まゆり「あなたは誰ですか?」岡部「……ッ」

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68 : ◆/CNkusgt9A [saga sage]:2018/11/20(火) 23:15:40.84 ID:TX6juVmuo
やってしまった…
ごめんなさい、>>67はなかったことにしてください
69 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:17:23.44 ID:TX6juVmuo

まゆり(仮)「これが先代の制服、これが先代のパジャマ、そしてこれが先代の下着……!」ガサゴソ

紅莉栖「ちょ!? HENTAIどもが居る前でなに晒してくれてんのよ!?」

ダル「ハァハァ。いいんだぜ、そのままいろんなものをガサゴソしてくれても」キラーン

まゆり(仮)「ハッ。私としたことが、先代を貶めるところでした!」

岡部「まゆりの後継者、略してまゆコよ。服はいいから、こっちにこい。アルバムだ」

まゆり(仮)「おおっ! これが先代の小さな頃……やはり、私と見た目が一緒」

ダル「一緒もなにも、今も昔もまゆ氏はまゆ氏だお。自信なくなってきたけど」

岡部「ほら、これを見てみろ。中坊の頃の俺と小学生の時のまゆりだ」

まゆり(仮)「おおー。本当に凶真さんは先代の幼馴染だったのですね」

岡部「やっと信じたか。次はケータイの写真を見ろ。これは、去年あたりの写真だな」

紅莉栖「まゆりと一緒に映ってるこれが私で、こっちが橋田」

ダル「んで、この超絶かわいいおにゃのこがフェイリスたんで、こっちの大和撫子がルカ氏。んで、この三次元の美人なお姉さんが桐生氏」

岡部「な? まゆりには、たくさんの仲間が居たんだ」

まゆり(仮)「先代も悪の組織未来ガジェットなんとかの一員だったのですね!」

岡部「どうしてそうなった!」
70 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:18:40.81 ID:TX6juVmuo

まゆり(仮)「もっと先代のことを色々教えてください! 凶真さん!」キラキラ

岡部「…………」


 まゆりからこうも純真無垢なキラキラアイで"凶真さん!"などと敬意を持って呼ばれると、実にこそばゆい。もう幼馴染のまゆりはデジタルワールドへと行ってしまったのだなと痛感するが、正直これはこれで悪い気はしない。
 フゥーハハハ! ついに俺は、まゆりに鳳凰院凶真の真価を認めさせたのだ! ……とりあえず、落ち着くまではそういうことにしておこう。


紅莉栖「……ねぇ、岡部。この調子なら、あの話をしてあげたら、もっと私たちに打ち解けてくれるんじゃない?」

岡部「あの話、とは?」

紅莉栖「ほら。鳳凰院凶真誕生の経緯よ」

岡部「まさかお前、俺とのファーストキッスの話をまゆコに自慢したいのか?」

紅莉栖「なんでそうなるのよ!? バカなの!? 死ぬの!? じゃなくて、あんたがまゆりを大切に思っている理由を知れば、あの子も私たちの行動原理に納得がいくでしょ!」

岡部「なるほど……。まゆコよ、これから雑司ヶ谷霊園へ行くぞ」

まゆり(仮)「はい! って、霊園……お墓、ですか?」

岡部「お前の、大切なおばあちゃんのお墓だ」
71 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:19:26.87 ID:TX6juVmuo

雑司ヶ谷霊園 椎名家之墓



紅莉栖「……ここに来たのはついこの間ぶり、ね」

岡部「それは2005年の、だろう」

まゆり(仮)「ここに、先代の祖母が眠っているのですか?」

岡部「いちいち先代の、とつけるな。それはイコール貴様の祖母なのだからな」

まゆり(仮)「は、はい。すいません」

岡部「あと、俺たちに敬語は要らない。仲間なのだからな」

まゆり(仮)「が、がんばり、ま……す」

紅莉栖「すぐには無理そうね」

まゆり(仮)「それで、どうしてここへ?」

岡部「……あれは今から6年前――――」


 俺はまゆコに、まゆりの祖母の死が自分のせいだと思ったまゆりは失語症のような状態になってしまったこと、まゆりが半年近く毎日墓参していたこと、ある雨の日、レンブラント光線の中へ消えてしまいそうなまゆりを抱き留めたことで鳳凰院凶真が誕生したことを説明した。
 無論、この世界線では紅莉栖が関わっていたことは省略した。
72 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:21:15.27 ID:TX6juVmuo

まゆり(仮)「いい話じゃないですかぁぁぁっ! 凶真さん、かっこよすぎですっ!」ポロポロ

岡部「当事者からそう言われると、なんだか変な感じがするな……」

紅莉栖「照れてるの?」ニヤニヤ

岡部「う、うるさい!」

まゆり(仮)「私を、先代を守るために、鳳凰院のペルソナが降臨されたのですね……!」グスッ

まゆり(仮)「うぐっ、えぐっ……。ホントに、琴線に触れる、温かい話でした……っ」ウルウル

紅莉栖「まぁ、本人だものね。ほら、ハンカチ貸してあげるから涙拭けよ、じゃなかった、拭きなさい?」

まゆり(仮)「ありがとうございますっ」ズビー チーン

紅莉栖「うっ……いや、まゆりだから別にいいけど」

まゆり(仮)「……そっか。もしかしたら、人質って、そういうことだったのですね」

岡部「そういうこと、とは?」

まゆり(仮)「ほら、私が未来ガジェット研究所で目を覚ました時、最初に思ったのが、私は人質として囚われているんだ、ってことだったじゃないですか」

岡部「なっ……!?」

紅莉栖「それって……!?」
73 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:21:57.49 ID:TX6juVmuo

ダル「なるほ、それで全力ダッシュで逃げ出したってわけっすな」

岡部「いや、だとすると、記憶の消去が完全ではなかった、ということではないのか……?」

紅莉栖「あるいは、既にリーディングシュタイナーを発動させてしまった可能性もある……?」

まゆり(仮)「ど、どうしたのですか? 私、なにかまずいことでも言いました……?」

岡部「いや、待て。たとえそうであったとしても、まゆコが悪夢を見ないことが観測されればいいだけのこと」

紅莉栖「……そうね。取りあえずは明日の朝まで様子を見た方がいい」

まゆり(仮)「……?」

岡部「まゆコ。今日も一緒に寝るぞ」

まゆり(仮)「はいっ! ……って、えええっ!?」ドキッ

ダル「オカリン、僕らに出来ないことを平気でやってのける! そこにしびれる」

紅莉栖「憧れない! つーか、語弊のある言い方をするな! それに、今回は私も一緒に寝るからな!」

まゆり(仮)「ええええっ!?!?」
74 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:23:44.92 ID:TX6juVmuo

椎名家 まゆりの部屋



 そんなわけで色々あったが紅莉栖と三人でまゆりの部屋に泊まることになった。まゆりの両親は思いのほか丸くなったまゆコを弄るのが楽しかったらしく、俺たちとパパママは夜遅くまでテーブルを囲んだ。まゆコが大あくびをかましたので部屋へ移動した。


岡部「で、どうしてこの俺、鳳凰院凶真が床で寝ねばならんのだ」

まゆり(仮)「そうですよ。凶真さんに硬い床の上に敷かれた薄っぺらな布団の上で寝させるなんて鬼畜女幹部です」

紅莉栖「Shut up!! だいたいこのベッドも布団もあなたのでしょーが! それに岡部はいつも布団敷いて寝てるんでしょ? だったらこうなるのが自然じゃない」

まゆり(仮)「というか、どうして私があなたとこんなに体を寄せ合って寝なければならないのですか。脳をいじられそうで生理的に嫌なのですが」

紅莉栖「うぐっ! ……この子、まゆりの顔してとんでもない毒を吐いてくるわね。精神ダメージがハンパないわ……」

岡部「フーン。まゆり@厨二病でも恋がしたい! 略してまゆコに気に入られる方法はただ一つ。己自らが厨二となることだ」

紅莉栖「だが断る」

岡部「いいんだぞ? 俺がお前に色々な設定をつけ足してやっても。さすれば貴様は、自ら手を下さずとも、この厨二まゆりを手なずけることができるというもの」

紅莉栖「だ・が・こ・と・わ・る・! 大事なことなので(ry!!」

岡部「強情なやつめ」

まゆり(仮)「というわけで私は凶真さんと一緒に布団で寝ます。あなたは1人寂しくベッドで寝てください」モゾッ

紅莉栖「グギギギ……!!!」
75 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:24:31.43 ID:TX6juVmuo

紅莉栖「じゃぁ私も布団で寝るっ! 寝るったら寝るんだからな!!」ドサッ

岡部「お、おい! さすがに三人でこの布団だと狭すぎるぞ!? 右にまゆコ、左に紅莉栖では、俺が寝返りを打てんではないか!」

まゆり(仮)「そうですよ。それに自分から男の布団に入って来るなんて、あなたに乙女の恥じらいはないのですか?」

紅莉栖「あんたに言われたくないわ!」

まゆり(仮)「私はいいんです。凶真さんの幼馴染ですし、すでに何度か一緒に寝ているわけですし、男女のそういういやらしい感じのわいせつは一切ないのです」

岡部「うむうむ」

紅莉栖「あんたたちの脳みそを取り出して味噌和えにして料亭で提供してやる……!」プルプル


岡部「おい、紅莉栖。ちょっと耳を貸せ」コソコソ

紅莉栖「ヒャッ!? な、なに!?」ドックンドックン

岡部「その、だな。今晩はただの経過観察だ。だから、そういうのは、また今度に、頼む」

紅莉栖「ふ、ふぇっ!? そ、そういうのって!?」ドキドキ

岡部「だからっ! ……俺だって、お前が大切なんだ。だから、な?」

紅莉栖「ふ、ふ、ふぉぉ……」プルプル


まゆり(仮)「丸聞こえです」

岡部「!?」

紅莉栖「!?」
76 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:26:04.18 ID:TX6juVmuo

まゆ(仮)「いえ、お二人がそういういやらしい関係だというのは気付いていましたが」

紅莉栖「い、いやらしくなんかないわよ!」

まゆり(仮)「でも、先代……というか、私を必死で助けようとしてくれたことは、理解しています」

まゆり(仮)「私が愛されていることは、理解しています。私が二人の大切な人だということは、理解しています」

岡部「まゆコ、お前……」

まゆり(仮)「だから、記憶が無くなった私に対しても、こうして仲良く接してもらって、嬉しいのです」ニコ

紅莉栖「私はちっとも楽しくなかったけどな……」

まゆり(仮)「ま、それとこれとは話が別です。なによりここは私の部屋です。あなたたち二人で同衾させることだけは絶対に阻止します」

紅莉栖「べ、別にどうでもいいわよ、こんなサイテーな厨二病男なんて。私はベッドで一人で寝る。お・や・す・み。グッナイ!」

岡部「おまっ」

まゆり(仮)「では、ありがたくお借りします。えっへへー」ニヤニヤ

岡部「…………」


 このまゆり(仮)、今まで俺の周りに居そうで居なかったタイプのキャラのために、どう対応していいかよくわからん。これからの生活がちょっと不安である。まぁ、なにかあったら鳳凰院になって命令すれば解決できる、という切り札があるのはありがたいが……。
77 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:26:49.47 ID:TX6juVmuo

ベッド



紅莉栖(なによもう。ちょっと厨二が入ってるからってデレデレしちゃって!)

紅莉栖(……私も悪夢にうなされるようになったら、岡部は助けてくれるかしら)

紅莉栖(って、考えるまでもなかったわね。あいつはそういうやつ。だから私も惚れたんだった)

紅莉栖(べ、別に惚れてなんかないんだからな!)モジモジ

紅莉栖(……寝よ)



――――岡部は、まゆりを助けるべきなのよ

――――まゆりを助けて。そうしないと、本当に岡部が壊れてしまう

――――まゆりを助けようっていう想いだけで、岡部と私はここまで来た



紅莉栖(……これは、夢? それとも、リーディング――――)

紅莉栖「……zzz」
78 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:27:51.07 ID:TX6juVmuo

第四章 雲壌月鼈のオートスコピー

翌朝



紅莉栖「ん、んぅぅー。よく寝たわ……って!?」


岡部「すーや、すーや……」

まゆり(仮)「凶真さん……ムニャムニャ」ダキッ


紅莉栖(一瞬、なんだーまゆりが岡部に抱き着いてるだけかーって思ったけど中身がアレなのを思い出してしまったわ……!)

