神崎蘭子「堕天使は二度堕ちる」【堕天使探偵・最終幕】

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10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 18:49:30.31 ID:1p6HWAbq0
>>9

ラン「ひょっとして闇に飲まれてはいないか(赤羽根さん、迷ってません?)」×

ラン「まさかアリアドネを開放できていない…!?(赤羽根さん、迷ってません?)」〇


同一レス内で二種類のセリフにやみのまを割り振ってるのを今更発見する…

さすがに違和感あるのでなんか熊本弁っぽくないこっち側を修正させてください
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 18:50:35.76 ID:1p6HWAbq0


女性「東欧の街並みを再現しようとルーマニアからお城まで移築したみたいなんですけど…」

女性「道路開発の予定が流れて線路も方針転換で未成線になってしまい、なし崩し的に計画が頓挫」

女性「その結果、お城だけが残っちゃったそうです」


ラン「」ドキドキ

赤羽根「…き、きみは?」


女性「あは。驚かせちゃいました?」

女性「私、高遠遥(たかとお はるか)っていいます。以後お見知りおきを。赤羽根刑事」


ラン「!」


赤羽根「な、なんで俺の名前を…?」


高遠「その胸ポケットの紙、ミステリーナイトの招待状でしょう?」

高遠「ということは貴方は参加者のうち誰かです。そこから先は消去法」

高遠「このあたりの土地勘が薄く、かといって離れすぎているわけじゃない。現地への移動手段は車での長距離移動」

高遠「直通の私道を見落としたまま行き詰まり、歩きで移動する羽目になりそうな方角にいる参加者…」

高遠「つまり西隣の県に住む刑事、赤羽根さんしかいない、というわけです」ドヤァ…


赤羽根「…」

ラン「…」


高遠「…なんて、ほんとはこの前の新聞を見て貴方の顔を覚えてただけですけどね」

高遠「探偵の界隈では結構有名なんですよ?貴方」


赤羽根「探偵…」

赤羽根「あっ!高遠って、もしかして君があの有名な名探偵一族の!?」


ラン「真理を見出す瞳を持つ血統…(名探偵一族?)」


赤羽根「そうだ。天才女子高生探偵って大注目されている子なんだ」


高遠「このまえの土井塔邸の惨劇の解明、見事でした…貴方たちの評判はよく知っています」

高遠「証拠を見落とさない洞察力と記憶力、固定観念にとらわれない柔軟な発想」

高遠「それらの騒動で見え隠れする謎多き少女ラン」チラ


赤羽根「い、いやあそれほどでも…あははー」

ラン「成程…貴女もまた『瞳』を持つ者か…(なんだか照れちゃいますねー)」


高遠「そして、二人は数多の事件を追っていくうちに惹かれあい、いつしか愛を交わす関係となり…」


赤羽根「え?」

ラン「え?」

12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 18:54:25.91 ID:1p6HWAbq0


高遠「そんな中、二人は或る爆発事故の捜査をきっかけに帝都を震撼させる凶悪事件に巻き込まれてしまいます…!」


赤羽根「…」

ラン「…」


高遠「大規模電波ジャックによる犯人の声明と、刻一刻と迫る、都心を吹き飛ばす威力を有した爆弾のタイムリミット!」

高遠「大胆かつ巧妙に捜査の裏をかくテロリスト…そしてそれ以上の推理力で実行犯を追う二人!」

高遠「ああっ!赤を切ってはいけないっ!爆弾魔のミスリードに惑わされないでっ!!時計仕掛けの摩天…」


赤羽根「ちょ、ちょーっと待て!?」


高遠「…はっ!?」

高遠「ご、ごめんなさい!私テンションが上がっちゃうとついヘンテコな妄想を…!」


ラン「…」

13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 18:57:45.52 ID:1p6HWAbq0


1日目 昼 ネレイド城 跳ね橋







高遠「やっと着いたみたいですね」


赤羽根「ここがネレイド城…」

赤羽根「何時の間にか外国に迷い込んでしまったような妙な感覚がする」


ラン「あふれ出る魔力が私を昂ぶらせる!(かっこいい…)」


赤羽根「かっこいいか?いかにも何か出てきそうな古城じゃないか…」


高遠「吸血鬼城…」


赤羽根「え?」


高遠「ルーマニアでは、そう呼ばれていたそうです」


赤羽根「…」


高遠「かのドラクル公が作らせた城のひとつとされる、とびきりの曰く付き物件」

高遠「城壁を這う黒い影だとか、夜な夜な人間の悲鳴が聞こえてくるとか、移築されたあとも怪しい噂に事欠かなかったそうですよ」

高頭「…ともかく、さっさと跳ね橋を渡ってしまいましょうか」



ギシ…ギシ…



ラン「…」じーっ


赤羽根「ラン、あまり端に寄ると危ないぞ」


高遠「そうですよランちゃん、崖の下はかなりの急流みたいですから、落ちたらひとたまりも…」


ギシ…ギシ…


14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 19:00:40.56 ID:1p6HWAbq0


1日目 昼 ネレイド城 正門


シーン…



高遠「すみませーん」

ラン「…」

赤羽根「…」


高遠「どなたかいらっしゃいませんかー?」


ラン「…」きょろきょろ


赤羽根「まだ誰も来ていないのか…?」


ラン「我が躰が…漆黒に侵食されていく…!?(まだお昼なのに薄暗い…)」


高遠「ろうそくの質が悪かった中世は、文字通り闇と戦う時代だったんです」

高遠「このお城なんかはまだ良い方で、ガラス窓すら使われなかった民家はもっと暗かった」

高遠「闇夜にぼんやりと浮かび上がる影が、人か獣か怪物か、本当にわからない世界だったそうですよ…」




??「お待ちしておりました」ぬっ


高遠「!!」


ラン「ひきゃ!?」びくっ


赤羽根「うおっ!?」



黒服「アルカード様から承っております、どうぞ此方へ」


ラン「」どきどき


赤羽根「びっくりした…てっきり本当に古城に潜んでた狼男か何かかと…」


高遠「あ、あはは…」






コツコツコツ…


15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 19:04:04.80 ID:1p6HWAbq0


1日目 昼 ネレイド城 1F 大広間



高遠・赤羽根・ラン「!」



ぞろぞろ…



赤羽根「みんなここに集められていたのか」


ラン「英知を称えし威光!(あそこの大きな肖像画は?)」


高遠「あれがドラクル公…かつてのこの城の城主、ヴラド・ツェペシュですね」


ラン(吸血鬼の始祖と言われる人間…)


赤羽根「ええっと…」ごそごそ

赤羽根「参加メンバーは推理評論家の黒羽烈斗にロス市警の三澤と…」


高遠「あそこにいる猫背の女のひとは確か犯罪心理学者の醍醐瑞樹(だいご みずき)さん」

高遠「向かいにいる面長の男のひとが、確か薬物組織を壊滅させた日本人ロス市警として話題になったジン・ミサワ…」

高遠「植木の近くにいる小太りの女のひとはヌマさんの愛称で有名な、老舗探偵社長の沼田岳美(ぬまだ たけみ)」


高遠「私が顔を知っているのはこの三人だけですけど…人数は全員揃ってるみたいですね」


赤羽根「俺たちの到着が一番最後だったわけだな」










黒服「ミステリーナイトの参加者の皆様、ネレイド城にようこそいらっしゃいました」

黒服「私、皆様の御世話をさせて頂きます、目崎と申します」




黒服「まずは皆様を客室へとご案内いたしましょう」



16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 19:13:45.54 ID:1p6HWAbq0



1日目 夕方 ネレイド城 1F 大広間



黒服「まず、現在私達がいるのがこの大広間になります」スッ

黒服「客室のある区画は城の東側です」ススッ


黒服「ラン様、三澤様、高遠様、美樹本様、赤羽根様、沼田様は、1階客室のお部屋になります」


黒服「モリアーティ様、醍醐様、黒羽様、魚塚様は、こちら2階客室のお部屋になります」





1F



1号室:ラン

2号室:三澤

3号室:高遠

4号室:美樹本

5号室:赤羽根

6号室:沼田


2F



7号室:魚塚

8号室:醍醐

9号室:黒羽

10号室:モリアーティ



黒服「それでは、私についてきてください」

17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 19:19:17.15 ID:1p6HWAbq0


1日目 夕方 ネレイド城 1F 客室前廊下



コツコツコツ…


赤羽根「まだ日が落ちきってないのに夜中みたいだ…本当に吸血鬼が出てきそうだな…」


ラン「あ、あやつる言霊に気を払うのだっ(脅かさないでくださいよっ)」




黒服「皆様のお部屋はこちらになります」


魚塚「…ちょっと待って何よこのドア…鍵穴が何処にもないじゃない!」


黒服「御安心を。お部屋の中に衣装と『ブレードキー』が用意してありますので、まずはそれらをご着用ください」


赤羽根「ブレードキー…?」


黒服「ブレードキーとは、この城における『鍵』の役割を果たす剣のことです」スッ

ジャキッ


ラン「!」


美樹本「剣…!?」

18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 19:23:27.61 ID:1p6HWAbq0


黒服「刃引きされていますが、本物の剣を改造して作られたものなので、くれぐれも扱いにはご注意を」


ラン「!!」


魚塚「だから、鍵の形なんてどうでもいいのよ。鍵を差す穴がないって言ってるの。どうやって開け閉めするの?」


黒服「『刺す』必要はございません。まず、ブレードキーの柄の部分にあるこの引き金を引きますと…」ピー…


ラン「!!!」


美樹本「…これは、レーザー光?」


黒服「はい。刀身から照射されたこの光を扉に当てることで、施錠・開錠を行うことが出来るのです」


三澤「だから『鍵の剣(ブレードキー)』…ということか」


醍醐「でも、この剣一本で全部の扉が開いちゃうんだったら、逆に危険なんじゃ…」


黒服「それも心配御無用です。照射されているこの光…形状をよく御覧ください」ピー


黒羽「…アルファベットのM?」


黒服「はい。厳密に言うならば、これはローマ数字の1000を表す記号なのですが…これは管理人室の鍵になります」

黒服「各部屋の扉は、その部屋番号に対応したブレードキーの光でなければ開けられない仕組みになっているのです」


高遠「なるほど…」


ラン「…」キラキラ


黒服「ただし、注意点がひとつ」

黒服「何らかの事情で破損し、正常に照射できなくなってしまったブレードキーでは施錠も開錠もできなくなってしまいます」

黒服「例えば施錠された客室の中で誤ってキーを損傷してしまえば、その客室に閉じ込められてしまうことになるでしょう」

黒服「城内にスペアキーやマスターキーはございません。ブレードキーは剣ではなく、あくまで鍵。むやみやたらに振り回さず、施錠・開錠時以外は鞘に納めておくことをお勧めします」


赤羽根「あはは、大丈夫ですよ目崎さん。そんな子供みたいな事…」


ラン「…」キラキラキラキラ


赤羽根(しそうだコイツ…)





黒服「では、今夜20時よりパーティを開催致します」


黒服「時間になりましたら、大食堂にお集まりください」

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 19:28:37.67 ID:1p6HWAbq0


1日目 夕方 ネレイド城 1F 5号室(赤羽根)



赤羽根(玄関を開けたらまた廊下…まるまる部屋になってるわけじゃないのか)

赤羽根(大きな半円形の中庭を囲むようにして6等分…部屋にするには広すぎるとは思ったけど、こういうことか)

赤羽根(…突き当りの左右にドアがある。右が居間で…左が寝室だな)ガチャ

赤羽根(廊下の窓からは中庭が一望できるようになっている…が、もう天窓から光が入ってこないのか、やっぱり真っ暗だ…)








赤羽根「うへーっ!こんなモン着んのかよ!」

赤羽根「まるで仮装パーティだ。ブレードキーは…っと、これか」チャッ

赤羽根「重いな。刃渡り30…35ってとこか?目崎さんは本物の剣の改造だと言ってたけど」





赤羽根「…」ピー


ガチャ


赤羽根(さっきの説明のとおり、この部屋のブレードキーの光は『X』の形をしている)

赤羽根(これを扉に当てるとロックされる仕組みだ。逆もまた然りか)


赤羽根「…」ピー


ガチャ


赤羽根(鍵を開けたり閉めたりする度にいちいち扉の意匠が緑色に光るのが無駄にカッコイイ)

赤羽根(それに扉のどの部分に光を当ててもだいたい認識する…どんな仕組みになってるんだ…?)


赤羽根「…」


ガチャガチャ


赤羽根(鍵の外見上の違いは柄の部分に小さく掘られた刻印くらいだ。ぱっと見黒服の持っていたものと変わらない)

赤羽根(ま、元が本物の短剣なんだから当然か…)


20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 19:32:56.15 ID:1p6HWAbq0



1日目 夜 ネレイド城 1F 1号室(ラン)



ラン「♪」うきうき


ラン「ふふーん♪」


ジャカッ


ラン「我が剣の閃光を受けよっ!!」シュバッ!!


ピー…カチャ


ラン「くぅ〜っ!!」わなわな


ラン「凄い!このお城ほしい!もって帰りたい!!」



パサッ…



ラン「ほえ?」

ラン(何かおちた…?)




1日目 夜 ネレイド城 1F 3号室(高遠)



高遠「…」

高遠「古城で繰り広げられる血塗られた惨劇…」

高遠「フフ…最初の火蓋を切って落とすのは…誰かしら?」




1日目 夜 ネレイド城 2F 7号室(魚塚)



魚塚「なんとか、全員入り込めたみたいね」


??「しかし一体どうなってんだこの城は?前はただの廃城だったはずだが」


??「とにかく、この四人の中の誰かが優勝すれば全ては丸く収まる…」


??「何を人ごとの様に、元はと言えばあんたが変な事業に手を出すから此処を手放す羽目に…」


??「やめとけ。今は取り戻すことだけ考えればいい」


21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 19:35:27.23 ID:1p6HWAbq0


1日目 夜 ネレイド城 1F 1号室(ラン)



コンコン


赤羽根『俺だー』


ラン「!」ピー


ガチャ


ラン「よくぞ来た!!我が相棒よ!!」


赤羽根「テンション高いなー…」


ラン「なっ…我が相棒も魂魄の更なる解放を求めるのだ!!(えーっ!?ワクワクしないんですか赤羽根さん!?)」

ラン「之ぞまさに我が神器に相応しき代物なるぞ!(本物の剣ですよ!?)」


赤羽根「…そりゃちょっとは、したけど」

赤羽根「カッコイイ以上になんか不便さの方が気になって、いまいち乗れないというか…」

赤羽根「ほら、コレ元が本物だから結構重いし、オートロックじゃないから出入りでいちいち抜刀しなきゃいけないし」


ラン「抜刀!抜刀っ♪」うきうき


赤羽根「…ラン、ここに来た趣旨忘れてないか?」



22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 19:39:34.47 ID:1p6HWAbq0


1日目 夜 ネレイド城 1F 大食堂



カチャカチャ…


赤羽根「…」チラッ


ラン「んくんく…」ゴクゴク


赤羽根「…」


ラン「ぱくぱく…」もきゅもきゅ


赤羽根「…」


ラン「未だ魔城のオラクルに慣れていないようね…(どうかしたんですか?)」


赤羽根「丈の長いマントと貴族階級っぽい服…」

赤羽根「俺だけ吸血鬼みたいな恰好をさせられているのかと思ったら…全員なんだな」


ラン「フフ…敢えて堕天使の幕間劇に乗ってやるのも一興(カッコイイんだからいいじゃないですか)」


赤羽根「…天使に言うのは失礼かもしれんがお前ものすごく似合ってる」



高遠「嗚呼」



赤羽根「…」


高遠「今宵は…こんなにも月が紅い…」

高遠「いつも私を凍て付かせた月の光、まさかそれを暖かいと思う時が来るなんて…」


赤羽根(暴想しとる…)


ラン「フフッ…その双瞳と共に月光に身を任せ踊り狂うも悪くないわね」


赤羽根(共鳴しとる…)


