【デレマス(デレステ)】黒埼ちとせ「私の望みは――」

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84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/22(土) 00:48:08.20 ID:LHdLBJA90
夕方、Pの車の中(ちとせの送迎)

P「……」

ちとせ「……」

P「……」

ちとせ「……」

P「……」

ちとせ「……ねえ」

P「……」

ちとせ「んもうっ、ねえってば」

P「……なんだ」

ちとせ「だんまり……やめようよ。私、これ以上は耐えられないし」

P「しかし……」

ちとせ「まだ自分を責めてるの?」

P「……」

ちとせ「あなたは自分を責めなくて良いのに」

ちとせ「むしろ、責められるべきは私」

ちとせ「あなたは、自分のアイドルを抱いた罪悪感に苛まれているのかもしれないけど」

ちとせ「私は、あなたが私を抱くようにしむけた――言わば、あなたは自分のアイドルを犯すことを強要されたの」

ちとせ「そのアイドルによって、ね」

ちとせ「だから、あなたは何も悪くない」

ちとせ「悪いのは、私」

P「……ちとせ」

ちとせ「? なあに?」

P「お前に、聞きたいことがあるんだが」

ちとせ「なになに、なんでも聞いて? あ、ちょっと待って。あなたが私に聞こうとしてることを当ててみるから」

P「……」

ちとせ「それはずばり……初体験の感想!」

P「……」

ちとせ「んー、思ったよりは痛かった! あと、たいして気持ちよくなかった!」

P「……」

ちとせ「あー、ごめんって。別に、あなたが悪いわけじゃないの。というか、処女の分際であなたのテクニックを批判なんてできないわ」

ちとせ「でもね……すっごく暖かかった」

ちとせ「愛を感じるって、こういうことなのかなって」

ちとせ「まあ、おしつけがましいよね、それは。私のエゴというかさ」

ちとせ「私が勝手に“愛(仮)”を感じた気になってただけかもしれないし」

ちとせ「それでいいんだけどね。相手があなただってことが、私にとっては嬉しいことだったから」

ちとせ「それから――」

P「一人で盛り上がってるところ悪いが」

P「ちとせ、お前のために、俺がしてやれることは、他になにがある?」

ちとせ「――!!」

P「それが、俺の聞きたいことだ」
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/22(土) 00:52:23.28 ID:LHdLBJA90
ちとせ「……」

ちとせ「本当、優しいね、あなたって」

ちとせ「そんなことされたら、惚れちゃうかもよ?」

ちとせ「……いいえ、もう、惚れてるかな」

ちとせ「隠しても仕方ないよね」

ちとせ「そして、きっと千夜ちゃんもあなたに惚れてる」

ちとせ「まさか、こんな三角関係になる日が来るなんてね……」

ちとせ「あ、ごめんごめん。私があなたに何をして欲しいかを聞きたいんだったっけ」

P「そうだ」

ちとせ「うーん、それはね……」

ちとせ「あるにはあるけど、まだ教えない♪」

ちとせ「今日はそれ、言う気分じゃないの」

P「そうか。まあ、気が向いたら言ってくれ」

ちとせ「うん、そうするね」
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/06/22(土) 00:52:55.25 ID:LHdLBJA90
一旦ここまで。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/22(土) 04:45:22.46 ID:0Y+rTAsDO
わーい、レッツNTRだぁ!
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/04(木) 23:38:48.40 ID:mpkoMdC00
>>1です。いま忙しいので、少々お待ち下さい。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/08(木) 15:28:24.62 ID:ze9nxDmJ0
>>1です。そろそろ更新できそうです。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/10(土) 13:06:47.63 ID:4+9kEgvF0
数日後、昼、事務所、Pの部屋


コンコン

P「はい」

ガチャ

千夜「失礼します……」

P「あ……千夜」

千夜「差し入れ、です。いつも通りに」

P「……すまない」

千夜「何を謝っているのですか。私は、ただいつも通りのルーチンワークをこなしたまでです」

P「助かる。弁当、ありがたくいただくよ」

千夜「では、ここに置いておきますね。では」

P「っ、待ってくれ」

千夜「……」

P「今日は、午前中でレッスンは終わりだろう? その、急いでいるのか」

千夜「別に……いえ、そうですね。急用を思い出しました」

P「……そうか」

千夜「……」

P「その用事、いまからでもキャンセルできるなら……」

P「……少し、ここに残らないか、千夜」

千夜「……」

千夜「……」

千夜「……ずるい奴」ボソッ
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/11(日) 01:42:54.94 ID:p6krMnY00
P「……」

千夜「……」

P「……なあ、千夜」

千夜「なんですか」

P「その……すまない」

千夜「なぜ、謝るのですか」

P「……わからない」

千夜「なら、謝る必要もないでしょう」

千夜「お前は、私が怒っているとでも?」

P「……」

千夜「……はあ、駄目ですね、私も」

千夜「お前が後ろめたいこと、それは、お嬢さまと……キスを、していたことですね」

P「……ああ、そうだ」

千夜「……ですよ」

P「?」

千夜「悲しかったですよ……と言っているんです」

P「っ!」

千夜「でも、それは私のエゴに過ぎません。そんな思いは、お嬢さまにも、お前にも、迷惑なだけでしょう」

千夜「ただ、少しばかり一人で盛り上がってしまった自分を反省したいと、そう思うばかりです」

P「いや、違うんだ、千夜……」

千夜「おそらく――」

千夜「――おそらく、お嬢さまはこう言ったのではありませんか、先が長くないから私を愛して、と」

P「……」

千夜「お嬢さまとはもう10年来の付き合いです。それくらいのことは、なんとなくわかります」

千夜「それに……お嬢さまは、もう……、もう……っ!」ポロポロ

千夜「本当に、死を目前にしている……それが、私には痛いほどわかる……!」ポロポロ

千夜「それなのに私は、お嬢さまの思い人を……」ポロポロ

千夜「私は……どうすれば」ガクッ

P「千夜っ! 大丈夫か?!」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/11(日) 02:07:51.96 ID:p6krMnY00
数分後

