まゆり「あなたは誰ですか?」岡部「……ッ」

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1 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:21:46.61 ID:TX6juVmuo
※オリキャラ注意  

第一章 反復強迫のエムプーサ 

steins;gate world line 1.048596
2011年夏 未来ガジェット研究所



紅莉栖「――というわけで、私のおかげであんたはこの世界線に居られます」ドヤッ


 この不遜な顔が、こんなにも安心感を与えてくれる。


岡部「……助手風情に助けられてしまうとは、な」

紅莉栖「助手ってゆーな!」


 このやり取りも懐かしい。いや、体感では大した時間は経過していないのだが、もうここへ戻ってくることもないと覚悟していたものだからそう感じてしまう。
 これがシュタインズゲートの選択か。


岡部「フッ。破廉恥な手段を使いおってからに」ニヤリ

紅莉栖「バッ!? そ、それは海馬に強烈な記憶を植え付けるために仕方なくだな!」テレッ

岡部「この俺、狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真のファーストキッスの記憶を書き換えるとは、とんだマッドサイエンティストが居たものだ」ククク

紅莉栖「だあああっ!? い、言うな、バカッ!」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1542716506
2 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:25:31.48 ID:TX6juVmuo

 なにせ、今の俺の脳内には雑司ヶ谷の駅で見ず知らずの女の子――実際は未来から来たセレセブのはずだが――と出会った記憶がある。
 世界線の再構成なのかは知らないが、アメリカへ行く前の幼い紅莉栖がなぜか池袋にやってきて、なぜかホームでしょぼくれていた少年にキスをしたことになっていた。
 それだけではない。この時の少女、牧瀬紅莉栖こそが鳳凰院凶真の名付け親にまでなってしまった。典型的なタイムパラドックスが発生している気がするが……。
 うむ。考えれば考えるほど意味がわからん。


紅莉栖「それで、ホントに大丈夫なのよね? また意識が別の世界線に跳んだりしてない?」


 ソファーに腰かけた俺を紅莉栖が心配そうな顔で覗き込んでくる。その眉の動き、息遣い、髪の匂い……全てが、俺がこの世界線に居続けることを肯定してくれる。


岡部「まだ時間もそんなに経ってはいないから、ある程度経過観察が必要だろうが――」

岡部「なんというか……すごく、しっくりきている」

紅莉栖「しっくり?」
3 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:27:58.96 ID:TX6juVmuo

岡部「ああ。俺はこの世界線の住人なんだと。この世界線の未来の紅莉栖と、過去でつながっていたのだ、と」

紅莉栖「……そうね。そういうループがあるおかげで、時間移動と世界線漂流をし続けたあんたの主観、意識は、この世界線に固定されているのかもしれない」

紅莉栖「鈴羽さんには感謝しないと……6年後に、ね」


 鈴羽は紅莉栖を現代へ送り届けたあと、未来へ帰ったのか? あるいは、そもそも2036年から過去へ跳ぶ歴史自体が消滅したのだろうか?
 どちらにせよ、結果は変わった。過去を変えずに、記憶を改変して、因果律は成立した。鈴羽にはどの世界線でも助けられているな。


岡部「しかし、自らの魔眼<リーディングシュタイナー>の能力におのが身が否定されようとはな」

紅莉栖「厄介な脳みそをお持ちのようで。でも、もう必要ない」フフ

岡部「……そうだな」フッ
4 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:29:02.94 ID:TX6juVmuo

 そんな話をしていると、ふいにラボの玄関の扉がガチャリと開いた。


まゆり「……あ、オカリンにクリスちゃん」


 ラボメンナンバー002、椎名まゆり。俺がα世界線を脱出する目的そのものだった彼女は、今俺の目の前に居て、動いて、声を出して、生きている。
どことなく、その声に違和感があった。


紅莉栖「ハロー、まゆり。どうしたの? 元気なさそうだけど」

岡部「暑さにやられたか? ドクペなら冷蔵庫の中に冷やしてあるぞ」

まゆり「ううん、ちょっと寝不足なので……す……」クラッ

紅莉栖「うわっとと。大丈夫?」ダキッ


 よろめいたまゆりを紅莉栖が抱き留めた。しかし、あの健康優良児の代表選手が寝不足だと?


岡部「戦利品のアンパッキングで徹夜でもしたか? とりあえずソファーで休め」


 そう言いつつ俺はソファーから立ち上がった。


まゆり「ありがと、オカリン。でもね、ソファーとうーぱクッションに挟まれるとね、たぶん、眠くなっちゃうから……」

紅莉栖「寝てもいいのよ? 私がこのHENTAIから守ってあげる」エヘン

岡部「おい」


 なぜ俺が幼馴染に手を出さねばならん。ここにダルが居たら話がややこしくなっていたことだろう。
 まゆりは決まりが悪そうに小さく首を振った。


まゆり「ううん。あのね……」

まゆり「まゆしぃ、最近怖い夢を見るのです……」
5 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:29:55.28 ID:TX6juVmuo

紅莉栖「怖い、夢?」

岡部「夢が怖くて寝れないのか?」


 寝不足の原因はわかった。しかし、悪夢の原因は……。


まゆり「うん……」

紅莉栖「それがまゆりの寝不足の原因なの? 寝るのも怖いほどって……一体どんな?」

岡部「おい、助手」

紅莉栖「夢は脳が見せる現象のひとつ。心療内科ってわけにはいかないけど、脳科学者の私ならなにか力に―――」

岡部「おいっ!」

紅莉栖「な、なによ? さっきからうるさいわね」


 これは紅莉栖のいつもの癖だ。さすが研究者、といったところだが、やはり長年友人も碌にいないまま研究に没頭したせいだろうか、人のペースよりも自分の興味関心を優先させてしまう傾向にある。
 俺にムッとした顔を見せる紅莉栖を尻目に、嫌な予感を確かめてみることにした。


岡部「なぁ、まゆり。その夢、もしや……」

岡部「――お前が死ぬ夢、か?」
6 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:30:40.83 ID:TX6juVmuo

紅莉栖「は?」

まゆり「…………」コクリ

紅莉栖「えっ? そ、そうなの?」


 やはり、そうなのか……? いや、まだそうと決まったわけでは――――


まゆり「いつもオカリンが助けに来てくれるんだけどね、まゆしぃ、いつも死んじゃうんだ。えへへ……」


 力なく笑うまゆり。本当に、まゆりには似合わない表情だ。
 紅莉栖はそんなまゆりの顔を見て、そして俺の予言的中に対して目を丸くしている。


岡部「これは……まさか……」

紅莉栖「どうして岡部が言い当てたのか。もしかして……」

岡部「リーディングシュタイナーが発動している……?」
7 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:32:13.64 ID:TX6juVmuo

紅莉栖「そう決めつけるのは早計よ!」


 紅莉栖の言う通りだ。俺だって否定したい!
 α世界線でのまゆりの経験は、すべてなかったことになった。いや、この俺がなかったことにしたのだ。まゆりを世界に殺させないために。
 それが、その経験が今夢という形で蘇っているなど、あってはならない。あれは、可能性の雲の中に霧消したはずだ。だが……


岡部「だがっ! その夢は、俺が経験してきたα世界線のまゆりの状況と酷似している」

岡部「無論、俺のような完全な能力ではないだろうが、おそらく強烈な印象をもたらす記憶に限定してのリーディング――」

紅莉栖「ちょっとストップ! ねぇ、まゆり? もし良かったら、その夢の内容をもう少し詳しく教えてくれない?」

まゆり「……あんまり気持ちの良いお話じゃないよ?」

紅莉栖「どうしても検証に必要なの。ね?」

まゆり「……昨日はね、まゆしぃとオカリンが男の人たちに追い回されて、それで車にひかれちゃった」

岡部「……ッ!」

まゆり「一昨日は、オカリンとタクシーに乗ってたんだけど、窓から男の人が、まゆしぃにピストルを撃って」

岡部「…………」プルプル

まゆり「3日前はね? 地下鉄の駅のホームから……で、電車に……っ」ウルウル

岡部「もういい! 十分だ!」


 俺は大声でまゆりの言葉を遮った。
8 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:33:04.45 ID:TX6juVmuo

まゆり「怖くて……次はどんな風に殺されるんだろうって思うと、眠れなくて……」プルプル

紅莉栖「教えてくれてありがとう、まゆり」ダキッ


 まゆりの震える身体を紅莉栖が抱きしめた。
 まゆりの言葉から、俺は確信した。これは、俺が世界線漂流を繰り返してきたせいで起こっている、リーディングシュタイナーに関する現象なのだと。
 つい先ほどまでは俺がこの力に翻弄されていた。この狭間の世界線では、リーディングシュタイナーが暴走しやすいのか……?