23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 19:40:13.46 ID:1p6HWAbq0



醍醐「ねぇ」


美樹本「ん?」


醍醐「差出人のアルカードとやらはいつ来るのかしらね?」

醍醐「全然姿を現さないけど」


美樹本「ああ、言われてみれば…」


黒服「…」


醍醐「あの執事も何も言わないし、本当にここでミステリーナイトが始まるの…?」



???『ミステリーナイト参加者の諸君!ようこそ、我がネレイド城へ!』

???『私の名は、アルカード!』



一同「!?」


24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 19:42:19.12 ID:1p6HWAbq0



1日目 夜 ネレイド城 1F 大食堂



三澤「な、なんだ!?」


沼田「どこかのスピーカーから流れてるみたいだけど…」



アルカード『有名推理評論家、黒羽 烈斗(くろば れっと)』


アルカード『未だ方々で快進撃を続ける探偵社社長、沼田 岳美(ぬまだ たけみ)』


アルカード『世界各国の猟奇的犯罪をカメラに収めた犯罪ジャーナリスト、美樹本 洋太(みきもと ようた)』


アルカード『古今東西の謎を解きほぐす知恵の母、犯罪心理学者、醍醐 瑞紀(だいご みずき)』


アルカード『日本人でありながらロス市警として活躍する、捜査官のエース、三澤 陣(みさわ じん)』


アルカード『かの鮫島事件での法廷で真犯人を暴き、逆転無罪を勝ち取った敏腕弁護士、魚塚 三津子(うおづか みつこ)』


アルカード『イギリス警察監察医、ジェーン・S・モリアーティ』


アルカード『日本が誇る名探偵を祖父に持つ私立探偵、高遠 遥(たかとお はるか)』


アルカード『D県警きっての名刑事、赤羽根刑事とその従妹、ラン』


赤羽根「…」

ラン「…」


アーカード『只今より、このネレイド城所有権を賭け、世界中の応募者の中から選ばれた10名によるミステリーナイトを開始する』


アルカード『名探偵諸君の健闘を祈る』



ゴゴゴゴ…



黒羽「今度は何だ!?」


醍醐「みんな見て!跳ね橋が…!」


黒服「参加者の皆様、現時刻よりミステリーナイト終了まで、外部との接触を禁止させていただきます」

黒服「それに伴い入城の際にお預かりした貴重品、携帯電話の類も優勝者決定までお返しすることが出来ません」


ラン「我が神器がぁ!?(えぇっ!?)」


魚塚「ちょっと、なにもそこまですることないでしょ!?」


黒服「皆様の持つ純粋な推理力のみで対峙して頂くためですので、あしからず」


一同「…」


黒服「パーティーを再開いたしましょう」


25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 19:45:11.99 ID:1p6HWAbq0


1日目 夜 ネレイド城 1F 遊技室



パチーン…カカカッ…ゴトッ…


醍醐「はい、いただき」


黒羽「おおービリヤード上手いねアンタ」


三澤「まさか城内にこれだけ広い遊技場があるとはな」




沼田「あら、向こうの棚に置いてあるのワインじゃない?」

沼田「丁度良かった、このゲームが終わったら誰か一緒に付き合わない?」


美樹本「お、いいねぇ。他の人も一緒にどうだい?」


魚塚「やめとくわ。私全然呑めないから」


美樹本「…だろうな、モリアーティさんは?」


モリアーティ「私もお断りします。判断力が落ちてしまいますから」


沼田「そりゃ残念。わたしは酒入ってないと逆に推理ノらないんだけどな」


魚塚「推理…夜もだいぶ更けてくるけど、ミステリーナイトとやらは本当にいつ始まるのかしら」




黒服「…」




高遠「…あれ?赤羽根さん、ランちゃんは?」


赤羽根「ランなら力が暴走しそうだとか訳の分からん事いって部屋に引っ込んだよ」

赤羽根「…なにか用事だったかい?」


高遠「嗚呼」


赤羽根「…」


高遠「ランちゃん…この城のただならぬ妖気にあてられてしまったようですね…」


赤羽根「…」

赤羽根(何だろう…だんだんこの娘の頬をつねりたくなってきた…)


26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 19:48:37.44 ID:1p6HWAbq0


深夜


部屋で休む参加者をよそに、怪しく蠢く影がひとつ。

ぴくりとも動かぬ『それ』を引きずり遊戯室に向かっていた。


影は遊戯室の前までたどり着くと、腰に提げたブレードキーを扉の前で構え光を当てる。



ピー…



遊戯室や物置など、ネレイド城にある客室以外の扉もブレードキーで施錠・開錠を行える扉が備え付けられているところがある。

全てのブレードキーを認識すること以外は客室のものと仕組みは同じである。



カチリ



扉の意匠が緑色に発光し、前に立つその影をフワリと照らす。

闇に浮かび上がったそれは…一柱の堕天使の形をしていた。


27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:08:50.60 ID:1p6HWAbq0



1日目 深夜 ネレイド城 1F 1号室(ラン)前


コンコン


赤羽根「ラン、もう寝てるのか…?」


コンコン


赤羽根「…」


赤羽根「思い返せばランのやつ、やけに様子がおかしかったな…」

赤羽根「遊戯室でゲームとか、今までそういう系のイベントは毎回しれっと参加してたのに…」


赤羽根「…」

赤羽根「まさか…部屋に戻るフリして一人でルシファーを探しに…?」





<きゃああああああーっ!!




赤羽根「っ!?」

28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:10:46.83 ID:1p6HWAbq0


1日目 深夜 ネレイド城 1F 遊技場



??「」



モリアーティ「あ…ああ…」


黒服「あ、あれは…!?」


醍醐「人…!?」


赤羽根「どうしたんだっ!?…って、あれ?誰か電気をつけてくれ!」


パチ


赤羽根「これは…」


醍醐「なんだ、よく見たら人形じゃないの」

醍醐「びっくりさせないでよ…もお」


黒羽「…こんなのいったい何処にあったんだ?まったく」


美樹本「わざわざ血のりまで用意しやがって、誰だ!こんな悪ふざけをする奴はっ!!」


沼田「幾らなんでも悪趣味すぎるんじゃない!?」




ラン「騒がしく蝙蝠の啼く夜ね…(あれれ?なんですかこれ?)」ひょこ


赤羽根「ラン…今まで何処に…?」


ラン「?」




アルカード『名探偵諸君、さぞ驚かれたことだろう』


一同「!」




アルカード『さて、ここからがミステリーナイトの問題だ』

アルカード『このネレイド城で早くも悲劇が起こってしまったようだ』

アルカード『現場の刺殺死体を見分し、殺人犯を割り出してほしい。健闘を祈る』


29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:12:51.29 ID:1p6HWAbq0



高遠「…」

高遠「つまり、犯人はこの中にいるってことですか…!?」


美樹本「ご丁寧に人形の顔まで血のりだらけだよ…っと、額に名前が彫ってあるな…『魚塚三津子』?」

美樹本「被害者役も俺たちの中から選ばれてるってわけか」


ラン「…」


沼田「銀の短剣で一突き…まぁ、人間なら即死でしょうね」


三澤「事件のヒントになるものは無いのか?血まみれの人形だけでどうやって推理しろというんだ」


黒羽「フッ…俺にはわかったぜ」


三澤「?」


黒羽「この人形をよく見てくれ。所々衣服が乱れているだろう?」

黒羽「犯人は被害者ともみ合った末に心臓を刺した。つまり相当な返り血を浴びている」

黒羽「よって、夕食の時と今とで別の衣装を着ているやつが犯人だ」


美樹本「やっぱりな!俺も丁度そう思ってたところだ!」


モリアーティ「でもこの時間、客室で体を洗って着替えてる人が殆どですよ…?」


黒羽「それは…」


醍醐「はん、いかにも三流ミステリー的な推理ね」


黒羽「なんだと!?」


醍醐「もし私が犯人なら、返り血を浴びることも計算に入れて殺すわ」

醍醐「この人形の衣服の乱れ…これはもみ合った跡ではなく、本当は着替えさせた跡なのよ」


美樹本「き、奇遇だな…俺もちょうどその考えに至ったところだ」


醍醐「返り血を浴びたまま着替えに戻るなんてハイリスク。犯罪心理学上、そういう問題は現場で処理する事を考えて犯行に及ぶ」

醍醐「犯人は被害者の上着を避けて短剣を突き立てている。これは、返り血を浴びた自分の衣服と交換するためにわざとやったのね」

醍醐「つまり現在、丈の違う衣装を着ている人間が犯人よ!」


モリアーティ「でもそれも全員着替えてたら分からないですよね…」


沼田「どっちみち衣服から犯人を割り出すのは無理なんじゃないの?」


高遠「むむむぅ…ダイイングメッセージ系なら得意なんですけど…」


30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:16:40.78 ID:1p6HWAbq0



赤羽根「一体誰なんだろうな…ラン、なにか気が付くところは無いか?」


ラン「す、すひ〜、すひ〜」


赤羽根「…なぜ鳴らない口笛を吹いてるんだ」





黒服「…」


三澤「目崎さん、その包帯…怪我でもしたんですか?」


黒服「腕を角にぶつけてしまいまして…大したことではありません」


三澤「…」

三澤「まてよ」


醍醐「…三澤さん?」


三澤「成程、そういうことか」

三澤「分かったぞ、犯人が」


一同「!?」



三澤「この人形の口元、よく調べてくれ」


醍醐「口元?何も変わったところなんてないけど」


美樹本「ちょっと待て、人形の口に付いてるの血のりじゃないぞ…もしかして酒か?」


沼田「…ブラッディ・マリーだわ」


黒服「ブラッディ・マリーというと、トマトジュースとウォッカを混ぜた赤色のカクテルでございますね」


ラン「デュオニューソスの芳香が狩人の匂いをかき消したと言うの?(ここでお酒を呑んでいたところを襲われた…?)」


美樹本「でもそれっておかしくないか?確か彼女は酒が飲めなかったはずじゃ…」


三澤「その通りだ。つまりこれは殺された後、犯人によって口に流し込まれたものだ」


沼田「犯人が流し込んだ?なんだってそんなことするのよ?」


三澤「黒羽君の推理通り、犯人は被害者ともみ合った末に被害者を殺害したとみて間違いない」

三澤「…犯人は恐らくその際に被害者にどこかを強く噛みつかれていたのではないだろうか?」


一同「!」

31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:20:32.10 ID:1p6HWAbq0


三澤「被害者に傷をつけられた犯人は、疑われないためにその事実を隠さなければならなくなった」

三澤「歯形は包帯か何かで隠せばいいが、被害者の歯についた自分の血はそうはいかない」

三澤「苦肉の策で犯人が思いついたのが、遺体の口に血に似た色をした液体を流しこむことだった」


美樹本「つまり、犯人は体のどこかに怪我をしている…?」


黒服「…」


沼田「あ、黒服の!目崎さんが犯人って事!?」


三澤「いや、犯人が目に見えるところに包帯を巻いているとは限らない」

三澤「それにもし彼が犯人だったとして、俺達に明らかに隠ぺいだとバレるようなブラッディ・マリーを選ぶだろうか?」

三澤「トマトジュースやケチャップ、まだ被害者が死ぬ前に口にしていたと考えられるものを使う筈」


黒羽「じゃあ、犯人はいったい何故ブラッディ・マリーを使ったんだ?」


三澤「簡単な事だ。『犯人が知らなかった』…つまり犯人の条件は2つ」

三澤「どこかの部位を負傷している人物。だが先程も言ったように、見えているところに怪我をしているとは限らない」

三澤「一番重要なのが二つ目の条件。魚塚君が下戸であると打ち明けた時その場にいなかった人物であることだ」


美樹本「ち、ちょっと待て!俺ももう少しでわかりそうなんだ!!」


三澤「該当するのはラン君、ひとりだけだ!」ビシィッ!!


一同「!!」


赤羽根「ら、ランが犯人だって!?」







ラン「…」


32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:24:53.91 ID:1p6HWAbq0



ラン「フッフッフ…」


ラン「フゥーッハッハッハッハッハ!!!」


ラン「よくぞこの智の迷宮をくぐり抜けた!瞳を持つ者、確と見よ!まさしく我こそが煉獄の支配者っ!!」


ラン「ハァーッハッハッハッハ…ッハ…っは…は…」


一同「…」


ラン「…」




高遠「出たな…吸血貴婦人エリザヴェートッ!!」ビシィッ


赤羽根「…」ほっぺぐにゅー


高遠「い、いひゃいひゃい!?な、なにするんですかぁ!?」


赤羽根「い、いや、なんとなく」




赤羽根「おい、ラン…」くるり


ラン「うぅむ…見様見真似の幻術、やはりすぐに消滅したか(はぁ…やっぱりこんなのすぐばれちゃうと思ったんですよねぇ)」


赤羽根「どーいうつもりなんだっ!?」


ラン「わ、我が相棒もなかなか侮れぬ霊格を持っているわね(こ、怖いですよぉ…赤羽根さん)」

ラン「何を隠そう我が身は虜。ノブル・レッドの指揮の侭に、身を踊らせたる道化なり(どうもこうも、私の部屋にこんな手紙があって、その指示通りに動いただけです)」


ピラッ…


一同「…」


ラン「宴を背に、惨劇を肴に、千鳥に狂えとタクトは示した(パーティを途中で抜けたのも、倉庫から人形を運んで、お酒をかけたのも)」

ラン「まぁ、幾許か舞台の羊共を欺く程度に振る舞いはしたものの…(あ、包帯はバレにくいようにしていいらしかったので、ふとももに巻いて…)」





33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:28:26.81 ID:1p6HWAbq0



沼田「ということは、優勝は三澤さんになるわけ?」


三澤「フッ…なんのことはない」


美樹本「だったら何か?これでミステリーナイト終わりだってことか!?冗談じゃねぇぞ!」

美樹本「こんなくだらないクイズで終わりなんて!おい!主催者呼んで来い!」ガタッ


醍醐「そんなセリフ敗者が言っても何の意味も無いんじゃない?」


美樹本「うるさい!大体なんだ!携帯は取り上げられる、変な服は着せられる」

美樹本「挙句にゲームが始まればこんなチンケな人形遊び!」ガッ!


ガシャンッ…

カラカラ…


美樹本「納得できっかよ!一体なん…」


美樹本「…」


美樹本「…?」



高遠「美樹本さん?」


黒羽「どうしたんだ…?」



美樹本「これ…血か?」


沼田「えっ…?」

34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:29:59.18 ID:1p6HWAbq0


三澤「血って、血のりのことか?」


美樹本「いや、この短剣にこびりついてるの…血のりでも酒でもないぞ、これは本物の血だ」


醍醐「…なんでイミテーションの小道具に本物の血がついてるの?」


美樹本「俺が知るかって。少なくともこの短剣に誰かの血がベットリ付いてるのだけは確かなんだよ」


モリアーティ「…もしかしてそれはブレードキーではないですか?よく見たら引き金があります」


美樹本「…」カチ


ピー


醍醐「7号室…」


高遠「魚塚さんの部屋の鍵…ですね。彼女のブレードキーが何故ここに…?」


沼田「ちょっとどういうことなの?魚塚さ…ん?」きょろきょろ





三澤「そういえばここに駆け付けてから顔を見ていないな」


一同「…」


三澤「さっきの悲鳴は聞こえていた筈だが…」


35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:36:10.81 ID:1p6HWAbq0


1日目 深夜 ネレイド城 2F 7号室(醍醐)前廊下



コンコン


高遠「魚塚さん?魚塚さーん?」


ラン「…」



沼田「もう入っちゃいましょうよ。鍵は持ってるんだし…」


高遠「いえ…」

高遠「開けるまでもないみたいです」



ギイィ…




三澤「なっ…!?」


一同「!?」











まるで舞台劇の一幕のような光景だった

燭台をあしらった常夜灯の淡い光に照らされ、ぼんやりと浮かんだその姿は

心臓を深々と木杭で貫かれた、さながら人間に討たれた吸血鬼…




魚塚「」



36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:37:52.70 ID:1p6HWAbq0




主演:神崎蘭子・赤羽根P(765プロ)


堕天使探偵ラン 『堕天使は二度堕ちる』





37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:40:33.90 ID:1p6HWAbq0


1日目 深夜 25:21時点



 A 赤羽根刑事(5号室)

 B ラン(1号室)

 C 黒羽 烈斗(推理評論家・9号室)

 D 高遠 遙(私立探偵・3号室)

 E 魚塚 三津子(弁護士・7号室)←DEAD

 F ジェーン・S・モリアーティ(イギリス警察監察医・10号室)

 G 醍醐 瑞紀(犯罪心理学者・8号室)

 H 沼田 岳美(探偵社社長・6号室)

 I 三澤 陣(ロス市警・2号室)

 J 美樹本 洋太(犯罪ジャーナリスト・4号室)