P「落ち着いたか?」

千夜「……ええ、まあ」

千夜「みっともない姿を晒してしまいました」

P「なに、気にするな」

千夜「……」

千夜「ふと、思ったことがある」

千夜「お前のプロデュースは、お前の組むスケジュールは、どうにもお嬢さまにとって負担を最小化した形で組まれていると」

千夜「それでも、時々ダウンしてしまうのは、お嬢さまが日に日に弱ってしまっているからですが」

P「……ちとせのスケジュールに関しては細心の注意を払っているつもりだ」

千夜「だとしても、お嬢さまの抱える病は、その病を研究する者と偶然知ってしまった患者の周囲の人間しか知ることのない極めて特殊なものです。その病は概要すら外部に漏らすことが許されません」

千夜「なぜ、お前がそれを考慮したようなスケジュールを組めるのか、私はずっと疑問でした」

P「……何を言っているんだ」

千夜「○○大学医学部医学科、医学系研究科」

P「……っ!」

千夜「知る人ぞ知る天才、一ノ瀬志希より以前にギフテッドと呼ばれていた神童」

千夜「お嬢さまの抱える病のメカニズム解明の第一人者」

千夜「父親からは……突然医学界から姿を消したと聞いていましたが」

千夜「まさか、こんなところで会えるとは思っていませんでした」

P「それ以上は、よせ」

千夜「なぜ」

P「あの頃の自分とは決別したからだ」

千夜「それなのに、今はお嬢さまと、そしてその病と向き合っている」

P「……」

千夜「……」

P「……いいか、忘れるんだ。俺はもう……」

千夜「私はっ……!!」ガシッ

P「!?!?」

千夜「私はっ、お嬢さまに生きて欲しい!!! 幸せでいてほしい!!!!!!」

千夜「ようやく生きたいと思えたお嬢さまに!! 人生を謳歌してもらいたい!!!!」

千夜「それなのに……残酷ではありませんか?! 生きたいと思ったら生きる希望をそがれる彼女に、私はどんな顔をして世話をしたらいい!?!?」

千夜「お前があの天才研究者だと知ったとき、真っ先に思った――お嬢さまを救って欲しいと!! あなたならできると!!!!」

P「……」

千夜「お願い……お願いです……」

千夜「お嬢さまを……救ってください……」

千夜「もう一度、医学界に復帰してください……」

P「……千夜」

P「すまないが……それは無理だ」

千夜「っ……!!! このっ……!」パシィン

P「っ……」
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/11(日) 02:38:11.31 ID:p6krMnY00
P「殴りたければ、殴ればいい。気の済むまで殴ればいい。俺は抵抗しない。お前がそういう行動にでるのは、至極当然だ。悪いのは、俺だ」

P「だが、何度でも言う。俺はあの世界には戻らない。戻れないわけではないが、それでも、戻らない」

千夜「くぅっ……なぜ……なぜ!!!!! ぇぇっ……」ポロポロ

P「……お前、白雪さんの娘さんだな。君のお父さんとは、研究集会で会ったことがある。あの研究所にも何度か訪れた」

P「もう千夜は全部知っているんだろうな。そうだとも、俺は、あの一ノ瀬志希が出てくる前に、陰でギフテッドだとか神童だとか言われていた」

P「12歳でアメリカの大学に入学して生命理学と脳科学を専攻し、18歳で帰国して○○大学に入った。医学部に進んで、ちとせが抱えている病と同じ病のメカニズムを研究していた」

P「ちとせが今でも生きながらえているのは奇跡だ。自分で言うのもなんだが、それは俺の研究成果があったからだろう」

P「だが、それでも、俺はあの病の研究は今後することはないだろう」

P「知ってはいけないことと、それでも、知らなければならないことと向き合わざるをえなくなった」

P「俺は気づいてしまった――あの病は、今の技術では理論的に完治は不可能だということ、そして――」

P「――俺が、あの病を作り出していたということに」

千夜「……?!」

P「俺はもともと医学を専攻していたわけじゃない。俺がギフテッドとか何とか言われるようになったのは、17歳のときに、とあるワクチンの生成に必要な培養の過程での大幅なコストカットを発案したことがきっかけだった」

P「それだったんだよ、原因」

P「俺の発案した方法で生成されたワクチンを接種すると、実はごく小さい確率であの病にかかってしまうんだ。26歳のときにそれに気がついた。どうりで、医学界であの病を研究したら成果が挙げやすかったわけだ。自分が生みの親なんだからな」

P「俺は、自分が例の病の原因だったことに気づいて、逃げた」

P「その事実を知るものはこの世で3人しかいない。もっとも、そのうちの1人は今増えたわけだが」

P「告発したければすればいいが……恐らく無駄足になるだろう。俺が封印して自宅で保管中の未発表の論文にその旨が書いてあるが、あの論文を理解できるのは俺と一ノ瀬志希くらいのものだろう。とりあえず、普通の人間にあれは読めん」

P「これが、真実だ。白雪千夜」

千夜「……」

P「本当に、すまない。謝って許される話ではないのは重々承知だ。ただ、俺のエゴだとしても、贖罪の意味をこめてちとせをプロデュースしている」

P「こんな人間で、すまない」

千夜「……私は、父親にあこがれて医学者を目指そうと考えていたことがあります」

千夜「それを強く意識するようになったのは、お嬢さまと出会ってからです」

千夜「もしなれるのなら、いつかお嬢さまを救えるような人間に自分がなりたいと、そう思うこともありました」

千夜「でも、お前にそれを言われてしまっては、私ができることなんて、何もないのでしょうね」

94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/11(日) 02:51:22.02 ID:p6krMnY00
千夜「……一つ、言いたいことが」

P「なんだ」

千夜「お嬢さまの今後のことです」

千夜「単刀直入に聞きますが、お嬢さまは後どのくらい生きることができますか」

P「……本当に、知りたいのか」

千夜「ええ。お願いします」

P「俺が思うに、長くて13ヶ月だ」

千夜「っ!! はぁっ……はぁっ……」

P「おい、大丈夫か! 千夜っ」

千夜「……すみません、やはり、真実を知ってしまうと、相手がお嬢さまでは冷静でいられなくなってしまいそうです」

P「真実ではない、あくまでも俺の勝手な予測だ」

千夜「お前ほどの人間が言うのならば、真実だと思っても間違いないでしょう。真実とは、絶対的に正しいものではなく、正しいと信じられているものなのですから」

千夜「私は、お前を信じています」

千夜「しかし……そうですか、13ヶ月ですか」

P「……」

千夜「どうにか、死を実感せずにお嬢さまに生きていただきたいのですが」

P「そうだな……まず、仕事はテレビやラジオ、LIVEといったリアルタイム系のものは無くして、雑誌のモデルなどに切り替えれば、負担はかなり小さくできるだろう。ちとせがどうしてもやりたいと言ったときだけ、検討すればいい」

