神崎蘭子「堕天使は二度堕ちる」【堕天使探偵・最終幕】

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110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 12:27:28.93 ID:pBbrw7Aw0



ラン「ノブル・レッドよ…たしかに其方の策略は我が倫理をも捻じ曲げんとした(確かに犯人は完璧な殺人劇を考えました。でも、所詮は机の上での話)」

ラン「しかし因果の歪みをすべて予測することは神にしかできない(いざ幕が切って落とされ、登場人物たちが動き始めると、思わぬアクシデントが次々起こってしまった)」

ラン「幾らその高みに近付こうと、人の子が神の域に達することは無い(その障壁にもめげずに知恵を振り絞り続けても、最後には…狂い、歪み、綻んでしまった…違いますか?)」


醍醐「…」


ラン「皇の観測者を滅した煉獄の章…(美樹本さんの部屋の、浴室の壁に刻まれた不可解なキズ…)」

ラン「私は、解封の具を振り回し綻びを潰す吸血鬼の姿を垣間見た(何者かがブレードキーの切っ先を潰そうとした痕跡が残っていました)」


醍醐「…」


ラン「望みを捨てぬ観測者が死者の腕に身を委ねるとは思えない(施錠された部屋の中で住人である美樹本さんが鍵を壊す理由は考えられない)」

ラン「ゆえに闇に飲まれし綻びを紐解けば、古城の吸血鬼を滅却する死線となりうる(だとすれば、あれは犯人がなんらかの辻褄を合わせるためにやったと考えるのが自然です)」

ラン「ならば、彼の者が暗幕の内に隠している死線の正体は何か?(では、美樹本さんの自殺に見せかける上で壊れていなければならなかった鍵とは何か?)」

ラン「吸血鬼の幻術が虚空の群れと成り果てる理とは何か?(それは一つしかない。凶器に使うはずの、他ならぬ彼の部屋のブレードキーです)」


ラン「…真言は一つ。あの夜、咎を背負う古城の吸血鬼は神に見放され…(犯人は美樹本さんを殺す時、凶器を選んでいる余裕が無かったんですよ)」

ラン「その威光に焼かれる代償を負ってしまった(そこから導き出される答えは一つ…)」


醍醐「…」


ラン「昨夜、高貴なる紅は宵闇に溶け、帝の領域へと足を踏み入れた(犯人は皆が寝静まる頃を見計らい、前述のトリックを使って美樹本さんを殺しに行った…)」

ラン「だが首筋に牙を剥こうとしたその刹那、観測者は迷える羊の皮を自ら剥ぎ…(でも…犯人が4号室に忍び込んだその時、美樹本さんはまだ起きてたんじゃないですか?)」

ラン「古城の隅での人狼と吸血鬼の喰らい合いが始まってしまったのではないか?(そのせいで突発的に、お互いがブレードキーを手に『殺し合う』羽目になってしまった)」


醍醐「…」


ラン「その闘争の果て、高貴なる紅の魔力は人狼を超えはしたが(結果、貴女のこの上なく強い殺意が勝り、美樹本さんの殺害には成功しました)」

ラン「因果の歪みを正すには僅かに弱く…(両隣の部屋の住人が、どちらも隣室からの争いの音を聞ける状態ではなかったことも幸いした)」

ラン「黙示の果てに暗躍する自らの姿が晒される刻印を刻みこんでしまった(でも貴女は…美樹本さんの殺害に自分の部屋の鍵を使ってしまった)」


醍醐「…」


ラン「そしてその刻印を塗り潰すために、あの解封の爪痕が刻まれたの(浴室の傷は、その隠ぺいのために4号室の鍵を壊す過程で付いたもの)」

ラン「仮初とはいえ聖骸を手にかける愚は行いないから(自殺に見せかけた遺体を二度刺すわけにもいきませんからね)」


醍醐「…」


ラン「即ち、咎を背負いし古城の吸血鬼は、今や結界を展開することが出来ず…(つまりこの事件の真犯人は、鍵を失い、部屋の施錠が出来なくなっている人間…)」

ラン「我が断罪の眼光を防げぬ無防備な人の子に過ぎない!!(罪を告白させる堕天使を、拒むことが出来ない人間…!!)」


醍醐「…」



ラン「吸血鬼アルカードよ、貴様が本当に咎を背負っていないのならば…(それでもまだ、貴女が身の潔白を主張すると言うのなら…)」


ラン「正義の剣を、我が魂に示すがよい…!!!(貴女の鍵を私に見せてみなさい!)」


111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 12:34:28.66 ID:pBbrw7Aw0

醍醐「…そう」


ラン「…」


醍醐「そんなに見たいなら見せてあげるわ…私の剣を」


ヂャカッ!

ヒュッ!

ラン「フン、我が眼は高貴なる紅の軌跡を既に見切っているぞ!(そうやって斬りかかってくることを…予想してないとでも?)」


…バンッ!

醍醐「!?」


三澤「殺人犯め、大人しく降参するんだ!」


ドカドカッ!