 K 黒服 目崎


38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:46:14.52 ID:1p6HWAbq0



黒羽「おいおい…!?」


沼田「魚塚さん…!!」


醍醐「ほ、本物よ…本物の魚塚さんが!」


美樹本「きゅ、救急車!呼べ!…い、いや警察か!?おい警察!」


三澤「馬鹿、押すんじゃない!」


モリアーティ「っ」ダダッ




モリアーティ「…」

モリアーティ「死因は心臓からの出血によるショック死…」

モリアーティ「体温の変化も、硬直も殆どないですが…おおよそ死後二時間ほど経過していると思います」


赤羽根「死亡推定時刻は11半…」


高遠「ランちゃん、貴女があの人形を遊戯室に運んだ時間は?」


ラン「高貴なる紅は、深まり始める闇を好んでいたわ(12時半です。アルカードにそう指示されていました)」


高遠「ということは、倉庫から人形が運ばれるより前に魚塚さんは殺されていた…」


沼田「ちょっと、そんなこと考えるよりやることがあるでしょ!」

沼田「ミステリーナイトは中止して、早く警察に連絡するのよ!」



黒服「…それは不可能です」

黒服「この城には電話や通信機の類は一切置いていないのです」


一同「!?」


美樹本「どういうことだよそりゃあ!?」

美樹本「だったらアンタが俺達から没収した携帯、さっさと出せ!」


39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:51:21.70 ID:1p6HWAbq0



1日目 深夜 ネレイド城 2F 管理人室


一同「…」


黒服「確かにここに保管しておいた筈なのですが…」


美樹本「なくなっちまってるのかよ!?」


黒服「それに、操作盤の鍵までなくなっています」

黒服「あれを刺した状態でなければ、跳ね橋の操作は不可能です…」


沼田「橋を下ろせなくなってるってこと!?」


醍醐「じゃあ私達、閉じ込められたの!?」


赤羽根(この操作盤…)


ラン「?」


黒羽「橋以外に出入り口は無いのか!?」


三澤「皆で手分けして探すんだ!」



40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:54:29.25 ID:1p6HWAbq0


1日目 深夜 ネレイド城 エントランスホール


美樹本「開かないぞ!?」


沼田「なんでなのよ!?」


アルカード『フハハハハハハハハ!』

アルカード『何処に行くつもりなのかな?名探偵諸君』

アルカード『君達は私の行う、吸血鬼狩りという名のミステリーナイトに参加したのではなかったのかね?』



一同「!?」



アルカード『私はこれから一匹ずつ、君達を殺していくつもりだ。ゲームとして…』



高遠「私達が…吸血鬼…?」


美樹本「ヤロー、舐めやがって!出てきやがれ!」


三澤「放っとけ!出口を探すのが先だ!」ダッ






1日目 深夜 ネレイド城 廊下



アルカード『殺されたくなければ、私の正体を暴くことだ』


アルカード『それ以外に助かる道は無い』


アルカード『さぁ、ミステリーナイトを一緒に楽しもうじゃないか…』



沼田「ここからじゃ出られそうにないわね…醍醐さん、そっちは!?」


醍醐「駄目…やっぱり跳ね橋が唯一の出入り口なのかも…」



アルカード『ハァーッハッハッハッ!!!』



赤羽根「完全に閉じ込められた…」


ラン「く…」


黒羽「おい、ここから地下に続いてるみたいだぞ!」





41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 20:58:53.75 ID:1p6HWAbq0


1日目 深夜 ネレイド城 B1F ?



三澤「なん…だこの部屋は…?」


美樹本「気色悪りい…」


沼田「部屋中、串刺しにされた人形だらけね…」


高遠「物置にあったという人形も、ここから運ばれてきたものなんでしょうか…?」


ラン「偽りの屍が語りし粛清の記録…或いはカタストロフの爪痕か?(…いったい何のためにこんなものが?)」


黒服「拷問展示室です」


一同「!?」


黒服「この城のかつての城主ドラクル公ブラド・ツェペシュは罪人を粛正する際、串刺し刑を好んで使われたそうです」

黒服「串刺し公の異名を持つほどの彼の苛烈な性格にちなみ、こうして地下に作られたのです」


三澤「…わからんな。ここを作った奴は何がしたかったんだ?」

三澤「見世物のように作られている割には、ああして入口の扉を大鏡で塞いでいたわけだろう?」


赤羽根「資料展示にしても悪趣味すぎるしなぁ…」


黒羽「ビビらせるために作ったんじゃないか?」


醍醐「え?」


モリアーティ「どういうことですか?」


黒羽「施設内全体に聞かせる放送スピーカー…照明が少ない城内…いかにもゲーム的な施錠システム…そして大鏡をどかした先に隠し部屋ときた」

黒羽「全部テーマパーク用の改造の名残なんじゃないか?お化け屋敷か脱出ゲームのアトラクションにでもするつもりだったんだろうよ、どうせ」


沼田「ここから出られそうかと思ったけど…行き止まりか」


美樹本「くそ…なんだってこんな気味の悪い城に閉じ込められちまったんだ…!」


42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 21:06:26.52 ID:1p6HWAbq0


1日目 深夜 ネレイド城 1F 大食堂



モリアーティ「…1943、『夜の悪魔』」


高遠「え…?」


モリアーティ「どこかで聞いたことがあると思ったら…思い出しました」

モリアーティ「1943年に公開された、夜の悪魔というホラー映画にアルカードという名前が登場するんです」


カリッ…


モリアーティ「スペルはこう…ALUCARD」

モリアーティ「これは、隠された正体を逆に綴った名前で…」カキカキ…


ラン「!」


三澤「DRACULA…ドラキュラか!?」


モリアーティ「その通り。吸血鬼を示す暗号なんです」


赤羽根「犯人は自らをも吸血鬼と自称している…?」


美樹本「ふざけやがって!」

美樹本「おい、黒服の!奴の居場所を教えろ!お前はアルカードと顔を合わせてるだろう!」


黒服「…不可能です」


美樹本「なに?」


黒服「私も、何も知らされていないのです。アルカード様の正体も所在も」


美樹本「そんなふざけた話があるか!」


黒服「…事実です」



黒服「二か月前のことでした。私の所属する秘書派遣会社に突然小包が贈られてきました」

黒服「その小包の中の手紙には私を名指しで、このミステリーナイトを仕切ってくれと書いてありました」

黒服「私はそれを引き受けただけです」


赤羽根「だったら、目崎さんはアルカードに会ったことも…」


黒服「一度もありません」


ラン「…」


美樹本「なんてこった…」


三澤「俺達は、まんまとネズミ捕りの罠に飛び込んじまったようだな」

三澤「アルカードの仕掛けた殺人ゲームの罠のなかに…!」


43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 21:12:46.78 ID:1p6HWAbq0



1日目 深夜 ネレイド城 2F 7号室(魚塚)前



ピー…


黒服「おや…?」


ラン「?」


黒服「いえ…現場保存の為にと部屋の施錠を頼まれたのですが…」


ラン「黙する番兵は何を思う…(反応しないんですか?)」

ラン「いや、まさか…封印そのものが幻だというのか!?(それとも鍵が偽物に?)」


黒服「いえ、偽物ではないと思いますが…何故でしょうか?」


ピー…


ラン「…あれ?」


黒服「?」


ラン「我が聖剣の陽光を見よ(ちょっと私のと見比べてください)」


ピー…


黒服「…レーザー光が所々掠れていますね。つまり、故障…?」


ラン「仕手と共に滅する剣…これは何を符合するものなのか…?(…でも、なんで壊れちゃったんだろう?)」


黒服「凶器に使われたから…では?」


ラン「え?」


黒服「先程のモリアーティ様の検死によれば、直接的な凶器はこの鍵であった可能性が高いそうです」


ラン(これが凶器に…?)


黒服「魚塚様をこれで貫いた際に刀身が油巻きになってしまったのか、それとも歪んだのかは定かではありませんが…」

黒服「ともかく、ブレードキーは凶器として使うには少々脆すぎるのでしょう」


ラン「…」

44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 21:16:51.31 ID:1p6HWAbq0



ラン「漆黒の従者よ、貴方はこの仄暗き魔城を何処まで征伐したの?(目崎さんはこのお城の事、どのくらい知っているんですか?)」


黒服「…皆様と殆ど変わりませんよ。着いたのが皆様より一日早いだけでして」

黒服「この城について私が知っていることは全て皆様にもお話しています」


ラン「貴方は高貴なる紅の影を捉えていない…(アルカードを知らないという話でしたけど…)」

ラン「ならば或いは、嘶きに耳を傾ける事すら無かったということ?(例えばその最初の日に声を聴いたり、遠目で姿を見たりなんてことは…?)」


黒服「ございませんね…お役に立てず申し訳ありません」


ラン「…」


黒服「夜も遅いですし、立ち話もこのくらいにしましょうか」

黒服「私は部屋に戻りますので、これで」


コツコツコツ…






ラン「…」


モリアーティ「…あのぉ」


ラン「きゅっ!?」びくっ

45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 21:21:42.90 ID:1p6HWAbq0


1日目 深夜 ネレイド城 1F 1号室(ラン)



モリアーティ「ゴメンナサイ…こんな無理を言ってしまって…」

モリアーティ「まっくらな部屋で独りぼっちになると眠れないんです…私…」


ラン「フッ、我が漆黒の両翼で覆って欲しくば供物を捧げるが良い!(い、いえいえ!丁度私も貴女に聞きたいことがあったので!)」


モリアーティ「はい?」


ラン「我が頭脳は兆候を欲す!硝子を裂く断末魔!咎に縛られし人形!一つ残らず捧げよっ!(直接の凶器がブレードキーだったというのは間違いないんですか?)」


モリアーティ「ええ。傷口は胸にある一か所のみだったのですが、生活痕のある部分と無い部分が混在していました」

モリアーティ「これはつまり、最初に細い何かで胸を刺されて死に、その後傷口を拡げるようにして木杭が打たれたことを表します」


ラン「既に魂は砕け散っていた…滅却が為されたのは終の幕…(その細い何かが…ブレードキー?)」


モリアーティ「ブレードキーに付着している血痕から見ても明らかです」


ラン「弔う意思など思慮の外…とはいえ咎なるアニマの内にある物とも思えぬ…(犯人はなんでわざわざそんなことを…?)」


モリアーティ「…吸血鬼に見立てるためではないでしょうか?」

モリアーティ「木杭で心臓を貫くというのは代表的な吸血鬼退治の方法です」

モリアーティ「たしか犯人も、この殺人ゲームの事を『吸血鬼狩り』と呼んでいました」


ラン「名を冠する幻視の種は、芽吹く前に砕かねばならないが…(それも考えられますけど…)」


モリアーティ「?」


ラン「…時に、ノブル・レッドの肢体を識るのもアスクレピオスの極致に至る選択なのね?(…そういえばモリアーティさん、吸血鬼に詳しいですね)」


モリアーティ「オカルトじみた事件は祖国イギリスでもしょっちゅうですから」

モリアーティ「ただ…それでもオバケは怖いんですけどね…」


ラン「…」


46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 21:25:38.63 ID:1p6HWAbq0


2日目 朝 ネレイド城 1F 1号室(ラン)



ラン「…」


モリアーティ「zZZ…」


ラン(吸血鬼に見立てる…か…)



アルカード『おはよう、吸血鬼城の名探偵諸君』



ラン「っ!?」ガバッ


モリアーティ「ふにゃ?」



アルカード『次なる惨劇は生まれているというのに』

アルカード『のんびりしていて良いのかね?』


アルカード『さあ、次の吸血鬼は憐れにも朝陽に焼かれてしまったようだぞ』



ラン(朝陽…?)


モリアーティ「…きゃあぁあっ!?」


ラン「!?」びくっ


モリアーティ「ランちゃ…あ、あそこに…!」







2日目 朝 ネレイド城 1F 客室前廊下


ピー…ガシャッ


三澤「見たか?中庭の…」


高遠「誰かの死体が!」



ラン「次なる煉獄の扉が開いてしまったというのかっ!(とにかくあの場所に急ぎましょう!!)」




ダダダッ…

47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 21:33:46.06 ID:1p6HWAbq0


2日目 朝 ネレイド城 1F 中庭



黒羽「」





一同「…」


三澤「大胆な奴だ。広場のど真ん中に磔かよ」


美樹本「誰か見てねぇのかよ!?犯人をよ!!」

美樹本「中庭なんてどの部屋からも丸見えじゃねーかよ!」


沼津「アンタ窓覗いたことないの?」

沼津「夜になると城内の廊下もここも真っ暗になって何も見えやしないのよ。無茶言わないで」



高遠「朝陽に焼かれ…というのは」

高遠「中庭の天窓から射す光の事を表しているんでしょうか?」


黒服「…」


モリアーティ「死後4時間か、5時間…」

モリアーティ「犯行の手口は魚塚さんの時と一緒のようです」

モリアーティ「遺体の胸に刺さっているこれは、はやり黒羽さんのブレードキー…」


ラン(…ん?)


高遠「…それって…ちょっと変じゃないですか?」


沼田「どうして?」


高遠「…みなさん、このまま黒羽さんの部屋までついて来てください」


48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 21:35:50.01 ID:1p6HWAbq0


1日目 朝 07:52時点



 A 赤羽根刑事(5号室)

 B ラン(1号室)

 C 黒羽 烈斗(推理評論家・9号室)←DEAD

 D 高遠 遙(私立探偵・3号室)

 E 魚塚 三津子(弁護士・7号室)←DEAD

 F ジェーン・S・モリアーティ(イギリス警察監察医・10号室)

 G 醍醐 瑞紀(犯罪心理学者・8号室)

 H 沼田 岳美(探偵社社長・6号室)

 I 三澤 陣(ロス市警・2号室)

 J 美樹本 洋太(ルポライター・4号室)

 K 黒服 目崎

49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 21:44:01.31 ID:1p6HWAbq0


2日目 朝 ネレイド城 2F 9号室(黒羽)



赤羽根「うお…」


三澤「ベッドが真っ赤だ…」


モリアーティ「被害者はここで眠っているところを襲われたということでしょうか?」

モリアーティ「確かにあそこで殺されたにしては流れている血の量は少なかった」

モリアーティ「その後中庭へ運ばれたんだとしたら…」






ラン「只ならぬ歪みを感じる(…奇妙ですね)」


高遠「やっぱり…ランちゃんもそう思いますか?」


赤羽根「奇妙?」


高遠「…現場がこの部屋だったとしたら、犯人はどうやって部屋に入ったんだと思います?」


沼田「どう…って、えっと、黒羽君が施錠したまま寝ていたんじゃ入れないから…」

沼田「例えば犯人は事前に彼と会う約束をしていて、部屋に入れてもらったあとで、不意を衝いて…とか」


高遠「どうやって不意を?」


沼田「え…?」


50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 21:46:35.97 ID:1p6HWAbq0


ガチャ


黒服「高遠様、やはり駄目でした。この鍵も壊れてしまっています」


高遠「どうもありがとうございます」


三澤「?」


高遠「どうやらこのブレードキー、人を刺してしまうともう使えないみたいなんです」

高遠「今沼田さんが言った手口で犯行に及んだとした場合、犯人は殺した後の事も考えなければならなかった」

高遠「なぜって、施錠された部屋の中で彼を刺してしまったら閉じ込められてしまうわけですから」


赤羽根「確かにそうだな」

赤羽根「…ん?まてよ?」


高遠「誰かを部屋に招き入れている時でも、普通はしっかりと戸締りをします。状況が状況ですから猶更します」

高遠「だから、犯人はブレードキーで黒羽さんを殺す前に、一旦それで部屋の鍵を開けに戻らないといけない」

高遠「でもそんな不審な行動を見せた相手を、黒羽さんが警戒しないわけがない」


赤羽根「ううむ…」


三澤「だが、それ以外にこの状況をどう説明するというんだ?」


高遠「一つしかないでしょう」

高遠「犯人はこの鍵のかかった部屋に入る方法をもう一つ持っていたんです」


一同「!?」


高遠「それもそのはず、犯人はブレードキーを使わずに密室に出入りすることが出来た…」

高遠「『物質透過能力者』だったということですッ!!!」


一同「…」





むにゅー


高遠「はにゃにゃにゃにゃ!?」


赤羽根「んなわけあるか!」


高遠「ほ、本気なんですけど私!?」



美樹本「ああ、ミステリ界の暴走特急だったっけか、あの子の異名」


醍醐「良く悪くも異名通りなのね…」


51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 21:50:58.88 ID:1p6HWAbq0



2日目 朝 ネレイド城 2F 9号室(黒羽)前





沼田「でも、これでますます無差別殺人の線が濃くなってきたわね」

沼田「弁護士と推理評論家…殺しの動機に共通点があるようには見えないし」


ラン「いいえ、それこそが人を幻惑すノブル・レッドの本領…(それはどうでしょうか?)」


醍醐「?」


ラン「原初の惨劇と断末魔の段(昨夜の遊技場での推理合戦のことを思い出してください)」

ラン「我が躰は猟犬の鼻を欺くために、酒を滴らすクラウンを宿したわ(私は犯人の指令で、魚塚さんが下戸であることを利用した犯人当てのクイズを作っていたわけですけど…)」