千夜「治療という意味ではどうですか。何か、少しでもお嬢さまの苦しみを和らげるようなものがあれば良いのですが」

P「……それなら、俺に考えがある。それについては俺に任せてくれないか」

千夜「お願いします。お前を、信じます」

千夜「お嬢さまが退屈しないように――」
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/11(日) 02:52:33.62 ID:p6krMnY00
とりあえずここまで。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/11(日) 06:33:58.04 ID:1fTTeYIDO
ジェネリック医薬品(ロキソニン)と同じように問題を突っ込んで来たね

でもギフテッドが二人もは大丈夫なん?
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/11(日) 20:19:45.81 ID:p6krMnY00
2ヵ月後、事務所、Pの部屋

Pの予想するちとせの死まで11ヶ月


ちとせ「ねえ、最近テレビとかのお仕事が減ってきてる気がするんだけど、気のせいかしら?」

P「ちとせの体調を気遣っての方針転換だ。それに、人気が落ちたわけでもあるまい」

ちとせ「んー、そうなのかなぁ。人と接する時間が減ったから実感しづらいかも」

P「またやりたいか? テレビとか、LIVEとか」

ちとせ「やりたくないと言えば、嘘になるよ。でも、最近自分の体調がよろしくないことくらいは、わかってるから」

ちとせ「あなたの気遣いを無碍にはしたくない」

P「そうか……」

ちとせ「そ・れ・に、私は退屈してないしね」

ちとせ「モデルの仕事も結構楽しいから」

P「千夜とは……」

ちとせ「?」

P「いや、ほら、あんなことがあっただろ。ここ最近、ちとせのテレビ出演やLIVEをしなくなっているから、お前ら2人が一緒に仕事をすることはなくなって、いつも俺の前に現れるのはきまって1人ずつだったからな」

ちとせ「ああ、あれ、か」

ちとせ「千夜ちゃんに、あなたとキスをしたところを見られた――」

ちとせ「――その上“あんなこと”までした、あの日ね」

P「……強調する必要ないだろう」
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/11(日) 20:31:33.00 ID:p6krMnY00
ちとせ「結論から言うと、ね」

ちとせ「千夜ちゃんとは喧嘩もしてないし、仲直りもしてない、ってとこかな」

ちとせ「あの僕ちゃん、私は何も見てません〜って態度を貫いてるから」

ちとせ「私も切り出しにくくなっちゃって、時間が経つにつれていつも通りの生活に戻っちゃった」

P「そうか」

ちとせ「あの子、本当に優しい子だもの。私なんかといないほうがいいくらい……」

P「そんなこと言ってやるな。献身的にしてもらっているんだろう」

ちとせ「うん、そうだね。ごめん」

ちとせ「千夜ちゃん、今でもあなたにお弁当届けてるでしょ?」

P「ああ、ありがたい限りだ」

P「おかげさまで、本当に体調が良くなったみたいだ」

ちとせ「さっすが千夜ちゃん♪ しっかりお世話してるじゃないっ」

ちとせ「千夜ちゃん、案外惚れた男には尽くすタイプなのかもね♪」

P「よせって……」

ちとせ「そうは言っても、あの子の気持ちには、気づいてるんでしょ? さすがに」

P「ま、まあ……」

P「というか、お前がそれを言うのか、ちとせ」

ちとせ「……私は」

ちとせ「私は、惚れた男に何もしてあげられないから」

ちとせ「それだけじゃない。何もしてあげられないだけじゃなくって、いろいろと“してもらわないと”だめなの」

ちとせ「吸血鬼が一方的に血をすするように、ね」

ちとせ「ただ、奪うだけなのよ、私は」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/11(日) 20:37:20.70 ID:p6krMnY00
ちとせ「まあ、あなたの性欲を処理するという見方をすれば? “してあげてる”ことになるのかもしれないけど、ね」フフッ

P「よせって。それに、病人相手にそんなことはしない」

ちとせ「あら、ひどいこと」

P「どっちが」

ちとせ「ふふふっ」

ちとせ「さて、――と。そろそろ帰ろうかな。今日は、もう、眠いから……」

P「……送っていこうか」

ちとせ「ううん、今日は大丈夫。タクシーを呼んであるわ」

ちとせ「ありがと、じゃあね」スタスタ


フラッ


ちとせ「っ……! とと……」テテテ

ちとせ「あは……ごめんごめん、ちょっとふらっときただけ」

P「乗り場までついていこう」

ちとせ「……」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 01:04:04.73 ID:dE10EQKmO
送迎場

ちとせ「もう大丈夫、ここでオーケーよ」

P「わかった。気をつけて帰るんだぞ」

ちとせ「タクシーに乗って帰るのに気をつけてだなんて、変なの。それはタクシーの運転手さんに言ってあげなきゃね」

P「はは、まあ、そうだな」

ちとせ「それじゃあね」

P「ああ」

P「……」


再び、事務所内、Pの部屋

コンコン

P「どうぞ」

「失礼します」

ガチャ

ちひろ「お疲れ様です、P……プロデューサーさん」

P「ああ、千川さんか」

ちひろ「ちとせちゃん、もう帰りましたか?」

P「さっき見送ってきたよ。タクシーで帰ったところだ」

ちひろ「そうですか」

P「例の薬は、今日も……」

ちひろ「ええ、マスタートレーナーさんにお願いして、ばっちりと混入させておきましたよ――」

ちひろ「――マスタートレーナーさん特製のドリンクに」

P「そうか。ちとせはあれを飲んだか」

P「ちひ……千川さん、手間掛けさせてすまないな」

ちひろ「いえいえ、そんな。プロデューサーさんのお願いですから」

ちひろ「やっぱりちとせちゃん、結構危ないんですかね」

P「そうだな……そう長くはないだろう」

ちひろ「……そうですか」

ちひろ「でも、最初にお願いされたときはびっくりしちゃいましたよ」

ちひろ「あなたが、また“そういうこと”に着手したんだ、って」

P「俺が直接生成しているわけじゃないがな」

ちひろ「それでも、他でもないあなたの意志があるじゃないですか、そこには」

P「それも、そうだな……」

ちひろ「あれ、作ったのはひょっとして志希ちゃんですか?」

P「はは、千川さんには隠せないか。そうだよ、あれは一ノ瀬志希に作らせた」

P「詳しい事情は聞かないでとにかくやってほしいという俺のわがままに答えてくれた彼女には感謝しかないな」
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 01:13:28.84 ID:dE10EQKmO
P「そういえば」