まゆり「ううん、まゆしぃこそごめんね。心配かけちゃって……」

紅莉栖「そう思うんなら少しでも長い時間寝た方がいいわ。まゆりがうなされはじめたらすぐに起こしてあげるから、安心して」ナデナデ

まゆり「う、うん……」


 まゆりはやはり不安そうに、しかし紅莉栖に導かれながらソファーに横になった。
9 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:35:17.91 ID:TX6juVmuo

まゆり「スー……スー……」

紅莉栖「一瞬で眠りについた。よっぽど寝れてなかったのね」

岡部「断言しよう。まゆりの夢は間違いなくα世界線で起こった出来事だ」

紅莉栖「……それを前提に仮説を組み立てていいのね?」

岡部「ああ。まゆりの夢の話は、俺の記憶と恐ろしいまでに合致している」


 さらに言えば、まゆりの怯えた表情や声色も、α世界線でのソレと寸分違わない。もう二度とまゆりにそんな顔をさせるつもりはなかったのだが……。


岡部「それだけじゃない。α世界線のまゆりも、今のまゆりと同じように自らの死の体験を夢という形で思い出していた」


 あれは最後のα世界線。俺がまゆりを探しに雑司ヶ谷へ行き、おばあちゃんのお墓の前で独り言をつぶやくまゆりを見つけた時のことだった。


紅莉栖「えっ? それって、今みたいに?」

岡部「いや、これほどまでではなかった。怖い夢を見るとは言っていたが、恐怖で夜も眠れなくなるほどではなかったはずだ」

紅莉栖「それに対し、今回は強烈な恐怖体験を伴ったリアルな夢になっている、と」

岡部「クソッ! 俺の次は、まゆりなのか……っ!」


 まだ世界線は俺たちを苦しめようと言うのか……!
10 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:36:15.25 ID:TX6juVmuo

紅莉栖「岡部のR世界線のケースと同一視するのは危険よ。そもそも、まゆりには完全なリーディングシュタイナーがあるわけじゃない」

紅莉栖「実際、死の体験以外の記憶は思い出してない。それに、まゆりの意識は世界線漂流を経験していない。そういう意味で、岡部のそれとは別次元の症状と言える」

岡部「俺のようにこの世界線から消える、というわけではない……か」


 俺の場合、実際に体験したことのない世界へと放り出されたことすらあった。それはやはり、もともと不安定だった俺の記憶が可能性世界線の記憶を受信したために、意識がそちらへ跳んでしまったせいだろう。
 そういう意味では紅莉栖の仮説が正しいと思える。まゆりは、論ずるまでもなくシュタインズゲート世界線の住人であり、突然消えることなどあり得ない。


岡部「……このまま悪夢が治らない可能性は?」

紅莉栖「わからない。まだ情報が足りなすぎるわ。とにかく、少なくとも1週間はまゆりを保護観察しておくべき」

岡部「一過性のものであってくれれば良いが」

紅莉栖「そうね……」


 根拠のない希望的観測が空気中へ昇華したところに、闖入者が現れた。


ガチャ バタン
11 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:37:27.59 ID:TX6juVmuo

萌郁「こんに、ちは……」


 階下のブラウン管工房のバイト、桐生萌郁。彼女がここにフラッと訪ねてくるのはそこまで珍しいことではない。一瞬まゆりのことを起こさないよう頼もうかと思ったが、元々もの静かなやつなのでその考えは刹那で捨てた。


岡部「閃光の指圧師<シャイニングフィンガー>か。バイトはどうした? サボりに来たのか?」

萌郁「店長さんから……家賃、取り立てて、こいって……」

岡部「ぐっ!? クリスティーナの来日で頭がいっぱいだったせいで忘れていた……」

紅莉栖「わ、私のせいにすんな! ……うれしいけど」ボソッ


 紅莉栖が小さな声でなにか言っていたが聞こえなかった。そういうことにしておこう。


岡部「しばし待つがいい閃光の指圧師。金ならスイス銀行の口座に――――」


 その時――――







 いやあああああああああああああああああああああっっっっっっっっ!!!!!!!!






12 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:38:30.86 ID:TX6juVmuo

岡部「まゆりッ!?」

紅莉栖「まゆり!?」

まゆり「いやっ、やだっ!! やめて、もう殺さないでぇぇっ!!!」ブルブル


 まゆりはソファーから転げ落ち、床の上で錯乱していた。その顔は絶望にまみれ、涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃになっていた。


萌郁「ッ!?」ビクッ

岡部「まゆりっ! ここは現実だ! 夢はもう覚めたんだ!」ガシッ


 俺の大切な幼馴染の、のたうち回るその肩を無理やり抱き止めた。


まゆり「お願い、許してぇっ!! 萌郁さん、撃たないでぇっっ!!!」ポロポロ

萌郁「わた……し……?」

岡部「萌郁……だと……?」プルプル

紅莉栖「どういう……こと……?」
13 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:39:27.12 ID:TX6juVmuo

萌郁「あの、岡部く――」

岡部「すまない、萌郁。事情は後で話す。今は帰ってくれ」


 萌郁には全く理解できない状況だろう。だが、説明している余裕はない。


萌郁「……わかった」ガチャ バタン


 思いのほか素直に引き下がってくれた。恩に着る。
 まゆりはおそらく、萌郁がラボの中に入ってきたことで――たぶんかすかな声や匂いなどで――最も忌むべき、そして最も繰り返した死の記憶を呼び覚ましたのだろう。


まゆり「いやぁぁぁあっ! やだよぉぉぉぉっ!!」ポロポロ

紅莉栖「あのまゆりがここまで取り乱すなんて……。もう大丈夫よ! 桐生さんは下に行ったわ!」

まゆり「だめぇぇぇっ!! みんな、殺されちゃうよぉぉぉっ!!!」ポロポロ


 紅莉栖には去年アメリカでα世界線でのラボ襲撃の話はしてある。"みんな"という言葉で紅莉栖も感づいたはずだ。
 まさか、まゆりはいまだ夢を見続けているのか? 幻覚を見ているのか!?


岡部「まゆりっ! 大丈夫、もう大丈夫なんだ!!」ダキッ

まゆり「オカリン……っ。う、うぅっ……」


 俺がまゆりの全身を力強く抱きしめると、ふっと落ち着き、そして切なく泣き出した。


まゆり「うわぁぁあぁぁああああぁぁぁぁぁぁん……」
14 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:40:43.09 ID:TX6juVmuo

夕方 未来ガジェット研究所



フェイリス「ニャニャ!? マユシィがここにウイルスカードを置いてるニャンて!?」

まゆり「ちっちっちー。いつまでも弱いままのまゆしぃじゃないのです!」エッヘン

ダル「まゆ氏の逆転勝利に悔しさを隠せないフェイリスたんも……いい……」ハァハァ

ルカ「まゆりちゃん、すごーい!」パチパチ



岡部「――皆を招集しての眠気覚まし、か」


 どうすべきか最善の策が思いつかなかった俺たちは、萌郁以外のラボメンを緊急招集することにした。
 俺と紅莉栖は研究室で話し合っているが、あいつらは雷ネットABをやっているらしい。まゆりの様子に何かを察したフェイリスは接待プレイをしてくれているようだ。感謝する。


紅莉栖「今眠るとまた発症してしまう可能性が高い。急場しのぎでしかないけど、とりあえずどうすべきか判断をする時間が欲しい」


 まゆりがみんなには言わないでほしいというから伝えてはいないが……今はまゆりの睡魔を追い払うだけで精一杯なのだろうか。
 こんなにも無力とは、鳳凰院凶真の名が廃る……。
15 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:41:48.42 ID:TX6juVmuo

岡部「親御さんに連絡をして、心療内科や精神科の受診を薦めるべきだ」

紅莉栖「そうね、とりあえずは。だけど、根本的な解決にはならない」

岡部「なに?」

紅莉栖「夢を見る神経メカニズムは未だによくわかっていない。仮説として、ドーパミン神経系がなんらかの作用をもたらしている、というのがある」

紅莉栖「悪夢を見ないようにする1つの方法としてはドーパミン神経系をブロックする向精神薬を投与する、というのが考えられるけど」

紅莉栖「まゆりは過去の記憶がトラウマになっていて、それが情動をつかさどる脳部位に悪さをしている、というわけじゃない」


 確かに、この世界線の過去の記憶がトラウマになっているわけではないだろう。


紅莉栖「本当はもっとちゃんとした施設で時間をかけて分析したいところだけど……」

紅莉栖「眠っていたまゆりの眼球運動はほとんど無かった。あと、本人はちゃんと夢として認識していることから小児によくある夜驚症でもない」

紅莉栖「睡眠と発狂の前後の状態からしても、次の私の推測は信ぴょう性が高いと思う」


 教えてくれ。その推測とやらを。
16 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:44:32.24 ID:TX6juVmuo

紅莉栖「まゆりは、全く脳内に入っていなかった別の世界線の記憶を夢という形で"思い出している"だけの状態よ」


 なるほど……。確かに、そうだろうな。別の世界から急にやってきた、知りもしない新しい情報が夢へと形を変えてまゆりを苦しめているのだ。


紅莉栖「仮にそういう状態だとしたら、そんなの、現代の医学では原因さえ理解されない。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬等で誤魔化していくしかないでしょうね」

岡部「だが! 現にまゆりは苦しんでいる!」

岡部「今日一日ならともかく、今日のような日が一週間も一か月も続いてみろ!」

紅莉栖「その場合、精神崩壊。最悪、衰弱死もありうる」

岡部「なっ……!?」

紅莉栖「あ、あくまで可能性だから! 必ずそうなるわけじゃない!」

岡部「わ、わかっている……っ」


 シュタインズゲート世界線は未知の世界線。まゆりの死が確定していない代わりに、生も確定していない。運命に殺されるという究極の理不尽だけはあり得ない。だが、病気やケガなどは話が別だ。
 しかし今回は、別の世界から悪魔が飛来してきているのだ。普通の人間ではまず起こりえない理不尽。俺がまゆりを救おうとあがきもがいたために起こった副作用。記憶とか、世界線とか、おいそれと手が出せるものではない分、本当に腹立たしい。
 だからなんだ? 俺は鳳凰院凶真、狂気のマッドサイエンティスト。そんなもの、すべて我が力によって追っ払ってくれる。何度でも何度でも、まゆりを絶対救ってみせる。
17 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:45:12.75 ID:TX6juVmuo

紅莉栖「ねぇ、みんな? そろそろお腹空かない?」


 話が行き詰まったところで、紅莉栖が研究室から出て行ったので後に続いた。


フェイリス「ハッ。気付いたらもう良い時間ニャ。今日はみんなで晩御飯ニャ〜♪」

ダル「賛成! 僕、ピザ頼むお!」

ルカ「あっ、じゃぁ飲み物の準備をしますね」

岡部「まゆりはどうだ? なにか食べたいもの、あるか?」

まゆり「……まゆしぃは、あんまりお腹減ってないのです」

フェイリス「食べなきゃ大きくなれニャいぞー?」

まゆり「えっへへー……」

紅莉栖「まゆり。飲み物だけでも飲みなさい。本当に倒れちゃうわよ?」

まゆり「う、うん。ごめんね、クリスちゃん」


 あの食いしん坊万歳のまゆりが、食を拒絶するようになる日が来るとはな……。
18 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:46:25.85 ID:TX6juVmuo

