【デレマス(デレステ)】黒埼ちとせ「私の望みは――」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 00:10:55.14 ID:iNeaJ/HC0
ちとせ「あなたの望みは、なぁに?」

ちとせ「あなた、私が欲しいんでしょ?」

ちとせ「アイドル? ……あはっ、楽しそう」

ちとせ「いいけど、いくつか条件を守ってね。できる?」

ちとせ「ひとつは、私を退屈させないこと」

ちとせ「ふたつめ。私に嘘をつかないこーと」

ちとせ「みっつめは……なーに、その顔。もう待てないの?」

ちとせ「じゃあ、契約しよっか」

ちとせ「もう、後戻りはできないよ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1558883455
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 00:15:28.20 ID:iNeaJ/HC0
以前書いた
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1554736389/
(これはSS速報Rなので注意)と世界観を共有していますが、続編というわけではないので、特に読まなくても支障ありません。時々、上記リンクの作品におけるセリフとリンクすることがあります。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 00:17:47.49 ID:iNeaJ/HC0
あ、ここに出てくるPはhttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1554736389/のPとは異なる人物です。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 00:26:44.32 ID:iNeaJ/HC0
モバP(以下、「P表記」)「ちとせの人気も徐々に上がってきているな、よし」

ちとせ「徐々に、なの? 私としては、急激に人気が上昇したほうが楽しいかな♪」

P「何を言ってるんだ。新人にしてはこの人気の伸びはすごいほうだぞ。あまり高望みをするもんじゃない」

ちとせ「ふうん。ま、いいけど」

P「なんだ、退屈か?」

ちとせ「まさか。あなたのおかげで毎日が楽しいわよ」

ちとせ「もちろん、私の人気があなたの仕事のおかげだってことも――ね」

ちとせ「ねえ、もっと私を楽しませてくれる?」

P「ふっ、望むところだ。お前も、バテるんじゃないぞ」

ちとせ「それはどうかなー、ほら、私、体弱いし」

P「……そうだったな。無理は、するな」

ちとせ「もうっ、真剣な顔しちゃって。ちょっとからかっただけだってば。私は大丈夫だよ」

ちとせ「あなた、ちょっと可愛いところあるけど、やっぱり堅物がすぎるんじゃない?」

ちとせ「それも、お勉強のしすぎのせいかなー?」ナデナデ

P「くっ、やめろって。大人をからかうんじゃない」バッ

ちとせ「もう、いけず」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 00:36:22.39 ID:iNeaJ/HC0
P「だいたい30代半ばのおっさんが女子高生に撫でられてる画って、いろいろとだめだろ……」

ちとせ「そう? 私はキュートでファニーだと思うな」

P「俺がキュートでファニーになってどうする」

ちとせ「んー、私が喜ぶ?」

P「その需要は求めてない」

ちとせ「つまんないの」

P「つまんなくていい」

ちとせ「私が退屈しちゃってもいいの? 約束、忘れた?」

P「……忘れてなんかない」

P「退屈させない、嘘をつかない、そして――」

P「――あれ、3つ目って……」

ちとせ「はーい、ストップ。真面目にならない。別にあなたが約束を破るだなんて思ってないから」

ガチャ

千夜「お嬢様。ただいま戻りました」

ちとせ「あっ、私の可愛い僕ちゃんのおでまし」

ちとせ「おかえり、千夜ちゃん」

千夜「はい、お嬢様」

P「ちょうど良かった。千夜、ちとせを連れて帰ってくれ」

千夜「お前に言われなくてもそうするつもりです。さ、お嬢様」

ちとせ「えー、つまんないのー、私はもっとお話したかったのになー」

P「千夜が相手になってくれるだろう。俺には仕事が残っている。それじゃあな」

ちとせ「冷たいのね」

P「なんとでも言え」

千夜「お嬢様、こんなの放っておいてさっさと帰りましょう」

ちとせ「仕方ないなー、今日のところはあなたの言うことを聞いておいてあげる」

ちとせ「それじゃあねー」

バタン

P「……」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 00:44:10.85 ID:iNeaJ/HC0
ちとせの家


