


飛鷹さんは一時危うい状態になっていたがさすが清霜さんというか見事に引き戻して見せていた


それから少ししてその事がニュースになりあの人は約束を守っていたと解る


「結局はあの政治家の娘さんも亡くなってしまって誰も救われなかった…。どちらかが生きていればその子の分までなんて言えていたんでしょうけど…」


『そんなものだよ…悲劇の後にまた悲劇なんてよくある話だよ』


「やりきれないですね…」


もしも飛鷹さんの友人の両親が更にお金を積んでいたら、相手が政治家ではなかったら、そんな無意味なもしもは単に立場が逆になるだけ


何故自分の子供が。何故そっちだけが助かったのだと、何故。と

363 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:26:30.24 ID:X5txiLSDO
 
 
「それにしても…」


私はモニターを見る。鎮守府の食堂でご飯を食べている龍驤さんの姿があった。しかし手足がしっかりと生えていた


「また食べに来ていたんですね。しかもタッパーまで持参して」


リュウジョウさん。例の謎の集団、アケボノさん達の仲間


私は詳しい事はほとんど知らない。だけど味方ではあるようで司令官も信頼していた


龍驤さんとリュウジョウさん。こうして見ると手足以外にも雰囲気や表情、微妙な話し方、何もかも別人だというのが私でも判る


何だか自爆して口を滑らせているのもまた龍驤さんではあり得ない事だ


彼女達は何やら不思議な能力を備えていてリュウジョウさんは変身能力があるらしい。なんと那智さんに変身して愛宕さんと会話をしていた


愛宕さんは若干の違和感を感じてはいたようだが偽物だとはさすがに思わなかったようで、そこは演技力もあるのだろう。相手が同じ龍驤さんでなければその違いは判らない


そして今度は龍驤さんに変身してなんと司令官を相手に試そうとしていた。しかも手足までそっくりになっている


『元々ある部分まで消して変われるんだねー。普通なら気付かないよこれは』


「ですね…私も多分判らないかも」


しかし司令官は一目で見抜いてしまう。さすがは司令官。誰よりも身近な相手を間違える筈は無かったのだ。匂いとまで言ったのはちょっと変態っぽいけれど


誰かの恋人とか家族とか身近過ぎる相手では騙し通すのはやはり難しいらしい

364 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:28:32.95 ID:X5txiLSDO
 
 
「そういえばリュウジョウさん、組織に潜入する為に変身して練習してたと言っていましたね」


そのリュウジョウさんは間宮さんのお弁当を沢山持ってホクホク顔で帰って行った。あれはきっと必ずまた来るだろう


『あんなでは多分すぐバレそうだけどね』


「変装して何処かに潜入するスパイにしてもバレた時の為の保険は用意するものですから大丈夫なのでは」


『だといいけどねー』


大本営にしろ組織にしろスパイやら諜報員やらを沢山使っているのだろう。私達艦娘が深海棲艦と戦っている間に人間も決して表には出ない戦いをしているのだと思う


そして同時に艦娘が深海棲艦だけでは無く人間同士の争いにまで駆り出されるようになって久しい


「ただ平和な海を守りたい、そんなシンプルな時期は本当に僅かでしたね」


力のある者は放っては置かれない。深海棲艦との戦争が終わっても艦娘の戦いは終わらないのだろう


これからも海の上ではなく陸上で死んでいく艦娘は増える一方なのかもしれない
365 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/04/30(火) 06:29:30.07 ID:X5txiLSDO
ここまで
会話が少ない
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/30(火) 12:03:38.61 ID:r3jloD6Mo
まいどおつおつ
朝霜に関しては早霜の出自やかけられまくってるらしい暗示と見えてる地雷が怖いんだ…
八島さんの名表示本編登場が成ったがこちらでどう言うのか楽しみです
367 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:20:56.97 ID:TcHKAzrDO
>>364から
 
 
「今のところ変わり無し…か」


私は朝潮。うん、いいわ。特に問題は無いみたい


眠り続ける漣さんのお世話を…と言っても今は魂だけの状態なので例えば身体を拭いたり排泄物の処理などの必要は無いので手間という手間はまったく無い


この間富士さんが重巡棲姫さんの伝言を伝えに来てから少しだけ表情が楽になったように見える


今度目覚めた時には以前より良くなっていればいいのだけど


彼女の布団を軽く掛け直し部屋から戻る


『様子はどう?』


「変わりありませんね…もう少し何かしら良い刺激があれば…」


『難しいねぇ…何が良く働いて何が地雷になるのか』


「そうですね…下手をしたらずっとこのままという可能性も…」


また司令官達から何かしらの訴えかけがあればとは思うけど窓口になる富士さんの気分次第でもある


まあなんだかんだ優しい富士さんなので受けてくれる気はするが

368 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:22:36.04 ID:TcHKAzrDO
 
 
「大本営の新兵器ですか…」


いつになく司令官と幹部さんが真剣な顔で話している。深海提督に対して核エネルギーを動力とした新しい兵器を使うらしい。しかもゆくゆくはその射程は地球全てをカバーするのだと


私も大本営が何か兵器を作っているという話は聞いた事はあるけど正直あまり信じてはいなかった。今の人類にそこまでのものは作れやしないと思っていた


しかし実際にそれは完成していて、いよいよ使われる時が来ていたらしい


「弾頭に使われないだけまだマシと考えるしか無いでしょうか…」


また核かと私は思う。被曝してあれだけの犠牲者が出たにも関わらずまだその力を使おうとしている。一度持ってしまった力は手放せないのが人間なのだろうか


「いつか司令官も言っていましたね、その力がこちらに向く可能性があるかもしれないと。味方なのに…」


『和平派の鎮守府を邪魔者として粛清するくらいの事はしそうだけどね』


「そんな事をしたら世界中から避難を…まさか…」


『恐怖による支配』


世界中の何処にでも攻撃出来るとなれば下手に刺激して自分達の国が撃たれたら…とY子さんは言う。そしてその力で持って軍事クーデター、そんな最悪な歴史のifが現実のものになってしまうかもしれない


「でも国内の世論はそんなの認めませんよね」


『まあ…下手をしたら自国内にその兵器を、しかも一般市民に向けて…なんて可能性もゼロでは無いのかもね』


「まさか…」


信じられない…とは言い切れない。例え味方だろうと不都合なら消してきた大本営なら或いは…と考えてしまう

369 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:24:15.80 ID:TcHKAzrDO
 
 
「どんな兵器か気になりますね…」


『じゃあちょっと見てみようか』


モニターの映像を鎮守府から切り替える。普段私はあの鎮守府の様子しか見ないし他は興味もあまり無い。だけど事が事だけに司令官達も無関係ではいられない


という訳で大本営の件の兵器がある施設を…


「…え?」


血の海だった


施設の廊下だろうか、床も壁も一面真っ赤に染まっている。その血溜まりには人間の身体の一部らしきものが沈んでいる


鋭利な刃物で切られたかのような綺麗な断面が見えた


「あれは…人間…?」


『艦娘もいるね…皆殺しかな…』


何者かの襲撃があったのは一目瞭然だ。そして廊下の奥には一人の女性が佇んでいた


「あれは…大和…ですね」


大和。艦娘の中でも最強の一角でありこの国にとって最も信頼されている存在の一人


その大和が一振りの刀を持ち血の海に立っている。考えるまでも無くこの惨状をもたらした張本人だ


「裏切り…?乱心して暴走した?」


『そういう訳では無いみたいだね。ほらあれ』


Y子さんが指し示した方から複数の人影が現れ、それに大和が指示を出している。あれは…確か


「…傀儡」

370 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:26:32.04 ID:TcHKAzrDO
 
 
傀儡…例の組織が擁する兵隊とも言うべき人形。人形と言ってもその戦闘能力は私などでは手も足も出ないくらいに強い。聞いた話ではあの朝霜さんですら相討ちに近いくらいの結果になった事もあるという