 夕食も済み、女子高校生ズ(1名男子)はさすがにそろそろ帰るべき時間となったので解散することにした。


フェイリス「バイバイニャ〜! 次は絶対負けないニャ!」

まゆり「うん! またね、フェリスちゃん!」

ルカ「ごちそうさまでした。楽しかったです」ニコ

岡部「夜道には気をつけるんだぞ」

ダル「んじゃ、また何かあったらヨロ」

紅莉栖「ええ。それで、岡部とまゆりは一緒に帰るのね?」

岡部「ああ。電車の座席で居眠りして、車庫まで行ってしまわないよう見張りが必要だからな」

まゆり「えっへへー。まゆしぃは愛されちゃってるねぇ」


 その声にいつもの元気は無い。とても、弱々しい。


紅莉栖「私はとりあえず御茶ノ水のホテルに居るけど、何かあったら夜中でも連絡ちょうだい」

まゆり「ごめんね、クリスちゃん」

紅莉栖「謝らないで。私は、私の意思で、まゆりの力になりたいの」

まゆり「……えっへへー。ありがとう、クリスちゃん」ニコッ
19 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:48:01.75 ID:TX6juVmuo

秋葉原駅 総武線ホーム



 俺とまゆりは御茶ノ水で地下鉄に乗り換えるのがいつものルートだ。まゆりの高校も俺の大学も最寄りが御茶ノ水のため、定期が使える。タクシーも考えたが、密室空間の上にタクシーの悪夢のことを思えば、まだ普段使いの経路の方が安心できるというもの。
 せっかくだから御茶ノ水までは紅莉栖と一緒に徒歩で行っても良かったが、正直その選択肢は忘れていた。


まゆり「…………」ギュゥ


 まゆりが俺の右腕を白衣の上から抱きしめる。顔のわりに豊満な胸も当たっているが、そんなことに構っていられるほどの余裕など毛ほどもない。


岡部「……大丈夫だ、まゆり。ここに綯が現れることはない」


 現実世界ではそうに決まっている。だが、もし今まゆりの脳内世界に幻覚の綯が現われでもしたら……それは最悪の結果さえ招きかねない。そう思って、俺はまゆりに抱きしめられた腕でまゆりを抱きしめ返した。電車が到着するまで、絶対に離さないようにして。
 まぁ、今のまゆりの様子を見る限りでは、そこまで変わった様子はないので一安心ではある。


まゆり「綯、ちゃん……? あ、そっか。あの時、まゆしぃを押したのって……」

岡部「気付いてなかったのか? 普段からそういうスキンシップを取っていたのがアダになったのだろう」

まゆり「うん……でもね、綯ちゃんで良かった、かな……」

岡部「なぜだ?」

まゆり「だって、そういうことなら、悪気はなかった、わざとじゃなかったってことでしょ?」

岡部「そう、だな」

まゆり「それなら、まゆしぃが死んじゃっても、仕方ないかなぁって」エヘヘ

岡部「…………」


 なんというか……。まゆりが優しい子なのは周知の事実だが、その優しさが別方向に向き始めている気がした。
20 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:49:44.90 ID:TX6juVmuo

地下鉄丸の内線車内



ガタンゴトン …


岡部「やはり、座らないのか?」

まゆり「うん。でもね、こうやって棒につかまってるだけでも、ちょっと眠くなってきちゃうから、まゆしぃとお話しててほしいな」

岡部「俺の話でいいのか?」

まゆり「オカリンの……きかんのかんぶ? の話はきっとすっごくすっごーく眠くなってきちゃうので、できればまゆしぃのお話を聞いてほしいなー」

岡部「フッ。言うようになったではないか。良いだろう。貴様の話を思う存分聞かせて見るがいい!」

まゆり「えっへへー! あのね、あのね! まゆしぃは、オカリンに聞いてほしい話がたっくさんあるのです!」ムフー

岡部「急にテンションが上がったな」


 やはり、まゆりはこうでなくては。
21 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:51:03.80 ID:TX6juVmuo

椎名家前



 その後、池袋の椎名家に着くまでの間、うーぱの新作が出たのを映画館まで行ってなんとか手に入れた話とか、コスプレ友だちのヒビキちゃんだかツヅキちゃんだかが実兄との間に問題を抱えている話とか、それはもう心底どうでもいい話の絨毯爆撃をくらった。


岡部「ついたぞ」

まゆり「あ! あのね、オカリン。今日は本当にありがとうなのです」ニコ

岡部「きっとすぐ良くなるさ。あんまり気を張るな」

まゆり「それでね、その……。もしオカリンが良かったら、今日は一緒に寝ない? かな、なんて、えへへ……」モジモジ

岡部「…………」


 一瞬ドキッとしたが、よく考えてみればまゆりとは小さい時によく一緒に寝ていたし、たいした問題ではない。それになにより今のまゆりの状態を考えれば……。


岡部「わかった。とりあえず、椎名の親父さんに話をさせてくれ」
22 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:54:48.98 ID:TX6juVmuo

まゆりの部屋



 椎名家の団欒に乗り込んだ俺は、娘さんと一晩寝させてください的な発言をしてしまったのだが案外あっさりOKが出たので逆にこっちが面を食らってしまった。とりあえずまゆりの今日の容態の説明と、明日の朝一で俺がまゆりを病院へ連れていく約束をした。
 俺は自分の家に一度帰り、風呂にサッと入ってから椎名家に戻ってきた。他意はない。


まゆり「えっへへー。こうやって一緒にベッドに入るの、なんだか懐かしいねぇ」ニコニコ

岡部「あれはいつのことだったか……俺がまだ能力に目覚める前、聖戦の鐘がこの世界に響き渡らんとしていた―――」

まゆり「オカリン」

岡部「って、話を遮るんじゃ――」

まゆり「あり、がと……ムニャムニャ」

岡部「……もう眠ったのか?」


 返事は待っても来なかった。やはりまゆりは相当我慢していたのだ。最後のムニャムニャの中に「オカリンスキー」とかいうロシア人の名前のような音声が聞こえたような気がしたが気のせいだろう。
 俺は今日一日頑張ったまゆりのくせの強い髪の毛を飼い犬のように撫でまわしてやった。
23 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:57:25.97 ID:TX6juVmuo

夜中



岡部「んごっ……ぐぅ、すか、ぴぃー」zzz

まゆり「――――カハッ」

岡部「ん、んむぅ。……って、まゆり!?」


 俺の横ですやすや寝ていたはずのまゆりは、目を見開き、全身を痙攣させ、喉からはほんの微かな呼吸音を出していた。目の前の現実を認識するや否や、俺の脳細胞が一気に覚醒した。


まゆり「オ……オカ……っ」コヒュー

岡部「まゆり!? 大丈夫か!? 落ち着け、ゆっくり息をしろ!!」

まゆり「ハァ……ハァ……フゥ……フゥ……」

岡部「そうだ、それでいい……大丈夫、ただの金縛りだ」サスリサスリ

まゆり「うん……もう大丈夫。汗びっしょりだね。お着替えして、お水を飲んでくるのです」


 そう言ってまゆりはガーリッシュな洋タンスから着替えを取り出して部屋を後にし、しばらくして別のパジャマ姿で戻ってきた。
24 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 21:58:38.28 ID:TX6juVmuo

岡部「……また、夢か?」

まゆり「うん……。ビッグサイトでね、クリスちゃんと一緒にコミマに行ったんだけど、急に息が苦しくなっちゃって……」

岡部「……ッ」


 あの時俺は、まゆりの正確な死亡時刻を確認するためだけにまゆりを見殺しにした。あの時のことが今回の夢を引き起こすことになるとは……やはりこれは、全部俺のせいだ。まゆりが苦しんでいるのは、全部……っ。


岡部「その夢の中では、俺はまゆりの側に居なかった……そうだな?」

まゆり「え? ……うん」

まゆり「でもね!? 普段はオカリンが助けにきてくれるんだよ!? ホントだよ!?」アセッ

岡部「なぜ焦る。所詮は夢だ」

まゆり「あ、うん。そうだよね、えっへへー」


 すまない、まゆり……。


まゆり「それにね、オカリンが隣で寝ててくれたおかげで、いつもより長く眠れたかなぁ。ありがとね、オカリン」ギュッ

岡部「こら、あんまり抱きつくな。暑くて寝れんだろうが」

まゆり「えっへへー♪」ギュッ
25 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:00:36.47 ID:TX6juVmuo

翌日朝 池袋 メンタルクリニック 施術室



心理士「さぁ、椎名さん。リラックスしてください」

心理士「あなたは私の声を架け橋として、過去へと降りていきます。どんどん、どんどん降りていって……やがて柔らかい色をした光が見えてきます」

まゆり「…………」

心理士「その光は何色に見えますか?」

まゆり「……白。灰色の間から、強い白い光……」

心理士「その光の中に、あなたの大切な人が立っています。その人はあなたの家族でしょうか?」

まゆり「ううん……おばあちゃんじゃ、ない……」

心理士「では、友人? それとも恋人?」

まゆり「……恋人……」

まゆり「ううん、恋人じゃない。友人……でもないの」

心理士「では、どういう?」

まゆり「まゆしぃと……オカリンは……」
26 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:01:20.37 ID:TX6juVmuo



『つれてなんて、いかせない……! まゆりは……俺の人質だ。人体実験の生け贄なんだ……!』



どこにもいかないよ。だって―――


あなたはわたしの彦星さまだから―――


どうかずっと、そばにいさせて―――


27 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:09:09.03 ID:TX6juVmuo


ゴゥゥゥン ゴゥゥゥン


研究員A『これより時空転移実験レベル4、人体実験を開始する』


まゆり「ここは……どこ……? トンネルの中、かな……?」


研究員A『この実験がゼリーマンズレポートNo.15にならないことを祈ろう。直にわかることではあるが』


ゴゥゥゥン!! ゴゥゥゥン!! ゴゥゥゥン!!


まゆり「出して……ここから、出して……」ウルウル


バチバチバチッ!!!!!!