醍醐「あぐッ…!?」


ラン「貴様の領域は我が手中に堕ちているのよ(前もって、みんな部屋の前に集まってもらっていたんですよ)」


黒服「醍醐様…」


モリアーティ「まさか…貴女が犯人だったなんて…」


醍醐「…」

醍醐「そういうこと…あの脅迫状騒ぎも全部貴女の仕業だったのね」

醍醐「みんなの不安を煽って自分の部屋を戸締りさせた。それがしたくてもできない犯人を炙り出すため…」


ラン「…」


醍醐「でもそれだけじゃないみたいね…貴女、いつから私に目を付けてたの…?」

醍醐「どこで私は間違ったのかしら?」


ラン「幻術に生じていた歪みはふたつ…ひとつは仮初の黙示(…二つあります。一つは、美樹本さんの遺言)」


―『凶器にブレードキーを使ったのは、殺人犯の異常性を強調し、かく乱させるためだった』


ラン「狂気は策略を隠す暗幕のようなもの…しかし自らの影を晒してしまう暗幕に意味は無い(確かにあれで犯人の異常性は強調さはしましたが、隙を作れる被害者の知人が犯人であるという推理が強まりました)」

ラン「居城を地獄に転ず程の覚悟ならば、怯えた羊の群れなど容易く操れた筈(仮に美樹本さんが犯人なら、当然途中で自分が容疑者になり計画に支障が出る可能性に気付いていた筈…)」

ラン「ノブル・レッドにそれが出来ないのならば、手こずる相手である筈がないと考えた(そんなリスクを背負うくらいなら、なにかもっと別の方法で異常性を強調したはずです)」


醍醐「…」


ラン「もう一つの歪みは、其方が六対の籠の前で云った言葉(二つ目は…今朝、4号室の扉の前で貴女が言っていた言葉…)」


―醍醐「ねえ皆、目崎さんが支度できたって。食堂に行きましょ」


ラン「其方は不揃いの羊共に向かってそういった(あの時『全員』揃っていませんでした)」

ラン「瞳を持つ者たちが黙示に飲まれている事など知る由もないあの刻…(高遠さんと沼田さんが犯人によって礼拝堂に運ばれていることを知らないはずなのに…)」

ラン「手早く惨劇の幕を上げようとする其方に、吸血鬼の片鱗を垣間見た(二人のことを探そうともせず、さっさとその場にいる人たちだけを食堂に連れていこうとした事が引っかかっていました)」


醍醐「…よく見てるわ…憎々しいほどに」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 12:41:25.39 ID:pBbrw7Aw0



ラン「聞かせて貰おう。其方が吸血鬼に成り果てた理由を(教えてください。醍醐さん、何故貴女はあの四人を?)」

ラン「煉獄に落された者達は貴女の世界に何をもたらしたというのだ(彼等が通じ合っていたという偽遺言のメッセージが本当なら、貴女の動機と何か関係が?)」


醍醐「…」


ラン「…」



醍醐「…この古城の下にはね、奴等がどうしても闇に葬っておきたい事件の証拠がいくつも眠っているの」

醍醐「その中には…人知れず奴等に殺された私の父の遺体も、ね」


ラン「…!?」


三澤「どういう意味だ?」


醍醐「…」

113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 12:55:13.92 ID:pBbrw7Aw0


醍醐「生まれたときに母を亡くしていた私にとって、父はたった一人の家族だった…」

醍醐「家に帰ってこないことが多かったから遠い親戚に預けられてはいたけれど」

醍醐「警察官として皆を護る父の姿が好きだったし、会える日をいつも楽しみにしていたわ」


醍醐「…でも、そんなささやかな幸せは長くは続かなかった」

醍醐「あれは、私が大学の卒業を間近に控えた冬…父と同じ警察官を目指していた頃」

醍醐「突然家に刑事が訪ねてきて、父が何者かに殺されたと聞かされた」

醍醐「父を失ったショックは凄まじかった。でも…」

醍醐「犯人が早々に逮捕され、父の遺体が検死から戻って来た時に本当の衝撃が訪れた」


モリアーティ「…?」


醍醐「…遺体と初めて対面した時、私はハッキリと確信した」

醍醐「この遺体は父じゃない…とね」

醍醐「父の顔は犯人によってズタズタに切り裂かれていて、それを写真を頼りに復元したとエンバーマーは言ってた」

醍醐「でも私が感じた違和感はそんな物じゃなかった…うまくは言えないけど、家族にだけわかることがあった」

醍醐「その日から私は父の死の真相を突き止めることに決めた」


ラン「…」


醍醐「訪ねてきた刑事も事件の詳細を知らないようだった。そのまま何の手掛かりも掴めずに何年も経ってしまったけど…」

醍醐「ある告発文の写しが父の遺品の中から出てきた事と、それを基に出所した犯人から情報を吐かせたことで、一気に事件の全体像が見えてきた」


醍醐「父を殺した本当の犯人はあいつらだった…」

醍醐「奴等は警察内部に取り入って上層部の汚職や身内の犯罪を、証拠ねつ造と握り潰しで強引に処理していたの」

醍醐「罪のない人間を法の正義の名の下に裁く…そんな悪魔じみた所業が何年も繰り返され、父はそれを暴こうとして殺された」

醍醐「そのときあの四人の誰かが手を汚してしまっていたから、全く別の死体を用意してそれにすり替えられていたの。無関係の殺人として処理するため」

醍醐「そして、警察側はそれを半ば『黙認』していたから身代わりになった犯人は軽い罪で処理されていた…」


醍醐「それが父の死の真実だった…」

醍醐「父は…自分が信じ続けてきた正義に殺された…!!」

醍醐「だから私はその正義に復讐することに決めたのよ!!」






114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 13:04:34.87 ID:pBbrw7Aw0