千夜「お嬢様。一つお伺いしたいことが」

ちとせ「なぁに? 千夜ちゃん」

千夜「お嬢様はなぜ――あの男、プロデューサーにあそこまでかかわろうとするのですか」

千夜「いつもお嬢様のことを煙たがっているように見えますし、あの男が仕事において有能なのは知っていますが、お嬢様のほうから絡もうとするのが私にはわかりません」

ちとせ「うーん、なんで、か」

ちとせ「やっぱ、可愛いから、かな♪」

千夜「か、可愛い……? あの男が、ですか?」

千夜「あまりお嬢様に楯突くような意見は述べたくありませんが、それはいかがなものかと……」

ちとせ「千夜ちゃんはあの人につんけんしすぎなのよ。私みたいに優しく、時に意地悪に接してあげれば、きっと可愛い一面を見せてくれるわ」

千夜「優しく、時に意地悪に……」

千夜「……」

千夜「……遠慮しておきます」

ちとせ「なんだ、つまんない」

千夜「つまらない僕で申し訳ありません、お嬢様」

ちとせ「って、謝らないの。本気で言ったわけじゃないわよ。そりゃあ、あの人にデレる千夜ちゃんが見れたらすっごく楽しいかもだけど!」

千夜「デレっ……って、やめてください。想像したくありません」
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 00:46:04.54 ID:iNeaJ/HC0
千夜のちとせに対する呼び方が「お嬢様」ではなく「お嬢さま」らしいので、後者でいきます。
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 00:57:37.81 ID:iNeaJ/HC0
ちとせ「ねえ、千夜ちゃん。ワイン開けてくれる? 例のやつ」

千夜「はい。お嬢さま」

コトッ

キュ……ポンッ

トトトトト

千夜「どうぞ」

ちとせ「ありがと」

ちとせ「……うん、良い香り」スンスン

ちとせ「それじゃあ、一口」

ちとせ「……っ」

ちとせ「ふふっ、おいしい」

ちとせ「こんなもの飲んでるってあの人に知られたら、怒られちゃうかも♪ なんて」

千夜「……」

ちとせ「どうしたの? 千夜ちゃん。変な顔してるよ?」

千夜「いえ……お嬢さまはあの男の話ばかりするな、と」

千夜「っ! あ、その、別にそれが駄目だというわけではなくて――なんていうか、その……申し訳ありません。出すぎたことを」

ちとせ「別に気にしなくていいよ、千夜ちゃん」

ちとせ「なんで私があの人の話ばかりするのか、ね」

ちとせ「うーん……」

ちとせ「千夜ちゃんは、さ」

ちとせ「男の人に対して、何か特別な感情を抱いたってことは……ないの?」

千夜「ありません。私は物言う人形。お嬢さまに仕え、お嬢さまの役に立つ以外の価値はありません」

千夜「ゆえに、恋愛の必要も感じません」

ちとせ「まーだそんなこと言ってるんだ。私、千夜ちゃんのそういう考え、嫌いだよ」

千夜「き、嫌い……」

ちとせ「あらやだ、嫌いって言われて落ち込む千夜ちゃん可愛い……」

千夜「い、いえ……お気になさらずに、どうぞ」

ちとせ「千夜ちゃんは価値のない人形なんかじゃないよ。私の存在を抜きにしても、ね」

ちとせ「私は、千夜ちゃんに人間として人生を楽しんでほしいけどな」

千夜「その言葉だけで十分嬉しく思います。ですが、私は、お嬢さまにお仕えして、役に立てるだけで、幸せですから」

ちとせ「……そう」
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 01:07:14.34 ID:iNeaJ/HC0
同じ頃、事務所のPの部屋


P「ふう……書類が多かったな、今日は」

コンコンコン

P「どうぞ」

ちひろ「失礼します。プロデューサーさん、お疲れ様です」

P「お疲れ様、千川さん」

ちひろ「夜遅くまでご苦労様です。プロデューサーさんのおかげで、ちとせちゃんも千夜ちゃんも人気が伸びているそうですね」

P「ああ、おかげさまでね。まあ、千夜に関して言えば、もう少し自分というものを持って欲しいと言うか……このままだと人気が伸び悩みそうなんだよな」

ちひろ「千夜ちゃん自身、ちとせちゃんが人気になればいいと思っていますからね。あの子が変わるのはなかなか難しいかも」

P「どうすればいいんだろうな……」

ちひろ「……はい、お仕事の話終了! もう11時です、深夜ですよ、深夜。休みましょう」

P「はは、そうだな」

ちひろ「実は私、こんなものを持ってきたんです」ガサゴソ

ちひろ「じゃーん、山田錦の大吟醸です」

P「なんでそんなもの持ってるんだ……」

ちひろ「楓ちゃんがお土産にってくれたんです。最近、彼女と飲みに行ったりしてるんですよ?」

P「な、なるほどな」

ちひろ「というわけでプロデューサーさん、今夜は飲みましょう!」

P「って、ここでか? 俺の部屋とはいえ、事務所の部屋を酒臭くするのはな……」

ちひろ「細かいことを気にしちゃだめですって、プロデューサーさん。それに、もうあなたは偉い人なんですから、文句の一つでも言われたらねじ伏せてやればいいんですって」

P「ちひろも言うようになったなぁ――って、すまん、千川さん」

ちひろ「わざわざ言い直さなくてもいいですよ――」

ちひろ「――Pさん」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 01:08:04.01 ID:iNeaJ/HC0
とりあえずここまで。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 02:21:32.32 ID:oFV8PVjDO
あー、そーゆー仲ね
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/27(月) 10:37:31.83 ID:AlTUWQtK0
浮気女だっけ
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 23:11:36.21 ID:iNeaJ/HC0
事務所