ラン「しかし、その惨劇の予兆はもっと早く…役者が舞台に出揃う遥か前(あの指示を受け取ったのは、ミステリーナイト開始前…みんながそれぞれの部屋に案内されたときのことなんです)」

ラン「ともすれば、ノブル・レッドは贄共を誘い込んだ上で幕を上げたのではないか?(つまり、少なくとも犯人は魚塚さんの趣味趣向を事前に調べ、ターゲットにすると決めていたことになる)」

ラン「この惨劇は…獣の凶刃では無く、獄卒の処刑具によって形作られしものなのかも知れない…(だったら黒羽さんも同様に、あらかじめターゲットとして殺害する計画を立てていたと考えられます)」


醍醐「アルカードには何らかの目的があって、二人を殺したってこと?」


ラン「真理を掴み取るまでは、妄信は破滅を誘う引鉄(その可能性も十分あり得るということです)」


美樹本「それにしてもいったい何者なんだアルカードは…コソコソしてねーで出てきやがれ!!」


ラン「鮮血の君は、既に煉獄の渦中にいるわ(もう、出てきているんじゃないでしょうか)」


美樹本「え?」


ラン「全ての事象は、彼奴が我らの影に溶けている事を示す…(これまでの状況から考えて、この城に私たち以外の誰かがいるとは思えません)」


赤羽根「ラン、まさか…!」


ラン「ノブル・レッドはこの中にいるっ!(アルカードは、もうこのなかに紛れ込んでいるんです!)」


一同「!?」


52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 21:55:57.25 ID:1p6HWAbq0


2日目 昼 ネレイド城 2F 9号室(黒羽)前



醍醐「この中に…」

沼田「アルカードが…!?」


一同「…」



三澤「す、少し軽率だぞラン君。お互い疑心暗鬼になってたら奴の思うツボだ」


赤羽根(らしくないな…一体どうしたんだ?やけに焦ってるみたいだが…)


ラン(これ以上犯人に…ルシファーに好き勝手させるわけにはいかない…)



三澤「基本に則り、事件の手がかりを見つけてくまなく検証していけば自ずと犯人に辿り着く筈だ」


美樹本「なら、この密室の謎を考えようぜ」

美樹本「さっきの高遠の推理には面食らったが、部屋に入る別の方法があったかもってのはイイトコついてると思う」

美樹本「こういう場合、どこかに秘密の抜け道があった…なんつーのが現実的だろ」


赤羽根「…改めて全員で隠し通路が無いか調べてまわった方が良いかもしれないな」


53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 22:00:48.36 ID:1p6HWAbq0



2日目 昼 ネレイド城 2F 8号室(醍醐)


沼田「…無さそうね」

沼田「もしこの部屋で隣へ抜ける穴が見つかれば一発だったのに」


醍醐「…ふん」




2日目 昼 ネレイド城 2F 5号室(赤羽根)


三澤「どの客室の窓もはめ込み式の一枚硝子か…進入口には使えそうにない」


モリアーティ「では、扉を細工された可能性はどうでしょうか?」


三澤「可能性が無いわけではないが…それもあまり現実的ではないな」

三澤「そもそも俺たちですらこの扉の仕組みを完全に理解していない。少なくとも物理的に解決できる類のものではなさそうだが…」

三澤「…」

三澤「いや、まてよ…まさかそういうことなのか?」


モリアーティ「?」




2日目 昼 ネレイド城 2F 2号室(三澤)


美樹本「なあ」


沼田「え?」


美樹本「…まずくないか?」


沼田「…」

沼田「ま、まさか…偶然、でしょ」




2日目 昼 ネレイド城 2F 空き部屋前


高遠「どの部屋も怪しいところは何もなかったですね…」


ラン「外なる虚空の領域…?(あれ?ここは?)」


黒服「ここは空き部屋ですが、どうかなさいましたか…?」


ラン(空き部屋…)


ガチャ


高遠「ダメですね…この部屋も変わったところなしです」


ラン「…」



美樹本「おい、みんな集まってくれ、三澤が推理を始めたぞ!」

54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 22:06:11.31 ID:1p6HWAbq0

おそめのばんごはんをたべてきます

30ぷんか40ぷんくらいでもどってくるよていです

m(_ _)m
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [ sage]:2018/09/01(土) 22:42:33.86 ID:ct9q4m6/O
たん乙
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 23:19:17.19 ID:1p6HWAbq0

だいぶおくれもうしたm(_ _)m

さいかいしまむら
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 23:21:16.78 ID:1p6HWAbq0


2日目 昼 ネレイド城 1F 遊戯室



三澤「よくよく考えてみれば、この城には奇妙な仕掛けが多い」

三澤「殺された黒羽君も言っていたな。『この城は元々アトラクションとして改築された建物ではないか』と」


美樹本「それがどうした?」


三澤「密室殺人のヒントもそこに在ると思わないか?」

三澤「少なくとも俺は、犯人が何かしらのシステムの裏を突いて9号室に入ったと考えた」


沼田「裏…?」


醍醐「いったい何を言いたいのかサッパリなんだけど…」





三澤「…論より証拠だ。ついてきてくれ」



58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 23:26:04.90 ID:1p6HWAbq0


2日目 昼 ネレイド城 1F 3号室(高遠)前



コツ コツ コツ…



高遠「私の部屋…?」


三澤「さて、俺の推理はとある一つの事実の上に組み立てられる」

三澤「すなわち、我々の客室の扉は何を以て鍵を判別しているのか」

三澤「よくよく考えてみれば、鍵を開けるために扉に光を当てる必要があるという仕掛けはいかにも不自然だ」

三澤「普通は車のキーのように電波式か、ホテルのカードキーのような磁気認証にしたほうが楽だろう?」


美樹本「それが何だっていうんだ?」

美樹本「磁気だろうと光だろうと厳重なセキュリティって点では一緒じゃねぇか」


三澤「いや、そうとも限らないさ」

三澤「話を進めよう。ラン君、きみのブレードキーを貸してくれないか」


ラン「…」スッ


三澤「さて、今俺の手に在るのは2号室と1号室のブレードキー。これを同時に扉に当ててみるとどうなるか…」


ピー…


カチリ


一同「!?」


美樹本「あ…開いた…!?」


高遠「そんな…!?」


沼田「え!?なに!?どうなってんの!?」


三澤「簡単な話さ。ローマ数字のTとUをそのまま横付けして、Vの形を作ったんだ」

三澤「要するにこの扉はブレードキーそのものではなく、レーザー光の形状を識別しているに過ぎないってことだ」

三澤「その形さえ合っていれば、扉は『鍵』として認識してしまう」


三澤「…つまりこの扉、『ピッキング』が出来てしまうということだ」



沼田「まさかそんな抜け穴が…」


醍醐「8号室の私は…高遠さんと赤羽根さんに結託されたらどうしようもないって事?」


美樹本「ち、ちょっと待て!俺なんかTとXだぞ!」

美樹本「お前ら思いっきり連れ同士じゃねーか!く、来るんじゃねーよ!」


赤羽根「お、おいおい」

ラン「…」


59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 23:31:56.63 ID:1p6HWAbq0


三澤「まぁ落ち着け、まだ推理の途中だ。犯人は別にいる」

三澤「ピッキングの可能性は今話した通りだが、当然ながらあの9号室の扉もその範疇ということになる」

三澤「そして9(\)号室の施錠に必要なブレードキーの組み合わせは1(T)号室と10(])号室…」


ラン「!」

モリアーティ「!」


醍醐「…ということは」


三澤「モリアーティ君、きみは何故昨晩ラン君の部屋で寝泊まりを?」


モリアーティ「そ、それは…私はただ暗いところに独りきりだと不安で…」


三澤「本当にそうか?1号室のブレードキーが入用だったからではないのか?」

三澤「君ならば、ラン君が眠ったところで彼女のブレードキーを持ち出し、あの密室を構築することができた」


モリアーティ「そんな!私じゃありませんっ!」


美樹本「…」


沼田「…」


モリアーティ「っ…」


ラン「ふん、愚かな。双剣の解放を以て咎を定めるとするのなら…(待ってください、鍵を作ることが出来るというのなら…)」

ラン「我が明鏡止水の一太刀で看破する咎を定めようぞ!!(わざわざそんな小細工をしなくても、密室を作ることも破ることも出来ますよ)」


三澤「なに…?」

一同「!?」

60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 23:34:43.46 ID:1p6HWAbq0


ラン「黒き従者に問う(目崎さん)」


黒服「はい?」


ラン「ノブル・レッドが命ず、虚なる領域の支配は何処まで広がっている?(2階にふたつ空き部屋がありましたよね?あそこはアルカードにどう指示されていましたか?)」


黒服「…特には何も…もし参加者が10名以上いた場合は、あの客室も準備する予定でございましたが…」


ラン「領域に刻まれし名は、宝瓶と双魚…(部屋番号は11号室と12号室…ですよね?)」


黒服「…そうですが?」



一同「…」



三澤「11号室…?」


高遠「あ!Ⅺ…!!」


ラン「人馬と宝瓶はこの魔城に於いては対の形態…(9『\』と11『Ⅺ』は、ひっくり返っているだけで2つとも同じ形なんです)」

ラン「虚ろなる領域を侵すことの出来る者ならば、誰しもが高貴なる紅に成り得るのよ!(つまり空き部屋から11号室の鍵を持ち出せる人間ならば誰でも犯行は可能だったということになります)」


一同「…」


61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 23:39:47.27 ID:1p6HWAbq0


2日目 昼 ネレイド城 1F 大食堂



赤羽根「犯人が絞れないんじゃ、捜査は結局振出しか…」


ラン「…」


赤羽根「まだ何か気になることがあるのか?」


ラン「古城の吸血鬼は…矢鱈と解呪の具に拘っているようね(何故、凶器がブレードキーなんでしょう?)」


赤羽根「え?」


ラン「奴ならば、地の獄より幾らでも処刑具を召喚することが出来よう(地下の串刺しの部屋には、模造刀がいくつも置いてありました)」

ラン「で、ないにしろ、この地には迷える贄を晩餐に卸す獣がこんなにも犇めいているというのに…(この大食堂にも、あちこち並んでる甲冑が携えてるのはやっぱり同じ模造刀です)」

ラン「解呪の具…彼の剣には、咎人を惹く何かが…?(お城の中、これだけ凶器に適してそうなもので溢れているのに、なんでわざわざ鍵を壊す真似を…)」


赤羽根「まぁ、言われてみれば確かに…」

赤羽根「犯人の言う吸血鬼狩りとやらの放送も、日光とか杭とかに拘ってるだけだしな」

赤羽根「わざわざアレで殺す必要は無い…か」


ラン「唄聲(…放送)」


赤羽根「ん?」


ラン(そういえばあの放送…何処から流してるんだろう?)





ピシャーン!!


ラン「!」ビクッ

赤羽根「!」ビクッ


62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 23:47:08.43 ID:1p6HWAbq0


2日目 昼 ネレイド城 1F 大食堂



ピシャーン!!


ゴロゴロゴロ…

ザアアアァァァッ…



ラン(雨…)


赤羽根「え、えらい激しく降ってきたな…目崎さん、この辺土砂崩れとか大丈夫なんですか?」


醍醐「…土砂崩れよりも、もしかして雷で停電とか起きたりしない?」

醍醐「客室のドアって言ってみれば電磁ロックなんだし、停電したらヤバいんじゃないの?」


黒服「その点はご安心ください」

黒服「資料によると、電源は地下深くのケーブルを通っているようですので」

黒服「万一の時でも自家発電に切り替わるようになっていると書かれておりました」


醍醐「…ならいいんだけど」


赤羽根「…地下?」



ドシャ―ン!!



ラン「ひえっ!?」


モリアーティ「きゃっ!?」


三澤「…今のはかなり近かったな」


黒服「城の何処かに当たったようですな」


赤羽根「…」

赤羽根「そうだ地下だ…その手があった…!」


ラン「…?」


63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 23:53:26.04 ID:1p6HWAbq0


2日目 昼 ネレイド城 1F 大食堂



ピシャーン!!


ゴロゴロゴロ…

ザアアアァァァッ…



ラン(雨…)


赤羽根「え、えらい激しく降ってきたな…目崎さん、この辺土砂崩れとか大丈夫なのか?」


醍醐「…土砂崩れよりも、もしかして雷で停電とか起きたりしない?」

醍醐「客室のドアって言ってみれば電磁ロックなんだし、停電したらヤバいんじゃないの?」


黒服「その点はご安心ください」

黒服「資料によると、電源は地下深くのケーブルを通っているようですので」

黒服「万一の時でも自家発電に切り替わるようになっていると書かれておりました」


醍醐「…ならいいんだけど」


赤羽根「…地下?」



ドシャ―ン!!



ラン「ひえっ!?」


モリアーティ「きゃっ!?」


三澤「…今のはかなり近かったな」


黒服「城の何処かに当たったようですな」


赤羽根「…」

赤羽根「そうだ地下だ…その手があった…!」


ラン「…?」


64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 23:54:31.01 ID:1p6HWAbq0
>>63

すいませんミスりましたorz
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/01(土) 23:56:30.93 ID:1p6HWAbq0



2日目 夕方 ネレイド城 B1F ?(拷問展示室)



ラン「何を視たというのだ?我が相棒よ(ど、どうしたんですか急に?)」


赤羽根「…電気室を探そうと思うんだ」


ラン「建御雷の苗床…(電気室…?)」


赤羽根「マンションとか工場みたいなでかい建物って必ずどこかに建物全体の電力を管理してる場所があるだろ?」


ラン「高貴なる紅が雷を纏いし煉獄を作り出すというの?(…つまり犯人の次の犯行は、それを利用して行うものかもしれないと?)」

ラン「まぁ、代償を冥界に差し出すのであれば不可能では…(確かにあり得なくはないですけど…)」


赤羽根「や、そうじゃなくてだな…覚えてるか?昨日跳ね橋が上がったのを窓から見たときだ」

赤羽根「あのとき、全員が食堂に集まっていたにもかかわらず橋が動かされていただろ?」

赤羽根「つまりどこかにタイマー式で跳ね橋を動かせる場所があるってことだ」


ラン「従者より定めし譜は?(…目崎さんの部屋の操作盤はどうだったんですか?)」


赤羽根「さっきもう一度見せてもらったが、やっぱりあそこにはただ上げ下げするレバーしか無かった」

赤羽根「それどころか、放送を流すための装置にしたって城内のどこにも見当たらないだろ?」

赤羽根「…もし隠された電気室がそれらを全部制御してるなら、こっちで利用して出られるかもしれない」

赤羽根「そうすれば犯人の正体はともかく、奴の…いや、ルシファーの計画を阻止することだって出来る」


ラン「!」


赤羽根「この城が遊園地用に改造されているんだったら、探すのはやっぱり地下だ」

赤羽根「というわけでこうして地下に降りて探してるんだけど…」


ごそごそ


ラン「…」


ラン(確かに…)

ラン(正門、エントランスホール、大暖炉の間、そしてこの地下)

ラン(ここまでに開ける扉は全部アナログ式で、もし電気の供給が絶たれていても開くようになっている…)

ラン(もしかしたら、ここで本当にそんな部屋が見つかるかも)




ススス…

カチ…ぐるん!!