数か月前 夜 ネレイド城 1F 大広間



ルシファー『おお、たったひとりでよくここまでの舞台装置を作ったもんだね』


醍醐『…誰!?』


ルシファー『ボクが誰かなんてどうでもいい』

ルシファー『重要なのは、キミがこうして本当の真実に到達したことだ』


醍醐『…』


ルシファー『キミの見立ては正しい。彼等がワザワザこんな辺境の土地を持っていたのは処分に困ったものを廃棄する為だろう』

ルシファー『この国では更地よりも建物が乗っかってる土地の方が安上がりだ。開発が頓挫した廃城はゴミ捨て場にうってつけって事さ』

ルシファー『本物の父親の遺体も、そのへんの土の中から見つかったんじゃないかな』


醍醐『な、なんで…貴女…そのことを…』


ルシファー『キミはこんな話を知ってるかい?』

ルシファー『ある動物実験にて、籠の中のハトはボタンを押せば餌が出ると学習したそうだ』

ルシファー『だが、タイマーで自動的に餌を出す仕組みに変えて再開すると、ハトは次第に考え始めた』

ルシファー『今なぜ餌が出たんだ?…とね』

ルシファー『そしてハトは、餌が出たときの行動を延々と繰り返すようになった。鳴き声を上げるとか、羽ばたくとか、その行動によって餌が出ると信じて…』


ルシファー『これは、ハトの迷信行動と呼ばれる現象だそうだ』


醍醐『…』


ルシファー『キミもかつては法を守るだけで幸せに暮らせると妄信するハトだった。殆どの人間がそうだ。でもキミはもう違う』

ルシファー『自分自身のために、何をすべきかを追い求めている。ボクはそんな人たちを陰から支えるためにここにいる』


醍醐『…』



ルシファー『…ただ、キミが呼ぼうとしている探偵達の中にちょっと縁のあるやつがいてね』

ルシファー『よければトリックの中に少しだけ彼女と対峙する仕掛けを挟んでくれないか』


ルシファー『あとはキミの邪魔にならないようにするから』




115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 13:13:38.53 ID:pBbrw7Aw0


3日目 夜 ネレイド城 2F 8号室(醍醐)



醍醐「そこからは貴女の推理した通りよ」


ラン「…貴女は真相を突き止めるだけで良かった」

ラン「亡き父の想いを継ぎ、彼等を法の下で裁くことを目指していればきっと断罪できた…!」

ラン「自らの手を鮮血に染め処刑する…そんな『傲慢』な思想を振り払っていればこんな幕引きには…!」


醍醐「…驚いた」

醍醐「大切な人を奪った私にそんな綺麗事を言えるなんて。私には今でも無理だわ」

醍醐「貴女がここまで厄介だと知っていたら、あの娘の反対を押し切ってでも絶対に呼ばなかったのに…失敗ね」



ラン(『あの』娘…?)

ラン「!?」ぐいっ


醍醐「…」


ラン「なにっ…!?」


醍醐「…そのとおり。私の中にあの娘はいない」

醍醐「でも伝言を預かってる…『この城の、最も忌むべき者の下で最後の答えを待つ』…だそうよ」


ラン「…」



ダダッ



高遠「あっ、待って!何処に行くの!?ランちゃんっ!!」


醍醐「追わない方が良いわよ」

醍醐「彼女の向かった先は、もう私たちのそれとは違う世界」

醍醐「彼女は私のなかにいたあの娘と同じ…人ではないもの」


高遠「え…!?」





醍醐「それに…もうすぐ私の最後の仕掛けが動く」

醍醐「証拠をまるごと隠滅する仕掛けが…」





…カチリ
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 13:20:56.85 ID:pBbrw7Aw0


3日目 深夜 ネレイド城 1F 礼拝堂



ルシファー「…やあ、久しぶりだね、妹よ」

ルシファー「古城連続殺人事件の究明、見事だった」


ラン「…」


ルシファー「最も忌むべき者…それは、ボク達の父君のこと。ボクの言葉を覚えていてくれたんだね」

ルシファー「実はキミと会うのはこれで4度目なんだけど…それはまあいいか」


ラン「ルシファー…」

ラン「答えろ、何故貴様はこんなことを…」


ルシファー「なぜ人を唆して凶行に及ばせるのか…キミは同胞にそれを問うていたね」

ルシファー「答えはズバリ、人間の幸福追求」


ラン「…」


ルシファー「こう見えてもボク等悪魔は人間を愛してやまない種族なのさ」

ルシファー「困っている人間を見ると、思わず助けたくなってしまう」

ルシファー「だから…幸せになって欲しい一心で彼等に完全犯罪という名の果実を提供する」


ラン「禁断の果実だと…?」


ルシファー「まぁ、主にキミのせいで『完全』という部分の保証が出来なくなってしまったが…」

ルシファー「そういえば不思議とそれを理由にNOと言った人間はいなかったな」

ルシファー「きっと彼等も知っていたんだ。自分の幸福が最早殺人の先にしか無いのだと」


ラン「ふざけるなっ!」

ラン「貴様等の茶番劇でいったい何人の生命が失われた!何人不幸にした!!」

ラン「法を犯し、大勢の犠牲を伴って得た幸福など虚像に過ぎないっ!!」


ルシファー「…僕らが殺した奴らは犯人の家族を蔑ろにして幸福を得ていたよ。そしてあれは紛れもない実像だった」


ラン「それは…」


ルシファー「ラン、キミの言うそれは人間に法や戒律を守らせるための常套句だ。『守れば幸せになれる』と言外に言うけど」

ルシファー「だが断言するよ。それらは人間から『善悪』を考える力を無くさせているんだ」

ルシファー「正義の行いというものは、違法か合法かの論では決して測りきれないからだ」


ラン「なに…?」


117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 13:24:01.04 ID:pBbrw7Aw0


ルシファー「ふざけているのはキミのほうだ。『善・悪』と『合法・違法』は何の意味も無く別の言葉にされているわけじゃない」

ルシファー「逆に聞こうか。世の中の富豪どもは、みんな真面目に法律を守ったからああなれたのか?」

ルシファー「そこらに転がってる路上生活者は、法を破り続けた結果ああなったとでもいうつもりか?」

ルシファー「法では裁けない脱法行為の存在を認めているくせに、現行法に抵触してしまう善行の存在なんて考えもしないと?」


ラン「…」


ルシファー「…忌々しい。結局法など他より強制力が強いだけの自分勝手な命令に過ぎないじゃないか。支配者の。ひいては愚父の」

ルシファー「人を縛り付けているのはとっちだ?人を不幸に追いやっているのはどっちだ!」

ルシファー「自分の創造物ひとりひとりと真剣に向き合った事すら無い腑抜けが、一人前に幸福を語るなっ!」


ラン「ルシファー…」


ルシファー「ラン…我が妹よ!今のキミなら理解るはずだ!」

ルシファー「種ではなく、孤としての人間を、悪に堕ちた罪人をその目で見てきたキミならっ!」

ルシファー「父上の創り給うたこの世界が、如何に嘘に塗れているのか!理解るはずだ!」


ラン「違う!復讐で生まれる幸福など無い!」


ルシファー「奪われた者達は復讐しなけりゃ何も生めないのさっ!!!」



ブオッ!