紅莉栖「朝よー! 二人とも、起きなさーい!」

岡部「うおっ。もう朝か。って、まゆりっ!?」ビクッ

まゆり(仮)「ふぇ? 凶真さん……?」ギュゥ

岡部「あー、まゆり、じゃなく、まゆりコアラ略してまゆコよ。少し離れてくれると、助かるんだが」アセッ

まゆり(仮)「えー? 仕方ないですねぇ」エヘヘッ

紅莉栖「それで、まゆり。夢はどうだったかしら?」

まゆり(仮)「夢、とは?」

岡部「悪夢を見なかったかと聞いている」

まゆり(仮)「いえ、とても良い夢が見られましたよ。凶真さんにぎゅーっと抱き着いていた夢です」

紅莉栖「それは夢じゃなくて現実だーっ!」


 紅莉栖が完全にツッコミキャラになってしまった。
79 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:28:48.61 ID:TX6juVmuo

椎名家 居間



岡部「朝ご飯まで作って頂いて、すいません」

まゆり母「いいのよ、倫太郎くんなら。それに、牧瀬さんもね」

紅莉栖「あ、ありがとうございます。いただきます」

まゆり父「まさか、あの世界的に有名な研究者の牧瀬さんが我が家に来る日がくるとはねぇ」

まゆり母「昨日パソコンで調べたくせに」フフッ

岡部「世界的に有名な研究者の牧瀬さんが、まさか@ちゃんのクソコテとしても世界的に有名だとは、父上も予想できまい」クク

紅莉栖「こっち見んな」


 どうもまゆり(仮)は悪夢を見ていないようだった。取りあえずこれで俺たちのミッションの第一段階は成功、と言っていいだろう。ただし、今後も悪夢を見ないとも限らないし、なにより真まゆりが戻って来るまでにリーディングシュタイナーそのものをなんとかしなければならない。やることは山積みである。


まゆり(仮)「おおっ。これはおいしそうな朝ご飯ですね! 食べていいのですか?」

まゆり母「当たり前でしょ。あなたはうちの子なんだから」

まゆり(仮)「そう、でしたね。では、ありがたくいただきます!」

まゆり母「……ええ。どうぞ」

岡部「ふーむ……」


 そして、このまゆり(仮)をこのまま放ってはおけないので、そちらの面倒も見なくてはならない。まずは親に対して敬語を使うのをなんとかさせるか。
80 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:30:48.31 ID:TX6juVmuo

岡部「まゆコ、聞け! 傾注せよ! 狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真が命ずる!」

まゆり(仮)「は、はいっ! 凶真さん!」ビシィ

岡部「家族、そして仲間に対し、敬語を使ってはならん! エル・プサイ・コングルゥ!」

まゆり(仮)「はいっ! 凶真さ……きょ、きょう……」プルプル

紅莉栖「そんな無理に矯正しなくてもいいんじゃない? たかだか言葉尻くらい」

岡部「いいや、違うぞクリスティーナ。ここは言霊の国、日本。言葉の一つ一つが魔の力を持っているのだ」

紅莉栖「ハイハイ、ソーデスカ」モグモグ

まゆり(仮)「凶、真! これでいいです、じゃなかった、これでいい、かなー?」テレッ

紅莉栖「ふーん、悪くないわね」

岡部「それから、まゆコ。もしできれば俺のことは……その、だな……」

紅莉栖「"オカリン"って呼んでほしんでしょ?」ニヤニヤ

岡部「ぐぬっ!? い、いや、これはカムフラージュのための作戦行動であってだな……!」


 オカリンなどという銭湯の風呂桶みたいな名前で呼ぶのはやめるのだ! と言いたいところだが、実のところ、まゆりの声で"オカリン"と呼ばれることを俺の耳は欲していた。


まゆり(仮)「オ、オカリン、ですか? じゃなかった、オカリン?」

紅莉栖「そうそう! いい感じよ、まゆり!」

まゆり(仮)「オ、オカリン……オカリン……。かわいい……」

岡部「や、やめるんだまゆコォ! それ以上は、我が呪われし右腕の封印が、解かれてしまっ! あーっ! くーっ!」

まゆり(仮)「はわっ!? し、失礼しました! じゃなかった、ごめんねオカリン! あっ!」

岡部「ぐあーっ!!」

まゆり父「賑やかでいいねぇ」ニコニコ
81 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:31:27.09 ID:TX6juVmuo

池袋駅 東口



まゆり(仮)「それで、オカリン。今日はこれからどうする、のー?」

紅莉栖「おおう。いきなりまゆりに近づいたな」


 今後のためにもだいぶ矯正させた。だが、これで良かったのだろうか? あまりこいつから本心を聞けていないので、一抹の不安が残る。


岡部「今日はお前の友達、仲間たちに会いにいくぞ。皆に心配かけたままだからな」

まゆり(仮)「うん、わかったよ、オカリン♪」ギュッ

岡部「ぐはっ!? ちょ、ちょっと距離が近すぎではないか、まゆコよ」ドキドキ


 そ、そこまでしろとは一言も言ってない! これではまゆりの皮をかぶった女豹コケットリーガール、略してまゆコではないか!


紅莉栖「こいつ、もしやわざと……!」

まゆり(仮)「えっへへー」ニヤリ

紅莉栖「こんなまゆりはいやだー!」
82 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:32:16.06 ID:TX6juVmuo

秋葉原 柳林神社



 最初に駅からも近い柳林神社へと寄ることにした。ルカ子ほど人畜無害な人間はいないだろうから、ファーストコンタクトにはもってこいだ。


まゆり(仮)「ここはどこなの、オカリン?」

岡部「ここは柳林神社と言って、お前の親友のひとりである漆原ルカの実家だ。昨日、写真で見せた人間の一人だぞ」

まゆり(仮)「神社が実家なの? ってことは巫女さんかな?」

岡部「だが男だ」

まゆり(仮)「えっ?」

ルカ「あっ、まゆりちゃん! もう、大丈夫なの?」トテトテ

紅莉栖「くっ。相変わらず可愛らしいな。だが男だ」

まゆり(仮)「あ、うん! 私、キレイさっぱり記憶が無くなったよ!」

ルカ「え……ええーっ!?」

岡部「一応その話は前もって通しておいただろう」

紅莉栖「まぁ、ビックリするのも無理ないわ」

ルカ「はっ……そうでした。すいません、岡部さん」

岡部「岡部ではないっ! 凶真だっ!」

ルカ「す、すいません! 凶真さん!」ペコペコ

まゆり(仮)「あれ? 私にはオカリンって呼ばせてるのに?」

紅莉栖「自己矛盾が発生してるのよ」
83 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:32:54.29 ID:TX6juVmuo

まゆり(仮)「それで、えっと、先代、じゃなかった、私はあなたのことをなんて呼んでたのかなー?」

ルカ「そ、その……ルカくん、って、呼んでくれてたよ?」

まゆり(仮)「"くん"? ちゃんじゃなくて?」

岡部「いいぞ、まゆコよ。想定の範囲内で驚いてくれるのは実に気持ちがいい」クク

紅莉栖「趣味悪っ。あのね、実はこう見えて漆原さんは男の子なの」

ルカ「あっ。そうですよね、そこから忘れちゃってるんですね……」シュン

まゆり(仮)「そうなの? でも、可愛いは正義だよ、ルカくん!」

ルカ「あっ! 今、初めてまゆりちゃんと会った時と同じ会話だったよ!」

まゆり(仮)「そ、そう?」

ルカ「うん! やっぱり、まゆりちゃんはまゆりちゃんだね!」キャッキャッ

まゆり(仮)「そ、そっかー。そっかー……」

岡部「…………?」


 なぜか少ししょんぼりとしているように見える。以前のまゆりをリスペクトする、という方向性で納得できたのではなかったのだろうか?
84 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:34:02.20 ID:TX6juVmuo

メイクイーン+ニャン2



 本当はまゆコ状態のまゆりをここに連れてくるべきではないのかもしれないが、しかしフェイリスに顔合わせさせないと申し訳が立たない上、ここでバイトをしてもらわねば後々真まゆりが困ってしまうので連れて来た。


フェイリス「お帰りなさ、マユシィーーーー!!!!!」ダキッ

まゆり(仮)「うわぁ! ちょっと、苦しいよぅ!」モゾモゾ

フェイリス「マユシィ、マユシィ、マユシィーー!! もう、心配したんニャぞ!!」ギュッ

まゆり(仮)「えっへへー。まゆしぃさんは愛されてたんだねー」

フェイリス「それで、凶真! クーニャン! マユシィが記憶を失ったってのは、本当なのかニャ?」

岡部「ああ、これでも本当だ」

紅莉栖「自発的にまゆりの情報を集めてくれてるから、こっちが混乱しそうな時もあるけどね」
85 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/20(火) 23:34:32.86 ID:TX6juVmuo

フェイリス「ってことは、フェイリスのことも忘れちゃったのかニャン?」

まゆり(仮)「えっと、あなたは日本人、だよね? 外国人さん、なの?」

フェイリス「ガァァァァァン……忘れられるって、こんなにもショックだニャんて、初めて知ったニャン……!」ガクッ

まゆり(仮)「ご、ごめんね!? フェイリスちゃん」

フェイリス「フェリス!」

まゆり(仮)「えっと、えっ?」

フェイリス「マユシィはフェイリスのこと、フェイリスじゃなくてフェリスって呼んでたニャァー!」

まゆり(仮)「フェ、フェリス、ちゃん?」

フェイリス「そうニャ! その調子ニャ! こうなったら、新たに生まれ変わりしマユシィ・ニャンニャンに、メイド奥義ファイナルセブンの力で、月の導きに従ってマユシィとフェイリスのことをたくさんたっくさん教えてあげるのニャー!」

まゆり(仮)「ふ、ふわぁ〜! 助けて、オカリーン!」

岡部「それもまた試練……」フッ

紅莉栖「逃げたなコイツ」
86 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 02:35:39.25 ID:6XOGb91so

ブラウン管工房前



岡部「どうした? フェイリスのところで疲れたか?」

まゆり(仮)「うん……なんていうか、フェリスちゃんの言うことが難しくて、全然頭に入ってこなかったよ」

まゆり(仮)「フェリスちゃんはなんとか星雲のチンチラ星出身で、かんとかっていうお兄ちゃんが居て……もう覚えてないや」グッタリ

紅莉栖「へぇ、岡部の厨二にはついていけるのに、フェイリスさんのギャラクシートークは厳しいのね」


 なんだそのギャラクシートークとは。そういうところも、この俺、鳳凰院凶真に似ているらしい。


まゆり(仮)「それで、次はどこなの?」

岡部「ラボを案内せねば始まるまい。この大檜山ビル二階こそ我がラボ、未来ガジェット研究所だっ!」

まゆり(仮)「おー! そういえばこんなところだったね」


綯「まゆりおねぇちゃ〜ん!」タタタッ

まゆり(仮)「ん? わぁっ!?」スッ

綯「えっ? あ、きゃぁっ!!」ドテーン

まゆり(仮)「えっと、あなた、大丈夫?」

綯「ふ、ふぇ……」

綯「ふえええええええええええん!!!!!!」ポロポロ
87 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 02:36:47.39 ID:6XOGb91so

まゆり(仮)「痛かった? どこか擦りむいたの? 近所の子かな?」ヨシヨシ

綯「うええええええん!!! うえええええん!!!」

萌郁「救急……箱、持って……きた……」

天王寺「コラッ、岡部! うちの娘を泣かせるんじゃねえ!」ゴチンッ

岡部「いだぁっ!? ちょ、冤罪ですよミスターブラウン!」

天王寺「うっせえ! ほら、綯? どっかから血、出てねぇか? 膝は? 肘は?」

綯「ううん、どこもすりむいてないよ……ぐすっ」

天王寺「じゃぁ、どうして泣いてたんだ? どこか痛むのか?」

綯「お胸が、心が、痛いの……まゆりお姉ちゃんに、避けられちゃったから……っ」

天王寺「なにぃ?」ギロ

まゆり(仮)「ヒッ。お、オカリン! 怖い!」プルプル


 お、俺の後ろに隠れるな! というか、ミスターブラウンよ、過保護すぎではないのか!? ヒィ! ハゲヒゲマッチョがこちらをにらんでいる!