ラン「ふぎゃっ!?」ビターン


赤羽根「!!」


ラン「は…はれ?」きょろきょろ


赤羽根「隠し通路だ!でかしたぞラン!!」


66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 00:06:43.60 ID:pBbrw7Aw0



2日目 夕方 ネレイド城 B1F 隠し通路



赤羽根「まさか燭台のひとつがレバーになっていたとはな」

赤羽根「…ありがちっちゃありがちだけど」


ラン「深淵へと誘う闇の領域か…(真っ暗…)」


シュボッ


ラン「!」


赤羽根「こんなこともあろうと、部屋からライターを持ってきた」

赤羽根「さぁ奥へ進もうか」





コツ、コツ、コツ…


赤羽根「…ラン」


ラン「?」


赤羽根「最後の悪魔は…ルシファーって言ったっけ。ランと同じ堕天使だって話だけど…」

赤羽根「奴は、いったい何だってこんなことをするようになったんだろう?」


ラン「…」


赤羽根「俺が見た事のある堕天使がランだけだからってこともあるのかもしれないが…」

赤羽根「元々天使だったやつが殺人計画の手助けをするようになるなんて、あまり想像できないというか…」

赤羽根「ランもなにかの弾みで、そういう方向に向いてしまう…なんてこともあるのかって」


ラン「フッ、愚問ね(そんなわけないじゃないですか)」


赤羽根「…だよな、まさかな」


ラン「…しかし、彼奴の凄まじき霊格、或いは波動とでも呼ぼうか(…でも)」

ラン「我が魂魄をも飲み込まんとするそれに対抗する術は無く…目方を変えれば、彼の者は私の上位存在(そういう意味で言うと、私は未だ堕天使と呼ぶのは正確でないのかもしれません)」

ラン「中庸はうつろい易く揺れ易い…そして我が真理の開闢もまた遠い(堕ちるところまで堕ちたルシファーと、堕ちきっていない私…)」


赤羽根「…」


ラン「彼の堕天使はそれを見逃さない…(まさかそのことを分かっていて、ルシファーは…)」


赤羽根「?」


ラン「…今は旋風に身を委ねるのみ(…いえ、なんでもないです)」

67 :>>1です [saga]:2018/09/02(日) 00:14:18.23 ID:pBbrw7Aw0


赤羽根「悪魔、といえば…そいつらの事件を追って…」

赤羽根「…というか、ランと出会ってもう半年ぐらいになるのか」


ラン「へ?」


赤羽根「スキーに孤島に学校に山奥の村に…あと豪華客船に乗ってたりもしたよな」

赤羽根「何度も事件の推理を助けてもらって、あっという間の半年だったな…なんて」


ラン「…??」


赤羽根「いや、なんか…いざ終わりが見えてくるとちょっと寂しくなるなって思ったんだ」

赤羽根「な、なに言ってるんだろうな俺」


ラン「…」

ラン(…忘れてた)

ラン(私…全てを終えたら、天に帰らなきゃいけないんだった)

ラン(まだまだ、赤羽根さんと一緒に見たい景色がたくさんあったんだけどなぁ…)


68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 00:18:16.57 ID:pBbrw7Aw0


2日目 夕方 ネレイド城 B1F 隠し通路 突き当りの扉





赤羽根「…っと」

赤羽根「思った通りだ。この鉄扉も電磁ロックの類じゃないな」


ラン(扉の周辺に積もった埃だけ薄い…最近誰かが出入りしていた…)


ガチャンッ


ラン「封印…?(開かないみたいですけど)」


赤羽根「いや、何かに引っかかってるんだろう。ぬぐぐ」ギギギ…


ラン「…」


ラン(犯人は殺人を続けようとしている。ルシファーは私を堕とそうとしている)

ラン(赤羽根さんの目論見が成功するなら、そのどちらも防ぐことが出来る…)

ラン(…)


ラン(でもここに至るまでルシファーは何もしていない。強いて言うならば、堂々と宣戦布告をしてきていたことだろうか)

ラン(一体奴は何を考えている?わざわざ招待状を寄越し、私と赤羽根さんをこの城に招いて…)


ラン(赤羽根さん…彼もこの舞台に上げたのは何故?)




赤羽根「よし、少しだけだが開いたぞ…」ギ…

赤羽根「ちょっと待ってろ、中を調べてくるから…」


69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 00:24:33.02 ID:pBbrw7Aw0



ラン(彼を呼ぶことでルシファーに何か都合のいいことが起こるとしたら…何が起こる?)

ラン(例えば、こうして私達が地下を探していること。それが奴の狙いだったとしたら)

ラン(…そうだ、犯人にとってもここは絶対に入られてはいけない場所のはず)

ラン(なのに何の対策もされていない…いや、もしかして)


ラン(仕掛けられているのは、部屋の外ではなく…!?)


ラン「わ、我が相棒よ!今すぐそこから離れ…」




キリキリキリ…

バンッ!!


ラン「…」



ドシャァッ…



ラン「あ…」



赤羽根「」


どくどくどく…



ラン「…」







どくどくどく…



ラン「あ…あ…!?」






70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 00:27:26.24 ID:pBbrw7Aw0


2日目 夕方 17:45時点




 A 赤羽根刑事(5号室)←DYING

 B ラン(1号室)

 C 黒羽 烈斗(推理評論家・9号室)←DEAD

 D 高遠 遙(私立探偵・3号室)

 E 魚塚 三津子(弁護士・2号室)←DEAD

 F ジェーン・S・モリアーティ(イギリス警察監察医・10号室)

 G 醍醐 瑞紀(犯罪心理学者・8号室)

 H 沼田 岳美(探偵社社長・6号室)

 I 三澤 陣(ロス市警・7号室)

 J 美樹本 洋太(ルポライター・4号室)

 K 黒服 目崎

71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 00:32:23.15 ID:pBbrw7Aw0


2日目 夕方 ネレイド城 1F 5号室(赤羽根)



赤羽根「」


ラン「…」


沼田「一体何があったの!?」


三澤「拳銃で撃たれたらしい」


美樹本「う、撃たれたぁ!?一体誰に!?」


三澤「橋を下ろそうとする奴が引っ掛かるように罠が仕掛けられていた様でな」

三澤「さしずめルール違反に対するペナルティ…といったところか」


沼田「ルール違反…?」


高遠「ランちゃんと赤羽根さん二人で脱出法を模索していたみたいなんです」

高遠「それで地下に跳ね橋の操作ができる電気室を見つけるまではよかったんですけど…」


モリアーティ「まるで狙いすましたかのような角度ですが…不幸中の幸いですね。なんとか即死は免れています」

モリアーティ「直前に何かに反応して体の軸をずらしたからでしょう」


ラン「…」


美樹本「途中退出は許さねぇ、ってことかよ…くそが…!」



ガチャッ!


黒服「モリアーティ様!救急箱をお持ちしました!」


モリアーティ「どうも、可能なら裁縫用具もあると助かるのですが…」


黒服「裁縫用具…物置の方にあったかもしれません!しばしお待ちを!」ダダッ


モリアーティ「早く病院に連れていかないと…圧倒的に設備が足りないここでは…」


ラン「…」


高遠「た、助かりますか…?」


モリアーティ「最善は尽くしますが…」

モリアーティ「…」

モリアーティ「少なくとも快方に向かわせるためには、一刻も早く設備のある場所で処置を受ける必要があります」

モリアーティ「ここでは精々衰弱死を食い止める程度の治療しかできません。もし化膿してしまえば、もう手が付けられなくなります」

モリアーティ「…この城から出られない限り、彼が刻々と死に近づいていくことだけは確かです」


ラン「…」

72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 00:38:30.04 ID:pBbrw7Aw0



ガチャッ!


黒服「あ、ありました!裁縫用具と、あと包帯です!」ぜぇ…はぁ…


モリアーティ「ありがとうございます。止血できれば一先ず急場は凌げますからね」


黒服「ええ…どうも…」はぁ…ふぅ…


美樹本「ちくしょう…こうなったら…」ブツブツ…


高遠「…?」






ラン(…気付けていた)


ラン(私は気付けていた…なのに、なんでこんなことに…)


ラン(どうして赤羽根さんが…)


73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 00:44:48.02 ID:pBbrw7Aw0


2日目 夜 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)前



美樹本「くそっ、くそっ」


ガリガリ…ガリッ!!


沼田「ちょっとアンタ何やってんの!?」


美樹本「殺されてたまるかっ」


沼田「え?」


美樹本「考えても見ろ。魚塚と黒羽がやられてんだぞ。犯人は明らかに俺たちを狙ってる」

美樹本「こっから出られないんじゃ、身を守るには閉じこもるしかねぇだろ!」


沼田「…だからそれは気のせいって」


美樹本「あー、はいはい、そうかもな」


ガリッ、ガリッ


沼田「か、考え過ぎだってば。だって、動機はなんだっていうの?」

沼田「第一あのことを知ってる人なんて私たち以外に誰も…」


美樹本「とにかく俺は、生き延びるために何でもやってやるんだ!」


ガリッ、ガリッ


沼田「ていうか、だったらなんでドアをガリガリしてんの」


美樹本「要するに外から開けられなきゃいいんだ…」

美樹本「こうやって、扉の外側だけ壊しちまえば…!」


ピー…


沼田「外側だけ…?」


美樹本「…これでもうレーザー光を扉の何処に当てても反応しなくなった」

美樹本「こうしてしまえば、このドアの鍵を開けられるのは部屋のなかにいる人間…つまり俺だけってことになる」

美樹本「ピッキングなんて関係ねぇ。たとえ犯人が俺と全く同じ鍵を持っていたとしても部屋には入れないって寸法だ」


沼田「でも、これ…逆に外から戸締りできなくもなったってことで、例えばアンタが部屋出てる間は入りたい放題じゃ…」


美樹本「わかってる。だから俺は金輪際部屋を出ない。ずっとこの中に籠る」


沼田「…」


美樹本「俺だけは絶対に生き延びてやる…」






??「…」

74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 00:51:55.09 ID:pBbrw7Aw0


2日目 深夜



ラン「…」


ランの部屋。

眠った方が良いですよとモリアーティに促されるままに、ランは自室に押し込まれていた。


ラン「…」


眠る気にはなれなかった。玄関を背に、ただぼうっと立ち尽くしていた。

記憶能力を使うまでも無く脳裏に焼き付いてしまった、赤く染まった相棒の姿が彼女の足を止めていた。


ラン「…」


…確かにこれではまともな推理も出来そうにない。モリアーティの言う通り、一度眠った方が良いかもしれない。

言うことを聞かない体に鞭を打つものの、寝室に向かう足取りはふらふらと、まるで彼女自身の脚とは思えないものだった。


ラン「…?」


そうして遠い道を這いずる途中、ランはぼんやりと光る何かを見咎めた。窓の外だ。

光ったのは真正面。中庭の出入り口のさらに向こう。つまりあそこは…


ラン(物置?)


夕方に降っていた雨は止んでいたものの、空はまだ雲に覆われている。

碌な明かりも無い闇夜に覆われた中世の中庭は、1メートル先も見えない有様である。

だがそれでも、遠方で点るその緑色の光だけは堕天使の右目にハッキリと映った。


昨日の夕食前にさんざん遊んで見慣れた、扉の施錠(或いは開錠)を示す緑色の光。


ラン(物置…)


とっさに彼を治療するための裁縫用具と包帯があった場所だ…と連想してしまう。


ラン「…」


割り切れなかった。些細な切っ掛けでフラッシュバックしてしまう。考え出すと止まらない。

彼の為に今できることはもう無いのだろうか、と。

あるいは、もっと早く警告していれば、彼を救うことが出来ていたのだろうか、と。

愚かしい願望と何も生まない後悔だと頭脳で理解しつつも、彼女はこの堂々巡りの自己嫌悪を終わらせることができなかった。






彼女はまだわかっていない。

その感覚は、自分がルシファーのように真に堕天しつつあることを意味していると。

75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 01:01:08.32 ID:pBbrw7Aw0


2日目 深夜



高遠(…あれ?)



高遠遥は冷たい地面の上で目が覚めた。

覚醒しきっていない意識のなか、少しずつまわりの状況を確認する。


寝ているところはベッドの上では無い。それどころか自分の部屋ですらなかった。

ぽつぽつと燭台を模した常夜灯が並んでいる。けっこう広い場所だ。前に見たような…

というか、そもそも私は何故わけのわからぬところに突っ伏しているのか。


高遠「ん…んっ?」


起き上がろうとしたが、動作はそのままに反対側に倒れ込んでしまった。

手足が言うことを聞かなかった。

否。

いうことを聞かせない布のようなものがぎしぎしと巻き付いていたのだった。

両手首。両足首。そして口にも。一体どういうことだろうか。


高遠「…」


なんとか振り解けないかともがいているうちに、

遠くからコツコツとこちらの方へと階段を下りていく音が聴こえた。

階段?地下?…そうか。

ここは拷問展示室だ。

動かせる範囲で首をまわすと、見た事のある模造刀や死体を模した人形たちを見つけた。

前に見た時と変わらないはずなのだが、ただ事ではない自分の状況とあいまって不気味な様相に見えた。


コツン、コツン、ギィッ…


高遠「!」


地下に降りてきた人間はフードのようなもので体を覆っていたが、そこからはみ出す袖口は自分たちと同じく吸血鬼の衣装だった。

この光景に動じていない辺り、どうやらこの謎の人物が私をここに運び込んだのだろう。

しかし、自分に何をするのかと思いきや、謎の人物はこちらを一瞥するなり、そのまま視界の外に消えていってしまった。


高遠「…?」


76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 01:04:11.61 ID:pBbrw7Aw0


高遠「…?」


…そのうち妙な音が部屋に響き始めた。

ぷちぷち、何かがちぎれるような音。

しゅーっ、噴き出す水のような音。

ぐぶぐぶ、喘ぐとも溺れるともつかない呻き声。


高遠「…」


やがて静かになり、ずるずると音を立てながらフードの人間が戻ってきた。何かを引きずっていた。

それは沼田岳美だった。短剣で胸を貫かれ絶命していた。彼女から噴き出す鮮血で道が出来ていた。

…屍と目が合う。だが合っていない。それは何も見ていない。もうその中に沼田岳美は居ない。


高遠「…」


ようやっと状況を飲み込んだ。生存本能が警鐘を鳴らす。

想像力が自慢の彼女ですら、その残酷な真実を導き出すのは、ましてやそれを直視するのは困難なのだ。



高遠「…」


べしゃ。

血と臓物の詰まった『袋』を放し、フードの人間は此方に近付いてくる。

こつこつこつ。

顔は見えなかったが…そいつはまるで命の無い道具を見るかのようで…


高遠「…」


高遠遥は悟っていた。

もう自分に残されている時間は無いに等しいのだと。




77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 01:09:58.65 ID:pBbrw7Aw0


3日目 早朝 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)前 廊下



モリアーティ「な、なんですかこれ…!?」


三澤「どうした」


モリアーティ「三澤さん…見てください、美樹本さんの部屋のドアが…」


三澤「…ああ、そういえば何かしていたな」


モリアーティ「はい?」


三澤「詳しく聞いたわけじゃないんだが、昨夜沼田君と何か言い合っているのを見かけたんだ」

三澤「なんでも、こうして扉の外側だけ壊してしまえば、中にいる自分しか開けられないから安全だ…とかなんとか」


モリアーティ「は…はぁ、そうですか。それはまた思い切った事をしましたね」

モリアーティ「私はてっきり、また犯人がなにかを仕掛けたのかなって…」



コツ…


ラン「…」


モリアーティ「おはようございます。ランちゃん、よく眠れましたか?」


ラン「その、彼岸を遮る白蛇の威光は…(赤羽根さん…は?)」


モリアーティ「今のところは小康状態を保っていますが、それでも油断はできません」

モリアーティ「倒れてから一度も意識が戻っていないのも気がかりです」

モリアーティ「だから…もう一度会いに行ってあげてください。朝食の後にでも」


ラン「…ん」


78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 01:12:57.57 ID:pBbrw7Aw0


コツコツコツ…


醍醐「変なところで集まってるのね、皆。目崎さんが支度できたって。食堂に行きましょ」


三澤「そんな時間か。…だが彼はどうする?」チラ


醍醐「ん…美樹本さんのこと?…まぁ放っとくしかないんじゃない?」

醍醐「そんな風に閉じこもるくらい被害妄想膨らませてたら、こっちが何やったって効果ないわよ」

醍醐「錯乱状態で暴れないだけまだマシ…あら?」


コツコツ

ピラッ


醍醐「『朝食が出来たら黒服にここまで料理を運ぶよう頼んで欲しい』…ですって」


三澤「自分本位な奴だな」


醍醐「…行きましょ、皆」


ラン「…?」


モリアーティ「どうかしましたか?ランちゃ…」



アルカード『名探偵諸君、お待たせした』





一同「!?」


ラン「紅き宣告…!!(アルカード…!)」


アルカード『第三の殺人の幕開けだ。今度の吸血鬼は十字架にやられてしまったようだ』

アルカード『フフ…フハハハハッ!!!』


ラン「次なる惨劇は主神の御許…!!(十字架…礼拝堂か!!)」

ラン「きさまぁっ!!!」ダッ


モリアーティ「ま、待って!ランちゃん!」


79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 01:18:25.86 ID:pBbrw7Aw0


3日目 早朝 ネレイド城 1F 礼拝堂



沼田「」

高遠「」




三澤「今度は二人…また見立てか…!」


ラン「く…ぅっ!」


モリアーティ「沼田さんは死後3時間から4時間ほどでしょうか…」

モリアーティ「死亡推定時刻は未明の午前3時から4時」

モリアーティ「流れた血の量が妙に少ない。そして死体の上部にも死斑が…」


醍醐「いったい犯人は何人殺せば気が済むのよ…!!」


モリアーティ「黒羽さんの時と同様に彼女も何処かで殺され、ここに運ばれてきているみたいです」

モリアーティ「高遠さんの方は…」



高遠「…ぅ…ん」



一同「!?」


三澤「ぶ、無事なのか!?」


ラン「瞳を持つ者よ!覚醒せよっ!!(大丈夫っ!?)」


高遠「…ごめん、あまり大きな声出さないで…頭がズキズキする…」

高遠「そうだ…!沼田さんが!」がばっ

高遠「…」


醍醐「私達はさっきアルカードの声を聞いて駆け付けたところなの」

醍醐「高遠さん、貴女はいつからここに…」


高遠「…私」


ラン「…?」


高遠「…」ぶるぶる


三澤「一体どうなっているんだ?」


醍醐「気が動転してるみたいだから、落ち着かせましょう」



高遠「ご、拷問展示室で、私、沼田さんが、それで…」


ラン「…」


三澤「拷問展示室…!?」


80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 01:22:44.52 ID:pBbrw7Aw0


3日目 早朝 ネレイド城 B1F ?(拷問展示室)