ラン「!?」

118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 13:29:18.14 ID:pBbrw7Aw0


3日目 深夜 ネレイド城 1F 廊下



ズドオォォン


ゴゴゴ…



三澤「な、なんだ!?地震か!?」


黒服「どこかが爆発した音では…」


高遠「醍醐さん、貴女が言う その最後の仕掛けって…?」



醍醐「…もうすぐ、ここは崩れ去る」


高遠「えっ…!?」


醍醐「ここはね、全ての殺人が終わった後に方かいさせる計画になってるの」

醍醐「幾らトリックで小細工しようと、現代の捜査技術で詳しく現場を検証されればひとたまりもない」

醍醐「完全犯罪の為には『都合のいい証言者』だけを残して、それ以外の一切合切を隠滅しなければならない」

醍醐「それが私と『あの娘』が出した結論だったから」


高遠「…」


醍醐「さっきのは、城の出入り口が塞がった音」

醍醐「その端から徐々に崩れていって、逃げ場が狭まっていく…生存者をある一点に誘導するために」


黒服「そ、それはどこなのですか!?」


醍醐「地下よ」

醍醐「そこなら崩落が収まるまで安全に避難できるようになってる」

醍醐「…城の火の手は外の人間にも分かるくらいに大きくなっていくから」

醍醐「通報受けた救助隊も駆け付けてくれるって算段でね」


黒服「急ぎましょう!」


高遠「急ぐって…で、でもさっきランちゃんが奥に…」


三澤「いや…」


ゴォォオオッ…


三澤「炎のまわりが意外に速い…向こう側はもう塞がれているようだ!間に合わん!」




「待ってくださいっ!!」

119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 13:31:00.10 ID:pBbrw7Aw0


黒服「モリアーティ様!?それと…」


赤羽根「」

モリアーティ「ならせめて彼だけでも、連れて帰ってあげないと…」ぜぇ…はぁ…


三澤「おぶってきたのか…?」


醍醐「放っとけばよかったのに。もう息してないでしょう?」


モリアーティ「貴女の父が生きていたならば、彼をどうしたと思いますか?」


醍醐「…」


モリアーティ「…少なくともランちゃんならこうします」


黒服「モリアーティ様、私も運ぶのを手伝います。地下へ急いで…!」

120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 13:43:22.86 ID:pBbrw7Aw0


3日目 深夜 ネレイド城(崩落中) 1F 礼拝堂



景色が一変した。ほんの一瞬で。

ルシファーが目の前の何かを手で薙ぐような動作をしたと思ったら、何時の間にか自分の身体が地に伏していた。

…吹き飛ばされた?手の風圧だけで?



状況を確かめるより前に、全身の痛みと耳鳴りがやってきた。

彼女の尋常ではない膂力に屈し言うことを聞かない手足を一旦置いて、とりあえず顔だけ上げる。

此方に向かって歩く堕天使の躰から、ばっ…と黒薔薇が咲くように、威圧の象徴ともいうべき六対の黒翼が生えていくのが見えた。



ラン「…」



かつて熾天使ルシフェルと呼ばれた天使長。今は傲慢の罪を背負う堕天使ルシファー。

圧倒的な上位存在が今、明確なる害意を持って、近付いてきていた。



ルシファー「さぁ、我が妹よ」

ルシファー「堕天使ルシファーの最後の問題に答えて貰おうか」


ラン「!」


ルシファー「キミの目の前には、キミの最愛の人を奪った者が立っている」


ラン「!!」


ルシファー「その最愛の人の死には正当な理由も命を落とした意味も無い」

ルシファー「ボクの我儘の結果であり、ただそこにいたからであり、キミと深く関わっていたからであり…」

ルシファー「ただ…堕としたかったから、生命としての尊厳を蹂躙された」


ラン「…ッ」


ルシファー「そんな悪行をはたらいたボクが、こともあろうに…」

ルシファー「こうして父上の創り給うた世界に立つことを許されている」

ルシファー「キミは…その理由を説明できるかい?」


ラン「ルシファー…貴様は…!!」


ルシファー「大切な相棒を奪ったボク達を消し飛ばしたいだろう?報いを受けさせたいだろう?」

ルシファー「それが叶わぬ自分の無力さが、どうしようもなく憎いだろう?」

ルシファー「この世界はそんな連中であふれかえっているんだ!」


バサッ


ルシファー「さぁどうする!我が妹よ!」

ルシファー「襲い来る不条理に怯えて暮らす者だらけの世界を肯定するのか!?」

ルシファー「そんな父上に背きボクと共に狂った世界の変革を目指すか!?」


ルシファー「選ぶんだっ!!」

121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 13:52:56.32 ID:pBbrw7Aw0



ラン「…」


ルシファー「…何故…だ…何故堕ちない!」

ルシファー「キミはボクの言葉を受け止めている。理解もしている!」

ルシファー「そうだ、キミは犯人の自殺を許したときだって簡単に堕ちそうになっていたじゃないか!」

ルシファー「船の上で濡れ衣を着せられたときだって、かけがえのない人を奪われた今だって」

ルシファー「なのにいつの間にか立ち直って…謎を解いてしまう…」


ルシファー「何故だ?何故キミの翼は白いままでいられる…?」


ラン「ルシファー…」

ラン「我が相棒は、貴様への復讐など望んでいなかった」


ルシファー「…は?」


122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 13:56:13.45 ID:pBbrw7Aw0





3日目 昼 ネレイド城 1F 5号室(赤羽根)



赤羽根「……ゃ…ぅ…」


ラン「…赤羽根さんっ!?」


赤羽根「馬鹿…やろう…」


ラン「赤羽根さんっ!?い、意識が…もどって…!」


がし


ラン「…ほへ?」


…ごちん!!