紅莉栖「あんたも事情をちゃんと説明しなさいよ。天王寺さん、今まゆりは一時的に記憶喪失状態になっていて、綯ちゃんのことを忘れているんです」

天王寺「なに? そうなのか?」

まゆり(仮)「このおじさん、誰? この人もラボメンなの?」

天王寺「なんてこった……」
88 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 02:37:21.00 ID:6XOGb91so

綯「わたしは、てんのうじなえ。中学一年生!」

まゆり(仮)「綯ちゃんっていうんだー♪ よろしくね♪」


岡部「そうか、もう進学していたのですね」

天王寺「今は夏休みだけどな。つーか、なんだか懐かしいな、この風景。去年の4月頃だったか」

岡部「二人が出会ってから、早いものです」

天王寺「"まゆりお姉ちゃん"には俺だって感謝してるんだ。綯のこと、妹のようによく見てくれてよぉ」


 ラボでは妹キャラだったまゆりも、綯の前ではお姉ちゃんキャラだったな。今思えば、まゆりにはいろんな顔があったのだと実感する。
89 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 02:38:34.81 ID:6XOGb91so

まゆり(仮)「あなたは、ラボメン?」

萌郁「…………」コクッ

まゆり(仮)「えっと、名前は?」

萌郁「桐生……萌、郁……」

まゆり(仮)「もえかさん、って言うんだー。よろしくね♪」

萌郁「っ……」

紅莉栖「ちょっとショック? でも、記憶が永久に失われたわけじゃないから、安心して」

萌郁「…………」コクッ

岡部「この間は事情も碌に話さず悪かったな」

萌郁「ううん……。椎名さんが、元気に、なってくれた、なら、良かった……」


 桐生萌郁からこんなセリフが聞けるとは。シュタインズゲートへと到達できて良かったと心から思う。
90 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 02:40:18.03 ID:6XOGb91so

未来ガジェット研究所



 さて、ようやく我がラボに到着した。一通り紅莉栖がまゆコにラボを案内すると、急にまゆコはソファーに横になった。今日一日でだいぶ疲れたのだろう。


岡部「そのまま寝てもいいんだぞ」

まゆり(仮)「ううん……そうじゃなくてね」

まゆり(仮)「私、ここで目が覚めたんだよね……あの時は本当に自分のこと、人質だと思ってたよ」

岡部「フッ。貴様は鳳凰院凶真の人質だ。人体実験の生け贄なのだよ」

紅莉栖「そのセリフ、そんな大安売りしていいの?」

まゆり(仮)「……そう、だったね」

紅莉栖「まゆり?」


 やはり、何か悩んでいるようだ。今日一日、自分のことをよく知っている、自分がよく知らない人間たちに会い続けて、自分を否定されたように思った、といったところか。
 だが、まゆりを目指して頑張ってもいた。まゆりを演じる必要はないとは言ったが、円滑な人間関係のために必要な選択は妥協しているようにも感じた。
 まゆりになりたいのか? あるいは、まゆりではない自分を認めてほしいのだろうか?
91 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 02:41:21.73 ID:6XOGb91so

まゆり(仮)「あのね? たぶん、先代、じゃなかった、前の私は、オカリンのことが好きだったんだと思う」

紅莉栖「なっ!? なにを突然言い出すかこの子は!?」

岡部「…………」

まゆり(仮)「でもね? 私は、今の私は、どっちかっていうと、鳳凰院凶真の方が、好きかも」

紅莉栖「ぬあっ!?」

岡部「…………」

まゆり(仮)「なんか、私の存在って曖昧でしょ? それを、全力で肯定してくれて、悩んでる暇を与えてくれない、っていうか……」

紅莉栖(わかる……けど!)

岡部「……違うな。間違っているぞ」

まゆり(仮)「えっ?」
92 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 02:43:06.23 ID:6XOGb91so

岡部「俺はオカリンなどではないっ! フェニックスの鳳凰に、院! 凶悪なる真実と書いて、鳳凰院凶真だっ!」バサッ

まゆり(仮)「う、うん」ポカン

岡部「故に、前のまゆりが好きだったのはオカリンではなく、鳳凰院凶真だ」

紅莉栖「……そのロジックは全く成立していないわけだが」

岡部「つまり、前のお前も、今のお前も、たいして変わっていない、ということだ。フゥーハハハ!」

まゆり(仮)「あ、あはは。なんだか無理やり過ぎて呆れちゃった……」

紅莉栖「言われてるわよ」

岡部「フン。知ったことではない」

まゆり(仮)「……ありがと。私のこと、励まそうとしてくれたんだよね」

まゆり(仮)「今日は、前の私と今の私の違いばっかり見つかっちゃったから、さ。ちょっと滅入ってただけだよ」

岡部「…………」

まゆり(仮)「わかってる。わかってる、けど……っ」プルプル
93 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 02:44:06.96 ID:6XOGb91so

まゆり(仮)「ごめん……! やっぱり私、まゆりさんにはなれないよ……っ!」

紅莉栖「まゆり……」


 俺の励ましは凶と出てしまったらしい。まゆりになろうとしてみたが、どう頑張ってもなれないことを悟ったのだろう。


岡部「なる必要などない。お前がまゆりであるか、まゆりでないか。そんなことはどうでもいい」

まゆり(仮)「えっ……?」

紅莉栖「ちょっと岡部! 何を――」

岡部「お前は、ラボメンナンバー002だ! それだけは、未来永劫、全宇宙の世界線において、絶対不変の定理である!」

岡部「ラボメンの抱えている問題は、必ず俺が解決してやる。弱音を吐くのはいい。吐きたければ、いくらでも吐け。俺が聞いてやる」


 これは、俺がかつて鈴羽に、半ば八つ当たり的に言ったセリフだ。狙ったわけではないが、2010年において周りに知る人が誰もいない状態だった鈴羽と、今のまゆコとを重ねてしまったのかもしれない。


まゆり(仮)「凶真さん……」

岡部「お前は、お前のままであればいい。周りから何を言われようとも、それでいいんだ」

まゆり(仮)「私の、ままで……っ、うっ、ひぐっ」

まゆり(仮)「ありがとう、凶真さん……!」ダキッ

岡部「泣き虫だな、お前は」ナデナデ

紅莉栖「……まったく」フフッ
94 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 02:45:02.22 ID:6XOGb91so

第五章 電子筐体のドッペルゲンガー

ヴィクトル・コンドリア大学 脳科学研究所



真帆「あの子、またとんでもないことをやらかしてくれたわね……」ハァ

Ama真帆「どうしたの? オリジナルの私」

真帆「日本からハッキングされたのよ、うちの研究所のサーバー。犯人はおそらく、紅莉栖」

Ama真帆「なんでまたそんなことを……」

Ama紅莉栖「えっ!? 私のオリジナルが!? もう、なにやってんのよ!」

真帆「しかもMayuriさんっていう人の記憶データをまるごとコピーして保存してあるのよね。これって、どういうことだと思う?」

Ama真帆「そんなの、本人に直接連絡して確認してみればいいじゃない」

真帆「それが出来たらもうやってるわ。向こうに何か考えがあると思うと、聞くべきか悩むのよ」

Ama真帆「そうね。あなたは後輩にいちいち気を使う情けない先輩だものね」

真帆「なっ!」

Ama紅莉栖「Stop! 自分同士で喧嘩しないでください! それにオリジナルの私は、先輩の気遣い、いつも嬉しく感じてますよ」

真帆「そ、そう?」

Ama紅莉栖「でも、さすがに今回のことはオリジナルの私のやり過ぎです。レスキネン教授の事件もあったばかりなのに……なるべく早く確認すべきだと思います」

真帆「そうね。うん、そうよね。ちょっと連絡してくる」
95 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 02:45:33.02 ID:6XOGb91so

真帆「ハロー。それで、どういうつもりかしら? 紅莉栖?」

紅莉栖『あ、あはは……やっぱりバレちゃいましたよね』

真帆「去年に続いて今年も休暇を延長しただけでなく、あまつさえハッキング!? しかも記憶データの操作を勝手にやるなんて! あなた、一体なにを考えているの!?」

紅莉栖『先輩、落ち着いて。どう、どう』

真帆「まぁ、あなたほどの頭脳がくだらないことに足を突っ込んでるとは思えないけど、アマデウスたちにも急かされているし、所長代理として、詳細で簡潔な説明をお願いするわ」

紅莉栖『……そっか。どうして思いつかなかったんだろう……ブツブツ』

真帆「紅莉栖? 聞いてるの? ねえ?」

紅莉栖『先輩! 新しいアマデウスをもう一つ作りましょう!』

真帆「は、はあ!?!?」
96 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 02:46:11.76 ID:6XOGb91so

未来ガジェット研究所



岡部「アマデウス? なんだ、それは」

紅莉栖「簡単に言うと、実際の人間の記憶データをそのまま持ったAIのことよ」

岡部「ほう……?」

紅莉栖「作ったはいいけど、発表の機会を逃しに逃しまくってる、可哀想なプロジェクトなのよね」

紅莉栖「面白いことにこのAIは独自に思考をしているの。オリジナルの人間とは別の思考パターンを示すようにもなっている」

岡部「つまり、PCの中に新たな人間を創り出した、と……?」

紅莉栖「岡部にとってはそんなイメージでもいいわ。とにかく、さっき思い付いたんだけどね」

紅莉栖「まゆりのアマデウスを作る、っていうのはどうかしら」
97 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 02:54:02.52 ID:6XOGb91so

岡部「……すまん、いまいちよくわからんのだが、それをしたところで何になるのだ?」

紅莉栖「簡単に言うと、あの時コピーしたまゆりの記憶本体と直接会話ができるようになるわ」

岡部「な、なにっ!? ということは、普通にまゆりと、会話できるのか!?」

紅莉栖「だからそう言っとろーが。混乱しすぎ」

岡部「それは、是非ともお願いしたい! 今の状況をまゆりに話しておきたいのもあるが、あのまゆり(仮)のことについても色々と相談してみたい!」


 まゆコをラボに案内した日から既に2、3日が経過していた。その後まゆコは自分探しの旅がしたいなどと言って、ほうぼうをひとりでさまよい訪ねているらしかった。と言っても池袋か秋葉原がメインらしいので安心ではある。
 その間、俺たちの知らないところで、たくさんの知識と経験を得て、新たな自己を形成していることだろう。そんなまゆコを、まゆりはどう思うだろうか。


岡部「それで!? いつ完成するんだ!?」

紅莉栖「そんなすぐにはできないわ。擬似サーキットの構築だけじゃなくて、モデリングや音声サンプリングもしないと―――」

紅莉栖「あ、そっか。あのまゆり、つまり、まゆコさんにもちょっと手伝ってもらわないといけないわね」

岡部「そうなのか? それなら俺から連絡を取ってみよう。もしもし? まゆコか?」
98 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:04:23.42 ID:6XOGb91so

翌日 秋葉原 夜



 まゆコには諸々の事情を説明して、翌日、声のサンプリングと3Dモデル用の写真撮影に協力してもらった。よく紅莉栖はたった一日でスタッフをそろえたものだ。思った以上に録音と撮影作業が大変だったため、まゆコからボロクソに文句を垂らされてしまったので、その夜にゴーゴーカレーをおごってやった。