P「ちとせ、仕事とってきたぞ。土曜昼のバラエティのゲストだ」

ちとせ「あら、楽しそう。おしゃべりしてるだけでいいの?」

P「そうだが、そうじゃない、というべきか。確かに、基本的には会話してるだけだが、その内容はただ自分だけが楽しめばいいってものじゃいけない」

P「自分が楽しいのはもちろんのこと、それを聞いた人たち、見た人たちをも楽しくさせる、そんな内容でなくちゃいけない」

P「プロとして当然のことだ」

ちとせ「もう、わかってるって、それくらい。ただ好き勝手やるだけがアイドルってわけじゃないもんね」

P「そうだ」

ちとせ「ねえ、私にはもうちょっと優雅な仕事もあって良いと思わない?」

P「偉そうなこと言うなよ」

ちとせ「偉そうじゃなくて偉いの」

P「はいはい」

ちとせ「あぁん、冷たい。私、メンタルやられて死んじゃうかも」

P「119番はいつでも呼べる。安心しろ」

ちとせ「……そういうことじゃ、ないんだけどな」

P「あ、そうだ。この仕事は――」

コンコンコン

P「――っと、どうぞ」

「失礼します」

ガチャ

千夜「何の用でしょうか……って、お嬢さま……」

ちとせ「はぁい♪ ちーよちゃんっ」

千夜「お嬢さまは本当にここがお好きなのですね」

ちとせ「うんっ、好きだよ」

千夜「まあ、いいですが」

千夜「それで、お前、私に何の用ですか」

P「仕事だよ。ちとせと一緒のな」

千夜「!」

ちとせ「あら、もしかして」

P「そう。このバラエティのゲスト、VelvetRoseの2人として呼ばれてるんだ」

P「まあ、基本的にはちとせがしゃべってくれるだろうが、これはVelvetRoseの宣伝にもなる大きなチャンスだ。ふたりとも、お互いのサポートを頑張ってくれ」

千夜「お嬢さまのためならば、命を賭しても」

ちとせ「それじゃあ、私は千夜ちゃんの可愛さを世間に知らしめてあげよーっと」

千夜「お、お嬢さま……お戯れが過ぎますよ」

P「いや、それでいい。千夜の知名度も上がってきた頃だ。ちとせ、頼んだぞ」

ちとせ「はーい」

千夜「お前……覚えているがいい」

P「ああ、忘れないともさ」

千夜「……」

ちとせ「はいっ、険悪ムード終了! ふたりとももっと仲良くしなきゃだめだよ?」

千夜「お言葉ですが、私はこの男と相容れる気がしません。仲良くなろうと努力することに意味はないかと」

P「俺はビジネスとしてお前らの価値を引き出し売り込むことが仕事だ。それ以上のことは求めてない」
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 23:20:32.79 ID:iNeaJ/HC0
ちとせ「はぁ……まったくこの堅物ふたりには手が焼けるわね」

P・千夜「一緒にするな」

千夜「……チッ」

P「……」

ちとせ「……ばっかみたい。ふふっ♪」

P「ん、時間か。悪いがふたりとも席をはずしてくれ。miroirのプロデューサーと話がある」

ちとせ「miroirって……あの双子の姉妹のユニット? あの子たち可愛いよね、食べちゃいたいくらい♪」

P「吸血鬼として、か?」

ちとせ「……なーんだ、冗談も言えるのね」

P「……早く行け」

コンコンコン

P「どうぞ」

ガチャ

miroirP「失礼します。今度の自分がプロデュースしてるユニットの仕事について相談がありまして」

P「ああ、いま資料を用意するよ」

P「さあ、悪いが、また今度な」

ちとせ「“また今度”、か。嬉しいこと言ってくれるね」

千夜「お嬢さま、行きましょう。ここに居る理由はありません」グイグイ

ちとせ「ひっぱらないでー……じゃあ、またね、あなた」

ガチャン

miroirP「仲良いんですね」

P「そうか? それに、アイドルとの仲が良いのはお前のほうじゃないのか」

miroirP「さあ、何のことだか」

P「……そうだな。さ、仕事の話だ――」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 23:21:17.58 ID:iNeaJ/HC0
>>14 訂正

P・千夜「一緒にするな」 →P・千夜「一緒にするな(しないでください)」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 23:28:32.72 ID:iNeaJ/HC0
千夜「今日はレッスンもありませんが、この後はどうされますか?」