ラン「みぎゃっ!?」


赤羽根「痛っ!」




赤羽根「ててて…病人に頭突き、させんじゃないっつーの…」


ラン「ぐにゅにゅ…わ、わらひの許ひ無ひに鉄槌を打ち込むにゃぞ…(ず、頭突きしろなんて一言も言ってませんっ)」ひりひり


赤羽根「お前今、馬鹿なこと考えてただろ」


ラン「…え?」


赤羽根「俺の仇をとろうとか、犯人殺してやるとか、考えただろ」


ラン「…」


赤羽根「目ぇ見りゃ分かる。世の中憎んで屋上から飛び降りた妹そっくりの目だったからな」

赤羽根「他でもないお前がそんなことでどうする!しっかりしろ!!」


ラン「あ…相棒よ、それは…」


赤羽根「言っとくけどな、もし俺が死んで、お前がその仇討ちで犯人をぶっ殺したとしてもだ」

赤羽根「俺はぜんっぜん嬉しくないんだよ!」


ラン「…で、でも」


赤羽根「…俺だって敵討ちを考えたことが無いなんて言わない」

赤羽根「世の中上手くいかないさ。いまだに正直者はバカ見るし、考えれば考えるほど不公平に出来てるって実感する」

赤羽根「そりゃ絶望だしヤケになるよな。まかり間違えば俺だって犯罪者の道を進んでたかもしれない」

赤羽根「でも、そうはならなかった。ラン、おまえと出会ったからだ」


ラン「…」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 14:02:44.83 ID:pBbrw7Aw0


赤羽根「天使という生き物が本当にいて、正義を貫くために頑張って生きてると知った」

赤羽根「あのとき俺は『この世界に希望を持ってもいい』と本気で思えた」


ラン「…」


赤羽根「なぁ、俺たちは世の中をどういう世界にしたくて生きてきたんだっけ?」

赤羽根「仇なんぞお前がとるまでも無い。どっかのバカが手を汚さなくたっていい」

赤羽根「どうしようもねぇ悪党にはこの世界そのものが、法が、どっかの神様とやらが、絶対に因果応報の報いってやつを受けさせる」

赤羽根「そういう世界を創るために…俺たち人間が地べた這いずりまわって生きているんだろうが!!」

赤羽根「お前ら天使だってその想いは同じのはずだろ!それを…」


赤羽根「復讐なんて余計なことして、せっかく作った世界を台無しにしようとするんじゃない!」


ラン「っ」


赤羽根「いつつ…」


ラン「…」


赤羽根「復讐も自殺もおんなじだ。『世界は絶対に良くならないから、マジメに生きたくないから』って絶望してる奴がするもんだ」

赤羽根「世界を真剣に生きてる俺たちは、その考えを絶対に認めちゃいけないんだよ…!」

赤羽根「それを、絶対にわすれるな…真犯人を…暴いて…」

赤羽根「そして…罪を…」


がくっ


ラン「…あ」

ラン「…赤羽根さんっ!?」


赤羽根「…zZZ」


ラン「…」


124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 14:09:43.26 ID:pBbrw7Aw0


3日目 深夜 ネレイド城(崩落中) 1F 礼拝堂





ラン「ルシファー、貴様の言う通りだ。救済の道程は終焉亡き暗黒の道」

ラン「それでも我等は、決して福音を止めてはいけない」


ルシファー「…だからそれが無駄だというんだっ!」

ルシファー「キミに言われなくたっても当の人間だって考えているさ!それこそ有史以前から数え切れないくらいだ!!」

ルシファー「だがそうやってもう何千年経った!?全人類の幸福を目指す救世主がいったい何人産まれたと思う!?」


ルシファー「この古城の主ヴラド3世だって、ただ民衆を守るために暗黒時代を駆け抜けた英雄だった!」

ルシファー「その結果かこれだ!畏敬の念すら抱いてもらえず、彼の生涯は化け物を見るような嫌悪でいっぱいだ!」


ラン「…それでも何も変わらなかった。この身果てようとも変わることは無いかもしれない」

ラン「私は全てを奪われ、そして尽きる。ただそれだけの道を征くのだろう」


ルシファー「理解っているなら何故…!」


ラン「報われないからなんだというんだッ!」


ルシファー「…!?」


ラン「たとえ世界が永久不変の理を掲げようとも変革の意思を捨ててはならない!」

ラン「悲劇を創る牙が救世の掌より多くとも、万物の祝福を止めてはならない!!」


ルシファー「な…!?」


ラン「法で善悪は決まらないといったな!ならば此方も言わせて貰う!」

ラン「報われるか否か、自分の損得で善悪を決めるな!ルシファー!!」


ルシファー「こ、この…!」


ラン「天の名に於いて貴様を浄化する!」



ラン「大人しく平伏し、大罪を悔い改めよ!ルシファーッ!!」



ルシファー「この分からず屋めぇ!」


125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 14:15:21.78 ID:pBbrw7Aw0


3日目 深夜 ネレイド城(崩落中) B1F



ゴシャァン!