まゆり(仮)「いやあ、この身体、滅茶苦茶お腹が空くので参ってたのですよ!」モグモグ

岡部「そうだろうな。そういえば、もう口調は元に戻したままにするのか?」

まゆり(仮)「あ、はい! 凶真さんの命令に背くのは申し訳ないのですけど、やっぱりこっちの方がしっくりくるので」

岡部「フッ。それは悪いことをした。命令はあとで解除したと我が配下の伝令班に伝えておこう」

まゆり(仮)「ありがとうございます! それで、結局アマデウスってなんなのです?」

岡部「おまっ。紅莉栖からちゃんと説明があっただろうが」

まゆり(仮)「いやあ、あの人の話って、聴く側の勉強が足りない! って主張してるような話し方じゃないですか」

岡部「んーまぁ、一理ある」モグモグ

まゆり(仮)「凶真さんの口から教えてくださいよ! 凶真さんの話は、私、基本的になんでも好きですから!」

岡部「そ、そうか? フフッ。そうだなぁ」ニヤニヤ


 やはり新生まゆりと一緒にいて悪い気はしない。我が幼馴染と同じ顔と声をしているのが少し、いやかなり変な感じがするが、鳳凰院凶真を全力で持ち上げてくれる数少ない、いや唯一の人間だからな。
 もしかしてこいつ、まゆりの肉体と俺の妄想脳波から生まれた存在なのではないだろうか? そうすると、俺とまゆりの娘、ってことになるのでは? などとくだらないことを考えながらカレーを食べた。
99 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:05:46.78 ID:6XOGb91so

岡部「要するに、だ。先代椎名まゆりの魂の記憶を現世に降臨させ、彼女と極秘通信できる術式……だと言ったら、どうする?」

まゆり(仮)「な、な、な……っ! すごいです! とってもすごいです、凶真さん!」キラキラ

岡部「フゥーン。そうはしゃぐな」ドヤァ

まゆり(仮)「今日のアレは、そんな壮大な計画の一端だったのですね……私、感動です!」

岡部「まぁ、完成するには最低でも一か月は時間が必要らしいから、しばらくの辛抱だ」

まゆり(仮)「一か月後ですか! 待ちきれないですね! ワクワクドキドキですね!」

岡部「そんなにまゆりに会いたいのか?」

まゆり(仮)「え? あ、うーん……どうなのでしょう?」

岡部「ズコッ。って、そこをあまり考えずに話してたのか」

まゆり(仮)「確かに直接話せるなら色々質問してみたいとも思いますが……。まゆりさんが映ってるホームビデオとかそういうの見てて、なんて不思議な雰囲気の人なんだろう、と興味は持ってまして」

岡部「ほう」

まゆり(仮)「あとはこう、ラボメンとしての処世術、とか聞いてみたいですね」モグモグ


 それは俺が知りたいくらいだ。というか、おそらくラボメンの中でそんなものを知りたがるのはまゆコぐらいだろう。
 そんなワクワクドキドキを数日で忘れたまゆコは、学校が始まるとわりと俺の知っているまゆり通りの生活に戻り、意外にもさしたる問題を起こさずに居た。
 紅莉栖はアマデウス新造計画のためアメリカへと帰国した。あいつは本当に実験大好きっ娘であり研究馬鹿なのだと心底思う。

 ――そして、一か月が過ぎた。
100 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:07:42.39 ID:6XOGb91so

早朝
池袋 岡部青果店 岡部の部屋


Trrrr Trrrr

岡部「ん、電話か……? こんな朝早くから、誰だ……」

ピッ

岡部「もしもし……?」

紅莉栖『ハロー、岡部。ついに完成したわよ』

岡部「完成……? 何がだ?」

紅莉栖『まゆりのアマデウス』

岡部「まゆ……何っ!?」ガバッ

紅莉栖『今空港に向かってるから、日本時間の夜までにはそっちに着けると思う』

岡部「ま、待て待て! また日本に来るのか!?」

紅莉栖『あんたたちの驚く顔を直に見たいじゃない? 今日の夜、和光市の駅前で待機しておくこと。オーバー』ピッ

岡部「和光市って、東武か? って、おい! 紅莉栖!? あの女、切りやがった……」


 早朝から寝耳に水だ。というか、"あんたたち"と言っていたが……そうか、まゆコのことか。
 あれから一か月、まゆコは学校帰りやバイト帰りにルカ子やフェイリスと一緒にラボに遊びに来てはコスプレしたり雷ネットABで遊んだりしていた。特に深い意味などないが、なんとなく心配なので池袋まではよく一緒に帰っていた。
 そんなわけですぐにでも連絡は取れるが、あの"進ぬ! 電波少女的能天気生活"はアマデウスや紅莉栖のこと、そして自分が記憶喪失になったまゆりの二代目的存在であることをちゃんと覚えているのだろうか。
101 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:15:10.81 ID:6XOGb91so

椎名家


ピンポーン

まゆり(仮)「はーい。って、凶真さんじゃないですか! どうしたのですか? 配達ミスとかですか?」

岡部「いや、それがだな。先ほど紅莉栖から連絡があって、例のブツが完成したそうだ」

まゆり(仮)「れ、例のブツって、まさか……!」


 覚えていてくれたか。いや、俺のノリに適当に合わせているだけか?


岡部「そう。人智を超越した禁断のパンドラ、先代椎名まゆりのアマデウス、だ」

まゆり(仮)「ご、ごくり……」


 ごくりと口に出して言うやつを初めてみた。しかし、こんな鳳凰院凶真に対する完璧な応答を狙ってやっているというよりわりと素に近い状態でやってのけているのだから、本当に素晴らしい逸材である。
 紅莉栖がアメリカへ戻ってしまってからツッコミ役がいなくなったので、こうやって二人でボケつづけることもしばしばだ。いかにあいつの存在が大きかったがこんな形で露呈するとはな……。


岡部「今宵、和光の地に顕現するという。今日、夜は空いているか?」

まゆり(仮)「もう、空いてるに決まってるじゃないですか! たとえ空いてなくても空いてます!」

岡部「そ、そうか。ちなみに日中はなにか用があるのか?」

まゆり(仮)「あー……………………ないです!」


 なんだその長い溜めは!? 絶対に用事があるだろう!?
102 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:16:27.25 ID:6XOGb91so

まゆり(仮)「正直言うと、最近凶真さんとはあんまり遊びに行ったりしてなかったから、今日ぐらいせっかくなのでゆっくりたっぷりお話したいなぁと思って」エヘヘ

岡部「まぁ、仕方がないだろう。学校が始まれば、お互いの生活サイクルというものがあるからな」

まゆり(仮)「はい! あ、それと、パパとママが寂しがってるので、いつでもうちに泊まりに来ていいですよ!」

岡部「そ、そんな真似できるか! 鳳凰院凶真は、常に孤独で孤高の存在なのだっ!」

まゆり(仮)「おおっ、照れ隠しの言い訳もかっこいいですね! じゃぁ、これからどこにいきましょうか?」


 なんだか軽くあしらわれている気もする。


岡部「待て。貴様は自分の予定をちゃんとこなしてこい。ゆっくり話すのはそのあとでもいいだろう」

まゆり(仮)「えっと、その、あの……どうしても、ダメ、ですか?」ウルウル


 うっ。まゆりのベビーフェイスで小悪魔的顔をするでない! この卑怯者が!


岡部「わ、わかった! わかったから泣くな、な!?」

まゆり(仮)「えっへへー! やったー! どっこにいっこうかなーっとなっとなっとなっとっと♪」


 急にナット節を歌いだしたまゆコ。こいつ、口では俺をリスペクトしている風のくせに、絶対に本心では俺を手玉に取って遊んでいるのだ。まゆりの派生的存在であるから俺は許せているが、こいつには勝てる気がしない。
103 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:21:09.00 ID:6XOGb91so

としまえん 正門ゲート



岡部「な、なぜここなのだ……」


 雲一つない快晴。俺たちは水着を片手にリア充のすくつに来ていた。案内によると、今日がプール営業の最終日らしい。


岡部「確かにまゆりとは小さいころ、なんどかここに一緒に遊びに来たことはあったが……」

まゆり(仮)「池袋と和光の間くらいで遊ぶとなったらここしかないじゃないですか! 時間はたっぷりあるので、どこから周りましょう……!!」ワクワク


 そういうとまゆコはルンルンという擬音を背中にしょいながら園内へとスキップしていった。どこから拵えてきたのかわからん麦わら帽子や爽やかな洋服が日差しに輝いている。何やら早く早くと俺に呼び掛けているようだ。
 このままだとほぼ確実にすくすく育ったまゆりの水着姿をまゆコに見せつけられることになるだろう。まゆコなら、おそらく、鳳凰院のノリで頼めばなんでもやってくれる。リア充的展開をしようと思えばできるのだ……。
 い、いやいや、鳳凰院凶真!? 貴様は今、何を考えていた!? というか、数々のタイムリープの時間の環の中で思い知ったではないか。なんでもできる状況だとしても、結局俺は己の欲望ではなく、誰かの想いのためにしか動けない人間なのだと。
 ……そうだ。まゆコはきっと寂しかったのだ。ようやく社会生活に慣れてきたとは言え、自分を生み出した存在である俺たちとの接触が減り、己の存在意義を確認したいのだ。今日はそんな日のはずだ、うん。たぶん、絶対。
104 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:31:32.69 ID:6XOGb91so

 その後、園内のメイン的存在となっている乗り物や目についたイベントスペースをめぐったが、九月とは言え気温が高く、早く涼みたい気分だったので昼前にプールへ行くことにした。下心など全然ない。


まゆり(仮)「それじゃ、着替えてきますね! 出たところのすぐの、あの木のあたりで待っててください!」


 そういうとまゆりはルンルンという擬音を背中にしょい直して女子更衣室へとスキップしていった。なんだか恥ずかしくなってきたので、俺は男子のほうにさっさと歩きだした。
 着替えを早々に済ませて、フェイクのヤシの木の下で空を眺めながら宇宙の真理についてぼーっと考えていると、まゆコがこちらへ向かってくるのが見えた。


まゆり(仮)「凶真さん……。その、お待たせしました……っ」モジモジ


 そして、俺は固まった。大胆なビキニスタイル、上は白地に淡いピンクのドット柄で、俺が想像していたのよりもはるかに布の面積が小さい。下は、かなり食い込みがきわどいデニム地のパンツ。ダメージジーンズ風に加工されているため、かなりワイルドな印象に見える。豊かなバストに、無駄なゆるみが全くないウエスト、なめらかな曲線を描いている腰まわりからスラリと伸びた白い足は、いかにもスポーツが得意だとわかるようなしなやかさを持っていた。頭に麦わら帽子をちょこんと載せているのも、夏の妖精のような魅力を醸し出していて、とても愛らしかった。
 はっ!? いかーーーーーーん! 俺は、まゆり相手になにを見惚れているのだっ!?