以前龍驤さん達が遭遇した頃はそこまでの強さではなかったらしいが、今ではもう出会ったら逃げる事を考えなければならない程に改良されているらしい


しかもそれが何体も、大和の指示に大人しく従っている。つまりあの大和は組織の…


その傀儡達が何やら見慣れない巨大な艤装を抱えて持ってきた。話の内容からあれが例の新兵器らしい


『なるほどね、組織は大本営の新兵器を奪いに来たか、もしくは使用不能にするのが目的みたいだね』


「組織も同じ情報を掴みいち早く動いた訳ですか…にしてもここまでするなんて…」


そして大和が何処かに通信をしていると突然窓ガラスが割れ、人影が凄まじい速さで飛び込んできた


窓ガラスと言っても軍施設のもの、間違いなく強化ガラスのはず。それをいとも簡単に砕いたのだ


そして飛び込んできた人影は一瞬で傀儡達を倒してしまう。しかも武器らしきものは持っていない、素手であの傀儡を…尋常では無い


駆け付けた大和と人影は対峙する。動きを止めた事でようやくはっきりとその姿を見る事が出来た


「見た事の無い艦娘ですね…確か大本営が新型艦娘を作ったとか何とか話は聞いた事があるような…」


いつだったか大演習の際にお披露目されたらしい新型艦娘、信濃、話に聞いた特徴と一致している


あの頃私は精神状態が最悪で暴走しかけて気絶させられていたので直接は見ていなかった

371 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:29:07.37 ID:TcHKAzrDO
 
 
その信濃と大和が睨み合っている。私でも解る…二人は強い。いや、強いなんてものじゃない、次元が違う


信濃が徐に手を翳すと何処からともなく一本の槍?が飛んできてその手に収まった。変わった刃の付いた槍だ。しかも飛ぶとはどういう原理なんだろう


『大和の持つ刀も、あの槍もただの武器じゃないよ。使い手を自ら選ぶ伝説級の武器』


「そんなのがあるんですね…もしかして他にも色々あったりして」


『どうだろうねぇ、巡り合わせ次第では選ばれる誰かがまた現れるかもね』


そうこう言っている間に信濃と大和が構えを取り―――


その姿が掻き消えたと思った瞬間、凄まじい轟音と共に映像が乱れる


「わっ!?わわっ!何ですかあれ!?」


『ひゅー、なかなかやるねぇ二人共』


その場に居ないはずの私にもその衝撃が伝わる。二人の姿は速すぎて私には捉えられない。おそらくはもう既に何十合も切り結んでいる


その度に映像は乱れ、はっきりとは見えないが周囲の施設がどんどん崩壊していくのが判った


「何なんですかあれ…何処の死神ですか…」


仮に私があの場に居たら最初の激突で吹き飛ばされて壁にでも赤い華を咲かせていただろう。もはや艦娘の範疇を遥かに超えている。艤装だとか砲だとか彼女達には必要無いのではないだろうか


二人はほぼ互角のように思える。これはいつまでも決着が付かないのではと考え始めたところで横槍が入る、あれは…

372 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:31:49.27 ID:TcHKAzrDO
 
 
「早霜…?あの大和を援護した?つまり…」


『組織の仲間だったか、最近仲間になったか…だねぇ』


新兵器の艤装を回収したと伝え、大和と共に姿を消す早霜


「瞬間移動?…あの早霜も大概化け物ですね…」


『強さ的には大した事無いんだけどねぇ、能力とか糸とか文字通り搦め手でいくタイプみたいだよねぇ』


残された信濃と共に施設が崩壊していく。逃げられたと悟ったのか僅かに顔を歪め、そして遺体に手を合わせていた


やがて彼女は脱出し、施設は完全に瓦礫の山となってしまった


「組織はまんまと大本営の新兵器を強奪。…これで破滅は回避されたという事ですかね」


『…』


「?どうかしましたか?」


『大本営が次の一手を打たなければ確かにこれで安心とも言えるけどね…』


「まさか…あれ以上の兵器をまだ隠し持っていると?」


『…』


何だかY子さんの様子がちょっとおかしい。こんな時富士さんが居てくれたら…
373 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:33:36.25 ID:TcHKAzrDO
 
 
それから少ししてY子さんの言葉は現実のものとなった


大本営は用意していたのだ、次の一手を


Y子さんがいつもとは違う様子で語り出す


『あははっ!組織はやっちゃったねぇ!あの信濃の艤装を強奪したせいであたしにお鉢が回ってきちゃったんだ!』


『とうとう起動してしまった!世界を終わらせる最悪の兵器が!』


映像に映るのは今まで見た事も無いような異様な兵器の姿。その砲口は組織の本拠地があるであろう地域へと向けられているという


そしてあれは言わば生まれたばかりの自分なのだと彼女は言う


「…つまり今ここに居るY子さんは未来から来た?」


『正しくは違う世界の未来から、いや、過去かもしれない。扉が開かれる前の、変わってしまう前の世界の未来から。ねぇ朝ちゃん、ターミネーターって知ってる?』


「ええと…確か暴走したAIが人類を滅ぼす為に過去にロボットを送り込んで人類の希望となる子供を生まれる前に殺そうとする…でしたっけ」


『まあそんな感じだね。人間が自分達の為に創り出した存在に滅ぼされかけている。そんな部分は似ているかな』


彼女はその未来で殺戮兵器として破壊の限りを尽くしたのだという。まさにあの映画のように人類は滅びかけ、艦娘達も敵味方の区別も曖昧に殺し合い、混沌とした世界になってしまっているのだと


『そんな未来を変えようとお姉ちゃんは過去に戻り理想郷の扉を開いた。結果未来は変わったかのように見えた。だけどあたしが生まれお姉ちゃんの妹になっていた。この世界にもあたしが存在する可能性が出来てしまっていた』

374 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:35:26.88 ID:TcHKAzrDO
 
 
このまま行けばかつての世界の未来のようになってしまうだろうと彼女は言う


『今まであたしの名前を呼ばせなかったのはこの世界であたしの存在を確定させたくなかったから…だけど結局は無駄だったね』


よく解らない事を言う。頭を捻る私にY子さんは


『つまり名も無き兵器ならあたしの因果は影響せず、破壊も容易だった。だけどよりにもよってあたしの名前を付けた事で存在はより強固なものとなってしまった』


数百万の命を奪った存在の因果があの兵器へと集まり始めているのだと


『だけどもう遅い。名前は呼ばれてしまった。存在は確定され、これからもその砲口は何処に向くか解らない』


「そんな…」


『まあそういう訳だから朝ちゃんももうあたしの事を仮名で呼ばなくてもいいよ。せっかくだから呼んでみたら?バリバリはしないから』


「はあ…」


いきなり普段の様子に戻った彼女がそんな事を言ってきた。名前…


「…」


『…』


「…」


『ん…?』


「わ…」


『はいダウト!どういう事!?あたしの名前知らなかったの!?』
375 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:38:30.23 ID:TcHKAzrDO
 
 
「だって最初に呼ぶなって言われてからずっとY子さんでしたし…そのうち忘れちゃいました」


『…』


怒ったのか、彼女は黙り込んでしまう。名前を忘れたなんて言ったのはまずかっただろうか。バリバリが来るかと身構える私


『…ぷっ、あはっ…あははははっ!』


「あ…あのう?Y子さん?」


珍しく爆笑する彼女に私は戸惑うばかりだった


『そっかー、あはは…。朝ちゃんの中ではあたしの名前はあれじゃないんだね』


「あの…差し支え無ければ、改めて教えてくれたらそう呼びますけど…」


『ううん、いい。ここではあたしはY子さんでいい。…ここだけでもあたしはあれじゃない』


嬉しそうに、悲しそうに彼女はそう言って笑う


『今の世界にはまだ希望がある。もしかしたらあれを破壊出来る誰かが居るかもしれない』


そうしたらあたしは…


そこまで言ったY子さんの顔を見た私は凍り付く。見覚えのある表情だったからだ


私が生前鏡で見ていた自分の表情と同じ


自殺志願者のような顔をしていた
376 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 06:39:56.73 ID:TcHKAzrDO
ここまで
解釈が合っているのか解りません
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/04(土) 14:56:43.81 ID:lqh+3YXXo

人格も無いただの殺戮兵器八島とおちゃめバリバリ世話焼きY子さんは別人
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/04(土) 16:46:52.63 ID:ZTasXaCJO
おつおつ
富士が過去に戻ったっていうのはどういうことだろ
379 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/04(土) 17:01:12.94 ID:TcHKAzrDO
>富士が過去に戻った

以前そういう描写があったような気がしましたが如月と混同していたかもしれません
元々富士は八島を知らなかったとするならここはやらかしですね
380 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:46:20.61 ID:P2dcfLCDO
>>375から
 