ちとせ「うーん、特にしたいことないなぁ。あの人は、なんだか今日はいつもに増して仕事モードな感じだし」

千夜「あの男はいつもあんな感じでしょう」

ちとせ「わかってないなぁ、千夜ちゃんは。あの人はね、ああ見えて日によってキャラが違うのよ」

ちとせ「それで、これは私の推理だけど、恐らくあの人の本来の姿はもっと遊び心のある感じだと思うの」

ちとせ「ほら、時々冗談も言ってくれるでしょう? なんだかんだ、人と接するのが好きな人なんだなって思うな」

千夜「お嬢さまのお考えには時々驚かされますが……こればかりは全く理解できません」

ちとせ「それは、千夜ちゃんがあの人に近づこうとしないからでしょ」

千夜「別に、そうしたいとも思いませんから」

ちとせ「ふぅん、まあ、いいけど」

ちとせ「あ、これからどうするか、だったっけ」

ちとせ「ちょっと寄りたいところあるんだけど、いい?」
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/27(月) 23:36:37.00 ID:iNeaJ/HC0
都内某所、CDショップ兼楽器屋


ちとせ「うーん、どこかな」

千夜「何かお探しですか?」

ちとせ「うん、ちょっと前の歌のCD」

ちとせ「すっごく有名ってわけじゃないから、ふつうのお店にはないかなーと思って、ここに来てみたの」

千夜「どんな歌なのか教えてくれれば、私も一緒に探せるのですが」

ちとせ「まあ、それはそうなんだけどね。なんていうか自分の力だけで探してみたいって気分なの♪ 宝探しみたいな感じ」

千夜「はぁ……そうですか」

千夜「……それは、どのような曲なのですか」

ちとせ「この前ね、あの人の部屋にあったCDを適当にプレイヤーに入れてかけてたの」

ちとせ「そしたらね、決して派手ではないんだけど綺麗な声で、すっごく心に沁みるメロディの歌が流れてきたの」

ちとせ「いままで聞いたことがなかった歌だったから、あの人に聞いたの。なんて曲? って」

ちとせ「そしたら、歌手名と曲名を教えてくれて。なんか、ちょっと昔にうちの事務所にいたアイドルの歌なんだって」

ちとせ「……ここ、かなぁ」

ちとせ「! あった! あったよ! 千夜ちゃん」

千夜「良かったですね、お嬢さま」

ちとせ「うんっ! さっそく買っちゃおっと」

千夜「ふふっ」
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/28(火) 00:00:59.03 ID:1yh4+5ql0
1ヵ月後、ロケに向かう道中、社用車車内


千夜「……お前」

P「なんだ?」

千夜「なぜ、私一人で町歩きの番組に出る仕事なんてとってきたんです」

P「それが良い仕事だと思ったからだ」

千夜「お前の目は節穴ですか? 私のような価値のないつまらない人間が、町を歩いて食に対する思いを述べるなど、なんの得にもならないと思うのですが」

P「そう思うんだったら、目が節穴なのはお前のほうさ。まあ、自分のことを一番よくわかってないのは自分だという話だな」

千夜「どういうことですか」

P「確かに千夜は無感情な部分がある。だがな、リアクションというのが要求されるこの世界において、それを出さない出演者というのは目立つんだよ。だから注目される」

P「それに、お前は食レポに向いている。おそらく、いままで黒埼の家で良いものを口にしてきたからだろう。グルメ番組でお前ほど冷静に分析して語るヤツはいないさ。社交性もあるしな」

千夜「……そういう、ものでしょうか」

P「そういうものだ」

P「それにな、お前がつまらない人間だったらそもそも仕事なんてもらえないんだよ。そりゃあ、無価値でつまらない人間を番組に出してくれって言ったって門前払いだろうが、対偶で考えれば、番組に出してもらえるんだからお前は価値があるかつまらなくないのいずれかってことさ。まあ、アイドルとして悪くない、ってことだよ」

千夜「……」

千夜「……お前」

P「なんだ」

千夜「お前は、私のことをどう思っていますか」

P「は? どういうことだよ、それ」

千夜「あっ、いや、変な意味じゃなく! か、勘違いしてもらっては困る!」

P「勘違いも何も、お前が一人で勝手に盛り上がってるだけだろう」

千夜「〜〜〜〜!」

千夜「っ……その、最近、考えることがある」

千夜「私という人間は、何のために生きているのだろうかと」

千夜「もちろん、お嬢さまに忠誠を誓っている。お嬢さまにこの身を捧げることが私の生きる意味だと思っている」

千夜「それには、何の疑いもない……でも」

千夜「お嬢さまという存在なしで、私という人間を語ることが、果たして出来るのだろうか、と」

千夜「このアイドルという仕事……お嬢さまのついでではじめたのがきっかけですが、VelvetRoseとして出演する仕事じゃない限りは私とお嬢さまは離れ離れ……」

千夜「私自身、ここまでお嬢さまと一緒じゃない時間を過ごすのははじめてなのです」

P「そういえば、ちとせが遠方のロケで1週間泊まりだったこともあったな」

千夜「あのときは気が気でなかった……お嬢さまの家で帰りを待つあの感じは、なんというか、違和感の塊でした」

P「お前もなかなか受け入れてくれなかったからな。ちとせの体調が安定していないのは俺にだってわかっている。あの時はどれだけ万全の体制でスタッフを送り込んでるかまで丁寧に説明してようやくお前を説得できたからな」