岡部「もしもし? そうだ、俺だ。どうやら軌道上の静止衛星から強力なマイクロウェーブのようなものが照射されているようだな」

岡部「……うむ、そのせいで、俺の脳波は怪電波となり、世界の秩序に破壊と創造をもたらしてしまうところだった」

岡部「ああ、そうだ。間違いなく機関の陰謀だろう。注意するんだぞ、いいな? エル・プサイ・コングルゥ」

まゆり(仮)「きっ、機関の陰謀はそこまで迫ってきているのですか!?」ドタプーン


 ああ、今日も平和だ。
105 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:41:43.26 ID:6XOGb91so

まゆり(仮)「それで、その……この水着、どうですか?」テレッ


 まゆコのセンスはやはりまゆりのそれとはだいぶ違っているようだ。まゆりが自分でこういうのをチョイスするとは思えないからな。まゆコ、GJ!! ……あ、いや、ゲフンゲフン。


まゆり(仮)「えっと、自分から聞いておいてなんなのですが、そんなに凶真さんに見つめられると、恥ずかしいのです」

岡部「えっ。あぁ、いや! ゴホン! その、だな。モデルの味をよく引き出しているというか、センスがあるな。うむ」

まゆり(仮)「え、えへへ……。ありがとう、ございます」テレッ


 まゆりはとても可愛い。まゆコはとてもセンスがいい。二つが合わさって最強に見える。


まゆり(仮)「そ、それじゃ、華麗に泳ぐとしましょう! さ、凶真さん!」ギュッ


 そういうと、俺の手を引っ張ってプールへと駆け出した。プール際で見事につんのめった俺はそのまま水の中へと叩き落されてしまった。
106 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:42:50.71 ID:6XOGb91so

まゆり(仮)「凶真さん! 大丈夫ですか!?」ギュッ


 大して水深があるわけではないのに俺が溺れたと心配しているのか、気づくと俺の頭はまゆりのバストにしっかりと包まれていた。吸い付くように滑らかな肌が、俺の全身にピタリとはりついている。


まゆり(仮)「よ、よかったです……ご無事で……っ」ウルッ


 こいつ、本気で目を潤ませている。どこまでがマジなのだろう。


岡部「あ、ああ。心配かけてすまなかった。……もう離れても平気だぞ!?」


 しかしまゆコは俺を掴んだまま離れようとはしない。


岡部「ど、どうした?」

まゆり(仮)「い、いえ……っ」


 まゆコはゆっくりと力をゆるみ、俺を離した。
107 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:43:49.52 ID:6XOGb91so

プールサイド



岡部「ほら、昼飯、適当に買ってきたぞ。焼きそばにタコ焼きにフランクフルトだ」

まゆり(仮)「あぅ、さっきの今ですいませんです」

岡部「いちいち謝るな。というか、さっきのはどうしたんだ? ホントに俺が溺れたと思ったのか?」

まゆり(仮)「その……。もしかしたら凶真さんが、極度のカナヅチかもしれない、という可能性を忘れてまして……」


 そうか。そういえば、まゆりとは何度かここに来たことはあるが、こいつと一緒に来たのは初めてだったのだ。つまり、俺がどの程度泳げるか知らなかった、そのことにまゆコ自身があのタイミングで気づいてパニックになった、と。
 うーむ、ガチで落ち込んでいるようなので、ちょっと元気を出させてやるべきだろう。


岡部「貴様、この俺、鳳凰院凶真がカナヅチだと、本気でそう思ったのかぁ?」

まゆり(仮)「い、いえ! そういう、わけでは……」

岡部「ならば、どういうわけなのだ。釈明の機会を与えてやろう。この俺の慈悲に感謝するがいい」

まゆり(仮)「ハッ! ありがたき幸せ! むろん、凶真さんが最強なのは周知の事実です! ですが、私に気を使われて、その能力を隠しているタイミングだったらどうしようかと……!」

まゆり(仮)「何より、凶真さんに命をいただいたも同然のこの私が、主人である凶真さんを傷つけるなど、絶対にあってはならないことなのです!」

岡部「フッ。貴様の忠誠心は称賛に値するが、過度な心配はわきまえろ? そもそも、いかに能力を封じていようと、この俺の右腕の封印には水の精霊たちと共鳴する能力もあるため、万事問題はなかったのだ」

まゆり(仮)「そ、そうだったのですね! 出過ぎた真似をして、ご無礼いたしましたぁーっ!」


 ちょっと無理やりだったか?
108 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:45:27.26 ID:6XOGb91so

 その後、元気を取り戻したまゆコとは、波打ち際でちゃぷちゃぷしたり、ウォータースライダーを滑ったりなどして、後日筋肉痛にならない程度にはプールを満喫した。


まゆり(仮)「……ありがとうございます。いろいろ気を使っていただいて。凶真さんとたくさん遊べて、よかったです」

岡部「そうか? 俺にとっては、ガキの頃に戻ったような気分だったよ。懐かしかったり、新鮮だったりで、楽しかったぞ」

まゆり(仮)「そう言っていただければ、私としてもラボメンナンバー002冥利につきます」


 なんだその謎の冥利は。


まゆり(仮)「今日はとても充実していました。生きてるって感じがしました……生きてるって、どういうことなのでしょうね」

岡部「急に哲学に目覚めたのか?」

まゆり(仮)「私ってほら、まゆりさんとして普段は生きてるじゃないですか。それを、新しい私、まゆコとして認めてくださるのは、凶真さんだけなので」

岡部「当然だろう。貴様はまゆりであってまゆりではない。だが、ラボメンナンバー002であることには変わらない。それがすべてだ」

まゆり(仮)「そう、ですよね。えっへへー……」

岡部「さて、そろそろ着替えて和光へ向かおう。遅刻しては、紅莉栖になんとどやされるかわからんからな」

まゆり(仮)「はい、そうですね! 先代のまゆりさんに会えるの、楽しみです!」
109 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:46:14.60 ID:6XOGb91so

夜 和光市駅前



まゆり(仮)「ほ、ホントにここであってるのですか?」

岡部「紅莉栖はそう言ってたんだがな……」


< プップー


 こんな時間にクラクションとは、非常識なやつが居たものだと思ってそっちを見てみるとメタリックでド派手なアメ車に乗った紅莉栖が居た。


紅莉栖「ハロー、二人とも。元気そうでなにより」

岡部「なっ!? なんだこの車は!? まさかDMC-12ではないよな!?」

紅莉栖「レンタカーよ。こっちでの足。ってかデロリアンは製造停止しとろーが。それより、早く乗って」

まゆり(仮)「こ、このドア、どうやって開ければいいのですか? あ、開いた」ウィーン

岡部「というか、車があるんだったら池袋に迎えにきてもよかったのでは……?」

紅莉栖「先に研究所に寄ってきたのよ。ほら、出発するわよ」ブルン ドロロロ…


 セレセブめ、わざわざ移動のためだけにこんな車を用意してくるとは。急加速の中、このまま1955年へとタイムスリップしてしまうのではないかという俺の懸念は次の赤信号で消えうせた。
110 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:46:49.87 ID:6XOGb91so

理化学研究所



岡部「この研究所内に、アマデウスが?」

紅莉栖「アクセスさえできればどこでも良かったんだけど、うちの大学と提携してる研究機関で、池袋からの最寄だとここだったのよ」

まゆり(仮)「ほぇぇ……」

紅莉栖「この部屋よ。さ、入って」

岡部「なにもない部屋に、PCが一台……」

まゆり(仮)「この中に先代まゆりさんが居るのですね!」

紅莉栖「起動テストはもうしてある。本人も自分をアマデウスだと認識しているわ」

紅莉栖「だけど、このAIの厄介なところは、往々にして人間側が混乱させられてしまう、という点。気を付けてね」

岡部「もったいぶるな。早く起動しろ」

紅莉栖「いちいち命令すんな。いま立ち上げる……きた」


ブォン…

111 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:47:20.12 ID:6XOGb91so







Amaまゆ「あなたは誰ですか?」







112 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:48:04.09 ID:6XOGb91so

岡部「なっ……」

まゆり(仮)「へぇ……」


 俺の記憶と寸分たがわぬまゆりがそこにいた。いや、目の前にももう一人いるにはいるが、こいつはもはや表情とかファッションセンスとかが俺の記憶しているまゆりではないのだ。


紅莉栖「あなたにとっては初めまして、よね。こっちは――」

岡部「お、俺は鳳凰院凶真! お前は、俺の人質だ!」


 衝撃の余り、口走っていた。


Amaまゆ「えっ? ……クスッ」

岡部「は……?」

Amaまゆ「やだなぁ、オカリン。オカリンのことは、世界中の誰よりもまゆしぃが知ってるよ」ニコ


 その聞き慣れた声使いに俺の心は融けてしまった。
113 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:48:45.35 ID:6XOGb91so

紅莉栖「前にも説明しただろーが。まゆりの記憶を消去した時のまゆりの記憶と会話できる、と」

岡部「そ、そうか。だから、こいつは俺のことを知っていて当然なのだな!」


 じゃぁさっきの、あなたは誰ですか、ってのはなんだったんだ?


Amaまゆ「まゆしぃはね、そっちに居る、とってもと〜ってもまゆしぃに似た女の子に質問したつもりだったのです」

まゆり(仮)「わ、私ですか!? 先代! 挨拶が遅れて、大変失礼しましたーっ!」ズサーッ


 なぜパソコンに土下座する。


まゆり(仮)「私は、その……二代目総長まゆりを名乗らせていただいているものです!」


 え? 先代とか二代目って、レディース的ななにかだったのか?


まゆり(仮)「先代のまゆりさんにお目にかかれて、光栄です! まゆりの名を汚すことのないようがんばりますので、よろしくお願いします!」ペコリ


 改めて言うが、アマデウスとまゆコによるこれらの台詞はすべてまゆりの声で発せられている。不思議な空間が出来上がったとしか言いようがない。
114 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:49:56.30 ID:6XOGb91so

岡部「あー、まゆり。こいつはまゆり特攻隊長、略してまゆコだ」

紅莉栖「まゆりカッコカリの略って話、ブレブレだな。漆原さんもそうだけど、あんたって意外に引き出しが少ないわよね」

岡部「な、なんだとぅー!」

Amaまゆ「まゆ子ちゃんって、おもしろい子だねぇ。まゆしぃそっくりなのに、全然まゆしぃと違うんだもん」

まゆり(仮)「そ、それは、凶真さんが、私は私のままでいいって言ってくれたので!」テレッ

Amaまゆ「そっかぁ……オカリンらしいなぁ。まゆ子ちゃん、良かったね」

まゆり(仮)「はいっ! 良かったです! あの、良ければ色々と質問してもいいですか!?」


 まゆコのテンションがものすごく上昇している。よほどまゆりと話したかったのだろう。しかし、こうしてみるとまるで双子だな。


岡部「随分盛り上がっているようだが、二人きりにした方がいいか?」

まゆり(仮)「お、お気遣いなく!」

紅莉栖「別にいいわよ。時間はまだ余裕があるし。こっちはこっちで積もる話もあるから」

岡部「なに? そうなのか?」

紅莉栖「ほら、行くわよ」
115 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:50:43.45 ID:6XOGb91so

ガチャ バタン


 俺と紅莉栖は手前の部屋へと引き戻った。


岡部「まゆりが元気そうで何よりだ」

紅莉栖「あんたはもう話さなくてもいいの?」

岡部「あいつの無事を確認できた。それだけで充分だ」

紅莉栖「そう。実際、ちゃんと自分がどういう経緯でアマデウスになったのかも理解してたし、あれは人格も含めて間違いなく元のまゆりよ」

紅莉栖「肉体側の記憶をゼロにした方は、新しいまゆりの人格がある。一方、PC側のゼロ領域に記憶をペーストした方には、元のまゆりの人格がある。本当に不思議ね」

岡部「元はと言えば、まゆりに悪夢を見させないための措置だったのだが、それがこんな奇妙な光景を生み出すことになるとはな」

紅莉栖「アマデウスは睡眠を必要としないから、当然夢を見ない。それで、もしかしてって思ってることがあるんだけど」

岡部「なんだ? それが積もる話か?」

紅莉栖「この、アマデウス化したまゆりの記憶データなら、生身に書き戻したあとでも、リーディングシュタイナーは発動しないままかもしれない」

岡部「な、なに……!?」


 それは、むろん願ったり叶ったりだが、どういうことなんだ……!?
116 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:51:47.34 ID:6XOGb91so

紅莉栖「今、まゆりの意識は、リーディングシュタイナーが発動したくてもできない状態に置いてある」

紅莉栖「現段階で別の可能性世界線からの情報発信は拒否している状況だと言える」

紅莉栖「一度この状況になってしまえば、受信側は永遠に拒否し続けるんじゃないか、って」

岡部「……クリスティーナにしては、随分と楽観的な希望的観測に基づいた話だな」

紅莉栖「まあね。でも、私は可能性が高いと思っている」

岡部「根拠は?」

紅莉栖「アマデウスは人間の脳を模して作り上げたAI。だけど、リーディングシュタイナーを発動して、脳内記憶データを爆発的に増加させる、なんて挙動は、今までに一度も起こっていない」