 
はい朝潮です。Y子さんのカミングアウトから少し経ったけれど隕石が落ちたというニュース以外は特に変わり無く日々は進んでいる


彼女の物言いだとあの兵器が起動したら即世紀末みたいな想像をしていた私は少し肩透かしを食らった気分だ


『そりゃそうだよ、言ったじゃん、生まれたてだって』


「じゃあそこまで世界の危機という訳ではないんですかね」


『今は、ね。いつか誰かが言った、あれは兵器としては完璧過ぎるって』


今のあの兵器は単に核を撃ち出すだけのものに過ぎないらしい。だけど改良されてどんどん進化していくという


『今は人間の手で目標の座標を打ち込んで着弾までの演算をAIが担うだけの形だけどね』


「AIって…そんなの付いてるんですか?」


『当たり前じゃん。遠く離れた場所に核を撃ち込むなんてのを手動でやってるとでも思った?』


「それはそうですけど…それってY子さん?」


『ああ、違うよ。このあたしじゃなくてあくまであの兵器に搭載された人工知能。感情なんて存在しない、ただどれだけ効率的に敵を殺せるか考えるだけの』


「え…」


『いずれそのAIは改良され、敵を設定するだけで自動的に滅ぼしてくれるようになる』


今は発射コードのみで制御されてはいるがそれを知れば誰でも撃てるというのは完璧な兵器には程遠い、後々には兵器自らが考えその資格がある人間を判別するようになるという

381 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:47:51.46 ID:P2dcfLCDO
 
 
『仮にその人間が殺されたりした場合も自らの判断で報復攻撃が出来る。そして破壊されないよう防衛機能も追加されて手が付けられなくなっていくんだ』


何とかするなら本当に今のうちしか無いんだよと彼女は言う


まるで他人事のように言っているがそれはつまり自分を…


私がそう考えていると点けっぱなしにしたモニターから慌ただしい声が流れた


それは突然行方不明になっていた、そして突然帰って来た呂500さんの話


「無事だったんですね…良かった」


数日前突然姿が見えなくなり必死に捜索していた司令官達。その安否が絶望視され始めた頃呂500さんは前触れ無く鎮守府に帰って来た


しかし自分が行方不明だったという自覚は無く、その間の記憶も無いらしい


念の為検査をしたところ…彼女は


「殺されていた…?そんな…今そうして生きているじゃないですか…」


『あの時雨と同じなんだね、生存の定義を何処に置くかは人それぞれだけど。少なくとも呂500は一度は死んだという事かな』


私とY子さんでは感情移入度が違うとはいえドライな事を言う彼女にちょっとムッとしてしまう


「…ああして生きているんです。だったら死んでいないんです」


我ながら子供っぽい理屈だとは思いつつそう言ってY子さんを睨む私に彼女は


『あー、ごめんね…別にそんなつもりじゃ無いから。帰って来た事は良かったとは思うよ』

382 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:49:10.38 ID:P2dcfLCDO
 
 
「私こそごめんなさい…別に責めたい訳じゃなくて…その…」


お互いにバツの悪い空気になってしまう。すぐ感情的になってしまうのはまだまだ修行が足りないなと反省する


傀儡となってしまったという呂500さんに組み込まれている情報漏洩の装置。下手に除去する事も出来ず、結局はゴーヤさんに押し付けるような形で鎮守府から遠ざけるしか無いようだった


そもそもこの鎮守府で除去は可能なのかも判らない、下手をしたら今度こそ死んでしまうかもしれない


危ない橋を渡るよりは、問題の先伸ばしだとしても有効な手段が無い現状では無難な選択なのだろう


『遠ざけるにしても解体するにしても露骨過ぎると結局勘づかれるとは思うけどねぇ』


「じゃあ詰んでるという事じゃないですか…」


『ダミーの情報を送るとか器用な事が出来たらいいんだけどねぇ』


「その装置を除去したのがバレたらどうなるんでしょうか」


『さあ…それでいきなり攻めてくるっていうのも考えにくいけど…変わりの傀儡にまた誰かが差し替えられたりするんじゃないかな』


あの組織の事だ、また誰かを拐って傀儡にして送り込む。それを繰り返し気付いたら艦娘は誰も居なくなっていて完全に掌握されてしまう、他の鎮守府ではもしかしたら既にそういう所もあるのかもしれない


かつて漣さんが身を寄せていた鎮守府が正にそうだったらしいが、それがひとつとは限らないのだ

383 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:51:19.32 ID:P2dcfLCDO
 
 
「ところでその整備士さんってどんな人なんでしょうね」


『おやぁ?珍しいねぇ、朝ちゃんがあの鎮守府以外に興味を持つなんて』


「別に興味なんて…ただちょっと気になっただけです」


とんでもない技術をただ人を救う為だけに使っているらしい。司令官以外にそんな人間が存在するとは正直信じられなかった。何度か助けてもらったというのも何か下心があっての事だと思っていた


『まあたまには別の所を見るのもいいんじゃないかな。ポチっとな』


Y子さんが映像を切り替えるとそこは深海棲艦の基地跡のようだった。所々修理の跡が見えるが深海棲艦の姿は見当たらない


その基地の手前に見覚えのある人影があった


「あれは早霜?どうしてこんな所に…」


『当然だけど帰って来たという訳じゃ無さそうだね。潜入かな』


「たった一人で…とは言っても彼女は不死身に近い身体でしたね…」


周囲を警戒しながら進む早霜、しかしその背後に音も無く現れたのは深海海月姫だった


「あいつが居るという事はここは深海提督の…?」


そして深海海月姫は早霜を羽交い締めにして動きを封じた。それからどうするのかと思っていると一瞬何かが光ったように見えた


「スタンガン?早霜は…気絶していますね」


『あの深海棲艦が何か使ったか、周囲に罠を仕掛けていたってとこだろうね』


そして深海海月姫は昏倒した早霜を抱えて基地の中へと入っていく
384 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:53:08.66 ID:P2dcfLCDO
 
 
それから早霜は処置室のような部屋へと運ばれていく。そこにはまるで特徴の無い一人の男性…これが噂の整備士さんなのだろう…と別の深海棲艦と艦娘がスタンバイしていた


「この設備の揃い様は…もしかしてここは深海提督のアジトではなくあの整備士さんの隠れ家だったみたいですね」


整備士さんの側に控える深海棲艦の風貌は駆逐艦吹雪に似ている。整備士さんを司令官と呼ぶ彼女はおそらく秘書艦なのだろう


整備士さんは用途の解らない機械を幾つか用意してこれから早霜に何かをするらしい


そこからは私には何が行われていたのかまったく理解は出来なかった。何かの機械を使い検査をし、その後は…思い出したくない


「あ…頭をひら…うっぷ」


『大丈夫朝ちゃん?はいビニール袋』


あれだけ身体を弄くり回しておいて、今カプセルに入れられている早霜の身体には傷ひとつ残ってはいなかった。技術とかそういうレベルではない、まるで魔法だ


ようやく目覚めた早霜は自らの能力を全て消された事実を告げられショックを隠せないようだった


そしてこれまでのふてぶてしさがまったく消えてしまった早霜は朝霜に会いたいと懇願している


「艦娘の持つ特殊能力を消すとかとんでもないですね…。というかもう別人ですねあれ…」


『能力を手に入れた事で歪んでいたのか、歪んでいたからあんな能力を持てたのか…少なくとも今の早霜が素なんだろうねぇ』


必死に頼むその姿にほだされたのか早霜をカプセルから解放する整備士さん。全裸なのにはまるで無反応。まあさっきまで身体の内部まで見ていたのだから今更なのかも


そして整備士さんの側に控えていたもう一人の艦娘が更に誰かを呼びつけて―――

385 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:55:07.02 ID:P2dcfLCDO
 
 
ブツン


「はぁっ…はぁ…」


私は後ろを振り向いた。僅かに開いた襖の向こうは暗い部屋。たぶん…おそらく…変わりは無いように思える


いや…そもそも彼女は眠っているのだ、見られたはずは無い、聞かれたはずは無い。呼ばれた声に返事をする慌てた声、その顔は…


「あいつは死んだはずじゃ…いやそもそも別人だったのかも…」


『別人ではないみたいだよ』


モニターは今さっき私が慌てて消したが、Y子さんは目を細めて何か別のものを視ているようだった


『あたし自身はそのテレビが無くても色々視られるからね。まあ疲れるから普段あんまりしないけど』


「なんであいつが整備士さんと一緒に居るんですか…」


間違ってもその名前はここでは出せない。話自体も出来たら避けたいくらいだ。…だけど知っておくべきは多分私だ。だって仲間なのだから


『出来損ないとして処分されたものをあの整備士が拾ってそこに復活したらしいよ。どうやら早霜みたいに色々弄られているようだね。ずいぶんまあ…これまた別人だねぇ…』


Y子さんの話ではあいつはもうほとんど無力化されて性格も善良なものになっているらしい。今までした事を後悔している旨の発言までしていたのだという


「…は、ははっ…」


渇いた笑いが出た。ついつい生前の事を思い出してしまう


後悔している?それで?あいつが私にした仕打ちで私の人生はめちゃくちゃになった。反省している?だから?それで私に何を返してくれる?


何も出来ないくせに

386 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 05:59:11.72 ID:P2dcfLCDO
 
 
『――朝潮――』


ハッとして我に返る。しまった…まさかまたぶり返しそうになるなんて自分でも思ってもみなかった…


「ごめんなさい…たぶん私は今、自分に重ねてしまっていました…」


自分と彼女、どちらがより不幸かなどとむなしい比較なんてする気は無いけれど。取り返しが付かないという意味では共通しているのかもしれない


「奪われた側がここに居て、奪った側が生きている、なんなんでしょうねこれは…」


『…珍しい話じゃないよそんなのは』


「ええ解っています。この世は理不尽に溢れている事くらい身を持って知ってますしね…」


いつかの2000人の犠牲者もそうだ。彼等彼女等は何もしていない、それでも死ぬ羽目になった。それをした者達もまた生きている


それぞれにそうするに足る理由はあったのだろう。だけどそれに見合う結果を残せているとはとても思えない、つまりは無駄死にだ


「命までも代償にしておいて後悔してますは都合が良すぎますが…かといって死んで償えるものでもない」


『背負い続けるしか無い、いつか天から罰が下るまで、自ら終わらせる事は償いにはならない』


ああ…そうだ、彼女もそうだった。彼女も償い方を探しているんだ


この世界には加害者と、被害者と、傍観者しか居ないのかもしれない。それを変えようとする人間すらもそこに巻き込まれて苦しむ


この世は苦しみに満ちている。司令官…誰か…


私には何も出来ない、何処へも行けない。だったらせめて祈ろう、何の意味も無いのだとしても。私の大好きだった人に、大切な仲間に、お世話になった人達に、そして…私の事で罪に苦しむ人達にも


救いがありますようにと
387 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/09(木) 06:01:32.03 ID:P2dcfLCDO
ここまで
苦しくなってきました
自分で書いて解りましたがやはり本編作者はとんでもないですね…
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/09(木) 12:21:23.83 ID:+qFeWh7Go
おつでした
タシュケントの一時退場も伏線だったと考えると恐ろしい
389 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 05:56:48.10 ID:ksNFMuDDO
>>386から
 
 
「オッスオラ朝潮!…ちょっとY子さん!こういうの私のキャラじゃないんですけど!」


『いいじゃんいいじゃん、たまにははっちゃけてみなよー』


という訳で朝潮です。何だかY子さんがたまには変わった挨拶をしてみたらどうかと私にモノマネをさせてきた。…挨拶って言ったってここには私達しか居ないのに意味はあるのか


漣「もうだめだぁ…おしまいだぁ…」


私の隣では漣さんがハイライトの消えた目で最初のセリフのライバルキャラのモノマネをさせられていた。迫真というか何というか…それ演技ですよね?そうですよね?