P「千夜に俺の過去を話したの、千川さんだろう」

ちひろ「……ええ、そうです」

P「あ、いや、別にいまさら責めようっていうんじゃないんだ」

P「あのことを知っているのは俺と君だけだったから、君であることには疑いの余地はなかった」

P「一応聞いておきたいんだが、なんで話したんだ?」

ちひろ「……千夜ちゃんにあなたのこと、知ってもらいたかったんです」

ちひろ「ちとせちゃんが肉体的に苦しんでいるなら、千夜ちゃんはいま精神的に苦しんでいます」

ちひろ「もう、彼女の、彼女らの気持ちには気づいているんでしょう」

ちひろ「千夜ちゃんは、自分が忠誠を誓った主の愛する人を愛してしまった」

ちひろ「そして、その主の人生も残りわずか」

ちひろ「自分は一体どうすれば良いのか……千夜ちゃんの悩みを知ってしまった今、彼女の気持ちを考えるだけでも、私の心までが苦しくなるほどです」

ちひろ「それでも、ちとせちゃんは思っているはずです……あなたと、プロデューサーさんと一緒にいたいと」

ちひろ「私は、ただそれを応援したかったんです……」

ちひろ「私だって……私だって昔はあなたのこと……!」ポロポロ

ちひろ「っ……グスッ……す、すみません私ったら、こんなところで泣いたって、Pさんの迷惑になるだけなのに……」

P「ちひろ……」

ちひろ「わ、私のことはいいですから。とにかく、Ps……プロデューサーさんはちとせちゃんのこと、そして千夜ちゃんのことを考えていてください」

ちひろ「失礼します……」タタタ...

P「……」
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 01:27:55.39 ID:dE10EQKmO
1ヵ月後、夕方、都内某所、レストラン個室

Pの予想するちとせの死まで10ヶ月


P「悪いな、千夜。付き合わせてしまって」

千夜「構いません。お嬢さまは今日と明日に検査入院で家にいらっしゃいませんし、お前が夕餉をおごってくれるというなら、楽でいいというもの」

P「そうか、ありがとうな」

P「いろいろ聞きたいことがあるんだ。ちとせが休養のために家にいる日も増えてきたからな」

P「ちとせの様子は、どうだ」

千夜「……正直、芳しくありません」

千夜「もう気づいているかもしれませんが、お嬢さまは痩せてきています」

P「……ああ、いまはモデルの仕事がメインだから誤魔化しがきくがな」

千夜「食欲が、ないそうで。私の作る食事もあまり喉を通らないらしく」

千夜「それでも、お嬢さまは言うんです――」


ちとせ『ごめん、ね……。せっかく、千夜ちゃんが私のために作ってくれているのに』

ちとせ『食べたいの……それは本当よ? でも、身体が受け付けてくれないというか……』

千夜『無理して食べる必要はありません。ただ、栄養をとるためにも、何も食べないというわけにはいかないのです』

ちとせ『ええ、わかっているわ』パクッ

ちとせ モグモグ

ちとせ モグモグ

ちとせ モグ...

ちとせ『……』

ちとせ『……』

千夜『? どうかなさいましたか』

ちとせ『っ……ぅぅっ……』ポロポロ

千夜『お、お嬢さま?!』

ちとせ『ごめん……ごめんね……』ポロポロ

ちとせ『飲み込め……ない、の……』ポロポロ

千夜『もう食べるのはやめにしましょう。医者に点滴を提案してきますから』

千夜『はい、ここに出しちゃってください』

ちとせ『……ペッ』

ちとせ『ううっ……うううああああん』


千夜「あの強く高潔だったお嬢さまが、今では相当弱ってしまっているようです」

P「そんなことが……」
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 01:47:36.03 ID:dE10EQKmO
P「千夜、辛くは、ないか」

千夜「……辛い。辛いに……決まっている……!」

千夜「日に日に弱っていくお嬢さまを見ているのが辛い……! そして、あと少しの期間しかお嬢さまのおそばにいることができないというのがもっと辛い……!! それを実感させられる日々が辛い……!!!」

千夜「グスッ……お嬢さまはおっしゃるんです――」


ちとせ「あ、おっかえりー! ち〜よちゃんっ」

千夜「ただいま帰りました、お嬢さま。今日はとてもお元気そうで何よりです」

ちとせ「うんっ、イイコトがあったから」

千夜「イイコト、ですか……?」

ちとせ「そう。千夜ちゃんがバラエティ番組のトーク部門でMVPに選ばれたの、さっき見ちゃった!」

千夜「ああ、あれですか……恐縮です」

ちとせ「嬉しいんだ、私」

ちとせ「千夜ちゃんのすごいところ、良いところを、色々な人に知ってもらえて」

ちとせ「……私なんかの呪縛には、とらわれないで」ボソッ


千夜「――と」

千夜「……」

P「そうか……最善を尽くしているつもりではあったが、病態の悪化が加速しているのかもしれない」

P「また、対処を、考えてみるよ」
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 01:49:08.01 ID:dE10EQKmO
とりあえずここまで。
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 18:56:46.21 ID:gQnz5Op0O
2ヵ月後、事務所、Pの部屋

Pの予想するちとせの死まで8ヶ月


P「……」

千夜「そんな難しい顔をして、どうかしたのですか」

P「ネット上でちとせがテレビに出てこなくなったことを気にするやつが増えてきた」

千夜「……」

P「だが、俺は――」

千夜「お嬢さまの病態は極力隠したい、お嬢さまという存在のためにも」

P「――そうだ」

P「それが、俺があいつにしてやれることだと思っている」

千夜「……策は、あるのですか」

P「ある」

P「VelvetRoseとして新曲を出す」

千夜「……!」

P「歌番組の依頼が来たら、スタジオとは別の場所から中継する形でなんとか誤魔化す。手配済みだ」

千夜「まったく、お前は……」

千夜「……本当に、感謝しなくては」ボソッ

P「何か言ったか?」

千夜「いえ、何も」

P「ちとせは今日も病院にいるんだよな」

千夜「ええ、今週1週間は検査入院です」

P「今日の仕事は終えてある。これから見舞いに行くとするよ」

P「千夜は来るか?」

千夜「私は……」

千夜「……その新曲とやらの練習をします。お嬢さまのために、時間は無駄にできないので」

P「そうか……わかった」

P「これが音源と歌詞のデータだ。確か収録用の小さい個室が1つ開いていたと思うから、そこを使えば良いだろう」
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 19:13:40.14 ID:gQnz5Op0O
某病院内