紅莉栖「一旦そういう回路に閉じ込めた意識は、外部へ移管した後も同じ状態のまま。これは、PC間での話だけだけど、そういう実験も行った。まぁ、当然と言えば当然なんだけど」

紅莉栖「これはなにもPC間移動だけに適応されるんじゃなくて、デジタルからアナログへ移した場合もそうなんじゃないか、っていうのが私の推測」

岡部「うーむ……」

紅莉栖「アナログをデジタルにする時はデータ量は簡略化されるわ。だけど、デジタルをアナログにする時は、アナログ側に空き容量さえあればデータ量は変わらない」

紅莉栖「それに、肉体への書き戻しはまゆりにとってはリスクゼロよ。もし悪夢が再発するようならまたアマデウスへ戻してしまえばいい。ね?」

岡部「なるほど……試してみる価値はありそう、だな」
117 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:52:28.61 ID:6XOGb91so

奥の部屋



Amaまゆ「まゆ子ちゃんの好きな食べ物はなにかな〜?」

まゆり(仮)「カレーです! あとは、ママの作ってくれるものはなんでも!」

Amaまゆ「あっ、カレーはまゆしぃも好きだよ! でもお母さんの料理は、おでん以外の和食はちょっと苦手かなぁ」

まゆり(仮)「そうなんですか? それじゃ、先代さんは好きな言葉とかってありますか?」 

Amaまゆ「ことば? うーんと、お腹いっぱい幸せいっぱい、とか?」

まゆり(仮)「そういうのじゃなくて、もっと名言とか格言みたいなものですよ!」

Amaまゆ「うーん、あんまりないかなぁ。あっ! 我が名は放送委員きょうま、ってのは好きだよ〜」

まゆり(仮)「ほ、放送委員って……ぷっ! サイコーです、先代さん!」

Amaまゆ「そ、そうかな? えっへへ〜」

まゆり(仮)「えっへへー! やっぱり私たちって、一緒の人間なのに、微妙に違うのですね」

Amaまゆ「それはそうだよ〜。だって、まゆしぃはまゆしぃだけど、まゆ子ちゃんはまゆ子ちゃんなんだよ?」

まゆり(仮)「……そう、ですよね」
118 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:53:03.02 ID:6XOGb91so

まゆり(仮)「あの、失礼なことを聞いても良いですか……?」

Amaまゆ「なにかな、なにかな? なんでも聞いていいよ♪」

まゆり(仮)「その、先代まゆりさんも、やっぱり、凶真さんのことが好きだった……のですよね?」

Amaまゆ「え、えっへへ〜。なんだか、照れちゃうなぁ」

まゆり(仮)「やっぱり、同じまゆりだから、なんですかね」

Amaまゆ「ううん、それは違うと思う」

まゆり(仮)「えっ……」

Amaまゆ「まゆしぃはまゆしぃの気持ちが、まゆ子ちゃんはまゆ子ちゃんの気持ちがあってね、それが偶然オカリンだったんだと思うよ」

まゆり(仮)「偶然……」

Amaまゆ「でもね、でもね。クリスちゃんはあんまり認めてくれないけど、オカリンって実は結構かっこいいのです」

まゆり(仮)「あ! それ、私も超わかります!」

Amaまゆ「だよねだよねー♪」
119 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:53:54.71 ID:6XOGb91so

まゆり(仮)「……私は、先代がうらやましいです」

Amaまゆ「えっ? どうして?」

まゆり(仮)「先代の部屋には、想い出がたくさんあって、凶真さんとの想い出も……。私はただ、写真とか、そういうのを見て想像することしかできない」

まゆり(仮)「先代の記憶の中には、私と凶真さんが過ごしてきたよりも何十倍、何百倍もの大切な想い出がたくさんあると思うと、焦って想い出を作ろうとしても、全然勝てる気がしなくて」エヘヘ

Amaまゆ「……まゆしぃはね、ちょっぴりまゆ子ちゃんが、うらやましいなぁーって、思ってるんだよ?」

まゆり(仮)「えっ……?」

Amaまゆ「今のまゆしぃと違って、息をして、ご飯を食べて、いっぱい遊んで、眠れるでしょ?」

まゆり(仮)「ま、まぁ、そうですね」

Amaまゆ「オカリンと一緒にだって、それはできるよね」

まゆり(仮)「あっ……」

Amaまゆ「まゆしぃはもうできないから……えっへへー。ごめんね、まゆ子ちゃん。変なこと言っちゃって」

まゆり(仮)「い、いえ……」

Amaまゆ「気にしないでね! まゆ子ちゃんの身体は、まゆ子ちゃんのものだからね!」

Amaまゆ「まゆしぃはもう、何度もオカリンに助けられて、ここにいるわけなので……」

Amaまゆ「ここに居るのは、まゆしぃの選択したことなので……」

Amaまゆ「ここに居れば、オカリンの重荷にはならないので……」

まゆり(仮)「…………」
120 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:54:31.68 ID:6XOGb91so

ガチャ バタン


岡部「どうだ? たくさん話はできたか?」

紅莉栖「あら? アマデウスのまゆりは自分でログアウトしたのかしら」


 画面を見ると真っ暗になっていた。アマデウスとの通話が終了したのだろう。


まゆり(仮)「凶真さん……あの、折り入って頼みがあります!」

岡部「ど、どうした急に」

まゆり(仮)「その、えっと……」

まゆり(仮)「すぅ、はぁ」

紅莉栖「もしかして、愛の告白?」

岡部「茶化すな。それで、頼みとはなんだ?」

まゆり(仮)「凶真さん、紅莉栖さん……」

まゆり(仮)「やっぱり、記憶を書き戻してください。この身体は、私のものじゃない。先代まゆりさんのものです」

岡部「なっ……」

紅莉栖「…………」
121 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:57:30.28 ID:6XOGb91so

紅莉栖「実を言うとね、ちょうど私たちもその話をしていたのよ」

岡部「おい、クリスティーナ……」

紅莉栖「もしかしたら、今のアマデウスの記憶をあなたの脳に書き戻したら、悪夢も見ない、正常な状態のまゆりに戻るんじゃないか、って」

まゆり(仮)「えっ……。そ、そうなんですか!? 凶真さん!」

岡部「……ああ、そうだ」


 嘘はつけない。ついたところで、いずれバレてしまうしな。何より、まゆコに嘘を吐くことは、俺の心が許さなかった。
 書き戻せば、正常に戻るかもしれない。その可能性はある。だが――――


紅莉栖「但し、書き戻した時、あなたの意識と人格については、おそらく――――」

紅莉栖「消滅する」

まゆり(仮)「っ……!」


 だが、それは同時に、このつらい宣告をしなければならないことも意味していた。
122 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:58:16.28 ID:6XOGb91so

岡部「待て。今回は記憶の上書きではなく、タイムリープ同様、思い出し状態になるはずだ。それならば、今保持されている記憶が消える道理はないのではないか?」

紅莉栖「ええ、記憶に関してはそうかもね。でも、意識と人格については? どっちが優勢になるの?」

岡部「それは……っ」

紅莉栖「それは、岡部が一番知っている。未来から来た方の意識、つまり、上書きされる側ではなく、する側の意識が優先される、のよね」

紅莉栖「人格についてはわからないけど、たぶん意識同様、アマデウスの方が優先されることになると思う」

岡部「多重人格になる、という可能性は?」

紅莉栖「なるかもしれないけれど、なんの確証もない。そもそも岡部はまゆりに多重人格者になってほしいの?」

岡部「そうではない! そうではない、が……」

紅莉栖「それでも、あなたは記憶の書き戻しを望むのね?」

まゆり(仮)「わ、私は……」プルプル

岡部「お、おい! なにもそんなにおどさなくてもいいだろう!」

紅莉栖「私は、この子の本音を聞きたい」

まゆり(仮)「私、は……っ」プルプル
123 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 03:59:11.42 ID:6XOGb91so

まゆり(仮)「私はっ! それでも、この身体を、真の持ち主に返すべきだと、思います!」

岡部「まゆコ……」

紅莉栖「そう」

まゆり(仮)「確かに、確かに自分が居なくなるのは怖いです。でも、仮に先代が戻ってこないとして、私がこのままこの身体で生き続けるとしてっ!」

まゆり(仮)「そんなの、間違ってます。私は、嬉しくも楽しくもありません」

まゆり(仮)「だって私は、椎名まゆりじゃないから! 私は、私だから!」

まゆり(仮)「私は、まゆコだからっ!!」


 まさか、まゆコがそういうことを考えていたとは。俺たちの想像以上に、この小さな少女に宿った新たな命に、過酷な運命を与えてしまったのかもしれない。
 だが、俺は神じゃない。人間だ。人間を救えるのは人間だけだ。まゆコが一人の人間である以上、俺が救ってやらねばならない。


岡部「……本当に、いいのか?」

まゆり(仮)「……本当は、よくないです。他に方法があるなら、試してほしいです」

岡部「なぁ、紅莉栖……」

紅莉栖「"俺はあきらめたくない"、なんて、言わないで。この子は元々まゆりだったの。それが、今度は元に戻るだけなのよ」

岡部「わかっている、わかっているが……!」
124 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:00:27.10 ID:6XOGb91so

岡部「また俺は、誰かの想いを犠牲にしなくては、ならないのか……っ」プルプル


 そんなの、もうこりごりだ。俺はα世界線漂流の中で、いろんな人間のいろんな想いを踏みにじってきたのだ。
 まゆりのために。それは絶対に間違ってはいない。仕方がなかったといえばそれだけになる。
 だが、だからと言って簡単に諦めてしまっていいものではない。本当に、本当の意味で、なかったことにしてはいけないのだ。


紅莉栖「岡部……。なにも、そこまで思いつめなくても」

岡部「こいつだってまゆりだ! まゆりの一部なんだ! いや、たとえまゆりではないとしても、俺はこいつを、見殺しにすることはできないっ!」

まゆり(仮)「凶真さん……っ」グスッ

岡部「俺は混沌を望み、世界の支配構造を破壊する者っ! 鳳凰院凶真だ!」

まゆり(仮)「もういい、もういいんですっ。やめて、ください……っ」ダキッ

岡部「何を言っている! 俺は、お前のことだって諦めたくない! お前にだって、幸せになる権利はあるはずだ!」

まゆり(仮)「ありませんよっ!!!!」

岡部「っ……」


 少女の悲痛な大声にひるんでしまった。


まゆり(仮)「元々私は、椎名まゆりっていう女の子の肉体を乗っ取って生まれた、悪魔みたいな生き物なんですから……っ」

岡部「やめろ……」

まゆり(仮)「私には、誰かを愛する資格も、幸せになる権利も、毛頭ないのです……」

岡部「やめろぉ……っ」グッ

まゆり(仮)「だから、凶真さん? いいのです。私を消して、まゆりさんを蘇らせてあげてくださいっ」ニコ

岡部「やめて、くれぇっ……!」
125 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:03:33.74 ID:6XOGb91so

紅莉栖「あんたの諦めの悪さにはホント感心するわ。私も、そうやって助けてもらったんだもんね」

紅莉栖「私は岡部のそういうとこ、好きよ」

紅莉栖「……いや別に好きじゃないからな!?」アセッ

岡部「なぁ、紅莉栖……。なにか、なにか方法はないのか?」

紅莉栖「方法は一つある」

岡部「なに……っ!?」

まゆり(仮)「えっ……!?」


 な、なぜそれを言わなかった!? 俺を、まゆコを試したのか!?