まゆり「オカリン……オカリ――――――



研究員B『届きました』

研究員A『……また失敗か。1961年2月28日付の新聞、壁にめり込むゲル化した少女――――


28 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:11:14.08 ID:TX6juVmuo

まゆり「いやああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

心理士「し、椎名さん!?」

まゆり「あああああああああっ!!!」ジタバタ

ガチャッ!

岡部「まゆり!? どうしたまゆり!? ドクター、大丈夫なんですか!?」


 まゆりの悲鳴が施術室の中から聞こえ、俺は反射的に中へと飛び込んだ。先生もかなり驚いていたらしく、俺には目もくれずまゆりへの対応に当たっていた。


心理士「いいですか? 私があなたの肩を叩きます。それを合図に意識がもっとハッキリしてきますよー」

心理士「3、2、1……はいっ」トンッ

まゆり「あ……う、うぅっ……」ツーッ

岡部「はぁはぁ、良かった……」

心理士「椎名さん、少し休んでいてくださいね。今、お水とタオル持ってきますから」

まゆり「は、はい……っ」グスッ
29 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:14:38.85 ID:TX6juVmuo

診察室



心理士「岡部さん、ご心配おかけして申し訳ありませんでした。思った以上に深刻な症例です」

岡部「そう、ですか……」

心理士「とりあえず精神安定剤と睡眠薬は処方しておきますが……本当に彼女は過去になにか他人に攻撃されたことがある、というわけではないのですね?」

岡部「ええ、一応……」


 言い淀んでしまったが、この世界線上においてはそうなのだ。まゆりは誰にも命を狙われていないし、命を奪われていない。しかし、リーディングシュタイナーのことを説明したところで信じるべくもない。


心理士「おばあ様との死別の苦しみは乗り越えたとご本人様から伺っています。実際、お話をした中でもそのように感じました」

岡部「はい。それは、間違いなく」


 たしか、α世界線でタイムリープマシンが稼働可能になりそうな頃合いにまゆりとそんな話をした。小学生の頃にタイムリープするとしても祖母にどうしても会いたいというわけではないと言っていた。それはこの世界線においても同じだろう。


心理士「幻覚や妄想を見ているわけではなく、あくまで夢。トラウマも、日々のストレスもない。そうなると、一体なにが原因で悪夢障害に……ブツブツ」


 まるでまゆりが悪夢の魔物に取り憑かれたかのようだ。リーディングシュタイナーは、確かにα世界線ではまゆりを救うために必要な力を俺に与えてくれた。だが、この平和なシュタインズゲートにおいては、その力は悪魔以外の何物でもなかった。
 俺がまゆりに何をしてやれるだろう……。医者でもダメなのに、一介の大学生なんかに、なにが……。
 いや、何を弱気になっているのだ。俺は鳳凰院凶真。混沌を望み、既存の支配構造を破壊する者、だろう? そうだ、やってやる。俺がやらなくてはならんのだ。こんなものを俺は望んでいない。まゆりは―――俺の人質だ。
30 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:18:28.56 ID:TX6juVmuo

第二章 衆賢茅茹のアムネジア

未来ガジェット研究所



 薬局で薬を受け取り、近くのスタベで精神安定剤をまゆりに飲ませた。すきっ腹に薬はどうかとも思ったが、まゆりが食事をしたら吐いてしまいそうというので仕方なく昼飯を抜いた。
その後アキバへ向かった。ラボの中へ入ると早くも紅莉栖が来ていたので、昨晩の状況を説明した。


紅莉栖「――つまり、あんたは役得とばかりにしたり顔で年端も行かないJKと夜もすがら同衾したってわけ?」

岡部「なんだその急な語彙力は」

まゆり「でもね、クリスちゃん。オカリンはまゆしぃのために――」

紅莉栖「だったら私がまゆりと寝るわ!!」

岡部「おま、そういう性癖が」

紅莉栖「誰が百合か! 誰がNTRか! このHENTAI!」

岡部「そこまで言っとらんだろうが!」

まゆり「わ、わぁい、嬉しいなぁ。でも、まゆしぃはできればオカリンも居てくれるともっと嬉しいのです」

紅莉栖「じゃぁ三人で寝る、でFA」

岡部「どうしてそうなった!?」

まゆり「やったー! お泊り会だー……あっ」フラッ

紅莉栖「っとと。やっぱり眠いのね」ダキッ
31 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:20:20.69 ID:TX6juVmuo

まゆり「……やっぱり、眠るの、怖いよ」ギュッ

紅莉栖「でも、寝ないと本当に死んじゃうわ」

岡部「たしか、不眠のギネス記録は11日間ほどだったか」

紅莉栖「それと比べたら多少は寝てるとはいえ、並みの人間なら心身の不調を訴えて然るべき状態よ。病院はどうだったの?」

まゆり「えっとね……恥ずかしながら、まゆしぃ、また夢を見ちゃって、泣いちゃったのです」

紅莉栖「それは全然恥ずかしいことじゃないわ。まゆりがつらいのは、みんなわかってる」

岡部「クリスティーナの予想した通り、ドクターも手をこまねいているような印象だった」

紅莉栖「ティーナは余計。根本的な治療となると、やっぱりリーディングシュタイナーそのものをどうにかしないといけないわよね」

岡部「何か方法はあるのか?」

紅莉栖「あるわけないでしょ」

岡部「むぅ……時間がない、か……」

まゆり「スゥ……スゥ……」

紅莉栖「まゆり? 立ったまま寝てる……」

岡部「夢を見てしまうたびに体力をかなり消耗しているようだ。助手、ソファーに寝かせてやれ」

紅莉栖「助手ってゆーな。にしても、軽くなっちゃったわね、まゆり」ヨイショ


 まゆりがソファーで横になったのを確認すると、俺は白衣のポケットからケータイを取り出した。


岡部「……俺だ。あぁ、恐怖におびえた顔で眠るなど、まゆりにはあってはならないこと。わかっている。俺を誰だと思っている? 人質のことは全て俺に任せろ。エル・プサイ・コングルゥ」
32 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:21:02.73 ID:TX6juVmuo

まゆり「スゥ……スゥ……」

紅莉栖「よく眠ってる。可愛らしい寝顔ね」

岡部「睡眠薬は飲んでないが、大丈夫か?」

紅莉栖「うーん。無理やり起こしてでも飲ませた方が、悪夢を見ないで済むかしら?」

岡部「それは、少し気が引けるな」

紅莉栖「まゆり? ねぇ、まゆり?」ユサユサ

まゆり「スゥ……スゥ……」

岡部「この様子だとテコでも起きないか」


 それはそうだ。昨日だって、ベッドには入っていたものの結局ほとんど寝ていないのだ。あの悪夢の後は俺との昔話に花を咲かせて朝を迎えた。


紅莉栖「……昨日一晩、色々と考えてみたんだけど」

岡部「聞かせてくれ」


 残念ながら、俺の頭脳では大した答えが出せないことは嫌というほどわかっている。紅莉栖の理論を心から待ちわびていたのは嘘ではない。
33 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:22:09.03 ID:TX6juVmuo

紅莉栖「一応、極端な方法だけど、まゆりの悪夢をなくす方法は思い付いた」

岡部「なに? それはなんだ?」

紅莉栖「リーディングシュタイナー……これホントに恥ずかしいから別の名前で呼びたいんだけど」

岡部「フッ。助手にこのセンスが理解できるようになるには3億年早い」

紅莉栖「なんで偉そうなのよ。コホン」

紅莉栖「このリーディングシュタイナーが発動する条件として、実世界線の個体の脳が生命活動をしていること、可能性世界線の個体の脳が生命活動をしていたこと、そして個体の素質と環境要因が挙げられる」

紅莉栖「素質に関しては持って生まれたものとして割り切るしかない。環境要因は、岡部が何度も時間の環を積み上げてしまったのは、もはやどうすることもできない」

岡部「うむぅ……」


 紅莉栖には既に、α世界線でフェイリスがほぼ完全にリーディングシュタイナーを発動したこと、ルカ子が儚げにではあるが男だった時の記憶についてリーディングシュタイナーを発動したことを伝えてある。それらの情報から分析してもらった結果だ。


紅莉栖「この世界線の私も、ほぼ初見のあんたに"助手"って呼ばれて"ティーナでも助手でもないと"とか言った身だから、リーディングシュタイナーの感覚は若干だけど理解してるつもりよ」
34 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:22:49.97 ID:TX6juVmuo

岡部「続けてくれ」

紅莉栖「他の環境要因としては、別の世界線の記憶と類似した体験を実世界線でしてしまった時にリーディングシュタイナーは発動しやすい、というのがあると思うけれど、まゆりの場合はあまりそれに当てはまっていない」


 萌郁の時を除けば、ほとんど夢の内容と現実世界の出来事との間に関連性が見えないのだ。


紅莉栖「可能性世界線には手が出せない。となると、この世界線のまゆりの脳に直接働きかけるしかない」

岡部「まさか、死ねば助かるのに、などという天才賭博師ばりの超理論を突き返すわけではなかろうな」

紅莉栖「まぁ、ある意味それに近いかもしれない」

岡部「な、なに?」


 なんだと?
35 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:25:08.96 ID:TX6juVmuo

紅莉栖「つまり、"まゆり"としての個体の脳の活動を擬似的に停止させる。そうすれば、可能性世界線で"まゆり"とされている個体の脳に蓄積された記憶を受信しない」

岡部「ちょ、ちょ、ちょっと待て! お前は一体なにを言っているんだ!?」

紅莉栖「最後まで聞け。"擬似的に"と言っとろーが」

紅莉栖「つまりね、ヴィクコンの技術でまゆりを記憶喪失にする。これが解法よ」

岡部「記憶……喪失、だと……」


 またとんでもないことを考え付いたものだな……。


紅莉栖「そうすると、この世界線における"まゆり"としての記憶は消滅、それにチャネリングされた意識も活動を停止させる」

岡部「意識も、だと?」

紅莉栖「あんたのタイムリープによる大量のサンプルデータによると、私の技術で記憶を操作した時、記憶に意識も付随するみたいだから、それは確約されている」

紅莉栖「実際それは、この身でも確認した」トスッ


 紅莉栖は自分の胸にぺたんと手を乗せた。


紅莉栖「あと、停止って言っても、もちろん生命活動を維持したままだからね。だから"擬似的に"」

岡部「……それでは、たとえヒトとして生きていたとしても、なんにもならんではないか」

紅莉栖「わかってる。私は最初に、極端な話だけど解ならある、と言った」

岡部「ダメだ! それでは、まゆりがこの世界線から消えてしまうのと同義だ!」

紅莉栖「わかってる! だから、私だって推奨はしない」
36 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:26:24.29 ID:TX6juVmuo