コンコン

ちとせ「はーい」

ガラガラ

ちとせ「あっ、来てくれたんだ」

P「ああ」

P「ちとせに、あるニュースがあってな」

ちとせ「あら、本当? どんなのかな、楽しみ」

ちとせ「ちなみに聞いておきたいんだけど……良いニュース? それとも……」

P「良いニュース、だと思うぞ」

ちとせ「それじゃ、さっそく聞いちゃおっかな」

P「……新曲を、出すぞ」

ちとせ「……うそ、マジ?」

P「マジだ」

ちとせ「ちょ、ちょっと待って! 向こう向いてもらえる?」

P「? なぜだ」

ちとせ「なんていうか、私、いますごくにやけてる気がして、あんまり顔見て欲しくないっていうか!」

P「残念だがもうにやけてるな。ばっちり見たぞ」

ちとせ「〜〜〜〜〜〜!!!」ボフッ

P「……何やってるんだよ」

ちとせ「にやけ顔なおるまで布団に顔埋めてるの」モゴモゴ

ちとせ「……」

ちとせ「……」

ちとせ「……ぷはぁっ」

ちとせ「うん、もう大丈夫」

ちとせ「でも……そっかぁ……」

ちとせ「私、また、歌えるんだ」

P「ああ、またちとせの歌を世間に届けることができる」
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 19:25:22.07 ID:gQnz5Op0O
ちとせ「あの、さ。なんていうかね」

ちとせ「私、嬉しいんだ。その……ありがとうね」

P「礼を言われるようなことはしていないさ。プロデューサーとしての仕事を全うしているだけだ」

ちとせ「これは“仕事”として、なの?」

P「……どう捉えるかは、勝手だが、俺としては――」

P「――そういうことにしておいてくれ、といったところだな」

ちとせ「ふ〜ん、そっか♪ じゃあ、都合のいいように考えとく♪」

ちとせ「……」

ちとせ「ねえ、こっち、来て」

P「……これでいいか?」

ちとせ「うんっ」

ちとせ「えいっ」ダキッ

ちとせ「うんうん……あなたの匂いがする」

ちとせ「あと……あなたの暖かさがある」

P ナデナデ

ちとせ「あ、なんでいま私が撫でて欲しいって思ったってわかったの?」

P「なんとなくそんな気がしただけだ」

ちとせ「ふふっ、そっか。嬉しい」

ちとせ「もっと強く抱きついちゃう」ギュウウウ

P「……」

ちとせ「これなら、顔も見れないし……」ボソッ

ちとせ「……」

ちとせ「……グスッ」

ちとせ「……ヒグッ……あの、ね」

ちとせ「あなたが……生きる楽しさを教えてくれたから、私……」

ちとせ「私……ね……グスッ」


ちとせ「……死にたく――ないよ」


P「……大丈夫だ」

P「俺が、そばにいるだろう」

P「それに、千夜もいる。千川さんだって、いる」

P「お前のファンだって、いる」

P「それでも足りなければ、俺がいくらでもちとせのワガママに振り回されてやるさ」

P「大丈夫だ、お前は、死なない」

P「だって、吸血鬼なんだろう?」

P「俺たちが勘弁してくれって思うくらいに、もう俺たちの中でお前は生きていて、永遠に死ぬことなんてない」
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 19:31:57.31 ID:gQnz5Op0O
ちとせ「うん……ありがと」

ちとせ「やっぱ、あなたって不器用だね」

P「余計なお世話だ」

ちとせ「……あの、さ」

ちとせ「ここって、個室じゃない?」

ちとせ「私のしてほしいこと、わかる?」

P「……」
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 19:57:18.52 ID:gQnz5Op0O
1ヵ月半後、都内某所、特設スタジオ

Pの予想するちとせの死まで6ヶ月半


ちとせ「案外、静かなんだね」

P「まあ、極力騒がしくはならないようにしているからな」

ちとせ「ここから中継、か」

P「……」

ちとせ「あっ、別に嫌ってわけじゃないの。全然嬉しいよ?」

ちとせ「何もかも、あなたが私のためを思ってしてくれていることだって、わかってるから」

千夜「……遅くなってしまい、申し訳ありません。準備が終わりました」スタスタ

ちとせ「おっ、千夜ちゃん気合入ってる〜♪」

千夜「気合を入れてくれたのはスタイリストの方ですが」

ちとせ「いいのいいの、細かいことは気にしなーい」

P「……ん、そろそろ時間だ。ふたりとも舞台に上がってくれ」

ちとせ「うん。じゃあ、行ってくるね」

千夜「それでは」

P「ああ――」

P「――行ってらっしゃい」


同時刻、都内某放送局、音楽番組スタジオ

司会者「さて、次なるアーティストは、久しぶりの新曲となるVelvetRoseのお二人でございます!」

女子アナ「しばらくふたりでの活動がなかった黒埼ちとせさんと白雪千夜さんですが、今回はどんな歌を披露していただけるんでしょうか、楽しみです」

司会者「それではVelvetRoseのおふたりで――」


再び、都内某所、特設スタジオ

ガヤガヤ

スタッフ「本番60秒前でーす!」

ちとせ「……ねえ、千夜ちゃん」

千夜「はい、なんでしょうか、お嬢さま」

ちとせ「いろいろと、ごめんね」

千夜「お嬢さまに謝られることなど、何もありませんよ」

ちとせ「……ありがと」

千夜「感謝されることなど……私は、お嬢さまの僕として当然のことをしているだけですから」

ちとせ「……そっか」

ちとせ「私ね、こうしてまた千夜ちゃんと仕事ができて、テレビに映れて、歌えて、本当に嬉しいよ」

千夜「……私もです。お嬢さま」

ちとせ「また、ふたりで、歌おうね」

千夜「……もちろんです。お嬢さま」

ちとせ「それじゃ、行こっか」

千夜「……はい!」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/13(火) 19:58:20.79 ID:gQnz5Op0O
一旦ここまで。
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 00:25:36.29 ID:aY4zmbJYO
3ヵ月半後、都内某病院、某個室

Pの予想するちとせの死まで3ヶ月


P(あのライブの後、ちとせは奇跡的とも思える回復を見せた)

P(身体への負担を考慮しつつも、少しだけではあるがテレビ番組への出演も果たした)

P(新曲の売れ行きは徐々に伸びていき、「Fascinate」に匹敵するものとなった)

P(俺のちとせの余命の予想は外れたのかもしれないと思った)

P(だが、やはり俺は“正しかった”)

P(俺は、自分の賢さを憎んだ)

P(ちとせは、ラジオの収録の直後に――)


P(――意識不明になった)


ピーッピーッ...