千夜「当たり前です。信用に足る環境でなければお嬢さまをそこに置くことなどできません」

P「まあ、それを決める権利は、お前にはないけどな」

千夜「っ……」

P「あいつだって……まあ、ヤワではあるが、お前が心配するほどではないと思うぞ――って、こういうことを言うと、「お前に何がわかるのですか」って言われるのかな?」

千夜「見透かしたような言動は好きではありません」

P「でも、プロデューサーだから、見透かそうとはする。それがプロデュースする上で欠かせないプロセスだからな」

P「千夜は、さっき、ちとせの存在なしで自分はどのように語られるのかと言ったな」

P「俺は、千夜のことをちとせなしで十分語れる。それで千夜をドン引きさせる自信だってある」

千夜「いきなり何を言い出すのかと思えば……」

P「これだけは言っておこう。俺は、千夜ひとりに取ってくる仕事の営業のときには、ちとせのことは一切言及しない」

千夜「!」
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/28(火) 00:21:23.56 ID:1yh4+5ql0
P「それは、俺が千夜のプロデュースはちとせの存在はなしに成立すると確信を持っているからだ」

P「価値がない人間だって? とんでもない。そもそも価値がない人間はうちの事務所に雇われない」

P「千夜ほど17歳で食に通じているアイドルはいないし、千夜ほど人間をよく観察しているアイドルもいない」

P「千夜はうちの事務所にたくさんいるアイドルのなかでも運動が抜群に出来るほうだし、要領もいい」

千夜「でも、それだけなら私じゃなくても……」

P「それを決めるのは俺であって千夜じゃない」

千夜「!」

P「確かに、スペックだけなら千夜と同じかそれ以上のアイドルはいる。でも、それは、何の利益も不利益ももたらさないただの情報に過ぎない」

P「俺はお前たちを見透かそうとしていると言ったな。もう少し高尚な言い方をすれば、お前たちの才能を見抜こうとしているんだ」

P「そして、それを仕事という形で反映させる。もちろん、需要があると見込んで、だ」

P「で、結果として売れた。これが重要だ。価値のあるものは売れる」

P「この結果を踏まえた上で、まだ自分が価値のない人間だと思うなら、俺が何度でもお前の価値をお前に教えてやる」

千夜「……」

P「なあ、千夜」

千夜「……なんですか」

P「アイドル、楽しいだろ?」

千夜「!」

P「いままでこんなこと、なかったろ?」

千夜「それは……」

P「無価値だと思っていた自分が、価値があると認められている――お前はそれに気づいているんじゃないのか」

P「だから、いままでちとせに忠誠を誓って仕えてきた自分と、自分の価値を認められて一人の少女として生きる自分との間で葛藤があるんじゃないのか」

千夜「……」

P「別に、どちらかを選べと言っているわけじゃない。どちらが良いとも悪いとも言ってない」

P「だけど、これだけは言える」


P「千夜は――アイドルを、人生を、楽しんでいいんだぞ」


千夜「っ――」

千夜「――私は……」

千夜「あ、あれ?」ポロッ

千夜「なぜ……こんな……」ポロポロ

P「……」

千夜「だめ……止まって……お願いだから……」ポロポロ

千夜「なんで……」ポロポロ

P「……化粧崩れなら気にするな、現地にスタイリストがいる」

千夜「……ふふっ、ふふ……」ポロポロ

P「な、何を笑ってるんだ」

千夜「いえ……お嬢さまなら、きっと、そういうことじゃないんだけどなーっておっしゃると思って」

P「なんだよ、またちとせか。千夜はちとせばっかりだな」

千夜「……ぐすっ。はいっ、私は、お嬢さまに忠誠を誓っていますから」グシグシ

千夜「けど……そうですね、私の意見としては――」


千夜「――お前は、本当にどうしようもない男ですね」ニコッ
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/28(火) 00:22:06.56 ID:1yh4+5ql0
とりあえずここまで。
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/28(火) 05:11:25.23 ID:d2jEsvoDO



いいね、もっと強さも弱さも見せてちょーだい
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/28(火) 23:48:55.77 ID:1yh4+5ql0
後日、事務所、Pの部屋