あの後少ししてからまた目覚めた漣さんだったが以前よりは落ち着いている。どんな事にしろ時間というものはそれをある程度癒してくれるのだろう


あれから鎮守府では暴走した陽炎さんが霞のママ力に陥落したりその霞の負担を減らす為に雲龍さんが新しいママ役になったりしていた


「不思議ですねぇ…母親なんて居ない艦娘があんなにものめり込むなんて」


『逆に居ないからこその未知の体験だったからかもねぇ』


「みんなしっかりしなきゃといつも神経を張っているからああいう癒しは必要なのかもしれませんね」

390 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 05:58:05.05 ID:ksNFMuDDO
 
 
「球磨さん…まだやってたんですね…」


大井さんと球磨さんと北上さんが何やら話していた。その話の流れで球磨さんがいまだに下着泥棒をしているらしい


「さすがに食べるのは無理でも匂いとかぬくもりを…ひえぇ…」


わからない…文化が違う。というか怖い。いつだったか私の下着を食べていた球磨さんを見た時のトラウマが蘇りそうだ


「は…そうだ…そういえばあの鎮守府では私の部屋はそのままでしたね…ま、まさか…」


漣「…漣の部屋も…まぁ別にもうどうでもいいか…」


漣さんは何だかキャラが変わっている。まるで某中二キャラのようになげやりになっている。そのうち「そう、関係ないね」とか言いそうだ


北上さんは球磨さんに自分の下着を盗まれていたと知っても気にしていないようだった。それどころか自分達の情事を見られる事にすら無頓着なようで


「いやいやいや…いくら自分の失態を晒していてもそれとこれとは話が別ですよ…」


漣「…同意する」


どうやら北上さんは露出調教されていてそういう感覚を忘れつつあるようだ。憲兵さん…貴方はいったい何をしているのだ…

391 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 05:59:26.54 ID:ksNFMuDDO
 
 
その後一人になった球磨さんはまたも脱衣場で下着漁りを始めている。さすがに主不在とはいえ他人の部屋に侵入したりはしないようだ。そうだと思いたい


「まあそもそも洗濯済みならターゲットにはなりませんよね…」


漣「…あの球磨さんなら一度でも使用した物なら例え洗っていても匂いを嗅ぎ分けますよ…どうでもいいけど…」


漣さんが不吉な事を言う。司令官…ちゃんと鍵をかけてくれているだろうか。本当にお願い


そして雲龍さんと千歳さんの下着を脱衣かごから拝借した球磨さんはご満悦な顔で戻って行った


その後お風呂から上がった二人はちょっと困った顔をして仕方なく下着無しのままで部屋へと替わりを取りに行った。あの落ち着き様は初めてではないのだろう


「個人の趣味は自由ですけど…人に迷惑をかけるようなのはちょっとどうなんですかね…」


漣「…あの鎮守府は…そういう部分も許容する場所なんです。本当なら軍規に反します。他なら厳罰か、最悪解体されます…どうでもいいけど…」


「ああ…そうでしたね…。他では受け入れられない趣味や、せ…性癖の為に追いやられて来た艦娘も居ましたね」


自分の場合はそんな段階ではなかったから失念していた


「と言ってもやっぱり黙って持って行くのは良くないと思います。…聞かれても困りますが」


貴女の下着を堪能したいので貸してください、洗って返しますから。そう言われて貸す女が居るかどうか


食べられて消滅するよりはマシと考えるべきだろうか…わからない…

392 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:00:55.44 ID:ksNFMuDDO
 
 
漣「…前にも思ったけど、ずいぶん気楽にしているようですね…朝潮…」


暗い目で私を見詰めてくる漣さん。もう売り言葉に買い言葉にならないよう気を付けないと…


「前にも言いましたが…私はもう関わりたくても関われないんです。だからといって幽霊らしく暗くしていても仕方がないので…気に障ったなら謝ります」


漣「別に…怒ってる訳じゃ…。私の知ってるイメージとちょっと違うから…」


『まあこれが本来の朝ちゃんなんだよきっと。色々なしがらみから解き放たれた』


漣「しがらみ…」


今や私よりもむしろ幽霊らしい雰囲気で漣さんは何かを考え込んでいる。今の彼女が考える事はろくな事じゃない気がする


「何度でも言いますが…死んで楽になる事なんてありませんよ。一時の苦しみから逃れた先に待っているのは永遠の苦しみと後悔です」


『その苦しみからも逃れたいならもう成仏して生まれ変わるしかない。けどね、未練や執着、恨みがある魂はそう簡単には成仏すら出来ないよ』


漣「生きてても苦しい…死んでも苦しい…。じゃあこの世界って何なんですか…」


すがるような目を向け私達に問いかける。彼女は答えを求めている、進むか止まるか判断しかねている


『あたしにもそれはわからない。存在してしまった以上腹を括るしかない。だって最後の最後には自分を救えるのは自分しか居ないんだ。どれだけ手を引いてもらっても歩き出すのは自分なんだから』


漣「…」


漣さんはそれを聞いてまた何かを考え込んでいる。私達の言葉はどこまで届いているのだろうか…

393 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:03:10.29 ID:ksNFMuDDO
 
 
ある日の鎮守府に突然早霜が現れた。朝霜に掛けた暗示を解きたいのだと必死に訴えかけている


「早霜って確か…どうしてここに…」


『ふむ、どうやら早霜が頼み込んで送ってもらったみたいだよ』


内容をぼやかして話す私とY子さん。もう既に知っているのか、まだなのか、どちらにせよなるべく避けようというのが私達の結論だ


Y子さんが私に教えてくれた話では整備士さんは呂500さんが傀儡化された事に勘づいたらしくこの鎮守府を警戒し始めたらしい


下手をすればもう協力を仰ぐ事は出来なくなるのかもしれない。それどころか敵視までされたらどうなるのだろう


鎮守府の皆やアケボノさん達に囲まれたまま朝霜を説得する早霜


しかしやはりこれまでの行いが悪すぎたのだ。受け入られる事はなかった。そしてアケボノさん達は早霜を捕まえ姿を消した


『…早霜はアケボノ達の仲間まで手にかけてる…あれはもう殺されるね』


「…えっ」


私は龍驤さんに抱き締められ泣きじゃくる朝霜さんの姿を見ながらその映像を切り替えた


そこが何処かはわからない。早霜はあの女幹部――菊月やアケボノさんリュウジョウさん、その他見た事が無い艦娘達に囲まれ、詰問されていた


彼女達が聞くのは自分達の司令官である深海提督の安否と居場所


しかし

394 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:04:58.78 ID:ksNFMuDDO
 
 
整備士さんが自分達の安全の為に居場所に関する記憶を消していて…今同じ場所に居るらしい深海提督の居場所も当然記憶が無かった


それでも朝霜さんに会わせてほしいと懇願する早霜に菊月さんは手を触れ、そして――


菊月さんから錆びのようなものが早霜の身体に移り凄まじい速さで侵食していく


「あれが彼女の能力…?」


瞬く間に全身が錆びに覆われ顔半分まで錆びが登っていく。早霜は涙を一筋流し朝霜さんの名前を呼びながら、そして――


「っ!」


『朝ちゃん!?ちょっと待って!漣!朝ちゃん止めて!』


漣「え…え?」


私は部屋を飛び出し三途の川へと向かう。特に何か考えがあった訳でもなかったがとにかく我慢が出来なかった


私は別に早霜と知り合いでもなんでもないし思い入れなんて無い。司令官達にとって敵なら私にとっても敵だ


だけど


朝霜姉さん――


あの最期の姿を見て私はいても立っても居られなくなっていた


川沿いに辿り着いた私は辺りを見回す。相変わらず死者の魂は途切れる事が無い。そうしているうちに漣さんが私に追い付いてきた

395 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:07:29.50 ID:ksNFMuDDO
 
 
漣「…いきなり飛び出してどうしたんですか?まさかあの早霜まで連れてくるつもりですか?そんな事が出来るくらいなら…」


そこで言葉を切る漣さん。言いたい事は判る。あの小さな深海棲艦の魂の事だろう


実際あれからちょくちょく見に行ったりもしているが彼女の魂は見付かる事はなかった。そもそも来ているかもわからないのだ


もし見付かれば彼女にとってこれ以上無い救いとなるだろうが…


その場合、現世に帰ろうとする意志すら完全に捨て去りここで永遠に過ごすと言い出す可能性は高いように思う


そうしていると突然辺りの空気が変わった


川を渡る死者の群が怯え始める。空から何かが聞こえる。何かが落ちてくる


ああああああああああああああああああああああああああああああ朝霜姉さあああああん嫌あああああああああああああああ!!!