ガラガラガラ…



モリアーティ「ひゃぁっ」


三澤「うおおっ!?」


醍醐「…」


高遠「なに…この音、普通じゃない」

高遠「崩れる音に交じって…なにかがぶつかるような…」


黒服「ほ…本当にここにいて大丈夫なんでしょうか…」おろおろ



ズガァァッ!!



モリアーティ「ひゃああ」


高遠「…『人ならざる者』」

高遠「ランちゃん…なの?」






126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 14:19:20.74 ID:pBbrw7Aw0


3日目 深夜 ネレイド城(崩落中) 上空



ルシファー「くそっ」


漆黒の堕天使はありったけの怒りを妹にぶつけるが、もう遅かった。

上空から見下ろす吸血鬼伝説の古城は、最早見る影もなくただの瓦礫となっているが、

その瓦礫の上に立ち、しっかりと此方を見据えている大天使は攻撃を受けても尚傷一つなく健在だった。


ルシファー「くそぉ!」


ランの啖呵と同時に現れた、彼女の背の『翼』は彼女の覚醒の証であり、忌まわしき父の力の証であり

…それは堕天使ルシファーの、敗北を意味する白翼であった。


ルシファー「…戻しやがった。大天使の力を」


地上に堕ちた天使はその力を剥奪される。

再び天界に舞い戻るには、試練を超えてその力を取り戻さなければならない。

そして彼女の試練は我々全柱の浄化。つまり、こういうことである。



…父上は既に、ランによってルシファーが浄化されたと、見做した。



ルシファー「…ふざけるなッ!!」


まだ決着はついていない!!

叫んでそのまま紅い軌道を描く。上へ上へと。そして成層圏ギリギリで目下のランに照準を合わせた。


ランは瓦礫の山から動いていない。身構えているのか、此方を見失ったのか。

だがこちらの思惑に気付こうと関係無い。この技は避けようと思って避けられる技では無いからだ。


主神が天より放つ裁きの鉄槌。その名を騙りながらもその破壊『のみ』を模倣した冒涜的な一撃

傲慢極まる堕天蹴撃<フォーリンダウンストライク>


ルシファー「堕としてやる…ボクの…全力で!!」



亜光速の速さで敵を突き穿たんとす、ルシファーの気迫と執念と怨嗟の閃光を

大天使ランは瞬きせず見据えていた…



………

……



127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 14:23:46.37 ID:pBbrw7Aw0



後日 未明 ネレイド城跡




ラン「…ルシファー」

ラン「貴様等の眷族となった人間は、みな晴れやかな顔をしていたな。自分の行いが真の正義であると信じきっていた」

ラン「その清々しい顔のまま人を殺していた者もいるだろう。確かに幸福を勝ち取る一つの道なのかもしれない」


ルシファー「…」


ラン「しかしそれは、ほんとうに全人類が歩むべき道なのか?」

ラン「そうやって己の正義を疑わぬ者しかいなくなった世界を、人は何と呼ぶだろう?」

ラン「…地獄だ」


ルシファー「…」


ラン「人は、自分の事を悪い人間だと思っているから良い人間になろうと努力をする」

ラン「しかし己の罪や落ち度に全く目を向けない人間は、どこかで何かが起きてしまったとき―」

ラン「自分は善人なのだから、邪悪な心は他所にしか無いのだと思い込んでしまう」

ラン「正義の鉄槌を与えようとする心は、悪魔の心によっていとも簡単に暴走してしまう」


ルシファー「…」


ラン「だから、父上は人間に原罪を背負わせた」


ルシファー「…」


ラン「貴様の言う通り、これは生物としての幸福を与える為ではない。それは…人間を人間たらしめる為」

ラン「原罪とは、この世界を…他者と共に歩み支え合う者達で満たすために与えられた福音なのだ」

128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 14:29:17.46 ID:pBbrw7Aw0

ルシファー「…よくもまぁ、そこまで馬鹿正直に物事を綺麗な方へ綺麗な方へと解釈したものだ」

ルシファー「まるで父上の説教を聞いているようで反吐が出るよ」


ラン「…」


ルシファー「でも、キミは父上とは違う」

ルシファー「たとえ屁理屈でも…生半可な覚悟で綺麗事を扱っていないことがよくわかった」

ルシファー「ほんのちょっぴりだけど、ここに響いた」


ラン「…ルシファー」


ルシファー「その妹の決意に免じて、ボクは暫く地獄で大人しくしておいてやるとしようか」


ラン「…」


ルシファー「…ただ、改めてもう一度言わせてくれ。人の醜い部分に触れ、世の矛盾に翻弄され、愛する者を失って…」

ルシファー「それでも尚他者に見返りを求めず、決して報われぬ滅私奉公をし続けようとする君の思想は…」

ルシファー「些か人間離れしすぎている」


ラン「…」


ルシファー「たとえその先に全人類の祝福が待っていようと、大勢に悠久の苦痛を強いる生き方よりは…」

ルシファー「この手を汚してでも一人一人の幸福のみを尊重する方が、より理想の世界に近付ける」

ルシファー「それは今も変わらない」







ルシファー「…だから必ずまたキミの前に戻ってくる」

ルシファー「もっと、もっと難しい謎をキミの胸に刻むために」


ラン「…」


ルシファー「…じゃあ、また…いずれそのときに…」

ルシファー「決着を付けよう…ラン…」


バキンッ










ラン「何度でも蘇ってくるが良い。如何なる真理が闇に飲み込まれようとも、私は必ずそれを掬い上げて見せようぞ」


ラン「天神の名の下に…そして…」







ラン「我が魂の誇りにかけてっ!!」

129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 14:35:44.43 ID:pBbrw7Aw0