P「――という企画があって、千夜に出て欲しいんだが、どうだ?」

千夜「……問題ありません」

P「そうか、じゃあ、頼んだぞ」

ちとせ「最近、私たちVelvetRoseとしてより、個々で仕事をすることも増えてきてるわね。これも、あなたのやり方?」

P「意図的にお前たちが別行動をするようにしているわけじゃないが、お前たちはユニットでなくても十分仕事ができると思っている」

P「いまは、ユニットとしての仕事と個々人での仕事が半々くらいになっているだけだ。他意はない」

ちとせ「ふーん。でもさ――」

ちとせ「――今回あなたが千夜ちゃんに持ってきた仕事、『ドSなメイドさんに叱られるコーナー』のメイドさんなんだけど?」

千夜「……」

P「だからなんだ」

ちとせ「べっつにー? これがあなたの趣味なのだとしたら、笑えるなーって思って♪」

P「な、何を言うんだ」

P「笑えるのはその考え方のほうだな。千夜はほら、なんていうか、ズバズバと物言うだろ。それにメイドでもある。それらを踏まえた上で需要があると判断したまでだ」

ちとせ「つまんないのー」

ちとせ「でも良かったね千夜ちゃん。“プロデューサーさんが”千夜ちゃんのメイド姿が良いって言ってくれて」

千夜「なっ! ……お嬢さま、このような者に劣情を抱かれてるかのような言い方はやめてください」

P「そこまで言う必要はないだろ。もう少し愛嬌ってもんを千夜は覚えたほうがいいな」

千夜「ばーか。お前に言われなくたって、それくらい仕事なら演じることができますから」

P「そうか? じゃあ、“期待して”収録終わりのお前を待っていてやろう」

千夜「言っておけ」

ちとせ「……」

ちとせ「……なんか、さ」

ちとせ「ふたりとも、仲良しになった?」

千夜「!」

P「……」

ちとせ「ねえねえ、だってほら、千夜ちゃんのあなたに対する言葉、棘があるにしてもどこか可愛らしい感じがすると思わない?」

ちとせ「それに「ばーか」ですって! まったくもう、千夜ちゃんは本当に可愛いんだから」

千夜「〜〜///!!」ゲシゲシ

P「おい、なぜ俺を蹴る。やめろ」

千夜「私はレッスンがありますので、失礼します」スタスタ

ガチャ、バンッ

ちとせ「……あのさ」

ちとせ「どんな魔法を千夜ちゃんにかけたの?」

P「……魔法なんて、かけてないさ」

P「ただ、生きることを楽しめ、と、そう伝えただけだ」

ちとせ「……そっか」

ちとせ「あの子、そういうの、いままで欠けてたから」

ちとせ「私が何を言っても、自分には価値がないだとか、人形だとか、言い続けるんだもの」

ちとせ「あなたに会って、千夜ちゃんは変わったわ」

ちとせ「ありがとね」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/28(火) 23:58:21.47 ID:1yh4+5ql0
ちとせ「千夜ちゃんは私の僕ちゃんじゃなくていいの。一人の女の子として、未来のある希望を抱いて生きていて欲しいの」

ちとせ「あの子は、私とは違うんだから」

P「ちとせ……」

ちとせ「……ごめんね、ちょっとしんみりしちゃったよね」

ちとせ「私だって、歌とかビジュアルで頑張るからさ。もちろん、私のプロデュースも手を抜かずにやってよね♪」

P「当たり前だ。中途半端な仕事はしない主義でな」

ちとせ「仕事、ね」

ちとせ「前から気になっていたんだけど、あなた、仕事じゃないことにはどういう人間になるのかしら」

ちとせ「私、すごく興味あるんだ」

P「……」

ちとせ「ねえ、こんなに近くに、こんなに綺麗な女の子がいるのに、ドキドキとか、しないの?」

P「しないと言えば嘘になる」

ちとせ「素直じゃないのね。でも、そういうところも可愛い♪」

ちとせ「ますますあなたに興味が湧いてきちゃった」

ちとせ「その鉄仮面でも隠せないようなくらい、あなたを魅了してあげたくなっちゃう……」

ちとせ「……そして、あなたを食べちゃうかも、ふふふっ」

ちとせ「……」

ちとせ「じゃ、これから私、レッスンだから。また、ね」スタスタ

ガチャ

ちとせ「……Je t'aime comme tu es, なんちゃって、ね♪」

P「……」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/29(水) 00:10:58.12 ID:i5UWtqsC0
コンコンコン