無数の死者にまとわり憑かれた早霜が川へと落下していく


あああああゴボッあああああ嫌ごめんなさい朝霜姉さんごめんなさいあああああ嫌あああああゴボッ助け――


落下した水面からも更に死者の腕が伸び、早霜はあっという間に水底へと引きずり込まれてしまった


連れて来るとか、話すとか、そんな暇すらありはしなかった

396 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:11:10.76 ID:ksNFMuDDO
 
 
『まったく…いきなり何をしようとするの…朝ちゃんは』


ゴンッ!!!


ようやく追い付いてきたY子さんが私にゲンコツを…お…


「お…おおおおお…!」


漣「うわ…下手したら死にますよあれ…」


「も…もう死んでますけどね…おおおおおお…」


うずくまりながらも突っ込んでしまうのは私の性格がそうさせるのだろうか


『早霜自身が言ってたでしょ、殺し過ぎたって。そんな魂に下手に近付いたら一緒に引きずり込まれるよ、助けようにも重くなり過ぎて引っ張り上げるのだって難しいのに』


「でも私は…ごめんなさい!」


再び拳を振り上げて見せたY子さんに反射的に謝る私


『やれやれ…あれは正しく自業自得だから同情の余地は無いのにさ…殺したのも自身の快楽の為だし』


「それはそうですけど…」


漣「生まれつきそうなら…それは誰の責任なんでしょうね…」


『それは…まあ、ね…』


彼女を、早霜をそういう風に生み出した世界が悪いのだろうか、止められなかった人間が悪いのだろうか


『そういうのもやっぱり自分を救う自分なんだよ。あんな事してろくな死に方しないと土壇場まで気付けなかった…。それに気付かせてあげられる人間が居なかったのが早霜の不幸かな…』
397 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:12:41.74 ID:ksNFMuDDO
 
 
早霜の一件から朝霜さんはやっと安心して過ごせるようになったのかみるみる元気を取り戻していった


結局早霜が固執していた暗示とは何だったのか謎は残った


朝霜さんを助ける為に暗示を解く、では解かなければどうなるのか…何にせよ早霜はもう居ない。それを聞く事はもう出来ない


そしてつかの間の平穏が戻った鎮守府にアケボノさんが現れ整備士さんの居場所を聞いてきた


「ずいぶん急いでいる様子ですね、何か緊急事態でしょうか」


『あの子達の緊急といえばあの子達の提督の話しか無いよね』


司令官達は整備士さんの居場所を知らないと答えるとさっさと姿を消してしまう


「ちょっと気になりますが…整備士さんかあ…」


漣「…?」


下手に整備士さんの所を見て漣さんがあれを見たらどうなるか、それが解らない程私は鈍くはないつもりだ


『…大丈夫、今は居ないみたいだよ。というかアケボノ達は辿り着けそうにないみたいだね』


「そうなんですか…?」


映像を切り替えてみると、アケボノさん達は整備士さんの秘書艦である吹雪さんに追い払われようとしていた


「嘘…たった一人であの人数を完全に圧倒していますね…。アケボノさん達は決して弱くはないのに…」


むしろ私よりもよほど強い。チームワークでなら朝霜さんにも負けないと豪語していたらしい


それを一人で圧倒出来るあの吹雪さんはつまり朝霜さんよりも強いという事になるのだろうか

398 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:14:43.38 ID:ksNFMuDDO
 
 
アケボノさん達は何でか早霜の名前を連呼していた。まさかあれで警戒心を解こうとしているのか


「えぇ…もうちょっと他に何かあるでしょうに…」


『予想外にあの吹雪が強くて完全に浮き足立っちゃってるねあれは』


結局更に警戒を強めた吹雪さんに押される形でアケボノさん達は退散せざるを得なかったようだ


その後整備士さんの潜伏場所らしき地点は爆破され完全に見失ってしまい消沈するアケボノさん達


『ふむ…どうやらあの鎮守府込みで警戒されちゃったみたいだよ。呂500の傀儡化の件のせいだね』


漣「そんな…あれだけ協力的だったのに今更…?傀儡なら潮だって居たじゃないですか」


『潮の場合はこちらから保護した形だけど呂500は送り込まれてきた、しかもそれを把握していてなおかつ処分もしない…。理由はどうあれ外から見たら疑われても仕方ないよこれは』


「これからは何かあっても彼等の協力は仰げませんね…下手をすれば敵対してしまう可能性も…」


問題はその事を司令官達はまだ把握していないという事だ。自分達の知らない間に敵視され、無警戒に接近し、味方だと思っている相手に問答無用で攻撃を受ける


あの吹雪さんの攻撃力をまともに食らったら無事では済まないだろう

399 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:16:02.73 ID:ksNFMuDDO
 
 
そうしている間にY子さんが何かに反応した


『使ったか…来るよ』


「え…?」


私が聞き返そうとするとモニターから轟音が響く。爆破されいまだ燃えている基地施設に突然光が降り注いだのだ


「うっ…!」


漣「く…!」


遥か彼方から巨大な光の帯が基地のあった島に突き刺さり飲み込んでいく。その眩しさから目を閉じる私達


少しして再び映像を見ると基地のあった場所には何も残ってはいなかった。それどころか島の形も少し変わってしまっているように思える


「これは…いったい…」


何処からかの砲撃があったのは確実だろう。そしてこの威力…思い当たるものはひとつしか無かった


『そう、あれが使われた。アケボノ達が焦る訳だね、でも結果的には脱出させられたから結果オーライなのかな』


「アケボノさん達は…」


『察知していち早く帰っていったよ』


「そうですか…よかった…。それにしても結構頻繁に使いますね…」


『今の大本営の最大の武器はあれだけだからね。使うしかないといったところかな』


あんなのをポンポン使って大丈夫なのだろうか。一発撃つだけでも鎮守府なら資源が吹き飛びそうだ
400 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:20:28.31 ID:ksNFMuDDO
 
 
所変わって映像は大本営の茶室。菊月さんがあれの情報を集める為に大本営に戻ったところ信濃さんと出会い


そしてどういう訳か組織の大和がそこに現れた


「菊月さんと信濃さんは解りますがこうまで堂々と大本営に現れるなんてどういう神経をしてるんでしょう…」


『例え見咎められても自分なら問題無いと思ってるんじゃないかな』


実際あの大和を止められる戦力は大本営にも多くはないのだろう。仮に戦闘になったらどれだけの犠牲が出るのか想像もつかない


その大和は今回は話し合いに来たと言ってお茶なんて立てているが信濃さんは警戒して手を付けようとはしなかった


「戦争を続けて均衡を保ち、武器を売りそれが平和と…。確かに戦争が終われば私達艦娘は必要無くなって数は減らされるでしょうが…」


『どうかな…深海棲艦との争いの次はまた別の争いに移行するだけだと思うよ。その際貴重な戦力である艦娘は今以上に必要とされる』


「そうなったら艦娘の敵は人間と、そして同じ艦娘になりますね…」


『大本営にはあれがあるけどそれだけじゃやっぱり足りない。どうしたって兵隊は必要になるからね』


そうして武器を売って国が潤ってもその武器が向けられるのが誰になるのか、また沢山の人や艦娘が死んでいくのだ。平和などとはお世辞にも呼べない


話を聞いた信濃さんが激昂して大和に斬りかかる


「艦娘になったからなのか元々なのか…血の気が多いですね」

401 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:23:54.55 ID:ksNFMuDDO
 
 
しかし前回とは違い大和はあっさりと信濃さんの槍を弾き飛ばしてしまう


『冷静さを欠いて勝てる相手じゃないよねぇ…』


信濃さんの肩を突き刺した大和がその目を覗き込んだ次の瞬間、信濃さんから大和への敵意が消えていく。目が虚ろだ


漣「これは…暗示…?」


「洗脳する能力ですかね…そこまで強いものではないようだけどあれだけの達人が使うとなると厄介ですね…」


傀儡を食べて能力を得たと話す大和、つまりそれは傀儡への能力付与が成功したという事なのか


「大量に居て、しかも一体一体がめちゃくちゃ強くてその上特殊能力持ちに…?」


『一発の破壊力の大本営か数で押す組織か…どちらが不利かな』


しかも信濃さんを洗脳し仲間に加えてしまった以上大本営はもう…?