三澤「本当だ…この血溜まりは…」


モリアーティ「間違いありません。沼田さんのものでしょう」


ラン「…」


三澤「答えてくれ。昨夜高遠君もここにいたということだな?」


高遠「…うまく思い出せなくて…でも多分部屋に戻ろうとした時に襲われて…」

高遠「気が付いたら手足を縛られて…それで…!」ぶるぶる


三澤「高遠君、きみは犯人の顔を見たか?」


高遠「わか、ら…ない…」ぶるぶる


三澤「よく思い出すんだ!」グッ


高遠「い、痛…」


醍醐「ちょっと!」


三澤「何だ」


醍醐「さっきから幾らなんでも強引過ぎるんじゃない?彼女は危ない目に遭ったばかりなのよ」


三澤「もう三人も殺されているんだぞ!落ち着いてられるか!」

三澤「それに、彼女は少女とはいえ探偵なんだろう。殺人現場も初めて見たわけではあるまいに」


醍醐「見るのと見せられるのとでは受ける『キズ』の深さが違うんだっての」

醍醐「ショック状態の時に無理やり思い起こさせるより、いったん整頓させた方が正確な情報を思い出せるの」

醍醐「ったくこれだから素人は…悪いことは言わないから、今は現状確認と推理に留めなさい」


三澤「…しかし、かといって今の状況だけではまともに犯人の特定ができんだろうに」


81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 01:24:55.55 ID:pBbrw7Aw0


ラン「ならば、骸から終の閃光を嗅ぎ分けるしかないようね…(…被害者を最後に見た人間は誰でしょうか?)」


三澤「…そうか、そのアプローチがあったな」

三澤「確か昨日は例の赤羽根君の騒動で一旦全員が5号室に集まっていた」

三澤「そのあと彼を残し全員で食堂に行き夕食を摂って…それからは?皆真っ直ぐ部屋に戻ったか?」


モリアーティ「私はランちゃんと一緒にもう一度赤羽根さんの部屋に戻りましたけど…」

モリアーティ「食堂にはまだ被害者の二人は残っていたので、わかりません」


醍醐「その次に食堂を出たのは多分私。部屋に戻る途中までは高遠さんとも一緒だったわ」

醍醐「一緒に中庭の入口の辺りで割れた天窓を見つけて…」


モリアーティ「天窓?」


醍醐「ええ。中庭の天窓に雷が直撃したみたいで、雨が降り込んでたのよ」

醍醐「だから何だって話だけど…でもそこで高遠さんと別れるまで、彼女が無事だったのは確かよ」


三澤「…俺が食堂を出たのは最後だった」

三澤「部屋に戻るとき、扉を細工している美樹本と沼田が話しているのを見かけて…」

三澤「待てよ。ということは、沼田君と最後に会っていたのは美樹本君ということになるのか?」

82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 01:31:10.13 ID:pBbrw7Aw0



3日目 朝 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)前 廊下



コンコン


三澤「美樹本君、開けろ、沼田君が殺されたんだ!」

三澤「いるんだろう?返事をしろ!美樹本!おい!!」


シーン…


醍醐「寝てる…なんてことはないわよね」


モリアーティ「先程の放送は彼にも聞こえていた筈です」

モリアーティ「犯行声明を受けても何もアクションを起こしていないのは…いくらなんでも不自然では?」


三澤「待て」ピタ


醍醐「…中から怪しい気配でもするの?」


三澤「シッ」


モリアーティ「?」


三澤「水の音…?」

三澤「嫌な予感がする。下がってろ」


醍醐「え、ちょっ、まさか!?」


ガッ!バキッ!!


一同「!!」


三澤「美樹本!どうした、返事をしろ!」







3日目 朝 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)内 浴室



ガチャ…


ラン「っ!!」


モリアーティ「きゃ…!?」










ジャァァァァァッ…

美樹本「」

83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 01:34:28.53 ID:pBbrw7Aw0


3日目 朝 8:53時点




 A 赤羽根刑事(5号室)←DYING

 B ラン(1号室)

 C 黒羽 烈斗(推理評論家・9号室)←DEAD

 D 高遠 遙(私立探偵・3号室)

 E 魚塚 三津子(弁護士・2号室)←DEAD

 F ジェーン・S・モリアーティ(イギリス警察監察医・10号室)

 G 醍醐 瑞紀(犯罪心理学者・8号室)

 H 沼田 岳美(探偵社社長・6号室)←DEAD

 I 三澤 陣(ロス市警・7号室)

 J 美樹本 洋太(ルポライター・4号室)←DEAD

 K 黒服 目崎


84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 01:37:10.05 ID:pBbrw7Aw0


3日目 朝 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)



バチャバチャ…



モリアーティ「…死亡しています」


三澤「見ればわかる。一面血の海だ」

三澤「だが、一体何だこの現場の状況は…今度は何を意味している?」

三澤「それにこの遺体の姿勢…まるで美樹本君が自決でもしたかのような…」


ガタッ


一同「!?」


黒服「美樹本様…!?」

黒服「皆様、先程の放送といい、一体何があったのですか!?」


高遠「…目崎さん?今まで何処に?」


黒服「…大食堂の厨房で朝食のご用意をしていました。時間になっても皆様が現れないので不思議に思っていたのですが…」


醍醐「え…あの放送を聞いた後、まっすぐここに来たっていうの?」

醍醐「随分遅かったのね…」


黒服「…」


三澤「そんなことより皆、これを見てくれ」

三澤「カセットテープだ。参加者の私物は全て没収されていたんじゃなかったか?」


カチ



『名探偵諸君、今までご苦労だった』



三澤「…」

モリアーティ「アルカードの声…!?」


85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 01:39:55.07 ID:pBbrw7Aw0

『これがネレイド城ミステリーナイトの結末だ』

『今回の事件は私アルカードこと美樹本洋太が…』

『魚塚美津子、黒羽烈人、沼田岳美の3名を殺害するために計画したことである』


ラン「…」


『私と魚塚美津子、黒羽烈人、沼田岳美はかつて同じ大学のサークルに所属する仲間同士だった』

『社会に出てからは、各々の分野で成功するために一つの事件を全員で協力し合い、手柄を分け合っていた』

『私が証拠を集め、沼田が犯人を捕まえ、魚塚が法廷で裁き、黒羽が世論を煽る…そうやって我々はのし上がっていった』

『だが、奴等は次第に証拠集めを警察のコネで補い始めた。そして最大の功労者であるはずの私の取り分さえも減らしていったのだ』

『日に日に増していく、奴らからの侮蔑と迫害の視線に耐えきれなくなった私は、復讐を決意したのである』


醍醐「…」


『惨劇の舞台は、かつて我々が所有していたこの地に建つ古城が相応しいと思った』

『そして目的を悟られぬよう、吸血鬼を名乗る狂人の犯行に見せかけながら、一人づつ奴らを殺していった』

『凶器にブレードキーを使ったのは、殺人犯の異常性を強調し、推理をかく乱させるためだった』


三澤「…」


『復讐を終えた今、私もまた彼等3人と同じ吸血鬼として命を絶つことで事件の幕を下ろすことにする』

『流水にその躰を蝕まれた、最後の吸血鬼として…』

『そしてこの音声を聞いているということは…残念ながら、ゲームの勝利者は現れなかったということだな…』



『ハハハ…ハァッハッハッハッハ…!!!』



一同「…」


黒服「こ…これで事件は終わったんですね!?」

黒服「もう誰も死ぬことは…」


ラン「これは幻影…!(違う…!)」


黒服「?」


ラン「これが観測の徒による贖罪の旋律ならば、ノブル・レッドの外套など不要!(美樹本さんが本当に犯人だったらアルカードの声で遺言をのこす理由なんて無い)」

ラン「咎を持つ者は暗雲に隠れ、我が観測から完全に逃れようとしている…!(真犯人は美樹本さんに全ての罪を着せ、この事件を終わらせようとしているんです)」


三澤「コレがさしずめ真犯人による第四の殺人だとでもいうのか?」

三澤「…ラン君、それは考え過ぎだ」

三澤「君もここの扉を見ただろう。この部屋は外部から完全に遮断されていたんだぞ」

三澤「たとえ部屋の鍵がもう一本あったとしても、扉を開ける事は出来ないんだ」

三澤「それを見越した密室だろう。これは紛れもなく美樹本君の自殺と見るべきだ」



ラン「…」


ラン(絶対に違う…)

ラン(だって、この事件の裏にはルシファーが…!)

86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 01:53:24.94 ID:pBbrw7Aw0



目を覚まさぬ相棒の傍らで堕天使の少女は蠢いていた。


彼を助ける手立てがない。

秩序を守る彼は正義の味方であるはずなのに、何故世界は彼の味方をしてくれないのか。


刻一刻と目の前の身体が屍に変わっていく恐怖に震え、同時にその身を支配しつつある感情に自分で驚いた。

その感情は、彼が凶弾に倒れたときからずっと膨らみ続けているのだ。


『これ』は一体何?


堕天使の少女は人間界に降り立ち、痛ましい犠牲者の姿を何人も見て、その度正義に燃え咎人に怒りを抱いた。

しかし今彼女がルシファーに抱く『これ』は、今までの咎人への怒りが薄っぺらく感じてしまえるほどに、特別な感情だった。


特別…?


おかしい。かつて彼女はこれとよく似た光景を目にしたことがあったはずだ。

初めて出会った日。雪降るロッジにて、犯人の手にかかり重傷を負った彼をベッドのそばで見守っていた。


その時と何が違う?

否、あの時の光景と全く変わらない光景である。

にもかかわらず今、堕天使の少女は酷く心を乱されていた。

目の前の彼を失うことが他の誰を失うことより恐ろしい。


それは、人の子を『平等に愛す』主神の使いとして、あってはならぬ感情だった。





彼はこの世界に不要な存在か?




彼が死に、咎人がのうのうと生を謳歌する、それがあるべき世界か?




ならば咎人が法の下に罰を受け、粛々と日々を暮らす。それで自分は満たされるのか?




たとえ『父』の意に反したとしても、自らの手で裁いてみたくはないか?




自分の手で、咎人を断罪したいと、ほんの少しでも思わなかっただろうか?



87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 01:57:55.78 ID:pBbrw7Aw0



そう。この感情は復讐心だ。

自分らが断罪してきた全ての咎人が抱いていた感情。

そして、自分がこれまで否定し続けてきた感情。



もし彼が死んでしまったら。

私は、ルシファーを…



混濁する思考と心の中で何かが胎動するような異物感、そして込み上げる吐き気。

邪悪な復讐心に侵されし頭脳は上ってくる血をどす黒く濁らせる。濁った血は全身を巡り、それが悪魔の羽を育てる恵みとなる。


純真無垢なる天使の羽根は今まさに、闇より黒き漆黒に染まろうとしていた。









赤羽根「…ゃ…ぅ…」



ラン「…!?」



………


……




88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 02:05:59.86 ID:pBbrw7Aw0


傲慢を冠する堕天使は、妹の姿を見て訝しむ。


(…何があった?)


さっきまではあんなに憔悴しきっていたのが嘘のように、ランの両眼は燃えていた。

彼女を見て状況の進展を察した英国医師が、慌ててあの刑事の部屋に急ぐ。

おそらくそういうことなのだろう。


(ここまでボクのシナリオ通りに事が進んでいるはずだが…?)


本来ならばこの時点で堕天の成立である。

最愛を失ったものは運命を呪い、それを定めた神を呪う。

そうして父君から見放された天使の背からは、黒く美しい羽根が咲くのだ。


だが傲慢の堕天使は、ランのその立ち振る舞いに明らかな違和感を感じ取った。

あの刑事が最期に何か吹き込んだのだろうか?


復讐心を植え付けられた者は、例え天使であろうとその力に抗うことは出来ない。

だが、それでも。曲がりなりにも彼女は主神が遣わした大天使、先陣の姫君である。



(万が一、ボクの謎を打ち破る何かを掴んだのだとしたら…)





事実、ルシファーの懸念は的中していた。

大天使ランの瞳は、揺るぎ無い正義に燃えていた。



天神の名の下に。

闇に飲まれし真実を両腕で掬い上げて見せるために。



89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 02:10:47.37 ID:pBbrw7Aw0


3日目 昼 ネレイド城 B1F ?(拷問展示室)



ラン(犯人は犠牲者を吸血鬼の弱点に見立てて殺している)

ラン(初めは杭、次に日光、十字架、そして流水)

ラン(どうして犯人はそんな面倒な事を…?)


ラン「…」チラッ


ラン(昨夜この部屋で沼田さんが殺された…そしてその場には高遠さんもいた)

ラン(二人をわざわざ人目につかないこの部屋まで運んでいるということは…)

ラン(犯人は、やろうと思えばここで二人とも殺すことだってできたはず)

ラン(だとしたら、何故高遠さんは殺されなかったんだろう?)