岡部「先ほど、可能性世界線には手が出せないと言ったな」

紅莉栖「ええ。もちろん、タイムマシンは使わない、という前提での話よ」

岡部「……タイムリープによる過去改変は」


 現在我がラボにはタイムリープマシンは存在していない。だが、こいつはどうも一度組み立てて使ったらしい。紅莉栖に実践的な知識があるならば、ダルを呼びつけ半日もあれば完成にこぎつけられるだろう。


紅莉栖「また造り直せば技術的には可能でしょうけど、過去のまゆりを操作したところでリーディングシュタイナーを抑えることはできない」

紅莉栖「もちろん、まゆり自身が過去へタイムリープするにしても、余計に悪夢を見続けるだけになる」

岡部「ならば未来だ! 未来の鈴羽に解を持ってきてもらうというのは!?」

紅莉栖「それ、一度まゆりを見捨てることが前提条件になるけど?」

岡部「うぐっ!?」

紅莉栖「まぁでも、未来の人類の研究の進歩に丸投げするってのも、悪手とは言い切れない。注射一本でリーディングシュタイナーを消滅させる技術が確立しているかもしれないしね」

まゆり「まゆしぃ、注射はいやだなぁ……」

紅莉栖「そうよね……って、ふぇっ!?」

岡部「まゆり!?」


 起きてたのか!? というか、聴いていたのか!?
37 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:27:14.13 ID:TX6juVmuo

岡部「……どこから聴いていた」


 責めているつもりは微塵もないが、あまり聞かれて気持ちのいい話でも無かったので確認した。


まゆり「ごめんね、盗み聞きするつもりはなかったんだけど……」

紅莉栖「全部、か」ハァ


 紅莉栖がさすっても起きなかったのは、それだけ疲れていたのだろう。それでいて、寝るのが怖くて、意識だけは覚醒させていたのか。


まゆり「ありがとね。まゆしぃのために、一生懸命、いろんなことを考えてくれて」

紅莉栖「まゆり……」

まゆり「まゆしぃね、ホントに、なんにもできなくて、いつもオカリンの重荷になっちゃって……っ」ウルッ


 どこかで聞いたセリフだ。俺はそれを全否定しなければならない。
38 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:37:45.49 ID:TX6juVmuo

岡部「そ、そんなことはない! 俺は、お前は、俺の人質なのだからな!」

まゆり「……えっへへー。だからね? ホントは、ワガママなんて言うべきじゃないのは、わかってるんだけどね……」

岡部「何を言っている!? 一番大事なのは、お前がどうしたいかだ!」

紅莉栖「そうよ。要望があるなら積極的に言いなさい」

まゆり「うん……ありがと、オカリン。あのね……」

まゆり「……まゆしぃは……っ」グスッ


 幼気な少女が、意を決して告白した。


まゆり「本当に、もうこれ以上、死んじゃう夢を見たくないのです……何をしてもいいから……っ」ポロポロ

紅莉栖「まゆり……」


 それは、周りに気を使いに使うまゆりとは思えない、悲痛な自己主張だった。
39 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:39:15.65 ID:TX6juVmuo

岡部「……お前の記憶を、今までお前が生きてきた証である大切な想い出たちを、なかったことにしても、か?」

まゆり「えっ……?」

紅莉栖「……アキバのパーツショップで色々買ってきて、橋田に手伝ってもらえば、今日中にまゆりの脳から記憶を消す装置を作れるわ」

岡部「なっ!? そんなトンデモガジェット、簡単に作れるのか!?」

紅莉栖「基本はタイムリープマシンの機能を使うだけだもの。O.K.説明する」

紅莉栖「まず記憶を走査して、コピーデータの3.24Tをヴィクコンのサーバー内に保存する。その後、そのまゆりの記憶フォルダの中から記憶データだけを削除する」

紅莉栖「こうして出来上がる"無"の記憶データをVR技術で神経パルスにコンバートして、まゆりの前頭葉を刺激させる」

岡部「だが、それでは"無"を思い出すだけで、結局なんにもならないのではないか?」

紅莉栖「"無"を思い出すというより、"無"しか思い出せなくなる状態になる、という感じかな」

紅莉栖「一応、ここだけは通常のタイムリープとは別の操作を行って、記憶の追加ではなく"上書き"ができるように設定しておく」

紅莉栖「トップダウン記憶検索信号のデリートプログラム。そういうものも、ヴィクコンには用意されている」

紅莉栖「つまり、トップダウン記憶検索信号によって"無"を思い出させた直後、信号をデリートしてそれ以上の思い出しをさせないようにする。それによって、"無"以外が思い出せないような脳を創り出す」

紅莉栖「そうすれば、"まゆり"としての記憶は"無"に上書きされて事実上消滅。信号を失った過去の記憶たちの電気回路は連結が消えて自然消滅、二度と引き出せなくなる」
40 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:40:06.89 ID:TX6juVmuo

紅莉栖「これで"まゆり"の記憶および意識の活動は停止する。人格についてはどうなるかわからないけど」

岡部「そんなことが可能なのか……」

紅莉栖「元々うちの大学で記憶に関する実験を行う中で、マウスの脳をリセットして再利用する、ってのも日常茶飯事だったから」

岡部「……動物実験を人体実験として扱えるのか?」


 かつてSERNはZプログラム内の動物実験で未成功だったにもかかわらず人体実験へと進み、数百人もの被験者と14人ものゼリーマンを生み出していた。動物実験で可能だから、という程度の理由でまゆりの脳内をいじらせるわけにはいかない。


紅莉栖「……ええ、可能よ。成功例も報告されている」

岡部「ッ!?!?」


 それは、つまり、人間の脳を空っぽにしてきたと……!?
41 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:40:56.06 ID:TX6juVmuo

紅莉栖「私の所属してる研究所の所長、レスキネン教授がね、今年逮捕されたんだけど」


 は……? 急になんの話だ。


紅莉栖「どうも精神生理学研究所と結託して、記憶に関する技術の軍事転用を企んでたらしいの。ホントはちょっと違うけど、詳細は省く」

紅莉栖「その過程で露呈したんだけど、彼らは何十人もの人間に記憶の人為的な操作を行っていたらしい」

紅莉栖「その中に何件か報告されていた。記憶の完全消去に成功した事例が」

岡部「……マッドサイエンティストの風上にもおけない奴らだな」

紅莉栖「そんな倫理観の欠如した人物の下で研究していたと思うとやりきれないけれど、冷静になって考えると私の人生ってそんなのバッカリなのよね」ハァ

岡部「そんなのとは誰だ? お前の父親か?」

紅莉栖「鏡でも見てきなさいよ」
42 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:42:21.47 ID:TX6juVmuo

岡部「だが、待ってくれ。記憶喪失になったからと言って、リーディングシュタイナーが発動しないとは限らない」

紅莉栖「根拠は?」

岡部「鈴羽だ。α世界線の鈴羽は、1975年にタイムトラベルした後、到着時に事故に遭い、記憶を失った。だが、記憶を失ったにもかかわらず自身を"橋田鈴"と名乗っていたのだ」

紅莉栖「橋田……鈴羽さんの父親の姓。でも、それはいわゆる頭部外傷による健忘でしょうね。時間経過で記憶が戻って来ることが多い」

岡部「いや、問題はそこじゃない。記憶を失う世界線の鈴羽が橋田を名乗るのは、紅莉栖の言う通り、あり得る。だが」

岡部「記憶を失わずに1975年へと到着できた世界線の鈴羽は、自分の父親が誰なのかを知ることなく過去へ行っているのだ」

岡部「自分の父親が誰なのかわからないにもかかわらず、鈴羽は自身を橋田鈴と名乗っていた」

紅莉栖「えっ? ……なるほど。リーディングシュタイナーの力によって記憶を失った側の世界線の記憶、父親が橋田だという情報を思い出していた可能性、か」

岡部「つまり、まゆりの場合とは受信側と送信側が逆転してしまうが、片方が記憶喪失状態でも、リーディングシュタイナーは発動する」

紅莉栖「だから何度も言ってるけど、まゆりに施す記憶消去は、一般的な記憶喪失とはわけが違うのよ」

紅莉栖「記憶が引き出せなくなっている、というレベルじゃない。完全に消滅してしまっている状況を創り出すの」

紅莉栖「それだけじゃなく、記憶消去によって意識も停止する。なんでかはわからないけど、それはタイムリープに意識が伴うことが証左となっている」

紅莉栖「故にリーディングシュタイナーは発動しない。……たぶん」


 そうは言っても、どうしても不安はぬぐえない。どこかに違和感がある。それはなんだ? 紅莉栖の話でちゃんと聞けていないところはなかったか……?
 そうだ、人格だ。人格についてはどうなってしまうんだ? いや、この際人格はどうなろうと関係ないのか……?
43 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:43:07.90 ID:TX6juVmuo

紅莉栖「これで悪夢は消える。きれいさっぱりと」

岡部「だが、待て! まゆりの意識が停止されてしまったら、安心して眠るもクソもないだろうが!」

紅莉栖「だけど、間違いなく今の苦しみは消えるわ」

岡部「それは、そうだが……! まゆりを、殺すようなものなんだぞ!」

紅莉栖「落ち着け。まゆりを救いたい気持ちは私だって一緒よ」

岡部「だったらなぜ、そんなに冷静で居られるんだ!」

紅莉栖「こういう性格なの。それに、まだ話してないことがある。話は最後まで聞け」

岡部「なに……?」

紅莉栖「ヴィクコンにバックアップしたまゆりの記憶データは、半永久的に保存される」

岡部「……?」

紅莉栖「やろうと思えば、意識も含めていつでも書き戻し可能、ってことよ。未来へのタイムリープ、って言えばわかる?」

岡部「な……! なるほど! そういうことか!!」
44 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:44:13.64 ID:TX6juVmuo

 紅莉栖の冷徹さの裏にはそういう隠し玉が用意してあったのだな! 全く、助手の分際でもったいぶりおって!