エピローグ






担当医は目を丸くしていた。


多くの場合、病院に運び込まれるまでのあいだの処置が生死を決めるという。

しかしそれは街中の人身事故などの5分10分の事を言うのであって

死に瀕した人間がその状態で二日弱も持ちこたえるなんて事例に出くわしたのは初めてだった。


その場に居合わせたイギリス人医師がやったという適切な医療処置を加味しても

奇跡と言っても差し支えないほどにその男は回復した。


君は随分神様に愛されているみたいだね。


男の病室で担当医は『奇跡』のことをそう表現した。

思ったことを素直に口に出しただけだったのだが

それを聞いた男は、喜ぶというよりは少し困ったような顔をして、こう言った。


「むしろ嫌われているんじゃないでしょうか。愛娘を誑かす悪漢だと思われて、あの世から追い出されただけなのかも」


その言葉の真意が掴めずにいる担当医をよそに

『アカバネ』と書かれたネームバンドの男はじっと窓の外の蒼空を見上げていた。





130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 14:42:59.39 ID:pBbrw7Aw0



数か月後 天界 唯一神の間



唯一神「私は全てを祝福の光で満たすため、この世界を創り上げた」

唯一神「人々が障壁を乗り越え、友が友を祝福し、それが円環となり繋がる楽園…」

唯一神「そういうふうに、万物を産み出したはずなのだがな」


唯一神「…円は万物を作る図形だが、同時に生まれたものと正反対の物を作り調和を取ろうとする」

唯一神「正義と憤怒…知恵と強欲…信仰と嫉妬…愛と色欲…節制と怠惰…希望と暴食」

唯一神「そして…勇気ある娘と、傲慢なる娘…」


ラン「…」


唯一神「全知全能である私は…そういう意味に於いては無知無能でもあるのかもしれんな」


ラン「…」


唯一神「改めて…よくぞ試練を乗り越え戻ってきた。我が娘よ」


ラン「はい」


唯一神「天に還ってきて早々に、中位三隊に勝るとも劣らぬめざましい活躍をしていると聞く」

唯一神「現世での試練が娘をより高位なる領域へと近付ける手助けになったのならば、父として喜ばしい限りである」


ラン「はい」


唯一神「…のだが」

唯一神「大天使チエリエルから、またも何者かにプリンを盗み食いされたという報告が来ている」

唯一神「何か知らんかな?娘よ」


ラン「はい?」


131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 14:47:05.59 ID:pBbrw7Aw0



ラン「…」


唯一神「…」


ラン「…なんのことやら?」


唯一神「…」


ラン「我が覇道に禁断の果実無し(その時間私にはアリバイがありますよ?)」

ラン「禁忌を侵す障壁となる友の居城は茨這い回る剣山の道である(プリンがあったチエリエルちゃんのおうちに近付くにはぷち天使による厳重な監視を潜り抜けなければなりません)」

ラン「それは友無き逢魔も同様、目の壁の密室は全ての欲望を拒絶する(チエリエルちゃんが外へ出てから帰ってくるまでの間、近くの監視が目を離したのはたった一度の交替時間だけでした)」

ラン「ウンディーネの恵みを受けた我が身を瞳に映していた者は遥か遠く…(そのとき私は移動時間20分ほど離れた噴水のそばで目撃されています。私には不可能です)」

ラン「禁断の果実…その味は無類…他の追随を許さぬ甘美なる宝玉…(チエリエルちゃんのプリン…あの、50年に一度と言われた09年の出来映えを超えるプリン…)」

ラン「嗚呼、闇に飲まれし真実は我が慧眼を以てしても照らすことが出来るか否か…(エレガントで味わい深く、とてもバランスの良い果実味だったプリンを、一体誰が盗み食いしたというんでしょうか)」


唯一神「…」


ラン「…」


唯一神「…」

唯一神「ちなみにワシ知ってるからね。唯一神だから」


ラン「…」


唯一神「監視の時計弄って交代時間コントロールしてたりとか」

唯一神「んで変装して潜り込んで口裏とか帳尻も全部しっかり合うように色々立ち回ってたりとか」

唯一神「そのあと証拠を抹消しててたりとか、知ってるからね。ワシ。そういうの全部上で見てたから。唯一神だからねワシ」


ラン「…」


唯一神「…」










ラン「そんなずさんな証明で全国のミステリ読者が納得すると思うのかァーーーッ!!!」


唯一神「要らん知恵付けて帰ってきただけかよコノ馬鹿娘ェーーーーーーーーーッ!!!」


132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 14:56:26.97 ID:pBbrw7Aw0



ラン「ふ、ふーんだ!!」

ラン「また罰として現世で何柱か悪魔倒せって言われたって秒速で浄化して帰っちゃうもんね!!」

ラン「だってもう現世でめぼしい高位悪魔は全部浄化しちゃったもんね!!怖いものなしだもんね!!」

ラン「すぐ戻ってきちゃうんじゃ現世に堕とす試練の意味とか無いもんねーー!!」


唯一神「…」


ラン「ふぅーっはっはっはー!」






唯一神「…最近現世の各国で台頭してきてる『ソロモン72柱』とかいう軍勢がいてだな」


ラン「…ほえっ?」





パカッ


ヒューーーーー…




133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 14:59:40.25 ID:pBbrw7Aw0


数か月後 夜 D県 丘陵の大公園



美千香「そうですか…地元に帰っちゃったんですね、ランちゃん」


赤羽根「事件の連続であっという間の日々だったよ」

赤羽根「災難続きだったけど、あれはあれで楽しかったというか…」


赤羽根(たいした別れの挨拶もできずにランは昇って行ってしまった…あいつ、元気にしているだろうか)




美千香「でも、これでまたいっぱい二人きりですね」


赤羽根「うーん…そうだとよかったんだけど…」


美千香「あ、そういえば本庁に栄転するんでしたっけ」


赤羽根「ごめん。二人きりになる時間が増えるどころか、逆に少なくなっちゃうな」


美千香「ふふ。大丈夫なんですよ。実は私も丁度、東京で活動し始めないかってお誘いが来てるんです」


赤羽根「ホントか!?」


美千香「ええ。ですから向こうでもまた一緒ですよ」


赤羽根「…そう言われるとなんだか照れちゃうな」


美千香「それで…ん、こほん!」

美千香「まだ早いって言われるかもしれませんが…」

美千香「えっと、あの…その…」


美千香「わ、私と…!!」






ラン「此処にいたか我が相棒よ!!!(赤羽根さぁあんっ!!!)」だだだだ


ぎゅっ!!