ラン(そこには絶対に重要な意味があるはず…)



高遠「あ、こんなところにいた」



ラン「!」びくっ


高遠「やっぱりランちゃんも、事件はまだ終わってないって思ってるんですね!」

高遠「…どうかしました?」


ラン「い、いや…」

ラン「瞳を持つ者よ、やはり其方も…」


高遠「実は私もこの事件は一筋縄じゃないって気がしてるんです」

高遠「そう…これは終焉の序曲…狂信者が太古の神獣を復活させるために幾人もの生贄を…こ、こほん」


ラン「…」


高遠「それはさておきランちゃん!」

高遠「私…あの密室トリックの謎が解けた気がするんです!」


ラン「え…!?」


高遠「犯人はやっぱり、二本のブレードキーでピッキングを行ったんですよ!」


ラン「むむ…?ならば、あの強固なる関門を如何に躱すというのか?(でも、あの扉は外側からは開けられなくされていたんですよ?)」


高遠「外側からではなく、内側から開けたんですよ!」



高遠「中庭の窓越しにです!!」



ラン「…」


90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 02:16:46.69 ID:pBbrw7Aw0


3日目 昼 ネレイド城 1F 中庭 4号室の窓近く


高遠「犯人は昨晩、美樹本さんをどうにか言いくるめて部屋の中に入れてもらい、そこで殺害したとしましょう」

高遠「そして死体を浴槽に運んで、さも自殺をしたかのように現場を偽装して、鍵をかけずに立ち去ったんです」


ラン「解放の剣を鞘に…?(鍵を…?)」


高遠「ええ。この推理のミソは『殺した時間』と『部屋を密室にした時間』が別々であるということなんです」


ラン「…」


高遠「部屋が密室になったのは今日の朝…アルカードの放送で皆が礼拝堂に集まって私たちを見つけたとき…」

高遠「まず犯人はランちゃんの持っている1号室の鍵とモリアーティさんの預かってる5号室の鍵をコッソリくすねます」

高遠「そして、みんなの目を盗んだ犯人は急いでココまで走って窓越しに施錠し、何食わぬ顔で戻って鍵を戻したんです」


ラン「…」


高遠「私達が運ばれた場所と実際の殺害現場を別にしたのは、みんなをあちこち移動させてピッキングの時間を稼ぐためだった…」

高遠「…ってことになりませんかねっ!?」


ラン「…ん」

ラン「術式に致命的な綻びは無い。が…(確かにその方法なら犯行は可能かもしれませんが…)」


高遠「…な、なにか問題点が?」

91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 02:21:02.26 ID:pBbrw7Aw0
ラン「半月を象りし追憶の大地を見よ(足元を見てください)」


高遠「はい?」きょろきょろ


ラン「天より涙が注ぐ白昼夢…地母の掌は雫を吸い、我等の導を遺している(昨日の雷で天窓が壊れたせいで、昼から夕方にかけて雨が降りこんで中庭の土がぬかるんでいますよね)」

ラン「そしてその地母の掌は罪人と我等を等しく包むはずである(もし貴女の推理通りだったとするなら、ココまで歩いてきた犯人の足跡が残っているはずです)」

ラン「なればこそ、あの月下に半月の地を侵した者はいない(それが無いということは、昨日の夕方から現在までの間、中庭に入った人はいないということになります)」


高遠「…うむむ」

高遠「あ、でも、ブレードキーの光はレーザーですからここまで近づかなくても届きます」

高遠「犯人はあそこの中庭の入口から、ピーッと光を伸ばしてピッキングして…!」


ラン「遥か彼方の地より解放の儀を行った…?それは人間の理を超えし者のみに許された業…(あそこまで遠くから二つの光をピッタリ合わせる…というのは至難の業でしょう)」

ラン「そして高貴なる紅の牙が開かれし時、我等は煉獄の結界に触れていた(それにまだ高遠さんに話してなかったんですが、今朝の放送の前に4号室の扉が閉まっているのは皆で確認しているんです)」

ラン「即ち、神の御許や地の底にて蠢く狂宴は、解放の剣を支配せし幻惑を創りだしてはいなかった(ということはやっぱり、朝の混乱に乗じて私達の鍵がトリックに使われたということは無かったんだと思います)」


高遠「うぅーん…」

高遠「かくなる上は、犯人が夜のうちにどーにかしてランちゃん達から鍵を奪った…なんてことは…」


ラン「…解呪の法を闇夜に溶け込ませる…というのならば、刹那を極めし閃光も針と糸程度にはなるのかも知れない(確かに夜中のうちに充分な時間をかければ、あの入口から鍵を合わせられる…かもしれませんが…)」

ラン「しかし半月の地母が闇に飲まれているのだ(夜の中庭は真っ暗闇です。遠くからではどのあたりに目的の部屋の窓があるかも分からない状態になります)」

ラン「いくら刹那を極めようとも、瞳を失った射手は閃光を放てない(なにか目印や基準になるものがなければ、どうすることもできないと思いますよ)」


高遠「…」







高遠「やはり犯人は浮遊能力と時間停止能力と肉の芽を駆使する吸血鬼…!?」


ラン「…」ぐにゅー


高遠「ふにゅにゅにゅ…」

92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 02:27:07.79 ID:pBbrw7Aw0


3日目 昼 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)


高遠「何回調べても、隠し通路や抜け道になりそうな隙間は見つからないですね」

高遠「もし犯人が壁を透過する能力を持っていないと仮定するなら…」

高遠「…そう、犯人はもしかしたら自身の肉体を蝶や蝙蝠の群れに変化させることが出来るのかも…!!」ぽわぽわ


ラン(…そういえば あの遺言…高遠さんを襲ったことについて触れていなかった)

ラン(もしかして彼女の件は犯人にとって予定になかった事だったのかな…?)


高遠「…痛っ!」


ラン「?」


高遠「っあ、大丈夫、切っただけ。たいしたことじゃないの」

高遠「壁のここがバリみたいになってて、そこで…」


ラン「獣の爪痕…(バリ?)」


高遠「うん、ほらココの…」


ラン「…」


ずいっ


高遠「え?」


ずいっ


高遠「ランちゃん?ひゃっ!?近…」


ずいずいっ


高遠「ハッ!?ま、まさか、滴る血に誘われて吸血鬼の衝動が!?」

高遠「考えてみれば貴女のその紅眼銀髪のルーマニアンな外見…やはり貴女が吸血鬼だったのねっ!?」

高遠「まま、待って!確か人血の人間が血を吸われたらその人も吸血鬼に…滅茶苦茶そそられますけどっ」

高遠「え?えー!?でも心の準備が…ああっ!?それともまさかのあんゆりならぬらんゆりがキテ…」


カリカリ…


ラン「原罪の証…!(この形…!!)」


高遠「…ほぇ?」


ヂャカッ

ラン「我が封印の剣と共鳴せんとする刻印とは…只ならぬ宿命を感じるわ…(ブレードキーの切先とぴったり合う…ということは…)」


高遠「…吸わないんですか?」


ラン「?」


高遠「血…」


ラン「ち?」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 02:33:30.32 ID:pBbrw7Aw0


3日目 昼 ネレイド城 1F 大広間



ラン「高貴なる紅の放つ蠱惑の術が、生贄を奴の眷族へと変えたことはわかっている(…犯人が美樹本さんを自殺に見せかけて殺害したのは間違いない)」

ラン「だが、奴の術は果て無き迷宮の様に我がロゴスを阻む…(でも、犯人が吸血鬼に拘った意味も、高遠さんを襲った理由も、密室の謎も解けていない)」

ラン「この迷宮で私を導くアリアドネ…我が両眼はそれを捉えることが出来るのだろうか…(まだ全然わかんないことだらけだなぁ…)」


高遠「…そうだ」


ラン「?」


高遠「私としたことが…もう一つの可能性を見逃していましたっ!」

高遠「美樹本さん殺しの時犯人は、ずっと密室の中に隠れていたんじゃないでしょうか!?」


ラン「咎人が、結界の中に潜んでいた、だと…?(隠れていた…?)」


高遠「そうです!犯人は密室の中に隠れていて、遺体発見のドサクサに紛れて合流していたんですよ…!!」


ラン「…」


高遠「犯人は、美樹本さんを殺害してからずっと部屋の中に隠れていた」

高遠「そして私達が扉を破って中に入ったときに、何食わぬ顔で合流していた…」

高遠「水を出しっぱなしにしていたのは、みんなにあの音を聞かせて浴室に誘導し、自分が隠れている寝室に入られないようにするため」


ラン「瞳を持つ者ながら破滅を呼ぶ綻びは少ない。が、羽根を休めし領域を侵さぬ摂理としては、やはり脆い(…確かにそれで理屈は通りますけど、それでも寝室を探られる可能性はゼロでは無いですよね)」

ラン「凶刃に身を任せたノブル・レッドはその咢を鮮血に染める。その凶罪が証を如何に隠すというの?(それに、返り血や遺体に水を浴びせる時に濡れてしまう自分の衣服の問題はどう説明しましょうか…?)」


高遠「それは…本当は、ここのドアは鍵がかかっていたんじゃなく、開かないようにされていただけなんじゃないでしょうか」

高遠「内側に細工の後はなかった…だから多分、ランちゃんたちがドアを確認した時は犯人自身がドアを塞いでいた」

高遠「アルカードの放送で皆が礼拝堂や地下室を調べているうちに、犯人は自室に急いで着替えて戻ってきた」

高遠「ほら、思い出してください!」

高遠「美樹本さんの遺体を発見したとき、不自然に遅れて出て来た人がいました…目崎さんです」


ラン「…」


高遠「彼くらいの体格なら、全力で走れば間に合うんじゃないでしょうか…!」


ラン「ふむ、ノブル・レッドが仕掛けた幻術はその瞳に真なる姿で現れた…という仮の真理を定めよう(…なるほど。犯人がそんな風に偽装していた可能性は捨てきれません)」

ラン「彼の大術は吸血鬼に厳密なる刻と座標を要求し、それら全てを捧げうる者は確かに黒き従者ただ一人であろうが…(そして、確かにそれが可能なのは目崎さんだけでした。けど…)」


高遠「けど?」



ラン「彼の者は古城を駆けし翼を捥がれている…(目崎さんは全力では動けなかったと思いますよ)」


高遠「…え?」


94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 02:37:55.91 ID:pBbrw7Aw0


3日目 昼 ネレイド城 1F 大食堂




黒服「…」


高遠「ど、どうしたんですか!?その足の腫れ…」

高遠「いつのまにそんなことに!?」


ラン「我が相棒伏する追憶の境界に(昨日、赤羽根さんのための包帯を取りに行った時です)」


高遠「…そういえばあの時、目崎さん妙に息があがってたような」


ラン「闇に溶けた城の中、黒き従者はその身に楔を受けた(それだけじゃなく、あのとき足も引きずっていたんです)」

ラン「癒やしの紐と引き換えに…楔は従者の足に呪縛を巻き付けて(取りに行く途中でなにかあったんですよね?目崎さん)」


黒服「…何かあったというよりは、私自身がしてしまったと言うべきでしょうか」

黒服「物置を開けようとしたときに扉がうまく反応してくれなかったもので、力任せに蹴破ってしまって…」


高遠「け、蹴破った…」


黒服「無我夢中だったもので、つい…それで、物置から包帯を運ぶことは出来たので良かったのですが」

黒服「その際に、その、足をひねってしまったようで、後から痛み出しまして…」

黒服「おまけに扉の方は蹴破った衝撃で壊れてしまったのか、うんともすんとも言わなくなってしまいまして」

黒服「仕方が無いので今は開けっ放しにしております」


高遠「ははぁ…」


ラン「…こほん。全ての因果は、黒き従者を鎖で縛る結果へと収束した(原因はさておき、そういうわけで目崎さんは全力で動けなかったんです)」

ラン「即ち、瞳を持つ者よ…其方…の…(だからさっきの高遠さんの推理…は…)」

ラン「…」


高遠「ランちゃん?」

黒服「ラン様?」


ラン「…」



たたたっ

95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 02:47:21.57 ID:pBbrw7Aw0


3日目 昼 ネレイド城 1F 物置前




ラン「…」


高遠「どうしたの?」


カチ、カチ


ラン「剣に応えない…何故だ…!?(嘘…認識しない…!どういうこと…!?)」


高遠「さっき物置のドアが故障したって聞いたばかりですけど…」


ラン「煌く解放の光は、古城を覆う闇をも裂いていたというのに(私は昨夜、部屋の窓からこの扉が光ってるのを見た)」

ラン「護法の界が既に焦げ付いていたなんて…!?(なのに何の反応もない…)」


高遠「…へ?」


ラン「境界線は闇に飲まれていた(この扉は昨日の夕方の時点で壊れていた…)」

ラン「ならば、何故我が瞳は解放の光を捉えたのだ?(だとしたら何故、私は扉の光を見た?)」


ラン「…」


ラン「そうか…なんで今まで気付かなかったんだ…」



ラン(犯人はあれを使った。だから犯人は、高遠遥を襲わなければならなかったんだ…)



ラン(ということは…)

96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 02:53:04.39 ID:pBbrw7Aw0


3日目 昼 ネレイド城 1F 4号室(美樹本)



モリアーティ「…確かにその可能性はあります」

モリアーティ「彼の死亡時刻は殆ど状況証拠によって割り出されたといってもいいものですから」

モリアーティ「しかし…にわかには信じられません。本当にそんなことがあり得るのか…」


ラン「フッ、封印は解かれたぞ!(…やっぱり)」


高遠「どういうこと…?」


ラン「咎人が高貴なる紅の外套に固執した理由は之だ!!(だから犯人は吸血鬼に見立てて殺人を繰り返したんですよ…!)」


高遠「??」




ラン「万物の事象が我が魂に語り掛けてゆく…(わかりました…!)」

ラン「吸血鬼の円卓と成り果てた鉄檻の真実も(美樹本さん殺しの密室の謎も)」

ラン「瞳を持つ者を手にかけた、避けようの無かった因果律も(高遠さんを襲った理由も)」

ラン「ノブル・レッドの化けの皮を着る大罪人…その名札も(そして、誰がこの事件の真犯人…アルカードなのかも)」






ラン「全ての真理は、我が手中に有り!!(…謎は全て解けました)」



97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 03:25:37.90 ID:pBbrw7Aw0
ねむけやばい…

ちょっとひとねむりします

m(_ _)m
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 03:26:36.27 ID:pBbrw7Aw0
ねむけやばい…

ちょっとだけひとねむりします

m(_ _)m
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/09/02(日) 07:47:34.47 ID:lDait9DYo
一旦乙
高遠の役者は百合子か?
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 11:08:41.64 ID:pBbrw7Aw0

>>99

ひそかに大正解です。

ちんとんかんな狂言回しがほしかったので、その他の面でも相性よさそうな彼女に白羽の矢を立てました。

あと話の初期構想を練っているとき、某企画で件の彼女が惜しくも探偵役を逃してしまっていたこともぶっちゃけ遠因です。


おくればせながらさいかいしまむらm(_ _)m
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 11:13:58.63 ID:pBbrw7Aw0


3日目 夕方 ネレイド城 B1F 電気室



三澤「…」


醍醐「こんなところにいた」

醍醐「どうしたの?…もしかしてこの罠の網を掻い潜ろうとしてる?」


三澤「くぐれるものなら昨日くぐっている。この手のヤツは専門外だ」

三澤「向こうで出くわすこともあるが、その時は専用のチームを呼んでいる」


醍醐「…」


三澤「そうではなく、どうにかここから抜け出す方法はないかと考えていたんだ」

三澤「もうこの世にいないやつの作った監獄に、これ以上すし詰めされているのもおかしな話だと思ってな」


醍醐「とはいっても、それを解決する方法が向こう側にしかないんじゃねぇ」


三澤「…で、だ」


醍醐「え?」


三澤「あそこ…操作盤に括りつけられている装置があるのが見えるか?」


醍醐「…なにかの時限装置だと思うけど?ほら、放送に合わせて私達を城に閉じ込めたときの」


三澤「一つはそうだろう。だがもう一つ、その隣にあるものは?」


醍醐「…」 
 





黒服「み、三澤様、醍醐様!大変です!」


三澤「!」


醍醐「どうしたの?」


102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 11:17:42.86 ID:pBbrw7Aw0


3日目 夕方 ネレイド城 1F 大広間



−−−−−−−−−−−−−−

今宵、第四の殺人を実行する

吸血鬼アルカード

−−−−−−−−−−−−−−





黒服「何時の間にやら、このような張り紙が…」


モリアーティ「犯行…予告…?」


醍醐「…」


三澤「馬鹿な…犯人はもう死んでいるんだぞ!」


高遠「誰かの悪戯でしょうか?それともまさかこの惨劇に真犯人が…!?」


ラン「迷える羊たちよ!我が黙示を聴けいっ!!(みんな、落ち着いてください!)」

ラン「吸血鬼がいくら吠えようとも、その真紅に染まりし牙が剣の封印を喰らうことなど無い!!(今夜はしっかりと部屋を施錠して、相手が誰か分かるまで絶対に扉を開けないようにすれば大丈夫です!)」


一同「…」


103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 11:27:11.90 ID:pBbrw7Aw0





寝室で横になっていた醍醐瑞樹は、先程の犯行予告の件を考えていた。

三澤の推理の通り、アルカードが自決と犯行終結を宣言してから僅か半日ほどしか経過していない。

にもかかわらず、件の怪人が終結を撤回し、もう一度殺人を実行する?そんな世迷言を誰が信じるのだろうか?

どう考えても不自然である。


それに、犯行予告は音声ではなくではなく手紙だった。手口を模倣しきれていない点から推察するに…

全くの別人が、目的はともかくオリジナルに罪を擦り付ける意図で行ったもの。

いきあたりばったり。有り合わせ。質の伴わぬ模倣犯。犯罪心理学の観点から推測するまでもない分析であった。

だからそれほど警戒するまでも…








ガチャ



…え?

がばっと起き上がる。そしてすぐに嫌な汗が噴き出した。

かすかに聞こえたその音は、明らかに私の部屋の扉から聞こえてきたからだ。

今のは何?