紅莉栖「ただ、書き戻したところで結局またリーディングシュタイナーという名の悪夢は発動してしまうから、現段階では意味が無い」

紅莉栖「だから、書き戻しまでの間にリーディングシュタイナーとかいうトンチキな能力を根源から消滅させる方向の研究をしていけばいい。それが完成するまでの時間稼ぎにはなるでしょ?」

岡部「つまり、まゆりには一時的にPCの中でコールドスリープしていてもらう、ということだな!?」

紅莉栖「お前は何の話をしているんだと小一時間……まぁ、そんな感じで捉えてもらってもいいわ」

まゆり「クリスちゃん。まゆしぃの想い出、全部消えちゃうの……?」

紅莉栖「いいえ。まゆりの意識と一緒に、少し遠いところで眠ってもらうだけよ」

まゆり「ってことは、まゆしぃ、安心してぐっすり寝てもいいの!?」キラキラ

紅莉栖「ええ。だから、もうちょっとだけ待っててね」ニコ
45 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:45:25.59 ID:TX6juVmuo

 その後、すぐさまメイクイーンに居たダルを電話で呼びつけた。まゆりが眠ってしまわないようにするためとは言え、俺はまゆりの四方山話を聞かされる羽目となった。ついでにまゆりと一緒に紅莉栖が指定してきたパーツを買いに行ったりして気を紛らわせた。


ダル「はふー。牧瀬氏、人使い荒いっす。マジ死ぬる」カチャカチャ

岡部「全くだ。この炎天下にもかかわらず、この俺、鳳凰院凶真をパーツショップへと使いパシリさせるとは」グッタリ

まゆり「まゆしぃはね、眠気も取れたし楽しかったのです☆」

紅莉栖「ちょっと動いたくらいでへばっちゃう男の人って。でも、橋田はホントすごいわね。アクセス権限あげただけでヴィクコンを丸裸にするなんて」

ダル「あんなの、権限なくてもハッキングできるっつーの。いや、あったおかげで一瞬でモザイクも規制も一切なしの究極全裸画像をゲットできたわけだが、手ごたえ無さ杉ワロタ」カチャカチャ

まゆり「ダルくんはエッチだね〜」

ダル「つかまゆ氏がそんな状態になってたなんて、思いもよらんかったのだぜ……ほい。パーツの組み立ては終わったお」フィー

岡部「おおっ! よくやったぞ! マイフェイバリットライトアーム、ウィザート級のサー・スーパーハカーよ!」

ダル「なげーし! つかハカーじゃねーし!」

紅莉栖「O.K. 次はプログラミングの方、お願い」

ダル「はいはいはいよー、やりますよー」カタカタカタ
46 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:46:54.12 ID:TX6juVmuo

 それから数時間。日はとっぷり暮れ、宵闇に世界が支配されていた頃。



紅莉栖「……完成、ね」

ダル「もう無理ぽ」グダッ

岡部「ついにできたのか……記憶を完全抹消する未来ガジェット……」


 本来ならナンバリングや名前付けの儀式を行うところだが、そもそも記憶を完全に消去するなどと言ったかなりアレなマシンを我がラボの未来ガジェットとして認定してもよいものだろうか、という葛藤があった。
 なにより、今はそんな暇はない。一刻を争うのだ。


紅莉栖「エンターキーひとつですべての操作が一気に行われるようになってるわ」

岡部「そう言えば、3.24Tをアメリカへ転送するには、一日くらいかかるんじゃないか?」

ダル「普通にもっとかかるっつーの。そこはほら、電話レンジをブラックホール発生装置として使うことで解決しますた」

岡部「なに? そっちも作っていたのか?」

ダル「オカリンが買い出しに行ってる間に電子レンジと42型用のリモコンを買ってきてたんだお」

紅莉栖「一度作った私はともかく、橋田もビックリするほど勝手に手が動いてたわね。これも? リーディングシュタイナー(笑)? さんのおかげです本当にありがとうございました」

岡部「この女……」


 元ネタを理解した上で@ちゃん語をペラペラ使っているのだから厄介な女だ。


紅莉栖「この中に発生するカー・ブラックホールを使って3.24Tを36バイトまで圧縮、ヴィクコンに到着したところで解凍するわ。"無"のデータの送り戻しにはほとんど時間はかからないから、実質数十秒で記憶の消去は完了する」

岡部「たった数十秒で……まゆりの、17年間の記憶が、すべて消えるのか……」


 俺は生つばをごくりと飲み込んだ。もしかしてこれ、タイムマシンよりも狂ったガジェットなのではないか……?
47 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:47:39.98 ID:TX6juVmuo

まゆり「うん……うん、じゃあね。お母さん。お父さん。本当に、ありがとう」


 まゆりは、向こうで家族や友人たちに電話をしていた。記憶をバックアップする話は親御さんにも既に伝えてはいたが、たとえいつでも書き戻せるとしても、愛娘が記憶喪失になることに変わりはない。たまったものではないだろう。


岡部「……もう、いいのか? ルカ子や、フェイリスにも伝えたか?」

まゆり「うん。それに、まゆしぃは死んじゃうわけでも、消えちゃうわけでもないんでしょ?」

紅莉栖「ええ。ちょっと長めに眠るだけよ」

まゆり「えっへへ〜。それってなんだか、ワルだね〜」


 まゆりはいつもズレているが、実にまゆりらしい。


ダル「それじゃ、準備はおk?」

まゆり「いいよ、ダルくん。お願い」スチャ

ダル「まゆ氏、まゆ氏。いまの台詞、もっかい言ってくれる? できれば、恥ずかしそうに」

紅莉栖「言わせるなHENTAI!」

岡部「全く、ダルは仕方がない奴だな。ほら、俺に代われ」

ダル「オーキードーキー。よっと」ガタッ


 まゆりがこうなってしまったのは俺の責任だ。だったら、このエンターキーを押し、まゆりの記憶を消去するのも、この俺がやらねばならんだろう。
48 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:48:25.86 ID:TX6juVmuo

岡部「…………」ゴクリ

紅莉栖「作戦名とか前口上とかいいからな。早くまゆりを寝させてあげなさい」

岡部「あ、ああ。わかっている」


 そうだ、これはまゆりを安心して眠らせるだけの儀式。決して、まゆりを殺すわけでも、この世界線から消すわけでもない。


岡部「……この俺、狂気のマッドサイエンティストの人質となったからには、我が人体実験へと協力してもうらおうっ! フゥーハハハ!」

まゆり「うんっ。やっとまゆしぃは、オカリンの役に立てるね!」ニコ

岡部「う、嬉しいのか?」

まゆり「えっへへー」テレッ


 全く、調子が狂うな。


岡部「それでは、ラボメンナンバー002、椎名まゆり! 電脳世界で安心してコールドスリープしてくるがいい! エル・プサイ・コングルゥ!」


 俺はそう言って未知に対する恐怖を払拭しながら、キーを打ち込んだ。




 カタッ

49 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:50:04.73 ID:TX6juVmuo

まゆり「…………」クタッ

岡部「っと。まゆり?」ダキッ

紅莉栖「…………」ゴクリ

ダル「…………」ゴクリ

まゆり「……スゥ。スゥ」

岡部「お、おい、クリスティーナ? なんだか、普通に寝始めたんだが?」

紅莉栖「睡眠に対する恐怖心が完全に消えたのね。あとは肉体に素直になった、ってところかしら」

ダル「はふぅ。マジでビクりますた」

岡部「なるほど。そういうことなら、ゆっくり休んでくれ。まゆり」

まゆり「スゥ、スゥ」


 俺はそのまま、まゆりの軽い体をお姫様だっこしてソファーへと持って行った。紅莉栖がやたら睨んでいたし、ダルが下世話なことをほざいていたようだったが無視した。
50 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:51:14.48 ID:TX6juVmuo

 まゆりは本当にぐっすり寝込んでしまって、そのまま朝を迎えてしまった。俺と紅莉栖、それにダルの3人は、まゆりになにかあればいち早く対応できるように一緒にラボに泊まった。着替えも無かったのでそのまま雑魚寝した。
 翌朝、8時頃。夏の強い日差しを浴びながら、俺たちは目覚めた。



岡部「ふわぁ……。おい、クリスティーナ、ダル。起きろ」

紅莉栖「え? あ、もう朝なのね……うわ、汗でベトベト」

ダル「う〜ん、おっぱいがいっぱい……」ムニャムニャ

紅莉栖「今度は貴様の淫夢を全消去してやろうか?」ニコ

ダル「ちょ!? 寝起きの脅迫はマジやめロッテ!」

まゆり「ふわぁ〜。んー、よく寝ました!」


 まゆりも元気に目覚めたようだ。これでようやく一安心――――だよな?