ちとせ「……」

ピーッピーッ...

P「……」

P「なあ、ちとせ」

P「俺は、お前との約束を守れているだろうか」

P「……お前を退屈させないこと、そして――」

P「――お前に、嘘をつかないこと」

P「……」

P「2つ目は……守れていないかもな」

P「……3つ目の約束は」

P「3つ目は、お前は何を約束しようとしていたんだ?」

P「ちとせ……」
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 00:26:07.67 ID:aY4zmbJYO
3ヵ月半後、都内某病院、某個室

Pの予想するちとせの死まで3ヶ月


P(あのライブの後、ちとせは奇跡的とも思える回復を見せた)

P(身体への負担を考慮しつつも、少しだけではあるがテレビ番組への出演も果たした)

P(新曲の売れ行きは徐々に伸びていき、「Fascinate」に匹敵するものとなった)

P(俺のちとせの余命の予想は外れたのかもしれないと思った)

P(だが、やはり俺は“正しかった”)

P(俺は、自分の賢さを憎んだ)

P(ちとせは、ラジオの収録の直後に――)


P(――意識不明になった)


ピーッピーッ...

ちとせ「……」

ピーッピーッ...

P「……」

P「なあ、ちとせ」

P「俺は、お前との約束を守れているだろうか」

P「……お前を退屈させないこと、そして――」

P「――お前に、嘘をつかないこと」

P「……」

P「2つ目は……守れていないかもな」

P「……3つ目の約束は」

P「3つ目は、お前は何を約束しようとしていたんだ?」

P「ちとせ……」
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 00:30:10.28 ID:aY4zmbJYO
すみません、なんか連投になってました
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 00:43:18.20 ID:aY4zmbJYO
数時間後、事務所

P「……」

ちひろ「プロデューサーさんっ」ヒョコ

P「わぁっ! な、なんだ、千川さんか……」

ちひろ「もうっ、なんだとはなんですか。なんだ、とは」

P「いや、すまない。驚いただけだ」

ちひろ「ふふっ、別にいいですけど」

ちひろ「どうしたんですか、思いつめたような顔して」

P「……まあ、思いつめているからな」

ちひろ「ちとせちゃん、ですよね?」

P「ああ」

ちひろ「……よかったら、一緒に散歩でもしませんか?」


ちひろ「ちとせちゃんとの約束、ですか」

P「ちとせをアイドルにする前、あいつは約束しろって俺に言ったんだ」

P「退屈させないこと、嘘をつかないこと――」

P「――もう1つは、まだあいつは言ってない」

ちひろ「……それ、確かにちとせちゃんは“言ってはいない”かもしれませんけど」

ちひろ「もう既に、あなたには“伝えている”んじゃないですか?」

ちひろ「そしてあなたは、それに気づかないフリをしている」

P「……」

ちひろ「……ごめんなさい。意地悪な言い方になってしまって」

P「いや、いいんだ。君の言いたいことはわかるさ」

P「俺は、わかっていないフリをしている――そうなのかもしれないな」

P「あいつの口から聞きたいと思ってしまうんだよ。だって……」

P「……あいつの口から聞かずに俺が勝手に納得してしまったら、あいつの死を今すぐ受け入れてしまうような、そんな感じがして」

P「ちとせはまだ生きている。なんだか、それを自分なりに尊重したいという、俺のわがままだな」

ちひろ「……Pさんは、不器用ですよ」

ちひろ「それに、……とっても優しいです」

ちひろ「……そんなんだからPさん、モテちゃうんですよ、もうっ」

P「な、何を言うんだよ」

ちひろ「とぼけたって無駄ですっ! Pさんを好きな人は、アイドル、事務員、職員、……結構いるんですからね」

ちひろ「まあ、私は――」グイッ

P「!」

ちひろ「他の人は知らないようなPさん、知っちゃってますけど、ね」ニコッ

P「……ちひろ、近い」

ちひろ「キスしたくなっちゃいます?」

P「よせ……」

ちひろ「……なーんて、冗談ですよ!」

ちひろ「Pさんはとりあえずちとせちゃんのことを考えてあげてください。あとは、千夜ちゃんもですね」

ちひろ「あの子も、Pさんには思いを寄せています。近いうちには、それに対する答えをだしてあげてくださいね」
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 01:28:55.47 ID:aY4zmbJYO
約2週間後、ちとせの病室


ガラガラガラッ

P「……ハァッ……ハァッ」

P「ち……ちとせ……」

ちとせ「う、うん……ちとせ、だけど」キョトン

P「お前が目を覚ましたって聞いたから……」

ちとせ「……走ってきてくれたんだ」

P「当たり前だろ……」

ちとせ「ありがと、嬉しい」

P「体調は、どうなんだ」

ちとせ「そりゃあよくはないんだけど、でも、辛くはないよ」

ちとせ「それに……あなたが来てくれたから、もっと元気になっちゃったかも」

P「そうか……それは良かった」

ちとせ「さっきね、先生がね」

ちとせ「病院の敷地内だったら、散歩してもいいって。一緒に行ってくれる人がいれば」

ちとせ「ねえ、私を、連れて行ってよ――」


P「……」

カラカラカラ

ちとせ「あっはは……ごめんね。歩いて散歩するのは、ちょっと無理っぽいんだ」

ちとせ「立てないわけじゃ、ないんだけどね」

ちとせ「体力的な問題で」

ちとせ「でも、車椅子からの眺めも新鮮で楽しい……ちっちゃい頃は、こんな高さの目線だったんだろうなって思う」

ちとせ「……」

ちとせ「……千夜ちゃん、元気にしてる?」

P「ああ。テレビには安定して出ているし、ラジオの仕事だってある。ラジオは、レギュラーもあるしな」

ちとせ「千夜ちゃんが出てたドラマ、ちひろさんが録画してくれていたみたいだから、後で見るんだ」

P「いいな、それ」

ちとせ「千夜ちゃん、無理してない?」

P「どうだろうか……お前がいないから、どこか寂しそうには見えるよ」

ちとせ「そっか……」

P「相変わらず、弁当は作ってくれる」

ちとせ「わお、ラブラブだね」

P「そんなんじゃないさ」

ちとせ「まあ、私がそんなこと言う資格はない――か」

ちとせ「うまくやってよね、あの子とはさ」

P「……善処する」
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 01:41:50.71 ID:aY4zmbJYO
P「なあ、ちとせ」