決まっている。誰かが私の部屋のなかに侵入したのだ。

まるで自分の部屋に入るかのように。鍵なんて無いかのように。…怪人アルカードのように。

我が物顔で廊下を進む足音がする。だがそれ以上に自分の心臓の鼓動がうるさかった。


脳裏によぎる、最悪の想像。まだ私にはやることが残っているのに。


だが逃げ道は塞がれている。もはや私には成す術がない。

私は…



寝室のドアが、ゆっくりと開かれた。

104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 11:33:34.61 ID:pBbrw7Aw0


3日目 夜 ネレイド城 2F 8号室(醍醐)



ラン「今宵の月は、我が魂を狂わせる…(今晩は)」


醍醐「…」


ラン「…風が止んだようね?(どうかしましたか?)」


醍醐「ラン…ちゃん…あ、貴女こそどうしたの?」

醍醐「ビックリしたじゃない…というか、無断で入ってくるなんて失礼よ」


ラン「招かれざる客を畏れるのも無理はない…が(ごめんなさい。でも、醍醐さんこそ不用心ですよ)」

ラン「其方こそ、魍魎跋扈する宵の口に封印を解き放つなど、喰らっておくれと乞うようなものでは?(もうすぐ就寝する時間なのに…戸締りを怠るなんて)」


醍醐「…そうね」

醍醐「それで、私に何か用かしら?」


ラン「フフ…少々戯れが過ぎたかしら(ああ、そうでしたね)」

ラン「今宵、ノブル・レッドの名を騙る咎人を、主神の名の下に断罪しようと思っているの(私はこれから貴女に、このネレイド城で起きた全ての事件の真相を話しに来たんです)」


醍醐「…」

醍醐「事件の真相って…なに言ってるのよランちゃん」


ラン「彼奴の複雑怪奇なる幻術は、古城に閉ざされし全ての観測者を深淵へと誘ったわ(…全ての殺人は、ある一人の人物によって綿密に計画された連続殺人だったんです)」


醍醐「…」


ラン「そしてその術式を組んだ者は…未だ命潰えずにこの古城を支配している(いったいどうやってこの不可能ともいうべき殺人を行ったのかを、これから紐解いていきます)」

105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 11:42:43.83 ID:pBbrw7Aw0



ラン「高貴なる紅がその身を闇夜に捧げし胎動の刻…(吸血鬼アルカードが、この恐るべき殺人計画を始めるにあたって、まず最初にしたのは…)」

ラン「我等は魂魄の内に夢幻の芽を植え付けられた(皆にある暗示をかける事でした)」


醍醐「…」


ラン「今ここに、全ての贄達の断末魔を導かん(これまでの事件を思い出してください)」

ラン「心臓を衝き放つ終の一打、身を焼き焦がす紅蓮の陽光(魚塚さんが胸に杭を打たれた第一の殺人…黒羽さんが日光に晒されていた第二の殺人…)」

ラン「彼岸に立つ贖罪の墓標、そして…洗い清める聖水の秤(沼田さんが十字架のそばで絶命していた第三の殺人…最後に、美樹本さんが流水をその身に浴びた第四の殺人…)」

ラン「彼の者の放つ二対のカタストロフは観測者の瞳を濁らせ、大いなる幻を形作る…(これらの事件で、犯人は私達の頭の中に、ある法則を焼き付けようとしたんです)」


醍醐「法則って…いったい何のことかしら」


ラン「供物は全て、咎人の『種』としての末路を示すもので…(犠牲者は吸血鬼の弱点とされるものに見立てた殺されかたをして…)」

ラン「憐れなる終焉与えし器は、その者の封印具であるという真理である(殺害の凶器にはその人の部屋のブレードキーが使われるという法則です)」

ラン「故に我等は幻を見たの。『これは不破の結界である』と(それによって私達は知らず知らずの内に、あの部屋が密室だったと錯覚させられていたんです)」


醍醐「…錯覚?何言ってるの、どう見たって疑いようのない真実」

醍醐「あの部屋の密室は、他ならぬ美樹本 本人しか破れないわ」


ラン「まさしく、彼の結界はあらゆる輝光を拒絶する暗黒の壁(確かにあの密室は、部屋の内側から作られたものでしょう)」

ラン「だが、咎人は裏から喰い破る蛇を使役していた…!(…でも、密室を作った人間がそのとき部屋の中にいたとは限りませんよ)」


醍醐「…どういうことかしら」


ラン「暗黒を食い破る蛇…その片鱗は燐光に彩られる…(密室の謎は、ある一つのもので全て説明できるんです)」

ラン「我が眼が燐光捉えし刹那、蛇は全身を宵闇に曝したのよ!(私がその存在に気付いた最初のきっかけは、昨夜…窓から物置の扉が開くのを見たときです)」


醍醐「それがどうかしたの?」

醍醐「貴女の部屋は1号室だったわよね…たしかに窓から物置の扉が見える位置関係にある」

醍醐「誰かが物置に入る為に鍵を使った。だから貴女の窓からはその扉が光る様子が見えた。何も問題は無いと思うけど?」


ラン「境界の彼方は闇に飲まれてしまっていたのよ(光るはずがないんです)」


醍醐「…え?」


ラン「逢魔の前にヘルメスの腹は黒き足に破かれ、骸と化していたわ…(物置の扉はその時にはもう壊れていて、反応しなくなっていたんですよ)」

ラン「だからあの燐光は、我が心の迷いの表れ…座視の際に現れし鬼火なのだと疑った(初めは幻覚かとも思いました。でも、もし真実であるならば…こう考えることができます)」


醍醐「…」


ラン「でもあれが現ならば、或いは我が双瞳は彼方の紋章を映したのではないか?(あの時私は…『物置では無い別の部屋の扉』を見ていた)」

ラン「空間の歪み…それを叶える術具はそう多くはない(そんな矛盾が起こる原因は一つしかありません)」

ラン「原罪背負う人の子となれば、最早神鏡を用いる他無いのだっ!(鏡です)」


醍醐「…」

106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 11:54:39.71 ID:pBbrw7Aw0


3日目 夜 ネレイド城 2F 8号室(醍醐)



ラン「全ての術式には特異点が存在する…即ち神前契約の反作用(ブレードキーに使われているローマ数字には、鏡映しの関係にある数字があります)」

ラン「隠者の瞳に正義を映し、そして帝の瞳には愛を映す…(それが、美樹本さんの部屋であるW[4]と沼田さんの部屋のY[6]…さらに言えば\とⅪも同様ですが…)」

ラン「ノブル・レッドはこの特異点を封印解除の礎とし、蛇と契りを交わしていたのだ(犯人はこの城の施錠システムを熟知し、鍵を偽装できることもわかっていた)」

ラン「その螺旋の蛇の蹂躙に任せ、咎人は生贄を増やしていった(そしてそれを密室殺人に利用することを思いついたんでしょう)」


醍醐「犯人が鏡を使って鍵を偽装していた?密室を破った原理はそれで説明できるかもしれない」

醍醐「でも、まだこじ付けの域を出ていない。忘れたの?『人に刺した鍵はもう使えない』ってことを」

醍醐「密室の構築に必要なその6号室のカギは、密室殺人の前の殺人に使われているのよ。物理的に不可能だわ」


ラン「フフ…紅の幻影は既に見切ったわ(その謎ならもう解けています。美樹本殺しが、沼田殺しよりも前に行われていたんですよ)」


醍醐「…」


ラン「煉獄の残滓は、あたかも因果の葬列のように揃えられてはいたが…(確かに遺体が発見された順序は沼田さんの方が先でした。そして犯人自らがそれを『第三の殺人』と強調していました)」

ラン「観測者の生気は存在を定着しきれぬ思念に過ぎなかった(でも思い返してみれば、沼田さんの死体を見た後に美樹本さんが生きていた姿を見た人は誰もいません)」

ラン「呪力の籠る睦言が思考を溶かし、咎人の思うが儘に誘われていたとも知らず…(ただ漠然とした周囲の状況から、私達は犯人の言われるがままに殺害順序を並べていたに過ぎなかったんです)」

ラン「加えて咎人は因果の葬列を騙る為に、アプスの化身とも契約していた(そして、犯人が本当の犯行順序を悟らせない為にしたもう一つのトリックが…あの流水です)」


醍醐「…」


ラン「そもそもこの古の城にて奏られし終焉の序曲は、不協和音が多すぎた(私はずっと、この事件が何故吸血鬼の弱点に見立てられているのかという点が不思議で仕方がなかった)」

ラン「古城の宵闇に木魂す数多の断末魔は…(魚塚さんに杭を打ち、黒羽さんに日光を浴びせ、沼田さんをわざわざ礼拝堂まで運んだことは…)」

ラン「我等の思考に吸血鬼の鮮血を染み込ませる布石であった(全て吸血鬼に見立てて殺害されると思い込ませるための演出だったんです)」

ラン「全ては終の供物にアプスの呪縛をかけ、罪を背負いし聖骸としての役割を与えるため(つまり、死体に水を浴びせたのは見立て殺人なんかではなく、血の凝固を妨げ、死体を冷やして死亡推定時刻を誤魔化すためであり)」

ラン「その偽りの磔刑を黙示録に組み込ませる虚空術式だった!(吸血鬼の見立て自体が、死体に水をかけた本当の目的から皆の目を逸らすための巧妙な真理トリックだった)」




ラン「化けの皮は剥がれたぞ。吸血鬼アルカード!(そうでしょう?)」

ラン「…醍醐瑞樹!」



醍醐「!!」

107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 12:06:20.40 ID:pBbrw7Aw0



醍醐「…っふ、ふふふっ」

醍醐「何を言い出すのかと思えば…私が吸血鬼ですって?」

醍醐「もしも私が三流ミステリ小説の犯人なら、ここで泣き崩れて全部白状するんでしょうけど…」

醍醐「現実はそんなに簡単じゃないわ。貴女の推理はまだ穴だらけよ」


ラン「…」


醍醐「6号室の鍵を使う猶予があったと仮定しましょう…そして鏡を組み合わせれば4号室の密室を破ることが出来ることも認めましょう」

醍醐「それでも、貴女はまだ全ての矛盾を解決できていない」


ラン「…」


醍醐「美樹本殺しの現場である4号室は、外からは絶対に開けられないように細工されていた…他でもない彼の手によって」

醍醐「廊下側から開けられないのなら、例えば、中庭に出て窓越しに光を送るくらいしか密室を破る方法は無い」

醍醐「でも昨日…雷で崩れた天窓から雨が降り込んで、中庭はひどくぬかるんでいたわよね」

醍醐「もし犯人が中庭に出たのなら、その時の足跡がくっきりと残っている筈だけど、あそこは綺麗なものだった」

醍醐「いったいどうやって私は彼の部屋に入れたというの?」


ラン「…いくら古城の吸血鬼といえど、全ての因果律を予測することはできない(そう…貴女にとって、美樹本さんの奇行と中庭のぬかるみは全くの計算外でした)」

ラン「僅かに生じた歪みは悉く咎人を裏切り続け…(恐らく最初は隠し持っている手鏡と鍵を組み合わせて、ごく単純に部屋に入る計画だったんでしょうけど…)」

ラン「最早神鏡の加護のみでは煉獄の瘴気を封ずることが出来なくなった(不都合な偶然が次々と重なり、まともに計画を遂行できない状況が生まれてしまった…)」

ラン「だが貴様は傲慢を司る悪魔と契約した吸血鬼…(でも、鋭い思考の持ち主である貴女は…)」


ラン「貴様は、瞳を持つ者を封印除去の媒介とした!(ターゲットに高遠さんを付け加えることで、その不可能を可能にする方法を思いついた)」


醍醐「!」


108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 12:18:12.26 ID:pBbrw7Aw0



醍醐「…なかなか面白いことを言うじゃない。あの子を襲うことが、どうして密室崩しに繋がるのかしら?」


ラン「因果の歪みを超えるために女帝の間を掌握しなければならなかったからよ(彼女からブレードキーを奪って、3号室に入るためですよ)」

ラン「咎を背負う吸血鬼は半月の園に心を昂ぶらせ、羽根休める二対の鳥籠を手中に収めんとした(貴女は中庭が完全な半円の形をしていることと、客室がその半円を綺麗に六等分している構造に目を付けた)」

ラン「そしてその上で封印を両断する閃光の理を詠唱した!(つまり、鏡による光の反射の原理を利用して、暗闇の中でも正確に、はるか遠くの密室を開けられるようにしたんです)」


醍醐「…」


ラン「今宵、吸血鬼の舞踏を呼び醒まさん(昨夜の犯人の行動を整理しましょう)」

ラン「彼の者は先んじて猟犬の主と瞳を持つ者を対なる魔道の礎としたの(まず初めに、沼田さんと高遠さんを襲い地下に監禁し、二人のブレードキーを奪っておく)」

ラン「そして冥界への神鏡を、闇に飲まれし半月の領域へと引きずり降ろし…(美樹本殺しの為にその場を後にした犯人は、地下室のドアを塞いでいたあの大鏡を中庭の入口まで運び…)」

ラン「鏡の境界を方陣司る軌道へと定め、閃光の蛇を解き放った…!(その向きを『ある角度』に調整し、3号室の廊下から現場の密室を破ったんです)」


醍醐「…」


ラン「即ち、境界面と領域面を同化させる事で…(『ある角度』とは、中庭の出入り口に対して鏡を完全に平行に置くこと)」

ラン「女帝と皇を相対させる一刹那を創り出し…(要するに、3号室の窓から、鏡を通して美樹本さんの部屋のドアが見えるようにした)」

ラン「解き放たれし蛇は皇帝の喉元へ衝き穿つ(鏡に当たった[Y]の光はうまい具合に密室に反射し、犯人はまんまと彼の部屋に入ることができた)」





醍醐「…えらく手間のかかることをするものだわ」


ラン「ノブル・レッドに選択は残されていなかった…(犯人にとってはそうするしか方法がなかったんです)」

ラン「何故なら、闇に飲まれし領域は解呪の燐光を容易く溶かしてしまうから(例えば、真っ暗闇な中庭の入口から手鏡を使って闇雲に開けようとしても、どのあたりに鍵を向ければいいかわからないどころか…)」

ラン「更に意思を失った燐光は夜を彷徨い、猟犬共を目覚めさせる恐れがある(ちかちかと振り回されるレーザー光の様子が、どの客室の窓からも丸見えになってしまいます)」

ラン「あの夜…吸血鬼は供物を並べてでも封印を貫かねばならなかったのよ(でも部屋の廊下からであればそんな心配はなく、ある程度目印を定めて正確かつ安全に狙うことが出来る)」


醍醐「…」


ラン「そして皇の間…咎人は観測の徒に牙を剥き、仮初の煉獄を埋め込んだ後…(そうやって4号室に忍び込んだ貴女は美樹本さんを殺害後…前述のように遺体を濡らし、同じ要領で現場を密室にしました)」

ラン「諸手から神鏡を手離し媒介者たちを虚無の世に引きずり落とした!(大鏡を片付けて地下に戻り、高遠さんの前で沼田殺しを行ったのは、その後の出来事だった)」

ラン「冥界の鎖を彼の者と繋いだ理由は、夜蜘蛛の糸繭を警戒しての事(地下の二人を縄で縛っていた理由は、一つは美樹本殺しの最中に目覚めて逃げ出されては困るからですが)」

ラン「加えて、瞳を持つ者に解呪具の在処を気取らせぬため(殺害ターゲットでは無い高遠さんが自分の鍵を盗まれていることに気付かれないようにするためでもあったんです)」


醍醐「…待って頂戴」


ラン「…」

109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 12:20:49.92 ID:pBbrw7Aw0


醍醐「ランちゃん、貴女はさっきから可能性の話しかしていないわ」

醍醐「そのトリックは、城内にいる誰もが実行可能な方法で、私にしかできないわけじゃない」

醍醐「貴女が窓から見た光とやらも、記憶違いと言ってしまえば容易く破綻するこじつけに過ぎない」


ラン「…」


醍醐「それでも私が犯人だと断言するからには…」

醍醐「確かな物的証拠というものを持っているんでしょうね?」


ラン「…」





ラン「フフ…吸血鬼よ。最早その牙と翼は隠しようが無いのだ(貴女は既に自白に近い行動をとっているんです)」


醍醐「!」


ラン「常人が為す術無く吸血鬼の贄となるが如く、咎人が断罪を防ぐこともまた出来ない!(何故私がこの寝室まで入ることが出来たのか…貴女は分かっているはず)」


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