抑止力というやつで大本営と組織がお互いに睨み合うだけになれば確かに均衡するのかもしれないが…


そして大和は信濃さんを連れて行ってしまう。菊月さんはさすがに手を出せず見送るしかないようだった


弾き飛ばされ落ちていたはずの槍は何故か何処にも見当たらなかった
402 : ◆B54oURI0sg [sage saga]:2019/05/18(土) 06:26:56.07 ID:ksNFMuDDO
ここまで
次以降はまだ未確定の部分もあって難しい
後追いみたいな形を取ったのは…
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/18(土) 14:21:53.23 ID:A+Lp12ql0

未来が難しいなら過去の話をしてもいいのよ?
404 : ◆Ym1fb/Qckk [saga]:2019/05/20(月) 08:36:48.78 ID:fAZCVd2CO



他の人と違っていいんだ。自分を信じ続けるといい。世の中いろいろあるけれど、俺だって何とかなった。

_元スウェーデン代表 ズラタン・イブラヒモヴィッチ


405 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:37:45.16 ID:fAZCVd2CO



「…………この辺でええやろ」

「あぁ、ここなら誰も気づかない」

「じゃ、棄てるわよ」


ポイッ

ザプン


ゴポポポポポポ……………









早霜「……………………ん……?」


406 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:39:42.15 ID:fAZCVd2CO

ピーッ!!


実況「さぁ試合開始です!今回はなんと艦娘がピッチに立ちます!」

解説「ものすごい経歴を持つ選手ですね。殺した人数がプロフィールの枠を超えてますよ。しかも趣味はなるべく苦しませて殺すこと……うーん、カンダタも真っ青な殺人快楽者ですねぇ」

実況「救われるはずのない魂に垂らされた蜘蛛の糸、彼女は登りきることができるのでしょうか!?活躍に注目したいところです!」


〔11:06〕


実況「ロスタイムは……結構長いですね。ほぼ半日です」

解説「分単位に直すと666分……うーん、彼女の素性を表すかのように不吉な数字だ」


407 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:41:01.67 ID:fAZCVd2CO


早霜「あれ……私、確か菊月に…………」


実況「早霜選手、やはり理解ができていないようです」

解説「死んだはずなのになんで?という顔をしてますね…………おや?何かおかしいですよ?」

実況「そうですか?いくらか身体に錆が目立つようですが、それ以外辺りには……んん!?いつもの審判がどこにもいません!!いったいどこに……?」


_海上

審判団「……………………」


実況「いました!早霜選手から遥か真上の海上です!なんと潜ることができない!!」

解説「泳げないのにどうしてこの試合を請けたのでしょうか。これは派遣した教会にも責任が及びそうですね」

実況「このままでは選手が動けず意図せぬ形でロスタイム放棄もありえます!いったいどうなってしまうのか……!?」




408 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:42:11.15 ID:fAZCVd2CO




ブクブクブクブク……


ザパァンッ


早霜「ぷはぁっ…………」


実況「おっと!早霜選手、自ら海上に出てきました!」

解説「状況と位置の把握のために出てきたようです。頭の回る選手で良かったですね」



早霜「……!敵……!!」ゴッ

主審「!」ピピピピピッ!!


実況「あぁーっと!審判を敵と認識してしまいました!誤解を解こうとしています!」

解説「副審がフラッグで守りの構えをしていますね。あんな棒切れでどうするというのでしょうか」


主審「……!」カード

早霜「……注意?みたいなものかしら?殺してはいけない……そんなところかしら」


実況「当然カードが提示されますが……ルールがいまいち伝わっていないようです」

解説「審判団への暴行が反則対象ですが、どうやら早霜選手、殺害そのものの禁止と解釈したようです」


409 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:43:40.89 ID:fAZCVd2CO


早霜「…………数字?」

主審「…………」コクッ

早霜「何かしら、これ…………私、たしかに死んだはず……」

主審「…………」トントン

早霜「時計?」

主審「……」シタユビサシ テアワセ

早霜「下に、両手……?」



解説「うーむ、どうやら時間が来たら地獄に落ちると伝えたいようですが……」

実況「いまいち意図が伝わっていないようです。ここでの時間は後々に響きそうです」



早霜「……そうだ、そんなことをしてる場合じゃない」

早霜「まだ終わってないなら、早く……早く姉さんの暗示を…………」

早霜「でも……ここはどこかしら…………」



実況「おっと、意図は伝わっていませんがどうやら動き始めるようです」

解説「どうやら彼女、生前に姉に仕掛けた暗示を解きたいようですね。まずはそこにたどり着けるでしょうか?」

410 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:44:58.22 ID:fAZCVd2CO


〔10:03〕


早霜「………………」スイーッ

審判団「…………」


実況「動き出してから1時間が経過しましたが、依然海の上を彷徨っています」

解説「自分がどこにいるのかさえ分かってないですからねぇ。しかも夜間で視界も悪い状況。せめて陸地にたどり着ければ良いのですが……」


早霜「…………」チラッ

審判団「…………?」

早霜「時間が減ってる……制限時間みたいなもの、なのよね?」

主審「…………」コクコク

早霜「ねぇ……私、確かに死んだのよね?」

主審「………………」コクッ

早霜「…………そう、やっぱりね」


実況「早霜選手、ここで死んだことを確認したようです」

解説「ほとんど動揺は見られませんね……いえ、ちょっと待ってください、早霜選手の手……?」


早霜「どこまでいっても先が見えないわね……」スイーッ


手「…………」ワキワキ……

ゴキッ、ボキッ…………


実況「これは……獲物を探すかのように、恐ろしい動き方をしている……!?」

解説「本人は無意識のようですが、本能が殺しを求めている……といったところでしょうか。手を出せば退場もありえる状況、かなり難しいゲームになりそうですね……」


早霜「でも、このままだとラチが明かないわ……探照灯でもあれば、周りだけでも見えるのだけど……どうすれば……」





「おい!おまえ!!」

411 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:46:38.26 ID:fAZCVd2CO


早霜「!!その声……!」

伊400「やっぱり逃げやがったんだなこの野郎!」


実況「おっと!これは潜水艦の伊400さんでしょうか!?ようやく審判団以外の人間に出会うことができました!」

解説「どうやら知り合いのようです。いやぁ、ここまで長かったですね」


伊400「だからお前は信用ならないと思ってたんだ!ボスのところには行かせねぇ!!」

早霜「ち、違うの……!私、さっきしん」


主審「!!」ピピーッ!!

早霜「!?」

主審「……!…………!!」


実況「あぁーっ!ここでついにやってしまいました!死んでいることを伝えてはいけません!」

解説「ようやく人に会うことができて安心してしまったのでしょうか。多くの選手が起こすミスですが、この気の抜けたところが危ないですねぇ」


412 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:49:57.72 ID:fAZCVd2CO



早霜「あっ…………言ってはいけないのね?」

伊400「あぁ?しん?」

早霜「し……し、信用されないのはよく分かってるわ…………」

伊400「はんっ、分かってるならいいんだ」

主審「………………」


実況「おや?カードを出しませんでした。これは辛うじてニュアンスは伝わっていない、ということでしょうか?」

解説「そのようですね。まぁ今回はジャッジに助けられたということで、焦らずに…………ちょっと待ってください?早霜選手の右手……」

実況「右手ですか?どうし……!?」


ナイフ「」キラッ……


実況「隠しナイフですか!?いつの間に……!?」

解説「伊400さんもまったく気づいていません……本人の意思さえあれば、ですね……」
413 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 08:50:59.11 ID:fAZCVd2CO


早霜「その、お願いがあるの!もう一度…………もう一度だけでいいから、あの鎮守府に連れていって!」

伊400「鎮守府ゥ?お前今日の昼に暗示解くからって連れていったじゃねぇか!」

早霜「そうなんだけど……その、暗示を解ききる前に追い出されてしまったの……!」

伊400「そんな馬鹿なことあるかよ!!さしずめ今度は朝霜を殺すかもう一度暗示かけるかのどっちかだろうな!」



実況「なかなか交渉がうまくいっていないようです」

解説「よっぽど生前の行いが悪かったようですね。そろそろ2時間に差し掛かるところですよ」

実況「どうやら鎮守府はかなり遠くにあるようですから、戻る時間を考えるとかなり厳しい展開を強いられています!」


414 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:00:58.32 ID:fAZCVd2CO


早霜「だから……!!」


ピピピピピッ!!


早霜「!?」

伊400「……!?てめぇ……やっぱり殺す気かよ……!」

早霜「殺す……?」

伊400「とぼけんじゃねぇ!そのナイフはなんだよ!!」

早霜「……!?」


実況「あぁっと!ここでついに手を出してしまいました!」

解説「主審の笛で辛うじてナイフが止まりましたね。しかし首寸前、身動きがとれません……!」


主審「………………」


実況「主審はすでにカードを出す準備をしています!」

解説「まだ手を出してないので反則は確定していませんが、さぁ早霜選手、抑えることができるでしょうか……?」


415 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:05:34.76 ID:fAZCVd2CO



早霜「………………………」

伊400「…………やれよ……やれるもんならな……!」



早霜(あぁ…………とうとう、出しちゃった)

早霜(これ以上殺す意味なんてないのに……早く、姉さんの暗示を解かないといけないのに…………)

早霜(もうだいぶ時間も経っている……早く説得しないと…………いや?)