P「はい、どうぞ」

ガチャ

ちひろ「失礼します」

P「ああ、千川さんか。お疲れ様」

ちひろ「お疲れ様です、プロデューサーさん」

ちひろ「さっきちとせちゃんが出て行くのを見ましたよ。VelvetRoseの仕事の話でもしてたんですか?」

P「まあ、半分正解で、半分外れだな」

P「ちとせと千夜がいたが、伝えたのはそれぞれ別の仕事だよ」

ちひろ「あのふたりは、ユニットとしても、個人でも、活躍できるアイドルですね」

ちひろ「でも、そうやって彼女らが活動できるのは、プロデューサーさんの仕事が素晴らしいからですよ」

P「そう言ってもらえると嬉しいよ。まあ、俺にできることを、最大限やっているだけだがな。あとは彼女たちの努力と才能さ」

ちひろ「ふふっ、あなたらしい言い方です」

P「いつだって、俺は自分のプロデュースには不安を抱えている。それを自信という形で壁を作って、気にしないようにしてるだけだ」

ちひろ「大丈夫ですよ」

ちひろ「プロデューサーさんなら、アイドルたちを愛してあげられるって信じていますよ」

ちひろ「アイドルを輝かせることができるのは、あなた(プロデューサーさん)にしかできないお仕事ですから」

ちひろ「私たちに出来ることがあったら、言ってくださいね」

ちひろ「プロデューサーさんの夢を、私たちはお手伝いしますから」

P「俺の夢、か……」

ちひろ「はいっ。私がよーくわかっていますから、そのことは」

P「そう、だな……」

ちひろ「ごめんなさい、プロデューサーさんにとっては、思い出したくないことも多いかもしれませんけど」

ちひろ「私のことなら、気にしないでください。いいえ、私なんかを気にしちゃ駄目です」

ちひろ「今は目の前に向き合うべきものがあるのですから、それにきちんと向き合ってくださいね」

P「ちひろ、俺は――」

ちひろ「――千川さん、じゃないんですか? もうっ」

P「……」

ちひろ「駄目です、駄目ですよ……」

ちひろ「名前で呼ばれたら、私だって、Pさんって呼びたくなっちゃうから」ボソッ

ちひろ「それじゃあ、プロデューサーさん。お仕事、頑張ってくださいね」

ガチャ

バタン

P「……」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/29(水) 00:11:51.54 ID:i5UWtqsC0
一旦ここまで。
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/30(木) 00:54:31.63 ID:CL4P18aI0
1週間後、事務所内診療所


ガラガラガラッ

P「……ハッ、ハァッ、……ち、ちとせ……!」ゼェゼェ

ちとせ「……ん? あ、ああ、来てくれたんだ」

ちとせ「また倒れちゃった、あはは、今日は調子良いと思ったんだけどなー。ごめんね?」

P「謝らなくていい……それ、よりも、……大丈夫、なのか?」

ちとせ「うん、今のところは。でも、今日はもうレッスンできないかも」

P「倒れたやつにレッスンなんてさせるかよ……。とにかく、今は休め」

ちとせ「んもうっ、だから、休んでるんだってば。ほら、こうして安静にしてるでしょ?」

P「……それも、そうか」

ちとせ「あなたこそ、ちょっとは落ち着いたほうがいいんじゃない?」

P「そうだな、すまない」

コンコンコン

ちとせ「どうぞー」

千夜「失礼します! お嬢さまっ……」

千夜「……コホン、お嬢さま、体調は、いかがですか」

ちとせ「まあ、すっごく悪いってわけじゃないよ。良いわけでもないけどね」

P「千夜、すまない、俺がついていながら……」

千夜「お前――」

ちとせ「ねえ千夜ちゃん、この人は何も悪くないの、だから……」

千夜「――って、別に私は責めようだなんて思っていません。お二人が私のことをどう思っているのか、よくわかりましたが」

千夜「ただ、「お前のせいではありませんよ」と言いたかっただけです」

P「そ、そうか……」

千夜「……」

P「そうだ。ちとせ、もう帰るか? ここに残ってもすることはないだろうし、こうして千夜も来てくれてるが」

千夜「タクシーの手配なら今すぐにでもできます」

ちとせ「うーん、帰るには帰るけど、今すぐにじゃなくていいや」

ちとせ「千夜ちゃん、先に帰っててもらえる? 夜までには帰るから」

千夜「しかしお嬢さま、それでは誰がお嬢さまを自宅に……」

ちとせ「それは、……ねえ?」チラッ

千夜「え?」

P「……」

P「わかった、俺が責任を持ってちとせを送り届ける」

ちとせ「ってことになったわ♪ ごめんね、ここまで来てくれたのに」

千夜「いえ……それは気にしていませんが」

千夜「じゃあ、お前、細心の注意を払ってお嬢さまを送り届けてくださいね」

P「……ああ」

千夜「では、失礼します」

ガラガラガラ

ピシャッ
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/30(木) 01:07:02.98 ID:CL4P18aI0
P「……なあ、ここに残ってどうするんだ? することないだろうに」