ちとせ「? なあに」

P「お前に、聞きたいことがある」

P「お前は、俺に約束しろと言ったな」

P「覚えているか」

ちとせ「……うん」

P「3つの、約束だ」

ちとせ「覚えてるよ、ちゃんと」

P「お前を退屈させないこと、お前に嘘をつかないこと……」

P「……だが、まだ3つ目を聞いていない」

P「俺のエゴなのは百も承知だ。でも、お前の口から聞きたい」

P「3つ目……お前は何を約束させたかったんだ?」

ちとせ「……うーんと、ね」

ちとせ「……」

ちとせ「……ひみつ!」

P「……は?」

ちとせ「だーかーら、ひ・み・つ」

P「え、いや、でも……」

ちとせ「今は言いたい気分じゃないの」

P「そんな悠長なこと……!」

ちとせ「私がいますぐに死ぬとでも?」

P「っ……!」

ちとせ「ごめん。いまのは、いじわるだったよね」

ちとせ「でもね、いまは言いたくない」

ちとせ「私を信じて……必ず、あなたには言うから」

ちとせ「お願い」

P「……わかった」
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/18(日) 01:45:46.79 ID:aY4zmbJYO
とりあえずここまで。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/04(水) 22:27:12.53 ID:lEP1w3jq0
>>1です。また忙しさが落ち着いたら更新します。少々お待ちください。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 17:50:05.39 ID:KnBe1FwIO
1ヵ月半後、都内某病院、某個室

Pの予想するちとせの死まで1ヶ月


コンコン

「……入るぞ」

ガラガラッ

P「ちとせ……」

ちとせ「ぁ……」

P「いい、無理してしゃべらなくて、いいから」

ちとせ「わた……し、目、覚めた……んだよ」

P「ああ……、わかる、わかるよ」

ちとせ「……ぁ……た、ま……」

P「な、なんだ?」

ちとせ「撫でて……欲しい、の……」

P「こう、か……?」ナデナデ

ちとせ「ぅん、きもちぃ……」

ちとせ「ふふっ……ずっと、夢を見てた」

ちとせ「長い、長い、……夢」

ちとせ「私とあなた……そして千夜、ちゃん……の3人で」

ちとせ「……仲良く……お屋敷に住むの」

P「ああ……」ナデナデ

ちとせ「それで、ね……あなたは、私と千夜ちゃんの……ふたりをお嫁さんにしてるの」

P「何をやってるんだ俺は……」ナデナデ

ちとせ「夢の、中……だから。別に、いい……でしょう?」

P「まあ、お前がいいならな」ナデナデ

ちとせ「夢の中の千夜ちゃんは……いまみたいな僕ちゃんじゃ……なくって」

ちとせ「むかし、みたいな……かわいい女の子、なの……」

ちとせ「どっちがあなたとイチャつくかで、喧嘩したり……」

ちとせ「一緒に、あなたを喜ばせるために、お料理したり……」

ちとせ「そう、やって……暮らしてるの……」ポロポロ

P「ああ……ああ!」ポロポロ
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 18:02:20.36 ID:KnBe1FwIO
ちとせ「……ゃ、くそく……」

P「!?」

ちとせ「3つ、目、の……。まだ……ちゃんと、伝えてない」

P「それは……」

ちとせ「ち、よちゃん、と……」

ちとせ「……っっ、……」ヒューッヒューッ

P「おい……しっかりしてくれ……ちとせ……!! 死ぬな……!!!!」

ちとせ「かはぁっ……、はぁ……っ、はぁっ……」

ちとせ「だ、いじょう、ぶ……」

ちとせ「これ……伝えずに、は……死ねない、から……」

ちとせ「……もっと、近くに、……来て」

P ズイッ

ちとせ「3つ目は……ね」






ちとせ「――――千夜ちゃんと、幸せになって」
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 18:14:54.16 ID:KnBe1FwIO
1ヵ月後、都内某教会

Pの予想するちとせの死まで――0日


千夜「……なんだか、気恥ずかしい」

ちひろ「そう言わないでくださいって、Pさんと、選んだんでしょう?」

千夜「それは……そうですが」

ちひろ「とても、似合っていますよ。綺麗です。千夜ちゃん」

千夜「ちひろさん……ありがとう」

ちひろ「それにしても、世間はいま頃大騒ぎですよ」

ちひろ「――人気絶好調のアイドル、白雪千夜がプロデューサーと電撃結婚、だなんて」

千夜「改めて言われると照れる……」

ちひろ「照れてる千夜ちゃん可愛いです」

ちひろ「……ちとせちゃん、最後にすごいお願いをしたものですね」

ちひろ「自分の命日になりそうな日に2人が結婚する姿を見せてくれ、だなんて」

ちひろ「それもあって、この結婚式も、参加者は、事情を知る聖職者の方々と、私と、お2人と――」

ちひろ「――ちとせちゃんだけですし」

千夜「お嬢さまが饒舌にお話になられたら、聖職者に手伝ってもらったから灰になってしまう……だなんて冗談を言うかもしれませんね」

ちひろ「ふふっ、そうかもしれません」
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 18:26:17.50 ID:KnBe1FwIO
ちひろ「……千夜ちゃん」

千夜「?」

ちひろ「プロデューサーさんを、助けてあげてくださいね」

ちひろ「結局、私にはそれが最後までできませんでした」

ちひろ「でも、千夜ちゃんなら……」

ちひろ「いいえ、こう言ったほうがいいかしら。千夜ちゃんとちとせちゃんなら、と」

千夜「ちひろさん……」

ちひろ「……グスッ。こ、こんなの、野暮な話ですよねっ。ごめんなさい……」

ちひろ「昔の女の戯言です……忘れてください……」

千夜「そんなこと……」

千夜「私は、お嬢さまの願いの成就のため、ちひろさんの叶わなかった思いのため、そして――」

千夜「――なによりも、あの人のために、生きていきます」

ちひろ「うんっ……うん!」

千夜「……それに」

千夜「あの人にふさわしい女は、ちひろさんではなく私だと思い知らせてあげますよ」フフフ……

ちひろ「あーっ、言ってくれますね、もうっ!」プンスコ

ちひろ「……あははっ」

千夜「ちひろさんの顔に笑顔が戻った」

千夜「そうです、ちひろさん。まだ泣くには早いですよ」

千夜「式は、これからですから――」
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 18:45:25.99 ID:KnBe1FwIO
――新郎が、入場する。