早霜(ここでこれ以上足止めされるなら、いっそ…………)

早霜(でも……ここで殺したら鎮守府の位置が…………)

早霜(待って……?いっそ、この潜水艦だけじゃない)



早霜(さっきはやりそこねたけど、あのよく分からない奴らも………………)



実況「早霜選手、かなり葛藤しています!」

解説「ついに手が出てしまうのでしょうか……待ってください、これ審判団も狙ってませんか!?」

実況「審判団もですか!?そんなことしたら早霜選手どころかロスタイムまで消滅してしまいますよ!?」


早霜(殺す…………血の匂いを……あの叫び声を…………最後にもう一度だけ……!)

早霜(……違う!そんなことより、姉さんの暗示を…………でも……ふふ、うふふ…………!)


早霜「………………っ!」ギリギリ

伊400「………早霜ぉ…………!!」

416 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:06:52.17 ID:fAZCVd2CO


…………ポチャン


早霜「……………………お願いします」


バッ


伊400「!?」



実況「おっと!?ナイフを投げ捨て、土下座に出ました!!」

解説「止まった!……完全に殺す動きからのこれですからね、これには伊400さんも驚いています」



早霜「分かっているわ……私は数えきれない罪を犯してきた。信用しろなんて、できるわけないわね」

早霜「でも……私の最初の過ちを…………姉さんの暗示を解かないと……」

伊400「お前そればっかじゃねぇか!そんなことして許されるなんて思ってんじゃねぇだろうな!?」

早霜「赦しなんていらない!2度と姉さんに会えなくていい!すべて終わった後なら、どうなっても構わない!」

早霜「でも…………あの暗示を解かないと………………」





早霜「死んでも…………死にきれないのよぉ……!!」ポロポロ


417 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:09:18.74 ID:fAZCVd2CO



副審1「!!」カードダロ

副審2「……!!」チガウチガウ

第4審「…………」ハラハラ


実況「これはかなり際どい発言です!」

解説「死ぬことを示唆する発言ですからねぇ。審判団もかなり揉めているようです。さて、主審の判断は…………」


主審「………………」


実況「カードは……出ない!ここはカードは出ませんでした!」

解説「あくまでも表現のひとつとして解釈したのでしょうか。ここは主審に助けられましたね」


早霜「お願い……します…………ほんとうに、おねがい……!!」ポロポロ

伊400「な、なんだよコイツ………………」



418 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:10:07.25 ID:fAZCVd2CO


伊400「…………あぁもう!わかったよ!!今度こそ最後だからな!」

早霜「本当!?」ガバッ

伊400「ほんっとうに最後だからな!とりあえず身につけてる武器全部捨てろよ!!」

早霜「ありがとう……!本当にありがとう…………!!」ポロポロ

ポチャン

ポチャン

ポチャン

バラバラバラバラ!!

伊400「そ、そんなにかよ……気持ちわりぃな…………」


実況「やりました!必死の願いが通じたようです!」

解説「とんでもない数の武器を捨てた気がしますが……彼女の執念は本物ですね。この粘り強さを最後まで持続できるでしょうか?」

419 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:11:08.38 ID:fAZCVd2CO



_足りないもの鎮守府


〔6:16〕


伊400「ほらよっ!着いたぞ」

早霜「本当に、ありがとう……!」

伊400「てめぇに感謝される筋合いなんかねぇよっ!2度とその顔見せんじゃねぇぞ!!」


ポチャン


実況「説得から3時間近くかかってしまいましたが、ようやく目的地に到着しました」

解説「ここまではあくまでも準備に過ぎませんからね。早霜選手、ここからが本番ですよ」


早霜「…………さて」


スタスタ


実況「おぉっと!?なんと正面から入ろうというのでしょうか!?」

解説「すでに日付を跨いでいるとはいえ、警備をしている憲兵もいるはずです。何か策があるのでしょうか?」



420 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:12:03.14 ID:fAZCVd2CO



憲兵「…………………」


ヒュッ


憲兵「……ん?」


シーン


憲兵「………………気のせいか」






早霜「……………………」スタスタ……



421 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:13:33.25 ID:fAZCVd2CO



由良「……………………」ミマワリチュウ


コトン


由良「!!」バッ


シーン


由良「…………………」




由良「……………………」スタスタ……




早霜「…………」スッ



実況「これは驚きました…………ここまで誰にも気づかれずに目的地に向かっています」

解説「彼女、先日失った能力を無しにしても、非常に高い身体能力を備えていたようですね。素晴らしいスニーキングスキルですよ」

実況「しかし、毎回すんでのところまで手が出かかっているのは大丈夫なのでしょうか?」

解説「うーん、いちおう殺傷行為については明確なダメージを与えない限りは反則でない、という解釈もできますが……先ほどのジャッジといい、今日はかなり甘めの判定が目立つ気がしますねぇ」



審判団「………………」スタスタ


由良「……………!」


ヒュッ


ブスッ!


審判団「!?」

由良「何者」

審判団「」マッサオ



実況「し、審判団の気配を感じ取ったぁ!?」

解説「これプロフィールですか?…………ほほう、忍者の末裔の元で鍛えられたらしいですよ……え?これ本当に彼女なんですか?容姿がまったく違うようですが……」

422 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:15:01.85 ID:fAZCVd2CO



実況「いったん早霜選手に戻りましょう……朝霜が眠る寝室に到着したようですが…………?」


ガチャリ


実況「やはり鍵がかかっているようですね」

解説「当然警戒しているようですね。しかも今日は朝霜以外に2人もいるようですよ。何かの拍子に起きてしまう可能性はとても高いですね」


早霜「……………………」スッ


カチャカチャ…………


実況「おっとかなりアナログだー!ハリガネで鍵をこじ開けようとしています!」

解説「意外と手つきは悪くないですよ。しかし開けるまではいかないみたいですね…………ん?」


ガチャッ


早霜「!!!!」


423 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:15:57.09 ID:fAZCVd2CO


ギィィィィ……


ズリ…………ズリ…………


龍驤「うぅん……トイレトイレ……」



実況「彼女は……軽空母の龍驤さんですね。片腕、片脚がない艦娘です。普段は義肢を付けているはずですが……」

解説「どうやら寝ぼけてそのままお手洗いに行ってしまったようですね…………早霜選手はどうでしょう?」



早霜「…………」ペター



実況「なんと天井に貼り付いています!これはファインプレイ!」

解説「いやぁ、彼女の能力には驚かされるばかりですね。これで部屋にも入れそうです」
424 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:19:01.72 ID:fAZCVd2CO


_寝室


提督「zzz…………」

朝霜「すぅ…………すぅ……」


早霜「……………………」


実況「ついに……ついに早霜選手、朝霜さんのもとにたどり着きました……!」

解説「龍驤さんが戻ってくるまであまり時間がありません。戻る時間もありますし、早めに暗示を解きたいですね」


早霜「………………姉さん……そのまま聴いてね……何も考えなくていいのよ……そのまま、力を抜いたままで……」ブツブツ

朝霜「すぅ……すぅ……」

早霜「〜〜〜〜〜〜」ブツブツ


実況「暗示の解除が始まったようです」

解説「いい感じに集中できてますね……そのままゴールまで行けるでしょうか」



早霜「……いまから数を数えるわね……0になると姉さんは催眠状態になるわ…………大丈夫、とっても気持ちいいわよ…………10…………9…………ほら、だんだん身体が重くなる……」ブツブツ


実況「これは……暗示をかけている?」

解説「解除するためにいったん催眠状態に持ち込むようですね。本人の意思を操作しやすい状態のほうが逆に暗示を解きやすいようです」

425 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:21:57.55 ID:fAZCVd2CO



……ズリ…………ズリ……


実況「おおっと!?ここで龍驤さんが戻ってきてしまったぁ!!」

解説「早霜選手、気づいた上で催眠を続行していますね!集中していますが、焦りが見えているところが気になります……!」

実況「さぁ早霜選手、催眠は間に合うのか……?」


早霜「〜〜6〜〜〜〜5〜〜………4…!」イライラ


解説「目に見えて焦ってきてますね。このままでは……!」


朝霜「…………うぅん……なんだ」ムニャムニャ




朝霜「よ……………………」パチクリ

早霜「……2…………1………………!」







朝霜「…………………ひ、ひ」

早霜「…………ゼロっ!」パチン

426 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:23:18.01 ID:fAZCVd2CO



ギィィィィ……



龍驤「はひぃ……久しぶりやなぁ、寝ぼけて義肢無しでトイレすましたんは……」

龍驤「ごめんなぁ、朝霜……寝とるか?」サスサス

朝霜「………………」トローン

龍驤「……ゆっくり寝れとるみたいやね……ほな、おやすみ……」zzz



早霜「…………………」ホッ



実況「早霜選手、ドアの裏に隠れて上手くやり過ごしました!」

解説「しかも朝霜さんへの催眠もしっかりかけています。あの状況でしっかり結果を出せるのは素晴らしいですね」

427 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:24:15.44 ID:fAZCVd2CO



実況「ところで、審判団の姿が見えませんが、どこにいるのでしょうか?」

解説「先ほど由良さんに見つかり退避したところまでは確認したのですが……」



_鎮守府外



主審「……………………」

副審1「………………」イカナイノ?