ちとせ「なかったけど作ったの。あなたとおしゃべりするって用事をね」

ちとせ「今日あなたが忙しくないってことはもう知ってるから、逃げないでね?」

P「逃げも隠れもしないさ……」

ちとせ「……ありがと」

ちとせ「……」

ちとせ「ねえ」

P「なんだ?」

ちとせ「私が倒れる理由、ただの貧血だと思ってる?」

P「……」

ちとせ「Yes or noで答えて」

P「……No」

ちとせ「そう、それがあなたの答えなのね」

ちとせ「残念ながら……それが正解。私の体は原因不明の病におかされてる」

ちとせ「私ね、長くないと思うの。だから、今が楽しければいい。たぶんアイドルとしても、ハードなお仕事はできないでしょ?」

P「……」

ちとせ「私は知ってる。あなたが、私の体調を完璧に考慮してスケジュールを組んでくれていたこと」

ちとせ「むしろ、こうしてレッスンとかをしてるときに発症しちゃうほうがイレギュラーだもの」

ちとせ「どこで知ったか、あなたは私の病気の傾向を把握していた」

ちとせ「さすがだね♪ やっぱ勉強できる人の考え方だ」

P「……」

ちとせ「そんな暗い顔しないで。私はあなたに感謝してるんだから。こうしてワガママな私をプロデュースしてくれて、千夜ちゃんを一人の女の子として扱ってくれて」

ちとせ「あなたには、もっと胸を張っていてほしいな」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/30(木) 01:26:02.44 ID:CL4P18aI0
ちとせ「私ね、悪い女なの」

ちとせ「千夜ちゃんを私の僕ちゃんから解放したいとか言っておいて手許において可愛がりたいと思ってるし――」

ちとせ「――こんな体で未来なんてないのに、私は私という存在であなたをこれからも束縛しようとしてる」

ちとせ「有り体にいえば、もっと私といてほしいと、そう願ってる」

ちとせ「そんなことしたら、あなたはきっと応えてくれる――いいえ、応えてくれようとしてしまうのにね」

P「ちとせ、それ以上は……」

ちとせ「さっき言ったよね。私、今が楽しければいいって」

ちとせ「だからね、今だけは、あなたのそばに……」

ちとせ「……あなたの女で、いさせてほしい、な」スッ

チュッ

P「……っ」

ちとせ「避けないんだね。嬉しい♪」

P「避けられるわけ、ない……」

ちとせ「それは、私のことが好きだから? 私が圧をかけてるように感じたから? 私の存在に対して義務感を覚えているから?」

ちとせ「それとも、何か別に理由があったり?」

P「……深い理由(わけ)なんて、ないさ」

ちとせ「そ、まあ、いいけどね」

ちとせ「でも、駄目だね。私、もっと欲しくなっちゃってる」

ちとせ「ねえ、私、もっとあなたを感じたいな」ギュッ

ちとせ「これも、今だけ、今だけなんだよ」

ちとせ「だから――」

「プロデューサーさん? いらっしゃいますか?」

ちとせ「――この声は、ちひろさんね」

P「……ちょっと話してくる」

ちとせ「うん」


P「どうかしたのか?」

ちひろ「いいえ、ちとせちゃんの様子が気になって。ほら、体、弱いみたいですし」

P「まあ、今のところは落ち着いてきてるよ。今日は絶対安静だな」

ちひろ「そう、……ですか。あ、大丈夫そうですね、ちとせちゃん」

P「あいつと話していくか?」

ちひろ「あっ、いいえ! 無事がこの目で確認できたので、大丈夫です」

ちひろ「それでは、私は仕事に戻りますね」


P「どうやらちとせの無事を確認しに来ただけだったみたいだ」

ちとせ「そうなの」

ちとせ「私の無事を確認しに来たのに、最初に口に出したのは「“プロデューサーさん”? いらっしゃいますか」なんだね」ボソッ

ちとせ「あーあ、なんだか興が冷めちゃった」ギュゥッ

P「お、おい、なに抱きついてるんだよ」

ちとせ「別に? そういう気分なだけー」

P「どういう気分だよ……」

ちとせ「……ね、一つ、お願いしてもいい?」

P「なんだ?」

ちとせ「私が元気なうちに、私の初めて、貰ってね?」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/30(木) 01:26:46.96 ID:CL4P18aI0
とりあえずここまで。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/31(金) 18:38:19.72 ID:cjI1PaeA0
――たまに見る夢は、炎が荒れ狂う夢だった。


たいせつなものが、燃えていく夢。


私の全てを焦がして、焼き尽くす。


だから、私はなにも求めない。


いつか燃えてしまうなら。 ――



千夜「……」

千夜「……お嬢さま」

千夜「私は、どうすればよいのでしょう」

千夜「何も求めないと、そう決めていたのに」

千夜「気づかぬうちに、私は、多くのものを求めてしまっていたようです」

千夜「それに、大切なものも……」

千夜「……」

千夜「ばーか」

千夜「そうやって自分に言い放って、無責任になれたらどれだけ楽なことか……」
146.49 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)