岡部「まゆりも起きたか。しかっし、よく眠っていたな」フッ

紅莉栖「天使の寝顔だったわね。とってもキュートだった」

ダル「うほ。牧瀬氏、実はそっちのケが……」

紅莉栖「ねーよ」

岡部「もう大丈夫か、まゆり? また変な夢は見てないか?」

まゆり「ふぇ? えっとー……」
51 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:53:05.98 ID:TX6juVmuo









まゆり「あなたは誰ですか?」








52 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:53:57.91 ID:TX6juVmuo

岡部「……ッ」


 いや、何を驚いているのだ、鳳凰院凶真。そうなって然るべき。というか、そうなるようにしたのは、この俺じゃないか。
 昨晩記憶を消去した後、紅莉栖は言っていた。人格についてはどうなるかわからない。意識や記憶と同様にクリーンでフラットな状態になってしまうのか、はたまたそのまままゆりの人格が残るのか。
 あるいは、全く別の人格が宿るのか。


紅莉栖「ハロー、まゆり。って、自分が誰なのかもわからない、か」

ダル「うお、これマジで記憶喪失になってるん?」

まゆり「えっ……えっと……」プルプル


 まゆりの顔はみるみるうちに恐怖モードへと推移していった。考えてみれば当然だ、朝起きたら目の前に見ず知らずの悪の組織の女幹部とHENTAIを具現化させたようなキモオタが横に寝ていたのだからな。


紅莉栖「岡部、自分のことを棚に上げてなにか失礼なことを考えてない?」ニコ

岡部「それより、まゆり。落ち着いて聞いてほしい。俺たちは、みなまゆりの仲間だ。だから――」

まゆり「あの……ま、まゆり、って……誰、ですか……?」プルプル

岡部「まゆりとは、ラボメンナンバー002、椎名まゆりのことだ!」

まゆり「ラボ……メ……えっ?」プルプル

紅莉栖「ああもう、ややこしくするな! 貴女の名前よ。まゆり」

まゆり「私の、名前……?」キョトン
53 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:55:05.33 ID:TX6juVmuo

 たぶん俺たちは、まゆりがようやく安心して眠れたことに対し、気を緩め過ぎていたのだろう。まゆりはもう大丈夫だ、と。そう、思い込みたかったのだ。


ダル「うはー。一人称"私"のまゆ氏ってレアじゃね?」

紅莉栖「新しい人格が芽生えたのかしら……?」

岡部「ふーむ……」


 記憶と意識を喪失したまゆりは、新たな人格を創り出した、のか? まぁ、サーバーへ保存されたまゆりがこっちへ戻って来るまでの仮初の人格なわけだからなんでもいいが、せっかくならこの俺、鳳凰院凶真の偉大さを理解できるような立派な人格者であってほしいものだ。


岡部「それより、ぐっすり眠れた気分はどうだ? ん?」

まゆり「……最悪の気分です」

岡部「―――っ!?!?」


 よもやまゆりの口からそのような言葉が飛び出すなど!?
54 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:56:08.41 ID:TX6juVmuo

まゆり「私、アレですよね。あなたたちに拉致されて、このいかにも怪人たちの秘密基地みたいな部屋で、改造されちゃったのですよね」


 ・・・

 は?
 誰もが三点リーダを頭上に浮かべた。
 お前は何を言っているんだ?


まゆり「だから自分が誰かも思い出せない。ここがどこなのかも、あなたたちが誰なのかも! パパのこともママのことも思い出せないなんて……っ」ウルウル

岡部「な、泣くな! というか、いつからそんな電波ゆんゆんキャラになったのだ!?」


 いや、元々確かに電波ではあったが、ベクトルが違うというかなんというか……。


紅莉栖「話せば長いけど、ちゃんと事情があるのよ。まゆり、お願いだから落ち着いて話を聞いて? ね?」

まゆり「どうせその"まゆり"って名前も洗脳のためのコードネームか何かなのですよね!? 私は、"まゆり"なんて名前、知りません!」ダッ

岡部「あっ!? ちょ、オイ!」


 まゆりは脱走した。
55 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:57:18.68 ID:TX6juVmuo

第三章 解脱転生のレジリエンス

中央通り



 照り付ける夏の日差しの中、秋葉原全力マラソン大会が開催されていた。


岡部「ハァ、ハァ……クソ、どこにも見当たらないではないか! どうしてくれる!」

紅莉栖「わ、私に当たらないでよ! まさかこんなことになるなんて、予想できなかった!」


 あれではまるでまゆりの人格の面影が残っていないではないか! いや、確かにデムパ的なところは元よりあったが、ベクトルが180度曲がっているというか、正反対の性質を備えてしまっていたように思う。


紅莉栖「こんなの、私にとっても未知の現象よ……くぅ、じっくりコトコト研究したい……!」

岡部「そんなものは後だ! 今はあいつの行方を追わなくては!」

ダル「ハヒィ、ハヒィ……まゆ氏が行きそうなところは全部探したわけっしょ? つか、あれはもうまゆ氏であってまゆ氏じゃないんじゃね?」

岡部「バカを言うな! あれはまゆりだ! ちょっと厨二病じみてはいたが」

紅莉栖「あーもう! あれはたしかにまゆりだけど、まゆりじゃないのよ!」

岡部「ならば、まゆりTHE_NEOスターダストと命名しよう」

ダル「そこはシン・マユ氏でよくね?」

岡部「では間をとって、まゆり・ネオ・アルティメット・ゴッジーラ(仮)とする。それで、そのまゆり・ネオ・アルティメット・ゴッジーラ(仮)の行方だが」

紅莉栖「命名なんてどうでもいい! ほんとどうでもいい!」
56 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:58:09.01 ID:TX6juVmuo

ダル「つか、もし仮に自分が記憶喪失になったら、っていうIF展開を考えればいいんじゃね? そしたらまゆ氏がどこ行ったかわかるかも」

岡部「おお、さえてるな、ダル! もし俺が記憶喪失になったら……か」

紅莉栖「私だったら身に着けている持ち物から、個人を特定しようとするでしょうね」

岡部「だが、まゆりの手提げはこの通りここにある。やつはこれを自分の持ち物だと認識しなかったのだ」

紅莉栖「その中にケータイは入ってる?」

岡部「なに? ……ゴソゴソ……ない。どうやらポケットに入れたままだったようだな」

紅莉栖「ってことは、メールの内容とか通話履歴とかから住所を割り出したのかも」

岡部「あのまゆりがそこまで頭の良いことをするとは思えん……むしろその辺のネコと遊んでいるか、鳩を追いかけているか」

紅莉栖「だから、あのまゆりはまゆりであってまゆりじゃないのよ。常人レベルの常識で考えた方がいいと思うわ」

岡部「お前、つまりはまゆりのことを馬鹿だと言いたいんだな?」

紅莉栖「うっ……ち、違うわよ? ホントよ?」
57 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 22:59:31.97 ID:TX6juVmuo

Trrr Trrr...

岡部「……クソッ。まゆりのやつ、電話しても出ない」

紅莉栖「警戒してる、か。それで、まゆりが自分のケータイを調べて、行くとしたらどこ?」

岡部「通話履歴には池袋のメンタルクリニック。メールの文面には、乙女ロードや雑司ヶ谷駅なんかが書かれているはずだ。あとは、学校か」

紅莉栖「花浅葱大付属ね。漆原さんとのメールのやり取りから割り出す可能性は大いにありそう」

ダル「いや、それよりもバイト先とのやり取りとか見てるんじゃね? フェイリスたんのところに行っててもおかしくないと思われ」

岡部「さっきフェイリスには電話したが、まゆりは来てないとのことだったぞ」

紅莉栖「とりあえず駅に向かいましょう。池袋の方が可能性高いかしら」

岡部「学校の方はルカ子に任せよう。とにかく、あいつの居場所をつき止めねば!」


 俺たちは総武線へ乗り込み、チャミズで乗り換え、急ぎ池袋へ向かった。
58 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:03:30.81 ID:TX6juVmuo

池袋駅 東口



岡部「椎名家にも俺の実家にも電話してみたが、まだまゆりは現れていないそうだ」

紅莉栖「そう……この人ごみの中を探すとなると、骨ね」

ダル「つかさ、記憶喪失でも電車って乗れんの?」

岡部「そう言えば流ちょうに日本語もしゃべっていたな」

紅莉栖「まず、言語については脳部位が異なるのよ。記憶は海馬、言語はブローカ野とかウェルニッケ野っていう風に。運動に関しても頭頂葉の運動野、運動性記憶は小脳みたいに」

ダル「あーなる。だから歩き方とか喋り方を忘れたわけじゃないんすな」

紅莉栖「あと、身体が覚えてる、っていう手続き記憶の部分もある。自転車の漕ぎ方とかケータイの使い方、ピアノの弾き方、クロールの仕方とかね」

紅莉栖「手続き記憶は海馬に蓄積されるけど、エピソード記憶とは異なる部位を使ってるから、今回は消去されていない」

岡部「それで、電車に乗れる可能性については」

紅莉栖「たとえば鉄道の無い離島出身の人が居て、初めて東京に来て電車に乗るとするわよね? ある程度常識的な日本語が話せれば、駅員さんに聞いたりして目的の場所につけるでしょ?」

岡部「それは、そうか」

紅莉栖「どこまでどういう風に理解して行動できるのかは未知数だけど……」
59 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:04:14.25 ID:TX6juVmuo

< 離してっ! この、離してくださいよっ!