副審2「……………………」コロサレタクナイ

第4審「…………」オロオロ



実況「あぁーっと!審判団、仕事を放棄しています!」

解説「由良さんというリスクを懸念した判断かとは思いますが……副審たちはむしろこの状況に困惑していますね」

実況「主審はおそらく早霜選手がいるあたりを見つめていますが……これは仕事していると言えるのでしょうか……?」


428 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:26:03.66 ID:fAZCVd2CO



〔5:32〕



早霜「さぁ、最後よ…………姉さんはここで起きたことは、朝になると何も覚えていない…………」ブツブツ


実況「早霜選手、順調に暗示を解いています」

解説「これなら時間内に元の場所にも戻れそうですね。危ないところもありましたが、ここまで素晴らしいプレーを見せています」


早霜「……ほら、身体がすぅっと、浮かんでくる……」

早霜「すべてを忘れて……ここは、いつもの布団の中…………」






早霜「…………さよなら、姉さん」


パチンッ

429 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:28:06.98 ID:fAZCVd2CO


実況「早霜選手、見事やり遂げました……!」

解説「えぇ、ここまで荒いプレーも目立ちましたが、いままでの選手の中でも最高のパフォーマンスを魅せてくれたと思いますよ。彼女はとても強い心を…………」




早霜「…………………………」




解説「……ちょっと待ってください?早霜選手、何やら様子がおかしいですよ?」

解説「おっと?……審判団も心配そうに彼女を見ていますね……」


早霜「…………分かってるのよ」
430 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:29:17.64 ID:fAZCVd2CO

早霜「こんなことしても、許されるわけじゃない。褒められるわけじゃない。救われるわけじゃない……それでも、やらなくちゃ、いけないこと、くらい」




早霜「でも…………でもぉ………………!!」




早霜「もっと姉さんと話したかった!姉さんに、いろんな人に、許してほしかった!」



早霜「この力だって、もっといろんなことに活かしたかった!この心だって、もっと良い方向に治せるって信じたかった!」



早霜「姉さんに覚えていてほしかった!いろんなことをやり直したかった!」



431 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:30:09.88 ID:fAZCVd2CO


早霜「許されたい……!」



早霜「やり直したい……!」



早霜「忘れられたく、ない……!!」







早霜「死にたくない…………死にたくないよぉ…………!!」ポロポロ








実況「……まったく予想外の展開になってしまいました。早霜選手、ここに来て泣き崩れてしまうとは……」

解説「多くの選手がそうであったように、こうなる気はしていましたけどね……あの早霜選手さえも、死ぬことへの恐怖からは逃れられなかったということですね」

432 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:32:57.97 ID:fAZCVd2CO



〔2:27〕



_海岸



ザザーン……ザザーン……



早霜「……………………」



実況「どうにか海岸まで出てきましたが……早霜選手、まったく動きません」



副審1「…………!!」レッドレッド

副審2「……!…………!!」マダワカラナイ

第4審「………………」ソワソワ


主審「……………………」




解説「副審たちはまたヒートアップしていますが……主審が怖いくらいに沈黙を守っています」
433 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:34:21.26 ID:fAZCVd2CO


早霜「…………ねぇ」

主審「…………」

早霜「さっきのカード、出さないの?」

主審「……………………」

早霜「分かってるでしょ?私……」





早霜「もう、元の場所に戻るつもりはないのよ?」





実況「!?なんと早霜選手、みずからロスタイムを放棄するということでしょうか!?」

解説「ここでカードが出ると輪廻から外れてしまうのですが……いや、まさか……それが狙いだというのでしょうか!?」



早霜「それが何なのかはよく分からないけど……さしずめ、地獄に落ちるとか、生まれ変われないとか、そんな感じのものなのでしょう?」

主審「………………」

早霜「それ、あいにくとっても好都合なのよ」

早霜「私みたいなキチガイは、もうここに戻ってこない方がいいの……だから、早く終わらせてちょうだい……」



主審「……………………」スッ





実況「主審がカードに手をかけました……!早霜選手、とうとう望み通りの退場処分となってしまうのか……!?」


434 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:35:45.68 ID:fAZCVd2CO





ベキッ!


早霜「……………はぁ!?」

主審「……………………」



実況「なんと!?主審自らカードをへし折ってしまいました!!」

解説「本来ならカードを出すべき……いやそれ以前に、こんな暴挙に出た審判は初めてですよ……!」



早霜「どうして……!?私のこと、分かってるでしょ!?私は……生き物をなぶり殺して快感を得る狂人なのよ!」

早霜「こんな奴を生まれ変わらせたって、また誰かを苦しめるだけなのよ!?」

主審「………………………」フリフリ

早霜「違う……何が違うの?私が殺人者であることは変わらない!私の本性なんだから私が一番よく分かってるの!」

早霜「やり直しの機会なんて…………やり直しなんて………」





早霜「あなた…………私に、またやり直せばいいって言うの?」



主審「……………………」ピッ!


435 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:37:30.11 ID:fAZCVd2CO


ピュッ

ポンッ

ブロロロロロ…………


早霜「零式艦戦……これで戻れ、ということ?」

主審「………………」



早霜「それは、仕事だから?あるいは、情けかしら?それとも…………」

主審「……………………」



早霜「…………あなた、どこかで会ったこと、あったかしら?」

主審「……………………」

早霜「…………ふふっ、本当に喋らないのね」

主審「……!」ピッ!

早霜「急いで?はいはい、分かったわよ……」



チャポン

スイーッ……




実況「早霜選手、主審の案内に従い、キックオフ地点へ戻ります……!」

解説「今日のジャッジ、不思議なところがありますね。早霜選手が殺しに手を出すかどうか、それだけを注視していたかのような…………」






解説「…………そういえば、女性の主審なんて、協会にいたかな……?」


436 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:38:48.36 ID:fAZCVd2CO


〔0:02〕


_どこかの海上 キックオフ地点



早霜「はぁ……はぁ…………間に合っ、た……?」

主審「…………」フゥフゥ

早霜「そう……なんとか戻れたのね」



実況「早霜選手、時間内にキックオフ地点に戻りました!残り時間、2分です!」

解説「驚くべき航行速度ですね……いえ、早霜選手と審判団の意地なのでしょうか?」



早霜「…………本当にいいの?」

主審「………………」

早霜「まぁ、すぐに生まれ変わるとかは無いでしょうけど……この性癖、とんでもなく強いから、分からないわよ?」

主審「……………………」

早霜「……………………」

437 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:39:54.17 ID:fAZCVd2CO



早霜「まったく、貴女も意固地ね…………」

主審「………………」



早霜「……………………ありがとう」




実況「早霜選手、海上に横になりました……まもなく、試合が終了します」

解説「……おそらく、彼女はこれから気の遠くなるほど長い間、罪を償うことになるでしょうね」

解説「しかし、いつか…………ずっと先のいつか、贖罪が終わったとき……彼女は再び、この世界に生を受けることになるでしょう」

解説「その時、彼女がどのような人生を送るのか……いやぁ、我々も頑張らないといけないなぁ」ハハ





ビキッ!
438 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:41:11.32 ID:fAZCVd2CO


早霜(…………きた)




ビキビキビキッ!!



ゴポポポポポポ…………




早霜(身体が、沈む…………冷たい、海の底、に……………)




早霜(さよなら……姉、さん………………)




439 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:42:10.82 ID:fAZCVd2CO



………………へん、ね…………


あんなにつめたかった、うみなのに…………


いまは……とても、あたたかくかんじる…………




…………………………ひか、り…………?





あぁ………………



しらなかった……………………







おひさまって、こんなにもあたたかいもの、だったのね……………………








ゴポポポポポポ…………
440 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:42:52.20 ID:fAZCVd2CO




〔0:00〕


ピーッ

ピーッ

ビーーーーーーッ…………



441 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:43:44.81 ID:fAZCVd2CO




司令〜〜!構ってくれよ!



……随分と元気そうだな



あったり前だろ!もうあたいはアイツの事を考えなくても良いんだ!



これ以上の幸せがあるかよ!



442 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:44:28.85 ID:fAZCVd2CO



早霜「ロス:タイム:ライフ」


443 : ◆lxd9gSfG6A [saga]:2019/05/20(月) 09:46:03.07 ID:fAZCVd2CO
以上パラレルワールドでした
喋り方とか設定にガバがあったら脳内補完でお願いします
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/20(月) 11:16:38.36 ID:ca1XPkVyO
こういうのもありだね
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/20(月) 11:18:30.71 ID:O9toT2UBo
乙!
や り や が っ た な
懐かしいなロス・タイム・ライフ
解釈を此方に委ねるの元ネタの雰囲気が再現されてて好きだ

ところで頭髪の薄い中年男はどこで登場していましたか…?
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/20(月) 15:15:29.27 ID:sPsnr1N4O
面白かった乙

ロスタイムが朝潮にあったら何をしてただろ?
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