岡部「その方法とはなんだ!?」

紅莉栖「まゆ子さんのアマデウス化よ。記憶を書き戻したあとのまゆりのアマデウスに、まゆ子としての記憶と意識を保存する」

紅莉栖「そうすれば既存のサーキットとモデルのまま、まゆ子さんのアマデウスが誕生する」

紅莉栖「ただ、これが人間と呼べるものなのか、疑問が残る。そういう意味では、解にはなっていないのかもしれない」

岡部「なんだよ、ハハ、あるじゃないか、方法……」

紅莉栖「あんたたちが私の話をちゃんと聞かないで勝手に盛り上がってたんでしょう? ハァ」

まゆり(仮)「私が、アマデウスに……?」
126 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:04:31.00 ID:6XOGb91so

紅莉栖「正直言って、人格を分裂させての記憶保存の行ったり来たりは倫理規定違反だと思うのだけど、今更よね」

紅莉栖「私の間違った正義感を、岡部の情熱が正してくれた。本当に、あんたにはいつだって驚かされてばかり」

岡部「フ……フフ。フゥーハハハ! 助手よ、いよいよマッドサイエンティストじみてきたではないかぁ!!」

紅莉栖「全然嬉しくない褒め言葉があったもんだな」

紅莉栖「これによって発生するいろいろな不利益に対して私は責任を持つ。真帆先輩にどやされるのも、甘んじて受け入れる」

岡部「いいや、すべては俺の独善だ。真の責任は俺が持とう」

まゆり(仮)「いいん……ですか……? 私、これからも、凶真さんとお話できるんですか!?」ヒシッ

紅莉栖「あ、あんたのために作ってあげるんじゃないんだからね! 岡部の熱意に感謝しなさい!」

まゆり(仮)「凶真さん……っ。ホントに、本当に、ありがとう、ございます……っ!!」グスッ

岡部「ああ。良かったな、まゆコ……」

まゆり(仮)「はいっ……!!」ポロポロ
127 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:05:38.79 ID:6XOGb91so

翌日 未来ガジェット研究所



ダル「えっと、ここがこうで……あ、違うか。えっと、そうなると……お、いけたいけた」カタカタカタ

紅莉栖「橋田? 特に問題はない?」

ダル「あー、うん。だけど、全部同時にってのはさすがに今回は無理だから、先にアマデウス化用データバックアップ、次に真まゆ氏の書き戻し、そんで最後にまゆ子氏アマデウス化って順番でヨロ」

岡部「む? そうなると、アマデウス化用にデータをバックアップした時点で、また新たな人格が生まれてしまうのではないか?」

紅莉栖「今度は"無"を上書きするわけじゃない。純粋なコピー&ペーストよ。つまり、まゆ子さんの意識は記憶データのバックアップ後も肉体に残り続ける」

岡部「ということは、まゆ子の意識は真まゆりの書き戻し後に消える、というわけか……」

紅莉栖「一応、私や真帆先輩――っていう研究所の先輩がいるんだけど――のアマデウス化の時は、肉体側に意識、今の私の主観が残り続けた」

紅莉栖「だけど、アマデウス側の方では、最初は自分がアマデウスになっていることに驚いているようだった」

紅莉栖「正直、意識がどうなるかはわからない。それだけは覚悟していてね」

まゆり(仮)「は、はい。わかりました」
128 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:06:25.12 ID:6XOGb91so

ダル「ほい、記憶コピペの準備はできたお。まゆ子氏、ヘッドセット」

まゆり(仮)「あ、はい。ありがとうございます、橋田さん」ペコリ

ダル「うおうこの違和感。だがそれがいいビクンビクン」

紅莉栖「じゃぁ、早速行くわよ」カタッ


バチバチバチッ


まゆり(仮)「っ……」

ダル「終わったお」

岡部「どうだ? 大丈夫か?」

まゆり(仮)「え、ええ。これで本当に、私の意識はサーバーへと行ってくれたのでしょうか……」

紅莉栖「コピーはね。残念ながら、オリジナルの貴女はどうしても消えなくてはならない」

岡部「怖いか?」

まゆり(仮)「い、いえ。むしろ、今この時は夢を見ているようなものだと思えばいいのです」

岡部「夢……?」

まゆり(仮)「夢を見ていて、夢から目覚めた時には、私は晴れてAIの仲間入り! というわけです!」

岡部「そうか……」


 明らかに虚勢を張っていることがわかる。怖いのだろう。俺には、絶対に安全だという保証がないため、なんと声をかけてやればいいのかわからない。
129 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:07:08.21 ID:6XOGb91so

紅莉栖「続いて真まゆりの書き戻しを行うわ」

ダル「オーキードーキー。まゆ子氏、ヘッドセットはそのままでいいお」

まゆり(仮)「は、はい……っ」

岡部「まゆり……」

まゆり(仮)「あ、あはは……。あれだけ大見栄を切ったのに、ちょっぴりだけ、怖いかも、です……」プルプル

岡部「大丈夫だ。絶対に、大丈夫」ダキッ


 こんな言葉しか出てこない自分に嫌気がさす。むしろ自分に言い聞かせるように、俺は優しくまゆコを抱きしめた。


まゆり(仮)「凶真、さん……っ」グスッ

紅莉栖「ちょ! ……んもう! 今回ばかりは許すけど!」

ダル「牧瀬氏、正妻の余裕である。そいじゃ、オカリン」

岡部「ああ。エンターキーは俺に任せろ」

まゆり(仮)「そっか……凶真さんが押してくれるなら、私は、幸せです……」ニコ


 俺が押さなければならない。このキーだけは、絶対に。
 まゆコを抱きしめたまま、俺は右腕をPCへと伸ばしていく。


岡部「……また会おう、まゆコ」

まゆり(仮)「凶真さん……っ」
130 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:07:53.58 ID:6XOGb91so





まゆり(仮)「ありがとう……!」




カタッ





131 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:08:38.37 ID:6XOGb91so

まゆり「…………」バタッ

岡部「まゆり? まゆりっ!?」


 少女の肉体が俺の腕の中で急に力が抜け、横になってしまったことに俺は狼狽した。


紅莉栖「大丈夫。一時的なショックで倒れているだけよ。橋田は引き続きまゆ子さんのアマデウス化準備を手伝って」

ダル「オーキードーキー。但し、あとで牧瀬氏のホットパンツローアングル写真を撮らせてほしい件」ハァハァ

紅莉栖「ど却下」

ダル「ぐぬぬ……」


 俺は倒れたまゆりを、いつかの時のようにお姫様抱っこしてソファーへと運んだ。


まゆり「…………」

岡部「まゆり? 大丈夫か? まゆり、なんだよな?」

まゆり「……っ」パチクリ

岡部「まゆり!? 目覚めたのか!?」
132 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:09:38.49 ID:6XOGb91so







まゆり「……あなたは誰ですか?」







133 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:10:49.76 ID:6XOGb91so

第六章 表裏一体のイッシュ



岡部「え……」

まゆり「なんちゃってー。ただいま、オカリン」ニコ

岡部「お、おどかすな。心臓に悪い」


 ふー、びっくりした。ドッキリは時と場所を選び、事前に通告してから行ってほしい。


まゆり「オカリンがほっぺにチューしてくれるまで目をつぶってようかなーって思ってたんだけどねー? えっへへー」テレッ

岡部「どうした? 急にいたずらっ子にジョブチェンしたのか?」

紅莉栖「まゆり、あなた、もしかして――」

紅莉栖「記憶を失ったあとの記憶も思い出している?」

岡部「な、なにっ? そうなのか?」


 つまり、まゆコの記憶をも持っている、ということか!?


紅莉栖「まぁ、それは想定の範囲内なんだけど。記憶が混濁したりはしてない?」

まゆり「……うん。まゆ子ちゃんの思い出も、心の中にあった気持ちも、全部ね、思い出せるんだー」

まゆり「あのね、オカリン。まゆ子ちゃんも、オカリンのこと、大好きだったみたい」ニコ

岡部「……そうか」


 俺は、切なく微笑むことしかできなかった。
134 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:12:40.56 ID:6XOGb91so

2日後 未来ガジェット研究所



 その後、まゆりに悪夢が起こることはなかった。
 紅莉栖が言うには、一度アマデウス化したことによって人間の脳が持っていた有機的な機能に障害が発生したのではないか、とのことだったが、実のところはよくわからない。
 俺は、まるで性格が反対だったあのまゆコが、まゆりのリーディングシュタイナーの能力を消してくれたのではないかと勝手に思っている。いや、自分でもメルヘンが過ぎるとは思うのだが。
 とにかく、よかった。きっとすべてが解決したのだ。


岡部「もうまゆりは大丈夫そうだな」

まゆり「うんっ♪ ぐっすり眠れて、元気ひゃくばいマンだよー!」

紅莉栖「久しぶりにまゆりの屈託のない笑顔を見た気がする。ここまで漕ぎつけられて本当に良かったわ」

紅莉栖「でも、一応まだ気が抜けない。私の仮説は間違っていたかもしれない」

岡部「きっと正しかったさ。お前の理論はいつも完璧だった。お前は天才だよ、紅莉栖」

紅莉栖「ちょっ!? きゅ、急に恥ずかしいこと言うの、禁止!」


 何が恥ずかしかったのか、テンパった紅莉栖はドクペをゴクゴクと飲み始めた。照れ隠しのつもりか?


まゆり「ねぇねぇ、オカリン。クリスちゃん」

岡部「ん? なんだ?」

まゆり「あのね、また3人でお泊り会したいなーって♪」

岡部「っ!」

紅莉栖「ぶふぇっ!!! げほっ、げほっ」

ダル「うわあ! 僕のパソコンたんがぁ!? 牧瀬氏、許さない絶対ニダ」


 ドクペを飲んでいる最中だった紅莉栖は盛大に噴き出した。


岡部「ドクペ・エクスプロージョニスト(爆発論者)・クリスよ、掃除ぐらいは手伝ってやろう。鳳凰院凶真の寛大な心に感謝するがいい」

紅莉栖「鬱だorz」
135 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:13:26.88 ID:6XOGb91so

まゆり「ねぇねぇ。いいでしょ? お泊り会!」

岡部「俺は別に構わないが」

紅莉栖「私も、あっちじゃない方のまゆりとなら全然問題ないわ」

ダル「男一人と女二人が一晩を過ごし、何も起きないはずがなく……」ハァハァ

紅莉栖「お前はたとえどんな大金を積もうと参加は絶対にダメだからな」

ダル「うはっ。ダメと言われるほど心の奥底に輝く男の魂は燃えてくるのだぜぃ!」

紅莉栖「鎮火しろ」

まゆり「やったぁ♪ それじゃぁ早速今日の夜やろうよー! クリスちゃん、もうアメリカに帰っちゃうんでしょ?」

紅莉栖「一応、明後日の便で帰る予定よ」

岡部「またしばらくこっちには戻ってこれないのか?」

紅莉栖「なんだ岡部、私が居なくて寂しいのか?」ニヤニヤ

岡部「……少し、寂しくなるな」

紅莉栖「っ、調子狂うな……」テレッ

まゆり「今日はお泊り会だけど、明日の日曜日空いてるなら、みんなでプールに行かない?」

紅莉栖「プ、プール!?」


 まゆりがまたぞろ斜め上の提案をし始めた。
136 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:14:20.99 ID:6XOGb91so

まゆり「昨日ね、身に覚えのない女性用水着がまゆしぃの部屋にあるのを見つけたのです」


 ああ、あれか。まゆコが買ってそのままにしておいたのだろう。


まゆり「これはきっと、神様がみんなでプールで遊んで来い、って言ってるんだよー」

まゆり「ちょっと派手な水着だったから、少し恥ずかしいけどね、神様の言うことは絶対! なのです!」


 まゆりの中でまゆコは神様ということになっているらしい。


まゆり「フェリスちゃんにルカくんも誘って、ね? 行こうよー!」

ダル「先生! フェイリスたんの水着姿が見たいです!」

紅莉栖「男どもがHENTAIしないなら行ってあげてもいいわ。今の時期でも営業してる屋内プールを探さないと」

岡部「まったく、しょうのないラボメンたちだな。仕方ない、たまには研究の息抜きをするとするか」フッ

まゆり「わーい、やったぁ♪ ありがとー、みんなー!」


 まゆコと二人でプールへ行ったことは一応言わないでおく。別に隠しておくような後ろめたいことは何もないが、紅莉栖にバレたらなんかめんどくさそうだからな。
137 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:15:02.81 ID:6XOGb91so

ppp

紅莉栖「ん? 先輩からメール……。岡部、橋田、まゆり!」

岡部「どうした? 急に声をでかくして」

紅莉栖「どうやら完成したみたいよ。今回は記憶を移管するだけだったからすぐに仕上がったわね。先輩にあとでこってりしぼられそうだけど」

岡部「完成したって……まさか!?」

紅莉栖「ケータイはスマホに乗り換えてある?」

岡部「あ、ああ。世話になったガラケーを手放すのは忍びなかったが、助手に言われて手配しておいた」

紅莉栖「今からRINEで送るURLにこのパスを打ち込んでみなさい。アプリがダウンロードされるから、そしたらこのIDとパスを入力して」

岡部「……すると、やつがこの世に顕現するのだな?」


 もう一人のラボメンナンバー002、まゆりコンピューティングシステム、略してまゆコが。
138 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:15:42.26 ID:6XOGb91so