岡部「お、おい。今、まゆりの声がしなかったか?」

紅莉栖「えっ?」


< やめてくださいっ! この、国家権力の犬!(CV.花澤香菜)


ダル「あ、うん! 確かにまゆ氏の声が聞こえたお! 内容はまゆ氏のそれとはまったく思えんけど、だがそれがいい!」

紅莉栖「あっちの人だかりの方じゃない!?」

岡部「あのふくろう交番のところか! おいっ! まゆりっ!」


 俺たちは人だかりを左右にかき分け、声の主のもとへと駆け寄った。が……


まゆり「離してください! ふざけないでください!」ジタバタ

警察官「いい加減大人しくしなさい! それで、名前は? 住所は?」

まゆり「知らないって言ってますよね!? 私は、悪の組織に脳内を改造されたのです!」


 ……まゆり?
60 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:04:49.62 ID:TX6juVmuo

紅莉栖「すいません! すいません! その子、私たちの友だちなんです!」ペコペコ

警察官「なに? そうなの?」

まゆり「出たな、悪の組織! くそぅ、もうここまで追ってきたのですね……!」ウルウル

ダル「ガチ泣きでござる」

岡部「あー、オホン。ミスターポリスメン。一体なにがあったのですか?」

警察官「この子が交番に来るなり、私は追われているとか、自分が思い出せないとか言い出して、暴れ回ったんだ」

ダル「おうふ……マジでまゆ氏、どうしちまったん?」

岡部「こいつは椎名まゆり。住所もわかります。なんというか、こういう変な癖があるらしいんです」

警察官「君ねぇ、もうちょっと常識を教えてあげた方がいいよ?」

まゆり「私はまゆりじゃないです! 離してください! こらぁ!」ジタバタ
61 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:05:45.30 ID:TX6juVmuo

南池袋公園



 未知との遭遇を果たした俺たちは、都会のオアシス、公園のベンチにぐったりしていた。まゆりの首根っこを捕まえたまま。


岡部「……落ち着いたか? 電波少女よ」

まゆり「くぅ、私をどうする気なのです……っ」ウルウル

紅莉栖「どうもしないし。もしどうにかする気だったらとっくにしてるでしょ」

ダル「いやぁ、まゆ氏のキャラチェンに全然頭が追いつけないお」

まゆり「私は……貴女たちは、いったい、誰なのですか……! 何の目的で、悪事を働いているのですか!」



紅莉栖「ねえ、岡部の厨二病がうつったんじゃない?」ヒソヒソ

岡部「まぁ、確かに小さい時一緒に特撮ドラマを良く見てはいたが……」ヒソヒソ

ダル「いや、その記憶も忘れてるはずっしょ」ヒソヒソ

岡部「よくあるのは、真逆の性格になってしまった、とかか?」ヒソヒソ

紅莉栖「非科学的すぎ。ラノベの読み過ぎなんじゃない?」ヒソヒソ

ダル「んと、電波系敬語毒舌キャラのロリ巨乳、でおk?」ヒソヒソ
62 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:06:31.86 ID:TX6juVmuo

まゆり「なにをひそひそ話しているのですか?」ムッ

岡部「おい、まゆり。自分の家に帰りたいのだろう? 案内しよう」

まゆり「私は"まゆり"じゃありません。そんなコードネームで私の脳波をコントロールしようってったって、そうは行きませんからね!」

岡部「いちいち名前にこだわりおって、めんどくさい奴め」

ダル「今日のおまいうスレはここですか」

岡部「ならば貴様のことは、まゆり・ネオ・アルティメット・ゴッジーラ(仮)と呼んでやろう。フハハ」

まゆり「なっ!? なんですかその壊滅的センスの呼び名は!?」

紅莉栖「まだ引っ張ってたのね、それ……」

ダル「もうまゆ氏(仮)でいいんじゃね?」

紅莉栖「まぁ確かに、本来のまゆりと混同しないためにも識別タグはつけておくべきとは思うけど」

岡部「貴様、こいつを検体扱いしているな? この悪の組織の女幹部め!」

紅莉栖「う、うるさいな! 私はあくまで分類を明確にするためにだな!」
63 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:08:20.85 ID:TX6juVmuo

岡部「それで、まゆりカッコカリ、略して"まゆコ"よ。さっきも言ったが、貴様の家を案内しよう」

まゆり(仮)「ふんっ。もうお前らの言うことには騙されませんよ!」(CV.花澤香菜)


 なんというか、まったくもってまゆりとは別キャラなのだが、こういうセリフでもまゆりの容姿とまゆりの声で言われると、可愛らしく感じてしまう。


紅莉栖「はいはい、信じなくて結構。それで、ここからまゆりの家までどのくらいなの?」

岡部「区役所側に行けばすぐだ。そこに行けばまゆりの両親も、まゆりの部屋も、私物も、まゆりの証が山のようにあるぞ」

ダル「このままだと僕らが対応キツいんで、まゆ氏の人となりとかを教えてあげた方がいいと思うのだぜ」

岡部「それで素直に受け入れてくれるとも思えんがな。ほら、行くぞ、まゆりin反抗期、略してまゆコよ」

まゆり(仮)「はぁ。わかりましたよ、もう煮るなり焼くなり好きにしてください。その代わり、あなたたちの悪事は末代まで語り継ぎますからね!」ギロッ


 元のまゆりよりボキャブラリーが増えてないか?
64 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:08:51.99 ID:TX6juVmuo

椎名家



まゆり(仮)「えと……あの……」ムギュッ

まゆり父「まゆり! もう、大丈夫なのか? 悪夢からは解放されたのか!?」ダキッ

まゆり母「良かったわね! 倫太郎くん、本当にありがとう!」ダキッ


 まゆコは、見ず知らずのご両親に両サイドからハグされていた。


岡部「いえ、それが……。とんでもない副作用がありまして」

まゆり父「なに? 記憶はいつでも元に戻せるのだろう?」

紅莉栖「え、ええ。一応。そうなんですけど、今の状態がちょーっと予想以上だったというか……」

まゆり(仮)「本当に、あなたたちが私のパパとママなのですか?」

まゆり父「おぉ……娘からついにパパと呼ばれる日が来たぞ!」

まゆり母「新鮮でいいわねぇ。ちょっと寂しい気もするけれど」

まゆ(仮)「ふざけないでください!!」

まゆり父「!?」

まゆり母「!?」

ダル「アチャー」
65 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:10:25.58 ID:TX6juVmuo

まゆり(仮)「やっぱりこれは何かの陰謀です! だって、だって……!」

岡部「お、おい。さすがに親父さんたちが可哀想だろう」

まゆり(仮)「わからないのですよ! 私を産み育ててくれた人の顔が! 思い出せないのですよ!」

紅莉栖「っ……」

まゆり(仮)「そんなのって……そんなのって……っ」プルプル

まゆり父「まゆり……」

まゆり母「大丈夫よ、どんなあなたでも、私たちの子どもよ」

まゆり(仮)「……なるほど。そういうことですか。私の直感によれば、やはりあなたたちはグルだったのですね!」

まゆり父「!?」

まゆり母「!?」

まゆり(仮)「本当は私を洗脳するための演技なのでしょう!? 夫婦でもないのに夫婦を演じているのでしょう!? 滑稽ですね!」

ダル「また始まった件について。こりゃオカリンの邪気眼より手がつけられん罠」

岡部「まゆりのこまったちゃん、略してまゆコよ、ちょっとこっちにこい!」グイッ

まゆり(仮)「何をするのですか! やめてください!」ジタバタ
66 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:12:34.98 ID:TX6juVmuo

まゆりの部屋



 とにかくこのまゆり(仮)を大人しくさせなければならん。データの存在となった真まゆりがこの世界へ復帰するまでの間、社会的にはこいつがまゆりなのだから、あんまり暴れられても困るのだ。
 俺はまゆりの部屋でまゆりとは何かを教えてやろうとまゆコを連行した。


岡部「いいか、まゆり(仮)、略してまゆコよ。貴様は、先代椎名まゆりが長く苦しい闘いの末、自らの記憶を封印することを選択し、この俺、鳳凰院凶真の手によって誕生した未知の存在だ」

まゆり(仮)「未知の存在……」トクン

紅莉栖「って、この子、岡部の厨二トークにはついていけるんだ……」

ダル「今までのまゆ氏もオカリンの妄想をうのみにしてた節はあったわけですしおすし」


 おや? もしや、やはりそういうことなのか? フェイリスタイプというわけでもないだろうが……ククク。そういうことなら、存分に発揮してやろうではないか!


岡部「貴様には今後、椎名まゆりとして過ごしてもらわねばならん。先代椎名まゆりの封印が解かれるその日まで、な」

まゆり(仮)「そうだったのですね……私は、そのような宿命のもとに生まれ落ちたのですね……」

紅莉栖「ダメだこいつ、早くなんとかしないと」

ダル「記憶が無くなった分、吸収力がよくなってると思われ」

岡部「先代を演じろ、とは言わん。しかし、二代目椎名まゆりとして生を受けたからには、先代のことをよく知り、よく理解し、周囲の人間に先代の志を示していかねばならんのだ!」

まゆり(仮)「おおぉ……! 凶真さん、私、やります! やってみせます!」キラキラ

紅莉栖「一周回って丸く収まりそうね。頭痛がするけど」

ダル「まゆ氏が厨二病でも恋がしたい!」
67 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:14:07.50 ID:TX6juVmuo

まゆりの部屋



 とにかくこのまゆり(仮)を大人しくさせなければならん。データの存在となった真まゆりがこの世界へ復帰するまでの間、社会的にはこいつがまゆりなのだから、あんまり暴れられても困るのだ。
 俺はまゆりの部屋でまゆりとは何かを教えてやろうとまゆコを連行した。


岡部「いいか、まゆり(仮)、略してまゆコよ。貴様は、先代椎名まゆりが長く苦しい闘いの末、自らの記憶を封印することを選択し、この俺、鳳凰院凶真の手によって誕生した未知の存在だ」

まゆり(仮)「未知の存在……」トクン

紅莉栖「って、この子、岡部の厨二トークにはついていけるんだ……」

ダル「今までのまゆ氏もオカリンの妄想をうのみにしてた節はあったわけですしおすし」


 おや? もしや、やはりそういうことなのか? フェイリスタイプというわけでもないだろうが……ククク。そういうことなら、存分に発揮してやろうではないか!


岡部「貴様には今後、椎名まゆりとして過ごしてもらわねばならん。先代椎名まゆりの封印が解かれるその日まで、な」

まゆり(仮)「そうだったのですね……私は、そのような宿命のもとに生まれ落ちたのですね……」

紅莉栖「ダメだこいつ、早くなんとかしないと」

ダル「記憶が無くなった分、吸収力がよくなってると思われ」

岡部「先代を演じろ、とは言わん。しかし、二代目椎名まゆりとして生を受けたからには、先代のことをよく知り、よく理解し、周囲の人間に先代の志を示していかねばならんのだ!」

まゆり(仮)「おおぉ……! 凶真さん、私、やります! やってみせます!」キラキラ

紅莉栖「一周回って丸く収まりそうね。頭痛がするけど」

ダル「まゆ氏が厨二病でも恋がしたい!」
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