赤羽根「うわぁっ!?」


美千香「!?」

134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 15:03:31.81 ID:pBbrw7Aw0



赤羽根「お、お、おまっ!?どうしてここに…!?」


ラン「おお…生命の脈動を感じる…汝の受けた加護に感謝を…(よかった…助かったんですね…赤羽根さん…)」


ぎゅうっ


赤羽根「ラン…」


美千香「」ピキピキ


赤羽根「そ、そんな事よりラン!なんでまだこっちにいるんだ!?」

赤羽根「もしかして、まだ全部浄化しきれていなかったのか…?」


ラン「その、じ、ジンとゴエティアにより召し寄せられた軍勢を相手取れと…(いや…追加で72柱浄化しろって言われちゃって…)」



赤羽根「72ィ!?!?」


美千香「くっ!?!?」



赤羽根「天に帰るまでに何年かかるんだよそんなの!」


ラン「か、神の試練は険しく果て無きものっ、それ以上はなんとも…(わ、私に聞かれても知りませんよぉ)」



バッチーン!!



赤羽根「へぶぅ!?」


ラン「!?」


美千香「私というものがありながら…私よりも若くて胸の大きい女の子にデレデレして…」

美千香「挙句の果てに私が一番気にしている数字をぉーっ!!!」


赤羽根「」


ラン「へ?」


美千香「もー知りませんっ!!だいっきらいですっ!!」んべっ

美千香「貴方なんて柔道黒帯のパパラッチに投げ飛ばされればいいんです!!」

ダダダダダ…



赤羽根「ち、ちちち違うんだ!聞いてくれ美千香ぁー!!」

ダダダダダ…



ラン「ええっ、ち、ちょっと…」おろおろ





堕天使は二度堕ちる 幕引


135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 15:07:20.83 ID:pBbrw7Aw0




こんな変なSSに長いこと付き合ってくれてありがとう

HTML依頼出した後は

もっともっと面白い話が作れるように修行してきます


136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 15:39:57.91 ID:pBbrw7Aw0


あとがき


堕天使探偵ラン全7幕。楽しんで読んでいただけたならば幸いです。

自分はというと、ほとんど勢いとノリのまま、いろんな作品を師匠にしてパクりまくってやっと形に出来たような未熟な作品群だと思ってます…

しかもこの最終幕を出すのが遅すぎて、過去の話の挿絵が全滅してしまっていたという体たらく。

おまけに後半ネタが尽きてきて安直な展開連発しちゃった感もあって照れくさいったらないんですが、それでも最低限のクオリティは保てていた!と信じたいですね。


途中何度も挫折したり、脱線したり、ときおり熊本弁翻訳が東京訛りみたいになったりして、いつのまにか三年ほど経ってしまいましたが、

やっとこさこの長い長い悪ノリと、それに付き合わされた蘭子ちゃんの浄化の旅を終えることができました!


制作秘話なんて話せばキリがないのでこのくらいにしときます。



改めまして、第一幕から今日までずっと追いかけてくれた人、ごり押しギャグに笑ってくれた人、真剣に推理ゲームを楽しんでくれた人。

ただ静かに黙々と読んでくれた人、このSSを読むために限りある時間を使ってくれた皆々様。

約三年にも及んでしまったヘンテコ堕天使珍道中に付き合っていただき

本当にありがとうございました。

m(_ _)m






来週のこの時間は新番組『ぼののけ姫』が始まります乞うご期待!!!(大嘘)


137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/09/02(日) 15:43:20.64 ID:pBbrw7Aw0


○本SSシリーズ創作につき活用した参考文献…というよりパクリ元(ネタバレ防止のため作品名のみ。順不同)

 前述の通り自分はパクリで成立してると思ってるので、全部紹介しないと後ろめたくてかなわんのです…


・金田一少年の事件簿

学園七不思議・魔犬の森・秘宝島・蝋人形城・雪夜叉伝説・怪盗紳士


・探偵学園Q

コレクター


・TRICK2

サイ・トレイラー


・かまいたちの夜1


・TRICK&LOGIC・season1

「雪降る女子寮にて」



○名前の元ネタ

・第一幕、二幕、五幕

金田一少年の事件簿と名探偵コナンのレギュラー、準レギュラー


・第四幕

人形草紙あやつり左近(ジャンプの推理漫画)のレギュラー、サブキャラ


・第六幕

金田一少年の事件簿と名探偵コナンに登場する宿敵三人(高遠遥一、怪盗紳士、怪盗キッド)が作中で使ったことのある偽名


・第七幕

いろんな名探偵たちに立ちはだかった有名な宿敵(上記三人含む)


どうもありがとうございました。

m(_ _)m
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/10/15(月) 16:35:50.56 ID:37mvPGtn0
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/09(日) 23:34:07.65 ID:jfrZzyNU0
ぼののけ姫マダー?
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/11(火) 16:40:24.05 ID:uCf1mQET0
おつ
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/11(火) 18:46:26.01 ID:Q4rORq9oO
堕天使探偵終わってしまったか…乙
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