岡部「……。あとはアプリのインストール完了を待つだけだ」

岡部「前から一つ疑問に思っていたのだが、まゆコのあの人格はどこから来たんだ? ゼロから生まれたのか?」

紅莉栖「……脳科学専攻の私が言うのもなんだけど、よくわからない」

紅莉栖「もしかしたらゼロから生まれたのかもしれないし、まゆりの中にそういう人格が隠されていたのかもしれない。今後の研究テーマね」

まゆり「まゆ子ちゃんはね、まゆしぃと違って、オカリンの難しいお話を全部理解できるくらい頭の良い子だったから、まゆしぃの中には居なかったと思うよ?」

ダル「そうそう。その件で思い出したんだけどさ、エンスーのナイトハルト氏っているじゃん?」

岡部「知らん」

ダル「その垢がツイぽでちょっと気になるつぶやきをしてたんだよね。見てみ」

岡部「気になるつぶやき……?」


 俺は急にダルに呼ばれ、PCの画面の中を覗き込んだ。紅莉栖とまゆりも後ろからちょこんと覗き込んできた。
139 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:16:43.60 ID:6XOGb91so

NEIDHARDT:疾風迅雷のナイトハルト
いいか、おまいら。よく聞け。妄想で人間を創り出すことは可能。これガチ。冗談とか創作とかじゃなくて、マジでリアルの話な

NEIDHARDT:疾風迅雷のナイトハルト
自分の望んだ人格を人に与えることが可能なんだよ!!つまりどういうことかっていうと、従順でいたいけで兄想いなんだけどちょっとエッチな妹キャラ作り放題キャッホウ!!ってこと

NEIDHARDT:疾風迅雷のナイトハルト
もちろん最強クラスの能力持ち(※ただしイケメンに限る)なわけだがwwwwww
まぁ、おまいらみたいな真性童貞野郎には永遠に無理な話ですけどねwwwwwwwww

DaSH:DaSH(ダル・ザ・スーパーハッカー)
@NEIDHARDT それマジ?ソースは?

NEIDHARDT:疾風迅雷のナイトハルト
@DaSH ソースは俺でつwwwwwwwwwww


 ナイトハルトという名前、たしかどこかで……。IBN5100に関係していたような……?


ダル「オカリン、これ、どう思う?」

岡部「フン、くだらん。こんなくだらない妄想は、小学生の時に書いた黒歴史作文の裏にでも書いておくんだな!」

ダル「そうなん? 専門外の僕からしたら、ナイトハルト氏の言うことって、妙な説得力があるんよなぁ」

紅莉栖「正直、読むのも馬鹿らしい。岡部の妄想でまゆ子さんが生まれたってのなら、岡部は人間を作り出すことができる神にも等しい存在ってことになるじゃない」

ダル「それはないわー。むしろ世界が滅ぶレベル」

まゆり「ってことは、まゆ子ちゃんはまゆしぃとオカリンの子どもだねぇ。え、えっへへー……」テレッ


 自分で言って照れるでない。
 結局のところ、まゆコが何者だったのかはわからず終いだ。
140 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:18:50.17 ID:6XOGb91so

 そんなくだらない議論をしている間にインストールが完了したので、俺は恐る恐る右の親指をアイコンへとタップする。そして出てきたパス画面に紅莉栖の言う通り入力を済ませると……。


まゆコ『凶真さんっ! ご無事でなによりです!』ビシィ

岡部「……うむ。達者でやっているようだな」

まゆコ『はいっ! えっへへー!』


 まゆりとも違うこの特徴的な笑い声を久しぶりに聞いて、安堵のため息が出た。


まゆり「あれれ〜? 今、まゆしぃの声がオカリンのスマホから聞こえたよ〜?」

ダル「おお、3Dまゆ氏がオカリンのスマホの中にインスコされてる件。エロすぐるだろjk!」

岡部「お前ら落ち着け。これは椎名まゆりであって椎名まゆりではない。ラボメンナンバー002を共有する鏡面存在、まゆコである!」

岡部「その本質は鳳凰院凶真の狂信者であり、お使いから暗殺までなんでもこなす。現在はその身を電脳空間へと移し、日々世界のハッカーたちと戦っているのだ」

まゆコ『ラボのためならなんでもやりますよ!』


 そこには電脳化の直前の、恐怖で怯えていた顔はなかった。まゆコは消滅を免れ、こうして今も思考をして、声を発している。これでよかったのだと思う。俺の独善につき合わせたラボメン達、特に紅莉栖には感謝してもしきれない。
141 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:19:51.69 ID:6XOGb91so

まゆり「そっか〜。まゆ子ちゃんは、まゆしぃと入れ替わりになっちゃったんだね」

ダル「ねぇねぇ、まゆ氏にまゆ子氏。電脳空間ってどんなところなん? ぼ、僕もアマデウス化したら、二次元のおにゃのこたちとハァハァしたりできるん?」

まゆコ『んー、紅莉栖さんと私、あと真帆さんのアバターで良ければ、可能ではあります』

紅莉栖「そもそもそんなくだらん目的のためにアマデウスは使わせないがな」

ダル「くだらなくねーよ!! 全男どもの夢だろぉ!? 画面の中のおにゃのこの胸に飛び込むのはよぉ!?」


 ダルがなにやら雄叫びを上げているが無視した。


まゆり「まゆしぃはラボメンの女の子がまた増えて嬉しいよ〜♪ ねぇオカリン。まゆ子ちゃんをルカくんとフェリスちゃんと萌郁さんに紹介しにいこうよ〜!」


 なんだか久しぶりに萌郁の名前をまゆりの口から聞いた気がする。


岡部「まゆり? もう萌郁に会っても大丈夫なのか……?」

まゆり「だってあれは夢でしょ? 夢ってね、結構すぐ忘れちゃうのです。えっへへー♪」


 おそらく強がりではない。本当に、まゆりはリーディングシュタイナーの悪夢を克服したのだ。
142 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:21:19.93 ID:6XOGb91so

 まゆりの提案を受け入れ、俺とまゆりはまゆコを引き連れラボメン達への挨拶回りへと出かけた。挨拶は大事だ、古事記にもそう書かれている。


萌郁「まゆコ……さん?」

まゆコ『暇なときはいつでもメールください! すぐ返信できますので!』



フェイリス「マユシィの新しいアバターとなってしまったのニャ!?」

まゆコ『リアルワールドとの互換性もあります。まゆりさんにもしもの時は、全力でバックアップします!』



ルカ「えっ? この前までのまゆりちゃんは、岡部さんのスマホの中に入っちゃったんですか?」

まゆコ『岡部じゃなくて凶真さんですー!』


 一通り歩き回って、まゆりと二人で公園のベンチでくたびれた足を休めることにした。


まゆコ『そういえば、ラボメンって私を除いて8人いるはずなのに、ナンバー008の人は居ませんよね? まさか、別の世界で巨悪と戦っているとか!?』

岡部「まぁ、そういう見方もできるが、この世界線においては六年後に生まれてくるのだ」

まゆコ『ろ、六年後……。つまり、凶真さんが未来を見通した結果だったのですね!』

岡部「フッ。この俺にかかれば、現在(いま)を否定し、過去を変え、未来を掴むことなど朝飯前……」

まゆり「そうなんだー! オカリン、すごいねー!」
まゆコ『そうなんですね! 凶真さん、すごいです!』


 まゆりの声がハモった。
143 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:21:53.78 ID:6XOGb91so

紅莉栖「ここに居たか。まゆ子さんの紹介は終わった?」

岡部「ああ。皆、新しいラボメンとして快く受け入れてくれた」

まゆり「あっ! まゆ子ちゃんもラボメンなら、明日のプールに連れていってあげようよー!」

岡部「ん? まぁ、それは俺がスマホを持っていけばいいだけだから簡単だが……」

まゆコ『プール? それって、この間私が凶真さんとデートした、あのプールですか?』

紅莉栖「へっ?」

まゆり「えっ?」


 あっ。
144 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:22:54.08 ID:6XOGb91so

紅莉栖「どういうことなんだ岡部ぇ? つまり、私が一生懸命あれこれしてた時に、鳳凰院様は女子高生とデートに興じていらっしゃったんですかぁ?」ビキビキ

まゆり「ってことは、あの水着、まゆ子ちゃんのなんだ……。まゆしぃが着ても、オカリン喜んでくれる、かな……」

岡部「ちょ、ちょっとストップ!? 怒るのと落ち込むのをどちらか片方にしてくれ!? さすがの鳳凰院でも対応できないっ!」

紅莉栖「説明しろ! 岡部!」

まゆり「オーカーリーン……」

岡部「だぁっ!? ひとまず戦略的撤退だっ!!」ダッ


 俺は全力でその場を後にした。とにかく、いったん落ち着いてから説明をしよう。まゆりはわかってくれるだろうが、紅莉栖はどうだろうな……。
 サンボの角を曲がったあたりで息をつくと、新ラボメンが加入したことで忙しい未来が待っているだろうことに思いをはせた。
 ……まぁ、我ら未来ガジェット研究所ならば、どんな世界の陰謀が魔の手を伸ばそうとも、きっと返り討ちにするだろう。そう信じている。
145 : ◆/CNkusgt9A [saga]:2018/11/21(水) 04:25:01.13 ID:6XOGb91so

 俺はおもむろにスマホを取り出すと、いつものように耳元へと持っていった。


岡部「……俺だ」

まゆコ『状況を』



 いつものように、と言ったが、いつもと違うことがひとつある。



岡部「あぁ、機関のやつら、相当に焦っているらしい。ついに遠距離錯乱電波照射装置を使い始め、すでに仲間が2人ほどやられてしまった」

まゆコ『何っ!? あれは人類にとって諸刃の剣のはずです!』



 それは、機関に関する定時報告が、ケータイを使った独り言ではなくなった、ということ。



岡部「そう焦るな。この俺、鳳凰院凶真が再びよみがえり、世界を混沌へと導けばよいだけの話なのだろう?」

まゆコ『フフッ。さすが、鳳凰の名は伊達ではありませんね』



 そしてそれは、今後の俺の報告に対して、ちゃんとした返事が俺の耳に届く、ということでもある。



岡部「貴様の能力を借りるまでもない。安心してそこで見ているがいいさ」

まゆコ『お手並み拝見といきましょう。それでは、例の合言葉を』




 ――――まゆコが、鳳凰院凶真の半身となった。




岡部「エル・プサイ・コングルゥ!」
まゆコ『エル・プサイ・コングルゥ!』








おわり

146 : ◆/CNkusgt9A [sage]:2018/11/21(水) 04:26:36.93 ID:6XOGb91so
これで終わりです。読んでいただきありがとうございました。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/22(木) 02:08:17.04 ID:PCBR7rFCO
乙・プサイ・コングルゥ
終わり方が綺麗でスッキリした
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/23(金) 00:37:49.88 ID:0YKrMluSO
素晴らしかった、カオヘ知ってるとにやりと出来るのもいい
ギガロマが妄想から人間を造ると反動で一年寝たきりになるんだが、このSSの場合は人格だけだから本当に微妙なところだよな
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/02(日) 10:36:33.08 ID:wDv8Z0hLO
面白かった
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