P「……」

その男は、かつて自らが生み出してしまった災厄に苦しむ少女を救おうとした。

それと同時に、その災厄に苦しめられていたのは男も同じであった。


――新婦が、入場する。

千夜「……」

その女は、贖罪のために友を主とし、あろうことか主の想い人を愛してしまった。

しかしそのことが、主の救いであるということに気づいたのであった。


――高潔な女が、そこにいる。

ちとせ「……」

その女は、最初からいた。最初からいて最後までいないよう努めて存在しているが、それでもなお存在感が絶大な女がそこにいた。

女は新婦の主であった。けれども、今日をもってその契約は終わる。

それは、女の最後の望みであった。


――また別のところには、諦めてしまった女がいる。

ちひろ「……」

その女は、新郎を支え、救いの手を差し伸べようとした。だが、その手が男をつかむことはなかった。

しかし、女は最早後悔していなかった。男を救う別の女が、現れてくれたから。


――式が、進んでいく。


――誓いますか? Y/N

P「俺は――」

千夜「私は――」

ふたりは誓いを交わした。新婦の主は無言でそれを眺めている。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 18:57:56.41 ID:KnBe1FwIO
――新郎と新婦は唇を重ねあう。


――結婚した事実が宣言される。


――一連の流れは、無事終了した。



ちとせ(ああ、とっても幸せ)

ちとせ(私が、なによりも望んでいたコト……)

ちとせ(私の愛する貴方が、長年の災厄からようやく解放され、救われる)

ちとせ(私の愛する貴女が、長年の呪縛からようやく解放され、救われる)

ちとせ(私は貴方・貴女(あなた)たちに十分愛された……今度は、貴方・貴女(あなた)たちが愛し愛され――愛し合う番)

ちとせ ニコッ

ちとせ(Pさん……貴方、とてもかっこいいよ。何度でも惚れてしまいそう。その姿にも、自ら招いたモノによる翳りも)

ちとせ(千夜ちゃん……貴女、とても可愛いよ。いまの千夜ちゃんは、もう、一人の女の子なのね。それで、いいのよ)

ちとせ(幸せ……幸せしあわせシアワセ!!)

ちとせ(幸せすぎて死んでしまいそうなの――なんてね)

ちとせ(これは、いつもの私の冗談めかしたセリフなんかじゃない……もう、そろそろだよね)

ちとせ(私は……)
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:06:18.16 ID:KnBe1FwIO
「……とせ、ち……せ!!!!」

「……さま!! お……さ……」


なんだか騒がしいなあ、もう。

私がこうなっちゃうことなんて、ふたりとも知っていたでしょ?

まあでも、いざそうなりそうになると、冷静じゃいられないのかもね。

ありがと。私のことを想ってくれているの、ちゃんとわかってるよ。

そうだ、最期に、あれだけ言っておかなくちゃね。

きちんと、自分の言葉で。

だから、いまだけは声を出すんだ、私!!!!!!!!!


ちとせ「あなた、幸せになりなさい」


――――――――。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:12:25.60 ID:KnBe1FwIO
6年後、都内某所、一軒家。


??「おかーさんっ! 早く早く!!」

千夜「もう、そんなに急がなくてもコンサートは逃げないというのに」

??「だってはやてちゃんとなぎちゃんが歌ってるところ、はやくみたいから!」

千夜「出てくる時間はもう決まっていますよ。別に早まるわけじゃない」

??「んー?」

??「あ、そーいえば、おとーさんは、来れないの?」

千夜「いいえ、あの人なら先に向こうについているはず」

??「あ、そっか。ぷろでゅーさーっていうの、やってるんだもんね」

千夜「そういうこと」

千夜「……そうだ。ちょっと忘れていたことがありました」

千夜「ねえ、もうトイレは済ませましたか?」

??「あ! まだいってないや」

千夜「じゃあ、いま行ってきなさい」

??「うんっ!」テテテ……
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:20:49.56 ID:KnBe1FwIO
ちとせの遺影の前。

千夜「お嬢さま……いいえ、ちとせちゃん」

千夜「あの子が、私たちがしていたような仕事に興味を持っているようです」

千夜「あの子は……どのように成長していくんでしょうか」

千夜「健やかに、長生きできるようにと、名前をつけました。それも、あなたがどこかであの子を守ってくれるように」

千夜「私たち夫婦も、まだまだこれから学んでいくんでしょうね」

千夜「ずっと、見守っていてね、ちとせちゃん」

千夜「……いってきます」


??「トイレ終わったー!」

千夜「忘れ物がないか、確かめた?」

??「じゅんびかんりょー、です!」

千夜「ふふっ……そうですか」

千夜「それじゃ、行きましょうか」

千夜「おいで――」


千夜「――千歳(ちとせ)」








END.
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:21:32.01 ID:KnBe1FwIO
以上です。ありがとうございました。
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:54:20.95 ID:KnBe1FwIO
過去作を一応貼っておきます(完結したもの一覧):
・【安価】世莉架「安価でタクを楽しませちゃうよ」【CHAOS;CHILD】https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1487424130/#footer

・【デレマス(デレステ)】久川颯「はーはPちゃんが好きなの」https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1554736389/
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:56:24.86 ID:KnBe1FwIO
※冒頭でも述べたように、このSSと【デレマス(デレステ)】久川颯「はーはPちゃんが好きなの」は世界観を共有しています(ただし、こちらはSS速報Rなので注意)。
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 19:57:59.53 ID:KnBe1FwIO
また、時間があるときに、何か書こうと思います。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/21(土) 20:03:28.65 ID:3or7ch/DO
えーと、つまり……はーちゃんは捨てられて、Pは千夜とくっつくと?
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/21(土) 20:10:03.22 ID:KnBe1FwIO
>>132

世界観は共有していますが、冒頭で述べたようにPはそれぞれにおいて別の人物です。このSSの中では、区別するために前作のPを「miroirP」と表記しています。
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